「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第26章】応用問題

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456 正方形コイルの誘導起電力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、コイルが磁場を通過する際に生じる電磁誘導について、磁束・誘導起電力・外力をコイルの位置の関数として考察する問題です。コイルが磁場に「入るとき」「完全に中にあるとき」「出るとき」の3つの区間で物理現象がどう変わるかを正確に捉えることが鍵となります。

与えられた条件
  • 磁場領域: \(0 < x < 3a\)
  • 磁束密度: \(B\) (紙面に垂直で裏から表向き)
  • コイル: 1辺の長さ \(a\) の正方形、1巻き
  • コイルの全抵抗: \(R\)
  • コイルの速度: \(v\) (一定、\(x\) 軸正の向き)
  • コイルの位置: 右辺の \(x\) 座標を \(x\) とする (コイルの左辺の座標は \(x-a\))
問われていること
  • (1) コイルを貫通する磁束 \(\Phi\) の \(x\) に対するグラフ
  • (2) 誘導起電力 \(V\) の \(x\) に対するグラフ (最初に生じる起電力の向きが正)
  • (3) 速度を一定に保つための外力 \(F\) の \(x\) に対するグラフ (右向きが正)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: ファラデーの法則 \(V = -d\Phi/dt\) を用いる解法
      • 模範解答が導体棒に生じる起電力 \(V=vBl\) の公式から直感的に求めるのに対し、別解では磁束 \(\Phi\) を位置 \(x\) の関数として表し、\(V = -v(d\Phi/dx)\) の関係から数学的に導出します。
    • 設問(3)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が誘導電流に働くローレンツ力 \(F=IBa\) を計算するのに対し、別解では外力の仕事率がジュール熱に等しいというエネルギー保存の関係 \(Fv = V^2/R\) から力を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の数学的表現への習熟: 別解(2)は、\(V=-d\Phi/dt\) という基本法則と、合成関数の微分 (\(d\Phi/dt = (d\Phi/dx)(dx/dt)\)) を組み合わせることで、物理現象をより形式的・厳密に扱う訓練になります。
    • 物理現象の多角的視点: 別解(3)は、同じ現象を「力」の観点と「エネルギー」の観点の両方から分析する経験を提供し、物理学の理解を深める上で極めて重要です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「一様な磁場を通過するコイルに生じる電磁誘導」です。コイルの位置によって磁束の変化の仕方が変わるため、区間ごとの場合分けが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁束の定義: 磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) と磁場を垂直に貫く面積 \(S\) の積、\(\Phi = BS\) で計算されます。
  2. ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則: コイルを貫く磁束 \(\Phi\) が時間変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力 \(V\) が生じます。導体棒が磁場を横切る場合は、起電力 \(V=vBl\) の公式も利用できます。
  3. ローレンツ力とエネルギー保存則: 誘導電流が流れるコイルは磁場から運動を妨げる力(ローレンツ力)を受けます。等速で動かすには、この力とつりあう外力が必要で、外力のした仕事は回路のジュール熱として消費されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. コイルの右辺の位置 \(x\) と左辺の位置 \(x-a\) に着目し、現象が変化する \(x=0, a, 3a, 4a\) を境界として、4つの区間に分けて考えます。
  2. (1) 各区間で、コイルのうち磁場内にある部分の面積を求め、磁束 \(\Phi\) を \(x\) の関数として表します。
  3. (2) 各区間で磁束の時間変化を考え、誘導起電力 \(V\) の大きさと向きを求めます。
  4. (3) 誘導電流 \(I=V/R\) を求め、コイルが磁場から受ける力とつりあう外力 \(F\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) と、コイルのうち磁場領域内にある面積 \(S_{\text{内}}\) の積で与えられます。コイルの右辺の位置が \(x\) であることに注意しながら、\(x\) の値に応じて \(S_{\text{内}}\) がどう変化するかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 磁束の定義: \(\Phi = B \times S_{\text{内}}\)。ここで \(S_{\text{内}}\) はコイルが磁場を貫いている部分の面積です。
  • 区間ごとの面積計算: コイルが磁場に「入る」「中にある」「出る」の3つの状況で、\(S_{\text{内}}\) を \(x\) の式で正確に表現することが重要です。

具体的な解説と立式
コイルの右辺の \(x\) 座標を \(x\)、左辺の \(x\) 座標を \(x-a\) として、各区間での磁束 \(\Phi\) を計算します。

  • \(0 \le x \le a\) の区間 (コイルが磁場に入る)
    磁場内にあるコイルの面積は、縦 \(a\)、横 \(x\) の長方形なので \(S_{\text{内}} = ax\) です。
    $$ \Phi = B S_{\text{内}} = Bax \quad \cdots ① $$
  • \(a < x < 3a\) の区間 (コイルが完全に磁場内にある)
    コイル全体が磁場内にあるため、面積は一定で \(S_{\text{内}} = a^2\) です。
    $$ \Phi = B S_{\text{内}} = Ba^2 \quad \cdots ② $$
  • \(3a \le x \le 4a\) の区間 (コイルが磁場から出る)
    磁場内にあるコイルの面積は、縦 \(a\)、横 \(3a – (x-a) = 4a-x\) の長方形なので \(S_{\text{内}} = a(4a-x)\) です。
    $$ \Phi = B S_{\text{内}} = Ba(4a-x) \quad \cdots ③ $$
  • その他の区間 (\(x < 0, x > 4a\))
    コイルは磁場領域の外にあるため、磁束は \(0\) です。

使用した物理公式

  • 磁束: \(\Phi = BS\)
計算過程

上記①、②、③式から、グラフの形状を考えます。

  • \(x=0\) のとき、①式より \(\Phi = 0\)。
  • \(x=a\) のとき、①式より \(\Phi = Ba^2\)。この区間では \(\Phi\) は \(x\) に比例して直線的に増加します。
  • \(a < x < 3a\) の区間では、②式より \(\Phi = Ba^2\) で一定です。
  • \(x=3a\) のとき、③式より \(\Phi = Ba(4a-3a) = Ba^2\)。
  • \(x=4a\) のとき、③式より \(\Phi = Ba(4a-4a) = 0\)。この区間では \(\Phi\) は \(x\) の一次関数として直線的に減少します。

これらの点を結ぶと、解答図(a)のような台形のグラフが得られます。縦軸の最大値は \(\Phi_{\text{最大}} = Ba^2\) です。

この設問の平易な説明

磁束とは、コイルを貫く磁力線の本数のようなものです。コイルが磁場に入っていくとき、貫く本数はだんだん増えていきます(\(0 \le x \le a\))。コイルがすっぽり磁場の中に入ってしまうと、動いても貫く本数は変わりません(\(a < x < 3a\))。そして、磁場から出ていくときに、本数はだんだん減っていきます(\(3a \le x \le 4a\))。この様子をグラフにしたものが答えです。

結論と吟味

コイルを貫く磁束 \(\Phi\) のグラフは、\(x=a\) から \(x=3a\) まで \(\Phi = Ba^2\) の一定値をとり、その前後で直線的に変化する台形となる。これは物理的な状況と一致しており妥当です。

解答 (1) 図a (最大値 \(\Phi_{\text{最大}} = Ba^2\))

問(2)

思考の道筋とポイント
誘導起電力は、コイルを貫く磁束が「変化」するときにのみ生じます。導体棒が磁場を速さ \(v\) で垂直に横切るときに生じる起電力 \(V=vBl\) の公式を利用するのが直感的です。コイルの右辺と左辺がそれぞれ磁場を横切る際に生じる起電力を考え、回路全体として合成します。

この設問における重要なポイント

  • 起電力の発生条件: 磁束が時間変化する区間、すなわちコイルが磁場に出入りする区間(\(0 \le x \le a\) と \(3a \le x \le 4a\))でのみ起電力が生じます。
  • 起電力の向き: レンツの法則(またはフレミングの右手の法則)に従います。磁束の増加を妨げる向き、または減少を補う向きに電流が流れるように起電力が生じます。
  • 起電力の合成: コイルの各辺に生じる起電力を、回路全体で足し合わせます。向きが逆の場合は打ち消し合います。

具体的な解説と立式
各区間での誘導起電力 \(V\) を計算します。

  • \(0 \le x \le a\) の区間 (コイルが磁場に入る)
    コイルの右辺のみが磁場を横切ります。この辺に大きさ \(V_1 = vBa\) の起電力が生じます。レンツの法則より、コイルを貫く「紙面に垂直で裏から表向き」の磁束が増加するため、それを打ち消す「表から裏向き」の磁束を作る向き、すなわち時計回りに電流を流そうとする起電力が生じます。問題の指示で「最初に発生した誘導起電力の向きを正」とするので、この時計回りの起電力を正とします。
    $$ V = vBa \quad \cdots ④ $$
  • \(a < x < 3a\) の区間 (コイルが完全に磁場内にある)
    磁束が一定 (\(\Phi = Ba^2\)) なので、その時間変化は \(0\) です。したがって、誘導起電力は生じません。(別解釈:右辺と左辺にそれぞれ大きさ \(vBa\) の起電力が生じますが、回路内では互いに逆向きになるため打ち消し合います。)
    $$ V = 0 \quad \cdots ⑤ $$
  • \(3a \le x \le 4a\) の区間 (コイルが磁場から出る)
    今度はコイルの左辺のみが磁場を横切ります。この辺に大きさ \(V_2 = vBa\) の起電力が生じます。レンツの法則より、コイルを貫く「紙面に垂直で裏から表向き」の磁束が減少するため、それを補う「裏から表向き」の磁束を作る向き、すなわち反時計回りに電流を流そうとする起電力が生じます。これは最初の起電力とは逆向きなので、負の値となります。
    $$ V = -vBa \quad \cdots ⑥ $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • レンツの法則
計算過程

④、⑤、⑥式より、\(V-x\) グラフを作成します。

  • \(0 < x < a\) では、\(V = vBa\) (一定値)。
  • \(a < x < 3a\) では、\(V = 0\)。
  • \(3a < x < 4a\) では、\(V = -vBa\) (一定値)。

これは解答図(b)のグラフと一致します。正の最大値は \(vBa\)、負の最大値は \(-vBa\) です。

この設問の平易な説明

電池でないのに電流が流れるのは、コイルが「磁力線の本数が変わる場所」を動くからです。磁場に入るとき(本数が増えるとき)と、出るとき(本数が減るとき)にだけ電圧(誘導起電力)が発生します。すっぽり中に入っているときは本数が変わらないので電圧はゼロです。また、入るときと出るときでは、磁力線の変化の仕方が「増える」と「減る」で逆なので、発生する電圧の向きも逆になります。

結論と吟味

誘導起電力は磁束の時間変化率に比例するため、磁束が直線的に変化する区間(\(0 \le x \le a\) と \(3a \le x \le 4a\))で一定値となり、磁束が一定の区間(\(a < x < 3a\))で \(0\) となる。この結果はファラデーの法則と整合しており、妥当です。

別解: ファラデーの法則 \(V = -d\Phi/dt\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -d\Phi/dt\) を直接用います。コイルの位置 \(x\) は時間 \(t\) と \(x=vt\) の関係にあるので、\(d\Phi/dt = (d\Phi/dx)(dx/dt) = v(d\Phi/dx)\) と変形できます。これにより、問(1)で求めた \(\Phi-x\) グラフの傾きから \(V\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • ファラデーの法則の利用: \(V = -v \displaystyle\frac{d\Phi}{dx}\) の関係式を導き、利用します。
  • グラフの傾きと起電力: 誘導起電力 \(V\) は、\(\Phi-x\) グラフの傾きに比例します。
  • 符号の解釈: \(V = -d\Phi/dt\) のマイナスはレンツの法則に対応します。この公式が示す起電力の向きと、問題で定義された正の向きを対応させる必要があります。

具体的な解説と立式
問(1)で求めた \(\Phi(x)\) を \(x\) で微分し、\(V = -v(d\Phi/dx)\) を計算します。

  • \(0 < x < a\) の区間:
    \(\Phi = Bax\) なので、\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dx} = Ba\)。
    $$ V_{\text{法則}} = -v \frac{d\Phi}{dx} = -vBa $$
    このマイナス符号は「磁束の増加を妨げる向き」を示し、時計回りの起電力に対応します。問題の定義ではこの向きを正とするので、グラフに描くべき値は \(V = vBa\) となります。
  • \(a < x < 3a\) の区間:
    \(\Phi = Ba^2\) (定数) なので、\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dx} = 0\)。
    $$ V_{\text{法則}} = -v \frac{d\Phi}{dx} = 0 $$
  • \(3a < x < 4a\) の区間:
    \(\Phi = Ba(4a-x)\) なので、\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dx} = -Ba\)。
    $$ V_{\text{法則}} = -v \frac{d\Phi}{dx} = -v(-Ba) = vBa $$
    このプラス符号は「磁束の減少を妨げる向き」を示し、反時計回りの起電力に対応します。最初の起電力とは逆向きなので、グラフに描くべき値は \(V = -vBa\) となります。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
  • 合成関数の微分: \(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt} = \frac{d\Phi}{dx}\frac{dx}{dt}\)
計算過程

主たる解法と同じ結果が得られます。

  • \(0 < x < a\) では、\(V = vBa\)。
  • \(a < x < 3a\) では、\(V = 0\)。
  • \(3a < x < 4a\) では、\(V = -vBa\)。

これにより、解答図(b)のグラフが再現されます。

この設問の平易な説明

問(1)で描いた磁束のグラフの「傾き」が、電圧の大きさを表しています。グラフの坂が急なほど(磁束の変化が激しいほど)、大きな電圧が発生します。坂を上っているとき(\(0 \le x \le a\))と下っているとき(\(3a \le x \le 4a\))で傾きの符号が逆なので、電圧の向きも逆になります。平らな場所(\(a < x < 3a\))では傾きがゼロなので、電圧もゼロになります。

結論と吟味

磁束 \(\Phi\) を \(x\) の関数として微分するという数学的なアプローチによっても、主たる解法と同じ結果が得られました。これは、導体棒の起電力の公式 \(V=vBl\) が、ファラデーの法則から導かれる根本的な関係であることを示しています。

解答 (2) 図b (正の最大値 \(vBa\), 負の最大値 \(-vBa\))

問(3)

思考の道筋とポイント
コイルに誘導電流が流れると、その電流は磁場から力を受けます(ローレンツ力)。この力はレンツの法則により、常にコイルの運動を妨げる向きに働きます。コイルを等速で動かし続けるためには、このローレンツ力と大きさが等しく、向きが逆の外力を加え続ける必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 誘導電流の計算: オームの法則 \(I = V/R\) を用いて、問(2)で求めた起電力から誘導電流の大きさを求めます。
  • ローレンツ力の計算: 電流が流れる導線が磁場から受ける力 \(F_{\text{ローレンツ}} = IBL\) を計算します。力の向きはフレミングの左手の法則で決定します。
  • 外力とのつりあい: 外力 \(F\) はローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}}\) とつりあうので、\(F = F_{\text{ローレンツ}}\) となります。向きは \(F_{\text{ローレンツ}}\) と逆です。

具体的な解説と立式
各区間で必要な外力 \(F\) を計算します。

  • \(0 \le x \le a\) の区間:
    誘導起電力は \(V = vBa\)。誘導電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{V}{R} = \frac{vBa}{R}\)。電流はコイルの右辺を下向きに流れます(時計回り)。フレミングの左手の法則より、この右辺には左向き(負の向き)のローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}}\) が働きます。その大きさは、
    $$
    \begin{aligned}
    F_{\text{ローレンツ}} &= I a B \\[2.0ex]
    &= \left(\frac{vBa}{R}\right) a B \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R}
    \end{aligned}
    $$
    したがって、必要な外力 \(F\) は右向き(正の向き)に同じ大きさとなります。
    $$
    \begin{aligned}
    F &= F_{\text{ローレンツ}} \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R} \quad \cdots ⑦
    \end{aligned}
    $$
  • \(a < x < 3a\) の区間:
    誘導起電力が \(0\) なので、誘導電流も \(0\) です。したがって、ローレンツ力は働かず、外力も必要ありません。
    $$ F = 0 \quad \cdots ⑧ $$
  • \(3a \le x \le 4a\) の区間:
    誘導起電力の大きさは \(|V| = vBa\)。誘導電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{|V|}{R} = \frac{vBa}{R}\)。電流はコイルの左辺を上向きに流れます(反時計回り)。フレミングの左手の法則より、この左辺には左向き(負の向き)のローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}}\) が働きます。その大きさは、
    $$
    \begin{aligned}
    F_{\text{ローレンツ}} &= I a B \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R}
    \end{aligned}
    $$
    したがって、必要な外力 \(F\) は右向き(正の向き)に同じ大きさとなります。
    $$
    \begin{aligned}
    F &= F_{\text{ローレンツ}} \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R} \quad \cdots ⑨
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • ローレンツ力: \(F = IBL\)
  • 力のつりあい
計算過程

⑦、⑧、⑨式より、\(F-x\) グラフを作成します。

  • \(0 < x < a\) では、\(F = \displaystyle\frac{vB^2a^2}{R}\) (一定値)。
  • \(a < x < 3a\) では、\(F = 0\)。
  • \(3a < x < 4a\) では、\(F = \displaystyle\frac{vB^2a^2}{R}\) (一定値)。

これは解答図(c)のグラフと一致します。力の最大値は \(\displaystyle\frac{vB^2a^2}{R}\) です。

この設問の平易な説明

コイルに電流が流れると、コイルは磁石のようになり、磁場から「ブレーキ」をかけられます。このブレーキ力に逆らって、同じ速さで押し続けるために必要なのが外力です。電圧が発生しているとき(つまり、磁場に出入りしているとき)だけブレーキがかかるので、そのときだけ力を加える必要があります。コイルがすっぽり磁場の中にあるときは、ブレーキがかからないので力は不要です。

結論と吟味

外力は、誘導電流が流れる区間でのみ必要となり、その向きは常にコイルの運動方向(右向き、正)です。大きさは \(V^2\) に比例するため、\(V\) が正でも負でも同じ大きさの正の力が必要となります。この結果は物理的に妥当です。

別解: エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
コイルを等速で動かすために外力がする仕事は、すべて回路内の抵抗でジュール熱として消費されます。このエネルギー保存則「外力の仕事率 = 消費電力」から外力 \(F\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 外力の仕事率: コイルを速さ \(v\) で動かす外力 \(F\) の仕事率は \(P_{\text{外}} = Fv\)。
  • 消費電力: 抵抗 \(R\) の回路に起電力 \(V\) が生じているときの消費電力は \(P_{\text{熱}} = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)。
  • エネルギー保存則: \(P_{\text{外}} = P_{\text{熱}}\) より、\(Fv = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)。

具体的な解説と立式
エネルギー保存則 \(Fv = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を \(F\) について解きます。
$$ F = \frac{V^2}{vR} \quad \cdots ⑩ $$
この式に、問(2)で求めた各区間の \(V\) の値を代入します。

  • \(0 < x < a\) の区間:
    \(V = vBa\) を代入します。
  • \(a < x < 3a\) の区間:
    \(V = 0\) を代入します。
  • \(3a < x < 4a\) の区間:
    \(V = -vBa\) を代入します。

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • 消費電力: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
  • エネルギー保存則
計算過程

⑩式に各区間の \(V\) を代入して \(F\) を計算します。

  • \(0 < x < a\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    F &= \frac{(vBa)^2}{vR} \\[2.0ex]
    &= \frac{v^2B^2a^2}{vR} \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R}
    \end{aligned}
    $$
  • \(a < x < 3a\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    F &= \frac{0^2}{vR} \\[2.0ex]
    &= 0
    \end{aligned}
    $$
  • \(3a < x < 4a\) の区間:
    \(V^2\) を計算するので、\(V\) の符号は結果に影響しません。
    $$
    \begin{aligned}
    F &= \frac{(-vBa)^2}{vR} \\[2.0ex]
    &= \frac{v^2B^2a^2}{vR} \\[2.0ex]
    &= \frac{vB^2a^2}{R}
    \end{aligned}
    $$

外力は常に運動を助ける向き(右向き、正)に働くので、これらの値はすべて正です。結果は主たる解法と完全に一致します。

この設問の平易な説明

コイルを動かすことで「電気エネルギー」が作られますが、そのエネルギーはコイルの抵抗で「熱エネルギー」に変わってしまいます。エネルギーは勝手には生まれないので、この熱になった分のエネルギーは、外から「仕事」として供給してあげる必要があります。外から加える力は、このエネルギー供給のために必要なのです。電圧が発生しているときだけ熱が出るので、そのときだけ力を加える必要があります。

結論と吟味

電磁誘導における力の問題を、エネルギーの観点から解くことができました。ローレンツ力を計算するアプローチと、エネルギー保存則を用いるアプローチは、異なる視点から同じ物理現象を記述しており、両者で同じ結論に至ることは、解法の正しさを裏付けています。

解答 (3) 図c (最大値 \(\displaystyle\frac{vB^2a^2}{R}\))

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則:
    • 核心: コイルを貫く磁束 \(\Phi\) が時間的に変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力 \(V\) が生じる (\(V = -d\Phi/dt\)) というのが、この問題の根幹をなす法則です。
    • 理解のポイント: この問題では、コイルが磁場に「入るとき」(\(0 \le x \le a\)) と「出るとき」(\(3a \le x \le 4a\)) のみが磁束が変化する区間です。磁束が増加する「入るとき」と、減少する「出るとき」では、レンツの法則により起電力の向きが逆になります。コイルが完全に磁場内にある区間 (\(a < x < 3a\)) では、磁束が一定で変化しないため、起電力は \(0\) になります。
  • ローレンツ力と力のつりあい:
    • 核心: 誘導電流 \(I\) が流れる導線は、磁場 \(B\) から力(ローレンツ力)を受けます。この力は運動を妨げる向きに働くため、コイルを等速で動かし続けるには、この力とつりあう外力 \(F\) が必要になります。
    • 理解のポイント: 外力が必要なのは、誘導電流が流れている区間、すなわち起電力が生じている区間のみです。ローレンツ力は常に運動と逆向き(左向き)に働くため、外力は常に運動方向(右向き)に働きます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 磁場が不均一な場合: 磁束密度 \(B\) が位置によって変化する問題。この場合、\(\Phi = \int B dS\) のように積分計算が必要になったり、起電力 \(V=vBl\) の \(B\) が位置の関数になったりします。
    • コイルが回転する場合(発電機): 磁場中でコイルが回転すると、磁場を垂直に貫く面積が周期的に変化 (\(S_{\text{垂直}} = S \cos\omega t\)) するため、交流起電力が生じます。
    • 自己誘導・相互誘導: コイル自身を流れる電流が変化して起電力を生じる(自己誘導)や、隣のコイルの電流変化が影響する(相互誘導)問題も、磁束変化が起電力を生むという点で本質は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標の定義を正確に把握する: この問題のように、コイルの「左辺」か「右辺」か、あるいは「中心」か、どこを基準に位置 \(x\) が定義されているかを確認することが、全ての計算の出発点となります。
    2. 現象が切り替わる点を特定する: コイルの辺が磁場の境界を通過する瞬間に、物理現象(磁束の変化率、起電力、力)が不連続に変化します。この問題では \(x=0, a, 3a, 4a\) がその点です。まずこれらの点を特定し、区間ごとに場合分けする方針を立てます。
    3. 磁束 \(\Phi(x)\) を立式する: 全ての現象の根源は磁束の変化です。まず、コイルの位置 \(x\) の関数として磁束 \(\Phi(x)\) を正確に立式することが、問題を体系的に解くための最も確実なステップです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • コイルの位置の定義の誤解:
    • 誤解: コイルの左辺を \(x\) とするか、右辺を \(x\) とするかを混同、あるいは思い込みで解いてしまう。
    • 対策: 問題文を丁寧に読み、図と照らし合わせて、どの部分の座標が \(x\) なのかを最初に明確にマークすること。この問題では「コイルの右辺の \(x\) 座標を \(x\) とする」が正しい設定でした。
  • レンツの法則(起電力の向き)の間違い:
    • 誤解: 磁束が増えるときも減るときも同じ向きの起電力が生じると考えてしまう。あるいは、フレミングの右手の法則の適用を誤る。
    • 対策: 「変化を妨げる」というレンツの法則の基本に立ち返ること。「(裏→表)の磁束が増える」→「それを打ち消す(表→裏)の磁束を作ろうとする」→「時計回りの電流」という論理的な連鎖を丁寧にたどる習慣をつけることが重要です。
  • 力の向きの間違い:
    • 誤解: 外力 \(F\) の向きを、ローレンツ力と同じ向きだと勘違いする。
    • 対策: 「コイルを等速で動かすため」という問題文の条件に着目すること。これは「力のつりあい」を意味します。磁場から受ける力(ローレンツ力)は常に運動を妨げるブレーキ力なので、外力は常にそれを打ち消して運動を助けるアクセルの力である、と理解することが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • グラフの連関イメージ: \(\Phi-x\) グラフ、\(V-x\) グラフ、\(F-x\) グラフを上下に並べて描くことで、三者の関係性が視覚的に理解できます。
      • \(\Phi-x\) グラフの「傾き」が \(V-x\) グラフの「値」になる (\(V \propto -d\Phi/dx\))。
      • \(V-x\) グラフの「値の2乗」が \(F-x\) グラフの「値」になる (\(F \propto V^2\))。
    • 区間ごとの図示: \(x=0, a, 3a, 4a\) の境界をまたぐ瞬間のコイルの絵を4枚描くだけでなく、各区間の途中(例: \(x=a/2, 2a, 3.5a\))でのコイルの状態を図示すると、磁束や力の有無がより明確にイメージできます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流の向きを書き込む: 起電力が生じる区間では、コイルに流れる誘導電流の向き(時計回りか反時計回りか)を矢印で書き込みましょう。
    • 力の矢印を書き込む: 電流が流れる辺に働くローレンツ力(左向き)と、それとつりあう外力(右向き)を、それぞれ異なる種類の矢印(例:実線と破線)で書き込むと、力の関係が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 磁束 \(\Phi = BS\):
    • 選定理由: 問題の出発点である「コイルを貫く磁束」を定義・計算するための基本公式だからです。
    • 適用根拠: 磁束密度が一様な磁場において、磁場に垂直な面積 \(S\) を貫く磁束を計算する際の定義式です。
  • 誘導起電力 \(V = vBl\):
    • 選定理由: 磁束の時間変化を計算するよりも、導体棒が磁場を横切る状況として捉える方が直感的で計算が速い場合に選択します。
    • 適用根拠: これはファラデーの法則を、長さ \(l\) の導体棒が速さ \(v\) で磁場 \(B\) を垂直に横切るという特定の状況に適用した、便利な公式です。
  • 外力とエネルギー保存則 \(Fv = V^2/R\):
    • 選定理由: ローレンツ力を経由せずに、エネルギーの観点から直接外力を求めたい場合に選択します。これは別解として有効なアプローチです。
    • 適用根拠: 「外力がした仕事が、すべてジュール熱として消費される」というエネルギー保存則に基づいています。等速運動であるため、運動エネルギーの変化がないことが、この等式が成り立つ根拠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 磁束 \(\Phi\) の計算:
    • 戦略: コイルの右辺 \(x\) と左辺 \(x-a\) の位置に着目し、区間ごとに磁場内の面積 \(S_{\text{内}}\) を \(x\) で表す。
    • フロー: ① \(0 \le x \le a\), ② \(a < x < 3a\), ③ \(3a \le x \le 4a\) の3区間で \(S_{\text{内}}\) を計算 → ② \(\Phi = B S_{\text{内}}\) に代入して各区間の \(\Phi(x)\) を立式 → ③グラフを描く。
  2. (2) 誘導起電力 \(V\) の計算:
    • 戦略: 磁束が変化する区間でのみ起電力が生じる。導体棒の公式 \(V=vBa\) を使い、向きはレンツの法則で判断する。
    • フロー: ① \(0 \le x \le a\) で右辺に起電力発生。向きを判断し \(V=+vBa\) → ② \(a < x < 3a\) では磁束変化ゼロなので \(V=0\) → ③ \(3a \le x \le 4a\) で左辺に起電力発生。向きを判断し \(V=-vBa\) → ④グラフを描く。
  3. (3) 外力 \(F\) の計算:
    • 戦略: 起電力が生じる区間で誘導電流 \(I=V/R\) が流れ、ローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}}=IBa\) が生じる。外力 \(F\) はこれとつりあう。
    • フロー: ① \(0 \le x \le a\) と \(3a \le x \le 4a\) で \(I = vBa/R\) を計算 → ② ローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}} = (vBa/R)Ba\) を計算 → ③ 外力 \(F\) は \(F_{\text{ローレンツ}}\) と同じ大きさで向きが逆(運動方向)なので \(F = vB^2a^2/R\) → ④ \(a < x < 3a\) では \(I=0\) なので \(F=0\) → ⑤グラフを描く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位と文字の確認: 最終的な答えの次元(単位)が正しいかを確認する習慣をつけましょう。例えば、力の次元は \([MLT^{-2}]\) です。\(F = vB^2a^2/R\) の次元を検算すると、\(v[LT^{-1}]\), \(B[MT^{-2}I^{-1}]\), \(a[L]\), \(R[ML^2T^{-3}I^{-2}]\) から正しく力の次元になることが確認でき、大きな間違いを防げます。
  • 区間分けの境界値チェック: 各区間の境界点(例: \(x=a\))で、両側の区間の式が同じ値になるか(連続性があるか)を確認しましょう。例えば、問(1)で \(x=a\) のとき、\(\Phi=Bax\) も \(\Phi=Ba^2\) も同じ \(\Phi=Ba^2\) となり、つながっていることが確認できます。
  • 符号の丁寧な扱い: 起電力や力の向きを決めるとき、プラス・マイナスの符号の定義(問題文の指示)を常に意識しましょう。「時計回りが正」「右向きが正」といった定義を、計算用紙の隅に大きくメモしておくと混乱を防げます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 磁束: コイルが磁場に入り、通り抜け、出ていくという一連の動きに対して、磁束が \(0 \rightarrow\) 増加 \(\rightarrow\) 一定 \(\rightarrow\) 減少 \(\rightarrow 0\) と変化するのは直感と一致しており妥当です。
    • (2) 起電力: 磁束が変化しているときだけ起電力が生じ、磁束が一定の区間では \(0\) になる。これはファラデーの法則そのものであり、妥当です。また、磁束の増加時と減少時で起電力の符号が逆になるのもレンツの法則から当然です。
    • (3) 力: 外力は、コイルが「電磁ブレーキ」をかけられている区間でのみ必要になります。ブレーキがかかるのは誘導電流が流れるときなので、起電力が \(0\) でない区間でのみ力が必要になるのは妥当です。また、ブレーキは常に運動を妨げる向きなので、外力は常に運動を助ける向き(正)になるのも妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題では、起電力を「\(V=vBl\)」で求める方法と「\(V=-d\Phi/dt\)」で求める方法、外力を「ローレンツ力とのつりあい」で求める方法と「エネルギー保存則」で求める方法がありました。異なる物理法則から出発して同じ結論に達したことは、それぞれの法則が同じ現象の異なる側面を記述していることの証左であり、解答の信頼性を高めます。

457 磁場の中での導体棒の運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中を運動する導体棒に生じる「誘導起電力」と、それに伴う「電磁力」、そして回路全体の「エネルギー保存則」を総合的に扱う問題です。導体棒が上昇する場合と落下する場合のそれぞれで、力のつりあいと電気回路の法則を正しく適用できるかが問われます。

与えられた条件
  • 電池の起電力: \(E\) (内部抵抗は無視)
  • 抵抗の抵抗値: \(R\)
  • 導体棒Aの質量: \(m\), 長さ: \(l\)
  • レール間隔: \(l\)
  • 一様な磁場の磁束密度: \(B\) (紙面の裏から表向き)
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 回路内の導体の抵抗は無視
問われていること
  • (1) 速さ\(v\)で上昇中の電流\(I\)
  • (2) 上昇時の一定の速さ\(v_1\)
  • (3) 速さ\(v_1\)のときの単位時間あたりの仕事\(W\)、ジュール熱\(Q\)、位置エネルギー増加\(U\)と、その関係式
  • (4) S₂に切り替えて落下したときの一定の速さ\(v_2\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3)の別解: キルヒホッフの法則からエネルギー保存則を導出する解法
      • 模範解答が仕事・熱・エネルギーを個別に計算して関係式を導くのに対し、別解ではキルヒホッフの法則の式を変形することで、エネルギー保存則 \(W=Q+U\) を直接導出します。
    • 問(4)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が力のつりあいから速さを求めるのに対し、別解では「単位時間に重力がする仕事がすべてジュール熱に変換される」というエネルギー保存則の観点から速さを求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 法則間の関連性の理解: キルヒホッフの法則(電位の関係)が、回路全体のエネルギー保存則と本質的に等価であることを数式変形を通じて深く理解できます。
    • 多角的な視点の獲得: 力学的なアプローチ(力のつりあい)と、熱力学・電磁気学的なアプローチ(エネルギー保存)の両方で同じ現象を記述できることを学び、物理現象に対する複眼的な視点を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「誘導起電力を伴う導体棒の運動とエネルギー保存」です。導体棒が動くことで発生する誘導起電力を「もう一つの電池」とみなし、回路方程式や力学法則を適用することが鍵となります。

  1. 誘導起電力: 磁場を横切る導体棒には、速さに比例した起電力 \(V=vBl\) が生じます。その向きはレンツの法則に従います。
  2. 電磁力(ローレンツ力): 電流が流れる導体棒は、磁場から力 \(F=IBl\) を受けます。その向きはフレミングの左手の法則に従います。
  3. キルヒホッフの法則II: 閉回路において、「起電力の総和」は「電圧降下の総和」に等しくなります。
  4. 力のつりあいとエネルギー保存則: 物体が等速運動するとき、はたらく力はつりあっています。また、回路全体でエネルギーの出入りを考えることで、別の角度から問題を解くことができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導体棒に生じる誘導起電力の大きさと向きを正しく把握し、キルヒホッフの法則IIを用いて回路に流れる電流を求めます(問1)。
  2. 次に、「等速運動」という条件から力のつりあいを考え、電流を特定し、速さを求めます(問2)。
  3. 仕事、熱量、位置エネルギーの各定義式に基づき、単位時間あたりの変化量を計算し、それらの関係性を導きます(問3)。
  4. スイッチを切り替えた後の新しい回路について、同様に力のつりあいと誘導起電力の関係から、終端速度を求めます(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
導体棒Aが磁場中を速さ\(v\)で運動することにより、Aには誘導起電力が生じます。この誘導起電力は、回路にもともとある電池の起電力\(E\)とは逆向きに作用します。したがって、回路全体の実質的な起電力は、この二つの差で考えられます。この実質的な起電力によって抵抗\(R\)に電流が流れる、というキルヒホッフの法則IIを適用します。
この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力の大きさ: 導体棒Aが速さ\(v\)で磁場を横切るときに生じる誘導起電力の大きさ\(V\)は、\(V = vBl\)で与えられます。
  • 誘導起電力の向き: レンツの法則より、誘導起電力は導体棒の上昇(回路を貫く上向き磁束の増加)を妨げる向き、すなわち、下向きの磁場を作るような電流を流す向き(反時計回り)に生じます。これは電池の起電力\(E\)の向き(時計回り)とは逆です。
  • キルヒホッフの法則II: 回路全体の起電力の和(この場合は差)が、抵抗での電圧降下に等しくなります。

具体的な解説と立式
導体棒Aが鉛直上向きに速さ\(v\)で動くとき、Aには誘導起電力\(V\)が生じます。その大きさは、
$$ V = vBl $$
です。この起電力の向きは、レンツの法則により、電池の起電力\(E\)と逆向き(反時計回り)になります。
したがって、時計回りを正とすると、回路全体の起電力の合計は \(E – V = E – vBl\) となります。
キルヒホッフの法則IIを適用すると、回路全体の起電力が抵抗\(R\)での電圧降下\(RI\)に等しくなるので、
$$ E – vBl = RI \quad \cdots ① $$
が成り立ちます。

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • キルヒホッフの法則II: 起電力の和 = 電圧降下の和
計算過程

①式を電流\(I\)について解きます。
$$ I = \frac{E – vBl}{R} $$
電流の向きは、\(E > vBl\) の間は時計回り(図1の向き)となります。

この設問の平易な説明

導体棒が磁石のそばを動くと、導体棒自体が一種の「電池」になります。この問題では、導体棒が上に動くことで生まれる「逆向きの電池」ができます。回路にはもともと電池\(E\)があるので、抵抗\(R\)にかかる電圧は「電池\(E\)の電圧」から「導体棒が生み出す逆向きの電圧」を引いたものになります。この電圧を抵抗\(R\)で割れば、流れる電流が計算できます。

結論と吟味

速さ\(v\)のときの電流\(I\)は \(\displaystyle\frac{E – vBl}{R}\) です。
速さ\(v\)が\(0\)のとき(動き始め)は電流が最大値 \(\displaystyle\frac{E}{R}\) となり、速くなるにつれて誘導起電力\(vBl\)が大きくなるため、電流\(I\)は減少していきます。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{E – vBl}{R}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「一定の速さ」という言葉は、物理では「加速度が0」、すなわち「物体にはたらく力がつりあっている」ことを意味します。導体棒Aには、下向きに重力\(mg\)がはたらいています。一方、(1)で求めた電流\(I\)が流れることで、導体棒Aは磁場から上向きの電磁力\(F=IBl\)を受けます。この二つの力がつりあうときの速さが\(v_1\)です。
この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: 導体棒Aにはたらく上向きの電磁力と、下向きの重力が等しくなります。
  • 電磁力の大きさ: 電流\(I_1\)が流れる導体棒が受ける力は \(F = I_1Bl\) です。向きはフレミングの左手の法則より鉛直上向きです。
  • 連立方程式: 力のつりあいの式と、(1)で導いたキルヒホッフの法則の式を連立させて解きます。

具体的な解説と立式
導体棒Aの速さが一定の\(v_1\)になったとき、Aに流れる電流を\(I_1\)とします。
このとき、Aにはたらく力は、鉛直上向きの電磁力 \(F = I_1Bl\) と、鉛直下向きの重力 \(mg\) です。
速さが一定であるため、これらの力はつりあっています。
$$ I_1Bl = mg \quad \cdots ② $$
また、このときの回路についてキルヒホッフの法則IIを適用すると、(1)の式の\(v\)を\(v_1\)、\(I\)を\(I_1\)に置き換えて、
$$ E – v_1Bl = RI_1 \quad \cdots ③ $$
が成り立ちます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: 物体にはたらく力の合力 = 0
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • キルヒホッフの法則II: 起電力の和 = 電圧降下の和
計算過程

②式より、つりあいを満たす電流\(I_1\)は、
$$ I_1 = \frac{mg}{Bl} $$
となります。この\(I_1\)を③式に代入します。
$$ E – v_1Bl = R \left( \frac{mg}{Bl} \right) $$
この式を\(v_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_1Bl &= E – \frac{mgR}{Bl} \\[2.0ex]
v_1 &= \frac{1}{Bl} \left( E – \frac{mgR}{Bl} \right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

導体棒が上昇を始めると、上向きに「電磁力」という力がはたらきます。この力と、下向きの「重力」がつりあうと、導体棒はそれ以上加速も減速もせず、一定のスピードで上昇を続けます。まず、重力とつりあうために必要な電磁力の大きさを計算し、その電磁力を発生させるのに必要な電流を求めます。最後に、その電流が流れるときのスピードを(1)の結果を使って計算します。

結論と吟味

一定の速さ\(v_1\)は \(\displaystyle\frac{1}{Bl} \left( E – \frac{mgR}{Bl} \right)\) です。
この結果は、電池の起電力\(E\)が大きいほど、また質量\(m\)や抵抗\(R\)が小さいほど、終端速度\(v_1\)が大きくなることを示しており、直感と一致します。もし \(E \le \displaystyle\frac{mgR}{Bl}\) ならば\(v_1 \le 0\)となり、そもそも上昇しないことを意味し、これも物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{1}{Bl}\left(E-\frac{mgR}{Bl}\right)\)

問(3)

思考の道筋とポイント
単位時間あたりの仕事やエネルギーを求める問題です。これは電力の計算に相当します。

  • 電池がする仕事率(電力)は \(P = IV\)。ここでは \(W = I_1E\)。
  • 抵抗で発生するジュール熱(消費電力)は \(P = I^2R\)。ここでは \(Q = I_1^2R\)。
  • 単位時間に得る位置エネルギーは、\(mg \times (\text{単位時間に進む距離})\)。単位時間に進む距離は速さ\(v_1\)そのものです。よって \(U = mgv_1\)。

これらの量を(2)で求めた\(I_1\)と\(v_1\)を使って具体的に計算し、関係性を調べます。これはエネルギー保存則の確認作業です。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率・電力の定義:
    • 電池の供給電力: \(W = I_1E\)
    • 抵抗の消費電力: \(Q = I_1^2R\)
  • 位置エネルギーの増加率: \(U = mg \times (\text{単位時間あたりの高さの変化}) = mgv_1\)
  • エネルギー保存則: 回路全体でエネルギーは保存されるはずです。つまり、供給されたエネルギーが、他の形のエネルギーに変換されます。

具体的な解説と立式
(2)より、定常状態での電流は \(I_1 = \displaystyle\frac{mg}{Bl}\)、速さは \(v_1 = \displaystyle\frac{1}{Bl} \left( E – \frac{mgR}{Bl} \right)\) です。

単位時間に電池がする仕事\(W\)は、
$$
\begin{aligned}
W &= I_1 E \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg}{Bl} \right) E \\[2.0ex]
&= \frac{mgE}{Bl} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
単位時間に抵抗で発生するジュール熱\(Q\)は、
$$
\begin{aligned}
Q &= I_1^2 R \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg}{Bl} \right)^2 R \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
単位時間に導体棒Aが得る重力による位置エネルギー\(U\)は、
$$
\begin{aligned}
U &= mgv_1 \\[2.0ex]
&= mg \left\{ \frac{1}{Bl} \left( E – \frac{mgR}{Bl} \right) \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{Bl} \left( E – \frac{mgR}{Bl} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mgE}{Bl} – \frac{m^2g^2R}{B^2l^2} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電力: \(P = IV\), \(P = I^2R\)
  • 仕事率: \(P = Fv\) (この場合、位置エネルギーの増加率は \(mgv_1\))
計算過程

④、⑤、⑥式から、\(W, Q, U\)の関係を調べます。⑤と⑥の和を計算してみます。
$$
\begin{aligned}
Q + U &= \left( \frac{mg}{Bl} \right)^2 R + \left( \frac{mgE}{Bl} – \frac{m^2g^2R}{B^2l^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{m^2g^2R}{B^2l^2} + \frac{mgE}{Bl} – \frac{m^2g^2R}{B^2l^2} \\[2.0ex]
&= \frac{mgE}{Bl}
\end{aligned}
$$
この結果は④式の\(W\)と等しいです。
したがって、
$$ W = Q + U $$
という関係が成り立ちます。

この設問の平易な説明

これは、家計簿のようなものです。「電池」というお財布から供給されたエネルギー(収入\(W\))が、何に使われたか(支出)を計算しています。支出の内訳は、「抵抗」で熱として無駄遣いされた分(生活費\(Q\))と、「導体棒」を高い位置に持ち上げるために貯金された分(貯蓄\(U\))です。当然、収入と支出の合計は一致するはずで、それが \(W = Q + U\) という関係式で表されています。

結論と吟味

\(W = \displaystyle\frac{mgE}{Bl}\), \(Q = \left(\displaystyle\frac{mg}{Bl}\right)^2 R\), \(U = \displaystyle\frac{mg}{Bl}\left(E-\displaystyle\frac{mgR}{Bl}\right)\) であり、関係式は \(W = Q + U\) です。
この関係式はエネルギー保存則そのものであり、電池が供給したエネルギーが、ジュール熱と位置エネルギーに過不足なく変換されたことを示しています。物理的に完全に妥当な結果です。

別解: キルヒホッフの法則からエネルギー保存則を導出する解法

思考の道筋とポイント
(2)で用いたキルヒホッフの法則の式 \(E – v_1Bl = RI_1\) は、実はエネルギー保存則を電位の言葉で表現したものです。この式の両辺に電流\(I_1\)を掛けると、各項が電力(単位時間あたりのエネルギー)の次元を持つようになり、\(W, Q, U\)の関係式を直接導くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 式の物理的意味の変換: 電位の式(単位電荷あたりのエネルギー)に電荷流量(電流)を掛けることで、エネルギー流量(電力)の式に変換します。
  • 各項の解釈: \(I_1E\)は電池の供給電力\(W\)、\(I_1^2R\)は消費電力\(Q\)、そして\(v_1(I_1Bl)\)が力学的な仕事率に相当します。

具体的な解説と立式
(2)で立てた、速さ\(v_1\)、電流\(I_1\)のときのキルヒホッフの法則IIの式から出発します。
$$ E – v_1Bl = RI_1 $$
この式の両辺に\(I_1\)を掛けます。
$$ I_1E – v_1BlI_1 = I_1^2R $$
ここで、各項が\(W, Q, U\)とどう対応するかを考えます。

  • 左辺第1項: \(I_1E\) は、単位時間に電池がする仕事\(W\)です。
  • 右辺: \(I_1^2R\) は、単位時間に抵抗で発生するジュール熱\(Q\)です。
  • 左辺第2項: \(v_1BlI_1\) は、力のつりあいの式 \(I_1Bl = mg\) を使うと、\(v_1(I_1Bl) = v_1mg\) と変形できます。これは単位時間にAが得る位置エネルギー\(U\)に他なりません。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II: 起電力の和 = 電圧降下の和
  • 力のつりあい: 物体にはたらく力の合力 = 0
計算過程

上記の対応関係を式に代入すると、
$$ W – U = Q $$
これを移項して、
$$ W = Q + U $$
となり、エネルギー保存則の関係式が直接導かれます。

この設問の平易な説明

回路の電圧についての式(キルヒホッフの法則)は、いわば「1クーロンの電荷」視点でのエネルギー収支報告書です。この式の全体に、1秒間に流れる電荷の量(電流)を掛けてあげることで、「1秒間」視点でのエネルギー収支報告書(電力の式)に変換することができます。これにより、個別の値を計算しなくても、エネルギーの関係式そのものをスマートに導き出せます。

結論と吟味

キルヒホッフの法則の式を変形することで、\(W=Q+U\)というエネルギー保存則が成り立つことが示されました。これは、電気回路における法則と力学・熱力学におけるエネルギー保存則が、深く結びついていることを示しています。

解答 (3) \(W=\displaystyle\frac{mgE}{Bl}\), \(Q=\left(\displaystyle\frac{mg}{Bl}\right)^2 R\), \(U=\displaystyle\frac{mg}{Bl}\left(E-\displaystyle\frac{mgR}{Bl}\right)\), 関係式: \(W=Q+U\)

問(4)

思考の道筋とポイント
スイッチをS₂に入れると、電池が回路から切り離され、抵抗\(R\)と導体棒Aのみの閉回路になります。Aが落下すると、その運動によって誘導起電力が発生し、回路に電流が流れます。この電流は、フレミングの左手の法則により、落下を妨げる向き(上向き)の電磁力を生み出します。落下速度が増すにつれてこの電磁力も強くなり、やがて重力とつりあう点で、Aは一定の速さ\(v_2\)(終端速度)で落下するようになります。
この設問における重要なポイント

  • 新しい回路: 電池がなく、抵抗\(R\)と導体棒A(誘導起電力の源)だけの回路です。
  • 誘導起電力: 速さ\(v_2\)で落下するとき、誘導起電力 \(V_2 = v_2Bl\) が生じます。
  • 力のつりあい: 上向きの電磁力 \(F_2 = I_2Bl\) と下向きの重力 \(mg\) がつりあいます。
  • オームの法則: 回路の起電力は\(V_2\)だけなので、\(V_2 = I_2R\) が成り立ちます。

具体的な解説と立式
導体棒Aが鉛直下向きに一定の速さ\(v_2\)で落下しているとき、Aに流れる電流を\(I_2\)とします。
このとき、Aにはたらく力は、鉛直上向きの電磁力 \(F_2 = I_2Bl\) と、鉛直下向きの重力 \(mg\) です。
速さが一定なので、これらの力はつりあっています。
$$ I_2Bl = mg \quad \cdots ⑦ $$
一方、速さ\(v_2\)で落下するAには、誘導起電力 \(V_2 = v_2Bl\) が生じます。この起電力によって抵抗\(R\)に電流\(I_2\)が流れるので、オームの法則より、
$$ v_2Bl = I_2R \quad \cdots ⑧ $$
が成り立ちます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: 物体にはたらく力の合力 = 0
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • オームの法則: \(V = IR\)
計算過程

⑦式から電流\(I_2\)を求めます。
$$ I_2 = \frac{mg}{Bl} $$
この\(I_2\)を⑧式に代入します。
$$ v_2Bl = \left( \frac{mg}{Bl} \right) R $$
この式を\(v_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \frac{1}{Bl} \left( \frac{mgR}{Bl} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mgR}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は電池がなくなり、導体棒が落下します。落下することで導体棒自体が発電機(電池)となり、回路に電流を流します。この電流が、今度は上向きの力(ブレーキ)を生み出します。落下のスピードが上がるほど発電量が増え、ブレーキ力も強くなります。最終的に、このブレーキ力と重力がぴったり同じ大きさになったところで、一定のスピードで落下し続けることになります。

結論と吟味

一定の速さ\(v_2\)は \(\displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) です。
この速さは、重力\(mg\)や抵抗\(R\)が大きいほど速く、磁場\(B\)や導体棒の長さ\(l\)が大きいほど(ブレーキが効きやすいので)遅くなることを示しており、物理的に妥当な結果です。

別解: エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
導体棒が一定の速さ\(v_2\)で落下している定常状態では、エネルギーの観点から見ると、「単位時間あたりに重力がする仕事(失われる位置エネルギー)」が、すべて「単位時間あたりに抵抗で発生するジュール熱」に変換されていると考えることができます。このエネルギー収支の式を立てることで、速さ\(v_2\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー変換: 重力による位置エネルギーが電気エネルギー(誘導起電力)に変換され、さらにそれが熱エネルギー(ジュール熱)に変換されます。
  • エネルギー保存則: 定常状態では、単位時間あたりのエネルギーの増減はゼロです。したがって、\((\text{重力がする仕事率}) = (\text{ジュール熱の発生率})\)となります。

具体的な解説と立式
導体棒が一定の速さ\(v_2\)で落下するとき、単位時間あたりに重力がする仕事(供給される力学的エネルギー)\(P_{\text{重力}}\)は、
$$ P_{\text{重力}} = mgv_2 \quad \cdots ⑨ $$
一方、このとき回路で消費される電力、すなわち単位時間あたりに発生するジュール熱\(Q_{\text{単位時間}}\)は、
$$ Q_{\text{単位時間}} = I_2^2 R \quad \cdots ⑩ $$
回路に流れる電流\(I_2\)は、誘導起電力\(v_2Bl\)によって生じるので、
$$ I_2 = \frac{v_2Bl}{R} $$
です。
エネルギー保存則より、重力がした仕事がすべてジュール熱に変わるので、
$$ P_{\text{重力}} = Q_{\text{単位時間}} $$
が成り立ちます。

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • 消費電力: \(P = I^2R\)
  • オームの法則: \(V=IR\)
計算過程

エネルギー保存則の式に、具体的な式を代入します。
$$ mgv_2 = I_2^2 R $$
この式に \(I_2 = \displaystyle\frac{v_2Bl}{R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
mgv_2 &= \left( \frac{v_2Bl}{R} \right)^2 R \\[2.0ex]
mgv_2 &= \frac{v_2^2 B^2 l^2}{R^2} R \\[2.0ex]
mgv_2 &= \frac{v_2^2 B^2 l^2}{R}
\end{aligned}
$$
\(v_2 \neq 0\) なので、両辺を\(v_2\)で割ることができます。
$$ mg = \frac{v_2 B^2 l^2}{R} $$
この式を\(v_2\)について解きます。
$$ v_2 = \frac{mgR}{B^2l^2} $$

この設問の平易な説明

導体棒が一定の速さで落ちているとき、それは「位置エネルギー」を失い続けている状態です。その失われたエネルギーはどこへ行くのでしょうか?この問題では、そのエネルギーがすべて回路の抵抗で「熱」に変わっているのです。「1秒間に失う位置エネルギー」と「1秒間に発生する熱エネルギー」が等しい、というエネルギーの収支の式を立てることで、落下速度を計算できます。

結論と吟味

エネルギー保存則から導いた速さ \(v_2 = \displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) は、力のつりあいから求めた結果と完全に一致しました。これにより、異なる物理的アプローチが同じ結論を導くことが確認でき、解の妥当性がより強固になります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力とキルヒホッフの法則IIの融合:
    • 核心: 磁場中を運動する導体棒は、それ自体が起電力 \(V=vBl\) を持つ「電池」として振る舞います。この問題の最大のポイントは、この「動く電池(誘導起電力)」と「固定された電池(電源\(E\))」が共存する回路を、キルヒホッフの法則II(起電力の和=電圧降下の和)を用いて統一的に扱う点にあります。
    • 理解のポイント: 導体棒の上昇時には、誘導起電力は電源\(E\)と逆向きに作用するため、回路全体の起電力は \(E – vBl\) となります。一方、落下時には、誘導起電力の向きが逆転し、これが唯一の起電力源となります。この状況変化を正しくモデル化できるかが問われます。
  • 力学と電磁気学の連携(力のつりあい):
    • 核心: 「一定の速さ」という力学的な条件は、「力がつりあっている」ことを意味します。導体棒にはたらく力は、重力\(mg\)と電磁力\(IBl\)の2つです。この2つの力のつりあいを考えることで、電気的な量(電流\(I\))と力学的な量(質量\(m\))を結びつけることができます。
    • 理解のポイント: 問(2)と問(4)は、どちらも「力のつりあい」が鍵となります。上昇時も落下時も、電磁力\(IBl\)が重力\(mg\)と等しくなる瞬間に終端速度に達します。ただし、その電磁力を発生させる電流\(I\)の源が、上昇時(電源+誘導起電力)と落下時(誘導起電力のみ)で異なる点を区別する必要があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平面上の導体棒の運動: 鉛直方向の重力の代わりに、水平方向にばねや糸の張力がはたらくパターン。力のつりあいや単振動と電磁誘導が融合した問題に応用できます。
    • 傾斜したレール上の導体棒: 重力の斜面方向成分 \(mg\sin\theta\) と電磁力がつりあう問題。力の分解が必要になります。
    • コンデンサーを含む回路: 抵抗の代わりにコンデンサーが接続されている場合。電流が時間変化し、過渡現象を扱う微分方程式の問題に発展します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 動く導体は「電池」と見なす: 磁場中で導体が動いていたら、まず誘導起電力\(V=vBl\)の存在を疑い、その向きをレンツの法則で決定します。
    2. 力のベクトル図を描く: 導体棒にはたらく力をすべて(重力、電磁力、張力など)ベクトルで図示し、運動方向と力の関係を明確にします。
    3. 「一定の速さ」は「力のつりあい」の合図: 問題文にこのキーワードがあれば、即座に力のつりあいの式を立てます。
    4. エネルギーの流れを追う: 「仕事」「熱」「エネルギー」といった言葉が出てきたら、エネルギー保存則の出番です。「誰がエネルギーを供給し(仕事)、どこで消費され(熱)、どこに蓄えられたか(位置・運動エネルギー)」を考え、\(W_{\text{供給}} = Q_{\text{消費}} + \Delta U_{\text{蓄積}}\) の関係式を立てます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 誘導起電力の向きの間違い:
    • 誤解: 誘導起電力の向きを常に電源と同じ向き、あるいは常に逆向きと固定的に考えてしまう。
    • 対策: 常に「レンツの法則(変化を妨げる向き)」に立ち返ること。導体棒が上昇して回路を貫く磁束が増えるなら、それを打ち消す向き(反時計回りの電流を流す向き)の起電力が生じます。落下して磁束が減るなら、それを補う向きの起電力が生じます。
  • 力のつりあいとキルヒホッフの法則の混同:
    • 誤解: 力のつりあいの式だけで速さが求まると思い、キルヒホッフの法則の式を立て忘れる。
    • 対策: 「力のつりあい」は電流\(I\)と力学量\(m\)の関係式、「キルヒホッフの法則」は電流\(I\)と電気量\(E, R, v\)の関係式、と役割を明確に区別すること。未知数が\(I\)と\(v\)の2つなので、式も2本必要、と認識することが重要です。
  • 単位時間あたりのエネルギー計算のミス:
    • 誤解: 位置エネルギーの増加を\(mgh\)としてしまい、単位時間あたりに直すのを忘れる。
    • 対策: 「単位時間あたり」と問われたら、それは「仕事率(電力)」のことだと変換して考えること。単位時間あたりの位置エネルギー増加は \(mg \times (\text{単位時間あたりの高さの変化}) = mgv\) となります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 等価回路のイメージ: 導体棒Aを、速さ\(v\)に依存する可変電圧の電池(電圧\(vBl\))に置き換えた回路図を描くと、問題の見通しが格段に良くなります。上昇時は電源\(E\)と逆向きに直列接続された電池、落下時は誘導起電力の電池だけが接続された回路、として図示します。
    • 力のベクトル図: 導体棒に注目し、下向きの重力ベクトルと、上向きの電磁力ベクトルを描きます。速さが変化する過程では、この2つのベクトルの長さが変化し、等しくなったときに等速運動になる、というアニメーションのようなイメージを持つと理解が深まります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流の向きを明記する: 回路図には、仮定した電流の向きを矢印で必ず書き込みます。計算結果が負になれば、実際の向きは逆だったと分かります。
    • 力の作用点を明確にする: 重力は重心に、電磁力は導体棒全体にはたらくことを意識して、力のベクトルを導体棒から描きます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則II:
    • 選定理由: 回路に複数の起電力(電源\(E\)と誘導起電力\(vBl\))と抵抗が含まれているため、回路全体の電圧の関係を記述する最も普遍的な法則だからです。
    • 適用根拠: 電荷が回路を一周して元の位置に戻ると、電位も元に戻る(電位差がゼロ)という電位の保存則に基づいています。これはどんな複雑な直流回路にも適用できる基本原則です。
  • 力のつりあいの式:
    • 選定理由: 問題文に「一定の速さ」というキーワードがあるためです。これはニュートンの運動の第一法則(または運動方程式 \(ma=F\) で \(a=0\) の場合)が適用できる状況であることを示しています。
    • 適用根拠: 観測者が慣性系(静止または等速直線運動する系)にいる限り、力がつりあっている物体は静止または等速直線運動を続けます。
  • エネルギー保存則 \( W = Q + U \):
    • 選定理由: 仕事、熱、エネルギーの関係が問われているため、エネルギーの出入りと変換を追跡するこの法則が最も直接的な解法となります。
    • 適用根拠: 「エネルギーは創り出されたり消滅したりせず、ただ形を変えるだけである」という物理学の最も根源的な法則の一つです。閉じた系全体でエネルギーの総量は常に一定に保たれます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 電流の導出:
    • 戦略: 動く導体棒を電池とみなし、キルヒホッフの法則を立てる。
    • フロー: ①誘導起電力 \(V=vBl\) の大きさと向きを決定 → ②回路全体の起電力(\(E-V\))を計算 → ③キルヒホッフの法則II \(E-vBl=RI\) を立式 → ④\(I\)について解く。
  2. (2) 上昇時の終端速度の導出:
    • 戦略: 「力のつりあい」と「キルヒホッフの法則」を連立させる。
    • フロー: ①力のつりあいの式 \(I_1Bl = mg\) を立式 → ②キルヒホッフの法則の式 \(E-v_1Bl=RI_1\) を立式 → ③①から\(I_1\)を求め、②に代入 → ④\(v_1\)について解く。
  3. (3) エネルギー収支の計算:
    • 戦略: 仕事率、消費電力、位置エネルギー増加率の定義式に、(2)で求めた値を代入する。
    • フロー: ①\(W=I_1E\), \(Q=I_1^2R\), \(U=mgv_1\) の3式を立てる → ②各々に\(I_1\)と\(v_1\)の値を代入して計算 → ③\(Q+U\)を計算し、\(W\)と等しくなることを確認する。
  4. (4) 落下時の終端速度の導出:
    • 戦略: 電池がなくなった新しい回路で、再び「力のつりあい」と「オームの法則」を連立させる。
    • フロー: ①力のつりあいの式 \(I_2Bl = mg\) を立式 → ②回路の起電力は誘導起電力だけなので、オームの法則 \(v_2Bl = I_2R\) を立式 → ③①から\(I_2\)を求め、②に代入 → ④\(v_2\)について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように多くの物理定数が登場する場合、早い段階で数値を代入すると式が複雑になり、ミスを誘発します。最後まで文字式のまま計算を進め、最終段階で代入する(この問題では数値代入はないですが)のが鉄則です。
  • 分数の整理を丁寧に行う: \(v_1 = \displaystyle\frac{1}{Bl} (E – \displaystyle\frac{mgR}{Bl})\) のような計算では、括弧の中を先に通分するのか、分配法則で展開するのか、見通しを立ててから計算しましょう。展開した方が物理的な意味(\(E/Bl\)は電磁力がない場合の速度、\(mgR/B^2l^2\)は重力による速度の減少分)が見やすい場合もあります。
  • 単位(次元)の確認: 最終的に求めた速さ\(v_1\)の単位が本当に[m/s]になっているか、各項の次元を検算する(ディメンショナル・アナリシス)ことで、大きな間違いを防げます。例えば、\(E/Bl\)の次元は(V)/(T・m) = (J/C)/( (N/A・m)・m ) = … と追っていくと、最終的に[m/s]になることが確認できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥당性の検討:
    • (2)の速さ\(v_1\): もし電池の起電力\(E\)が非常に小さく、\(E < mgR/Bl\) となった場合、\(v_1\)は負になります。これは「そもそも上昇できない」ことを意味し、物理的に正しいです。逆に\(E\)が非常に大きければ、\(v_1\)も大きくなり、直感に合います。
    • (4)の速さ\(v_2\): もし抵抗\(R\)がゼロ(超伝導回路)なら、\(v_2=0\)となり、落下できない(少しでも動くと無限大の電流が流れて強力なブレーキがかかる)ことを意味します。逆に抵抗\(R\)が無限大(断線)なら、\(v_2\)は無限大(電流が流れずブレーキがかからないので自由落下する)となり、これも物理的に妥当です。
  • 別解との比較:
    • 問(3)で、キルヒホッフの法則から直接エネルギー保存則\(W=Q+U\)が導出できたことは、これらの法則が表裏一体であることを示しています。
    • 問(4)で、「力のつりあい」から求めた速さと、「エネルギー保存則」から求めた速さが完全に一致したことは、2つの異なる物理的視点が同じ現象を正しく記述していることの強力な証拠となります。これにより、解答への信頼性が格段に高まります。

458 磁場中の斜面をすべり下りる導体棒

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中で導体棒が運動する際に生じる「電磁誘導」と、導体棒が磁場から受ける「電磁力」を組み合わせた、電磁気学の総合問題です。特に、導体棒が一定の速さ(終端速度)で運動する条件を、「力のつり合い」と「エネルギー保存」という二つの側面から考察することが求められます。

与えられた条件
  • 一様な磁場: 鉛直上向き、磁束密度の大きさ \(B\)
  • 導体レール: 水平に対して角 \(\theta\) で固定、間隔 \(L\)
  • 導体棒PQ: 長さ \(L\)、質量 \(m\)、電気抵抗 \(R\)
  • 運動: 初速度を与えられ、やがて一定の速さ \(v_0\) で降下した
  • その他: レールと棒の摩擦、棒以外の電気抵抗は無視。重力加速度の大きさ \(g\)
問われていること
  • (1) 導体棒が速さ \(v_0\) のとき、流れる電流の大きさ \(I\) と向き
  • (2) 一定の速さ \(v_0\)
  • (3) 単位時間に発生するジュール熱 \(Q\)
  • (4) ジュール熱の供給源
  • (5) 磁場の向きが鉛直下向きになった場合、(1)~(4)の結果はどう変わるか

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)の別解: エネルギー保存則(仕事率のつり合い)を用いる解法
      • 模範解答が導体棒にはたらく「力のつり合い」から終端速度を求めるのに対し、別解では「エネルギー保存則」の観点から、単位時間あたりの重力の仕事率と消費電力がつりあうとして終端速度を直接導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 多角的な視点: 同じ物理現象を「力」と「エネルギー」という異なる二つの重要な側面から分析する視点が得られ、物理法則間の関係性を深く理解できます。
    • 物理的本質の理解: 終端速度に達した状態が、力がつりあっている状態であると同時に、エネルギーの出入り(仕事率)がつりあっている状態でもある、という物理的本質への理解が深まります。
    • 解法の選択肢の拡大: 問題によってはエネルギー保存則で考えた方が簡潔に解ける場合もあり、解法の引き出しを増やすことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜面上を運動する導体棒の電磁誘導と終端速度」です。導体棒の速度のうち、磁場を横切る成分を見抜くことが最初の鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 誘導起電力の式: 導体棒が磁場を横切る速度を \(v_\perp\) とすると、誘導起電力の大きさは \(V = v_\perp B L\) で与えられます。
  2. レンツの法則とフレミングの左手の法則: 誘導電流の向きはレンツの法則で、電流が磁場から受ける力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  3. 力のつり合い: 導体棒が一定の速さ(終端速度)で運動するとき、導体棒にはたらく力の合力はゼロになります。
  4. エネルギー保存則: 終端速度では運動エネルギーが一定のため、単位時間に減少する位置エネルギーが、すべて単位時間に発生するジュール熱に変換されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導体棒の速度 \(v_0\) を、磁場(鉛直方向)に対して垂直な成分と平行な成分に分解します。
  2. (1) 磁場に垂直な速度成分を用いて誘導起電力 \(V\) を求め、オームの法則から電流 \(I\) を計算します。向きはレンツの法則で決定します。
  3. (2) 導体棒にはたらく力(重力、電磁力)を図示し、斜面に平行な方向の力のつり合いの式を立てて、速さ \(v_0\) を求めます。
  4. (3) 消費電力の公式 \(P=I^2R\) を用いて、単位時間あたりのジュール熱 \(Q\) を計算します。
  5. (4) 単位時間あたりの重力の仕事率(位置エネルギーの減少率)を計算し、(3)の結果と比較してエネルギーの供給源を特定します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導体棒が一定の速さ \(v_0\) で運動するときに生じる誘導起電力 \(V\) を求め、オームの法則 \(I=V/R\) を使って電流の大きさを計算します。このとき、誘導起電力を生むのは磁場を横切る速度成分であることに注意が必要です。電流の向きは、磁束の変化を妨げる向きを考えるレンツの法則によって決定します。

この設問における重要なポイント

  • 速度の分解: 磁場は鉛直上向きです。導体棒の速度 \(v_0\)(斜面方向)のうち、磁場に垂直な成分は水平成分 \(v_\perp\) となります。図1より、その大きさは \(v_\perp = v_0 \cos\theta\) です。
  • 誘導起電力: 誘導起電力の大きさ \(V\) は、この垂直な速度成分 \(v_\perp\) を用いて \(V = v_\perp B L\) と計算されます。
  • 電流の向き: レンツの法則によれば、誘導電流はコイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに流れます。導体棒が斜面を下ることで、回路(PQと上部の導線で囲まれた部分)を鉛直上向きに貫く磁束が増加します。これを打ち消すために、回路には「下向き」の磁場を自ら作るような電流が流れます。右ねじの法則を適用すると、電流の向きはQからPの向きとなります。

具体的な解説と立式
導体棒の速度 \(v_0\) のうち、鉛直上向きの磁場 \(B\) と垂直な成分は、速度の水平成分 \(v_\perp\) です。その大きさは、
$$ v_\perp = v_0 \cos\theta $$
したがって、導体棒PQに生じる誘導起電力の大きさ \(V\) は、
$$ V = v_\perp B L $$
これより、
$$ V = v_0 B L \cos\theta \quad \cdots ① $$
オームの法則より、導体棒を流れる電流の大きさ \(I\) は、
$$ I = \frac{V}{R} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = v_\perp B L\)
  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • レンツの法則
計算過程

②式に①式を代入して \(I\) を求めます。
$$ I = \frac{v_0 B L \cos\theta}{R} $$
電流の向きは、レンツの法則よりQ→Pの向きです。

この設問の平易な説明

導体棒が磁場の中で動くと、発電機のように電気が起こります。このとき発生する電圧の大きさは、導体棒が磁場を「垂直に」横切る速さで決まります。この問題では、導体棒は斜めに滑り落ちていますが、磁場は真上を向いているので、速度の「水平成分」が発電に関わります。この電圧を抵抗で割れば、オームの法則から電流の大きさがわかります。電流の向きは、「磁場の変化を邪魔する向き」というルール(レンツの法則)で決まり、この場合はQからPへ向かう向きになります。

結論と吟味

電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{v_0 B L \cos\theta}{R}\)、向きはQ→Pの向きです。
速さ \(v_0\) が大きいほど、磁場 \(B\) が強いほど、電流が大きくなるという結果は物理的に妥当です。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{v_0BL\cos\theta}{R}\), 向き: Q→P

問(2)

思考の道筋とポイント
導体棒が一定の速さ \(v_0\) で運動しているとき、導体棒にはたらく力はつりあっています。はたらく力は「重力 \(mg\)」と「磁場から受ける力(電磁力) \(F\)」、そして「垂直抗力 \(N\)」です。これらの力を図示し、運動方向である斜面に平行な方向の力のつり合いの式を立てることで、速さ \(v_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 電磁力の向きと大きさ: (1)で求めた電流 \(I\)(Q→P向き)が、鉛直上向きの磁場 \(B\) から受ける力の向きを、フレミングの左手の法則で決定します。電流が手前から奥へ、磁場が下から上へ向かうので、力 \(F\) は図2において水平右向きにはたらきます。力の大きさは \(F = IBL\) です。
  • 力の分解: 重力 \(mg\) と電磁力 \(F\) を、それぞれ斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
  • 力のつり合い: 導体棒は斜面を下る向きに運動しているので、斜面に平行な方向の力がつりあっています。重力の斜面下向き成分 \(mg\sin\theta\) と、電磁力の斜面上向き成分 \(F\cos\theta\) が等しくなります。

具体的な解説と立式
導体棒にはたらく電磁力 \(F\) の大きさは、
$$ F = IBL \quad \cdots ③ $$
フレミングの左手の法則より、この力の向きは水平右向きです。
導体棒が一定の速さ \(v_0\) で運動しているとき、斜面に平行な方向の力はつりあっているので、
$$ F\cos\theta = mg\sin\theta \quad \cdots ④ $$
この式から、電流 \(I\) は次のように表せます。
$$ I = \frac{mg\sin\theta}{BL\cos\theta} $$
ここで \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) なので、
$$ I = \frac{mg\tan\theta}{BL} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F = IBL\)
  • 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = 0\)
計算過程

(1)で求めた電流の式(\(I = \displaystyle\frac{v_0 B L \cos\theta}{R}\))と、力のつり合いから導いた電流の式(⑤式)は、同じ電流 \(I\) を表しているので、等しいとおくことができます。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_0 B L \cos\theta}{R} &= \frac{mg\tan\theta}{BL} \\[2.0ex]
v_0 (B^2 L^2 \cos\theta) &= mgR\tan\theta \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

導体棒が滑り落ちると電流が流れ、その電流は磁場から「ブレーキ」のような力を受けます。このブレーキ力は速いほど強くなります。やがて、坂道を下ろうとする力(重力の斜面成分)と、このブレーキ力(電磁力の斜面成分)がちょうどつりあうと、それ以上加速も減速もしなくなり、一定の速さになります。この「力のつり合い」の式を解くことで、その速さを計算できます。

結論と吟味

速さは \(v_0 = \displaystyle\frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}\) です。
抵抗 \(R\) が大きいほど、また磁場 \(B\) や長さ \(L\) が小さいほど、ブレーキ力が弱くなるため終端速度が大きくなるという結果は、物理的に妥当です。

別解: エネルギー保存則(仕事率のつり合い)を用いる解法

思考の道筋とポイント
導体棒が一定の速さ \(v_0\) で運動しているとき、運動エネルギーは変化しません。このとき、エネルギー保存則から「単位時間あたりに供給されるエネルギー」と「単位時間あたりに消費されるエネルギー」は等しくなります。供給されるエネルギーは重力がする仕事(位置エネルギーの減少)、消費されるエネルギーは抵抗で発生するジュール熱です。この仕事率のつり合いの式を立てて \(v_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 重力の仕事率: 単位時間に導体棒が降下する高さは \(h = v_0 \sin\theta\) です。したがって、重力が単位時間にする仕事(仕事率) \(P_{\text{重力}}\) は \(P_{\text{重力}} = mg(v_0 \sin\theta)\) となります。
  • 消費電力: 単位時間に発生するジュール熱は、消費電力 \(P_{\text{ジュール}}\) に等しく、\(P_{\text{ジュール}} = I^2 R\) で与えられます。ここで \(I\) は(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{v_0 B L \cos\theta}{R}\) です。
  • エネルギー保存: \(P_{\text{重力}} = P_{\text{ジュール}}\) の関係が成り立ちます。

具体的な解説と立式
単位時間あたりに重力がする仕事率 \(P_{\text{重力}}\) は、
$$ P_{\text{重力}} = mg(v_0 \sin\theta) \quad \cdots ⑥ $$
単位時間あたりに発生するジュール熱(消費電力) \(P_{\text{ジュール}}\) は、(1)で求めた \(I\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{ジュール}} &= I^2 R \\[2.0ex]
&= \left( \frac{v_0 B L \cos\theta}{R} \right)^2 R \\[2.0ex]
&= \frac{v_0^2 (BL\cos\theta)^2}{R} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則より、\(P_{\text{重力}} = P_{\text{ジュール}}\) なので、
$$ mg(v_0 \sin\theta) = \frac{v_0^2 (BL\cos\theta)^2}{R} \quad \cdots ⑧ $$

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • 消費電力: \(P = I^2 R\)
  • エネルギー保存則
計算過程

⑧式の両辺を \(v_0\)(\(v_0 \neq 0\))で割り、\(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
mg\sin\theta &= \frac{v_0 (BL\cos\theta)^2}{R} \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{mgR\sin\theta}{(BL\cos\theta)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{mgR\sin\theta}{B^2 L^2 \cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
ここで \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を使うと、主たる解法の結果と一致することが確認できます。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \frac{mgR\tan\theta \cos\theta}{B^2 L^2 \cos^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

速さ \(v_0 = \displaystyle\frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。物理現象を「力」の視点と「エネルギー」の視点の両方から見ることができ、理解が深まります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{mgR\tan\theta}{B^2L^2\cos\theta}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
単位時間に発生するジュール熱 \(Q\) は、消費電力 \(P\) と同じです。\(Q = P = I^2 R\) の公式を使います。ここで用いる電流 \(I\) は、(2)の力のつり合いから導いた \(I = \displaystyle\frac{mg\tan\theta}{BL}\) を使うと、計算が簡潔になります。

この設問における重要なポイント

  • 消費電力の公式: 単位時間あたりのジュール熱は \(Q = I^2 R\) で計算できます。
  • 電流Iの選択: (2)で \(v_0\) を含まない形で \(I\) を求めている(⑤式)。これを用いることで、計算が楽になります。

具体的な解説と立式
単位時間に発生するジュール熱 \(Q\) は、消費電力に等しいので、
$$ Q = I^2 R \quad \cdots ⑨ $$
ここに、(2)の力のつり合いから得られた⑤式 \(I = \displaystyle\frac{mg\tan\theta}{BL}\) を代入します。

使用した物理公式

  • ジュール熱(消費電力): \(Q = P = I^2 R\)
計算過程

⑨式に⑤式を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \left( \frac{mg\tan\theta}{BL} \right)^2 R \\[2.0ex]
&= \frac{m^2 g^2 R \tan^2\theta}{B^2 L^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

導体棒に電流が流れると、抵抗によって熱が発生します。これは電気ストーブが熱くなるのと同じ原理です。単位時間あたりにどれくらいの熱が出るかは、「(電流の2乗)×(抵抗)」という公式で計算できます。(2)で求めた電流の値をこの式に入れるだけで、答えが求まります。

結論と吟味

単位時間に発生するジュール熱は \(Q = \displaystyle\frac{m^2 g^2 R \tan^2\theta}{B^2 L^2}\) です。
この結果は、(2)の別解で求めた重力の仕事率 \(P_{\text{重力}} = mg(v_0 \sin\theta)\) に \(v_0\) の値を代入したものと一致し、エネルギー保存則が成り立っていることを再確認できます。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{m^2g^2R\tan^2\theta}{B^2L^2}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
エネルギー保存則の観点から考えます。導体棒は一定の速さ \(v_0\) で運動しているため、運動エネルギーは変化していません。一方で、抵抗でジュール熱という形でエネルギーが消費されています。このエネルギーはどこから来たのかを考えます。導体棒は斜面を降下しており、その位置エネルギーは減少し続けています。この減少した位置エネルギーがジュール熱に変換されたと考えるのが自然です。これを計算で確認します。

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: 一定速度では運動エネルギーが一定なので、エネルギーの変換は「位置エネルギー」から「熱エネルギー」への変換のみを考えればよいです。
  • 重力の仕事率: 単位時間に減少する位置エネルギーは、単位時間に重力がする仕事に等しいです。この仕事率を計算し、(3)で求めたジュール熱 \(Q\) と比較します。

具体的な解説と立式
単位時間に重力がする仕事 \(W\) は、(2)の別解で用いた式⑥と同じです。
$$ W = mg(v_0 \sin\theta) $$
ここに(2)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • エネルギー保存則
計算過程

$$
\begin{aligned}
W &= mg\sin\theta \times \left( \frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{m^2 g^2 R \sin\theta \tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}
\end{aligned}
$$
ここで \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) なので、
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{m^2 g^2 R \sin\theta}{B^2 L^2 \cos\theta} \times \frac{\sin\theta}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{m^2 g^2 R \sin^2\theta}{B^2 L^2 \cos^2\theta} \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg\sin\theta}{BL\cos\theta} \right)^2 R \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg\tan\theta}{BL} \right)^2 R
\end{aligned}
$$
この結果は、(3)で求めたジュール熱 \(Q\) と完全に一致します。

この設問の平易な説明

導体棒で発生した熱のエネルギーは、どこから来たのでしょうか?導体棒は一定の速さで動いているので、運動エネルギーは増えも減りもしていません。しかし、坂道を下ることで「高さ」という位置エネルギーを失い続けています。この失われた位置エネルギーが、電気エネルギーに変わり、最終的に熱エネルギーに姿を変えたのです。つまり、ジュール熱の供給源は「重力がする仕事(位置エネルギーの減少分)」です。

結論と吟味

ジュール熱は、重力が単位時間にする仕事(単位時間あたりの位置エネルギーの減少分)によって供給されています。\(W=Q\) となる計算結果がこの結論を裏付けています。

解答 (4) 重力が単位時間にする仕事

問(5)

思考の道筋とポイント
磁場の向きが逆(\(B \rightarrow -B\))になった場合、誘導電流の向きや電磁力の向きにどのような影響が出るかを一つずつ確認していきます。

この設問における重要なポイント

  • (1) 電流: 磁場の向きが逆になるので、レンツの法則を適用し直します。導体棒が下ることで、回路を「下向き」に貫く磁束が増加します。これを打ち消すため、回路は「上向き」の磁場を作ろうとします。右ねじの法則より、電流はP→Qの向きに流れます。向きは逆になります。誘導起電力の大きさの式 \(V = v_0 B L \cos\theta\) には磁場の向きは関係ないので、電流の大きさは変わりません。
  • (2)~(4) 速さなど: 電流の向き(Q→P から P→Qへ)と磁場の向き(上向きから下向きへ)の両方が逆になります。フレミングの左手の法則を適用すると、電磁力の向きは水平右向きのままで変わりません。力の大きさを決める \(I, B, L\) の大きさも変わらないため、電磁力の大きさも不変です。したがって、力のつり合いの式は全く同じになり、速さ \(v_0\) は変わりません。\(v_0\) と \(I\) の大きさが変わらないので、ジュール熱 \(Q\) やその供給源である重力の仕事率も変わりません。

具体的な解説と立式

  • (1) 電流 \(I\):
    • 大きさ: 誘導起電力の大きさは \(V=v_0 B L \cos\theta\) で変わらないため、電流の大きさ \(I = V/R\) も変わりません。
    • 向き: レンツの法則より、P→Qの向きに変わります。
  • (2) 速さ \(v_0\):
    • 電磁力 \(F=IBL\) の向きをフレミングの左手の法則で確認します。電流の向き(奥→手前)と磁場の向き(上→下)がともに逆になるため、力の向き(水平右向き)は変わりません。
    • 力のつり合いの式 \(F\cos\theta = mg\sin\theta\) は全く同じ形になるため、速さ \(v_0\) は変わりません。
  • (3) ジュール熱 \(Q\):
    • \(Q = I^2 R\) で計算されます。電流 \(I\) の大きさが変わらないため、\(Q\) も変わりません。
  • (4) 供給源:
    • ジュール熱の供給源は重力の仕事であり、これは磁場の向きに依存しないため、変わりません。
結論と吟味

(1)では電流の大きさは変わらず、向きが逆(P→Q)になります。
(2)~(4)の結果はすべて変わりません。
磁石のN極とS極をひっくり返しても、導体棒の運動の様子(終端速度)は変わらない、という興味深い結果が得られます。これは、電流と磁場の両方が反転することで、力の向きが元に戻るためです。

解答 (5) (1) 大きさは変わらず、向きが逆になる。 (2)~(4) 変わらない。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力と速度の垂直成分:
    • 核心: 導体棒に生じる誘導起電力 \(V\) は、磁場 \(B\) と導体棒の長さ \(L\) に加え、導体棒の速度 \(\vec{v}\) のうち磁場 \(\vec{B}\) に垂直な成分 \(v_\perp\) のみに依存します (\(V = v_\perp B L\))。この問題では、磁場が鉛直上向きなので、速度 \(v_0\) の水平成分 \(v_0 \cos\theta\) が \(v_\perp\) に相当します。この「垂直成分を見抜く」ことが第一の関門です。
    • 理解のポイント: この法則は、導体内の自由電子がローレンツ力 \(f=qvB\) を受けることに起因します。速度のうち磁場と平行な成分はローレンツ力を生み出さないため、起電力には寄与しません。また、ファラデーの電磁誘導の法則の観点からは、単位時間に導体棒が掃く面積(磁束が変化する面積)を決めるのが、この垂直な速度成分であると理解することもできます。
  • 終端速度における力のつり合いとエネルギー保存:
    • 核心: 導体棒が一定の速さ(終端速度) \(v_0\) に達した状態は、物理的に二つの見方ができます。一つは「力のつり合い」で、重力の斜面下向き成分と電磁力の斜面上向き成分が等しくなる状態です。もう一つは「エネルギー保存」で、単位時間あたりに減少する位置エネルギー(重力の仕事率)が、すべて単位時間あたりに発生するジュール熱(消費電力)に変換される状態です。
    • 理解のポイント: この二つの視点は、表裏一体の関係にあります。力のつり合いの式を変形すると、エネルギー保存(仕事率のつり合い)の式を導くことができます。どちらのアプローチでも解けることを理解するのが、この問題の核心です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 自由落下する導体ループ: 磁場領域に正方形のコイルが突入・通過・退出する問題。コイルの各辺に生じる起電力や、ループ全体にはたらく力を考え、速度変化を追います。終端速度に達する条件は本問と全く同じ考え方です。
    • 水平面上の導体棒(外部電源あり): 外部の電池によって導体棒に電流が流され、磁場から力を受けて加速する問題。加速すると逆起電力が生じ、電流が減少して、やがて終端速度に達します。
    • モーターの回転: モーターのコイルが回転すると逆起電力が生じ、流れる電流が変化します。無負荷のときと、おもりを吊り上げるなど負荷がかかったときの力のつり合い(トルクのつり合い)やエネルギーの関係を考える問題は、本問の発展形です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 速度と磁場のなす角を確認する: まず、導体の運動方向と磁場の向きの関係を把握し、誘導起電力の計算に必要な「垂直な速度成分」 \(v_\perp\) を正しく定義します。
    2. はたらく力をすべて図示する: 重力、電磁力、垂直抗力など、導体にはたらく力を漏れなくベクトルで図示します。特に電磁力の向きは、電流の向き(レンツの法則)と磁場の向きから、フレミングの左手の法則で慎重に決定します。
    3. 運動の状態を判断する: 問題文が「一定の速さになった」とあれば「力のつり合い」または「エネルギー保存(仕事率のつり合い)」を、「加速している」とあれば「運動方程式 \(ma=F\)」を立式します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 誘導起電力の計算ミス:
    • 誤解: 速度 \(v_0\) をそのまま使って \(V=v_0BL\) と計算してしまう。
    • 対策: 常に「磁場と垂直な速度成分は何か?」と自問自答する癖をつけましょう。図を描いて、速度ベクトルを磁場に平行な成分と垂直な成分に分解する練習をすることが有効です。
  • 電磁力の向きの間違い:
    • 誤解: フレミングの左手の法則を適用する際、電流や磁場の向きを間違える。特に、3次元的な配置で混乱しやすい。
    • 対策: ①まずレンツの法則で「誘導電流の向き」を確定させる。②次に「電流の向き」と「磁場の向き」をフレミングの左手の法則に当てはめて「力の向き」を決定する、という2段階のプロセスを厳守します。指の向きを一つずつ確認しながら、落ち着いて適用しましょう。
  • 力の分解方向のミス:
    • 誤解: 電磁力 \(F\)(水平向き)を斜面に平行な成分に分解する際に、角度を間違えて \(F\sin\theta\) としてしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、力のベクトルと斜面との関係を視覚的に確認します。斜面と水平面のなす角が \(\theta\) であることから、力のベクトルと斜面のなす角も \(\theta\) になることを、錯角や同位角の関係から丁寧に導き出しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 2つの視点からの図示: この問題では、図を2種類描くことが極めて有効です。
      1. 真横から見た図(図1に相当): 斜面と速度ベクトル \(v_0\)、磁場ベクトル \(B\) を描き、\(v_0\) を水平成分 \(v_0\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_0\sin\theta\) に分解する図。これにより、誘導起電力に関わる速度成分 \(v_\perp = v_0\cos\theta\) が一目でわかります。
      2. 斜面に垂直な視点から見た図(図2に相当): 導体棒にはたらく力(重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\)、電磁力 \(F\)、垂直抗力 \(N\))をすべて描き込む図。この図で、水平な力 \(F\) をさらに斜面に平行な成分 \(F\cos\theta\) と垂直な成分 \(F\sin\theta\) に分解することで、力のつり合いの立式が容易になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • ベクトルの始点を揃える: 導体棒にはたらく力は、すべて導体棒の中心(重心)を始点として描くと、力の関係が分かりやすくなります。
    • 座標軸を設定する: 斜面に平行な方向をx軸、垂直な方向をy軸のように座標軸を設定すると、力の分解や立式が機械的かつ正確に行えます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 誘導起電力の式 \(V = v_\perp B L\):
    • 選定理由: 磁場中を導体が運動することで電位差(電圧)が生じる「電磁誘導」という現象を定量的に記述する基本公式だからです。
    • 適用根拠: ローレンツ力 \(f=qvB\) を受けて導体中の自由電子が移動し、導体の両端に電位差が生じるというミクロな現象を、マクロな量(\(V, v, B, L\))で表したものです。
  • 力のつり合いの式 \(\sum F_x = 0\):
    • 選定理由: 問題文に「一定の速さ \(v_0\) になった」とあるためです。これは加速度がゼロ (\(a=0\)) を意味し、運動方程式 \(ma=F\) が力のつり合いの式 \(0=F\) となることを示唆しています。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の第一法則(慣性の法則)および第二法則(運動方程式)に基づいています。力がつりあっている物体は、静止し続けるか、等速直線運動を続けます。
  • エネルギー保存則(仕事率のつり合い) \(P_{\text{重力}} = P_{\text{ジュール}}\):
    • 選定理由: (別解として)「一定の速さ」という条件は、運動エネルギーが変化しないことを意味します。このとき、系に加えられた仕事(重力の仕事)は、すべて他のエネルギー(ジュール熱)に変換されるというエネルギー保存則が適用できるためです。
    • 適用根拠: 熱力学第一法則のより広い概念であるエネルギー保存則に基づいています。孤立した系において、エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は常に一定に保たれます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 電流の計算:
    • 戦略: 誘導起電力を求め、オームの法則で電流に変換する。
    • フロー: ①速度 \(v_0\) を磁場に垂直な成分 \(v_\perp = v_0\cos\theta\) に分解 → ②誘導起電力 \(V = v_\perp B L\) を計算 → ③オームの法則 \(I = V/R\) に代入。向きはレンツの法則で決定。
  2. (2) 終端速度の計算(力のつり合い):
    • 戦略: 斜面方向の力のつり合いから、未知数 \(v_0\) を含む方程式を導く。
    • フロー: ①電磁力 \(F=IBL\) の向きと大きさを求める → ②重力 \(mg\) と電磁力 \(F\) を斜面平行・垂直成分に分解 → ③斜面平行方向の力のつり合い式 \(mg\sin\theta = F\cos\theta\) を立てる → ④この式に \(F=IBL\) と(1)で求めた \(I\) の式を代入し、\(v_0\) について解く。
  3. (3) ジュール熱の計算:
    • 戦略: 消費電力の公式に、(2)で力のつり合いから求めた電流を代入する。
    • フロー: ①消費電力の公式 \(Q=I^2R\) を用意 → ②(2)の力のつり合いの途中式 \(I = \frac{mg\tan\theta}{BL}\) を代入 → ③計算を実行。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の変形を丁寧に行う: \(v_0 = \frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}\) のような複雑な式が出てきます。模範解答のように \(\tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を使って \(v_0 = \frac{mgR\sin\theta}{B^2 L^2 \cos^2\theta}\) と変形するなど、複数の表現に慣れておくと検算に役立ちます。
  • 文字式の整理: 計算過程で \(B^2 L^2 \cos\theta\) のような項が出てきます。二乗(\(^2\))や \(\cos\theta\) などの付け忘れがないか、注意深く確認しましょう。分数の分母・分子を移項する際も、符号や逆数の間違いに注意が必要です。
  • 単位時間あたりの量を意識する: 問(3)の \(Q\) や問(4)の \(W\) は「単位時間あたり」の量、すなわち「仕事率」や「電力」です。次元(単位)を意識することで、単なる仕事 \(W=mgh\) と仕事率 \(P=mgh/t\) を混同するミスを防げます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 速さ \(v_0\): \(v_0 = \frac{mgR\tan\theta}{B^2 L^2 \cos\theta}\) という結果を見てみましょう。
      • \(R\) が大きい(抵抗が大きい)ほど、電流が流れにくくブレーキ力が弱まるので、\(v_0\) は大きくなるはず。→ 式と一致。
      • \(B\) や \(L\) が大きいほど、ブレーキ力が強まるので、\(v_0\) は小さくなるはず。→ 式と一致。
      • \(\theta\) が大きい(坂が急)ほど、滑り落ちる力が強まるので、\(v_0\) は大きくなるはず。→ 式の \(\tan\theta\) と \(1/\cos\theta\) は \(\theta\) が大きいほど増加するので、一致。
  • 別解との比較:
    • この問題では、「力のつり合い」で解く方法と、「エネルギー保存(仕事率のつり合い)」で解く別解がありました。全く異なる物理法則から出発したにもかかわらず、最終的に同じ \(v_0\) の式にたどり着いたことは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。
  • (5)の考察:
    • 磁場の向きを逆にすると、電流の向きも逆になる。その結果、フレミングの左手の法則(\(F=IBL\))を考えると、\(I\) と \(B\) の両方が逆になるため、力の向きは変わらない。この「二重否定は肯定」のようなロジックが成り立つことを確認することで、(2)~(4)の結果が変わらないという結論の妥当性を吟味できます。
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459 自己誘導

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、コイルを含む直流回路のスイッチ操作に伴う「過渡現象」を扱います。コイルが持つ「定常状態」と「過渡状態」での異なる振る舞いを正しく理解し、回路を流れる電流やエネルギーの変化を計算する能力が問われます。

与えられた条件
  • 自己インダクタンス: \(L\) のコイル
  • 抵抗: \(R_1\), \(R_2\)
  • 電源: 電圧 \(V_0\)
  • 正の向きの定義: 電流は図の矢印の向き(P→コイル→G、P→\(R_1\)→G)が正。電圧はP-G間でP側が高電位のときが正。
問われていること
  • (1) Sを閉じて十分時間が経過したときのコイルの電流 \(I_0\)
  • (2) Sを開いた直後の抵抗\(R_1\)の電流 \(I\) と電圧 \(V\)
  • (3) Sを開いた後に抵抗\(R_1\)で消費される総エネルギー \(Q\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コイルを含む直流回路の過渡現象」です。スイッチを操作した瞬間にコイルが示す自己誘導の性質と、十分に時間が経過した後の定常状態での性質を正しく理解することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 定常状態におけるコイル: 直流回路でスイッチを入れてから十分に時間が経過すると、電流は一定になります。電流が変化しないため、コイルの自己誘導起電力はゼロになり、コイルは単なる抵抗ゼロの導線として振る舞います。
  2. コイルの電流の連続性: コイルは、自身を流れる電流の急な変化を妨げる向きに誘導起電力を生じます。この性質のため、スイッチを操作した直後でも、コイルを流れる電流は操作の直前と直後で同じ値を保とうとします(電流は連続的に変化する)。
  3. コイルに蓄えられる磁気エネルギー: コイルに電流 \(I\) が流れているとき、コイルには \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) の磁気エネルギーが蓄えられています。
  4. エネルギー保存則: 回路全体で、エネルギーは保存されます。コイルに蓄えられたエネルギーは、抵抗でのジュール熱などに変換されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) スイッチSを閉じて十分に時間が経過した「定常状態」を考えます。このときコイルは単なる導線とみなせるため、回路を単純化してオームの法則を適用します。
  2. (2) スイッチSを開いた「直後」の過渡状態を考えます。コイルは(1)の電流を維持しようとする「電流源」のように振る舞います。この電流が流れる新しい閉回路(コイルと抵抗\(R_1\))について、オームの法則を適用します。
  3. (3) スイッチSを開いた「後」の全過程を考えます。コイルに蓄えられていた磁気エネルギーが、すべて抵抗\(R_1\)でジュール熱として消費される、というエネルギー保存則を適用します。

問(1)

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