問題11 (山形大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、あらい床の上の斜面台と、その上の小物体の2物体に関する力のつりあい、および運動を扱います。前半[A]は全体が静止している状況、後半[B]は小物体が運動し台が静止している状況を考えます。それぞれの物体にはたらく力を正確に図示し、適切な法則(力のつりあい、運動方程式)を適用することが求められます。
- 小物体: 質量 \(m\)、なめらかな斜面上に位置
- 台: 質量 \(M\)、あらい水平な床の上に静止
- 斜面の角度: \(\theta\)
- 糸: 小物体を斜め上方に引く。鉛直方向とのなす角 \(\alpha\)
- 静止摩擦係数: \(\mu\) (台と床の間)
- 重力加速度: \(g\)
- 状況[A]: 小物体も台も静止している。
- 状況[B]: 糸を切った後、小物体は運動するが、台は静止している。
- [A] 静止時
- (1) 糸の張力 \(T\) と小物体が受ける垂直抗力 \(P_1\)
- (2) 台が床から受ける静止摩擦力 \(F_1\)
- [B] 糸を切った後
- (3) 小物体の加速度 \(a_1\) と垂直抗力 \(P_2\)
- (4) 台が床から受ける静止摩擦力 \(F_2\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数物体系の力学」です。2つの物体「小物体」と「台」それぞれに着目し、力を図示して方程式を立てることが基本戦略となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロです (\(\sum \vec{F} = 0\))。
- 運動方程式: 運動している物体については、運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) を立てます。
- 作用・反作用の法則: 小物体が台を押す力と、台が小物体を押す力(垂直抗力)は、大きさが等しく向きが逆です。この関係が、2つの物体の運動を関連付けます。
- 力の分解: 力を適切な方向(水平・鉛直、または斜面方向・垂直方向)に分解することで、スカラー量としての方程式を立てやすくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、まず小物体にはたらく3つの力(重力、張力、垂直抗力)のつりあいを考え、\(T\)と\(P_1\)を求めます。次に、台にはたらく力(重力、床からの垂直抗力、摩擦力、小物体からの力の反作用)のつりあいを考え、\(F_1\)を求めます。
- [B]では、糸が切れた後の小物体の運動に着目し、運動方程式と力のつりあいの式から\(a_1\)と\(P_2\)を求めます。次に、運動中の小物体から力を受けても静止し続けている台の力のつりあいを考え、\(F_2\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
静止している小物体にはたらく力は、「重力 \(mg\)」「糸の張力 \(T\)」「斜面からの垂直抗力 \(P_1\)」の3つです。これらの力がつりあっているので、ベクトル和がゼロになります。このベクトル方程式を解くために、力を成分に分解して連立方程式を立てます。分解する軸の選び方によって、計算の複雑さが変わります。
この設問における重要なポイント
- 考察の対象を「小物体」に絞る。
- 小物体にはたらく3つの力を正確に図示する。
- 力を分解する座標軸を適切に設定する(水平・鉛直、または他の便利な方向)。
問(1) 解法1:水平・鉛直方向での力のつりあい
具体的な解説と立式
小物体にはたらく3つの力を、水平右向きをx軸正、鉛直上向きをy軸正として成分分解します。
- 重力 \(mg\): (0, \(-mg\))
- 張力 \(T\): (\(T\sin\alpha\), \(T\cos\alpha\))
- 垂直抗力 \(P_1\): (\(-P_1\sin\theta\), \(P_1\cos\theta\))
x方向、y方向それぞれの力のつりあいの式を立てます。
x方向: \(T\sin\alpha – P_1\sin\theta = 0 \quad \rightarrow \quad P_1\sin\theta = T\sin\alpha \quad \cdots ①\)
y方向: \(T\cos\alpha + P_1\cos\theta – mg = 0 \quad \rightarrow \quad P_1\cos\theta + T\cos\alpha = mg \quad \cdots ②\)
この連立方程式①, ②を解くことで、\(T\)と\(P_1\)が求まります。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)
- 力の分解
- 三角関数の加法定理: \(\sin(\theta+\alpha) = \sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha\)
未知数 \(T\) と \(P_1\) を含む連立方程式①, ②を解きます。
まず \(T\) を消去して \(P_1\) を求めます。
① \(\times \cos\alpha\): \(P_1\sin\theta\cos\alpha = T\sin\alpha\cos\alpha\)
② \(\times \sin\alpha\): \(P_1\cos\theta\sin\alpha + T\cos\alpha\sin\alpha = mg\sin\alpha\)
この2式を辺々足し合わせると、
$$P_1(\sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha) = mg\sin\alpha$$
左辺に加法定理を適用すると、
$$P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha$$
よって、
$$P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
次に、この結果を式①に代入して \(T\) を求めます。
$$T = \frac{P_1\sin\theta}{\sin\alpha} = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \cdot \frac{\sin\theta}{\sin\alpha}$$
$$T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$
問(1) 解法2 (別解):張力と垂直な方向での力のつりあい
具体的な解説と立式
未知数が2つある場合、一方の未知数(ここでは\(T\))と垂直な軸で力のつりあいを考えると、その未知数が式から消え、もう一方の未知数(\(P_1\))を直接求められます。
糸の張力\(T\)と垂直な方向で力のつりあいを考えます。
- 張力 \(T\): この方向の成分は0。
- 重力 \(mg\): この方向の成分は \(mg\sin\alpha\)。
- 垂直抗力 \(P_1\): この方向の成分は \(P_1\sin(\theta+\alpha)\)。
これらの力のつりあいの式は、
$$P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha$$
この式から \(P_1\) が直接求まります。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 力の分解
つりあいの式 \(P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha\) を \(P_1\) について解くと、
$$P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
\(T\) を求めるには、解法1の式① \(T = \frac{P_1\sin\theta}{\sin\alpha}\) を使うのが効率的です。
$$T = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \cdot \frac{\sin\theta}{\sin\alpha} = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$
小物体は動かないので、力が釣り合っています。これを解くには、水平・鉛直方向で考える方法(解法1)と、計算が楽になるように斜めの軸を設定する方法(解法2)があります。解法2では、張力と垂直な方向で考えると、張力が計算から消えて、垂直抗力だけをすぐに求めることができます。
糸の張力 \(T\) と垂直抗力 \(P_1\) はそれぞれ、
$$T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}, \quad P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
となります。分母の \(\sin(\theta+\alpha)\) は、条件より \(0 < \theta+\alpha < \pi\) なので常に正です。結果が物理的に意味のある値になることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
次に考察の対象を「台」に移します。台も静止しているので、台にはたらく力はつりあっています。特に、水平方向の力のつりあいを考えることで、床からの静止摩擦力 \(F_1\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 考察の対象を「台」に絞る。
- 作用・反作用の法則を正しく適用する。台が小物体から受ける力は、小物体が台から受ける垂直抗力 \(P_1\) の反作用である。
- 静止摩擦力は、他の水平方向の力とつりあうために必要な力として決まる。
具体的な解説と立式
台にはたらく水平方向の力は以下の2つです。
- 床からの静止摩擦力 \(F_1\): 向きはつりあいから決まる。ここでは左向きと仮定する。
- 小物体から受ける力(\(P_1\)の反作用)の水平成分: 小物体は台から左上向きに \(P_1\) の力で押されているので、その反作用として、台は小物体から右下向きに \(P_1\) の力で押される。この力の水平成分は、右向きに \(P_1\sin\theta\)。
台の水平方向の力のつりあいの式は、
$$F_1 = P_1\sin\theta$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 作用・反作用の法則
つりあいの式 \(F_1 = P_1\sin\theta\) に、問(1)で求めた \(P_1\) の式を代入します。
$$F_1 = \left( \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \right) \sin\theta = \frac{mg\sin\alpha\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$
台が床の上で静止しているのは、小物体から右向きに押される力と、床から左向きに働く摩擦力がちょうど釣り合っているからです。小物体が台を押す力は、(1)で求めた垂直抗力 \(P_1\) から計算できます。
台が床から受ける静止摩擦力の大きさ \(F_1\) は \(\frac{mg\sin\alpha\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\) です。
この値は正なので、仮定した通り摩擦力は左向きにはたらいていることがわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
[B]では糸を静かに切ります。小物体はなめらかな斜面を滑り落ち、等加速度運動を始めます。台は静止したままなので、小物体の運動は斜面方向に限られます。斜面方向の運動方程式と、斜面と垂直な方向の力のつりあいの式を立てることで、加速度 \(a_1\) と新しい垂直抗力 \(P_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動方向(斜面方向)とそれに垂直な方向に分けて考える。
- 運動方向については運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
- 運動と垂直な方向については力のつりあいの式を立てる。
具体的な解説と立式
糸が切れた後、小物体にはたらく力は「重力 \(mg\)」と「垂直抗力 \(P_2\)」の2つです。
力を斜面方向と斜面垂直方向に分解します。
- 斜面方向(下向きを正とする):
重力の成分 \(mg\sin\theta\) のみがはたらく。運動方程式は、
$$ma_1 = mg\sin\theta$$ - 斜面垂直方向:
垂直抗力 \(P_2\) と重力の成分 \(mg\cos\theta\) がつりあっている。
$$P_2 = mg\cos\theta$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 力のつりあい
運動方程式 \(ma_1 = mg\sin\theta\) の両辺を \(m\) で割ると、
$$a_1 = g\sin\theta$$
力のつりあいの式から、
$$P_2 = mg\cos\theta$$
糸が切れると、小物体は自身の重みによって斜面を滑り落ちます。斜面方向の力は重力の一部分だけなので、その力を使って運動方程式を立てれば加速度がわかります。また、小物体は斜面にめり込んだり、飛び上がったりはしないので、斜面を押す力と押し返される力(垂直抗力)は釣り合っています。
小物体の加速度 \(a_1\) は \(g\sin\theta\)、垂直抗力 \(P_2\) は \(mg\cos\theta\) です。
これは、なめらかな斜面を滑る物体の最も基本的な運動であり、よく知られた結果と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
小物体が運動している間も、台は静止し続けています。したがって、問(2)と同様に、台にはたらく水平方向の力のつりあいを考えます。小物体から受ける力が、静止時の \(P_1\) から運動時の \(P_2\) に変わったことに注意します。
この設問における重要なポイント
- 考察の対象は再び「台」。
- 台は静止しているので、力のつりあいを考える。
- 小物体から受ける力は、(3)で求めた垂直抗力 \(P_2\) の反作用である。
具体的な解説と立式
台にはたらく水平方向の力は、問(2)と同様に以下の2つです。
- 床からの静止摩擦力 \(F_2\): 左向きと仮定する。
- 小物体から受ける力(\(P_2\)の反作用)の水平成分: 右向きに \(P_2\sin\theta\)。
台の水平方向の力のつりあいの式は、
$$F_2 = P_2\sin\theta$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 作用・反作用の法則
つりあいの式 \(F_2 = P_2\sin\theta\) に、問(3)で求めた \(P_2 = mg\cos\theta\) を代入します。
$$F_2 = (mg\cos\theta)\sin\theta = mg\sin\theta\cos\theta$$
小物体が斜面を滑り落ちているときも、台は静止しています。これは、小物体が台を右向きに押す力と、床からの摩擦力が釣り合っているためです。(3)で求めた、運動中の小物体が受ける垂直抗力 \(P_2\) を使って、この摩擦力の大きさを計算します。
台が床から受ける静止摩擦力の大きさ \(F_2\) は \(mg\sin\theta\cos\theta\) です。
静止時と運動時で、小物体が台に及ぼす力は \(P_1\) から \(P_2\) に変化するため、台が床から受ける摩擦力も \(F_1\) から \(F_2\) に変化します。状況に応じて力が変化することを理解することが重要です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 複数物体系における運動法則の適用:
- 核心: この問題は、単一の物体ではなく、「小物体」と「台」という2つの物体が相互に力を及ぼしあう系を扱っています。核心となるのは、それぞれの物体に注目し、個別に「力のつりあいの式」または「運動方程式」を立て、それらを「作用・反作用の法則」で結びつけて解く、という一連の思考プロセスです。
- 理解のポイント:
- 着目物体の分離: 複雑な系を、解析したい物体ごとに分離して考える(フリーボディダイアグラムを描く)。
- 力のリストアップ: 着目物体にはたらく力を、重力・張力・垂直抗力・摩擦力など、漏れなくすべてリストアップする。
- 法則の選択: 物体が静止していれば「力のつりあい」、運動していれば「運動方程式」を適用する。
- 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに及ぼす力(作用)と、物体Bが物体Aに及ぼす力(反作用)は、大きさが等しく向きが逆である。本問では、小物体が台から受ける垂直抗力(\(P_1, P_2\))と、台が小物体から受ける力(反作用)がこれにあたります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 人が乗ったエレベーターの運動: 人とエレベーターの2物体を考え、人が床から受ける垂直抗力と、床が人から受ける力が作用・反作用の関係になります。
- 重ねた物体の運動: 机の上の物体Aの上に物体Bを重ねて、Aを押す場合など。AとBの間にはたらく垂直抗力や摩擦力が作用・反作用の関係になります。
- 動く斜面上の物体の運動: 本問と異なり、台も床の上を滑る場合。台の運動も考慮に入れるため、連立する方程式が増え、より複雑になりますが、基本的な考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体系全体の静止・運動の把握: まず、系全体として何が静止し、何が運動しているのかを把握します。これにより、どの物体にどの法則を適用するかが決まります。
- 内力と外力の区別: 物体系の内部で及ぼしあう力(内力、本問では垂直抗力\(P\))と、系の外部から加わる力(外力、重力や張力、摩擦力\(F\))を区別します。内力は作用・反作用のペアで現れます。
- 座標軸の選択: 力を分解する座標軸の取り方で、計算の難易度が大きく変わります。
- 水平・鉛直軸: 複数の物体が水平方向に相互作用する場合や、摩擦力を考える場合に有効(問(2), (4))。
- 斜面方向・垂直軸: 斜面上の運動を直接記述する場合に有効(問(3))。
- 特定の力に垂直な軸: 未知数を減らして立式を簡略化したい場合に有効(問(1)の別解)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用・反作用の混同:
- 誤解: 「力のつりあい」と「作用・反作用」を混同する。例えば、小物体にはたらく垂直抗力\(P_1\)と重力\(mg\)がつりあっている、などと考えてしまう。
- 対策:
- つりあい: 1つの物体にはたらく複数の力の関係。
- 作用・反作用: 2つの物体が互いに及ぼしあう力の関係。
この違いを明確に意識し、フリーボディダイアグラムを描く際に「どの物体にはたらく力か」を主語にして考える習慣をつける。
- 考察対象のすり替え:
- 誤解: 問(2)で台の摩擦力を考えるべきなのに、小物体の力をそのまま使ってしまう。
- 対策: 「今、どの物体について考えているのか?」を常に自問自答する。台の摩擦力\(F_1\)を求めるなら、台にはたらく力だけをリストアップし、その中から水平成分を考える、というように思考を限定する。
- 静止時と運動時の力の違いを無視する:
- 誤解: 糸を切った後も、小物体が台に及ぼす力は静止時と同じ\(P_1\)だと考えてしまう。
- 対策: 状況が変われば、力も変わるのが普通だと認識する。糸が張力を及ぼしている静止時と、重力だけで滑り落ちる運動時では、小物体の状態が全く異なるため、台との間で及ぼしあう垂直抗力も\(P_1\)から\(P_2\)に変化するのは当然と捉える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- フリーボディダイアグラムの徹底: 「小物体」と「台」を別々の紙に描くくらいの意識で、それぞれに働く力を完全に分離して図示する。
- 小物体: 重力、張力(Aのみ)、垂直抗力。
- 台: 重力、床からの垂直抗力、床からの摩擦力、小物体からの垂直抗力の反作用。
- 力の分解図: 1つの力(例:重力\(mg\))を、設定した座標軸に沿った2つの成分(例:\(mg\sin\theta\)と\(mg\cos\theta\))に分解する様子を、破線の長方形で図示すると視覚的に分かりやすい。
- 作用・反作用のペアを色分け: 図を描く際に、作用・反作用の関係にある力のペア(小物体が受ける\(P_1\)と台が受ける\(P_1\)の反作用)を同じ色で描くなどすると、関係性が一目瞭然になる。
- フリーボディダイアグラムの徹底: 「小物体」と「台」を別々の紙に描くくらいの意識で、それぞれに働く力を完全に分離して図示する。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力の矢印の始点: 力の矢印は、その力がはたらく作用点から描く。重力は重心から、接触力(垂直抗力、摩擦力、張力)は接触点や接続点から描く。
- 角度の正確な記入: \(\theta\)や\(\alpha\)といった角度を、力の分解図の中に正確に書き込む。三角関数の選択ミス(sinとcosの混同)を防ぐ基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 \(\sum \vec{F} = 0\):
- 選定理由: [A]全体、および[B]での「台」のように、物体が「静止」している状態を記述するため。
- 適用根拠: 加速度がゼロ (\(\vec{a}=0\)) という物理的状況。運動方程式 \(m\vec{a}=\sum \vec{F}\) の特別な場合と見なせる。
- 運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\):
- 選定理由: [B]での「小物体」のように、物体が「運動」(特に加速度運動)している状態を記述するため。
- 適用根拠: 物体に力がはたらき、ゼロでない加速度 (\(\vec{a} \neq 0\)) が生じている物理的状況。
- 三角関数の加法定理:
- 選定理由: 問(1)の解法1で、連立方程式を解く過程で \(\sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha\) という形が現れたため。
- 適用根拠: この形を \(\sin(\theta+\alpha)\) とまとめることで、式が劇的に簡潔になるという数学的な要請。物理法則ではないが、物理の問題を解く上で強力な数学的ツールとなる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A] 静止状態の解析
- (1) 小物体に着目:
- Step 1: 小物体にはたらく力(重力, 張力\(T\), 垂直抗力\(P_1\))を図示。
- Step 2: 水平・鉛直方向に力を分解し、\(x\)方向と\(y\)方向の力のつりあいの式を2本立てる。
- Step 3: 2本の連立方程式を解き、\(T\)と\(P_1\)を求める。
- (2) 台に着目:
- Step 1: 台にはたらく力(重力, 床からの垂直抗力, 摩擦力\(F_1\), 小物体からの反作用\(P_1\))を図示。
- Step 2: 水平方向の力のつりあいの式を立てる。このとき、台が受ける水平方向の力は\(F_1\)と\(P_1\)の水平成分のみ。
- Step 3: (1)で求めた\(P_1\)を代入し、\(F_1\)を計算する。
- (1) 小物体に着目:
- [B] 運動状態の解析
- (3) 小物体に着目:
- Step 1: 糸が切れた後の小物体にはたらく力(重力, 垂直抗力\(P_2\))を図示。
- Step 2: 斜面方向と斜面垂直方向に力を分解する。
- Step 3: 斜面方向について運動方程式 \(ma_1 = F_{\text{斜面}}\) を立て、\(a_1\)を求める。
- Step 4: 斜面垂直方向について力のつりあいの式を立て、\(P_2\)を求める。
- (4) 台に着目:
- Step 1: 小物体が運動している間に台にはたらく力を図示。小物体から受ける力が\(P_2\)の反作用に変わっていることに注意。
- Step 2: 台は静止しているので、水平方向の力のつりあいの式を立てる。
- Step 3: (3)で求めた\(P_2\)を代入し、\(F_2\)を計算する。
- (3) 小物体に着目:
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- sinとcosの混同防止:
- 特に注意すべき点: 力を分解する際に、角度\(\theta\)がどちら側にあるかを正確に把握し、sinとcosを間違えないようにする。
- 日頃の練習: 力の分解図を描くとき、角度を挟む辺がcos、挟まない辺がsin、と機械的に覚えるのではなく、直角三角形の定義に立ち返って確認する癖をつける。
- 連立方程式の処理:
- 特に注意すべき点: 問(1)のように、文字が多く含まれる連立方程式を解く際には、計算ミスが起こりやすい。
- 日頃の練習: どの文字を消去すれば計算が楽になるか、見通しを立ててから計算を始める。例えば、一方の式を \(T=\dots\) の形に変形して代入する、加減法を使うなど、複数の解法を試す。
- 代入ミス:
- 特に注意すべき点: 問(2)や(4)で、前の設問で求めた \(P_1\) や \(P_2\) を代入する際に、式を写し間違える。
- 日頃の練習: 求めた答えに丸や四角で印をつけ、どの結果を次に使うのかを明確にする。代入する際は、指差し確認するなど慎重に行う。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(T\)と\(P_1\): \(T\)と\(P_1\)の式は、分母が \(\sin(\theta+\alpha)\) となっています。もし \(\theta+\alpha = \pi\) となると、分母が0になり発散します。これは、糸と斜面が一直線になる状況で、つりあいが不可能になることを意味しており、物理的に妥当です。
- (3) \(a_1\)と\(P_2\): \(a_1 = g\sin\theta\), \(P_2 = mg\cos\theta\) は、斜面が水平(\(\theta=0\))なら \(a_1=0, P_2=mg\)、斜面が鉛直(\(\theta=\pi/2\))なら \(a_1=g, P_2=0\) となり、既知の簡単な状況と一致します。
- 次元(単位)の確認:
- 力(\(T, P, F\))の次元は \([M][L][T^{-2}]\) です。求めた答えの式が、\(mg\) や \(mg \times (\text{無次元量})\) の形になっているかを確認する。例えば、\(T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\) は、\(mg\) に無次元の \(\sin\theta/\sin(\theta+\alpha)\) が掛かっているので、次元は力の次元と一致しています。
- 静止時と運動時の比較:
- 一般に、\(P_1\)と\(P_2\)のどちらが大きいかを比較してみることも有効です。糸が物体を上に引っ張り上げるのを助けている分、静止時の垂直抗力\(P_1\)は、運動時の\(P_2\)よりも小さくなる傾向があります(ただし角度\(\alpha\)による)。このように、状況の違いが結果にどう反映されるかを考察する習慣は、物理現象の深い理解に繋がります。
問題12 (名城大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの支柱で支えられた板(棒)のつりあいを扱います。板の上には小物体が置かれており、その位置によって支柱が板に及ぼす垂直抗力の大きさが変化します。剛体のつりあいを考える典型的な問題です。
- 板: 長さ \(8a\)、質量 \(m\)、一様
- 支柱: 支点Cと支点Dで板を支える。
- 距離: AC = DB = \(2a\)。したがって、支点間距離 CD = \(8a – 2a – 2a = 4a\)。
- 小物体: 質量 \(3m\)
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 小物体がAから \(4a\) の位置にあるときの、支点Cでの垂直抗力。
- (2) 小物体がAから \(5a\) の位置にあるとき
- (a) 点Dまわりの力のモーメントのつりあいの式。
- (b) 支点Cでの垂直抗力 \(N_C\)。
- (c) 支点Dでの垂直抗力 \(N_D\)。
- (3) 板が傾きだすときの、小物体と点Dの間の距離 DX。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「剛体のつりあい」です。剛体が静止しているとき、並進運動と回転運動のどちらも起こしません。これを数式で表したものが「つりあいの条件」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 物体にはたらく力のベクトル和がゼロである (\(\sum \vec{F} = 0\))。これにより、物体は並進運動を始めません。
- 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロである (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動を始めません。
- 力のモーメント: 力のモーメントは「力 \(\times\) 腕の長さ」で計算されます。腕の長さとは、回転の中心から力の作用線に下ろした垂線の長さです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、考察の対象である「板」にはたらく力をすべて図示します。これには、板自身の重力、小物体からの力(重力)、支柱からの垂直抗力が含まれます。
- 力のつりあいの式と、力のモーメントのつりあいの式を立てます。力のモーメントのつりあいを考える際、回転の中心はどこに選んでも構いませんが、未知の力がはたらく点(例えば支点CやD)を選ぶと、その力のモーメントが0になり、計算が簡単になります。
- (3)の「板が傾きだした」瞬間は、一方の支柱から垂直抗力が0になる(板が支柱から離れる)直前の状態と考え、つりあいの条件がぎりぎり成り立っているとして式を立てます。
問(1)
思考の道筋とポイント
板にはたらく力は、「板の重力 \(mg\)」「小物体の重力 \(3mg\)」「支点Cからの垂直抗力 \(N_C\)」「支点Dからの垂直抗力 \(N_D\)」の4つです。これらの力がつりあっています。
未知数は \(N_C\) と \(N_D\) の2つなので、方程式が2本必要です。力のつりあいの式と、力のモーメントのつりあいの式を立てます。
力のモーメントのつりあいを考える際、未知の力 \(N_D\) がはたらく点Dを回転の中心に選ぶと、\(N_D\) のモーメントが0になり、\(N_C\) を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 板にはたらく力をすべて図示する。板の重力は中心(Aから \(4a\) の位置)にはたらく。
- 力のモーメントのつりあいを考える際、回転の中心を適切に選ぶことで計算を簡略化する。
具体的な解説と立式
板にはたらく力を図示します。
- 板の重力 \(mg\): 板の中心、つまりAから \(4a\) の位置に鉛直下向きにはたらく。
- 小物体の重力 \(3mg\): Aから \(4a\) の位置に鉛直下向きにはたらく。
- 垂直抗力 \(N_C\): 支点C(Aから \(2a\) の位置)に鉛直上向きにはたらく。
- 垂直抗力 \(N_D\): 支点D(Aから \(6a\) の位置)に鉛直上向きにはたらく。
点Dのまわりの力のモーメントのつりあいを考えます。反時計回りを正とします。
- 板の重力 \(mg\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。時計回りなので、\(-mg \times 2a\)。
- 小物体の重力 \(3mg\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。時計回りなので、\(-3mg \times 2a\)。
- 垂直抗力 \(N_C\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 2a = 4a\)。反時計回りなので、\(N_C \times 4a\)。
- 垂直抗力 \(N_D\) によるモーメント: 点Dにはたらくので腕の長さは0。モーメントは0。
力のモーメントのつりあいの式は、
$$N_C \times 4a – mg \times 2a – 3mg \times 2a = 0$$
これを整理すると、
$$N_C \times 4a = (mg + 3mg) \times 2a$$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
つりあいの式 \(N_C \times 4a = (mg + 3mg) \times 2a\) を \(N_C\) について解きます。
$$N_C \times 4a = 4mg \times 2a$$
$$N_C \times 4a = 8mga$$
両辺を \(4a\) で割ると、
$$N_C = 2mg$$
てこが釣り合う条件を考えます。支点Dをシーソーの軸と考えると、左側にある力(\(N_C\), 板の重力, 小物体の重力)が板を回そうとする効果が釣り合っています。\(N_C\) は板を反時計回りに、重力は時計回りに回そうとします。これらの「回す効果(モーメント)」が等しくなるように式を立てて、\(N_C\) を求めます。
点Cで板が支柱から受ける垂直抗力の大きさは \(2mg\) です。
この問題は対称性が高く、板の重力と小物体の重力がちょうど支点C, Dの中間にはたらいています。そのため、全荷重 \(mg+3mg=4mg\) がCとDに均等に分配され、\(N_C = N_D = 2mg\) となることが予想されます。計算結果はこの予想と一致しており、妥当です。
問(2a)
思考の道筋とポイント
小物体がAから \(5a\) の位置に移動しました。この状態で、点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。問(1)と同様に、各力の作用点と点Dとの距離(腕の長さ)を正確に求め、モーメントを計算します。
この設問における重要なポイント
- 小物体の位置が変わったことによる、力のモーメントの変化を正しく反映させる。
- 腕の長さを正確に計算する。
具体的な解説と立式
板にはたらく力は問(1)と同じですが、小物体の位置が変わります。
- 板の重力 \(mg\): Aから \(4a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。
- 小物体の重力 \(3mg\): Aから \(5a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 5a = a\)。
- 垂直抗力 \(N_C\): Aから \(2a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 2a = 4a\)。
点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式(反時計回りのモーメント = 時計回りのモーメント)は、
$$N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a$$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。
(1)と考え方は同じです。小物体が少し右にずれたので、小物体が板を時計回りに回そうとする効果の「腕の長さ」が変わります。その新しい腕の長さを使って、モーメントのつりあいの式を立て直します。
点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式は \(N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a\) となります。
問(2b)
思考の道筋とポイント
(2a)で立てた力のモーメントのつりあいの式を解いて、垂直抗力 \(N_C\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- (2a)の式を代数的に正しく解く。
具体的な解説と立式
(2a)で立てた式を \(N_C\) について解きます。
$$N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a$$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい
$$N_C \times 4a = 2mga + 3mga$$
$$N_C \times 4a = 5mga$$
両辺を \(4a\) で割ると、
$$N_C = \frac{5}{4}mg$$
(2a)で作った方程式を解くだけです。
垂直抗力 \(N_C\) は \(\frac{5}{4}mg\) です。小物体が右にずれたことで、支点Dに近い方の荷重が増え、遠い方の支点Cの荷重が減ることが予想されます。(1)の \(N_C=2mg\) と比較して、\(N_C\) が減少しており、直感と一致します。
問(2c)
思考の道筋とポイント
垂直抗力 \(N_D\) を求めるには、鉛直方向の力のつりあいの式を立てます。板にはたらく上向きの力(\(N_C\) と \(N_D\))の和と、下向きの力(板の重力と小物体の重力)の和が等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。
- (2b)で求めた \(N_C\) の値を利用する。
具体的な解説と立式
板にはたらく鉛直方向の力のつりあいを考えます。
上向きの力の和 = 下向きの力の和
$$N_C + N_D = mg + 3mg$$
$$N_C + N_D = 4mg$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
この式に(2b)で求めた \(N_C = \frac{5}{4}mg\) を代入して \(N_D\) を求めます。
$$\frac{5}{4}mg + N_D = 4mg$$
$$N_D = 4mg – \frac{5}{4}mg$$
$$N_D = \frac{16-5}{4}mg = \frac{11}{4}mg$$
板全体が上下に動かないので、上向きに支える力(\(N_C\)と\(N_D\)の合計)と、下向きにかかる力(板と小物体の重さの合計)は等しくなります。全体の重さと、(2b)でわかった\(N_C\)の大きさが分かっているので、引き算で\(N_D\)を求めることができます。
垂直抗力 \(N_D\) は \(\frac{11}{4}mg\) です。\(N_C + N_D = \frac{5}{4}mg + \frac{11}{4}mg = \frac{16}{4}mg = 4mg\) となり、全荷重と一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
小物体をさらに右へ動かしていくと、やがて板は支点Dを軸として時計回りに傾き始めます。「傾きだした瞬間」とは、板が支点Cから離れる直前の状態を指します。このとき、支点Cからの垂直抗力 \(N_C\) は0になります。この \(N_C=0\) という条件を使って、力のモーメントのつりあいの式を立て、そのときの小物体の位置を求めます。
この設問における重要なポイント
- 「傾きだす」という現象を、物理的な条件(\(N_C=0\))に置き換える。
- この瞬間も、まだ板は静止している(つりあっている)と考える。
具体的な解説と立式
板が傾きだす瞬間、\(N_C=0\) となります。このときの、点Dから小物体までの距離を \(x\) とします。
この瞬間も点Dのまわりの力のモーメントはつりあっています。
- 板の重力 \(mg\) は、点Dの左側にあるので、板を反時計回りに回そうとします。腕の長さは \(2a\) なので、モーメントは \(mg \times 2a\)。
- 小物体の重力 \(3mg\) は、点Dの右側にあるので、板を時計回りに回そうとします。腕の長さは \(x\) なので、モーメントは \(-3mg \times x\)。
力のモーメントのつりあいの式は、
$$mg \times 2a – 3mg \times x = 0$$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい
- 剛体が傾く条件
つりあいの式 \(mg \times 2a = 3mg \times x\) を \(x\) について解きます。
両辺の \(mg\) を消去すると、
$$2a = 3x$$
$$x = \frac{2}{3}a$$
この \(x\) は、求めたい距離 DX に相当します。
シーソーの片方が浮き上がる瞬間を考えます。小物体をどんどん右にずらしていくと、やがて左側の支点Cが浮き上がります。この浮き上がる直前では、支点Dを軸として、板の重さが板を左に回そうとする効果と、小物体の重さが板を右に回そうとする効果が、ちょうど釣り合っています。この釣り合いの式から、小物体の位置を求めます。
距離 DX は \(\frac{2}{3}a\) です。この位置より少しでも右に小物体がずれると、時計回りのモーメントが反時計回りのモーメントを上回り、板は傾き始めます。物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつりあいの条件:
- 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体)が静止し続けるための条件を問うています。その条件は、以下の2つを同時に満たすことです。
- 力のつりあい: 物体にはたらく力のベクトル和がゼロ (\(\sum \vec{F} = 0\))。これにより、物体は並進運動しません。
- 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロ (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動しません。
- 理解のポイント: 棒や板のつりあいの問題では、特に「力のモーメントのつりあい」が中心的な役割を果たします。未知数が複数ある場合、力のつりあいの式と力のモーメントのつりあいの式を連立させて解くのが基本戦略です。
- 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体)が静止し続けるための条件を問うています。その条件は、以下の2つを同時に満たすことです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- はしごのつりあい: 壁に立てかけたはしごが滑らない条件を考える問題。はしごにはたらく重力、垂直抗力(壁と床から)、摩擦力(床から)を考え、力のつりあいとモーメントのつりあいを適用します。
- ドアの蝶番にはたらく力: ドアを開閉する蝶番(ちょうつがい)がドアを支える力を求める問題。ドアの重力と、上下2つの蝶番からの力を考え、モーメントのつりあいからそれぞれの力を計算します。
- クレーンやシーソーのつりあい: 物体を吊り上げるクレーンや、人が乗ったシーソーなど、回転軸が明確な剛体のつりあい問題全般。
- 初見の問題での着眼点:
- 回転の中心の選び方: 力のモーメントのつりあいの式は、どの点を中心に考えても成り立ちます。しかし、計算を簡単にするためには、「未知の力がはたらく点」や「複数の力がはたらく点」を回転の中心に選ぶのがセオリーです。その点にはたらく力のモーメントは0になるため、式が簡潔になります。本問では、支点CやDを回転の中心に選ぶのが有効です。
- 「傾きだす」「滑りだす」の解釈:
- 「傾きだす瞬間」→ 一方の支点(または接触点)から垂直抗力が0になる直前。(\(N=0\))
- 「滑りだす瞬間」→ 静止摩擦力が最大静止摩擦力になる直前。(\(f = \mu N\))
これらのキーワードを、つりあいの限界状態を表す数式に翻訳する能力が重要です。
- 対称性の利用: 本問の(1)のように、荷重が対称な位置にある場合、支点にはたらく力も対称になることがあります。検算や大まかな値の予測に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のモーメントの腕の長さの間違い:
- 誤解: 回転の中心から力の作用点までの距離を、そのまま腕の長さとしてしまう。
- 対策: 腕の長さは「回転の中心から、力の作用線(力の向きに沿った直線)へ下ろした垂線の長さ」であると正確に定義を覚える。力が斜めにはたらく場合は特に注意が必要です(本問では全ての力が鉛直なので、水平距離が腕の長さになります)。
- 力のモーメントの符号(回転の向き)の間違い:
- 誤解: すべてのモーメントを同じ符号で足してしまう。
- 対策: 自分で「反時計回りを正」などと基準を決め、それぞれの力が物体をどちら向きに回転させようとするかを一つずつ丁寧に確認する。図に回転方向の矢印を書き込むとミスが減ります。
- 力の描き忘れ・余計な力の描き込み:
- 誤解: 板自身の重力を忘れる、あるいは小物体にはたらく力を直接板にはたらく力として描いてしまう。
- 対策: 考察対象の物体(この場合は板)を一つだけ選び、その物体が「直接」接しているものと、「遠隔で」力を及ぼすもの(重力)をリストアップする。小物体は板に接しているので、小物体が板を押す力(重力と同じ大きさ)を描きます。
- 力のつりあいだけで解こうとする:
- 誤解: 剛体の問題なのに、力のつりあいの式 (\(\sum F = 0\)) だけで解こうとして、未知数が消せずに詰まってしまう。
- 対策: 剛体のつりあいは「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」がセットであると常に意識する。方程式が足りないと感じたら、モーメントのつりあいを立てていない可能性を疑う。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): 板を一本の線として描き、その上にはたらく全ての力を矢印で示す。
- 重力: 板の重心(中心)から下向きに \(mg\)。小物体が板を押す力は、小物体の位置から下向きに \(3mg\)。
- 垂直抗力: 支点CとDから上向きに \(N_C, N_D\)。
- 腕の長さの明記: 回転の中心(例:点D)を決め、そこから各力の作用点までの距離を図に書き込む。これがモーメント計算の基礎情報になります。
- シーソーのイメージ: 力のモーメントのつりあいは、シーソーが釣り合っている状態をイメージすると直感的に理解しやすいです。回転の中心をシーソーの支点、力をシーソーに乗る人の重さと考えます。
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): 板を一本の線として描き、その上にはたらく全ての力を矢印で示す。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 作用点の正確さ: 一様な板の重力は、必ずその中心(重心)にはたらきます。この作用点の位置を間違えると、モーメントの計算がすべて狂ってしまいます。
- 記号の明確化: \(N_C, N_D\) など、どの支点からの垂直抗力なのかを添え字で明確に区別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつりあいの式 \(\sum M = 0\):
- 選定理由: 物体が回転せずに静止している状態を記述するため。力のつりあいの式だけでは、未知の垂直抗力(\(N_C, N_D\))を特定できないため、もう一つの方程式として必要になります。
- 適用根拠: 剛体が回転していない、すなわち角加速度がゼロであるという物理的状況。
- 力のつりあいの式 \(\sum F_y = 0\):
- 選定理由: 鉛直方向の並進運動が起きていない状態を記述するため。問(2c)のように、一方の垂直抗力がモーメントの式から求まった後、もう一方を求める際に有効です。
- 適用根拠: 剛体が上下に動かない、すなわち鉛直方向の加速度がゼロであるという物理的状況。
- 傾きだす条件 \(N_C=0\):
- 選定理由: 問(3)で「板が傾きだした瞬間」という限界状態を扱うため。
- 適用根拠: 板が支点Dを軸に回転するということは、反対側の支点Cでは板が浮き上がり、支柱との接触がなくなることを意味します。接触がなくなれば、そこから力が及ぼされることはないので、垂直抗力は0になります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 基本設定: 考察対象は「板」。板にはたらく力(板の重力、小物体の重力、垂直抗力\(N_C, N_D\))を特定し、作用点を図示する。
- 問(1) 小物体がAから\(4a\)の位置:
- Step 1: 未知数 \(N_D\) を消すため、点Dを回転の中心に選ぶ。
- Step 2: 点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。(\(N_C\)のモーメント) = (2つの重力のモーメントの和)
- Step 3: 式を解いて \(N_C\) を求める。
- 問(2) 小物体がAから\(5a\)の位置:
- (a) 式の記述: Step 1, 2 と同様に、小物体の位置を変えて点Dのまわりのモーメントのつりあいの式を立てる。
- (b) \(N_C\)の計算: (a)で立てた式を解いて \(N_C\) を求める。
- (c) \(N_D\)の計算: 未知数が \(N_D\) のみになったので、簡単な鉛直方向の力のつりあいの式 (\(N_C+N_D = \text{全重量}\)) を立て、(b)の結果を代入して \(N_D\) を求める。
- 問(3) 傾きだす瞬間:
- Step 1: 「傾きだす」を「\(N_C=0\)」と物理的に解釈する。
- Step 2: 小物体と点Dの距離を未知数 \(x\) とする。
- Step 3: \(N_C=0\) の条件の下で、点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。(板の重力のモーメント) = (小物体の重力のモーメント)
- Step 4: 式を解いて \(x\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 腕の長さの計算ミス防止:
- 特に注意すべき点: 座標軸を明確に設定する。例えば、板の左端Aを原点とすると、各力の作用点の座標は、C: \(2a\), 板の重心: \(4a\), D: \(6a\) となります。回転の中心をD(座標\(6a\))とすれば、各力の腕の長さは座標の差の絶対値として機械的に計算でき、ミスが減ります。
- 日頃の練習: 図に座標軸と各点の座標を書き込む練習をする。
- 単位と文字の整理:
- 特に注意すべき点: この問題では \(mg\) と \(a\) が基本的な単位の役割を果たします。計算の最終結果が「(数値) \(\times mg\)」や「(数値) \(\times a\)」の形になることを意識すると、途中の計算間違いに気づきやすくなります。
- 日頃の練習: 計算の各段階で、文字 \(m, g, a\) を省略せずに書く。
- 検算の習慣:
- 特に注意すべき点: 問(2)では、\(N_C\) と \(N_D\) を求めた後、それらの和が全重量 \(4mg\) になるかを確認することで検算ができます。また、点Cまわりのモーメントのつりあいを立てて \(N_D\) を計算し、同じ結果になるか確かめることも有効です。
- 日頃の練習: 1つの問題を解いた後、別の方法(例:別の点を中心としたモーメント計算)で解いてみて、同じ答えになるか確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1)と(2)の比較: 小物体を(1)の位置(\(4a\))から(2)の位置(\(5a\))へ、つまり支点Dに近づけると、\(N_C\) は \(2mg\) から \(\frac{5}{4}mg\) へ減少し、\(N_D\) は \(2mg\) から \(\frac{11}{4}mg\) へ増加した。これは、荷重が近づいた方の支点がより大きな力を負担するという直感と一致しており、妥当です。
- (3) 傾く位置: 傾くときの距離DXが \(\frac{2}{3}a\) となった。これは支点Dから右側の領域(DB間、長さ\(2a\))の内側にある。もし計算結果が \(2a\) を超えるようなら、小物体が板から落ちた後なので物理的におかしい、と判断できます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし小物体がなければ (\(3m=0\)): 板の重力 \(mg\) は中心にはたらくので、\(N_C=N_D=mg/2\) となるはず。
- もし小物体が支点Dの真上にあれば: \(N_D\) が \(3mg\) 増え、\(N_C\) は変化しないと考えるのは間違い。モーメントのつりあいから、\(N_C\) は減少し、\(N_D\) は \(3mg\) 以上に増加します。実際に計算してみると、\(N_C = mg/2\), \(N_D = 7mg/2\) となります。このように、具体的な状況を仮定して計算してみることで、理解が深まります。
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