「名問の森」徹底解説(49〜51問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題49 (福井大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、断熱容器内で行われる気体の断熱膨張を、分子運動論の立場から微視的に考察し、体積変化と温度変化の関係を導き出すものです。単原子分子からなる理想気体を対象とし、分子とピストンの弾性衝突を通じてエネルギーのやり取りを考えます。

与えられた条件
  • 断熱容器内に質量 \(m\) の単原子分子からなる理想気体。
  • ピストンPは \(x\) 方向に一定の速度 \(u\) で引き出される(断熱膨張)。
  • ピストンPまでの長さが \(L\) のとき、気体の絶対温度は \(T\)。
  • ある分子の \(x\) 方向の速さを \(v_x\)。
  • 分子の速さ \(v_x\) はピストンの速さ \(u\) に比べて十分大きい (\(v_x \gg u\))。
  • 分子間の衝突は無視する。
  • \(\Delta t\) は微小時間。
問われていること(空欄補充形式)
  1. (1) \(x\) 方向の速さが \(v_x\) の分子がピストンPに弾性衝突した後の、\(x\) 方向の速さ。
  2. (2) 上記衝突による分子の運動エネルギーの減少量(\(u^2\) の項は無視)。
  3. (3) 微小時間 \(\Delta t\) の間での、上記分子のPとの衝突回数。
  4. (4) 微小時間 \(\Delta t\) の間での、上記分子の運動エネルギーの減少量。
  5. (5) 微小時間 \(\Delta t\) の間での体積増加分 \(\Delta V\) ともとの体積 \(V\) との比 \(\Delta V/V\)。
  6. (6) 分子1個あたりの平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\) を \(E\) と \(\Delta V/V\) で表した式。
  7. (7) \(\overline{v_x^2}\) と \(\overline{v^2}\)(速さの2乗平均)の関係。
  8. (8) (6)の結果を、(7)を用いて \(E\) と \(\Delta V/V\) で書き直した式。
  9. (9) 気体の温度変化 \(\Delta T\) を \(T, V, \Delta V\) で表した式。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、気体の断熱膨張の微視的解釈です。通常、断熱変化は熱力学第一法則やポアソンの法則 \(PV^\gamma = \text{一定}\) を用いてマクロに扱われますが、ここでは分子運動論の立場から、分子と動くピストンとの衝突を通じてエネルギーが変化する様子を追跡し、最終的に断熱膨張時の温度と体積の関係を導きます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 弾性衝突: 特に、運動する壁との衝突では、相対速度の考え方が有効。
  • 運動エネルギー: \(\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 平均の概念: 多数の分子を扱うため、速度の2乗平均などを用いる。
  • 気体の内部エネルギーと温度の関係: 単原子分子理想気体では、内部エネルギーは分子の平均運動エネルギーに比例し、絶対温度に比例する。

問題文の誘導に沿って各空欄を埋めていくことで、断熱膨張の本質に迫ります。

(1)

思考の道筋とポイント
分子が \(x\) 方向の速さ \(v_x\) で、\(x\) 方向に速度 \(u\) で動いているピストンPに弾性衝突する場合を考えます。これは動く壁との1次元の弾性衝突と見なせます。衝突後の分子の \(x\) 方向の速度成分 \(v_x’\) を求めます。反発係数 \(e=1\) の式(相対速度の関係)を使うのが簡明です。

この設問における重要なポイント

  • 動く壁との弾性衝突: 衝突後の相対速度の大きさは衝突前の相対速度の大きさに等しく、向きが反対。 \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)。弾性衝突なので \(e=1\)。
  • ピストンは一方的に速度 \(u\) で動き続けると考える。

具体的な解説と立式
分子の衝突前の \(x\) 方向の速度を \(v_x\)、ピストンPの速度を \(u\)(右向き正)とします。衝突後の分子の \(x\) 方向の速度を \(v_x’\) とします。
弾性衝突なので反発係数 \(e=1\) です。相対速度の公式より、
$$v_x’ – u = -1 \cdot (v_x – u) \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 反発係数の式(1次元衝突): \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)
計算過程

式① \(v_x’ – u = -(v_x – u)\) を \(v_x’\) について解きます。
$$v_x’ – u = -v_x + u$$
$$v_x’ = -v_x + 2u$$
衝突後分子は左向き (\(-x\) 方向) に跳ね返るため、その速さ(大きさ)は \(|-v_x + 2u|\) です。\(v_x \gg u\) という条件があるので、\(v_x – 2u > 0\) となり、跳ね返った後の速さは \(v_x – 2u\) となります。

別解(1-1): ピストンと共に動く座標系
ピストンPと同じ速度 \(u\) で動く観測者から見ると、ピストンは静止しています。分子はピストンに対して相対速度 \(v_x – u\) で近づいてきます。弾性衝突なので、分子は同じ相対速度 \(v_x – u\) でピストンから遠ざかります。このときの分子の実際の速度(実験室系での速度)を \(v_x’\) とすると、ピストンから見た分子の速度は \(v_x’ – u\) です。遠ざかる向きなので、\(v_x’ – u = -(v_x – u)\) となります。これを解くと \(v_x’ = -v_x + 2u\)。速さは \(|2u-v_x| = v_x-2u\)(\(v_x \gg u\) より)。

計算方法の平易な説明

逃げる壁(ピストンP)にボール(分子)が追いついて跳ね返る状況です。弾性衝突なので、壁から見たボールの近づく速さと遠ざかる速さは同じです。これを元の静止した座標系に戻して考えると、跳ね返った後の分子の \(x\) 方向の速さが求まります。元の速さ \(v_x\) から \(2u\) だけ遅くなります。

結論と吟味

衝突後の \(x\) 方向の速さは \(v_x – 2u\) となります。ピストンが逃げるため、衝突前より速さが減少するのは直感的にも理解できます。

解答 (1) \(v_x – 2u\)

(2)

思考の道筋とポイント
分子の運動エネルギーの変化を計算します。衝突前の運動エネルギーと衝突後の運動エネルギーの差を取ります。速度の \(y, z\) 成分は衝突によって変化しないため、運動エネルギーの変化は \(x\) 方向の成分の変化のみから生じます。(1)で求めた衝突後の \(x\) 方向の速さを用います。\(v_x \gg u\) なので \(u^2\) の項は無視できるという近似を用います。

この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)。ここでは \(x\) 方向の運動エネルギーの変化に着目。
  • 近似計算: \(v_x \gg u\) を利用して \(u^2\) の項を無視する。
  • エネルギーの減少量なので、(衝突前のエネルギー) – (衝突後のエネルギー) を計算。

具体的な解説と立式
衝突による分子の運動エネルギーの減少 \(\Delta E_{k,1回}\) を求めます。衝突前の \(x\) 方向の速さは \(v_x\)、衝突後の \(x\) 方向の速さは \((v_x-2u)\)。\(y, z\) 方向の速度成分は変化しないので、運動エネルギーの変化は \(x\) 方向の成分の変化から、
$$\Delta E_{k,1回} = \frac{1}{2}mv_x^2 – \frac{1}{2}m(v_x-2u)^2 \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

式②を展開します。
$$\Delta E_{k,1回} = \frac{1}{2}m \left( v_x^2 – (v_x^2 – 4v_x u + 4u^2) \right)$$
$$= \frac{1}{2}m (4v_x u – 4u^2) = 2mv_x u – 2mu^2$$
ここで、\(v_x \gg u\) なので \(u/v_x \ll 1\)。このため、\(2mu^2\) の項は \(2mv_x u\) に比べて十分小さいので無視できます。
よって、
$$\Delta E_{k,1回} \approx 2mv_x u \quad \cdots ③$$

計算方法の平易な説明

衝突によって分子の速さが \(v_x\) から \(v_x-2u\) に変わったので、その前後での運動エネルギー(\(\frac{1}{2} \times \text{質量} \times \text{速さ}^2\))を計算し、その差を取ります。ピストンの速さ \(u\) は分子の速さ \(v_x\) に比べてとても小さいので、計算途中で \(u^2\) が出てくる部分は無視します。

結論と吟味

分子の運動エネルギーは \(2mv_x u\) だけ減少します。ピストンに仕事をすることでエネルギーを失ったと解釈できます。

解答 (2) \(2mv_x u\)

(3)

思考の道筋とポイント
分子がピストンPと衝突してから、容器の左端の壁に衝突し、再びピストンPに戻ってきて衝突するまでの1往復で \(x\) 方向に進む距離は \(2L\) です。微小時間 \(\Delta t\) の間に分子が \(x\) 方向に進む総距離は \(v_x \Delta t\) と近似し、衝突回数を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 衝突サイクルの距離: ピストンと壁の間を1往復する \(x\) 方向の距離は \(2L\)。
  • 微小時間内の \(x\) 方向の移動距離: \(v_x \Delta t\)。

具体的な解説と立式
分子が \(x\) 方向に1回往復してピストンに再度衝突するまでに進む \(x\) 方向の距離は \(2L\) です。微小時間 \(\Delta t\) 内にピストンPと衝突する回数 \(N_{\text{衝突}}\) は、
$$N_{\text{衝突}} = \frac{v_x \Delta t}{2L} \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の距離: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

(上記「具体的な解説と立式」で結論④が導かれているため、追加の計算ステップは不要です。)

計算方法の平易な説明

分子はピストンと壁の間を行ったり来たりします。ピストンに1回ぶつかってから次にまたピストンにぶつかるまでには、\(x\) 方向には \(2L\) の距離を走ります。ごく短い時間 \(\Delta t\) の間に、分子が \(x\) 方向に走る距離はだいたい \(v_x \Delta t\) です。なので、この短い時間に何回ピストンにぶつかるかは、「\(v_x \Delta t\) ÷ \(2L\)」で計算できます。

結論と吟味

衝突回数は \(\displaystyle \frac{v_x \Delta t}{2L}\) 回となります。

解答 (3) \(\displaystyle \frac{v_x \Delta t}{2L}\)

(4)

思考の道筋とポイント
微小時間 \(\Delta t\) の間の分子の運動エネルギーの減少 \(\Delta \epsilon\) は、(2)で求めた1回の衝突で減少する運動エネルギーと、(3)で求めた \(\Delta t\) 間の衝突回数を掛け合わせることで得られます。

この設問における重要なポイント

  • 総エネルギー変化 = (1回あたりのエネルギー変化) × (回数)。

具体的な解説と立式
1回の衝突で減少する運動エネルギーは \(\Delta E_{k,1回} \approx 2mv_x u\) (式③)。
\(\Delta t\) 間の衝突回数は \(N_{\text{衝突}} = \frac{v_x \Delta t}{2L}\) (式④)。
\(\Delta t\) 間の分子の運動エネルギーの総減少量 \(\Delta \epsilon\) は、
$$\Delta \epsilon = (\Delta E_{k,1回}) \times N_{\text{衝突}} \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • (2)と(3)の結果
計算過程

式⑤に式③と式④を代入します。
$$\Delta \epsilon = (2mv_x u) \times \left(\frac{v_x \Delta t}{2L}\right) = \frac{mv_x^2 u \Delta t}{L} \quad \cdots ⑥$$

計算方法の平易な説明

短い時間 \(\Delta t\) の間に、分子の運動エネルギーがどれだけ減るかは、「1回ぶつかったときに減るエネルギー((2)で計算)」×「\(\Delta t\) の間にぶつかる回数((3)で計算)」で求まります。

結論と吟味

この間の分子の運動エネルギーの減少は \(\displaystyle \frac{mv_x^2 u \Delta t}{L}\) となります。

解答 (4) \(\displaystyle \frac{mv_x^2 u \Delta t}{L}\)

(5)

思考の道筋とポイント
微小時間 \(\Delta t\) の間での体積の増加分 \(\Delta V\) ともとの体積 \(V\) との比 \(\Delta V/V\) を求めます。容器の断面積を \(S\) とすると、もとの体積 \(V = SL\)。微小時間 \(\Delta t\) の間にピストンPは \(u\Delta t\) だけ移動するので、体積の増加分 \(\Delta V = S \cdot (u\Delta t)\) となります。

この設問における重要なポイント

  • 体積と断面積・長さの関係: \(V=SL\)。
  • 微小体積変化: \(\Delta V = S \times (\text{ピストンの移動距離})\)。

具体的な解説と立式
容器の断面積を \(S\) とします。もとの体積 \(V\) は、
$$V = SL \quad \cdots ⑦$$
微小時間 \(\Delta t\) の間にピストンPは \(u\Delta t\) だけ右に移動します。このときの体積の増加分 \(\Delta V\) は、
$$\Delta V = S (u\Delta t) \quad \cdots ⑧$$
求めるのは \(\Delta V/V\) です。

使用した物理公式

  • 体積の定義
計算過程

式⑧を式⑦で割ります。
$$\frac{\Delta V}{V} = \frac{S u\Delta t}{SL}$$
断面積 \(S\) が約分されて、
$$\frac{\Delta V}{V} = \frac{u\Delta t}{L} \quad \cdots ⑨$$

計算方法の平易な説明

ピストンが少し動くと、容器の体積が少し増えます。元の体積は「底面積 \(S\) × 長さ \(L\)」。短い時間 \(\Delta t\) にピストンは \(u\Delta t\) だけ動くので、増えた体積は「底面積 \(S\) × \(u\Delta t\)」。「増えた体積 ÷ 元の体積」を計算します。

結論と吟味

体積の増加分ともとの体積との比 \(\Delta V/V\) は \(\displaystyle \frac{u\Delta t}{L}\) となります。

解答 (5) \(\displaystyle \frac{u\Delta t}{L}\)

(6)

思考の道筋とポイント
分子1個あたりの平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\) を求めます。(4)で求めた1個の分子の運動エネルギーの減少量 \(\Delta \epsilon = \frac{mv_x^2 u \Delta t}{L}\) において、\(v_x^2\) をその平均値 \(\overline{v_x^2}\) に置き換えたものが、1個の分子の平均的なエネルギー減少量とみなせます。エネルギーの「変化」\(\Delta E\) は、減少なのでマイナス符号をつけて表します。そして、(5)で求めた \(\frac{\Delta V}{V} = \frac{u\Delta t}{L}\) の関係を用いて式を書き換えます。

この設問における重要なポイント

  • 平均化の操作: 個々の分子の \(v_x^2\) を平均値 \(\overline{v_x^2}\) で代表させる。
  • 変化量 \(\Delta E\) の符号: 減少なので負の値をとる。

具体的な解説と立式
(4)の結果 \(\Delta \epsilon = \frac{mv_x^2 u \Delta t}{L}\) の \(v_x^2\) を平均値 \(\overline{v_x^2}\) で置き換えると、分子1個あたりの平均的なエネルギー減少量は \(\frac{m\overline{v_x^2} u \Delta t}{L}\) となります。
分子の平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\) は、この減少量にマイナス符号をつけたものなので、
$$\Delta E = -\frac{m\overline{v_x^2} u \Delta t}{L} \quad \cdots ⑩$$
(5)の結果 \(\frac{\Delta V}{V} = \frac{u\Delta t}{L}\) を用いて、式⑩を書き換えます。

使用した物理公式

  • (4)と(5)の結果
  • 平均の概念
計算過程

式⑩に \(\frac{u\Delta t}{L} = \frac{\Delta V}{V}\) (式⑨)を代入すると、
$$\Delta E = -m\overline{v_x^2} \frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ⑪$$

計算方法の平易な説明

(4)で、ある1個の分子が短い時間 \(\Delta t\) に失うエネルギーを計算しました。実際にはたくさんの分子がいて、それぞれの \(x\) 方向の速さ \(v_x\) はバラバラです。そこで、\(v_x^2\) の部分を全体の平均値 \(\overline{v_x^2}\) で置き換えて、分子1個あたりの「平均的な」エネルギー変化を考えます。エネルギーは減るので、マイナス符号をつけます。さらに、(5)で見つけた関係を使って、このエネルギー変化の式を書き直します。

結論と吟味

分子の平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\) は \(\displaystyle \Delta E = -m\overline{v_x^2} \frac{\Delta V}{V}\) となります。

解答 (6) \(-m\overline{v_x^2}\)

(7)

思考の道筋とポイント
分子の速さの2乗平均 \(\overline{v^2}\) と、その \(x\) 成分の2乗平均 \(\overline{v_x^2}\) の関係を求めます。分子の速度ベクトル \(\vec{v}\) の成分を \((v_x, v_y, v_z)\) とすると、\(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) です。気体中では分子の運動はあらゆる方向で一様(等方的)と考えられるため、各方向の速度の2乗平均は等しくなると仮定します (\(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\))。

この設問における重要なポイント

  • 三平方の定理(空間): \(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\)。
  • 分子運動の等方性: 平均的には、特定の方向が優先されることはない。 \(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\)。

具体的な解説と立式
分子の速度の2乗は、各成分の2乗の和で表されます。\(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\)。
この式の平均をとると、
$$\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2} \quad \cdots ⑫$$
分子の運動は方向によらず一様(等方的)であると考えると、
$$\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2} \quad \cdots ⑬$$

使用した物理公式

  • 三平方の定理(空間におけるベクトルの大きさ)
  • 分子運動の等方性の仮定
計算過程

式⑫に式⑬を代入すると、
$$\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} = 3\overline{v_x^2}$$
したがって、
$$\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2} \quad \cdots ⑭$$

計算方法の平易な説明

分子の速さの2乗 (\(v^2\)) は、\(x, y, z\) 各方向の速さの成分の2乗を足したもの (\(v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\)) です。たくさんの分子がランダムに動いている場合、平均して考えると、\(x, y, z\) のどの方向も特別扱いされることはありません。なので、\(\overline{v_x^2}\) と \(\overline{v_y^2}\) と \(\overline{v_z^2}\) はだいたい同じ値になると考えられます。このことから、\(\overline{v^2} = 3\overline{v_x^2}\) という関係が成り立ちます。

結論と吟味

\(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) となります。これは分子運動論で頻繁に用いられる重要な関係式です。

解答 (7) \(\displaystyle \frac{1}{3}\)

(8)

思考の道筋とポイント
(6)で求めた \(\Delta E = -m\overline{v_x^2} \frac{\Delta V}{V}\) (式⑪)に、(7)で求めた \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) (式⑭)を代入します。さらに、分子1個あたりの平均運動エネルギー \(E = \frac{1}{2}m\overline{v^2}\) の関係を用いて、\(\Delta E\) を \(E\) と \(\Delta V/V\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • (6)と(7)の結果の組み合わせ。
  • 平均運動エネルギー \(E\) の定義 \(E = \frac{1}{2}m\overline{v^2}\) を利用して式を書き換える。

具体的な解説と立式
式⑪ \(\Delta E = -m\overline{v_x^2} \frac{\Delta V}{V}\) に、式⑭ \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) を代入すると、
$$\Delta E = -m\left(\frac{1}{3}\overline{v^2}\right) \frac{\Delta V}{V} = -\frac{1}{3}m\overline{v^2} \frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ⑮$$
分子1個あたりの平均運動エネルギー \(E\) は \(E = \frac{1}{2}m\overline{v^2}\) なので、\(m\overline{v^2} = 2E\) と書けます。これを式⑮に代入します。

使用した物理公式

  • (6)と(7)の結果
  • 平均運動エネルギーの定義 \(E = \frac{1}{2}m\overline{v^2}\)
計算過程

式⑮に \(m\overline{v^2} = 2E\) を代入すると、
$$\Delta E = -\frac{1}{3}(2E) \frac{\Delta V}{V} = -\frac{2}{3}E \frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ⑯$$

計算方法の平易な説明

(6)で求めた「平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\)」の式に、(7)で見つけた \(\overline{v_x^2}\) と \(\overline{v^2}\) の関係を代入します。さらに、分子1個あたりの平均運動エネルギー \(E\) を使って、最終的に \(\Delta E\) を \(E\) と \(\Delta V/V\) だけで表します。

結論と吟味

\(\Delta E = -\frac{2}{3}E \frac{\Delta V}{V}\) となります。

解答 (8) \(\displaystyle -\frac{2}{3}E\)

(9)

思考の道筋とポイント
気体の絶対温度 \(T\) は、分子の平均運動エネルギー \(E\) に比例します (\(E=aT\)、\(a\) は比例定数)。この関係を用いると、微小変化に対しても \(\Delta E = a\Delta T\) が成り立ち、これから \(\Delta E/E = \Delta T/T\) という関係が得られます。この関係と、(8)で得られた \(\Delta E/E = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V}\) を結びつけることで、\(\Delta T\) を \(T, V, \Delta V\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • 平均運動エネルギーと絶対温度の比例関係: \(E \propto T\)。
  • 微小変化の比例関係から変化率の関係 \(\Delta E/E = \Delta T/T\)。
  • (8)の結果の利用。

具体的な解説と立式
分子の平均運動エネルギー \(E\) は絶対温度 \(T\) に比例するので、\(E=aT\) (\(a\) は比例定数)と書けます。
微小変化 \(\Delta E\) と \(\Delta T\) の間にも \(\Delta E = a\Delta T\) が成り立ちます。
したがって、
$$\frac{\Delta E}{E} = \frac{a\Delta T}{aT} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots ⑰$$
(8)の結果(式⑯)から、\(\frac{\Delta E}{E} = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ⑱\)。
式⑰と式⑱から、
$$\frac{\Delta T}{T} = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ⑲$$
この式から \(\Delta T\) を求めます。

使用した物理公式

  • 平均運動エネルギーと絶対温度の比例関係 \(E \propto T\)
  • (8)の結果
計算過程

式⑲から \(\Delta T\) について解くと、
$$\Delta T = -\frac{2T}{3V}\Delta V \quad \cdots ⑳$$

計算方法の平易な説明

分子の平均運動エネルギー \(E\) は、気体の絶対温度 \(T\) に比例します。なので、\(E\) の変化率 (\(\Delta E/E\)) と \(T\) の変化率 (\(\Delta T/T\)) は等しくなります。(8)で \(\Delta E/E\) が \(\Delta V/V\) を使ってどう表されるかわかったので、これと \(\Delta T/T\) をつなげれば、\(\Delta T\) が \(T, V, \Delta V\) で表せます。

結論と吟味

\(\Delta T = -\frac{2T}{3V}\Delta V\) となります。これは断熱膨張 (\(\Delta V > 0\)) で温度が下がる (\(\Delta T < 0\)) ことを示し、単原子分子理想気体の \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) (\(\gamma=5/3\)) の関係と整合します。

解答 (9) \(\displaystyle -\frac{2T}{3V}\)

【コラム】Q. 断熱変化で体積が3%増すと、温度と圧力はそれぞれ何%減少するか。問(9)の結果を用いてよい(変化は微小と考えてよい)。

思考の道筋とポイント
問(9)で得られた温度と体積の微小変化の関係式 \(\frac{\Delta T}{T} = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V}\) を用いて、体積が3% (\(\Delta V/V = 0.03\)) 増加したときの温度の相対変化を計算します。
次に、圧力の変化率を求めます。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の微小変化を考え、\(\frac{\Delta P}{P}\) を \(\frac{\Delta V}{V}\) と \(\frac{\Delta T}{T}\) で表し、値を代入します。

この設問における重要なポイント

  • 微小変化の関係式の利用: 問(9)の結果 \(\frac{\Delta T}{T} = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V}\)。
  • 状態方程式の微小変化: \(PV=nRT\) から \(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\)。

具体的な解説と立式
体積が3%増すので、\(\frac{\Delta V}{V} = 0.03\)。
問(9)の結果(式⑲)より、温度の相対変化は、
$$\frac{\Delta T}{T} = -\frac{2}{3}\frac{\Delta V}{V} \quad \cdots ㉑$$
圧力の相対変化は、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の両辺の微小変化を考えると(\(n, R\) は定数)、
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots ㉒$$
となります。(2次の微小量 \(\frac{\Delta P}{P}\frac{\Delta V}{V}\) は無視)

使用した物理公式

  • 問(9)の結果
  • 理想気体の状態方程式の微小変化の関係
計算過程

温度の変化率を式㉑から計算します。
$$\frac{\Delta T}{T} = -\frac{2}{3} \times (0.03) = -0.02$$
よって、温度は2%減少します。
次に、圧力の変化率を式㉒から計算します。
$$\frac{\Delta P}{P} + 0.03 = -0.02$$
$$\frac{\Delta P}{P} = -0.02 – 0.03 = -0.05$$
よって、圧力は5%減少します。

計算方法の平易な説明

温度: (9)で見つけた関係「温度の変化率 = \(-\frac{2}{3}\) × 体積の変化率」を使います。体積が3%増えたので、これを式に入れると温度の変化率がわかります。
圧力: 気体の法則 \(PV=nRT\) から、変化が小さいときは「圧力の変化率 + 体積の変化率 = 温度の変化率」が成り立ちます。体積の変化率 (3%増) と計算した温度の変化率 (2%減) をこの式に入れると、圧力の変化率が計算できます。

結論と吟味

体積が3%増すと、温度は2%減少し、圧力は5%減少します。断熱膨張では温度と圧力がともに下がるという一般的な性質と一致しています。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 分子運動論の立場からの気体の断熱膨張の微視的理解と、マクロな熱力学の関係式への接続。
    • 動く壁との衝突によるエネルギー変化。
    • 衝突頻度と平均化の概念。
    • 内部エネルギーと温度の関係。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 気体分子運動論による圧力や温度の導出問題。
    • 断熱変化以外の熱力学過程の微視的考察。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 基本仮定(理想気体、弾性衝突など)の確認。
    2. 1分子の挙動分析(衝突、エネルギー変化)。
    3. 多数分子への拡張(平均化、統計処理)。
    4. マクロな法則との対比。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 動く壁との衝突結果の誤り。
  • エネルギー変化の符号の誤り。
  • 平均化の処理 (\(\overline{v_x^2}\) と \((\overline{v_x})^2\) の混同など)。
  • 微小変化の扱いの誤り。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • ピストンと分子の衝突(逃げる壁にボールを当てるイメージ)。
    • 多数の分子のランダムな運動と壁への衝突。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 相対運動の図示。
    • 座標軸の明示と速度・力の成分。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 弾性衝突の相対速度の式: 問題文の「弾性衝突」から。
  • 運動エネルギーの式: エネルギー変化を問われているため。
  • \(E \propto T\): 理想気体の分子の平均運動エネルギーと絶対温度の比例関係。
  • 状態方程式の微分形(Q): 微小な変化率の関係を見るため。
  • 各公式や関係式の適用条件を理解する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 1分子と動く壁の衝突(速度変化、エネルギー変化)。
  2. 1分子の衝突頻度と短時間での総エネルギー変化。
  3. 体積変化との関連付け。
  4. 多数分子への拡張と平均化(\(\overline{v_x^2}\) から \(E\) へ)。
  5. 温度との関連付け(\(E \propto T\) から \(\Delta T\) へ)。
  6. 微小変化の応用(Q)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 衝突後の速度の符号と大きさ。
    • エネルギー変化の計算での展開と近似。
    • 係数(1/3, 2/3など)の扱い。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 近似計算の練習。
    • 文字式の整理能力。
    • 各ステップの意味の確認。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1): 衝突後に遅くなるのは妥当か。
    • 問(2): エネルギー減少量が正であるのは妥当か。
    • 問(8), (9): 断熱膨張でエネルギー減少、温度降下するのは妥当か。
    • Q: 体積増で温度・圧力減少は断熱膨張の性質と一致するか。
  • 結果が既知の物理法則や現象の一般的な振る舞いと矛盾しないか確認する。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

問題50 (防衛大+横浜国大+岩手大)

ここから先を閲覧するためには有料会員登録ログインが必要です。

PVアクセスランキング にほんブログ村