「名問の森」徹底解説(43〜45問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題43 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、互いに逆向きに回転する2つのローラーの上に置かれた一様な板の運動を扱います。最初は糸で引かれて静止しており、そのときの力のつり合いを考えます。次に糸を切った後の板の振動(単振動)について、そして最後にローラーの回転を止めた後の板の滑走について考察します。動摩擦力が重要な役割を果たす問題です。

与えられた条件
  • 互いに逆向きに高速で回転する2つのローラーが、距離 \(2l\) を隔てて置かれている。
  • その上に質量 \(M\) の一様な板が水平に置かれている。
  • 初期状態では、板は糸で壁に結ばれて静止しており、その重心Gは2つのローラーの中点O (\(x=0\)) から右に \(d\) だけ離れた点 (\(x=d\)) にある。
  • 板の厚みは無視できる。
  • \(0 < d < l\)。
  • 板とローラーの間の動摩擦係数は \(\mu\)。
  • 重力加速度を \(g\) とする。
問われていること
  1. (1) 板が静止しているとき、左右のローラーが板に及ぼしている垂直抗力と、糸の張力を求めること。
  2. (2) 糸を切った後、板が振動するときの周期と速さの最大値を求めること。
  3. (3) 板の重心Gが点Oを左へ通過するときにローラーの回転を瞬時に止めた場合、板が左に滑って停止するまでの距離 \(D\) を求めること。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、摩擦力が関与する剛体のつり合いと単振動、そして仕事とエネルギーの関係です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 剛体の力のつり合い: 物体が静止している状態では、並進運動に関する力のつり合い(合力が0)と、回転運動に関する力のモーメントのつり合い(任意の点のまわりのモーメントの和が0)が成り立ちます(問(1))。
  • 動摩擦力: 接触面間で滑りが生じているときに働く力で、その向きは滑りを妨げる向き、大きさは垂直抗力に比例します(\(f’ = \mu N\))。ローラーの回転方向と板の相対運動から摩擦力の向きを正確に把握することが重要です。
  • 運動方程式と単振動: 物体に働く合力が、あるつり合いの位置からの変位に比例し、変位と逆向きである場合(復元力 \(F=-Kx\))、物体は単振動をします(問(2))。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則): 特に、動摩擦力のような非保存力が仕事をする場合、その仕事の分だけ力学的エネルギーが変化します(問(3))。

これらの法則を、各設問の状況に合わせて段階的に適用していくことで、問題を解決できます。
全体的な戦略としては、まず(1)で板に働く力を図示し、力のつり合いとモーメントのつり合いから垂直抗力と張力を求めます。(2)では糸を切った後の水平方向の合力を調べ、単振動の条件を満たすか確認し、周期と最大速度を計算します。(3)ではローラー停止後の動摩擦力による仕事と運動エネルギー変化の関係から滑走距離を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
板は静止しているので、力のつり合いとモーメントのつり合いが成り立っています。
まず、板に働く力をすべて図示します。鉛直方向には重力と左右のローラーからの垂直抗力。水平方向には糸の張力と左右のローラーからの動摩擦力。ローラーは高速で回転しているので、板との間には滑りが生じており、動摩擦力が働きます。動摩擦力の向きは、ローラーの回転が板をどちらへ引きずろうとするかで決まります。
未知数は左右の垂直抗力 \(N_1, N_2\)(左のローラーから受ける垂直抗力を \(N_1\)、右を \(N_2\) とする)と糸の張力 \(S\) です。これらを求めるために、以下の3つのつり合いの式を立てます。
1. 鉛直方向の力のつり合い。
2. 任意の点のまわりの力のモーメントのつり合い(重心Gのまわりで考えると計算が少し楽になる場合があります)。
3. 水平方向の力のつり合い。

この設問における重要なポイント

  • 剛体のつり合い条件: \(\sum F_y = 0\), \(\sum F_x = 0\), \(\sum M = 0\)。
  • 動摩擦力の向きの決定: 左のローラーは板に対し右向きに、右のローラーは板に対し左向きに動摩擦力を及ぼします。
    • 左ローラーは図で反時計回りに回転しており、板との接点ではローラー表面が右へ動こうとするため、板を右へ引きずる動摩擦力 \(\mu N_1\) を及ぼす。
    • 右ローラーは図で時計回りに回転しており、板との接点ではローラー表面が左へ動こうとするため、板を左へ引きずる動摩擦力 \(\mu N_2\) を及ぼす。
  • モーメントの計算: 腕の長さを正確に求める。重心Gの位置は \(x=d\)。ローラーの中点Oが \(x=0\)。左右のローラーの接点はそれぞれ \(x=-l\) と \(x=l\) の位置にあると解釈できます。

具体的な解説と立式
板に働く力は以下の通りです(右向きを \(x\) 軸の正、鉛直上向きを \(y\) 軸の正とします)。重力 \(Mg\)、左のローラーからの垂直抗力 \(N_1\) と動摩擦力 \(\mu N_1\)、右のローラーからの垂直抗力 \(N_2\) と動摩擦力 \(\mu N_2\)、糸の張力 \(S\)。板の重心Gの位置は \(x=d\) です。

鉛直方向の力のつり合いより:
$$N_1 + N_2 = Mg \quad \cdots ①$$

重心G (\(x=d\)) のまわりの力のモーメントのつり合いより(反時計回りを正とする):
$$N_1(l+d) – N_2(l-d) = 0 \quad \cdots ②$$

水平方向の力のつり合いより:
$$\mu N_1 + S – \mu N_2 = 0 \quad \cdots ③$$
これらの式①、②、③を解いて \(N_1, N_2, S\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_y = 0\), \(\sum F_x = 0\)
  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
計算過程

式②より、\(N_2 = N_1 \frac{l+d}{l-d}\)。これを式①に代入します。
$$N_1 + N_1 \frac{l+d}{l-d} = Mg$$
左辺を通分し、計算を進めると、
$$N_1 \left(1 + \frac{l+d}{l-d}\right) = Mg$$
$$N_1 \left(\frac{l-d+l+d}{l-d}\right) = Mg$$
$$N_1 \frac{2l}{l-d} = Mg$$
よって、
$$N_1 = \frac{l-d}{2l}Mg \quad \cdots ④$$
次に \(N_2\) を求めます。式①より \(N_2 = Mg – N_1\)。
$$N_2 = Mg – \frac{l-d}{2l}Mg = Mg \left(\frac{2l-(l-d)}{2l}\right) = \frac{l+d}{2l}Mg \quad \cdots ⑤$$
最後に、求めた \(N_1\) と \(N_2\) を式③に代入して \(S\) を求めます。式③は \(S = \mu(N_2 – N_1)\) と変形できます。
$$N_2 – N_1 = \frac{l+d}{2l}Mg – \frac{l-d}{2l}Mg = \frac{Mg}{2l}(2d) = \frac{d}{l}Mg$$
したがって、
$$S = \mu \left(\frac{d}{l}Mg\right) = \frac{\mu d}{l}Mg \quad \cdots ⑥$$

別解(1-1): 垂直抗力 \(N_1, N_2\) の計算 (ローラーとの接点のまわりのモーメント)
思考の道筋とポイント
垂直抗力 \(N_1, N_2\) を求める際に、一方のローラーと板の接点のまわりのモーメントのつり合いを考えると、その接点での垂直抗力と摩擦力のモーメントが0になるため、式が簡単になります。

この設問における重要なポイント

  • モーメントの中心を工夫することで、未知数を減らした方程式を立てることができます。
  • 力の作用点と腕の長さを正確に把握することが重要です。

具体的な解説と立式
左のローラーと板の接点(\(x=-l\))のまわりの力のモーメントのつり合い(反時計回りを正):
$$N_2(2l) – Mg(l+d) = 0 \quad \cdots ②_{\text{別1}}$$
右のローラーと板の接点(\(x=l\))のまわりの力のモーメントのつり合い(反時計回りを正):
$$Mg(l-d) – N_1(2l) = 0 \quad \cdots ②_{\text{別2}}$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
計算過程

式②別1 より \(N_2\) を求めます。
$$N_2 = \frac{l+d}{2l}Mg$$
式②別2 より \(N_1\) を求めます。
$$N_1 = \frac{l-d}{2l}Mg$$
これらの結果は、先の計算過程で得られた式④、⑤と一致します。

計算方法の平易な説明

板が静止しているので、上下方向の力、左右方向の力、そして回転させようとする力(モーメント)がすべてつり合っています。
1. 上下の力のつり合い: 「\(N_1 + N_2 = Mg\)」
2. 回転の力のつり合い (モーメント): 例えば重心Gのまわりで、「\(N_1 \times (\text{Gまでの距離}) = N_2 \times (\text{Gまでの距離})\)」
3. 左右の力のつり合い: 「糸の張力 \(S\) + 左からの摩擦力 = 右からの摩擦力」
これらの3つの式を連立して解くことで、\(N_1, N_2, S\) が求まります。別解では、モーメントのつり合いを考える中心をローラーの接点にすることで、計算を少し簡単にしています。

結論と吟味

左のローラーが板に及ぼしている垂直抗力 \(N_1\) は \(\displaystyle N_1 = \frac{l-d}{2l}Mg\)。
右のローラーが板に及ぼしている垂直抗力 \(N_2\) は \(\displaystyle N_2 = \frac{l+d}{2l}Mg\)。
糸の張力 \(S\) は \(\displaystyle S = \frac{\mu d}{l}Mg\)。
重心Gが右にずれている (\(d>0\)) ため、右のローラーにかかる垂直抗力 \(N_2\) の方が左の \(N_1\) よりも大きくなっています。これは物理的に妥当です。

解答 (1) 垂直抗力(左): \(\displaystyle \frac{l-d}{2l}Mg\), 垂直抗力(右): \(\displaystyle \frac{l+d}{2l}Mg\), 張力: \(\displaystyle \frac{\mu d}{l}Mg\)

問(2)

思考の道筋とポイント
糸を切ると、板は張力 \(S\) を失い、動摩擦力によって水平方向に運動を始めます。この運動が単振動であるかを確認し、周期と最大速度を求めます。
板の重心Gが一般の位置 \(x\) にあるとき(原点はO)、左右のローラーからの垂直抗力 \(N_1(x), N_2(x)\) は、問(1)の結果の \(d\) を \(x\) に置き換えることで得られます。
水平方向の合力 \(F_x\) は、左右のローラーからの動摩擦力の差となります。この \(F_x\) が \(x\) に比例する復元力 (\(-Kx\)) の形になれば、板は単振動をします。
周期 \(T\) は \(2\pi\sqrt{M/K}\) で、最大速度 \(v_{max}\) は振幅 \(A\)(この場合は初期位置の変位 \(d\))と角振動数 \(\omega_{SHM} = \sqrt{K/M}\) から \(A\omega_{SHM}\) で求められます。模範解答には、最大速度を単振動のエネルギー保存則から求める別解も示唆されています。

この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力による復元力の導出: 重心位置 \(x\) によって垂直抗力が変化し、それによって動摩擦力も変化する。その合力が復元力となる。
  • 単振動の条件の確認: \(F_x = -Kx\)。
  • 単振動の基本公式: 周期 \(T=2\pi\sqrt{M/K}\)、角振動数 \(\omega_{SHM}=\sqrt{K/M}\)、最大速度 \(v_{max}=A\omega_{SHM}\)。
  • 振幅の特定: 静かに放たれる位置が、その後の振動の端点となる。

具体的な解説と立式
糸が切れると張力 \(S=0\) となります。板の重心Gが一般の位置 \(x\) にあるとき、垂直抗力 \(N_1(x), N_2(x)\) は、
$$N_1(x) = \frac{l-x}{2l}Mg \quad \cdots ⑦$$
$$N_2(x) = \frac{l+x}{2l}Mg \quad \cdots ⑧$$
水平方向の合力 \(F_x\) は、右向きを正とすると、
$$F_x = \mu N_1(x) – \mu N_2(x) \quad \cdots ⑨$$
この \(F_x\) が \(-Kx\) の形になるか確認します。運動方程式は \(M\ddot{x} = F_x\)。
振幅 \(A=d\)。角振動数を \(\omega_{SHM}\) とすると、最大速度 \(v_{max}\) は、
$$v_{max} = A \omega_{SHM} \quad \cdots ⑩$$

使用した物理公式

  • 垂直抗力(問(1)の結果を利用)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 運動方程式: \(M\ddot{x} = F_x\)
  • 単振動の復元力: \(F_x = -Kx\)
  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{M/K}\)
  • 単振動の角振動数: \(\omega_{SHM} = \sqrt{K/M}\)
  • 単振動の最大速度: \(v_{max} = A\omega_{SHM}\)
計算過程

式⑨に式⑦と式⑧を代入します。
$$F_x = \mu \left(\frac{l-x}{2l}Mg\right) – \mu \left(\frac{l+x}{2l}Mg\right) = \frac{\mu Mg}{2l} ((l-x) – (l+x)) = \frac{\mu Mg}{2l}(-2x)$$
$$F_x = -\frac{\mu Mg}{l}x \quad \cdots ⑪$$
これは \(F_x = -Kx\) の形で、復元力の比例定数 \(K\) は、
$$K = \frac{\mu Mg}{l} \quad \cdots ⑫$$
単振動の周期 \(T\) は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{M}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{M}{\frac{\mu Mg}{l}}} = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\mu g}} \quad \cdots ⑬$$
角振動数 \(\omega_{SHM}\) は、\(\omega_{SHM} = \sqrt{\frac{K}{M}} = \sqrt{\frac{\mu g}{l}}\)。
振幅 \(A=d\) なので、式⑩より最大の速さ \(v_{max}\) は、
$$v_{max} = d \sqrt{\frac{\mu g}{l}} \quad \cdots ⑭$$

別解(2-1): 最大の速さ \(v_{max}\) (単振動のエネルギー保存則)
思考の道筋とポイント
板の運動は \(x=0\) を中心とする単振動なので、単振動のエネルギー保存則が使えます。振動の端(\(x=d\)、速度0)でのエネルギーと、振動中心(\(x=0\)、速度 \(v_{max}\))でのエネルギーが等しいと考えます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動のエネルギーは \(\frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2\) で与えられ、保存されます。
  • 振動の端では運動エネルギーが0、振動中心では(中心を位置エネルギーの基準とすれば)位置エネルギーが0。

具体的な解説と立式
単振動のエネルギー保存則より、振動の端(変位 \(d\)、速度0)でのエネルギーと、振動中心(変位0、速度 \(v_{max}\))でのエネルギーは等しいです。復元力の比例定数は \(K = \displaystyle\frac{\mu Mg}{l}\)(式⑫)。
$$\frac{1}{2}M(0)^2 + \frac{1}{2}K d^2 = \frac{1}{2}M v_{max}^2 + \frac{1}{2}K (0)^2$$
$$\frac{1}{2}K d^2 = \frac{1}{2}M v_{max}^2 \quad \cdots ⑮_{\text{別}}$$

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
計算過程

式⑮ \(\displaystyle\frac{1}{2}K d^2 = \frac{1}{2}M v_{max}^2\) から \(v_{max}\) を求めます。
$$v_{max}^2 = \frac{K}{M}d^2$$
\(v_{max} > 0\) なので、
$$v_{max} = d\sqrt{\frac{K}{M}}$$
ここに \(K = \displaystyle\frac{\mu Mg}{l}\) を代入すると、
$$v_{max} = d\sqrt{\frac{\frac{\mu Mg}{l}}{M}} = d\sqrt{\frac{\mu g}{l}}$$
これは式⑭と同じ結果です。

計算方法の平易な説明

糸を切ると、板は左右のローラーからの摩擦力だけを受けて振動します。板の位置 \(x\) によって左右の垂直抗力が変わり、それに応じて摩擦力も変わります。計算すると、板を元の位置 \(x=0\) に戻そうとする力が働き、その力は \(x\) に比例することがわかります。これは「単振動」という特別な振動をすることを意味します。
周期 \(T\): 単振動の周期は「\(2\pi \times \sqrt{\text{質量} / \text{戻そうとする力の強さの比例定数}}\)」で計算できます。
最大の速さ \(v_{max}\): 単振動では、振動の中心(この場合は \(x=0\))を通過するときに速さが最大になります。これは「振幅(初めの位置 \(d\))× 角振動数(周期から計算できる)」で求められます。別解として、振動の端での「位置エネルギーのようなもの」が、中心ではすべて「運動エネルギー」に変わるというエネルギー保存の考え方でも計算できます。

結論と吟味

振動の周期 \(T\) は \(\displaystyle T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\mu g}}\)。
速さの最大値 \(v_{max}\) は \(\displaystyle v_{max} = d\sqrt{\frac{\mu g}{l}}\)。
周期はローラー間の距離の半分 \(l\) が大きいほど、また動摩擦係数 \(\mu\) や重力加速度 \(g\) が小さいほど長くなります。最大速度は初期の変位 \(d\) が大きいほど大きくなります。これらは物理的に妥当な傾向です。

解答 (2) 周期: \(\displaystyle 2\pi\sqrt{\frac{l}{\mu g}}\), 最大の速さ: \(\displaystyle d\sqrt{\frac{\mu g}{l}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
板の重心Gが点O (\(x=0\)) を左へ通過するとき、板は問(2)で求めた最大速度 \(v_{max}\) で運動しています。この瞬間に2つのローラーの回転を止めると、ローラーは板に対して静止しようとしますが、板は左へ滑ろうとします。そのため、左右のローラーは板に対してその滑りを妨げる向き、すなわち右向きに動摩擦力を及ぼします。
重要なのは、ローラーが回転していない場合、板がどちらのローラー上を滑るかによって摩擦力の向きが決まるということです。板全体が左に動いているので、両方のローラーから受ける動摩擦力は右向きとなります。
この動摩擦力の合力は一定になるため、板は一定の加速度(減速)で運動し、やがて停止します。
初期の運動エネルギー(GがOを通過する瞬間の運動エネルギー)が、すべて動摩擦力による仕事によって失われると考えて、停止するまでの距離 \(D\) を求めます(仕事とエネルギーの関係)。

この設問における重要なポイント

  • ローラー停止後の動摩擦力の向き: 板が左へ滑るので、両方のローラーからの動摩擦力は右向きに働きます。
  • 動摩擦力の合力の計算: 左右のローラーからの垂直抗力の和は常に \(Mg\) です。したがって、動摩擦力の合力は \(\mu N_1 + \mu N_2 = \mu(N_1+N_2) = \mu Mg\) となり、一定です。
  • 仕事とエネルギーの関係: 初期の運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv_{max}^2\) が、動摩擦力のした仕事 \(\mu Mg D\) によって0になる。

具体的な解説と立式
板の重心Gが点Oを左へ通過するときの速さは \(v_{max}\) です。ローラーの回転を止めると、板は左へ滑り、両ローラーから右向きの動摩擦力を受けます。
動摩擦力の合力 \(F_{\text{摩擦}}\) の大きさは、\(F_{\text{摩擦}} = \mu N_1 + \mu N_2 = \mu(N_1+N_2)\)。鉛直方向の力のつり合いから \(N_1+N_2 = Mg\) なので、
$$F_{\text{摩擦}} = \mu Mg \quad \cdots ⑯$$
板は初速度 \(v_{max}\) で左へ運動を始め、距離 \(D\) だけ滑って停止します。仕事とエネルギーの関係より、運動エネルギーの変化が摩擦力のした仕事に等しいので、
$$0 – \frac{1}{2}Mv_{max}^2 = -F_{\text{摩擦}} \cdot D = -\mu Mg D \quad \cdots ⑰$$

使用した物理公式

  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 仕事とエネルギーの関係(運動エネルギーの変化と仕事): \(\Delta E_k = W\)
  • 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}Mv^2\)
計算過程

式⑰ \(-\frac{1}{2}Mv_{max}^2 = -\mu Mg D\) から \(D\) を求めます。
$$\frac{1}{2}Mv_{max}^2 = \mu Mg D$$
$$D = \frac{v_{max}^2}{2\mu g}$$
問(2)で求めた \(v_{max} = d\sqrt{\frac{\mu g}{l}}\) (式⑭)を代入します。
$$v_{max}^2 = d^2 \frac{\mu g}{l}$$
よって、
$$D = \frac{d^2 \frac{\mu g}{l}}{2\mu g}$$
分母分子の \(\mu g\) を消去すると、
$$D = \frac{d^2}{2l} \quad \cdots ⑱$$

計算方法の平易な説明

板が一番速く動いているとき(\(x=0\) を左に通過するとき)にローラーを止めると、板は床(止まったローラー)との摩擦でだんだん遅くなり、やがて止まります。
このとき、板が持っていた運動の勢い(運動エネルギー)が、すべて摩擦によって熱などの形で失われます。
摩擦がする仕事は「摩擦力の大きさ × 滑った距離 \(D\)」です。ローラーが止まっている場合、板が左に滑るので、左右両方のローラーから右向きの摩擦力が働きます。この摩擦力の合計は、計算すると常に \(\mu Mg\) という一定の値になります。
したがって、「初めの運動エネルギー = 摩擦力の大きさ × 滑った距離 \(D\)」という式を立て、これを \(D\) について解きます。

結論と吟味

板が左に滑って停止するまでの距離 \(D\) は \(\displaystyle D = \frac{d^2}{2l}\) です。
この結果は、動摩擦係数 \(\mu\) や重力加速度 \(g\)、質量 \(M\) を含まない形になりました。これは、\(v_{max}^2\) の中に \(\mu g\) が含まれており、それが摩擦力の \(\mu g\) と相殺されるためです。

解答 (3) \(\displaystyle D = \frac{d^2}{2l}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 動摩擦力が関わる剛体のつり合いと運動、特に単振動仕事とエネルギーの関係の正確な理解と適用。
    • 剛体のつり合い(問(1)): 力のつり合いと力のモーメントのつり合い。動摩擦力の向きの判断。
    • 動摩擦力による復元力と単振動(問(2)): 板の位置による垂直抗力の変化とそれに伴う動摩擦力の変化が、結果として重心の変位 \(x\) に比例する復元力 \(-Kx\) を生み出し、単振動が起こるメカニズム。
    • 仕事とエネルギーの関係(問(3)): 板の運動エネルギーが動摩擦力のする仕事によって消費される過程。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • ベルトコンベア上の物体の運動(摩擦力による加速や減速)。
    • 複数の支点を持つ剛体の安定性や、一部が動く場合の力の変化。
    • 摩擦によってエネルギーを失いながら振動したり運動したりする系の問題全般。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 摩擦力の性質の確認: 静止摩擦か動摩擦か、向きはどちらか。回転体が絡む場合は接触点での相対速度の向きを考慮。
    2. 力の図示と作用点の明確化: モーメントを考える際に特に重要。
    3. 運動方程式かエネルギーか: 運動の過程を詳し知りたければ運動方程式。初期状態と最終状態の関係だけなら仕事とエネルギーの関係が有効な場合が多い。
    4. 単振動の可能性の探索: 力が変位に比例する形 (\(-Kx\)) になるか。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 動摩擦力の向きの誤り:
    • 現象: ローラー回転時の摩擦力の向きを、板の運動方向だけで判断し、ローラーの引きずる効果を見落とす。
    • 対策: 接触面での相対的な滑りの向きを常に考え、摩擦力はそれを妨げる向きに働くことを徹底する。
  • 垂直抗力の均等性の誤解:
    • 現象: 複数の支点がある場合、垂直抗力が均等にかかると誤解する。
    • 対策: 必ず力のモーメントのつり合いを考慮して各垂直抗力を求める。
  • 単振動の復元力の係数 \(K\) の導出ミス:
    • 現象: 問(2)で \(F_x = -\frac{\mu Mg}{l}x\) を正しく導けない。
    • 対策: \(x\) の関数としての垂直抗力 \(N_1(x), N_2(x)\) を正確に求め、合力を丁寧に計算する。
  • 問(3)での摩擦力の合力:
    • 現象: ローラー停止後、板が左へ滑るとき、動摩擦力の合力を \(\mu Mg\) と正しく求められない。
    • 対策: 両方のローラーから板に働く動摩擦力が同じ向き(右向き)になることを理解し、\(N_1+N_2=Mg\) の関係を使う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 問(1): 板がG点でバランスを取りつつ、ローラーの回転によって左右に引きずられる力と張力が拮抗しているイメージ。
    • 問(2): 板が左右に揺れるとき、重心の位置に応じてローラーからの押し上げ(垂直抗力)のバランスが変わり、それが摩擦のアンバランスを生んで振動を引き起こすイメージ。
    • 問(3): 左に動いている板に対し、止まったローラーが両方からブレーキをかけるイメージ。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 力の作用点、向き、大きさをできるだけ正確に。
    • 座標軸を明確に。
    • モーメント計算時の腕の長さを図から正確に読み取る。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い・モーメントのつり合い(問(1)): 板が静止しているため。
  • 運動方程式 \(M\ddot{x}=F_x\)(問(2)): 板が水平方向に運動するため。
  • 単振動の周期・最大速度の公式(問(2)): 運動方程式が \(M\ddot{x}=-Kx\) の形に帰着されたため。
  • 仕事とエネルギーの関係(問(3)): 動摩擦という非保存力が仕事をし、板の運動エネルギーが変化するため。
  • 公式の適用条件を常に意識することが重要。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 静止状態の分析 (問1): 力の図示 \(\rightarrow\) 鉛直・水平つり合い、モーメントつり合い \(\rightarrow\) \(N_1, N_2, S\) 決定。
  2. 振動状態の分析 (問2): \(N_1(x), N_2(x)\) を \(x\) の関数で表現 \(\rightarrow\) 水平合力 \(F_x = -Kx\) を導出 \(\rightarrow\) \(K\) 特定 \(\rightarrow\) \(T, \omega_{SHM}, v_{max}\) 計算。
  3. ローラー停止後の分析 (問3): 動摩擦力の合力計算 \(\rightarrow\) 仕事とエネルギーの関係 \(\rightarrow\) \(D\) 計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • モーメントの腕の長さと力の向き。
    • 連立方程式の求解。
    • \(F_x = -Kx\) の \(K\) の導出における符号と係数。
    • \(v_{max}\) や \(D\) の計算での文字代入と整理。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 途中式を丁寧に、整理して書く。
    • 符号の確認を徹底する。
    • 図と数式を常に対応させる。
    • 計算結果の物理的妥当性を検討する(例:\(d=0\) の場合など)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1): \(d=0\) で \(N_1=N_2=Mg/2, S=0\) となるか。\(d \rightarrow l\) でどうなるか(物理的範囲内か)。
    • 問(2): \(T\) や \(v_{max}\) の各物理量への依存性(例:\(\mu\) が小さいと \(T\) は長くなるか)。
    • 問(3): \(D\) が \(\mu, g, M\) を含まない結果になった理由は何か(\(v_{max}^2\) の中の因子と相殺される)。
  • 解の吟味は、計算ミス発見だけでなく、物理現象への理解を深め、応用力を養うために非常に重要。

問題44 (東京大+名古屋市立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の周りを回るスペースシャトルと、そこから打ち出される探査機の運動に関する一連の設問で構成されています。万有引力、円運動、楕円運動、エネルギー保存則、運動量保存則、ケプラーの法則など、天体運動に関する重要な概念が網羅的に問われています。

与えられた条件
  • 地球の質量: \(M\)
  • 地球の半径: \(R\)
  • 万有引力定数: \(G\)
  • 大気の影響は無視する。
  • 図には、円軌道A、楕円軌道B、地球中心M、点P(円軌道A上、地球中心から3Rの距離)、点Q(地表、地球中心からRの距離)が示されている。
問われていること
  1. (1) 地上2R(地球中心から3R)の円軌道Aを回るスペースシャトルの速さと周期。
  2. (2) 点Pで探査機を地球の引力圏から脱出させるために必要な速さ。
  3. (3) 探査機打ち出し後、シャトルを楕円軌道Bに乗せ、地表の点Qで回収するための、点Pでのシャトルの速さ。
  4. (4) 探査機とシャトルの総質量を \(m\) としたとき、(2)で求めた速さで探査機を打ち出す場合の探査機の質量。
  5. (5) 探査機を打ち出してからシャトルが点Qで回収されるまでの時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、万有引力と天体の運動です。地球の重力場における人工衛星や探査機の運動を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 万有引力の法則: 質量を持つ物体間に働く引力 \(F = G\frac{Mm}{r^2}\)。
  • 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として \(U = -G\frac{Mm}{r}\)。
  • 円運動の運動方程式(または力のつり合い): 円軌道上の物体にはたらく万有引力が向心力となる。
  • 力学的エネルギー保存則: 保存力(この場合は万有引力のみ)だけが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定。
  • ケプラーの法則 (第2法則:面積速度一定の法則、第3法則:調和の法則)。
  • 運動量保存則: 内力のみが働く系(分裂や合体など)では、系の全運動量は保存される。
  • 脱出速度: 天体の引力を振り切って無限遠に達するために必要な最小初速度。

これらの法則を、それぞれの設問の状況に合わせて適切に選択し、適用していくことが求められます。
全体的な戦略としては、まず(1)で円運動の条件から速さと周期を求めます。(2)では力学的エネルギーが0以上という条件から脱出速度を計算します。(3)では楕円軌道における力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則を連立させます。(4)では探査機打ち出しの前後で運動量保存則を適用し、(5)ではケプラーの第3法則を用いて楕円軌道の半周期を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
スペースシャトルは、地球の中心から距離 \(r = R + 2R = 3R\) の円軌道A上を運動しています。この円運動では、地球がシャトルに及ぼす万有引力が向心力となっています。この関係から速さを求め、周期は円周を速さで割ることで計算します。シャトルの質量を \(m_S\)(計算途中で消去される)とします。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)。または、回転座標系での力のつり合い: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{万有引力}}\)。
  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm_S}{r^2}\)。
  • 軌道半径の正確な把握: 地上2Rなので、地球中心からの距離は \(R+2R=3R\)。
  • 周期の定義: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)。

具体的な解説と立式
シャトルが円軌道A上を速さ \(v_A\) で運動しているとします。軌道半径は \(r_A = 3R\) です。
万有引力が向心力として働くので、運動方程式は、
$$m_S \frac{v_A^2}{3R} = G\frac{Mm_S}{(3R)^2} \quad \cdots ①$$
この式から \(v_A\) を求めます。
周期を \(T_A\) とすると、
$$T_A = \frac{2\pi (3R)}{v_A} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm}{r^2}\)
  • 円運動の運動方程式(向心力): \(m\frac{v^2}{r} = F\)
  • 周期と速さの関係: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

まず、速さ \(v_A\) を式①から求めます。
両辺の \(m_S\) を消去し、\(3R\) で割ると(または \(1/(3R)\) を掛けると)、
$$\frac{v_A^2}{1} = G\frac{M}{3R}$$
よって、
$$v_A = \sqrt{\frac{GM}{3R}} \quad \cdots ③$$
次に、周期 \(T_A\) を式②に式③の \(v_A\) を代入して求めます。
$$T_A = \frac{2\pi (3R)}{\sqrt{\frac{GM}{3R}}} = 6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}} \quad \cdots ④$$

計算方法の平易な説明

速さ: スペースシャトルが地球の周りを円を描いて回れるのは、地球がシャトルを引っ張る力(万有引力)が、ちょうどシャトルを円運動させるのに必要な力(向心力)になっているからです。「向心力 = 万有引力」という式を立て、シャトルの速さについて解きます。距離は地球の中心から測るので \(3R\) となります。
周期: シャトルが一回りするのにかかる時間(周期)は、「円周の長さ ÷ 速さ」で計算できます。

結論と吟味

円軌道A上を回るスペースシャトルの速さは \(\displaystyle v_A = \sqrt{\frac{GM}{3R}}\) です。その周期は \(\displaystyle T_A = 6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}}\) です。

解答 (1) 速さ: \(\displaystyle \sqrt{\frac{GM}{3R}}\), 周期: \(\displaystyle 6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
探査機を地球の引力圏から脱出させるためには、探査機が無限遠点に達したときに、その運動エネルギーが0以上であればよいと考えます。これは、探査機の力学的エネルギー(運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和)が、打ち出す点Pで0以上であることと等価です。万有引力による位置エネルギーの基準は無限遠で0とします。探査機の質量を \(m_1\) とします。

この設問における重要なポイント

  • 脱出条件: 力学的エネルギー \(\ge 0\)。無限遠での位置エネルギーは0。
  • 力学的エネルギー保存則: 万有引力は保存力なので、打ち出し後の探査機の力学的エネルギーは保存されます。
  • 点Pの地球中心からの距離: \(3R\)。

具体的な解説と立式
探査機を質量 \(m_1\)、点Pで打ち出す速さを \(u\) とします。点P(地球中心からの距離 \(3R\))での探査機の力学的エネルギー \(E_P\) は、運動エネルギー \(\frac{1}{2}m_1 u^2\) と万有引力による位置エネルギー \(-G\frac{Mm_1}{3R}\) の和です。
$$E_P = \frac{1}{2}m_1 u^2 – G\frac{Mm_1}{3R}$$
探査機が地球の引力圏から脱出するための最小の条件は、無限遠点での力学的エネルギー \(E_{\infty}\) が0になることです。力学的エネルギー保存則より \(E_P = E_{\infty}\) なので、
$$\frac{1}{2}m_1 u^2 – G\frac{Mm_1}{3R} = 0 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\frac{Mm}{r}\) (無限遠基準)
  • 力学的エネルギー保存則: \(E = K+U = \text{一定}\)
  • 脱出条件: \(E \ge 0\)
計算過程

式⑤ \(\displaystyle \frac{1}{2}m_1 u^2 – G\frac{Mm_1}{3R} = 0\) から \(u\) を求めます。
$$\frac{1}{2}m_1 u^2 = G\frac{Mm_1}{3R}$$
両辺の \(m_1\) を消去し、2を掛けると、
$$u^2 = \frac{2GM}{3R}$$
よって、\(u > 0\) なので、
$$u = \sqrt{\frac{2GM}{3R}} \quad \cdots ⑥$$

計算方法の平易な説明

探査機が地球の引力から「脱出する」とは、無限の彼方まで飛んでいける、という意味です。そのためには、探査機の「運動の勢い(運動エネルギー)」と「地球に引かれることによる位置エネルギー」を足し合わせた「力学的エネルギー」が、ゼロ以上であれば脱出できます。打ち出す点Pでの力学的エネルギーがゼロになるように、打ち出す速さ \(u\) を決めます。

結論と吟味

探査機を地球の引力圏から脱出させるために必要な速さ \(u\) は \(\displaystyle u = \sqrt{\frac{2GM}{3R}}\) です。これは、その地点での円軌道速度 \(v_A = \sqrt{GM/(3R)}\) の \(\sqrt{2}\) 倍であり、一般的な関係と整合しています。

解答 (2) \(\displaystyle \sqrt{\frac{2GM}{3R}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
探査機を打ち出した後、減速したシャトル(質量を \(m_0\) とする)は楕円軌道Bに入り、点P(遠地点、距離 \(3R\))から点Q(近地点、距離 \(R\))へ向かいます。この楕円運動では、力学的エネルギーが保存され、また、角運動量も保存されます(面積速度一定の法則)。点Pでのシャトルの速さを \(v_P\)、点Qでの速さを \(v_Q\) とすると、これら2つの保存則から \(v_P\) と \(v_Q\) に関する連立方程式が得られ、それを解くことで \(v_P\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 楕円軌道上の2点(PとQ)で成立する保存則を適用する。
    • 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}m_0 v^2 – G\frac{Mm_0}{r} = \text{一定}\)。
    • 面積速度一定の法則: \(r v = \text{一定}\)(遠地点・近地点では速度ベクトルが動径と垂直なため)。
  • 点Pでの距離 \(r_P = 3R\)、点Qでの距離 \(r_Q = R\)。

具体的な解説と立式
シャトルの質量を \(m_0\) とします。点Pでの速さを \(v_P\)、点Qでの速さを \(v_Q\) とします。
面積速度一定の法則より(点Pと点Qでは速度ベクトルは動径と垂直):
$$(3R) v_P = R v_Q \quad \cdots ⑦$$
力学的エネルギー保存則より(点Pと点Qで):
$$\frac{1}{2}m_0 v_P^2 – G\frac{Mm_0}{3R} = \frac{1}{2}m_0 v_Q^2 – G\frac{Mm_0}{R} \quad \cdots ⑧$$
式⑦と式⑧を連立して \(v_P\) を求めます。

使用した物理公式

  • 面積速度一定の法則(角運動量保存則): \(r_1 v_{1\perp} = r_2 v_{2\perp}\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = \text{一定}\)
計算過程

式⑦より \(v_Q = 3v_P\)。これを式⑧(両辺の \(m_0\) を消去し2倍したもの: \(v_P^2 – \frac{2GM}{3R} = v_Q^2 – \frac{2GM}{R}\))に代入します。
$$v_P^2 – \frac{2GM}{3R} = (3v_P)^2 – \frac{2GM}{R}$$
$$v_P^2 – \frac{2GM}{3R} = 9v_P^2 – \frac{2GM}{R}$$
項を整理すると、
$$\frac{2GM}{R} – \frac{2GM}{3R} = 9v_P^2 – v_P^2$$
$$\frac{4GM}{3R} = 8v_P^2$$
$$v_P^2 = \frac{4GM}{24R} = \frac{GM}{6R}$$
\(v_P > 0\) なので、
$$v_P = \sqrt{\frac{GM}{6R}} \quad \cdots ⑨$$

計算方法の平易な説明

シャトルが地球の周りを楕円形に回るとき、2つのルール「面積速度一定の法則」と「力学的エネルギー保存則」が成り立ちます。これらをP点とQ点について式にし、連立方程式として解くことで、P点での速さが求まります。

結論と吟味

点Pでのシャトルの速さ \(v_P\) は \(\displaystyle v_P = \sqrt{\frac{GM}{6R}}\) です。この速さは、円軌道Aでの速さ \(v_A = \sqrt{GM/(3R)}\) よりも小さく、より低いエネルギーの軌道に移るための減速と整合します。

解答 (3) \(\displaystyle \sqrt{\frac{GM}{6R}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
点Pで、質量 \(m\) のシャトル(探査機を含む)から、探査機(質量 \(m_1\) とする)を前方へ打ち出します。この打ち出し(分裂)の瞬間、運動量保存則が近似的に成り立ちます。打ち出し前のシャトルの速度は \(v_A\)。打ち出し後、探査機は速さ \(u\)、残りのシャトル(質量 \(m-m_1\))は速さ \(v_P\) で、すべて同じ方向に運動します。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則: \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)。
  • 各物体の質量と速度を正しく設定する。

具体的な解説と立式
打ち出し前の運動量は \(P_{\text{前}} = m v_A\)。
打ち出し後の運動量は \(P_{\text{後}} = m_1 u + (m-m_1)v_P\)。
運動量保存則より \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) なので、
$$m v_A = m_1 u + (m-m_1)v_P \quad \cdots ⑩$$
この式から探査機の質量 \(m_1\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 問(1)の \(v_A\), 問(2)の \(u\), 問(3)の \(v_P\) の結果
計算過程

式⑩を \(m_1\) について解きます。
$$m v_A – mv_P = m_1 u – m_1v_P$$
$$m(v_A – v_P) = m_1(u – v_P)$$
$$m_1 = m \frac{v_A – v_P}{u – v_P} \quad \cdots ⑪$$
ここに、\(v_A = \sqrt{\frac{GM}{3R}}\), \(u = \sqrt{\frac{2GM}{3R}}\), \(v_P = \sqrt{\frac{GM}{6R}}\) を代入します。
\(\sqrt{\frac{GM}{R}} = V_0\) とおくと、\(v_A = V_0/\sqrt{3}\), \(u = V_0\sqrt{2/3}\), \(v_P = V_0/\sqrt{6}\)。
$$m_1 = m \frac{\frac{V_0}{\sqrt{3}} – \frac{V_0}{\sqrt{6}}}{\frac{\sqrt{2}V_0}{\sqrt{3}} – \frac{V_0}{\sqrt{6}}} = m \frac{\frac{1}{\sqrt{3}} – \frac{1}{\sqrt{6}}}{\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}} – \frac{1}{\sqrt{6}}}$$
分母分子に \(\sqrt{6}\) を掛けると、
$$m_1 = m \frac{\sqrt{2} – 1}{2 – 1} = (\sqrt{2}-1)m \quad \cdots ⑫$$

計算方法の平易な説明

シャトルから探査機を「撃ち出す」とき、全体の「運動の勢い(運動量)」は保たれるとします。「打ち出す前の全体の運動量 = 打ち出した後の(探査機の運動量 + シャトルの運動量)」という式を立て、探査機の質量を計算します。

結論と吟味

探査機の質量 \(m_1\) は \(\displaystyle m_1 = (\sqrt{2}-1)m\) です。これは総質量の半分未満であり、物理的にあり得る値です。

解答 (4) \(\displaystyle (\sqrt{2}-1)m\)

問(5)

思考の道筋とポイント
探査機を打ち出した後、シャトルは楕円軌道B(遠地点P、近地点Q)に入ります。PからQまでの時間は、この楕円軌道Bの周期の半分です。楕円軌道Bの周期 \(T_B\) を求めるために、ケプラーの第3法則 (\(T^2/a^3 = \text{一定}\)) を用います。円軌道A(周期 \(T_A\)、半径 \(r_A=3R\))と比較します。楕円軌道Bの半長軸 \(a_B\) は、\(a_B = (3R+R)/2 = 2R\) です。

この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則: \(\displaystyle \frac{T_A^2}{r_A^3} = \frac{T_B^2}{a_B^3}\)。
  • 楕円軌道の半長軸の計算: \(a = (r_{\text{遠地点}} + r_{\text{近地点}})/2\)。
  • 求める時間は半周期であること。

具体的な解説と立式
円軌道Aの周期は \(T_A = 6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}}\)、軌道半径(半長軸)は \(r_A = 3R\)。
楕円軌道Bの半長軸 \(a_B = \frac{3R+R}{2} = 2R\)。
楕円軌道Bの周期を \(T_B\) とすると、ケプラーの第3法則より、
$$\frac{T_B^2}{(2R)^3} = \frac{T_A^2}{(3R)^3} \quad \cdots ⑬$$
シャトルがPからQまで移動する時間 \(t_{PQ}\) は、
$$t_{PQ} = \frac{1}{2}T_B \quad \cdots ⑭$$

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則: \(\frac{T^2}{a^3} = \text{一定}\)
  • 楕円軌道の半長軸
計算過程

式⑬から \(T_B\) を求めます。
$$T_B^2 = T_A^2 \frac{(2R)^3}{(3R)^3} = T_A^2 \frac{8}{27}$$
$$T_B = T_A \sqrt{\frac{8}{27}} = T_A \frac{2\sqrt{2}}{3\sqrt{3}}$$
ここに \(T_A = 6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}}\) を代入します。
$$T_B = \left(6\pi R \sqrt{\frac{3R}{GM}}\right) \frac{2\sqrt{2}}{3\sqrt{3}} = 4\sqrt{2}\pi R \sqrt{\frac{R}{GM}}$$
求める時間は \(t_{PQ} = \frac{1}{2}T_B\) なので、
$$t_{PQ} = 2\sqrt{2}\pi R \sqrt{\frac{R}{GM}} = 2\pi R \sqrt{\frac{2R}{GM}}$$

計算方法の平易な説明

シャトルがP点からQ点まで飛ぶのは、新しい楕円のコースのちょうど半周分です。この楕円コースを一回りする時間(周期)が分かれば、その半分が答えになります。楕円の周期は「ケプラーの第3法則」というルールを使って計算できます。初めの円軌道Aと新しい楕円軌道Bをこの法則で比較することで、楕円軌道Bの周期を求め、その半分を計算します。

結論と吟味

探査機を打ち出してからシャトルが回収されるまでの時間は \(\displaystyle 2\pi R \sqrt{\frac{2R}{GM}}\) です。楕円軌道の半長軸が円軌道Aの半径より小さいため、周期も短くなることが予想され、結果と整合します。

解答 (5) \(\displaystyle 2\pi R \sqrt{\frac{2R}{GM}}\)

【コラム】Q. 探査機を打ち出した後のシャトルの速さが遅く、下図のように地球に衝突した。衝突地点では天頂から30°の方向から飛来した。点Pでのシャトルの速さ\(v_1\)をG, M, Rで表せ。

思考の道筋とポイント
シャトルは点Pから衝突地点まで楕円軌道を描くため、力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則が成り立ちます。点Pでの距離は \(3R\)、速さは \(v_1\)。衝突地点での距離は \(R\)、速さを \(v_2\) とし、速度ベクトルが動径となす角が \(30^\circ\) であることを用います。

この設問における重要なポイント

  • 楕円軌道上の2点(Pと衝突点)で成立する保存則を適用する。
  • 面積速度一定の法則: \(r v_{\perp} = \text{一定}\)。衝突地点では、速度 \(v_2\) のうち動径に垂直な成分は \(v_2 \sin 30^\circ\)。
  • 力学的エネルギー保存則。

具体的な解説と立式
シャトルの質量を \(m_0\)。点P: 距離 \(r_P = 3R\)、速さ \(v_1\)。衝突地点C: 距離 \(r_C = R\)、速さ \(v_2\)、速度と動径のなす角 \(30^\circ\)。
面積速度一定の法則より:
$$(3R)v_1 = R v_2 \sin 30^\circ \quad \cdots ⑮$$
力学的エネルギー保存則より:
$$\frac{1}{2}m_0 v_1^2 – G\frac{Mm_0}{3R} = \frac{1}{2}m_0 v_2^2 – G\frac{Mm_0}{R} \quad \cdots ⑯$$
式⑮と式⑯を連立して \(v_1\) を求めます。

使用した物理公式

  • 面積速度一定の法則(角運動量保存則): \(r_1 v_{1\perp} = r_2 v_{2\perp}\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = \text{一定}\)
計算過程

式⑮で \(\sin 30^\circ = 1/2\) なので、\(3Rv_1 = R v_2 \cdot \frac{1}{2}\)。よって \(v_2 = 6v_1 \quad \cdots ⑰\)。
式⑯(\(m_0\) を消去し2倍したもの: \(v_1^2 – \frac{2GM}{3R} = v_2^2 – \frac{2GM}{R}\))に式⑰を代入します。
$$v_1^2 – \frac{2GM}{3R} = (6v_1)^2 – \frac{2GM}{R}$$
$$v_1^2 – \frac{2GM}{3R} = 36v_1^2 – \frac{2GM}{R}$$
項を整理すると、
$$\frac{2GM}{R} – \frac{2GM}{3R} = 36v_1^2 – v_1^2$$
$$\frac{4GM}{3R} = 35v_1^2$$
$$v_1^2 = \frac{4GM}{105R}$$
\(v_1 > 0\) なので、
$$v_1 = 2\sqrt{\frac{GM}{105R}} \quad \cdots ⑲$$

計算方法の平易な説明

シャトルがP点から地球に衝突するまでの動きも楕円軌道の一部なので、「面積速度一定の法則」と「力学的エネルギー保存則」を使います。P点での速さを \(v_1\)、衝突時の速さを \(v_2\) とし、衝突地点での速度の向きの情報(天頂から30°)を面積速度の式に活用します。これら2つの法則から連立方程式を立てて \(v_1\) を求めます。

結論と吟味

点Pでのシャトルの速さ \(v_1\) は \(\displaystyle 2\sqrt{\frac{GM}{105R}}\) です。この値は問(3)でQ点に到達する場合の速さよりも小さく、より速く地球に落下する軌道であることと整合します。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力のもとでの天体の運動に関する様々な法則の統合的理解と適用。
    • 万有引力の法則と円運動。
    • 力学的エネルギー保存則と脱出速度。
    • 楕円運動における力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則。
    • 運動量保存則(分裂時)。
    • ケプラーの第3法則。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 惑星の公転運動、彗星の軌道計算。
    • 人工衛星の軌道変更。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動の種類は何か(円、楕円、脱出)。
    2. 保存量は何か(力学的エネルギー、角運動量、運動量)。
    3. どの点とどの点を比較するか(軌道の特性点)。
    4. 距離の基準(天体中心から)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力学的エネルギーの計算ミス: 位置エネルギーの符号、距離 \(r\)。
  • 面積速度一定の法則の誤用: 速度 \(v\) ではなく、動径と垂直な速度成分 \(v_{\perp}\) を使う。
  • ケプラーの第3法則の混同: 円軌道では半径 \(r\)、楕円軌道では半長軸 \(a\)。
  • 運動量保存則の適用場面の誤り: 分裂や合体の「瞬間」に適用。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 各種軌道(円、楕円、脱出軌道、衝突軌道)を地球中心に描く。
    • 各点での速度ベクトルを図示し、動径との関係を明確にする。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 中心天体と周回物体の位置関係を正確に。
    • 軌道の形状を区別して描く。
    • 速度ベクトル、力ベクトルを適切に記入。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 円運動の条件式: 軌道が円であるため。
  • 力学的エネルギー保存則: 万有引力(保存力)のみが仕事をするため。
  • 面積速度一定の法則: 万有引力(中心力)のみがトルクを及ぼさないため。
  • 運動量保存則: 分裂現象で内力が外力に比べて支配的である短時間のため。
  • ケプラーの第3法則: 共通の中心天体の周りを回る2つの軌道の周期と半長軸を関連付けるため。
  • 法則の適用条件を常に意識する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析と法則選択。
  2. 変数と座標の設定。
  3. 方程式の立式。
  4. 連立処理と求解。
  5. 物理量の代入と最終計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 距離の扱い(3R, R, 2Rなど)。
    • 平方と平方根の計算。
    • 分数の計算。
    • 文字の消去。
    • 運動量保存での質量の扱い。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 途中式を丁寧に書く。
    • 単位の確認。
    • 極端な場合や簡単な場合で検算。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1): \(v_A\), \(T_A\) の \(R\) への依存性。
    • 問(2): 脱出速度 \(u\) と円軌道速度 \(v_A\) の比較。
    • 問(3): \(v_P\) と \(v_A\) の比較。
    • 問(4): \(m_1\) が \(m\) より小さい正の値か。
    • 問(5): 楕円軌道の半周期と元の円軌道の周期の比較。
    • Q: 衝突する場合の \(v_1\) と問(3)の \(v_P\) の比較。
  • 答えの物理的な妥当性を考えることで、間違いの発見や現象への深い理解につながる。

問題45 (金沢大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球内部を貫くトンネル内の質点の運動を万有引力の観点から考察するものです。まず地球の基本的な物理量(質量、密度)を求め、次にトンネル内での質点に働く力を特定し、その結果として起こる単振動について解析します。

与えられた条件
  • 地球は半径 \(R\) の一様な密度の球。
  • ABは地球に掘った直線状の細いトンネル。
  • トンネルに沿って質量 \(m\) の質点が運動する。
  • 地表での重力加速度を \(g\)。
  • 地球の自転、摩擦、空気抵抗は無視する。
  • トンネル内の任意の点Pで質点に働く重力は、O(地球中心)を中心とした半径 OP (\(=r\)) の球面内の質量がすべて中心に集まったとして、それと質点との間の万有引力に等しく、この球面の外側の部分は点Pでの重力には無関係である。
問われていること
  1. (1) 万有引力定数を \(G\) として、地球の質量 \(M\) と密度 \(\rho\) を求めること。
  2. (2) トンネル内の任意の点Pにおいて、
    • (i) 質点に働く重力 \(F_r\) を \(m, g, r, R\) で表すこと(ここで \(r=OP\))。
    • (ii) OからABに下ろした垂線の足をCとし、Cを原点としてAB方向に \(x\) 軸をとり、点Pの座標を \(x\) とするとき、点Pで質点に働くトンネル方向の力 \(F_x\) を \(m, g, R, x\) で表すこと。
  3. (3) 点Bで質点を静かに放すとき、質点が点Aに達するまでの時間と、質点が点Cを通過するときの速さを \(g, R, h\) で表すこと(ただし、\(h=OC\))。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、地球内部における万有引力と、それが引き起こす単振動です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • ニュートンの万有引力の法則
  • 地表での重力と万有引力の関係
  • 球殻内外の重力(ガウスの法則の帰結): 問題文で与えられている重要なヒント。
  • 力の分解
  • 単振動: 復元力が変位に比例する運動。
  • 単振動の周期と最大速度
  • 単振動のエネルギー保存則(別解で使用)

これらの法則を理解し、問題の各段階で適切に適用していくことが重要です。特に、地球内部では質点に働く万有引力が中心からの距離に比例するという点が、単振動につながる核心部分です。
全体的な戦略としては、まず(1)で地球の質量と密度を基本的な関係式から導きます。(2)では問題文の指示に従って地球内部での力を計算し、それをトンネル方向に分解します。(3)では(2)の結果から単振動であることを見抜き、その性質を利用して時間と速さを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
地表にある質量 \(m\) の物体が受ける重力 \(mg\) は、地球(質量 \(M\)、半径 \(R\))とその物体との間に働く万有引力に等しいと考えます。この関係から地球の質量 \(M\) を導き出します。
次に、地球は一様な密度の球であるとされているので、地球の体積 \(V = \frac{4}{3}\pi R^3\) を用い、密度 \(\rho = M/V\) の関係から密度を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 地表での重力加速度 \(g\) と万有引力定数 \(G\)、地球の質量 \(M\)、地球の半径 \(R\) の関係式: \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\)。
  • 球の体積の公式: \(V = \frac{4}{3}\pi R^3\)。
  • 密度の定義: \(\rho = \frac{\text{質量}}{\text{体積}}\)。

具体的な解説と立式
地表にある質量 \(m\) の物体に働く重力の大きさは \(mg\) です。これは、地球(質量 \(M\)、半径 \(R\))から受ける万有引力に等しいので、
$$mg = G\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ①$$
この式から地球の質量 \(M\) を求めます。
地球の体積 \(V\) は、半径 \(R\) の球の体積なので、
$$V = \frac{4}{3}\pi R^3 \quad \cdots ②$$
地球の密度 \(\rho\) は、質量 \(M\) と体積 \(V\) を用いて、
$$\rho = \frac{M}{V} \quad \cdots ③$$
と表されます。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 重力: \(F_g = mg\)
  • 球の体積: \(V = \frac{4}{3}\pi R^3\)
  • 密度: \(\rho = M/V\)
計算過程

まず、式① \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\) から地球の質量 \(M\) を求めます。
両辺の \(m\) を消去し、\(M\) について解くと、
$$M = \frac{gR^2}{G} \quad \cdots ④$$
次に、地球の密度 \(\rho\) を求めます。式③に式②と式④を代入します。
$$\rho = \frac{\frac{gR^2}{G}}{\frac{4}{3}\pi R^3} = \frac{gR^2}{G} \cdot \frac{3}{4\pi R^3}$$
\(R^2\) を約分すると、
$$\rho = \frac{3g}{4\pi GR} \quad \cdots ⑤$$

計算方法の平易な説明

地球の質量 \(M\): 地球の表面で物が受ける「重さ (\(mg\))」は、地球全体がその物を引っ張る「万有引力 (\(G\frac{Mm}{R^2}\))」と同じです。この関係式 \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\) を \(M\) について解けば、地球の質量がわかります。
地球の密度 \(\rho\): 密度は「質量 ÷ 体積」で計算できます。地球の質量は上で求めた \(M\) を使い、地球の体積は球の体積の公式 \(V = \frac{4}{3}\pi R^3\) を使います。

結論と吟味

地球の質量 \(M\) は \(\displaystyle M = \frac{gR^2}{G}\) です。
地球の密度 \(\rho\) は \(\displaystyle \rho = \frac{3g}{4\pi GR}\) です。
これらの結果は、地表の重力加速度 \(g\)、地球の半径 \(R\)、万有引力定数 \(G\) という、測定可能な量や定数で表されています。

解答 (1) 地球の質量: \(\displaystyle M = \frac{gR^2}{G}\), 地球の密度: \(\displaystyle \rho = \frac{3g}{4\pi GR}\)

問(2) (i)

思考の道筋とポイント
トンネル内の任意の点P(地球中心Oからの距離 \(r=OP\))で質点に働く重力(万有引力)\(F_r\) を求めます。問題文にある重要なヒント「\(r\) より内側の地球の質量 \(M_r\) がすべて中心Oに集まったとして、それと質点との間の万有引力に等しい」を利用します。
まず、半径 \(r\) の球内部の質量 \(M_r\) を、(1)で求めた密度 \(\rho\) を用いて計算します。その後、この \(M_r\) と質点 \(m\) との間に働く万有引力を計算します。最終的に、与えられた文字 \(m, g, r, R\) で表すために、(1)の結果(特に \(GM=gR^2\))を利用します。

この設問における重要なポイント

  • 地球内部の点での万有引力の計算には、その点より内側の部分の質量のみが寄与する。
  • 一様な密度の場合、内側の質量 \(M_r\) は \(\rho \cdot \frac{4}{3}\pi r^3\) で計算できる。
  • 最終的に \(g\) を使って表すため、\(GM = gR^2\) または \(\rho\) の式を活用する。

具体的な解説と立式
地球の中心Oから距離 \(r\) の点Pにある質点に働く重力(万有引力)\(F_r\) を考えます。
半径 \(r\) の球面内の地球の質量 \(M_r\) は、地球の密度 \(\rho\) を用いて、
$$M_r = \left(\frac{4}{3}\pi r^3\right) \rho \quad \cdots ⑥$$
この質量 \(M_r\) が地球の中心Oに集中しているとして、質点 \(m\) との間に働く万有引力の大きさ \(F_r\) は、
$$F_r = G\frac{M_r m}{r^2} \quad \cdots ⑦$$
となります。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 密度: \(\rho = M/V\)
  • 球の体積: \(V = \frac{4}{3}\pi r^3\)
  • (1)で求めた関係式
計算過程

式⑥に(1)で求めた密度 \(\rho = \frac{3g}{4\pi GR}\) (式⑤)を代入して \(M_r\) を求めます。
$$M_r = \frac{4}{3}\pi r^3 \cdot \frac{3g}{4\pi GR} = \frac{gr^3}{GR} \quad \cdots ⑧$$
次に、この \(M_r\) を式⑦に代入して \(F_r\) を求めます。
$$F_r = G \frac{\left(\frac{gr^3}{GR}\right) m}{r^2}$$
\(G\) と \(r^2\) を約分すると、
$$F_r = \frac{mgr}{R} \quad \cdots ⑨$$

計算方法の平易な説明

地球のトンネルの中(中心から距離 \(r\) の点P)では、地球の引力はその点Pより「内側にある部分の地球の質量」だけから受けると考えます。
まず、その「内側の部分の地球の質量 \(M_r\)」を計算します。(1)で求めた密度に内側の体積 \(\frac{4}{3}\pi r^3\) を掛けても求まります。
この \(M_r\) が地球中心に集まっていると考えて、質点 \(m\) との間の万有引力 \(G\frac{M_r m}{r^2}\) を計算します。最後に、(1)で求めた関係式を使って、答えを \(m, g, r, R\) だけの式にします。

結論と吟味

トンネル内の任意の点P(中心からの距離 \(r\))において質点に働く重力(万有引力)の大きさ \(F_r\) は \(\displaystyle F_r = \frac{mgr}{R}\) です。この力は、地球の中心Oに向かう向きに働きます。この力が中心からの距離 \(r\) に比例していることは、単振動の可能性を示唆しています。

解答 (2)(i) \(\displaystyle \frac{mgr}{R}\)

問(2) (ii)

思考の道筋とポイント
(i)で求めた重力 \(F_r\) は、地球の中心Oに向かう力です。この力を、トンネルABの方向(\(x\) 軸方向)に分解します。点Pの \(x\) 座標は、OからABに下ろした垂線の足Cを原点としたときの座標です。力の分解には、幾何学的な関係(三角比)を利用します。

この設問における重要なポイント

  • 力の分解: ベクトルである力を、互いに直交する成分に分解する。
  • 幾何学的関係の利用: 図中の角度や辺の長さの関係を利用する。
  • 座標軸と力の向き: \(x\) 軸の正の向きを定め、力の成分の符号を正しく判断する。

具体的な解説と立式
点Pの座標を \(x\) とし、Cを原点とします。トンネルABの方向を \(x\) 軸とします。(i)で求めた質点に働く重力 \(F_r = \frac{mgr}{R}\) は、PからOへ向かう向きです。この力をトンネルABの方向(\(x\) 軸方向)に分解した成分 \(F_x\) を求めます。
\(\triangle OPC\) において、\(\angle OPC = \theta\) とすると、\(F_r\) のトンネル方向の成分の大きさは \(F_r \cos\theta\) です。図から \(\cos\theta = \frac{|CP|}{OP} = \frac{|x|}{r}\)。
力の向きを考慮すると、\(x\) 軸をCからBの向きを正とした場合、力は常にCへ向かうので、
$$F_x = -F_r \frac{x}{r} \quad \cdots ⑩$$
(ここで \(x\) はCからPへの座標値なので、\(x\) の符号を含めて向きが表現されます。)
この式に、式⑨ \(F_r = \frac{mgr}{R}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 力の分解(三角比)
  • (2)(i)の結果 \(F_r = \frac{mgr}{R}\)
計算過程

式⑩ \(F_x = -F_r \frac{x}{r}\) に、式⑨ \(F_r = \frac{mgr}{R}\) を代入します。
$$F_x = -\left(\frac{mgr}{R}\right) \frac{x}{r}$$
\(r\) を約分すると、
$$F_x = -\frac{mg}{R}x \quad \cdots ⑪$$

計算方法の平易な説明

(i)で求めた力 \(F_r\) は、地球の中心Oに向かう力です。質点はトンネルABの中しか動けないので、この力 \(F_r\) をトンネルの方向の成分に分解します。図の直角三角形OPCを利用して、三角比の関係からトンネル方向の成分を求めます。力の向きは常にトンネルの中央Cに向かうので、座標 \(x\) を使うとマイナスの符号がつきます。

結論と吟味

点Pで質点に働くトンネル方向の力 \(F_x\) は \(\displaystyle F_x = -\frac{mg}{R}x\) です。これは、\(x\) 軸の原点Cからの変位 \(x\) に比例し、向きが常に原点Cへ向かう復元力であることを示しています。したがって、質点は点Cを中心とする単振動をすることが分かります。

解答 (2)(ii) \(\displaystyle -\frac{mg}{R}x\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)(ii)の結果から、質点はC点を中心とする単振動をすることが分かりました。復元力の比例定数は \(K = mg/R\) です。
点Bで質点を静かに放すので、点Bが単振動の一方の端(振幅の位置)となります。質点が点Aに達するのは、もう一方の端に達したときなので、これは単振動の半周期分の時間に相当します。
質点が点C(振動中心)を通過するときの速さは、単振動の最大速度 \(v_{max}\) になります。最大速度は振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて \(v_{max} = A\omega\) と計算できます。振幅 \(A\) はCBの距離です。\(\triangle OCB\) は直角三角形なので、三平方の定理から \(CB = \sqrt{OB^2 – OC^2} = \sqrt{R^2 – h^2}\) となります。
模範解答には、最大速度を単振動のエネルギー保存則から求める別解も示されています。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)。
  • 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{K/m} = 2\pi/T\)。
  • 単振動の振幅 \(A\): 振動の中心から端までの距離。
  • 単振動の最大速度: \(v_{max} = A\omega\)。振動中心で最大速度となる。
  • 幾何学(三平方の定理)による振幅の計算。
  • (別解用)単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)。

具体的な解説と立式
質点の運動は、C点を中心とする単振動で、復元力の比例定数は \(K = \frac{mg}{R}\) です。
この単振動の周期 \(T\) は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ⑫$$
質点を点Bで静かに放すと、そこが単振動の端となります。点Aは反対側の端なので、質点が点Bから点Aに達するまでの時間 \(t_{BA}\) は、周期の半分です。
$$t_{BA} = \frac{1}{2}T \quad \cdots ⑬$$
次に、質点が点C(振動中心、\(x=0\))を通過するときの速さ \(v_C\) を求めます。これは単振動の最大速度 \(v_{max}\) です。
振幅 \(A\) は、C点からB点までの距離です。\(\triangle OCB\) は \(\angle OCB = 90^\circ\) の直角三角形で、\(OB=R\)、\(OC=h\) なので、三平方の定理より、
$$A = CB = \sqrt{R^2 – h^2} \quad \cdots ⑭$$
単振動の角振動数 \(\omega\) は、\(\omega = \sqrt{K/m}\)。
よって、最大速度 \(v_C = v_{max}\) は、
$$v_C = A\omega \quad \cdots ⑮$$
と表されます。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
  • 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{K/m}\)
  • 単振動の振幅
  • 単振動の最大速度: \(v_{max} = A\omega\)
  • 三平方の定理
計算過程

まず、周期 \(T\) を式⑫に \(K = mg/R\) を代入して計算します。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{mg/R}} = 2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}$$
よって、点Aに達するまでの時間 \(t_{BA}\) は式⑬より、
$$t_{BA} = \frac{1}{2} \left(2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}\right) = \pi\sqrt{\frac{R}{g}} \quad \cdots ⑯$$
次に、点Cを通過するときの速さ \(v_C\) を式⑮から計算します。
角振動数は \(\omega = \sqrt{K/m} = \sqrt{(mg/R)/m} = \sqrt{g/R}\)。振幅は \(A = \sqrt{R^2 – h^2}\)(式⑭)。
$$v_C = \left(\sqrt{R^2 – h^2}\right) \sqrt{\frac{g}{R}} = \sqrt{\frac{g(R^2 – h^2)}{R}} \quad \cdots ⑰$$

別解(3-1): 点Cでの速さ \(v_C\) (単振動のエネルギー保存則)
思考の道筋とポイント
単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = E_{\text{total}}\) を利用します。振動の端である点B(変位 \(A\)、速度0)でのエネルギーと、振動中心である点C(変位0、速度 \(v_C\))でのエネルギーが等しいとします。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の全エネルギーは振動の端での位置エネルギー \(\frac{1}{2}KA^2\) に等しい。
  • 振動中心では位置エネルギーが0(基準とすれば)で運動エネルギーが最大 \(\frac{1}{2}mv_{max}^2\)。

具体的な解説と立式
単振動のエネルギー保存則より、振動の端Bでのエネルギーと、振動中心Cでのエネルギーは等しくなります。
復元力の比例定数は \(K = \frac{mg}{R}\)。振幅は \(A = \sqrt{R^2-h^2}\)。
$$\frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}mv_C^2 \quad \cdots ⑱_{\text{別}}$$

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}mv_{max}^2\)
計算過程

式⑱ \(\displaystyle\frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}mv_C^2\) から \(v_C\) を求めます。
$$v_C^2 = \frac{K}{m}A^2$$
\(v_C > 0\) なので、
$$v_C = A\sqrt{\frac{K}{m}}$$
ここに \(K = \frac{mg}{R}\) と \(A = \sqrt{R^2-h^2}\) を代入します。
$$\sqrt{\frac{K}{m}} = \sqrt{\frac{mg/R}{m}} = \sqrt{\frac{g}{R}}$$
よって、
$$v_C = \sqrt{R^2-h^2} \sqrt{\frac{g}{R}} = \sqrt{\frac{g(R^2-h^2)}{R}}$$
これは式⑰と同じ結果です。

計算方法の平易な説明

時間: (2)で質点の動きが単振動だとわかったので、その周期を計算します。BからAまでは振動の端から端までなので、周期のちょうど半分です。
速さ: C点は振動の中心なので、ここで速さが最大になります。最大の速さは「振幅 × 角振動数」で計算できます。振幅はCBの長さで、これは直角三角形OCBに三平方の定理を使えば \(\sqrt{R^2-h^2}\) とわかります。角振動数は周期から計算できます。別解として、単振動では「エネルギー」が保存されることを利用します。B点(端)での「位置エネルギーのようなもの」が、C点(中心)ではすべて「運動エネルギー」に変わるという関係から速さを計算できます。

結論と吟味

質点が点Aに達するまでの時間は \(\displaystyle \pi\sqrt{\frac{R}{g}}\) です。
質点が点Cを通過するときの速さは \(\displaystyle \sqrt{\frac{g(R^2-h^2)}{R}}\) です。
時間はトンネルの深さ \(h\) に依存しないという興味深い結果が得られました。速さは、\(h\) が小さいほど(トンネルが中心に近いほど)、振幅が大きくなるため最大速度も大きくなります。

解答 (3) 時間: \(\displaystyle \pi\sqrt{\frac{R}{g}}\), 速さ: \(\displaystyle \sqrt{\frac{g(R^2-h^2)}{R}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力の法則と、特に一様な球体内部での重力の性質、そしてそれが引き起こす単振動の理解。
    • 万有引力の法則の基本適用(地表の重力)。
    • 地球内部での重力(中心からの距離 \(r\) に比例)。
    • 力の分解と復元力の特定(トンネル方向の力が変位 \(x\) に比例)。
    • 単振動の性質の利用(周期、最大速度、エネルギー保存)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 他の惑星や天体の内部構造とそこでの重力に関する問題。
    • ばね振り子以外の系で、復元力が変位に比例して単振動が起こる例。
    • 特定の経路に束縛された物体の運動で、働く力をその経路方向に射影して考える問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の源泉の特定(万有引力、弾性力など)。
    2. 力の空間依存性(中心からの距離や変位によってどう変わるか)。
    3. 運動方向の力の成分の計算。
    4. 復元力の形の確認(\(-Kx\) の形になるか)。
    5. 対称性と保存則の利用可能性。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 地球内部の重力の誤解:
    • 現象: 地球内部でも \(GMm/r^2\) をそのまま使う。
    • 対策: 内部の質量のみが寄与し \(F_r \propto r\) となることを理解する(問題文の指示に従う)。
  • 力の分解の際の角度や符号の誤り。
  • 単振動の比例定数 \(K\) や振幅 \(A\) の特定ミス。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 地球中心に近づくほど重力が弱まるイメージ。
    • トンネル内を質点が往復運動し、中央で最速、両端で静止する単振動のイメージ。
    • 力の分解図(中心向きの力をトンネル方向と垂直方向に)。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 幾何学的関係の正確さ(O,C,P,Bの位置関係)。
    • 力のベクトルの始点と向き。
    • 角度や辺の長さの明示。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\): 地表での重力加速度の定義そのもの。
  • \(F_r = G\frac{M_r m}{r^2}\): 問題文での指示(シェル定理の帰結)。
  • 力の分解: トンネル方向の運動を知るため。
  • 単振動の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\): 力が \(F_x = -Kx\) の形になったため。
  • 単振動の最大速度 \(v_{max}=A\omega\) またはエネルギー保存: 単振動の基本的性質またはエネルギー保存則の適用。
  • 各公式の適用条件を常に意識する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 基本量の定義 (問1)。
  2. 内部での力の一般化 (問2(i))。
  3. 運動方向への力の射影 (問2(ii))。
  4. 単振動パラメータの計算 (問3)。
  5. 単振動の性質の適用 (問3)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • \(M_r\) の計算、\(F_r\) から \(F_x\) への変換(約分、符号)。
    • 周期の公式への \(K\) の代入。
    • 振幅 \(A\) の計算(三平方の定理)。
    • 最大速度の計算(振幅と角振動数の積)。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 文字式の計算に習熟する(約分、整理、平方根)。
    • 単位を意識したチェック。
    • 図と式の連携。
    • 検算(別の方法、極端な場合)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(2)(i) \(F_r = mgr/R\): \(r=R\) で \(mg\)、\(r=0\) で \(0\)。\(r\) に比例する引力。
    • 問(2)(ii) \(F_x = -mgx/R\): \(x=0\) で \(0\)。復元力として正しい。
    • 問(3) 時間 \(\pi\sqrt{R/g}\): \(h\) に依存しない。地球中心を通るトンネルと同じ時間。
    • 問(3) 速さ \(\sqrt{g(R^2-h^2)/R}\): \(h=0\) で \(\sqrt{gR}\)。\(h \rightarrow R\) で \(0\)。妥当。
  • 解の吟味は、計算ミス発見だけでなく、物理現象への理解を深め、応用力を養うために非常に重要。
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