「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第3章】基本例題~基本問題51

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基本例題

基本例題10 力の合成

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力の合成と成分分解」です。ベクトルとして表される力を、作図や成分計算によって正しく合成する基本的な方法が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の合成(ベクトル和): 複数の力を1つの力にまとめること。合力は、元の力のベクトル和に等しい。
  2. 平行四辺形の法則: 2つのベクトルを合成する際の作図法。2つのベクトルを隣り合う2辺とする平行四辺形を描くと、その対角線が合力ベクトルとなる。
  3. 力の成分分解: 1つの力を、互いに直交する2方向(通常は\(x\)軸、\(y\)軸方向)の力に分解すること。
  4. 三平方の定理: 直角三角形の3辺の長さの関係。ベクトルの成分からその大きさを求める際に利用する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題の図に示された2つの力ベクトル \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を使って、平行四辺形の法則に従い合力を作図します。
  2. (2)では、まず図の目盛りから \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の\(x\)成分と\(y\)成分をそれぞれ読み取ります。次に、各成分の和を計算して、合力の\(x\)成分と\(y\)成分を求めます。
  3. (3)では、(2)で求めた合力の\(x\)成分と\(y\)成分を用いて、三平方の定理により合力の大きさ(ベクトルの長さ)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
2つの力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の合力を作図する問題です。力がベクトル量、つまり大きさと向きを持つ量であることを理解し、ベクトルの合成ルールに従って作図できるかが問われます。ここでは、始点が揃っている2つのベクトルの合成なので「平行四辺形の法則」を用いるのが最も直感的です。
この設問における重要なポイント

  • 力の合成は、ベクトルの足し算で考える。
  • 作図では、\(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を隣り合う2辺とする平行四辺形を描き、始点(原点)から対角線のもう一方の頂点へ引いた矢印が合力となる。

具体的な解説と立式
合力 \(\vec{F}\) は、力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) のベクトル和として定義されます。
$$ \vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2} $$
このベクトル和を作図で求めるには、「平行四辺形の法則」を用います。

  1. 力 \(\vec{F_1}\) の終点を通り、\(\vec{F_2}\) に平行な直線を引く。
  2. 力 \(\vec{F_2}\) の終点を通り、\(\vec{F_1}\) に平行な直線を引く。
  3. この2本の直線が交わる点(平行四辺形の第4の頂点)を求める。
  4. 力の始点である原点Oから、この交点に向かって矢印を引く。この矢印が求める合力 \(\vec{F}\) です。

使用した物理公式

  • ベクトルの和の定義: \(\vec{C} = \vec{A} + \vec{B}\)
計算過程

この設問は作図が目的であり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

2つの力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を合わせた力を図に描く問題です。2つの力の矢印を使って「平行四辺形」を作ります。その平行四辺形の、力の出発点(原点)から伸びる「対角線」が、2つの力を合わせた合力の矢印になります。

結論と吟味

図上に \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を2辺とする平行四辺形を描き、原点からその対角線の頂点へ引いたベクトルが求める合力となります。解答の図は、この手順に正しく従っています。

解答 (1) 解答の図を参照。(\(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) を2辺とする平行四辺形を描き、原点からその対角線の終点へ引いたベクトルが合力)

問(2)

思考の道筋とポイント
合力の\(x\)成分と\(y\)成分を求める問題です。「合力の成分は、各力の成分の和に等しい」という、ベクトル合成の基本ルールを用いて計算します。そのためには、まず図の目盛りを正確に読み取り、\(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) それぞれの\(x\)成分と\(y\)成分を求めることが第一歩となります。
この設問における重要なポイント

  • 合力の\(x\)成分は、各力の\(x\)成分の和で求められる。
  • 合力の\(y\)成分は、各力の\(y\)成分の和で求められる。
  • 図の1目盛りが\(1 \text{ N}\) であることと、\(x, y\) 軸の正負の向きに注意して成分を読み取る。

具体的な解説と立式
まず、図のグラフから力 \(\vec{F_1}\) と \(\vec{F_2}\) の各成分を読み取ります。1目盛りが \(1 \text{ N}\) であることに注意します。
力 \(\vec{F_1}\) の成分を \(F_{1x}\), \(F_{1y}\) とし、力 \(\vec{F_2}\) の成分を \(F_{2x}\), \(F_{2y}\) とします。
合力 \(\vec{F}\) の\(x\)成分を \(F_x\)、\(y\)成分を \(F_y\) とすると、これらは各力の成分の和として計算できます。
$$ F_x = F_{1x} + F_{2x} \quad \cdots ① $$
$$ F_y = F_{1y} + F_{2y} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • ベクトルの和の成分表示: 2つのベクトル \(\vec{A}=(A_x, A_y)\), \(\vec{B}=(B_x, B_y)\) の和は、\(\vec{A}+\vec{B} = (A_x+B_x, A_y+B_y)\) となる。
計算過程

図から各力の成分を読み取ります。
\(\vec{F_1}\) について、終点の座標は \((8, 5)\) なので、
$$ F_{1x} = 8 \text{ [N]} $$
$$ F_{1y} = 5 \text{ [N]} $$
\(\vec{F_2}\) について、終点の座標は \((-2, 3)\) なので、
$$ F_{2x} = -2 \text{ [N]} $$
$$ F_{2y} = 3 \text{ [N]} $$

これらの値を①式、②式に代入して合力の成分を計算します。
合力の\(x\)成分 \(F_x\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_x &= 8 + (-2) \\[2.0ex]
&= 6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
合力の\(y\)成分 \(F_y\) の計算:
$$
\begin{aligned}
F_y &= 5 + 3 \\[2.0ex]
&= 8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力を「横方向(\(x\)成分)」と「縦方向(\(y\)成分)」に分けて考えます。
\(\vec{F_1}\) は、横に8マス、縦に5マス進む力です。
\(\vec{F_2}\) は、横に-2マス(左に2マス)、縦に3マス進む力です。
2つの力を合わせると、横方向の動きは「8マス進む」と「-2マス進む」を合わせて、\(8 + (-2) = 6\)マス進む動きになります。
縦方向の動きは「5マス進む」と「3マス進む」を合わせて、\(5 + 3 = 8\)マス進む動きになります。
1マスが \(1 \text{ N}\) なので、合力の\(x\)成分は \(6 \text{ N}\)、\(y\)成分は \(8 \text{ N}\) となります。

結論と吟味

合力の\(x\)成分は \(6 \text{ N}\)、\(y\)成分は \(8 \text{ N}\) です。この結果は、(1)で描いた合力ベクトルの終点が座標 \((6, 8)\) にあることと一致しており、計算が正しいことを裏付けています。

解答 (2) \(x\)成分: \(6 \text{ N}\), \(y\)成分: \(8 \text{ N}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
合力の大きさを求める問題です。力の大きさとは、その力ベクトルの長さに対応します。(2)で合力の\(x\)成分と\(y\)成分が求まっているので、これらを2辺とする直角三角形を考え、その斜辺の長さを三平方の定理(ピタゴラスの定理)を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • ベクトルの大きさは、その成分を使って三平方の定理で求められる。
  • ベクトル \(\vec{F}\) の成分が \((F_x, F_y)\) のとき、その大きさ \(F\) は \(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\) で計算できる。

具体的な解説と立式
合力の\(x\)成分 \(F_x\) と \(y\)成分 \(F_y\) は、互いに直交しています。したがって、\(F_x\), \(F_y\) を2辺とし、合力ベクトル \(\vec{F}\) を斜辺とする直角三角形を考えることができます。
三平方の定理を適用すると、合力の大きさ \(F\) (ベクトルの長さ)は、次のように表せます。
$$ F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2} $$

使用した物理公式

  • 三平方の定理: \(c = \sqrt{a^2 + b^2}\)
計算過程

(2)で求めた合力の成分 \(F_x = 6 \text{ [N]}\), \(F_y = 8 \text{ [N]}\) を上の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \sqrt{6^2 + 8^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{36 + 64} \\[2.0ex]
&= \sqrt{100} \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)の結果から、合力は「横に6、縦に8」進む力だと分かりました。この力の矢印の長さを求めます。この矢印は、底辺の長さが6、高さが8の直角三角形の「斜辺」にあたります。中学校で習った三平方の定理を使うと、斜辺の長さは「ルート(底辺の2乗たす高さの2乗)」で計算できます。つまり、\(\sqrt{6^2 + 8^2}\) を計算すれば、力の大きさが求まります。

結論と吟味

合力の大きさは \(10 \text{ N}\) となります。成分が \(6 \text{ N}\) と \(8 \text{ N}\) で、大きさが \(10 \text{ N}\) というのは、辺の比が \(6:8:10 = 3:4:5\) の有名な直角三角形に対応しており、計算結果は妥当であると確認できます。

解答 (3) \(10 \text{ N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力はベクトル量であること:
    • 核心: この問題の全ては、「力は大きさと向きを持つベクトル量である」という一点に集約されます。したがって、力の合成や分解は、単なる数値の足し算や引き算ではなく、ベクトル特有のルールに従って行わなければなりません。
    • 理解のポイント:
      • 力の合成(ベクトルの和): 複数の力を1つの力にまとめる操作です。作図では「平行四辺形の法則」、計算では「各成分の和」を用います。この2つの方法は見た目は違いますが、同じベクトル和を求めており、本質的に等価です。
      • 力の分解(ベクトルの成分): 1つの力を互いに直交する2つの力(\(x\)成分、\(y\)成分)に分ける操作です。複雑な向きの力を、扱いやすい軸方向に分解することで、計算が格段に容易になります。
  • 成分によるベクトル演算の有効性:
    • 核心: ベクトルを成分で表示すれば、力の合成は単なる成分ごとの足し算になり、機械的な計算に落とし込むことができます。
    • 理解のポイント:
      • 合力の\(x\)成分 = 各力の\(x\)成分の総和
      • 合力の\(y\)成分 = 各力の\(y\)成分の総和
      • この考え方は、力がいくつに増えても、2次元から3次元に拡張されても通用する、非常に強力な手法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 3つ以上の力の合成: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がある場合、作図で求めるのは煩雑です。各力の\(x\)成分、\(y\)成分をそれぞれ求め、\(F_x = F_{1x}+F_{2x}+F_{3x}\), \(F_y = F_{1y}+F_{2y}+F_{3y}\) のように、全成分を一度に足し合わせるのが最も効率的です。
    • 力のつりあい: 物体にはたらく力の合力がゼロになる状態です。これは、合力の各成分がゼロになることと同値です。つまり、\(F_x = 0\) かつ \(F_y = 0\) という連立方程式を立てて解く問題に応用できます。
    • 斜面上の物体の運動: 重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解するのは、力の分解の典型的な応用例です。この場合、\(x, y\)軸を水平・鉛直方向ではなく、斜面に沿った方向とそれに垂直な方向にとると計算が簡単になります。
    • 角度を用いた成分計算: 力の大きさと角度(例:\(x\)軸の正の向きとなす角 \(\theta\))が与えられた場合、\(F_x = F \cos\theta\), \(F_y = F \sin\theta\) のように三角関数を用いて成分を計算する必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の確認・設定: まず、問題で与えられている\(x, y\)軸の向きを確認します。与えられていない場合は、計算が最も楽になるように自分で設定します。
    2. 全ベクトルの成分分解: 複数の力が働いている場合、まずは全ての力ベクトルを\(x\)成分と\(y\)成分に分解することから始めます。これが問題を解く上での基本動作です。
    3. 「作図」か「計算」かの判断: 問題が「作図せよ」と求めているのか、「大きさを求めよ」と求めているのかを明確に区別します。後者の場合は、成分計算から三平方の定理に持ち込むのが王道です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力の大きさを単純に足してしまう(スカラー和の誤り):
    • 誤解: (3)で合力の大きさを求める際に、\(\vec{F_1}\) の大きさと \(\vec{F_2}\) の大きさをそれぞれ計算し、それらを足してしまう。
    • 対策: 「力はベクトルであり、向きを考慮しなければならない」と常に心に刻むこと。力の合成は、必ず「成分の和」を計算してから、最後に「三平方の定理」で大きさを求める、という手順を徹底する。
  • 成分の符号ミス:
    • 誤解: \(\vec{F_2}\) の\(x\)成分を、図から「左に2マス」と読み取ったにもかかわらず、計算時にうっかり正の数 \(2 \text{ N}\) として扱ってしまう。
    • 対策: 座標軸の正の向きを最初に確認し、各ベクトルの矢印の先端がどの象限にあるかを見て、成分の符号(+, -)を判断する習慣をつける。特に、負の成分には計算時に括弧をつけるなど、注意深く扱う。
  • 作図における平行四辺形の法則の誤用:
    • 誤解: (1)の作図で、\(\vec{F_1}\) の終点から \(\vec{F_2}\) をそのままつなげてしまう(三角形の法則)のは良いが、その際に \(\vec{F_2}\) を平行移動させず、原点から引いた \(\vec{F_2}\) をそのまま使おうとして混乱する。
    • 対策: 始点が揃っているベクトルの和は「平行四辺形の法則」と機械的に覚えるのが安全です。方眼紙を利用し、各ベクトルの終点から、もう一方のベクトルと「同じ向き」で「同じマス目分」だけ移動した点をプロットし、平行四辺形を正確に描く練習をする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ベクトルの成分和 (\(F_x = F_{1x} + F_{2x}\), \(F_y = F_{1y} + F_{2y}\)):
    • 選定理由: (2)で合力の成分を求めるために使用します。これは、向きの異なるベクトルを直接扱う作図よりも、数式を用いて機械的かつ正確に計算するための最も基本的な手法です。
    • 適用根拠: この公式はベクトル和の定義そのものです。ベクトルを足し合わせるという操作は、物理的には「\(x\)方向の変位」と「\(y\)方向の変位」をそれぞれ独立に足し合わせる操作と等価である、という考え方に基づいています。座標系を導入することで、幾何学的な問題を代数的な問題に変換しているのです。
  • 三平方の定理 (\(F = \sqrt{F_x^2 + F_y^2}\)):
    • 選定理由: (3)で、直交する2つの成分からベクトルの大きさ(長さ)を算出するために使用します。これは、成分表示されたベクトルの大きさを求めるための普遍的な公式です。
    • 適用根拠: 合力の\(x\)成分 \(F_x\) と\(y\)成分 \(F_y\) は、定義上互いに直角です。したがって、この2つの成分ベクトルと、それらの合力ベクトル \(\vec{F}\) の3つで直角三角形が形成されます。三平方の定理は、この直角三角形の3辺の長さの関係を数学的に表したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 目盛りの読み取り: 問題用紙のグラフの「1目盛りが何を表すか」(今回は \(1 \text{ N}\))を最初に必ず確認し、丸で囲むなどして意識づける。
  • 符号の確認: 各力の成分を読み取る際、矢印の先端の座標を「\((x, y)\)」の形で書き出し、\(x\)座標と\(y\)座標の符号が正しいかを必ず確認する。特に第2、第3、第4象限にあるベクトルは要注意。
  • 計算式の丁寧な記述: \(F_x = 8 + (-2)\) のように、負の数を足し合わせる際は必ず括弧を用いる。暗算に頼らず、途中式をきちんと書くことで、符号ミスを防ぐ。
  • ピタゴラス数の活用: (3)の計算で \(F = \sqrt{6^2+8^2}\) が出てきた時点で、辺の比が \(6:8 = 3:4\) であることに気づけば、斜辺は5に対応する \(10\) になるな、と予測ができます。このような有名な整数比(\(3:4:5\), \(5:12:13\) など)を覚えておくと、計算結果の検算に非常に役立ちます。

基本例題11 力のつり合い

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「静止した物体にはたらく力のつり合い」です。おもりが静止している、という状況から、おもりにはたらく力の合力がゼロになる、というつり合いの条件を用いて、未知の張力を求めます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力のベクトル和(合力)はゼロになります。
  2. 力の成分分解: 斜め方向の力は、計算を容易にするために互いに直交する2方向(多くは水平・鉛直方向)の成分に分解して考えます。
  3. 三平方の定理とその逆: 辺の長さが \(a, b, c\) の三角形において \(a^2 + b^2 = c^2\) が成り立つならば、その三角形は辺 \(c\) を斜辺とする直角三角形です。この問題では、与えられた糸の長さから、糸と糸がなす角度が90°であることを見抜くのに使います。
  4. 力の三角形: 3つの力がつりあっている場合、それらの力ベクトルを順に繋ぐと、閉じた三角形を形成します。この図形的な性質を利用して問題を解くこともできます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 解法1(成分分解): おもりにはたらく2つの張力を水平成分と鉛直成分に分解します。「水平方向の力の和=0」「鉛直方向の力の和=0」という2つのつり合いの式を立て、連立方程式として解きます。
  2. 解法2(力の三角形): おもりにはたらく3つの力(張力2つと重力)で「力の三角形」を描きます。この力の三角形と、空間に存在する糸が作る三角形との相似関係を利用して、辺の比から張力を直接求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、おもりにはたらく3つの力(張力\(\vec{T}\)、張力\(\vec{S}\)、重力\(\vec{W}\))がつりあっている状況を扱います。最も標準的で汎用性の高い解法は、斜めを向いている張力\(\vec{T}\)と\(\vec{S}\)を、水平・鉛直方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てることです。力の分解には角度の情報が必要ですが、それは問題文で与えられた3つの辺の長さ(30cm, 40cm, 50cm)から導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている \(\rightarrow\) 合力はゼロ。
  • 合力がゼロ \(\rightarrow\) 水平方向の力の和もゼロ、かつ、鉛直方向の力の和もゼロ。
  • 辺の長さが \(30, 40, 50\) の三角形は、\(3^2+4^2=5^2\) の関係から、辺30と辺40の間の角が90°の直角三角形であることを見抜く。

具体的な解説と立式
おもりには、糸aからの張力\(\vec{T}\)、糸bからの張力\(\vec{S}\)、そして鉛直下向きの重力\(\vec{W}\)(大きさ \(W=6.0 \text{ N}\))がはたらいています。
まず、糸a、糸b、天井ABで構成される三角形に注目します。辺の長さが \(30 \text{ cm}, 40 \text{ cm}, 50 \text{ cm}\) であり、
$$
\begin{aligned}
30^2 + 40^2 &= 900 + 1600 \\[2.0ex]
&= 2500 \\[2.0ex]
&= 50^2
\end{aligned}
$$
が成り立つため、三平方の定理の逆より、この三角形は糸aと糸bのなす角が90°の直角三角形です。

次に、張力\(\vec{T}\)と\(\vec{S}\)を水平・鉛直成分に分解します。そのために、糸bが天井(水平線)となす角を\(\theta\)とします。
空間図形より、この角\(\theta\)を持つ直角三角形の辺の比は \(3:4:5\) となります。
$$ \sin\theta = \frac{3}{5}, \quad \cos\theta = \frac{4}{5} $$
同様に、糸aが天井(水平線)となす角を\(\phi\)とすると、
$$ \sin\phi = \frac{4}{5}, \quad \cos\phi = \frac{3}{5} $$

おもりについて、水平方向(右向きを正)と鉛直方向(上向きを正)の力のつり合いを考えます。
水平方向のつり合い:
張力\(\vec{S}\)の水平成分 \(S\cos\theta\) と、張力\(\vec{T}\)の水平成分 \(-T\cos\phi\) の和がゼロになります。
$$ S\cos\theta – T\cos\phi = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向のつり合い:
張力\(\vec{S}\)の鉛直成分 \(S\sin\theta\)、張力\(\vec{T}\)の鉛直成分 \(T\sin\phi\)、そして重力 \(-W\) の和がゼロになります。
$$ S\sin\theta + T\sin\phi – W = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\)
  • 三平方の定理の逆
計算過程

求めた三角比の値と\(W=6.0 \text{ N}\)を、式①と②に代入します。

式①より:
$$
\begin{aligned}
S \cdot \frac{4}{5} – T \cdot \frac{3}{5} &= 0 \\[2.0ex]
4S – 3T &= 0 \\[2.0ex]
S &= \frac{3}{4}T \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式②より:
$$
\begin{aligned}
S \cdot \frac{3}{5} + T \cdot \frac{4}{5} – 6.0 &= 0 \\[2.0ex]
3S + 4T &= 30 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式③を式④に代入して\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
3\left(\frac{3}{4}T\right) + 4T &= 30 \\[2.0ex]
\frac{9}{4}T + \frac{16}{4}T &= 30 \\[2.0ex]
\frac{25}{4}T &= 30 \\[2.0ex]
T &= 30 \times \frac{4}{25} \\[2.0ex]
&= \frac{120}{25} \\[2.0ex]
&= 4.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
求めた\(T\)の値を式③に代入して\(S\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
S &= \frac{3}{4} \times 4.8 \\[2.0ex]
&= 3 \times 1.2 \\[2.0ex]
&= 3.6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

おもりは静止しているので、力がバランスしている状態です。斜め向きの力「張力T」と「張力S」を、それぞれ「横向きの力」と「縦向きの力」に分解して考えます。
力のバランスが取れているので、
1. 「右向きの力の合計」と「左向きの力の合計」が等しい
2. 「上向きの力の合計」と「下向きの力(重力)」が等しい
という2つの関係が成り立ちます。この2つの関係を数式にして、連立方程式として解くことで、TとSの大きさを求めることができます。

結論と吟味

張力の大きさは、糸aが \(T=4.8 \text{ N}\)、糸bが \(S=3.6 \text{ N}\) となります。
ここで、\(T\)と\(S\)は直交しているので、その合力の大きさは
$$
\begin{aligned}
\sqrt{T^2+S^2} &= \sqrt{4.8^2+3.6^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{23.04+12.96} \\[2.0ex]
&= \sqrt{36} \\[2.0ex]
&= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
となり、重力の大きさと等しくなります。これは、2つの張力の合力が重力とつりあっていることを示しており、結果は物理的に妥当です。

別解: 力の三角形による方法

思考の道筋とポイント
おもりにはたらく3つの力 \(\vec{T}, \vec{S}, \vec{W}\) がつりあっているため、これらの力ベクトルを矢印の向きに沿ってつなぐと、出発点に戻ってくる閉じた三角形(力の三角形)を形成します。この「力の三角形」と、空間に存在する「糸が作る三角形」との間に相似関係があることを見抜いて解く、図形的なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 3つの力がつりあう \(\iff\) 力ベクトルをつなぐと閉じた三角形ができる。
  • 力のベクトルのなす角と、空間の辺のなす角の関係を正しく把握する。
  • 力の三角形と空間の図形の相似関係を利用して、辺の比から力を求める。

具体的な解説と立式
3つの力 \(\vec{T}, \vec{S}, \vec{W}\) がつりあっているので、ベクトル和はゼロになります。
$$ \vec{T} + \vec{S} + \vec{W} = 0 $$
これは、3つのベクトルで閉じた三角形(力の三角形)が作れることを意味します。

  1. 糸aと糸bは直交しているので、力の三角形において、辺Tと辺Sは直角に交わります。
  2. したがって、力の三角形は、辺の大きさが\(T, S, W\)の直角三角形であり、重力\(W\)に対応する辺が斜辺となります。
  3. この力の三角形と、天井AB、糸a、糸bでできる空間の三角形は相似になります。

力の三角形の辺の比は、空間の三角形の対応する辺の比に等しくなります。
$$ T : S : W = (\text{糸bの長さ}) : (\text{糸aの長さ}) : (\text{天井ABの長さ}) $$
$$ T : S : 6.0 = 40 : 30 : 50 $$
この比を簡単な整数比にすると \(4:3:5\) となるため、
$$ T : S : 6.0 = 4 : 3 : 5 $$
この比例式から、\(T\)と\(S\)を求めます。
$$ \frac{T}{4} = \frac{6.0}{5} $$
$$ \frac{S}{3} = \frac{6.0}{5} $$
計算過程
上記の比例式を解きます。
$$
\begin{aligned}
T &= 6.0 \times \frac{4}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{24.0}{5} \\[2.0ex]
&= 4.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
S &= 6.0 \times \frac{3}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{18.0}{5} \\[2.0ex]
&= 3.6 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
3つの力が釣り合っているとき、力の矢印を並べ替えると、ぴったり閉じた「力の三角形」ができます。面白いことに、この「力の三角形」は、問題図にある糸が作る「空間の三角形(辺が30cm, 40cm, 50cm)」と相似(同じ形)になります。空間の三角形の辺の比は \(3:4:5\) ですから、力の三角形の辺の比も \(S:T:重力 = 3:4:5\) となります。重力が \(6.0 \text{ N}\) なので、この比例関係を使って \(T\) と \(S\) を簡単に計算できます。
結論と吟味
張力の大きさは \(T=4.8 \text{ N}\), \(S=3.6 \text{ N}\) となり、成分分解で解いた場合と同じ結果が得られます。3つの力がつりあっており、図形的な特徴がはっきりしている場合には、非常に強力で素早い解法です。

 

解答 \(T = 4.8 \text{ N}\), \(S = 3.6 \text{ N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合いの条件:
    • 核心: 物体が静止している場合、その物体にはたらく全ての力のベクトル和(合力)はゼロである、という静力学の基本原則。
    • 理解のポイント:
      • 成分分解によるアプローチ: 「合力がゼロ」を「\(x\)成分の和がゼロ」かつ「\(y\)成分の和がゼロ」という2つの独立したスカラー方程式に分割して考える。これが最も汎用的な解法。
      • 図形的なアプローチ(力の三角形): 3つの力がつりあう場合、力ベクトルを順に繋ぐと閉じた三角形ができる。この幾何学的性質を利用すると、計算を大幅に簡略化できることがある。
  • 問題設定の図形的読解:
    • 核心: 物理法則を適用する前に、問題の状況を正しく把握する能力。特に、与えられた辺の長さ(30, 40, 50)から、糸と糸が直角をなすことを見抜くことが、この問題をスムーズに解くための最大の鍵。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁に立てかけた棒のつり合い: 棒にはたらく重力、床からの垂直抗力と摩擦力、壁からの垂直抗力などのつり合いを考える問題。力の分解や、力のモーメントのつり合いも必要になることが多い。
    • 複数の物体が糸で繋がれたつり合い: 滑車を介して複数の物体が静止している場合など。各物体、各接続点について力のつり合いの式を立てる。
    • ラミの定理: 3つの力 \(\vec{F_1}, \vec{F_2}, \vec{F_3}\) がつりあっているとき、各力の大きさと、他の2つの力がなす角の正弦(サイン)との間には \(\displaystyle\frac{F_1}{\sin\theta_1} = \frac{F_2}{\sin\theta_2} = \frac{F_3}{\sin\theta_3}\) という関係が成り立つ。今回の別解は、これを適用しているのと同じ。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力を全てリストアップ: まず、着目している物体にはたらく力を(重力、張力、垂直抗力、摩擦力など)漏れなく全て図に描き込む。
    2. 解法を選択する:
      • 力が3つで、角度や辺の比が綺麗な場合 \(\rightarrow\) 「力の三角形」が使えないか検討する。
      • 力が4つ以上ある、または図形が複雑な場合 \(\rightarrow\) 迷わず「成分分解」で解く。座標軸を適切に設定(水平・鉛直、または斜面に平行・垂直など)することが重要。
    3. 図形情報を見抜く: 与えられた長さや角度から、隠れた図形的な性質(直角、二等辺三角形、相似など)がないかを探す。これが計算を簡単にするヒントになる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 辺の長さと力の大きさを混同する:
    • 誤解: 糸aの長さが30cm、糸bの長さが40cmだから、張力の比も \(T:S = 30:40\) だ、と早合点してしまう。
    • 対策: 力の大きさと、作用する物体の長さは全くの別物であることを理解する。力の大きさの比は、あくまで「力の三角形」と「空間の図形」の正しい相似対応を見つけてから導出する。今回の問題では \(T:S = 40:30\) となり、逆の比になる。
  • 力の分解における角度のミス:
    • 誤解: 水平・鉛直に分解する際、\(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を取り違える。どの角度を\(\theta\)と置いたか、その角に対して分解後の成分が「隣辺」なのか「対辺」なのかを混同する。
    • 対策: 自分で設定した角度\(\theta\)を必ず図に明記し、分解した力の成分の横に、その角を含む小さな直角三角形を描く癖をつける。そして「\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」と覚える。
  • 力の数え忘れ・余計な力の追加:
    • 誤解: おもりにはたらく力を考えるべきなのに、天井が糸を引く力などを考えてしまう。あるいは、重力を描き忘れる。
    • 対策: 必ず「何に」はたらく力を考えているのかを明確にする。今回は「おもり」に着目しているので、おもりが「他の物体から」受ける力だけをリストアップする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)):
    • 選定理由: これはニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) の特別な場合に相当する。物体が静止している(加速度 \(\vec{a}=0\))ため、合力 \(\vec{F}\) もゼロになる。ベクトル方程式 \(\vec{F}=0\) を、計算可能な2つのスカラー方程式に変換したものが、このつり合いの式である。あらゆる力のつり合い問題の基本となる、最も汎用性の高い公式。
  • 力の三角形(図形的解法):
    • 選定理由: 3力つり合いという限定的な状況下で、図形の性質が利用できる場合に、代数的な連立方程式を解く手間を省き、幾何学的に素早く解くために選択する。
    • 適用根拠: \(\vec{A}+\vec{B}+\vec{C}=0\) というベクトル方程式は、幾何学的には「ベクトル\(\vec{A}, \vec{B}, \vec{C}\)を辺とする閉じた三角形が描ける」ことと等価である。この数学的な事実を物理問題に応用している。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 連立方程式のケアレスミス:
    • 対策: 分数を含む連立方程式を解く際は、まず両辺に分母の最小公倍数を掛けて整数係数に直してから計算を進めると、ミスが減る。例えば、\(\frac{4}{5}S – \frac{3}{5}T = 0\) は、まず両辺を5倍して \(4S – 3T = 0\) にする。
  • 三角比の値の確認:
    • 対策: 辺の比が \(3:4:5\) の直角三角形から \(\sin, \cos\) の値を求める際、どの角についての三角比なのかを明確にする。図に角と辺の長さを書き込み、「\(\sin = (\text{対辺})/(\text{斜辺})\)」「\(\cos = (\text{隣辺})/(\text{斜辺})\)」の定義に忠実に値を求める。
  • 単位の確認:
    • 対策: 問題で与えられている力の単位はニュートン[N]、長さの単位はセンチメートル[cm]である。計算の最終結果に正しい単位[N]を付けることを忘れない。

基本例題12 斜面上のつりあい

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜面上の力のつり合い」です。静止している物体にはたらく力のつり合いを、斜面という状況で考える典型的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力(ベクトル和)はゼロになります。
  2. 座標軸の設定: 斜面上の問題では、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えると、計算が非常に簡単になります。この2つの方向を座標軸とします。
  3. 重力の成分分解: 鉛直下向きにはたらく重力を、上記で設定した「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」の2つに分解します。
  4. フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然の長さからの変形量(伸びや縮み)に比例します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずおもりにはたらく全ての力を図示します。次に、重力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てて、弾性力\(F\)と垂直抗力\(N\)を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた弾性力\(F\)の大きさと、ばねの性質を表すフックの法則を用いて、ばねの縮み\(x\)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
おもりが受ける弾性力と垂直抗力を求める問題です。問題文の「静止させた」という記述が最大のヒントで、これはおもりにはたらく力が「つりあっている」ことを意味します。斜面上の力のつり合いを考える際の定石は、力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分けて考えることです。この問題では、鉛直下向きの重力をこの2方向に分解することが、問題を解く上での核心となります。
この設問における重要なポイント

  • 物体が静止している \(\rightarrow\) 力がつりあっている(合力がゼロ)。
  • 斜面上の力のつり合いは、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」の2つの方向で、それぞれ力の和がゼロになると考える。
  • 重力\(mg\)の分解:斜面に平行な成分は\(mg\sin\theta\)、斜面に垂直な成分は\(mg\cos\theta\)。

具体的な解説と立式
おもりにはたらく力は、以下の3つです。

  1. 鉛直下向きの重力 \(\vec{W}\)(大きさ \(mg\))
  2. 斜面からおもりを垂直に押す力、垂直抗力 \(\vec{N}\)
  3. ばねがおもりを押し上げる力、弾性力 \(\vec{F}\)

これらの力がつりあっているため、合力はゼロです。計算を簡単にするため、斜面に沿って上向きを正、斜面に垂直で上向きを正とする座標軸を設定し、各方向の力のつり合いを考えます。
このとき、重力\(\vec{W}\)をこの座標軸に合わせて分解する必要があります。図から、重力の各成分は以下のようになります。

  • 斜面に平行な成分:\(mg\sin\theta\)(斜面下向き)
  • 斜面に垂直な成分:\(mg\cos\theta\)(斜面を押す向き)

力のつり合いの式を立てます。
斜面に平行な方向のつり合い:
ばねが押し上げる力(弾性力\(F\))と、重力の滑り落ちようとする成分(\(mg\sin\theta\))がつりあっています。
$$ F – mg\sin\theta = 0 \quad \cdots ① $$
斜面に垂直な方向のつり合い:
斜面が押し返す力(垂直抗力\(N\))と、重力の斜面を押し付ける成分(\(mg\cos\theta\))がつりあっています。
$$ N – mg\cos\theta = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件: 各方向の力の成分の和は0
  • 重力の成分分解
計算過程

式①と②をそれぞれ\(F\)と\(N\)について解きます。
式①より、
$$
\begin{aligned}
F &= mg\sin\theta
\end{aligned}
$$
式②より、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

おもりは斜面の上でじっと止まっています。これは、全ての力がバランスを取っている状態です。
まず、おもりは斜面を滑り落ちようとしますが、ばねがそれを押し返しています。この「滑り落ちようとする力」は重力の一部で、その大きさは\(mg\sin\theta\)です。したがって、ばねの力\(F\)はこれと等しくなります。
次に、おもりは斜面にめり込もうとしますが、斜面がそれを支えています。この「斜面を押し付ける力」も重力の一部で、その大きさは\(mg\cos\theta\)です。したがって、斜面が押し返す垂直抗力\(N\)はこれと等しくなります。

結論と吟味

弾性力の大きさは \(F = mg\sin\theta\)、垂直抗力の大きさは \(N = mg\cos\theta\) です。
もし斜面の傾きがゼロ(\(\theta=0\))なら、\(F=0\), \(N=mg\)となり、水平な床に物体を置いた状態と一致します。もし斜面が垂直(\(\theta=90^\circ\))なら、\(F=mg\), \(N=0\)となり、ばねで物体を真下に吊るした状態と一致します。これらの極端な場合を考えても、結果は物理的に妥当であることがわかります。

解答 (1) 弾性力: \(F = mg\sin\theta\), 垂直抗力: \(N = mg\cos\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ばねの自然の長さからの縮み\(x\)を求める問題です。ばねの「弾性力の大きさ」と「変形量(伸びや縮み)」を結びつける法則は「フックの法則」です。(1)で弾性力の大きさ\(F\)をすでに求めているので、フックの法則に代入するだけで縮み\(x\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • フックの法則: \(F = kx\)
  • \(F\)は弾性力の大きさ、\(k\)はばね定数、\(x\)は自然の長さからの変形量(伸びまたは縮み)。

具体的な解説と立式
フックの法則によれば、弾性力の大きさ\(F\)は、ばねの自然の長さからの縮み\(x\)とばね定数\(k\)を用いて次のように表されます。
$$ F = kx $$
この問題では、縮み\(x\)を求めたいので、この式を\(x\)について解きます。
$$ x = \frac{F}{k} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

(1)で求めた弾性力の大きさ \(F = mg\sin\theta\) を、式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{mg\sin\theta}{k}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねの力は、ばねの「縮み具合」に比例するという性質があります。これを「フックの法則」と呼び、式で書くと「弾性力 \(F\) = (ばねの硬さ \(k\)) × (縮み \(x\))」となります。
(1)で弾性力\(F\)の大きさが \(mg\sin\theta\) であることがわかったので、この式を「縮み \(x\) = (弾性力 \(F\)) ÷ (ばねの硬さ \(k\))」と変形して、値を代入すれば答えが求まります。

結論と吟味

ばねの縮みは \(x = \frac{mg\sin\theta}{k}\) となります。この式を見ると、おもりの質量\(m\)が大きいほど、重力加速度\(g\)が大きいほど、斜面の傾き\(\theta\)が急なほど、縮み\(x\)は大きくなります。また、ばねが硬い(ばね定数\(k\)が大きい)ほど、縮み\(x\)は小さくなります。これらの関係は私たちの日常的な感覚と一致しており、結果は妥当であると言えます。

解答 (2) \(x = \frac{mg\sin\theta}{k}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 斜面上の力のつり合い:
    • 核心: この問題は、静止した物体にはたらく「力のつり合い」を、物理の基本モデルである「斜面」上で考えるものです。その核心は、ベクトルである力を、計算しやすいように成分に分解して扱う技術にあります。
    • 理解のポイント:
      • 座標軸の選択: 斜面の問題では、水平・鉛直方向ではなく、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に座標軸をとるのが定石です。これにより、垂直抗力や弾性力(摩擦力なども)が軸の向きと一致し、分解が必要なのは重力だけになるため、問題が劇的に単純化されます。
      • 重力の成分分解: 鉛直下向きの重力\(mg\)を、上記の座標軸に合わせて「斜面を滑り落ちようとする力 \(mg\sin\theta\)」と「斜面を垂直に押す力 \(mg\cos\theta\)」に分解すること。この分解が正確にできるかどうかが、問題を解けるかどうかの分かれ目です。
  • フックの法則:
    • 核心: ばねの弾性力の大きさ\(F\)が、その自然の長さからの変形量\(x\)に比例する(\(F=kx\))という、ばねの基本的な性質。
    • 理解のポイント: この法則は、力の大きさ(\(F\))と、物体の位置や変位(\(x\))という、異なる種類の物理量を結びつける重要な関係式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面でのつり合い: おもりにはたらく力に「静止摩擦力」が加わります。力のつり合いの式(斜面平行方向)は、「(弾性力)+(静止摩擦力)=(重力の平行成分)」のようになります。特に「滑り出す直前」という条件があれば、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\)(\(\mu\)は静止摩擦係数)となります。
    • 斜面上の運動(運動方程式): おもりが静止せず、運動している場合。力のつり合いの式ではなく、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。例えば、ばねを縮めて手を離した直後の加速度を求める問題などです。この場合、合力はゼロではありません。
    • 物体を糸で引き上げる: ばねの代わりに糸で物体を引く場合も、力の種類が変わるだけで考え方は同じです。糸の張力を\(T\)として、力のつり合いや運動方程式を立てます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示(作図)を徹底する: まず、物体にはたらく力を「全て」矢印で描き込みます。重力、垂直抗力、弾性力、摩擦力など、考えられる力を漏れなくリストアップします。
    2. 座標軸を設定し、力を分解する: 次に、斜面に平行・垂直な座標軸を設定し、軸から斜めを向いている力(通常は重力)を全て成分分解します。分解し終わったら、元のベクトル(重力\(mg\))は計算に使わないよう、点線で描くか消すなどして区別します。
    3. 「つり合い」か「運動」かを見極める: 問題文のキーワード(「静止」「つりあう」「ゆっくり」\(\rightarrow\) つり合いの式)と(「運動する」「加速度」「速さ」\(\rightarrow\) 運動方程式)を読み取り、立てるべき式を判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 重力分解のsinとcosの混同:
    • 誤解: 斜面に平行な成分を\(mg\cos\theta\)、垂直な成分を\(mg\sin\theta\)と逆にしてしまう、最も頻発するミス。
    • 対策: 分解する際にできる直角三角形の図を正確に描くことが基本です。斜面の角度\(\theta\)と、重力ベクトルと斜面に垂直な線がなす角が等しくなることを図で確認します。その上で、「\(\theta\)と向かい合う辺(対辺)が\(\sin\theta\)成分」「\(\theta\)を挟む辺(隣辺)が\(\cos\theta\)成分」と覚えます。また、\(\theta=0\)(水平)や\(\theta=90^\circ\)(垂直)の極端な場合を代入して、式が物理的に正しいか検算するのも有効です。
  • 垂直抗力 \(N=mg\) という思い込み:
    • 誤解: 水平な床の上での癖で、垂直抗力\(N\)の大きさを常に\(mg\)だと思ってしまう。
    • 対策: 垂直抗力は、常に重力とつり合うわけではない、と肝に銘じること。あくまで「面が物体を垂直に押す力」であり、つり合う相手は「物体が面を垂直に押す力」です。斜面の場合、それは重力そのものではなく、重力の斜面に垂直な成分 \(mg\cos\theta\) です。
  • 弾性力の向きの間違い:
    • 誤解: ばねが「縮んで」いるのに、弾性力の向きを斜面下向き(引く向き)に描いてしまう。
    • 対策: 弾性力は、ばねが「自然の長さに戻ろうとする向き」にはたらきます。したがって、「縮んでいるばねは伸びようとして物を押す」「伸びているばねは縮もうとして物を引く」と、物理的なイメージを常に持って作図する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式(各方向の力の和=0):
    • 選定理由: この問題の根幹である「物体が静止している」という物理的状況を、数学的な言葉に翻訳するための公式です。これは、ニュートンの運動の第二法則 \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\) の特別な場合(加速度\(\vec{a}=0\))に他なりません。ベクトル方程式 \(\vec{F}_{\text{合力}}=0\) を、計算が可能な2つのスカラー方程式(成分ごとの式)に落とし込んだものが、このつり合いの式です。
  • フックの法則 (\(F=kx\)):
    • 選定理由: (1)で求めた「弾性力の大きさ\(F\)」と、(2)で問われている「ばねの縮み\(x\)」という、異なる物理量を結びつけるために必要不可欠な法則だからです。
    • 適用根拠: 問題文に「ばね定数\(k\)のばね」とあることから、このばねは理想的なばね(弾性力が変形量に比例する)として扱ってよい、という前提が与えられています。この前提があるからこそ、フックの法則を適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字の書き忘れ・書き間違い: \(mg\sin\theta\)と書くべきところを\(m\sin\theta\)としてしまうなど、文字を書き忘れるミスは意外と多いです。
    • 対策: 式を立てた後、もう一度、図と見比べて、全ての物理量が正しく式に反映されているかを確認する癖をつける。特に、重力の成分は頻出なので、指差し確認するくらいの慎重さを持つ。
  • 移項ミス: \(F – mg\sin\theta = 0\) のような簡単な式でも、焦っていると \(F = -mg\sin\theta\) のように符号を間違えることがあります。
    • 対策: 簡単な式変形でも暗算に頼らず、一行きちんと書いてから移項する。
  • 最終的な代入ミス: (2)で \(x = F/k\) の式を立てた後、(1)で求めた\(F\)の値を代入する際に、\(N=mg\cos\theta\) の方を間違えて代入してしまう。
    • 対策: 代入する直前に、「今から代入する\(F\)は、物理的にどういう力だったか?」を再確認する。「ばねの力だから、斜面に平行な方向のつり合いで求めた方だな」と確認してから代入する。
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基本問題

45 力の分解

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