「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第3章】応用問題

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61 力のつりあい

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの小物体を複数のひもでつないで静止させたときの、力のつり合いを考察する問題です。静力学の基本であり、力を正しく図示し、適切な方向に分解してつり合いの式を立てる能力が問われます。
この問題の核心は、小物体AとBのそれぞれに着目し、独立して力のつり合いの式を立て、それらを連立させて解くことです。

与えられた条件
  • 小物体Aの質量: \(m\)
  • 小物体Bの質量: \(M\)
  • 小物体Aと天井をつなぐひもが鉛直線となす角: \(45^\circ\)
  • 小物体Bと天井をつなぐひもが鉛直線となす角: \(30^\circ\)
  • 小物体AとBをつなぐひもは水平
  • 小物体Aと天井をつなぐひもの張力: \(T_A\)
  • 小物体Bと天井をつなぐひもの張力: \(T_B\)
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (ア) 張力 \(T_A\) と \(T_B\) の関係式。
  • (イ) 質量 \(m\) と \(M\) の関係式。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の物体が連結された系の力のつりあい」です。それぞれの物体が静止しているため、各物体に働く力のベクトル和はゼロになります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の図示: 各物体に働く力をすべて(重力、張力)正しく図示します。
  2. 力の分解: 斜め方向の張力を、解析しやすい水平方向と鉛直方向に分解します。
  3. 力のつり合い: 各物体について、水平方向と鉛直方向のそれぞれで力のつり合いの式を立てます。
  4. 作用・反作用の法則: AとBをつなぐひもの張力は、Aには右向きに、Bには左向きに同じ大きさで働きます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、小物体Aと小物体B、それぞれに働く力をすべて図示します。AとBをつなぐひもの張力を \(T_C\) と設定します。
  2. 次に、AとBそれぞれについて、水平方向と鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。これにより、合計4つの連立方程式が得られます。
  3. これらの式を解くことで、未知数である張力の関係(問ア)と質量の関係(問イ)を導出します。

問(ア), (イ)

思考の道筋とポイント
張力の関係(ア)と質量の関係(イ)を求める問題です。これらは独立した問題ではなく、一連の立式と計算から同時に導かれます。
まず、小物体AとBに働く力をすべて特定し、図示することが第一歩です。物体は静止しているため、水平方向の力も鉛直方向の力もそれぞれつり合っています。この関係を、物体Aと物体Bそれぞれについて立式します。
この設問における重要なポイント

  • 力の図示: 小物体Aには「重力 \(mg\)」「張力 \(T_A\)」「水平方向の張力 \(T_C\)」の3つが働きます。小物体Bには「重力 \(Mg\)」「張力 \(T_B\)」「水平方向の張力 \(T_C\)」の3つが働きます。
  • 力の分解: 斜め上向きの張力 \(T_A\) と \(T_B\) を、それぞれ水平成分と鉛直成分に分解します。問題で与えられている角度は鉛直線とのなす角であるため、注意が必要です。
  • つり合いの式の立式: AとBそれぞれについて、「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の式を立てます。
  • 連立方程式: 得られた4つの式を連立方程式として解き、\(T_A, T_B, m, M\) の関係を導きます。

具体的な解説と立式
小物体AとBをつなぐ、水平なひもの張力の大きさを \(T_C\) とします。
各物体に働く力は静止しているためつり合っています。張力 \(T_A\) と \(T_B\) を水平成分と鉛直成分に分解して、それぞれの物体について力のつり合いの式を立てます。

小物体Aについて:

  • 水平方向の力のつり合い(右向きを正とする):
    $$ T_C – T_A \sin 45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
  • 鉛直方向の力のつり合い(上向きを正とする):
    $$ T_A \cos 45^\circ – mg = 0 \quad \cdots ② $$

小物体Bについて:

  • 水平方向の力のつり合い(右向きを正とする):
    $$ T_B \sin 30^\circ – T_C = 0 \quad \cdots ③ $$
  • 鉛直方向の力のつり合い(上向きを正とする):
    $$ T_B \cos 30^\circ – Mg = 0 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

(ア) 張力 \(T_B\) と \(T_A\) の関係を求めます。

式①と③から、水平方向の張力 \(T_C\) を消去します。
式①より \(T_C = T_A \sin 45^\circ\)。
式③より \(T_C = T_B \sin 30^\circ\)。
したがって、

$$ T_A \sin 45^\circ = T_B \sin 30^\circ $$
この式を \(T_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_B &= T_A \frac{\sin 45^\circ}{\sin 30^\circ} \\[2.0ex]
&= T_A \frac{1/\sqrt{2}}{1/2} \\[2.0ex]
&= T_A \times \frac{2}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2} T_A
\end{aligned}
$$
よって、(ア)の答えは選択肢②となります。

(イ) 質量 \(M\) と \(m\) の関係を求めます。

まず、式②と④をそれぞれ \(T_A\) と \(T_B\) について解きます。
式②より、

$$ T_A = \frac{mg}{\cos 45^\circ} $$
式④より、
$$ T_B = \frac{Mg}{\cos 30^\circ} $$
これらの式を、(ア)で求めた関係式 \(T_B = \sqrt{2} T_A\) に代入します。
$$ \frac{Mg}{\cos 30^\circ} = \sqrt{2} \left( \frac{mg}{\cos 45^\circ} \right) $$
この式を \(M\) について解きます。両辺の \(g\) は消去できます。
$$
\begin{aligned}
M &= m \sqrt{2} \frac{\cos 30^\circ}{\cos 45^\circ} \\[2.0ex]
&= m \sqrt{2} \frac{\sqrt{3}/2}{1/\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= m \sqrt{2} \times \frac{\sqrt{3}}{2} \times \sqrt{2} \\[2.0ex]
&= m \frac{\sqrt{2} \cdot \sqrt{3} \cdot \sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]
&= m \frac{2\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} m
\end{aligned}
$$
よって、(イ)の答えは選択肢④となります。

計算方法の平易な説明

(ア) 物体Aを左に引っ張る力(\(T_A\)の横向き成分)と、物体Bを右に引っ張る力(\(T_B\)の横向き成分)は、真ん中の水平なひもを介して釣り合っています。この「横向きの力のつり合い」を数式にすることで、\(T_A\) と \(T_B\) の関係がわかります。
(イ) 次に、物体Aを上に支える力(\(T_A\)の縦向き成分)はAの重さと、物体Bを上に支える力(\(T_B\)の縦向き成分)はBの重さと、それぞれ釣り合っています。この「縦向きの力のつり合い」の関係と、(ア)で求めた \(T_A\) と \(T_B\) の関係を組み合わせることで、2つの物体の質量 \(m\) と \(M\) の関係を計算できます。

結論と吟味

(ア)の答えは \(\sqrt{2} T_A\) (選択肢②)、(イ)の答えは \(\sqrt{3} m\) (選択肢④)です。
\(T_B \approx 1.41 T_A\), \(M \approx 1.73 m\) となり、小物体Bの方が重く、それを支えるひもの張力も大きいことがわかります。
Bの方がひもが鉛直に近く(\(30^\circ < 45^\circ\))、重さを支える効率は良い(\(\cos 30^\circ > \cos 45^\circ\))ですが、それ以上に質量が大きいため、結果として張力 \(T_B\) も \(T_A\) より大きくなっています。このように、得られた結果が物理的に妥当かを確認する習慣は重要です。

解答 (ア)
解答 (イ)
別解: 力のベクトル三角形による解法

思考の道筋とポイント
物体に働く3つの力がつり合っている場合、それらの力のベクトルを矢印でつなぐと、閉じた三角形(力のベクトル三角形)ができます。この問題では、小物体A, Bそれぞれに3つの力が働いており、この性質を利用して図形的に解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • ベクトル図の作成: 各物体に働く3つの力(斜めの張力、重力、水平の張力)で閉じたベクトル三角形を描きます。
  • 直角三角形の発見: 重力(鉛直方向)と水平なひもの張力(水平方向)は直角に交わるため、力のベクトル三角形は直角三角形になります。
  • 三角比の利用: 45°や30°の角度を持つ特別な直角三角形の辺の比(\(1:1:\sqrt{2}\) や \(\sqrt{3}:1:2\))を利用して、力の大きさの関係を求めます。

具体的な解説と立式
小物体AとBをつなぐひもの張力を \(T_C\) とします。

小物体Aについて:

働く力 \(T_A\), \(mg\), \(T_C\) のベクトルは閉じた三角形をなします。\(mg\)(鉛直)と \(T_C\)(水平)は直角をなすため、力の三角形は直角三角形です。\(T_A\) と鉛直線(\(mg\)の向き)のなす角が \(45^\circ\) なので、この三角形は辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形です。
力の大きさの比は、辺の比に対応します。

$$ mg : T_C : T_A = 1 : 1 : \sqrt{2} $$
この比から、以下の関係式が得られます。
$$ T_C = mg \quad \cdots ⓐ $$
$$ T_A = \sqrt{2} mg \quad \cdots ⓑ $$

小物体Bについて:

働く力 \(T_B\), \(Mg\), \(T_C\) のベクトルも同様に直角三角形をなします。\(T_B\) と鉛直線(\(Mg\)の向き)のなす角が \(30^\circ\) なので、これは辺の比が \(\sqrt{3}:1:2\) の30°-60°-90°の直角三角形です。
力の大きさの比は、

$$ Mg : T_C : T_B = \sqrt{3} : 1 : 2 $$
この比から、以下の関係式が得られます。
$$ T_C = \frac{Mg}{\sqrt{3}} \quad \cdots ⓒ $$
$$ T_B = \frac{2Mg}{\sqrt{3}} \quad \cdots ⓓ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(ベクトル和がゼロ)
  • 三角比
計算過程

(ア) 張力 \(T_B\) と \(T_A\) の関係を求めます。

式ⓑより \(mg = \displaystyle\frac{T_A}{\sqrt{2}}\) です。
一方、式ⓓとⓒの関係から \(T_B = 2T_C\) となります。これに式ⓐの \(T_C=mg\) を代入すると \(T_B = 2mg\) となります。
この \(T_B = 2mg\) に、\(mg = \displaystyle\frac{T_A}{\sqrt{2}}\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
T_B &= 2 \left( \frac{T_A}{\sqrt{2}} \right) \\[2.0ex]
&= \sqrt{2} T_A
\end{aligned}
$$

(イ) 質量 \(M\) と \(m\) の関係を求めます。

式ⓐとⓒは、どちらも水平方向の張力 \(T_C\) を表しているので、これらを等しいとおきます。

$$ mg = \frac{Mg}{\sqrt{3}} $$
両辺の \(g\) を消去して \(M\) について解くと、
$$ M = \sqrt{3} m $$
となります。

計算方法の平易な説明

物体AとBは、それぞれ3つの力で引っ張られて静止しているので、力の矢印をつなぎ合わせると、ぴったり閉じた三角形ができます。この問題では、重力(真下)と水平なひもの力(真横)が直角なので、力の三角形は「直角三角形」になります。
Aの力の三角形は45°の角を持つ「直角二等辺三角形」、Bの力の三角形は30°の角を持つ「特別な直角三角形」です。これらの三角形の有名な辺の長さの比(\(1:1:\sqrt{2}\) や \(1:\sqrt{3}:2\))を使うと、複雑な計算なしに、各力の大きさの関係を求めることができます。

結論と吟味

力の分解という代数的な方法でも、力のベクトル三角形という幾何学的な方法でも、同じ答えが得られました。これは解法の正しさを裏付けています。特に3つの力がつり合っている場合、図形的な見方をすると計算が大幅に簡略化できることがあるため、この解法も非常に有効です。


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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合い:
    • 核心: この問題の根幹をなすのは、「静止している物体に働く力の合力はゼロである」という静力学の基本原理です。このベクトル的な関係を、計算しやすいように成分に分けて考えます。
    • 理解のポイント: 「合力がゼロ」とは、具体的には「水平方向の力の合計がゼロ」かつ「鉛直方向の力の合計がゼロ」という2つの条件が同時に満たされることを意味します。この問題では、小物体AとBそれぞれについて、この2つの条件式を立てることが解析の出発点となります。
  • 力の分解:
    • 核心: 斜め方向の力(この問題では張力\(T_A\)と\(T_B\))をそのまま扱うのは難しいため、水平成分と鉛直成分に分解します。これにより、各方向の力のつり合いを単純な足し引きで考えることができるようになります。
    • 理解のポイント: 角度の取り方に注意が必要です。問題文では「鉛直線とのなす角」が与えられているため、鉛直成分が\(\cos\theta\)、水平成分が\(\sin\theta\)となります。これを水平線とのなす角と勘違いしないことが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁と床に立てかけた棒のつり合い: 棒に働く重力、壁からの垂直抗力、床からの垂直抗力と摩擦力のつり合いを考えます。力のつり合いだけでなく、力のモーメントのつり合いも必要になることが多いですが、力を分解して考える基本は同じです。
    • 複数の滑車とおもりを組み合わせた系: 各おもりや動滑車に着目し、それぞれについて力のつり合いの式を立てて連立させます。
    • 3つの力のつり合い: 1つの点に3つの力が働いて静止している問題全般に応用できます。この場合、別解で示した「力のベクトル三角形」を描く解法が非常に有効です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 着目物体を明確にする: まず、どの物体(この問題では小物体AとB)の力のつり合いを考えるのかを一つずつ明確にします。複数の物体が絡む場合は、それぞれを分離して考えるのが基本です。
    2. 働く力をすべて図示する: 着目物体に働く力を、接触している物体からの力(張力、垂直抗力、摩擦力)と、離れて働く力(重力、静電気力など)に分けて、漏れなく矢印で図示します。
    3. 座標軸を設定し、力を分解する: 水平・鉛直など、互いに直交する座標軸を設定します。斜めを向いた力は、すべてこの座標軸に沿って成分分解します。
    4. つり合いの式を立てる: 各物体、各方向について、力のつり合いの式を立てます。未知数の数と方程式の数が合っているか確認することも大切です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の分解における角度の間違い:
    • 誤解: 問題文で与えられた角度が「鉛直線」とのなす角であるにもかかわらず、習慣で「水平線」とのなす角として扱い、\(\sin\)と\(\cos\)を逆にしてしまうミス。
    • 対策: 必ず図を描き、与えられた角度がどこなのかを明確に記入しましょう。そして、三角関数の定義(\(\cos\theta\)は斜辺に対する「隣辺」、\(\sin\theta\)は「対辺」)に立ち返り、どちらの成分になるかを落ち着いて確認します。
  • 作用・反作用の混同:
    • 誤解: 小物体Aに働く水平な張力\(T_C\)と、小物体Bに働く水平な張力\(T_C\)を、別々の未知数として設定してしまう。
    • 対策: 「AとBをつなぐ1本のひも」が及ぼす張力は、Aを右に引く力とBを左に引く力で、大きさは同じです。これは作用・反作用の関係(厳密には少し違うが、同じひもの張力として等しい)と理解し、同じ文字(\(T_C\))で置くことが重要です。
  • 力の数え忘れ・数え間違い:
    • 誤解: 重力や、物体間で及ぼしあう張力を描き忘れる。
    • 対策: 「重力は必ずある」「接触している物体の数だけ力がある」という原則で、力をリストアップする習慣をつけましょう。この問題では、Aは重力と2本のひもに接触、Bも重力と2本のひもに接触しているので、それぞれ3つの力が働くことがわかります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の分解図: 解法の基本となる図です。各物体に働く力を矢印で描き、斜めの力はその始点から水平・鉛直方向に点線の矢印を伸ばして分解後の成分を示します。どの力がどの成分に対応するかが一目瞭然になります。
    • 力のベクトル三角形(別解): 3つの力がつり合っている状況で特に強力な図解法です。力のベクトルを「しりとり」のようにつないでいくと、始点と終点が一致して閉じた三角形ができます。この三角形の辺の長さの比が、そのまま力の大きさの比に対応します。特に直角三角形や正三角形になる場合は、計算を大幅に簡略化できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 作用点を統一する: 各物体に働く力は、すべてその物体の重心(この場合は中心)から生えているように描くと、図が整理されて見やすくなります。
    • 角度を正確に記入する: 鉛直線とのなす角なのか、水平線とのなす角なのかを明確に区別して図に描き込みます。錯角や同位角の関係も利用して、計算に必要な角度を書き込んでおくとミスが減ります。
    • 分解した力は点線で: 元の力(実線)と、分解後の成分(点線)を区別して描くことで、力の二重カウント(元の力と分解後の力の両方をつり合いの式に入れてしまうミス)を防ぐことができます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式:
    • 選定理由: 問題文に「静止した」と明記されているため。静止は加速度がゼロの状態であり、ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) で \(\vec{a}=\vec{0}\) とした場合に相当します。つまり、合力 \(\vec{F}\) がゼロであるという条件を適用します。
    • 適用根拠: このベクトル方程式を、計算しやすいようにスカラーの式に落とし込むために、水平(x)方向と鉛直(y)方向の成分に分けて考えます。これが「水平方向の力の合力 = 0」「鉛直方向の力の合力 = 0」という2つの式になります。
  • 三角比:
    • 選定理由: 斜め方向のベクトル(張力)を、設定した座標軸(水平・鉛直)の成分に分解するために必要となる数学的なツールだからです。
    • 適用根拠: 直角三角形における辺と角度の関係性を用いて、1つの力の大きさと角度から、2つの成分の大きさを計算するために用います。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題設定の確認: 2つの物体A, Bが静止している。未知数は \(T_B/T_A\) と \(M/m\)。
  2. モデル化と図示:
    • A, Bをそれぞれ質点とみなす。
    • A, Bに働く力(重力、張力\(T_A\), \(T_B\), \(T_C\))をすべて図示する。
    • 張力\(T_A\), \(T_B\)を水平・鉛直成分に分解する。
  3. 立式:
    • 物体Aについて、水平方向と鉛直方向の力のつり合いの式を立てる(2式)。
    • 物体Bについて、水平方向と鉛直方向の力のつり合いの式を立てる(2式)。
    • 合計4つの連立方程式が完成する。
  4. 計算実行:
    • (ア)の計算: AとBの水平方向のつり合いの式から \(T_C\) を消去し、\(T_A\) と \(T_B\) の関係式を導く。
    • (イ)の計算: AとBの鉛直方向のつり合いの式をそれぞれ \(T_A\), \(T_B\) について解く。その結果を(ア)で求めた関係式に代入し、\(m\) と \(M\) の関係式を導く。
  5. 解答の確認: 得られた結果を選択肢と照合し、物理的な妥当性を吟味する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (イ)の計算のように、複数の式を連立させる場合、途中で数値を代入せずに文字(\(m, M, g, T_A, T_B\)など)のまま計算を進めることが有効です。これにより、計算過程が追いやすくなり、ミスを発見しやすくなります。また、最終的に \(g\) が消去されるなど、式が簡潔になることも多いです。
  • 三角関数の値の正確性: \(\sin 45^\circ = \cos 45^\circ = 1/\sqrt{2}\), \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\) といった基本的な値を素早く正確に使えるようにしておくことが必須です。特に分母に根号が来る場合の扱いに慣れておきましょう。
  • 連立方程式の解き方の工夫: どの未知数を消去すれば、求める関係式が最も効率的に得られるかを考えてから計算を始めましょう。この問題では、(ア)を求めるには \(T_C\) を、(イ)を求めるには \(T_A, T_B, T_C, g\) をすべて消去する必要がある、という見通しを立てることが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (ア) 張力の関係: \(T_B = \sqrt{2} T_A \approx 1.41 T_A\)。Bの方がAより重いので、それを支える張力が大きくなるのは直感に合っています。また、水平成分 \(T_A \sin 45^\circ \approx 0.707 T_A\) と \(T_B \sin 30^\circ = 0.5 T_B\) が等しいので、\(0.707 T_A = 0.5 T_B\) からも \(T_B \approx 1.41 T_A\) となり、結果が一致します。
    • (イ) 質量の関係: \(M = \sqrt{3} m \approx 1.73 m\)。Bの方が重いという結果です。鉛直成分 \(T_A \cos 45^\circ = mg\) と \(T_B \cos 30^\circ = Mg\) に、(ア)の関係 \(T_B = \sqrt{2} T_A\) を代入すると、\((\sqrt{2} T_A) \cos 30^\circ = Mg\) となります。2つの鉛直方向の式の比を取ると \(\displaystyle\frac{Mg}{mg} = \frac{\sqrt{2} T_A \cos 30^\circ}{T_A \cos 45^\circ}\) となり、これを計算しても \(M/m = \sqrt{3}\) が得られ、自己無撞着であることが確認できます。
  • 別解との比較:
    • 力の成分分解による代数的な解法と、力のベクトル三角形による幾何学的な解法は、全く異なるアプローチです。しかし、両者で完全に同じ結果が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを強力に裏付けます。どちらの解法もマスターしておくことで、問題に応じて最適なツールを選択できるようになります。

62 滑車につるした板上の人のつりあい

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、滑車を介して自分自身や板を支える状況における力のつり合いを扱う、力学の典型的な問題です。特に、複数の物体(人と板)が相互に力を及ぼし合う状況で、どの物体に着目し、どのように力を図示するかが問われます。作用・反作用の法則や、系全体で考える「内力・外力」の概念を正しく理解しているかが試されます。

与えられた条件
  • 板に乗っている人の質量: \(m_1 \text{ [kg]}\)
  • 板の質量: \(m_2 \text{ [kg]}\)
  • 重力加速度の大きさ: \(g \text{ [m/s}^2\text{]}\)
  • 質量の関係: \(m_1 > m_2\)
問われていること
  • (1) 別の人がひもを引いて系を静止させたときの張力 \(T_1\)。
  • (2) 板に乗っている人自身がひもを引いて系を静止させたときの張力 \(T_2\) と、人が板から受ける垂直抗力 \(N_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「作用・反作用と力のつり合い」です。特に設問(2)では、複数の物体からなる系を「個々の物体に分解して考える」方法と、「系全体を一つの物体とみなして考える」方法の両方が有効であり、物理現象を多角的に捉える良い練習になります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 着目物体の設定: どの物体(人、板、あるいは人と板を合わせた系)の力のつり合いを考えるのかを明確に決めることが第一歩です。
  2. 力の図示: 着目物体に働く力を、重力、張力、垂直抗力など、すべて漏れなく図示します。
  3. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに同じ大きさで逆向きの力を及ぼします。この関係を正しく適用することが重要です。
  4. 力のつり合い: 物体が静止しているとき、その物体に働く力のベクトル和はゼロになります。これを鉛直方向の力のつり合いの式として立式します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、人と板を一つの物体(系)とみなし、この系全体に働く外力(張力と重力)のつり合いを考えます。
  2. (2)では、まず「人」と「板」をそれぞれ別々の着目物体とし、それぞれに働く力のつり合いの式を立てます。作用・反作用の法則を使い、2つの式を連立させて解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
別の人がひもを引いている状況です。この場合、人と板は一体となって動く(この場合は静止する)ため、一つの大きな物体とみなして考えるのが最もシンプルで効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 着目物体: 人と板を合わせた「系全体」を一つの物体とみなします。
  • 物体の質量: 系全体の質量は \(m_1 + m_2\) となります。
  • 働く力: この系に働く力は、鉛直上向きに引かれる張力 \(T_1\) と、鉛直下向きに働く全体の重力 \((m_1 + m_2)g\) の2つだけです。人と板の間の垂直抗力は、系内部の力(内力)なので、系全体のつり合いには関係しません。

具体的な解説と立式
人と板を、質量が \((m_1 + m_2)\) の一つの物体とみなします。
この物体は静止しているので、働く力はつり合っています。
この物体に働く力は、

  • 鉛直上向き:ひもの張力 \(T_1\)
  • 鉛直下向き:全体の重力 \((m_1 + m_2)g\)

の2つです。
したがって、鉛直方向の力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ T_1 – (m_1 + m_2)g = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

上記で立てた力のつり合いの式を \(T_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= (m_1 + m_2)g
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

人と板をまとめて一つの「おもり」と考えます。このおもりの重さは、人と板の重さの合計、つまり \((m_1 + m_2)g\) です。このおもりを宙に浮かせて静止させるためには、重さと全く同じ大きさの力で真上に引っ張る必要があります。したがって、ひもを引く力 \(T_1\) は、全体の重さに等しくなります。

結論と吟味

張力の大きさ \(T_1\) は \((m_1 + m_2)g\) [N] です。
これは、人と板の合計質量を支えるために必要な力であり、物理的に非常に妥当な結果です。

解答 (1) \((m_1 + m_2)g\) [N]

問(2)

思考の道筋とポイント
板に乗っている人自身がひもを引く状況です。この場合、人がひもを引く力は、系全体から見ると「内力」として扱われるため、(1)のように単純に系全体で考えることができません(※後述の別解では系全体で考えます)。
基本に立ち返り、「人」と「板」をそれぞれ別々の物体として扱い、それぞれに働く力のつり合いを考えるのが確実な解法です。
この設問における重要なポイント

  • 着目物体の分離: 「人」と「板」を別々に考え、それぞれに働く力を図示します。
  • 作用・反作用の法則の適用:
    1. 張力: 人がひもを大きさ \(T_2\) の力で引くと、作用・反作用の法則により、ひもも人を同じ大きさ \(T_2\) の力で引き返します(上向き)。
    2. 垂直抗力: 人が板から大きさ \(N_2\) の垂直抗力を受ける(上向き)と、作用・反作用の法則により、人も板を同じ大きさ \(N_2\) の力で押します(下向き)。
  • 連立方程式: 「人」のつり合いの式と、「板」のつり合いの式、2つの式を立てて連立させ、\(T_2\) と \(N_2\) を求めます。

具体的な解説と立式
1. 「人」に着目する

人に働く力は以下の3つです。

  • 鉛直上向き:ひもが人を引く張力 \(T_2\)
  • 鉛直上向き:板が人を支える垂直抗力 \(N_2\)
  • 鉛直下向き:人の重力 \(m_1 g\)

「人」についての力のつり合いの式は、

$$ T_2 + N_2 – m_1 g = 0 \quad \cdots ① $$
2. 「板」に着目する

板に働く力は以下の3つです。

  • 鉛直上向き:ひもが板を引く張力 \(T_2\) (軽いひもの両端の張力は等しい)
  • 鉛直下向き:人が板を押す力 \(N_2\) (垂直抗力の反作用)
  • 鉛直下向き:板の重力 \(m_2 g\)

「板」についての力のつり合いの式は、

$$ T_2 – N_2 – m_2 g = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 作用・反作用の法則
計算過程

式①と式②の連立方程式を解いて、\(T_2\) と \(N_2\) を求めます。

\(T_2\) を求める:

式①と式②を辺々加えると、\(N_2\) が消去されます。

$$ (T_2 + N_2 – m_1 g) + (T_2 – N_2 – m_2 g) = 0 $$
$$
\begin{aligned}
2T_2 – m_1 g – m_2 g &= 0 \\[2.0ex]
2T_2 &= (m_1 + m_2)g \\[2.0ex]
T_2 &= \frac{m_1 + m_2}{2} g
\end{aligned}
$$

\(N_2\) を求める:

式①から式②を辺々引くと、\(T_2\) が消去されます。

$$ (T_2 + N_2 – m_1 g) – (T_2 – N_2 – m_2 g) = 0 $$
$$
\begin{aligned}
2N_2 – m_1 g + m_2 g &= 0 \\[2.0ex]
2N_2 &= (m_1 – m_2)g \\[2.0ex]
N_2 &= \frac{m_1 – m_2}{2} g
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)は少し複雑です。「人」と「板」を別々の登場人物として考えます。

  • 「人」の視点:自分は地球に下に引かれ(重力)、ひもに上に引っ張られ、さらに板に足元から上に押し上げられて(垂直抗力)、空中で静止しています。この3つの力のつり合いを式にします。
  • 「板」の視点:自分は地球に下に引かれ(重力)、人に上から踏みつけられ(垂直抗力の反作用)、ひもに上に引っ張られて、空中で静止しています。この3つの力のつり合いも式にします。

この2つの式を組み合わせる(連立方程式を解く)ことで、ひもを引く力 \(T_2\) と、板が人を支える力 \(N_2\) が計算できます。

結論と吟味

張力 \(T_2\) は \(\displaystyle\frac{m_1 + m_2}{2} g\) [N]、垂直抗力 \(N_2\) は \(\displaystyle\frac{m_1 – m_2}{2} g\) [N] です。
(1)の結果と比較すると、\(T_2 = T_1 / 2\) となっています。これは、(1)では1本のひもで全体の重さを支えていたのに対し、(2)では人が引くひもと板につながったひもの2本が上向きに力を及ぼし、全体の重さを分担して支えていると解釈できます(詳細は別解)。
また、\(m_1 > m_2\) という条件から \(N_2 > 0\) となり、人が板から離れずに乗っている状態であることが確認でき、物理的に妥当です。

別解: 系全体に着目する解法

思考の道筋とポイント
(2)の問題も、人と板を合わせた「系全体」として考えることができます。ただし、力の数え方に注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 着目物体: 人と板を合わせた「系全体」。質量は \((m_1 + m_2)\)。
  • 外力の図示: この系に働く「外からの力」をすべて図示します。
    • 鉛直下向き:全体の重力 \((m_1 + m_2)g\)。
    • 鉛直上向き:板につながったひもが系を引く張力。
    • 鉛直上向き:人が引いているひもが系(人)を引く張力。
  • 張力の扱い: 軽いひもの張力はどこでも等しいので、2つの上向きの張力はどちらも同じ大きさ \(T_2\) です。

具体的な解説と立式
人と板を合わせた系全体に着目します。
この系に働く外力は以下の通りです。

  • 鉛直上向き:板のフックにつながったひもが、板を引く力 \(T_2\)。
  • 鉛直上向き:人が手に持ったひもが、人を引く力 \(T_2\)。
  • 鉛直下向き:人と板の合計の重力 \((m_1 + m_2)g\)。

人と板の間の垂直抗力 \(N_2\) は、系内部で及ぼしあう力(内力)なので、系全体のつり合いを考える際には考慮しません。
系全体の力のつり合いの式は、
$$ T_2 + T_2 – (m_1 + m_2)g = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(外力に着目)
計算過程

上記で立てた力のつり合いの式を \(T_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2T_2 &= (m_1 + m_2)g \\[2.0ex]
T_2 &= \frac{m_1 + m_2}{2} g
\end{aligned}
$$
この結果は、主たる解法で得られた \(T_2\) と一致します。

\(N_2\) を求めるには、この \(T_2\) の結果を、主たる解法で立てた式①(または②)に代入する必要があります。
式①に代入すると、

$$ \left( \frac{m_1 + m_2}{2} g \right) + N_2 – m_1 g = 0 $$
$$
\begin{aligned}
N_2 &= m_1 g – \frac{m_1 + m_2}{2} g \\[2.0ex]
&= \frac{2m_1 – (m_1 + m_2)}{2} g \\[2.0ex]
&= \frac{m_1 – m_2}{2} g
\end{aligned}
$$
となり、こちらも一致します。

計算方法の平易な説明

人と板をまとめて一つのシステムと考えます。このシステム全体を支えているのは、板につながっているひもと、人が手に持っているひもの「2本のひも」です。この2本のひもが、力を合わせてシステム全体の重さ \((m_1 + m_2)g\) を支えていると考えます。したがって、1本あたりの張力 \(T_2\) は、全体の重さのちょうど半分になります。

結論と吟味

系全体に着目する方法は、\(T_2\) を非常に素早く求めることができる強力な手法です。ただし、\(N_2\) のような内力を求めるには、結局は個別の物体に着目した式が必要になります。両方の視点を理解し、問題に応じて使い分けることが重要です。

解答 (2) \(T_2 = \displaystyle\frac{m_1+m_2}{2}g\) [N], \(N_2 = \displaystyle\frac{m_1-m_2}{2}g\) [N]

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 着目物体の設定と力の図示:
    • 核心: この問題の成否は、どの物体(あるいは物体の集まり)を「主役」として考えるかを正しく設定できるかにかかっています。設定した主役(着目物体)に対して、外部からどのような力が働いているかを漏れなく、かつ正確に図示することが物理的思考の出発点です。
    • 理解のポイント: (1)では「人と板のセット」を一つの物体と見るのが賢明です。(2)では「人」と「板」を別々に見て、それぞれの力のつり合いを考えるのが基本ですが、「人と板のセット」を主役にして外力だけを考える別解も強力です。
  • 作用・反作用の法則:
    • 核心: 複数の物体が接触したり、力を及ぼし合ったりする問題では、作用・反作用の法則の正しい理解が不可欠です。(2)において、「人が板を押す力」と「板が人を支える垂直抗力」、「人がひもを引く力」と「ひもが人を引く張力」は、それぞれ同じ大きさで逆向きの関係にあります。
    • 理解のポイント: つり合いの2力と作用・反作用の2力は全くの別物です。「つり合い」は一つの物体に働く複数の力の関係、「作用・反作用」は二つの物体の間で及ぼしあう力の関係です。この区別を明確に意識することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動滑車を含む問題: 動滑車は、この問題の(2)と同様に、1本のひもが2か所で上向きの力を及ぼすことで、より小さい力で物体を持ち上げる装置です。動滑車そのものに着目して力のつり合いを考える点で、本質は同じです。
    • エレベーター内の物体: エレベーターが加速度運動している場合、中の人にはたらく垂直抗力(体重計の目盛り)が変化します。人とエレベーター(箱)を別々に考えたり、一体として考えたりする点で、思考法が共通しています。
    • 積み重なった物体の運動: 上の物体と下の物体の間に働く垂直抗力や摩擦力を考える問題。それぞれの物体に着目して運動方程式を立て、作用・反作用の関係を使いながら連立して解くプロセスが全く同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 内力と外力を見極める: 複数の物体からなる「系」を考えるとき、系内部で及ぼしあう力(内力)と、系の外から及ぼされる力(外力)を区別する視点を持ちましょう。系全体の運動(や静止)を決めるのは外力の合力です。
    2. 力を分解して考えるか、系で考えるか: 求めたいものが内力(この問題の\(N_2\)など)を含む場合は、物体を分解して考える必要があります。外力に関わる量(この問題の\(T_2\)など)だけを求めたい場合は、系全体で考えると計算が楽になることが多いです。
    3. 力の作用点を明確にする: 「誰が」「誰に」力を及ぼしているのかを主語・目的語を明確にして考えましょう。「ひもが人を引く力」「板が人を支える力」「人が板を押す力」のように言葉にすることで、力の図示のミスが減ります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • (2)で人と板を一体とみなしてしまうミス:
    • 誤解: (1)と同じように、(2)でも人と板を一体とみなし、張力\(T_2\)だけで全体の重さ\((m_1+m_2)g\)を支えていると考えて、\(T_2 = (m_1+m_2)g\)としてしまう。
    • 対策: (1)と(2)の違いは「誰がひもを引いているか」です。(2)では、人がひもを引く力は系に対する「内力」ですが、その反作用として「ひもが人を引く力」と、もう一方の「ひもが板を引く力」という2つの上向きの「外力」が系に働くことになります。この構造の違いを正しく図示することが重要です。
  • 作用・反作用の力の描き忘れ:
    • 誤解: 「人」のつり合いを考えるときに垂直抗力\(N_2\)を上向きに描いたのに、「板」のつり合いを考えるときに、人が板を押す下向きの力\(N_2\)を描き忘れる。
    • 対策: 接触する物体間には、必ずペアになる力が存在することを常に意識しましょう。物体Aの図に力Fを描き込んだら、「これは誰から受けた力か?物体Bか。では、物体Bの図には、Aから受ける逆向きの力-Fを描き込まねば」と機械的に確認する習慣をつけましょう。
  • 張力の大きさを混同する:
    • 誤解: 人がひもを\(T_2\)で引いているので、人に働く上向きの力は\(T_2\)だが、板に働く上向きの力は別の張力だと考えてしまう。
    • 対策: 「一つのなめらかな滑車にかかった、質量が無視できる軽いひも」では、張力の大きさはどこでも等しい、という基本原則を思い出しましょう。したがって、板を引く力も人を引く力も同じ\(T_2\)となります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラム(力の図示): この問題の最重要スキルです。解析したい物体(人、板)をそれぞれ単独で抜き出して描き、その物体に働く力「だけ」を矢印で記入します。この図を正確に描ければ、問題は半分以上解けたことになります。
    • (2)の構造のイメージ化: 人と板を合わせた全体の重さ\((m_1+m_2)g\)を、2つの上向きの力(ひもが板を引く力と、ひもが人を引く力)が協力して支えている、というイメージを持つと、別解の「系で考える」アプローチが理解しやすくなります。まるで、一つの荷物を二人で持ち上げているような状況に似ています。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 着目物体を明確に囲む: フリーボディダイアグラムを描く際、点線などで着目物体を囲み、「今はこの中だけを見ている」と意識を集中させると、余計な力を描き込むミスを防げます。
    • 作用・反作用を色分けする: 垂直抗力の作用・反作用のペアを同じ色で描くなど、視覚的に関係性を分かりやすくする工夫も有効です。
    • 力の矢印の始点: 重力は物体の重心から、張力はひもの接続点から、垂直抗力は接触面から、と力の作用点を意識して描くと、より正確な図になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式 (\(F_{\text{上向きの力の和}} = F_{\text{下向きの力の和}}\)):
    • 選定理由: 問題文に「静止した」とあるため。静止状態は、物理学的には加速度がゼロの状態を意味します。
    • 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma=F_{\text{合力}}\) において、加速度\(a=0\)なので、合力\(F_{\text{合力}}=0\)となります。これは、物体に働く力のベクトル和がゼロ、すなわち、上向きの力の和と下向きの力の和が等しいことを意味します。この原理を、設定した各着目物体に適用します。
  • 連立方程式:
    • 選定理由: (2)において、求めたい未知数(\(T_2, N_2\))が2つあり、一方で「人」と「板」という2つの物体について独立したつり合いの式を立てることができるため。
    • 適用根拠: 未知数の数と、独立な方程式の数が一致すれば、原理的にその未知数を解くことができるという数学的な要請に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 張力\(T_1\)の計算:
    • 戦略: 人と板を一つの「系」とみなす。
    • フロー: ①着目物体を「人と板のセット」に設定 → ②この系に働く外力(張力\(T_1\)、全体の重力\((m_1+m_2)g\))を図示 → ③鉛直方向の力のつり合いを立式 (\(T_1 – (m_1+m_2)g = 0\)) → ④式を\(T_1\)について解く。
  2. (2) 張力\(T_2\)と垂直抗力\(N_2\)の計算:
    • 戦略: 「人」と「板」を別々に考え、連立方程式を立てる。
    • フロー: ①「人」に着目し、働く力(重力\(m_1g\)、張力\(T_2\)、垂直抗力\(N_2\))を図示 → ②「人」の力のつり合いを立式(式①) → ③「板」に着目し、働く力(重力\(m_2g\)、張力\(T_2\)、垂直抗力の反作用\(N_2\))を図示 → ④「板」の力のつり合いを立式(式②) → ⑤式①と式②を連立して解き、\(T_2\)と\(N_2\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 加減法を有効に使う: (2)の連立方程式を解く際、式①と式②を足し合わせると\(N_2\)が、引き算すると\(T_2\)が綺麗に消去できます。このように、どの未知数を消去したいかに応じて加減法を使い分けると、計算がスムーズに進み、ミスも減ります。
  • 文字式の整理: 計算の最終段階で、\(g\)を括り出すなど、式を整理する習慣をつけましょう。例えば、\(T_2 = \displaystyle\frac{m_1g+m_2g}{2}\) ではなく \(T_2 = \displaystyle\frac{m_1+m_2}{2}g\) と書く方が、物理的な意味(全体の質量の半分にかかる重力)が見やすくなります。
  • 符号の確認: 式を移項したり、辺々引き算したりする際の符号ミスは頻発します。計算の各ステップで、符号の扱いが正しいかを見直す癖をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(T_2\)の大きさ: \(T_2 = \displaystyle\frac{m_1+m_2}{2}g\) は、(1)の\(T_1 = (m_1+m_2)g\)のちょうど半分です。これは、(2)では2本の上向きの力で全体を支えているという物理的イメージと合致しており、妥当です。
    • \(N_2\)の大きさ: \(N_2 = \displaystyle\frac{m_1-m_2}{2}g\)。問題の条件 \(m_1 > m_2\) より、\(N_2 > 0\) となります。これは、人が板を確かに押しており、浮き上がっていないことを意味します。もし \(m_1 < m_2\) なら\(N_2\)が負になり、人が板から離れてしまう(ひもにぶら下がる)状況に対応し、物理的に筋が通っています。もし \(m_1 = m_2\) なら \(N_2=0\) となり、人は板に接しているだけで力を及ぼさない(体重を感じない)状態になります。
  • 別解との比較:
    • (2)の\(T_2\)は、「個々の物体」に着目する方法と、「系全体」に着目する方法の2通りで求められました。全く異なるアプローチで同じ答えが得られたことは、計算の正しさと物理モデルの妥当性を強く裏付けます。
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63 斜面上のつりあい

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