「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(電磁気96〜98問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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電磁気範囲 96~98

96 磁場中の荷電粒子の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁場中での荷電粒子の円運動」です。前問とは異なり、初速度が磁場と垂直な面内で斜め方向を向いているため、円運動の中心が原点からずれます。このずれた円軌道を正確に把握することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(\alpha\)粒子の構成: 質量が\(4m\)、電荷が\(+2e\)であることを正しく把握すること。
  2. ローレンツ力と円運動: ローレンツ力を向心力とする等速円運動の運動方程式を立てられること。
  3. 円運動の幾何学: 速度ベクトルと、円の中心への方向ベクトルが常に垂直である関係を理解し、軌道を決定できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、\(\alpha\)粒子の質量と電荷を、陽子・中性子の質量\(m\)と電気素量\(e\)を用いて表します。
  2. 円運動の運動方程式を立て、軌道半径\(r\)を求めます。
  3. 原点Oでの速度の向きと、円軌道の接線の関係から、円の中心位置と軌道の幾何学的な関係を特定します。
  4. 特定した幾何学的関係から、粒子が初めて\(x\)軸に戻ったときの座標と、そこまでにかかる回転角度(中心角)を求め、時間を計算します。

\(x\)軸に戻ったときの座標と時間

思考の道筋とポイント
この問題は、単に運動方程式を立てるだけでなく、その結果として描かれる円軌道が、座標平面上でどのような位置関係にあるかを正確に把握する、幾何学的な考察が重要になります。
まず、運動方程式から軌道の半径\(r\)を計算します。次に、模範解答で与えられている図の幾何学的な関係を読み解き、戻ってくる座標と回転した中心角を特定します。その角度と、円運動の周期から、かかった時間を計算します。

この設問における重要なポイント

  • \(\alpha\)粒子の質量は\(4m\)、電荷は\(+2e\)。
  • 円運動の半径は運動方程式から求める。
  • 図の幾何学的な関係を正しく読み取り、座標と中心角を計算する。

具体的な解説と立式
1. 軌道半径 \(r\) の計算

\(\alpha\)粒子の質量 \(m_{\alpha}=4m\)、電荷 \(q_{\alpha}=+2e\) です。
ローレンツ力を向心力とする円運動の運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
m_{\alpha}\frac{v^2}{r} &= q_{\alpha}vB
\end{aligned}
$$
これに \(m_{\alpha}\) と \(q_{\alpha}\) を代入して半径 \(r\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(4m)\frac{v^2}{r} &= (2e)vB
\end{aligned}
$$
これより、
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{4mv^2}{2evB} \\[2.0ex]
&= \frac{2mv}{eB}
\end{aligned}
$$

2. 座標と時間の計算

模範解答の図の幾何学的な関係を利用します。粒子が\(x\)軸に戻った点をAとすると、弦OAの中点と円の中心を結ぶ線分は、弦OAと垂直に交わります。
図より、半径COと\(x\)軸のなす角が\(30^\circ\)と読み取れます。
弦OAの半分の長さは、直角三角形の辺の長さの関係から \(r \cos 30^\circ\) となります。
したがって、点Aの\(x\)座標は、
$$
\begin{aligned}
x &= -2 \times (r \cos 30^\circ)
\end{aligned}
$$
となります。

次に時間を求めます。図に示されている通り、粒子がOからAまで移動する間の回転角(中心角)は \(240^\circ\) です。
円運動の周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi m_{\alpha}}{q_{\alpha}B} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi (4m)}{(2e)B} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi m}{eB}
\end{aligned}
$$
求める時間 \(t\) は、周期 \(T\) の \(\displaystyle\frac{240}{360} = \frac{2}{3}\) 倍なので、
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{2}{3}T
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\)
  • 円運動の周期: \(T = 2\pi m / qB\)
計算過程

座標の計算:
$$
\begin{aligned}
x &= -2 r \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= -2 \left(\frac{2mv}{eB}\right) \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= -\frac{2\sqrt{3}mv}{eB}
\end{aligned}
$$

時間の計算:
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{2}{3}T \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}\left(\frac{4\pi m}{eB}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{8\pi m}{3eB}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

粒子は斜め上に打ち出されるので、ローレンツ力は左上方向にかかります。そのため、円運動の中心は原点ではなく、左上の少しずれた場所になります。粒子はこの中心の周りをぐるっと回り、再び\(x\)軸にぶつかります。
この運動の軌道を幾何学的に詳しく調べると、戻ってくる場所の座標と、そこまでにかかる時間が求められます。図によれば、戻ってくるまでに円周の \(2/3\) にあたる \(240^\circ\) だけ回転することになります。

結論と吟味

座標は \(-\displaystyle\frac{2\sqrt{3}mv}{eB}\)、時間は \(\displaystyle\frac{8\pi m}{3eB}\) と求められました。これは、模範解答で示されている図の幾何学的な関係を正しく読み取り、物理法則を適用した結果です。

解答
座標: \(-\displaystyle\frac{2\sqrt{3}mv}{eB}\)
時間: \(\displaystyle\frac{8\pi m}{3eB}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ローレンツ力の向心力としての役割と円運動の幾何学:
    • 核心: この問題の根幹は、前問までと同様に「ローレンツ力が向心力となる円運動」ですが、今回は初速度が軸に対して斜めであるため、軌道の幾何学的な性質を正しく把握することが核心となります。特に、「速度ベクトル(軌道の接線)」と「中心方向(向心力の方向)」が常に垂直であるという関係が、円の中心位置を特定する上で決定的な役割を果たします。
    • 理解のポイント:
      • 中心位置の決定: 原点Oでの速度ベクトルが\(x\)軸と60°をなすため、それと垂直な半径ベクトル(中心方向)は、\(x\)軸と \(60^\circ+90^\circ=150^\circ\) または \(60^\circ-90^\circ=-30^\circ\) の角をなします。フレミングの左手の法則(正電荷なので速度の向き=電流の向き)を適用すると、力の向きは\(150^\circ\)方向となり、円の中心が第2象限にあることが確定します。
      • 軌道の特定: 中心位置と、運動方程式から求めた半径\(r\)が分かれば、粒子が描く円軌道は一意に決まります。
      • 交点と回転角の計算: 決定された円の軌道と\(x\)軸との交点を求めることで座標が、始点と終点がなす中心角を求めることで時間が計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 質量分析器: 磁場中で粒子が描く円運動の半径が、質量に比例する(\(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\))ことを利用した装置。同じ電荷・速さで入射した同位体(質量が異なる原子)が、異なる半径の軌道を描いて分離される原理を問う問題。
    • サイクロトロン: 粒子が半円を描く時間が速さによらない(周期が一定)ことを利用した粒子加速器。半円形の電極の間を通過するたびに電場で加速し、磁場中でより大きな半径の半円を描くことを繰り返して高エネルギーを得る原理を問う問題。
    • らせん運動のピッチを求める問題: 磁場に対して斜めに入射した場合、粒子はらせん運動をします。このとき、磁場に平行な速度成分による1周期分の移動距離を「ピッチ」と呼びます。周期 \(T = 2\pi m/qB\) と平行方向の速度 \(v_{\parallel}\) から、ピッチ \(p = v_{\parallel} T\) を計算させます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 中心方向の特定: まず、入射点での速度ベクトルを描き、それと垂直な方向を考えます。次に、フレミングの左手の法則でローレンツ力の向きを判断し、どちらの垂直方向が中心方向かを確定させます。
    2. 半径の計算: 運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = |q|vB\) から、軌道半径\(r\)を計算します。
    3. 中心座標の計算: (1)で求めた中心方向と(2)で求めた半径\(r\)から、円の中心の座標を三角関数を用いて計算します。
    4. 幾何学的な作図: 中心、始点、終点を含む図を正確に描き、三角形や扇形の性質を利用して、求めたい座標や角度を計算します。三角比や円の性質といった、数学の知識が重要になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 円運動の中心を原点と勘違いする:
    • 誤解: 前問までの経験から、円運動の中心は常に原点にあると思い込んでしまう。
    • 対策: 円運動の中心は、あくまで「向心力が向かう先」です。入射点が原点であっても、そこでの力の向きが原点を向いていない限り、中心は原点からずれます。必ず、入射点での力の向きを確認する癖をつけましょう。
  • \(\alpha\)粒子の質量と電荷の誤認:
    • 誤解: \(\alpha\)粒子の電荷が陽子の2倍 (\(+2e\)) であることから、質量も2倍 (\(2m\)) であると勘違いしてしまう。
    • 対策: 原子核の記号 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味を正確に覚えることが重要です。左下の原子番号\(Z\)が陽子の数(電荷量を決める)、左上の質量数\(A\)が陽子と中性子の数の合計(質量を近似的に決める)です。\(\alpha\)粒子は \({}_{2}^{4}\text{He}\) なので、陽子2個、中性子2個、合計4個の核子からなり、質量は \(4m\) となります。
  • 角度の単位(度数法と弧度法)の混同:
    • 誤解: 時間を計算する際に、\(t = \displaystyle\frac{\theta}{360}T\) のように度数法で計算すべきところを、\(\omega\) を使った弧度法の式と混同してしまう。
    • 対策: 時間は「(回転した角度) / (全角度) \(\times\) 1周期」で求められる、と理解するのが基本です。度数法なら \(\displaystyle\frac{\theta[^\circ]}{360^\circ}T\)、弧度法なら \(\displaystyle\frac{\theta[\text{rad}]}{2\pi}T\) となります。あるいは、\(t = \theta[\text{rad}] / \omega\) という関係も使えます。単位を意識して、適切な公式を使い分けることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 円運動の運動方程式と半径の公式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\):
    • 選定理由: 粒子の軌道が円であることが分かっているため、その円の大きさ(半径)を決定するために、円運動の運動方程式が不可欠です。
    • 適用根拠: ローレンツ力が向心力として働くという物理現象を数式化したものです。この式から導かれる半径の公式は、軌道の幾何学的な性質を議論するための出発点となります。
  • 円の中心位置の特定(半径と接線の垂直関係):
    • 選定理由: 軌道が原点中心でない場合、その円が座標平面上のどこに位置するのかを特定する必要があります。円の位置は中心座標で決まります。
    • 適用根拠: 円の定義そのものです。円の接線は、その接点を通る半径と必ず垂直に交わるという、基本的な幾何学の性質に基づいています。物理的には、速度ベクトル(接線方向)と向心力ベクトル(半径方向)が常に垂直であることを意味します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 作図を丁寧に行う: この種の問題では、フリーハンドでも良いので、座標軸、始点、速度ベクトル、力のベクトル、円の中心、軌道といった要素をできるだけ正確に図示することが、思考を整理し、ミスを防ぐ上で非常に有効です。
  • 三角関数の値を正確に使う: \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\) のように、必要な三角関数の値を素早く正確に計算できるようにしておくことが求められます。
  • 座標計算と時間計算を分離する: まずは半径\(r\)を求め、それを使って座標を完全に計算し終えます。次に、周期\(T\)を求め、それと回転角を使って時間を計算します。このように、求める物理量ごとに計算をブロック分けすると、思考が整理されやすくなります。
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97 電磁場中での荷電粒子の運動のまとめ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁場中での荷電粒子の直進条件(速度選択器の原理)」です。電場と磁場が同時に存在する空間で、荷電粒子が力を受けずに直進するための条件を、力のつりあいから導き出す問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静電気力: 電場中の荷電粒子が受ける力。その向きは、正電荷なら電場と同じ向き、負電荷なら電場と逆向きであり、大きさは \(F=qE\) で与えられること。
  2. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。その向きはフレミングの左手の法則で決まり、大きさは \(F=qvB\) で与えられること。
  3. 力のつりあい: 粒子が直進するということは、粒子に働く合力がゼロである、すなわち静電気力とローレンツ力がつりあっていることを意味する。
  4. フレミングの左手の法則と負電荷の扱い: フレミングの左手の法則は「電流(正電荷の運動)」の向きで考える。電子のような負電荷の場合、運動の向きと「逆向き」を電流の向きとして適用する必要がある。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電子が電場から受ける静電気力の向きと大きさを求めます。
  2. 次に、電子を直進させるためには、静電気力とつりあう逆向きのローレンツ力が必要であると考えます。
  3. フレミングの左手の法則を用いて、その向きのローレンツ力を発生させるために必要な磁場の向きを決定します。
  4. 最後に、静電気力とローレンツ力の大きさが等しいという「力のつりあい」の式を立て、磁束密度\(B\)の大きさを計算します。

かけるべき磁場の向きと磁束密度

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