「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第26章】基本問題450~455

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基本問題

450 電磁誘導と終端速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 運動方程式から終端速度を導出する解法
      • 模範解答が「回路に流れる電流が0になる」という電気的な条件に着目するのに対し、別解では「金属棒に働く合力が0になり、加速度が0になる」という力学的な条件から直接導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 終端速度に達するという現象を、電気的な視点(誘導起電力と電源電圧のつり合い)と力学的な視点(駆動力と制動力のつり合い)の両方から捉えることで、電磁気と力学の関連性への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 同じ現象に対して、異なる物理法則からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の一般化: 運動方程式を立てるアプローチは、例えば空気抵抗など他の力が働く、より複雑な状況にも応用しやすい汎用的な手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電池を含む回路における導体棒の電磁誘導と終端速度」です。電池による駆動力と、運動によって生じる電磁誘導による制動力の関係を正しく理解することが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 回路に流れる電流を決定する基本法則です。
  2. 誘導起電力: 導体が磁場を横切る際に発生する起電力 (\(V = vBl\)) を理解していること。特にその向きが、もとの電流を妨げる向き(レンツの法則)になることを把握していることが重要です。
  3. 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力): 電流が流れる導体が磁場から受ける力 (\(F=IBl\)) とその向き(フレミングの左手の法則)を正しく適用できること。
  4. 力のつり合いと終端速度: 物体の速さが一定になる(終端速度)とは、物体に働く合力が0になる状態であることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、金属棒がまだ静止している(\(v=0\)) ため誘導起電力は0と考え、単純な直流回路としてオームの法則を適用します。
  2. (2)では、(1)で求めた電流が磁場から受ける力を、フレミングの左手の法則を用いて計算します。
  3. (3)では、金属棒の速度が一定になった状態、すなわち、金属棒に生じる誘導起電力が電池の起電力と等しくなり、回路に電流が流れなくなった状態を考えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
レールに金属棒をのせた直後、金属棒はまだ運動を開始していないため、速度は \(0\) です。導体棒が磁場を横切ることによって生じる誘導起電力は速度に比例するため、この瞬間の誘導起電力は \(0\) となります。したがって、この回路は起電力 \(V\) の電池と抵抗 \(R\) の金属棒からなる、ごく単純な直流回路と見なすことができます。
この設問における重要なポイント

  • 動作直後では、金属棒の速度は \(v=0\)。
  • 速度が \(0\) のため、誘導起電力も \(0\)。
  • 回路は電池と抵抗のみで構成されると考えることができる。

具体的な解説と立式
回路に流れる電流を \(I\) [A]、電池の起電力を \(V\) [V]、金属棒の抵抗を \(R\) [\(\Omega\)] とすると、オームの法則が成り立ちます。
$$ V = IR $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
計算過程

上記で立式した \(V = IR\) の両辺を \(R\) で割ることで、電流 \(I\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

金属棒をレールに置いた瞬間は、まだ金属棒は止まっています。動いていないので、電磁誘導による「ブレーキをかけるような電圧(誘導起電力)」は発生しません。そのため、この回路は単純に「電池」と「抵抗を持つ金属棒」をつないだだけのものと考えられます。よって、中学校で習うオームの法則を使って、電流を「電圧 ÷ 抵抗」で計算することができます。

結論と吟味

のせた直後に流れる電流は \(\displaystyle\frac{V}{R}\) [A] となります。この電流が流れることで、次の設問で考える力が発生し、金属棒が動き始める原因となります。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{V}{R}\) [A]

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた電流が、鉛直上向きの磁場の中で流れることにより、金属棒は力を受けます。この力の大きさと向きを求める問題です。力の大きさは公式 \(F=IBl\) を用いて計算し、向きはフレミングの左手の法則を用いて決定します。
この設問における重要なポイント

  • 電流が磁場から受ける力の公式は \(F=IBl\)。
  • 力の向きはフレミングの左手の法則で決定する。

具体的な解説と立式
電流 \(I\) が流れている長さ \(l\) の導体が、磁束密度 \(B\) の磁場から受ける力の大きさ \(F\) [N] は、以下の式で与えられます。
$$ F = IBl $$
ここで、電流 \(I\) は(1)で求めた値を用います。

使用した物理公式

  • 電流が磁場から受ける力: \(F=IBl\)
計算過程

立式した \(F = IBl\) に、(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{V}{R} \right) Bl \\[2.0ex]
&= \frac{VBl}{R}
\end{aligned}
$$
次に、力の向きをフレミングの左手の法則で考えます。

  • 電流の向き(中指):図の手前から奥へ
  • 磁場の向き(人差し指):下から上へ
  • 力の向き(親指):右向き

したがって、金属棒にはたらく力は右向きです。

この設問の平易な説明

(1)で計算した電流が金属棒を流れると、磁石の力(磁場)によって金属棒は押されます。これはモーターが回るのと同じ原理です。力の大きさは、流れる「電流 \(I\)」、磁石の強さ「磁束密度 \(B\)」、電流が流れる部分の長さ「棒の長さ \(l\)」の3つを掛け合わせることで計算できます。力の向きは、おなじみの「フレミングの左手の法則」を使って、電流と磁場の向きから判断します。

結論と吟味

金属棒にはたらく力は、右向きに \(\displaystyle\frac{VBl}{R}\) [N] となります。この力によって、静止していた金属棒は右向きに加速を始めます。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{VBl}{R}\) [N], 右向き

問(3)

思考の道筋とポイント
金属棒が動き始めると、速度 \(v\) に比例した誘導起電力 \(V_{\text{誘導}} = vBl\) が発生します。この誘導起電力は、レンツの法則により、電流を妨げる向き、すなわち電池の起電力 \(V\) とは逆向きに生じます。
金属棒が加速して速度 \(v\) が増加すると、誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}\) も増加します。これにより、回路を流れる電流 \(I = \displaystyle\frac{V – V_{\text{誘導}}}{R}\) は次第に減少し、金属棒を加速させる力 \(F=IBl\) も減少していきます。
やがて、誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}\) が電池の起電力 \(V\) と等しくなると、回路全体の起電力が \(0\) となり、電流が流れなくなります。電流が \(0\) になると、金属棒を加速させる力も \(0\) になるため、金属棒はそれ以上加速せず、一定の速度(終端速度)で運動を続けることになります。
この設問における重要なポイント

  • 金属棒が速さ \(v\) で動くと、誘導起電力 \(V_{\text{誘導}} = vBl\) が生じる。
  • 終端速度に達したとき、この誘導起電力が電池の起電力 \(V\) と等しくなる。
  • このとき、回路に流れる電流は \(0\) となり、金属棒に働く電磁力も \(0\) となる。

具体的な解説と立式
金属棒の速さが \(v\) [m/s] で一定になったとき、金属棒に生じる誘導起電力の大きさ \(V_{\text{誘導}}\) は、電池の起電力 \(V\) に等しくなります。
誘導起電力の公式より、
$$ V_{\text{誘導}} = vBl $$
したがって、終端速度に達したときの条件式は、
$$ V = vBl $$

使用した物理公式

  • 導体棒に生じる誘導起電力: \(V = vBl\)
計算過程

上記で立式した \(V = vBl\) を、速さ \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{V}{Bl}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

金属棒が右に動き出すと、今度は金属棒自身が発電機のように振る舞い、「逆向きの電圧(誘導起電力)」を作り出します。スピードが上がれば上がるほど、この逆向き電圧は大きくなります。
もともと電池が「進め!」と \(V\) の力で押しているのに対し、スピードが上がると「止まれ!」という逆向き電圧が大きくなっていくイメージです。
やがて、スピードが十分に上がって、「進め!」の電圧と「止まれ!」の電圧が同じ大きさになった瞬間、互いに打ち消し合って電流が流れなくなります。電流が流れなくなると、金属棒を押す力も消えるので、それ以上加速することなく、その時の速さを保ったままスーッと進み続けます。この最終的な一定の速さが「終端速度」です。

結論と吟味

金属棒の終端速度は \(\displaystyle\frac{V}{Bl}\) [m/s] となります。この結果は、電池の電圧 \(V\) が大きいほど速く、磁場 \(B\) や棒の長さ \(l\) が大きいほど(ブレーキが効きやすいので)遅くなることを示しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{Bl}\) [m/s]
別解: 運動方程式から終端速度を導出する解法

思考の道筋とポイント
模範解答とは異なり、ここでは力学的な視点からアプローチします。金属棒が任意の速さ \(v\) で運動している瞬間の運動方程式を立てます。終端速度とは、速度が一定になる、すなわち加速度が \(0\) になる状態です。したがって、運動方程式で加速度を \(0\) とおくことで、そのときの速度(終端速度)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 任意の速さ \(v\) のとき、回路の正味の起電力は \(V – vBl\)。
  • したがって、流れる電流は \(I(v) = \displaystyle\frac{V – vBl}{R}\)。
  • 金属棒の運動方程式は \(ma = F\)。
  • 終端速度に達する条件は、加速度 \(a=0\)、つまり合力 \(F=0\) となること。

具体的な解説と立式
金属棒が右向きに速さ \(v\) で運動しているとき、棒には \(vBl\) の大きさで、電流を妨げる向き(電池と逆向き)の誘導起電力が生じます。
したがって、この瞬間に回路に流れる電流 \(I(v)\) は、キルヒホッフの第二法則より、
$$ I(v) = \frac{V – vBl}{R} $$
この電流によって、金属棒は右向きに力 \(F(v)\) を受けます。その大きさは、
$$ F(v) = I(v)Bl = \frac{(V – vBl)Bl}{R} $$
金属棒の質量を \(m\)、加速度を \(a\) とすると、運動方程式は以下のようになります。
$$ ma = F(v) = \frac{(V – vBl)Bl}{R} $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V_{\text{誘導}} = vBl\)
  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V_{\text{全}}}{R}\)
  • 電流が磁場から受ける力: \(F=IBl\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

金属棒の速さが一定(終端速度)になったとき、加速度 \(a\) は \(0\) になります。運動方程式に \(a=0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m \cdot 0 &= \frac{(V – vBl)Bl}{R} \\[2.0ex]
0 &= \frac{(V – vBl)Bl}{R}
\end{aligned}
$$
この等式が成り立つためには、分子が \(0\) でなければなりません。
$$ V – vBl = 0 $$
この式を \(v\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
vBl &= V \\[2.0ex]
v &= \frac{V}{Bl}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

別の考え方をしてみましょう。金属棒は、電池が作る電流によって「右向きに進む力」を受けます。しかし、スピードが上がると、電磁誘導によって「左向きのブレーキ力」も同時に発生します。
最初は「進む力」の方が大きいので加速しますが、スピードが上がるにつれて「ブレーキ力」もどんどん強くなっていきます。
やがて、「進む力」と「ブレーキ力」の大きさがピッタリ同じになったところで、力のつり合いがとれます。力がつり合うと、それ以上加速も減速もしなくなり、一定の速さで進み続けます。この「力がつり合う」という条件を数式にして解くことで、終端速度を求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(\displaystyle\frac{V}{Bl}\) [m/s] という結果が得られました。電気的な条件(電流が0)と力学的な条件(合力が0)が、同じ物理現象の異なる側面に過ぎないことがわかります。このアプローチは、現象をより深く理解する上で非常に有益です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{Bl}\) [m/s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電磁誘導と力の相互作用:
    • 核心: この問題の根幹は、金属棒の「運動」が「電気」(誘導起電力)を生み、その「電気」(電流)が「力」(電磁力)を生み、その「力」が「運動」にフィードバックするという、電磁気と力学の相互作用を理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 原因1(電池): 電池の起電力 \(V\) が、回路に電流を流そうとします。
      • 結果1(力と運動): その電流が磁場から力を受け、静止していた金属棒が運動を始めます。
      • 原因2(運動): 金属棒が速度 \(v\) で運動することで、今度は誘導起電力 \(V_{\text{誘導}} = vBl\) が発生します。
      • 結果2(ブレーキ): この誘導起電力は、レンツの法則により元の電流を妨げる向きに生じます。つまり、電池の起電力 \(V\) を打ち消す「逆起電力」として働き、電流を減少させ、加速を鈍らせます。
  • 終端速度の本質(つり合い):
    • 核心: 「終端速度に達する」とは、システムが安定した「つり合い状態」になることを意味します。このつり合いは、2つの異なる視点から見ることができます。
    • 理解のポイント:
      • 電気的なつり合い: 金属棒の速度が増加し、誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}\) がついに電池の起電力 \(V\) と等しくなった状態。回路全体の正味の起電力が \(0\) になり、電流が流れなくなります。(\(V_{\text{誘導}} = V\))
      • 力学的なつり合い: 回路に流れる電流が \(0\) になることで、金属棒を動かす電磁力も \(0\) になります。これにより、加速度が \(0\) となり、速度が一定になります。(合力 \(F=0\))
      • この問題では、この2つの視点が同じ結論 \(v = \displaystyle\frac{V}{Bl}\) を導きます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電池がない場合(外力で引く問題): 導体棒を一定の力 \(F_{\text{外}}\) で引き続ける問題。この場合、誘導起電力によって生じる電流がブレーキ力 \(F_{\text{電磁}}\) となり、やがて \(F_{\text{外}} = F_{\text{電磁}}\) となって終端速度に達します。運動方程式を立てるアプローチが有効です。
    • レールが傾いている場合: 重力の分力が常に棒に働く問題。終端速度は、重力の分力と電磁力がつり合う点(もし電池があれば、それによる力も加味する)で決まります。
    • エネルギー保存則を問う問題: 「電池がした仕事は、何に変換されたか?」と問われるパターン。電池の仕事は、抵抗で発生するジュール熱と、棒を動かす仕事(運動エネルギーの増加)に変換されます。終端速度に達した後は、運動エネルギーは増加しないので、電池が供給する電力はすべて抵抗でのジュール熱として消費されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の源泉は何か?: 棒を動かす力は何か(電池か、外力か、重力か)をまず確認します。
    2. ブレーキ力は何か?: 運動を妨げる力は何か(電磁誘導による力か、摩擦か、空気抵抗か)を特定します。
    3. 「終端速度」というキーワード: この言葉を見たら、即座に「加速度 \(a=0\)」と「合力 \(F=0\)」の2つを連想します。そして、棒に働くすべての力を図示し、力のつり合いの式を立てる準備をします。
    4. 回路方程式を立てる: 棒が速度 \(v\) で動いている任意の瞬間を考え、誘導起電力 \(vBl\) を含めたキルヒホッフの法則(またはオームの法則)の式 \(I = \displaystyle\frac{V_{\text{全}}}{R}\) を立てます。この \(I\) を使って電磁力を表現するのが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 誘導起電力の向きの混同:
    • 誤解: 誘導起電力の向きを、フレミングの右手の法則だけで判断しようとして混乱する。
    • 対策: 「レンツの法則(変化を妨げる向き)」を大原則として覚えるのが最も安全です。この問題では、電池が「手前から奥」に電流を流そうとしているので、誘導起電力はそれを妨げる「奥から手前」向きの電流を流そうとする、と考えます。これにより、電池の起電力 \(V\) とは逆向き(マイナス)であることが明確になります。
  • 終端速度の条件の単純化:
    • 誤解: 終端速度とは「電流が0になる状態」と暗記してしまう。
    • 対策: これは電池があるこの問題特有の状況です。より一般的には「合力が0になる状態」です。例えば、電池がなく、外部から一定の力で引き続ける問題では、電流は0にならず、外部の力と電磁ブレーキ力がつり合います。常に「力のつり合い」という力学の基本に立ち返る癖をつけましょう。
  • 運動中の電流の式の誤り:
    • 誤解: 棒が動いている最中でも、電流を \(I = V/R\) として計算してしまう。
    • 対策: 棒が速度 \(v\) で動いている瞬間をスナップショットとして捉え、その瞬間の回路を考えます。回路には「電池の起電力 \(V\)」と「誘導起電力 \(vBl\)」という2つの電源が逆向きにつながっていると見なします。したがって、回路全体の正味の起電力は \(V – vBl\) であり、電流は \(I = \displaystyle\frac{V – vBl}{R}\) となります。この式を立てることが、この種の問題の出発点です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (3)主たる解法:電気的つり合いの利用:
    • 選定理由: 「終端速度」という物理状態を、最も少ない計算で表現できるため。現象の最終的な結果(定常状態)に直接着目することで、途中の力学的な過程を省略して答えにたどり着けます。「速さが一定 → 加速度が0 → 合力が0 → 電磁力が0 → 電流が0 → 回路の正味の起電力が0」という論理連鎖の最終地点である「正味の起電力が0」の式 \(V = vBl\) を立てるのが最も効率的です。
    • 適用根拠: 定常状態(時間が経っても物理量が変化しない状態)では、回路に流れる電流も一定値(この場合は0)に落ち着いているはずです。電流が0であるという条件は、キルヒホッフの法則から回路全体の起電力が0であることを意味し、物理的に妥当です。
  • (3)別解:運動方程式の利用:
    • 選定理由: 現象の物理的な因果関係(力学的なプロセス)をより明確に追跡でき、汎用性が高いため。このアプローチは、摩擦力や空気抵抗、レールの傾きなど、他の力が加わるより複雑な設定にもそのまま応用できます。
    • 適用根拠: 終端速度は力学的な概念であり、その定義は「加速度が0になる速度」です。したがって、運動方程式 \(ma=F\) を立て、\(a=0\) を代入してそのときの \(v\) を求める、という手順は、定義に最も忠実で、いかなる状況でも破綻しない根本的な解法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の儀式化: 運動方程式や回路方程式を立てる前に、必ず座標軸の正の向きを自分で決めます。そして、力や起電力の向きがその正の向きと同じか逆かを判断し、プラス・マイナスの符号を付けて式に代入する、という手順を儀式化しましょう。例えば「右向きを正」と決めたら、誘導起電力によるブレーキ力は「負の力」として扱います。
  • 変数を明確にする: 速度 \(v\) は時間とともに変化する変数です。したがって、電流 \(I\) や力 \(F\) も \(v\) の関数、つまり \(I(v)\), \(F(v)\) であることを意識すると、物理的な関係性が明確になります。「終端速度 \(v_{\text{終端}}\)」は、この変数 \(v\) が最終的に落ち着く特定の値です。
  • 力の図示を徹底する: 少しでも複雑になったら、必ず金属棒に働くすべての力を矢印で図示する癖をつけます。力の大きさと向きを書き込むことで、運動方程式を立てる際の符号ミスや、力の見落としを劇的に減らすことができます。
  • 結果の吟味: 求まった終端速度の式 \(v = \displaystyle\frac{V}{Bl}\) を見て、物理的な直感と合っているかを確認します。「電池の電圧 \(V\) を上げれば、もっと速くなりそうだな → 式でも \(V\) は分子にあるからOK」「磁場 \(B\) を強くすれば、ブレーキが強くなって遅くなりそうだな → 式でも \(B\) は分母にあるからOK」といった簡単なチェックが、致命的なミスを発見するのに役立ちます。

451 磁場を横切る導線に生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(5)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が運動方程式から導出した加速度の式を利用するのに対し、別解では力学的エネルギーと電気的エネルギーの変換(エネルギー保存則)という観点から終端速度を導出します。
    • 設問(7)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答がジュール熱の公式から直接計算するのに対し、別解では終端速度の状態では「重力がする仕事がすべてジュール熱に変換される」というエネルギー保存則の関係から、設問(6)の結果を利用して簡潔に導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 終端速度という状態を、力のつり合い(力学)だけでなく、エネルギーの変換(熱力学・電磁気学)という異なる側面から捉えることで、物理法則の普遍性への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の効率化: (7)の別解のように、問題全体の構造を理解していれば、複雑な計算を省略して答えを導くことが可能になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「重力によって引かれる導体棒の電磁誘導と終端速度」です。重力による力学的な運動と、それによって生じる電磁誘導、さらにその結果として生じる電磁力(ブレーキ力)との関係を、運動方程式やエネルギー保存則を用いて定量的に分析する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 誘導起電力: 導体が磁場を横切る際に発生する起電力 (\(V = vBl\))。
  2. レンツの法則と右ねじの法則: 誘導電流の向きを決定する法則。
  3. 電流が磁場から受ける力: 導線が受ける電磁力の大きさ (\(F=IBl\)) と向き(フレミングの左手の法則)。
  4. 運動方程式: 物体の運動状態(加速度)を力の観点から記述する基本法則 (\(ma=F\))。
  5. エネルギー保存則: 終端速度に達した状態では、重力のする仕事率とジュール熱の発生率が等しくなるというエネルギーの変換関係。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)から(3)では、導線のおもりの速さが \(v\) の瞬間に着目し、誘導起電力、誘導電流、電磁力を順に公式を用いて表現します。
  2. (4)では、おもりにはたらく力(重力と張力)を考え、運動方程式を立てます。ここで張力が(3)で求めた電磁力と等しいことを利用します。
  3. (5)では、「一定の速さ」という条件を「加速度が0」と読み替え、(4)で立てた式から終端速度を求めます。
  4. (6)と(7)では、(5)で求めた終端速度を使い、仕事とジュール熱をそれぞれの定義式に従って計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導線PQが、磁束密度 \(B\) の磁場を、速さ \(v\) で垂直に横切って運動しています。このとき、導線PQには誘導起電力が生じます。この大きさは公式 \(V=vBl\) を用いて求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 導体棒が磁場を横切ると誘導起電力が生じる。
  • その大きさは、速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、導線の長さ \(l\) に比例する。

具体的な解説と立式
速さ \(v\) [m/s]、磁束密度 \(B\) [T]、導線の長さ \(l\) [m] のとき、導線PQに生じる誘導起電力の大きさ \(V\) [V] は、以下の公式で与えられます。
$$ V = vBl $$

使用した物理公式

  • 導体棒に生じる誘導起電力: \(V=vBl\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

導線が磁石の力を横切って動くと、導線自体が電池のような役割を果たし、電圧(起電力)を生み出します。この現象を電磁誘導といいます。発生する電圧の大きさは、シンプルに「導線の速さ \(v\) × 磁石の強さ \(B\) × 導線の長さ \(l\)」という掛け算で計算できます。

結論と吟味

誘導起電力の大きさは \(vBl\) [V] となります。この起電力によって、次の設問で考える誘導電流が回路に流れます。

解答 (1) \(vBl\) [V]

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた誘導起電力 \(V\) により、抵抗 \(R\) を含む閉回路に誘導電流 \(I\) が流れます。電流の大きさはオームの法則を用いて計算します。電流の向きは、レンツの法則と右ねじの法則を用いて決定します。
この設問における重要なポイント

  • 回路は、起電力 \(V\) の電源と抵抗 \(R\) からなると考えられる。
  • 電流の大きさはオームの法則 \(I=V/R\) で求まる。
  • 電流の向きは、磁束の変化を妨げる向きに生じる(レンツの法則)。

具体的な解説と立式
(1)で求めた起電力 \(V=vBl\) と、回路の抵抗 \(R\) から、オームの法則を用いて電流の大きさ \(I\) [A] を求めます。
$$ I = \frac{V}{R} $$
電流の向きを考えます。導線PQが右向きに動くと、回路(長方形PQ側)を貫く鉛直上向きの磁束が増加します。レンツの法則によれば、誘導電流はこの磁束の増加を妨げる向き、すなわち、下向きの磁束を作る向きに流れます。右ねじの法則を適用すると、下向きの磁束を作るためには、電流はP→Qの向き、すなわちアの向きに流れる必要があります。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I=V/R\)
  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

オームの法則の式に、(1)の結果 \(V=vBl\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{vBl}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)で導線が電池になったので、その電圧と回路の抵抗を使って、オームの法則で電流の大きさを計算します。向きについては、物理の「あまのじゃく」な性質(レンツの法則)を思い出します。導線が動いて回路の面積が広がり、「上向きの磁力線」が増えると、回路は「いやだ!」と言って、それを打ち消すために「下向きの磁力線」を作ろうとします。右手の親指を下に向けると、残りの4本の指が巻く向きが電流の向きになるので、アの向きだとわかります。

結論と吟味

誘導電流の大きさは \(\displaystyle\frac{vBl}{R}\) [A]、向きはアの向きとなります。この電流が流れることで、導線PQは磁場から力を受けることになります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{vBl}{R}\) [A], アの向き

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた電流 \(I\) が流れる導線PQは、磁場 \(B\) の中にあるため、電磁力を受けます。この力の大きさ \(F\) は、公式 \(F=IBl\) を用いて計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 電流が流れる導線は磁場から力を受ける。
  • 力の大きさの公式は \(F=IBl\)。

具体的な解説と立式
電流 \(I\) [A]、磁束密度 \(B\) [T]、導線の長さ \(l\) [m] のとき、導線PQが受ける電磁力の大きさ \(F\) [N] は、以下の公式で与えられます。
$$ F = IBl $$

使用した物理公式

  • 電流が磁場から受ける力: \(F=IBl\)
計算過程

上記の式に、(2)で求めた \(I = \displaystyle\frac{vBl}{R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{vBl}{R} \right) Bl \\[2.0ex]
&= \frac{vB^2l^2}{R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電流が流れている導線を磁石の近くに置くと、力が働くことはモーターの原理などでおなじみです。この力の大きさは、「電流の大きさ \(I\) × 磁石の強さ \(B\) × 導線の長さ \(l\)」で計算できます。(2)で求めた電流の式を代入すれば、力の大きさがわかります。

結論と吟味

導線PQが磁場から受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\) [N] となります。この力は、フレミングの左手の法則を適用すると、導線の運動を妨げる左向きにはたらくことがわかります。つまり、おもりの落下に対するブレーキ力として作用します。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\) [N]

問(4)

思考の道筋とポイント
おもりの運動を、力の観点から考えます。おもりには、下向きに重力 \(mg\)、上向きにひもの張力 \(T\) がはたらいています。おもりの加速度を下向きに \(a\) とすると、運動方程式は \(ma = mg – T\) となります。
一方、導線PQはひもに引かれる張力 \(T\) と、磁場から受ける電磁力 \(F\) を受けています。導線PQは軽く(質量0)、なめらかに動くので、これらの力はつりあっています (\(T=F\))。
したがって、おもりの運動方程式は \(ma = mg – F\) と書き換えられます。
この設問における重要なポイント

  • おもりと導線PQは一体となって運動する。
  • おもりの運動方程式を立てる (\(ma = mg – T\))。
  • ひもの張力 \(T\) は、導線PQが受ける電磁力 \(F\) と等しい (\(T=F\))。

具体的な解説と立式
おもりの質量を \(m\)、重力加速度を \(g\)、加速度を下向きに \(a\) とします。おもりにはたらく力は、下向きの重力 \(mg\) と上向きの張力 \(T\) です。運動方程式は、
$$ ma = mg – T \quad \cdots ① $$
導線PQにはたらく力は、右向きの張力 \(T\) と左向きの電磁力 \(F\) です。導線は軽い(質量0)ので、力のつり合いから、
$$ T = F \quad \cdots ② $$
①に②を代入すると、おもりと導線PQを一体とみなした系の運動方程式が得られます。
$$ ma = mg – F $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F_{\text{合力}}\)
計算過程

上記で立式した \(ma = mg – F\) に、(3)で求めた \(F = \displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg – \frac{vB^2l^2}{R}
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割って、加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= g – \frac{vB^2l^2}{mR}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

おもりがどれくらいの勢いで加速するかを考えます。おもりを下に引っ張るのは「重力 \(mg\)」です。しかし、ひもが上向きに引っ張り返しており、その力は導線が受ける「ブレーキ力 \(F\)」と等しくなっています。したがって、おもりを実際に加速させる正味の力は「重力 – ブレーキ力」となります。ニュートンの運動法則(\(F=ma\)) に従い、この正味の力を質量 \(m\) で割ると、加速度 \(a\) が求まります。

結論と吟味

おもりの加速度は \(a = g – \displaystyle\frac{vB^2l^2}{mR}\) [m/s\(^2\)] となります。この式から、速さ \(v\) が大きくなるほどブレーキ力 \(F\) が増え、加速度 \(a\) は小さくなることがわかります。

解答 (4) \(g – \displaystyle\frac{vB^2l^2}{mR}\) [m/s\(^2\)]

問(5)

思考の道筋とポイント
やがておもりは一定の速さで落下するようになります。この「一定の速さ」とは「終端速度」のことであり、加速度が \(0\) になった状態を意味します。(4)で求めた加速度 \(a\) の式に \(a=0\) を代入し、そのときの速さ \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 一定の速さ(終端速度) \(\iff\) 加速度 \(a=0\)。
  • 加速度が \(0\) ということは、おもりにはたらく合力が \(0\)、すなわち重力 \(mg\) と電磁力 \(F\) がつり合った状態。

具体的な解説と立式
終端速度を \(v_0\) とすると、このとき加速度は \(a=0\) です。(4)で導出した加速度の式に、\(a=0\) と \(v=v_0\) を代入します。
$$ 0 = g – \frac{v_0B^2l^2}{mR} $$

使用した物理公式

  • (4)で導出した加速度の式
計算過程

上記で立式した式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
g &= \frac{v_0B^2l^2}{mR} \\[2.0ex]
v_0B^2l^2 &= mgR \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{mgR}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

おもりが落ち始めると、スピードが上がるにつれてブレーキ力もどんどん強くなっていきます。そして、ついに下向きに引っ張る「重力」と、上向きに引き戻す「ブレーキ力」が同じ大きさになった瞬間、力がつり合ってそれ以上加速しなくなります。このときの一定の速さが終端速度です。(4)で求めた加速度の式で、加速度が0になる速さを計算すれば求まります。

結論と吟味

終端速度は \(\displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) [m/s] となります。この式は、おもりが重い (\(m\) が大きい) ほど速く、磁場が強い (\(B\) が大きい) ほどブレーキが効いて遅くなることを示しており、直感と一致する妥当な結果です。

別解: エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
エネルギーの観点から終端速度を考えます。おもりが終端速度 \(v_0\) で運動しているとき、運動エネルギーは一定です。したがって、おもりが落下することによって減少する位置エネルギーは、もはや運動エネルギーの増加には使われず、すべて抵抗 \(R\) で発生するジュール熱に変換されています。この「単位時間あたりの位置エネルギーの減少量(重力の仕事率)」と「単位時間あたりのジュール熱(消費電力)」が等しいというエネルギー保存則から \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 終端速度では、力学的エネルギーの減少分がすべてジュール熱になる。
  • 単位時間あたりで考えると、重力の仕事率 \(P_g\) と、抵抗での消費電力 \(P_R\) が等しい。
  • \(P_g = mgv_0\)、\(P_R = I_0^2 R\)。

具体的な解説と立式
単位時間あたりに重力がする仕事率 \(P_g\) は、
$$ P_g = mgv_0 $$
一方、単位時間あたりに抵抗で発生するジュール熱(消費電力) \(P_R\) は、終端速度 \(v_0\) のときの電流を \(I_0 = \displaystyle\frac{v_0Bl}{R}\) として、
$$ P_R = I_0^2 R = \left( \frac{v_0Bl}{R} \right)^2 R $$
エネルギー保存則より \(P_g = P_R\) なので、
$$ mgv_0 = \left( \frac{v_0Bl}{R} \right)^2 R $$

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • 消費電力: \(P = I^2R\)
  • エネルギー保存則
計算過程

立式したエネルギー保存の式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
mgv_0 &= \frac{v_0^2 B^2 l^2}{R^2} R \\[2.0ex]
mgv_0 &= \frac{v_0^2 B^2 l^2}{R}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、両辺を \(v_0\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
mg &= \frac{v_0 B^2 l^2}{R} \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{mgR}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

別の見方をしてみましょう。終端速度に達すると、もうスピードは変化しません。これは、おもりが落ちることで得られる位置エネルギーが、運動エネルギーの増加には使われず、すべて回路の抵抗で「熱」に変わってしまっている状態を意味します。「1秒間に失われる位置エネルギー」と「1秒間に発生する熱エネルギー」が等しい、というエネルギーのつり合いの式を立てることでも、終端速度を計算できます。

結論と吟味

運動方程式から導いた主たる解法と全く同じ結果が得られました。力のつり合いで考えても、エネルギーの収支で考えても、同じ結論に至ることは、物理法則の整合性を示しています。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) [m/s]

問(6)

思考の道筋とポイント
仕事の定義は「力 × 力の向きに動いた距離」です。ここでは、おもりに作用する「重力」が「1秒間」にする仕事を求めます。力は重力 \(mg\)、1秒間に動く距離は終端速度 \(v_0\) そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 仕事の定義: \(W = Fx\)。
  • 力 \(F\) は重力 \(mg\)。
  • 距離 \(x\) は \(v_0 \times 1\)[s]。

具体的な解説と立式
重力が1秒間にする仕事 \(W\) [J] は、力の大きさ \(mg\) と、1秒間に落下する距離 \(h = v_0 \times 1\) の積で与えられます。
$$ W = mg \times h = mgv_0 $$

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(W=Fx\)
計算過程

上記の式に、(5)で求めた終端速度 \(v_0 = \displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= mg \left( \frac{mgR}{B^2l^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{(mg)^2R}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

仕事は「力 × 距離」で計算します。今求めたいのは「重力がした仕事」なので、力は「重力 \(mg\)」を使います。距離は「1秒間に落ちた距離」ですが、速さが \(v_0\) [m/s] なので、1秒間にはちょうど \(v_0\) [m] だけ落ちます。したがって、仕事は \(mg \times v_0\) となります。

結論と吟味

重力が1秒間にする仕事は \(\displaystyle\frac{(mg)^2R}{B^2l^2}\) [J] となります。これは、1秒あたりに失われるおもりの位置エネルギーの量に等しいです。

解答 (6) \(\displaystyle\frac{(mg)^2R}{B^2l^2}\) [J]

問(7)

思考の道筋とポイント
抵抗 \(R\) で1秒間に発生するジュール熱を求めます。ジュール熱の公式は \(Q = P \times t = I^2Rt\) です。終端速度 \(v_0\) で運動しているときの電流 \(I_0\) を求め、この式に \(t=1\) [s] とともに代入します。
この設問における重要なポイント

  • ジュール熱の公式: \(Q = I^2Rt\)。
  • 終端速度 \(v_0\) のときの電流 \(I_0\) を使う。

具体的な解説と立式
終端速度 \(v_0\) のとき、回路に流れる電流 \(I_0\) は、
$$ I_0 = \frac{V_0}{R} = \frac{v_0Bl}{R} $$
この電流が抵抗 \(R\) を \(t=1\) [s] の間流れるときに発生するジュール熱 \(Q\) [J] は、
$$ Q = I_0^2 R t = \left( \frac{v_0Bl}{R} \right)^2 R \times 1 $$

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q=I^2Rt\)
計算過程

上記の式に、(5)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) を代入して \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{v_0^2 B^2 l^2}{R^2} R \\[2.0ex]
&= \frac{v_0^2 B^2 l^2}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{R} \left( \frac{mgR}{B^2l^2} \right)^2 B^2 l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{R} \frac{m^2g^2R^2}{B^4l^4} B^2 l^2 \\[2.0ex]
&= \frac{m^2g^2R}{B^2l^2} \\[2.0ex]
&= \frac{(mg)^2R}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

抵抗で発生する熱エネルギー(ジュール熱)は、「電流の2乗 × 抵抗 × 時間」で計算できます。終端速度で運動しているときの電流の値をまず計算し、それをこの公式に当てはめれば、1秒間に発生する熱量が求まります。

結論と吟味

1秒間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{(mg)^2R}{B^2l^2}\) [J] となります。この結果は、(6)で求めた「1秒間に重力がする仕事」と完全に一致します。これは、終端速度の状態では、失われた位置エネルギーがすべてジュール熱に変換されているというエネルギー保存則が成り立っていることを示しています。

別解: エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
(5)の別解で考察したエネルギー保存則を直接利用します。終端速度で運動しているとき、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は一定ではありませんが、運動エネルギーが一定であるため、単位時間あたりの力学的エネルギーの減少量は、単位時間あたりの位置エネルギーの減少量に等しくなります。そして、このエネルギーはすべてジュール熱として放出されます。したがって、1秒間に発生するジュール熱は、(6)で求めた「1秒間に重力がする仕事」と等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: 終端速度では、重力の仕事率とジュール熱の発生率が等しい。
  • \(Q_{\text{1秒間}} = W_{\text{重力が1秒間にする仕事}}\)。

具体的な解説と立式
エネルギー保存則より、1秒間に抵抗 \(R\) で発生するジュール熱 \(Q\) は、(6)で求めた、1秒間に重力がする仕事 \(W\) に等しい。
$$ Q = W $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
計算過程

(6)の結果をそのまま用います。
$$
\begin{aligned}
Q = W = \frac{(mg)^2R}{B^2l^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(5)の別解でも考えたように、終端速度の状態では、エネルギーの観点から「重力がした仕事 = 発生したジュール熱」という関係が成り立っています。したがって、(6)で計算した「重力が1秒間にした仕事」の値が、そのままこの設問の「1秒間に発生するジュール熱」の答えになります。わざわざ電流を計算し直す必要はありません。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、複雑な代入計算を回避できるだけでなく、問題全体を貫くエネルギー保存という物理的背景を明確に示しており、非常にエレガントな解法です。

解答 (7) \(\displaystyle\frac{(mg)^2R}{B^2l^2}\) [J]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学と電磁気の連成:
    • 核心: この問題の根幹は、おもりの落下という「力学的な運動」が、導線PQの運動を引き起こし、それが「電磁誘導」によって電気的な現象(誘導起電力・電流)を生み、その結果として生じる「電磁力」が、もとの力学的な運動にブレーキをかける、という一連の因果関係を定量的に理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 駆動力: おもりにはたらく重力 \(mg\) が、系全体を動かす根本的な力の源です。
      • 運動 → 電気: 導線PQが速さ \(v\) で動くことで、誘導起電力 \(V=vBl\) が発生し、電流 \(I = V/R\) が流れます。
      • 電気 → 力: 電流 \(I\) が流れることで、導線PQは運動を妨げる向き(左向き)に電磁力 \(F=IBl\) を受けます。これがブレーキ力となります。
      • フィードバック: このブレーキ力 \(F\) は張力としておもりに伝わり、おもりの落下を妨げます。速さ \(v\) が大きくなるほどブレーキ力 \(F\) も大きくなるという、負のフィードバック構造になっています。
  • 終端速度(つり合い状態)の二面性:
    • 核心: 「一定の速さで落下する」という終端速度の状態は、力学的にもエネルギー的にも「つり合い」が成立している状態です。
    • 理解のポイント:
      • 力のつり合い: おもりを下に引く「重力 \(mg\)」と、上に引き戻す「電磁ブレーキ力 \(F\)\(=\displaystyle\frac{v^2B^2l^2}{R}\)」が等しくなった状態。これにより合力が \(0\) となり、加速度が \(0\) になります。(\(mg = F\))
      • エネルギーのつり合い: 単位時間あたりに重力がする仕事(位置エネルギーの減少率 \(mgv_0\))が、すべて単位時間あたりに発生するジュール熱(消費電力 \(I_0^2R\))に変換され、エネルギーの収支が合っている状態。運動エネルギーは変化しないため、力学的エネルギーの減少分がそっくりそのまま熱エネルギーに変わります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 導体棒を斜面に置く問題: 重力の斜面方向の分力が、おもりの重力の代わりになります。運動方程式を立てる際は、斜面に垂直な方向の力のつり合い(垂直抗力)も考慮する必要があります。
    • 回路にコンデンサーやコイルが含まれる問題: 回路部分が単純な抵抗だけでない場合、過渡現象を考慮する必要があります。微分方程式を解く必要が出てくる場合もあり、より高度な問題になります。
    • エネルギー収支を問う問題: 「発生したジュール熱の総量を求めよ」といった問題では、(7)の別解のようにエネルギー保存則から考えるのが有効です。終端速度に達するまでの過程で発生した熱と、達した後に発生した熱を区別して考える必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 動力源の特定: 何が系を動かしているのか(重力か、外力か、電池か)をまず確認します。この問題ではおもりの重力です。
    2. ブレーキ力の特定: 何が運動を妨げているのか(電磁力か、摩擦か)を特定します。この問題では電磁力です。
    3. 運動方程式か、エネルギー保存則か:
      • 加速度や途中の過程を問われたら、運動方程式 (\(ma = F_{\text{駆動力}} – F_{\text{ブレーキ力}}\)) を立てるのが基本です。
      • 終端速度やエネルギーに関する量を問われたら、力のつり合い (\(F_{\text{駆動力}} = F_{\text{ブレーキ力}}\)) やエネルギー保存則(仕事率のつり合い)からアプローチできないか検討します。両方のアプローチが可能な場合が多く、検算にも使えます。
    4. 変数の関係を整理: 速さ \(v\) → 起電力 \(V\) → 電流 \(I\) → 電磁力 \(F\) という一連の依存関係を、まず式で書き下してみることが有効です。(\(V=vBl\), \(I=V/R\), \(F=IBl\)) これらを組み合わせると、ブレーキ力が速度の関数として \(F(v) = \displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\) と表せる、という見通しが立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 張力と電磁力の混同:
    • 誤解: おもりの運動方程式を立てる際に、張力 \(T\) の代わりにいきなり電磁力 \(F\) を使ってしまい、なぜそうなるのかを理解しないまま式を立てる。
    • 対策: まずは基本に忠実におもりと導線PQそれぞれに働く力を図示し、別々に運動方程式(または力のつり合いの式)を立てます。おもりは \(ma = mg – T\)、導線は \(0 = T – F\)(質量0なので)。この2式から \(T\) を消去することで、\(ma = mg – F\) という関係が導かれる、という論理的なステップを必ず踏むようにしましょう。
  • エネルギー保存の誤用:
    • 誤解: 「力学的エネルギー保存則が成り立つ」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 回路に抵抗がある場合、必ずジュール熱が発生します。これはエネルギーが系外(熱として)に逃げていくことを意味するので、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されません。「失われた力学的エネルギー = 発生したジュール熱」という、より広い意味でのエネルギー保存則が成り立つことを正確に理解しましょう。
  • 仕事と仕事率の混同:
    • 誤解: (6)で「仕事」を問われているのに、仕事率(電力)を答えてしまう。またはその逆。
    • 対策: 単位を意識することが最も有効です。仕事の単位は [J](ジュール)、仕事率や電力の単位は [W](ワット)= [J/s] です。問題文で「1秒間に」と指定されている場合は、結果的に仕事[J]と仕事率[W]の数値が同じになることがありますが、概念としては明確に区別する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (4) 運動方程式の選択:
    • 選定理由: この設問では「加速度」という、運動状態の変化率そのものを問われています。加速度を力と質量の関係で記述する法則は運動方程式以外にありません。したがって、この法則を選択するのは必然です。
    • 適用根拠: おもりと導線は、ひもでつながれた「連結物体」と見なせます。このような系では、それぞれの物体について運動方程式を立て、張力などの内力を消去することで、系全体の運動を記述する方程式を導くのが定石です。
  • (5) 加速度a=0の条件の適用:
    • 選定理由: 「一定の速さ」という言葉を、力学の言葉に翻訳すると「加速度が0」となります。これは終端速度を求める際の最も直接的で基本的な条件です。(4)で加速度 \(a\) を速さ \(v\) の関数として求めているため、この条件を適用するのが最も自然な流れです。
    • 適用根拠: 加速度が0であるということは、ニュートンの第二法則 \(ma=F_{\text{合力}}\) から、物体に働く合力が0であることを意味します。つまり、物理的には、系を動かそうとする力(重力)と、それを妨げようとする力(電磁力)が完全につり合った安定状態に達したことを示しています。
  • (7) エネルギー保存則の選択(別解):
    • 選定理由: (6)で「重力が1秒間にする仕事」を計算させた流れを汲み取り、(7)の「1秒間に発生するジュール熱」がそれと等しいのではないか、という物理的な洞察に基づいています。この関係性が見えれば、複雑な代入計算をすることなく、(6)の答えをそのまま利用できるため、思考と計算のショートカットになります。
    • 適用根拠: 終端速度では運動エネルギーが変化しないため、エネルギーの変換は「位置エネルギー → 電気エネルギー → 熱エネルギー」という一方通行になります。中間の電気エネルギーを介さず、最初の「位置エネルギーの減少率」と最後の「熱エネルギーの発生率」が等しいと考えるのが、エネルギー保存則の強力な使い方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように多くの物理量記号が登場する場合、途中で数値を代入すると見通しが悪くなります。最後まで文字式のまま計算を進め、最後に代入するのが鉄則です。特に、(7)の主たる解法のように、一度求めた複雑な文字式(\(v_0\))を別の式に代入する場合、慎重に計算を進める必要があります。
  • 分数の整理: (7)の計算過程のように、分数の分母や分子にさらに分数が現れる「繁分数」の形になった場合は、慌てずに分母と分子に同じ数を掛けるなどして、一段ずつ丁寧に整理しましょう。例えば、\(\displaystyle\frac{1}{R} \left( \frac{mgR}{B^2l^2} \right)^2\) のような式は、まず括弧の中を2乗し、\(\displaystyle\frac{1}{R} \frac{m^2g^2R^2}{B^4l^4}\) と展開してから約分するとミスが減ります。
  • 物理的な次元(単位)の確認: 計算結果の単位が、求められている物理量の単位と一致するかを常に確認する癖をつけましょう。例えば、(5)で速度を求めた結果の式 \(\displaystyle\frac{mgR}{B^2l^2}\) の単位を簡易的にチェックすると、\(\displaystyle\frac{[\text{N}][\Omega]}{[\text{T}^2][\text{m}^2]}\) となり、これが速度の単位 [m/s] になるはずだ、と考えることで、式の形が大きく間違っていないかを確認できます。(実際に単位を変換すると一致します)
  • (6)と(7)の関係を予測する: 問題を解き始める前に全体を俯瞰し、「(6)と(7)はエネルギー保存則で等しくなるはずだ」と予測を立てておくと、計算の強力な指針になります。もし(7)の計算結果が(6)と異なったら、どちらか(あるいは両方)の計算が間違っているとすぐに気づくことができます。

452 渦電流

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問全体の別解: レンツの法則を「力の向き」から考える解法
      • 模範解答が「磁束の変化を妨げる」という磁場の観点から解くのに対し、別解では「磁石の運動を妨げる力が働く」という力の観点から解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: レンツの法則がエネルギー保存則に根差すことを、力の相互作用という観点からより直感的に理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 同じ法則を異なる側面(磁束と力)から適用する経験を積むことで、問題解決の視野が広がります。
    • 解法の効率化: 「近づけば反発、遠ざかれば引力」という関係を理解することで、思考プロセスを簡略化できる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「渦電流とレンツの法則の応用」です。コイルではなく、広がった導体(銅板)の上で磁石を動かしたときに生じる誘導電流(渦電流)の向きを、電磁誘導の基本法則であるレンツの法則を用いて正しく判断できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 渦電流: 塊状または板状の導体内部に、磁束が変化した際に生じる渦状の誘導電流。
  2. レンツの法則(磁束の観点): 誘導電流は、それが流れることによる磁場の変化を妨げる向きに流れる。
  3. 右ねじの法則: 電流の向きと、それが作る磁場の向きの関係を示す法則。
  4. レンツの法則(力の観点): 誘導電流は、その原因である導体と磁石との相対運動を妨げるような力(電磁力)を及ぼす向きに流れる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 点A(磁石が近づく場合)と点B(磁石が遠ざかる場合)のそれぞれについて、銅板を貫く磁束がどのように変化するか(増加するか減少するか)を考えます。
  2. 次に、その変化を打ち消すために、渦電流がどちら向きの磁場を作るべきかをレンツの法則から判断します。
  3. 最後に、右ねじの法則を用いて、その向きの磁場を作る渦電流の回転方向(時計回りか反時計回りか)を決定します。

点Aのまわりの渦電流について

思考の道筋とポイント
磁石が点Aに「近づく」状況を分析します。まず、磁石のN極が作る磁場の向きを確認し、それが近づくことで点A直下の磁束がどう変化するかを捉えます。次に、レンツの法則を適用して、その変化を打ち消すために渦電流が作るべき磁場の向きを決定します。最後に、右ねじの法則を使って、その磁場を作る電流の向きを判断します。
この設問における重要なポイント

  • 磁石のN極からは、磁力線が湧き出している。したがって、銅板を貫く磁場は「下向き」。
  • 磁石が点Aに近づくと、点Aを貫く「下向き」の磁束が増加する。
  • レンツの法則:「変化を妨げる」ため、渦電流は磁束の増加を打ち消す「上向き」の磁場を作る必要がある。
  • 右ねじの法則:上向きの磁場を作る電流は「反時計回り」。

具体的な解説と立式
磁石のN極からは磁力線が湧き出しているため、銅板の点A付近には、磁石によって鉛直下向きの磁場が生じています。
磁石が点Aに向かって動くと、点Aの真下の領域を貫く「下向きの磁束」が増加します。
レンツの法則によれば、誘導電流(渦電流)は、この磁束の増加を妨げる向きに流れます。つまり、渦電流自身が「上向きの磁束」を作るように流れる必要があります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

ここで右ねじの法則を適用します。
右手の親指を、渦電流が作るべき磁場の向きである「上向き」に合わせます。
すると、残りの4本の指が巻く向きは「反時計回り」になります。
これが、点Aのまわりに生じる渦電流の向きです。

この設問の平易な説明

物理の法則には「あまのじゃく」な性質(レンツの法則)があります。磁石のN極が点Aに近づいてくると、銅板は「おっと、下向きの磁場が増えてきたぞ、邪魔だな!」と感じます。そこで、その増加を打ち消すために、自ら「上向きの磁場」を作り出そうとします。
ここで右手の出番です。親指を「上」に向けると、他の指は自然と「反時計回り」に巻きます。この指の巻く向きが、渦電流の流れる向きになります。

結論と吟味

点Aのまわりに生じる渦電流は、反時計回りです。この反時計回りの電流が作る上向きの磁場は、近づいてくるN極と反発しあうため、磁石の運動を妨げることになります。これはレンツの法則のもう一つの側面とも一致しており、妥当な結果です。

解答 点A: 反時計回り

点Bのまわりの渦電流について

思考の道筋とポイント
磁石が点Bから「遠ざかる」状況を分析します。点Aのときと同様に、磁石が遠ざかることで点B直下の磁束がどう変化するかを捉え、レンツの法則と右ねじの法則を順に適用して渦電流の向きを決定します。
この設問における重要なポイント

  • 磁石が点Bから遠ざかると、点Bを貫く「下向き」の磁束が減少する。
  • レンツの法則:「変化を妨げる」ため、渦電流は磁束の減少を補う「下向き」の磁場を作る必要がある。
  • 右ねじの法則:下向きの磁場を作る電流は「時計回り」。

具体的な解説と立式
磁石が点Bから遠ざかっていくと、点Bの真下の領域を貫いていた「下向きの磁束」が減少します。
レンツの法則によれば、渦電流はこの磁束の減少を妨げる向きに流れます。つまり、渦電流自身が、減少していく下向きの磁束を補うために「下向きの磁束」を作るように流れる必要があります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

ここで右ねじの法則を適用します。
右手の親指を、渦電流が作るべき磁場の向きである「下向き」に合わせます。
すると、残りの4本の指が巻く向きは「時計回り」になります。
これが、点Bのまわりに生じる渦電流の向きです。

この設問の平易な説明

今度は、点Bから磁石が去っていきます。銅板は「あれ、今まであった下向きの磁場が減っていく!寂しいな!」と感じます。そこで、その減少を補うために、自ら「下向きの磁場」を作り出して、現状を維持しようとします。
再び右手の出番です。親指を「下」に向けると、他の指は「時計回り」に巻きます。この向きが、点Bの渦電流の向きです。

結論と吟味

点Bのまわりに生じる渦電流は、時計回りです。この時計回りの電流が作る下向きの磁場は、遠ざかっていくN極(下向きの磁場を作る源)との間に引力を生じさせます(S極として振る舞うため)。これは磁石の運動を妨げることになり、レンツの法則と一致する妥当な結果です。

解答 点B: 時計回り
別解: レンツの法則を「力の向き」から考える解法

思考の道筋とポイント
レンツの法則のもう一つの表現、「誘導電流は、その原因である磁石と導体の相対運動を妨げる向きに流れる」という、力の観点からアプローチします。「近づくなら反発させ、遠ざかるなら引き留める」という直感的なイメージで解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • レンツの法則(力の側面):「近づく運動は妨げられ(反発力)、遠ざかる運動も妨げられる(引力)」。
  • 反発力:同じ極(N極とN極)が向かい合うときに生じる。
  • 引力:異なる極(N極とS極)が向かい合うときに生じる。
  • 電流が作る磁極の向きは、右ねじの法則で判断する。

具体的な解説と立式

点Aについて(磁石が近づく場合):
レンツの法則により、渦電流は磁石が近づく運動を妨げる向き、すなわち「反発力」を生むように流れます。
磁石のN極に対して反発力を生むためには、渦電流は銅板の上面が「N極」になるような磁場を作らなければなりません。
右ねじの法則より、上向きにN極(上向きの磁場)を作る電流の向きは、反時計回りです。

点Bについて(磁石が遠ざかる場合):
レンツの法則により、渦電流は磁石が遠ざかる運動を妨げる向き、すなわち「引力」を生むように流れます。
磁石のN極に対して引力を生むためには、渦電流は銅板の上面が「S極」になるような磁場を作らなければなりません。
右ねじの法則より、下向きに磁場(上面がS極)を作る電流の向きは、時計回りです。

使用した物理公式

  • レンツの法則(力の観点)
  • 右ねじの法則
計算過程

この解法では、法則の適用が主であり、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

物理法則は「ツンデレ」だと考えてみましょう。
点Aでは、磁石が「やあ!」と近づいてきます。すると銅板は「来るな!」とツンツンして反発します。反発するには、自分もN極になって押し返さなければなりません。右ねじの法則で考えると、N極を作る電流は反時計回りです。
点Bでは、磁石が「じゃあね!」と去っていきます。すると銅板は「行かないで!」とデレて引き留めようとします。引き留める(引力)には、自分はS極になる必要があります。右ねじの法則で考えると、S極を作る電流は時計回りです。
このように「近づけば反発、去れば引き留める」と覚えると、直感的に答えがわかります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じく、点Aでは反時計回り、点Bでは時計回りという結論が得られました。磁束の変化を考える方法と、力の向きを考える方法は、同じレンツの法則の異なる側面を見ており、どちらを使っても正しい答えにたどり着きます。

解答 点A: 反時計回り, 点B: 時計回り

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンツの法則の二面性:
    • 核心: この問題の根幹は、電磁誘導の向きを決定する「レンツの法則」を正しく理解し、適用することです。この法則は2つの側面から理解することができ、どちらのアプローチでも同じ結論に至ります。
    • 理解のポイント:
      • 磁束の観点(模範解答のアプローチ): 「誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きに流れる」。これは法則の定義に最も忠実な考え方です。
        • 近づく場合: 磁束が増加する → それを打ち消す「逆向き」の磁場を電流が作る。
        • 遠ざかる場合: 磁束が減少する → それを補う「同じ向き」の磁場を電流が作る。
      • 力の観点(別解のアプローチ): 「誘導電流は、磁石と導体の相対運動を妨げる向きに流れる」。これはエネルギー保存則から導かれる、より直感的で現象的な理解です。
        • 近づく場合: 運動を妨げる → 「反発力」が働く → 電流は磁石と同じ極を作る。
        • 遠ざかる場合: 運動を妨げる → 「引力」が働く → 電流は磁石と異なる極を作る。
  • 右ねじの法則:
    • 核心: レンツの法則によって「渦電流が作るべき磁場の向き」が決定された後、それを「実際の電流の回転方向」に変換するための必須ツールが右ねじの法則です。
    • 理解のポイント: 右手の親指を「電流が作る磁場の向き」に合わせると、残りの4本の指が巻く向きが「電流の向き」になります。この対応関係を正確に使いこなすことが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルと磁石の問題: コイルに磁石を出し入れする問題は、本質的に全く同じです。銅板がコイルに変わっただけで、レンツの法則と右ねじの法則の適用方法は同一です。
    • 電磁ブレーキ: 電車のブレーキや、IH調理器の原理など、渦電流の応用例に関する問題。渦電流が運動を妨げるブレーキとして働くことや、ジュール熱を発生させることを理解しているかが問われます。
    • 落下する磁石と金属パイプ: 金属のパイプの中を磁石が落下する問題。パイプの各部分に渦電流が生じ、磁石の落下を妨げる力が常に働くため、空気抵抗がない場合でも終端速度に達します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁石の向きと運動方向の確認: まず、どちらの極(NかSか)が導体に向いていて、どちらの方向に動いているのか(近づくか遠ざかるか)を正確に把握します。
    2. 磁束の変化を特定: 磁石が作る磁場の向き(N極から出てS極に入る)を考え、運動によって導体を貫く磁束が「どちら向きに」「増加するのか減少するのか」を判断します。これが最も重要なステップです。
    3. レンツの法則の適用: 「磁束の変化を妨げる」という原則に従い、渦電流が作るべき磁場の向きを決定します。「増加なら逆向き、減少なら同じ向き」と覚えましょう。
    4. 右ねじの法則で変換: 最後に、右ねじの法則を使って、決定した磁場の向きを電流の回転方向に変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 磁石が作る磁場の向きの勘違い:
    • 誤解: N極とS極のどちらから磁力線が出て、どちらに入るかを混同してしまう。
    • 対策: 「N極から出て(North)、S極に入る(South)」と、方角のイメージと結びつけて確実に記憶します。この問題ではN極が下を向いているので、銅板には「下向き」の磁場が作られます。
  • 「妨げる」の意味の混同:
    • 誤解: レンツの法則の「妨げる」を、常に「逆向き」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 「変化を妨げる」と正確に理解することが重要です。
      • 増加を妨げる → 逆向きの磁場を作って打ち消す。
      • 減少を妨げる → 同じ向きの磁場を作って補う。

      この区別ができないと、磁石が遠ざかる場合の向きを間違えます。

  • 右ねじの法則の使い方の混乱:
    • 誤解: 親指と他の4本指の役割(どちらが磁場でどちらが電流か)を混同したり、左手を使ってしまったりする。
    • 対策: 「親指が磁場(B)、四指が電流(I)」と明確に覚え、必ず「右手」を使うことを徹底します。フレミングの法則(左手・右手)とは役割が異なるので、意識的に使い分けましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • レンツの法則(磁束の観点):
    • 選定理由: この法則は、電磁誘導における向きに関する最も根源的な法則であり、あらゆる状況に適用できる普遍性を持っています。現象を磁束という物理量で記述するため、定性的でありながら厳密な議論が可能です。
    • 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則は起電力の大きさを与えますが、向きについては規定していません。レンツの法則は、エネルギー保存則を電磁誘導の現象に適用した結果として導かれるものであり、誘導電流の向きを決定する唯一の指導原理です。
  • レンツの法則(力の観点):
    • 選定理由: 「磁束の変化」という少し抽象的な概念を、「反発力」「引力」という力学的なイメージに置き換えることで、より直感的に現象を理解できるため。特に、運動の妨げという結果に直接着目するため、思考のステップを短縮できる場合があります。
    • 適用根拠: もし誘導電流が運動を助ける向きに流れた場合、その電流が作る力によって磁石はさらに加速され、誘導電流もさらに大きくなる…という無限ループに陥り、何もないところからエネルギーが生まれてしまいます。これはエネルギー保存則に反するため、誘導電流は必ず運動を「妨げる」向きに流れなければなりません。この法則はエネルギー保存則の現れであり、物理的に強固な根拠を持っています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図を用いた思考整理: この種の問題では、頭の中だけで考えずに、必ず図を描いて情報を整理することが有効です。
    1. 磁石が作る磁場(B)の向きを矢印で書き込む。
    2. 運動によって磁束が「増加↑」するのか「減少↓」するのかをメモする。
    3. レンツの法則から、渦電流が作るべき磁場(B’)の向きを矢印で書き込む。
    4. 最後に、右ねじの法則を使って、B’に対応する電流の回転方向を書き込む。

    このように段階的に図を完成させていくことで、思考が整理され、ミスを防ぐことができます。

  • 言葉による確認: 「N極が近づく → 下向き磁束が増加 → それを妨げるために上向き磁場を作る → 右ねじより反時計回り」のように、思考のプロセスを一つ一つ言葉に出して確認するのも有効な手段です。
  • 2つのアプローチでの検算: 時間に余裕があれば、主たる解法(磁束の観点)で解いた後、別解(力の観点)でもう一度考えてみましょう。「近づくから反発力 → N極を作る → 上向き磁場」という流れが、主たる解法の結果と一致するかを確認することで、答えの確信度を高めることができます。
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453 自己誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問全体の別解: レンツの法則を用いて起電力の向きを定性的に判断する解法
      • 模範解答が公式 \(V = -L \frac{\Delta I}{\Delta t}\) に数値を代入して機械的に符号を決定するのに対し、別解ではまず「電流の変化を妨げる」というレンツの法則の物理的意味から起電力の符号(正負)を判断し、その後に大きさ \(L |\frac{\Delta I}{\Delta t}|\) を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 公式に含まれるマイナスの符号が、レンツの法則(変化を妨げる向き)に由来することを直感的に理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 計算結果の符号が物理的に何を意味するのかを常に意識する訓練になり、物理現象への洞察が深まります。
    • 検算能力の向上: 定性的な判断と計算結果を照らし合わせることで、符号ミスなどのケアレスミスを発見しやすくなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「自己誘導起電力と電流の時間変化の関係」です。与えられた電流と時間の関係を示すグラフ(\(I-t\)グラフ)から、自己誘導によってコイルに生じる起電力と時間の関係(\(V-t\)グラフ)を正しく導き出すことが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自己誘導の公式: コイルに生じる誘導起電力 \(V\) が、自己インダクタンス \(L\) と電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を用いて \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と表されることを理解していること。
  2. 電流の時間変化率とグラフの傾き: 電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) が、\(I-t\)グラフの傾きに相当することを理解していること。
  3. レンツの法則: 自己誘導起電力は、常にコイルを流れる電流の変化を「妨げる」向きに生じるという物理的意味を把握していること。
  4. 定常電流と誘導起電力: 電流が一定(変化率が0)の区間では、自己誘導起電力は生じない(\(V=0\))ことを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 与えられた \(I-t\) グラフを、傾きが一定ないしは0である複数の時間区間に分割します。
  2. 各区間について、グラフから傾き、すなわち電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を計算します。
  3. 自己誘導の公式 \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) に、自己インダクタンス \(L\) と各区間の \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を代入して、誘導起電力 \(V\) を求めます。
  4. 計算結果を元に、\(V-t\)グラフを作成します。

各時間区間における誘導起電力の計算

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