問題22 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つのコンデンサーと2つの連動スイッチ、そして1つの電源を用いて、A点とB点の間の電圧 \(V_{AB}\) を操作によって変化させていく、一種の昇圧回路に関する思考実験です。スイッチの切り替えによって回路構成が変化し、それに伴いコンデンサーの電荷が再分配されたり、電源から充電されたりするプロセスを段階的に追っていく必要があります。特に、孤立部分における電気量保存則と、各点の電位の考え方が重要になります。
- 電圧 \(V_0\) の電源。
- 2つのコンデンサー \(C_1\), \(C_2\) で、電気容量はいずれも \(C\)。
- 連動スイッチ S1, S2:
- 左側接点 (\(l_1, l_2\)) に同時に接続。
- 右側接点 (\(r_1, r_2\)) に同時に接続。
- または左右どちらにも接続しない。
- 初期状態:S1, S2 は左右どちらの接点にも接続しておらず、\(C_1\), \(C_2\) はいずれも帯電していない。
- A点は \(C_1\) の上側極板と \(C_2\) の上側極板に接続。
- B点は \(C_2\) の下側極板からの端子。
以下の各操作後における、A,B間に現れる電圧 \(V_{AB}\)(\(V_A – V_B\) を意味すると考えられる)を求める。
- S1, S2 を左側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん右側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん左側接点に接続してから、右側接点に接続する。
- 操作IIIをもう一度繰り返す。
- この後、操作IIIをさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) が近づく値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題では、スイッチの切り替えによってコンデンサーの接続状態が変化し、電荷が移動したり保存されたりします。各段階で、どのコンデンサーがどのように充電・放電されるのか、また孤立した部分の電荷はどうなるのかを丁寧に追跡することが重要です。電位の考え方を用いると、複雑な回路も比較的すっきりと扱うことができます。
模範解答では、問題文の回路図の \(r_1, r_2\) の具体的な接続先が明示的でないため、操作によって形成される回路構成を独自に解釈して図示しています。この解説も、その模範解答の解釈(特に図b, c, d, e, f)に沿って進めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- コンデンサーの基本: \(Q=CV\)(\(Q\): 電気量, \(C\): 電気容量, \(V\): 電圧)。
- 電気量保存則: 電気的に孤立した導体部分の総電荷は、操作の前後で保存される。
- 電位: 回路の各点の電位を考える。電源の負極やアース点を基準(0V)とすることが多い。電圧 \(V_{AB}\) はA点の電位 \(V_A\) とB点の電位 \(V_B\) の差 (\(V_A – V_B\))。
- スイッチの働き: スイッチが接続されると、その部分は導線でつながれ等電位になる。スイッチが開くと、その部分は電気的に絶縁される。
全体的な戦略
- 各操作ステップごとに、回路がどのようにつながるのかを明確にし、必要であれば回路図を描き直して考えます。
- コンデンサーの極板の電荷の正負と、それに対応する電位の高低を意識します。
- 「電位法」を用いて、未知の電位を文字で置き、コンデンサーの電荷の式や電気量保存則から方程式を立てて解くのが有効です。
- 繰り返し操作の場合は、1回ごとの変化のパターンを見つけ、漸化式を立てることを考えます。
操作 I
思考の道筋とポイント
連動スイッチS1, S2を左側接点 (\(l_1, l_2\)) に接続します。
模範解答の解釈に従い、この操作では\(C_1\)のみが電源\(V_0\)で充電され、\(C_2\)は帯電しない(電圧0、電荷0)状態になるとします。A点は\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の上側極板に接続されています。B点は\(C_2\)の下側極板からの端子です。\(V_{AB}\)はA点とB点の電位差です。
この設問における重要なポイント
- 模範解答の解釈では、スイッチを左側に接続すると、\(C_1\) のみが電源 \(V_0\) によって充電される。
- \(C_1\) の上側極板(D)に \(+CV_0\)、下側極板(E)に \(-CV_0\) の電荷が蓄えられる。
- \(C_2\) は帯電せず、その極板F、Gの電荷は0。したがって\(C_2\)にかかる電圧も0。
- \(V_{AB}\) はこの状態におけるA点とB点の電位差。模範解答はこれを0Vとしています。
具体的な解説と立式
模範解答の解釈に基づき、操作Iの結果を記述します。
\(C_1\)は電源\(V_0\)で充電され、その上側極板Dに \(+CV_0\)、下側極板Eに \(-CV_0\) の電荷が蓄えられます。
\(C_2\)は帯電せず、その極板F、Gの電荷は0です。
A点はDおよびFに接続されており、B点はGに接続されています。
模範解答は「\(C_2\)には電圧がかからないから \(V_{AB}=0\)」としています。これは、A点とB点の電位が等しくなるか、あるいは \(V_{AB}\) を \(C_2\) の電圧そのものとみなしていると考えられます。
使用した物理公式
- コンデンサーの充電の基本(模範解答の解釈による)
模範解答に従い、\(C_2\)の電圧が0であることから、
$$V_{AB} = 0$$
- スイッチを左に接続: スイッチS1, S2を左に倒します。
- コンデンサーの状態(模範解答の解釈): \(C_1\)だけが電源で充電され、電圧\(V_0\)になります。\(C_2\)には電圧がかからず、電荷も蓄えられません。
- A-B間電圧: \(C_2\)に電圧がかからないため、A点とB点の間の電圧\(V_{AB}\)は0Vとなります。
模範解答に従うと、操作IにおけるA,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(0 \text{ V}\) です。このとき、\(C_1\) のみが \(Q_1=CV_0\) (上側極板Dが正、下側極板Eが負) に充電され、\(C_2\) の電荷は0であるとします。この解釈を以降の設問でも引き継ぎます。
操作 II
思考の道筋とポイント
操作Iの後(\(C_1\)に電荷 \(Q_1=CV_0\)、\(C_2\)に電荷0)、スイッチS1, S2を右側接点(\(r_1, r_2\))に接続します。
模範解答の図bはこの操作によって実現される回路構成を示していると解釈します。図bでは、\(C_1\)の上側極板Dが電源の正極(\(V_0\))に、\(C_2\)の下側極板G(B点に接続)が電源の負極(0V)に接続されています。そして、\(C_1\)の下側極板Eと\(C_2\)の上側極板Fが導線で接続され、このE-F間が電気的に孤立しています。A点はDおよびFに接続されています。\(V_{AB}\) はA点の電位とB点の電位の差です。EとFの接続点の電位を \(x_1\) とおき、電位法で解きます。
この設問における重要なポイント
- 操作Iで \(C_1\) に蓄えられた電荷 \(CV_0\) (極板Dに\(+CV_0\)、Eに\(-CV_0\))と、\(C_2\) の電荷0を初期条件とする。
- スイッチを右側に切り替えた後の回路構成は模範解答の図bに従う。極板Dの電位は\(V_0\)、極板Gの電位は0V。極板EとFは接続され、共通電位\(x_1\)となる。
- 電気的に孤立した部分(極板EとFの系)について電気量保存則を適用する。
- 各極板の電位を設定し、コンデンサーの電荷を電位差で表す。
具体的な解説と立式
操作Iの後、\(C_1\)の上側極板Dには\(+CV_0\)、下側極板Eには\(-CV_0\)の電荷があります。\(C_2\)の極板F, Gには電荷がありません(電荷0)。
スイッチを右側に切り替えると、模範解答の図bの回路になるとします。
電源の負極に接続されるG点の電位を \(V_G = 0 \text{ V}\)(これがB点の電位 \(V_B\))。
電源の正極に接続されるD点の電位を \(V_D = V_0\)。
E点とF点が接続され、この共通の電位を \(x_1\) とします。
電気的に孤立しているのはEとFの系です。操作前のEの電荷は\(-CV_0\)、Fの電荷は0でした。操作後のEの電荷を\(Q_E\)、Fの電荷を\(Q_F\)とすると、電気量保存則より、
$$Q_E + Q_F = -CV_0 + 0 = -CV_0 \quad \cdots ②$$
コンデンサーの電荷の定義から、
\(C_1\)について、極板Eの電荷 \(Q_E = C(x_1 – V_D)\)。
\(C_2\)について、極板Fの電荷 \(Q_F = C(x_1 – V_G)\)。
これを式②に代入します。\(V_D=V_0, V_G=0\)なので、
$$C(x_1 – V_0) + C(x_1 – 0) = -CV_0 \quad \cdots ③$$
A点の電位 \(V_A\) は、図bではDに接続されているので \(V_A = V_D = V_0\)。
B点の電位 \(V_B\) は、Gの電位なので \(V_B = V_G = 0\)。
したがって、\(V_{AB} = V_A – V_B\)。
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの電荷: \(Q=C(V_1-V_2)\)
孤立部分E+Fの電荷保存則の式③を解きます。
$$C(x_1 – V_0) + Cx_1 = -CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_1 – V_0 + x_1 = -V_0$$
$$2x_1 – V_0 = -V_0$$
$$2x_1 = 0$$
$$x_1 = 0 \text{ V}$$
A点の電位 \(V_A\) は、極板Dの電位に等しく \(V_D = V_0\)。
B点の電位 \(V_B\) は、極板Gの電位に等しく \(V_G = 0 \text{ V}\)。
したがって、
$$V_{AB} = V_A – V_B = V_0 – 0 = V_0$$
- 最初の状態の電荷を把握する: 操作Iの後、\(C_1\) には電荷 \(CV_0\) が蓄えられ(上側Dが正、下側Eが負)、\(C_2\) の電荷は0です。
- スイッチ切り替え後の回路を理解する: スイッチを右に倒すと、模範解答の図bのような回路になると考えます。この回路では、\(C_1\)の上側Dが電源のプラス(\(V_0\))に、\(C_2\)の下側Gが電源のマイナス(0V)につながります。そして、\(C_1\)の下側Eと\(C_2\)の上側Fが内部でつながり、このE-F部分が電気的に孤立します。
- 電気量保存を使う: 孤立しているE-F部分の電荷の合計は、スイッチを切り替える前後で変わりません。切り替え前のEの電荷は\(-CV_0\)、Fの電荷は0なので、合計\(-CV_0\)。切り替え後のEの電荷を\(C_1\)の下側極板の電荷、Fの電荷を\(C_2\)の上側極板の電荷として、それらをEとFの接続点の電位 \(x_1\) で表し、合計が\(-CV_0\)に等しいという式を立てて \(x_1\) を求めます。
- \(V_{AB}\)を計算する: A点はD点(電位\(V_0\))に、B点はG点(電位0V)に接続されているので、その電位差を求めます。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(V_0\) となります。これは模範解答と一致します。この操作で、E-F間の電位は0Vとなり、結果的に\(C_1\)は電源電圧\(V_0\)で充電されたまま、\(C_2\)は電圧0のまま(電荷0のまま)という状態になります。
別解: 模範解答に示された方程式による解法
思考の道筋とポイント
模範解答には、\(C_1\)の電圧・電荷を\(V_1, Q_1\)、\(C_2\)の電圧・電荷を\(V_2, Q_2\)とし、いくつかの関係式を立てて解く別解が示されています。ここでの電気量保存は、DとFの電荷の和が初期のDの電荷\(CV_0\)とFの電荷0の和に等しいという解釈に基づいているようです。また、特有の電圧関係式を用いています。
具体的な解説と立式
模範解答の別解では、以下の4つの式を立てています。
$$Q_1 = CV_1 \quad \cdots (\text{別}1)$$
$$Q_2 = CV_2 \quad \cdots (\text{別}2)$$
電気量保存則(DとFの系を孤立とみなし、初期のDの電荷\(CV_0\)とFの電荷0の和が保存されると解釈):
$$Q_1 + Q_2 = CV_0 \quad \cdots (\text{別}3)$$
G点(電位0)からD点(電位\(V_0\))への電位差に関する関係式(図の解釈に基づく):
$$V_0 + V_1 = V_2 \quad \cdots (\text{別}4)$$
ここで、\(V_1\)は\(C_1\)の電圧、\(V_2\)は\(C_2\)の電圧です。\(V_{AB}\) は \(V_D-V_G\) であり、図bから \(V_D=V_0, V_G=0\) なので \(V_{AB}=V_0\) となります。あるいは、\(V_2\) が \(V_{AB}\) に対応すると解釈することもできます。
使用した物理公式
- \(Q=CV\)
- 電気量保存則(模範解答の解釈)
- 電圧関係式(模範解答の解釈)
式(\(\text{別}1\))と式(\(\text{別}2\))を式(\(\text{別}3\))に代入すると、
$$CV_1 + CV_2 = CV_0$$
両辺を \(C\) で割って、
$$V_1 + V_2 = V_0 \quad \cdots (\text{別}3′)$$
式(\(\text{別}4\)) \(V_2 = V_0 + V_1\) を式(\(\text{別}3’\))に代入すると、
$$V_1 + (V_0 + V_1) = V_0$$
$$2V_1 + V_0 = V_0$$
$$2V_1 = 0$$
$$V_1 = 0$$
これを式(\(\text{別}4\))に代入すると、
$$V_2 = V_0 + 0 = V_0$$
もし \(V_{AB} = V_2\) と解釈するならば、\(V_{AB}=V_0\) となります。また、\(Q_1=0, Q_2=CV_0\) となります。
この別解の方法でも \(V_{AB}=V_0\) という結果が得られます(\(V_{AB}\)を\(V_2\)と解釈した場合、またはD,G間の電位差と解釈した場合)。ただし、この別解で用いられている式(特に式(\(\text{別}4\)))の物理的な背景や回路の解釈は、本文の電位法とは異なるアプローチを取っています。
操作 III
思考の道筋とポイント
操作IIの後、スイッチをいったん左側接点に接続し(図dの状態)、その後、右側接点に接続します(図eの状態)。
左側接続時(図d):
\(C_1\)は電源\(V_0\)で充電され、極板Dには\(+CV_0\)、Eには\(-CV_0\)の電荷が蓄えられます。
\(C_2\)も電源\(V_0\)に並列に接続されるため、極板Fには\(+CV_0\)、Gには\(-CV_0\)の電荷が蓄えられます。
右側接続時(図e):
模範解答の図eの回路構成になると解釈します。DとFが接続され、このD-F系が電気的に孤立します。Eは電源の正極(\(V_0\))に、Gは電源の負極(0V)に接続されます。
D-F系の共通の電位を \(x_2\) とします。これがA点の電位 \(V_A = x_2\) です。B点の電位 \(V_B\) はG点の電位なので \(0 \text{ V}\)。よって \(V_{AB} = x_2\)。
孤立部分D-Fの電気量保存則を適用します。
左側接続完了時のDの電荷は\(+CV_0\)、Fの電荷は\(+CV_0\)でした。よって、D-F系の初期総電荷は \(+CV_0 + (+CV_0) = +2CV_0\)。
右側接続後のDの電荷 \(Q_D’ = C(x_2 – V_E) = C(x_2 – V_0)\)。
右側接続後のFの電荷 \(Q_F’ = C(x_2 – V_G) = C(x_2 – 0) = Cx_2\)。
電気量保存則: \(Q_D’ + Q_F’ = +2CV_0\)。
この設問における重要なポイント
- 左側接続で\(C_1\), \(C_2\)はそれぞれ\(CV_0\)の電荷を持つ(極板D, Fが正)。
- 右側接続では、DとFが接続されて孤立し、その合計電荷が保存される。
- Eは\(V_0\)(電源正極)、Gは0V(電源負極)に接続される(模範解答の図eの解釈)。
- DとFの共通電位を\(x_2\)とし、電気量保存から\(x_2\)を求める。\(V_{AB}=x_2\)。
具体的な解説と立式
1. 左側接点に接続したとき(図dの状態)
\(C_1\)の上側極板Dの電荷: \(+CV_0\)。下側極板Eの電荷: \(-CV_0\)。
\(C_2\)の上側極板Fの電荷: \(+CV_0\)。下側極板Gの電荷: \(-CV_0\)。
2. 右側接点に接続したとき(図eの状態)
極板DとFが導線で接続され、共通の電位 \(x_2\) になります。A点の電位は \(V_A=x_2\)。
極板Eは電源の正極に接続されるので、電位 \(V_E = V_0\)。
極板Gは電源の負極に接続されるので、電位 \(V_G = 0 \text{ V}\)。B点の電位は \(V_B=V_G=0\)。
孤立しているのはDとFの系です。この系が右側接続の直前に持っていた総電荷は、左側接続完了時のDの電荷とFの電荷の和です。
$$Q_{\text{D+F init}} = (+CV_0)_{\text{D}} + (+CV_0)_{\text{F}} = 2CV_0$$
右側接続後のDの電荷 \(Q_D’\) は、\(C_1\)のコンデンサーで、Dの電位が\(x_2\)、Eの電位が\(V_0\)なので、
$$Q_D’ = C(x_2 – V_0) \quad \cdots ⑦$$
右側接続後のFの電荷 \(Q_F’\) は、\(C_2\)のコンデンサーで、Fの電位が\(x_2\)、Gの電位が0なので、
$$Q_F’ = C(x_2 – 0) = Cx_2 \quad \cdots ⑧$$
電気量保存則より、DとFの電荷の総和は不変なので、
$$Q_D’ + Q_F’ = Q_{\text{D+F init}}$$
すなわち、
$$C(x_2 – V_0) + Cx_2 = 2CV_0 \quad \cdots ⑨$$
この方程式を解いて \(x_2\) を求めます。そして \(V_{AB} = V_A – V_B = x_2 – 0 = x_2\)。
使用した物理公式
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
式⑨の方程式を解きます。
$$C(x_2 – V_0) + Cx_2 = 2CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_2 – V_0 + x_2 = 2V_0$$
$$2x_2 – V_0 = 2V_0$$
$$2x_2 = 3V_0$$
$$x_2 = \frac{3}{2}V_0$$
したがって、\(V_{AB} = x_2 = \displaystyle\frac{3}{2}V_0\)。
- 左スイッチ操作: まずスイッチを左に倒すと、\(C_1\) と \(C_2\) はそれぞれ電源 \(V_0\) で充電されます。このとき、\(C_1\) の上側極板Dも \(C_2\) の上側極板Fも \(+CV_0\) の電荷を持ちます。
- 右スイッチ操作前のDとFの総電荷: スイッチを右に倒す直前の、極板Dと極板Fが持つ電荷の合計は \(CV_0 + CV_0 = 2CV_0\) です。
- 右スイッチ操作後の回路と電荷保存: スイッチを右に倒すと、模範解答の図eのような回路になります。この回路では、DとFがつながって同じ電位 \(x_2\) になり、このDとFのペアが電気的に孤立します。したがって、DとFの電荷の合計は \(2CV_0\) のまま保存されます。
- 共通電位を求める: \(C_1\) のもう一方の極板Eの電位は \(V_0\)、\(C_2\) のもう一方の極板Gの電位は0Vになります。DとFの電荷を、共通電位 \(x_2\) を使って表し、それらの合計が \(2CV_0\) になるという式を立てて \(x_2\) を求めます。この \(x_2\) が求める \(V_{AB}\) となります。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\) となります。これは元の電源電圧 \(V_0\) よりも \(1.5\) 倍に大きくなっており、昇圧作用が確認できます。
操作 IV
思考の道筋とポイント
操作III(左接続→右接続)をもう一度繰り返します。
操作IIIの右側接続完了時(図eの状態)の各部の電荷と電位が、この操作IVの「右側接続の直前」の初期状態の一部となります。
操作IIIの最後では、DとFの共通電位は \(x_2 = \frac{3}{2}V_0\) でした。
このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F, \text{III後}} = Cx_2 = C(\frac{3}{2}V_0) = \frac{3}{2}CV_0\)。
操作IVの左側接続:
\(C_1\)は電源\(V_0\)で新たに充電され、Dの電荷は \(+CV_0\) となります。
模範解答の解釈では、\(C_2\)の上側極板Fは、操作IIIの右接続完了時の電荷 \(\frac{3}{2}CV_0\) を保持したままです。
操作IVの右側接続:
孤立部分D-Fの共通電位を \(x_3\) とします。\(V_{AB}=x_3\)。
右側接続直前のDの電荷(操作IVの左接続完了時)は \(+CV_0\)。
右側接続直前のFの電荷(操作IIIの右接続完了時から保持)は \(+\frac{3}{2}CV_0\)。
よって、D-F系の初期総電荷 \(Q_{\text{D+F init IV}} = CV_0 + \frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\)。
右側接続後のDの電荷 \(Q_D” = C(x_3 – V_0)\) (Eの電位は\(V_0\))。
右側接続後のFの電荷 \(Q_F” = C(x_3 – 0) = Cx_3\) (Gの電位は0V)。
電気量保存則: \(Q_D” + Q_F” = Q_{\text{D+F init IV}}\)。
この設問における重要なポイント
- 操作IIIの繰り返しなので、1サイクル前(操作IIIの右接続後)のFの電荷を次のサイクルの初期条件として利用する(模範解答の解釈)。
- 左側接続ではDの電荷は常に \(+CV_0\) にリセットされるが、Fの電荷は前の右接続の結果を引き継ぐと解釈。
- 右側接続ではDとFが孤立し、その合計電荷が保存される。
具体的な解説と立式
模範解答の解釈に従い、操作IVの右側接続の直前の状態を考えます。
1. 左側接点に接続したとき: \(C_1\)の上側極板Dは新たに電荷 \(+CV_0\) を持ちます。一方、\(C_2\)の上側極板Fは、操作IIIの右側接続完了時の電荷を保持しているとします。操作IIIの最後でFの電荷は \(Q_{F, \text{III後}} = Cx_2 = C(\frac{3}{2}V_0) = \frac{3}{2}CV_0\) でした。
2. 右側接点に接続する直前のD-F系の総電荷:
$$Q_{\text{D+F init IV}} = (+CV_0)_{\text{D}} + \left(+\frac{3}{2}CV_0\right)_{\text{F}} = \frac{5}{2}CV_0$$
3. 右側接点に接続したとき: DとFの共通電位を \(x_3\) とします。A点の電位は \(V_A=x_3\)、B点の電位は \(V_B=0\)。
Dの電荷 \(Q_D” = C(x_3 – V_0)\) (極板Eの電位は\(V_0\))。
Fの電荷 \(Q_F” = C(x_3 – 0) = Cx_3\) (極板Gの電位は0V)。
電気量保存則より、
$$C(x_3 – V_0) + Cx_3 = \frac{5}{2}CV_0 \quad \cdots ⑩$$
この方程式を解いて \(x_3\) を求めます。\(V_{AB} = x_3\)。
使用した物理公式
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
計算過程
式⑩の方程式を解きます。
$$C(x_3 – V_0) + Cx_3 = \frac{5}{2}CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_3 – V_0 + x_3 = \frac{5}{2}V_0$$
$$2x_3 – V_0 = \frac{5}{2}V_0$$
$$2x_3 = V_0 + \frac{5}{2}V_0 = \frac{2V_0 + 5V_0}{2} = \frac{7}{2}V_0$$
$$x_3 = \frac{7}{4}V_0$$
したがって、\(V_{AB} = x_3 = \displaystyle\frac{7}{4}V_0\)。
- 右スイッチ操作前の電荷を把握(模範解答の解釈に基づく): 操作IIIが終わったとき、\(C_2\) の上側極板Fには \(\frac{3}{2}CV_0\) の電荷があります。操作IVの最初の左スイッチ操作で、\(C_1\) の上側極板Dは新たに \(+CV_0\) に充電されますが、Fの電荷はこの \(\frac{3}{2}CV_0\) のまま変わらないとします。よって、右スイッチ操作直前のDとFの電荷の合計は \(CV_0 + \frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\) です。
- 右スイッチ操作後の回路と電荷保存: スイッチを右に倒すと、再び図eのような回路になり、DとFがつながって同じ電位 \(x_3\) になります。DとFの電荷の合計は \(\frac{5}{2}CV_0\) のまま保存されます。
- 共通電位を求める: \(C_1\) のもう一方の極板Eの電位は \(V_0\)、\(C_2\) のもう一方の極板Gの電位は0Vです。DとFの電荷を、共通電位 \(x_3\) を使って表し、それらの合計が \(\frac{5}{2}CV_0\) になるという式を立てて \(x_3\) を求めます。この \(x_3\) が求める \(V_{AB}\) となります。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(\displaystyle\frac{7}{4}V_0\) となります。操作IIIの結果 \(\frac{3}{2}V_0 = \frac{6}{4}V_0\) よりもさらに電圧が上昇しており、昇圧が続いていることがわかります。
操作 V
思考の道筋とポイント
操作III(左接続→右接続の1サイクル)をさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) がどのような値に近づくかを問われています。
操作IVで用いた考え方を一般化し、\(n\) 回目のサイクルの右接続完了後のD,Fの共通電位(これが \(V_{AB}\))を \(x_n\) とします。このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F,n} = Cx_n\) です。
次の (\(n+1\)) 回目のサイクルの左接続では、\(C_1\)の上側極板Dの電荷は \(+CV_0\) になります。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は直前の状態の \(Cx_n\) を保持します(模範解答の解釈)。
(\(n+1\)) 回目のサイクルの右接続では、D-F系の初期総電荷は \(CV_0 + Cx_n\)。
右接続完了後のD,Fの共通電位を \(x_{n+1}\) とすると、極板Eの電位は\(V_0\)、極板Gの電位は0Vなので、
Dの電荷: \(C(x_{n+1}-V_0)\)
Fの電荷: \(C(x_{n+1}-0) = Cx_{n+1}\)
電気量保存則からこれらを結びつけ、漸化式を導出し、その極限 \(n \rightarrow \infty\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 操作の繰り返しによる \(V_{AB}\) の変化を一般化し、漸化式を立てる。
- 漸化式の極限値を求める。収束する場合、\(x_{n+1} = x_n = x_\infty\) とおいて代数的に解くことができる。
具体的な解説と立式
\(n\) 回目の「左接続→右接続」の操作が完了したときのA,B間電圧(すなわちD,Fの共通電位)を \(x_n\) とします。このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F,n} = Cx_n\)。
次の(\(n+1\))回目の操作を考えます。
- 左側接点に接続: \(C_1\)の上側極板Dの電荷は \(+CV_0\) になります。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は直前の状態の \(Cx_n\) を保持します(模範解答の解釈に基づく)。
- 右側接点に接続する直前のD-F系の総電荷: \(Q_{\text{D+F init}, n+1} = (+CV_0)_{\text{D}} + (Cx_n)_{\text{F}} = CV_0 + Cx_n\)。
- 右側接点に接続したとき: DとFの共通電位を \(x_{n+1}\) とします。
Dの電荷: \(C(x_{n+1} – V_0)\)
Fの電荷: \(C(x_{n+1} – 0) = Cx_{n+1}\)
電気量保存則より、
$$C(x_{n+1} – V_0) + Cx_{n+1} = CV_0 + Cx_n \quad \cdots ⑪$$
この漸化式⑪を解きます。多数回繰り返した後、\(x_n\) はある値 \(x_\infty\) に収束すると考えられます。そのとき \(x_{n+1} \approx x_n \approx x_\infty\) となります。
- 漸化式の立式と極限
- コンデンサーの充電(定性的な理解)
漸化式⑪の両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_{n+1} – V_0 + x_{n+1} = V_0 + x_n$$
$$2x_{n+1} = x_n + 2V_0$$
$$x_{n+1} = \frac{1}{2}x_n + V_0 \quad \cdots ⑫$$
多数回繰り返した後、\(x_n\) が一定値 \(x_\infty\) に収束すると仮定すると、\(x_{n+1} = x_n = x_\infty\)。式⑫に代入すると、
$$x_\infty = \frac{1}{2}x_\infty + V_0$$
$$\left(1 – \frac{1}{2}\right)x_\infty = V_0$$
$$\frac{1}{2}x_\infty = V_0$$
$$x_\infty = 2V_0$$
したがって、\(V_{AB}\) は \(2V_0\) に近づきます。
別解: 定性的な考察(模範解答より)
思考の道筋とポイント
左側接点では、\(C_1\)は常に電圧\(V_0\)で充電され、そのエネルギー源として機能します。スイッチを右側にしたとき、この充電された\(C_1\)(電圧\(V_0\)の電池とみなせる)と、外部電源(電圧\(V_0\))が、図eの回路構成では、実質的に\(C_2\)に対して直列に接続されたような形で作用し、\(C_2\)を充電しようとします。
具体的な解説と立式
左側接続時、\(C_1\)は常に上側極板Dが正、下側極板Eが負で、電圧\(V_0\)に充電されます。
右側接続時(図eの回路を想定)、極板Eは電位\(V_0\)、極板Gは電位0Vに固定されます。極板DとFは接続され共通電位\(x_n\)(これが\(V_{AB}\))になります。
\(C_1\)は、極板E(\(V_0\))に対して極板D(\(x_n\))を持つので、実質的に\(C_1\)は電圧\(V_0\)の電源として働き、さらに外部電源\(V_0\)(E点の電位の源)も存在します。これらが\(C_2\)(極板Fの電位\(x_n\)、極板Gの電位0V)を充電しようとします。
\(C_2\)の電圧 \(x_n = V_{AB}\) が \(2V_0\) より低い間は、\(C_1\)から(そして電源から間接的に)\(C_2\)へ電荷が供給され続け、\(V_{AB}\)は上昇します。
最終的に\(V_{AB}\)が\(2V_0\)に達すると、それ以上の電荷の移動は実質的になくなり、安定状態(極限状態)に至ると考えられます。
この別解は定性的な説明なので、詳細な計算ステップはありません。物理的な洞察により極限値を推定します。
\(V_{AB}\)の最終値(極限値)は\(2V_0\)であると物理的に推定できます。これは漸化式から得られた数学的な極限値と一致します。
- 繰り返しのパターンを数式で表す: 操作III(左スイッチ→右スイッチ)を \(n\) 回繰り返した後のA-B間電圧を \(x_n\) とし、(\(n+1\)) 回繰り返した後を \(x_{n+1}\) とします。 \(x_n\) と \(x_{n+1}\) の間の関係式(漸化式)を作ります。
- 左スイッチ操作:\(C_1\)の上側極板Dは \(+CV_0\) の電荷に。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Cx_n\) のまま(模範解答の解釈)。
- 右スイッチ操作:極板DとFがつながり共通電位 \(x_{n+1}\) に。DとFの電荷の合計が保存されることから、\(x_{n+1} = \frac{1}{2}x_n + V_0\) という関係が得られます。
- 電圧が落ち着く値を求める: 操作を無限回繰り返すと、電圧はある一定の値 \(x_\infty\) に落ち着くと考えられます。このとき、\(x_{n+1}\) も \(x_n\) も同じ値 \(x_\infty\) になるはずなので、漸化式に \(x_n = x_{n+1} = x_\infty\) を代入して \(x_\infty\) を解くと、その極限値が求まります。
操作IIIを多数回繰り返すと、\(V_{AB}\) は \(2V_0\) に近づきます。これは元の電源電圧の2倍であり、この回路が昇圧作用を持つことを示しています。定性的な別解で示されているように、\(C_1\)が\(V_0\)で充電され、そのエネルギー(または電荷)が段階的に\(C_2\)に移され、電源電圧と合わせて\(C_2\)の電圧を高めていくと解釈できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体部分(複数の極板が導線で結ばれていてもよい)では、電荷の総和は操作の前後で変わらない。
- 理解のポイント:どの部分が「孤立」しているかを回路の接続状態から正確に見抜くことが極めて重要。
- コンデンサーの電荷と電圧の関係 (\(Q=CV\)):
- 核心:各コンデンサーについて、蓄えられている電気量、極板間の電位差、電気容量の間にはこの関係が常に成り立つ。
- 理解のポイント:電位差を考える際、どちらの極板の電位を基準にするかで電荷の符号が変わることに注意する。電位法では \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\) のように定義することが多い。
- 電位法:
- 核心:回路中の未知の点の電位を文字でおき、上記の法則を使って連立方程式を立てて解く。
- 理解のポイント:基準電位(アースや電源の負極など)を0Vと設定し、他の点の電位をその基準からの電位差として考える。
- 漸化式と極限:
- 核心:繰り返し操作によって状態が変化していく場合、1回の操作による変化を一般化して漸化式を立て、その極限値を求めることで最終的な状態を予測できる。
- 理解のポイント:収束する場合、変化が十分に進んだ状態では \(x_{n+1} \approx x_n\) とおけることが多い。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- コッククロフト・ウォルトン回路のような、スイッチングによってコンデンサーを直列・並列に切り替えて高電圧を生成する昇圧回路。
- 電荷ポンプ回路の動作原理の理解。
- 繰り返し操作による物理量の変化と、その極限状態を問う問題。
- 複数のコンデンサーとスイッチからなる過渡現象(ただし抵抗がないので純粋な電荷の再分配)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- スイッチ操作による回路変化の正確な把握: 各操作でどの端子がどこに接続されるのかを丁寧に追い、等電位になる箇所、孤立する箇所を特定する。必要なら操作ごとに回路図を簡略化して描き直す。
- 電気量保存則が適用できる部分の特定: スイッチの切り替えで電気的に孤立する部分を見つけ、その部分の総電荷が保存されることを利用する。
- 電位の基準点と各点の電位の設定: 電源の負極などを0Vとし、他の点の電位を文字(例:\(x_n\))で設定する。
- 繰り返しパターンの発見: 複数の操作を繰り返す場合、1サイクル(例えば「左接続→右接続」)での状態変化の規則性を見つけ、漸化式を立てることを試みる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「いったん接続する」という操作は、その接続によって電荷の移動や充電が完了するまで時間をおくことを意味する。
- コンデンサーが既に帯電している状態で別の電圧源に接続されると、単純な \(Q=CV\) だけでなく、初期電荷や電気量保存を考慮する必要がある。
- 極板の名称(D, E, F, Gなど模範解答で使われるもの)と回路の接続点(A, B, \(l_1, r_1\) など)の関係を正確に対応付ける。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 孤立部分の電気量保存の適用ミス:
- 現象:孤立部分の特定を誤る、あるいは保存されるべき初期の総電荷を間違える。
- 対策:スイッチが切り替わる直前と直後で、どの導体(群)が外部から電気的に切り離されているかを正確に見極める。その導体(群)の電荷の「代数和」が保存される。
- 電位の設定と電位差の計算ミス:
- 現象:電位の基準点を曖昧にする、あるいはコンデンサーの電圧を計算する際の電位差の取り方を間違える(例:\(V_1-V_2\) とすべきところを \(V_2-V_1\) とするなど)。
- 対策:回路図に電位を書き込み、基準電位(0V)を明確にする。コンデンサーの極板のどちらが高電位かを意識し、電荷の正負と対応付ける。
- スイッチ切り替え時の回路構成の誤解:
- 現象:問題文の回路図のスイッチの接続先を誤読し、実際とは異なる回路で考えてしまう。この問題のように模範解答の図解が特殊な解釈をしている場合は特に注意。
- 対策:スイッチの各接点が回路のどの部分に繋がっているかを丁寧に追い、切り替え後の有効な回路図を頭の中で(あるいは紙に)正確に構成する。模範解答の図解がある場合はそれを正しく解釈する。
- 漸化式の立式や極限計算の誤り:
- 現象:\(n\) 回目と \(n+1\) 回目の関係を正しくモデル化できない、または極限の求め方を間違う。
- 対策:1回の操作サイクルで「入力」(前の状態)と「出力」(今の状態)がどう関連するかを一般化する。極限値は、変化が収束した状態(\(x_{n+1}=x_n\))を仮定して代数的に解く方法が有効。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- スイッチが切り替わるたびに、電荷がコンデンサー間や電源との間で「移動」する様子をイメージする。
- 模範解答の図(a)~(f)のように、各操作段階での等価的な回路図や、電荷・電位の分布を明示した図を描くことが非常に有効。
- 特に孤立部分の電荷保存を考える際には、その部分を点線で囲むなどして視覚的に強調すると良い。
- 電位の高低を、回路図の上側・下側や色分けなどで表現すると、電荷の移動方向やコンデンサーの極性を理解しやすくなる。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- スイッチの状態(左か右か)を明確に示す。
- コンデンサーの極板のどちらが正でどちらが負に帯電しているか(あるいは帯電の可能性)を電荷の符号で示す。
- 既知の電位(電源電圧、アース)や未知の電位(\(x_n\)など)を各点に明記する。
- 電気量保存が成り立つ孤立部分を明確に識別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本式):
- 選定理由:各コンデンサーに蓄えられる電気量と、そのコンデンサーにかかる電圧(電位差)、電気容量を結びつけるため。
- 適用根拠:静電誘導が完了し、電荷分布が定常になった状態のコンデンサーに適用できる。\(V\) は極板間の電位差。
- 電気量保存則 (\(\sum Q_{\text{はじめ}} = \sum Q_{\text{あと}}\)):
- 選定理由:スイッチの切り替えなどによって、回路の一部が電気的に孤立する場合、その孤立部分の総電荷は操作の前後で変わらないという原理を利用するため。
- 適用根拠:考えている部分系が、外部の回路から電荷の供給も排出も受けていない状態であること。
- 電位法 (キルヒホッフの電圧則の一般化):
- 選定理由:複数のコンデンサーや電源が複雑に接続された回路で、各部分の電荷や電圧を系統的に求めるため。
- 適用根拠:回路の任意の点の電位は一意に定まる(基準点を決めれば)。各素子の両端の電位差とその素子の特性(\(Q=CV\)など)を結びつけて連立方程式を立てる。
- 漸化式 \(x_{n+1} = f(x_n)\):
- 選定理由:同じ操作を繰り返すことで物理量が段階的に変化していく場合に、その変化の規則性から \(n\) 回目の状態を予測し、さらにその極限値を求めるため。
- 適用根拠:1回の操作による状態遷移が、直前の状態のみに依存して決まる場合。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の把握: 全てのコンデンサーは帯電していない。
- 操作I (左接続): 回路構成を確認し、各コンデンサーの充電状態(電荷、電圧)を決定する。\(V_{AB}\)を計算する。(模範解答の解釈を優先)
- 操作II (右接続): 操作Iの状態を引き継ぎ、新たな回路構成での電荷の再分配を考える。孤立部分の電気量保存則と電位法を駆使して、新たな状態での\(V_{AB}\)を計算する。
- 操作III (左接続→右接続):
- 左接続: 前の状態に関わらず、電源によってコンデンサーが充電される状態を考える(模範解答の解釈に基づくFの電荷の扱い方に注意)。
- 右接続: 左接続完了時の電荷状態を初期値として、孤立部分の電気量保存と電位法で\(V_{AB}\)を計算する。
- 操作IV (操作IIIの繰り返し): 操作IIIの1サイクルでの変化のパターンを適用し、\(V_{AB}\)を計算する。ここでの初期値は操作III完了時の状態。
- 操作V (多数回繰り返し): 1サイクルの操作による\(V_{AB}\)の変化を表す漸化式を導出し、その極限値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 回路図の正確な解釈: スイッチの接続先を間違えると全てが狂うため、各操作での回路構成を正確に把握する。模範解答の図解がある場合は、それが問題文のどの操作に対応しているかを理解する。
- 電荷の符号と電位の高低: コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負か、それによって電位はどちらが高いかを常に意識する。\(Q=CV\) の \(V\) は電位差の絶対値として扱うか、符号を含めて扱うかを一貫させる。
- 電気量保存の対象を明確に: どの部分が電気的に孤立し、その部分の「どの電荷」の「総和」が保存されるのかを正確に特定する。
- 漸化式の変形: 特性方程式を解くか、\(x_{n+1}-\alpha = p(x_n-\alpha)\) の形に変形して等比数列に持ち込む。極限値を求めるだけなら、\(x_{n+1}=x_n=x_\infty\) とおく。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な振る舞いの予測:
- 昇圧回路の一種なので、操作を繰り返すごとに\(V_{AB}\)が増加していく傾向にあるはず(ある上限に達するまでは)。
- 電荷が移動するとき、それは電位差を解消する方向か、あるいは外部からエネルギーが供給されて蓄積される方向か。
- 極限値の物理的意味: 操作Vで\(V_{AB}\)が\(2V_0\)に近づくのはなぜか。模範解答の別解にあるように「\(C_1\)が\(V_0\)の電池となり、それが電源\(V_0\)と直列に接続されて合計\(2V_0\)の電圧源として\(C_2\)を充電する」という(簡略化された)解釈は、結果の妥当性を物理的に裏付ける。
- 最初の数ステップを手計算で確認: 漸化式が正しいか、あるいは計算ミスがないかを確認するために、\(x_1, x_2, x_3\) などを具体的に計算し、その傾向が直感と合うか、また極限値に近づいていく様子が見られるかを確認する。
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