「名問の森」徹底解説(40〜42問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題40 (名古屋大+静岡大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一様な磁場の中を扇形のコイルが回転することで生じる電磁誘導を扱います。コイルが回転することで、磁場を貫く面積が時間的に変化し、それによって誘導起電力と誘導電流が発生します。さらに、その電流が磁場から受ける力(力のモーメント)と、回転を維持するための外力やエネルギーの関係まで問われる、電磁誘導の総合的な理解を試す問題です。

与えられた条件
  • 扇形コイルOPQ: 半径\(l\)、中心角 \(\pi/2\)(4分の1円)。
  • 運動: 原点Oを中心に反時計回りに一定の角速度\(\omega\)で回転。
  • 磁場: \(x \ge 0\)の領域のみに、磁束密度\(B\)(紙面の表から裏向き、\(\otimes\))。
  • 初期条件: \(t=0\)で、辺OPが-y軸と一致した状態から回転開始(模範解答のグラフから判断)。
  • 電気的特性: コイル全体の抵抗\(R\)、自己誘導は無視。
問われていること
  • (1) コイルを貫く磁束\(\Phi\)の時間変化のグラフ。
  • (2) コイルを流れる電流\(I\)の時間変化のグラフ(O→Pの向きを正とする)。
  • (3) 一回転する間に発生するジュール熱。
  • (4) 回転を維持するための外力\(f\)の時間変化のグラフと、外力がする仕事\(W\)。
  • (コラムQ): 外力を加える位置を変えた場合の外力と仕事。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されているファラデーの電磁誘導の法則を主軸とした解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 誘導起電力の別解: 導体棒の起電力から求める解法
      • 主たる解法が、コイル全体を貫く磁束の時間変化というマクロな視点から起電力を求めるのに対し、別解では、磁場を横切って運動する導体辺OP(またはOQ)に生じる起電力を、ローレンツ力というミクロな視点から計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「磁束の変化」と「ローレンツ力による電荷の偏り」という、一見異なる2つの現象が、同じ誘導起電力という結果をもたらすことを確認でき、電磁誘導の本質的な理解が深まります。
    • 応用力の向上: 回転運動する導体棒の起電力計算は、直線運動の場合とは異なるアプローチ(平均速度の利用や積分)が必要であり、より複雑な状況に対応する応用力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題を解く鍵は、電磁誘導に関する2つの重要な法則です。

  1. ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -N\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)): コイルという「面」を貫く磁束\(\Phi\)が時間変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力が生じるというマクロな視点です。この問題では、回転によって磁場内の面積が変化するため、磁束が変化します。
  2. ローレンツ力と誘導起電力 (\(V=vBl\)): 導体辺が磁場を横切って運動するとき、その辺自体が電池になるというミクロな視点です。回転運動では、辺の各点の速度が異なるため、少し工夫が必要になります。

この問題では、(1)で磁束変化を考え、(2)でその結果から電流を求めるという、ファラデーの法則を主軸とした流れになっています。等速円運動を維持するための力のモーメントのつり合いや、エネルギー保存則も重要な役割を果たします。

問(1)

思考の道筋とポイント
コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度\(B\)と、コイルが磁場内にある面積\(S\)の積、\(\Phi = BS\) で計算できます。コイルが角速度\(\omega\)で回転するのに伴い、磁場(\(x \ge 0\)の領域)に入っている部分の面積\(S\)が時間とともにどう変化するかを、1周期(\(T=2\pi/\omega\))にわたって4つの期間に分けて追いかけます。
この設問における重要なポイント

  • 磁束は、磁場が存在する領域(\(x \ge 0\))にあるコイルの面積に比例する。
  • コイルは一定の角速度で回転するため、磁場内の面積は時間に比例して増減する(進入・退出時)。
  • コイル全体が磁場内にある期間や、完全に外にある期間では、磁束は一定(またはゼロ)となる。

具体的な解説と立式
時刻\(t\)のとき、コイルは初期位置から角度 \(\theta = \omega t\) だけ回転しています。

  1. 期間I (\(0 \le t \le \frac{\pi}{2\omega}\)): コイルが磁場に進入していく期間。
    磁場内にある部分の面積\(S\)は、中心角が \(\theta = \omega t\) の扇形の面積です。
    $$
    \begin{aligned}
    S &= (\text{円の面積}) \times \frac{\text{中心角}}{2\pi} \\[2.0ex] &= \pi l^2 \times \frac{\omega t}{2\pi} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}l^2\omega t
    \end{aligned}
    $$
    したがって、磁束\(\Phi\)は、\(t\)に比例して直線的に増加します。
    $$
    \begin{aligned}
    \Phi(t) &= BS \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}Bl^2\omega t \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
  2. 期間II (\(\frac{\pi}{2\omega} \le t \le \frac{\pi}{\omega}\)): コイル全体が完全に磁場内にある期間。
    磁場内にある面積は、コイル全体の面積(4分の1円の面積 \(\frac{1}{4}\pi l^2\))で一定です。
    $$
    \begin{aligned}
    \Phi(t) &= \Phi_{\text{max}} \\[2.0ex] &= B \cdot \frac{1}{4}\pi l^2 \quad (\text{一定})
    \end{aligned}
    $$
  3. 期間III (\(\frac{\pi}{\omega} \le t \le \frac{3\pi}{2\omega}\)): コイルが磁場から退出していく期間。
    磁束は、期間Iと対称的に直線的に減少していきます。
  4. 期間IV (\(\frac{3\pi}{2\omega} \le t \le \frac{2\pi}{\omega}\)): コイルが完全に磁場外にある期間。
    磁束はゼロです。
    $$
    \begin{aligned}
    \Phi(t) &= 0
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
  • 扇形の面積の公式: \(S = \frac{1}{2}r^2\theta\)
  • 等速円運動の関係式: \(\theta = \omega t\)
計算過程

期間Iにおいて、\(t=\frac{\pi}{2\omega}\) のときの最大値を確認します。
$$
\begin{aligned}
\Phi_{\text{max}} &= \Phi\left(\frac{\pi}{2\omega}\right) \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}Bl^2\omega \left(\frac{\pi}{2\omega}\right) \\[2.0ex] &= \frac{1}{4}\pi Bl^2
\end{aligned}
$$
これは期間IIの値と一致しており、グラフが連続的につながることがわかります。

この設問の平易な説明

磁束とは、コイルを貫く「磁力線の本数」のようなものです。コイルが回転して磁場のあるエリアに入っていくと、貫く磁力線の本数はだんだん増えていきます。一定の速さで回転しているので、本数は時間に比例してまっすぐ増えます。コイルが全部磁場の中に入ってしまうと、回転しても貫く本数は変わらないので、磁束は一定になります。そして、磁場から出ていくときは、入るときと逆のペースでまっすぐ減っていき、最後はゼロになります。

結論と吟味

これらの結果をグラフにすると、台形のような形になります。原点から直線的に増加し、一定値を保ち、その後直線的に減少して0に戻り、しばらく0が続く、という形になります。(模範解答のグラフを参照し、縦軸の最大値などを明記して描く)

解答 (1) (模範解答のグラフを参照)台形の波形を描く。最大値は \(\frac{1}{4}\pi Bl^2\)。

問(2)

思考の道筋とポイント
誘導電流\(I\)は、誘導起電力\(V\)を抵抗\(R\)で割ることで求まります(\(I=V/R\))。誘導起電力\(V\)は、ファラデーの法則 \(V = \left| \frac{d\Phi}{d t} \right|\) から計算できます。これは、(1)で考えた\(\Phi-t\)グラフの「傾きの大きさ」に相当します。電流の向き(符号)は、磁束の変化を妨げる向き、というレンツの法則で決定します。
この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力の大きさは、\(\Phi-t\)グラフの傾きの大きさに比例する。
  • 誘導電流の向きは、磁束の変化を「妨げる」向きである(レンツの法則)。
  • 電流の正負は、問題文で定義された向き(O→P)と、レンツの法則から決まる向きを比較して判断する。

具体的な解説と立式
\(\Phi-t\)グラフの傾きから、各期間の誘導起電力\(V\)と電流\(I\)を求めます。

  • 期間I (\(0 < t < \frac{\pi}{2\omega}\)):
    \(\Phi(t) = \frac{1}{2}Bl^2\omega t\) なので、傾きは一定です。
    $$
    \begin{aligned}
    V &= \left|\frac{d\Phi}{dt}\right| \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}Bl^2\omega
    \end{aligned}
    $$
    向き: 裏向き(\(\otimes\))の磁束が増加しているので、レンツの法則より、それを打ち消す表向き(\(\odot\))の磁場を作る向き、すなわち反時計回りに電流が流れます。これは問題の定義(O→Pが正)ではP→Oの向きなので、電流はの値をとります。
    $$
    \begin{aligned}
    I &= -\frac{V}{R}
    \end{aligned}
    $$
  • 期間II (\(\frac{\pi}{2\omega} < t < \frac{\pi}{\omega}\)):
    \(\Phi\)が一定なので傾きはゼロ。誘導起電力、誘導電流ともにゼロです。
    $$
    \begin{aligned}
    I &= 0
    \end{aligned}
    $$
  • 期間III (\(\frac{\pi}{\omega} < t < \frac{3\pi}{2\omega}\)):
    傾きの大きさは期間Iと同じで、\(V\)の大きさも同じです。
    向き: 裏向きの磁束が減少しているので、レンツの法則より、それを補う裏向き(\(\otimes\))の磁場を作る向き、すなわち時計回りに電流が流れます。これはO→Pの向きなので、電流はの値をとります。
    $$
    \begin{aligned}
    I &= +\frac{V}{R}
    \end{aligned}
    $$
  • 期間IV (\(\frac{3\pi}{2\omega} < t < \frac{2\pi}{\omega}\)): \(\Phi\)が一定(ゼロ)なので、電流もゼロです。
    $$
    \begin{aligned}
    I &= 0
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left|\frac{d\Phi}{dt}\right|\)
  • レンツの法則
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

期間IとIIIにおける電流の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
|I| &= \frac{V}{R} \\[2.0ex] &= \frac{1}{R} \left(\frac{1}{2}Bl^2\omega\right) \\[2.0ex] &= \frac{Bl^2\omega}{2R}
\end{aligned}
$$
したがって、期間Iでは \(I = -\frac{Bl^2\omega}{2R}\)、期間IIIでは \(I = +\frac{Bl^2\omega}{2R}\) となります。

この設問の平易な説明

発電(誘導起電力)の大きさは、(1)で考えた磁束グラフの「坂の急さ(傾き)」で決まります。グラフを見ると、磁場に入っていく時と出ていく時で坂の急さは同じなので、発電する電圧の大きさも同じです。磁束が変化しない平らな部分では、発電は起こらず電圧はゼロです。電流の向きは、「変化に逆らう」というレンツの法則で決まります。磁束が増えている時(進入時)はそれを減らす向きに、減っている時(退出時)はそれを増やす向きに電流が流れるため、進入時と退出時で電流の向きは逆になります。

結論と吟味

これらの結果をグラフにすると、負の値で一定、ゼロ、正の値で一定、ゼロ、を繰り返す方形波(矩形波)のグラフになります。(模範解答のグラフを参照)

別解: 導体棒の起電力から求める

この設問における重要なポイント

  • 回転する導体棒の各点の速度は、中心からの距離に比例する。
  • 導体棒全体の起電力は、棒の「平均の速さ」を用いて計算できる。

具体的な解説と立式
磁場を横切って運動しているのは、辺OP(またはOQ)です。辺OPに着目します。OP上の中心から距離\(r’\)の点は、速さ \(v’ = r’\omega\) で動いています。この点の微小な起電力は \(dV = (v’)B(dr’)\) と考えられます。これを辺全体で積分すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \int_0^l (r’\omega)B dr’ \\[2.0ex] &= \omega B \left[ \frac{1}{2}r’^2 \right]_0^l \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}Bl^2\omega
\end{aligned}
$$
これは、棒の速度が根元の0から先端の\(l\omega\)まで線形に変化するため、棒の「平均の速さ」 \(\bar{v} = \frac{0+l\omega}{2}\) を用いて \(V = \bar{v}Bl\) と計算するのと同じ結果です。この起電力が期間IとIIIで生じ、向きが逆転します。

結論と吟味

ファラデーの法則から求めた起電力の大きさと完全に一致します。

解答 (2) (模範解答のグラフを参照)方形波を描く。値は \(-\frac{Bl^2\omega}{2R}\) と \(\frac{Bl^2\omega}{2R}\)。

問(3)

思考の道筋とポイント
ジュール熱は、電流が流れている間に抵抗で消費されるエネルギーです。電力(単位時間あたりの熱量)は \(P = RI^2\) で計算できます。電流が流れるのは期間Iと期間IIIだけであり、それぞれの時間は \(\frac{\pi}{2\omega}\) です。
この設問における重要なポイント

  • ジュール熱は電流が流れている期間(IとIII)でのみ発生する。
  • 電力\(P\)は一定なので、総熱量は \(Q = P \times (\text{電流が流れた合計時間})\) で計算できる。

具体的な解説と立式
1. 電力Pの計算:
電流が流れる期間(IとIII)では、電流の大きさは \(|I| = \frac{Bl^2\omega}{2R}\) で一定です。
消費電力\(P\)は、
$$
\begin{aligned}
P &= RI^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. ジュール熱Qの計算:
電流が流れる時間の合計は、
$$
\begin{aligned}
\Delta t_{\text{合計}} &= (\text{期間Iの長さ}) + (\text{期間IIIの長さ}) \\[2.0ex] &= \frac{\pi}{2\omega} + \frac{\pi}{2\omega} \\[2.0ex] &= \frac{\pi}{\omega}
\end{aligned}
$$
発生するジュール熱の総量\(Q\)は、電力\(P\)にこの時間を掛けることで求まります。
$$
\begin{aligned}
Q &= P \times \Delta t_{\text{合計}} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 消費電力(ジュール熱の仕事率): \(P = RI^2\)
  • エネルギー(熱量): \(E = P \times t\)
計算過程

まず式①で電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
P &= R \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right)^2 \\[2.0ex] &= R \frac{B^2l^4\omega^2}{4R^2} \\[2.0ex] &= \frac{B^2l^4\omega^2}{4R}
\end{aligned}
$$
次に式②でジュール熱の総量を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \left( \frac{B^2l^4\omega^2}{4R} \right) \times \frac{\pi}{\omega} \\[2.0ex] &= \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ジュール熱は、電気が抵抗を流れるときに発生する熱のことです。まず、電流が流れている瞬間の「発熱の勢い(電力)」を計算します。これは \(P=RI^2\) の公式で求まります。次に、一回転のうち、実際に電流が流れている時間を合計します。グラフから、それは期間Iと期間IIIの合計で、半周期分であることがわかります。最後に、「発熱の勢い × 発熱した時間」を計算することで、発生した総熱量を求めます。

結論と吟味

一回転する間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\) [J] です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
コイルが等速回転を続けるためには、外部から力を加えて、電磁力によるブレーキとして働く力のモーメントとつり合わせる必要があります。

  1. 電流が流れる辺OP(またはOQ)にはたらく電磁力の大きさを計算します。
  2. この電磁力が生み出す、回転を妨げる向きの力のモーメントを計算します。
  3. 外力\(f\)が加える力のモーメントと、電磁力による力のモーメントがつり合う、という式を立てて\(f\)を求めます。
  4. 外力のする仕事\(W\)は、(外力の力のモーメント)×(回転角) または (外力\(f\))×(移動距離) で計算します。

この設問における重要なポイント

  • 「等速回転」は「力のモーメントのつり合い」を意味する。
  • 一様な導体棒に働く電磁力は、棒の中点に作用すると考えてよい。
  • 外力がした仕事は、エネルギー保存則により、発生したジュール熱に等しいはずである。

具体的な解説と立式
1. 電磁力\(F\)と力のモーメント\(M_{\text{B}}\):
電流\(I\)が流れる辺OP(長さ\(l\))が受ける電磁力\(F\)の大きさは \(F = IBl\)。この力は、一様な棒に働く重力と同様に、辺OPの中点(Oから\(l/2\)の距離)に作用すると考えられます。電磁力が作る力のモーメント \(M_{\text{B}}\) は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{B}} &= F \times \frac{l}{2} \\[2.0ex] &= (IBl) \frac{l}{2} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}IBl^2
\end{aligned}
$$
2. 外力\(f\)と力のモーメント\(M_{\text{外}}\):
外力\(f\)が点P(Oから\(l\)の距離)で接線方向に加えられるので、その力のモーメント \(M_{\text{外}}\) は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{外}} &= f \times l
\end{aligned}
$$
3. 力のモーメントのつり合い:
等速回転なので力のモーメントはつり合っています: \(M_{\text{外}} = M_{\text{B}}\)。
$$
\begin{aligned}
fl &= \frac{1}{2}IBl^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
4. 仕事\(W\):
外力\(f\)が必要なのは、電流が流れる期間IとIIIのみです。それぞれの期間で回転する角度は \(\pi/2\) なので、合計の回転角は\(\pi\)です。
$$
\begin{aligned}
W &= (\text{外力の力のモーメント}) \times (\text{回転角}) \\[2.0ex] &= M_{\text{外}} \times \pi \\[2.0ex] &= (fl)\pi \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • 力のモーメント: \(M = Fr\)
  • 力のモーメントのつり合い
  • 仕事: \(W = M\theta\)
計算過程
  • 外力\(f\)の大きさ:
    式①を\(f\)について解き、 \(|I| = \frac{Bl^2\omega}{2R}\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    f &= \frac{IBl}{2} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2} \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right) Bl \\[2.0ex] &= \frac{B^2l^3\omega}{4R}
    \end{aligned}
    $$
    外力\(f\)は常に回転を助ける向き(反時計回り)なので正です。\(f-t\)グラフは、期間IとIIIでこの一定値をとり、他では0となります。
  • 仕事\(W\)の計算:
    式②に\(f\)の値を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    W &= \left( \frac{B^2l^3\omega}{4R} \cdot l \right) \pi \\[2.0ex] &= \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

コイルに電流が流れると、磁場から電磁力を受けます。この力は回転のブレーキになります。一定の速さで回し続けるためには、このブレーキとちょうどつり合うように、外から力を加えて回転を助けてあげる必要があります。回転運動なので、力の大きさだけでなく「どこに力を加えるか」も重要で、「力のモーメント」という量でつり合いを考えます。外力がする仕事は、(3)で計算したジュール熱とぴったり同じになります。これは、外から加えたエネルギーが、すべて熱に変わってしまったことを意味しています。

結論と吟味

外力\(f\)の時間変化は、正の値で一定、ゼロ、正の値で一定、ゼロを繰り返す方形波のグラフになります。一回転の間に外力がする仕事\(W\)は \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\) [J] です。この値は、(3)で求めたジュール熱と完全に一致します。これは「外力がした仕事が、すべてジュール熱に変換された」というエネルギー保存則が成り立っていることを示しています。

解答 (4) グラフ: (模範解答の方形波を描く。正の値は \(\frac{B^2l^3\omega}{4R}\) )、仕事: \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\)

【コラム】Q: 外力を加える位置をOP上でOからrだけ離れた点Aとした場合の外力fᵣと仕事Wᵣを求めよ。

思考の道筋とポイント
外力を加える位置が変わっても、一定の角速度で回転を維持するために必要な「力のモーメント」は変わりません。これは電磁力によるブレーキとして働く力のモーメントが同じだからです。しかし、力を加える腕の長さが変わるので、必要な「力」の大きさは変わります。
この設問における重要なポイント

  • 必要な「力のモーメント」は、外力を加える場所によらず一定である。
  • 外力の大きさは、腕の長さ(中心からの距離)に反比例する。
  • エネルギー保存則から、外力がする総仕事量は、加える場所によらず一定になるはずである。

具体的な解説と立式
1. 力のモーメントのつり合い:
電磁力によるブレーキとして働く力のモーメント \(M_{\text{B}} = \frac{1}{2}IBl^2\) は変化しません。
新しい外力\(f_r\)を点A(Oから\(r\)の距離)に加えるので、外力の力のモーメントは \(M_{\text{外}}’ = f_r \times r\) となります。
つり合いの式 \(M_{\text{外}}’ = M_{\text{B}}\) より、
$$
\begin{aligned}
f_r \cdot r &= \frac{1}{2}IBl^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 仕事\(W_r\)の計算:
仕事は (力)×(移動距離) で計算します。外力\(f_r\)が働く間、点Aは半径\(r\)の円周上を動きます。仕事をする合計の道のりは、半径\(r\)の円周の半分(\(\frac{1}{4}\)回転×2回)なので、\(\pi r\) です。
$$
\begin{aligned}
W_r &= f_r \times (\pi r) \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = Fr\)
  • 力のモーメントのつり合い
  • 仕事: \(W = Fs\)
計算過程
  • 外力\(f_r\)の計算:
    式①から \(f_r\) を求め、電流\(I\)の値を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    f_r &= \frac{IBl^2}{2r} \\[2.0ex] &= \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right) \frac{Bl^2}{2r} \\[2.0ex] &= \frac{B^2l^4\omega}{4Rr}
    \end{aligned}
    $$
  • 仕事\(W_r\)の計算:
    式②に上で求めた\(f_r\)を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    W_r &= \left( \frac{B^2l^4\omega}{4Rr} \right) \times (\pi r) \\[2.0ex] &= \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

ドアノブが蝶番から遠い位置にあるのは、小さい力でドアを開けるためです。これと同じで、回転軸(O点)から遠い場所に力を加えるほど、必要な力は小さくなります。逆に、軸に近い場所を押すには大きな力が必要です。しかし、最終的にする仕事の量はどこを押しても同じになります。なぜなら、エネルギー保存則により、発生するジュール熱の量が変わらないからです。力が小さくて済む場所(\(r\)が大きい)ではたくさん動かなければならず、大きな力が必要な場所(\(r\)が小さい)では少し動くだけで済むため、結果的に「力 × 距離」である仕事の量は同じになります。

結論と吟味

外力の大きさ \(f_r\) は、加える点までの距離\(r\)に反比例して変化しますが、外力がする仕事 \(W_r\) は\(r\)によらず、(4)の仕事\(W\)と全く同じ値になりました。これは、エネルギー保存則から考えれば当然の結果です。

解答 (Q) 外力: \(f_r=\displaystyle\frac{B^2l^4\omega}{4Rr}\)、仕事: \(W_r=\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則
    • 核心: この問題全体の根幹をなす法則です。特に、コイルを貫く磁束\(\Phi\)が時間変化し、その変化率に比例した起電力\(V\)が生じる(\(V = |d\Phi/dt|\))こと、そしてその向きは変化を妨げる向きである(レンツの法則)ことが核心です。
    • 理解のポイント:
      1. グラフの連携: この問題は、\(\Phi(t)\)(磁束)→ \(V(t)\)(起電力)→ \(I(t)\)(電流)→ \(f(t)\)(外力)という一連の流れで解かれています。特に「\(\Phi-t\)グラフの傾きが\(V\)になる」という関係は、微分と物理現象を結びつける重要な考え方です。
      2. 2つの視点: 磁束変化(マクロ)とローレンツ力(ミクロ)のどちらからでも起電力を説明できることが理想です。マクロな視点は計算が楽なことが多く、ミクロな視点は現象の物理的な原因を深く理解するのに役立ちます。
  • 回転運動における誘導起電力
    • 核心: 直線運動の\(V=vBl\)と異なり、回転運動では辺の各点の速度が異なります。そのため、積分するか、または線形に速度が変化することを利用して「平均の速さ」で代表させて起電力を求める、という応用的な考え方が必要になります。
    • 理解のポイント:
      1. 速度の分布: 回転する棒では、速度は回転中心で0、先端で最大となり、その間は距離に比例して直線的に増加します。
      2. 平均速度の有効性: 速度が線形に変化する場合に限り、全体の起電力は「棒の平均速度」で動いていると見なして計算できます。これは計算を大幅に簡略化する強力なテクニックです。
  • 力のモーメントのつり合い
    • 核心: 「等速回転」という条件は、直線運動の「等速」とは異なり、「力のつり合い」ではなく「力のモーメントのつり合い」を意味します。電磁力が作る回転を妨げる力のモーメントと、外力が加える回転を促す力のモーメントがつり合っている、という式を立てることが重要です。
    • 理解のポイント:
      1. 回転運動の法則: 直線運動の「力 \(F\)」に対応するのが、回転運動の「力のモーメント \(M\)」です。同様に、「質量 \(m\)」は「慣性モーメント \(I\)」、「加速度 \(a\)」は「角加速度 \(\alpha\)」に対応します。
      2. 作用点の重要性: 力のモーメントは「力 × 腕の長さ」で決まるため、どこに力が働くかが重要です。一様な棒に働く電磁力は、その中点に作用すると考えて計算を単純化できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 発電機やモーターの動作解析: この問題は、コイルを回転させて電気エネルギーを取り出す「発電機」の最も単純なモデルです。発生する電力や、回転に必要な力のモーメントを計算する問題全般に応用できます。
    • 時間変化する物理量のグラフ化問題: 磁束\(\Phi\)、起電力\(V\)、電流\(I\)、外力\(f\)といった様々な物理量が時間とともにどう変化するかをグラフにする問題は頻出です。ある量のグラフ(例:\(\Phi-t\))から、その時間微分(傾き)である別の量のグラフ(例:\(V-t\))を導き出す、という関係性を理解することが鍵となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類を特定する: まず、運動が「直線運動」か「回転運動」かを見極めます。回転運動なら、角速度\(\omega\)、力のモーメント、回転角といった特有の物理量に着目します。
    2. 磁束\(\Phi\)の時間変化を追う: 電磁誘導の問題では、まず「コイルを貫く磁束\(\Phi\)が、時間\(t\)の関数としてどう書けるか」を考えるのが王道です。これが分かれば、微分することで起電力\(V\)が、さらに抵抗で割ることで電流\(I\)が、芋づる式に求まります。
    3. 「等速回転」のキーワード: これを見たら「力のモーメントのつり合い」を考えます。直線運動の「等速」が「力のつり合い」に対応するのと同様です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 回転運動での誘導起電力の計算ミス:
    • 誤解: 回転する辺の起電力を、単純に先端の速さ\(v=l\omega\)を使って \(V=(l\omega)Bl\) と計算してしまう。
    • 対策: 回転運動では速度が中心からの距離に比例することを思い出し、平均の速さ\(\bar{v}=(0+l\omega)/2\)を用いるか、積分計算を行う必要があると理解する。
  • 力と力のモーメントの混同:
    • 誤解: 問(4)で、力のつり合い(\(f=F\))を考えてしまう。
    • 対策: 回転運動では、力の作用点(腕の長さ)が重要であり、力の大きさそのものではなく「力のモーメント」がつり合う、という原理を明確に区別して適用する。
  • グラフの傾きと値の関係:
    • 誤解: \(\Phi-t\)グラフから\(V-t\)グラフを描く際に、傾きが正なのに\(V\)を正の値にしてしまうなど、符号や対応関係を間違える。
    • 対策: \(V = -d\Phi/dt\) という関係を思い出す。「マイナス」はレンツの法則に対応し、\(d\Phi/dt\)はグラフの傾き。傾きが正なら\(V\)は負(またはその逆の向き)、傾きがゼロなら\(V\)もゼロ、という関係を機械的に適用する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\Phi = BS\):
    • 選定理由: 磁束そのものを計算する、基本定義式。面積\(S\)が時間変化するこの問題では、まず\(\Phi(t)\)を求めることが全ての出発点となるため。
    • 適用根拠: 磁束は、磁場の強さとそれを貫く面積に比例するという定義に基づきます。
  • \(V = |d\Phi/dt|\):
    • 選定理由: 磁束の時間変化から、誘導起電力の大きさを求めるための、ファラデーの法則そのもの。グラフの傾きから\(V\)を求める際に使用。
    • 適用根拠: 電磁誘導の最も根本的な法則。磁場の時間変化が電場を生み出すことを示しています。
  • \(M = Fr\):
    • 選定理由: 回転運動のつり合いを考えるため。力だけでなく、力が働く位置(腕の長さ)を考慮する必要があるから。
    • 適用根拠: 力のモーメントの定義。
  • \(W = M\theta\):
    • 選定理由: 回転運動において、力のモーメントがした仕事を計算するため。
    • 適用根拠: 仕事の定義(力×距離)を、回転運動の物理量(力のモーメント×回転角)で書き直したもの。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 定数と変数の区別:
    • 特に注意すべき点: \(B, l, \omega, R\)は定数で、\(t\)が変数です。微分(\(d/dt\))を行う際は、何が定数で何が変数かを明確に意識する。
    • 日頃の練習: 問題文を読みながら、定数には丸、変数には四角を付けるなど、自分なりのルールで印を付けておくと、計算時に混同しにくくなります。
  • 単位系の確認:
    • 特に注意すべき点: 角度がラジアン(\(\theta=\omega t\))で計算されていることを確認する。度数法と混同しないように注意。
    • 日頃の練習: 角速度\(\omega\)の単位が[rad/s]であることを常に意識し、時間\(t\)を掛けると角度[rad]になる、という関係を体に染み込ませましょう。
  • グラフの軸と値:
    • 特に注意すべき点: グラフを描く際は、横軸が時間\(t\)か角度\(\theta\)かを確認する。縦軸の最大値や、変化が起こる時刻(例:\(\pi/2\omega\))などを正確に記入する。
    • 日頃の練習: グラフ問題では、まず軸のラベルと単位を書き込むことから始めると、ケアレスミスを防げます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • エネルギー保存則による検算: 問(3)で計算したジュール熱の総量と、問(4)で計算した外力がした仕事が、完全に一致することを確認する。これは非常に強力な検算方法であり、計算全体の信頼性を保証します。
    • Qの考察: 外力を加える点\(r\)を変えても、最終的な仕事\(W\)が変わらなかった。これはなぜか?「エネルギー保存則によれば、発生する熱は同じはずだから、仕事も同じになるはずだ」と物理的な意味を考えることで、計算結果への確信が深まります。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし回転速度\(\omega\)を2倍にしたらどうなるか? 起電力\(V\)は2倍、電流\(I\)も2倍、消費電力\(P=RI^2\)は4倍、外力\(f\)は2倍、仕事\(W=f \cdot s\)は2倍になる…など、パラメータを変化させたときの結果を予測し、自分の計算結果と一致するかを確かめるのも良い練習です。
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問題41 (センター試験)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電磁誘導に関する2つの異なるタイプの現象を1つの設定で扱う、思考力を問う良問です。

  • パートI は、一定の磁場の中を導体棒が動くことで起電力が生じる「ローレンツ力による電磁誘導」です。
  • パートII, III は、導体は静止しているが、磁場そのものが時間変化することで起電力が生じる「ファラデーの電磁誘導の法則」です。

これらの状況で、回路に流れる電流や、発生する熱、必要な外力などを計算していきます。回路が並列接続になっている点や、複数のループに分割して考える点など、回路解析の知識も合わせて問われます。

与えられた条件
  • 回路: 水平な長方形回路。辺の長さ\(a\), \(b\)。
  • 抵抗: 左端に抵抗\(R\)、右端に抵抗\(r\)。(\(R>r\))
  • 金属棒M: 抵抗は無視でき、レール上を滑らかに動く、または固定される。
  • 磁場B: 紙面に垂直、裏から表向き(\(\odot\))。
    • パートIでは一定。
    • パートII, IIIでは時間変化 \(B=kt\) (\(k\)は正の定数)。
問われていること
  • I (B一定, Mが速さvで運動):
    • (1) Mを流れる電流の向きと大きさ。
    • (2) 単位時間あたりのジュール熱。
    • (3) Mを等速で動かすための外力の大きさ。
  • II (Mなし, B=kt):
    • (4) 回路全体の誘導起電力と、抵抗Rを流れる電流。
  • III (Mを中央に固定, B=kt):
    • (5) 左側ループの誘導起電力。
    • (6) Mを流れる電流の向きと大きさ。
  • (コラムQ): IIIの状況で、Mを流れる電流が0になるMの位置。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3) 外力の大きさの別解: エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が電磁力を計算し力のつりあいから求めるのに対し、別解では外力がする仕事率が回路で消費されるジュール熱に等しいというエネルギー保存則の観点から解きます。
    • コラムQ 電流ゼロ位置の別解: キルヒホッフの法則を用いる解法
      • 主たる解法が左右のループを流れる電流が等しくなる条件から解くのに対し、別解では外周ループと左側ループにキルヒホッフの第2法則を適用し、連立方程式を解くことで位置を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 視点の多様化: 同じ物理現象を「力のつりあい」と「エネルギー保存」という異なる根源的な法則から考察することで、物理法則間の関係性への理解が深まります。
    • 回路解析能力の向上: コラムQの別解は、より複雑な回路問題にも応用できるキルヒホッフの法則の体系的な使い方を学ぶ良い練習になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電磁誘導」です。導体棒が動くことで起電力が生じる場合と、磁場が変化することで起電力が生じる場合の2つのパターンを正確に区別し、それぞれに適した法則を適用することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力による誘導起電力: 磁場中を導体が速さ\(v\)で動くとき、\(V=vBl\)の起電力が生じます。向きは導体内の電荷が受けるローレンツ力によって決まります。
  2. ファラデーの電磁誘導の法則: 回路を貫く磁束\(\Phi\)が時間変化するとき、\(V = \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)の起電力が生じます。向きはレンツの法則に従います。
  3. キルヒホッフの法則: 複雑な回路網を流れる電流を解析するための基本法則です。特に、複数のループや電源が存在する場合に威力を発揮します。
  4. エネルギー保存則: 外力がした仕事が、回路で発生するジュール熱に変換されるというエネルギーの流れを捉えることで、力学的な量と電気的な量を結びつけることができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問題の状況が「導体の運動」によるものか、「磁場の変化」によるものかを見極め、適用する法則を決定します。
  2. 問(1)〜(3)では、動く金属棒Mを「電池」とみなし、抵抗\(R\)と\(r\)が並列接続された直流回路として解析します。
  3. 問(4)〜(6)およびコラムQでは、ファラデーの法則を用いて各ループに生じる誘導起電力を計算し、キルヒホッフの法則を適用して回路を流れる電流を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
金属棒Mが磁場を横切って動くことで、誘導起電力が生じます。このMを「電池」と見なすと、問題は抵抗\(R\)と\(r\)が並列に接続された単純な直流回路の問題に帰着します。それぞれの抵抗に流れる電流を計算し、それらを足し合わせることでMを流れる電流を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 動く導体棒は電池と等価であると考える。
  • 起電力の大きさは \(V=vBb\)、向きは導体内の電荷が受けるローレンツ力で決定する。
  • 抵抗\(R\)と\(r\)は並列接続であり、両端の電圧は等しい。

具体的な解説と立式
金属棒Mが速さ\(v\)で動くことにより生じる誘導起電力の大きさを\(V\)とします。
$$
\begin{aligned}
V &= vBb
\end{aligned}
$$
起電力の向きを考えます。導体棒Mが右向きに速さ\(v\)で動くとき、棒内部の電荷も一緒に動きます。この動く電荷が磁場から受ける力(ローレンツ力)が、起電力の原因です。この力の向きは、フレミングの左手の法則で考えることができます。仮想的に正電荷の動きを考えると、電流の向きは運動と同じ右向きです。フレミングの左手の法則(電流:右向き、磁場:紙面表向き)を適用すると、電荷は導体棒に沿ってSからTの向きに力を受けます。この力によって正電荷がT側に、負電荷(電子)がS側に偏るため、T側が高電位(正極)、S側が低電位(負極)の電池とみなせます。

この起電力\(V\)の電池に対し、抵抗\(R\)と抵抗\(r\)が並列に接続されているため、それぞれに電圧\(V\)がかかります。
抵抗\(R\)を流れる電流を\(I\)、抵抗\(r\)を流れる電流を\(i\)とすると、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{R} \\[2.0ex] i &= \frac{V}{r}
\end{aligned}
$$
金属棒Mを流れる電流\(I_{\text{M}}\)は、これらの和となります。向きは電池の内部を負極から正極へ向かう向き、すなわちSからTの向きです。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{M}} &= I + i
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • ローレンツ力(フレミングの左手の法則)
  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • キルヒホッフの第1法則(電流則)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I_{\text{M}} &= I + i \\[2.0ex] &= \frac{V}{R} + \frac{V}{r} \\[2.0ex] &= \left(\frac{1}{R} + \frac{1}{r}\right)V \\[2.0ex] &= \left(\frac{r+R}{Rr}\right)V
\end{aligned}
$$
ここに \(V=vBb\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{M}} &= \frac{R+r}{Rr}vBb
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

動いている金属棒は、発電機のように電気を起こして「電池」に変身します。なぜ電気が起きるかというと、棒の中の電気の粒(電荷)が、棒と一緒に動くことで磁石から力を受けて、棒の上下に偏るからです。この偏りによって電圧が生まれます。この自家製電池に左右の抵抗がつながっているので、あとはオームの法則で電流を計算して足し合わせればOKです。

結論と吟味

Mを流れる電流の向きはSからT、大きさは \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}vBb\) となります。これは、並列回路の合成抵抗 \(R_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{Rr}{R+r}\) を用いて、全電流 \(I_{\text{M}} = \displaystyle\frac{V}{R_{\text{合成}}}\) を計算した結果と一致し、妥当です。

解答 (1) 向き: SからT、大きさ: \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}vBb\)

問(2)

思考の道筋とポイント
単位時間あたりのジュール熱とは、消費電力のことです。この回路で電力を消費しているのは抵抗\(R\)と抵抗\(r\)の2つです。それぞれの抵抗での消費電力を計算し、それらを合計することで回路全体の消費電力が求まります。
この設問における重要なポイント

  • 単位時間あたりのジュール熱は消費電力 \(P\) [W] と等しい。
  • 消費電力の公式 \(P = VI = RI^2 = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を適切に使い分ける。
  • 並列回路なので、各抵抗にかかる電圧が等しいことを利用すると計算がしやすい。

具体的な解説と立式
抵抗\(R\)と抵抗\(r\)には、どちらも電圧\(V\)がかかっています。したがって、消費電力の公式は \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を使うのが便利です。
抵抗\(R\)での消費電力を\(P_R\)、抵抗\(r\)での消費電力を\(P_r\)とすると、
$$
\begin{aligned}
P_R &= \frac{V^2}{R} \\[2.0ex] P_r &= \frac{V^2}{r}
\end{aligned}
$$
回路全体で発生する単位時間あたりのジュール熱\(Q\)は、これらの和になります。
$$
\begin{aligned}
Q &= P_R + P_r
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 消費電力: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= P_R + P_r \\[2.0ex] &= \frac{V^2}{R} + \frac{V^2}{r} \\[2.0ex] &= \left(\frac{1}{R} + \frac{1}{r}\right)V^2 \\[2.0ex] &= \left(\frac{r+R}{Rr}\right)V^2
\end{aligned}
$$
ここに \(V=vBb\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{R+r}{Rr}(vBb)^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「単位時間あたりのジュール熱」と聞くと難しそうですが、要は「1秒あたりに消費される電気エネルギー」、つまり「消費電力」のことです。この回路では、2つの抵抗が電気を熱に変えています。それぞれの抵抗がどれだけ熱を出すか(=電力を消費するか)を計算して、最後に合計すれば全体の答えが求まります。

結論と吟味

単位時間あたりのジュール熱は \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}(vBb)^2\) となります。この値は、(1)で求めた全電流\(I_{\text{M}}\)と起電力\(V\)を用いて、電池が供給する電力 \(P_{\text{供給}} = VI_{\text{M}}\) を計算した結果と一致し、エネルギー保存則が成り立っていることが確認できます。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}(vBb)^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
金属棒Mが一定の速さ\(v\)で動いている、つまり加速度がゼロなので、Mにはたらく力はつり合っています。Mには、電流が流れることによって磁場から電磁力がはたらきます。この電磁力は運動を妨げる向き(ブレーキをかける向き)にはたらくため、Mを等速で動かし続けるには、この電磁力と大きさが等しく逆向きの外力を加え続ける必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 等速運動なので、力のつりあいを考える。
  • 電流が流れる導体にはたらく電磁力の大きさは \(F=IBl\)、向きはフレミングの左手の法則で決まる。
  • 外力は、運動を妨げる電磁力とつりあう。

具体的な解説と立式
問(1)で求めたように、金属棒Mには \(I_{\text{M}} = \displaystyle\frac{R+r}{Rr}vBb\) の電流がSからTの向きに流れています。
この電流が磁場\(B\)から受ける電磁力\(F_{\text{電磁}}\)の向きを、フレミングの左手の法則(電流:S→T(下向き)、磁場:紙面表向き)で考えると、左向きとなります。その大きさは、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{電磁}} &= I_{\text{M}} \cdot B \cdot b
\end{aligned}
$$
金属棒Mを等速で右向きに動かすためには、この左向きの電磁力とつりあう、右向きの外力\(F\)を加える必要があります。力のつりあいの条件より、
$$
\begin{aligned}
(\text{右向きの力}) &= (\text{左向きの力}) \\[2.0ex] F &= F_{\text{電磁}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= F_{\text{電磁}} \\[2.0ex] &= I_{\text{M}} \cdot B \cdot b \\[2.0ex] &= \left( \frac{R+r}{Rr}vBb \right) \cdot Bb \\[2.0ex] &= \frac{R+r}{Rr}vB^2b^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

金属棒を動かして発電すると、その副作用として「電磁ブレーキ」がかかります。これは、電流が流れることで磁石から運動と逆向きの力を受けるからです。電車が駅で止まるときに使うブレーキと同じ原理です。このブレーキ力に逆らって、同じ速さで棒を動かし続けるためには、ブレーキ力とちょうど同じ大きさの力で引っ張り続ける必要があります。

結論と吟味

外力の大きさ\(F\)は \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}vB^2b^2\) となります。この結果は物理的に妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}vB^2b^2\)
別解: エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
等速運動している系では、エネルギーの出入りがつり合っています。この場合、「外力が単位時間あたりにする仕事(仕事率)」が、すべて「回路で単位時間あたりに消費されるジュール熱(消費電力)」に変換されていると考えられます。このエネルギー保存則から外力\(F\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: \((\text{外力の仕事率}) = (\text{消費電力})\)
  • 仕事率の公式は \(P = Fv\)

具体的な解説と立式
外力の大きさ\(F\)、金属棒の速さ\(v\)なので、外力がする仕事率は \(P_{\text{外力}} = Fv\) です。
一方、回路で消費される電力\(Q\)は、問(2)で求めた通り \(Q = \displaystyle\frac{R+r}{Rr}(vBb)^2\) です。
エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{外力}} &= Q \\[2.0ex] Fv &= \frac{R+r}{Rr}(vBb)^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • エネルギー保存則
計算過程

$$
\begin{aligned}
Fv &= \frac{R+r}{Rr}v^2B^2b^2
\end{aligned}
$$
両辺を\(v\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{R+r}{Rr}vB^2b^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

手回し発電機を回すとき、電球をつなぐと急にハンドルが重くなります。これは、発電した電気が熱に変わる分だけ、余計にエネルギーを投入(仕事を)する必要があるからです。この問題も同じで、「手で引っ張ることで加えたエネルギー」が、そっくりそのまま「回路で発生する熱エネルギー」に変わっている、というエネルギーの収支計算で解くことができます。

結論と吟味

力のつりあいから求めた結果と完全に一致します。これは、力学的アプローチとエネルギー的アプローチが等価であることを示しており、物理的に非常に美しい関係です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{R+r}{Rr}vB^2b^2\)

問(4)

思考の道筋とポイント
今度は導体棒は動かず、磁場そのものが時間変化します。このような場合は、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = \left|\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\right|\) を使います。まず回路全体を貫く磁束\(\Phi\)を時間\(t\)の関数として表し、それを時間で微分して誘導起電力\(V\)を求めます。電流の向きはレンツの法則で決定します。
この設問における重要なポイント

  • 磁場が変化する場合、ファラデーの電磁誘導の法則を適用する。
  • 磁束 \(\Phi = BA\) を計算する。
  • 電流の向きは、磁束の変化を妨げる向き(レンツの法則)。
  • この場合、回路は抵抗\(R\)と\(r\)の直列接続とみなせる。

具体的な解説と立式
回路の面積は \(A = ab\)、磁束密度は \(B=kt\) です。したがって、時刻\(t\)における回路を貫く磁束\(\Phi\)は、
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= B(t) \cdot A \\[2.0ex] &= (kt) \cdot (ab) \\[2.0ex] &= kabt
\end{aligned}
$$
ファラデーの電磁誘導の法則より、回路に生じる誘導起電力\(V\)の大きさは、
$$
\begin{aligned}
V &= \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| \\[2.0ex] &= \left| \frac{\Delta (kabt)}{\Delta t} \right| \\[2.0ex] &= kab
\end{aligned}
$$
次に、電流の向きを考えます。紙面表向きの磁束が時間とともに増加しているので、レンツの法則によれば、回路にはその増加を妨げる向き、すなわち紙面裏向きの磁場を作るような電流が流れます。右ねじの法則より、これは時計回りの電流です。したがって、P₁Q₁の部分を流れる電流の向きは、Q₁からP₁の向きになります。

このとき、回路は抵抗\(R\)と\(r\)が直列につながった一つのループと見なせます。回路全体の合成抵抗は \(R+r\) です。オームの法則より、流れる電流\(I\)は、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{R+r}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 磁束の定義: \(\Phi = BA\)
  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)
  • レンツの法則
  • オームの法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
I &= \frac{kab}{R+r}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、回路は動かずに、磁石の強さ(磁場)がどんどん強くなっていきます。すると、回路は「現状維持が好き」なので、「磁場が強くなるのはやめてくれ!」と抵抗します。その抵抗の手段として、強くなる磁場と逆向きの磁場を自分で作ろうとします。そのために流すのが誘導電流です。どれくらいの電圧(起電力)が発生するかは、磁場の変化のスピードで決まります。

結論と吟味

誘導起電力の大きさは \(kab\)、P₁Q₁を流れる電流の向きはQ₁からP₁、大きさは \(\displaystyle\frac{kab}{R+r}\) となります。起電力が時間に依らない一定値になる点が特徴的です。

解答 (4) 起電力: \(kab\)、電流: 向きはQ₁からP₁、大きさは \(\displaystyle\frac{kab}{R+r}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
問(4)と同様にファラデーの法則を使いますが、今回は回路が金属棒Mによって左右2つのループに分割されています。左半分のループ `P₁STQ₁` に着目し、このループの面積を使って磁束の変化を計算し、誘導起電力を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 回路が複数のループに分かれている場合、各ループについてファラデーの法則を適用できる。
  • 左側ループの面積を正しく計算する。

具体的な解説と立式
金属棒Mは中央に固定されているので、左側ループ `P₁STQ₁` の面積\(A_1\)は、
$$
\begin{aligned}
A_1 &= \left(\frac{a}{2}\right) \cdot b \\[2.0ex] &= \frac{ab}{2}
\end{aligned}
$$
このループを貫く磁束\(\Phi_1\)は、
$$
\begin{aligned}
\Phi_1(t) &= B(t) \cdot A_1 \\[2.0ex] &= (kt) \cdot \frac{ab}{2} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}kabt
\end{aligned}
$$
ファラデーの電磁誘導の法則より、この左側ループに生じる誘導起電力\(V_1\)の大きさは、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \left| \frac{\Delta \Phi_1}{\Delta t} \right| \\[2.0ex] &= \left| \frac{\Delta}{\Delta t}\left(\frac{1}{2}kabt\right)\right| \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}kab
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)
計算過程

計算は立式の段階で完了しています。

この設問の平易な説明

真ん中に仕切り(金属棒M)ができたので、長方形の部屋が2つの正方形の部屋に分かれたようなものです。左側の部屋だけでどれくらいの電圧が発生するかを計算します。電圧の大きさは部屋の面積に比例するので、面積が半分になれば、発生する電圧も半分になります。

結論と吟味

左半分に生じる誘導起電力の大きさは \(\displaystyle\frac{1}{2}kab\) となり、問(4)で求めた全体の起電力のちょうど半分になりました。面積が半分なので、起電力も半分になるという直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{1}{2}kab\)

問(6)

思考の道筋とポイント
左右のループそれぞれに誘導起電力が生じ、それぞれが独立した電源のように振る舞います。金属棒Mは、この2つのループで共有されている導線です。Mを流れる電流は、左のループがMに流そうとする電流と、右のループがMに流そうとする電流の合成(この場合は引き算)によって決まります。キルヒホッフの法則を用いて解析します。
この設問における重要なポイント

  • 左右のループは、それぞれが独立した起電力を持つと考える。
  • レンツの法則より、両方のループに時計回りの電流を流そうとする起電力が生じる。
  • 金属棒Mには、左ループからはS→T向き、右ループからはT→S向きの電流が流れ込もうとする。
  • 抵抗値が異なるため、両ループを流れる電流の大きさが異なり、その差がMを流れる正味の電流となる。

具体的な解説と立式
問(5)より、左ループには大きさ \(V_1 = \displaystyle\frac{1}{2}kab\) の起電力が生じます。レンツの法則から、向きは時計回りです。この起電力によって抵抗\(R\)に流れる電流を\(I\)とすると、左ループについてキルヒホッフの第2法則を立てると、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= RI
\end{aligned}
$$
この電流\(I\)は、MにおいてはS→Tの向きに流れようとします。

同様に、右ループ `SP₂Q₂T` も面積は同じ \(\displaystyle\frac{ab}{2}\) なので、生じる起電力\(V_2\)は\(V_1\)と全く同じ大きさで、向きも同じく時計回りです。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= V_1 \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}kab
\end{aligned}
$$
この起電力によって抵抗\(r\)に流れる電流を\(i\)とすると、右ループについてキルヒホッフの第2法則を立てると、
$$
\begin{aligned}
V_2 &= ri
\end{aligned}
$$
この電流\(i\)は、MにおいてはT→Sの向きに流れようとします。

金属棒Mを流れる正味の電流\(I_{\text{M}}\)は、これら2つの電流の差となります。
問題の条件より \(R>r\) であり、起電力は \(V_1=V_2\) なので、オームの法則 \(I=V/R\) から、\(I < i\) となります。
したがって、電流\(i\)の方が大きいため、正味の電流は\(i\)の向き、すなわちTからSの向きに流れます。その大きさは、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{M}} &= i – I
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則
  • キルヒホッフの法則
  • オームの法則
計算過程

まず、\(I\)と\(i\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V_1}{R} = \frac{kab}{2R} \\[2.0ex] i &= \frac{V_2}{r} = \frac{kab}{2r}
\end{aligned}
$$
よって、\(I_{\text{M}}\)は、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{M}} &= i – I \\[2.0ex] &= \frac{kab}{2r} – \frac{kab}{2R} \\[2.0ex] &= \frac{kab}{2}\left(\frac{1}{r} – \frac{1}{R}\right) \\[2.0ex] &= \frac{kab}{2}\left(\frac{R-r}{Rr}\right) \\[2.0ex] &= \frac{kab(R-r)}{2Rr}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

真ん中の仕切り(金属棒M)を挟んで、左右の部屋で綱引きが起こっているとイメージしてください。左の部屋(抵抗R)と右の部屋(抵抗r)は、同じ力(起電力)で、それぞれ逆向きに綱(電流)を引こうとします。抵抗が大きいR側は力が弱く、抵抗が小さいr側は力が強いので、綱引きはr側が勝ちます。仕切りであるMには、r側が引く向きに、両者の力の差の分だけ電流が流れることになります。

結論と吟味

Mを流れる電流の向きはTからS、大きさは \(\displaystyle\frac{kab(R-r)}{2Rr}\) となります。もし\(R=r\)なら、左右の電流が完全に打ち消し合って\(I_{\text{M}}=0\)となり、直感と一致します。また、\(R>r\)という条件から \(R-r>0\) となり、電流の大きさが正の値になることも確認できます。

解答 (6) 向き: TからS、大きさ: \(\displaystyle\frac{kab(R-r)}{2Rr}\)

【コラム】Q: MをP₁Q₁から距離xの位置に固定しB=ktとしたとき、Mを流れる電流が0になるxを求めよ。

思考の道筋とポイント
問(6)の考察から、Mを流れる電流が0になるのは、左ループがMに流そうとする電流\(I\)と、右ループがMに流そうとする電流\(i\)の大きさがちょうど等しくなるときです。それぞれの電流は、各ループの起電力と抵抗によって決まります。起電力はループの面積に比例するので、面積の比が特定の条件を満たすような位置\(x\)を探します。
この設問における重要なポイント

  • Mを流れる電流がゼロ \(\iff\) 左ループによる電流と右ループによる電流がつりあう (\(I=i\))。
  • 起電力は面積に比例する (\(V \propto A\))。
  • 左ループの面積は\(xb\)、右ループの面積は\((a-x)b\)。

具体的な解説と立式
MをP₁Q₁から距離\(x\)の位置に固定します。
左ループの面積は \(A_L = xb\)、右ループの面積は \(A_R = (a-x)b\) となります。
それぞれのループに生じる誘導起電力\(V_L\), \(V_R\)は、
$$
\begin{aligned}
V_L &= \left| \frac{\Delta (B \cdot A_L)}{\Delta t} \right| = \left| \frac{\Delta (kt \cdot xb)}{\Delta t} \right| = kxb \\[2.0ex] V_R &= \left| \frac{\Delta (B \cdot A_R)}{\Delta t} \right| = \left| \frac{\Delta (kt \cdot (a-x)b)}{\Delta t} \right| = k(a-x)b
\end{aligned}
$$
左ループが流そうとする電流\(I\)と、右ループが流そうとする電流\(i\)は、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V_L}{R} = \frac{kxb}{R} \\[2.0ex] i &= \frac{V_R}{r} = \frac{k(a-x)b}{r}
\end{aligned}
$$
Mを流れる電流が0になる条件は \(I=i\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{kxb}{R} &= \frac{k(a-x)b}{r}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則
  • オームの法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{kxb}{R} &= \frac{k(a-x)b}{r}
\end{aligned}
$$
両辺の共通項 \(kb\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{x}{R} &= \frac{a-x}{r}
\end{aligned}
$$
両辺に\(Rr\)を掛けて分母を払うと(クロスに乗算)、
$$
\begin{aligned}
xr &= R(a-x) \\[2.0ex] xr &= Ra – Rx
\end{aligned}
$$
\(x\)を含む項を左辺に集めます。
$$
\begin{aligned}
xr + Rx &= Ra \\[2.0ex] (R+r)x &= Ra
\end{aligned}
$$
\(x\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{R}{R+r}a
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

綱引きで引き分けになる場所を探す問題です。左チーム(抵抗R)と右チーム(抵抗r)の力の強さは、それぞれの陣地の広さ(面積)に比例します。抵抗が大きい左チームは元々力が弱いので、引き分けにするには陣地を広くして力を補ってあげる必要があります。ちょうど、両チームの力の比(抵抗の逆比)と陣地の広さの比が同じになったときに、綱引きがつりあって電流が流れなくなります。

結論と吟味

Mを流れる電流が0になる位置は \(x = \displaystyle\frac{R}{R+r}a\) となります。この式は、全長\(a\)を抵抗比 \(R:r\) で内分する点を与えています。これはホイートストンブリッジ回路の平衡条件 \(R_1:R_2 = R_3:R_4\) と同じ構造を持っており、物理的に非常に美しい結果です。

Qの解答 \(\displaystyle\frac{R}{R+r}a\)
別解: キルヒホッフの法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
より機械的に解く方法として、回路全体にキルヒホッフの法則を適用します。外周ループ `P₁P₂Q₂Q₁` と、左側ループ `P₁STQ₁` の2つに着目し、それぞれについてキルヒホッフの第2法則(電圧則)の式を立てます。未知数を設定し、連立方程式を解くことで答えを導きます。
この設問における重要なポイント

  • 回路を流れる電流を未知数として設定する。
  • 2つの独立なループを選び、キルヒホッフの第2法則を適用する。
  • Mを流れる電流が0という条件を最後に適用する。

具体的な解説と立式
抵抗\(R\)をQ₁→P₁の向きに流れる電流を\(I_1\)、抵抗\(r\)をQ₂→P₂の向きに流れる電流を\(I_2\)とします。
すると、金属棒MをS→Tの向きに流れる電流\(I_{\text{M}}\)は、点Sにおけるキルヒホッフの第1法則より \(I_{\text{M}} = I_2 – I_1\) となります。

1. 外周ループ `P₁P₂Q₂Q₁` について、時計回りを正としてキルヒホッフの第2法則を適用します。
このループを貫く磁束は \(\Phi = B \cdot ab = kabt\) なので、起電力は \(V=kab\) です。
$$
\begin{aligned}
(\text{起電力の和}) &= (\text{電圧降下の和}) \\[2.0ex] kab &= RI_1 + rI_2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 左側ループ `P₁STQ₁` について、時計回りを正としてキルヒホッフの第2法則を適用します。
このループを貫く磁束は \(\Phi_L = B \cdot xb = kxbt\) なので、起電力は \(V_L=kxb\) です。
このループには抵抗\(R\)しかありません。
$$
\begin{aligned}
(\text{起電力}) &= (\text{電圧降下}) \\[2.0ex] kxb &= RI_1 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
Mを流れる電流が0になる条件は \(I_{\text{M}} = I_2 – I_1 = 0\)、すなわち \(I_1 = I_2\) です。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第1法則、第2法則
  • ファラデーの電磁誘導の法則
計算過程

\(I_1 = I_2\) の条件を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
kab &= RI_1 + rI_1 \\[2.0ex] kab &= (R+r)I_1
\end{aligned}
$$
これを\(I_1\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{kab}{R+r}
\end{aligned}
$$
この\(I_1\)を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
kxb &= R \left( \frac{kab}{R+r} \right)
\end{aligned}
$$
両辺の共通項 \(kb\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
x &= R \left( \frac{a}{R+r} \right) \\[2.0ex] x &= \frac{Ra}{R+r}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この解き方は、物理的なイメージよりも、決まったルールに従って式を立てて解く、数学的なアプローチです。まず、回路の好きな場所を流れる電流を文字で置いておきます。次に、「回路を一周すると電圧は元に戻る」というルール(キルヒホッフの法則)を使って、2つの独立した周回コースについて式を2本作ります。最後に、「Mを流れる電流がゼロ」という条件を使って、これらの式を解けば答えが出てきます。どんなに複雑な回路でも解ける、強力な方法です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、物理的な直感に頼らず、機械的な計算で答えを導き出せるという利点があります。複雑な回路問題において非常に強力な手法です。

Qの解答 \(\displaystyle\frac{R}{R+r}a\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電磁誘導の2つの原因の区別:
    • 核心: この問題は、誘導起電力が生じる原因が2種類あることを明確に区別し、それぞれに合った法則を適用する能力を試しています。物理現象の根本的な理解が問われます。
    • 理解のポイント:
      1. 導体が動く場合 (ローレンツ力による起電力): 磁場中を導体が動くことで、導体内の電荷がローレンツ力を受けて偏り、電位差(起電力)が生じます。起電力の大きさは \(V=vBl\) で計算します。パートIがこのタイプです。
      2. 磁場が変化する場合 (ファラデーの法則): 回路を貫く磁束そのものが時間変化することで、回路の周りに電場(渦電場)が誘起され、起電力が生じます。起電力の大きさは \(V=\left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\) で計算します。パートII, IIIがこのタイプです。
  • キルヒホッフの法則による回路解析:
    • 核心: 誘導起電力を「電池」と見なした上で、複数のループや抵抗を含む複雑な回路を正しく解析する能力も、この問題のもう一つの核心です。
    • 理解のポイント: パートIIIやコラムQのように、複数の起電力が同時に存在する場合、それぞれのループで独立に起電力を考え、キルヒホッフの法則を用いて回路全体を解析するという体系的なアプローチが不可欠です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の起電力が存在する回路: パートIIIは、電池が2つある複雑な直流回路と全く同じ構造をしています。誘導起電力を電池記号に置き換えることで、どんな電磁誘導の問題も、見慣れた直流回路の問題として解くことができます。
    • ブリッジ回路: コラムQで問われた「電流がゼロになる条件」は、ホイートストンブリッジの平衡条件と本質的に同じ考え方です。「ブリッジ部分(金属棒M)の電位差がゼロになる」 \(\rightarrow\) 「左右のループがMに流そうとする電流が等しくなる」という流れで解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「何が変化しているか?」を特定する: まず、起電力の原因が「導体の運動」なのか「磁場の時間変化」なのか、あるいはその両方なのかを問題文から正確に読み取ります。これが公式選択の第一歩です。
    2. 「ループ」を意識する: ファラデーの法則は、閉じた「ループ」に対して成り立つ法則です。回路が複雑な場合は、どのループに着目して法則を適用するかを明確に定めることが重要です。
    3. 接続関係(並列か直列か)を見抜く: 回路全体の抵抗を考える際、各要素が直列接続なのか並列接続なのかを正確に判断します。パートIでは並列、パートIIでは直列でした。起電力を電池に置き換えて回路図を描き直すと、関係性が明確になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 2種類の電磁誘導の混同:
    • 誤解: 磁場が変化しているのに \(V=vBl\) を使おうとしたり、導体が動いているのに磁束変化を考えようとして混乱したりする。
    • 対策: 問題の冒頭で「原因は運動? 磁場変化?」と自問自答する癖をつける。原因に応じて使う公式を明確に分ける意識を持つ。
  • 回路の接続の勘違い:
    • 誤解: パートIで抵抗\(R\)と\(r\)が並列であることや、パートIIで直列であることを見抜けない。
    • 対策: 誘導起電力を生む部分を「電池」の記号に置き換えて、回路図を自分で描き直してみる。すると、接続関係がクリアになります。
  • レンツの法則の適用ミス:
    • 誤解: 磁束が増えているのに、変化を助ける向きに電流を流してしまうなど、電流の向きを逆にしてしまう。
    • 対策: 「変化を妨げる(変化する前の状態を維持しようとする)」という、レンツの法則の「あまのじゃく」な性質をしっかり理解する。磁束が増えれば減らす向き、減れば増やす向き、と覚える。
  • 起電力の向きの決定ミス(ローレンツ力):
    • 誤解: パートIで、導体内の電荷が受けるローレンツ力の向きを考える際に、フレミングの左手の法則の「電流」の向きを、導体棒の運動方向と混同してしまう。
    • 対策: あくまで「導体と一緒に動く正電荷が、導線に沿ってどちら向きに力を受けるか」を考える。これにより、どちらが電位の高い正極になるかが決まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBl\):
    • 選定理由: パートIのように、導体自体が磁場を横切って「運動」することで起電力が生じる場合に用いる。
    • 適用根拠: この公式の根源は、導体内の荷電粒子が速度\(v\)で動くことで受けるローレンツ力 \(f=qvB\) です。この力によって電荷が移動し、電位差が生じます。
  • \(V = \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\):
    • 選定理由: パートII, IIIのように、回路(の面積)は固定で「磁場」自体が時間変化することで起電力が生じる場合に用いる。
    • 適用根拠: これは電磁誘導のより根本的な法則で、磁場の時間変化が周囲に電場(渦電場)を生み出し、その電場が電荷を動かして起電力を生じさせる現象を記述しています。
  • キルヒホッフの法則:
    • 選定理由: パートIII(6)やコラムQのように、回路内に複数のループや起電力が存在し、単純なオームの法則だけでは解けない場合に用いる、回路解析の万能ツール。
    • 適用根拠: 電荷保存則(第1法則)とエネルギー保存則(第2法則)という、物理学の揺るぎない基本法則に基づいています。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 並列回路の計算:
    • 特に注意すべき点: 問(1)で電流を求める際、並列部分の電流はそれぞれの枝で計算して「足し算」します。合成抵抗 \(R_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{Rr}{R+r}\) を計算して \(I=\displaystyle\frac{V}{R_{\text{合成}}}\) としても同じ結果になりますが、各抵抗を流れる電流を問われた場合に備え、枝ごとに計算する癖をつけるのが安全です。
    • 日頃の練習: 両方の方法で計算してみて、結果が一致することを確かめる(検算する)習慣をつけると、計算の確実性が増します。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: \(a, b, k, R, r, v, B, x\)など多くの文字が登場するため、式変形の際に混乱しないよう、丁寧に整理することが重要です。特に分数の計算(通分など)は慎重に行う必要があります。
    • 日頃の練習: 途中式を省略せず、一行ずつ変形の理由を意識しながら書く。特に、共通項でくくる、約分を慎重に行うなど、基本的な代数計算の精度を高める練習を繰り返す。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • パートごとの比較検討:
    • 吟味の視点: パートI(Mが動く)とパートIII(Bが変化)では、Mを流れる電流の向きが逆(S→T vs T→S)になりました。なぜ向きが逆になったのか、物理的な理由を考えることで理解が深まります。
    • 物理的解釈: 「パートIではM自身が発電してT側をプラスにしたが、パートIIIでは左右のループの発電量の差で、抵抗が小さい(=電流を流しやすい)右ループの起電力が勝ち、T→S向きの電流を流した」というように、現象の背景を言葉で説明してみる。
  • コラムQの答えの物理的意味:
    • 吟味の視点: 電流がゼロになる位置が \(x = \displaystyle\frac{R}{R+r}a\) となりました。この式が何を意味するのかを考えます。
    • 物理的解釈: この式を変形すると \(\displaystyle\frac{x}{a-x} = \displaystyle\frac{R}{r}\) となり、「左ループの長さ:右ループの長さ」が「抵抗R:抵抗r」の比に等しいことを意味します。起電力は長さに比例し、電流は抵抗に反比例するので、\(\displaystyle\frac{V_L}{R} = \displaystyle\frac{V_R}{r}\) という電流のつりあい条件が、この幾何学的な比率に帰着するわけです。この構造をブリッジ回路と比較してみると、物理法則の普遍性が見えてきます。
  • 極端な場合を考える:
    • 吟味の視点: もし \(R=r\) だったらどうなるか?
    • 物理的解釈: 問(6)の答えは \(I_M=0\) となり、左右の電流が完全に打ち消し合うという直感と一致します。コラムQの答えは \(x=a/2\) となり、対称な状況なので中央でつりあうという直感とも一致します。このように、簡単な状況を代入して答えが妥当かを確認する習慣は非常に有効です。

問題42 (防衛大+名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、導体円板を磁場中で回転させることで起電力を生み出す「ファラデーの円盤(単極発電機)」に関する、電磁誘導の原理を深く掘り下げた問題です。導体棒の直線運動とは異なり、回転運動では場所によって速度が異なるため、その効果を正しく捉える必要があります。電子に働くローレンツ力から始まり、電場の発生、電位差の計算、そしてエネルギー保存則まで、一連の物理現象を体系的に理解することが求められます。

与えられた条件
  • 導体円板: 半径\(a\)、導体でできた回転軸を持つ。
  • 運動: 一定の角速度\(\omega\)で回転。
  • 磁場: 磁束密度\(B\)、円板に垂直(上向き)。
  • 回路: 円板の中心軸と縁を、スイッチSと抵抗Rで接続。回路全体の抵抗値は\(R\)。
問われていること
  • (1) 回転する円板内の自由電子が受けるローレンツ力による移動方向。
  • (2) 円板の中心と縁に現れる電荷の極性と、それによる電場の向き。
  • (3) ローレンツ力と静電気力がつり合ったときの、電場の強さ\(E(r)\)と、そのグラフ。
  • (4) 円板の中心と縁の間の電位差\(V\)。
  • (5) スイッチを閉じたときの電流\(I\)と、回転を維持するための外力の仕事率\(P\)。
  • (コラムQ): 外力を加える位置を半径\(r\)の点とした場合の外力\(F\)と仕事率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(4) 電位差Vの別解: 導体棒の起電力からの類推
      • 主たる解法が、まず電場を求め、それを積分(E-rグラフの面積を計算)して電位差を導出するのに対し、別解では円板を無数の導体棒の集まりとみなし、その平均速度を用いて起電力の公式から直接電位差を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの多様化: 円板を「連続体」として捉え積分する視点と、「微小な棒の集合体」として捉え平均化する視点の両方を学ぶことで、物理現象をモデル化する能力が養われます。
    • 計算の簡略化: 別解のアプローチは、積分計算を回避できるため、より直感的かつ迅速に答えを導き出せる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは、導体円板を磁場中で回転させる「ファラデーの円盤(単極発電機)」です。電子に働くローレンツ力を出発点として、電場の発生、電位差の計算、そしてエネルギー保存則へと至る一連の物理現象を体系的に理解することが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力 \(f=qvB\) が、誘導起電力の根本的な原因です。
  2. 力のつりあい: ローレンツ力と、電荷の偏りによって生じる電場からの静電気力がつりあうことで、定常状態が決まります。
  3. 電場と電位の関係: 場所によって強さが変わる電場から全体の電位差を求めるには、電場を距離で足し合わせる(積分する)必要があります。
  4. エネルギー保存則: 回転を維持するために外部から供給される仕事(率)は、回路で消費されるジュール熱(電力)に等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、円板内の電子1個に働くローレンツ力の向きを考え、電荷の偏りを明らかにします。
  2. 次に、ローレンツ力と静電気力のつり合いから、円板内の電場の強さを中心からの距離の関数として求めます。
  3. 求めた電場を半径に沿って積分(E-rグラフの面積を計算)することで、中心と縁の間の電位差(起電力)を導出します。
  4. 最後に、この起電力を持つ電池として回路全体を考え、オームの法則やエネルギー保存則を適用します。

問(1)

思考の道筋とポイント
円板上の一個の自由電子の動きに注目します。この電子は円板と共に円運動しており、速度ベクトルを持っています。磁場中で運動する荷電粒子なので、ローレンツ力を受けます。その力の向きをフレミングの左手の法則で決定します。ただし、電子は負の電荷を持つことに最大の注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 電子は負電荷(\(-e\))を持つ。
  • ローレンツ力の向きは、正電荷が受ける力の向きとは逆になる。
  • フレミングの左手の法則の「電流」の向きは、正電荷の運動方向に相当する。

具体的な解説と立式
円板上の半径\(r\)の位置にある電子は、円の接線方向に速さ \(v=r\omega\) で運動しています。磁場は鉛直上向きです。
もしこれが正電荷であれば、その運動の向き(接線方向)が電流の向きとみなせます。フレミングの左手の法則(電流:接線方向、磁場:上向き)を適用すると、力は円の中心から遠ざかる外向きに働きます。
しかし、電子の電荷は負(\(-e\))なので、正電荷とは逆向きの力を受けます。したがって、電子が受けるローレンツ力は円の中心を向くことになります。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(\vec{f} = q(\vec{v} \times \vec{B})\)
計算過程

この設問は力の向きを問う定性的な問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

円板が回転すると、中の電子も一緒にぐるぐる回ります。磁石の中で電気が動くと、フレミングの左手の法則でおなじみの力を受けます。ただし、電子はマイナスの電気なので、法則で決まる向きとは「逆向き」の力を受けます。プラスの電気なら外側に飛ばされるところを、電子は逆に中心に向かって引き寄せられる、ということです。

結論と吟味

電子は中心向きに移動しようとします。

解答 (1) 中心向き

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)の結果から、電荷の分布が決まります。電子(負電荷)が移動した先は負に帯電し、電子がいなくなった元々の場所は正に帯電します。電場は、この電荷の偏りによって生じ、正電荷から負電荷へ向かう向きに発生します。
この設問における重要なポイント

  • 電子が集まった場所が負に帯電する。
  • 電子が不足した場所が正に帯電する。
  • 電場は正電荷から出て負電荷に入る。

具体的な解説と立式
(1)より、負の電荷を持つ自由電子が円板の中心に集まります。したがって、中心はに帯電します。
一方、電子が去った円板のは、相対的に原子核の正電荷が残り、に帯電します。
電場(電気力線)は、正電荷から出発し、負電荷へ向かいます。したがって、電場は円板の縁から中心への向き(半径方向内向き)に発生します。

使用した物理公式

  • 電場の定義(正電荷から負電荷へ向かう)
計算過程

この設問は定性的な問題のため、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

(1)で電子が中心に集まることがわかりました。電子はマイナスの電気なので、中心はマイナスになります。逆に、電子が出て行ってしまった縁側は、プラスの電気が取り残されるのでプラスになります。電気の世界のルールでは、電場はプラスからマイナスに向かって発生するので、この円板では縁から中心に向かって電場ができることになります。

結論と吟味

中心には負電荷、縁には正電荷が現れ、電場は縁から中心への向きに生じます。この電場は、後から来る電子が中心へ移動するのを妨げる静電気力を及ぼし、やがて力のつり合い状態が生まれます。

解答 (2) 中心: 負電荷、縁: 正電荷、電場の向き: 縁から中心へ

問(3)

思考の道筋とポイント
電子の移動は無限に続くわけではありません。(2)で生じた電場が、電子を中心から外向きに押し返す「静電気力」を生み出します。十分に時間が経つと、中心向きの「ローレンツ力」と、外向きの「静電気力」が完全につり合い、電子はそれ以上移動できなくなります。この力のつり合いの式から、電場の強さEを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 定常状態では、電子に働く合力はゼロになる。
  • 中心向きのローレンツ力と、外向きの静電気力がつりあう。
  • 電子の速さは \(v=r\omega\) で、場所によって異なる。

具体的な解説と立式
中心から距離\(r\)の位置にある電子(電荷\(-e\)、電気素量\(e\))に働く力は以下の2つです。

  • ローレンツ力(中心向き): 大きさは \(f_L = evB = e(r\omega)B\)
  • 静電気力(外向き): 大きさは \(f_E = eE\)

これらの力がつり合っているので、大きさが等しくなります。
$$
\begin{aligned}
(\text{外向きの力}) &= (\text{中心向きの力}) \\[2.0ex] eE &= er\omega B
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f=qvB\)
  • 静電気力: \(F=qE\)
  • 力のつりあい
計算過程

$$
\begin{aligned}
eE &= er\omega B
\end{aligned}
$$
両辺を電気素量\(e\)で割ると、電場の強さ\(E\)が求まります。
$$
\begin{aligned}
E &= \omega Br
\end{aligned}
$$
これは、\(E\)が\(r\)に比例する一次関数であることを示しています。したがって、E-rグラフは原点を通る直線になります。

この設問の平易な説明

電子が中心に集まってくると、中心付近はマイナスの電気が渋滞してきます。すると、後からやってくる電子に対して「もう満員だから来るな!」と反発する力(静電気力)が働きます。この反発力と、磁石が電子を引っ張る力(ローレンツ力)がちょうど同じ強さになったところで、電子の移動はストップします。この「力のつりあい」の条件から、各場所の電場の強さが計算できます。

結論と吟味

電場の強さは \(E=\omega Br\) で、中心からの距離\(r\)に比例して強くなります。グラフは原点\((0,0)\)と点\((a, \omega Ba)\)を結ぶ直線です。

解答 (3) \(E=\omega Br\)、グラフは原点を通る傾き\(\omega B\)の直線。

問(4)

思考の道筋とポイント
中心と縁の間の電位差Vは、(3)で求めた電場Eを、中心(r=0)から縁(r=a)まで足し合わせる(積分する)ことで求まります。数式 \(V = \int_0^a E(r) dr\) は、(3)で描いたE-rグラフの、r=0からr=aまでの「面積」に相当します。この考え方を使うと簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 電位差は、E-rグラフの面積に等しい。
  • グラフが三角形になるため、面積計算は容易である。

具体的な解説と立式
電位差\(V\)は、E-rグラフと\(r\)軸、そして\(r=a\)の直線で囲まれた部分の面積と等しくなります。
グラフは原点を通る直線なので、この面積は底辺が\(a\)、高さが \(E(a) = \omega Ba\) の三角形の面積として計算できます。
$$
\begin{aligned}
V &= (\text{三角形の面積}) \\[2.0ex] &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \\[2.0ex] &= \frac{1}{2} \times a \times (\omega Ba)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電位差と電場の関係: \(V = Ed\) または \(V = \int E dr\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \frac{1}{2} \times a \times (\omega Ba) \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}\omega Ba^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(3)で、場所によって電場の強さが違うことがわかりました。全体の電圧(電位差)を知るには、このバラバラな強さの電場を、中心から縁まで全部足し合わせる必要があります。こういう計算は、グラフの面積を求めるのと同じことです。(3)で描いたグラフは三角形なので、三角形の面積の公式を使えば、全体の電圧が簡単に計算できます。

結論と吟味

中心と縁の間の電位差V(誘導起電力)は \(\displaystyle\frac{1}{2}\omega Ba^2\) です。角速度\(\omega\)や磁束密度\(B\)が強いほど、また円板の半径\(a\)が大きいほど、大きな電圧が発生することがわかります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{2}\omega Ba^2\)
別解: 導体棒の起電力からの類推

思考の道筋とポイント
この円板は、中心Oから無数の導体棒が放射状に集まったものと見なせます。そのうちの1本(長さa)が回転している状況を考えます。この棒の各点の速さは中心からの距離に比例するため、棒全体の平均の速さ\(\bar{v}\)は、中心(速さ0)と縁(速さaω)の算術平均で与えられます。この平均速度を使って起電力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 回転する導体棒の起電力は、平均速度で代表させることができる。
  • 平均速度は \(\bar{v} = \displaystyle\frac{v_{\text{始}}+v_{\text{終}}}{2}\)

具体的な解説と立式
回転する一本の導体棒を考えます。中心端の速さは\(0\)、縁の速さは\(a\omega\)です。
この棒の平均の速さ\(\bar{v}\)は、
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{0 + a\omega}{2} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}a\omega
\end{aligned}
$$
この平均の速さを使って、長さ\(a\)の導体棒に生じる誘導起電力の公式 \(V = \bar{v}Ba\) を適用すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \left(\frac{1}{2}a\omega\right)Ba
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \left(\frac{1}{2}a\omega\right)Ba \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}\omega Ba^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

円板を、自転車の車輪のように、たくさんの細い棒(スポーク)が集まったものだと考えてみましょう。そのうちの一本の棒に注目します。この棒は根元(中心)はゆっくり、先端(縁)は速く動いています。こういうときは「平均の速さ」を使うと便利です。根元と先端の速さを足して2で割った平均の速さを求め、それを棒全体の速さとみなして、いつもの誘導起電力の公式 \(V=vBL\) に当てはめれば、同じ答えが出てきます。

結論と吟味

主たる解法である積分の結果と完全に一致します。これは、物理モデルの妥当性を示しており、問題をより直感的に理解する助けになります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{2}\omega Ba^2\)

問(5)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、(4)で求めた電位差Vを起電力とする電池(円板)に、抵抗Rが接続された回路が完成します。回路に流れる電流Iは、オームの法則で簡単に求まります。また、等速回転を維持するための外力の仕事率Pは、エネルギー保存則から、回路全体で消費される電力(この場合は抵抗Rでのジュール熱)に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 円盤は起電力Vの電池とみなせる。
  • 回路に流れる電流はオームの法則で決まる。
  • エネルギー保存則より、外力の仕事率と消費電力は等しい。

具体的な解説と立式
1. 電流Iの計算:
回路は、起電力\(V\)の電池に抵抗\(R\)が接続されただけの単純な回路です。オームの法則 \(V=RI\) より、
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{R}
\end{aligned}
$$
2. 仕事率Pの計算:
外力の仕事率は、消費電力に等しくなります。消費電力は \(P = RI^2\) で計算できます。
$$
\begin{aligned}
P &= RI^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • エネルギー保存則(仕事率=消費電力)
  • 消費電力: \(P = RI^2\)
計算過程
  • 電流I:
    (4)で求めた \(V=\displaystyle\frac{1}{2}\omega Ba^2\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    I &= \frac{\frac{1}{2}\omega Ba^2}{R} \\[2.0ex] &= \frac{\omega Ba^2}{2R}
    \end{aligned}
    $$
  • 仕事率P:
    上で求めた\(I\)を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    P &= R \left( \frac{\omega Ba^2}{2R} \right)^2 \\[2.0ex] &= R \frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R^2} \\[2.0ex] &= \frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

スイッチを入れると、円盤が作った電圧を使って回路に電流が流れます。どれくらいの電流が流れるかは、オームの法則で計算できます。電流が流れると、抵抗で熱が発生します(ジュール熱)。この熱のエネルギーは、誰かが供給しなければなりません。それが、円盤を回し続けている「外力」の役割です。外力が1秒あたりにする仕事の量が、抵抗で1秒あたりに発生する熱の量とぴったり同じになる、というのがエネルギー保存則です。

結論と吟味

電流Iは \(\displaystyle\frac{\omega Ba^2}{2R}\)、外力の仕事率Pは \(\displaystyle\frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}\) です。

解答 (5) 電流: \(\displaystyle\frac{\omega Ba^2}{2R}\)、仕事率: \(\displaystyle\frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}\)

【コラム】Q: 中心から距離rの位置で回転方向に外力Fを加える場合、Fを求め、仕事率がrによらないことを示せ。

思考の道筋とポイント
(5)の状況で、電流Iが流れる円板には、回転を妨げる向きの電磁力による「ブレーキトルク(力のモーメント)」が働きます。等速回転を続けるには、外力がこれとつりあう「駆動トルク」を加える必要があります。このトルクのつり合いから外力Fを求め、仕事率を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 回転運動では、力のモーメント(トルク)のつりあいを考える。
  • 電磁力は円板全体に働くが、その合力が作るトルクを計算する。
  • 仕事率は \(P = Fv\) または \(P = \tau \omega\) で計算できる。

具体的な解説と立式
1. 電磁力によるブレーキトルク\(\tau_B\):
電流\(I\)は、円板の半径方向に流れます。この電流が磁場\(B\)から受ける電磁力の合力 \(F_B\) は \(F_B = IBa\) となります。この力が作るトルクは、力が作用する平均的な半径、つまり \(a/2\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
\tau_B &= F_B \times \frac{a}{2} \\[2.0ex] &= (IBa) \frac{a}{2} \\[2.0ex] &= \frac{1}{2}IBa^2
\end{aligned}
$$
2. 外力による駆動トルク\(\tau_{\text{外}}\):
外力\(F\)を半径\(r\)の位置に加えるので、そのトルクは、
$$
\begin{aligned}
\tau_{\text{外}} &= F \times r
\end{aligned}
$$
3. トルクのつり合い:
$$
\begin{aligned}
(\text{駆動トルク}) &= (\text{ブレーキトルク}) \\[2.0ex] Fr &= \frac{1}{2}IBa^2
\end{aligned}
$$
4. 外力の仕事率\(P_F\):
半径\(r\)の位置での速さは \(v_r = r\omega\) です。仕事率は \(P_F = Fv_r = F(r\omega)\) です。

使用した物理公式

  • 力のモーメント(トルク)とつり合い
  • 仕事率: \(P = Fv\)
計算過程
  • 外力Fの計算:
    トルクのつりあいの式から\(F\)を求め、(5)で計算した \(I = \displaystyle\frac{\omega Ba^2}{2R}\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    F &= \frac{IBa^2}{2r} \\[2.0ex] &= \left(\frac{\omega Ba^2}{2R}\right) \frac{Ba^2}{2r} \\[2.0ex] &= \frac{\omega B^2 a^4}{4Rr}
    \end{aligned}
    $$
  • 仕事率の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    P_F &= F(r\omega) \\[2.0ex] &= \left(\frac{\omega B^2 a^4}{4Rr}\right)(r\omega) \\[2.0ex] &= \frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

円盤に電流が流れると、電磁ブレーキがかかって回転が鈍ろうとします。このブレーキ力は、円盤全体にかかります。このブレーキに打ち勝って回し続けるために、手で力を加えます。このとき、てこの原理と同じで、中心に近い場所(rが小さい)を押すなら大きな力が必要で、遠い場所(rが大きい)を押すなら小さな力で済みます。しかし、仕事率(1秒あたりの仕事量)を計算すると、どこを押しても同じ値になります。これは、近い場所は力をたくさん要る代わりに動く距離が短く、遠い場所は力は少なくて済む代わりにたくさん動かさないといけないので、結果的に仕事の効率は変わらない、ということです。

結論と吟味

外力の大きさFは \(\displaystyle\frac{\omega B^2 a^4}{4Rr}\) となり、加える点までの距離rに反比例します。一方、仕事率Pはrが打ち消し合って消え、\(\displaystyle\frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}\) となり、rによらない一定値となります。これは(5)で求めた消費電力と一致し、エネルギー保存則が成り立っていることを示しています。

Qの解答 外力: \(F=\displaystyle\frac{\omega B^2 a^4}{4Rr}\)、仕事率は \(P=\displaystyle\frac{\omega^2 B^2 a^4}{4R}\) となりrによらない。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力と誘導起電力の関係:
    • 核心: この問題は、磁場中で運動する導体内の電子がローレンツ力を受け、それによって電荷の偏り(電場)が生じ、最終的に電位差(誘導起電力)が生まれる、という電磁誘導の根本原理をミクロな視点から理解することです。
    • 理解のポイント:
      1. 力の発生: 回転する円板内の電子は速度を持つため、磁場からローレンツ力 \(\vec{f} = q(\vec{v} \times \vec{B})\) を受ける。
      2. 電荷の偏り: ローレンツ力によって電子が移動し、円板の中心と縁に電荷が偏って分布する。
      3. 電場の形成: この電荷の偏りが、円板内に静電場を形成する。
      4. 力のつりあい: 電子が受けるローレンツ力と、形成された電場からの静電気力がつりあうことで、定常状態に達する。
      5. 電位差の発生: この電場によって、中心と縁の間に電位差、すなわち誘導起電力が生じる。
  • 積分による電位差の計算:
    • 核心: 場所によって強さが変わる電場から全体の電位差を求めるには、電場を距離で積分する(\(V = \int E dr\))必要がある、という考え方です。これは、E-rグラフの面積を求めることに相当し、電場と電位の関係を深く理解しているかが問われます。
    • 理解のポイント:
      1. 電場の不均一性: 回転円板では、速度\(v=r\omega\)が場所に依存するため、力のつり合いで決まる電場\(E=\omega Br\)も場所に依存して変化する。
      2. 単純な公式の不適用: 電場が一定でないため、\(V=Ed\)のような単純な公式は使えない。
      3. 積分の意味: 微小な区間\(\Delta r\)での電位差\(\Delta V = E(r)\Delta r\)を、中心から縁まで全て足し合わせる操作が積分であり、これが全体の電位差を与える。
      4. グラフ面積との対応: この積分計算は、E-rグラフとr軸で囲まれた図形の面積を計算することと数学的に等価である。
  • エネルギー保存則:
    • 核心: 等速回転を維持するために外部から加える仕事(率)は、最終的に回路で消費されるジュール熱(電力)に等しくなる、というエネルギーの変換と保存の関係が、力やトルクの計算の妥当性を保証する重要な役割を果たしています。
    • 理解のポイント:
      1. エネルギーの供給源: 回路で発生するジュール熱のエネルギーは、円板を回す外力の仕事によって供給される。
      2. 仕事率と電力: 力学的なエネルギー供給率(仕事率 \(P=Fv\) や \(P=\tau\omega\))と、電気的なエネルギー消費率(消費電力 \(P=RI^2\))は、定常状態では等しくなる。
      3. 電磁ブレーキ: 電流が流れると、導体は回転を妨げる向きの電磁力を受ける。外力は、この電磁力によるブレーキトルクとつりあうトルクを供給し続けることで、エネルギーを系に注入している。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホール効果: 電流が流れている導体に垂直に磁場をかけると、ローレンツ力によって導体の側面に電位差が生じる「ホール効果」は、この問題の(1)~(3)と全く同じ原理に基づいています。
    • 回転体系の電磁誘導: ファラデーの円盤だけでなく、任意の形状の導体が磁場中で回転する問題に応用できます。「導体を無数の微小な導体棒の集まりと見なす」という考え方は、より複雑な問題への強力な武器になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「導体が回転」というキーワード: これを見たら、各点の速度が中心からの距離rに比例すること(\(v=r\omega\))を即座に連想します。
    2. 「電位差を求めよ」という問い: 電場が場所によって変わる場合、単純な\(V=Ed\)ではなく、「グラフの面積」や「積分」が必要になる可能性を考えます。
    3. 「仕事率を求めよ」という問い: 力学的な仕事率(\(P=Fv\) or \(P=\tau\omega\))と、電気的な消費電力(\(P=VI=RI^2\))を結びつけるエネルギー保存則が使えないか、検討するのが定石です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ローレンツ力の向き:
    • 誤解: 電子の電荷が負であることを忘れ、正電荷と同じ向きに力が働くと考えてしまう。
    • 対策: フレミングの法則を使う際、電流の向きは「正電荷の動く向き」と定義されていることを思い出す。電子の場合は、その運動と「逆向き」を電流の向きとして法則を適用するか、力の向きを最後に逆転させる。
  • 回転運動での起電力計算:
    • 誤解: 回転する円盤や棒の起電力を、先端の速さ\(v=a\omega\)を使って単純に\(V=vBa = (a\omega)Ba\)と計算してしまう。
    • 対策: 速度が一定でないことを認識し、(4)の別解で示したように「平均の速さ」を使うか、原理に立ち返って「電場を積分する」必要があると理解する。
  • 力とトルクの混同:
    • 誤解: Qで、力のつり合いを考えてしまう。
    • 対策: 回転運動では、力の大きさそのものではなく「力のモーメント(トルク)」がつり合う、という原理を明確に区別して適用する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • ローレンツ力 \(f=qvB\):
    • 選定理由: 電磁誘導の最も根本的な原因、つまり個々の荷電粒子が磁場から受ける力を考えるために用いる。全ての誘導起電力はこの力から出発している。
    • 適用根拠: 磁場中を運動する荷電粒子に働く力に関する基本法則。
  • 電場と電位差の関係 \(V = \int E dr\):
    • 選定理由: 問(4)のように、場所によって強さが一定でない電場から、2点間の電位差を求めるために用いる。
    • 適用根拠: 電位の定義そのもの。電場に逆らって単位電荷を運ぶのに必要な仕事として電位差が定義されます。
  • エネルギー保存則 \(P_{\text{外力}} = P_{\text{ジュール熱}}\):
    • 選定理由: 問(5)のように、力学的な仕事率と電気的な消費電力の関係を問われた場合に選択する。
    • 適用根拠: エネルギーは勝手に生まれたり消えたりしない、という物理学の大原則。外部から供給されたエネルギーは、必ず何かの形で消費・変換される。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 積分計算の基本:
    • 特に注意すべき点: \(E=\omega Br\) のような一次関数を積分すると、\(\frac{1}{2}\omega Br^2\) という二次関数になる、という基本的な積分ルールを確実に実行する。グラフの面積(三角形)で計算する方が直感的でミスが少ない場合も多い。
    • 日頃の練習: 様々な関数について、グラフを描いてその面積を求める練習をすることで、積分計算と幾何学的なイメージを結びつける。
  • 文字の多さへの対応:
    • 特に注意すべき点: \(a, \omega, B, R\) と定数が多いが、これらを一つの塊として扱ったり、計算の最後まで文字のまま進めたりすることで、途中の数値計算でのミスを防ぐ。
    • 日頃の練習: 複雑な文字式を含む問題を複数解き、式変形の正確さとスピードを養う。
  • 仕事率と仕事の区別:
    • 特に注意すべき点: Pは仕事率[W=J/s]、Wは仕事[J]であり、両者は \(W = P \times t\) の関係にある。問題で何が問われているかを正確に把握する。
    • 日頃の練習: 問題文を読む際に、単位に注目する癖をつける。「仕事率」なら[W]、「仕事」なら[J]を求めるのだと意識する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 次元(単位)のチェック:
    • 吟味の視点: 例えば、(4)で求めた電位差Vの単位が本当に[V]になるかを確認する。
    • 物理的解釈: \([\omega][B][a]^2 \rightarrow [\text{s}^{-1}][\text{T}][\text{m}]^2 = [\text{s}^{-1}][\text{N/Am}][\text{m}]^2 = [\text{s}^{-1}][\text{N}\cdot\text{m}/\text{A}] = [\text{J/s}/\text{A}] = [\text{W/A}] = [\text{V}]\) となり、正しさが確認できる。
  • 複数のアプローチでの一致確認:
    • 吟味の視点: (4)で、「電場の積分」と「平均速度を用いた\(vBl\)」という全く異なる考え方から同じ答えが導出された。
    • 物理的解釈: これは、解の正しさを強く裏付けるものです。異なる物理モデルが同じ結果を予測することは、その物理モデルの妥当性を示唆しています。
  • Qの物理的解釈:
    • 吟味の視点: 外力Fが \(1/r\) に比例するという結果について考える。
    • 物理的解釈: 「てこの原理」と同様に、支点から遠い場所(rが大きい)で力を加えれば、小さな力で同じトルクを生み出せる、という直感と一致していることを確認する。仕事率がrによらないことも、エネルギー保存則から当然の結果であると理解できる。
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