問題36 (センター試験)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 慣性力を用いた力のつりあいによる解法
- 模範解答が地上(慣性系)からの運動方程式で解くのに対し、別解ではエレベーター内(非慣性系)の観測者から見た力のつりあいで解きます。
- 設問(5)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 模範解答が「見かけの重力加速度」を用いた相対運動として解くのに対し、別解では地上(慣性系)におけるそれぞれの運動方程式を時間で積分し、位置座標の差から時間を導出します。
- 設問(2)の別解: 慣性力を用いた力のつりあいによる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 慣性力の解法: 加速している乗り物の中での現象を、直感的に理解する助けになります。「静止しているように見える」という観測事実を数式化する力が養われます。
- 微積分の解法: 「見かけの重力」や「相対加速度」といった概念を暗記していなくても、ニュートンの運動方程式という基本原理さえあれば、数学的な操作のみで正解に到達できることを示します。これは物理法則の普遍性を理解する上で極めて重要です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「加速する系(エレベーター)における物体の運動」です。慣性系(地上)と非慣性系(エレベーター内)の視点を使い分ける力、および複数の物体が連動する運動の解析力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体の加速度と働く力の関係式(\(ma=F\))。
- 系(システム)の選択: 複数の物体を「ひとまとめ」にして見るか、「別々」に見るかという視点の切り替え。
- 慣性力: 加速している観測者から見たときに現れる見かけの力。
- 相対運動: ある物体から見た別の物体の動き。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、エレベーターと小球が同じ加速度で動いています。全体をまとめて考える方法と、個別に考える方法があります。
- (3)以降は、糸が切れて小球とエレベーターが別々の運動をします。それぞれの運動方程式を立てて加速度を求め、相対的な位置関係を追跡します。
問(1)
思考の道筋とポイント
エレベーターと小球は糸でつながれており、共に加速度 \(a\) で上昇しています。
この設問では「エレベーターを引き上げる力 \(F\)」を求めます。
個々の物体について運動方程式を立てて連立しても解けますが、エレベーターと小球を「一つの合体した物体」とみなすと、内力(糸の張力)を無視でき、計算が速くなります。
この設問における重要なポイント
- 一体化の見方: エレベーター(質量 \(M\))と小球(質量 \(m\))を合わせて、質量 \(M+m\) の一つの物体とみなします。
- 働く力の整理:
- 上向きの力: 引き上げる力 \(F\)
- 下向きの力: 全体の重力 \((M+m)g\)
- 加速度の向き: 鉛直上向きを正とします。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとして、全体(質量 \(M+m\))についての運動方程式を立てます。
加速度は上向きに \(a\) です。
$$
\begin{aligned}
(\text{質量}) \times (\text{加速度}) &= (\text{上向きの力}) – (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
(M+m)a &= F – (M+m)g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式①を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
F &= (M+m)a + (M+m)g \\[2.0ex]
&= (M+m)(a + g) \\[2.0ex]
&= (M+m)(g + a)
\end{aligned}
$$
エレベーターと小球をひとまとめにして考えました。この「ひとまとめの物体」を上に加速させるためには、重力に逆らって支える力だけでなく、さらに加速させるための余分な力が必要です。計算結果は、重さと加速分の力を足し合わせた形になっています。
答えは \(F = (M+m)(g+a)\) です。
もし加速度 \(a=0\)(静止または等速)なら \(F=(M+m)g\) となり、単に重さを支える力と一致します。これは物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は小球をつるしている糸の張力 \(T\) を求めます。
小球のみに着目し、その運動方程式を立てるのが最も直接的です。
また、静止している場合の張力と比較して何倍になるかを計算します。
この設問における重要なポイント
- 着目する物体: 小球(質量 \(m\))のみを取り出します。
- 働く力の整理:
- 上向きの力: 糸の張力 \(T\)
- 下向きの力: 重力 \(mg\)
- 加速度: エレベーターと同じく、上向きに \(a\) です。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正として、小球についての運動方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{質量}) \times (\text{加速度}) &= (\text{上向きの力}) – (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
ma &= T – mg \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式②より張力 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= mg + ma \\[2.0ex]
&= m(g+a)
\end{aligned}
$$
次に、エレベーターが静止している場合の張力 \(T_0\) を考えます。
静止時は加速度 \(a=0\) なので、力のつりあいより、
$$
\begin{aligned}
T_0 &= mg
\end{aligned}
$$
求める倍率は \(\displaystyle \frac{T}{T_0}\) です。
$$
\begin{aligned}
\frac{T}{T_0} &= \frac{m(g+a)}{mg} \\[2.0ex]
&= \frac{g+a}{g}
\end{aligned}
$$
小球もエレベーターと一緒に上に加速しています。そのため、糸は小球の重さを支えるだけでなく、小球を上に引っ張り上げる(加速させる)力も負担しなければなりません。その分だけ、静止しているときよりも糸にかかる力は大きくなります。
張力は \(m(g+a)\)、倍率は \(\displaystyle \frac{g+a}{g}\) です。
\(a > 0\) なので倍率は1より大きくなります。急上昇するエレベーターで体が重く感じる現象と同じです。
思考の道筋とポイント
エレベーターの中にいる人の視点(非慣性系)で考えます。
この人から見ると、小球は「静止」しています。
その代わり、加速している系特有の「慣性力」を考慮する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 慣性力の向きと大きさ: 観測者の加速度(上向き \(a\))と逆向き(下向き)に、大きさ \(ma\) の力が働きます。
- 力のつりあい: 観測者から見て小球は動かないので、力のつりあいの式を立てます。
具体的な解説と立式
エレベーター内の観測者から見た小球に働く力は以下の通りです。
- 上向きの力: 張力 \(T\)
- 下向きの力: 重力 \(mg\) と 慣性力 \(ma\)
力のつりあいの式を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
T &= mg + ma
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 慣性力: \(f_{\text{慣性}} = -ma_{\text{観測者}}\)
- 力のつりあい: \((\text{力のベクトル和}) = 0\)
これを整理すると、
$$
\begin{aligned}
T &= m(g+a)
\end{aligned}
$$
となり、運動方程式から求めた結果と一致します。倍率の計算も同様です。
エレベーターの中の人にとっては、重力 \(mg\) に加えて、下向きの慣性力 \(ma\) が加わったように感じられます。つまり、見かけ上の重さが増えた状態です。糸はこの「増えた重さ」を支えているため、張力も大きくなります。
慣性力を用いても同じ結果が得られました。この考え方は、問(4)以降の理解にも役立ちます。
問(3)
思考の道筋とポイント
糸を切った後、小球とエレベーターは別々の運動を始めます。
ここではエレベーターの運動に注目します。
引き上げる力 \(F\) は問(1)の値のまま変化しませんが、小球を支えていた糸の張力がなくなるため、エレベーターにかかる下向きの力が減り、加速度が変化します。
この設問における重要なポイント
- 着目する物体: エレベーター(質量 \(M\))のみ。
- 働く力の変化:
- 上向きの力: \(F\) (問(1)で求めた値で一定)
- 下向きの力: 重力 \(Mg\) のみ。(糸が切れたので張力による下向きの力は消滅)
- 加速度: 新しい加速度を \(b\) とします。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正として、エレベーターの運動方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{質量}) \times (\text{加速度}) &= (\text{上向きの力}) – (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
Mb &= F – Mg \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
問(1)の結果 \(F = (M+m)(g+a)\) を式③に代入して \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Mb &= (M+m)(g+a) – Mg \\[2.0ex]
&= M(g+a) + m(g+a) – Mg \\[2.0ex]
&= Mg + Ma + m(g+a) – Mg \\[2.0ex]
&= Ma + m(g+a)
\end{aligned}
$$
両辺を \(M\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
b &= a + \frac{m}{M}(g+a)
\end{aligned}
$$
小球をぶら下げていた糸が切れたことで、エレベーターは「お荷物」を捨てて軽くなった状態です。同じ力 \(F\) で引っ張り続けているので、軽くなった分だけ勢いよく加速するようになります。式を見ると、元の加速度 \(a\) に正の値が足されているので、加速度が増していることがわかります。
答えは \(b = a + \frac{m}{M}(g+a)\) です。
\(m > 0\) なので \(b > a\) となり、おもりが外れて加速しやすくなったという直感と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
エレベーターの中の人(観測者)が小球を観測します。
この観測者は加速度 \(b\) で上昇しているため、非慣性系にいます。
したがって、小球には重力に加えて慣性力が働いているように見えます。
この設問における重要なポイント
- 観測者の加速度: 上向きに \(b\) (問(3)で求めた値)。
- 慣性力: 観測者の加速度と逆向き(下向き)に、大きさ \(m \times (\text{観測者の加速度})\) の力が働きます。
- 合力: 重力と慣性力のベクトル和を求めます。
具体的な解説と立式
エレベーター内の観測者から見た小球に働く力を考えます。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 慣性力: \(mb\) (鉛直下向き)
これらは同じ向きなので、合力の大きさ \(F_{\text{合}}\) は単純な和になります。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合}} &= mg + mb
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 慣性力: \(f_{\text{慣性}} = -ma_{\text{観測者}}\)
式を \(m\) でくくります。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合}} &= m(g+b)
\end{aligned}
$$
急上昇するエレベーターの中では、床に押し付けられるような力を感じます。これが慣性力です。小球にもこの力が下向きにかかるため、本来の重力と合わさって、普段より強い力で下に引っ張られているように見えます。これを「見かけの重力」と呼びます。
合力の大きさは \(m(g+b)\) です。
この力によって小球はエレベーター内で落下していきます。
問(5)
思考の道筋とポイント
小球がエレベーターの床に落ちるまでの時間を求めます。
エレベーター内の観測者から見ると、小球は初速度 \(0\) で、問(4)で求めた一定の力(見かけの重力)を受けて落下する運動(自由落下のような運動)をします。
落下距離は \(h\) です。
この設問における重要なポイント
- 見かけの重力加速度: 問(4)の合力 \(m(g+b)\) を質量 \(m\) で割ると、この系での加速度が得られます。これを \(g’\) とすると、\(g’ = g+b\) です。
- 運動の種類: 初速度 \(0\)、加速度 \(g+b\) の等加速度直線運動です。
- 移動距離: 天井から床までの高さ \(h\) です。
具体的な解説と立式
エレベーター内での小球の落下運動について、等加速度直線運動の公式を用います。
下向きを正とします。
$$
\begin{aligned}
(\text{距離}) &= \frac{1}{2} \times (\text{加速度}) \times (\text{時間})^2 \\[2.0ex]
h &= \frac{1}{2}(g+b)t^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動(変位): \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
この式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2h}{g+b}
\end{aligned}
$$
\(t > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
t &= \sqrt{\frac{2h}{g+b}}
\end{aligned}
$$
エレベーターの中の人にとっては、重力が強くなった世界でボールを落とすのと同じことです。重力が \(g\) から \(g+b\) にパワーアップしているので、普通の自由落下よりも勢いよく、短時間で床に到達します。
答えは \(t = \sqrt{\frac{2h}{g+b}}\) です。
もしエレベーターが静止していれば \(b=0\) となり、通常の自由落下の式 \(t=\sqrt{\frac{2h}{g}}\) に戻ります。また、\(b\) が大きい(急加速する)ほど分母が大きくなり、時間は短くなります。これは床が迫ってくるためであり、直感と合致します。
思考の道筋とポイント
「見かけの重力」や「慣性力」といった概念を使わず、地上(慣性系)に固定した座標系で、小球とエレベーターそれぞれの運動方程式を立てて解きます。
それぞれの位置を時間の関数として求め、その差が \(h\) になる瞬間を計算します。
この設問における重要なポイント
- 座標の設定: 糸が切れた瞬間の小球の位置を原点 \(y=0\) とし、鉛直上向きを正とします。
- 初期条件 (\(t=0\)):
- 小球: 位置 \(y_m(0) = 0\)、速度 \(v_m(0) = v_0\) (切れる直前の速度)
- エレベーターの床: 位置 \(y_M(0) = -h\)、速度 \(v_M(0) = v_0\)
- 衝突条件: 小球の位置と床の位置が一致するとき、つまり \(y_m(t) = y_M(t)\) となるときです。
具体的な解説と立式
1. 運動方程式の立式
地上から見た運動方程式を立てます。
- 小球(質量 \(m\)): 重力のみが働きます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2y_m}{dt^2} &= -mg
\end{aligned}
$$ - エレベーター(質量 \(M\)): 上向きの力 \(F\) と重力が働きます。
$$
\begin{aligned}
M \frac{d^2y_M}{dt^2} &= F – Mg
\end{aligned}
$$
ここで、問(3)より \(F – Mg = Mb\) なので、エレベーターの加速度は \(b\) です。
2. 積分による位置の導出
それぞれの加速度は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
\frac{d^2y_m}{dt^2} &= -g \\[2.0ex]
\frac{d^2y_M}{dt^2} &= b
\end{aligned}
$$
これらを時間 \(t\) で2回積分して、位置 \(y(t)\) を求めます。初期速度 \(v_0\) を考慮します。
小球の位置:
$$
\begin{aligned}
\frac{dy_m}{dt} &= -gt + v_0 \\[2.0ex]
y_m(t) &= -\frac{1}{2}gt^2 + v_0 t \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
エレベーターの床の位置(初期位置 \(-h\)):
$$
\begin{aligned}
\frac{dy_M}{dt} &= bt + v_0 \\[2.0ex]
y_M(t) &= \frac{1}{2}bt^2 + v_0 t – h \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 加速度の定義: \(a = \frac{d^2y}{dt^2}\)
- 積分の公式: \(\int t^n dt = \frac{1}{n+1}t^{n+1} + C\)
小球が床に達するとき、\(y_m(t) = y_M(t)\) が成り立ちます。
式④と式⑤を等号で結びます。
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}gt^2 + v_0 t &= \frac{1}{2}bt^2 + v_0 t – h
\end{aligned}
$$
両辺にある \(v_0 t\) が消去されます。これは、慣性系同士の相対速度が等しいためです。
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}gt^2 &= \frac{1}{2}bt^2 – h
\end{aligned}
$$
項を整理して \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2}bt^2 + \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]
h &= \frac{1}{2}(g+b)t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{2h}{g+b} \\[2.0ex]
t &= \sqrt{\frac{2h}{g+b}}
\end{aligned}
$$
地上から見ると、小球は投げ上げ運動(または落下運動)をし、エレベーターの床はロケットのように加速上昇しています。
それぞれの動きを数式(時間の関数)で表し、「いつ場所が一致するか」という方程式を解きました。
計算の途中で初速度 \(v_0\) がきれいに消えることから、この結果は「どの瞬間に糸を切っても変わらない」ことがわかります。
慣性力を用いた解法と全く同じ結果が得られました。
この方法は、観測者の加速度が変化する場合など、慣性力が複雑になるケースでも、基本の運動方程式さえ立てられれば確実に解けるという強力な利点があります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の適用と系(システム)の選択
- 核心: 物体の運動を解析する上で、最も基本的な法則は運動方程式 \(ma=F\) です。この問題では、エレベーターと小球という2つの物体が登場しますが、これらを「一体」として扱うか、「別々」に扱うかによって、解法の難易度が変わります。
- 理解のポイント:
- 一体として扱う: エレベーターと小球を質量 \(M+m\) の一つの物体とみなすと、外力(\(F\) と重力)のみを考えればよく、内力(糸の張力)を無視できます。これにより、加速度 \(a\) を求める計算が簡略化されます(問(1))。
- 別々に扱う: 小球のみ、あるいはエレベーターのみに着目すると、糸の張力という内力が外力として働くため、運動方程式はより複雑になります。しかし、張力 \(T\) のような未知数を求めるためには、このアプローチが不可欠です(問(2))。
- 糸が切れた後: 物体間の連結がなくなった場合、それぞれが独立した運動をすることになります。このときも、それぞれの物体について運動方程式を立てることが基本となります(問(3)以降)。
- 慣性力と相対運動の理解
- 核心: 加速しているエレベーター内という「非慣性系」から小球の運動を観測する場合、地上(慣性系)から見たときとは異なる力が働いているように見えます。これが慣性力です。
- 理解のポイント:
- 慣性力の向きと大きさ: 観測者の加速度と逆向きに、質量 \(\times\) 観測者の加速度 の大きさの力が働きます。エレベーターが上向きに加速 \(b\) している場合、小球には下向きに \(mb\) の慣性力が働いているように見えます。
- 見かけの重力: 慣性力と重力を合わせた力は、その系での「見かけの重力」として機能します。この見かけの重力 \(m(g+b)\) を用いると、エレベーター内での小球の運動は、あたかも重力加速度が \(g+b\) になったかのような、単純な等加速度運動として記述できます(問(4), (5))。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題のパターン:
- 複数のエレベーターや、エレベーター内の滑車: エレベーターの運動方程式と、エレベーター内の物体の運動方程式を連立させる問題は頻出です。慣性力の考え方も応用できます。
- 斜面上のエレベーター: エレベーターの運動に加えて、斜面方向の運動も考慮する必要があり、ベクトル解析が重要になります。
- ロープウェイやリフト: 動滑車と同様に、複数の物体が連結された運動として捉えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「系」を定義する: まず、問題全体を「一つの物体」として扱うのが有利か、それとも「複数の物体」に分けて考えるのが有利かを判断します。
- 「慣性系」か「非慣性系」か: 問題文に「エレベーター内の人にとって」といった記述があれば、非慣性系での観測を疑います。その場合は、慣性力の導入を検討します。
- 「糸が切れた」などの変化点: 物体間の連結が変化した後は、運動方程式の立て方が変わるため、注意深く分析します。
- 求めたい物理量: 速さだけならエネルギー保存則(この問題では適用しにくい)、時間や張力なら運動方程式が基本となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動方程式の力の向きの混同:
- 誤解: 加速度の向きと力の向きを混同したり、慣性力の向きを間違えたりする。
- 対策: 鉛直上向きを正、鉛直下向きを負、のように座標軸を明確に定め、全ての力をその軸に沿って正負をつけて書き出す習慣をつけましょう。慣性力は「観測者の加速度と逆向き」というルールを徹底します。
- 「一体」と「個別」の使い分けミス:
- 誤解: 全体を一体として扱うべき場面で個別に運動方程式を立ててしまい、張力などの内力を考慮して計算が複雑になる。あるいは、個別に考えるべき場面で一体として扱ってしまう。
- 対策: 問題文の「エレベーターを引き上げる力 \(F\) はいくらか」のように、系全体にかかる力を問われている場合は一体として、「小球をつるしている糸の張力 \(T\) は」のように、物体間の力を問われている場合は個別に取り扱うのが基本です。
- 非慣性系での運動方程式の立式ミス:
- 誤解: 非慣性系で運動方程式を立てる際に、慣性力を考慮し忘れたり、逆に慣性系での運動方程式に慣性力を足してしまったりする。
- 対策: 非慣性系では、「見かけの力(重力+慣性力)」のつりあいとして運動方程式を立てる、というルールを徹底します。あるいは、常に慣性系(地上)で運動方程式を立て、必要に応じて相対速度などを計算する方がミスが少ない場合もあります(問(5)の別解)。
- 「見かけの重力加速度」の適用範囲:
- 誤解: \(g’ = g+b\) という公式を、どのような状況でも適用できると誤解する。
- 対策: この公式は、エレベーター内という「一様な加速度 \(b\) で上昇する非慣性系」において、小球が「静止している」または「等速直線運動をしている」と観測される場合にのみ有効です。糸が切れて小球が落下し始めると、小球自身の運動は慣性系での運動方程式に従います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(運動方程式:一体として扱う):
- 選定理由: 求めたいのがエレベーター全体を引き上げる力 \(F\) であり、小球との間の張力は直接問われていません。また、エレベーターと小球は一体となって同じ加速度 \(a\) で上昇するため、全体を一つの質量 \(M+m\) の物体とみなすのが最も効率的です。
- 適用根拠: 全体にかかる外力(\(F\) と重力)のみを考慮すれば、運動方程式 \( (M+m)a = F – (M+m)g \) が立てられ、未知数は \(F\) のみとなるため、直接 \(F\) を求めることができます。
- 問(4)での公式選択(慣性力と力のつりあい):
- 選定理由: 問題文に「エレベーターの中の人が小球の運動を観測すると」と明記されており、非慣性系からの観測であることが示唆されています。また、小球はエレベーターの床に対して「落下」しており、その運動を観測者から見たときの「合力」を問われています。
- 適用根拠: 非慣性系では、観測者の加速度 \(b\) と逆向きに慣性力 \(mb\) が働きます。この慣性力と重力 \(mg\) の合力 \(m(g+b)\) が、観測者から見た小球に働く「見かけの力」となります。この力によって小球が落下するという運動を記述します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 最終的な答えの式が得られたら、必ず単位(次元)を確認しましょう。例えば、問(5)の時間の式 \(t = \sqrt{\frac{2h}{g+b}}\) では、分子の \(h\) は \([\text{L}]\)、分母の \(g+b\) は \([\text{L}][\text{T}]^{-2}\) なので、ルートの中身は \([\text{T}]^2\) となり、時間の次元 \([\text{T}]\) に一致します。もし次元が合わない場合は、計算過程のどこかに間違いがある可能性が高いです。
- 極限的なケースでの検算:
- 問(1) \(F = (M+m)(g+a)\): もし \(a=0\) なら \(F=(M+m)g\) となり、静止している状態の重力と同じになります。これは妥当です。
- 問(2) 倍率 \(\frac{g+a}{g}\): もし \(a=0\) なら倍率は1となり、静止時と同じ張力 \(mg\) になります。これも妥当です。
- 問(3) \(b = a + \frac{m}{M}(g+a)\): もし \(m=0\)(小球がない)なら \(b=a\) となり、エレベーターの加速度は変わりません。これも妥当です。
- 問(5) \(t = \sqrt{\frac{2h}{g+b}}\): もし \(b=0\) なら \(t=\sqrt{\frac{2h}{g}}\) となり、通常の自由落下の時間になります。これも妥当です。
- このように、極端な値を代入して物理的な直感と合うか確認する癖をつけましょう。
- 「一体」と「個別」の区別を明確に:
- 問題を解く前に、どの部分を「一体」として扱うか、どの部分を「個別」に取り扱うかを明確に線引きしましょう。特に、運動方程式を立てる際に、どの物体の運動方程式なのかを常に意識することが重要です。
- 非慣性系での力の向きを常に図示:
- 非慣性系で考える場合は、必ず慣性力の向きを図に書き込み、重力と合わせて力のつりあい(または運動方程式)を立てるようにしましょう。これにより、力の向きの誤りを防ぐことができます。
問題37 (玉川大+大阪電通大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)(3)の別解: 慣性系(地上)からの運動方程式による解法
- 模範解答が非慣性系(三角柱と共に動く観測者)からの力のつりあいで解くのに対し、別解では地上から見た運動方程式を立てて解きます。
- 設問(4)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 模範解答が等加速度直線運動の公式を用いるのに対し、別解では運動方程式を積分することで速度と位置の関係を導出します。
- 設問(2)(3)の別解: 慣性系(地上)からの運動方程式による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 慣性系の解法: 「慣性力」という見かけの力を導入せず、実際に働いている力(重力、張力、垂直抗力)のみで現象を記述するため、物理的な実体を把握しやすくなります。
- 微積分の解法: 公式の暗記に頼らず、運動方程式 \(ma=F\) から出発して、積分操作によって速度や変位を導くプロセスを体験することで、力学の体系的な理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「加速する斜面上での物体の運動」です。慣性力の理解と、力の分解(斜面方向・垂直方向 vs 水平方向・鉛直方向)の使い分けが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 静止している物体では、力のベクトル和が \(0\) になります。
- 慣性力: 加速している観測者から見たときに現れる見かけの力。大きさは \(ma\)、向きは観測者の加速度と逆向きです。
- 運動方程式: 慣性系から見る場合、物体の加速度は働く力によって決まります(\(ma=F\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)は静止状態なので、通常の力のつりあいを考えます。
- (2)(3)は三角柱が加速しているため、三角柱と共に動く観測者から見て「慣性力」を含めた力のつりあいを考えるのが定石です(模範解答)。別解として、地上から見た運動方程式でも解けます。
- (4)は、(3)の加速度条件下での等加速度運動を扱います。
問(1)
思考の道筋とポイント
三角柱は静止しており、その上の小物体Pも静止しています。
したがって、Pに働く力はつりあっています。
力を斜面に平行な方向と、斜面に垂直な方向に分解して考えます。
この設問における重要なポイント
- 働く力の整理:
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 糸の張力: \(T_0\) (斜面上向き)
- 垂直抗力: \(N_0\) (斜面に垂直上向き)
- 座標軸の設定: 斜面に平行な方向(上向き正)と、斜面に垂直な方向(上向き正)に分解します。
具体的な解説と立式
重力 \(mg\) を斜面方向と垂直方向に分解します。
- 斜面下向き成分: \(mg \sin \theta\)
- 斜面垂直下向き成分: \(mg \cos \theta\)
それぞれの方向について、力のつりあいの式を立てます。
斜面方向のつりあい:
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面上向きの力}) &= (\text{斜面下向きの力}) \\[2.0ex]
T_0 &= mg \sin \theta \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
斜面垂直方向のつりあい:
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面垂直上向きの力}) &= (\text{斜面垂直下向きの力}) \\[2.0ex]
N_0 &= mg \cos \theta \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力の分解: \(F_{\text{平行}} = F \sin \theta, F_{\text{垂直}} = F \cos \theta\)
- 力のつりあい: \((\text{力のベクトル和}) = 0\)
式①、②より、そのまま答えが得られます。
$$
\begin{aligned}
T_0 &= mg \sin \theta \\[2.0ex]
N_0 &= mg \cos \theta
\end{aligned}
$$
坂道に置かれた物体が滑り落ちないように糸で支えています。
重力のうち「坂を滑り落ちようとする分」を糸が支え、「坂を押し付ける分」を地面(斜面)が支えています。
\(T_0 = mg \sin \theta\)、\(N_0 = mg \cos \theta\) です。
\(\theta=0\)(水平)なら \(T_0=0, N_0=mg\) となり、\(\theta=90^\circ\)(垂直)なら \(T_0=mg, N_0=0\) となるため、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
三角柱を「左方」に加速度 \(\alpha\) で動かします。
三角柱と共に動く観測者から見ると、小物体Pには「右向き」の慣性力 \(m\alpha\) が働きます。
この状態で「糸の張力が \(0\) になる」という条件を満たす \(\alpha\) と \(N\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 慣性力の向き: 三角柱の加速度(左向き)と逆向き、つまり「右向き(水平)」です。
- 張力が0: 糸がたるむ寸前の状態です。\(T=0\) としてつりあいの式を立てます。
- 力の分解: 重力 \(mg\) と慣性力 \(m\alpha\) を、斜面方向と垂直方向に分解します。
具体的な解説と立式
小物体Pに働く力を整理します。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 垂直抗力: \(N\) (斜面に垂直上向き)
- 慣性力: \(m\alpha\) (水平右向き)
- 張力: \(0\)
これらを斜面方向と垂直方向に分解してつりあいの式を立てます。
斜面方向(下向き正):
図を描いて確認すると、水平右向きの慣性力 \(m\alpha\) は、斜面を登る方向の成分 \(m\alpha \cos \theta\) と、斜面を押す方向の成分 \(m\alpha \sin \theta\) に分解されます。
斜面方向のつりあい(張力 \(T=0\)):
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面登り方向の力}) &= (\text{斜面下り方向の力}) \\[2.0ex]
m\alpha \cos \theta &= mg \sin \theta \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
斜面垂直方向のつりあい:
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面垂直上向きの力}) &= (\text{斜面垂直下向きの力}) \\[2.0ex]
N &= mg \cos \theta + m\alpha \sin \theta \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 慣性力: \(f_{\text{慣性}} = m\alpha\)
- 力のつりあい
式③より \(\alpha\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\alpha \cos \theta &= mg \sin \theta \\[2.0ex]
\alpha &= g \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \\[2.0ex]
&= g \tan \theta
\end{aligned}
$$
求めた \(\alpha\) を式④に代入して \(N\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg \cos \theta + m(g \tan \theta) \sin \theta \\[2.0ex]
&= mg \cos \theta + mg \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \sin \theta \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\cos \theta} (\cos^2 \theta + \sin^2 \theta) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\cos \theta} \cdot 1 \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\cos \theta}
\end{aligned}
$$
台を左に急加速させると、上の物体は慣性で右に取り残されようとします。この「右に行こうとする力」が坂を登る方向に働くため、糸がなくても物体が落ちてこなくなります。
また、この力は坂に押し付けられる方向にも働くため、垂直抗力は静止時より大きくなります。
\(\alpha = g \tan \theta\)、\(N = \frac{mg}{\cos \theta}\) です。
\(\cos \theta < 1\) なので \(N > mg \cos \theta\) となり、静止時より強く押し付けられていることがわかります。
思考の道筋とポイント
地上から見ると、小物体Pは三角柱と一緒に「左向き」に加速度 \(\alpha\) で運動しています。
鉛直方向には動いていない(加速度0)ことに注意して、水平・鉛直方向で運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 水平方向(左向き正)と鉛直方向(上向き正)を設定します。
- 加速度: 水平方向は \(\alpha\)、鉛直方向は \(0\) です。
- 力の分解: 垂直抗力 \(N\) を水平成分 \(N \sin \theta\) (左向き)と鉛直成分 \(N \cos \theta\) (上向き)に分解します。重力 \(mg\) は鉛直下向きです。
具体的な解説と立式
水平方向(左向き正)の運動方程式:
$$
\begin{aligned}
m\alpha &= (\text{左向きの力}) – (\text{右向きの力}) \\[2.0ex]
m\alpha &= N \sin \theta \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
鉛直方向(上向き正)の力のつりあい(加速度0):
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
N \cos \theta &= mg \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力の分解: \(F_{\text{水平}} = F \sin \theta, F_{\text{鉛直}} = F \cos \theta\)
式⑥より \(N\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{mg}{\cos \theta}
\end{aligned}
$$
これを式⑤に代入して \(\alpha\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\alpha &= \frac{mg}{\cos \theta} \sin \theta \\[2.0ex]
\alpha &= g \tan \theta
\end{aligned}
$$
地上から見ると、物体は台と一緒に左へ加速しています。物体を左へ押しているのは、坂からの垂直抗力です。
一方、物体は上下には動かないので、重力と垂直抗力の上向き成分がつりあっています。
この2つの関係から、必要な加速度と垂直抗力を計算しました。
結果は模範解答と一致します。
慣性力を使わなくても、通常の運動方程式で解けることが確認できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は三角柱を「右方」に加速度 \(\beta\) で動かします。
三角柱と共に動く観測者から見ると、小物体Pには「左向き」の慣性力 \(m\beta\) が働きます。
この状態で「垂直抗力が \(0\) になる」という条件を満たす \(\beta\) と \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 慣性力の向き: 三角柱の加速度(右向き)と逆向き、つまり「左向き(水平)」です。
- 垂直抗力が0: 物体が斜面から浮く寸前の状態です。\(N=0\) としてつりあいの式を立てます。
- 力の分解: 慣性力 \(m\beta\) (左向き)を分解すると、斜面を降りる方向の成分 \(m\beta \cos \theta\) と、斜面から離れる方向の成分 \(m\beta \sin \theta\) になります。
具体的な解説と立式
小物体Pに働く力を整理します。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 張力: \(T\) (斜面上向き)
- 慣性力: \(m\beta\) (水平左向き)
- 垂直抗力: \(0\)
斜面方向と垂直方向に分解してつりあいの式を立てます。
斜面垂直方向のつりあい(垂直抗力 \(N=0\)):
慣性力の斜面垂直成分(上向き)と、重力の斜面垂直成分(下向き)がつりあいます。
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面から離れる力}) &= (\text{斜面に押し付けられる力}) \\[2.0ex]
m\beta \sin \theta &= mg \cos \theta \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
斜面方向のつりあい:
張力 \(T\) (上向き)と、重力の斜面成分(下向き)+慣性力の斜面成分(下向き)がつりあいます。
$$
\begin{aligned}
(\text{斜面上向きの力}) &= (\text{斜面下向きの力}) \\[2.0ex]
T &= mg \sin \theta + m\beta \cos \theta \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 慣性力: \(f_{\text{慣性}} = m\beta\)
- 力のつりあい
式⑦より \(\beta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\beta \sin \theta &= mg \cos \theta \\[2.0ex]
\beta &= g \frac{\cos \theta}{\sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{g}{\tan \theta}
\end{aligned}
$$
求めた \(\beta\) を式⑧に代入して \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= mg \sin \theta + m\left( g \frac{\cos \theta}{\sin \theta} \right) \cos \theta \\[2.0ex]
&= mg \sin \theta + mg \frac{\cos^2 \theta}{\sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\sin \theta} (\sin^2 \theta + \cos^2 \theta) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\sin \theta}
\end{aligned}
$$
台を右に急加速させると、上の物体は慣性で左に取り残されようとします。この「左に行こうとする力」が坂から浮き上がる方向に働くため、ある加速度以上で物体は宙に浮きます。
また、この力は坂を滑り落ちる方向にも働くため、糸にかかる張力は静止時より大きくなります。
\(\beta = \frac{g}{\tan \theta}\)、\(T = \frac{mg}{\sin \theta}\) です。
\(\sin \theta < 1\) なので \(T > mg \sin \theta\) となり、静止時より強く引っ張られていることがわかります。
思考の道筋とポイント
地上から見ると、小物体Pは三角柱と一緒に「右向き」に加速度 \(\beta\) で運動しています。
鉛直方向には動いていない(加速度0)ことに注意して、水平・鉛直方向で運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 水平方向(右向き正)と鉛直方向(上向き正)を設定します。
- 加速度: 水平方向は \(\beta\)、鉛直方向は \(0\) です。
- 力の分解: 張力 \(T\) を水平成分 \(T \cos \theta\) (左向き)と鉛直成分 \(T \sin \theta\) (上向き)に分解します。垂直抗力は \(0\) です。
具体的な解説と立式
張力 \(T\) の向きは「右上」です。
- 水平成分: \(T \cos \theta\) (右向き)
- 鉛直成分: \(T \sin \theta\) (上向き)
水平方向(右向き正)の運動方程式:
$$
\begin{aligned}
m\beta &= (\text{右向きの力}) – (\text{左向きの力}) \\[2.0ex]
m\beta &= T \cos \theta \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
鉛直方向(上向き正)の力のつりあい(加速度0):
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
T \sin \theta &= mg \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力の分解
式⑪より \(T\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{mg}{\sin \theta}
\end{aligned}
$$
これを式⑩に代入して \(\beta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\beta &= \frac{mg}{\sin \theta} \cos \theta \\[2.0ex]
\beta &= g \frac{\cos \theta}{\sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{g}{\tan \theta}
\end{aligned}
$$
地上から見ると、物体は台と一緒に右へ加速しています。物体を右へ引っ張っているのは、糸の張力です。
一方、物体は上下には動かないので、重力と張力の上向き成分がつりあっています。
この2つの関係から、必要な加速度と張力を計算しました。
結果は模範解答と一致します。
張力の向きを正しく把握(右上向き)することで、慣性系でも矛盾なく解けることが確認できました。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)の状態、つまり右向きに加速度 \(\beta = \frac{g}{\tan \theta}\) で動いている状態で糸を切ります。
このとき、垂直抗力 \(N=0\) なので摩擦は働きません。
三角柱と共に動く観測者から見た小物体Pの運動を考えます。
この設問における重要なポイント
- 働く力: 重力 \(mg\) と 慣性力 \(m\beta\) のみです(張力なし、垂直抗力なし)。
- 合力の向き: (3)の考察より、斜面垂直方向の力はつりあっています(合力0)。したがって、合力は「斜面下向き」の成分のみ残ります。
- 運動の種類: 初速度 \(0\) の等加速度直線運動です。
具体的な解説と立式
斜面下向きを正として、小物体Pの運動方程式を立てます。
加速度を \(a\) とします。
働く力は、重力の斜面成分 \(mg \sin \theta\) と、慣性力の斜面成分 \(m\beta \cos \theta\) です。これらは共に下向きです。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg \sin \theta + m\beta \cos \theta \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
式⑫に \(\beta = \frac{g \cos \theta}{\sin \theta}\) を代入して加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg \sin \theta + m \left( \frac{g \cos \theta}{\sin \theta} \right) \cos \theta \\[2.0ex]
a &= g \sin \theta + \frac{g \cos^2 \theta}{\sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{g}{\sin \theta} (\sin^2 \theta + \cos^2 \theta) \\[2.0ex]
&= \frac{g}{\sin \theta}
\end{aligned}
$$
距離 \(l\) だけ滑り降りたときの速さ \(v\) を求めます。初速度 \(v_0 = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
v^2 – 0^2 &= 2al \\[2.0ex]
v^2 &= 2 \cdot \frac{g}{\sin \theta} \cdot l \\[2.0ex]
v &= \sqrt{\frac{2gl}{\sin \theta}}
\end{aligned}
$$
糸を切ると、物体は重力と慣性力の合力によって斜面を滑り降ります。
垂直抗力がゼロになるような絶妙な加速をしているため、物体は斜面に触れるか触れないかの状態で、摩擦の影響を一切受けずに加速していきます。その加速度は通常(\(g \sin \theta\))よりも大きくなります。
答えは \(v = \sqrt{\frac{2gl}{\sin \theta}}\) です。
通常の斜面滑降の加速度 \(g \sin \theta\) よりも大きな加速度 \(\frac{g}{\sin \theta}\) で加速するため、速さも大きくなります。
思考の道筋とポイント
運動方程式から出発し、積分を用いて速度と位置の関係を導きます。
公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を忘れていても、原理から導出できます。
この設問における重要なポイント
- 座標の設定: 斜面下向きを \(x\) 軸正方向とし、\(t=0\) で \(x=0, v=0\) とします。
- 力の定数化: 右辺の力 \(F\) は一定なので、これを \(F_0\) と置きます。
- エネルギー積分の実行: 運動方程式の両辺に速度 \(v\) を掛けて時間積分することで、エネルギー保存則の形を導きます。
具体的な解説と立式
運動方程式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2x}{dt^2} &= mg \sin \theta + m\beta \cos \theta
\end{aligned}
$$
右辺の力 \(F\) は一定なので、これを \(F_0\) と置きます。
$$
\begin{aligned}
F_0 &= m \left( g \sin \theta + g \frac{\cos^2 \theta}{\sin \theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\sin \theta}
\end{aligned}
$$
運動方程式は \(m \frac{dv}{dt} = F_0\) と書けます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(m \frac{dv}{dt} = F\)
- 速度の定義: \(v = \frac{dx}{dt}\)
- 積分の公式: \(\int f(x) \frac{dx}{dt} dt = \int f(x) dx\)
両辺に \(v = \frac{dx}{dt}\) を掛けて、時間 \(t\) で積分(置換積分)します。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv}{dt} \cdot v &= F_0 \frac{dx}{dt} \\[2.0ex]
\frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right) &= F_0 \frac{dx}{dt}
\end{aligned}
$$
\(t=0\) から \(t\) まで積分します。位置は \(0 \to l\)、速度は \(0 \to v\) です。
$$
\begin{aligned}
\int_0^t \frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right) dt &= \int_0^t F_0 \frac{dx}{dt} dt \\[2.0ex]
\left[ \frac{1}{2}mv^2 \right]_0^v &= \int_0^l F_0 dx \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv^2 &= F_0 l
\end{aligned}
$$
これは「運動エネルギーの変化量=仕事」の関係式そのものです。
\(F_0 = \frac{mg}{\sin \theta}\) を代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= \frac{mg}{\sin \theta} l \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{2gl}{\sin \theta} \\[2.0ex]
v &= \sqrt{\frac{2gl}{\sin \theta}}
\end{aligned}
$$
運動方程式という「瞬間の法則」を、時間や距離で積み重ねる(積分する)ことで、「ある距離進んだ後の状態」を知ることができます。
ここでは、「力が物体にした仕事の分だけ、物体の運動エネルギーが増える」という関係式を、数式変形によって導き出しました。
等加速度運動の公式を用いた場合と同じ結果が得られました。
この手法は、力が位置や速度に依存して変化する場合(空気抵抗がある場合など)にも応用できる、より一般的な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力の導入と観測者の視点
- 核心: 加速している物体(三角柱)の上にある物体の運動を考える際、三角柱と共に動く観測者(非慣性系)から見ると、物体には「慣性力」という見かけの力が働きます。
- 理解のポイント:
- 慣性力の向き: 観測者の加速度と「逆向き」です。三角柱が左に加速すれば慣性力は右に、右に加速すれば左に働きます。
- 慣性力の大きさ: 質量 \(\times\) 観測者の加速度の大きさ(\(ma\))です。
- 利点: 慣性力を導入することで、加速している系の中でも「力のつりあい」として静力学的に問題を扱うことができ、直感的な理解が容易になります。
- 力の分解と座標軸の選択
- 核心: 力をどの方向に分解するかによって、計算の複雑さが大きく変わります。
- 理解のポイント:
- 斜面方向・垂直方向: 物体が斜面上に拘束されている場合(滑る、静止するなど)、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解するのが定石です。垂直抗力や摩擦力(本問ではなし)の扱いが容易になります。
- 水平方向・鉛直方向: 慣性系(地上)から見る場合、重力は鉛直方向、加速度は水平方向なので、こちらの分解が自然な場合もあります(別解のアプローチ)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題のパターン:
- 電車内の振り子: 電車が加速すると振り子が傾く問題。これも慣性力と重力の合力(見かけの重力)で解けます。
- エレベーター内の物体: 鉛直方向の加速による慣性力(見かけの重力変化)を扱います。
- 遠心力: 回転運動する系での慣性力です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「加速している台の上」: この設定を見たら、即座に「慣性力」の利用を検討します。
- 「離れる」「浮く」条件: 「垂直抗力 \(N=0\)」と翻訳します。
- 「滑り出す」「動き出す」条件: 「静止摩擦力が最大静止摩擦力に達する」あるいは「張力が \(0\) になる(糸の場合)」と翻訳します。
- 力の向きのチェック: 特に慣性力の向きは、台の加速度の向きと逆であることを図に描いて必ず確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きの逆転:
- 誤解: 「加速する方向に力が働く」と直感的に思い込み、慣性力を加速度と同じ向きに書いてしまう。
- 対策: 「急発進する電車で体が後ろに倒れる」感覚を思い出しましょう。体が持っていかれる方向が慣性力の向き(加速度と逆)です。
- 力の分解ミス:
- 誤解: 水平な慣性力 \(ma\) を斜面方向に分解する際、\(\sin \theta\) と \(\cos \theta\) を取り違える。
- 対策: 図を描く際に、極端な角度(例えば \(\theta\) がとても小さい場合)を想像します。水平な力は斜面方向(ほぼ水平)成分が大きく(\(\cos \theta\))、斜面垂直成分が小さい(\(\sin \theta\))はずです。
- 慣性系と非慣性系の混同:
- 誤解: 地上から見ているのに慣性力を足してしまったり、台から見ているのに慣性力を忘れたりする。
- 対策: 「誰が見ているか」を宣言してから立式します。「台の上の人から見ると…」と心の中で唱えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(2)(3)での公式選択(慣性力を用いた力のつりあい):
- 選定理由: 三角柱上の物体Pは、三角柱に対して「静止」しています(問(2)は相対静止、問(3)は浮く寸前の相対静止)。相対的に静止している場合、その系(非慣性系)で力のつりあいを立てるのが最も計算が簡単です。
- 適用根拠: 慣性力を導入すれば、静止している物体と同様に \((\text{力の総和})=0\) が成り立ちます。
- 問(4)での公式選択(等加速度直線運動の公式 vs エネルギー保存則):
- 選定理由: 「速さ」を求める問題なので、エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)も有効ですが、ここでは加速度が一定(力一定)であることが明白なので、等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が最短ルートです。
- 適用根拠: 働く力(重力、慣性力)が一定なので、加速度も一定になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の確認:
- \(\tan \theta = \frac{\sin \theta}{\cos \theta}\) などの変形を頻繁に行うため、途中式を丁寧に書きます。特に分母分子の取り違えに注意。
- 次元確認:
- 加速度 \(\alpha, \beta\) の答えには \(g\)(加速度の次元)が含まれ、係数は無次元(三角関数)になっているはずです。\(g \tan \theta\) はOKですが、\(g / m\) などになっていたら質量が消えておらず間違いです。
- 極限チェック:
- \(\theta \to 0\)(水平)のとき、問(2)の \(\alpha = g \tan 0 = 0\) となり、加速しなくても張力は0(そもそも張力不要)となるので妥当です。
- \(\theta \to 90^\circ\)(垂直)のとき、問(3)の \(\beta = g / \tan 90^\circ = 0\) となり、垂直な壁なら加速しなくても垂直抗力は0(接触しない)となるので妥当です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題38 (金沢大+お茶の水女子大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 重心のまわりのモーメントのつりあいを用いた解法
- 模範解答が回転軸(点C)まわりのモーメントで解くのに対し、別解では重心まわりのモーメントのつりあいを考えます。
- 設問(3)の別解: 慣性系(地上)からの回転運動方程式を用いた解法
- 模範解答が非慣性系(台と共に動く観測者)からの力のモーメントのつりあいで解くのに対し、別解では地上から見た回転運動方程式を立てて解きます。
- 設問(1)の別解: 重心のまわりのモーメントのつりあいを用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 重心まわりのモーメント: 回転軸の選び方は任意であることを理解し、計算しやすい軸を選ぶセンスを養います。
- 回転運動方程式: 「傾き始める」という現象を、静力学的な「つりあい」だけでなく、動力学的な「回転の開始」として捉えることで、物理現象のより深い理解につながります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつりあいと転倒条件」です。力が働く物体の「滑り出し」と「転倒(傾き始め)」の境界条件を見極める力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 物体が並進運動を始めないための条件(右向きの力=左向きの力、上向きの力=下向きの力)。
- 力のモーメントのつりあい: 物体が回転運動を始めないための条件(時計回りのモーメントの和=反時計回りのモーメントの和)。
- 転倒条件: 物体が傾き始める瞬間、垂直抗力の作用点は支持面の端(回転軸となる点)に移動します。
- 慣性力: 加速する台の上で考える場合、慣性力を導入することで静力学の問題として扱えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)は静止した台の上での問題なので、通常の力のつりあいとモーメントのつりあいを連立させます。
- (3)(4)は加速する台の上での問題なので、慣性力を導入し、同様につりあいの式を立てます。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?