問題49 分子運動論 (福井大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 相対速度を用いた解法
- 模範解答が「静止系での反発係数の式」を用いるのに対し、別解では「ピストンと共に動く観測者」の視点(相対速度)を用いて衝突現象を解析します。
- 設問(Q)の別解: 微積分を用いた体系的解法(熱力学第一法則とポアソンの法則)
- 模範解答が、設問(9)までの誘導結果(微小変化の近似式)を利用して数値を計算するのに対し、別解では熱力学第一法則の微分形から出発し、ポアソンの法則を導出した上で、対数微分を用いて一気に変化率を計算します。
- 設問(1)の別解: 相対速度を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 相対速度の解法: 観測点を変えることで、動く壁との衝突を「静止した壁との衝突」と同じように単純化して扱えるため、直感的な理解を助け、計算ミスを減らせます。
- 微積分の解法: 設問(1)〜(9)のような長い誘導がなくても、熱力学の基本原理(第一法則と状態方程式)さえあれば、断熱変化のあらゆる関係式(\(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) や \(PV^{\gamma}=\text{一定}\))を自力で導出できることを示します。また、変化率(\(\%\))の問題において「対数微分」が最強のツールであることを実感できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「分子運動論による断熱膨張の微視的解釈」です。気体分子と動くピストンとの衝突を通じて、気体の温度(分子の運動エネルギー)がどのように変化するかを導き出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 反発係数の式: 衝突前後の相対速度の比に関する法則です。弾性衝突では係数が \(1\) になります。
- 運動エネルギーと温度の関係: 理想気体の絶対温度 \(T\) は、分子の平均運動エネルギー \(\overline{K}\) に比例します(\(\overline{K} = \frac{3}{2}kT\))。
- 微小変化の近似: \(x \ll 1\) のとき、\((1+x)^n \approx 1+nx\) や、微小量同士の積を無視する近似を用います。
- 熱力学第一法則(断熱変化): 外部との熱のやり取りがない場合、気体が外部へ仕事を行うと、その分だけ内部エネルギーが減少します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(4)では、1個の分子に着目し、ピストンとの1回の衝突によるエネルギー減少と、単位時間あたりの衝突回数から、エネルギー減少率を求めます。
- (5)〜(9)では、それを気体全体(全分子)に拡張し、体積変化 \(\Delta V\) と温度変化 \(\Delta T\) の関係式を導きます。
- (Q)では、導かれた関係式を用いて、具体的な数値計算を行います。
問(1)
思考の道筋とポイント
分子が速度 \(u\) で動いているピストンに衝突し、跳ね返る現象を考えます。
衝突は「弾性衝突」であるため、反発係数 \(e=1\) の式を立てます。
ピストンも動いているため、単純に速度の符号が変わるだけでなく、ピストンの速度 \(u\) が影響することに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 図に合わせて右向きを正とします。
- 速度の符号: 衝突前の分子の速度は \(v_x\)(右向き)、ピストンの速度は \(u\)(右向き)です。
- 反発係数の定義: \(e = – \frac{\text{衝突後の相対速度}}{\text{衝突前の相対速度}}\) です。
具体的な解説と立式
衝突後の分子の \(x\) 方向の速度を \(v_x’\) とします。
ピストンの速度は衝突前後で変わらず \(u\) とします(ピストンの質量は分子に比べて十分に大きいとみなします)。
反発係数が \(e=1\) であることより、以下の関係式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
v_x’ – u &= -1 \cdot (v_x – u)
\end{aligned}
$$
ここで、左辺は「衝突後のピストンに対する分子の相対速度」、右辺の括弧内は「衝突前のピストンに対する分子の相対速度」を表しています。
使用した物理公式
- 反発係数の式: \(v_A’ – v_B’ = -e(v_A – v_B)\)
式を \(v_x’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_x’ – u &= -v_x + u \\[2.0ex]
v_x’ &= -v_x + 2u
\end{aligned}
$$
求めたいのは「\(x\) 方向の速さ」です。
問題文の条件 \(v_x \gg u\) より、\(v_x > 2u\) と考えられるため、衝突後の速度 \(v_x’\) は負(左向き)となります。
速さ(速度の大きさ)は絶対値をとって求めます。
$$
\begin{aligned}
|v_x’| &= |-v_x + 2u| \\[2.0ex]
&= v_x – 2u
\end{aligned}
$$
逃げていく壁(ピストン)にボール(分子)をぶつけると、止まっている壁にぶつけるよりも勢いなく(遅くなって)跳ね返ってきます。
計算の結果、跳ね返った後の速さは、元の速さ \(v_x\) よりも \(2u\) だけ遅くなることがわかりました。
速さは \(v_x – 2u\) です。
ピストンが止まっている場合(\(u=0\))、速さは \(v_x\) となり、単なる壁との衝突と一致します。
ピストンが逃げる場合(\(u>0\))、速さが減少するという結果は直感と一致します。
思考の道筋とポイント
「ピストンと共に動く人」からこの衝突を見ると、ピストンは静止して見えます。
この視点(相対速度)を利用すると、衝突は「静止した壁への跳ね返り」として単純化できます。
具体的な解説と立式
ピストンと共に速度 \(u\) で動く観測者から見た、衝突前の分子の相対速度 \(v_{\text{相対}}\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{相対}} &= v_x – u
\end{aligned}
$$
この観測者にとって壁(ピストン)は止まっているため、弾性衝突後は、速さはそのままで向きだけが逆になります。
よって、衝突後の相対速度 \(v_{\text{相対}}’\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{相対}}’ &= -(v_x – u)
\end{aligned}
$$
これを静止系(外から見た速度 \(v_x’\))に戻すには、観測者の速度 \(u\) を足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
v_x’ &= v_{\text{相対}}’ + u
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_x’ &= -(v_x – u) + u \\[2.0ex]
&= -v_x + u + u \\[2.0ex]
&= -v_x + 2u
\end{aligned}
$$
速さは \(|v_x’| = v_x – 2u\) となります。
メインの解法と同じ結果が得られました。
「近づく速さ \(v_x – u\) で当たって、同じ速さ \(v_x – u\) で離れていく」と考えると、非常に分かりやすいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
衝突前後の運動エネルギーの差を計算します。
衝突前の速さは \(v_x\)、衝突後の速さは(1)で求めた \(v_x – 2u\) です。
問題文の指示通り、\(u^2\) の項は無視して近似計算を行います。
具体的な解説と立式
衝突前の運動エネルギーを \(K_{\text{前}}\)、衝突後の運動エネルギーを \(K_{\text{後}}\) とします。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{前}} &= \frac{1}{2} m v_x^2 \\[2.0ex]
K_{\text{後}} &= \frac{1}{2} m (v_x – 2u)^2
\end{aligned}
$$
減少量 \(\Delta \epsilon\) は「前のエネルギー」引く「後のエネルギー」です。
$$
\begin{aligned}
\Delta \epsilon &= K_{\text{前}} – K_{\text{後}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
式を代入して展開します。
$$
\begin{aligned}
\Delta \epsilon &= \frac{1}{2} m v_x^2 – \frac{1}{2} m (v_x – 2u)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} m v_x^2 – \frac{1}{2} m (v_x^2 – 4v_x u + 4u^2) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} m v_x^2 – \frac{1}{2} m v_x^2 + 2m v_x u – 2m u^2 \\[2.0ex]
&= 2m v_x u – 2m u^2
\end{aligned}
$$
ここで、問題文より \(v_x \gg u\) なので、\(u^2\) の項を無視します。
$$
\begin{aligned}
\Delta \epsilon &\approx 2m v_x u
\end{aligned}
$$
衝突によって速さが減った分、エネルギーも減りました。
計算してみると、減ったエネルギーの量は \(2mv_xu\) となりました。\(u\)(ピストンの速さ)が速いほど、また \(v_x\)(分子の速さ)が速いほど、1回の衝突で失うエネルギーは大きくなります。
答えは \(2mv_xu\) です。
次元を確認すると、\([\text{M}][\text{L}/\text{T}][\text{L}/\text{T}] = [\text{M}][\text{L}]^2/[\text{T}]^2\) となり、エネルギーの次元(ジュール)と一致しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
分子は容器内を \(x\) 方向に往復運動しています。
1回衝突するためには、容器の長さ \(L\) の2倍の距離(往復 \(2L\))を進む必要があります。
微小時間 \(\Delta t\) の間に分子が進む距離を考え、その中に「往復距離 \(2L\)」が何回含まれるかを計算します。
具体的な解説と立式
時間 \(\Delta t\) の間に分子が進む総距離 \(D\) は、速さ \(v_x\) を用いて以下のように表せます(\(u\) は小さく、\(\Delta t\) は短いため、\(L\) や \(v_x\) は一定とみなします)。
$$
\begin{aligned}
D &= v_x \Delta t
\end{aligned}
$$
1回の衝突に必要な移動距離は \(2L\) です。
したがって、衝突回数 \(n\) は以下の割り算で求まります。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{D}{2L}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ \(\times\) 時間
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{v_x \Delta t}{2L}
\end{aligned}
$$
分子は箱の中を行ったり来たりしています。行って帰ってくる距離(\(2L\))ごとに1回壁にぶつかります。
「全部でどれだけ進んだか」を「1往復の距離」で割れば、何回ぶつかったかがわかります。
答えは \(\displaystyle \frac{v_x \Delta t}{2L}\) です。
速さ \(v_x\) が大きいほど、また箱の長さ \(L\) が短いほど、衝突回数は増えます。これは直感的に正しいです。
問(4)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた「1回あたりのエネルギー減少量」に、(3)で求めた「衝突回数」を掛ければ、時間 \(\Delta t\) における総エネルギー減少量が求まります。
具体的な解説と立式
エネルギー減少の総量 \(\Delta E_{\text{個}}\)(1個の分子によるもの)は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
\Delta E_{\text{個}} &= (\text{1回の減少量}) \times (\text{衝突回数}) \\[2.0ex]
&= \Delta \epsilon \times n
\end{aligned}
$$
(2)の結果 \(2mv_xu\) と (3)の結果 \(\frac{v_x \Delta t}{2L}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E_{\text{個}} &= (2m v_x u) \times \left( \frac{v_x \Delta t}{2L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2m v_x^2 u \Delta t}{2L} \\[2.0ex]
&= \frac{m v_x^2 u}{L} \Delta t
\end{aligned}
$$
「1回ぶつかるとこれだけ減る」という量に、「何回ぶつかったか」を掛け算して、トータルの減少量を計算しました。
答えは \(\displaystyle \frac{m v_x^2 u}{L} \Delta t\) です。
問(5)
思考の道筋とポイント
ピストンが動くことによる容器の体積変化 \(\Delta V\) を幾何学的に求めます。
また、元の体積 \(V\) との比 \(\frac{\Delta V}{V}\) を計算します。
具体的な解説と立式
容器の断面積を \(S\) とします。
元の体積 \(V\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
V &= SL
\end{aligned}
$$
時間 \(\Delta t\) の間にピストンは距離 \(u \Delta t\) だけ動きます。
これによる体積の増加分 \(\Delta V\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= S \times (u \Delta t)
\end{aligned}
$$
求めたいのは比 \(\frac{\Delta V}{V}\) です。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta V}{V} &= \frac{S u \Delta t}{S L} \\[2.0ex]
&= \frac{u \Delta t}{L}
\end{aligned}
$$
体積がどれくらいの割合で増えたかを計算しました。
断面積 \(S\) は分母と分子で約分されて消えるため、結局は「長さがどれくらいの割合で伸びたか(伸びた長さ \(u\Delta t\) ÷ 元の長さ \(L\))」と同じことになります。
答えは \(\displaystyle \frac{u \Delta t}{L}\) です。
この式は、(4)の解答に含まれているパーツと同じ形をしています。これを使って次の設問で式を整理することになります。
問(6)
思考の道筋とポイント
ここからは分子1個ではなく、気体全体(全分子)の平均的な振る舞いを考えます。
(4)で求めたエネルギー減少量は、特定の速度 \(v_x\) を持つ分子に関するものでした。
これを平均化するために、\(v_x^2\) を平均値 \(\overline{v_x^2}\) に置き換えます。
また、(5)の結果を利用して、式を \(\frac{\Delta V}{V}\) を用いた形に変形します。
具体的な解説と立式
分子1個あたりの平均運動エネルギーの変化 \(\Delta E\) は、減少量の符号をマイナスにして表します(「変化」なので、減る場合は負の値)。
(4)の式の \(v_x^2\) を平均値 \(\overline{v_x^2}\) に置き換えます。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – (\text{平均減少量}) \\[2.0ex]
&= – \frac{m \overline{v_x^2} u}{L} \Delta t
\end{aligned}
$$
ここで、(5)より \(\frac{\Delta V}{V} = \frac{u \Delta t}{L}\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – m \overline{v_x^2} \left( \frac{u \Delta t}{L} \right) \\[2.0ex]
&= – m \overline{v_x^2} \cdot \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
個々の分子の速度はバラバラですが、全体として平均をとるとどうなるかを考えました。
また、式の形を整理して、「体積がこれだけ増えると、エネルギーはこれだけ減る」という関係式に書き換えました。
答えは \(\displaystyle – m \overline{v_x^2} \cdot \frac{\Delta V}{V}\) です。
体積が増える(\(\Delta V > 0\))と、エネルギー変化は負(\(\Delta E < 0\))になり、温度が下がることを示唆しています。
問(7)
思考の道筋とポイント
気体分子はあらゆる方向にランダムに運動しています。
この「等方性」により、\(x, y, z\) 各方向の速度成分の二乗平均は等しくなります。
具体的な解説と立式
速度ベクトルの大きさの二乗 \(v^2\) は、各成分の二乗の和です。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= v_x^2 + v_y^2 + v_z^2
\end{aligned}
$$
平均をとってもこの関係は成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\overline{v^2} &= \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2}
\end{aligned}
$$
空間の等方性(どの方向も特別ではない)により、各成分の平均値は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\overline{v_x^2} &= \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}
\end{aligned}
$$
これらを連立します。
$$
\begin{aligned}
\overline{v^2} &= \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} \\[2.0ex]
&= 3 \overline{v_x^2}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\overline{v_x^2} &= \frac{1}{3} \overline{v^2}
\end{aligned}
$$
分子はデタラメな方向に飛び回っているので、\(x\) 方向だけ特別に速いとか遅いということはありません。
\(x, y, z\) の3つの方向に均等に勢いが分散されているので、\(x\) 方向の勢い(二乗平均)は全体の \(\frac{1}{3}\) になります。
答えは \(\displaystyle \frac{1}{3} \overline{v^2}\) です。
問(8)
思考の道筋とポイント
(6)で求めた式に、(7)の結果と、分子1個あたりの平均運動エネルギー \(E = \frac{1}{2} m \overline{v^2}\) の定義を代入して、\(\Delta E\) を \(E\) と \(\Delta V\) で表します。
具体的な解説と立式
(6)の式:
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – m \overline{v_x^2} \cdot \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
これに (7)の \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3} \overline{v^2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – m \left( \frac{1}{3} \overline{v^2} \right) \cdot \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
一方、平均運動エネルギー \(E\) は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2} m \overline{v^2}
\end{aligned}
$$
式を変形します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – \frac{2}{3} \cdot \left( \frac{1}{2} m \overline{v^2} \right) \cdot \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
括弧内を \(E\) に置き換えます。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= – \frac{2}{3} E \cdot \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
これまでの計算結果を組み合わせて、「エネルギーの変化量」を「今のエネルギー」と「体積の変化率」だけで表すきれいな式を作りました。
係数の \(-\frac{2}{3}\) は、単原子分子理想気体の性質(自由度3)から来ています。
答えは \(\displaystyle -\frac{2}{3}\) です。
問(9)
思考の道筋とポイント
理想気体の平均運動エネルギー \(E\) は絶対温度 \(T\) に比例します(\(E = \frac{3}{2}kT\))。
この比例関係を利用して、(8)のエネルギーの式を温度の式に変換します。
具体的な解説と立式
\(E\) と \(T\) は比例するので、定数 \(a\) を用いて \(E = aT\) と書けます。
変化量についても同様に \(\Delta E = a \Delta T\) が成り立ちます。
これより、変化率同士は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta E}{E} &= \frac{a \Delta T}{a T} \\[2.0ex]
&= \frac{\Delta T}{T}
\end{aligned}
$$
(8)の結果を変形すると以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta E}{E} &= – \frac{2}{3} \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
2つの式より、
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta T}{T} &= – \frac{2}{3} \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\Delta T &= – \frac{2}{3} T \cdot \frac{\Delta V}{V} \\[2.0ex]
&= – \frac{2}{3} \frac{T}{V} \Delta V
\end{aligned}
$$
解答欄の形式 \(\Delta T = [9] \cdot \Delta V\) に合わせると、係数は \(-\frac{2T}{3V}\) となります。
エネルギーと温度は比例する(エネルギーが1%減れば温度も1%下がる)ので、さっき作ったエネルギーの式をそのまま温度の式に読み替えました。
これで、「体積を少し広げると、温度がどれくらい下がるか」を計算する公式が完成しました。
答えは \(\displaystyle -\frac{2T}{3V}\) です。
体積が増加(\(\Delta V > 0\))すると温度が減少(\(\Delta T < 0\))するという、断熱膨張の性質を正しく表しています。
問(Q)
思考の道筋とポイント
(9)で導いた温度変化の式と、理想気体の状態方程式を用いて、具体的な数値計算を行います。
体積が \(3\,\%\) 増加するということは、\(\frac{\Delta V}{V} = 0.03\) です。
温度変化率 \(\frac{\Delta T}{T}\) と圧力変化率 \(\frac{\Delta P}{P}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 微小変化の扱い: 変化率が数パーセント程度と小さい場合、微分形式(\(\Delta\) を用いた線形近似)が有効です。
- 状態方程式の微小変化: \(PV=nRT\) の両辺の対数をとって微分する(あるいは積の微分の形にする)と、\(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\) という便利な関係式が得られます。
具体的な解説と立式
まず、温度変化率を求めます。
(9)の結論より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta T}{T} &= – \frac{2}{3} \frac{\Delta V}{V}
\end{aligned}
$$
次に、圧力変化率を求めるために状態方程式 \(PV = nRT\) を考えます。
微小変化に対しては以下の関係式が成り立ちます(導出は後述の別解参照)。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} &= \frac{\Delta T}{T}
\end{aligned}
$$
**1. 温度変化率の計算**
\(\frac{\Delta V}{V} = 0.03\) を式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta T}{T} &= – \frac{2}{3} \times 0.03 \\[2.0ex]
&= – 0.02
\end{aligned}
$$
したがって、温度は \(2\,\%\) 減少します。
**2. 圧力変化率の計算**
式に、\(\frac{\Delta V}{V} = 0.03\) と \(\frac{\Delta T}{T} = -0.02\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta P}{P} + 0.03 &= – 0.02 \\[2.0ex]
\frac{\Delta P}{P} &= – 0.02 – 0.03 \\[2.0ex]
&= – 0.05
\end{aligned}
$$
したがって、圧力は \(5\,\%\) 減少します。
まず、さっき作った公式を使って温度の変化を計算しました。体積が3%増えると、その \(\frac{2}{3}\) 倍、つまり2%だけ温度が下がります。
次に、「圧力×体積」と「温度」が比例するというボイル・シャルルの法則(状態方程式)を使って圧力の変化を計算しました。
「圧力の変化」+「体積の変化(3%)」=「温度の変化(-2%)」となるので、圧力は合計で5%減ることになります。
温度は \(2\,\%\) 減少、圧力は \(5\,\%\) 減少。
断熱膨張では温度も圧力も下がります。特に圧力は、体積膨張による減少と温度低下による減少のダブルパンチを受けるため、減少幅が大きくなります(\(5\% > 3\%\))。これは物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
設問(1)〜(9)の誘導に乗らずとも、熱力学の基本原理(第一法則)と微積分を用いれば、断熱変化の関係式(ポアソンの法則)を一発で導出できます。
さらに、「対数微分」というテクニックを使えば、変化率(\(\%\))の計算が劇的に簡単になります。
具体的な解説と立式
**1. ポアソンの法則の導出**
断熱変化では、外部との熱のやり取りがないため \(dQ = 0\) です。
熱力学第一法則 \(dQ = dU + P dV\) より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
dU + P dV &= 0
\end{aligned}
$$
単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\) なので、その微分は \(dU = \frac{3}{2}nR dT\) です。
また、状態方程式 \(PV = nRT\) より \(P = \frac{nRT}{V}\) です。
これらを式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2}nR dT + \frac{nRT}{V} dV &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を \(nRT\) で割って変数分離します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2} \frac{dT}{T} + \frac{dV}{V} &= 0
\end{aligned}
$$
この式を積分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2} \ln T + \ln V &= \text{一定} \\[2.0ex]
\ln (T^{\frac{3}{2}} V) &= \text{一定} \\[2.0ex]
T V^{\frac{2}{3}} &= \text{一定} \quad (\text{ポアソンの法則})
\end{aligned}
$$
**2. 対数微分による変化率の計算**
上記の微分方程式 \(\frac{3}{2} \frac{dT}{T} + \frac{dV}{V} = 0\) は、微小変化 \(\Delta\) を用いてそのまま書き換えられます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2} \frac{\Delta T}{T} + \frac{\Delta V}{V} &= 0
\end{aligned}
$$
同様に、状態方程式 \(PV = nRT\) の両辺の対数をとり、全微分をとります。
$$
\begin{aligned}
\ln P + \ln V &= \ln nR + \ln T \\[2.0ex]
\frac{dP}{P} + \frac{dV}{V} &= \frac{dT}{T}
\end{aligned}
$$
これも微小変化の式に直します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} &= \frac{\Delta T}{T}
\end{aligned}
$$
式に \(\frac{\Delta V}{V} = 0.03\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2} \frac{\Delta T}{T} + 0.03 &= 0 \\[2.0ex]
\frac{\Delta T}{T} &= – 0.03 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= – 0.02
\end{aligned}
$$
よって温度は \(2\,\%\) 減少。
次に、式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta P}{P} + 0.03 &= – 0.02 \\[2.0ex]
\frac{\Delta P}{P} &= – 0.05
\end{aligned}
$$
よって圧力は \(5\,\%\) 減少。
「断熱変化」という条件を数式(微分方程式)にし、それを解くことで、温度と体積の間に成り立つ厳密なルール(ポアソンの法則)を導きました。
また、変化率の計算では、掛け算を足し算に変換できる「対数微分」という魔法のようなテクニックを使うことで、面倒な計算を回避して瞬時に答えを出しました。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。
この解法は、誘導がなくても自力で答えにたどり着ける強力な武器になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 微視的視点と巨視的視点の橋渡し
- 核心: この問題の最大のテーマは、分子1個の衝突という「ミクロな力学現象」を積み重ねることで、気体全体の温度や圧力の変化という「マクロな熱力学現象」を説明できる点にあります。
- 理解のポイント:
- 力学パート: 反発係数の式や運動量変化を用いて、1回の衝突でのエネルギー損失を計算します。
- 統計パート: 「全分子数」や「平均値」を用いて個々の現象を全体に拡張し、さらに「等方性(\(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\))」を用いて方向の偏りを解消します。
- 熱力学パート: 最終的に得られたエネルギー変化の式を、温度 \(T\) や圧力 \(P\) の式に翻訳します。
- 断熱変化の本質的理解
- 核心: 「断熱膨張すると温度が下がる」という現象は、数式上の結果だけでなく、物理的には「分子が逃げる壁(ピストン)に衝突して速度を失うから」という明確な理由があります。
- 理解のポイント: 逆に「断熱圧縮」の場合は、迫ってくる壁に衝突して分子が加速されるため、温度が上がります。このイメージを持つことで、計算結果の符号ミス(プラスマイナス)を直感的に防げます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 容器の形状が異なる問題: 立方体容器や球形容器でも、壁との衝突回数を「(速さ)÷(往復距離)」で求める考え方は共通です。
- 重力が関わる気体分子運動: 分子が重力の影響を受けて放物運動する場合でも、微小時間 \(\Delta t\) であれば等速直線運動とみなして近似計算する手法が使えます。
- 混合気体の問題: 質量の異なる分子が混ざっていても、それぞれの分子について運動エネルギーの変化を計算し、最後に足し合わせる(平均をとる)手順は変わりません。
- 初見の問題での着眼点:
- 「1個」から「全体」へ: いきなり気体全体を考えるのではなく、まず「分子1個が1回の衝突でどうなるか」を丁寧に計算します。
- 近似のサインを見逃さない: 「\(v \gg u\)」や「微小変化」という言葉があったら、\((1+x)^n \approx 1+nx\) や \(u^2 \approx 0\) といった近似計算の準備をします。
- 次元(単位)の確認: 複雑な文字式の計算では、途中で次元が合っているか(エネルギーならジュール、回数なら無次元など)をこまめにチェックします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 相対速度と反発係数の符号ミス:
- 誤解: 動く壁との衝突で、反発係数の式 \(v’ – V = -e(v – V)\) の \(V\)(壁の速度)の符号を間違える。特に壁が「近づく」のか「遠ざかる」のかで符号が逆転します。
- 対策: 座標軸をしっかり設定し、速度の向き(プラスマイナス)を図に書き込みます。また、別解で示した「壁と共に動く視点」を持つと、ミスを劇的に減らせます。
- 二乗平均と平均の二乗の混同:
- 誤解: \(\overline{v^2}\)(二乗の平均)と \((\overline{v})^2\)(平均の二乗)を混同してしまう。
- 対策: エネルギーは \(v^2\) に比例するので、必ず「二乗してから平均」をとります。等方性の式 \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) は二乗平均でのみ成り立ちます。
- 変化率計算での符号ミス:
- 誤解: 「減少する」と問われているのに、マイナスのついた値(例: \(-2\%\))を答えてしまう、あるいはその逆。
- 対策: \(\Delta T\) は「変化量(後-前)」なので、減少すれば負になります。「減少率は?」と聞かれたら正の値(\(2\%\))、「変化率は?」と聞かれたら負の値(\(-2\%\))で答えるのが一般的ですが、文脈によります。解答形式に注意しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(反発係数 vs 相対速度):
- 選定理由: 模範解答の反発係数の式は、定義通りに立式できるため汎用性が高いです。一方、別解の相対速度の考え方は、現象を単純化できるため直感的な理解に適しています。
- 適用根拠: どちらもガリレイ変換の原理に基づいており、物理的に等価です。計算しやすい方を選べばOKです。
- 問(Q)での公式選択(状態方程式の微分形):
- 選定理由: \(PV=nRT\) に数値を代入して計算してから引き算をする方法(模範解答の別解的なアプローチ)もありますが、計算が煩雑になります。対数微分を用いた \(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\) の形を使えば、変化率同士の足し算引き算だけで済むため、圧倒的に速く正確です。
- 適用根拠: 変化率が数%程度と小さい場合、関数の線形近似(接線近似)が非常に良い精度で成り立つため、微分形式の利用が正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 対数微分の活用(変化率の計算):
- 積 \(A = BC\) の変化率は \(\frac{\Delta A}{A} = \frac{\Delta B}{B} + \frac{\Delta C}{C}\)、商 \(A = B/C\) の変化率は \(\frac{\Delta A}{A} = \frac{\Delta B}{B} – \frac{\Delta C}{C}\)、累乗 \(A = B^n\) の変化率は \(\frac{\Delta A}{A} = n \frac{\Delta B}{B}\) となります。これを覚えておくと、物理のあらゆる分野(誤差評価など)で役立ちます。
- 係数のチェック:
- \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) の係数 \(1/3\) や、単原子分子の内部エネルギーの係数 \(3/2\) など、統計力学特有の係数は忘れがちです。「3次元だから3で割る」「自由度が3だから3/2」といった物理的な意味とセットで記憶しましょう。
- 極限的なケースでの検算:
- もしピストンが止まっていたら(\(u=0\))? エネルギー変化は \(0\) になるはずです。式(4)などで \(u=0\) を代入して確認しましょう。
- もし体積が変わらなかったら(\(\Delta V=0\))? 温度も変わらないはずです。式(9)などで確認しましょう。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題50 熱力学 (防衛大+横浜国大+岩手大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(シ)の後の別解: 微積分を用いた熱力学過程の体系的解析
- 模範解答が各変化ごとの公式(シャルルの法則やポアソンの法則の結果など)を個別に適用するのに対し、別解では熱力学第一法則の微分形と状態方程式から出発し、定圧・等温・定積・断熱の全過程における仕事、熱量、内部エネルギー変化を統一的に導出します。
- 設問(シ)の後の別解: 微積分を用いた熱力学過程の体系的解析
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の暗記に頼らず、「エネルギー保存則(第一法則)」と「状態方程式」という2つの基本原理から全ての熱力学現象を説明できることを理解でき、応用力が飛躍的に向上するため。
- 特に断熱変化におけるポアソンの法則や仕事の関係式が、魔法の公式ではなく、数学的な必然として導かれる過程を確認できるため。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「理想気体の熱力学サイクル」です。定圧、等温、定積、断熱という代表的な4つの状態変化を組み合わせたサイクルを通して、仕事、熱量、内部エネルギーの関係を総合的に理解します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: 気体に出入りするエネルギーの収支関係です。気体が吸収した熱量を \(Q\)、気体の内部エネルギーの変化量を \(\Delta U\)、気体が外部へした仕事を \(W_{\text{した}}\)(またはされた仕事を \(W_{\text{された}}\))とすると、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta U + W_{\text{した}} \\[2.0ex]
\Delta U &= Q + W_{\text{された}}
\end{aligned}
$$ - 理想気体の内部エネルギー: 温度 \(T\) のみの関数であり、定積モル比熱 \(C_V\) を用いて表されます。変化の種類(定圧や断熱など)に関わらず、常に以下の式が成立します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= n C_V \Delta T
\end{aligned}
$$ - \(P-V\) グラフと仕事: グラフの曲線と横軸(\(V\) 軸)で囲まれた面積は、気体がした(またはされた)仕事の大きさを表します。
- 体積増加(膨張) \(\rightarrow\) 外部へ仕事をする(正の仕事)。
- 体積減少(圧縮) \(\rightarrow\) 外部から仕事をされる(負の仕事)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各区間の変化の種類(定圧、等温、定積、断熱)を特定し、それぞれの特徴(例:等温なら \(\Delta T=0\)、断熱なら \(Q=0\))を把握します。
- \(P-V\) グラフの形状から、体積の増減(仕事の正負)や温度の大小関係を読み取ります。
- 熱力学第一法則と比熱の定義式(\(Q=nC_P\Delta T\) など)を組み合わせて、各物理量を計算します。
問(ア)〜(オ)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?