基本例題
基本例題10 力の合成
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力の合成と成分分解」です。ベクトルとして表される力を、作図や成分計算によって正しく合成する基本的な方法が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の合成(ベクトル和): 複数の力を1つの力にまとめること。合力は、元の力のベクトル和に等しい。
- 平行四辺形の法則: 2つのベクトルを合成する際の作図法。2つのベクトルを隣り合う2辺とする平行四辺形を描くと、その対角線が合力ベクトルとなる。
- 力の成分分解: 1つの力を、互いに直交する2方向(通常は\(x\)軸、\(y\)軸方向)の力に分解すること。
- 三平方の定理: 直角三角形の3辺の長さの関係。ベクトルの成分からその大きさを求める際に利用する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題の図に示された2つの力ベクトル \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を使って、平行四辺形の法則に従い合力を作図します。
- (2)では、まず図の目盛りから \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の\(x\)成分と\(y\)成分をそれぞれ読み取ります。次に、各成分の和を計算して、合力の\(x\)成分と\(y\)成分を求めます。
- (3)では、(2)で求めた合力の\(x\)成分と\(y\)成分を用いて、三平方の定理により合力の大きさ(ベクトルの長さ)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の合力を作図する問題です。力がベクトル量、つまり大きさと向きを持つ量であることを理解し、ベクトルの合成ルールに従って作図できるかが問われます。ここでは、始点が揃っている2つのベクトルの合成なので「平行四辺形の法則」を用いるのが最も直感的です。
この設問における重要なポイント
- 力の合成は、ベクトルの足し算で考える。
- 作図では、\(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を隣り合う2辺とする平行四辺形を描き、始点(原点)から対角線のもう一方の頂点へ引いた矢印が合力となる。
具体的な解説と立式
合力 \(\vec{F}\) は、力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) のベクトル和として定義されます。
$$ \vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2} $$
このベクトル和を作図で求めるには、「平行四辺形の法則」を用います。
- 力 \(\vec{F_1}\) の終点を通り、\(\vec{F_2}\) に平行な直線を引く。
- 力 \(\vec{F_2}\) の終点を通り、\(\vec{F_1}\) に平行な直線を引く。
- この2本の直線が交わる点(平行四辺形の第4の頂点)を求める。
- 力の始点である原点Oから、この交点に向かって矢印を引く。この矢印が求める合力 \(\vec{F}\) です。
使用した物理公式
- ベクトルの和の定義: \(\vec{C} = \vec{A} + \vec{B}\)
この設問は作図が目的であり、具体的な数値計算は不要です。
2つの力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を合わせた力を図に描く問題です。2つの力の矢印を使って「平行四辺形」を作ります。その平行四辺形の、力の出発点(原点)から伸びる「対角線」が、2つの力を合わせた合力の矢印になります。
図上に \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を2辺とする平行四辺形を描き、原点からその対角線の頂点へ引いたベクトルが求める合力となります。解答の図は、この手順に正しく従っています。
問(2)
思考の道筋とポイント
合力の\(x\)成分と\(y\)成分を求める問題です。「合力の成分は、各力の成分の和に等しい」という、ベクトル合成の基本ルールを用いて計算します。そのためには、まず図の目盛りを正確に読み取り、\(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) それぞれの\(x\)成分と\(y\)成分を求めることが第一歩となります。
この設問における重要なポイント
- 合力の\(x\)成分は、各力の\(x\)成分の和で求められる。
- 合力の\(y\)成分は、各力の\(y\)成分の和で求められる。
- 図の1目盛りが\(1 \text{ N}\) であることと、\(x, y\) 軸の正負の向きに注意して成分を読み取る。
具体的な解説と立式
まず、図のグラフから力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の各成分を読み取ります。1目盛りが \(1 \text{ N}\) であることに注意します。
力 \(\vec{F_1}\) の成分を \(F_{1x}\), \(F_{1y}\) とし、力 \(\vec{F_2}\) の成分を \(F_{2x}\), \(F_{2y}\) とします。
合力 \(\vec{F}\) の\(x\)成分を \(F_x\)、\(y\)成分を \(F_y\) とすると、これらは各力の成分の和として計算できます。
$$ F_x = F_{1x} + F_{2x} \quad \cdots ① $$
$$ F_y = F_{1y} + F_{2y} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ベクトルの和の成分表示: 2つのベクトル \(\vec{A}=(A_x, A_y)\), \(\vec{B}=(B_x, B_y)\) の和は、\(\vec{A}+\vec{B} = (A_x+B_x, A_y+B_y)\) となる。
図から各力の成分を読み取ります。
\(\vec{F_1}\) について、終点の座標は \((8, 5)\) なので、
$$ F_{1x} = 8 \text{ [N]} $$
$$ F_{1y} = 5 \text{ [N]} $$
\(\vec{F_2}\) について、終点の座標は \((-2, 3)\) なので、
$$ F_{2x} = -2 \text{ [N]} $$
$$ F_{2y} = 3 \text{ [N]} $$
これらの値を①式、②式に代入して合力の成分を計算します。
合力の\(x\)成分 \(F_x\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_x &= 8 + (-2) \\[2.0ex]&= 6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
合力の\(y\)成分 \(F_y\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_y &= 5 + 3 \\[2.0ex]&= 8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
力を「横方向(\(x\)成分)」と「縦方向(\(y\)成分)」に分けて考えます。
\(\vec{F_1}\) は、横に8マス、縦に5マス進む力です。
\(\vec{F_2}\) は、横に-2マス(左に2マス)、縦に3マス進む力です。
2つの力を合わせると、横方向の動きは「8マス進む」と「-2マス進む」を合わせて、\(8 + (-2) = 6\)マス進む動きになります。
縦方向の動きは「5マス進む」と「3マス進む」を合わせて、\(5 + 3 = 8\)マス進む動きになります。
1マスが \(1 \text{ N}\) なので、合力の\(x\)成分は \(6 \text{ N}\)、\(y\)成分は \(8 \text{ N}\) となります。
合力の\(x\)成分は \(6 \text{ N}\)、\(y\)成分は \(8 \text{ N}\) です。この結果は、(1)で描いた合力ベクトルの終点が座標 \((6, 8)\) にあることと一致しており、計算が正しいことを裏付けています。
問(3)
思考の道筋とポイント
合力の大きさを求める問題です。力の大きさとは、その力ベクトルの長さに対応します。(2)で合力の\(x\)成分と\(y\)成分が求まっているので、これらを2辺とする直角三角形を考え、その斜辺の長さを三平方の定理(ピタゴラスの定理)を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- ベクトルの大きさは、その成分を使って三平方の定理で求められる。
- ベクトル \(\vec{F}\) の成分が \((F_x, F_y)\) のとき、その大きさ \(F\) は \(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
合力の\(x\)成分 \(F_x\) と \(y\)成分 \(F_y\) は、互いに直交しています。したがって、\(F_x\), \(F_y\) を2辺とし、合力ベクトル \(\vec{F}\) を斜辺とする直角三角形を考えることができます。
三平方の定理を適用すると、合力の大きさ \(F\) (ベクトルの長さ)は、次のように表せます。
$$ F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2} $$
使用した物理公式
- 三平方の定理: \(c = \sqrt{a^2 + b^2}\)
(2)で求めた合力の成分 \(F_x = 6 \text{ [N]}\), \(F_y = 8 \text{ [N]}\) を上の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \sqrt{6^2 + 8^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{36 + 64} \\[2.0ex]&= \sqrt{100} \\[2.0ex]&= 10 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(2)の結果から、合力は「横に6、縦に8」進む力だと分かりました。この力の矢印の長さを求めます。この矢印は、底辺の長さが6、高さが8の直角三角形の「斜辺」にあたります。中学校で習った三平方の定理を使うと、斜辺の長さは「ルート(底辺の2乗たす高さの2乗)」で計算できます。つまり、\(\sqrt{6^2 + 8^2}\) を計算すれば、力の大きさが求まります。
合力の大きさは \(10 \text{ N}\) となります。成分が \(6 \text{ N}\) と \(8 \text{ N}\) で、大きさが \(10 \text{ N}\) というのは、辺の比が \(6:8:10 = 3:4:5\) の有名な直角三角形に対応しており、計算結果は妥当であると確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力はベクトル量であること:
- 核心: この問題の全ては、「力は大きさと向きを持つベクトル量である」という一点に集約されます。したがって、力の合成や分解は、単なる数値の足し算や引き算ではなく、ベクトル特有のルールに従って行わなければなりません。
- 理解のポイント:
- 力の合成(ベクトルの和): 複数の力を1つの力にまとめる操作です。作図では「平行四辺形の法則」、計算では「各成分の和」を用います。この2つの方法は見た目は違いますが、同じベクトル和を求めており、本質的に等価です。
- 力の分解(ベクトルの成分): 1つの力を互いに直交する2つの力(\(x\)成分、\(y\)成分)に分ける操作です。複雑な向きの力を、扱いやすい軸方向に分解することで、計算が格段に容易になります。
- 成分によるベクトル演算の有効性:
- 核心: ベクトルを成分で表示すれば、力の合成は単なる成分ごとの足し算になり、機械的な計算に落とし込むことができます。
- 理解のポイント:
- 合力の\(x\)成分 = 各力の\(x\)成分の総和
- 合力の\(y\)成分 = 各力の\(y\)成分の総和
- この考え方は、力がいくつに増えても、2次元から3次元に拡張されても通用する、非常に強力な手法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 3つ以上の力の合成: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がある場合、作図で求めるのは煩雑です。各力の\(x\)成分、\(y\)成分をそれぞれ求め、\(F_x = F_{1x}+F_{2x}+F_{3x}\), \(F_y = F_{1y}+F_{2y}+F_{3y}\) のように、全成分を一度に足し合わせるのが最も効率的です。
- 力のつりあい: 物体にはたらく力の合力がゼロになる状態です。これは、合力の各成分がゼロになることと同値です。つまり、\(F_x = 0\) かつ \(F_y = 0\) という連立方程式を立てて解く問題に応用できます。
- 斜面上の物体の運動: 重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解するのは、力の分解の典型的な応用例です。この場合、\(x, y\)軸を水平・鉛直方向ではなく、斜面に沿った方向とそれに垂直な方向にとると計算が簡単になります。
- 角度を用いた成分計算: 力の大きさと角度(例:\(x\)軸の正の向きとなす角 \(\theta\))が与えられた場合、\(F_x = F \cos\theta\), \(F_y = F \sin\theta\) のように三角関数を用いて成分を計算する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸の確認・設定: まず、問題で与えられている\(x, y\)軸の向きを確認します。与えられていない場合は、計算が最も楽になるように自分で設定します。
- 全ベクトルの成分分解: 複数の力が働いている場合、まずは全ての力ベクトルを\(x\)成分と\(y\)成分に分解することから始めます。これが問題を解く上での基本動作です。
- 「作図」か「計算」かの判断: 問題が「作図せよ」と求めているのか、「大きさを求めよ」と求めているのかを明確に区別します。後者の場合は、成分計算から三平方の定理に持ち込むのが王道です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の大きさを単純に足してしまう(スカラー和の誤り):
- 誤解: (3)で合力の大きさを求める際に、\(\vec{F_1}\) の大きさと \(\vec{F_2}\) の大きさをそれぞれ計算し、それらを足してしまう。
- 対策: 「力はベクトルであり、向きを考慮しなければならない」と常に心に刻むこと。力の合成は、必ず「成分の和」を計算してから、最後に「三平方の定理」で大きさを求める、という手順を徹底する。
- 成分の符号ミス:
- 誤解: \(\vec{F_2}\) の\(x\)成分を、図から「左に2マス」と読み取ったにもかかわらず、計算時にうっかり正の数 \(2 \text{ N}\) として扱ってしまう。
- 対策: 座標軸の正の向きを最初に確認し、各ベクトルの矢印の先端がどの象限にあるかを見て、成分の符号(+, -)を判断する習慣をつける。特に、負の成分には計算時に括弧をつけるなど、注意深く扱う。
- 作図における平行四辺形の法則の誤用:
- 誤解: (1)の作図で、\(\vec{F_1}\) の終点から \(\vec{F_2}\) をそのままつなげてしまう(三角形の法則)のは良いが、その際に \(\vec{F_2}\) を平行移動させず、原点から引いた \(\vec{F_2}\) をそのまま使おうとして混乱する。
- 対策: 始点が揃っているベクトルの和は「平行四辺形の法則」と機械的に覚えるのが安全です。方眼紙を利用し、各ベクトルの終点から、もう一方のベクトルと「同じ向き」で「同じマス目分」だけ移動した点をプロットし、平行四辺形を正確に描く練習をする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ベクトルの成分和 (\(F_x = F_{1x} + F_{2x}\), \(F_y = F_{1y} + F_{2y}\)):
- 選定理由: (2)で合力の成分を求めるために使用します。これは、向きの異なるベクトルを直接扱う作図よりも、数式を用いて機械的かつ正確に計算するための最も基本的な手法です。
- 適用根拠: この公式はベクトル和の定義そのものです。ベクトルを足し合わせるという操作は、物理的には「\(x\)方向の変位」と「\(y\)方向の変位」をそれぞれ独立に足し合わせる操作と等価である、という考え方に基づいています。座標系を導入することで、幾何学的な問題を代数的な問題に変換しているのです。
- 三平方の定理 (\(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\)):
- 選定理由: (3)で、直交する2つの成分からベクトルの大きさ(長さ)を算出するために使用します。これは、成分表示されたベクトルの大きさを求めるための普遍的な公式です。
- 適用根拠: 合力の\(x\)成分 \(F_x\) と\(y\)成分 \(F_y\) は、定義上互いに直角です。したがって、この2つの成分ベクトルと、それらの合力ベクトル \(\vec{F}\) の3つで直角三角形が形成されます。三平方の定理は、この直角三角形の3辺の長さの関係を数学的に表したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 目盛りの読み取り: 問題用紙のグラフの「1目盛りが何を表すか」(今回は \(1 \text{ N}\))を最初に必ず確認し、丸で囲むなどして意識づける。
- 符号の確認: 各力の成分を読み取る際、矢印の先端の座標を「\((x, y)\)」の形で書き出し、\(x\)座標と\(y\)座標の符号が正しいかを必ず確認する。特に第2、第3、第4象限にあるベクトルは要注意。
- 計算式の丁寧な記述: \(F_x = 8 + (-2)\) のように、負の数を足し合わせる際は必ず括弧を用いる。暗算に頼らず、途中式をきちんと書くことで、符号ミスを防ぐ。
- ピタゴラス数の活用: (3)の計算で \(F = \sqrt{6^2+8^2}\) が出てきた時点で、辺の比が \(6:8 = 3:4\) であることに気づけば、斜辺は5に対応する \(10\) になるな、と予測ができます。このような有名な整数比(\(3:4:5\), \(5:12:13\) など)を覚えておくと、計算結果の検算に非常に役立ちます。
基本例題11 力のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「静止した物体にはたらく力のつり合い」です。おもりが静止している、という状況から、おもりにはたらく力の合力がゼロになる、というつり合いの条件を用いて、未知の張力を求めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力のベクトル和(合力)はゼロになります。
- 力の成分分解: 斜め方向の力は、計算を容易にするために互いに直交する2方向(多くは水平・鉛直方向)の成分に分解して考えます。
- 三平方の定理とその逆: 辺の長さが \(a, b, c\) の三角形において \(a^2 + b^2 = c^2\) が成り立つならば、その三角形は辺 \(c\) を斜辺とする直角三角形です。この問題では、与えられた糸の長さから、糸と糸がなす角度が90°であることを見抜くのに使います。
- 力の三角形: 3つの力がつりあっている場合、それらの力ベクトルを順に繋ぐと、閉じた三角形を形成します。この図形的な性質を利用して問題を解くこともできます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 解法1(成分分解): おもりにはたらく2つの張力を水平成分と鉛直成分に分解します。「水平方向の力の和=0」「鉛直方向の力の和=0」という2つのつり合いの式を立て、連立方程式として解きます。
- 解法2(力の三角形): おもりにはたらく3つの力(張力2つと重力)で「力の三角形」を描きます。この力の三角形と、空間に存在する糸が作る三角形との相似関係を利用して、辺の比から張力を直接求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、おもりにはたらく3つの力(張力\(\vec{T}\)、張力\(\vec{S}\)、重力\(\vec{W}\))がつりあっている状況を扱います。最も標準的で汎用性の高い解法は、斜めを向いている張力\(\vec{T}\)と\(\vec{S}\)を、水平・鉛直方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てることです。力の分解には角度の情報が必要ですが、それは問題文で与えられた3つの辺の長さ(30cm, 40cm, 50cm)から導き出します。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている \(\rightarrow\) 合力はゼロ。
- 合力がゼロ \(\rightarrow\) 水平方向の力の和もゼロ、かつ、鉛直方向の力の和もゼロ。
- 辺の長さが \(30, 40, 50\) の三角形は、\(3^2+4^2=5^2\) の関係から、辺30と辺40の間の角が90°の直角三角形であることを見抜く。
具体的な解説と立式
おもりには、糸aからの張力\(\vec{T}\)、糸bからの張力\(\vec{S}\)、そして鉛直下向きの重力\(\vec{W}\)(大きさ \(W=6.0 \text{ N}\))がはたらいています。
まず、糸a、糸b、天井ABで構成される三角形に注目します。辺の長さが \(30 \text{ cm}, 40 \text{ cm}, 50 \text{ cm}\) であり、
$$
\begin{aligned}
30^2 + 40^2 &= 900 + 1600 \\[2.0ex]&= 2500 \\[2.0ex]&= 50^2
\end{aligned}
$$
が成り立つため、三平方の定理の逆より、この三角形は糸aと糸bのなす角が90°の直角三角形です。
次に、張力\(\vec{T}\)と\(\vec{S}\)を水平・鉛直成分に分解します。そのために、糸bが天井(水平線)となす角を\(\theta\)とします。
空間図形より、この角\(\theta\)を持つ直角三角形の辺の比は \(3:4:5\) となります。
$$ \sin\theta = \frac{3}{5}, \quad \cos\theta = \frac{4}{5} $$
同様に、糸aが天井(水平線)となす角を\(\phi\)とすると、
$$ \sin\phi = \frac{4}{5}, \quad \cos\phi = \frac{3}{5} $$
おもりについて、水平方向(右向きを正)と鉛直方向(上向きを正)の力のつり合いを考えます。
水平方向のつり合い:
張力\(\vec{S}\)の水平成分 \(S\cos\theta\) と、張力\(\vec{T}\)の水平成分 \(-T\cos\phi\) の和がゼロになります。
$$ S\cos\theta – T\cos\phi = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向のつり合い:
張力\(\vec{S}\)の鉛直成分 \(S\sin\theta\)、張力\(\vec{T}\)の鉛直成分 \(T\sin\phi\)、そして重力 \(-W\) の和がゼロになります。
$$ S\sin\theta + T\sin\phi – W = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\)
- 三平方の定理の逆
求めた三角比の値と\(W=6.0 \text{ N}\)を、式①と②に代入します。
式①より:
$$
\begin{aligned}
S \cdot \frac{4}{5} – T \cdot \frac{3}{5} &= 0 \\[2.0ex]4S – 3T &= 0 \\[2.0ex]S &= \frac{3}{4}T \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式②より:
$$
\begin{aligned}
S \cdot \frac{3}{5} + T \cdot \frac{4}{5} – 6.0 &= 0 \\[2.0ex]3S + 4T &= 30 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式③を式④に代入して\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
3\left(\frac{3}{4}T\right) + 4T &= 30 \\[2.0ex]\frac{9}{4}T + \frac{16}{4}T &= 30 \\[2.0ex]\frac{25}{4}T &= 30 \\[2.0ex]T &= 30 \times \frac{4}{25} \\[2.0ex]&= \frac{120}{25} \\[2.0ex]&= 4.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
求めた\(T\)の値を式③に代入して\(S\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
S &= \frac{3}{4} \times 4.8 \\[2.0ex]&= 3 \times 1.2 \\[2.0ex]&= 3.6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
おもりは静止しているので、力がバランスしている状態です。斜め向きの力「張力T」と「張力S」を、それぞれ「横向きの力」と「縦向きの力」に分解して考えます。
力のバランスが取れているので、
1. 「右向きの力の合計」と「左向きの力の合計」が等しい
2. 「上向きの力の合計」と「下向きの力(重力)」が等しい
という2つの関係が成り立ちます。この2つの関係を数式にして、連立方程式として解くことで、TとSの大きさを求めることができます。
張力の大きさは、糸aが \(T=4.8 \text{ N}\)、糸bが \(S=3.6 \text{ N}\) となります。
ここで、\(T\)と\(S\)は直交しているので、その合力の大きさは
$$
\begin{aligned}
\sqrt{T^2+S^2} &= \sqrt{4.8^2+3.6^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{23.04+12.96} \\[2.0ex]&= \sqrt{36} \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
となり、重力の大きさと等しくなります。これは、2つの張力の合力が重力とつりあっていることを示しており、結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
おもりにはたらく3つの力 \(\vec{T}, \vec{S}, \vec{W}\) がつりあっているため、これらの力ベクトルを矢印の向きに沿ってつなぐと、出発点に戻ってくる閉じた三角形(力の三角形)を形成します。この「力の三角形」と、空間に存在する「糸が作る三角形」との間に相似関係があることを見抜いて解く、図形的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 3つの力がつりあう \(\iff\) 力ベクトルをつなぐと閉じた三角形ができる。
- 力のベクトルのなす角と、空間の辺のなす角の関係を正しく把握する。
- 力の三角形と空間の図形の相似関係を利用して、辺の比から力を求める。
具体的な解説と立式
3つの力 \(\vec{T}, \vec{S}, \vec{W}\) がつりあっているので、ベクトル和はゼロになります。
$$ \vec{T} + \vec{S} + \vec{W} = 0 $$
これは、3つのベクトルで閉じた三角形(力の三角形)が作れることを意味します。
- 糸aと糸bは直交しているので、力の三角形において、辺Tと辺Sは直角に交わります。
- したがって、力の三角形は、辺の大きさが\(T, S, W\)の直角三角形であり、重力\(W\)に対応する辺が斜辺となります。
- この力の三角形と、天井AB、糸a、糸bでできる空間の三角形は相似になります。
力の三角形の辺の比は、空間の三角形の対応する辺の比に等しくなります。
$$ T : S : W = (\text{糸bの長さ}) : (\text{糸aの長さ}) : (\text{天井ABの長さ}) $$
$$ T : S : 6.0 = 40 : 30 : 50 $$
この比を簡単な整数比にすると \(4:3:5\) となるため、
$$ T : S : 6.0 = 4 : 3 : 5 $$
この比例式から、\(T\)と\(S\)を求めます。
$$ \frac{T}{4} = \frac{6.0}{5} $$
$$ \frac{S}{3} = \frac{6.0}{5} $$
計算過程
上記の比例式を解きます。
$$
\begin{aligned}
T &= 6.0 \times \frac{4}{5} \\[2.0ex]&= \frac{24.0}{5} \\[2.0ex]&= 4.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
S &= 6.0 \times \frac{3}{5} \\[2.0ex]&= \frac{18.0}{5} \\[2.0ex]&= 3.6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
3つの力が釣り合っているとき、力の矢印を並べ替えると、ぴったり閉じた「力の三角形」ができます。面白いことに、この「力の三角形」は、問題図にある糸が作る「空間の三角形(辺が30cm, 40cm, 50cm)」と相似(同じ形)になります。空間の三角形の辺の比は \(3:4:5\) ですから、力の三角形の辺の比も \(S:T:重力 = 3:4:5\) となります。重力が \(6.0 \text{ N}\) なので、この比例関係を使って \(T\) と \(S\) を簡単に計算できます。
結論と吟味
張力の大きさは \(T=4.8 \text{ N}\), \(S=3.6 \text{ N}\) となり、成分分解で解いた場合と同じ結果が得られます。3つの力がつりあっており、図形的な特徴がはっきりしている場合には、非常に強力で素早い解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いの条件:
- 核心: 物体が静止している場合、その物体にはたらく全ての力のベクトル和(合力)はゼロである、という静力学の基本原則。
- 理解のポイント:
- 成分分解によるアプローチ: 「合力がゼロ」を「\(x\)成分の和がゼロ」かつ「\(y\)成分の和がゼロ」という2つの独立したスカラー方程式に分割して考える。これが最も汎用的な解法。
- 図形的なアプローチ(力の三角形): 3つの力がつりあう場合、力ベクトルを順に繋ぐと閉じた三角形ができる。この幾何学的性質を利用すると、計算を大幅に簡略化できることがある。
- 問題設定の図形的読解:
- 核心: 物理法則を適用する前に、問題の状況を正しく把握する能力。特に、与えられた辺の長さ(30, 40, 50)から、糸と糸が直角をなすことを見抜くことが、この問題をスムーズに解くための最大の鍵。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁に立てかけた棒のつり合い: 棒にはたらく重力、床からの垂直抗力と摩擦力、壁からの垂直抗力などのつり合いを考える問題。力の分解や、力のモーメントのつり合いも必要になることが多い。
- 複数の物体が糸で繋がれたつり合い: 滑車を介して複数の物体が静止している場合など。各物体、各接続点について力のつり合いの式を立てる。
- ラミの定理: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin\theta_1} = \frac{F_2}{\sin\theta_2} = \frac{F_3}{\sin\theta_3}\) という関係が成り立つ。今回の別解は、これを適用しているのと同じ。
- 初見の問題での着眼点:
- 力を全てリストアップ: まず、着目している物体にはたらく力を(重力、張力、垂直抗力、摩擦力など)漏れなく全て図に描き込む。
- 解法を選択する:
- 力が3つで、角度や辺の比が綺麗な場合 \(\rightarrow\) 「力の三角形」が使えないか検討する。
- 力が4つ以上ある、または図形が複雑な場合 \(\rightarrow\) 迷わず「成分分解」で解く。座標軸を適切に設定(水平・鉛直、または斜面に平行・垂直など)することが重要。
- 図形情報を見抜く: 与えられた長さや角度から、隠れた図形的な性質(直角、二等辺三角形、相似など)がないかを探す。これが計算を簡単にするヒントになる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 辺の長さと力の大きさを混同する:
- 誤解: 糸aの長さが30cm、糸bの長さが40cmだから、張力の比も \(T:S = 30:40\) だ、と早合点してしまう。
- 対策: 力の大きさと、作用する物体の長さは全くの別物であることを理解する。力の大きさの比は、あくまで「力の三角形」と「空間の図形」の正しい相似対応を見つけてから導出する。今回の問題では \(T:S = 40:30\) となり、逆の比になる。
- 力の分解における角度のミス:
- 誤解: 水平・鉛直に分解する際、\(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を取り違える。どの角度を\(\theta\)と置いたか、その角に対して分解後の成分が「隣辺」なのか「対辺」なのかを混同する。
- 対策: 自分で設定した角度\(\theta\)を必ず図に明記し、分解した力の成分の横に、その角を含む小さな直角三角形を描く癖をつける。そして「\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」と覚える。
- 力の数え忘れ・余計な力の追加:
- 誤解: おもりにはたらく力を考えるべきなのに、天井が糸を引く力などを考えてしまう。あるいは、重力を描き忘れる。
- 対策: 必ず「何に」はたらく力を考えているのかを明確にする。今回は「おもり」に着目しているので、おもりが「他の物体から」受ける力だけをリストアップする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)):
- 選定理由: これはニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) の特別な場合に相当する。物体が静止している(加速度 \(\vec{a}=0\))ため、合力 \(\vec{F}\) もゼロになる。ベクトル方程式 \(\vec{F}=0\) を、計算可能な2つのスカラー方程式に変換したものが、このつり合いの式である。あらゆる力のつり合い問題の基本となる、最も汎用性の高い公式。
- 力の三角形(図形的解法):
- 選定理由: 3力つり合いという限定的な状況下で、図形の性質が利用できる場合に、代数的な連立方程式を解く手間を省き、幾何学的に素早く解くために選択する。
- 適用根拠: \(\vec{A}+\vec{B}+\vec{C}=0\) というベクトル方程式は、幾何学的には「ベクトル\(\vec{A}, \vec{B}, \vec{C}\)を辺とする閉じた三角形が描ける」ことと等価である。この数学的な事実を物理問題に応用している。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式のケアレスミス:
- 対策: 分数を含む連立方程式を解く際は、まず両辺に分母の最小公倍数を掛けて整数係数に直してから計算を進めると、ミスが減る。例えば、\(\frac{4}{5}S – \frac{3}{5}T = 0\) は、まず両辺を5倍して \(4S – 3T = 0\) にする。
- 三角比の値の確認:
- 対策: 辺の比が \(3:4:5\) の直角三角形から \(\sin, \cos\) の値を求める際、どの角についての三角比なのかを明確にする。図に角と辺の長さを書き込み、「\(\sin = (\text{対辺})/(\text{斜辺})\)」「\(\cos = (\text{隣辺})/(\text{斜辺})\)」の定義に忠実に値を求める。
- 単位の確認:
- 対策: 問題で与えられている力の単位はニュートン[N]、長さの単位はセンチメートル[cm]である。計算の最終結果に正しい単位[N]を付けることを忘れない。
基本例題12 斜面上のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜面上の力のつり合い」です。静止している物体にはたらく力のつり合いを、斜面という状況で考える典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力(ベクトル和)はゼロになります。
- 座標軸の設定: 斜面上の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えると、計算が非常に簡単になります。この2つの方向を座標軸とします。
- 重力の成分分解: 鉛直下向きにはたらく重力を、上記で設定した「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」の2つに分解します。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然の長さからの変形量(伸びや縮み)に比例します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずおもりにはたらく全ての力を図示します。次に、重力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てて、弾性力\(F\)と垂直抗力\(N\)を求めます。
- (2)では、(1)で求めた弾性力\(F\)の大きさと、ばねの性質を表すフックの法則を用いて、ばねの縮み\(x\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
おもりが受ける弾性力と垂直抗力を求める問題です。問題文の「静止させた」という記述が最大のヒントで、これはおもりにはたらく力が「つりあっている」ことを意味します。斜面上の力のつり合いを考える際の定石は、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えることです。この問題では、鉛直下向きの重力をこの2方向に分解することが、問題を解く上での核心となります。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている(合力がゼロ)。
- 斜面上の力のつり合いは、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」の2つの方向で、それぞれ力の和がゼロになると考える。
- 重力\(mg\)の分解:斜面に平行な成分は\(mg\sin\theta\)、斜面に垂直な成分は\(mg\cos\theta\)。
具体的な解説と立式
おもりにはたらく力は、以下の3つです。
- 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(mg\))
- 斜面からおもりを垂直に押す力、垂直抗力 \(\vec{N}\)
- ばねがおもりを押し上げる力、弾性力 \(\vec{F}\)
これらの力がつりあっているため、合力はゼロです。計算を簡単にするため、斜面に沿って上向きを正、斜面に垂直で上向きを正とする座標軸を設定し、各方向の力のつり合いを考えます。
このとき、重力\(\vec{W}\)をこの座標軸に合わせて分解する必要があります。図から、重力の各成分は以下のようになります。
- 斜面に平行な成分:\(mg\sin\theta\)(斜面下向き)
- 斜面に垂直な成分:\(mg\cos\theta\)(斜面を押す向き)
力のつり合いの式を立てます。
斜面に平行な方向のつり合い:
ばねが押し上げる力(弾性力\(F\))と、重力の滑り落ちようとする成分(\(mg\sin\theta\))がつりあっています。
$$ F – mg\sin\theta = 0 \quad \cdots ① $$
斜面に垂直な方向のつり合い:
斜面が押し返す力(垂直抗力\(N\))と、重力の斜面を押し付ける成分(\(mg\cos\theta\))がつりあっています。
$$ N – mg\cos\theta = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
- 重力の成分分解
式①と②をそれぞれ\(F\)と\(N\)について解きます。
式①より、
$$
\begin{aligned}
F &= mg\sin\theta
\end{aligned}
$$
式②より、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta
\end{aligned}
$$
おもりは斜面の上でじっと止まっています。これは、全ての力がバランスを取っている状態です。
まず、おもりは斜面を滑り落ちようとしますが、ばねがそれを押し返しています。この「滑り落ちようとする力」は重力の一部で、その大きさは\(mg\sin\theta\)です。したがって、ばねの力\(F\)はこれと等しくなります。
次に、おもりは斜面にめり込もうとしますが、斜面がそれを支えています。この「斜面を押し付ける力」も重力の一部で、その大きさは\(mg\cos\theta\)です。したがって、斜面が押し返す垂直抗力\(N\)はこれと等しくなります。
弾性力の大きさは \(F = mg\sin\theta\)、垂直抗力の大きさは \(N = mg\cos\theta\) です。
もし斜面の傾きがゼロ(\(\theta=0\))なら、\(F=0\), \(N=mg\)となり、水平な床に物体を置いた状態と一致します。もし斜面が垂直(\(\theta=90^\circ\))なら、\(F=mg\), \(N=0\)となり、ばねで物体を真下に吊るした状態と一致します。これらの極端な場合を考えても、結果は物理的に妥当であることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
ばねの自然の長さからの縮み\(x\)を求める問題です。ばねの「弾性力の大きさ」と「変形量(伸びや縮み)」を結びつける法則は「フックの法則」です。(1)で弾性力の大きさ\(F\)をすでに求めているので、フックの法則に代入するだけで縮み\(x\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- フックの法則: \(F = kx\)
- \(F\)は弾性力の大きさ、\(k\)はばね定数、\(x\)は自然の長さからの変形量(伸びまたは縮み)。
具体的な解説と立式
フックの法則によれば、弾性力の大きさ\(F\)は、ばねの自然の長さからの縮み\(x\)とばね定数\(k\)を用いて次のように表されます。
$$ F = kx $$
この問題では、縮み\(x\)を求めたいので、この式を\(x\)について解きます。
$$ x = \frac{F}{k} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F = kx\)
(1)で求めた弾性力の大きさ \(F = mg\sin\theta\) を、式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{mg\sin\theta}{k}
\end{aligned}
$$
ばねの力は、ばねの「縮み具合」に比例するという性質があります。これを「フックの法則」と呼び、式で書くと「弾性力 \(F\) = (ばねの硬さ \(k\)) × (縮み \(x\))」となります。
(1)で弾性力\(F\)の大きさが \(mg\sin\theta\) であることがわかったので、この式を「縮み \(x\) = (弾性力 \(F\)) ÷ (ばねの硬さ \(k\))」と変形して、値を代入すれば答えが求まります。
ばねの縮みは \(x = \frac{mg\sin\theta}{k}\) となります。この式を見ると、おもりの質量\(m\)が大きいほど、重力加速度\(g\)が大きいほど、斜面の傾き\(\theta\)が急なほど、縮み\(x\)は大きくなります。また、ばねが硬い(ばね定数\(k\)が大きい)ほど、縮み\(x\)は小さくなります。これらの関係は私たちの日常的な感覚と一致しており、結果は妥当であると言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜面上の力のつり合い:
- 核心: この問題は、静止した物体にはたらく「力のつり合い」を、物理の基本モデルである「斜面」上で考えるものです。その核心は、ベクトルである力を、計算しやすいように成分に分解して扱う技術にあります。
- 理解のポイント:
- 座標軸の選択: 斜面の問題では、水平・鉛直方向ではなく、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に座標軸をとるのが定石です。これにより、垂直抗力や弾性力(摩擦力なども)が軸の向きと一致し、分解が必要なのは重力だけになるため、問題が劇的に単純化されます。
- 重力の成分分解: 鉛直下向きの重力\(mg\)を、上記の座標軸に合わせて「斜面を滑り落ちようとする力 \(mg\sin\theta\)」と「斜面を垂直に押す力 \(mg\cos\theta\)」に分解すること。この分解が正確にできるかどうかが、問題を解けるかどうかの分かれ目です。
- フックの法則:
- 核心: ばねの弾性力の大きさ\(F\)が、その自然の長さからの変形量\(x\)に比例する(\(F=kx\))という、ばねの基本的な性質。
- 理解のポイント: この法則は、力の大きさ(\(F\))と、物体の位置や変位(\(x\))という、異なる種類の物理量を結びつける重要な関係式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 摩擦のある斜面でのつり合い: おもりにはたらく力に「静止摩擦力」が加わります。力のつり合いの式(斜面平行方向)は、「(弾性力)+(静止摩擦力)=(重力の平行成分)」のようになります。特に「滑り出す直前」という条件があれば、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\)(\(\mu\)は静止摩擦係数)となります。
- 斜面上の運動(運動方程式): おもりが静止せず、運動している場合。力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。例えば、ばねを縮めて手を離した直後の加速度を求める問題などです。この場合、合力はゼロではありません。
- 物体を糸で引き上げる: ばねの代わりに糸で物体を引く場合も、力の種類が変わるだけで考え方は同じです。糸の張力を\(T\)として、力のつり合いや運動方程式を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示(作図)を徹底する: まず、物体にはたらく力を「全て」矢印で描き込みます。重力、垂直抗力、弾性力、摩擦力など、考えられる力を漏れなくリストアップします。
- 座標軸を設定し、力を分解する: 次に、斜面に平行・垂直な座標軸を設定し、軸から斜めを向いている力(通常は重力)を全て成分分解します。分解し終わったら、元のベクトル(重力\(mg\))は計算に使わないよう、点線で描くか消すなどして区別します。
- 「つり合い」か「運動」かを見極める: 問題文のキーワード(「静止」「つりあう」「ゆっくり」\(\rightarrow\) つり合いの式)と(「運動する」「加速度」「速さ」\(\rightarrow\) 運動方程式)を読み取り、立てるべき式を判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 重力分解のsinとcosの混同:
- 誤解: 斜面に平行な成分を\(mg\cos\theta\)、垂直な成分を\(mg\sin\theta\)と逆にしてしまう、最も頻発するミス。
- 対策: 分解する際にできる直角三角形の図を正確に描くことが基本です。斜面の角度\(\theta\)と、重力ベクトルと斜面に垂直な線がなす角が等しくなることを図で確認します。その上で、「\(\theta\)と向かい合う辺(対辺)が\(\sin\theta\)成分」「\(\theta\)を挟む辺(隣辺)が\(\cos\theta\)成分」と覚えます。また、\(\theta=0\)(水平)や\(\theta=90^\circ\)(垂直)の極端な場合を代入して、式が物理的に正しいか検算するのも有効です。
- 垂直抗力 \(N=mg\) という思い込み:
- 誤解: 水平な床の上での癖で、垂直抗力\(N\)の大きさを常に\(mg\)だと思ってしまう。
- 対策: 垂直抗力は、常に重力とつり合うわけではない、と肝に銘じること。あくまで「面が物体を垂直に押す力」であり、つり合う相手は「物体が面を垂直に押す力」です。斜面の場合、それは重力そのものではなく、重力の斜面に垂直な成分 \(mg\cos\theta\) です。
- 弾性力の向きの間違い:
- 誤解: ばねが「縮んで」いるのに、弾性力の向きを斜面下向き(引く向き)に描いてしまう。
- 対策: 弾性力は、ばねが「自然の長さに戻ろうとする向き」にはたらきます。したがって、「縮んでいるばねは伸びようとして物を押す」「伸びているばねは縮もうとして物を引く」と、物理的なイメージを常に持って作図する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
- 選定理由: この問題の根幹である「物体が静止している」という物理的状況を、数学的な言葉に翻訳するための公式です。これは、ニュートンの運動の第二法則 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) の特別な場合(加速度\(\vec{a}=0\))に他なりません。ベクトル方程式 \(\vec{F}_{\text{合力}}=0\) を、計算が可能な2つのスカラー方程式(成分ごとの式)に落とし込んだものが、このつり合いの式です。
- フックの法則 (\(F=kx\)):
- 選定理由: (1)で求めた「弾性力の大きさ\(F\)」と、(2)で問われている「ばねの縮み\(x\)」という、異なる物理量を結びつけるために必要不可欠な法則だからです。
- 適用根拠: 問題文に「ばね定数\(k\)のばね」とあることから、このばねは理想的なばね(弾性力が変形量に比例する)として扱ってよい、という前提が与えられています。この前提があるからこそ、フックの法則を適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の書き忘れ・書き間違い: \(mg\sin\theta\)と書くべきところを\(m\sin\theta\)としてしまうなど、文字を書き忘れるミスは意外と多いです。
- 対策: 式を立てた後、もう一度、図と見比べて、全ての物理量が正しく式に反映されているかを確認する癖をつける。特に、重力の成分は頻出なので、指差し確認するくらいの慎重さを持つ。
- 移項ミス: \(F – mg\sin\theta = 0\) のような簡単な式でも、焦っていると \(F = -mg\sin\theta\) のように符号を間違えることがあります。
- 対策: 簡単な式変形でも暗算に頼らず、一行きちんと書いてから移項する。
- 最終的な代入ミス: (2)で \(x = F/k\) の式を立てた後、(1)で求めた\(F\)の値を代入する際に、\(N=mg\cos\theta\) の方を間違えて代入してしまう。
- 対策: 代入する直前に、「今から代入する\(F\)は、物理的にどういう力だったか?」を再確認する。「ばねの力だから、斜面に平行な方向のつり合いで求めた方だな」と確認してから代入する。
基本問題
45 力の分解
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力の成分分解と合成」です。様々な状況で与えられた力を、指定された座標軸の成分に分解したり、逆に成分から合力を求めたりする基本的なスキルが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のベクトル表現: 力は大きさと向きを持つベクトル量です。
- 力の成分分解: 1つの力を、互いに直交する2つの成分に分けることです。三角関数(\(\sin\), \(\cos\))が用いられます。
- 力の合成: 複数の力のベクトル和を求めることです。成分で考える場合、各成分の和を計算すればよいです。
- 座標系の理解: 問題ごとに設定されたx軸、y軸の向きを正しく認識することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ①〜③では、方眼紙の目盛りを読み取り、ベクトルの始点から終点までのx方向、y方向の移動量を数えます。
- ④では、三角関数を用いて、力の大きさと角度からx成分とy成分を計算します。
- ⑤では、合力の各成分は、元の力の各成分の和に等しいことを利用して計算します。
- ⑥では、斜面上の重力の分解を行います。重力と各軸がなす角度を正確に求め、三角関数を用いて成分を計算します。
問①, ②, ③
思考の道筋とポイント
方眼紙上に描かれた力の矢印を、x成分とy成分に分解する問題です。矢印の始点から終点まで、x軸方向(横)とy軸方向(縦)にそれぞれ何目盛り移動したかを数えます。1目盛りが\(1 \text{ N}\)であることと、軸の正負の向きに注意することが重要です。
この設問における重要なポイント
- x成分は、横方向の移動量です。座標軸の矢印の向き(右向き)が正、その逆(左向き)が負となります。
- y成分は、縦方向の移動量です。座標軸の矢印の向き(上向き)が正、その逆(下向き)が負となります。
- 1目盛りの力の大きさは\(1 \text{ N}\)です。
具体的な解説と立式
各力の矢印の始点から終点への移動量を、x方向とy方向の目盛りで数えます。
- 力①: x方向に+6目盛り、y方向に+1目盛り移動しています。
- 力②: x方向に-2目盛り、y方向に+4目盛り移動しています。
- 力③: x方向に-2目盛り、y方向に0目盛り移動しています。
使用した物理公式
この設問では、図の読み取りが主であり、特定の物理公式は使用しません。
1目盛りが\(1 \text{ N}\)なので、数えた目盛りの数がそのまま力の成分の大きさ[N]になります。
- 力①: \(x\)成分 \(+6 \times 1 \text{ N} = 6 \text{ N}\), \(y\)成分 \(+1 \times 1 \text{ N} = 1 \text{ N}\)
- 力②: \(x\)成分 \(-2 \times 1 \text{ N} = -2 \text{ N}\), \(y\)成分 \(+4 \times 1 \text{ N} = 4 \text{ N}\)
- 力③: \(x\)成分 \(-2 \times 1 \text{ N} = -2 \text{ N}\), \(y\)成分 \(0 \times 1 \text{ N} = 0 \text{ N}\)
矢印の根元から先端まで、横(x軸)に何マス、縦(y軸)に何マス動いたかを数えるだけです。右や上ならプラス、左や下ならマイナスの符号をつけます。1マスが\(1 \text{ N}\)なので、数えたマス数がそのまま力の成分の大きさになります。
図の読み取りから、各力の成分が求められました。座標軸の向きから判断した符号も正しく適用できています。
解答 ② \(x\)成分: \(-2 \text{ N}\), \(y\)成分: \(4 \text{ N}\)
解答 ③ \(x\)成分: \(-2 \text{ N}\), \(y\)成分: \(0 \text{ N}\)
問④
思考の道筋とポイント
大きさ\(6.0 \text{ N}\)と向き(角度)が与えられた力を、x, y成分に分解する問題です。三角関数(\(\cos\), \(\sin\))を使って成分を計算します。どの辺が\(\cos\)に対応し、どの辺が\(\sin\)に対応するのかを、角度の位置から正確に判断することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 力のベクトルを斜辺とし、x軸、y軸に垂線を下ろして直角三角形を作ります。
- 角度\(\theta\)を挟む辺(隣辺)が、力の大きさに\(\cos\theta\)を掛けた成分になります。
- 角度\(\theta\)の向かいの辺(対辺)が、力の大きさに\(\sin\theta\)を掛けた成分になります。
具体的な解説と立式
力の大きさを\(F=6.0 \text{ N}\)とします。図より、力ベクトルとx軸の正の向きがなす角は\(\theta = 60^\circ\)です。
この力ベクトルを斜辺とする直角三角形を考えると、
- x成分 \(F_x\) は、角度\(60^\circ\)を挟む辺(隣辺)にあたります。
- y成分 \(F_y\) は、角度\(60^\circ\)の向かいの辺(対辺)にあたります。
したがって、各成分は次のように立式できます。
$$ F_x = F \cos 60^\circ $$
$$ F_y = F \sin 60^\circ $$
使用した物理公式
- 力の成分分解: \(F_x = F\cos\theta\), \(F_y = F\sin\theta\) (\(\theta\)はx軸とのなす角)
\(F=6.0 \text{ N}\)を代入して計算します。
x成分の計算:
$$
\begin{aligned}
F_x &= 6.0 \times \cos 60^\circ \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 3.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
y成分の計算:
$$
\begin{aligned}
F_y &= 6.0 \times \sin 60^\circ \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 3\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 3 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 5.19 \\[2.0ex]&\approx 5.2 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
大きさ6.0Nの力を、横方向と縦方向に分解します。三角比を使うと、横方向(x成分)は\(6.0 \times \cos 60^\circ\)、縦方向(y成分)は\(6.0 \times \sin 60^\circ\)で計算できます。
計算の結果、x成分は\(3.0 \text{ N}\)、y成分は\(5.2 \text{ N}\)となりました。有効数字2桁で解答されており、計算も正確です。
問⑤
思考の道筋とポイント
2つの力\(\vec{F_1}\)と\(\vec{F_2}\)の「合力」の成分を求める問題です。「合力の成分は、各力の成分の和に等しい」という、ベクトル合成の基本ルールを適用します。
この設問における重要なポイント
- 合力のx成分 = (力1のx成分) + (力2のx成分)
- 合力のy成分 = (力1のy成分) + (力2のy成分)
具体的な解説と立式
図から、2つの力の成分を読み取ります。
- \(\vec{F_1}\)の成分: \((F_{1x}, F_{1y}) = (3 \text{ N}, 0 \text{ N})\)
- \(\vec{F_2}\)の成分: \((F_{2x}, F_{2y}) = (-2 \text{ N}, 3 \text{ N})\)
合力\(\vec{F}\)の成分を\((F_x, F_y)\)とすると、
$$ F_x = F_{1x} + F_{2x} $$
$$ F_y = F_{1y} + F_{2y} $$
使用した物理公式
- ベクトルの和の成分表示: \(\vec{A}+\vec{B} = (A_x+B_x, A_y+B_y)\)
各成分を足し合わせます。
x成分の計算:
$$
\begin{aligned}
F_x &= 3 + (-2) \\[2.0ex]&= 1 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
y成分の計算:
$$
\begin{aligned}
F_y &= 0 + 3 \\[2.0ex]&= 3 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
2つの力を合わせるときは、x方向(横)とy方向(縦)を別々に足し算すればよいです。x方向は「3」と「-2」を足して「1」になります。y方向は「0」と「3」を足して「3」になります。
計算は単純な足し算であり、結果は妥当です。
問⑥
思考の道筋とポイント
斜面上の重力を、斜面に平行なx軸と垂直なy軸に分解する問題です。重力ベクトルと各軸がなす角度を、図の幾何学的な関係から正確に求めることが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の向きを確認します。x軸は斜面に沿って上向き、y軸は斜面に垂直に上向きです。
- 重力は常に鉛直下向きにはたらきます。
- 重力ベクトルと「y軸(斜面に垂直な線)」がなす角は、斜面の傾斜角\(\theta\)(今回は\(30^\circ\))に等しくなります。
具体的な解説と立式
重力の大きさを\(W = 6.0 \text{ N}\)とします。
重力は鉛直下向きにはたらきます。この重力ベクトルを、斜面に平行なx軸方向と、斜面に垂直なy軸方向に分解します。
図の幾何学的関係から、重力ベクトルとy軸(の負の向き)がなす角は、斜面の傾斜角と同じ\(30^\circ\)になります。
- x成分 \(W_x\): これは重力の斜面平行成分です。図から、x軸の負の向きを向いていることがわかります。大きさは、角度\(30^\circ\)の対辺にあたるため、\(W \sin 30^\circ\)となります。
- y成分 \(W_y\): これは重力の斜面垂直成分です。図から、y軸の負の向きを向いていることがわかります。大きさは、角度\(30^\circ\)を挟む辺(隣辺)にあたるため、\(W \cos 30^\circ\)となります。
したがって、各成分は次のように立式できます。
$$ W_x = – W \sin 30^\circ $$
$$ W_y = – W \cos 30^\circ $$
使用した物理公式
- 重力の成分分解
\(W=6.0 \text{ N}\)を代入して計算します。
x成分の計算:
$$
\begin{aligned}
W_x &= -6.0 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= -6.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= -3.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
y成分の計算:
$$
\begin{aligned}
W_y &= -6.0 \times \cos 30^\circ \\[2.0ex]&= -6.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= -3\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx -3 \times 1.73 \\[2.0ex]&= -5.19 \\[2.0ex]&\approx -5.2 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
真下に働く6.0Nの重力を、「斜面に沿う方向(x軸)」と「斜面に垂直な方向(y軸)」に分解します。
- x方向の力は、重力が物体を滑らせようとする力で、大きさは\(6.0 \times \sin 30^\circ\)です。向きはx軸と逆なのでマイナスがつきます。
- y方向の力は、重力が物体を斜面に押し付ける力で、大きさは\(6.0 \times \cos 30^\circ\)です。向きはy軸と逆なのでマイナスがつきます。
計算結果は模範解答と一致しており、有効数字や符号の扱いも正確です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力はベクトル量であること:
- 核心: この問題集は、力が「大きさと向き」を持つベクトル量であることを再確認し、その基本的な操作に習熟することを目的としています。ベクトルを扱う上で最も基本的な操作が「成分分解」と「合成」です。
- 理解のポイント:
- 成分分解: 1つのベクトルを、互いに直交する複数のベクトル(成分)の和として表現し直すこと。これにより、複雑な向きを持つ力の扱いが容易になります。
- 力の合成: 複数のベクトルを足し合わせて、1つのベクトル(合力)を求めること。成分で考えれば、単なる各成分の数値の足し算になります。
- 座標系の重要性:
- 核心: 同じ力であっても、どの座標系(どの向きをx, yとするか)で見るかによって、その成分の値は全く異なります。
- 理解のポイント:
- 問①〜⑤では、水平・鉛直方向をx, y軸とする最も標準的な座標系が使われています。
- 問⑥では、斜面に平行・垂直な方向にx, y軸が設定されています。このように、問題の状況に応じて最適な座標系を選ぶことが、物理問題を解く上での重要な戦略となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 力のつり合い: 物体にはたらく全ての力を成分分解し、「x成分の和 = 0」「y成分の和 = 0」という連立方程式を立てて、未知の力(張力や垂直抗力など)を求めます。
- 運動方程式: 物体が加速度運動している場合、「\(ma_x = x\)成分の力の和」「\(ma_y = y\)成分の力の和」というように、各成分について運動方程式を立てます。
- 仕事の計算: 力\(\vec{F}\)と変位\(\vec{s}\)が成分で \(\vec{F}=(F_x, F_y)\), \(\vec{s}=(s_x, s_y)\) と与えられている場合、仕事\(W\)は内積を用いて \(W = F_x s_x + F_y s_y\) と簡単に計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸の向きを最優先で確認: 問題図を見たら、まずx軸、y軸がどの向きを正としているかを確認します。これが全ての計算の基準となります。
- 角度の基準点を確認: 三角関数を使う際、与えられた角度がどの線との間の角なのか(x軸となす角か、y軸となす角か、鉛直線となす角か)を正確に把握します。
- 図形の性質を利用する: 問⑥のように、分解したいベクトルと座標軸が直接的な角度で与えられていない場合、補助線を引いたり、三角形の相似や合同を利用したりして、計算に必要な角度を見つけ出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- sinとcosの混同:
- 誤解: x成分は常に\(\cos\)、y成分は常に\(\sin\)と機械的に暗記してしまい、問⑥のようなケースで間違える。
- 対策: 「角度\(\theta\)を挟む辺(隣辺)が\(\cos\theta\)成分」「角度\(\theta\)の向かいの辺(対辺)が\(\sin\theta\)成分」という原則で覚えるのが最も安全です。必ず図に直角三角形を描いて確認する癖をつけましょう。
- 符号の付け忘れ・間違い:
- 誤解: 成分の大きさを計算することに集中し、その向き(正負)を考慮し忘れる。
- 対策: 計算の最後に、求めた成分の符号の組み合わせ(例:(+, -)なら第4象限)と、元のベクトルの矢印の向きが一致しているかを必ず目で見て確認する。
- 斜面における角度の誤認:
- 誤解: 問⑥で、重力とx軸(斜面平行な線)とのなす角を\(30^\circ\)と勘違いしてしまう。
- 対策: 「重力(鉛直線)と、斜面に垂直な線とのなす角は、斜面の傾斜角に等しい」という重要な幾何学的関係を、図を描いて確実に理解し、覚えておくこと。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力の成分分解 (\(F_x = F\cos\theta\), \(F_y = F\sin\theta\)):
- 選定理由: これは、ベクトルという幾何学的な対象を、代数(数値計算)の世界で扱うための最も基本的な「翻訳ルール」です。向きを持つ量を、向きの情報(符号)と大きさの情報(絶対値)を持つ数値のペアに変換しています。
- 適用根拠: この公式は、数学における三角関数の定義そのものです。直角三角形における「斜辺」と「角度」から「他の2辺の長さ」を求める関係を、力の分解に応用しています。
- 合力の成分計算 (\(F_x = F_{1x} + F_{2x}\), etc.):
- 選定理由: 複数のベクトルを合成する際、作図(平行四辺形の法則)では手間がかかり、正確性にも欠けます。成分計算は、これを機械的かつ正確に行うための最も優れた方法です。
- 適用根拠: ベクトルの和の定義に基づいています。x方向の変位とy方向の変位は互いに独立しているため、それぞれの方向について別々に足し算ができる、という物理的・数学的な原理を利用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 目盛りの読み取り: 問①〜③では、始点と終点の座標をそれぞれ「\((x_1, y_1)\)」「\((x_2, y_2)\)」のようにメモし、成分を「\(x_2-x_1\)」「\(y_2-y_1\)」と引き算で求めると、数え間違いや符号ミスを防げます。
- 三角関数の値の習熟: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 60^\circ = 1/2\), \(\sin 60^\circ = \sqrt{3}/2\) といった基本的な三角比の値は、即座に正確に言えるようにしておくことが大前提です。
- 近似値の計算: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いる計算は、問題の指示がない限り、有効数字に注意しつつ丁寧に行います。特に、掛け算や割り算の筆算は、テスト本番で焦らないように日頃から練習しておくことが大切です。
- 最終確認: 計算が終わったら、求めた成分の値の符号と、図に描かれた矢印の向きが一致しているか、必ず見直す習慣をつけましょう。
46 力の成分
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の力の合成」です。多数の力がはたらく場合でも、それぞれの力を成分に分解し、成分ごとに足し合わせることで、合力を機械的に求めることができることを学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の成分分解: 1つの力を、互いに直交するx成分とy成分に分けること。
- 力の合成(ベクトル和): 合力の各成分は、元の力の各成分の総和に等しいという原理。
- 三平方の定理: 互いに直交する2つの成分から、ベクトルの大きさ(長さ)を求める際に利用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず図の方眼紙から5つの力のx成分とy成分をそれぞれ正確に読み取ります。次に、x成分の和、y成分の和をそれぞれ計算して、合力のx成分とy成分を求めます。
- (2)では、(1)で求めた合力のx成分とy成分を使って、三平方の定理により合力の大きさを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
5つの力の合力のx成分とy成分を求める問題です。5つもの力を図の上で合成(平行四辺形の法則を繰り返すなど)するのは非常に困難です。このような多数の力を扱う場合、各力をx, y成分に分解し、成分ごとに足し合わせる方法が圧倒的に有効です。まずは、与えられた5つの力を一つずつ、丁寧に成分分解することから始めます。
この設問における重要なポイント
- 合力のx成分は、すべての力のx成分の総和に等しい。
- 合力のy成分は、すべての力のy成分の総和に等しい。
- 図の1目盛りが\(10 \text{ N}\)であることを忘れないようにする。
- x軸(右向き)、y軸(上向き)の正負の向きに注意して成分を読み取る。
具体的な解説と立式
まず、5つの力 \(\vec{F_1}\)〜\(\vec{F_5}\) のx成分、y成分をそれぞれ図から読み取ります。1目盛りが\(10 \text{ N}\)であることに注意します。
合力 \(\vec{F}\) の成分を \(F_x, F_y\) とすると、これらの和として表されます。
$$ F_x = F_{1x} + F_{2x} + F_{3x} + F_{4x} + F_{5x} $$
$$ F_y = F_{1y} + F_{2y} + F_{3y} + F_{4y} + F_{5y} $$
使用した物理公式
- ベクトルの和の成分表示: \(\vec{F}_{\text{合力}} = (F_{1x}+F_{2x}+\dots, F_{1y}+F_{2y}+\dots)\)
図から各力の成分を読み取ります。(1目盛り = \(10 \text{ N}\))
- \(\vec{F_1}\): x方向に+3目盛り, y方向に+2目盛り
\(\rightarrow (F_{1x}, F_{1y}) = (30 \text{ N}, 20 \text{ N})\) - \(\vec{F_2}\): x方向に-1目盛り, y方向に+3目盛り
\(\rightarrow (F_{2x}, F_{2y}) = (-10 \text{ N}, 30 \text{ N})\) - \(\vec{F_3}\): x方向に-1目盛り, y方向に+1目盛り
\(\rightarrow (F_{3x}, F_{3y}) = (-10 \text{ N}, 10 \text{ N})\) - \(\vec{F_4}\): x方向に-2目盛り, y方向に-2目盛り
\(\rightarrow (F_{4x}, F_{4y}) = (-20 \text{ N}, -20 \text{ N})\) - \(\vec{F_5}\): x方向に+2目盛り, y方向に-3目盛り
\(\rightarrow (F_{5x}, F_{5y}) = (20 \text{ N}, -30 \text{ N})\)
これらの値を足し合わせて、合力の成分を計算します。
合力のx成分 \(F_x\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_x &= 30 + (-10) + (-10) + (-20) + 20 \\[2.0ex]&= (30 + 20) + (-10 – 10 – 20) \\[2.0ex]&= 50 – 40 \\[2.0ex]&= 10 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
合力のy成分 \(F_y\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_y &= 20 + 30 + 10 + (-20) + (-30) \\[2.0ex]&= (20 + 30 + 10) + (-20 – 30) \\[2.0ex]&= 60 – 50 \\[2.0ex]&= 10 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
5つの力を一度に合わせるのは大変なので、「横方向」と「縦方向」に分けて考えます。
まず、5つの力の横方向の成分(x成分)を全部足し合わせます。このとき、右向きはプラス、左向きはマイナスです。
次に、5つの力の縦方向の成分(y成分)を全部足し合わせます。上向きはプラス、下向きはマイナスです。
1マスが\(10 \text{ N}\)であることに注意して計算しましょう。
合力のx成分は \(10 \text{ N}\)、y成分は \(10 \text{ N}\) となります。多数の項の足し算なので、計算ミスがないか慎重に確認することが重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
合力の大きさを求める問題です。(1)で合力のx成分とy成分が求まっているので、これらを2辺とする直角三角形を考え、その斜辺の長さを三平方の定理を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- ベクトルの大きさは、その成分を使って三平方の定理で求められる。
- ベクトル \(\vec{F}\) の成分が \((F_x, F_y)\) のとき、その大きさ \(F\) は \(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\) で計算できる。
- 今回は \(F_x = F_y\) なので、辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形になることを利用すると計算が速い。
具体的な解説と立式
合力のx成分 \(F_x\) とy成分 \(F_y\) は互いに直交しています。したがって、\(F_x\), \(F_y\) を2辺とし、合力ベクトル \(\vec{F}\) を斜辺とする直角三角形を考えることができます。
三平方の定理を適用すると、合力の大きさ \(F\) は次のように表せます。
$$ F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2} $$
使用した物理公式
- 三平方の定理: \(c = \sqrt{a^2 + b^2}\)
(1)で求めた合力の成分 \(F_x = 10 \text{ N}\), \(F_y = 10 \text{ N}\) を上の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \sqrt{10^2 + 10^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{100 + 100} \\[2.0ex]&= \sqrt{200} \\[2.0ex]&= 10\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &\approx 10 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 14.1
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、小数第2位を四捨五入して、\(F \approx 14 \text{ [N]}\) となります。
(1)の結果から、5つの力を全部合わせた力は、「横に10N、縦に10N」の力だと分かりました。この力の矢印の長さを求めます。これは、底辺と高さがどちらも10Nの直角二等辺三角形の斜辺の長さを求めるのと同じです。辺の比が「\(1:1:\sqrt{2}\)」になることを利用すると、斜辺の長さは \(10 \times \sqrt{2}\) と計算できます。\(\sqrt{2}\) はおよそ1.41なので、\(10 \times 1.41 = 14.1\) となり、約14Nと求まります。
合力の大きさは約 \(14 \text{ N}\) となります。\(F_x = F_y = 10 \text{ N}\) という結果から、合力の向きはx軸と\(45^\circ\)の角度をなすこともわかります。計算過程、近似値の扱いともに妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力の合成における成分法の原理:
- 核心: 複数の力がはたらくとき、それらの合力を求める最も確実で強力な方法は、各力を成分に分解し、成分ごとに和をとることです。この問題は、その原理を体感するための総合演習です。
- 理解のポイント:
- 合力のx成分 = 全ての力のx成分の総和
- 合力のy成分 = 全ての力のy成分の総和
- このルールは、力がいくつに増えても、どんな向きを向いていても常に成り立ちます。作図で合成するのが困難な、多数の力がはたらく状況でこそ、この方法の真価が発揮されます。
- ベクトル量としての力の理解:
- 核心: 力が単なる数値(スカラー)ではなく、大きさと向きを持つベクトルであることを理解し、その演算(和)が成分ごとの代数的な和で実行できることを受け入れること。
- 理解のポイント:
- 分解: 1つのベクトル \(\vec{F}\) を、2つの直交するベクトル \(\vec{F_x}\) と \(\vec{F_y}\) の和として見る。(\(\vec{F} = \vec{F_x} + \vec{F_y}\))
- 合成: 複数のベクトルの和 \(\vec{F_1} + \vec{F_2} + \dots\) を、\(x\)成分の和と\(y\)成分の和に分けて計算する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 力のつり合い: この問題で求めた合力がゼロになる場合(\(F_x=0, F_y=0\))が、力のつり合いの問題です。未知の力が含まれていても、同様に成分の和を計算し、方程式を立てて解くことができます。
- 運動方程式: 物体にはたらく力の合力がゼロでない場合、その合力 \(\vec{F}=(F_x, F_y)\) が物体の加速度 \(\vec{a}=(a_x, a_y)\) を決定します(\(ma_x = F_x, ma_y = F_y\))。この問題は、運動方程式を立てるための前段階の計算そのものです。
- 電場や磁場中の荷電粒子の運動: 複数の点電荷から受ける静電気力や、電場・磁場から受けるローレンツ力など、複数の力を合成する場面は物理の様々な分野で登場します。
- 初見の問題での着眼点:
- 目盛りの単位を確認: まず、グラフの1目盛りが何[N]を表すのかを絶対に確認します。これを間違えると全ての計算が台無しになります。
- 各力の成分をリストアップ: 焦って一度に計算しようとせず、まず\(\vec{F_1}\)から\(\vec{F_5}\)まで、全ての力のx成分とy成分を一つずつ丁寧に書き出します。表形式にすると見やすいです。
- 対称性や打ち消し合いを探す: 計算を始める前に、全体を眺めてみましょう。例えば、この問題では\(\vec{F_4}\)のx成分(-20N)と\(\vec{F_5}\)のx成分(+20N)は打ち消し合います。このようなペアを見つけると、計算が少し楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 目盛りの単位の見落とし:
- 誤解: 1目盛りの大きさを\(1 \text{ N}\)と勘違いして計算を進めてしまう。
- 対策: 問題文の最初の行は特に注意深く読み、「1目盛りは\(10 \text{ N}\)」という部分に下線を引くなど、目立つ印をつけておく。
- 符号の単純な足し算ミス:
- 誤解: (1)の\(F_x\)の計算で、\(30 – 10 – 10 – 20 + 20\) のような多数の項の計算で、プラスとマイナスを混同したり、単純な計算ミスをしたりする。
- 対策: 正の項(\(30+20=50\))と負の項(\(-10-10-20=-40\))を別々に計算し、最後にそれらを合わせる(\(50-40=10\))という手順を踏むと、ミスが格段に減ります。
- 三平方の定理の計算ミス:
- 誤解: (2)で \(\sqrt{10^2+10^2}\) を \(\sqrt{(10+10)^2}\) や \(10+10\) と勘違いする。
- 対策: 三平方の定理は「2乗の和の平方根」であることを正確に覚える。また、\(F_x=F_y\) の場合は、辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形になることを利用し、\(F = \sqrt{2} F_x\) と計算する癖をつけると、計算が速くなり、間違いも減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 合力の成分計算 (\(F_x = F_{1x} + F_{2x} + \dots\)):
- 選定理由: 5つものベクトルを作図で合成するのは非現実的です。ベクトルを成分という「数値」に分解することで、複雑な幾何学的な問題を、単純な代数(足し算)の問題に変換するために、この方法を選択します。これは、多数の力を扱う際の唯一にして最強のアプローチです。
- 適用根拠: ベクトルの和は、各成分の和として定義されます。これは、x方向の移動とy方向の移動が互いに独立しているという、デカルト座標系の基本的な性質に基づいています。
- 三平方の定理 (\(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\)):
- 選定理由: (1)で求めた合力の「成分」から、その「大きさ」というスカラー量を算出するために用います。これは、ベクトルの成分表示からそのノルム(大きさ)を求めるための標準的な公式です。
- 適用根拠: 合力のx成分とy成分は、定義上互いに直交しています。したがって、この2つの成分ベクトルと合力ベクトルで直角三角形が形成されます。三平方の定理は、この直角三角形の3辺の長さの関係を数学的に表したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 表を作成する: 計算用紙に、下のような簡単な表を作ってから計算を始めると、整理されてミスが減ります。
力 x成分 [N] y成分 [N] \(\vec{F_1}\) +30 +20 \(\vec{F_2}\) -10 +30 \(\vec{F_3}\) -10 +10 \(\vec{F_4}\) -20 -20 \(\vec{F_5}\) +20 -30 合計 10 10 - 暗算を避ける: 項が多い計算ほど、暗算は危険です。面倒でも途中式をきちんと書き出すことが、結果的に最も早く正確に解くための近道です。
- 近似値の扱い: \(\sqrt{2} \approx 1.41\) のような近似値は、計算の最後の段階で代入します。途中で丸めてしまうと、誤差が大きくなる可能性があります。また、問題で有効数字が指定されている場合は、それに従います。今回は解答が2桁なので、\(14.1 \rightarrow 14\) と丸めています。
47 力の図示
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「物体にはたらく力の見つけ方と図示」です。物理の問題を解く上で最も基本的かつ重要なステップである、物体にはたらく力を正しく特定し、図示する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の分類: 物体にはたらく力は、大きく「重力」と「接触力」の2種類に分けられます。
- 重力: 地球が物体を引く力です。物体がどこにあっても(接触していなくても)、質量があれば必ず鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力: 物体が「何かに触れている」ことによって受ける力です。
- 垂直抗力: 面が物体を「面に垂直な向き」に押す力です。
- 張力: 糸が物体を「糸が伸びる方向」に引く力です。
- 弾性力: ばねが「自然の長さに戻ろうとする向き」に、物体を押したり引いたりする力です。
- 摩擦力: 物体が面に沿って動こうとするとき、その動きを妨げる向きに「面に平行」にはたらく力です。
- 力の探し方の手順: どんな状況でも、(1)まず重力を描き、(2)次に物体に「触れているもの」をすべて探し出し、それらから受ける力を一つずつ描く、という手順を踏むと、力を漏れなく見つけることができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(7)の各設問について、上記の「力の探し方の手順」に従い、斜線で示された物体にはたらく力をすべてリストアップし、正しい向きに矢印を描いていきます。特に、摩擦力の向きや、力がはたらかないケースに注意します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体は水平面上にあり、糸で真上に引かれています。物体にはたらく力を「重力」と「接触力」に分けて探します。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「水平面」と「糸」の2つです。
- 物体は水平方向に動こうとしていないため、摩擦力ははたらきません。「あらい面」という条件に惑わされないことが重要です。
具体的な解説と立式
- 重力: まず、物体の質量による重力が鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- 糸から: 糸が物体を真上に引く「張力」がはたらきます。
- 水平面から: 水平面が物体を垂直上向きに押す「垂直抗力」がはたらきます。
- 摩擦力: 水平方向に動かそうとする力がないため、静止摩擦力は生じません。
結論と吟味
物体には、下向きに「重力」、上向きに「糸の張力」と「垂直抗力」の合計3つの力がはたらきます。物体は静止しているので、これらの力はつりあっています。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体は水平面上にあり、糸で水平右向きに引かれています。静止していることから、糸の張力に抵抗する力がはたらいているはずです。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「水平面」と「糸」の2つです。
- 糸が物体を右に引くため、物体は右に動こうとします。これを妨げる向き(左向き)に「静止摩擦力」がはたらきます。
具体的な解説と立式
- 重力: 鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- 糸から: 糸が物体を水平右向きに引く「張力」がはたらきます。
- 水平面から: 面が物体を垂直上向きに押す「垂直抗力」と、物体が右へ動こうとするのを妨げるために水平左向きにはたらく「静止摩擦力」の2つの力がはたらきます。
結論と吟味
物体には、鉛直方向(上向きの垂直抗力、下向きの重力)と水平方向(右向きの張力、左向きの静止摩擦力)にそれぞれ2つずつ、合計4つの力がはたらきます。
問(3)
思考の道筋とポイント
水平面上の物体の上に、さらにボールが乗っています。注目物体(下の物体)にはたらく力を考えます。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「水平面」と「ボール」の2つです。
- ボールは物体を「押して」います。この力も忘れずに図示します。
具体的な解説と立式
- 重力: 注目物体の質量による重力が鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- 水平面から: 水平面が物体を垂直上向きに押す「垂直抗力」がはたらきます。
- ボールから: 上に乗っているボールが、その重さによって物体を鉛直下向きに押す力がはたらきます。
結論と吟味
物体には、下向きに「重力」と「ボールが物体を押す力」、上向きに「垂直抗力」の合計3つの力がはたらきます。
問(4)
思考の道筋とポイント
注目物体は、ばねと糸の間に挟まれた物体です。この物体にはたらく力を考えます。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「上のばね」と「下の糸」の2つです。
- ばねは伸びているので、自然長に戻ろうとして物体を「上向きに引きます」(弾性力)。
- 糸は下のおもりを支えているので、物体を「下向きに引きます」(張力)。
具体的な解説と立式
- 重力: 注目物体の質量による重力が鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- ばねから: ばねが物体を鉛直上向きに引く「弾性力」がはたらきます。
- 糸から: 糸が物体を鉛直下向きに引く「張力」がはたらきます。
結論と吟味
物体には、上向きに「弾性力」、下向きに「重力」と「糸の張力」の合計3つの力がはたらきます。
問(5)
思考の道筋とポイント
投げ上げられたボールが最高点に達した瞬間を考えます。この瞬間、ボールは一瞬だけ静止します。
この設問における重要なポイント
- 最高点では、ボールは空中にあり、何にも接触していません。
- 「投げ上げた力」は、手がボールから離れた瞬間にすでになくなっています。力は物体に「蓄えられる」ものではありません。
- 空気抵抗は、特に指示がなければ無視します。
具体的な解説と立式
- 重力: ボールには地球が及ぼす重力が鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力: ボールは空中にあるため、何にも接触していません。したがって、接触力(垂直抗力、張力、摩擦力など)は一切はたらきません。
結論と吟味
ボールにはたらく力は、鉛直下向きの重力のみです。一瞬静止していても、力はつりあっていません(合力が下向きの重力なので、この直後、ボールは下向きに加速し始めます)。
問(6)
思考の道筋とポイント
あらい斜面上に物体が静止しています。斜面上の物体にはたらく力を考えます。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「斜面」のみです。
- 斜面からは「垂直抗力」と「摩擦力」の2つの力がはたらく可能性があります。
- 物体は重力によって斜面を滑り落ちようとします。これを妨げる向き(斜面に沿って上向き)に「静止摩擦力」がはたらきます。
具体的な解説と立式
- 重力: 鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- 斜面から: 斜面が物体を面に垂直な向きに押す「垂直抗力」と、物体が滑り落ちるのを妨げるために斜面に沿って上向きにはたらく「静止摩擦力」の2つの力がはたらきます。
結論と吟味
物体には、鉛直下向きに「重力」、斜面に垂直な向きに「垂直抗力」、斜面に沿って上向きに「静止摩擦力」の合計3つの力がはたらきます。
問(7)
思考の道筋とポイント
あらい斜面上の物体を、手で斜め上方に押し、まさに「上方へすべりだす直前」の状態です。
この設問における重要なポイント
- 物体に接触しているのは「斜面」と「手」の2つです。
- 「上方へすべりだす直前」という記述から、摩擦力の向きが決まります。物体は上に動こうとしているので、静止摩擦力はその動きを妨げる向き、つまり「斜面に沿って下向き」にはたらきます。
具体的な解説と立式
- 重力: 鉛直下向きにはたらきます。
- 接触力:
- 斜面から: 斜面が物体を面に垂直な向きに押す「垂直抗力」と、物体が上へ動こうとするのを妨げるために斜面に沿って下向きにはたらく「静止摩擦力」の2つの力がはたらきます。
- 手から: 手が物体を図の矢印の向きに押す力がはたらきます。
結論と吟味
物体には、鉛直下向きに「重力」、斜面に垂直な向きに「垂直抗力」、図の向きに「手が押す力」、そして斜面に沿って下向きに「静止摩擦力」の合計4つの力がはたらきます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 物体にはたらく力の体系的な発見法:
- 核心: この問題は、特定の物理法則を適用する以前の、最も重要な準備段階である「物体にはたらく力を、漏れなく、かつ正確に探し出す」というスキルを養成することを目的としています。
- 理解のポイント: どんな複雑な状況でも、以下の2ステップの手順に従うことで、力を体系的に見つけ出すことができます。
- 遠隔力(離れていてもはたらく力)を探す: 高校物理の力学では、これは基本的に「重力」のみです。まず、注目物体の重心から鉛直下向きに重力の矢印を描きます。
- 接触力を探す: 次に、注目物体が「何と接触しているか」を全てリストアップします(例:床、壁、糸、ばね、手、空気など)。そして、接触している相手のそれぞれから受ける力を描きます。
- 面から受ける力: 「垂直抗力」(面に垂直)と「摩擦力」(面に平行)の2種類。
- 糸から受ける力: 「張力」(糸が伸びる方向)。
- ばねから受ける力: 「弾性力」(自然長に戻る方向)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 力のつり合いの問題: 力の図示ができた後、各方向の力のつり合いの式(例:\(x\)成分の和=0, \(y\)成分の和=0)を立てて、未知の力を求めます。
- 運動方程式を立てる問題: 物体が運動している場合、図示 した力を使って合力を求め、運動方程式(\(ma=F\))を立てて加速度を求めます。
- 仕事やエネルギーの問題: 図示した各力が、物体の運動に対して「仕事」をするかしないかを判断し、エネルギーの変化を計算します。
- 力の図示は、全ての力学問題を解くための出発点です。
- 初見の問題での着眼点:
- 注目物体を明確にする: まず「どの物体にはたらく力を考えるのか」をはっきりと意識します。複数の物体がある場合は特に重要です。
- 重力を描く: どんな状況でも、質量がある物体には必ず重力がはたらきます。最初に忘れずに描き込みましょう。
- 「接触点」を探す: 物体の輪郭を指でなぞり、「何に触れているか」を一つ残らず見つけ出します。
- 摩擦力の向きを判断する: 「物体が動こうとする向き」または「動いている向き」の「逆向き」に摩擦力ははたらきます。問題文の「静止している」「すべりだす直前」「運動している」などの記述が最大のヒントになります。
- 力がはたらかないケースを認識する: 水平方向に動こうとしていなければ摩擦力ははたらかない(問(1))、空中にあれば接触力ははたらかない(問(5))など、力が存在しない条件も正しく理解することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の描き忘れ:
- 誤解: 重力や垂直抗力など、当たり前に存在する力をうっかり描き忘れる。
- 対策: 「重力→接触力」の手順を機械的に実行する。特に、接触している面からは「垂直抗力」と「摩擦力」の2つの力がはたらく可能性を常に念頭に置く。
- 存在しない力を描いてしまう:
- 誤解: 問(5)で、ボールが最高点にあるにもかかわらず、「投げ上げた上向きの力」がまだ残っていると考えてしまう。また、運動の向きに「慣性の力」のような架空の力を描いてしまう。
- 対策: 力は物体に「蓄えられる」ものではなく、その瞬間に「何から受けているか」で決まる、と理解すること。手が離れれば「手から受ける力」はゼロになります。
- 作用・反作用の混同:
- 誤解: 問(3)で、注目物体(下の箱)にはたらく力を考えるべきなのに、下の箱がボールを押す力(反作用)などを描いてしまう。
- 対策: 矢印を描くたびに「この力は、何が、何を、どちら向きに押したり引いたりしている力か」を主語・目的語を明確にして説明する癖をつける。注目物体は常に「何を(目的語)」の部分に来ます。
- 摩擦力の向きの間違い:
- 誤解: 問(7)で、物体が上に動こうとしているのに、摩擦力も上向きに描いてしまう。
- 対策: 摩擦力は「運動を妨げる抵抗勢力」であるとイメージする。「もし摩擦がなかったら物体はどっちに動くか?」を考え、その逆向きに摩擦力を描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力の発見手順(重力→接触力):
- 選定理由: この問題では、計算式よりも「思考の手順」が重要です。この手順は、物理的な力をその性質(遠隔力か接触力か)に基づいて分類し、システマティックに探索するための、最も信頼性が高く、ミスが少ない方法論です。
- 適用根拠: 自然界の力は、その作用の仕方によって分類できます。高校力学で扱う範囲では、この分類に従って探すことで、あらゆる力を網羅的に見つけ出すことが可能です。場当たり的に思いついた力から描いていくと、必ず漏れやダブりが生じます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は計算を伴いませんが、「作図ミス」をなくすための実践テクニックは以下の通りです。
- 注目物体を鉛筆で囲む: 複数の物体がある図では、まず自分が今から力を図示する物体を鉛筆で軽く丸で囲み、意識を集中させます。
- 作用点を意識する: 力の矢印は、物体上の正しい作用点から描き始めることが重要です。重力は重心から、接触力は接触している点や面から描きます。
- 力の名前を書き添える: 描いた矢印の横に「重力W」「張力T」「垂直抗力N」「静止摩擦力f」など、力の種類をメモしておくと、後から見直したときに分かりやすく、描き忘れのチェックにもなります。
- セルフチェック: 全て描き終わったと思ったら、「この物体は、本当にこれ以外の何ものからも力を受けていないか?」と最後にもう一度、指差し確認する習慣をつけましょう。
48 垂直抗力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直方向の力のつり合い」です。物体が静止しているという情報から、物体にはたらく力がつりあっていることを利用して、未知の力(垂直抗力)を求める、力学の最も基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。特に、ある方向について、正の向きの力の合計と負の向きの力の合計は等しくなります。
- 重力: 地球が物体を引く力で、大きさは \(W=mg\)(質量×重力加速度)で計算できます。向きは常に鉛直下向きです。
- 垂直抗力: 面が物体を垂直に押す力です。この力は、物体が面にめり込むのを防ぐようにはたらきます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体にはたらく力をすべて図示します(重力と垂直抗力)。
- 次に、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
- 最後に、与えられた質量と重力加速度から重力の大きさを計算し、つり合いの式に代入して垂直抗力の大きさを求めます。
思考の道筋とポイント
水平な床に置かれた物体にはたらく垂直抗力の大きさを求める問題です。問題文には明記されていませんが、「置く」という状況から物体は静止していると判断できます。物体が静止しているということは、物体にはたらく全ての力がつりあっている(バランスが取れている)ことを意味します。この問題では、鉛直方向の力のつり合いを考えます。
この設問における重要なポイント
- 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている。
- 物体にはたらく力は、鉛直下向きの「重力」と、鉛直上向きの「垂直抗力」の2つのみ。
- 力のつり合いから、上向きの力と下向きの力の大きさは等しい。
- 重力の大きさは \(W=mg\) の公式で計算する。
具体的な解説と立式
まず、物体にはたらく力を特定します。
- 重力 \(\vec{W}\): 地球が物体を引く力。鉛直下向きにはたらく。
- 垂直抗力 \(\vec{N}\): 床が物体を押し返す力。鉛直上向きにはたらく。
物体は静止しているので、鉛直方向の力がつりあっています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は次のように立てられます。
$$ N – W = 0 \quad \cdots ① $$
ここで、重力 \(W\) の大きさは、質量 \(m=3.0 \text{ kg}\) と重力加速度の大きさ \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を用いて、以下の式で計算できます。
$$ W = mg $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: 上向きの力の和 = 下向きの力の和
- 重力: \(W = mg\)
まず、重力 \(W\) の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= mg \\[2.0ex]&= 3.0 \times 9.8 \\[2.0ex]&= 29.4 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
この結果を、力のつり合いの式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
N – 29.4 &= 0 \\[2.0ex]N &= 29.4 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
問題で与えられている数値(\(3.0 \text{ kg}\), \(9.8 \text{ m/s}^2\))は有効数字が2桁なので、計算結果も有効数字2桁に合わせます。小数第2位の4を四捨五入すると、
$$ N \approx 29 \text{ [N]} $$
物体が床に静止していられるのは、地球が物体を下に引く「重力」と、床が物体を上に押し返す「垂直抗力」が、ちょうど綱引きのように引き分けになっているからです。つまり、2つの力の大きさは同じです。
まず、重力の大きさを計算します。これは「質量(3.0 kg)× 重力加速度(9.8 m/s²)」で求められ、29.4 N となります。
垂直抗力の大きさは、この重力と等しいので、同じく 29.4 N です。最後に、問題で使われている数字が2桁なので、答えも2桁にそろえて 29 N とします。
床から受ける垂直抗力の大きさは \(29 \text{ N}\) です。水平な床に物体が置かれている最も単純なケースでは、「垂直抗力 = 重力」となります。計算過程および有効数字の処理も適切です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い:
- 核心: 物体が静止している、あるいは等速直線運動しているとき、その物体にはたらく力のベクトル和(合力)はゼロである、というニュートンの第一法則(慣性の法則)の応用です。この問題は、その最も単純な形である「静止した物体にはたらく鉛直方向の力のつり合い」を扱っています。
- 理解のポイント:
- 「合力がゼロ」とは、ある方向について「正の向きの力の合計」と「負の向きの力の合計」が等しいことを意味します。
- この問題では、鉛直上向きの力(垂直抗力)と鉛直下向きの力(重力)の大きさが等しくなる、ということです。
- 重力の定義式 (\(W=mg\)):
- 核心: 物体の「質量 \(m\) [kg]」という、物体そのものが持つ固有の量と、その物体にはたらく「重力の大きさ \(W\) [N]」という、場所(重力加速度 \(g\))に依存する力とを結びつける、極めて重要な関係式です。
- 理解のポイント: 質量と重さ(重力の大きさ)は異なる物理量であることを明確に区別する必要があります。質量はどこへ行っても変わりませんが、重さは月や宇宙空間では変化します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上の物体: 物体が斜面上にある場合、垂直抗力は重力そのものではなく、重力の「斜面に垂直な成分(\(mg\cos\theta\))」とつり合います。
- エレベーター内の物体: エレベーターが加速度運動している場合、物体は静止していない(または等速直線運動ではない)ため、力はつり合いません。この場合は運動方程式(\(ma = N – mg\))を立てて考えます。垂直抗力の大きさは、静止しているときとは異なります。
- 物体を上から押したり、下から引いたりする場合: 水平な床の上にあっても、外部から鉛直方向に別の力が加わると、垂直抗力の大きさは変化します。例えば、上から力\(F\)で押すと、垂直抗力は \(N = mg + F\) となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体の運動状態を確認: まず、物体が「静止している」のか「等速直線運動している」のか(\(\rightarrow\) 力のつり合い)、それとも「加速している」のか(\(\rightarrow\) 運動方程式)を問題文から判断します。
- 力を全て図示する: 注目物体にはたらく力を、漏れなく全て矢印で描き出します。この問題では重力と垂直抗力だけですが、他の問題では張力や摩擦力なども加わります。
- 座標軸を設定し、式を立てる: 鉛直上向きを正とするなど、座標軸を決め、その方向の力のつり合いの式、または運動方程式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量と重力の混同:
- 誤解: 垂直抗力を聞かれているのに、質量である \(3.0 \text{ kg}\) を答えとしてしまう。あるいは、重力の大きさを \(3.0 \text{ N}\) と勘違いする。
- 対策: 単位に注目する癖をつけること。「質量」の単位は[kg]、「力(重力、垂直抗力など)」の単位は[N]です。単位が違えば、それは全く別の物理量です。
- 重力加速度の値を間違える:
- 誤解: 問題で \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) と指定されているのに、計算の簡略化のために \(g=10 \text{ m/s}^2\) を使ってしまう。
- 対策: 問題文で物理定数が与えられている場合は、必ずその値を用いることを徹底する。特に指定がない場合にのみ、慣例的な値を使います。
- 有効数字の処理ミス:
- 誤解: \(3.0 \times 9.8 = 29.4\) と計算した後、そのまま \(29.4 \text{ N}\) と答えてしまう。
- 対策: 計算に用いた数値の有効数字を確認する習慣をつける。この問題では、\(3.0\)(2桁)と\(9.8\)(2桁)を掛け合わせているので、結果も2桁にそろえる必要があります。したがって、\(29.4\) を四捨五入して \(29\) とします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(N-W=0\)):
- 選定理由: 問題の状況が「物体が静止している」からです。物理学の大原則であるニュートンの運動法則(\(m\vec{a}=\vec{F}\))において、静止している物体の加速度は \(\vec{a}=0\) です。したがって、物体にはたらく合力 \(\vec{F}\) もゼロでなければなりません。この「合力がゼロ」という物理法則を、鉛直方向について数式で表現したものが \(N-W=0\) です。
- 重力の公式 (\(W=mg\)):
- 選定理由: つり合いの式を解くためには、重力 \(W\) の具体的な値を求める必要があります。この公式は、物体の普遍的な性質である「質量 \(m\)」から、その場所で受ける「重力の大きさ \(W\)」を計算するための唯一の方法です。問題文に質量 \(m\) と重力加速度 \(g\) が与えられていることから、この公式を使うことが論理的に導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を意識した計算: \(W = 3.0 \text{ [kg]} \times 9.8 \text{ [m/s}^2\text{]}\) のように、計算式に単位を書き込むと、自分が何を計算しているのかが明確になり、質量と力を混同するミスを防げます。また、結果の単位が力の単位[N](\(=[\text{kg} \cdot \text{m/s}^2]\))になることも確認できます。
- 筆算の徹底: \(3.0 \times 9.8\) のような簡単な計算でも、テスト本番では焦ってミスをすることがあります。自信がない場合は、必ず計算用紙の隅で筆算を行い、検算する習慣をつけましょう。
- 有効数字のルールを再確認:
- 和・差: 結果は、最も小数点以下の桁数が少ないものに合わせる。
- 積・商: 結果は、最も有効数字の桁数が少ないものに合わせる。
- この問題は掛け算なので、後者のルールが適用されます。
49 弾性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「フックの法則と力のつり合い」です。ばねにつるされた物体が静止している状況から、弾性力と重力がつりあっていることを利用して、ばねの性質(ばね定数)や、異なるおもりをつるしたときのばねの長さを求めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばねの自然の長さからの変形量(伸びや縮み)\(x\) に比例します(\(F=kx\))。
- 重力: 物体にはたらく重力の大きさ \(W\) は、質量 \(m\) と重力加速度 \(g\) を用いて \(W=mg\) と計算できます。
- ばねの「伸び」の定義: フックの法則で用いる \(x\) は、ばねの「全長」ではなく、「自然の長さからの変化量」であることに注意が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おもりAにはたらく力のつり合いの式を立てます。この式にフックの法則と重力の公式を適用し、未知のばね定数 \(k\) を求めます。
- (2)では、おもりBにはたらく力のつり合いの式を立てます。(1)で求めたばね定数 \(k\) を用いて、未知のばねの全長 \(l\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
ばねの硬さを表す「ばね定数 \(k\)」を求める問題です。おもりAをつるした状況で、おもりにはたらく力は「重力」と「弾性力」の2つであり、これらがつりあっています。この力のつり合いの関係式と、弾性力の大きさを具体的に計算するための「フックの法則」を組み合わせることで、ばね定数 \(k\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- おもりAにはたらく力は、下向きの重力 \(W_A\) と上向きの弾性力 \(F_A\) で、これらがつりあっている (\(F_A = W_A\))。
- フックの法則 \(F=kx\) の \(x\) は「ばねの伸び」であり、「全長(0.38m) – 自然長(0.24m)」で計算する。
- 重力の大きさは \(W=mg\) で計算する。
具体的な解説と立式
おもりA(質量 \(m_A = 2.0 \text{ kg}\))にはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(W_A\) と、鉛直上向きの弾性力 \(F_A\) です。おもりAは静止しているので、これらの力はつりあっています。
$$ F_A – W_A = 0 $$
したがって、
$$ F_A = W_A \quad \cdots ① $$
ここで、弾性力 \(F_A\) はフックの法則 \(F=kx\) から、重力 \(W_A\) は \(W=mg\) から、それぞれ具体的に表すことができます。
フックの法則におけるばねの伸び \(x_A\) は、
$$ x_A = (\text{ばねの全長}) – (\text{自然の長さ}) = 0.38 – 0.24 \text{ [m]} $$
よって、弾性力は \(F_A = k x_A = k(0.38 – 0.24)\) となります。
重力は \(W_A = m_A g = 2.0 \times 9.8\) となります。
これらを①式に代入すると、ばね定数 \(k\) に関する方程式が得られます。
$$ k(0.38 – 0.24) = 2.0 \times 9.8 $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(F=W\)
- フックの法則: \(F=kx\)
- 重力: \(W=mg\)
上記で立てた方程式を \(k\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k(0.14) &= 19.6 \\[2.0ex]k &= \frac{19.6}{0.14} \\[2.0ex]&= \frac{1960}{14} \\[2.0ex]&= 140 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$
有効数字は、問題文の \(2.0 \text{ kg}\), \(9.8 \text{ m/s}^2\) などから2桁と判断します。したがって、指数表記を用いて、
$$ k = 1.4 \times 10^2 \text{ [N/m]} $$
おもりAが静止しているのは、「ばねが上に引く力(弾性力)」と「地球が下に引く力(重力)」が等しいからです。
まず、重力は「質量(2.0kg) × 重力加速度(9.8m/s²)」で \(19.6 \text{ N}\) です。
次に、ばねの伸びは「つるした後の長さ(0.38m) – 元の長さ(0.24m)」で \(0.14 \text{ m}\) です。
フックの法則「弾性力 = ばね定数 × 伸び」より、「\(19.6 \text{ N}\) = ばね定数\(k\) × \(0.14 \text{ m}\)」という式が成り立ちます。これを解くと、ばね定数\(k\)が求まります。
ばね定数は \(1.4 \times 10^2 \text{ N/m}\) となります。計算過程、有効数字の扱いともに適切です。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は質量 \(3.0 \text{ kg}\) のおもりBをつるしたときの、ばねの全長 \(l\) を求める問題です。考え方の手順は(1)と全く同じです。おもりBにはたらく力のつり合いの式を立て、(1)で求めたばね定数 \(k\) を使って、未知の長さ \(l\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- おもりBにはたらく力も、重力 \(W_B\) と弾性力 \(F_B\) でつりあっている (\(F_B = W_B\))。
- このときのばねの伸び \(x_B\) は、「新しい全長(\(l\)) – 自然長(0.24m)」で表される。
- ばね定数 \(k\) は、おもりを変えても変わらない、ばね固有の値である。
具体的な解説と立式
おもりB(質量 \(m_B = 3.0 \text{ kg}\))をつるしたときも、その重力 \(W_B\) とばねの弾性力 \(F_B\) がつりあいます。
$$ F_B = W_B \quad \cdots ② $$
このときのばねの全長を \(l\) とすると、ばねの伸び \(x_B\) は \(x_B = l – 0.24\) となります。
フックの法則と重力の公式を②式に適用すると、
$$ k(l – 0.24) = m_B g $$
この式に、(1)で求めた \(k = 1.4 \times 10^2 \text{ N/m}\) と、与えられた \(m_B = 3.0 \text{ kg}\), \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\) を代入すれば、\(l\) を求めることができます。
$$ 1.4 \times 10^2 \times (l – 0.24) = 3.0 \times 9.8 $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(F=W\)
- フックの法則: \(F=kx\)
- 重力: \(W=mg\)
上記で立てた方程式を \(l\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
140(l – 0.24) &= 29.4 \\[2.0ex]l – 0.24 &= \frac{29.4}{140} \\[2.0ex]l – 0.24 &= 0.21 \\[2.0ex]l &= 0.21 + 0.24 \\[2.0ex]&= 0.45 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
(1)と同じように、おもりBでも「弾性力」と「重力」がつりあいます。
まず、おもりBの重力は「質量(3.0kg) × 重力加速度(9.8m/s²)」で \(29.4 \text{ N}\) です。
フックの法則「弾性力 = ばね定数 × 伸び」から、ばねの伸びは「弾性力(29.4N) ÷ ばね定数(140N/m)」で \(0.21 \text{ m}\) と計算できます。
これはあくまで「伸び」なので、ばね全体の長さを求めるには、元の自然の長さ(\(0.24 \text{ m}\))を足してあげる必要があります。したがって、全長は \(0.24 \text{ m} + 0.21 \text{ m} = 0.45 \text{ m}\) となります。
ばねの長さは \(0.45 \text{ m}\) となります。おもりA(2.0kg)より重いおもりB(3.0kg)をつるしたので、ばねの長さが長くなるという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いとフックの法則の連携:
- 核心: この問題は、独立した2つの物理法則、「力のつり合い(\(F_{\text{弾性力}} = W_{\text{重力}}\))」と「フックの法則(\(F=kx\))」を組み合わせて解く、典型的な問題です。物理現象を理解するためには、このように複数の法則を適切に連携させる思考が不可欠です。
- 理解のポイント:
- まず「力のつり合い」という現象を捉え、弾性力と重力の大きさが等しいことを見抜く。
- 次に、その弾性力や重力の大きさを、具体的な物理量(ばねの伸び\(x\)、質量\(m\)など)を用いて数式で表現するために、「フックの法則」や「重力の公式」を適用する。
- 「伸び」の正確な理解:
- 核心: フックの法則に現れる \(x\) は、ばねの「全長」ではなく、あくまで「自然の長さからの変化量」であるという点。
- 理解のポイント: 問題文に「自然の長さ」と「ばねの全長」の両方が与えられている場合、必ずその差を計算して「伸び」を求める必要があります。この区別が、この種の問題で最も重要な注意点です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねの並列・直列接続: 2本のばねを並列につないだり、直列につないだりする問題。それぞれのばねにはたらく力や伸びを考え、合成されたばね(合成ばね定数)として扱うと見通しが良くなります。
- 斜面上のばね: ばねにつるした物体を斜面上に置く場合。力のつり合いの相手は、重力\(mg\)そのものではなく、重力の斜面平行成分 \(mg\sin\theta\) になります。
- 浮力とばね: 物体をばねにつるして水中に沈める場合。物体にはたらく力は、上向きの「弾性力」と「浮力」、下向きの「重力」の3つになり、これらの力のつり合いを考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられた長さを区別する: 問題文を読み、「自然の長さ \(l_0\)」と「変化後の全長 \(l\)」を明確に区別し、それぞれに印をつけます。そして、計算に使う「伸び \(x = l – l_0\)」を最初に求めておくと間違いがありません。
- 未知数と既知数を確認する: (1)では\(k\)が未知数、(2)では\(l\)が未知数です。どちらの設問でも「力のつり合い」と「フックの法則」から同じ構造の式を立てることに変わりはない、と全体像を把握します。
- 比例関係に注目する: ばねの伸びは、つるしたおもりの重さ(質量)に比例します。この関係を使えば、(1)の結果を使って(2)を検算したり、別解として素早く解いたりすることが可能です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フックの法則の \(x\) に全長を代入する:
- 誤解: (1)で、\(k \times 0.38 = 2.0 \times 9.8\) のように、ばねの全長を伸びと勘違いして式を立ててしまう。
- 対策: フックの法則は「\(F=k \times (\text{伸び})\)」と、言葉で覚えておくこと。そして、問題文から「自然長」と「全長」を探し出し、「伸び = 全長 – 自然長」の計算を必ずワンクッション挟む癖をつける。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: ばねの長さが cm で与えられた場合に、m に直さずに計算してしまい、単位の整合性が取れなくなる。
- 対策: 物理の計算を始める前に、全ての物理量を基本単位(この場合はメートル[m]、キログラム[kg]、秒[s])に統一する習慣を徹底する。
- 小数・分数の計算ミス:
- 誤解: (1)の \(k = 19.6 / 0.14\) のような小数を含む割り算で計算を間違う。
- 対策: 計算しやすいように、分母と分子に100を掛けて \(1960 / 14\) のように整数に直してから筆算するなど、工夫する。計算は焦らず、丁寧に行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(F-W=0\)):
- 選定理由: 問題文に「おもりAをつるすと、ばねの長さが0.38mになった」とあり、これはおもりがその位置で「静止」していることを意味します。物理学の基本法則より、静止している物体の加速度はゼロであり、したがって、はたらく力の合力もゼロでなければなりません。この物理的状況を数式で表現したものが、力のつり合いの式です。
- フックの法則 (\(F=kx\)) と 重力の公式 (\(W=mg\)):
- 選定理由: 「力のつり合い」という関係だけでは、具体的な数値は求まりません。つりあっている2つの力、「弾性力 \(F\)」と「重力 \(W\)」が、それぞれどのような物理量で決まるのかを記述する法則が必要です。弾性力は「ばね定数 \(k\) と伸び \(x\)」で、重力は「質量 \(m\) と重力加速度 \(g\)」で決まるため、これらの法則を適用して、つり合いの式を具体的な計算式に落とし込みます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比例計算による別解・検算:
- ばねの伸びは、おもりの質量に比例します。
- (1) おもりA (2.0 kg) での伸びは \(x_A = 0.38 – 0.24 = 0.14\) m。
- (2) おもりB (3.0 kg) の質量は、おもりAの \(3.0 / 2.0 = 1.5\) 倍です。
- したがって、おもりBでの伸び \(x_B\) も、\(x_A\) の1.5倍になるはずです。
- \(x_B = 0.14 \times 1.5 = 0.21\) m。
- 求める全長 \(l\) は、自然長にこの伸びを足して、\(l = 0.24 + 0.21 = 0.45\) m。
- この方法は、ばね定数\(k\)を介さずに(2)を解くことができ、計算が簡単なため検算に非常に有効です。
- 有効数字の管理: 計算に用いる数値(2.0, 9.8, 0.24, 0.38)はすべて有効数字2桁です。計算の途中では桁数を少し多め(3桁程度)に残しておき、最終的な答えを出すときに2桁に丸めるのが最も正確です。
- 式変形の丁寧さ: (2)の \(140(l – 0.24) = 29.4\) という式を解く際、まず両辺を140で割って \(l-0.24 = 0.21\) とし、最後に移項して \(l = 0.21 + 0.24\) とする、というように、一度に複数の操作をせず、一段階ずつ丁寧に式を変形することでミスを防ぎます。
50 弾性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「垂直抗力と弾性力が関係する力のつり合い」です。ばねで物体を引き上げる過程で、物体にはたらく力がどのように変化するかを考察します。特に、「物体が面から離れる」という条件を物理的にどう解釈するかがポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロになります。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然の長さからの伸びに比例します(\(F=kx\))。
- 重力: 物体にはたらく重力の大きさは、質量と重力加速度の積で計算できます(\(W=mg\))。
- 垂直抗力の性質: 垂直抗力は、面が物体を押す力であり、物体が面から離れればゼロになります。また、面が物体を引くことはないため、垂直抗力はゼロより小さくなることはありません(\(N \ge 0\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おもりにはたらく3つの力(重力、弾性力、垂直抗力)のつり合いの式を立て、与えられた数値を代入して垂直抗力\(N\)を求めます。
- (2)では、「台から離れる」という条件を「垂直抗力\(N=0\)」と読み替え、力のつり合いの式に適用して、そのときのばねの伸び\(x\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
ばねの伸びが\(5.0 \text{ cm}\)のときに、台がおもりを支えている力(垂直抗力)の大きさを求める問題です。おもりは静止しているため、おもりにはたらく力はつりあっています。おもりにはたらく力をすべて特定し、鉛直方向の力のつり合いの式を立てることで、未知の垂直抗力\(N\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- おもりにはたらく力は、下向きの「重力」と、上向きの「ばねの弾性力」「台からの垂直抗力」の3つである。
- 力のつり合いの条件は、「上向きの力の和 = 下向きの力の和」。
- フックの法則 \(F=kx\) を用いる際、ばねの伸びの単位をcmからmに換算する必要がある。
具体的な解説と立式
おもりにはたらく力は以下の3つです。
- 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)
- 鉛直上向きのばねの弾性力 \(\vec{F}\)
- 鉛直上向きの台からの垂直抗力 \(\vec{N}\)
おもりは静止しているので、これらの力はつりあっています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は次のようになります。
$$ F + N – W = 0 \quad \cdots ① $$
ここで、重力\(W\)と弾性力\(F\)の大きさは、それぞれ以下の公式で計算できます。
$$ W = mg $$
$$ F = kx $$
問題で与えられた値を代入して、これらの力を求め、①式から\(N\)を計算します。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 重力: \(W=mg\)
- フックの法則: \(F=kx\)
まず、重力\(W\)と弾性力\(F\)の大きさを計算します。
重力\(W\):
$$
\begin{aligned}
W &= 1.0 \times 9.8 \\[2.0ex]&= 9.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
弾性力\(F\):
ばねの伸び \(x = 5.0 \text{ cm} = 0.050 \text{ m}\) であることに注意します。
$$
\begin{aligned}
F &= 70 \times 0.050 \\[2.0ex]&= 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
これらの値を力のつり合いの式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
3.5 + N – 9.8 &= 0 \\[2.0ex]N &= 9.8 – 3.5 \\[2.0ex]&= 6.3 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
おもりは静止しているので、上向きの力と下向きの力が等しくなっています。
下向きの力は「重力」だけで、その大きさは \(1.0 \text{ kg} \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 9.8 \text{ N}\) です。
上向きの力は、「ばねが引く力」と「台が支える力(垂直抗力\(N\))」の2つです。
ばねが引く力は、フックの法則から \(70 \text{ N/m} \times 0.050 \text{ m} = 3.5 \text{ N}\) と計算できます。(5.0cmを0.050mに直すのを忘れずに!)
力のつり合いの式は、「上向きの力の合計 = 下向きの力」なので、「\(3.5 + N = 9.8\)」となります。これを解くと、\(N=6.3 \text{ N}\) が求まります。
台がおもりを支えている力の大きさは \(6.3 \text{ N}\) です。ばねの弾性力(\(3.5 \text{ N}\))だけでは重力(\(9.8 \text{ N}\))を支えきれないため、残りの力を台が垂直抗力として支えている、という物理的に妥当な結果が得られました。
問(2)
思考の道筋とポイント
おもりが台から離れる瞬間の、ばねの伸び\(x\)を求める問題です。「台から離れる」という現象を、物理的な条件に置き換えることが鍵となります。物体が面から離れる、まさにその瞬間、面が物体を押す力、すなわち垂直抗力がゼロになります。
この設問における重要なポイント
- 「おもりが台から離れる瞬間」とは、「垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間」である。
- この瞬間も物体はまだ静止している(まさに離れようとする瞬間)ので、力のつり合いの式が成り立つ。
- このときの力のつり合いは、上向きの弾性力と下向きの重力がちょうど等しくなる状態である。
具体的な解説と立式
おもりが台から離れる瞬間、台はおもりを支える必要がなくなり、垂直抗力 \(N\) は \(0\) になります。
この条件を(1)で立てた力のつり合いの式①に代入します。
$$ F + 0 – W = 0 $$
よって、この瞬間の弾性力 \(F\) は重力 \(W\) と等しくなります。
$$ F = W $$
このときのばねの伸びを \(x\) とすると、フックの法則と重力の公式から、
$$ kx = mg $$
この式を \(x\) について解くことで、求める伸びが得られます。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 重力: \(W=mg\)
- フックの法則: \(F=kx\)
\(kx = mg\) の式に、与えられた値を代入して \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
70 \times x &= 1.0 \times 9.8 \\[2.0ex]70x &= 9.8 \\[2.0ex]x &= \frac{9.8}{70} \\[2.0ex]&= 0.14 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
おもりが台からちょうど浮き上がる瞬間を考えます。このとき、台はもうおもりを支えていません(垂直抗力がゼロ)。つまり、ばねが単独で、おもりの重力のすべてを支えている状態です。
おもりの重力は \(9.8 \text{ N}\) なので、ばねの弾性力も \(9.8 \text{ N}\) になればよいわけです。
フックの法則「弾性力 = ばね定数 × 伸び」を「伸び = 弾性力 ÷ ばね定数」と変形して、
「伸び = \(9.8 \text{ N} \div 70 \text{ N/m}\)」を計算すると、\(0.14 \text{ m}\) が求まります。
おもりが台から離れるときのばねの伸びは \(0.14 \text{ m}\) です。(1)のときの伸び \(0.050 \text{ m}\) よりも大きい値であり、ばねをさらに引き上げた結果、台から離れたという状況と一致しています。結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いの条件:
- 核心: 物体が静止している(あるいはゆっくり動いている)とき、物体にはたらく力の合力はゼロである、という基本原則。この問題では、上向きの力(弾性力と垂直抗力)の和と、下向きの力(重力)が等しいという形で適用されます。
- 理解のポイント: 1つの物体にはたらく複数の力を、1本のつり合いの式にまとめることが全ての出発点です。
- 垂直抗力の性質(\(N \ge 0\)):
- 核心: 垂直抗力は、面が物体を押す力であり、その大きさは状況に応じて変化します。そして最も重要な性質は、「面が物体を引くことはない」ということです。
- 理解のポイント:
- 物体が面に接している限り、垂直抗力は \(N \ge 0\) の値を持ちます。
- 「物体が面から離れる瞬間」とは、物理的に「垂直抗力 \(N\) がちょうど \(0\) になる瞬間」と解釈できます。この言い換えができるかどうかが、(2)を解くための最大の鍵です。
- フックの法則 (\(F=kx\)):
- 核心: ばねの弾性力の大きさを、ばねの伸び \(x\) という具体的な量と結びつけるための法則。力のつり合いの式だけでは解けない問題を、具体的な数値計算に落とし込むための重要なツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆に上から押していく問題: ばねで引き上げる代わりに、上から手で押す力を加えていく場合。押す力が大きくなるにつれて、垂直抗力 \(N\) は重力 \(mg\) よりも大きくなっていきます。
- 斜面上で引き上げる問題: 物体が斜面上にある場合、力のつり合いは「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えます。垂直抗力は重力の垂直成分 \(mg\cos\theta\) とつり合い、物体が離れる瞬間にゼロになります。
- 浮力が関係する問題: 水中の台の上にある物体をばねで引き上げる場合。上向きの力は「弾性力」「垂直抗力」「浮力」の3つになり、これらと重力がつり合います。
- 初見の問題での着眼点:
- 「〜のとき」「〜の瞬間」という条件に注目: 問題文中の「ばねの伸びが5.0cmのとき」や「台から離れるとき」といった条件が、物理的に何を意味するのかを考えます。特に「離れる」「滑り出す」などの言葉は、特定の力がゼロになったり、最大値になったりする「限界の瞬間」を表す重要なキーワードです。
- 力のリストアップと図示: まず、物体にはたらく力を全て(重力、弾性力、垂直抗力など)描き出します。力が3つ以上ある場合は特に、描き忘れがないか慎重に確認します。
- 力のつり合いの式を一般形で立てる: 最初に、\(F+N-W=0\) のように、全ての力が含まれた一般的なつり合いの式を立てます。その上で、(1)では \(x=0.050\) を代入して \(N\) を求め、(2)では \(N=0\) を代入して \(x\) を求める、というように、状況に応じて式を使い分けると考え方が整理されます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位の換算ミス:
- 誤解: (1)で、ばねの伸び \(5.0 \text{ cm}\) を \(0.5 \text{ m}\) や \(5.0 \text{ m}\) と間違えたり、あるいは換算せずに \(70 \times 5.0\) と計算してしまったりする。
- 対策: 計算を始める前に、問題で与えられた全ての物理量をSI基本単位(メートル[m]、キログラム[kg]、秒[s])に変換する癖をつける。「\(5.0 \text{ cm} = 0.050 \text{ m}\)」のように、計算用紙の隅に書き出してから式に代入する。
- 「離れる瞬間」の物理的解釈ミス:
- 誤解: 「離れる」と聞いて、力がつり合っていない(運動が始まっている)と考え、運動方程式を立てようとして混乱する。
- 対策: 「離れる瞬間」とは、静止状態の限界点であり、まだ力のつり合いが成立している(加速度がゼロの)最後の瞬間と捉えること。その限界の条件が「垂直抗力 \(N=0\)」です。
- 力の描き忘れ:
- 誤解: (1)の状況で、台からの垂直抗力 \(N\) の存在を忘れてしまい、\(F=W\) という間違った式を立ててしまう。
- 対策: 「物体に接触しているものを全てリストアップする」という基本手順を徹底する。この問題では、物体は「ばね」と「台」の両方に接触しているので、両方から力を受けるはずだと考える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(F+N-W=0\)):
- 選定理由: 問題文の「静かに引き上げる」という記述は、物体が常に静止しているか、それに準ずる状態(加速度ゼロ)であることを示唆しています。ニュートンの運動法則 \(m\vec{a}=\vec{F}_{\text{合力}}\) において \(\vec{a}=0\) なので、合力はゼロになります。この物理法則を、鉛直方向の力について数式で表現したものが、このつり合いの式です。
- 条件式 (\(N=0\)) の適用:
- 選定理由: (2)で問われている「離れるとき」という物理的な事象を、計算可能な数学的な条件に変換するために必要です。
- 適用根拠: 垂直抗力は、面が物体を押すことで生じる力です。したがって、物体が面から離れれば、もはや面は物体を押すことができず、その力はゼロになります。これは垂直抗力の定義そのものから導かれる論理的な帰結です。この条件をつり合いの一般式に代入することで、その特殊な瞬間の状態を記述する方程式が得られます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を揃えてから計算する: 計算を始める前に、全ての数値をSI基本単位系(m, kg, s, N, N/m)に変換して書き出す習慣をつけましょう。
- \(k = 70 \text{ N/m}\)
- \(m = 1.0 \text{ kg}\)
- \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\)
- (1)の伸び \(x = 5.0 \text{ cm} \rightarrow 0.050 \text{ m}\)
- 文字式で解いてから代入する:
- (1) \(N = mg – kx\)
- (2) \(x = mg/k\)
- このように、まず文字式で最終的な形を導き出してから、最後にまとめて数値を代入する方が、途中で計算ミスをしてもどこで間違えたか見つけやすく、物理的な意味も理解しやすいです。
- 物理的な状況をイメージする:
- ばねを少し引いた状態(1)では、まだ重力(\(9.8 \text{ N}\))の方が弾性力(\(3.5 \text{ N}\))より大きいので、台が残りを支える(\(N=6.3 \text{ N}\))必要がある。
- さらに引いていくと、弾性力がどんどん大きくなり、やがて弾性力が重力と等しくなった瞬間(\(F=9.8 \text{ N}\))に、台の助けは不要(\(N=0\))になり、物体は離れる。
- このように、計算結果が物理的なストーリーと合っているかを確認することで、検算になります。
51 弾性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「フックの法則のグラフ的解釈」です。ばねの弾性力と伸びの関係を表すグラフから、ばねの性質(伸ばしやすさ、ばね定数)を読み取る能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ\(F\)は、ばねの自然の長さからの伸び\(x\)に比例するという法則です(\(F=kx\))。
- ばね定数(\(k\)): フックの法則における比例定数で、ばねの硬さを表します。ばね定数が大きいほど、ばねは硬く(伸ばしにくく)なります。
- グラフの読み取り: グラフの縦軸と横軸がそれぞれどの物理量を表しているか、またその単位は何かを正確に把握することが重要です。
- グラフの傾きの物理的意味: グラフの傾きが、物理的にどのような意味を持つ量に対応するのかを考えることが、グラフ問題の鍵となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「伸ばしやすい」という言葉を「同じ力で引いたとき、より大きく伸びる」と物理的に解釈し、グラフ上で比較します。
- (2)では、グラフから読みやすい点の力の値\(F\)と伸びの値\(x\)の組を見つけ出し、フックの法則 \(F=kx\) に代入して、ばね定数\(k\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つのばねA, Bのうち、どちらが「伸ばしやすい」かを判断する問題です。「伸ばしやすい」とは、物理的に言えば「同じ大きさの力で引いたときに、より大きく伸びる」ということです。この関係をグラフ上で確認します。
この設問における重要なポイント
- 伸ばしやすい \(\iff\) 同じ力(\(F\))に対する伸び(\(x\))が大きい。
- 伸ばしやすい \(\iff\) ばね定数(\(k\))が小さい。
- グラフの横軸で同じ値をとり、そのときの縦軸の値を比較する。
具体的な解説と立式
グラフの横軸は力\(F\)、縦軸は伸び\(x\)を表しています。「同じ大きさの力で引いたとき」を比較するために、グラフの横軸上で任意の同じ値、例えば \(F=5.0 \text{ N}\) の点に注目します。
この点から真上に線を伸ばし、グラフAとグラフBとの交点を探します。
- グラフAとの交点のy座標(伸び)は \(x_A = 20 \text{ cm}\) です。
- グラフBとの交点のy座標(伸び)は \(x_B = 10 \text{ cm}\) です。
同じ \(5.0 \text{ N}\) の力で引いたとき、\(x_A > x_B\) となり、ばねAの方がばねBよりも大きく伸びることがわかります。したがって、伸ばしやすいばねはAです。
使用した物理公式
この設問では、グラフの定性的な解釈が主であり、特定の物理公式は使用しません。
この設問はグラフの比較による判断であり、具体的な数値計算は不要です。
「伸ばしやすい」というのは、弱い力でもたくさん伸びるばねのことです。グラフを見てみましょう。横軸が力の大きさ、縦軸が伸びの大きさです。例えば、横軸の「5.0 N」のところで見てみると、ばねAは縦軸の「20 cm」まで伸びていますが、ばねBは「10 cm」しか伸びていません。同じ力なのにAの方がたくさん伸びているので、Aの方が「伸ばしやすい」と言えます。
グラフから、同じ力に対してばねAの方が伸びが大きいことが読み取れたため、ばねAが伸ばしやすいと判断しました。この結論は、(2)で計算するばね定数が \(k_A < k_B\) となることからも裏付けられます。
問(2)
思考の道筋とポイント
ばねAとBのばね定数 \(k_A, k_B\) を求める問題です。ばね定数は、フックの法則 \(F=kx\) を用いて計算できます。この式を \(k\) について解くと \(k = F/x\) となるので、グラフから対応する \(F\) と \(x\) の値の組を読み取り、代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- フックの法則 \(F=kx\) を利用する。
- グラフから、計算しやすい点の座標(\(F\)の値と\(x\)の値)を正確に読み取る。
- 縦軸の伸び \(x\) の単位が \(\text{cm}\) なので、計算前に \(\text{m}\) に変換することを忘れない。
具体的な解説と立式
フックの法則 \(F=kx\) をばね定数 \(k\) について解くと、
$$ k = \frac{F}{x} $$
となります。この式に、グラフから読み取った値を代入します。
ばねAについて:
グラフから、\(F=5.0 \text{ N}\) のとき \(x=20 \text{ cm}\) という点を読み取ります。
計算の前に、伸び \(x\) の単位を \(\text{m}\) に変換します。
$$ x_A = 20 \text{ cm} = 0.20 \text{ m} $$
フックの法則に代入して \(k_A\) を求めます。
$$ k_A = \frac{5.0}{x_A} $$
ばねBについて:
グラフから、\(F=5.0 \text{ N}\) のとき \(x=10 \text{ cm}\) という点を読み取ります。
同様に、伸び \(x\) の単位を \(\text{m}\) に変換します。
$$ x_B = 10 \text{ cm} = 0.10 \text{ m} $$
フックの法則に代入して \(k_B\) を求めます。
$$ k_B = \frac{5.0}{x_B} $$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F=kx\)
ばねAのばね定数 \(k_A\) の計算:
$$
\begin{aligned}
k_A &= \frac{5.0}{0.20} \\[2.0ex]&= \frac{500}{20} \\[2.0ex]&= 25 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$
ばねBのばね定数 \(k_B\) の計算:
$$
\begin{aligned}
k_B &= \frac{5.0}{0.10} \\[2.0ex]&= \frac{500}{10} \\[2.0ex]&= 50 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$
ばねの硬さ(ばね定数)は、「加えた力 ÷ ばねの伸び」で計算できます。
まず、グラフからキリの良い点を探します。力が \(5.0 \text{ N}\) の点が分かりやすそうです。
ばねAは、力が \(5.0 \text{ N}\) のときに \(20 \text{ cm}\) 伸びています。単位をメートルに直すと \(0.20 \text{ m}\) です。よって、硬さは \(5.0 \div 0.20 = 25 \text{ N/m}\) です。
ばねBは、力が \(5.0 \text{ N}\) のときに \(10 \text{ cm}\) 伸びています。単位をメートルに直すと \(0.10 \text{ m}\) です。よって、硬さは \(5.0 \div 0.10 = 50 \text{ N/m}\) です。
ばね定数はそれぞれ \(k_A = 25 \text{ N/m}\), \(k_B = 50 \text{ N/m}\) となりました。\(k_A < k_B\) という結果は、(1)で「ばねAの方が伸ばしやすい」と判断したことと一致しており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- フックの法則 (\(F=kx\)):
- 核心: この問題は、ばねの弾性力\(F\)がその自然長からの伸び\(x\)に比例するという「フックの法則」の理解を問うものです。グラフは、この法則を視覚的に表現したものです。
- 理解のポイント:
- ばね定数\(k\): この比例定数\(k\)は「ばねの硬さ」を表す指標です。\(k\)が大きいほど、同じ長さだけ伸ばすのにより大きな力が必要な「硬いばね(伸ばしにくいばね)」であることを意味します。
- 比例関係: グラフが原点を通る直線であること自体が、\(F\)と\(x\)が比例関係にあること、つまりフックの法則が成り立っていることを示しています。
- グラフの物理的解釈:
- 核心: 物理グラフの問題では、その「軸」と「傾き」が何を意味するのかを正しく読み解く能力が不可欠です。
- 理解のポイント:
- 軸の確認: 縦軸が伸び\(x\)、横軸が力\(F\)であることを確認します。これにより、グラフの傾きは「(縦の変化量)/(横の変化量) = \(\Delta x / \Delta F\)」となります。
- 傾きの意味: フックの法則 \(F=kx\) を変形すると \(x = (1/k)F\) となります。これは \(y=ax\) の形をしており、\(x-F\)グラフの傾きがばね定数の逆数 \(1/k\) に対応することがわかります。傾きが急なばね(ばねA)ほど \(1/k\) が大きく、すなわち\(k\)は小さい(柔らかい)ことを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(F-x\)グラフ: 逆に、縦軸が力\(F\)、横軸が伸び\(x\)のグラフが与えられる問題。この場合、フックの法則は \(F=kx\) の形で \(y=ax\) と対応するため、グラフの傾き \(\Delta F / \Delta x\) が、ばね定数\(k\)そのものになります。
- 弾性エネルギー(ばねが蓄えるエネルギー): ばねを伸ばすのに必要な仕事、すなわちばねが蓄える弾性エネルギー \(U = \frac{1}{2}kx^2\) は、\(F-x\)グラフと横軸で囲まれた三角形の面積に等しくなります。
- ゴムのような非線形の弾性体: フックの法則に従わない(グラフが直線でない)物体の問題。特定の力に対する伸びはグラフから読み取れますが、「ばね定数」という一定の値は存在しません。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を最優先で確認: 縦軸と横軸がそれぞれ何の物理量で、単位は何か(特にcmとmの違い)を絶対に確認します。
- 「傾き」の意味を数式で考える: 傾き = (縦軸の物理量) / (横軸の物理量) を計算し、それが関連する物理公式(今回はフックの法則)の中でどのような意味を持つか(\(k\)なのか\(1/k\)なのか)を導き出します。
- 計算しやすい点を探す: ばね定数を計算する際は、グラフの線が格子点(目盛りの線が交差する点)を通過している、最も読み取りやすい座標を選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: (2)で、グラフから読み取った伸び \(x=20 \text{ cm}\) を、mに直さずに \(5.0 = k_A \times 20\) と計算してしまう。
- 対策: 物理量の計算を行う際は、必ずSI基本単位(力は[N]、長さは[m])に統一してから式に代入する、というルールを徹底する。計算を始める前に「\(20 \text{ cm} = 0.20 \text{ m}\)」と書き出しておくのが有効です。
- グラフの傾きとばね定数の混同:
- 誤解: この\(x-F\)グラフの傾きが急なほど、ばね定数も大きいと勘違いする。
- 対策: 傾きの意味を常に定義式「(縦の変化)/(横の変化)」に立ち返って考えること。このグラフの傾きは \(\Delta x / \Delta F\) であり、これは \(1/k\) に相当します。したがって、傾きが急なほど、ばね定数\(k\)は逆に小さく(柔らかく)なります。
- 「伸ばしやすい」の解釈ミス:
- 誤解: 「伸ばしやすい」という言葉のイメージから、なんとなく「力が強い」「定数が大きい」といった誤った方向に結びつけてしまう。
- 対策: 「伸ばしやすい」を「(同じ力で)たくさん伸びる」と、具体的な物理現象に翻訳して考える癖をつける。グラフ上で「同じ\(F\) \(\rightarrow\) \(x\)が大きいのはどっち?」と視覚的に確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- フックの法則 (\(F=kx\)):
- 選定理由: この問題は「ばねの力と伸び」というテーマを扱っており、その関係を記述する物理法則はフックの法則以外にありません。グラフ自体が、この法則を実験的に検証した結果を示しています。
- 適用根拠: グラフが原点を通る直線であることから、力\(F\)と伸び\(x\)が比例関係にあることが実験データから読み取れます。この比例関係を数式で表現したものがフックの法則であり、その比例定数がばね定数\(k\)です。したがって、グラフ上の任意の点の座標(\(F, x\)の組)をこの式に代入することで、比例定数\(k\)を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算を先に済ませる: 計算用紙に値を書き出す時点で、\(x=20 \text{ cm} \rightarrow 0.20 \text{ m}\) のように、あらかじめSI単位系に直しておく。これにより、式に代入する際にうっかり元の単位で計算してしまうミスを防げます。
- 小数の割り算の工夫: (2)の \(k_A = 5.0 / 0.20\) のような計算は、分母・分子を100倍して \(500 / 20\) のように整数の割り算に直してから計算すると、小数点の位置を間違えるミスが減ります。
- 傾きを使った検算:
- ばねAのグラフの傾きは、\((20 \text{ cm}) / (5.0 \text{ N}) = 4.0 \text{ cm/N} = 0.04 \text{ m/N}\) です。
- この傾きは \(1/k_A\) に等しいので、\(k_A = 1 / 0.04 = 25 \text{ N/m}\) となり、座標を代入した計算結果と一致することを確認できます。
- 比率で考える: ばねBは、ばねAと同じ力(\(5.0 \text{ N}\))で引いたときの伸びが半分(\(20 \text{ cm} \rightarrow 10 \text{ cm}\))です。伸びが半分ということは、硬さが2倍であることを意味するので、ばね定数も \(k_B = 2 \times k_A\) となるはずです。\(25 \times 2 = 50\) となり、計算結果が妥当であることを確認できます。
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