「名問の森」徹底解説(25〜27問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題25 (埼玉大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、上端が固定された自然長\(l_0\)のゴムひもに質量\(m\)のおもりをつけ、おもりが固定点Oから鉛直下方距離\(l_0\)にある滑らかな水平面A上で等速円運動をする状況を扱います。ゴムひもの弾性定数は\(k\)で、\(k > mg/l_0\)という条件があります。おもりが水平面から受ける垂直抗力や、円運動の角速度、さらにはおもりが水平面から浮き上がる条件などが問われています。円運動の動力学とフックの法則、力のつり合いがポイントとなります。

与えられた条件
  • おもりの質量: \(m\) [kg]
  • ゴムひもの自然長: \(l_0\) [m]
  • ゴムひもの上端の固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離: \(l_0\) [m]
  • ゴムひもの弾性定数: \(k\) [N/m]
  • 条件: \(k > mg/l_0\)
  • おもりは水平面A上で等速円運動をする。
  • ゴムひもの質量とおもりの大きさは無視できる。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) ゴムひもが鉛直方向となす角を \(\alpha\)、おもりの角速度を \(\omega\)、ゴムひもの張力を \(T\)、おもりが水平面から受ける垂直抗力を \(N\) として、水平方向および鉛直方向での力のつり合い式を記すこと。
  2. (2) 角速度 \(\omega\) を \(m, k, \alpha\) で表すこと。
  3. (3) おもりの角速度 \(\omega\) をゆっくり増していくと、\(\omega\) がある角速度 \(\omega_c\) を超えたとき、おもりは面Aを離れて空中に浮き上がる。このときの角速度 \(\omega_c\) およびそのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を求めること。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、等速円運動をしているおもりにはたらく力のつり合いです。おもりと共に回転する観測者の立場(非慣性系)から見ると、おもりには遠心力が働いているように見え、この遠心力と他の実在の力(重力、張力、垂直抗力)とがつり合っていると考えます。また、ゴムひもの張力はフックの法則に従うことを利用します。幾何学的な関係から円運動の半径やゴムひもの長さを角度 \(\alpha\) で表すことも重要です。

問 (1)

思考の道筋とポイント

おもりは水平面A上で等速円運動をしています。おもりと共に回転する観測者の立場から見ると、おもりは静止しているように見え、実際の力に加えて「遠心力」が働いてつり合っていると考えます。遠心力は円運動の中心から遠ざかる向き(水平外向き)に働きます。円運動の半径を \(r\) とします。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、円運動の半径 \(r\) は \(r = l_0 \tan\alpha\) と表すことができます。

この設問における重要なポイント

  • おもりと共に回転する非慣性系で考え、遠心力を導入します。
  • おもりに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、ゴムひもの張力 \(T\)、遠心力 \(F_{\text{遠心}}\) です。
  • 円運動の半径は \(r = l_0 \tan\alpha\) です。したがって遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2 = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) となります。
  • これらの力を水平方向と鉛直方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てます。

具体的な解説と立式

おもりと共に回転する観測者から見ると、おもりは静止しており、以下の力が働いてつり合っています。

  • 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
  • 垂直抗力: \(N\) (鉛直上向き、水平面Aから受ける)
  • ゴムひもの張力: \(T\) (ゴムひもに沿って点Oの向き)
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) (水平面内で円運動の中心から遠ざかる向き、すなわち水平外向き)

張力 \(T\) を水平成分と鉛直成分に分解します。ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、

  • 張力の水平成分: \(T\sin\alpha\) (円運動の中心向き)
  • 張力の鉛直成分: \(T\cos\alpha\) (鉛直上向き)

力のつり合いの式を立てます。
水平方向の力のつり合い:
張力の水平成分(中心向き)と遠心力(外向き)がつり合います。
$$T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2 \quad \cdots ①$$
鉛直方向の力のつり合い:
垂直抗力 \(N\) と張力の鉛直成分(共に上向き)の和が、重力 \(mg\)(下向き)とつり合います。
$$N + T\cos\alpha = mg \quad \cdots ②$$

別解1: 静止系(慣性系)で考える

床で静止している観測者(慣性系)から見ると、おもりは等速円運動をしています。この場合、おもりには円運動を維持するための向心力が必要です。
水平方向の運動方程式(向心加速度 \(a_c = r\omega^2 = (l_0\tan\alpha)\omega^2\) を考慮):
水平方向の力は張力 \(T\) の水平成分 \(T\sin\alpha\) のみであり、これが向心力として働きます。したがって、運動方程式は、
$$T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2$$
これは、遠心力を用いた場合の力のつり合いの式①と全く同じ形です。
鉛直方向の運動方程式(鉛直方向には加速しないので力のつり合い):
鉛直方向の力は、垂直抗力 \(N\)(上向き)、張力 \(T\) の鉛直成分 \(T\cos\alpha\)(上向き)、重力 \(mg\)(下向き)です。これらがつり合っているので、
$$N + T\cos\alpha – mg = 0 \quad \text{すなわち} \quad N + T\cos\alpha = mg$$
これも、遠心力を用いた場合の力のつり合いの式②と全く同じ形です。
このように、どちらの基準系(観測者の立場)で考えても同じ関係式が得られます。問題文が「力のつり合い式を記せ」と指定しているため、遠心力を用いた非慣性系での考察がより直接的な解答となります。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\) (遠心力を考慮した場合)
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2\)
  • 力の分解
  • 円運動の半径の幾何学的関係: \(r = l_0\tan\alpha\)
計算過程

この設問では、力のつり合いの式を立てることが求められており、上記の式①と式②がその解答となります。

計算方法の平易な説明

おもりがクルクルと円を描いて回っているとき、おもりと一緒に回っている人から見ると、おもりはまるで止まっているかのように見えます。この人にとっては、おもりが外側に引っ張られるような「見かけの力」(これを遠心力といいます)が働いているように感じます。この遠心力と、ゴムひもがおもりを内側に引く力(張力)の水平方向の成分が、ちょうど釣り合っています。これが水平方向の力のつり合いの式です。また、おもりは上下には動いていないので、上向きに働く力(床からの垂直抗力と張力の鉛直方向の成分)と、下向きに働く力(重力)も釣り合っています。これが鉛直方向の力のつり合いの式です。これら2つのつり合いの関係を数式で表します。

結論と吟味

水平方向の力のつり合い式は \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) であり、鉛直方向の力のつり合い式は \(N + T\cos\alpha = mg\) です。
ここで重要なのは、円運動の半径 \(r\) を、固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離 \(l_0\) と、ゴムひもが鉛直方向となす角 \(\alpha\) を用いて \(r=l_0\tan\alpha\) と正しく表すことです。また、張力 \(T\) を水平成分 \(T\sin\alpha\) と鉛直成分 \(T\cos\alpha\) に適切に分解することも、正確な立式のためには不可欠です。

解答 (1) 水平方向: \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\), 鉛直方向: \(N + T\cos\alpha = mg\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

ゴムひもの張力 \(T\) は、フックの法則 \(T = k \times (\text{伸び})\) に従います。まず、現在のゴムひもの長さ \(l\) を求める必要があります。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) であることから、三角比の関係を用いて現在のゴムひもの長さ \(l\) は \(l = l_0/\cos\alpha\) となります。問題文の「自然長 \(l_0\) のゴムひも」という記述と、「水平面Aから距離 \(l_0\) の点Oに固定」という記述から、この問題設定ではゴムひもの自然長も \(l_0\) であると解釈します。したがって、ゴムひもの伸びは \((l – l_0)\) と表せます。
この張力 \(T\) の式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式に代入し、角速度 \(\omega\) について解きます。

この設問における重要なポイント

  • ゴムひもの現在の長さ \(l\) を、固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離 \(l_0\) と角度 \(\alpha\) を用いて表します: \(l = l_0/\cos\alpha\)。
  • ゴムひもの自然長も \(l_0\) であると解釈し、その伸びを \((l-l_0)\) とします。
  • フックの法則を用いて張力 \(T\) を表します: \(T = k(l-l_0)\)。
  • (1)で得られた水平方向の力のつり合いの式 \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) を利用します。

具体的な解説と立式

ゴムひもの現在の長さを \(l\) とします。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、幾何学的関係から、
$$l\cos\alpha = l_0 \quad \text{すなわち} \quad l = \frac{l_0}{\cos\alpha}$$
ゴムひもの自然長は \(l_0\) と与えられているので、ゴムひもの伸び \(\Delta l\) は、
$$\Delta l = l – l_0 = \frac{l_0}{\cos\alpha} – l_0 = l_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right)$$
フックの法則より、ゴムひもの張力 \(T\) は、弾性定数 \(k\) と伸び \(\Delta l\) を用いて、
$$T = k \Delta l = kl_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right) \quad \cdots ③$$
この張力 \(T\) の表式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式 \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) (式①) に代入します。
$$kl_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right) \sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2$$
ここで、\(\tan\alpha = \displaystyle\frac{\sin\alpha}{\cos\alpha}\) を用いて右辺を書き換えると、
$$kl_0 \left(\frac{1-\cos\alpha}{\cos\alpha}\right) \sin\alpha = m l_0 \frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} \omega^2 \quad \cdots ④$$
この式から角速度 \(\omega\) を求めます。

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\) (ここで \(x\) は自然長からの伸び)
  • 幾何学的関係(三角比): \(l = l_0/\cos\alpha\)
  • 力のつり合いの式((1)で導出した水平方向の式)
計算過程

式④ \(kl_0 \left(\displaystyle\frac{1-\cos\alpha}{\cos\alpha}\right) \sin\alpha = m l_0 \displaystyle\frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} \omega^2\) から角速度 \(\omega\) を求めます。
おもりが円運動している(つまり \(\alpha \neq 0\))と仮定すると、\(\sin\alpha \neq 0\) であり、また \(\cos\alpha \neq 0\) です(\(\alpha\) は鋭角なので \(\alpha \neq 90^\circ\))。また、\(l_0 > 0\)。
したがって、式④の両辺から共通の因子である \(l_0\)、\(\sin\alpha\)、および分母の \(\cos\alpha\) を消去することができます。
$$k(1-\cos\alpha) = m\omega^2$$
\(\omega^2\) について解くと、
$$\omega^2 = \frac{k}{m}(1-\cos\alpha)$$
角速度 \(\omega\) は正の値をとるので、両辺の平方根をとると、
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)} \quad \cdots ⑤$$

計算方法の平易な説明

まず、ゴムひもがどれだけ伸びているかを計算します。ゴムひもの現在の実際の長さは、つり下げ点Oからの水平面までの高さ \(l_0\) と、ゴムひもが鉛直方向となす角度 \(\alpha\) から、三角比を使ってわかります。ゴムひもの自然の長さも \(l_0\) と与えられているので、現在の長さと自然の長さの差が「伸び」になります。ゴムひもが引く力(張力 \(T\))は、この「伸び」とゴムの硬さ(弾性定数 \(k\))を掛けたものとして計算できます (\(T = k \times \text{伸び}\))。
次に、この張力 \(T\) の式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式(張力の水平成分=遠心力)に代入します。そうすると、角速度 \(\omega\) だけが未知数として残る式が得られるので、その式を \(\omega\) について解けば、答えが求まります。

結論と吟味

おもりの角速度 \(\omega\) は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) です。
この式から、ゴムひもが鉛直となす角 \(\alpha\) が大きくなる(おもりがより外側に広がる)と、\(\cos\alpha\) は小さくなるため、括弧内の \((1-\cos\alpha)\) は大きくなります。その結果、角速度 \(\omega\) も大きくなる傾向があることがわかります。また、ゴムが硬い(弾性定数 \(k\) が大きい)ほど、またおもりが軽い(質量 \(m\) が小さい)ほど、同じ角度 \(\alpha\) を保つためにはより大きな角速度が必要になることも読み取れます。これらの関係は物理的に妥当と言えるでしょう。

解答 (2) \(\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

おもりの角速度 \(\omega\) をゆっくりと増やしていくと、やがておもりは水平面Aを離れて空中に浮き上がります。この浮き上がる瞬間は、おもりが水平面Aから受ける垂直抗力 \(N\) がちょうど0になるときです。このときのゴムひもが鉛直となす角を \(\alpha_c\)、角速度を \(\omega_c\)、ゴムひもの長さを \(l_c\) とします。
まず、設問(1)で立てた鉛直方向の力のつり合いの式 \(N + T\cos\alpha = mg\) (式②) において \(N=0\) とし、そのときの張力 \(T_c\) と角度 \(\alpha_c\) の関係(具体的には \(T_c\cos\alpha_c = mg\))を導きます。次に、張力 \(T_c\) をフックの法則を用いて \(T_c = kl_0(\frac{1}{\cos\alpha_c}-1)\) (式③の形) で表し、これらを組み合わせて \(\cos\alpha_c\) を求めます。
得られた \(\cos\alpha_c\) の値(あるいは \(1-\cos\alpha_c\) の値)を用いて、設問(2)で求めた角速度 \(\omega\) の一般式 \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) (式⑤) から、浮き上がる瞬間の臨界角速度 \(\omega_c\) を計算します。
最後に、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を、幾何学的関係 \(l_c = l_0/\cos\alpha_c\) (ここで \(l_0\) は自然長であり、O点から水平面までの鉛直距離でもある) と、求めた \(\cos\alpha_c\) から計算します。

この設問における重要なポイント

  • おもりが面Aを離れる(浮き上がる)条件は、垂直抗力 \(N=0\) です。
  • 鉛直方向の力のつり合いの式(式②)で \(N=0\) とした条件を用います。
  • 張力 \(T\) はフックの法則(式③の形)で表されます。
  • これらの関係から、面を離れる瞬間の角度 \(\alpha_c\) における \(\cos\alpha_c\) の値を求めます。
  • 求めた \(\cos\alpha_c\) (あるいは \(1-\cos\alpha_c\))を用いて、角速度 \(\omega_c\) とゴムひもの長さ \(l_c\) を計算します。

具体的な解説と立式

おもりが水平面Aを離れる瞬間、垂直抗力 \(N=0\) となります。このときのゴムひもが鉛直となす角を \(\alpha_c\)、張力を \(T_c\)、角速度を \(\omega_c\)、ゴムひもの長さを \(l_c\) とします。

鉛直方向の力のつり合いの式(式②: \(N + T\cos\alpha = mg\))で \(N=0\)、\(\alpha=\alpha_c\)、\(T=T_c\) とすると、
$$T_c\cos\alpha_c = mg \quad \cdots ⑥$$
ゴムひもの張力 \(T_c\) は、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) と自然長 \(l_0\) を用いてフックの法則から表されます。ここで、幾何学的関係 \(l_c\cos\alpha_c = l_0\) (\(l_0\) はO点から水平面Aまでの鉛直距離)より \(l_c = l_0/\cos\alpha_c\) です。ゴムひもの自然長も \(l_0\) なので、伸びは \(l_c – l_0\) です。
$$T_c = k(l_c – l_0) = k\left(\frac{l_0}{\cos\alpha_c} – l_0\right) = kl_0\left(\frac{1}{\cos\alpha_c} – 1\right) \quad \cdots ⑦$$
式⑦を式⑥に代入すると、\(\cos\alpha_c\) を求めるための方程式が得られます。
$$kl_0\left(\frac{1}{\cos\alpha_c} – 1\right) \cos\alpha_c = mg$$
$$kl_0(1 – \cos\alpha_c) = mg \quad \cdots ⑧$$

臨界角速度 \(\omega_c\) は、設問(2)で求めた角速度の一般式 \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) (式⑤) に、\(\alpha = \alpha_c\) を代入することで得られます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha_c)} \quad \cdots ⑨$$

そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) は、幾何学的関係から、
$$l_c = \frac{l_0}{\cos\alpha_c} \quad \cdots ⑩$$
(ここで \(l_0\) はO点から水平面までの鉛直距離であり、ゴムひもの自然長でもあります。)

使用した物理公式

  • 力のつり合い(鉛直方向、\(N=0\) の条件を含む)
  • フックの法則
  • 幾何学的関係(三角比)
  • 角速度の一般式(設問(2)で導出したもの)
計算過程

まず、式⑧ \(kl_0(1 – \cos\alpha_c) = mg\) から \(1-\cos\alpha_c\) の形を求め、それを用いて \(\cos\alpha_c\) を求めます。
$$1 – \cos\alpha_c = \frac{mg}{kl_0}$$
したがって、
$$\cos\alpha_c = 1 – \frac{mg}{kl_0} \quad \cdots ⑪$$

次に、この \(1-\cos\alpha_c = \displaystyle\frac{mg}{kl_0}\) を式⑨ \(\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha_c)}\) に代入して \(\omega_c\) を求めます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m} \left(\frac{mg}{kl_0}\right)}$$
右辺の平方根の中の \(k\) と \(m\) がそれぞれ分子と分母で約分されます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{g}{l_0}} \quad \cdots ⑫$$

最後に、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を求めます。式⑩ \(l_c = \displaystyle\frac{l_0}{\cos\alpha_c}\) に、式⑪で求めた \(\cos\alpha_c = 1 – \displaystyle\frac{mg}{kl_0}\) を代入します。
$$l_c = \frac{l_0}{1 – \frac{mg}{kl_0}}$$
分母を通分すると \(1 – \displaystyle\frac{mg}{kl_0} = \frac{kl_0 – mg}{kl_0}\) となるので、
$$l_c = l_0 \left(\frac{kl_0}{kl_0 – mg}\right) = \frac{kl_0^2}{kl_0 – mg} \quad \cdots ⑬$$

計算方法の平易な説明

おもりが床からちょうど浮き上がる瞬間は、床がおもりを押す力(垂直抗力 \(N\))がゼロになるときです。この条件を、(1)で立てた上下方向の力のつり合いの式に入れます。そうすると、そのときのゴムひもの力(張力 \(T_c\))と、ゴムひもが鉛直方向となす角度 \(\alpha_c\) の関係がわかります。一方、ゴムひもの張力 \(T_c\) は、ゴムの伸びと硬さ(弾性定数 \(k\))で決まるので(フックの法則)、これも角度 \(\alpha_c\) を使って表すことができます。これら2つの張力に関する式を組み合わせると、浮き上がる瞬間の角度 \(\alpha_c\)(具体的にはその余弦 \(\cos\alpha_c\))が求まります。
この \(\cos\alpha_c\) の値(あるいは \(1-\cos\alpha_c\) の値)を、(2)で求めた角速度 \(\omega\) の一般的な式に代入すれば、浮き上がる瞬間の特別な角速度 \(\omega_c\) が計算できます。
最後に、そのときのゴムひもの実際の長さ \(l_c\) は、つり下げ点Oからの水平面までの高さ \(l_0\) と、浮き上がる瞬間の角度 \(\alpha_c\) から三角比を使って計算します。

結論と吟味

おもりが面Aを離れて空中に浮き上がるときの角速度は \(\omega_c = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\) です。
また、そのときのゴムひもの長さは \(l_c = \displaystyle\frac{kl_0^2}{kl_0 – mg}\) です。
問題文中に与えられた条件 \(k > mg/l_0\)、すなわち \(kl_0 > mg\) は、ここで重要な意味を持ちます。この条件があるために、\(\cos\alpha_c = 1 – \frac{mg}{kl_0}\) の値が \(0 < \cos\alpha_c < 1\) の範囲に収まることが保証されます(なぜなら、\(\frac{mg}{kl_0} < 1\) かつ \(\frac{mg}{kl_0} > 0\) となるため)。これにより、物理的に意味のある角度 \(\alpha_c\)(\(0 < \alpha_c < 90^\circ\))が存在し、おもりが実際に浮き上がることが可能になります。また、ゴムひもの長さ \(l_c\) の式の分母 \(kl_0 – mg\) が正になるため、\(l_c\) も正の妥当な値をとります。もし \(kl_0 \le mg\) であれば、\(\cos\alpha_c \le 0\) となってしまったり、\(l_c\) が負の値や無限大になったりしてしまい、おもりが浮き上がる前に別の状況(例えばゴムが伸びきらない、または \(\alpha_c \ge 90^\circ\) でないと垂直抗力 \(N=0\) にならないなど)が生じる可能性があります。このように、問題文中に示される条件式は、解の物理的な妥当性を担保するためにしばしば与えられています。

解答 (3) 角速度 \(\omega_c = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\), ゴムひもの長さ \(l_c = \displaystyle\frac{kl_0^2}{kl_0 – mg}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 等速円運動と力のつり合い(遠心力の導入):
    • おもりが等速円運動をしている状況を、おもりと共に回転する観測者の立場(非慣性系)から見ることで、遠心力という見かけの力を導入し、他の実在の力(重力、張力、垂直抗力)との「力のつり合い」として扱いました。これにより、運動方程式を直接解くよりも直感的に立式できる場合があります。
    • 円運動の半径 \(r\) を、幾何学的関係(この問題では \(r=l_0\tan\alpha\))から正しく求めることが不可欠でした。
  • フックの法則:
    • ゴムひもの張力 \(T\) が、その自然長からの「伸び」に比例する (\(T = k \times (\text{伸び})\)) という法則。この問題では、ゴムひもの現在の長さ \(l\) と自然長 \(l_0\) の関係、そしてそれらと角度 \(\alpha\) の関係を幾何学的に明らかにし、張力を角度の関数として表すことが鍵となりました。
  • 垂直抗力が0になる条件(物体が面から離れる条件):
    • 設問(3)で、おもりが水平面Aから離れる瞬間は、おもりが面から受ける垂直抗力 \(N\) がちょうど0になるときである、という物理的条件を適用しました。これは、接触していた面から物体が浮き上がる一般的な条件です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 回転する円錐振り子や、遊園地の回転ブランコなど、張力と重力、遠心力(または向心力)が関わる円運動の問題全般。
    • ばね振り子の運動(特に、ばねの弾性力と重力、場合によっては向心力や遠心力が絡むもの)。
    • 物体が面から離れる、あるいは滑り出す限界の条件を問う問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動形態の特定: まず、物体がどのような運動(等速円運動、単振動、放物運動など)をしているのかを把握する。
    2. 力の図示: 物体に働くすべての力をベクトルで正確に図示する。円運動の場合は、どの力が向心力の役割を果たすか(慣性系)、あるいは遠心力とどの力がつり合うか(非慣性系)を明確にする。
    3. 座標系(観測者)の選択: 慣性系で運動方程式を立てるか、非慣性系で遠心力を導入して力のつり合いを考えるか、問題に応じてより扱いやすい方を選択する。
    4. 幾何学的条件の利用: 糸の長さ、角度、円運動の半径などの間に成り立つ幾何学的な関係(三角比など)を正しく利用して、変数を減らしたり、力を成分分解したりする。
    5. 限界条件の物理的意味の理解: 「面から離れる \(\Leftrightarrow\) 垂直抗力 \(N=0\)」「糸がたるむ \(\Leftrightarrow\) 張力 \(T=0\)(または \(T \ge 0\))」といった条件を物理的に正しく解釈し、数式に反映させる。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 円運動の半径 \(r\) を、問題で与えられた長さや角度を使って正確に表すこと。しばしば \(l\sin\alpha\) や \(l\cos\alpha\)、\(l\tan\alpha\) のような形になる。
    • ばねやゴムひもの場合、張力や弾性力は「自然長からの伸び(または縮み)」に比例することを忘れない。現在の長さと自然長を区別する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 遠心力と向心力の混同、あるいは誤用:
    • 現象: 遠心力は非慣性系(回転系)で導入される見かけの力であり、向心力は慣性系で円運動を維持するために必要な中心向きの合力。これらを同じ式に同時に登場させたり、意味を取り違えたりしやすい。
    • 対策: 自分がどの観測者の立場(慣性系か非慣性系か)で考えているのかを常に明確にする。非慣性系なら遠心力を導入して「力のつり合い」、慣性系なら向心方向の運動方程式「\(ma_c = F_c\)」を立てる。
  • ゴムひもやばねの「長さ」と「伸び」の混同:
    • 現象: フックの法則 \(F=kx\) の \(x\) は「自然長からの変化量(伸びまたは縮み)」であるが、これを現在の「長さ」そのものと誤解してしまう。
    • 対策: 必ず「自然長はいくつか」「現在の長さはいくつか」を確認し、その差を「伸び/縮み」として計算する。
  • 力の分解における角度の取り違え:
    • 現象: 張力や重力などを成分分解する際に、\(\sin\alpha\) と \(\cos\alpha\) を逆にしてしまう。
    • 対策: 力の分解図を丁寧に描き、角度 \(\alpha\) がどの部分に対応するのかを正確に把握する。直角三角形の辺と角の関係を常に意識する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • おもりが水平面上でくるくると円運動し、それに伴ってゴムひもが斜めに傾いている様子をイメージする。角速度が上がると、おもりがより外側に広がり、ゴムひももより水平に近くなる(\(\alpha\) が大きくなる)様子。
    • おもりにはたらく力をベクトルで図示する。特に、張力 \(T\) がゴムひもに沿って中心向き(点Oの方向)、遠心力が水平外向き、重力が鉛直下向き、垂直抗力が鉛直上向き、という方向を正確に描くことが重要。
    • これらの力を水平・鉛直成分に分解した図も描くと、力のつり合いの式を立てやすくなる。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 力の作用点(この場合はおもり)を明確にする。
    • 各力のベクトルの向きを正確に描く。相対的な大きさもある程度意識すると良い。
    • 角度 \(\alpha\) がどの部分の角度なのかを図中に明示する。
    • 円運動の半径 \(r\) も図中に示し、それが問題の寸法(\(l_0\) や \(l\))と角度 \(\alpha\) でどう表されるかを補助的に描くと良い。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式の選択と適用根拠:
    • 選定理由: おもりと共に回転する観測者から見れば、おもりは(遠心力を考慮すると)静止して見えるため、力のつり合いが成り立つと判断し適用。
    • 適用根拠: 物体が静止または等速直線運動(あるいは見かけ上静止)している場合、その物体に働く力の合力はゼロであるというニュートンの法則。
  • フックの法則の選択と適用根拠:
    • 選定理由: ゴムひもが弾性体であり、その張力が伸びに比例するという物理法則に基づいて適用。
    • 適用根拠: 弾性体の変形と力の関係を表す基本的な法則。
  • \(N=0\) の条件の選択と適用根拠:
    • 選定理由: 物体が面から離れるという物理現象を、垂直抗力がゼロになるという数式的な条件に置き換えて適用。
    • 適用根拠: 垂直抗力は面が物体を押す力であり、離れれば働かなくなるため。
  • 公式選択の思考訓練:
    • それぞれの公式が適用できる「状況」や「前提条件」を理解しておくことが、公式を正しく使いこなすために不可欠。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 円運動の状況を把握し、働く力をリストアップ(回転系なら遠心力も)。
  2. 力のつり合いを考える方向(水平・鉛直)を定める。
  3. 円運動の半径やゴムひもの長さを幾何学的に表現する。
  4. フックの法則を適用して張力を伸び(と角度)で表す。
  5. 力のつり合いの式を連立させ、未知数を消去して目的の物理量を導く。
  6. 「面から離れる」といった限界条件を数式(\(N=0\))で表現し、それを既存の式と組み合わせて解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 三角関数の扱い: \(\sin\alpha, \cos\alpha, \tan\alpha\) の関係、特に \(l_0\tan\alpha\) や \(l_0/\cos\alpha\) といった幾何学的関係の導出と、それらを式に代入する際の計算。
    • フックの法則 \(T=k(l-l_0)\) の \(l\) を正しく \(\alpha\) で表す部分。
    • 連立方程式を解く際の代数的な処理、特に文字が多くなった場合の整理。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 文字式の計算、特に三角関数を含む式の変形に慣れておく。
    • 途中式を丁寧に書き、どの変数を何で置き換えたのか、どの公式を使ったのかを明確にしながら進める。
    • 計算結果が出たら、単位や次元が正しいか、極端な場合(\(\alpha \rightarrow 0\) や \(\alpha \rightarrow 90^\circ\) など)を考えてみて結果が妥当か、といった簡単なチェックを行う。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 例えば、(2)で得られた \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) について、\(\alpha\) が大きくなると \(\omega\) も大きくなること(より速く回す必要があること)は直感に合うか?
    • (3)で得られた \(\omega_c = \sqrt{g/l_0}\) は、単振り子の周期 \(2\pi\sqrt{l_0/g}\) に似たパーツを含んでおり、物理的なスケール感として妥当か? また、条件 \(kl_0 > mg\) が \(\cos\alpha_c\) や \(l_c\) の物理的な意味(\(\cos\alpha_c < 1\) であり、\(l_c\) が正の値ををとる)を保証していることを確認する。
  • 吟味の習慣: このような吟味は、計算ミスを発見するだけでなく、物理現象と数式の結びつきをより深く理解するのに役立つ。
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問題26 (大分大)

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