電磁気範囲 26~30
26 極板間への金属板や誘電体板の挿入
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「電場のグラフから電位のグラフを描く」解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 前問25の等価回路モデルからグラフを描く解法
- 主たる解法が、各領域の電場の強さ(グラフの傾き)から電位グラフを描くのに対し、別解では前問で学んだ「2つのコンデンサーの直列接続」という等価回路モデルを利用します。全体の電圧が、各コンデンサーに容量の逆比でどのように分配されるかを計算し、その結果に基づいて電位グラフを作成します。
- 設問の別解: 前問25の等価回路モデルからグラフを描く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 知識の連携と体系化: 前問の「合成容量」の知識と本問の「電位分布」を結びつけることで、一つの物理現象(金属板の挿入)を多角的に理解する能力が養われます。
- 物理モデルの有用性の実感: 「等価回路」という抽象的なモデルが、具体的な電位分布を予測する上でいかに強力なツールであるかを実感できます。
- 検算としての有効性: 主たる解法で描いたグラフの各点の電位が、電圧分配の法則から計算される値と一致するかどうかを確認する、強力な検算手法となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られるグラフの概形は模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「コンデンサー内部の電位のグラフ」です。金属板を挿入したコンデンサーの内部で、電位がどのように変化するかを、電場との関係に基づいてグラフで表現する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場と電位の関係: 一様な電場 \(E\) の中で、電場に沿って距離 \(x\) だけ進むと、電位は \(Ex\) だけ変化(下降)します。グラフで言えば、電位のグラフの傾きが電場の強さに対応します (\(E = \Delta V / \Delta x\))。
- 導体(金属板)の性質: 導体の内部は電場が0であり、したがって電位は一定(等電位)になります。
- 静電誘導: 金属板を電場中に置くと、静電誘導によって表面に電荷が現れ、内部の電場を打ち消します。
- 電気力線と電位: 電気力線は電位の高い方から低い方へ向かいます。
図1, 図2の電位のグラフ
思考の道筋とポイント
電位のグラフを描くには、そのグラフの「傾き」が「電場の強さ」に対応するという関係 (\(E = \Delta V / \Delta x\)) を利用するのが最も本質的です。
まず、図1と図2の各領域における電場の強さを比較します。
- 図1: 極板間全体で、一様な電場 \(E_1 = V/d\) が存在します。
- 図2: 極板A, Bに蓄えられている電荷 \(+Q, -Q\) は図1と同じです。したがって、電場が存在する真空部分(B-N間とM-A間)の電場の強さは、図1の電場 \(E_1\) と同じになります。一方、金属板内部(N-M間)では、静電誘導により電場は0になります。
この電場の情報を基に、電位のグラフを描きます。
- 図1のグラフ: B(\(x=0\))からA(\(x=d\))まで、傾きが一定(\(E_1\))の直線を描きます。
- 図2のグラフ:
- B-N間: 図1と同じ傾き(\(E_1\))の直線を描きます。
- N-M間: 電場が0なので、傾きも0。すなわち、水平な直線を描きます。
- M-A間: 再び図1と同じ傾き(\(E_1\))の直線を描きます。
この結果、図2のグラフは、図1のグラフの途中が水平な区間で置き換えられたような形になります。
この設問における重要なポイント
- 電位グラフの傾きは、電場の強さを表す。
- 金属板内部では電場が0なので、電位グラフの傾きも0(水平)になる。
- 金属板の外側の真空部分では、電場の強さは金属板がない場合と同じである。
具体的な解説と立式
図1の電位グラフ
極板Bの電位を \(0 \, \text{V}\) とします。Bからの距離を横軸 \(x\) にとります。
極板間には一様な電場 \(E = V/d\) が存在します。
距離 \(x\) の点の電位 \(V(x)\) は、電場に沿って積分することで \(V(x) = Ex\) となり、距離に比例します。
したがって、グラフは原点(B)を通り、点(d, V) (A)に至る、傾き \(E\) の直線となります。
図2の電位グラフ
極板A, Bに蓄えられている電荷は図1と同じ \(+Q, -Q\) なので、ガウスの法則から、真空部分の電場の強さは図1と同じ \(E=V/d\) です。
- B-N間 (\(0 \le x \le d_2\)):
電場は \(E\) なので、電位は \(V(x) = Ex\)。グラフは傾き \(E\) の直線です。
点Nでの電位 \(V_N\) は、
$$ V_N = E d_2 $$ - N-M間 (\(d_2 \le x \le d_2+D\)):
金属板内部なので、電場は0です。したがって、電位は一定で、点Nの電位 \(V_N\) のままです。
$$ V(x) = V_N $$
グラフは水平な直線になります。点Mの電位 \(V_M\) も、
$$ V_M = V_N $$ - M-A間 (\(d_2+D \le x \le d\)):
電場は再び \(E\) になります。この区間の電位は、点Mを基準として \(V(x) = V_M + E(x – (d_2+D))\) となります。グラフは再び傾き \(E\) の直線です。
点A(\(x=d\))での電位 \(V_A’\) は、
$$
\begin{aligned}
V_A’ &= V_M + E(d – (d_2+D)) \\[2.0ex]
&= E d_2 + E d_1 \\[2.0ex]
&= E(d_1+d_2)
\end{aligned}
$$
ここで \(d_1+d_2 = d-D\) なので、
$$
\begin{aligned}
V_A’ &= E(d-D) \\[2.0ex]
&= \frac{V}{d}(d-D) \\[2.0ex]
&= \left(1-\frac{D}{d}\right)V
\end{aligned}
$$
これは、図1のときの電位 \(V\) よりも低くなります。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位の関係: \(V=Ed\)
- 導体内部の電場は0
(上記「具体的な解説と立式」で計算完了)
電位のグラフは、「電場」という坂道の傾きを積分して「標高」をプロットしたものです。
- 図1: 極板間は、傾きが一定のまっすぐな坂道です。したがって、標高(電位)のグラフは、ふもと(B)から山頂(A)まで、まっすぐに上る直線になります。
- 図2: 金属板を挿入すると、坂道の途中に「平坦な踊り場」ができます。金属板の内部は電場が0なので、傾きも0の平地になるのです。
- ふもと(B)から踊り場の始まり(N)までは、図1と同じ傾きで上ります。
- 踊り場(N-M)は、平坦なので標高は変わりません。
- 踊り場の終わり(M)から山頂(A)までは、再び図1と同じ傾きで上ります。
結果として、図2のグラフは、図1の直線の途中が水平な線に置き換わったような、折れ線グラフになります。踊り場の分だけ坂道の長さが短くなるので、最終的な山頂(A)の標高は、図1のときよりも低くなります。
図1は傾き \(V/d\) の直線、図2は傾き \(V/d\) の部分と傾き0の部分からなる折れ線グラフとなります。金属板内部で電位が一定になるという特徴が正しく表現されています。また、図2の極板Aの電位は \(V’ = V(d-D)/d\) となり、図1の \(V\) よりも低くなります。これは、金属板を挿入するとコンデンサーの容量が増加し、同じ電荷 \(Q\) でも電圧 \(V’=Q/C’\) が下がるという事実と一致しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
前問25で、図2の構造が「コンデンサー \(C_1′ = \varepsilon S/d_1\)」と「コンデンサー \(C_2′ = \varepsilon S/d_2\)」の直列接続と等価であることを学びました。このモデルを利用して電位グラフを描きます。
直列接続では、全体の電圧 \(V’\) が、各コンデンサーに容量の逆比で分配されます。この分配された電圧が、各区間(M-A間とN-B間)の電位上昇分に相当します。
この設問における重要なポイント
- 図2を2つのコンデンサー \(C_1′, C_2’\) の直列接続と見なす。
- 全体の電圧 \(V’\) が、\(V_1’\) と \(V_2’\) に容量の逆比で分配されることを利用する。
- 各点の電位を、電圧分配の結果から積み上げていく。
具体的な解説と立式
前問25より、図2のコンデンサーは、\(C_1′ = \varepsilon S/d_1\) と \(C_2′ = \varepsilon S/d_2\) の直列接続と見なせます。
図2の全体の電圧を \(V’\) とすると、この電圧が \(C_1’\) と \(C_2’\) に分配されます。それぞれの電圧を \(V_1′, V_2’\) とすると、
$$
\begin{aligned}
V_1′ : V_2′ &= C_2′ : C_1′ \\[2.0ex]
&= \varepsilon \frac{S}{d_2} : \varepsilon \frac{S}{d_1} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{d_2} : \frac{1}{d_1} \\[2.0ex]
&= d_1 : d_2
\end{aligned}
$$
したがって、各部分の電圧は、
$$ V_1′ = \frac{d_1}{d_1+d_2}V’ \quad (\text{M-A間の電位差}) $$
$$ V_2′ = \frac{d_2}{d_1+d_2}V’ \quad (\text{B-N間の電位差}) $$
これを用いて、各点の電位を計算します。基準は \(V_B=0\)。
- 点Nの電位 \(V_N\): B-N間の電位差に等しいので、
$$
\begin{aligned}
V_N &= V_2′ \\[2.0ex]
&= \frac{d_2}{d_1+d_2}V’
\end{aligned}
$$ - 点Mの電位 \(V_M\): 金属板内部は等電位なので、
$$ V_M = V_N $$ - 点Aの電位 \(V_A’\): 点Mの電位にM-A間の電位差を加えたものなので、
$$
\begin{aligned}
V_A’ &= V_M + V_1′ \\[2.0ex]
&= V_N + V_1′ \\[2.0ex]
&= V_2′ + V_1′ \\[2.0ex]
&= V’
\end{aligned}
$$
主たる解法の結果 \(V’ = E(d_1+d_2)\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
V_N &= E(d_1+d_2) \frac{d_2}{d_1+d_2} \\[2.0ex]
&= Ed_2
\end{aligned}
$$
$$ V_A’ = E(d_1+d_2) $$
これらの値は、主たる解法で求めた各点の電位と完全に一致します。
使用した物理公式
- 直列接続の電圧分配: \(V_1 : V_2 = C_2 : C_1\)
- コンデンサーの等価回路モデル
(上記「具体的な解説と立式」で計算完了)
前問で、金属板を挟んだコンデンサーが「2つのコンデンサーの直列接続」と同じだとわかりました。
直列接続では、電圧は容量の逆比に分配されます。容量は間隔に反比例するので、結局、電圧は「間隔の比」で分配されることになります。
全体の電圧 \(V’\) が、間隔 \(d_1\) の部分と \(d_2\) の部分に、\(d_1:d_2\) の比で分け与えられるわけです。
- BからNまでの電位上昇は、\(d_2\) の部分に対応する電圧。
- NからMまでは金属板なので電位は変わらず平坦。
- MからAまでの電位上昇は、\(d_1\) の部分に対応する電圧。
この考え方でも、主たる解法と同じ形のグラフを描くことができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。これは、「電場の傾き」から考える方法と、「電圧分配」から考える方法が、物理的に等価であることを示しています。問題に応じて、より考えやすい方のアプローチを選択できることが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の微分・積分関係:
- 核心: この問題の根幹は、電場\(E\)と電位\(V\)が独立したものではなく、「電位を空間で微分(グラフの傾きを求める)したものが電場」「電場を空間で積分(グラフの面積を求める)したものが電位差」という、表裏一体の関係にあることを理解しているかにあります。
- 理解のポイント:
- \(E = -\frac{dV}{dx}\) (電位グラフの傾きが電場): この問題では、より直感的な \(E = \frac{\Delta V}{\Delta x}\)(一様な電場の場合)の関係を使います。電位のグラフを描く際、その各点での「傾き」が、その場所の電場の強さに対応している必要があります。
- \(V = -\int E dx\) (電場グラフの面積が電位差): 模範解答の補足にある電場のグラフを見ると、BからAまでの電位差\(V’\)は、電場\(E\)のグラフとx軸で囲まれた面積(\(E \times d_1 + 0 \times D + E \times d_2 = E(d_1+d_2)\))に等しくなります。
- 金属板内部の扱い: 金属板内部では、静電誘導により電場\(E=0\)となります。このため、電位グラフの傾きは0(水平)になり、電位は変化しません(等電位)。これがグラフの形状を決定づける最も重要なポイントです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 誘電体を挿入した場合の電位グラフ: 誘電体を挿入すると、その内部の電場は真空中の\(1/\varepsilon_r\)倍に弱まります。したがって、電位グラフの傾きも\(1/\varepsilon_r\)倍に緩やかになります。金属板のように傾きが0になるわけではない、という違いが重要です。
- 点電荷が作る電位のグラフ: 点電荷が作る電場は\(E=kQ/r^2\)で距離と共に変化するため、電位\(V=kQ/r\)のグラフは、傾きが連続的に変化する曲線になります。
- 力学における仕事とポテンシャルエネルギー: 力\(F\)と位置エネルギー\(U\)の関係(\(F = -dU/dx\))も、電場と電位の関係と全く同じ構造をしています。力のグラフの面積が仕事(エネルギーの変化)に対応し、エネルギーのグラフの傾きが力に対応します。
- 初見の問題での着眼点:
- まず電場の分布を考える: 電位のグラフをいきなり描こうとせず、まず各領域で電場がどうなっているか(一様か、変化するか、0か)を考えます。電場は力の概念に近く、より直感的だからです。
- 電場グラフの概形を描いてみる: 模範解答の補足にあるように、まず横軸に位置、縦軸に電場をとったグラフを描いてみます。このグラフの形状が、電位グラフの「傾きの変化」を決定します。
- 電位グラフの傾きを電場グラフに合わせる: B点を基準(\(V=0\))として、電場グラフの値を傾きとして、電位のグラフを折れ線グラフのように描き進めていきます。
- 電場が一定の区間 \(\rightarrow\) 電位グラフは直線。
- 電場が0の区間 \(\rightarrow\) 電位グラフは水平。
- 電場が変化する区間 \(\rightarrow\) 電位グラフは曲線。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電場と電位のグラフを混同する:
- 誤解: 電場が0になる金属板内部で、電位も0になると勘違いしてしまう。
- 対策: 「傾きが0」と「高さが0」は全く違うことを意識しましょう。電場が0なのは「坂が平坦である」ことを意味し、その場所の「標高(電位)」が0であるとは限りません。平坦な踊り場にも標高はあります。
- 電位グラフが不連続になると考えてしまう:
- 誤解: 電場のグラフが不連続に変化する(金属板の境界で急に0になる)ため、電位のグラフもそこでカクっと不連続に飛ぶと考えてしまう。
- 対策: 電位は電場の積分であり、積分操作はグラフを「滑らか」にする効果があります。電場のグラフが不連続でも、電位のグラフは必ず連続(つながっている)になります。グラフが途中で途切れることはありません。
- 図2の全体の電圧をVと勘違いする:
- 誤解: 図1も図2も同じ電荷\(Q\)を蓄えているのだから、電圧も同じ\(V\)だろうと早合点してしまう。
- 対策: 前問25の結果を思い出しましょう。金属板を挿入すると、コンデンサーの容量\(C’\)は元の\(C\)より大きくなります。電気量\(Q\)が同じであれば、\(V’ = Q/C’\)より、電圧\(V’\)は元の\(V\)より小さくなるはずです。グラフの最終的な高さが\(V\)より低くなることを意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=Ed\)(電位グラフの傾き):
- 選定理由: 電位のグラフを描く上で、その形状を決定する最も重要な情報が「傾き」であり、傾きは「電場」によって与えられます。この公式は、電場と電位グラフの傾きを結びつける直接的な関係式です。
- 適用根拠: 電位の定義は、単位電荷を動かす際の仕事であり、仕事は「力×距離」で計算されます。電場は単位電荷あたりの力なので、「電位差 = 電場 × 距離」という関係が成り立ちます。
- 等価回路モデル(別解):
- 選定理由: グラフの各点の具体的な電位の値を、別の物理モデルから計算し、検算するために選択します。
- 適用根拠: 前問25で示したように、金属板挿入コンデンサーの電気的特性は、2つのコンデンサーの直列接続と数学的に等価です。したがって、直列接続の電圧分配則を適用して各部分の電位差を計算することは、物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの要点を先にプロットする:
- グラフを描く際は、まず重要な点の座標を押さえます。
- 点B: \((0, 0)\) (基準点)
- 点N: \((d_2, Ed_2)\)
- 点M: \((d_2+D, Ed_2)\) (y座標はNと同じ)
- 点A: \((d, E(d_1+d_2))\)
- これらの点をプロットし、直線で結ぶことで、正確なグラフを描くことができます。
- グラフを描く際は、まず重要な点の座標を押さえます。
- 傾きの平行性を意識する:
- 図2のB-N間とM-A間は、どちらも電場の強さが同じ\(E\)です。したがって、電位グラフを描く際には、この2つの部分の直線の傾きが「平行」になるように作図することが重要です。
- 図1のグラフを基準線として利用する:
- まず図1のグラフ(原点を通る傾き\(E\)の直線)を薄く描きます。
- 図2のグラフは、B-N間ではこの基準線に重なり、N-M間では水平にずれ、M-A間では再びこの基準線と平行な直線になります。基準線からの「ずれ」として作図すると、関係性が分かりやすくなります。
27 極板間への金属板や誘電体板の挿入
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「実効的な極板間隔の変化」から容量の変化を直接計算する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 電圧の変化から容量の変化を逆算する解法
- 主たる解法が、容量の公式 \(C’ = \varepsilon S / (d-D)\) を直接用いるのに対し、別解では前問26で導出した電圧の変化の関係 \(V’ = V(d-D)/d\) を利用します。電気量 \(Q\) が一定のとき、容量は電圧に反比例する (\(C=Q/V\)) という関係を用いて、容量の変化率を間接的に求めます。
- 設問の別解: 電圧の変化から容量の変化を逆算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 知識の連携と体系化: 前問25(容量の公式)、前問26(電位分布と電圧)で学んだ知識が、すべて一つの物理現象を記述するために相互に関連していることを示します。これにより、断片的な知識が体系的な理解へと深まります。
- 物理量の相互関係の理解: \(Q\)が一定の条件下で、\(C\) と \(V\) がどのように連動して変化するか(反比例の関係)を具体的に計算することで、コンデンサーの基本法則への理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「金属板を挿入したコンデンサーの電気容量の変化」です。前問25で導出した公式、あるいはその物理的な意味を理解していれば、簡単な計算で答えを導くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 金属板挿入後の電気容量: 極板間隔 \(d\) のコンデンサーに、厚さ \(D\) の金属板を挿入すると、その電気容量 \(C’\) は \(C’ = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d-D}\) となること(前問25の結果)。
- 平行板コンデンサーの電気容量の公式: もとのコンデンサーの電気容量 \(C\) は \(C = \varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\) で与えられること。
- 物理的解釈: 金属板を挿入することは、その厚みの分だけ実質的に極板間隔が狭まることと等価である、という物理的なイメージ。
電気容量は何倍になるか
思考の道筋とポイント
この問題は、前問25で導出した「金属板を挿入したコンデンサーの容量の公式」を直接利用するのが最も早道です。
前問25より、極板間隔 \(d\) のコンデンサーに厚さ \(D\) の金属板を挿入した後の電気容量 \(C’\) は、
$$ C’ = \frac{\varepsilon S}{d-D} $$
と表せました。
問題文の条件は「厚さが極板間隔の \(\displaystyle\frac{1}{3}\)」なので、\(D = \displaystyle\frac{1}{3}d\) という関係が成り立ちます。
この \(D\) を上の式に代入し、元の容量 \(C = \varepsilon S/d\) と比較することで、何倍になるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- 前問25の結果 \(C’ = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d-D}\) を利用する。
- 問題文の条件を \(D = \displaystyle\frac{1}{3}d\) と数式化する。
- 最終的に、\(C’\) が \(C\) の何倍になるかを計算する。
具体的な解説と立式
元のコンデンサーの極板間隔を \(d\)、極板面積を \(S\)、真空の誘電率を \(\varepsilon\) とすると、元の電気容量 \(C\) は、
$$ C = \varepsilon \frac{S}{d} $$
このコンデンサーに、厚さ \(D\) の金属板を挿入します。問題の条件より、
$$ D = \frac{1}{3}d $$
前問25の結果より、金属板を挿入した後の電気容量 \(C’\) は、
$$ C’ = \frac{\varepsilon S}{d-D} $$
この式に \(D = \displaystyle\frac{1}{3}d\) を代入します。
使用した物理公式
- 平行板コンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\)
- 金属板を挿入したコンデンサーの電気容量: \(C’ = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d-D}\)
$$
\begin{aligned}
C’ &= \frac{\varepsilon S}{d – \frac{1}{3}d} \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon S}{\frac{2}{3}d} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \left( \varepsilon \frac{S}{d} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\) は元の電気容量 \(C\) なので、
$$ C’ = \frac{3}{2} C $$
したがって、電気容量は \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍になります。
前問で、コンデンサーの間に厚さ \(D\) の金属板を挟むと、まるで極板の間隔が \(d-D\) に縮んだのと同じ効果があることがわかりました。
今回は、厚さ \(D\) が全体の \(1/3\) (\(D=d/3\)) なので、実質的な極板間隔は \(d – d/3 = (2/3)d\) になります。
コンデンサーの容量は、極板間隔に「反比例」します。
間隔が \(2/3\) 倍になったので、容量はその逆数である \(\displaystyle\frac{1}{2/3} = \displaystyle\frac{3}{2}\) 倍になります。
電気容量は \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍になる、という結果が得られました。金属板を挿入すると、実質的な極板間隔が狭まり、電気容量は増加します。この物理的な直感と、計算結果(\(3/2 > 1\))は一致しており、妥当な答えです。
思考の道筋とポイント
前問26の結果を利用するアプローチです。
まず、金属板を挿入する前後で、コンデンサーに蓄えられている電気量 \(Q\) が一定であると仮定します。
- 挿入前の電圧を \(V\) とすると、\(Q = CV\)。
- 挿入後の電圧を \(V’\) とすると、\(Q = C’V’\)。
この2つの式から、\(CV = C’V’\) という関係が成り立ちます。
したがって、容量の比 \(C’/C\) は、電圧の逆比 \(V/V’\) に等しくなります。
前問26では、\(Q\)が一定のとき、挿入後の電圧 \(V’\) が \(V’ = \displaystyle\frac{d-D}{d}V\) となることを導きました。この関係を使って、電圧の比 \(V/V’\) を計算し、容量の比を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電気量 \(Q\) が一定のとき、\(C’/C = V/V’\) の関係が成り立つ。
- 前問26の結果 \(V’ = \displaystyle\frac{d-D}{d}V\) を利用する。
具体的な解説と立式
挿入前の容量を \(C\)、電圧を \(V\)、電気量を \(Q\) とします。
$$ Q = CV $$
挿入後の容量を \(C’\)、電圧を \(V’\) とします。電気量 \(Q\) は一定とすると、
$$ Q = C’V’ $$
この2式より、
$$
\begin{aligned}
CV &= C’V’ \\[2.0ex]
\frac{C’}{C} &= \frac{V}{V’}
\end{aligned}
$$
ここで、前問26の結果を用います。電気量 \(Q\) が一定のとき、金属板を挿入すると、極板間の電場 \(E\) は変わりませんが、電位差(電圧)は \(V’ = E(d-D)\) となります。元の電圧は \(V=Ed\) なので、
$$ V’ = \frac{d-D}{d}V $$
この関係を、容量の比を求める式に代入します。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
- 前問26の結果: \(V’ = \displaystyle\frac{d-D}{d}V\)
$$
\begin{aligned}
\frac{C’}{C} &= \frac{V}{V’} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{\frac{d-D}{d}V} \\[2.0ex]
&= \frac{d}{d-D}
\end{aligned}
$$
問題の条件 \(D = \displaystyle\frac{1}{3}d\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{C’}{C} &= \frac{d}{d-\frac{1}{3}d} \\[2.0ex]
&= \frac{d}{\frac{2}{3}d} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}
\end{aligned}
$$
したがって、電気容量は \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍になります。
前問で、金属板を挟むと、同じ電気量でも電圧が小さくなる(\(V’ = V(d-D)/d\))ことがわかりました。
コンデンサーの性能(容量)は、「同じ電圧をかけたとき、どれだけ多くの電気を蓄えられるか」で決まりますが、「同じ電気量を蓄えたとき、どれだけ電圧が低くて済むか」でも測ることができます。電圧が低くて済むほど、性能が良い(容量が大きい)と言えます。
今回は、電圧が \((d-D)/d = (2/3)\) 倍になったので、容量はその逆数の \(3/2\) 倍になった、と計算できるわけです。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。前問25, 26で学んだ容量の公式や電位分布の知識が、すべて矛盾なく一つの結論を導くことを示しており、物理法則の体系的な理解を深める上で非常に有益なアプローチです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 金属板挿入による実効的な極板間隔の変化:
- 核心: この問題の根幹は、コンデンサーの極板間に厚さ\(D\)の金属板を挿入する操作が、物理的に「極板間隔が\(D\)だけ狭くなった」ことと等価である、という物理的洞察にあります。
- 理解のポイント:
- 金属板内部の電場は0: 導体である金属板を電場中に置くと、静電誘導によって内部に電場が0の状態が作られます。
- 電位差への寄与が0: 電場が0の領域では、電位差も0です(\(V=Ed\)より)。全体の電位差は、電場が存在する真空部分だけで決まります。
- 実効的な距離: もとの極板間隔が\(d\)であったのに対し、金属板を挿入すると、電場が存在する空間の合計の長さは \(d-D\) となります。コンデンサーの性能(容量)を決めるのは、この「電場が存在する実効的な距離」です。
- 容量と間隔の関係: 電気容量は極板間隔に反比例するため(\(C \propto 1/d\))、実効的な間隔が \(d \to d-D\) と変化することで、容量が \(C \to C’ = C \times \frac{d}{d-D}\) と変化します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 誘電体の挿入: 厚さ\(D\)、比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入する問題。この場合、誘電体内部の電場は\(1/\varepsilon_r\)倍に弱まります。これは、真空に換算すると\(\varepsilon_r D\)の厚さの層と同じ電位差を生むため、実効的な極板間隔が \(d-D+D/\varepsilon_r\) になったと見なせます。
- 複数の金属板を挿入: 厚さ\(D_1, D_2, \dots\)の金属板を複数挿入した場合、実効的な極板間隔は \(d – (D_1+D_2+\dots)\) となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 挿入された物質が「導体(金属)」か「誘電体」かを確認: これによって実効的な距離の計算方法が変わります。
- 「実効的な距離」を計算する:
- 金属板(厚さD): \(d_{実効} = d – D\)
- 誘電体(厚さD, 比誘電率\(\varepsilon_r\)): \(d_{実効} = d – D + D/\varepsilon_r\)
- 容量と間隔の反比例関係を適用: 新しい容量\(C’\)と元の容量\(C\)の比は、実効的な距離と元の距離の逆比に等しくなります。
- \(C’/C = d / d_{実効}\)
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 容量と間隔の関係を混同する:
- 誤解: 容量が間隔に比例すると勘違いし、間隔が\(2/3\)倍になったから容量も\(2/3\)倍になると答えてしまう。
- 対策: 公式 \(C = \varepsilon S/d\) を正確に覚えることが基本です。「間隔が狭まる \(\rightarrow\) 極板が近づく \(\rightarrow\) より強く引き合い、多くの電荷を蓄えられる \(\rightarrow\) 容量は大きくなる」という物理的なイメージを持つと、反比例の関係を間違えにくくなります。
- 比の計算で逆数をとり忘れる:
- 誤解: 間隔が\(2/3\)倍になったので、容量の変化も\(2/3\)倍だと考えてしまう。
- 対策: 「反比例」という言葉の意味を正確に理解することが重要です。「\(y\)が\(x\)に反比例する」とは、\(y\)が\(1/x\)に比例することを意味します。したがって、\(x\)が\(k\)倍になれば、\(y\)は\(1/k\)倍になります。この問題では、間隔が\(2/3\)倍になったので、容量は\(1/(2/3) = 3/2\)倍となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C’ = \varepsilon S / (d-D)\):
- 選定理由: この問題は、前問25の直接的な応用問題です。前問で導出したこの公式は、金属板を挿入したコンデンサーの容量を計算するための最も直接的で強力なツールです。
- 適用根拠: この公式は、金属板挿入の系を「2つのコンデンサーの直列接続」と見なす等価回路モデルから導出されました。そのモデル自体は、静電誘導や導体内部の電場が0になるという基本法則に基づいているため、物理的に厳密です。
- \(C’/C = V/V’\)(別解での利用):
- 選定理由: 前問26で電圧の変化を計算したことを利用し、異なる物理量(電圧)から容量の変化を導き出す、という別のアプローチを試みるために選択しました。
- 適用根拠: コンデンサーの基本式\(Q=CV\)から導かれる、数学的に厳密な関係です。電気量\(Q\)が一定という条件下では、容量\(C\)と電圧\(V\)は反比例の関係にあるため、この式が成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の計算を確実に行う:
- この問題は、最終的に「何倍になるか」を問う比の問題です。
- \(C’ = \displaystyle\frac{3}{2} (\varepsilon S/d) = \frac{3}{2} C\)
- このように、元の容量\(C\)の形を式の中に見つけ出し、\(C’/C\)の比を計算する、という手順を明確に意識すると、計算ミスが減ります。
- この問題は、最終的に「何倍になるか」を問う比の問題です。
- 分数の割り算を丁寧に行う:
- \(\displaystyle\frac{\varepsilon S}{\frac{2}{3}d}\) のような繁分数の計算では、分母の分数の逆数を掛ける、という操作を丁寧に行います。
- \(\varepsilon S \div (\frac{2}{3}d) = \varepsilon S \times \frac{3}{2d} = \frac{3}{2}\frac{\varepsilon S}{d}\)
- 物理的な直感で検算する:
- 「金属板を入れると、容量は大きくなるはずか、小さくなるはずか?」と自問します。金属板は導体なので、極板間の電場を弱める(内部では0にする)効果があります。電場が弱まると、同じ電圧でもより多くの電荷を蓄えられるようになるため、容量は「大きく」なるはずです。
- 計算結果が \(\frac{3}{2}\) 倍(1より大きい)となったことで、この物理的な直感と一致していることを確認できます。もし計算結果が \(2/3\) 倍など1より小さい値になったら、どこかで間違えていると気づくことができます。
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28 極板間への金属板や誘電体板の挿入
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「電場不変」の考え方を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 各極板の電荷から電位を再構成する解法
- 主たる解法(模範解答)が、孤立した極板Aの電荷が保存されることから「電場\(E\)が不変」であるとして電位差を計算するのに対し、別解では「各極板の電荷\(Q\)が不変」であることから出発し、各コンデンサーについて \(Q=CV\) の関係式を立て、それらを連立させて各点の電位を求めます。
- 設問の別解: 各極板の電荷から電位を再構成する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理法則の基本に忠実: この別解は、電場という中間的な概念を介さず、「電荷」と「電位」という、より基本的な量に関する法則(\(Q=CV\)と電気量保存則)のみで問題を解くアプローチです。
- 思考の汎用性向上: 「各点の電位を未知数とし、電荷に関する式を立てて連立方程式を解く」という手法は、キルヒホッフの法則を用いるような、より複雑なコンデンサー回路の解析にも通じる汎用性の高い考え方です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数コンデンサー回路におけるスイッチ操作と電荷の保存」です。スイッチの開閉によって回路の接続状態が変化し、それに伴って電荷が再分配される、あるいは保存される状況を正しく理解し、各極板の電位を計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの直列接続: EXの初期状態では、3つのコンデンサーが直列に接続されています。
- 電気量と電場の関係: 平行板コンデンサーでは、蓄えられている電気量 \(Q\) と極板間の電場 \(E\) は比例します (\(E=Q/\varepsilon S\))。
- 電場と電位差の関係: 一様な電場 \(E\) と極板間隔 \(d\) のコンデンサーの電圧は \(V=Ed\) です。
- 電気量保存の法則: 回路から電気的に孤立した導体部分では、電荷の総和は保存されます。
- 導体の性質: 導線で接続された部分は等電位になります。