問題64 (上智大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、張られた弦に定常波が生じる「共振」という現象について、弦の長さ、おもりの質量(張力)、弦の太さ(線密度)、振動数といった条件を変えながら考察するものです。それぞれの条件下で波長や腹の数がどのように変化し、共振条件がどう満たされるかを計算していきます。
- 弦全体の長さ: \(L_{\text{全体}} = 120 \text{ cm} = 1.2 \text{ m}\)
- 弦全体の質量: \(M_{\text{弦}} = 1.8 \text{ g} = 1.8 \times 10^{-3} \text{ kg}\)
- おもりの質量(初期): \(m_1 = 6 \text{ kg}\)
- 重力加速度の大きさ: \(g = 10 \text{ m/s}^2\)
- 振動源S、固定コマA、可動コマBによってAB間 (長さ \(a\)) で弦を振動させる。
- 弦の張力 \(T\) は弦のどこでも等しく、おもりの重さに等しい (\(T = mg\))。
- 問1:
- (1) コマBを \(a=30 \text{ cm}\) から \(a=35 \text{ cm}\) に移動すると再び共振した。このときの弦を伝わる横波の波長 \(\lambda\) は何cmか。
- (2) \(a=35 \text{ cm}\) で共振しているときのAB間の腹の数は何個か。
- (3) 振動源Sの振動数 \(f\) は何Hzか。
- (4) \(a=35 \text{ cm}\) のままおもりの質量を4倍にしたとき、弦を再び共振させるには、Bを少なくとも何cm右に移動しなければならないか。
- 問2: もとの弦と同じ材質、同じ長さで、直径が2倍の弦に張り替えた場合
- (5) \(a=30 \text{ cm}\) にし、おもりの質量を6kgに戻したとき、弦は共振し、AB間の腹の数は何個となるか。
- (6) (5)の状態で、AB間の腹の数を3個とするには、Sの振動数を何Hzとすればよいか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問2(6) 振動数の別解: 振動数と波長の反比例関係を利用する解法
- 主たる解法が、共振条件から新しい波長を求め、波の基本式から振動数を計算するのに対し、別解では、波の速さが一定であることに着目し、(5)の状態との波長の比から振動数の比を直接導き出します。
- 問2(6) 振動数の別解: 振動数と波長の反比例関係を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的関係性の深化: 「\(v=f\lambda\)」という基本式を「\(v\)が一定なら\(f\)と\(\lambda\)は反比例」という、より具体的な物理的関係性として捉え直す良い機会となります。
- 計算の効率化: 波の速さの具体的な数値を介さずに、比の関係だけで計算できるため、検算や迅速な問題解決に役立ちます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「弦の共振」と「弦を伝わる波の速さ」です。弦が特定の条件を満たすと、波が強め合って大きく振動する「共振」という現象が起こり、見た目には波が止まって見える「定常波」が形成されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定常波(定在波)の共振条件: 弦のように両端が固定されている(あるいは自由端である)媒質中を波が往復するとき、特定の波長の波だけが強め合って定常波を作ります。弦の両端が固定端(節)となる場合、弦の振動部分の長さ \(L\) が、波長の半分(半波長 \(\lambda/2\))の整数倍になると共振が起こります。式で表すと、\(L = n \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) となります。ここで \(n\) は自然数で、定常波の「腹」の数を表します。
- 弦を伝わる横波の速さ: 弦を伝わる横波の速さ \(v\) [m/s] は、弦の張力 \(T\) [N] と弦の線密度 \(\rho\) [kg/m] によって決まります。張力が大きく、弦が軽い(線密度が小さい)ほど、波は速く伝わります。この関係は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\) という式で表されます。
- 波の基本式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\) [Hz]、波長 \(\lambda\) [m] の間には、\(v = f\lambda\) という基本的な関係があります。これは、波の種類によらず成り立つ重要な式です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 共振条件の利用: 問題文で「共振する」とあれば、まず \(a = n \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) の関係式を思い浮かべます。与えられた情報(例えば、異なる弦長での共振)から、未知の物理量(波長 \(\lambda\) や腹の数 \(n\))を特定します。
- 波の速さの計算: 必要に応じて、弦の張力 \(T\) と線密度 \(\rho\) から波の速さ \(v\) を \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\) の式を用いて計算します。張力はおもりの質量から、線密度は弦の質量と長さから求められます。
- 波の基本式の利用: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) のうち、2つが分かれば残りの1つを \(v = f\lambda\) の関係式から求めることができます。
- 条件変化への対応: おもりの質量が変われば張力 \(T\) が変わり、波の速さ \(v\) が変化します。弦の太さが変われば線密度 \(\rho\) が変わり、これも波の速さ \(v\) に影響します。振動源を変えれば振動数 \(f\) が変わります。これらの変化が波長 \(\lambda\) や共振条件にどのように影響するかを順を追って考えていきます。
問1 (1)
思考の道筋とポイント
弦が共振しているとき、振動しているAB間の両端AとBは定常波の節になっています。節と隣り合う節の間の距離は、波長の半分 \(\lambda/2\) です。
問題では、弦の長さ \(a=30 \text{ cm}\) で共振し、次に \(a=35 \text{ cm}\) で再び共振したとあります。振動数\(f\)、張力\(T\)、線密度\(\rho\)は変わっていないので、波長\(\lambda\)は一定です。
\(a=30 \text{ cm}\) のときの腹の数を\(n\)個とすると、共振条件は \(30 = n \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) と書けます。弦を長くして次に共振するのは、腹の数が1つ増えて\(n+1\)個になったときなので、\(35 = (n+1) \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) と書けます。この2つの式の差を取ることで、\(\lambda\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 弦の共振条件: 弦の振動部分の長さ \(a\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍であること (\(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\), ここで \(n\) は腹の数)。
- 連続する共振状態では、腹の数が1つずつ変化し、それに応じて弦の長さが \(\lambda/2\) ずつ変化する。
具体的な解説と立式
弦のAB間の長さが \(a\) のとき、両端A, Bが節となる定常波ができているため、共振条件は次のように書けます。
$$
\begin{aligned}
a &= n \frac{\lambda}{2} \quad (n \text{ は自然数で、腹の数を表す})
\end{aligned}
$$
弦の長さが \(a_1 = 30 \text{ cm}\) のとき、ある腹の数 \(n_1\) で共振したとします。
$$
\begin{aligned}
30 &= n_1 \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、弦の長さを \(a_2 = 35 \text{ cm}\) にしたとき、腹の数が1つ増えて \(n_2 = n_1 + 1\) で再び共振しました。
$$
\begin{aligned}
35 &= (n_1+1) \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
式②から式①の両辺をそれぞれ引くと、
$$
\begin{aligned}
35 – 30 &= (n_1+1) \frac{\lambda}{2} – n_1 \frac{\lambda}{2}
\end{aligned}
$$
これを整理すると、
$$
\begin{aligned}
5 &= \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 弦の共振条件: \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) ( \(n\) は腹の数)
式③ \(5 = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) から波長 \(\lambda\) を求めます。両辺に2を掛けると、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 5 \times 2 \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{[cm]}
\end{aligned}
$$
弦が美しく振動する(共振する)のは、弦の長さが「波の基本パーツ(半波長)」のちょうど整数個分になるときです。30cmで共振し、そこから弦を伸ばして次に35cmで共振したということは、伸ばした5cmが、ちょうど「波の基本パーツ」1個分の長さに相当するということです。基本パーツの長さが5cmなので、波全体の長さ(1波長)はその2倍の10cmになります。
弦を伝わる横波の波長は \(10 \text{ cm}\) です。この結果は、共振条件と連続する共振状態の関係から論理的に導かれました。単位も問題文に合わせてcmで得られています。
問1 (2)
思考の道筋とポイント
(1)で波長 \(\lambda = 10 \text{ cm}\) であることがわかりました。したがって、半波長は \(\lambda/2 = 5 \text{ cm}\) です。
弦の長さ \(a\) が、この半波長 \(\lambda/2\) の何倍になっているかで腹の数 \(n\) が決まります。共振条件の式 \(a = n \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) を使って、\(a=35 \text{ cm}\) のときの \(n\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 腹の数 \(n\) は、共振している弦の長さ \(a\) を半波長 \(\lambda/2\) で割った値に等しい (\(n = \displaystyle\frac{a}{\lambda/2}\))。
具体的な解説と立式
波長 \(\lambda = 10 \text{ cm}\) なので、半波長は \(\displaystyle\frac{\lambda}{2} = 5 \text{ cm}\) です。
弦の長さ \(a = 35 \text{ cm}\) のとき、共振条件は \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) で表されます。
ここに \(a=35 \text{ cm}\) と \(\displaystyle\frac{\lambda}{2} = 5 \text{ cm}\) を代入して、腹の数 \(n\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
35 &= n \times 5
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 弦の共振条件: \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) ( \(n\) は腹の数)
上の式から腹の数 \(n\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{35}{5} \\[2.0ex]
&= 7 \, \text{[個]}
\end{aligned}
$$
(1)で、この波を構成する「基本パーツ(半波長)」の長さが5cmだと分かりました。腹の数とは、弦の長さの中にこの基本パーツがいくつ収まっているか、ということです。弦の長さ35cmの中に5cmのパーツは \(35 \div 5 = 7\)個入るので、腹の数は7個です。
\(a=35 \text{ cm}\) のときのAB間の腹の数は7個です。
ちなみに、(1)の考察で \(a=30 \text{ cm}\) のときの腹の数は \(30 \div 5 = 6\) 個であったことがわかります。腹の数が6個から7個に1つ増えているので、(1)の仮定と整合しており、解法の妥当性が確認できます。
問1 (3)
思考の道筋とポイント
振動数 \(f\) を求めるには、波の基本式 \(v = f\lambda\) を利用します。波長 \(\lambda\) は(1)で \(10 \text{ cm} = 0.1 \text{ m}\) と求まっています。したがって、弦を伝わる波の速さ \(v\) が分かれば、振動数 \(f\) を計算できます。
弦を伝わる横波の速さ \(v\) は、弦の張力 \(T\) と線密度 \(\rho\) によって \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\) と表されます。
張力 \(T\) はおもりの質量から、線密度 \(\rho\) は弦全体の質量と長さから計算できます。このとき、単位をSI単位系(kg, m)に統一することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
- 弦を伝わる横波の速さの公式: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\)
- 張力の計算: 本問ではおもりによる張力なので \(T = mg\)
- 線密度の計算: \(\rho = \displaystyle\frac{\text{弦の質量}}{\text{弦の長さ}}\)。単位の換算に注意。
具体的な解説と立式
まず、弦の線密度 \(\rho\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \frac{\text{弦全体の質量}}{\text{弦全体の長さ}}
\end{aligned}
$$
次に、弦の張力 \(T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \text{おもりの質量} \times \text{重力加速度}
\end{aligned}
$$
これらの値を用いて、弦を伝わる波の速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{T}{\rho}}
\end{aligned}
$$
最後に、波の基本式 \(v = f\lambda\) を変形して振動数 \(f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{v}{\lambda}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 線密度: \(\rho = \displaystyle\frac{\text{質量}}{\text{長さ}}\)
- 弦の張力 (おもりによる場合): \(T = mg\)
- 弦を伝わる横波の速さ: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
線密度 \(\rho\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \frac{1.8 \times 10^{-3} \, \text{kg}}{1.2 \, \text{m}} \\[2.0ex]
&= 1.5 \times 10^{-3} \, \text{kg/m}
\end{aligned}
$$
張力 \(T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= 6 \, \text{kg} \times 10 \, \text{m/s}^2 \\[2.0ex]
&= 60 \, \text{N}
\end{aligned}
$$
波の速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{60}{1.5 \times 10^{-3}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{40 \times 10^3} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4 \times 10^4} \\[2.0ex]
&= 2 \times 10^2 \\[2.0ex]
&= 200 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
振動数 \(f\) を計算します。波長 \(\lambda = 10 \, \text{cm} = 0.1 \, \text{m}\) です。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{200 \, \text{m/s}}{0.1 \, \text{m}} \\[2.0ex]
&= 2000 \, \text{Hz}
\end{aligned}
$$
振動数、つまり「波が1秒間に何回揺れるか」を求めるには、まず「波の速さ」が必要です。弦を伝わる波の速さは、弦の張り具合(張力)と、弦の重さ(線密度)で決まります。まず、おもりの重さから張力を、弦の質量と長さから線密度を計算します。この2つの値を使って公式から波の速さを求めます。最後に、この速さを(1)で求めた波長で割ることで(\(f=v/\lambda\))、振動数が計算できます。
振動源Sの振動数は \(2000 \text{ Hz}\) です。計算過程で使用した各物理量の単位(m, kg, s, N, Hz)は整合性が取れており、得られた値も物理的に妥当な範囲と考えられます。
問1 (4)
思考の道筋とポイント
おもりの質量を4倍にすると、弦の張力 \(T\) が4倍になります。振動源Sは変えていないので、振動数 \(f\) は(3)で求めた \(2000 \text{ Hz}\) のまま一定です。
張力 \(T\) が4倍になると、波の速さ \(v = \sqrt{T/\rho}\) は \(\sqrt{4}=2\) 倍になります。
振動数 \(f\) が一定で波の速さ \(v\) が2倍になるので、波の基本式 \(v = f\lambda\) より、波長 \(\lambda\) も2倍になります。
この新しい波長で共振するためには、弦の長さ \(a\) が新しい半波長 \(\lambda’/2\) の整数倍である必要があります。現在の弦の長さは \(a=35 \text{ cm}\) です。この長さより大きくて最も近い、新しい共振条件を満たす弦の長さを見つけ、その差が求める移動距離です。
この設問における重要なポイント
- 張力が変化すると波の速さが変化する (\(v \propto \sqrt{T}\))。
- 振動数が一定のとき、波の速さが変化すると波長も変化する (\(\lambda \propto v\))。
- 新しい波長の下で、共振条件を満たすように弦の長さを調整する必要がある。
具体的な解説と立式
元の張力を \(T_1\)、新しい張力を \(T_2\) とすると \(T_2 = 4T_1\)。
元の波の速さを \(v_1\)、新しい波の速さを \(v_2\) とすると、
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \sqrt{\frac{T_2}{\rho}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{4T_1}{\rho}} \\[2.0ex]
&= 2 \sqrt{\frac{T_1}{\rho}} \\[2.0ex]
&= 2v_1
\end{aligned}
$$
振動数 \(f\) は一定なので、元の波長を \(\lambda_1 = 10 \text{ cm}\)、新しい波長を \(\lambda_2\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{v_2}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_1}{f} \\[2.0ex]
&= 2\lambda_1
\end{aligned}
$$
新しい波長 \(\lambda_2\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= 2 \times 10 \, \text{cm} \\[2.0ex]
&= 20 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
この新しい波で共振するためには、弦の長さ \(a’\) が、新しい半波長 \(\displaystyle\frac{\lambda_2}{2} = 10 \text{ cm}\) の整数倍である必要があります。
現在の弦の長さは \(a = 35 \text{ cm}\) です。これより大きく、最も近い \(10 \text{ cm}\) の整数倍の長さは \(40 \text{ cm}\) です。
よって、移動させる距離 \(\Delta a\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta a &= 40 \, \text{cm} – 35 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 弦を伝わる横波の速さ: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
- 弦の共振条件: \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
移動させる距離は、
$$
\begin{aligned}
\Delta a &= 40 \, \text{cm} – 35 \, \text{cm} \\[2.0ex]
&= 5 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
おもりを4倍にすると、弦を引く力(張力)が4倍になります。波の速さは張力の平方根に比例するので、\(\sqrt{4}=2\)倍になります。振動源は同じなので振動数は変わりません。速さが2倍になった分、波長も2倍の20cmになります。この新しい波で共振するには、弦の長さが新しい「基本パーツ(半波長)」である10cmの整数倍でなければなりません。現在の35cmから弦を伸ばして、最初に10の倍数になるのは40cmです。よって、\(40-35=5\)cmだけ右に移動させる必要があります。
コマBを少なくとも \(5 \text{ cm}\) 右に移動しなければなりません。このとき、弦の長さは \(40 \text{ cm}\) となり、新しい半波長 \(10 \text{ cm}\) の4倍なので、腹の数4の定常波が形成されます。張力を増すと波長が長くなり、より長い弦長で共振するという結果は物理的に妥当です。
問2 (5)
思考の道筋とポイント
弦の直径が2倍になると、断面積が \(2^2=4\) 倍になります。材質が同じなので、線密度 \(\rho\) も4倍になります。
おもりの質量は \(m = 6 \text{ kg}\) に戻したので、張力 \(T\) は問1(3)のときと同じです。
線密度が4倍になると、波の速さ \(v = \sqrt{T/\rho}\) は \(\sqrt{1/4} = 1/2\) 倍になります。
振動数 \(f\) は問1(3)の \(2000 \text{ Hz}\) のままと考えます。
速さが \(1/2\) 倍になるので、波長 \(\lambda\) も \(1/2\) 倍になります。
この新しい波長を求め、与えられた弦の長さ \(a=30 \text{ cm}\) で共振するときの腹の数を計算します。
この設問における重要なポイント
- 弦の直径と線密度の関係: 直径が \(k\) 倍になると、線密度は \(k^2\) 倍になる。
- 線密度が変化すると波の速さが変化する (\(v \propto 1/\sqrt{\rho}\))。
- 振動数が一定の場合、波の速さが変化すると波長も変化する (\(\lambda \propto v\))。
具体的な解説と立式
元の弦の線密度を \(\rho_1\)、新しい弦の線密度を \(\rho_3\) とすると、直径が2倍なので、
$$
\begin{aligned}
\rho_3 &= 4\rho_1
\end{aligned}
$$
張力 \(T_1\) は同じなので、元の波の速さを \(v_1\)、新しい波の速さを \(v_3\) とすると、
$$
\begin{aligned}
v_3 &= \sqrt{\frac{T_1}{\rho_3}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{T_1}{4\rho_1}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} v_1
\end{aligned}
$$
振動数 \(f_1\) は同じなので、元の波長を \(\lambda_1 = 10 \text{ cm}\)、新しい波長を \(\lambda_3\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\lambda_3 &= \frac{v_3}{f_1} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{1}{2}v_1}{f_1} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\lambda_1
\end{aligned}
$$
新しい波長 \(\lambda_3\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda_3 &= \frac{1}{2} \times 10 \, \text{cm} \\[2.0ex]
&= 5 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
弦の長さ \(a = 30 \text{ cm}\) のとき、腹の数を \(n_3\) とすると、共振条件より、
$$
\begin{aligned}
a &= n_3 \frac{\lambda_3}{2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 線密度と弦の形状の関係
- 弦を伝わる横波の速さ: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{T}{\rho}}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
- 弦の共振条件: \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
新しい半波長は \(\displaystyle\frac{\lambda_3}{2} = \frac{5 \, \text{cm}}{2} = 2.5 \text{ cm}\) です。
弦の長さ \(a=30 \text{ cm}\) のときの腹の数 \(n_3\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
30 &= n_3 \times 2.5 \\[2.0ex]
n_3 &= \frac{30}{2.5} \\[2.0ex]
&= \frac{300}{25} \\[2.0ex]
&= 12 \, \text{[個]}
\end{aligned}
$$
弦の直径が2倍になると、断面積は4倍になり、弦は4倍重くなります(線密度が4倍)。張力は同じままなので、重い弦では波の速さが\(\sqrt{1/4}=1/2\)倍、つまり半分になります。振動数は変わらないので、波長も半分の5cmになります。この新しい波の「基本パーツ(半波長)」は2.5cmです。弦の長さ30cmの中に、この2.5cmのパーツがいくつ収まるかを計算すると、\(30 \div 2.5 = 12\)個。これが腹の数です。
AB間の腹の数は12個となります。弦の直径という形状の変化が線密度にどう影響し、それが波の速さ、波長へと連鎖的に影響を及ぼし、最終的に共振状態(腹の数)を決定するという一連の物理プロセスを正しく追跡できました。
問2 (6)
思考の道筋とポイント
弦の条件(直径2倍の弦、おもり6kg)は(5)と同じなので、この弦を伝わる波の速さ \(v_3\) も(5)のときと同じです。
弦の長さ \(a=30 \text{ cm}\) も同じです。今度は、目標とする腹の数 \(n_4 = 3\) 個が指定されています。
この条件で共振するために必要な波長 \(\lambda_4\) をまず共振条件 \(a = n_4 \cdot \displaystyle\frac{\lambda_4}{2}\) から求めます。
そして、波の速さ \(v_3\) と、求めた波長 \(\lambda_4\) から、必要な振動数 \(f_4\) を波の基本式 \(v_3 = f_4 \lambda_4\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 波の速さは弦の物理的特性(線密度、張力)で決まり、この設問の状況では問2(5)と同じである。
- 目標とする腹の数と弦の長さから、そのときに必要な波長が定まる。
- 波の速さとその波長から、対応する振動数が決まる。
具体的な解説と立式
弦の振動部分の長さ \(a = 30 \text{ cm}\)、目標とする腹の数を \(n_4 = 3\) 個とします。
このときの波長を \(\lambda_4\) とすると、共振条件より、
$$
\begin{aligned}
a &= n_4 \frac{\lambda_4}{2}
\end{aligned}
$$
この式から、まず必要な波長 \(\lambda_4\) を求めます。
弦を伝わる波の速さ \(v_3\) は、問2(5)で計算した通り \(v_3 = 100 \text{ m/s}\) です。
求める振動数を \(f_4\) とすると、波の基本式より、
$$
\begin{aligned}
v_3 &= f_4 \lambda_4
\end{aligned}
$$
この式から \(f_4\) を求めます。
使用した物理公式
- 弦の共振条件: \(a = n \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
共振条件から波長 \(\lambda_4\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
30 \, \text{cm} &= 3 \times \frac{\lambda_4}{2} \\[2.0ex]
\lambda_4 &= 30 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= 20 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
波長 \(\lambda_4 = 20 \, \text{cm} = 0.2 \, \text{m}\) となります。
波の速さ \(v_3 = 100 \text{ m/s}\) は変わりません。
波の基本式から振動数 \(f_4\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= \frac{v_3}{\lambda_4} \\[2.0ex]
&= \frac{100 \, \text{m/s}}{0.2 \, \text{m}} \\[2.0ex]
&= 500 \, \text{Hz}
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
波の速さ \(v_3\) が一定であることに着目します。波の基本式 \(v_3 = f\lambda\) より、振動数 \(f\) と波長 \(\lambda\) は反比例の関係にあります。(5)の状態(振動数 \(f_1\), 波長 \(\lambda_3\))と、この設問の状態(振動数 \(f_4\), 波長 \(\lambda_4\))を比較することで、\(f_4\) を求めます。
具体的な解説と立式
(5)の状態では、振動数 \(f_1 = 2000 \, \text{Hz}\)、波長 \(\lambda_3 = 5 \, \text{cm}\) でした。
この設問(6)では、波長 \(\lambda_4 = 20 \, \text{cm}\) が必要です。
波の速さ \(v_3\) が一定なので、\(v_3 = f_1 \lambda_3 = f_4 \lambda_4\) が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= f_1 \times \frac{\lambda_3}{\lambda_4}
\end{aligned}
$$
計算過程
値を代入して \(f_4\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= 2000 \, \text{Hz} \times \frac{5 \, \text{cm}}{20 \, \text{cm}} \\[2.0ex]
&= 2000 \times \frac{1}{4} \\[2.0ex]
&= 500 \, \text{Hz}
\end{aligned}
$$
今度は、弦の長さ30cmの中に、腹をちょうど3個作りたいという目標があります。これは、30cmの長さに「波の基本パーツ(半波長)」が3つぴったり収まる状態を意味します。つまり、基本パーツ1個の長さは\(30 \div 3 = 10\)cm、波長全体では20cmにする必要があります。(5)の状況から弦の物理的な条件は変わらないので、波の速さは100m/sのままです。速さ100m/sの波の波長を20cm(0.2m)にするには、振動数を\(f = v/\lambda = 100/0.2 = 500\)Hzに調整すればよいのです。
Sの振動数を \(500 \text{ Hz}\) とすればよいです。
(5)のときの振動数 \(2000 \text{ Hz}\) と比較すると \(1/4\) になっています。これは、(5)のときの波長 \(\lambda_3 = 5 \text{ cm}\) に対し、今回は \(\lambda_4 = 20 \text{ cm}\) と波長を4倍にする必要があるため、波の速さが一定であれば振動数は \(1/4\) になるという関係(\(f = v/\lambda\))と整合しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 弦の共振条件と波の速さの公式の連携:
- 核心: この問題は、弦の振動という現象を、「定常波の幾何学的な条件(\(a = n\lambda/2\))」と、「波の速さを決定する物理的な要因(\(v = \sqrt{T/\rho}\))」という2つの異なる側面から統合的に理解できるかを問うています。これら2つの法則を、波の基本式(\(v=f\lambda\))を介して結びつけ、様々な条件下で未知数を解き明かしていくことが核心となります。
- 理解のポイント:
- 共振は「形」の問題: 弦の長さ\(a\)と波長\(\lambda\)の関係(\(a=n\lambda/2\))は、波がうまく重なり合って定常波という「形」を作るための幾何学的な条件です。腹の数\(n\)がこの形を特徴づけます。
- 速さは「弦の性質」の問題: 波の速さ\(v\)は、弦の張り具合(張力\(T\))と重さ(線密度\(\rho\))という、弦そのものの物理的な性質によって決まります。振動の様子とは独立に決まる値です。
- 振動数は「外部からの強制」: 振動数\(f\)は、振動源Sが弦を「1秒間に何回揺らすか」という外部からの強制的な条件です。振動源を変えない限り、弦の長さや張力が変わっても\(f\)は一定です。
- 3つの式の連携: これら3つの要素(共振条件、速さの公式、振動数)は、\(v=f\lambda\)という基本式によって互いに関連付けられています。問題で与えられた条件に応じて、これらの式を連立方程式のように解いていくことになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 気柱の共鳴: 開管や閉管に音波を送り込み、共鳴させる問題。弦の共振条件が、管の長さと音波の波長の関係に置き換わります(開端が腹、閉端が節)。波の速さは音速になります。
- うなり: わずかに振動数の異なる2つの音源を同時に鳴らしたときの音の強弱の変化を扱う問題。振動数が条件として与えられます。
- ドップラー効果: 音源や観測者が動くことで、観測される音の振動数が変化する問題。波の速さ(音速)と振動数の関係が中心となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 不変量と変数を特定する: 問題文を読み、各設問で「何が一定に保たれ、何が変化するのか」を最初に明確にします。例えば、問1(4)では「\(f\)と\(\rho\)が一定で、\(T\)が変化」、問2(5)では「\(f\)と\(T\)が一定で、\(\rho\)が変化」というように整理することで、どの公式をどのように使うべきかが見えてきます。
- 比例関係に注目する: \(v \propto \sqrt{T}\)や\(v \propto 1/\sqrt{\rho}\)、\(f\)が一定なら\(\lambda \propto v\)といった比例関係を理解しておくと、具体的な数値を毎回計算しなくても、「張力が4倍なら速さは2倍、波長も2倍」のように、素早く変化を予測できます。これは検算にも役立ちます。
- 単位系を意識する: 力学的な要素(質量、力)と波動の要素(長さ、時間)が混在するため、単位の統一が非常に重要です。特に、線密度\(\rho\)を[g/cm]のまま使ったり、波長\(\lambda\)を[cm]のまま速さ[m/s]と計算したりすると、桁が大きくずれます。計算を始める前に、すべてSI単位系(m, kg, s)に変換する癖をつけましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 線密度と密度の混同:
- 誤解: 線密度\(\rho\) [kg/m]と、物質の密度\(\rho_{\text{材質}}\) [kg/m\(^3\)]を混同してしまう。
- 対策: 「線」密度は、あくまで「長さあたり」の質量です。弦の太さ(断面積)が関係することを意識しましょう。問2(5)のように直径が2倍になると、断面積は4倍、体積も4倍、質量も4倍になるため、線密度も4倍になる、という流れを理解することが重要です。
- 張力と質量の混同:
- 誤解: 速さの公式の\(T\)に、おもりの質量\(m\) [kg]をそのまま代入してしまう。
- 対策: 張力\(T\)は「力」であり、単位は[N]です。おもりが吊るされている場合は、質量\(m\)に重力加速度\(g\)を掛けた\(mg\)が張力になることを忘れないようにしましょう。
- 腹の数\(n\)と節の数の混同:
- 誤解: 共振条件の\(n\)が節の数を表していると勘違いする。
- 対策: 両端が固定された弦の定常波では、腹の数は\(n\)個、節の数は両端を含めて\(n+1\)個になります。共振条件の\(n\)は「半波長の数」であり、これは「腹の数」と一致すると覚えましょう。
- 条件変化の際の不変量の誤認:
- 誤解: 例えば、張力を変えたときに、波長が一定だと勘違いしてしまう(振動数が一定なのに)。
- 対策: 「何が原因で、何が結果か」という因果関係を意識します。振動源を変えなければ\(f\)は不変。弦の性質(\(T, \rho\))が変われば、まず\(v\)が変わり、その結果として\(\lambda\)が変わる(\(f\)が一定なら)、という思考の流れを身につけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 弦の共振条件 \(a = n \lambda/2\):
- 選定理由: 問題文に「共振する」というキーワードがあるため。これは、弦の長さと波長の関係を束縛する条件式です。
- 適用根拠: 両端が固定されている(節となる)という境界条件の下で、波が往復して強め合う(定常波ができる)ための幾何学的な条件です。弦の長さの中に、半波長がぴったり整数個収まる必要があります。
- 弦を伝わる波の速さの公式 \(v = \sqrt{T/\rho}\):
- 選定理由: 弦の物理的条件(おもりの質量=張力、弦の太さ=線密度)が変化し、それが波の伝わり方にどう影響するかを定量的に評価する必要があるため。
- 適用根拠: この公式は、弦の復元力(張力\(T\)による)と慣性(線密度\(\rho\)による)のバランスから導かれる、弦という媒質の特性を表す式です。弦の材質や状態が変われば、波の速さが変わるという物理現象を数式化したものです。
- 波の基本式 \(v = f\lambda\):
- 選定理由: これは波動現象における最も普遍的な関係式であり、「速さ」「振動数」「波長」という3つの基本量を結びつけるために必須です。
- 適用根拠: 1秒間に\(f\)回振動する波が、1回の振動で\(\lambda\)だけ進むので、1秒間に進む距離(速さ)は\(f \times \lambda\)になる、という定義に基づいています。この問題では、弦の物理的性質から決まる\(v\)と、共振の幾何学的条件から決まる\(\lambda\)、そして外部から与えられる\(f\)の関係を整理するために中心的な役割を果たします。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の徹底:
- 特に注意すべき点: [cm]と[m]、[g]と[kg]が混在しています。特に線密度の計算(kg/m)や、速さの公式(N, kg/m)、波の基本式(m/s, Hz, m)では、SI単位系への統一が不可欠です。
- 日頃の練習: 問題文を読んだ時点で、与えられた数値をすべてSI単位系に書き直す癖をつけましょう。(例: \(120 \text{ cm} \rightarrow 1.2 \text{ m}\), \(1.8 \text{ g} \rightarrow 1.8 \times 10^{-3} \text{ kg}\))。計算の冒頭でこの作業を済ませておけば、途中で単位を間違えるリスクが激減します。
- 平方根の計算:
- 特に注意すべき点: 速さの計算で平方根が出てきます。ルートの中の数値を、\(40 \times 10^3 = 4 \times 10^4\)のように、平方数と\(10\)の偶数乗の積に整理する技術が重要です。
- 日頃の練習: 指数計算に慣れておくことが大切です。大きな数値や小さな数値を扱う際は、常に\(A \times 10^n\)の形(科学的記数法)で整理する習慣をつけると、計算の見通しが良くなり、ミスも減ります。
- 情報の整理:
- 特に注意すべき点: この問題のように、設問ごとに条件が少しずつ変わる場合、どの設問でどの数値を使うのかが混乱しがちです。
- 日頃の練習: 各設問を解く前に、「この設問での条件:\(T=\dots, \rho=\dots, f=\dots, a=\dots\)」のように、適用する条件を書き出してから立式を始める習慣をつけましょう。これにより、前の設問の数値を誤って使ってしまうミスを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 問1(3) 振動数: \(2000 \text{ Hz}\)は可聴域(20Hz~20000Hz)にあり、楽器の音などとしてあり得る値です。
- 問1(4) 移動距離: 張力を上げて共振させるには、弦を長くする必要がありました。これは、張力を上げると波長が長くなる(\(v\)が大きくなるため)ので、より長い弦長で共振条件を満たす必要がある、という物理的直感と一致します。
- 問2(5) 腹の数: 弦を太く(重く)したら、同じ長さでも腹の数が増えました(6個→12個)。これは、弦が重くなると波長が短くなる(\(v\)が小さくなるため)ので、同じ長さにより多くの半波長が収まるようになる、という物理的直感と一致します。
- 比例関係による検算:
- 問1(4): \(T\)が4倍 \(\rightarrow\) \(v\)が2倍 \(\rightarrow\) \(\lambda\)が2倍(元の10cmから20cmへ)。共振条件は\(a\)が\(\lambda/2=10\)cmの倍数。35cmより大きい最小の倍数は40cm。よって移動距離は5cm。計算結果と一致します。
- 問2(5): \(\rho\)が4倍 \(\rightarrow\) \(v\)が\(1/2\)倍 \(\rightarrow\) \(\lambda\)が\(1/2\)倍(元の10cmから5cmへ)。共振条件は\(a=30\)cmが\(\lambda/2=2.5\)cmの何倍か。\(30/2.5=12\)。腹の数は12個。計算結果と一致します。
- 問2(6): 腹を3個にするには、\(a=30\)cmなので\(\lambda/2 = 10\)cm、つまり\(\lambda=20\)cmが必要。(5)の状態(\(\lambda=5\)cm)から波長を4倍にする必要がある。\(v\)は一定なので、\(f\)は\(1/4\)倍になるはず。(5)のときの\(f\)は2000Hzだったので、\(2000 \times 1/4 = 500\)Hz。計算結果と一致します。
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問題65 (京都工繊大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、性質の異なる2本の弦を連結し、一方の端から振動させたときに生じる定常波(共振現象)を扱います。線密度、弦の長さが異なる各部分で、波長や速さがどうなるか、そして全体の腹の数が指定された条件を満たすためには、各部分に腹がいくつずつできるのかを解き明かす問題です。
- 弦\(L_1\)と弦\(L_2\)を点Bでつないでいる。
- 弦\(L_1\)と弦\(L_2\)の線密度の比は \(1:4\)。弦\(L_1\)の線密度を \(\rho\) とすると、弦\(L_2\)の線密度は \(4\rho\)。
- 弦\(L_2\)の右端CはおんさOにつながれ、振動させられる。
- おんさの振動数: \(f = 200 \text{ Hz}\)。
- 点Bを節として、AC間に合計5つの腹をもつ定常波ができた。
- 弦ABの長さ: \(l_1 = 0.8 \text{ m}\)。
- 弦BCの長さ: \(l_2 = 0.6 \text{ m}\)。
- 2つの弦の張力 \(S\) は等しい。
- 弦\(L_1\)と弦\(L_2\)の振動数も等しく、おんさの振動数 \(f=200 \text{ Hz}\) に等しい。
- (1) 弦AB (\(L_1\)) を伝わる波の波長 \(\lambda_1\) と、弦BC (\(L_2\)) を伝わる波の波長 \(\lambda_2\) はそれぞれいくらか。
- (2) 弦ABを伝わる波の速さ \(v_1\) と、弦BCを伝わる波の速さ \(v_2\) はそれぞれいくらか。
- (3) AC間にできている定常波の形を描け。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)の別解1: 固有振動数の公式を利用する解法
- 主たる解法が、波の速さと波長の比から共振条件を連立させるのに対し、この別解では弦の固有振動数の公式を直接利用し、2本の弦の振動数が等しいという条件から腹の数を決定します。
- 問(1)の別解2: 腹の数の組み合わせから解を絞り込む解法
- 主たる解法が代数的に解を求めるのに対し、この別解では「腹の数の合計が5である」という整数条件と、「線密度が大きい弦の方が波長が短く、腹ができやすい」という物理的考察から、可能性のある腹の数の組み合わせを絞り込み、正しい解を探索的に見つけ出します。
- 問(1)の別解1: 固有振動数の公式を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 固有振動数の公式は多くの現象を包括する強力なツールであり、その適用を学ぶことで理解が深まります。また、腹の数の組み合わせを考える別解は、「重い弦ほど波長が短い」という物理的直感を直接的に問題解決に利用する良い訓練となります。
- 思考の多角化: 同じ問題に対して、物理法則から直接立式して解く方法(主たる解法)、公式を適用する方法(別解1)、そして物理的考察と整数条件で候補を絞る方法(別解2)を学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、連結された弦における共振現象です。異なる種類の弦(線密度が異なる)が繋がっている場合でも、いくつかの重要な共通点があります。それは、張力が共通であること、そして振動数が共通であることです。この共通の振動数はおんさによって強制的に与えられています。これらの共通条件と、それぞれの弦における定常波の形成条件(弦長と波長の関係)を組み合わせることで、問題を解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 弦を伝わる横波の速さ: 弦の張力を \(S\)、線密度を \(\rho\) とすると、波の速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) で与えられます。
- 波の基本式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(v = f\lambda\) の関係があります。
- 定常波の共振条件: 弦の両端(または固定された点)が節となる場合、その間の弦の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍になると共振が起こります。つまり、\(l = n \cdot \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) (ここで \(n\) は腹の数を表します)。
- 接続点における条件: 異なる媒質を波が伝わるとき、一般に振動数は変わりません。また、本問では接続点Bが節となるという特別な条件が与えられています。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 物理量の設定: 弦\(L_1\)の線密度を \(\rho\)、弦\(L_2\)の線密度を \(4\rho\) と設定します。張力 \(S\) は共通です。
- 波の速さの比: 弦\(L_1\)、\(L_2\)における波の速さ \(v_1, v_2\) を、張力 \(S\) とそれぞれの線密度を用いて表し、その比を求めます。
- 波長の比: 振動数 \(f\) が共通であることと、波の基本式 \(v=f\lambda\) を用いて、波長 \(\lambda_1, \lambda_2\) の比を求めます。これは速さの比と同じになります。
- 腹の数の配分: AC間に合計5つの腹があり、点Bが節であることから、弦\(L_1\)上の腹の数を \(n_1\)、弦\(L_2\)上の腹の数を \(n_2\) とすると、\(n_1 + n_2 = 5\) となります。
- 共振条件の立式: 弦\(L_1\)、\(L_2\)それぞれについて、弦の長さ、腹の数、波長を用いて共振条件の式を立てます。
- 連立方程式の求解: 上記の条件式を連立させて、\(n_1, n_2, \lambda_1, \lambda_2\) を求めます。
- 波の速さの計算: 求めた波長と与えられた振動数から、波の速さ \(v_1, v_2\) を計算します。
- 定常波の作図: 求めた腹の数に基づいて、定常波の概形を描きます。