電磁気範囲 16~20
16 電位
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、問題の問いに直接答える「静電気力の仕事は位置エネルギーの減少分に等しい」という関係式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 外力がした仕事から考える解法(模範解答のアプローチ)
- 主たる解法が静電気力の仕事を直接計算するのに対し、別解ではまず「外力がした仕事」を位置エネルギーの増加分として計算し、それと静電気力の仕事の関係性(\(W_{静} = -W_{外}\))から答えを導きます。
- 設問の別解: 外力がした仕事から考える解法(模範解答のアプローチ)
- 上記の別解が有益である理由
- 仕事の概念の深化: 「外力がする仕事」と「静電気力(保存力)がする仕事」の関係を明確に意識することができ、仕事とエネルギーの関係についての理解が深まります。
- 思考の多角化: エネルギーの「状態変化」として捉えるか、力の「仕事」として捉えるか、という2つの異なる視点から同じ問題にアプローチする経験は、物理的な思考力を高めます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「静電気力がする仕事と位置エネルギーの関係」です。電位差のある空間で電荷を移動させる際に、静電気力自身がどれだけの仕事をするかを問う問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 静電気力がする仕事: 保存力である静電気力がする仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの「減少分」に等しくなります (\(W_{静} = -\Delta U = U_{始} – U_{終}\))。
- 静電気力による位置エネルギー: 電荷 \(q\) の物体が電位 \(V\) の点にあるとき、その位置エネルギーは \(U=qV\) で与えられます。
- 符号の扱い: 位置エネルギーの計算では、電荷 \(q\) と電位 \(V\) の符号をそのまま式に代入することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、この移動を「静かに」行ったと仮定し、外力がした仕事を計算します。外力の仕事は、位置エネルギーの増加分(終点のエネルギー – 始点のエネルギー)に等しくなります。
- 次に、静電気力がした仕事は、この外力がした仕事と符号が逆になる、という関係を用いて、答えを求めます。
静電気力のした仕事
思考の道筋とポイント
この問題では「静電気力のした仕事」が問われていますが、まず「外力がした仕事」を考えることから始めます。これは、外力の仕事が位置エネルギーの「増加分」(\(U_{終} – U_{始}\))という、変化量の定義と一致していて考えやすいためです。
まず、始点と終点の位置エネルギーを \(U=qV\) で計算し、その差から外力の仕事 \(W_{外}\) を求めます。
次に、重要な関係式 \(W_{静} = -W_{外}\) を用います。これは、物体を静かに運ぶためには、外力は常に静電気力と逆向きで同じ大きさの力を加え続ける必要があり、その結果、仕事の符号がちょうど逆になる、という物理的な背景に基づいています。この関係式を使って、求めた外力の仕事の符号を反転させれば、答えである静電気力の仕事が得られます。
この設問における重要なポイント
- まず、外力がした仕事 \(W_{外}\) を、位置エネルギーの「増加分」(\(U_{終} – U_{始}\))として計算する。
- 次に、静電気力がした仕事 \(W_{静}\) は、外力がした仕事と符号が逆 (\(W_{静} = -W_{外}\)) であることを利用する。
- 位置エネルギーの計算 \(U=qV\) では、電荷 \(q\) と電位 \(V\) の符号をそのまま用いる。
具体的な解説と立式
まず、この移動を静かに行ったと仮定し、外力がした仕事 \(W_{外}\) を求めます。
外力がした仕事は、位置エネルギーの増加分に等しいので、
$$ W_{外} = U_{終} – U_{始} $$
始点と終点の位置エネルギーは、公式 \(U=qV\) を用いて計算します。
- 始点の電位: \(V_{始} = +10 \, \text{V}\)
- 終点の電位: \(V_{終} = -20 \, \text{V}\)
- 電荷: \(q = -3 \, \text{C}\)
したがって、始点と終点の位置エネルギーは、
$$
\begin{aligned}
U_{始} &= qV_{始} \\[2.0ex]
&= (-3) \times (+10) \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
U_{終} &= qV_{終} \\[2.0ex]
&= (-3) \times (-20) \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
よって、外力がした仕事は、
$$
\begin{aligned}
W_{外} &= \left( (-3) \times (-20) \right) – \left( (-3) \times (10) \right)
\end{aligned}
$$
静電気力がした仕事 \(W_{静}\) は、外力がした仕事と符号が逆になります。
$$ W_{静} = -W_{外} $$
使用した物理公式
- 外力の仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{外} = U_{終} – U_{始}\)
- 外力の仕事と静電気力の仕事の関係: \(W_{静} = -W_{外}\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U=qV\)
まず \(W_{外}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_{外} &= 60 – (-30) \\[2.0ex]
&= 90 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
次に、\(W_{静}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
W_{静} &= -W_{外} \\[2.0ex]
&= -90 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
電位を「標高」と考えると、始点は「地上10m」、終点は「地下20m」です。
ここに置くのは、普通の物体(正電荷)とは逆に、自然に高い方へ昇っていく「ヘリウム風船」(負電荷)のようなものです。
この風船を、地上10mから地下20mへ移動させることを考えます。風船は上に行きたがるので、人間(外力)は下に「押し込む」ように力を加えなければなりません。移動方向と同じ向きに力を加えるので、人間がした仕事は「プラス」になります(計算では \(+90 \, \text{J}\))。
問題で聞かれているのは、風船が自然に行きたがる力(静電気力)がした仕事です。この力は、人間が加える力とは逆向きに働いています。したがって、静電気力がした仕事は、人間がした仕事の符号をひっくり返した「マイナス」の値になります。
静電気力のした仕事は \(-90 \, \text{J}\) となりました。負電荷は電位が高くなる向きに力を受けます。今回は電位が \(+10 \, \text{V}\) から \(-20 \, \text{V}\) へと低くなる向きに移動しており、これは静電気力が働く向きとは逆です。したがって、静電気力がした仕事が負になるのは物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
この問題で問われている「静電気力の仕事」を、より直接的に計算するアプローチです。
保存力である静電気力がする仕事は、位置エネルギーの「減少分」に等しい、という関係式 \(W_{静} = -\Delta U = U_{始} – U_{終}\) を直接用います。
始点と終点の位置エネルギーをそれぞれ \(U=qV\) の公式で計算し、\((U_{始} – U_{終})\) を求めれば、それが答えになります。
この設問における重要なポイント
- 求めるのは「静電気力」の仕事である。
- 静電気力がした仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの「減少分」(\(U_{始} – U_{終}\))に等しい。
具体的な解説と立式
静電気力がした仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの減少量に等しくなります。
$$ W_{静} = U_{始} – U_{終} $$
始点と終点の位置エネルギーは、
$$
\begin{aligned}
U_{始} &= qV_{始} \\[2.0ex]
&= (-3) \times (10) \\[2.0ex]
&= -30 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
U_{終} &= qV_{終} \\[2.0ex]
&= (-3) \times (-20) \\[2.0ex]
&= 60 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
これらを \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\) の式に代入します。
使用した物理公式
- 静電気力がする仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U=qV\)
$$
\begin{aligned}
W_{静} &= U_{始} – U_{終} \\[2.0ex]
&= (-30) – (60) \\[2.0ex]
&= -90 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
「ヘリウム風船」(負電荷)を地上10mから地下20mへ移動させる例えで考えます。
風船が自然に行きたがる力(静電気力)は、常に上(標高が高い方)を向いています。しかし、実際の移動は下向きです。
このように、力が働く向きと、実際に動いた向きが正反対の場合、その力がした仕事は「マイナス」になります。仕事の量は「位置エネルギーの変化」から計算でき、答えは \(-90 \, \text{J}\) となります。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。問いに直接答えるこのアプローチは、思考のステップが少なく、より簡潔です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事と位置エネルギーの関係(誰の仕事かを区別する):
- 核心: この問題の根幹は、仕事と位置エネルギーの関係を正しく理解し、特に「静電気力(保存力)がする仕事」と「外力がする仕事」を明確に区別して計算できるかにあります。
- 理解のポイント:
- 静電気力がする仕事: 保存力である静電気力がする仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの減少分に等しくなります。
- \(W_{静} = -\Delta U = U_{始} – U_{終}\)
- これは、物体が自然に(保存力に引かれて)動くとき、位置エネルギーが減少し、その分だけ保存力が正の仕事をする、という物理的イメージに対応します。
- 外力がする仕事: (運動エネルギーを変化させずに)外力がする仕事 \(W_{外}\) は、位置エネルギーの増加分に等しくなります。
- \(W_{外} = \Delta U = U_{終} – U_{始}\)
- これは、外力が保存力に逆らって物体を無理やり動かすとき、その仕事が位置エネルギーとして蓄えられる、というイメージに対応します。
- 両者の関係: 上記の2式から、\(W_{静} = -W_{外}\) という重要な関係が導かれます。
- 静電気力がする仕事: 保存力である静電気力がする仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの減少分に等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 外力がした仕事を問う問題: 前問(14)がまさにこのパターンです。この場合は、\(W_{外} = \Delta U = U_{終} – U_{始}\) を直接計算するのが最も素直な解法です。
- 重力がした仕事を問う問題: 「質量 \(m\) の物体を高さ \(h_1\) から \(h_2\) へ運ぶとき、重力がした仕事はいくらか?」という力学の問題と本質的に同じです。答えは \(W_{重力} = U_{始} – U_{終} = mgh_1 – mgh_2 = -mg(h_2-h_1)\) となります。
- 仕事率を問う問題: 仕事を計算した後、その移動にかかった時間で割ることで、仕事率を求める問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「誰がした仕事か」を最優先で確認: 問題文が「静電気力の仕事」を問うているのか、「外力の仕事」を問うているのかを指差し確認します。これが全ての出発点です。
- 始点と終点の状態(電位)を特定する: 問題文や図から、始点と終点の電位 \(V_{始}\) と \(V_{終}\) を正確に読み取ります。
- 適切な公式を選択する:
- 「静電気力の仕事」なら → \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\)
- 「外力の仕事」なら → \(W_{外} = U_{終} – U_{始}\)
と、求める仕事の種類に応じて正しい公式を選択します。
- 符号を丁寧に計算する: 電荷 \(q\) と電位 \(V\) の符号を含めて、\(U=qV\) を計算し、引き算を実行します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の主体を取り違える:
- 誤解: 「静電気力の仕事」を問われているのに、癖で「外力の仕事」(\(U_{終} – U_{始}\))を計算してしまい、符号を逆にしてしまう。
- 対策: 問題文の「静電気力の」という部分に丸をつけるなど、意識的に注意を喚起する習慣をつけましょう。また、計算後に「負電荷は電位が上がる方へ自然に動く。今回は電位が下がっているので、静電気力の仕事は負になるはずだ」という物理的なイメージと照らし合わせて検算することが非常に有効です。
- 位置エネルギーの変化の定義を混同する:
- 誤解: \(W_{静} = U_{終} – U_{始}\) のように、静電気力の仕事と位置エネルギーの「増加分」を結びつけてしまう。
- 対策: 「保存力が正の仕事をすると、位置エネルギーは減る」という原則を言葉で覚えましょう。坂道をボールが転がり落ちるとき、重力(保存力)は正の仕事をしますが、高さ(位置エネルギー)は減っていきます。この具体的なイメージと結びつけると、\(W_{静} = -\Delta U\) という関係が自然に理解できます。
- 電荷や電位のマイナス符号の見落とし:
- 誤解: 計算の途中で、電荷 \(-3 \, \text{C}\) や電位 \(-20 \, \text{V}\) のマイナス符号を落としてしまう。
- 対策: 数値を代入する際は、必ず括弧をつけて \((-3) \times (-20)\) のように書く癖をつけましょう。これにより、符号の掛け算を意識的に行うことができ、ケアレスミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 静電気力の仕事の公式 \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\):
- 選定理由: 問題が「静電気力のした仕事」を直接問うているため、この関係式が最も直接的な解法となります。
- 適用根拠: これは「保存力」の仕事と「位置エネルギー」の定義そのものです。位置エネルギー \(U\) は、そもそも「保存力がする仕事が \(W = U_{始} – U_{終}\) となるように定義された量」です。したがって、この公式の選択は、定義に従うという最も基本的な操作です。
- 外力の仕事を経由する方法(別解):
- 選定理由: 「外力の仕事 \(W_{外}\) は位置エネルギーの増加分 \(\Delta U\) に等しい」という関係の方が、変化量の定義「後-前」と一致しており、直感的に立式しやすいと感じる人も多いため、有効なアプローチとなります。
- 適用根拠: 仕事とエネルギーの原理 (\(W_{外} + W_{静} = \Delta K\)) において、\(\Delta K = 0\)(静かに運ぶ)とし、\(W_{静} = -\Delta U\) を代入すると、\(W_{外} – \Delta U = 0\)、すなわち \(W_{外} = \Delta U\) が導かれます。この \(W_{外}\) と \(W_{静}\) の関係 \(W_{静} = -W_{外}\) を利用することで、間接的に静電気力の仕事を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報を整理してから立式する:
- 計算を始める前に、問題の情報を整理して書き出す習慣をつけましょう。
- \(q = -3 \, \text{C}\)
- \(V_{始} = +10 \, \text{V}\)
- \(V_{終} = -20 \, \text{V}\)
- 求めるもの: \(W_{静}\)
- このように情報を整理することで、どの数値をどの公式のどこに代入すればよいかが明確になります。
- 計算を始める前に、問題の情報を整理して書き出す習慣をつけましょう。
- 符号の計算を徹底する:
- \(W_{静} = U_{始} – U_{終} = qV_{始} – qV_{終}\)
- \(= (-3) \times (+10) – (-3) \times (-20)\)
- \(= (-30) – (+60)\)
- \(= -90\)
- このように、各項の符号、そして項の間の符号を一つ一つ確認しながら、焦らずに計算を進めることが重要です。
- 物理的イメージによる検算:
- 電場は電位の高い方から低い方へ向かいます(この場合は \(+10\text{V} \to -20\text{V}\) の向き)。
- 負電荷 \(-3\text{C}\) は、電場とは「逆」の向きに力を受けます(\(-20\text{V} \to +10\text{V}\) の向き)。
- 実際の移動は、電位が下がる向き(\(+10\text{V} \to -20\text{V}\))です。
- つまり、静電気力が働く向きと、実際の移動方向が「逆」なので、静電気力がする仕事は「負」になるはずです。計算結果が \(-90 \, \text{J}\) と負になったことで、答えの妥当性を確認できます。
17 電位
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「外力の仕事から静電気力の仕事を導く」解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 静電気力がした仕事を直接計算する解法
- 主たる解法(模範解答)が、まず「外力がした仕事」を位置エネルギーの増加分として計算し、その符号を反転させて静電気力の仕事を求めるのに対し、別解では「静電気力がした仕事は位置エネルギーの減少分に等しい」という関係式を用いて、より直接的に答えを導きます。
- 設問の別解: 静電気力がした仕事を直接計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考の直接性: 問いで求められている「静電気力の仕事」を、関係式 \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\) を用いて直接計算するため、思考のステップがより直接的になります。
- 物理法則の理解: 「保存力がする仕事は位置エネルギーの減少分である」という、仕事とエネルギーに関する重要な物理法則を直接的に適用する良い練習になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の点電荷が作る電位と仕事」です。前問で学習した、電気双極子が作る電位の知識を応用して、特定の経路で電荷を移動させる際の仕事を計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 外力の仕事と位置エネルギーの関係: 運動エネルギーを変化させずに物体を運ぶとき、外力がした仕事 \(W_{外}\) は、位置エネルギーの増加分 \(\Delta U\) に等しくなります (\(W_{外} = U_{終} – U_{始}\))。
- 静電気力の仕事と外力の仕事の関係: 運動エネルギーを変化させずに運ぶ場合、静電気力がする仕事 \(W_{静}\) と外力がする仕事 \(W_{外}\) の間には、\(W_{静} = -W_{外}\) という関係が成り立ちます。
- 静電気力による位置エネルギー: 電荷 \(q\) の物体が電位 \(V\) の点にあるとき、その位置エネルギーは \(U=qV\) で与えられます。
- 電位の重ね合わせの原理: 前問の結果を利用して、始点と終点の電位を特定します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 前問11の結果を利用して、始点Cと終点Dの電位を特定します。
- 公式 \(U=qV\) を用いて、始点と終点の位置エネルギーを求めます。
- 外力の仕事 \(W_1\) を、位置エネルギーの増加分 \((U_D – U_C)\) として計算します。
- 静電気力の仕事 \(W_2\) は、\(W_1\) の符号を反転させて求めます (\(W_2 = -W_1\))。
仕事\(W_1\)と\(W_2\)の計算
思考の道筋とポイント
この問題は、前問11で求めた電位の知識を応用して、電荷を移動させる際の仕事を計算する問題です。仕事の計算には、始点と終点の「位置エネルギーの差」が分かればよく、途中の経路にはよりません。
位置エネルギーは \(U=qV\) で計算できるので、まずは始点Cと終点Dの電位を特定することが第一歩です。
次に、問題で問われている2種類の仕事、「外力の仕事」と「静電気力の仕事」の関係を正しく理解しているかがポイントです。
- 「外力の仕事」は位置エネルギーの「増加分」(\(U_{終} – U_{始}\))
- 「静電気力の仕事」は位置エネルギーの「減少分」(\(U_{始} – U_{終}\))
であり、両者は互いに符号が逆の関係 (\(W_{静} = -W_{外}\)) にあります。模範解答の流れに沿って、まず外力の仕事 \(W_1\) を計算し、それを使って静電気力の仕事 \(W_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 前問11の結果を正しく引用する。
- 外力の仕事 \(W_1 = U_D – U_C\)。
- 静電気力の仕事 \(W_2 = -W_1\)。
具体的な解説と立式
始点C\((2a, 0)\)と終点D\((0, 2a)\)の電位を、前問11の結果から引用します。
- 始点Cの電位 \(V_C\): 問題11(3)より、\(V_C = \displaystyle\frac{2kQ}{3a}\)。
- 終点Dの電位 \(V_D\): 問題11(2)の点B\((0, y)\)の結果で \(y=2a\) としたもの。y軸上の電位は0だったので、\(V_D = 0\)。
1. 外力の仕事 \(W_1\) の計算
外力がした仕事 \(W_1\) は、位置エネルギーの増加分に等しくなります。
$$ W_1 = U_D – U_C = qV_D – qV_C $$
2. 静電気力の仕事 \(W_2\) の計算
静電気力がした仕事 \(W_2\) は、外力がした仕事 \(W_1\) と符号が逆の関係にあります。
$$ W_2 = -W_1 $$
使用した物理公式
- 外力の仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{外} = U_{終} – U_{始}\)
- 静電気力の仕事と外力の仕事の関係: \(W_{静} = -W_{外}\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U=qV\)
まず、\(W_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= qV_D – qV_C \\[2.0ex]
&= q \cdot 0 – q \cdot \left(\frac{2kQ}{3a}\right) \\[2.0ex]
&= -\frac{2kQq}{3a}
\end{aligned}
$$
次に、\(W_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_2 &= -W_1 \\[2.0ex]
&= -\left(-\frac{2kQq}{3a}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2kQq}{3a}
\end{aligned}
$$
電位を「標高」と考えてみましょう。前問の結果から、C地点の標高は \(\displaystyle\frac{2kQ}{3a}\)、D地点の標高は \(0\) であることがわかっています。
ここに、重さ \(q\) の荷物をC地点からD地点へ運びます。
まず、運び屋(外力)がした仕事 \(W_1\) を考えます。これは「荷物の重さ(\(q\)) × (ゴールの標高 – スタートの標高)」で計算できます。
次に、荷物を運ぶのを助けたり邪魔したりする自然の力(静電気力)がした仕事 \(W_2\) を考えます。これは、運び屋がした仕事とちょうど符号が逆になります。
外力の仕事 \(W_1 = -\displaystyle\frac{2kQq}{3a}\)、静電気力の仕事 \(W_2 = \displaystyle\frac{2kQq}{3a}\) と求められました。
例えば \(q>0\) の場合を考えると、電位が高いC点から低いD点へ移動するので、静電気力は自然に物体を動かそうとし、正の仕事をします(\(W_2>0\))。一方、外力はそれにブレーキをかけるように働くので、負の仕事をします(\(W_1<0\))。計算結果の符号は、この物理的なイメージと一致しており、妥当です。
思考の道筋とポイント
こちらでは、まず問いで先に聞かれている「静電気力の仕事」\(W_2\)を直接計算します。
保存力である静電気力がする仕事は、位置エネルギーの「減少分」(\(U_{始} – U_{終}\))に等しい、という関係式 \(W_{静} = U_C – U_D\) を用います。
その後、外力の仕事は静電気力の仕事と符号が逆である関係 \(W_{外} = -W_{静}\) を使って \(W_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 静電気力の仕事 \(W_2 = U_C – U_D\)。
- 外力の仕事 \(W_1 = -W_2\)。
具体的な解説と立式
1. 静電気力の仕事 \(W_2\) の計算
静電気力がした仕事 \(W_2\) は、位置エネルギーの減少分に等しくなります。
$$ W_2 = U_C – U_D = qV_C – qV_D $$
2. 外力の仕事 \(W_1\) の計算
外力がした仕事 \(W_1\) は、静電気力がした仕事 \(W_2\) と符号が逆の関係にあります。
$$ W_1 = -W_2 $$
使用した物理公式
- 静電気力がする仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{静} = U_{始} – U_{終}\)
- 外力の仕事と静電気力の仕事の関係: \(W_{外} = -W_{静}\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U=qV\)
まず、\(W_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_2 &= qV_C – qV_D \\[2.0ex]
&= q \cdot \left(\frac{2kQ}{3a}\right) – q \cdot 0 \\[2.0ex]
&= \frac{2kQq}{3a}
\end{aligned}
$$
次に、\(W_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= -W_2 \\[2.0ex]
&= -\frac{2kQq}{3a}
\end{aligned}
$$
C地点からD地点へ荷物 \(q\) が移動するとき、自然の力(静電気力)がどれだけ仕事をしたか(\(W_2\))を先に考えます。
保存力がする仕事は「(スタートの標高 – ゴールの標高) × 荷物の重さ」で計算できます。
運び屋(外力)がした仕事(\(W_1\))は、この静電気力がした仕事とちょうど符号が逆になります。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。どちらの仕事を先に計算しても、両者の関係を正しく理解していれば同じ答えにたどり着くことが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事と位置エネルギーの関係(誰の仕事かを区別する):
- 核心: この問題の根幹は、仕事と位置エネルギーの関係を正しく理解し、特に「静電気力(保存力)がする仕事」と「外力がする仕事」を明確に区別して計算できるかにあります。
- 理解のポイント:
- 静電気力がする仕事: 保存力である静電気力がする仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの減少分に等しくなります。
- \(W_{静} = -\Delta U = U_{始} – U_{終}\)
- これは、物体が自然に(保存力に引かれて)動くとき、位置エネルギーが減少し、その分だけ保存力が正の仕事をする、という物理的イメージに対応します。
- 外力がする仕事: (運動エネルギーを変化させずに)外力がする仕事 \(W_{外}\) は、位置エネルギーの増加分に等しくなります。
- \(W_{外} = \Delta U = U_{終} – U_{始}\)
- これは、外力が保存力に逆らって物体を無理やり動かすとき、その仕事が位置エネルギーとして蓄えられる、というイメージに対応します。
- 両者の関係: 上記の2式から、\(W_{静} = -W_{外}\) という重要な関係が導かれます。
- 静電気力がする仕事: 保存力である静電気力がする仕事 \(W_{静}\) は、位置エネルギーの減少分に等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エネルギー保存則の問題への応用: \(W_{外}=0\) の場合、\(\Delta K + \Delta U = 0\) となり、エネルギー保存則そのものになる。
- 非保存力(摩擦など)が仕事をする場合: \(W_{外} + W_{静} + W_{非保存力} = \Delta K\)。
- 電位のグラフから仕事を読み取る問題: グラフの縦軸の差(電位差)に電荷を掛ける。
- 初見の問題での着眼点:
- 「仕事」を問われたら、まず「誰の仕事か」を確認する: 問題が問うているのは「外力」がした仕事か、それとも「静電気力」がした仕事か。これによって符号が変わる可能性があるため、最初に確認します。
- 始点と終点の電位を特定する: 問題文や図、あるいは過去問の結果から、始点と終点の電位 \(V_{始}\) と \(V_{終}\) を正確に読み取ります。
- 経路が複雑でも惑わされない: 静電気力は保存力なので、その仕事は始点と終点の状態(電位)だけで決まります。途中の経路が曲線であろうと直線であろうと、計算結果は同じです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の主体を取り違える:
- 誤解: \(W_1\)(外力の仕事)と \(W_2\)(静電気力の仕事)を逆に計算してしまう。
- 対策: 「外力 \(\leftrightarrow\) 増加分 \((U_{終} – U_{始})\)」「静電気力 \(\leftrightarrow\) 減少分 \((U_{始} – U_{終})\)」という対応関係を正確に覚えましょう。迷ったら、まず外力の仕事を計算し、静電気力の仕事はその逆符号、と考えるのが安全です。
- 位置エネルギーの変化の定義を混同する:
- 誤解: 変化量を計算する際に、「大きい方から小さい方を引く」と勘違いし、\(\Delta U = U_{始} – U_{終}\) と計算してしまう。
- 対策: 「変化量」は、物理学のどの分野でも常に「(後の状態)-(前の状態)」と定義されています。この原則を徹底し、\(\Delta U = U_{終} – U_{始}\) と機械的に計算する癖をつけましょう。
- 前問の結果の引用ミス:
- 誤解: 前問で計算した電位の値を間違えて引用してしまう。
- 対策: 参照する問題番号と設問番号をしっかり確認し、値を正確に転記するよう注意します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(W_{外} = U_{終} – U_{始}\):
- 選定理由: 「外力の仕事」を問われたから。これは仕事とエネルギーの原理 \(W_{外} = \Delta K + \Delta U\) で \(\Delta K=0\) とした場合の式。物理系のエネルギーを変化させるのは外力の仕事である、という基本原則に基づいています。
- 適用根拠: 電荷を「静かに」運ぶ、あるいは運動エネルギーを変化させずに運ぶという条件下で、外力がした仕事はすべて位置エネルギーの変化に変換される、というエネルギーの収支を表しています。
- \(W_{静} = -W_{外}\):
- 選定理由: 「静電気力の仕事」を求めるため。
- 適用根拠: これは、静かに運ぶ(\(\vec{F}_{外} + \vec{F}_{静} = \vec{0}\))という条件から導かれます。外力と静電気力は常に逆向きで同じ大きさなので、同じ距離を動かしたときの仕事は符号が逆になります。
- \(U=qV\):
- 選定理由: 位置エネルギーを具体的に計算するための定義式。
- 適用根拠: 電位 \(V\) が「単位電荷あたりの位置エネルギー」として定義されているため、この式は定義そのものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報を整理してから立式する:
- 計算を始める前に、問題の情報を整理して書き出す習慣をつけましょう。
- \(q\)
- \(V_C = \displaystyle\frac{2kQ}{3a}\) (問11(3)より)
- \(V_D = 0\) (問11(2)より)
- 求めるもの: \(W_1 = W_{外}\), \(W_2 = W_{静}\)
- このように情報を整理することで、どの数値をどの公式のどこに代入すればよいかが明確になります。
- 計算を始める前に、問題の情報を整理して書き出す習慣をつけましょう。
- 立式を丁寧に行う:
- \(W_1 = U_D – U_C = qV_D – qV_C\) のように、記号で立式してから数値を代入する癖をつけると、計算ミスを減らせます。
- 物理的イメージによる検算:
- 電荷 \(q\) の符号を仮に正(\(q>0\))として、仕事の符号を予測してみましょう。
- C点(\(V>0\))からD点(\(V=0\))へは、電位が下がる向きへの移動です。正電荷は自然にこの向きに動こうとするので、静電気力は正の仕事をするはず(\(W_2>0\))。外力はそれにブレーキをかけるので負の仕事をするはず(\(W_1<0\))。
- 計算結果 \(W_1 = -\displaystyle\frac{2kQq}{3a}\), \(W_2 = \displaystyle\frac{2kQq}{3a}\) に \(q>0\) を代入すると、確かに \(W_1<0, W_2>0\) となり、予測と一致します。
- 次に \(q<0\) の場合も同様に考えると、予測と計算結果が一致することが確認でき、解答の信頼性が高まります。
- 電荷 \(q\) の符号を仮に正(\(q>0\))として、仕事の符号を予測してみましょう。
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18 電気量の保存
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解1: 電場と電位の関係を用いる解法
- 模範解答が電気量保存則から電圧を求めるのに対し、この別解では孤立したコンデンサーでは極板間の電場が一定に保たれるという性質と、\(V=Ed\) の関係から直接電圧を導きます。
- 設問(2)の別解2: 静電エネルギーの関係を用いる解法
- この別解では、電気量が一定のときの静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) を用い、エネルギーの変化から電圧の変化を導出します。
- 設問(2)の別解1: 電場と電位の関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 電場、電位、エネルギーという異なる物理概念が、同じ現象を記述し、互いに深く関連していることへの理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 解法の効率化: (2)の別解1のように、問題の本質を捉えることで、より少ない計算ステップで簡潔に解に至る強力な手法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「コンデンサーの極板間隔の変化と、それに伴う電気量・電圧の変化」です。コンデンサーに対する操作が「スイッチを閉じたまま(電池に接続したまま)」行われるか、「スイッチを切ってから(孤立させてから)」行われるかによって、何が一定に保たれ、何が変化するのかを正しく見極めることが核心となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平行板コンデンサーの電気容量: 電気容量 \(C\) は、極板の面積 \(S\) に比例し、極板間隔 \(d\) に反比例します (\(C = \varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\))。
- コンデンサーの基本式: コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\)、コンデンサーの電気容量 \(C\)、極板間の電圧 \(V\) の間には、\(Q=CV\) の関係が成り立ちます。
- 操作による不変量の見極め:
- 「スイッチを閉じたまま(電池に接続したまま)」: コンデンサーは常に電池とつながっているため、極板間の電圧 \(V\) が電池の電圧と等しく、一定に保たれます。
- 「スイッチを切ってから(孤立させる)」: コンデンサーは回路から切り離され、電荷の逃げ道がなくなるため、蓄えられている電気量 \(Q\) が一定に保たれます。