問題141 (愛媛大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、n型半導体およびp型半導体におけるホール効果について扱っています。電流が流れている半導体に磁場を加えたとき、半導体内部のキャリア(電子または正孔)がローレンツ力を受けて偏り、それによって電位差(ホール電圧)が生じる現象を理解しているかが問われます。
- 直方体の半導体。x, y, z 方向の長さはそれぞれ \(a, b, c\)。
- 電流 \(I\) がy軸の正の向きに流れている。
- 磁束密度 \(B\) の一様な磁場がz軸の正の向きに加えられている。
- 半導体は単位体積あたり \(n\) 個のキャリア(n型の場合は電子、p型の場合は正孔)をもつ。
- キャリアの電荷の大きさを \(e\)、平均の速さを \(v\) とする。
- 点Mは \(x=0\) の面(奥側)、点Nは \(x=a\) の面(手前側)を示す。
- (1) n型半導体における電流 \(I\) の表式。
- (2) n型半導体内の電子が受けるローレンツ力の大きさ。
- (a) 上記ローレンツ力の向き(x軸の正または負)。
- (b) 上記の力の名称。
- (c) n型半導体において、Mに対するNの電位の状態(高低、正負)。
- (3) n型半導体において、キャリアに働く磁場による力と電場による力がつりあったときの電場の強さ。
- (4) n型半導体におけるMN間の電位差 \(V\)。
- (5) 上記電位差 \(V\) を電流 \(I\) を用いて表した式。
- (d) p型半導体において電流の担い手となるもの。
- (e) p型半導体において、Mに対するNの電位の状態(高低、正負)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「ホール効果」です。ホール効果は、電流が流れている導体や半導体に磁場をかけると、導体内の荷電粒子(キャリア)がローレンツ力を受けて移動し、導体内部に電位差が生じる現象です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の微視的表現: 電流の大きさを、キャリアの数、電荷、速さ、断面積で表す式 (\(I = en v S_{\text{断面}}\)) を理解していること。
- ローレンツ力: 磁場中で運動する荷電粒子が受ける力。向きはフレミングの左手の法則で、大きさは \(f = |q|vB\)(速度と磁場が垂直な場合)で与えられます。
- 電場と電位の関係: 電荷の偏りによって生じる電場と、それによる電位差の関係 (\(V=Ed\)) を理解していること。
- 力のつりあい: 定常状態では、キャリアが受けるローレンツ力と電場による力がつりあうこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、n型半導体について考えます。電流の担い手は電子(負電荷)です。電流の定義から、電流 \(I\) を電子の速さ \(v\) や濃度 \(n\) などで表します。
- 次に、磁場中を運動する電子が受けるローレンツ力の大きさと向きを求めます。
- ローレンツ力によって電子が半導体の一方の側面に偏ることで電場が生じ、やがてローレンツ力と電場からの力がつり合います。このつり合いの条件から電場の強さを求め、MN間の電位差(ホール電圧)を計算します。
- 最後に、p型半導体について同様に考えます。p型半導体では電流の担い手が正孔(正電荷)であることに注意します。
問(1)
思考の道筋とポイント
電流の定義は、ある断面を単位時間に通過する電気量です。これを、キャリアの数、電荷、速さ、断面積を用いて微視的に表現することを考えます。
n型半導体では、電子が電流の担い手です。電流の向きはy軸正方向ですが、負電荷である電子の運動方向は電流の向きと逆、つまりy軸負方向になります。しかし、電流の大きさを考える際には、電子の速さの絶対値を用います。
この設問における重要なポイント
- 電流 \(I\) は、単位時間あたりに断面を通過する電気量。
- キャリアの電荷の大きさを \(e\)、単位体積あたりのキャリア数を \(n\)、キャリアの平均の速さを \(v\)、電流が通過する断面積を \(S_{\text{断面}}\) とすると、電流 \(I\) は \(I = en v S_{\text{断面}}\) と表せます。
- 問題の図から、電流はy軸方向に流れており、その断面はxz平面です。したがって、断面積 \(S_{\text{断面}}\) は \(a \times c\) となります。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、電子の電荷の大きさを \(e\)、単位体積あたりの電子の数を \(n\)、電子の平均の速さを \(v\)、電流が流れる方向に垂直な半導体の断面積を \(S_{\text{断面}}\) とすると、次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
I &= envS_{\text{断面}} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
ここで、電流はy軸方向に流れており、半導体のx方向の長さが \(a\)、z方向の長さが \(c\) であるため、電流が通過する断面積 \(S_{\text{断面}}\) は \(ac\) です。
したがって、電流 \(I\) は、
$$
\begin{aligned}
I &= enacv \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
と表されます。
使用した物理公式
- 電流の微視的表現: \(I = en v S_{\text{断面}}\)
上記「具体的な解説と立式」の通り、式②が電流 \(I\) を表す式となります。
電流の強さは、1秒間に断面を通過する電気の量です。半導体の中には、単位体積あたり \(n\) 個の電子があります。電子1個の電気の量は \(e\) です。電子が速さ \(v\) で動いているとすると、1秒間に長さ \(v\) だけ進みます。電流が流れる方向の断面積を \(S_{\text{断面}}\) とすると、1秒間にこの断面を通過する電子の個数は、体積 \(vS_{\text{断面}}\) の中に含まれる電子の数、つまり \(nvS_{\text{断面}}\) 個です。したがって、1秒間に通過する電気量は \(e \times (nvS_{\text{断面}}) = envS_{\text{断面}}\) となります。この問題では、断面積 \(S_{\text{断面}}\) が \(ac\) なので、\(I = enacv\) となります。
電流 \(I\) は \(enacv\) と表されます。これは電流の基本的な定義から導かれる重要な関係式です。単位も確認すると、\(e[\text{C}]\), \(n[\text{m}^{-3}]\), \(a[\text{m}]\), \(c[\text{m}]\), \(v[\text{m/s}]\) なので、\(enacv\) の単位は \([\text{C} \cdot \text{m}^{-3} \cdot \text{m} \cdot \text{m} \cdot \text{m/s}] = [\text{C/s}] = [\text{A}]\) となり、電流の単位と一致します。
問(2), (a), (b)
思考の道筋とポイント
磁場中で運動する荷電粒子はローレンツ力を受けます。n型半導体では、電子が電流を担っています。
電子の電荷は \(-e\)(大きさは \(e\))、速さは \(v\)、磁束密度は \(B\) です。電子の運動方向と磁場の方向は垂直です(電子はy軸負方向に運動、磁場はz軸正方向)。
ローレンツ力の大きさは \(|q|vB\) で計算できます。向きはフレミングの左手の法則で慎重に判断します。
この設問における重要なポイント
- ローレンツ力の公式: \(f = |q|vB\sin\theta\)。今回は速度と磁場が垂直なので \(\sin\theta = 1\)。
- 電子の電荷の大きさは \(e\)。力の大きさは \(evB\)。
- フレミングの左手の法則の正しい適用:
- 中指を「(正の)電荷の運動方向」と定義して使います。
- 中指を電子の運動方向(y軸負方向)に合わせます。
- 人差し指を磁場の向き(z軸正方向)に合わせます。
- このとき、親指はx軸の負の向きを向きます。
- 親指が示すのは「正電荷」が受ける力の向きです。電子は「負電荷」なので、実際に受ける力は親指の向きとは逆になります。
- したがって、電子が受ける力はx軸の正の向きとなります。
- この力は「ローレンツ力」と呼ばれます。
具体的な解説と立式
電子(電荷 \(-e\))が磁束密度 \(B\) の磁場中を、磁場と垂直に速さ \(v\) で運動するときに受ける力の大きさ \(f\) は、
$$
\begin{aligned}
f &= e v B \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
と表されます。この力はローレンツ力とよばれます。
次に、このローレンツ力の向きを考えます。
電流 \(I\) の向きはy軸の正の向きです。電子は負の電荷を持っているので、電子の運動の平均的な向きは電流の向きとは逆で、y軸の負の向きとなります。
磁場 \(B\) の向きはz軸の正の向きです。
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指を電子の運動方向(y軸負方向)に合わせます。
- 人差し指を磁場の向き(z軸正方向)に合わせます。
- このとき、親指はx軸の負の向きを向きます。
- 親指が示すのは「正電荷」が受ける力の向きです。電子は「負電荷」なので、実際に受ける力は親指の向きとは逆になります。
- したがって、電子が受ける力はx軸の正の向きとなります。
使用した物理公式
- ローレンツ力の大きさ: \(f = |q|vB\) (速度と磁場が垂直な場合)
- フレミングの左手の法則
力の大きさは式③の通り \(evB\) です。
力の向きは、上記のフレミングの左手の法則の正しい適用によりx軸の正の向きです。
磁場の中で電気が動くと、電気は力を受けます。この力をローレンツ力といいます。力の大きさは、電気の量 \(e\)、速さ \(v\)、磁場の強さ \(B\) に比例し、\(evB\) となります。力の向きは、フレミングの左手の法則で調べます。左手の中指を「電子の動く向き」(y軸のマイナス方向)、人差し指を「磁場の向き」(z軸のプラス方向)に合わせます。すると、親指はx軸のマイナス方向を指します。これは「プラスの電気が受ける力」の向きなので、マイナスの電気を持つ電子が受ける力は、その逆の「x軸のプラス方向」になります。
電子が受けるローレンツ力の大きさは \(evB\) であり、その向きはx軸の正の向きです。この力はローレンツ力と呼ばれます。フレミングの左手の法則を負電荷に適用する際は、親指の向きと逆になる点に注意が必要です。この結論は、模範解答の(a)の答えと一致しており、物理的に妥当です。
問(c)
思考の道筋とポイント
(a)で求めたように、電子はローレンツ力によりx軸の正の向きに力を受けます。問題の図から、Mの面は \(x=0\)(奥側)、Nの面は \(x=a\)(手前側)です。
電子はx軸正方向、すなわちNの面に向かって力を受け、Nの面に集まります。
この設問における重要なポイント
- 電子は負の電荷を持っています。
- 電子がx軸正方向(Nの面)に力を受けるため、Nの面に電子が集まります。
- 電子が集まったNの面は、負に帯電し、電位が低くなります。
- 電子が不足したMの面は、相対的に正に帯電し、電位が高くなります。
具体的な解説と立式
問(a)の結果から、電子はローレンツ力によってx軸の正の向きに力を受けます。
問題の図で定義されているように、x軸の正の方向にはNの面(\(x=a\))があります。
したがって、負の電荷を持つ電子はNの面に集積します。
その結果、Nの面は負に帯電し、電位は周囲に比べて低くなります。
一方、Mの面(\(x=0\))は電子が相対的に不足するため、正に帯電し、電位は周囲に比べて高くなります。
設問では「Mに対してNの電位は」と問われているので、Nの電位は低く(負に)なります。
定性的な判断であり、計算式はありません。
電子はマイナスの電気を持っています。(a)でわかったように、電子はx軸のプラス方向、つまり手前側にあるNの面に向かって力を受けます。その結果、マイナスの電気を持つ電子がNの面にたくさん集まります。マイナスの電気が集まったN面は、マイナスに帯電し、電位(電気的な高さ)が低くなります。逆に、奥側にあるMの面は電子が減るので、プラスに帯電し、電位が高くなります。そのため、M面と比べるとN面の電位は低くなります。
Mに対してNの電位は低く(負に)なります。これは、問(a)で導かれた力の向きと物理的に完全に一致する正しい結論です。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(c)で確立した物理的状況、すなわち「Nの面が負、Mの面が正に帯電する」状況を考えます。この電荷の偏りにより、Mの面(\(x=0\))からNの面(\(x=a\))の向き、つまりx軸の正の向きに電場 \(E\) が生じます。
電子(電荷\(-e\))は、この電場 \(E\) から、電場とは逆向き、すなわちx軸の負の向きに力 \(eE\) を受けます。
定常状態では、この電場による力(x軸負方向)と、磁場によるローレンツ力(x軸正方向、問(a)より)が大きさでつりあいます。
この設問における重要なポイント
- 電子が受けるローレンツ力の大きさ: \(f_{\text{ローレンツ}} = evB\)(x軸正方向)。
- MN間に生じる電場の向きは、M(正)からN(負)の向き、すなわちx軸正方向。
- 電子が電場 \(E\) から受ける力の大きさ: \(f_{\text{電場}} = eE\)(x軸負方向)。
- 力のつりあい: (x軸正方向の力)=(x軸負方向の力)。
具体的な解説と立式
定常状態では、電子が受けるローレンツ力と電場による力がつりあいます。
ローレンツ力はx軸正方向に大きさ \(evB\) です。
Mの面が正、Nの面が負に帯電するため、電場 \(E\) はx軸正方向に生じます。電子は負電荷なので、この電場からx軸負方向に大きさ \(eE\) の力を受けます。
力のつり合いから、
$$
\begin{aligned}
(\text{x軸正方向の力}) &= (\text{x軸負方向の力}) \\[2.0ex]
evB &= eE \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
となります。この式から電場の強さ \(E\) を求めると、
$$
\begin{aligned}
E &= vB \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
と表されます。
使用した物理公式
- ローレンツ力の大きさ: \(f = evB\)
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = qE\)
- 力のつりあい
式④ \(evB = eE\) の両辺を \(e\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
E &= vB
\end{aligned}
$$
となり、式⑤が得られます。
電子は、磁場からローレンツ力(x軸プラス方向、大きさ \(evB\))を受けます。電子がN面に偏ることでMN間に電場 \(E\) ができると、今度はこの電場から逆向き(x軸マイナス方向)に力(大きさ \(eE\))を受けます。この2つの力がちょうど同じ大きさになってつりあうと、電子はそれ以上偏らなくなります。つまり、\(evB = eE\) という式が成り立ちます。この式の両辺を \(e\) で割ると、\(E = vB\) が求まります。
電場の強さは \(E = vB\) と表されます。これはホール効果において重要な関係式で、キャリアの速さと磁束密度に比例します。
問(4)
思考の道筋とポイント
MN間に生じる電位差 \(V\) を求めます。(3)で求めた電場の強さ \(E\) と、MN間の距離(x方向の長さ \(a\))を用います。一様な電場中での電位差は \(V = Ed\) で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 電位差、電場、距離の関係: \(V = Ed\) (電場が一様な場合)。
- MN間の距離は、半導体のx方向の長さ \(a\)。
- (3)で求めた電場の強さ \(E = vB\) を用いる。
具体的な解説と立式
MN間の電位差を \(V\) とします。電場の強さが \(E\) で、MN間の距離が \(a\) なので、電位差 \(V\) は次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
V &= Ea \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
(3)で求めた \(E=vB\) (式⑤) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
V &= (vB)a \\[2.0ex]
&= vBa \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 一様な電場中の電位差: \(V = Ed\)
式⑤ \(E = vB\) を式⑥ \(V = Ea\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= (vB)a
\end{aligned}
$$
これを計算すると、
$$
\begin{aligned}
V &= vBa
\end{aligned}
$$
これが求める電位差 \(V\) です。
電位差(電圧)は、電場の強さ \(E\) と距離 \(a\) を掛け算することで求められます (\(V = Ea\))。(3)で電場の強さ \(E\) が \(vB\) であることがわかったので、これを代入すると、\(V = (vB) \times a = vBa\) となります。
MN間の電位差 \(V\) は \(vBa\) と表されます。この電位差はホール電圧とも呼ばれ、キャリアの速さ、磁束密度、半導体の幅に比例します。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で求めた電位差 \(V = vBa\) を、電流 \(I\) を用いて表します。そのためには、(1)で求めた電流 \(I\) の式 \(I = enacv\) を使って、速さ \(v\) を消去します。
この設問における重要なポイント
- (1)の結果: \(I = enacv\) (式②)
- (4)の結果: \(V = vBa\) (式⑦)
- 式②から \(v\) を \(I\) で表し、式⑦に代入する。
具体的な解説と立式
(1)で得られた電流 \(I\) の式は、
$$
\begin{aligned}
I &= enacv \quad (\text{式②})
\end{aligned}
$$
でした。この式から、電子の速さ \(v\) は、
$$
\begin{aligned}
v &= \displaystyle\frac{I}{enac} \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
と表せます。
(4)で得られた電位差 \(V\) の式は、
$$
\begin{aligned}
V &= vBa \quad (\text{式⑦})
\end{aligned}
$$
でした。この式に式⑧を代入すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \left(\displaystyle\frac{I}{enac}\right)Ba \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- \(I = enacv\)
- \(V = vBa\)
式⑨に \(v = \displaystyle\frac{I}{enac}\) を代入した \(V = \left(\displaystyle\frac{I}{enac}\right)Ba\) を整理します。
右辺の分子は \(IBa\)、分母は \(enac\) となります。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{IBa}{enac}
\end{aligned}
$$
ここで、分子と分母にある \(a\) を約分すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{IB}{enc} \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
となります。
(4)で \(V = vBa\) という式が得られました。この式には電子の速さ \(v\) が含まれています。(1)で \(I = enacv\) という式が得られているので、この式を \(v\) について解くと \(v = \displaystyle\frac{I}{enac}\) となります。この \(v\) の式を \(V = vBa\) の \(v\) に代入します。\(V = \left(\displaystyle\frac{I}{enac}\right)Ba = \displaystyle\frac{IBa}{enac}\) となり、分母と分子の \(a\) を約分すると、\(V = \displaystyle\frac{IB}{enc}\) が得られます。
電位差 \(V\) は \( \displaystyle\frac{IB}{enc} \) と表されます。この形から、ホール電圧 \(V\) は、電流 \(I\) と磁束密度 \(B\) に比例し、キャリア濃度 \(n\)、電気素量 \(e\)、半導体の厚み(ここでは \(c\))に反比例することがわかります。
問(d), (e)
思考の道筋とポイント
次に、n型半導体のかわりにp型半導体で同様の実験を行った場合を考えます。
p型半導体では、電流の担い手が異なります。それが何かを答え、その結果としてMに対するNの電位がどうなるかを考えます。
n型半導体とp型半導体では、キャリアの電荷の符号が逆になるため、ローレンツ力によるキャリアの偏る向き、そして生じる電位差の極性が逆になります。
この設問における重要なポイント
- p型半導体のキャリア: 正孔(ホール)。正孔は正の電荷を持つと考えられます。
- 電流の向きと正孔の運動の向き: p型半導体では、キャリアである正孔は電流と同じ向きに運動します。
- フレミングの左手の法則を正孔に適用してローレンツ力の向きを判断します。
- 中指: 正孔の運動の向き(電流の向きと同じy軸正方向)
- 人差し指: 磁場の向き(z軸正方向)
- 親指: ローレンツ力の向き
- 正孔が偏ることで生じる電位の偏りを考える。
具体的な解説と立式
(d) p型半導体において、電流の担い手となるのは正孔(またはホール)です。正孔は、価電子帯の電子が不足した「孔」であり、あたかも正の電荷を持った粒子のように振る舞います。
(e) p型半導体で電流 \(I\) がy軸の正の向きに流れているとき、正孔の運動の向きもy軸の正の向きです。磁場 \(B\) はz軸の正の向きにかかっています。
フレミングの左手の法則を適用します。正孔は正電荷なので、親指の向きがそのまま力の向きになります。
- 中指を正孔の運動方向(y軸正方向)に合わせます。
- 人差し指を磁場の向き(z軸正方向)に合わせます。
- このとき、親指はx軸の正の向きを向きます。
したがって、正孔はx軸の正の向きにローレンツ力を受けます。
正孔はx軸正方向、すなわちNの面(\(x=a\))に向かって力を受けるので、Nの面に集まります。
正の電荷を持つ正孔がNの面に集まるため、Nの面は正に帯電し、電位が高くなります。一方、Mの面(\(x=0\))は正孔が相対的に不足し、負に帯電します。
したがって、Mに対してNの電位は高く(正に)なります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
定性的な判断であり、計算式はありません。
(d) p型半導体では、電気を運ぶ主役は「正孔(ホール)」と呼ばれるものです。これはプラスの電気を持つ粒子のようなものだと考えてください。
(e) 電流がy軸プラス方向に流れるとき、プラスの電気を持つ正孔もy軸プラス方向に動きます。磁場はz軸プラス方向です。フレミングの左手の法則を使うと、正孔はx軸のプラス方向(手前側のN面)に力を受けます。プラスの電気を持つ正孔がN面に集まるので、N面はプラスに帯電し、電位が高くなります。逆にM面(奥側の面)はマイナスに帯電することになります。そのため、M面と比べるとN面の電位は高くなります。
p型半導体では、電流の担い手は正孔(ホール)です。そして、Mに対してNの電位は高く(正に)なります。
n型半導体の場合(Nの電位は低い)とp型半導体の場合(Nの電位は高い)とで、ホール電圧の極性が逆になることがホール効果の重要な特徴であり、これによって半導体の型(n型かp型か)を判別することができます。この結果は模範解答とも一致しており、物理的にも一貫しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ローレンツ力と力のつりあい:
- 核心: この問題は、電流の正体である荷電粒子(キャリア)が磁場から受ける「ローレンツ力」と、その力によってキャリアが偏ることで生じる「電場からの力」が最終的に「つりあう」という、ホール効果の根幹をなす物理現象を理解しているかを問う問題です。
- 理解のポイント:
- 電流の微視的描像: まず、電流 \(I\) が、キャリアの電荷 \(e\)、数密度 \(n\)、速さ \(v\)、断面積 \(S\) によって \(I=envS\) と表されることを理解します。
- ローレンツ力: 次に、磁場中を運動するキャリアがローレンツ力 \(f=evB\) を受けることを把握します。この力の向きをフレミングの左手の法則で正しく求めることが最初の関門です。特に、キャリアが負電荷(電子)の場合は、力の向きが正電荷の場合と逆になる点に注意が必要です。
- 電場の発生: ローレンツ力によってキャリアが半導体の一方の面に偏ると、電荷の偏りが生じ、内部に電場 \(E\) が発生します。
- 力のつりあい: この電場はキャリアに \(eE\) の力を及ぼします。定常状態では、この力とローレンツ力がつりあう (\(evB=eE\)) ため、電子の横方向への移動が止まります。このつりあいの式を立てることが、問題を解く上での最大の鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- キャリア濃度の測定: ホール電圧 \(V = \displaystyle\frac{BI}{enc}\) の式を変形し、測定可能な量(\(V, I, B, c\))からキャリア濃度 \(n\) を求める問題。これはホール効果の最も重要な応用の1つです。
- 異なる配置: 電流や磁場の向き、半導体の置き方が変わった問題。座標軸をしっかり定義し、フレミングの左手の法則を正確に適用する基本が問われます。
- 金属中のホール効果: 半導体だけでなく、金属中の自由電子について同様の現象を考える問題。基本的な考え方は同じですが、キャリア濃度 \(n\) が非常に大きいという特徴があります。
- 初見の問題での着眼点:
- キャリアの特定: まず、問題となっている物質のキャリアが何か(電子か、正孔か)、そしてその電荷の符号(負か、正か)を最初に確定させます。これが全ての出発点です。
- 座標軸と位置関係の把握: 図に示されたx, y, z軸の向きと、M, Nなどの点の位置関係を正確に把握します。特に、どの面がどの座標に対応するのかを間違えると、結論が全て逆になります。
- 力のベクトルを図示: 電流の向き、キャリアの運動方向、磁場の向き、そしてそれによって生じるローレンツ力の向きを、必ず図に矢印で書き込みます。これにより、空間的な認識ミスを防ぎます。
- n型とp型の比較: n型(キャリア:電子)とp型(キャリア:正孔)では、キャリアの電荷の符号が逆です。そのため、ホール電圧の極性も逆になります。この違いを意識することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フレミングの左手の法則の誤適用:
- 誤解: 電子(負電荷)の場合でも、親指の向きをそのまま力の向きとしてしまう。
- 対策: フレミングの左手の法則は、あくまで「正電荷が受ける力(または電流が受ける力)」の向きを示すものだと覚えます。キャリアが電子の場合は、法則を適用して出た親指の向きと「逆向き」が力の向きになると徹底します。
- MとNの位置関係の誤認:
- 誤解: 図を直感的に見て、MとNの位置を取り違える。
- 対策: 問題文と図を照らし合わせ、MとNがそれぞれどの座標(例: \(x=0\), \(x=a\))の面に属するのかを、解説を始める前に必ず確認・明記する習慣をつけます。
- 電流の向きと電子の運動方向の混同:
- 誤解: 電流の向きを、そのまま電子の運動方向と考えてしまう。
- 対策: 「電流の向きは、正電荷の流れる向きと定義されている」という基本に立ち返ります。したがって、負電荷である電子の運動方向は、電流の向きと常に逆になると覚えます。
- n型とp型の結論の混同:
- 誤解: n型とp型でホール電圧の極性がどう変わるかを忘れてしまう。
- 対策: キャリアの電荷の符号(n型: 負、p型: 正)と、それによるローレンツ力の向きの違いから、毎回論理的に導き出す練習をします。丸暗記に頼らないことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(I = enacv\):
- 選定理由: 問題で電流 \(I\) とキャリアの速さ \(v\) の関係が問われている、あるいは両者をつなぐ必要があるため。
- 適用根拠: 電流というマクロな現象を、その担い手であるキャリアのミクロな運動(数・速さ)と結びつけるための、物理学における基本定義式だからです。
- \(f = evB\):
- 選定理由: 磁場中で運動する荷電粒子(電子や正孔)が受ける力を計算する必要があるため。
- 適用根拠: これはローレンツ力の定義式そのものです。問題設定が「磁場中の荷電粒子の運動」である以上、この法則の適用は必須となります。
- 力のつりあいの式 (\(evB = eE\)):
- 選定理由: ホール効果によって生じる電場や電位差を求めるため。
- 適用根拠: ローレンツ力でキャリアが偏り続けるわけではなく、やがて電荷の偏りが生み出す電場からの力とつりあって定常状態に至る、というホール効果の物理的本質を表す式だからです。この「つりあい」を考えなければ、電場の強さを求めることができません。
- \(V = Ea\):
- 選定理由: 電場の強さ \(E\) から電位差 \(V\) を計算する必要があるため。
- 適用根拠: 一様な電場とその中の2点間の電位差を結びつける基本関係式です。ホール効果で生じる電場は、理想的には一様とみなせるため、この式が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: この問題では、キャリアの電荷の符号(正か負か)が結論を大きく左右します。ローレンツ力の向きを考える際は、常に「このキャリアの電荷は正か?負か?」と自問自答する癖をつけます。
- 日頃の練習: フレミングの左手の法則を使う際に、指の向きだけでなく、必ず「これは正電荷の場合」「だから負電荷の場合は逆」という思考のプロセスを言葉に出して確認する練習が有効です。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: \(a, b, c\) といった寸法を表す文字が複数出てきます。断面積 \(S\) や距離 \(d\) を計算する際に、どの文字を使うべきかを図と丁寧に対応させることが重要です。特に、電流の断面とホール電圧がかかる面は異なるため、混同しないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 複雑な問題ほど、与えられた物理量をリストアップし、それぞれが何を表すか(例: \(a\) はx方向の長さ)を明記してから計算を始める習慣をつけます。
- 単位の次元解析:
- 特に注意すべき点: 最終的に求めた式(例: \(V = \displaystyle\frac{BI}{enc}\))の単位が、本当に電圧の単位(V)になっているかを確認(次元解析)する習慣は、検算として非常に有効です。
- 日頃の練習: 主要な物理量の単位(\([\text{T}]\), \([\text{A}]\), \([\text{C}]\), \([\text{m}]\)など)から、組み立てられた式の単位がどうなるかを計算する練習をします。もし単位が合わなければ、式のどこかが間違っている証拠になります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (a) 力の向き: 電流と磁場の向きから、力がどの方向にはたらくかは一意に決まります。フレミングの左手の法則を再適用して、検算します。
- (c) 電位の偏り: (a)で求めた力の向きに、キャリア(電子)が本当に移動するかを考えます。その結果、どちらの面が正/負に帯電し、電位の高低がどうなるか、論理の連鎖が正しいかを確認します。今回の問題のように、(a)と(c)の結果が物理的に一致することを確認するのは非常に重要です。
- (e) n型とp型の比較: n型半導体とp型半導体では、キャリアの電荷の符号が逆なので、ホール電圧の極性も逆になるはずです。(c)の答え(Nは低い)と(e)の答え(Nは高い)が、きちんと逆転しているかを確認します。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- 磁場がゼロの場合: もし \(B=0\) なら、ローレンツ力ははたらかず、ホール効果は起きません。したがって、ホール電圧 \(V\) も0になるはずです。求めた式 \(V = \displaystyle\frac{BI}{enc}\) は、\(B=0\) のとき \(V=0\) となり、この条件を満たしています。
- 電流がゼロの場合: もし \(I=0\) なら、キャリアの平均速度がゼロなので、やはりホール効果は起きません。式は \(I=0\) のとき \(V=0\) となり、これも正しいです。
- キャリア濃度が非常に大きい場合: もしキャリア濃度 \(n\) が非常に大きい(金属など)と、同じ電流でもキャリアの偏りは生じにくくなるため、ホール電圧 \(V\) は小さくなるはずです。式は \(n\) が分母にあるため、この物理的直感と一致しています。
問題142 (徳島大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ミリカンの油滴の実験を題材としており、電気素量の存在とその測定方法に関する理解を問うものです。前半の(142)では、油滴に働く力のつり合いから関連する物理量を式で表し、後半の問1、問2では具体的な数値計算を通じて油滴の電気量や電気素量の値を求めていきます。
- 電気量には最小単位(電気素量)が存在する。
- 油滴: 密度 \(\rho\) [kg/m³]、半径 \(r\) [m]、球形。
- 重力加速度: \(g\) [m/s²]。
- 空気の浮力は無視する。
- 空気の抵抗力: 油滴の半径 \(r\) と速さ \(v\) の積に比例。比例定数 \(k\)。つまり \(krv\)。
- 極板A, B: 間隔 \(d\) [m]。Aの電位は \(0\text{ V}\)、Bの電位は \(V\text{ V}\) (\(V>0\))。図よりAが上、Bが下。
- 状態1 (電場なし): 油滴は重力と空気抵抗を受け、鉛直下向きに終端速度 \(v_1\) [m/s] で落下。
- 状態2 (電場あり): 油滴は電気量 \(q\) [C] を持ち、鉛直上向きに終端速度 \(v_2\) [m/s] で上昇。
- (ア) 電気素量が何に由来するかの名称。
- (イ) 電場がないときの力のつり合いの式。
- (ウ) 電場があるときの力のつり合いの式。
- (エ) (イ), (ウ) から導かれる電気量 \(q\) の式。
- 問1:
- パラフィン油の密度 \(\rho = 855 \text{ kg/m}^3\)。
- ある油滴の終端速度 (落下時) \(v_1 = 3.0 \times 10^{-5} \text{ m/s}\)。
- 比例定数 \(k = 3.41 \times 10^{-4} \text{ kg/(m}\cdot\text{s)}\)。
- (イ)の式から計算された油滴の半径 \(r = 5.4 \times 10^{-7} \text{ m}\)。
- 極板間隔 \(d = 5.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)。
- Aに対するBの電位 \(V = 320 \text{ V}\)。
- 終端速度 (上昇時) \(v_2 = 8.0 \times 10^{-5} \text{ m/s}\)。
- 問2:
- 複数の油滴で測定した電気量の値: \(6.4, 4.8, 11.3, 8.1\) (単位は \(\times 10^{-19} \text{ C}\))。問1の結果も使用する。
- 問1: 油滴の電気量 \(q\) を求めよ。
- 問2: 問1の結果と与えられた測定値から、電気素量 \(e\) の値を求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「ミリカンの油滴の実験」です。この実験は、電気量の最小単位である「電気素量」の値を精密に測定し、電荷が量子化されている(とびとびの値をとる)ことを実証した歴史的に非常に重要な実験です。問題を解く上で鍵となるのは、油滴に働く様々な力(重力、空気抵抗力、静電気力)を正確に把握し、油滴が一定速度で運動する(つまり力がつり合っている)条件から方程式を立てることです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が等速直線運動をしているとき、その物体に働く力の合力はゼロです。
- 重力: 質量 \(m\) の物体に働く重力は \(mg\)。油滴の質量は密度 \(\rho\) と体積 \(V_{\text{体積}}\) (球の体積は \(\frac{4}{3}\pi r^3\))から求められます。
- 空気抵抗力: 問題文で与えられている通り、速さに比例する抵抗力 \(krv\) を考えます。向きは常に運動方向と逆向きです。
- 静電気力と電場: 電荷 \(q\) を持つ物体が電場 \(E\) から受ける力は \(qE\)。平行な極板間に電位差 \(V\) があるとき、電場の強さは \(E = V/d\) で与えられます。
- 電気量の量子性: 全ての電気量は、ある最小単位(電気素量 \(e\))の整数倍になっています (\(q=Ne\)、\(N\) は整数)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 142 (ア)では、電気素量の定義に関する基本的な知識を問われています。
- 142 (イ)では、電場がない状態で油滴が落下するときの力のつり合いを考えます。油滴には下向きの重力と、上向きの空気抵抗力が働きます。
- 142 (ウ)では、電場がある状態で油滴が上昇するときの力のつり合いを考えます。油滴には、静電気力、重力、空気抵抗力が働きます。
- 142 (エ)では、(イ)と(ウ)で立てた2つの力のつり合いの式を連立させて、電気量 \(q\) を他の物理量で表します。
- 問1では、(エ)で導いた \(q\) の式に、与えられた具体的な数値を代入して \(q\) の値を計算します。
- 問2では、複数の油滴の電気量の測定値が電気素量 \(e\) の整数倍であるという性質を利用して、\(e\) の値を推定します。
142 (ア)
思考の道筋とポイント
電気素量とは何か、という定義に関する問題です。電気量の最小単位であり、ある基本的な粒子が持つ電気量の大きさとされています。
この設問における重要なポイント
- 電気素量は、電荷の基本単位です。
- 自然界に存在する多くの荷電粒子の中で、最も基本的なものの一つが持つ電気の大きさが電気素量に対応します。
具体的な解説と立式
電気量の最小単位である電気素量は、電子1個が持つ電気量の大きさに等しいと定義されています。陽子も電子と同じ大きさの正の電荷を持っていますが、通常、電気素量を議論する際には電子の電荷が基準とされます。
使用した物理公式
- (特になし、知識問題)
(特になし)
世の中にある全ての電気の量は、実は「電気のつぶ」のようなものの集まりでできています。その「電気のつぶ」1個分の電気の量のことを「電気素量」と呼びます。この「つぶ」の正体は、原子の中にある「電子」です。
電気素量は電子の持つ電気量の大きさに等しいです。これは物理学の基本的な知識です。
142 (イ)
思考の道筋とポイント
電場がないとき、油滴は重力と空気の抵抗力を受けて鉛直下向きに一定の速さ \(v_1\) で落下します。「一定の速さ」とは、力がつり合っている状態(終端速度)を意味します。油滴に働く力を図示し、力のつり合いの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 油滴に働く力は2つ:
- 鉛直下向きの重力 \(mg\)。
- 鉛直上向きの空気抵抗力 \(krv_1\)。
- 油滴の質量 \(m\) は、密度 \(\rho\) と体積 \(V_{\text{体積}} = \frac{4}{3}\pi r^3\) を用いて \(m = \rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3\) と表されます。
- 力のつり合いの式: (上向きの力の和)=(下向きの力の和)。
具体的な解説と立式
油滴が鉛直下向きに一定の速さ \(v_1\) で落下するとき、油滴に働く力は以下の通りです。
- 重力: 鉛直下向きに \(mg = \left(\rho \cdot \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3\right)g\)。
- 空気抵抗力: 運動方向(下向き)と逆向き、つまり鉛直上向きに \(krv_1\)。
これらの力がつり合っているので、
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力}) \\[2.0ex]
krv_1 &= \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
これが求める力のつり合いの式です。
使用した物理公式
- 重力: \(mg\)
- 球の体積: \(V_{\text{体積}} = \frac{4}{3}\pi r^3\)
- 質量と密度の関係: \(m = \rho V_{\text{体積}}\)
- 空気抵抗力: \(krv\) (問題文より)
- 力のつりあい
上記の「具体的な解説と立式」で示した式①がそのまま解答となります。
油滴が一定の速さで落ちているとき、下向きに引っ張る「重力」と、上向きに押し返す「空気抵抗」の力がちょうど同じ大きさになっています。油滴の重さは「密度 \(\times\) 体積 \(\times\) 重力加速度」で計算でき、体積は球の公式 \(\frac{4}{3}\pi r^3\) を使います。空気抵抗は問題文の通り \(krv_1\) です。したがって、「上向きの力 \(krv_1\) = 下向きの力 \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)」という式が成り立ちます。
電場がないときの力のつり合いは、重力と空気抵抗力のバランスで表されます。式は物理的に妥当です。
142 (ウ)
思考の道筋とポイント
電場があるとき、油滴は電気量 \(q\) を持ち、鉛直上向きに一定の速さ \(v_2\) で上昇します。このときも力がつり合っています。油滴に働く力を考え、つり合いの式を立てます。極板Aの電位は \(0 \text{ V}\)、Bの電位は \(V \text{ V}\) (\(V>0\)) で、Aが上、Bが下なので、電場は電位の高いBから低いAの向き(鉛直上向き)です。
この設問における重要なポイント
- 油滴に働く力は3つ:
- 鉛直下向きの重力 \(mg = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)。
- 鉛直下向きの空気抵抗力 \(krv_2\)(運動方向が上向きなので抵抗はその逆)。
- 静電気力 \(F_{\text{静電気}}\)。油滴は上向きに運動しているので、静電気力は上向き。電場も上向き (\(E=V/d\)) なので、油滴の電荷 \(q\) は正であると判断できます。静電気力の大きさは \(qE = q\frac{V}{d}\)。
- 力のつり合いの式: (上向きの力の和)=(下向きの力の和)。
具体的な解説と立式
油滴が鉛直上向きに一定の速さ \(v_2\) で上昇するとき、油滴に働く力は以下の通りです。
- 重力: 鉛直下向きに \(mg = \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)。
- 空気抵抗力: 運動方向(上向き)と逆向き、つまり鉛直下向きに \(krv_2\)。
- 静電気力: 極板A(電位 \(0 \text{ V}\))が上で、極板B(電位 \(V \text{ V}\))が下なので、電場の向きは電位の高いBから低いAへ、つまり鉛直上向きです。電場の強さは \(E = V/d\)。油滴は上向きに力を受けて上昇しているので、この静電気力は鉛直上向きです。電荷 \(q\) を持つ油滴が受ける静電気力は \(qE = q\displaystyle\frac{V}{d}\)。油滴が上向きの電場から上向きの力を受けるためには、電荷 \(q\) は正でなければなりません。
これらの力がつり合っているので、
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力の和}) \\[2.0ex]
q\displaystyle\frac{V}{d} &= \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + krv_2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これが求める力のつり合いの式です。
使用した物理公式
- 重力: \(mg\)
- 空気抵抗力: \(krv\)
- 一様な電場の強さ: \(E = V/d\)
- 静電気力: \(F = qE\)
- 力のつりあい
上記の「具体的な解説と立式」で示した式②がそのまま解答となります。
今度は油滴が一定の速さで上がっています。このとき、上向きに引っ張る「電気の力」と、下向きに引っ張る「重力」および「空気抵抗」の合計が同じ大きさになっています。電気の力は \(q \times E = q\frac{V}{d}\) です。重さは先ほどと同じ \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)、空気抵抗は速さが \(v_2\) なので \(krv_2\) です。したがって、「上向きの力 \(q\frac{V}{d}\) = 下向きの力の合計 \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + krv_2\)」という式が成り立ちます。
電場があるときの力のつり合いは、静電気力、重力、空気抵抗力の3つの力のバランスで表されます。力の向きを正しく判断することが重要です。
142 (エ)
思考の道筋とポイント
(イ)で得られた式①と(ウ)で得られた式②を連立させて、電気量 \(q\) を求めます。式①から重力の項 \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\) を \(krv_1\) で置き換えることができる点に注目します。
この設問における重要なポイント
- 式①: \(krv_1 = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)
- 式②: \(q\frac{V}{d} = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + krv_2\)
- 式②の \(\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\) の部分に、式①の左辺である \(krv_1\) を代入する。
- 代入後、\(q\) について解く。
具体的な解説と立式
式① \(krv_1 = \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\) を、式② \(q\displaystyle\frac{V}{d} = \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + krv_2\) に代入します。
具体的には、式②の右辺第一項の \(\displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\) を \(krv_1\) で置き換えます。
$$
\begin{aligned}
q\displaystyle\frac{V}{d} &= krv_1 + krv_2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
この式③を \(q\) について解くことを目指します。
右辺を共通因数 \(kr\) でくくると、
$$
\begin{aligned}
q\displaystyle\frac{V}{d} &= kr(v_1 + v_2) \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- (イ)のつり合い式: \(krv_1 = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\)
- (ウ)のつり合い式: \(q\frac{V}{d} = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g + krv_2\)
式④ \(q\displaystyle\frac{V}{d} = kr(v_1 + v_2)\) から \(q\) を求めるために、両辺に \(\displaystyle\frac{d}{V}\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
q &= kr(v_1 + v_2) \cdot \displaystyle\frac{d}{V}
\end{aligned}
$$
整理すると、
$$
\begin{aligned}
q &= \displaystyle\frac{krd(v_1 + v_2)}{V} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
これが求める \(q\) の式です。
(イ)の式から、油滴の重さが、落下時の空気抵抗(\(krv_1\))と等しいことがわかります。(ウ)の式は、上向きの電気の力が、油滴の重さと上昇時の空気抵抗(\(krv_2\))の合計と等しいことを示しています。(ウ)の式の「油滴の重さ」の部分に、(イ)の式からわかる「落下時の空気抵抗(\(krv_1\))」を代入します。すると、\( q\frac{V}{d} = krv_1 + krv_2 \) という簡単な式になります。この式を \(q\) について解けば、答えが得られます。
2つのつり合いの式から重力の項を消去することで、測定可能な量(\(k, r, d, v_1, v_2, V\))だけで電気量 \(q\) を表すことができました。これはミリカンの実験の巧妙な点です。
問1
思考の道筋とポイント
142の(エ)で導出した油滴の電気量 \(q\) を表す式⑤に、問題文で与えられた数値を代入して \(q\) の値を計算します。各物理量の単位を確認し、代入ミスや計算ミスに注意します。
この設問における重要なポイント
- 使用する式: \(q = \displaystyle\frac{krd(v_1 + v_2)}{V}\) (式⑤)
- 与えられた数値:
- \(k = 3.41 \times 10^{-4} \text{ kg/(m}\cdot\text{s)}\)
- \(r = 5.4 \times 10^{-7} \text{ m}\)
- \(d = 5.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)
- \(v_1 = 3.0 \times 10^{-5} \text{ m/s}\)
- \(v_2 = 8.0 \times 10^{-5} \text{ m/s}\)
- \(V = 320 \text{ V}\)
- \(v_1 + v_2\) を先に計算しておくと良いでしょう。
- 指数の計算を間違えないように注意します。
具体的な解説と立式
油滴の電気量 \(q\) は、式⑤より次のように与えられます。
$$
\begin{aligned}
q &= \displaystyle\frac{krd(v_1 + v_2)}{V}
\end{aligned}
$$
まず、\(v_1 + v_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_1 + v_2 &= (3.0 \times 10^{-5}) + (8.0 \times 10^{-5}) \\[2.0ex]
&= (3.0 + 8.0) \times 10^{-5} \\[2.0ex]
&= 11.0 \times 10^{-5} \text{ m/s}
\end{aligned}
$$
これらの値を式に代入する準備ができました。
使用した物理公式
- \(q = \displaystyle\frac{krd(v_1 + v_2)}{V}\)
数値を代入して \(q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
q &= \displaystyle\frac{(3.41 \times 10^{-4}) \times (5.4 \times 10^{-7}) \times (5.0 \times 10^{-3}) \times (11.0 \times 10^{-5})}{320}
\end{aligned}
$$
まず、分子の数値部分と指数部分を分けて計算します。
数値部分:
$$
\begin{aligned}
3.41 \times 5.4 \times 5.0 \times 11.0 &= 18.414 \times 55.0 \\[2.0ex]
&= 1012.77
\end{aligned}
$$
指数部分:
$$
\begin{aligned}
10^{-4} \times 10^{-7} \times 10^{-3} \times 10^{-5} &= 10^{-4-7-3-5} \\[2.0ex]
&= 10^{-19}
\end{aligned}
$$
よって、分子は \(1012.77 \times 10^{-19}\) となります。
これを \(320\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
q &= \displaystyle\frac{1012.77 \times 10^{-19}}{320} \\[2.0ex]
&= \left(\displaystyle\frac{1012.77}{320}\right) \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&\approx 3.1649 \times 10^{-19} \text{ C}
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮すると、与えられた数値の多くが2桁または3桁であるため、結果もそれに合わせます。模範解答では \(3.2 \times 10^{-19} \text{ C}\) となっているので、有効数字2桁で丸めます。
$$
\begin{aligned}
q &\approx 3.2 \times 10^{-19} \text{ C}
\end{aligned}
$$
(エ)で求めた式に、問題文で与えられている \(k, r, d, v_1, v_2, V\) の値をそれぞれ代入します。まず、\(v_1+v_2\) を計算すると、\(11.0 \times 10^{-5}\) となります。次に、これらの値を全て式に代入し、分数の計算と、\(10\) の何乗という部分の計算を丁寧に行います。分子の数を掛け合わせるとおよそ \(1013 \times 10^{-19}\) となります。これを \(320\) で割ると、およそ \(3.16 \times 10^{-19}\) となります。答えの有効数字を考えて、\(3.2 \times 10^{-19} \text{ C}\) とします。
計算結果は \(q \approx 3.2 \times 10^{-19} \text{ C}\) となりました。これは後でわかるように、電気素量のおよそ2倍に相当する値です。
問2
思考の道筋とポイント
油滴の持つ電気量 \(q\) は、電気素量 \(e\) の整数倍 (\(q=Ne\)) になっているという「電気量の量子性」がこの問題の核心です。与えられた複数の \(q\) の測定値から、共通の約数である \(e\) の値を推定します。
方法としては、測定値を小さい順に並べ、隣り合う値の差を取ることで \(e\) のおおよその値を見つける方法や、各測定値が \(e\) の何倍になっているかを推定し、それらの平均からより確からしい \(e\) を求める方法があります。
この設問における重要なポイント
- 電気量の量子性: \(q = Ne\) (\(N\) は整数、\(e\) は電気素量)。
- 与えられた測定値 (単位 \(\times 10^{-19} \text{ C}\)): \(6.4, 4.8, 11.3, 8.1\)。
- 問1の結果: \(3.2 \times 10^{-19} \text{ C}\)。
- これらの値を小さい順に並べる: \(3.2, 4.8, 6.4, 8.1, 11.3\) (全て \(\times 10^{-19} \text{ C}\))。
- これらの差を取ることで、\(e\) の候補値が見えてくる可能性があります。
- 各測定値が \(e\) のおおよそ何倍 (\(N\)) に当たるかを推測し、\(\sum q = (\sum N)e\) の関係から \(e\) を計算する方法がより精度が高いと考えられます。
具体的な解説と立式
油滴の電気量は電気素量 \(e\) の整数倍になっているはずです。
与えられた電気量の測定値と問1の結果をまとめると(単位 \(\times 10^{-19} \text{ C}\) は省略して数値のみを扱うと)、
\(3.2, 4.8, 6.4, 8.1, 11.3\)
これらの数値の差を調べてみましょう。
\(4.8 – 3.2 = 1.6\)
\(6.4 – 4.8 = 1.6\)
\(8.1 – 6.4 = 1.7\)
\(11.3 – 8.1 = 3.2\) (これは \(1.6 \times 2\))
これらの差から、電気素量 \(e\) はおよそ \(1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) であると推測されます。
この推測に基づき、各測定値が \(e \approx 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) の何倍 (整数 \(N\)) になっているかを見積もります。
\(q_1 = 3.2 \times 10^{-19} \text{ C} \approx 2 \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ C})\) なので \(N_1=2\)
\(q_2 = 4.8 \times 10^{-19} \text{ C} \approx 3 \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ C})\) なので \(N_2=3\)
\(q_3 = 6.4 \times 10^{-19} \text{ C} \approx 4 \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ C})\) なので \(N_3=4\)
\(q_4 = 8.1 \times 10^{-19} \text{ C} \approx 5 \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ C})\) なので \(N_4=5\)
\(q_5 = 11.3 \times 10^{-19} \text{ C} \approx 7 \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ C})\) なので \(N_5=7\)
全ての測定データの合計 \(\sum q\) と、対応する整数 \(N\) の合計 \(\sum N\) を用いて、より確からしい \(e\) の値を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sum q &= (3.2 + 4.8 + 6.4 + 8.1 + 11.3) \times 10^{-19} \text{ C} \\[2.0ex]
&= 33.8 \times 10^{-19} \text{ C}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\sum N &= N_1 + N_2 + N_3 + N_4 + N_5 \\[2.0ex]
&= 2 + 3 + 4 + 5 + 7 \\[2.0ex]
&= 21
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sum q = (\sum N)e\) の関係が成り立つはずなので、
$$
\begin{aligned}
e &= \displaystyle\frac{\sum q}{\sum N} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
という式で \(e\) を計算します。
使用した物理公式
- 電気量の量子性: \(q = Ne\)
\(\sum q = 33.8 \times 10^{-19} \text{ C}\)
\(\sum N = 21\)
これらを式⑥ \(e = \displaystyle\frac{\sum q}{\sum N}\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \displaystyle\frac{33.8 \times 10^{-19}}{21} \text{ C}
\end{aligned}
$$
分数の部分を計算すると、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{33.8}{21} &\approx 1.6095…
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮します。測定値の和 \(33.8\) は小数点以下1桁まで(つまり有効数字3桁)で、\(\sum N = 21\) は正確な整数です。したがって、結果は有効数字3桁で表すのが適切です。
$$
\begin{aligned}
e &\approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ C}
\end{aligned}
$$
油滴の電気の量は、実は「電気のつぶ」のようなものの集まりでできていて、その「つぶ」1個分の電気の大きさが電気素量 \(e\) です。だから、測定される電気の量 \(q\) は必ず \(e\) の整数倍 (\(1e, 2e, 3e, \dots\)) になっています。問1で求めた値と問題文にある値を合わせると、5つのデータがあります。これらの数値の差を取ってみると、だいたい \(1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) くらいが基本の単位になっていそうです。そこで、各測定値がこの \(1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) のおよそ2倍, 3倍, 4倍, 5倍, 7倍になっていると考えます。これらの測定値を全部足すと \(33.8 \times 10^{-19} \text{ C}\) です。これは、\( (2+3+4+5+7)e = 21e \) に等しいはずです。だから、\(21e = 33.8 \times 10^{-19} \text{ C}\) という式から \(e\) を計算すると、\(e \approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ C}\) となります。
複数の測定値を用いることで、単一の測定値から求めるよりも誤差の少ない、より信頼性の高い電気素量の値を求めることができます。得られた値 \(1.61 \times 10^{-19} \text{ C}\) は、現在知られている値と非常によく一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い:
- 核心: この問題は、油滴が一定速度で運動している(静止している場合も含む)とき、物体に働く力のベクトル和はゼロになるという、力学の基本法則を応用する問題です。油滴の落下時と上昇時のそれぞれで、重力、空気抵抗力、静電気力がつり合っている状況を正確に立式できるかが問われます。
- 理解のポイント:
- 運動状態の把握: 問題文中の「一定の速さで」「終端速度」といったキーワードは、加速度がゼロ、すなわち「力がつり合っている」状態であることを示す最も重要なサインです。
- 働く力の同定: 油滴に働く力を漏れなくリストアップします(重力、空気抵抗力、静電気力)。それぞれの力がどの向きに働くかを正確に判断することが不可欠です。
- 立式: 座標軸(ここでは鉛直方向)を設定し、「上向きの力の和」=「下向きの力の和」という形で方程式を立てます。
- 電気量の量子性:
- 核心: ミリカンの実験の最も重要な結論の一つで、どんな物質が持つ電気量も、電気素量 \(e\) という最小単位の整数倍になっているという性質です。問2はこの原理に基づいて解かれます。
- 理解のポイント:
- 基本単位の存在: 電気量にはそれ以上分割できない最小の「粒」が存在することを理解します。
- 整数倍の関係: 測定される全ての電気量 \(q\) は、その最小単位 \(e\) を使って \(q=Ne\)(\(N\)は整数)と表せることを把握します。
- 最小単位の推定: 複数の測定値がある場合、それらの最大公約数や、測定値間の差が基本単位 \(e\) の整数倍になることを利用して、\(e\) の値を推定できることを理解します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 浮力を考慮する問題: より精密な設定では、空気の浮力(アルキメデスの原理)を考慮に入れる場合があります。この場合、上向きの力として浮力が加わります。
- 異なる抵抗力のモデル: 空気抵抗が速さの2乗に比例する場合など、抵抗力のモデルが異なる問題。問題文の指示に正確に従うことが重要です。
- サイクロトロンや質量分析器: 電場や磁場中で荷電粒子が運動する他の現象に関する問題。力のつり合いや運動方程式を立てるという点で共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動状態の確認: まず物体が「静止」または「等速直線運動」をしているかを確認します。していれば、力のつり合いの問題です。
- 働く力の列挙と図示: 物体にどのような力が、どの向きに働いているかを正確に把握し、フリーボディダイアグラム(力の図示)を描くことが第一歩です。重力、空気抵抗、静電気力、浮力など、考えられる力をリストアップします。
- 電場の向きと電位: 極板間の電位差と極板の配置から、電場の向きと強さを正しく求めます。静電気力の向きは、電荷の符号と電場の向きで決まります。
- 連立方程式の処理: 複数の状態(例:電場ありとなし)で力のつり合いを考え、未知数を消去していく数学的な処理能力も問われます。本問では「重力」の項を消去するのが鍵でした。
- 電気量の量子性の利用: 複数のデータから基本単位を推定するタイプの問題では、測定値の差を取る、あるいは最大公約数を探すといった統計的な視点が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の向きの誤り:
- 誤解: 空気抵抗力を常に下向き、あるいは上向きと固定的に考えてしまう。静電気力の向きを電場の向きと混同する。
- 対策: 空気抵抗力は「常に物体の運動方向と逆向き」と覚えます。静電気力は「電荷の符号(\(q\))と電場の向き(\(E\))」の両方で決まる(\(q>0\)なら\(E\)と同じ向き、\(q<0\)なら\(E\)と逆向き)と徹底します。必ず図を描いて確認する習慣が有効です。
- 油滴の質量の計算:
- 誤解: 球の体積の公式 \(\frac{4}{3}\pi r^3\) を忘れたり、間違えたりする。
- 対策: 基本的な公式は正確に記憶しておく必要があります。特に球の体積と表面積は混同しやすいので注意が必要です。
- 代数計算のミス:
- 誤解: (エ)の導出や問1の数値計算で、式の変形や代入、指数の計算を誤る。
- 対策: 一つ一つのステップを丁寧に行い、検算する癖をつけましょう。特に指数の計算(\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\)など)は慎重に行います。
- 問2のデータの扱い方:
- 誤解: 電気素量を推定する際に、単純にデータの平均を取ってしまう。
- 対策: 電気量の量子性 (\(q=Ne\)) という原理をしっかり理解し、データがその原理に従っているはずだという視点からアプローチします。「差を取ると\(e\)の整数倍になる」「各データは\(e\)の整数倍である」という考え方が重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(mg = \rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3 g\):
- 選定理由: 油滴に働く重力を計算するため。質量を密度と体積で表すのは物理の基本です。
- 適用根拠: 問題文で油滴の密度と半径が与えられており、質量を具体的に表現する必要があるためです。
- \(F_{\text{抵抗}} = krv\):
- 選定理由: 油滴に働く空気抵抗を計算するため。
- 適用根拠: 問題文で「空気の抵抗力は \(r\) と \(v\) の積に比例し、比例定数を \(k\) とする」と明確に定義されているため、このモデル式を使用します。
- \(F_{\text{静電気}} = qE\) と \(E=V/d\):
- 選定理由: 電場中の荷電粒子が受ける力を計算するため。
- 適用根拠: 平行平板電極間の電場は一様とみなせ、その強さは電位差と極板間距離で決まります。この力を考慮しないと、上昇時の力のつり合いを説明できません。
- 力のつり合い (\(\sum F_y = 0\)):
- 選定理由: 物体の運動状態を記述するため。
- 適用根拠: 油滴が「一定の速さで」運動しているという記述から、加速度がゼロであり、したがって合力もゼロであると判断し、この法則を適用します。
- \(q=Ne\):
- 選定理由: 複数の電気量の測定値から、その基本単位を推定するため。
- 適用根拠: ミリカンの実験が明らかにした物理学の根幹原理「電気量の量子性」そのものです。問2はこの原理を理解していないと解けません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一と確認:
- 特に注意すべき点: 全ての物理量をSI基本単位系に換算してから計算するとミスが減ります。本問では最初からSI単位が使われていますが、cmやgなどが混じっている場合は注意が必要です。
- 日頃の練習: 計算結果の単位が求めるべき物理量の単位と一致しているかを確認する(次元解析)習慣をつけましょう。
- 指数の計算ルールの徹底:
- 特に注意すべき点: \(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\)、\(10^a / 10^b = 10^{a-b}\)。特にマイナス符号の扱いに注意が必要です。問1の計算は、この練習に最適です。
- 日頃の練習: 複雑な計算ほど、数値部分と指数部分を分けて計算する癖をつけると、ケアレスミスが減ります。
- 有効数字の意識:
- 特に注意すべき点: 計算の途中では有効数字より1桁多く取っておき、最終的な答えを出すときに問題文中の数値の有効数字に合わせて丸めるのが一般的です。問1では、与えられた数値が2桁や3桁なので、答えもそれに合わせます。問2の \(e\) の計算では、測定値の和の有効数字が考慮されています。
- 日頃の練習: 問題文に出てくる数値の有効数字が何桁かを常に意識する癖をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 問1の\(q\)の値: 得られた電気量 \(q \approx 3.2 \times 10^{-19} \text{ C}\) は、電気素量 \(e \approx 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) の約2倍です。これは物理的に妥当な値です(\(N=2\) の場合に相当)。もしこの値が \(1.0 \times 10^{-19} \text{ C}\) のように \(e\) より小さくなったり、\(1.65 \times 10^{-19} \text{ C}\) のように中途半端な値になったりした場合は、計算ミスを疑うべきです。
- 問2の\(e\)の値: 得られた電気素量 \(e \approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ C}\) は、現在知られている電気素量の値 \(1.602 \times 10^{-19} \text{ C}\) に非常に近い値であり、実験結果として妥当であると言えます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし電場がなかったら: (ウ)の式で \(V=0\) とすると、上向きの力がなくなり、つり合いが成立しません。これは、電場がなければ上昇しないという事実と一致します。
- もし重力がなかったら: (イ)の式で \(g=0\) とすると、\(krv_1=0\) となり、落下しません。これも直感と一致します。
- 実験の限界と誤差:
- 実際の実験では様々な誤差要因(空気の浮力、油滴が完全な球でない、ブラウン運動の影響、測定機器の精度など)が考えられます。これらの影響を考察することも、物理への理解を深める上で有益です(本問では直接問われていませんが)。
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問題143 (弘前大+北見工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光電効果に関する実験とその解釈を扱うものです。光電管に紫外線を当て、陰極から飛び出す光電子の挙動を調べることにより、光子のエネルギー、仕事関数、電気素量、プランク定数といった物理学の基本概念への理解を深めます。
- 実験装置: ナトリウム(Na)を陰極とする光電管を用いた図1の回路。
- 照射光: 波長 \(\lambda = 3.0 \times 10^{-7} \text{ m}\) の紫外線。
- 物理定数:
- 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
- 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- プランク定数: \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J}\cdot\text{s}\)
- 図2: AB間の電圧(陽極の電位 \(V\))と光電流 \(I\) の関係を示すグラフ。
- (1) AB間に十分な電圧をかけ、飽和光電流 \(I = 1.6 \times 10^{-6} \text{ A}\) が流れたとき、陰極Aから陽極Bに達する電子の数 \(N\) (毎秒何個か)。
- (2) 図2のグラフから、陰極から飛び出す光電子の最大運動エネルギー \(K\) [J] 。
- (3) 照射した光子のエネルギー [J] とナトリウムの仕事関数 \(W\) [J] 。また、\(W\) を [eV] で表した値、およびナトリウムに対する限界振動数 \(\nu_0\) [Hz] 。
- (4) 光の波長を変えずに光の明るさを半分にした場合、図2の \(I-V\) 曲線がどう変わるか(図に概形を描き込む)。
- (5) 当てる光の波長を変えながら同様の実験を行ったとき、横軸を光の振動数 \(\nu\) [Hz]、縦軸を最大運動エネルギー \(K\) [J] としたグラフの定性的な概形(\(\nu_0\) と \(W\) を用いる)。また、プランク定数 \(h\) がグラフの何に対応するか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 仕事関数\(W\)の別解: エネルギーをエレクトロンボルト(eV)単位で計算する解法
- 主たる解法が全てのエネルギーをまずジュール(J)単位で計算するのに対し、別解では原子物理の分野で頻用されるエレクトロンボルト(eV)を主体に計算を進めます。これにより、特に最大運動エネルギーの算出が直感的になります。
- 問(3) 仕事関数\(W\)の別解: エネルギーをエレクトロンボルト(eV)単位で計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 最大運動エネルギーは阻止電圧から直ちにeV単位で求まり、ジュールを介した計算よりも迅速です。
- 物理概念の深化: 「\(1\text{ V}\)の電位差と電子1個分の電荷が関わるエネルギーが\(1\text{ eV}\)」というエレクトロンボルトの定義を、阻止電圧との関係でより深く体感できます。
- 異なる視点の学習: ジュールという力学的なエネルギー単位と、エレクトロンボルトという原子物理で便利なエネルギー単位を行き来することで、物理量の単位が持つ意味への理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「光電効果」です。光電効果とは、物質に特定の振動数以上の光を当てると、物質の表面から電子が飛び出す現象です。この現象は、光を波としてだけでは説明できず、アインシュタインが提唱した「光量子仮説(光はエネルギー \(h\nu\) を持つ粒子(光子)の流れであるという考え方)」によって見事に説明されました。この問題を通して、光電効果の基本的な法則や関連する物理量の計算方法を学びましょう。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流 \(I\) は、単位時間あたりに断面を通過する電気量 \(Q\) であり、\(I = Q/t\)。電気量が電気素量 \(e\) を持つ電子 \(N\) 個からなる場合、\(Q=Ne\)。
- 光子のエネルギー: 振動数 \(\nu\)、波長 \(\lambda\) の光子のエネルギー \(E\) は、\(E = h\nu = hc/\lambda\)。
- アインシュタインの光電効果の式: 光電子の最大運動エネルギーを \(K_{\text{max}}\)、金属の仕事関数を \(W\) とすると、\(K_{\text{max}} = h\nu – W\)。
- 仕事関数と限界振動数: 仕事関数 \(W\) は電子を金属表面から取り出すのに必要な最小のエネルギー。限界振動数 \(\nu_0\) は光電効果が起こるための最小の振動数で、\(h\nu_0 = W\) の関係がある。
- 阻止電圧: 光電流がゼロになるときの逆電圧 \(V_0\)。光電子の最大運動エネルギーと \(K_{\text{max}} = eV_0\) の関係がある。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、飽和光電流の値と電気素量 \(e\) から、単位時間あたりに陽極に到達する電子の数を求めます。
- (2)では、図2のグラフから阻止電圧 \(V_0\) を読み取り、\(K_{\text{max}} = eV_0\) の関係式を使って光電子の最大運動エネルギーを計算します。
- (3)では、まず光子のエネルギーを計算し、次にアインシュタインの光電効果の式を利用して仕事関数 \(W\) を求め、さらに限界振動数 \(\nu_0\) を計算します。
- (4)では、光の明るさが光電子の数(飽和光電流)に、光の振動数が光電子の最大運動エネルギー(阻止電圧)にそれぞれ対応することを理解しているかが問われます。
- (5)では、アインシュタインの光電効果の式が、\(K\) を縦軸、\(\nu\) を横軸としたグラフでどのような直線関係になるかを考えます。