問題22 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つのコンデンサーと2つの連動スイッチ、そして1つの電源を用いて、A点とB点の間の電圧 \(V_{AB}\) を操作によって変化させていく、一種の昇圧回路に関する思考実験です。スイッチの切り替えによって回路構成が変化し、それに伴いコンデンサーの電荷が再分配されたり、電源から充電されたりするプロセスを段階的に追っていく必要があります。特に、孤立部分における電気量保存則と、各点の電位の考え方が重要になります。
- 電圧 \(V_0\) の電源。
- 2つのコンデンサー \(C_1\), \(C_2\) で、電気容量はいずれも \(C\)。
- 連動スイッチ S1, S2:
- 左側接点 (\(l_1, l_2\)) に同時に接続。
- 右側接点 (\(r_1, r_2\)) に同時に接続。
- または左右どちらにも接続しない。
- 初期状態:S1, S2 は左右どちらの接点にも接続しておらず、\(C_1\), \(C_2\) はいずれも帯電していない。
- A点は \(C_1\) の上側極板と \(C_2\) の上側極板に接続。
- B点は \(C_2\) の下側極板からの端子。
以下の各操作後における、A,B間に現れる電圧 \(V_{AB}\)(\(V_A – V_B\) を意味すると考えられる)を求める。
- S1, S2 を左側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん右側接点に接続する。
- 次に、S1, S2 をいったん左側接点に接続してから、右側接点に接続する。
- 操作IIIをもう一度繰り返す。
- この後、操作IIIをさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) が近づく値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている電位を用いた解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(II)~(IV)の別解: 各コンデンサーの電圧と電荷を未知数として連立方程式を立てる解法
- 模範解答が電位と電気量保存則で簡潔に解くのに対し、別解ではコンデンサーの基本式 \(Q=CV\)、回路の電圧則、電気量保存則を組み合わせる、より基本的なアプローチを取ります。
- 設問(V)の別解: 充電されたコンデンサーを電池と見なす物理的考察から極限値を求める解法
- 模範解答が漸化式を立てて数学的に極限を求めるのに対し、別解では操作が定常状態に達したときの物理的な条件から直接答えを導きます。
- 設問(II)~(IV)の別解: 各コンデンサーの電圧と電荷を未知数として連立方程式を立てる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: コンデンサー回路におけるキルヒホッフの法則の適用や、充電済みコンデンサーが電圧源として振る舞うといった、より深い物理的洞察を得ることができます。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、数学的なアプローチ(漸化式)と物理的なアプローチ(定常状態の考察)の両方を経験することで、問題解決能力の幅が広がります。
- 解法の効率化: (V)の別解のように、問題の本質を捉えることで、複雑な計算を回避し、直感的に結論を導く強力な手法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「スイッチ操作によるコンデンサーの電荷移動と電圧変化」です。特に、回路の一部が外部から電気的に切り離された「孤立部分」における電気量保存則を正しく使えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本式: コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\)、静電容量 \(C\)、極板間の電位差 \(V\) の関係式 \(Q=CV\) を理解していること。
- 電気量保存則: 回路の中で、導線でつながっているが外部とは接続されていない部分(孤立部分)では、電荷の総和は操作の前後で一定に保たれるという法則を適用できること。
- 電位の考え方: 回路の任意の点の電位を基準(通常はアース、この問題ではB点)からの電位差として捉え、各素子の両端の電位差を計算できること。
- 漸化式と極限: 繰り返し操作によって変化する物理量の最終的な収束値を、漸化式を立てて数学的に求める考え方。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (I)から(IV)までは、操作の各段階について回路がどのようにつながっているかを図示し、孤立部分を見つけ出します。
- 電気量保存則と、各点の電位の関係から方程式を立て、未知の電圧 \(V_{AB}\) を順次計算していきます。
- (V)では、(II)から(IV)の結果の規則性に着目し、\(n\) 回目の操作後の電圧 \(V_n\) と \(n+1\) 回目の操作後の電圧 \(V_{n+1}\) の関係式(漸化式)を導出します。
- 導出した漸化式の極限を求めることで、無限回操作後の電圧の収束値を求めます。
問(I)
思考の道筋とポイント
最初の操作として、スイッチ \(S_1, S_2\) を左側接点に接続します。このとき、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) がそれぞれ回路の中でどのような状態になるかを正確に把握することが重要です。特に \(C_2\) を含む回路が閉じているかどうかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- \(C_1\) は電源 \(V_0\) に直接接続され、充電される。
- \(C_2\) を含む経路は、A点とB点の間で閉じた回路を形成していない(B点側がどこにもつながっていない)。
- 閉回路ができていない部分には定常的な電流は流れず、電荷の蓄積も起こらない。
具体的な解説と立式
スイッチを左側接点に接続すると、\(C_1\) は電源 \(V_0\) に直接つながるため、その電位差が \(V_0\) になるまで充電されます。
一方、\(C_2\) は上側の極板がA点に、下側の極板がB点につながっていますが、B点の先はどこにも接続されていません。したがって、A-B間には閉じた回路が形成されず、電流は流れません。初期状態で \(C_2\) の電荷は \(0\) であったため、電荷は移動せず \(0\) のままです。
コンデンサーに蓄えられた電荷が \(0\) であれば、その極板間の電位差も \(0\) です。電圧 \(V_{AB}\) はコンデンサー \(C_2\) の極板間の電位差に等しいので、\(V_{AB} = 0\) となります。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
\(C_2\) に蓄えられる電荷を \(Q_2\) とすると、問題の条件より初期電荷は \(0\) であり、回路が閉じていないため電荷は移動せず \(Q_2=0\) のままです。
\(C_2\) の電位差は \(V_{AB}\) なので、コンデンサーの基本式 \(Q_2 = C V_{AB}\) が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
0 &= C V_{AB} \\[2.0ex]
V_{AB} &= 0 \, \text{[V]}
\end{aligned}
$$
スイッチを左に倒すと、コンデンサー \(C_1\) は電源につながるので、電圧 \(V_0\) で充電されます。しかし、コンデンサー \(C_2\) の方は、回路がB点で途切れていて電気が一周できません。そのため、\(C_2\) には電気が流れ込まず、充電されません。充電されていないコンデンサーの電圧は \(0\) なので、A点とB点の間の電圧 \(V_{AB}\) は \(0\)V となります。
\(V_{AB}=0\) という結果は、\(C_2\) を含む回路が閉じていないという物理的状況から妥当な結論です。この段階では、まだA-B間に電圧は発生しません。
問(II)
思考の道筋とポイント
操作(I)で \(C_1\) が充電された状態から、次にスイッチを右側接点に接続します。このとき、\(C_1\), \(C_2\), 電源 \(V_0\) が一つの回路を形成します。この回路の中で、外部から電荷の出入りができない「孤立部分」を見つけ、電気量保存則を適用するのが最も効率的な解法です。
この設問における重要なポイント
- 孤立部分の特定: \(C_1\) の上側極板(D)と \(C_2\) の上側極板(F)は、導線で結ばれているだけで、回路の他の部分からは電気的に孤立している。
- 電気量保存則: この孤立部分の総電気量は、スイッチを切り替える前後で変化しない。
- 電位の設定: 計算を簡単にするため、B点を電位の基準(\(0\, \text{V}\))とする。すると、A点の電位が求める電圧 \(V_{AB}\) そのものになる。
具体的な解説と立式
まず、操作(I)の終了時点で各コンデンサーに蓄えられている電荷を確認します。
- \(C_1\): 電源 \(V_0\) で充電されたので、上側極板(D)に \(+CV_0\)、下側極板(E)に \(-CV_0\) の電荷がある。
- \(C_2\): 電荷は \(0\)。
次に、スイッチを右側接点に接続します。B点を電位の基準(\(0\, \text{V}\))とします。
- A点の電位は \(V_{AB}\) となります。
- 電源 \(V_0\) の負極がB点(\(0\, \text{V}\))に接続されているので、正極側の電位は \(V_0\) となります。
- \(C_1\) の下側極板(E)は電源の正極に接続されているので、電位は \(V_0\) です。
ここで、孤立部分である「\(C_1\)の上側極板(D)と\(C_2\)の上側極板(F)」の電気量保存則を考えます。
- 切り替え前の総電気量: \(Q_{\text{前}} = (C_1\text{上側の電荷}) + (C_2\text{上側の電荷}) = (+CV_0) + 0 = CV_0\)。
- 切り替え後の総電気量:
- \(C_1\) の電位差は \(V_{AB} – V_0\)。よって上側極板の電荷は \(Q_1′ = C(V_{AB} – V_0)\)。
- \(C_2\) の電位差は \(V_{AB} – 0 = V_{AB}\)。よって上側極板の電荷は \(Q_2′ = C(V_{AB} – 0) = CV_{AB}\)。
- 総電気量は \(Q_{\text{後}} = Q_1′ + Q_2′ = C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB}\)。
電気量保存則 \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\) より、
$$ C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB} = CV_0 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
式①を \(V_{AB}\) について解きます。両辺を \(C\) で割ってから整理します。
$$
\begin{aligned}
(V_{AB} – V_0) + V_{AB} &= V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} – V_0 &= V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} &= 2V_0 \\[2.0ex]
V_{AB} &= V_0
\end{aligned}
$$
まず左接続で \(C_1\) を充電し、電気を \(CV_0\) だけ蓄えます。次にスイッチを右に切り替えると、充電済みの \(C_1\) と空の \(C_2\)、そして電源が一つにつながります。このとき、回路の中で「浮島」になっている部分(\(C_1\)と\(C_2\)の上側極板どうし)に注目します。この浮島全体の電気の量は、スイッチを切り替えても変わらないはずです(電気量保存の法則)。切り替え前の電気の量は \(C_1\) が持っていた \(CV_0\) です。切り替え後の電気の量を、求めたい電圧 \(V_{AB}\) を使って表し、「切り替え前=切り替え後」という式を立てて解くと、\(V_{AB}\) は \(V_0\) であることがわかります。
\(V_{AB} = V_0\) となり、電源電圧と同じ電圧が得られました。これは、充電された \(C_1\) が電荷を \(C_2\) に再配分した結果です。この操作により、\(C_2\) に \(CV_0\) の電荷が蓄えられたことになります。
問(III)
思考の道筋とポイント
操作(II)の状態から、再び「左側接点に接続」し、その後「右側接点に接続」します。操作(II)と同様に、各段階での電荷量を正確に追いかけ、電気量保存則を適用します。ポイントは、再び左接続したときに \(C_1\) の電荷はリセットされて新たに充電される一方、\(C_2\) の電荷は前の状態を引き継ぐことです。
この設問における重要なポイント
- 操作の繰り返しによる電荷の蓄積: \(C_2\) には操作(II)で蓄えられた電荷が残っている。
- \(C_1\) の役割: 左接続で常に \(+CV_0\) の電荷を「仕入れ」、右接続でそれを孤立部分に「供給する」ポンプのような役割を果たす。
具体的な解説と立式
まず、操作(II)の終了時点での電荷を確認します。
- A点の電位は \(V_0\) でした。
- \(C_2\) の上側極板(F)の電荷は \(Q_{2,\text{前}} = C(V_0 – 0) = CV_0\)。
再びスイッチを左側接点に接続します。
- \(C_1\) は再び電源 \(V_0\) で充電され、上側極板(D)の電荷は \(+CV_0\) になります。
- このとき \(C_2\) は回路から切り離されているので、その電荷 \(CV_0\) は保持されます。
その後、スイッチを右側接点に接続します。孤立部分「(D)+(F)」の電気量保存則を考えます。
- 切り替え前の総電気量: \(Q_{\text{前}} = (C_1\text{上側の電荷}) + (C_2\text{上側の電荷}) = (+CV_0) + (CV_0) = 2CV_0\)。
- 切り替え後の総電気量: A点の電位を \(V_{AB}\) とすると、\(Q_{\text{後}} = C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB}\)。
電気量保存則 \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\) より、
$$ C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB} = 2CV_0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
式②を \(V_{AB}\) について解きます。両辺を \(C\) で割ってから整理します。
$$
\begin{aligned}
(V_{AB} – V_0) + V_{AB} &= 2V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} – V_0 &= 2V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} &= 3V_0 \\[2.0ex]
V_{AB} &= \frac{3}{2}V_0
\end{aligned}
$$
もう一度「左で充電、右で接続」の操作を行います。左で \(C_1\) を充電するのは毎回同じで、\(CV_0\) の電気を準備します。しかし、今度は \(C_2\) に前回の操作で蓄えられた電気 \(CV_0\) が残っています。そこに、新しく準備した \(C_1\) の電気 \(CV_0\) が加わるので、浮島の電気の合計は \(CV_0 + CV_0 = 2CV_0\) になります。この増えた電気の量で「切り替え前=切り替え後」の式を立てて計算すると、電圧 \(V_{AB}\) はさらに上昇して \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\) になります。
電圧が \(V_0\) から \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\) へと上昇しました。この操作を繰り返すことで、電源電圧 \(V_0\) よりも高い電圧を生成できることがわかります。これは昇圧回路の一種として機能していることを示しています。
問(IV)
思考の道筋とポイント
操作(III)をもう一度繰り返します。やることは(III)と全く同じで、初期状態となる \(C_2\) の電荷が変わるだけです。同様に電気量保存則を適用します。これまでの計算プロセスを一般化する準備段階と捉えることができます。
この設問における重要なポイント
- 操作の規則性の理解: 電圧が \(0 \to V_0 \to \frac{3}{2}V_0 \to \dots\) と変化していく規則性を見出す。
具体的な解説と立式
操作(III)の終了時点で、A点の電位は \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0\) でした。
- \(C_2\) の上側極板(F)の電荷は \(Q_{2,\text{前}} = C\left(\displaystyle\frac{3}{2}V_0 – 0\right) = \displaystyle\frac{3}{2}CV_0\)。
再びスイッチを左側接点に接続します。
- \(C_1\) の上側極板(D)の電荷は \(+CV_0\) になります。
- \(C_2\) の電荷 \(\displaystyle\frac{3}{2}CV_0\) は保持されます。
その後、スイッチを右側接点に接続します。孤立部分「(D)+(F)」の電気量保存則を考えます。
- 切り替え前の総電気量: \(Q_{\text{前}} = (+CV_0) + \left(\displaystyle\frac{3}{2}CV_0\right) = \displaystyle\frac{5}{2}CV_0\)。
- 切り替え後の総電気量: A点の電位を \(V_{AB}\) とすると、\(Q_{\text{後}} = C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB}\)。
電気量保存則 \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\) より、
$$ C(V_{AB} – V_0) + CV_{AB} = \frac{5}{2}CV_0 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
式③を \(V_{AB}\) について解きます。両辺を \(C\) で割ってから整理します。
$$
\begin{aligned}
(V_{AB} – V_0) + V_{AB} &= \frac{5}{2}V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} – V_0 &= \frac{5}{2}V_0 \\[2.0ex]
2V_{AB} &= \frac{7}{2}V_0 \\[2.0ex]
V_{AB} &= \frac{7}{4}V_0
\end{aligned}
$$
さらにもう一回、同じ操作をします。\(C_1\) はいつも通り \(CV_0\) の電気を準備します。\(C_2\) には今や \(\displaystyle\frac{3}{2}CV_0\) もの電気が溜まっています。浮島の電気の合計は \(CV_0 + \displaystyle\frac{3}{2}CV_0 = \displaystyle\frac{5}{2}CV_0\) となります。この値を使って計算すると、電圧 \(V_{AB}\) は \(\displaystyle\frac{7}{4}V_0\) まで上がります。だんだん \(2V_0\) に近づいているのが分かります。
電圧は \(\displaystyle\frac{3}{2}V_0 = \frac{6}{4}V_0\) から \(\displaystyle\frac{7}{4}V_0\) へと、上昇幅は小さくなりながらも増加し続けています。これは、ある値に収束することを示唆しており、(V)への布石となっています。
思考の道筋とポイント
電位の考え方の代わりに、より基本的なコンデンサーの電圧 \(V_1, V_2\) と電荷 \(Q_1, Q_2\) を未知数として、回路の関係式を立てて解く方法です。キルヒホッフの第2法則(電圧則)と電気量保存則を組み合わせる、回路問題の王道的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 未知数の設定: \(C_1\) の電圧を \(V_1\)、\(C_2\) の電圧を \(V_2\) とおく。求める \(V_{AB}\) は \(V_2\) に等しい。
- 電圧則の適用: 回路のループを一周したときの電位差の和が \(0\) になる関係(キルヒホッフの第2法則)を用いる。
- 電気量保存則の適用: 孤立部分の総電荷が一定であることから式を立てる。
具体的な解説と立式
スイッチを右側に接続した後の状態を考えます。
\(C_1\) の電圧を \(V_1\)、\(C_2\) の電圧を \(V_2\) とします(極板D,Fが正になる向きを正とします)。求める \(V_{AB}\) は \(V_2\) に等しいです。
回路の電圧関係を考えます。A→B→電源→E→Aというループを考えると、電位の変化は \(+V_2 – V_0 – V_1 = 0\) となります。これを整理すると、
$$ V_2 = V_1 + V_0 \quad \cdots ④ $$
この関係は、右側接続時には常に成り立ちます。
次に、孤立部分(D,F)の電気量保存則を考えます。右側接続後の総電荷は \(Q_1+Q_2 = CV_1 + CV_2\) です。この値が、左側接続から切り替える直前の孤立部分の総電荷に等しくなります。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
-
- 設問(II):切り替え前の孤立部分の総電荷は \(CV_0 + 0 = CV_0\)。
よって、電気量保存則より \(CV_1 + CV_2 = CV_0\)、すなわち \(V_1 + V_2 = V_0 \quad \cdots ⑤\)。
④, ⑤を連立して解きます。⑤に④を代入すると、
\(V_1 + (V_1 + V_0) = V_0\)。これを解くと \(2V_1 = 0\) となり、\(V_1 = 0\)。
これを④に代入して、\(V_2 = 0 + V_0 = V_0\)。よって \(V_{AB} = V_0\)。
- 設問(II):切り替え前の孤立部分の総電荷は \(CV_0 + 0 = CV_0\)。
-
- 設問(III):切り替え前の孤立部分の総電荷は \(CV_0 + (\text{前回の}C_2\text{の電荷}) = CV_0 + CV_0 = 2CV_0\)。
よって、電気量保存則より \(V_1 + V_2 = 2V_0 \quad \cdots ⑥\)。
④, ⑥を連立して解くと、
\(V_1 + (V_1 + V_0) = 2V_0\)。これを解くと \(2V_1 = V_0\) となり、\(V_1 = \displaystyle\frac{1}{2}V_0\)。
これを④に代入して、\(V_2 = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + V_0 = \displaystyle\frac{3}{2}V_0\)。よって \(V_{AB} = \displaystyle\frac{3}{2}V_0\)。
- 設問(III):切り替え前の孤立部分の総電荷は \(CV_0 + (\text{前回の}C_2\text{の電荷}) = CV_0 + CV_0 = 2CV_0\)。
- 設問(IV):切り替え前の孤立部分の総電荷は \(CV_0 + (\text{前回の}C_2\text{の電荷}) = CV_0 + C(\displaystyle\frac{3}{2}V_0) = \displaystyle\frac{5}{2}CV_0\)。
よって、電気量保存則より \(V_1 + V_2 = \displaystyle\frac{5}{2}V_0 \quad \cdots ⑦\)。
④, ⑦を連立して解くと、
\(V_1 + (V_1 + V_0) = \displaystyle\frac{5}{2}V_0\)。これを解くと \(2V_1 = \displaystyle\frac{3}{2}V_0\) となり、\(V_1 = \displaystyle\frac{3}{4}V_0\)。
これを④に代入して、\(V_2 = \displaystyle\frac{3}{4}V_0 + V_0 = \displaystyle\frac{7}{4}V_0\)。よって \(V_{AB} = \displaystyle\frac{7}{4}V_0\)。
この解き方は、回路図をにらめっこして、物理法則の式を一つずつ立てていく、いわば「正攻法」です。まず「回路を一周すると電圧は元に戻る」という法則(電圧則)から式を1本作ります。次に「浮島の電気の量は変わらない」という法則(電気量保存則)からもう1本式を作ります。この2本の連立方程式を解くことで、各コンデンサーの電圧が分かり、答えが求まります。操作を繰り返すたびに、電気量保存則の式の右辺の値が変わるだけなので、同じ計算を繰り返すことで(II)から(IV)まで全て解くことができます。
電位法を用いた主たる解法と完全に同じ結果が得られました。こちらの解法は未知数が多くなりますが、一つ一つの物理法則を丁寧にあてはめていくため、基本に忠実で応用範囲の広い解法と言えます。
問(V)
思考の道筋とポイント
操作III(左接続→右接続の1サイクル)をさらに多数回繰り返したとき、\(V_{AB}\) がどのような値に近づくかを問われています。
これまでの結果の規則性から漸化式を立て、その極限を求めるのが数学的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 漸化式の立式: \(n\) 回目の操作III終了後の電圧を \(V_n\) とおき、\(n+1\) 回目の操作III終了後の電圧 \(V_{n+1}\) との関係式を導く。
- 極限の計算: \(n \to \infty\) のとき、電圧は一定値 \(V_\infty\) に収束すると考え、\(V_n \to V_\infty\), \(V_{n+1} \to V_\infty\) として方程式を解く。
具体的な解説と立式
操作IIIを \(n\) 回繰り返した後の電圧 \(V_{AB}\) を \(V_n\) とします。
このとき、\(C_2\) の上側極板(F)に蓄えられている電荷は \(Q_{2,n} = CV_n\) です。
ここから \(n+1\) 回目の操作IIIを行います。
- 左側接点に接続: \(C_1\) の上側極板(D)の電荷は \(+CV_0\) になる。\(C_2\) の電荷は \(CV_n\) のまま。
- 右側接点に接続する直前のD-F系の総電荷: \(Q_{\text{前}} = (+CV_0) + (CV_n) = C(V_0 + V_n)\)。
- 右側接点に接続したとき: 電圧を \(V_{n+1}\) とする。このときの総電気量は \(Q_{\text{後}} = C(V_{n+1} – V_0) + CV_{n+1}\)。
電気量保存則 \(Q_{\text{前}} = Q_{\text{後}}\) より、
$$ C(V_{n+1} – V_0) + CV_{n+1} = C(V_0 + V_n) $$
両辺を \(C\) で割ると、
$$ (V_{n+1} – V_0) + V_{n+1} = V_0 + V_n $$
これを \(V_{n+1}\) について整理すると、以下の漸化式が得られます。
$$ V_{n+1} = \frac{1}{2}V_n + V_0 \quad \cdots ⑧ $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- 漸化式の極限
操作を多数回繰り返すと、電圧 \(V_{AB}\) はある一定値 \(V_\infty\) に収束すると考えられます。このとき、\(n \to \infty\) で \(V_n \to V_\infty\) かつ \(V_{n+1} \to V_\infty\) となります。
漸化式⑧において、\(V_n\) と \(V_{n+1}\) を \(V_\infty\) で置き換えます。
$$
\begin{aligned}
V_\infty &= \frac{1}{2}V_\infty + V_0 \\[2.0ex]
V_\infty – \frac{1}{2}V_\infty &= V_0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}V_\infty &= V_0 \\[2.0ex]
V_\infty &= 2V_0
\end{aligned}
$$
したがって、\(V_{AB}\) は \(2V_0\) に近づきます。
- 繰り返しのパターンを数式で表す: 操作III(左スイッチ→右スイッチ)を \(n\) 回繰り返した後のA-B間電圧を \(V_n\) とし、(\(n+1\)) 回繰り返した後を \(V_{n+1}\) とします。 \(V_n\) と \(V_{n+1}\) の間の関係式(漸化式)を作ります。
- 左スイッチ操作:\(C_1\)の上側極板Dは \(+CV_0\) の電荷に。\(C_2\)の上側極板Fの電荷は \(CV_n\) のまま。
- 右スイッチ操作:極板DとFがつながり共通電位 \(V_{n+1}\) に。DとFの電荷の合計が保存されることから、\(V_{n+1} = \frac{1}{2}V_n + V_0\) という関係が得られます。
- 電圧が落ち着く値を求める: 操作を無限回繰り返すと、電圧はある一定の値 \(V_\infty\) に落ち着くと考えられます。このとき、\(V_{n+1}\) も \(V_n\) も同じ値 \(V_\infty\) になるはずなので、漸化式に \(V_n = V_{n+1} = V_\infty\) を代入して \(V_\infty\) を解くと、その極限値が求まります。
この回路は、スイッチ操作を繰り返すことで、電源電圧の2倍の電圧を \(C_2\) に作り出すことができる昇圧回路として機能することがわかります。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
漸化式という数学的な手法を用いず、この回路の物理的な振る舞いの本質から最終状態を考察します。操作が定常状態に達したとき、つまり \(V_{AB}\) が変化しなくなったとき、回路内で何が起きているかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 充電済みコンデンサーの等価的振る舞い: 充電されたコンデンサーは、一時的に電池(電圧源)として機能すると見なせる。
- 定常状態の物理的条件: \(V_{AB}\) が収束するということは、操作をしても \(C_2\) の電荷が増えも減りももしなくなる状態を意味する。
具体的な解説と立式
この回路の操作は、\(C_1\) を一種の「電荷ポンプ」として使い、電源 \(V_0\) から \(C_2\) へと電荷を運び、\(C_2\) の電圧を上げていくプロセスです。
- スイッチを左に接続: このとき、\(C_1\) は必ず上側極板が正、下側極板が負で、電位差 \(V_0\) に充電されます。これは、起電力が \(V_0\) で、上側が正極の電池と等価であると考えることができます。
- スイッチを右に接続: この「起電力 \(V_0\) の電池と見なせる \(C_1\)」が、電源 \(V_0\) と直列に接続され、コンデンサー \(C_2\) につながれます。
回路図を描いてみると、電源 \(V_0\) と「電池 \(C_1\)」は、どちらもA点の電位をB点に対して高くする向き(同じ向き)に接続されています。
したがって、この2つを合わせた合成起電力は \(V_0 + V_0 = 2V_0\) となります。 - 最終状態: スイッチを右側に接続すると、\(C_2\) は実質的に起電力 \(2V_0\) の電源に接続されたことになります。操作を無限に繰り返せば、\(C_2\) はこの合成起電力 \(2V_0\) で完全に充電されるはずです。
コンデンサー \(C_2\) の電圧は、接続されている電源の電圧に等しくなるまで充電されるので、最終的な \(V_{AB}\) は \(2V_0\) に収束します。
使用した物理公式
- 充電済みコンデンサーの電圧源としての等価性
- 電池の直列接続の合成起電力
上記の物理的考察から、最終的な電圧 \(V_{AB}\) は合成起電力に等しくなります。
$$ V_{AB, \infty} = V_0 (\text{電源}) + V_0 (C_1\text{が作る電圧}) = 2V_0 $$
これ以上の計算は不要です。
この回路の仕組みを、物理的なイメージで考えてみましょう。
まず、スイッチを左に倒す操作は、\(C_1\) を「電圧\(V_0\)の充電式電池」に充電する作業です。
次に、スイッチを右に倒すと、その「充電済み電池\(C_1\)」(電圧\(V_0\))と、もともとの「電源\(V_0\)」が直列につながれて、\(C_2\) を充電します。電池が2つ直列につながっているのと同じで、しかも向きが揃っているので、合計の電圧は \(V_0 + V_0 = 2V_0\) になります。
この「\(2V_0\)の力で\(C_2\)を充電する」という操作を何度も繰り返すわけですから、最終的に \(C_2\) の電圧は \(2V_0\) に達する、というわけです。この考え方なら、難しい漸化式の計算は必要ありません。
主たる解法と全く同じ \(2V_0\) という結論が得られました。この解法は、回路の定常状態を物理的に考察することで、複雑な計算を経ずに本質を見抜くことができる非常に強力なアプローチです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体部分(複数の極板が導線で結ばれていてもよい)では、電荷の総和は操作の前後で変わらない。
- 理解のポイント:どの部分が「孤立」しているかを回路の接続状態から正確に見抜くことが極めて重要。
- コンデンサーの電荷と電圧の関係 (\(Q=CV\)):
- 核心:各コンデンサーについて、蓄えられている電気量、極板間の電位差、電気容量の間にはこの関係が常に成り立つ。
- 理解のポイント:電位差を考える際、どちらの極板の電位を基準にするかで電荷の符号が変わることに注意する。電位法では \(Q = C(V_{\text{自分}} – V_{\text{相手}})\) のように定義することが多い。
- 電位法:
- 核心:回路中の未知の点の電位を文字でおき、上記の法則を使って連立方程式を立てて解く。
- 理解のポイント:基準電位(アースや電源の負極など)を0Vと設定し、他の点の電位をその基準からの電位差として考える。
- 漸化式と極限:
- 核心:繰り返し操作によって状態が変化していく場合、1回の操作による変化を一般化して漸化式を立て、その極限値を求めることで最終的な状態を予測できる。
- 理解のポイント:収束する場合、変化が十分に進んだ状態では \(x_{n+1} \approx x_n\) とおけることが多い。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コッククロフト・ウォルトン回路のような、スイッチングによってコンデンサーを直列・並列に切り替えて高電圧を生成する昇圧回路。
- 電荷ポンプ回路の動作原理の理解。
- 繰り返し操作による物理量の変化と、その極限状態を問う問題。
- 複数のコンデンサーとスイッチからなる過渡現象(ただし抵抗がないので純粋な電荷の再分配)。
- 初見の問題での着眼点:
- スイッチ操作による回路変化の正確な把握: 各操作でどの端子がどこに接続されるのかを丁寧に追い、等電位になる箇所、孤立する箇所を特定する。必要なら操作ごとに回路図を簡略化して描き直す。
- 電気量保存則が適用できる部分の特定: スイッチの切り替えで電気的に孤立する部分を見つけ、その部分の総電荷が保存されることを利用する。
- 電位の基準点と各点の電位の設定: 電源の負極などを0Vとし、他の点の電位を文字(例:\(x_n\))で設定する。
- 繰り返しパターンの発見: 複数の操作を繰り返す場合、1サイクル(例えば「左接続→右接続」)での状態変化の規則性を見つけ、漸化式を立てることを試みる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 孤立部分の電気量保存の適用ミス:
- 誤解:孤立部分の特定を誤る、あるいは保存されるべき初期の総電荷を間違える。
- 対策:スイッチが切り替わる直前と直後で、どの導体(群)が外部から電気的に切り離されているかを正確に見極める。その導体(群)の電荷の「代数和」が保存される。
- 電位の設定と電位差の計算ミス:
- 誤解:電位の基準点を曖昧にする、あるいはコンデンサーの電圧を計算する際の電位差の取り方を間違える(例:\(V_1-V_2\) とすべきところを \(V_2-V_1\) とするなど)。
- 対策:回路図に電位を書き込み、基準電位(0V)を明確にする。コンデンサーの極板のどちらが高電位かを意識し、電荷の正負と対応付ける。
- スイッチ切り替え時の回路構成の誤解:
- 誤解:問題文の回路図のスイッチの接続先を誤読し、実際とは異なる回路で考えてしまう。この問題のように模範解答の図解が特殊な解釈をしている場合は特に注意。
- 対策:スイッチの各接点が回路のどの部分に繋がっているかを丁寧に追い、切り替え後の有効な回路図を頭の中で(あるいは紙に)正確に構成する。模範解答の図解がある場合はそれを正しく解釈する。
- 漸化式の立式や極限計算の誤り:
- 誤解:\(n\) 回目と \(n+1\) 回目の関係を正しくモデル化できない、または極限の求め方を間違う。
- 対策:1回の操作サイクルで「入力」(前の状態)と「出力」(今の状態)がどう関連するかを一般化する。極限値は、変化が収束した状態(\(x_{n+1}=x_n\))を仮定して代数的に解く方法が有効。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本式):
- 選定理由:各コンデンサーに蓄えられる電気量と、そのコンデンサーにかかる電圧(電位差)、電気容量を結びつけるため。
- 適用根拠:静電誘導が完了し、電荷分布が定常になった状態のコンデンサーに適用できる。\(V\) は極板間の電位差。
- 電気量保存則 (\(\sum Q_{\text{はじめ}} = \sum Q_{\text{あと}}\)):
- 選定理由:スイッチの切り替えなどによって、回路の一部が電気的に孤立する場合、その孤立部分の総電荷は操作の前後で変わらないという原理を利用するため。
- 適用根拠:考えている部分系が、外部の回路から電荷の供給も排出も受けていない状態であること。
- 電位法 (キルヒホッフの電圧則の一般化):
- 選定理由:複数のコンデンサーや電源が複雑に接続された回路で、各部分の電荷や電圧を系統的に求めるため。
- 適用根拠:回路の任意の点の電位は一意に定まる(基準点を決めれば)。各素子の両端の電位差とその素子の特性(\(Q=CV\)など)を結びつけて連立方程式を立てる。
- 漸化式 \(x_{n+1} = f(x_n)\):
- 選定理由:同じ操作を繰り返すことで物理量が段階的に変化していく場合に、その変化の規則性から \(n\) 回目の状態を予測し、さらにその極限値を求めるため。
- 適用根拠:1回の操作による状態遷移が、直前の状態のみに依存して決まる場合。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 回路図の正確な解釈:
- 特に注意すべき点:スイッチの接続先を間違えると全てが狂うため、各操作での回路構成を正確に把握する。模範解答の図解がある場合は、それが問題文のどの操作に対応しているかを理解する。
- 日頃の練習:複雑なスイッチング回路の問題をいくつか解き、接続状態の変化を正確に図示する訓練をする。
- 電荷の符号と電位の高低:
- 特に注意すべき点:コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負か、それによって電位はどちらが高いかを常に意識する。\(Q=CV\) の \(V\) は電位差の絶対値として扱うか、符号を含めて扱うかを一貫させる。
- 日頃の練習:電位法で立式する際は、\(Q = C(V_A – V_B)\) のように、電位差の引き算の順序を固定するルールを自分の中で決めておくとミスが減る。
- 電気量保存の対象を明確に:
- 特に注意すべき点:どの部分が電気的に孤立し、その部分の「どの電荷」の「総和」が保存されるのかを正確に特定する。
- 日頃の練習:回路図上で孤立部分をペンで囲み、その部分に含まれる極板をリストアップする習慣をつける。
- 漸化式の変形:
- 特に注意すべき点:特性方程式を解くか、\(x_{n+1}-\alpha = p(x_n-\alpha)\) の形に変形して等比数列に持ち込む。極限値を求めるだけなら、\(x_{n+1}=x_n=x_\infty\) とおく。
- 日頃の練習:物理の問題で出てくる典型的な漸化式の解法パターンをいくつかマスターしておく。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な振る舞いの予測:
- 傾向の確認: 昇圧回路の一種なので、操作を繰り返すごとに\(V_{AB}\)が増加していく傾向にあるはず(ある上限に達するまでは)。計算結果がこの傾向と一致するか確認する。
- エネルギーの流れ: 電荷が移動するとき、それは電位差を解消する方向か、あるいは外部からエネルギーが供給されて蓄積される方向か。
- 極限値の物理的意味:
- 定常状態の考察: 操作Vで\(V_{AB}\)が\(2V_0\)に近づくのはなぜか。別解にあるように「\(C_1\)が\(V_0\)の電池となり、それが電源\(V_0\)と直列に接続されて合計\(2V_0\)の電圧源として\(C_2\)を充電する」という(簡略化された)解釈は、結果の妥当性を物理的に裏付ける。
- 最初の数ステップを手計算で確認:
- 検算: 漸化式が正しいか、あるいは計算ミスがないかを確認するために、\(x_1, x_2, x_3\) などを具体的に計算し、その傾向が直感と合うか、また極限値に近づいていく様子が見られるかを確認する。(この問題では \(V_1=V_0, V_2=\frac{3}{2}V_0, V_3=\frac{7}{4}V_0\) となり、\(2V_0\) に近づいていることがわかる)
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問題23 (早稲田大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗(\(R\))、コンデンサー(\(C\))、電池(\(V_0\))、スイッチ(S)からなるRC直列回路におけるコンデンサーの充電現象(過渡現象)を扱っています。回路方程式を立て、電流やコンデンサーの電気量、電圧の時間変化について考察します。また、実験結果のグラフを読み取り、回路の定数(\(R, C\))を求めたり、条件を変えた場合の挙動を推測したりする能力も問われます。
- 回路構成: 起電力 \(V_0\) の電池(内部抵抗0)、電気抵抗 \(R\) の抵抗、電気容量 \(C\) のコンデンサー(はじめの電気量は0)、スイッチSを直列に接続した回路(図1)。
- 実験: スイッチSを閉じた瞬間 (\(t=0\)) からの時間 \(t\) と、そのときの抵抗を流れる電流の強さ \(I(t)\) の関係を調べる。
- 図2: \(V_0 = 4.00 \text{ V}\) のときの \(I(t)\) の実験結果(実線グラフ)。
- 縦軸: 電流 \[mA]
- 横軸: 時間 \[s]
- 時刻 \(t\) におけるコンデンサーCの電位差を \(V(t)\) として、電流 \(I(t)\) を求める。
- \(I(t)\) が \(t=0\) における値の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる時刻におけるコンデンサーCの電気量を求めよ。
- \(V_0 = 4.00 \text{ V}\) のときの実験結果(図2の実線)について、
- (ア) 図から抵抗 \(R\) の値を求めよ。
- (イ) 図2でOABCで囲まれた図形の方眼の数がほぼ100個であったという情報から、充電が終了したときのコンデンサーCの電気量 \(Q\) と電気容量 \(C\) を求めよ。
- \(V_0\) は同じにして、\(R\) と \(C\) の値を適当に変えたところ、図2の点線のように、電流が常に元の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となるグラフが得られた。\(R\) と \(C\) はそれぞれ元の何倍にしたか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(3)(イ)の別解: I-tグラフの積分による総電気量の直接計算
- 模範解答がグラフの特定領域の面積から総電気量を推定するのに対し、別解ではRC回路の電流の時間変化を表す理論式 \(I(t) = I_0 e^{-t/\tau}\) を用い、グラフの面積が総電気量 \(\int_0^\infty I(t)dt\) に等しいという物理的意味から直接計算します。
- 設問(3)(イ)の別解: I-tグラフの積分による総電気量の直接計算
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 電流-時間グラフの面積が通過した総電気量に等しいという、積分を用いた物理量の定義を直接的に体験できます。
- 理論的背景の理解: RC回路の過渡現象が指数関数で記述されるという理論的な背景と、実験データとの関連性を深く理解することができます。
- 異なる視点の学習: 模範解答の解釈がやや特殊であるのに対し、より一般的で応用範囲の広いアプローチを学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、RC回路の基本的な充電過程を理解しているかが鍵となります。キルヒホッフの法則から回路方程式を立て、電流や電圧、電荷の関係を明確にすることが重要です。また、グラフの読み取りや、グラフの面積が持つ物理的意味(この場合は通過電気量)を理解しているかも試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
- オームの法則: 抵抗 \(R\) における電圧降下は \(RI\)。
- コンデンサーの基本式: 電気量 \(q\)、電気容量 \(C\)、電圧 \(V\) の間に \(q=CV\) の関係が成り立つ。
- 電流の定義: 電流 \(I\) は、電荷の時間変化率 \(I = \displaystyle\frac{dq}{dt}\) でもある。
- 電流-時間グラフの面積: \(I-t\) グラフの面積 \(\int I(t)dt\) は、その時間内に通過した総電気量を表す。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) では、回路にキルヒホッフの第2法則を適用して、電流 \(I(t)\) とコンデンサーの電圧 \(V(t)\) の関係式を導きます。
- (2) では、まず \(t=0\) の初期電流を求め、条件に合うときのコンデンサーの電圧、そして電気量を求めます。
- (3) では、グラフから初期電流を読み取って \(R\) を決定し、グラフの面積(または模範解答の解釈)から総電気量 \(Q\) を、そして \(Q=CV_0\) から \(C\) を求めます。
- (4) では、電流が常に半分になるという条件が、初期電流と総電気量(グラフ面積)にどう影響するかを考え、\(R\) と \(C\) の変化を推測します。