「名問の森」徹底解説(1〜3問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題1 (信州大+滋賀医大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、斜方投射される物体Pと自由落下する物体Qの運動を扱い、両者が衝突するための条件や、一方から見たもう一方の相対運動について考察するものです。

与えられた条件
  • 時刻 \(t=0\) におけるPの位置: 原点O \((0, 0)\)
  • 時刻 \(t=0\) におけるPの初速度: 大きさ \(v_0\)、x軸とのなす角 \(\theta\)
  • 時刻 \(t=0\) におけるQの位置: 点 \((a, b)\)
  • Qの運動: 自由落下 (初速度 0)
  • 重力加速度: \(g\) (鉛直下向き)
  • 運動はx-y面内で起こる。
問われていること
  1. (1) Pが直線 \(x=a\) を横切る時刻 \(t\)。
  2. (2) 上記時刻 \(t\) におけるPのy座標 \(y_P\) とQのy座標 \(y_Q\)。
  3. (3) PとQが衝突するときの \(\tan\theta\) の値(\(v_0\) に依らない)。
  4. (4) 衝突がx軸の上側 (\(y \ge 0\)) で起こるための \(v_0\) の条件。
  5. (5) Qから見たPの運動の様子と、Pが投げ出されてから衝突するまでの時間 \(t_0\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3) 衝突条件 \(\tan\theta\) の別解: 相対運動の物理的洞察を用いる解法
      • 主たる解法が、PとQのy座標が一致するという代数的な条件式から出発するのに対し、別解では、「2物体間の相対加速度がゼロであるため、衝突するためには初速度ベクトルが相手の初期位置を向いていなければならない」という、より物理的な洞察から直接条件を導きます。
    • 問(4) \(v_0\) の条件の別解: Qの落下時間に着目する解法
      • 主たる解法が、衝突点のy座標が非負であるという条件から不等式を立てるのに対し、別解では、「衝突が起こる時刻が、Qが地面に到達する時刻よりも前でなければならない」という時間的な制約条件から不等式を立てて解きます。
    • 問(5) 衝突までの時間\(t_0\)の別解: 問(1)の結果を利用する解法
      • 主たる解法が相対運動の概念(相対距離と相対速度)から直接時間を求めるのに対し、別解では、Pが直線\(x=a\)を横切る時刻を求める一般式に、衝突が起こるための特別な条件(問(3)の結果)を代入することで時間を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「相対加速度ゼロ」や「時間的制約」といった、現象の背後にある物理モデルへの理解が深まります。特に問(3)の別解は、モンキーハンティング問題の本質を端的に示しています。
    • 多角的な視点の獲得: 同じ条件を「位置の条件」として見るか、「時間の条件」として見るかなど、異なる視点からアプローチする経験は、複雑な問題解決能力を養います。
    • 問題構造の理解: 設問間の論理的なつながりを意識する訓練になります。例えば、問(5)の結果を先に考察することで問(3)が解けたり、問(1)と(3)の結果から問(5)が導けたりと、問題全体の構造を俯瞰する力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「放物運動」と「相対運動」です。一見複雑に見える2つの物体の運動も、水平・鉛直方向に分解したり、一方の物体から見たもう一方の運動として捉え直したりすることで、シンプルに解き明かすことができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 斜方投射された物体の運動は、水平方向の「等速直線運動」と、鉛直方向の「等加速度直線運動(投げ上げ)」の重ね合わせとして考えることができます。
  2. 等加速度直線運動の公式: 鉛直方向の運動や自由落下運動を記述するために不可欠です。座標軸の向き(正の向き)を最初に決め、加速度の符号に注意して適用します。
  3. 相対運動: 2つの物体が共に重力下で運動する場合、相対加速度がゼロになります。これにより、一方から見た相手の運動は「等速直線運動」として扱うことができ、問題が大幅に単純化されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、小球Pの運動を水平成分と鉛直成分に分け、それぞれの座標を時刻\(t\)の関数として表します。小球Qの運動も同様に立式します。
  2. 問(1)から問(4)までは、問題の誘導に従い、衝突条件を段階的に明らかにしていきます。PがQのいる鉛直線上に到達する時刻を求め、その時刻に両者のy座標が一致するという条件を考えます。
  3. 問(5)では、相対運動の考え方を適用します。PとQの相対加速度を求め、Qから見たPの運動がどのように見えるかを考察することで、衝突までの時間を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球Pの運動は、水平方向と鉛直方向に分けて考えます。水平方向には力がはたらかない(空気抵抗は無視)ため、Pは等速直線運動をします。この設問では、Pが直線 \(x=a\) を横切る時刻が問われているので、Pの運動の水平成分に注目します。
この設問における重要なポイント

  • 小球Pの初速度を水平成分と鉛直成分に分解する。水平成分は \(v_0 \cos\theta\)。
  • 水平方向の運動は、常に一定の速度で進む等速直線運動である。

具体的な解説と立式
小球Pは、時刻 \(t=0\) に原点Oから初速度の大きさ \(v_0\)、x軸とのなす角 \(\theta\) で投げ出されます。
このとき、初速度の水平成分(x成分) \(v_{Px}\) は、
$$
\begin{aligned}
v_{Px} &= v_0 \cos\theta
\end{aligned}
$$
となります。
水平方向には等速直線運動をするので、時刻 \(t\) におけるPのx座標 \(x_P\) は、
$$
\begin{aligned}
x_P &= v_{Px} t
\end{aligned}
$$
と表せます。
Pが直線 \(x=a\) を横切るということは、\(x_P = a\) となることなので、このときの時刻を \(t\) とすると、
$$
\begin{aligned}
a &= (v_0 \cos\theta) t \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式を \(t\) について解くことで、求める時刻が得られます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動の変位: \(x = vt\)
計算過程

式①の両辺を \(v_0 \cos\theta\) で割ります。\(x=a\) に到達するためには水平方向の速度成分が必要なので、\(v_0 \cos\theta \neq 0\) です。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{a}{v_0 \cos\theta}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Pの運動を、真上からスポットライトで照らしたときの地面上の影の動きだと考えてみましょう。この影は、水平方向には何の力も受けないので、\(v_0 \cos\theta\) という一定の速さでまっすぐ進みます。距離 \(a\) だけ離れたゴールテープまで、この速さで進むのにかかる時間は?と聞かれているのと同じです。これは小学校で習った「時間 = 距離 ÷ 速さ」の公式そのもので、\(t = a \div (v_0 \cos\theta)\) と計算できます。

結論と吟味

Pが直線 \(x=a\) を横切る時刻 \(t\) は \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) です。
この結果は、水平距離 \(a\) が大きいほど、また初速度の水平成分 \(v_0 \cos\theta\) が小さいほど、到達にかかる時間が長くなることを示しており、直感と一致します。

解答 (1) \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)で求めた時刻 \(t\) における、小球Pと小球Qのy座標をそれぞれ求めます。y軸は鉛直上向きを正とします。
小球Pの鉛直方向の運動は、初速度 \(v_0 \sin\theta\) での投げ上げ運動です。重力加速度の大きさは \(g\) で鉛直下向きにはたらくため、加速度は \(-g\) となります。
小球Qは、初期位置 \(y=b\) から初速度0で運動を始める自由落下運動です。これも加速度は \(-g\) です。
両方の運動に、等加速度直線運動の公式を適用します。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸の向きを明確にする(鉛直上向きを正)。これにより加速度は \(-g\) となる。
  • Pの鉛直方向の運動: 初期位置 \(y=0\)、初速度 \(v_0 \sin\theta\)、加速度 \(-g\)。
  • Qの鉛直方向の運動: 初期位置 \(y=b\)、初速度 \(0\)、加速度 \(-g\)。
  • 等加速度直線運動の変位の公式 \(y = y_{\text{初}} + v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}\alpha t^2\) を用いる。

具体的な解説と立式
y軸の向きは鉛直上向きを正とします。したがって、重力による加速度は \(\alpha = -g\) となります。

小球Pのy座標 \(y_P\):
Pの初期位置は原点なので \(y_{P\text{初}} = 0\)、初速度のy成分は \(v_{Py\text{初}} = v_0 \sin\theta\) です。
時刻 \(t\) におけるPのy座標 \(y_P\) は、等加速度直線運動の公式より、
$$
\begin{aligned}
y_P &= y_{P\text{初}} + v_{Py\text{初}} t + \frac{1}{2}\alpha t^2 \\[2.0ex]
&= 0 + (v_0 \sin\theta) t + \frac{1}{2}(-g)t^2 \\[2.0ex]
&= (v_0 \sin\theta) t – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
ここに、問(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) を代入します。

小球Qのy座標 \(y_Q\):
Qの初期位置は点 \((a, b)\) なので \(y_{Q\text{初}} = b\)、初速度は \(v_{Qy\text{初}} = 0\) です。
時刻 \(t\) におけるQのy座標 \(y_Q\) は、等加速度直線運動の公式より、
$$
\begin{aligned}
y_Q &= y_{Q\text{初}} + v_{Qy\text{初}} t + \frac{1}{2}\alpha t^2 \\[2.0ex]
&= b + 0 \cdot t + \frac{1}{2}(-g)t^2 \\[2.0ex]
&= b – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
ここに、問(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位: \(y = y_{\text{初}} + v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}\alpha t^2\)
計算過程

問(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) を、式②と式③にそれぞれ代入します。

\(y_P\) の計算:
$$
\begin{aligned}
y_P &= (v_0 \sin\theta) \left(\frac{a}{v_0 \cos\theta}\right) – \frac{1}{2}g\left(\frac{a}{v_0 \cos\theta}\right)^2 \\[2.0ex]
&= a \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{1}{2}g \frac{a^2}{(v_0 \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$
ここで \(\displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
y_P &= a \tan\theta – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$

\(y_Q\) の計算:
$$
\begin{aligned}
y_Q &= b – \frac{1}{2}g\left(\frac{a}{v_0 \cos\theta}\right)^2 \\[2.0ex]
&= b – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

PとQのy方向の動きを、重力がない世界と現実世界で比べてみましょう。もし重力がなければ、Pは撃ち出された方向にまっすぐ進むので、\(x=a\) に着く頃には高さ \(a \tan\theta\) に達します。一方、Qはずっと高さ \(b\) に留まります。現実の世界では、この「重力がない場合の高さ」から、PもQも全く同じ距離 \(\frac{1}{2}gt^2\) だけ下にずり落ちます。ですから、それぞれの実際の高さは、「もしもの世界の高さ」から「重力による落下距離」を引けば計算できるのです。

結論と吟味

時刻 \(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) におけるPのy座標は \(y_P = a \tan\theta – \displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\)、Qのy座標は \(y_Q = b – \displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\) です。
両者のy座標の式に共通して現れる項 \(-\displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\) は、時刻 \(t\) までに重力の影響で落下した距離を表しています。PとQがどちらも同じ時間だけ重力の影響を受けていることが、この共通項から分かります。

解答 (2) \(y_P = a \tan\theta – \displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\), \(y_Q = b – \displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
PとQが衝突するということは、ある時刻にPとQが同じ位置にいる、つまりx座標とy座標が同時に一致することを意味します。
問(1)では、PがQの初期位置のx座標と同じ \(x=a\) を横切る時刻を求めました。したがって、この時刻においてPとQのy座標も一致すれば、PとQは衝突することになります。
つまり、問(2)で求めた \(y_P\) と \(y_Q\) が等しくなる (\(y_P = y_Q\)) という条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 衝突条件: Pが \(x=a\) に到達したとき、\(y_P = y_Q\) となる。
  • 問(2)で求めた \(y_P\) と \(y_Q\) の式を利用する。
  • この条件が「\(v_0\) の値にかかわらず」成り立つ、という点が鍵。

具体的な解説と立式
PとQが \(x=a\) の鉛直線上で衝突するための条件は、その時刻において、それぞれのy座標が等しくなることです。
$$
\begin{aligned}
y_P &= y_Q
\end{aligned}
$$
問(2)で求めた \(y_P\) と \(y_Q\) の式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
a \tan\theta – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2} &= b – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
この方程式を解きます。

使用した物理公式

  • なし(問(2)の結果を利用)
計算過程

式④の両辺に共通の項 \(-\displaystyle\frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}\) があります。これを移項して整理すると消去できます。
$$
\begin{aligned}
a \tan\theta &= b
\end{aligned}
$$
この式は \(v_0\) を含んでいません。したがって、この条件さえ満たせば、\(v_0\) の値にかかわらず衝突が起こることがわかります。
この式を \(\tan\theta\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{b}{a}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

問(2)でわかったように、PとQは、重力によって全く同じ距離だけ下に引っ張られます。ということは、2つの物体の「高さの差」は、重力があってもなくても変わりません。衝突するかどうかは、結局のところ、重力がもし無かったとしたらどうなるかで決まるのです。重力がなければPはまっすぐ進み、Qは動きません。PがQに当たるためには、最初からQのいる場所 \((a,b)\) を狙って撃つしかありません。原点から \((a,b)\) を狙うときの角度 \(\theta\) は、まさに \(\tan\theta = b/a\) となります。

結論と吟味

PとQが \(v_0\) の値にかかわらず衝突するための条件は \(\tan\theta = \displaystyle\frac{b}{a}\) です。
この結果は、幾何学的に見ると、Pの初速度ベクトルが、時刻 \(t=0\) におけるQの位置 \((a,b)\) を指していることを意味します。この現象は「モンキーハンティング」として知られており、重力の影響が両物体に等しくかかるために起こる、物理学的に興味深い帰結です。

別解: 相対運動の物理的洞察を用いる解法

思考の道筋とポイント
問(5)で詳しく見るように、PとQはどちらも同じ重力加速度で運動するため、Qから見たPの相対加速度はゼロです。これは、Qから見るとPは等速直線運動をするように見えることを意味します。
PがQに衝突するためには、Pが等速直線運動でQに向かってくる必要があります。つまり、Pの初速度ベクトルが、Pの初期位置(原点)からQの初期位置 \((a,b)\) を結ぶ直線と同じ向きを向いていなければなりません。
この設問における重要なポイント

  • PとQの相対加速度はゼロである。
  • Qから見たPは等速直線運動をする。
  • 衝突するためには、Pの初速度の向きがQの初期位置の方向と一致する必要がある。

具体的な解説と立式
Qから見たPは、初速度 \(\vec{v}_0 = (v_0 \cos\theta, v_0 \sin\theta)\) の等速直線運動をします。
Pの初期位置は \((0,0)\)、Qの初期位置は \((a,b)\) です。
PがQに衝突するためには、Pの運動方向が、初期位置のQを指している必要があります。
Pの初速度ベクトルの傾きは \(\tan\theta\) です。
一方、原点から点 \((a,b)\) へ向かう直線の傾きは \(\displaystyle\frac{b}{a}\) です。
これら2つの傾きが一致すればよいので、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{b}{a}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相対加速度の概念
計算過程

上記の立式そのものが結論となります。

この設問の平易な説明

自由落下するエレベーターの中で、相手にボールを投げて当てたい場合を想像してください。自分も相手もふわふわ浮いている(ように感じる)ので、重力は関係ありません。相手に当てるには、ただ相手のいる方向へまっすぐ投げれば良いだけです。この問題も同じで、PとQは「重力」という共通のエレベーターに乗って落ちているようなものです。だから、PがQに当たるためには、最初からQのいる方向へ撃ち出す必要があるのです。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、代数的な計算を経ずに、相対運動という物理的な本質から直接結論を導くものであり、現象の深い理解につながります。

解答 (3) \(\tan\theta = \displaystyle\frac{b}{a}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
問(3)で求めた衝突条件 \(\tan\theta = \frac{b}{a}\) が成り立つときに、衝突がx軸の上側(すなわち \(y \ge 0\))で起こるための \(v_0\) の条件を求めます。
衝突が起こるときのy座標は \(y_P\) (または \(y_Q\)) であり、この値が0以上であればよい、という不等式を立てます。
問(2)で求めた \(y_P\) の式に、\(\tan\theta = \frac{b}{a}\) の関係を使って \(\cos\theta\) を \(a, b\) で表したものを代入し、\(v_0\) について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 衝突がx軸の上側で起こる条件: 衝突位置のy座標 \(y_P \ge 0\) (または \(y_Q \ge 0\))。
  • 衝突条件 \(\tan\theta = \frac{b}{a}\) を利用する。
  • 三角関数の関係式を用いて \(\cos\theta\) を \(a,b\) で表す。

具体的な解説と立式
衝突が起こるとき、そのy座標は \(y_P = y_Q\) です。問(3)の条件 \(a \tan\theta = b\) を問(2)の \(y_P\) の式に代入すると、衝突時のy座標は、
$$
\begin{aligned}
y_P &= b – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$
となります。
衝突がx軸の上側 (\(y \ge 0\)) で起こるためには、\(y_P \ge 0\) である必要があります。
$$
\begin{aligned}
b – \frac{ga^2}{2(v_0 \cos\theta)^2} &\ge 0 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
ここで、衝突条件 \(\tan\theta = \frac{b}{a}\) を満たす \(\cos\theta\) を \(a, b\) で表します。
底辺が \(a\)、高さが \(b\) の直角三角形を考えると、斜辺の長さは三平方の定理より \(\sqrt{a^2+b^2}\) となります。したがって、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
この \(\cos\theta\) を不等式⑤に代入して \(v_0\) についての条件を導きます。

使用した物理公式

  • 三角関数の関係(\(\tan\theta\) から \(\cos\theta\) を求める)
  • 三平方の定理
計算過程

式⑥を不等式⑤に代入します。
$$
\begin{aligned}
b – \frac{ga^2}{2\left(v_0 \frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)^2} &\ge 0 \\[2.0ex]
b – \frac{ga^2}{2 v_0^2 \frac{a^2}{a^2+b^2}} &\ge 0
\end{aligned}
$$
分母の \(a^2\) が約分され、分母の分数が整理されると、
$$
\begin{aligned}
b – \frac{g(a^2+b^2)}{2 v_0^2} &\ge 0
\end{aligned}
$$
この不等式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
b &\ge \frac{g(a^2+b^2)}{2 v_0^2}
\end{aligned}
$$
両辺に \(2v_0^2\) を掛け(\(v_0^2 > 0\) なので不等号の向きは変わらない)、
$$
\begin{aligned}
2b v_0^2 &\ge g(a^2+b^2)
\end{aligned}
$$
両辺を \(2b\) で割ると(Qの初期位置がx軸より上なので \(b>0\) と考えられ、不等号の向きは変わらない)、
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &\ge \frac{g(a^2+b^2)}{2b}
\end{aligned}
$$
\(v_0\) は速さなので \(v_0 > 0\) です。したがって、両辺の正の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
v_0 &\ge \sqrt{\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Qを狙ってPを撃っても、Pのスピードが遅すぎると、PがQに追いつく前にQが地面に到達してしまいます。地面より上で無事に衝突するためには、Pにどれくらいの最低速度が必要か?というのがこの問題です。「衝突するときの高さが0以上」という条件を数式にし、(3)で求めた「衝突する角度」の情報も使って、あとは \(v_0\) について式を整理していけば、必要な最低速度が計算できます。

結論と吟味

x軸の上側で衝突が起こるために必要な \(v_0\) の条件は \(v_0 \ge \sqrt{\displaystyle\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}\) です。
この式の右辺が、衝突が \(y \ge 0\) で起こるための \(v_0\) の最小値を表しています。この最小値は、Qの初期位置が遠い(\(a, b\) が大きい)ほど、また重力 \(g\) が大きいほど大きくなることを示しており、物理的に妥当な結果です。

別解: Qの落下時間に着目する解法

思考の道筋とポイント
衝突がx軸の上側で起こるということは、Qが地面(y=0)に到達する前に衝突が起こる、ということです。
そこで、まずQが高さbから地面に達するまでの時間 \(t_{\text{Q落下}}\) を計算します。次に、PとQが衝突するまでの時間 \(t_0\) を求めます。そして、\(t_0 \le t_{\text{Q落下}}\) という条件を立て、これを \(v_0\) について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 時間的制約: 衝突時刻 \(t_0\) \(\le\) Qの落下時間 \(t_{\text{Q落下}}\)。
  • Qの落下時間は自由落下の公式から求める。
  • 衝突時刻 \(t_0\) は問(5)の結果、あるいは問(1)と(3)の結果から求める。

具体的な解説と立式
1. Qの落下時間 \(t_{\text{Q落下}}\) を求める
Qは高さ \(b\) から自由落下します。落下距離が \(b\) になるまでの時間を \(t_{\text{Q落下}}\) とすると、自由落下の公式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) より、
$$
\begin{aligned}
b &= \frac{1}{2}g t_{\text{Q落下}}^2
\end{aligned}
$$
これを \(t_{\text{Q落下}}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
t_{\text{Q落下}}^2 &= \frac{2b}{g} \\[2.0ex]
t_{\text{Q落下}} &= \sqrt{\frac{2b}{g}}
\end{aligned}
$$

2. 衝突時刻 \(t_0\) を求める
問(5)で導出するように、衝突時刻 \(t_0\) は、PとQの初期距離 \(\sqrt{a^2+b^2}\) をPの初速 \(v_0\) で割ったものになります。
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}
\end{aligned}
$$

3. 時間的制約条件を立てる
衝突がQの落下前に起こるためには、
$$
\begin{aligned}
t_0 &\le t_{\text{Q落下}}
\end{aligned}
$$
である必要があります。それぞれの式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0} &\le \sqrt{\frac{2b}{g}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 自由落下の公式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
  • 衝突時刻の式(問(5)の結果)
計算過程

上記の不等式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0} &\le \sqrt{\frac{2b}{g}}
\end{aligned}
$$
両辺の逆数をとると、不等号の向きが逆になります。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_0}{\sqrt{a^2+b^2}} &\ge \sqrt{\frac{g}{2b}}
\end{aligned}
$$
両辺に \(\sqrt{a^2+b^2}\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
v_0 &\ge \sqrt{\frac{g}{2b}} \cdot \sqrt{a^2+b^2} \\[2.0ex]
v_0 &\ge \sqrt{\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題は、「PがQに追いつくのが先か、Qが地面に激突するのが先か」というタイムレースだと考えることができます。Qが地面に着くまでの持ち時間は \(\sqrt{2b/g}\) 秒です。一方、PがQに追いつくのにかかる時間は \(\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}\) 秒です。Pがこのレースに勝つ(つまり地面の上で衝突する)ためには、「Pのゴールタイム \(\le\) Qのゴールタイム」でなければなりません。この時間勝負の不等式を立てて、Pの速さ \(v_0\) がどれだけでなければならないかを計算するのです。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、衝突を「位置」の条件ではなく「時間」の条件で捉え直すもので、異なる物理的視点から問題にアプローチする良い例です。

解答 (4) \(v_0 \ge \sqrt{\displaystyle\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
まず、Qから見たPの運動(相対運動)がどのように見えるかを考えます。そのためには、Qに対するPの相対加速度を求めます。もし相対加速度がゼロであれば、Qから見たPは等速直線運動をするように見えます。
次に、衝突が起こる場合(問3の条件 \(\tan\theta = \frac{b}{a}\) を満たす場合)、Pが投げ出されてから衝突するまでの時間 \(t_0\) を求めます。これは、Qから見たPの相対速度の大きさと、初期のPとQの間の距離を用いて計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 相対加速度: \(\vec{a}_{\text{P,Q相対}} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\)。
  • PとQの加速度はどちらも重力加速度 \(\vec{g}\) (鉛直下向き) で等しい。
  • Qから見たPの運動が等速直線運動になる場合、衝突までの時間は (初期間距離) / (相対速度の大きさ) で計算できる。

具体的な解説と立式
Qから見たPの運動:
小球Pと小球Qは、運動中、どちらも重力のみを受けています。したがって、Pの加速度 \(\vec{a}_P\) とQの加速度 \(\vec{a}_Q\) は、共に鉛直下向きに大きさ \(g\) の重力加速度です。
y軸上向きを正としてベクトルで表すと、\(\vec{a}_P = (0, -g)\)、\(\vec{a}_Q = (0, -g)\) となります。
Qに対するPの相対加速度 \(\vec{a}_{\text{P,Q相対}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\vec{a}_{\text{P,Q相対}} &= \vec{a}_P – \vec{a}_Q \\[2.0ex]
&= (0, -g) – (0, -g) \\[2.0ex]
&= \vec{0}
\end{aligned}
$$
相対加速度がゼロなので、Qから見るとPは加速度のない運動、すなわち等速直線運動をしているように見えます。
その速度は、初めの相対速度のまま一定です。初めの相対速度は、
$$
\begin{aligned}
\vec{v}_{\text{P,Q相対初}} &= \vec{v}_{P\text{初}} – \vec{v}_{Q\text{初}} \\[2.0ex]
&= (v_0 \cos\theta, v_0 \sin\theta) – (0, 0) \\[2.0ex]
&= (v_0 \cos\theta, v_0 \sin\theta)
\end{aligned}
$$
となり、これはPの初速度 \(\vec{v}_{0}\) そのものです。
したがって、Qから見ると、Pは初速度 \(\vec{v}_{0}\) のまま等速直線運動をするように見えます。

衝突までの時間 \(t_0\):
衝突が起こる条件 \(\tan\theta = b/a\) のもとで考えます。このとき、Pの初速度ベクトルはQの初期位置 \((a,b)\) を向いています。
Qから見ると、Pは初期位置である原点 \((0,0)\) から、自分(Qの初期位置)に向かって、速さ \(v_0\) でまっすぐ飛んでくるように見えます。
PとQの初期位置間の距離 \(L\) は、
$$
\begin{aligned}
L &= \sqrt{(a-0)^2 + (b-0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{a^2+b^2}
\end{aligned}
$$
この距離 \(L\) を、Qから見たPの速さ \(v_0\) で進むのにかかる時間が衝突までの時間 \(t_0\) なので、
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{L}{v_0}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相対加速度: \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_{\text{相手}} – \vec{a}_{\text{自分}}\)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
  • 三平方の定理
計算過程

上記の立式から、
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

PもQも、同じ重力 \(g\) で真下に引っ張られています。これは、自由落下するエレベーターの中でキャッチボールをする状況と全く同じです。エレベーターの中の人から見れば、重力は感じられず(無重力状態のように感じ)、投げたボールはまっすぐ飛んでいくように見えます。同じように、自由落下するQから見ると、重力の影響はきれいにキャンセルされ、Pは撃ち出されたときの速さと向きのまま、まっすぐ自分に向かって飛んでくるように見えるのです。衝突までの時間は、単純に「2点間の距離」を「Pの速さ」で割れば計算できます。

結論と吟味

Qから見るとPの運動は、初速度 \((v_0 \cos\theta, v_0 \sin\theta)\) の等速直線運動に見えます。
Pが投げ出されてから衝突するまでの時間 \(t_0\) は \(t_0 = \displaystyle\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}\) です。
この時間は、PとQの間の初期距離をPの初速の大きさで割ったものになっており、Qから見ればPがその初速でまっすぐ自分に向かって飛んでくるというイメージと完全に一致します。

別解: 問(1)の結果を利用する解法

思考の道筋とポイント
衝突が起こる時刻は、問(1)で求めた、Pが直線 \(x=a\) を横切る時刻 \(t\) に他なりません。したがって、この \(t\) の式に、問(3)で求めた衝突条件 (\(\tan\theta = b/a\)) を代入することで、衝突までの時間 \(t_0\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 衝突時刻 \(t_0\) は、問(1)の \(t\) と同じである。
  • 問(3)の衝突条件 \(\tan\theta = b/a\) から \(\cos\theta\) の値を求める。

具体的な解説と立式
問(1)より、Pが \(x=a\) を横切る時刻は、
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{a}{v_0 \cos\theta}
\end{aligned}
$$
です。
問(3)の衝突条件 \(\tan\theta = b/a\) が成り立つとき、底辺 \(a\)、高さ \(b\)、斜辺 \(\sqrt{a^2+b^2}\) の直角三角形を考えることで、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}
\end{aligned}
$$
と表せます。

使用した物理公式

  • 問(1)の結果
  • 三角関数の関係
計算過程

\(t_0\) の式に \(\cos\theta\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{a}{v_0 \left(\frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)} \\[2.0ex]
&= \frac{a}{v_0} \cdot \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{a}
\end{aligned}
$$
分母分子の \(a\) が約分されて、
$$
\begin{aligned}
t_0 &= \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題は、(1)から順に解いていくことで答えが出るように、うまく誘導されています。(1)で求めた「PがQの真下に来るまでの時間」の式は、どんな角度 \(\theta\) でも成り立つ一般式です。この式に、(3)で求めた「ちょうど衝突する特別な角度」の情報を入れてあげれば、まさに「衝突するまでの時間」が計算できる、というわけです。この解き方は、問題全体の流れに乗る素直な方法と言えます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、相対運動という物理的な洞察から解く方法と、設問の誘導に従って代数的に解く方法の両方が正しいことを示しています。

解答 (5) Qから見るとPは初速度 \(\vec{v}_0 = (v_0 \cos\theta, v_0 \sin\theta)\) の等速直線運動をするように見える。衝突までの時間は \(t_0 = \displaystyle\frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解と合成:
    • 核心: この問題の根幹は、斜方投射という2次元の運動を、互いに独立した2つの1次元の運動に分解して考える「運動の分解」の原則です。具体的には、水平方向の「等速直線運動」と、鉛直方向の「等加速度直線運動」に分けて扱います。
    • 理解のポイント:
      1. 力の分解: まず、物体にはたらく力(この場合は重力のみ)を座標軸に沿って分解します。水平方向には力がはたらかないので加速度はゼロ、鉛直方向には常に一定の重力がはたらくので加速度は一定(\(-g\))となります。
      2. 運動の独立性: 水平方向の運動の様子は、鉛直方向の運動の様子に一切影響を与えません(逆もまた然り)。そのため、それぞれの方向について独立に運動の式を立てることができます。
      3. 時刻 \(t\) の共有: 2つの独立した運動をつなぐ唯一の共通パラメータが「時刻 \(t\)」です。ある時刻における物体の位置は、同じ時刻 \(t\) における水平位置と鉛直位置を組み合わせることで決定されます。
  • 相対運動:
    • 核心: 複数の物体が関わる問題では、一方の物体から見たもう一方の物体の運動(相対運動)を考えることで、問題が劇的に単純化される場合があります。特に、関与する全ての物体が同じ加速度で運動している場合、その効果は絶大です。
    • 理解のポイント:
      1. 相対加速度の計算: まず、相手の加速度から自分の加速度をベクトル的に引き算し(\(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_{\text{相手}} – \vec{a}_{\text{自分}}\))、相対加速度を求めます。
      2. 加速度ゼロの意味: この問題のように、PとQの加速度が共に重力加速度 \(\vec{g}\) で等しい場合、相対加速度は \(\vec{g} – \vec{g} = \vec{0}\) となります。これは、一方から見ると、相手は「無重力空間を運動している」ように見えることを意味します。
      3. 運動の単純化: 相対加速度がゼロであるため、相対運動は「等速直線運動」になります。これにより、複雑な放物運動の問題を、単純な「距離・速さ・時間」の問題に置き換えることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • モンキーハンティング問題: この問題は、その典型例です。「重力下で、ある物体から自由落下する別の物体を狙って物体を射出すると、初速度が相手の初期位置を向いていれば必ず命中する」という結論は、知識として知っておくと非常に強力です。
    • 空中での衝突・合体問題: 2つのボールを異なる角度や初速で投げ上げ、空中で衝突させる問題など。衝突条件を考える際に、静止座標系で \(x, y\) 座標の一致を考える方法と、相対座標系で等速直線運動として考える方法の両方を使えるようにしておくと便利です。
    • 動く座標系からの運動: 等速で動く台車からボールを真上に投げ上げる問題など。台車から見ればボールはただの投げ上げ運動ですが、地面から見れば放物運動になります。これも相対運動の考え方を応用する典型例です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標系の選択: 問題を解き始める前に、「どの視点から見るのが最も簡単か?」を考えます。複数の物体が登場し、それらが同じ一定の加速度(例:重力加速度)で運動している場合、相対運動の視点(一方の物体に乗った座標系)で考えるのが定石です。
    2. 幾何学的条件の発見: 問(3)の衝突条件が \(\tan\theta = b/a\) という単純な幾何学的関係に帰着したように、物理法則を立式した結果、図形的な性質が現れることがよくあります。常に図を描き、物理的な状況と図形的な関係を結びつけて考える癖をつけましょう。
    3. 時間的制約と位置的制約の言い換え: 問(4)で示したように、「x軸の上側で衝突する」という位置の条件は、「衝突時刻が、Qが地面に到達する時刻より前である」という時間の条件に言い換えることができます。このように、条件を異なる表現で捉え直すことで、別のアプローチが見つかることがあります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 座標軸の向きと符号のミス:
    • 誤解: 鉛直上向きを正と決めたにもかかわらず、重力加速度 \(g\) を正の値として等加速度運動の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) に代入してしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、必ず座標軸(特に正の向き)を図に描き込みます。そして、加速度や速度などのベクトル量がその向きと同じか逆かを判断し、符号(\(+\) or \(-\))を確定させてから立式する習慣を徹底します。
  • 相対運動の概念の誤解:
    • 誤解: 相対速度は常に一定であると勘違いし、どんな状況でも「距離=相対速度×時間」の式を使おうとする。
    • 対策: 相対速度が一定でいられるのは、相対加速度がゼロの場合だけです。2物体の運動を考える際は、まず最初に相対加速度 \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_{\text{相手}} – \vec{a}_{\text{自分}}\) を計算する癖をつけましょう。これがゼロでなければ、相対運動も等加速度運動などになるため、適切な公式を選択する必要があります。
  • 衝突条件の立て方ミス:
    • 誤解: Pのx座標が \(a\) になる時刻と、Pのy座標がQのy座標と等しくなる時刻が、別々の時刻である可能性を考えてしまい、混乱する。
    • 対策: 「衝突」とは、定義上、「ある一つの同じ時刻 \(t\) において、2つの物体の位置ベクトルが完全に一致すること(\(\vec{r}_P(t) = \vec{r}_Q(t)\))」です。これは、\(x_P(t) = x_Q(t)\) と \(y_P(t) = y_Q(t)\) が「同時に」成り立つことを意味します。この定義を正確に理解しておくことが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動の分解(成分ごとの立式):
    • 選定理由: 2次元空間でのベクトル的な運動方程式を、我々が扱い慣れている1次元のスカラ的な方程式2本に分離するためです。
    • 適用根拠: 「重ね合わせの原理」に基づき、互いに直交する方向の運動は独立に扱えるという物理的な大原則があるため。特に、力が特定の軸方向にしかはたらかない場合(この問題ではy軸方向のみ)、この手法は極めて有効です。
  • 等加速度直線運動の公式:
    • 選定理由: 運動方程式 \(ma=F\) において、力 \(F\) が一定の場合、加速度 \(a\) も一定となります。このような運動を記述するために特別に導出された便利な公式だからです。
    • 適用根拠: 地表付近での物体の運動では、重力 \(mg\) が一定であるとみなせるため、鉛直方向の加速度は常に一定値 \(-g\) となります。この「加速度が一定」という物理的状況が、この公式群の適用を正当化します。
  • 相対加速度 \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\):
    • 選定理由: 2つの物体の運動の関係性に着目し、問題をより単純な視点から捉え直すためです。静止した地面という「絶対的」な視点から、一方の物体に乗った「相対的」な視点へと切り替えるための数学的な道具です。
    • 適用根拠: 問題文で「Qから見るとPの運動は…」と、明確に相対的な視点を問われているため。また、2つの物体の加速度が等しいという特徴的な状況は、「相対運動を考えると簡単になるのではないか?」という思考を促す強いシグナルです。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の代入と整理:
    • 特に注意すべき点: この問題のように、\(t = \displaystyle\frac{a}{v_0 \cos\theta}\) のような分数式を、\(y = v_0 \sin\theta t – \frac{1}{2}gt^2\) のような別の式に代入する場面。代入後の式が複雑になり、展開や約分の過程でミスが起こりやすいです。
    • 日頃の練習: 途中式を省略せず、一行一行、丁寧に変形を進めることが最も確実です。特に、分数を代入して2乗する際は、\(\left(\frac{A}{B}\right)^2 = \frac{A^2}{B^2}\) のように、分母と分子をそれぞれ2乗することを意識し、括弧を適切に使う習慣をつけましょう。
  • 三角関数の変換:
    • 特に注意すべき点: 問(4)で \(\tan\theta = b/a\) という条件から \(\cos\theta\) の値を求める場面。\(1+\tan^2\theta = \frac{1}{\cos^2\theta}\) のような公式を機械的に使うと、計算が煩雑になりがちです。
    • 日頃の練習: \(\tan\theta\), \(\sin\theta\), \(\cos\theta\) の値が一つ分かったら、すぐに辺の比が対応する直角三角形を描く癖をつけましょう。図形的に考えれば、三平方の定理を使って残りの辺の長さを求め、他の三角関数の値を簡単かつ直感的に導出できます。
  • 次元解析の習慣:
    • 特に注意すべき点: 計算の最終結果が出た後、その式の次元(単位)が、求めている物理量の次元と一致しているかを確認する作業を怠ること。
    • 日頃の練習: 例えば、問(4)で求めた \(v_0\) の条件式 \(\sqrt{\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}\) の次元を検算します。\(g\) は \([L/T^2]\)、\(a,b\) は \([L]\) なので、ルートの中は \(\frac{[L/T^2] \cdot [L^2]}{[L]} = [L^2/T^2]\) となります。その平方根なので \([L/T]\) となり、これは速度の次元と正しく一致します。この一手間が、大きな計算ミスを防ぎます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 問(3) \(\tan\theta = b/a\): この結果は、Pの初速度ベクトルがQの初期位置 \((a,b)\) を正確に指していることを意味します。これは「狙って撃つ」という直感的なイメージと完全に一致しており、物理的に妥当です。
    • 問(4) \(v_0 \ge \sqrt{\frac{g(a^2+b^2)}{2b}}\): 極端な場合を考えてみましょう。もし重力がなければ (\(g=0\))、この条件は \(v_0 \ge 0\) となります。これは、無重力空間ならどんなに遅い弾でも、狙いさえ正しければいつかは必ず当たる、という直感と一致します。また、もしQが非常に高い位置にあれば (\(b \rightarrow \infty\))、必要な \(v_0\) の最小値は \(\sqrt{gb/2}\) に近づき、非常に大きな値になります。これも妥当な結果です。
    • 問(5) \(t_0 = \frac{\sqrt{a^2+b^2}}{v_0}\): この式は、衝突までの時間が、初速 \(v_0\) に反比例し、初期距離 \(\sqrt{a^2+b^2}\) に比例することを示しています。速く撃てば速く着き、遠ければ時間がかかる、という自明な事実と一致しており、結果は妥当です。
  • 別解との比較による検証:
    • この問題では、多くの設問で異なるアプローチによる別解が存在しました。例えば、問(4)は「衝突点のy座標 \(\ge 0\)」という位置の条件からも、「衝突時間 \(\le\) Qの落下時間」という時間の条件からも、全く同じ答えが導かれました。このように、異なる物理的視点から出発して同じ結論にたどり着いたとき、その答えが正しいという確信は格段に高まります。解き終わった後に「他の解き方はないか?」と考える習慣は、解答の検証能力を飛躍的に向上させます。
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問題2 (都立大+名城大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、小球が水平面から投げ出され、鉛直な壁と水平面に次々と衝突を繰り返す運動を扱います。反発係数が関わる衝突と、放物運動の組み合わせがテーマです。

与えられた条件
  • 小球の初期位置: 水平面上の点O
  • 小球の初速度: 大きさ \(v_0\)、水平面となす角 \(\theta\) の方向
  • 鉛直面の位置: 点Oから水平距離 \(l\) の場所 (点Aで衝突)
  • 水平面と鉛直面は滑らか
  • 反発係数: 水平面、鉛直面のいずれに対しても \(e\)
  • 重力加速度: \(g\) (鉛直下向き)
  • 衝突後の運動: 点Aではね返り、水平面上の点Bに落下してはね上がる。
問われていること
  1. (1) 投げ出された小球が鉛直面に衝突する(点Aに到達する)までの時間 \(t_1\) と、その間の最高点の高さ \(h_1\)。
  2. (2) 点Oで投げ出されてから点Bに達するまでの時間 \(t_2\)。
  3. (3) 点Bと鉛直面との距離BC。
  4. (4) 点Bではね上がった後、達する最高点の高さ \(h_2\)。
  5. (5) 点Bではね上がった後、再び床と衝突することなく点Oに戻るための初速 \(v_0\) の条件。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 時間\(t_2\)の別解: 対称性を利用する解法
      • 主たる解法が、鉛直方向の変位がゼロになる条件を数式で解くのに対し、別解では、放物運動の軌跡の対称性(上昇時間と下降時間が等しい)という物理的な性質を利用して、より直感的に時間を導出します。
    • 問(3) 距離BCの別解: 水平方向の運動量変化と力積の関係を用いる解法
      • 主たる解法が、衝突後の速度と飛行時間から距離を計算する運動学的なアプローチであるのに対し、別解では、壁が小球に与える力積と、それによる水平方向の運動量変化という力学的な視点からアプローチします。これは高校物理の範囲を少し超えますが、概念の理解を深める上で有益です。
    • 問(5) 初速\(v_0\)の別解: 水平方向の射程の公式を利用する解法
      • 主たる解法が、各区間の水平移動距離を足し合わせることで関係式を立てるのに対し、別解では、B→Oの運動を一つの独立した放物運動とみなし、その水平到達距離(射程)の公式を直接適用することで、より簡潔に方程式を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の多角的理解: 「運動の対称性」「力積と運動量」「射程の公式」といった、異なる物理法則や概念を同じ問題に適用することで、それぞれの法則がどのように現象を記述するかを多角的に理解できます。
    • 解法の選択肢の拡大: 問題の特性に応じて、運動学的アプローチ(変位、速度、時間)と力学的アプローチ(力、運動量、力積)を使い分ける能力が養われます。
    • 計算の効率化: 特に問(5)の別解は、射程の公式を知っていれば、中間的な計算を大幅に省略し、より迅速に結論に到達できることを示しています。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。(問(3)の別解は概念理解を主目的とします)

この問題のテーマは「放物運動」と「衝突と反発係数」です。運動を水平・鉛直に分解すること、そして衝突の前後で各方向の速度成分がどう変化するかを正確に捉えることが攻略の鍵です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 小球の運動を、水平方向と鉛直方向に分けて考えます。水平方向は力がはたらかないので等速直線運動、鉛直方向は重力がはたらくので等加速度直線運動となります。
  2. 衝突と反発係数: 衝突面に対して垂直な方向の速度成分は、衝突後に向きが逆になり、大きさが \(e\) 倍になります。衝突面に対して平行な方向の速度成分は、面が滑らかな場合は変化しません。
  3. 等加速度直線運動の公式: 鉛直方向の運動を記述するために用います。座標軸の向きを定め、加速度の符号に注意することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、小球の運動をO→A、A→B、B→Oの3つのフェーズに分け、それぞれのフェーズでの運動を水平・鉛直に分解して考えます。
  2. 各衝突の前後で、速度の水平成分と鉛直成分がどのように変化するかを、反発係数の定義に従って正確に把握します。
  3. 各フェーズでの滞空時間と水平移動距離を計算し、それらを組み合わせて設問に答えていきます。

問(1)

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