問題40 (名古屋大+静岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な磁場の中を扇形のコイルが回転することで生じる電磁誘導を扱います。コイルが回転することで、磁場を貫く面積が時間的に変化し、それによって誘導起電力と誘導電流が発生します。さらに、その電流が磁場から受ける力(トルク)と、回転を維持するための外力やエネルギーの関係まで問われる、電磁誘導の総合的な理解を試す問題です。
- 扇形コイルOPQ: 半径l、中心角 \(\pi/2\)(4分の1円)。
- 運動: 原点Oを中心に反時計回りに一定の角速度ωで回転。
- 磁場: x≧0の領域のみに、磁束密度B(紙面の表から裏向き、\(\otimes\))。
- 初期条件: t=0で、辺OPが-y軸と一致した状態から回転開始(模範解答のグラフから判断)。
- 電気的特性: コイル全体の抵抗R、自己誘導は無視。
- (1) コイルを貫く磁束Φの時間変化のグラフ。
- (2) コイルを流れる電流Iの時間変化のグラフ(O→Pの向きを正とする)。
- (3) 一回転する間に発生するジュール熱。
- (4) 回転を維持するための外力fの時間変化のグラフと、外力がする仕事W。
- (コラムQ): 外力を加える位置を変えた場合の外力と仕事。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く鍵は、電磁誘導に関する2つの重要な法則です。
- ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -N\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)): コイルという「面」を貫く磁束Φが時間変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力が生じるというマクロな視点です。この問題では、回転によって磁場内の面積が変化するため、磁束が変化します。
- ローレンツ力と誘導起電力 (\(V=vBl\)): 導体辺が磁場を横切って運動するとき、その辺自体が電池になるというミクロな視点です。回転運動では、辺の各点の速度が異なるため、少し工夫が必要になります。
この問題では、(1)で磁束変化を考え、(2)でその結果から電流を求めるという、ファラデーの法則を主軸とした流れになっています。等速円運動を維持するための力のモーメント(トルク)のつり合いや、エネルギー保存則も重要な役割を果たします。
問 (1)
思考の道筋とポイント
コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度Bと、コイルが磁場内にある面積Sの積、\(\Phi = BS\) で計算できます。コイルが角速度ωで回転するのに伴い、磁場(x≧0の領域)に入っている部分の面積Sが時間とともにどう変化するかを、1周期(\(T=2\pi/\omega\))にわたって4つの期間に分けて追いかけます。
具体的な解説と立式
時刻tのとき、コイルは角度 \(\theta = \omega t\) だけ回転しています。
- 期間I (\(0 \le t \le \frac{\pi}{2\omega}\)): コイルが磁場に進入していく期間。
磁場内にある部分の面積Sは、中心角が \(\theta = \omega t\) の扇形の面積です。
$$S = (\text{円の面積}) \times \frac{\text{中心角}}{2\pi} = \pi l^2 \times \frac{\omega t}{2\pi} = \frac{1}{2}l^2\omega t$$
したがって、磁束\(\Phi\)は、tに比例して直線的に増加します。
$$\Phi(t) = BS = \frac{1}{2}Bl^2\omega t \quad \cdots ①$$ - 期間II (\(\frac{\pi}{2\omega} \le t \le \frac{\pi}{\omega}\)): コイル全体が完全に磁場内にある期間。
磁場内にある面積は、コイル全体の面積(4分の1円の面積 \(\frac{1}{4}\pi l^2\))で一定です。
$$\Phi(t) = \Phi_{max} = B \cdot \frac{1}{4}\pi l^2 \quad (\text{一定})$$ - 期間III (\(\frac{\pi}{\omega} \le t \le \frac{3\pi}{2\omega}\)): コイルが磁場から退出していく期間。
磁束は、期間Iと対称的に直線的に減少していきます。 - 期間IV (\(\frac{3\pi}{2\omega} \le t \le \frac{2\pi}{\omega}\)): コイルが完全に磁場外にある期間。
磁束はゼロです。
$$\Phi(t) = 0$$
使用した物理公式
- 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
- 扇形の面積の公式: \(S = \frac{1}{2}r^2\theta\)
- 等速円運動の関係式: \(\theta = \omega t\)
期間Iにおいて、\(t=\frac{\pi}{2\omega}\) のときの最大値を確認します。
$$\Phi_{max} = \Phi\left(\frac{\pi}{2\omega}\right) = \frac{1}{2}Bl^2\omega \left(\frac{\pi}{2\omega}\right) = \frac{1}{4}\pi Bl^2$$
これは期間IIの値と一致しており、グラフが連続的につながることがわかります。
これらの結果をグラフにすると、台形のような形になります。原点から直線的に増加し、一定値を保ち、その後直線的に減少して0に戻り、しばらく0が続く、という形になります。(模範解答のグラフを参照し、縦軸の最大値などを明記して描く)
問 (2)
思考の道筋とポイント
誘導電流Iは、誘導起電力Vを抵抗Rで割ることで求まります(\(I=V/R\))。誘導起電力Vは、ファラデーの法則 \(V = \left| \frac{d\Phi}{d t} \right|\) から計算できます。これは、(1)で考えた\(\Phi-t\)グラフの「傾きの大きさ」に相当します。電流の向き(符号)は、磁束の変化を妨げる向き、というレンツの法則で決定します。
具体的な解説と立式
\(\Phi-t\)グラフの傾きから、各期間の誘導起電力Vと電流Iを求めます。
- 期間I (\(0 < t < \frac{\pi}{2\omega}\)):
\(\Phi(t) = \frac{1}{2}Bl^2\omega t\) なので、傾きは一定です。
$$V = \left|\frac{d\Phi}{dt}\right| = \frac{1}{2}Bl^2\omega$$
向き: 裏向き(\(\otimes\))の磁束が増加しているので、レンツの法則より、それを打ち消す表向き(\(\odot\))の磁場を作る向き、すなわち反時計回りに電流が流れます。これは問題の定義(O→Pが正)ではP→Oの向きなので、電流は負の値をとります。
$$I = -\frac{V}{R} = -\frac{Bl^2\omega}{2R}$$ - 期間II (\(\frac{\pi}{2\omega} < t < \frac{\pi}{\omega}\)):
\(\Phi\)が一定なので傾きはゼロ。誘導起電力、誘導電流ともにゼロです。 \(I=0\) - 期間III (\(\frac{\pi}{\omega} < t < \frac{3\pi}{2\omega}\)):
傾きの大きさは期間Iと同じで、\(V\)の大きさも同じです。
向き: 裏向きの磁束が減少しているので、レンツの法則より、それを補う裏向き(\(\otimes\))の磁場を作る向き、すなわち時計回りに電流が流れます。これはO→Pの向きなので、電流は正の値をとります。
$$I = +\frac{V}{R} = +\frac{Bl^2\omega}{2R}$$ - 期間IV (\(\frac{3\pi}{2\omega} < t < \frac{2\pi}{\omega}\)): \(\Phi\)が一定(ゼロ)なので、電流もゼロです。 \(I=0\)
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left|\frac{d\Phi}{dt}\right|\)
- レンツの法則
- オームの法則: \(I = V/R\)
別解: 導体棒の起電力から求める
辺OPに着目します。OP上の中心から距離r’の点は、速さ \(v’ = r’\omega\) で動いています。この点での微小な起電力は \(dV = (v’)B(dr’)\)。これを辺全体で積分すると、
$$V = \int_0^l (r’\omega)B dr’ = \omega B \left[ \frac{1}{2}r’^2 \right]_0^l = \frac{1}{2}Bl^2\omega$$
これは、棒の平均の速さ \(\bar{v} = \frac{0+l\omega}{2}\) を使って \(V = \bar{v}Bl\) と計算するのと同じ結果です。この起電力が期間IとIIIで生じ、向きが逆転します。
これらの結果をグラフにすると、負の値で一定、ゼロ、正の値で一定、ゼロ、を繰り返す方形波(矩形波)のグラフになります。(模範解答のグラフを参照)
問 (3)
思考の道筋とポイント
ジュール熱は、電流が流れている間に抵抗で消費されるエネルギーです。電力(単位時間あたりの熱量)は \(P = RI^2\) で計算できます。電流が流れるのは期間Iと期間IIIだけであり、それぞれの時間は \(\frac{\pi}{2\omega}\) です。
具体的な解説と立式
1. 電力Pの計算:
電流が流れる期間(IとIII)では、電流の大きさは \(|I| = \frac{Bl^2\omega}{2R}\) で一定です。
消費電力Pは、
$$P = RI^2 = R \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right)^2 \quad \cdots ①$$
2. ジュール熱Qの計算:
電流が流れる時間の合計は、\(\Delta t_{total} = (\text{期間Iの長さ}) + (\text{期間IIIの長さ}) = \frac{\pi}{2\omega} + \frac{\pi}{2\omega} = \frac{\pi}{\omega}\)。
発生するジュール熱の総量Qは、電力Pにこの時間を掛けることで求まります。
$$Q = P \times \Delta t_{total} \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 消費電力(ジュール熱の仕事率): \(P = RI^2\)
- エネルギー(熱量): \(E = P \times t\)
まず式①で電力を計算します。
$$P = R \frac{B^2l^4\omega^2}{4R^2} = \frac{B^2l^4\omega^2}{4R}$$
次に式②でジュール熱の総量を計算します。
$$Q = \left( \frac{B^2l^4\omega^2}{4R} \right) \times \frac{\pi}{\omega} = \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}$$
一回転する間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\) [J] です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
コイルが等速回転を続けるためには、外部から力を加えて、電磁力によるブレーキトルク(力のモーメント)とつり合わせる必要があります。
- 電流が流れる辺OP(またはOQ)にはたらく電磁力の大きさを計算します。
- この電磁力が生み出す、回転を妨げる向きのトルクを計算します。
- 外力fが加えるトルクと、電磁力によるトルクがつり合う、という式を立ててfを求めます。
- 外力のする仕事Wは、(外力のトルク)×(回転角) または (外力f)×(移動距離) で計算します。
具体的な解説と立式
1. 電磁力Fとトルク\(\tau_B\):
電流Iが流れる辺OP(長さl)が受ける電磁力Fの大きさは \(F = IBl\)。この力は、一様な棒に働く重力と同様に、辺OPの中点(Oからl/2の距離)に作用すると考えられます。電磁力が作るトルク \(\tau_B\) は、
$$\tau_B = F \times \frac{l}{2} = (IBl) \frac{l}{2} = \frac{1}{2}IBl^2$$
2. 外力fとトルク\(\tau_{ext}\):
外力fが点P(Oからlの距離)で接線方向に加えられるので、そのトルク \(\tau_{ext}\) は、
$$\tau_{ext} = f \times l$$
3. トルクのつり合い:
等速回転なのでトルクはつり合っています: \(\tau_{ext} = \tau_B\)。
$$fl = \frac{1}{2}IBl^2 \quad \rightarrow \quad f = \frac{1}{2}IBl \quad \cdots ①$$
4. 仕事W:
外力fが必要なのは、電流が流れる期間IとIIIのみです。それぞれの期間で回転する角度は \(\pi/2\) なので、合計の回転角は\(\pi\)です。
$$W = (\text{外力のトルク}) \times (\text{回転角}) = \tau_{ext} \times \pi = (fl)\pi \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 電磁力: \(F = IBl\)
- 力のモーメント(トルク): \(\tau = Fr\)
- トルクのつり合い
- 仕事: \(W = \tau\theta\)
- 外力fの大きさ:
式①に \(|I| = \frac{Bl^2\omega}{2R}\) を代入します。
$$f = \frac{1}{2} \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right) Bl = \frac{B^2l^3\omega}{4R}$$
外力fは常に回転を助ける向き(反時計回り)なので正です。f-tグラフは、期間IとIIIでこの一定値をとり、他では0となります。 - 仕事Wの計算:
式②にfの値を代入します。
$$W = \left( \frac{B^2l^3\omega}{4R} \cdot l \right) \pi = \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}$$
外力fの時間変化は、正の値で一定、ゼロ、正の値で一定、ゼロを繰り返す方形波のグラフになります。一回転の間に外力がする仕事Wは \(\displaystyle\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\) [J] です。この値は、(3)で求めたジュール熱と完全に一致します。これは「外力がした仕事が、すべてジュール熱に変換された」というエネルギー保存則が成り立っていることを示しています。
【コラム】Q: 外力を加える位置をOP上でOからrだけ離れた点Aとした場合の外力fᵣと仕事Wᵣを求めよ。
思考の道筋とポイント
外力を加える位置が変わっても、一定の角速度で回転を維持するために必要な「トルク」は変わりません。これは電磁力によるブレーキトルクが同じだからです。しかし、力を加える腕の長さが変わるので、必要な「力」の大きさは変わります。
具体的な解説と立式
1. トルクのつり合い:
電磁力によるブレーキトルク \(\tau_B = \frac{1}{2}IBl^2\) は変化しません。
新しい外力\(f_r\)を点A(Oからrの距離)に加えるので、外力のトルクは \(\tau_{ext}’ = f_r \times r\) となります。
つり合いの式 \(\tau_{ext}’ = \tau_B\) より、
$$f_r \cdot r = \frac{1}{2}IBl^2 \quad \cdots ①$$
2. 仕事\(W_r\)の計算:
仕事は (力)×(移動距離) で計算します。外力\(f_r\)が働く間、点Aは半径rの円周上を動きます。仕事をする合計の道のりは、半径rの円周の半分(\(\frac{1}{4}\)回転×2回)なので、\(\pi r\) です。
$$W_r = f_r \times (\pi r) \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 力のモーメント(トルク): \(\tau = Fr\)
- トルクのつり合い
- 仕事: \(W = Fs\)
- 外力\(f_r\)の計算:
式①から \(f_r\) を求め、電流Iの値を代入します。
$$f_r = \frac{IBl^2}{2r} = \left( \frac{Bl^2\omega}{2R} \right) \frac{Bl^2}{2r} = \frac{B^2l^4\omega}{4Rr}$$ - 仕事\(W_r\)の計算:
式②に上で求めた\(f_r\)を代入します。
$$W_r = \left( \frac{B^2l^4\omega}{4Rr} \right) \times (\pi r) = \frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}$$
外力の大きさ \(f_r\) は、加える点までの距離rに反比例して変化しますが、外力がする仕事 \(W_r\) はrによらず、(4)の仕事Wと全く同じ値になりました。これは、エネルギー保存則(外力がした仕事はすべてジュール熱に等しい)から考えれば当然の結果です。力が小さくて済む場所(rが大きい)ではたくさん動かなければならず、大きな力が必要な場所(rが小さい)では少し動くだけで済むため、結果的に仕事の量は同じになる、という美しい関係が成り立っています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ファラデーの電磁誘導の法則: この問題全体の根幹をなす法則です。特に、コイルを貫く磁束\(\Phi\)が時間変化し、その変化率に比例した起電力Vが生じる(\(V = |d\Phi/dt|\))こと、そしてその向きは変化を妨げる向きである(レンツの法則)ことが核心です。
- 回転運動における誘導起電力: 直線運動の\(V=vBl\)と異なり、回転運動では辺の各点の速度が異なります。そのため、積分するか、または線形に速度が変化することを利用して「平均の速さ」で代表させて起電力を求める、という応用的な考え方が必要になります。
- トルク(力のモーメント)のつり合い: 「等速回転」という条件は、直線運動の「等速」とは異なり、「力のつり合い」ではなく「トルクのつり合い」を意味します。電磁力が作る回転を妨げるトルクと、外力が加える回転を促すトルクがつり合っている、という式を立てることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 発電機やモーターの動作解析: この問題は、コイルを回転させて電気エネルギーを取り出す「発電機」の最も単純なモデルです。発生する電力や、回転に必要なトルクを計算する問題全般に応用できます。
- 時間変化する物理量のグラフ化問題: 磁束\(\Phi\)、起電力V、電流I、外力fといった様々な物理量が時間とともにどう変化するかをグラフにする問題は頻出です。ある量のグラフ(例:\(\Phi-t\))から、その時間微分(傾き)である別の量のグラフ(例:\(V-t\))を導き出す、という関係性を理解することが鍵となります。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 運動の種類を特定する: まず、運動が「直線運動」か「回転運動」かを見極めます。回転運動なら、角速度ω、トルク、回転角といった特有の物理量に着目します。
- 磁束\(\Phi\)の時間変化を追う: 電磁誘導の問題では、まず「コイルを貫く磁束\(\Phi\)が、時間tの関数としてどう書けるか」を考えるのが王道です。これが分かれば、微分することで起電力Vが、さらに抵抗で割ることで電流Iが、芋づる式に求まります。
- 「等速回転」のキーワード: これを見たら「トルクのつり合い」を考えます。直線運動の「等速」が「力のつり合い」に対応するのと同様です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 回転運動での誘導起電力の計算ミス:
- 現象: 回転する辺の起電力を、単純に先端の速さ\(v=l\omega\)を使って \(V=(l\omega)Bl\) と計算してしまう。
- 対策: 回転運動では速度が中心からの距離に比例することを思い出し、平均の速さ\(\bar{v}=(0+l\omega)/2\)を用いるか、積分計算を行う必要があると理解する。
- 力とトルクの混同:
- 現象: 問(4)で、力のつり合い(\(f=F\))を考えてしまう。
- 対策: 回転運動では、力の作用点(腕の長さ)が重要であり、力の大きさそのものではなく「力のモーメント(トルク)」がつり合う、という原理を明確に区別して適用する。
- グラフの傾きと値の関係:
- 現象: \(\Phi-t\)グラフから\(V-t\)グラフを描く際に、傾きが正なのにVを正の値にしてしまうなど、符号や対応関係を間違える。
- 対策: \(V = -d\Phi/dt\) という関係を思い出す。「マイナス」はレンツの法則に対応し、\(d\Phi/dt\)はグラフの傾き。傾きが正ならVは負(またはその逆の向き)、傾きがゼロならVもゼロ、という関係を機械的に適用する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- グラフの連携を意識する: \(\Phi\) →(傾き)→ \(V\) →(\(\div R\))→ \(I\) →(トルク計算)→ \(\tau\) →(つり合い)→ \(f\) というように、各物理量が数珠つなぎに関係していることを意識する。特に、あるグラフの「傾き」が次の物理量になる、という関係は微分積分の本質であり、これを視覚的に捉えることが重要です。
- トルクを「てこ」でイメージする: 問(4)やQでは、原点Oを支点とした「てこ」をイメージします。電磁力Fが腕の長さl/2の位置を下向きに押し、外力fが腕の長さl(またはr)の位置を上向きに押して、てこが釣り合っている(等速回転)と考えると、トルクのつり合いが直感的に理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\Phi = BS\):
- 選定理由: 磁束そのものを計算する、基本定義式。面積Sが時間変化するこの問題では、まず\(\Phi(t)\)を求めることが全ての出発点となるため。
- 適用根拠: 磁束は、磁場の強さとそれを貫く面積に比例するという定義に基づきます。
- \(V = |d\Phi/dt|\):
- 選定理由: 磁束の時間変化から、誘導起電力の大きさを求めるための、ファラデーの法則そのもの。グラフの傾きからVを求める際に使用。
- 適用根拠: 電磁誘導の最も根本的な法則。磁場の時間変化が電場を生み出すことを示しています。
- \(\tau = Fr\):
- 選定理由: 回転運動のつり合いを考えるため。力だけでなく、力が働く位置(腕の長さ)を考慮する必要があるから。
- 適用根拠: 力のモーメント(トルク)の定義。
- \(W = \tau\theta\):
- 選定理由: 回転運動において、トルクがした仕事を計算するため。
- 適用根拠: 仕事の定義(力×距離)を、回転運動の物理量(トルク×回転角)で書き直したもの。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 運動の分析: コイルの回転に伴い、磁場内の面積\(S(t)\)がどう変化するかを4つの期間に分けて分析する。
- 磁束の計算: \(S(t)\)から、磁束\(\Phi(t)=BS(t)\)を計算し、\(\Phi-t\)グラフを作成する。
- 起電力・電流の計算: \(\Phi-t\)グラフの傾きから起電力\(V(t)\)を求め、オームの法則で電流\(I(t)=V(t)/R\)を計算し、グラフ化する。レンツの法則で向き(符号)を決定する。
- ジュール熱の計算: 電流が流れる期間の電力\(P=RI^2\)と時間から、熱量\(Q=P\Delta t\)を計算する。
- トルクと外力の計算: ①電磁力\(F=IBl\)を計算。②電磁力のトルク\(\tau_B\)を計算。③「等速回転」なのでトルクのつり合い \(\tau_{ext}=\tau_B\) を適用し、外力fを求める。
- 仕事の計算: 外力がした仕事を \(W=\tau_{ext}\theta\) または \(W=f \cdot s\) で計算し、ジュール熱と等しくなることを確認する(エネルギー保存)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定数と変数の区別: \(B, l, \omega, R\)は定数で、\(t\)が変数です。微分(\(d/dt\))を行う際は、何が定数で何が変数かを明確に意識する。
- 単位系の確認: 角度がラジアン(\(\theta=\omega t\))で計算されていることを確認する。度数法と混同しないように注意。
- グラフの軸と値: グラフを描く際は、横軸が時間tか角度θかを確認する。縦軸の最大値や、変化が起こる時刻(例:\(\pi/2\omega\))などを正確に記入する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- エネルギー保存則による検算: 問(3)で計算したジュール熱の総量と、問(4)で計算した外力がした仕事が、完全に一致することを確認する。これは非常に強力な検算方法であり、計算全体の信頼性を保証します。
- 次元の確認(ディメンショナル・アナリシス): 例えば、(3)で求めたジュール熱の答え \(\frac{\pi B^2l^4\omega}{4R}\) の単位が、本当にエネルギーの単位[J]になっているかを確認する。(\( [T]^2[m]^4[s^{-1}]/[\Omega] = [N/Am]^2[m]^4[s^{-1}]/[V/A] = \dots \))。複雑な式ほど、こうしたチェックが有効です。
- Qの考察: 外力を加える点rを変えても、最終的な仕事Wが変わらなかった。これはなぜか?「エネルギー保存則によれば、発生する熱は同じはずだから、仕事も同じになるはずだ」と物理的な意味を考えることで、計算結果への確信が深まります。
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