「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第19章】基本例題~基本問題331

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基本例題

基本例題62 みかけの深さ, 全反射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 臨界角のタンジェント(\(\tan\))を用いる解法
      • 模範解答が臨界角のサイン(\(\sin\))を直接用いて立式するのに対し、別解ではサインから三角関数の相互関係式を用いてタンジェントを導出し、図形の辺の比と結びつけます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 数学的アプローチの多様性: 三角関数の相互関係を応用する良い練習となり、一つの問題に対して異なる数学的道具でアプローチする経験ができます。
    • 計算の効率化: 問題によっては、平方根を含む複雑な式変形を避けることができ、より簡潔な計算で答えに到達できる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「屈折と全反射の法則の応用」です。光が異なる媒質の境界面でどのように振る舞うかを、基本的な法則を用いて定量的に分析する力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折率と光速・波長の関係: 屈折率\(n\)が、真空中の光速\(c\)と媒質中の光速\(v\)、および真空中の波長\(\lambda\)と媒質中の波長\(\lambda’\)と、どのように関係しているか(\(n = \displaystyle\frac{c}{v} = \displaystyle\frac{\lambda}{\lambda’}\))を理解していること。
  2. 屈折の法則: 媒質1(屈折率\(n_1\), 入射角\(\theta_1\))から媒質2(屈折率\(n_2\), 屈折角\(\theta_2\))へ光が進む際の法則(\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\))を正しく適用できること。
  3. 屈折における振動数の不変性: 光が屈折しても、その振動数\(f\)は変化しないという基本原理を理解していること。
  4. 全反射と臨界角: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進む際に、入射角がある角度(臨界角)を超えると光がすべて反射される「全反射」の現象と、その条件式を導けること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、屈折率の定義式と波の基本式を用いて、液体中の光の速さと波長を求めます。振動数が不変であることもポイントです。
  2. (2)では、屈折の法則を立て、問題文で与えられた「角度が非常に小さい場合の近似式」を適用して、みかけの深さを導出します。
  3. (3)では、「光が空気中に出ない」という条件を「全反射が起こる」と読み替え、臨界角の条件を考えます。その条件を屈折の法則と図形の幾何学的な関係から立式し、円板の半径を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
媒質が変わると光の速さと波長は変化しますが、振動数は変化しません。屈折率\(n\)が、真空中の物理量(速さ\(c\), 波長\(\lambda\))と液体中の物理量(速さ\(v\), 波長\(\lambda’\))をどのようにつなぐかを定義式から正確に理解することが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 屈折率の定義は \(n = \displaystyle\frac{\text{真空中の光速}}{\text{媒質中の光速}} = \displaystyle\frac{\text{真空中の波長}}{\text{媒質中の波長}}\) である。
  • 波の基本式 \((\text{速さ}) = (\text{振動数}) \times (\text{波長})\) が成り立つ。
  • 振動数は、光源によって決まる固有の値であり、光が伝わる媒質には依存しない。

具体的な解説と立式
(ア) 液体中での光の速さを\(v\)、真空中の光の速さを\(c\)とします。屈折率\(n\)の定義より、
$$ n = \frac{c}{v} $$
また、問題文より真空中の波長が\(\lambda\)、振動数が\(f\)なので、波の基本式から真空中の光速は \(c = f\lambda\) と表せます。

(イ) 液体中での光の波長を\(\lambda’\)とします。屈折率\(n\)は波長の比でも定義されます。
$$ n = \frac{\lambda}{\lambda’} $$

(ウ) 振動数は、光を発生させる光源のリズムによって決まります。光が媒質中を伝わる過程で、そのリズム(振動数)が変わることはありません。

使用した物理公式

  • 屈折率の定義: \(n = \displaystyle\frac{c}{v}\), \(n = \displaystyle\frac{\lambda}{\lambda’}\)
  • 波の基本式: \(c = f\lambda\)
計算過程

(ア) \(n = \displaystyle\frac{c}{v}\) を \(v\) について解くと \(v = \displaystyle\frac{c}{n}\) となります。この式に \(c = f\lambda\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{c}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{f\lambda}{n}
\end{aligned}
$$
(イ) \(n = \displaystyle\frac{\lambda}{\lambda’}\) を \(\lambda’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{\lambda}{n}
\end{aligned}
$$
(ウ) 振動数は不変なので、\(f\) のままです。

この設問の平易な説明

光が空気中(真空とほぼ同じと考える)から水のような密度の高い液体に入ると、進むのが少し遅くなります。この「遅くなり具合」を示すのが屈折率\(n\)で、速さは\(n\)分の1になります。
波の速さは「振動数 × 波長」で計算されますが、光のリズムである振動数は途中で変わらないので、速さが\(n\)分の1になった分、波のひとつの長さである波長が\(n\)分の1に縮むことで帳尻を合わせている、とイメージすると分かりやすいです。

結論と吟味

液体中の光の速さは \(\displaystyle\frac{f\lambda}{n}\)、波長は \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)、振動数は \(f\) となります。屈折率\(n\)が1より大きい媒質中では、光の速さと波長は真空中より短くなり、物理的に妥当な結果です。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{f\lambda}{n}\) (イ) \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) (ウ) \(f\)

問(2)

思考の道筋とポイント
水中の物体が実際よりも浅い位置にあるように見える「みかけの深さ」を求める問題です。これは、光が液体から空気中に出る際に境界面で屈折することが原因です。光源Pから出た光が屈折して観測者の目に届くとき、観測者には、その光が直進してきたように見えるため、光線の延長線上にある点P’に光源があるように見えます。このP’の深さ\(d’\)を、屈折の法則と、問題文で与えられた近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用いて求めます。
この設問における重要なポイント

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を正しく適用する。
  • 角度が非常に小さい場合の近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を利用する。
  • 図から、入射角・屈折角のタンジェント(\(\tan\))を辺の長さの比で表す。

具体的な解説と立式
図aのように、光源Pから出て液面上の点(Aから距離\(a\)の点)に入射する光を考えます。法線に対する入射角を\(i\)、屈折角を\(r\)とします。光は屈折率\(n\)の液体から屈折率1の空気中へ進むので、屈折の法則は次のようになります。
$$ n \sin i = 1 \cdot \sin r \quad \cdots ① $$
次に、図aの幾何学的関係から、\(\tan i\) と \(\tan r\) を、実際の深さ\(d\)とみかけの深さ\(d’\)を用いて表します。
$$ \tan i = \frac{a}{d} \quad \cdots ② $$
$$ \tan r = \frac{a}{d’} \quad \cdots ③ $$
問題の条件「ほぼ真上の地点Aから見たとき」とは、角度\(i\)と\(r\)が非常に小さいことを意味します。このとき、与えられた近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) が使えます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n \sin i = \sin r\)
  • 三角関数の定義
  • 近似式: \(\sin\theta \approx \tan\theta\) (\(\theta\)が非常に小さいとき)
計算過程

屈折の法則の式①に、近似 \(\sin i \approx \tan i\) と \(\sin r \approx \tan r\) を適用します。
$$ n \tan i \approx \tan r $$
この式に、②と③で表した辺の長さの関係を代入します。
$$
\begin{aligned}
n \left( \frac{a}{d} \right) &\approx \frac{a}{d’}
\end{aligned}
$$
両辺にある\(a\)を消去すると、
$$ \frac{n}{d} = \frac{1}{d’} $$
この式を\(d’\)について解きます。
$$ d’ = \frac{d}{n} $$

この設問の平易な説明

プールや川の底が、実際よりも浅く見える現象の理由と、その深さを計算する問題です。水中の点Pから出た光は、水面で空気中に出るときにクイッと曲がって(屈折して)私たちの目に届きます。私たちの脳は、光がまっすぐ進んできたと錯覚するので、曲がった光の延長線上、つまり実際より浅い点P’に物があるように見えてしまいます。この光の曲がり具合は「屈折の法則」で決まります。今回は「ほぼ真上から見る」ので、角度がとても小さく、計算が簡単になる便利な近似を使えます。この法則と近似を組み合わせると、みかけの深さ\(d’\)は、本当の深さ\(d\)を水の屈折率\(n\)で割った値になることがわかります。

結論と吟味

みかけの深さ\(d’\)は \(\displaystyle\frac{d}{n}\) となります。一般に液体の屈折率\(n\)は1より大きいので、\(d’ < d\) となり、みかけの深さは実際の深さより浅くなります。これは私たちの日常経験と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{d}{n}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「光が空気中に出ないようにする」という条件は、物理的に「全反射」が起こるようにする、と読み替えることができます。屈折率の大きい液体から小さい空気へ光が進むとき、入射角がある一定の角度(臨界角 \(i_0\))を超えると、光は屈折せずにすべて液面で反射されます。この問題では、円板の外側に向かう光がすべて全反射するように、円板の縁で入射角がちょうど臨界角\(i_0\)になるような半径\(R\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 全反射が起こる条件を理解していること。
  • 臨界角\(i_0\)は、屈折角が\(90^\circ\)になるときの入射角である。
  • 屈折の法則を用いて臨界角の条件式を立てる。
  • 三平方の定理など、図形の幾何学的な関係から、臨界角を辺の長さで表現する。

具体的な解説と立式
光が液体から空気中へ出られるかどうかの境界線は、入射角が臨界角\(i_0\)になるときです。このとき、屈折角は\(90^\circ\)になります。屈折の法則をこの状況に適用すると、
$$ n \sin i_0 = 1 \cdot \sin 90^\circ \quad \cdots ① $$
この式から、臨界角\(i_0\)のサイン(\(\sin\))の値を求めることができます。

次に、図bの幾何学的な関係を考えます。円板の半径を\(R\)とすると、円板の縁(点B)に達する光の入射角がちょうど\(i_0\)になります。図の直角三角形APBにおいて、三平方の定理より、斜辺PBの長さは \(\sqrt{R^2 + d^2}\) となります。
したがって、\(\sin i_0\) は、この三角形の辺の比で表すことができます。
$$ \sin i_0 = \frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}} = \frac{\text{AB}}{\text{PB}} = \frac{R}{\sqrt{R^2 + d^2}} \quad \cdots ② $$
①と②は、どちらも同じ\(\sin i_0\)を表しているので、これらを等しいとおくことで\(R\)を求めることができます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則(臨界角の条件): \(n \sin i_0 = 1 \cdot \sin 90^\circ\)
  • 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
計算過程

まず、式①を計算します。\(\sin 90^\circ = 1\) なので、
$$ n \sin i_0 = 1 $$
これを \(\sin i_0\) について解くと、
$$ \sin i_0 = \frac{1}{n} $$
この結果と式②を等しいとおきます。
$$ \frac{1}{n} = \frac{R}{\sqrt{R^2 + d^2}} $$
この式を\(R\)について解くために、まず両辺を2乗して平方根をなくします。
$$ \frac{1}{n^2} = \frac{R^2}{R^2 + d^2} $$
分母を払うために、両辺に \(n^2(R^2 + d^2)\) を掛けます。
$$ R^2 + d^2 = n^2 R^2 $$
\(R^2\)を含む項を右辺に、\(d^2\)を左辺にまとめます。
$$ d^2 = n^2 R^2 – R^2 $$
右辺を \(R^2\) でくくります。
$$ d^2 = (n^2 – 1)R^2 $$
\(R^2\)について解くと、
$$ R^2 = \frac{d^2}{n^2 – 1} $$
最後に、両辺の正の平方根をとって、半径\(R\)を求めます。
$$ R = \frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}} $$

この設問の平易な説明

水中の懐中電灯を上に向けて、角度をどんどん斜めにしていくと、ある角度から光が水面から出なくなり、水面が鏡のようになる現象があります。これが「全反射」です。この問題は、この現象を利用して、光源からの光を円板で完全に閉じ込めるには、どれくらいの大きさの円板が必要かを問うています。
光が外に出なくなるギリギリの角度を「臨界角」と呼びます。円板のフチの部分で、光がちょうどこの臨界角で水面に達するようにすれば、それより外側に向かう光はすべて全反射して外に漏れません。この「臨界角」という条件を、光の法則の式と、図形の三角形の辺の長さの関係式(三平方の定理)の2通りで表し、それらを「=」で結ぶことで、必要な円板の半径を計算できます。

結論と吟味

円板の最小半径は \(\displaystyle\frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}}\) となります。この式は、光源が深い(\(d\)が大きい)ほど大きな円板が必要であり、また液体の屈折率\(n\)が大きいほど臨界角が小さくなるため、より小さな半径の円板で済むことを示しています。これは物理的な直感と一致する妥当な結果です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}}\)
別解: 臨界角のタンジェント(tan)を用いる解法

思考の道筋とポイント
主たる解法と同様に、円板の縁で入射角が臨界角\(i_0\)になる条件を考えます。しかし、ここでは\(\sin i_0\)ではなく、\(\tan i_0\)に着目して立式します。まず屈折の法則から\(\sin i_0\)の値を求め、次に三角関数の相互関係式を使って\(\cos i_0\)を求め、最終的に\(\tan i_0\)を導出します。この結果と、図bから直接読み取れる\(\tan i_0\)の値を等しいとおくことで、半径\(R\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 臨界角の条件から \(\sin i_0\) を求める。
  • 三角関数の相互関係式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) と \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を活用する。
  • 図から \(\tan i_0\) を辺の比(\(R/d\))として読み取る。

具体的な解説と立式
まず、臨界角\(i_0\)の条件は、主たる解法と同様に屈折の法則から求めます。
$$ \sin i_0 = \frac{1}{n} $$
次に、三角関数の相互関係式 \(\sin^2 i_0 + \cos^2 i_0 = 1\) を用いて \(\cos i_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\cos^2 i_0 &= 1 – \sin^2 i_0 \\[2.0ex]
&= 1 – \left(\frac{1}{n}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{n^2 – 1}{n^2}
\end{aligned}
$$
臨界角\(i_0\)は鋭角なので \(\cos i_0 > 0\) です。したがって、
$$
\begin{aligned}
\cos i_0 &= \sqrt{\frac{n^2 – 1}{n^2}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{n^2 – 1}}{n}
\end{aligned}
$$
これにより、\(\tan i_0\) を計算できます。
$$ \tan i_0 = \frac{\sin i_0}{\cos i_0} \quad \cdots ① $$
一方で、図bの直角三角形APBに注目すると、\(\tan i_0\) は底辺と高さの比で表せます。
$$ \tan i_0 = \frac{\text{AB}}{\text{AP}} = \frac{R}{d} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 臨界角の条件: \(\sin i_0 = \displaystyle\frac{1}{n}\)
  • 三角関数の相互関係
計算過程

式①に、求めた \(\sin i_0\) と \(\cos i_0\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\tan i_0 &= \frac{\sin i_0}{\cos i_0} \\[2.0ex]
&= \frac{1/n}{(\sqrt{n^2 – 1})/n} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{n^2 – 1}}
\end{aligned}
$$
この結果と、式②を等しいとおきます。
$$ \frac{R}{d} = \frac{1}{\sqrt{n^2 – 1}} $$
この式を\(R\)について解きます。
$$ R = \frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}} $$

この設問の平易な説明

(3)の主たる解法と考え方は全く同じで、光が外に出なくなるギリギリの角度「臨界角」が鍵となります。この別解では、計算の道具としてサイン(\(\sin\))の代わりにタンジェント(\(\tan\))を使ってみます。
まず、光の法則から臨界角のサインを求め、そこから三角関数の公式を使ってタンジェントの値に変換します。一方で、図を見ると、タンジェントは「半径 \(R\) ÷ 深さ \(d\)」という非常にシンプルな形で表せます。この2つの方法で求めたタンジェントは当然同じ値になるはずなので、「=」で結びます。すると、主たる解法よりも少ない計算で、同じ答えにたどり着くことができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(\displaystyle\frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}}\) が得られました。このアプローチは、三角関数の扱いに慣れていれば、平方根を含む分数の式変形を回避できるため、計算がより直接的かつ簡潔になります。物理的な洞察は同じでも、数学的なルートが複数あることを示す良い例です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{d}{\sqrt{n^2 – 1}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 屈折の法則の完全理解:
    • 核心: この問題群の根幹は、光が異なる媒質の境界面を通過する際に従う「屈折の法則」を、様々な側面から理解し応用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 物理量の変化: 屈折率\(n\)は、光の速さ(\(v\))と波長(\(\lambda’\))が真空中に比べて\(1/n\)倍になることを意味します。一方で振動数\(f\)は不変です。これらの関係をセットで覚えることが重要です。
      • 角度の関係: 屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) は、光の進行方向がどのように変わるかを記述する最も基本的な式です。入射角と屈折角を正しく定義し、式を立てることが全ての基本となります。
  • 全反射と臨界角の概念:
    • 核心: 「光が空気中に出ない」という条件を、「入射角が臨界角以上のときに起こる全反射」という物理現象に結びつけられるかが、(3)を解く上での最大の鍵です。
    • 理解のポイント:
      • 条件: 全反射は、屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むときにのみ起こります。
      • 臨界角: 屈折角が\(90^\circ\)になるという「限界」の状況を屈折の法則に適用することで、臨界角\(i_0\)の条件式 \(n \sin i_0 = 1\) を導き出せることを理解するのが核心です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光ファイバー: 光ファイバー内で光がどのように伝わっていくかを問う問題は、コア(屈折率大)とクラッド(屈折率小)の境界面での全反射を繰り返し利用する、本質的に同じ構造の問題です。
    • プリズムの問題: プリズムに光を入射させ、特定の面で全反射させるための条件を問う問題や、逆に全反射させないための条件を問う問題も、臨界角の考え方を応用します。
    • レンズを水中に沈める問題: 空気中で使っていたレンズを水中に沈めると、レンズと周囲の媒質(水)との屈折率の「比」が変化するため、焦点距離が変わります。これも屈折の法則の応用問題です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 媒質の確認: まず、光がどの媒質(屈折率\(n_1\))からどの媒質(屈折率\(n_2\))へ進むのかを把握します。特に\(n_1 > n_2\)か\(n_1 < n_2\)かを確認することは、全反射の可能性を考える上で不可欠です。
    2. 法線の作図: 境界面に対して垂直な「法線」を必ず描き、入射角・屈折角が法線とのなす角であることを明確にします。作図ミスが失点の大きな原因になります。
    3. 特殊条件のチェック: 「ほぼ真上から見る」「ぎりぎり見える」などの言葉に注目します。「ほぼ真上」なら(2)のような近似式、「ぎりぎり」「限界」なら(3)のような臨界角の条件を適用するサインです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 屈折率の定義式の混同:
    • 誤解: \(n = v/c\) や \(n = \lambda’/\lambda\) のように、分母と分子を逆にしてしまう。
    • 対策: 「屈折率\(n\)は普通1より大きい」「媒質中では速さや波長は小さくなる」というイメージを持つこと。\(n = c/v\) のように、大きい量(\(c\))を小さい量(\(v\))で割ると1より大きくなる、と覚えれば間違いにくくなります。
  • 入射角・屈折角の取り違え:
    • 誤解: 境界面と光のなす角を、入射角や屈折角として使ってしまう。
    • 対策: 「角は必ず法線から測る」と徹底的に意識し、問題を解く前には必ず法線を作図する癖をつけましょう。
  • 全反射の条件の誤解:
    • 誤解: どんな状況でも全反射が起こると思ってしまう。
    • 対策: 全反射は「屈折率・大 → 屈折率・小」のときにしか起こらない、という大前提を忘れないこと。水から空気へは起こるが、空気から水へは起こりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\):
    • 選定理由: (2)や(3)で、異なる媒質間での光の進行方向の変化を扱うため、この法則は不可欠です。問題に「屈折」という現象が含まれている以上、まずこの公式が思考の出発点となります。
    • 適用根拠: この法則は、波の位相が境界面上で滑らかに接続されるという物理的な要請(ホイヘンスの原理など)から導かれる、波に共通の普遍的な性質です。したがって、光が境界面を通過する際には必ず成り立ちます。
  • 近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\):
    • 選定理由: (2)では「ほぼ真上から見る」という条件があり、角度が非常に小さいことが示唆されています。屈折の法則には\(\sin\)が、図形の辺の比には\(\tan\)が現れるため、両者を結びつけるためにこの近似が必要になります。
    • 適用根拠: 角度\(\theta\)がラジアン単位で0に近づくとき、\(\sin\theta\)も\(\tan\theta\)も\(\theta\)自身に近づいていきます(\(\sin\theta \approx \theta\), \(\tan\theta \approx \theta\))。その結果、\(\sin\theta\)と\(\tan\theta\)も互いにほぼ等しい値になります。この数学的な事実が、物理的な計算を簡略化するために利用されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 丁寧な作図を計算の一部と考える: この種の問題では、図がすべてを決めると言っても過言ではありません。法線、入射角、屈折角、そして(3)のような補助的な直角三角形を、フリーハンドでも良いので大きく丁寧に描くことが、立式ミスを防ぐ最善の策です。
  • 文字式のまま計算を進める: (3)のように複数の物理量が登場する計算では、最後まで文字式のまま整理するのが鉄則です。特に、\(R^2 + d^2 = n^2 R^2\) のような式変形では、求めたい文字(\(R^2\))について整理することを意識し、焦らず移項や因数分解を行いましょう。
  • 2乗や平方根の扱いに習熟する: (3)では、平方根を消すために両辺を2乗する操作が出てきます。\(\left(\sqrt{A^2+B^2}\right)^2 = A^2+B^2\) のような基本的な計算を、ミスなく迅速に行えるように練習しておくことが大切です。分母に平方根がある場合は、分母を払ってから2乗すると、計算が楽になることが多いです。

基本例題63 凸レンズによる像

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 座標と倍率の公式を用いた数学的解法
      • 模範解答が「倍率2.0倍で逆向き」という性質から直感的に計算するのに対し、別解では物体と像の先端の座標を設定し、倍率の公式 \(m = \displaystyle\frac{y_{\text{像}}}{y_{\text{物体}}} = -\displaystyle\frac{b}{a}\) を用いて像の移動量を代数的に計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的意味の深化: 倍率の公式に含まれる負号が「倒立」を意味することを数学的に体感でき、公式の物理的意味への理解が深まります。
    • 思考の汎用性向上: より複雑な設定の問題(例:物体が斜めに置かれている場合など)にも対応できる、汎用的な思考法が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凸レンズの写像公式と作図」です。レンズによって物体がどのような像を結ぶかについて、作図による定性的な理解と、公式による定量的な計算の両方ができるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 凸レンズの3つの特徴的な光線: 作図の基本となる3種類の光線の進み方を理解していること(光軸に平行な光、焦点を通る光、中心を通る光)。
  2. 写像公式: 物体の位置\(a\)、像の位置\(b\)、焦点距離\(f\)の関係式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) を正しく使えること。
  3. 倍率の公式: 像の大きさが物体の大きさの何倍になるかを表す式 \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\) を理解していること。
  4. 実像と虚像、倒立と正立: レンズによってできる像の種類と性質を正しく区別できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題で与えられた状況について、3つの特徴的な光線のうち、描きやすい2本を選んで作図し、像の位置を特定します。
  2. (2)では、写像公式を用いて像の位置\(b\)を、倍率の公式を用いて像の大きさを、それぞれ計算します。\(b\)の符号から像の種類(実像/虚像)も判断します。
  3. (3)では、(2)で求めた倍率と、像が倒立であるという性質を利用して、像の移動方向と移動距離を求めます。
  4. (4)では、レンズの働き方の基本原理に立ち返り、レンズを通過する光の量が変化すると像にどのような影響が出るかを考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体の先端から出てレンズに向かう光のうち、進み方がわかっている「3つの特徴的な光線」を描き、それらがレンズを通過した後に交わる点を見つけることで、像の先端の位置を特定します。物体の足は光軸上にあるので、像の足も光軸上にできます。
この設問における重要なポイント

  • 光軸に平行に進んできた光は、レンズを通過した後、後側焦点F’を通る。
  • レンズの中心を通る光は、屈折せずにそのまま直進する。
  • 前側焦点Fを通ってレンズに入射した光は、レンズを通過した後、光軸に平行に進む。
  • これら3本のうち、描きやすい2本を描けば、交点として像の位置が決まる。

具体的な解説と立式
物体の先端から出る、以下の2本の光線を描きます。

  1. 光軸に平行にレンズに入射する光線。この光は、レンズ通過後に後側焦点F’を通るように進みます。
  2. レンズの中心に向かって進む光線。この光は、レンズを通過しても向きを変えずに直進します。

この2本の光線が交わった点が、像の先端となります。物体の足は光軸上にあるので、像の足は、像の先端から光軸に下ろした垂線の足となります。

使用した物理公式

  • 凸レンズの作図の基本原則
計算過程

この設問は作図問題なので、計算過程はありません。定規を使って正確に光線を描くことが求められます。

この設問の平易な説明

レンズがどのように像を作るかを、光の道筋を実際に描いて確かめる問題です。物体のてっぺんから出たたくさんの光のうち、特に進み方が分かりやすい「エリート光線」が3種類あります。今回はそのうちの「まっすぐ進んでレンズに入り、焦点に向かう光」と「レンズの中心をまっすぐ突き抜ける光」の2本を描いてみます。この2本がレンズの向こう側で交わった点が、物体のてっぺんが映る場所、つまり「像のてっぺん」になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの後方で、光軸の下側に、物体より大きな倒立した像ができることがわかります。これは(2)の計算結果と一致することを確認します。

解答 (1) (模範解答の図)

問(2)

思考の道筋とポイント
作図による定性的な理解だけでなく、公式を用いて像の位置と大きさを定量的に計算します。レンズの問題では「写像公式」と「倍率の公式」が二大ツールです。これらの公式に与えられた数値を正しく代入して計算します。
この設問における重要なポイント

  • 写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
  • \(a\): レンズから物体までの距離 (常に正)
  • \(b\): レンズから像までの距離 (\(b>0\)なら実像、\(b<0\)なら虚像)
  • \(f\): 焦点距離 (凸レンズでは正)
  • 倍率の公式: \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\)

具体的な解説と立式
レンズから物体までの距離を\(a\)、レンズから像までの距離を\(b\)、焦点距離を\(f\)とすると、写像公式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$
問題文より、\(a = 30 \, \text{cm}\)、\(f = 20 \, \text{cm}\) です。これらの値を代入して\(b\)を求めます。

像の大きさは、倍率\(m\)を計算することで求められます。物体の大きさを\(h_{\text{物体}}\)、像の大きさを\(h_{\text{像}}\)とすると、
$$ m = \frac{h_{\text{像}}}{h_{\text{物体}}} = \left|\frac{b}{a}\right| $$

使用した物理公式

  • 写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
  • 倍率の公式: \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\)
計算過程

写像公式に \(a=30\), \(f=20\) を代入します。
$$ \frac{1}{30} + \frac{1}{b} = \frac{1}{20} $$
\(\displaystyle\frac{1}{b}\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b} &= \frac{1}{20} – \frac{1}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{60} – \frac{2}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{60}
\end{aligned}
$$
よって、\(b = 60 \, \text{cm}\) となります。
\(b > 0\) なので、レンズの後方 \(60 \, \text{cm}\) の位置にできる実像です。凸レンズによってできる実像は必ず倒立像です。

次に倍率\(m\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
m &= \left|\frac{b}{a}\right| \\[2.0ex]
&= \left|\frac{60}{30}\right| \\[2.0ex]
&= 2.0
\end{aligned}
$$
倍率は2.0倍です。物体の大きさが \(15 \, \text{cm}\) なので、像の大きさ \(h_{\text{像}}\) は、
$$
\begin{aligned}
h_{\text{像}} &= h_{\text{物体}} \times m \\[2.0ex]
&= 15 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 30 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

レンズの性質は、便利な方程式「写像公式」にまとめられています。この公式に、問題文にある「物体の位置(30cm)」と「焦点距離(20cm)」を代入すれば、パズルを解くように「像の位置」を計算できます。計算すると、像はレンズの後ろ60cmの場所にできることがわかります。
また、「倍率の公式」を使えば、像がどれくらい大きくなるかも計算できます。計算すると、倍率は2倍。元の物体の大きさが15cmだったので、像の大きさは30cmになります。計算結果がプラスの値なので、スクリーンに映せる「実像」で、物体とは上下逆さまの「倒立像」であることもわかります。

結論と吟味

像はレンズの後方 \(60 \, \text{cm}\) の位置に、大きさ \(30 \, \text{cm}\) の倒立実像としてできます。これは(1)の作図結果とも整合性がとれており、妥当な結果です。

解答 (2) レンズの後方 60 cm に大きさ 30 cm の倒立実像

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた倍率が2.0倍であること、そしてできる像が「倒立像」であることに着目します。倒立像は、物体の動きに対して上下が反対になります。したがって、物体が下に動けば、像は上に動きます。その移動距離は、物体の移動距離に倍率を掛けたものになります。
この設問における重要なポイント

  • 倒立像は、物体の動きと上下が反転する。
  • 像の移動距離は、物体の移動距離に倍率を掛けた値になる。

具体的な解説と立式
(2)の結果から、このレンズ系での倍率は \(m=2.0\) で、できる像は倒立像です。
物体が下に \(\Delta y_{\text{物体}} = 1.0 \, \text{cm}\) 移動したときの、像の移動距離 \(\Delta y_{\text{像}}\) を考えます。
像は倒立しているので、物体が「下」に動くと、像は「上」に動きます。
移動距離の大きさは、倍率を掛けることで求められます。
$$ \Delta y_{\text{像}} = \Delta y_{\text{物体}} \times m $$

使用した物理公式

  • 倍率の概念
計算過程

物体の移動距離は \(1.0 \, \text{cm}\)、倍率は \(2.0\) なので、像の移動距離は、
$$
\begin{aligned}
\Delta y_{\text{像}} &= 1.0 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 2.0 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
移動方向は、物体が「下」なので、その反対の「上」向きです。

この設問の平易な説明

(2)で、像は物体と上下さかさま(倒立)で、大きさが2倍になることがわかりました。この「さかさま・2倍」という関係は、動きにも当てはまります。物体が下に1.0cm動くと、像はさかさまの向き、つまり上に、2倍の距離である2.0cm動く、というわけです。

結論と吟味

像は上に \(2.0 \, \text{cm}\) 移動します。倍率が1より大きいので、像の移動距離が物体の移動距離より大きくなるのは妥当です。

解答 (3) 上に 2.0 cm 移動する
別解: 座標と倍率の公式を用いた数学的解法

思考の道筋とポイント
光軸をx軸、レンズの中心を原点とする座標系を設定します。倍率の公式を、正立・倒立の情報を含む \(m = \displaystyle\frac{y_{\text{像}}}{y_{\text{物体}}} = -\displaystyle\frac{b}{a}\) の形で用います。物体の移動前後のy座標から、像の移動前後のy座標をそれぞれ計算し、その差を求めることで像の移動方向と距離を厳密に導出します。

この設問における重要なポイント

  • 座標系を設定し、光軸からの距離をy座標で表す(上向きを正とする)。
  • 倍率の公式 \(m = \displaystyle\frac{y_{\text{像}}}{y_{\text{物体}}} = -\displaystyle\frac{b}{a}\) の負号が倒立を意味することを活用する。

具体的な解説と立式
光軸をx軸、レンズの中心を原点とし、上下方向をy軸(上向きを正)とします。
物体の大きさは \(15 \, \text{cm}\) なので、移動前の物体の先端のy座標は \(y_{\text{物体}} = +15 \, \text{cm}\) です。
物体を下に \(1.0 \, \text{cm}\) 動かすと、移動後の物体の先端のy座標は \(y’_{\text{物体}} = 15 – 1.0 = +14 \, \text{cm}\) となります。
像のy座標は、\(y_{\text{像}} = y_{\text{物体}} \left( -\displaystyle\frac{b}{a} \right)\) の関係式を使って計算できます。

計算過程

(2)より \(a=30\), \(b=60\) なので、\(-\displaystyle\frac{b}{a} = -\displaystyle\frac{60}{30} = -2.0\) です。
移動前の像の先端のy座標 \(y_{\text{像}}\) は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{像}} &= y_{\text{物体}} \times \left( -\frac{b}{a} \right) \\[2.0ex]
&= 15 \times (-2.0) \\[2.0ex]
&= -30 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
移動後の像の先端のy座標 \(y’_{\text{像}}\) は、
$$
\begin{aligned}
y’_{\text{像}} &= y’_{\text{物体}} \times \left( -\frac{b}{a} \right) \\[2.0ex]
&= 14 \times (-2.0) \\[2.0ex]
&= -28 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
像のy座標の変化量 \(\Delta y_{\text{像}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta y_{\text{像}} &= y’_{\text{像}} – y_{\text{像}} \\[2.0ex]
&= (-28) – (-30) \\[2.0ex]
&= +2.0 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
変化量が正の値なので、像はy軸の正の向き、つまり「上」に \(2.0 \, \text{cm}\) 移動したことがわかります。

この設問の平易な説明

物体や像の「光軸からの高さ」を、プラス・マイナスを含む座標で表してみる方法です。まず、最初の物体の高さ(+15cm)から、計算で像の高さ(-30cm)を求めます。次に、下に1.0cm動かした後の物体の高さ(+14cm)から、同じ計算で動いた後の像の高さ(-28cm)を求めます。
像の高さが「-30cm」から「-28cm」に変化したということは、座標が2.0cm増えた(プラス方向に動いた)ということです。座標のプラス方向は「上」なので、像は上に2.0cm動いた、と数学的に正確に求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と同じく、像は上に \(2.0 \, \text{cm}\) 移動するという結果が得られました。この方法は、倍率の公式の符号の意味を明確にしながら計算を進めるため、より厳密で間違いの少ないアプローチと言えます。

解答 (3) 上に 2.0 cm 移動する

問(4)

思考の道筋とポイント
レンズの基本的な働きに立ち返って考えます。物体の先端の1点から出た光は、レンズの「全面」に広がりながら進み、それらの光がレンズによって屈折させられて、像の先端の1点に再び集まります。レンズの一部を覆うと、この「光が集まる」というプロセスにどのような影響が出るかを考察します。
この設問における重要なポイント

  • 像の1点は、物体の対応する1点から出た光が、レンズ全体を通過して集まることで形成される。
  • レンズの一部を覆うと、通過する光線の本数、すなわち光の量が減少する。
  • 光が集まる位置(像の位置)は変わらないが、光の量が減るため、像は暗くなる。

具体的な解説と立式
物体の先端から出た光は、あらゆる方向に放射されます。そのうち、レンズに向かった光は、レンズの上半分、下半分を含むレンズ全体で屈折し、像の先端の一点に集まります。
ここでレンズの下半分を黒い紙で覆うと、下半分を通過するはずだった光線は遮られます。しかし、上半分を通過する光線は依然として存在し、それらは変わらずに同じ点に集まります。
したがって、像が消えることはなく、形や位置も変わりません。ただし、像を形成するために集まる光線の本数が(おおよそ半分に)減るため、像全体の明るさが暗くなります。

使用した物理公式

  • レンズによる結像の原理(定性的理解)
計算過程

この設問は定性的な理解を問う問題なので、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

大きな窓を想像してください。窓の下半分をカーテンで隠しても、外の景色が見えなくなるわけではなく、部屋の中が少し暗くなるだけですよね。レンズもこれと似ています。
物体のてっぺんから出た光は、レンズの全面に当たって像のてっぺんを作ります。レンズの下半分を隠しても、残った上半分がちゃんと仕事をして、同じ場所に像を作ってくれます。なので、像が半分消えたりはしません。ただし、レンズに入ってくる光の量が減ってしまうので、できる像は全体的に暗くなります。

結論と吟味

レンズの下半分を覆うと、像は消えずに形も大きさも変わらないが、全体として暗くなります。これは実験で確かめることができる事実とも一致しており、妥当な結論です。

解答 (4) 暗くなる

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズの写像公式と作図法の統合的理解:
    • 核心: この問題の根幹は、レンズによる結像現象を、「作図」という幾何学的なアプローチと、「写像公式・倍率公式」という代数的なアプローチの両方から、矛盾なく説明できる能力にあります。
    • 理解のポイント:
      • 作図(定性的理解): 3つの特徴的な光線(光軸に平行な光、中心を通る光、焦点を通る光)の振る舞いを正確に記憶し、それらが交わる点に像ができるという原理を理解することが、現象の全体像を直感的に掴むための基礎となります。
      • 公式(定量的理解): 写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) と倍率の公式 \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\) は、作図で得られる結果を、数値で精密に計算するための強力なツールです。特に、各文字(\(a, b, f\))の符号が持つ物理的な意味(実像/虚像、凸レンズ/凹レンズ)を正確に理解することが重要です。
  • 結像の物理的本質:
    • 核心: (4)で問われているように、「物体の1点から出た光が、レンズの全面を通って、像の1点に集まる」という結像の基本原理を理解していることが、応用問題を解く上で不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • レンズは光を集める(または発散させる)装置です。像は、光線が1本だけで作られるのではなく、レンズを通過した無数の光線が集まることで形成されます。この本質を理解していれば、レンズの一部を覆っても像は消えず、ただ暗くなるだけ、という結論が自然に導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹レンズの問題: 同じ写像公式を使いますが、焦点距離\(f\)を負の値として代入する必要があります。凹レンズでは常に正立虚像ができることを、作図と計算の両方で確認する問題に応用できます。
    • 虚像ができる条件の問題: 凸レンズでも、物体を焦点の内側(\(a < f\))に置くと、正立虚像ができます。このとき、写像公式を計算すると\(b\)が負の値になることを確認し、作図結果と一致させる問題に応用できます。
    • レンズを組み合わせる問題(2枚レンズ系): 1枚目のレンズが作る像を、2枚目のレンズの「物体」とみなして、写像公式を2回適用することで解くことができます。1枚目のレンズが作る実像が、2枚目のレンズの後方にできる場合(虚物体)など、複雑な状況にも対応できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズの種類と物体の位置を確認: まず、凸レンズか凹レンズかを確認します。次に、物体が焦点距離\(f\)に対してどの位置(\(a > 2f\), \(f < a < 2f\), \(a=f\), \(a < f\))にあるかを確認します。これにより、できる像の種類(実像/虚像、倒立/正立、拡大/縮小)を大まかに予測できます。
    2. 符号のルールを徹底: 計算を始める前に、使う文字の符号のルールを再確認します。「物体距離\(a\)は常に正、凸レンズの焦点距離\(f\)は正、凹レンズは負。計算結果の像距離\(b\)が正なら実像、負なら虚像」というルールを機械的に適用します。
    3. 作図と計算の連携: まず大まかに作図して像の様子を予測し、その予測が計算結果と合っているかを確認する癖をつけると、ケアレスミスを大幅に減らせます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 写像公式の逆数の計算ミス:
    • 誤解: \(\displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{60}\) と計算した後、答えを \(\displaystyle\frac{1}{60}\) と書いてしまう。
    • 対策: 最後に必ず逆数をとって \(b\) の値を求めることを忘れないように、意識的に注意します。計算の最終段階で「\(\leftarrow\) 逆数をとる!」などとメモを残すのも有効です。
  • 倍率の公式の符号の混同:
    • 誤解: 倍率を常に \(m = b/a\) としてしまい、倒立像の移動方向などを間違える。
    • 対策: 倍率には2つの側面があると整理します。像の「大きさ」だけを知りたいときは、絶対値をとった \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\) を使います。像の「向き(正立/倒立)」まで含めて考えたいときは、(3)の別解のように座標を導入し、\(y_{\text{像}}/y_{\text{物体}} = -b/a\) という符号付きの公式を使うと、混乱が少なくなります。
  • レンズを覆う問題の誤解:
    • 誤解: レンズの下半分を覆うと、像の下半分が消える、と考えてしまう。
    • 対策: 「物体の1点 ⇔ 像の1点」の対応は、「レンズの全面」を介して行われる、という原理をしっかり理解することが根本的な対策です。1本の光線が像を作るのではなく、光線束(光の束)が集まって像を作るイメージを持ちましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\):
    • 選定理由: (2)で像の位置という「定量的」な情報を正確に求めるために、この公式は必須です。作図だけでは正確な数値を求めることは困難であり、幾何学的な関係を代数的に処理するためにこの公式が選ばれます。
    • 適用根拠: この公式は、レンズの厚さが十分に薄いと仮定した上で、光の屈折の法則を幾何学的に適用し、三角形の相似関係などを用いて導出されたものです。つまり、光の波動性や回折といった複雑な現象を無視し、光を直線(光線)として扱える範囲での非常に良い近似式となっています。
  • 倍率の公式 \(m = -b/a\):
    • 選定理由: (3)で物体の動きと像の動きの関係を調べるために選ばれました。特に、符号付きの公式 \(m = -b/a\) を使うことで、像の移動方向(上下)という向きの情報まで含めて、代数的に処理することができます。
    • 適用根拠: この公式もまた、作図における物体と像の三角形の相似関係から直接導かれます。物体側の三角形(高さ\(y_{\text{物体}}\), 底辺\(a\))と像側の三角形(高さ\(y_{\text{像}}\), 底辺\(b\))が相似であることから、高さの比と底辺の比が等しくなるという関係に基づいています。負号は、実像の場合にy座標の符号が反転すること(倒立)を表しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 分数の計算は通分から丁寧に: (2)の \(\displaystyle\frac{1}{20} – \displaystyle\frac{1}{30}\) のような計算は、焦って暗算すると間違いのもとです。最小公倍数(この場合は60)を見つけて、\(\displaystyle\frac{3}{60} – \displaystyle\frac{2}{60}\) のように、一つ一つ丁寧にステップを踏んで計算する癖をつけましょう。
  • 単位を意識する: 問題で与えられている長さの単位が cm なのか m なのかを最初に確認します。この問題ではすべて cm で統一されているため問題ありませんが、異なる単位が混在している場合は、計算前にどちらかに統一する「儀式」を必ず行いましょう。
  • 定性的な予測を立てる: 物体が焦点距離の2倍(40cm)より内側で、焦点(20cm)より外側にある(\(f < a < 2f\))ことから、「できる像は倒立の実像で、大きさは物体より大きい(倍率>1)」と計算前に予測できます。この予測と計算結果が一致するかを最後に確認することで、検算の代わりになります。

基本例題64 凹面鏡による像

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 写像公式を用いた数式的な分析
      • 模範解答が定性的な考察で結論を導くのに対し、別解では写像公式と倍率の公式を、物体の位置を表す変数\(a\)の関数とみなし、物体を近づける(\(a\)を減少させる)ときに像の位置\(b\)と倍率\(m\)がどのように変化するかを数学的に解析します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 定性的な物理的直感を、数式を用いて定量的に裏付ける経験ができます。
    • 物理法則を数学的な関数として捉え、その振る舞いを分析する能力が養われます。
    • 極限の考え方を物理に応用する良い練習になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凹面鏡による虚像の形成」です。レンズと同様の作図法や公式を、凹面鏡に対して正しく適用できるかが問われます。特に、物体が焦点の内側にある場合にできる「正立虚像」の扱いに習熟することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 凹面鏡の作図法: 凹面鏡に特有の光線の進み方を理解していること(主軸に平行な光は焦点へ、焦点から出たように進む光は平行に)。
  2. 写像公式: レンズと全く同じ形の公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) が、鏡にも適用できることを知っていること。
  3. 符号のルール: 凹面鏡の焦点距離\(f\)は正、凸面鏡は負。計算結果として像の位置\(b\)が負になった場合、それは鏡の後方にできる「虚像」を意味することを理解していること。
  4. 倍率と像の種類: 倍率の公式 \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\) を使えること。また、凹面鏡でできる虚像は常に「正立」であることを知っていること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、凹面鏡の作図のルールに従い、特徴的な光線を2本描きます。反射光が鏡の前方で交わらないため、その延長線が交わる点として、鏡の後方に虚像を描きます。
  2. (2)では、写像公式と倍率の公式に与えられた数値を代入し、像の位置、大きさ、種類を定量的に計算します。
  3. (3)では、物体を鏡に近づけたときの極限の状態(物体が鏡に接したとき)を考え、その間の像の変化を定性的に考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体の先端から出て凹面鏡で反射する光のうち、進み方がわかっている「特徴的な光線」を2本描き、それらの反射光の延長線が交わる点を見つけることで、虚像の先端の位置を特定します。
この設問における重要なポイント

  • 主軸に平行に凹面鏡に入射した光は、反射後、焦点Fを通る。
  • 焦点Fから出たかのように凹面鏡に入射した光は、反射後、主軸に平行に進む。
  • 凹面鏡の頂点(中心)に入射した光は、主軸を法線として、入射角と反射角が等しくなるように反射する。
  • 物体が焦点の内側にあるため、反射光は鏡の前方では広がってしまい交わらない。これらの反射光を鏡の後方に延長した線が交わる点に、虚像ができる。

具体的な解説と立式
物体の先端から出る、以下の2本の光線を描きます。

  1. 主軸に平行に凹面鏡に入射する光線。この光は、反射したのち焦点Fを通るように進みます。
  2. 焦点Fから出たかのように、物体の先端から焦点Fとを結ぶ直線上を鏡に向かう光線。この光は、鏡で反射したのち主軸に平行に進みます。

この2本の反射光は鏡の前方では交わらないため、それぞれを鏡の後方へまっすぐ延長します。延長線が交わった点が、虚像の先端となります。

使用した物理公式

  • 凹面鏡の作図の基本原則
計算過程

この設問は作図問題なので、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

凹面鏡をのぞき込むと、自分の顔が大きく見えることがあります。これは、顔(物体)が焦点より鏡に近いときに、鏡の向こう側に大きく見える「虚像」ができているからです。この問題では、その虚像がどこにできるかを、光の道筋を作図して探します。物体のてっぺんから出た光が鏡で反射した後の進路を2本描き、それらの線を鏡の裏側へ伸ばしていくと、交わった点に像のてっぺんが見つかります。

結論と吟味

作図の結果、凹面鏡の後方に、物体よりも大きい正立虚像ができることがわかります。これは(2)の計算結果と定性的に一致します。

解答 (1) (模範解答の右図)

問(2)

思考の道筋とポイント
作図で確認した像の性質を、写像公式と倍率の公式を用いて定量的に裏付けます。凹面鏡でもレンズと全く同じ公式が使えること、そして符号のルールを正しく適用することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
  • \(a\): 鏡から物体までの距離 (\(a=15 \, \text{cm}\))
  • \(f\): 焦点距離(凹面鏡では正。\(f=30 \, \text{cm}\))
  • \(b\): 鏡から像までの距離。計算結果が負(\(b<0\))なら、鏡の後方にできる虚像を意味する。
  • 倍率の公式: \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\)

具体的な解説と立式
鏡から物体までの距離を\(a\)、鏡から像までの距離を\(b\)、焦点距離を\(f\)とすると、写像公式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$
問題文より、\(a = 15 \, \text{cm}\)、\(f = 30 \, \text{cm}\) です。これらの値を代入して\(b\)を求めます。

像の大きさは、倍率\(m\)を計算することで求められます。物体の大きさを\(h_{\text{物体}}\)、像の大きさを\(h_{\text{像}}\)とすると、
$$ m = \frac{h_{\text{像}}}{h_{\text{物体}}} = \left|\frac{b}{a}\right| $$

使用した物理公式

  • 写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
  • 倍率の公式: \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right|\)
計算過程

写像公式に \(a=15\), \(f=30\) を代入します。
$$ \frac{1}{15} + \frac{1}{b} = \frac{1}{30} $$
\(\displaystyle\frac{1}{b}\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b} &= \frac{1}{30} – \frac{1}{15} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{30} – \frac{2}{30} \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{30}
\end{aligned}
$$
よって、\(b = -30 \, \text{cm}\) となります。
\(b < 0\) なので、これは凹面鏡の後方 \(30 \, \text{cm}\) の位置にできる虚像であることを意味します。凹面鏡によってできる虚像は常に正立像です。

次に倍率\(m\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
m &= \left|\frac{b}{a}\right| \\[2.0ex]
&= \left|\frac{-30}{15}\right| \\[2.0ex]
&= 2.0
\end{aligned}
$$
倍率は2.0倍です。物体の大きさが \(10 \, \text{cm}\) なので、像の大きさ \(h_{\text{像}}\) は、
$$
\begin{aligned}
h_{\text{像}} &= h_{\text{物体}} \times m \\[2.0ex]
&= 10 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 20 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

レンズで使った便利な「写像公式」は、凹面鏡でもそのまま使えます。この公式に「物体と鏡の距離(15cm)」と「焦点距離(30cm)」を代入して計算すると、像の位置が「-30cm」と求まります。この「マイナス」は、「鏡の裏側」に像ができることを示しています。鏡の裏側にできる像は、スクリーンには映せない「虚像」です。
また、「倍率の公式」で大きさを計算すると2.0倍となり、元の大きさが10cmだったので、像の大きさは20cmになります。

結論と吟味

像は凹面鏡の後方 \(30 \, \text{cm}\) の位置に、大きさ \(20 \, \text{cm}\) の正立虚像としてできます。これは(1)の作図結果と整合性がとれており、妥当な結果です。

解答 (2) 凹面鏡の後方 30 cm に大きさ 20 cm の正立虚像

問(3)

思考の道筋とポイント
物体を凹面鏡に近づける、つまり物体距離\(a\)を \(15 \, \text{cm}\) から \(0\) に近づけていくと、像の位置\(b\)と大きさ(倍率\(m\))がどのように変化するかを考えます。このような変化を考える際は、始点(現在の状態)と終点(極限の状態)を比較するのが有効です。
この設問における重要なポイント

  • 始点の状態 (\(a=15\)): (2)より、像は後方30cmの位置にあり、大きさは20cm(倍率2.0倍)。
  • 終点の状態 (\(a \to 0\)): 物体が鏡面にほぼ接している状態を考える。このとき、像も鏡面にほぼ接した位置にでき、大きさは物体とほぼ同じになるはず(倍率が1に近づく)。
  • この始点と終点をつなぐことで、像の動きを推測する。

具体的な解説と立式
物体を凹面鏡に近づける、つまり物体距離\(a\)を \(15 \, \text{cm} \to 0\) と変化させます。
(2)で求めた始点の状態は、像の位置が \(b = -30 \, \text{cm}\)(後方30cm)、像の大きさが \(20 \, \text{cm}\) です。
終点の状態、つまり物体が凹面鏡に限りなく近づいた(\(a \to 0\))ときを考えます。このとき、鏡はただの平面鏡のように振る舞い、像は鏡面にでき(\(b \to 0\))、大きさは物体と同じ(\(h_{\text{像}} \to 10 \, \text{cm}\)、倍率 \(m \to 1\))になります。
したがって、物体を凹面鏡に近づけていくと、正立虚像は後方30cmの位置から凹面鏡に向かって近づき、その大きさは20cmから10cmへと小さくなっていきます。

使用した物理公式

  • 結像の定性的理解
計算過程

この設問は定性的な考察を問う問題なので、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

手鏡(凹面鏡の場合)に自分の顔を映しながら、顔をどんどん鏡に近づけていく状況を想像してみましょう。最初は鏡の奥に大きく見えていた顔(像)が、顔を近づけるにつれて、鏡の中の顔もこちらに近づいてきて、大きさもだんだん実際の顔の大きさに近づいていきます。この問題もそれと同じで、物体を鏡に近づけると、鏡の裏側にできていた像も鏡に近づき、大きさは小さくなっていきます。

結論と吟味

正立虚像は凹面鏡に近づき、大きさは小さくなって物体の大きさである \(10 \, \text{cm}\) に近づきます。これは日常的な経験とも一致する妥当な結論です。

解答 (3) 正立虚像は凹面鏡に近づき、大きさは小さくなって 10 cm に近づく
別解: 写像公式を用いた数式的な分析

思考の道筋とポイント
定性的な考察だけでなく、写像公式と倍率の公式を物体距離\(a\)の関数とみなし、\(a\)が \(15 \, \text{cm}\) から \(0\) に減少するときの、像の位置\(b(a)\)と倍率\(m(a)\)の振る舞いを数学的に厳密に調べます。

この設問における重要なポイント

  • 写像公式を変形し、\(b\) を \(a\) の関数として表す: \(b = \displaystyle\frac{af}{a-f}\)
  • 倍率の公式も \(a\) の関数として表す: \(m = \left|\displaystyle\frac{b}{a}\right| = \left|\displaystyle\frac{f}{a-f}\right|\)
  • 変数\(a\)が \(15 \to 0\) と変化するときの、関数 \(b(a)\) と \(m(a)\) の値の変化を追跡する。

具体的な解説と立式
写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) を \(b\) について解くと、
$$ b = \frac{af}{a-f} $$
また、倍率 \(m\) は、
$$ m = \left|\frac{b}{a}\right| = \left|\frac{f}{a-f}\right| $$
これらの式に \(f=30\) を代入し、\(a\) を \(15\) から \(0\) に近づけたときの \(b\) と \(m\) の変化を分析します。

計算過程

1. 像の位置 \(b\) の変化:
$$ b(a) = \frac{30a}{a-30} $$

  • \(a=15\) のとき:
    $$
    \begin{aligned}
    b(15) &= \frac{30 \times 15}{15-30} \\[2.0ex]
    &= \frac{450}{-15} \\[2.0ex]
    &= -30 \, \text{cm}
    \end{aligned}
    $$
  • \(a \to 0\) のとき:
    $$
    \begin{aligned}
    b(a) &\to \frac{30 \times 0}{0-30} \\[2.0ex]
    &= 0 \, \text{cm}
    \end{aligned}
    $$

像の位置\(b\)は \(-30 \, \text{cm}\) から \(0 \, \text{cm}\) へと変化します。\(b\)の絶対値が減少しているので、像は凹面鏡に近づくことがわかります。

2. 像の大きさ(倍率 \(m\))の変化:
$$ m(a) = \left|\frac{30}{a-30}\right| $$

  • \(a=15\) のとき:
    $$
    \begin{aligned}
    m(15) &= \left|\frac{30}{15-30}\right| \\[2.0ex]
    &= \left|\frac{30}{-15}\right| \\[2.0ex]
    &= 2.0
    \end{aligned}
    $$
  • \(a \to 0\) のとき:
    $$
    \begin{aligned}
    m(a) &\to \left|\frac{30}{0-30}\right| \\[2.0ex]
    &= \left|\frac{30}{-30}\right| \\[2.0ex]
    &= 1.0
    \end{aligned}
    $$

倍率\(m\)は \(2.0\) から \(1.0\) へと減少します。したがって、像の大きさは小さくなり、物体の大きさ \(10 \, \text{cm}\) に近づいていきます。

この設問の平易な説明

物理の法則を、数学の「関数」の考え方を使って分析する方法です。像の位置\(b\)や倍率\(m\)を、物体の位置\(a\)を使った数式で表します。すると、\(b\)と\(m\)が\(a\)の値によってどう変わるかが一目でわかります。
この数式に、物体の位置としてスタート地点の\(a=15\)と、ゴール地点の\(a=0\)を代入してみます。すると、像の位置\(b\)は-30から0に、倍率\(m\)は2から1に変化することが計算で確かめられます。これにより、「像は鏡に近づき、大きさは小さくなる」という結論を、数学的にきっちりと示すことができます。

結論と吟味

数式的な分析により、物体を凹面鏡に近づけると、正立虚像は凹面鏡に近づき(\(b\)が\(-30 \to 0\))、大きさは小さくなる(\(m\)が\(2 \to 1\))ことが厳密に示されました。これは主たる解法の定性的な考察と完全に一致します。

解答 (3) 正立虚像は凹面鏡に近づき、大きさは小さくなって 10 cm に近づく

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズと鏡に共通の写像公式の適用:
    • 核心: この問題の根幹は、レンズで学んだ「写像公式」と「倍率の公式」が、凹面鏡や凸面鏡にも全く同じ形で適用できるという普遍性を理解し、使いこなすことにあります。
    • 理解のポイント:
      • 公式の統一性: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) という一つの式が、レンズと球面鏡の両方を支配していることを認識することが重要です。物理現象は異なっても、幾何光学的な近似のもとでは同じ数学的構造が現れます。
      • 符号ルールの重要性: 公式が同じである分、各物理量(特に焦点距離\(f\)と像距離\(b\))の符号が持つ意味を正確に覚えることが、レンズと鏡を区別し、正しく問題を解くための鍵となります。
        • 焦点距離 \(f\): 光を集める性質を持つもの(凸レンズ、凹面鏡)は正。光を発散させる性質を持つもの(凹レンズ、凸面鏡)は負。
        • 像距離 \(b\): 光が実際に集まってできる実像(スクリーンのある側)は正。光の延長線が結ぶ虚像(観測者から見て向こう側)は負。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹面鏡で実像ができる問題: 物体を焦点の外側(\(a > f\))に置くと、凹面鏡は倒立実像を作ります。この場合、計算すると\(b\)は正の値になります。自動車のヘッドライトの反射鏡などはこの原理を応用しています。
    • 凸面鏡の問題: 凸面鏡は常に正立縮小虚像を作ります。写像公式では焦点距離\(f\)を負として計算します。カーブミラーや自動車のサイドミラーがこの例です。
    • 像の移動を追う問題: (3)のように物体を動かしたときに像がどう動くかを問う問題は頻出です。別解で示したように、\(b\)や\(m\)を\(a\)の関数として数式で追いかける方法は、あらゆる状況に応用できる強力なテクニックです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 鏡の種類を特定し、fの符号を決定: 問題文から「凹面鏡」か「凸面鏡」かを読み取り、真っ先に焦点距離\(f\)の符号(凹なら正、凸なら負)を確定させます。これが最初の、そして最も重要なステップです。
    2. 物体の位置と焦点の関係を確認: 物体が焦点の内側にあるか(\(a < f\))、外側にあるか(\(a > f\))を確認します。凹面鏡の場合、これにより虚像ができるか実像ができるかが決まります。
    3. 作図で大まかな見当をつける: 計算を始める前に、簡単な作図をすることで、像がどのあたりに、どの向きで、どのくらいの大きさでできるかを見積もります。この定性的な予測が、計算ミスを防ぐための有効なセルフチェックになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 焦点距離fの符号ミス:
    • 誤解: 凹面鏡なのに、レンズの感覚で\(f\)を負としてしまう、あるいはその逆。
    • 対策: 「光を集めるのが正(プラスイメージ)、発散させるのが負(マイナスイメージ)」という覚え方が有効です。凸レンズと凹面鏡は光を集めるので\(f>0\)、凹レンズと凸面鏡は光を発散させるので\(f<0\)、とグループで記憶しましょう。
  • 虚像の位置の解釈ミス:
    • 誤解: 計算で \(b = -30\) と出たときに、「鏡の前方30cm」と答えてしまう。
    • 対策: 符号の意味を明確に覚えることが不可欠です。「\(b\)が負なら虚像」であり、「虚像は鏡の裏側(光が実際には到達しない側)にできる」とセットで記憶します。
  • 作図における光線の混同:
    • 誤解: 凹面鏡の作図で、レンズのルール(平行な光が後側焦点へ)をそのまま適用しようとして混乱する。
    • 対策: 鏡は「反射」、レンズは「屈折」という基本動作の違いを意識します。鏡の場合、光は鏡を透過せず、同じ側に戻ってきます。したがって、焦点も鏡の前方に一つだけ(厳密には曲率中心もある)と考えるのが基本です。作図ルールを機械的に暗記するのではなく、反射の法則に基づいていることを理解するのが理想です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\):
    • 選定理由: (2)で像の位置や種類を「定量的」に決定するために、この公式が唯一の選択肢となります。作図は定性的な理解には役立ちますが、正確な数値を求めるには代数的な計算が必要です。
    • 適用根拠: この公式は、球面鏡の面が主軸に対して十分に開いていない(近軸光線)という近似のもと、光の反射の法則と三角形の相似関係を用いて導出されます。レンズの場合と同様に、光を直線として扱える幾何光学の範囲で成り立つ関係式です。
  • 関数の考え方の導入:
    • 選定理由: (3)の別解では、物体を「動かした」ときの像の変化を連続的に捉えるために、像の位置\(b\)や倍率\(m\)を物体位置\(a\)の「関数」として扱いました。これにより、単なる点の計算ではなく、変化の傾向(近づく/遠ざかる、大きくなる/小さくなる)を数学的に明確に分析できます。
    • 適用根拠: 物理法則は、多くの場合、変数間の関数関係として記述されます。写像公式もその一つであり、これを\(b(a)\)や\(m(a)\)の形に書き直すことは、物理法則を数学のツールで分析するための正当な操作です。特に、極限(\(a \to 0\))を考えることで、物理的な直感(鏡に近づけば像も近づく)を数式で裏付けることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の確認を儀式化する: 計算を始める前に、問題用紙の隅にでも「凹面鏡 \(\rightarrow f > 0\), \(a=15\), \(f=30\). \(a<f\)なので虚像のはず(\(b<0\))」のように、符号に関する情報を書き出すことを習慣にしましょう。この一手間が致命的なミスを防ぎます。
  • 逆数の計算を慎重に: (2)の \(\displaystyle\frac{1}{b} = -\displaystyle\frac{1}{30}\) のような計算では、最後に \(b=-30\) と逆数をとるのを忘れないように、指差し確認するくらいの慎重さが必要です。
  • 単位を省略しない: 計算の最終結果には、必ず「cm」などの単位を付ける癖をつけましょう。単位を意識することで、自分が何を求めているのか(距離なのか、倍率なのか)を常に明確に保つことができ、ケアレスミスを防ぎます。
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基本問題

327 光の速さ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等速直線運動の公式の基本的な応用」です。物理学の最も基本的な関係式の一つを、天文学的なスケールの数値に適用する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等速直線運動の関係式: 距離、速さ、時間の三要素の関係式 \(x=vt\) を理解していること。
  2. 指数計算: \(10\)のべき乗で表された大きな数値の割り算を、指数法則を用いて正確に処理できること。
  3. 有効数字: 与えられた物理量の有効数字を読み取り、計算結果を適切な桁数で表現できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、移動距離 \(x\) と速さ \(v\) の値を特定します。
  2. 等速直線運動の公式 \(x=vt\) を、求めたい量である時間 \(t\) について変形します。
  3. 式に数値を代入し、指数部分と係数部分を分けて計算し、最後に有効数字を考慮して答えをまとめます。
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