「重要問題集」徹底解説(106〜110問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題106 (立命館大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ブラウン管の原理を題材に、一様な電場中での電子の運動を解析するものです。電子の運動を、電場がかかっている領域と、電場がない領域に分けて考えること、そして運動を互いに直交するz軸方向とx軸方向に分解して考えることが基本となります。

与えられた条件
  • 粒子: 電子(質量\(m\)、電荷\(-e\))
  • 初期運動: \(z\)軸にそって速さ\(v_0\)で入射。
  • 偏向電極\(X_1X_2\): \(z\)方向の長さ\(l\)、間隔\(d\)。
  • 電位設定: \(X_2\)は接地(\(0\,\text{V}\))、\(X_1\)の電位は\(V_x(>0)\)。
  • 蛍光面S: 電極の右端から距離\(D\)。
  • その他: 重力や電場の端の効果は無視。
問われていること
  • [ア] 電極間で電子が受ける力の大きさ。
  • [あ] 上記の力の向き。
  • [イ] 電極を通過した直後の電子の速度の\(x\)成分。
  • [ウ] 電極通過後、蛍光面に到達するまでの時間。
  • [エ] 蛍光面上の輝点の\(x\)座標\(x_c\)を表す式における比例定数\(\alpha_x\)の一部。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問[エ] 蛍光面上のx座標の別解: 「見かけの射出点」を利用する解法
      • 主たる解法が電極内と電極外の変位をそれぞれ計算して足し合わせるのに対し、別解では電極を通過した後の電子の軌道が、電極の中央から直進してきたように見えるという幾何学的な性質を利用して、一つの直角三角形の計算で変位を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的洞察の深化: 荷電粒子の偏向に関する問題で頻出する「見かけの射出点」という概念を学ぶことができ、複雑な計算をよりシンプルな幾何学的モデルに置き換える視点が養われます。
    • 計算の簡略化: 状況によっては、2つの変位を足し合わせるよりも計算が簡単になる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「一様電場中の荷電粒子の運動(放物運動)」です。重力による放物運動と全く同じ考え方で解くことができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 荷電粒子の運動を、力が働く方向(\(x\)軸方向)と働かない方向(\(z\)軸方向)に分解して考えます。
  2. 各方向の運動モデル:
    • \(z\)軸方向: 力が働かないので、初速\(v_0\)のままの「等速直線運動」。
    • \(x\)軸方向: 一定の静電気力が働くので、「初速\(0\)の等加速度直線運動」。
  3. 電場と力の関係: 電場の強さ\(E\)と電位差\(V\)の関係式 \(V=Ed\) を用いて、まず電場の強さを求めます。次に、電子が受ける力の大きさ\(F\)を \(F=eE\) で計算します。電子は負の電荷を持つため、力の向きは電場の向きと逆になることに注意が必要です。
  4. 運動学の公式: 等速直線運動(距離=速さ×時間)と等加速度直線運動(\(v=at\), \(x=\frac{1}{2}at^2\))の公式を、各方向の運動に適用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [ア],[あ]では、まず電場の向きと大きさを求め、そこから電子が受ける力の向きと大きさを決定します。
  2. [イ]では、まず\(z\)軸方向の運動から電極間に滞在する時間を求め、その時間を使って\(x\)方向の等加速度運動の最終速度を計算します。
  3. [ウ]では、電極通過後の\(z\)軸方向の等速直線運動を考えます。
  4. [エ]では、電極内での変位と電極外での変位を足し合わせて、蛍光面上のトータルの\(x\)座標を計算し、式の形を整えます。

[ア], [あ]

思考の道筋とポイント
電極間で電子が受ける静電気力の大きさと向きを求めます。まず、電極間の電位差\(V_x\)と間隔\(d\)から、一様な電場の強さ\(E_x\)を求めます。次に、力の公式\(F=qE\)を適用します。電子の電荷は\(-e\)なので、力の向きは電場の向きと逆になります。
この設問における重要なポイント

  • 一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使う。
  • 電子の電荷が負であるため、力の向きは電場の向きと逆になる。

具体的な解説と立式
電極\(X_1X_2\)間には、電位の高い\(X_1\)から電位の低い\(X_2\)へ向かう電場が生じます。\(X_1\)の電位が\(V_x\)、\(X_2\)の電位が\(0\)なので、電場の向きは\(x\)軸の負の向きです。
その強さ\(E_x\)は、
$$ E_x = \frac{V_x}{d} $$
電子(電荷\(-e\))がこの電場から受ける力の大きさ\(F_x\)は、
$$ F_x = eE_x $$
力の向きは、負電荷なので電場の向き(\(x\)軸負の向き)とは逆、すなわち\(x\)軸の正の向きとなります。

使用した物理公式

  • 一様な電場の強さ: \(E = V/d\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
計算過程

力の大きさ\(F_x\)を、問題で指定された文字を用いて表します。
$$ F_x = eE_x = e \frac{V_x}{d} $$
力の向きは、\(x\)軸の正の向きです。

この設問の平易な説明

電極の間には、プラス極(\(X_1\))からマイナス極(\(X_2\)、接地なので\(0\,\text{V}\))に向かって、電気的な坂道(電場)ができます。電子はマイナスの電気を持っているので、この坂道を駆け上がるように、プラス極の方向に力を受けます。この力の大きさと向きを答える問題です。

結論と吟味

[ア]は \(e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) です。
[あ]は、力の向きなので「① \(x\)軸の正の向き」です。

解答 [ア] \(e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) 解答 [あ]

[イ]

思考の道筋とポイント
電極を通過した直後の電子の速度の\(x\)成分\(v_x\)を求めます。これは、電子が電極間にいた時間(滞在時間)だけ、\(x\)方向に加速された結果です。
Step 1: \(z\)軸方向の等速直線運動から、滞在時間\(t_0\)を求める。
Step 2: \(x\)方向の運動方程式から加速度\(a_x\)を求める。
Step 3: \(v_x = a_x t_0\) を計算する。
この設問における重要なポイント

  • 運動を\(z\)方向と\(x\)方向に分解して考える。
  • \(z\)方向は等速、\(x\)方向は等加速度運動である。

具体的な解説と立式

  • Step 1: 滞在時間\(t_0\)の計算
    \(z\)軸方向には力が働かないので、速さ\(v_0\)の等速直線運動をします。長さ\(l\)の電極を通過するのにかかる時間\(t_0\)は、
    $$ t_0 = \frac{l}{v_0} $$
  • Step 2: 加速度\(a_x\)の計算
    \(x\)方向の運動方程式は \(ma_x = F_x\)。[ア]で求めた \(F_x = e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) を使うと、
    $$ ma_x = \frac{eV_x}{d} $$
    よって、
    $$ a_x = \frac{eV_x}{md} $$
  • Step 3: 速度\(v_x\)の計算
    \(x\)方向は初速\(0\)の等加速度運動なので、時間\(t_0\)後の速度\(v_x\)は、
    $$ v_x = a_x t_0 $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_x &= a_x t_0 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eV_x l}{mdv_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子が電極の間を通り抜ける時間は、進行方向の速さが一定なので「距離÷速さ」で計算できます。その時間の間、電子は横方向(\(x\)方向)に一定の力で引っ張られ続けます。その結果、電極を抜ける頃には、どれくらいの横向きの速さになっているかを計算します。

結論と吟味

[イ]は \(\displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\) です。電極間の電圧\(V_x\)や長さ\(l\)が大きいほど、\(x\)方向の速度が大きくなるという、直感に合う結果です。

解答 [イ] \(\displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\)

[ウ]

思考の道筋とポイント
電子が電極を通過した直後から蛍光面に当たるまでの時間\(t_1\)を求めます。この区間では、電子には力が働かないため、\(z\)軸方向には速さ\(v_0\)の等速直線運動を続けます。
この設問における重要なポイント

  • 電極通過後は、力が働かないため等速直線運動となる。
  • \(z\)軸方向の運動だけを考えれば時間が求まる。

具体的な解説と立式
電極の右端から蛍光面までの\(z\)軸方向の距離は\(D\)です。この区間を、電子は\(z\)軸方向に速さ\(v_0\)で進みます。したがって、かかる時間\(t_1\)は、
$$ t_1 = \frac{D}{v_0} $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
計算過程

立式そのものが答えです。

この設問の平易な説明

電極を抜けた後は、電子を曲げる力はもう働きません。そのため、進行方向(\(z\)方向)の速さは最初に入ってきたときの速さ\(v_0\)のままです。蛍光面までの距離が\(D\)なので、「時間=距離÷速さ」で簡単に計算できます。

結論と吟味

[ウ]は \(\displaystyle\frac{D}{v_0}\) です。

解答 [ウ] \(\displaystyle\frac{D}{v_0}\)

[エ]

思考の道筋とポイント
蛍光面上の輝点の\(x\)座標\(x_c\)を求め、比例定数\(\alpha_x\)の式の一部を特定します。\(x_c\)は、(1)電極内にいた間の\(x\)方向の変位と、(2)電極を通過した後の\(x\)方向の変位の合計です。
この設問における重要なポイント

  • 総変位は、各区間での変位の和である。
  • 電極内では等加速度運動、電極外では等速直線運動をすることを区別する。

具体的な解説と立式

  • (1) 電極内での\(x\)方向の変位 \(x_{\text{内}}\)
    滞在時間\(t_0 = l/v_0\)、加速度\(a_x = eV_x/md\) の等加速度運動なので、
    $$ x_{\text{内}} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 $$
  • (2) 電極外での\(x\)方向の変位 \(x_{\text{外}}\)
    電極を出た直後の\(x\)方向の速度は[イ]で求めた\(v_x\)。この速度で時間\(t_1 = D/v_0\)だけ等速直線運動をするので、
    $$ x_{\text{外}} = v_x t_1 $$
  • 合計の変位 \(x_c\)
    $$ x_c = x_{\text{内}} + x_{\text{外}} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 + v_x t_1 $$

この式を、与えられた文字で整理し、問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) の形に合わせます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(x = \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

\(v_x = a_x t_0\) の関係を用いて、\(x_c\)の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \frac{1}{2}a_x t_0^2 + (a_x t_0) t_1 \\[2.0ex]
&= a_x t_0 \left( \frac{1}{2}t_0 + t_1 \right)
\end{aligned}
$$
ここに、\(t_0 = l/v_0\), \(t_1 = D/v_0\), \(a_x = eV_x/md\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \left( \frac{1}{2}\frac{l}{v_0} + \frac{D}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eV_x l}{mdv_0} \cdot \frac{1}{v_0} \left( \frac{l}{2} + D \right) \\[2.0ex]
&= \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) V_x
\end{aligned}
$$
問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) と比較すると、
$$ \alpha_x = \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) $$
さらに問題文の \(\text{[エ]} \times (1 + \frac{l}{2D})\) の形に合わせるため、括弧の中から\(D\)でくくり出します。
$$
\begin{aligned}
\alpha_x &= \frac{el}{mdv_0^2} \cdot D \left( \frac{l}{2D} + 1 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{elD}{mdv_0^2} \left( 1 + \frac{l}{2D} \right)
\end{aligned}
$$
したがって、[エ]に当てはまる部分は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。

この設問の平易な説明

電子が最終的に横方向にどれだけズレるかは、2段階で考えます。まず、電極の中でカーブしながら進んだ分のズレ。次に、電極を飛び出した後、斜めにまっすぐ進んだことによるズレ。この2つのズレを足し合わせることで、蛍光スクリーンに到達したときのトータルのズレ(\(x\)座標)が計算できます。

結論と吟味

[エ]は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。計算過程は複雑ですが、各区間の運動を正しくモデル化し、丁寧に計算すれば導出できます。\(l/2D\) の項は、電極内で曲がったことによる効果と、電極を出た後の角度で直進した効果の比を表しており、物理的に意味のある形になっています。

別解: 「見かけの射出点」を利用する解法

思考の道筋とポイント
電極を通過した後の電子は、速度\((v_x, v_0)\)で等速直線運動をします。この直線を\(z\)軸の負の方向に延長すると、電極の中央(\(z=l/2\))の\(z\)軸上の点を通ることが知られています。この点を「見かけの射出点」と呼びます。この性質を利用すると、蛍光面上の変位\(x_c\)を、底辺が\(D+l/2\)、高さが\(x_c\)の大きな直角三角形の辺の比として、一度に求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 電極通過後の軌道は、電極の中央から発射されたように見える。
  • 三角形の相似(またはtan)を利用して変位を計算する。

具体的な解説と立式
電極を出た後の電子の速度の\(x\)成分は\(v_x\)、\(z\)成分は\(v_0\)です。軌道の傾きは、速度の比で与えられます。
$$ \tan\theta = \frac{v_x}{v_0} $$
見かけの射出点(\(z=l/2\))から蛍光面(\(z=l+D\))までの\(z\)方向の距離は \((l+D) – l/2 = D+l/2\) です。
この距離を進む間に\(x\)方向に変位した量が\(x_c\)なので、
$$ x_c = (D + l/2) \tan\theta = (D + l/2) \frac{v_x}{v_0} $$

使用した物理公式

  • 速度の成分と軌道の傾きの関係: \(\tan\theta = v_y/v_x\)
計算過程

[イ]で求めた \(v_x = \displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \left( D + \frac{l}{2} \right) \frac{1}{v_0} \left( \frac{eV_x l}{mdv_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{el}{mdv_0^2} \left( D + \frac{l}{2} \right) V_x
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の計算過程で出てきた式と全く同じです。ここから同様に\(D\)でくくり出すと、
$$ x_c = \frac{elD}{mdv_0^2} \left( 1 + \frac{l}{2D} \right) V_x $$
となり、[エ]に当てはまる部分は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) であることがわかります。

この設問の平易な説明

電子は電極の中で放物線を描いて曲がりますが、電極を飛び出した後はまっすぐ進みます。このまっすぐな軌跡を逆にたどっていくと、ちょうど電極のど真ん中から発射されたように見えます。この「見かけの発射点」から蛍光スクリーンまでの大きな三角形を考えれば、ズレの計算が少し楽になります。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。この解法は、現象の幾何学的な性質をうまく利用しており、見通しが良いという利点があります。

解答 [エ] \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解:
    • 核心: \(2\)次元や\(3\)次元の運動は、互いに直交する軸に沿った\(1\)次元の運動の集まりとして考えることができます。この問題では、電子の運動を「\(z\)軸方向(進行方向)」と「\(x\)軸方向(偏向方向)」に分解することが解析の第一歩です。
    • 理解のポイント: \(z\)軸方向には力が働かないため「等速直線運動」、\(x\)軸方向には一定の静電気力が働くため「等加速度直線運動」となります。この2つの単純な運動モデルを組み合わせることで、電子の放物線軌道全体を記述できます。これは、地表付近での物体の放物運動を、水平方向の等速直線運動と鉛直方向の自由落下に分解するのと全く同じ考え方です。
  • 一様な電場における力の計算:
    • 核心: 平行な電極間に作られる電場は、端の部分を除いて一様とみなせます。その強さ\(E\)は電位差\(V\)と間隔\(d\)を用いて \(E=V/d\) と表せます。荷電粒子が受ける静電気力の大きさは \(F=qE\) で計算できます。
    • 理解のポイント: この問題では、電子の電荷が\(-e\)であるため、力の向きは電場の向きと逆になります。電位の高い\(X_1\)から低い\(X_2\)へ向かって\(x\)軸負の向きに電場が生じるため、電子が受ける力は\(x\)軸の正の向きになります。この符号の扱いは、電磁気の問題における基本中の基本です。
  • 2段階の運動の接続:
    • 核心: 電子の運動は、①電極内(等加速度運動)と②電極外(等速直線運動)の2つのフェーズに分かれます。最終的な変位を求めるには、それぞれのフェーズでの変位を計算し、それらを足し合わせる必要があります。
    • 理解のポイント: 問[エ]で\(x_c\)を求める際、電極を出た瞬間の「速度」と「位置」が、次の等速直線運動の「初速」と「初期位置」になります。このように、運動が変化する点(この場合は電極の出口)で、物理量(速度、位置)がスムーズに接続されると考えることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平投射・斜方投射: 地上から物体を投げ出す運動。\(x\)方向には力がなく(等速)、\(y\)方向には重力が働く(等加速度)という点で、本問と完全に同じ構造です。本問は、いわば「横向きの重力」がある空間での運動とみなせます。
    • 質量分析器: 電場や磁場を使って荷電粒子を曲げ、その曲がり方から粒子の質量や電荷を特定する装置。本問のように、電場による偏向の大きさが粒子の性質(質量\(m\)、電荷\(e\)など)にどう依存するかを計算する点が共通しています。
    • インクジェットプリンター: インクの微粒子を帯電させ、電極で軌道を制御して紙の特定の位置に付着させる技術。これも本問の原理の応用例です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動領域の分割: まず、力が働く領域と働かない領域、あるいは力の種類が変わる領域を見極め、運動をフェーズ分けします。(例:電極内、電極外)
    2. 運動の分解: 各フェーズにおいて、運動を直交する成分に分解できないか検討します。力が特定の軸に沿って働いている場合、この手法は非常に有効です。
    3. 各成分の運動モデルの特定: 分解した各成分が、どのような運動(等速、等加速度、単振動など)をするのかを特定します。
    4. 時間による媒介: 異なる軸方向の運動を結びつける共通のパラメータは「時間」です。一方の軸の運動から時間を求め、それをもう一方の軸の運動の計算に利用する、という流れが定石です。(例:\(z\)方向の運動から滞在時間を求め、\(x\)方向の変位や速度を計算する)

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の電荷の符号:
    • 誤解: 電子の電荷を正としてしまい、力の向きを電場の向きと同じにしてしまう。
    • 対策: 問題文に「電子」「電荷\(-e\)」とあったら、必ず印をつけるなどして注意を喚起しましょう。力の向きを考える際は、「正電荷なら電場と同じ向き、負電荷なら逆向き」と常に確認する癖をつけます。
  • 電極通過後の運動:
    • 誤解: 電極を通過した後も、\(x\)方向に加速し続けると考えてしまう。
    • 対策: 力が働くのは電極間に限定されます。電極を抜けた後は、電子に力は働きません。したがって、運動は「等速直線運動」に切り替わります。電極を出た瞬間の速度ベクトルが、その後の運動の向きと速さを決定します。
  • 変位の計算:
    • 誤解: 問[エ]で、蛍光面上の\(x\)座標を、電極内での変位 \(x_{\text{内}} = \frac{1}{2}a_x t_0^2\) だけで計算してしまう。
    • 対策: 電極を出た後も、電子は\(x\)方向の速度成分\(v_x\)を持ったまま直進するため、さらに\(x\)方向に変位します。最終的な変位は、電極内での変位と電極外での変位の和であることを忘れないようにしましょう。図を描いて、軌跡をイメージすることが有効です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=V/d\):
    • 選定理由: [ア]で力の大きさを求めるために、まず電場の強さが必要だから。電位差と距離が与えられている場合、一様な電場を求める最も基本的な公式です。
    • 適用根拠: 平行平板電極間に生じる電場が(端を除き)一様であるという物理的状況。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: [イ]で速度を求めるために、まず加速度を知る必要があるから。力と加速度を結びつける唯一の法則です。
    • 適用根拠: 電子に力が働き、その結果として速度が変化するという、ニュートン力学の基本原理。
  • 等速・等加速度運動の公式:
    • 選定理由: 運動を\(z\)方向(力が\(0\))と\(x\)方向(力が一定)に分解したため、それぞれの運動を記述するのに最も適した公式だからです。
    • 適用根拠: 各軸方向の運動が、それぞれ等速直線運動、等加速度直線運動としてモデル化できるという物理的状況。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: この問題は\(m, e, v_0, d, l, V_x, D\)と多くの文字が登場します。どの物理量がどの文字に対応しているか、混乱しないように注意深く扱いましょう。
    • 日頃の練習: 問[エ]のように最終的な式が複雑になる場合は、一気に計算しようとせず、\(t_0\), \(a_x\), \(v_x\), \(t_1\)といった中間的な量を一つずつ計算し、それらを最後に組み合わせることで、見通しが良くなりミスを減らせます。
  • 式の変形:
    • 特に注意すべき点: 問[エ]の最終段階で、\( \frac{el}{mdv_0^2} (\frac{l}{2} + D) \) という形から、問題で要求されている \( \frac{elD}{mdv_0^2} (1 + \frac{l}{2D}) \) の形へ変形する作業は、落ち着いて行いましょう。
    • 日頃の練習: 共通因数でくくり出す、特定の項で割って括弧の外に出す、といった式変形は物理の問題で頻出します。日頃からスムーズにできるように練習しておきましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [イ] \(v_x = \frac{eV_x l}{mdv_0}\): この式から、入射速度\(v_0\)が速いほど、滞在時間が短くなるため、\(x\)方向の速度\(v_x\)は小さくなることがわかります。これは直感と一致します。
    • [エ]の比例定数: 輝点の変位\(x_c\)は、偏向電圧\(V_x\)に比例することがわかります。これはブラウン管の基本的な性質であり、電圧で輝点の位置を制御できることを示しています。また、電子の質量\(m\)や入射速度\(v_0\)が大きい(粒子が重い、または速い)ほど、変位しにくい(分母にある)ことも、物理的に妥当です。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • 問題の最後にある「\(l\)が\(D\)に比べて十分小さい」という近似(\(l/2D \ll 1\))を考えると、\(x_c \approx \frac{elD}{mdv_0^2}V_x\)となります。これは、電極内で得た角度で、電極の出口からまっすぐ蛍光面まで進んだと近似したときの変位(\(v_x t_1\)の項)が支配的であることを意味しており、遠くから見れば軌道がほぼ直線に見えるという直感に対応しています。別解で用いた「見かけの射出点」の考え方が、この近似の良い物理的イメージを与えてくれます。

問題107 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの点電荷が作る電場と電位、そして電気力線について、複数の状況設定の下で多角的に考察する問題です。前半[A]では等しい正電荷、後半[B]では異符号で大きさの異なる電荷のペアを扱います。
この問題の核心は、電場(ベクトル)と電位(スカラー)の重ね合わせの原理を正しく使い分けること、そしてエネルギー保存則やガウスの法則といった基本法則を的確に適用することです。

与えられた条件
  • 2点A, Bは距離\(l\)だけ離れている。
  • 点Aの座標: \((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
  • 点Bの座標: \((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
  • [A]の場合: 点A, Bにそれぞれ正電荷\(Q\)を置く。
  • [B]の場合: 点Aに電荷\(Q\)、点Bに電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\) (\(Q>0\))を置く。
  • その他: クーロンの法則の比例定数\(k_0\)、無限遠の電位は\(0\)。
問われていること
  • [A](1) 電気力線の図示。
  • [A](2) 特定の条件下での荷電粒子の速さ。
  • [B](1) 電位が\(0\)になる点の軌跡の方程式とその図形。
  • [B](2) 電場が\(0\)になる点の座標。
  • [B](3) 特定の円周上で電位が最も低くなる点の説明。
  • [B](4) 点Aから出て点Bに入る電気力線の角度範囲とその理由。
  • [B](5) [B]の状況における電気力線の図示。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問[B](1) 電位が0になる点の軌跡の別解: アポロニウスの円の性質を利用する解法
      • 主たる解法が座標を用いて代数的に円の方程式を導出するのに対し、別解では「2定点からの距離の比が一定である点の軌跡は円である」という幾何学的な性質(アポロニウスの円)を利用して、円の中心と半径を求めます。
    • 問[B](2) 電場が0になる点の座標の別解: 距離の比と外分点の公式を利用する解法
      • 主たる解法が座標を用いて直接方程式を解くのに対し、別解ではまず電場の大きさが等しくなる条件から2電荷からの距離の比を求め、その比を用いて外分点の公式で座標を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 代数的解法と幾何学的解法の比較学習: 同じ問題に対して、方程式を直接解く代数的なアプローチと、図形の性質を利用する幾何学的なアプローチの両方を学ぶことで、思考の柔軟性が養われ、問題解決の選択肢が広がります。
    • 物理モデルの深化: 「アポロニウスの円」や「内分・外分」といった数学的な概念が、電場や電位といった物理的な問題とどのように結びついているかを理解することで、物理現象の数学的な構造に対する洞察が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「点電荷が作る電場と電位」であり、その基本的な性質を深く理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 重ね合わせの原理: 電場はベクトル和、電位はスカラー和で合成されるという、両者の最も重要な違いを理解し、正しく使い分けることが全ての設問の基礎となります。
  2. 力学的エネルギー保存則: 荷電粒子が電場内を運動する際、静電気力による位置エネルギー \(U=qV\) を考慮したエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用します。
  3. 電気力線の性質とガウスの法則: 電気力線は正電荷から湧き出し負電荷に吸い込まれ、その本数は電荷の大きさに比例します。この性質が、電気力線の振る舞いを理解する上で重要になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問われている物理量(力、電場、電位、速さ)に応じて、適切な法則(クーロンの法則、重ね合わせの原理、エネルギー保存則)を選択します。
  2. [B]のように複数の設問が連なっている場合、前の設問の結果(電位\(0\)の軌跡、電場\(0\)の点など)が後の設問(電気力線の作図)の重要なヒントになっていることを意識します。
  3. 「力が\(0\)」「電位が\(0\)」といった物理条件を、座標を用いた数式に正確に変換し、計算を進めます。

[A] 問(1)

思考の道筋とポイント
2つの等しい正の点電荷が作る電気力線の様子を描く問題です。電気力線は正電荷から湧き出し、電荷がない空間では途切れたり交差したりせず、滑らかに繋がります。また、2つの電荷が反発しあう様子を反映して、電気力線も互いに反発するように曲がります。全体の配置が\(x\)軸および\(y\)軸に対して対称であるため、描かれる電気力線も対称になります。
この設問における重要なポイント

  • 電気力線は正電荷から出て、無限遠に向かう(または負電荷に入る)。
  • 電気力線の密度は電場の強さを表す。
  • 電気力線は互いに交差したり、枝分かれしたり、途中で途切れたりしない。
  • 電荷の配置の対称性を、電気力線のパターンに反映させる。

具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に、同じ大きさの正電荷\(Q\)が置かれています。作図の根拠となる性質は以下の通りです。

  1. 各々の正電荷からは、単独であれば電気力線が放射状にまっすぐ湧き出します。
  2. 2つの電荷が存在するため、互いの作る電場の影響で電気力線は曲がります。正電荷同士は反発するため、電気力線も互いを避けるように曲がります。
  3. 特に、AとBの中点である原点\((0, 0)\)では、Aが作る右向きの電場とBが作る左向きの電場が打ち消し合い、電場はゼロになります。この点を通る電気力線はありません。
  4. \(y\)軸上では、Aが作る電場の\(y\)成分とBが作る電場の\(y\)成分は強め合い、\(x\)成分は打ち消し合います。したがって、\(y\)軸上の電場は常に\(y\)軸方向を向きます。
  5. これらの性質を総合すると、各電荷から出た電気力線は、中央の領域を避けるように外側に広がり、\(x\)軸および\(y\)軸に対して対称な図形を描きます。

使用した物理公式

  • 電気力線の基本性質
計算過程

作図問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

プラスの電気を持った2つのボールが置いてあると想像してください。そこから電気の力が湧き出てくる様子を線で描く問題です。プラス同士は反発するので、お互いから出た線はぶつかるのを避けるように曲がっていきます。ちょうど真ん中の点では、両方からの力が打ち消しあって力がゼロになるので、そこは線が通らない空白地帯になります。

結論と吟味

描かれた図は、2つの正電荷が反発しあう様子を正しく表現している必要があります。特に、原点で電場が\(0\)になること、\(y\)軸上で電場が\(y\)軸方向を向くこと、全体の対称性が反映されていることが重要です。模範解答の図aはこれらの特徴をすべて満たしています。

解答 (1) 模範解答の図aを参照。

[A] 問(2)

思考の道筋とポイント
荷電粒子が電場の中で運動するとき、保存力である静電気力のみが仕事をする場合、その力学的エネルギー(運動エネルギー+静電気力による位置エネルギー)は保存されます。このエネルギー保存則を用いて、始点と終点での速さと電位の関係を立式します。問題が「速度」を問うているため、速さ(大きさ)だけでなく、運動の向きも考察する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用できることを理解する。
  • 始点(\(y\)軸上の点)と終点(無限遠)での各エネルギーを正しく評価する。
  • 「速度」を問われているため、対称性から運動の向きを特定する。

具体的な解説と立式
荷電粒子を置く\(y\)軸上の点をSとします。Sの座標は\((0, y_S)\)で、\(|y_S| = 4.0 \times 10^{-2} \, \text{m}\)です。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)から点Sまでの距離\(r\)は、対称性から等しくなります。
\(l = 6.0 \times 10^{-2} \, \text{m}\)なので、\(\displaystyle\frac{l}{2} = 3.0 \times 10^{-2} \, \text{m}\)です。
三平方の定理より、距離\(r\)は、
$$ r = \sqrt{(\frac{l}{2})^2 + y_S^2} $$
点Sにおける電位\(V_S\)は、点A、Bにある電荷\(Q\)がそれぞれ作る電位の和で与えられます。無限遠を電位の基準(\(0\))とします。
$$ V_S = k_0 \frac{Q}{r} + k_0 \frac{Q}{r} = \frac{2k_0Q}{r} \quad \cdots ① $$
荷電粒子(電荷\(q\)、質量\(m\))について、始点Sと終点である無限遠との間でエネルギー保存則を立てます。

  • 始点S: 静かに置くので初速\(v_S=0\)。運動エネルギーは\(0\)。位置エネルギーは \(U_S = qV_S\)。
  • 終点(無限遠): 求める速さを\(v\)とする。運動エネルギーは\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。無限遠では電位が基準の\(0\)なので、位置エネルギーは \(U_{\infty} = q \cdot 0 = 0\)。

エネルギー保存則 \(K_S + U_S = K_{\infty} + U_{\infty}\) より、
$$ 0 + qV_S = \frac{1}{2}mv^2 + 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{終}} + U_{\text{終}}\)
計算過程

まず、距離\(r\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
r &= \sqrt{(3.0 \times 10^{-2})^2 + (4.0 \times 10^{-2})^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9.0 \times 10^{-4} + 16.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^{-2} \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を\(v\)について解き、式①を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= qV_S \\[2.0ex]
&= q \left( \frac{2k_0Q}{r} \right) \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{4k_0qQ}{mr}
\end{aligned}
$$
したがって、速さ\(v\)は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\) となります。
与えられた数値を代入して\(v\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{4 \times (9.0 \times 10^9) \times (1.6 \times 10^{-19}) \times (5.0 \times 10^{-12})}{(9.0 \times 10^{-31}) \times (5.0 \times 10^{-2})}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{4 \times 9.0 \times 1.6 \times 5.0}{9.0 \times 5.0} \times \frac{10^{9-19-12}}{10^{-31-2}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.4 \times \frac{10^{-22}}{10^{-33}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.4 \times 10^{11}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{64 \times 10^{10}} \\[2.0ex]
&= 8.0 \times 10^5 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

荷電粒子は、最初に置かれた場所Sが持つ電気的な高さ(電位)によって、位置エネルギーを持っています。この位置エネルギーが、反発力を受けて無限の彼方へ飛び去っていくうちに、すべて運動エネルギーに変換されます。このエネルギーの等式から速さ(大きさ)がわかります。向きについては、電荷の配置の対称性から、\(y\)軸上の粒子は\(y\)軸に沿ってまっすぐ動くことがわかります。

結論と吟味

計算から、無限遠に達したときの速さは \(8.0 \times 10^5 \, \text{m/s}\) と求まります。問題は速度を問うているため、向きも考慮する必要があります。荷電粒子を置く点は\(y\)軸上であり、電荷の配置は\(y\)軸に対して対称です。したがって、\(y\)軸上の電場は常に\(y\)軸方向を向きます。

  • 荷電粒子を \(y > 0\) の点に置いた場合、電場は\(y\)軸正の向きなので、粒子は\(y\)軸正の向きに加速されます。
  • 荷電粒子を \(y < 0\) の点に置いた場合、電場は\(y\)軸負の向きなので、粒子は\(y\)軸負の向きに加速されます。

したがって、速度は置かれた位置によって向きが異なります。

解答 (2) \(y\)軸上で\(y>0\)の点に置いた場合、\(y\)軸の正の向きに\(8.0 \times 10^5 \, \text{m/s}\)。\(y<0\)の点に置いた場合、\(y\)軸の負の向きに\(8.0 \times 10^5 \, \text{m/s}\)。

[B] 問(1)

思考の道筋とポイント
電位はスカラー量であるため、空間のある点での電位は、各々の点電荷が作る電位の単純な和(代数和)で計算できます。電位が\(0\)になるという条件を数式で表現し、その式を整理することで、条件を満たす点の集合がどのような図形を描くかを明らかにします。
この設問における重要なポイント

  • 電位はスカラーであり、重ね合わせの原理が単純な和で成り立つ。
  • 点\((x, y)\)と2つの定点A, Bとの距離を、座標を用いて正しく表現する。
  • 得られた方程式を、円の標準形 \((x-a)^2 + (y-b)^2 = R^2\) に変形し、中心と半径を読み取る。

具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(Q\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が置かれています。
電位が\(0\)となる点を\((x, y)\)とし、この点からA, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
$$ r_A = \sqrt{(x – (-\frac{l}{2}))^2 + y^2} = \sqrt{(x + \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
$$ r_B = \sqrt{(x – \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
点\((x, y)\)における電位\(V\)は、AとBの電荷が作る電位の和なので、
$$ V = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} $$
電位が\(0\)という条件から \(V=0\) なので、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A} – k_0 \frac{Q}{2r_B} = 0 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
  • 2点間の距離の公式
計算過程

式①を整理します。\(k_0 Q \neq 0\) で両辺を割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{r_A} &= \frac{1}{2r_B} \\[2.0ex]
2r_B &= r_A
\end{aligned}
$$
両辺を2乗すると、\(4r_B^2 = r_A^2\) となります。ここに距離の座標表示を代入します。
$$ 4 \left\{ (x – \frac{l}{2})^2 + y^2 \right\} = (x + \frac{l}{2})^2 + y^2 $$
これを展開して整理します。
$$
\begin{aligned}
4 \left( x^2 – lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \right) &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]
4x^2 – 4lx + l^2 + 4y^2 &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]
3x^2 – 5lx + 3y^2 + \frac{3}{4}l^2 &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を\(3\)で割ります。
$$ x^2 – \frac{5}{3}lx + y^2 + \frac{l^2}{4} = 0 $$
\(x\)について平方完成します。
$$
\begin{aligned}
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 – \left( \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 + \frac{l^2}{4} &= 0 \\[2.0ex]
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \frac{25}{36}l^2 – \frac{1}{4}l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{25-9}{36}l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{16}{36}l^2 \\[2.0ex]
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \left( \frac{2}{3}l \right)^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電位がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受けるプラスの電位と、マイナスの電荷Bから受けるマイナスの電位がちょうど打ち消しあう点です。この条件を数式にすると「Aまでの距離とBまでの距離の間に特定の比率が成り立つ」という関係が出てきます。この関係を満たす点の集まりは、幾何学的に「アポロニウスの円」として知られる円を描きます。

結論と吟味

求める方程式は \(\left( x – \displaystyle\frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 = \left( \displaystyle\frac{2}{3}l \right)^2\) です。
これは、中心が \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径が \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を表します。
この結果は、\(r_A = 2r_B\) という条件を満たす点の軌跡(アポロニウスの円)であり、物理的に妥当です。

別解: アポロニウスの円の性質を利用する解法

思考の道筋とポイント
電位が\(0\)になる条件 \(r_A = 2r_B\) は、「2つの定点A, Bからの距離の比が \(2:1\) である点の集まり」を意味します。これは、幾何学で「アポロニウスの円」として知られる図形を描きます。この円の直径の両端は、線分ABを \(2:1\) に内分する点と外分する点になります。これらの点の座標を求め、円の中心と半径を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 距離の比が一定の点の軌跡が円(アポロニウスの円)になることを利用する。
  • 内分点と外分点の公式を用いて、円の直径の両端を求める。

具体的な解説と立式
電位が\(0\)になる条件から、点\((x, y)\)と点A, Bとの距離\(r_A, r_B\)の関係は、
$$ r_A : r_B = 2 : 1 $$
となります。この条件を満たす点の軌跡は円を描きます。この円の直径の両端は、線分ABを \(2:1\) に内分する点Cと、外分する点Dです。
点Aの座標は \(x_A = -\displaystyle\frac{l}{2}\)、点Bの座標は \(x_B = \displaystyle\frac{l}{2}\) です。

  • 内分点Cの\(x\)座標 \(x_C\):
    $$ x_C = \frac{1 \cdot x_A + 2 \cdot x_B}{2+1} = \frac{1 \cdot (-\frac{l}{2}) + 2 \cdot (\frac{l}{2})}{3} $$
  • 外分点Dの\(x\)座標 \(x_D\):
    $$ x_D = \frac{-1 \cdot x_A + 2 \cdot x_B}{2-1} = \frac{-1 \cdot (-\frac{l}{2}) + 2 \cdot (\frac{l}{2})}{1} $$

円の中心の\(x\)座標は \(\displaystyle\frac{x_C+x_D}{2}\)、半径は \(\displaystyle\frac{x_D-x_C}{2}\) で求められます。

使用した物理公式

  • 線分の内分・外分点の公式
  • アポロニウスの円の性質
計算過程

内分点Cと外分点Dの座標を計算します。
$$ x_C = \frac{-\frac{l}{2} + l}{3} = \frac{l/2}{3} = \frac{l}{6} $$
$$ x_D = \frac{\frac{l}{2} + l}{1} = \frac{3}{2}l $$
円の中心の\(x\)座標は、
$$ x_{\text{中心}} = \frac{x_C+x_D}{2} = \frac{\frac{l}{6} + \frac{3}{2}l}{2} = \frac{\frac{l+9l}{6}}{2} = \frac{10l/6}{2} = \frac{5}{6}l $$
円の半径は、
$$ R = \frac{x_D-x_C}{2} = \frac{\frac{3}{2}l – \frac{l}{6}}{2} = \frac{\frac{9l-l}{6}}{2} = \frac{8l/6}{2} = \frac{4l}{6} = \frac{2}{3}l $$
したがって、求める図形は中心 \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径 \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円です。

この設問の平易な説明

電位がゼロになる点は、「Aまでの距離がBまでの距離のちょうど2倍になる点」の集まりです。このような点の集まりは、数学では「アポロニウスの円」と呼ばれるきれいな円を描くことが知られています。この円は、線分ABを\(2:1\)に分ける内側の点と外側の点を直径の両端とする円です。この幾何学的な性質を使うと、複雑な座標計算をせずに、円の中心と半径を求めることができます。

結論と吟味

主たる解法で代数的に導出した円の方程式と完全に一致します。物理的な条件を幾何学的な性質に置き換えて解く、エレガントなアプローチです。

解答 (1) 方程式: \(\left( x – \displaystyle\frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 = \left( \displaystyle\frac{2}{3}l \right)^2\)、図形: 中心\((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径\(\displaystyle\frac{2}{3}l\)の円。

[B] 問(2)

思考の道筋とポイント
\(x\)軸上の点Pに置いた電荷にはたらく力が\(0\)になる条件を考えます。力(ベクトル)が\(0\)になるということは、点Aの電荷が及ぼす力と点Bの電荷が及ぼす力が、大きさが等しく逆向きであるということです。\(x\)軸上では、力は常に\(x\)軸方向を向くため、力の大きさが等しくなる点を探せばよいことになります。
この設問における重要なポイント

  • 電場(または力)はベクトル量であり、重ね合わせはベクトル和で考える。
  • 合成電場が\(0\)になる点を探す。
  • 電荷の符号と位置関係から、力がつりあう可能性のある領域を絞り込む。

具体的な解説と立式
\(x\)軸上の点Pに、試験電荷\(q_0\)を置いたときにはたらく力が\(0\)になる、すなわち点Pでの電場が\(0\)になる点を求めます。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(Q\)と、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が作る電場を考えます。

  • AとBの間 \((-\displaystyle\frac{l}{2} < x < \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷も右向きの電場を作ります。両方の電場が同じ向きなので、打ち消しあうことはなく、電場は\(0\)になりません。
  • Aの左側 \((x < -\displaystyle\frac{l}{2})\): Aの電荷の方がBの電荷より絶対値が大きく、かつ距離も近いため、Aが作る左向きの電場が常にBの作る右向きの電場より強くなります。したがって、電場は\(0\)になりません。
  • Bの右側 \((x > \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷は左向きの電場を作ります。逆向きの電場なので、大きさが等しくなれば打ち消しあって\(0\)になる可能性があります。

よって、求める点PはBの右側に存在します。Pの座標を\((x, 0)\) (\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\))とします。
点Pにおける電場\(E_P\)が\(0\)になる条件は、Aが作る電場\(E_A\)とBが作る電場\(E_B\)の大きさが等しいことなので、
$$ k_0 \frac{Q}{(x – (-\frac{l}{2}))^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ \frac{Q}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{Q/2}{(x – \frac{l}{2})^2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
計算過程

式①を整理します。両辺を\(Q\)で割り、
$$ \frac{1}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{1}{2(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ 2(x – \frac{l}{2})^2 = (x + \frac{l}{2})^2 $$
両辺の平方根をとります。\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\)より、\(x – \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)かつ\(x + \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)なので、
$$ \sqrt{2}(x – \frac{l}{2}) = x + \frac{l}{2} $$
これを\(x\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2}x – \frac{\sqrt{2}}{2}l &= x + \frac{1}{2}l \\[2.0ex]
(\sqrt{2}-1)x &= (\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{1}{2})l \\[2.0ex]
(\sqrt{2}-1)x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2}l \\[2.0ex]
x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{2 + 2\sqrt{2} + 1}{2(2-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

力がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受ける反発力と、マイナスの電荷Bから受ける引力が、ちょうど同じ大きさで逆向きになる点です。AとBの間では両方の力が同じ向き(右向き)になってしまうので、力のつりあいは起こりません。Aの左側では、力の強いAの影響が常に勝ってしまいます。力のつりあい点が存在する可能性があるのは、力の弱いBの電荷のさらに外側(右側)だけです。この領域で力の大きさが等しくなる点の座標を計算します。

結論と吟味

点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) です。
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) なので、\(x \approx \displaystyle\frac{3+2.82}{2}l = 2.91l\) となり、\(x > l/2\) を満たす妥当な位置です。

別解: 距離の比を用いた解法

思考の道筋とポイント
電場が\(0\)になる条件を、力の大きさの式から直接座標計算するのではなく、まず2つの電荷からの「距離の比」を求めるアプローチです。距離の比が分かれば、線分の内分・外分の公式を用いて幾何学的に座標を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 電場の大きさが等しいという条件を、距離の比の関係式に変換する。
  • 物理的な考察から、求める点が内分点か外分点かを判断する。
  • 外分点の公式を正しく用いて座標を計算する。

具体的な解説と立式
電場が\(0\)になる点Pから点A, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
点Pでの電場の大きさが等しいという条件は、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{r_B^2} $$
これを整理すると、
$$ \frac{1}{r_A^2} = \frac{1}{2r_B^2} $$
$$ r_A^2 = 2r_B^2 $$
よって、距離の比は \(r_A : r_B = \sqrt{2} : 1\) となります。
この条件を満たす点Pは、線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に内分する点、または外分する点です。
物理的な考察から、点PはAとBの間には存在しない(電場が同方向のため)ので、求める点Pは線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に外分する点であるとわかります。

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
  • 線分の外分点の公式
計算過程

点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を結ぶ線分ABを、\(\sqrt{2}:1\)に外分する点Pの\(x\)座標を求めます。
外分点の公式 \(x = \displaystyle\frac{-n x_1 + m x_2}{m-n}\) を用いて、\(m=\sqrt{2}, n=1, x_1 = -\displaystyle\frac{l}{2}, x_2 = \displaystyle\frac{l}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{-1 \cdot (-\frac{l}{2}) + \sqrt{2} \cdot (\frac{l}{2})}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{l}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{(\frac{1+\sqrt{2}}{2})l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{1+\sqrt{2}}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{(1+\sqrt{2})(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{1+2\sqrt{2}+2}{2(2-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

力がつりあう点の条件を計算すると、「点Aまでの距離と点Bまでの距離の比が\(\sqrt{2}:1\)になる点」であることがわかります。このような点は、線分ABを\(\sqrt{2}:1\)に分ける点ですが、物理的に考えてAとBの間にはないので、外側で分ける「外分点」であるとわかります。あとは数学の公式を使って外分点の座標を計算します。

結論と吟味

点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) となり、最初の解法と一致します。物理的考察と幾何学的知識を結びつけた、見通しの良い解法です。

解答 (2) \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\)

[B] 問(3)

思考の道筋とポイント
点Bを中心とする円周上の点の電位を考えます。電位は、点Aからの距離と点Bからの距離に依存します。点Bを中心とする円周上では、点Bからの距離は一定です。したがって、電位の変化は点Aからの距離のみによって決まります。電位の式を立て、それが最小になる条件を幾何学的に考察します。
この設問における重要なポイント

  • 円周上の任意の点Mにおける電位の式を立てる。
  • 電位の式の中で、変数は何か、定数は何かを明確にする。
  • 変数がどのような範囲を動くときに、電位が最小になるかを考える。

具体的な解説と立式
点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を中心とする円周上の任意の点をMとします。この円の半径を\(r_B\)とすると、MとBの距離は常に\(r_B\)で一定です。
点MとAの距離を\(r_A\)とします。
点Mにおける電位\(V_M\)は、
$$ V_M = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} = k_0 Q \left( \frac{1}{r_A} – \frac{1}{2r_B} \right) $$
この式において、\(k_0, Q, r_B\)は定数です。したがって、\(V_M\)の値は \(r_A\) の値だけで決まります。
\(V_M\)が最も低くなる(最小になる)条件を考えます。

  • \(k_0 Q > 0\) なので、\(V_M\)が最小になるのは、括弧内の \(\displaystyle\frac{1}{r_A} – \displaystyle\frac{1}{2r_B}\) が最小になるときです。
  • \(\displaystyle\frac{1}{2r_B}\)は定数なので、これは \(\displaystyle\frac{1}{r_A}\) が最小になるとき、すなわち分母の\(r_A\)が最大になるときに相当します。

点Mは、点Bを中心とする円周上を動きます。このとき、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、Mが直線AB上でBのさらに右側にある点、すなわち\(x\)軸上の点(ただし \(x > l/2\))に来たときです。

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
計算過程

説明問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

点Bの周りをぐるっと一周する円の上で、電位が一番低くなる場所を探します。電位は、Aからの影響とBからの影響の足し算で決まります。円周上では、Bからの距離はどこでも同じなので、Bからの影響(マイナスの電位)は一定です。したがって、電位全体を低くするには、Aからの影響(プラスの電位)をできるだけ小さくすればよいことになります。Aからのプラスの電位が最も小さくなるのは、Aから最も遠ざかった点です。それは、A-B-Mが一直線に並ぶ、\(x\)軸上の点です。

結論と吟味

点Bを中心とする円周上で、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、点が\(x\)軸上でBの右側にあるときである。このとき、電位\(V_M\)は最小となる。したがって、電位が最も低い点は\(x\)軸上(ただし \(x > l/2\))にある。

解答 (3) 点Bを中心とする円周上の点Mの電位\(V_M\)は、Aからの距離\(r_A\)が最大となるときに最小となる。\(r_A\)が最大となるのはMが\(x\)軸上(\(x>l/2\))にあるときだから。

[B] 問(4)

思考の道筋とポイント
電気力線の本数は、その源となる電荷の大きさに比例するというガウスの法則の考え方を用います。点Aから出る電気力線の総本数と、点Bに入る電気力線の総本数の比は、それぞれの電荷の絶対値の比に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 電気力線の本数は電荷の絶対値に比例する。
  • 点Aのごく近くでは、電気力線は等方的に(すべての方向に均等に)放射されるとみなせる。
  • 点Aから出て点Bに入る電気力線は、点Aから見て点Bの方向にある立体角内に放出されたものだと考える。

具体的な解説と立式
点Aの電荷は\(Q\)、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)です。
電気力線の本数は電荷の絶対値に比例するので、点Aから出る電気力線の総本数を\(N\)とすると、点Bに入る電気力線の総本数は \(\displaystyle\frac{|-Q/2|}{|Q|} N = \frac{1}{2}N\) となります。
つまり、点Aから出た電気力線のうち、ちょうど半分が点Bに入り、残りの半分は無限遠に達します。

問題の仮定より、点Aのごく近くでは、電気力線は点Bの電場の影響を無視でき、すべての方向に均等に(等方的に)放射されると考えます。
点Aから見て、空間全体(立体角 \(4\pi\))に\(N\)本の電気力線が放出されます。
このうち、点Bに入る \(\displaystyle\frac{1}{2}N\) 本は、点Aから見て右半分の空間(立体角 \(2\pi\))に放出されたものだと考えられます。
線分ABとなす角\(\theta\)は、点Aから出る電気力線の方向を示す角度です。
点Aから見て右半分の空間に出る電気力線がすべて点Bに入ると考えると、その方向は、線分AB(\(x\)軸の正の向き)を基準(\(\theta=0\))として、上側(\(y>0\))に \(+90^\circ\) まで、下側(\(y<0\))に \(-90^\circ\) までの範囲になります。
したがって、\(\theta\)がとりうる範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) となります。

使用した物理公式

  • ガウスの法則の定性的な理解(電気力線の本数 \(\propto\) 電荷量)
計算過程

説明問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

Aから出た電気力線の半分がBに入ります。Aのすぐ近くでは、電気力線は四方八方に均等に出ていると考えられます。このうち、Bの方向、つまり「右半分の空間」に向かって出たものが、すべてBに吸い込まれると考えるのが自然です。右半分の空間とは、Aを基準にして、真上から真下までの\(180\)度の範囲を指します。これを角度で表すと、\(-90\)度から\(+90\)度の範囲になります。

結論と吟味

理由:点Aの電荷\(Q\)に対し、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)であり、絶対値が半分である。したがって、ガウスの法則により、点Aから出る全電気力線のうち半数が点Bに入る。点Aの近傍では電気力線は等方的に放射されるとみなせるため、点Aから見て右半分の空間(線分ABに対して \(-90^\circ\) から \(+90^\circ\) の範囲)に出た電気力線がすべて点Bに入ると考えられる。
よって、\(\theta\)の範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) である。

解答 (4) 範囲: \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\)。理由は上記の通り。

[B] 問(5)

思考の道筋とポイント
これまでの設問の結果をすべて統合して、電気力線の概略図を描きます。特に重要なのは、(B-1)で求めた電位\(0\)の円(等電位線)と、(B-4)で明らかになった電気力線の行き先です。電気力線と等電位線は常に直交するという性質も作図の重要な手がかりになります。
この設問における重要なポイント

  • (B-1)で求めた電位\(0\)の円(点線で描く)を正確に図示する。
  • (B-2)で求めた電場\(0\)の点Pを図示する。この点は電気力線が通らない。
  • (B-4)の結果に基づき、Aから出た電気力線の半分がBに、半分が無限遠に向かう様子を描く。
  • 電気力線は正電荷Aから出て、負電荷Bまたは無限遠に向かう。
  • 電気力線と等電位線(電位\(0\)の円)は直交する。
  • 電荷に近いほど電気力線の密度は高くなる。

具体的な解説と立式
作図にあたり、以下の特徴を盛り込みます。

  1. 電荷の配置: 点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に正電荷、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に負電荷を置く。
  2. 電位\(0\)の線: (B-1)で求めた、中心 \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径 \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を点線で描く。この円は点 \(( \displaystyle\frac{l}{6}, 0 )\) と点 \((\displaystyle\frac{3}{2}l, 0)\) で\(x\)軸と交わる。
  3. 電場\(0\)の点: (B-2)で求めた点P \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) を図示する。この点はBの右側にあり、電位\(0\)の円の外側にある。この点には電気力線は集まらない(一種のよどみ点)。
  4. 電気力線の流れ:
    • 点Aから電気力線が湧き出す。
    • 点Aから出た電気力線のうち、右半球(\(-90^\circ < \theta < 90^\circ\))に出たものはすべて点Bに向かって入る。
    • 点Aから出た電気力線のうち、左半球(\(90^\circ < \theta < 180^\circ\) および \(-180^\circ < \theta < -90^\circ\))に出たものは、無限遠に向かって広がる。
    • 点Bには、点Aから来た電気力線のみが入る。
  5. 直交性: 電気力線は、点線で描いた電位\(0\)の円と交わる際に、必ず直角に交わるように描く。
  6. 対称性: \(x\)軸に対して対称な図形になる。

これらの要素をすべて満たすように、滑らかな曲線で電気力線を描きます。

使用した物理公式

  • 電気力線の基本性質
  • 等電位線と電気力線の直交性
計算過程

作図問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

これまでの設問の答えをすべて使って、電気力線の様子をお絵かきする問題です。まず、(1)で求めた「電位ゼロの円」を点線で描きます。次に、(2)で求めた「力がゼロになる点P」をマークします。そして、(4)でわかった「Aから出た線の半分がBに入り、半分は遠くへ行く」というルールに従って、AからBへ向かう線と、Aから無限の彼方へ向かう線を描き分けます。このとき、線が点線の円を横切るときは必ず直角に交わるように描くのがポイントです。

結論と吟味

作図は、これまでの設問で得られた物理的・幾何学的な特徴をすべて反映している必要があります。特に、電位\(0\)の円、電場\(0\)の点P、電気力線の行き先、等電位線との直交性などが正しく表現されているかが採点のポイントとなります。模範解答の図fはこれらの特徴をすべて満たしています。

解答 (5) 模範解答の図fを参照。

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電場と電位の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の点電荷が存在するとき、ある点での電場は各電荷が作る電場の「ベクトル和」で、電位は各電荷が作る電位の「スカラー和(代数和)」で与えられます。
    • 理解のポイント: 電場は向きを持つベクトル量なので、力のつり合いを考える(B-2)では方向を考慮した計算が必要です。一方、電位は向きを持たないスカラー量なので、(A-2)や(B-1)では単純な足し算で全体の電位を求めることができます。この違いを明確に理解することが、電磁気の問題を解く上での基本となります。
  • 力学的エネルギー保存則(静電気力を含む):
    • 核心: 荷電粒子が静電気力(保存力)のみに仕事をされる場合、その「運動エネルギー」と「静電気力による位置エネルギー \(U=qV\)」の和は一定に保たれます。
    • 理解のポイント: この法則は、荷電粒子の運動を追跡する際に、2つの異なる点での「速さ」と「電位」を直接結びつける強力なツールです。(A-2)のように、始点と終点の状態が分かっていれば、途中の複雑な運動を考えずに終状態の速さを求めることができます。
  • ガウスの法則と電気力線:
    • 核心: ある閉曲面を貫く電気力線の総本数は、その内部に含まれる電荷の総量に比例します。特に、点電荷から出る(または入る)電気力線の本数は、その電荷の絶対値に比例します。
    • 理解のポイント: この法則は、電気力線の振る舞いを定量的に理解するために不可欠です。(B-4)では、Aから出る力線とBに入る力線の本数の比が \(|Q|:|-\displaystyle\frac{Q}{2}|=2:1\) であることから、Aから出た力線の半分がBに入り、半分が無限遠へ向かうという結論を導き出しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電気双極子: (B)のように正負の電荷が対になっている配置。その性質(電場、電位、電気力線)を問う問題。
    • 多重極子: 3つ以上の電荷が配置された問題。重ね合わせの原理を繰り返し適用することで解くことができます。
    • 導体球や導体殻の問題: 導体表面が等電位になるという性質を利用して、鏡像法などの高度なテクニックにつながる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電荷の配置と対称性の確認: まず、電荷の数、符号、位置関係を把握し、系に\(x\)軸対称、\(y\)軸対称、点対称などの対称性がないかを確認します。対称性があれば、電場や電位の計算、電気力線の作図が大幅に簡略化されます。
    2. 求める量に応じた法則の選択:
      • 「電場」や「力」を求めたい \(\rightarrow\) クーロンの法則、電場の重ね合わせ(ベクトル和)
      • 「電位」や「位置エネルギー」「速さ」を求めたい \(\rightarrow\) 電位の重ね合わせ(スカラー和)、エネルギー保存則
      • 「電気力線の本数や行き先」を考えたい \(\rightarrow\) ガウスの法則
    3. 物理条件の数式化: 「力が\(0\)になる」(\(E_{\text{合成}}=0\))、「電位が\(0\)になる」(\(V_{\text{合成}}=0\))、「無限遠に達する」(\(V_{\infty}=0\))といった日本語の条件を、正確な数式に翻訳する能力が鍵となります。
    4. 幾何学的関係の利用: (B-1)のアポロニウスの円や(B-2)別解の内分・外分の考え方のように、物理的な条件が特定の幾何学的性質に対応することがあります。図形的な見方をすることで、計算が簡略化できる場合があります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ベクトル和とスカラー和の混同:
    • 誤解: 電場を計算する際に、向きを考えずに大きさを単純に足し引きしてしまう。逆に、電位を計算する際にベクトルのように成分分解しようとしてしまう。
    • 対策: 「電場・力はベクトル(向きあり)」「電位・エネルギーはスカラー(向きなし)」という基本を常に意識しましょう。立式する前に、どちらを扱っているのかを自問自答する習慣が有効です。
  • 距離の2乗と1乗の混同:
    • 誤解: 電場や力の式(\(r^2\)に反比例)と、電位や位置エネルギーの式(\(r\)に反比例)を混同して、分母の次数を間違える。
    • 対策: 「力(F)や場(E)は\(r^2\)分の1」「エネルギー(U)や電位(V)は\(r\)分の1」と、セットで覚えましょう。\(F = qE\) や \(U = qV\) の関係からも、次元が合うように確認できます。
  • 内分点と外分点の判断ミス:
    • 誤解: (B-2)別解で、力がつりあう点が内分点か外分点かを物理的に考察せず、両方の可能性を計算してしまう、あるいは間違った方を選んでしまう。
    • 対策: 必ず物理的な状況に立ち返りましょう。異符号の電荷の場合、力のつり合い点は電荷を結ぶ直線の「外側」で、かつ「絶対値の小さい電荷の側」にしか存在しません。このルールを覚えておくと、すぐに判断できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 電位の重ね合わせ \(V = \sum k_0 \displaystyle\frac{Q_i}{r_i}\):
    • 選定理由: (B-1)で「電位が\(0\)になる点」という条件を数式化するため。電位はスカラーなので、単純な和で表現できるこの公式が最も直接的です。
    • 適用根拠: 電位の重ね合わせの原理が成り立つという物理法則に基づきます。
  • 電場の重ね合わせ \(E = \sum k_0 \displaystyle\frac{|Q_i|}{r_i^2}\):
    • 選定理由: (B-2)で「力が\(0\)になる点(=電場が\(0\)になる点)」を求めるため。力・電場はベクトルであり、その大きさが等しく向きが逆という条件を立式する必要があります。
    • 適用根拠: 電場の重ね合わせの原理(ベクトル和)に基づきます。
  • エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\):
    • 選定理由: (A-2)で、ある点から別の点へ移動した後の「速さ」を求めるため。始点と終点のエネルギー状態を結びつけるのに最適です。
    • 適用根拠: 荷電粒子に働く力が保存力である静電気力のみであるという物理的条件に基づきます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 平方根の取り扱い:
    • 特に注意すべき点: (B-2)で \(2(x – \displaystyle\frac{l}{2})^2 = (x + \displaystyle\frac{l}{2})^2\) のような式が出てきたとき、安易に展開せず、両辺の平方根をとることで計算が楽になります。その際、各項の正負を吟味して絶対値を外すことを忘れないようにしましょう。
    • 日頃の練習: 2次方程式を解く際に、展開して解の公式を使う以外の方法(平方根をとる、因数分解するなど)がないか、常に考える癖をつける。
  • 座標計算の丁寧さ:
    • 特に注意すべき点: (B-1)のように、座標を含んだ式を展開・整理する際は、符号ミスや項の抜け漏れが起きやすいです。
    • 日頃の練習: 一行ずつ丁寧に、分配法則や平方完成の計算を行う。特に、括弧の前の係数を分配する際の計算ミスに注意する。
  • 文字と数値の分離:
    • 特に注意すべき点: (A-2)の計算のように、多くの物理定数が含まれる場合、まずは文字式のまま最終的な形(\(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\))まで変形し、最後にまとめて数値を代入する方が、途中の計算がすっきりし、間違いが起こりにくくなります。
    • 日頃の練習: 数値計算が複雑な問題でも、まずは文字式で解く習慣をつける。これにより、物理的な関係性が見通しやすくなるだけでなく、計算ミスのリスクも低減できる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (B-1) 電位\(0\)の円: この円は、電荷の絶対値が大きいAから遠く、小さいBに近い位置に偏っています。これは、強いAの影響を弱めるために距離をとり、弱いBの影響を補うために近づく必要があるので、直感的に妥当です。
    • (B-2) 電場\(0\)の点: この点は、電荷の絶対値が小さいBの側に、しかもAとBを結ぶ線分の外側にあります。これも、弱いBの力を補うためにBに近づき、かつAと逆方向の力を受けるための位置として物理的に正しいです。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし\(Q_A = -Q_B\)(電気双極子)なら、電位\(0\)の線はABの垂直二等分線になるはずです。今回の問題は電荷が非対称なので、円に歪むのは妥当な結果です。
    • もし\(Q_A = Q_B\)なら、電場\(0\)の点はAとBのちょうど中間点になるはずです。電荷の大きさが違うので、中間点からずれるのは当然です。
  • 設問間の関連性の確認:
    • (B-5)の作図は、(B-1)から(B-4)までのすべての結果を反映する集大成です。例えば、描いた電気力線が(B-1)の円と直交しているか、(B-2)の点Pを避けているか、などを確認することで、各設問の解答の正しさを総合的にチェックできます。
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問題108 (群馬大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、4つのコンデンサーを組み合わせた直流回路について、合成容量、各部品の電圧・電気量、エネルギー、そして回路全体の耐電圧を問う、基本的な知識を総合的に試す問題です。
この問題の核心は、コンデンサーの直列・並列接続の性質を正確に理解し、回路を「全体から部分へ」と段階的に分析していく能力です。

与えられた条件
  • 直流電源: \(E = 6.0 \, \text{V}\)
  • コンデンサー:
    • \(C_1 = 3.0 \, \text{μF}\)
    • \(C_2 = 1.5 \, \text{μF}\)
    • \(C_3 = 2.0 \, \text{μF}\)
    • \(C_4 = 2.0 \, \text{μF}\)
  • 初期条件: 各コンデンサーの電荷は\(0\)。
  • 耐電圧: (4)では、各コンデンサーの耐電圧はすべて\(45 \, \text{V}\)。
問われていること
  • (1) 回路全体の合成容量\(C\)。
  • (2) 各コンデンサーの電圧\(V_1, V_2, V_3, V_4\)と電気量\(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4\)。
  • (3) 回路全体に蓄えられた静電エネルギーの合計\(U\)。
  • (4) 合成コンデンサーとしての耐電圧\(V_{\text{max}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 各コンデンサーの電圧・電気量の別解: キルヒホッフの法則(電位追跡法)を利用する解法
      • 主たる解法が「全体から部分へ」と電圧を分配していくのに対し、別解では回路の各接点の電位を未知数として設定し、電気量保存則(孤立部分の電荷の和が\(0\))を用いて連立方程式を立てて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 汎用的な解法の習得: 電圧分配則は直列・並列が明確な場合に有効ですが、キルヒホッフの法則はブリッジ回路など、より複雑な回路にも適用できる汎用性の高い手法です。この問題を通じてその使い方を学ぶことは、応用力を高める上で非常に有益です。
    • 物理法則の深い理解: 「孤立部分の電気量保存」という、より根本的な物理法則に基づいて立式する経験は、コンデンサー回路の本質的な理解を深めます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コンデンサー回路の解析」です。基本的な公式と考え方を組み合わせて解き進めます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直列・並列接続の合成容量: 回路の構造を見抜き、直列接続(\(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\))と並列接続(\(C = C_1 + C_2\))の公式を正しく適用します。
  2. 電荷と電圧の分配法則: 直列接続では電気量が等しく、電圧は電気容量の逆比に分配されます。並列接続では電圧が等しく、電気量は電気容量の比に分配されます。
  3. エネルギーの計算: 回路全体のエネルギーは、合成容量を用いて \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_{\text{合成}}V^2\) で計算するのが最も効率的です。
  4. 耐電圧の考え方: 回路全体の耐電圧は、最も電圧分担率の高い(最初に限界に達する)コンデンサーによって決まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、回路を部分ごとに分析し、段階的に合成容量を求めます(問1)。
  2. 次に、全体から部分へと電圧を分配していき、各コンデンサーの電圧を特定します。その後、\(Q=CV\)で電気量を計算します(問2)。
  3. 問1で求めた合成容量を使って、回路全体のエネルギーを一括で計算します(問3)。
  4. 問2で求めた電圧の比率から、最も壊れやすい部品を特定し、その部品が耐電圧に達する瞬間の全体電圧を逆算します(問4)。

問(1)

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