問題25 (室蘭工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗とコンデンサーが組み合わさったブリッジ回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路の構成が変化し、特に「十分に時間がたった」定常状態において、各部の電流や電位、コンデンサーに蓄えられる電荷などを考察します。コンデンサーが直流定常状態でどのように振る舞うかを正しく理解しているかが鍵となります。
- 4つの抵抗: \(R_1=30\,\Omega\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_3=10\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\)。
- 2つのコンデンサー: \(C_1=20\,\mu\text{F}\), \(C_2=30\,\mu\text{F}\)。
- 1つの電池: 起電力 \(E=12\,\text{V}\)(内部抵抗は無視)。
- 2つのスイッチ: S1, S2。
- 初期状態: 各操作のはじめには、コンデンサーに電荷は蓄えられていない。
- S1, S2 をともに開いた状態での、Lに対するMの電位。
- S1を閉じ、S2 を開いた状態での、AB間を流れる電流、LとNの電位の大小、LN間の電位差。
- S1, S2 をともに閉じた状態で、
- (ア) AB間を流れる電流。
- (イ) \(C_1\) のL側の極板に蓄えられた電荷。
- (ウ) 回路全体での消費電力。
- (エ) \(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするための \(R_3\) の代替抵抗値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のポイントは、コンデンサーを含む直流回路の「定常状態」の扱いです。「十分に時間がたった」という記述は、コンデンサーの充電が完了し、回路の状態が時間的に変化しなくなった定常状態を指します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- コンデンサーの直流定常状態: 十分に時間が経過した直流回路において、コンデンサーは充電(または放電)を完了し、電流を通さなくなります。これは、コンデンサー部分が「断線」していると見なせることを意味します。
- 電流が流れない抵抗: 抵抗に電流が流れない場合、オームの法則 \(V=RI\) より、その抵抗の両端の電圧降下は0になります。つまり、その抵抗の両端は「等電位」です。
- オームの法則: \(V=RI\)。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則):回路の分岐点で電流の総和は0。
- 第2法則(電圧則):閉回路での電位の変化の総和は0。
- コンデンサーの基本: \(Q=CV\)。
- 直列・並列回路: 抵抗やコンデンサーの合成。
- 消費電力: \(P=IV=RI^2\)。
- ホイートストンブリッジ: (3)(エ)では、ブリッジ回路の平衡条件が鍵となります。
全体的な戦略
- 各設問の回路構成を正確に把握し、定常状態において電流が流れる経路と流れない経路を特定します。
- 電流が流れない抵抗は等電位であることを利用して、回路の各点の電位を求めていきます。
- コンデンサーにかかる電圧(電位差)を求め、\(Q=CV\) を使って電荷を計算します。
- 電池や抵抗の消費電力は、流れる電流と電圧(または抵抗値)から計算します。
問 (1)
思考の道筋とポイント
S1, S2がともに開いている状態です。このとき、回路は電池Eとコンデンサー\(C_1\), \(C_2\)のみが直列に接続された単純な回路となります。抵抗には電流が流れません。
十分に時間がたつと、\(C_1\)と\(C_2\)の充電が完了します。
問われているのは「Lに対するMの電位」です。これは、M点の電位からL点の電位を引いた値 (\(V_M – V_L\)) です。これは、コンデンサー\(C_1\)の電圧 \(V_1\) の正負を考慮したものと同じです。
直列に接続されたコンデンサーでは、全体の電圧が各コンデンサーの電気容量の逆比に分配されます。
この設問における重要なポイント
- S1, S2が開いているため、抵抗は回路に関与しない。
- \(C_1\)と\(C_2\)は電池\(E\)に対して直列接続となる。
- 直列コンデンサーでは、電圧は電気容量の逆比に分配される。
- Lは電池の正極側、Mは\(C_1\)と\(C_2\)の中間、Nは電池の負極側につながるため、Lの方がMより電位が高い。
具体的な解説と立式
S1, S2が開いているため、抵抗 \(R_1, R_2, R_3, R_4\) には電流が流れません。回路は電池Eとコンデンサー\(C_1, C_2\)の直列回路と見なせます。
十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了します。
\(C_1\)と\(C_2\)にかかる電圧をそれぞれ \(V_1, V_2\) とすると、直列コンデンサーの電圧分配の公式より、\(C_1\)にかかる電圧 \(V_1\) は、
$$V_1 = \frac{C_2}{C_1+C_2}E \quad \cdots ①$$
Lは電池の正極側、Mは\(C_1\)の負極側に接続されるため、Lの方がMより電位が高くなります。したがって、Lに対するMの電位は負の値となり、その大きさは\(C_1\)にかかる電圧 \(V_1\) に等しく、\(-V_1\) となります。
使用した物理公式
- 直列コンデンサーの電圧分配: \(V_k \propto 1/C_k\)
与えられた値 \(C_1 = 20\,\mu\text{F}\), \(C_2 = 30\,\mu\text{F}\), \(E=12\,\text{V}\) を式①に代入します。
$$V_1 = \frac{30\,\mu\text{F}}{20\,\mu\text{F} + 30\,\mu\text{F}} \times 12\,\text{V} = \frac{30}{50} \times 12\,\text{V} = \frac{3}{5} \times 12\,\text{V} = 7.2\,\text{V}$$
L点の方がM点より電位が高いので、Lに対するMの電位は \(-V_1\) です。
$$V_M – V_L = -7.2\,\text{V}$$
- 回路を単純化する: スイッチが開いているので、抵抗は関係ありません。電池に2つのコンデンサー \(C_1, C_2\) がまっすぐ(直列に)つながっているだけの回路です。
- 電圧の分け方を考える: 直列につながれたコンデンサーでは、電池の電圧がそれぞれのコンデンサーに分けられます。このとき、電気容量が小さい方により大きな電圧がかかります(容量の逆比)。
- C1の電圧を計算する: \(C_1\) と \(C_2\) の容量は \(20:30=2:3\) なので、電圧は逆比の \(3:2\) に分けられます。全体の電圧12Vを \(3:2\) に分けるので、\(C_1\) にかかる電圧は \(12 \times \frac{3}{3+2} = 7.2\,\text{V}\) です。
- 電位を答える: Lは電池のプラス側、Mはマイナス側にあるので、Lの方が電位が高いです。「Lに対するMの電位」は、Mの電位からLの電位を引くので、マイナスの値になり \(-7.2\,\text{V}\) となります。
Lに対するMの電位は \(-7.2\,\text{V}\) です。これは模範解答と一致します。コンデンサーが直列の場合、電圧は容量の逆比に分配されるという基本事項を正しく適用できるかが問われています。
問 (2)
思考の道筋とポイント
S1を閉じ、S2を開いた状態で十分に時間がたったときを考えます。
定常状態ではコンデンサー\(C_1, C_2\)には電流が流れません。したがって、コンデンサーが接続されている経路(A-L-M-N、L-R3-B)には電流が流れないことになります。
結果として、抵抗\(R_1\)と\(R_3\)には電流が流れません。
電流が流れるのは、A→R2→N→R4→B→電池→Aという閉回路のみです。この回路では、抵抗\(R_2\)と\(R_4\)が直列に接続されています。
AB間を流れる電流: この閉回路にオームの法則を適用して求めます。
LとNの電位の大小: \(R_1\)に電流が流れないため、A点とL点は等電位です。一方、A点とN点の間には抵抗\(R_2\)があり、ここに電流が流れるため電圧降下が生じます。電流の向きからAとNの電位の大小を比較し、LとNの大小を判断します。
LN間の電位差: LとNの電位差は、AとNの電位差に等しくなります。これは抵抗\(R_2\)にかかる電圧です。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサーに電流は流れない。
- 電流が流れない抵抗の両端は等電位。
- 電流が流れる経路を特定し、その部分回路でオームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
定常状態では、コンデンサーを含む枝には電流が流れません。したがって、\(R_1\)と\(R_3\)には電流が流れません。
電流 \(I\) は、電池E、抵抗\(R_2\)、抵抗\(R_4\)からなる閉回路のみを流れます。この回路で\(R_2\)と\(R_4\)は直列接続です。
回路全体の合成抵抗は \(R_{24} = R_2 + R_4\)。
オームの法則より、AB間を流れる電流 \(I\) は、
$$E = (R_2+R_4)I \quad \cdots ②$$
抵抗\(R_1\)に電流が流れないため、A点とL点の電位は等しくなります (\(V_A = V_L\))。
電流\(I\)はA→R2→Nの向きに流れるため、A点の方がN点よりも電位が高くなります (\(V_A > V_N\))。
したがって、\(V_L > V_N\) となり、Lの方がNより電位が高いです。
LN間の電位差 \(V_{LN}\) は \(V_L – V_N\)。\(V_L=V_A\)なので、\(V_{LN} = V_A – V_N\)。
これは、抵抗\(R_2\)の両端の電圧降下に等しいです。
$$V_{LN} = R_2 I \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 合成抵抗(直列): \(R = R_1+R_2\)
まず、式②に \(E=12\,\text{V}\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\) を代入して電流 \(I\) を求めます。
$$12 = (20+30)I$$
$$50I = 12$$
$$I = \frac{12}{50} = 0.24\,\text{A}$$
次に、式③に \(R_2=20\,\Omega\) と求めた電流 \(I=0.24\,\text{A}\) を代入してLN間の電位差 \(V_{LN}\) を求めます。
$$V_{LN} = 20\,\Omega \times 0.24\,\text{A} = 4.8\,\text{V}$$
- 電流の流れる道筋を見つける: 十分に時間がたつと、コンデンサーには電流が流れなくなります。そのため、\(R_1\) や \(R_3\) にも電流は流れません。電流は、電池から出て、A→\(R_2\)→N→\(R_4\)→Bを通って電池に戻るルートだけを流れます。
- 電流を計算する: このルートでは、\(R_2\) と \(R_4\) が直列につながっています。回路全体の抵抗は \(20\Omega+30\Omega=50\Omega\) です。オームの法則 \(I=E/R\) から、電流は \(12\text{V} / 50\Omega = 0.24\text{A}\) となります。
- 電位を比較する: \(R_1\) に電流が流れないので、A点とL点は同じ電位です。一方、A点からN点へは電流が流れているので、A点の方がN点より電位が高いです。したがって、L点の方がN点より電位が高くなります。
- 電位差を計算する: LとNの電位差は、AとNの電位差と同じです。これは抵抗 \(R_2\) にかかる電圧なので、オームの法則 \(V=RI\) から \(20\Omega \times 0.24\text{A} = 4.8\text{V}\) と計算できます。
AB間を流れる電流は \(0.24\,\text{A}\)。電位はLの方がNより高い。LN間の電位差は \(4.8\,\text{V}\)。
全ての結果は模範解答と一致します。定常状態のコンデンサーの扱いが正しくできれば、単純な直流回路の問題として解くことができます。
問 (3)
(ア)
思考の道筋とポイント
S1, S2をともに閉じた状態で十分に時間がたったときを考えます。
この場合も、定常状態なのでコンデンサー\(C_1, C_2\)には電流が流れません。
回路は、電池Eに対して、上側のアーム(抵抗\(R_1\)と\(R_3\)の直列)と下側のアーム(抵抗\(R_2\)と\(R_4\)の直列)が並列に接続された形、すなわちホイートストンブリッジ回路の構成になります。
AB間を流れる電流は、上側アームを流れる電流 \(i\) と下側アームを流れる電流 \(I\) の合計になります。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサーに電流は流れない。
- 回路は抵抗のみのホイートストンブリッジ回路と見なせる。
- 上側のアームと下側のアームは、それぞれ電池に並列に接続されている。
- 各アームを流れる電流を個別に計算し、合計する。
具体的な解説と立式
定常状態では、コンデンサーには電流が流れません。
上側のアーム(A→L→R3→B)の合成抵抗は \(R_{13} = R_1 + R_3\)。このアームには電池の電圧 \(E\) がかかります。流れる電流を \(i\) とすると、オームの法則より、
$$E = (R_1+R_3)i \quad \cdots ④$$
下側のアーム(A→R2→N→R4→B)の合成抵抗は \(R_{24} = R_2 + R_4\)。このアームにも電池の電圧 \(E\) がかかります。流れる電流を \(I\) とすると、オームの法則より、
$$E = (R_2+R_4)I \quad \cdots ⑤$$
AB間を流れる電流 \(I_{AB}\) は、A点で合流(またはB点で分岐)するこれらの電流の和です。
$$I_{AB} = i + I \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 合成抵抗(直列)
- キルヒホッフの第1法則
まず、上側アームの電流 \(i\) を式④から求めます。\(R_1=30\,\Omega, R_3=10\,\Omega, E=12\,\text{V}\)。
$$12 = (30+10)i$$
$$40i = 12$$
$$i = \frac{12}{40} = 0.3\,\text{A}$$
次に、下側アームの電流 \(I\) を式⑤から求めます。\(R_2=20\,\Omega, R_4=30\,\Omega, E=12\,\text{V}\)。
$$12 = (20+30)I$$
$$50I = 12$$
$$I = \frac{12}{50} = 0.24\,\text{A}$$
最後に、AB間の全電流 \(I_{AB}\) を式⑥から求めます。
$$I_{AB} = 0.3\,\text{A} + 0.24\,\text{A} = 0.54\,\text{A}$$
別解: 回路全体の合成抵抗
思考の道筋とポイント
上下のアームの合成抵抗をそれぞれ計算し、それらの並列合成抵抗を求めることで回路全体の抵抗を算出します。その後、オームの法則から全電流を求めます。
具体的な解説と立式
上側のアームの抵抗は \(R_{13} = R_1+R_3\)。
下側のアームの抵抗は \(R_{24} = R_2+R_4\)。
これらが並列に接続されているので、回路全体の合成抵抗を \(R_{\text{全}}\) とすると、
$$\frac{1}{R_{\text{全}}} = \frac{1}{R_1+R_3} + \frac{1}{R_2+R_4} \quad \cdots {\text{別}⑦}$$
AB間を流れる電流(全電流) \(I_{AB}\) は、オームの法則より、
$$I_{AB} = \frac{E}{R_{\text{全}}} \quad \cdots {\text{別}⑧}$$
上側アームの抵抗 \(R_{13} = 30+10 = 40\,\Omega\)。
下側アームの抵抗 \(R_{24} = 20+30 = 50\,\Omega\)。
式(別⑦)より、
$$\frac{1}{R_{\text{全}}} = \frac{1}{40} + \frac{1}{50} = \frac{5+4}{200} = \frac{9}{200}\,\Omega^{-1}$$
よって、\(R_{\text{全}} = \frac{200}{9}\,\Omega\)。
式(別⑧)より、
$$I_{AB} = \frac{12 \text{ V}}{200/9\,\Omega} = \frac{12 \times 9}{200} = \frac{108}{200} = 0.54\,\text{A}$$
- 回路を理解する: スイッチを両方閉じると、コンデンサー部分は電流が流れないので無視できます。回路は、上の道(\(R_1\)と\(R_3\))と下の道(\(R_2\)と\(R_4\))の2つに分かれ、これらが電池に並列につながっている形になります。
- 各ルートの電流を計算する: 上の道と下の道、それぞれに12Vの電圧がかかっています。それぞれの道の合計抵抗を計算し、オームの法則を使って各道を流れる電流を求めます。
- 電流を合計する: AB間を流れる電流は、上の道と下の道の電流の合計です。
AB間を流れる電流は \(0.54\,\text{A}\) です。別解の方法でも同じ結果が得られます。
(イ)
思考の道筋とポイント
\(C_1\)のL側の極板に蓄えられた電荷を求めます。そのためには、\(C_1\)の両端の電位差、すなわちLN間の電位差 \(V_{LN}\) を求める必要があります。
定常状態なので、各抵抗の電圧降下からL点とN点の電位を計算できます。計算を簡単にするため、回路のどこかを基準電位(0V)とします。例えば、B点の電位を0Vとすると、A点の電位は \(E=12\text{V}\) となります。
L点の電位 \(V_L\) は、B点(0V)から抵抗\(R_3\)を電流\(i\)の向きと逆にたどるので、\(V_L = R_3 i\)。
N点の電位 \(V_N\) は、B点(0V)から抵抗\(R_4\)を電流\(I\)の向きと逆にたどるので、\(V_N = R_4 I\)。
LN間の電位差 \(V_{LN} = V_L – V_N\) を求めます。
\(C_1\)と\(C_2\)は直列に接続されているので、合成容量 \(C_{12}\) を求め、LN間の電位差 \(V_{LN}\) からコンデンサーに蓄えられる総電荷 \(Q\) を \(Q = C_{12}V_{LN}\) で計算します。
\(C_1\)のL側極板の電荷は、LとNの電位の大小関係によって符号が決まります。
この設問における重要なポイント
- L点とN点の電位を求める。
- LN間の電位差を計算する。
- \(C_1, C_2\)の直列合成容量を求める。
- \(Q=CV\) を用いてコンデンサーに蓄えられる電荷を計算する。
- L側極板の電荷の符号は、L点とN点の電位の高低で決まる。
具体的な解説と立式
B点の電位を \(V_B = 0\,\text{V}\) と基準にとります。すると、A点の電位は \(V_A = 12\,\text{V}\)。
上側のアームを流れる電流は \(i = 0.3\,\text{A}\)。下側のアームを流れる電流は \(I = 0.24\,\text{A}\)。
L点の電位 \(V_L\) は、B点から\(R_3\)だけ遡った点なので、
$$V_L = V_B + R_3 i \quad \cdots ⑨$$
N点の電位 \(V_N\) は、B点から\(R_4\)だけ遡った点なので、
$$V_N = V_B + R_4 I \quad \cdots ⑩$$
LN間の電位差は \(V_{LN} = V_L – V_N\)。
コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は直列接続なので、その合成容量 \(C_{12}\) は、
$$\frac{1}{C_{12}} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} \quad \cdots ⑪$$
LN間に蓄えられる総電荷の大きさ \(Q\) は、
$$Q = C_{12} |V_{LN}| \quad \cdots ⑫$$
\(C_1\)のL側極板の電荷は、\(L\)と\(M\)の間の極板の電荷です。LとNの電位差によって、直列接続された\(C_1\)と\(C_2\)に電荷がたまります。\(V_L\)と\(V_N\)の大小を比較し、\(C_1\)のL側極板の電荷の符号を決定します。
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 直列コンデンサーの合成容量: \(\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\)
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
まず、L点とN点の電位を計算します。 \(V_B = 0\,\text{V}\) としています。
式⑨に値を代入: \(R_3=10\,\Omega, i=0.3\,\text{A}\)。
$$V_L = 0 + 10 \times 0.3 = 3.0\,\text{V}$$
式⑩に値を代入: \(R_4=30\,\Omega, I=0.24\,\text{A}\)。
$$V_N = 0 + 30 \times 0.24 = 7.2\,\text{V}$$
したがって、LN間の電位差は \(V_{LN} = V_L – V_N = 3.0 – 7.2 = -4.2\,\text{V}\)。
電位はNの方がLより \(4.2\,\text{V}\) 高いことがわかります。
次に、合成容量 \(C_{12}\) を式⑪から求めます: \(C_1=20\,\mu\text{F}, C_2=30\,\mu\text{F}\)。
$$\frac{1}{C_{12}} = \frac{1}{20} + \frac{1}{30} = \frac{3+2}{60} = \frac{5}{60} = \frac{1}{12}$$
$$C_{12} = 12\,\mu\text{F} = 12 \times 10^{-6}\,\text{F}$$
LN間に蓄えられる総電荷の大きさ \(Q\) を式⑫から求めます。
$$Q = (12 \times 10^{-6}\,\text{F}) \times |-4.2\,\text{V}| = 50.4 \times 10^{-6}\,\text{C}$$
L点よりN点の方が電位が高いので、\(C_1\)のL側極板は負に、N側(M点側)は正に帯電します。
よって、\(C_1\)のL側極板に蓄えられた電荷は、
$$Q_{C1L} = -Q = -50.4 \times 10^{-6}\,\text{C} = -5.04 \times 10^{-5}\,\text{C}$$
- L点とN点の電位を求める: 電流が分かっているので、オームの法則を使って各抵抗での電圧降下を計算し、L点とN点の電位を求めます。例えばB点を0Vとすると、L点は \(R_3\) をさかのぼるので \(10\Omega \times 0.3\text{A} = 3\text{V}\)、N点は \(R_4\) をさかのぼるので \(30\Omega \times 0.24\text{A} = 7.2\text{V}\) となります。
- コンデンサーにかかる電圧を知る: LとNの電位差は \(7.2\text{V} – 3.0\text{V} = 4.2\text{V}\) で、Nの方が高電位です。
- コンデンサーの電荷を計算する: \(C_1\) と \(C_2\) が直列につながっており、その両端に4.2Vの電圧がかかっています。まず2つのコンデンサーを1つに合成し(合成容量を計算し)、\(Q=CV\) の公式から全体の電荷 \(Q\) を求めます。
- 極板の電荷の符号を決める: Nの方がLより電位が高いので、コンデンサーのN側がプラス、L側がマイナスに帯電します。したがって、\(C_1\) のL側極板の電荷はマイナスになります。
\(C_1\) のL側の極板に蓄えられた電荷は \(-50.4\,\mu\text{C}\) すなわち \(-5.04 \times 10^{-5}\,\text{C}\) です。
模範解答と一致します。各点の電位を正確に計算し、コンデンサーの極性を判断することが重要です。
(ウ)
思考の道筋とポイント
回路全体での消費電力を求めます。消費電力は、各抵抗でジュール熱として消費される電力の合計です。
各抵抗を流れる電流は(ア)で求めています。上側のアーム(\(R_1, R_3\))には \(i=0.3\text{A}\)、下側のアーム(\(R_2, R_4\))には \(I=0.24\text{A}\) が流れています。
各抵抗での消費電力は \(P=RI^2\) で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 消費電力は抵抗で発生する。
- 各抵抗の消費電力 \(P=RI^2\) を計算し、全て合計する。
- 別解として、電池が供給する電力 \(P=EI_{全}\) に等しいことを利用する(エネルギー保存則)。
具体的な解説と立式
回路全体での消費電力 \(P_{\text{全}}\) は、4つの抵抗での消費電力の和です。
$$P_{\text{全}} = R_1 i^2 + R_3 i^2 + R_2 I^2 + R_4 I^2 = (R_1+R_3)i^2 + (R_2+R_4)I^2 \quad \cdots ⑬$$
別解: 電池の供給電力
エネルギー保存則より、定常状態において回路全体で消費される電力は、電池が供給する電力に等しくなります。
電池から流れ出す全電流は \(I_{AB} = i+I\)。電池の起電力は \(E\)。
したがって、
$$P_{\text{全}} = E I_{AB} \quad \cdots ⑭$$
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=RI^2\)
- エネルギー保存則 (電池の供給電力 = 消費電力) \(P=EI\)
主たる解法:
式⑬に値を代入します: \(R_1=30, R_3=10, i=0.3\)、\(R_2=20, R_4=30, I=0.24\)。
$$P_{\text{全}} = (30+10) \times (0.3)^2 + (20+30) \times (0.24)^2$$
$$P_{\text{全}} = 40 \times 0.09 + 50 \times 0.0576$$
$$P_{\text{全}} = 3.6 + 2.88 = 6.48\,\text{W}$$
別解の計算:
(ア)で求めた全電流 \(I_{AB} = 0.54\,\text{A}\) と \(E=12\,\text{V}\) を式⑭に代入します。
$$P_{\text{全}} = 12\,\text{V} \times 0.54\,\text{A} = 6.48\,\text{W}$$
回路全体で消費される電力は、4つの抵抗で熱として使われる電力の合計です。
方法1: 4つの抵抗それぞれについて、消費電力 \(P=RI^2\) を計算し、それらを全て足し合わせます。
方法2: 回路で消費される電力は、全て電池が供給しています。したがって、電池が送り出す全電流に電池の電圧を掛けた値 (\(P=EI\)) が、回路全体の消費電力と等しくなります。
回路全体での消費電力は \(6.48\,\text{W}\) です。別解の方が計算が簡単であり、エネルギー保存則の良い適用例です。
(エ)
思考の道筋とポイント
\(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするには、\(C_1\) と \(C_2\) が接続されているLN間の電位差が0になればよいです。つまり、L点とN点の電位が等しくなる (\(V_L = V_N\)) ことが条件です。
これは、ホイートストンブリッジ回路において、中央の検流計(この場合はコンデンサーの枝)に電流が流れない「平衡条件」と全く同じです。
ブリッジの対向する辺の抵抗の積が等しくなればよいので、\(R_1 R_4 = R_2 R_3’\) となります。ここで \(R_3’\) は新しく置き換える抵抗の値です。
この条件式から \(R_3’\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーに電荷がたまらない \(\Leftrightarrow\) コンデンサーの電圧が0 \(\Leftrightarrow\) L点とN点が等電位。
- これはホイートストンブリッジの平衡条件と同じ。
- 平衡条件: \(R_1 R_4 = R_2 R_3’\)。
具体的な解説と立式
コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられない条件は、LN間の電位差が0、すなわち \(V_L = V_N\) となることです。
これはホイートストンブリッジの平衡条件として知られています。辺の比が等しくなるので、
$$\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3′}{R_4} \quad \cdots ⑮$$
(ここで \(R_3\) は新しい抵抗 \(R_3’\) に置き換えられているとします)
この式を \(R_3’\) について解きます。
別解: 電圧分配による立式
L点とN点の電位が等しくなる条件を、電圧分配の観点から立式します。
上側アームでは、A-B間の電圧Eが\(R_1\)と\(R_3’\)に分配されます。L点の電位(B点基準)は、
$$V_L = \frac{R_1}{R_1+R_3′} E$$
(A点基準で考えると、\(V_{AL} = R_1 i = R_1 \frac{E}{R_1+R_3′}\) となる)
N点の電位(B点基準)は、
$$V_N = \frac{R_2}{R_2+R_4} E$$
(こちらもA点基準で、\(V_{AN} = R_2 I = R_2 \frac{E}{R_2+R_4}\))
A点基準で \(V_{AL} = V_{AN}\) とするのが分かりやすいでしょう。
$$\frac{R_1}{R_1+R_3′}E = \frac{R_2}{R_2+R_4}E \quad \cdots {\text{別}⑯}$$
この式を解いても同じ結果が得られます。
使用した物理公式
- ホイートストンブリッジの平衡条件: \(\displaystyle\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3′}{R_4}\)
ブリッジの平衡条件の式⑮を \(R_3’\) について解くと、
$$R_3′ = R_4 \cdot \frac{R_1}{R_2}$$
与えられた値を代入します: \(R_1=30\,\Omega\), \(R_2=20\,\Omega\), \(R_4=30\,\Omega\)。
$$R_3′ = 30\,\Omega \times \frac{30\,\Omega}{20\,\Omega} = 30 \times 1.5 = 45\,\Omega$$
- コンデンサーに電気がたまらない条件: コンデンサーに電気がたまらないのは、コンデンサーの両端の電圧が0のときです。つまり、L点とN点の電位が同じになればよいわけです。
- ブリッジ回路の平衡: この「L点とN点の電位が同じ」という状態は、ホイートストンブリッジ回路が「平衡している」状態と同じです。
- 平衡条件の公式: ブリッジ回路が平衡するための条件は、たすき掛けに配置された抵抗の積が等しくなる、という公式があります (\(R_1 \times R_4 = R_2 \times R_3’\))。あるいは、辺の比が等しい (\(R_1/R_2 = R_3’/R_4\)) とも書けます。
- 抵抗値を計算する: この公式に分かっている抵抗値を入れて、新しい抵抗 \(R_3’\) の値を計算します。
\(C_1\) と \(C_2\) に電荷が蓄えられないようにするには、\(R_3\) を \(45\,\Omega\) の抵抗と取り換えればよいです。これはホイートストンブリッジの平衡条件から導かれます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーと直流定常状態:
- 核心:十分に時間が経過した直流回路では、コンデンサーは充電を完了し、その部分には電流が流れなくなる(断線とみなせる)。
- 理解のポイント:この性質により、複雑な回路も定常状態では電流が流れる部分と流れない部分に分け、単純化して考えることができる。
- 電流が流れない抵抗の扱い:
- 核心:抵抗に電流が流れない場合、オームの法則 \(V=RI\) から抵抗の両端の電圧降下は0となる。つまり、その抵抗の両端は等電位である。
- 理解のポイント:これにより、回路中の複数の点が同じ電位であることがわかり、電位差の計算が容易になる。
- ホイートストンブリッジ回路の理解:
- 核心:4つの抵抗をひし形に配置した回路。特に、中央の検流計(この問題ではコンデンサーの枝)に電流が流れない(または電位差がない)平衡条件 \(\frac{R_1}{R_2}=\frac{R_3}{R_4}\) は非常に重要。
- 理解のポイント:コンデンサーの問題であっても、定常状態では抵抗のみのブリッジ回路として解析できることに気づくことが鍵。
- 電位の考え方:
- 核心:回路内の任意の点を基準(0V)として、各点の電位を考えることで、複雑な回路の電位差を系統的に計算できる。
- 理解のポイント:基準点を一つ決めれば、そこからの電位の上昇(電池の正極側へ)や下降(抵抗を電流の向きに)を足し引きしていく。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- コンデンサーを含む直流回路の定常状態を問う問題全般。
- キルヒホッフの法則を用いる複雑な直流回路の問題。
- 未知の抵抗値を、特定の条件(例:電流が0、電位差が0)から決定する問題。
- 消費電力やジュール熱など、エネルギーに関する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「十分に時間がたった」というキーワード: この言葉があれば、まず「コンデンサーに電流は流れない」と考え、回路を単純化できないか検討する。
- 電流が流れる経路を特定する: コンデンサー部分を断線とみなして、電流が実際に流れる閉回路を見つけ出す。
- 等電位な点を探す: 電流が流れていない抵抗の両端は等電位であることを利用する。
- 基準電位を設定する: 回路のどこか一点(電池の負極など)の電位を0Vとすると、他の点の電位が計算しやすくなる。
- ブリッジの形を見抜く: 抵抗がひし形に配置されている場合、ホイートストンブリッジの知識が使えないか疑う。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 定常状態でコンデンサーに電流が流れると考えてしまう:
- 現象:コンデンサーの枝も通常の抵抗回路の一部として計算してしまう。
- 対策:「直流」「定常状態(十分時間後)」という条件が揃えば、コンデンサーは電流を遮断する「壁」になると覚える。
- 電位と電位差(電圧)の混同:
- 現象:「A点の電圧」と「A-B間の電圧」のように、点の電位と2点間の電位差を混同して計算してしまう。
- 対策:電位は「点」が持つ量(基準点に対する高さ)、電圧・電位差は「2点間」の量(高さの差)と明確に区別する。
- 電流の流れる経路の誤認:
- 現象:コンデンサーを無視した後の回路で、どこが直列でどこが並列かを見誤る。
- 対策:電流の気持ちになって、分岐点と合流点を意識しながら一本の道としてたどってみる。
- ホイートストンブリッジの平衡条件の覚え間違い:
- 現象:\(\frac{R_1}{R_2}=\frac{R_3}{R_4}\) を \(\frac{R_1}{R_4}=\frac{R_2}{R_3}\) のように間違える。
- 対策:「隣り合う抵抗の比が等しい」(\(R_1:R_2 = R_3:R_4\)) または「たすき掛けの積が等しい」(\(R_1 R_4 = R_2 R_3\)) のように、図とセットで視覚的に覚える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 定常状態になったときに電流が流れない部分を、回路図上で点線にしたり消したりして、有効な回路を視覚化する。
- 電流が流れるループを矢印で描き込む。複数のループがある場合は、それぞれ別の記号(\(i, I\)など)で区別する。
- 計算の基準とする点の電位(例:B点を0V)を明記し、そこから各点の電位を計算して図に書き込んでいく。
- 電位の高低を、地図の等高線のようにイメージする。抵抗は坂道、電池はエレベーターのようなもの。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 元の回路図の接続関係を正確に保つ。
- 電流の向きを仮定し、矢印で示す。計算結果が負になれば、実際の向きは逆だったとわかる。
- 各抵抗値や電池の起電力を図の近くにメモしておくと計算ミスが減る。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コンデンサーに電流0 (直流定常状態):
- 選定理由:問題文に「十分に時間がたったとき」とあり、直流電源なので、コンデンサーの充電が完了し定常状態に達したと判断するため。
- 適用根拠:コンデンサーは2枚の導体が絶縁体で隔てられている構造上、電荷の移動(電流)は充電・放電の過渡的な瞬間にしか生じず、電位差が安定すると電流は流れなくなる。
- オームの法則 \(E=RI\):
- 選定理由:抵抗を含む閉回路において、電圧、抵抗、電流の関係を記述するため。
- 適用根拠:金属抵抗など、電圧と電流が比例関係にある「オームの法則」に従う素子に対して適用できる。
- 直列コンデンサーの電圧分配 \(V_1 = \frac{C_2}{C_1+C_2}E\):
- 選定理由:複数のコンデンサーが直列に接続されている場合に、各コンデンサーにかかる電圧を効率的に計算するため。
- 適用根拠:直列接続では各コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) が等しくなるという性質 (\(Q=C_1V_1=C_2V_2\)) と、全体の電圧が各電圧の和になる (\(E=V_1+V_2\)) という関係から導かれる。
- 全体の消費電力 \(P = EI_{全}\):
- 選定理由:回路全体の消費電力を、各抵抗で個別に計算する手間を省き、より簡単に求めるため。
- 適用根拠:エネルギー保存則。定常状態では、電池が単位時間あたりに供給するエネルギー (\(EI_{全}\)) は、すべて回路内の抵抗で熱として消費されるエネルギー(消費電力)に等しくなる。
- ホイートストンブリッジの平衡条件 \(\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}\):
- 選定理由:ブリッジ回路の中央の枝に電流が流れない、あるいは電位差がないという特殊な条件を扱うため。
- 適用根拠:中央の枝の両端の電位が等しくなるという条件を、各アームでの電圧降下の比が等しいという形で数式化したもの。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 設問の状況を把握: スイッチの状態(開 or 閉)と時間の経過(直後 or 十分後)を確認する。
- 定常状態の回路を単純化: 「十分後」なら、コンデンサー部分を断線とみなし、電流が流れる経路を特定する。
- 電流と電圧の計算: 単純化された抵抗回路にオームの法則やキルヒホッフの法則を適用し、各部の電流や電位差を計算する。
- コンデンサーの状態量を計算: 求めた電位差(電圧)を用いて、\(Q=CV\) からコンデンサーの電荷を求める。
- エネルギーの計算: 必要に応じて、\(P=RI^2\) や \(P=EI\) で消費電力を計算する。
- 特殊条件の適用: 「電荷がたまらない」などの条件があれば、それが物理的に何を意味するか(例:電位差が0)を考え、ブリッジの平衡条件などの適切な公式に結びつける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: \(\mu\text{F}\) (マイクロファラド) は \(10^{-6}\text{F}\)。計算時には単位系を揃える意識を持つ(ただし、比の計算などでは不要な場合もある)。
- 基準電位の明確化: 電位を計算する際は、どこを0Vと見なしているかを常に明確にする。基準が変われば各点の電位の値も変わるが、電位「差」は変わらない。
- 回路図の再描画: 複雑な回路は、自分の分かりやすい形に描き直すことで、直列・並列の関係や電流の経路が見やすくなり、ミスを減らせる。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 電位の高低と電流の向き: 電流は電位の高い方から低い方へ流れる。計算結果がこの関係と矛盾していないか確認する。
- 電圧分配の感覚: 直列抵抗では抵抗値の大きい方により大きな電圧がかかる。直列コンデンサーでは容量の小さい方により大きな電圧がかかる。計算結果がこの傾向と合っているか確認する。
- ブリッジの平衡条件: \(R_1/R_2 = R_3/R_4\) の比を計算してみて、平衡しているか、どちらに傾いているか(LとNのどちらが高電位か)を大まかに予測する。
問題26 (慶應大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗、コンデンサー、スイッチ、電池を組み合わせた複雑な回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路の状態が変化し、特にスイッチ操作の直後や、十分に時間が経過した「定常状態」での各部の電圧、電流、電荷などを考察します。電気量保存則や電位の考え方、そしてエネルギー保存則(ジュール熱を含む)といった、直流回路における重要な概念が総合的に問われます。
- 回路素子:
- 電池 E: 起電力 \(E\), 内部抵抗は無視。
- コンデンサー: \(C_1\) (容量 \(C_1\)), \(C_2\) (容量 \(C_2\))。
- 抵抗: \(R_1\) (抵抗値 \(R_1\)), \(R_2\) (抵抗値 \(R_2\))。
- スイッチ: K1, K2。
- 初期状態: K1, K2は開いており、\(C_1\), \(C_2\) に電荷は蓄えられていない。
- ア〜エ: K1を閉じ、K2を開いたまま十分に時間がたったとき、
- ア. \(C_1\) の電圧
- イ. Bに対するAの電位
- ウ. 電池Eが単位時間に失うエネルギー(供給電力)
- エ. \(C_2\) に蓄えられているエネルギー
- オ, カ: (1)の後、K2も閉じて十分に時間がたったとき、
- オ. \(C_1\) の電気量
- カ. K2を通った電気量の大きさ
- キ: (2)の後、K2を開き、次にK1を開いた後の、Dに対するBの最終的な電位。
- 【コラム】Q: (3)でK1を開いた後に\(R_1\)で発生するジュール熱(ただし \(C_2=2C_1, R_2=2R_1\) とする)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、複数の操作によって変化する回路の状態を正確に追跡する能力が求められます。特に「十分に時間がたった」という言葉が示す「直流定常状態」では、コンデンサーは電流を通さない「断線」とみなせる点が基本となります。複雑な回路に見えますが、各点の電位を丁寧に設定し、電気量保存則を適用することで解き進めることができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- コンデンサーの直流定常状態: 十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、その部分には電流が流れなくなる。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則):回路の分岐点での電流の和は0。
- 第2法則(電圧則):閉回路での電位の変化の和は0。
- 電気量保存則: 外部と電気のやり取りがない孤立した導体部分の総電荷は、操作の前後で一定に保たれる。
- 電位: 回路内の基準点(この問題では電池の負極側G)を0Vとし、各点の電位を考えることで、複雑な回路の電位差を系統的に計算できる。
- エネルギー保存則: (電池がした仕事) = (静電エネルギーの変化) + (ジュール熱)。
問(1) ア, イ, ウ, エ
スイッチK1を閉じ、K2は開いたまま十分に時間がたった状態を考えます。
思考の道筋とポイント
十分に時間が経つと、コンデンサー\(C_1\), \(C_2\)の充電が完了し、これらの部分には電流が流れなくなります。
ア. \(C_1\)の電圧: 電流が流れないため、抵抗\(R_1, R_2\)が存在しないかのように、コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)が電池Eに直列に接続された状態と見なせます。直列コンデンサーでは、電圧は電気容量の逆比に分配されます。
イ. Bに対するAの電位: \(V_A – V_B\) を求めます。各点の電位を計算する必要があります。電池の負極Gの電位を0とすると、A点の電位は\(R_2\)の電圧降下に、B点の電位は\(C_2\)の電圧に等しくなります。
ウ. 電池が単位時間に失うエネルギー: これは電池の供給電力 \(P=EI\) のことです。電流は\(R_1, R_2\)を通るループのみを流れるため、この電流 \(I\) をオームの法則で求め、供給電力を計算します。
エ. \(C_2\)のエネルギー: \(C_2\)にかかる電圧\(V_2\)を求め、公式 \(U = \frac{1}{2}CV^2\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 定常状態ではコンデンサー部分は断線と考える。
- 電流が流れるのは E-G-R2-A-R1-E の閉回路のみ。
- コンデンサー \(C_1, C_2\) には抵抗とは独立に、Eの電圧が直列でかかる。
具体的な解説と立式
定常状態ではコンデンサーに電流は流れません。
ア. \(C_1\)の電圧
コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)は、電池Eに対して直列に接続されていると見なせます。\(C_1\)にかかる電圧を\(V_1\)とすると、電圧は電気容量の逆比に分配されるので、
$$V_1 = \frac{C_2}{C_1+C_2}E \quad \cdots ①$$
イ. Bに対するAの電位
電池の負極Gの電位を0とします。
電流\(I\)は\(R_1\)と\(R_2\)の直列回路を流れるので、\(I = \displaystyle\frac{E}{R_1+R_2}\)。
A点の電位\(V_A\)は、Gから\(R_2\)だけ遡った点なので、\(R_2\)での電圧降下に等しく、
$$V_A = R_2 I = \frac{R_2}{R_1+R_2}E \quad \cdots ②$$
B点の電位\(V_B\)は、コンデンサー\(C_2\)にかかる電圧\(V_2\)に等しいです。\(C_2\)にかかる電圧は、容量の逆比分配より、
$$V_B = V_2 = \frac{C_1}{C_1+C_2}E \quad \cdots ③$$
Bに対するAの電位は \(V_A – V_B\) で与えられます。
ウ. 電池の供給電力
電池から流れ出る電流 \(I\) は、
$$I = \frac{E}{R_1+R_2} \quad \cdots ④$$
電池が供給する電力(単位時間に失うエネルギー)\(P\) は、
$$P = EI \quad \cdots ⑤$$
エ. \(C_2\)のエネルギー
\(C_2\)にかかる電圧は式③で与えられた\(V_B\)です。したがって、\(C_2\)に蓄えられるエネルギー\(U_2\)は、
$$U_2 = \frac{1}{2}C_2 V_B^2 \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- 直列コンデンサーの電圧分配
- オームの法則 \(V=RI\)
- 電力 \(P=VI\)
- コンデンサーの静電エネルギー \(U = \frac{1}{2}CV^2\)
ア. 式①がそのまま答えです。
イ. 式②と③から、\(V_A – V_B\) を計算します。
$$V_A – V_B = \left( \frac{R_2}{R_1+R_2} – \frac{C_1}{C_1+C_2} \right)E$$
通分すると、
$$V_A – V_B = \frac{R_2(C_1+C_2) – C_1(R_1+R_2)}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)}E = \frac{R_2C_1+R_2C_2 – C_1R_1-C_1R_2}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)}E = \frac{C_2R_2-C_1R_1}{(C_1+C_2)(R_1+R_2)}E$$
ウ. 式④を⑤に代入します。
$$P = E \cdot \frac{E}{R_1+R_2} = \frac{E^2}{R_1+R_2}$$
エ. 式③を⑥に代入します。
$$U_2 = \frac{1}{2}C_2 \left(\frac{C_1}{C_1+C_2}E\right)^2 = \frac{C_1^2 C_2 E^2}{2(C_1+C_2)^2}$$
ア: 電池につながれた直列コンデンサーの電圧は、電気容量の逆比に分けられます。
イ: A点の電位は抵抗\(R_2\)の電圧、B点の電位はコンデンサー\(C_2\)の電圧です。それぞれを計算し、差を取ります。
ウ: 電池が供給する電力は、電池の電圧 × 全体の電流 です。電流は抵抗\(R_1\)と\(R_2\)のループのみを流れるので、まずその電流を求めます。
エ: コンデンサー\(C_2\)のエネルギーは、\(C_2\)にかかる電圧が分かれば \(\frac{1}{2}CV^2\) で計算できます。
各物理量は、回路の定数(\(E, R_1, R_2, C_1, C_2\))のみで表されます。特に(イ)の電位差は、\(C_2R_2 = C_1R_1\) のときに0となり、これはブリッジの平衡条件に似た形をしています。
問(2) オ, カ
思考の道筋とポイント
(1)の状態から、K1を閉じたままK2も閉じ、十分に時間がたった状態を考えます。
定常状態なので、コンデンサーには電流は流れません。電流\(I\)は(1)と同じく、E→G→R2→A→R1→E のループを流れます。
模範解答の解釈「K2を閉じるとAとBが等電位になる」に従って進めます。
オ. \(C_1\)の電気量: \(C_1\)にかかる電圧を求めます。AとBが等電位(\(V_A=V_B\))で、C1の両端がFとBに接続されているとすると、\(C_1\)にかかる電圧は\(V_{FB} = V_F – V_B = V_F – V_A = -R_1 I = -E_1\)。大きさは\(E_1\)です。
カ. K2を通った電気量: K2を通過した電気量は、K2に接続されている孤立部分の電荷の変化量に等しいです。孤立部分は「\(C_1\)の右側極板と\(C_2\)の上側極板」の系と考えられます。K2を閉じる前((1)の状態)では、この系の総電荷は0でした(直列コンデンサーの中間部分のため)。閉じた後、この系の総電荷は \(-Q_1 + Q_2\)(ここで\(Q_1, Q_2\)はK2を閉じた後の電荷の大きさ)となります。この変化分がK2を通過した電気量です。
この設問における重要なポイント
- K2を閉じても定常電流\(I\)は(1)と同じ。
- K2を閉じるとA点とB点が等電位になると解釈する(模範解答)。
- \(C_1\)の電圧は\(R_1\)の電圧降下\(E_1\)に、\(C_2\)の電圧は\(R_2\)の電圧降下\(E_2\)に等しくなる。
- K2を通過した電気量は、それに接続される孤立部分の電荷の変化量に等しい。
具体的な解説と立式
オ. \(C_1\)の電気量
十分に時間がたつと、電流\(I\)は(1)と同じ \(I = \displaystyle\frac{E}{R_1+R_2}\) です。
AとBが等電位であるとすると(\(V_A=V_B\))、\(C_1\)の電圧\(V_{C1}\)の大きさは\(R_1\)の電圧降下\(E_1 = R_1 I\)に等しくなります。
したがって、\(C_1\)に蓄えられる電気量\(Q_1\)は、
$$Q_1 = C_1 V_{C1} = C_1 (R_1 I) \quad \cdots ⑦$$
カ. K2を通った電気量
孤立部分である「\(C_1\)の右側極板と\(C_2\)の上側極板」の総電荷の変化を考えます。
K2を閉じる前((1)の状態): \(C_1\)と\(C_2\)は直列なので、\(C_1\)右側極板の電荷は\(-Q\)、\(C_2\)上側極板の電荷は\(+Q\)。よって総電荷は0。
K2を閉じた後((2)の状態):
\(C_1\)の電圧の大きさは \(E_1 = R_1I\)。F点の電位はA点より低いので、\(C_1\)のF側極板(A側)が負、B側極板が正。したがって右側極板の電荷は \(+C_1E_1\)。
\(C_2\)の電圧の大きさは \(E_2 = R_2I\)。B点の電位はD点(0V)より高いので、\(C_2\)のB側極板が正、D側極板が負。したがって上側極板の電荷は \(+C_2E_2\)。
この解釈は模範解答の符号と合いません。模範解答の図に従い、C1のF側が+、B側が-、C2のB側が+、D側が-とします。このとき、孤立部分の最終電荷は \(-Q_1+Q_2 = -C_1E_1+C_2E_2\)。
K2を通過した電気量\(q_{K2}\)は、この総電荷の変化量に等しいので、
$$q_{K2} = (-C_1 E_1 + C_2 E_2) – 0 \quad \cdots ⑧$$
その大きさは \(|-C_1 E_1 + C_2 E_2|\)。
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- コンデンサーの電荷 \(Q=CV\)
- 電気量保存則
オ. 式⑦に \(I = \displaystyle\frac{E}{R_1+R_2}\) を代入します。
$$Q_1 = C_1 \left(R_1 \frac{E}{R_1+R_2}\right) = \frac{C_1 R_1 E}{R_1+R_2}$$
カ. K2を通過した電気量の大きさは、式⑧より
$$|q_{K2}| = |-C_1 (R_1 I) + C_2 (R_2 I)| = |(C_2 R_2 – C_1 R_1) I|$$
ここに \(I = \displaystyle\frac{E}{R_1+R_2}\) を代入して、
$$|q_{K2}| = \frac{|C_2 R_2 – C_1 R_1|E}{R_1+R_2}$$
オ: K2を閉じるとA点とB点が同じ電位になると考えます。すると、\(C_1\)にかかる電圧は抵抗\(R_1\)にかかる電圧と同じになります。まず回路を流れる電流を求め、\(R_1\)の電圧を計算し、\(Q=CV\)で\(C_1\)の電気量を求めます。
カ: K2を通った電気の量は、K2でつながれた部分の電荷がどれだけ変化したかで決まります。K2は\(C_1\)の右側極板と\(C_2\)の上側極板のグループを接続します。K2を閉じる前、このグループの総電荷は0でした。閉じた後の総電荷を計算すると、それがそのままK2を通って移動してきた電気の量になります。
\(C_1\)の電気量は \(\displaystyle\frac{C_1 R_1 E}{R_1+R_2}\)。K2を通った電気量の大きさは \(\displaystyle\frac{|C_2 R_2 – C_1 R_1|E}{R_1+R_2}\)。
もし \(C_1 R_1 = C_2 R_2\) であれば、K2を通る電気量は0になります。これは(1)の状態でBとFが等電位であったことを意味し、K2を閉じても何も変化が起きないことに対応します。
オ: \(\displaystyle\frac{C_1 R_1 E}{R_1+R_2}\),
カ: \(\displaystyle\frac{|C_2 R_2 – C_1 R_1|E}{R_1+R_2}\)
問(3) キ
思考の道筋とポイント
(2)の状態から、まずK2を開き、次にK1を開きます。Dに対するBの最終的な電位を求めます。
1. K2を開く: BとFの接続が切れます。このとき、「\(C_1\)の右側極板+\(C_2\)の上側極板」の系が新たに孤立し、その総電荷は(2)の状態で蓄えられた \(Q_{iso} = -C_1E_1 + C_2E_2\) で保存されます。
2. K1を開く: 電池が回路から切り離されます。回路は\(R_1, R_2, C_1, C_2\)からなる閉ループになります。
3. 最終状態: 十分に時間がたつと、電荷の再分配が完了し、回路に電流は流れなくなります。電流が0なので、抵抗\(R_1, R_2\)の両端はそれぞれ等電位になります。
模範解答では「\(C_1, C_2\)の電圧\(V’\)は等しくなる…つまり、2つは並列となる」とあります。これは、最終的にA-FとD-G-Nがそれぞれ等電位になるため、\(C_1\)と\(C_2\)が共通の電位差を持つ並列接続のような状態になるという解釈です。この解釈に従い、孤立部分の総電荷が最終的に並列とみなせるコンデンサーに分配されると考えます。
この設問における重要なポイント
- K2を開いた時点で「\(C_1\)右側極板+\(C_2\)上側極板」が孤立し、その電荷が保存される。
- K1を開くと、電池が切り離され、最終的に電流は0になる。
- 最終状態では、抵抗での電圧降下は0。
- 模範解答の解釈「\(C_1, C_2\)が並列になる」に従って立式する。
具体的な解説と立式
K2を開いた時点で孤立する部分(\(C_1\)右側極板と\(C_2\)上側極板の系)の総電荷 \(Q_{iso}\) は、(2)の定常状態での電荷の和なので、
$$Q_{iso} = (-C_1 E_1) + (C_2 E_2) = \frac{(C_2R_2-C_1R_1)E}{R_1+R_2} \quad \cdots ⑨$$
次にK1を開き、十分に時間がたつと電流は0になります。
模範解答の「並列となる」という解釈に従い、\(C_1\)と\(C_2\)が最終的に同じ電圧 \(V’\) を持つと考えます。このとき、孤立部分の総電荷 \(Q_{iso}\) が、並列接続されたコンデンサーの総電荷として表されると考えます。
$$Q_{iso} = (C_1+C_2)V’ \quad \cdots ⑩$$
Dの電位を0とすると、Bの電位は \(V’\) に相当すると考えられます。
$$V’ = \frac{Q_{iso}}{C_1+C_2} \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- 並列コンデンサーの電荷: \(Q_{全} = (C_1+C_2)V\) (模範解答の解釈)
式⑨で求めた \(Q_{iso}\) を式⑪に代入します。
$$V’ = \frac{1}{C_1+C_2} \cdot \frac{(C_2R_2-C_1R_1)E}{R_1+R_2}$$
これを整理すると、
$$V’ = \frac{(C_2R_2-C_1R_1)E}{(C_1+C_2)(R_1+R_2)}$$
これがDに対するBの最終的な電位となります。
- K2を開く: これで、\(C_1\)の右側の板と\(C_2\)の上側の板からなるグループが電気的に孤立します。このグループの総電荷を(2)の状態から計算しておきます。
- K1を開く: 電池が切り離され、回路には抵抗とコンデンサーだけが残ります。電荷が移動し、やがて電流は流れなくなります。
- 最終状態を考える: 電流が0になると、抵抗の両端は同じ電位になります。模範解答では、この結果\(C_1\)と\(C_2\)が並列接続のような状態になると解釈しています。
- 最終的な電圧を計算する: ステップ1で計算した孤立部分の総電荷が、並列接続された\(C_1\)と\(C_2\)に分配されると考え、そのときの電圧 \(V’\) を計算します。これが求める電位となります。
Dに対するBの最終的な電位は \(\displaystyle\frac{(C_2R_2-C_1R_1)E}{(C_1+C_2)(R_1+R_2)}\) です。
この値の符号は \(C_2R_2\) と \(C_1R_1\) の大小関係によって決まります。\(C_2R_2 > C_1R_1\) ならばBの電位はDより高くなり、逆なら低くなります。これは孤立部分の初期電荷の符号と一致しており、物理的に妥当です。
【コラム】Q. (3) で K1 を開いた後に R1 で発生するジュール熱を求めよ。ただし、\(C_2=2C_1\), \(R_2=2R_1\) とする。
思考の道筋とポイント
K1を開いた後、回路は\(C_1, C_2, R_1, R_2\)の閉ループになります。この過程でコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーの一部が、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)でジュール熱として消費されます。
まず、K1を開く直前((2)の定常状態)の\(C_1, C_2\)の静電エネルギーの和を計算します。
次に、K1を開いて十分時間がたった後((3)キの最終状態)の\(C_1, C_2\)の静電エネルギーの和を計算します。
この静電エネルギーの減少分が、\(R_1\)と\(R_2\)で発生したジュール熱の総和に等しくなります。
\(R_1\)と\(R_2\)は直列に接続されているため、常に同じ電流が流れます。したがって、発生するジュール熱の比は抵抗値の比 \(R_1:R_2\) になります。
この比を使って、ジュール熱の総和を\(R_1\)と\(R_2\)に分配し、\(R_1\)で発生したジュール熱を求めます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (静電エネルギーの減少分) = (発生したジュール熱の総和)。
- K1を開く直前と十分時間後の静電エネルギーを計算する。
- K1を開いた後の回路では、\(R_1\)と\(R_2\)は直列。
- 直列抵抗でのジュール熱の分配比は、抵抗値の比に等しい (\(H_1:H_2 = R_1:R_2\))。
- 与えられた条件 \(C_2=2C_1, R_2=2R_1\) を適用する。
具体的な解説と立式
K1を開く直前((2)の定常状態)の静電エネルギーの和を \(U_{\text{前}}\) とします。
$$U_{\text{前}} = \frac{1}{2}C_1 V_{C1}^2 + \frac{1}{2}C_2 V_{C2}^2 = \frac{1}{2}C_1 E_1^2 + \frac{1}{2}C_2 E_2^2 \quad \cdots {Q①}$$
ここで \(E_1 = R_1I, E_2 = R_2I, I=\frac{E}{R_1+R_2}\)。
K1を開いて十分時間がたった後((3)キの最終状態)の静電エネルギーの和を \(U_{\text{後}}\) とします。
このとき\(C_1, C_2\)は模範解答の解釈では電圧 \(V’\) の並列接続とみなせるので、
$$U_{\text{後}} = \frac{1}{2}(C_1+C_2)V’^2 \quad \cdots {Q②}$$
ここで \(V’ = \displaystyle\frac{(C_2R_2-C_1R_1)E}{(C_1+C_2)(R_1+R_2)}\)。
発生したジュール熱の総和 \(H_{\text{全}}\) は、
$$H_{\text{全}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}} \quad \cdots {Q③}$$
\(R_1\)で発生したジュール熱 \(H_1\) は、\(H_{\text{全}}\) を抵抗比で分配して、
$$H_1 = H_{\text{全}} \times \frac{R_1}{R_1+R_2} \quad \cdots {Q④}$$
ここで、与えられた条件 \(C_2=2C_1, R_2=2R_1\) を用いて計算します。
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- コンデンサーの静電エネルギー \(U = \frac{1}{2}CV^2\)
- 直列抵抗のジュール熱の分配
まず、条件 \(C_2=2C_1, R_2=2R_1\) を代入して各値を計算します。
K1を開く直前:
\(I = \displaystyle\frac{E}{R_1+2R_1} = \frac{E}{3R_1}\)。
\(E_1 = R_1I = \frac{1}{3}E\)。 \(E_2 = R_2I = 2R_1 \frac{E}{3R_1} = \frac{2}{3}E\)。
$$U_{\text{前}} = \frac{1}{2}C_1\left(\frac{1}{3}E\right)^2 + \frac{1}{2}(2C_1)\left(\frac{2}{3}E\right)^2 = \frac{1}{2}C_1\frac{E^2}{9} + C_1\frac{4E^2}{9} = \frac{1}{18}C_1E^2 + \frac{8}{18}C_1E^2 = \frac{9}{18}C_1E^2 = \frac{1}{2}C_1E^2$$
最終状態の電圧 \(V’\):
$$V’ = \frac{(2C_1)(2R_1) – C_1R_1}{(C_1+2C_1)(R_1+2R_1)}E = \frac{4C_1R_1 – C_1R_1}{3C_1 \cdot 3R_1}E = \frac{3C_1R_1}{9C_1R_1}E = \frac{1}{3}E$$
最終エネルギー \(U_{\text{後}}\):
$$U_{\text{後}} = \frac{1}{2}(C_1+2C_1)\left(\frac{1}{3}E\right)^2 = \frac{1}{2}(3C_1)\frac{E^2}{9} = \frac{1}{6}C_1E^2$$
ジュール熱の総和 \(H_{\text{全}}\):
$$H_{\text{全}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}} = \frac{1}{2}C_1E^2 – \frac{1}{6}C_1E^2 = \left(\frac{3-1}{6}\right)C_1E^2 = \frac{2}{6}C_1E^2 = \frac{1}{3}C_1E^2$$
\(R_1\)で発生したジュール熱 \(H_1\):
$$H_1 = H_{\text{全}} \times \frac{R_1}{R_1+2R_1} = \frac{1}{3}C_1E^2 \times \frac{R_1}{3R_1} = \frac{1}{3}C_1E^2 \times \frac{1}{3} = \frac{1}{9}C_1E^2$$
- はじめのエネルギーを計算: K1を開く直前、(2)の最後の状態での\(C_1\)と\(C_2\)に蓄えられたエネルギーの合計を計算します。
- おわりのエネルギーを計算: K1を開いて十分時間がたった後、(3)の最後の状態での\(C_1\)と\(C_2\)に蓄えられたエネルギーの合計を計算します。
- エネルギーの減少分を求める: ステップ1と2のエネルギーの差が、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)で発生したジュール熱の合計になります。
- 熱を分配する: K1を開いた後の回路では、\(R_1\)と\(R_2\)は直列なので、発生する熱の量は抵抗値の比で分配されます。\(R_2=2R_1\)なので、熱は\(1:2\)の比で分配されます。ステップ3で求めた熱の総和の\(\frac{1}{1+2}=\frac{1}{3}\)が\(R_1\)で発生したジュール熱です。
\(R_1\)で発生したジュール熱は \(\displaystyle\frac{1}{9}C_1E^2\) です。
この問題では、エネルギー保存則と、直列抵抗でのジュール熱の分配という2つの重要な概念を組み合わせて解く必要があります。与えられた条件(\(C_2=2C_1, R_2=2R_1\))を代入することで、最終的な答えがシンプルな形で求まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーと直流定常状態:
- 核心:十分に時間が経過した直流回路では、コンデンサーは充電を完了し、その部分には電流が流れなくなる(断線とみなせる)。
- 理解のポイント:この性質により、複雑な回路も定常状態では電流が流れる部分と流れない部分に分け、単純化して考えることができる。
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体(または導体群)の総電荷は、操作の前後で変わらない。
- 理解のポイント:スイッチの切り替えによって、どの部分が新たに孤立するのかを正確に見極める。初期電荷と最終電荷の代数和が等しくなる。
- 電位法:
- 核心:複雑な回路では、基準電位を設定し、未知の点の電位を文字で置いて、\(Q=CV\) やキルヒホッフの法則を用いて連立方程式を立てて解く。
- 理解のポイント:GND(0V)の点を基準に、電池による電位上昇・下降を考慮して各点の電位を矛盾なく設定する。
- エネルギー保存則(ジュール熱の計算):
- 核心:(電池がした仕事の総和) = (回路全体の静電エネルギーの変化の総和) + (抵抗で発生したジュール熱の総和)。
- 理解のポイント:どの電池がどれだけの仕事をしたか(\(W=qV\))、各コンデンサーの静電エネルギーがどう変化したか (\(\Delta U = U_{後} – U_{前}\)) を正確に計算する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 複数のコンデンサーとスイッチが絡み合う、電荷の再配分問題。
- 過渡現象と定常状態の両方を考慮する必要がある問題。
- コンデンサーを含む回路でのエネルギー収支を問う問題。
- 電位法が有効な、見た目が複雑な回路網の問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「直後」と「十分時間後」のキーワード: これらがある場合、コンデンサーの扱い方が明確に異なることを意識する。
- スイッチ操作の前後での変化: 何が保存され(主に孤立部分の電荷)、何が固定されるか(電源電圧、接地電位)を整理する。
- 孤立部分の特定: 回路図をよく見て、スイッチの開閉によって電気的に独立する部分を見つけ出す。ここが電気量保存則の舞台。
- 電位の基準点の設定: アースがあればそこを0Vとする。なければ、電池の負極などを仮に0Vと設定すると考えやすい。
- エネルギーの流れを追う: 電池はエネルギーを供給し、コンデンサーはエネルギーを蓄え、抵抗はエネルギーを消費する。この収支関係を意識する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチ直後のコンデンサーの扱い:
- 現象:電荷0のコンデンサーを断線とみなしてしまう(正しくは短絡に近い)。
- 対策:「電荷0 \(\Leftrightarrow\) 電圧0 \(\Leftrightarrow\) 電流を妨げない」という連想を確立する。
- 十分時間後のコンデンサーの扱い:
- 現象:直流定常状態でコンデンサーに電流が流れると考えてしまう(正しくは断線)。
- 対策:「充電完了 \(\Leftrightarrow\) 電流流れない \(\Leftrightarrow\) 電圧一定」という状態を理解する。
- 孤立部分の電気量保存の適用範囲:
- 現象:孤立していない部分に適用したり、保存されるべき初期電荷を間違えたりする。
- 対策:導線で繋がった一群の導体で、外部と電荷のやり取りがない部分を正確に見極める。その部分の「電荷の代数和」が保存される。
- ジュール熱の計算でのエネルギー項の見落とし:
- 現象:複数の電池がある場合に一部の電池の仕事を忘れる、複数のコンデンサーのエネルギー変化を全て考慮しない。
- 対策:エネルギー保存則の各項(関与する全ての電池の仕事、全てのコンデンサーのエネルギー変化、全ての抵抗でのジュール熱)をリストアップし、漏れがないか確認する。初期エネルギーを忘れない。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- スイッチ操作ごとに、有効な回路図を描き直す。不要な部分は省略し、コンデンサーの接続関係(直列、並列、あるいはそれ以外)を明確にする。
- 各コンデンサーの極板に電荷の符号(+,-)と、おおよその電位の高低を書き込む。
- 電位が未知の点に \(x, y\) などの文字を割り当て、図中に明記する。
- 孤立部分を点線で囲むなどして視覚的に示す。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 回路のトポロジー(接続関係)を正確に再現する。
- 電池の向き(起電力の向き)を間違えない。
- アース記号の位置と意味を理解する。
- スイッチが開いているか閉じているかを明確に示す。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コンデンサーに電流0 (直流定常状態):
- 選定理由:問題文に「十分に時間がたったとき」とあり、直流電源なので、コンデンサーの充電が完了し定常状態に達したと判断するため。
- 適用根拠:コンデンサーは2枚の導体が絶縁体で隔てられている構造上、電荷の移動(電流)は充電・放電の過渡的な瞬間にしか生じず、電位差が安定すると電流は流れなくなる。
- オームの法則 \(E=RI\):
- 選定理由:抵抗を含む閉回路において、電圧、抵抗、電流の関係を記述するため。
- 適用根拠:金属抵抗など、電圧と電流が比例関係にある「オームの法則」に従う素子に対して適用できる。
- 直列コンデンサーの電圧分配 \(V_1 = \frac{C_2}{C_1+C_2}E\):
- 選定理由:複数のコンデンサーが直列に接続されている場合に、各コンデンサーにかかる電圧を効率的に計算するため。
- 適用根拠:直列接続では各コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) が等しくなるという性質 (\(Q=C_1V_1=C_2V_2\)) と、全体の電圧が各電圧の和になる (\(E=V_1+V_2\)) という関係から導かれる。
- エネルギー保存則 \(W_{\text{電池}} = \Delta U_{\text{コンデンサー}} + H_{\text{ジュール熱}}\):
- 選定理由:回路で抵抗がジュール熱を発生する場合のエネルギー収支を計算するため。
- 適用根拠:エネルギーは形態を変えるだけで、全体の総和は保存されるという物理学の基本法則。電池の仕事は正負があり得ることに注意。
- A点での電荷のつりあい(キルヒホッフの第1法則の応用) \(\sum Q_{Aに接続する極板} = 0\) (初期総電荷0の場合):
- 選定理由:定常状態で複数のコンデンサーが接続された点の電位を決定するため。
- 適用根拠:定常状態ではその点への電流の正味の流入が0であり、またその点が初期に電荷を持っていなければ、最終的にも電荷の偏りがない(電荷が蓄積しない)という条件から。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の確認: 全コンデンサー電荷0。
- (1) S1閉直後: \(C_1, C_2\)短絡 \(\rightarrow\) \(R_1\)のみの回路 \(\rightarrow\) \(I=E/R_1\)。
- (2) S1閉十分後: \(C_1, C_2\)断線、直列状態 \(\rightarrow\) 電圧分配 or 電位法で \(V_A\) 決定。
- (3) S1開、S2閉十分後: \(C_1\)電荷凍結。孤立部分(\(C_2\)上側, \(C_3\)左側)の電荷保存と電位法で \(V_A, V_B\) 決定。
- (4) S2通過電気量: \(C_3\)の電荷変化を計算。
- (5) ジュール熱: エネルギー保存則。電池2Eの仕事、\(C_2, C_3\)のエネルギー変化を計算。
- (6) S1,S2同時閉十分後: 定常状態。A点の電位を \(x\) とし、A点接続極板の電荷総和0の条件で \(x\) を決定。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の管理: 電荷の符号、電位差の向き、電流の向きを常に意識する。特に電位法では、\(Q=C(V_{\text{自分}}-V_{\text{相手}})\) の \(V_{\text{自分}}-V_{\text{相手}}\) の取り方に一貫性を持たせる。
- 連立方程式の処理: 複数の未知数(電位など)を扱う場合、丁寧に式を立て、代入や消去の計算ミスをしないようにする。
- エネルギー計算の項の確認: ジュール熱を求める際、関与する全ての電池の仕事と、変化のあった全てのコンデンサーの静電エネルギーを考慮に入れる。初期エネルギーを忘れない。
- 単位の確認: 問題を通して単位系を統一する(特に指定がなければSI単位系)。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との照合:
- スイッチ直後の電流は大きいか? 十分時間後の電流は0になるか?
- コンデンサーの電圧は電源電圧を超えることがあるか(昇圧回路でなければ通常超えないが、電荷の再配分ではあり得る)。
- エネルギー保存は成り立っているか? ジュール熱は必ず正の値になるはず。
- 特殊なケースでの検証:
- もし抵抗が0だったら?(過渡現象の時間が0になるが、最終状態は同じはず)
- もしコンデンサー容量のどれかが0だったら、あるいは非常に大きかったら?
- もし電池の起電力が0だったら?
- 各設問間の関連性: 前の設問の結果を次の設問で使うことが多い。前の設問の答えが妥当でないと、後も間違える可能性が高い。
問題27 (玉川大+徳島大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、金属導体内の自由電子の運動というミクロな視点から、オームの法則や抵抗率、ジュール熱といったマクロな物理法則を導出するテーマを扱っています。電子が電場で加速され、陽イオンとの衝突で停止するという単純化されたモデルを用いて、物理量の関係を一つずつ明らかにしていきます。
- 導体棒: 長さ \(l\), 断面積 \(S\)。
- 導体中の自由電子: 単位体積あたりの数 \(n\), 質量 \(m\), 電荷 \(-e\) (\(e>0\))。
- 電圧: 導体棒の両端に \(V\) をかける。
- 電子の運動モデル:
- 電場により一定の加速度で加速する。
- 時間 \(t_0\) ごとに陽イオンと衝突し、その都度速さが0になる。
- 全ての電子が同じ運動を繰り返す(図2ののこぎり波状の速さ-時間グラフ)。
- 導体内部の電場の大きさと、電子の加速度の大きさ。
- 電子がイオンと衝突する直前の速さ。
- 電子の平均の速さを \(\bar{v}\) として、電流の大きさ \(I\) を \(\bar{v}\) を含む式で表す。
- (2), (3)の結果からオームの法則を導き、導体の抵抗率\(\rho\)を\(m, e, n, t_0\) で表す。
- 単位時間あたりに発生するジュール熱を求め、\(m, e, n, t_0, l, S, V\) で表したものと、\(V, I\) で表したもの。
- 金属の温度を上げると電気抵抗が増加するか減少するか、理由とともに説明。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、普段何気なく使っているオームの法則 \(V=RI\) や抵抗率 \(\rho\) が、電子レベルのどのような振る舞いから生じるのかを理論的に追っていく、物理の醍醐味が詰まった一問です。一つ一つの問いが、次の問いの部品となって最終的な法則の導出につながっていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- 一様な電場と電位差: \(V=Ed\)。導体棒の両端の電圧 \(V\) と長さ \(l\) から、内部の一様な電場 \(E\) が決まります。
- 運動方程式: \(ma=F\)。電子が電場から受ける力 \(F=eE\) によって、その加速度 \(a\) が決まります。
- 等加速度運動の公式: \(v = v_0 + at\)。衝突後に速さが0になるというモデルから、衝突直前の速さを計算します。
- 電流の定義(ミクロな視点): \(I = enS\bar{v}\)。電流とは、単位時間に断面を通過する電荷の総量であり、電子の平均の速さ \(\bar{v}\) を用いて表されます。
- 抵抗と抵抗率: \(R = \rho \frac{l}{S}\)。導体の形状(長さ\(l\), 断面積\(S\))と、物質の種類で決まる抵抗率\(\rho\)で抵抗\(R\)が決まります。
- エネルギーと仕事: 電子が失った運動エネルギーがジュール熱に変わるというエネルギー保存の考え方を用います。
全体的な戦略
- (1)から(4)にかけて、\(V \rightarrow E \rightarrow a \rightarrow v_{max} \rightarrow \bar{v} \rightarrow I\) という流れで、マクロな量(\(V\))からミクロな量(\(\bar{v}\))を経由して、再びマクロな量(\(I\))へと関係をつないでいきます。最終的に \(V\) と \(I\) の比例関係(オームの法則)を導き出し、その比例定数から抵抗\(R\)と抵抗率\(\rho\)の正体を明らかにします。
- (5)では、電子1個あたりのエネルギー損失と、導体中の電子の総数、衝突頻度から、導体全体での単位時間あたりのエネルギー損失(=消費電力)を計算します。
- (6)では、このモデルが温度変化に対してどう応答するかを考察します。
問 (1)
思考の道筋とポイント
導体棒の両端に電圧\(V\)がかかっているため、導体内部には一様な電場\(E\)が生じます。電場の大きさと電位差の関係式 \(V=Ed\) を用いて\(E\)を求めます。
次に、電荷\(-e\)、質量\(m\)の電子がこの電場\(E\)から受ける静電気力\(F\)を求め、運動方程式\(ma=F\)を立てて加速度の大きさ\(a\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 導体棒内部の電場は一様と考える。
- 公式 \(V=Ed\) を適用する(ここで\(d\)は導体の長さ\(l\))。
- 電子が電場から受ける力の大きさは \(eE\)。
- 運動方程式 \(ma=F\) を適用する。
具体的な解説と立式
長さ\(l\)の導体棒の両端に電圧\(V\)がかかっているので、内部には一様な電場\(E\)が生じると考えられます。その大きさは、
$$V = El \quad \cdots ①$$
この電場\(E\)から、電荷\(-e\)の電子が受ける静電気力の大きさ\(F\)は、
$$F = eE \quad \cdots ②$$
電子の質量を\(m\)、加速度の大きさを\(a\)として、運動方程式を立てると、
$$ma = F \quad \cdots ③$$
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
- 静電気力: \(F=qE\)
- 運動方程式: \(ma=F\)
まず、式①を\(E\)について解きます。
$$E = \frac{V}{l}$$
次に、加速度\(a\)を求めます。式②を式③に代入して \(ma = eE\)。この式に先ほど求めた\(E\)を代入します。
$$ma = e \left(\frac{V}{l}\right)$$
両辺を\(m\)で割ると、
$$a = \frac{eV}{ml}$$
- 電場を求める: 導体棒の長さが\(l\)で、両端の電圧が\(V\)なので、内部の電場の強さは単純に \(E=V/l\) となります。
- 電子にはたらく力を求める: 電子(電荷の大きさ\(e\))は、この電場\(E\)から \(eE\) という大きさの力を受けます。
- 加速度を求める: ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) に、力の大きさ \(F=eE\) を代入して、加速度\(a\)を計算します。
電場の大きさは \(\displaystyle\frac{V}{l}\)、電子の加速度の大きさは \(\displaystyle\frac{eV}{ml}\) です。
電圧\(V\)が大きいほど、また導体棒が短い(\(l\)が小さい)ほど電場は強くなり、電子の加速度も大きくなるという、直感に合った結果となっています。
問 (2)
思考の道筋とポイント
電子は衝突して速さが0になった後、問(1)で求めた一定の加速度\(a\)で、次の衝突までの時間\(t_0\)だけ加速されます。
これは、初速度0の等加速度直線運動と見なせます。したがって、衝突直前の速さ\(v_{max}\)は、等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて計算できます。
この設問における重要なポイント
- 電子の運動は初速度0、加速度\(a\)、時間\(t_0\)の等加速度直線運動とモデル化されている。
- 速度の公式 \(v = v_0 + at\) を適用する。
具体的な解説と立式
衝突直前の速さを\(v_{max}\)とします。
電子は衝突によって速さが0になり、そこから時間\(t_0\)の間、一定の加速度\(a\)で加速されます。
等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) において、初速度\(v_0=0\)、時間\(t=t_0\)とすると、
$$v_{max} = 0 + at_0 = at_0 \quad \cdots ④$$
ここに問(1)で求めた加速度\(a\)を代入します。
- 等加速度運動の速度公式: \(v = v_0 + at\)
式④に、(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{eV}{ml}\) を代入します。
$$v_{max} = \left(\frac{eV}{ml}\right)t_0 = \frac{eVt_0}{ml}$$
速さ\(v\)は「加速度\(a\) \(\times\) 時間\(t\)」で求められます(初めは止まっているので)。ここでは、加速度が\(a\)、加速する時間が\(t_0\)なので、衝突直前の速さは \(a \times t_0\) となります。(1)で求めた\(a\)を代入すれば答えが出ます。
電子がイオンと衝突する直前の速さは \(\displaystyle\frac{eVt_0}{ml}\) です。
これは、加速時間\(t_0\)が長いほど、また電場が強い(\(V/l\)が大きい)ほど速くなることを示しており、物理的に妥当な結果です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
電流の大きさを、電子のミクロな運動と関連付けて表す問題です。電流\(I\)とは、導体の断面を単位時間あたりに通過する電気量の総量です。
電子の平均の速さを\(\bar{v}\)とすると、時間\(\Delta t\)の間に断面積\(S\)の断面を通過する電子は、その断面から上流(電子の運動方向)に距離\(\bar{v}\Delta t\)までの体積 \(S\bar{v}\Delta t\) の中にいる電子たちです。
この体積に含まれる電子の数を求め、その総電荷量を\(\Delta t\)で割ることで電流\(I\)を導出します。これは、公式 \(I=enS\bar{v}\) として知られています。
この設問における重要なポイント
- 電流の定義(単位時間あたりに断面を通過する電気量)を理解する。
- 電子の平均の速さ\(\bar{v}\)を用いて、単位時間あたりに断面を通過する電子の数を計算する。
- 公式 \(I=enS\bar{v}\) の導出過程を理解する。
具体的な解説と立式
電流とは、単位時間に導体の任意の断面を通過する電気量の大きさです。
電子の平均の速さを\(\bar{v}\)とします。
1秒間に、断面積\(S\)の断面を通過する電子は、その断面から距離\(\bar{v} \times 1\text{s} = \bar{v}\)の範囲内にいる電子たちです。
この電子たちが占める体積\(V_{\text{通過}}\)は、底面積\(S\)、高さ\(\bar{v}\)の円柱(あるいは角柱)の体積なので、
$$V_{\text{通過}} = S\bar{v} \quad \cdots ⑤$$
単位体積あたりの電子の数は\(n\)なので、この体積内に含まれる電子の個数\(N\)は、
$$N = n V_{\text{通過}} = nS\bar{v} \quad \cdots ⑥$$
電子1個の電気量の大きさは\(e\)なので、1秒間に断面を通過する総電気量、すなわち電流\(I\)は、
$$I = eN \quad \cdots ⑦$$
- 電流のミクロな定義: \(I = enS\bar{v}\)
式⑥を式⑦に代入します。
$$I = e(nS\bar{v})$$
$$I = enS\bar{v}$$
- 1秒間に進む電子のかたまりを考える: 電子が平均の速さ\(\bar{v}\)で動いているとすると、1秒間で電子たちは\(\bar{v}\)の距離を進みます。断面積\(S\)の導体なので、これは体積が \(S\bar{v}\) の「電子のかたまり」が断面を通過したことになります。
- かたまりの中の電子の数を数える: 単位体積あたり\(n\)個の電子がいるので、このかたまりの中には \(n \times (S\bar{v})\) 個の電子がいます。
- 全体の電気の量を計算する: 電子1個の電気の大きさは\(e\)なので、このかたまり全体の電気の量は \(e \times (nS\bar{v})\) となります。これが1秒間に流れる電気の量、つまり電流\(I\)です。
電流の大きさ\(I\)は \(enS\bar{v}\) と表されます。これは電流のミクロな表現として非常に重要な公式です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
問(2)と(3)の結果を用いて、オームの法則(\(V=RI\))を導出し、抵抗率\(\rho\)を求めます。
まず、電子の平均の速さ\(\bar{v}\)を計算します。図2のグラフから、電子の速さは0から\(v_{max}\)まで線形に増加し、また0に戻ることを繰り返します。したがって、一つの加速区間における平均の速さは、初速0と終速\(v_{max}\)の平均値で与えられます。
この\(\bar{v}\)と、(2)で求めた\(v_{max}\)を、(3)で導いた電流の式 \(I=enS\bar{v}\) に代入します。これにより、電流\(I\)が電圧\(V\)を含む式で表されます。
この式を\(V\)について整理し、\(V=RI\)の形と比較することで抵抗\(R\)を求めます。
最後に、抵抗の公式 \(R = \rho \frac{l}{S}\) と比較して、抵抗率\(\rho\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- のこぎり波状の運動の平均の速さは、最大値の半分。
- これまでの結果を電流の式 \(I=enS\bar{v}\) に代入し、\(I\)と\(V\)の関係式を導く。
- 得られた式を \(V=(\text{定数})\times I\) の形に変形し、定数部分を抵抗\(R\)とみなす。
- \(R=\rho l/S\) の関係から\(\rho\)を特定する。
具体的な解説と立式
電子の速さは0から\(v_{max}\)まで一定の加速度で増加するため、その間の平均の速さ\(\bar{v}\)は、
$$\bar{v} = \frac{0+v_{max}}{2} = \frac{v_{max}}{2} \quad \cdots ⑧$$
この\(\bar{v}\)を、問(3)で導いた電流の式 \(I=enS\bar{v}\) に代入します。
$$I = enS\left(\frac{v_{max}}{2}\right) \quad \cdots ⑨$$
さらに、問(2)で求めた \(v_{max}\) の式を代入することで、\(I\)と\(V\)の関係式が得られます。この関係式を \(V\) について整理し、オームの法則 \(V=RI\) と比較します。
$$V = R I \quad \cdots ⑩$$
得られた抵抗\(R\)の式と、抵抗率\(\rho\)を用いた抵抗の公式
$$R = \rho \frac{l}{S} \quad \cdots ⑪$$
を比較して、\(\rho\)を求めます。
- 平均の速さ(等加速度運動)
- 電流のミクロな定義 \(I=enS\bar{v}\)
- オームの法則 \(V=RI\)
- 抵抗と抵抗率の関係 \(R=\rho l/S\)
まず、式⑧に(2)の結果 \(v_{max} = \displaystyle\frac{eVt_0}{ml}\) を代入して\(\bar{v}\)を求めます。
$$\bar{v} = \frac{1}{2}\left(\frac{eVt_0}{ml}\right) = \frac{eVt_0}{2ml}$$
次に、この\(\bar{v}\)を式⑨に代入して\(I\)を求めます。
$$I = enS\left(\frac{eVt_0}{2ml}\right) = \frac{e^2 nSt_0}{2ml} V$$
この式を\(V\)について解くことで、オームの法則の形にします。
$$V = \frac{2ml}{e^2 nS t_0} I$$
この式をオームの法則の式⑩ \(V=RI\) と比較すると、抵抗\(R\)は、
$$R = \frac{2ml}{e^2 nS t_0} = \left(\frac{2m}{e^2 n t_0}\right) \frac{l}{S}$$
最後に、この\(R\)の表式を式⑪ \(R=\rho l/S\) と比較すると、抵抗率\(\rho\)は、
$$\rho = \frac{2m}{e^2 n t_0}$$
- 電子の平均の速さを計算する: 図2のグラフから、電子の速さは0と最高速\(v_{max}\)の間を往復します。平均の速さは単純に\((0+v_{max})/2 = v_{max}/2\)です。
- 電流の式に代入する: (3)で求めた電流の式 \(I=enS\bar{v}\) に、この平均の速さ\(\bar{v}\)と(2)で求めた\(v_{max}\)を代入します。すると、電流\(I\)と電圧\(V\)の関係式が作れます。
- オームの法則の形にする: その関係式を「\(V = (\text{なにか}) \times I\)」の形に変形します。これがオームの法則です。括弧の中身が抵抗\(R\)に相当します。
- 抵抗率を求める: 抵抗\(R\)は「\(\rho \times l/S\)」という形でも書けます。ステップ3で求めた\(R\)の式とこの形を見比べて、\(\rho\)に相当する部分を抜き出します。
導出された関係式 \(V = \left(\frac{2ml}{e^2 nS t_0}\right) I\) は、\(V\)が\(I\)に比例することを示しており、まさにオームの法則です。
導体の抵抗率\(\rho\)は \(\displaystyle\frac{2m}{e^2 n t_0}\) と表されます。
この結果は、電子の質量\(m\)が大きいほど、また電子の数密度\(n\)や電荷\(e\)、衝突までの時間\(t_0\)が小さいほど、抵抗率が大きくなることを示しており、電子が動きにくい状況ほど抵抗が大きくなるという物理的なイメージと一致します。
問 (5)
思考の道筋とポイント
導体中で単位時間あたりに発生するジュール熱を求めます。
このモデルでは、電子が衝突によって失った運動エネルギーがすべてジュール熱に変わると考えます。
したがって、単位時間あたりに発生するジュール熱は、導体中の全ての電子が単位時間あたりに失う運動エネルギーの総和に等しいです。
まず、電子1個が1回の衝突で失うエネルギーを計算します。これは衝突直前の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_{max}^2\) です。
次に、電子1個が単位時間(1秒間)に何回衝突するかを考えます。衝突の時間間隔が\(t_0\)なので、衝突の頻度は \(1/t_0\) 回/秒です。
導体中の全電子の数は、電子の数密度\(n\)と導体の体積\(Sl\)の積で与えられます。
これらをすべて掛け合わせることで、導体全体で単位時間あたりに発生するジュール熱(=消費電力)が求まります。
この設問における重要なポイント
- ジュール熱の源泉は、電子が衝突で失う運動エネルギー。
- 単位時間あたりの発熱量 = (1回の衝突でのエネルギー損失) \(\times\) (1電子あたりの単位時間の衝突回数) \(\times\) (導体内の全電子数)。
- 最終的に、得られた式を \(V, I\) を用いて表すことを試みる。
具体的な解説と立式
単位時間あたりに発生するジュール熱を \(P\) とします。
電子1個が1回の衝突で失うエネルギー \(\Delta K\) は、衝突直前の運動エネルギーに等しいので、
$$\Delta K = \frac{1}{2}m v_{max}^2 \quad \cdots ⑫$$
電子1個あたりの単位時間(1秒)の衝突回数 \(f\) は、
$$f = \frac{1}{t_0} \quad \cdots ⑬$$
導体棒全体の体積は \(Sl\)。この中に含まれる全電子数 \(N_{\text{全}}\) は、
$$N_{\text{全}} = nSl \quad \cdots ⑭$$
導体全体で単位時間に発生するジュール熱 \(P\) は、これら3つの積で与えられます。
$$P = \Delta K \cdot f \cdot N_{\text{全}} \quad \cdots ⑮$$
この式を、与えられた変数で表し、さらに \(V, I\) で表します。
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 消費電力のミクロな定義
式⑫、⑬、⑭を式⑮に代入します。
$$P = \left(\frac{1}{2}m v_{max}^2\right) \cdot \left(\frac{1}{t_0}\right) \cdot (nSl)$$
ここに、問(2)で求めた \(v_{max} = \displaystyle\frac{eVt_0}{ml}\) を代入します。
$$P = \frac{1}{2}m \left(\frac{eVt_0}{ml}\right)^2 \cdot \frac{1}{t_0} \cdot nSl$$
$$P = \frac{1}{2}m \frac{e^2V^2t_0^2}{m^2l^2} \cdot \frac{nSl}{t_0}$$
約分できる項を整理します(\(m, t_0, l, S\))。
$$P = \frac{e^2 nS t_0 V^2}{2ml}$$
これが、\(m, e, n, t_0, l, S, V\) で表した答えです。
次に、これを \(V, I\) で表します。問(4)の計算途中に出てきた \(I\) と \(V\) の関係式 \(I = \displaystyle\frac{e^2 nS t_0}{2ml} V\) を利用します。
$$I = \left(\frac{e^2 nS t_0}{2ml}\right) V$$
この式の右辺の括弧内は、上で求めた \(P\) の式の \(V\) を一つ除いた部分と一致します。
$$P = \left(\frac{e^2 nS t_0 V}{2ml}\right) V = I \cdot V = VI$$
- 電子1個のエネルギー損失を考える: 電子1個が1回ぶつかるごとに失うエネルギーは、ぶつかる直前の運動エネルギーです。これは(2)の結果から計算できます。
- 1秒あたりの衝突回数を考える: 衝突は\(t_0\)秒ごとに起こるので、1秒あたりでは \(1/t_0\) 回ぶつかります。
- 電子の総数を考える: 導体の中には全部で \(n \times (\text{体積})\) 個の電子がいます。
- 全体の熱量を計算する: 「1個のエネルギー損失」\(\times\)「1秒あたりの衝突回数」\(\times\)「電子の総数」を計算すると、導体全体で1秒間に発生する熱量(=消費電力)が求まります。
- VとIで表す: 計算結果の式をよく見ると、(4)で導出した電流\(I\)の式の一部が含まれていることがわかります。これを利用して、式を \(VI\) という簡単な形に変形します。
単位時間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{e^2 nS t_0 V^2}{2ml}\) であり、これは \(VI\) とも表せます。
ミクロな電子の運動モデルから出発して、マクロな世界で成り立つ消費電力の公式 \(P=VI\) が導出できました。これは、このモデルの妥当性を示唆しています。
問 (6)
思考の道筋とポイント
導体(金属)の温度を上げたときに電気抵抗が増加するか減少するか、その理由を問われています。
(4)で導出した抵抗率 \(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 n t_0}\) の式を参考に考えます。
温度が上がると、導体を構成している陽イオンの熱運動(格子振動)が激しくなります。
このことは、導体内を運動する自由電子が陽イオンと衝突する頻度にどう影響するかを考えます。熱振動が激しいと、電子はより頻繁に衝突するようになると予想されます。
衝突の頻度が上がると、1回の加速時間(平均自由時間)\(t_0\) は短くなります。
\(t_0\) が小さくなると、抵抗率 \(\rho\) の式から、\(\rho\) がどう変化するかを判断し、最終的に電気抵抗 \(R=\rho l/S\) の変化を結論付けます。
この設問における重要なポイント
- 温度上昇と陽イオンの熱振動の関係。
- 熱振動と、電子の衝突頻度(または平均自由時間 \(t_0\))の関係。
- 平均自由時間 \(t_0\) と抵抗率 \(\rho\) の関係。
具体的な解説と立式
この設問は記述式のため、論理的な説明が中心となります。
- 導体の温度が上昇すると、導体を構成する陽イオンは、その格子点での熱振動がより激しくなります。
- これにより、導体内を移動する自由電子が陽イオンと衝突する確率が高まります。
- この電子モデルで言えば、衝突の平均時間間隔 \(t_0\) が短くなることに相当します。
- (4)で導出した抵抗率の式 \(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 n t_0}\) によると、抵抗率 \(\rho\) は \(t_0\) に反比例します。
- したがって、\(t_0\) が減少すると、抵抗率 \(\rho\) は増加します。
- 抵抗 \(R = \rho \frac{l}{S}\) なので、抵抗率 \(\rho\) が増加すれば、電気抵抗 \(R\) も増加します。
- 温度が上がると何が起きる?: 金属を温めると、中の原子(陽イオン)がブルブルと激しく震え始めます。
- 電子の動きはどうなる?: 電子が進もうとしても、激しく震えている陽イオンに邪魔されて、すぐにぶつかってしまいます。つまり、1回の衝突から次の衝突までの時間(モデルでの\(t_0\))が短くなります。
- 抵抗はどうなる?: (4)でわかったように、抵抗の大きさは \(t_0\) が小さいほど大きくなります。したがって、温度が上がると電気抵抗は増加します。
結論として、導体(金属)の温度を上げると電気抵抗は増加します。
その理由は、温度上昇によって陽イオンの熱振動が激しくなり、自由電子がより頻繁に衝突するようになって、電子のスムーズな移動が妨げられるためです。これは実験的な事実ともよく一致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則の微視的モデル(ドルーデモデル):
- 核心:マクロな現象である電気抵抗が、ミクロな世界での自由電子の運動(電場による加速と陽イオンとの衝突の繰り返し)から生じることを理解する。
- 理解のポイント:電圧→電場→力→加速度→速度→電流という一連の論理的なつながりを追うことで、各物理量の関係性が深く理解できる。
- 電流と電子の平均速度の関係:
- 核心:電流の正体は電荷の移動であり、その大きさは \(I=enS\bar{v}\) で表される。
- 理解のポイント:この公式は暗記するだけでなく、なぜこの形になるのか(単位時間に断面を通過する電荷量)を説明できるようにしておくことが重要。
- 抵抗率の物理的意味:
- 核心:抵抗率 \(\rho\) は、物質の種類や温度によって決まる物性値であり、\(\rho = \frac{2m}{e^2 n t_0}\) のように電子の基本的な性質(質量\(m\), 電荷\(e\), 数密度\(n\))と、物質内部での動きやすさ(衝突までの時間\(t_0\))で決まる。
- 理解のポイント:何が抵抗を生み出しているのか(電子の動きにくさ)を具体的にイメージする。
- ジュール熱の発生原理:
- 核心:導体に電流が流れて熱が発生するのは、加速された電子が衝突によって運動エネルギーを失い、そのエネルギーが陽イオンの熱振動(すなわち熱)に変わるため。
- 理解のポイント:消費電力 \(P=VI\) というマクロな関係式が、ミクロな世界のエネルギー損失の総和として説明できることを理解する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 半導体におけるキャリア(電子と正孔)の運動を扱う問題。
- ホール効果など、磁場中の電子の運動を扱う問題の基礎となる。
- 他の輸送現象(熱伝導など)の簡単なモデル化に応用できる考え方を含む。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- モデルの把握: まず、問題で提示されている物理現象の「単純化されたモデル」がどのようなものかを正確に理解する(例:衝突したら速度0、一定時間\(t_0\)で衝突、など)。
- マクロとミクロの対応: 問題で与えられているマクロな量(\(V, I, R\)など)と、ミクロな量(\(e, m, n, \bar{v}\)など)を対応付け、それらをつなぐ物理法則を考える。
- 因果関係の連鎖を追う: 「電圧がかかる \(\rightarrow\) 電場ができる \(\rightarrow\) 電子が力を受ける \(\rightarrow\) 加速する \(\rightarrow\) 平均速度が決まる \(\rightarrow\) 電流が決まる」という一連の流れを意識する。
- 単位あたりの量を考える: 「単位体積あたり」「単位時間あたり」といった考え方は、ミクロな現象からマクロな量を導出する際の基本。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電子の速度の混同:
- 現象:衝突直前の最大速度 \(v_{max}\) と、多数の電子の平均の速さ \(\bar{v}\) を混同してしまう。
- 対策:\(v_{max}\) は個々の電子の運動サイクルの最大値、\(\bar{v}\) はその時間平均であり、電流に直接寄与する量であると区別する。今回のモデルでは \(\bar{v}=v_{max}/2\) であった。
- 電流の向きと電子の運動方向:
- 現象:電流の向きを電子の運動方向と同じだと考えてしまう。
- 対策:電流の向きは「正電荷の移動する向き」と定義されている。負の電荷を持つ電子の運動方向とは逆向きになることを常に意識する。
- \(I=enS\bar{v}\) の公式の誤用:
- 現象:公式の各文字の意味(特に\(n\)が単位体積あたりの個数であること)を正確に理解せずに使ってしまう。
- 対策:公式を丸暗記するのではなく、その導出過程(1秒間に断面を通過する電子のかたまりを考える)を一度自分でやってみる。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 図1(導体棒)に、電場の向き、電子が受ける力の向き、電子の移動方向、電流の向きを矢印で描き込む(模範解答の図aが参考になる)。
- 図2の速さ-時間グラフが、電子1個の運動の繰り返しを表していることを理解する。グラフの傾きが加速度、グラフの面積が移動距離に対応する。
- 電流を考える際に、断面積Sを通過する電子の「流れ」をイメージする。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- マクロな視点の図(回路図)と、ミクロな視点の図(導体内部の電子の様子)を区別して考える。
- ベクトル量(力、電場、速度、電流)は向きを矢印で明確に示す。
- モデルを説明するための概念図(例えば、衝突する陽イオンの格子を描くなど)を自分で描いてみると理解が深まる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=El\) (電位差と電場):
- 選定理由:マクロな量である電圧\(V\)から、電子に直接作用するミクロな量である電場\(E\)を求めるため。
- 適用根拠:導体棒内部に一様な電場が形成されているという理想的な状況設定。
- \(ma=eE\) (運動方程式):
- 選定理由:電場から受ける力によって電子がどのように運動するか(加速度)を決定するため。
- 適用根拠:電子を、質量\(m\)、電荷\(-e\)の質点とみなし、古典力学を適用する。
- \(I=enS\bar{v}\) (電流のミクロな表現):
- 選定理由:多数の電子のミクロな運動(平均速度\(\bar{v}\))を、マクロな物理量である電流\(I\)に結びつけるため。
- 適用根拠:電流が電荷の移動の流れであるという定義に基づく。
- \(R = \rho l/S\) (抵抗と抵抗率):
- 選定理由:ミクロなモデルから導出したマクロな抵抗\(R\)の表現を、物質固有の性質である抵抗率\(\rho\)と幾何学的な形状(\(l,S\))に分離するため。
- 適用根拠:抵抗値の定義。
- \(P = (\Delta K/t_0) \times N_{全}\) (単位時間あたりの発熱量):
- 選定理由:ジュール熱の発生を、電子の運動エネルギー損失というミクロな原因から計算するため。
- 適用根拠:エネルギー保存則。失われた力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されるという考え方。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 電場と加速度の導出: 電圧\(V\)から電場\(E\)を求め (\(E=V/l\))、電場\(E\)から電子の加速度\(a\)を求める (\(ma=eE\))。
- 電子の速度の計算: 加速度\(a\)と加速時間\(t_0\)から、衝突直前の最大速度\(v_{max}\)を計算 (\(v_{max}=at_0\))。次に、平均速度\(\bar{v}\)を計算 (\(\bar{v}=v_{max}/2\))。
- 電流の導出: 平均速度\(\bar{v}\)を電流の公式に代入し、\(I\)を求める (\(I=enS\bar{v}\))。
- オームの法則と抵抗率の導出: \(I\)と\(V\)の関係式を\(V=… \times I\)の形に整理し、オームの法則を確認。比例定数を抵抗\(R\)とし、\(R=\rho l/S\)と見比べることで\(\rho\)を特定する。
- ジュール熱の計算: 1回の衝突で失うエネルギー (\(\frac{1}{2}mv_{max}^2\))、単位時間あたりの衝突回数 (\(1/t_0\))、全電子数 (\(nSl\)) を掛け合わせる。
- 温度依存性の考察: 温度上昇 \(\rightarrow\) 陽イオンの熱振動が激化 \(\rightarrow\) 衝突時間\(t_0\)が減少 \(\rightarrow\) 抵抗率\(\rho\)が増加 \(\rightarrow\) 抵抗が増加、という論理の流れを構築する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: \(m, e, n, t_0, l, S, V, I, E, a, v_{max}, \bar{v}, R, \rho\) など多くの文字が登場する。どの文字が何を表し、どの式で関連付けられているかを意識しながら、丁寧に代入と式変形を行う。
- 次元の確認: 例えば、抵抗率\(\rho\)の式の次元が正しいか(\(\Omega \cdot \text{m}\)になるか)などを検算すると、間違いに気づきやすい。
- 結果の物理的意味の確認: 各ステップで得られた結果が、物理的に妥当な依存性を持っているか(例:\(V\)が大きければ\(I\)も大きい)を常に考える。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- モデルの限界を意識する: この問題のモデルは非常に単純化されている。実際の電子の運動はもっと複雑(速度分布がある、量子力学的効果など)であることを念頭に置くと、物理への理解が深まる。
- マクロな法則との整合性: ミクロなモデルから出発して、最終的に \(V=RI\) や \(P=VI\) といった既知のマクロな法則が導出されたことで、モデルの正しさが(ある範囲で)検証されたと考える。この感動を味わうことが重要。
- 抵抗率の式の吟味: \(\rho = \frac{2m}{e^2 n t_0}\) という結果から、良い導体(抵抗率が小さい)とはどういう物質かを考える。「電子が軽い(\(m\))」「電子がたくさんある(\(n\))」「衝突しにくい(\(t_0\)が大きい)」という条件が読み取れ、直感と一致するかを考える。
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