「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第9章】基本例題~基本問題181

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基本例題

基本例題37 水平ばね振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説しつつ、物理的な理解を多角的に深めるために、教育的価値の高い別解を補足しています。

  1. 設問(2)の別解
    • 別解1: 運動方程式を用いた解法
        • 意義: 加速度の最大値が、復元力の最大値に直接対応するという、運動の根本法則(運動方程式)からの視点を提供します。公式 \(a_0 = A\omega^2\) の物理的背景をより深く理解することができます。
  2. 設問(3)の別解
    • 別解1: 振動中心でのエネルギーを用いた解法
      • 意義: 力学的エネルギーが保存されることを利用し、振動の端点(弾性エネルギー最大、運動エネルギーゼロ)ではなく、振動中心(運動エネルギー最大、弾性エネルギーゼロ)でエネルギーを計算します。これにより、エネルギーが運動エネルギーと弾性エネルギーの間で移り変わる様子を具体的に確認でき、力学的エネルギー保存則の理解を確かなものにします。

いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「水平ばね振り子における単振動」です。単振動の基本的な物理量(周期、加速度、エネルギー)を公式を用いて計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動の周期と角振動数: ばね定数\(k\)と質量\(m\)で決まる周期\(T\)と角振動数\(\omega\)の公式を正しく使えること。
  2. 単振動の運動: 変位\(x\)、速度\(v\)、加速度\(a\)の関係性を理解していること。特に、加速度の大きさが最大になるのは、変位が最大の振動の端点であることを把握しているかが重要です。
  3. 力学的エネルギー保存則: なめらかな水平面上での単振動では、運動エネルギーと弾性エネルギーの和である力学的エネルギーが一定に保たれること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた質量\(m\)とばね定数\(k\)を周期の公式に代入して周期\(T\)を求めます。
  2. (2)では、単振動の加速度の最大値を表す公式 \(a_0 = A\omega^2\) を用いて計算します。振幅\(A\)は問題文から読み取り、角振動数\(\omega\)は\(k\)と\(m\)から求めます。
  3. (3)では、力学的エネルギー保存則を利用します。計算が最も簡単な振動の端点(速さ0)における弾性エネルギーを計算することで、全体の力学的エネルギー\(E\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
単振動の周期\(T\)を求める問題です。問題文でばね定数\(k\)と小球の質量\(m\)が与えられているため、ばね振り子の周期の公式にこれらの値を代入するだけで計算できます。公式を正確に覚えているかが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • ばね振り子の周期の公式は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) である。
  • 問題文から、質量\(m=0.20 \text{ kg}\)、ばね定数\(k=5.0 \text{ N/m}\)を正しく読み取ること。

具体的な解説と立式
ばね振り子の周期\(T\)は、質量\(m\)とばね定数\(k\)を用いて以下の公式で表されます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
この式に、問題で与えられた \(m=0.20 \text{ kg}\)、\(k=5.0 \text{ N/m}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)
計算過程

与えられた値を周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{0.20}{5.0}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{2}{50}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{1}{25}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \times \frac{1}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{5}\pi
\end{aligned}
$$
ここで、円周率\(\pi \approx 3.14\)として計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2 \times 3.14}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{6.28}{5} \\[2.0ex]
&= 1.256
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(1.3 \text{ [s]}\) となります。

計算方法の平易な説明

ばね振り子が1往復するのにかかる時間(周期)は、おもりの「質量」とばねの「硬さ(ばね定数)」で決まります。その関係は \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\) という公式で表されます。この公式に、問題文にある質量 \(m=0.20 \text{ kg}\) とばね定数 \(k=5.0 \text{ N/m}\) をあてはめて計算するだけです。

結論と吟味

計算の結果、周期は約\(1.3 \text{ s}\)となります。与えられた数値は有効数字2桁なので、計算結果もそれに合わせて整理します。\(1.256 \text{ s}\)を四捨五入して\(1.3 \text{ s}\)とするのは妥当です。

解答 (1) \(1.3 \text{ s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球の加速度の大きさの最大値\(a_0\)を求める問題です。単振動において、加速度の大きさは振動の中心で0、振動の端で最大となります。この最大値は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を使って \(a_0 = A\omega^2\) と表せます。振幅\(A\)は問題文から、角振動数\(\omega\)は(1)と同様に\(m\)と\(k\)から計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の加速度の大きさは、変位の大きさに比例し、振動の端(変位が振幅\(A\)に等しい点)で最大となる。
  • 加速度の最大値の公式は \(a_0 = A\omega^2\)。
  • 角振動数は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) または \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) で計算できる。

具体的な解説と立式
単振動の加速度\(a\)は、変位を\(x\)とすると \(a = -\omega^2 x\) と表されます。加速度の大きさ\(|a| = \omega^2 |x|\)が最大になるのは、変位の大きさ\(|x|\)が最大となるとき、すなわち振動の端 \(|x|=A\) のときです。
したがって、加速度の大きさの最大値\(a_0\)は次式で与えられます。
$$ a_0 = A\omega^2 $$
ここで、振幅\(A\)は小球を引いた距離なので \(A=0.40 \text{ m}\) です。角振動数\(\omega\)はばね定数\(k\)と質量\(m\)から求められます。
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} $$
これらの式を組み合わせて\(a_0\)を計算します。

使用した物理公式

  • 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
  • 加速度の最大値: \(a_0 = A\omega^2\)
  • 角振動数: \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)
計算過程

まず、\(\omega^2\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \left(\sqrt{\frac{k}{m}}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{k}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{5.0}{0.20} \\[2.0ex]
&= 25 \text{ [rad/s]}^2
\end{aligned}
$$
次に、加速度の最大値\(a_0\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
a_0 &= A\omega^2 \\[2.0ex]
&= 0.40 \times 25 \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

加速度が一番大きくなるのは、ばねが一番伸びた(または縮んだ)振動の端っこです。そのときの加速度の大きさは、「振幅 \(A\) × (角振動数 \(\omega\))^2」という公式で計算できます。振幅\(A\)は問題文の「引いた距離」である\(0.40 \text{ m}\)です。角振動数\(\omega\)の2乗は、ばね定数\(k\)を質量\(m\)で割ることで簡単に計算できます。

結論と吟味

計算の結果、加速度の大きさの最大値は \(10 \text{ m/s}^2\) となります。これは重力加速度(\(9.8 \text{ m/s}^2\))とほぼ同じくらいの大きさであり、物理的に妥当な値です。

解答 (2) \(10 \text{ m/s}^2\)
別解: 運動方程式を用いた解法

思考の道筋とポイント
物理の基本法則である運動方程式 \(ma=F\) から加速度を求める方法です。加速度が最大になるのは、小球にはたらく力(復元力)が最大になるときです。ばねの復元力はフックの法則 \(F=kx\) に従い、ばねの伸び(または縮み)が最大の振動の端点で最大となります。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 復元力の最大値: ばねの伸びが振幅\(A\)に等しいとき、\(F_{\text{最大}} = kA\)
  • 力の最大値と加速度の最大値が対応する: \(ma_0 = F_{\text{最大}}\)

具体的な解説と立式
小球にはたらく復元力の大きさは、ばねの変位の大きさに比例します。したがって、力が最大になるのは変位が最大のとき、すなわち \(x=A\) のときです。このときの力の大きさを \(F_{\text{最大}}\) とすると、
$$ F_{\text{最大}} = kA $$
運動方程式 \(ma=F\) より、この最大の力がはたらくときに加速度の大きさも最大値 \(a_0\) となります。
$$ ma_0 = F_{\text{最大}} $$
したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$ ma_0 = kA $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

立式した \(ma_0 = kA\) を \(a_0\) について解き、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
a_0 &= \frac{kA}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{5.0 \times 0.40}{0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{2.0}{0.20} \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「力は質量と加速度を掛け合わせたもの」という運動の基本ルール(運動方程式)を使います。加速度が最大になるのは、力が最大のときです。ばねの力は、一番伸びたとき(変位が振幅\(A\)のとき)に最大になります。この最大の力は「ばね定数\(k\) × 振幅\(A\)」で計算できます。この値を質量\(m\)で割ることで、最大の加速度が求まります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(10 \text{ m/s}^2\) という結果が得られました。この解法は、加速度の公式を暗記していなくても、運動方程式という基本法則から導出できることを示しており、物理現象の根本的な理解に繋がります。

解答 (2) \(10 \text{ m/s}^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小球がもつ力学的エネルギー\(E\)を求める問題です。この問題では、床が「なめらか」であり、空気抵抗も無視できるため、力学的エネルギーは保存されます。つまり、運動のどの瞬間における力学的エネルギーを計算しても同じ値になります。計算が最も簡単なのは、運動エネルギーか弾性エネルギーのどちらかが0になる点です。手を離した瞬間(振動の端点)では、速さが0なので運動エネルギーが0です。したがって、この点の弾性エネルギーを計算すれば、それが全体の力学的エネルギーとなります。
この設問における重要なポイント

  • なめらかな水平面上のばね振り子では、力学的エネルギーが保存される。
  • 力学的エネルギー \(E = (\text{運動エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー}) = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
  • 振動の端点では速さ\(v=0\)、変位\(x=A\)なので、\(E = \displaystyle\frac{1}{2}kA^2\)。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則により、小球の力学的エネルギー\(E\)は常に一定です。\(E\)は運動エネルギーと弾性エネルギーの和で表され、その値は運動中に一定に保たれます。
$$ E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 $$
計算を簡単にするため、小球を離した瞬間(振動の端点)のエネルギーを考えます。この点では、小球の速さは \(v=0\)、ばねの伸びは最大で振幅に等しく \(x=A=0.40 \text{ m}\) です。
したがって、力学的エネルギー\(E\)は、この瞬間の弾性エネルギーに等しくなります。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}kA^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kA^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 弾性エネルギー(ばねの位置エネルギー): \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

立式した \(E = \displaystyle\frac{1}{2}kA^2\) に、与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2} \times 5.0 \times (0.40)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 5.0 \times 0.16 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 0.080 \\[2.0ex]
&= 0.40 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「力学的エネルギー」は、「運動エネルギー」と「ばねが持つ位置エネルギー(弾性エネルギー)」の合計です。この合計値は、運動中ずっと変わりません(保存されます)。計算が一番楽なのは、動きが一瞬止まる振動の端っこです。そこでは速さが0なので運動エネルギーは0になり、ばねのエネルギーだけを考えればOKです。ばねのエネルギーは「\(\displaystyle\frac{1}{2} \times k \times (\text{伸び})^2\)」で計算できるので、一番伸びたとき(伸び=振幅\(A\))の値を代入します。

結論と吟味

計算の結果、力学的エネルギーは \(0.40 \text{ J}\) となります。単振動では、エネルギーは運動エネルギーと弾性エネルギーの間で形を変えながら、その総量は一定に保たれます。

解答 (3) \(0.40 \text{ J}\)
別解: 振動中心でのエネルギーを用いた解法

思考の道筋とポイント
力学的エネルギーは保存されるので、振動中心で計算しても同じ値になるはずです。振動中心(ばねが自然長の点)では、ばねの伸びが \(x=0\) なので弾性エネルギーが0になります。その代わり、速さが最大値 \(v_{\text{最大}}\) となり、運動エネルギーが最大になります。この最大の運動エネルギーが、全体の力学的エネルギーに等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則。
  • 振動中心では弾性エネルギーが0、運動エネルギーが最大。
  • 振動中心での速さは最大値 \(v_{\text{最大}} = A\omega\)。
  • 力学的エネルギー \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\)。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則により、振動中心でのエネルギーも全体の力学的エネルギー\(E\)に等しくなります。振動中心では、ばねの変位は \(x=0\)、速さは最大値 \(v_{\text{最大}}\) です。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2
\end{aligned}
$$
ここで、単振動における速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて次のように表されます。
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
角振動数\(\omega\)は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) で計算できます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
  • 角振動数: \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)
計算過程

まず、角振動数\(\omega\)と最大速度\(v_{\text{最大}}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{5.0}{0.20}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25} \\[2.0ex]
&= 5.0 \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= 0.40 \times 5.0 \\[2.0ex]
&= 2.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、この最大速度を用いて力学的エネルギー\(E\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 0.20 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 0.20 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 0.40 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力学的エネルギーはどこで測っても同じなので、一番速く動いている振動の中心点で計算することもできます。中心点ではばねは伸び縮みしていないので、ばねのエネルギーは0です。その代わり、速さが最大なので運動エネルギーが最大になります。まず最大速度を「振幅 × 角振動数」で計算し、その値を使って最大の運動エネルギー「\(\displaystyle\frac{1}{2} \times m \times (\text{最大速度})^2\)」を求めれば、それが全体の力学的エネルギーになります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(0.40 \text{ J}\) という結果が得られました。これは、振動の端点で全て弾性エネルギーだったものが、振動中心では全て運動エネルギーに変換されたことを示しており、力学的エネルギー保存則が正しく成り立っていることを裏付けています。

解答 (3) \(0.40 \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の基本特性:
    • 核心: 水平ばね振り子の運動が、復元力によって引き起こされる「単振動」であることを理解するのが全ての出発点です。
    • 理解のポイント:
      • 周期と角振動数: 周期\(T\)と角振動数\(\omega\)は、おもりの質量\(m\)とばね定数\(k\)という系の物理的性質のみで決まります (\(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(\omega=\sqrt{k/m}\))。振幅の大きさにはよりません。
      • 運動状態と物理量: 単振動における各物理量(変位、速度、加速度)が、どの位置で最大・最小(ゼロ)になるかを把握することが重要です。
        • 振動の端 (\(|x|=A\)): 速さゼロ、復元力と加速度の大きさが最大。
        • 振動中心 (\(x=0\)): 速さ最大、復元力と加速度がゼロ。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 「なめらかな水平面」という条件から、運動中に仕事をする非保存力が存在しないため、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)が常に一定に保たれるという法則。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーは、運動エネルギーと弾性エネルギーの間で形を変えながら往復します。
      • 全体のエネルギーを計算する際は、運動のどの瞬間を切り取っても良いため、計算が最も簡単な「振動の端点」(運動エネルギーがゼロ)または「振動中心」(弾性エネルギーがゼロ)を利用するのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直ばね振り子: 重力が加わるため、振動の中心が「自然長の位置」から「力のつり合いの位置」にずれます。この「つり合いの位置」を新たな原点と見なせば、水平ばね振り子と全く同じように単振動として扱えます。
    • 単振り子: 糸の長さが\(l\)の振り子は、振れ角が非常に小さい場合に単振動とみなせます。その周期は \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) となり、質量によらないのが特徴です。
    • エネルギー図の活用: 横軸に位置\(x\)、縦軸にエネルギーをとったグラフを考える問題。弾性エネルギー \(U = \frac{1}{2}kx^2\) は放物線を描き、力学的エネルギー\(E\)は水平な直線になります。この2つのグラフの関係から、運動の範囲(振幅)や各点での運動エネルギーを視覚的に理解できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類の特定: まず、問題文から「単振動」であることを見抜きます。「ばね」「振り子」「なめらかな面」といったキーワードがヒントになります。
    2. 振動中心の特定: 水平ばねなら「自然長」、鉛直ばねなら「力のつり合い」の位置が振動中心(変位\(x=0\)の基準点)です。
    3. 振幅\(A\)の特定: 振動中心から最も離れた点までの距離が振幅\(A\)です。問題文の「\(0.40 \text{ m}\)だけ引いて」のような記述がこれに相当します。
    4. エネルギー保存の可否を判断: 「なめらか」「抵抗は無視」とあれば力学的エネルギー保存則が使えます。「粗い面」「摩擦力」などの記述があれば、その力がする仕事の分だけ力学的エネルギーは変化(減少)します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 周期の公式の混同:
    • 誤解: ばね振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) の分子と分母を逆にして \(\sqrt{k/m}\) と覚えてしまう。また、単振り子の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) と混同する。
    • 対策: 「おもりは重い(\(m\)大)ほどゆっくり動く(\(T\)大)」「ばねは硬い(\(k\)大)ほど速く動く(\(T\)小)」という物理的イメージと公式を結びつけます。\(m\)が分子、\(k\)が分母と覚えやすくなります。
  • 加速度と力の関係の誤解:
    • 誤解: 振動中心で速さが最大なので、加速度も最大だと勘違いする。
    • 対策: 加速度は力に比例する(運動方程式 \(ma=F\))ことを常に意識します。力がゼロになる振動中心では加速度もゼロ。力が最大になる振動の端で加速度も最大になります。
  • 力学的エネルギーの計算ミス:
    • 誤解: (3)で、振動の端点でのエネルギーを計算すべきところを、中途半端な位置のエネルギーを考えようとして計算が複雑になったり、間違えたりする。
    • 対策: 力学的エネルギーは「どこで計算しても同じ」という保存則の利点を最大限に活かすことを意識します。計算が最も楽になる「振動の端点(\(v=0\))」か「振動中心(\(x=0\))」を選ぶ、というセオリーを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 周期の公式 (\(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)):
    • 選定理由: (1)で「周期」が問われ、その周期を決定する物理量である「質量\(m\)」と「ばね定数\(k\)」が与えられているため、これらを直接結びつけるこの公式を選択するのが最も合理的です。
    • 適用根拠: この公式は、単振動の運動方程式 \(ma = -kx\) から導かれます。この式は、加速度\(a\)が変位\(x\)に比例し、向きが逆であることを示しており、単振動の定義そのものです。この方程式を解くと、角振動数が \(\omega = \sqrt{k/m}\) となり、周期 \(T=2\pi/\omega\) の関係から公式が導出されます。
  • 加速度の最大値の公式 (\(a_0 = A\omega^2\)):
    • 選定理由: (2)で「加速度の最大値」を求めるために、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)(または\(k\)と\(m\))から直接計算できる最も効率的な公式です。
    • 適用根拠: 単振動の加速度は \(a = -\omega^2 x\) で与えられます。この式の絶対値が最大になるのは、変位の絶対値\(|x|\)が最大、すなわち \(|x|=A\)(振幅)のときです。したがって、\(a_0 = A\omega^2\) となります。別解で示したように、運動方程式 \(ma_0 = kA\) からも同じ結果が導かれ、両者は物理的に等価です。
  • 力学的エネルギーの公式 (\(E = \frac{1}{2}kA^2\)):
    • 選定理由: (3)で「力学的エネルギー」を求めるにあたり、エネルギー保存則が成り立つため、最も計算が簡単な状況を選んで立式します。速さがゼロになる振動の端点では、運動エネルギーがゼロとなり、全体のエネルギーが弾性エネルギーのみで表せるため、この公式が最適です。
    • 適用根拠: 力学的エネルギー保存則 \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = (\text{一定})\) が大前提です。この式はどの\(x, v\)の組み合わせでも成り立ちますが、特に \(x=A\) のとき \(v=0\) となる関係を代入することで、\(E = \frac{1}{2}kA^2\) というシンプルな形でエネルギーを表現できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の統一: 計算を始める前に、全ての物理量がSI基本単位(m, kg, s, N)で与えられているかを確認する癖をつけましょう。もし g や cm であれば、計算前に kg や m に変換します。
  • 平方根と2乗の計算: (1)の周期の計算では、ルートの中を \(\sqrt{0.20/5.0} = \sqrt{1/25}\) のように、まず簡単な分数に直してからルートを外すとミスが減ります。(3)の \((0.40)^2\) のような小数の2乗は、\(0.4 \times 0.4 = 0.16\) と小数点の位置を慎重に確認します。
  • 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値(\(5.0, 0.20, 0.40\))は全て有効数字2桁です。最終的な答えもそれに合わせるのがルールです。途中の計算では1桁多く(例: \(1.256\))取っておき、最後に四捨五入して \(1.3\) とするとより正確です。
  • 公式への代入確認: \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) のような分数を含む公式では、分子と分母の値を逆に入れないように、代入時に指差し確認をするといった物理的なチェックが有効です。

基本例題38 鉛直ばね振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説しつつ、物理的な理解を多角的に深めるために、教育的価値の高い別解を補足しています。

  1. 設問(4)の別解
    • 別解1: 力学的エネルギー保存則を用いた解法
      • 意義: 単振動の速さの公式 \(v=A\omega\) を用いず、より根源的な法則である「力学的エネルギー保存則」から速さを導出します。重力と弾性力の両方がはたらく系におけるエネルギー保存則の具体的な立式方法を学ぶことができ、法則の応用力を高める上で非常に有益です。

いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「鉛直ばね振り子」です。水平ばね振り子と異なり、常に重力がはたらく中での単振動を正しく扱えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いと振動中心: 鉛直ばね振り子では、重力と弾性力がつりあう位置が単振動の中心となります。自然長の位置が中心ではないことを理解することが第一歩です。
  2. 運動方程式と復元力: 振動の中心(つり合いの位置)からの変位\(x\)を用いて運動方程式を立てると、合力が \(-(\text{定数}) \times x\) という復元力の形に整理されることを確認します。
  3. 単振動のパラメータ: 運動方程式の結果を単振動の基本式 \(a = -\omega^2 x\) と比較することで、角振動数\(\omega\)、周期\(T\)、振幅\(A\)といった重要な量を決定します。
  4. 力学的エネルギー保存則: 重力と弾性力の両方が保存力であるため、これらの力がはたらく系でも力学的エネルギー(運動エネルギー+重力による位置エネルギー+弾性エネルギーの和)は保存されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、小球が静止している「力のつり合い」の状態に着目し、つり合いの式からばね定数\(k\)を求めます。
  2. (2)では、振動の中心(つり合いの位置)から変位\(x\)だけずれた点での運動方程式を立て、加速度\(a\)を\(x\)の関数として表します。
  3. (3)では、(2)で求めた加速度の式を、単振動の加速度の定義式 \(a=-\omega^2 x\) と比較して角振動数\(\omega\)を特定します。
  4. (4)では、はなした位置が振動の端、原点Oが振動の中心であることから、移動時間が周期の1/4であることを利用します。また、中心での速さが最大値 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) となることを用いて速さを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばね定数\(k\)を求める問題です。問題文の「ばねが長さ\(l_0\)だけ伸びて静止した」という記述に着目します。「静止した」ということは、小球にはたらく力がつりあっている状態を意味します。この力のつり合いの式を立てることで、未知数であるばね定数\(k\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 静止状態 = 力のつり合い。
  • 小球にはたらく力は、鉛直下向きの重力\(mg\)と、鉛直上向きの弾性力\(F=k\times(\text{伸び})\)の2つ。
  • つり合いの位置では、ばねの伸びは\(l_0\)である。

具体的な解説と立式
小球が静止している点Oでは、小球にはたらく重力\(mg\)(鉛直下向き)と、ばねの弾性力\(kl_0\)(鉛直上向き)がつりあっています。鉛直下向きを正とすると、力のつり合いの式は以下のように立てられます。
$$ mg – kl_0 = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\text{合力} = 0\)
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

力のつり合いの式を\(k\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mg – kl_0 &= 0 \\[2.0ex]
kl_0 &= mg \\[2.0ex]
k &= \frac{mg}{l_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

おもりがぶら下がって静止しているとき、おもりを下に引っ張る「重力」と、ばねが上に引っ張り戻そうとする「弾性力」がちょうど同じ大きさになっています。重力は\(mg\)、弾性力は「ばね定数\(k\) × 伸び\(l_0\)」なので、「\(mg = kl_0\)」という関係が成り立ちます。この式を\(k\)について解けば答えが求まります。

結論と吟味

ばね定数\(k\)は \(\displaystyle\frac{mg}{l_0}\) となります。これは、ばね定数がより重いおもり(\(m\)大)をつるしたときや、伸びにくい(\(l_0\)小)ばねであるほど大きくなることを示しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{mg}{l_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
位置\(x\)を通過するときの加速度\(a\)を求める問題です。運動中の加速度を求めるには、運動方程式 \(ma=F\) を立てるのが基本です。この問題では、原点O(つり合いの位置)から下向きに\(x\)だけ変位した点での、小球にはたらく合力\(F\)を正しく求めることが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式 \(ma=F\) を利用する。
  • 座標軸の向き(鉛直下向きが正)を意識して、力の向きを符号で正しく表す。
  • 位置\(x\)でのばねの自然長からの合計の伸びは \(l_0+x\) となる。

具体的な解説と立式
小球が位置\(x\)にあるとき、小球にはたらく力は以下の2つです。

  1. 重力: \(mg\)(鉛直下向き、正の向き)
  2. 弾性力: ばねの自然長からの伸びが \(l_0+x\) なので、力の大きさは \(k(l_0+x)\)。向きは鉛直上向き(負の向き)なので、\(-k(l_0+x)\) と表せる。

したがって、鉛直下向きを正とする運動方程式は次のように立てられます。
$$ ma = mg – k(l_0+x) $$
この式に、(1)で求めた \(k=\displaystyle\frac{mg}{l_0}\) を代入して整理します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

運動方程式に\(k\)の値を代入し、\(a\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg – k(l_0+x) \\[2.0ex]
&= mg – \frac{mg}{l_0}(l_0+x) \\[2.0ex]
&= mg – \left( \frac{mg}{l_0} \cdot l_0 + \frac{mg}{l_0} \cdot x \right) \\[2.0ex]
&= mg – \left( mg + \frac{mg}{l_0}x \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{mg}{l_0}x
\end{aligned}
$$
両辺を\(m\)で割って、加速度\(a\)を求めます。
$$ a = -\frac{g}{l_0}x $$

計算方法の平易な説明

運動中のある瞬間のおもりの加速度を知るには、その瞬間に「おもりにはたらいている力の合計(合力)」を求め、運動の基本ルール「\(ma=F\)」にあてはめます。力の合計は、下向きの「重力」から、上向きの「ばねの力」を引いたものです。ばねの力は「ばね定数 × そのときのばねの全長」で計算できます。これを式にして整理すると、加速度\(a\)が位置\(x\)を使ってシンプルな形で表せます。

結論と吟味

加速度\(a\)は \(a = -\displaystyle\frac{g}{l_0}x\) となりました。これは、加速度\(a\)が変位\(x\)に比例し、向きが常に原点O(変位が0の点)を向いていることを示しています。これはまさに単振動の条件を満たしており、小球が単振動をすることが運動方程式から確認できました。

解答 (2) \(-\displaystyle\frac{g}{l_0}x\)

問(3)

思考の道筋とポイント
単振動の角振動数\(\omega\)を求める問題です。(2)で加速度\(a\)と変位\(x\)の関係式が導かれているので、これを単振動の加速度の定義式 \(a = -\omega^2 x\) と比較することで、\(\omega\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の加速度は、角振動数\(\omega\)と変位\(x\)を用いて \(a = -\omega^2 x\) と表される。
  • (2)で導出した具体的な加速度の式と比較する。

具体的な解説と立式
単振動の加速度\(a\)と変位\(x\)の関係は、一般的に角振動数\(\omega\)を用いて次のように定義されます。
$$ a = -\omega^2 x $$
(2)で求めた、この鉛直ばね振り子における加速度の式は、
$$ a = -\frac{g}{l_0}x $$
でした。この2つの式を比較します。

使用した物理公式

  • 単振動の加速度の定義式: \(a = -\omega^2 x\)
計算過程

2つの加速度の式を比較すると、\(x\)の係数部分が等しいことがわかります。
$$ \omega^2 = \frac{g}{l_0} $$
したがって、角振動数\(\omega\)は次のようになります。(\(\omega>0\)なので)
$$ \omega = \sqrt{\frac{g}{l_0}} $$

計算方法の平易な説明

単振動の運動では、加速度は「\(a = -(\text{ある定数}) \times x\)」という形になるという決まりがあります。この「ある定数」が、実は「角振動数\(\omega\)の2乗」にあたります。(2)で求めた式の\(x\)の前にくっついている部分(\(\displaystyle\frac{g}{l_0}\))が\(\omega^2\)に相当するので、その平方根をとれば\(\omega\)が求まります。

結論と吟味

角振動数\(\omega\)は \(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\) となりました。これは、重力加速度が大きいほど、また、初期の伸びが小さい(ばねが硬い、または質量が小さい)ほど、振動が速くなる(\(\omega\)が大きくなる)ことを示しており、直感的にも妥当な結果です。

解答 (3) \(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小球をはなしてから初めて原点Oを通過するまでの時間\(t_1\)と、そのときの速さ\(v_1\)を求める問題です。
時間\(t_1\): 小球をはなした「自然長の長さ」の位置は、振動中心(つり合いの位置O)から最も離れた点、つまり振動の端です。原点Oは振動の中心なので、\(t_1\)は振動の端から中心まで移動する時間です。これは単振動の1周期の1/4に相当します。
速さ\(v_1\): 原点Oは振動の中心であり、単振動では中心で速さが最大になります。したがって、\(v_1\)は速さの最大値\(v_{\text{最大}}\)を求めればよいことになります。最大値は \(v_{\text{最大}} = A\omega\) の公式で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • はなした位置(自然長)は振動の端、原点O(つり合いの位置)は振動の中心。
  • 振幅\(A\)は、振動の中心から端までの距離。この問題では\(l_0\)に等しい。
  • 端から中心までの時間は、周期\(T\)の1/4。
  • 中心での速さは最大値であり、\(v_{\text{最大}} = A\omega\)で計算できる。

具体的な解説と立式
時間 \(t_1\) の計算
周期を\(T\)とすると、端から中心までの時間\(t_1\)は、
$$ t_1 = \frac{1}{4}T $$
周期\(T\)と角振動数\(\omega\)の関係は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) なので、
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{1}{4} \cdot \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2\omega}
\end{aligned}
$$
速さ \(v_1\) の計算
原点Oは振動中心なので、速さ\(v_1\)は最大値\(v_{\text{最大}}\)に等しいです。
$$ v_1 = v_{\text{最大}} $$
ここで、最大速度は振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて次のように表されます。
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
振幅\(A\)は振動中心(つり合いの位置)から振動の端(はなした位置=自然長)までの距離なので、\(A=l_0\)です。
$$ v_1 = l_0 \omega $$

使用した物理公式

  • 周期と角振動数の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
  • 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
計算過程

(3)で求めた \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{l_0}}\) を代入して、\(t_1\)と\(v_1\)を計算します。

時間 \(t_1\):
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{\pi}{2\omega} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2} \cdot \frac{1}{\sqrt{\frac{g}{l_0}}} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{l_0}{g}}
\end{aligned}
$$
速さ \(v_1\):
$$
\begin{aligned}
v_1 &= l_0 \omega \\[2.0ex]
&= l_0 \sqrt{\frac{g}{l_0}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{l_0^2 \cdot \frac{g}{l_0}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{gl_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

時間:スタート地点は振動の端っこ、ゴール地点の原点Oは振動の真ん中です。端から真ん中までは、ちょうど1往復(1周期)にかかる時間の1/4です。周期は角振動数\(\omega\)から計算できるので、それを4で割ればOKです。
速さ:原点Oは振動の真ん中なので、おもりが最もスピードに乗っている場所です。この最大速度は「振幅\(A\) × 角振動数\(\omega\)」という公式で計算できます。この問題での振幅は、振動の中心(つり合いの位置)からスタート地点(自然長)までの距離なので、\(l_0\)です。

結論と吟味

時間は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{l_0}{g}}\)、速さは \(\sqrt{gl_0}\) となりました。どちらも単振動の基本的な性質から導かれた妥当な結果です。

解答 (4) \(t_1 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{l_0}{g}}\), \(v_1 = \sqrt{gl_0}\)
別解: (速さ\(v_1\)の計算) 力学的エネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
速さ\(v_1\)を、力学的エネルギー保存則を用いて求める方法です。重力と弾性力はどちらも保存力なので、これらの力がはたらく運動では、運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性エネルギーの和である力学的エネルギーが保存されます。はなした瞬間(始点)と原点Oを通過する瞬間(終点)で力学的エネルギーが等しいという式を立てることで、速さ\(v_1\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + U_g + U_e = (\text{一定})\)。
  • 重力による位置エネルギー\(U_g\)の基準点を明確に設定する(ここでは原点Oが便利)。
  • 始点と終点における、速さ、変位、ばねの伸びを正確に把握する。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を適用します。重力による位置エネルギーの基準点を原点O(つり合いの位置)とします。
$$ (\text{運動エネルギー}) + (\text{重力位置エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー}) = (\text{一定}) $$
始点:はなした位置(自然長の長さ)

この位置は原点Oより\(l_0\)だけ上方にあるので、座標は \(x=-l_0\) です。

  • 速さ: \(v=0\)
  • 重力位置エネルギー: 基準点より\(l_0\)高いので、\(U_g = mgl_0\)
  • ばねの伸び: 自然長なので、伸びは0。弾性エネルギーは \(U_e = 0\)

よって、始点での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{始}} &= 0 + mgl_0 + 0 \\[2.0ex]
&= mgl_0
\end{aligned}
$$
終点:原点O(つり合いの位置)

この位置の座標は \(x=0\) です。

  • 速さ: \(v=v_1\)
  • 重力位置エネルギー: 基準点なので、\(U_g = 0\)
  • ばねの伸び: つり合いの位置なので、伸びは\(l_0\)。弾性エネルギーは \(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kl_0^2\)

よって、終点での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\) は、
$$ E_{\text{終}} = \frac{1}{2}mv_1^2 + 0 + \frac{1}{2}kl_0^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) より、以下の式が成り立ちます。
$$ mgl_0 = \frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kl_0^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 = (\text{一定})\)
計算過程

エネルギー保存の式に、(1)で求めた \(k=\displaystyle\frac{mg}{l_0}\) を代入して \(v_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
mgl_0 &= \frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kl_0^2 \\[2.0ex]
mgl_0 &= \frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}\left(\frac{mg}{l_0}\right)l_0^2 \\[2.0ex]
mgl_0 &= \frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}mgl_0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mgl_0 &= \frac{1}{2}mv_1^2 \\[2.0ex]
v_1^2 &= gl_0 \\[2.0ex]
v_1 &= \sqrt{gl_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

運動の前後で「力学的エネルギーの合計」が変わらないことを利用します。エネルギーの合計とは「運動の勢いのエネルギー」「高さのエネルギー」「ばねのエネルギー」の3つの足し算です。スタート地点(手をはなした瞬間)とゴール地点(原点O)で、この3つのエネルギーの合計が等しくなるように式を立てます。スタート地点では速さがゼロなので運動エネルギーはゼロ、ばねも自然長なのでばねのエネルギーもゼロです。つまり、高さのエネルギーしかありません。ゴール地点では、高さが基準なので高さのエネルギーはゼロですが、速さとばねの伸びがあるので、運動エネルギーとばねのエネルギーがあります。この関係を式にして解くと、速さが求まります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(\sqrt{gl_0}\) という結果が得られました。これにより、単振動の公式と力学的エネルギー保存則が互いに矛盾のない、物理的に正しい関係であることが確認できます。

解答 (4) \(t_1 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{l_0}{g}}\), \(v_1 = \sqrt{gl_0}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 鉛直ばね振り子における振動中心の特定:
    • 核心: 鉛直ばね振り子の運動を理解する上で最も重要なのは、振動の中心がばねの「自然長の位置」ではなく、重力と弾性力がつりあう「力のつり合いの位置」になるという点です。
    • 理解のポイント:
      • この問題では、原点Oが力のつり合いの位置として設定されています。
      • 運動方程式を立てると、重力とつり合い位置までの弾性力が相殺され、合力(復元力)は振動中心からの変位\(x\)にのみ比例する形 (\(F = -kx\)) になります。つまり、つり合いの位置を基準に考えれば、重力の影響は見かけ上なくなり、水平ばね振り子と全く同じ単振動として扱うことができます。
  • 運動方程式と単振動の基本式の関連付け:
    • 核心: 物理現象(力のつり合いと運動)を運動方程式 (\(ma=F\)) として立式し、その結果を単振動の数学的な定義式 (\(a = -\omega^2 x\)) と比較することで、その運動の具体的な特性(角振動数など)を明らかにするという一連の流れ。
    • 理解のポイント:
      • (1)で力のつり合いから\(k\)を求める。
      • (2)で運動方程式を立て、\(a\)と\(x\)の関係式を導く。
      • (3)で(2)の結果と\(a = -\omega^2 x\)を比較して\(\omega\)を特定する。この論理展開がこの問題の骨格です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上のばね振り子: 重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう点が新たな振動中心となります。考え方は鉛直ばね振り子と全く同じで、つり合いの位置を基準にすれば、重力の影響を無視した単振動として扱えます。
    • U字管内の液体振動: U字管内の液体を少しずらしてはなすと、液面の高さの差によって生じる復元力で単振動します。これも、つり合いの位置を基準とした運動方程式を立てることで解析できます。
    • エネルギー保存則の応用: 振動の端とはなした位置が異なる場合など、任意の2点間で力学的エネルギー保存則(運動エネルギー+重力位置エネルギー+弾性エネルギー)を立てて速さや変位を求める問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 振動中心はどこか?: ばね振り子が鉛直または斜面上にある場合、まず最初に「力のつり合いの位置」を探します。ここが全ての基準(座標原点、振幅の基準)になります。
    2. 座標軸と原点を明確にする: 問題文で指定されていなければ、振動中心を原点とし、運動方向に座標軸をとると計算が最も簡単になります。
    3. 振幅\(A\)は何か?: 振幅は「振動の中心から振動の端までの距離」です。問題文の「どこまで持ち上げて」「どこまで引いて」はなしたか、という情報から振幅を特定します。この問題では、つり合いの位置Oから自然長の位置まで持ち上げているので、振幅は\(l_0\)です。
    4. エネルギー保存則を使う際の注意点: 重力による位置エネルギーと弾性エネルギーの両方を考慮する必要があります。それぞれの基準点(重力位置エネルギーの高さ0の点、弾性エネルギーのばねの自然長の位置)を混同しないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 振動中心の誤解:
    • 誤解: 水平ばね振り子の感覚で、ばねが自然長のときの小球の位置を振動の中心だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「鉛直」という言葉を見たら、「振動中心=力のつり合いの位置」と自動的に変換する癖をつけましょう。必ず図を書いて、重力と弾性力を書き込み、つり合いの点を確認する習慣が有効です。
  • 運動方程式の符号ミス:
    • 誤解: (2)で運動方程式を立てる際、座標軸の正の向きと力の向きを混同し、弾性力 \(-k(l_0+x)\) の符号を間違える。
    • 対策: 最初に「鉛直下向きを正」のように座標軸の向きを明確に定義します。そして、各力ベクトルがその軸の正の向きか負の向きかを判断し、機械的に符号を付けて式を立てることでミスを防ぎます。
  • 力学的エネルギーの項の漏れや基準点の混同:
    • 誤解: (4)の別解で力学的エネルギー保存則を立てる際、重力による位置エネルギーか弾性エネルギーのどちらかを書き忘れる。または、重力位置エネルギーの基準点(例:原点O)と弾性エネルギーの基準点(自然長の位置)を混同して式を立ててしまう。
    • 対策: 力学的エネルギーを考える際は、常に「運動エネルギー」「重力位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3つの項を書き出し、それぞれの点での値を一つずつ吟味する癖をつけます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(mg – kl_0 = 0\)):
    • 選定理由: (1)で未知の物理量であるばね定数\(k\)を求めるため。問題文中で唯一、力の関係が単純明快にわかる「静止」状態(力がつりあっている状態)の法則を利用するのが最も合理的です。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則における \(a=0\) の特別な場合であり、物理学の基本法則です。
  • 運動方程式 (\(ma = F_{\text{合力}}\)):
    • 選定理由: (2)で運動中の「加速度」を問われているため、力と加速度の関係を直接結びつける運動方程式を立てるのが本質的なアプローチです。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則そのものです。これにより、小球の運動がどのような物理法則に支配されているかを数学的に記述できます。
  • 単振動の定義式との比較 (\(a = -\omega^2 x\)):
    • 選定理由: (3)で「角振動数\(\omega\)」という単振動に特有のパラメータを求めるため。運動方程式から導かれた \(a\) と \(x\) の関係式が、単振動の一般的な数学的表現と一致することを利用します。
    • 適用根拠: この比較を行うことで、一見複雑な鉛直方向のばねの運動が、実は振動中心を基準とすればシンプルな単振動であることが数学的に証明され、\(\omega\)という重要な物理量が特定できます。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: (4)の別解で速さを求めるため。始点と終点の状態(位置と速さ)が分かっている場合に、途中の経過を問わず2点間の関係を結びつけることができる強力なツールです。
    • 適用根拠: 重力と弾性力はどちらも「保存力」であり、これらの力のみが仕事をする場合、系の力学的エネルギーの総和は一定に保たれるという物理学の大原則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理: この問題のように文字だけで計算を進める場合、(2)の運動方程式のように、途中で \(mg\) と \(kl_0\) が相殺されるなど、式が綺麗に整理されることが多いです。計算の途中で式が不必要に複雑になったら、どこかで計算ミスや考え違いがないか見直すきっかけになります。
  • 平方根の扱い: (4)の \(v_1 = l_0 \sqrt{\frac{g}{l_0}}\) のような計算では、ルートの外にある文字を中に入れる際には2乗すること (\(l_0 = \sqrt{l_0^2}\)) を忘れないように注意しましょう。段階的に \(v_1 = \sqrt{l_0^2 \cdot \frac{g}{l_0}} = \sqrt{gl_0}\) と変形すると確実です。
  • 代入のタイミング: (2)の運動方程式では、\(k\) の値をすぐに代入するのではなく、\(ma = mg – kl_0 – kx\) と展開し、\(mg-kl_0=0\) という(1)のつり合いの関係を使うと、\(ma = -kx\) となり、見通しよく計算が進む場合もあります。
  • 次元(単位)による検算: 計算結果の次元が物理的に正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば(4)で求めた速さ \(v_1 = \sqrt{gl_0}\) の単位は \(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\) となり、確かに速さの単位になっています。このチェックで単純な計算ミスを発見できることがあります。
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基本問題

177 等速円運動と単振動

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