「良問の風」攻略ガイド(141〜145問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題141 (愛媛大)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(5)の別解1: 単位体積あたりの力を用いた解法
      • 模範解答が「1個の電子」に着目して力のつりあいを考えるのに対し、別解1では「単位体積あたりの電子集団」に着目し、電流密度と磁場から直接的にホール電圧を導出します。
    • 全設問共通の別解2: 微積分を用いた体系的解法(電位の定義と積分)
      • 公式 \(V=Ed\) を既知とせず、電場 \(E\) を空間積分することで電位差 \(V\) を定義から導出します。また、定常状態に至るまでの過渡現象(電荷の蓄積過程)についても定性的に触れ、物理現象の全体像を提示します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 単位体積あたりの力の解法: 電流 \(I\) や電荷密度 \(n\) といったマクロな物理量と、ローレンツ力というミクロな力の関係をダイレクトに結びつける視点を提供し、電磁気学の体系的な理解を深めます。
    • 微積分の解法: 「電位とは電場の積分である」という定義に立ち返ることで、一様でない電場や複雑な形状の導体にも応用できる基礎力を養います。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ホール効果」です。
電流が流れている導体(または半導体)に磁場をかけると、キャリア(電荷の運び手)がローレンツ力を受けて移動し、導体側面に電荷が蓄積されて電位差が生じる現象です。
この現象は、キャリアの種類(正孔か電子か)や密度を特定するために利用されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 電流の微視的定義: 電流 \(I\) は、単位時間あたりに断面を通過する電気量であり、キャリア密度 \(n\)、電荷 \(q\)、速さ \(v\)、断面積 \(S\) を用いて \(I = enSv\) と表されます。
  • ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子は、速度と磁場に垂直な力 \(f = qvB\) を受けます。
  • 力のつりあい: 定常状態(ホール電圧が一定になった状態)では、ローレンツ力と、蓄積された電荷による静電気力がつりあっています。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)では、電流の定義式を用いて、電流 \(I\) を微視的な量で表します。
  • (2)〜(a)(b)(c)では、キャリア(電子)が受けるローレンツ力の向きと大きさを特定し、電荷の蓄積による電位の正負を判断します。
  • (3)(4)(5)では、力のつりあいの式からホール電圧 \(V\) を導出します。
  • (d)(e)では、キャリアが正孔(ホール)の場合について同様の考察を行います。

問(1)

思考の道筋とポイント
電流とは「1秒間に断面を通過する電気量の総和」です。
電子1個の電荷は \(-e\)(大きさ \(e\))、速さは \(v\) です。
断面積 \(S = ac\) の中にある電子が、1秒間にどれだけ通過するかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 電流の定義: \(I = \frac{\Delta Q}{\Delta t}\)
  • 通過する電子の数: 1秒間に断面を通過する電子は、断面から距離 \(v\) 以内にある電子すべてです。

具体的な解説と立式
電流の流れる方向(\(y\) 軸正方向)に垂直な断面の面積 \(S\) は、図より \(x\) 方向の長さ \(a\) と \(z\) 方向の長さ \(c\) の積です。
$$
\begin{aligned}
S &= ac
\end{aligned}
$$
電子の速さが \(v\) なので、1秒間にこの断面を通過できるのは、断面の手前 \(v\) [m] の範囲内にある電子です。
この範囲の体積 \(V_{\text{体積}}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{体積}} &= S \cdot v \\[2.0ex]
&= acv
\end{aligned}
$$
単位体積あたり \(n\) 個の電子があるので、この体積中の電子の総数 \(N\) は、
$$
\begin{aligned}
N &= n \cdot V_{\text{体積}} \\[2.0ex]
&= nacv
\end{aligned}
$$
電子1個の電気量の大きさは \(e\) なので、通過する総電気量(すなわち電流 \(I\))は、
$$
\begin{aligned}
I &= eN
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電流の定義式: \(I = enSv\)
  • 体積の計算: \(V = S \times h\)
計算過程

上の式を組み合わせます。
$$
\begin{aligned}
I &= e(nacv) \\[2.0ex]
&= enacv
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

水道管を流れる水の量を計算するのと同じです。
「パイプの太さ(断面積 \(ac\))」\(\times\)「流れる速さ(\(v\))」で1秒間に出る水の体積が決まります。
その体積の中に「水分子(電子)」がどれくらい詰まっているか(密度 \(n\))を掛け算すれば、総量が分かります。

結論と吟味

答えは \(enacv\) です。
単位を確認すると、\([\text{C}] \cdot [1/\text{m}^3] \cdot [\text{m}] \cdot [\text{m}] \cdot [\text{m}/\text{s}] = [\text{C}/\text{s}] = [\text{A}]\) となり、電流の単位と一致します。

解答 (1) \(enacv\)

問(2), (a), (b), (c)

思考の道筋とポイント
磁場中を動く荷電粒子にはローレンツ力が働きます。
電子は負電荷なので、電流の向きとは逆向きに運動していることに注意が必要です。
フレミングの左手の法則を使って力の向きを判定し、電子がどちらの側面に溜まるかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 電子の運動方向: 電流が \(+y\) 方向なので、電子は \(-y\) 方向に動いています。
  • フレミングの左手の法則:
    • 中指(電流): \(+y\) 方向(電子の運動と逆)
    • 人差し指(磁場): \(+z\) 方向
    • 親指(力): \(+x\) 方向
  • 電位の定義: 正電荷がある場所が高電位、負電荷がある場所が低電位です。

具体的な解説と立式
1. 力の大きさ (2)
ローレンツ力の大きさ \(f\) は、電荷 \(q\)、速さ \(v\)、磁束密度 \(B\) を用いて \(f = qvB\) と表されます。
ここでは \(q=e\) なので、
$$
\begin{aligned}
f &= evB
\end{aligned}
$$

2. 力の向き (a), (b)
フレミングの左手の法則を適用します。
電流は \(+y\) 方向、磁場は \(+z\) 方向なので、力は \(+x\) 方向(\(x\) 軸の正の向き)に働きます。
この力は ローレンツ力 と呼ばれます。

3. 電位の比較 (c)
電子(負電荷)はローレンツ力を受けて \(+x\) 方向、つまり側面N側に移動し、蓄積します。
その結果、N側は負に帯電します。
逆に、反対側の側面M側は、電子が不足するため相対的に正に帯電します。
電位は正電荷側が高く、負電荷側が低いため、Mに対してNの電位は 低く(負に) なります。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = qvB\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

計算は不要ですが、論理の流れを確認します。
\(f = evB\) (大きさ)
向き:\(+x\) 方向
名称:ローレンツ力
電位:N側に電子(\(-e\))が集まる \(\rightarrow\) Nの電位は下がる。

この設問の平易な説明

磁場の中を電気が流れると、横風を受けるように力が働きます。
電子はマイナスの電気を持っているので、左手の法則で決まる向き(\(+x\) 方向)に力を受けて、片側の壁(N側)に押し付けられます。
マイナスの電気がN側に溜まるので、N側の電圧は下がります。

結論と吟味

力の大きさは \(evB\)、向きは \(x\) 軸の正の向き、名称はローレンツ力、電位は低く(負に)なります。
電子が負電荷であることを考慮した正しい判断です。

解答 (2) \(evB\), (a) 正, (b) ローレンツ力, (c) 低く(負に)

問(3), (4), (5)

思考の道筋とポイント
電子がN側に溜まると、導体内部に電場が発生します。
この電場は電子に対して、ローレンツ力とは逆向きの静電気力を及ぼします。
最終的に、ローレンツ力と静電気力がつりあった状態で電子の移動が止まり、定常状態になります。
このときの電場の強さと電位差(ホール電圧)を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: \(f_{\text{ローレンツ}} = f_{\text{静電気}}\)
  • 電場と電位差の関係: 一様な電場 \(E\) において、距離 \(d\) 離れた点間の電位差は \(V = Ed\) です。ここでは距離は \(a\) です。

具体的な解説と立式
1. 電場の強さ (3)
定常状態では、電子にかかるローレンツ力 \(evB\) と、電場 \(E\) による静電気力 \(eE\) がつりあっています。
$$
\begin{aligned}
eE &= evB
\end{aligned}
$$
これより、
$$
\begin{aligned}
E &= vB
\end{aligned}
$$

2. 電位差 (4)
電場 \(E\) は \(x\) 軸方向に一様に発生しています。
MN間の距離は \(a\) なので、電位差 \(V\) は、
$$
\begin{aligned}
V &= Ea
\end{aligned}
$$
これに \(E=vB\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
V &= vBa
\end{aligned}
$$

3. 電流 \(I\) を用いた表現 (5)
問(1)の結果 \(I = enacv\) より、速さ \(v\) を \(I\) で表します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{I}{enac}
\end{aligned}
$$
これを \(V = vBa\) に代入して \(v\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
V &= \left( \frac{I}{enac} \right) Ba
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(F_{\text{合力}} = 0\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
  • 一様電場の電位差: \(V = Ed\)
計算過程

式を整理します。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{IBa}{enac} \\[2.0ex]
&= \frac{IB}{enc}
\end{aligned}
$$
ここで、\(a\) が約分されて消えることに注目します。

この設問の平易な説明

電子が壁に溜まると、そこから「もう来るな」という電気の反発力(電場の力)が発生します。
磁場による「行け」という力と、溜まった電気による「来るな」という力がちょうど釣り合うところで、電子の横移動が止まります。
そのときの電圧(ホール電圧)を計算すると、流している電流や磁場の強さに比例する式になります。

結論と吟味

電場の強さは \(vB\)、電位差は \(vBa\)、電流を用いた式は \(\frac{IB}{enc}\) です。
ホール電圧 \(V\) が厚さ \(c\) に反比例し、幅 \(a\) に依存しないという結果は、ホール効果の重要な特徴です。

解答 (3) \(vB\), (4) \(vBa\), (5) \(\displaystyle \frac{IB}{enc}\)

問(d), (e)

思考の道筋とポイント
半導体がp型の場合、キャリアは「正孔(ホール)」になります。
正孔は正の電荷(\(+e\))を持ち、電流と同じ向き(\(+y\) 方向)に移動します。
これに対してフレミングの左手の法則を適用し、力の向きと電位の正負を考えます。

この設問における重要なポイント

  • 正孔の運動方向: 電流と同じ \(+y\) 方向。
  • フレミングの左手の法則:
    • 中指(電流): \(+y\) 方向(正孔の運動と同じ)
    • 人差し指(磁場): \(+z\) 方向
    • 親指(力): \(+x\) 方向
  • 電位の変化: 正電荷がN側に溜まるため、N側の電位が上がります。

具体的な解説と立式
1. キャリアの名称 (d)
p型半導体のキャリアは、電子の欠損部分である 正孔(ホール) です。

2. 電位の比較 (e)
正孔(\(+e\))は \(+y\) 方向に動きます。
フレミングの左手の法則より、ローレンツ力は \(+x\) 方向 に働きます(電子の場合と同じ向きです)。
正孔は力を受けてN側に移動し、蓄積します。
N側に正電荷が溜まるため、Mに対してNの電位は 高く(正に) なります。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

計算は不要です。
電子の場合:負電荷がN側に溜まる \(\rightarrow\) Nは低電位。
正孔の場合:正電荷がN側に溜まる \(\rightarrow\) Nは高電位。
力の向きはどちらも同じ(\(+x\) 方向)ですが、運ばれる電荷の符号が逆なので、生じる電位差の正負が逆転します。

この設問の平易な説明

p型半導体では、プラスの電気を持った粒(ホール)が電気を運んでいます。
この粒も磁場の力で同じ方向(N側)に押し付けられますが、プラスの電気が溜まるので、N側の電圧は上がります。
この電圧のプラスマイナスを調べることで、「この半導体はn型かp型か?」を見分けることができます。

結論と吟味

キャリアは正孔(ホール)、電位は高く(正に)なります。
ホール効果がキャリアの符号判定に使われる理由が明確になりました。

解答 (d) ホール(あるいは正孔), (e) 高く(正に)
別解: 単位体積あたりの力を用いた解法

思考の道筋とポイント
個々の電子ではなく、電子の集団(流体)として捉えます。
単位体積あたりのローレンツ力と、単位体積あたりの静電気力がつりあうと考えます。

この設問における重要なポイント

  • 電流密度: 単位面積あたりの電流 \(i = I/S = I/(ac)\)。
  • 単位体積あたりの力: \(F = n \cdot f\) (\(n\) は個数密度、\(f\) は1個あたりの力)。

具体的な解説と立式
単位体積あたりの電子数は \(n\) です。
単位体積あたりのローレンツ力 \(F_L\) は、
$$
\begin{aligned}
F_L &= n \cdot (evB) \\[2.0ex]
&= envB
\end{aligned}
$$
単位体積あたりの静電気力 \(F_E\) は、
$$
\begin{aligned}
F_E &= n \cdot (eE) \\[2.0ex]
&= enE
\end{aligned}
$$
これらがつりあうので、
$$
\begin{aligned}
envB &= enE \\[2.0ex]
vB &= E
\end{aligned}
$$
ここで、電流密度 \(i = env\) より \(v = \frac{i}{en}\) です。
また、\(i = \frac{I}{ac}\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{I}{enac}
\end{aligned}
$$
電位差 \(V = Ea = vBa\) に代入すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \left( \frac{I}{enac} \right) Ba \\[2.0ex]
&= \frac{IB}{enc}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電流密度: \(i = env\)
  • 力のつりあい(単位体積あたり)
計算過程

メインの解法と同様の計算を経て、同じ結果が得られます。

この設問の平易な説明

電子1個1個を見るのではなく、「電気の流体」全体にかかる圧力のバランスとして考えました。
結果は同じですが、流体力学的な視点で現象を捉えることができます。

結論と吟味

全く同じ結果 \(\frac{IB}{enc}\) が得られました。

解答 (5) \(\displaystyle \frac{IB}{enc}\)
別解: 微積分を用いた体系的解法

思考の道筋とポイント
電位差 \(V\) を公式 \(V=Ed\) で片付けるのではなく、電場 \(E(x)\) の積分として定義から計算します。
また、定常状態に至るプロセスを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 電位の定義: \(V = – \int \vec{E} \cdot d\vec{r}\)。ここでは \(x\) 軸方向の積分。
  • 定常条件: 電子にかかる合力が \(0\) になること。

具体的な解説と立式
導体内の位置 \(x\) における電場を \(E(x)\) とします(実際には一様なので定数 \(E\) です)。
電子(電荷 \(-e\))にかかる運動方程式は、\(x\) 方向の速度を \(u\) として、
$$
\begin{aligned}
m \frac{du}{dt} &= -eE(x) + evB
\end{aligned}
$$
定常状態では、電子の \(x\) 方向の移動が止まる(\(u=0, du/dt=0\))ので、
$$
\begin{aligned}
0 &= -eE + evB \\[2.0ex]
E &= vB
\end{aligned}
$$
電位差 \(V\) は、M(\(x=0\))に対するN(\(x=a\))の電位なので、
$$
\begin{aligned}
V_{NM} &= V(a) – V(0) \\[2.0ex]
&= – \int_0^a E \, dx
\end{aligned}
$$
電場 \(E\) は \(x\) 軸正方向(MからN)を向いていると仮定して計算しましたが、実際には電子(負電荷)がNに溜まるため、電場はNからM(\(-x\) 方向)に向かいます。
ここでは大きさだけを考えて、電位差の大きさ \(|V|\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
|V| &= \int_0^a vB \, dx \\[2.0ex]
&= vB [x]_0^a \\[2.0ex]
&= vBa
\end{aligned}
$$
符号については、電子がNに溜まるため \(V_N < V_M\) となり、\(V_{NM} = -vBa\) です。
問(5)の答えとしては大きさ(またはMに対するNの電位差の絶対値的な表現)が求められている文脈なので、
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{IB}{enc}
\end{aligned}
$$
とします。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
  • 電位の定義: \(V = – \int \vec{E} \cdot d\vec{r}\)
計算過程

積分計算により、\(V = vBa\) が導かれました。
これに \(v = \frac{I}{enac}\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{IB}{enc}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「電圧とは、電気の坂道の高さの差である」という定義に従って、電場の坂道を積分(足し合わせ)して高さを求めました。
一様な坂道(一定の電場)なので、単純な掛け算と同じ結果になりましたが、この方法は坂の傾きが変わるような複雑な場合でも使える正しい手順です。

結論と吟味

微積分を用いても同じ結果が得られました。
電位差が電場の空間積分であることを再確認できました。

解答 (5) \(\displaystyle \frac{IB}{enc}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力による電荷の分離(ホール効果)
    • 核心: 磁場中を移動する荷電粒子(キャリア)は、ローレンツ力を受けて導体の側面に偏ります。これにより導体内部に電場が生じ、最終的に静電気力とローレンツ力がつりあう定常状態に達します。
    • 理解のポイント:
      • 過渡状態: スイッチを入れた直後は、キャリアはローレンツ力で曲がります。
      • 定常状態: 側面に電荷が溜まりきると、新たな電場による逆向きの力が生まれ、キャリアは直進するようになります。このときの「力のつりあい」が計算の起点です。
  • 電流の微視的モデル
    • 核心: マクロな電流 \(I\) を、ミクロな電子の運動(密度 \(n\)、速度 \(v\)、断面積 \(S\))に分解して捉える視点です。
    • 理解のポイント:
      • 公式 \(I = enSv\) は暗記するだけでなく、「単位時間に断面を通過する電荷の総量」という定義からいつでも導けるようにしておく必要があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • MHD発電(磁気流体発電): 導体の代わりにプラズマや電解質溶液などの流体を流し、起電力を取り出す装置。原理はホール効果と全く同じです。
    • 電磁流量計: 導電性の液体(血液など)の流速を測る装置。発生する電圧 \(V\) を測定することで、流速 \(v\) や流量 \(Q=Sv\) を逆算します。
    • 速度選択器: 電場と磁場を直交させ、特定の速度の粒子だけを直進させる装置。ホール効果の定常状態と同じ「力のつりあい」を利用しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. キャリアの正負を確認: 「電子(負)」なのか「正孔・イオン(正)」なのかを最初に見極めます。これが電位の正負(電圧の向き)を決定する最大の要因です。
    2. 3次元的な位置関係の把握: 電流 \(I\)、磁場 \(B\)、力 \(F\)(ホール電圧 \(V\))の3つのベクトルは互いに直交します。右手系座標(フレミング)を確実に適用するために、図に矢印を書き込みましょう。
    3. 寸法の定義: 幅 \(a\)、奥行き \(b\)、厚さ \(c\) など、どの長さが「磁場に平行」で、どれが「電場に平行」なのかを整理します。特にホール電圧の式 \(V = \frac{IB}{enc}\) において、分母に来るのが「磁場に平行な厚さ \(c\)」であることを理解しておくと、検算に役立ちます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の移動方向と電流の向きの混同:
    • 誤解: 電流が右向きだから、電子も右に動いていると思い込み、フレミングの法則を適用してしまう。
    • 対策: 「電流はプラスからマイナス」「電子はマイナスからプラス」です。電子の速度ベクトル \(\vec{v}\) は電流 \(\vec{I}\) と逆向きであることを、図に大きく矢印で書き込みましょう。
  • 電位の正負の判定ミス:
    • 誤解: 「力が働く側に電荷が溜まるから、そっちが高電位だ」と短絡的に考えてしまう。
    • 対策: 溜まるのが「正電荷」なら高電位、「負電荷」なら低電位です。必ず「キャリアの符号」と「溜まる場所」の2ステップで判断してください。
  • ホール電圧の式の文字の取り違え:
    • 誤解: \(V = vBa\) の \(a\)(幅)と \(c\)(厚さ)を逆にしてしまう。
    • 対策: 電位差 \(V\) は電場 \(E\) に沿った距離(力の働く方向の距離)を掛けたものです。図を見て、ローレンツ力が働く方向の辺の長さ(今回は \(a\))を使うことを確認しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問(3)での公式選択(力のつりあい):
    • 選定理由: 「定常状態」=「電子が直進している」=「合力がゼロ」という論理から、運動方程式ではなく静力学的なつりあいの式を選びます。
    • 適用根拠: 電子にはローレンツ力と電場からの静電気力の2つしか働いておらず、これらが拮抗している状況が明確だからです。
  • 問(5)での公式選択(電流の定義式):
    • 選定理由: 問題文で与えられたマクロな量 \(I\) と、計算過程で出てきたミクロな量 \(v\) を結びつける唯一の架け橋だからです。
    • 適用根拠: 電流の定義 \(I = \frac{dQ}{dt}\) に基づく \(I = enSv\) は、キャリアの種類や導体の形状によらず常に成立する普遍的な関係式です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
    • 答え \(V = \frac{IB}{enc}\) の単位を確認します。
      • \(I\) [A], \(B\) [T], \(e\) [C], \(n\) [1/m\(^3\)], \(c\) [m]
      • 単位を追うのは大変ですが、\(V \propto I\)(オームの法則的)、\(V \propto B\)(ローレンツ力的)、\(V \propto 1/n\)(キャリアが少ないほど速く動く必要があるため電圧大)という比例・反比例の関係が直感と合うかを確認するだけでも効果的です。
  • 極限的なケースでの検算:
    • もし \(B=0\) (磁場なし)だったら? 式は \(V=0\) となり、ホール効果が起きないことと一致します。
    • もし \(n\) が無限大(金属のようにキャリアが大量)だったら? \(V \to 0\) となります。実際、金属のホール電圧は半導体に比べて非常に小さいため、これも物理的事実と整合します。
  • 図への書き込み:
    • フレミングの左手を使う際、頭の中だけでやらず、問題用紙の図に「\(I \uparrow\)」「\(B \rightarrow\)」「\(F \odot\)」のように矢印を書き込み、それに指を合わせるようにするとミスが激減します。

問題142 (徳島大)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 全設問共通の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
      • 模範解答が「終端速度」という結果(力のつりあい)を前提としているのに対し、別解では運動方程式 \(m\frac{dv}{dt} = F – krv\) を時間積分することで、速度 \(v(t)\) が時間とともにどのように変化し、最終的に終端速度に至るのかという過渡現象を含めた完全な導出を行います。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 微積分の解法: 「なぜ速度が一定になるのか」という物理的理由を、数式(指数関数的減衰)から定量的に理解できます。また、空気抵抗が速度に比例する場合の運動解析は、雨滴の落下や回路の過渡現象など、物理学の広範な分野に応用できる重要なモデルです。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答え(終端速度での関係式)は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ミリカンの油滴実験」です。
微小な帯電油滴に働く重力、空気抵抗力、静電気力のつりあいを利用して、電気素量(電気量の最小単位)を測定した歴史的に有名な実験を扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力のつりあい: 油滴が一定の速度(終端速度)で運動しているとき、油滴に働く合力は \(0\) です。
  • ストークスの法則: 微小な球体が流体中を運動するとき、速度 \(v\) に比例する抵抗力を受けます。本問では抵抗力 \(R = krv\) と与えられています。
  • 電気素量の量子性: 全ての電荷は電気素量 \(e\) の整数倍になります(\(q = ne\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (ア)〜(エ)では、電場がない場合の落下運動と、電場がある場合の上昇運動について、それぞれ力のつりあいの式を立て、油滴の電荷 \(q\) を求めます。
  • 問1では、与えられた数値を用いて具体的な電荷 \(q\) を計算します。
  • 問2では、複数の測定データから最大公約数的な最小単位(電気素量)を推定します。

問(ア), (イ), (ウ), (エ)

思考の道筋とポイント
油滴の運動を「電場なし(落下)」と「電場あり(上昇)」の2つの局面に分けて考えます。
どちらも「一定の速さ」で動いているため、加速度は \(0\) であり、力のつりあいが成立しています。
働く力を漏れなく列挙し、向きに注意して式を立てることが最重要です。

この設問における重要なポイント

  • 力の列挙:
    • 重力 \(mg\): 常に鉛直下向き。質量 \(m\) は密度 \(\rho\) と体積 \(\frac{4}{3}\pi r^3\) から求めます。
    • 空気抵抗力 \(krv\): 常に運動方向と逆向き。落下時は上向き、上昇時は下向きです。
    • 静電気力 \(qE\): 電場 \(E = V/d\) による力。上昇させるためには上向きである必要があります。
  • 浮力の無視: 問題文の指示通り、空気の浮力は無視します。

具体的な解説と立式
(ア) 電気素量の定義
電気素量は、電子(または陽子)のもっている電気量の大きさに等しいです。

(イ) 落下時のつりあい
油滴は鉛直下向きに速さ \(v_1\) で落下しています。

  • 下向きの力: 重力 \(mg\)
  • 上向きの力: 空気抵抗力 \(krv_1\)

これらがつりあっているので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{下向きの力}) &= (\text{上向きの力}) \\[2.0ex]
mg &= krv_1
\end{aligned}
$$
ここで、質量 \(m\) を密度 \(\rho\) と半径 \(r\) で表します。球の体積は \(\frac{4}{3}\pi r^3\) なので、
$$
\begin{aligned}
m &= \rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3
\end{aligned}
$$
これを代入して、つりあいの式を完成させます。
$$
\begin{aligned}
\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g &= k r v_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

(ウ) 上昇時のつりあい
油滴は鉛直上向きに速さ \(v_2\) で上昇しています。

  • 上向きの力: 静電気力 \(F_E = qE = q\frac{V}{d}\)
  • 下向きの力: 重力 \(mg\)、空気抵抗力 \(krv_2\)(運動方向と逆なので下向き)

これらがつりあっているので、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
q \frac{V}{d} &= mg + k r v_2
\end{aligned}
$$
同様に \(m\) を書き換えます。
$$
\begin{aligned}
q \frac{V}{d} &= \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + k r v_2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

(エ) 電荷 \(q\) の導出
式①と式②から \(q\) を求めます。
式①より、重力項 \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\) は \(krv_1\) に等しいので、これを式②に代入して重力を消去します。

使用した物理公式

  • 球の体積: \(V_{\text{球}} = \frac{4}{3}\pi r^3\)
  • 質量と密度: \(m = \rho V_{\text{球}}\)
  • 電場の強さ: \(E = \frac{V}{d}\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
  • 力のつりあい: \(\sum \vec{F} = 0\)
計算過程

式②に式①を代入します。
$$
\begin{aligned}
q \frac{V}{d} &= k r v_1 + k r v_2 \\[2.0ex]
q \frac{V}{d} &= k r (v_1 + v_2)
\end{aligned}
$$
これを \(q\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{krd}{V}(v_1 + v_2)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、電気をかけずに落とします。重力で落ちようとする力と、空気の邪魔する力が釣り合って、一定のスピードで落ちていきます。これで重力の大きさが分かります。
次に、電気をかけて持ち上げます。電気の力で引っ張り上げる力と、重力+空気の邪魔する力が釣り合って、一定のスピードで上がっていきます。
「持ち上げるのに必要な力」から「重力」を引けば、「電気の力」だけを取り出せます。そこから油滴が持っている電気の量を計算しました。

結論と吟味

答えは \(q = \frac{krd}{V}(v_1 + v_2)\) です。
速度 \(v_1, v_2\) が速いほど、あるいは距離 \(d\) が大きい(電場が弱い)ほど、大きな電荷 \(q\) が必要になるという関係は物理的に妥当です。

解答 (ア) 電子, (イ) \(\displaystyle kr v_1 = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\), (ウ) \(\displaystyle q\frac{V}{d} = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + kr v_2\), (エ) \(\displaystyle \frac{krd}{V}(v_1 + v_2)\)

問1

思考の道筋とポイント
(エ)で導出した式に、与えられた数値を代入して計算するだけです。
ただし、数値計算が煩雑なので、指数部分(10の何乗)の計算ミスに細心の注意を払います。

この設問における重要なポイント

  • 数値の代入: 単位が揃っているか確認します(全てSI単位系なのでそのまま代入可)。
  • 有効数字: 与えられた数値が2桁〜3桁なので、最終結果も適切に丸めます。

具体的な解説と立式
求める電荷 \(q\) の式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{krd}{V}(v_1 + v_2)
\end{aligned}
$$
与えられた数値:

  • \(k = 3.41 \times 10^{-4} \, \text{kg}/(\text{m}\cdot\text{s})\)
  • \(r = 5.4 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
  • \(d = 5.0 \times 10^{-3} \, \text{m}\)
  • \(V = 320 \, \text{V}\)
  • \(v_1 = 3.0 \times 10^{-5} \, \text{m}/\text{s}\)
  • \(v_2 = 8.0 \times 10^{-5} \, \text{m}/\text{s}\)

使用した物理公式

  • (エ)の結果式
計算過程

数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{(3.41 \times 10^{-4}) \times (5.4 \times 10^{-7}) \times (5.0 \times 10^{-3})}{320} \times (3.0 \times 10^{-5} + 8.0 \times 10^{-5})
\end{aligned}
$$
まず、括弧内の速度の和を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_1 + v_2 &= (3.0 + 8.0) \times 10^{-5} \\[2.0ex]
&= 11.0 \times 10^{-5} \\[2.0ex]
&= 1.1 \times 10^{-4}
\end{aligned}
$$
これを代入して、仮数部と指数部を分けます。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{3.41 \times 5.4 \times 5.0 \times 1.1}{320} \times 10^{-4-7-3-4} \\[2.0ex]
&= \frac{3.41 \times 5.4 \times 5.5}{320} \times 10^{-18}
\end{aligned}
$$
分子の計算:
\(3.41 \times 5.4 \approx 18.414\)
\(18.414 \times 5.5 \approx 101.277\)
割り算:
\(101.277 \div 320 \approx 0.31649…\)
指数を調整します。
$$
\begin{aligned}
q &\approx 0.316 \times 10^{-18} \\[2.0ex]
&= 3.16 \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるなら \(3.2 \times 10^{-19}\) C です。

この設問の平易な説明

前の問題で作った公式という「計算機」に、実験で得られた数字を打ち込んで、答えを出しました。
とても小さな数字になりますが、これが電子数個分の電気量です。

結論と吟味

答えは \(3.2 \times 10^{-19} \, \text{C}\) です。
電気素量 \(e \approx 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\) の約2倍であり、電子2個分の電荷を持っていると考えられ、妥当な値です。

解答 問1 \(3.2 \times 10^{-19} \, \text{C}\)

問2

思考の道筋とポイント
得られた複数の測定値は、すべて電気素量 \(e\) の整数倍(\(ne\))になっているはずです。
測定値を小さい順に並べ、隣り合う値の差を取ったり、比を取ったりして、共通する「最小単位(最大公約数)」を見つけ出します。

この設問における重要なポイント

  • 量子性: \(q = n e\) (\(n\) は整数)
  • データ処理: 測定値の差もまた \(e\) の整数倍になります。特に最小の差は \(1e\) になる可能性が高いです。

具体的な解説と立式
測定値を小さい順に並べます(単位は \(\times 10^{-19} \, \text{C}\))。
\(3.2\) (問1の結果)
\(4.8\)
\(6.4\)
\(8.1\)
\(11.3\)

隣り合う値の差をとってみます。

  • \(4.8 – 3.2 = 1.6\)
  • \(6.4 – 4.8 = 1.6\)
  • \(8.1 – 6.4 = 1.7\)
  • \(11.3 – 8.1 = 3.2\)

差の中に \(1.6\) や \(1.7\) という値が現れました。また \(3.2\) は \(1.6\) の2倍です。
これより、電気素量 \(e\) は \(1.6\) 付近の値であると推測できます。

各測定値を \(1.6\) で割って、整数に近いか確認します。

  • \(3.2 \div 1.6 = 2.0 \rightarrow 2e\)
  • \(4.8 \div 1.6 = 3.0 \rightarrow 3e\)
  • \(6.4 \div 1.6 = 4.0 \rightarrow 4e\)
  • \(8.1 \div 1.6 \approx 5.06 \rightarrow 5e\)
  • \(11.3 \div 1.6 \approx 7.06 \rightarrow 7e\)

すべてのデータを使って最も確からしい平均値を求めます。
合計の電気量を、合計の電子数(整数の和)で割ります。
$$
\begin{aligned}
e_{\text{平均}} &= \frac{\text{測定値の和}}{\text{整数の和}} \\[2.0ex]
&= \frac{(3.2 + 4.8 + 6.4 + 8.1 + 11.3) \times 10^{-19}}{2 + 3 + 4 + 5 + 7}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電気量の量子化: \(q = ne\)
  • 平均値の計算
計算過程

分子の和:
\(3.2 + 4.8 = 8.0\)
\(8.0 + 6.4 = 14.4\)
\(14.4 + 8.1 = 22.5\)
\(22.5 + 11.3 = 33.8\)

分母の和:
\(2 + 3 + 4 + 5 + 7 = 21\)

割り算:
$$
\begin{aligned}
e_{\text{平均}} &= \frac{33.8}{21} \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&\approx 1.6095… \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で \(1.61 \times 10^{-19} \, \text{C}\) となります。

この設問の平易な説明

いろいろな油滴の電気を測ってみたら、バラバラな値に見えて、実はある決まった数(約1.6)の倍数になっていることに気づきました。
「2倍、3倍、4倍…」という関係から、その元になっている「1倍」の量(電気の粒1個分)を逆算しました。
たくさんのデータを使って平均することで、より正確な値を求めました。

結論と吟味

答えは \(1.61 \times 10^{-19} \, \text{C}\) です。
これは現代の精密な測定値 \(1.602 \times 10^{-19} \, \text{C}\) と非常によく一致しており、実験データの処理として適切です。

解答 問2 \(1.61 \times 10^{-19} \, \text{C}\)
別解: 微積分を用いた体系的解法

思考の道筋とポイント
「終端速度」という結果を天下り的に使うのではなく、運動方程式を立てて積分し、速度が時間とともにどう変化するか(過渡現象)を解析します。
これにより、時間が経つと加速度が \(0\) になり、速度が一定値に収束することを数学的に証明します。

この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(m a = F_{\text{外力}} – krv\)
  • 変数分離形: 微分方程式を解くための手法。

具体的な解説と立式
落下運動(電場なし)を考えます。鉛直下向きを正とします。
運動方程式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv}{dt} &= mg – krv
\end{aligned}
$$
(抵抗係数を \(K = kr\) と置きます)
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv}{dt} &= mg – Kv
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
  • 積分の公式: \(\int \frac{1}{x} dx = \ln|x|\)
計算過程

変数分離します。
$$
\begin{aligned}
\frac{m}{mg – Kv} dv &= dt
\end{aligned}
$$
両辺を積分します(初期条件 \(t=0, v=0\))。
$$
\begin{aligned}
\int_0^v \frac{m}{mg – Kv} dv &= \int_0^t dt \\[2.0ex]
\left[ -\frac{m}{K} \ln|mg – Kv| \right]_0^v &= t \\[2.0ex]
-\frac{m}{K} (\ln(mg – Kv) – \ln(mg)) &= t \\[2.0ex]
\ln \left( \frac{mg – Kv}{mg} \right) &= -\frac{K}{m} t \\[2.0ex]
\frac{mg – Kv}{mg} &= e^{-\frac{K}{m}t} \\[2.0ex]
mg – Kv &= mg e^{-\frac{K}{m}t} \\[2.0ex]
Kv &= mg (1 – e^{-\frac{K}{m}t}) \\[2.0ex]
v(t) &= \frac{mg}{K} (1 – e^{-\frac{K}{m}t})
\end{aligned}
$$
ここで、十分時間が経過したとき(\(t \to \infty\))、指数関数の項 \(e^{-\frac{K}{m}t}\) は \(0\) に収束します。
そのときの速度(終端速度 \(v_1\))は、
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \frac{mg}{K} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{kr}
\end{aligned}
$$
これを変形すると \(mg = kr v_1\) となり、問(イ)のつりあいの式と完全に一致します。

この設問の平易な説明

最初は重力で加速しますが、スピードが出るほど空気抵抗が大きくなり、ブレーキがかかります。
計算の結果、速度はある値(終端速度)に向かってスムーズに近づいていくことが分かりました。
「力が釣り合っている」という状態は、この変化の行き着く先(ゴール)であることを数学的に確認しました。

結論と吟味

微積分を用いることで、終端速度に至るプロセスを含めて現象を記述できました。
結果として得られる式は、力のつりあいから求めたものと同じになります。

解答 (イ) \(kr v_1 = mg\) (導出過程は上記の通り)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 終端速度と力のつりあい
    • 核心: 流体中を運動する物体は、速度に依存する抵抗力を受け、やがて加速度が \(0\) の状態(終端速度)に達します。このとき、物体に働く全ての力の合力は \(0\) になります。
    • 理解のポイント:
      • 落下時: 重力 \(mg\) と空気抵抗 \(krv\) がつりあう。
      • 上昇時: 静電気力 \(qE\) が、重力 \(mg\) と空気抵抗 \(krv\) の和とつりあう。
      • この2つの状態を連立させることで、未知の電荷 \(q\) を測定可能にするのがミリカンの実験の原理です。
  • 電気量の量子化
    • 核心: 自然界に存在する電荷は、連続的な値をとるのではなく、最小単位(電気素量 \(e\))の整数倍という離散的な値をとります。
    • 理解のポイント:
      • 実験データからこの「最小単位」を見つけ出すには、データの差や比を取り、共通する最大公約数を見つけるという統計的な処理が必要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 雨滴の落下: 雨粒が空気抵抗を受けて等速落下する問題。本問の「電場なし」の状態と全く同じ物理モデルです。
    • 粘性抵抗と慣性抵抗: 抵抗力が速度 \(v\) に比例する場合(粘性抵抗)と、\(v^2\) に比例する場合(慣性抵抗)があります。問題文の指示を絶対視してください。
    • コンデンサー内の荷電粒子の運動: 重力と静電気力の合力を受けて運動する問題全般に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の向きの矢印: 特に空気抵抗力は「運動方向と逆」に働くため、落下時と上昇時で向きが反転します。図に必ず矢印を書き込みましょう。
    2. 浮力の有無: 「浮力は無視する」という記述があるか確認します。もし無視できない場合は、重力 \(mg\) の代わりに \((\rho – \rho_{\text{空気}})Vg\) を使う必要があります。
    3. 定数 \(k\) の定義: 本問のように \(k\) が半径 \(r\) を含むか含まないか(\(kv\) か \(krv\) か)は問題によって異なります。単位を確認するか、問題文の定義式を指差し確認してください。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 空気抵抗の向きの間違い:
    • 誤解: 上昇時も落下時と同じく「上向き」に抵抗力が働くと勘違いして立式してしまう。
    • 対策: 「抵抗力は常に邪魔をする力」と覚えましょう。動く方向の矢印を書いたら、即座にその逆向きに抵抗力の矢印を書く癖をつけます。
  • 数値計算の指数ミス:
    • 誤解: \(10^{-19}\) などの極小な数値を扱う際、指数の足し算・引き算を間違える。
    • 対策: 仮数部(\(3.41 \times 5.4\) など)と指数部(\(10^{-4-7…}\))を完全に分けて計算し、最後に合体させる手順を徹底します。
  • 電気素量の推定ミス:
    • 誤解: 測定値そのものを電気素量だと思い込んだり、単に最小の測定値を \(e\) と決めつけたりする。
    • 対策: 測定値は \(ne\) です。必ず「差」をとって、\(1e\) に相当するステップを見つけ出すプロセスを経てください。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問(エ)での公式選択(連立方程式):
    • 選定理由: 未知数である質量 \(m\)(または半径 \(r\))を消去し、測定可能な量(速度 \(v_1, v_2\)、電圧 \(V\) など)だけで \(q\) を表すためです。
    • 適用根拠: 落下と上昇という独立した2つの現象から得られた2つのつりあいの式は、未知数を消去するための必要十分条件を満たしています。
  • 問2での公式選択(加重平均的な処理):
    • 選定理由: 単純な平均ではなく、各データが \(ne\) に対応していることを利用して、総電荷量を総電子数で割ることで、誤差を最小化できるからです。
    • 適用根拠: 測定値には必ず誤差が含まれます。個別に \(e\) を求めて平均するよりも、全体の傾向から回帰的に求める方が統計的に確からしい値が得られます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
    • 答え \(q = \frac{krd}{V}(v_1+v_2)\) の単位を確認します。
      • \(k\) [kg/(m\(\cdot\)s)], \(r\) [m], \(d\) [m], \(V\) [V], \(v\) [m/s]
      • 右辺の単位を整理すると \([\text{kg}/(\text{m}\cdot\text{s}) \cdot \text{m} \cdot \text{m} / \text{V} \cdot \text{m}/\text{s}] = [\text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2 / \text{V}] = [\text{J}/\text{V}] = [\text{C}]\)
      • 正しく電荷の単位になっていることが確認できます。
  • 極限的なケースでの検算:
    • もし \(v_2 = -v_1\) (上昇速度が落下の逆、つまり落下速度と同じ速さで上昇)だったら?
      • 式に代入すると \(q=0\) となってしまいますが、これは物理的にあり得ません(静電気力が重力+抵抗の2倍必要)。
      • 実際には \(v_2\) は静電気力によって決まる従属変数なので、この検算は不向きですが、「\(V\) が大きいほど \(v_2\) が大きくなる」という傾向は確認できます。
  • 定数の事前計算:
    • 問1のような複雑な計算では、\(\frac{krd}{V}\) の部分を先に計算して定数 \(C\) とし、\(q = C(v_1+v_2)\) として計算すると、見通しが良くなりミスが減ります。
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問題143 (弘前大+北見工大)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解1: 微積分を用いた体系的解法(電場による仕事と運動エネルギー)
      • 模範解答が公式 \(K_{\text{最大}} = eV_0\) を既知として使用するのに対し、別解1では電場 \(E\) 中での電子の運動方程式 \(ma = -eE\) を立て、それを空間積分することで「電場がした仕事=運動エネルギーの変化」というエネルギー保存則を第一原理から導出します。
    • 設問(3)の別解2: 単位換算を用いた直感的な解法
      • 物理定数を個別に代入して計算するのではなく、\(hc \approx 1240 \, \text{eV}\cdot\text{nm}\) という便利な関係式を用いて、エネルギー計算を簡略化する実戦的なテクニックを紹介します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 微積分の解法: 公式の暗記に頼らず、力学的エネルギー保存則が電磁気現象においても成立する背景(運動方程式の積分)を理解することで、物理学の統一的な視点を養います。
    • 単位換算の解法: 入試問題などで頻出するエネルギー計算において、計算ミスを減らし、圧倒的なスピードアップを実現します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光電効果」です。
光を金属に当てると電子が飛び出す現象を通じて、光の粒子性(光子)とエネルギー量子仮説を理解します。
特に、阻止電圧 \(V_0\) と最大運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) の関係、およびアインシュタインの光電効果の式が核心となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 光子説: 光はエネルギー \(E = h\nu = hc/\lambda\) を持つ粒子(光子)の流れである。
  • アインシュタインの光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{最大}}\) (光子のエネルギー = 仕事関数 + 電子の最大運動エネルギー)
  • エネルギー保存則: 電場による仕事 \(eV\) が運動エネルギーの変化に等しい。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)では、電流の定義から単位時間あたりの電子数を求めます。
  • (2)では、阻止電圧(電流が \(0\) になる電圧)から飛び出した電子の最大運動エネルギーを求めます。
  • (3)では、光電効果の式を用いて仕事関数と限界振動数を計算します。
  • (4)(5)では、光の強さや振動数を変えたときの影響をグラフで定性的に理解します。

問(1)

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

「解法に至る思考プロセス」
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