電磁気範囲 01~05
1 クーロンの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 電荷の絶対値を先に求め、符号を後から判断する解法
- 模範解答が最初に電荷の符号を仮定して計算するのに対し、別解ではまず力の大きさの式から電荷の絶対値を求め、その後で力の向き(引力)の情報から符号を決定します。
- 設問の別解: 電荷の絶対値を先に求め、符号を後から判断する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考プロセスの明確化: 「大きさの計算」と「向き(符号)の判断」という2つのステップを意識的に分離することで、クーロンの法則の扱い方をより明確に理解できます。
- 汎用性の向上: より複雑な問題で、複数の電荷からの力を合成する場合など、まず力の大きさを計算し、その後でベクトルとして合成する、という手順と思考の親和性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「クーロンの法則の基本的な適用」です。点電荷間に働く静電気力の大きさと向きを正しく計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の大きさは、電荷の大きさの積に比例し、距離の2乗に反比例すること (\(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\))。
- 静電気力の向き: 同符号の電荷間には反発しあう力(斥力)が、異符号の電荷間には引き合う力(引力)が働くこと。
- 単位の換算: 計算を行う前に、すべての物理量を国際単位系(SI)に統一すること。特に、距離の単位を cm から m に変換することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小球Aが受ける力の向き(図から引力であること)を読み取り、小球Bの電荷の符号(正か負か)を判断します。
- 次に、クーロンの法則の公式に与えられた数値(力の大きさ、電荷、距離など)を代入し、Bの電荷の大きさを計算します。
- 最後に、1で判断した符号と2で計算した大きさを組み合わせて、答えを導き出します。
思考の道筋とポイント
問題文と図から、小球Aが小球Bから受ける力は「引力」であることを読み取ることが第一歩です。引力が働くということは、AとBの電荷は異符号でなければなりません。Aの電荷が正(\(+\))と与えられているので、Bの電荷は負(\(-\))であると確定できます。この前提に立って、Bの電荷を \(-q\) (\(q > 0\)) のように大きさを示す正の文字で置き、クーロンの法則の「力の大きさ」を計算する式に各数値を代入して方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力の向き(引力 or 斥力)から電荷の符号の関係を判断する。
- クーロンの法則の公式 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を正しく使う。
- 距離の単位を \(10 \, \text{cm} \rightarrow 0.1 \, \text{m}\) に正しく変換する。
具体的な解説と立式
小球A(電荷 \(q_A = +2 \times 10^{-6} \, \text{C}\))は、小球Bから右向きの力を受けています。図より、これはBの方向に引き寄せられる力、すなわち「引力」です。
引力が働くのは、2つの電荷が異符号の場合です。Aの電荷は正なので、Bの電荷は負でなければなりません。
そこで、Bの電荷を \(q_B = -q\)(ただし \(q>0\))とおきます。
クーロンの法則より、AとBの間に働く力の大きさ \(F\) は、
$$ F = k \frac{|q_A q_B|}{r^2} $$
この力の大きさが \(90 \, \text{N}\) であり、各値を代入すると、以下の等式が成り立ちます。
$$ 90 = (9 \times 10^9) \times \frac{|(+2 \times 10^{-6}) \times (-q)|}{(0.1)^2} $$
絶対値を外すと、
$$ 90 = (9 \times 10^9) \times \frac{(2 \times 10^{-6}) q}{(0.1)^2} $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
上記で立式した方程式を \(q\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
90 &= (9 \times 10^9) \times \frac{2 \times 10^{-6} q}{10^{-2}} \\[2.0ex]
90 &= (9 \times 10^9) \times (2 \times 10^{-4} q) \\[2.0ex]
90 &= 18 \times 10^5 q \\[2.0ex]
q &= \frac{90}{18 \times 10^5} \\[2.0ex]
&= 5 \times 10^{-5}
\end{aligned}
$$
これは電荷の大きさ(\(q>0\))なので、Bの電荷 \(q_B\) は、
$$ q_B = -q = -5 \times 10^{-5} \, [\text{C}] $$
磁石のN極とS極が引き合うように、電気の世界でもプラスとマイナスは引き合います。問題では、プラスの電気を持つ小球Aが、小球Bの方に引っ張られている(引力)ので、Bはマイナスの電気を持っているはずだとわかります。
あとは、電気的な力の大きさを決める「クーロンの法則」という公式に、問題文の数字(力の大きさ \(90 \, \text{N}\)、Aの電気量 \(+2 \times 10^{-6} \, \text{C}\)、距離 \(10 \, \text{cm} = 0.1 \, \text{m}\) など)を当てはめて計算すれば、Bが持っている電気の「量(大きさ)」がわかります。計算結果に、先ほど判断したマイナスの符号をつければ答えになります。
Bの電荷は \(-5 \times 10^{-5} \, \text{C}\) と求められました。符号が負であることは、Aとの間に引力が働くという問題の条件と一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
クーロンの法則を「力の大きさ」と「力の向き」の2つの要素に分けて考えるアプローチです。まず、力の大きさに関する公式 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を用いて、未知の電荷Bの「大きさ(絶対値)」を計算します。その後、問題文の「AはBから右向きに力を受けている」という情報(=引力)を用いて、Bの電荷の符号が負であることを決定します。この方法は、計算と物理的な判断をステップごとに分離できるため、思考が整理されやすくなります。
この設問における重要なポイント
- クーロンの法則の公式は、電荷の「絶対値」を用いて力の「大きさ」を計算するものであることを明確に意識する。
- 力の向きの情報は、電荷の符号を決定するために独立して使用する。
- 計算ステップと思考ステップを分離することで、ケアレスミスを防ぐ。
具体的な解説と立式
小球Aの電荷を \(q_A = +2 \times 10^{-6} \, \text{C}\)、小球Bの電荷を \(q_B\) とします。
クーロンの法則によれば、2つの電荷の間に働く力の大きさ \(F\) は、電荷の大きさ(絶対値)の積に比例し、距離の2乗に反比例します。
$$ F = k \frac{|q_A| |q_B|}{r^2} $$
この式に、与えられた値を代入します。\(F = 90 \, \text{N}\), \(k = 9 \times 10^9 \, \text{N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2\), \(|q_A| = 2 \times 10^{-6} \, \text{C}\), \(r = 10 \, \text{cm} = 0.1 \, \text{m}\)。
$$ 90 = (9 \times 10^9) \times \frac{(2 \times 10^{-6}) \times |q_B|}{(0.1)^2} $$
この方程式を解くことで、まずBの電荷の大きさ \(|q_B|\) を求めます。
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
上記で立式した方程式を \(|q_B|\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
90 &= (9 \times 10^9) \times \frac{2 \times 10^{-6} |q_B|}{10^{-2}} \\[2.0ex]
90 &= (18 \times 10^3) \times \frac{|q_B|}{10^{-2}} \\[2.0ex]
90 &= 18 \times 10^5 |q_B| \\[2.0ex]
|q_B| &= \frac{90}{18 \times 10^5} \\[2.0ex]
&= 5 \times 10^{-5} \, [\text{C}]
\end{aligned}
$$
次に、電荷の符号を決定します。
問題文より、小球A(正電荷)は小球Bから右向きの力、すなわち引力を受けています。引力が働くのは異符号の電荷間であるため、小球Bの電荷は負でなければなりません。
したがって、
$$ q_B = -|q_B| = -5 \times 10^{-5} \, [\text{C}] $$
この問題は二段階で考えます。第一段階は「Bの電気の強さはどれくらいか?」を計算することです。クーロンの法則という公式に、力の大きさ \(90 \, \text{N}\) や距離 \(10 \, \text{cm}\) などの数字を入れて計算すると、Bの電気の「強さ(大きさ)」が \(5 \times 10^{-5}\) であることがわかります。
第二段階は「Bの電気はプラスかマイナスか?」を判断することです。問題を見ると、プラスのAがBに引き寄せられています。引き合うのはプラスとマイナスの組み合わせなので、Bはマイナスだとわかります。
この二段階の結果を合わせると、Bの電荷は \(-5 \times 10^{-5} \, \text{C}\) となります。
主たる解法と全く同じ \(-5 \times 10^{-5} \, \text{C}\) という結果が得られました。計算と思考のステップを分離するこの方法は、見通しが良く、より複雑な問題にも応用しやすい考え方です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- クーロンの法則の完全な理解:
- 核心: この問題の根幹は、点電荷間に働く静電気力(クーロン力)の性質を正しく理解し、数式として適用することにあります。
- 理解のポイント:
- 力の大きさ: 力の大きさは、2つの電荷の大きさ(電気量)の積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例します (\(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\))。距離が2倍になれば力は \(1/4\) に、距離が \(1/2\) になれば力は4倍になるという「逆2乗の法則」をしっかりイメージすることが重要です。
- 力の向き: 力の向きは、電荷の符号によって決まります。「同符号(+と+、-と-)は反発し合う力(斥力)」、「異符号(+と-)は引き合う力(引力)」という基本原則を絶対に間違えないことが大切です。
- 作用・反作用の関係: AがBから受ける力と、BがAから受ける力は、大きさが等しく向きが逆です(作用・反作用の法則)。この問題ではAが受ける力だけが問われていますが、BもAから左向きに \(90 \, \text{N}\) の力を受けていることを意識すると理解が深まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 3つの電荷が一直線上に並ぶ問題: 中央の電荷が受ける力は、両側の電荷から受ける力のベクトル和(この場合は一直線上なので単純な足し算・引き算)で求められます。それぞれの力の向き(引力か斥力か)を正しく判断することが鍵となります。
- 電荷が釣り合う位置を求める問題: 3つ目の電荷を置いたときに、その電荷が受ける力がつりあう(合力が0になる)位置を探す問題です。2つの電荷から受ける力が「大きさが等しく、向きが逆」になる点を見つけます。
- 正三角形や正方形の頂点に電荷を置く問題: 各頂点の電荷が受ける力は、他の頂点の電荷から受ける力をベクトルとして合成する必要があります。力の大きさをクーロンの法則で計算し、図を書いてベクトルの合成(平行四辺形の法則など)を行います。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の向きを先に図示する: 計算を始める前に、まず問題の図に力の矢印を書き込みます。「引力か、斥力か」を判断し、力の向きを明確にすることで、符号の間違いや計算ミスを防ぎます。
- 単位系をSI単位系に統一する: 距離が cm で与えられていたら、必ず m に直します (\(1 \, \text{cm} = 10^{-2} \, \text{m}\))。電気量が \(\mu\text{C}\) (マイクロクーロン) で与えられていたら、C に直します (\(1 \, \mu\text{C} = 10^{-6} \, \text{C}\))。計算ミスの一番の原因は単位換算のし忘れです。
- 「大きさ」と「符号」を分離して考える: (別解で示したように) まずは電荷の絶対値を使って力の「大きさ」を計算し、その後に力の向きの情報から電荷の「符号」を決定する、という手順を踏むと、思考が整理され間違いが減ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 距離の2乗を忘れる:
- 誤解: クーロンの法則の分母を \(r\) だと勘違いして計算してしまう。
- 対策: 「逆2乗の法則」という名前を強く意識することが有効です。重力(万有引力)の法則 \(F = G \displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) と同じ形であることを関連付けて覚えると忘れにくくなります。計算時には、\(r=0.1 \, \text{m}\) なら分母は \((0.1)^2 = 0.01 = 10^{-2}\) と、必ず2乗するステップを指差し確認しましょう。
- 単位換算のミス:
- 誤解: \(10 \, \text{cm}\) を \(0.1 \, \text{m}\) に直さず、\(10\) のまま計算してしまう。あるいは、\((10 \, \text{cm})^2 = 100\) としてしまう。
- 対策: 物理量の計算は、必ずSI基本単位(m, kg, s, A, Cなど)で行うことを鉄則とします。問題文に出てきた数値を書き出す際に、横に「\( = 0.1 \, \text{m}\)」のように単位換算した値をメモする癖をつけましょう。
- 引力と斥力の判断ミス:
- 誤解: 問題文を急いで読んで、力の向きを勘違いし、符号を逆にしてしまう。
- 対策: 図を丁寧に見て、力の矢印が「近づく向き(引力)」なのか「遠ざかる向き(斥力)」なのかをしっかり確認します。「AがBから受ける力」の主語(A)と力の源(B)を明確にし、Aの立場で考えることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- クーロンの法則の選定:
- 選定理由: 問題文に「帯電した小球」「電荷」「力を受けている」というキーワードがあります。これは、静止した電荷間に働く力を扱う状況であり、まさにクーロンの法則が記述する物理現象そのものです。したがって、この法則を選択するのは必然的です。
- 適用根拠: クーロンの法則は、実験的に検証された点電荷間の相互作用に関する基本法則です。問題の「小球」は、その大きさが電荷間の距離に比べて十分小さいため「点電荷」とみなすことができ、この法則を適用する正当な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算の徹底: \(10^9\) や \(10^{-6}\) のような指数(べき乗)の計算は、物理計算の基本です。\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a \div 10^b = 10^{a-b}\) という指数法則を確実にマスターしましょう。計算の際は、まず \(9\) や \(2\) といった係数部分を計算し、次に \(10\) のべき乗部分をまとめて計算すると、ミスが減ります。
- 例: \((9 \times 10^9) \times (2 \times 10^{-6}) = (9 \times 2) \times (10^9 \times 10^{-6}) = 18 \times 10^{9-6} = 18 \times 10^3\)。
- 単位を意識した立式: 式を立てるときに、各物理量の単位も一緒に考える癖をつけます。例えば、クーロン定数 \(k\) の単位が \(\text{N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2\) であることを知っていれば、力の単位 \(\text{N}\) を求めるためには、電荷(\(\text{C}\))を2回掛け、距離(\(\text{m}\))で2回割る必要がある、という式の構造が自然に理解できます。
- 概算で見当をつける: 本格的な計算に入る前に、大まかな桁数(オーダー)を予測する習慣をつけましょう。例えば、この問題では \(F=90 \approx 10^2\), \(k \approx 10^{10}\), \(q_A \approx 10^{-6}\), \(r^2 \approx 10^{-2}\) なので、\(|q_B| \approx \displaystyle\frac{F \cdot r^2}{k \cdot q_A} \approx \displaystyle\frac{10^2 \cdot 10^{-2}}{10^{10} \cdot 10^{-6}} = \displaystyle\frac{10^0}{10^4} = 10^{-4}\) 程度になると予測できます。計算結果が \(5 \times 10^{-5}\) であり、オーダーが近いことから、大きな計算ミスはないだろうと確認できます。
2 クーロンの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「クーロンの法則と導体接触による電荷の再分配」です。前半では基本的なクーロンの法則の適用、後半では導体を接触させたときに電荷がどのように移動し、その結果として力がどう変化するかを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の大きさと向きを正しく計算できること。特に、電荷の符号から引力か斥力かを判断することが重要です。
- 電気量保存の法則: 外部と電荷のやり取りがない閉じた系(今回の場合、2つの金属球)では、電荷の総和は常に一定に保たれます。
- 導体接触における電荷の分配: 同じ形状・大きさの導体を接触させると、総電荷が均等に分配される(半分ずつに分かれる)という性質を理解していること。
- 単位の換算: 距離の単位を cm から m に正しく変換すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (前半) まず、与えられた電荷の値と距離を用いて、クーロンの法則の公式から力の大きさを計算します。同時に、電荷の符号(正と負)から、働く力が引力であることを判断します。
- (後半) 次に、2つの金属球を接触させた後の総電荷を、電気量保存の法則を用いて計算します。
- 同じ金属球であることから、総電荷が2つの球に均等に分配されるとして、接触後の各球の電荷を求めます。
- 最後に、この新しい電荷の値を用いて、再びクーロンの法則を適用し、力の大きさと向き(引力か斥力か)を計算します。
接触前の力について
思考の道筋とポイント
まず、接触前の状態について考えます。小球Aは正電荷、小球Bは負電荷を持っています。異符号の電荷間には引力が働くため、この時点で力の種類は「引力」であると判断できます。次に、クーロンの法則の公式 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を用いて、力の大きさを計算します。この際、距離の単位を cm から m に変換することを忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 電荷の符号(Aが\(+\)、Bが\(-\))から、力が「引力」であることを判断する。
- クーロンの法則の公式に代入する際、電荷は絶対値(大きさ)を用いる。
- 距離 \(r = 30 \, \text{cm}\) を \(0.3 \, \text{m}\) に変換して計算する。
具体的な解説と立式
小球Aの電荷を \(q_A = +2 \times 10^{-6} \, \text{C}\)、小球Bの電荷を \(q_B = -8 \times 10^{-6} \, \text{C}\) とします。
AとBは異符号の電荷を持つため、互いに引き合う力、すなわち「引力」が働きます。
その力の大きさ \(F\) は、クーロンの法則の公式を用いて計算します。
$$ F = k \frac{|q_A q_B|}{r^2} $$
この式に、与えられた値を代入します。\(k = 9 \times 10^9 \, \text{N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2\), \(|q_A| = 2 \times 10^{-6} \, \text{C}\), \(|q_B| = 8 \times 10^{-6} \, \text{C}\), \(r = 30 \, \text{cm} = 0.3 \, \text{m}\)。
$$ F = (9 \times 10^9) \times \frac{(2 \times 10^{-6}) \times (8 \times 10^{-6})}{(0.3)^2} $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
上記で立式した方程式を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (9 \times 10^9) \times \frac{16 \times 10^{-12}}{0.09} \\[2.0ex]
&= (9 \times 10^9) \times \frac{16 \times 10^{-12}}{9 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{9 \times 16}{9} \times \frac{10^9 \times 10^{-12}}{10^{-2}} \\[2.0ex]
&= 16 \times 10^{9 – 12 – (-2)} \\[2.0ex]
&= 16 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 1.6 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
最初の状態では、Aがプラス、Bがマイナスの電気を持っています。磁石のN極とS極のように、プラスとマイナスは引き合いますので、働く力は「引力」です。力の強さはクーロンの法則という公式で計算でき、問題の数値を当てはめると \(1.6 \, \text{N}\) となります。
計算の結果、力の大きさは \(1.6 \, \text{N}\) となりました。また、電荷の符号から力は引力であると判断できます。したがって、A, B間には \(1.6 \, \text{N}\) の引力が働きます。
接触後の力について
思考の道筋とポイント
次に、AとBを一度接触させてから再び離した後の状態を考えます。AとBは「まったく同じ小金属球」なので、接触させると2つの球は一体の導体とみなせます。このとき、電荷は自由に移動し、総電荷が2つの球に均等に分配されます。まず、接触前後の電荷の総和が保存されること(電気量保存則)から総電荷を求め、それを2で割ることで接触後の各球の電荷を計算します。その後は前半と同様に、新しい電荷の値を使ってクーロンの法則を適用し、力の大きさと向きを求めます。
この設問における重要なポイント
- 電気量保存則:接触前後の電荷の総和は変わらない。
- 均等分配:同じ金属球なので、総電荷が半分ずつに分配される。
- 接触後の電荷の符号が同じになるため、働く力は「斥力」になる。
具体的な解説と立式
まず、接触後の各球の電荷を求めます。
接触前の電荷の総和 \(Q_{\text{総}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{総}} &= q_A + q_B \\[2.0ex]
&= (+2 \times 10^{-6}) + (-8 \times 10^{-6}) \\[2.0ex]
&= -6 \times 10^{-6} \, [\text{C}]
\end{aligned}
$$
AとBは同じ金属球なので、接触させるとこの総電荷 \(Q_{\text{総}}\) が均等に分配されます。したがって、接触後のA, Bの電荷をそれぞれ \(q’_A\), \(q’_B\) とすると、\(q’_A = q’_B\) となり、その値は以下のように計算できます。
$$
\begin{aligned}
q’_A &= \frac{Q_{\text{総}}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{-6 \times 10^{-6}}{2} \\[2.0ex]
&= -3 \times 10^{-6} \, [\text{C}]
\end{aligned}
$$
接触後、両方の球は同じ負の電荷を持つため、互いに反発しあう力、すなわち「斥力」が働きます。
その力の大きさ \(F’\) をクーロンの法則で計算します。
$$ F’ = k \frac{|q’_A q’_B|}{r^2} $$
値を代入すると、
$$ F’ = (9 \times 10^9) \times \frac{|(-3 \times 10^{-6}) \times (-3 \times 10^{-6})|}{(0.3)^2} $$
使用した物理公式
- 電気量保存の法則
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
上記で立式した方程式を計算します。
$$
\begin{aligned}
F’ &= (9 \times 10^9) \times \frac{(3 \times 10^{-6}) \times (3 \times 10^{-6})}{(0.3)^2} \\[2.0ex]
&= (9 \times 10^9) \times \frac{9 \times 10^{-12}}{0.09} \\[2.0ex]
&= (9 \times 10^9) \times \frac{9 \times 10^{-12}}{9 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{9 \times 9}{9} \times \frac{10^9 \times 10^{-12}}{10^{-2}} \\[2.0ex]
&= 9 \times 10^{9 – 12 – (-2)} \\[2.0ex]
&= 9 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 0.9 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
金属球同士をくっつけると、電気が混ざり合います。プラス\(2\)とマイナス\(8\)を足し合わせると、合計でマイナス\(6\)になります。AとBは同じ大きさの球なので、このマイナス\(6\)の電気を仲良く半分こします。つまり、離した後はAもBもマイナス\(3\)の電気を持つことになります。
今度は両方ともマイナス(同じ符号)なので、磁石の同じ極同士のように反発しあう「斥力」が働きます。力の強さを再び公式で計算すると \(0.9 \, \text{N}\) となります。
計算の結果、接触後の力の大きさは \(0.9 \, \text{N}\) となりました。また、両球とも負電荷を持つため、力は斥力であると判断できます。したがって、接触後に再び離したA, B間には \(0.9 \, \text{N}\) の斥力が働きます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- クーロンの法則と電荷の再分配の組み合わせ:
- 核心: この問題は、単にクーロンの法則を適用するだけでなく、「導体を接触させる」という操作によって電荷の状態が変化し、それに伴って働く力も変化する、という一連の物理プロセスを理解しているかを問うています。
- 理解のポイント:
- プロセス1(接触前): まずは与えられた初期状態の電荷に対して、クーロンの法則を正しく適用します。力の「大きさ」の計算と、符号から判断する力の「向き」(引力か斥力か)の両方が重要です。
- プロセス2(接触操作): 「接触」という操作が何を引き起こすかを理解することが、この問題の最大のポイントです。ここでは以下の2つの法則が働きます。
- 電気量保存の法則: 2つの金属球を一つの閉じた系と見なすと、接触の前後で電荷の総和(代数和)は変わりません。
- 電荷の均等分配: 「まったく同じ金属球」という条件が鍵です。同じ形の導体を接触させると、総電荷が均等に(半分ずつに)分配されます。
- プロセス3(接触後): 再分配された新しい電荷の値を用いて、再びクーロンの法則を適用し、変化後の力を計算します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 大きさの異なる導体球の接触: もし球の半径が異なる場合、電荷は均等に分配されません。この場合、「電位が等しくなる」ように電荷が分配されます(高校物理の発展内容)。
- 導体の接地(アース): 導体を地面に接続すると、導体は地球という非常に大きな導体の一部となります。これにより、導体の電位が0になるまで電荷が地球との間で移動します。
- 静電誘導との組み合わせ: 帯電体を導体に近づけると、導体内部で電荷の偏り(静電誘導)が生じます。その状態で導体を接地したり、複数の導体を接触・分離させたりする問題は、より思考力が問われる応用問題です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「接触」「導体」「金属」というキーワードに注目: これらの単語が出てきたら、電荷が自由に移動し、状態が変化する可能性を常に考えます。単なるクーロンの法則の計算問題ではないと身構えましょう。
- 「同じ」という条件の重要性を認識する: 「まったく同じ金属球」という記述は、「総電荷が均等に分配される」という単純なルールを適用するための大ヒントです。この一言を見逃さないことが重要です。
- 時系列で状態を整理する: 「接触前」と「接触後」で何が起こり、物理量がどう変化したかを明確に区別します。以下のように情報を整理すると、思考がクリアになります。
- 接触前: \(q_A = +2 \times 10^{-6} \, \text{C}\), \(q_B = -8 \times 10^{-6} \, \text{C}\) → 異符号なので引力
- 接触後: \(q’_{\text{総}} = -6 \times 10^{-6} \, \text{C}\) → \(q’_A = q’_B = -3 \times 10^{-6} \, \text{C}\) → 同符号なので斥力
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の総和の計算ミス:
- 誤解: 電荷の符号を無視して、大きさの和や差を計算してしまう(例: \(2+8=10\) や \(8-2=6\))。
- 対策: 電荷はプラス・マイナスの符号を持つ「スカラー量」であることを徹底します。総和を計算する際は、必ず \((+2 \times 10^{-6}) + (-8 \times 10^{-6}) = -6 \times 10^{-6}\) のように、符号を含めた代数和をとることを意識してください。
- 接触後の電荷をゼロと勘違いする:
- 誤解: 接触すると正電荷と負電荷がすべて打ち消し合って、電荷がなくなってしまうと考えてしまう。
- 対策: 「中和」が起こるのは、正電荷と負電荷が同量の場合のみです。この問題のように量が異なれば、一部が中和し、残りの電荷が全体に広がります。「電気量保存則」という言葉を思い出し、「電荷は勝手には消えない、総量は保存される」という原則に立ち返りましょう。
- 力の向きの判断ミス:
- 誤解: 接触前後の力の向き(引力か斥力か)を混同したり、計算に集中するあまり判断を忘れたりする。
- 対策: 計算の各段階で、「今の電荷の符号はどうなっているか?」を常に確認する癖をつけます。「接触前:異符号→引力」「接触後:同符号→斥力」と、計算の前に結論をメモしておくと、最終的な答えのチェックにも役立ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気量保存則:
- 選定理由: 「接触」という操作は、2つの金属球を外部から孤立した一つの系とみなす操作です。外部との間で電荷の出入りがない限り、系内部の電荷の合計量は変化しようがありません。この物理的な大原則を表現するのが「電気量保存則」です。
- 適用根拠: これは電磁気学における最も基本的な法則の一つです。電荷はひとりでに生まれたり消えたりはしない、という経験則に基づいています。
- 電荷の均等分配:
- 選定理由: 問題に「まったく同じ金属球」という、極めて強い対称性の条件が与えられています。物理的に完全に同じ条件のものが2つあれば、電荷が偏って分配される特別な理由はありません。したがって、最も自然で対称的な状態、すなわち「均等に分配される」状態に落ち着くと考えるのが論理的です。
- 適用根拠: より専門的には、接触した導体は全体が同じ「電位」になります。球の場合、電位は電荷を半径で割ったものに比例するため、「同じ半径(同じ大きさ)」の球の電位が等しくなるためには、「電荷も等しく」なる必要があるのです。
- クーロンの法則:
- 選定理由: 問題が「どんな力が働くか」と、点電荷間に働く力を具体的に問うています。これを計算するための法則はクーロンの法則以外にありません。
- 適用根拠: 金属球の大きさが、球間の距離に比べて十分に小さいとみなせるため、各球を「点電荷」として扱うことができ、クーロンの法則が精度良く適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の構造を意識する:
- この問題の力の計算は、前半・後半ともに \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) という同じ構造をしています。
- \(k\) と \(r\) は共通なので、\(\displaystyle\frac{k}{r^2} = \frac{9 \times 10^9}{(0.3)^2} = \frac{9 \times 10^9}{0.09} = 10^{11}\) という共通部分を先に計算してしまうのが有効なテクニックです。
- あとは、この \(10^{11}\) に、それぞれの電荷の積 \(|q_1 q_2|\) を掛けるだけで答えが出ます。
- 前半: \(10^{11} \times |(+2 \times 10^{-6})(-8 \times 10^{-6})| = 10^{11} \times 16 \times 10^{-12} = 1.6 \, \text{N}\)
- 後半: \(10^{11} \times |(-3 \times 10^{-6})(-3 \times 10^{-6})| = 10^{11} \times 9 \times 10^{-12} = 0.9 \, \text{N}\)
- このように共通部分をまとめることで、計算の手間が省け、ミスも大幅に減ります。
- 時系列と計算をノート上で分離する:
- ノートを真ん中で区切るなどして、「接触前の計算」と「接触後の計算」のスペースを物理的に分けましょう。これにより、計算途中で数値を混同するケアレスミスを防ぐことができます。
- 単位を含めて数値を書き出す:
- 問題文の数値を書き出す際に、\(q_A = +2 \times 10^{-6} \, \text{C}\), \(r = 30 \, \text{cm} = 0.3 \, \text{m}\) のように、単位や単位換算後の値まで丁寧に書く習慣をつけましょう。特に、べき乗(\(10^{-6}\))や単位換算はミスの温床なので、意識的に丁寧に扱うことが重要です。
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3 クーロンの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問の別解: 座標系を設定し、ベクトル成分で計算する解法
- 模範解答が力の大きさを先に計算し、三平方の定理で合成するのに対し、別解では小球Aを原点とする座標系を設定し、各力のベクトル成分を計算した上で、成分ごとに足し合わせて合力ベクトルを求め、最後にその大きさを計算します。
- 設問の別解: 座標系を設定し、ベクトル成分で計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 汎用性の向上: この成分で考える方法は、力が直交しない、より複雑な配置の問題(例えば、正三角形の頂点など)にもそのまま応用できる、非常に汎用性の高い解法です。
- 思考の機械化: 座標を設定し、各力のx成分、y成分を計算して足し合わせる、という手順は機械的に行えるため、複雑な問題でも混乱しにくくなります。
- 向きの定量的表現: 合力ベクトルの成分がわかるため、力がx軸となす角度を \(\tan\theta\) などで定量的に表現することが可能になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の点電荷から受ける力のベクトル合成」です。空間に配置された複数の電荷から、ある一つの電荷が受ける力を求めるには、それぞれの電荷から受ける力を個別に計算し、それらをベクトルとして足し合わせる(合成する)必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の「大きさ」と「向き」(引力か斥力か)を正しく計算できること。
- 力の重ね合わせの原理: ある電荷が複数の電荷から力を受けるとき、実際に働く合力は、それぞれの電荷から個別に受ける力のベクトル和に等しいこと。
- ベクトル合成(三平方の定理): 2つの力が直交する場合、その合力の大きさは三平方の定理を用いて簡単に計算できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小球Aが小球Bから受ける力 \(\vec{F}_B\) の大きさと向きを、クーロンの法則を用いて求めます。
- 同様に、小球Aが小球Cから受ける力 \(\vec{F}_C\) の大きさと向きを求めます。
- \(\vec{F}_B\) と \(\vec{F}_C\) は互いに直交しているため、これらを2辺とする長方形の対角線として合力 \(\vec{F}\) を作図し、三平方の定理を用いてその大きさ \(F\) を計算します。