電磁気範囲 06~10
6 電場(電界)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 力の重ね合わせで考える解法
- 模範解答が「まず電場を合成し、その合成電場から受ける力を計算する」アプローチを取るのに対し、別解では「それぞれの電場から受ける力を個別に計算し、それらの力をベクトルとして合成する」という、力の重ね合わせの原理に直接基づいたアプローチを取ります。
- 設問の別解: 力の重ね合わせで考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理法則の等価性の理解: 「電場の重ね合わせ」と「力の重ね合わせ」が、最終的に同じ結果を導く物理的に等価な考え方であることを体験できます。
- 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、電場を先に合成する方が楽か、力を個別に計算する方が楽か、見通しの良い方を選択する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電場の重ね合わせ」と「合成電場中の電荷が受ける力」です。複数の電場が共存する空間で、帯電体がどのような力を受けるかを計算する問題であり、電場がベクトル量であることを正しく理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場の重ね合わせの原理: ある点における合成電場は、それぞれの電場のベクトル和で与えられます。
- 電場と力の関係: 電荷 \(q\) の帯電体は、電場 \(\vec{E}\) から力 \(\vec{F}=q\vec{E}\) を受けます。
- 負電荷が受ける力の向き: 負電荷は、電場と「反対」の向きに力を受けるという性質を、前問に引き続き利用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、互いに逆向きである2つの電場 \(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) をベクトルとして合成し、その点における合成電場 \(\vec{E}_{\text{合成}}\) の向きと大きさを求めます。
- 次に、前問で求めた帯電体Pの電荷 \(q\) が、この合成電場からどのような力を受けるかを考えます。Pの電荷は負なので、力は合成電場と反対向きになります。
- 最後に、力の大きさの公式 \(F=|q|E\) を用いて、静電気力の大きさを計算します。
Pが受ける静電気力の向きと大きさ
思考の道筋とポイント
この問題は2段階のプロセスで考えます。第一段階は「空間の性質を決める」こと、第二段階は「その空間に置かれたものがどうなるか」を考えることです。
第一段階:まず、帯電体Pを置く場所の電場がどうなっているかを考えます。右向きの電場 \(\vec{E}_1\) と、それより強い左向きの電場 \(\vec{E}_2\) が同時に存在するので、これらを合成します。一直線上で逆向きなので、合成電場の向きは強い方(\(\vec{E}_2\) の向き)になり、大きさは2つの電場の大きさの差になります。
第二段階:次に、この合成された「正味の」電場の中に、前問で性質がわかっている帯電体P(負電荷)を置いたときにどうなるかを考えます。Pは負電荷なので、合成電場の向きと「反対向き」に力を受けます。力の大きさは、Pの電荷の大きさと合成電場の大きさの積で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 電場はベクトル量であり、重ね合わせ(ベクトル和)ができる。
- 互いに逆向きのベクトルの合成は、大きさの引き算で計算できる。
- 負電荷は、合成された「正味の」電場と逆向きの力を受ける。
具体的な解説と立式
まず、2つの電場 \(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) を合成して、合成電場 \(\vec{E}_{\text{合成}}\) を求めます。
\(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) は互いに逆向きで、その大きさはそれぞれ \(E_1 = 3 \times 10^4 \, \text{N/C}\)、\(E_2 = 5 \times 10^4 \, \text{N/C}\) です。
\(E_2 > E_1\) なので、合成電場 \(\vec{E}_{\text{合成}}\) の向きは、\(\vec{E}_2\) と同じ向き(すなわち \(\vec{E}_1\) とは逆向き)になります。
合成電場の大きさ \(E_{\text{合成}}\) は、2つの大きさの差で与えられます。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{合成}} &= E_2 – E_1 \\[2.0ex]
&= (5 \times 10^4) – (3 \times 10^4) \\[2.0ex]
&= 2 \times 10^4 \, [\text{N/C}]
\end{aligned}
$$
次に、この合成電場中に帯電体Pを置いたときに受ける力 \(\vec{F}\) を考えます。
前問より、Pの電荷は \(q = -2 \times 10^{-4} \, \text{C}\) であり、負電荷です。
負電荷は電場と反対向きに力を受けるので、力 \(\vec{F}\) の向きは、合成電場 \(\vec{E}_{\text{合成}}\) の向きと反対になります。
\(\vec{E}_{\text{合成}}\) は \(\vec{E}_1\) と逆向きだったので、力 \(\vec{F}\) は \(\vec{E}_1\) と同じ向きになります。
力の大きさ \(F\) は、電荷の大きさと合成電場の大きさの積で計算できます。
$$ F = |q| E_{\text{合成}} $$
使用した物理公式
- 電場の重ね合わせの原理
- 電場と力の関係: \(F=|q|E\)
上記で立式した力の大きさの式に、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= |q| E_{\text{合成}} \\[2.0ex]
&= |-2 \times 10^{-4}| \times (2 \times 10^4) \\[2.0ex]
&= (2 \times 10^{-4}) \times (2 \times 10^4) \\[2.0ex]
&= 4 \times 10^{-4+4} \\[2.0ex]
&= 4 \times 10^0 \\[2.0ex]
&= 4 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
向きは、上で考察した通り、はじめの電場 \(\vec{E}_1\) と同じ向きです。
ある場所で、右向きに「3」の強さの風(\(E_1\))と、左向きに「5」の強さの風(\(E_2\))が同時に吹いている状況を想像してください。結果として、その場所には左向きに「2」(\(=5-3\))の強さの「合成された風」が吹いていることになります。
この風の中に、前問の帯電体Pを置きます。Pはマイナスの電気を持っており、これは「風と反対方向に流される」性質を持つ物体だと考えられます。
左向きに「2」の強さの風が吹いているので、Pは反対の右向きに力を受けます。力の大きさは「Pの性質(\(|q|\)) × 風の強さ(\(E_{\text{合成}}\))」で計算でき、答えは \(4 \, \text{N}\) となります。
Pが受ける静電気力の大きさは \(4 \, \text{N}\)、向きははじめの電場 \(\vec{E}_1\) と同じ向きであると求められました。これは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
「電場を合成してから力を計算する」のではなく、「それぞれの電場から受ける力を個別に計算し、最後にそれらの力を合成する」というアプローチです。これは力の重ね合わせの原理を直接的に用いる考え方です。
まず、Pが電場 \(\vec{E}_1\) のみから受ける力 \(\vec{F}_1\) を考えます。次に、Pが電場 \(\vec{E}_2\) のみから受ける力 \(\vec{F}_2\) を計算します。最後に、この2つの力 \(\vec{F}_1\) と \(\vec{F}_2\) をベクトルとして合成します。
この設問における重要なポイント
- 力の重ね合わせの原理を直接適用する。
- 各電場から受ける力の向きを、Pの電荷が負であることを考慮して正確に判断する。
- 一直線上の逆向きの力の合成は、大きさの引き算になる。
具体的な解説と立式
帯電体Pが受ける合力 \(\vec{F}\) は、電場 \(\vec{E}_1\) から受ける力 \(\vec{F}_1\) と、電場 \(\vec{E}_2\) から受ける力 \(\vec{F}_2\) のベクトル和で与えられます。
$$ \vec{F} = \vec{F}_1 + \vec{F}_2 $$
Pの電荷は \(q = -2 \times 10^{-4} \, \text{C}\) です。
1. \(\vec{E}_1\) から受ける力 \(\vec{F}_1\)
これは前問の結果そのものです。力の大きさは \(F_1 = 6 \, \text{N}\) で、Pは負電荷なので、向きは \(\vec{E}_1\) と反対向きです。
2. \(\vec{E}_2\) から受ける力 \(\vec{F}_2\)
\(\vec{E}_2\) は \(\vec{E}_1\) と逆向きです。Pは負電荷なので、力 \(\vec{F}_2\) は \(\vec{E}_2\) と反対向き、すなわち \(\vec{E}_1\) と同じ向きになります。
力の大きさ \(F_2\) は、
$$ F_2 = |q| E_2 $$
3. 合力 \(\vec{F}\) の計算
\(\vec{F}_1\) と \(\vec{F}_2\) は互いに逆向きです。\(F_2\) の方が大きいので、合力の向きは \(\vec{F}_2\) と同じ向き(\(\vec{E}_1\) と同じ向き)になり、大きさは2つの力の大きさの差になります。
$$ F = F_2 – F_1 $$
使用した物理公式
- 力の重ね合わせの原理
- 電場と力の関係: \(F=|q|E\)
まず、\(F_2\) の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
F_2 &= |q| E_2 \\[2.0ex]
&= |-2 \times 10^{-4}| \times (5 \times 10^4) \\[2.0ex]
&= 10 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
\(\vec{F}_1\) は大きさ \(6 \, \text{N}\) で \(\vec{E}_1\) と逆向き、\(\vec{F}_2\) は大きさ \(10 \, \text{N}\) で \(\vec{E}_1\) と同じ向きです。
したがって、合力の大きさ \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= F_2 – F_1 \\[2.0ex]
&= 10 – 6 \\[2.0ex]
&= 4 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
向きは、大きい方の力 \(\vec{F}_2\) の向きなので、\(\vec{E}_1\) と同じ向きです。
帯電体P君が、2人から綱引きされている状況を考えます。
一人目(\(E_1\) による力)は、P君を「\(E_1\) と逆向き」に「\(6 \, \text{N}\)」の力で引っ張ります。
二人目(\(E_2\) による力)は、P君を「\(E_2\) と逆向き(つまり \(E_1\) と同じ向き)」に「\(10 \, \text{N}\)」の力で引っ張ります。
結果として、P君は「\(E_1\) と逆向きに \(6 \, \text{N}\)」と「\(E_1\) と同じ向きに \(10 \, \text{N}\)」の力で同時に引っ張られます。
差し引きすると、P君は「\(E_1\) と同じ向き」に「\(4 \, \text{N}\) (\(=10-6\))」の力で引っ張られることになります。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。「電場を合成してから力を求める」方法と、「力をそれぞれ計算してから合成する」方法が、物理的に等価であることが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重ね合わせの原理の適用:
- 核心: この問題は、電場や力がベクトル量であり、「重ね合わせの原理」が成り立つことを深く理解しているかを問うています。複数の物理的な原因(この場合は2つの電場)がある場合、その結果(合成電場や合力)は、それぞれの原因が単独で存在した場合の結果を単純にベクトルとして足し合わせることで得られます。
- 理解のポイント:
- 2つのアプローチの等価性: この問題は2通りの解き方ができます。
- 電場の合成 → 力の計算: まず空間の性質である「電場」を合成し、その最終的な電場から電荷が受ける力を計算する。(\(\vec{F} = q(\vec{E}_1 + \vec{E}_2)\))
- 力の計算 → 力の合成: まずそれぞれの電場から受ける「力」を個別に計算し、それらの力をベクトルとして合成する。(\(\vec{F} = q\vec{E}_1 + q\vec{E}_2\))
- 分配法則との関係: 数学の分配法則 \(q(E_1+E_2) = qE_1 + qE_2\) が成り立つように、物理の世界でもこの2つのアプローチは完全に等価であり、同じ結論に至ります。このことを理解することが、物理法則の構造を深く把握する上で非常に重要です。
- 2つのアプローチの等価性: この問題は2通りの解き方ができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 直交する電場: 2つの電場が互いに直交して加えられる場合、合成電場は三平方の定理で大きさを、\(\tan\theta\) で向きを求めることになります。その合成電場に対して、電荷が受ける力の向きと大きさを計算します。
- 電場と磁場の両方が存在する空間(ローレンツ力): 荷電粒子が電場と磁場の両方が存在する空間を運動する場合、粒子は電場からの力(静電気力 \(\vec{F}_e = q\vec{E}\))と磁場からの力(ローレンツ力 \(\vec{F}_m = q\vec{v} \times \vec{B}\))を同時に受けます。この合力 \(\vec{F} = \vec{F}_e + \vec{F}_m\) をローレンツ力と呼び、この力を受けて粒子は複雑な運動をします。これも重ね合わせの原理の一例です。
- 複数の波の重ね合わせ: 水面波や音波、光波など、波も重ね合わせの原理が成り立ちます。複数の波が同じ場所に来たとき、その点の変位は各々の波の変位のベクトル和で与えられます(干渉やうなりなど)。
- 初見の問題での着眼点:
- ベクトル量のリストアップ: 問題に登場するベクトル量(この場合は \(\vec{E}_1, \vec{E}_2\))を全てリストアップし、その向きと大きさを図に書き込みます。
- 合成か、個別計算かを選択:
- 電場の合成が簡単な場合: 今回のように電場が一直線上にある、あるいは直交しているなど、合成が容易な場合は、先に電場を合成してしまう方が計算が楽なことが多いです。(模範解答のアプローチ)
- 個々の力の計算が簡単な場合: 前問などで個々の力がすでに計算されている場合や、状況が複雑で一つずつ力を考えた方が分かりやすい場合は、力を個別に計算してから最後に合成する方が見通しが良いことがあります。(別解のアプローチ)
- 電荷の符号を忘れない: 合成した最終的な電場(あるいは個々の力)に対して、電荷の符号(今回は負)を適用することを絶対に忘れないようにします。最後の最後で力の向きを逆にするのを忘れる、というミスが最も起こりやすいポイントです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトルの大きさをスカラーとして足してしまう:
- 誤解: 逆向きの電場であるにもかかわらず、その大きさ \(3 \times 10^4\) と \(5 \times 10^4\) を単純に足して \(8 \times 10^4\) としてしまう。
- 対策: 「ベクトル和」という言葉を常に意識し、向きを考慮することを徹底します。一直線上の逆向きのベクトルの和は、大きさの「引き算」になります。必ず図を描いて、どちらの向きが優勢で、差し引きどうなるかを視覚的に確認する癖をつけましょう。
- 電荷の符号を二重に適用してしまう:
- 誤解: 合成電場の向きを求め、さらに「負電荷だから逆向き」と考えて力の向きを決定したにもかかわらず、力の大きさの計算で \(F = qE_{\text{合成}}\) のように \(q\) にマイナスの値を入れてしまい、力の向きを再度逆転させてしまう。
- 対策: 符号と大きさは分離して考えるのが安全です。「①向きの決定」と「②大きさの計算 \(F=|q|E\))」の2ステップに分け、①で符号の役割は終わり、と割り切りましょう。あるいは、ベクトルで統一的に扱う(別解)と決めたなら、最後までそのルールを貫き、途中で考え方を変えないことが重要です。
- どの電場に対する力かを混同する:
- 誤解: 合成電場を計算したのに、力の計算で元の \(E_1\) や \(E_2\) の値を使ってしまう。
- 対策: 計算のステップをノート上で明確に区切ることが有効です。「Step 1: 合成電場の計算」「Step 2: 合成電場による力の計算」のように見出しをつけ、各ステップで使うべき数値を明確に意識しながら計算を進めましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電場の重ね合わせの原理:
- 選定理由: 問題には「電場 \(E_1\) に対し、…電場 \(E_2\) をさらに加える」とあり、複数の電場が共存する状況が明示されています。このような状況で空間全体の電気的な性質(正味の電場)を決定するための法則が、重ね合わせの原理です。
- 適用根拠: 電場を作る源である電荷の存在が、他の電荷が作る電場に影響を与えないという実験事実に基づいています。これにより、各電場を独立したものとして扱い、単純なベクトル和で合成することが物理的に正当化されます。
- \(\vec{F} = q\vec{E}_{\text{合成}}\):
- 選定理由: 最終的に求めたいのは、帯電体Pが受ける「静電気力」です。重ね合わせの原理によって求められた「合成電場(その空間の最終的な電気的性質)」と、そこに置かれた電荷 \(q\) が受ける力とを結びつけるのが、この電場と力の基本関係式です。
- 適用根拠: 帯電体は、個々の電場を区別することはできません。その場所にある「最終的な電場の姿(合成電場)」に応じて力を受けます。したがって、合成された電場に対して基本関係式を適用するのは、論理的に必然です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 向きを正負の符号で管理する:
- 一直線上のベクトル問題を扱う際は、最初に「右向きを正」などと座標軸を定義してしまうのが最も確実です。
- このルールに従えば、\(\vec{E}_1\) は \(+3 \times 10^4\)、\(\vec{E}_2\) は \(-5 \times 10^4\) と機械的に表現できます。
- 合成電場は \(E_{\text{合成}} = E_1 + E_2 = (+3-5) \times 10^4 = -2 \times 10^4\)。マイナスなので「左向き」とわかります。
- 力は \(F = q E_{\text{合成}} = (-2 \times 10^{-4}) \times (-2 \times 10^4) = +4\)。プラスなので「右向き」と、全ての計算が符号だけで完結し、直感的な判断ミスが入り込む余地がなくなります。
- 指数計算の確認:
- この問題では \(10^{-4}\) と \(10^4\) を掛け合わせる計算が出てきます。\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\) の法則から、\(10^{-4} \times 10^4 = 10^{-4+4} = 10^0 = 1\) となります。この計算は頻出なので、瞬時にできるようにしておきましょう。
- 答えの向きを言葉で明確に表現する:
- 計算結果として「右向き」や「左向き」が出た場合、それが「はじめの電場 \(E_1\) と同じ向き」なのか「反対の向き」なのか、あるいは「はじめの力 \(F_1\) と同じ向き」なのか「反対の向き」なのか、問題文で使われている基準に沿って言葉で表現し直すことが重要です。これにより、解答の意図が採点者により明確に伝わります。
7 電場(電界)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電気双極子が作る電場のベクトル合成」です。\(+Q\) と \(-Q\) の2つの点電荷が作る電場を、重ね合わせの原理に基づいてベクトル的に合成する能力が問われます。特に、対称性やベクトルの成分分解をうまく利用して計算を効率化するテクニックが重要となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 点電荷が作る電場の公式: 点電荷 \(q\) から距離 \(r\) 離れた点の電場の強さは \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) であり、向きは \(q\) が正なら電荷から遠ざかる向き、負なら電荷に近づく向きであること。
- 電場の重ね合わせの原理: ある点における合成電場は、それぞれの電荷が単独で作る電場のベクトル和に等しいこと。
- ベクトル合成: 2つのベクトルを合成する際、対称性を利用して特定の成分が打ち消し合うことを見抜いたり、ベクトルを成分に分解して足し合わせたりする技術。
- 三平方の定理と三角比: 図形的な配置から、電荷と点の間の距離や、ベクトルの成分分解に必要な \(\cos\theta\), \(\sin\theta\) を正しく求めること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (点C) x軸上の点なので、2つの電荷が作る電場はどちらもx軸方向です。向きを考慮して、大きさの足し算・引き算で合成電場を求めます。
- (点D) y軸上の点なので、2つの電荷からの距離が等しく、電荷の大きさが同じであることから、対称性を利用します。各電場のy成分は打ち消し合い、x成分のみが残ることを見抜いて計算します。
- (点F) 対称性のない一般の点なので、2つの電荷が作る電場をそれぞれベクトルとして計算し、x成分、y成分に分解してから足し合わせる、最も基本的な方法で解きます。
点C\((-3a, 0)\)の電場
思考の道筋とポイント
点Cはx軸上にあり、2つの電荷 \(-Q\) (at \(-a\)) と \(+Q\) (at \(+a\)) の左側に位置します。
まず、それぞれの電荷が点Cに作る電場の向きを考えます。
- \(-Q\) が作る電場 \(\vec{E}_-\): 負電荷なので、電荷に向かう向き、すなわち「右向き (\(+x\) 方向)」です。
- \(+Q\) が作る電場 \(\vec{E}_+\): 正電荷なので、電荷から遠ざかる向き、すなわち「左向き (\(-x\) 方向)」です。
2つの電場は逆向きなので、合成電場の大きさは、それぞれの電場の大きさの差で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 各電荷から点Cまでの距離を正しく計算すること。(\(-Q\)からは \(2a\)、\(+Q\)からは \(4a\))
- 各電場の向きを正しく判断し、一直線上のベクトル合成(大きさの引き算)を行うこと。
具体的な解説と立式
点C\((-3a, 0)\)における電場は、\(-Q\) が作る電場 \(\vec{E}_-\) と \(+Q\) が作る電場 \(\vec{E}_+\) のベクトル和です。
右向きを正とします。
\(-Q\) が点Cに作る電場 \(E_-\) は右向き(正)です。点Cと \(-Q\) の距離は \(-a – (-3a) = 2a\) なので、その大きさは、
$$
\begin{aligned}
E_- &= k \frac{|-Q|}{(2a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{4a^2}
\end{aligned}
$$
\(+Q\) が点Cに作る電場 \(E_+\) は左向き(負)です。点Cと \(+Q\) の距離は \(a – (-3a) = 4a\) なので、その大きさは、
$$
\begin{aligned}
E_+ &= k \frac{|+Q|}{(4a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{16a^2}
\end{aligned}
$$
合成電場 \(E_C\) は、これらの代数和で求められます。
$$ E_C = E_- – E_+ $$
使用した物理公式
- 点電荷のまわりの電場: \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理
$$
\begin{aligned}
E_C &= k \frac{Q}{4a^2} – k \frac{Q}{16a^2} \\[2.0ex]
&= kQ \left( \frac{1}{4a^2} – \frac{1}{16a^2} \right) \\[2.0ex]
&= kQ \left( \frac{4}{16a^2} – \frac{1}{16a^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{3kQ}{16a^2}
\end{aligned}
$$
結果が正なので、合成電場の向きは右向き(\(+x\) 方向)です。
点Cの場所には、2種類の電気的な風が吹いています。\(-Q\) からは「こっちへおいで」と右向きに、\(+Q\) からは「あっちへ行け」と左向きに風が吹いています。どちらの風が強いかの力比べです。
\(-Q\) の方が \(+Q\) よりも点Cに近いので、\(-Q\) が作る右向きの風の方が強くなります。全体の風の強さは、この2つの風の強さを引き算することで求まります。
計算の結果、電場の大きさは \(\displaystyle\frac{3kQ}{16a^2}\) で、向きは \(+x\) 方向となりました。\(-Q\) の方が \(+Q\) よりも点Cに近いにもかかわらず、距離の2乗で効いてくるため、その影響は大きく減衰します。しかし、それでも \(+Q\) の影響よりは大きいという、直感とも一致する妥当な結果です。
点D\((0, y)\)の電場
思考の道筋とポイント
点Dはy軸上にあり、2つの電荷から等距離にあります。この「対称性」を利用することが最大のポイントです。
- \(-Q\) が作る電場 \(\vec{E}_-\): 点Dから \(-Q\) に向かう、左斜め下の向きです。
- \(+Q\) が作る電場 \(\vec{E}_+\): 点Dから \(+Q\) から遠ざかる、右斜め上の向きです。
2つの電荷の大きさが同じで、点Dからの距離も等しいため、2つの電場ベクトルの大きさは同じです。
この2つのベクトルを合成すると、対称性からy成分は互いに打ち消し合い、x成分のみが残ることがわかります。したがって、合成電場は左向き (\(-x\) 方向) になります。
計算は、どちらか一方の電場のx成分を求め、それを2倍することで行います。
この設問における重要なポイント
- 対称性から、合成電場のy成分がゼロになることを見抜く。
- 電荷から点Dまでの距離を三平方の定理で求める (\(\sqrt{a^2+y^2}\))。
- ベクトルを成分分解するために必要な \(\cos\theta\) を、図形から正しく読み取る。
具体的な解説と立式
点D\((0, y)\)と各電荷との距離 \(r_D\) は、三平方の定理より、
$$ r_D = \sqrt{a^2 + y^2} $$
\(-Q\) と \(+Q\) は大きさが同じで、点Dからの距離も等しいので、それぞれが点Dに作る電場の大きさ \(E_0\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
E_0 &= k \frac{Q}{r_D^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{a^2+y^2}
\end{aligned}
$$
\(-Q\) が作る電場 \(\vec{E}_-\) と \(+Q\) が作る電場 \(\vec{E}_+\) を合成します。
模範解答の図からわかるように、\(\vec{E}_-\) と \(\vec{E}_+\) のy成分は大きさが同じで向きが逆なので、打ち消し合います。
x成分はどちらも負の向き(左向き)なので、これらが足し合わされます。
合成電場 \(\vec{E}_D\) の向きは \(-x\) 方向となり、その大きさ \(E_D\) は、
$$
\begin{aligned}
E_D &= E_0 \cos\theta + E_0 \cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 E_0 \cos\theta
\end{aligned}
$$
ここで \(\theta\) は、電場ベクトルがy軸となす角です。図より、\(\cos\theta\) は、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{a}{r_D} \\[2.0ex]
&= \frac{a}{\sqrt{a^2+y^2}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 点電荷のまわりの電場: \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理、ベクトルの成分分解
$$
\begin{aligned}
E_D &= 2 E_0 \cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 \left( k \frac{Q}{a^2+y^2} \right) \left( \frac{a}{\sqrt{a^2+y^2}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2kQa}{(a^2+y^2)\sqrt{a^2+y^2}} \\[2.0ex]
&= \frac{2kQa}{(a^2+y^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
向きは \(-x\) 方向です。
点Dは、\(-Q\) と \(+Q\) からちょうど同じ距離にある、真ん中の線上(y軸上)にあります。\(-Q\) はDを左下に、\(+Q\) はDを右上に、同じ強さで引っ張ったり押したりします。この綱引きの結果、上下方向の力はちょうどつりあって消えてしまい、左方向への力だけが残ります。全体の電場は、この残った左向きの成分を2倍することで計算できます。
計算の結果、電場の大きさは \(\displaystyle\frac{2kQa}{(a^2+y^2)^{3/2}}\) で、向きは \(-x\) 方向となりました。y軸上では、どの点でも電場がx軸に平行(-x方向)になるという結果は、電気双極子の作る電場の重要な特徴であり、物理的に正しいです。
点F\((a, a)\)の電場
思考の道筋とポイント
点Fは対称性のない一般の点です。このような場合は、基本に立ち返り、それぞれの電荷が作る電場ベクトルをx成分とy成分に分解し、成分ごとに足し合わせるのが最も確実な方法です。
- \(+Q\) が作る電場 \(\vec{E}_1\): 点Fは \(+Q\) の真上にあるので、この電場は単純にy軸方向(\(+y\) 方向)です。
- \(-Q\) が作る電場 \(\vec{E}_2\): この電場は左斜め下の向きを持つため、x成分とy成分に分解する必要があります。
最後に、\(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) のx成分同士、y成分同士を足し合わせて、合成電場の各成分 \((E_x, E_y)\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 各電荷から点Fまでの距離を正しく計算する。
- 対称性がないため、各電場ベクトルをx, y成分に分解して考える。
- 成分分解に必要な \(\cos\alpha\), \(\sin\alpha\) を図形から正しく読み取る。
具体的な解説と立式
1. \(+Q\) (at \((a, 0)\)) が点F\((a, a)\)に作る電場 \(\vec{E}_1\)
点Fは \(+Q\) の真上に距離 \(a\) の位置にあるため、電場 \(\vec{E}_1\) は \(+y\) 方向を向きます。その大きさは、
$$ E_1 = k \frac{Q}{a^2} $$
ベクトル成分で表すと、\(\vec{E}_1 = (0, k \displaystyle\frac{Q}{a^2})\)。
2. \(-Q\) (at \((-a, 0)\)) が点F\((a, a)\)に作る電場 \(\vec{E}_2\)
まず、\(-Q\) から点Fまでの距離 \(r_F\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
r_F &= \sqrt{(a – (-a))^2 + (a-0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(2a)^2 + a^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{5a^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{5}a
\end{aligned}
$$
電場 \(\vec{E}_2\) の大きさ \(E_2\) は、
$$
\begin{aligned}
E_2 &= k \frac{Q}{r_F^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{(\sqrt{5}a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{5a^2}
\end{aligned}
$$
\(\vec{E}_2\) の向きは、点Fから \(-Q\) に向かう向き(左斜め下)です。このベクトルをx, y成分に分解します。
模範解答の図で \(\vec{E}_2\) がx軸の負の向きとなす角を \(\alpha\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\cos\alpha &= \frac{2a}{r_F} = \frac{2a}{\sqrt{5}a} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{\sqrt{5}}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\sin\alpha &= \frac{a}{r_F} = \frac{a}{\sqrt{5}a} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{5}}
\end{aligned}
$$
よって、\(\vec{E}_2\) の成分は、
\(E_{2x} = -E_2 \cos\alpha\)
\(E_{2y} = -E_2 \sin\alpha\)
3. 合成電場の成分 \((E_x, E_y)\)
合成電場のx成分 \(E_x\) は、\(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) のx成分の和です。
$$
\begin{aligned}
E_x &= E_{1x} + E_{2x} \\[2.0ex]
&= 0 + (-E_2 \cos\alpha) \\[2.0ex]
&= -E_2 \cos\alpha
\end{aligned}
$$
合成電場のy成分 \(E_y\) は、\(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) のy成分の和です。
$$
\begin{aligned}
E_y &= E_{1y} + E_{2y} \\[2.0ex]
&= E_1 + (-E_2 \sin\alpha) \\[2.0ex]
&= E_1 – E_2 \sin\alpha
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 点電荷のまわりの電場: \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理、ベクトルの成分分解
\(E_x\) の計算:
$$
\begin{aligned}
E_x &= -E_2 \cos\alpha \\[2.0ex]
&= -\left( k \frac{Q}{5a^2} \right) \left( \frac{2}{\sqrt{5}} \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{2kQ}{5\sqrt{5}a^2}
\end{aligned}
$$
\(E_y\) の計算:
$$
\begin{aligned}
E_y &= E_1 – E_2 \sin\alpha \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{a^2} – \left( k \frac{Q}{5a^2} \right) \left( \frac{1}{\sqrt{5}} \right) \\[2.0ex]
&= k \frac{Q}{a^2} – \frac{kQ}{5\sqrt{5}a^2} \\[2.0ex]
&= \left( 1 – \frac{1}{5\sqrt{5}} \right) \frac{kQ}{a^2}
\end{aligned}
$$
点Fは特別な位置にないので、一つずつ丁寧に計算します。
まず、\(+Q\) が作る電場は、Fの真下にあるので、単純に真上(プラスy方向)を向きます。
次に、\(-Q\) が作る電場は、Fの左下にあるので、Fから見て左斜め下を向きます。この「斜め」のベクトルを、x方向(左向き)とy方向(下向き)の2つの成分に分解します。
最後に、x成分同士、y成分同士を足し合わせます。x成分は \(-Q\) が作る分しかないので、それがそのまま答えになります。y成分は、\(+Q\) が作る上向きの成分と \(-Q\) が作る下向きの成分の引き算になります。
合成電場のx成分は負、y成分は正(\(1 > \frac{1}{5\sqrt{5}}\) なので)となりました。これは、合成電場が左斜め上の方向を向くことを意味しており、模範解答の図におけるベクトル \(\vec{E}_1\) と \(\vec{E}_2\) の合成結果とも整合性が取れています。複雑な計算ですが、手順を一つずつ踏むことで、物理的に妥当な結果が得られました。
\(E_x = -\displaystyle\frac{2kQ}{5\sqrt{5}a^2}\)
\(E_y = \left( 1 – \displaystyle\frac{1}{5\sqrt{5}} \right) \displaystyle\frac{kQ}{a^2}\)
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場のベクトル性と重ね合わせの原理:
- 核心: この問題の根幹は、電場が「大きさと向き」を持つベクトル量であり、複数の電荷が存在する場合、ある点での電場は、各電荷が単独でその点に作る電場を、単純に「ベクトルとして足し合わせる」ことで求められる、という「重ね合わせの原理」を体現しています。
- 理解のポイント:
- ベクトル和の多様な計算方法: 点C(一直線上)、点D(対称的な点)、点F(一般点)という3つの異なる状況を通じて、ベクトル和を計算するための様々なテクニックを使い分けることが求められます。
- 点C(1次元の和): 向きを正負で表し、スカラーのように大きさを足し引きする。
- 点D(対称性の利用): 図形の対称性から、特定の成分(この場合はy成分)が打ち消し合うことを見抜き、計算を大幅に簡略化する。
- 点F(成分分解): 対称性が使えない場合は、全てのベクトルを共通の座標軸(x, y軸)の成分に分解し、成分ごとに足し合わせるという、最も基本的で汎用性の高い方法に立ち返る。
- 電気双極子の作る電場: この問題で扱っている \(+Q\) と \(-Q\) のペアは「電気双極子」と呼ばれ、その作る電場は非常に特徴的です。y軸上では電場がx軸に平行になるなど、幾何学的な配置から物理的な性質を読み解く洞察力が重要となります。
- ベクトル和の多様な計算方法: 点C(一直線上)、点D(対称的な点)、点F(一般点)という3つの異なる状況を通じて、ベクトル和を計算するための様々なテクニックを使い分けることが求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気四重極子: \(+Q, -Q, +Q, -Q\) のように電荷が4つ並んだり、正方形の頂点に配置されたりする、より複雑な電荷配置の問題。重ね合わせの原理を繰り返し適用することで解くことができます。
- 重力場の合成: 複数の質点(惑星など)が作る重力場(重力加速度ベクトル)の合成問題。電場と全く同じ考え方で、各質点が作る重力場をベクトルとして足し合わせます。
- 磁場の合成: 複数の直線電流や円形電流が作る磁場(磁場ベクトル)の合成問題。ビオ・サバールの法則やアンペールの法則で各電流が作る磁場を求め、ベクトルとして合成します。
- 初見の問題での着眼点:
- 対称性の有無を最優先で確認する: まず、電荷の配置と電場を求める点の位置関係を見て、対称性がないかを探します。点Dのように対称性があれば、計算が劇的に楽になることが多いです(特定の成分が0になる、同じ計算を2倍するだけで済む、など)。
- 座標系をためらわず設定する: 対称性がない、あるいは複雑な配置の場合、計算の土台として座標系を設定するのが定石です。電荷の位置や計算点を座標で表現することで、距離や角度の計算が機械的かつ正確に行えます。
- ベクトル分解の戦略を立てる: 各電場ベクトルをどの軸の成分に分解するかを考えます。通常は問題で与えられたx, y軸に分解しますが、問題によっては斜めの軸に分解した方が計算が楽になる場合もあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 距離の計算ミス:
- 誤解: 点Fと\(-Q\)の間の距離を計算する際に、x座標の差 \((2a)\) とy座標の差 \((a)\) を単純に足してしまう。
- 対策: 2点間の距離は、常に三平方の定理 \(\sqrt{(\Delta x)^2 + (\Delta y)^2}\) で計算する、という基本を徹底します。座標を書き出し、\(\Delta x = x_2 – x_1\), \(\Delta y = y_2 – y_1\) を機械的に計算する癖をつけると、ミスが減ります。
- ベクトルの成分分解のミス(三角比の混同):
- 誤解: \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を取り違える。特に、どの角度を \(\theta\) と置いたか途中で混乱し、逆の三角比を掛けてしまう。
- 対策: 必ず図を描き、分解したいベクトルと座標軸で直角三角形を作ります。そして、角度 \(\theta\) の位置を確認し、「\(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」「\(\theta\) の対辺が \(\sin\theta\)」という基本に忠実に従います。自信がなければ、その都度小さな直角三角形を抜き出して描くのが確実です。
- 成分の符号のミス:
- 誤解: 電場の向き(ベクトル)を成分で表す際に、符号を間違える(例:左向きや下向きなのに、正の成分として計算してしまう)。
- 対策: 計算を始める前に、座標軸の正の向きを「右上を正」などと明確に定義します。そして、作図した電場の矢印が、定義した軸の正の向きか負の向きかを一つ一つ指差し確認しながら、成分の符号(\(+\)か\(-\)か)を決定します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 点電荷の電場の公式 \(E = k|q|/r^2\):
- 選定理由: この問題で電場を作っている根源は「点電荷」です。この最も基本的な状況における電場の大きさを記述する公式がこれであり、全ての計算の出発点となります。
- 適用根拠: クーロンの法則から直接導かれる、電場の定義そのものです。この公式なしに問題を解き始めることはできません。
- 重ね合わせの原理:
- 選定理由: 電荷が複数(2つ)存在するため、多体問題を扱うための唯一の指導原理として選択されます。
- 適用根拠: 電磁気学の法則が持つ「線形性」という性質に基づいています。一つの電場の存在が、他の電場の存在によって歪められたり影響を受けたりしない、という実験事実が背景にあります。これにより、各電場を独立したものとして扱い、単純なベクトル和で合成することが物理的に正当化されます。
- ベクトルの成分分解:
- 選定理由: 点Fのように、合成したいベクトルが直交も平行もしていない一般の角度をなす場合、そのままでは計算が困難です。そこで、全てのベクトルを共通の基準(座標軸)に射影し、同じ土俵(成分)で足し算できるようにするための、数学的に必須のテクニックとして選択されます。
- 適用根拠: 任意のベクトルは、直交する基底ベクトルの線形和で一意に表現できるという、ベクトル空間の数学的な性質に基づいています。物理的なベクトルもこの性質に従うため、この手法が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通部分を文字で置き換える戦略:
- 計算の途中で \(kQ/a^2\) のような共通の塊が何度も出てくる場合、これを \(E_0\) のように一つの文字で置き換えて計算を進め、最後に元に戻すのが非常に有効です。
- 例(点F): \(E_1 = E_0\), \(E_2 = E_0/5\)。\(E_y = E_1 – E_2 \sin\alpha = E_0 – \frac{E_0}{5} \frac{1}{\sqrt{5}} = (1-\frac{1}{5\sqrt{5}})E_0\)。このように、式が簡潔になり、書き間違いや計算ミスを劇的に減らすことができます。
- 分母の有理化は後回しにする:
- \(\cos\alpha = 2/\sqrt{5}\) のように、計算の途中で分母にルートが出てきても、すぐに有理化しない方が良い場合が多いです。後の計算で2乗されたり、他の項と掛け合わされてルートが自然に消えたりすることがあるためです。有理化は、最終的な答えを整える段階で行うのが基本です。
- 図を大きく丁寧に描く:
- ベクトル分解や角度の特定は、図の正確さに大きく依存します。小さな図に書き込むと、どの角度が \(\theta\) なのか、どの三角形に着目しているのかが自分でも分からなくなります。ノートのスペースを惜しまず、大きな図を描き、補助線や角度、ベクトルの成分などを明確に書き込むことが、結果的に思考の整理とミスの防止に直結します。
- 単位や次元(ディメンション)のチェック:
- 最終的に求めた電場の単位が、ちゃんと [N/C] になっているか(次元が合っているか)を確認する癖をつけましょう。例えば、\(kQ/a^3\) のような次元の違う項を足し引きしていたら、どこかで計算ミスをしている動かぬ証拠です。全ての項が \(k \times (\text{電荷}) / (\text{距離})^2\) の次元を持っているかを確認します。
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8 電場(電界)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 平方根を利用して1次方程式に帰着させる解法
- 模範解答が2次方程式を展開し「解の公式」を用いて解くのを主としているのに対し、別解では方程式を整理した段階で両辺の平方根をとることで、より計算が簡単な1次方程式を解く方法を詳しく解説します。
- 設問の別解: 平方根を利用して1次方程式に帰着させる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 2次方程式の解の公式という複雑な計算を避け、より単純な1次方程式の計算で答えを導くことができます。
- 計算ミスの削減: 計算ステップが減ることで、計算ミスをするリスクを低減できます。
- 数学的テクニックの習得: 物理の問題で頻出する \(A^2 = B^2\) の形の方程式を効率的に解くための数学的なテクニックを学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の点電荷が作る電場が0になる点の探索」です。電場がベクトル量であることを踏まえ、2つの電荷が作る電場が「逆向き」かつ「同じ大きさ」になる点を探し出す問題です。物理的な考察による領域の絞り込みと、方程式を解く計算能力の両方が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場の重ね合わせの原理: ある点における合成電場は、それぞれの電荷が作る電場のベクトル和で与えられます。電場が0になるということは、このベクトル和がゼロベクトルになることを意味します。
- 点電荷が作る電場の公式: 点電荷 \(q\) から距離 \(r\) 離れた点の電場の強さは \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) です。
- 領域の物理的考察: 計算を始める前に、電場が0になる可能性のある領域を定性的に絞り込む能力。
- 2次方程式の解法: 条件式から導かれる2次方程式を正しく解き、解を吟味する数学的な能力。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、電場が0になるためには、2つの電場ベクトルが「逆向き」でなければならないことから、可能性のある領域がx軸上に限定されることを考察します。
- さらに、x軸上を3つの領域(\(x<0\), \(0<x<a\), \(x>a\))に分け、各領域で電場の向きを考えることで、唯一 \(x>a\) の領域に解が存在しうることを突き止めます。
- その領域で、2つの電場の「大きさが等しい」という方程式を立てます。
- 立てた方程式を解き、条件(\(x>a\))を満たす解を求め、座標として答えます。