電磁気範囲 66~70
66 ローレンツ力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ローレンツ力と電磁力の関係性の証明」です。導線全体が磁場から受けるマクロな力(電磁力)の正体が、導線内部の無数の自由電子がそれぞれ受けるミクロな力(ローレンツ力)の総和であることを、数式を用いて証明する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子1個が受ける力。その大きさは \(f = |q|vB\sin\theta\)、向きはフレミングの左手の法則で決まります。
- 電磁力: 磁場中にある電流が流れる導線全体が受ける力。その大きさは \(F = IBL\sin\theta\)、向きは同じくフレミングの左手の法則で決まります。
- 電流のミクロな正体: 電流\(I\)の正体は、電荷\(q\)を持つ荷電粒子が、個数密度\(n\)、平均の速さ\(v\)で、断面積\(S\)の導線内を運動している流れです。この関係は \(I = |q|nvS\) という式で表されます。
- 総和の考え方: 「全体の量」は「1個あたりの量」×「総数」で求められます。この問題では、電子の総数は「個数密度\(n\)」×「体積\(V\))」で計算します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 【ミクロな視点】まず、自由電子1個が受けるローレンツ力の大きさと向きを求めます。
- 次に、導線部分に含まれる自由電子の総数を計算します。
- 上記2つを掛け合わせることで、全電子が受けるローレンツ力の総和を、ミクロな物理量(\(n, S, l, e, v, B\))を用いて表します。
- 【マクロな視点】一方、導線全体が受ける電磁力\(F\)の公式を考え、その中の電流\(I\)を、電流のミクロな定義式を用いて同じ物理量で表現します。
- ミクロな視点から求めた「ローレンツ力の総和」と、マクロな視点から求めた「電磁力」の式が完全に一致することを示します。
ローレンツ力の総和と電磁力の一致の証明
思考の道筋とポイント
この証明問題は、2つの異なる視点から出発し、最終的に同じ結論に至ることを示すのが目的です。一つは「ミクロな視点の積み上げ(ローレンツ力の総和)」、もう一つは「マクロな法則の翻訳(電磁力)」です。この二つをつなぐ鍵となるのが、電流\(I\)を電子の運動で説明するミクロな定義式 \(I=envS\) です。力の「大きさ」と「向き」の両方について、両者が一致することを示す必要があります。
この設問における重要なポイント
- 電流と電子の運動の向き: 電子の電荷は負(\(-e\))なので、電子の運動の向き(図では左向き)と、電流の向き(右向き)は逆になります。
- 個数密度\(n\)の扱い: \(n\)は「単位体積(\(1\,\text{m}^3\))あたりの電子の個数」です。導線内の電子の総数\(N\)は、\(n\)に導線の体積\(V=Sl\)を掛けて求めます (\(N=nSl\))。
- 電流のミクロな定義式: \(I=envS\) という関係式を正しく理解し、利用できることが証明の核心です。
具体的な解説と立式
この証明を、力の「大きさ」と「向き」に分けて行います。
1. 力の大きさの一致
- 【ミクロな視点】ローレンツ力の総和を求める
- 電子1個が受けるローレンツ力 \(f\):
電子の電荷は\(-e\)、速さは\(v\)、磁束密度は\(B\)です。電子の運動方向と磁場の向きは垂直なので、力の大きさ\(f\)は、
$$
\begin{aligned}
f &= |-e|vB\sin90^\circ \\[2.0ex]
&= evB
\end{aligned}
$$ - 導線内の電子の総数 \(N\):
導線の断面積は\(S\)、長さは\(l\)なので、体積は\(V=Sl\)です。個数密度が\(n\)なので、電子の総数\(N\)は、
$$
\begin{aligned}
N &= nV \\[2.0ex]
&= nSl
\end{aligned}
$$ - ローレンツ力の総和 \(Nf\):
導線内の全電子が受けるローレンツ力の総和は、(a)と(b)を掛け合わせて、
$$
\begin{aligned}
Nf &= (nSl)(evB) \\[2.0ex]
&= nSlevB
\end{aligned}
$$
- 電子1個が受けるローレンツ力 \(f\):
- 【マクロな視点】電磁力\(F\)をミクロな量で表現する
- 電磁力の公式:
長さ\(l\)の導線に電流\(I\)が流れているとき、受ける電磁力\(F\)の大きさは、
$$
\begin{aligned}
F &= IBl
\end{aligned}
$$ - 電流\(I\)のミクロな表現:
電流の定義より、\(I\)は断面積\(S\)を単位時間に通過する電気量です。これは、\(I=envS\)と表されます。 - 電磁力\(F\)のミクロな表現:
電磁力の公式に、電流のミクロな表現を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &= (envS)Bl \\[2.0ex]
&= nSlevB
\end{aligned}
$$
- 電磁力の公式:
- 結論:
両方の視点から計算した結果が、どちらも \(nSlevB\) となり一致しました。したがって、ローレンツ力の総和は電磁力に等しいことが示されました。
$$
\begin{aligned}
Nf &= F
\end{aligned}
$$
2. 力の向きの一致
- ローレンツ力の向き:
電子は左向きに運動しています。電子は負電荷なので、電流の向きは運動と逆の右向きとみなします。フレミングの左手の法則を適用すると、中指を右向き(電流)、人差し指を上向き(磁場)に合わせるので、親指は紙面の裏から表へ向かう向き(⊙)を指します。 - 電磁力の向き:
導線を流れる電流\(I\)は右向きです。フレミングの左手の法則を適用すると、中指を右向き(電流)、人差し指を上向き(磁場)に合わせるので、親指は紙面の裏から表へ向かう向き(⊙)を指します。 - 結論:
力の向きも両者で一致します。
使用した物理公式
- ローレンツ力: \(f=|q|vB\sin\theta\)
- 電流のミクロな定義: \(I=|q|nvS\)
- 電磁力: \(F=IBL\)
- フレミングの左手の法則
ローレンツ力の総和\(Nf\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Nf &= (nSl) \times (evB) \\[2.0ex]
&= nSlevB
\end{aligned}
$$
一方、電磁力\(F\)を、電流のミクロな定義式\(I=envS\)を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
F &= IBl \\[2.0ex]
&= (envS)Bl \\[2.0ex]
&= nSlevB
\end{aligned}
$$
両者を比較すると、\(Nf = F\) が成り立ちます。
また、力の向きもフレミングの左手の法則を適用すると、どちらの考え方でも「紙面の裏から表へ向かう向き」となり、一致します。
以上より、ローレンツ力の総和が電磁力になっていることが示されました。
導線が磁石から力を受ける「電磁力」という現象は、実は、導線の中を流れている無数の電子たちが、一斉に磁石から力を受けている結果です。この問題は、「電子一人一人が受ける力(ローレンツ力)を全部足し算したら、本当に導線全体が受ける力(電磁力)と同じになるの?」ということを数式で確かめる作業です。
まず、「電子1個の力 × 電子の総数」を計算します。次に、それとは別に、「導線全体の力」の公式に出てくる「電流\(I\)」を、電子の動きの言葉に翻訳して計算します。
すると、全く違う計算をしたように見えて、最終的な式の形がピッタリ同じになります。これにより、マクロな世界の「電磁力」の正体は、ミクロな世界の「ローレンツ力の合計」であることが証明できるのです。
計算により、ローレンツ力の総和 \(Nf\) と電磁力 \(F\) が、大きさと向きのいずれにおいても完全に一致することが示されました。これは、電磁気学におけるマクロな現象とミクロな現象を結びつける、非常に重要な関係を示しています。
電子1個が受けるローレンツ力の大きさは \(f=evB\)。導線内の電子の総数は \( N=nSl \)。
よって、ローレンツ力の総和は、
$$ Nf = (nSl)(evB) = nSlevB $$
一方、電流の大きさは \(I=envS\) と表せるので、導線が受ける電磁力の大きさ\(F\)は、
$$ F = IBl = (envS)Bl = nSlevB $$
したがって、\(Nf=F\)となり、大きさは等しい。
また、力の向きは、電子の運動(左向き)から電流の向き(右向き)を考え、フレミングの左手の法則を適用すると、どちらの考え方でも紙面の裏から表へ向かう向きとなり、一致する。
以上より、ローレンツ力の総和が電磁力になっていることが示された。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- マクロな電磁力とミクロなローレンツ力の等価性
- 核心: この問題の根幹は、我々がマクロな世界で観測する「電磁力(\(F=IBl\))」の正体が、目に見えないミクロな世界で導線内の無数の荷電粒子(自由電子)がそれぞれ受ける「ローレンツ力(\(f=evB\))」の総和に他ならない、という物理的な等価性を数式で証明することにあります。
- 理解のポイント:
- 2つの視点: この問題は、同じ物理現象を「マクロな視点」と「ミクロな視点」の2つの異なる階層から記述し、それらが最終的に一致することを示しています。
- マクロな視点: 導線を一つの塊とみなし、そこに流れる電流\(I\)というマクロな量が、磁場\(B\)から力\(F\)を受けると考えます。(\(F=IBl\))
- ミクロな視点: 導線を無数の自由電子の集まりとみなし、電子1個1個が速さ\(v\)で運動することで磁場\(B\)からローレンツ力\(f\)を受け、その総和\(Nf\)が導線全体の力になると考えます。
- 橋渡しの公式: これら2つの視点を結びつける「橋渡し」の役割を果たすのが、電流\(I\)をミクロな量で記述する公式 \(I=envS\) です。この公式を用いることで、マクロな世界の\(I\)をミクロな世界の\(e, n, v, S\)に「翻訳」でき、両者の等価性が証明されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果の定量的計算: 導体に電流を流し、垂直に磁場をかけると、導体内の電子がローレンツ力を受けて片側に偏ります。この偏りによって生じる電場からの力(静電気力 \(eE\))とローレンツ力(\(evB\))が釣り合うことで、導体の側面に一定の電位差(ホール電圧)が生じます。この釣り合いの式 \(eE = evB\) は、まさにミクロな視点での力の分析です。
- 気体分子運動論: 気体の圧力というマクロな現象を、個々の分子の壁への衝突というミクロな現象の総和として説明する問題。本問と同様に、ミクロな量(分子の質量、速度)から出発してマクロな量(圧力)を導出する思考プロセスが共通しています。
- 抵抗のミクロな起源: 金属の電気抵抗というマクロな現象を、自由電子が金属イオンと衝突しながら進むというミクロなモデルで説明する問題。電子の運動方程式から、電場と電子の平均速度(→電流)の関係を導き、オームの法則をミクロな視点から証明します。
- 初見の問題での着眼点:
- マクロ量とミクロ量を整理する: 問題文に登場する物理量(\(F, I, B, l\) など)がマクロな量か、ミクロな量(\(f, e, v, n\) など)かを分類します。
- 2つの視点から立式する:
- ミクロな視点: まず、粒子1個あたりの現象(この問題ではローレンツ力\(f\))に着目して立式します。次に、全体の個数(\(N=nSl\))を掛けて、全体の効果(\(Nf\))を求めます。
- マクロな視点: 観測されるマクロな法則(この問題では電磁力\(F=IBl\))を立式します。
- 橋渡しの公式を探す: 2つの視点の式を見比べ、両者を結びつける関係式(この問題では\(I=envS\))を見つけ出し、一方の式に代入して「翻訳」します。
- 両者が一致することを確認する: 式変形を行い、2つの視点から導かれた式が完全に一致することを示します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流と電子の運動方向の混同:
- 誤解: 電子の運動方向を、そのままフレミングの左手の法則における電流の向きとして適用してしまう。
- 対策: 「電流の向きは、正電荷の動く向き(=負電荷の動く向きとは逆)」という定義を絶対に忘れないでください。問題を解く際には、まず電子の運動方向の逆に、点線の矢印で「電流\(I\)の向き」を明記する癖をつけることが、ミスを防ぐ最も効果的な方法です。
- 個数密度\(n\)と総数\(N\)の混同:
- 誤解: ローレンツ力の総和を求める際に、\(nf\) のように、個数密度\(n\)に直接1個あたりの力を掛けてしまう。
- 対策: \(n\)の単位が \([\text{個/m}^3]\) であることを常に意識しましょう。力 \([\text{N}]\) を求めるためには、\([\text{個/m}^3]\) に体積 \([\text{m}^3]\) を掛けて、まず総数\(N\) \([\text{個}]\) を求め、それに1個あたりの力 \(f\) \([\text{N/個}]\) を掛ける、という単位を意識したステップを踏むことが重要です。\(N=n \times (\text{体積})\) という関係を明確に理解してください。
- 電流のミクロな定義式の暗記ミス:
- 誤解: \(I=envS\) の公式の文字(特に\(S\))を忘れたり、\(e\)や\(n\)を分子と分母で間違えたりする。
- 対策: 公式を丸暗記するのではなく、その成り立ちをイメージで理解するのが有効です。
- 「電流\(I\)は、\(1\)秒間に断面\(S\)を通過する電気量の合計」
- 「\(1\)秒間に通過する電子の数は、速さ\(v\) × 断面積\(S\) × 密度\(n\) で表される体積内の電子の数に等しい (\(nvS\)個)」
- 「よって、総電気量は、電子1個の電気量\(e\) × 電子の数\(nvS\) で \(envS\)」
というストーリーで公式を導出できるようにしておくと、忘れにくく、間違いも減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ローレンツ力の総和 \(Nf\):
- 選定理由: 問題が「ローレンツ力の総和が…」と、ミクロな視点からのアプローチを明確に指示しているため、この計算から始めるのが自然です。導線内の各電子は、ほぼ同じ状況下で力を受けるとみなせるため、「1個あたりの力 × 総数」という最も単純な総和の計算方法を選択します。
- 適用根拠: 導線内の電子は無数にありますが、それらが互いに及ぼし合う力は内部で相殺され、外部の磁場から受ける力の単純な合計が、導線全体が受ける力として現れる、という重ね合わせの原理に基づいています。
- 電磁力の公式 \(F=IBl\):
- 選定理由: 問題が「…電磁力\(F\)になっていることを示せ」と、比較対象となるマクロな法則を明示しているため、この公式をもう一方の出発点として選択します。
- 適用根拠: これは実験的に確立されたマクロな現象を記述する法則です。この法則が、ミクロなローレンツ力の総和と一致することを示すのが、この問題の目的そのものです。
- 電流のミクロな定義式 \(I=envS\):
- 選定理由: ミクロな視点の式(\(n, S, l, e, v, B\)を含む)と、マクロな視点の式(\(I, B, l\)を含む)を比較し、等しいことを示すためには、両者に共通しない文字(\(n, e, v, S\) と \(I\))を相互に変換する必要があります。この変換(翻訳)を行うための唯一の関係式が、この電流のミクロな定義式です。
- 適用根拠: この式は、電流というマクロな測定量の物理的な実体が、ミクロな荷電粒子の集団運動であることを定義する、両階層を結びつける fundamental な関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理を丁寧に行う: この問題は証明問題なので、計算ミスは致命的です。特に、ローレンツ力の総和 \(Nf = (nSl)(evB)\) と、電磁力 \(F=(envS)Bl\) の式変形において、文字の順番を揃える(例えば、アルファベット順に \(nSlevB\) のように)と、両者が同じ式であることが視覚的に確認しやすくなり、ケアレスミスを防げます。
- 単位を意識する: 各物理量の単位を考えながら式を立てることで、式の妥当性を確認できます。例えば、\(N=nSl\) は \([\text{個}] = [\text{個/m}^3] \cdot [\text{m}^2] \cdot [\text{m}]\) となり、単位の次元が合っていることがわかります。
- 証明の構造を明確にする: 証明問題では、計算過程だけでなく、論理の流れを明確に示すことが重要です。
- 「まず、ローレンツ力の総和を求める」と宣言し、\(Nf = … = nSlevB\) まで計算する。
- 「次に、電磁力\(F\)をミクロな量で表す」と宣言し、\(F = … = nSlevB\) まで計算する。
- 「以上より、\(Nf=F\)が示された」と結論づける。
このように、思考のステップを言葉で補いながら記述することで、論理的で分かりやすい答案になります。
67 電磁誘導
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているローレンツ力に基づく解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: ファラデーの電磁誘導の法則を用いる解法
- 模範解答が導体棒内の電子に働くローレンツ力(ミクロな視点)から起電力を導出するのに対し、別解では導体棒が時間あたりに掃く面積(マクロな視点)を考え、磁束の変化率から起電力を導出します。
- 設問(4)の別解: ファラデーの電磁誘導の法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 誘導起電力という一つの現象が、「ローレンツ力」と「ファラデーの法則」という二つの異なる物理法則から説明できることを理解することで、電磁気学の根幹にある法則の整合性や関連性への洞察が深まります。
- 思考の柔軟性向上: ミクロな視点とマクロな視点を行き来する経験は、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力を養い、思考の幅を広げます。
- 解法の汎用性: 別解で用いる「磁束の変化」という考え方は、導体棒が回転する場合や回路の面積が変化するような、より複雑な電磁誘導の問題にも応用できる普遍的なアプローチです。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「磁場中を運動する導体棒に生じる誘導起電力」です。導体棒が磁場を横切って運動するとき、内部の自由電子がローレンツ力を受けることで生じる電位差の向きと大きさを正しく求められるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。その向きはフレミングの左手の法則で決まります。
- 誘導起電力の発生原理: 導体棒内の自由電子がローレンツ力を受けて一方の端に偏ることで、棒の両端に電位差(=誘導起電力)が生じます。電子が集まった側が低電位、逆側が高電位となります。
- 誘導起電力の公式 \(V=vBl\): 導体棒の速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、長さ \(l\) が互いに直交する場合に成立する、起電力の大きさを求める基本公式です。
- ベクトルの分解: 速さ、磁場、導体棒の向きが互いに直交しない場合は、起電力に寄与する「有効な成分」に分解して考える必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、図が3次元的な状況を表していることを理解し、フレミングの左手の法則を用いて導体棒内の自由電子が受けるローレンツ力の向きを特定します。その力が導体棒に沿ってどちら向きに働くかを判断し、起電力の向きを決定します。
- (3)では、電子の運動方向と磁場の向きの関係に着目し、ローレンツ力が働かない条件を理解しているかを確認します。
- (4)では、紙面内での運動について、速度ベクトルを「導体棒に垂直な成分」と「平行な成分」に分解し、起電力の発生に寄与する垂直成分を用いて、起電力の大きさと向きを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
この図は3次元的な状況を表しており、導体棒PQは紙面に垂直に、Pが手前、Qが奥になるように置かれています。導体棒が磁場中を運動するとき、内部の自由電子も一緒に運動します。この電子が磁場から受けるローレンツ力の向きを、フレミングの左手の法則を使って考えます。電子がどちらの端に偏るかによって、電位の高低が決まり、起電力の向きが定まります。
この設問における重要なポイント
- フレミングの左手の法則は「正電荷」が受ける力の向きを示します。電子は負電荷なので、力の向きは法則で示される向きと逆になります。
- 電子(負電荷)が集まった側が「低電位」、電子が不足して陽イオンが相対的に多くなった側が「高電位」となります。
- 誘導起電力は、電位の低い方から高い方へ向かう向きと定義されます。
具体的な解説と立式
導体棒は右向きに速さ \(v\) で運動しているので、内部の自由電子も右向きに運動しているとみなせます。磁場は下向きです。
ここで、フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(電流、すなわち正電荷の運動方向)を右に向けます。
- 人差し指(磁場の方向)を下に向けます。
すると、親指(力の方向)は紙面の奥向きを向きます。
これは正電荷が受ける力の向きです。電子は負電荷なので、これとは逆向き、すなわち紙面の手前向きにローレンツ力を受けます。
導体棒はPが手前、Qが奥に置かれているため、この手前向きの力は電子をP端に集めます。
その結果、
- P端:電子が過剰になり、負に帯電する(低電位)。
- Q端:電子が不足し、正に帯電する(高電位)。
誘導起電力の向きは、低電位側から高電位側へ向かうので、P→Qとなります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
この設問は向きを答える問題なので、計算過程はありません。
この図では、導体棒は地面に垂直に突き刺さっていて、Pが私たちの側、Qが向こう側にあるイメージです。この棒が全体として右に動くと、中の電子も右に動きます。ここに上から下への磁場(風)が吹いていると、電子は力を受けます。フレミングの法則で調べると、正の電気は向こう側(奥)へ、電子は逆のこちら側(手前)へ力を受けます。
電子はこちら側、つまりPの端に集められます。マイナスの電気が集まったPが低電位、逆のQが高電位になるので、起電力の向きはP→Qとなります。
3次元的な配置を正しく解釈し、フレミングの左手の法則と電荷の正負を考慮することで、電子がP端に偏ることがわかり、起電力の向きはP→Qと決定できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、この図も3次元的な状況(Pが手前、Qが奥)を表しています。フレミングの左手の法則を用いて、導体棒内の自由電子が受けるローレンツ力の向きを考えます。運動と磁場の方向が変わった点に注意して、法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- (1)と考え方の手順は全く同じです。
- 運動の向き(中指)と磁場の向き(人差し指)を、問題の図に合わせて正確に設定することが重要です。
具体的な解説と立式
導体棒は下向きに速さ \(v\) で運動しているので、内部の自由電子も下向きに運動しています。磁場は右向きです。
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(正電荷の運動方向)を下に向けます。
- 人差し指(磁場の方向)を右に向けます。
すると、親指(力の方向)は紙面の手前向きを向きます。
これは正電荷が受ける力の向きです。電子は負電荷なので、逆向きの紙面の奥向きにローレンツ力を受けます。
導体棒はPが手前、Qが奥に置かれているため、この奥向きの力は電子をQ端に集めます。
その結果、
- Q端:電子が過剰になり、負に帯電する(低電位)。
- P端:電子が不足し、正に帯電する(高電位)。
誘導起電力の向きは、低電位側から高電位側へ向かうので、Q→Pとなります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
この設問は向きを答える問題なので、計算過程はありません。
(1)と同じく、棒は手前から奥へ突き刺さっています(Pが手前、Qが奥)。今度はこの棒が下に動き、磁場(風)は左から右へ吹いています。フレミングの法則で調べると、正の電気はこちら側(手前)へ、電子は逆の向こう側(奥)へ力を受けます。
電子は向こう側、つまりQの端に集められます。Qが低電位、逆のPが高電位になるので、起電力の向きはQ→Pとなります。
運動と磁場の向きが変わっても、(1)と同様の手順で電子がQ端に偏ることがわかり、起電力の向きはQ→Pと決定できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
ローレンツ力が生じるための条件に着目します。荷電粒子の運動方向と磁場の向きがどのような関係にあるときに力が働くのか(あるいは働かないのか)を理解しているかが問われます。図の3次元的な配置(Pが手前、Qが奥)は(1), (2)と同じです。
この設問における重要なポイント
- ローレンツ力の大きさは、速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、電気量 \(q\)、そして速度ベクトル \(\vec{v}\) と磁場ベクトル \(\vec{B}\) のなす角を \(\phi\) として、\(F = |q|vB\sin\phi\) と表されます。
- 運動方向と磁場の向きが平行(\(\phi=0^\circ\))または反平行(\(\phi=180^\circ\))の場合、\(\sin\phi=0\) となるため、ローレンツ力は働きません。
具体的な解説と立式
導体棒は下向きに速さ \(v\) で運動しています。これは、内部の自由電子が下向きに運動していることを意味します。
一方、磁場も下向きです。
つまり、電子の運動方向と磁場の向きが平行になっています。
この場合、電子は磁場からローレンツ力を受けません。
力が働かないため、電子は導体棒のどちらかの端に偏ることがなく、棒全体で電位は一様なままです。
したがって、誘導起電力は生じません。
使用した物理公式
- ローレンツ力の公式: \(F = |q|vB\sin\phi\)
この設問は向きを答える問題なので、計算過程はありません。答えは0です。
棒が下に動いていますが、磁場(風)も真後ろ(同じ下向き)から吹いています。このような場合、電子は横向きの力を全く受けません。電子が棒のどちらかの端に偏ることがないので、電位差は生まれず、起電力は0になります。磁場の影響を受けるのは、あくまで磁場を「横切る」ように動いたときだけ、と覚えておくと良いでしょう。
電子の運動方向と磁場の方向が平行であるため、ローレンツ力は0となり、誘導起電力は生じない。これはローレンツ力の基本的な性質から導かれる妥当な結論です。
問(4)
思考の道筋とポイント
この設問では、(1)〜(3)と異なり、導体棒PQは紙面内に置かれています。導体棒の向き、運動の向き、磁場の向きが互いに直交していないため、起電力の公式 \(V=vBl\) を直接使うことはできません。そこで、速度ベクトル \(\vec{v}\) を、起電力の発生に「寄与する成分」と「寄与しない成分」に分解して考えるのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 起電力を生み出すのは、導体棒と磁場の両方に垂直な速度成分です。
- ここでは磁場が紙面に垂直なので、紙面内の運動成分のうち、導体棒に垂直な成分が起電力に寄与します。
- 速度 \(\vec{v}\) を、導体棒に平行な成分 \(v_{\parallel}\) と、垂直な成分 \(v_{\perp}\) に分解します。
- 起電力の計算には、垂直成分 \(v_{\perp}\) のみを用います。\(V = v_{\perp} B l\)。
具体的な解説と立式
まず、速度ベクトル \(\vec{v}\) を、導体棒PQに平行な成分 \(v_{\parallel}\) と、垂直な成分 \(v_{\perp}\) に分解します。
図より、導体棒PQと \(\vec{v}\) のなす角が \(\theta\) なので、
- 平行な成分: \(v_{\parallel} = v\cos\theta\)
- 垂直な成分: \(v_{\perp} = v\sin\theta\)
このうち、導体棒に平行な成分 \(v_{\parallel}\) は、電子を棒に沿って動かすだけであり、ローレンツ力による起電力を生じさせません。
起電力を生み出すのは、導体棒に垂直な成分 \(v_{\perp} = v\sin\theta\) です。この速度成分、磁場、導体棒の長さは互いに直交しているため、誘導起電力の公式を適用できます。
起電力の大きさ \(V\) は、
$$ V = v_{\perp} B l $$
ここに \(v_{\perp} = v\sin\theta\) を代入して、
$$ V = (v\sin\theta)Bl $$
となります。
次に向きを考えます。
起電力の発生に寄与するのは、速度の垂直成分 \(v_{\perp}\) です。この向きは、図で分解した通り、導体棒に対して右向きです。磁場は紙面手前向きです。
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(正電荷の運動方向)を右(\(v_{\perp}\)の向き)に向けます。
- 人差し指(磁場の方向)を紙面手前に向けます。
すると、親指(力の方向)は下を向きます。これは導体棒に沿ってQからPの向きです。
これは正電荷が受ける力の向きです。電子は負電荷なので、逆向き、すなわち上向き(PからQの向き)にローレンツ力を受けます。
その結果、電子はQ端に集まります。
- Q端:電子が過剰になり、負に帯電する(低電位)。
- P端:電子が不足し、正に帯電する(高電位)。
誘導起電力の向きは、低電位側から高電位側へ向かうので、Q→Pとなります。
使用した物理公式
- 誘導起電力の公式: \(V = vBl\) (v, B, lが互いに直交する場合)
- フレミングの左手の法則
立式した \(V = (v\sin\theta)Bl\) を整理します。
$$
\begin{aligned}
V &= (v\sin\theta)Bl \\[2.0ex]
&= vBl\sin\theta
\end{aligned}
$$
これ以上の計算は不要です。
導体棒が斜めに動いているので、少し複雑です。こういうときは、動きを「棒に沿って滑る動き」と「棒を横に押す動き」に分解します。「滑る動き」は起電力を生みません。「押す動き」だけが起電力の原因になります。
図から、この「押す動き」の速さは \(v\sin\theta\) です。この速さを使って、いつもの公式 \(V=(\text{速さ}) \times B \times l\) に当てはめると、大きさは \(V = (v\sin\theta)Bl\) と計算できます。
向きは、この「押す動き」(右向き)に対してフレミングの法則を使います。すると、正の電気は下向き(Q→P)に力を受けます。電子はその逆で、上向き(P→Q)に力を受けてQの端に集まります。その結果、Qが低電位、Pが高電位となり、起電力の向きは低電位のQから高電位のPへ向かう「Q→P」となります。
速度を適切に分解し、フレミングの左手の法則を正しく適用することで、起電力の大きさが \(vBl\sin\theta\)、向きがQ→Pであることが導かれました。これは、導体棒が磁場を横切る有効な速さが \(v\sin\theta\) であることを反映した妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
ローレンツ力(ミクロな視点)ではなく、導体棒が動くことで囲む面積が変化し、それによって回路を貫く磁束が変化するというファラデーの電磁誘導の法則(マクロな視点)から起電力を求めるアプローチです。導体棒PQが微小時間 \(\Delta t\) の間に動くことで掃く面積を考え、磁束の変化率を計算します。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\)。起電力の大きさは、単位時間あたりの磁束の変化量に等しい。
- 磁束 \(\Phi = BS\)。磁束は、磁束密度 \(B\) と面積 \(S\) の積で表される(磁場が面積に垂直な場合)。
- 導体棒が微小時間 \(\Delta t\) に掃く面積 \(\Delta S\) を正しく求めることが鍵。
具体的な解説と立式
導体棒PQが、微小時間 \(\Delta t\) の間に、速度 \(\vec{v}\) で移動したとします。このとき、移動距離は \(v\Delta t\) です。
この移動によって導体棒が掃く領域は、平行四辺形になります。この平行四辺形の面積 \(\Delta S\) を求めます。
平行四辺形の面積は、「底辺 \(\times\) 高さ」で計算できます。
- 底辺: 導体棒の長さ \(l\)
- 高さ: 底辺(導体棒)に対する、移動距離ベクトルの垂直成分。移動距離は \(v\Delta t\) で、これが導体棒となす角は \(\theta\) なので、高さは \((v\Delta t)\sin\theta\) となります。
したがって、掃く面積 \(\Delta S\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta S &= (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \\[2.0ex]
&= l \times (v\Delta t \sin\theta) \\[2.0ex]
&= v l \sin\theta \Delta t
\end{aligned}
$$
この面積を貫く磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) を計算します。磁場 \(B\) は紙面に垂直なので、面積 \(\Delta S\) にも垂直です。よって、
$$
\begin{aligned}
\Delta \Phi &= B \Delta S \\[2.0ex]
&= B (v l \sin\theta \Delta t)
\end{aligned}
$$
ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力の大きさ \(V\) は磁束の時間変化率に等しいので、
$$
\begin{aligned}
V &= \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]
&= \frac{B v l \sin\theta \Delta t}{\Delta t}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\)
- 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
上記で立式した \(V = \displaystyle\frac{B v l \sin\theta \Delta t}{\Delta t}\) の \(\Delta t\) を約分します。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{B v l \sin\theta \Delta t}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= vBl\sin\theta
\end{aligned}
$$
大きさは主たる解法の結果と一致しました。
別の考え方として、「導体棒が動いたときに、どれだけの面積をなぎ払うか」で計算する方法があります。ごく短い時間 \(\Delta t\) の間に、導体棒は \(v\Delta t\) だけ進みます。このとき、棒がなぎ払った面積(平行四辺形)は \(l \times (v\Delta t \sin\theta)\) と計算できます。
起電力の大きさは、この「1秒あたりになぎ払う面積」に磁場の強さ \(B\) を掛けたものに等しい、という法則(ファラデーの法則)があります。この法則を使って計算すると、\(V = B \times (vl\sin\theta)\) となり、やはり同じ答えが得られます。
ファラデーの電磁誘導の法則というマクロな視点から出発しても、ローレンツ力から導いたミクロな視点の結果と完全に一致する大きさが得られました。これは物理法則の整合性を示す良い例です。(向きについてはレンツの法則で考えることもできますが、ローレンツ力で考える方が直感的です。)
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ローレンツ力と誘導起電力の因果関係
- 核心: この問題の根幹は、「磁場中を運動する導体」というマクロな現象が、なぜ「起電力」という電気的な現象を生み出すのか、そのミクロな原因を理解することにあります。その原因こそが、導体内部の自由電子一つ一つに働くローレンツ力です。
- 理解のポイント:
- ミクロな原因: 導体棒が動くと、内部の自由電子も一緒に動きます。磁場中を運動する荷電粒子(電子)はローレンツ力 \( \vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B}) \) を受けます。
- マクロな結果: ローレンツ力によって電子が導体棒の一方の端に偏ることで、電荷の分布に偏りが生じます。この電荷の偏りが、棒の両端に電位差、すなわち誘導起電力を生み出します。
- 橋渡し: フレミングの左手の法則は、このミクロな原因(力の向き)とマクロな結果(電位の高低)を結びつけるための重要な思考ツールです。
- 起電力に寄与する「有効成分」の考え方
- 核心: 誘導起電力は、導体棒が「磁力線を切る」ように運動することで生じます。速度 \(\vec{v}\)、磁場 \(\vec{B}\)、導体棒の向き \(\vec{l}\) が互いに直交していない場合、どの成分がこの「磁力線を切る」という役割を担っているのかを正しく見抜くことが重要です。
- 理解のポイント:
- 関係式: 誘導起電力の大きさは \(V=vBl\) ですが、これは \(v, B, l\) が互いに直交する場合の特別な形です。
- 応用: (4)のように直交しない場合、速度ベクトルを導体棒に垂直な成分 \(v_{\perp}\) と平行な成分 \(v_{\parallel}\) に分解します。起電力の発生に寄与するのは、導体棒を横切る動きである \(v_{\perp}\) のみです。したがって、\(V = v_{\perp}Bl\) と考えることで、より一般的な状況に対応できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回転する導体棒: 円運動する導体棒に生じる誘導起電力を求める問題。この場合、棒の各点の速度が異なるため、微小部分に生じる起電力を積分して全体を求める必要がありますが、根底にあるのは各点の電子に働くローレンツ力です。
- ホール効果: 磁場中の導体に電流を流したとき、電流の向きと磁場の向きの両方に垂直な方向に電位差が生じる現象。これも、電流の担い手である電子(またはホール)がローレンツ力を受けることで説明されます。
- 電磁ブレーキ: 磁場中を運動する導体円盤に渦電流が生じ、制動力が働く現象。渦電流の発生原因は、円盤の各部分に生じる誘導起電力であり、本質的にはこの問題と同じ原理に基づいています。
- 初見の問題での着眼点:
- 3つのベクトルの関係を把握する: まず、速度 \(\vec{v}\)、磁場 \(\vec{B}\)、導体棒の向き \(\vec{l}\) の3つのベクトルが、どのような空間的配置になっているかを正確に把握します。(1)〜(3)のように3次元的なのか、(4)のように2次元的なのかを見極めます。
- フレミングの左手の法則を適用する: 導体内の「正電荷」がどちらに力を受けるかを、左手を使って確認します。
- 電荷の正負を考慮する: 実際に動くのは「負電荷」の電子であることを思い出し、力の向きを逆転させます。これにより、電子がどちらの端に集まるかがわかります。
- 電位の高低を判断する: 電子が集まった側が「低電位」、逆側が「高電位」であると判断し、起電力の向き(低→高)を決定します。
- 成分分解の必要性を判断する: 3つのベクトルが互いに直交していない場合は、どのベクトルを分解すれば「互いに直交する有効成分」を取り出せるかを考えます。(4)では速度を分解するのが最も簡単です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電子の電荷(マイナス)を忘れる罠:
- 誤解: フレミングの左手の法則で求めた力の向きを、そのまま電子が動く向きだと勘違いしてしまう。
- 対策: 「フレミングの左手の法則は、あくまで電流=正電荷の流れを基準に作られている」と強く意識することが重要です。「フレミングで向きを出す \(\rightarrow\) 電子だから逆!」という思考プロセスを一つのセットとして習慣化しましょう。
- 起電力の向きの定義の混同:
- 誤解: 電子が動く向き(例: P→Q)を、そのまま起電力の向きだと答えてしまう。
- 対策: 起電力の向きは「電位が低い方から高い方へ」と定義されていることを明確に記憶します。これは、電池のマイナス極からプラス極へ向かう向きと同じです。「電子が集まる \(\rightarrow\) マイナスに帯電 \(\rightarrow\) 低電位」という連想を確実にできるようにしましょう。
- 3次元的な図の誤読:
- 誤解: (1)や(2)の図を、(4)と同じように紙面内の斜めの棒だと誤解してしまう。
- 対策: 物理の問題では、奥行きを表すために斜めの線が使われることがよくあります。他のベクトル(この場合は \(v\) や \(B\))が紙面内の水平・垂直方向で描かれている場合、斜めに描かれた棒は紙面に垂直な方向(奥行き方向)を表している可能性が高いと疑う癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- フレミングの左手の法則(ローレンツ力):
- 選定理由: この問題は、誘導起電力が「なぜ」「どちら向きに」生じるのかという、現象の根源を問うています。この「なぜ」に答える唯一の法則が、荷電粒子に働くローレンツ力です。フレミングの左手の法則は、その力の向きを直感的に知るための便利なツールとして選定されます。
- 適用根拠: 導体棒は自由電子の集まりです。導体棒が動くということは、その内部の無数の電子も動いているということです。磁場中を運動する荷電粒子は必ずローレンツ力を受けるため、この法則の適用は物理的に正当です。
- 速度の成分分解:
- 選定理由: (4)では、公式 \(V=vBl\) をそのまま適用できない状況です。この公式が成り立つのは、\(v, B, l\) が互いに直交するという特殊な条件下のみです。この条件を満たすために、与えられた速度ベクトル \(\vec{v}\) を、公式が適用できる「有効な成分」と、適用できない「無効な成分」に分解するという数学的な手法が選ばれます。
- 適用根拠: ベクトルの分解は、物理現象を互いに独立な複数の現象の重ね合わせとして扱うための基本的な考え方です。導体棒に平行な速度成分は、電子を棒に沿って動かすだけであり、これは磁場を横切る運動ではないため、ローレンツ力による電荷の偏りを生みません。一方、垂直な成分は磁場を横切るため、起電力を生み出します。このように、物理的な効果が異なる成分に分けて考えることは、論理的に妥当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 向きの問題は、指差し確認を徹底する: フレミングの左手の法則を使うときは、実際に左手を使って、問題の図に指を一本ずつ合わせて確認する習慣をつけましょう。「中指は電流(速度)、人差し指は磁場、親指は力」と口に出しながら行うと、間違いが大幅に減ります。
- 思考のステップを書き出す: 特に向きを判断する問題では、頭の中だけで処理しようとすると混乱しがちです。以下のように、思考の過程をメモする癖をつけましょう。
- 正電荷の運動方向: (例: 右向き)
- 磁場の方向: (例: 下向き)
- フレミング \(\rightarrow\) 正電荷が受ける力の向き: (例: 奥向き)
- 電子は逆 \(\rightarrow\) 電子が受ける力の向き: (例: 手前向き)
- 電子が集まる端: (例: P端)
- 電位の高低: (例: Pが低電位、Qが高電位)
- 起電力の向き: (例: P→Q)
- 三角関数の適用を間違えない: (4)の成分分解では、\(\theta\) の位置を正確に見て、垂直成分が \(\sin\theta\) なのか \(\cos\theta\) なのかを慎重に判断します。図に直角三角形を描き込み、「\(\theta\) を挟む辺がコサイン、向かい合う辺がサイン」と確認すると確実です。
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68 電磁誘導
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているレンツの法則を直接適用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1), (2)の別解: エネルギー保存則からアプローチする解法
- 模範解答が「磁束の変化 → 誘導電流の向き → 力の向き」という順序で考察するのに対し、別解では、より根源的なエネルギー保存則からまず「力の向き」を決定し、そこから逆算して「コイルの極性 → 誘導電流の向き」を導き出します。
- 設問(1), (2)の別解: エネルギー保存則からアプローチする解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: レンツの法則が「変化を妨げる」と述べる理由が、単なる現象の記述ではなく、エネルギー保存則という物理学の大原則に基づいていることを理解できます。なぜ斥力や引力が働くのか、その物理的な必然性への洞察が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 「原因から結果へ」という通常の思考プロセスだけでなく、「結果(守られるべき法則)から原因を推測する」という逆の思考プロセスを経験することで、問題解決の視野が広がります。
- 直感的な理解の促進: 「タダでエネルギーは得られない」という日常的な感覚から、働く力の向き(妨げる向き)を直感的に判断できるため、レンツの法則の適用に自信が持てるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点や順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「レンツの法則と電磁誘導」です。磁石とコイルの相対的な運動によってコイルを貫く磁束が変化するとき、どのような向きに誘導電流が流れ、どのような力が働くかを、物理法則に基づいて正しく説明できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 磁束: コイルなどの閉回路を貫く磁力線の「正味の本数」のこと。磁石との距離や向きによって変化します。
- レンツの法則: 誘導電流は、コイルを貫く磁束の変化を「妨げる」向きに流れる、という電磁誘導の向きに関する最重要法則です。
- 右ねじの法則(アンペールの法則): 電流が流れると、その周りに磁場ができます。この電流の向きと磁場の向きの関係を示す法則です。
- 電磁石: 電流が流れるコイルは磁石(電磁石)として振る舞い、電流の向きによってN極・S極が決まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、磁石が近づくことでコイルを貫く磁束が増加します。この「増加を妨げる(打ち消す)」向きの磁場を作るように、誘導電流の向きと力の種類を決定します。
- (2)では、コイルが遠ざかることでコイルを貫く磁束が減少します。この「減少を妨げる(補う)」向きの磁場を作るように、誘導電流の向きと力の種類を決定します。