問題22 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つのコンデンサーと2つの連動スイッチ、そして1つの電源を用いて、A点とB点の間の電圧 \(V_{AB}\) を操作によって変化させていく、一種の昇圧回路に関する思考実験です。スイッチの切り替えによって回路構成が変化し、それに伴いコンデンサーの電荷が再分配されたり、電源から充電されたりするプロセスを段階的に追っていく必要があります。特に、孤立部分における電気量保存則と、各点の電位の考え方が重要になります。
- 電圧 \(V_0\) の電源。
- 2つのコンデンサー \(C_1\), \(C_2\) で、電気容量はいずれも \(C\)。
- 連動スイッチ S1, S2:
- 左側接点 (\(l_1, l_2\)) に同時に接続。
- 右側接点 (\(r_1, r_2\)) に同時に接続。
- または左右どちらにも接続しない。
- 初期状態:S1, S2 は左右どちらの接点にも接続しておらず、\(C_1\), \(C_2\) はいずれも帯電していない。
- A点は \(C_1\) の上側極板と \(C_2\) の上側極板に接続。
- B点は \(C_2\) の下側極板からの端子。
以下の各操作後における、A,B間に現れる電圧 \(V_{AB}\)(\(V_A – V_B\) を意味すると考えられる)を求める。
- S1, S2 を左側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん右側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん左側接点に接続してから、右側接点に接続する。
- 操作IIIをもう一度繰り返す。
- この後、操作IIIをさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) が近づく値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題では、スイッチの切り替えによってコンデンサーの接続状態が変化し、電荷が移動したり保存されたりします。各段階で、どのコンデンサーがどのように充電・放電されるのか、また孤立した部分の電荷はどうなるのかを丁寧に追跡することが重要です。電位の考え方を用いると、複雑な回路も比較的すっきりと扱うことができます。
模範解答では、問題文の回路図の \(r_1, r_2\) の具体的な接続先が明示的でないため、操作によって形成される回路構成を独自に解釈して図示しています。この解説も、その模範解答の解釈(特に図b, c, d, e, f)に沿って進めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- コンデンサーの基本: \(Q=CV\)(\(Q\): 電気量, \(C\): 電気容量, \(V\): 電圧)。
- 電気量保存則: 電気的に孤立した導体部分の総電荷は、操作の前後で保存される。
- 電位: 回路の各点の電位を考える。電源の負極やアース点を基準(0V)とすることが多い。電圧 \(V_{AB}\) はA点の電位 \(V_A\) とB点の電位 \(V_B\) の差 (\(V_A – V_B\))。
- スイッチの働き: スイッチが接続されると、その部分は導線でつながれ等電位になる。スイッチが開くと、その部分は電気的に絶縁される。
全体的な戦略
- 各操作ステップごとに、回路がどのようにつながるのかを明確にし、必要であれば回路図を描き直して考えます。
- コンデンサーの極板の電荷の正負と、それに対応する電位の高低を意識します。
- 「電位法」を用いて、未知の電位を文字で置き、コンデンサーの電荷の式や電気量保存則から方程式を立てて解くのが有効です。
- 繰り返し操作の場合は、1回ごとの変化のパターンを見つけ、漸化式を立てることを考えます。
操作 I
思考の道筋とポイント
連動スイッチS1, S2を左側接点 (\(l_1, l_2\)) に接続します。
模範解答の解釈に従い、この操作では\(C_1\)のみが電源\(V_0\)で充電され、\(C_2\)は帯電しない(電圧0、電荷0)状態になるとします。A点は\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の上側極板に接続されています。B点は\(C_2\)の下側極板からの端子です。\(V_{AB}\)はA点とB点の電位差です。
この設問における重要なポイント
- 模範解答の解釈では、スイッチを左側に接続すると、\(C_1\) のみが電源 \(V_0\) によって充電される。
- \(C_1\) の上側極板(D)に \(+CV_0\)、下側極板(E)に \(-CV_0\) の電荷が蓄えられる。
- \(C_2\) は帯電せず、その極板F、Gの電荷は0。したがって\(C_2\)にかかる電圧も0。
- \(V_{AB}\) はこの状態におけるA点とB点の電位差。模範解答はこれを0Vとしています。
具体的な解説と立式
模範解答の解釈に基づき、操作Iの結果を記述します。
\(C_1\)は電源\(V_0\)で充電され、その上側極板Dに \(+CV_0\)、下側極板Eに \(-CV_0\) の電荷が蓄えられます。
\(C_2\)は帯電せず、その極板F、Gの電荷は0です。
A点はDおよびFに接続されており、B点はGに接続されています。
模範解答は「\(C_2\)には電圧がかからないから \(V_{AB}=0\)」としています。これは、A点とB点の電位が等しくなるか、あるいは \(V_{AB}\) を \(C_2\) の電圧そのものとみなしていると考えられます。
使用した物理公式
- コンデンサーの充電の基本(模範解答の解釈による)
模範解答に従い、\(C_2\)の電圧が0であることから、
$$V_{AB} = 0$$
- スイッチを左に接続: スイッチS1, S2を左に倒します。
- コンデンサーの状態(模範解答の解釈): \(C_1\)だけが電源で充電され、電圧\(V_0\)になります。\(C_2\)には電圧がかからず、電荷も蓄えられません。
- A-B間電圧: \(C_2\)に電圧がかからないため、A点とB点の間の電圧\(V_{AB}\)は0Vとなります。
模範解答に従うと、操作IにおけるA,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(0 \text{ V}\) です。このとき、\(C_1\) のみが \(Q_1=CV_0\) (上側極板Dが正、下側極板Eが負) に充電され、\(C_2\) の電荷は0であるとします。この解釈を以降の設問でも引き継ぎます。
操作 II
思考の道筋とポイント
操作Iの後(\(C_1\)に電荷 \(Q_1=CV_0\)、\(C_2\)に電荷0)、スイッチS1, S2を右側接点(\(r_1, r_2\))に接続します。
模範解答の図bはこの操作によって実現される回路構成を示していると解釈します。図bでは、\(C_1\)の上側極板Dが電源の正極(\(V_0\))に、\(C_2\)の下側極板G(B点に接続)が電源の負極(0V)に接続されています。そして、\(C_1\)の下側極板Eと\(C_2\)の上側極板Fが導線で接続され、このE-F間が電気的に孤立しています。A点はDおよびFに接続されています。\(V_{AB}\) はA点の電位とB点の電位の差です。EとFの接続点の電位を \(x_1\) とおき、電位法で解きます。
この設問における重要なポイント
- 操作Iで \(C_1\) に蓄えられた電荷 \(CV_0\) (極板Dに\(+CV_0\)、Eに\(-CV_0\))と、\(C_2\) の電荷0を初期条件とする。
- スイッチを右側に切り替えた後の回路構成は模範解答の図bに従う。極板Dの電位は\(V_0\)、極板Gの電位は0V。極板EとFは接続され、共通電位\(x_1\)となる。
- 電気的に孤立した部分(極板EとFの系)について電気量保存則を適用する。
- 各極板の電位を設定し、コンデンサーの電荷を電位差で表す。
具体的な解説と立式
操作Iの後、\(C_1\)の上側極板Dには\(+CV_0\)、下側極板Eには\(-CV_0\)の電荷があります。\(C_2\)の極板F, Gには電荷がありません(電荷0)。
スイッチを右側に切り替えると、模範解答の図bの回路になるとします。
電源の負極に接続されるG点の電位を \(V_G = 0 \text{ V}\)(これがB点の電位 \(V_B\))。
電源の正極に接続されるD点の電位を \(V_D = V_0\)。
E点とF点が接続され、この共通の電位を \(x_1\) とします。
電気的に孤立しているのはEとFの系です。操作前のEの電荷は\(-CV_0\)、Fの電荷は0でした。操作後のEの電荷を\(Q_E\)、Fの電荷を\(Q_F\)とすると、電気量保存則より、
$$Q_E + Q_F = -CV_0 + 0 = -CV_0 \quad \cdots ②$$
コンデンサーの電荷の定義から、
\(C_1\)について、極板Eの電荷 \(Q_E = C(x_1 – V_D)\)。
\(C_2\)について、極板Fの電荷 \(Q_F = C(x_1 – V_G)\)。
これを式②に代入します。\(V_D=V_0, V_G=0\)なので、
$$C(x_1 – V_0) + C(x_1 – 0) = -CV_0 \quad \cdots ③$$
A点の電位 \(V_A\) は、図bではDに接続されているので \(V_A = V_D = V_0\)。
B点の電位 \(V_B\) は、Gの電位なので \(V_B = V_G = 0\)。
したがって、\(V_{AB} = V_A – V_B\)。
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの電荷: \(Q=C(V_1-V_2)\)
孤立部分E+Fの電荷保存則の式③を解きます。
$$C(x_1 – V_0) + Cx_1 = -CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_1 – V_0 + x_1 = -V_0$$
$$2x_1 – V_0 = -V_0$$
$$2x_1 = 0$$
$$x_1 = 0 \text{ V}$$
A点の電位 \(V_A\) は、極板Dの電位に等しく \(V_D = V_0\)。
B点の電位 \(V_B\) は、極板Gの電位に等しく \(V_G = 0 \text{ V}\)。
したがって、
$$V_{AB} = V_A – V_B = V_0 – 0 = V_0$$
- 最初の状態の電荷を把握する: 操作Iの後、\(C_1\) には電荷 \(CV_0\) が蓄えられ(上側Dが正、下側Eが負)、\(C_2\) の電荷は0です。
- スイッチ切り替え後の回路を理解する: スイッチを右に倒すと、模範解答の図bのような回路になると考えます。この回路では、\(C_1\)の上側Dが電源のプラス(\(V_0\))に、\(C_2\)の下側Gが電源のマイナス(0V)につながります。そして、\(C_1\)の下側Eと\(C_2\)の上側Fが内部でつながり、このE-F部分が電気的に孤立します。
- 電気量保存を使う: 孤立しているE-F部分の電荷の合計は、スイッチを切り替える前後で変わりません。切り替え前のEの電荷は\(-CV_0\)、Fの電荷は0なので、合計\(-CV_0\)。切り替え後のEの電荷を\(C_1\)の下側極板の電荷、Fの電荷を\(C_2\)の上側極板の電荷として、それらをEとFの接続点の電位 \(x_1\) で表し、合計が\(-CV_0\)に等しいという式を立てて \(x_1\) を求めます。
- \(V_{AB}\)を計算する: A点はD点(電位\(V_0\))に、B点はG点(電位0V)に接続されているので、その電位差を求めます。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(V_0\) となります。これは模範解答と一致します。この操作で、E-F間の電位は0Vとなり、結果的に\(C_1\)は電源電圧\(V_0\)で充電されたまま、\(C_2\)は電圧0のまま(電荷0のまま)という状態になります。
別解: 模範解答に示された方程式による解法
思考の道筋とポイント
模範解答には、\(C_1\)の電圧・電荷を\(V_1, Q_1\)、\(C_2\)の電圧・電荷を\(V_2, Q_2\)とし、いくつかの関係式を立てて解く別解が示されています。ここでの電気量保存は、DとFの電荷の和が初期のDの電荷\(CV_0\)とFの電荷0の和に等しいという解釈に基づいているようです。また、特有の電圧関係式を用いています。
具体的な解説と立式
模範解答の別解では、以下の4つの式を立てています。
$$Q_1 = CV_1 \quad \cdots (\text{別}1)$$
$$Q_2 = CV_2 \quad \cdots (\text{別}2)$$
電気量保存則(DとFの系を孤立とみなし、初期のDの電荷\(CV_0\)とFの電荷0の和が保存されると解釈):
$$Q_1 + Q_2 = CV_0 \quad \cdots (\text{別}3)$$
G点(電位0)からD点(電位\(V_0\))への電位差に関する関係式(図の解釈に基づく):
$$V_0 + V_1 = V_2 \quad \cdots (\text{別}4)$$
ここで、\(V_1\)は\(C_1\)の電圧、\(V_2\)は\(C_2\)の電圧です。\(V_{AB}\) は \(V_D-V_G\) であり、図bから \(V_D=V_0, V_G=0\) なので \(V_{AB}=V_0\) となります。あるいは、\(V_2\) が \(V_{AB}\) に対応すると解釈することもできます。
使用した物理公式
- \(Q=CV\)
- 電気量保存則(模範解答の解釈)
- 電圧関係式(模範解答の解釈)
式(\(\text{別}1\))と式(\(\text{別}2\))を式(\(\text{別}3\))に代入すると、
$$CV_1 + CV_2 = CV_0$$
両辺を \(C\) で割って、
$$V_1 + V_2 = V_0 \quad \cdots (\text{別}3′)$$
式(\(\text{別}4\)) \(V_2 = V_0 + V_1\) を式(\(\text{別}3’\))に代入すると、
$$V_1 + (V_0 + V_1) = V_0$$
$$2V_1 + V_0 = V_0$$
$$2V_1 = 0$$
$$V_1 = 0$$
これを式(\(\text{別}4\))に代入すると、
$$V_2 = V_0 + 0 = V_0$$
もし \(V_{AB} = V_2\) と解釈するならば、\(V_{AB}=V_0\) となります。また、\(Q_1=0, Q_2=CV_0\) となります。
この別解の方法でも \(V_{AB}=V_0\) という結果が得られます(\(V_{AB}\)を\(V_2\)と解釈した場合、またはD,G間の電位差と解釈した場合)。ただし、この別解で用いられている式(特に式(\(\text{別}4\)))の物理的な背景や回路の解釈は、本文の電位法とは異なるアプローチを取っています。
操作 III
思考の道筋とポイント
操作IIの後、スイッチをいったん左側接点に接続し(図dの状態)、その後、右側接点に接続します(図eの状態)。
左側接続時(図d):
\(C_1\)は電源\(V_0\)で充電され、極板Dには\(+CV_0\)、Eには\(-CV_0\)の電荷が蓄えられます。
\(C_2\)も電源\(V_0\)に並列に接続されるため、極板Fには\(+CV_0\)、Gには\(-CV_0\)の電荷が蓄えられます。
右側接続時(図e):
模範解答の図eの回路構成になると解釈します。DとFが接続され、このD-F系が電気的に孤立します。Eは電源の正極(\(V_0\))に、Gは電源の負極(0V)に接続されます。
D-F系の共通の電位を \(x_2\) とします。これがA点の電位 \(V_A = x_2\) です。B点の電位 \(V_B\) はG点の電位なので \(0 \text{ V}\)。よって \(V_{AB} = x_2\)。
孤立部分D-Fの電気量保存則を適用します。
左側接続完了時のDの電荷は\(+CV_0\)、Fの電荷は\(+CV_0\)でした。よって、D-F系の初期総電荷は \(+CV_0 + (+CV_0) = +2CV_0\)。
右側接続後のDの電荷 \(Q_D’ = C(x_2 – V_E) = C(x_2 – V_0)\)。
右側接続後のFの電荷 \(Q_F’ = C(x_2 – V_G) = C(x_2 – 0) = Cx_2\)。
電気量保存則: \(Q_D’ + Q_F’ = +2CV_0\)。
この設問における重要なポイント
- 左側接続で\(C_1\), \(C_2\)はそれぞれ\(CV_0\)の電荷を持つ(極板D, Fが正)。
- 右側接続では、DとFが接続されて孤立し、その合計電荷が保存される。
- Eは\(V_0\)(電源正極)、Gは0V(電源負極)に接続される(模範解答の図eの解釈)。
- DとFの共通電位を\(x_2\)とし、電気量保存から\(x_2\)を求める。\(V_{AB}=x_2\)。
具体的な解説と立式
1. 左側接点に接続したとき(図dの状態)
\(C_1\)の上側極板Dの電荷: \(+CV_0\)。下側極板Eの電荷: \(-CV_0\)。
\(C_2\)の上側極板Fの電荷: \(+CV_0\)。下側極板Gの電荷: \(-CV_0\)。
2. 右側接点に接続したとき(図eの状態)
極板DとFが導線で接続され、共通の電位 \(x_2\) になります。A点の電位は \(V_A=x_2\)。
極板Eは電源の正極に接続されるので、電位 \(V_E = V_0\)。
極板Gは電源の負極に接続されるので、電位 \(V_G = 0 \text{ V}\)。B点の電位は \(V_B=V_G=0\)。
孤立しているのはDとFの系です。この系が右側接続の直前に持っていた総電荷は、左側接続完了時のDの電荷とFの電荷の和です。
$$Q_{\text{D+F init}} = (+CV_0)_{\text{D}} + (+CV_0)_{\text{F}} = 2CV_0$$
右側接続後のDの電荷 \(Q_D’\) は、\(C_1\)のコンデンサーで、Dの電位が\(x_2\)、Eの電位が\(V_0\)なので、
$$Q_D’ = C(x_2 – V_0) \quad \cdots ⑦$$
右側接続後のFの電荷 \(Q_F’\) は、\(C_2\)のコンデンサーで、Fの電位が\(x_2\)、Gの電位が0なので、
$$Q_F’ = C(x_2 – 0) = Cx_2 \quad \cdots ⑧$$
電気量保存則より、DとFの電荷の総和は不変なので、
$$Q_D’ + Q_F’ = Q_{\text{D+F init}}$$
すなわち、
$$C(x_2 – V_0) + Cx_2 = 2CV_0 \quad \cdots ⑨$$
この方程式を解いて \(x_2\) を求めます。そして \(V_{AB} = V_A – V_B = x_2 – 0 = x_2\)。
使用した物理公式
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
式⑨の方程式を解きます。
$$C(x_2 – V_0) + Cx_2 = 2CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_2 – V_0 + x_2 = 2V_0$$
$$2x_2 – V_0 = 2V_0$$
$$2x_2 = 3V_0$$
$$x_2 = \frac{3}{2}V_0$$
したがって、\(V_{AB} = x_2 = \displaystyle\frac{3}{2}V_0\)。
- 左スイッチ操作: まずスイッチを左に倒すと、\(C_1\) と \(C_2\) はそれぞれ電源 \(V_0\) で充電されます。このとき、\(C_1\) の上側極板Dも \(C_2\) の上側極板Fも \(+CV_0\) の電荷を持ちます。
- 右スイッチ操作前のDとFの総電荷: スイッチを右に倒す直前の、極板Dと極板Fが持つ電荷の合計は \(CV_0 + CV_0 = 2CV_0\) です。
- 右スイッチ操作後の回路と電荷保存: スイッチを右に倒すと、模範解答の図eのような回路になります。この回路では、DとFがつながって同じ電位 \(x_2\) になり、このDとFのペアが電気的に孤立します。したがって、DとFの電荷の合計は \(2CV_0\) のまま保存されます。
- 共通電位を求める: \(C_1\) のもう一方の極板Eの電位は \(V_0\)、\(C_2\) のもう一方の極板Gの電位は0Vになります。DとFの電荷を、共通電位 \(x_2\) を使って表し、それらの合計が \(2CV_0\) になるという式を立てて \(x_2\) を求めます。この \(x_2\) が求める \(V_{AB}\) となります。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\) となります。これは元の電源電圧 \(V_0\) よりも \(1.5\) 倍に大きくなっており、昇圧作用が確認できます。
操作 IV
思考の道筋とポイント
操作III(左接続→右接続)をもう一度繰り返します。
操作IIIの右側接続完了時(図eの状態)の各部の電荷と電位が、この操作IVの「右側接続の直前」の初期状態の一部となります。
操作IIIの最後では、DとFの共通電位は \(x_2 = \frac{3}{2}V_0\) でした。
このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F, \text{III後}} = Cx_2 = C(\frac{3}{2}V_0) = \frac{3}{2}CV_0\)。
操作IVの左側接続:
\(C_1\)は電源\(V_0\)で新たに充電され、Dの電荷は \(+CV_0\) となります。
模範解答の解釈では、\(C_2\)の上側極板Fは、操作IIIの右接続完了時の電荷 \(\frac{3}{2}CV_0\) を保持したままです。
操作IVの右側接続:
孤立部分D-Fの共通電位を \(x_3\) とします。\(V_{AB}=x_3\)。
右側接続直前のDの電荷(操作IVの左接続完了時)は \(+CV_0\)。
右側接続直前のFの電荷(操作IIIの右接続完了時から保持)は \(+\frac{3}{2}CV_0\)。
よって、D-F系の初期総電荷 \(Q_{\text{D+F init IV}} = CV_0 + \frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\)。
右側接続後のDの電荷 \(Q_D” = C(x_3 – V_0)\) (Eの電位は\(V_0\))。
右側接続後のFの電荷 \(Q_F” = C(x_3 – 0) = Cx_3\) (Gの電位は0V)。
電気量保存則: \(Q_D” + Q_F” = Q_{\text{D+F init IV}}\)。
この設問における重要なポイント
- 操作IIIの繰り返しなので、1サイクル前(操作IIIの右接続後)のFの電荷を次のサイクルの初期条件として利用する(模範解答の解釈)。
- 左側接続ではDの電荷は常に \(+CV_0\) にリセットされるが、Fの電荷は前の右接続の結果を引き継ぐと解釈。
- 右側接続ではDとFが孤立し、その合計電荷が保存される。
具体的な解説と立式
模範解答の解釈に従い、操作IVの右側接続の直前の状態を考えます。
1. 左側接点に接続したとき: \(C_1\)の上側極板Dは新たに電荷 \(+CV_0\) を持ちます。一方、\(C_2\)の上側極板Fは、操作IIIの右側接続完了時の電荷を保持しているとします。操作IIIの最後でFの電荷は \(Q_{F, \text{III後}} = Cx_2 = C(\frac{3}{2}V_0) = \frac{3}{2}CV_0\) でした。
2. 右側接点に接続する直前のD-F系の総電荷:
$$Q_{\text{D+F init IV}} = (+CV_0)_{\text{D}} + \left(+\frac{3}{2}CV_0\right)_{\text{F}} = \frac{5}{2}CV_0$$
3. 右側接点に接続したとき: DとFの共通電位を \(x_3\) とします。A点の電位は \(V_A=x_3\)、B点の電位は \(V_B=0\)。
Dの電荷 \(Q_D” = C(x_3 – V_0)\) (極板Eの電位は\(V_0\))。
Fの電荷 \(Q_F” = C(x_3 – 0) = Cx_3\) (極板Gの電位は0V)。
電気量保存則より、
$$C(x_3 – V_0) + Cx_3 = \frac{5}{2}CV_0 \quad \cdots ⑩$$
この方程式を解いて \(x_3\) を求めます。\(V_{AB} = x_3\)。
使用した物理公式
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
計算過程
式⑩の方程式を解きます。
$$C(x_3 – V_0) + Cx_3 = \frac{5}{2}CV_0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_3 – V_0 + x_3 = \frac{5}{2}V_0$$
$$2x_3 – V_0 = \frac{5}{2}V_0$$
$$2x_3 = V_0 + \frac{5}{2}V_0 = \frac{2V_0 + 5V_0}{2} = \frac{7}{2}V_0$$
$$x_3 = \frac{7}{4}V_0$$
したがって、\(V_{AB} = x_3 = \displaystyle\frac{7}{4}V_0\)。
- 右スイッチ操作前の電荷を把握(模範解答の解釈に基づく): 操作IIIが終わったとき、\(C_2\) の上側極板Fには \(\frac{3}{2}CV_0\) の電荷があります。操作IVの最初の左スイッチ操作で、\(C_1\) の上側極板Dは新たに \(+CV_0\) に充電されますが、Fの電荷はこの \(\frac{3}{2}CV_0\) のまま変わらないとします。よって、右スイッチ操作直前のDとFの電荷の合計は \(CV_0 + \frac{3}{2}CV_0 = \frac{5}{2}CV_0\) です。
- 右スイッチ操作後の回路と電荷保存: スイッチを右に倒すと、再び図eのような回路になり、DとFがつながって同じ電位 \(x_3\) になります。DとFの電荷の合計は \(\frac{5}{2}CV_0\) のまま保存されます。
- 共通電位を求める: \(C_1\) のもう一方の極板Eの電位は \(V_0\)、\(C_2\) のもう一方の極板Gの電位は0Vです。DとFの電荷を、共通電位 \(x_3\) を使って表し、それらの合計が \(\frac{5}{2}CV_0\) になるという式を立てて \(x_3\) を求めます。この \(x_3\) が求める \(V_{AB}\) となります。
A,B間の電圧 \(V_{AB}\) は \(\displaystyle\frac{7}{4}V_0\) となります。操作IIIの結果 \(\frac{3}{2}V_0 = \frac{6}{4}V_0\) よりもさらに電圧が上昇しており、昇圧が続いていることがわかります。
操作 V
思考の道筋とポイント
操作III(左接続→右接続の1サイクル)をさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) がどのような値に近づくかを問われています。
操作IVで用いた考え方を一般化し、\(n\) 回目のサイクルの右接続完了後のD,Fの共通電位(これが \(V_{AB}\))を \(x_n\) とします。このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F,n} = Cx_n\) です。
次の (\(n+1\)) 回目のサイクルの左接続では、\(C_1\)の上側極板Dの電荷は \(+CV_0\) になります。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は直前の状態の \(Cx_n\) を保持します(模範解答の解釈)。
(\(n+1\)) 回目のサイクルの右接続では、D-F系の初期総電荷は \(CV_0 + Cx_n\)。
右接続完了後のD,Fの共通電位を \(x_{n+1}\) とすると、極板Eの電位は\(V_0\)、極板Gの電位は0Vなので、
Dの電荷: \(C(x_{n+1}-V_0)\)
Fの電荷: \(C(x_{n+1}-0) = Cx_{n+1}\)
電気量保存則からこれらを結びつけ、漸化式を導出し、その極限 \(n \rightarrow \infty\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 操作の繰り返しによる \(V_{AB}\) の変化を一般化し、漸化式を立てる。
- 漸化式の極限値を求める。収束する場合、\(x_{n+1} = x_n = x_\infty\) とおいて代数的に解くことができる。
具体的な解説と立式
\(n\) 回目の「左接続→右接続」の操作が完了したときのA,B間電圧(すなわちD,Fの共通電位)を \(x_n\) とします。このとき、\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Q_{F,n} = Cx_n\)。
次の(\(n+1\))回目の操作を考えます。
- 左側接点に接続: \(C_1\)の上側極板Dの電荷は \(+CV_0\) になります。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は直前の状態の \(Cx_n\) を保持します(模範解答の解釈に基づく)。
- 右側接点に接続する直前のD-F系の総電荷: \(Q_{\text{D+F init}, n+1} = (+CV_0)_{\text{D}} + (Cx_n)_{\text{F}} = CV_0 + Cx_n\)。
- 右側接点に接続したとき: DとFの共通電位を \(x_{n+1}\) とします。
Dの電荷: \(C(x_{n+1} – V_0)\)
Fの電荷: \(C(x_{n+1} – 0) = Cx_{n+1}\)
電気量保存則より、
$$C(x_{n+1} – V_0) + Cx_{n+1} = CV_0 + Cx_n \quad \cdots ⑪$$
この漸化式⑪を解きます。多数回繰り返した後、\(x_n\) はある値 \(x_\infty\) に収束すると考えられます。そのとき \(x_{n+1} \approx x_n \approx x_\infty\) となります。
- 漸化式の立式と極限
- コンデンサーの充電(定性的な理解)
漸化式⑪の両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x_{n+1} – V_0 + x_{n+1} = V_0 + x_n$$
$$2x_{n+1} = x_n + 2V_0$$
$$x_{n+1} = \frac{1}{2}x_n + V_0 \quad \cdots ⑫$$
多数回繰り返した後、\(x_n\) が一定値 \(x_\infty\) に収束すると仮定すると、\(x_{n+1} = x_n = x_\infty\)。式⑫に代入すると、
$$x_\infty = \frac{1}{2}x_\infty + V_0$$
$$\left(1 – \frac{1}{2}\right)x_\infty = V_0$$
$$\frac{1}{2}x_\infty = V_0$$
$$x_\infty = 2V_0$$
したがって、\(V_{AB}\) は \(2V_0\) に近づきます。
別解: 定性的な考察(模範解答より)
思考の道筋とポイント
左側接点では、\(C_1\)は常に電圧\(V_0\)で充電され、そのエネルギー源として機能します。スイッチを右側にしたとき、この充電された\(C_1\)(電圧\(V_0\)の電池とみなせる)と、外部電源(電圧\(V_0\))が、図eの回路構成では、実質的に\(C_2\)に対して直列に接続されたような形で作用し、\(C_2\)を充電しようとします。
具体的な解説と立式
左側接続時、\(C_1\)は常に上側極板Dが正、下側極板Eが負で、電圧\(V_0\)に充電されます。
右側接続時(図eの回路を想定)、極板Eは電位\(V_0\)、極板Gは電位0Vに固定されます。極板DとFは接続され共通電位\(x_n\)(これが\(V_{AB}\))になります。
\(C_1\)は、極板E(\(V_0\))に対して極板D(\(x_n\))を持つので、実質的に\(C_1\)は電圧\(V_0\)の電源として働き、さらに外部電源\(V_0\)(E点の電位の源)も存在します。これらが\(C_2\)(極板Fの電位\(x_n\)、極板Gの電位0V)を充電しようとします。
\(C_2\)の電圧 \(x_n = V_{AB}\) が \(2V_0\) より低い間は、\(C_1\)から(そして電源から間接的に)\(C_2\)へ電荷が供給され続け、\(V_{AB}\)は上昇します。
最終的に\(V_{AB}\)が\(2V_0\)に達すると、それ以上の電荷の移動は実質的になくなり、安定状態(極限状態)に至ると考えられます。
この別解は定性的な説明なので、詳細な計算ステップはありません。物理的な洞察により極限値を推定します。
\(V_{AB}\)の最終値(極限値)は\(2V_0\)であると物理的に推定できます。これは漸化式から得られた数学的な極限値と一致します。
- 繰り返しのパターンを数式で表す: 操作III(左スイッチ→右スイッチ)を \(n\) 回繰り返した後のA-B間電圧を \(x_n\) とし、(\(n+1\)) 回繰り返した後を \(x_{n+1}\) とします。 \(x_n\) と \(x_{n+1}\) の間の関係式(漸化式)を作ります。
- 左スイッチ操作:\(C_1\)の上側極板Dは \(+CV_0\) の電荷に。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(Cx_n\) のまま(模範解答の解釈)。
- 右スイッチ操作:極板DとFがつながり共通電位 \(x_{n+1}\) に。DとFの電荷の合計が保存されることから、\(x_{n+1} = \frac{1}{2}x_n + V_0\) という関係が得られます。
- 電圧が落ち着く値を求める: 操作を無限回繰り返すと、電圧はある一定の値 \(x_\infty\) に落ち着くと考えられます。このとき、\(x_{n+1}\) も \(x_n\) も同じ値 \(x_\infty\) になるはずなので、漸化式に \(x_n = x_{n+1} = x_\infty\) を代入して \(x_\infty\) を解くと、その極限値が求まります。
操作IIIを多数回繰り返すと、\(V_{AB}\) は \(2V_0\) に近づきます。これは元の電源電圧の2倍であり、この回路が昇圧作用を持つことを示しています。定性的な別解で示されているように、\(C_1\)が\(V_0\)で充電され、そのエネルギー(または電荷)が段階的に\(C_2\)に移され、電源電圧と合わせて\(C_2\)の電圧を高めていくと解釈できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体部分(複数の極板が導線で結ばれていてもよい)では、電荷の総和は操作の前後で変わらない。
- 理解のポイント:どの部分が「孤立」しているかを回路の接続状態から正確に見抜くことが極めて重要。
- コンデンサーの電荷と電圧の関係 (\(Q=CV\)):
- 核心:各コンデンサーについて、蓄えられている電気量、極板間の電位差、電気容量の間にはこの関係が常に成り立つ。
- 理解のポイント:電位差を考える際、どちらの極板の電位を基準にするかで電荷の符号が変わることに注意する。電位法では \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\) のように定義することが多い。
- 電位法:
- 核心:回路中の未知の点の電位を文字でおき、上記の法則を使って連立方程式を立てて解く。
- 理解のポイント:基準電位(アースや電源の負極など)を0Vと設定し、他の点の電位をその基準からの電位差として考える。
- 漸化式と極限:
- 核心:繰り返し操作によって状態が変化していく場合、1回の操作による変化を一般化して漸化式を立て、その極限値を求めることで最終的な状態を予測できる。
- 理解のポイント:収束する場合、変化が十分に進んだ状態では \(x_{n+1} \approx x_n\) とおけることが多い。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- コッククロフト・ウォルトン回路のような、スイッチングによってコンデンサーを直列・並列に切り替えて高電圧を生成する昇圧回路。
- 電荷ポンプ回路の動作原理の理解。
- 繰り返し操作による物理量の変化と、その極限状態を問う問題。
- 複数のコンデンサーとスイッチからなる過渡現象(ただし抵抗がないので純粋な電荷の再分配)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- スイッチ操作による回路変化の正確な把握: 各操作でどの端子がどこに接続されるのかを丁寧に追い、等電位になる箇所、孤立する箇所を特定する。必要なら操作ごとに回路図を簡略化して描き直す。
- 電気量保存則が適用できる部分の特定: スイッチの切り替えで電気的に孤立する部分を見つけ、その部分の総電荷が保存されることを利用する。
- 電位の基準点と各点の電位の設定: 電源の負極などを0Vとし、他の点の電位を文字(例:\(x_n\))で設定する。
- 繰り返しパターンの発見: 複数の操作を繰り返す場合、1サイクル(例えば「左接続→右接続」)での状態変化の規則性を見つけ、漸化式を立てることを試みる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「いったん接続する」という操作は、その接続によって電荷の移動や充電が完了するまで時間をおくことを意味する。
- コンデンサーが既に帯電している状態で別の電圧源に接続されると、単純な \(Q=CV\) だけでなく、初期電荷や電気量保存を考慮する必要がある。
- 極板の名称(D, E, F, Gなど模範解答で使われるもの)と回路の接続点(A, B, \(l_1, r_1\) など)の関係を正確に対応付ける。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 孤立部分の電気量保存の適用ミス:
- 現象:孤立部分の特定を誤る、あるいは保存されるべき初期の総電荷を間違える。
- 対策:スイッチが切り替わる直前と直後で、どの導体(群)が外部から電気的に切り離されているかを正確に見極める。その導体(群)の電荷の「代数和」が保存される。
- 電位の設定と電位差の計算ミス:
- 現象:電位の基準点を曖昧にする、あるいはコンデンサーの電圧を計算する際の電位差の取り方を間違える(例:\(V_1-V_2\) とすべきところを \(V_2-V_1\) とするなど)。
- 対策:回路図に電位を書き込み、基準電位(0V)を明確にする。コンデンサーの極板のどちらが高電位かを意識し、電荷の正負と対応付ける。
- スイッチ切り替え時の回路構成の誤解:
- 現象:問題文の回路図のスイッチの接続先を誤読し、実際とは異なる回路で考えてしまう。この問題のように模範解答の図解が特殊な解釈をしている場合は特に注意。
- 対策:スイッチの各接点が回路のどの部分に繋がっているかを丁寧に追い、切り替え後の有効な回路図を頭の中で(あるいは紙に)正確に構成する。模範解答の図解がある場合はそれを正しく解釈する。
- 漸化式の立式や極限計算の誤り:
- 現象:\(n\) 回目と \(n+1\) 回目の関係を正しくモデル化できない、または極限の求め方を間違う。
- 対策:1回の操作サイクルで「入力」(前の状態)と「出力」(今の状態)がどう関連するかを一般化する。極限値は、変化が収束した状態(\(x_{n+1}=x_n\))を仮定して代数的に解く方法が有効。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- スイッチが切り替わるたびに、電荷がコンデンサー間や電源との間で「移動」する様子をイメージする。
- 模範解答の図(a)~(f)のように、各操作段階での等価的な回路図や、電荷・電位の分布を明示した図を描くことが非常に有効。
- 特に孤立部分の電荷保存を考える際には、その部分を点線で囲むなどして視覚的に強調すると良い。
- 電位の高低を、回路図の上側・下側や色分けなどで表現すると、電荷の移動方向やコンデンサーの極性を理解しやすくなる。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- スイッチの状態(左か右か)を明確に示す。
- コンデンサーの極板のどちらが正でどちらが負に帯電しているか(あるいは帯電の可能性)を電荷の符号で示す。
- 既知の電位(電源電圧、アース)や未知の電位(\(x_n\)など)を各点に明記する。
- 電気量保存が成り立つ孤立部分を明確に識別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本式):
- 選定理由:各コンデンサーに蓄えられる電気量と、そのコンデンサーにかかる電圧(電位差)、電気容量を結びつけるため。
- 適用根拠:静電誘導が完了し、電荷分布が定常になった状態のコンデンサーに適用できる。\(V\) は極板間の電位差。
- 電気量保存則 (\(\sum Q_{\text{はじめ}} = \sum Q_{\text{あと}}\)):
- 選定理由:スイッチの切り替えなどによって、回路の一部が電気的に孤立する場合、その孤立部分の総電荷は操作の前後で変わらないという原理を利用するため。
- 適用根拠:考えている部分系が、外部の回路から電荷の供給も排出も受けていない状態であること。
- 電位法 (キルヒホッフの電圧則の一般化):
- 選定理由:複数のコンデンサーや電源が複雑に接続された回路で、各部分の電荷や電圧を系統的に求めるため。
- 適用根拠:回路の任意の点の電位は一意に定まる(基準点を決めれば)。各素子の両端の電位差とその素子の特性(\(Q=CV\)など)を結びつけて連立方程式を立てる。
- 漸化式 \(x_{n+1} = f(x_n)\):
- 選定理由:同じ操作を繰り返すことで物理量が段階的に変化していく場合に、その変化の規則性から \(n\) 回目の状態を予測し、さらにその極限値を求めるため。
- 適用根拠:1回の操作による状態遷移が、直前の状態のみに依存して決まる場合。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の把握: 全てのコンデンサーは帯電していない。
- 操作I (左接続): 回路構成を確認し、各コンデンサーの充電状態(電荷、電圧)を決定する。\(V_{AB}\)を計算する。(模範解答の解釈を優先)
- 操作II (右接続): 操作Iの状態を引き継ぎ、新たな回路構成での電荷の再分配を考える。孤立部分の電気量保存則と電位法を駆使して、新たな状態での\(V_{AB}\)を計算する。
- 操作III (左接続→右接続):
- 左接続: 前の状態に関わらず、電源によってコンデンサーが充電される状態を考える(模範解答の解釈に基づくFの電荷の扱い方に注意)。
- 右接続: 左接続完了時の電荷状態を初期値として、孤立部分の電気量保存と電位法で\(V_{AB}\)を計算する。
- 操作IV (操作IIIの繰り返し): 操作IIIの1サイクルでの変化のパターンを適用し、\(V_{AB}\)を計算する。ここでの初期値は操作III完了時の状態。
- 操作V (多数回繰り返し): 1サイクルの操作による\(V_{AB}\)の変化を表す漸化式を導出し、その極限値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 回路図の正確な解釈: スイッチの接続先を間違えると全てが狂うため、各操作での回路構成を正確に把握する。模範解答の図解がある場合は、それが問題文のどの操作に対応しているかを理解する。
- 電荷の符号と電位の高低: コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負か、それによって電位はどちらが高いかを常に意識する。\(Q=CV\) の \(V\) は電位差の絶対値として扱うか、符号を含めて扱うかを一貫させる。
- 電気量保存の対象を明確に: どの部分が電気的に孤立し、その部分の「どの電荷」の「総和」が保存されるのかを正確に特定する。
- 漸化式の変形: 特性方程式を解くか、\(x_{n+1}-\alpha = p(x_n-\alpha)\) の形に変形して等比数列に持ち込む。極限値を求めるだけなら、\(x_{n+1}=x_n=x_\infty\) とおく。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な振る舞いの予測:
- 昇圧回路の一種なので、操作を繰り返すごとに\(V_{AB}\)が増加していく傾向にあるはず(ある上限に達するまでは)。
- 電荷が移動するとき、それは電位差を解消する方向か、あるいは外部からエネルギーが供給されて蓄積される方向か。
- 極限値の物理的意味: 操作Vで\(V_{AB}\)が\(2V_0\)に近づくのはなぜか。模範解答の別解にあるように「\(C_1\)が\(V_0\)の電池となり、それが電源\(V_0\)と直列に接続されて合計\(2V_0\)の電圧源として\(C_2\)を充電する」という(簡略化された)解釈は、結果の妥当性を物理的に裏付ける。
- 最初の数ステップを手計算で確認: 漸化式が正しいか、あるいは計算ミスがないかを確認するために、\(x_1, x_2, x_3\) などを具体的に計算し、その傾向が直感と合うか、また極限値に近づいていく様子が見られるかを確認する。
問題23 (早稲田大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗(\(R\))、コンデンサー(\(C\))、電池(\(V_0\))、スイッチ(S)からなるRC直列回路におけるコンデンサーの充電現象(過渡現象)を扱っています。回路方程式を立て、電流やコンデンサーの電気量、電圧の時間変化について考察します。また、実験結果のグラフを読み取り、回路の定数(\(R, C\))を求めたり、条件を変えた場合の挙動を推測したりする能力も問われます。
- 回路構成: 起電力 \(V_0\) の電池(内部抵抗0)、電気抵抗 \(R\) の抵抗、電気容量 \(C\) のコンデンサー(はじめの電気量は0)、スイッチSを直列に接続した回路(図1)。
- 実験: スイッチSを閉じた瞬間 (\(t=0\)) からの時間 \(t\) と、そのときの抵抗を流れる電流の強さ \(I(t)\) の関係を調べる。
- 図2: \(V_0 = 4.00 \text{ V}\) のときの \(I(t)\) の実験結果(実線グラフ)。
- 縦軸: 電流 \[mA]
- 横軸: 時間 \[s]
- 時刻 \(t\) におけるコンデンサーCの電位差を \(V(t)\) として、電流 \(I(t)\) を求める。
- \(I(t)\) が \(t=0\) における値の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる時刻におけるコンデンサーCの電気量を求めよ。
- \(V_0 = 4.00 \text{ V}\) のときの実験結果(図2の実線)について、
- (ア) 図から抵抗 \(R\) の値を求めよ。
- (イ) 図2でOABCで囲まれた図形の方眼の数がほぼ100個であったという情報から、充電が終了したときのコンデンサーCの電気量 \(Q\) と電気容量 \(C\) を求めよ。
- \(V_0\) は同じにして、\(R\) と \(C\) の値を適当に変えたところ、図2の点線のように、電流が常に元の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となるグラフが得られた。\(R\) と \(C\) はそれぞれ元の何倍にしたか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、RC回路の基本的な充電過程を理解しているかが鍵となります。キルヒホッフの法則から回路方程式を立て、電流や電圧、電荷の関係を明確にすることが重要です。また、グラフの読み取りや、グラフの面積が持つ物理的意味(この場合は通過電気量)を理解しているかも試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
- オームの法則: 抵抗 \(R\) における電圧降下は \(RI\)。
- コンデンサーの基本式: 電気量 \(q\)、電気容量 \(C\)、電圧 \(V\) の間に \(q=CV\) の関係が成り立つ。
- 電流の定義: 電流 \(I\) は、電荷の時間変化率 \(I = \displaystyle\frac{dq}{dt}\) でもある。
- 電流-時間グラフの面積: \(I-t\) グラフの面積 \(\int I(t)dt\) は、その時間内に通過した総電気量を表す。
全体的な戦略
- (1) では、回路にキルヒホッフの第2法則を適用して、電流 \(I(t)\) とコンデンサーの電圧 \(V(t)\) の関係式を導きます。
- (2) では、まず \(t=0\) の初期電流を求め、条件に合うときのコンデンサーの電圧、そして電気量を求めます。
- (3) では、グラフから初期電流を読み取って \(R\) を決定し、グラフの面積(または模範解答の解釈)から総電気量 \(Q\) を、そして \(Q=CV_0\) から \(C\) を求めます。
- (4) では、電流が常に半分になるという条件が、初期電流と総電気量(グラフ面積)にどう影響するかを考え、\(R\) と \(C\) の変化を推測します。
問 (1)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じた後のRC直列回路を考えます。時刻 \(t\) において、抵抗 \(R\) には電流 \(I(t)\) が流れ、コンデンサー \(C\) の両端には電位差 \(V(t)\) が生じています。この閉回路に対してキルヒホッフの第2法則を適用します。電池の起電力を \(V_0\) とすると、回路を一巡する際の電位の関係から式を立てます。
この設問における重要なポイント
- RC直列回路の充電過程を考える。
- キルヒホッフの第2法則: (起電力の和) = (電圧降下の和)。
- 抵抗 \(R\) での電圧降下は \(RI(t)\)。
- コンデンサー \(C\) での電圧(電位差)は \(V(t)\)。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じた回路において、キルヒホッフの第2法則を適用します。
電池の起電力 \(V_0\) により電流 \(I(t)\) が流れると、抵抗 \(R\) で \(RI(t)\) の電圧降下が生じ、コンデンサー \(C\) の両端には \(V(t)\) の電位差が生じます。これらの関係は、
$$V_0 = RI(t) + V(t) \quad \cdots ①$$
この式を \(I(t)\) について解くことが求められています。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- オームの法則 (\(V=RI\))
式①を \(I(t)\) について整理します。
$$RI(t) = V_0 – V(t)$$
両辺を \(R\) で割ると、
$$I(t) = \frac{V_0 – V(t)}{R}$$
回路を電流が一周するとき、電池による電圧の上昇 (\(V_0\)) は、抵抗での電圧降下 (\(RI(t)\)) とコンデンサーでの電圧上昇 (\(V(t)\)) の合計に等しくなります。この関係を式で表すと \(V_0 = RI(t) + V(t)\) となり、これを \(I(t)\) について解けばよいのです。
時刻 \(t\) における電流 \(I(t)\) は、\(I(t) = \displaystyle\frac{V_0 – V(t)}{R}\) と表されます。これは、コンデンサーの電圧 \(V(t)\) が上昇するにつれて、抵抗にかかる電圧 (\(V_0 – V(t)\)) が減少し、結果として電流 \(I(t)\) も減少していくことを示しています。
問 (2)
思考の道筋とポイント
まず、\(t=0\) における電流 \(I(0)\) の値を求めます。スイッチを閉じた直後 (\(t=0\)) では、コンデンサーにはまだ電荷が蓄えられていないため、コンデンサーの電位差 \(V(0) = 0\) です。このときの電流 \(I(0)\) を問(1)の結果から求めます。
次に、電流 \(I(t)\) が \(I(0)\) の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になるという条件を使います。この条件を問(1)で得た \(I(t)\) の式に適用することで、そのときのコンデンサーの電位差 \(V(t)\) を求めることができます。
最後に、そのときのコンデンサーの電気量 \(q(t)\) を、\(q(t) = CV(t)\) の関係式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- \(t=0\) で \(V(0)=0\) (コンデンサーは電荷0からスタート)。
- 初期電流 \(I(0)\) は \(V_0/R\)。
- \(I(t) = I(0)/2\) のときの \(V(t)\) を求める。
- コンデンサーの電気量 \(q(t)=CV(t)\)。
具体的な解説と立式
スイッチを閉じた直後 \(t=0\) では、コンデンサーの電気量は0なので、コンデンサーの電位差 \(V(0) = 0\)。
問(1)で得た式 \(I(t) = \displaystyle\frac{V_0 – V(t)}{R}\) に \(t=0\) を代入すると、初期電流 \(I(0)\) は、
$$I(0) = \frac{V_0 – V(0)}{R} = \frac{V_0 – 0}{R} = \frac{V_0}{R} \quad \cdots ②$$
次に、電流 \(I(t)\) が \(I(0)\) の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になるときを考えます。すなわち、
$$I(t) = \frac{1}{2}I(0) \quad \cdots ③$$
このときのコンデンサーの電位差を \(V(t)\) とすると、問(1)の結果より \(I(t) = \displaystyle\frac{V_0 – V(t)}{R}\) なので、式③は、
$$\frac{V_0 – V(t)}{R} = \frac{1}{2} \cdot \frac{V_0}{R} \quad \cdots ④$$
この式から \(V(t)\) を求めます。
そして、このときのコンデンサーの電気量 \(q(t)\) は、
$$q(t) = CV(t) \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- \(I(t) = \displaystyle\frac{V_0 – V(t)}{R}\) (問(1)の結果)
- コンデンサーの電気量 \(q=CV\)
まず、式④から \(V(t)\) を求めます。両辺に \(R\) を掛けると、
$$V_0 – V(t) = \frac{1}{2}V_0$$
これを \(V(t)\) について解くと、
$$V(t) = V_0 – \frac{1}{2}V_0 = \frac{1}{2}V_0$$
次に、この \(V(t)\) を用いて、式⑤からコンデンサーの電気量 \(q(t)\) を求めます。
$$q(t) = C \cdot \left(\frac{1}{2}V_0\right) = \frac{1}{2}CV_0$$
- はじめの電流を求める: スイッチを入れた瞬間 (\(t=0\)) は、コンデンサーにはまだ電気がたまっていないので、コンデンサーの電圧は0Vです。このとき回路に流れる電流 \(I(0)\) を、オームの法則のような形で \(V_0/R\) と計算します。
- 電流が半分になったときのコンデンサーの電圧を求める: 電流が \(I(0)/2\) になったとき、抵抗にかかる電圧も半分 (\((1/2)RI(0) = (1/2)V_0\)) になります。回路全体の電圧は \(V_0\) で一定なので、残りの電圧 \(V_0 – (1/2)V_0 = (1/2)V_0\) がコンデンサーにかかっていることになります。
- そのときの電気量を計算する: コンデンサーの電圧が \((1/2)V_0\) と分かったので、電気量 \(q\) は \(C \times (\text{電圧})\) で \(q = C \cdot (1/2)V_0 = (1/2)CV_0\) と計算できます。
\(I(t)\) が \(t=0\) における値の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる時刻におけるコンデンサーCの電気量は \(\displaystyle\frac{1}{2}CV_0\) です。これは、充電が完了したとき(電流が0になり、コンデンサーの電圧が\(V_0\)になるとき)に蓄えられる最大電気量 \(Q_{\text{最大}}=CV_0\) のちょうど半分にあたります。
問 (3) (ア)
思考の道筋とポイント
\(V_0 = 4.00 \text{ V}\) のときの実験結果が図2の実線で与えられています。このグラフから抵抗 \(R\) の値を求めます。
問(2)の考察で、\(t=0\) における初期電流 \(I(0)\) は \(I(0) = V_0/R\) で与えられることがわかっています。図2のグラフから \(t=0\) のときの電流値 \(I(0)\) を読み取り、与えられた \(V_0\) の値を使って \(R\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- \(t=0\) での初期電流 \(I(0) = V_0/R\)。
- 図2のグラフから \(I(0)\) の値を読み取る。縦軸の単位が \[mA] であることに注意。
具体的な解説と立式
問(2)で導出した初期電流の式は、
$$I(0) = \frac{V_0}{R} \quad \cdots ②$$
この式を変形すると、抵抗 \(R\) は、
$$R = \frac{V_0}{I(0)} \quad \cdots ⑥$$
図2のグラフから、\(t=0\) のときの電流 \(I(0)\) の値を読み取ります。
グラフの縦軸は \[mA] なので、読み取った値の単位換算が必要です (\(1 \text{ mA} = 1 \times 10^{-3} \text{ A}\))。
与えられている \(V_0 = 4.00 \text{ V}\) と、グラフから読み取った \(I(0)\) の値を式⑥に代入して \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- 初期電流: \(I(0) = V_0/R\)
図2のグラフから、\(t=0\) のときの電流 \(I(0)\) を読み取ると、\(I(0) = 1.60 \text{ mA}\)。
単位をアンペア(A)に変換すると、\(I(0) = 1.60 \times 10^{-3} \text{ A}\)。
与えられた \(V_0 = 4.00 \text{ V}\)。
これらを式⑥に代入して \(R\) を計算します。
$$R = \frac{4.00 \text{ V}}{1.60 \times 10^{-3} \text{ A}}$$
この値を計算すると、
$$R = \frac{4.00}{1.60} \times 10^3 \text{ } \Omega = 2.50 \times 10^3 \text{ } \Omega$$
- はじめの電流と抵抗の関係: スイッチを入れた瞬間 (\(t=0\))、コンデンサーにはまだ電気がたまっていないので、回路には抵抗 \(R\) だけがあるのと同じように考えられます。このとき流れる電流 \(I(0)\) は、オームの法則から \(I(0)=V_0/R\) となります。
- グラフから値を読み取る: 図2のグラフの縦軸の \(t=0\) のところを読むと、電流は \(1.60 \text{ mA}\) です。
- 抵抗を計算する: \(R = V_0/I(0)\) の式に、\(V_0=4.00 \text{ V}\) と \(I(0)=1.60 \text{ mA} = 1.60 \times 10^{-3} \text{ A}\) を代入して \(R\) を計算します。
抵抗 \(R\) の値は \(2.50 \times 10^3 \text{ } \Omega\) (または \(2.50 \text{ k}\Omega\)) です。
グラフの読み取り精度や有効数字に注意が必要です。模範解答では \(R=2.50 \times 10^3 \text{ } \Omega\) となっています。
問 (3) (イ)
思考の道筋とポイント
図2でOABCで囲まれた図形(実際には \(I(t)\) 曲線と \(t\) 軸、および適切な縦線で囲まれた領域)の中の方眼の数がほぼ100個であったという情報から、充電が終了したときのCの電気量 \(Q\) を求め、さらに電気容量 \(C\) を求めます。
電流-時間グラフ (\(I-t\) グラフ) で、グラフと \(t\) 軸で囲まれた面積は、その時間内に通過した総電気量を表します。
まず、方眼1個が表す電気量 \(\Delta q\) を計算します。グラフの目盛りから、縦軸(電流)1目盛りが何mAか、横軸(時間)1目盛りが何秒かを確認し、その積を計算します。
次に、囲まれた領域の方眼の総数が100個であることから、その領域が表す電気量を計算します。
模範解答では「充電が終わると \(Q=CV_0\) がたまる。②(\(q(t)=\frac{1}{2}CV_0\))より\(q(t)\) (電流が半分になる時の電荷ではなく、グラフの面積が示す電荷)はその \(\frac{1}{2}\) に当たるから \(Q=2q_{\text{面積}}\)」と解釈しています。この解釈に従って進めます。
最終的に充電が完了したときの電気量が \(Q\) です。
電気容量 \(C\) は、\(Q=CV_0\) の関係式から求めます。
この設問における重要なポイント
- \(I-t\) グラフの面積は通過電気量を表す。
- 方眼1個あたりの電気量を計算する。
- 模範解答の解釈: OABCで囲まれた面積が、充電完了時の総電気量 \(Q\) の半分 (\(Q/2\)) を表す。
- 充電完了時の電気量 \(Q = CV_0\)。
具体的な解説と立式
まず、方眼1個が表す電気量 \(\Delta q\) を求めます。
図2のグラフから、
縦軸(電流): 1目盛りは \(0.2 \text{ mA} / 2 = 0.1 \text{ mA} = 0.1 \times 10^{-3} \text{ A}\)。
横軸(時間): 1目盛りは \(2 \text{ s} / 2 = 1 \text{ s}\)。
よって、方眼1個の面積が表す電気量 \(\Delta q\) は、
$$\Delta q = (\text{縦1目盛りの電流}) \times (\text{横1目盛りの時間}) \quad \cdots ⑦$$
OABCで囲まれた図形の方眼の数が100個なので、この面積が表す電気量 \(q_{\text{面積}}\) は、
$$q_{\text{面積}} = 100 \times \Delta q \quad \cdots ⑧$$
模範解答の解釈に従い、この \(q_{\text{面積}}\) が充電完了時の総電気量 \(Q\) の半分であるとします。
$$q_{\text{面積}} = \frac{Q}{2} \quad \cdots ⑨$$
したがって、充電が終了したときのコンデンサーの電気量 \(Q\) は、
$$Q = 2 \times q_{\text{面積}} \quad \cdots ⑩$$
電気容量 \(C\) は、充電完了時にはコンデンサーの電圧が \(V_0\) になることから、\(Q = CV_0\) の関係を使って、
$$C = \frac{Q}{V_0} \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- \(I-t\) グラフの面積 = 電気量
- コンデンサーの電気量 (充電完了時): \(Q=CV_0\)
方眼1個が表す電気量 \(\Delta q\) を式⑦から計算します。
$$\Delta q = (0.1 \times 10^{-3} \text{ A}) \times (1 \text{ s}) = 1 \times 10^{-4} \text{ C}$$
OABCで囲まれた図形の面積が表す電気量 \(q_{\text{面積}}\) を式⑧から計算します。
$$q_{\text{面積}} = 100 \times (1 \times 10^{-4} \text{ C}) = 1.00 \times 10^{-2} \text{ C}$$
模範解答の解釈に従い、式⑩から充電完了時の電気量 \(Q\) を計算します。
$$Q = 2 \times q_{\text{面積}} = 2 \times (1.00 \times 10^{-2} \text{ C}) = 2.00 \times 10^{-2} \text{ C}$$
最後に、式⑪から電気容量 \(C\) を計算します。\(V_0 = 4.00 \text{ V}\) なので、
$$C = \frac{Q}{V_0} = \frac{2.00 \times 10^{-2} \text{ C}}{4.00 \text{ V}} = 0.500 \times 10^{-2} \text{ F} = 5.00 \times 10^{-3} \text{ F}$$
- グラフの1マスの意味を理解する: 電流-時間グラフでは、面積が電気の量を表します。まず、グラフの方眼1個がどれだけの電気の量(クーロン)に相当するかを、縦軸と横軸の1目盛りの値から計算します。
- 指定された部分の電気量を計算する: OABCで囲まれた部分の方眼が100個なので、1マスの電気量 \(\times\) 100 で、この部分が表す電気の量を計算します。
- 全体の電気量を求める(模範解答の解釈): 模範解答では、このOABCの面積が、コンデンサーが完全に充電されたときの電気の総量 \(Q\) の半分 (\(Q/2\)) にあたると解釈しています。なので、ステップ2で計算した量を2倍して \(Q\) を求めます。
- 電気容量を計算する: コンデンサーが完全に充電されると、その電圧は電池の電圧 \(V_0\) と同じになります。電気の総量 \(Q\) と電圧 \(V_0\) が分かれば、電気容量 \(C\) は \(C=Q/V_0\) で計算できます。
充電が終了したときのコンデンサーCの電気量 \(Q\) は \(2.00 \times 10^{-2} \text{ C}\)。
電気容量 \(C\) は \(5.00 \times 10^{-3} \text{ F}\) (または \(5.00 \text{ mF}\))。
OABCの面積が\(Q/2\)となる物理的な根拠は問題文からは明確ではありませんが、模範解答の指示に従った結果です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
\(V_0\) は同じにして、\(R\) と \(C\) の値を適当に変えたところ、図2の点線のように、電流が常に元の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となるグラフが得られました。この条件から、新しい抵抗 \(R’\) と新しい電気容量 \(C’\) が、それぞれ元の \(R\) と \(C\) の何倍になるかを求めます。
- 初期電流の変化: \(t=0\) における初期電流 \(I'(0)\) は、元の初期電流 \(I(0)\) の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になります。初期電流は \(I(0) = V_0/R\) なので、この関係から \(R’\) と \(R\) の比がわかります。
- 総電気量の変化: 電流が常に元の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) ということは、\(I'(t) = \frac{1}{2}I(t)\) です。\(I-t\) グラフの面積は総電気量を表すので、新しい総電気量 \(Q’\) は元の総電気量 \(Q\) の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になります。
- 電気容量の変化: 充電完了時の電気量は \(Q=CV_0\) です。\(V_0\) は同じなので、\(Q’\) と \(Q\) の関係から \(C’\) と \(C\) の比がわかります。
この設問における重要なポイント
- 新しい電流 \(I'(t) = \frac{1}{2}I(t)\) が常に成り立つ。
- 初期電流の関係: \(I'(0) = V_0/R’\), \(I(0) = V_0/R\)。
- 総電気量の関係: \(Q’ = \frac{1}{2}Q\)。
- 充電完了時の電気量: \(Q = CV_0\), \(Q’ = C’V_0\)。
具体的な解説と立式
元の回路の初期電流を \(I(0)\)、抵抗を \(R\)、電気容量を \(C\)、充電完了時の電気量を \(Q\) とします。
新しい回路の初期電流を \(I'(0)\)、抵抗を \(R’\)、電気容量を \(C’\)、充電完了時の電気量を \(Q’\) とします。
電池の起電力 \(V_0\) は共通です。
条件より、常に \(I'(t) = \displaystyle\frac{1}{2}I(t)\)。
したがって、\(t=0\) においても、
$$I'(0) = \frac{1}{2}I(0) \quad \cdots ⑫$$
初期電流の公式 \(I(0)=V_0/R\) と \(I'(0)=V_0/R’\) を用いると、式⑫は
$$\frac{V_0}{R’} = \frac{1}{2}\frac{V_0}{R} \quad \cdots ⑬$$
次に、充電が完了したときに蓄えられる総電気量について考えます。
\(I-t\) グラフの面積が総電気量を表すので、
$$Q’ = \int_0^\infty I'(t)dt = \int_0^\infty \frac{1}{2}I(t)dt = \frac{1}{2}\int_0^\infty I(t)dt = \frac{1}{2}Q \quad \cdots ⑭$$
充電完了時の電気量は \(Q=CV_0\) および \(Q’=C’V_0\) と書けるので、式⑭は、
$$C’V_0 = \frac{1}{2}CV_0 \quad \cdots ⑮$$
式⑬から \(R’/R\) を、式⑮から \(C’/C\) を求めます。
使用した物理公式
- 初期電流: \(I(0)=V_0/R\)
- \(I-t\) グラフの面積 = 総電気量 \(Q\)
- 充電完了時の電気量: \(Q=CV_0\)
まず、抵抗 \(R’\) について、式⑬から求めます。
$$\frac{V_0}{R’} = \frac{1}{2}\frac{V_0}{R}$$
\(V_0\) で両辺を割ると (\(V_0 \neq 0\))、
$$\frac{1}{R’} = \frac{1}{2R}$$
これを \(R’\) について解くと、
$$R’ = 2R$$
次に、電気容量 \(C’\) について、式⑮から求めます。
$$C’V_0 = \frac{1}{2}CV_0$$
\(V_0\) で両辺を割ると (\(V_0 \neq 0\))、
$$C’ = \frac{1}{2}C$$
- はじめの電流に着目: スイッチを入れた瞬間の電流 \(I(0)\) は \(V_0/R\) です。新しい回路では電流が常に半分なので、新しいはじめの電流 \(I'(0)\) は \(I(0)/2\) です。また、\(I'(0)=V_0/R’\) なので、これらの関係から新しい抵抗 \(R’\) が元の \(R\) の何倍かが分かります。
- たまる電気の総量に着目: 電流が常に半分ということは、コンデンサーに流れ込む電気の勢いが常に半分ということです。したがって、最終的にコンデンサーにたまる電気の総量 \(Q’\) も元の半分 (\(Q/2\)) になります。
- 電気容量を比較する: コンデンサーにたまる電気の総量は \(Q=CV_0\) です。電池の電圧 \(V_0\) は変わらないので、たまる電気の総量 \(Q’\) が \(Q/2\) になるということは、新しい電気容量 \(C’\) が元の \(C\) の半分 (\(C/2\)) になったことを意味します。
抵抗 \(R\) は元の2倍に、電気容量 \(C\) は元の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍にしました。
RC回路の時定数は \(\tau = RC\) で与えられます。元の時定数は \(\tau\)、新しい時定数は \(\tau’ = R’C’ = (2R)(\frac{1}{2}C) = RC = \tau\)。
時定数が変わらないということは、電流が減衰する「速さの度合い」は同じですが、初期電流 \(I(0)=V_0/R\) が半分になる(\(R\)が2倍のため)ので、グラフ全体が縦に1/2に圧縮された形になります。これは図2の点線の特徴と一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RC直列回路の充電過程:
- 核心:スイッチを入れた瞬間、コンデンサーは導線のように振る舞い(電圧0、電流最大)、時間が経つにつれて電荷が蓄積し電圧が上昇、電流は減少していく。最終的に電流は0になり、コンデンサーの電圧は電源電圧に等しくなる。
- 理解のポイント:キルヒホッフの第2法則 \(V_0 = RI + V_C\) と \(q=CV_C\), \(I=dq/dt\) から微分方程式を立てて解くと、電流や電圧が時間と共に指数関数的に変化することがわかる(高校範囲では微分方程式を直接解くことは少ないが、その振る舞いの理解は重要)。
- 初期条件と最終状態の理解:
- 核心:\(t=0\) でコンデンサーの電荷0なら電圧0、電流 \(I(0)=V_0/R\)。十分時間が経過後 (\(t \rightarrow \infty\)) は電流0、コンデンサー電圧 \(V_C=V_0\)、電荷 \(Q=CV_0\)。
- 理解のポイント:これらの境界条件は、問題を解く上で重要な手がかりとなる。
- 電流-時間グラフの面積の意味:
- 核心:\(I-t\) グラフと時間軸で囲まれた面積は、その期間に導線を通過した総電気量を表す。
- 理解のポイント:積分 \(\int I dt = Q\) の物理的意味。微小時間 \(\Delta t\) に流れる電気量 \(\Delta Q = I \Delta t\) の総和。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- RC回路の放電過程の問題。
- RL回路の過渡現象(類似の微分方程式が出てくる)。
- グラフの読み取りから回路定数を決定する問題。
- 回路のパラメータを変更したときの応答の変化を考察する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 回路の種類と初期条件の確認: RC直列か、RL直列か、など。コンデンサーやコイルの初期電荷・初期電流は何か。
- キルヒホッフの法則の適用: 回路方程式を立てる。
- グラフが与えられている場合:
- \(t=0\) の値(初期値)を読む。
- \(t \rightarrow \infty\) の値(最終値・定常値)の傾向を読む。
- グラフの傾きや面積が何を表すか考える。
- 問われている量が何かを明確にする: 電流か、電圧か、電荷か、エネルギーか。それらを結びつける公式を想起する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 単位の換算(mAをAに、k\(\Omega\)を\(\Omega\)に、\(\mu\)FをFに、など)を忘れない。
- 有効数字の扱いに注意する(特に実験データに基づく計算の場合)。
- 「常に1/2になる」といった条件は、任意の時刻 \(t\) で成り立つことを意味する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 初期条件の誤解:
- 現象:\(t=0\) でコンデンサーの電圧を \(V_0\) としたり、電流を0としてしまう。
- 対策:「はじめの電気量は0」という条件から、\(t=0\) では \(V_C(0)=0\) であることを確認する。このとき抵抗には最大の電圧がかかり、電流も最大となる。
- グラフの面積の意味の混同:
- 現象:\(I-t\) グラフの面積がエネルギーを表すと勘違いするなど。
- 対策:\(P=IV\) (電力)、\(E=Pt\) (エネルギー、一定電力の場合)、\(Q=It\) (電気量、一定電流の場合) などの基本定義に立ち返り、積分 \(\int I dt\) が \(Q\) になることを確認する。
- 模範解答の特殊な解釈への依存:
- 現象:問(3)(イ)のように、問題文だけでは一意に定まらない解釈を模範解答がしている場合、その根拠を理解せずに鵜呑みにすると応用が利かない。
- 対策:できる限り問題文から素直に読み取れる解法をまず考え、模範解答が異なる場合はその論理構造を批判的に検討する。ただし、試験対策としては模範解答のパターンを学習することも必要。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- コンデンサーへの充電を「水槽に水がたまる様子」に例えるイメージ。電流が水の流入率、電圧が水位、電気容量が水槽の底面積。はじめは勢いよく水が流れ込むが、水位が上がるにつれて流入率は減っていく。
- \(I-t\) グラフ上の微小な長方形 \(I(t) \Delta t\) が、微小時間 \(\Delta t\) に流れる電気量 \(\Delta Q\) を表し、その積み重ねが全面積=総電気量になるイメージ。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 回路図を正確に描く。電流の向き、電圧の極性を明示する。
- グラフの軸の物理量と単位を正確に記述する。
- グラフ上の特定の点(初期値、変化点など)が何を表すかを注記する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V_0 = RI(t) + V(t)\) (キルヒホッフ第2法則):
- 選定理由:閉回路におけるエネルギー保存(電位のつじつま)を表す普遍的な法則であり、回路内の各要素の電圧関係を記述するため。
- 適用根拠:任意の閉回路に対して成り立つ。各項は電池の起電力、抵抗の電圧降下、コンデンサーの電圧。
- \(I(0) = V_0/R\) (初期電流):
- 選定理由:\(t=0\) という特定の瞬間の状態を記述するため。
- 適用根拠:\(t=0\) ではコンデンサーはまだ充電されておらず、電圧 \(V(0)=0\)。したがって、回路方程式 \(V_0 = RI(0) + 0\) から導かれる。
- \(q(t) = CV(t)\) (コンデンサーの電荷):
- 選定理由:コンデンサーの基本的な特性であり、電圧と電荷を結びつけるため。
- 適用根拠:コンデンサーの定義式。
- \(Q = \text{面積}(\text{I-tグラフ})\) (総電気量):
- 選定理由:電流の時間積分が総通過電気量であることを利用し、グラフから実験的に \(Q\) を求めるため。
- 適用根拠:電流の定義 \(I=dQ/dt\) を積分すると \(Q = \int I dt\) となることから。
- \(Q_{\text{完了}} = CV_0\) (充電完了時の電荷):
- 選定理由:コンデンサーの充電が完了した最終状態での電荷を記述するため。
- 適用根拠:充電完了時 (\(t \rightarrow \infty\)) には電流が流れなくなり (\(I=0\))、抵抗での電圧降下も0になる。したがって、コンデンサーの電圧は電源電圧 \(V_0\) に等しくなる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 回路方程式の立式 (問1): キルヒホッフの第2法則を適用。
- 初期条件の適用と特定条件での計算 (問2): \(t=0\) で \(V(0)=0\) を用い \(I(0)\) を求める。\(I(t)=I(0)/2\) となる \(V(t)\) を求め、\(q(t)=CV(t)\) で電荷を計算。
- グラフからの読み取りと定数決定 (問3ア): 図から \(I(0)\) を読み、\(R=V_0/I(0)\) で \(R\) を計算。
- グラフ面積からの電荷・容量決定 (問3イ): 方眼1個の電気量を計算。指定領域の面積(電気量)を求め、模範解答の解釈に従い総電荷 \(Q\) を計算。\(C=Q/V_0\) で \(C\) を計算。
- 条件変更時のパラメータ変化の考察 (問4): 電流が常に1/2になる条件を \(I(0)\) と \(Q\) に適用し、\(R\) と \(C\) の変化率を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の徹底: mA \(\rightarrow\) A, ms \(\rightarrow\) s, \(\mu\)F \(\rightarrow\) F など、計算前にSI基本単位に統一する。特にグラフの目盛りを読む際は注意。
- 有効数字の意識: 与えられた数値(例:\(V_0=4.00\)V)やグラフの読み取り精度に合わせて、最終的な答えの有効数字を適切に処理する。
- 分数の計算や代数計算: 複雑な式変形は少ないが、基本的な計算を正確に行う。
- グラフの解釈: 縦軸と横軸が何を表しているか、1目盛りがどれだけの量に対応するかを正確に把握する。面積計算の際の方眼の数え間違いにも注意。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理量のオーダー感覚: 計算された \(R\) や \(C\) の値が、一般的な実験室で使われる部品のオーダーとして不自然でないか(極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか)。
- グラフの形状との整合性:
- 計算で求めた \(R\) や \(C\) の値(あるいは時定数 \(\tau=RC\))から予想される電流の減衰の速さが、グラフの見た目と大きく矛盾しないか。
- (4)で \(R\) を2倍、\(C\) を1/2倍にすると時定数 \(\tau=RC\) は変わらない。初期電流 \(I(0)=V_0/R\) は半分になる。これらがグラフの点線の特徴と合致するか。
- エネルギー保存の観点(発展): 電池がした仕事、抵抗で消費されたジュール熱、コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーの関係を考えると、より深い理解が得られる(この問題では直接問われていない)。
問題24 (早稲田大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、複数のコンデンサー、スイッチ、電池、抵抗を含む直流回路に関する問題です。スイッチの操作によって回路の状態が変化し、その過渡的な振る舞い(スイッチ操作直後)や定常状態(十分時間が経過した後)における電流、電位、コンデンサーの電荷、そしてジュール熱などを考察します。電気量保存則や電位の考え方、エネルギー保存則を的確に用いる能力が問われます。
- 3個のコンデンサー: \(C_1\) (容量 \(C\)), \(C_2\) (容量 \(2C\)), \(C_3\) (容量 \(C\))。
- 2個のスイッチ: S1, S2。
- 2個の電池: 起電力 \(E\), 起電力 \(2E\)。内部抵抗は無視できる。
- 2つの抵抗: \(R_1\), \(R_2\)。
- G点の電位は0V(アース)。
- 初期状態: S1, S2 は開かれており、すべてのコンデンサーの電荷は0。
- 初期状態から、スイッチS1を閉じた直後、S1を流れる電流。
- S1を閉じ十分に時間がたったとき、A点の電位。
- (2)の後、S1を開き、S2を閉じ十分に時間がたったとき、A点の電位とB点の電位。
- (3)の操作でS2を通過した電気量の大きさ。
- (3)の操作で抵抗R2で発生したジュール熱。
- 初期状態にもどしてから、スイッチS1およびS2を同時に閉じ、十分に時間がたったとき、A点の電位。
- 【コラム】Q. 回路を組み替え、S1を閉じ十分に時間がたったときのC1の電圧。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、コンデンサーを含む直流回路の基本的な性質を組み合わせた総合問題です。スイッチ操作直後のコンデンサーの扱いや、十分時間が経過した定常状態でのコンデンサーの扱い、孤立部分の電気量保存、そしてエネルギー保存則の適用がポイントとなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- コンデンサーの性質:
- スイッチ操作直後(または電荷が0のとき):電圧は0であり、導線(短絡)とみなせる場合がある。
- 十分時間経過後(直流定常状態):充電が完了し電流は流れ込まないため、断線(開放)とみなせる。
- 電荷と電圧の関係:\(Q=CV\)。
- オームの法則: \(V=RI\)。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流入する電流の和と流出する電流の和は等しい。
- 第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の代数和と電圧降下の代数和は等しい。
- 電気量保存則: 電気的に孤立した部分の総電荷は、操作の前後で保存される。
- エネルギー保存則: (電池がした仕事) = (コンデンサーの静電エネルギーの変化) + (抵抗で発生するジュール熱)。
- 電位: アース点の電位を0Vとして、回路内の各点の電位を考える。
全体的な戦略
- 各設問で、スイッチの状態と時間の経過(直後か十分後か)に応じて、コンデンサーが回路中でどのような役割を果たすかを的確に判断します。
- 「十分時間がたった」場合は、コンデンサー部分の電流は0と考え、回路の電位分布を確定させます。
- スイッチの切り替え操作では、切り替え直前にコンデンサーに蓄えられていた電荷が、切り替え後の新しい回路でどのように再分配されるか、あるいは保存されるかを考えます。孤立部分の特定が重要です。
- 電位が未知の点については、その電位を文字(例: \(x\))で置き、キルヒホッフの法則や電荷の関係式から方程式を立てて解く「電位法」が有効です。
問 (1)
思考の道筋とポイント
初期状態からスイッチS1を閉じた「直後」を考えます。このとき、全てのコンデンサーの電荷は0です。電荷が0のコンデンサーは、電圧も0であり、電流を妨げる要素とはなりません。したがって、S1を閉じた直後においては、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) はあたかも導線(短絡路)であるかのように振る舞います。
このとき、回路は電池 \(E\)、スイッチS1、抵抗 \(R_1\)、そしてG点(アース)からなる単純な閉回路と見なせます。A点、B点は \(C_1\), \(C_2\) が導線とみなせるため、G点(または \(R_1\) の一部)と短絡していると考えられます。
S1を流れる電流は、この単純化された回路における電流です。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じた直後、電荷0のコンデンサーは電圧0であり、導線(短絡)とみなせる。
- このとき、回路は電池 \(E\) と抵抗 \(R_1\) のみの単純な直列回路となる。
- オームの法則を用いて電流を計算する。
具体的な解説と立式
初期状態では、コンデンサー \(C_1, C_2, C_3\) の電荷は0です。
スイッチS1を閉じた直後、電荷が0のコンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は電圧が0であり、電流を妨げないため、導線とみなすことができます。
このとき、点B、点A、点Gは実質的に短絡されていると考えられます(点Bは\(C_1\)を介してAに、Aは\(C_2\)を介してGに、これらが導線扱いのため)。
したがって、回路は電池 \(E\)、スイッチS1、抵抗 \(R_1\) が直列に接続され、G点で閉じている(Gはアースなので電位0V)と見なせます。
この単純な回路にオームの法則を適用すると、S1を流れる電流 \(I_0\) は、
$$I_0 = \frac{E}{R_1} \quad \cdots ①$$
- オームの法則: \(I = V/R\)
- スイッチ直後のコンデンサーの性質(電荷0なら電圧0、導線とみなせる)
式①が求める電流を表しており、これ以上の計算はありません。
- スイッチオン直後のコンデンサーの振る舞い: スイッチを入れたほんの一瞬は、まだ電気がたまっていないコンデンサーは、電気の流れを邪魔しません。まるでただの導線(電線)のようです。
- 回路の単純化: \(C_1\) と \(C_2\) を導線とみなすと、回路は電池 \(E\) と抵抗 \(R_1\) だけが直列につながった簡単なものになります。
- 電流の計算: この簡単な回路にオームの法則を使うと、流れる電流は \(E/R_1\) と計算できます。
S1を閉じた直後、S1を流れる電流は \(\displaystyle\frac{E}{R_1}\) です。これは、コンデンサーが充電される前の、回路の抵抗成分のみによって決まる初期電流です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
スイッチS1を閉じ、十分に時間がたったときを考えます。この状態では、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) の充電が完了し、回路には直流電流が流れなくなります(コンデンサー部分は断線とみなせる)。
したがって、抵抗 \(R_1\) にも電流は流れません。
G点の電位は \(0\text{V}\) です。B点の電位は電池Eの正極なので \(E\) です。A点の電位を \(V_A\) とします。
コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は直列に接続され、その両端(B点とG点)の電位差が \(E-0=E\) となります。
A点の電位は、\(C_2\) のG側(電位0V)に対するA点の電位、すなわち \(C_2\) の電圧 \(V_2\) に等しくなります。
直列コンデンサーでは、電圧は電気容量の逆比に分配されます。
この設問における重要なポイント
- 十分時間が経過すると、コンデンサーへの電流は0になる(直流定常状態)。
- このとき、\(C_1\)と\(C_2\)は直列に接続され、B点とG点の間の電位差 \(E\) が分配される。
- A点の電位は、\(C_2\)のGND(0V)に対する電圧に等しい。
- 直列コンデンサーの電圧は電気容量の逆比に分配される。
具体的な解説と立式
十分に時間が経過すると、コンデンサー \(C_1\)(容量\(C\)) と \(C_2\)(容量\(2C\)) の充電が完了し、回路に電流は流れなくなります。
G点の電位は \(V_G = 0\text{V}\)。B点の電位は電池の正極なので \(V_B = E\)。A点の電位を \(V_A\) とします。
\(C_1\) と \(C_2\) はB点とG点の間に直列に接続されていると見なせます。全体の電位差は \(V_{BG} = V_B – V_G = E – 0 = E\)。
\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) は \(V_A – V_G = V_A\) です。
直列コンデンサーの電圧は電気容量の逆比に分配されるので、\(C_2\) にかかる電圧 \(V_A\) は、
$$V_A = \frac{1/C_2}{1/C_1 + 1/C_2} E = \frac{C_1}{C_1+C_2}E \quad \cdots ②$$
(模範解答では \(V_2 = \frac{C}{C+2C}E\) とありますが、これは \(C_1\) の容量を \(C\)、\(C_2\) の容量を \(2C\) として、\(C_2\) にかかる電圧を \(V_A = \frac{C_1}{C_1+C_2}E\) とした結果と同じです。)
別解: 電位法(模範解答より)
A点の電位を \(x\) とします。B点の電位は \(E\)、G点の電位は \(0\text{V}\)。
定常状態ではA点に流れ込む電流が0であることから、A点に接続される極板群の電荷について特別な関係が成り立ちます。模範解答では「Aにつながる \(C_1\) と \(C_2\) の極板の電気量の和は0だから」としています。これは、A点とそれに接続される\(C_1\)の右極板、\(C_2\)の上極板を一つの孤立系と見なし(初期電荷0)、そこに最終的に蓄えられる電荷の和が0であるという解釈です。
\(C_1\) の右側極板の電荷は \(Q_{C1A} = C_1(x-E) = C(x-E)\)。
\(C_2\) の上側極板の電荷は \(Q_{C2A} = C_2(x-0) = 2Cx\)。
これらの和が0であるとすると、
$$C(x-E) + 2Cx = 0 \quad \cdots ③$$
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 直列コンデンサーの性質(電圧は容量の逆比)
- 電位法(電気量のつりあい)
計算過程
方法1(電圧の逆比分配): 式②に \(C_1=C, C_2=2C\) を代入します。
$$V_A = \frac{C}{C+2C}E = \frac{C}{3C}E = \frac{1}{3}E$$
別解(模範解答の電位法): 式③を解きます。
$$C(x-E) + 2Cx = 0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$x-E + 2x = 0$$
$$3x = E$$
$$x = \frac{1}{3}E$$
ここで \(x=V_A\) なので、\(V_A = \displaystyle\frac{1}{3}E\)。
- 十分時間が経った状態: コンデンサーの充電が完了し、電流は流れなくなります。
- コンデンサーの接続: \(C_1\) と \(C_2\) は、電池 \(E\) に対して直列につながっていると考えられます(B点が電位\(E\)、G点が電位0V)。
- 電圧の分配: 直列につながったコンデンサーでは、電池の電圧 \(E\) が、各コンデンサーの電気容量の逆比で分けられます。A点の電位は、\(C_2\) にかかる電圧に等しいので、この分配のルールから計算できます。
A点の電位は \(\displaystyle\frac{1}{3}E\) です。
このとき、\(C_1\) の電圧は \(V_B – V_A = E – \frac{1}{3}E = \frac{2}{3}E\)。\(C_2\) の電圧は \(V_A – V_G = \frac{1}{3}E – 0 = \frac{1}{3}E\)。
\(C_1\) の電荷は \(C \cdot \frac{2}{3}E = \frac{2}{3}CE\)。\(C_2\) の電荷は \(2C \cdot \frac{1}{3}E = \frac{2}{3}CE\)。
両コンデンサーの電荷は等しくなっており、直列接続の条件を満たしています。
問 (3)
思考の道筋とポイント
(2)の状態の後、S1を開き、S2を閉じ、十分に時間がたったときを考えます。
S1を開くと、コンデンサー\(C_1\)はB点側の極板が電源から切り離されますが、A点側の極板はまだ\(C_2, C_3\)と接続されています。\(C_1\)に蓄えられていた電圧(B-A間が\(\frac{2}{3}E\)、Bが高電位)と電荷(\(\frac{2}{3}CE\))は、この操作で変化する可能性があります。模範解答では「\(C_1\)は\(\frac{2}{3}E\)Vのまま「凍結」状態となる」としています。これは、\(C_1\)の電荷が保存されるため、その両端の電位差が保たれるという意味です。
S2を閉じると、\(C_2\)と\(C_3\)が電池\(2E\)と抵抗\(R_2\)を含む閉回路に接続されます。Gはアース(0V)。
十分時間がたつと、\(C_2\)と\(C_3\)の充電(または電荷の再分配)が完了し、\(R_2\)に電流は流れなくなります。
このとき、A点の新しい電位を \(x\) とします。
模範解答では「赤い部分の電気量保存より」として、A点に接続されている\(C_2\)の上側極板と\(C_3\)の左側極板の電荷の和が、S2を閉じる前のこれらの極板の電荷の和に等しいとしています。(ここで、\(C_1\)のA側極板の電荷もこの「赤い部分」に含めて考えるかどうかがポイント)。
模範解答の式は \(2C(x-0) + C(x-2E) = +\frac{2}{3}CE + 0\) です。左辺はS2を閉じた後の\(C_2\)の上側極板の電荷と\(C_3\)の左側極板の電荷。右辺はS2を閉じる前の\(C_2\)の上側極板の電荷(\(\frac{2}{3}CE\))と\(C_3\)の左側極板の電荷(0)。これは、A点とそれに繋がる\(C_2\)の上極板、\(C_3\)の左極板が孤立系を成すという考え方です(\(C_1\)はS1が開いているのでA点とは繋がっているがB点側が開放)。
B点の電位は、\(C_1\)の電圧が\(\frac{2}{3}E\)でB側が高電位という関係から、\(V_B = x + \frac{2}{3}E\)となります。
この設問における重要なポイント
- S1を開くと\(C_1\)は充電された状態(電圧 \(\frac{2}{3}E\)、B側が高電位)で、その電荷と電圧の関係はA点の電位が変化しても保たれる(電荷が保存されるため)。
- S2を閉じると、A点を共有する\(C_2\)と\(C_3\)の系が、電池\(2E\)に接続される。
- 孤立部分(A点に接続する\(C_2\)の上側極板と\(C_3\)の左側極板の系)の電気量が保存される。
- 十分時間後、\(R_2\)に電流は流れない。
具体的な解説と立式
S1を開いたとき、\(C_1\)には電圧 \(\frac{2}{3}E\) がかかっており、B側がA側より高電位です。この電位差はS1が開かれた後も保たれます。
S2を閉じる直前の状態:
A点の電位は \(\frac{1}{3}E\)。G点の電位は 0V。
\(C_2\)の上側極板の電荷は \(Q_{C2\text{前}} = (2C)(V_A – V_G) = (2C)(\frac{1}{3}E – 0) = \frac{2}{3}CE\)。
\(C_3\)の電荷は0。
S2を閉じ、十分に時間がたった後のA点の電位を \(x\) とします (\(V_A = x\))。G点の電位は0V。
電池\(2E\)の正極は\(C_3\)の右側極板に接続されているので、\(C_3\)の右側極板の電位は \(2E\) (G点基準)。
\(C_2\)の上側極板の電荷は、
$$Q_{C2\text{後}} = (2C)(x-0) = 2Cx \quad \cdots ④$$
\(C_3\)の左側極板の電荷は、
$$Q_{C3\text{後}} = C(x-2E) \quad \cdots ⑤$$
孤立しているのは、A点に接続する\(C_2\)の上側極板と\(C_3\)の左側極板の系です。これらの極板の電荷の総和が保存されます。
S2を閉じる直前のこの系の総電荷は、\(Q_{\text{孤立前}} = Q_{C2\text{前}} + (\text{C3の左極板の初期電荷}) = \frac{2}{3}CE + 0 = \frac{2}{3}CE\)。
S2を閉じた後のこの系の総電荷は、\(Q_{C2\text{後}} + Q_{C3\text{後}}\)。
よって、電気量保存則より、
$$2Cx + C(x-2E) = \frac{2}{3}CE \quad \cdots ⑥$$
この方程式を解いてA点の電位 \(x\) を求めます。
B点の電位 \(V_B\) は、\(C_1\) の電圧が \(\frac{2}{3}E\) でB側がA側(\(x\))より高電位であることから、
$$V_B = x + \frac{2}{3}E \quad \cdots ⑦$$
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- 電気量保存則
- 電位の考え方
計算過程
式⑥を \(x\) について解きます。
$$2Cx + Cx – 2CE = \frac{2}{3}CE$$
$$3Cx = 2CE + \frac{2}{3}CE = \left(2+\frac{2}{3}\right)CE = \left(\frac{6}{3}+\frac{2}{3}\right)CE = \frac{8}{3}CE$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$3x = \frac{8}{3}E$$
$$x = \frac{8}{9}E$$
これがA点の電位 \(V_A\) です。
次に、B点の電位 \(V_B\) を式⑦から求めます。
$$V_B = \frac{8}{9}E + \frac{2}{3}E = \frac{8}{9}E + \frac{6}{9}E = \frac{14}{9}E$$
- S1を開いた後のC1の状態: S1を開くと、\(C_1\)はそれまでに蓄えた電荷と電圧を保ちます。(2)の結果から、\(C_1\)の電圧は\(\frac{2}{3}E\)で、B点側がA点側より高電位です。この関係はA点の電位が変わっても維持されます。
- S2を閉じる前の孤立部分の電荷: S2を閉じる直前、A点につながる\(C_2\)の上側極板は\(\frac{2}{3}CE\)の電荷を持ち、\(C_3\)の左側極板は電荷0です。これらの合計 \(\frac{2}{3}CE\) が、S2を閉じた後に保存されるべき孤立部分の初期電荷となります。
- S2を閉じた後の定常状態: S2を閉じ十分時間が経つと、A点の電位を\(x\)とすると、\(C_2\)の上側極板の電荷は\(2Cx\)、\(C_3\)の左側極板の電荷は\(C(x-2E)\)となります(\(C_3\)の右側は電池\(2E\)につながるため電位\(2E\))。
- 電気量保存からA点の電位を求める: ステップ2と3の電荷の和が等しいという式 \(2Cx + C(x-2E) = \frac{2}{3}CE\) から、A点の電位\(x\)を求めます。
- B点の電位を求める: A点の電位\(x\)が分かれば、\(C_1\)の電圧が\(\frac{2}{3}E\)(B側が高い)であることから、B点の電位は\(x+\frac{2}{3}E\)として計算できます。
A点の電位は \(\displaystyle\frac{8}{9}E\)、B点の電位は \(\displaystyle\frac{14}{9}E\) です。
これらの値は模範解答と一致します。A点の電位が \(E\) や \(2E\) とは異なる値になり、B点の電位も初期の \(E\) から変化していることがわかります。
問 (4)
思考の道筋とポイント
(3)の操作(S1を開き、S2を閉じる)でスイッチS2を通過した電気量の大きさを求めます。
これは、スイッチS2が閉じられることによってコンデンサー\(C_3\)の電荷が変化し、その変化分がS2を通って供給(または回収)されたと考えることができます。
S2を閉じる前の\(C_3\)の電荷は0でした(初期状態から変化なし)。
S2を閉じて十分に時間がたった後の\(C_3\)の左側極板(A点に接続)の電荷は、問(3)で \(Q_{C3\text{後}} = C(V_A-V_{\text{C3右}}) = C(\frac{8}{9}E – 2E)\) として計算できます。
S2を通過した電気量は、\(C_3\)の右側極板の電荷の変化と考えるのが直接的です。
\(C_3\)の右側極板は電池\(2E\)の正極に接続されます。
この設問における重要なポイント
- S2を通過する電気量は、S2に接続されているコンデンサー\(C_3\)の極板の電荷の変化量に等しい。
- S2を閉じる前の\(C_3\)の電荷は0。
- S2を閉じた後の\(C_3\)の電荷を、(3)で求めたA点の電位を用いて計算する。
- \(C_3\)の右側極板の電荷の変化が、S2を通過した電気量となる。
具体的な解説と立式
スイッチS2を閉じる前、コンデンサー\(C_3\)の電荷は0でした。
スイッチS2を閉じ、十分に時間がたった後、A点の電位は \(V_A = \displaystyle\frac{8}{9}E\)。\(C_3\)の右側極板は電池\(2E\)の正極に接続されているため、その電位は \(2E\) です。
このとき、\(C_3\)の右側極板に蓄えられる電荷 \(q\) (これがS2を通過した電気量に相当)は、
$$q = C_3(2E – V_A) = C(2E – V_A) \quad \cdots ⑧$$
(コンデンサーの電荷は \(C \times (\text{高電位側極板の電位} – \text{低電位側極板の電位})\) で正の量として定義されることが多いですが、ここでは右側極板の電荷を考えています。\(2E > V_A\) であれば右側極板が正電荷を持ちます。)
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
計算過程
問(3)で求めたA点の電位 \(V_A = \displaystyle\frac{8}{9}E\) を式⑧に代入します。
$$q = C\left(2E – \frac{8}{9}E\right) = C\left(\frac{18E – 8E}{9}\right) = C\left(\frac{10E}{9}\right) = \frac{10}{9}CE$$
電気量の大きさなので、この値がそのまま答えとなります。
- S2を通過する電気の意味: スイッチS2は、電池\(2E\)とコンデンサー\(C_3\)の右側の板をつなぐものです。S2を通った電気の量は、\(C_3\)の右側の板に流れ込んだ(あるいは流れ出た)電気の量に等しいです。
- はじめのC3の電荷: S2を閉じる前、\(C_3\)には電気がたまっていないので、電荷は0です。
- S2を閉じた後のC3の電荷: S2を閉じると、\(C_3\)が充電されます。(3)で計算したA点の電位(\(C_3\)の左側の板の電位)と、電池\(2E\)による\(C_3\)の右側の板の電位(\(2E\))から、\(C_3\)にたまる電荷を計算します。\(C_3\)の右側の板の電荷が、S2を通った電気量になります。
結論と吟味
S2を通過した電気量の大きさは \(\displaystyle\frac{10}{9}CE\) です。これは模範解答と一致します。
A点の電位 \(\frac{8}{9}E\) は \(2E\) より低い(\(2E = \frac{18}{9}E\))ので、\(C_3\) の左側極板は負に、右側極板は正に帯電します。S2は電池の正極から\(C_3\)の右側極板へ正電荷を供給する経路なので、この結果は妥当です。
問 (5)
思考の道筋とポイント
(3)の操作(S1を開き、S2を閉じる)において、抵抗\(R_2\)で発生したジュール熱 \(H\) を求めます。
エネルギー保存則を適用します。
(電池2Eがした仕事 \(W_{2E}\)) = (\(C_2\)の静電エネルギーの変化 \(\Delta U_2\)) + (\(C_3\)の静電エネルギーの変化 \(\Delta U_3\)) + (ジュール熱 \(H\))
\(C_1\) はS1が開いているため、この過程ではエネルギー変化に関与しません。
電池2Eがした仕事は、S2を通過した電気量 \(q\)(問(4)で求めた値)に起電力 \(2E\) を掛けたものです。
\(C_2\) と \(C_3\) の静電エネルギーは、S2を閉じる前と閉じた後(十分時間経過後)のそれぞれの電圧(または電荷)から計算します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (電池の仕事) = (静電エネルギー変化) + (ジュール熱)。
- 電池\(2E\)がした仕事は \(W_{2E} = q \cdot (2E)\)、ここで \(q\) はS2を通過した電気量。
- \(C_2\) と \(C_3\) の静電エネルギーの初期値と最終値を計算する。
具体的な解説と立式
電池2Eがした仕事 \(W_{2E}\) は、問(4)で求めたS2を通過した電気量 \(q = \displaystyle\frac{10}{9}CE\) を用いて、
$$W_{2E} = q \cdot (2E) \quad \cdots ⑨$$
コンデンサー \(C_2\) の静電エネルギーの変化 \(\Delta U_2 = U_{C2\text{後}} – U_{C2\text{前}}\)。
S2を閉じる前のA点の電位は \(V_{A1} = \frac{1}{3}E\) (問(2)の結果)。よって \(C_2\) の初期電圧は \(V_{C2\text{前}} = V_{A1} – 0 = \frac{1}{3}E\)。
$$U_{C2\text{前}} = \frac{1}{2}(2C)\left(\frac{1}{3}E\right)^2 \quad \cdots ⑩$$
S2を閉じた後のA点の電位は \(V_{A2} = \frac{8}{9}E\) (問(3)の結果)。よって \(C_2\) の最終電圧は \(V_{C2\text{後}} = V_{A2} – 0 = \frac{8}{9}E\)。
$$U_{C2\text{後}} = \frac{1}{2}(2C)\left(\frac{8}{9}E\right)^2 \quad \cdots ⑪$$
コンデンサー \(C_3\) の静電エネルギーの変化 \(\Delta U_3 = U_{C3\text{後}} – U_{C3\text{前}}\)。
S2を閉じる前の\(C_3\)の電荷は0なので、\(U_{C3\text{前}} = 0\)。
S2を閉じた後の\(C_3\)の電圧は \(V_{C3\text{後}} = 2E – V_{A2} = 2E – \frac{8}{9}E = \frac{10}{9}E\)。
$$U_{C3\text{後}} = \frac{1}{2}C\left(\frac{10}{9}E\right)^2 \quad \cdots ⑫$$
エネルギー保存則より、抵抗\(R_2\)で発生したジュール熱を \(H\) とすると、
$$W_{2E} = (U_{C2\text{後}} – U_{C2\text{前}}) + (U_{C3\text{後}} – U_{C3\text{前}}) + H \quad \cdots ⑬$$
すなわち、\(H = W_{2E} – (\Delta U_2 + \Delta U_3)\)。
- 電池の仕事: \(W = Q_{通} V_{電池}\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \frac{1}{2}CV^2\)
- エネルギー保存則: (電池の仕事) = (静電エネルギー変化の総和) + (ジュール熱)
計算過程
まず、各エネルギー項を計算します。
\(q = \displaystyle\frac{10}{9}CE\) なので、電池2Eがした仕事 \(W_{2E}\) は式⑨より、
$$W_{2E} = \left(\frac{10}{9}CE\right) \cdot (2E) = \frac{20}{9}CE^2$$
\(C_2\) の初期エネルギー \(U_{C2\text{前}}\) は式⑩より、
$$U_{C2\text{前}} = \frac{1}{2}(2C)\left(\frac{1}{3}E\right)^2 = C \frac{1}{9}E^2 = \frac{1}{9}CE^2$$
\(C_2\) の最終エネルギー \(U_{C2\text{後}}\) は式⑪より、
$$U_{C2\text{後}} = \frac{1}{2}(2C)\left(\frac{8}{9}E\right)^2 = C \frac{64}{81}E^2 = \frac{64}{81}CE^2$$
\(C_3\) の初期エネルギーは \(U_{C3\text{前}} = 0\)。
\(C_3\) の最終エネルギー \(U_{C3\text{後}}\) は式⑫より、
$$U_{C3\text{後}} = \frac{1}{2}C\left(\frac{10}{9}E\right)^2 = \frac{1}{2}C \frac{100}{81}E^2 = \frac{50}{81}CE^2$$
全静電エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{全}} = (U_{C2\text{後}} – U_{C2\text{前}}) + (U_{C3\text{後}} – U_{C3\text{前}})\) は、
$$\Delta U_{\text{全}} = \left(\frac{64}{81}CE^2 – \frac{1}{9}CE^2\right) + \left(\frac{50}{81}CE^2 – 0\right)$$
$$\Delta U_{\text{全}} = \left(\frac{64}{81}CE^2 – \frac{9}{81}CE^2\right) + \frac{50}{81}CE^2 = \frac{55}{81}CE^2 + \frac{50}{81}CE^2 = \frac{105}{81}CE^2 = \frac{35}{27}CE^2$$
ジュール熱 \(H\) は式⑬より、\(H = W_{2E} – \Delta U_{\text{全}}\)。
$$H = \frac{20}{9}CE^2 – \frac{35}{27}CE^2$$
通分するために \(\frac{20}{9} = \frac{60}{27}\) とすると、
$$H = \frac{60}{27}CE^2 – \frac{35}{27}CE^2 = \frac{25}{27}CE^2$$
- エネルギーの出入りを考える: スイッチS2を閉じる操作では、電池\(2E\)が電気を送り出すことで仕事をします。一方、コンデンサー\(C_2\)と\(C_3\)に蓄えられる電気のエネルギーが変化します。これらのエネルギーの差が、抵抗\(R_2\)で熱として消費されたジュール熱になります。
- 電池の仕事を計算する: (4)で求めたS2を通った電気の量 \(q\) に、電池の電圧 \(2E\) を掛けて、電池がした仕事 \(W_{2E}\) を計算します。
- コンデンサーのエネルギー変化を計算する: S2を閉じる前と閉じた後で、\(C_2\)と\(C_3\)の静電エネルギーがそれぞれどれだけ変化したかを計算します。エネルギーは \(\frac{1}{2}CV^2\) です。
- ジュール熱を求める: 「電池がした仕事」から「コンデンサーの静電エネルギーの増加分」を差し引いた残りが、ジュール熱 \(H\) です。
抵抗\(R_2\)で発生したジュール熱は \(\displaystyle\frac{25}{27}CE^2\) です。これは模範解答と一致します。
エネルギー保存則を正しく適用し、各エネルギー項を正確に計算することが求められます。
問 (6)
思考の道筋とポイント
初期状態(全コンデンサー電荷0)にもどしてから、スイッチS1およびS2を「同時に」閉じ、十分に時間がたったときのA点の電位を求めます。
十分時間が経過すると、全てのコンデンサーの充電が完了し、回路に直流電流は流れなくなります(コンデンサー部分は断線とみなせる)。
このとき、A点の電位を \(x\) とします。G点の電位は \(0\text{V}\)。
S1が閉じているため、B点の電位は \(E\)。
S2が閉じているため、\(C_3\) の右側極板の電位は \(2E\)。
A点には \(C_1, C_2, C_3\) の3つのコンデンサーが接続されています。定常状態ではA点への電流の流入・流出は0なので、A点に接続されている各極板の電荷の総和について、電気量保存(あるいは電荷のつりあい)を考えます。
模範解答では「赤い部分の電気量の和が0だから」として、A点に接続された3つのコンデンサーの極板の電荷の総和が0になるとしています。これは、初期状態ですべてのコンデンサーの電荷が0であり、A点を含むこの部分は全体として電気的に中性であったものが、最終的に電池から電荷が供給されて各コンデンサーが帯電し、A点自体は電荷を蓄積する場所ではない(導線上の点)ため、流れ込む電荷と流れ出る電荷がつりあった結果(キルヒホッフの第1法則の積分形)、Aに接続する極板の電荷の和が初期値の0を保つ、という考え方です。
この設問における重要なポイント
- S1とS2を同時に閉じ、十分時間が経過すると、定常状態となりコンデンサーに電流は流れない。
- G点の電位は0V、B点の電位は\(E\)、\(C_3\)の右側極板の電位は\(2E\)。
- A点の電位を \(x\) とおく。
- A点に接続する3つのコンデンサーの極板(\(C_1\)の右、\(C_2\)の上、\(C_3\)の左)の電荷の総和が0になるという条件で \(x\) を求める。
具体的な解説と立式
スイッチS1とS2を同時に閉じ、十分に時間がたった定常状態を考えます。
G点の電位は \(V_G = 0\text{V}\)。
S1が閉じているので、B点の電位は \(V_B = E\)。
S2が閉じているので、\(C_3\) の右側極板の電位は \(V_{C3\text{右}} = 2E\)。
A点の電位を \(x\) とします (\(V_A = x\))。
このとき、各コンデンサーのA点側の極板の電荷は以下のようになります。
\(C_1\) の右側極板(A点側)の電荷 \(Q_{C1A}\) は、\(C_1\) の左側極板(B点側)の電位が \(E\) なので、
$$Q_{C1A} = C_1(x – E) = C(x-E) \quad \cdots ⑭$$
\(C_2\) の上側極板(A点側)の電荷 \(Q_{C2A}\) は、\(C_2\) の下側極板(G点側)の電位が \(0\text{V}\) なので、
$$Q_{C2A} = C_2(x – 0) = 2Cx \quad \cdots ⑮$$
\(C_3\) の左側極板(A点側)の電荷 \(Q_{C3A}\) は、\(C_3\) の右側極板の電位が \(2E\) なので、
$$Q_{C3A} = C_3(x – 2E) = C(x-2E) \quad \cdots ⑯$$
A点に接続されているこれらの極板群は、初期状態では合計電荷0でした。定常状態では電流の流入がないため、これらの極板の電荷の総和は0のままです(キルヒホッフの第1法則を電荷で考えたものに相当)。
$$Q_{C1A} + Q_{C2A} + Q_{C3A} = 0 \quad \cdots ⑰$$
この方程式を解いて \(x\) を求めます。
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
- キルヒホッフの第1法則(電荷保存の形)
- 電位の考え方
計算過程
式⑭, ⑮, ⑯を式⑰に代入します。
$$C(x-E) + 2Cx + C(x-2E) = 0$$
両辺を \(C\) で割ると (\(C \neq 0\))、
$$(x-E) + 2x + (x-2E) = 0$$
$$x – E + 2x + x – 2E = 0$$
$$4x – 3E = 0$$
$$4x = 3E$$
$$x = \frac{3}{4}E$$
- 定常状態を考える: スイッチS1とS2を両方閉じて十分時間が経つと、コンデンサーの充電が終わり、回路に電流は流れなくなります。
- 各点の電位を設定する: G点は0V、B点は電池Eにより電位\(E\)、\(C_3\)の右側の板は電池2Eにより電位\(2E\)(G点基準)となります。A点の電位を未知数\(x\)とします。
- A点の電荷のつりあいを考える: A点には3つのコンデンサー(\(C_1, C_2, C_3\))がつながっています。定常状態ではA点に流れ込む電流も流れ出す電流もないので、A点につながる各コンデンサーの極板の電荷の合計は、操作開始前(電荷0)から変化しない(つまり0のまま)と考えます。
- A点の電位を求める: 各コンデンサーのA点側の極板の電荷を、電位\(x\)を使って表し、それらの合計が0になるという方程式を立てて\(x\)を解きます。
A点の電位は \(\displaystyle\frac{3}{4}E\) です。これは模範解答と一致します。
このとき、各コンデンサーの電圧は、
\(V_{C1} = |V_B – V_A| = |E – \frac{3}{4}E| = \frac{1}{4}E\)
\(V_{C2} = |V_A – V_G| = |\frac{3}{4}E – 0| = \frac{3}{4}E\)
\(V_{C3} = |V_{C3\text{右}} – V_A| = |2E – \frac{3}{4}E| = |\frac{8-3}{4}E| = \frac{5}{4}E\)
となり、各コンデンサーはそれぞれ異なる電圧で充電されていることがわかります。
【コラム】Q. 右のように回路を組み替え(はじめどのコンデンサーも帯電していない), S1 を閉じる。十分に時間がたったときの C1 の電圧はいくらか。
思考の道筋とポイント
提示された新しい回路図(Qの図)で、はじめ全てのコンデンサーは帯電していません。スイッチS1のみを閉じ、十分に時間がたった定常状態を考えます。このとき、コンデンサーには電流が流れ込まなくなります。
回路図を見ると、\(C_1, C_2, C_3\) が複雑に接続されています。この場合、電位法を用いて各点の電位を設定し、孤立部分の電気量保存則を適用して解くのが有効です。
模範解答の図では、電池Eの負極を0V、正極をEVとしています。また、\(C_1\)の右極板b、\(C_3\)の左極板e、\(C_2\)の上極板cが接続されている点の電位を \(x\) としています。\(C_2\)の下極板d、\(R_2\)の左側、電池2Eの負極が接続されている点の電位を \(y\) としています。\(C_3\)の右極板fは電池2Eの正極に接続されているので、その電位は \(y+2E\) となります。
孤立部分の電気量保存則を2箇所(極板b,eの系 と 極板dと\(C_3\)の右極板fに繋がる系、ただし模範解答の式の解釈に基づく)について立て、連立方程式を解きます。
この設問における重要なポイント
- 十分時間が経過すると、定常状態となりコンデンサーに電流は流れない。
- 電位の基準点を設定し、未知の点の電位を文字で置く(電位法)。
- 電気的に孤立した導体部分を見つけ出し、それらの部分の総電荷が初期値(この場合は0)から変化しないという電気量保存則を適用する。
- 複数の孤立部分があれば、それぞれについて保存則の式を立て、連立方程式を解く。
具体的な解説と立式
模範解答のQの図と電位設定に従います。
電池Eの負極の電位を \(0\text{V}\)。電池Eの正極(\(C_1\)の左極板a)の電位は \(E\)。
極板b, e, \(C_2\)の上極板cの接続点の電位を \(x\)。
極板d (\(C_2\)の下極板), \(R_2\)の左側, 電池2Eの負極の接続点の電位を \(y\)。
\(C_3\)の右極板fは電池2Eの正極に接続され、その電位は \(y+2E\)。
初期状態では全てのコンデンサーの電荷は0です。
孤立部分(1):極板bと極板eの系。初期総電荷は0。
極板bの電荷 \(Q_b = C_1(x-E) = C(x-E)\)。
極板eの電荷 \(Q_e = C_3(x-(y+2E)) = C(x-y-2E)\)。
電気量保存則より、
$$C(x-E) + C(x-y-2E) = 0 \quad \cdots {Q①}$$
孤立部分(2):模範解答の2番目の式は「d, fの電気量保存より」とあり、式は \(2C(y-0)+C\{(y+2E)-x\}=0\) となっています。
これは、\(C_2\)の下極板dの電荷 \(Q_d = C_2(y-x_{\text{相手}}) = 2C(y-x)\) と、\(C_3\)の右極板fの電荷 \(Q_f = C_3((y+2E)-x_{\text{相手}}) = C((y+2E)-x)\) の和が0、という形です。
ここで、\(Q_d\) の相手極板cの電位は \(x\)。\(Q_f\) の相手極板eの電位は \(x\)。
模範解答の \(2C(y-0)\) は、\(C_2\)の下極板dの相手極板cの電位が0Vであるという仮定に基づいているように見えますが、図ではcの電位は\(x\)です。
この部分の解釈は模範解答に厳密に従うこととします。
模範解答の2番目の式は、極板dと極板f(に繋がる何か)の電荷の和が0である、としています。
$$2C(y-0) + C((y+2E)-x) = 0 \quad \cdots {Q②}$$
(この式の \(2C(y-0)\) は、\(C_2\)の下側極板dの電荷で、相手(c)の電位が0Vである場合を示唆しますが、図ではcの電位は\(x\)です。この式をそのまま用います。)
求めたいのは \(C_1\) の電圧、すなわち \(|x-E|\) です。
- 電位法
- 電気量保存則(孤立部分)
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
計算過程
模範解答に示された連立方程式を解きます。
式(Q①)より \(C\) を消去:
$$(x-E) + (x – y – 2E) = 0$$
$$2x – y – 3E = 0 \quad \cdots (\text{Q①}’)$$
式(Q②)より \(C\) を消去:
$$2y + (y+2E-x) = 0$$
$$-x + 3y + 2E = 0 \quad \cdots (\text{Q②}’)$$
式(Q①’)より \(y = 2x – 3E\)。これを式(Q②’)に代入します。
$$-x + 3(2x – 3E) + 2E = 0$$
$$-x + 6x – 9E + 2E = 0$$
$$5x – 7E = 0$$
$$x = \frac{7}{5}E$$
\(C_1\) の電圧は \(V_{C1} = |x-E|\) なので、
$$V_{C1} = \left|\frac{7}{5}E – E\right| = \left|\frac{7E – 5E}{5}\right| = \left|\frac{2}{5}E\right|$$
\(E>0\) と仮定すると、
$$V_{C1} = \frac{2}{5}E$$
- 電位の設定: 回路図の各重要な点の電位を文字(\(x, y\)など)で置きます。基準となる電位(電池の負極など)を0Vとします。
- 孤立部分の特定: 回路の中で、外部と電気のやり取りがない部分(導線でつながったいくつかの極板の集まり)を見つけます。
- 電気量保存則の適用: 各孤立部分について、操作前の総電荷と操作後の総電荷が等しいという式を立てます(この問題では初期電荷0)。各極板の電荷は \(Q=CV\) (ここで\(V\)は極板間の電位差) で表します。
- 連立方程式を解く: 得られた連立方程式を解いて、未知の電位 \(x, y\) などを求めます。
- 目的の電圧を計算: \(C_1\)の電圧は、\(C_1\)の両端の極板の電位差として計算します。
\(C_1\) の電圧は \(\displaystyle\frac{2}{5}E\) です。これは模範解答の最終結果と一致します。この問題のQ部分は、回路図と提示された方程式の解釈が特に重要となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの過渡現象と定常状態:
- 核心:スイッチ操作直後、電荷0のコンデンサーは導線とみなせる。十分時間経過後の直流定常状態では、コンデンサーは断線とみなせ、電流は流れない。
- 理解のポイント:これらの理想的な振る舞いを理解し、回路を適切に単純化することが第一歩。
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体(または導体群)の総電荷は、操作の前後で保存される。
- 理解のポイント:スイッチの切り替えによって、どの部分が新たに孤立するのかを正確に見極める。初期電荷と最終電荷の代数和が等しくなる。
- 電位法とキルヒホッフの法則:
- 核心:複雑な回路では、基準電位を設定し、未知の点の電位を文字で置いて、\(Q=CV\) やキルヒホッフの法則(特に電流則の定常状態での応用として、ある点に接続する極板の電荷の総和が一定、など)を用いて連立方程式を立てる。
- 理解のポイント:GND(0V)の点を基準に、電池による電位上昇・下降を考慮して各点の電位を矛盾なく設定する。
- エネルギー保存則(ジュール熱の計算):
- 核心:(電池がした仕事の総和) = (回路全体の静電エネルギーの変化の総和) + (抵抗で発生したジュール熱の総和)。
- 理解のポイント:どの電池がどれだけの仕事をしたか(\(W=qV\))、各コンデンサーの静電エネルギーがどう変化したか (\(\Delta U = U_{後} – U_{前}\)) を正確に計算する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 複数のコンデンサーとスイッチが絡み合う、電荷の再配分問題。
- 過渡現象と定常状態の両方を考慮する必要がある問題。
- コンデンサーを含む回路でのエネルギー収支を問う問題。
- 電位法が有効な、見た目が複雑な回路網の問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「直後」と「十分時間後」のキーワード: これらがある場合、コンデンサーの扱い方が明確に異なることを意識する。
- スイッチ操作の前後での変化: 何が保存され(主に孤立部分の電荷)、何が固定されるか(電源電圧、接地電位)を整理する。
- 孤立部分の特定: 回路図をよく見て、スイッチの開閉によって電気的に独立する部分を見つけ出す。ここが電気量保存則の舞台。
- 電位の基準点の設定: アースがあればそこを0Vとする。なければ、電池の負極などを仮に0Vと設定すると考えやすい。
- エネルギーの流れを追う: 電池はエネルギーを供給し、コンデンサーはエネルギーを蓄え、抵抗はエネルギーを消費する。この収支関係を意識する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「凍結」されたコンデンサー:一度充電された後、回路から切り離されたコンデンサーは、その電荷(と電圧)を保持したままになる。これが次の操作の初期条件となる。
- 通過電気量:あるスイッチや導線を通過した電気量は、それに接続されたコンデンサーの極板の電荷の変化量として捉えることができる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチ直後のコンデンサーの扱い:
- 現象:電荷0のコンデンサーを断線とみなしてしまう(正しくは短絡に近い)。
- 対策:「電荷0 \(\Leftrightarrow\) 電圧0 \(\Leftrightarrow\) 電流を妨げない」という連想を確立する。
- 十分時間後のコンデンサーの扱い:
- 現象:直流定常状態でコンデンサーに電流が流れると考えてしまう(正しくは断線)。
- 対策:「充電完了 \(\Leftrightarrow\) 電流流れない \(\Leftrightarrow\) 電圧一定」という状態を理解する。
- 孤立部分の電気量保存の適用範囲:
- 現象:孤立していない部分に適用したり、保存されるべき初期電荷を間違えたりする。
- 対策:導線で繋がった一群の導体で、外部と電荷のやり取りがない部分を正確に見極める。その部分の「電荷の代数和」が保存される。
- ジュール熱の計算でのエネルギー項の見落とし:
- 現象:複数の電池がある場合に一部の電池の仕事を忘れる、複数のコンデンサーのエネルギー変化を全て考慮しない。
- 対策:エネルギー保存則の各項(関与する全ての電池の仕事、全てのコンデンサーのエネルギー変化、全ての抵抗でのジュール熱)をリストアップし、漏れがないか確認する。初期エネルギーを忘れない。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- スイッチ操作ごとに、有効な回路図を描き直す。不要な部分は省略し、コンデンサーの接続関係(直列、並列、あるいはそれ以外)を明確にする。
- 各コンデンサーの極板に電荷の符号(+,-)と、おおよその電位の高低を書き込む。
- 電位が未知の点に \(x, y\) などの文字を割り当て、図中に明記する。
- 孤立部分を点線で囲むなどして視覚的に示す。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 回路のトポロジー(接続関係)を正確に再現する。
- 電池の向き(起電力の向き)を間違えない。
- アース記号の位置と意味を理解する。
- スイッチが開いているか閉じているかを明確に示す。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(I = E/R\) (スイッチ直後の電流):
- 選定理由:電荷0のコンデンサーを短絡とみなした単純な抵抗回路での電流を求めるため。
- 適用根拠:コンデンサーの電圧が0であるという初期条件とオームの法則。
- 直列コンデンサーの電圧分配 \(V_k = (\prod_{j \neq k} C_j) / (\sum_i \prod_{j \neq i} C_j) \cdot V_{\text{全体}}\) や \(Q_1=Q_2\) からの導出:
- 選定理由:定常状態で直列接続されたコンデンサー群にかかる全体の電圧が、各コンデンサーにどう分配されるかを計算するため。
- 適用根拠:定常状態では各コンデンサーを通過する電流が0となり、直列部分では蓄えられる電気量が等しくなるため。
- 電気量保存則 \(\sum Q_{\text{孤立部分・前}} = \sum Q_{\text{孤立部分・後}}\):
- 選定理由:スイッチの切り替えなどで回路構成が変化し、新たに電気的に孤立する部分が生じた場合に、その部分の総電荷が操作前後で不変であることを利用して未知数を決定するため。
- 適用根拠:電荷は外部から供給されたり失われたりしない限り、孤立した系の中では保存されるという基本法則。
- エネルギー保存則 \(W_{\text{電池}} = \Delta U_{\text{コンデンサー}} + H_{\text{ジュール熱}}\):
- 選定理由:回路で抵抗がジュール熱を発生する場合のエネルギー収支を計算するため。
- 適用根拠:エネルギーは形態を変えるだけで、全体の総和は保存されるという物理学の基本法則。電池の仕事は正負があり得ることに注意。
- A点での電荷のつりあい(キルヒホッフの第1法則の応用) \(\sum Q_{Aに接続する極板} = 0\) (初期総電荷0の場合):
- 選定理由:定常状態で複数のコンデンサーが接続された点の電位を決定するため。
- 適用根拠:定常状態ではその点への電流の正味の流入が0であり、またその点が初期に電荷を持っていなければ、最終的にも電荷の偏りがない(電荷が蓄積しない)という条件から。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の確認: 全コンデンサー電荷0。
- (1) S1閉直後: \(C_1, C_2\)短絡 \(\rightarrow\) \(R_1\)のみの回路 \(\rightarrow\) \(I=E/R_1\)。
- (2) S1閉十分後: \(C_1, C_2\)断線、直列状態 \(\rightarrow\) 電圧分配 or 電位法で \(V_A\) 決定。
- (3) S1開、S2閉十分後: \(C_1\)電荷凍結。孤立部分(\(C_2\)上側, \(C_3\)左側)の電荷保存と電位法で \(V_A, V_B\) 決定。
- (4) S2通過電気量: \(C_3\)の電荷変化を計算。
- (5) ジュール熱: エネルギー保存則。電池2Eの仕事、\(C_2, C_3\)のエネルギー変化を計算。
- (6) S1,S2同時閉十分後: 定常状態。A点の電位を \(x\) とし、A点接続極板の電荷総和0の条件で \(x\) を決定。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の管理: 電荷の符号、電位差の向き、電流の向きを常に意識する。特に電位法では、\(Q=C(V_{\text{自分}}-V_{\text{相手}})\) の \(V_{\text{自分}}-V_{\text{相手}}\) の取り方に一貫性を持たせる。
- 連立方程式の処理: 複数の未知数(電位など)を扱う場合、丁寧に式を立て、代入や消去の計算ミスをしないようにする。
- エネルギー計算の項の確認: ジュール熱を求める際、関与する全ての電池の仕事と、変化のあった全てのコンデンサーの静電エネルギーを考慮に入れる。初期エネルギーを忘れない。
- 単位の確認: 問題を通して単位系を統一する(特に指定がなければSI単位系)。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との照合:
- スイッチ直後の電流は大きいか? 十分時間後の電流は0になるか?
- コンデンサーの電圧は電源電圧を超えることがあるか(昇圧回路でなければ通常超えないが、電荷の再配分ではあり得る)。
- エネルギー保存は成り立っているか? ジュール熱は必ず正の値になるはず。
- 特殊なケースでの検証:
- もし抵抗が0だったら?(過渡現象の時間が0になるが、最終状態は同じはず)
- もしコンデンサー容量のどれかが0だったら、あるいは非常に大きかったら?
- もし電池の起電力が0だったら?
- 各設問間の関連性: 前の設問の結果を次の設問で使うことが多い。前の設問の答えが妥当でないと、後も間違える可能性が高い。
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