問題25 (室蘭工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗とコンデンサーが組み合わさったブリッジ回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路の構成が変化し、特に「十分に時間がたった」定常状態において、各部の電流や電位、コンデンサーに蓄えられる電荷などを考察します。コンデンサーが直流定常状態でどのように振る舞うかを正しく理解しているかが鍵となります。
- 4つの抵抗: \(R_1=30\,\Omega\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_3=10\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\)
- 2つのコンデンサー: \(C_1=20\,\mu\text{F}\), \(C_2=30\,\mu\text{F}\)
- 1つの電池: 起電力 \(E=12\,\text{V}\)(内部抵抗は無視)
- 2つのスイッチ: S1, S2
- 初期状態: 各操作のはじめには、コンデンサーに電荷は蓄えられていない。
- (1) S1, S2 をともに開いた状態での、Lに対するMの電位
- (2) S1を閉じ、S2 を開いた状態での、AB間を流れる電流、LとNの電位の大小、LN間の電位差
- (3) S1, S2 をともに閉じた状態で、
- (ア) AB間を流れる電流
- (イ) \(C_1\) のL側の極板に蓄えられた電荷
- (ウ) 回路全体での消費電力
- (エ) \(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするための \(R_3\) の代替抵抗値
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3)(ア) AB間を流れる電流の別解: 回路全体の合成抵抗を用いる解法
- 主たる解法が上下の並列アームを流れる電流を個別に計算して合計するのに対し、別解ではまず回路全体の合成抵抗を求め、オームの法則から一気に全電流を計算します。
- 問(3)(ウ) 回路全体の消費電力の別解: 電池の供給電力を利用する解法
- 主たる解法が各抵抗での消費電力を個別に計算して合計するのに対し、別解ではエネルギー保存則に基づき、回路全体の消費電力は電池が供給する電力に等しいという考え方で解きます。
- 問(3)(エ) 代替抵抗値の別解: 電圧分配の式から導出する解法
- 主たる解法がホイートストンブリッジの平衡条件の公式を用いるのに対し、別解では公式を暗記していなくても、L点とN点の電位が等しくなるという基本条件を電圧分配の式で表現し、そこから導出します。
- 問(3)(ア) AB間を流れる電流の別解: 回路全体の合成抵抗を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 視点の多様化: 回路を部分の集合として見るか(主たる解法)、全体として一つの要素と見るか(別解)という、異なる視点を提供します。
- 物理法則の深化: 特に問(3)(ウ)の別解は、エネルギー保存則という物理学の根本原理が電気回路でどのように現れるかを示し、理解を深めます。問(3)(エ)の別解は、公式の成り立ちを理解する助けになります。
- 計算の効率化: 問(3)(ウ)の別解のように、より上位の法則を用いることで計算が大幅に簡略化できる場合があり、問題解決のスキル向上に繋がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、コンデンサーを含む直流回路の「定常状態」の扱いです。十分に時間が経過した後のコンデンサーの振る舞い(電流を流さない)を理解し、回路を適切に単純化できるかが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの直流定常状態: 十分に時間が経過した直流回路において、コンデンサーは充電を完了し、電流を通さなくなります。これは、コンデンサー部分が「断線」していると見なせることを意味します。
- 電流が流れない抵抗: 抵抗に電流が流れない場合、オームの法則 \(V=RI\) より、その抵抗の両端の電圧降下は\(0\)になります。つまり、その抵抗の両端は「等電位」です。
- オームの法則とキルヒホッフの法則: 回路を流れる電流や各点の電位を計算するための基本法則です。
- ホイートストンブリッジ: (3)の回路は、定常状態では抵抗のみのブリッジ回路となり、特に(エ)ではその平衡条件が中心的な役割を果たします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問でスイッチの状態を確認し、定常状態において電流が流れる経路と流れない経路を特定します。
- 電流が流れる部分回路について、オームの法則やキルヒホッフの法則を用いて電流や電圧を計算します。
- 電流が流れない抵抗の両端が等電位であることを利用して、回路の各点の電位を求めます。
- コンデンサーにかかる電圧(電位差)を求め、\(Q=CV\) を使って電荷を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
S1, S2がともに開いている状態では、抵抗は回路から切り離されています。回路は電池Eとコンデンサー\(C_1\), \(C_2\)が直列に接続されただけの単純な回路と見なせます。十分に時間がたつと、\(C_1\)と\(C_2\)の充電が完了します。問われている「Lに対するMの電位」とは、M点の電位からL点の電位を引いた値 (\(V_M – V_L\)) のことです。これは、コンデンサー\(C_1\)にかかる電圧 \(V_1\) に、向きを考慮した符号をつけたものに相当します。直列コンデンサーでは、全体の電圧が各コンデンサーの電気容量の逆比に分配されることを利用します。
この設問における重要なポイント
- S1, S2が開いているため、抵抗は回路に関与しない。
- \(C_1\)と\(C_2\)は電池\(E\)に対して直列接続となる。
- 直列コンデンサーでは、電圧は電気容量の逆比に分配される。
- Lは電池の正極側、Mは\(C_1\)と\(C_2\)の中間点なので、Lの方がMより電位が高い。
具体的な解説と立式
S1, S2が開いているため、抵抗 \(R_1, R_2, R_3, R_4\) には電流が流れません。回路は電池Eとコンデンサー\(C_1, C_2\)の直列回路と見なせます。
十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了します。
\(C_1\)と\(C_2\)にかかる電圧をそれぞれ \(V_1, V_2\) とすると、直列コンデンサーの電圧分配の公式より、\(C_1\)にかかる電圧 \(V_1\) は、全体の電圧 \(E\) を電気容量の逆比で分配して求められます。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{C_2}{C_1+C_2}E \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
L点は電池の正極側、M点は\(C_1\)の負極側に接続されるため、L点の方がM点より電位が高くなります。したがって、Lに対するMの電位 (\(V_M – V_L\)) は負の値となり、その大きさは\(C_1\)にかかる電圧 \(V_1\) に等しいので、\(-V_1\) となります。
使用した物理公式
- 直列コンデンサーの電圧分配: \(V_k \propto \displaystyle\frac{1}{C_k}\)
与えられた値 \(C_1 = 20\,\mu\text{F}\), \(C_2 = 30\,\mu\text{F}\), \(E=12\,\text{V}\) を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{30}{20 + 30} \times 12 \\[2.0ex]
&= \frac{30}{50} \times 12 \\[2.0ex]
&= \frac{3}{5} \times 12 \\[2.0ex]
&= 7.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
L点の方がM点より電位が高いので、Lに対するMの電位は \(-V_1\) です。
$$
\begin{aligned}
V_M – V_L &= -7.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
スイッチが開いているので、抵抗は回路から切り離されています。電池と2つのコンデンサーが直列につながっているだけのシンプルな回路です。直列につながれたコンデンサーは、電池の電圧を分け合いますが、その分け方は電気容量の「逆比」になります。つまり、容量が小さいコンデンサーほど、大きな電圧を引き受けます。\(C_1\)と\(C_2\)の容量の比は\(20:30=2:3\)なので、電圧は逆の\(3:2\)の比で分けられます。全体の電圧\(12\,\text{V}\)を\(3:2\)に分けるので、\(C_1\)にかかる電圧は\(12\,\text{V} \times \frac{3}{3+2} = 7.2\,\text{V}\)となります。L点は電池のプラス側、M点はマイナス側につながっているので、L点の方が電位が高いです。したがって、「Lに対するMの電位」はマイナスの値となり、\(-7.2\,\text{V}\)です。
Lに対するMの電位は \(-7.2\,\text{V}\) です。コンデンサーが直列の場合、電圧は容量の逆比に分配されるという基本事項を正しく適用できるかが問われています。LとMの電位の高低を間違えずに、符号を正しく判断することが重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
S1を閉じ、S2を開いた状態で十分に時間がたったときを考えます。定常状態ではコンデンサー\(C_1, C_2\)には電流が流れません。したがって、コンデンサーが接続されている経路(A-L-M-N、L-R3-B)には電流が流れないことになります。結果として、抵抗\(R_1\)と\(R_3\)にも電流が流れません。電流が流れるのは、A→\(R_2\)→N→\(R_4\)→B→電池→Aという閉回路のみです。この回路では、抵抗\(R_2\)と\(R_4\)が直列に接続されています。
まず、この閉回路にオームの法則を適用してAB間を流れる電流を求めます。次に、\(R_1\)に電流が流れないことからA点とL点が等電位であることを利用し、LとNの電位の大小を比較します。最後に、LN間の電位差を、AとNの電位差、すなわち抵抗\(R_2\)にかかる電圧として計算します。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサーに電流は流れない。
- 電流が流れない抵抗の両端は等電位。
- 電流が流れる経路を特定し、その部分回路でオームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
定常状態では、コンデンサーを含む枝には電流が流れません。したがって、\(R_1\)と\(R_3\)には電流が流れません。
電流 \(I\) は、電池E、抵抗\(R_2\)、抵抗\(R_4\)からなる閉回路のみを流れます。この回路で\(R_2\)と\(R_4\)は直列接続です。
回路全体の合成抵抗は \(R_{24} = R_2 + R_4\)。
オームの法則より、AB間を流れる電流 \(I\) は、
$$
\begin{aligned}
E &= (R_2+R_4)I \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
抵抗\(R_1\)に電流が流れないため、A点とL点の電位は等しくなります (\(V_A = V_L\))。
電流\(I\)はA→\(R_2\)→Nの向きに流れるため、A点の方がN点よりも電位が高くなります (\(V_A > V_N\))。
したがって、\(V_L > V_N\) となり、Lの方がNより電位が高いです。
LN間の電位差 \(V_{LN}\) は \(V_L – V_N\) です。\(V_L=V_A\)なので、\(V_{LN} = V_A – V_N\) となり、これは抵抗\(R_2\)の両端の電圧降下に等しいです。
$$
\begin{aligned}
V_{LN} &= R_2 I \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 合成抵抗(直列): \(R = R_1+R_2\)
まず、式②に \(E=12\,\text{V}\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\) を代入して電流 \(I\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
12 &= (20+30)I \\[2.0ex]
50I &= 12 \\[2.0ex]
I &= \frac{12}{50} \\[2.0ex]
&= 0.24\,\text{A}
\end{aligned}
$$
次に、式③に \(R_2=20\,\Omega\) と求めた電流 \(I=0.24\,\text{A}\) を代入してLN間の電位差 \(V_{LN}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{LN} &= 20 \times 0.24 \\[2.0ex]
&= 4.8\,\text{V}
\end{aligned}
$$
十分に時間が経つと、コンデンサーは電気で満タンになり、電流を通さなくなります。そのため、コンデンサーにつながっている\(R_1\)や\(R_3\)にも電流は流れません。電流が通れる道は、電池→A→\(R_2\)→N→\(R_4\)→B→電池という一本道だけになります。この道では\(R_2\)と\(R_4\)が直列なので、合計の抵抗は\(20+30=50\,\Omega\)です。オームの法則から、流れる電流は\(12\,\text{V} \div 50\,\Omega = 0.24\,\text{A}\)です。次に電位を比べます。\(R_1\)に電流が流れないので、A点とL点は同じ高さ(電位)です。電流はAからNへ流れるので、Aの方がNより電位が高いです。つまり、LもNより電位が高いことになります。その電位差は、AとNの電位差と同じで、\(R_2\)にかかる電圧に等しく、\(0.24\,\text{A} \times 20\,\Omega = 4.8\,\text{V}\)となります。
AB間を流れる電流は \(0.24\,\text{A}\)、電位はLの方がNより高く、LN間の電位差は \(4.8\,\text{V}\) です。定常状態のコンデンサーの扱いが正しくできれば、単純な直流回路の問題として解くことができます。
問(3)
(ア)
思考の道筋とポイント
S1, S2をともに閉じた状態で十分に時間がたったときを考えます。この場合も、定常状態なのでコンデンサー\(C_1, C_2\)には電流が流れません。回路は、電池Eに対して、上側のアーム(抵抗\(R_1\)と\(R_3\)の直列)と下側のアーム(抵抗\(R_2\)と\(R_4\)の直列)が並列に接続された形、すなわちホイートストンブリッジ回路の構成になります。AB間を流れる電流は、上側アームを流れる電流 \(i\) と下側のアームを流れる電流 \(I\) の合計になります。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサーに電流は流れない。
- 回路は抵抗のみのホイートストンブリッジ回路と見なせる。
- 上側のアームと下側のアームは、それぞれ電池に並列に接続されている。
- 各アームを流れる電流を個別に計算し、合計する。
具体的な解説と立式
定常状態では、コンデンサーには電流が流れません。
上側のアーム(A→L→\(R_1\)→B)の合成抵抗は \(R_{13} = R_1 + R_3\)。このアームには電池の電圧 \(E\) がかかります。流れる電流を \(i\) とすると、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
E &= (R_1+R_3)i \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
下側のアーム(A→N→\(R_2\)→B)の合成抵抗は \(R_{24} = R_2 + R_4\)。このアームにも電池の電圧 \(E\) がかかります。流れる電流を \(I\) とすると、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
E &= (R_2+R_4)I \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
AB間を流れる電流 \(I_{AB}\) は、A点で合流(またはB点で分岐)するこれらの電流の和です。
$$
\begin{aligned}
I_{AB} &= i + I \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 合成抵抗(直列)
- キルヒホッフの第1法則
まず、上側アームの電流 \(i\) を式④から求めます。\(R_1=30\,\Omega, R_3=10\,\Omega, E=12\,\text{V}\)。
$$
\begin{aligned}
12 &= (30+10)i \\[2.0ex]
40i &= 12 \\[2.0ex]
i &= \frac{12}{40} \\[2.0ex]
&= 0.3\,\text{A}
\end{aligned}
$$
次に、下側のアームの電流 \(I\) を式⑤から求めます。\(R_2=20\,\Omega, R_4=30\,\Omega, E=12\,\text{V}\)。
$$
\begin{aligned}
12 &= (20+30)I \\[2.0ex]
50I &= 12 \\[2.0ex]
I &= \frac{12}{50} \\[2.0ex]
&= 0.24\,\text{A}
\end{aligned}
$$
最後に、AB間の全電流 \(I_{AB}\) を式⑥から求めます。
$$
\begin{aligned}
I_{AB} &= 0.3 + 0.24 \\[2.0ex]
&= 0.54\,\text{A}
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
上下のアームの合成抵抗をそれぞれ計算し、それらの並列合成抵抗を求めることで回路全体の抵抗を算出します。その後、オームの法則から全電流を求めます。
具体的な解説と立式
上側のアームの抵抗は \(R_{13} = R_1+R_3\)。
下側のアームの抵抗は \(R_{24} = R_2+R_4\)。
これらが並列に接続されているので、回路全体の合成抵抗を \(R_{\text{全}}\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{全}}} &= \frac{1}{R_1+R_3} + \frac{1}{R_2+R_4} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
AB間を流れる電流(全電流) \(I_{AB}\) は、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I_{AB} &= \frac{E}{R_{\text{全}}} \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
上側アームの抵抗 \(R_{13} = 30+10 = 40\,\Omega\)。
下側アームの抵抗 \(R_{24} = 20+30 = 50\,\Omega\)。
式⑦より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{全}}} &= \frac{1}{40} + \frac{1}{50} \\[2.0ex]
&= \frac{5+4}{200} \\[2.0ex]
&= \frac{9}{200}\,\Omega^{-1}
\end{aligned}
$$
よって、\(R_{\text{全}} = \displaystyle\frac{200}{9}\,\Omega\)。
式⑧より、
$$
\begin{aligned}
I_{AB} &= \frac{12}{200/9} \\[2.0ex]
&= \frac{12 \times 9}{200} \\[2.0ex]
&= \frac{108}{200} \\[2.0ex]
&= 0.54\,\text{A}
\end{aligned}
$$
スイッチを両方閉じると、コンデンサー部分は電流が流れないので無視できます。回路は、上の道(\(R_1\)と\(R_3\))と下の道(\(R_2\)と\(R_4\))の2つに分かれ、これらが電池に並列につながっている形になります。上の道と下の道、それぞれに\(12\,\text{V}\)の電圧がかかっているので、各道の合計抵抗を計算し、オームの法則を使ってそれぞれの電流を求めます。最後に、2つの道の電流を合計すれば、AB間を流れる全体の電流がわかります。
AB間を流れる電流は \(0.54\,\text{A}\) です。別解の方法でも同じ結果が得られ、回路全体を一つの抵抗とみなす視点も重要です。
(イ)
思考の道筋とポイント
\(C_1\)のL側の極板に蓄えられた電荷を求めるには、まず\(C_1\)と\(C_2\)の直列部分にかかる電圧、すなわちLN間の電位差 \(V_{LN}\) を求める必要があります。定常状態なので、各抵抗での電圧降下からL点とN点の電位を計算できます。計算を簡単にするため、回路のどこかを基準電位(\(0\,\text{V}\))とします。例えば、B点の電位を\(0\,\text{V}\)とすると、A点の電位は \(E=12\,\text{V}\) となります。L点とN点の電位をそれぞれ求め、その差から \(V_{LN}\) を計算します。次に、\(C_1\)と\(C_2\)の直列合成容量を求め、\(Q=CV\) の公式を使ってコンデンサーに蓄えられる総電荷を計算します。最後に、LとNの電位の大小関係から、L側極板の電荷の符号を決定します。
この設問における重要なポイント
- L点とN点の電位を求める。
- LN間の電位差を計算する。
- \(C_1, C_2\)の直列合成容量を求める。
- \(Q=CV\) を用いてコンデンサーに蓄えられる電荷を計算する。
- L側極板の電荷の符号は、L点とN点の電位の高低で決まる。
具体的な解説と立式
B点の電位を \(V_B = 0\,\text{V}\) と基準にとります。すると、A点の電位は \(V_A = 12\,\text{V}\)。
(ア)より、上側のアームを流れる電流は \(i = 0.3\,\text{A}\)、下側のアームを流れる電流は \(I = 0.24\,\text{A}\)です。
L点の電位 \(V_L\) は、B点から\(R_3\)だけ遡った点なので、
$$
\begin{aligned}
V_L &= V_B + R_3 i \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
N点の電位 \(V_N\) は、B点から\(R_4\)だけ遡った点なので、
$$
\begin{aligned}
V_N &= V_B + R_4 I \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
LN間の電位差は \(V_{LN} = V_L – V_N\)。
コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は直列接続なので、その合成容量 \(C_{12}\) は、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{C_{12}} &= \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
LN間に蓄えられる総電荷の大きさ \(Q\) は、
$$
\begin{aligned}
Q &= C_{12} |V_{LN}| \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
\(V_L\)と\(V_N\)の大小を比較し、\(C_1\)のL側極板の電荷の符号を決定します。
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 直列コンデンサーの合成容量: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\)
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
まず、L点とN点の電位を計算します。 \(V_B = 0\,\text{V}\) としています。
式⑨に値を代入: \(R_3=10\,\Omega, i=0.3\,\text{A}\)。
$$
\begin{aligned}
V_L &= 0 + 10 \times 0.3 \\[2.0ex]
&= 3.0\,\text{V}
\end{aligned}
$$
式⑩に値を代入: \(R_4=30\,\Omega, I=0.24\,\text{A}\)。
$$
\begin{aligned}
V_N &= 0 + 30 \times 0.24 \\[2.0ex]
&= 7.2\,\text{V}
\end{aligned}
$$
したがって、LN間の電位差は \(V_{LN} = V_L – V_N = 3.0 – 7.2 = -4.2\,\text{V}\)。
電位はNの方がLより \(4.2\,\text{V}\) 高いことがわかります。
次に、合成容量 \(C_{12}\) を式⑪から求めます: \(C_1=20\,\mu\text{F}, C_2=30\,\mu\text{F}\)。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{C_{12}} &= \frac{1}{20} + \frac{1}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{3+2}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{12}
\end{aligned}
$$
よって、\(C_{12} = 12\,\mu\text{F} = 12 \times 10^{-6}\,\text{F}\)。
LN間に蓄えられる総電荷の大きさ \(Q\) を式⑫から求めます。
$$
\begin{aligned}
Q &= (12 \times 10^{-6}) \times |-4.2| \\[2.0ex]
&= 50.4 \times 10^{-6}\,\text{C}
\end{aligned}
$$
L点よりN点の方が電位が高いので、コンデンサーのL側は負極、N側は正極になります。よって、\(C_1\)のL側極板に蓄えられた電荷は負の値となります。
$$
\begin{aligned}
Q_{C1L} &= -Q \\[2.0ex]
&= -50.4 \times 10^{-6}\,\text{C} \\[2.0ex]
&= -5.04 \times 10^{-5}\,\text{C}
\end{aligned}
$$
まず、L点とN点の電位(電気的な高さ)を調べます。電流が分かっているので、オームの法則を使って各抵抗での電圧降下を計算できます。B点を地面(\(0\,\text{V}\))とすると、L点は\(3.0\,\text{V}\)、N点は\(7.2\,\text{V}\)の高さになります。つまり、Nの方がLより\(4.2\,\text{V}\)高いです。この電位差\(4.2\,\text{V}\)が、直列につながれた\(C_1\)と\(C_2\)にかかります。まず2つのコンデンサーを1つに合成し(合成容量を計算し)、\(Q=CV\)の公式から全体の電荷\(Q\)を求めます。Nの方が電位が高いので、コンデンサーのN側がプラス、L側がマイナスに帯電します。したがって、\(C_1\)のL側極板の電荷はマイナスの値になります。
\(C_1\) のL側の極板に蓄えられた電荷は \(-50.4\,\mu\text{C}\) すなわち \(-5.04 \times 10^{-5}\,\text{C}\) です。各点の電位を正確に計算し、コンデンサーの極性を判断することが重要です。
(ウ)
思考の道筋とポイント
回路全体での消費電力を求めます。定常状態ではコンデンサーはエネルギーを消費しないため、消費電力は4つの抵抗でジュール熱として消費される電力の合計です。各抵抗を流れる電流は(ア)で求めているので、各抵抗での消費電力を \(P=RI^2\) で計算し、それらを合計します。
この設問における重要なポイント
- 消費電力は抵抗で発生する。
- 各抵抗の消費電力 \(P=RI^2\) を計算し、全て合計する。
- 別解として、電池が供給する電力 \(P=EI_{全}\) に等しいことを利用する(エネルギー保存則)。
具体的な解説と立式
回路全体での消費電力 \(P_{\text{全}}\) は、4つの抵抗での消費電力の和です。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{全}} &= R_1 i^2 + R_3 i^2 + R_2 I^2 + R_4 I^2 \\[2.0ex]
&= (R_1+R_3)i^2 + (R_2+R_4)I^2 \quad \cdots ⑬
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=RI^2\)
式⑬に値を代入します: \(R_1=30, R_3=10, i=0.3\)、\(R_2=20, R_4=30, I=0.24\)。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{全}} &= (30+10) \times (0.3)^2 + (20+30) \times (0.24)^2 \\[2.0ex]
&= 40 \times 0.09 + 50 \times 0.0576 \\[2.0ex]
&= 3.6 + 2.88 \\[2.0ex]
&= 6.48\,\text{W}
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
エネルギー保存則より、定常状態において回路全体で消費される電力は、電池が供給する電力に等しくなります。電池から流れ出す全電流は(ア)で求めた \(I_{AB}\) です。
具体的な解説と立式
電池から流れ出す全電流は \(I_{AB} = i+I\)。電池の起電力は \(E\)。
したがって、電池が供給する電力、すなわち回路全体の消費電力は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{全}} &= E I_{AB} \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則 (電池の供給電力 = 消費電力) \(P=EI\)
(ア)で求めた全電流 \(I_{AB} = 0.54\,\text{A}\) と \(E=12\,\text{V}\) を式⑭に代入します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{全}} &= 12 \times 0.54 \\[2.0ex]
&= 6.48\,\text{W}
\end{aligned}
$$
回路全体で消費される電力は、4つの抵抗で熱として使われる電力の合計です。これを計算するには2つの方法があります。一つは、4つの抵抗それぞれについて消費電力 \(P=RI^2\) を計算し、それらを全て足し合わせる方法。もう一つは、もっと簡単な方法で、回路で消費される電力はすべて電池が供給している、というエネルギー保存の考え方を使います。電池が送り出す全電流に電池の電圧を掛けた値 (\(P=EI\)) が、回路全体の消費電力と等しくなります。
回路全体での消費電力は \(6.48\,\text{W}\) です。別解の方が計算が簡単であり、エネルギー保存則の良い適用例です。どちらの方法でも同じ結果になることを確認することで、計算の確かさを増すことができます。
(エ)
思考の道筋とポイント
\(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするには、\(C_1\) と \(C_2\) が接続されているLN間の電位差が0になればよいです。つまり、L点とN点の電位が等しくなる (\(V_L = V_N\)) ことが条件です。これは、ホイートストンブリッジ回路において、中央の検流計(この場合はコンデンサーの枝)に電流が流れない「平衡条件」と全く同じです。ブリッジの対向する辺の抵抗の積が等しくなる、あるいは辺の比が等しくなるという条件式から、新しい抵抗 \(R_3’\) の値を求めます。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーに電荷がたまらない \(\Leftrightarrow\) コンデンサーの電圧が0 \(\Leftrightarrow\) L点とN点が等電位。
- これはホイートストンブリッジの平衡条件と同じ。
- 平衡条件: \(R_1 R_4 = R_2 R_3’\) または \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3′}{R_4}\)。
具体的な解説と立式
コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられない条件は、LN間の電位差が0、すなわち \(V_L = V_N\) となることです。
これはホイートストンブリッジの平衡条件として知られています。辺の比が等しくなるので、
$$
\begin{aligned}
\frac{R_1}{R_2} &= \frac{R_3′}{R_4} \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$
(ここで \(R_3\) は新しい抵抗 \(R_3’\) に置き換えられているとします)
この式を \(R_3’\) について解きます。
使用した物理公式
- ホイートストンブリッジの平衡条件: \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3′}{R_4}\)
ブリッジの平衡条件の式⑮を \(R_3’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
R_3′ &= R_4 \cdot \frac{R_1}{R_2}
\end{aligned}
$$
与えられた値を代入します: \(R_1=30\,\Omega\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\)。
$$
\begin{aligned}
R_3′ &= 30 \times \frac{30}{20} \\[2.0ex]
&= 30 \times 1.5 \\[2.0ex]
&= 45\,\Omega
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
ホイートストンブリッジの平衡条件の公式を直接使わずに、L点とN点の電位が等しくなるという基本条件から立式します。A点を基準として、A点からL点までの電圧降下と、A点からN点までの電圧降下が等しくなれば、L点とN点は等電位になります。
具体的な解説と立式
A点を基準(\(12\,\text{V}\))、B点を基準(\(0\,\text{V}\))とします。\(V_L = V_N\) となる条件を考えます。
A点からL点までの電圧降下は \(R_1 i\)。
A点からN点までの電圧降下は \(R_2 I\)。
よって、A点の電位を \(V_A\) とすると、\(V_L = V_A – R_1 i\), \(V_N = V_A – R_2 I\)。
\(V_L = V_N\) より、\(R_1 i = R_2 I\) となります。
ここで、\(i = \displaystyle\frac{E}{R_1+R_3′}\), \(I = \displaystyle\frac{E}{R_2+R_4}\) なので、
$$
\begin{aligned}
R_1 \frac{E}{R_1+R_3′} &= R_2 \frac{E}{R_2+R_4} \quad \cdots ⑯
\end{aligned}
$$
この式を解いても同じ結果が得られます。
式⑯の両辺から \(E\) を消去し、逆数をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{R_1+R_3′}{R_1} &= \frac{R_2+R_4}{R_2} \\[2.0ex]
1 + \frac{R_3′}{R_1} &= 1 + \frac{R_4}{R_2} \\[2.0ex]
\frac{R_3′}{R_1} &= \frac{R_4}{R_2} \\[2.0ex]
R_3′ &= R_1 \frac{R_4}{R_2}
\end{aligned}
$$
これは式⑮を変形したものと同じです。計算すると \(R_3′ = 45\,\Omega\) となります。
コンデンサーに電気がたまらないのは、コンデンサーの両端の電圧が0のとき、つまりL点とN点の電位(電気的な高さ)が同じになるときです。この状態は、ホイートストンブリッジ回路が「平衡している」状態と呼ばれます。ブリッジ回路が平衡するための条件は、たすき掛けに配置された抵抗の積が等しくなる (\(R_1 \times R_4 = R_2 \times R_3’\)) という便利な公式があります。この公式に分かっている抵抗値を入れて、新しい抵抗 \(R_3’\) の値を計算します。
\(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするには、\(R_3\) を \(45\,\Omega\) の抵抗と取り換えればよいです。これはホイートストンブリッジの平衡条件から導かれます。別解のように、電位の定義から出発しても同じ結論に至ることを確認することで、公式への理解が深まります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーと直流定常状態:
- 核心: 十分に時間が経過した直流回路では、コンデンサーは充電を完了し、その部分には電流が流れなくなる(断線とみなせる)。
- 理解のポイント: この性質により、複雑な回路も定常状態では電流が流れる部分と流れない部分に分け、単純化して考えることができる。
- 電流が流れない抵抗の扱い:
- 核心: 抵抗に電流が流れない場合、オームの法則 \(V=RI\) から抵抗の両端の電圧降下は0となる。つまり、その抵抗の両端は等電位である。
- 理解のポイント: これにより、回路中の複数の点が同じ電位であることがわかり、電位差の計算が容易になる。
- ホイートストンブリッジ回路の理解:
- 核心: 4つの抵抗をひし形に配置した回路。特に、中央の検流計(この問題ではコンデンサーの枝)に電流が流れない(または電位差がない)平衡条件 \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2}=\frac{R_3}{R_4}\) は非常に重要。
- 理解のポイント: コンデンサーの問題であっても、定常状態では抵抗のみのブリッジ回路として解析できることに気づくことが鍵。
- 電位の考え方:
- 核心: 回路内の任意の点を基準(\(0\,\text{V}\))として、各点の電位を考えることで、複雑な回路の電位差を系統的に計算できる。
- 理解のポイント: 基準点を一つ決めれば、そこからの電位の上昇(電池の正極側へ)や下降(抵抗を電流の向きに)を足し引きしていく。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンデンサーを含む直流回路の定常状態を問う問題全般。
- キルヒホッフの法則を用いる複雑な直流回路の問題。
- 未知の抵抗値を、特定の条件(例:電流が0、電位差が0)から決定する問題。
- 消費電力やジュール熱など、エネルギーに関する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「十分に時間がたった」というキーワード: この言葉があれば、まず「コンデンサーに電流は流れない」と考え、回路を単純化できないか検討する。
- 電流が流れる経路を特定する: コンデンサー部分を断線とみなして、電流が実際に流れる閉回路を見つけ出す。
- 等電位な点を探す: 電流が流れていない抵抗の両端は等電位であることを利用する。
- 基準電位を設定する: 回路のどこか一点(電池の負極など)の電位を\(0\,\text{V}\)とすると、他の点の電位が計算しやすくなる。
- ブリッジの形を見抜く: 抵抗がひし形に配置されている場合、ホイートストンブリッジの知識が使えないか疑う。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 定常状態でコンデンサーに電流が流れると考えてしまう:
- 誤解: コンデンサーの枝も通常の抵抗回路の一部として計算してしまう。
- 対策:「直流」「定常状態(十分時間後)」という条件が揃えば、コンデンサーは電流を遮断する「壁」になると覚える。
- 電位と電位差(電圧)の混同:
- 誤解:「A点の電圧」と「A-B間の電圧」のように、点の電位と2点間の電位差を混同して計算してしまう。
- 対策:電位は「点」が持つ量(基準点に対する高さ)、電圧・電位差は「2点間」の量(高さの差)と明確に区別する。
- 電流の流れる経路の誤認:
- 誤解:コンデンサーを無視した後の回路で、どこが直列でどこが並列かを見誤る。
- 対策:電流の気持ちになって、分岐点と合流点を意識しながら一本の道としてたどってみる。
- ホイートストンブリッジの平衡条件の覚え間違い:
- 誤解:\(\displaystyle\frac{R_1}{R_2}=\frac{R_3}{R_4}\) を \(\displaystyle\frac{R_1}{R_4}=\frac{R_2}{R_3}\) のように間違える。
- 対策:「隣り合う抵抗の比が等しい」(\(R_1:R_2 = R_3:R_4\)) または「たすき掛けの積が等しい」(\(R_1 R_4 = R_2 R_3\)) のように、図とセットで視覚的に覚える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コンデンサーに電流0 (直流定常状態):
- 選定理由:問題文に「十分に時間がたったとき」とあり、直流電源なので、コンデンサーの充電が完了し定常状態に達したと判断するため。
- 適用根拠:コンデンサーは2枚の導体が絶縁体で隔てられている構造上、電荷の移動(電流)は充電・放電の過渡的な瞬間にしか生じず、電位差が安定すると電流は流れなくなる。
- オームの法則 \(V=RI\):
- 選定理由:抵抗を含む閉回路において、電圧、抵抗、電流の関係を記述するため。
- 適用根拠:金属抵抗など、電圧と電流が比例関係にある「オームの法則」に従う素子に対して適用できる。
- 直列コンデンサーの電圧分配 \(V_1 = \displaystyle\frac{C_2}{C_1+C_2}E\):
- 選定理由:複数のコンデンサーが直列に接続されている場合に、各コンデンサーにかかる電圧を効率的に計算するため。
- 適用根拠:直列接続では各コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) が等しくなるという性質 (\(Q=C_1V_1=C_2V_2\)) と、全体の電圧が各電圧の和になる (\(E=V_1+V_2\)) という関係から導かれる。
- 全体の消費電力 \(P = EI_{\text{全}}\):
- 選定理由:回路全体の消費電力を、各抵抗で個別に計算する手間を省き、より簡単に求めるため。
- 適用根拠:エネルギー保存則。定常状態では、電池が単位時間あたりに供給するエネルギー (\(EI_{\text{全}}\)) は、すべて回路内の抵抗で熱として消費されるエネルギー(消費電力)に等しくなる。
- ホイートストンブリッジの平衡条件 \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}\):
- 選定理由:ブリッジ回路の中央の枝に電流が流れない、あるいは電位差がないという特殊な条件を扱うため。
- 適用根拠:中央の枝の両端の電位が等しくなるという条件を、各アームでの電圧降下の比が等しいという形で数式化したもの。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認:
- 特に注意すべき点: \(\mu\text{F}\) (マイクロファラド) は \(10^{-6}\text{F}\)。計算時には単位系を揃える意識を持つ(ただし、比の計算などでは不要な場合もある)。
- 日頃の練習: 問題に着手する前に、与えられた数値の単位(特に接頭辞)を確認する癖をつける。
- 基準電位の明確化:
- 特に注意すべき点: 電位を計算する際は、どこを\(0\,\text{V}\)と見なしているかを常に明確にする。基準が変われば各点の電位の値も変わるが、電位「差」は変わらない。
- 日頃の練習: 回路図に基準点(例:アース記号や「\(0\,\text{V}\)」の書き込み)を自分で追加する習慣をつける。
- 回路図の再描画:
- 特に注意すべき点: 複雑な回路は、自分の分かりやすい形に描き直すことで、直列・並列の関係や電流の経路が見やすくなり、ミスを減らせる。
- 日頃の練習: ブリッジ回路などを、四角形や別のトポロジーで描く練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) LN間の電位差: \(V_{LN}=4.8\,\text{V}\)。Lの方が高電位。A点(\(12\,\text{V}\))から\(R_2\) (\(20\,\Omega\))を通ってN点へ、A点から\(R_1\) (\(30\,\Omega\))を通ってL点へ。この時点では\(R_1\)に電流が流れないので\(V_L=V_A=12\,\text{V}\)。\(V_N\)は\(12\,\text{V}\)より低いはずなので、\(V_L>V_N\)は妥当。
- (3)(イ) LN間の電位差: \(V_{LN}=-4.2\,\text{V}\)。Nの方が高電位。A点から見て、\(R_1/(R_1+R_3) = 30/40 = 3/4\)、\(R_2/(R_2+R_4) = 20/50 = 2/5\)。電圧降下の比率が\(3/4\)と\(2/5\)では\(3/4\)の方が大きいので、L点の方がN点より電位が低くなるはず。\(V_L < V_N\)は妥当。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし\(R_3\)が非常に大きければ(\(R_3 \rightarrow \infty\))、上側アームの電流\(i\)は0に近づく。このときL点の電位はA点に近づく。
- もしブリッジが平衡していれば(\(R_3=45\,\Omega\))、\(V_L=V_N\)となり、コンデンサーの電荷は0になるはず。これは(エ)の問いそのものであり、整合性がある。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題26 (慶應大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗、コンデンサー、スイッチ、電池を組み合わせた複雑な回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路の状態が変化し、特にスイッチ操作の直後や、十分に時間が経過した「定常状態」での各部の電圧、電流、電荷などを考察します。電気量保存則や電位の考え方、そしてエネルギー保存則(ジュール熱を含む)といった、直流回路における重要な概念が総合的に問われます。
- 回路素子:
- 電池 E: 起電力 \(E\), 内部抵抗は無視。
- コンデンサー: \(C_1\) (容量 \(C_1\)), \(C_2\) (容量 \(C_2\))。
- 抵抗: \(R_1\) (抵抗値 \(R_1\)), \(R_2\) (抵抗値 \(R_2\))。
- スイッチ: K1, K2。
- 初期状態: K1, K2は開いており、\(C_1\), \(C_2\) に電荷は蓄えられていない。
- ア〜エ: K1を閉じ、K2を開いたまま十分に時間がたったとき、
- ア. \(C_1\) の電圧
- イ. Bに対するAの電位
- ウ. 電池Eが単位時間に失うエネルギー(供給電力)
- エ. \(C_2\) に蓄えられているエネルギー
- オ, カ: (1)の後、K2も閉じて十分に時間がたったとき、
- オ. \(C_1\) の電気量
- カ. K2を通った電気量の大きさ
- キ: (2)の後、K2を開き、次にK1を開いた後の、Dに対するBの最終的な電位。
- 【コラム】Q: (3)でK1を開いた後に\(R_1\)で発生するジュール熱(ただし \(C_2=2C_1, R_2=2R_1\) とする)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) イ Bに対するAの電位の別解: 基準電位をG点(0V)とする電位法
- 主たる解法が、A点とB点の電位をそれぞれ電圧分配の公式から求め、その差を計算するのに対し、別解ではG点を基準電位\(0\,\text{V}\)とし、A点とB点の電位をキルヒホッフの法則(電圧則)に従って計算し、その差を求めます。これは電位法の基本であり、より汎用的なアプローチです。
- 問(3) キ Dに対するBの最終的な電位の別解: 電位法による機械的な解法
- 主たる解法が、最終状態を「コンデンサーの並列接続」と物理的に解釈して解くのに対し、別解では最終状態の未知の電位を文字で置き、孤立部分の電気量保存則から機械的に方程式を立てて解きます。
- 問(1) イ Bに対するAの電位の別解: 基準電位をG点(0V)とする電位法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の汎用性: 特に電位法を用いる別解は、回路の形状によらず適用できる非常に強力で汎用的な手法です。物理的なひらめきに頼らずとも、機械的な立式で答えにたどり着けるスキルを養います。
- 物理モデルの検証: 異なるアプローチで同じ結論に達することを確認することで、「最終状態では抵抗の両端が等電位になり、結果的にコンデンサーが並列接続とみなせる」といった物理モデルの正しさをより深く理解することができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、複数の操作によって変化する回路の状態を正確に追跡する能力が求められます。特に「十分に時間がたった」という言葉が示す「直流定常状態」では、コンデンサーは電流を通さない「断線」とみなせる点が基本となります。複雑な回路に見えますが、各点の電位を丁寧に設定し、電気量保存則を適用することで解き進めることができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの直流定常状態: 十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、その部分には電流が流れなくなります。
- キルヒホッフの法則: 回路内の電流や電位差を計算するための基本法則です。
- 電気量保存則: 外部と電気のやり取りがない孤立した導体部分の総電荷は、操作の前後で一定に保たれます。
- 電位: 回路内の基準点を\(0\,\text{V}\)とし、各点の電位を考えることで、複雑な回路の電位差を系統的に計算できます。
- エネルギー保存則: (電池がした仕事) = (静電エネルギーの変化) + (ジュール熱) というエネルギー収支の関係が成り立ちます。