問題106 (立命館大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ブラウン管の原理を題材に、一様な電場中での電子の運動を解析するものです。電子の運動を、電場がかかっている領域と、電場がない領域に分けて考えること、そして運動を互いに直交するz軸方向とx軸方向に分解して考えることが基本となります。
この問題の核心は、(1)z軸方向は力が働かない「等速直線運動」、x軸方向は一定の力が働く「等加速度直線運動」として運動を分解できること、(2)電極を通過した後は、力が働かない「等速直線運動」になること、この2つの段階を正しくモデル化し、運動学の公式を適用することです。
- 粒子: 電子(質量\(m\)、電荷\(-e\))
- 初期運動: z軸にそって速さ\(v_0\)で入射。
- 偏向電極\(X_1X_2\): z方向の長さ\(l\)、間隔\(d\)。
- 電位設定: \(X_2\)は接地(0V)、\(X_1\)の電位は\(V_x(>0)\)。
- 蛍光面S: 電極の右端から距離\(D\)。
- その他: 重力や電場の端の効果は無視。
- [ア] 電極間で電子が受ける力の大きさ。
- [あ] 上記の力の向き。
- [イ] 電極を通過した直後の電子の速度のx成分。
- [ウ] 電極通過後、蛍光面に到達するまでの時間。
- [エ] 蛍光面上の輝点のx座標\(x_c\)を表す式における比例定数\(\alpha_x\)の一部。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一様電場中の荷電粒子の運動(放物運動)」です。重力による放物運動と全く同じ考え方で解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 荷電粒子の運動を、力が働く方向(x軸方向)と働かない方向(z軸方向)に分解して考えます。
- 各方向の運動モデル:
- z軸方向: 力が働かないので、初速\(v_0\)のままの「等速直線運動」。
- x軸方向: 一定の静電気力が働くので、「初速0の等加速度直線運動」。
- 電場と力の関係: 電場の強さ\(E\)と電位差\(V\)の関係式 \(V=Ed\) を用いて、まず電場の強さを求めます。次に、電子が受ける力の大きさ\(F\)を \(F=eE\) で計算します。電子は負の電荷を持つため、力の向きは電場の向きと逆になることに注意が必要です。
- 運動学の公式: 等速直線運動(距離=速さ×時間)と等加速度直線運動(\(v=at\), \(x=\frac{1}{2}at^2\))の公式を、各方向の運動に適用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [ア],[あ]では、まず電場の向きと大きさを求め、そこから電子が受ける力の向きと大きさを決定します。
- [イ]では、まずz軸方向の運動から電極間に滞在する時間を求め、その時間を使ってx方向の等加速度運動の最終速度を計算します。
- [ウ]では、電極通過後のz軸方向の等速直線運動を考えます。
- [エ]では、電極内での変位と電極外での変位を足し合わせて、蛍光面上のトータルのx座標を計算し、式の形を整えます。
[ア], [あ]
思考の道筋とポイント
電極間で電子が受ける静電気力の大きさと向きを求めます。まず、電極間の電位差\(V_x\)と間隔\(d\)から、一様な電場の強さ\(E_x\)を求めます。次に、力の公式\(F=qE\)を適用します。電子の電荷は\(-e\)なので、力の向きは電場の向きと逆になります。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使う。
- 電子の電荷が負であるため、力の向きは電場の向きと逆になる。
具体的な解説と立式
電極\(X_1X_2\)間には、電位の高い\(X_1\)から電位の低い\(X_2\)へ向かう電場が生じます。\(X_1\)の電位が\(V_x\)、\(X_2\)の電位が0なので、電場の向きはx軸の負の向きです。
その強さ\(E_x\)は、
$$ E_x = \frac{V_x}{d} $$
電子(電荷\(-e\))がこの電場から受ける力の大きさ\(F_x\)は、
$$ F_x = eE_x $$
力の向きは、負電荷なので電場の向き(x軸負の向き)とは逆、すなわちx軸の正の向きとなります。
使用した物理公式
- 一様な電場の強さ: \(E = V/d\)
- 静電気力: \(F = qE\)
力の大きさ\(F_x\)を、問題で指定された文字を用いて表します。
$$ F_x = eE_x = e \frac{V_x}{d} $$
力の向きは、x軸の正の向きです。
[ア]は \(e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) です。
[あ]は、力の向きなので「① x軸の正の向き」です。
[イ]
思考の道筋とポイント
電極を通過した直後の電子の速度のx成分\(v_x\)を求めます。これは、電子が電極間にいた時間(滞在時間)だけ、x方向に加速された結果です。
Step 1: z軸方向の等速直線運動から、滞在時間\(t_0\)を求める。
Step 2: x方向の運動方程式から加速度\(a_x\)を求める。
Step 3: \(v_x = a_x t_0\) を計算する。
この設問における重要なポイント
- 運動をz方向とx方向に分解して考える。
- z方向は等速、x方向は等加速度運動である。
具体的な解説と立式
- Step 1: 滞在時間\(t_0\)の計算
z軸方向には力が働かないので、速さ\(v_0\)の等速直線運動をします。長さ\(l\)の電極を通過するのにかかる時間\(t_0\)は、
$$ t_0 = \frac{l}{v_0} $$ - Step 2: 加速度\(a_x\)の計算
x方向の運動方程式は \(ma_x = F_x\)。[ア]で求めた \(F_x = e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) を使うと、
$$ ma_x = \frac{eV_x}{d} $$
よって、
$$ a_x = \frac{eV_x}{md} $$ - Step 3: 速度\(v_x\)の計算
x方向は初速0の等加速度運動なので、時間\(t_0\)後の速度\(v_x\)は、
$$ v_x = a_x t_0 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
$$
\begin{aligned}
v_x &= a_x t_0 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eV_x l}{mdv_0}
\end{aligned}
$$
[イ]は \(\displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\) です。電極間の電圧\(V_x\)や長さ\(l\)が大きいほど、x方向の速度が大きくなるという、直感に合う結果です。
[ウ]
思考の道筋とポイント
電子が電極を通過した直後から蛍光面に当たるまでの時間\(t_1\)を求めます。この区間では、電子には力が働かないため、z軸方向には速さ\(v_0\)の等速直線運動を続けます。
この設問における重要なポイント
- 電極通過後は、力が働かないため等速直線運動となる。
- z軸方向の運動だけを考えれば時間が求まる。
具体的な解説と立式
電極の右端から蛍光面までのz軸方向の距離は\(D\)です。この区間を、電子はz軸方向に速さ\(v_0\)で進みます。したがって、かかる時間\(t_1\)は、
$$ t_1 = \frac{D}{v_0} $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
立式そのものが答えです。
[ウ]は \(\displaystyle\frac{D}{v_0}\) です。
[エ]
思考の道筋とポイント
蛍光面上の輝点のx座標\(x_c\)を求め、比例定数\(\alpha_x\)の式の一部を特定します。\(x_c\)は、(1)電極内にいた間のx方向の変位と、(2)電極を通過した後のx方向の変位の合計です。
この設問における重要なポイント
- 総変位は、各区間での変位の和である。
- 電極内では等加速度運動、電極外では等速直線運動をすることを区別する。
具体的な解説と立式
- (1) 電極内でのx方向の変位 \(x_{in}\)
滞在時間\(t_0 = l/v_0\)、加速度\(a_x = eV_x/md\) の等加速度運動なので、
$$ x_{in} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 $$ - (2) 電極外でのx方向の変位 \(x_{out}\)
電極を出た直後のx方向の速度は[イ]で求めた\(v_x\)。この速度で時間\(t_1 = D/v_0\)だけ等速直線運動をするので、
$$ x_{out} = v_x t_1 $$ - 合計の変位 \(x_c\)
$$ x_c = x_{in} + x_{out} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 + v_x t_1 $$
この式を、与えられた文字で整理し、問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) の形に合わせます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動: \(x = \frac{1}{2}at^2\)
- 等速直線運動: \(x = vt\)
\(v_x = a_x t_0\) の関係を用いて、\(x_c\)の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \frac{1}{2}a_x t_0^2 + (a_x t_0) t_1 \\[2.0ex]
&= a_x t_0 \left( \frac{1}{2}t_0 + t_1 \right)
\end{aligned}
$$
ここに、\(t_0 = l/v_0\), \(t_1 = D/v_0\), \(a_x = eV_x/md\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \left( \frac{1}{2}\frac{l}{v_0} + \frac{D}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eV_x l}{mdv_0} \cdot \frac{1}{v_0} \left( \frac{l}{2} + D \right) \\[2.0ex]
&= \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) V_x
\end{aligned}
$$
問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) と比較すると、
$$ \alpha_x = \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) $$
さらに問題文の \(\text{[エ]} \times (1 + \frac{l}{2D})\) の形に合わせるため、括弧の中から\(D\)でくくり出します。
$$
\begin{aligned}
\alpha_x &= \frac{el}{mdv_0^2} \cdot D \left( \frac{l}{2D} + 1 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{elD}{mdv_0^2} \left( 1 + \frac{l}{2D} \right)
\end{aligned}
$$
したがって、[エ]に当てはまる部分は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。
[エ]は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。計算過程は複雑ですが、各区間の運動を正しくモデル化し、丁寧に計算すれば導出できます。\(l/2D\) の項は、電極内で曲がったことによる効果と、電極を出た後の角度で直進した効果の比を表しており、物理的に意味のある形になっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解:
- 核心: 2次元や3次元の運動は、互いに直交する軸に沿った1次元の運動の集まりとして考えることができます。この問題では、電子の運動を「z軸方向(進行方向)」と「x軸方向(偏向方向)」に分解することが解析の第一歩です。
- 理解のポイント: z軸方向には力が働かないため「等速直線運動」、x軸方向には一定の静電気力が働くため「等加速度直線運動」となります。この2つの単純な運動モデルを組み合わせることで、電子の放物線軌道全体を記述できます。これは、地表付近での物体の放物運動を、水平方向の等速直線運動と鉛直方向の自由落下に分解するのと全く同じ考え方です。
- 一様な電場における力の計算:
- 核心: 平行な電極間に作られる電場は、端の部分を除いて一様とみなせます。その強さ\(E\)は電位差\(V\)と間隔\(d\)を用いて \(E=V/d\) と表せます。荷電粒子が受ける静電気力の大きさは \(F=qE\) で計算できます。
- 理解のポイント: この問題では、電子の電荷が\(-e\)であるため、力の向きは電場の向きと逆になります。電位の高い\(X_1\)から低い\(X_2\)へ向かってx軸負の向きに電場が生じるため、電子が受ける力はx軸の正の向きになります。この符号の扱いは、電磁気の問題における基本中の基本です。
- 2段階の運動の接続:
- 核心: 電子の運動は、①電極内(等加速度運動)と②電極外(等速直線運動)の2つのフェーズに分かれます。最終的な変位を求めるには、それぞれのフェーズでの変位を計算し、それらを足し合わせる必要があります。
- 理解のポイント: 問[エ]で\(x_c\)を求める際、電極を出た瞬間の「速度」と「位置」が、次の等速直線運動の「初速」と「初期位置」になります。このように、運動が変化する点(この場合は電極の出口)で、物理量(速度、位置)がスムーズに接続されると考えることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平投射・斜方投射: 地上から物体を投げ出す運動。x方向には力がなく(等速)、y方向には重力が働く(等加速度)という点で、本問と完全に同じ構造です。本問は、いわば「横向きの重力」がある空間での運動とみなせます。
- 質量分析器: 電場や磁場を使って荷電粒子を曲げ、その曲がり方から粒子の質量や電荷を特定する装置。本問のように、電場による偏向の大きさが粒子の性質(質量m、電荷eなど)にどう依存するかを計算する点が共通しています。
- インクジェットプリンター: インクの微粒子を帯電させ、電極で軌道を制御して紙の特定の位置に付着させる技術。これも本問の原理の応用例です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動領域の分割: まず、力が働く領域と働かない領域、あるいは力の種類が変わる領域を見極め、運動をフェーズ分けします。(例:電極内、電極外)
- 運動の分解: 各フェーズにおいて、運動を直交する成分に分解できないか検討します。力が特定の軸に沿って働いている場合、この手法は非常に有効です。
- 各成分の運動モデルの特定: 分解した各成分が、どのような運動(等速、等加速度、単振動など)をするのかを特定します。
- 時間による媒介: 異なる軸方向の運動を結びつける共通のパラメータは「時間」です。一方の軸の運動から時間を求め、それをもう一方の軸の運動の計算に利用する、という流れが定石です。(例:z方向の運動から滞在時間を求め、x方向の変位や速度を計算する)
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電子の電荷の符号:
- 誤解: 電子の電荷を正としてしまい、力の向きを電場の向きと同じにしてしまう。
- 対策: 問題文に「電子」「電荷-e」とあったら、必ず印をつけるなどして注意を喚起しましょう。力の向きを考える際は、「正電荷なら電場と同じ向き、負電荷なら逆向き」と常に確認する癖をつけます。
- 電極通過後の運動:
- 誤解: 電極を通過した後も、x方向に加速し続けると考えてしまう。
- 対策: 力が働くのは電極間に限定されます。電極を抜けた後は、電子に力は働きません。したがって、運動は「等速直線運動」に切り替わります。電極を出た瞬間の速度ベクトルが、その後の運動の向きと速さを決定します。
- 変位の計算:
- 誤解: 問[エ]で、蛍光面上のx座標を、電極内での変位 \(x_{in} = \frac{1}{2}a_x t_0^2\) だけで計算してしまう。
- 対策: 電極を出た後も、電子はx方向の速度成分\(v_x\)を持ったまま直進するため、さらにx方向に変位します。最終的な変位は、電極内での変位と電極外での変位の和であることを忘れないようにしましょう。図を描いて、軌跡をイメージすることが有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 軌跡の図示: 図2に、電子の軌跡を書き込むと理解が深まります。電極内では放物線を描き、電極を出た後はその点での接線方向に直進します。この軌跡を描くことで、なぜ変位を2つの部分に分けて計算する必要があるのかが視覚的にわかります。
- 速度ベクトルの図示: 電極の出口で、速度ベクトルを描いてみましょう。このベクトルは、z成分\(v_0\)とx成分\(v_x\)の合成ベクトルになります。このベクトルの向きが、その後の直進方向となります。三角形の相似を利用して、最終的な変位を計算することも可能です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 各区間の長さ: 電極の長さ\(l\)と、電極から蛍光面までの距離\(D\)を明確に区別して図に描き込みます。
- 座標軸: 問題で設定された座標軸(特に原点の位置)を正確に把握し、変位や座標を計算する際の基準とします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E=V/d\):
- 選定理由: [ア]で力の大きさを求めるために、まず電場の強さが必要だから。電位差と距離が与えられている場合、一様な電場を求める最も基本的な公式です。
- 適用根拠: 平行平板電極間に生じる電場が(端を除き)一様であるという物理的状況。
- 運動方程式 \(ma=F\):
- 選定理由: [イ]で速度を求めるために、まず加速度を知る必要があるから。力と加速度を結びつける唯一の法則です。
- 適用根拠: 電子に力が働き、その結果として速度が変化するという、ニュートン力学の基本原理。
- 等速・等加速度運動の公式:
- 選定理由: 運動をz方向(力が0)とx方向(力が一定)に分解したため、それぞれの運動を記述するのに最も適した公式だからです。
- 適用根拠: 各軸方向の運動が、それぞれ等速直線運動、等加速度直線運動としてモデル化できるという物理的状況。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [ア][あ] 力の大きさと向き:
- 戦略: ①電位差から電場を求める(\(E_x=V_x/d\)) → ②力の公式を適用(\(F_x=eE_x\)) → ③負電荷なので向きは電場と逆。
- フロー: \(F_x = e(V_x/d)\)。向きはx軸正の向き。
- [イ] 電極通過後のx方向速度:
- 戦略: ①z方向の運動から滞在時間\(t_0\)を求める → ②x方向の加速度\(a_x\)を求める → ③\(v_x=a_xt_0\)を計算。
- フロー: \(t_0=l/v_0\), \(a_x=F_x/m\)。これらを代入して\(v_x\)を計算。
- [ウ] 蛍光面までの時間:
- 戦略: 電極通過後のz方向の等速運動に着目。
- フロー: \(t_1 = D/v_0\)。
- [エ] 蛍光面上のx座標:
- 戦略: ①電極内での変位(\(\frac{1}{2}a_xt_0^2\))と②電極外での変位(\(v_xt_1\))を計算し、足し合わせる。
- フロー: \(x_c = \frac{1}{2}a_xt_0^2 + v_xt_1\)。これに[イ]や[ウ]の結果を代入し、問題の形式に合わせて整理する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の多さ: この問題は\(m, e, v_0, d, l, V_x, D\)と多くの文字が登場します。どの物理量がどの文字に対応しているか、混乱しないように注意深く扱いましょう。
- 段階的な計算: 問[エ]のように最終的な式が複雑になる場合は、一気に計算しようとせず、\(t_0\), \(a_x\), \(v_x\), \(t_1\)といった中間的な量を一つずつ計算し、それらを最後に組み合わせることで、見通しが良くなりミスを減らせます。
- 式の整理: 問[エ]の最終段階で、\( \frac{el}{mdv_0^2} (\frac{l}{2} + D) \) という形から、問題で要求されている \( \frac{elD}{mdv_0^2} (1 + \frac{l}{2D}) \) の形へ変形する作業は、落ち着いて行いましょう。共通因数でくくり出す操作は頻出です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- [イ] \(v_x = \frac{eV_x l}{mdv_0}\): この式から、入射速度\(v_0\)が速いほど、滞在時間が短くなるため、x方向の速度\(v_x\)は小さくなることがわかります。これは直感と一致します。
- [エ]の比例定数: 輝点の変位\(x_c\)は、偏向電圧\(V_x\)に比例することがわかります。これはブラウン管の基本的な性質であり、電圧で輝点の位置を制御できることを示しています。また、電子の質量\(m\)や入射速度\(v_0\)が大きい(粒子が重い、または速い)ほど、変位しにくい(分母にある)ことも、物理的に妥当です。
- 近似の妥当性: 問題の最後にある「\(l\)が\(D\)に比べて十分小さい」という近似(\(l/2D \ll 1\))を考えると、\(x_c \approx \frac{elD}{mdv_0^2}V_x\)となります。これは、電極内で得た角度で、電極の出口からまっすぐ蛍光面まで進んだと近似したときの変位(\(v_x t_1\)の項)が支配的であることを意味しており、遠くから見れば軌道がほぼ直線に見えるという直感に対応しています。
問題107 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの点電荷が作る電場と電位、そして電気力線について、複数の状況設定の下で多角的に考察する問題です。前半[A]では等しい正電荷、後半[B]では異符号で大きさの異なる電荷のペアを扱います。
この問題の核心は、電場(ベクトル)と電位(スカラー)の重ね合わせの原理を正しく使い分けること、そしてエネルギー保存則やガウスの法則といった基本法則を的確に適用することです。
- 2点A, Bは距離\(l\)だけ離れている。
- 点Aの座標: \((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
- 点Bの座標: \((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
- [A]の場合: 点A, Bにそれぞれ正電荷\(Q\)を置く。
- [B]の場合: 点Aに電荷\(Q\)、点Bに電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\) (\(Q>0\))を置く。
- その他: クーロンの法則の比例定数\(k_0\)、無限遠の電位は0。
- [A](1) 電気力線の図示。
- [A](2) 特定の条件下での荷電粒子の速さ。
- [B](1) 電位が0になる点の軌跡の方程式とその図形。
- [B](2) 電場が0になる点の座標。
- [B](3) 特定の円周上で電位が最も低くなる点の説明。
- [B](4) 点Aから出て点Bに入る電気力線の角度範囲とその理由。
- [B](5) [B]の状況における電気力線の図示。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「点電荷が作る電場と電位」であり、その基本的な性質を深く理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重ね合わせの原理: 電場はベクトル和、電位はスカラー和で合成されるという、両者の最も重要な違いを理解し、正しく使い分けることが全ての設問の基礎となります。
- 力学的エネルギー保存則: 荷電粒子が電場内を運動する際、静電気力による位置エネルギー \(U=qV\) を考慮したエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用します。
- 電気力線の性質とガウスの法則: 電気力線は正電荷から湧き出し負電荷に吸い込まれ、その本数は電荷の大きさに比例します。この性質が、電気力線の振る舞いを理解する上で重要になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問われている物理量(力、電場、電位、速さ)に応じて、適切な法則(クーロンの法則、重ね合わせの原理、エネルギー保存則)を選択します。
- [B]のように複数の設問が連なっている場合、前の設問の結果(電位0の軌跡、電場0の点など)が後の設問(電気力線の作図)の重要なヒントになっていることを意識します。
- 「力が0」「電位が0」といった物理条件を、座標を用いた数式に正確に変換し、計算を進めます。
[A] 問(1)
思考の道筋とポイント
2つの等しい正の点電荷が作る電気力線の様子を描く問題です。電気力線は正電荷から湧き出し、電荷がない空間では途切れたり交差したりせず、滑らかに繋がります。また、2つの電荷が反発しあう様子を反映して、電気力線も互いに反発するように曲がります。全体の配置がx軸およびy軸に対して対称であるため、描かれる電気力線も対称になります。
この設問における重要なポイント
- 電気力線は正電荷から出て、無限遠に向かう(または負電荷に入る)。
- 電気力線の密度は電場の強さを表す。
- 電気力線は互いに交差したり、枝分かれしたり、途中で途切れたりしない。
- 電荷の配置の対称性を、電気力線のパターンに反映させる。
具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に、同じ大きさの正電荷\(Q\)が置かれています。
- 各々の正電荷からは、単独であれば電気力線が放射状にまっすぐ湧き出します。
- 2つの電荷が存在するため、互いの作る電場の影響で電気力線は曲がります。正電荷同士は反発するため、電気力線も互いを避けるように曲がります。
- 特に、AとBの中点である原点\((0, 0)\)では、Aが作る右向きの電場とBが作る左向きの電場が打ち消し合い、電場はゼロになります。この点を通る電気力線はありません。
- y軸上では、Aが作る電場のy成分とBが作る電場のy成分は強め合い、x成分は打ち消し合います。したがって、y軸上の電場は常にy軸方向を向きます。
- これらの性質を総合すると、各電荷から出た電気力線は、中央の領域を避けるように外側に広がり、x軸およびy軸に対して対称な図形を描きます。
(※図は模範解答の図aに相当します)
[A] 問(2)
思考の道筋とポイント
荷電粒子が電場の中で運動するとき、保存力である静電気力のみが仕事をする場合、その力学的エネルギー(運動エネルギー+静電気力による位置エネルギー)は保存されます。このエネルギー保存則を用いて、始点と終点での速さと電位の関係を立式します。問題が「速度」を問うているため、速さ(大きさ)だけでなく、運動の向きも考察する必要があります。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用できることを理解する。
- 始点(y軸上の点)と終点(無限遠)での各エネルギーを正しく評価する。
- 「速度」を問われているため、対称性から運動の向きを特定する。
具体的な解説と立式
荷電粒子を置くy軸上の点をSとします。Sの座標は\((0, y_S)\)で、\(|y_S| = 4.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)です。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)から点Sまでの距離\(r\)は、対称性から等しくなります。
\(l = 6.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)なので、\(\displaystyle\frac{l}{2} = 3.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)です。
三平方の定理より、距離\(r\)は、
$$ r = \sqrt{(\frac{l}{2})^2 + y_S^2} $$
点Sにおける電位\(V_S\)は、点A、Bにある電荷\(Q\)がそれぞれ作る電位の和で与えられます。無限遠を電位の基準(0)とします。
$$ V_S = k_0 \frac{Q}{r} + k_0 \frac{Q}{r} = \frac{2k_0Q}{r} \quad \cdots ① $$
荷電粒子(電荷\(q\)、質量\(m\))について、始点Sと終点である無限遠との間でエネルギー保存則を立てます。
- 始点S: 静かに置くので初速\(v_S=0\)。運動エネルギーは0。位置エネルギーは \(U_S = qV_S\)。
- 終点(無限遠): 求める速さを\(v\)とする。運動エネルギーは\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。無限遠では電位が基準の0なので、位置エネルギーは \(U_{\infty} = q \cdot 0 = 0\)。
エネルギー保存則 \(K_S + U_S = K_{\infty} + U_{\infty}\) より、
$$ 0 + qV_S = \frac{1}{2}mv^2 + 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{終}} + U_{\text{終}}\)
まず、距離\(r\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
r &= \sqrt{(3.0 \times 10^{-2})^2 + (4.0 \times 10^{-2})^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9.0 \times 10^{-4} + 16.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を\(v\)について解き、式①を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= qV_S \\[2.0ex]
&= q \left( \frac{2k_0Q}{r} \right) \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{4k_0qQ}{mr}
\end{aligned}
$$
したがって、速さ\(v\)は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\) となります。
与えられた数値を代入して\(v\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{4 \times (9.0 \times 10^9) \times (1.6 \times 10^{-19}) \times (5.0 \times 10^{-12})}{(9.0 \times 10^{-31}) \times (5.0 \times 10^{-2})}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{4 \times 9.0 \times 1.6 \times 5.0}{9.0 \times 5.0} \times \frac{10^{9-19-12}}{10^{-31-2}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.4 \times \frac{10^{-22}}{10^{-33}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.4 \times 10^{11}} = \sqrt{64 \times 10^{10}} \\[2.0ex]
&= 8.0 \times 10^5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
荷電粒子は、最初に置かれた場所Sが持つ電気的な高さ(電位)によって、位置エネルギーを持っています。この位置エネルギーが、反発力を受けて無限の彼方へ飛び去っていくうちに、すべて運動エネルギーに変換されます。このエネルギーの等式から速さ(大きさ)がわかります。向きについては、電荷の配置の対称性から、y軸上の粒子はy軸に沿ってまっすぐ動くことがわかります。
計算から、無限遠に達したときの速さは \(8.0 \times 10^5 \text{ m/s}\) と求まります。問題は速度を問うているため、向きも考慮する必要があります。荷電粒子を置く点はy軸上であり、電荷の配置はy軸に対して対称です。したがって、y軸上の電場は常にy軸方向を向きます。
- 荷電粒子を \(y > 0\) の点に置いた場合、電場はy軸正の向きなので、粒子はy軸正の向きに加速されます。
- 荷電粒子を \(y < 0\) の点に置いた場合、電場はy軸負の向きなので、粒子はy軸負の向きに加速されます。
したがって、速度は置かれた位置によって向きが異なります。
[B] 問(1)
思考の道筋とポイント
電位はスカラー量であるため、空間のある点での電位は、各々の点電荷が作る電位の単純な和(代数和)で計算できます。電位が0になるという条件を数式で表現し、その式を整理することで、条件を満たす点の集合がどのような図形を描くかを明らかにします。
この設問における重要なポイント
- 電位はスカラーであり、重ね合わせの原理が単純な和で成り立つ。
- 点\((x, y)\)と2つの定点A, Bとの距離を、座標を用いて正しく表現する。
- 得られた方程式を、円の標準形 \((x-a)^2 + (y-b)^2 = R^2\) に変形し、中心と半径を読み取る。
具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(Q\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が置かれています。
電位が0となる点を\((x, y)\)とし、この点からA, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
$$ r_A = \sqrt{(x – (-\frac{l}{2}))^2 + y^2} = \sqrt{(x + \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
$$ r_B = \sqrt{(x – \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
点\((x, y)\)における電位\(V\)は、AとBの電荷が作る電位の和なので、
$$ V = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} $$
電位が0という条件から \(V=0\) なので、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A} – k_0 \frac{Q}{2r_B} = 0 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
- 2点間の距離の公式
式①を整理します。\(k_0 Q \neq 0\) で両辺を割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{r_A} &= \frac{1}{2r_B} \\[2.0ex]
2r_B &= r_A
\end{aligned}
$$
両辺を2乗すると、\(4r_B^2 = r_A^2\) となります。ここに距離の座標表示を代入します。
$$ 4 \left\{ (x – \frac{l}{2})^2 + y^2 \right\} = (x + \frac{l}{2})^2 + y^2 $$
これを展開して整理します。
$$
\begin{aligned}
4 \left( x^2 – lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \right) &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]
4x^2 – 4lx + l^2 + 4y^2 &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]
3x^2 – 5lx + 3y^2 + \frac{3}{4}l^2 &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を3で割ります。
$$ x^2 – \frac{5}{3}lx + y^2 + \frac{l^2}{4} = 0 $$
xについて平方完成します。
$$
\begin{aligned}
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 – \left( \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 + \frac{l^2}{4} &= 0 \\[2.0ex]
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \frac{25}{36}l^2 – \frac{1}{4}l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{25-9}{36}l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{16}{36}l^2 \\[2.0ex]
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \left( \frac{2}{3}l \right)^2
\end{aligned}
$$
電位がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受けるプラスの電位と、マイナスの電荷Bから受けるマイナスの電位がちょうど打ち消しあう点です。この条件を数式にすると「Aまでの距離とBまでの距離の間に特定の比率が成り立つ」という関係が出てきます。この関係を満たす点の集まりは、幾何学的に「アポロニウスの円」として知られる円を描きます。
求める方程式は \(\left( x – \displaystyle\frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 = \left( \displaystyle\frac{2}{3}l \right)^2\) です。
これは、中心が \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径が \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を表します。
この結果は、\(r_A = 2r_B\) という条件を満たす点の軌跡(アポロニウスの円)であり、物理的に妥当です。
[B] 問(2)
思考の道筋とポイント
x軸上の点Pに置いた電荷にはたらく力が0になる条件を考えます。力(ベクトル)が0になるということは、点Aの電荷が及ぼす力と点Bの電荷が及ぼす力が、大きさが等しく逆向きであるということです。x軸上では、力は常にx軸方向を向くため、力の大きさが等しくなる点を探せばよいことになります。
この設問における重要なポイント
- 電場(または力)はベクトル量であり、重ね合わせはベクトル和で考える。
- 合成電場が0になる点を探す。
- 電荷の符号と位置関係から、力がつりあう可能性のある領域を絞り込む。
具体的な解説と立式
x軸上の点Pに、試験電荷\(q_0\)を置いたときにはたらく力が0になる、すなわち点Pでの電場が0になる点を求めます。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(Q\)と、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が作る電場を考えます。
- AとBの間 \((-\displaystyle\frac{l}{2} < x < \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷も右向きの電場を作ります。両方の電場が同じ向きなので、打ち消しあうことはなく、電場は0になりません。
- Aの左側 \((x < -\displaystyle\frac{l}{2})\): Aの電荷の方がBの電荷より絶対値が大きく、かつ距離も近いため、Aが作る左向きの電場が常にBの作る右向きの電場より強くなります。したがって、電場は0になりません。
- Bの右側 \((x > \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷は左向きの電場を作ります。逆向きの電場なので、大きさが等しくなれば打ち消しあって0になる可能性があります。
よって、求める点PはBの右側に存在します。Pの座標を\((x, 0)\) (\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\))とします。
点Pにおける電場\(E_P\)が0になる条件は、Aが作る電場\(E_A\)とBが作る電場\(E_B\)の大きさが等しいことなので、
$$ k_0 \frac{Q}{(x – (-\frac{l}{2}))^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ \frac{Q}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{Q/2}{(x – \frac{l}{2})^2} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
式①を整理します。両辺を\(Q\)で割り、
$$ \frac{1}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{1}{2(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ 2(x – \frac{l}{2})^2 = (x + \frac{l}{2})^2 $$
両辺の平方根をとります。\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\)より、\(x – \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)かつ\(x + \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)なので、
$$ \sqrt{2}(x – \frac{l}{2}) = x + \frac{l}{2} $$
これをxについて解きます。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2}x – \frac{\sqrt{2}}{2}l &= x + \frac{1}{2}l \\[2.0ex]
(\sqrt{2}-1)x &= (\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{1}{2})l \\[2.0ex]
(\sqrt{2}-1)x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2}l \\[2.0ex]
x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{2 + 2\sqrt{2} + 1}{2(2-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$
力がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受ける反発力と、マイナスの電荷Bから受ける引力が、ちょうど同じ大きさで逆向きになる点です。AとBの間では両方の力が同じ向き(右向き)になってしまうので、力のつりあいは起こりません。Aの左側では、力の強いAの影響が常に勝ってしまいます。力のつりあい点が存在する可能性があるのは、力の弱いBの電荷のさらに外側(右側)だけです。この領域で力の大きさが等しくなる点の座標を計算します。
点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) です。
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) なので、\(x \approx \displaystyle\frac{3+2.82}{2}l = 2.91l\) となり、\(x > l/2\) を満たす妥当な位置です。
思考の道筋とポイント
電場が0になる条件を、力の大きさの式から直接座標計算するのではなく、まず2つの電荷からの「距離の比」を求めるアプローチです。距離の比が分かれば、線分の内分・外分の公式を用いて幾何学的に座標を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 電場の大きさが等しいという条件を、距離の比の関係式に変換する。
- 物理的な考察から、求める点が内分点か外分点かを判断する。
- 外分点の公式を正しく用いて座標を計算する。
具体的な解説と立式
電場が0になる点Pから点A, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
点Pでの電場の大きさが等しいという条件は、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{r_B^2} $$
これを整理すると、
$$ \frac{1}{r_A^2} = \frac{1}{2r_B^2} $$
$$ r_A^2 = 2r_B^2 $$
よって、距離の比は \(r_A : r_B = \sqrt{2} : 1\) となります。
この条件を満たす点Pは、線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に内分する点、または外分する点です。
物理的な考察から、点PはAとBの間には存在しない(電場が同方向のため)ので、求める点Pは線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に外分する点であるとわかります。
使用した物理公式
- 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
- 線分の外分点の公式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を結ぶ線分ABを、\(\sqrt{2}:1\)に外分する点Pのx座標を求めます。
外分点の公式 \(x = \displaystyle\frac{-n x_1 + m x_2}{m-n}\) を用いて、\(m=\sqrt{2}, n=1, x_1 = -\displaystyle\frac{l}{2}, x_2 = \displaystyle\frac{l}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{-1 \cdot (-\frac{l}{2}) + \sqrt{2} \cdot (\frac{l}{2})}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{l}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{(\frac{1+\sqrt{2}}{2})l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]
&= \frac{1+\sqrt{2}}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{(1+\sqrt{2})(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{1+2\sqrt{2}+2}{2(2-1)}l \\[2.0ex]
&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$
力がつりあう点の条件を計算すると、「点Aまでの距離と点Bまでの距離の比が\(\sqrt{2}:1\)になる点」であることがわかります。このような点は、線分ABを\(\sqrt{2}:1\)に分ける点ですが、物理的に考えてAとBの間にはないので、外側で分ける「外分点」であるとわかります。あとは数学の公式を使って外分点の座標を計算します。
点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) となり、最初の解法と一致します。物理的考察と幾何学的知識を結びつけた、見通しの良い解法です。
[B] 問(3)
思考の道筋とポイント
点Bを中心とする円周上の点の電位を考えます。電位は、点Aからの距離と点Bからの距離に依存します。点Bを中心とする円周上では、点Bからの距離は一定です。したがって、電位の変化は点Aからの距離のみによって決まります。電位の式を立て、それが最小になる条件を幾何学的に考察します。
この設問における重要なポイント
- 円周上の任意の点Mにおける電位の式を立てる。
- 電位の式の中で、変数は何か、定数は何かを明確にする。
- 変数がどのような範囲を動くときに、電位が最小になるかを考える。
具体的な解説と立式
点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を中心とする円周上の任意の点をMとします。この円の半径を\(r_B\)とすると、MとBの距離は常に\(r_B\)で一定です。
点MとAの距離を\(r_A\)とします。
点Mにおける電位\(V_M\)は、
$$ V_M = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} = k_0 Q \left( \frac{1}{r_A} – \frac{1}{2r_B} \right) $$
この式において、\(k_0, Q, r_B\)は定数です。したがって、\(V_M\)の値は \(r_A\) の値だけで決まります。
\(V_M\)が最も低くなる(最小になる)条件を考えます。
- \(k_0 Q > 0\) なので、\(V_M\)が最小になるのは、括弧内の \(\displaystyle\frac{1}{r_A} – \displaystyle\frac{1}{2r_B}\) が最小になるときです。
- \(\displaystyle\frac{1}{2r_B}\)は定数なので、これは \(\displaystyle\frac{1}{r_A}\) が最小になるとき、すなわち分母の\(r_A\)が最大になるときに相当します。
点Mは、点Bを中心とする円周上を動きます。このとき、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、Mが直線AB上でBのさらに右側にある点、すなわちx軸上の点(ただし \(x > l/2\))に来たときです。
使用した物理公式
- 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
点Bの周りをぐるっと一周する円の上で、電位が一番低くなる場所を探します。電位は、Aからの影響とBからの影響の足し算で決まります。円周上では、Bからの距離はどこでも同じなので、Bからの影響(マイナスの電位)は一定です。したがって、電位全体を低くするには、Aからの影響(プラスの電位)をできるだけ小さくすればよいことになります。Aからのプラスの電位が最も小さくなるのは、Aから最も遠ざかった点です。それは、A-B-Mが一直線に並ぶ、x軸上の点です。
点Bを中心とする円周上で、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、点がx軸上でBの右側にあるときである。このとき、電位\(V_M\)は最小となる。したがって、電位が最も低い点はx軸上(ただし \(x > l/2\))にある。
[B] 問(4)
思考の道筋とポイント
電気力線の本数は、その源となる電荷の大きさに比例するというガウスの法則の考え方を用います。点Aから出る電気力線の総本数と、点Bに入る電気力線の総本数の比は、それぞれの電荷の絶対値の比に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の本数は電荷の絶対値に比例する。
- 点Aのごく近くでは、電気力線は等方的に(すべての方向に均等に)放射されるとみなせる。
- 点Aから出て点Bに入る電気力線は、点Aから見て点Bの方向にある立体角内に放出されたものだと考える。
具体的な解説と立式
点Aの電荷は\(Q\)、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)です。
電気力線の本数は電荷の絶対値に比例するので、点Aから出る電気力線の総本数を\(N\)とすると、点Bに入る電気力線の総本数は \(\displaystyle\frac{|-Q/2|}{|Q|} N = \frac{1}{2}N\) となります。
つまり、点Aから出た電気力線のうち、ちょうど半分が点Bに入り、残りの半分は無限遠に達します。
問題の仮定より、点Aのごく近くでは、電気力線は点Bの電場の影響を無視でき、すべての方向に均等に(等方的に)放射されると考えます。
点Aから見て、空間全体(立体角 \(4\pi\))に\(N\)本の電気力線が放出されます。
このうち、点Bに入る \(\displaystyle\frac{1}{2}N\) 本は、点Aから見て右半分の空間(立体角 \(2\pi\))に放出されたものだと考えられます。
線分ABとなす角\(\theta\)は、点Aから出る電気力線の方向を示す角度です。
点Aから見て右半分の空間に出る電気力線がすべて点Bに入ると考えると、その方向は、線分AB(x軸の正の向き)を基準(\(\theta=0\))として、上側(y>0)に \(+90^\circ\) まで、下側(y<0)に \(-90^\circ\) までの範囲になります。
したがって、\(\theta\)がとりうる範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) となります。
使用した物理公式
- ガウスの法則の定性的な理解(電気力線の本数 \(\propto\) 電荷量)
Aから出た電気力線の半分がBに入ります。Aのすぐ近くでは、電気力線は四方八方に均等に出ていると考えられます。このうち、Bの方向、つまり「右半分の空間」に向かって出たものが、すべてBに吸い込まれると考えるのが自然です。右半分の空間とは、Aを基準にして、真上から真下までの180度の範囲を指します。これを角度で表すと、-90度から+90度の範囲になります。
理由:点Aの電荷\(Q\)に対し、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)であり、絶対値が半分である。したがって、ガウスの法則により、点Aから出る全電気力線のうち半数が点Bに入る。点Aの近傍では電気力線は等方的に放射されるとみなせるため、点Aから見て右半分の空間(線分ABに対して \(-90^\circ\) から \(+90^\circ\) の範囲)に出た電気力線がすべて点Bに入ると考えられる。
よって、\(\theta\)の範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) である。
[B] 問(5)
思考の道筋とポイント
これまでの設問の結果をすべて統合して、電気力線の概略図を描きます。特に重要なのは、(B-1)で求めた電位0の円(等電位線)と、(B-4)で明らかになった電気力線の行き先です。電気力線と等電位線は常に直交するという性質も作図の重要な手がかりになります。
この設問における重要なポイント
- (B-1)で求めた電位0の円(点線で描く)を正確に図示する。
- (B-2)で求めた電場0の点Pを図示する。この点は電気力線が通らない。
- (B-4)の結果に基づき、Aから出た電気力線の半分がBに、半分が無限遠に向かう様子を描く。
- 電気力線は正電荷Aから出て、負電荷Bまたは無限遠に向かう。
- 電気力線と等電位線(電位0の円)は直交する。
- 電荷に近いほど電気力線の密度は高くなる。
具体的な解説と立式
作図にあたり、以下の特徴を盛り込みます。
- 電荷の配置: 点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に正電荷、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に負電荷を置く。
- 電位0の線: (B-1)で求めた、中心 \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径 \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を点線で描く。この円は点 \(( \displaystyle\frac{l}{6}, 0 )\) と点 \((\displaystyle\frac{3}{2}l, 0)\) でx軸と交わる。
- 電場0の点: (B-2)で求めた点P \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) を図示する。この点はBの右側にあり、電位0の円の外側にある。この点には電気力線は集まらない(一種のよどみ点)。
- 電気力線の流れ:
- 点Aから電気力線が湧き出す。
- 点Aから出た電気力線のうち、右半球(\(-90^\circ < \theta < 90^\circ\))に出たものはすべて点Bに向かって入る。
- 点Aから出た電気力線のうち、左半球(\(90^\circ < \theta < 180^\circ\) および \(-180^\circ < \theta < -90^\circ\))に出たものは、無限遠に向かって広がる。
- 点Bには、点Aから来た電気力線のみが入る。
- 直交性: 電気力線は、点線で描いた電位0の円と交わる際に、必ず直角に交わるように描く。
- 対称性: x軸に対して対称な図形になる。
これらの要素をすべて満たすように、滑らかな曲線で電気力線を描きます。
(※図は模範解答の図fに相当します)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の点電荷が存在するとき、ある点での電場は各電荷が作る電場の「ベクトル和」で、電位は各電荷が作る電位の「スカラー和(代数和)」で与えられます。
- 理解のポイント: 電場は向きを持つベクトル量なので、力のつり合いを考える(B-2)では方向を考慮した計算が必要です。一方、電位は向きを持たないスカラー量なので、(A-2)や(B-1)では単純な足し算で全体の電位を求めることができます。この違いを明確に理解することが、電磁気の問題を解く上での基本となります。
- 力学的エネルギー保存則(静電気力を含む):
- 核心: 荷電粒子が静電気力(保存力)のみに仕事をされる場合、その「運動エネルギー」と「静電気力による位置エネルギー \(U=qV\)」の和は一定に保たれます。
- 理解のポイント: この法則は、荷電粒子の運動を追跡する際に、2つの異なる点での「速さ」と「電位」を直接結びつける強力なツールです。(A-2)のように、始点と終点の状態が分かっていれば、途中の複雑な運動を考えずに終状態の速さを求めることができます。
- ガウスの法則と電気力線:
- 核心: ある閉曲面を貫く電気力線の総本数は、その内部に含まれる電荷の総量に比例します。特に、点電荷から出る(または入る)電気力線の本数は、その電荷の絶対値に比例します。
- 理解のポイント: この法則は、電気力線の振る舞いを定量的に理解するために不可欠です。(B-4)では、Aから出る力線とBに入る力線の本数の比が \(|Q|:|-\displaystyle\frac{Q}{2}|=2:1\) であることから、Aから出た力線の半分がBに入り、半分が無限遠へ向かうという結論を導き出しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気双極子: (B)のように正負の電荷が対になっている配置。その性質(電場、電位、電気力線)を問う問題。
- 多重極子: 3つ以上の電荷が配置された問題。重ね合わせの原理を繰り返し適用することで解くことができます。
- 導体球や導体殻の問題: 導体表面が等電位になるという性質を利用して、鏡像法などの高度なテクニックにつながる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷の配置と対称性の確認: まず、電荷の数、符号、位置関係を把握し、系にx軸対称、y軸対称、点対称などの対称性がないかを確認します。対称性があれば、電場や電位の計算、電気力線の作図が大幅に簡略化されます。
- 求める量に応じた法則の選択:
- 「電場」や「力」を求めたい \(\rightarrow\) クーロンの法則、電場の重ね合わせ(ベクトル和)
- 「電位」や「位置エネルギー」「速さ」を求めたい \(\rightarrow\) 電位の重ね合わせ(スカラー和)、エネルギー保存則
- 「電気力線の本数や行き先」を考えたい \(\rightarrow\) ガウスの法則
- 物理条件の数式化: 「力が0になる」(\(E_{\text{合成}}=0\))、「電位が0になる」(\(V_{\text{合成}}=0\))、「無限遠に達する」(\(V_{\infty}=0\))といった日本語の条件を、正確な数式に翻訳する能力が鍵となります。
- 幾何学的関係の利用: (B-1)のアポロニウスの円や(B-2)別解の内分・外分の考え方のように、物理的な条件が特定の幾何学的性質に対応することがあります。図形的な見方をすることで、計算が簡略化できる場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトル和とスカラー和の混同:
- 誤解: 電場を計算する際に、向きを考えずに大きさを単純に足し引きしてしまう。逆に、電位を計算する際にベクトルのように成分分解しようとしてしまう。
- 対策: 「電場・力はベクトル(向きあり)」「電位・エネルギーはスカラー(向きなし)」という基本を常に意識しましょう。立式する前に、どちらを扱っているのかを自問自答する習慣が有効です。
- 距離の2乗と1乗の混同:
- 誤解: 電場や力の式(\(r^2\)に反比例)と、電位や位置エネルギーの式(\(r\)に反比例)を混同して、分母の次数を間違える。
- 対策: 「力(F)や場(E)は\(r^2\)分の1」「エネルギー(U)や電位(V)は\(r\)分の1」と、セットで覚えましょう。\(F = qE\) や \(U = qV\) の関係からも、次元が合うように確認できます。
- 内分点と外分点の判断ミス:
- 誤解: (B-2)別解で、力がつりあう点が内分点か外分点かを物理的に考察せず、両方の可能性を計算してしまう、あるいは間違った方を選んでしまう。
- 対策: 必ず物理的な状況に立ち返りましょう。異符号の電荷の場合、力のつり合い点は電荷を結ぶ直線の「外側」で、かつ「絶対値の小さい電荷の側」にしか存在しません。このルールを覚えておくと、すぐに判断できます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の地形図(等高線)イメージ: 電位を山の高さのようにイメージします。正電荷は「山」、負電荷は「谷」です。(A)は2つの同じ高さの山が並んでいるイメージ。(B)は高い山と浅い谷が並んでいるイメージです。電位0の線は「標高0mの海岸線」に相当し、(B-1)で求めた円がまさにそれです。
- 力のベクトル図: (B-2)のように力がつりあう点を考えるとき、各電荷からの力のベクトルを矢印で図示すると、つりあう可能性のある領域(逆向きのベクトルが存在する領域)が一目瞭然となります。
- 電気力線の流れの可視化: 電気力線を「正電荷の泉から湧き出て、負電荷の吸い込み口に流れ込む水の流れ」とイメージします。(B-4), (5)では、Aの泉から湧き出た水の半分がBの吸い込み口に、残り半分が無限の彼方に流れ去る様子を描くことになります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 等電位線と電気力線の直交: (B-5)の作図では、電気力線が等電位線(この問題では電位0の円)を横切るとき、必ず直角に交わるように描くことが重要です。これは電場と等電位面の普遍的な性質です。
- 特徴的な点の明記: (B-5)の図には、電荷A, Bの位置だけでなく、(B-1)で求めた電位0の円、(B-2)で求めた電場0の点Pの位置関係がわかるように明記することが、解答の質を高めます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電位の重ね合わせ \(V = \sum k_0 \displaystyle\frac{Q_i}{r_i}\):
- 選定理由: (B-1)で「電位が0になる点」という条件を数式化するため。電位はスカラーなので、単純な和で表現できるこの公式が最も直接的です。
- 適用根拠: 電位の重ね合わせの原理が成り立つという物理法則に基づきます。
- 電場の重ね合わせ \(E = \sum k_0 \displaystyle\frac{|Q_i|}{r_i^2}\):
- 選定理由: (B-2)で「力が0になる点(=電場が0になる点)」を求めるため。力・電場はベクトルであり、その大きさが等しく向きが逆という条件を立式する必要があります。
- 適用根拠: 電場の重ね合わせの原理(ベクトル和)に基づきます。
- エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\):
- 選定理由: (A-2)で、ある点から別の点へ移動した後の「速さ」を求めるため。始点と終点のエネルギー状態を結びつけるのに最適です。
- 適用根拠: 荷電粒子に働く力が保存力である静電気力のみであるという物理的条件に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A](2) 荷電粒子の速度:
- 戦略: ①エネルギー保存則で速さを求める → ②対称性から運動の向きを特定する。
- フロー: ①始点Sの電位\(V_S\)を計算 → ②エネルギー保存則 \(qV_S = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で速さ\(v\)を求める → ③始点がy>0かy<0かで、y軸正負の向きを決定する。
- [B](1) 電位0の図形:
- 戦略: 電位の重ね合わせ。
- フロー: ①任意の点\((x,y)\)での電位\(V\)の式を立てる \(\rightarrow\) ②\(V=0\)として、\(r_A\)と\(r_B\)の関係式を導く (\(r_A=2r_B\)) \(\rightarrow\) ③座標を代入し、円の標準形に整理する。
- [B](2) 電場0の点:
- 戦略: 電場の重ね合わせ(大きさが等しく向きが逆)。
- フロー: ①物理的考察で点Pの領域を特定(Bの右側) \(\rightarrow\) ②A, Bが作る電場の大きさが等しいと立式 \(\rightarrow\) ③座標\(x\)についての方程式を解く。
- (別解フロー): ①電場の大きさが等しい条件から距離の比を求める(\(r_A:r_B=\sqrt{2}:1\)) \(\rightarrow\) ②物理的考察から外分点と判断 \(\rightarrow\) ③外分点の公式で座標を計算。
- [B](3) 円周上の最小電位点:
- 戦略: 電位の式を立て、変数が何かを特定し、その変数が最大・最小になる幾何学的条件を探す。
- フロー: ①円周上の点Mの電位\(V_M\)を\(r_A\)と\(r_B\)で表す \(\rightarrow\) ②\(r_B\)が一定であることから、\(V_M\)が\(r_A\)のみの関数であることを見抜く \(\rightarrow\) ③\(V_M\)が最小になるのは\(r_A\)が最大になるときと判断し、その幾何学的な位置を特定する。
- [B](4) 電気力線の行方:
- 戦略: ガウスの法則の定性的理解。
- フロー: ①A, Bの電荷の絶対値の比を計算 (\(2:1\)) \(\rightarrow\) ②Aから出る力線のうち、Bに入る割合を決定 (1/2) \(\rightarrow\) ③Aの近傍で力線が等方的に出ると仮定し、Bに入る力線の出る方向の範囲を決定する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 平方根の取り扱い: (B-2)で \(2(x – \displaystyle\frac{l}{2})^2 = (x + \displaystyle\frac{l}{2})^2\) のような式が出てきたとき、安易に展開せず、両辺の平方根をとることで計算が楽になります。その際、各項の正負を吟味して絶対値を外すことを忘れないようにしましょう。
- 座標計算の丁寧さ: (B-1)のように、座標を含んだ式を展開・整理する際は、符号ミスや項の抜け漏れが起きやすいです。一行ずつ丁寧に、分配法則や平方完成の計算を行いましょう。
- 有理化の徹底: (B-2)の計算の最後で \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}-1}\) のような形が出てきたら、必ず分母を有理化して、見やすく整理された形で答えるようにしましょう。
- 文字と数値の分離: (A-2)の計算のように、多くの物理定数が含まれる場合、まずは文字式のまま最終的な形(\(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\))まで変形し、最後にまとめて数値を代入する方が、途中の計算がすっきりし、間違いが起こりにくくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (B-1) 電位0の円: この円は、電荷の絶対値が大きいAから遠く、小さいBに近い位置に偏っています。これは、強いAの影響を弱めるために距離をとり、弱いBの影響を補うために近づく必要があるので、直感的に妥当です。
- (B-2) 電場0の点: この点は、電荷の絶対値が小さいBの側に、しかもAとBを結ぶ線分の外側にあります。これも、弱いBの力を補うためにBに近づき、かつAと逆方向の力を受けるための位置として物理的に正しいです。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし\(Q_A = -Q_B\)(電気双極子)なら、電位0の線はABの垂直二等分線になるはずです。今回の問題は電荷が非対称なので、円に歪むのは妥当な結果です。
- もし\(Q_A = Q_B\)なら、電場0の点はAとBのちょうど中間点になるはずです。電荷の大きさが違うので、中間点からずれるのは当然です。
- 設問間の関連性の確認: (B-5)の作図は、(B-1)から(B-4)までのすべての結果を反映する集大成です。例えば、描いた電気力線が(B-1)の円と直交しているか、(B-2)の点Pを避けているか、などを確認することで、各設問の解答の正しさを総合的にチェックできます。
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