問題16 (富山大 + 横浜国大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、斜面上の物体Pと、滑車を介して糸でつながれた物体Qの運動を扱います。前半(1)では、PとQが静止している状態での力のつり合いと静止摩擦力の条件から、Qの質量\(M\)の取りうる範囲を求めます。後半(2)では、特定の質量\(M\)でQを静かに放した後の、Qの落下運動とPの斜面上の運動、さらにQが床に達した後のPの運動について、加速度、速度、移動距離、時間などを計算します。静止摩擦と動摩擦の区別、および運動のフェーズに応じた力の分析が鍵となります。
- 物体P: 質量 \(m\)、斜面上(水平に対し \(30^\circ\))
- 物体Q: 質量 \(M\)、鉛直に吊るされている
- Pと斜面間の静止摩擦係数: \(\mu_{\text{静止}} = \frac{1}{3}\)
- Pと斜面間の動摩擦係数: \(\mu_{\text{動摩擦}} = \frac{1}{2\sqrt{3}}\)
- 滑車: 滑らか、質量は無視できる
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (2) Qの初期の床からの高さ: \(h\)
- (2) Qの質量: \(M = \frac{3}{2}m\)
- Pが滑車に衝突することはない。
- PとQが静止しているための \(M\) の範囲 (\(m\) を用いて表す)。
- \(M=\frac{3}{2}m\) として静かにQを放した場合:
- Qの加速度の大きさ \(a\)、Qが床に達するときの速さ \(v\)。
- Pが動き始めてから(Qが床に達した後、さらにPが斜面を滑って)最高点に達して止まるまでに移動した総距離 \(l\) と、そこまでにかかった総時間 \(t\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、まず物体Pと物体Qそれぞれに働く力を正確に図示し、静止している場合は力のつり合いを、運動している場合は運動方程式を立てる必要があります。摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力)の扱いや、運動のフェーズが変わる点(Qが床に達する)での条件変化に注意することが重要です。
問1
思考の道筋とポイント
PとQが静止しているためには、物体Pが斜面上で滑り出さないことが条件です。Pが滑り出す可能性としては、斜面下向きと斜面おきの2つの方向が考えられます。それぞれの限界状態(滑り出す直前)で、Pに働く静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(\mu_{\text{静止}} N\) となりますが、その向きが異なります。この2つの限界状態に対応するQの質量 \(M\) を求めることで、静止できる \(M\) の範囲を決定します。
この設問における重要なポイント
- 物体Pが滑り出す限界の状況を2パターン(斜面下向き、斜面おき)考えること。
- 各限界状態で、静止摩擦力が最大値 \(\mu_{\text{静止}} N\) となり、その向きが滑りを妨げる方向になることを理解する。
- 物体Pに働く力の斜面方向のつり合いと、物体Qの力のつり合い(糸の張力 \(T=Mg\))を連立させる。
- Pにはたらく垂直抗力 \(N\) は \(mg\cos 30^\circ\) である。
具体的な解説と立式
物体Pに働く斜面に垂直な方向の力のつり合いより、垂直抗力 \(N\) は、
$$ N = mg \cos 30^\circ = mg \frac{\sqrt{3}}{2} $$
最大静止摩擦力 \(F_{\text{最大静止摩擦}}\) は、
$$ F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_{\text{静止}} N = \frac{1}{3} \cdot mg \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{6}mg $$
物体Qの力のつり合いより、糸の張力 \(T\) は \(T=Mg\)。
ケース1: Pが斜面下向きに滑り出す直前 (Qの質量が最小 \(M_1\))
このとき、静止摩擦力は斜面おきに \(F_{\text{最大静止摩擦}}\) 働きます。
Pの斜面方向の力のつり合い(上向きを正):
$$ T_1 – mg \sin 30^\circ + F_{\text{最大静止摩擦}} = 0 $$
$$ M_1 g – mg \cdot \frac{1}{2} + \frac{\sqrt{3}}{6}mg = 0 $$
ケース2: Pが斜面おきに滑り出す直前 (Qの質量が最大 \(M_2\))
このとき、静止摩擦力は斜面下向きに \(F_{\text{最大静止摩擦}}\) 働きます。
Pの斜面方向の力のつり合い(上向きを正):
$$ T_2 – mg \sin 30^\circ – F_{\text{最大静止摩擦}} = 0 $$
$$ M_2 g – mg \cdot \frac{1}{2} – \frac{\sqrt{3}}{6}mg = 0 $$
使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F = 0\)
最大静止摩擦力: \(F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_{\text{静止}} N\)
力の分解、三角比
ケース1より \(M_1\):
$$ M_1 g = mg \left(\frac{1}{2} – \frac{\sqrt{3}}{6}\right) $$
$$ M_1 = m \left(\frac{3-\sqrt{3}}{6}\right) = \frac{3-\sqrt{3}}{6}m $$
ケース2より \(M_2\):
$$ M_2 g = mg \left(\frac{1}{2} + \frac{\sqrt{3}}{6}\right) $$
$$ M_2 = m \left(\frac{3+\sqrt{3}}{6}\right) = \frac{3+\sqrt{3}}{6}m $$
したがって、PとQが静止しているための \(M\) の範囲は、\(M_1 \le M \le M_2\) です。
物体Pが斜面でじっとしているためには、Pを滑らせようとする力が、Pと斜面の間の静止摩擦力で支えられる必要があります。Pが下に滑りそうになるギリギリの状態(このときQの重さ \(M\) は一番小さい)と、Pが上に滑りそうになるギリギリの状態(このときQの重さ \(M\) は一番大きい)を考えます。それぞれの状態で力の釣り合いの式を立てることで、\(M\) の最小値と最大値が求まり、その間がPとQが静止できる \(M\) の範囲となります。
PとQが静止しているための \(M\) の範囲は \(\displaystyle \frac{3-\sqrt{3}}{6}m \le M \le \frac{3+\sqrt{3}}{6}m\) です。
\(\sqrt{3} \approx 1.732\) なので、数値的にはおよそ \(0.211m \le M \le 0.789m\) となります。この範囲外の \(M\) の値では、Pは静止摩擦力の限界を超えて滑り出すことになります。
問2 (ア)
思考の道筋とポイント
\(M = \frac{3}{2}m = 1.5m\) は、問(1)で求めた静止範囲の上限(約 \(0.789m\))よりも大きいため、Qは下がり、Pは斜面を上がります。このとき、PとQは同じ大きさの加速度 \(a\) で運動し、Pと斜面の間には動摩擦力が働きます(Pが上がるので動摩擦力は斜面下向き)。PとQそれぞれについて運動方程式を立て、連立して加速度 \(a\) を求めます。その後、Qが距離 \(h\) 落下したときの速さ \(v\) を等加速度直線運動の公式から求めます。
この設問における重要なポイント
- 与えられた \(M\) の値が静止範囲外であることを確認し、運動の向きを判断する(Qが下降、Pが上昇)。
- 運動中の物体Pには動摩擦力が働く。その向きはPの運動方向(斜面おき)と逆(斜面下向き)。
- 物体Pと物体Qは糸で繋がれているため、加速度の大きさは共通である。
- 各物体の運動方程式を立て、連立して加速度と張力を求める。
具体的な解説と立式
Qが下がる加速度の大きさを \(a\)、このときの糸の張力を \(T\) とします。Pも同じ大きさ \(a\) で斜面を上がります。
Pの斜面に垂直な方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) は、
$$ N = mg \cos 30^\circ = mg \frac{\sqrt{3}}{2} $$
Pに働く動摩擦力 \(F_{\text{動摩擦}}\) の大きさは、
$$ F_{\text{動摩擦}} = \mu_{\text{動摩擦}} N = \frac{1}{2\sqrt{3}} \cdot mg \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{1}{4}mg $$
物体P(質量 \(m\))の運動方程式(斜面おきを正):
$$ ma = T – mg \sin 30^\circ – F_{\text{動摩擦}} $$
$$ ma = T – mg \cdot \frac{1}{2} – \frac{1}{4}mg = T – \frac{3}{4}mg \quad \cdots ① $$
物体Q(質量 \(M=\frac{3}{2}m\))の運動方程式(鉛直下向きを正):
$$ Ma = Mg – T $$
$$ \frac{3}{2}ma = \frac{3}{2}mg – T \quad \cdots ② $$
Qが床に達するときの速さ \(v\) は、初速 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(a\)、距離 \(h\) なので、\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ah\) より求めます。
使用した物理公式
運動方程式: \(ma = F\)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu_{\text{動摩擦}} N\)
力の分解、三角比
等加速度直線運動: \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\)
加速度 \(a\) の計算:
① + ② より、
$$ ma + \frac{3}{2}ma = \left(T – \frac{3}{4}mg\right) + \left(\frac{3}{2}mg – T\right) $$
$$ \frac{5}{2}ma = \left(-\frac{3}{4} + \frac{6}{4}\right)mg = \frac{3}{4}mg $$
$$ a = \frac{3}{4}mg \cdot \frac{2}{5m} = \frac{3}{10}g $$
速さ \(v\) の計算:
$$ v^2 = 2ah = 2 \cdot \left(\frac{3}{10}g\right) \cdot h = \frac{3}{5}gh $$
$$ v = \sqrt{\frac{3}{5}gh} $$
(加速度) Qの重さがPを上に引き上げる力よりも大きいので、Qは下に、Pは斜面を上に動き出します。このとき、Pには動摩擦力が運動と反対向き(斜面下向き)に働きます。PとQは糸で繋がれているので、同じ大きさの加速度で運動します。それぞれの物体について運動の法則(質量×加速度=合力)の式を立て、それらを組み合わせることで加速度 \(a\) が求まります。
(速さ) Qが高さ \(h\) だけ落下するときの速さ \(v\) は、初めの速さが0で、上で求めた一定の加速度で運動した場合の速さを、運動の公式 \(v^2 = 2ah\) から計算します。
Qの加速度の大きさ \(a = \displaystyle\frac{3}{10}g\)、Qが床に達するときの速さ \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{3}{5}gh}\) です。加速度は重力加速度 \(g\) よりも小さく、これは物体Pの質量や摩擦力の影響によるものです。速さは落下距離 \(h\) が大きいほど、また加速度 \(a\) が大きいほど大きくなります。
問2 (イ)
思考の道筋とポイント
この設問は2つのフェーズに分けて考えます。
フェーズ1: Qが床に達するまでの運動。このときPは斜面を \(h\) だけ上がります。かかる時間を \(t_1\) とします。
フェーズ2: Qが床に達した後、Pが単独で斜面を上がり、最高点に達して止まるまでの運動。このときの初速度はフェーズ1の終わりの速さ \(v\) です。Pには重力の斜面成分と動摩擦力が働き減速します。このときの移動距離を \(x\)、時間を \(t_2\) とします。
最終的に求める総移動距離 \(l = h+x\)、総時間 \(t = t_1+t_2\) です。
この設問における重要なポイント
- 運動を2つのフェーズ(Qが床に達するまで、Qが床に達した後Pが止まるまで)に明確に分けて考えること。
- フェーズ1では、PはQと共に加速度 \(a\) で運動し、移動距離は \(h\)。
- フェーズ2では、Pは糸の張力を受けなくなり、初速 \(v\) で動摩擦力と重力の斜面成分によって減速する。このときの新しい加速度 \(a’\) を求める必要がある。
- 各フェーズでの移動距離と時間をそれぞれ計算し、最後に合計する。
具体的な解説と立式
フェーズ1: Qが床に達するまで
Pの上昇距離 \(s_1 = h\)。加速度 \(a = \frac{3}{10}g\)。初速 \(v_{\text{初}}=0\)。
時間 \(t_1\) は、\(h = \frac{1}{2}at_1^2\) より、(\(s = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) から \(v_{\text{初}}=0\))
$$ t_1 = \sqrt{\frac{2h}{a}} = \sqrt{\frac{2h}{\frac{3}{10}g}} = \sqrt{\frac{20h}{3g}} = 2\sqrt{\frac{5h}{3g}} $$
このときのPの速さが \(v = \sqrt{\frac{3}{5}gh}\) です。
フェーズ2: Qが床に達した後、Pが止まるまで
Pの初速は \(v_P = v = \sqrt{\frac{3}{5}gh}\)。
Pに働く力(斜面おきを正とする):
重力の斜面下向き成分: \(-mg \sin 30^\circ = -\frac{1}{2}mg\)
動摩擦力(Pは斜面を上がるので斜面下向き): \(-F_{\text{動摩擦}} = -\frac{1}{4}mg\)
Pの運動方程式 \(ma’ = F_{\text{合力}}\):
$$ ma’ = -mg \sin 30^\circ – F_{\text{動摩擦}} = -\frac{1}{2}mg – \frac{1}{4}mg = -\frac{3}{4}mg $$
$$ a’ = -\frac{3}{4}g $$
Pが止まる(終端速度 \(0\))までに進む距離を \(x\) とすると、\(0^2 – v_P^2 = 2a’x\) より、
$$ x = \frac{-v_P^2}{2a’} $$
Pが止まるまでの時間を \(t_2\) とすると、\(0 = v_P + a’t_2\) より、
$$ t_2 = \frac{-v_P}{a’} $$
使用した物理公式
等加速度直線運動: \(s = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\), \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\), \(v = v_{\text{初}} + at\)
運動方程式: \(ma = F\)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu_{\text{動摩擦}} N\)
フェーズ2の距離 \(x\):
$$ x = \frac{-\left(\frac{3}{5}gh\right)}{2\left(-\frac{3}{4}g\right)} = \frac{\frac{3}{5}h}{\frac{3}{2}} = \frac{3}{5}h \cdot \frac{2}{3} = \frac{2}{5}h $$
フェーズ2の時間 \(t_2\):
$$ t_2 = \frac{-\sqrt{\frac{3}{5}gh}}{-\frac{3}{4}g} = \frac{4}{3g}\sqrt{\frac{3gh}{5}} = \frac{4}{3}\sqrt{\frac{3h}{5g}} = 4\sqrt{\frac{h}{15g}} $$
総移動距離 \(l\):
$$ l = s_1 + x = h + \frac{2}{5}h = \frac{5h+2h}{5} = \frac{7}{5}h $$
総時間 \(t\):
$$ t = t_1 + t_2 = 2\sqrt{\frac{5h}{3g}} + 4\sqrt{\frac{h}{15g}} = 2\sqrt{\frac{25h}{15g}} + 4\sqrt{\frac{h}{15g}} $$
$$ t = 2 \cdot 5 \sqrt{\frac{h}{15g}} + 4\sqrt{\frac{h}{15g}} = 10\sqrt{\frac{h}{15g}} + 4\sqrt{\frac{h}{15g}} = 14\sqrt{\frac{h}{15g}} $$
Pの運動は2段階に分かれます。
第1段階は、Qが床に落ちるまでです。この間、PはQと一緒に加速しながら斜面を \(h\) だけ上がります。このときにかかる時間を \(t_1\) とします。
第2段階は、Qが床に落ちた後です。糸の力がなくなり、Pは第1段階の最後に持っていた速さで、今度は摩擦力と重力の一部で減速しながらさらに斜面を上がって止まります。この間に進む距離を \(x\)、かかる時間を \(t_2\) とします。
Pが動き始めてから止まるまでの総移動距離は \(h+x\)、総時間は \(t_1+t_2\) となります。
Pが動き始めてから止まるまでに移動した総距離 \(l = \displaystyle\frac{7}{5}h\)、かかった総時間 \(t = 14\sqrt{\displaystyle\frac{h}{15g}}\) です。
Qが床に達した後もPはそれまでに得た速さでさらに斜面を少し登り、最終的に止まります。総移動距離が \(h\) より大きいこと、総時間が各区間の時間の和であることは理にかなっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いと運動方程式: 静止時は力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\))、運動時は運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\))。これらを問題の状況に応じて的確に使い分けることが基本です。
- 摩擦力の正しい理解と扱い:
- 静止摩擦力: 滑り出すのを防ぐ力。大きさは外力に応じて変化し、最大値は \(\mu_{\text{静止}} N\)。向きは滑りを妨げる向き。問(1)の限界条件で重要。
- 動摩擦力: 運動中に働く力。大きさは \(\mu_{\text{動摩擦}} N\)。向きは常に運動方向と逆。問(2)のPの運動で重要。
- 垂直抗力の決定: 摩擦力は垂直抗力に比例するため、垂直抗力 \(N\) を各状況で正しく求めることが不可欠です(斜面では \(N=mg\cos\theta\))。
- 連結された物体の運動: 糸で繋がれた物体は、糸がたるまない限り同じ大きさの加速度で運動します。
- 運動のフェーズ分け: 問(2イ)のように、途中で条件が変わる(Qが床に達する)場合、運動を複数のフェーズに分けて、それぞれのフェーズで物理法則を適用する必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 滑車と糸で連結され、摩擦が働く複数の物体の運動。
- 途中で糸が切れたり、物体が床や壁に到達したりして運動の条件が変化する問題。
- 静止摩擦の限界条件から質量や角度の範囲を求める問題。
- 初見の問題への着眼点:
- 各物体の力の図示の徹底: これが全ての基本。重力、垂直抗力、張力、摩擦力を「もれなく」「向きを正しく」描き出す。
- 静止か運動かの判断: 問題文から、対象が静止しているのか、運動しているのかを把握し、適用する法則を決める。
- 摩擦の種類の判断: 静止摩擦なのか動摩擦なのか。静止摩擦なら限界状態(滑り出す直前)なのかどうかも考慮する。
- 運動の方向と加速度の仮定: どちら向きに動き出すか(あるいは滑り出すか)を予測し、加速度や摩擦力の向きを仮定する。結果が負になれば仮定と逆だったと分かる。
- 条件変化点での接続: 運動のフェーズが変わる点では、その瞬間の速度などの物理量が次のフェーズの初期条件となる。
- ヒント・注意点:
- 複雑な問題ほど、情報を整理し、一つ一つの物体、一つ一つの力に注目して丁寧に式を立てることが重要です。
- 加速度や張力など、共通の未知数を設定して連立方程式で解くことが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静止摩擦力と動摩擦力の混同: 係数 (\(\mu_{\text{静止}}, \mu_{\text{動摩擦}}\)) も性質も異なります。動いているときは常に動摩擦係数を使います。
- 摩擦力の向きの間違い: 動摩擦力は「運動方向と逆」。静止摩擦力は「滑り出そうとする方向と逆」。問(1)ではPがどちらに滑りそうかで静止摩擦力の向きが変わります。
- 垂直抗力 \(N\) の計算ミス: 必ず面に垂直な方向の力のつり合い(または運動方程式)から求めます。斜面では \(N=mg\cos\theta\)。
- 糸の張力 \(T\) の扱い: Qが床に達した後、糸がたるむ(またはPへの影響がなくなる)ことを見落とすと、Pのその後の運動解析を誤ります。
- 加速度の符号と向き: 設定した座標軸の正の向きに対し、実際の運動や力の向きを考慮して符号を正しく扱うこと。
対策: 摩擦が関わる多様な問題に触れ、特に力の図示と摩擦力の向きの判断を重点的に練習する。条件が変化する問題では、各段階を区切って考える習慣をつける。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 有効な図:
- 問(1)の静止限界時: Pが下に滑る寸前(静止摩擦力は上向き)と、Pが上に滑る寸前(静止摩擦力は下向き)のそれぞれの力の図。Qの力の図も併せて。
- 問(2ア)の運動中: Pに働く力(張力、重力斜面成分、動摩擦力)と加速度の向き、Qに働く力(重力、張力)と加速度の向きをそれぞれ示した図。
- 問(2イ)のQ床到達後: P単独の運動。初速の向き、働く力(重力斜面成分、動摩擦力)、減速する加速度の向きを示した図。
- 図を描く際の注意点: 各物体についてフリーボディダイアグラムを描く。力のベクトルは作用点から正しい向きに。摩擦力の向きは運動(または滑り出そうとする動き)と反対向きであることを常に確認。加速度の向きも図中に示すとよい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い (\(\sum F=0\)): 問(1)でPとQが「静止している」と明記されているため。
- 最大静止摩擦力 (\(F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_{\text{静止}} N\)): 問(1)で「滑り出す直前」という限界状態を考えるため。
- 運動方程式 (\(ma=F_{\text{合力}}\)): 問(2)でPとQが「動き出した」(加速度運動している)と記述されているため。
- 動摩擦力 (\(F_{\text{動摩擦}} = \mu_{\text{動摩擦}} N\)): 問(2)でPが斜面を「運動している」ため。
- 等加速度直線運動の公式群: 加速度が一定であるという条件下で、運動の様子を記述する運動学的関係式。
これらの公式は、問題文が示す物理的状況(静止、運動の開始、運動中、限界状態など)と、何を求めたいか(力の大きさ、加速度、距離、時間など)に応じて選択されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問(1) 静止範囲の決定:
- Pが下に滑る限界条件で力のつり合い \(\rightarrow M_{min}\) 導出。
- Pが上に滑る限界条件で力のつり合い \(\rightarrow M_{max}\) 導出。
- 問(2ア) Q床到達までの運動:
- PとQそれぞれの運動方程式を立式し連立 \(\rightarrow\) 加速度 \(a\) と張力 \(T\) を求める。
- 等加速度運動の公式 (\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\)) \(\rightarrow\) 速さ \(v\) を求める。
- 問(2イ) Q床到達後Pが止まるまでの運動、および全体の運動:
- Q床到達までの時間 \(t_1\) を計算 (\(s = \frac{1}{2}at^2\))。Pの上昇距離は \(h\)。
- Q床到達後、P単独の運動方程式(張力なし、動摩擦あり)を立式 \(\rightarrow\) 新しい加速度 \(a’\) を求める。
- 等加速度運動の公式 (\(v_{\text{終}} = v_{\text{初}} + a’t\), \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2a’s\)) \(\rightarrow\) Pが止まるまでの追加の移動距離 \(x\) と時間 \(t_2\) を求める。
- 総移動距離 \(l = h+x\)、総時間 \(t = t_1+t_2\) を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の整合性: 問題文に具体的な単位はないが、計算の各ステップで次元(物理量としての種類)が合っているか意識する。
- 数値代入の正確性: 静止摩擦係数 \(1/3\)、動摩擦係数 \(1/(2\sqrt{3})\)、\(\sin 30^\circ = 1/2\)、\(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\) などの値を、文字式に正確に代入する。
- 平方根や分数の計算: ルートの中を簡単にする、分母を有理化する(必要に応じて)、通分や約分を行うなどの計算を正確に行う。特に \(t\) の計算ではルートが複雑になるので注意。
- 符号の管理: 力の向き、加速度の向きを、設定した座標軸の正方向と照らし合わせ、慎重に符号を決定する。特に摩擦力や重力の斜面成分の向きに注意。
日頃の練習: 複数の物体が関わり、かつ摩擦が働くような複雑な問題では、各物体にかかる力を一つ一つ丁寧に図示し、それぞれの物体について運動方程式(またはつり合いの式)を立てる訓練を積むことが重要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性:
- \(M\) の範囲 (問1): 上限値 \(M_{max}\) と下限値 \(M_{min}\) が存在し、その間なら静止できること、また \(M_{max} > M_{min}\) であることを確認。
- 加速度 \(a\) (問2ア): 重力加速度 \(g\) よりも小さい値になるはず。\(M\) と \(m\) の比率や摩擦係数の影響を考慮した形になっているか。
- 速さ \(v\) (問2ア): 落下距離 \(h\) が大きいほど、また加速度 \(a\) が大きいほど速くなるはず。
- 総移動距離 \(l\) (問2イ): Pが最初に上昇した距離 \(h\) よりも大きくなるはず(Qが床に達した後もPは運動を続けるため)。
- 総時間 \(t\) (問2イ): 各区間の時間の和であり、各時間が正の値であること。
- 単位・次元の確認: 加速度は[L T\(^{-2}\)]、速さは[L T\(^{-1}\)]、距離は[L]、時間は[T]、摩擦係数は無次元、質量は[M]の次元を持つことを確認。
- 極端な条件での考察:
- もし摩擦が非常に大きい(\(\mu_{\text{静止}}, \mu_{\text{動摩擦}} \rightarrow \infty\))と仮定すると、(1)のMの静止範囲は非常に広くなり、(2)の加速度は非常に小さくなる(または動かない)といった極端な状況を想定し、式がそのような振る舞いを示すか確認する。
- もし斜面が滑らか(\(\mu_{\text{静止}} = \mu_{\text{動摩擦}} = 0\))であると仮定すると、(1)の静止範囲は一点(\(M = m\sin 30^\circ = m/2\))のみになり、(2)の加速度は摩擦がない場合の値に近づくはず。
これらの吟味を行うことで、解答の信頼性を高めるだけでなく、物理現象に対するより深い理解と洞察を得ることができます。
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問題17 (信州大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、気球とそれに吊るされた物体の運動に関するもので、力のつり合い、浮力、そして糸が切断された後の各物体の運動(鉛直投げ上げや加速運動)を扱います。空気抵抗や物体Aの浮力は無視するという条件のもと、各問いに答えていきます。
- 気球B: 質量 \(M\) (内部の気体も含む)
- 小物体A: 質量 \(m\)
- 糸: 質量無視できる
- 初期状態: AとBは一体となって一定の速さ \(v\) で上昇
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 空気の抵抗: 無視できる
- 小物体Aにはたらく浮力: 無視できる
- (問2) 外部の空気の密度: \(\rho\)
- (問3以降) 物体Aが地面から \(h\) の高さになったとき、糸を切断
- 糸の張力 \(T\)
- 気球Bにはたらく浮力 \(F\)、および気球の体積 \(V\)
- 糸切断後、Aが地面に到達するまでに要する時間 \(t_0\)
- 糸切断後、気球がさらに \(h\) だけ上がったときの気球の速さ \(v_1\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、まず物体や気球に働く力を正確に図示し、状況に応じて力のつり合いの式または運動方程式を立てることが基本となります。浮力の公式や等加速度直線運動の公式も適切に用いる必要があります。
問1
思考の道筋とポイント
小物体Aは、気球Bとともに一定の速さ \(v\) で上昇しています。この「一定の速さ」という記述は、物体A(および気球B)が等速直線運動をしていることを意味し、したがって加速度はゼロです。ニュートンの第一法則(または運動方程式で加速度 \(a=0\) とした場合)により、物体Aに働く力の合力はゼロとなります。
この設問における重要なポイント
- 「一定の速さで上昇」という条件から、物体Aに働く力は釣り合っていると判断すること。
- 物体Aに働く力は、鉛直上向きの糸の張力 \(T\) と鉛直下向きの重力 \(mg\) のみである(問題文よりAの浮力は無視)。
具体的な解説と立式
小物体Aに働く力は、鉛直上向きの糸の張力 \(T\) と、鉛直下向きの重力 \(mg\) です。
物体Aは一定の速さで上昇しているので、力のつり合いが成り立ちます。
鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$ T – mg = 0 $$
使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F = 0\) (等速直線運動のため)
上記の力のつり合いの式から、糸の張力 \(T\) は、
$$ T = mg $$
小物体Aは一定の速さで上に動いています。これは、Aに働いている力がちょうど釣り合っている状態だということです。Aには、糸が上に引く力(張力 \(T\))と、地球が下に引く力(重力 \(mg\))が働いています。これらの力が釣り合っているので、張力 \(T\) の大きさはAの重さ \(mg\) と等しくなります。
糸の張力 \(T\) は \(mg\) です。物体が等速直線運動をしている場合、その物体に働く力の合力はゼロになるという、ニュートンの運動法則の基本に立ち返れば理解できます。
問2
思考の道筋とポイント
気球Bも小物体Aと同様に一定の速さ \(v\) で上昇しているため、気球Bに働く力も釣り合っています。気球Bに働く力は、鉛直上向きの浮力 \(F\)、鉛直下向きの気球自身の重力 \(Mg\)、そして鉛直下向きに糸から受ける張力 \(T\) です。これらの力のつり合いから浮力 \(F\) を求め、次に浮力の公式 \(F = \rho Vg\) を用いて気球の体積 \(V\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 気球Bも等速直線運動をしているため、力が釣り合っていると判断すること。
- 気球Bに働く力を全て(浮力、重力、張力)図示し、力のつり合いの式を立てること。張力 \(T\) は問(1)の結果を利用する。
- 浮力の公式 \(F = \rho Vg\) を理解し、正しく適用すること。
具体的な解説と立式
気球Bに働く力は、鉛直上向きの浮力 \(F\)、鉛直下向きの重力 \(Mg\)、鉛直下向きの糸の張力 \(T\) です。
気球Bは一定の速さで上昇しているので、力のつり合いが成り立ちます。
鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$ F – Mg – T = 0 $$
問(1)より \(T=mg\) なので、
$$ F – Mg – mg = 0 $$
ここから浮力 \(F\) が求まります。
次に、浮力の公式 \(F = \rho Vg\) より、体積 \(V\) は、
$$ V = \frac{F}{\rho g} $$
使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F = 0\)
浮力の公式: \(F = \rho Vg\)
浮力 \(F\) の計算:
$$ F = Mg + T $$
$$ F = Mg + mg = (M+m)g $$
体積 \(V\) の計算:
$$ V = \frac{(M+m)g}{\rho g} $$
\(g \neq 0\) なので \(g\) を消去して、
$$ V = \frac{M+m}{\rho} $$
(浮力) 気球Bも一定の速さで上に動いているので、Bに働いている力は釣り合っています。Bには、(a)空気がBを上に押し上げる力(浮力 \(F\))、(b)地球がBを下に引く力(Bの重さ \(Mg\))、(c)糸がBを下に引く力(張力 \(T\)、これはAの重さ \(mg\) に等しい)が働いています。これらの力が釣り合っているので、「浮力 \(F\) = Bの重さ \(Mg\) + 張力 \(T\)」となります。
(体積) 浮力の大きさは、「まわりの空気の密度 \(\rho \times\) 気球の体積 \(V \times\) 重力加速度 \(g\)」という公式で表されます。上で求めた浮力 \(F\) とこの公式を等しいとおくことで、気球の体積 \(V\) が計算できます。
気球Bにはたらく浮力 \(F = (M+m)g\)、気球の体積 \(V = \displaystyle\frac{M+m}{\rho}\) です。
浮力は、気球B自身の重力 \(Mg\) と、吊るしている小物体Aの重力 \(mg\) の合計、つまり気球と小物体Aを合わせた全体の重力と釣り合っていることがわかります。これは、系全体が等速上昇していることから妥当です。体積 \(V\) は、この浮力を生み出すために必要な気球の体積を示しています。
問3
思考の道筋とポイント
物体Aが地面から \(h\) の高さで糸を切断された瞬間、Aはそれまで気球と共に上昇していた速さ \(v\) を鉛直上向きに持っています。切断後は、Aは重力のみを受けて運動します。これは鉛直投げ上げ運動に相当します。地面に到達するまでの時間を求めるには、鉛直上向きを正として座標軸を設定し、変位が \(-h\) となる時刻を等加速度直線運動の公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 糸が切断された瞬間の物体Aの初速度(大きさと向き)を正しく把握すること。
- 切断後の物体Aには重力のみが働く(空気抵抗や浮力は無視)ため、鉛直投げ上げ運動となることを理解する。
- 座標軸の原点と正の向きを明確に設定し、変位、初速度、加速度の符号に注意して等加速度直線運動の公式を適用する。
- 時間が \(t_0 > 0\) となる物理的に意味のある解を選択する。
具体的な解説と立式
糸を切断した位置を原点(\(x=0\))、鉛直上向きを正とします。
物体Aの初期条件:
- 初速度: \(v_{\text{初}} = +v\)
- 加速度: \(a = -g\) (重力は鉛直下向きに働くため)
地面に到達するときのAの位置は \(x = -h\) です。
このときの時刻を \(t_0\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$ -h = v t_0 + \frac{1}{2}(-g)t_0^2 $$
$$ -h = vt_0 – \frac{1}{2}gt_0^2 $$
これを \(t_0\) についての2次方程式として整理します。
$$ \frac{1}{2}gt_0^2 – vt_0 – h = 0 $$
$$ gt_0^2 – 2vt_0 – 2h = 0 $$
使用した物理公式
等加速度直線運動(鉛直投げ上げ): \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)
2次方程式 \(gt_0^2 – 2vt_0 – 2h = 0\) を解の公式を用いて解きます。
$$ t_0 = \displaystyle\frac{-(-2v) \pm \sqrt{(-2v)^2 – 4(g)(-2h)}}{2(g)} $$
$$ t_0 = \displaystyle\frac{2v \pm \sqrt{4v^2 + 8gh}}{2g} $$
$$ t_0 = \displaystyle\frac{2v \pm \sqrt{4(v^2 + 2gh)}}{2g} $$
$$ t_0 = \displaystyle\frac{2v \pm 2\sqrt{v^2 + 2gh}}{2g} $$
$$ t_0 = \displaystyle\frac{v \pm \sqrt{v^2 + 2gh}}{g} $$
時間は正でなければならない (\(t_0 > 0\))。ここで、\(\sqrt{v^2 + 2gh}\) は \(v\) よりも大きい(\(h>0\) のため、\(v^2+2gh > v^2\)、よって \(\sqrt{v^2+2gh} > \sqrt{v^2} = |v|\)。\(v\) は速さなので \(v \ge 0\))。
したがって、分子が正となるためには、\(\pm\) のうち \(+\) を選択する必要があります。
$$ t_0 = \frac{v + \sqrt{v^2 + 2gh}}{g} $$
糸が切れたとき、物体Aは上向きに速さ \(v\) で運動しています。その後は重力だけを受けて、いったん上に上がり、やがて下に落ちて地面に到達します。これはボールを上に速さ \(v\) で投げ上げたのと同じ運動です(ただし、投げたスタート地点が地面から高さ \(h\) の場所)。地面に到達するまでの時間は、運動の公式(移動距離=初めの速さ×時間+1/2×加速度×時間の2乗)を使って計算できます。上向きを正とすると、加速度は下向きの重力加速度なので \(-g\)、地面までの移動距離は \(-h\) となります。これらの値を公式に入れて時間を求めると、時間の2次方程式が出てくるので、それを解きます。
Aが地面に到達するまでに要する時間 \(t_0 = \displaystyle\frac{v + \sqrt{v^2 + 2gh}}{g}\) です。
この式は、例えば \(h=0\)(地面で糸が切れる)とすると \(t_0 = (v+\sqrt{v^2})/g = (v+v)/g = 2v/g\) となり、これは初速 \(v\) の鉛直投げ上げが元の高さに戻ってくるまでの時間と一致します。また、\(v=0\)(静止時に切れる)なら、自由落下の時間 \(\sqrt{2h/g}\) となるか、などを確認する。
問4
思考の道筋とポイント
糸が切断された瞬間、気球Bの初速は鉛直上向きに \(v\) です。切断により、気球Bから下向きに作用していた糸の張力 \(T=mg\) がなくなります。気球Bに働く力は、鉛直上向きの浮力 \(F=(M+m)g\)(問2で求めた値、これは変化しないと仮定)と、鉛直下向きの気球自身の重力 \(Mg\) のみになります。これらの力の合力によって気球Bは加速上昇します。まず運動方程式から気球Bの加速度 \(\alpha\) を求め、次に等加速度直線運動の公式 \(v_f^2 – v_i^2 = 2as\) を用いて、さらに距離 \(h\) だけ上昇したときの速さ \(v_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 糸が切断されたことによる気球Bに働く力の変化(張力がなくなる)を正確に把握すること。
- 浮力 \(F\) は糸の切断後も変わらず \((M+m)g\) であると考える(気球の体積や空気の密度は変化しないため)。
- 変化後の力に基づいて新しい運動方程式を立て、気球の加速度 \(\alpha\) を求めること。
- 等加速度直線運動の公式を適用して、特定の距離上昇後の速度を計算すること。
具体的な解説と立式
糸切断後の気球B(質量 \(M\))の運動を考えます。鉛直上向きを正とします。
初速: \(v_{\text{初}} = v\)
働く力:
- 上向きの浮力: \(F = (M+m)g\) (問2の結果)
- 下向きの重力: \(Mg\)
気球Bの運動方程式 \(M\alpha = F_{\text{合力}}\) より、
$$ M\alpha = F – Mg $$
$$ M\alpha = (M+m)g – Mg $$
ここから加速度 \(\alpha\) が求まります。
気球がさらに \(h\) だけ上昇したときの速さを \(v_1\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v_f^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) より、
$$ v_1^2 – v^2 = 2\alpha h $$
使用した物理公式
運動方程式: \(ma = F\)
等加速度直線運動: \(v_f^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\)
加速度 \(\alpha\) の計算:
$$ M\alpha = (M+m)g – Mg = Mg + mg – Mg = mg $$
$$ \alpha = \frac{m}{M}g $$
速さ \(v_1\) の計算:
$$ v_1^2 – v^2 = 2\left(\frac{m}{M}g\right)h $$
$$ v_1^2 = v^2 + \frac{2mgh}{M} $$
$$ v_1 = \sqrt{v^2 + \frac{2mgh}{M}} $$
(速さなので正の平方根をとる)
糸が切れると、気球Bを下に引っ張っていた力(物体Aの重さ \(mg\) に相当する力)がなくなります。気球Bには依然として上向きの浮力と下向きのB自身の重さが働いていますが、下向きの力が減ったため、気球Bは上に加速していきます。このときの加速度をまず計算します(気球の質量×加速度=浮力-気球の重さ)。気球Bは糸が切れた瞬間の速さ \(v\) から、この新しい加速度でさらに距離 \(h\) だけ上昇します。そのときの速さ \(v_1\) を、運動の公式(速さの2乗の関係式 \(v_1^2 – v^2 = 2\alpha h\))を使って求めます。
糸が切断された後、気球がさらに \(h\) だけ上がったときの気球の速さ \(v_1 = \sqrt{v^2 + \displaystyle\frac{2mgh}{M}}\) です。
加速度 \(\alpha = \frac{m}{M}g\) は、切断された物体Aの質量 \(m\) が大きいほど、また気球Bの質量 \(M\) が小さいほど大きくなり、より急速に加速することを示しています。速さ \(v_1\) は、糸切断時の速さ \(v\) よりも大きくなっており(\(\frac{2mgh}{M} > 0\) のため)、加速上昇していることと整合します。もし \(m=0\)(最初からAを吊るしていない、またはAの質量が無視できる)なら、\(\alpha=0\) となり \(v_1=v\) で、気球は等速運動を続けることになり、これも物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\)): 等速直線運動をしている物体や静止している物体では、力の合力がゼロになります。問(1)の張力、問(2)の浮力の計算で適用しました。
- ニュートンの運動方程式 (\(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)): 加速度運動する物体について、質量、加速度、力の関係を記述します。問(3)の物体Aの落下運動、問(4)の気球Bの加速上昇運動の解析で中心となりました。
- 浮力 (\(F = \rho V g\)): 流体(この場合は空気)中の物体が受ける上向きの力です。気球の体積を求める際に用いられました。
- 鉛直投げ上げ/投げ下ろし運動の解析: 重力のみが働く鉛直方向の運動は、等加速度直線運動として扱えます。初速度の向きと加速度(重力加速度)の向きを考慮して公式を適用します。
- 条件変化に伴う力の変化: 糸が切断されることで、物体Aおよび気球Bに働く力が変化し、それぞれの運動状態が変わる点を正確に捉えることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 浮力が関わる気球や水中物体の運動問題。
- ロープや糸で連結された複数の物体が、途中で一部の連結が解かれる、あるいは外力が変化する問題。
- 等速運動の状態から、力の変化によって加速運動に移行する問題。
- 初見の問題への着眼点:
- 運動状態の把握: 各物体が「静止」「等速運動」「加速度運動」のどれに該当するかを、問題文の記述から正確に読み取る。
- 働く力の完全な図示: 各物体について、重力、張力、浮力、垂直抗力など、考えられる全ての力をベクトルとして図示する。力の向きが特に重要。
- 適切な物理法則の選択: 把握した運動状態に応じて、力のつり合いの式を立てるか、運動方程式を立てるかを判断する。
- 条件変化点での力の再評価: 糸が切れるなど、系の状況が変化する前後で、各物体に働く力がどのように変わるかを正確に分析する。
- ヒント・注意点:
- 鉛直方向の運動を扱う場合、座標軸の向き(上向きを正とするか、下向きを正とするか)を明確に定め、力、加速度、変位、速度の符号を一貫して扱うことが計算ミスを防ぐ上で非常に重要です。
- 浮力を計算する際は、周囲の流体の密度と、物体が排除している流体の体積を用いることを忘れずに。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 等速運動と力のつり合いの認識漏れ: 「一定の速さ」という記述を見逃し、運動方程式を立てようとしてしまう。正しくは力が釣り合っている(加速度ゼロ)状態です。
- 糸の張力の扱い: 問(1)での張力 \(T\) と、問(4)で気球にかかる張力(糸切断後はゼロになる)を混同しないこと。状況変化に伴い力も変化します。
- 浮力の働く対象と大きさ: 問題文で「気球Bにはたらく浮力」と指定されています。物体Aの浮力は無視。浮力の大きさは気球の体積と周囲の空気の密度で決まり、糸の切断によって直接変化するものではありません。
- 鉛直投げ上げの初速度と加速度の符号: 座標軸の取り方によりますが、例えば上向きを正とした場合、糸切断時のAの初速度は \(+v\)、重力加速度は \(-g\) となります。
- 気球の運動方程式の立式ミス: 糸が切れた後、気球に働くのは上向きの浮力と下向きの自身の重力のみです。張力はもはや作用しません。
対策: 様々な運動状態(静止、等速、加速)における力の扱いについて、基本に忠実に多くの問題を解いて習熟する。特に、浮力や条件変化が伴う問題では、その都度、丁寧に力を図示し直すことが有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 有効な図:
- (1)(2) 等速上昇時: 物体Aに働く力(張力上向き、重力下向き)の図と、気球Bに働く力(浮力上向き、Bの重力下向き、張力下向き)の図。
- (3) Aの落下運動時: 糸切断直後のAの初速度 \(v\)(上向き)と、その後は重力のみが働く様子を示した図。座標軸と変位 \(-h\) の関係も明示。
- (4) Bの加速上昇時: 糸切断直後のBの初速 \(v\)(上向き)と、働く力(浮力上向き、Bの重力下向き)、そして加速度 \(\alpha\)(上向き)を示した図。
- 図を描く際の注意点: 各物体についてフリーボディダイアグラムを描く。力のベクトルは作用点から正しい向きに。速度や加速度もベクトルなので、その向きを矢印で示す。座標軸を設定し、変位や力の成分の符号判断に役立てる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(T-mg=0\) (問1): 物体Aが「一定の速さ」で運動(等速直線運動)しているため、力のつり合いが成立。
- \(F-Mg-T=0\) (問2): 気球Bも「一定の速さ」で運動しているため、力のつり合いが成立。
- \(F=\rho Vg\) (問2): 浮力の大きさを定義する普遍的な公式。
- \(-h = vt_0 – \frac{1}{2}gt_0^2\) (問3): 物体Aが糸切断後、重力という一定の力を受けて運動する(鉛直投げ上げ)ため、等加速度直線運動の変位の公式を適用。(ここで\(v\)は初速 \(v_{\text{初}}\) の意味)
- \(M\alpha = F-Mg\) (問4): 気球Bが糸切断後、浮力と重力という一定の合力を受けて加速運動するため、運動方程式を適用。
- \(v_1^2 – v^2 = 2\alpha h\) (問4): 気球Bが一定の加速度 \(\alpha\) で運動するため、等加速度直線運動の速度と距離の関係式を適用。(ここで\(v\)は初速 \(v_{\text{初}}\) の意味)
これらの公式は、問題文が記述する物理的状況(等速運動、力のつり合い、加速度運動、鉛直投げ上げなど)と、何を求めたいか(力、体積、時間、速度など)に応じて論理的に選択されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問(1) & (2) 初期状態(等速上昇)の力の分析:
- 物体Aの力のつり合いから糸の張力 \(T\) を求める。
- 気球Bの力のつり合いから浮力 \(F\) を求める。
- 浮力の公式を用いて気球の体積 \(V\) を求める。
- 問(3) 糸切断後の物体Aの落下運動:
- 糸切断時のAの初速度と、その後働く力(重力のみ)を把握する。
- 等加速度直線運動の公式(変位と時間の関係式)を立て、地面に到達するまでの時間 \(t_0\) を求める(2次方程式の解)。
- 問(4) 糸切断後の気球Bの加速上昇:
- 糸切断時のBの初速度と、その後働く力(浮力とBの重力)を把握する。
- Bの運動方程式を立て、加速度 \(\alpha\) を求める。
- 等加速度直線運動の公式(速度と距離の関係式)を立て、さらに \(h\) 上昇したときの速さ \(v_1\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認と一貫性: 問題文で単位が具体的に示されていない場合でも、各物理量の次元を意識し、式の両辺で次元が一致しているかなどを確認する癖をつける。
- 符号の厳密な扱い: 特に鉛直方向の運動では、上向きを正とするか下向きを正とするかを明確に定め、変位、速度、加速度、力の各成分の符号を一貫して正しく扱う。
- 文字式の整理と代入の丁寧さ: 複数の文字(\(M, m, v, g, h, \rho\) など)が登場するため、式の変形や値の代入を慎重に行い、計算ミスを防ぐ。
- 平方根の計算と2次方程式の解の吟味: \(\sqrt{A+B} \neq \sqrt{A}+\sqrt{B}\) のような基本的な誤りをしない。2次方程式の解の公式を用いる場合、ルートの中が負にならないか、また物理的に意味のある解(例:時間が正)を選択する。
日頃の練習: フリーボディダイアグラム(物体に働く全ての力を図示したもの)を描く習慣を徹底し、各物体に働く力を正確に把握する。運動方程式と力のつり合いの式の使い分けを意識し、様々な運動状況で等加速度直線運動の公式を適用する練習を積む。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の確認:
- (1) 張力 \(T=mg\): 物体Aの重さを糸が支えている状況として妥当か。
- (2) 浮力 \(F=(M+m)g\): 気球と物体A全体の重さと浮力が釣り合って等速運動していると解釈でき、妥当か。体積 \(V\) の式も、全体の質量を空気密度で割る形になっているか。
- (3) 時間 \(t_0\): 例えば \(h=0\)(地面で糸が切れる)の場合、\(t_0 = (v+\sqrt{v^2})/g = 2v/g\) となり、初速 \(v\) の鉛直投げ上げが元の高さに戻る時間と一致するか。また \(v=0\)(静止時に切れる)なら、自由落下の時間 \(\sqrt{2h/g}\) となるか、などを確認する。
- (4) 速さ \(v_1\): 加速しているはずなので \(v_1 > v\) となっているか。もし \(m=0\)(吊るしていた物体の質量がゼロ)なら、気球は力を失わず \(\alpha=0\) となり \(v_1=v\)(等速を続ける)となるはずだが、式はそうなっているか。
- 単位・次元の一貫性確認:
- 張力 \(T\)、浮力 \(F\): 力の次元 (\(MLT^{-2}\)) を持つか。
- 体積 \(V\): 体積の次元 (\(L^3\)) を持つか。
- 時間 \(t_0\): 時間の次元 (\(T\)) を持つか。
- 速さ \(v_1\): 速度の次元 (\(LT^{-1}\)) を持つか。
各式がこれらの次元を満たしているかを確認する。
- 特殊な条件下での挙動考察: 例えば、物体Aの質量 \(m\) がゼロの場合、気球の質量 \(M\) がゼロの場合(物理的に意味がある範囲で)などを仮定し、得られた式が直感的に理解できる単純な結果に帰着するかどうかを検討する。
これらの吟味を行うことは、計算ミスを発見する手がかりになるだけでなく、物理現象とその数式表現に対するより深い理解を促します。
問題18 (岐阜大 + 東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、傾斜面上を滑り降りる物体の運動に、動摩擦力だけでなく速度に比例する空気抵抗力が働く状況を扱っています。まず一般的な運動方程式を立て、次に物体が等速度運動(終端速度)に達する条件を考えます。後半では、具体的な数値と実験データ(v-tグラフ)を用いて、動摩擦係数と空気抵抗の係数を決定します。
- 物体の質量: \(M\)
- 斜面の傾角: \(\theta\)
- Pと斜面間の動摩擦係数: \(\mu\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 空気抵抗力: \(kv\) (\(k\) は比例定数、\(v\) は物体の速さ)
- (問4,5の具体的な数値):
- \(M=2.0[\text{kg}]\)
- \(\theta=30^\circ\)
- \(g=10[\text{m/s}^2]\)
- 図2 (v-tグラフ):
- 時刻 \(t=0\) での接線の傾き(初加速度 \(a_0\))が \(3[\text{m/s}^2]\) と読み取れる。
- 終端速度(等速度運動になったときの速度)が \(4[\text{m/s}]\) と読み取れる。
- 運動中の物体に作用する力の名称とその向きを図示すること。
- 物体が速さ \(v\)、加速度 \(a\) で運動しているときの運動方程式。
- 等速度運動になった場合の速さ \(v\) を求める一般式。
- 動摩擦係数 \(\mu\) の値。
- 空気の抵抗力の係数 \(k\) の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くには、物体に働く全ての力(重力、垂直抗力、動摩擦力、空気抵抗力)を正確に把握し、運動方程式を立てることが基本です。また、等速度運動(終端速度)の状態や、v-tグラフから物理量を読み取る能力も問われます。
問1
思考の道筋とポイント
物体が斜面を滑り降りているときに作用する力を考えます。重力は常に鉛直下向き、垂直抗力は斜面から物体へ垂直に、動摩擦力と空気抵抗力は物体の運動方向(斜面下向き)と反対向き(斜面おき)に働きます。
この設問における重要なポイント
- 物体に働く力を漏れなくリストアップすること。
- 各力の作用する向きを正しく理解し、図示できること。特に、動摩擦力と空気抵抗力は運動を妨げる向きに働く。
具体的な解説と立式
運動中の物体に作用する力は以下の通りです。
- 重力 \(Mg\): 鉛直下向き。
- 垂直抗力 \(N\): 斜面から物体に対して垂直おき。
- 動摩擦力 \(\mu N\): 物体が斜面を滑り降りるのを妨げる向き、つまり斜面おき。
- 空気抵抗力 \(kv\): 物体が速さ \(v\) で運動するのを妨げる向き、つまり斜面おき。
(これらの力を図1に矢印で書き込む。模範解答の図を参照。)
使用した物理公式
力の種類とその性質の理解
物体が斜面を滑り降りるときにどんな力が働いているかを考え、それらを矢印で図に描き込みます。地球が物体を下に引く「重力」、斜面が物体を垂直に支える「垂直抗力」、斜面と物体の間で動きにくくする「動摩擦力」、そして空気が物体の動きを邪魔する「空気抵抗力」があります。
物体には重力、垂直抗力、動摩擦力、空気抵抗力の4つの力が作用します。これらの力の向きを正確に把握することが、続く運動方程式の立式の基礎となります。
問2
思考の道筋とポイント
物体が斜面を滑り降りる運動(斜面下向きを正とする)について、ニュートンの運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。そのためには、まず物体に働く力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解し、それぞれの方向の合力を考えます。
この設問における重要なポイント
- 物体に働く力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解すること(特に重力)。
- 斜面に垂直な方向の力のつり合いから垂直抗力 \(N\) を求めること。
- 動摩擦力 \(\mu N\) と空気抵抗力 \(kv\) が運動方向(斜面下向き)と逆向きに働くため、運動方程式では負の項として現れること。
- 運動方向を正として、各力の符号を正しく設定すること。
具体的な解説と立式
斜面下向きを正の向きとします。
まず、斜面に垂直な方向の力のつり合いを考えます。この方向には加速度がないので、力の合力はゼロです。
$$ N – Mg\cos\theta = 0 $$
よって、垂直抗力 \(N\) は、
$$ N = Mg\cos\theta $$
次に、斜面方向の運動方程式を立てます。斜面下向きに働く力は重力の斜面成分 \(Mg\sin\theta\) です。斜面おき(負の向き)に働く力は、動摩擦力 \(\mu N\) と空気抵抗力 \(kv\) です。
したがって、運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) は、
$$ Ma = Mg\sin\theta – \mu N – kv $$
ここに \(N = Mg\cos\theta\) を代入すると、
$$ Ma = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv $$
使用した物理公式
力の分解(重力)
力のつり合い(斜面垂直方向): \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\) (※斜面垂直方向の意味)
運動方程式(斜面方向): \(Ma = \sum F_{\text{斜面方向}}\)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)
空気抵抗力: \(F_{\text{空気抵抗}} = kv\)
物体が斜面を滑り降りるときの運動の勢い(質量 \(M \times\) 加速度 \(a\))は、物体を下に引っ張ろうとする力から、動きを邪魔する力を引いたものに等しくなります。下に引っ張ろうとするのは重力の一部(\(Mg\sin\theta\))です。動きを邪魔するのは、斜面との間の動摩擦力(\(\mu N\)、ここで \(N\) は垂直抗力 \(Mg\cos\theta\))と、空気の抵抗力(\(kv\))です。これらを一つの式にまとめたものが運動方程式です。
物体が速さ \(v\)、加速度 \(a\) で運動しているときの運動方程式は、\(Ma = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv\) です。この式は、物体を加速させる力(重力の斜面成分)と、減速させる力(動摩擦力と空気抵抗力)の関係を示しています。速さ \(v\) が大きくなるにつれて空気抵抗 \(kv\) が増大し、加速度 \(a\) が減少していく様子がこの式から読み取れます。
問3
思考の道筋とポイント
物体が等速度運動になった場合、加速度 \(a=0\) となります。このとき、物体に働く力の合力もゼロになります(力のつり合いが成立)。問(2)で立てた運動方程式において \(a=0\) とおき、そのときの速さ \(v\)(終端速度)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 「等速度運動」という条件から、加速度 \(a=0\) であることを理解する。
- 加速度 \(a=0\) のとき、運動方程式は力のつり合いの式と等価になる。
- 運動方程式に \(a=0\) を代入し、そのときの速さ \(v\) について解く。
具体的な解説と立式
問(2)で得られた運動方程式 \(Ma = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv\) において、等速度運動なので加速度 \(a=0\) です。
$$ 0 = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv $$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
運動方程式 (問2の結果)
等速度運動の条件: \(a=0\)
$$ kv = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta $$
$$ kv = Mg(\sin\theta – \mu\cos\theta) $$
したがって、等速度運動になった場合の速さ \(v\) は、
$$ v = \frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu\cos\theta) $$
ただし、この式が物理的に意味を持つ(\(v>0\) となる)ためには、\(\sin\theta – \mu\cos\theta > 0\) である必要があります。
物体が一定の速さで滑り降りるようになったとき、それは物体を下に引っ張る力(重力の斜面成分)と、動きを邪魔する力(動摩擦力と、そのときの速さでの空気抵抗力の合計)がちょうど釣り合っている状態を意味します。この力の釣り合いの式から、そのときの速さ \(v\) を求めることができます。これは、問(2)の運動方程式で加速度 \(a\) をゼロと置くことと同じ操作です。
等速度運動になった場合の速さ(終端速度)は \(v = \displaystyle\frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu\cos\theta)\) です。
この式は、重力が大きく (\(M, g\) 大)、空気抵抗の係数が小さく (\(k\) 小)、斜面を下ろうとする正味の力(括弧内の \(\sin\theta – \mu\cos\theta\))が大きいほど、終端速度が大きくなることを示しています。これは物理的な直感と一致します。
問4
思考の道筋とポイント
時刻 \(t=0\) では、物体は動き始めたばかりなので、速さ \(v=0\) です。したがって、この瞬間の空気抵抗力 \(kv\) はゼロになります。図2のv-tグラフにおいて、\(t=0\) での接線の傾きは、その瞬間の加速度 \(a_0\) を表します。グラフからこの \(a_0\) の値を読み取ります (\(a_0 = 3 [\text{m/s}^2]\))。
\(t=0, v=0\) のときの運動方程式(問2の式で \(v=0\) としたもの)に、読み取った \(a_0\) と与えられた数値を代入することで、動摩擦係数 \(\mu\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- v-tグラフの \(t=0\) における接線の傾きが、初加速度 \(a_0\) を表すことを理解し、グラフから値を読み取ること。
- \(t=0\) では \(v=0\) であるため、空気抵抗力 \(kv\) はゼロになることを見抜くこと。
- これらの初期条件を問(2)の運動方程式に適用し、未知数である動摩擦係数 \(\mu\) を求める。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) では \(v=0\) なので、空気抵抗力 \(kv = 0\)。
このときの加速度を \(a_0\) とすると、問(2)の運動方程式 \(Ma = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv\) は、
$$ Ma_0 = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta $$
図2のグラフより、\(t=0\) での接線の傾きから \(a_0 = 3.0 [\text{m/s}^2]\) と読み取れます。
与えられた数値: \(M=2.0[\text{kg}]\), \(\theta=30^\circ\), \(g=10[\text{m/s}^2]\)。
\(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\)。
これらの値を上の式に代入します。
使用した物理公式
運動方程式 (問2の結果)
v-tグラフの傾き = 加速度
\(Ma_0 = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta\) の両辺を \(M\) で割ると (\(M \neq 0\))、
$$ a_0 = g\sin\theta – \mu g\cos\theta $$
数値を代入します:
$$ 3.0 = 10 \cdot \sin 30^\circ – \mu \cdot 10 \cdot \cos 30^\circ $$
$$ 3.0 = 10 \cdot \frac{1}{2} – \mu \cdot 10 \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} $$
$$ 3.0 = 5.0 – 5\sqrt{3}\mu $$
$$ 5\sqrt{3}\mu = 5.0 – 3.0 = 2.0 $$
$$ \mu = \frac{2.0}{5\sqrt{3}} = \frac{2.0\sqrt{3}}{5 \cdot 3} = \frac{2\sqrt{3}}{15} $$
数値計算すると、\(\sqrt{3} \approx 1.73205\) なので、
$$ \mu \approx \frac{2 \times 1.73205}{15} = \frac{3.4641}{15} \approx 0.23094 $$
有効数字を考慮すると、模範解答に合わせて \(\mu \approx 0.23\) とします。
物体が動き始める瞬間(時刻\(t=0\))には、まだ速さがない(\(v=0\))ので、空気の抵抗力は働いていません。この瞬間の加速度は、与えられたグラフ(図2)の最初の傾きから \(3.0 \text{ m/s}^2\) であると読み取れます。このときの運動方程式は「質量×加速度=重力の斜面成分-動摩擦力」となります。この式に、質量(\(2.0\text{ kg}\))、読み取った加速度(\(3.0 \text{ m/s}^2\))、重力加速度(\(10 \text{ m/s}^2\))、斜面の角度(\(30^\circ\))を代入すると、未知数である動摩擦係数 \(\mu\) を計算することができます。
動摩擦係数 \(\mu = \displaystyle\frac{2\sqrt{3}}{15} (\approx 0.23)\) です。
この値は、グラフの初期の振る舞い(初加速度)と、その時点では空気抵抗が無視できるという物理的洞察から導かれました。動摩擦係数として一般的な範囲の値です。
問5
思考の道筋とポイント
図2のv-tグラフから、物体はやがて一定の速さ、すなわち終端速度に達することが読み取れます。グラフから終端速度 \(v_{\text{終端}} = 4.0 [\text{m/s}]\) です。このとき、加速度は \(a=0\) となっています。
問(3)で導いた等速度運動のときの速さの一般式、または問(2)の運動方程式で \(a=0\) とした式に、この終端速度 \(v_{\text{終端}}\)、与えられた数値、および問(4)で求めた動摩擦係数 \(\mu\) の値を代入することで、空気の抵抗力の係数 \(k\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- v-tグラフから終端速度(物体が等速度運動に達したときの速度)を正しく読み取ること。
- 終端速度では加速度 \(a=0\) であり、力が釣り合っている状態であることを利用する。
- 力のつり合いの式(または \(a=0\) とした運動方程式)に、既知の物理量(質量、角度、重力加速度、動摩擦係数、終端速度)を代入して、未知の係数 \(k\) を解く。
具体的な解説と立式
終端速度 \(v_{\text{終端}} = 4.0 [\text{m/s}]\) のとき、加速度 \(a=0\)。
問(3)の等速度運動の式 \(v = \displaystyle\frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu\cos\theta)\) を用いるか、力のつり合いの式 \(Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv_{\text{終端}} = 0\) を用います。後者から \(k\) を解くと、
$$ kv_{\text{終端}} = Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta $$
$$ k = \frac{Mg(\sin\theta – \mu\cos\theta)}{v_{\text{終端}}} $$
与えられた数値と問(4)の結果を代入します:
\(M=2.0[\text{kg}]\), \(g=10[\text{m/s}^2]\), \(\theta=30^\circ\) (\(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\)), \(\mu = \frac{2}{5\sqrt{3}}\), \(v_{\text{終端}}=4.0[\text{m/s}]\)。
使用した物理公式
等速度運動の条件(力のつり合い): \(Mg\sin\theta – \mu Mg\cos\theta – kv = 0\)
v-tグラフからの終端速度の読み取り
$$ k = \frac{2.0 \times 10 \left(\sin 30^\circ – \frac{2}{5\sqrt{3}}\cos 30^\circ\right)}{4.0} $$
$$ k = \frac{20 \left(\frac{1}{2} – \frac{2}{5\sqrt{3}} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}\right)}{4.0} $$
$$ k = 5 \left(\frac{1}{2} – \frac{2\sqrt{3}}{10\sqrt{3}}\right) = 5 \left(\frac{1}{2} – \frac{1}{5}\right) $$
$$ k = 5 \left(\frac{5-2}{10}\right) = 5 \cdot \frac{3}{10} = \frac{15}{10} = 1.5 $$
単位は \(k = F_{\text{空気抵抗}}/v\) なので、\([\text{N}]/[\text{m/s}] = [\text{N}\cdot\text{s/m}]\)。
物体が最終的に一定の速さ(グラフから \(4.0 \text{ m/s}\))になったとき、それは物体を下に引っ張る力(重力の斜面成分)と、動きを邪魔する全ての力(動摩擦力と、そのときの速さ \(4.0 \text{ m/s}\) での空気抵抗力の合計)がちょうど釣り合っている状態を意味します。この釣り合いの式に、質量、重力加速度、斜面の角度、問(4)で求めた動摩擦係数、そしてグラフから読み取った終端速度を代入すると、未知数である空気抵抗の係数 \(k\) を計算することができます。
空気の抵抗力の係数 \(k = 1.5 [\text{N}\cdot\text{s/m}]\) です。
この値は、物体の終端速度と、そのときに働く他の力(重力成分、動摩擦力)とのバランスから決定されました。\(k\) の値が大きいほど空気抵抗が強く作用し、終端速度はより低い値になる傾向があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ニュートンの運動方程式 (\(Ma=F_{\text{合力}}\)): 物体の運動を記述する基本法則。特に、複数の力が働く場合(重力の成分、動摩擦力、速度に比例する空気抵抗力)の合力を正しく計算し、加速度との関係を明確にすることが求められます。
- 力の分解: 特に斜面上の運動では、重力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解する操作が不可欠です。
- 動摩擦力 (\(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)): 運動を妨げる力。垂直抗力 \(N\) を正確に求めることが前提となります。
- 速度に比例する空気抵抗力 (\(F_{\text{空気抵抗}} = kv\)): このような抵抗力が存在する場合、物体は最終的に一定速度(終端速度)に達する特徴的な運動をします。
- 等速度運動(終端速度)の条件: 物体に働く力の合力がゼロとなり、加速度 \(a=0\) となる状態です。
- v-tグラフの解釈: グラフの傾きが加速度を、グラフが水平になる部分が終端速度を表すなど、グラフから物理的な情報を読み取る能力。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 速度に依存する抵抗力(空気抵抗や粘性抵抗など)を受けながら運動する物体の問題。
- 終端速度の存在とその計算、または終端速度から未知のパラメータを決定する問題。
- 実験データ(特にグラフ)が与えられ、そこから物理法則や物理定数を検証・決定する問題。
- 初見の問題への着眼点:
- 働く力の種類と特性の特定: どのような力が働いているか、特に抵抗力が速度にどう依存するか(\(kv\)か、\(kv^2\)かなど)を問題文から正確に把握する。
- 運動のフェーズ(段階)の特定: 加速しているのか、等速運動に達したのか、あるいは初期状態か。
- グラフ情報の活用: v-tグラフが与えられた場合、\(t=0\) での接線の傾き(初加速度)、特定の時刻の速度や傾き、そして終端速度(グラフが水平になる値)などを積極的に読み取る。
- 初期条件と境界条件(終端条件)の明確化: \(t=0\) で \(v=0\) か、最終的に \(a=0\) になるか、などを方程式に適用する。
- ヒント・注意点:
- 運動方程式はベクトル方程式なので、必ず座標軸を設定し、力の向き(符号)に注意して成分で立式する。
- 終端速度では、駆動する力(この場合は重力の斜面成分)と抵抗する力(動摩擦力+空気抵抗力)が釣り合っています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 空気抵抗の無視または誤解: 問題文に「空気の抵抗力 \(kv\)」と明記されている場合、これを無視したり、向きを間違えたりしないこと。
- 動摩擦力と空気抵抗力の向き: これらは常に物体の運動方向と反対向きに働きます。
- 垂直抗力 \(N\) の計算ミス: 斜面の場合、\(N=Mg\cos\theta\) です。これを \(Mg\) と誤認しないように。
- 終端速度の条件誤認: 終端速度とは「加速度がゼロ」になったときの速度であり、「力が働かなくなった」わけではありません。力が釣り合った結果です。
- グラフの傾きの解釈ミス: v-tグラフの傾きは加速度です。x-tグラフやa-tグラフの傾きとは意味が異なります。
対策: 速度に依存する抵抗力が関わる問題に慣れること。様々な物理グラフの読み取り練習を行い、グラフが示す物理現象との対応関係を深く理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 有効な図:
- 物体に働く全ての力(重力、その分解成分、垂直抗力、動摩擦力、空気抵抗力)を、それぞれの向きを正確に示して矢印で描き込んだフリーボディダイアグラム。
- 図2のv-tグラフ。特に \(t=0\) での接線、およびグラフが水平に漸近していく様子が重要。
- 図を描く際の注意点: 力の作用点、向き、力の名称を明確に。v-tグラフでは、軸の物理量と単位、目盛り、そして特徴的な点(\(t=0\) の状態、終端状態など)に注目する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(N=Mg\cos\theta\): 物体が斜面にめり込んだり浮き上がったりしない(斜面に垂直な方向の加速度がゼロである)という条件から、その方向の力のつり合い。
- \(Ma = Mg\sin\theta – \mu N – kv\): 物体の斜面方向の運動に関して、ニュートンの第二法則を適用。合力が質量と加速度の積に等しい。
- 等速度運動 (\(a=0\)) で \(Mg\sin\theta – \mu N – kv = 0\): 「等速度」という言葉から加速度がゼロであると判断し、運動方程式が力のつり合いの式に帰着する。
- v-tグラフの \(t=0\) での接線の傾き \(= a_0\): 加速度の定義 (\(a = dv/dt\)) から、v-tグラフの傾きが加速度を表すという数学的・物理的な関係性。
- v-tグラフの水平部分(漸近値)\(= v_{\text{終端}}\): 時間が十分に経過し、速度変化がなくなった状態(加速度ゼロ)が終端速度であるという物理的状況のグラフ表現。
これらの公式やグラフの解釈は、問題文の記述や物理法則の基本的な理解に基づいて論理的に行われます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 力の図示: 物体に働く全ての力を図示する。
- (2) 一般的な運動方程式の立式: 斜面方向の運動方程式を、変数 \(v\) と \(a\) を含んだ形で立てる。
- (3) 等速度運動の条件適用: (2)の運動方程式で \(a=0\) とし、終端速度 \(v\) の一般式を導出する。
- (4) 動摩擦係数の決定:
- グラフから初加速度 \(a_0\) を読み取る (\(t=0, v=0\))。
- \(t=0, v=0\) の条件を(2)の運動方程式に代入し、\(a_0\) を用いて \(\mu\) について解く。
- (5) 空気抵抗係数の決定:
- グラフから終端速度 \(v_{\text{終端}}\) を読み取る。
- (3)の終端速度の式(または \(a=0\) とした運動方程式)に、\(v_{\text{終端}}\) と求めた \(\mu\) を代入し、\(k\) について解く。
この問題では、まず一般的な関係式を立て、次にグラフから読み取れる具体的な条件(初加速度、終端速度)を適用して未知数を決定していくという流れが特徴的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認と一貫性: 特に抵抗係数 \(k\) のような複合的な単位を持つ量は、定義式(\(F_{\text{空気抵抗}}=kv\))から単位を導出できるようにする(\([\text{N}] = [k] \cdot [\text{m/s}] \Rightarrow [k] = [\text{N}\cdot\text{s/m}]\)。
- 数値計算の精度と有効数字: 与えられた物理量(\(M=2.0\text{ kg}, g=10\text{ m/s}^2, \theta=30^\circ\))やグラフから読み取った値(\(a_0=3.0\text{ m/s}^2, v_{\text{終端}}=4.0\text{ m/s}\))の有効数字を意識し、計算結果も適切な桁数で示す。三角関数の値(\(\sin 30^\circ=0.5, \cos 30^\circ \approx 0.866\))も正確に用いる。
- 代数計算の正確さ: 文字式から未知数を解く過程、特に分数の扱いや項の移項、整理を慎重に行う。
日頃の練習: 運動方程式を基本とし、様々な力が働く場合の合力の計算に慣れる。物理グラフ(特にv-tグラフ)の読み取り練習を積み、傾きや切片、面積などが何を表すのかを即座に判断できるようにする。実験データやグラフが与えられた問題では、理論式と実験結果をどのように結びつけて未知数を決定するかを考える訓練を積む。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- 動摩擦係数 \(\mu\) (問4): 一般的に0から1程度の値を取ることが多いが、状況による。今回得られた値(約0.23)が妥当な範囲か。
- 空気抵抗係数 \(k\) (問5): 正の値であるべき。もし \(k\) が非常に大きければ終端速度は非常に小さくなるはず、といった定性的な考察。
- 終端速度の式 (問3): 各物理パラメータ(\(M, g, k, \theta, \mu\))が終端速度に与える影響が、物理的な直感(例:質量が大きいほど、空気抵抗が小さいほど、終端速度は上がりやすい)と整合しているか。
- 単位・次元の確認: 求めた \(\mu\)(無次元)、\(k\)(\([\text{N}\cdot\text{s/m}]\))の次元が物理的に正しいかを確認する。
- グラフとの再照合:
- (4)で求めた \(\mu\) を用いて、空気抵抗がない場合(\(k=0\))の加速度 \(a = g(\sin\theta – \mu\cos\theta)\) を計算してみる。この値は、グラフの初加速度 \(a_0=3.0 \text{ m/s}^2\) と一致するはず(\(t=0\) では \(v=0\) で空気抵抗がゼロのため)。実際に計算すると、\(a = 10(0.5 – \frac{2\sqrt{3}}{15} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}) = 10(0.5 – \frac{1}{5}) = 10(0.3) = 3.0 \text{ m/s}^2\) となり、一致する。
- (5)で求めた \(k\) と (4)で求めた \(\mu\) を(3)の終端速度の式に代入し、グラフから読み取った終端速度 \(v_{\text{終端}}=4.0 \text{ m/s}\) と一致するかを確認する。実際に計算すると、\(v = \frac{2.0 \times 10}{1.5}(\sin 30^\circ – \frac{2\sqrt{3}}{15}\cos 30^\circ) = \frac{20}{1.5}(0.5 – \frac{1}{5}) = \frac{40}{3}(0.3) = 4.0 \text{ m/s}\) となり、一致する。
このような多角的な吟味を通じて、解答の確からしさを高めるだけでなく、物理現象とその数式表現との間の対応関係についての理解を深めることができます。
問題19 (岡山大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、なめらかな水平面上に置かれた台Aの上を、初速を持った小物体Bが滑る運動を扱います。BとAの間には動摩擦力が働き、この摩擦力によってBは減速し、Aは加速され、やがて両者は一体となって同じ速度で運動するようになります。それぞれの物体の運動方程式を立て、一体となるまでの時間、そのときの速度、そしてBがA上を滑った距離(相対距離)を求めることが主眼です。
- 固定台の水平面 \(S_1, S_2\): なめらか。鉛直面 \(S_3\) がある。
- 直方体A: 質量 \(M\)。面 \(S_2\) 上にあり、初期状態では面 \(S_3\) に接している(が、Bが乗ると動き出す)。上面は粗い。Aの上面の高さは面 \(S_1\) の高さに等しい。
- 小物体B: 質量 \(m\)。
- BとAの上面間の動摩擦係数: \(\mu\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- Bの初期状態: 水平面 \(S_1\) 上から初速 \(v_{\text{初}}\) でAの上面中央を直進。
- Aの初期状態: Bが乗ると運動を始める(初速は \(0\))。
- 一体化: ある時刻 \(t_0\) 以後、両物体の速さは等しくなる。
- 時刻の基準: BがA上に達した時刻を \(t=0\) とする。
- 時刻 \(t_0\) より以前の時刻 \(t\) におけるBの速さ。
- 時刻 \(t_0\) より以前の時刻 \(t\) におけるAの速さ。
- 両物体の速さが等しくなる時刻 \(t_0\)。
- 時刻 \(t_0\) での(一体となったときの)速さ。
- BがA上を進んだ距離 \(l\) (Aに対してBが相対的に滑った距離)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くには、まず小物体Bと台Aそれぞれに働く力を正確に把握し、運動方程式を立てることが基本です。特に、二物体間で働く動摩擦力が、一方を減速させ、もう一方を加速させる(作用・反作用)点を理解することが重要です。最終的に両者の速度が等しくなるという条件から、一体化する時刻やそのときの速度、相対的に滑った距離を求めます。
問1
思考の道筋とポイント
小物体Bは、初速 \(v_{\text{初}}\) で物体Aの上面に乗り移った後、Aとの間の動摩擦力によって減速します。水平右向きを正の向きとすると、BがAに対して右向きに滑るため、AからBに働く動摩擦力は水平左向き(負の向き)となります。Bに働く鉛直方向の力は重力 \(mg\) とAからの垂直抗力 \(N_B\) であり、これらは釣り合っているため \(N_B = mg\) です。
この設問における重要なポイント
- 物体Bに働く動摩擦力の向き(運動方向と逆向き)と大きさを正しく求めること。
- Bの鉛直方向の力のつり合いから、BがAから受ける垂直抗力 \(N_B\) を求めること。
- Bの水平方向の運動方程式を立て、加速度 \(a_B\) を求め、等加速度直線運動の公式から時刻 \(t\) における速度を導出する。
具体的な解説と立式
小物体Bに働く鉛直方向の力は、下向きの重力 \(mg\) と、Aの上面から受ける上向きの垂直抗力 \(N_B\) です。Bは鉛直方向には運動しないので、これらの力は釣り合っています。
$$ N_B – mg = 0 $$
$$ N_B = mg $$
BがA上を滑るとき、Bに働く動摩擦力 \(f_B\) の大きさは、
$$ f_B = \mu N_B = \mu mg $$
Bは水平右向きに運動しているので、この動摩擦力 \(f_B\) は水平左向きに働きます。
物体Bの水平方向の運動方程式(右向きを正、加速度を \(a_B\))は、
$$ ma_B = -f_B = -\mu mg $$
したがって、Bの加速度 \(a_B\) は、
$$ a_B = -\mu g $$
時刻 \(t\) におけるBの速さ \(v_B(t)\) は、初速 \(v_{\text{初}}\)、加速度 \(a_B\) の等加速度直線運動の公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) より、
$$ v_B(t) = v_{\text{初}} + a_B t $$
使用した物理公式
力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)
運動方程式: \(ma = F\)
等加速度直線運動: \(v = v_{\text{初}} + at\)
加速度 \(a_B = -\mu g\) を速度の式に代入すると、
$$ v_B(t) = v_{\text{初}} + (-\mu g)t = v_{\text{初}} – \mu gt $$
小物体Bが台Aの上に乗ると、Aとの間で摩擦が生じます。Bが前に進もうとするのをAが邪魔する形で、Bには進行方向と反対向き(左向き)に動摩擦力が働きます。この摩擦力の大きさは「動摩擦係数 \(\mu \times\) Bの重さ \(mg\)」です。この力によってBは一定の割合で減速します。その減速の度合い(加速度の負の値)は \(-\mu g\) です。初めの速さ \(v_{\text{初}}\) から、この減速によって時刻 \(t\) の後にはどれくらいの速さになっているかを計算します。
時刻 \(t_0\) より以前の時刻 \(t\) におけるBの速さは \(v_B(t) = v_{\text{初}} – \mu gt\) です。これは初速 \(v_{\text{初}}\) から一定の割合で速度が減少していく等加速度直線運動(減速運動)の速度の式であり、物理的に妥当です。
問2
思考の道筋とポイント
物体Aは、小物体BがA上を滑ることによってBから動摩擦力を受けます。作用・反作用の法則により、AがBから受ける動摩擦力は、BがAから受ける動摩擦力の反作用です。BがAから左向きに \(\mu mg\) の力を受けたので、AはBから右向きに大きさ \(\mu mg\) の力を受けます。物体Aは床(面 \(S_2\))からは摩擦を受けず(なめらか)、初め静止していた状態からこの力によって加速されます。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用の法則を正しく適用し、AがBから受ける動摩擦力の向きと大きさを決定すること。
- Aの水平方向の運動方程式を立て、加速度 \(a_A\) を求め、等加速度直線運動の公式から時刻 \(t\) における速度を導出する(Aの初速は0)。
具体的な解説と立式
物体Aに働く水平方向の力は、小物体Bから受ける動摩擦力 \(f_A\) のみです。この力の大きさはBが受ける動摩擦力と同じ \(\mu mg\) で、向きはBが滑る方向(右向き)と同じ向き(右向き)です。
物体Aの水平方向の運動方程式(右向きを正、加速度を \(a_A\))は、
$$ Ma_A = f_A = \mu mg $$
したがって、Aの加速度 \(a_A\) は、
$$ a_A = \frac{\mu mg}{M} $$
時刻 \(t\) におけるAの速さ \(v_A(t)\) は、初速 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(a_A\) の等加速度直線運動の公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) より、
$$ v_A(t) = 0 + a_A t $$
使用した物理公式
作用・反作用の法則
運動方程式: \(Ma = F\)
等加速度直線運動: \(v = v_{\text{初}} + at\)
加速度 \(a_A = \displaystyle\frac{\mu mg}{M}\) を速度の式に代入すると、
$$ v_A(t) = \frac{\mu mg}{M} t $$
台Aは、上で滑る小物体Bから摩擦力を受けます。Bが前に進もうとすると、BはAの上面を後ろに蹴るような形になりますが、作用・反作用の法則により、AはBから前に押される力を受けます。この力(動摩擦力)の大きさは「動摩擦係数 \(\mu \times\) Bの重さ \(mg\)」です。台Aはこの力を受けて、静止した状態から一定の割合で加速します。その加速の度合いは \(\frac{\mu mg}{M}\) です。時刻 \(t\) の後にはどれくらいの速さになっているかを計算します。
時刻 \(t_0\) より以前の時刻 \(t\) におけるAの速さは \(v_A(t) = \displaystyle\frac{\mu mg}{M} t\) です。これは初速 \(0\) から一定の割合で速度が増加していく等加速度直線運動の速度の式であり、物理的に妥当です。
問3
思考の道筋とポイント
時刻 \(t_0\) で小物体Bと台Aの速さが等しくなります。つまり、\(v_B(t_0) = v_A(t_0)\) という条件が成り立ちます。問(1)で求めたBの速さの式 \(v_B(t) = v_{\text{初}} – \mu gt\) と、問(2)で求めたAの速さの式 \(v_A(t) = \frac{\mu mg}{M} t\) を用い、\(t=t_0\) とおいて等式を作り、\(t_0\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 「両物体の速さが等しくなった」という条件を \(v_B(t_0) = v_A(t_0)\) と数式で表現すること。
- 問(1)と問(2)で導出した各物体の速度の式を正しく用い、\(t_0\) についての方程式を解くこと。
具体的な解説と立式
時刻 \(t_0\) で \(v_B(t_0) = v_A(t_0)\) なので、
$$ v_{\text{初}} – \mu gt_0 = \frac{\mu mg}{M} t_0 $$
この方程式を \(t_0\) について解きます。
使用した物理公式
速度が等しくなる条件: \(v_B(t_0) = v_A(t_0)\)
問(1), (2)で求めた速度の式
\(t_0\) の項を右辺にまとめると、
$$ v_{\text{初}} = \mu gt_0 + \frac{\mu mg}{M} t_0 $$
$$ v_{\text{初}} = \mu g t_0 \left(1 + \frac{m}{M}\right) $$
$$ v_{\text{初}} = \mu g t_0 \left(\frac{M+m}{M}\right) $$
\(t_0\) について解くと、
$$ t_0 = v_{\text{初}} \cdot \frac{M}{\mu g (M+m)} = \frac{Mv_{\text{初}}}{\mu g(M+m)} $$
小物体Bはだんだん遅くなり、台Aはだんだん速くなります。やがて、ある時刻 \(t_0\) で両方の速さが同じになります。このとき、Bの速さを表す式(問1の答え)とAの速さを表す式(問2の答え)の値が等しくなるはずです。この等式を時刻 \(t_0\) について解くことで、\(t_0\) が求まります。
両物体の速さが等しくなる時刻 \(t_0\) は \(\displaystyle\frac{Mv_{\text{初}}}{\mu g(M+m)}\) です。この時刻は、Bの初速 \(v_{\text{初}}\) が大きいほど長くなり、摩擦の効果(\(\mu g\))が大きいほど、また \(M+m\) が大きい(両物体の質量の和が大きい)ほど短くなる傾向にあります。
問4
思考の道筋とポイント
時刻 \(t_0\) での速さを求めます。これは、BとAの速さが等しくなったときの共通の速さです。問(2)で求めたAの速さの式 \(v_A(t) = \frac{\mu mg}{M} t\) に、問(3)で求めた \(t_0\) の値を代入するのが計算が比較的簡単です。(もちろん、Bの速さの式 \(v_B(t) = v_{\text{初}} – \mu gt\) に \(t_0\) を代入しても同じ結果が得られます。)
この設問における重要なポイント
- 問(3)で求めた時刻 \(t_0\) を、問(1)または問(2)で求めた速度の式に代入して、そのときの速度を計算する。
- 計算がより簡単な方の式を選ぶと効率的。
具体的な解説と立式
時刻 \(t_0\) での速さを \(V\) とすると、\(V = v_A(t_0)\) です。
$$ V = \frac{\mu mg}{M} t_0 $$
ここに、問(3)で求めた \(t_0 = \displaystyle\frac{Mv_{\text{初}}}{\mu g(M+m)}\) を代入します。
使用した物理公式
問(2)で求めた速度の式 \(v_A(t)\)
問(3)で求めた時刻 \(t_0\)
$$ V = \frac{\mu mg}{M} \cdot \frac{Mv_{\text{初}}}{\mu g(M+m)} $$
\(\mu, m, g, M\) がそれぞれ分子分母で約分され(いずれも0ではないと仮定)、
$$ V = \frac{mv_{\text{初}}}{M+m} $$
問3で、BとAの速さが同じになる時刻 \(t_0\) を求めました。この時刻 \(t_0\) を、例えばAの速さを表す式(問2の答え)に代入することで、そのときの共通の速さを計算することができます。
時刻 \(t_0\) での速さ(両物体が一体となったときの速さ)は \(V = \displaystyle\frac{mv_{\text{初}}}{M+m}\) です。この結果は、質量 \(m\) の物体が初速 \(v_{\text{初}}\) で、質量 \(M\) の静止していた物体と完全非弾性衝突(一体となる衝突)をした後の速度の形と似ています。ただし、この問題は摩擦による速度変化なので、運動量保存則が単純に適用できるわけではありませんが、結果の式の形は興味深い類似性を示しています。
問5
思考の道筋とポイント
「BがA上を進んだ距離 \(l\)」とは、Aから見てBが相対的にどれだけ滑ったか、という距離です。これは、時刻 \(t=0\) から \(t=t_0\) までの間に「Bが地面に対して進んだ距離 \(x_B)\)」から「Aが地面に対して進んだ距離 \(x_A)\)」を引いたもの、すなわち \(l = x_B(t_0) – x_A(t_0)\) で計算できます。
あるいは、Aに対するBの相対運動を考え、相対初速度 \(v_{\text{相対,初}} = v_{\text{初}}\)、相対加速度 \(a_{\text{相対}} = a_B – a_A\)、最終的な相対速度 \(0\) となるまでの相対移動距離 \(l\) を、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) を用いて求めるのがより簡潔です。
この設問における重要なポイント
- 「BがA上を進んだ距離」が、Aに対するBの相対的な移動距離であることを理解する。
- 相対運動の考え方を用いる場合、相対初速度、相対加速度を正しく計算すること。
- Aに対するBの相対速度がゼロになったとき(つまり両物体の速度が等しくなったとき)に、BはA上で滑るのをやめる。
- 等加速度直線運動の公式を相対運動に適用する。
具体的な解説と立式
Aに対するBの相対運動を考えます。
相対初速度(\(t=0\) でのAから見たBの速度):
$$ v_{\text{相対,初}} = v_B(0) – v_A(0) = v_{\text{初}} – 0 = v_{\text{初}} $$
相対加速度(Aから見たBの加速度):
$$ a_{\text{相対}} = a_B – a_A = (-\mu g) – \left(\frac{\mu mg}{M}\right) = -\mu g \left(1 + \frac{m}{M}\right) = -\mu g \frac{M+m}{M} $$
時刻 \(t_0\) で両物体の速度は等しくなるので、Aに対するBの相対速度は \(0\) になります。この間にBがA上を進んだ距離を \(l\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) を相対運動に適用して(\(v_{\text{終}}=0, v_{\text{初}}=v_{\text{相対,初}}, a=a_{\text{相対}}, s=l\))、
$$ 0^2 – v_{\text{相対,初}}^2 = 2 a_{\text{相対}} l $$
$$ -v_{\text{初}}^2 = 2 \left(-\mu g \frac{M+m}{M}\right) l $$
使用した物理公式
相対速度、相対加速度
等加速度直線運動: \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) (相対運動に適用)
$$ -v_{\text{初}}^2 = -2\mu g \frac{M+m}{M} l $$
両辺のマイナス符号を取り、\(l\) について解くと、
$$ l = \frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g \frac{M+m}{M}} = \frac{Mv_{\text{初}}^2}{2\mu g(M+m)} $$
小物体Bが台Aの上をどれだけ滑ったか(BがAに対して進んだ距離 \(l\))を考えます。これは、Aから見たBの動きを追うと分かりやすいです。Aから見ると、Bは初め速さ \(v_{\text{初}}\) で近づいてきて、摩擦によってだんだん遅くなり(Aから見たBの相対的な減速)、やがてAの上で止まります(Aから見たBの相対速度がゼロになる)。この「Aから見たBの動き」も一定の(相対的な)減速なので、運動の公式(速さの2乗の関係式)を使って、相対的に止まるまでに進んだ距離 \(l\) を計算することができます。
BがA上を進んだ距離 \(l = \displaystyle\frac{Mv_{\text{初}}^2}{2\mu g(M+m)}\) です。
この距離は、Bの初速 \(v_{\text{初}}\) が大きいほど大きくなり、摩擦の効果(\(\mu g\))が大きいほど、また \(M+m\)(両物体の質量の和に比例する量)が大きいほど小さくなる傾向にあります。これは物理的な直感と合致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ニュートンの運動方程式 (\(ma=F_{\text{合力}}\)): 各物体(AおよびB)の運動を記述するための根幹となる法則です。特に、物体間で働く摩擦力がそれぞれの物体の運動にどのように影響するかを正確に捉えることが重要です。
- 動摩擦力 (\(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)): 小物体Bが台A上を滑る際に働く力です。BがAから受ける力と、AがBから受ける力(反作用)の大きさが等しく、向きが逆であることを理解する必要があります。また、Bの鉛直方向の力のつり合いから垂直抗力 \(N_B=mg\) を正しく求めることが前提です。
- 作用・反作用の法則: 台Aと小物体Bの間で及ぼしあう動摩擦力は、この法則の典型例です。この力がBを減速させ、Aを加速させる原因となります。
- 等加速度直線運動の公式: 各物体は(一体となるまでは)それぞれ一定の加速度で運動するため、速度、変位、時間の関係を記述するこれらの公式が適用できます。
- 相対速度・相対加速度の概念: 二物体の運動を扱う際、一方の物体から見た他方の物体の運動(相対運動)として捉えると、問題が簡潔になる場合があります。特に問(5)でBがA上を滑った距離を求める際に有効です。両者の速度が等しくなるということは、相対速度がゼロになることを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- ベルトコンベアの上を物体が滑る運動。
- 重ねられた二つの物体間で摩擦が働き、それぞれが運動する問題(上が滑る、下が動く、あるいは両方動くなど)。
- 列車や船の上を人が歩く場合など、動く基準系上での物体の運動。
- 初見の問題への着眼点:
- 摩擦が働く面と、その面での相対運動の有無の確認: 小物体Bが台A上を「滑っている」間は動摩擦力が働きます。両者の速度が等しくなると相対運動がなくなり、一体として運動する(この問題ではその瞬間までの解析)。
- 各物体に働く力の正確な図示: 特に摩擦力の向きが重要です。BがAに対して右に進む(滑る)と仮定した場合、BがAから受ける動摩擦力は左向き、AがBから受ける動摩擦力(反作用)は右向きとなります。
- 運動方程式を立てる対象の明確化: 物体Aと物体B、それぞれについて独立して運動方程式を立てる。
- 「一体となる」または「速度が等しくなる」条件の数式化: \(v_A(t_0) = v_B(t_0)\) または相対速度 \(v_{\text{相対}}(t_0) = 0\)。
- 問われている「距離」が何に対する距離かの確認: 地面に対する絶対的な移動距離なのか、一方の物体に対する相対的な移動距離(滑った距離)なのかを問題文から正確に読み取る(問5は後者)。
- ヒント・注意点:
- 複雑に見える二体問題でも、各物体について基本に忠実に運動方程式を立てれば必ず解けます。
- 計算過程で多くの文字が出てくるため、式を整理しながら慎重に進めることが大切です。
- この系の全運動量は、水平方向に外力が働かない(床がなめらかで、摩擦はAとBの間の内力のみ)ため保存されますが、今回は運動方程式から各個の運動を追う方が直接的です。摩擦によって力学的エネルギーは保存されません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 摩擦力の向きの混同: どちらの物体に、どちら向きの摩擦力が働くかを間違えやすい。必ず「運動を妨げる向き」または「相対的な滑りを妨げる向き」と考え、作用・反作用の関係も考慮する。
- 作用・反作用の対象の誤認: Aが受ける摩擦力はBから作用し、Bが受ける摩擦力はAから作用します。これらの大きさは等しく向きは反対です。
- 加速度の符号の誤り: 設定した座標軸の正の向きに対して、物体が加速するのか減速するのかを正しく判断し、加速度や力の符号を決定する。
- 「一体となった後」の運動の誤解: この問題では一体となる瞬間までの解析ですが、もし一体となった後も運動が続く場合、共通の速度で運動し、外力が働けば共通の加速度で運動します。
- 相対距離の計算ミス: 単純に小物体Bの移動距離だけを計算してしまうと誤りです。台Aも動いていることを考慮し、BのAに対する相対的な滑り距離を求める必要があります。
対策: 重ねた物体間の摩擦が関わる問題をいくつか解き、特に摩擦力の向きと作用・反作用の考え方に習熟する。運動方程式を機械的に立てるのではなく、各項が物理的にどのような力を表しているのかを常に意識する。相対運動の概念を復習し、適切な場面で使えるように練習をする。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 有効な図:
- 小物体Bに働く力:初速度 \(v_{\text{初}}\)(右向き)、Aから受ける動摩擦力 \(\mu mg\)(左向き)。これによりBは減速。
- 台Aに働く力:Bから受ける動摩擦力 \(\mu mg\)(右向き、Bが受ける力の反作用)。これによりAは加速。
- それぞれの加速度の向き(Bは左向き、Aは右向き)を明示。
- v-tグラフを頭の中で描いてみる:Bの速度は傾き負の直線で減少し、Aの速度は傾き正の直線で増加し、ある時刻 \(t_0\) で両者の速度が一致(直線が交わる)イメージ。
- 図を描く際の注意点: フリーボディダイアグラムを物体A、物体Bそれぞれについて正確に描く。力の矢印の向き、作用点を明確にする。加速度の向きも図中に示すと理解の助けになる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(N_B=mg\): 小物体Bが台Aの上面に乗っており、鉛直方向には運動していない(力が釣り合っている)ため。
- \(f_k = \mu N_B\): 小物体Bと台Aの間で「滑り」が生じているため、その間に動摩擦力が働くという定義から。(\(f_k\) は \(F_{\text{動摩擦}}\) の意)
- \(ma_B = -\mu mg\) および \(Ma_A = \mu mg\): それぞれ小物体Bおよび台Aの水平方向の運動に関するニュートンの第二法則(運動方程式)。右向きを正とした場合の力の向きを反映。
- \(v(t) = v_{\text{初}} + at\): 各物体の加速度が(一体となるまでは)一定であるため、時刻 \(t\) における速度を求めるために使用。
- \(v_B(t_0) = v_A(t_0)\): 「両物体の速さが等しくなった」という問題文の条件を数式で表現したもの。
- \(0^2 – v_{\text{相対,初}}^2 = 2a_{\text{相対}}l\): Aに対するBの相対運動が、一定の相対加速度 \(a_{\text{相対}}\) での等加速度直線運動であり、最終的に相対速度が \(0\) になるときの相対的な移動距離 \(l\) を求めるために適用。(ここで \(v_{\text{初}}\) は相対初速度、\(v_{\text{終}}\) は相対終速度)
これらの公式の選択は、問題文で記述された物理現象(摩擦、運動、一体化など)と、ニュートンの運動法則や運動学の公式といった物理学の基本原理に基づいて論理的に行われます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) Bの速度解析: Bに働く動摩擦力を特定 \(\rightarrow\) Bの運動方程式を立式 \(\rightarrow\) Bの加速度 \(a_B\) を求める \(\rightarrow\) 時刻 \(t\) におけるBの速度 \(v_B(t)\) を導出。
- (2) Aの速度解析: BからAに働く動摩擦力(反作用)を特定 \(\rightarrow\) Aの運動方程式を立式 \(\rightarrow\) Aの加速度 \(a_A\) を求める \(\rightarrow\) 時刻 \(t\) におけるAの速度 \(v_A(t)\) を導出。
- (3) 一体化時刻の決定: \(v_B(t_0) = v_A(t_0)\) という条件から、時刻 \(t_0\) についての方程式を解く。
- (4) 一体化時の速度の決定: 求めた \(t_0\) を \(v_A(t)\) または \(v_B(t)\) の式に代入して、共通の速度 \(V\) を計算する。
- (5) BがA上を滑った相対距離の決定:
- 方法1(相対運動): Aに対するBの相対初速度と相対加速度を求め、相対速度が \(0\) になるまでの相対移動距離 \(l\) を等加速度直線運動の公式(\(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\))で計算する。
- 方法2(各々の移動距離の差): 時刻 \(t_0\) までにBが進んだ距離 \(x_B(t_0)\) とAが進んだ距離 \(x_A(t_0)\) をそれぞれ計算し、その差 \(l = x_B(t_0) – x_A(t_0)\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の整合性確認: 問題文では具体的な単位が与えられているので、計算の各ステップや最終的な答えの単位が物理的に正しいか(速度なら[m/s]、時間なら[s]、距離なら[m]など)を意識する。ただし、本問の解答は文字式なので、次元が合っているかを確認する。
- 符号の厳密な取り扱い: 運動の方向(例えば右向き)を正と明確に定め、力、加速度、速度の向きに応じて符号を間違えないように細心の注意を払う。特に摩擦力は運動と逆向き、Bの加速度は負、Aの加速度は正となる。
- 文字式の整理と約分の丁寧さ: \(m, M, \mu, g, v_0\) など多くの文字定数が登場するため、式の整理や約分を注意深く行い、計算ミスを防ぐ。特に分数や複数の項がある場合の計算は慎重に。
- 値の代入の正確性: あるステップで導出した式(例:加速度 \(a_B, a_A\)、時刻 \(t_0\))を次のステップの式に代入する際には、誤りなく正確に代入する。
日頃の練習: 各物体にかかる力を正確に図示し、運動方程式を立てるという基本動作を徹底的に練習する。作用・反作用の関係にある力を明確に区別し、連立方程式を解く際の計算練習も怠らない。相対運動の考え方を理解し、適切な場面で使えるように練習することも有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- \(v_B(t)\) (問1): 時間 \(t\) が経過するにつれて速度は減少するはず(\(v_{\text{初}}\) から線形に減少)。
- \(v_A(t)\) (問2): 時間 \(t\) が経過するにつれて速度は増加するはず(\(0\) から線形に増加)。
- \(t_0\) (問3): 正の値になるはず。\(v_{\text{初}}\) が大きいほど、または \(\mu g\) の効果が小さい(摩擦が小さいか重力が小さい)ほど、\(t_0\) は大きくなる(一体化に時間がかかる)傾向があるか。
- \(V\) (問4): \(0 < V < v_{\text{初}}\) の範囲にあるはず(Bは減速しAは加速して中間的な速度で一致)。
- \(l\) (問5): 正の値になるはず。\(v_{\text{初}}\) が大きいほど、また摩擦が小さい(\(\mu\)が小さい)ほど、\(l\) は大きくなる(より長い距離を滑ってから一体化する)傾向があるか。
- 単位・次元の確認(文字式の場合):
- 速度の式 (問1,2,4): \(LT^{-1}\) の次元を持つか。例えば \(v_{\text{初}} – \mu gt\) は \(LT^{-1} – (\text{無次元}) (LT^{-2}) (T) = LT^{-1} – LT^{-1}\) でOK。
- 時間の式 (問3): \(T\) の次元を持つか。例えば \(\frac{Mv_{\text{初}}}{\mu g(M+m)}\) は \(\frac{M \cdot LT^{-1}}{(\text{無次元}) (LT^{-2}) (M)} = \frac{LT^{-1}}{LT^{-2}} = T\) でOK。
- 距離の式 (問5): \(L\) の次元を持つか。例えば \(\frac{Mv_{\text{初}}^2}{2\mu g(M+m)}\) は \(\frac{M (LT^{-1})^2}{(\text{無次元}) (LT^{-2}) (M)} = \frac{L^2T^{-2}}{LT^{-2}} = L\) でOK。
- 特殊な条件下での挙動考察(思考実験):
- もし \(\mu=0\)(摩擦がない)と仮定すると、Bは初速 \(v_{\text{初}}\) のまま等速運動し、Aは静止したまま。したがって \(t_0 \rightarrow \infty\) となり、一体化は起こらない。実際に式の分母に \(\mu\) があるため、この傾向と一致する。
- もし \(M \rightarrow \infty\)(台Aが非常に重く、事実上固定されているとみなせる)と仮定すると、\(a_A \rightarrow 0\)。このとき \(t_0 \approx v_{\text{初}}/(\mu g)\)、一体化時の速度 \(V \approx (m/M)v_{\text{初}} \rightarrow 0\)(BがA上で止まる)。BがA上を滑った距離 \(l \approx Mv_{\text{初}}^2/(2\mu g M) = v_{\text{初}}^2/(2\mu g)\)。これは、固定された摩擦面を物体Bが滑って止まるまでの距離の式と一致する。
これらの吟味を行うことは、計算ミスの発見や結果の妥当性確認に役立つだけでなく、物理現象とその数式表現との関連性についてのより深い理解を促し、応用力を高める上で非常に重要です。
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