問題58 (名古屋大+東北大+大阪公立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光を「光子」という粒子の集まりと見なし、その光子が容器の壁に衝突することによって生じる圧力、すなわち「光圧」を導出するものです。気体の分子が壁に衝突して圧力を生み出す「気体分子運動論」と全く同じ考え方で解き進めることができる、物理学の重要な考え方を学ぶための良問です。
- 容器: 一辺の長さが \(L\) の立方体
- 内部の粒子: 多数の光子。総数を \(N\) とする
- 光子の性質:
- 振動数: \(\nu\)
- 速さ: \(c\)(光速)
- エネルギー: \(E=h\nu\)
- 運動量の大きさ: \(p=h\nu/c\)
- 運動の様子: 不規則に運動し、容器の面とは完全弾性衝突をする
- 物理定数: プランク定数 \(h\)
問題文中の空欄(1)から(7)までを適切な数式で埋める。
- (1) 光子の運動量の\(x\)成分 \(p_x\) を、速度の\(x\)成分 \(c_x\) を用いて表す
- (2) 1個の光子が面Sに衝突する回数
- (3) 1個の光子が \(t\) 秒間に面Sに与える力積
- (4) 速度の\(x\)成分の\(2\)乗の平均値 \(\overline{c_x^2}\) と速さ \(c\) の関係
- (5) 全光子から面Sが受ける力 \(F\)
- (6) 光子気体の圧力 \(P\)
- (7) 圧力 \(P\) とエネルギー密度 \(U\) の関係
- 【コラム】Q. 容器が球形の場合の圧力を求める
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)および問(3)の別解: 角度を用いた成分表示による解法
- 主たる解法が、運動量ベクトルと速度ベクトルが平行であることから直接成分の関係を導くのに対し、別解では速度ベクトルが\(x\)軸となす角\(\theta\)を導入し、三角関数を用いて各成分を表してから関係式を導出します。
- 問(1)および問(3)の別解: 角度を用いた成分表示による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: ベクトルの成分分解 (\(p_x = p\cos\theta\)) という物理の基本操作と、衝突現象の解析を結びつける良い訓練になります。
- 思考の柔軟性: 同じ物理量を、成分そのもの(\(c_x\))で扱う方法と、大きさと角度(\(c, \theta\))で扱う方法の両方を学ぶことで、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題の大きな流れは、一個の光子という「ミクロ」な視点から出発し、統計的な考え方(平均化)を用いて、圧力という「マクロ」な物理量を導き出す、という物理学の王道パターンです。問題文が思考のステップを丁寧に誘導してくれているので、一つ一つの意味を理解しながら進んでいきましょう。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光子の運動量: 光は粒子としての性質も持ち、その運動量の大きさは \(p=h\nu/c\) で与えられます。
- 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという法則。壁が受ける力積は、作用・反作用の法則から光子の運動量変化として計算できます。
- 気体分子運動論の考え方: 個々の粒子は不規則に運動していても、多数の粒子集団として「平均」をとることで、全体の性質を論じることができます。特に、運動の「等方性」(どの方向も同等であること)が重要な仮定となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
光子の運動量ベクトル \(\vec{p}\) は、その速度ベクトル \(\vec{c}\) と同じ向きを向いています。つまり、二つのベクトルは互いに平行です。このことから、ベクトルの成分同士の比は、ベクトルの大きさ同士の比に等しくなるはずです。この関係を利用して、運動量の \(x\) 成分 \(p_x\) を、速度の \(x\) 成分 \(c_x\) で表現することを目指します。
この設問における重要なポイント
- 光子の運動量の大きさの公式 \(p = h\nu/c\) を使う。
- 運動量ベクトルと速度ベクトルが平行であることを利用し、成分の比と大きさの比が等しいという関係式を立てる。
具体的な解説と立式
光子1個の運動量の大きさ \(p\) は、振動数 \(\nu\)、プランク定数 \(h\)、光速 \(c\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{h\nu}{c} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
運動量ベクトル \(\vec{p}\) と速度ベクトル \(\vec{c}\) は平行であるため、その \(x\) 成分の比と、大きさの比は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{p_x}{c_x} &= \frac{p}{c} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
式②を変形すると、
$$
\begin{aligned}
p_x &= \frac{p}{c} c_x \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
この式③に、式①を代入することで、\(p_x\) を求めます。
使用した物理公式
- 光子の運動量: \(p = \displaystyle\frac{h\nu}{c}\)
- ベクトルの平行条件
式③に式①を代入して \(p\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
p_x &= \frac{1}{c} \left( \frac{h\nu}{c} \right) c_x \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu}{c^2} c_x
\end{aligned}
$$
したがって、問題文の空欄(1)に当てはまる比例係数は \(\displaystyle\frac{h\nu}{c^2}\) となります。
光子の「運動量」と「速さ」は、同じ方向を向いている兄弟みたいなものです。兄である運動量が、弟である速さよりどれだけ大きいか、その「倍率」を計算する問題だと考えましょう。全体の大きさの比(兄の身長と弟の身長の比)と、\(x\)方向だけの大きさの比(兄の影の長さと弟の影の長さの比)は同じになる、という性質を使って計算します。
光子の運動量の\(x\)成分は、\(p_x = \displaystyle\frac{h\nu}{c^2} c_x\) と表せます。運動量成分が速度成分に比例するという、直感に合った関係式が得られました。
思考の道筋とポイント
光子の速度ベクトル \(\vec{c}\) が \(x\) 軸の正の向きとなす角を \(\theta\) とします。速度と運動量の \(x\) 成分は、それぞれ \(c_x = c\cos\theta\), \(p_x = p\cos\theta\) と表せます。これらの関係式から \(\cos\theta\) を消去することで、\(p_x\) と \(c_x\) の関係を導きます。
この設問における重要なポイント
- ベクトルの成分を、大きさと角度(三角関数)を用いて表現する。
- 複数の式から媒介変数(この場合は \(\cos\theta\))を消去して関係式を導く。
具体的な解説と立式
速度ベクトル \(\vec{c}\) が \(x\) 軸となす角を \(\theta\) とすると、速度と運動量の \(x\) 成分はそれぞれ次のように書けます。
$$
\begin{aligned}
c_x &= c \cos\theta \quad \cdots ④ \\[2.0ex]
p_x &= p \cos\theta \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
また、運動量の大きさ \(p\) は \(p = \displaystyle\frac{h\nu}{c}\) です。
式④から \(\cos\theta = \displaystyle\frac{c_x}{c}\) となります。これを式⑤に代入します。
使用した物理公式
- 光子の運動量: \(p = \displaystyle\frac{h\nu}{c}\)
- ベクトルの成分分解
式⑤に \(p = \displaystyle\frac{h\nu}{c}\) と \(\cos\theta = \displaystyle\frac{c_x}{c}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
p_x &= \left( \frac{h\nu}{c} \right) \times \left( \frac{c_x}{c} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu}{c^2} c_x
\end{aligned}
$$
主たる解法と同じ結果が得られました。
光子が飛んでいく方向と \(x\) 軸の間にできる角度を考えます。速さの \(x\) 成分も、運動量の \(x\) 成分も、この角度を使って「\(\cos\)(コサイン)」で計算できます。二つの式を立てて、共通の部品である「\(\cos\)」を消すように式を合体させれば、求めたい関係が出てきます。
角度 \(\theta\) を経由する方法でも、同じく \(p_x = \displaystyle\frac{h\nu}{c^2} c_x\) という関係が導かれました。物理現象を異なる数学的表現で記述しても、同じ結論に至ることを確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
1個の光子が、\(x\)軸に垂直な面S(位置 \(x=L\))に \(t\) 秒間に何回衝突するかを考えます。光子は面Sに衝突した後、完全弾性衝突なので跳ね返り、反対側の壁(\(x=0\))に当たってから再び面Sに戻ってきます。つまり、面Sに衝突するたびに、容器を1往復することになります。この「1往復にかかる時間」を求めれば、\(t\) 秒間に何回往復できるか、すなわち衝突回数が計算できます。
この設問における重要なポイント
- 衝突から次の衝突までの移動距離は、片道 \(L\) ではなく往復 \(2L\) であることを理解する。
- \(x\) 方向の運動だけに着目し、速さは \(c_x\) を使う。
具体的な解説と立式
光子が面Sに1回衝突してから、次に面Sに衝突するまでに進む距離は、面Sから反対の壁までの距離 \(L\) と、その壁から面Sに戻る距離 \(L\) の合計、すなわち往復距離 \(2L\) です。
この間、光子の速さの \(x\) 成分の大きさは \(c_x\) で一定です。
したがって、1回の往復(衝突から次の衝突まで)にかかる時間 \(\Delta t\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{\text{距離}}{\text{速さ}} = \frac{2L}{c_x} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
\(t\) 秒間に衝突する回数 \(n\) は、\(t\) をこの時間間隔 \(\Delta t\) で割ることで求められます。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{t}{\Delta t} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 時間 = 距離 / 速さ
式⑦に式⑥を代入します。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{t}{\left(\displaystyle\frac{2L}{c_x}\right)} \\[2.0ex]
&= \frac{c_x t}{2L}
\end{aligned}
$$
これが空欄(2)の答えです。
ピンポン球が箱の右の壁に当たる頻度を考えてみましょう。右の壁に「カツン!」と当たった後、次にまた右の壁に当たるには、左の壁まで行って帰ってくる「往復旅行」が必要です。この往復旅行に何秒かかるかをまず計算し、「じゃあ \(t\) 秒間なら、この旅行を何回できるかな?」と割り算することで、衝突回数を求めます。
衝突回数 \(n = \displaystyle\frac{c_x t}{2L}\) が得られました。光子の \(x\) 方向の速さ \(c_x\) が大きいほど、また容器の幅 \(L\) が小さいほど、衝突回数が多くなるという、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
面Sが受ける力積を計算します。力積は運動量の変化量です。まず、光子1個が1回の衝突で「受ける」運動量の変化を求め、作用・反作用の法則から面Sが「与えられる」力積を導きます。そして、その1回あたりの力積に、(2)で求めた \(t\) 秒間での衝突回数を掛けることで、合計の力積を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力積は運動量の変化量(後の運動量 – 前の運動量)である。
- 壁が受ける力積は、光子が受ける力積と大きさが同じで向きが逆(作用・反作用)。
- 総力積は「1回あたりの力積」×「衝突回数」で計算する。
具体的な解説と立式
衝突前の光子の運動量の \(x\) 成分は \(p_x\)、完全弾性衝突後の \(x\) 成分は \(-p_x\) です。
1回の衝突による光子の運動量の変化 \(\Delta p_x\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta p_x &= (\text{後の運動量}) – (\text{前の運動量}) \\[2.0ex]
&= (-p_x) – (p_x) \\[2.0ex]
&= -2p_x
\end{aligned}
$$
作用・反作用の法則により、面Sが1回の衝突で受ける力積 \(I_1\) は、光子が受けた力積と大きさが同じで向きが逆になります。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= -(\Delta p_x) = 2p_x
\end{aligned}
$$
\(t\) 秒間に \(n\) 回衝突するので、その間に面Sが受ける総力積 \(I_t\) は、
$$
\begin{aligned}
I_t &= I_1 \times n \\[2.0ex]
&= 2p_x \times n \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
この式に、問(1)の結果 \(p_x = \displaystyle\frac{h\nu}{c^2}c_x\) と、問(2)の結果 \(n = \displaystyle\frac{c_x t}{2L}\) を代入します。
使用した物理公式
- 力積 = 運動量の変化
- 作用・反作用の法則
式⑧に \(p_x\) と \(n\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_t &= 2 \left( \frac{h\nu}{c^2} c_x \right) \times \left( \frac{c_x t}{2L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu c_x^2}{c^2 L} t
\end{aligned}
$$
これが空欄(3)の答えです。
壁が受けた衝撃の合計(総力積)を計算します。まず、ボールが壁に当たって跳ね返るように、光子1個が1回「カツン!」とぶつかったときに運動量がどれだけ変化したかを計算します。壁が受ける衝撃の大きさは、この運動量の変化と同じです。最後に、\(t\) 秒間に何回ぶつかるか(問(2)の答え)を掛けて、合計の衝撃を求めます。
\(t\) 秒間に面Sが受ける力積は \(I_t = \displaystyle\frac{h\nu c_x^2}{c^2 L} t\) となりました。力積が時間に比例し、また速度の2乗 \(c_x^2\) に比例していることがわかります。
思考の道筋とポイント
問(1)の別解と同様に、速度ベクトルが\(x\)軸となす角\(\theta\)を用いて計算を進めます。1回の衝突で壁が受ける力積と、衝突回数をそれぞれ\(\theta\)を用いて表し、掛け合わせることで総力積を求めます。
この設問における重要なポイント
- 1回の力積を \(p_x = p\cos\theta\) を使って表す。
- 衝突回数を \(c_x = c\cos\theta\) を使って表す。
- 最終的に \(\cos\theta\) を \(c_x\) に戻して、問題の形式に合わせる。
具体的な解説と立式
1回の衝突で壁が受ける力積 \(I_1\) は、
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 2p_x \\[2.0ex]
&= 2p \cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 \left( \frac{h\nu}{c} \right) \cos\theta \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
\(t\) 秒間の衝突回数 \(n\) は、
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{c_x t}{2L} \\[2.0ex]
&= \frac{(c \cos\theta) t}{2L} \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
総力積 \(I_t\) は \(I_1 \times n\) で計算します。
使用した物理公式
- 力積 = 運動量の変化
- ベクトルの成分分解
式⑨と式⑩を掛け合わせます。
$$
\begin{aligned}
I_t &= I_1 \times n \\[2.0ex]
&= \left( 2 \frac{h\nu}{c} \cos\theta \right) \times \left( \frac{c t \cos\theta}{2L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu t (\cos\theta)^2}{L}
\end{aligned}
$$
ここで、\(c_x = c\cos\theta\) より \(\cos\theta = c_x/c\) なので、\((\cos\theta)^2 = (c_x/c)^2 = c_x^2/c^2\) となります。これを代入して、
$$
\begin{aligned}
I_t &= \frac{h\nu t}{L} \left( \frac{c_x^2}{c^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu c_x^2}{c^2 L} t
\end{aligned}
$$
主たる解法と同じ結果が得られました。
角度を使って計算する別バージョンです。1回の衝撃の大きさと、衝突の頻度の両方が、実は同じ角度(の\(\cos\))に関係しています。それぞれの式を角度を使って立ててから合体させると、最終的に角度の項は別の形に姿を変え、主たる解法と同じ答えにたどり着きます。
角度\(\theta\)を媒介変数として計算を進めても、最終的に同じ物理的結論が導かれることが確認できました。
問(4)
思考の道筋とポイント
容器内の多数の光子は、あらゆる方向にランダムに運動しています。この「不規則性」あるいは「等方性」を数学的に扱うのがこの設問です。光子の速さ \(c\) は一定で、その2乗は三平方の定理から \(c^2 = c_x^2 + c_y^2 + c_z^2\) と書けます。多数の光子について平均をとることを考えます。運動は等方的、つまり \(x, y, z\) の各方向は同等なので、速度の2乗の平均値も \(\overline{c_x^2} = \overline{c_y^2} = \overline{c_z^2}\) となるはずです。この関係から \(\overline{c_x^2}\) を \(c^2\) で表します。
この設問における重要なポイント
- 速度の2乗について三平方の定理 \(c^2 = c_x^2 + c_y^2 + c_z^2\) が成り立つ。
- 運動が不規則(等方的)であるため、平均をとると \(\overline{c_x^2} = \overline{c_y^2} = \overline{c_z^2}\) となる。
具体的な解説と立式
光子の速さ \(c\) とその速度成分 \(c_x, c_y, c_z\) の間には、三平方の定理が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
c^2 = c_x^2 + c_y^2 + c_z^2
\end{aligned}
$$
多数の光子について平均をとります。光子の速さ \(c\) は全ての光子で等しいので、その平均 \(\overline{c^2}\) は \(c^2\) のままです。
$$
\begin{aligned}
\overline{c^2} &= \overline{c_x^2} + \overline{c_y^2} + \overline{c_z^2} \\[2.0ex]
c^2 &= \overline{c_x^2} + \overline{c_y^2} + \overline{c_z^2}
\end{aligned}
$$
光子の運動方向は十分不規則(等方的)なので、各方向は統計的に同等です。したがって、
$$
\begin{aligned}
\overline{c_x^2} = \overline{c_y^2} = \overline{c_z^2} \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 平均操作、等方性の仮定
\(c^2\) の式に、式⑪の関係 (\(\overline{c_y^2}\) と \(\overline{c_z^2}\) を \(\overline{c_x^2}\) で置き換える) を代入します。
$$
\begin{aligned}
c^2 &= \overline{c_x^2} + \overline{c_x^2} + \overline{c_x^2} \\[2.0ex]
&= 3\overline{c_x^2}
\end{aligned}
$$
この式から \(\overline{c_x^2}\) を求めると、
$$
\begin{aligned}
\overline{c_x^2} = \frac{1}{3} c^2
\end{aligned}
$$
よって、空欄(4)に入る係数は \(\displaystyle\frac{1}{3}\) です。
箱の中にはたくさんの光子が、デタラメな方向に飛び交っています。でも、全体としてみれば、特定の方向(例えば右向き)にだけ飛んでいく光子が多い、なんてことはないはずです。どの方向も平等。だから、光子全体の運動エネルギーは、縦・横・高さの3方向にきれいに3等分されている、と考えることができます。この「3等分」というのがポイントです。
\(\overline{c_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3} c^2\) という関係が得られました。個々の光子の \(c_x\) はバラバラですが、多数の光子を集団として平均すれば、その2乗平均は \(c^2\) の \(1/3\) になるという、統計的な法則を表しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
いよいよ、容器内の全光子 \(N\) 個が面Sに及ぼす「力 \(F\)」を求めます。「力」とは「単位時間あたりの力積」のことです。(3)で求めた1個の光子による力積の式に、(4)で求めた平均の考え方を適用し、それを \(N\) 個分合計することで、全体の力を導き出します。「力積 = 力 × 時間」の関係式が最終的なゴールへの橋渡しとなります。
この設問における重要なポイント
- 力は単位時間あたりの力積である (\(F = I_t / t\))。
- 1個の光子の力積を、平均値 \(\overline{c_x^2}\) を使って表す。
- 全ての光子 \(N\) 個分の力を求めるために \(N\) 倍する。
具体的な解説と立式
(3)で求めた、1個の光子が \(t\) 秒間に与える力積 \(I_t\) の式で、\(c_x^2\) をその平均値 \(\overline{c_x^2}\) で置き換えることで、光子1個あたりの平均の力積 \(\overline{I_t}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\overline{I_t} = \frac{h\nu \overline{c_x^2}}{c^2 L} t
\end{aligned}
$$
ここに(4)の結果 \(\overline{c_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3}c^2\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\overline{I_t} &= \frac{h\nu}{c^2 L} \left(\frac{1}{3}c^2\right) t \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu}{3L} t
\end{aligned}
$$
容器内には光子が \(N\) 個あるので、全光子が面Sに与える総力積 \(I_{\text{全}}\) は、単純にこの \(N\) 倍です。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{全}} = N \overline{I_t} = \frac{Nh\nu}{3L} t \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
この総力積は、面Sが受ける平均的な力 \(F\) と時間 \(t\) の積 \(Ft\) に等しいはずです。
$$
\begin{aligned}
Ft = I_{\text{全}} \quad \cdots ⑬
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力積と力の関係: \(F = I/\Delta t\)
式⑬に式⑫を代入します。
$$
\begin{aligned}
Ft = \frac{Nh\nu}{3L} t
\end{aligned}
$$
両辺の \(t\) を消去すると、力 \(F\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
F = \frac{Nh\nu}{3L}
\end{aligned}
$$
これが空欄(5)の答えです。
いよいよ壁が常に感じている「力」を計算します。(3)で計算した「合計の衝撃」は \(t\) 秒間のものです。力は「1秒あたりの衝撃」なので、合計の衝撃を時間 \(t\) で割ってあげます。そして、(4)の「3等分」の考え方を使って、たくさんの光子の平均的な力を計算し、最後に光子の数 \(N\) を掛けて、壁が受ける総合的な力を求めます。
面Sが受ける力の合計は \(F = \displaystyle\frac{Nh\nu}{3L}\) となりました。力は、光子の総数 \(N\) と光子1個のエネルギー \(h\nu\) の積(つまり全エネルギー)に比例し、容器の大きさ \(L\) に反比例します。理にかなった結果と言えるでしょう。
問(6)
思考の道筋とポイント
圧力 \(P\) を求めます。圧力の定義は「単位面積あたりに垂直に働く力」です。したがって、(5)で求めた面S全体に働く力 \(F\) を、面Sの面積で割るだけで計算できます。最後に、問題の指示に従い、立方体の体積 \(V\) を使って式を整理します。
この設問における重要なポイント
- 圧力の定義 \(P = F/S\) を使う。
- 面Sの面積は \(L^2\)、立方体の体積は \(V=L^3\) である。
具体的な解説と立式
圧力 \(P\) の定義式は次の通りです。
$$
\begin{aligned}
P = \frac{F}{\text{面積}}
\end{aligned}
$$
面Sは一辺 \(L\) の正方形なので、その面積は \(L^2\) です。(5)で求めた力 \(F = \displaystyle\frac{Nh\nu}{3L}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{1}{L^2} \left( \frac{Nh\nu}{3L} \right) \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$
立方体の体積 \(V\) は \(V = L \times L \times L = L^3\) なので、この関係を用いて式⑭を書き換えます。
使用した物理公式
- 圧力の定義: \(P = F/S\)
- 立方体の体積: \(V=L^3\)
式⑭を計算します。
$$
\begin{aligned}
P = \frac{Nh\nu}{3L^3}
\end{aligned}
$$
分母の \(L^3\) を体積 \(V\) で置き換えると、
$$
\begin{aligned}
P = \frac{Nh\nu}{3V}
\end{aligned}
$$
これが空欄(6)の答えです。
(5)で求めたのは、壁全体を押す「力」です。圧力は、もっとミクロな視点で「\(1\text{m}^2\) の面積あたりに働く力」のことです。ですから、(5)で求めた力を壁の面積で割ってあげます。最後に、式の形をきれいにするために、箱の体積 \(V\) を使って書き直す、いわば「お化粧」をします。
光子気体の圧力は \(P = \displaystyle\frac{Nh\nu}{3V}\) と表せました。この式は \(PV = \displaystyle\frac{1}{3}Nh\nu\) とも書けます。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) と比較すると、光子気体の全エネルギー \(Nh\nu\) が温度のような役割を担っていることがわかりますね。
問(7)
思考の道筋とポイント
いよいよ最後の空欄です。圧力 \(P\) を「単位体積あたりのエネルギー」、すなわちエネルギー密度 \(U\) を用いて表します。物理法則を、個々の粒子の性質(\(\nu\) や \(h\))に依存しない、より普遍的でマクロな量(\(P\) と \(U\))だけの関係式で表現し直す、重要なステップです。
この設問における重要なポイント
- エネルギー密度 \(U\) の定義は「全エネルギー / 体積」である。
- (6)で求めた \(P\) の式と、\(U\) の定義式を比較する。
具体的な解説と立式
まず、問題文の定義に従い、エネルギー密度 \(U\) を数式で表します。
容器内の光子1個のエネルギーは \(h\nu\) です。光子は全部で \(N\) 個あるので、全エネルギー \(E_{\text{全}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{全}} = N h\nu
\end{aligned}
$$
エネルギー密度 \(U\) は、この全エネルギーを容器の体積 \(V\) で割ったものです。
$$
\begin{aligned}
U = \frac{E_{\text{全}}}{V} = \frac{Nh\nu}{V} \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$
一方、(6)で求めた圧力 \(P\) の式は、
$$
\begin{aligned}
P = \frac{Nh\nu}{3V} \quad \cdots ⑯
\end{aligned}
$$
式⑮と式⑯の形をよく見比べれば、\(P\) を \(U\) で表すことは簡単です。
使用した物理公式
- エネルギー密度の定義: \(U = E_{\text{全}}/V\)
式⑯を次のように少し変形します。
$$
\begin{aligned}
P = \frac{1}{3} \left( \frac{Nh\nu}{V} \right)
\end{aligned}
$$
この式の括弧の中身 \(\displaystyle\frac{Nh\nu}{V}\) は、式⑮で定義したエネルギー密度 \(U\) そのものです。よって、置き換えると、
$$
\begin{aligned}
P = \frac{1}{3} U
\end{aligned}
$$
これが空欄(7)の答えです。
(6)で求めた圧力の式と、箱の中に詰まっている全エネルギーを体積で割った「エネルギー密度 \(U\)」の式は、実はうり二つです。分母に「3」があるかないかの違いしかありません。そこで、圧力の式の一部を \(U\) という記号で置き換えて、\(P\) と \(U\) の間のシンプルな関係式を作ります。
光子気体の圧力は、そのエネルギー密度の \(1/3\) に等しい (\(P = \displaystyle\frac{1}{3}U\)) という、非常にシンプルかつ重要な関係式が導かれました。この関係は、光子の詳細(振動数 \(\nu\) など)によらず、エネルギー密度というマクロな量だけで決まることを示しています。これは物理法則の美しさの一つですね。
【コラム】Q. 容器が半径 \(r\) の球形の場合の圧力
思考の道筋とポイント
容器の形が立方体から球に変わりました。一見、壁が曲面になっているため複雑に思えますが、最終的に得られる「圧力とエネルギー密度の関係」は、容器の形によらない普遍的な法則である可能性があります。これを確かめるため、立方体の時と同様の論理で圧力を計算してみましょう。衝突角度\(\theta\)が入ってきますが、最終的にうまい具合に消去されることを期待して計算を進めます。
この設問における重要なポイント
- 衝突による運動量変化は、壁に垂直な成分だけを考える。
- 衝突から次の衝突までの移動距離を図形的に正しく求める。
- 1個の光子が及ぼす平均の力は、衝突角度によらないことを示す。
具体的な解説と立式
光子が壁に法線から角度 \(\theta\) で衝突する状況を考えます。
- 1回の衝突で壁が受ける力積 \(I_1\):
衝突で変化するのは壁に垂直な方向の運動量成分です。運動量の大きさを \(p=h\nu/c\) とすると、垂直成分は衝突前後で \(p\cos\theta \rightarrow -p\cos\theta\) と変化します。よって、壁が受ける力積の大きさは、
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 2p\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2h\nu}{c}\cos\theta \quad \cdots ⑰
\end{aligned}
$$ - 単位時間あたりの衝突回数 \(f_{\text{col}}\):
1回衝突した後、光子は速さ \(c\) で直進し、反対側の壁に衝突します。図形的に考えると、この間の移動距離は \(2r\cos\theta\) です。よって衝突の時間間隔 \(\Delta t\) は \(\frac{2r\cos\theta}{c}\)。単位時間あたりの衝突回数はその逆数です。
$$
\begin{aligned}
f_{\text{col}} &= \frac{1}{\Delta t} = \frac{c}{2r\cos\theta} \quad \cdots ⑱
\end{aligned}
$$ - 1個の光子が及ぼす平均の力 \(F_1\):
力は単位時間あたりの力積なので、\(F_1 = I_1 \times f_{\text{col}}\) で計算できます。 - 圧力 \(P\):
全光子 \(N\) 個による力 \(F = N F_1\) を、球の表面積 \(S = 4\pi r^2\) で割ります。
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係
- 球の幾何学、表面積の公式
まず、1個の光子が及ぼす平均の力 \(F_1\) を計算します。式⑰と⑱を掛け合わせます。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= I_1 \times f_{\text{col}} \\[2.0ex]
&= \left( \frac{2h\nu}{c}\cos\theta \right) \times \left( \frac{c}{2r\cos\theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu}{r}
\end{aligned}
$$
驚くべきことに、衝突角度 \(\theta\) によらない一定値となりました。
したがって、全光子 \(N\) 個が及ぼす力 \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F = N F_1 = \frac{Nh\nu}{r}
\end{aligned}
$$
これを球の表面積 \(S=4\pi r^2\) で割って、圧力 \(P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{F}{S} \\[2.0ex]
&= \frac{Nh\nu/r}{4\pi r^2} \\[2.0ex]
&= \frac{Nh\nu}{4\pi r^3}
\end{aligned}
$$
これが求める圧力です。
容器がボールみたいに丸くなっても、実は圧力の計算結果は変わらないことを示す問題です。光子が斜めに当たると1回の衝撃は弱くなりますが、その分、壁との距離が近くなって衝突回数が増えます。この「衝撃の弱さ」と「頻度の多さ」が奇跡的に打ち消し合って、結局、どの角度で当たっても平均の力は同じになります。物理ってうまくできていますね!この事実さえ分かれば、あとは全光子分(\(N\)倍)の力を計算し、球の表面積で割るだけです。
球形容器の場合の圧力は \(P = \displaystyle\frac{Nh\nu}{4\pi r^3}\) となります。ここで、球の体積 \(V = \frac{4}{3}\pi r^3\) の関係を使うと、\(4\pi r^3 = 3V\) となるので、圧力の式は
$$
\begin{aligned}
P = \frac{Nh\nu}{3V}
\end{aligned}
$$
と変形できます。これは立方体容器の場合の結果と完全に一致します。つまり、圧力とエネルギー密度の関係 \(P = U/3\) は、容器の形によらない普遍的な法則であることが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光子の粒子性と力積:
- 核心: この問題の根幹は、光をエネルギー \(h\nu\) と運動量 \(p=h\nu/c\) を持つ「粒子」として捉え、その粒子が壁に衝突する際の「運動量変化(=力積)」が圧力の起源であると理解することです。力学の基本法則が、ミクロな量子の世界にも適用されることを示しています。
- 理解のポイント:
- ミクロな現象のモデル化: まずは1個の光子に着目し、「1回の衝突で壁に与える力積」と「単位時間あたりの衝突回数」をそれぞれ立式します。
- マクロな量への移行: 次に、多数の光子集団として捉え、統計的な「平均」操作を行います。これにより、個々の粒子のランダムな運動から、圧力という測定可能な物理量を導き出します。
- 統計力学的な考え方(等方性):
- 核心: 容器内の光子はあらゆる方向に不規則に運動しているため、特定の方向に偏りはない(等方的である)という仮定が重要です。これにより、速度の2乗の平均値について \(\overline{c_x^2} = \overline{c_y^2} = \overline{c_z^2} = \displaystyle\frac{1}{3}c^2\) という非常に強力な関係式が導かれます。
- 理解のポイント: この「平均化」という操作は、複雑でランダムな多粒子系の問題を、シンプルな法則で記述するための統計力学の基本的な手法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 理想気体の圧力の導出: この問題の光子を、質量\(m\), 速さ\(v\)の気体分子に置き換えるだけで、気体分子運動論の最重要公式 \(P=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) を自力で導出できます。論理展開は全く同じです。
- 熱放射(黒体放射): 高温の物体から放出される電磁波(光子)が持つエネルギーや圧力を考える問題に応用されます。宇宙論などにもつながる重要なテーマです。
- 初見の問題での着眼点:
- 「圧力」を問われたら「力積」を連想する: 多数の粒子の衝突が原因で生じる圧力を求める問題では、直接力を求めるのは難しい場合が多いです。その際は、「(1) 1回の衝突による力積」と「(2) 衝突頻度」を計算し、掛け合わせることで「(3) 単位時間あたりの力積(=力)」を求める、という手順が定石です。
- 「不規則」「ランダム」という言葉を見たら「平均」を考える: 複雑な現象を単純化するための強力な武器が「平均化」です。特に方向のランダム性からは \(\overline{c_x^2} = c^2/3\) のような関係が使えないか疑ってみましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 衝突回数の計算ミス:
- 誤解: 衝突回数の計算で、往復距離「\(2L\)」を片道「\(L\)」としてしまう。
- 対策: 衝突後の光子の動きを必ず図や頭の中で追いかけること。「Sに衝突 → 反対側の壁に衝突 → Sに戻ってきて再び衝突」という一連の流れをイメージすれば、往復距離 \(2L\) であることが納得できます。
- 光子の運動量の誤解:
- 誤解: 光子の運動量を \(p=mc\) のように、古典的な粒子のイメージで質量を使って考えてしまう。
- 対策: 「光子の静止質量はゼロである」と明確に記憶し、光子に特有の公式 \(E=h\nu\), \(p=h\nu/c\) を使うことを徹底する。
- 複雑な設定での思考停止:
- 誤解: 【コラム】の球形容器のように、角度 \(\theta\) が出てきただけで複雑に感じ、計算が止まってしまう。
- 対策: 「1回の力積」と「衝突頻度」をそれぞれ立式してみることが重要です。一見複雑な項も、掛け合わせるとキャンセルされるのでは?と期待して計算を進める勇気を持ちましょう。物理法則はしばしば美しく単純な形に落ち着くものです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(p = h\nu/c\) (光子の運動量):
- 選定理由: 問題の主役である「光子」の粒子としての性質(運動量)を記述するための、量子論の基本公式だからです。
- 適用根拠: 問題文で光を粒子として扱うことが明示されており、その運動量を計算する必要があるため。
- 力積 \(I = \Delta p\) (運動量変化):
- 選定理由: 「力」や「圧力」の根源は、壁との衝突による運動量の変化です。衝突のような瞬間的な現象では、力そのものより力積を考える方が有効であり、運動量の変化として計算できるため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 光子が壁と完全弾性衝突するという物理的状況。
- 気体分子運動論のモデル:
- 選定理由: 多数の粒子が壁に及ぼす圧力を求める問題であるため。1個の粒子の運動を解析し、衝突頻度を求め、全粒子について平均・合計するという一連の論理展開(モデル)を適用するのが最も合理的です。
- 適用根拠: 容器内に多数の光子が不規則に運動しているという、気体分子運動論の前提と酷似した状況設定。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の丁寧な整理:
- 特に注意すべき点: この問題では \(h, \nu, c, L, N, V, U\) など多くの文字が登場します。どの段階でどの変数を使って表すかを意識しながら、一行一行、丁寧に整理しましょう。特に、\(c_x^2\) を \(\overline{c_x^2}\) に置き換えるタイミングを間違えないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 複雑な文字式を含む問題では、最終的な答えの次元(単位)が合っているかを確認する次元解析を行う習慣をつけると、大きなミスを防げます。
- 往復距離の確認:
- 特に注意すべき点: 衝突回数の計算では、距離が \(L\) なのか \(2L\) なのかが鍵になります。これは気体分子運動論でも頻出するポイントです。
- 日頃の練習: 粒子が「次に同じ状態になるまで」の運動を、簡単な図を描いて追跡する癖をつけましょう。
- 平均化のタイミング:
- 特に注意すべき点: 平均操作は、個々の粒子の性質を論じた後、集団全体としての性質に移るタイミングで行います。どの物理量(この場合は \(c_x^2\))を平均値で置き換えるのかを明確に意識することが重要です。
- 日頃の練習: 「1個の粒子」について論じている段階と、「N個の粒子集団」について論じている段階を、ノートの上で明確に分けて書くようにすると、思考が整理されます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 圧力 \(P = \displaystyle\frac{Nh\nu}{3V}\):
- 吟味の視点: 光子の数 \(N\) やエネルギー \(h\nu\) が増えれば、圧力は大きくなるはず。容器の体積 \(V\) が大きくなれば、衝突頻度が減るので圧力は小さくなるはず。計算結果の式がこれらの直感と合っているか確認しましょう。
- 関係式 \(P = \displaystyle\frac{1}{3}U\):
- 吟味の視点: 圧力とエネルギー密度が比例関係にあるというのは、物理的に妥当な結果です。エネルギーが詰まっているほど、壁を押す力も強くなるという直感と一致します。
- 圧力 \(P = \displaystyle\frac{Nh\nu}{3V}\):
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- 単原子分子理想気体との比較: 気体分子運動論から導かれる単原子分子理想気体の圧力は \(P = \displaystyle\frac{2}{3}U\) です。光子気体の場合と係数が \(2\) 倍違うのはなぜか?これは、運動エネルギーと運動量の関係が、気体分子(\(E_k = p^2/2m\))と光子(\(E=pc\))で異なることに起因します。この違いを考察することで、より深い理解につながります。
- 容器の形状との比較: 【コラム】で計算したように、容器が立方体でも球でも \(P=U/3\) という同じ結果になりました。このことは、この関係式が容器の形状に依存しない、より普遍的な法則であることを示唆しています。この事実に気づくことは、物理現象をより深く理解する上で非常に重要です。
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問題59 (筑波大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、X線の発生、X線の回折(ブラッグ反射)、そして電子線の波動性(物質波)という、近代物理学の三つの重要なトピックを一つにまとめた総合問題です。それぞれの現象を正しく理解し、適切な公式を適用する能力が問われます。
- X線スペクトルのグラフ(図1)
- 結晶による回折の模式図(図2)
- プランク定数: \(h=6.6\times10^{-34}\) [J・s]
- 電気素量: \(e=1.6\times10^{-19}\) [C]
- 光速: \(c=3.0\times10^{8}\) [m/s]
- 電子の質量: \(m=9.0\times10^{-31}\) [kg]
- 電子の初速は0とする。
- (1) X線発生時の加速電圧を求め、電圧変化によるスペクトルの変化を記述する。
- (2) X線のブラッグ反射における原子面間隔 \(d\) と、干渉の極大回数を求める。
- (3) 電子線の物質波の波長 \(\lambda_e\) と加速電圧 \(V\) の関係式を求める。
- (4) 特定の条件下での電子線のブラッグ反射が起こる回数を求める。
- (コラム Q1) 固有X線Cのエネルギーを[J]と[eV]で求める。
- (コラム Q2) 電子線の屈折を考慮したブラッグ条件を導出する。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この一問で、X線がどのようにして作られるのか((1))、そのX線を使って物質の結晶構造をどうやって調べるのか((2))、そして電子も波として振る舞うという不思議な現象((3), (4))まで、近代物理の核心に触れることができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー保存則: (1)では、加速された電子の運動エネルギーがX線光子のエネルギーに変換されると考えます。特に「最短波長」は、運動エネルギーが100%光子エネルギーに変換された場合に相当します。
- ブラッグの反射条件: (2)と(4)では、波が結晶格子によって干渉し強め合う条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を用います。これはX線だけでなく、電子線のような物質波にも適用できます。
- 物質波(ド・ブロイ波): (3)と(4)では、粒子である電子を、運動量 \(p\) に応じて \(\lambda = h/p\) という波長を持つ波として扱います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、グラフから最短波長を読み取り、エネルギー保存則の式を立てて加速電圧を求めます。
- 問(2)では、グラフから固有X線の波長を読み取り、ブラッグの条件式を用いて原子面間隔 \(d\) と干渉の最大次数を計算します。
- 問(3)では、電子の運動エネルギーの式とド・ブロイ波長の式を連立させ、速さ \(v\) を消去することで、波長と電圧の関係式を導きます。
- 問(4)では、(2)と(3)の結果を組み合わせ、電子線に対するブラッグの条件を与えられた電圧範囲で考え、条件を満たす整数の次数 \(n\) がいくつあるかを数えます。