「重要問題集」徹底解説(106〜110問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題106 (立命館大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ブラウン管の原理を題材に、一様な電場中での電子の運動を解析するものです。電子の運動を、電場がかかっている領域と、電場がない領域に分けて考えること、そして運動を互いに直交するz軸方向とx軸方向に分解して考えることが基本となります。
この問題の核心は、(1)z軸方向は力が働かない「等速直線運動」、x軸方向は一定の力が働く「等加速度直線運動」として運動を分解できること、(2)電極を通過した後は、力が働かない「等速直線運動」になること、この2つの段階を正しくモデル化し、運動学の公式を適用することです。

与えられた条件
  • 粒子: 電子(質量\(m\)、電荷\(-e\))
  • 初期運動: z軸にそって速さ\(v_0\)で入射。
  • 偏向電極\(X_1X_2\): z方向の長さ\(l\)、間隔\(d\)。
  • 電位設定: \(X_2\)は接地(0V)、\(X_1\)の電位は\(V_x(>0)\)。
  • 蛍光面S: 電極の右端から距離\(D\)。
  • その他: 重力や電場の端の効果は無視。
問われていること
  • [ア] 電極間で電子が受ける力の大きさ。
  • [あ] 上記の力の向き。
  • [イ] 電極を通過した直後の電子の速度のx成分。
  • [ウ] 電極通過後、蛍光面に到達するまでの時間。
  • [エ] 蛍光面上の輝点のx座標\(x_c\)を表す式における比例定数\(\alpha_x\)の一部。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一様電場中の荷電粒子の運動(放物運動)」です。重力による放物運動と全く同じ考え方で解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 荷電粒子の運動を、力が働く方向(x軸方向)と働かない方向(z軸方向)に分解して考えます。
  2. 各方向の運動モデル:
    • z軸方向: 力が働かないので、初速\(v_0\)のままの「等速直線運動」。
    • x軸方向: 一定の静電気力が働くので、「初速0の等加速度直線運動」。
  3. 電場と力の関係: 電場の強さ\(E\)と電位差\(V\)の関係式 \(V=Ed\) を用いて、まず電場の強さを求めます。次に、電子が受ける力の大きさ\(F\)を \(F=eE\) で計算します。電子は負の電荷を持つため、力の向きは電場の向きと逆になることに注意が必要です。
  4. 運動学の公式: 等速直線運動(距離=速さ×時間)と等加速度直線運動(\(v=at\), \(x=\frac{1}{2}at^2\))の公式を、各方向の運動に適用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [ア],[あ]では、まず電場の向きと大きさを求め、そこから電子が受ける力の向きと大きさを決定します。
  2. [イ]では、まずz軸方向の運動から電極間に滞在する時間を求め、その時間を使ってx方向の等加速度運動の最終速度を計算します。
  3. [ウ]では、電極通過後のz軸方向の等速直線運動を考えます。
  4. [エ]では、電極内での変位と電極外での変位を足し合わせて、蛍光面上のトータルのx座標を計算し、式の形を整えます。

[ア], [あ]

思考の道筋とポイント
電極間で電子が受ける静電気力の大きさと向きを求めます。まず、電極間の電位差\(V_x\)と間隔\(d\)から、一様な電場の強さ\(E_x\)を求めます。次に、力の公式\(F=qE\)を適用します。電子の電荷は\(-e\)なので、力の向きは電場の向きと逆になります。

この設問における重要なポイント

  • 一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使う。
  • 電子の電荷が負であるため、力の向きは電場の向きと逆になる。

具体的な解説と立式
電極\(X_1X_2\)間には、電位の高い\(X_1\)から電位の低い\(X_2\)へ向かう電場が生じます。\(X_1\)の電位が\(V_x\)、\(X_2\)の電位が0なので、電場の向きはx軸の負の向きです。
その強さ\(E_x\)は、
$$ E_x = \frac{V_x}{d} $$
電子(電荷\(-e\))がこの電場から受ける力の大きさ\(F_x\)は、
$$ F_x = eE_x $$
力の向きは、負電荷なので電場の向き(x軸負の向き)とは逆、すなわちx軸の正の向きとなります。

使用した物理公式

  • 一様な電場の強さ: \(E = V/d\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
計算過程

力の大きさ\(F_x\)を、問題で指定された文字を用いて表します。
$$ F_x = eE_x = e \frac{V_x}{d} $$
力の向きは、x軸の正の向きです。

結論と吟味
[ア]は \(e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) です。
[あ]は、力の向きなので「① x軸の正の向き」です。

解答 [ア] \(e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) 解答 [あ]

[イ]

思考の道筋とポイント
電極を通過した直後の電子の速度のx成分\(v_x\)を求めます。これは、電子が電極間にいた時間(滞在時間)だけ、x方向に加速された結果です。
Step 1: z軸方向の等速直線運動から、滞在時間\(t_0\)を求める。
Step 2: x方向の運動方程式から加速度\(a_x\)を求める。
Step 3: \(v_x = a_x t_0\) を計算する。

この設問における重要なポイント

  • 運動をz方向とx方向に分解して考える。
  • z方向は等速、x方向は等加速度運動である。

具体的な解説と立式

  • Step 1: 滞在時間\(t_0\)の計算
    z軸方向には力が働かないので、速さ\(v_0\)の等速直線運動をします。長さ\(l\)の電極を通過するのにかかる時間\(t_0\)は、
    $$ t_0 = \frac{l}{v_0} $$
  • Step 2: 加速度\(a_x\)の計算
    x方向の運動方程式は \(ma_x = F_x\)。[ア]で求めた \(F_x = e \displaystyle\frac{V_x}{d}\) を使うと、
    $$ ma_x = \frac{eV_x}{d} $$
    よって、
    $$ a_x = \frac{eV_x}{md} $$
  • Step 3: 速度\(v_x\)の計算
    x方向は初速0の等加速度運動なので、時間\(t_0\)後の速度\(v_x\)は、
    $$ v_x = a_x t_0 $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_x &= a_x t_0 \\[2.0ex]&= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \\[2.0ex]&= \frac{eV_x l}{mdv_0}
\end{aligned}
$$

結論と吟味
[イ]は \(\displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\) です。電極間の電圧\(V_x\)や長さ\(l\)が大きいほど、x方向の速度が大きくなるという、直感に合う結果です。

解答 [イ] \(\displaystyle\frac{eV_x l}{mdv_0}\)

[ウ]

思考の道筋とポイント
電子が電極を通過した直後から蛍光面に当たるまでの時間\(t_1\)を求めます。この区間では、電子には力が働かないため、z軸方向には速さ\(v_0\)の等速直線運動を続けます。

この設問における重要なポイント

  • 電極通過後は、力が働かないため等速直線運動となる。
  • z軸方向の運動だけを考えれば時間が求まる。

具体的な解説と立式
電極の右端から蛍光面までのz軸方向の距離は\(D\)です。この区間を、電子はz軸方向に速さ\(v_0\)で進みます。したがって、かかる時間\(t_1\)は、
$$ t_1 = \frac{D}{v_0} $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(距離 = 速さ \times 時間\)
計算過程

立式そのものが答えです。

結論と吟味
[ウ]は \(\displaystyle\frac{D}{v_0}\) です。

解答 [ウ] \(\displaystyle\frac{D}{v_0}\)

[エ]

思考の道筋とポイント
蛍光面上の輝点のx座標\(x_c\)を求め、比例定数\(\alpha_x\)の式の一部を特定します。\(x_c\)は、(1)電極内にいた間のx方向の変位と、(2)電極を通過した後のx方向の変位の合計です。

この設問における重要なポイント

  • 総変位は、各区間での変位の和である。
  • 電極内では等加速度運動、電極外では等速直線運動をすることを区別する。

具体的な解説と立式

  • (1) 電極内でのx方向の変位 \(x_{in}\)
    滞在時間\(t_0 = l/v_0\)、加速度\(a_x = eV_x/md\) の等加速度運動なので、
    $$ x_{in} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 $$
  • (2) 電極外でのx方向の変位 \(x_{out}\)
    電極を出た直後のx方向の速度は[イ]で求めた\(v_x\)。この速度で時間\(t_1 = D/v_0\)だけ等速直線運動をするので、
    $$ x_{out} = v_x t_1 $$
  • 合計の変位 \(x_c\)
    $$ x_c = x_{in} + x_{out} = \frac{1}{2}a_x t_0^2 + v_x t_1 $$

この式を、与えられた文字で整理し、問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) の形に合わせます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(x = \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

\(v_x = a_x t_0\) の関係を用いて、\(x_c\)の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \frac{1}{2}a_x t_0^2 + (a_x t_0) t_1 \\[2.0ex]&= a_x t_0 \left( \frac{1}{2}t_0 + t_1 \right)
\end{aligned}
$$
ここに、\(t_0 = l/v_0\), \(t_1 = D/v_0\), \(a_x = eV_x/md\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_c &= \left( \frac{eV_x}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right) \left( \frac{1}{2}\frac{l}{v_0} + \frac{D}{v_0} \right) \\[2.0ex]&= \frac{eV_x l}{mdv_0} \cdot \frac{1}{v_0} \left( \frac{l}{2} + D \right) \\[2.0ex]&= \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) V_x
\end{aligned}
$$
問題文の \(x_c = \alpha_x V_x\) と比較すると、
$$ \alpha_x = \frac{el}{mdv_0^2} \left( \frac{l}{2} + D \right) $$
さらに問題文の \(\text{[エ]} \times (1 + \frac{l}{2D})\) の形に合わせるため、括弧の中から\(D\)でくくり出します。
$$
\begin{aligned}
\alpha_x &= \frac{el}{mdv_0^2} \cdot D \left( \frac{l}{2D} + 1 \right) \\[2.0ex]&= \frac{elD}{mdv_0^2} \left( 1 + \frac{l}{2D} \right)
\end{aligned}
$$
したがって、[エ]に当てはまる部分は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。

結論と吟味
[エ]は \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\) です。計算過程は複雑ですが、各区間の運動を正しくモデル化し、丁寧に計算すれば導出できます。\(l/2D\) の項は、電極内で曲がったことによる効果と、電極を出た後の角度で直進した効果の比を表しており、物理的に意味のある形になっています。

解答 [エ] \(\displaystyle\frac{elD}{mdv_0^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解:
    • 核心: 2次元や3次元の運動は、互いに直交する軸に沿った1次元の運動の集まりとして考えることができます。この問題では、電子の運動を「z軸方向(進行方向)」と「x軸方向(偏向方向)」に分解することが解析の第一歩です。
    • 理解のポイント: z軸方向には力が働かないため「等速直線運動」、x軸方向には一定の静電気力が働くため「等加速度直線運動」となります。この2つの単純な運動モデルを組み合わせることで、電子の放物線軌道全体を記述できます。これは、地表付近での物体の放物運動を、水平方向の等速直線運動と鉛直方向の自由落下に分解するのと全く同じ考え方です。
  • 一様な電場における力の計算:
    • 核心: 平行な電極間に作られる電場は、端の部分を除いて一様とみなせます。その強さ\(E\)は電位差\(V\)と間隔\(d\)を用いて \(E=V/d\) と表せます。荷電粒子が受ける静電気力の大きさは \(F=qE\) で計算できます。
    • 理解のポイント: この問題では、電子の電荷が\(-e\)であるため、力の向きは電場の向きと逆になります。電位の高い\(X_1\)から低い\(X_2\)へ向かってx軸負の向きに電場が生じるため、電子が受ける力はx軸の正の向きになります。この符号の扱いは、電磁気の問題における基本中の基本です。
  • 2段階の運動の接続:
    • 核心: 電子の運動は、①電極内(等加速度運動)と②電極外(等速直線運動)の2つのフェーズに分かれます。最終的な変位を求めるには、それぞれのフェーズでの変位を計算し、それらを足し合わせる必要があります。
    • 理解のポイント: 問[エ]で\(x_c\)を求める際、電極を出た瞬間の「速度」と「位置」が、次の等速直線運動の「初速」と「初期位置」になります。このように、運動が変化する点(この場合は電極の出口)で、物理量(速度、位置)がスムーズに接続されると考えることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平投射・斜方投射: 地上から物体を投げ出す運動。x方向には力がなく(等速)、y方向には重力が働く(等加速度)という点で、本問と完全に同じ構造です。本問は、いわば「横向きの重力」がある空間での運動とみなせます。
    • 質量分析器: 電場や磁場を使って荷電粒子を曲げ、その曲がり方から粒子の質量や電荷を特定する装置。本問のように、電場による偏向の大きさが粒子の性質(質量m、電荷eなど)にどう依存するかを計算する点が共通しています。
    • インクジェットプリンター: インクの微粒子を帯電させ、電極で軌道を制御して紙の特定の位置に付着させる技術。これも本問の原理の応用例です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動領域の分割: まず、力が働く領域と働かない領域、あるいは力の種類が変わる領域を見極め、運動をフェーズ分けします。(例:電極内、電極外)
    2. 運動の分解: 各フェーズにおいて、運動を直交する成分に分解できないか検討します。力が特定の軸に沿って働いている場合、この手法は非常に有効です。
    3. 各成分の運動モデルの特定: 分解した各成分が、どのような運動(等速、等加速度、単振動など)をするのかを特定します。
    4. 時間による媒介: 異なる軸方向の運動を結びつける共通のパラメータは「時間」です。一方の軸の運動から時間を求め、それをもう一方の軸の運動の計算に利用する、という流れが定石です。(例:z方向の運動から滞在時間を求め、x方向の変位や速度を計算する)

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の電荷の符号:
    • 誤解: 電子の電荷を正としてしまい、力の向きを電場の向きと同じにしてしまう。
    • 対策: 問題文に「電子」「電荷-e」とあったら、必ず印をつけるなどして注意を喚起しましょう。力の向きを考える際は、「正電荷なら電場と同じ向き、負電荷なら逆向き」と常に確認する癖をつけます。
  • 電極通過後の運動:
    • 誤解: 電極を通過した後も、x方向に加速し続けると考えてしまう。
    • 対策: 力が働くのは電極間に限定されます。電極を抜けた後は、電子に力は働きません。したがって、運動は「等速直線運動」に切り替わります。電極を出た瞬間の速度ベクトルが、その後の運動の向きと速さを決定します。
  • 変位の計算:
    • 誤解: 問[エ]で、蛍光面上のx座標を、電極内での変位 \(x_{in} = \frac{1}{2}a_x t_0^2\) だけで計算してしまう。
    • 対策: 電極を出た後も、電子はx方向の速度成分\(v_x\)を持ったまま直進するため、さらにx方向に変位します。最終的な変位は、電極内での変位と電極外での変位の和であることを忘れないようにしましょう。図を描いて、軌跡をイメージすることが有効です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 軌跡の図示: 図2に、電子の軌跡を書き込むと理解が深まります。電極内では放物線を描き、電極を出た後はその点での接線方向に直進します。この軌跡を描くことで、なぜ変位を2つの部分に分けて計算する必要があるのかが視覚的にわかります。
    • 速度ベクトルの図示: 電極の出口で、速度ベクトルを描いてみましょう。このベクトルは、z成分\(v_0\)とx成分\(v_x\)の合成ベクトルになります。このベクトルの向きが、その後の直進方向となります。三角形の相似を利用して、最終的な変位を計算することも可能です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 各区間の長さ: 電極の長さ\(l\)と、電極から蛍光面までの距離\(D\)を明確に区別して図に描き込みます。
    • 座標軸: 問題で設定された座標軸(特に原点の位置)を正確に把握し、変位や座標を計算する際の基準とします。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=V/d\):
    • 選定理由: [ア]で力の大きさを求めるために、まず電場の強さが必要だから。電位差と距離が与えられている場合、一様な電場を求める最も基本的な公式です。
    • 適用根拠: 平行平板電極間に生じる電場が(端を除き)一様であるという物理的状況。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: [イ]で速度を求めるために、まず加速度を知る必要があるから。力と加速度を結びつける唯一の法則です。
    • 適用根拠: 電子に力が働き、その結果として速度が変化するという、ニュートン力学の基本原理。
  • 等速・等加速度運動の公式:
    • 選定理由: 運動をz方向(力が0)とx方向(力が一定)に分解したため、それぞれの運動を記述するのに最も適した公式だからです。
    • 適用根拠: 各軸方向の運動が、それぞれ等速直線運動、等加速度直線運動としてモデル化できるという物理的状況。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [ア][あ] 力の大きさと向き:
    • 戦略: ①電位差から電場を求める(\(E_x=V_x/d\)) → ②力の公式を適用(\(F_x=eE_x\)) → ③負電荷なので向きは電場と逆。
    • フロー: \(F_x = e(V_x/d)\)。向きはx軸正の向き。
  2. [イ] 電極通過後のx方向速度:
    • 戦略: ①z方向の運動から滞在時間\(t_0\)を求める → ②x方向の加速度\(a_x\)を求める → ③\(v_x=a_xt_0\)を計算。
    • フロー: \(t_0=l/v_0\), \(a_x=F_x/m\)。これらを代入して\(v_x\)を計算。
  3. [ウ] 蛍光面までの時間:
    • 戦略: 電極通過後のz方向の等速運動に着目。
    • フロー: \(t_1 = D/v_0\)。
  4. [エ] 蛍光面上のx座標:
    • 戦略: ①電極内での変位(\(\frac{1}{2}a_xt_0^2\))と②電極外での変位(\(v_xt_1\))を計算し、足し合わせる。
    • フロー: \(x_c = \frac{1}{2}a_xt_0^2 + v_xt_1\)。これに[イ]や[ウ]の結果を代入し、問題の形式に合わせて整理する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の多さ: この問題は\(m, e, v_0, d, l, V_x, D\)と多くの文字が登場します。どの物理量がどの文字に対応しているか、混乱しないように注意深く扱いましょう。
  • 段階的な計算: 問[エ]のように最終的な式が複雑になる場合は、一気に計算しようとせず、\(t_0\), \(a_x\), \(v_x\), \(t_1\)といった中間的な量を一つずつ計算し、それらを最後に組み合わせることで、見通しが良くなりミスを減らせます。
  • 式の整理: 問[エ]の最終段階で、\( \frac{el}{mdv_0^2} (\frac{l}{2} + D) \) という形から、問題で要求されている \( \frac{elD}{mdv_0^2} (1 + \frac{l}{2D}) \) の形へ変形する作業は、落ち着いて行いましょう。共通因数でくくり出す操作は頻出です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [イ] \(v_x = \frac{eV_x l}{mdv_0}\): この式から、入射速度\(v_0\)が速いほど、滞在時間が短くなるため、x方向の速度\(v_x\)は小さくなることがわかります。これは直感と一致します。
    • [エ]の比例定数: 輝点の変位\(x_c\)は、偏向電圧\(V_x\)に比例することがわかります。これはブラウン管の基本的な性質であり、電圧で輝点の位置を制御できることを示しています。また、電子の質量\(m\)や入射速度\(v_0\)が大きい(粒子が重い、または速い)ほど、変位しにくい(分母にある)ことも、物理的に妥当です。
  • 近似の妥当性: 問題の最後にある「\(l\)が\(D\)に比べて十分小さい」という近似(\(l/2D \ll 1\))を考えると、\(x_c \approx \frac{elD}{mdv_0^2}V_x\)となります。これは、電極内で得た角度で、電極の出口からまっすぐ蛍光面まで進んだと近似したときの変位(\(v_x t_1\)の項)が支配的であることを意味しており、遠くから見れば軌道がほぼ直線に見えるという直感に対応しています。

問題107 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの点電荷が作る電場と電位、そして電気力線について、複数の状況設定の下で多角的に考察する問題です。前半[A]では等しい正電荷、後半[B]では異符号で大きさの異なる電荷のペアを扱います。
この問題の核心は、電場(ベクトル)と電位(スカラー)の重ね合わせの原理を正しく使い分けること、そしてエネルギー保存則やガウスの法則といった基本法則を的確に適用することです。

与えられた条件
  • 2点A, Bは距離\(l\)だけ離れている。
  • 点Aの座標: \((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
  • 点Bの座標: \((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)
  • [A]の場合: 点A, Bにそれぞれ正電荷\(Q\)を置く。
  • [B]の場合: 点Aに電荷\(Q\)、点Bに電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\) (\(Q>0\))を置く。
  • その他: クーロンの法則の比例定数\(k_0\)、無限遠の電位は0。
問われていること
  • [A](1) 電気力線の図示。
  • [A](2) 特定の条件下での荷電粒子の速さ。
  • [B](1) 電位が0になる点の軌跡の方程式とその図形。
  • [B](2) 電場が0になる点の座標。
  • [B](3) 特定の円周上で電位が最も低くなる点の説明。
  • [B](4) 点Aから出て点Bに入る電気力線の角度範囲とその理由。
  • [B](5) [B]の状況における電気力線の図示。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「点電荷が作る電場と電位」であり、その基本的な性質を深く理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 重ね合わせの原理: 電場はベクトル和、電位はスカラー和で合成されるという、両者の最も重要な違いを理解し、正しく使い分けることが全ての設問の基礎となります。
  2. 力学的エネルギー保存則: 荷電粒子が電場内を運動する際、静電気力による位置エネルギー \(U=qV\) を考慮したエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用します。
  3. 電気力線の性質とガウスの法則: 電気力線は正電荷から湧き出し負電荷に吸い込まれ、その本数は電荷の大きさに比例します。この性質が、電気力線の振る舞いを理解する上で重要になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問われている物理量(力、電場、電位、速さ)に応じて、適切な法則(クーロンの法則、重ね合わせの原理、エネルギー保存則)を選択します。
  2. [B]のように複数の設問が連なっている場合、前の設問の結果(電位0の軌跡、電場0の点など)が後の設問(電気力線の作図)の重要なヒントになっていることを意識します。
  3. 「力が0」「電位が0」といった物理条件を、座標を用いた数式に正確に変換し、計算を進めます。

[A] 問(1)

思考の道筋とポイント
2つの等しい正の点電荷が作る電気力線の様子を描く問題です。電気力線は正電荷から湧き出し、電荷がない空間では途切れたり交差したりせず、滑らかに繋がります。また、2つの電荷が反発しあう様子を反映して、電気力線も互いに反発するように曲がります。全体の配置がx軸およびy軸に対して対称であるため、描かれる電気力線も対称になります。

この設問における重要なポイント

  • 電気力線は正電荷から出て、無限遠に向かう(または負電荷に入る)。
  • 電気力線の密度は電場の強さを表す。
  • 電気力線は互いに交差したり、枝分かれしたり、途中で途切れたりしない。
  • 電荷の配置の対称性を、電気力線のパターンに反映させる。

具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に、同じ大きさの正電荷\(Q\)が置かれています。

  1. 各々の正電荷からは、単独であれば電気力線が放射状にまっすぐ湧き出します。
  2. 2つの電荷が存在するため、互いの作る電場の影響で電気力線は曲がります。正電荷同士は反発するため、電気力線も互いを避けるように曲がります。
  3. 特に、AとBの中点である原点\((0, 0)\)では、Aが作る右向きの電場とBが作る左向きの電場が打ち消し合い、電場はゼロになります。この点を通る電気力線はありません。
  4. y軸上では、Aが作る電場のy成分とBが作る電場のy成分は強め合い、x成分は打ち消し合います。したがって、y軸上の電場は常にy軸方向を向きます。
  5. これらの性質を総合すると、各電荷から出た電気力線は、中央の領域を避けるように外側に広がり、x軸およびy軸に対して対称な図形を描きます。

(※図は模範解答の図aに相当します)

解答 (1) 模範解答の図aを参照。

[A] 問(2)

思考の道筋とポイント
荷電粒子が電場の中で運動するとき、保存力である静電気力のみが仕事をする場合、その力学的エネルギー(運動エネルギー+静電気力による位置エネルギー)は保存されます。このエネルギー保存則を用いて、始点と終点での速さと電位の関係を立式します。問題が「速度」を問うているため、速さ(大きさ)だけでなく、運動の向きも考察する必要があります。

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\) を適用できることを理解する。
  • 始点(y軸上の点)と終点(無限遠)での各エネルギーを正しく評価する。
  • 「速度」を問われているため、対称性から運動の向きを特定する。

具体的な解説と立式
荷電粒子を置くy軸上の点をSとします。Sの座標は\((0, y_S)\)で、\(|y_S| = 4.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)です。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)から点Sまでの距離\(r\)は、対称性から等しくなります。
\(l = 6.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)なので、\(\displaystyle\frac{l}{2} = 3.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)です。
三平方の定理より、距離\(r\)は、
$$ r = \sqrt{(\frac{l}{2})^2 + y_S^2} $$
点Sにおける電位\(V_S\)は、点A、Bにある電荷\(Q\)がそれぞれ作る電位の和で与えられます。無限遠を電位の基準(0)とします。
$$ V_S = k_0 \frac{Q}{r} + k_0 \frac{Q}{r} = \frac{2k_0Q}{r} \quad \cdots ① $$
荷電粒子(電荷\(q\)、質量\(m\))について、始点Sと終点である無限遠との間でエネルギー保存則を立てます。

  • 始点S: 静かに置くので初速\(v_S=0\)。運動エネルギーは0。位置エネルギーは \(U_S = qV_S\)。
  • 終点(無限遠): 求める速さを\(v\)とする。運動エネルギーは\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。無限遠では電位が基準の0なので、位置エネルギーは \(U_{\infty} = q \cdot 0 = 0\)。

エネルギー保存則 \(K_S + U_S = K_{\infty} + U_{\infty}\) より、
$$ 0 + qV_S = \frac{1}{2}mv^2 + 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{終}} + U_{\text{終}}\)
計算過程

まず、距離\(r\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
r &= \sqrt{(3.0 \times 10^{-2})^2 + (4.0 \times 10^{-2})^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{9.0 \times 10^{-4} + 16.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= \sqrt{25.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を\(v\)について解き、式①を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= qV_S \\[2.0ex]&= q \left( \frac{2k_0Q}{r} \right) \\[2.0ex]v^2 &= \frac{4k_0qQ}{mr}
\end{aligned}
$$
したがって、速さ\(v\)は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\) となります。
与えられた数値を代入して\(v\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{4 \times (9.0 \times 10^9) \times (1.6 \times 10^{-19}) \times (5.0 \times 10^{-12})}{(9.0 \times 10^{-31}) \times (5.0 \times 10^{-2})}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{4 \times 9.0 \times 1.6 \times 5.0}{9.0 \times 5.0} \times \frac{10^{9-19-12}}{10^{-31-2}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{6.4 \times \frac{10^{-22}}{10^{-33}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{6.4 \times 10^{11}} = \sqrt{64 \times 10^{10}} \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

荷電粒子は、最初に置かれた場所Sが持つ電気的な高さ(電位)によって、位置エネルギーを持っています。この位置エネルギーが、反発力を受けて無限の彼方へ飛び去っていくうちに、すべて運動エネルギーに変換されます。このエネルギーの等式から速さ(大きさ)がわかります。向きについては、電荷の配置の対称性から、y軸上の粒子はy軸に沿ってまっすぐ動くことがわかります。

結論と吟味

計算から、無限遠に達したときの速さは \(8.0 \times 10^5 \text{ m/s}\) と求まります。問題は速度を問うているため、向きも考慮する必要があります。荷電粒子を置く点はy軸上であり、電荷の配置はy軸に対して対称です。したがって、y軸上の電場は常にy軸方向を向きます。

  • 荷電粒子を \(y > 0\) の点に置いた場合、電場はy軸正の向きなので、粒子はy軸正の向きに加速されます。
  • 荷電粒子を \(y < 0\) の点に置いた場合、電場はy軸負の向きなので、粒子はy軸負の向きに加速されます。

したがって、速度は置かれた位置によって向きが異なります。

解答 (2) y軸上でy>0の点に置いた場合、y軸の正の向きに\(8.0 \times 10^5 \text{ m/s}\)。y<0の点に置いた場合、y軸の負の向きに\(8.0 \times 10^5 \text{ m/s}\)。

[B] 問(1)

思考の道筋とポイント
電位はスカラー量であるため、空間のある点での電位は、各々の点電荷が作る電位の単純な和(代数和)で計算できます。電位が0になるという条件を数式で表現し、その式を整理することで、条件を満たす点の集合がどのような図形を描くかを明らかにします。

この設問における重要なポイント

  • 電位はスカラーであり、重ね合わせの原理が単純な和で成り立つ。
  • 点\((x, y)\)と2つの定点A, Bとの距離を、座標を用いて正しく表現する。
  • 得られた方程式を、円の標準形 \((x-a)^2 + (y-b)^2 = R^2\) に変形し、中心と半径を読み取る。

具体的な解説と立式
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(Q\)、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が置かれています。
電位が0となる点を\((x, y)\)とし、この点からA, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
$$ r_A = \sqrt{(x – (-\frac{l}{2}))^2 + y^2} = \sqrt{(x + \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
$$ r_B = \sqrt{(x – \frac{l}{2})^2 + y^2} $$
点\((x, y)\)における電位\(V\)は、AとBの電荷が作る電位の和なので、
$$ V = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} $$
電位が0という条件から \(V=0\) なので、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A} – k_0 \frac{Q}{2r_B} = 0 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
  • 2点間の距離の公式
計算過程

式①を整理します。\(k_0 Q \neq 0\) で両辺を割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{r_A} &= \frac{1}{2r_B} \\[2.0ex]2r_B &= r_A
\end{aligned}
$$
両辺を2乗すると、\(4r_B^2 = r_A^2\) となります。ここに距離の座標表示を代入します。
$$ 4 \left\{ (x – \frac{l}{2})^2 + y^2 \right\} = (x + \frac{l}{2})^2 + y^2 $$
これを展開して整理します。
$$
\begin{aligned}
4 \left( x^2 – lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \right) &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]4x^2 – 4lx + l^2 + 4y^2 &= x^2 + lx + \frac{l^2}{4} + y^2 \\[2.0ex]3x^2 – 5lx + 3y^2 + \frac{3}{4}l^2 &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を3で割ります。
$$ x^2 – \frac{5}{3}lx + y^2 + \frac{l^2}{4} = 0 $$
xについて平方完成します。
$$
\begin{aligned}
\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 – \left( \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 + \frac{l^2}{4} &= 0 \\[2.0ex]\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \frac{25}{36}l^2 – \frac{1}{4}l^2 \\[2.0ex]&= \frac{25-9}{36}l^2 \\[2.0ex]&= \frac{16}{36}l^2 \\[2.0ex]\left( x – \frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 &= \left( \frac{2}{3}l \right)^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電位がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受けるプラスの電位と、マイナスの電荷Bから受けるマイナスの電位がちょうど打ち消しあう点です。この条件を数式にすると「Aまでの距離とBまでの距離の間に特定の比率が成り立つ」という関係が出てきます。この関係を満たす点の集まりは、幾何学的に「アポロニウスの円」として知られる円を描きます。

結論と吟味

求める方程式は \(\left( x – \displaystyle\frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 = \left( \displaystyle\frac{2}{3}l \right)^2\) です。
これは、中心が \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径が \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を表します。
この結果は、\(r_A = 2r_B\) という条件を満たす点の軌跡(アポロニウスの円)であり、物理的に妥当です。

解答 (1) 方程式: \(\left( x – \displaystyle\frac{5}{6}l \right)^2 + y^2 = \left( \displaystyle\frac{2}{3}l \right)^2\)、図形: 中心\((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径\(\displaystyle\frac{2}{3}l\)の円。

[B] 問(2)

思考の道筋とポイント
x軸上の点Pに置いた電荷にはたらく力が0になる条件を考えます。力(ベクトル)が0になるということは、点Aの電荷が及ぼす力と点Bの電荷が及ぼす力が、大きさが等しく逆向きであるということです。x軸上では、力は常にx軸方向を向くため、力の大きさが等しくなる点を探せばよいことになります。

この設問における重要なポイント

  • 電場(または力)はベクトル量であり、重ね合わせはベクトル和で考える。
  • 合成電場が0になる点を探す。
  • 電荷の符号と位置関係から、力がつりあう可能性のある領域を絞り込む。

具体的な解説と立式
x軸上の点Pに、試験電荷\(q_0\)を置いたときにはたらく力が0になる、すなわち点Pでの電場が0になる点を求めます。
点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(Q\)と、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)の電荷\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)が作る電場を考えます。

  • AとBの間 \((-\displaystyle\frac{l}{2} < x < \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷も右向きの電場を作ります。両方の電場が同じ向きなので、打ち消しあうことはなく、電場は0になりません。
  • Aの左側 \((x < -\displaystyle\frac{l}{2})\): Aの電荷の方がBの電荷より絶対値が大きく、かつ距離も近いため、Aが作る左向きの電場が常にBの作る右向きの電場より強くなります。したがって、電場は0になりません。
  • Bの右側 \((x > \displaystyle\frac{l}{2})\): Aの正電荷は右向きの電場を作り、Bの負電荷は左向きの電場を作ります。逆向きの電場なので、大きさが等しくなれば打ち消しあって0になる可能性があります。

よって、求める点PはBの右側に存在します。Pの座標を\((x, 0)\) (\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\))とします。
点Pにおける電場\(E_P\)が0になる条件は、Aが作る電場\(E_A\)とBが作る電場\(E_B\)の大きさが等しいことなので、
$$ k_0 \frac{Q}{(x – (-\frac{l}{2}))^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ \frac{Q}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{Q/2}{(x – \frac{l}{2})^2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
計算過程

式①を整理します。両辺を\(Q\)で割り、
$$ \frac{1}{(x + \frac{l}{2})^2} = \frac{1}{2(x – \frac{l}{2})^2} $$
$$ 2(x – \frac{l}{2})^2 = (x + \frac{l}{2})^2 $$
両辺の平方根をとります。\(x > \displaystyle\frac{l}{2}\)より、\(x – \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)かつ\(x + \displaystyle\frac{l}{2} > 0\)なので、
$$ \sqrt{2}(x – \frac{l}{2}) = x + \frac{l}{2} $$
これをxについて解きます。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2}x – \frac{\sqrt{2}}{2}l &= x + \frac{1}{2}l \\[2.0ex](\sqrt{2}-1)x &= (\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{1}{2})l \\[2.0ex](\sqrt{2}-1)x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2}l \\[2.0ex]x &= \frac{\sqrt{2}+1}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]&= \frac{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]&= \frac{2 + 2\sqrt{2} + 1}{2(2-1)}l \\[2.0ex]&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力がゼロになる点は、プラスの電荷Aから受ける反発力と、マイナスの電荷Bから受ける引力が、ちょうど同じ大きさで逆向きになる点です。AとBの間では両方の力が同じ向き(右向き)になってしまうので、力のつりあいは起こりません。Aの左側では、力の強いAの影響が常に勝ってしまいます。力のつりあい点が存在する可能性があるのは、力の弱いBの電荷のさらに外側(右側)だけです。この領域で力の大きさが等しくなる点の座標を計算します。

結論と吟味

点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) です。
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) なので、\(x \approx \displaystyle\frac{3+2.82}{2}l = 2.91l\) となり、\(x > l/2\) を満たす妥当な位置です。

別解: 距離の比を用いた解法

思考の道筋とポイント
電場が0になる条件を、力の大きさの式から直接座標計算するのではなく、まず2つの電荷からの「距離の比」を求めるアプローチです。距離の比が分かれば、線分の内分・外分の公式を用いて幾何学的に座標を求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 電場の大きさが等しいという条件を、距離の比の関係式に変換する。
  • 物理的な考察から、求める点が内分点か外分点かを判断する。
  • 外分点の公式を正しく用いて座標を計算する。

具体的な解説と立式
電場が0になる点Pから点A, Bまでの距離をそれぞれ\(r_A\), \(r_B\)とします。
点Pでの電場の大きさが等しいという条件は、
$$ k_0 \frac{Q}{r_A^2} = k_0 \frac{|-Q/2|}{r_B^2} $$
これを整理すると、
$$ \frac{1}{r_A^2} = \frac{1}{2r_B^2} $$
$$ r_A^2 = 2r_B^2 $$
よって、距離の比は \(r_A : r_B = \sqrt{2} : 1\) となります。
この条件を満たす点Pは、線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に内分する点、または外分する点です。
物理的な考察から、点PはAとBの間には存在しない(電場が同方向のため)ので、求める点Pは線分ABを \(\sqrt{2}:1\) に外分する点であるとわかります。

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電場の強さ: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
  • 線分の外分点の公式
計算過程

点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)と点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を結ぶ線分ABを、\(\sqrt{2}:1\)に外分する点Pのx座標を求めます。
外分点の公式 \(x = \displaystyle\frac{-n x_1 + m x_2}{m-n}\) を用いて、\(m=\sqrt{2}, n=1, x_1 = -\displaystyle\frac{l}{2}, x_2 = \displaystyle\frac{l}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{-1 \cdot (-\frac{l}{2}) + \sqrt{2} \cdot (\frac{l}{2})}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]&= \frac{\frac{l}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]&= \frac{(\frac{1+\sqrt{2}}{2})l}{\sqrt{2}-1} \\[2.0ex]&= \frac{1+\sqrt{2}}{2(\sqrt{2}-1)}l \\[2.0ex]&= \frac{(1+\sqrt{2})(\sqrt{2}+1)}{2(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}l \\[2.0ex]&= \frac{1+2\sqrt{2}+2}{2(2-1)}l \\[2.0ex]&= \frac{3+2\sqrt{2}}{2}l
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力がつりあう点の条件を計算すると、「点Aまでの距離と点Bまでの距離の比が\(\sqrt{2}:1\)になる点」であることがわかります。このような点は、線分ABを\(\sqrt{2}:1\)に分ける点ですが、物理的に考えてAとBの間にはないので、外側で分ける「外分点」であるとわかります。あとは数学の公式を使って外分点の座標を計算します。

結論と吟味

点Pの座標は \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) となり、最初の解法と一致します。物理的考察と幾何学的知識を結びつけた、見通しの良い解法です。

解答 (2) \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\)

[B] 問(3)

思考の道筋とポイント
点Bを中心とする円周上の点の電位を考えます。電位は、点Aからの距離と点Bからの距離に依存します。点Bを中心とする円周上では、点Bからの距離は一定です。したがって、電位の変化は点Aからの距離のみによって決まります。電位の式を立て、それが最小になる条件を幾何学的に考察します。

この設問における重要なポイント

  • 円周上の任意の点Mにおける電位の式を立てる。
  • 電位の式の中で、変数は何か、定数は何かを明確にする。
  • 変数がどのような範囲を動くときに、電位が最小になるかを考える。

具体的な解説と立式
点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)を中心とする円周上の任意の点をMとします。この円の半径を\(r_B\)とすると、MとBの距離は常に\(r_B\)で一定です。
点MとAの距離を\(r_A\)とします。
点Mにおける電位\(V_M\)は、
$$ V_M = k_0 \frac{Q}{r_A} + k_0 \frac{-Q/2}{r_B} = k_0 Q \left( \frac{1}{r_A} – \frac{1}{2r_B} \right) $$
この式において、\(k_0, Q, r_B\)は定数です。したがって、\(V_M\)の値は \(r_A\) の値だけで決まります。
\(V_M\)が最も低くなる(最小になる)条件を考えます。

  • \(k_0 Q > 0\) なので、\(V_M\)が最小になるのは、括弧内の \(\displaystyle\frac{1}{r_A} – \displaystyle\frac{1}{2r_B}\) が最小になるときです。
  • \(\displaystyle\frac{1}{2r_B}\)は定数なので、これは \(\displaystyle\frac{1}{r_A}\) が最小になるとき、すなわち分母の\(r_A\)が最大になるときに相当します。

点Mは、点Bを中心とする円周上を動きます。このとき、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、Mが直線AB上でBのさらに右側にある点、すなわちx軸上の点(ただし \(x > l/2\))に来たときです。

使用した物理公式

  • 点電荷の作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
計算方法の平易な説明

点Bの周りをぐるっと一周する円の上で、電位が一番低くなる場所を探します。電位は、Aからの影響とBからの影響の足し算で決まります。円周上では、Bからの距離はどこでも同じなので、Bからの影響(マイナスの電位)は一定です。したがって、電位全体を低くするには、Aからの影響(プラスの電位)をできるだけ小さくすればよいことになります。Aからのプラスの電位が最も小さくなるのは、Aから最も遠ざかった点です。それは、A-B-Mが一直線に並ぶ、x軸上の点です。

結論と吟味

点Bを中心とする円周上で、点Aからの距離\(r_A\)が最大になるのは、点がx軸上でBの右側にあるときである。このとき、電位\(V_M\)は最小となる。したがって、電位が最も低い点はx軸上(ただし \(x > l/2\))にある。

解答 (3) 点Bを中心とする円周上の点Mの電位\(V_M\)は、Aからの距離\(r_A\)が最大となるときに最小となる。\(r_A\)が最大となるのはMがx軸上(\(x>l/2\))にあるときだから。

[B] 問(4)

思考の道筋とポイント
電気力線の本数は、その源となる電荷の大きさに比例するというガウスの法則の考え方を用います。点Aから出る電気力線の総本数と、点Bに入る電気力線の総本数の比は、それぞれの電荷の絶対値の比に等しくなります。

この設問における重要なポイント

  • 電気力線の本数は電荷の絶対値に比例する。
  • 点Aのごく近くでは、電気力線は等方的に(すべての方向に均等に)放射されるとみなせる。
  • 点Aから出て点Bに入る電気力線は、点Aから見て点Bの方向にある立体角内に放出されたものだと考える。

具体的な解説と立式
点Aの電荷は\(Q\)、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)です。
電気力線の本数は電荷の絶対値に比例するので、点Aから出る電気力線の総本数を\(N\)とすると、点Bに入る電気力線の総本数は \(\displaystyle\frac{|-Q/2|}{|Q|} N = \frac{1}{2}N\) となります。
つまり、点Aから出た電気力線のうち、ちょうど半分が点Bに入り、残りの半分は無限遠に達します。

問題の仮定より、点Aのごく近くでは、電気力線は点Bの電場の影響を無視でき、すべての方向に均等に(等方的に)放射されると考えます。
点Aから見て、空間全体(立体角 \(4\pi\))に\(N\)本の電気力線が放出されます。
このうち、点Bに入る \(\displaystyle\frac{1}{2}N\) 本は、点Aから見て右半分の空間(立体角 \(2\pi\))に放出されたものだと考えられます。
線分ABとなす角\(\theta\)は、点Aから出る電気力線の方向を示す角度です。
点Aから見て右半分の空間に出る電気力線がすべて点Bに入ると考えると、その方向は、線分AB(x軸の正の向き)を基準(\(\theta=0\))として、上側(y>0)に \(+90^\circ\) まで、下側(y<0)に \(-90^\circ\) までの範囲になります。
したがって、\(\theta\)がとりうる範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) となります。

使用した物理公式

  • ガウスの法則の定性的な理解(電気力線の本数 \(\propto\) 電荷量)
計算方法の平易な説明

Aから出た電気力線の半分がBに入ります。Aのすぐ近くでは、電気力線は四方八方に均等に出ていると考えられます。このうち、Bの方向、つまり「右半分の空間」に向かって出たものが、すべてBに吸い込まれると考えるのが自然です。右半分の空間とは、Aを基準にして、真上から真下までの180度の範囲を指します。これを角度で表すと、-90度から+90度の範囲になります。

結論と吟味

理由:点Aの電荷\(Q\)に対し、点Bの電荷は\(-\displaystyle\frac{Q}{2}\)であり、絶対値が半分である。したがって、ガウスの法則により、点Aから出る全電気力線のうち半数が点Bに入る。点Aの近傍では電気力線は等方的に放射されるとみなせるため、点Aから見て右半分の空間(線分ABに対して \(-90^\circ\) から \(+90^\circ\) の範囲)に出た電気力線がすべて点Bに入ると考えられる。
よって、\(\theta\)の範囲は \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\) である。

解答 (4) 範囲: \(-90^\circ < \theta < 90^\circ\)。理由は上記の通り。

[B] 問(5)

思考の道筋とポイント
これまでの設問の結果をすべて統合して、電気力線の概略図を描きます。特に重要なのは、(B-1)で求めた電位0の円(等電位線)と、(B-4)で明らかになった電気力線の行き先です。電気力線と等電位線は常に直交するという性質も作図の重要な手がかりになります。

この設問における重要なポイント

  • (B-1)で求めた電位0の円(点線で描く)を正確に図示する。
  • (B-2)で求めた電場0の点Pを図示する。この点は電気力線が通らない。
  • (B-4)の結果に基づき、Aから出た電気力線の半分がBに、半分が無限遠に向かう様子を描く。
  • 電気力線は正電荷Aから出て、負電荷Bまたは無限遠に向かう。
  • 電気力線と等電位線(電位0の円)は直交する。
  • 電荷に近いほど電気力線の密度は高くなる。

具体的な解説と立式
作図にあたり、以下の特徴を盛り込みます。

  1. 電荷の配置: 点A\((-\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に正電荷、点B\((\displaystyle\frac{l}{2}, 0)\)に負電荷を置く。
  2. 電位0の線: (B-1)で求めた、中心 \((\displaystyle\frac{5}{6}l, 0)\)、半径 \(\displaystyle\frac{2}{3}l\) の円を点線で描く。この円は点 \(( \displaystyle\frac{l}{6}, 0 )\) と点 \((\displaystyle\frac{3}{2}l, 0)\) でx軸と交わる。
  3. 電場0の点: (B-2)で求めた点P \((\displaystyle\frac{3+2\sqrt{2}}{2}l, 0)\) を図示する。この点はBの右側にあり、電位0の円の外側にある。この点には電気力線は集まらない(一種のよどみ点)。
  4. 電気力線の流れ:
    • 点Aから電気力線が湧き出す。
    • 点Aから出た電気力線のうち、右半球(\(-90^\circ < \theta < 90^\circ\))に出たものはすべて点Bに向かって入る。
    • 点Aから出た電気力線のうち、左半球(\(90^\circ < \theta < 180^\circ\) および \(-180^\circ < \theta < -90^\circ\))に出たものは、無限遠に向かって広がる。
    • 点Bには、点Aから来た電気力線のみが入る。
  5. 直交性: 電気力線は、点線で描いた電位0の円と交わる際に、必ず直角に交わるように描く。
  6. 対称性: x軸に対して対称な図形になる。

これらの要素をすべて満たすように、滑らかな曲線で電気力線を描きます。
(※図は模範解答の図fに相当します)

解答 (5) 模範解答の図fを参照。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電場と電位の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の点電荷が存在するとき、ある点での電場は各電荷が作る電場の「ベクトル和」で、電位は各電荷が作る電位の「スカラー和(代数和)」で与えられます。
    • 理解のポイント: 電場は向きを持つベクトル量なので、力のつり合いを考える(B-2)では方向を考慮した計算が必要です。一方、電位は向きを持たないスカラー量なので、(A-2)や(B-1)では単純な足し算で全体の電位を求めることができます。この違いを明確に理解することが、電磁気の問題を解く上での基本となります。
  • 力学的エネルギー保存則(静電気力を含む):
    • 核心: 荷電粒子が静電気力(保存力)のみに仕事をされる場合、その「運動エネルギー」と「静電気力による位置エネルギー \(U=qV\)」の和は一定に保たれます。
    • 理解のポイント: この法則は、荷電粒子の運動を追跡する際に、2つの異なる点での「速さ」と「電位」を直接結びつける強力なツールです。(A-2)のように、始点と終点の状態が分かっていれば、途中の複雑な運動を考えずに終状態の速さを求めることができます。
  • ガウスの法則と電気力線:
    • 核心: ある閉曲面を貫く電気力線の総本数は、その内部に含まれる電荷の総量に比例します。特に、点電荷から出る(または入る)電気力線の本数は、その電荷の絶対値に比例します。
    • 理解のポイント: この法則は、電気力線の振る舞いを定量的に理解するために不可欠です。(B-4)では、Aから出る力線とBに入る力線の本数の比が \(|Q|:|-\displaystyle\frac{Q}{2}|=2:1\) であることから、Aから出た力線の半分がBに入り、半分が無限遠へ向かうという結論を導き出しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電気双極子: (B)のように正負の電荷が対になっている配置。その性質(電場、電位、電気力線)を問う問題。
    • 多重極子: 3つ以上の電荷が配置された問題。重ね合わせの原理を繰り返し適用することで解くことができます。
    • 導体球や導体殻の問題: 導体表面が等電位になるという性質を利用して、鏡像法などの高度なテクニックにつながる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電荷の配置と対称性の確認: まず、電荷の数、符号、位置関係を把握し、系にx軸対称、y軸対称、点対称などの対称性がないかを確認します。対称性があれば、電場や電位の計算、電気力線の作図が大幅に簡略化されます。
    2. 求める量に応じた法則の選択:
      • 「電場」や「力」を求めたい \(\rightarrow\) クーロンの法則、電場の重ね合わせ(ベクトル和)
      • 「電位」や「位置エネルギー」「速さ」を求めたい \(\rightarrow\) 電位の重ね合わせ(スカラー和)、エネルギー保存則
      • 「電気力線の本数や行き先」を考えたい \(\rightarrow\) ガウスの法則
    3. 物理条件の数式化: 「力が0になる」(\(E_{\text{合成}}=0\))、「電位が0になる」(\(V_{\text{合成}}=0\))、「無限遠に達する」(\(V_{\infty}=0\))といった日本語の条件を、正確な数式に翻訳する能力が鍵となります。
    4. 幾何学的関係の利用: (B-1)のアポロニウスの円や(B-2)別解の内分・外分の考え方のように、物理的な条件が特定の幾何学的性質に対応することがあります。図形的な見方をすることで、計算が簡略化できる場合があります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ベクトル和とスカラー和の混同:
    • 誤解: 電場を計算する際に、向きを考えずに大きさを単純に足し引きしてしまう。逆に、電位を計算する際にベクトルのように成分分解しようとしてしまう。
    • 対策: 「電場・力はベクトル(向きあり)」「電位・エネルギーはスカラー(向きなし)」という基本を常に意識しましょう。立式する前に、どちらを扱っているのかを自問自答する習慣が有効です。
  • 距離の2乗と1乗の混同:
    • 誤解: 電場や力の式(\(r^2\)に反比例)と、電位や位置エネルギーの式(\(r\)に反比例)を混同して、分母の次数を間違える。
    • 対策: 「力(F)や場(E)は\(r^2\)分の1」「エネルギー(U)や電位(V)は\(r\)分の1」と、セットで覚えましょう。\(F = qE\) や \(U = qV\) の関係からも、次元が合うように確認できます。
  • 内分点と外分点の判断ミス:
    • 誤解: (B-2)別解で、力がつりあう点が内分点か外分点かを物理的に考察せず、両方の可能性を計算してしまう、あるいは間違った方を選んでしまう。
    • 対策: 必ず物理的な状況に立ち返りましょう。異符号の電荷の場合、力のつり合い点は電荷を結ぶ直線の「外側」で、かつ「絶対値の小さい電荷の側」にしか存在しません。このルールを覚えておくと、すぐに判断できます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 電位の地形図(等高線)イメージ: 電位を山の高さのようにイメージします。正電荷は「山」、負電荷は「谷」です。(A)は2つの同じ高さの山が並んでいるイメージ。(B)は高い山と浅い谷が並んでいるイメージです。電位0の線は「標高0mの海岸線」に相当し、(B-1)で求めた円がまさにそれです。
    • 力のベクトル図: (B-2)のように力がつりあう点を考えるとき、各電荷からの力のベクトルを矢印で図示すると、つりあう可能性のある領域(逆向きのベクトルが存在する領域)が一目瞭然となります。
    • 電気力線の流れの可視化: 電気力線を「正電荷の泉から湧き出て、負電荷の吸い込み口に流れ込む水の流れ」とイメージします。(B-4), (5)では、Aの泉から湧き出た水の半分がBの吸い込み口に、残り半分が無限の彼方に流れ去る様子を描くことになります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 等電位線と電気力線の直交: (B-5)の作図では、電気力線が等電位線(この問題では電位0の円)を横切るとき、必ず直角に交わるように描くことが重要です。これは電場と等電位面の普遍的な性質です。
    • 特徴的な点の明記: (B-5)の図には、電荷A, Bの位置だけでなく、(B-1)で求めた電位0の円、(B-2)で求めた電場0の点Pの位置関係がわかるように明記することが、解答の質を高めます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 電位の重ね合わせ \(V = \sum k_0 \displaystyle\frac{Q_i}{r_i}\):
    • 選定理由: (B-1)で「電位が0になる点」という条件を数式化するため。電位はスカラーなので、単純な和で表現できるこの公式が最も直接的です。
    • 適用根拠: 電位の重ね合わせの原理が成り立つという物理法則に基づきます。
  • 電場の重ね合わせ \(E = \sum k_0 \displaystyle\frac{|Q_i|}{r_i^2}\):
    • 選定理由: (B-2)で「力が0になる点(=電場が0になる点)」を求めるため。力・電場はベクトルであり、その大きさが等しく向きが逆という条件を立式する必要があります。
    • 適用根拠: 電場の重ね合わせの原理(ベクトル和)に基づきます。
  • エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\):
    • 選定理由: (A-2)で、ある点から別の点へ移動した後の「速さ」を求めるため。始点と終点のエネルギー状態を結びつけるのに最適です。
    • 適用根拠: 荷電粒子に働く力が保存力である静電気力のみであるという物理的条件に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A](2) 荷電粒子の速度:
    • 戦略: ①エネルギー保存則で速さを求める → ②対称性から運動の向きを特定する。
    • フロー: ①始点Sの電位\(V_S\)を計算 → ②エネルギー保存則 \(qV_S = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で速さ\(v\)を求める → ③始点がy>0かy<0かで、y軸正負の向きを決定する。
  2. [B](1) 電位0の図形:
    • 戦略: 電位の重ね合わせ。
    • フロー: ①任意の点\((x,y)\)での電位\(V\)の式を立てる \(\rightarrow\) ②\(V=0\)として、\(r_A\)と\(r_B\)の関係式を導く (\(r_A=2r_B\)) \(\rightarrow\) ③座標を代入し、円の標準形に整理する。
  3. [B](2) 電場0の点:
    • 戦略: 電場の重ね合わせ(大きさが等しく向きが逆)。
    • フロー: ①物理的考察で点Pの領域を特定(Bの右側) \(\rightarrow\) ②A, Bが作る電場の大きさが等しいと立式 \(\rightarrow\) ③座標\(x\)についての方程式を解く。
    • (別解フロー): ①電場の大きさが等しい条件から距離の比を求める(\(r_A:r_B=\sqrt{2}:1\)) \(\rightarrow\) ②物理的考察から外分点と判断 \(\rightarrow\) ③外分点の公式で座標を計算。
  4. [B](3) 円周上の最小電位点:
    • 戦略: 電位の式を立て、変数が何かを特定し、その変数が最大・最小になる幾何学的条件を探す。
    • フロー: ①円周上の点Mの電位\(V_M\)を\(r_A\)と\(r_B\)で表す \(\rightarrow\) ②\(r_B\)が一定であることから、\(V_M\)が\(r_A\)のみの関数であることを見抜く \(\rightarrow\) ③\(V_M\)が最小になるのは\(r_A\)が最大になるときと判断し、その幾何学的な位置を特定する。
  5. [B](4) 電気力線の行方:
    • 戦略: ガウスの法則の定性的理解。
    • フロー: ①A, Bの電荷の絶対値の比を計算 (\(2:1\)) \(\rightarrow\) ②Aから出る力線のうち、Bに入る割合を決定 (1/2) \(\rightarrow\) ③Aの近傍で力線が等方的に出ると仮定し、Bに入る力線の出る方向の範囲を決定する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 平方根の取り扱い: (B-2)で \(2(x – \displaystyle\frac{l}{2})^2 = (x + \displaystyle\frac{l}{2})^2\) のような式が出てきたとき、安易に展開せず、両辺の平方根をとることで計算が楽になります。その際、各項の正負を吟味して絶対値を外すことを忘れないようにしましょう。
  • 座標計算の丁寧さ: (B-1)のように、座標を含んだ式を展開・整理する際は、符号ミスや項の抜け漏れが起きやすいです。一行ずつ丁寧に、分配法則や平方完成の計算を行いましょう。
  • 有理化の徹底: (B-2)の計算の最後で \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}-1}\) のような形が出てきたら、必ず分母を有理化して、見やすく整理された形で答えるようにしましょう。
  • 文字と数値の分離: (A-2)の計算のように、多くの物理定数が含まれる場合、まずは文字式のまま最終的な形(\(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4k_0qQ}{mr}}\))まで変形し、最後にまとめて数値を代入する方が、途中の計算がすっきりし、間違いが起こりにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (B-1) 電位0の円: この円は、電荷の絶対値が大きいAから遠く、小さいBに近い位置に偏っています。これは、強いAの影響を弱めるために距離をとり、弱いBの影響を補うために近づく必要があるので、直感的に妥当です。
    • (B-2) 電場0の点: この点は、電荷の絶対値が小さいBの側に、しかもAとBを結ぶ線分の外側にあります。これも、弱いBの力を補うためにBに近づき、かつAと逆方向の力を受けるための位置として物理的に正しいです。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし\(Q_A = -Q_B\)(電気双極子)なら、電位0の線はABの垂直二等分線になるはずです。今回の問題は電荷が非対称なので、円に歪むのは妥当な結果です。
    • もし\(Q_A = Q_B\)なら、電場0の点はAとBのちょうど中間点になるはずです。電荷の大きさが違うので、中間点からずれるのは当然です。
  • 設問間の関連性の確認: (B-5)の作図は、(B-1)から(B-4)までのすべての結果を反映する集大成です。例えば、描いた電気力線が(B-1)の円と直交しているか、(B-2)の点Pを避けているか、などを確認することで、各設問の解答の正しさを総合的にチェックできます。

問題108 (群馬大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、4つのコンデンサーを組み合わせた直流回路について、合成容量、各部品の電圧・電気量、エネルギー、そして回路全体の耐電圧を問う、基本的な知識を総合的に試す問題です。
この問題の核心は、コンデンサーの直列・並列接続の性質を正確に理解し、回路を「全体から部分へ」と段階的に分析していく能力です。

与えられた条件
  • 直流電源: \(E = 6.0 \text{ V}\)
  • コンデンサー:
    • \(C_1 = 3.0 \text{ μF}\)
    • \(C_2 = 1.5 \text{ μF}\)
    • \(C_3 = 2.0 \text{ μF}\)
    • \(C_4 = 2.0 \text{ μF}\)
  • 初期条件: 各コンデンサーの電荷は0。
  • 耐電圧: (4)では、各コンデンサーの耐電圧はすべて\(45 \text{ V}\)。
問われていること
  • (1) 回路全体の合成容量\(C\)。
  • (2) 各コンデンサーの電圧\(V_1, V_2, V_3, V_4\)と電気量\(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4\)。
  • (3) 回路全体に蓄えられた静電エネルギーの合計\(U\)。
  • (4) 合成コンデンサーとしての耐電圧\(V_{\text{max}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンデンサー回路の解析」です。基本的な公式と考え方を組み合わせて解き進めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直列・並列接続の合成容量: 回路の構造を見抜き、直列接続(\(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\))と並列接続(\(C = C_1 + C_2\))の公式を正しく適用します。
  2. 電荷と電圧の分配法則: 直列接続では電気量が等しく、電圧は電気容量の逆比に分配されます。並列接続では電圧が等しく、電気量は電気容量の比に分配されます。
  3. エネルギーの計算: 回路全体のエネルギーは、合成容量を用いて \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_{\text{合成}}V^2\) で計算するのが最も効率的です。
  4. 耐電圧の考え方: 回路全体の耐電圧は、最も電圧分担率の高い(最初に限界に達する)コンデンサーによって決まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、回路を部分ごとに分析し、段階的に合成容量を求めます(問1)。
  2. 次に、全体から部分へと電圧を分配していき、各コンデンサーの電圧を特定します。その後、\(Q=CV\)で電気量を計算します(問2)。
  3. 問1で求めた合成容量を使って、回路全体のエネルギーを一括で計算します(問3)。
  4. 問2で求めた電圧の比率から、最も壊れやすい部品を特定し、その部品が耐電圧に達する瞬間の全体電圧を逆算します(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
複数のコンデンサーが接続された回路の合成容量を求める問題です。回路の接続関係を正しく見抜き、「直列接続」と「並列接続」の合成容量の公式を段階的に適用していきます。

この設問における重要なポイント

  • 回路のどの部分が直列で、どの部分が並列であるかを正確に把握する。
  • 直列接続の合成容量の公式: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\) (和分の積の形 \(C = \displaystyle\frac{C_1 C_2}{C_1 + C_2}\) も便利)
  • 並列接続の合成容量の公式: \(C = C_1 + C_2\)

具体的な解説と立式
回路の構造を分析し、段階的に合成容量を計算します。

  1. \(C_1\)と\(C_2\)の合成: \(C_1\)と\(C_2\)は直列に接続されています。この部分の合成容量を\(C_{12}\)とします。
    $$ \frac{1}{C_{12}} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} $$
  2. \(C_{12}\)と\(C_3\)の合成: ステップ1で合成した\(C_{12}\)と\(C_3\)は並列に接続されています。この部分の合成容量を\(C_{123}\)とします。
    $$ C_{123} = C_{12} + C_3 $$
  3. \(C_{123}\)と\(C_4\)の合成: ステップ2で合成した\(C_{123}\)と\(C_4\)は直列に接続されています。これが回路全体の合成容量\(C\)となります。
    $$ \frac{1}{C} = \frac{1}{C_{123}} + \frac{1}{C_4} $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの直列接続: \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \sum \frac{1}{C_i}\)
  • コンデンサーの並列接続: \(C_{\text{並列}} = \sum C_i\)
計算過程

与えられた値 \(C_1=3.0 \text{ μF}, C_2=1.5 \text{ μF}, C_3=2.0 \text{ μF}, C_4=2.0 \text{ μF}\) を用いて計算します。

  1. \(C_{12}\)の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    C_{12} &= \frac{C_1 C_2}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]&= \frac{3.0 \times 1.5}{3.0 + 1.5} \\[2.0ex]&= \frac{4.5}{4.5} \\[2.0ex]&= 1.0 \text{ [μF]}
    \end{aligned}
    $$
  2. \(C_{123}\)の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    C_{123} &= C_{12} + C_3 \\[2.0ex]&= 1.0 + 2.0 \\[2.0ex]&= 3.0 \text{ [μF]}
    \end{aligned}
    $$
  3. 全体の合成容量\(C\)の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    C &= \frac{C_{123} C_4}{C_{123} + C_4} \\[2.0ex]&= \frac{3.0 \times 2.0}{3.0 + 2.0} \\[2.0ex]&= \frac{6.0}{5.0} \\[2.0ex]&= 1.2 \text{ [μF]}
    \end{aligned}
    $$
計算方法の平易な説明

複雑に見える回路も、部分ごとに単純な「直列」か「並列」の組み合わせになっています。まず\(C_1\)と\(C_2\)を直列として一つにまとめ、次にそのまとめたものと\(C_3\)を並列としてさらに一つにまとめ、最後にその大きなまとまりと\(C_4\)を直列として一つにまとめる、という3ステップで全体の合成容量を計算します。

結論と吟味

4つのコンデンサーの合成容量は \(1.2 \text{ μF}\) です。計算過程は段階的で、それぞれのステップで適切な公式を適用しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(1.2 \text{ μF}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
各コンデンサーの電圧と電気量を求めます。まず回路全体から考え、段階的に部分へと分析を進めていくのが定石です。

  1. 回路全体に蓄えられる総電気量\(Q\)を \(Q=CV\) で求める。
  2. 直列部分では電気量が等しく、並列部分では電圧が等しいという性質を利用して、各部分の電圧・電気量を計算していく。
  3. 特に、初期電荷が0のコンデンサーの直列接続では、電圧は電気容量の逆比に分配されるという性質を使うと計算が早いです。

この設問における重要なポイント

  • 回路全体の総電気量を求める: \(Q_{\text{全体}} = C_{\text{合成}} V_{\text{電源}}\)
  • 直列接続の特徴: 各コンデンサーの電気量は等しい (\(Q_1 = Q_2\))。電圧は電気容量の逆比に分配される (\(V_1 : V_2 = \displaystyle\frac{1}{C_1} : \frac{1}{C_2} = C_2 : C_1\))。
  • 並列接続の特徴: 各コンデンサーの電圧は等しい (\(V_1 = V_2\))。

具体的な解説と立式
全体の電源電圧を\(V=6.0 \text{ V}\)とします。

Step 1: \(C_{123}\)と\(C_4\)の電圧を求める
\(C_{123}\)と\(C_4\)は直列接続なので、かかる電圧\(V_{123}\)と\(V_4\)の比は、電気容量の逆比になります。
$$ V_{123} : V_4 = \frac{1}{C_{123}} : \frac{1}{C_4} = C_4 : C_{123} $$
また、電圧の和は電源電圧に等しいです。
$$ V_{123} + V_4 = V $$

Step 2: \(C_3\)の電圧を求める
\(C_{123}\)は\(C_{12}\)と\(C_3\)の並列接続です。並列接続では電圧が等しいので、\(C_3\)にかかる電圧\(V_3\)は\(C_{123}\)にかかる電圧\(V_{123}\)に等しくなります。
$$ V_3 = V_{123} $$

Step 3: \(C_1\)と\(C_2\)の電圧を求める
\(C_1\)と\(C_2\)は直列接続で、このまとまりには\(V_{123}\)の電圧がかかっています。したがって、\(C_1\)と\(C_2\)にかかる電圧\(V_1, V_2\)は、電圧\(V_{123}\)を電気容量の逆比で分配したものになります。
$$ V_1 : V_2 = \frac{1}{C_1} : \frac{1}{C_2} = C_2 : C_1 $$
また、電圧の和は\(V_{123}\)に等しいです。
$$ V_1 + V_2 = V_{123} $$

Step 4: 各電気量を求める
各コンデンサーの電圧が求まれば、\(Q=CV\)の公式を使ってそれぞれの電気量を計算できます。
$$ Q_1 = C_1 V_1, \quad Q_2 = C_2 V_2, \quad Q_3 = C_3 V_3, \quad Q_4 = C_4 V_4 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 電圧の分配(直列接続): \(V_1 = V_{\text{全体}} \displaystyle\frac{C_2}{C_1+C_2}\), \(V_2 = V_{\text{全体}} \displaystyle\frac{C_1}{C_1+C_2}\)
計算過程

電圧の計算

  • \(V_{123}\)と\(V_4\)の計算:
    \(C_{123}=3.0 \text{ μF}, C_4=2.0 \text{ μF}\) なので、\(V_{123} : V_4 = 2.0 : 3.0\)。
    $$
    \begin{aligned}
    V_{123} &= V \times \frac{C_4}{C_{123}+C_4} \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{2.0}{3.0+2.0} \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{2.0}{5.0} \\[2.0ex]&= 2.4 \text{ [V]}
    \end{aligned}
    $$
    $$
    \begin{aligned}
    V_4 &= V \times \frac{C_{123}}{C_{123}+C_4} \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{3.0}{3.0+2.0} \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{3.0}{5.0} \\[2.0ex]&= 3.6 \text{ [V]}
    \end{aligned}
    $$
  • \(V_3\)の計算:
    $$ V_3 = V_{123} = 2.4 \text{ [V]} $$
  • \(V_1\)と\(V_2\)の計算:
    \(C_1=3.0 \text{ μF}, C_2=1.5 \text{ μF}\) なので、\(V_1 : V_2 = 1.5 : 3.0 = 1 : 2\)。
    かかる電圧は\(V_{123}=2.4 \text{ V}\)なので、
    $$
    \begin{aligned}
    V_1 &= V_{123} \times \frac{C_2}{C_1+C_2} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{1.5}{3.0+1.5} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{1.5}{4.5} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{1}{3} \\[2.0ex]&= 0.80 \text{ [V]}
    \end{aligned}
    $$
    $$
    \begin{aligned}
    V_2 &= V_{123} \times \frac{C_1}{C_1+C_2} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{3.0}{3.0+1.5} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{3.0}{4.5} \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]&= 1.6 \text{ [V]}
    \end{aligned}
    $$

電気量の計算
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 V_1 \\[2.0ex]&= (3.0 \times 10^{-6}) \times 0.80 \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^{-6} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 V_2 \\[2.0ex]&= (1.5 \times 10^{-6}) \times 1.6 \\[2.0ex]&= 2.4 \times 10^{-6} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_3 &= C_3 V_3 \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^{-6}) \times 2.4 \\[2.0ex]&= 4.8 \times 10^{-6} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_4 &= C_4 V_4 \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^{-6}) \times 3.6 \\[2.0ex]&= 7.2 \times 10^{-6} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

回路全体を大きなブロックに分けて考えます。まず、電源の6.0Vが「\(C_1, C_2, C_3\)のまとまり」と「\(C_4\)」という2つのブロックで分け合われます。次に、「\(C_1, C_2, C_3\)のまとまり」が受け取った電圧(2.4V)を、今度は「\(C_1, C_2\)のペア」と「\(C_3\)」が分け合います。ここは並列なので同じ電圧です。最後に、「\(C_1, C_2\)のペア」が受け取った電圧を、この2つでさらに分け合います。このように、大きな視点から徐々に細かく見ていくことで、各部品の電圧がわかります。

別解: キルヒホッフの法則(電位追跡法)

思考の道筋とポイント
回路の各接点の電位を未知数として設定し、電気量保存則(孤立部分の電荷の和が0)を用いて連立方程式を立てて解く方法です。どんな複雑な回路にも適用できる汎用的な手法です。

具体的な解説と立式

  • 電源の負極側の電位を\(0 \text{ V}\)、正極側を\(6.0 \text{ V}\)とする。
  • \(C_1\)と\(C_2\)の間の点の電位を\(x\)、\(C_3\)と\(C_4\)の間の点の電位を\(y\)とする。
  • 孤立部分について電気量保存則を立てる。

電位\(x\)に接続された極板群(\(C_1\)の右側、\(C_2\)の左側)の電気量の和は0なので、
$$-C_1(6.0 – x) + C_2(x – y) = 0 \quad \cdots ①$$

同様に、電位\(y\)に接続された極板群(\(C_2\)の右側、\(C_3\)の下側、\(C_4\)の上側)の電気量の和は0なので、
$$-C_2(x – y) – C_3(6.0 – y) + C_4(y – 0) = 0 \quad \cdots ②$$

計算過程

①式に値を代入して整理します。

$$
\begin{aligned}
-3.0(6.0 – x) + 1.5(x – y) &= 0 \\[2.0ex]-18 + 3.0x + 1.5x – 1.5y &= 0 \\[2.0ex]4.5x – 1.5y &= 18 \\[2.0ex]3x – y &= 12 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$

②式に値を代入して整理します。

$$
\begin{aligned}
-1.5(x – y) – 2.0(6.0 – y) + 2.0y &= 0 \\[2.0ex]-1.5x + 1.5y – 12 + 2.0y + 2.0y &= 0 \\[2.0ex]-1.5x + 5.5y &= 12 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

③、④の連立方程式を解くと、\(x = 5.2 \text{ V}\), \(y = 3.6 \text{ V}\) が得られます。
各電圧は、
\(V_1 = 6.0 – x = 6.0 – 5.2 = 0.80 \text{ V}\)
\(V_2 = x – y = 5.2 – 3.6 = 1.6 \text{ V}\)
\(V_3 = 6.0 – y = 6.0 – 3.6 = 2.4 \text{ V}\)
\(V_4 = y – 0 = 3.6 \text{ V}\)
となり、主解法の結果と一致します。電気量はここから同様に計算できます。

計算方法の平易な説明

この方法は、どんな複雑な回路にも使える万能なアプローチです。まず、回路図を地図のように見立て、基準地点(地面、0V)を決めます。そして、まだ高さがわからない主要な交差点の「標高」(電位)を、未知数x, yと置きます。次に、「外部から隔離された土地(孤立部分)では、もともとあった電荷の総量は変わらない」という物理法則(電気量保存則)を使って、xとyに関する連立方程式を立てます。あとはこの数学の問題を解けば、すべての地点の標高がわかり、各コンデンサーにかかる電圧(標高差)が計算できます。

結論と吟味

電圧: \(V_1=0.80 \text{ V}, V_2=1.6 \text{ V}, V_3=2.4 \text{ V}, V_4=3.6 \text{ V}\)
電気量: \(Q_1=2.4 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_2=2.4 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_3=4.8 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_4=7.2 \times 10^{-6} \text{ C}\)
直列部分の\(Q_1=Q_2\)が確認でき、また並列部分に流れ込む電荷の和がその先の電荷と等しいこと(\(Q_1+Q_3 = 2.4+4.8=7.2 \text{ μC}\)と\(Q_4=7.2 \text{ μC}\))も確認でき、計算の妥当性が裏付けられます。

解答 (2)
電圧: \(V_1=0.80 \text{ V}, V_2=1.6 \text{ V}, V_3=2.4 \text{ V}, V_4=3.6 \text{ V}\)
電気量: \(Q_1=2.4 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_2=2.4 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_3=4.8 \times 10^{-6} \text{ C}, Q_4=7.2 \times 10^{-6} \text{ C}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
回路全体に蓄えられた静電エネルギーの合計を求めます。2つのアプローチが考えられます。

  1. 各コンデンサーのエネルギーを \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) で個別に計算し、それらを合計する。
  2. 回路全体の合成容量\(C\)が分かっているので、それを一つのコンデンサーとみなし、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_{\text{合成}}V^2\) で一気に計算する。初期電荷が0の場合、この方法が使える。

この設問における重要なポイント

  • 静電エネルギーの公式: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\)
  • エネルギーの加算性: 全体のエネルギーは各部分のエネルギーの和に等しい。
  • 合成容量の利用: 初期電荷0の場合、全体のエネルギーは合成容量を使って計算できる。

具体的な解説と立式
方法2(合成容量を利用)が最も簡単です。
回路全体の合成容量は(1)で \(C = 1.2 \text{ μF}\) と求まっています。
電源電圧は \(V = 6.0 \text{ V}\) です。
全体の静電エネルギー\(U\)は、
$$ U = \frac{1}{2}CV^2 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
U &= \frac{1}{2} \times (1.2 \times 10^{-6}) \times (6.0)^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 1.2 \times 36 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 0.6 \times 36 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 21.6 \times 10^{-6} \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx 2.2 \times 10^{-5} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

回路全体を、(1)で求めた合成容量\(1.2 \text{ μF}\)を持つ一個の巨大なコンデンサーだと考えます。この巨大コンデンサーが\(6.0 \text{ V}\)の電源で充電されたときのエネルギーを計算すれば、それが回路全体のエネルギーの合計になります。

結論と吟味

合計の静電エネルギーは \(2.16 \times 10^{-5} \text{ J}\) (有効数字2桁で \(2.2 \times 10^{-5} \text{ J}\)) です。
(2)で求めた各電圧を使って個別にエネルギーを計算し合計する(模範解答の※Bの方法)と、\(U_1+U_2+U_3+U_4 = 0.96+1.92+5.76+12.96 = 21.6 \text{ μJ}\) となり、結果が一致することから、計算の正しさが確認できます。

解答 (3) \(2.2 \times 10^{-5} \text{ J}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
合成コンデンサーとしての耐電圧を求めます。これは「回路全体にかけられる電圧の限界」を意味します。電圧を上げていくと、いずれか一つのコンデンサーが最初に自身の耐電圧に達します。その瞬間の電源電圧が、回路全体の耐電圧となります。
どのコンデンサーが最初に限界に達するかは、各コンデンサーにかかる電圧の比率で決まります。

この設問における重要なポイント

  • 回路の耐電圧は、最も「弱い」部品(最初に耐電圧に達するコンデンサー)によって決まる。
  • 各コンデンサーにかかる電圧の比率は、電源電圧の大きさによらず一定である。
  • (2)で求めた電圧の比率を使い、どのコンデンサーが最も電圧分担率が高いかを見つける。

具体的な解説と立式
(2)の結果から、電源電圧\(V=6.0 \text{ V}\)のとき、各コンデンサーにかかる電圧は \(V_1=0.8 \text{ V}, V_2=1.6 \text{ V}, V_3=2.4 \text{ V}, V_4=3.6 \text{ V}\) でした。
電源電圧を\(V_{\text{max}}\)まで上げたとき、各コンデンサーにかかる電圧\(V’_1, V’_2, V’_3, V’_4\)も、この比率を保ったまま増加します。
$$ V’_1:V’_2:V’_3:V’_4 = 0.8:1.6:2.4:3.6 = 2:4:6:9 $$
各コンデンサーの耐電圧はすべて\(45 \text{ V}\)です。この中で最も電圧の分担率が高いのは\(V_4\)です。したがって、電源電圧を上げていくと、最初に\(C_4\)が耐電圧\(45 \text{ V}\)に達します。
よって、回路の限界は \(V’_4 = 45 \text{ V}\) となるときに決まります。
このときの他の電圧も比を使って計算できます。特に、\(C_{123}\)にかかる電圧\(V’_{123}\)(=\(V’_3\))を求めます。
$$ V’_{123} : V’_4 = V_{123} : V_4 = 2.4 : 3.6 = 2 : 3 $$
回路全体の電圧\(V_{\text{max}}\)は、直列接続された\(C_{123}\)と\(C_4\)にかかる電圧の和です。
$$ V_{\text{max}} = V’_{123} + V’_4 $$

使用した物理公式

  • 電圧の分配(直列接続)
計算過程

\(V’_4 = 45 \text{ V}\) のときの \(V’_{123}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V’_{123} &= V’_4 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]&= 45 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]&= 30 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
したがって、回路全体の耐電圧\(V_{\text{max}}\)は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{max}} &= V’_{123} + V’_4 \\[2.0ex]&= 30 + 45 \\[2.0ex]&= 75 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この回路にかけられる電圧の限界を知るには、まず「どのコンデンサーが一番最初に悲鳴をあげるか」を見つけます。(2)の結果から、電圧の配分が一番大きいのは\(C_4\)だとわかります。そこで、この\(C_4\)にかかる電圧が限界の\(45 \text{ V}\)に達したとき、回路全体にはどれだけの電圧がかかっているかを計算します。\(C_4\)が\(45 \text{ V}\)のとき、その相方である\(C_{123}\)の部分には\(30 \text{ V}\)かかっているので、合計で\(75 \text{ V}\)が限界電圧となります。

結論と吟味

合成コンデンサーとしての耐電圧は \(75 \text{ V}\) です。このとき、\(V’_4=45 \text{ V}\), \(V’_3=30 \text{ V}\) となり、\(C_3\)の耐電圧\(45 \text{ V}\)は超えていません。また、\(C_{123}\)にかかる電圧が\(30 \text{ V}\)なので、\(V’_1 = 30 \times \displaystyle\frac{1}{3} = 10 \text{ V}\), \(V’_2 = 30 \times \displaystyle\frac{2}{3} = 20 \text{ V}\) となり、これらも耐電圧\(45 \text{ V}\)を下回っています。よって、\(C_4\)が最初に限界に達するという判断は正しく、結果は妥当です。

解答 (4) \(75 \text{ V}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • コンデンサーの接続(直列・並列)と合成容量:
    • 核心: 回路の接続関係を正しく見抜き、直列接続(\(\displaystyle\frac{1}{C} = \sum \frac{1}{C_i}\))と並列接続(\(C = \sum C_i\))の公式を的確に使い分けることが、コンデンサー回路解析の第一歩です。
    • 理解のポイント: 直列では、コンデンサーを一直線に繋ぐことで実質的に極板間隔を広げるイメージ(容量は減少)。並列では、極板面積を合算するイメージ(容量は増加)を持つと理解しやすくなります。
  • 電荷保存則と電圧の関係:
    • 核心: 直列接続された(初期電荷のない)コンデンサーには、同じ量の電荷が蓄えられます(\(Q_1=Q_2=…\))。一方、並列接続されたコンデンサーには、同じ電圧がかかります(\(V_1=V_2=…\))。
    • 理解のポイント: (2)の解析は、この2つの基本原則を回路の各部分に適用していくことで成り立っています。特に、直列接続では電圧は電気容量の逆比(\(V_1:V_2 = C_2:C_1\))に分配される、という事実は計算を大幅に簡略化する強力なツールです。
  • コンデンサーのエネルギー:
    • 核心: コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\) で与えられます。回路全体のエネルギーは、各コンデンサーのエネルギーの和に等しく、また(初期電荷0なら)合成容量を用いた \(U_{\text{全体}} = \displaystyle\frac{1}{2}C_{\text{合成}}V^2\) でも計算できます。
    • 理解のポイント: (3)のように、合成容量が分かっていれば、個々のエネルギーを計算して足し合わせるより、回路全体を一つのコンデンサーと見なして計算する方が圧倒的に速く、計算ミスも減らせます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ブリッジ回路: ホイートストンブリッジのように、コンデンサーがひし形に配置された回路。平衡条件(\(C_1 C_3 = C_2 C_4\))が成り立つかどうかが解析の鍵となります。
    • スイッチの切り替え問題: 充電後にスイッチを切り替えて別の回路に接続する問題。切り替えの前後で「孤立部分の電気量保存則」が成り立つことが最重要ポイントです。
    • 誘電体の挿入: 充電したコンデンサーに誘電体を挿入する問題。挿入条件(電源に接続したままか、切り離してからか)によって、電圧が一定に保たれるか、電荷が一定に保たれるかが変わります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の構造分析: まず、回路図をよく見て、どの部分が直列でどの部分が並列かを色分けするなどして明確に把握します。複雑な場合は、(2)の別解で使われた「キルヒホッフの法則(電位追跡法)」が有効です。
    2. 解析の順序: 「全体から部分へ」が基本戦略です。まず回路全体の合成容量や総電荷を求め、そこから直列・並列の性質を使って各部分の電圧・電荷へと分析を進めます。
    3. 「耐電圧」問題の定石: (4)のような耐電圧の問題では、必ず「どのコンデンサーが最初に限界に達するか?」を特定することから始めます。そのためには、各コンデンサーにかかる電圧の「比率」を把握することが不可欠です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 直列と並列の公式の混同:
    • 誤解: 抵抗の合成公式と混同し、直列と並列の公式を逆さに使ってしまう。
    • 対策: コンデンサーの公式は抵抗の公式と「逆」と覚えましょう。直列が逆数和、並列が単純和です。意味(直列→極板間隔大→容量小、並列→面積大→容量大)で理解しておくと、さらに間違いにくくなります。
  • 電圧分配の比率の間違い:
    • 誤解: 直列接続の電圧分配を、電気容量に比例する(\(V_1:V_2 = C_1:C_2\))と勘違いする。
    • 対策: 正しくは「電気容量の逆比」です。\(Q=C_1V_1=C_2V_2\) という基本式から、\(V_1/V_2 = C_2/C_1\) と導けるようにしておきましょう。「容量が小さい(電荷を溜めにくい)方により多くの電圧がかかる」とイメージするのも有効です。
  • 耐電圧の考え方の誤解:
    • 誤解: (4)で、合成容量と耐電圧から \(Q_{\text{max}}=C_{\text{合成}}V_{\text{耐電圧}}\) のように、単純に計算してしまう。
    • 対策: 回路の耐電圧は、構成部品の中で最も弱い(電圧分担率が高く、最初に耐電圧に達する)ものによって決まります。必ず各部品にかかる電圧を個別に検討し、ボトルネックを探す必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 回路の等価変換図: (1)の思考プロセスのように、回路を段階的に単純化していく図を描くと、計算のステップが明確になります。「\(C_1\)と\(C_2\)を合成して\(C_{12}\)に」→「\(C_{12}\)と\(C_3\)を合成して\(C_{123}\)に」というように、等価回路を次々に描くことで、複雑な回路も単純な直列・並列問題に帰着できます。
    • 水路モデル: 電圧を「水圧」、電気量を「水量」、電気容量を「タンクの底面積」とイメージします。直列接続は「細いタンクを縦に積む」こと(水圧は分配されるが、溜まる水量は同じ)、並列接続は「タンクを横に並べる」こと(水圧は同じだが、溜まる水量はタンクごと)に対応し、直感的な理解を助けます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電位の明記: (2)の別解のように、回路の各接点に電位(例: 0V, 6V, x, y)を書き込むと、各コンデンサーの電位差が一目瞭然となり、キルヒホッフの法則を適用しやすくなります。
    • 電荷の符号: 各コンデンサーの極板に蓄えられる電荷のプラス・マイナスを書き込むと、電気量保存則を考える際に、どの電荷を足し、どの電荷を引くべきかが明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 合成容量の公式:
    • 選定理由: (1)で回路全体の等価的な容量を求めるため。また、(3)で全体のエネルギーを効率的に計算するため。
    • 適用根拠: 回路の接続形態(直列か並列か)に応じて、それぞれ導出された公式を適用します。
  • \(Q=CV\)(コンデンサーの基本式):
    • 選定理由: (2)で電圧と電気容量から電気量を、(4)で耐電圧と電気容量から限界電荷を計算するなど、3つの基本量の関係を問うあらゆる場面で使用します。
    • 適用根拠: コンデンサーという素子の最も基本的な定義式です。
  • \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)(エネルギーの公式):
    • 選定理由: (3)で蓄えられたエネルギーを計算するため。この形が電圧と容量から直接計算できるため最も便利です。
    • 適用根拠: 電場に蓄えられるエネルギー密度を積分して導かれる、コンデンサーの静電エネルギーの公式です。
  • キルヒホッフの法則(電位追跡法):
    • 選定理由: (2)の別解として。回路が複雑で、直列・並列の単純な組み合わせに分解できない場合に特に有効な、汎用性の高い解法です。
    • 適用根拠: 電気量保存則(第1法則の応用)と、電位の保存性(第2法則)という、電気回路における普遍的な法則に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 合成容量:
    • 戦略: 部分から全体へ、段階的に合成する。
    • フロー: ①\(C_1, C_2\)を直列合成→\(C_{12}\) ②\(C_{12}, C_3\)を並列合成→\(C_{123}\) ③\(C_{123}, C_4\)を直列合成→\(C\)。
  2. (2) 電圧・電気量:
    • 戦略: 全体から部分へ、電圧を分配していく。
    • フロー: ①\(V\)を\(C_{123}\)と\(C_4\)に分配→\(V_{123}, V_4\) ②\(V_3=V_{123}\) ③\(V_{123}\)を\(C_1\)と\(C_2\)に分配→\(V_1, V_2\) ④各\(Q_i=C_iV_i\)を計算。
  3. (3) 全エネルギー:
    • 戦略: 合成容量を利用して一括計算。
    • フロー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2} C_{\text{合成}} V^2\) に(1)の結果と電源電圧を代入。
  4. (4) 耐電圧:
    • 戦略: 最も弱い部分(電圧分担率が最大)を見つけて、そこが限界に達する条件から逆算する。
    • フロー: ①(2)の電圧比から、\(C_4\)が最初に限界に達することを確認。②\(V’_4=45\text{V}\)とおく。③電圧比を使って、そのときの\(V’_{123}\)を計算。④\(V_{\text{max}} = V’_{123} + V’_4\)を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の取り扱い: 電気容量がマイクロファラッド(μF)で与えられている場合、計算の最終段階までμのままで計算し、答えを求めるときに\(10^{-6}\)に変換すると、途中の記述がスッキリします。特に比を扱う場合は、μは相殺されるので気にする必要はありません。
  • 分数の計算: 直列合成の計算では分数が多用されます。通分や逆数をとる際のミスに注意しましょう。2つのコンデンサーの直列なら、和分の積の公式 \(C = \displaystyle\frac{C_1 C_2}{C_1 + C_2}\) を使うと、逆数を忘れるミスを防げます。
  • 検算の習慣: (2)で求めた各電圧の和が電源電圧と一致するか(例: \(V_1+V_2=V_3\), \(V_3+V_4=V\))、また直列部分の電荷が等しいか(\(Q_1=Q_2\))、並列部分に流れ込む電荷の和がその先の電荷と等しいか(\(Q_1+Q_3=Q_4\))などを確認することで、計算ミスを発見できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 電圧分配: 直列接続の\(C_1(3.0\mu F)\)と\(C_2(1.5\mu F)\)では、容量の小さい\(C_2\)に2倍の電圧(\(1.6\text{V}\))がかかっています(\(V_1=0.8\text{V}\))。これは「容量が小さいほど電圧負担が大きい」という性質と一致しており、妥当です。
    • (4) 耐電圧: 回路全体の耐電圧\(75\text{V}\)は、個々の耐電圧\(45\text{V}\)より大きくなっています。これは、電圧が複数のコンデンサーに分配されることで、個々の部品が耐えられる以上の電圧を全体として受け持てるようになるためで、物理的に理にかなっています。
  • 別解との比較:
    • (2)の解析は、電圧分配則を使う方法と、キルヒホッフの法則を使う方法の2通りがありました。両方のアプローチで同じ結果が得られることを確認することで、解答の信頼性が格段に高まります。複雑な問題に挑戦する際は、このように複数の視点からアプローチする練習が有効です。

問題109 (広島市大改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねに繋がれた可動式の極板を持つ平行平板コンデンサーについて、帯電による力のつりあいや、誘電体を挿入した際の変化を考察する問題です。電気的な現象と力学的な現象が融合した、応用的な内容です。
この問題の核心は、コンデンサーの基本法則(電場、極板間引力)と、力学の基本法則(力のつりあい)を正しく結びつけることです。

与えられた条件
  • 平行平板コンデンサー: 面積\(S\)、極板Aは固定、極板Bはばね(ばね定数\(k\))に接続。
  • 初期状態(図1): 電荷なし。ばねは自然長。極板間距離は\(d\)。
  • 帯電後(図2): 極板Aに\(+Q\)、Bに\(-Q\)を帯電。ばねが\(\Delta d\)伸び、極板間距離が\(d-\Delta d\)でつりあう。
  • 誘電体挿入(図4): 極板Bを固定したまま、比誘電率2の誘電体を挿入。
  • その他: 真空の誘電率\(\varepsilon_0\)。
問われていること
  • (1) 帯電後の電気力線の図示。
  • (2) 極板間の電場の強さ\(E\)。
  • (3) 極板Bにはたらく電気的な力\(F\)。
  • (4) ばねの伸び\(\Delta d\)。
  • (5) 極板間の電位差\(V\)。
  • (6) 誘電体挿入後の電気力線の図示。
  • (7) 誘電体挿入後の電気的な力は(3)と比べてどうなるか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力学と電磁気学の融合」です。コンデンサーの性質と力のつりあいを組み合わせて考えます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ガウスの法則: 平行平板コンデンサー内の電場の強さを、極板の電荷密度から求めます。
  2. 極板間引力: コンデンサーの極板が引き合う力は、片方の極板がもう片方の極板の「み」が作る電場から受ける力として計算します。
  3. 力のつりあい: ばねの弾性力と電気的な引力がつりあう条件から、ばねの伸びを求めます。
  4. 誘電体の効果: 誘電体を挿入すると、内部の電場が弱められるという性質を理解し、電気力線の変化や力への影響を考察します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、コンデンサーの電荷から電場を求めます(問2)。
  2. 次に、その電場を用いて極板間引力を計算します(問3)。このとき、力が「相手の作る場」から生じることを忘れないのが重要です。
  3. 電気的な力とばねの力がつりあうとして、力学的な変位を求めます(問4)。
  4. 最後に、誘電体を挿入した際に、何が変化し、何が変化しないのかを慎重に判断し、電気力線や力への影響を結論付けます(問6, 7)。

問(1)

思考の道筋とポイント
正の電荷を帯びた極板Aから、負の電荷を帯びた極板Bへ向かう電気力線の様子を描く問題です。理想的な平行平板コンデンサーの内部では、電場は一様(場所によらず強さと向きが同じ)になります。電気力線は電場の様子を視覚的に表現したものなので、この性質を反映させて描きます。

この設問における重要なポイント

  • 電気力線は正電荷から出て、負電荷に入る。
  • 電場が一様な空間では、電気力線は平行で等間隔な直線になる。
  • コンデンサーの端での電場の乱れ(端効果)は、通常は無視して考える。

具体的な解説と立式
極板Aに+Q、極板Bに-Qの電荷があるので、電気力線はAから出てBに向かいます。また、平行平板コンデンサーの極板間では、端を除いて一様な電場が形成されます。したがって、電気力線は以下のようになります。

  • 向き: AからBへ向かう向き。
  • : 互いに平行な直線。
  • 間隔: 等間隔。

これを図3の枠内に矢印で表現します。

計算方法の平易な説明

コンデンサーのプラスの板からマイナスの板に向かって、まっすぐで、等間隔に並んだ矢印を描きます。これが平行平板コンデンサーの電気力線の基本形です。

結論と吟味

極板Aから極板Bへ向かう、平行で等間隔な複数の矢印を描けば正解です。これは一様な電場を正しく表現しています。

解答 (1) 極板AからBに向かう平行で等間隔な矢印を描く。

問(2)

思考の道筋とポイント
平行平板コンデンサーの極板間の電場の強さを求める問題です。これはガウスの法則を用いて、極板の電荷と面積から直接求めることができます。1m²あたりの電気量(電荷密度)が電場の強さを決めます。

この設問における重要なポイント

  • ガウスの法則から導かれる、一枚の無限に広い導体板が作る電場は \(E = \displaystyle\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}\) (\(\sigma\)は電荷密度)。
  • 平行平板コンデンサーの電場は、正負の極板が作る電場を重ね合わせた結果、\(E = \displaystyle\frac{\sigma}{\varepsilon_0}\) となる。
  • 電荷密度は \(\sigma = \displaystyle\frac{Q}{S}\)。

具体的な解説と立式
極板Aの電荷密度は \(\sigma = \displaystyle\frac{Q}{S}\) です。ガウスの法則により、無限に広い一枚の正の導体板が作る電場の強さは、その板からの距離によらず \(\displaystyle\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}\) です。
同様に、負の導体板Bが作る電場の強さも \(\displaystyle\frac{\sigma}{2\varepsilon_0}\) です。
極板間では、Aが作る右向きの電場と、Bが作る右向きの電場(負電荷に引き寄せられる向き)が重なり合うため、合成電場Eは、
$$ E = \frac{\sigma}{2\varepsilon_0} + \frac{\sigma}{2\varepsilon_0} = \frac{\sigma}{\varepsilon_0} $$
ここに \(\sigma = \displaystyle\frac{Q}{S}\) を代入して、
$$ E = \frac{Q}{\varepsilon_0 S} $$

使用した物理公式

  • ガウスの法則: \(E = \displaystyle\frac{\sigma}{\varepsilon_0}\) (平行平板コンデンサーの電場)
  • 電荷密度: \(\sigma = \displaystyle\frac{Q}{S}\)
計算過程

上記の立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

コンデンサー内部の電場の強さは、その板にどれだけ密に電気が詰まっているか(電荷密度)で決まります。ガウスの法則という物理法則を使うと、電場の強さ\(E\)は電荷密度\(\sigma\)を誘電率\(\varepsilon_0\)で割ったもの、すなわち \(E = \displaystyle\frac{Q/S}{\varepsilon_0}\) と計算できます。

別解: コンデンサーの基本公式からの導出

思考の道筋とポイント
コンデンサーの基本公式である、静電容量の式 \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d’}\)、電荷と電圧の関係式 \(Q=CV\)、電場と電位差の関係式 \(E = \displaystyle\frac{V}{d’}\) の3つを組み合わせてEを導出する方法です。

この設問における重要なポイント

  • 3つの基本公式 \(C=\varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d’}\), \(Q=CV\), \(E=\displaystyle\frac{V}{d’}\) を使いこなす。
  • この問題の極板間距離が \(d-\Delta d\) であることを正しく認識する。

具体的な解説と立式
現在の極板間距離は \(d’ = d-\Delta d\) です。
このときの静電容量Cは、
$$ C = \varepsilon_0 \frac{S}{d-\Delta d} \quad \cdots ① $$
コンデンサーに蓄えられた電荷Qと電位差Vの関係は、
$$ Q = CV \quad \cdots ② $$
一様な電場Eと電位差Vの関係は、
$$ V = E(d-\Delta d) \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d’}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed’\)
計算過程

式②に①と③を代入して、QとEの関係を導きます。
$$
\begin{aligned}
Q &= C V \\[2.0ex]&= \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d-\Delta d} \right) \times E(d-\Delta d) \\[2.0ex]&= \varepsilon_0 S E
\end{aligned}
$$
この式をEについて解くと、
$$ E = \frac{Q}{\varepsilon_0 S} $$

計算方法の平易な説明

コンデンサーの性質を表す3つの基本的な公式(容量の式、Q=CV、V=Ed)があります。これらは互いに関連しているので、連立方程式を解くように組み合わせることで、求めたい物理量(今回はE)を、問題で与えられた文字(Q, S, ε₀など)だけで表すことができます。

結論と吟味

メインの解法と同じく \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) が得られました。異なるアプローチで同じ結果に至ることから、答えの妥当性が確認できます。

結論と吟味

極板間の電場の強さは \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) です。この式には極板間距離が含まれていない、という点が重要です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
極板Bにはたらく電気的な力Fを求めます。これは、極板Bが、もう一方の極板A「だけ」が作る電場から受ける力として計算します。極板B自身が作る電場からは力を受けないため、(2)で求めた合成電場Eをそのまま使わないように注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 極板間引力は、片方の極板(電荷Q)が、もう片方の極板が作る電場(\(E_A = \displaystyle\frac{1}{2}E\))から受ける力である。
  • 力の公式 \(F=qE\) を適用する。

具体的な解説と立式
極板B(電荷-Q)が受ける力は、極板Aが作る電場 \(E_A\) によるものです。
極板A(正電荷)だけが作る電場の強さは、(2)で考えたように、合成電場Eの半分の大きさです。
$$ E_A = \frac{1}{2}E $$
極板Bは、この電場 \(E_A\) の中で、大きさQの電荷として力を受けます。力の公式 \(F=qE_{\text{場}}\) より、
$$ F = Q \cdot E_A = Q \cdot \left( \frac{1}{2}E \right) $$

使用した物理公式

  • 電場中の電荷が受ける力: \(F=qE\)
  • 片方の極板が作る電場: \(E_{\text{片方}} = \displaystyle\frac{1}{2}E_{\text{合成}}\)
計算過程

(2)で求めた \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{1}{2}QE \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}Q \left( \frac{Q}{\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コンデンサーの板同士が引き合う力は、「自分のことは棚に上げて、相手が作る電場からだけ力を受ける」と考えると分かりやすいです。相手(極板A)が作る電場の強さは、コンデンサー全体の電場のちょうど半分です。したがって、極板Bが受ける力は、自身の電荷Qと、電場の半分の強さを掛け合わせたものになります。

結論と吟味

極板Bにはたらく電気的な力は \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) です。これは極板間引力の公式として知られており、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
ばねの伸び\(\Delta d\)を求めます。図2の状態で極板Bは静止しており、力がつりあっています。極板Bにはたらく力は、ばねが自然長から伸びたことによる弾性力と、(3)で求めた電気的な引力の2つです。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあいの式を正しく立てる。
  • ばねの弾性力の公式は \(F_{\text{ばね}} = kx\) (xは自然長からの伸び)。
  • 電気的な力は(3)の結果を利用する。

具体的な解説と立式
極板Bは、ばねによって左向きに引かれ、極板Aによって右向きに電気的に引かれています。これらの力がつりあっているので、力の大きさは等しくなります。

  • ばねの弾性力: \(k\Delta d\) (左向き)
  • 電気的な引力: \(F\) (右向き)

力のつりあいの式は、
$$ k\Delta d = F $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F=kx\)
  • 力のつりあい
計算過程

(3)で求めた \(F = \displaystyle\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) を力のつりあいの式に代入します。
$$ k\Delta d = \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S} $$
この式を \(\Delta d\) について解くと、
$$ \Delta d = \frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S} $$

計算方法の平易な説明

極板Bは、ばねに引っ張られる力と、電気で引っ張られる力の綱引きで静止しています。この「ばねの力 = 電気の力」という等式を立てます。電気の力は(3)で計算済みなので、それを代入すれば、ばねの伸び\(\Delta d\)が計算できます。

結論と吟味

ばねの伸びは \(\Delta d = \displaystyle\frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S}\) です。電荷Qが大きいほど、また面積Sが小さい(電荷が密な)ほど力が強くなり、ばねがよく伸びるという、物理的に直感と合う結果になっています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
極板間の電位差Vを求めます。一様な電場Eと電位差Vの間には \(V=Ed’\) という関係があります。ここで \(d’\) は現在の極板間距離です。

この設問における重要なポイント

  • 一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed’\) を使う。
  • 極板間距離が \(d-\Delta d\) であることを正しく適用する。
  • (2)と(4)で求めた結果を代入して式を整理する。

具体的な解説と立式
現在の極板間距離は \(d’ = d-\Delta d\) です。
この距離と、(2)で求めた一様な電場 \(E\) から、電位差 \(V\) は以下のように表せます。
$$ V = E (d-\Delta d) $$

使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed’\)
計算過程

(2)で求めた \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) と、(4)で求めた \(\Delta d = \displaystyle\frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= E (d-\Delta d) \\[2.0ex]&= \left( \frac{Q}{\varepsilon_0 S} \right) \left( d – \frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S} \right)
\end{aligned}
$$
これが求める電位差Vです。

計算方法の平易な説明

電位差(電圧)は、単純に「電場の強さ × 距離」で計算できます。今回は、電場の強さがE、実際の距離が \(d-\Delta d\) なので、この2つを掛け合わせるだけです。Eと\(\Delta d\)は既に計算しているので、それらの式を代入すれば答えとなります。

結論と吟味

極板間の電位差は \(V = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S} (d – \frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S})\) です。与えられた文字のみで表現されており、妥当な結果です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S} \left( d – \frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S} \right)\)

問(6)

思考の道筋とポイント
極板間に誘電体を挿入した後の電気力線の様子を描きます。この操作は、極板Bを固定し、電荷Qを一定に保ったまま行われます。ガウスの法則によれば、電荷の量が変わらない限り、極板から出る電気力線の「総本数」は変わりません。しかし、誘電体内部では誘電分極が起こり、電場が弱められます。電気力線の密度は電場の強さに比例するため、誘電体内部で電気力線の間隔が広がるように描く必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 孤立したコンデンサーに誘電体を挿入する場合、電荷Qは一定に保たれる。
  • 電荷Qが一定なら、電気力線の総本数も一定である。
  • 誘電体内部の電場は、外部の電場(真空中)に比べて比誘電率\(\varepsilon_r\)分の1に弱まる (\(E_{\text{内}} = E_{\text{外}} / \varepsilon_r\))。
  • 電気力線の密度は電場の強さを表すので、電場が弱い部分では密度が低く(間隔が広く)なる。

具体的な解説と立式

  • 電気力線の本数: 極板の電荷Qは変わらないので、Aから出てBに入る電気力線の総本数は(1)の場合と同じです。
  • 空間の電場: 極板Aと誘電体の間、および誘電体と極板Bの間の空間(真空中)の電場は、(2)で求めた \(E = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) のままです。
  • 誘電体内部の電場: 比誘電率が2の誘電体を挿入したので、その内部の電場 \(E_{\text{内}}\) は、外部の電場Eの \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になります。\(E_{\text{内}} = \displaystyle\frac{E}{2}\)。
  • 作図: したがって、電気力線は真空の部分では(1)と同じ間隔で描き、誘電体内部に入ると間隔が2倍に広がるように描きます。電気力線は途切れることなく、滑らかに繋がります。
計算方法の平易な説明

誘電体は、電気の流れを邪魔する座布団のようなものです。この座布団をコンデンサーの間に挟むと、座布団がある部分だけ電場が弱まります。電気力線は電場の様子を描いたものなので、電場が弱いところはスカスカに、強いところは密に描きます。したがって、真空の部分は今まで通り、誘電体の部分だけ間隔を広げて描けばOKです。

結論と吟味

真空中の電場は変わらず、誘電体中の電場のみが弱まるという物理現象を、電気力線の密度の変化として正しく表現することが求められます。

解答 (6) 真空部分では(1)と同様の間隔で、誘電体内部ではその2倍の間隔で、AからBへ向かう平行な直線を描く。

問(7)

思考の道筋とポイント
誘電体を挿入した後の、極板Bにはたらく電気的な力を問う問題です。(3)と同様に、この力は極板Aが極板Bの位置に作る電場によって決まります。この電場が、誘電体を挿入したことで変化したかどうかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 極板Aが作る電場は、極板Aの電荷Qのみによって決まる。
  • 誘電体を挿入しても、極板Aの電荷Qは変わらない。
  • 極板Bの位置は真空(空気)中にあり、誘電体の中ではない。

具体的な解説と立式
極板Bにはたらく電気的な力は、極板Aの電荷+Qが、極板Bの位置に作る電場 \(E_A\) によって生じます。
この電場 \(E_A\) の強さは、(3)で考えたように \(E_A = \displaystyle\frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\) です。
この式は、極板Aの電荷Qと面積S、そして空間の誘電率\(\varepsilon_0\)のみに依存します。
今回の操作では、

  • 極板Aの電荷Qは変わっていません。
  • 極板Bは固定されており、その位置は真空(空気)中のままです。

したがって、極板Aが極板Bの位置に作る電場 \(E_A\) は、誘電体を挿入する前と後で全く変化しません。
よって、極板Bが受ける電気的な力 \(F’ = Q \cdot E_A\) も、(3)で求めた力Fと比べて変化しません。

計算方法の平易な説明

極板Bが受ける電気的な力は、パートナーである極板Aから直接受けるものです。AとBの間に誘電体という第三者が割り込んできても、A自身の電荷量が変わらない限り、AがBに及ぼす直接的な影響(電場)は変わりません。したがって、Bが受ける力も変わらない、ということになります。

結論と吟味

(3)と比べて、電気的な力は「変わらない」。誘電体を挿入するとコンデンサー全体の性質は変わりますが、極板間引力の源である「片方の極板が作る電場」というミクロな視点に立てば、力が変わらないことが理解できます。

解答 (7) 変わらない。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ガウスの法則と電場:
    • 核心: 平行平板コンデンサーの極板間の電場は、極板の電荷密度\(\sigma\)(単位面積あたりの電荷)のみで決まり、\(E = \displaystyle\frac{\sigma}{\varepsilon_0} = \frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)で与えられます。重要なのは、この電場の強さが極板間の距離によらないという点です。
    • 理解のポイント: (2)で電場を求める際に、この法則を直接適用するのが最も本質的です。
  • 極板間引力の原理:
    • 核心: コンデンサーの極板同士が引き合う力は、片方の極板(電荷\(Q\))が、もう一方の極板「だけ」が作る電場(\(E_{\text{片方}} = \displaystyle\frac{1}{2}E_{\text{全体}}\))から受ける力として計算されます。
    • 理解のポイント: (3)で力を求める際に、(2)で求めた合成電場\(E\)をそのまま使わず、その半分の\(\displaystyle\frac{1}{2}E\)を用いるのが最大のポイントです。これにより、力は \(F = Q \cdot (\displaystyle\frac{1}{2}E) = \frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\) となります。
  • 力のつりあいとエネルギー保存:
    • 核心: この問題では、電気的な力とばねの弾性力がつりあうことで極板の位置が決まります((4))。また、この系全体のエネルギーは、電場のエネルギーとばねの弾性エネルギーの和として考えることができます。
    • 理解のポイント: 物理現象を、力の観点(つりあい)とエネルギーの観点の両方から見ることができるようになるのが理想です。
  • 誘電体の役割:
    • 核心: 誘電体を挿入すると、その内部では誘電分極によって電場が弱められます(\(E_{\text{内}} = E_{\text{外}}/\varepsilon_r\))。電荷が一定の場合、電気力線の「本数」は変わりませんが、「密度」が誘電体内部で低下します((6))。
    • 理解のポイント: (7)では、極板Bが受ける力は「極板Aが作る電場」によるものであり、極板Bの位置は誘電体の外(真空中)です。Aの電荷は変わらないため、AがBの位置に作る電場も変わらず、結果として力も変わらない、という論理を理解することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コンデンサーと重力: ばねの代わりに、重力と電気的な力がつりあう問題。基本的な考え方は同じです。
    • コンデンサーへのエネルギー供給: 電池をつないだまま極板を動かしたり誘電体を挿入したりする問題。この場合、電荷\(Q\)ではなく電圧\(V\)が一定に保たれ、電池が仕事をするためエネルギー保存則の扱いが変わります。
    • 仮想仕事の原理: 極板を微小距離\(\Delta x\)だけ動かしたときの静電エネルギーの変化\(\Delta U\)から、力\(F = -\displaystyle\frac{\Delta U}{\Delta x}\)を求める、より高度なアプローチもあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系の状態変化の把握: まず、何が起きて、何が一定に保たれているのかを把握します。(1)〜(5)では電荷\(Q\)を増やしていき、(6)〜(7)では電荷\(Q\)を一定に保ったまま誘電体を挿入しています。この「拘束条件」の違いが、物理現象の違いを生みます。
    2. 力のベクトル図: (4)のように力のつりあいを考える際は、対象となる物体(極板B)に働く力をすべて矢印で図示します。これにより、立式ミスを防げます。
    3. エネルギーの内訳: この系が持つエネルギーは何かを考えます。コンデンサーの静電エネルギーと、ばねの弾性エネルギーの2種類があります。これらのエネルギーがどのように変化し、相互に変換されるかを考えるのがエネルギー的アプローチです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 極板間引力の計算ミス:
    • 誤解: (3)で、極板Bが受ける力を \(F=QE\) としてしまい、(2)で求めた電場\(E\)をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 「力は相手が作る場から受ける」という大原則を思い出しましょう。極板Bは、極板Aが作る電場\(\displaystyle\frac{1}{2}E\)から力を受けます。自分自身が作る電場からは力を受けません。この「1/2」がつく理由をしっかり理解しておくことが最も重要です。
  • 誘電体挿入時の力の変化の誤解:
    • 誤解: (7)で、誘電体を挿入すると電場が弱まるのだから、力も弱まるだろうと直感で判断してしまう。
    • 対策: どの場所の電場が弱まるのかを正確に考えましょう。弱まるのは「誘電体内部」の電場です。極板Bは誘電体の外にあり、その位置での電場(極板Aが作る電場)は変化していません。したがって、力も変化しない、という論理的な結論を導く訓練が必要です。
  • 変数の混同:
    • 誤解: (4)や(5)で、ばねの自然長からの距離\(d\)と、ばねの伸び\(\Delta d\)、そして実際の極板間距離\(d-\Delta d\)を混同して式を立ててしまう。
    • 対策: 図を丁寧に描き、それぞれの長さがどの部分に対応するのかを明確に書き込みましょう。特に、ばねの弾性力の式で使うのは「自然長からの伸び\(\Delta d\)」、電位差の式で使うのは「実際の極板間距離\(d-\Delta d\)」であることを常に意識します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のつりあい図: (4)では、極板Bに注目し、右向きの電気的な引力\(F\)と、左向きのばねの弾性力\(k\Delta d\)を矢印で描き、その大きさが等しいことを示す図が有効です。
    • 電気力線の密度の変化: (6)の作図がこの問題のハイライトです。真空中の電気力線と誘電体中の電気力線の「本数」は同じまま滑らかに繋ぎ、誘電体中の「密度」だけを低く(間隔を広く)描くことで、電場の弱まりを視覚的に表現します。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 長さの定義: 図1と図2で、\(d\), \(\Delta d\), \(d-\Delta d\)がそれぞれどの長さを指すのかを明確に区別して図に書き込むことが、立式ミスを防ぐ上で非常に重要です。
    • 電荷の分布: 極板の表面に+と-の記号を均等に描くことで、電荷が一様に分布しているイメージを補強できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E = Q/(\varepsilon_0 S)\):
    • 選定理由: (2)で、極板の基本的なパラメータ(電荷、面積)から直接電場を求めるため。最も根源的な公式です。
    • 適用根拠: 無限に広い平行平板という理想的な状況に、ガウスの法則を適用した結果です。
  • \(F = Q \cdot (E/2)\):
    • 選定理由: (3)で極板間引力を計算するため。
    • 適用根拠: 「作用・反作用」の法則から、物体は自分自身に力を及ぼさないという原理に基づきます。極板Bが受ける力は、極板Aが作る場からのみであり、その場は全体の場の半分であるという物理的洞察に基づいています。
  • \(k\Delta d = F\):
    • 選定理由: (4)で、力学的な変位(ばねの伸び)を求めるため。
    • 適用根拠: 極板Bが静止している、という「力のつりあい」の条件に基づきます。
  • \(V = E(d-\Delta d)\):
    • 選定理由: (5)で、電場の情報から電位差を求めるため。
    • 適用根拠: 一様な電場における電位と電場の関係式 \(V=Ed’\) に、この問題の具体的な状況(電場E、距離\(d-\Delta d\))を適用したものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 電気力線(初期): 平行平板コンデンサーの基本。A\(\rightarrow\)Bへ、平行等間隔な直線。
  2. (2) 電場: ガウスの法則を適用。\(E = Q/(\varepsilon_0 S)\)。
  3. (3) 電気力: (2)の電場の半分を使い、\(F = Q(E/2)\) を計算。
  4. (4) ばねの伸び: 力のつりあい。\(k\Delta d = F\)。(3)の結果を代入して\(\Delta d\)を求める。
  5. (5) 電位差: \(V=Ed’\)。(2)のEと、(4)の\(\Delta d\)を使った距離\(d-\Delta d\)を代入。
  6. (6) 電気力線(誘電体挿入後): 電荷Qは不変 \(\rightarrow\) 力線の本数は不変。誘電体内部で電場が弱まる \(\rightarrow\) 誘電体内部で力線の密度を低く描く。
  7. (7) 電気力(誘電体挿入後): 力はAがBの位置に作る電場による。Aの電荷Qは不変、Bの位置も不変 \(\rightarrow\) Aが作る電場は不変 \(\rightarrow\) 力は不変。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: この問題は数値計算がなく、すべて文字式で答えます。分数が複雑になりがちなので、どの文字が分母に来て、どの文字が分子に来るのか、物理的な意味を考えながら整理しましょう。例えば、(4)の\(\Delta d\)はQの2乗に比例し、kに反比例するなど、直感と合うかを確認する癖をつけると良いです。
  • 結果の代入: 後の設問は前の設問の結果を使います。(5)を解くには(2)と(4)の結果が必要です。どの結果をどこに代入するのか、式の形をよく見て判断しましょう。
  • 次元の確認: 例えば、(4)で求めた\(\Delta d\)の単位が本当に長さの次元になっているか、などを検算する(次元解析)ことで、式の形の間違いを発見できることがあります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) \(\Delta d = \displaystyle\frac{Q^2}{2k\varepsilon_0 S}\): この式は、電荷\(Q\)が大きいほど、ばね定数\(k\)が小さい(ばねが柔らかい)ほど、\(\Delta d\)が大きくなることを示しており、物理的な直感と一致します。
    • (7) 力は変わらない: 一見、誘電体を入れると力が変わりそうに思えますが、「何が何に力を及ぼすのか」という力の根源に立ち返ることで、変わらないという結論に至ります。このような直感に反するように見える問題こそ、物理法則の深い理解を試す良問です。なぜ変わらないのかを自分の言葉で説明できるように復習することが重要です。
  • 極端な場合を考える:
    • もし\(k \rightarrow \infty\)(非常に硬いばね)なら、\(\Delta d \rightarrow 0\)となり、ばねは伸びず極板は動かないはずです。式の形はこれと一致します。
    • もし誘電体の比誘電率\(\varepsilon_r\)が1(つまり真空)なら、(6)の図は(1)の図と一致するはずです。これも妥当です。

問題110 (大阪府大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、平行平板コンデンサーについて、スイッチの開閉や、導体・誘電体の挿入、極板間隔の変化といった様々な操作を行ったときの、電場、電位、電気量、エネルギーの変化を多角的に問う問題です。コンデンサーに関する総合的な理解度が試されます。
この問題の核心は、操作の各段階で「何が一定に保たれるか(電圧か、電荷か)」を正確に判断し、それに応じて適切な物理法則を適用することです。

与えられた条件
  • 平行平板コンデンサー: 初期の間隔\(d\)、初期の電気容量\(C\)。
  • 電源: 起電力\(V\)。
  • 極板Aは接地(電位0V)。
  • 操作1(問1-3): スイッチSを閉じ、十分に充電。
  • 操作2(問4-6): 放電後、スイッチSを開いた状態で厚さ\(d/2\)の金属板を中央に挿入し、再度スイッチSを閉じて充電。
  • 操作3(問7-9): 再び放電後、スイッチSを開いた状態で厚さ\(d/2\)、比誘電率2の誘電体を中央に挿入し、再度スイッチSを閉じて充電。
  • 操作4(問10): スイッチSを開き、誘電体を取り除く。
  • 操作5(問11): スイッチSを開いたまま、極板間隔を\(3d/2\)に広げる。
問われていること
  • (1) 初期状態の静電エネルギー。
  • (2, 3) 初期状態の電位・電場のグラフ。
  • (4) 金属板挿入後の電気量。
  • (5, 6) 金属板挿入後の電位・電場のグラフ。
  • (7) 誘電体挿入後の電気量。
  • (8, 9) 誘電体挿入後の電位・電場のグラフ。
  • (10) 誘電体を取り除く仕事。
  • (11) 間隔を広げた後の電位差。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンデンサーの性質の総合理解」です。様々な条件下でのコンデンサーの振る舞いを、基本法則に立ち返って一つずつ解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. コンデンサーの基本公式: \(Q=CV\), \(C=\varepsilon_0 S/d\), \(V=Ed\), \(U=Q^2/(2C)\)など、状況に応じて最適な公式を選択する能力が問われます。
  2. 導体・誘電体の性質: 導体内部は電場0・等電位、誘電体内部は電場が弱まる、という性質がグラフの形状を決定します。
  3. 拘束条件の切り替え: スイッチが閉じているときは「電圧Vが一定」、開いているときは「電荷Qが一定」という、系の状態を支配する条件を正確に把握することが最重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各設問の状況設定(スイッチの開閉、挿入物)を正確に把握し、電圧一定か電荷一定かを判断します。
  2. 挿入物がある場合、それが静電容量Cにどう影響するかを計算します。金属板なら間隔の短縮、誘電体なら誘電率の変化として扱います。
  3. Q, C, Vの関係式から、問われている量を求めます。
  4. グラフ問題では、まず各区間の電場を求め、それを元に電位のグラフ(傾きが電場)を描くと考えやすいです。
  5. 「仕事」を問われたら、前後のエネルギー変化を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じて十分に時間が経過したコンデンサーに蓄えられている静電エネルギーを求めます。コンデンサーの静電エネルギーを求める公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を使います。

この設問における重要なポイント

  • スイッチが閉じているため、コンデンサーの電位差は電源電圧Vに等しい。
  • 静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を正しく適用する。

具体的な解説と立式
コンデンサーには電源から電圧\(V\)がかけられています。電気容量は\(C\)と与えられています。
静電エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) です。
この問題では、\(C\)と\(V\)がそのまま与えられているため、公式に代入するだけで答えが求まります。

使用した物理公式

  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
計算過程

公式にそのまま値を当てはめるため、特別な計算過程はありません。
エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) となります。

計算方法の平易な説明

コンデンサーに蓄えられるエネルギーは、その性能(電気容量C)と、かけられた電圧(V)の2乗に比例します。公式にそのまま当てはめるだけで計算できます。

結論と吟味

蓄えられている静電エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) です。これは公式そのものであり、問題ありません。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
極板A, B間の座標xにおける電位のグラフを描きます。極板Aは接地されているので電位0V、極板Bは電源の正極に接続されているので電位Vです。平行平板コンデンサーの内部の電場は一様なので、電位はx座標に比例して直線的に変化します。

この設問における重要なポイント

  • 接地されている点の電位は0V。
  • 電源に接続された点の電位は電源電圧に等しい。
  • 一様な電場の中では、電位は距離に比例して変化する(グラフは直線になる)。

具体的な解説と立式

  • x=0(極板A): 接地されているため、電位は \(V_A = 0 \text{ V}\)。
  • x=d(極板B): 電源電圧がVなので、電位は \(V_B = V\)。
  • 0 < x < d: 電場が一様なので、電位はxに比例して増加します。したがって、グラフは原点\((0, 0)\)と点\((d, V)\)を結ぶ直線になります。
計算方法の平易な説明

電位を「高さ」に例えます。A地点は地面(高さ0m)で、B地点は高さVの丘の上です。AからBへ向かう道がまっすぐな坂道(一様な電場)になっているので、途中の地点の高さ(電位)は、進んだ距離に比例してどんどん高くなっていきます。これをグラフにすると、右上がりの直線になります。

結論と吟味

グラフは原点\((0, 0)\)から始まり、点\((d, V)\)に向かって伸びる直線となります。

解答 (2) 原点(0,0)と点(d,V)を結ぶ直線を描く。

問(3)

思考の道筋とポイント
極板A, B間の座標xにおける電場の強さのグラフを描きます。理想的な平行平板コンデンサーでは、極板間の電場は一様(場所によらず一定)です。その強さは、電位差Vと距離dから \(E = V/d\) で求められます。

この設問における重要なポイント

  • 平行平板コンデンサー内の電場は一様である。
  • 一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使う。

具体的な解説と立式
極板間の電位差は\(V\)、距離は\(d\)です。電場は一様なので、その強さEは、
$$ E = \frac{V}{d} $$
この値は、\(0 < x < d\) の範囲で一定です。

使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算方法の平易な説明

一様な坂道(電場)の「傾き」(電場の強さ)は、坂全体の高さ(電位差V)を水平距離(d)で割ることで求められます。コンデンサーの内部ではどこでも傾きは同じなので、グラフは水平な直線になります。

結論と吟味

グラフは、\(0 < x < d\) の区間で、縦軸の値が \(E = V/d\) となる水平な直線です。

解答 (3) 0 < x < dの範囲で、値がV/dの水平な直線を描く。

問(4)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じた状態で、コンデンサーに蓄えられる電気量を求めます。コンデンサーの間に厚さ\(d/2\)の金属板を挿入すると、実質的に2つのコンデンサーが直列に接続されたものと見なせます。しかし、より簡単な考え方は、金属板は導体なので内部の電場が0であり、極板間隔が短くなったと見なすことです。

この設問における重要なポイント

  • 導体(金属板)の内部は電場が0で、等電位である。
  • 金属板を挿入すると、電場が存在する空間の厚みが減少する。
  • 新しい実効的な極板間隔で、静電容量を再計算する。

具体的な解説と立式
厚さ\(d/2\)の金属板を中央に挿入すると、電場が存在する空間は、極板Aと金属板の間(厚さ\(d/4\))と、金属板と極板Bの間(厚さ\(d/4\))の2つの領域になります。
合計の厚みは \(d/4 + d/4 = d/2\) です。
これは、極板間隔が\(d/2\)になったのと同じ効果を持ちます。
元の静電容量は \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\) でした。
金属板を挿入した後の新しい静電容量を\(C’\)とすると、
$$ C’ = \varepsilon_0 \frac{S}{d/2} = 2 \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d} \right) = 2C $$
スイッチは閉じているので、コンデンサーにかかる電圧は\(V\)のままです。
したがって、蓄えられる電気量\(Q_2\)は、
$$ Q_2 = C’V = 2CV $$

使用した物理公式

  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算過程となります。

計算方法の平易な説明

コンデンサーの間に電気を通す金属板を挟むと、電気の通り道がショートカットされるようなイメージになります。その結果、コンデンサーの極板の間隔が金属板の厚み分だけ縮んだのと同じ効果が得られます。間隔が半分になると、電気を蓄える能力(静電容量)は2倍になります。電圧は同じなので、蓄えられる電気の量も2倍になります。

結論と吟味

蓄えられる電気量は\(2CV\)です。金属板の挿入により静電容量が増加し、電圧が一定なので電気量も増加するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (4) \(2CV\)

問(5)

思考の道筋とポイント
金属板を挿入した後の、座標xにおける電位のグラフを描きます。金属板の内部は等電位になることがポイントです。

この設問における重要なポイント

  • 金属板(導体)の内部は等電位。
  • 電場が存在する空間では、電位は直線的に変化する。
  • 各区間の電場の強さを求め、電位を計算する。

具体的な解説と立式

  • 0 < x < d/4 (Aと金属板の間): この空間にかかる電位差を\(V_{A金}\)とします。
  • d/4 < x < 3d/4 (金属板内部): 導体内部なので電場は0。したがって、この区間は等電位です。
  • 3d/4 < x < d (金属板とBの間): この空間にかかる電位差を\(V_{金B}\)とします。

全体の電位差はVです。電場が存在する空間の厚みはどちらも\(d/4\)で同じなので、電場の強さも等しくなります。したがって、電圧も等しく分配されます。
$$ V_{A金} = V_{金B} = \frac{V}{2} $$
よって、金属板内部の電位は \(\displaystyle\frac{V}{2}\) で一定となります。
グラフは以下のようになります。

  • \(x=0\)で電位0。
  • \(0 \le x \le d/4\)で、電位は0から\(V/2\)まで直線的に増加。
  • \(d/4 \le x \le 3d/4\)で、電位は\(V/2\)で一定。
  • \(3d/4 \le x \le d\)で、電位は\(V/2\)から\(V\)まで直線的に増加。
計算方法の平易な説明

金属板を挟むと、坂道(電位のグラフ)の途中に平らな踊り場ができます。坂道全体の高さはVのままですが、坂が急な部分(真空)と平らな部分(金属板)に分かれます。真空部分は2区間に分かれ、それぞれが高さV/2ずつを分担します。したがって、グラフは「坂→平ら→坂」という形になります。

結論と吟味

グラフは、原点から\((d/4, V/2)\)まで直線で上がり、そこから\((3d/4, V/2)\)まで水平に進み、最後に\((d, V)\)まで直線で上がる折れ線グラフとなります。

解答 (5) (0,0), (d/4, V/2), (3d/4, V/2), (d,V)の4点を結ぶ折れ線グラフを描く。

問(6)

思考の道筋とポイント
金属板を挿入した後の、座標xにおける電場の強さのグラフを描きます。金属板の内部では電場が0になることがポイントです。

この設問における重要なポイント

  • 金属板(導体)の内部は電場が0。
  • 電場が存在する空間(真空)では、電場は一様で \(E=V’/d’\) で計算できる。

具体的な解説と立式

  • 金属板内部 (d/4 < x < 3d/4): 電場の強さは0です。
  • 真空部分 (0 < x < d/4 と 3d/4 < x < d): この2つの区間では、電場の強さは等しくなります。それぞれの区間には電圧\(V/2\)がかかり、距離は\(d/4\)なので、電場の強さ\(E’\)は、
    $$ E’ = \frac{V/2}{d/4} = \frac{2V}{d} $$
    この値は、(3)で求めた元の電場\(E=V/d\)の2倍です。
使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算方法の平易な説明

金属板を挟んだことで、電場が存在する空間の厚みが合計で半分になりました。全体の電圧Vがこの狭い空間にかかるため、電場の強さ(坂の傾き)は元の2倍に急になります。金属板の中は電場が0なので、グラフは「強い電場→ゼロ→強い電場」という形になります。

結論と吟味

グラフは、\(0 < x < d/4\) と \(3d/4 < x < d\) の区間で \(E=2V/d\) の一定値をとり、\(d/4 < x < 3d/4\) の区間で \(E=0\) となる、2つの長方形を組み合わせたような形になります。

解答 (6) 0<x<d/4と3d/4<x<dで値が2V/d、d/4<x<3d/4で値が0のグラフを描く。

問(7)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じた状態で、コンデンサーに比誘電率2の誘電体を挿入したときの電気量を求めます。この問題は、3つの異なる部分(真空、誘電体、真空)からなるコンデンサーの直列接続と考えることができます。

この設問における重要なポイント

  • 異なる物質からなるコンデンサーの直列接続と見なす。
  • 真空部分の静電容量と、誘電体部分の静電容量をそれぞれ計算する。
  • 直列接続の合成容量を求め、\(Q=C_{\text{合成}}V\)を計算する。

具体的な解説と立式
このコンデンサーは、以下の3つのコンデンサーの直列接続と見なせます。

  • \(C_{\text{左}}\): 厚さ\(d/4\)の真空コンデンサー。\(C_{\text{左}} = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d/4} = 4(\varepsilon_0 \frac{S}{d}) = 4C\)
  • \(C_{\text{誘}}\): 厚さ\(d/2\)、比誘電率2の誘電体コンデンサー。\(C_{\text{誘}} = (2\varepsilon_0) \displaystyle\frac{S}{d/2} = 4(\varepsilon_0 \frac{S}{d}) = 4C\)
  • \(C_{\text{右}}\): 厚さ\(d/4\)の真空コンデンサー。\(C_{\text{右}} = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d/4} = 4(\varepsilon_0 \frac{S}{d}) = 4C\)

全体の合成容量を\(C_3\)とすると、
$$ \frac{1}{C_3} = \frac{1}{C_{\text{左}}} + \frac{1}{C_{\text{誘}}} + \frac{1}{C_{\text{右}}} = \frac{1}{4C} + \frac{1}{4C} + \frac{1}{4C} = \frac{3}{4C} $$
よって、\(C_3 = \displaystyle\frac{4}{3}C\)。
蓄えられる電気量\(Q_3\)は、
$$ Q_3 = C_3 V = \frac{4}{3}CV $$

使用した物理公式

  • 誘電体を含むコンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_r \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • コンデンサーの直列接続: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \sum \frac{1}{C_i}\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算過程となります。

計算方法の平易な説明

コンデンサーの間に誘電体を挟むと、3つの小さなコンデンサーが縦に並んだ(直列接続)と考えることができます。左の真空部分、中央の誘電体部分、右の真空部分の3つです。それぞれの性能(静電容量)を計算し、直列接続のルールに従って全体としての性能(合成容量)を求めます。最後に、全体の性能と電圧から、蓄えられる電気の量を計算します。

結論と吟味

蓄えられる電気量は \(\displaystyle\frac{4}{3}CV\) です。金属板を挿入したとき(\(2CV\))よりは小さいですが、何もないとき(\(CV\))よりは大きい、妥当な値です。

解答 (7) \(\displaystyle\frac{4}{3}CV\)

問(8)

思考の道筋とポイント
誘電体を挿入した後の、座標xにおける電位のグラフを描きます。真空部分と誘電体部分で電場の強さが異なるため、電位グラフの傾きが変わります。

この設問における重要なポイント

  • 直列接続なので、各部分に蓄えられる電気量は等しい(\(Q_3\))。
  • 各部分の電圧は \(V’ = Q_3/C’\) で計算できる。
  • 電位は \(V = \sum V’_i\)。

具体的な解説と立式
3つの部分(左真空、誘電体、右真空)は直列接続なので、蓄えられる電気量はすべて\(Q_3\)で等しいです。
各部分の電圧を求めます。

  • \(V_{\text{左}} = \displaystyle\frac{Q_3}{C_{\text{左}}} = \frac{(4/3)CV}{4C} = \frac{V}{3}\)
  • \(V_{\text{誘}} = \displaystyle\frac{Q_3}{C_{\text{誘}}} = \frac{(4/3)CV}{4C} = \frac{V}{3}\)
  • \(V_{\text{右}} = \displaystyle\frac{Q_3}{C_{\text{右}}} = \frac{(4/3)CV}{4C} = \frac{V}{3}\)

全体の電圧Vが、3つの部分に\(V/3\)ずつ均等に分配されることがわかります。
グラフは以下のようになります。

  • \(x=0\)で電位0。
  • \(0 \le x \le d/4\)で、電位は0から\(V/3\)まで直線的に増加。
  • \(d/4 \le x \le 3d/4\)で、電位は\(V/3\)から\(2V/3\)まで直線的に増加。
  • \(3d/4 \le x \le d\)で、電位は\(2V/3\)から\(V\)まで直線的に増加。
計算方法の平易な説明

今度は、坂道の途中に「緩やかな坂」(誘電体)が挟まっています。全体の高さVを、3つの区間(急な坂、緩やかな坂、急な坂)で分け合います。計算すると、今回は偶然にも3つの区間が同じ高さ\(V/3\)ずつを分担することがわかります。したがって、グラフは3つの直線をつなぎ合わせた折れ線になります。

結論と吟味

グラフは、\((0,0)\), \((d/4, V/3)\), \((3d/4, 2V/3)\), \((d,V)\)の4点を結ぶ折れ線グラフとなります。

解答 (8) (0,0), (d/4, V/3), (3d/4, 2V/3), (d,V)の4点を結ぶ折れ線グラフを描く。

問(9)

思考の道筋とポイント
誘電体を挿入した後の、座標xにおける電場の強さのグラフを描きます。真空部分と誘電体部分で電場の強さが異なります。

この設問における重要なポイント

  • 各区間の電場の強さは \(E=V’/d’\) で計算できる。
  • 誘電体内部の電場は真空中の電場の\(1/\varepsilon_r\)倍になる。

具体的な解説と立式
(8)で求めた各部分の電圧と距離から、電場の強さを計算します。

  • 真空部分 (0 < x < d/4 と 3d/4 < x < d):
    電圧\(V/3\)、距離\(d/4\)なので、電場の強さ\(E_{\text{外}}\)は、
    $$ E_{\text{外}} = \frac{V/3}{d/4} = \frac{4V}{3d} $$
  • 誘電体内部 (d/4 < x < 3d/4):
    電圧\(V/3\)、距離\(d/2\)なので、電場の強さ\(E_{\text{内}}\)は、
    $$ E_{\text{内}} = \frac{V/3}{d/2} = \frac{2V}{3d} $$
    これは \(E_{\text{外}}\) のちょうど半分になっており、\(E_{\text{内}} = E_{\text{外}}/\varepsilon_r\) (\(\varepsilon_r=2\))の関係を満たしています。
使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算方法の平易な説明

(8)で考えた坂道の「傾き」をグラフにします。真空部分の坂は傾きが\(\displaystyle\frac{4V}{3d}\)で、誘電体部分の坂は傾きが緩やかで\(\displaystyle\frac{2V}{3d}\)です。これをグラフにすると、「急な傾き→緩やかな傾き→急な傾き」という、高さの違う2種類の長方形を組み合わせたような形になります。

結論と吟味

グラフは、\(0 < x < d/4\) と \(3d/4 < x < d\) の区間で \(E=\displaystyle\frac{4V}{3d}\) の一定値をとり、\(d/4 < x < 3d/4\) の区間で \(E=\displaystyle\frac{2V}{3d}\) の一定値をとる形になります。

解答 (9) 0<x<d/4と3d/4<x<dで値が4V/3d、d/4<x<3d/4で値が2V/3dのグラフを描く。

問(10)

思考の道筋とポイント
スイッチを開いた後、誘電体を取り除くために要した仕事を求めます。これは、静電エネルギーの変化量に等しいです。「仕事とエネルギーの関係」を使います。外部からした仕事は、系のエネルギーを変化させます。

この設問における重要なポイント

  • スイッチを開くと、コンデンサーは孤立し、電荷\(Q_3\)が一定に保たれる。
  • 仕事は、操作の「後」のエネルギーと「前」のエネルギーの差で計算する。(\(W = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\))
  • エネルギーの計算には \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の公式が便利(Qが一定なので)。

具体的な解説と立式

  • 仕事W: \(W = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)
  • 前の状態: 誘電体あり。電荷は\(Q_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV\)、静電容量は\(C_3 = \frac{4}{3}C\)。
    前のエネルギー \(U_{\text{前}}\) は、
    $$ U_{\text{前}} = \frac{Q_3^2}{2C_3} $$
  • 後の状態: 誘電体なし。電荷は\(Q_3\)のまま。静電容量は元の\(C\)に戻る。
    後のエネルギー \(U_{\text{後}}\) は、
    $$ U_{\text{後}} = \frac{Q_3^2}{2C} $$
使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(W = \Delta U\)
  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
U_{\text{前}} &= \frac{((4/3)CV)^2}{2(4/3)C} \\[2.0ex]&= \frac{(16/9)C^2V^2}{(8/3)C} \\[2.0ex]&= \frac{2}{3}CV^2
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
U_{\text{後}} &= \frac{((4/3)CV)^2}{2C} \\[2.0ex]&= \frac{(16/9)C^2V^2}{2C} \\[2.0ex]&= \frac{8}{9}CV^2
\end{aligned}
$$
したがって、要した仕事Wは、
$$
\begin{aligned}
W &= U_{\text{後}} – U_{\text{前}} \\[2.0ex]&= \frac{8}{9}CV^2 – \frac{2}{3}CV^2 \\[2.0ex]&= \left( \frac{8}{9} – \frac{6}{9} \right)CV^2 \\[2.0ex]&= \frac{2}{9}CV^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

誘電体はコンデンサーに引き寄せられているので、それを取り除くには力に逆らって仕事をする必要があります。その仕事の量は、取り除いたことによってコンデンサーのエネルギーがどれだけ増えたかに等しくなります。「後のエネルギー」から「前のエネルギー」を引くことで、仕事の量を計算します。

結論と吟味

仕事は \(\displaystyle\frac{2}{9}CV^2\) となります。正の値なので、外部からエネルギーを供給する必要があったことを示しており、誘電体が引きつけられていたという物理的状況と一致します。

解答 (10) \(\displaystyle\frac{2}{9}CV^2\)

問(11)

思考の道筋とポイント
誘電体を取り除いた後、極板間隔を \(d\) から \(\displaystyle\frac{3}{2}d\) に広げたときの電位差を求めます。この操作もスイッチが開いたままなので、電荷\(Q_3\)は一定に保たれます。

この設問における重要なポイント

  • スイッチが開いているので、電荷Qは一定。
  • 極板間隔が変わると、静電容量Cが変化する。
  • \(Q=CV\) の関係から、Qが一定のとき、VはCに反比例する。

具体的な解説と立式

  • 電荷: \(Q_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV\) で一定。
  • 新しい静電容量: 間隔が\(d\)から\(\displaystyle\frac{3}{2}d\)になったので、新しい静電容量\(C_{11}\)は、
    $$ C_{11} = \varepsilon_0 \frac{S}{(3/2)d} = \frac{2}{3} \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d} \right) = \frac{2}{3}C $$
  • 新しい電位差: 求める電位差を\(V_{11}\)とすると、\(Q_3 = C_{11}V_{11}\) の関係が成り立ちます。
使用した物理公式

  • 平行平板コンデンサーの容量: \(C = \varepsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_{11} &= \frac{Q_3}{C_{11}} \\[2.0ex]&= \frac{(4/3)CV}{(2/3)C} \\[2.0ex]&= 2V
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

スイッチが開いているので、コンデンサーに蓄えられた電気の量は逃げ場がなく一定です。その状態で極板の間隔を広げると、電気を蓄える能力(静電容量)は低下します。同じ量の電気を性能の低い入れ物に入れ直すことになるので、電圧(電位差)は上がります。

結論と吟味

電位差は\(2V\)となります。電荷一定のまま容量が\(2/3\)倍になったので、電位差は逆数の\(3/2\)倍になる、という考え方でも \(V_{\text{後}} = V_{\text{前}} \times \displaystyle\frac{3}{2}\) と計算できます。誘電体を取り除いた後の電圧は \(V_{\text{後}} = Q_3/C = \displaystyle\frac{(4/3)CV}{C} = \frac{4}{3}V\) なので、そこからさらに広げると \(V_{11} = (\displaystyle\frac{4}{3}V) \times \frac{3}{2} = 2V\) となり、結果は一致します。

解答 (11) \(2V\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • コンデンサーの基本関係式:
    • 核心: この問題は、コンデンサーの3つの基本量(電気量\(Q\)、電圧\(V\)、静電容量\(C\))と2つの状態量(電場\(E\)、エネルギー\(U\))を結びつける5つの公式を、様々な状況で使いこなす能力を試しています。
      1. \(Q=CV\)
      2. \(C=\varepsilon \displaystyle\frac{S}{d}\) (\(\varepsilon = \varepsilon_r \varepsilon_0\))
      3. \(V=Ed\) (一様な電場の場合)
      4. \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\)
      5. \(E=\displaystyle\frac{Q}{\varepsilon S}\) (ガウスの法則より)
    • 理解のポイント: どの公式を選択すれば、未知数を減らし、与えられた文字だけで表現できるかを見抜くことが重要です。
  • 導体と誘電体の電気的性質:
    • 核心: 導体(金属板)を電場中に置くと、静電誘導により内部の電場は0になり、全体が等電位になります。一方、誘電体を置くと、誘電分極により内部の電場は弱められますが0にはなりません(\(E_{\text{内}}=E_{\text{外}}/\varepsilon_r\))。
    • 理解のポイント: この性質の違いが、(5),(6)のグラフと(8),(9)のグラフの形状の決定的な違いを生み出しています。
  • 回路の拘束条件(スイッチの開閉):
    • 核心: スイッチが閉じている(電源に接続されている)間は、コンデンサーの電圧\(V\)が一定に保たれます。スイッチを開くと、コンデンサーは孤立し、蓄えられた電荷\(Q\)が一定に保たれます。
    • 理解のポイント: (10),(11)のように、操作の前に「スイッチを開く」という一文がある場合、その後の変化はすべて「\(Q=\text{一定}\)」という条件下で起こる、と頭を切り替えることが極めて重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複合コンデンサー: 異なる誘電体や導体を複数層にわたって挿入する問題。各層を独立したコンデンサーとみなし、それらの直列接続として扱うのが定石です((7)のアプローチ)。
    • 仕事とエネルギー: 電源を接続したまま極板間隔を変化させる問題。この場合、外部からの仕事に加えて「電池がした仕事」も考慮する必要があり、エネルギー収支の式がより複雑になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. スイッチの状態を確認: 問題文を読み始めたら、まず「スイッチは開いているか、閉じているか」を確認します。これが系の拘束条件を決定する最重要情報です。
    2. グラフ問題の攻略法: 電位と電場のグラフを問われたら、まず電場のグラフから考えるのが有効です。電場は区間ごとに一定値をとることが多く((3),(6),(9))、そのグラフが描ければ、電位のグラフは「電場のグラフを積分したもの(面積が電位差)」、つまり傾きが電場の値になる折れ線グラフとして容易に描けます。
    3. 「仕事」を問われたらエネルギー変化を疑う: (10)のように「〜するのに要した仕事」を問われた場合、力学的エネルギー保存則が成り立たない非保存的な状況であることが多いです。この場合、仕事とエネルギーの関係(\((前のエネルギー)+(された仕事)=(後のエネルギー)\))に持ち込むのが王道です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電位と電場のグラフの混同:
    • 誤解: 電位が直線的に変化する区間で、電場も変化すると勘違いする。あるいは、電場が0の区間で電位も0だと考えてしまう。
    • 対策: 「電位は高さ、電場は坂の傾き」というイメージを徹底しましょう。傾きが一定(電場が一定)でも高さ(電位)は変化します。傾きが0(電場が0)でも、そこは平らな踊り場であり、高さ(電位)が0とは限りません((5)の金属板内部など)。
  • スイッチを開いた後の電圧の扱い:
    • 誤解: (10),(11)でスイッチを開いた後も、電圧がVのままだとして計算を進めてしまう。
    • 対策: 「スイッチを開く=電源との縁が切れる」と強く意識します。縁が切れれば、コンデンサーは孤立した島となり、電圧は一定ではなくなります。代わりに、電荷が島に閉じ込められて一定になります。
  • エネルギーの公式の選択ミス:
    • 誤解: (10)で、Qが一定の状況にもかかわらず \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を使おうとして、変化するVとCを両方追いかけるなど、計算を複雑にしてしまう。
    • 対策: 状況に応じて最も便利な公式を選びましょう。「Vが一定」なら \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)、「Qが一定」なら \(U=\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) を使うと、変数が一つになり、見通しが格段に良くなります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 電位・電場のグラフの連携: 電位のグラフ(図2)と電場のグラフ(図3)を上下に並べて描くと、「電位グラフの傾きが電場の値に対応する」という関係性が一目瞭然になります。例えば、(5)で電位が平らになる区間は、(6)で電場が0になる区間に完全に対応します。
    • 等価回路図: (4)や(7)のように、内部に物体を挿入したコンデンサーを、複数のコンデンサーの直列接続と見なす「等価回路図」を描くことは、問題を単純化し、合成容量を計算する上で非常に有効なテクニックです。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: グラフを描く際は、横軸が\(x\)、縦軸が電位または電場であることを明記し、単位も忘れずに記入します。また、\(d/4, d/2, 3d/4, d\) といった特徴的な点の座標も正確に示します。
    • 値の明記: グラフの水平線や折れ線の端点の縦軸の値(\(V, V/2, V/3, 2V/d\) など)を計算し、明確に書き込むことが求められます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(C’ = 2C\) (問4):
    • 選定理由: 金属板挿入後の容量を求めるため。
    • 適用根拠: 金属板は導体であり、その内部は等電位空間となる。これは、極板間隔が金属板の厚み分だけ短縮されたと等価である、という物理的洞察に基づきます。
  • \(C_3 = \displaystyle\frac{4}{3}C\) (問7):
    • 選定理由: 誘電体挿入後の容量を求めるため。
    • 適用根拠: 空間が3つの異なる領域(真空、誘電体、真空)に分かれているため、これらを3つのコンデンサーの直列接続とモデル化し、合成容量の公式を適用します。
  • \(W = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\) (問10):
    • 選定理由: 「外部からした仕事」を求めるため。
    • 適用根拠: エネルギー保存則が成り立たない系(仕事をする外力が存在する系)における、仕事とエネルギーの普遍的な関係式です。
  • \(V_{11} = Q_3 / C_{11}\) (問11):
    • 選定理由: 電荷が一定の条件下で、容量変化後の電圧を求めるため。
    • 適用根拠: スイッチが開いているため電荷\(Q_3\)が保存されるという拘束条件の下で、コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) を適用します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1-3) 初期状態: \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\), 電位は直線, 電場は一定(\(V/d\))。
  2. (4-6) 金属板挿入: スイッチは閉じたまま(\(V=\text{一定}\))。
    • ①容量変化を考える: 間隔が\(d/2\)になったと見なし、\(C’ = 2C\)。
    • ②電気量を計算: \(Q_2 = C’V = 2CV\)。
    • ③グラフを描く: 金属内部は電場0、等電位(\(V/2\))。真空中の電場は\(2V/d\)。
  3. (7-9) 誘電体挿入: スイッチは閉じたまま(\(V=\text{一定}\))。
    • ①容量変化を考える: 3つのコンデンサーの直列と見なし、\(C_3 = \displaystyle\frac{4}{3}C\)。
    • ②電気量を計算: \(Q_3 = C_3V = \displaystyle\frac{4}{3}CV\)。
    • ③グラフを描く: 各部分の電圧を分配(\(V/3\)ずつ)し、電場を計算(\(E_{\text{外}}=4V/3d, E_{\text{内}}=2V/3d\))。
  4. (10) 誘電体除去: スイッチを開く(\(Q_3=\text{一定}\))。
    • ①前後のエネルギーを計算: \(U_{\text{前}} = Q_3^2/(2C_3)\), \(U_{\text{後}} = Q_3^2/(2C)\)。
    • ②仕事Wを計算: \(W = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)。
  5. (11) 間隔変更: スイッチは開いたまま(\(Q_3=\text{一定}\))。
    • ①容量変化を考える: 間隔が\(\displaystyle\frac{3}{2}d\)になり、\(C_{11} = \frac{2}{3}C\)。
    • ②電圧を計算: \(V_{11} = Q_3 / C_{11}\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数計算の習熟: この問題は分数の計算が非常に多いです(特に(7)以降)。合成容量の逆数計算や、\(Q=CV\)からの変形など、落ち着いて正確に計算する練習が必要です。
  • 状態の整理: 「金属板挿入後」「誘電体挿入後」「誘電体除去後」「間隔変更後」と、コンデンサーの状態が次々に変化します。各状態で\(Q, C, V\)の値がどうなっているのかを表にまとめるなどして、情報を整理しながら解くと混乱を防げます。
  • 文字の代入: \(C = \varepsilon_0 S/d\) という関係を最後まで使わず、まずは\(C\)のまま計算を進め、必要に応じて最後に代入する方が、式が簡潔になりミスが減ります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • グラフの整合性: 描いた電位グラフの傾きが、電場グラフの値と対応しているかを確認しましょう。例えば、(8)の電位グラフの傾きは、真空部分の方が誘電体部分より急ですが、これは(9)の電場グラフで真空部分の電場の方が強いことと一致します。
  • 物理量の変化の向き: (10)で仕事が正になったのは、誘電体が極板に引きつけられており、それを取り除くのに外力が必要だったからです。もし計算結果が負になったら、どこかで間違っていると気づくべきです。(11)で電圧が\(V\)より大きくなったのも、電荷一定で容量が減った(広げた)ためであり、物理的に妥当です。このような定性的なチェックは非常に重要です。
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