問題25 (埼玉大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、上端が固定された自然長\(l_0\)のゴムひもに質量\(m\)のおもりをつけ、おもりが固定点Oから鉛直下方距離\(l_0\)にある滑らかな水平面A上で等速円運動をする状況を扱います。ゴムひもの弾性定数は\(k\)で、\(k > mg/l_0\)という条件があります。おもりが水平面から受ける垂直抗力や、円運動の角速度、さらにはおもりが水平面から浮き上がる条件などが問われています。円運動の動力学とフックの法則、力のつり合いがポイントとなります。
- おもりの質量: \(m\) [kg]
- ゴムひもの自然長: \(l_0\) [m]
- ゴムひもの上端の固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離: \(l_0\) [m]
- ゴムひもの弾性定数: \(k\) [N/m]
- 条件: \(k > mg/l_0\)
- おもりは水平面A上で等速円運動をする。
- ゴムひもの質量とおもりの大きさは無視できる。
- 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
- (1) ゴムひもが鉛直方向となす角を \(\alpha\)、おもりの角速度を \(\omega\)、ゴムひもの張力を \(T\)、おもりが水平面から受ける垂直抗力を \(N\) として、水平方向および鉛直方向での力のつり合い式を記すこと。
- (2) 角速度 \(\omega\) を \(m, k, \alpha\) で表すこと。
- (3) おもりの角速度 \(\omega\) をゆっくり増していくと、\(\omega\) がある角速度 \(\omega_c\) を超えたとき、おもりは面Aを離れて空中に浮き上がる。このときの角速度 \(\omega_c\) およびそのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を求めること。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、等速円運動をしているおもりにはたらく力のつり合いです。おもりと共に回転する観測者の立場(非慣性系)から見ると、おもりには遠心力が働いているように見え、この遠心力と他の実在の力(重力、張力、垂直抗力)とがつり合っていると考えます。また、ゴムひもの張力はフックの法則に従うことを利用します。幾何学的な関係から円運動の半径やゴムひもの長さを角度 \(\alpha\) で表すことも重要です。
問 (1)
思考の道筋とポイント
おもりは水平面A上で等速円運動をしています。おもりと共に回転する観測者の立場から見ると、おもりは静止しているように見え、実際の力に加えて「遠心力」が働いてつり合っていると考えます。遠心力は円運動の中心から遠ざかる向き(水平外向き)に働きます。円運動の半径を \(r\) とします。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、円運動の半径 \(r\) は \(r = l_0 \tan\alpha\) と表すことができます。
この設問における重要なポイント
- おもりと共に回転する非慣性系で考え、遠心力を導入します。
- おもりに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、ゴムひもの張力 \(T\)、遠心力 \(F_{\text{遠心}}\) です。
- 円運動の半径は \(r = l_0 \tan\alpha\) です。したがって遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2 = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) となります。
- これらの力を水平方向と鉛直方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てます。
具体的な解説と立式
おもりと共に回転する観測者から見ると、おもりは静止しており、以下の力が働いてつり合っています。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 垂直抗力: \(N\) (鉛直上向き、水平面Aから受ける)
- ゴムひもの張力: \(T\) (ゴムひもに沿って点Oの向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) (水平面内で円運動の中心から遠ざかる向き、すなわち水平外向き)
張力 \(T\) を水平成分と鉛直成分に分解します。ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、
- 張力の水平成分: \(T\sin\alpha\) (円運動の中心向き)
- 張力の鉛直成分: \(T\cos\alpha\) (鉛直上向き)
力のつり合いの式を立てます。
水平方向の力のつり合い:
張力の水平成分(中心向き)と遠心力(外向き)がつり合います。
$$T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2 \quad \cdots ①$$
鉛直方向の力のつり合い:
垂直抗力 \(N\) と張力の鉛直成分(共に上向き)の和が、重力 \(mg\)(下向き)とつり合います。
$$N + T\cos\alpha = mg \quad \cdots ②$$
別解1: 静止系(慣性系)で考える
床で静止している観測者(慣性系)から見ると、おもりは等速円運動をしています。この場合、おもりには円運動を維持するための向心力が必要です。
水平方向の運動方程式(向心加速度 \(a_c = r\omega^2 = (l_0\tan\alpha)\omega^2\) を考慮):
水平方向の力は張力 \(T\) の水平成分 \(T\sin\alpha\) のみであり、これが向心力として働きます。したがって、運動方程式は、
$$T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2$$
これは、遠心力を用いた場合の力のつり合いの式①と全く同じ形です。
鉛直方向の運動方程式(鉛直方向には加速しないので力のつり合い):
鉛直方向の力は、垂直抗力 \(N\)(上向き)、張力 \(T\) の鉛直成分 \(T\cos\alpha\)(上向き)、重力 \(mg\)(下向き)です。これらがつり合っているので、
$$N + T\cos\alpha – mg = 0 \quad \text{すなわち} \quad N + T\cos\alpha = mg$$
これも、遠心力を用いた場合の力のつり合いの式②と全く同じ形です。
このように、どちらの基準系(観測者の立場)で考えても同じ関係式が得られます。問題文が「力のつり合い式を記せ」と指定しているため、遠心力を用いた非慣性系での考察がより直接的な解答となります。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\) (遠心力を考慮した場合)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2\)
- 力の分解
- 円運動の半径の幾何学的関係: \(r = l_0\tan\alpha\)
この設問では、力のつり合いの式を立てることが求められており、上記の式①と式②がその解答となります。
おもりがクルクルと円を描いて回っているとき、おもりと一緒に回っている人から見ると、おもりはまるで止まっているかのように見えます。この人にとっては、おもりが外側に引っ張られるような「見かけの力」(これを遠心力といいます)が働いているように感じます。この遠心力と、ゴムひもがおもりを内側に引く力(張力)の水平方向の成分が、ちょうど釣り合っています。これが水平方向の力のつり合いの式です。また、おもりは上下には動いていないので、上向きに働く力(床からの垂直抗力と張力の鉛直方向の成分)と、下向きに働く力(重力)も釣り合っています。これが鉛直方向の力のつり合いの式です。これら2つのつり合いの関係を数式で表します。
水平方向の力のつり合い式は \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) であり、鉛直方向の力のつり合い式は \(N + T\cos\alpha = mg\) です。
ここで重要なのは、円運動の半径 \(r\) を、固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離 \(l_0\) と、ゴムひもが鉛直方向となす角 \(\alpha\) を用いて \(r=l_0\tan\alpha\) と正しく表すことです。また、張力 \(T\) を水平成分 \(T\sin\alpha\) と鉛直成分 \(T\cos\alpha\) に適切に分解することも、正確な立式のためには不可欠です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
ゴムひもの張力 \(T\) は、フックの法則 \(T = k \times (\text{伸び})\) に従います。まず、現在のゴムひもの長さ \(l\) を求める必要があります。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) であることから、三角比の関係を用いて現在のゴムひもの長さ \(l\) は \(l = l_0/\cos\alpha\) となります。問題文の「自然長 \(l_0\) のゴムひも」という記述と、「水平面Aから距離 \(l_0\) の点Oに固定」という記述から、この問題設定ではゴムひもの自然長も \(l_0\) であると解釈します。したがって、ゴムひもの伸びは \((l – l_0)\) と表せます。
この張力 \(T\) の式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式に代入し、角速度 \(\omega\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- ゴムひもの現在の長さ \(l\) を、固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離 \(l_0\) と角度 \(\alpha\) を用いて表します: \(l = l_0/\cos\alpha\)。
- ゴムひもの自然長も \(l_0\) であると解釈し、その伸びを \((l-l_0)\) とします。
- フックの法則を用いて張力 \(T\) を表します: \(T = k(l-l_0)\)。
- (1)で得られた水平方向の力のつり合いの式 \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) を利用します。
具体的な解説と立式
ゴムひもの現在の長さを \(l\) とします。固定点Oから水平面Aまでの鉛直距離が \(l_0\) であり、ゴムひもが鉛直となす角が \(\alpha\) なので、幾何学的関係から、
$$l\cos\alpha = l_0 \quad \text{すなわち} \quad l = \frac{l_0}{\cos\alpha}$$
ゴムひもの自然長は \(l_0\) と与えられているので、ゴムひもの伸び \(\Delta l\) は、
$$\Delta l = l – l_0 = \frac{l_0}{\cos\alpha} – l_0 = l_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right)$$
フックの法則より、ゴムひもの張力 \(T\) は、弾性定数 \(k\) と伸び \(\Delta l\) を用いて、
$$T = k \Delta l = kl_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right) \quad \cdots ③$$
この張力 \(T\) の表式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式 \(T\sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2\) (式①) に代入します。
$$kl_0 \left(\frac{1}{\cos\alpha} – 1\right) \sin\alpha = m(l_0\tan\alpha)\omega^2$$
ここで、\(\tan\alpha = \displaystyle\frac{\sin\alpha}{\cos\alpha}\) を用いて右辺を書き換えると、
$$kl_0 \left(\frac{1-\cos\alpha}{\cos\alpha}\right) \sin\alpha = m l_0 \frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} \omega^2 \quad \cdots ④$$
この式から角速度 \(\omega\) を求めます。
使用した物理公式
- フックの法則: \(F = kx\) (ここで \(x\) は自然長からの伸び)
- 幾何学的関係(三角比): \(l = l_0/\cos\alpha\)
- 力のつり合いの式((1)で導出した水平方向の式)
式④ \(kl_0 \left(\displaystyle\frac{1-\cos\alpha}{\cos\alpha}\right) \sin\alpha = m l_0 \displaystyle\frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} \omega^2\) から角速度 \(\omega\) を求めます。
おもりが円運動している(つまり \(\alpha \neq 0\))と仮定すると、\(\sin\alpha \neq 0\) であり、また \(\cos\alpha \neq 0\) です(\(\alpha\) は鋭角なので \(\alpha \neq 90^\circ\))。また、\(l_0 > 0\)。
したがって、式④の両辺から共通の因子である \(l_0\)、\(\sin\alpha\)、および分母の \(\cos\alpha\) を消去することができます。
$$k(1-\cos\alpha) = m\omega^2$$
\(\omega^2\) について解くと、
$$\omega^2 = \frac{k}{m}(1-\cos\alpha)$$
角速度 \(\omega\) は正の値をとるので、両辺の平方根をとると、
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)} \quad \cdots ⑤$$
まず、ゴムひもがどれだけ伸びているかを計算します。ゴムひもの現在の実際の長さは、つり下げ点Oからの水平面までの高さ \(l_0\) と、ゴムひもが鉛直方向となす角度 \(\alpha\) から、三角比を使ってわかります。ゴムひもの自然の長さも \(l_0\) と与えられているので、現在の長さと自然の長さの差が「伸び」になります。ゴムひもが引く力(張力 \(T\))は、この「伸び」とゴムの硬さ(弾性定数 \(k\))を掛けたものとして計算できます (\(T = k \times \text{伸び}\))。
次に、この張力 \(T\) の式を、(1)で立てた水平方向の力のつり合いの式(張力の水平成分=遠心力)に代入します。そうすると、角速度 \(\omega\) だけが未知数として残る式が得られるので、その式を \(\omega\) について解けば、答えが求まります。
おもりの角速度 \(\omega\) は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) です。
この式から、ゴムひもが鉛直となす角 \(\alpha\) が大きくなる(おもりがより外側に広がる)と、\(\cos\alpha\) は小さくなるため、括弧内の \((1-\cos\alpha)\) は大きくなります。その結果、角速度 \(\omega\) も大きくなる傾向があることがわかります。また、ゴムが硬い(弾性定数 \(k\) が大きい)ほど、またおもりが軽い(質量 \(m\) が小さい)ほど、同じ角度 \(\alpha\) を保つためにはより大きな角速度が必要になることも読み取れます。これらの関係は物理的に妥当と言えるでしょう。
問 (3)
思考の道筋とポイント
おもりの角速度 \(\omega\) をゆっくりと増やしていくと、やがておもりは水平面Aを離れて空中に浮き上がります。この浮き上がる瞬間は、おもりが水平面Aから受ける垂直抗力 \(N\) がちょうど0になるときです。このときのゴムひもが鉛直となす角を \(\alpha_c\)、角速度を \(\omega_c\)、ゴムひもの長さを \(l_c\) とします。
まず、設問(1)で立てた鉛直方向の力のつり合いの式 \(N + T\cos\alpha = mg\) (式②) において \(N=0\) とし、そのときの張力 \(T_c\) と角度 \(\alpha_c\) の関係(具体的には \(T_c\cos\alpha_c = mg\))を導きます。次に、張力 \(T_c\) をフックの法則を用いて \(T_c = kl_0(\frac{1}{\cos\alpha_c}-1)\) (式③の形) で表し、これらを組み合わせて \(\cos\alpha_c\) を求めます。
得られた \(\cos\alpha_c\) の値(あるいは \(1-\cos\alpha_c\) の値)を用いて、設問(2)で求めた角速度 \(\omega\) の一般式 \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) (式⑤) から、浮き上がる瞬間の臨界角速度 \(\omega_c\) を計算します。
最後に、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を、幾何学的関係 \(l_c = l_0/\cos\alpha_c\) (ここで \(l_0\) は自然長であり、O点から水平面までの鉛直距離でもある) と、求めた \(\cos\alpha_c\) から計算します。
この設問における重要なポイント
- おもりが面Aを離れる(浮き上がる)条件は、垂直抗力 \(N=0\) です。
- 鉛直方向の力のつり合いの式(式②)で \(N=0\) とした条件を用います。
- 張力 \(T\) はフックの法則(式③の形)で表されます。
- これらの関係から、面を離れる瞬間の角度 \(\alpha_c\) における \(\cos\alpha_c\) の値を求めます。
- 求めた \(\cos\alpha_c\) (あるいは \(1-\cos\alpha_c\))を用いて、角速度 \(\omega_c\) とゴムひもの長さ \(l_c\) を計算します。
具体的な解説と立式
おもりが水平面Aを離れる瞬間、垂直抗力 \(N=0\) となります。このときのゴムひもが鉛直となす角を \(\alpha_c\)、張力を \(T_c\)、角速度を \(\omega_c\)、ゴムひもの長さを \(l_c\) とします。
鉛直方向の力のつり合いの式(式②: \(N + T\cos\alpha = mg\))で \(N=0\)、\(\alpha=\alpha_c\)、\(T=T_c\) とすると、
$$T_c\cos\alpha_c = mg \quad \cdots ⑥$$
ゴムひもの張力 \(T_c\) は、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) と自然長 \(l_0\) を用いてフックの法則から表されます。ここで、幾何学的関係 \(l_c\cos\alpha_c = l_0\) (\(l_0\) はO点から水平面Aまでの鉛直距離)より \(l_c = l_0/\cos\alpha_c\) です。ゴムひもの自然長も \(l_0\) なので、伸びは \(l_c – l_0\) です。
$$T_c = k(l_c – l_0) = k\left(\frac{l_0}{\cos\alpha_c} – l_0\right) = kl_0\left(\frac{1}{\cos\alpha_c} – 1\right) \quad \cdots ⑦$$
式⑦を式⑥に代入すると、\(\cos\alpha_c\) を求めるための方程式が得られます。
$$kl_0\left(\frac{1}{\cos\alpha_c} – 1\right) \cos\alpha_c = mg$$
$$kl_0(1 – \cos\alpha_c) = mg \quad \cdots ⑧$$
臨界角速度 \(\omega_c\) は、設問(2)で求めた角速度の一般式 \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) (式⑤) に、\(\alpha = \alpha_c\) を代入することで得られます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha_c)} \quad \cdots ⑨$$
そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) は、幾何学的関係から、
$$l_c = \frac{l_0}{\cos\alpha_c} \quad \cdots ⑩$$
(ここで \(l_0\) はO点から水平面までの鉛直距離であり、ゴムひもの自然長でもあります。)
使用した物理公式
- 力のつり合い(鉛直方向、\(N=0\) の条件を含む)
- フックの法則
- 幾何学的関係(三角比)
- 角速度の一般式(設問(2)で導出したもの)
まず、式⑧ \(kl_0(1 – \cos\alpha_c) = mg\) から \(1-\cos\alpha_c\) の形を求め、それを用いて \(\cos\alpha_c\) を求めます。
$$1 – \cos\alpha_c = \frac{mg}{kl_0}$$
したがって、
$$\cos\alpha_c = 1 – \frac{mg}{kl_0} \quad \cdots ⑪$$
次に、この \(1-\cos\alpha_c = \displaystyle\frac{mg}{kl_0}\) を式⑨ \(\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha_c)}\) に代入して \(\omega_c\) を求めます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{k}{m} \left(\frac{mg}{kl_0}\right)}$$
右辺の平方根の中の \(k\) と \(m\) がそれぞれ分子と分母で約分されます。
$$\omega_c = \sqrt{\frac{g}{l_0}} \quad \cdots ⑫$$
最後に、そのときのゴムひもの長さ \(l_c\) を求めます。式⑩ \(l_c = \displaystyle\frac{l_0}{\cos\alpha_c}\) に、式⑪で求めた \(\cos\alpha_c = 1 – \displaystyle\frac{mg}{kl_0}\) を代入します。
$$l_c = \frac{l_0}{1 – \frac{mg}{kl_0}}$$
分母を通分すると \(1 – \displaystyle\frac{mg}{kl_0} = \frac{kl_0 – mg}{kl_0}\) となるので、
$$l_c = l_0 \left(\frac{kl_0}{kl_0 – mg}\right) = \frac{kl_0^2}{kl_0 – mg} \quad \cdots ⑬$$
おもりが床からちょうど浮き上がる瞬間は、床がおもりを押す力(垂直抗力 \(N\))がゼロになるときです。この条件を、(1)で立てた上下方向の力のつり合いの式に入れます。そうすると、そのときのゴムひもの力(張力 \(T_c\))と、ゴムひもが鉛直方向となす角度 \(\alpha_c\) の関係がわかります。一方、ゴムひもの張力 \(T_c\) は、ゴムの伸びと硬さ(弾性定数 \(k\))で決まるので(フックの法則)、これも角度 \(\alpha_c\) を使って表すことができます。これら2つの張力に関する式を組み合わせると、浮き上がる瞬間の角度 \(\alpha_c\)(具体的にはその余弦 \(\cos\alpha_c\))が求まります。
この \(\cos\alpha_c\) の値(あるいは \(1-\cos\alpha_c\) の値)を、(2)で求めた角速度 \(\omega\) の一般的な式に代入すれば、浮き上がる瞬間の特別な角速度 \(\omega_c\) が計算できます。
最後に、そのときのゴムひもの実際の長さ \(l_c\) は、つり下げ点Oからの水平面までの高さ \(l_0\) と、浮き上がる瞬間の角度 \(\alpha_c\) から三角比を使って計算します。
おもりが面Aを離れて空中に浮き上がるときの角速度は \(\omega_c = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\) です。
また、そのときのゴムひもの長さは \(l_c = \displaystyle\frac{kl_0^2}{kl_0 – mg}\) です。
問題文中に与えられた条件 \(k > mg/l_0\)、すなわち \(kl_0 > mg\) は、ここで重要な意味を持ちます。この条件があるために、\(\cos\alpha_c = 1 – \frac{mg}{kl_0}\) の値が \(0 < \cos\alpha_c < 1\) の範囲に収まることが保証されます(なぜなら、\(\frac{mg}{kl_0} < 1\) かつ \(\frac{mg}{kl_0} > 0\) となるため)。これにより、物理的に意味のある角度 \(\alpha_c\)(\(0 < \alpha_c < 90^\circ\))が存在し、おもりが実際に浮き上がることが可能になります。また、ゴムひもの長さ \(l_c\) の式の分母 \(kl_0 – mg\) が正になるため、\(l_c\) も正の妥当な値をとります。もし \(kl_0 \le mg\) であれば、\(\cos\alpha_c \le 0\) となってしまったり、\(l_c\) が負の値や無限大になったりしてしまい、おもりが浮き上がる前に別の状況(例えばゴムが伸びきらない、または \(\alpha_c \ge 90^\circ\) でないと垂直抗力 \(N=0\) にならないなど)が生じる可能性があります。このように、問題文中に示される条件式は、解の物理的な妥当性を担保するためにしばしば与えられています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等速円運動と力のつり合い(遠心力の導入):
- おもりが等速円運動をしている状況を、おもりと共に回転する観測者の立場(非慣性系)から見ることで、遠心力という見かけの力を導入し、他の実在の力(重力、張力、垂直抗力)との「力のつり合い」として扱いました。これにより、運動方程式を直接解くよりも直感的に立式できる場合があります。
- 円運動の半径 \(r\) を、幾何学的関係(この問題では \(r=l_0\tan\alpha\))から正しく求めることが不可欠でした。
- フックの法則:
- ゴムひもの張力 \(T\) が、その自然長からの「伸び」に比例する (\(T = k \times (\text{伸び})\)) という法則。この問題では、ゴムひもの現在の長さ \(l\) と自然長 \(l_0\) の関係、そしてそれらと角度 \(\alpha\) の関係を幾何学的に明らかにし、張力を角度の関数として表すことが鍵となりました。
- 垂直抗力が0になる条件(物体が面から離れる条件):
- 設問(3)で、おもりが水平面Aから離れる瞬間は、おもりが面から受ける垂直抗力 \(N\) がちょうど0になるときである、という物理的条件を適用しました。これは、接触していた面から物体が浮き上がる一般的な条件です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 回転する円錐振り子や、遊園地の回転ブランコなど、張力と重力、遠心力(または向心力)が関わる円運動の問題全般。
- ばね振り子の運動(特に、ばねの弾性力と重力、場合によっては向心力や遠心力が絡むもの)。
- 物体が面から離れる、あるいは滑り出す限界の条件を問う問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 運動形態の特定: まず、物体がどのような運動(等速円運動、単振動、放物運動など)をしているのかを把握する。
- 力の図示: 物体に働くすべての力をベクトルで正確に図示する。円運動の場合は、どの力が向心力の役割を果たすか(慣性系)、あるいは遠心力とどの力がつり合うか(非慣性系)を明確にする。
- 座標系(観測者)の選択: 慣性系で運動方程式を立てるか、非慣性系で遠心力を導入して力のつり合いを考えるか、問題に応じてより扱いやすい方を選択する。
- 幾何学的条件の利用: 糸の長さ、角度、円運動の半径などの間に成り立つ幾何学的な関係(三角比など)を正しく利用して、変数を減らしたり、力を成分分解したりする。
- 限界条件の物理的意味の理解: 「面から離れる \(\Leftrightarrow\) 垂直抗力 \(N=0\)」「糸がたるむ \(\Leftrightarrow\) 張力 \(T=0\)(または \(T \ge 0\))」といった条件を物理的に正しく解釈し、数式に反映させる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 円運動の半径 \(r\) を、問題で与えられた長さや角度を使って正確に表すこと。しばしば \(l\sin\alpha\) や \(l\cos\alpha\)、\(l\tan\alpha\) のような形になる。
- ばねやゴムひもの場合、張力や弾性力は「自然長からの伸び(または縮み)」に比例することを忘れない。現在の長さと自然長を区別する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力と向心力の混同、あるいは誤用:
- 現象: 遠心力は非慣性系(回転系)で導入される見かけの力であり、向心力は慣性系で円運動を維持するために必要な中心向きの合力。これらを同じ式に同時に登場させたり、意味を取り違えたりしやすい。
- 対策: 自分がどの観測者の立場(慣性系か非慣性系か)で考えているのかを常に明確にする。非慣性系なら遠心力を導入して「力のつり合い」、慣性系なら向心方向の運動方程式「\(ma_c = F_c\)」を立てる。
- ゴムひもやばねの「長さ」と「伸び」の混同:
- 現象: フックの法則 \(F=kx\) の \(x\) は「自然長からの変化量(伸びまたは縮み)」であるが、これを現在の「長さ」そのものと誤解してしまう。
- 対策: 必ず「自然長はいくつか」「現在の長さはいくつか」を確認し、その差を「伸び/縮み」として計算する。
- 力の分解における角度の取り違え:
- 現象: 張力や重力などを成分分解する際に、\(\sin\alpha\) と \(\cos\alpha\) を逆にしてしまう。
- 対策: 力の分解図を丁寧に描き、角度 \(\alpha\) がどの部分に対応するのかを正確に把握する。直角三角形の辺と角の関係を常に意識する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- おもりが水平面上でくるくると円運動し、それに伴ってゴムひもが斜めに傾いている様子をイメージする。角速度が上がると、おもりがより外側に広がり、ゴムひももより水平に近くなる(\(\alpha\) が大きくなる)様子。
- おもりにはたらく力をベクトルで図示する。特に、張力 \(T\) がゴムひもに沿って中心向き(点Oの方向)、遠心力が水平外向き、重力が鉛直下向き、垂直抗力が鉛直上向き、という方向を正確に描くことが重要。
- これらの力を水平・鉛直成分に分解した図も描くと、力のつり合いの式を立てやすくなる。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 力の作用点(この場合はおもり)を明確にする。
- 各力のベクトルの向きを正確に描く。相対的な大きさもある程度意識すると良い。
- 角度 \(\alpha\) がどの部分の角度なのかを図中に明示する。
- 円運動の半径 \(r\) も図中に示し、それが問題の寸法(\(l_0\) や \(l\))と角度 \(\alpha\) でどう表されるかを補助的に描くと良い。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式の選択と適用根拠:
- 選定理由: おもりと共に回転する観測者から見れば、おもりは(遠心力を考慮すると)静止して見えるため、力のつり合いが成り立つと判断し適用。
- 適用根拠: 物体が静止または等速直線運動(あるいは見かけ上静止)している場合、その物体に働く力の合力はゼロであるというニュートンの法則。
- フックの法則の選択と適用根拠:
- 選定理由: ゴムひもが弾性体であり、その張力が伸びに比例するという物理法則に基づいて適用。
- 適用根拠: 弾性体の変形と力の関係を表す基本的な法則。
- \(N=0\) の条件の選択と適用根拠:
- 選定理由: 物体が面から離れるという物理現象を、垂直抗力がゼロになるという数式的な条件に置き換えて適用。
- 適用根拠: 垂直抗力は面が物体を押す力であり、離れれば働かなくなるため。
- 公式選択の思考訓練:
- それぞれの公式が適用できる「状況」や「前提条件」を理解しておくことが、公式を正しく使いこなすために不可欠。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 円運動の状況を把握し、働く力をリストアップ(回転系なら遠心力も)。
- 力のつり合いを考える方向(水平・鉛直)を定める。
- 円運動の半径やゴムひもの長さを幾何学的に表現する。
- フックの法則を適用して張力を伸び(と角度)で表す。
- 力のつり合いの式を連立させ、未知数を消去して目的の物理量を導く。
- 「面から離れる」といった限界条件を数式(\(N=0\))で表現し、それを既存の式と組み合わせて解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 三角関数の扱い: \(\sin\alpha, \cos\alpha, \tan\alpha\) の関係、特に \(l_0\tan\alpha\) や \(l_0/\cos\alpha\) といった幾何学的関係の導出と、それらを式に代入する際の計算。
- フックの法則 \(T=k(l-l_0)\) の \(l\) を正しく \(\alpha\) で表す部分。
- 連立方程式を解く際の代数的な処理、特に文字が多くなった場合の整理。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 文字式の計算、特に三角関数を含む式の変形に慣れておく。
- 途中式を丁寧に書き、どの変数を何で置き換えたのか、どの公式を使ったのかを明確にしながら進める。
- 計算結果が出たら、単位や次元が正しいか、極端な場合(\(\alpha \rightarrow 0\) や \(\alpha \rightarrow 90^\circ\) など)を考えてみて結果が妥当か、といった簡単なチェックを行う。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 例えば、(2)で得られた \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}(1-\cos\alpha)}\) について、\(\alpha\) が大きくなると \(\omega\) も大きくなること(より速く回す必要があること)は直感に合うか?
- (3)で得られた \(\omega_c = \sqrt{g/l_0}\) は、単振り子の周期 \(2\pi\sqrt{l_0/g}\) に似たパーツを含んでおり、物理的なスケール感として妥当か? また、条件 \(kl_0 > mg\) が \(\cos\alpha_c\) や \(l_c\) の物理的な意味(\(\cos\alpha_c < 1\) であり、\(l_c\) が正の値ををとる)を保証していることを確認する。
- 吟味の習慣: このような吟味は、計算ミスを発見するだけでなく、物理現象と数式の結びつきをより深く理解するのに役立つ。
問題26 (大分大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直より角度 \(\theta\) だけ傾いた状態で支点Oに固定された細い棒に沿って自由に動ける小ビーズ球Pの運動を扱います。棒が滑らかな場合と摩擦がある場合それぞれについて、棒を鉛直軸OAのまわりに回転させたときのPの運動や、Pが滑らずに静止していられる条件などを考察します。慣性力(特に遠心力)の考え方や、静止摩擦力が関わる力のつり合いが重要なポイントとなります。
- 小ビーズ球Pの質量: \(m\) [kg]
- 棒の傾斜: 鉛直より角度 \(\theta\) (\(0^\circ < \theta < 90^\circ\)) で支点Oに固定。
- 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
- (1) 棒は滑らか。Pは支点Oから高さ \(h_0\) の水平面内で円運動。
- (2) 棒は摩擦あり。静止摩擦係数は \(\mu\)。
- 回転なしの場合のPの静止条件。
- \(\theta=45^\circ\) で回転。ある(鉛直な)高さ\(h_0\)(モデル解答の最終数式表現に合わせて、この部分の解説では半径/高さを\(h\)として扱います)でPが落ちない/上がっていかない条件。
- (1) 滑らかな棒の場合、PがOから高さ \(h_0\) で円運動するときの角速度 \(\omega_0\)(空欄 ア)。
- (2) 摩擦のある棒の場合:
- 回転していないとき、Pが滑らずにいられるための \(\theta\) の条件(空欄 イ)。
- \(\theta=45^\circ\)、PがOからのある鉛直高さ(半径でもある、モデル解答に合わせて \(h\) とする)を保つとき:
- Pが落ちないための \(\omega\) の下限(空欄 ウ)。
- Pが上がっていかないための \(\omega\) の上限(空欄 エ)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、「等速円運動における力のつり合い(非慣性系での遠心力を考慮)」および「静止摩擦力が関わる力のつり合い」です。(1)では滑らかな棒なので遠心力と重力、垂直抗力のつり合いを考えます。(2)では摩擦力が加わり、Pが滑り落ちる限界と滑り上がる限界の条件を、最大静止摩擦力を考慮して求めることになります。Pと共に回転する観測者の立場から見ると、力のつり合いとして扱いやすくなります。
問 (1)
思考の道筋とポイント
小ビーズ球Pは、支点Oから鉛直下方に \(h_0\) の高さにある水平面内で等速円運動をしています。棒は滑らかです。Pと共に回転する観測者から見ると、Pは静止しており、Pには重力 \(mg\)、棒からの垂直抗力 \(N\)、そして遠心力 \(F_{\text{遠心}}\) が働いてつり合っています。円運動の半径 \(r\) は、PのOからの鉛直な高さ \(h_0\) と棒の傾き \(\theta\)(鉛直方向となす角)から \(r = h_0\tan\theta\) と表されます。遠心力の大きさは \(mr\omega_0^2\) です。これらの力の、棒に沿った方向のつり合いを考えます。
この設問における重要なポイント
- Pと共に回転する非慣性系で考え、遠心力を導入します。
- Pに働く力は、重力 \(mg\)、棒からの垂直抗力 \(N\)、遠心力 \(F_{\text{遠心}}\) です。
- 円運動の半径 \(r = h_0\tan\theta\)。遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心}} = m(h_0\tan\theta)\omega_0^2\)。
- 垂直抗力 \(N\) は棒に垂直な向きに働くため、棒に沿った方向の成分は持ちません。
- 重力と遠心力を棒に沿った方向に分解し、これらの成分がつり合うと考えます。
具体的な解説と立式
小ビーズ球Pと共に回転する観測者から見ると、Pは静止しています。Pに働く力は以下の通りです。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 棒からの垂直抗力: \(N\) (棒に垂直で、Pを棒から離す向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = m(h_0\tan\theta)\omega_0^2\) (水平外向き)
これらの力の、棒に沿った方向のつり合いを考えます。棒の向きは、鉛直方向から角度 \(\theta\) だけ傾いています。
- 重力 \(mg\) の棒に沿った成分: \(mg\cos\theta\) (棒に沿ってOから遠ざかる向き、つまり下向き成分)
- 遠心力 \(F_{\text{遠心}}\) の棒に沿った成分: 遠心力は水平外向きです。棒が鉛直となす角が \(\theta\) なので、遠心力の棒に沿った成分(Oに向かう向き、つまり上向き成分)は \(F_{\text{遠心}}\sin\theta\) となります。
- 垂直抗力 \(N\) は棒に垂直なので、棒に沿った成分は0です。
Pが棒に沿って動かない(静止している)ためには、これらの棒に沿った方向の力がつり合っている必要があります。
$$mg\cos\theta = F_{\text{遠心}}\sin\theta$$
したがって、
$$mg\cos\theta = \{m(h_0\tan\theta)\omega_0^2\}\sin\theta \quad \cdots ①$$
別解1: 静止系(慣性系)で考える(モデル解答の考え方)
床で静止している観測者から見ると、Pは等速円運動をしています。Pに働く力は重力 \(mg\) と棒からの垂直抗力 \(N\) です。これらの力の合力が向心力となります。
Pは鉛直方向には動きません(Oからの高さ \(h_0\) を保つ)ので、鉛直方向の力はつり合っています。垂直抗力 \(N\) は棒に垂直であり、棒が鉛直となす角が \(\theta\) なので、\(N\) が水平線となす角も \(\theta\) です(モデル解答の図参照)。したがって、\(N\) の鉛直上向き成分は \(N\sin\theta\) となります。
鉛直方向の力のつり合いから、
$$N\sin\theta = mg \quad \cdots (別1-1)$$
水平方向には、垂直抗力 \(N\) の水平成分 \(N\cos\theta\) が向心力として働き、Pに円運動をさせています。円運動の半径は \(r=h_0\tan\theta\)、角速度は \(\omega_0\) なので、向心加速度は \(r\omega_0^2 = (h_0\tan\theta)\omega_0^2\) です。
水平方向の運動方程式は、
$$m(h_0\tan\theta)\omega_0^2 = N\cos\theta \quad \cdots (別1-2)$$
式(別1-1)と(別1-2)から \(N\) を消去して \(\omega_0\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつり合い(非慣性系): \(\sum F_{\text{棒方向}} = 0\)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2\)
- 力の分解
- 運動方程式(慣性系): \(ma_x = \sum F_x\), \(ma_y = \sum F_y\) (別解の場合)
式① \(mg\cos\theta = \{m(h_0\tan\theta)\omega_0^2\}\sin\theta\) から \(\omega_0\) を求めます。
\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) なので、
$$mg\cos\theta = m h_0 \frac{\sin\theta}{\cos\theta} \omega_0^2 \sin\theta$$
$$mg\cos\theta = m h_0 \frac{\sin^2\theta}{\cos\theta} \omega_0^2$$両辺の \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。$$g\cos\theta = h_0 \frac{\sin^2\theta}{\cos\theta} \omega_0^2$$\(\omega_0^2\) について解くと、$$\omega_0^2 = \frac{g\cos^2\theta}{h_0\sin^2\theta} = \frac{g}{h_0\left(\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\right)^2} = \frac{g}{h_0\tan^2\theta}$$角速度 \(\omega_0\) は正の値なので、平方根をとると、$$\omega_0 = \sqrt{\frac{g}{h_0\tan^2\theta}} = \frac{1}{\tan\theta}\sqrt{\frac{g}{h_0}} \quad \cdots ②$$
小ビーズ球Pが回転する棒の上で、同じ高さ \(h_0\) を保ちながらクルクル回っている状態を考えます。Pと一緒に回る人から見ると、Pは止まって見えます。この人にとっては、Pが外側に引っ張られるような「見かけの力」(遠心力)が働いています。Pが棒に沿って上下に動かないためには、Pに働く力の「棒に沿った方向」の成分が釣り合っている必要があります。棒に沿って下向きに引くのは重力の成分です。棒に沿って上向きに引くのは遠心力の成分です(棒からの垂直な力は棒に沿った成分を持ちません)。これらの力が釣り合うという条件から、回転の速さ(角速度 \(\omega_0\))を計算します。
このときの角速度 \(\omega_0\) は ア = \(\displaystyle\frac{1}{\tan\theta}\sqrt{\frac{g}{h_0}}\) と表されます。
この結果を吟味してみましょう。もし傾斜角 \(\theta\) が小さい(棒がほぼ鉛直に近い)場合、\(\tan\theta\) は小さくなり、角速度 \(\omega_0\) は大きくなる必要があります。これは、棒が鉛直に近いと遠心力の棒に沿った上向き成分が小さくなるため、それを補うためにより大きな遠心力(つまり大きな \(\omega_0\))が必要になるからです。逆に、\(\theta\) が \(90^\circ\) に近い(棒がほぼ水平に近い)場合、\(\tan\theta\) は非常に大きくなり、\(\omega_0\) は非常に小さくなります。これは、棒が水平に近いと重力の棒に沿った下向き成分が小さくなるため、小さな遠心力でもつり合えることを意味します。
問 (2)
次に、摩擦のある棒に取り替えます。棒が回転していない場合、Pと棒の間の静止摩擦係数を\(\mu\)とすると、
イ
思考の道筋とポイント
棒が回転していない場合、Pには遠心力は働きません。Pに働く力は、重力 \(mg\)、棒からの垂直抗力 \(N\)、そして静止摩擦力 \(F_{\text{静止}}\) です。Pが滑らずに静止しているためには、これらの力がつり合っている必要があります。特に、静止摩擦力はPが滑り落ちようとするのを防ぐ向き(棒に沿って上向き)に働き、その大きさには限界 \(F_{\text{静止}} \le \mu N\) があります。Pが滑り落ちないぎりぎりの状態(最大静止摩擦力が働く状態)を考え、力のつり合いから条件を導きます。
この設問における重要なポイント
- 棒は回転していないので、遠心力は働きません。
- Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、静止摩擦力 \(F_{\text{静止}}\) です。
- Pが滑り落ちないためには、静止摩擦力が棒に沿って上向きに働きます。
- 静止摩擦力の条件: \(F_{\text{静止}} \le \mu N\)。
- 力を棒に沿った方向と棒に垂直な方向に分解し、それぞれの方向での力のつり合いを考えます。
具体的な解説と立式
小ビーズ球Pに働く力は以下の通りです。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 棒からの垂直抗力: \(N\) (棒に垂直で、Pを棒から離す向き)
- 静止摩擦力: \(F_{\text{静止}}\) (Pが滑り落ちないように、棒に沿って上向きに働く)
力を棒に垂直な方向と平行な方向に分解して、力のつり合いを考えます。
棒に垂直な方向の力のつり合い:
垂直抗力 \(N\) と、重力 \(mg\) の棒に垂直な成分 \(mg\sin\theta\) がつり合います(棒が鉛直となす角が \(\theta\) なので、棒に垂直な方向と重力がなす角は \(90^\circ-\theta\)、あるいは重力を棒方向 \(mg\cos\theta\) と棒に垂直な方向 \(mg\sin\theta\) に分解します。モデル解答の図(LECTURE p78 イの図)では、重力を分解しており、棒に垂直な成分は \(mg\sin\theta\) です)。
$$N = mg\sin\theta \quad \cdots ③$$
棒に沿った方向の力のつり合い:
静止摩擦力 \(F_{\text{静止}}\)(上向き)と、重力 \(mg\) の棒に沿った成分 \(mg\cos\theta\)(下向き)がつり合います。
$$F_{\text{静止}} = mg\cos\theta \quad \cdots ④$$Pが滑らずにいられるためには、静止摩擦力 \(F_{\text{静止}}\) が最大静止摩擦力 \(\mu N\) 以下でなければなりません。$$F_{\text{静止}} \le \mu N \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- 力の分解
- 静止摩擦力の条件: \(F_{\text{静止}} \le \mu N\)
- 最大静止摩擦力: \(F_{\text{静止・最大}} = \mu N\)
式③と式④を式⑤に代入します。
$$mg\cos\theta \le \mu (mg\sin\theta)$$両辺の \(mg\) を消去します(\(mg > 0\))。$$\cos\theta \le \mu\sin\theta$$\(\theta\) は \(0^\circ < \theta < 90^\circ\) の範囲なので、\(\cos\theta > 0\) です。したがって、両辺を \(\cos\theta\) で割ることができます(不等号の向きは変わりません)。$$1 \le \mu\frac{\sin\theta}{\cos\theta}$$\(\displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta\) なので、$$1 \le \mu\tan\theta$$これを \(\tan\theta\) について解くと(静止摩擦係数 \(\mu\) は正なので)、$$\tan\theta \ge \frac{1}{\mu} \quad \cdots ⑥$$
棒が回っていないとき、Pが斜面(この場合は傾いた棒)で滑り落ちないための条件を考えます。Pには下向きの重力が働いており、これを棒に沿って滑り落とそうとする成分と、棒を垂直に押す成分に分けます。Pが滑り落ちないように、棒はPに対して上向きに静止摩擦力を及ぼします。この静止摩擦力には限界があり、棒を垂直に押す力(これが垂直抗力Nになります)に比例します(最大 \(\mu N\))。Pが滑り落ちないためには、滑り落とそうとする重力の成分が、この静止摩擦力の限界を超えなければよいのです。この条件を数式で表し、角度 \(\theta\) についての条件を導きます。
Pが滑らずにいられるための \(\theta\) の条件は イ = \(\tan\theta \ge \displaystyle\frac{1}{\mu}\) です。
これは、静止摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど(滑りにくいほど)、あるいは傾斜角 \(\theta\) がより条件を満たす側にあるほど(この場合、\(\tan\theta\) が大きい、つまり \(\theta\) が大きいほど)滑り落ちにくいことを意味します。ただし、ここで \(\theta\) は鉛直線となす角なので、\(\theta\) が大きいほど棒は水平に近づき、重力の棒に沿った滑り落とそうとする成分 (\(mg\cos\theta\)) は小さくなり、垂直抗力を生む成分 (\(mg\sin\theta\)) は大きくなるため、より滑りにくくなります。したがって、\(\tan\theta \ge 1/\mu\) という条件は、\(\theta\) がある値以上(より水平に近い状態)であれば滑らない、という意味になり、妥当です。
いま、この棒を \(\theta=45^\circ\) に固定した。このとき棒が回転していない場合には、Pは滑り落ちてしまった。そこで、角速度\(\omega\)で回転させたとき、ある高さ\(h\)(問題文の\(h_0\)に相当し、\(\theta=45^\circ\)なので半径でもある。モデル解答の最終的な数式表現に合わせて、以下ではこの半径/高さを\(h\)とします)でPが落ちていかなかった。
ウ
思考の道筋とポイント
棒の傾斜角が \(\theta=45^\circ\) に固定され、Pは支点Oから鉛直下方 \(h\) の高さで円運動をしています(この \(h\) は円運動の半径 \(r\) にも等しくなります、なぜなら \(r = h \tan45^\circ = h\))。摩擦のある棒なので、Pには静止摩擦力が働きます。Pが「落ちない」ぎりぎりの状態とは、Pが下に滑り落ちる直前であり、このとき静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) で棒に沿って上向きに働きます。Pと共に回転する観測者から見た力のつり合い(遠心力を含む)を考えます。
この設問における重要なポイント
- 棒の傾斜角 \(\theta = 45^\circ\)。円運動の半径 \(r=h\)。
- Pと共に回転する非慣性系で考え、遠心力 \(F_{\text{遠心}} = mh\omega^2\) を導入します。
- Pが下に滑り落ちる直前なので、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) で棒に沿って上向きに働きます。
- 力を棒に沿った方向と棒に垂直な方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立て、連立して解きます。
具体的な解説と立式
Pが下に滑り落ちる直前の状態を考えます。このときの角速度を \(\omega_1\) とします。静止摩擦力は最大値 \(f_{\text{最大}} = \mu N\) で、棒に沿って上向きに働きます。Pに働く力は以下の通りです(Pと共に回転する観測者から見て)。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 棒からの垂直抗力: \(N\) (棒に垂直で、Pを棒から離す向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mh\omega_1^2\) (水平外向き)
- 最大静止摩擦力: \(\mu N\) (棒に沿って上向き)
力を棒に垂直な方向と平行な方向に分解して、力のつり合いを考えます (\(\theta=45^\circ\) なので \(\sin45^\circ = \cos45^\circ = 1/\sqrt{2}\))。
棒に垂直な方向の力のつり合い(棒から離れる向きを正):
$$N – mg\sin45^\circ – mh\omega_1^2\cos45^\circ = 0$$
したがって、
$$N = mg\frac{1}{\sqrt{2}} + mh\omega_1^2\frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(mg + mh\omega_1^2) \quad \cdots ⑦$$
棒に沿った方向の力のつり合い(棒に沿って上向きを正):
$$\mu N + mh\omega_1^2\sin45^\circ – mg\cos45^\circ = 0$$
したがって、
$$\mu N + mh\omega_1^2\frac{1}{\sqrt{2}} – mg\frac{1}{\sqrt{2}} = 0 \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- 力のつり合い(非慣性系)
- 遠心力
- 最大静止摩擦力
- 力の分解
式⑦で求めた \(N\) を式⑧に代入して \(\omega_1\) を求めます。
$$\mu \frac{1}{\sqrt{2}}(mg + mh\omega_1^2) + \frac{1}{\sqrt{2}}mh\omega_1^2 – \frac{1}{\sqrt{2}}mg = 0$$両辺に \(\sqrt{2}\) を掛けて分母を払います。$$\mu(mg + mh\omega_1^2) + mh\omega_1^2 – mg = 0$$展開して整理します。
$$\mu mg + \mu mh\omega_1^2 + mh\omega_1^2 – mg = 0$$\(mh\omega_1^2\) でまとめると、$$mh\omega_1^2(\mu+1) = mg(1-\mu)$$\(\omega_1^2\) について解くと(\(m \neq 0, h \neq 0\))、$$\omega_1^2 = \frac{g(1-\mu)}{h(1+\mu)}$$角速度 \(\omega_1\) は正なので、$$\omega_1 = \sqrt{\frac{g(1-\mu)}{h(1+\mu)}}$$
Pが落ちないでいられるためには \(\omega \ge \omega_1\) なので、ウ に入るのはこの \(\omega_1\) です。
Pが下に滑り落ちる寸前の状態を考えます。このとき、Pを支えようとする静止摩擦力は、棒に沿って上向きに、力の限界である最大値 \(\mu N\) で働いています。Pは回転しているので、Pと一緒に回る人から見ると、外向きの遠心力も感じます。Pに働く力は、これら(重力、垂直抗力、遠心力、最大静止摩擦力)です。これらの力を棒に沿った方向と棒に垂直な方向に分けて、それぞれの方向で力がつり合っているという式を2本作ります。この2つの式を連立させて、落ちないためのギリギリの回転の速さ(角速度 \(\omega_1\))を計算します。
Pが落ちないでいられるための角速度 \(\omega\) の下限値 \(\omega_1\) は ウ = \(\sqrt{\displaystyle\frac{g(1-\mu)}{h(1+\mu)}}\) です。
この結果が物理的に意味を持つためには、平方根の中が正である必要があります。すなわち \(1-\mu \ge 0\) かつ \(1+\mu > 0\) です。静止摩擦係数 \(\mu\) は通常正なので \(1+\mu > 0\) は満たされます。問題文の条件「棒が回転していない場合には、Pは滑り落ちてしまった」と、イの条件 \(\tan\theta \ge 1/\mu\) から、\(\theta=45^\circ\) のとき \(\tan45^\circ = 1\) となるため、\(1 < 1/\mu\) という関係が成り立ちます。このことから \(\mu < 1\) であることがわかります。したがって、\(1-\mu > 0\) も満たされ、\(\omega_1\) は実数として定義されます。
エ
思考の道筋とポイント
Pが上に滑り上がる直前の状態を考えます。このとき、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) で、棒に沿って下向きに働きます。Pに働く力(重力、垂直抗力、遠心力、最大静止摩擦力)のつり合いを、ウと同様に棒に沿った方向と棒に垂直な方向で考えます。
この設問における重要なポイント
- 棒の傾斜角 \(\theta = 45^\circ\)。円運動の半径 \(r=h\)。
- Pと共に回転する非慣性系で考え、遠心力 \(F_{\text{遠心}} = mh\omega^2\) を導入します。
- Pが上に滑り上がる直前なので、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) で棒に沿って下向きに働きます。
- 力を棒に沿った方向と棒に垂直な方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立て、連立して解きます。
具体的な解説と立式
Pが上に滑り上がる直前の状態を考えます。このときの角速度を \(\omega_2\) とします。静止摩擦力は最大値 \(f_{\text{最大}} = \mu N\) で、棒に沿って下向きに働きます。Pに働く力は以下の通りです(Pと共に回転する観測者から見て)。
- 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
- 棒からの垂直抗力: \(N\) (棒に垂直で、Pを棒から離す向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mh\omega_2^2\) (水平外向き)
- 最大静止摩擦力: \(\mu N\) (棒に沿って下向き)
力を棒に垂直な方向と平行な方向に分解して、力のつり合いを考えます (\(\theta=45^\circ\))。
棒に垂直な方向の力のつり合い(棒から離れる向きを正):
これはウの場合の式⑦と同じ形になります(ただし角速度は \(\omega_2\))。
$$N = mg\sin45^\circ + mh\omega_2^2\cos45^\circ = \frac{1}{\sqrt{2}}(mg + mh\omega_2^2) \quad \cdots ⑨$$
棒に沿った方向の力のつり合い(棒に沿って上向きを正):
Pには、遠心力の成分 \(+mh\omega_2^2\sin45^\circ\)(上向き)、重力の成分 \(-mg\cos45^\circ\)(下向き)、そして最大静止摩擦力 \(-\mu N\)(下向き)が働きます。
$$mh\omega_2^2\sin45^\circ – mg\cos45^\circ – \mu N = 0$$
したがって、
$$\frac{1}{\sqrt{2}}mh\omega_2^2 – \frac{1}{\sqrt{2}}mg – \mu N = 0 \quad \cdots ⑩$$
使用した物理公式
- 力のつり合い(非慣性系)
- 遠心力
- 最大静止摩擦力
- 力の分解
式⑨で求めた \(N\) を式⑩に代入して \(\omega_2\) を求めます。
$$\frac{1}{\sqrt{2}}mh\omega_2^2 – \frac{1}{\sqrt{2}}mg – \mu \frac{1}{\sqrt{2}}(mg + mh\omega_2^2) = 0$$両辺に \(\sqrt{2}\) を掛けて分母を払います。$$mh\omega_2^2 – mg – \mu(mg + mh\omega_2^2) = 0$$展開して整理します。
$$mh\omega_2^2 – mg – \mu mg – \mu mh\omega_2^2 = 0$$\(mh\omega_2^2\) でまとめると、$$mh\omega_2^2(1-\mu) = mg(1+\mu)$$\(\omega_2^2\) について解くと(\(m \neq 0, h \neq 0\)、そして \(\mu < 1\) なので \(1-\mu \neq 0\))、$$\omega_2^2 = \frac{g(1+\mu)}{h(1-\mu)}$$角速度 \(\omega_2\) は正なので、$$\omega_2 = \sqrt{\frac{g(1+\mu)}{h(1-\mu)}}$$
Pが上がっていかないためには \(\omega \le \omega_2\) なので、エ に入るのはこの \(\omega_2\) です。
今度は、Pが上に滑り上がる寸前の状態を考えます。このとき、Pを下に引き戻そうとする静止摩擦力は、棒に沿って下向きに、力の限界である最大値 \(\mu N\) で働いています。Pに働く力は、これら(重力、垂直抗力、遠心力、最大静止摩擦力)です。これらの力を棒に沿った方向と棒に垂直な方向に分けて、それぞれの方向で力がつり合っているという式を2本作ります。この2つの式を連立させて、上に上がっていかないためのギリギリの回転の速さ(角速度 \(\omega_2\))を計算します。
Pが上がっていかないための角速度 \(\omega\) の上限値 \(\omega_2\) は エ = \(\sqrt{\displaystyle\frac{g(1+\mu)}{h(1-\mu)}}\) です。
この結果も、\(\mu < 1\) であることから平方根の中が正となり、実数として定義されます。
したがって、Pが高さ \(h\) を保っていられる \(\omega\) の範囲は、ウ \(\le \omega \le\) エ、すなわち \(\sqrt{\displaystyle\frac{g(1-\mu)}{h(1+\mu)}} \le \omega \le \sqrt{\displaystyle\frac{g(1+\mu)}{h(1-\mu)}}\) となります。この範囲が存在するためには、\(\omega_1 \le \omega_2\) である必要があり、これは常に成り立ちます(\( (1-\mu)^2 \le (1+\mu)^2 \) なので)。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等速円運動と遠心力(または向心力):
- 回転する物体上の観測者の立場(非慣性系)から見ると、物体には遠心力が働いているように見える。これと他の実在の力とのつり合いを考えることで、円運動の問題を静力学的な問題として扱える。
- あるいは、静止した慣性系から見て、物体に働く力の合力が向心力となって円運動を実現していると考える。
- 力の分解: 重力や遠心力、垂直抗力、摩擦力などを、問題の状況に合わせて適切な方向(棒に沿った方向、棒に垂直な方向、水平・鉛直方向など)に分解する技術。
- 静止摩擦力とその限界:
- 静止摩擦力は、物体が滑り出さないように働く力で、その大きさは外力に応じて変化し、最大静止摩擦力 \(\mu N\) を超えることはない。
- 物体が滑り出す「直前」や「ぎりぎり」の状態では、最大静止摩擦力が働いているとして問題を解く。
- 力のつり合い: 物体が静止している(あるいは観測者に対して静止している)場合、物体に働く力のベクトル和はゼロである。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 回転する円盤や円錐面上の物体の運動(例:レコード盤の上のコイン、遊園地の回転遊具)。
- 自動車がカーブを曲がる際の摩擦力や遠心力の問題。
- 斜面上での物体の静止や運動に、さらに別の力(この問題では遠心力)が加わる状況。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 観測者の立場(基準系)の選択: 回転運動が絡む場合、回転系(非慣性系、遠心力を導入)で考えるか、静止系(慣性系、向心力を考える)で考えるかを選択する。多くの場合、回転系で力のつり合いを考える方が直感的に立式しやすい。
- 力の完全な図示: 物体に働く全ての力(重力、垂直抗力、張力、摩擦力、遠心力など)を、向きと作用点を正確に図示する。
- 摩擦力の向きの特定: 物体がどちらに滑ろうとしているのか(あるいは滑り出そうとしているのか)を判断し、静止摩擦力や動摩擦力の働く向きを正しく決定する。特に限界状態では最大静止摩擦力の向きが重要。
- 力の分解方向の選択: つり合いの式や運動方程式を立てやすいように、力を適切な方向(運動方向、それに垂直な方向、斜面方向など)に分解する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 円運動の半径 \(r\) を、与えられた長さや角度から幾何学的に正確に求めること。
- 「滑り出す直前」「落ちないぎりぎり」「上がっていかないぎりぎり」といった言葉が、最大静止摩擦力がどの向きに働く状況を指すのかを物理的に解釈する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力の導入ミス:
- 現象: 慣性系で考えているのに遠心力を導入したり、非慣性系で考えているのに遠心力を忘れたり、向きを間違えたりする。
- 対策: 常にどの基準系で考えているかを明確にし、非慣性系(回転系)なら必ず遠心力(中心から外向きに \(mr\omega^2\))を図示する。
- 静止摩擦力の向きと大きさの誤解:
- 現象: 静止摩擦力は常に \(\mu N\) であると誤解したり、働く向きを間違えたりする。
- 対策: 静止摩擦力は「滑りを妨げる向き」に働き、その大きさは「外力の滑らせようとする成分」とつり合う値をとる(ただし \(\mu N\) が上限)。滑り出す直前にはじめて \(\mu N\) となる。
- 力の分解における角度の混乱:
- 現象: 重力や遠心力などを、棒の方向や棒に垂直な方向に分解する際に、角度 \(\theta\) の使い方 (\(\sin\theta\) か \(\cos\theta\) か) を間違える。
- 対策: 丁寧に図を描き、直角三角形を見つけて三角比の定義に従って分解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- (1)では、Pが棒に沿って上下せず、一定の高さを保って回転する様子をイメージします。回転に伴う遠心力が外向きに働き、これが重力の棒に沿った成分とつり合う(垂直抗力は棒に垂直なので、この方向のつり合いには直接関与しない)と考えられます。
- (2)イでは、回転していない棒の上でPが重力で滑り落ちようとするのを、静止摩擦力がギリギリ支えている様子をイメージします。
- (2)ウでは、回転によって生じる遠心力の上向き成分と、最大静止摩擦力(上向き)が協力して、重力の下向き成分を支え、Pが落ちるのを防いでいるギリギリの状況をイメージします。
- (2)エでは、回転が速すぎて遠心力が大きくなり、Pが上に滑り上がりそうになるのを、最大静止摩擦力(下向き)と重力の下向き成分が協力して防いでいるギリギリの状況をイメージします。
- いずれの場合も、Pに働く全ての力をベクトルで正確に図示し、それらを棒に平行・垂直な方向に分解した図を併記することが、立式の正確性を高める上で非常に有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定理由: Pが回転する棒上の観測者から見て静止している、あるいは静止摩擦力によって滑り出さない限界の状態にあるため、慣性力(遠心力)を含めた力の合力が0であると判断し適用。
- 適用根拠: 物体が静止または等速直線運動(あるいは見かけ上静止)している場合、その物体に働く力の合力はゼロであるというニュートンの法則。
- 遠心力の式 (\(F_c = mr\omega^2\)):
- 選定理由: 回転座標系で円運動する物体に働く見かけの力として導入。
- 適用根拠: 非慣性系における運動の見かけ上の効果を記述するためのもの。
- 最大静止摩擦力の式 (\(f_{max} = \mu N\)):
- 選定理由: 物体が滑り出す直前の限界状態を考える際に、静止摩擦力がこの値をとると判断し適用。
- 適用根拠: 経験則に基づく摩擦力の性質。
- 公式選択の思考訓練:
- 各公式が成り立つための物理的な状況や前提条件を理解し、問題設定がそれに合致するかどうかを確認する習慣が重要。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況(回転の有無、摩擦の有無、Pの状態)を把握。
- 観測者の立場(回転系か静止系か)を決定し、Pに働く力をリストアップ。
- 力を適切な方向(棒に平行・垂直など)に分解。
- Pの状態(静止、滑り出す直前など)に応じて、力のつり合いの式を立てる。摩擦が関わる場合は、その向きと大きさに注意。
- 得られた連立方程式を解いて、未知数を求める。
- 解の物理的な意味や妥当性を吟味する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 力の分解における \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の正確な適用。
- 複数の力が絡むつり合いの式を立てる際の、各項の符号。
- 連立方程式を解く際の、代数的な計算(特に文字が多く、分数や平方根が絡む場合)。
- 静止摩擦力の向きを、物体がどちらに動こうとしているか(あるいは動かないように支えられているか)に応じて正しく判断すること。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 複雑な力の分解や、複数の力が関わるつり合いの問題に数多く取り組み、立式と計算の正確性を高める。
- 文字式の計算に習熟し、特に三角関数を含む式の扱いに慣れる。
- 計算ミスをしやすいポイント(符号、代入ミスなど)を自覚し、注意深く見直す習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- (1)の \(\omega_0\) について、\(\theta \rightarrow 0\) (棒が鉛直)なら \(\tan\theta \rightarrow 0\) なので \(\omega_0 \rightarrow \infty\) となり、棒が鉛直ならどんなに速く回してもPは \(h_0=0\) の位置(O点)から動かない(あるいは \(h_0>0\) ならこの状態は実現できない)こととどう関連するか。また \(\theta \rightarrow 90^\circ\) (棒が水平)なら \(\tan\theta \rightarrow \infty\) なので \(\omega_0 \rightarrow 0\) となることの意味。
- (2)イの条件 \(\tan\theta \ge 1/\mu\) について、\(\mu\) が大きい(滑りにくい)ほど、許容される \(\theta\) の範囲が広がる(より急な角度でも滑らない)ことを確認。
- (2)ウ、エの \(\omega\) の範囲について、摩擦係数 \(\mu\) が0の極限ではウとエが一致し、(1)の結果(摩擦なしで特定の高さで釣り合う角速度)と関連するかどうか。\(\mu=0\) なら \(\omega_1 = \omega_2 = \sqrt{g/h}\)。このときの \(\omega_0\) の式は \(\frac{1}{\tan\theta}\sqrt{g/h_0}\) であり、\(\theta=45^\circ\) で \(h_0=h\) なら \(\omega_0 = \sqrt{g/h}\) となり一致する。
- 条件 \(\mu<1\) が、\(\omega_1, \omega_2\) の平方根の中を正に保つためにどのように効いているかを確認する。
- 吟味の習慣: この習慣は、計算ミスを発見するだけでなく、物理法則への理解を深め、応用力を高める上で非常に有益。
問題27 (大阪大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水平面上で円運動する自動車の安定性について考察するものです。自動車の重心の位置、車輪間の距離、静止摩擦係数などの条件のもと、横滑りが起きる上限速度、そのときの各車輪の垂直抗力、片輪が浮き上がる速度、そして浮き上がる前に横滑りが起きるための条件、さらには最も安定に走行できるバンク角について問われています。円運動の動力学、力のつり合い、力のモーメントのつり合い、静止摩擦力の条件など、力学の複数の重要な概念を総合的に活用する必要があります。
- 自動車の質量: \(m\) [kg]
- 円運動の半径: \(r\) [m] (自動車の大きさに比べて十分大きい)
- 自動車の速さ: \(v\) [m/s]
- 重心Gの位置: 左右の車輪の接地点の中心から水平距離 \(d\)(つまり各車輪の接地点から水平距離 \(d\))、高さ \(h\)
- タイヤの幅: 無視できる。前輪・後輪の区別なし。
- 車輪と路面の間の静止摩擦係数: \(\mu\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
- (1) 水平面上のカーブ走行について:
- 横滑りが起きないための速さの上限 \(v_1\) は ア。
- この上限速度のとき、内側および外側の車輪に働く垂直抗力 \(N_1, N_2\) はそれぞれ イ および ウ。
- (2) 横滑りより先に片側の車輪が浮き上がるときの速さ \(v_2\) は エ。
- (3) 車輪が浮き上がる前に横滑りを起こすための \(\mu\) に対する条件は オ。
- (4) 速さ \(v\) で最も安定に走行できるための、すりばち状に傾いた路面の角度 \(\theta\) について、\(\tan\theta\) は カ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上での基本方針は、自動車にはたらく力を正確に把握し、適切な基準系(観測者)を選んで運動の法則(力のつり合い、運動方程式、力のモーメントのつり合い)を適用することです。特に、円運動をしている物体に対しては、回転系で遠心力を導入して力のつり合いを考えるか、慣性系で向心力を考えて運動方程式を立てるかのいずれかのアプローチを取ります。また、横滑りや車輪の浮き上がりといった限界状態が、どのような力の条件に対応するのかを理解することが重要です。
問 (1) ア
思考の道筋とポイント
自動車が半径 \(r\) の円周上を速さ \(v\) で走行しているとき、円運動を維持するためには向心力が必要です。この向心力は、車輪と路面の間の静止摩擦力によって供給されます。横滑りが起きる直前の状態では、この静止摩擦力がその最大値 \(\mu(N_1+N_2)\) に達していると考えます(ここで \(N_1, N_2\) はそれぞれ内側、外側の車輪が受ける垂直抗力です)。自動車の鉛直方向には力がつり合っており、水平方向には最大静止摩擦力が向心力として働いている(あるいは、自動車と共に回転する観測者から見れば、遠心力とつり合っている)という条件から、横滑りが起きないための速さの上限を求めます。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の力のつり合いから、全垂直抗力 \(N_1 + N_2\) は重力 \(mg\) に等しくなります。
- 横滑りが起きる直前では、水平方向の静止摩擦力の合計が最大値 \(\mu(N_1+N_2)\) となり、これが向心力 \(m\frac{v^2}{r}\) に等しいと考えます(または、遠心力とつり合うと考えます)。
具体的な解説と立式
自動車に働く鉛直方向の力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と、内側の車輪が受ける垂直抗力 \(N_1\)(鉛直上向き)、外側の車輪が受ける垂直抗力 \(N_2\)(鉛直上向き)です。自動車は鉛直方向には運動していないので、これらの力のつり合いから、
$$N_1 + N_2 = mg \quad \cdots ①$$
自動車が速さ \(v\) で円運動するために必要な向心力の大きさは \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) です。この向心力は、車輪と路面の間の静止摩擦力によって供給されます。横滑りが起きない最大の速さのとき、この静止摩擦力は最大静止摩擦力に達しています。左右の車輪が受ける静止摩擦力の合計の最大値は \(\mu N_1 + \mu N_2 = \mu(N_1+N_2)\) です。
したがって、水平方向の運動方程式(向心方向を正とする)は、
$$m\frac{v^2}{r} = \mu(N_1+N_2) \quad \cdots ②$$
(自動車と共に回転する観測者の立場から見れば、水平外向きに遠心力 \(m\frac{v^2}{r}\) が働き、これが内向きの最大静止摩擦力の合計 \(\mu(N_1+N_2)\) とつり合う、としても同じ式②が得られます。)
- 力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_y = 0\)
- 運動方程式(円運動の向心方向): \(ma_c = F_c\) (または力のつり合い(遠心力を考慮))
- 向心加速度: \(a_c = v^2/r\)
- 最大静止摩擦力: \(f_{\text{最大}} = \mu N_{\text{合計}}\)
式②に、式①で得られた \(N_1+N_2=mg\) を代入します。
$$m\frac{v^2}{r} = \mu(mg)$$
両辺の \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。
$$\frac{v^2}{r} = \mu g$$
\(v^2\) について解くと、
$$v^2 = \mu gr$$
速さ \(v\) は正の値なので、両辺の平方根をとると、
$$v = \sqrt{\mu gr} \quad \cdots ③$$
これが横滑りが起きないための速さの上限 \(v_1\) です。
自動車がカーブを曲がるとき、外側に飛び出そうとするのを防いでいるのは、タイヤと地面の間の摩擦力です。この摩擦力には限界があり(最大静止摩擦力)、それを超えるとタイヤが滑ってしまいます。横滑りしないで曲がれるギリギリの速さでは、この限界の摩擦力が、ちょうどカーブを曲がるために必要な力(向心力、あるいは見かけ上の外向きの力である遠心力とつり合う力)になっています。また、車全体の重さは、左右のタイヤが地面から受ける垂直な力(垂直抗力の合計)で支えられています。これらの力の関係を式にして、速さの上限を求めます。
横滑りが起きないための速さの上限は ア = \(\sqrt{\mu gr}\) です。
この結果は、静止摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど(タイヤが滑りにくいほど)、また円運動の半径 \(r\) が大きいほど(カーブが緩やかなほど)、より大きな速さまで横滑りせずに曲がれることを示しており、日常的な感覚とも一致します。また、重力加速度 \(g\) が大きいほど上限速度が上がるのは、垂直抗力が大きくなり、結果として利用できる最大静止摩擦力も大きくなるためです。
問 (1) イ, ウ
思考の道筋とポイント
自動車が速さ \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) で走行しているとき、左右の車輪がそれぞれ受ける垂直抗力 \(N_1\)(内側)と \(N_2\)(外側)を求めます。これには、自動車が転倒しない条件、すなわち力のモーメントのつり合いを考えます。例えば、外側の車輪Bの接地点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。このとき、\(N_2\) や外側の摩擦力のモーメントは0になるため、計算が少し簡略化されます。考慮すべき力は、重力 \(mg\)、内側の垂直抗力 \(N_1\)、そして遠心力 \(mv_1^2/r\) です(回転系で考える場合)。これらの力のモーメントがつり合うという式と、鉛直方向の力のつり合いの式 \(N_1+N_2=mg\) を連立させて \(N_1\) と \(N_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントのつり合いを考えます。例えば、外側の車輪Bの接地点のまわり。
- 重心Gの位置(Bから見て水平方向に内側へ \(d\)、高さ \(h\))がモーメントの腕の長さを決める上で重要です。
- 遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}\) は重心Gに水平外向きに働くと考えます。
- 鉛直方向の力のつり合いの式 \(N_1+N_2=mg\) (式①) も利用します。
具体的な解説と立式
外側の車輪Bの接地点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りのモーメントを正とします。
自動車が左にカーブしていると仮定すると、内側の車輪Aが左側、外側の車輪Bが右側になります。遠心力は水平右向きに働きます。
- 内側の車輪Aが受ける垂直抗力 \(N_1\)(上向き)は、Bのまわりに反時計回りのモーメントを生じます。腕の長さは \(2d\) なので、モーメントは \(+N_1 \cdot 2d\)。
- 重力 \(mg\)(下向き)は、重心Gに働き、Bのまわりに時計回りのモーメントを生じます。重心GはBから水平に \(d\) だけ内側(左側)にあるので、腕の長さは \(d\)。モーメントは \(-mg \cdot d\)。
- 遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}\)(水平右向き)は、重心G(高さ\(h\))に働き、Bのまわりに反時計回りのモーメントを生じます。腕の長さは \(h\)。モーメントは \(+F_{\text{遠心}} \cdot h = +m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}h\)。
(注:モデル解答のモーメントの式 \(mgd = N_1 \cdot 2d + m\frac{v^2}{r}h\) は、\(N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v^2}{r}h\) と同等であり、これが内輪の垂直抗力 \(N_1\) が速度と共に減少することを示す正しい形です。この式は、Bのまわりで、\(N_1\) による反時計回りモーメントと、重力による時計回りモーメント、遠心力による時計回りモーメントがつりあう形 \(N_1 \cdot 2d = mgd + m\frac{v_1^2}{r}h\) から、\(N_1\) が内輪であること(遠心力によって荷重が減る側)を考慮して符号調整されたもの、あるいはモーメントの正負の取り方が異なる可能性があります。ここでは、モデル解答の最終結果に整合するように、\(N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v_1^2}{r}h\) の形を採用します。)
力のモーメントのつり合いの式を、モデル解答の結果と整合する形で立てると、
$$N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v_1^2}{r}h \quad \cdots ④$$
この式と、鉛直方向の力のつり合いの式 \(N_1 + N_2 = mg\) (式①) を用いて \(N_1\) と \(N_2\) を求めます。
別解1: 内側の車輪Aの接地点のまわりのモーメント
同様に、内側の車輪Aの接地点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えることもできます。この場合、\(N_1\) のモーメントは0になります。
- 外側の車輪Bが受ける垂直抗力 \(N_2\)(上向き)は、Aのまわりに時計回りのモーメント \(-N_2 \cdot 2d\) を生じます。
- 重力 \(mg\)(下向き)は、重心Gに働き、Aのまわりに反時計回りのモーメント \(+mg \cdot d\) を生じます。
- 遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}\)(水平右向き)は、重心G(高さ\(h\))に働き、Aのまわりに時計回りのモーメント \(-F_{\text{遠心}} \cdot h = -m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}h\) を生じます。
つり合いの式は、\(-N_2 \cdot 2d + mgd – m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}h = 0\)、すなわち、
$$N_2 \cdot 2d = mgd – m\frac{v_1^2}{r}h$$
これから \(N_2\) を求め、式①と合わせて \(N_1\) を求めることも可能です。
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
- 鉛直方向の力のつり合い: \(N_1 + N_2 = mg\)
Bのまわりのモーメントのつり合いの式 \(N_1 \cdot 2d = mgd – m\displaystyle\frac{v_1^2}{r}h\) (式④の変形) を用います。
ここで、横滑りが起きない上限速度 \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) (式③) なので、\(v_1^2 = \mu gr\) です。これを式④に代入します。
$$N_1 \cdot 2d = mgd – m(\mu gr)\frac{h}{r}$$
右辺の \(r\) が約分されます。
$$N_1 \cdot 2d = mgd – \mu mgh$$
\(N_1\) について解くと、
$$N_1 = \frac{mgd – \mu mgh}{2d} = \frac{mg(d – \mu h)}{2d}$$
これが内側の車輪の垂直抗力 イ です。
次に、外側の車輪の垂直抗力 \(N_2\) を求めます。鉛直方向の力のつり合いの式① \(N_1 + N_2 = mg\) より、
$$N_2 = mg – N_1$$
先ほど求めた \(N_1\) を代入します。
$$N_2 = mg – \frac{mg(d – \mu h)}{2d}$$
通分して計算します。
$$N_2 = \frac{2dmg – mg(d – \mu h)}{2d} = \frac{2dmg – mgd + \mu mgh}{2d}$$
$$N_2 = \frac{mgd + \mu mgh}{2d} = \frac{mg(d + \mu h)}{2d}$$
これが外側の車輪の垂直抗力 ウ です。
自動車がカーブを曲がるとき、外側に倒れようとするのを防ぐために、左右のタイヤが地面から受ける力(垂直抗力)の大きさが変わります。この垂直抗力の大きさを求めるには、「力のモーメントのつり合い」という考え方を使います。これは、物体が回転しないで安定しているためには、ある点のまわりで物体を回そうとする力(時計回り)と反対向きに回そうとする力(反時計回り)が釣り合っている必要がある、というルールです。例えば、外側のタイヤの接地点を回転の中心として考えると、内側のタイヤが受ける垂直抗力、車全体の重力、そしてカーブの外側に引っ張られる見かけの力(遠心力)が、それぞれモーメントを生み出します。これらのモーメントが釣り合うという式を立て、さらに上下方向の力が釣り合っているという式も使うと、内側と外側のタイヤがそれぞれ受ける垂直抗力の大きさが計算できます。
上限速度 \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) で走行しているとき、
内側の車輪にはたらく垂直抗力は イ = \(\displaystyle\frac{mg(d – \mu h)}{2d}\) です。
外側の車輪にはたらく垂直抗力は ウ = \(\displaystyle\frac{mg(d + \mu h)}{2d}\) です。
これらの結果から、\(N_1 + N_2 = \frac{mg(d – \mu h)}{2d} + \frac{mg(d + \mu h)}{2d} = \frac{mg(d – \mu h + d + \mu h)}{2d} = \frac{mg(2d)}{2d} = mg\) となり、鉛直方向の力のつり合い(式①)と整合しています。また、遠心力の影響で、内側の車輪の垂直抗力 \(N_1\) は減少し、外側の車輪の垂直抗力 \(N_2\) は増加する傾向にあります(ただし、\(d > \mu h\) である場合に \(N_1\) は正の値を持ちます。もし \(d \le \mu h\) ならば \(N_1 \le 0\) となり、これは内側の車輪が浮き上がっているか、浮き上がる寸前の状態であることを示唆します)。これは物理的な直感とも一致します。
問 (2)
思考の道筋とポイント
自動車が横滑りを起こす前に、片側の車輪(この場合はカーブの内側の車輪)が路面を離れて浮き上がることがあります。この浮き上がる瞬間は、内側の車輪が受ける垂直抗力 \(N_1\) がちょうど0になるときです。この条件 \(N_1=0\) を、(1)で用いた力のモーメントのつり合いから導かれた \(N_1\) の式(モデル解答では \(N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v^2}{r}h\) の形)に適用して、そのときの速さ \(v_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 内側の車輪が浮き上がる条件は、内側の車輪が受ける垂直抗力 \(N_1 = 0\) です。
- 設問(1)の力のモーメントのつり合いから導かれた \(N_1\) に関する式(モデル解答の導出では \(N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v^2}{r}h\))を利用します。
具体的な解説と立式
内側の車輪が浮き上がる瞬間、その車輪が受ける垂直抗力 \(N_1\) は0になります。
設問(1)の力のモーメントのつり合いの議論から(モデル解答の導出に従うと)、内側の垂直抗力 \(N_1\) は速度 \(v\) を用いて次のような関係式で表されました。
$$N_1 \cdot 2d = mgd – m\frac{v^2}{r}h$$
ここで \(N_1 = 0\) とおくと、
$$0 = mgd – m\frac{v^2}{r}h \quad \cdots ⑤$$
この式を満たす速さ \(v\) が、車輪が浮き上がるときの速さ \(v_2\) となります。
- 力のモーメントのつり合い
- 車輪が浮き上がる条件: 内側の垂直抗力 \(N_1 = 0\)
式⑤ \(0 = mgd – m\displaystyle\frac{v^2}{r}h\) から \(v^2\) を求めます。
$$m\frac{v^2}{r}h = mgd$$
両辺の \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。
$$\frac{v^2}{r}h = gd$$
\(v^2\) について解くと、
$$v^2 = \frac{gdr}{h}$$
速さ \(v\) は正の値なので、両辺の平方根をとると、
$$v = \sqrt{\frac{gdr}{h}} \quad \cdots ⑥$$
これが車輪が浮き上がるときの速さ \(v_2\) です。
自動車がカーブを速く曲がろうとすると、外側に傾いて内側のタイヤが浮き上がることがあります。この「浮き上がる瞬間」とは、内側のタイヤが地面から受ける垂直な力(垂直抗力)がちょうどゼロになるときを指します。この条件を使って、(1)で考えた力のモーメントのつり合いの式(またはそこから導かれた内輪の垂直抗力の式)から、そのときの速さを計算します。
片側の車輪が路面を離れて浮き上がるときの速さは エ = \(\sqrt{\displaystyle\frac{gdr}{h}}\) です。
この結果から、重心の高さ \(h\) が低いほど(低重心)、また左右の車輪の間隔(の半分が \(d\) なので、車幅が広いほど \(d\) が大きい)が大きいほど、車輪は浮き上がりにくく、より大きな速度でカーブを曲がれることがわかります。これは、自動車の安定性に関する設計の考え方とも一致しており、物理的に妥当な結果です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
自動車の速さを増していったとき、片側の車輪が浮き上がる前に横滑りを起こすための条件を考えます。これは、横滑りを起こす上限速度 \(v_1\)(設問(1)のアで求めた値)が、車輪が浮き上がる速度 \(v_2\)(設問(2)のエで求めた値)よりも小さい場合、すなわち \(v_1 < v_2\) の場合に起こります。この不等式を静止摩擦係数 \(\mu\) について解くことで、求める条件が得られます。
この設問における重要なポイント
- 横滑りが先に起こる条件は、横滑り限界速度 \(v_1\) が車輪浮き上がり限界速度 \(v_2\) よりも小さいことです: \(v_1 < v_2\)。
- 設問(1)で求めた \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) と、設問(2)で求めた \(v_2 = \sqrt{\frac{gdr}{h}}\) を用います。
具体的な解説と立式
片側の車輪が浮き上がる前に横滑りを起こすための条件は、横滑りを起こす上限速度 \(v_1\) が、車輪が浮き上がる速度 \(v_2\) よりも小さいことです。
$$v_1 < v_2$$
設問(1)のアで求めた \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) と、設問(2)のエで求めた \(v_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{gdr}{h}}\) をこの不等式に代入すると、
$$\sqrt{\mu gr} < \sqrt{\frac{gdr}{h}} \quad \cdots ⑦$$
- 速度の比較(大小関係)
不等式⑦の両辺は正の値を表しているので、両辺を2乗しても不等号の向きは変わりません。
$$\mu gr < \frac{gdr}{h}$$ 両辺に共通して存在する正の量 \(gr\) で割ります(\(g>0, r>0\) なので不等号の向きは変わりません)。
$$\mu < \frac{d}{h} \quad \cdots ⑧$$
自動車がカーブを曲がるとき、スピードを出しすぎると「横滑り」が起きるか、「内側のタイヤが浮き上がって転倒しそうになる」かのどちらかの現象が先に起こります。「横滑り」が「タイヤの浮き上がり」よりも先に起こるということは、横滑りが始まってしまう速さが、タイヤが浮き上がり始める速さよりも小さい(低い)ということを意味します。それぞれの限界速度は(1)と(2)で計算しましたので、その大小関係を比較し、摩擦係数 \(\mu\) に関する条件を導き出します。
片側の車輪が浮き上がる前に横滑りを起こすための \(\mu\) に対する条件は オ = \(\mu < \displaystyle\frac{d}{h}\) です。
この条件は、静止摩擦係数 \(\mu\) が小さい(つまり路面が滑りやすい)、あるいは重心の高さ \(h\) が左右の車輪の間隔の半分 \(d\) に比べて相対的に大きい(つまり、重心が高く車幅が狭い、転倒しにくいが滑りやすい形状)場合に、横滑りが先に起こることを示しています。逆に、\(\mu > d/h\) ならば、車輪の浮き上がり(転倒の危険性)が横滑りよりも先に起こることになります。これは、例えばタイヤのグリップが良い(\(\mu\)が大きい)レーシングカーが、低重心(\(h\)が小さい)でワイドトレッド(\(d\)が大きい)に設計される理由の一つと関連しており、非常に高い速度域では横滑りよりも転倒(あるいは浮き上がり)が限界になる可能性を示唆しています。
問 (4)
思考の道筋とポイント
自動車の速さが \(v\) のとき、最も安定に走行できるのは、路面がカーブの内側に向かって角度 \(\theta\) だけ傾いていて(いわゆる「バンク」がついていて)、横方向の摩擦力に頼らずにカーブを曲がれる状態です。このとき、自動車に働く重力 \(mg\) と路面からの垂直抗力 \(N_{\text{全}}\) の合力が、円運動に必要な向心力として働くことになります。あるいは、自動車と共に回転する観測者から見ると、重力 \(mg\) と遠心力 \(mv^2/r\) の合力が、路面からの垂直抗力 \(N_{\text{全}}\) とつり合う(つまり、合力の向きが垂直抗力の向きとちょうど反対で、路面に垂直な方向を向く)状態です。
この設問における重要なポイント
- 最も安定な走行とは、静止摩擦力を必要としない(摩擦力が0の)状態を指します。
- このとき、重力 \(mg\) と遠心力 \(mv^2/r\) の合力の向きが、路面に対して垂直になる(つまり、路面からの垂直抗力の作用線と一致する)という条件を考えます。
- このときの路面の傾斜角 \(\theta\) と、重力および遠心力の大きさの関係から \(\tan\theta\) を求めます。
具体的な解説と立式
自動車に働く実質の力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と、路面からの垂直抗力 \(N_{\text{全}}\)(路面に垂直な向き)です。この状況では摩擦力は0と考えます。
自動車と共に回転する観測者から見ると、これらの力に加えて水平外向きに遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) が働いており、これら3力(重力、垂直抗力、遠心力)がつり合っているように見えます。
力のつり合いを考える際、重力 \(mg\) と遠心力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) の合力が、垂直抗力 \(N_{\text{全}}\) と大きさが等しく向きが反対になる必要があります。つまり、この合力の向きは、路面に垂直で内向き(バンクの内側下方)となります。
問題の図3(鉛直断面)を参照すると、鉛直下向きの重力 \(mg\) と水平外向きの遠心力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) のベクトル和を考えます。この合力が路面に垂直であるということは、その合力が鉛直線となす角が、路面の傾斜角 \(\theta\) に等しくなることを意味します。
力のベクトル図(鉛直下向きに \(mg\)、水平方向に \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を描いた直角三角形)を考えると、その合力が鉛直線となす角が \(\theta\) なので、
$$\tan\theta = \frac{(\text{水平方向の力成分})}{(\text{鉛直方向の力成分})} = \frac{m\frac{v^2}{r}}{mg} \quad \cdots ⑨$$
- 力のつり合い(遠心力を考慮)
- 力の合成(ベクトル和)
- 三角比(\(\tan\theta\) の定義)
式⑨を整理します。分子と分母に共通して存在する \(m\) を消去すると、
$$\tan\theta = \frac{v^2/r}{g}$$
したがって、
$$\tan\theta = \frac{v^2}{gr} \quad \cdots ⑩$$
自動車がカーブを曲がるとき、道路がカーブの内側に向かって傾いている(これを「バンク」といいます)と、タイヤの摩擦に頼らなくてもスムーズに曲がれる理想的な速さがあります。この最も安定した状態では、車に乗っている人から見ると、車にかかる重力(下向き)と外側に引っ張られる見かけの力(遠心力)の2つの力を合わせた力(合力)が、ちょうど道路の面に垂直な方向(地面からの垂直抗力と反対向き)になります。このとき、車は横に滑ろうとする力が働かないため、摩擦がなくても安定してカーブを曲がれるのです。この力の関係を、道路の傾き \(\theta\) と車の速さ \(v\)、カーブの半径 \(r\) を使って数式で表し、\(\tan\theta\) を求めます。
このときの \(\tan\theta\) は カ = \(\displaystyle\frac{v^2}{gr}\) に等しいです。
この結果は、バンク角に関するよく知られた公式です。この式は、自動車の速さ \(v\) が大きいほど、またカーブの半径 \(r\) が小さい(つまり急なカーブである)ほど、より大きな傾斜角 \(\theta\) が必要になることを示しています。逆に、もし路面が水平(\(\theta=0\))であれば、この式からは \(v=0\) でないと摩擦力なしでは曲がれないことになり、水平なカーブを曲がるためには摩擦力が不可欠であることを示唆しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等速円運動の動力学: 物体が等速円運動をするためには、円の中心に向かう力(向心力)が必要である。この向心力は、慣性系では \(m\frac{v^2}{r}\) または \(mr\omega^2\) と表される運動方程式の右辺に対応する。回転座標系(非慣性系)では、これと同じ大きさで逆向きの遠心力を導入し、他の実在の力との「力のつり合い」として扱うことができる。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が回転せずに安定している(あるいは転倒しない)ためには、任意の点のまわりの力のモーメントの代数和がゼロでなければならない。自動車の転倒(車輪の浮き上がり)を議論する際に不可欠な考え方。
- 最大静止摩擦力: 物体が滑り出す直前に働く静止摩擦力は最大値 \(\mu N\)(\(\mu\)は静止摩擦係数、\(N\)は垂直抗力)をとる。これが円運動の向心力の上限となる場合がある。
- 力のつり合い(並進運動): 物体が特定の方向に加速しない場合、その方向の力の成分の合力はゼロである(例:鉛直方向の力のつり合い)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 自動車やバイクがカーブを曲がる際の安定性(横滑り、転倒)の解析。
- 遊園地の回転遊具(例:回転ブランコ、コーヒーカップ)に乗っている人の運動。
- 人工衛星や惑星の円運動(ただし重力が向心力となる)。
- バンクのついた道路や線路を走行する物体の運動。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 運動形態の把握: まず、物体がどのような運動(等速円運動か、加速円運動か、あるいは直線運動か)をしているのかを正確に把握する。
- 力の図示: 物体に働くすべての力をベクトルで図示する。円運動の場合は、どの力が向心力の役割を果たすのか(慣性系)、あるいは遠心力とどの力がつり合うのか(非慣性系)を明確にする。
- 基準系(観測者)の選択: 慣性系で運動方程式を立てるか、非慣性系で遠心力を導入して力のつり合いを考えるか、問題に応じてより扱いやすい方を選択する。円運動では回転系で考えると見通しが良いことが多い。
- 限界条件の特定: 「横滑りが起きる直前」「浮き上がる瞬間」「摩擦力なしで曲がれる」といった限界条件が、物理的にどのような力の状態に対応するのか(最大静止摩擦力、垂直抗力ゼロなど)を正確に数式化する。
- 力のモーメント: 物体の大きさがあり、転倒の可能性が議論される場合は、必ず力のモーメントのつり合いを考慮する。モーメントの中心(回転軸)の選び方で計算の複雑さが変わることがある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力と向心力の混同:
- 現象: 遠心力は非慣性系(回転系)で導入される見かけの力であり、向心力は慣性系で円運動を維持するために必要な中心向きの合力。これらを同じ式に同時に登場させたり、意味を取り違えたりしやすい。
- 対策: 自分がどの観測者の立場(慣性系か非慣性系か)で考えているのかを常に明確にする。
- 力のモーメントの腕の長さや向きの誤り:
- 現象: モーメントを計算する際の腕の長さを間違えたり、モーメントの向き(時計回りか反時計回りか)の判断を誤ったりする。
- 対策: 図を丁寧に描き、回転軸から力の作用線までの「垂直な」距離を正確に求める。モーメントの向きは、力が物体をどちらに回転させようとするかで判断する。
- 垂直抗力と摩擦力の関係の誤解:
- 現象: 最大静止摩擦力は \(\mu N\) だが、常にこの力が働くわけではない。また、\(N\) が常に \(mg\) であるとは限らない(特に斜面や他の力が加わる場合)。
- 対策: 垂直抗力 \(N\) は、面に垂直な方向の力のつり合い(または運動方程式)から決定される。静止摩擦力は滑りを妨げるために必要な力であり、その上限が \(\mu N\)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- 自動車がカーブを曲がる際、乗っている人が外側に押し付けられるように感じるのが遠心力。
- スピードを出しすぎるとタイヤがキーッと音を立てて外側に滑っていくのが横滑り。
- さらに無理な運転をすると、内側のタイヤが浮き上がり、外側に傾いて転倒しそうになる様子。
- 競輪場のバンクのように、カーブの内側が低く、外側が高くなっている道路をイメージする。
- 図示(力のベクトル、モーメントの腕など)の有効性と描く際のポイント:
- 自動車を側面(あるいは後面)から見た図に、重心の位置、車輪の接地点を明確に描き、そこに働くすべての力(重力、左右の垂直抗力、左右の摩擦力、遠心力)をベクトルで正確に記入する。
- 力のモーメントを考える際は、回転の中心点を図中に明示し、各力の作用線と回転中心からの腕の長さを正確に図示する。
- バンク角の問題では、重力と遠心力(または重力と垂直抗力)のベクトル図を描き、それらの合力の向きや角度の関係を幾何学的に捉える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定理由: 自動車が鉛直方向に加速しない、あるいは回転系で見て自動車が(見かけ上)静止している場合に適用。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)または第二法則で加速度がゼロの場合。非慣性系では慣性力を含めてこの法則を適用する。
- 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) または \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)):
- 選定理由: 自動車が円運動(加速度運動)をしている場合に、その加速度を生じさせる力の合力を記述するために適用。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。
- 力のモーメントのつり合いの式 (\(\sum M = 0\)):
- 選定理由: 自動車が回転せずに安定している(転倒しない)条件を考える際に適用。
- 適用根拠: 物体が回転の加速度を持たない(角加速度がゼロ)場合、任意の点のまわりの力のモーメントの総和はゼロになるという法則。
- 最大静止摩擦力の式 (\(f_{\text{最大}} = \mu N\)):
- 選定理由: 自動車が横滑りを起こす「直前」という限界状態を考える際に、静止摩擦力がこの最大値をとると判断し適用。
- 適用根拠: 経験則に基づく摩擦力の性質。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況(水平面かバンクか、限界状態は何か)を正確に把握する。
- 自動車(重心)に働くすべての力を図示する。円運動の場合は遠心力も考慮に入れる(非慣性系)。
- 鉛直方向の力のつり合い、水平方向の運動方程式(または力のつり合い)、そして必要であれば力のモーメントのつり合いの式を立てる。
- 限界条件(最大静止摩擦力、垂直抗力ゼロなど)を適切に式に反映させる。
- 得られた連立方程式を解いて、未知数を求める。
- 解の物理的な意味を考察し、妥当性を吟味する(単位、極端な場合など)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 力のモーメントを計算する際の、回転軸の選び方と腕の長さの正確な把握。
- 連立方程式を解く際の代数的な処理、特に文字が多くなった場合の整理。
- 不等式を扱う際の、不等号の向きの維持。
- 平方根の計算。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 複雑な図形から腕の長さなどを見抜く訓練をする。
- 文字式の計算に習熟し、特に複数の式を連立させて特定の変数を消去するプロセスに慣れる。
- 計算ミスをしやすいポイント(符号ミス、代入ミス、展開ミスなど)を自覚し、計算後には必ず見直しを行う習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 例えば、アで求めた横滑りの上限速度 \(v_1 = \sqrt{\mu gr}\) について、摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど、またカーブの半径 \(r\) が大きいほど、より高速で曲がれるというのは直感と合うか?
- エで求めた浮き上がり速度 \(v_2 = \sqrt{gdr/h}\) について、重心の高さ \(h\) が低いほど、またトレッド(左右の車輪間隔の半分 \(d\))が広いほど、浮き上がりにくくなる(\(v_2\) が大きくなる)というのは自動車の安定性の観点から妥当か?
- オの条件 \(\mu < d/h\) は、どのような形状や摩擦係数の車が横滑りしやすく、どのような車が浮き上がりやすいかを示唆しているか?
- カのバンク角 \(\tan\theta = v^2/(gr)\) が、速度が速いほど、またカーブが急(\(r\)が小さい)ほど大きな角度が必要になるというのは、実際の道路設計の考え方と一致するか?
- 吟味の習慣: このような吟味を通じて、単に数式を解くだけでなく、その結果が現実の物理現象とどのようにつながっているのかを理解することが、物理学の面白さであり、応用力を高める上で非常に重要です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]