「重要問題集」徹底解説(111〜115問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題111 (同志社大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、抵抗とコンデンサーを含むRC回路の基本的な性質から始まり、極板間隔を変化させたときの仕事とエネルギーの関係、さらには極板の一部に働く力と重力のつりあいまでを扱う、多岐にわたるテーマを内包した総合問題です。
この問題の核心は、各設問がどの物理的状況に対応しているかを正確に読み取り、「キルヒホッフの法則」「仕事とエネルギーの関係」「力のつりあい」といった基本法則を的確に適用する能力です。

与えられた条件
  • 回路: 抵抗\(R\)、コンデンサー(面積\(S\)、初期の間隔\(d\)、真空の誘電率\(\varepsilon_0\))、電池(起電力\(V\))、スイッチSからなる直列回路。
  • 初期状態: コンデンサーに電荷なし。
  • 操作1(ア〜オ): スイッチを閉じたまま、極板Aを微小距離\(\Delta d\)だけゆっくりと広げる。
  • 操作2(カ、キ): スイッチを閉じて間隔を\(3d\)にした後、スイッチを開いて間隔を\(d\)に戻す。
  • 操作3(ク): 図2のセットアップで、円板C(質量\(m\)、面積\(a\))が重力と電気力でつりあうときの電圧を求める。
問われていること
  • (ア) 充電中の電流\(I\)。
  • (イ) 充電完了時の静電エネルギー\(U\)。
  • (ウ) 極板間隔を広げたときの静電容量の減少量。
  • (エ) その間に電池がされた仕事。
  • (オ) 極板間にはたらく引力の大きさ\(F\)。
  • (カ) 間隔\(3d\)で充電したときの電気量\(q_2\)。
  • (キ) その後、間隔を\(d\)に戻したときの電場\(E\)。
  • (ク) 円板Cが重力とつりあうときの電圧\(V_3\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(オ) 引力の大きさ\(F\)の別解: 引力の公式を直接利用する解法
      • 主たる解法が仕事とエネルギーの関係式を解くのに対し、別解では極板間引力の公式 \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) に充電完了時の電荷\(Q\)を代入して直接求めます。
    • 問(キ) 電場の強さ\(E\)の別解: ガウスの法則から直接導出する解法
      • 主たる解法がスイッチを開いた後の電圧を計算し、\(E=V/d\) の関係を用いるのに対し、別解では保存される電荷\(Q\)から直接電場を求める公式 \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) を用いて計算します。
    • 問(ク) つりあい電圧\(V_3\)の別解: 極板間引力全体からの比例配分で解く解法
      • 主たる解法が円板部分の電荷と、片方の極板が作る電場を個別に計算して力を求めるのに対し、別解では問(オ)で考察した極板全体の引力を面積比で円板部分に分配するという、より大局的な視点で解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「エネルギー収支」と「力の公式」、「電圧経由」と「電荷から直接」など、異なる物理モデルからのアプローチを学ぶことで、現象の多面的な理解が深まります。
    • 計算の効率化: 特に問(キ)や問(ク)の別解は、より本質的な公式を用いることで、計算ステップを大幅に削減できます。
    • 公式間の関連性の理解: 引力の公式がエネルギーの空間微分から導かれることや、電場と電荷の関係(ガウスの法則)が電圧と距離の関係よりも根源的であることなど、公式間の論理的な繋がりを体感できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コンデンサーの力学とエネルギー論」です。電気的な現象と力学的な仕事や力のつりあいを結びつけて考察します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの法則: (ア)のように回路に電流が流れている途中経過を記述する基本法則です。
  2. 仕事とエネルギーの関係: (エ)(オ)のように、外力や電池が仕事をする系では、エネルギー収支の式(\(W_{\text{外力}}+W_{\text{電池}}=\Delta U\))を立てることが問題解決の鍵となります。
  3. スイッチの開閉と拘束条件: スイッチが閉じているときは電圧\(V\)が一定、開いているときは電荷\(Q\)が一定という、系の状態を支配する条件を正確に使い分けることが不可欠です。
  4. 極板間引力の原理: (ク)で問われる力は、片方の極板がもう一方の極板「だけ」が作る電場から受ける力として計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各設問の物理的状況(充電中か、充電完了か、スイッチは開いているか閉じているか)を正確に把握します。
  2. (ア)ではキルヒホッフの法則、(イ)ではエネルギーの公式を適用します。
  3. (ウ)〜(オ)は一連のエネルギー収支の問題です。容量変化、電池の仕事、エネルギー変化を順に計算し、最後にエネルギー保存則の式にまとめます。
  4. (カ)(キ)では、スイッチの開閉による拘束条件の変化に注意して、\(Q=CV\)の関係を適用します。
  5. (ク)では、円板に働く電気力と重力のつりあいの式を立てます。

問(ア)

思考の道筋とポイント
コンデンサーを充電中の、ある瞬間の回路に関する問題です。抵抗、コンデンサー、電池を含む直流回路なので、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用します。
この設問における重要なポイント

  • キルヒホッフの第2法則: 閉回路を一周すると、電位の上がり下がりの合計はゼロになる。
  • 抵抗での電圧降下は \(RI\)。
  • コンデンサーでの電圧降下は \(q/C\)。

具体的な解説と立式
図1の回路について、キルヒホッフの第2法則を適用します。電池の負極から時計回りに回路を一周します。

  • 電池: 電圧が\(V\)だけ上がる。
  • 抵抗: 電流\(I\)が流れているので、電圧が\(RI\)だけ下がる。
  • コンデンサー: 電荷\(q\)が蓄えられているので、電圧が\(q/C\)だけ下がる。

したがって、電位の関係式は、
$$ V – RI – \frac{q}{C} = 0 $$
この式を電流\(I\)について解きます。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則: \(\sum V = 0\)
  • オームの法則: \(V_R = RI\)
  • コンデンサーの基本式: \(V_C = q/C\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V – RI – \frac{q}{C} &= 0 \\[2.0ex]
RI &= V – \frac{q}{C} \\[2.0ex]
I &= \frac{1}{R} \left( V – \frac{q}{C} \right)
\end{aligned}
$$
コンデンサーの電気容量は \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{d}\) なので、これを代入すると、
$$ I = \frac{1}{R} \left( V – \frac{qd}{\varepsilon_0 S} \right) $$

この設問の平易な説明

回路を一周する山登りに例えます。電池で\(V\)だけ山を登り、抵抗とコンデンサーで坂道を下り、元の高さに戻ってきます。この「登った高さ = 下った高さの合計」という関係を式にして、電流\(I\)について解きます。

結論と吟味

電流の大きさは \(\displaystyle\frac{1}{R} \left( V – \frac{qd}{\varepsilon_0 S} \right)\) です。充電が進んで\(q\)が増えると電流\(I\)が減少し、最終的に\(q=CV\)になると\(I=0\)となる、という物理的に正しい振る舞いを表しています。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{1}{R} \left( V – \frac{qd}{\varepsilon_0 S} \right)\)

問(イ)

思考の道筋とポイント
十分に時間が経過した(充電が完了した)ときのコンデンサーの静電エネルギーを求めます。充電完了時、コンデンサーの電圧は電源電圧\(V\)に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 充電完了時、コンデンサーの電位差は電源電圧\(V\)に等しい。
  • 静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を使う。
  • 電気容量\(C\)を、与えられた文字で表現する。

具体的な解説と立式
静電エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) です。
コンデンサーの電気容量の定義 \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) をこの式に代入します。

使用した物理公式

  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
U &= \frac{1}{2}CV^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d} \right) V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コンデンサーに蓄えられるエネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) に、コンデンサーの性能を表す式 \(C = \varepsilon_0 S/d\) を代入するだけで計算できます。

結論と吟味

静電エネルギーは \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d}\) です。与えられた文字だけで表現されており、妥当な結果です。

解答 (イ) \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d}\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
極板間隔を \(d\) から \(d+\Delta d\) に広げたときの、静電容量の「減少量」を求めます。まず、変化後の静電容量を計算し、元の静電容量との差をとります。
この設問における重要なポイント

  • 平行平板コンデンサーの容量の式 \(C = \varepsilon_0 S/d\) を使う。
  • 変化後の容量を計算し、変化前の容量との差を求める。
  • 問題で与えられた近似式を適切に利用する。

具体的な解説と立式

  • 元の静電容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • 変化後の極板間隔: \(d’ = d+\Delta d\)
  • 変化後の静電容量: \(C_1 = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d+\Delta d}\)

静電容量の減少量は \(C – C_1\) です。
$$ C – C_1 = \varepsilon_0 \frac{S}{d} – \varepsilon_0 \frac{S}{d+\Delta d} $$

使用した物理公式

  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • 近似式: \(\displaystyle\frac{1}{1+x} \approx 1-x\) (\(|x| \ll 1\))
計算過程

$$
\begin{aligned}
C – C_1 &= \varepsilon_0 S \left( \frac{1}{d} – \frac{1}{d+\Delta d} \right) \\[2.0ex]
&= \varepsilon_0 \frac{S}{d} \left( 1 – \frac{d}{d+\Delta d} \right) \\[2.0ex]
&= \varepsilon_0 \frac{S}{d} \left( 1 – \frac{1}{1+\Delta d/d} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\Delta d \ll d\) なので \(x = \Delta d/d\) として近似式 \(\displaystyle\frac{1}{1+x} \approx 1-x\) を用います。
$$
\begin{aligned}
C – C_1 &\approx \varepsilon_0 \frac{S}{d} \left\{ 1 – \left( 1 – \frac{\Delta d}{d} \right) \right\} \\[2.0ex]
&= \varepsilon_0 \frac{S}{d} \left( \frac{\Delta d}{d} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コンデンサーの性能(静電容量)は、板の間の距離が広がるほど悪くなります。どれだけ悪くなったか(減少したか)を計算します。「元の性能」から「後の性能」を引き算し、問題で与えられた近似式を使って式を簡単にします。

結論と吟味

静電容量の減少量は \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2}\) です。微小な距離の変化\(\Delta d\)に比例するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2}\)

問(エ)

思考の道筋とポイント
極板間隔を広げる間に「電池がされた仕事」を求めます。電池がする仕事は、電池を通過した電気量と電池の電圧の積 \(W_E = (\Delta q)V\) で計算できます。この問題では、コンデンサーから電池へ電気が逆流するので、電池は仕事を「される」側になります。
この設問における重要なポイント

  • 電池がする仕事は \(W_E = (\text{通過した電気量}) \times V\)。
  • コンデンサーの容量が減少すると、蓄えられていた電荷の一部が電池に戻る。
  • 電池が「された」仕事は、電池が「した」仕事と符号が逆になる。

具体的な解説と立式
スイッチは閉じているので、コンデンサーの電圧は\(V\)に保たれます。

  • 元の電気量: \(Q = CV\)
  • 後の電気量: \(Q_1 = C_1 V\)

この間にコンデンサーから流れ出て電池を逆向きに通過した電気量\(\Delta q\)は、
$$ \Delta q = Q – Q_1 = (C-C_1)V $$
電池は、この電気量\(\Delta q\)を逆向きに受け取るので、仕事を「されます」。その仕事量\(W_E\)は、
$$ W_E = (\Delta q)V = (C-C_1)V^2 $$

使用した物理公式

  • 電池がする(される)仕事: \(W = QV\)
計算過程

(ウ)の結果 \(C-C_1 = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
W_E &= (C-C_1)V^2 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2} \right) V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

板の間隔を広げると、コンデンサーの性能が落ちて今まで蓄えていた電気の一部を保持できなくなります。その余った電気が電池に逆流します。電池は、この逆流してきた電気を受け取ることで、外部から仕事を「された」ことになり、エネルギーを得ます。その仕事の量を計算します。

結論と吟味

電池がされた仕事は \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2}\) です。正の値であり、電池がエネルギーを受け取ったことを示しており、物理的に妥当です。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2}\)

問(オ)

思考の道筋とポイント
極板間にはたらく引力の大きさを求めます。これは、エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いて求めることができます。系に加えられたエネルギー(外力がした仕事+電池がした仕事)は、系の静電エネルギーの変化に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: \(W_{\text{外力}} + W_{\text{電池}} = \Delta U_{\text{静電}}\)
  • 外力がした仕事: \(W_{\text{外力}} = F \Delta d\)
  • 電池がした仕事: (エ)の結果を利用するが、符号に注意。
  • 静電エネルギーの変化: \(\Delta U = U_1 – U\)

具体的な解説と立式
エネルギー収支の式を立てます。
$$ (\text{外力がした仕事}) + (\text{電池がした仕事}) = (\text{静電エネルギーの変化}) $$

  • 外力がした仕事: \(W_{\text{外力}} = F\Delta d\)
  • 電池がした仕事: 電池は仕事を「された」ので、電池が「した」仕事は負になります。\(W_{\text{電池}} = -W_E = – \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2}\)
  • 静電エネルギーの変化:
    $$ \Delta U = U_1 – U = \frac{1}{2}C_1 V^2 – \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}(C_1-C)V^2 $$
    (ウ)の結果から \(C_1-C = -(C-C_1) = -\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S \Delta d}{d^2}\) なので、
    $$ \Delta U = -\frac{1}{2} \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2} $$

エネルギー保存則の式にこれらを代入します。
$$ F\Delta d + \left( – \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2} \right) = – \frac{1}{2} \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2} $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} + W_{\text{非保存力}} = \Delta E\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F\Delta d &= \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2} – \frac{1}{2} \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2} \\[2.0ex]
F\Delta d &= \frac{1}{2} \frac{\varepsilon_0 S V^2 \Delta d}{d^2}
\end{aligned}
$$
両辺を \(\Delta d\) で割ると、
$$ F = \frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2} $$

この設問の平易な説明

「外から加えたエネルギー(外力の仕事+電池の仕事)は、コンデンサーのエネルギー変化と等しい」というエネルギー収支の式を立てます。外力の仕事、電池の仕事、コンデンサーのエネルギー変化は、それぞれ(ウ)(エ)の結果から計算できます。この方程式を解くことで、引力の大きさ\(F\)が求まります。

結論と吟味

引力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}\) です。これは、極板間引力の公式 \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) に \(Q=CV=(\varepsilon_0 S/d)V\) を代入した結果と一致し、妥当です。

別解: 引力の公式を直接利用する解法

思考の道筋とポイント
極板間引力の公式 \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) を直接利用します。スイッチが閉じているので、コンデンサーの電圧は\(V\)です。このときの電荷\(Q\)を計算し、公式に代入します。
この設問における重要なポイント

  • 極板間引力の公式: \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\)
  • 充電完了時の電荷: \(Q=CV\)

具体的な解説と立式
充電が完了した状態での極板間の引力を求めます。
このときの電荷\(Q\)は、
$$ Q = CV = \left( \frac{\varepsilon_0 S}{d} \right) V $$
これを引力の公式に代入します。
$$ F = \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S} $$

使用した物理公式

  • 極板間引力の公式: \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= \frac{1}{2\varepsilon_0 S} \left( \frac{\varepsilon_0 S V}{d} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2\varepsilon_0 S} \frac{\varepsilon_0^2 S^2 V^2}{d^2} \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コンデンサーの極板同士が引き合う力の大きさを計算する公式があります。この公式に、電圧が\(V\)のときの電気の量\(Q\)を代入するだけで、直接答えを求めることができます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。エネルギー収支という複雑な過程を経ずに、公式一つで解けるため、非常に効率的です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}\)

問(カ)

思考の道筋とポイント
極板間隔を\(3d\)にしたときに蓄えられる電気量を求めます。スイッチは閉じているので、電圧は\(V\)のままです。間隔が\(3d\)になったときの新しい静電容量を計算し、\(Q=CV\)を適用します。
この設問における重要なポイント

  • スイッチが閉じているので、電圧は\(V\)で一定。
  • 間隔が\(3d\)になったときの静電容量を計算する。

具体的な解説と立式

  • 新しい極板間隔: \(d’ = 3d\)
  • 新しい静電容量: \(C_2 = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{3d}\)

蓄えられる電気量\(q_2\)は、
$$ q_2 = C_2 V $$

使用した物理公式

  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
q_2 &= C_2 V \\[2.0ex]
&= \left( \frac{\varepsilon_0 S}{3d} \right) V \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_0 S V}{3d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

板の間隔を3倍に広げると、電気を蓄える能力(静電容量)は\(1/3\)になります。電圧は\(V\)のままなので、蓄えられる電気の量も\(1/3\)になります。

結論と吟味

電気量は \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V}{3d}\) です。

解答 (カ) \(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V}{3d}\)

問(キ)

思考の道筋とポイント
(カ)の状態でスイッチを開き、極板間隔をdに戻した後の電場の強さを求めます。スイッチを開いたので、今度は電荷\(q_2\)が一定に保たれます。
この設問における重要なポイント

  • スイッチを開くと、電荷が一定に保たれる。
  • 間隔をdに戻した後の電圧を計算し、\(E=V/d\) を使う。

具体的な解説と立式

  • 保たれる電荷: \(q_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V}{3d}\)
  • 間隔をdに戻した後の静電容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)

このときのコンデンサーの電圧を\(V_2\)とすると、\(q_2 = C V_2\) の関係が成り立ちます。
$$ V_2 = \frac{q_2}{C} $$
電場の強さ\(E\)は、\(E = \displaystyle\frac{V_2}{d}\) で求められます。

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算過程

まず\(V_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \frac{q_2}{C} = \frac{\varepsilon_0 S V / (3d)}{\varepsilon_0 S / d} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{3}
\end{aligned}
$$
次に電場\(E\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{V_2}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{V/3}{d} = \frac{V}{3d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを開くと、コンデンサーに蓄えられた電気が閉じ込められます。この状態で板の間隔を狭めると、電気の密度は変わりませんが、電圧が変化します。まずこの新しい電圧を計算し、その電圧と距離から電場の強さを求めます。

結論と吟味

電場の強さは \(\displaystyle\frac{V}{3d}\) です。これは、最初の電場\(V/d\)の\(1/3\)であり、電荷が\(1/3\)になったことを反映した妥当な結果です。

別解: ガウスの法則から直接導出する解法

思考の道筋とポイント
スイッチを開いた後は電荷\(q_2\)が保存されます。極板上の電荷が作る電場の強さは、ガウスの法則より \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) で与えられます。この公式は極板間隔を含まないため、間隔を変化させても電場の強さは変わりません(ただし、これは極板の端の効果を無視した場合)。この問題では、間隔をdに戻した後の電場を問われているので、保存された電荷\(q_2\)を使って直接計算します。
この設問における重要なポイント

  • スイッチを開くと、電荷が一定に保たれる。
  • 電場の強さは \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) で計算できる。

具体的な解説と立式

  • 保たれる電荷: \(q_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V}{3d}\)

電場の強さ\(E\)は、極板上の電荷と面積で決まります。
$$ E = \frac{q_2}{\varepsilon_0 S} $$

使用した物理公式

  • ガウスの法則による電場: \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{\varepsilon_0 S} \left( \frac{\varepsilon_0 S V}{3d} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V}{3d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電場の強さは、板の上にある電気の密度で決まります。スイッチを開いて電気を閉じ込めた後では、板の間隔を変えても電気の密度は変わりません。したがって、(カ)の状態で間隔が\(3d\)のときの電場 \(E = V/(3d)\) が、間隔をdに戻した後も保たれます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。電圧の計算を介さず、より直接的に電場を求めることができ、物理的にも明快な解法です。

解答 (キ) \(\displaystyle\frac{V}{3d}\)

問(ク)

思考の道筋とポイント
図2の状況で、極板Bの上に置かれた小さな円板Cが、重力と電気的な引力でつりあうときの電圧を求めます。円板Cが受ける電気的な力は、極板A「だけ」が作る電場から受ける力です。
この設問における重要なポイント

  • 円板Cは極板Bの一部と見なせるため、B自身が作る電場からは力を受けない。
  • 円板Cが受ける力は、極板Aが作る電場 \(E_A\) によるもの。
  • 力のつりあいの式を立てる: \((\text{電気力}) = (\text{重力})\)

具体的な解説と立式
コンデンサーに電圧\(V_3\)がかかっているとき、蓄えられている電荷を\(q\)とします。
$$ q = C V_3 = \left( \frac{\varepsilon_0 S}{d} \right) V_3 $$
このとき、極板間の電場は \(E = q/(\varepsilon_0 S)\) です。極板Aが作る電場の強さ\(E_A\)は、この半分です。
$$ E_A = \frac{1}{2} E = \frac{q}{2\varepsilon_0 S} $$
円板Cは極板Bの一部なので、その電荷\(-q_c\)は、面積比で分配されます。
$$ q_c = q \frac{a}{S} $$
円板Cが受ける上向きの電気的な引力\(F_e\)は、
$$ F_e = q_c E_A $$
この力が、円板Cにはたらく下向きの重力\(mg\)とつりあうので、
$$ F_e = mg $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 極板間引力の原理
計算過程

まず、\(F_e\)を\(q\)で表します。
$$
\begin{aligned}
F_e &= q_c E_A \\[2.0ex]
&= \left( q \frac{a}{S} \right) \left( \frac{q}{2\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{aq^2}{2\varepsilon_0 S^2}
\end{aligned}
$$
力のつりあいの式 \(F_e = mg\) より、
$$ \frac{aq^2}{2\varepsilon_0 S^2} = mg $$
この式を\(q^2\)について解きます。
$$ q^2 = \frac{2\varepsilon_0 S^2 mg}{a} $$
ここに \(q = (\varepsilon_0 S/d)V_3\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{\varepsilon_0 S}{d} V_3 \right)^2 &= \frac{2\varepsilon_0 S^2 mg}{a} \\[2.0ex]
\frac{\varepsilon_0^2 S^2}{d^2} V_3^2 &= \frac{2\varepsilon_0 S^2 mg}{a}
\end{aligned}
$$
この式を\(V_3\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_3^2 &= \frac{d^2}{\varepsilon_0^2 S^2} \frac{2\varepsilon_0 S^2 mg}{a} \\[2.0ex]
&= \frac{2d^2 mg}{a \varepsilon_0}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ V_3 = d \sqrt{\frac{2mg}{a \varepsilon_0}} $$

この設問の平易な説明

小さな円板Cが浮き上がる(重力とつりあう)ためには、コンデンサーにどれだけの電圧をかければよいかを計算します。まず、円板Cが受ける電気的な力を電圧の式で表します。次に、その力が重力と等しくなるという方程式を立て、電圧について解きます。

結論と吟味

つりあうときの電圧は \(d \sqrt{\displaystyle\frac{2mg}{a \varepsilon_0}}\) です。円板が重い(\(m\)大)ほど、また面積が小さい(\(a\)小)ほど、より大きな電圧が必要になるという、物理的に妥当な結果です。

別解: 極板間引力全体からの比例配分で解く解法

思考の道筋とポイント
(オ)で考察したように、極板全体にはたらく引力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}\) です。円板Cにはたらく引力は、この全体の引力を面積比で按分したものと考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 全体の引力 \(F\) を電圧\(V_3\)で表す。
  • 円板Cが受ける力 \(F_C\) は、面積比で \(F_C = F \times (a/S)\)。
  • 力のつりあい \(F_C = mg\) を解く。

具体的な解説と立式
電圧が\(V_3\)のとき、極板全体にはたらく引力\(F\)は、(オ)の結果を用いると、
$$ F = \frac{\varepsilon_0 S V_3^2}{2d^2} $$
円板Cにはたらく引力\(F_C\)は、このうち面積\(a\)の部分に相当するので、
$$ F_C = F \times \frac{a}{S} = \left( \frac{\varepsilon_0 S V_3^2}{2d^2} \right) \frac{a}{S} = \frac{\varepsilon_0 a V_3^2}{2d^2} $$
この力が重力\(mg\)とつりあうので、
$$ \frac{\varepsilon_0 a V_3^2}{2d^2} = mg $$

使用した物理公式

  • 極板間引力の公式 (問(オ)の結果)
  • 力のつりあい
計算過程

つりあいの式を\(V_3^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_3^2 &= \frac{2d^2 mg}{\varepsilon_0 a}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ V_3 = d \sqrt{\frac{2mg}{a \varepsilon_0}} $$

この設問の平易な説明

コンデンサー全体に働く引力のうち、円板Cの部分が担当する分の力を計算します。これは全体の引力に面積の割合を掛けることで求まります。この力が円板の重さとちょうど釣り合うときの電圧を計算します。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。ミクロな視点(電荷と電場)ではなく、マクロな視点(全体の力)からアプローチすることで、計算が大幅に簡略化され、見通しが良くなります。

解答 (ク) \(d \sqrt{\displaystyle\frac{2mg}{a \varepsilon_0}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: (オ)のように、複数の力が仕事をする系のエネルギー変化を扱う際に、「(外力がした仕事)+(非保存力(ここでは電池)がした仕事)=(系のエネルギー変化)」というエネルギー収支の考え方は非常に強力です。
    • 理解のポイント:
      1. 登場人物の特定: まず、エネルギーのやり取りに関わる要素(この問題では外力、電池、コンデンサー)を全てリストアップします。
      2. 仕事とエネルギー変化の評価: それぞれの要素について、仕事をしたのかされたのか、エネルギーが増えたのか減ったのかを、符号を含めて正確に計算します。
      3. エネルギー収支の立式: 「系に入ってきたエネルギーの総和=系の内部エネルギーの増加量」という形で、全ての要素を一つの等式にまとめます。
  • スイッチの開閉による拘束条件の変化:
    • 核心: スイッチが閉じている間はコンデンサーの電圧\(V\)が一定に保たれ、スイッチを開くと電荷\(Q\)が一定に保たれます。この違いを認識することが、(カ)と(キ)を正しく解くための鍵となります。
    • 理解のポイント:
      1. 操作の把握: 問題文の「スイッチを閉じたまま」「次にスイッチを開き」といった操作を示す言葉に印をつけ、各段階での電気的な拘束条件を明確にします。
      2. 条件の適用: \(V\)一定の場合は\(Q=CV\)の関係で\(C\)の変化が\(Q\)に影響し、\(Q\)一定の場合は同じく\(Q=CV\)の関係で\(C\)の変化が\(V\)に影響する、という違いを理解します。
  • 極板間引力の原理と力のつりあい:
    • 核心: コンデンサーの極板が引き合う力は、片方の極板がもう一方の極板「だけ」が作る電場から受ける力として計算されます((ク))。この電気的な力と、重力や弾性力といった他の力とのつりあいを考えることで、系の状態を決定できます。
    • 理解のポイント:
      1. 力の原因の特定: 引力は、自分自身の電場ではなく、相手の極板が作る電場から受けることを理解します。
      2. 電場の分解: 極板間の電場\(E\)は、極板Aが作る\(E/2\)と極板Bが作る\(E/2\)の合成であることを常に意識します。
      3. 力のつりあい: 電気力と他の力(重力など)をベクトル図で示し、つりあいの式を立てます。
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則):
    • 核心: (ア)のように、抵抗とコンデンサーを含む直流回路のある瞬間(過渡状態)を記述する際に、閉回路の電位差の和が0になるという法則は不可欠です。
    • 理解のポイント:
      1. 回路の巡回: 回路の一点からスタートし、時計回り(または反時計回り)に一周する経路を定めます。
      2. 電位の増減の把握: 電池は電位を上げ、抵抗とコンデンサーは(電流の向きに)電位を下げる要素として扱います。
      3. 立式: 電位の増減の総和がゼロになるように方程式を立てます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RC回路の過渡現象: (ア)はRC回路の充電過程の一瞬を切り取ったものです。これを時間的に追跡すると、電流や電荷が指数関数的に変化する「過渡現象」の問題になります。
    • コンデンサーマイク: 極板間隔の変化を電気信号(電圧の変化)として取り出す装置で、この問題の(キ)の状況と原理が似ています。
    • 静電的な浮上: (ク)のように、静電気力で物体を浮上させる問題。リニアモーターカーの原理の一部にも関連します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 時系列と操作の整理: 問題文が長い場合、操作の順番(スイッチを閉じる→広げる→スイッチを開く→戻す…)を時系列で整理し、各段階で何が一定(V or Q)で、何が変化するのかを把握することが第一歩です。
    2. エネルギー収支か、力のつりあいか: 問題が「力」や「つりあう電圧」を問うている場合((オ),(ク))、力のつりあいやエネルギー収支の式を立てることを考えます。エネルギー収支は、複数のエネルギーが関わる場合に特に有効です。
    3. 近似式の使い方: (ウ)のように「微小量」というキーワードが出てきたら、問題文で与えられた近似式を使うサインです。どの部分を \(x\) と見なして近似を適用するかを正確に見抜く必要があります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電池の仕事の符号:
    • 誤解: (エ)で、コンデンサーから電荷が流れ出ているのに、電池がした仕事を正としてしまう。
    • 対策: 電池がする仕事は、正極から電流を送り出す向きが正です。逆向きに電荷が流れる場合、電池は仕事を「され」ており、電池が「した」仕事は負になります。この符号の定義を明確にしましょう。
  • エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: (オ)で、\(W_{\text{外力}} = \Delta U_{\text{静電}}\) のように、電池の仕事を考慮し忘れてしまう。
    • 対策: エネルギー収支を考える際は、系に関わる全てのエネルギーの出入りをリストアップする癖をつけましょう。「外力」「電池」「コンデンサーの内部エネルギー」の3者の間で、誰がエネルギーを失い、誰が得たのかを整理してから立式するとミスが減ります。
  • 円板が受ける力の計算ミス:
    • 誤解: (ク)で、円板Cが受ける力を計算する際に、極板全体の電場\(E\)をそのまま使ってしまう。
    • 対策: 円板Cはあくまで極板Bの「一部」であることを意識します。Cに蓄えられた電荷は面積比で按分した \(q_c\) であり、Cが受ける電場は相手の極板A「だけ」が作る \(E_A\) です。この2点を正確に評価する必要があります。
  • スイッチ開閉の条件混同:
    • 誤解: (キ)でスイッチを開いた後も、電圧が\(V\)のままだと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「スイッチを開く」という操作を見たら、即座に「電荷\(Q\)が保存される」という条件に頭を切り替える習慣をつけましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則 (ア):
    • 選定理由: 回路に電流が流れている「途中経過」の状態を記述するため。定常状態ではないため、単純なオームの法則だけでは記述できません。
    • 適用根拠: 電荷保存則とエネルギー保存則を電気回路に適用した、最も普遍的な法則の一つです。
  • エネルギー収支の式 (オ):
    • 選定理由: 「力」を求める問題で、直接計算するのではなく、エネルギーの変化量から間接的に求めるため。特に、保存力でない力(外力や電池の仕事)が関わる場合に有効です。
    • 適用根拠: 熱力学第一法則にも通じる、普遍的なエネルギー保存の原理に基づいています。
  • \(E = Q/(\varepsilon_0 S)\) (キの別解):
    • 選定理由: 電荷が分かっている孤立したコンデンサーの電場を求めるため。この公式は極板間隔dを含まないため、間隔が変化した後でも電荷さえ分かっていれば電場が計算できる、という点で非常に強力です。
    • 適用根拠: ガウスの法則を平行平板コンデンサーに適用した結果です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: (エ)(オ)のエネルギー収支では、仕事やエネルギー変化の符号が非常に重要です。「系が外部からエネルギーを受け取るなら正」「系が外部へエネルギーを放出するなら負」というルールを一貫して適用しましょう。
    • 日頃の練習: エネルギーの流れを図で描き、系へのエネルギーの「流入」と「流出」を視覚的に整理する習慣をつけると、符号ミスを防げます。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: (ク)のように多くの物理量が絡む計算では、どの文字が定数でどれが変数か、どの文字を最終的に消去すべきかを意識しながら式変形を進めることが重要です。
    • 日頃の練習: 最終的に求めたい文字(例えば\(V_3\))以外の文字を、与えられた基本量(\(m, g, d, a, \varepsilon_0\)など)で表現していくという方針を立ててから計算を始めると、途中で混乱しにくくなります。
  • 近似式の適用:
    • 特に注意すべき点: (ウ)で近似式を使う際、\(\displaystyle\frac{1}{1+\Delta d/d}\)の形を正確に作り出すことが重要です。分母を\(d\)でくくりだす操作を丁寧に行いましょう。
    • 日頃の練習: 様々な関数で一次近似(テイラー展開の初項)を導出する練習をしておくと、与えられた近似式をスムーズに適用できるようになります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (オ) 引力\(F\): \(F = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S V^2}{2d^2}\)。
      • 吟味の視点: 電圧\(V\)が大きいほど、また間隔\(d\)が小さいほど引力が強くなるという結果は、物理的な直感と一致します。
    • (キ) 電場\(E\): \(E = V/(3d)\)。
      • 吟味の視点: (カ)で間隔を3dに広げたとき、電圧はVのままなので電場は\(E=V/(3d)\)になります。その後スイッチを開いて電荷を保存したまま間隔をdに戻しても、電荷密度は変わらないため電場の強さは\(E=V/(3d)\)のままです。この考察と結果が一致します。
    • (ク) つりあい電圧\(V_3\): \(V_3 = d \sqrt{\displaystyle\frac{2mg}{a \varepsilon_0}}\)。
      • 吟味の視点: \(m\)や\(g\)が大きい(重い)ほど、また\(a\)が小さい(力を受ける面積が小さい)ほど、\(V_3\)は大きくなる。これは直感と一致しており、物理的に妥当です。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし電池がなければ(\(V=0\))、(オ)の引力は0になります。電荷がなければ力は働かないので、これは正しいです。
    • もし円板の質量が0なら(\(m=0\))、(ク)のつりあい電圧\(V_3\)も0になります。重力がなければ引力も必要ないため、これも正しいです。

問題112 (大阪市大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、スイッチの切り替えによってコンデンサーの電荷が再配分される様子を追跡する問題です。電気量保存則、キルヒホッフの法則、そして電位の概念を駆使して、段階的な変化と最終的な極限状態を解析する、思考力と計算力が問われる良問です。

与えられた条件
  • 電池E1: 電圧 \(V_0\) [V]
  • 電池E2: 電圧 \(2V_0\) [V]
  • コンデンサーC1: 電気容量 \(C\) [F]
  • コンデンサーC2: 電気容量 \(C\) [F]
  • 抵抗R: 抵抗値 \(R\) [Ω]
  • 初期条件: スイッチS1, S2は開いており、C1, C2に電荷はない。
問われていること
  • (1) S1を閉じて十分時間が経過した後の、電池E1がした仕事 \(W_{E1}\)。
  • (2) 次にS1を開きS2を閉じて十分時間が経過した後の、C2の両端の電位差 \(V’_2\) と、この間に電池E2がした仕事 \(W_{E2}\)。
  • (3) さらに操作を繰り返した後の、C2の両端の電位差 \(V”_2\)。
  • (4) (3)の操作を無限に繰り返したときの、C2の電位差の極限値 \(V_{2\text{r}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2), (3)の別解: 電位追跡法
      • 主たる解法が電気量保存則とキルヒホッフの法則から連立方程式を立てるのに対し、別解では回路の基準電位を設定し、未知の接続点の電位を求めることで、より直接的に解きます。
    • 問(4)の別解: 漸化式を用いる解法
      • 主たる解法が「電荷移動がなくなる」という物理的な極限状態から直接解を求めるのに対し、別解では操作の前後関係を漸化式でモデル化し、その数学的な極限を求めることで解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 解法の汎用性: 電位追跡法は、より複雑な回路網においても機械的に適用できる強力な手法です。
    • 数学的アプローチの学習: 漸化式を用いる解法は、物理現象を数学的なモデルに落とし込み、その振る舞いを解析する良い練習になります。物理的な洞察と数学的な手法の双方から極限状態を理解できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「スイッチの切り替えによるコンデンサーの電荷再配分」です。抵抗を含む回路ですが、十分に時間が経過した後の状態を問われているため、コンデンサーに電流は流れ込まない定常状態のみを考えます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. コンデンサーの基本式: \(Q=CV\) を用いて、電圧と電気量の関係を把握します。
  2. 電気量保存則: 回路の一部が外部から電気的に孤立している場合、その部分の総電気量はスイッチの切り替え前後で保存されます。これが最も重要な法則です。
  3. キルヒホッフの第2法則: 任意の閉回路において、電位差の代数和は0になります。これは、各素子にかかる電圧の関係を導くのに使います。
  4. 電池の仕事: 電池が電気量 \(Q\) を電圧 \(E\) で送り出すとき、電池がする仕事は \(W=QE\) で与えられます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各操作の前後で、回路のどの部分が「孤立部分」になるかを見極めます。
  2. 「電気量保存則」と「キルヒホッフの第2法則」を用いて、未知の電気量や電圧に関する連立方程式を立てて解きます。
  3. 電池を通過した電気量を求め、仕事の公式を適用します。
  4. 無限回操作後の極限状態は、「これ以上変化が起きない状態」、すなわち電荷の移動が停止する状態であるという物理的考察から解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
まず、S1を閉じて十分に時間が経過した状態を考えます。このとき、コンデンサーC1は電池E1によって充電されます。最終的にC1にかかる電圧は電池の電圧 \(V_0\) と等しくなります。蓄えられた電気量 \(Q_1\) を求め、電池がした仕事の公式 \(W=QE\) を用いて仕事 \(W_{E1}\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電は完了し、その電位差は接続されている電池の電圧に等しくなる。
  • 電池がした仕事は、電池を通過した総電気量と電池の起電力(電圧)の積で表される。 \(W_{\text{電池}} = Q E\)。

具体的な解説と立式
S1を閉じて十分に時間が経過すると、コンデンサーC1は電池E1によって完全に充電されます。このとき、C1の両端の電位差は電池E1の電圧 \(V_0\) に等しくなります。
C1に蓄えられる電気量を \(Q_1\) とすると、コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) より、
$$ Q_1 = C V_0 $$
電池E1がした仕事 \(W_{E1}\) は、この充電過程で電池E1を通過した電気量 \(Q_1\) と電池の電圧 \(V_0\) の積で与えられます。
$$ W_{E1} = Q_1 V_0 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 電池がする仕事: \(W_{\text{電池}} = QE\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_{E1} &= Q_1 V_0 \\[2.0ex]
&= (C V_0) \times V_0 \\[2.0ex]
&= C V_0^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチS1を閉じると、電池E1がコンデンサーC1を充電します。充電が完了すると、C1には \(Q_1 = CV_0\) という量の電気が蓄えられます。電池の仕事とは、この電気 \(Q_1\) を電圧 \(V_0\) で押し出したエネルギーのことなので、単純に掛け合わせることで \(CV_0^2\) と計算できます。

結論と吟味

電池E1がした仕事は \(CV_0^2\) です。これはコンデンサーに蓄えられる静電エネルギー \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV_0^2\) の2倍です。差額の \(\displaystyle\frac{1}{2}CV_0^2\) は、回路の抵抗(この場合はS1側のループなので、実際には導線抵抗など)でジュール熱として消費されたエネルギーに相当します。

解答 (1) 電池E1がした仕事: \(CV_0^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
S1を開き、S2を閉じるという操作を行います。この操作の前後で、C1の上極板、抵抗R、C2の上極板からなる部分は、回路の他の部分から電気的に孤立します。したがって、この「孤立部分」の総電気量は保存されます。これに加えて、S2を閉じた後の定常状態では、C1, C2, E2からなる閉回路についてキルヒホッフの第2法則が成り立ちます。この2つの法則から連立方程式を立て、C2の電位差 \(V’_2\) を求めます。
仕事 \(W_{E2}\) は、この過程で電池E2を通過した総電気量を計算し、仕事の公式を適用して求めます。
この設問における重要なポイント

  • スイッチ切り替え問題の定石である「電気量保存則」を適用する。孤立部分を正しく見つけることが鍵。
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用し、閉回路の電位差の関係式を立てる。
  • 電池を通過した電気量は、電池に接続されている部分の電荷の変化量から求める。

具体的な解説と立式
C2の電位差 \(V’_2\) の導出
操作前の状態(図a): C1は充電されており、上極板に \(+CV_0\)、下極板に \(-CV_0\) の電荷がある。C2の電荷は0。
操作後の状態(図b): C1, C2の電位差をそれぞれ \(V’_1, V’_2\)、蓄えられた電気量の大きさを \(Q’_1, Q’_2\) とする。電池E2の向きから、C1の上極板は負、下極板は正に、C2の上極板は正、下極板は負に帯電する。したがって、C1の上極板の電荷は \(-Q’_1\)、C2の上極板の電荷は \(+Q’_2\) となる。ここで \(Q’_1 = CV’_1\), \(Q’_2 = CV’_2\)。

1. 電気量保存則:
C1の上極板とC2の上極板はS2とRを介して接続され、孤立部分を形成する。
(初期の総電荷) = (最終の総電荷)
$$ CV_0 + 0 = -Q’_1 + Q’_2 \quad \cdots ① $$

2. キルヒホッフの第2法則:
C1, C2, E2を含む閉回路を一周すると、電位差の和は0になる。電池E2の負極から正極の向きを正とすると、
$$ V’_1 + V’_2 – 2V_0 = 0 \quad \cdots ② $$

ここで、\(Q’_1 = CV’_1\), \(Q’_2 = CV’_2\) を用いて①と②を \(V’_1, V’_2\) の連立方程式にします。
$$ V_0 = -V’_1 + V’_2 \quad \cdots ①’ $$
$$ V’_1 + V’_2 = 2V_0 \quad \cdots ②’ $$

電池E2がした仕事 \(W_{E2}\) の導出
仕事 \(W_{E2}\) を求めるには、電池E2を通過した電気量 \(\Delta Q\) を計算する必要がある。電池E2の正極はC1の下極板に接続されている。したがって、\(\Delta Q\) はC1の下極板の電荷の変化量に等しい。
(初期のC1下極板の電荷) = \(-CV_0\)
(最終のC1下極板の電荷) = \(+Q’_1 = CV’_1\)
よって、電池E2から流れ出た電気量 \(\Delta Q\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= (\text{最終電荷}) – (\text{初期電荷}) \\[2.0ex]
&= CV’_1 – (-CV_0)
\end{aligned}
$$
電池E2がした仕事 \(W_{E2}\) は、
$$ W_{E2} = \Delta Q \times (2V_0) $$

使用した物理公式

  • 電気量保存則
  • キルヒホッフの第2法則
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 電池がする仕事: \(W_{\text{電池}} = QE\)
計算過程

\(V’_2\) の計算
①’ と ②’ を足し合わせる。
$$
\begin{aligned}
(V_0) + (2V_0) &= (-V’_1 + V’_2) + (V’_1 + V’_2) \\[2.0ex]
3V_0 &= 2V’_2 \\[2.0ex]
V’_2 &= \frac{3}{2}V_0
\end{aligned}
$$
この結果を②’に代入して \(V’_1\) を求める。
$$
\begin{aligned}
V’_1 &= 2V_0 – V’_2 \\[2.0ex]
&= 2V_0 – \frac{3}{2}V_0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}V_0
\end{aligned}
$$

\(W_{E2}\) の計算
まず、電池E2を通過した電気量 \(\Delta Q\) を計算する。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= CV’_1 – (-CV_0) \\[2.0ex]
&= C\left(\frac{1}{2}V_0\right) + CV_0 \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}CV_0
\end{aligned}
$$
次に、仕事 \(W_{E2}\) を計算する。
$$
\begin{aligned}
W_{E2} &= \Delta Q \times (2V_0) \\[2.0ex]
&= \left(\frac{3}{2}CV_0\right) \times (2V_0) \\[2.0ex]
&= 3CV_0^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを切り替えると、C1とC2の間で電荷が再分配されます。このとき「孤立部分の総電荷は不変」というルールと、「回路を一周すると電位が元に戻る(電圧の合計がゼロ)」というルールを使います。この2つのルールから連立方程式を立てて解くことで、新しい状態での各コンデンサーの電圧が求まります。
電池の仕事は、この再分配の際に電池を通過した電気の量を求め、それに電池の電圧を掛けることで計算できます。

結論と吟味

C2の電位差は \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\)、電池E2がした仕事は \(3CV_0^2\) です。電気量保存則とキルヒホッフの法則という2つの基本法則を連立させることで、未知数を求めることができました。

別解: 電位追跡法

思考の道筋とポイント
回路の各点の電位を考えることで、より機械的に解く方法です。まず基準となる電位(0V)を決め、未知の点の電位を文字(例:\(x\))で置きます。各コンデンサーの極板の電荷をその電位 \(x\) を使って表し、電気量保存則の式を立てて \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 回路の基準電位(アース)を任意に設定する。
  • 未知の電位を文字で置き、各極板の電荷をその文字式で表現する。
  • 「極板の電荷 = \(C \times\) (自分の電位 – 相手の電位)」の公式を正しく使う。

具体的な解説と立式
電池E2の負極側の電位を \(0\) [V]、正極側の電位を \(2V_0\) [V] とします。S2を閉じた後の、C1とC2の間の接続点の電位を \(x\) [V] とします(図c)。
このとき、各コンデンサーの上極板の電荷は「極板の電荷 = \(C \times\) (自分の電位 – 相手の電位)」で表せます。
C1の上極板の電荷: \(Q’_{1,\text{上}} = C(x – 2V_0)\)
C2の上極板の電荷: \(Q’_{2,\text{上}} = C(x – 0) = Cx\)
電気量保存則より、孤立部分(C1上極板とC2上極板)の総電荷は、操作前の \(CV_0\) に等しいので、
$$ CV_0 = C(x – 2V_0) + Cx $$

使用した物理公式

  • 電気量保存則
  • コンデンサーの電荷と電位差の関係: \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
CV_0 &= C(x – 2V_0) + Cx \\[2.0ex]
V_0 &= (x – 2V_0) + x \\[2.0ex]
V_0 &= 2x – 2V_0 \\[2.0ex]
3V_0 &= 2x \\[2.0ex]
x &= \frac{3}{2}V_0
\end{aligned}
$$
C2の電位差 \(V’_2\) は、その両端の電位差なので、
$$ V’_2 = |x – 0| = \frac{3}{2}V_0 $$

この設問の平易な説明

この方法は、回路図を地図に見立て、各地点の標高(電位)を求めるアプローチです。基準地点(0V)を決め、まだ高さがわからない交差点の標高を \(x\) と置きます。そして、「外部から隔離された土地(孤立部分)では、もともとあった電荷の総量は変わらない」という物理法則を使って \(x\) を求める方程式を立てます。これを解けば、各コンデンサーにかかる電圧(標高差)が計算できます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。この電位追跡法は、連立方程式を解く手間が省け、未知の電位を一つの方程式から直接求められるため、特に回路が複雑な場合に計算ミスを減らし、見通しを良くする強力な手法です。

解答 (2)
C2の両端の電位差: \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\)
電池E2がした仕事: \(3CV_0^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)に続く一連の操作です。
ステップ1: S2を開き、S1を閉じる。→ C1が再びE1で充電される。C2の電荷は(2)の最終状態のまま保持される。
ステップ2: S1を開き、S2を閉じる。→ (2)と同様の電荷再配分が起こる。
このステップ2の前後で、(2)と同様に「電気量保存則」と「キルヒホッフの第2法則」を適用します。注意点は、孤立部分の初期電荷が(2)のときとは異なることです。
この設問における重要なポイント

  • 操作のシーケンスを正確に追跡し、各段階でのコンデンサーの電荷状態を把握すること。
  • (2)と全く同じ手順で計算できるが、初期値が異なることを認識する。

具体的な解説と立式
ステップ1: S2を開き、S1を閉じる
S2が開かれると、C2は回路から孤立し、その電荷 \(Q’_2 = CV’_2 = \displaystyle\frac{3}{2}CV_0\)(上極板が正)を保持します。
次にS1を閉じると、C1は電池E1に接続され、再び電圧 \(V_0\) で充電されます。十分な時間が経つと、C1の電荷は \(Q_1 = CV_0\)(上極板が正)になります。
この状態が、次の操作の初期状態です(図d)。

ステップ2: S1を開き、S2を閉じる
この操作の前後で、再びC1上極板とC2上極板が孤立部分を形成します。
(初期の総電荷) = (C1上極板の電荷) + (C2上極板の電荷) = \(CV_0 + \displaystyle\frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\)
最終状態のC1, C2の電位差を \(V”_1, V”_2\)、電気量の大きさを \(Q”_1, Q”_2\) とします。(2)と同様に、C1の上極板に \(-Q”_1\)、C2の上極板に \(+Q”_2\) の電荷が蓄えられます。
(最終の総電荷) = \(-Q”_1 + Q”_2\)

1. 電気量保存則:
$$ \frac{5}{2}CV_0 = -Q”_1 + Q”_2 \quad \cdots ③ $$

2. キルヒホッフの第2法則:
回路の構成は(2)と同じなので、電圧の関係も同じです。
$$ V”_1 + V”_2 = 2V_0 \quad \cdots ④ $$

\(Q”_1 = CV”_1\), \(Q”_2 = CV”_2\) を用いて、\(V”_1, V”_2\) の連立方程式にします。
$$ \frac{5}{2}V_0 = -V”_1 + V”_2 \quad \cdots ③’ $$
$$ 2V_0 = V”_1 + V”_2 \quad \cdots ④’ $$

使用した物理公式

  • 電気量保存則
  • キルヒホッフの第2法則
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

③’ と ④’ を足し合わせる。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{5}{2}V_0\right) + (2V_0) &= (-V”_1 + V”_2) + (V”_1 + V”_2) \\[2.0ex]
\frac{9}{2}V_0 &= 2V”_2 \\[2.0ex]
V”_2 &= \frac{9}{4}V_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)と全く同じ計算を、スタート地点の電荷を変えてもう一度行うだけです。まず、スイッチを切り替える前の、孤立部分の総電荷を正しく計算することが重要です。あとは(2)と同じ手順で連立方程式を解けば答えが出ます。

結論と吟味

C2の両端の電位差は \(\displaystyle\frac{9}{4}V_0\) です。操作を繰り返すことで、C2の電位差が \(0 \rightarrow \displaystyle\frac{3}{2}V_0 \rightarrow \frac{9}{4}V_0\) と増加していくことがわかります。これは物理的に妥当な振る舞いです。

別解: 電位追跡法

思考の道筋とポイント
(2)の別解と同様に、電位を未知数として解きます。初期状態の電荷の合計値が異なる点に注意します。
この設問における重要なポイント

  • 操作を繰り返す問題では、前回の結果が次回の初期値になる。
  • 電位追跡法は、初期値が変わっても同じ手順で適用できる汎用性がある。

具体的な解説と立式
S2を閉じる前の孤立部分(C1上極板とC2上極板)の総電荷は、
(初期の総電荷) = \(CV_0 + \displaystyle\frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\)
S2を閉じた後の接続点の電位を \(y\) [V] とします(図f)。
最終的な孤立部分の総電荷は、(2)の別解と同様に \(C(y – 2V_0) + Cy\) と表せます。
電気量保存則より、
$$ \frac{5}{2}CV_0 = C(y – 2V_0) + Cy $$

使用した物理公式

  • 電気量保存則
  • コンデンサーの電荷と電位差の関係: \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{5}{2}CV_0 &= C(y – 2V_0) + Cy \\[2.0ex]
\frac{5}{2}V_0 &= (y – 2V_0) + y \\[2.0ex]
\frac{5}{2}V_0 &= 2y – 2V_0 \\[2.0ex]
\frac{9}{2}V_0 &= 2y \\[2.0ex]
y &= \frac{9}{4}V_0
\end{aligned}
$$
C2の電位差 \(V”_2\) は、その両端の電位差なので、
$$ V”_2 = |y – 0| = \frac{9}{4}V_0 $$

この設問の平易な説明

(2)の別解と全く同じ計算を、スタート地点の電荷を変えてもう一度行うだけです。電位追跡法を使うと、(2)で立てた方程式の左辺(初期電荷)の数字を変えるだけで、同じように解くことができます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。(2)の別解で用いた電位追跡法が、初期値が変わった場合でも全く同じ手順で適用できることがわかります。この手法の汎用性の高さを示しています。

解答 (3) C2の両端の電位差: \(\displaystyle\frac{9}{4}V_0\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)の操作を無限に繰り返すと、C2の電位差はある有限な値に収束します。この極限状態(定常状態)では、それ以上状態の変化が起こらなくなります。物理的には、これは「S2を閉じても電荷の移動が起こらない」状態を意味します。電荷の移動がないということは、抵抗Rに電流が流れない、つまり抵抗Rの両端の電位が等しいということです。この条件を用いて極限値を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 無限回操作後の極限状態は、「変化が停止した状態」であると物理的に解釈する。
  • 「電荷移動がない」 \(\iff\) 「電流が0」 \(\iff\) 「抵抗の両端が等電位」という関係を理解する。

具体的な解説と立式
操作を無限に繰り返し、C2の電位差が極限値 \(V_{2\text{r}}\) に達した状態を考えます。
この状態で、最後の操作サイクルを行います。

1. S2を開き、S1を閉じる:
C1は電池E1で充電され、電位差 \(V_0\) になります。C2の電位差は \(V_{2\text{r}}\) のままです。

2. S1を開き、S2を閉じる:
このとき、極限状態に達しているので、もはや電荷の移動は起こりません。
電荷の移動が起こらないためには、S2で接続される二つの点、すなわちC1の上極板とC2の上極板の電位が、S2を閉じる瞬間に等しくなっている必要があります。

この条件を満たす \(V_{2\text{r}}\) を求めます。
電位を計算するために、電池E2の負極を基準の \(0\) [V] とします。すると、正極の電位は \(2V_0\) [V] になります(図g)。

  • C1の上極板の電位:
    S2を閉じる直前、C1の下極板は電池E2の正極に接続されているため、その電位は \(2V_0\) [V] です。
    C1の電位差は \(V_0\) であり、上極板の方が電位が高い(S1で充電されたため)ので、C1の上極板の電位は \(2V_0 + V_0 = 3V_0\) [V] となります。
  • C2の上極板の電位:
    C2の下極板は電池E2の負極に接続されているため、その電位は \(0\) [V] です。
    C2の電位差は \(V_{2\text{r}}\) であり、上極板の方が電位が高いので、C2の上極板の電位は \(0 + V_{2\text{r}} = V_{2\text{r}}\) [V] です。

電荷移動がない条件は、これらの電位が等しいことなので、
$$ 3V_0 = V_{2\text{r}} $$

使用した物理公式

  • 定常状態の物理的条件(電荷移動が0)
  • 電位の概念
計算過程

上記の立式がそのまま結論となります。
$$ V_{2\text{r}} = 3V_0 $$

この設問の平易な説明

何度も何度も同じ操作を繰り返すと、いずれは変化が止まる「行き止まり」の状態にたどり着きます。この問題では、その「行き止まり」とは「スイッチS2をつないでも、もう電荷が動かない」状態です。電荷が動かないのは、S2でつながれる2点の電位(電気的な高さ)が同じになったときです。そこで、S2をつなぐ直前のC1の上極板の電位とC2の上極板の電位をそれぞれ計算し、それらが等しいという方程式を立てることで、最終的なC2の電圧を求めることができます。

結論と吟味

C2の電位差の極限値は \(3V_0\) です。
(2), (3)の結果を見ると、C2の電位差は \(0 \rightarrow 1.5V_0 \rightarrow 2.25V_0 \rightarrow \dots\) と、\(3V_0\) に向かって徐々に近づいていくことがわかります。このことから、得られた極限値は妥当であると考えられます。

別解: 漸化式を用いる解法

思考の道筋とポイント
(3)までの計算過程を一般化し、n回目の操作後のC2の電位差 \(V_{2,n}\) と、n+1回目の操作後の電位差 \(V_{2,n+1}\) の関係式(漸化式)を導出します。その漸化式の極限値を求めることで、物理的な考察とは別に、数学的なアプローチで解を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 繰り返し操作を、漸化式でモデル化する。
  • 漸化式の極限値は、\(V_{2,n+1} = V_{2,n} = \alpha\) とおくことで求められる。

具体的な解説と立式
n回目の操作(S1開→S2閉)を終えた後のC2の電位差を \(V_{2,n}\) とします。
次の(n+1)回目の操作を考えます。
1. S2を開き、S1を閉じる: C1は電位差 \(V_0\) に充電される。C2は電位差 \(V_{2,n}\) を保つ。
2. S1を開き、S2を閉じる:
孤立部分(C1上極板+C2上極板)の初期総電荷は \(CV_0 + CV_{2,n}\) です。
(n+1)回目の操作後のC2の電位差を \(V_{2,n+1}\) とします。電位追跡法を用いると、接続点の電位は \(V_{2,n+1}\) になります。
最終的な孤立部分の総電荷は \(C(V_{2,n+1} – 2V_0) + CV_{2,n+1}\) です。
電気量保存則より、
$$ CV_0 + CV_{2,n} = C(V_{2,n+1} – 2V_0) + CV_{2,n+1} $$

使用した物理公式

  • 電気量保存則
  • 漸化式の極限
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_0 + V_{2,n} &= (V_{2,n+1} – 2V_0) + V_{2,n+1} \\[2.0ex]
V_0 + V_{2,n} &= 2V_{2,n+1} – 2V_0 \\[2.0ex]
2V_{2,n+1} &= V_{2,n} + 3V_0 \\[2.0ex]
V_{2,n+1} &= \frac{1}{2}V_{2,n} + \frac{3}{2}V_0
\end{aligned}
$$
これが求める漸化式です。
操作を無限に繰り返すと、電位差は極限値 \(\alpha\) に収束します。つまり、\(n \rightarrow \infty\) のとき \(V_{2,n} \rightarrow \alpha\) かつ \(V_{2,n+1} \rightarrow \alpha\) となります。
$$ \alpha = \frac{1}{2}\alpha + \frac{3}{2}V_0 $$
これを \(\alpha\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}\alpha &= \frac{3}{2}V_0 \\[2.0ex]
\alpha &= 3V_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

一回ごとの操作でC2の電圧がどう変化するかを、一般的な数式(漸化式)で表します。そして、この変化が最終的にどこに落ち着くのかを、数学の極限計算を使って求めます。物理的な「行き止まり」を探す代わりに、数式の「収束値」を計算するアプローチです。

結論と吟味

主たる解法である物理的考察(電荷移動がゼロになる)による結果と、数学的な漸化式の極限を求める結果が完全に一致しました。これにより、解答の正しさがより確かなものとなります。

解答 (4) C2の両端の電位差の極限値: \(3V_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電気量保存則:
    • 核心: スイッチの切り替えなどで回路の一部が電気的に孤立した場合、その孤立部分の電気量の総和は操作の前後で変化しません。この問題では、(2)や(3)でS2を閉じた際に「C1の上極板、抵抗R、C2の上極板」からなる部分が孤立系を形成し、解析の出発点となります。
    • 理解のポイント:
      1. 孤立部分の特定: スイッチ操作の前後で、外部の電池やアースから導線レベルで切り離されている部分を探します。
      2. 総電荷の計算: 操作前の孤立部分に含まれる各極板の電荷を、符号に注意して足し合わせます。
      3. 保存則の立式: 操作後の各極板の電荷(未知数を含む)の総和が、操作前の総電荷に等しいという式を立てます。
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則):
    • 核心: 回路内の任意の閉じたループを一周するとき、電位差(電圧)の代数和はゼロになります。これはエネルギー保存則の電気回路における表現です。
    • 理解のポイント:
      1. 閉回路の特定: (2)や(3)でS2を閉じた後の定常状態において、C1、C2、E2からなる閉回路を考えます。
      2. 電位の上がり下がりの把握: 電池は起電力の分だけ電位を上げ、コンデンサーは電荷がたまっている向きに電位を下げます。
      3. 関係式の導出: この法則を適用することで、各コンデンサーの電位差の関係式 (\(V’_1 + V’_2 = 2V_0\)) を得ることができます。電気量保存則と組み合わせることで、未知数を決定できます。
  • 電位の概念:
    • 核心: 回路の各点の「電気的な高さ」を表すのが電位です。コンデンサーの電位差とは、両極板の電位の差に他なりません。
    • 理解のポイント:
      1. 基準点の設定: 回路のどこか一点の電位を0Vと任意に設定します。電池の負極などを基準に取ると考えやすいです。
      2. 各点の電位の決定: 基準点から導線をたどり、電池を通れば起電力分、電位が変化します。未知の点は文字で置きます。
      3. 極限状態への応用: (4)の「電荷の移動が止まるのは、接続点の電位が等しくなったとき」という考え方は、電位の概念を理解しているからこそできる物理的洞察です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数のコンデンサーとスイッチ: 複数のコンデンサー、電池、スイッチが複雑に組み合わされた回路。どのスイッチ操作でどの部分が孤立系になるかを見抜く練習が重要です。
    • 充電後のコンデンサーへの誘電体挿入: 充電したコンデンサーを回路から切り離し、誘電体を挿入する問題。この場合も「孤立した導体上の電荷は保存される」という電気量保存則が鍵となります。
    • 漸化式を立てる問題: この問題のように、同じ操作を繰り返す問題では、n回目の状態とn+1回目の状態の関係式(漸化式)を立てることで、より一般的に振る舞いを解析できます。本問の(4)の別解のように、漸化式を導出し、その極限を求めるアプローチも強力です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 孤立部分を探す: スイッチ操作の前後で、回路のどの部分が外部から切り離されるかを図で確認します。色分けなどをして視覚化すると分かりやすいです。
    2. 定常状態の条件を考える: 「十分に時間が経過した後」という記述があれば、コンデンサーへの電流の流入・流出はゼロです。抵抗があっても、その部分に電流が流れていない(つまり両端が等電位)か、あるいはコンデンサーを含まない閉回路を電流が流れているかのどちらかです。
    3. 電位で考えるか、電位差で考えるか: 回路が単純な直列・並列でなく、複雑に交差している場合は、各点の「電位」を未知数として設定する「電位追跡法」が有効です。連立方程式を立てる手間が省けることが多いです。
    4. 無限回操作=極限状態: 「操作を無限に繰り返す」とあれば、それは「変化がなくなった定常状態」を考えよ、というサインです。物理的に「何が起こらなくなれば定常か?(本問では電荷移動)」を考え、その条件を数式化します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電気量保存則の適用範囲の間違い:
    • 誤解: 回路全体で電気量が保存されると勘違いする。
    • 対策: 電気量保存則が適用できるのは、あくまで外部と導線で繋がっていない「孤立部分」のみです。電池に繋がっている部分は電荷の供給源があるため、孤立していません。必ず図の上で閉じた領域を特定してください。
  • 電荷の符号のミス:
    • 誤解: (2)や(3)でS2を閉じた後、C1とC2の電荷を両方とも正として式を立ててしまう。
    • 対策: 電池の向きや電位の高低をよく見て、各極板にどちらの符号の電荷が蓄えられるかを必ず確認しましょう。本問では、電池E2の向きから、C1の上極板は負、C2の上極板は正に帯電します。この符号を間違えると、電気量保存の式(例: \(-Q’_1 + Q’_2\))が崩壊します。
  • 電池の仕事と静電エネルギーの混同:
    • 誤解: 電池がした仕事 \(W\) を、コンデンサーに蓄えられたエネルギー \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV\) と同じだと考えてしまう。
    • 対策: 電池の仕事は \(W=QV\)、蓄えられるエネルギーは \(U=\displaystyle\frac{1}{2}QV\) です。充電過程では、電池がした仕事の半分が抵抗でのジュール熱として失われます。この2つは明確に区別しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 電気量保存則:
    • 選定理由: スイッチの切り替えによって、電荷が再配分されるが、外部との電荷のやり取りがない「孤立部分」が存在するため。
    • 適用根拠: 電荷の生成・消滅がないという物理学の基本法則。回路の一部が他の部分から切り離されている状況で適用されます。
  • キルヒホッフの第2法則:
    • 選定理由: 複数の素子(コンデンサー、電池)を含む閉回路が存在し、各部分の電位差の関係を知る必要があるため。
    • 適用根拠: 電場が保存力であること(静電場の場合)に起因するエネルギー保存則。任意の閉路を一周すると電位は元に戻るという法則に基づきます。
  • \(W_{\text{電池}} = QE\):
    • 選定理由: (1)と(2)で「電池がした仕事」が直接問われているため。
    • 適用根拠: 仕事の定義(力×距離)を電気の言葉で書き直したもの。電荷 \(Q\) を電位差 \(E\) に逆らって運ぶのに必要なエネルギーが \(QE\) であることに由来します。
  • 電位追跡法(\(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\)):
    • 選定理由: (2)や(3)の別解として。回路が複雑で、各素子の電位差を直接考えるより、各点の電位を基準に考えた方がシンプルになるため。
    • 適用根拠: コンデンサーの電荷は、両極板の「電位差」に比例するという基本定義に基づきます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: (2)や(3)の電気量保存則の式を立てる際、各極板の電荷の符号を間違えないことが最重要です。電池の向きから電位の高低を判断し、どちらが正極板になるかを慎重に決定してください。
    • 日頃の練習: 複雑な回路図を見たら、まず各コンデンサーの極板に `+` と `-` を書き込む練習をしましょう。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: この問題では \(V_0\) や \(C\) などの文字は、最後まで文字のまま計算を進めましょう。具体的な数値を代入する問題ではないので、式が複雑になりすぎず、ミスが減ります。
    • 日頃の練習: 複数の文字定数が含まれる問題を解く際に、最終的な答えがどの文字で表現されるべきかを意識する癖をつけましょう。
  • 検算の習慣:
    • 特に注意すべき点: (2)や(3)で求めた \(V’_1, V’_2\) が、キルヒホッフの法則の式(\(V’_1+V’_2=2V_0\))を満たしているか、代入して確認する習慣をつけましょう。
    • 日頃の練習: 別解がある問題では、両方のアプローチで解いてみて、結果が一致することを確認する。これは最も強力な検算方法の一つです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2), (3) 電位差の変化: C2の電位差は \(0 \rightarrow 1.5V_0 \rightarrow 2.25V_0\) と、操作を繰り返すたびに増加しています。これは、C1が毎回 \(V_0\) で充電され、その電荷の一部がC2に「おすそ分け」されるイメージと合致します。
    • (4) 極限値: 極限値 \(3V_0\) は、電池E2の電圧 \(2V_0\) よりも大きくなっています。これは、C1が電池E1によって \(V_0\) の電位差を持った状態で、さらに電池E2の \(2V_0\) の回路に組み込まれることで、電位が「かさ上げ」されるためです(C1上極板の電位が \(2V_0+V_0=3V_0\) になる)。物理的に理にかなった結果です。
  • 漸化式との比較:
    • (4)の別解で示したように、n回目の操作後のC2の電位差を \(V_{2,n}\) とすると、\(V_{2,n+1} = \displaystyle\frac{1}{2}V_{2,n} + \frac{3}{2}V_0\) という漸化式が成り立ちます。この漸化式の極限値 \(\alpha\) は、\(\alpha = \displaystyle\frac{1}{2}\alpha + \frac{3}{2}V_0\) を解くことで求められ、\(\alpha = 3V_0\) となります。これは(4)の物理的考察から得た結果と一致し、解答の正しさを強力に裏付けます。
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問題113 (芝浦工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ダイオードを含むコンデンサー回路における、スイッチの切り替え操作に伴う過渡現象と定常状態を扱う問題です。ダイオードの整流作用によって、スイッチの接続先で回路の構成が変化する点が特徴です。電気量保存則やエネルギー保存則まで問われる、総合的な理解を試す問題と言えます。

与えられた条件
  • 電池1, 2の起電力: ともに \(E \text{ [V]}\)
  • コンデンサー1の電気容量: \(C \text{ [F]}\)
  • コンデンサー2の電気容量: \(2C \text{ [F]}\)
  • 抵抗器の抵抗値: \(R \text{ [Ω]}\)
  • ダイオード1, 2: 理想ダイオード(順方向は抵抗\(0\)、逆方向は抵抗無限大)
  • 初期条件: コンデンサー1, 2の電荷は\(0\)
  • アース: 電位の基準点(\(0 \text{ V}\))
問われていること
  • (1) スイッチSをa側に入れた後、十分時間が経過したときの点c, d, eの電位。
  • (2) (1)の状態でのコンデンサー1, 2の静電エネルギー。
  • (3) スイッチSをb側に入れ替えた後、十分時間が経過したときの、C1のd側極板とC2のd側極板の電気量の和。
  • (4) (3)の状態でのコンデンサー1, 2に蓄えられた電気量。
  • (5) Sをb側に入れ替えてから十分時間が経過するまでに、抵抗器で消費されたジュール熱。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ダイオードを含むコンデンサー回路のスイッチ切り替え」です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想ダイオードの性質: 電圧の向きによって「導線」になるか「断線」になるかを正しく判断することが、回路解析の第一歩です。
  2. コンデンサー回路の定常状態: 十分に時間が経過した後、コンデンサーの充電が完了し、回路に直流電流が流れなくなる(電流が\(0\)になる)という性質を理解しているかが問われます。
  3. 電気量保存則: 回路の一部が外部から電気的に孤立している場合、その部分の電荷の総和は操作の前後で変わらない、という法則を適用します。
  4. エネルギー保存則: 回路全体でのエネルギーの収支(電池がした仕事=静電エネルギーの変化+ジュール熱)を考えます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、スイッチをa側に入れたときの定常状態を考え、ダイオードの働きを考慮して回路を単純化し、各点の電位とエネルギーを求めます(問(1), (2))。
  2. 次に、スイッチをb側に切り替えた後の定常状態を考えます。ここでもダイオードの状態を判断し、電気量保存則とキルヒホッフの法則を連立させて、各コンデンサーの最終的な電気量を求めます(問(3), (4))。
  3. 最後に、(1)から(4)で求めた回路の初期状態と最終状態の情報を使って、エネルギー保存則からジュール熱を算出します(問(5))。

問(1)

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