「名問の森」徹底解説(37〜39問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題37 (名城大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中を運動する導体(回路)に生じる「電磁誘導」と、回路に接続された「コンデンサー」の振る舞いを組み合わせた、複合的な問題です。導体棒が磁場を横切ることで「電池」となり(誘導起電力)、回路に電流を流します。そして、電流が一定になった定常状態のときにコンデンサーがどのように充電されるか、また、回路全体を等速で動かし続けるために必要な外力はいくらか、といった点が問われます。時間の経過とともに、磁場の中を動く辺が入れ替わるため、2つの期間に分けて考える必要があります。

与えられた条件
  • 回路: 一辺の長さ\(l\)、各辺の抵抗Rの長方形回路(2つの正方形で構成)。
  • コンデンサー: 容量C、af間に接続。
  • 磁場: 磁束密度B、紙面の裏から表向き、幅lの領域に存在。
  • 運動: 回路全体が右向きに一定の速さvで移動。
  • 時刻: t=0で辺cdが磁場に進入開始。
問われていること
  • 期間1 (\(0<t<l/v\)): 辺cdのみが磁場内にある定常状態
    • (1) 辺beを流れる電流の向きと強さ。
    • (2) コンデンサーのa側極板の電荷。
    • (3) 回路全体の消費電力と、加えている外力の大きさ・向き。
  • 期間2 (\(l/v<t<2l/v\)): 辺beのみが磁場内にある定常状態
    • (4) コンデンサーの静電エネルギーと、加えている外力の大きさ・向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くための鍵は、磁場中を運動する導体辺を「誘導起電力 \(V=vBl\) を生み出す電池」と見なすことです。そして、もう一つの重要なポイントは、コンデンサーの性質です。直流回路において、電流が一定になった定常状態では、コンデンサーの充電は完了しており、コンデンサーを含む部分には電流が流れない(断線しているのと同じ)と考えることができます。

この2つの基本原則に沿って、各期間で「どこが電池になっているか?」「電流はどの経路を流れるか?」を特定し、オームの法則や力のつり合い、エネルギー保存則といった物理法則を適用していきます。

問 (1)

思考の道筋とポイント
この期間では、回路の右辺cdのみが磁場の中を運動しています。

  1. まず、磁場中を動く辺cdに生じる誘導起電力の大きさと向き(どちらが正極か)を決定します。これが回路全体の「電源」となります。
  2. 次に、回路が「定常状態」にある、という条件から、電流が流れる経路を特定します。コンデンサー部分は電流が流れないため、電流は右側のループのみを流れます。
  3. 最後に、特定したループに対してオームの法則を適用し、電流の大きさを計算します。

具体的な解説と立式
1. 誘導起電力の発生:
辺cdが速さvで磁場Bを横切るため、誘導起電力Vが生じます。その大きさは、
$$V = vBl \quad \cdots ①$$
向きは、フレミングの右手の法則(運動v:右、磁場B:表向き)より、電流はd→cの向きに流そうとされます。つまり、c側が高電位(正極)、d側が低電位(負極)の電池と見なせます。
2. 電流の経路と大きさ:
定常状態ではコンデンサーCは充電を完了しており、電流を流しません。したがって、電流Iはコンデンサーを含まない右側のループ `b-c-d-e-b` のみを流れます。
電流は電源(辺cd)の正極cから流れ出し、b→eを通って負極dに戻ります。したがって、辺beを流れる電流の向きは eからbの向き です。
このループは、辺bc, cd, de, ebの4つの抵抗Rが直列に接続された回路と見なせるので、全体の抵抗は \(4R\) です。オームの法則を適用すると、
$$V = (4R)I \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • 定常状態のコンデンサー(電流0)
  • オームの法則: \(V = IR\)
計算過程

式②に式①を代入して、電流Iを求めます。
$$vBl = 4RI$$
Iについて解くと、
$$I = \frac{vBl}{4R}$$

計算方法の平易な説明

まず、動いている辺cdが \(V=vBl\) の電圧を持つ電池に変身します。定常状態ではコンデンサーに電流は流れないので、左の正方形は無視できます。すると、問題は「電圧Vの電池に、4つの抵抗Rが直列につながっている回路」と同じになります。全体の抵抗は4Rなので、オームの法則 \(I=V/(\text{全抵抗})\) を使って電流を計算します。

結論と吟味

辺beを流れる電流の向きは eからb で、その強さは \(\displaystyle\frac{vBl}{4R}\) です。

解答 (1) 向き: eからb、強さ: \(\displaystyle\frac{vBl}{4R}\)

問 (2)

思考の道筋とポイント
コンデンサーに蓄えられる電荷Qは、公式 \(Q=CV_c\) で計算できます。ここで \(V_c\) はコンデンサーにかかる電圧です。この電圧は、コンデンサーが接続されているa点とf点の間の電位差 \(V_{af}\) に等しくなります。左側のループには電流が流れていないので、途中の抵抗による電圧降下はなく、\(V_{af}\) は向かい合う辺be間の電位差 \(V_{be}\) と等しくなります。したがって、\(V_{be}\) を計算することが目標となります。

具体的な解説と立式
1. コンデンサーの電圧:
定常状態では、左側のループ `a-b-e-f-a` には電流が流れません。したがって、抵抗abとfeでの電圧降下はゼロです。このことから、コンデンサーの電圧 \(V_c = V_{af}\) は、辺be間の電位差 \(V_{be}\) に等しくなります。
$$V_c = V_{be} \quad \cdots ①$$
2. 辺be間の電位差:
辺beには抵抗Rがあり、(1)で求めた電流Iがe→bの向きに流れています。したがって、オームの法則より、辺be間の電位差は、
$$V_{be} = R I \quad \cdots ②$$
3. 電荷の計算:
コンデンサーに蓄えられる電荷の大きさQは、
$$Q = C V_c \quad \cdots ③$$
4. 電荷の符号:
電流がe→bに流れるため、eの方がbよりも電位が高くなります。したがって、\(V_{fe} = V_{be}\) であり、f点の電位はa点よりも高くなります。コンデンサーでは、電位の高い方の極板に正の電荷が、低い方の極板に負の電荷が蓄えられます。よって、a側の極板には負の電荷が蓄えられます。

計算過程

まず、(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{vBl}{4R}\) を式②に代入して \(V_{be}\) を求めます。
$$V_{be} = R \left( \frac{vBl}{4R} \right) = \frac{vBl}{4}$$
式①より \(V_c = V_{be}\) なので、これを式③に代入して電荷の大きさQを求めます。
$$Q = C \left( \frac{vBl}{4} \right) = \frac{1}{4}CvBl$$
a側の極板の電荷は負なので、求める答えは、
$$Q_a = -\frac{1}{4}CvBl$$

計算方法の平易な説明

コンデンサーの電圧は、その向かいにある辺beにかかる電圧と全く同じになります。辺beには抵抗Rがあり、ここに(1)で求めた電流Iが流れているので、その電圧はオームの法則で \(V_{be} = RI\) と計算できます。この電圧を使って、公式 \(Q=CV\) からコンデンサーにたまる電気の量を求めます。最後に、電流の向きからa点とf点のどちらの電圧が高いかを判断し、a側はマイナスの電気を帯びていると結論づけます。

結論と吟味

コンデンサーのa側の極板の電荷は \(-\displaystyle\frac{1}{4}CvBl\) です。

解答 (2) \(-\displaystyle\frac{1}{4}CvBl\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
消費電力と外力は、どちらも(1)で求めた電流Iが基本になります。

  • 消費電力P: 電気エネルギーが熱に変わる量です。電流が流れているのは右側のループにある4つの抵抗だけなので、これらの抵抗でジュール熱として消費される電力が、回路全体での消費電力となります。
  • 外力F: 回路が等速で動いているため、力はつり合っています。加えている外力Fは、電流が磁場から受ける電磁力(ローレンツ力)\(F_B\) と大きさが同じで、向きが逆になるはずです。

具体的な解説と立式
1. 消費電力P:
電流Iが流れる4つの抵抗Rでの消費電力の合計を求めます。全体の抵抗は \(4R\) なので、公式 \(P = (\text{全抵抗}) \times I^2\) より、
$$P = (4R)I^2 \quad \cdots ①$$
2. 電磁力\(F_B\)と外力F:
磁場中で電流が流れているのは辺cdだけです。辺cdには、(1)の起電力の向きから判断してd→cの向きに電流Iが流れています。磁場Bは表向きです。フレミングの左手の法則(電流:上、磁場:表)を適用すると、電磁力\(F_B\)は左向きに働きます。
等速運動を続けるためには、この左向きの電磁力\(F_B\)とつり合う、右向きの外力Fを加える必要があります。その大きさは、
$$F = F_B = IBl \quad \cdots ②$$

計算過程

(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{vBl}{4R}\) を使います。

  • 消費電力の計算: 式①にIを代入します。
    $$P = 4R \left( \frac{vBl}{4R} \right)^2 = 4R \cdot \frac{v^2 B^2 l^2}{16R^2} = \frac{v^2 B^2 l^2}{4R}$$
  • 外力の計算: 式②にIを代入します。
    $$F = \left( \frac{vBl}{4R} \right) Bl = \frac{vB^2l^2}{4R}$$

別解: エネルギー保存則による外力の計算
思考の道筋とポイント
等速運動なので、運動エネルギーは変化しません。このとき、エネルギー保存の観点から、「外部から加えた仕事(率)」は、すべて「回路で消費される電力(ジュール熱)」に変換されているはずです。この関係から外力を求めることもできます。
具体的な解説と立式

  • 外力が単位時間あたりにする仕事(仕事率): \(P_{F} = Fv\)
  • 単位時間あたりに消費される電力: \(P = \displaystyle\frac{v^2 B^2 l^2}{4R}\)

エネルギー保存則より \(P_{F} = P\) なので、
$$Fv = \frac{v^2 B^2 l^2}{4R}$$
両辺をvで割ることで、Fが求まります。
$$F = \frac{vB^2l^2}{4R}$$
これはメインの解法の結果と一致します。

結論と吟味

消費電力は \(\displaystyle\frac{v^2 B^2 l^2}{4R}\)、外力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{4R}\) で、向きは右向きです。

解答 (3) 消費電力: \(\displaystyle\frac{v^2 B^2 l^2}{4R}\)、外力: 大きさ \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{4R}\) で右向き

問 (4)

思考の道筋とポイント
状況は期間1と似ていますが、「電池」となる辺がcdからbeに変わります。

  1. 電源の特定: 今度は辺beが磁場中を動くので、ここに誘導起電力Vが生じます。その向きと大きさを決定します。
  2. コンデンサーのエネルギー計算: エネルギーの公式 \(U = \frac{1}{2}CV_c^2\) を使うために、まずコンデンサーの電圧\(V_c\)(=辺be間の電位差 \(V_{be}\))を求めます。今回は、辺be自身が電池でありかつ抵抗でもあるので、その「端子電圧」を考える必要があります。
  3. 外力の計算: 磁場中で電流が流れる辺beにはたらく電磁力とつりあう力を考えます。

具体的な解説と立式
1. 誘導起電力:
辺beが速さvで右に動きます。フレミングの右手の法則(運動v:右、磁場B:表)より、電流はb→eの向きに流そうとされます。つまり、e側が高電位(正極)、b側が低電位(負極)の電池になります。大きさは変わらず、
$$V = vBl \quad \cdots ①$$
2. 電流:
電源は辺be、電流が流れるループは `b-c-d-e-b`(抵抗4R)で、期間1と全く同じ構成です。したがって、電流の大きさIも期間1と同じになります。
$$I = \frac{V}{4R} = \frac{vBl}{4R} \quad \cdots ②$$
電流の向きは、電源eから出て、d→c→bへと流れます。
3. コンデンサーの静電エネルギー:
エネルギーは \(U = \frac{1}{2}C(V_c’)^2\) で計算できます。コンデンサーの電圧 \(V_c’\) は、辺be間の電位差 \(V_{be}\) に等しくなります。
辺beは、起電力Vと内部抵抗Rを持つ電池と見なせます。この電池から電流Iが流れ出ているので、その端子電圧 \(V_{be}\) は、起電力から内部抵抗による電圧降下を引いたものになります。
$$V_c’ = V_{be} = (\text{起電力}) – (\text{内部抵抗での電圧降下}) = V – IR \quad \cdots ③$$
4. 外力:
磁場中で電流が流れるのは辺beです。電流はb→eの向き(下向き)に流れています。フレミングの左手の法則(電流:下、磁場:表)より、電磁力\(F_B\)は左向きに働きます。
等速運動なので、外力Fはこれとつりあう右向きで、大きさは、
$$F = F_B = IBl \quad \cdots ④$$

計算過程
  • 静電エネルギーの計算:
    まず、式③に①と②を代入して、コンデンサーの電圧 \(V_c’\) を求めます。
    $$V_c’ = vBl – \left(\frac{vBl}{4R}\right)R = vBl – \frac{vBl}{4} = \frac{3}{4}vBl$$
    これをエネルギーの公式に代入します。
    $$U = \frac{1}{2}C(V_c’)^2 = \frac{1}{2}C \left( \frac{3}{4}vBl \right)^2 = \frac{1}{2}C \cdot \frac{9}{16}(vBl)^2 = \frac{9}{32}C(vBl)^2$$
  • 外力の計算:
    式④に電流Iの値を代入します。
    $$F = \left(\frac{vBl}{4R}\right)Bl = \frac{vB^2l^2}{4R}$$
結論と吟味

コンデンサーに蓄えられているエネルギーは \(\displaystyle\frac{9}{32}C(vBl)^2\) です。外力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{4R}\) で、向きは右向きです。興味深いことに、回路を動かし続けるために必要な外力の大きさは、期間1と全く同じになりました。これは、回路を流れる電流の大きさが変わらなかったためです。しかし、コンデンサーの電圧とエネルギーは期間1とは異なる値になっています。

解答 (4) エネルギー: \(\displaystyle\frac{9}{32}C(vBl)^2\)、外力: 大きさ \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{4R}\) で右向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力 \(V=vBl\): 磁場を導体が横切るとき、その導体は電池になる、という電磁誘導の現象が全ての起点です。起電力の大きさと向き(極性)を正しく求められることが大前提となります。
  • コンデンサーの定常状態: 直流回路において、十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサーは充電を完了し、その部分には電流が流れなくなる(断線とみなせる)という性質が、回路の電流経路を特定する上で決定的に重要でした。
  • 力のつり合いとエネルギー保存: 等速運動という条件から、「力のつり合い(外力=電磁力)」または「エネルギー保存(外力の仕事率=消費電力)」の関係式を立てることが、未知数を求める鍵となりました。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • RC回路と電磁誘導の組み合わせ: コンデンサーと抵抗を含む回路に誘導起電力が加わる問題全般に応用できます。特に「定常状態」というキーワードに注目することが重要です。
    • エネルギー変換効率: 発電機やモーターのように、力学的な仕事と電気エネルギーが相互に変換される問題で、エネルギーの収支や効率を考える際にも同じ考え方が使えます。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 「動く導体」を探す: 回路図の中に磁場を横切る導体があれば、そこを「電池」マークに置き換えて考えることから始めます。
    2. 「コンデンサー」と「定常状態」のキーワード: これらがあれば、コンデンサーの枝は「断線」として扱い、電流経路を単純化します。
    3. 「等速運動」のキーワード: 「力のつり合い」または「エネルギー保存」のどちらかの式を立てるチャンスだと考えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 誘導起電力の向きのミス:
    • 現象: フレミングの右手の法則を使い慣れていなかったり、左右の手を混同したりして、起電力の極性を逆にしてしまう。
    • 対策: 「導体内の正電荷がローレンツ力 \(q(\vec{v}\times\vec{B})\) でどちらに寄せられるか」という原理に立ち返ると、間違いが減ります。
  • コンデンサーの電圧の計算ミス:
    • 現象: 問(4)のように、起電力を生む導体自身に抵抗がある場合に、コンデンサーの電圧を起電力Vと勘違いしてしまう。
    • 対策: 常に「コンデンサーの電圧=接続された2点間の電位差」と考える。起電力を生む導体の場合は「端子電圧」を求める必要があり、「端子電圧=起電力-内部抵抗での電圧降下」という関係を思い出す。
  • 電磁力の向きのミス:
    • 現象: 電磁力(\(F=IBl\))の向きをフレミングの左手の法則で決めるときに、電流の向きを間違えて判断してしまう。
    • 対策: 回路をしっかり解いて電流の向きを確定させてから、落ち着いて左手の法則を適用する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 導体棒を「電池マーク」に置き換える: 電磁誘導の問題では、起電力が生じている導体棒を、回路図上で電池の記号に書き換えてしまうのが最も有効です。極性(+,-)と起電力の大きさ(\(V=vBl\))を書き込めば、問題はただの直流回路に見えてきて、思考が整理されます。
    • 電流経路を色分けする: 定常状態で電流が流れない部分(コンデンサーの枝)と、流れる部分(右のループ)を、マーカーなどで色分けすると、回路の構造が視覚的に明確になります。
    • 力のベクトル図を描く: 外力と電磁力を考える際には、導体棒に働く力を矢印で図示する(フリーボディダイアグラム)ことで、力のつり合いの関係が一目瞭然になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBl\):
    • 選定理由: 導体が磁場を「横切って」運動し、電圧が発生する、という「電磁誘導」の現象そのものを数式化したものだから。
    • 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則 \(\left(V = -N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right)\) を、導体棒が動くケースに適用した結果。
  • \(Q=CV\):
    • 選定理由: コンデンサーに蓄えられる電荷を問われているから。コンデンサーの基本定義式。
    • 適用根拠: コンデンサーの極板間の電位差と蓄えられる電荷が比例関係にあるという実験事実。
  • \(P = RI^2\) と \(Fv=P\):
    • 選定理由: 消費「電力」や、外力の「仕事率」といった、エネルギーの時間変化率が問われているから。
    • 適用根拠: エネルギー保存則。外部から供給されたエネルギー(仕事)は、形を変えても(熱エネルギーなど)その総量は変わらないという物理学の大原則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況の特定: まず、どの辺が磁場中を動いているかを確認し、「電源」となる辺を特定する。
  2. 起電力の計算: \(V=vBl\) で起電力の大きさを計算し、フレミングの右手の法則で極性を決定する。
  3. 回路の単純化: 「定常状態」と「コンデンサー」のキーワードから、電流が流れない枝を特定し、実際の電流経路を見極める。
  4. 電気量の計算: オームの法則やキルヒホッフの法則を使い、回路を流れる電流Iや、各部の電位差を計算する。コンデンサーの電荷やエネルギーは、電位差が分かってから計算する。
  5. 力学量の計算: 電流Iが分かったら、電磁力 \(F_B=IBl\) を計算する。「等速運動」の条件から、力のつり合い(\(F_{外力}=F_B\))を考え、外力を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 場合分けの意識: この問題のように、時間や場所によって状況が変わる問題では、それぞれの期間で何が起きているかを混同しないように、図や思考を明確に分ける。
  • 文字式の整理: \(B, l, v, R, C\)など多くの文字が出てくるため、式変形の際に混乱しないよう、丁寧に整理する。特に分数の計算は慎重に行う。
  • 単位を意識する: 最終的な答えの単位が、求められている物理量の単位(電荷なら[C]、エネルギーなら[J])と一致するかを最後に確認する。次元のチェックは有効な検算方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 定性的な予測との一致確認:
    • 問(4)で、コンデンサーの電圧が起電力 \(vBl\) よりも小さくなった(\(\frac{3}{4}vBl\))。これは、起電力を生む導体自身が抵抗として働き、電流を流すことで「内部で電圧降下」が起きたため、と物理的に解釈できる。
  • 別解による検算:
    • 問(3)で示したように、「力のつり合い」から求めた外力と、「エネルギー保存」から求めた外力が一致することを確認する作業は、非常に良い検算になる。
  • 極端な条件での検討:
    • もし抵抗Rがゼロだったら、電流Iが無限大に発散してしまう。これは、ブレーキとなる電磁力を発生させるためのジュール熱消費が起こらないため、等速運動が実現できないことを示唆しており、物理的に妥当な発散と言える。

問題38 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、傾いたレール上の導体棒に、重力、摩擦力、そして電磁力が働く、力学と電磁気学の融合問題です。特に、磁場が鉛直上向きに加えられているため、電流が流れることで生じる電磁力の働く向きが、斜面に対して水平方向になることが最大のポイントです。この3次元的な力の関係を、斜面に沿った方向と垂直な方向に正しく分解し、力のつり合いを考えられるかが問われます。

与えられた条件
  • 斜面: 傾角θ
  • レール: 間隔l
  • 導体棒: 長さl、質量M、電気抵抗R
  • 磁場: 磁束密度B、鉛直上向きで一様
  • 重力加速度: g
  • その他: 導体棒以外の電気抵抗は無視。スイッチSで回路を切り替え可能。
問われていること
  • (1) スイッチが開いた状態で、棒が滑り始める傾角がθ₀のときの静止摩擦係数μ₀。
  • (2) 傾角θ₁で、電源をつないで棒を上方へ滑らせ始めるための、電源の極性と電位差V₀。
  • (3) 傾角θ₂で、レールをショートさせて滑り落ち、等速になったときの速さu。(動摩擦係数μ)
  • (コラムQ): (3)の状況におけるエネルギー保存則(単位時間あたり)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を攻略する鍵は、3つの異なる物理分野の法則を正確に連携させることです。

  1. 力学(力のつり合い): 物体が静止している、または等速直線運動をしているとき、物体に働く力のベクトル和はゼロになります。この問題では、重力、垂直抗力、摩擦力、そして電磁力を図示し、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して力のつり合いの式を立てることが基本戦略です。
  2. 電磁力: 電流Iが流れる導体棒は、磁場Bの中から力 \(F=IBl\) を受けます。この力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。この問題では、電流Iと磁場Bが常に直角なので大きさの計算は単純ですが、力の向きが水平方向になる、という点が最大の注意点です。
  3. 電磁誘導: 導体棒が速さvで運動すると、起電力 \(V=vBl\) が生じます。このときのvは磁場Bに対して垂直な速度成分を用いる必要があります。この誘導起電力が回路に電流を流す「電池」の役割を果たします。

これらの要素を、設問の状況に合わせて一つずつ丁寧に適用していきましょう。

問 (1)

思考の道筋とポイント
この設問は、電磁気は関係なく、純粋な力学の「斜面上の物体の滑り出し」の問題です。傾角がθ₀になった瞬間に滑り始めた、ということは、この角度で「斜面下向きに滑らせようとする力(重力の成分)」と「それを妨げる最大の力(最大静止摩擦力)」がちょうどつり合っている、と考えます。

具体的な解説と立式
棒に働く力は、「重力Mg」「斜面からの垂直抗力N」「斜面からの最大静止摩擦力 \(F_{max}\)」の3つです。これらの力を、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して、つり合いの式を立てます。

  1. 斜面に垂直な方向のつり合い:
    垂直抗力Nと、重力の斜面に垂直な成分 \(Mg\cos\theta_0\) がつり合っています。
    $$N = Mg\cos\theta_0 \quad \cdots ①$$
  2. 斜面に平行な方向のつり合い:
    斜面下向きに滑らせようとする重力の成分 \(Mg\sin\theta_0\) と、それを妨げる上向きの最大静止摩擦力 \(F_{max} = \mu_0 N\) がつり合っています。
    $$Mg\sin\theta_0 = \mu_0 N \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 最大静止摩擦力: \(F_{max} = \mu_0 N\)
計算過程

式①で求めたNを式②に代入して、垂直抗力Nを消去します。
$$Mg\sin\theta_0 = \mu_0 (Mg\cos\theta_0)$$
両辺の共通項 \(Mg\) を消去します。
$$\sin\theta_0 = \mu_0 \cos\theta_0$$
\(\mu_0\) について解くと、
$$\mu_0 = \frac{\sin\theta_0}{\cos\theta_0} = \tan\theta_0$$

計算方法の平易な説明

斜面上の物体のつり合いを考える問題の基本通り、力を「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」の2つに分解します。まず、垂直方向の力のつり合いから垂直抗力Nの大きさが決まります。そして、滑り出すギリギリの瞬間では、斜面に沿って滑り落ちようとする力(重力の分力)と、それを邪魔する最大の静止摩擦力が等しくなっている、という式を立てて解くだけです。

結論と吟味

静止摩擦係数は \(\tan\theta_0\) です。これは力学でよく見る基本的な結果であり、摩擦角の定義そのものです。

解答 (1) \(\tan\theta_0\)

問 (2)

思考の道筋とポイント
今度は、外部電源をつないで棒を上方へ動かします。そのためには、斜面を上向きに押し上げる力が必要です。この力は、電流を流すことで生じる電磁力Fの斜面成分によって供給されます。ここで最も注意すべきは、電磁力Fの向きです。磁場Bが鉛直上向きなので、電流Iが棒を流れるとき(斜面に対して水平)、フレミングの左手の法則により、力Fは水平方向に働きます。この水平な力を分解し、力のつり合いを考えます。

具体的な解説と立式
1. 電磁力Fの向きと電流の向き:
棒を斜面上方に動かすには、水平な電磁力Fが斜面から見て外向き(図の右向き)に働く必要があります。フレミングの左手の法則(力F:右向き、磁場B:上向き)を適用すると、電流Iは紙面の表から裏への向きに流す必要があるとわかります。この向きに電流を流すには、電源の正極はY側に接続しなければなりません。
2. 力のつり合い:
棒が上方に滑り出す直前では、力がつり合っています。働く力は「重力Mg」「垂直抗力N」「電磁力F」、そして動きを妨げる向き、つまり斜面下向きに働く最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\) です。これらの力を斜面に平行・垂直に分解します。

  • 斜面に平行な方向:
    (上向きの力)=(下向きの力の和)
    $$F\cos\theta_1 = Mg\sin\theta_1 + \mu_0 N \quad \cdots ①$$
  • 斜面に垂直な方向:
    (斜面から離れる向きの力)=(斜面に押し付ける向きの力の和)
    $$N = Mg\cos\theta_1 + F\sin\theta_1 \quad \cdots ②$$

3. 電気的な関係:
棒に流れる電流Iと電位差V₀、抵抗Rの間にはオームの法則が成り立ちます。
$$F = IBl = \left(\frac{V_0}{R}\right)Bl \quad \cdots ③$$

計算過程

3つの未知数(F, N, V₀)を解くために、まず力学の式①と②からFを求めます。
式②で表されるNを式①に代入します。
$$F\cos\theta_1 = Mg\sin\theta_1 + \mu_0 (Mg\cos\theta_1 + F\sin\theta_1)$$
Fを含む項を左辺に、Mgを含む項を右辺にまとめます。
$$F\cos\theta_1 – \mu_0 F\sin\theta_1 = Mg\sin\theta_1 + \mu_0 Mg\cos\theta_1$$
$$F(\cos\theta_1 – \mu_0\sin\theta_1) = Mg(\sin\theta_1 + \mu_0\cos\theta_1)$$
Fについて解くと、
$$F = \frac{Mg(\sin\theta_1 + \mu_0\cos\theta_1)}{\cos\theta_1 – \mu_0\sin\theta_1}$$
最後に、このFを式③をV₀について解いた式 \(V_0 = \displaystyle\frac{FR}{Bl}\) に代入してV₀を求めます。
$$V_0 = \frac{MgR(\sin\theta_1 + \mu_0\cos\theta_1)}{Bl(\cos\theta_1 – \mu_0\sin\theta_1)}$$

計算方法の平易な説明

棒を上に動かすための力を電気で作りますが、この力は地面と平行な「水平方向」に働きます。したがって、この力を斜面に沿って「押し上げる成分」と、斜面に「押し付ける成分」に分解して考える必要があります。滑り出すギリギリの瞬間の力のつり合いを、「斜面に沿う方向」と「斜面に垂直な方向」の2つの方向で考え、連立方程式を立てます。これを解くことで、必要な電磁力Fの大きさがわかります。最後に、その電磁力Fを発生させるのに必要な電流Iと電圧V₀を、電磁気の公式とオームの法則を使って計算します。

結論と吟味

正極はY側、電位差V₀は \(\displaystyle\frac{MgR(\sin\theta_1 + \mu_0\cos\theta_1)}{Bl(\cos\theta_1 – \mu_0\sin\theta_1)}\) です。分母がゼロや負にならないように \(\cos\theta_1 > \mu_0\sin\theta_1\) という条件が必要であることも、この式から読み取れます。

解答 (2) 正極はY側、電位差: \(\displaystyle\frac{MgR(\sin\theta_1 + \mu_0\cos\theta_1)}{Bl(\cos\theta_1 – \mu_0\sin\theta_1)}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
今度は、電源なしで棒が滑り落ちる状況です。棒が動くことで誘導起電力が発生し、回路に電流が流れます。この電流が電磁力を生み、これがブレーキとして働きます。十分時間が経って「速さが一定になった」ということは、再び力がつり合った状態を考えます。ただし、摩擦は動摩擦力に変わります。

具体的な解説と立式
1. 誘導起電力Vの発生:
棒が速さuで斜面を滑り落ちます。誘導起電力の公式 \(V=vBl\) のvは、磁場Bに垂直な速度成分です。磁場Bは鉛直上向きなので、速度uの水平成分を使う必要があります。
$$v_{\perp} = u\cos\theta_2$$
したがって、誘導起電力Vの大きさは、
$$V = (u\cos\theta_2)Bl \quad \cdots ①$$
2. 電流Iと電磁力F:
この起電力Vによって、棒の抵抗Rに電流Iが流れます。
$$I = \frac{V}{R} = \frac{uBl\cos\theta_2}{R} \quad \cdots ②$$
フレミングの右手の法則(運動の水平成分:左、磁場:上)より、電流は紙面の表から裏への向きに流れます。
この電流Iが磁場Bから受ける電磁力Fは、(2)と同様に水平右向きとなり、運動を妨げるブレーキとして働きます。大きさは、
$$F = IBl \quad \cdots ③$$
3. 力のつり合い:
等速運動なので、力がつり合っています。働く力は「重力Mg」「垂直抗力N」「電磁力F」、そして動きを妨げる向き、つまり斜面を上向きに働く動摩擦力 \(\mu N\) です。

  • 斜面に平行な方向:
    (下向きの力)=(上向きの力の和)
    $$Mg\sin\theta_2 = F\cos\theta_2 + \mu N \quad \cdots ④$$
  • 斜面に垂直な方向:
    (離れる向きの力)=(押し付ける向きの力の和)
    $$N = Mg\cos\theta_2 + F\sin\theta_2 \quad \cdots ⑤$$
計算過程

未知数 u, F, N, I, V を解くために、これらの式を連立させます。
まず、式②と③からFをuで表します。
$$F = \left( \frac{uBl\cos\theta_2}{R} \right)Bl = \frac{uB^2l^2\cos\theta_2}{R}$$
次に、このFの式と式⑤で表されるNを、力のつり合い式④に代入します。
$$Mg\sin\theta_2 = \left( \frac{uB^2l^2\cos\theta_2}{R} \right)\cos\theta_2 + \mu \left( Mg\cos\theta_2 + \left( \frac{uB^2l^2\cos\theta_2}{R} \right)\sin\theta_2 \right)$$
uを含む項を右辺に、それ以外を左辺に集めます。
$$Mg(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2) = \frac{uB^2l^2\cos^2\theta_2}{R} + \frac{\mu uB^2l^2\cos\theta_2\sin\theta_2}{R}$$
右辺を \(u\) でくくります。
$$Mg(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2) = \frac{uB^2l^2\cos\theta_2}{R} (\cos\theta_2 + \mu\sin\theta_2)$$
最後に、uについて解きます。
$$u = \frac{MgR(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2)}{B^2l^2\cos\theta_2(\cos\theta_2 + \mu\sin\theta_2)}$$

計算方法の平易な説明

棒が斜面を滑り落ちると、棒自体が発電して回路に電流を流し始めます。その電流は、今度は運動を邪魔する向きのブレーキ力(電磁力)を生み出します。スピードが上がれば上がるほどブレーキ力も強くなり、やがて斜面を滑り落ちようとする力と、ブレーキ力+摩擦力がぴったりつり合って、一定の速度(終端速度)になります。この「力のつり合い」を、(2)と同様に斜面に沿う方向と垂直な方向で立式し、発電量(誘導起電力)や電流の式と組み合わせて解いていきます。

結論と吟味

速さuは \(\displaystyle\frac{MgR(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2)}{B^2l^2\cos\theta_2(\cos\theta_2 + \mu\sin\theta_2)}\) となります。非常に複雑な式ですが、物理法則を一つずつ適用した結果です。分子がゼロになる、つまり \(\tan\theta_2 = \mu\) のとき、速さがゼロになる、つまり電磁ブレーキがなくても摩擦だけで止まる状況を表していることも読み取れます。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{MgR(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2)}{B^2l^2\cos\theta_2(\cos\theta_2 + \mu\sin\theta_2)}\)

【コラム】Q: (3)のとき成り立つエネルギー保存則(単位時間について)を記せ。

思考の道筋とポイント
単位時間あたりのエネルギー、すなわち「仕事率(電力)」[W]を考えます。棒は等速運動をしているので、運動エネルギーは変化しません。したがって、「エネルギーを供給する源の仕事率」と、「エネルギーが消費される先の仕事率」が等しくなるはずです。

具体的な解説と立式

  1. エネルギーの供給源:
    棒が速さuで斜面を滑り落ちることで、重力が仕事をします。単位時間あたりに下がる高さは \(u\sin\theta_2\) なので、重力が供給する仕事率 \(P_{in}\) は、
    $$P_{in} = M g (u\sin\theta_2)$$
  2. エネルギーの消費先:
    供給された位置エネルギーは、2つの形で熱に変わります。

    • ジュール熱: 棒の抵抗Rで消費される電力。\(P_{Joule} = RI^2\)。
    • 摩擦熱: 動摩擦力 \(\mu N\) が、距離uを動く間にする仕事。その仕事率は \(P_{friction} = (\mu N) \times u\)。
  3. エネルギー保存則:
    供給された仕事率と、消費された仕事率の合計は等しくなります。
    $$Mgu\sin\theta_2 = RI^2 + \mu Nu$$
結論と吟味

エネルギー保存則は \(Mgu\sin\theta_2 = RI^2 + \mu Nu\) と表せます。これは、重力による位置エネルギーの減少分が、電気エネルギー(ジュール熱)と摩擦による熱エネルギーに変換されていることを示しています。この式は、(3)で立てた力のつり合いの式(④式と⑤式)から導出することもでき、両者が同じ物理現象を別の視点から記述していることがわかります。

Qの解答 \(Mgu\sin\theta_2 = RI^2 + \mu Nu\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学と電磁気学の連成: この問題の核心は、重力や摩擦といった「力学」の世界と、誘導起電力や電磁力といった「電磁気学」の世界が、導体棒を介して相互作用している点を理解することです。
  • 力のベクトル分解: 特に重要なのが、鉛直上向きの磁場Bによって生じる電磁力Fが「水平方向」に働くという点です。この水平な力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に正しく分解できるかが、すべての力のつり合いを考える上での最大の鍵となります。
  • 誘導起電力における速度成分: 問(3)で試されたように、誘導起電力の公式 \(V=vBl\) における速度vは、磁場Bの向きに対して「垂直な成分」であるという原理を正しく適用することが求められます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 3次元的な力のつり合い問題: 複数の力が異なる方向に働く問題全般に応用できます。斜面や空間座標が設定された問題では、適切な軸(例えば斜面に平行・垂直)を設定し、各力をその軸の成分に分解して考える、という手法が基本になります。
    • 終端速度を求める問題: 空気抵抗や、この問題のような電磁ブレーキなど、「速度に依存する抵抗力」が働く物体の運動で頻出します。最終的に速度が一定になるのは、駆動する力と抵抗力がつり合う瞬間である、という考え方を用います。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の向きを徹底的に図示する: 重力は常に鉛直下向き、磁場は鉛直上向き、電磁力は水平、垂直抗力と摩擦力は斜面に対して…というように、問題文から読み取れるすべての力のベクトルを正確に図示することから始めます。
    2. 座標軸(分解する方向)を設定する: 力の分解を容易にするため、斜面に平行な軸と垂直な軸を設定するのが定石です。
    3. 「静止」「等速」「滑り始め」の言葉に注目する: これらは全て「力のつり合い(\(\sum F = 0\))」が成り立つことを示すキーワードです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電磁力の向きの誤解:
    • 現象: 電磁力Fが、運動の向きや斜面に沿った向きに働くと早合点してしまう。
    • 対策: フレミングの左手の法則を厳密に適用する。「電流」と「磁場」の向きから、機械的に「力」の向きを決定する。この問題では、電流がレールに沿って水平で、磁場が鉛直なので、力は必ず水平方向になります。
  • 誘導起電力の計算ミス:
    • 現象: 問(3)で、誘導起電力を \(V=uBl\) としてしまう。
    • 対策: 公式のvは「磁場を横切る速さ」であることを常に意識する。磁場Bが鉛直なので、速度uのうち、Bと垂直な成分、つまり「水平成分 \(u\cos\theta_2\)」を抜き出して計算する必要があることを理解する。
  • 力の分解における三角関数のミス:
    • 現象: 水平な力Fを斜面方向の \(F\cos\theta\) と垂直方向の \(F\sin\theta\) に分解する際や、重力Mgを分解する際に、sinとcosを取り違える。
    • 対策: 角度θがどこにあるかを丁寧に図に描き込み、直角三角形の辺の比をその都度確認する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • フリーボディダイアグラム(力の図示): この問題の成否は、導体棒に働くすべての力をベクトルとして正確に描き出せるかにかかっています。特に、斜めに働く重力と水平に働く電磁力を、斜面に沿った座標系で分解する図は、思考を整理する上で不可欠です。
    • 断面図で考える: 3次元的な配置は複雑に見えますが、棒を真横から見た断面図(模範解答の図)を描くことで、力の関係が2次元平面上の問題としてクリアに把握できます。角度の関係もこの図で確認するのが最も確実です。
    • エネルギーの流れをイメージする: Qで問われたように、(3)の状況では「重力の位置エネルギー」が「電気エネルギー(ジュール熱)」と「摩擦熱」に変換されている、というエネルギーの変換フローをイメージすることで、現象の物理的な本質を別の角度から捉えることができます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\mu N\) (摩擦力):
    • 選定理由: 物体が面に接して動こうとする、あるいは動いている状況で、それを妨げる力を記述するため。
    • 適用根拠: 摩擦力が垂直抗力に比例するという実験則。「静止摩擦」か「動摩擦」か、状況に応じて使い分ける。
  • 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\)):
    • 選定理由: 「静止」「等速運動」「滑り始める直前」など、加速度がゼロの状況を解析するための、力学の基本法則。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則で加速度a=0とした場合に相当します。
  • \(F=IBl\) と \(V=v_{\perp}Bl\):
    • 選定理由: 電流、磁場、運動、力が関わる電磁誘導の問題を解くための中心的な公式。
    • 適用根拠: ローレンツ力という、荷電粒子が磁場から受ける力を基本原理としています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析: まず、棒が静止しているか、動き出す直前か、等速で動いているかを確認する。
  2. 力の図示: 棒に働くすべての力(重力、垂直抗力、摩擦力、電磁力)をベクトルで正確に描き出す。特に電磁力の向きを間違えない。
  3. 座標軸の設定と力の分解: 斜面に平行・垂直な方向を軸とし、すべての力をその成分に分解する。
  4. 力学の式の立式: 各軸方向で、力のつり合いの式(\(\sum F_{x}=0, \sum F_{y}=0\))を立てる。
  5. 電気の式の立式:
    • 外部電源があれば、オームの法則(\(V=IR\))から電流と電圧の関係式を立てる。
    • 棒が動いていれば、誘導起電力の式(\(V=v_{\perp}Bl\))とオームの法則から電流の関係式を立てる。
  6. 連立方程式の求解: 力学と電気の式を連立させ、未知数を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の多さに惑わされない: この問題のように多くの物理量(M, g, B, l, R, θ, μなど)が登場する場合、計算途中で混乱しがちです。最終的に何を求めたいのかを常に意識し、代入は最後に行うなど、式をなるべくシンプルな形で整理しながら進める。
  • 三角関数の正確な適用: 力の分解でsinとcosを間違えるのは致命的なミスです。図を丁寧に描き、角度θがどちら側にあるのかをその都度確認する。
  • 連立方程式の丁寧な処理: (2)や(3)では、複数の式を代入して解く必要があります。焦らず、一行ずつ、どの式をどの式に代入しているのかを明確にしながら計算を進める。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な意味の考察:
    • 問(3)の答えの分子は \(MgR(\sin\theta_2 – \mu\cos\theta_2)\) となっています。これは、重力の滑らせる成分(\(Mg\sin\theta_2\))が、摩擦力の斜面押し付け成分(\(\mu Mg\cos\theta_2\))に勝たなければ滑り落ちない、という物理的な状況を反映しています(ただし、電磁力FがNに影響を与えるため、単純な比較はできませんが、傾向として)。
  • 極端な条件での検討:
    • もし磁場Bがゼロだったら、電磁ブレーキはかからないはず。問(3)の答えの式でBをゼロにすると、分母がゼロになり速さuが発散します。これは、ブレーキがなければいつまでも加速し続けることを意味し、物理的に妥当な結果です。
    • もし斜面が垂直(\(\theta=90^\circ\))だったらどうなるか? などを考えてみるのも、式の理解を深める良い練習になります。

問題39 (九州大+お茶の水女子大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直線電流が作る非一様な磁場の中を、正方形のコイルが運動する際に生じる電磁誘導をテーマにしています。コイルの位置によって磁場の強さが変わるため、誘導起電力やコイルに働く力が刻一刻と変化するのが特徴です。誘導起電力を求めるには、導体辺に生じる起電力を足し合わせる「ミクロな方法」と、コイルを貫く磁束の変化を考える「マクロな方法」の2つのアプローチがあり、両方の視点から現象を理解することが求められます。

与えられた条件
  • 直線導線L: y軸上にあり、+y方向に一定電流I。
  • 正方形コイルABCD: 一辺の長さ2a、電気抵抗R。
  • コイルの運動: x軸に沿って右向きに一定の速さvで運動。
  • コイルの位置: 辺ABの中点Mのx座標で表される。
  • 物理定数: 真空の透磁率をμ₀。
問われていること
  • (1) コイルが位置xにあるときの、点A, Bでの磁場の強さH₁, H₂。
  • (2) コイル全体に生じる誘導起電力の向きと大きさV。
    • (a) 各辺に生じる誘導起電力から求める方法。
    • (b) 磁束の変化から求める方法。
  • (3) x=2aのとき、コイルを等速で動かすために加えている外力の向きと大きさ。
  • (コラムQ): x=2aのとき、直線導線Lがコイルから受ける力の向きと大きさ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く鍵は、電磁誘導に関する2つの重要な法則を理解し、使い分けることです。

  1. ローレンツ力と誘導起電力 (\(V=vBl\)): 導体中の電子が、導体の運動によって磁場からローレンツ力を受け、導体の両端に電位差(誘導起電力)が生じるというミクロな視点です。コイルの各辺が「発電機」になるイメージで、それぞれの起電力を足し合わせることで全体の起電力を求めます。
  2. ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -N\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)): コイルという「面」を貫く磁束Φが時間変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力が生じるというマクロな視点です。コイル全体でどれだけ磁束が変化したかに着目します。

この問題では、(2)でこれら両方のアプローチが問われており、電磁誘導という現象を多角的に理解しているかが試されます。

問 (1)

思考の道筋とポイント
無限に長い直線電流が作る磁場の公式 \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi \times (\text{距離})}\) を用います。導線L(y軸)から点Aおよび点Bまでの距離を、問題で与えられた座標xと辺の長さ2aを使って正確に求め、それぞれ公式に代入するだけです。

具体的な解説と立式
導線Lはy軸上にあります。コイルの辺ABの中点Mのx座標がxで、コイルの一辺は2aなので、AとBのx座標はそれぞれ \(x-a\) と \(x+a\) になります。これが導線Lからの距離に相当します。

  1. 点Aでの磁場の強さ \(H_1\):
    Lからの距離は \(x-a\) です。
    $$H_1 = \frac{I}{2\pi (x-a)}$$
  2. 点Bでの磁場の強さ \(H_2\):
    Lからの距離は \(x+a\) です。
    $$H_2 = \frac{I}{2\pi (x+a)}$$
使用した物理公式

  • 無限長直線電流が作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

この設問は立式そのものが答えとなるため、これ以上の計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

長い直線電流が作る磁場の強さは、電流の大きさに比例し、電流からの距離に反比例します。A点とB点の、電流が流れるy軸からの距離は、それぞれ図から \(x-a\) と \(x+a\) であることがわかるので、これを公式に当てはめるだけです。

結論と吟味

A点、B点での磁場の強さは、それぞれ \(H_1 = \displaystyle\frac{I}{2\pi(x-a)}\)、\(H_2 = \displaystyle\frac{I}{2\pi(x+a)}\) です。導線Lに近いA点の方が、遠いB点よりも磁場が強い(\(H_1 > H_2\))ことが数式からもわかります。

解答 (1) \(H_1 = \displaystyle\frac{I}{2\pi(x-a)}\), \(H_2 = \displaystyle\frac{I}{2\pi(x+a)}\)

問 (2)

思考の道筋とポイント
(a)と(b)の2つの異なるアプローチで、同じ誘導起電力を求めます。
(a) 導体棒の誘導起電力 (\(V=vBl\)) を使う方法:
コイルの4つの辺のうち、磁場を横切って運動する辺ADと辺BCで誘導起電力が発生します。この2つの起電力をそれぞれ計算し、回路全体でそれらがどのように作用するか(強め合うか、打ち消し合うか)を考えて、全体の起電力を求めます。
(b) 磁束変化 (\(V=|\Delta\Phi/\Delta t|\)) を使う方法:
コイル全体を一つのものと見なし、それが動くことでコイルを貫く磁束が時間的にどう変化するかを計算します。その時間変化率が、誘導起電力の大きさになります。向きはレンツの法則で決定します。

解法(a): 各辺の誘導起電力から求める
具体的な解説と立式
1. 磁場の向きの確認:
導線Lに+y方向に電流が流れているので、右ネジの法則より、コイルが存在する \(x>0\) の領域では、磁場は紙面の表から裏(\(\otimes\))の向きを向いています。
2. 辺ADに生じる誘導起電力 \(V_1\):
辺ADは速さvで右に運動します。フレミングの右手の法則(運動v:右、磁場B:裏向き)を適用すると、電流はA→Dの向きに流そうとされます。つまり、D側が高電位(正極)となります。
$$V_1 = v B_1 (2a) = v (\mu_0 H_1) (2a) \quad \cdots ①$$
3. 辺BCに生じる誘導起電力 \(V_2\):**
辺BCも速さvで右に運動します。同様に、C側が高電位(正極)となります。
$$V_2 = v B_2 (2a) = v (\mu_0 H_2) (2a) \quad \cdots ②$$
4. 全体の起電力 V:
回路全体で見ると、起電力\(V_1\)(AD間)と起電力\(V_2\)(BC間)は互いに逆向きの電池のようにつながっています。\(H_1 > H_2\) より \(V_1 > V_2\) なので、全体の起電力の向きは \(V_1\) が優勢な**時計回り**となり、大きさはこれらの差で与えられます。
$$V = V_1 – V_2 \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V=vBl\)
  • 重ね合わせの原理
計算過程

式③に①、②と、問(1)の結果を代入します。
$$V = 2\mu_0va (H_1 – H_2) = 2\mu_0va \left( \frac{I}{2\pi(x-a)} – \frac{I}{2\pi(x+a)} \right)$$
共通項をくくり出し、カッコの中を通分します。
$$V = \frac{\mu_0vaI}{\pi} \left( \frac{1}{x-a} – \frac{1}{x+a} \right) = \frac{\mu_0vaI}{\pi} \left( \frac{(x+a) – (x-a)}{(x-a)(x+a)} \right)$$
$$V = \frac{\mu_0vaI}{\pi} \left( \frac{2a}{x^2-a^2} \right) = \frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(x^2-a^2)}$$

解法(b): 磁束の変化から求める
具体的な解説と立式
1. 微小時間での磁束変化:
微小時間\(\Delta t\)の間に、コイルは右に \(\Delta x = v\Delta t\) だけ移動します。このとき、コイルの左側(AD側)では磁束が失われ、右側(BC側)では新たに磁束を獲得します。

  • 失われる磁束 \(\Delta\Phi_1\): \(\Delta\Phi_1 = B_1 \cdot (\text{面積}) = (\mu_0 H_1) \cdot (2a\Delta x)\)
  • 獲得する磁束 \(\Delta\Phi_2\): \(\Delta\Phi_2 = B_2 \cdot (\text{面積}) = (\mu_0 H_2) \cdot (2a\Delta x)\)

全体の磁束変化 \(\Delta\Phi\) は、\(\Delta\Phi = \Delta\Phi_2 – \Delta\Phi_1 = 2a\mu_0\Delta x(H_2 – H_1)\) となります。
2. 起電力の向き(レンツの法則):
\(H_1 > H_2\) なので、\(\Delta\Phi\)は負の値、つまりコイルを貫く磁束(裏向き)が減少しています。レンツの法則によれば、誘導電流はこの変化を妨げる、つまり裏向きの磁場を新たに作る向きに流れます。右ネジの法則から、このような磁場を作る電流は時計回りです。
3. 起電力の大きさ V:
ファラデーの法則より、
$$V = \left| \frac{\Delta\Phi}{\Delta t} \right| = \left| \frac{2a\mu_0(H_2 – H_1)\Delta x}{\Delta t} \right|$$
\(\Delta x = v\Delta t\) を代入し、\(H_1 > H_2\) を考慮すると、
$$V = 2a\mu_0v(H_1 – H_2)$$
これは解法(a)の式③と完全に一致し、同じ結果が得られます。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right|\)
  • 磁束: \(\Phi = BS\)
  • レンツの法則
解答 (2) 向き: 時計回り、大きさ: \(\displaystyle\frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(x^2-a^2)}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
コイルを一定の速さで動かすためには、外から力を加える必要があります。これは、コイルに誘導電流が流れることで、磁場から運動を妨げる向きの「電磁力(ブレーキ力)」が働くためです。「一定の速さ」ということは力がつり合っているので、「加えている外力」と「電磁力」は大きさが同じで向きが逆になります。

  1. x=2aのときの誘導起電力Vと誘導電流iを計算する。
  2. コイルの各辺が受ける電磁力を計算し、それらをベクトル的に合成して、コイル全体が受ける正味の電磁力\(\vec{F}_B\)を求める。
  3. 力のつり合いから、外力\(\vec{F}_{ext} = -\vec{F}_B\)として、向きと大きさを求める。

具体的な解説と立式
1. 誘導電流iの計算:
まず、x=2aのときの誘導起電力Vを、(2)の結果を使って計算します。
$$V = \frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi((2a)^2-a^2)} = \frac{2\mu_0Ia^2v}{3\pi a^2} = \frac{2\mu_0Iv}{3\pi} \quad \cdots ①$$
コイルに流れる誘導電流iは、オームの法則より、
$$i = \frac{V}{R} = \frac{2\mu_0Iv}{3\pi R} \quad \cdots ②$$
向きは(2)で求めた通り、時計回りです。
2. 電磁力の計算:
磁場の中で電流が流れているのは辺ADと辺BCです。

  • 辺ADに働く力 \(F_1\): 位置は \(x-a = a\)。電流はA→D(上向き)。磁場は裏向き。フレミングの左手の法則より、力は左向き
    $$F_1 = i B_1 (2a) = i (\mu_0 H_1) (2a) = i \cdot \mu_0 \frac{I}{2\pi a} \cdot 2a = \frac{i\mu_0 I}{\pi} \quad \cdots ③$$
  • 辺BCに働く力 \(F_2\): 位置は \(x+a = 3a\)。電流はC→B(下向き)。磁場は裏向き。フレミングの左手の法則より、力は右向き
    $$F_2 = i B_2 (2a) = i (\mu_0 H_2) (2a) = i \cdot \mu_0 \frac{I}{2\pi (3a)} \cdot 2a = \frac{i\mu_0 I}{3\pi} \quad \cdots ④$$

3. 力のつり合い:
コイル全体が受ける正味の電磁力 \(F_B\) は、左向きの\(F_1\)と右向きの\(F_2\)の合力です。\(F_1 > F_2\) なので、\(F_B\)は左向きになります。
$$F_B = F_1 – F_2$$
等速運動を維持するための外力 \(F_{ext}\) は、この\(F_B\)とつり合うので、右向きで大きさは等しくなります。
$$F_{ext} = F_1 – F_2 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 電磁力: \(F = iBl\)
  • 力のつり合い
計算過程

式⑤に③と④を代入します。
$$F_{ext} = \frac{i\mu_0 I}{\pi} – \frac{i\mu_0 I}{3\pi} = \frac{2}{3}\frac{i\mu_0 I}{\pi}$$
この式に、②で求めた電流iの値を代入します。
$$F_{ext} = \frac{2}{3} \left( \frac{2\mu_0Iv}{3\pi R} \right) \frac{\mu_0 I}{\pi} = \frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}$$
別解: エネルギー保存則
等速運動なので、外力がする仕事率(\(F_{ext}v\))は、回路全体で消費される電力(\(Ri^2\))に等しくなります。
$$F_{ext} v = R i^2 \quad \rightarrow \quad F_{ext} = \frac{R i^2}{v}$$
この式に電流iの値を代入すると、
$$F_{ext} = \frac{R}{v} \left( \frac{2\mu_0Iv}{3\pi R} \right)^2 = \frac{R}{v} \frac{4\mu_0^2I^2v^2}{9\pi^2R^2} = \frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}$$
メインの解法と同じ結果が得られました。

結論と吟味

コイルに加えている外力の向きは右向き(+x方向)、大きさは \(\displaystyle\frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}\) です。

解答 (3) 向き: 右向き、大きさ: \(\displaystyle\frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}\)

【コラム】Q: 問(3)のとき、直線導線Lがコイルから受けている力の向きと大きさを求めよ。

思考の道筋とポイント
この問題は、一見すると「コイルが作る磁場」を計算する必要があるように見えますが、それでは非常に複雑になります。ここで使うべきなのは、作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)です。「Lがコイルに及ぼす力」と「コイルがLに及ぼす力」は、大きさが等しく、向きが逆になる、という関係を利用します。

具体的な解説と立式
1. 作用・反作用の関係:
問(3)で計算したのは、「Lがコイルに及ぼす正味の電磁力」 \(\vec{F}_{L \rightarrow C}\) です。この力は、大きさが \(\displaystyle\frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}\) で、向きは左向き(-x方向)でした。
作用・反作用の法則により、コイルがLに及ぼす力 \(\vec{F}_{C \rightarrow L}\) は、これと大きさが同じで向きが逆になります。
$$\vec{F}_{C \rightarrow L} = – \vec{F}_{L \rightarrow C}$$
2. 直接計算の困難さ:
コイルは正方形であり、「無限に長い直線」ではないため、コイルが作る磁場を簡単な公式 \(H=i/2\pi r\) で計算することはできません。したがって、コイルがLの位置に作る磁場を計算して力を求める、という直接的なアプローチは大学レベルの積分計算が必要となり非常に困難です。作用・反作用の法則を使うのが唯一の現実的な解法です。

使用した物理公式

  • 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)
計算過程

上記の考察により、力の大きさと向きが決定されるため、追加の計算はありません。
力の向きは、\(\vec{F}_{L \rightarrow C}\)(左向き)の反対なので、右向き(+x方向)となります。
力の大きさは、\(F_{L \rightarrow C}\) と同じです。

結論と吟味

直線導線Lがコイルから受ける力は、右向き(+x方向)で、大きさは問(3)で求めた外力と等しく \(\displaystyle\frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}\) です。複雑な問題を、より基本的な法則に立ち返ることで鮮やかに解くことができる好例です。

Qの解答 向き: 右向き、大きさ: \(\displaystyle\frac{4\mu_0^2I^2v}{9\pi^2R}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則: この問題全体の根幹をなす法則です。特に、コイルを貫く磁束が変化することで起電力が生じるというマクロな視点(問2b)と、導体が磁場を横切ることで起電力が生じるというミクロな視点(問2a)の両方を理解し、自在に使い分けることが核心です。
  • 非一様な磁場での誘導: 直線電流が作る磁場は距離に反比例して弱くなるため、コイルの各部分で磁場の強さが異なります。この「不均一性」が、コイルの各辺で生じる起電力に差を生み、結果として正味の起電力が発生する原因となっています。
  • 作用・反作用の法則: Qで問われたように、複雑な形状の物体間に働く力を直接計算するのが困難な場合でも、作用・反作用の法則を利用することで、より簡単な片方の力を計算して答えを導くことができる、という物理学の重要なテクニック。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 磁場の勾配を利用する機器: 磁場の強さが場所によって異なる「勾配磁場」を利用する問題に応用できます。例えば、金属片を磁石に近づけると吸い寄せられるのは、金属片の手前と奥で磁場の強さが異なり、正味の力が働くためであり、この問題と本質は同じです。
    • 積分を伴う電磁誘導問題への橋渡し: この問題では辺に沿って磁場は一定でしたが、もしそうでなければ、辺に沿って磁場を積分して起電力を求める、あるいは面で磁束を積分する必要があります。この問題は、そうしたより高度な大学レベルの問題への入門と位置づけられます。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 磁場が一様か非一様か: まず磁場の分布を確認します。非一様であれば、コイルの各部分で起きる現象が異なる可能性を疑います。
    2. 起電力の源泉は何か: コイルのどの部分が動いていて、磁場を横切っているのかを特定します。そこが「電池」になります。
    3. 2つのアプローチを念頭に置く: 電磁誘導の問題は常に「\(V=vBl\)の足し算」と「\(\Phi\)の時間変化」の2通りで考えられないか、検討する癖をつけると、視野が広がり、解法の選択肢が増えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 磁場の向きの勘違い:
    • 現象: 右ネジの法則の適用を誤り、磁場の向きを「表向き」と「裏向き」で逆にしてしまう。
    • 対策: 電流の向きに親指を合わせ、残りの指が巻く向きを冷静に確認する。単純ですが、全ての計算の土台となるので、最も慎重になるべき部分です。
  • 起電力の合成ミス:
    • 現象: 問(2a)で、辺ADとBCに生じる起電力を単純に足し算してしまう。
    • 対策: 回路図を描き、各辺を「電池」に置き換えてみる。そうすると、2つの電池が逆向き(直列で打ち消し合う向き)につながっていることが視覚的にわかり、引き算すべきだと気づけます。
  • 磁束変化の符号ミス:
    • 現象: 問(2b)で、磁束が増加しているのか減少しているのかを間違える。
    • 対策: 「コイルに近い辺(AD)が抜けていく」のと「遠い辺(BC)が入ってくる」のを比較します。近い方が磁場は強いので、失う磁束の方が獲得する磁束より大きく、全体としては「減少」している、と物理的に判断します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 磁力線の密度のイメージ: 直線導線Lの近くでは磁力線が「密」に、遠くでは「疎」になっている様子をイメージする。コイルが動くとき、密な領域から出ていき、疎な領域に入っていくため、トータルではコイルを貫く磁力線の本数が減っていく、と直感的に理解できます。
    • 2つの電池のせめぎ合い: 問(2a)では、コイルを「逆向きにつながれた2つの電池」として図示するのが有効です。電圧の高い電池(\(V_1\))が、電圧の低い電池(\(V_2\))を無理やり逆向きに充電しているような回路としてイメージできます。
    • 磁束変化の面積を図示する: 問(2b)では、微小時間\(\Delta t\)でコイルが動いたときに、「失った磁束の面積(左側の細長い長方形)」と「得た磁束の面積(右側の細長い長方形)」を色分けして図示すると、\(\Delta\Phi\)の計算の意味が視覚的にわかりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\):
    • 選定理由: 問題が「十分に長い直線導線」によって作られる磁場を扱っているため。これはアンペールの法則から導かれる、この状況に特化した公式です。
    • 適用根拠: 無限長の直線電流という理想的な状況下での、磁場の距離依存性を示します。
  • \(V=vBl\) (ミクロな視点):
    • 選定理由: コイルを構成する「辺」という線分が磁場を横切る、という部分的な現象に着目して起電力を求めたい場合に選択します。
    • 適用根拠: 導体内の荷電粒子が受けるローレンツ力に起因する、電磁誘導の基本的な現れです。
  • \(V = |\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}|\) (マクロな視点):
    • 選定理由: コイルという「面」全体を貫く磁束の変化という、全体的な視点から起電力を求めたい場合に選択します。
    • 適用根拠: 空間の磁束が時間変化すること自体が電場を生み出すという、より根本的なファラデーの電磁誘導の法則に基づいています。
  • 作用・反作用の法則:
    • 選定理由: Qのように、求めたい力(コイル→導線)を直接計算するのが難しい場合に、その反作用である力(導線→コイル)を計算する、という迂回路をとるために選択します。
    • 適用根拠: ニュートンの第三法則であり、力学だけでなく電磁気力においても普遍的に成り立つ法則です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析: 磁場が一様でないことを確認。コイルのどの部分が、どのような磁場の中を、どの向きに動いているかを把握する。
  2. アプローチの選択(問2):
    • (a)ミクロ法: ①動いている各辺(AD, BC)で誘導起電力\(V_1, V_2\)の向きと大きさを計算。②回路図を描き、それらがどう接続されているかを確認(逆向き接続)。③全体の起電力 \(V=V_1-V_2\) を計算。
    • (b)マクロ法: ①微小時間\(\Delta t\)での磁束変化\(\Delta\Phi\)を計算(失う分と得る分の差)。②レンツの法則で電流の向きを判断。③ファラデーの法則 \(V=|\Delta\Phi/\Delta t|\) で大きさを計算。
  3. 力の計算(問3): ①(2)の結果から誘導電流iを計算。②磁場中の各辺(AD, BC)に働く電磁力\(F_1, F_2\)の向きと大きさを計算。③コイル全体の正味の電磁力\(\vec{F}_B = \vec{F}_1 + \vec{F}_2\)をベクトル和で求める。④「等速運動」なので、外力は\(\vec{F}_{ext} = -\vec{F}_B\)となる。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 通分計算の正確性: 問(2)で \(\left( \frac{1}{x-a} – \frac{1}{x+a} \right)\) のような分数の引き算が出てきます。こうした通分や符号の処理は、電磁気の問題で頻出するため、慎重かつ正確に行う練習が必要です。
  • 文字の代入タイミング: \(H_1, H_2\) や \(V_1, V_2\) などを、まずは文字のまま計算を進め、最後の最後に具体的な式を代入すると、式全体の見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
  • 定数と変数の区別: この問題では \(I, a, v, R, \mu_0\) などは定数で、\(x\) が変数です。最終的な答えが、どの文字の関数になるべきかを意識すると、計算の方向性を見失いにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 2つの方法の一致確認: 問(2)で、全く異なる2つのアプローチ(a), (b)が、向きも大きさも完全に同じ結果を与えたことを確認する。これは、物理法則が自己矛盾なく成り立っていることの良い証拠です。
  • エネルギー保存則による検算: 問(3)で、力のつり合いから求めた外力 \(F_{ext}\) と、エネルギー保存(外力の仕事率=消費電力)から求めた外力が一致することを確認する。これも強力な検算方法です。
  • 極限を考える: もしコイルが非常に遠く(\(x \gg a\))にある場合を考えます。\(V = \frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(x^2-a^2)} \approx \frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi x^2}\) となり、起電力が距離の2乗に反比例して急速にゼロに近づくことがわかります。これは物理的に妥当な振る舞いです。
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