「重要問題集」徹底解説(11〜15問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題11 (山形大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、あらい床の上の斜面台と、その上の小物体の2物体に関する力のつりあい、および運動を扱います。前半[A]は全体が静止している状況、後半[B]は小物体が運動し台が静止している状況を考えます。それぞれの物体にはたらく力を正確に図示し、適切な法則(力のつりあい、運動方程式)を適用することが求められます。

与えられた条件
    • 小物体: 質量 \(m\)、なめらかな斜面上に位置
    • 台: 質量 \(M\)、あらい水平な床の上に静止
    • 斜面の角度: \(\theta\)
    • 糸: 小物体を斜め上方に引く。鉛直方向とのなす角 \(\alpha\)
    • 静止摩擦係数: \(\mu\) (台と床の間)
    • 重力加速度: \(g\)
  • 状況[A]: 小物体も台も静止している。
  • 状況[B]: 糸を切った後、小物体は運動するが、台は静止している。
問われていること
  • [A] 静止時
    • (1) 糸の張力 \(T\) と小物体が受ける垂直抗力 \(P_1\)
    • (2) 台が床から受ける静止摩擦力 \(F_1\)
  • [B] 糸を切った後
    • (3) 小物体の加速度 \(a_1\) と垂直抗力 \(P_2\)
    • (4) 台が床から受ける静止摩擦力 \(F_2\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数物体系の力学」です。2つの物体「小物体」と「台」それぞれに着目し、力を図示して方程式を立てることが基本戦略となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロです (\(\sum \vec{F} = 0\))。
  2. 運動方程式: 運動している物体については、運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) を立てます。
  3. 作用・反作用の法則: 小物体が台を押す力と、台が小物体を押す力(垂直抗力)は、大きさが等しく向きが逆です。この関係が、2つの物体の運動を関連付けます。
  4. 力の分解: 力を適切な方向(水平・鉛直、または斜面方向・垂直方向)に分解することで、スカラー量としての方程式を立てやすくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [A]では、まず小物体にはたらく3つの力(重力、張力、垂直抗力)のつりあいを考え、\(T\)と\(P_1\)を求めます。次に、台にはたらく力(重力、床からの垂直抗力、摩擦力、小物体からの力の反作用)のつりあいを考え、\(F_1\)を求めます。
  2. [B]では、糸が切れた後の小物体の運動に着目し、運動方程式と力のつりあいの式から\(a_1\)と\(P_2\)を求めます。次に、運動中の小物体から力を受けても静止し続けている台の力のつりあいを考え、\(F_2\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
静止している小物体にはたらく力は、「重力 \(mg\)」「糸の張力 \(T\)」「斜面からの垂直抗力 \(P_1\)」の3つです。これらの力がつりあっているので、ベクトル和がゼロになります。このベクトル方程式を解くために、力を成分に分解して連立方程式を立てます。分解する軸の選び方によって、計算の複雑さが変わります。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「小物体」に絞る。
  • 小物体にはたらく3つの力を正確に図示する。
  • 力を分解する座標軸を適切に設定する(水平・鉛直、または他の便利な方向)。

問(1) 解法1:水平・鉛直方向での力のつりあい

具体的な解説と立式
小物体にはたらく3つの力を、水平右向きをx軸正、鉛直上向きをy軸正として成分分解します。

  • 重力 \(mg\): (0, \(-mg\))
  • 張力 \(T\): (\(T\sin\alpha\), \(T\cos\alpha\))
  • 垂直抗力 \(P_1\): (\(-P_1\sin\theta\), \(P_1\cos\theta\))

x方向、y方向それぞれの力のつりあいの式を立てます。

x方向: \(T\sin\alpha – P_1\sin\theta = 0 \quad \rightarrow \quad P_1\sin\theta = T\sin\alpha \quad \cdots ①\)

y方向: \(T\cos\alpha + P_1\cos\theta – mg = 0 \quad \rightarrow \quad P_1\cos\theta + T\cos\alpha = mg \quad \cdots ②\)

この連立方程式①, ②を解くことで、\(T\)と\(P_1\)が求まります。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)
  • 力の分解
  • 三角関数の加法定理: \(\sin(\theta+\alpha) = \sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha\)
計算過程

未知数 \(T\) と \(P_1\) を含む連立方程式①, ②を解きます。
まず \(T\) を消去して \(P_1\) を求めます。

① \(\times \cos\alpha\): \(P_1\sin\theta\cos\alpha = T\sin\alpha\cos\alpha\)

② \(\times \sin\alpha\): \(P_1\cos\theta\sin\alpha + T\cos\alpha\sin\alpha = mg\sin\alpha\)

この2式を辺々足し合わせると、
$$P_1(\sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha) = mg\sin\alpha$$
左辺に加法定理を適用すると、
$$P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha$$
よって、
$$P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
次に、この結果を式①に代入して \(T\) を求めます。
$$T = \frac{P_1\sin\theta}{\sin\alpha} = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \cdot \frac{\sin\theta}{\sin\alpha}$$
$$T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$

問(1) 解法2 (別解):張力と垂直な方向での力のつりあい

具体的な解説と立式
未知数が2つある場合、一方の未知数(ここでは\(T\))と垂直な軸で力のつりあいを考えると、その未知数が式から消え、もう一方の未知数(\(P_1\))を直接求められます。
糸の張力\(T\)と垂直な方向で力のつりあいを考えます。

  • 張力 \(T\): この方向の成分は0。
  • 重力 \(mg\): この方向の成分は \(mg\sin\alpha\)。
  • 垂直抗力 \(P_1\): この方向の成分は \(P_1\sin(\theta+\alpha)\)。

これらの力のつりあいの式は、
$$P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha$$
この式から \(P_1\) が直接求まります。

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 力の分解
計算過程

つりあいの式 \(P_1\sin(\theta+\alpha) = mg\sin\alpha\) を \(P_1\) について解くと、
$$P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
\(T\) を求めるには、解法1の式① \(T = \frac{P_1\sin\theta}{\sin\alpha}\) を使うのが効率的です。
$$T = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \cdot \frac{\sin\theta}{\sin\alpha} = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$

計算方法の平易な説明

小物体は動かないので、力が釣り合っています。これを解くには、水平・鉛直方向で考える方法(解法1)と、計算が楽になるように斜めの軸を設定する方法(解法2)があります。解法2では、張力と垂直な方向で考えると、張力が計算から消えて、垂直抗力だけをすぐに求めることができます。

結論と吟味

糸の張力 \(T\) と垂直抗力 \(P_1\) はそれぞれ、
$$T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}, \quad P_1 = \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}$$
となります。分母の \(\sin(\theta+\alpha)\) は、条件より \(0 < \theta+\alpha < \pi\) なので常に正です。結果が物理的に意味のある値になることがわかります。

解答 (1) \(T = \displaystyle\frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\), \(P_1 = \displaystyle\frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
次に考察の対象を「台」に移します。台も静止しているので、台にはたらく力はつりあっています。特に、水平方向の力のつりあいを考えることで、床からの静止摩擦力 \(F_1\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「台」に絞る。
  • 作用・反作用の法則を正しく適用する。台が小物体から受ける力は、小物体が台から受ける垂直抗力 \(P_1\) の反作用である。
  • 静止摩擦力は、他の水平方向の力とつりあうために必要な力として決まる。

具体的な解説と立式
台にはたらく水平方向の力は以下の2つです。

  • 床からの静止摩擦力 \(F_1\): 向きはつりあいから決まる。ここでは左向きと仮定する。
  • 小物体から受ける力(\(P_1\)の反作用)の水平成分: 小物体は台から左上向きに \(P_1\) の力で押されているので、その反作用として、台は小物体から右下向きに \(P_1\) の力で押される。この力の水平成分は、右向きに \(P_1\sin\theta\)。

台の水平方向の力のつりあいの式は、
$$F_1 = P_1\sin\theta$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 作用・反作用の法則
計算過程

つりあいの式 \(F_1 = P_1\sin\theta\) に、問(1)で求めた \(P_1\) の式を代入します。
$$F_1 = \left( \frac{mg\sin\alpha}{\sin(\theta+\alpha)} \right) \sin\theta = \frac{mg\sin\alpha\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}$$

計算方法の平易な説明

台が床の上で静止しているのは、小物体から右向きに押される力と、床から左向きに働く摩擦力がちょうど釣り合っているからです。小物体が台を押す力は、(1)で求めた垂直抗力 \(P_1\) から計算できます。

結論と吟味

台が床から受ける静止摩擦力の大きさ \(F_1\) は \(\frac{mg\sin\alpha\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\) です。
この値は正なので、仮定した通り摩擦力は左向きにはたらいていることがわかります。

解答 (2) \(F_1 = \displaystyle\frac{mg\sin\alpha\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
[B]では糸を静かに切ります。小物体はなめらかな斜面を滑り落ち、等加速度運動を始めます。台は静止したままなので、小物体の運動は斜面方向に限られます。斜面方向の運動方程式と、斜面と垂直な方向の力のつりあいの式を立てることで、加速度 \(a_1\) と新しい垂直抗力 \(P_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動方向(斜面方向)とそれに垂直な方向に分けて考える。
  • 運動方向については運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
  • 運動と垂直な方向については力のつりあいの式を立てる。

具体的な解説と立式
糸が切れた後、小物体にはたらく力は「重力 \(mg\)」と「垂直抗力 \(P_2\)」の2つです。
力を斜面方向と斜面垂直方向に分解します。

  • 斜面方向(下向きを正とする):
    重力の成分 \(mg\sin\theta\) のみがはたらく。運動方程式は、
    $$ma_1 = mg\sin\theta$$
  • 斜面垂直方向:
    垂直抗力 \(P_2\) と重力の成分 \(mg\cos\theta\) がつりあっている。
    $$P_2 = mg\cos\theta$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 力のつりあい
計算過程

運動方程式 \(ma_1 = mg\sin\theta\) の両辺を \(m\) で割ると、
$$a_1 = g\sin\theta$$
力のつりあいの式から、
$$P_2 = mg\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

糸が切れると、小物体は自身の重みによって斜面を滑り落ちます。斜面方向の力は重力の一部分だけなので、その力を使って運動方程式を立てれば加速度がわかります。また、小物体は斜面にめり込んだり、飛び上がったりはしないので、斜面を押す力と押し返される力(垂直抗力)は釣り合っています。

結論と吟味

小物体の加速度 \(a_1\) は \(g\sin\theta\)、垂直抗力 \(P_2\) は \(mg\cos\theta\) です。
これは、なめらかな斜面を滑る物体の最も基本的な運動であり、よく知られた結果と一致します。

解答 (3) \(a_1 = g\sin\theta\), \(P_2 = mg\cos\theta\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小物体が運動している間も、台は静止し続けています。したがって、問(2)と同様に、台にはたらく水平方向の力のつりあいを考えます。小物体から受ける力が、静止時の \(P_1\) から運動時の \(P_2\) に変わったことに注意します。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象は再び「台」。
  • 台は静止しているので、力のつりあいを考える。
  • 小物体から受ける力は、(3)で求めた垂直抗力 \(P_2\) の反作用である。

具体的な解説と立式
台にはたらく水平方向の力は、問(2)と同様に以下の2つです。

  • 床からの静止摩擦力 \(F_2\): 左向きと仮定する。
  • 小物体から受ける力(\(P_2\)の反作用)の水平成分: 右向きに \(P_2\sin\theta\)。

台の水平方向の力のつりあいの式は、
$$F_2 = P_2\sin\theta$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 作用・反作用の法則
計算過程

つりあいの式 \(F_2 = P_2\sin\theta\) に、問(3)で求めた \(P_2 = mg\cos\theta\) を代入します。
$$F_2 = (mg\cos\theta)\sin\theta = mg\sin\theta\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

小物体が斜面を滑り落ちているときも、台は静止しています。これは、小物体が台を右向きに押す力と、床からの摩擦力が釣り合っているためです。(3)で求めた、運動中の小物体が受ける垂直抗力 \(P_2\) を使って、この摩擦力の大きさを計算します。

結論と吟味

台が床から受ける静止摩擦力の大きさ \(F_2\) は \(mg\sin\theta\cos\theta\) です。
静止時と運動時で、小物体が台に及ぼす力は \(P_1\) から \(P_2\) に変化するため、台が床から受ける摩擦力も \(F_1\) から \(F_2\) に変化します。状況に応じて力が変化することを理解することが重要です。

解答 (4) \(F_2 = mg\sin\theta\cos\theta\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 複数物体系における運動法則の適用:
    • 核心: この問題は、単一の物体ではなく、「小物体」と「台」という2つの物体が相互に力を及ぼしあう系を扱っています。核心となるのは、それぞれの物体に注目し、個別に「力のつりあいの式」または「運動方程式」を立て、それらを「作用・反作用の法則」で結びつけて解く、という一連の思考プロセスです。
    • 理解のポイント:
      1. 着目物体の分離: 複雑な系を、解析したい物体ごとに分離して考える(フリーボディダイアグラムを描く)。
      2. 力のリストアップ: 着目物体にはたらく力を、重力・張力・垂直抗力・摩擦力など、漏れなくすべてリストアップする。
      3. 法則の選択: 物体が静止していれば「力のつりあい」、運動していれば「運動方程式」を適用する。
      4. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに及ぼす力(作用)と、物体Bが物体Aに及ぼす力(反作用)は、大きさが等しく向きが逆である。本問では、小物体が台から受ける垂直抗力(\(P_1, P_2\))と、台が小物体から受ける力(反作用)がこれにあたります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人が乗ったエレベーターの運動: 人とエレベーターの2物体を考え、人が床から受ける垂直抗力と、床が人から受ける力が作用・反作用の関係になります。
    • 重ねた物体の運動: 机の上の物体Aの上に物体Bを重ねて、Aを押す場合など。AとBの間にはたらく垂直抗力や摩擦力が作用・反作用の関係になります。
    • 動く斜面上の物体の運動: 本問と異なり、台も床の上を滑る場合。台の運動も考慮に入れるため、連立する方程式が増え、より複雑になりますが、基本的な考え方は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体系全体の静止・運動の把握: まず、系全体として何が静止し、何が運動しているのかを把握します。これにより、どの物体にどの法則を適用するかが決まります。
    2. 内力と外力の区別: 物体系の内部で及ぼしあう力(内力、本問では垂直抗力\(P\))と、系の外部から加わる力(外力、重力や張力、摩擦力\(F\))を区別します。内力は作用・反作用のペアで現れます。
    3. 座標軸の選択: 力を分解する座標軸の取り方で、計算の難易度が大きく変わります。
      • 水平・鉛直軸: 複数の物体が水平方向に相互作用する場合や、摩擦力を考える場合に有効(問(2), (4))。
      • 斜面方向・垂直軸: 斜面上の運動を直接記述する場合に有効(問(3))。
      • 特定の力に垂直な軸: 未知数を減らして立式を簡略化したい場合に有効(問(1)の別解)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の混同:
    • 誤解: 「力のつりあい」と「作用・反作用」を混同する。例えば、小物体にはたらく垂直抗力\(P_1\)と重力\(mg\)がつりあっている、などと考えてしまう。
    • 対策:
      • つりあい: 1つの物体にはたらく複数の力の関係。
      • 作用・反作用: 2つの物体が互いに及ぼしあう力の関係。

      この違いを明確に意識し、フリーボディダイアグラムを描く際に「どの物体にはたらく力か」を主語にして考える習慣をつける。

  • 考察対象のすり替え:
    • 誤解: 問(2)で台の摩擦力を考えるべきなのに、小物体の力をそのまま使ってしまう。
    • 対策: 「今、どの物体について考えているのか?」を常に自問自答する。台の摩擦力\(F_1\)を求めるなら、台にはたらく力だけをリストアップし、その中から水平成分を考える、というように思考を限定する。
  • 静止時と運動時の力の違いを無視する:
    • 誤解: 糸を切った後も、小物体が台に及ぼす力は静止時と同じ\(P_1\)だと考えてしまう。
    • 対策: 状況が変われば、力も変わるのが普通だと認識する。糸が張力を及ぼしている静止時と、重力だけで滑り落ちる運動時では、小物体の状態が全く異なるため、台との間で及ぼしあう垂直抗力も\(P_1\)から\(P_2\)に変化するのは当然と捉える。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラムの徹底: 「小物体」と「台」を別々の紙に描くくらいの意識で、それぞれに働く力を完全に分離して図示する。
      • 小物体: 重力、張力(Aのみ)、垂直抗力。
      • : 重力、床からの垂直抗力、床からの摩擦力、小物体からの垂直抗力の反作用。
    • 力の分解図: 1つの力(例:重力\(mg\))を、設定した座標軸に沿った2つの成分(例:\(mg\sin\theta\)と\(mg\cos\theta\))に分解する様子を、破線の長方形で図示すると視覚的に分かりやすい。
    • 作用・反作用のペアを色分け: 図を描く際に、作用・反作用の関係にある力のペア(小物体が受ける\(P_1\)と台が受ける\(P_1\)の反作用)を同じ色で描くなどすると、関係性が一目瞭然になる。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の矢印の始点: 力の矢印は、その力がはたらく作用点から描く。重力は重心から、接触力(垂直抗力、摩擦力、張力)は接触点や接続点から描く。
    • 角度の正確な記入: \(\theta\)や\(\alpha\)といった角度を、力の分解図の中に正確に書き込む。三角関数の選択ミス(sinとcosの混同)を防ぐ基本です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあいの式 \(\sum \vec{F} = 0\):
    • 選定理由: [A]全体、および[B]での「台」のように、物体が「静止」している状態を記述するため。
    • 適用根拠: 加速度がゼロ (\(\vec{a}=0\)) という物理的状況。運動方程式 \(m\vec{a}=\sum \vec{F}\) の特別な場合と見なせる。
  • 運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\):
    • 選定理由: [B]での「小物体」のように、物体が「運動」(特に加速度運動)している状態を記述するため。
    • 適用根拠: 物体に力がはたらき、ゼロでない加速度 (\(\vec{a} \neq 0\)) が生じている物理的状況。
  • 三角関数の加法定理:
    • 選定理由: 問(1)の解法1で、連立方程式を解く過程で \(\sin\theta\cos\alpha + \cos\theta\sin\alpha\) という形が現れたため。
    • 適用根拠: この形を \(\sin(\theta+\alpha)\) とまとめることで、式が劇的に簡潔になるという数学的な要請。物理法則ではないが、物理の問題を解く上で強力な数学的ツールとなる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] 静止状態の解析
    • (1) 小物体に着目:
      • Step 1: 小物体にはたらく力(重力, 張力\(T\), 垂直抗力\(P_1\))を図示。
      • Step 2: 水平・鉛直方向に力を分解し、\(x\)方向と\(y\)方向の力のつりあいの式を2本立てる。
      • Step 3: 2本の連立方程式を解き、\(T\)と\(P_1\)を求める。
    • (2) 台に着目:
      • Step 1: 台にはたらく力(重力, 床からの垂直抗力, 摩擦力\(F_1\), 小物体からの反作用\(P_1\))を図示。
      • Step 2: 水平方向の力のつりあいの式を立てる。このとき、台が受ける水平方向の力は\(F_1\)と\(P_1\)の水平成分のみ。
      • Step 3: (1)で求めた\(P_1\)を代入し、\(F_1\)を計算する。
  2. [B] 運動状態の解析
    • (3) 小物体に着目:
      • Step 1: 糸が切れた後の小物体にはたらく力(重力, 垂直抗力\(P_2\))を図示。
      • Step 2: 斜面方向と斜面垂直方向に力を分解する。
      • Step 3: 斜面方向について運動方程式 \(ma_1 = F_{\text{斜面}}\) を立て、\(a_1\)を求める。
      • Step 4: 斜面垂直方向について力のつりあいの式を立て、\(P_2\)を求める。
    • (4) 台に着目:
      • Step 1: 小物体が運動している間に台にはたらく力を図示。小物体から受ける力が\(P_2\)の反作用に変わっていることに注意。
      • Step 2: 台は静止しているので、水平方向の力のつりあいの式を立てる。
      • Step 3: (3)で求めた\(P_2\)を代入し、\(F_2\)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • sinとcosの混同防止:
    • 特に注意すべき点: 力を分解する際に、角度\(\theta\)がどちら側にあるかを正確に把握し、sinとcosを間違えないようにする。
    • 日頃の練習: 力の分解図を描くとき、角度を挟む辺がcos、挟まない辺がsin、と機械的に覚えるのではなく、直角三角形の定義に立ち返って確認する癖をつける。
  • 連立方程式の処理:
    • 特に注意すべき点: 問(1)のように、文字が多く含まれる連立方程式を解く際には、計算ミスが起こりやすい。
    • 日頃の練習: どの文字を消去すれば計算が楽になるか、見通しを立ててから計算を始める。例えば、一方の式を \(T=\dots\) の形に変形して代入する、加減法を使うなど、複数の解法を試す。
  • 代入ミス:
    • 特に注意すべき点: 問(2)や(4)で、前の設問で求めた \(P_1\) や \(P_2\) を代入する際に、式を写し間違える。
    • 日頃の練習: 求めた答えに丸や四角で印をつけ、どの結果を次に使うのかを明確にする。代入する際は、指差し確認するなど慎重に行う。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) \(T\)と\(P_1\): \(T\)と\(P_1\)の式は、分母が \(\sin(\theta+\alpha)\) となっています。もし \(\theta+\alpha = \pi\) となると、分母が0になり発散します。これは、糸と斜面が一直線になる状況で、つりあいが不可能になることを意味しており、物理的に妥当です。
    • (3) \(a_1\)と\(P_2\): \(a_1 = g\sin\theta\), \(P_2 = mg\cos\theta\) は、斜面が水平(\(\theta=0\))なら \(a_1=0, P_2=mg\)、斜面が鉛直(\(\theta=\pi/2\))なら \(a_1=g, P_2=0\) となり、既知の簡単な状況と一致します。
  • 次元(単位)の確認:
    • 力(\(T, P, F\))の次元は \([M][L][T^{-2}]\) です。求めた答えの式が、\(mg\) や \(mg \times (\text{無次元量})\) の形になっているかを確認する。例えば、\(T = \frac{mg\sin\theta}{\sin(\theta+\alpha)}\) は、\(mg\) に無次元の \(\sin\theta/\sin(\theta+\alpha)\) が掛かっているので、次元は力の次元と一致しています。
  • 静止時と運動時の比較:
    • 一般に、\(P_1\)と\(P_2\)のどちらが大きいかを比較してみることも有効です。糸が物体を上に引っ張り上げるのを助けている分、静止時の垂直抗力\(P_1\)は、運動時の\(P_2\)よりも小さくなる傾向があります(ただし角度\(\alpha\)による)。このように、状況の違いが結果にどう反映されるかを考察する習慣は、物理現象の深い理解に繋がります。

問題12 (名城大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの支柱で支えられた板(棒)のつりあいを扱います。板の上には小物体が置かれており、その位置によって支柱が板に及ぼす垂直抗力の大きさが変化します。剛体のつりあいを考える典型的な問題です。

与えられた条件
  • 板: 長さ \(8a\)、質量 \(m\)、一様
  • 支柱: 支点Cと支点Dで板を支える。
  • 距離: AC = DB = \(2a\)。したがって、支点間距離 CD = \(8a – 2a – 2a = 4a\)。
  • 小物体: 質量 \(3m\)
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 小物体がAから \(4a\) の位置にあるときの、支点Cでの垂直抗力。
  • (2) 小物体がAから \(5a\) の位置にあるとき
    • (a) 点Dまわりの力のモーメントのつりあいの式。
    • (b) 支点Cでの垂直抗力 \(N_C\)。
    • (c) 支点Dでの垂直抗力 \(N_D\)。
  • (3) 板が傾きだすときの、小物体と点Dの間の距離 DX。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「剛体のつりあい」です。剛体が静止しているとき、並進運動と回転運動のどちらも起こしません。これを数式で表したものが「つりあいの条件」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 物体にはたらく力のベクトル和がゼロである (\(\sum \vec{F} = 0\))。これにより、物体は並進運動を始めません。
  2. 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロである (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動を始めません。
  3. 力のモーメント: 力のモーメントは「力 \(\times\) 腕の長さ」で計算されます。腕の長さとは、回転の中心から力の作用線に下ろした垂線の長さです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、考察の対象である「板」にはたらく力をすべて図示します。これには、板自身の重力、小物体からの力(重力)、支柱からの垂直抗力が含まれます。
  2. 力のつりあいの式と、力のモーメントのつりあいの式を立てます。力のモーメントのつりあいを考える際、回転の中心はどこに選んでも構いませんが、未知の力がはたらく点(例えば支点CやD)を選ぶと、その力のモーメントが0になり、計算が簡単になります。
  3. (3)の「板が傾きだした」瞬間は、一方の支柱から垂直抗力が0になる(板が支柱から離れる)直前の状態と考え、つりあいの条件がぎりぎり成り立っているとして式を立てます。

問(1)

思考の道筋とポイント
板にはたらく力は、「板の重力 \(mg\)」「小物体の重力 \(3mg\)」「支点Cからの垂直抗力 \(N_C\)」「支点Dからの垂直抗力 \(N_D\)」の4つです。これらの力がつりあっています。
未知数は \(N_C\) と \(N_D\) の2つなので、方程式が2本必要です。力のつりあいの式と、力のモーメントのつりあいの式を立てます。
力のモーメントのつりあいを考える際、未知の力 \(N_D\) がはたらく点Dを回転の中心に選ぶと、\(N_D\) のモーメントが0になり、\(N_C\) を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 板にはたらく力をすべて図示する。板の重力は中心(Aから \(4a\) の位置)にはたらく。
  • 力のモーメントのつりあいを考える際、回転の中心を適切に選ぶことで計算を簡略化する。

具体的な解説と立式
板にはたらく力を図示します。

  • 板の重力 \(mg\): 板の中心、つまりAから \(4a\) の位置に鉛直下向きにはたらく。
  • 小物体の重力 \(3mg\): Aから \(4a\) の位置に鉛直下向きにはたらく。
  • 垂直抗力 \(N_C\): 支点C(Aから \(2a\) の位置)に鉛直上向きにはたらく。
  • 垂直抗力 \(N_D\): 支点D(Aから \(6a\) の位置)に鉛直上向きにはたらく。

点Dのまわりの力のモーメントのつりあいを考えます。反時計回りを正とします。

  • 板の重力 \(mg\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。時計回りなので、\(-mg \times 2a\)。
  • 小物体の重力 \(3mg\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。時計回りなので、\(-3mg \times 2a\)。
  • 垂直抗力 \(N_C\) によるモーメント: 腕の長さは \(6a – 2a = 4a\)。反時計回りなので、\(N_C \times 4a\)。
  • 垂直抗力 \(N_D\) によるモーメント: 点Dにはたらくので腕の長さは0。モーメントは0。

力のモーメントのつりあいの式は、
$$N_C \times 4a – mg \times 2a – 3mg \times 2a = 0$$
これを整理すると、
$$N_C \times 4a = (mg + 3mg) \times 2a$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
計算過程

つりあいの式 \(N_C \times 4a = (mg + 3mg) \times 2a\) を \(N_C\) について解きます。
$$N_C \times 4a = 4mg \times 2a$$
$$N_C \times 4a = 8mga$$
両辺を \(4a\) で割ると、
$$N_C = 2mg$$

計算方法の平易な説明

てこが釣り合う条件を考えます。支点Dをシーソーの軸と考えると、左側にある力(\(N_C\), 板の重力, 小物体の重力)が板を回そうとする効果が釣り合っています。\(N_C\) は板を反時計回りに、重力は時計回りに回そうとします。これらの「回す効果(モーメント)」が等しくなるように式を立てて、\(N_C\) を求めます。

結論と吟味

点Cで板が支柱から受ける垂直抗力の大きさは \(2mg\) です。
この問題は対称性が高く、板の重力と小物体の重力がちょうど支点C, Dの中間にはたらいています。そのため、全荷重 \(mg+3mg=4mg\) がCとDに均等に分配され、\(N_C = N_D = 2mg\) となることが予想されます。計算結果はこの予想と一致しており、妥当です。

解答 (1) \(2mg\)

問(2a)

思考の道筋とポイント
小物体がAから \(5a\) の位置に移動しました。この状態で、点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。問(1)と同様に、各力の作用点と点Dとの距離(腕の長さ)を正確に求め、モーメントを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 小物体の位置が変わったことによる、力のモーメントの変化を正しく反映させる。
  • 腕の長さを正確に計算する。

具体的な解説と立式
板にはたらく力は問(1)と同じですが、小物体の位置が変わります。

  • 板の重力 \(mg\): Aから \(4a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 4a = 2a\)。
  • 小物体の重力 \(3mg\): Aから \(5a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 5a = a\)。
  • 垂直抗力 \(N_C\): Aから \(2a\) の位置。点Dからの腕の長さは \(6a – 2a = 4a\)。

点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式(反時計回りのモーメント = 時計回りのモーメント)は、
$$N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
計算過程

この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

(1)と考え方は同じです。小物体が少し右にずれたので、小物体が板を時計回りに回そうとする効果の「腕の長さ」が変わります。その新しい腕の長さを使って、モーメントのつりあいの式を立て直します。

結論と吟味

点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式は \(N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a\) となります。

解答 (2a) \(N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a\)

問(2b)

思考の道筋とポイント
(2a)で立てた力のモーメントのつりあいの式を解いて、垂直抗力 \(N_C\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • (2a)の式を代数的に正しく解く。

具体的な解説と立式
(2a)で立てた式を \(N_C\) について解きます。
$$N_C \times 4a = mg \times 2a + 3mg \times a$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

$$N_C \times 4a = 2mga + 3mga$$
$$N_C \times 4a = 5mga$$
両辺を \(4a\) で割ると、
$$N_C = \frac{5}{4}mg$$

計算方法の平易な説明

(2a)で作った方程式を解くだけです。

結論と吟味

垂直抗力 \(N_C\) は \(\frac{5}{4}mg\) です。小物体が右にずれたことで、支点Dに近い方の荷重が増え、遠い方の支点Cの荷重が減ることが予想されます。(1)の \(N_C=2mg\) と比較して、\(N_C\) が減少しており、直感と一致します。

解答 (2b) \(\displaystyle\frac{5}{4}mg\)

問(2c)

思考の道筋とポイント
垂直抗力 \(N_D\) を求めるには、鉛直方向の力のつりあいの式を立てます。板にはたらく上向きの力(\(N_C\) と \(N_D\))の和と、下向きの力(板の重力と小物体の重力)の和が等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。
  • (2b)で求めた \(N_C\) の値を利用する。

具体的な解説と立式
板にはたらく鉛直方向の力のつりあいを考えます。
上向きの力の和 = 下向きの力の和
$$N_C + N_D = mg + 3mg$$
$$N_C + N_D = 4mg$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
計算過程

この式に(2b)で求めた \(N_C = \frac{5}{4}mg\) を代入して \(N_D\) を求めます。
$$\frac{5}{4}mg + N_D = 4mg$$
$$N_D = 4mg – \frac{5}{4}mg$$
$$N_D = \frac{16-5}{4}mg = \frac{11}{4}mg$$

計算方法の平易な説明

板全体が上下に動かないので、上向きに支える力(\(N_C\)と\(N_D\)の合計)と、下向きにかかる力(板と小物体の重さの合計)は等しくなります。全体の重さと、(2b)でわかった\(N_C\)の大きさが分かっているので、引き算で\(N_D\)を求めることができます。

結論と吟味

垂直抗力 \(N_D\) は \(\frac{11}{4}mg\) です。\(N_C + N_D = \frac{5}{4}mg + \frac{11}{4}mg = \frac{16}{4}mg = 4mg\) となり、全荷重と一致します。

解答 (2c) \(\displaystyle\frac{11}{4}mg\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小物体をさらに右へ動かしていくと、やがて板は支点Dを軸として時計回りに傾き始めます。「傾きだした瞬間」とは、板が支点Cから離れる直前の状態を指します。このとき、支点Cからの垂直抗力 \(N_C\) は0になります。この \(N_C=0\) という条件を使って、力のモーメントのつりあいの式を立て、そのときの小物体の位置を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「傾きだす」という現象を、物理的な条件(\(N_C=0\))に置き換える。
  • この瞬間も、まだ板は静止している(つりあっている)と考える。

具体的な解説と立式
板が傾きだす瞬間、\(N_C=0\) となります。このときの、点Dから小物体までの距離を \(x\) とします。
この瞬間も点Dのまわりの力のモーメントはつりあっています。

  • 板の重力 \(mg\) は、点Dの左側にあるので、板を反時計回りに回そうとします。腕の長さは \(2a\) なので、モーメントは \(mg \times 2a\)。
  • 小物体の重力 \(3mg\) は、点Dの右側にあるので、板を時計回りに回そうとします。腕の長さは \(x\) なので、モーメントは \(-3mg \times x\)。

力のモーメントのつりあいの式は、
$$mg \times 2a – 3mg \times x = 0$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい
  • 剛体が傾く条件
計算過程

つりあいの式 \(mg \times 2a = 3mg \times x\) を \(x\) について解きます。
両辺の \(mg\) を消去すると、
$$2a = 3x$$
$$x = \frac{2}{3}a$$
この \(x\) は、求めたい距離 DX に相当します。

計算方法の平易な説明

シーソーの片方が浮き上がる瞬間を考えます。小物体をどんどん右にずらしていくと、やがて左側の支点Cが浮き上がります。この浮き上がる直前では、支点Dを軸として、板の重さが板を左に回そうとする効果と、小物体の重さが板を右に回そうとする効果が、ちょうど釣り合っています。この釣り合いの式から、小物体の位置を求めます。

結論と吟味

距離 DX は \(\frac{2}{3}a\) です。この位置より少しでも右に小物体がずれると、時計回りのモーメントが反時計回りのモーメントを上回り、板は傾き始めます。物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{2}{3}a\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの条件:
    • 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体)が静止し続けるための条件を問うています。その条件は、以下の2つを同時に満たすことです。
      1. 力のつりあい: 物体にはたらく力のベクトル和がゼロ (\(\sum \vec{F} = 0\))。これにより、物体は並進運動しません。
      2. 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロ (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動しません。
    • 理解のポイント: 棒や板のつりあいの問題では、特に「力のモーメントのつりあい」が中心的な役割を果たします。未知数が複数ある場合、力のつりあいの式と力のモーメントのつりあいの式を連立させて解くのが基本戦略です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • はしごのつりあい: 壁に立てかけたはしごが滑らない条件を考える問題。はしごにはたらく重力、垂直抗力(壁と床から)、摩擦力(床から)を考え、力のつりあいとモーメントのつりあいを適用します。
    • ドアの蝶番にはたらく力: ドアを開閉する蝶番(ちょうつがい)がドアを支える力を求める問題。ドアの重力と、上下2つの蝶番からの力を考え、モーメントのつりあいからそれぞれの力を計算します。
    • クレーンやシーソーのつりあい: 物体を吊り上げるクレーンや、人が乗ったシーソーなど、回転軸が明確な剛体のつりあい問題全般。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回転の中心の選び方: 力のモーメントのつりあいの式は、どの点を中心に考えても成り立ちます。しかし、計算を簡単にするためには、「未知の力がはたらく点」や「複数の力がはたらく点」を回転の中心に選ぶのがセオリーです。その点にはたらく力のモーメントは0になるため、式が簡潔になります。本問では、支点CやDを回転の中心に選ぶのが有効です。
    2. 「傾きだす」「滑りだす」の解釈:
      • 「傾きだす瞬間」→ 一方の支点(または接触点)から垂直抗力が0になる直前。(\(N=0\))
      • 「滑りだす瞬間」→ 静止摩擦力が最大静止摩擦力になる直前。(\(f = \mu N\))

      これらのキーワードを、つりあいの限界状態を表す数式に翻訳する能力が重要です。

    3. 対称性の利用: 本問の(1)のように、荷重が対称な位置にある場合、支点にはたらく力も対称になることがあります。検算や大まかな値の予測に役立ちます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力のモーメントの腕の長さの間違い:
    • 誤解: 回転の中心から力の作用点までの距離を、そのまま腕の長さとしてしまう。
    • 対策: 腕の長さは「回転の中心から、力の作用線(力の向きに沿った直線)へ下ろした垂線の長さ」であると正確に定義を覚える。力が斜めにはたらく場合は特に注意が必要です(本問では全ての力が鉛直なので、水平距離が腕の長さになります)。
  • 力のモーメントの符号(回転の向き)の間違い:
    • 誤解: すべてのモーメントを同じ符号で足してしまう。
    • 対策: 自分で「反時計回りを正」などと基準を決め、それぞれの力が物体をどちら向きに回転させようとするかを一つずつ丁寧に確認する。図に回転方向の矢印を書き込むとミスが減ります。
  • 力の描き忘れ・余計な力の描き込み:
    • 誤解: 板自身の重力を忘れる、あるいは小物体にはたらく力を直接板にはたらく力として描いてしまう。
    • 対策: 考察対象の物体(この場合は板)を一つだけ選び、その物体が「直接」接しているものと、「遠隔で」力を及ぼすもの(重力)をリストアップする。小物体は板に接しているので、小物体が板を押す力(重力と同じ大きさ)を描きます。
  • 力のつりあいだけで解こうとする:
    • 誤解: 剛体の問題なのに、力のつりあいの式 (\(\sum F = 0\)) だけで解こうとして、未知数が消せずに詰まってしまう。
    • 対策: 剛体のつりあいは「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」がセットであると常に意識する。方程式が足りないと感じたら、モーメントのつりあいを立てていない可能性を疑う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の図示(フリーボディダイアグラム): 板を一本の線として描き、その上にはたらく全ての力を矢印で示す。
      • 重力: 板の重心(中心)から下向きに \(mg\)。小物体が板を押す力は、小物体の位置から下向きに \(3mg\)。
      • 垂直抗力: 支点CとDから上向きに \(N_C, N_D\)。
      • 腕の長さの明記: 回転の中心(例:点D)を決め、そこから各力の作用点までの距離を図に書き込む。これがモーメント計算の基礎情報になります。
    • シーソーのイメージ: 力のモーメントのつりあいは、シーソーが釣り合っている状態をイメージすると直感的に理解しやすいです。回転の中心をシーソーの支点、力をシーソーに乗る人の重さと考えます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 作用点の正確さ: 一様な板の重力は、必ずその中心(重心)にはたらきます。この作用点の位置を間違えると、モーメントの計算がすべて狂ってしまいます。
    • 記号の明確化: \(N_C, N_D\) など、どの支点からの垂直抗力なのかを添え字で明確に区別する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のモーメントのつりあいの式 \(\sum M = 0\):
    • 選定理由: 物体が回転せずに静止している状態を記述するため。力のつりあいの式だけでは、未知の垂直抗力(\(N_C, N_D\))を特定できないため、もう一つの方程式として必要になります。
    • 適用根拠: 剛体が回転していない、すなわち角加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 力のつりあいの式 \(\sum F_y = 0\):
    • 選定理由: 鉛直方向の並進運動が起きていない状態を記述するため。問(2c)のように、一方の垂直抗力がモーメントの式から求まった後、もう一方を求める際に有効です。
    • 適用根拠: 剛体が上下に動かない、すなわち鉛直方向の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 傾きだす条件 \(N_C=0\):
    • 選定理由: 問(3)で「板が傾きだした瞬間」という限界状態を扱うため。
    • 適用根拠: 板が支点Dを軸に回転するということは、反対側の支点Cでは板が浮き上がり、支柱との接触がなくなることを意味します。接触がなくなれば、そこから力が及ぼされることはないので、垂直抗力は0になります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 基本設定: 考察対象は「板」。板にはたらく力(板の重力、小物体の重力、垂直抗力\(N_C, N_D\))を特定し、作用点を図示する。
  2. 問(1) 小物体がAから\(4a\)の位置:
    • Step 1: 未知数 \(N_D\) を消すため、点Dを回転の中心に選ぶ。
    • Step 2: 点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。(\(N_C\)のモーメント) = (2つの重力のモーメントの和)
    • Step 3: 式を解いて \(N_C\) を求める。
  3. 問(2) 小物体がAから\(5a\)の位置:
    • (a) 式の記述: Step 1, 2 と同様に、小物体の位置を変えて点Dのまわりのモーメントのつりあいの式を立てる。
    • (b) \(N_C\)の計算: (a)で立てた式を解いて \(N_C\) を求める。
    • (c) \(N_D\)の計算: 未知数が \(N_D\) のみになったので、簡単な鉛直方向の力のつりあいの式 (\(N_C+N_D = \text{全重量}\)) を立て、(b)の結果を代入して \(N_D\) を求める。
  4. 問(3) 傾きだす瞬間:
    • Step 1: 「傾きだす」を「\(N_C=0\)」と物理的に解釈する。
    • Step 2: 小物体と点Dの距離を未知数 \(x\) とする。
    • Step 3: \(N_C=0\) の条件の下で、点Dのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。(板の重力のモーメント) = (小物体の重力のモーメント)
    • Step 4: 式を解いて \(x\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 腕の長さの計算ミス防止:
    • 特に注意すべき点: 座標軸を明確に設定する。例えば、板の左端Aを原点とすると、各力の作用点の座標は、C: \(2a\), 板の重心: \(4a\), D: \(6a\) となります。回転の中心をD(座標\(6a\))とすれば、各力の腕の長さは座標の差の絶対値として機械的に計算でき、ミスが減ります。
    • 日頃の練習: 図に座標軸と各点の座標を書き込む練習をする。
  • 単位と文字の整理:
    • 特に注意すべき点: この問題では \(mg\) と \(a\) が基本的な単位の役割を果たします。計算の最終結果が「(数値) \(\times mg\)」や「(数値) \(\times a\)」の形になることを意識すると、途中の計算間違いに気づきやすくなります。
    • 日頃の練習: 計算の各段階で、文字 \(m, g, a\) を省略せずに書く。
  • 検算の習慣:
    • 特に注意すべき点: 問(2)では、\(N_C\) と \(N_D\) を求めた後、それらの和が全重量 \(4mg\) になるかを確認することで検算ができます。また、点Cまわりのモーメントのつりあいを立てて \(N_D\) を計算し、同じ結果になるか確かめることも有効です。
    • 日頃の練習: 1つの問題を解いた後、別の方法(例:別の点を中心としたモーメント計算)で解いてみて、同じ答えになるか確認する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1)と(2)の比較: 小物体を(1)の位置(\(4a\))から(2)の位置(\(5a\))へ、つまり支点Dに近づけると、\(N_C\) は \(2mg\) から \(\frac{5}{4}mg\) へ減少し、\(N_D\) は \(2mg\) から \(\frac{11}{4}mg\) へ増加した。これは、荷重が近づいた方の支点がより大きな力を負担するという直感と一致しており、妥当です。
    • (3) 傾く位置: 傾くときの距離DXが \(\frac{2}{3}a\) となった。これは支点Dから右側の領域(DB間、長さ\(2a\))の内側にある。もし計算結果が \(2a\) を超えるようなら、小物体が板から落ちた後なので物理的におかしい、と判断できます。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし小物体がなければ (\(3m=0\)): 板の重力 \(mg\) は中心にはたらくので、\(N_C=N_D=mg/2\) となるはず。
    • もし小物体が支点Dの真上にあれば: \(N_D\) が \(3mg\) 増え、\(N_C\) は変化しないと考えるのは間違い。モーメントのつりあいから、\(N_C\) は減少し、\(N_D\) は \(3mg\) 以上に増加します。実際に計算してみると、\(N_C = mg/2\), \(N_D = 7mg/2\) となります。このように、具体的な状況を仮定して計算してみることで、理解が深まります。

問題13 (山形大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、糸で吊るされ、ばねで支えられた棒のつりあいを扱います。棒は水平ではなく角度\(\theta\)だけ傾いて静止しており、力のモーメントのつりあいを考える際に、腕の長さを正確に求めることが重要になります。

与えられた条件
  • 棒: 長さ \(L\)、質量 \(m_1\)、一様
  • 吊り下げ点: 点O。左端Pから \(\frac{L}{4}\) の位置。
  • おもり: 質量 \(m_2\)。左端Pに吊るされている。
  • ばね: ばね定数 \(k\)。右端Qと床の間に設置。自然長から \(x\) だけ伸びており、棒を下向きに引いている。
  • 状態: 棒は水平から角度 \(\theta\) だけ傾いて静止。
  • その他: 糸とばねは常に鉛直方向。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 棒の重心から点Oまでの距離 \(c\)。
  • (2) 糸が引く力の大きさ \(T\)。
  • (3) おもりの重力による点Oまわりの力のモーメントの大きさ \(M_P\)。
  • (4) ばねの力による点Oまわりの力のモーメントの大きさ \(M_Q\)。
  • (5) ばねの伸び \(x\)。
  • (6) おもりを質量 \(m_3\) に交換し、ばねが自然長になったときの \(m_3\) の値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、問12と同様に「剛体のつりあい」です。特に、棒が傾いているため、力のモーメントを計算する際の「腕の長さ」の扱いに注意が必要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 棒にはたらく鉛直方向の力の和がゼロである。
  2. 力のモーメントのつりあい: 回転の中心(点O)まわりの力のモーメントの和がゼロである。
  3. 力のモーメントの計算方法: モーメントの計算には2つの方法があり、状況に応じて使い分けると便利です。
    • 方法A: (力の作用点までの距離) \(\times\) (力と棒のなす角に応じた、棒に垂直な力の成分)
    • 方法B: (力) \(\times\) (回転の中心から力の作用線までの垂直距離)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、棒の幾何学的な関係(重心の位置など)を整理します。
  2. 棒にはたらくすべての力(張力、重力、おもりの力、ばねの力)を図示し、鉛直方向の力のつりあいの式を立てます。
  3. 点Oを回転の中心として、各力が作る力のモーメントを計算します。このとき、腕の長さを正しく求めることが鍵となります。
  4. 力のモーメントのつりあいの式を立て、未知数(ばねの伸び \(x\))を求めます。
  5. 最後の設問では、条件が変わった場合(ばねの力が0)のつりあいの式を考え、新しい未知数(おもりの質量 \(m_3\))を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
一様な棒の重心は、その中心(中点)にあります。問題で与えられている点Pと点Oの位置関係から、重心と点Oの間の距離を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 一様な棒の重心は、棒の中点にあることを理解している。
  • 幾何学的な位置関係を正確に把握する。

具体的な解説と立式
一様な棒の重心Gは、棒の中心にあります。したがって、左端Pからの距離は \(\frac{L}{2}\) です。
点Oは、左端Pから \(\frac{L}{4}\) の位置にあります。
よって、棒の重心Gから点Oまでの距離 \(c\) は、この2つの位置の差となります。
$$c = (\text{PからGまでの距離}) – (\text{PからOまでの距離})$$
$$c = \frac{L}{2} – \frac{L}{4}$$

使用した物理公式

  • 重心の位置の定義
計算過程

$$c = \frac{2L – L}{4} = \frac{L}{4}$$

計算方法の平易な説明

棒の真ん中が重心です。左端から測ると、重心は \(\frac{L}{2}\) の位置、吊り下げ点Oは \(\frac{L}{4}\) の位置にあります。この2点の間の距離を求めるので、引き算をします。

結論と吟味

重心から点Oまでの距離 \(c\) は \(\frac{L}{4}\) です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{L}{4}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
棒は静止しているので、棒全体にはたらく鉛直方向の力はつりあっています。棒にはたらく鉛直方向の力は、「糸の張力 \(T\)(上向き)」「棒の重力 \(m_1g\)(下向き)」「おもりの重力 \(m_2g\)(下向き)」「ばねの力 \(kx\)(下向き)」の4つです。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「棒全体」とする。
  • 棒にはたらく鉛直方向の力をすべてリストアップする。
  • 力のつりあいの式を立てる。

具体的な解説と立式
棒にはたらく鉛直方向の力のつりあいを考えます。
上向きの力の和 = 下向きの力の和
$$T = m_1g + m_2g + kx$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
  • ばねの弾性力: \(F=kx\)
計算過程

右辺の \(m_1g\) と \(m_2g\) をまとめると、
$$T = (m_1 + m_2)g + kx$$

計算方法の平易な説明

棒は上下に動かないので、上向きに引っ張る力(糸の張力)と、下向きに引っ張る力(棒の重さ、おもりの重さ、ばねの力)の合計は等しくなります。この関係式から、糸の張力 \(T\) を求めることができます。

結論と吟味

糸が引く力の大きさ \(T\) は \((m_1 + m_2)g + kx\) です。この式は、糸が棒とおもりとばねの力の全ての合計を支えていることを意味しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(T = (m_1 + m_2)g + kx\)

問(3)

思考の道筋とポイント
おもりにはたらく重力 \(m_2g\) が、回転の中心Oのまわりに作る力のモーメントの大きさを求めます。棒が傾いているため、腕の長さを正しく求める必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントの計算方法を理解している。
  • 棒が傾いている状況で、腕の長さを三角関数を使って正しく表現する。

具体的な解説と立式
おもりにはたらく重力 \(m_2g\) は鉛直下向きです。この力が棒を反時計回りに回転させようとします。
力のモーメントの大きさ \(M_P\) は、「力 \(\times\) 腕の長さ」で計算します。腕の長さは、回転の中心Oから力の作用線(鉛直な直線)に下ろした垂線の長さです。
図より、腕の長さは \(OP \cos\theta\) となります。OPの長さは \(\frac{L}{4}\) なので、腕の長さは \(\frac{L}{4}\cos\theta\) です。
したがって、モーメントの大きさ \(M_P\) は、
$$M_P = m_2g \times \left(\frac{L}{4}\cos\theta\right)$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\)
計算過程

式を整理すると、
$$M_P = \frac{1}{4}m_2gL\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

おもりの重さが棒を回そうとする効果(モーメント)を計算します。棒が斜めになっているので、単純に距離を掛けるだけではダメです。回転の中心Oから見て、力がどれだけ「横にずれた」位置にはたらいているかを考えます。この「横ずれ」の距離が腕の長さで、\(\cos\theta\) を使って計算します。

結論と吟味

おもりの重力によるモーメントの大きさ \(M_P\) は \(\frac{1}{4}m_2gL\cos\theta\) です。\(\theta=0\)(水平)のとき最大となり、\(\theta=90^\circ\)(鉛直)のとき0となる、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{4}m_2gL\cos\theta\)

問(4)

思考の道筋とポイント
ばねの力 \(kx\) が、回転の中心Oのまわりに作る力のモーメントの大きさを求めます。考え方は問(3)と全く同じです。ばねの力は鉛直下向きにはたらきます。
この設問における重要なポイント

  • ばねの力がはたらく点Qと、回転の中心Oとの間の距離を正しく求める。
  • 問(3)と同様に、腕の長さを正確に計算する。

具体的な解説と立式
ばねの力 \(kx\) は鉛直下向きにはたらきます。この力が棒を時計回りに回転させようとします。
回転の中心Oから力の作用点Qまでの、棒に沿った距離は、
$$OQ = L – OP = L – \frac{L}{4} = \frac{3L}{4}$$
腕の長さは、点Oからばねの力の作用線までの水平距離なので、\(OQ \cos\theta = \frac{3L}{4}\cos\theta\) です。
よって、モーメントの大きさ \(M_Q\) は、
$$M_Q = kx \times \left(\frac{3L}{4}\cos\theta\right)$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\)
計算過程

式を整理すると、
$$M_Q = \frac{3}{4}kxL\cos\theta$$

計算方法の平易な説明

今度は、ばねの力が棒を回そうとする効果を計算します。考え方はおもりの場合と全く同じですが、ばねは棒の右端Qについているので、回転の中心Oからの距離が変わります。

結論と吟味

ばねの力によるモーメントの大きさ \(M_Q\) は \(\frac{3}{4}kxL\cos\theta\) です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{3}{4}kxL\cos\theta\)

問(5)

思考の道筋とポイント
棒は回転せずに静止しているので、点Oのまわりの力のモーメントはつりあっています。棒を回転させようとする力は、「棒自身の重力 \(m_1g\)」「おもりの重力 \(m_2g\)」「ばねの力 \(kx\)」の3つです。これらのモーメントの和が0になるという式を立て、未知数 \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントのつりあいの式を立てる。
  • 各力のモーメントの回転方向(時計回りか反時計回りか)を正しく判断する。

具体的な解説と立式
点Oのまわりの力のモーメントのつりあいを考えます。

  • おもりの重力 \(m_2g\) によるモーメント: 反時計回り。大きさは \(M_P = \frac{1}{4}m_2gL\cos\theta\)。
  • 棒の重力 \(m_1g\) によるモーメント: 重心GはOより右側にあるので、時計回り。腕の長さは \(c \cos\theta = \frac{L}{4}\cos\theta\)。モーメントの大きさは \(m_1g \frac{L}{4}\cos\theta\)。
  • ばねの力 \(kx\) によるモーメント: Oの右側で下向きなので、時計回り。大きさは \(M_Q = \frac{3}{4}kxL\cos\theta\)。

つりあいの式は、
$$(\text{反時計回りのモーメント}) = (\text{時計回りのモーメントの和})$$
$$\frac{1}{4}m_2gL\cos\theta = m_1g \frac{L}{4}\cos\theta + \frac{3}{4}kxL\cos\theta$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
計算過程

つりあいの式の両辺に共通する \(\frac{L}{4}\cos\theta\) を消去します(\(\cos\theta \neq 0\))。
$$m_2g = m_1g + 3kx$$
この式を \(x\) について解きます。
$$3kx = m_2g – m_1g = (m_2 – m_1)g$$
$$x = \frac{(m_2 – m_1)g}{3k}$$

計算方法の平易な説明

棒が回転しないで静止しているのは、棒を反時計回りに回そうとする力(おもりの重さ)の効果と、時計回りに回そうとする力(棒自身の重さとばねの力)の効果が釣り合っているからです。この釣り合いの式を立てて、未知数であるばねの伸び \(x\) を求めます。

結論と吟味

ばねの伸び \(x\) は \(\frac{(m_2 – m_1)g}{3k}\) です。ばねが伸びている(\(x>0\))ためには、\(m_2 > m_1\) である必要があります。つまり、おもりの重力による反時計回りのモーメントが、棒の重力による時計回りのモーメントより大きい場合に、ばねが伸びて(下向きに引いて)つりあうことを示しています。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{(m_2 – m_1)g}{3k}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
おもりを質量 \(m_3\) のものに交換したところ、ばねが自然の長さになった、という条件を考えます。ばねが自然の長さになるということは、ばねの伸び \(x=0\) であり、ばねの力が0になることを意味します。この新しい条件で、力のモーメントのつりあいの式を立て直します。
この設問における重要なポイント

  • 「ばねが自然の長さになった」を \(x=0\) と物理的に解釈する。
  • 問(5)で立てたつりあいの式を、条件を変えて再利用する。

具体的な解説と立式
問(5)で立てた力のモーメントのつりあいの式
$$m_2g = m_1g + 3kx$$
において、おもりの質量を \(m_2 \rightarrow m_3\) に、ばねの伸びを \(x=0\) に置き換えます。
$$m_3g = m_1g + 3k(0)$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

$$m_3g = m_1g + 0$$
両辺を \(g\) で割ると、
$$m_3 = m_1$$

計算方法の平易な説明

ばねの力が0になった状態で釣り合った、ということです。これは、おもりの重さが棒を反時計回りに回す効果と、棒自身の重さが棒を時計回りに回す効果が、ばねの助けなしで完全に釣り合ったことを意味します。この釣り合いの式から、おもりの質量 \(m_3\) を求めます。

結論と吟味

質量 \(m_3\) は \(m_1\) となります。
これは、点Oまわりのモーメントにおいて、おもりによる反時計回りモーメント \(m_3g \frac{L}{4}\cos\theta\) と、棒の重力による時計回りモーメント \(m_1g \frac{L}{4}\cos\theta\) が等しくなる条件を意味します。腕の長さが等しいので、力の大きさ(重さ)も等しくなる、つまり \(m_3g = m_1g\) となり、\(m_3=m_1\) となります。物理的に非常に明快な結果です。

解答 (6) \(m_1\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの条件(特に力のモーメント):
    • 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体である棒)が、複数の力を受けて静止している状況を扱います。剛体が静止するためには、「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」の2つの条件を同時に満たす必要があります。特に、回転運動を起こさないための「力のモーメントのつりあい」が、この問題の解答の鍵を握っています。
    • 理解のポイント:
      1. 回転の中心の設定: 力のモーメントは、基準となる回転の中心をどこに設定するかで、各力の腕の長さが変わります。問題で与えられた吊り下げ点Oを回転の中心とすることで、未知の力である張力\(T\)のモーメントを0として計算から排除でき、他の力の関係式をシンプルに立てることができます。
      2. 腕の長さの正確な計算: 棒が傾いているため、力のモーメントを計算する際には注意が必要です。回転の中心から力の作用線に下ろした垂線の長さ(腕の長さ)を、三角関数(特に\(\cos\theta\))を用いて正確に求めることが不可欠です。
      3. モーメントの向き: 各力が物体をどちら向き(時計回りか、反時計回りか)に回転させようとするかを正しく判断し、つりあいの式((反時計回りのモーメントの和) = (時計回りのモーメントの和))を立てることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 看板や標識のつりあい: 壁から突き出た棒で看板を支えるような問題。棒の重力、看板の重力、壁からの力(垂直抗力と摩擦力、あるいは蝶番からの力)、ワイヤーの張力などを考え、力のつりあいとモーメントのつりあいを適用します。
    • クレーンアームのつりあい: 荷物を吊り上げるクレーンのアームのつりあい。アームの重さ、荷物の重さ、ワイヤーの張力、回転軸からの力などを考慮します。
    • 人体における力のつりあい: 腕を水平に伸ばして荷物を持つとき、肩の関節を回転の中心として、筋肉が発揮する力や骨にはたらく力をモーメントのつりあいから考察するような問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回転の中心はどこか?: 問題文で回転軸が指定されているか(本問の吊り下げ点Oなど)、あるいは自分で計算が最も楽になる点を選べるかを見極めます。未知の力が最も多く集まる点を選ぶのが定石です。
    2. 力の作用点と作用線の図示: まず、剛体にはたらく全ての力を、正しい作用点から矢印で描きます。次に、その力の矢印を延長した「作用線」を点線で描くことで、腕の長さが視覚的に分かりやすくなります。
    3. モーメントの計算方法の選択: 「力 \(\times\) 腕の長さ」と「棒に垂直な力の成分 \(\times\) 距離」のどちらが計算しやすいか、図を見ながら判断します。本問のように力が全て鉛直方向の場合は、水平距離を腕の長さとする前者が考えやすいことが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 腕の長さの計算ミス:
    • 誤解: 棒が傾いているのに、棒に沿った距離(例:OQ=\(\frac{3L}{4}\))をそのまま腕の長さとしてしまう。
    • 対策: 力のモーメントの定義「力 \(\times\) (回転軸から力の作用線までの垂直距離)」を徹底する。図を描き、回転軸から作用線に垂線を下ろして直角三角形を作り、三角関数を使って腕の長さを求める練習を繰り返す。
  • 力のモーメントの回転方向の判断ミス:
    • 誤解: 回転の中心から見て、右側にある力は時計回り、左側は反時計回り、などと単純に決めつけてしまう。
    • 対策: 力の向き(上向きか下向きか)も考慮に入れる。回転の中心にピンを刺し、力の矢印の方向に棒を実際に押してみるイメージを持つ。「Oの左にある\(m_2g\)(下向き)は反時計回り」「Oの右にある\(m_1g\)(下向き)は時計回り」「Oの右にある\(kx\)(下向き)も時計回り」というように、一つずつ確認する。
  • 力の種類の解釈ミス:
    • 誤解: 問題文の「ばねが伸びた」という記述を、ばねが棒を「押し上げている」と解釈してしまう。
    • 対策: 問題の図と文章をよく照らし合わせる。床と棒の間に設置されたばねが「伸びる」ということは、棒が自然長の位置より上に持ち上げられている状態であり、ばねは元に戻ろうとして棒を「下向きに引く」と正しく解釈する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のモーメントの分解図: 模範解答の図bや図cのように、回転の中心Oと力の作用点(PやQ)を結ぶ線分を描き、そこから力の作用線へ垂線を下ろして直角三角形を作る。この図により、腕の長さが \((\text{距離}) \times \cos\theta\) となる関係が一目瞭然になります。
    • 回転方向の矢印: 図に描いた各力の矢印のそばに、それが引き起こす回転の向き(時計回りか反時計回りか)を示す円弧状の矢印を小さく描き加える。これにより、モーメントのつりあいの式を立てる際の符号ミスを防げます。
    • 天秤のイメージ: 吊り下げ点Oを支点とする天秤をイメージする。左の皿にはおもり\(m_2\)が乗り、右の皿には棒の重心\(m_1\)とばねによるおもり\(kx/g\)が乗っている、と考えることで、モーメントのつりあいを直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度\(\theta\)の位置: 水平線と棒のなす角が\(\theta\)であることを明確に図示する。力の分解や腕の長さを計算する際に、どの角が\(\theta\)と等しくなるか(錯角や同位角)を正確に把握することが重要です。
    • 作用点の区別: P, O, G(重心), Qといった各点の位置関係(特にOからの距離)を正確に図に反映させる。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあいの式 \(\sum F_y = 0\):
    • 選定理由: 問(2)で未知の力である張力\(T\)を求めるため。棒は静止しており、鉛直方向に並進運動していないので、この法則が適用できます。
    • 適用根拠: 棒の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 力のモーメントのつりあいの式 \(\sum M_O = 0\):
    • 選定理由: 問(5)で未知数\(x\)を求めるため。力のつりあいの式だけでは、未知数が\(T\)と\(x\)の2つになり解けません。回転運動もしていないという条件から、もう一つの方程式としてモーメントのつりあいの式が必要になります。
    • 適用根拠: 棒の角加速度がゼロであるという物理的状況。回転の中心をOに選ぶことで、最も複雑な未知数である張力\(T\)を計算から排除できるという戦略的な理由も含まれます。
  • 条件の置き換え(問(6)):
    • 選定理由: 「ばねが自然の長さになった」という物理的な状況の変化を、数式に反映させるため。
    • 適用根拠: 「自然の長さ」は「ばねの力がゼロ (\(kx=0\))」を意味するという物理法則の知識に基づき、問(5)で導出した普遍的なつりあいの式に \(x=0\) と \(m_2=m_3\) を代入します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 準備段階: 棒にはたらく力(張力\(T\), 重力\(m_1g\), おもりの力\(m_2g\), ばねの力\(kx\))を図示し、各力の作用点と回転の中心Oからの距離(棒に沿った距離と腕の長さ)を整理する。
  2. 問(1) 重心までの距離: 棒の中心の位置(\(L/2\))とOの位置(\(L/4\))から、距離 \(c = L/2 – L/4\) を計算。
  3. 問(2) 張力\(T\): 鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。(\(T = m_1g + m_2g + kx\))
  4. 問(3),(4) 各力のモーメント: 回転の中心をOとする。
    • \(M_P\): 力\(m_2g\) \(\times\) 腕の長さ\((L/4)\cos\theta\)。回転方向は反時計回り。
    • \(M_Q\): 力\(kx\) \(\times\) 腕の長さ\((3L/4)\cos\theta\)。回転方向は時計回り。
    • 棒の重力\(m_1g\)のモーメント: 力\(m_1g\) \(\times\) 腕の長さ\((L/4)\cos\theta\)。回転方向は時計回り。
  5. 問(5) ばねの伸び\(x\):
    • Step 1: 点Oまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。
      (反時計回りモーメント) = (時計回りモーメントの和)
      \(M_P = (\text{棒の重力モーメント}) + M_Q\)
    • Step 2: 具体的な式を代入し、\(\frac{1}{4}m_2gL\cos\theta = m_1g \frac{L}{4}\cos\theta + \frac{3}{4}kxL\cos\theta\)。
    • Step 3: この方程式を\(x\)について解く。
  6. 問(6) 新しい質量\(m_3\):
    • Step 1: 「ばねが自然長」という条件を「\(x=0\)」と数式化する。
    • Step 2: 問(5)で立てたモーメントのつりあいの式に、\(x=0\) と \(m_2 \rightarrow m_3\) を代入する。
    • Step 3: 方程式を\(m_3\)について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 共通因数の消去:
    • 特に注意すべき点: 問(5)のモーメントのつりあいの式では、全ての項に \(\frac{L}{4}\cos\theta\) という共通因数が含まれています(\(M_Q\)の項は\(\frac{3L}{4}\cos\theta\)なので\(\frac{L}{4}\cos\theta \times 3\)と見なす)。これらを最初に両辺から消去することで、計算が大幅に簡略化され、ミスを防げます。
    • 日頃の練習: 複雑な方程式を立てた際に、まず全体を見渡して共通の文字や係数がないか探す癖をつける。
  • 符号のダブルチェック:
    • 特に注意すべき点: モーメントの回転方向の判断はミスしやすいポイントです。式を立てた後、もう一度、各項の符号が自分の設定(例:反時計回りが正)と合っているかを確認する。
    • 日頃の練習: 友人や先生に自分の立てた式を見てもらい、客観的な視点でチェックしてもらう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (5) ばねの伸び\(x\): \(x = \frac{(m_2 – m_1)g}{3k}\) という結果。もし \(m_1 > m_2\) なら \(x\) は負になります。これは物理的に「ばねが縮んでいる」ことを意味しますが、問題の図や設定(床と棒の間)からは縮むことは考えにくいため、このつりあいが実現するためには \(m_2 \ge m_1\) という条件が暗に必要であることがわかります。
    • (6) 質量\(m_3\): \(m_3 = m_1\) という結果。これは、ばねの助けなしで、おもりと棒の重さが点Oのまわりで釣り合う条件です。腕の長さがOからPまでとOからGまでで等しい(\(L/4\))ため、モーメントが釣り合うには力(重さ)も等しくなければならない、という非常に明快な物理的意味を持っています。この考察ができれば、答えに対する自信が深まります。
  • 極端な場合を考える:
    • もし棒が水平だったら(\(\theta=0\)): \(\cos\theta=1\)となり、モーメントの計算が簡単になります。この場合でも、\(x\)や\(m_3\)の結果は同じになるはずです。
    • もし吊り下げ点Oが棒の中心Gと一致していたら: 棒の重力によるモーメントは0になります。この場合、つりあいの式は \(\frac{1}{4}m_2gL\cos\theta = \frac{3}{4}kxL\cos\theta\) となり、\(m_2g = 3kx\) という関係になります。このように、設定を単純化して考えることで、自分の立てた式の妥当性を検証できます。

問題14 (千葉大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、壁に立てかけた棒のつりあいを扱う、剛体の力学における典型的な問題です。前半は棒のみ、後半はおもりを吊るした場合を考えます。なめらかな壁とあらい床という条件がポイントです。

与えられた条件
  • 棒: 質量 \(M\)、長さ \(L\)、一様
  • 壁: なめらかで鉛直
  • 床: あらく水平
  • 状態: 棒は床と角 \(\theta\) をなして静止
  • 静止摩擦係数: \(\mu\) (棒と床の間)
  • おもり: 質量 \(m\)。棒の上端Bから距離 \(x\) の位置に吊るす(後半)。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 棒のみのとき、床から受ける垂直抗力と摩擦力の大きさ。
  • (2) (1)の状況で、静止していることからわかる静止摩擦係数 \(\mu\) の範囲。
  • (3) おもりを吊るしたとき、床から受ける垂直抗力と摩擦力の大きさ。
  • (4) (3)の状況で、静止していることからわかる静止摩擦係数 \(\mu\) の範囲。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「剛体のつりあい」と「静止摩擦」です。剛体が静止している条件(力のつりあいと力のモーメントのつりあい)と、滑り出さないための条件(静止摩擦力 \(\le\) 最大静止摩擦力)を正しく適用することが求められます。

  1. 力のつりあい: 水平方向と鉛直方向、それぞれの力のベクトル和がゼロである。
  2. 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロである。
  3. 静止摩擦力: 静止している物体にはたらく摩擦力は、他の力とのつりあいから決まる。その大きさは0から最大静止摩擦力 \(f_{\text{最大}}\) までの値をとり、向きは物体が滑ろうとする向きと逆向きになる。
  4. 静止する条件: 物体が静止し続けるためには、必要な静止摩擦力の大きさが最大静止摩擦力以下でなければならない (\(f \le \mu N\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、考察の対象である「棒」にはたらく力をすべて図示します。壁はなめらかなので垂直抗力のみ、床はあらいので垂直抗力と摩擦力がはたらきます。
  2. 力のつりあいの式(水平・鉛直)と、力のモーメントのつりあいの式を立てます。モーメントの回転の中心は、未知の力が多くはたらく点Aに選ぶと計算が簡単になります。
  3. これらの3つの式を連立させて、未知の力(垂直抗力、摩擦力)を求めます。
  4. 最後に、求めた摩擦力が最大静止摩擦力を超えないという条件から、静止摩擦係数 \(\mu\) の満たすべき不等式を導きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
棒にはたらく力は、「重力 \(Mg\)」「床からの垂直抗力 \(N_A\)」「床からの静止摩擦力 \(F\)」「壁からの垂直抗力 \(N_B\)」の4つです。これらの力がつりあっている状態について、力のつりあいの式と力のモーメントのつりあいの式を立て、\(N_A\) と \(F\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒にはたらく4つの力を正確に図示する。
  • 力のつりあい(水平・鉛直)と力のモーメントのつりあいの3つの式を立てる。
  • モーメントの計算では、回転の中心を点Aに選ぶと \(N_A\) と \(F\) が式から消え、\(N_B\) を直接求められる。

具体的な解説と立式
棒にはたらく力を考えます。

  • 重力 \(Mg\): 棒の中心(Aから \(\frac{L}{2}\) の距離)に鉛直下向き。
  • 床からの垂直抗力 \(N_A\): 点Aに鉛直上向き。
  • 床からの静止摩擦力 \(F\): 点Aに水平左向き(棒が右へ滑るのを防ぐ向き)。
  • 壁からの垂直抗力 \(N_B\): 点Bに水平右向き。

力のつりあい

水平方向: \(N_B – F = 0 \quad \rightarrow \quad F = N_B \quad \cdots ①\)

鉛直方向: \(N_A – Mg = 0 \quad \rightarrow \quad N_A = Mg \quad \cdots ②\)

力のモーメントのつりあい

点Aを回転の中心とします。反時計回りを正とします。

  • 重力 \(Mg\) によるモーメント: 腕の長さは \(\frac{L}{2}\cos\theta\)。時計回りなので、\(-Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta\)。
  • 壁からの垂直抗力 \(N_B\) によるモーメント: 腕の長さは \(L\sin\theta\)。反時計回りなので、\(N_B \times L\sin\theta\)。

つりあいの式は、
$$N_B \times L\sin\theta – Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta = 0 \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)
  • 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
計算過程

まず、鉛直方向の力のつりあいの式②から、
$$N_A = Mg$$
次に、力のモーメントのつりあいの式③を \(N_B\) について解きます。
$$N_B L\sin\theta = \frac{MgL}{2}\cos\theta$$
$$N_B = \frac{MgL\cos\theta}{2L\sin\theta} = \frac{Mg}{2} \frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{Mg}{2\tan\theta}$$
最後に、水平方向の力のつりあいの式①から \(F\) を求めます。
$$F = N_B = \frac{Mg}{2\tan\theta}$$

計算方法の平易な説明

棒が倒れず、滑らずに静止している状態を考えます。

  1. まず、棒が上下に動かないことから、床が棒を支える力(垂直抗力 \(N_A\))は、棒の重さ \(Mg\) と等しくなります。
  2. 次に、棒が回転しないことから、点Aを軸として、棒の重さが棒を時計回りに倒そうとする効果と、壁が棒を支える力(垂直抗力 \(N_B\))が反時計回りに支える効果が釣り合っています。この式から \(N_B\) が求まります。
  3. 最後に、棒が左右に動かないことから、壁が右向きに押す力 \(N_B\) と、床の摩擦力が左向きに支える力 \(F\) が等しくなります。
結論と吟味

床から受ける垂直抗力の大きさは \(N_A = Mg\)、摩擦力の大きさは \(F = \frac{Mg}{2\tan\theta}\) です。
\(\theta\) が小さい(棒が寝ている)ほど \(\tan\theta\) は小さくなり、摩擦力 \(F\) は大きくなる必要があります。これは、棒が滑りやすくなるという直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) 垂直抗力: \(Mg\), 摩擦力: \(\displaystyle\frac{Mg}{2\tan\theta}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
棒が静止しているという事実から、床が棒に及ぼしている静止摩擦力 \(F\) は、最大静止摩擦力 \(\mu N_A\) を超えていないはずです。この条件 \(F \le \mu N_A\) に、問(1)で求めた \(F\) と \(N_A\) の値を代入して、静止摩擦係数 \(\mu\) が満たすべき条件を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 静止条件は「はたらいている静止摩擦力 \(\le\) 最大静止摩擦力」である。
  • \(F \le \mu N_A\) の不等式を立てる。

具体的な解説と立式
棒が滑らずに静止しているための条件は、
$$F \le \mu N_A$$
この不等式に、問(1)で求めた \(F = \frac{Mg}{2\tan\theta}\) と \(N_A = Mg\) を代入します。
$$\frac{Mg}{2\tan\theta} \le \mu (Mg)$$

使用した物理公式

  • 静止摩擦力の条件: \(f \le \mu N\)
計算過程

不等式の両辺を \(Mg\) で割ると(\(Mg>0\) なので不等号の向きは変わらない)、
$$\frac{1}{2\tan\theta} \le \mu$$
したがって、
$$\mu \ge \frac{1}{2\tan\theta}$$

計算方法の平易な説明

床の摩擦力には限界があります。その限界値(最大静止摩擦力)は \(\mu \times (\text{垂直抗力})\) で計算できます。棒が静止しているということは、実際に働いている摩擦力 \(F\) が、この限界値以下であるということです。この関係を不等式で表します。

結論と吟味

静止摩擦係数 \(\mu\) の範囲は \(\mu \ge \frac{1}{2\tan\theta}\) です。
これは、棒をある角度 \(\theta\) で静止させるためには、床と棒の間の静止摩擦係数がある一定以上の値でなければならない、ということを意味します。ザラザラ度合いが足りないと滑ってしまう、という日常的な感覚と一致します。

解答 (2) \(\mu \ge \displaystyle\frac{1}{2\tan\theta}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
棒におもりを吊るした場合も、考え方の流れは問(1)と全く同じです。棒にはたらく力に「おもりの重力 \(mg\)」が加わるので、力のつりあいの式と力のモーメントのつりあいの式を立て直します。
この設問における重要なポイント

  • おもりの重力 \(mg\) を、棒にはたらく力として追加する。
  • 力のつりあいと力のモーメントのつりあいの式を、新しい条件で立て直す。

具体的な解説と立式
棒にはたらく力は、問(1)の4つの力に加えて、おもりの重力 \(mg\) が加わります。

  • おもりの重力 \(mg\): 上端Bから距離 \(x\) の位置に鉛直下向き。

力のつりあいの式とモーメントのつりあいの式を、新しい力(\(N_A’, F’, N_B’\))で立て直します。

力のつりあい

水平方向: \(N_B’ – F’ = 0 \quad \rightarrow \quad F’ = N_B’ \quad \cdots ④\)

鉛直方向: \(N_A’ – Mg – mg = 0 \quad \rightarrow \quad N_A’ = (M+m)g \quad \cdots ⑤\)

力のモーメントのつりあい

点Aを回転の中心とします。

  • 棒の重力 \(Mg\) によるモーメント: \(-Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta\)
  • おもりの重力 \(mg\) によるモーメント: 腕の長さは \((L-x)\cos\theta\)。時計回りなので、\(-mg \times (L-x)\cos\theta\)。
  • 壁からの垂直抗力 \(N_B’\) によるモーメント: \(N_B’ \times L\sin\theta\)

つりあいの式は、
$$N_B’ \times L\sin\theta – Mg \frac{L}{2}\cos\theta – mg(L-x)\cos\theta = 0 \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

まず、鉛直方向の力のつりあいの式⑤から、
$$N_A’ = (M+m)g$$
次に、力のモーメントのつりあいの式⑥から \(N_B’\) を求めます。
$$N_B’ L\sin\theta = \left( Mg \frac{L}{2} + mg(L-x) \right)\cos\theta$$
$$N_B’ = \frac{\left( \frac{ML}{2} + m(L-x) \right)g\cos\theta}{L\sin\theta} = \frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta}$$
最後に、水平方向の力のつりあいの式④から \(F’\) を求めます。
$$F’ = N_B’ = \frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta}$$

計算方法の平易な説明

おもりが加わったので、棒にかかる下向きの力が大きくなります。問(1)と同じように、(1)上下方向の力のつりあい、(2)回転しないためのモーメントのつりあい、(3)左右方向の力のつりあい、の3つの式を立てて、新しい垂直抗力と摩擦力を計算します。

結論と吟味

床から受ける垂直抗力の大きさは \(N_A’ = (M+m)g\)、摩擦力の大きさは \(F’ = \frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta}\) です。
おもりが加わったことで、床が支えるべき全重量が増え、垂直抗力 \(N_A’\) が大きくなるのは当然です。また、おもりは棒を時計回りに倒そうとする効果を増大させるため、それを支える壁からの力 \(N_B’\) と床からの摩擦力 \(F’\) も大きくなっています。

解答 (3) 垂直抗力: \((M+m)g\), 摩擦力: \(\displaystyle\frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
問(2)と全く同じ考え方です。おもりを吊るした状態で棒が静止していることから、はたらいている静止摩擦力 \(F’\) は、最大静止摩擦力 \(\mu N_A’\) を超えていません。この条件 \(F’ \le \mu N_A’\) に、問(3)で求めた値を代入します。
この設問における重要なポイント

  • 静止条件 \(F’ \le \mu N_A’\) を立てる。
  • 問(3)で求めた \(F’\) と \(N_A’\) を用いる。

具体的な解説と立式
棒が滑らずに静止しているための条件は、
$$F’ \le \mu N_A’$$
この不等式に、問(3)で求めた \(F’ = \frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta}\) と \(N_A’ = (M+m)g\) を代入します。
$$\frac{(ML + 2m(L-x))g}{2L\tan\theta} \le \mu (M+m)g$$

使用した物理公式

  • 静止摩擦力の条件: \(f \le \mu N\)
計算過程

不等式の両辺を \(g\) で割ると(\(g>0\))、
$$\frac{ML + 2m(L-x)}{2L\tan\theta} \le \mu (M+m)$$
両辺に \(2L\tan\theta\) を掛け、\((M+m)\) で割ると(これらは全て正の値)、
$$\frac{ML + 2m(L-x)}{2(M+m)L\tan\theta} \le \mu$$
したがって、
$$\mu \ge \frac{ML + 2m(L-x)}{2(M+m)L\tan\theta}$$

計算方法の平易な説明

問(2)と考え方は同じです。おもりを吊るした状態で働いている摩擦力 \(F’\) が、そのときの摩擦力の限界値(最大静止摩擦力 \(\mu N_A’\))以下である、という不等式を立てて整理します。

結論と吟味

静止摩擦係数 \(\mu\) の範囲は \(\mu \ge \frac{ML + 2m(L-x)}{2(M+m)L\tan\theta}\) です。
この式の右辺は、問(2)で求めた \(\frac{1}{2\tan\theta} = \frac{ML}{2ML\tan\theta}\) よりも、分子に \(2m(L-x)\) が加わり、分母に \(M+m\) が掛かっているため、より複雑な形になっています。おもりの質量 \(m\) や位置 \(x\) によって、必要とされる静止摩擦係数の下限値が変化することを示しています。

解答 (4) \(\mu \ge \displaystyle\frac{ML + 2m(L-x)}{2(M+m)L\tan\theta}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの条件と静止摩擦:
    • 核心: この問題は「壁に立てかけた棒」という、剛体のつりあいを扱う最も代表的な設定の一つです。核心となる物理法則は、静止している剛体に適用される2つのつりあい条件と、滑り出さないための静止摩擦の条件です。
      1. 力のつりあい: 棒にはたらく力のベクトル和がゼロ (\(\sum \vec{F} = 0\))。
      2. 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロ (\(\sum M = 0\))。
      3. 静止摩擦の条件: はたらいている静止摩擦力 \(F\) は、最大静止摩擦力 \(\mu N\) を超えない (\(F \le \mu N\))。
    • 理解のポイント: これら3つの式を「剛体つりあいの三種の神器」として捉え、問題に応じて適切に立式し、連立させて解くことが一貫した解法となります。特に、力のモーメントのつりあいの式を立てることで、複数の未知数を効率的に解き明かすことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人がはしごを上る問題: 本問の(3),(4)のように、はしごの上に人が乗ることで、重力の作用点が変わる問題。人がどの高さまで上れるか、という問いは「滑りだす瞬間のつりあい」を考えることになります。
    • 壁や床が両方ともあらい場合**: 壁からも摩擦力がはたらくようになります。未知数が一つ増えますが、立てるべき3つのつりあいの式は同じです。壁の摩擦力の向き(棒が下に滑ろうとするのを防ぐ上向き)を正しく設定することが重要です。
    • 角度を変える問題: 棒を立てかける角度\(\theta\)を徐々に小さくしていくと、どの角度で滑り出すか、という問題。この場合は \(\mu = \frac{F}{N_A}\) の関係から、\(\theta\)に関する方程式を解くことになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 接触面の性質を確認: 壁や床が「なめらか」か「あらい」かを確認します。「なめらか」なら垂直抗力のみ、「あらい」なら垂直抗力と摩擦力の両方を考慮します。
    2. 力の図示を完璧に: 考察対象(棒)にはたらく力を、作用点と向きを正確に、漏れなく図示することが全ての始まりです。
    3. モーメントの中心の戦略的選択: 未知の力が最も多くはたらく点(本問では点A)を回転の中心に選ぶと、それらの力のモーメントが0になり、立式と計算が最も簡単になります。
    4. 「静止している」からわかること: このキーワードは2つの意味を持ちます。
      • 力のつりあいとモーメントのつりあいが成り立っている。
      • はたらく摩擦力は最大静止摩擦力以下である (\(F \le \mu N\))。

      問題が何を問うているかによって、どちらの条件を使うか判断します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力のモーメントの腕の長さの計算ミス:
    • 誤解: 棒の長さ \(L\) や重心までの距離 \(L/2\) をそのまま腕の長さとして使ってしまう。
    • 対策: 腕の長さは「回転の中心から力の作用線までの垂直距離」であることを徹底する。本問では、鉛直方向の力(重力)に対しては水平距離 (\(d\cos\theta\)) が、水平方向の力(壁からの垂直抗力)に対しては鉛直距離 (\(d\sin\theta\)) が腕の長さになります。図に直角三角形を描いて確認する癖をつける。
  • 摩擦力の大きさを \(F=\mu N\) と決めつける:
    • 誤解: 摩擦力と聞くと、すぐに \(F=\mu N\) の式を立ててしまう。
    • 対策: \(\mu N\) は滑り出す「直前」の最大値です。単に「静止している」場合は、摩擦力 \(F\) は未知数であり、力のつりあいの式から求めなければなりません。\(F \le \mu N\) は、あくまで滑らないための「条件式」です。
  • 作用・反作用の描き忘れ:
    • 誤解: 棒がおもりから受ける力を描き忘れるなど、力が不足する。
    • 対策: 棒に「接触している」ものをリストアップする(壁、床、おもり)。それぞれから力を受けるはずだと考えることで、描き忘れを防ぎます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の分解図(モーメント計算用): 模範解答の図bのように、棒を斜めの基準線とし、重力や壁からの力をこの基準線に平行な成分と垂直な成分に分解する。モーメントを計算する際は「棒に垂直な成分 \(\times\) 棒に沿った距離」という方法も使え、見通しが良くなる場合があります。
    • 力のベクトル図: 棒にはたらく4つの力(重力、\(N_A\), \(F\), \(N_B\))のベクトルをすべて足し合わせると、始点と終点が一致する閉じた多角形になるはずです(力のつりあい)。これを描いてみることで、力の大きさのバランスを視覚的に捉えることができます。
    • 滑り出すイメージ: \(\theta\) をどんどん小さくしていく(棒を寝かせていく)と、壁からの垂直抗力 \(N_B\) と摩擦力 \(F\) が大きくなる必要があります。やがて摩擦力が限界 (\(\mu N_A\)) に達して滑り出す、という一連の流れをイメージすることが重要です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の矢印の始点: 重力は重心(中心)から、接触力は接触点(A, B)から描く。
    • 摩擦力の向き**: 棒のA点は右に滑ろうとするので、摩擦力はそれを妨げる左向きに描く。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 鉛直方向の力のつりあい (\(\sum F_y = 0\)):
    • 選定理由: 床からの垂直抗力 \(N_A\) を求めるため。棒は上下に動かないので、鉛直方向の力は必ずつりあっています。
    • 適用根拠: 鉛直方向の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 水平方向の力のつりあい (\(\sum F_x = 0\)):
    • 選定理由: 床からの摩擦力 \(F\) を求めるため。棒は左右にも動かないので、水平方向の力もつりあっています。
    • 適用根拠: 水平方向の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 力のモーメントのつりあい (\(\sum M_A = 0\)):
    • 選定理由: 壁からの垂直抗力 \(N_B\) を求めるため。力のつりあいの式だけでは未知数(\(F\)と\(N_B\))が2つ残ってしまうため、3つ目の方程式として必要になります。
    • 適用根拠: 棒は回転していない(角加速度がゼロである)という物理的状況。点Aを回転の中心に選ぶことで、\(N_A\)と\(F\)を計算から排除できるという戦略的な理由もあります。
  • 静止条件の不等式 (\(F \le \mu N_A\)):
    • 選定理由: 問(2)と(4)で「静止したことからわかる\(\mu\)の範囲」を問われているため。これは、つりあいを保つために現実にはたらいている摩擦力が、物理的に供給可能な摩擦力の限界を超えていない、という条件を表します。
    • 適用根拠: 棒が「滑り出していない」という問題文の記述。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [棒のみ] (1) 垂直抗力と摩擦力の計算:
    • Step 1: 棒にはたらく4力(\(Mg, N_A, F, N_B\))を図示。
    • Step 2: 鉛直方向の力のつりあいから \(N_A = Mg\) を求める。
    • Step 3: 点Aまわりの力のモーメントのつりあいから \(N_B\) を求める。
    • Step 4: 水平方向の力のつりあいから \(F = N_B\) として \(F\) を求める。
  2. [棒のみ] (2) \(\mu\)の範囲:
    • Step 1: 静止条件の不等式 \(F \le \mu N_A\) を立てる。
    • Step 2: (1)で求めた \(F\) と \(N_A\) を代入し、\(\mu\) について解く。
  3. [おもりあり] (3) 新しい垂直抗力と摩擦力の計算:
    • Step 1: 棒にはたらく5力(\(Mg, mg, N_A’, F’, N_B’\))を図示。
    • Step 2: 鉛直方向の力のつりあいから \(N_A’ = (M+m)g\) を求める。
    • Step 3: 点Aまわりの力のモーメントのつりあい(\(Mg\)と\(mg\)のモーメントを考慮)から \(N_B’\) を求める。
    • Step 4: 水平方向の力のつりあいから \(F’ = N_B’\) として \(F’\) を求める。
  4. [おもりあり] (4) 新しい\(\mu\)の範囲:
    • Step 1: 静止条件の不等式 \(F’ \le \mu N_A’\) を立てる。
    • Step 2: (3)で求めた \(F’\) と \(N_A’\) を代入し、\(\mu\) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の整理:
    • 特に注意すべき点: モーメントの計算結果に \(\frac{\cos\theta}{\sin\theta}\) が現れます。これを \(\frac{1}{\tan\theta}\) に置き換えることで、式がすっきりと見やすくなります。
    • 日頃の練習: 三角関数の相互関係(\(\tan\theta = \sin\theta/\cos\theta\)など)をスムーズに使いこなせるようにしておく。
  • 文字式の代入:
    • 特に注意すべき点: (3)や(4)では、多くの文字(\(M, m, L, x, g, \theta\))を含む複雑な式を扱います。代入や整理の過程で項を書き間違えたり、符号を間違えたりしやすい。
    • 日頃の練習: 途中式を丁寧に書き、括弧を適切に使う。特に、\(m(L-x)\) のような項を展開する際には注意する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1)と(3)の比較: おもりを吊るすと、床からの垂直抗力 \(N_A\) は \(Mg\) から \((M+m)g\) へと、全重量の増加分だけ増えています。これは直感的に正しいです。また、摩擦力 \(F\) も、おもりの重さによる時計回りモーメントが加わるため、それを支えるために増加しており、これも妥当です。
    • (2)と(4)の比較: おもりを吊るした方が、棒が滑り出すのを防ぐためにより大きな摩擦力が必要になります。したがって、静止するために要求される静止摩擦係数\(\mu\)の下限値も、おもりを吊るした(4)の方が(2)より大きくなるはずです。実際に式を比較すると、そうなっていることが確認できます。
  • 極端な場合を考える:
    • もし壁がなければ: 棒は必ず時計回りに倒れてしまいます。式の上では \(N_B=0\) となり、モーメントのつりあいが成り立たなくなります。
    • もし床がなめらかだったら (\(\mu=0\)): 静止するためには \(F=0\) である必要があります。そのためには \(N_B=0\) でなければならず、結果として \(Mg=0\) となり、重力がなければ静止できる、という非現実的な結論になります。つまり、あらい床の摩擦力がなければ、棒は必ず滑って倒れることがわかります。

問題15 (立命館大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、半円形の剛体のつりあいを扱います。重心の位置が明示されており、床との接点が回転の中心ではないため、力のモーメントを考える際の腕の長さを正確に求めることが重要になります。

与えられた条件
  • 剛体: 半円形の薄い板。半径 \(r\)、質量 \(M\)、一様。
  • 重心G: 円の中心Oから直径ABに垂直な方向に、距離 \(OG = \frac{4r}{3\pi}\) の位置。
  • 状態:
    • 円弧部分が水平な床に接している。
    • 端点Aに鉛直上向きの力\(F\)が加えられている。
    • 直径ABが床となす角\(\theta\)で静止している。
  • その他: 糸は伸縮せず、常に鉛直。剛体は床に対して垂直な状態で接する。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • い: 床から受ける垂直抗力の大きさ。
  • ろ, a: 力\(F\)による点Oまわりの力のモーメントの大きさと向き。
  • ア, b: 重力による点Oまわりの力のモーメントの大きさと向き。
  • イ: 垂直抗力による点Oまわりの力のモーメントの大きさ。
  • は: \(\tan\theta\) の値。
  • ウ: 剛体が床から離れる限界の力\(F\)の大きさ。
  • エ: 限界の力\(F\)がはたらくときの \(\tan\theta_0\) の値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「剛体のつりあい」です。特に、重心が図形の中心にない、やや複雑な形状の剛体を扱います。しかし、基本に立ち返り、「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」を適用することに変わりはありません。

  1. 力のつりあい: 剛体にはたらく力のベクトル和がゼロである。
  2. 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロである。
  3. 腕の長さの計算: 力のモーメントを計算する際、回転の中心から力の作用線までの垂直距離(腕の長さ)を、図形と三角関数を用いて正確に求める。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、剛体にはたらく力(力\(F\)、重力\(Mg\)、床からの垂直抗力\(N\))をすべて図示します。
  2. 鉛直方向の力のつりあいの式を立て、垂直抗力\(N\)を求めます。
  3. 円の中心Oを回転の中心として、各力が作る力のモーメントを計算します。このとき、各力の作用線と点Oとの水平距離が腕の長さになります。
  4. 力のモーメントのつりあいの式を立て、\(\tan\theta\)を求めます。
  5. 「床から離れる」という条件を、物理的な条件(垂直抗力\(N=0\))に置き換え、そのときの限界の力\(F\)と角度\(\theta_0\)を求めます。

い: 垂直抗力の大きさ

思考の道筋とポイント
剛体は静止しており、上下に運動していません。したがって、剛体にはたらく鉛直方向の力はつりあっています。剛体にはたらく鉛直方向の力は、「糸を引く力 \(F\)(上向き)」「重力 \(Mg\)(下向き)」「床からの垂直抗力 \(N\)(上向き)」の3つです。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「剛体全体」とする。
  • 鉛直方向の力のつりあいを考える。

具体的な解説と立式
剛体にはたらく鉛直方向の力のつりあいを考えます。
上向きの力の和 = 下向きの力
$$F + N = Mg$$
この式を \(N\) について解きます。
$$N = Mg – F$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
計算過程

上記の立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

剛体は宙に浮いたり床にめり込んだりしないので、上向きの力(糸の力\(F\)と床からの垂直抗力\(N\))の合計と、下向きの力(重力\(Mg\))が等しくなっています。この式から垂直抗力\(N\)を求めます。

結論と吟味

垂直抗力の大きさは \(Mg – F\) です。力\(F\)で上に引くほど、床が支えるべき力は小さくなるという直感と一致します。

解答 い \(Mg – F\)

ろ, a: 力\(F\)のモーメント

思考の道筋とポイント
力\(F\)が、回転の中心Oのまわりに作る力のモーメントの大きさと向きを求めます。力\(F\)は鉛直上向きにはたらいているので、腕の長さは点Oと力の作用点Aとの「水平距離」になります。
この設問における重要なポイント

  • 回転の中心はOである。
  • 腕の長さは、点Oから力の作用線までの垂直距離である。

具体的な解説と立式
力\(F\)は、点Aに鉛直上向きにはたらきます。
回転の中心Oから力の作用点Aまでの水平距離(腕の長さ)は、図より \(r\cos\theta\) です。
力\(F\)は、点Oの左側で上向きにはたらくので、剛体を時計回りに回転させようとします。
よって、力のモーメントの大きさは、
$$(\text{大きさ ろ}) = (\text{力}) \times (\text{腕の長さ}) = F \times (r\cos\theta) = Fr\cos\theta$$
向きは、
$$(\text{向き a}) = \text{時計回り}$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算結果となります。

計算方法の平易な説明

力\(F\)が剛体を回そうとする効果を計算します。回転の中心はOです。腕の長さはOとAの水平方向の距離なので、三角関数を使って \(r\cos\theta\) となります。これに力の大きさ\(F\)を掛け合わせます。

結論と吟味

力のモーメントの大きさは \(Fr\cos\theta\) で、向きは時計回りです。

解答 ろ \(Fr\cos\theta\) 解答 a 時計回り

ア, b: 重力のモーメント

思考の道筋とポイント
重力\(Mg\)が、回転の中心Oのまわりに作る力のモーメントの大きさと向きを求めます。重力は重心Gにはたらきます。
この設問における重要なポイント

  • 重力の作用点は重心Gである。
  • 腕の長さは、点Oと重心Gとの水平距離である。

具体的な解説と立式
重力\(Mg\)は、重心Gに鉛直下向きにはたらきます。
回転の中心Oから重心Gまでの水平距離(腕の長さ)は、図より \(OG\sin\theta\) です。
与えられた条件 \(OG = \frac{4r}{3\pi}\) を使うと、腕の長さは \(\frac{4r}{3\pi}\sin\theta\) となります。
重力は、点Oの右側で下向きにはたらくので、剛体を反時計回りに回転させようとします。
よって、力のモーメントの大きさは、
$$(\text{大きさ ア}) = (\text{力}) \times (\text{腕の長さ}) = Mg \times \left(\frac{4r}{3\pi}\sin\theta\right) = \frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta$$
向きは、
$$(\text{向き b}) = \text{反時計回り}$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算結果となります。

計算方法の平易な説明

重さが剛体を回そうとする効果を計算します。重力は重心Gにはたらきます。腕の長さはOとGの水平方向の距離なので、三角関数を使って \(OG\sin\theta\) となります。これに力の大きさ\(Mg\)を掛け合わせます。

結論と吟味

重力のモーメントの大きさは \(\frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta\) で、向きは反時計回りです。

解答 ア \(\displaystyle\frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta\) 解答 b 反時計回り

イ: 垂直抗力のモーメント

思考の道筋とポイント
床からの垂直抗力\(N\)が、回転の中心Oのまわりに作る力のモーメントの大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 垂直抗力\(N\)の作用線を考える。

具体的な解説と立式
床からの垂直抗力\(N\)は、床との接点にはたらきます。問題文に「剛体は床に対して垂直な状態で床に接したまま」とあり、図を見ると、垂直抗力\(N\)の作用線は円の中心Oを通ることがわかります。
回転の中心Oを力が通過する場合、腕の長さは0になります。
したがって、垂直抗力\(N\)による点Oまわりの力のモーメントの大きさは、
$$(\text{大きさ イ}) = N \times 0 = 0$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\)
計算過程

計算は不要です。

計算方法の平易な説明

床が剛体を押し上げる力(垂直抗力)は、ちょうど回転の中心Oに向かって働いています。回転の中心を直接押しても、物体は回転しません。したがって、モーメントは0です。

結論と吟味

垂直抗力によるモーメントの大きさは0です。

解答 イ 0

は: \(\tan\theta\)

思考の道筋とポイント
剛体は回転せずに静止しているので、点Oのまわりの力のモーメントはつりあっています。これまでに求めた各力のモーメントを使って、つりあいの式を立て、\(\tan\theta\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントのつりあいの式を立てる。
  • 式を \(\tan\theta\) について解く。

具体的な解説と立式
点Oのまわりの力のモーメントのつりあいを考えます。
(時計回りのモーメントの大きさ) = (反時計回りのモーメントの大きさ)
$$(\text{ろ}) = (\text{ア}) + (\text{イ})$$
$$Fr\cos\theta = \frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta + 0$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
計算過程

この式を \(\tan\theta\) について整理します。
両辺を \(r\) で割ると、
$$F\cos\theta = \frac{4Mg}{3\pi}\sin\theta$$
両辺を \(\cos\theta\) で割ると(\(0<\theta<\pi/2\) なので \(\cos\theta \neq 0\))、
$$F = \frac{4Mg}{3\pi}\frac{\sin\theta}{\cos\theta}$$
$$F = \frac{4Mg}{3\pi}\tan\theta$$
これを \(\tan\theta\) について解くと、
$$\tan\theta = \frac{3\pi F}{4Mg}$$

計算方法の平易な説明

剛体が回転しないのは、力\(F\)が時計回りに回そうとする効果と、重力が反時計回りに回そうとする効果がちょうど釣り合っているからです。この釣り合いの式を立てて、\(\tan\theta\)を求めます。

結論と吟味

\(\tan\theta = \frac{3\pi F}{4Mg}\) です。力\(F\)が大きいほど、傾き\(\theta\)が大きくなるという関係を示しており、直感的にも妥当です。

解答 は \(\displaystyle\frac{3\pi F}{4Mg}\)

ウ, エ: 限界の力と角度

思考の道筋とポイント
力\(F\)を大きくしていくと、やがて剛体は床から離れます。「床から離れる瞬間」とは、床が剛体を支える必要がなくなる瞬間、つまり床からの垂直抗力\(N\)が0になる瞬間です。この条件を使って、限界の力と角度を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「床から離れる」を \(N=0\) と物理的に解釈する。
  • これまでに導出した関係式を利用する。

具体的な解説と立式
限界の力 ウ

剛体が床から離れる瞬間、垂直抗力 \(N=0\) となります。
「い」で求めた力のつりあいの式 \(N = Mg – F\) に \(N=0\) を代入します。
このときの限界の力を \(F_0\) とすると、
$$0 = Mg – F_0$$
よって、
$$(\text{ウ}) = F_0 = Mg$$

限界の角度 エ

この限界の力 \(F_0=Mg\) がはたらいているときの角度が \(\theta_0\) です。
「は」で求めた関係式 \(\tan\theta = \frac{3\pi F}{4Mg}\) に、\(F=F_0=Mg\) と \(\theta=\theta_0\) を代入します。
$$\tan\theta_0 = \frac{3\pi (Mg)}{4Mg}$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

\(\tan\theta_0\) の式を計算します。
$$\tan\theta_0 = \frac{3\pi Mg}{4Mg} = \frac{3\pi}{4}$$
よって、
$$(\text{エ}) = \frac{3\pi}{4}$$

計算方法の平易な説明

糸を引く力\(F\)が剛体の重さ\(Mg\)と等しくなると、床はもう支える必要がなくなり、剛体は浮き上がります。これが限界の力です。この限界の力がかかっているときの傾き\(\theta_0\)は、(は)で求めた関係式に、この限界の力\(F=Mg\)を代入することで計算できます。

結論と吟味

限界の力は \(Mg\)、そのときの角度の正接は \(\frac{3\pi}{4}\) です。
\(3\pi/4 \approx 3 \times 3.14 / 4 \approx 2.355\) なので、\(\tan\theta_0\) はかなり大きな値となり、\(\theta_0\) は \(60^\circ\) よりも大きい角度になります。力\(F\)を大きくしていくと傾きが大きくなるという関係からも、妥当な結果と言えます。

解答 ウ \(Mg\) 解答 エ \(\displaystyle\frac{3\pi}{4}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの条件(特に力のモーメント):
    • 核心: この問題は、重心が図形の中心にない、やや複雑な形状の剛体のつりあいを扱います。しかし、どのような形状の剛体であっても、静止しているならば「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」という2つの基本法則が成り立つことに変わりはありません。この問題では、特に力のモーメントのつりあいを正しく立式できるかが核心となります。
    • 理解のポイント:
      1. 力の作用点の特定: 各力がどこにはたらくかを正確に把握することが第一歩です。特に、重力は必ず「重心G」にはたらくという点が重要です。
      2. 回転の中心の選択: 力のモーメントを考える際、基準となる回転の中心をどこに選ぶかが計算の効率を左右します。この問題では、円の中心Oを回転の中心に選ぶことで、作用線がOを通る垂直抗力のモーメントが0になり、計算が非常に簡単になります。
      3. 腕の長さの計算: 剛体が傾いているため、腕の長さ(回転の中心から力の作用線までの垂直距離)を三角関数を用いて幾何学的に正しく求める能力が試されます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • L字型やT字型の剛体のつりあい: 重心が図形の端や角にない、複合的な形状の剛体のつりあい問題。重心の位置が与えられていれば、本問と全く同じアプローチで解くことができます。
    • 起き上がりこぼし: 重心が下の方にある物体が、傾いても倒れずに元に戻る現象。重力による復元的なモーメントがはたらくことを理解する上で、本問の考え方は参考になります。
    • 自動車や自転車の安定性: 車両が傾いたり、坂道を上ったりするときの安定性を考える問題。車両全体の重心にはたらく重力と、各タイヤにはたらく垂直抗力や摩擦力のモーメントを考えることで、転倒する条件などを解析できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 重心の位置はどこか?: まず、重力がどこにはたらくかを確認します。一様な棒なら中心ですが、本問のように複雑な形状の場合は、問題文で指定されているか、あるいは自分で計算する必要があります。
    2. 力の作用線を図示する: 各力の矢印だけでなく、その矢印を延長した「作用線」を点線で描くと、回転の中心からの「腕の長さ」がどこになるか視覚的に捉えやすくなります。
    3. 「離れる」「浮き上がる」の解釈: 「剛体が床から離れる」という記述は、物理的に「床からの垂直抗力が0になる (\(N=0\))」という限界状態の条件に翻訳します。これは剛体のつりあい問題で頻出するキーワードです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 重力の作用点を間違える:
    • 誤解: 半円の中心Oや、図形の見た目の中心に重力がはたらくと考えてしまう。
    • 対策: 重力は必ず「重心」にはたらく、という原則を徹底する。問題文で重心の位置が与えられている場合は、それを正確に図にプロットする。
  • 腕の長さを棒に沿った距離と勘違いする:
    • 誤解: 力のモーメントを計算する際、回転の中心から力の作用点までの直線距離(例:OAの長さ\(r\))を腕の長さとしてしまう。
    • 対策: 腕の長さは、回転の中心から「力の作用線」に下ろした垂線の長さである、と定義を正確に覚える。本問では、力が全て鉛直方向なので、腕の長さは「水平方向の距離」になります。
  • 力のモーメントの向きの判断ミス:
    • 誤解: 回転の中心の右側か左側かだけで、時計回りか反時計回りかを判断してしまう。
    • 対策: 力の向き(上向きか下向きか)も考慮に入れる。「Oの左側で上向きの力\(F\)」は時計回り、「Oの右側で下向きの重力\(Mg\)」は反時計回り、というように、回転の中心にピンを刺して力が棒をどう回すか具体的にイメージする。
  • 垂直抗力の作用点を間違える:
    • 誤解: 垂直抗力が重心の真下や、Oの真下にはたらくと考えてしまう。
    • 対策: 垂直抗力は、物体が接触している「接触点」で、接触面に垂直にはたらく。本問では、円弧が床に接する点に、床から鉛直上向きにはたらきます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 水平線と垂線による補助線: 回転の中心Oを通り、水平方向と鉛直方向の補助線を引く。これにより、各力の作用点(AやG)との間に直角三角形が形成され、腕の長さ(\(r\cos\theta\)や\(OG\sin\theta\))が三角関数の定義から求めやすくなります。
    • 力のモーメントの天秤イメージ: 点Oを支点とする天秤を考える。左の皿には力\(F\)が乗り、右の皿には重力\(Mg\)が乗っているとイメージする。ただし、皿までの距離が傾き\(\theta\)によって変化する(腕の長さが変わる)特殊な天秤と捉えることで、つりあいの関係を直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 重心Gの位置: 中心Oと重心Gの位置関係(距離と方向)を正確に図示する。これがモーメント計算の出発点になります。
    • 角度\(\theta\)の定義: 直径ABと床(水平線)のなす角が\(\theta\)であることを明確にする。図中のどの角度が\(\theta\)になるか(錯角など)を正しく見抜くことが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 鉛直方向の力のつりあいの式 (\(\sum F_y = 0\)):
    • 選定理由: 剛体にはたらく力のうち、垂直抗力\(N\)を他の力(\(Mg, F\))と関連付けるため。剛体は上下に動いていないので、この法則が適用できます。
    • 適用根拠: 剛体の鉛直方向の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 力のモーメントのつりあいの式 (\(\sum M_O = 0\)):
    • 選定理由: 剛体の傾き\(\theta\)と力\(F\)の関係を導き出すため。剛体は回転せずに静止しているので、この法則が適用できます。
    • 適用根拠: 剛体の角加速度がゼロであるという物理的状況。回転の中心をOに選ぶことで、垂直抗力\(N\)のモーメントが0になり、\(F\)と\(Mg\)のモーメントの関係式を直接立てられるという戦略的な理由があります。
  • 床から離れる条件 (\(N=0\)):
    • 選定理由: 「剛体は床から離れた」という限界状態を数式で表現するため。
    • 適用根拠: 垂直抗力は接触によって生じる力なので、床との接触がなくなる瞬間には、その大きさが0になるという物理的な解釈に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 基本設定: 剛体にはたらく3つの力(力\(F\), 重力\(Mg\), 垂直抗力\(N\))を図示する。
  2. い (垂直抗力): 鉛直方向の力のつりあいの式 \(F+N=Mg\) を立て、\(N=Mg-F\) を導く。
  3. ろ, ア, イ (各力のモーメント): 回転の中心をOとする。
    • 力\(F\): 作用点はA。腕の長さは \(r\cos\theta\)。モーメントは \(Fr\cos\theta\)(時計回り)。
    • 重力\(Mg\): 作用点はG。腕の長さは \(OG\sin\theta = \frac{4r}{3\pi}\sin\theta\)。モーメントは \(\frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta\)(反時計回り)。
    • 垂直抗力\(N\): 作用線がOを通るため、腕の長さは0。モーメントは0。
  4. は (\(\tan\theta\)):
    • Step 1: 点Oまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。
      (時計回りモーメント) = (反時計回りモーメント)
      \(Fr\cos\theta = \frac{4Mgr}{3\pi}\sin\theta\)
    • Step 2: この方程式を \(\tan\theta = \sin\theta/\cos\theta\) を使って変形し、\(\tan\theta\) について解く。
  5. ウ, エ (限界状態):
    • Step 1: 「床から離れる」を「\(N=0\)」と解釈する。
    • Step 2: 力のつりあいの式 \(N=Mg-F\) に \(N=0\) を代入し、限界の力 \(F_0=Mg\) を求める(これがウ)。
    • Step 3: モーメントのつりあいの式から得られた関係式 \(\tan\theta = \frac{3\pi F}{4Mg}\) に、\(F=F_0=Mg\) を代入し、そのときの \(\tan\theta_0\) を求める(これがエ)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字定数の整理:
    • 特に注意すべき点: \(M, r, g, \theta, \pi, F\) など多くの文字が登場します。特に重心の位置 \(OG = \frac{4r}{3\pi}\) のような複雑な係数を含む場合、計算過程で写し間違えやすい。
    • 日頃の練習: 複雑な定数は、一度別の文字(例:\(d = 4r/3\pi\))に置き換えて計算を進め、最後に元に戻すという方法も有効です。
  • 三角関数の変形:
    • 特に注意すべき点: \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を含む方程式から \(\tan\theta\) を導く変形は頻出です。両辺を \(\cos\theta\) で割ることで \(\tan\theta\) を作り出すテクニックに習熟しておく。
    • 日頃の練習: 三角関数を含む方程式を解く練習を、数学の教科書や問題集で復習しておく。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • は (\(\tan\theta\)): \(\tan\theta = \frac{3\pi F}{4Mg}\)。この式は、引く力\(F\)が大きくなるほど、傾き\(\theta\)が大きくなることを示しています。これは、力\(F\)による時計回りモーメントの増大を、重力による反時計回りモーメントの増大(\(\sin\theta\)が大きくなる)でバランスさせる必要があるためで、物理的に理にかなっています。
    • ウ (限界の力): \(F_0 = Mg\)。剛体を持ち上げるには、少なくともその重さと同じ大きさの力が必要である、という直感的な理解と一致します。
    • エ (限界の角度): \(\tan\theta_0 = \frac{3\pi}{4}\)。これは約2.355で、\(\theta_0\) は約67°です。これは物理的にあり得る角度です。もし \(\tan\theta_0\) が負になったり、極端に大きな値になったりした場合は、計算ミスを疑うべきです。
  • 極端な場合を考える:
    • もし重心Gが中心Oにあったら (\(OG=0\)): 重力によるモーメントは0になります。つりあいの式は \(Fr\cos\theta = 0\) となり、\(F=0\) でないとつりあいません。つまり、重心が支点の上にある場合は、少しでも力を加えると回転してしまうことを示しています。
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