基本例題
基本例題59 音源が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: ドップラー効果の波長の公式を直接用いる解法
- 模範解答が1秒間の波の圧縮を考えるのに対し、別解では波長変化の公式に直接数値を代入して導出します。
- 設問(2)の別解: ドップラー効果の振動数の公式を直接用いる解法
- 模範解答が(1)で求めた波長を利用するのに対し、別解では振動数変化の公式を用いて(1)とは独立に直接導出します。
- 設問(1)の別解: ドップラー効果の波長の公式を直接用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: ドップラー効果の原理(波の圧縮)から波長を求める方法と、それをまとめた公式を用いる方法を比較することで、現象と公式の関係性への理解が深まります。
- 解法の効率化: 公式を正しく記憶していれば、より少ないステップで迅速に答えを導き出せることを学べます。
- 思考の柔軟性向上: (2)を(1)の結果に依存せずに解く方法を知ることで、設問間の関連性にとらわれない多角的なアプローチが可能になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「音源が動く場合のドップラー効果」です。音源が動くことで、音波が進行方向で「圧縮」され、波長が短く(振動数が高く)観測される現象を、定量的に理解できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: 音速\(V\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間の関係式 \(V=f\lambda\) を理解していること。
- ドップラー効果の原理: 音源が動くとき、1秒間に出された波がどの空間に詰め込まれるかを考えることで、観測される波長の変化を導出できること。
- 音速の不変性: 観測者が聞く音の速さは、音源の運動によらず、媒質(空気)によって決まる一定の値 \(V\) であることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、1秒という単位時間に着目します。この間に音の先頭が進む距離と音源自身が進む距離の差を求め、その区間に存在する波の数(=元の振動数)で割ることで、圧縮された波長を計算します。
- (2)では、(1)で求めた波長 \(\lambda\) の波が、音速 \(V\) で静止した観測者の耳を通過する状況を考え、波の基本式 \(V=f\lambda\) を用いて観測される振動数 \(f\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源(自動車)が音を出しながら観測者に向かって進むため、音波は進行方向で「圧縮」されます。その結果、波長は元の波長よりも短くなります。この圧縮された波長を求めるには、1秒間に何個の波が、どれだけの長さの区間に存在するのかを考えるのが最も基本的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 1秒間に音源から送り出される波の数は、音源の振動数 \(f_0\) に等しい。
- 1秒後、最初に発せられた音の先頭は、音速 \(V\) で \(V \times 1\) [m] の位置に達する。
- 1秒後、音源自身は、速さ \(v_s\) で \(v_s \times 1\) [m] の位置に達する。
- したがって、1秒間に出された \(f_0\) 個の波は、\(V – v_s\) [m] の区間に詰め込まれている。
具体的な解説と立式
サイレンの振動数が \(f_0 = 800\) Hz なので、音源は1秒間に800個の波を送り出します。
1秒間で、
- 最初に発せられた音の先頭は、音速 \(V = 340\) m/s で進むので、\(340\) m 前方の位置に達します。
- 音源である自動車は、速さ \(v_s = 20\) m/s で進むので、\(20\) m 前方の位置に達します。
この結果、1秒後には、1秒間(\(t=0\) から \(t=1\) の間)に送り出された800個の波は、先頭の音(\(340\) m地点)と最後の音を出した音源(\(20\) m地点)の間の空間に存在することになります。
この空間の長さ \(L\) は、
$$ L = V – v_s $$
この長さ \(L\) の区間に \(f_0\) 個の波が均等に存在するので、観測される波長 \(\lambda’\) は、全体の長さを波の数で割ることで求められます。
$$ \lambda’ = \frac{L}{f_0} = \frac{V – v_s}{f_0} $$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
- 波長の定義: \(\lambda = \displaystyle\frac{(\text{波全体の長さ})}{(\text{波の個数})}\)
上記で立式した関係に、与えられた数値を代入します。
まず、800個の波が存在する区間の長さ \(L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
L &= 340 – 20 \\[2.0ex]
&= 320 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この \(320\) m の区間に800個の波があるので、波長 \(\lambda’\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{320}{800} \\[2.0ex]
&= \frac{32}{80} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{10} \\[2.0ex]
&= 0.400 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
自動車が「ヤー!」と叫びながら前に進むと、声がぎゅっと詰まって前方に伝わるイメージです。
1秒間に、音は \(340\) m進みますが、自動車も \(20\) m追いかけてきます。その結果、1秒間に出した800個の波は、\(340 – 20 = 320\) mのスペースに押し込められます。
波1個あたりの長さ(波長)を知りたいので、この \(320\) mという長さを、波の数である800個で割り算すればよい、というわけです。
自動車の前方に伝わる音の波長は \(0.400\) m となります。音源が観測者に近づいているため、波長は元の波長 \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{V}{f_0} = \displaystyle\frac{340}{800} = 0.425\) m よりも短くなっており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
音源が速さ \(v_s\) で動くときの、進行方向の波長 \(\lambda’\) を与える公式 \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f_0}\) を知っていれば、直接計算で求めることができます。この公式は、主たる解法で考えた「波の圧縮」のプロセスを一般化したものです。
この設問における重要なポイント
- 音源が音の進行方向と同じ向きに速さ \(v_s\) で動く場合、観測される波長 \(\lambda’\) は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f_0}\) となる。
- \(V\) は音速、\(f_0\) は音源の本来の振動数である。
具体的な解説と立式
音源が観測者に近づく場合のドップラー効果により、観測される波長 \(\lambda’\) は、音速 \(V\)、音源の速さ \(v_s\)、音源の振動数 \(f_0\) を用いて次のように表されます。
$$ \lambda’ = \frac{V-v_s}{f_0} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果における波長の公式: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f_0}\) (音源が近づく場合)
上記の公式に、\(V=340\) m/s, \(v_s=20\) m/s, \(f_0=800\) Hz を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{340 – 20}{800} \\[2.0ex]
&= \frac{320}{800} \\[2.0ex]
&= 0.400 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
ドップラー効果の波長を求める公式「(音速 ー 音源の速さ)÷ 元の振動数」を覚えていれば、問題文の数値をそのまま当てはめるだけで答えが出せます。原理を理解した上であれば、試験などではこちらのほうが素早く解くことができます。
主たる解法と全く同じ \(0.400\) m という結果が得られました。公式は物理原理を凝縮した便利なツールであることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で、観測者のいる空間を伝わる音の波長が \(\lambda’ = 0.400\) m であることがわかりました。この波が、媒質中を伝わる速さ(音速 \(V = 340\) m/s)で、静止している観測者の耳を通り過ぎていきます。波の基本的な関係式 \(V = f\lambda\) を使って、観測者が聞く振動数 \(f’\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 観測者が聞く音の速さは、音源の速さに関係なく、媒質(空気)で決まる音速 \(V\) である。
- 観測者が聞く音の波長は、(1)で求めたドップラー効果による変化後の波長 \(\lambda’\) である。
- 波の基本式 \(V = f’\lambda’\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
観測者が聞く音について、波の基本式を立てます。観測者が聞く音の速さは \(V\)、波長は(1)で求めた \(\lambda’\)、振動数を \(f’\) とすると、以下の関係が成り立ちます。
$$ V = f’ \lambda’ $$
この式を、求めたい振動数 \(f’\) について解きます。
$$ f’ = \frac{V}{\lambda’} $$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
上記で立式した \(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) に、\(V=340\) m/s と、(1)で求めた \(\lambda’ = 0.400\) m を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{340}{0.400} \\[2.0ex]
&= \frac{3400}{4} \\[2.0ex]
&= 850 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
(1)で、波1個の長さが \(0.400\) m に縮んでいることがわかりました。この縮んだ波が、秒速 \(340\) m で自分の前を通り過ぎていきます。1秒間に何個の波が通り過ぎるか(=振動数)を知りたいので、「全体の速さ ÷ 波1個の長さ」を計算します。つまり、\(340 \div 0.400\) を計算すればよいのです。
観測者が聞く音の振動数は \(850\) Hz となります。音源が近づいているため、振動数は元の振動数 \(f_0 = 800\) Hz よりも高くなっており、物理的に妥当な結果です。救急車が近づいてくるときにサイレンの音が高く聞こえるのと同じ現象です。
思考の道筋とポイント
(1)の結果を使わずに、ドップラー効果の振動数変化を表す公式に直接数値を代入して \(f’\) を求める方法です。公式を正しく覚えていれば、(1)を解かずに(2)の答えを直接導くことができます。
この設問における重要なポイント
- 音源が速さ \(v_s\) で近づき、観測者が静止している(\(v_o=0\))場合の観測振動数 \(f’\) の公式は \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v_s}f_0\) である。
- 分母が \(V-v_s\) となることで、\(f’\) が元の \(f_0\) より大きくなる(音が高くなる)ことを表している。
具体的な解説と立式
音源が観測者に近づき、観測者が静止している場合のドップラー効果の公式は、音速を \(V\)、音源の速さを \(v_s\)、音源の振動数を \(f_0\) として、次のように表されます。
$$ f’ = \frac{V}{V-v_s} f_0 $$
この公式は、観測者が単位時間に聞く波の数を数えることで導出されるもので、(1)と(2)の主たる解法を一つの式にまとめたものと考えることができます。
使用した物理公式
- ドップラー効果における振動数の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) (一般形)
- 今回のケース: \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v_s}f_0\) (\(v_o=0\) の場合)
上記の公式に、\(V=340\) m/s, \(v_s=20\) m/s, \(f_0=800\) Hz を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{340}{340 – 20} \times 800 \\[2.0ex]
&= \frac{340}{320} \times 800 \\[2.0ex]
&= \frac{17}{16} \times 800 \\[2.0ex]
&= 17 \times \frac{800}{16} \\[2.0ex]
&= 17 \times 50 \\[2.0ex]
&= 850 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
ドップラー効果の振動数を求める公式に、問題文の数値を当てはめるだけで計算できます。「音源が近づくときは分母が小さくなる」と覚えておけば、\(V-v_s\) を分母に置く公式を間違えにくくなります。この方法なら、(1)で波長を計算していなくても、(2)の答えを直接出すことができます。
主たる解法と全く同じ \(850\) Hz という結果が得られました。このアプローチは、(1)の計算を省略できるため、より迅速に答えにたどり着くことができます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の圧縮という物理現象の理解:
- 核心: この問題の根幹は、音源が動くことで波が進行方向で「圧縮」されるという物理的なイメージを、数式で表現できるかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 1秒間の思考実験: 模範解答のように「1秒間」という時間を区切って考えるのが最も本質的です。1秒間に音源から出た波の数(\(f_0\)個)が、音の進んだ距離(\(V\))と音源の進んだ距離(\(v_s\))の差である(\(V-v_s\))の区間に押し込められる、という考え方が全ての出発点です。
- 波長と振動数の関係: この圧縮によって、まず「波長が短くなる」(\(\lambda’ < \lambda_0\))という一次的な変化が起こります。そして、その短くなった波長の波が一定の音速\(V\)で観測者の耳を通過するため、結果として「単位時間あたりに通過する波の数が増え、振動数が高くなる」(\(f’ > f_0\))という二次的な変化が起こります。この2段階の論理を理解することが重要です。
- 観測される音速の不変性:
- 核心: 「観測者が聞く音の速さは、音源や観測者の運動によらず、常に媒質(空気)が決める音速\(V\)である」という原理を正しく適用することが不可欠です。
- 理解のポイント:
- 波を伝える媒質が基準: 音は空気という媒質を伝わる波です。音源が動いても、それは波を送り出す「きっかけ」が動いているだけで、一度送り出された波が空気中を伝わる速さ自体は変わりません。
- 公式への適用: (2)で \(V=f’\lambda’\) という式を立てる際、左辺の \(V\) に \(340\) m/s を使う根拠は、この原理に基づいています。ここで \(V+v_s\) などと勘違いしないことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 音源が遠ざかる場合: 音源が観測者から遠ざかる場合は、波が「引き伸ばされる」と考えます。1秒間に \(f_0\) 個の波が \(V+v_s\) の区間に広がるため、波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_s}{f_0}\) と長くなり、振動数は \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V+v_s}f_0\) と低くなります。
- 観測者が動く場合: 観測者が音源に近づく場合、波長は変化しませんが、観測者は波に向かって進むため、1秒間にたくさんの波とすれ違います。観測者に対する音の相対速度が \(V+v_o\) となるため、聞く振動数は \(f’ = \displaystyle\frac{V+v_o}{V}f_0\) と高くなります。
- 両方が動く場合: 上記の組み合わせです。一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を使います。分子は観測者の運動(すれ違う波の数が変わる)、分母は音源の運動(波長が変わる)の効果を表していると理解すると覚えやすいです。
- 風が吹いている場合: 風速を \(w\) とすると、風上に向かう音速は \(V-w\)、風下に向かう音速は \(V+w\) になります。公式中の \(V\) をこれに置き換えて考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場人物の動きを整理: 音源と観測者のどちらが、どちらの向きに動いているのかを正確に図示します。近づいているのか、遠ざかっているのかを判断することが第一歩です。
- 求めるのは波長か振動数か: 問題が波長を問うているのか、振動数を問うているのかを明確にします。波長を問われたら「波の圧縮・伸長」の原理から考えるのが基本です。振動数を問われたら、公式を直接使うか、波長を一度経由して求めるかの2つのルートを考えます。
- 公式の符号を吟味: 公式を使う場合、近づく場合は振動数が高くなる(\(f’ > f_0\))、遠ざかる場合は低くなる(\(f’ < f_0\))という物理現象と、式の形が一致するかを確認します。例えば、音源が近づく場合、分母が \(V-v_s\) となることで分数が1より大きくなり、\(f’\) が \(f_0\) より大きくなる、というように符号の妥当性を常にチェックします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 波長と振動数の変化の混同:
- 誤解: 音源が動くと、振動数が直接変化すると考えてしまう。
- 対策: 物理的な順序を正しく理解することが重要です。「(1) 音源が動く → (2) 波長が圧縮/伸長される → (3) その波が音速\(V\)で伝わる → (4) 結果として観測される振動数が変化する」という因果関係を意識しましょう。音源が発する振動数\(f_0\)自体は変化しません。
- 公式の分母・分子の混同:
- 誤解: 一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) の \(v_o\)(観測者)と \(v_s\)(音源)の位置を逆にしてしまう。
- 対策: 「音源(Source)は下(分母)、観測者(Observer)は上(分子)」と語呂合わせで覚えるのが有効です。また、それぞれの動きが振動数を高くするのか低くするのかを考え、式の形がそれに合っているかを確認する癖をつけることで、ミスを防げます。
- 速度の符号のミス:
- 誤解: 近づく場合と遠ざかる場合の速度の符号を間違える。
- 対策: 毎回、音源から観測者へ向かう向きを正の向きと定義するのが最も安全です。この場合、
- 音源が近づく: \(v_s > 0\)
- 音源が遠ざかる: \(v_s < 0\)
- 観測者が近づく: \(v_o < 0\)
- 観測者が遠ざかる: \(v_o > 0\)
となり、これを一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) に代入すれば、あらゆる状況に対応できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波長の導出(原理からのアプローチ):
- 選定理由: (1)では、ドップラー効果の最も根源的な原理を問うています。公式を暗記しているだけでは不十分で、「なぜ波長が変化するのか」を説明できるかどうかが試されます。そのため、1秒間の波の圧縮という物理モデルから立式するのが最も教育的で、応用力もつくアプローチです。
- 適用根拠: このモデルは、波の定義(1秒間に\(f_0\)個の波が出る)と運動の定義(距離=速さ×時間)という、物理学の基本法則のみに基づいています。したがって、最も信頼性が高く、あらゆるドップラー効果の問題の基礎となる考え方です。
- 振動数の公式(ショートカットとしてのアプローチ):
- 選定理由: (2)の別解では、(1)の結果を使わずに直接振動数を求めるためにこの公式を選びました。試験などで時間がない場合や、振動数だけを素早く求めたい場合に非常に有効です。
- 適用根拠: 振動数の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v_s}f_0\) は、実は \(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) と \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f_0}\) という2つの式を組み合わせたものに他なりません。\(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’} = \displaystyle\frac{V}{(V-v_s)/f_0} = \displaystyle\frac{V}{V-v_s}f_0\) となり、原理から導かれる結論と完全に一致します。したがって、この公式の適用は物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 問題文で与えられている速度の単位(m/s)と、振動数の単位(Hz)を確認し、計算結果の単位が物理的に正しいか(波長ならm、振動数ならHz)を最後にチェックする癖をつけましょう。
- 分数の計算を丁寧に行う: (2)の別解のように、分数の中に分数が入るような計算では、焦らずに一つずつ処理することが大切です。\( \displaystyle\frac{340}{320} \times 800 \) のような計算では、まず分数部分 \( \displaystyle\frac{340}{320} \) を \( \displaystyle\frac{17}{16} \) のように、できるだけ簡単な整数比に約分してから掛け算を実行すると、計算ミスが大幅に減ります。
- 物理的な妥当性の吟味: 計算結果が出たら、必ず「物理的にありえるか?」を考えます。例えば、(2)で計算した振動数が元の800Hzより小さくなっていたら、「近づいているのに音が低くなるのはおかしい」と気づくことができます。この一手間が、符号ミスや公式の選択ミスを発見するのに役立ちます。
基本例題60 音源と観測者が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているドップラー効果の一般公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)および(2)の別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法
- 模範解答が一般公式に速度を代入して一気に解くのに対し、別解では「Step1: 音源の運動による波長の変化を計算」し、「Step2: 観測者の運動を考慮して、その波から聞こえる振動数を計算する」という、より物理現象に即した2段階のアプローチで解きます。
- 設問(1)および(2)の別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: ドップラー効果の公式の分母が「音源の運動による波長の変化」に、分子が「観測者の運動による相対速度の変化」に対応していることを明確に理解でき、公式の丸暗記から脱却できます。
- 思考の柔軟性向上: 公式を忘れてしまった場合でも、物理現象のステップを一つずつ追うことで、自力で答えを導き出す論理的な思考力が養われます。
- 応用力の養成: 風が吹く問題や、音が壁で反射する問題など、より複雑な状況設定になった際に、現象を要素に分解して考える力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「音源と観測者の両方が動く場合のドップラー効果」です。ドップラー効果の一般公式を正しく理解し、様々な状況に応じて速度の符号を適切に設定できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の一般公式: 観測される振動数 \(f’\) が、音速 \(V\)、観測者の速度 \(v_o\)、音源の速度 \(v_s\)、元の振動数 \(f\) を用いて \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) と表されることを理解していること。
- 速度の符号ルール: 公式を正しく適用するための、速度の正負の決め方をマスターしていること。特に「音源から観測者へ向かう向きを正とする」というルールが最も汎用性が高い。
- 状況の把握: 「追い越し前」と「追い越し後」で、音源と観測者の位置関係、および音の伝わる向きがどう変わるかを正確に把握すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「追い越し前」の状況を図で描き、音源から観測者への向きを正と定めます。その向きを基準に、パトカーの速度 \(v_s\) と自転車の速度 \(v_o\) の符号を決定し、一般公式に代入します。
- (2)では、「追い越し後」の状況を図で描きます。音の伝わる向きが(1)とは逆になるため、正の向きを再設定します。その新しい基準で \(v_s\) と \(v_o\) の符号を決定し、再度、一般公式に代入します。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源(パトカー)と観測者(人O)の両方が動く、最も一般的なドップラー効果の問題です。このような問題は、ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を用いて解くのが最も確実です。ポイントは、公式に代入する速度 \(v_s\) と \(v_o\) の符号を、物理的な状況に合わせて正しく設定することです。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の一般公式は \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) である。
- 速度の符号は「音源から観測者へ向かう向き(音の伝わる向き)を正」と定義する。
- (1)の「追い越し前」の状況では、音源(パトカー)が後ろ、観測者(自転車)が前にいる。したがって、音の伝わる向き(進行方向)が正の向きとなる。
- 音源の速度 \(v_s\) は正の向きに \(u\) なので、\(v_s = +u\)。
- 観測者の速度 \(v_o\) は正の向きに \(v\) なので、\(v_o = +v\)。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式は以下のように与えられます。
$$ f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f \quad \cdots ① $$
(1)の「追い越し前」の状況を考えます。音源(パトカー)から観測者(人O)へ向かう向きは、両者の進行方向と同じです。この向きを正とします。
- 音源(パトカー)は、正の向きに速さ \(u\) で運動しているので、その速度は \(v_s = u\)。
- 観測者(人O)は、正の向きに速さ \(v\) で運動しているので、その速度は \(v_o = v\)。
これらの速度を①式に代入します。
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\)
立式した関係に、\(v_s = u\) と \(v_o = v\) を代入するだけです。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{V-v}{V-u}f
\end{aligned}
$$
これ以上計算は不要です。
ドップラー効果の公式という「万能計算機」に、今回の状況を入力する作業です。まず、「音の進む向きをプラス」というルールを決めます。追いかける状況では、パトカーも自転車もプラスの方向に進んでいるので、パトカーの速さ \(u\) と自転車の速さ \(v\) を、それぞれ公式の \(v_s\) と \(v_o\) の場所にそのまま(プラスのまま)代入すれば、答えが求まります。
Oが観測する振動数 \(f’\) は \(\displaystyle\frac{V-v}{V-u}f\) となります。通常、パトカーが自転車を追い越す状況では \(u>v\) です。このとき、分母の \(V-u\) は分子の \(V-v\) より小さくなるため、分数全体は1より大きくなります。したがって \(f’ > f\) となり、元の音より高く聞こえることを示しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
公式を直接使わず、ドップラー効果の現象を2つのステップに分解して考えます。
- Step 1: 音源(パトカー)が動くことで、進行方向の音の波長 \(\lambda’\) がどう変化するかを求めます。
- Step 2: その変化した波長の音を、動いている観測者(人O)が聞くと、振動数 \(f’\) はどうなるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- Step 1: 音源が速さ \(u\) で音を圧縮しながら進むため、進行方向の波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-u}{f}\) と短くなる。
- Step 2: 観測者は速さ \(v\) で音から遠ざかるように進む。そのため、観測者が感じる音の相対的な速さは \(V’ = V-v\) となる。
- 観測される振動数 \(f’\) は、この新しい相対速度 \(V’\) と新しい波長 \(\lambda’\) から、波の基本式 \(f’ = \displaystyle\frac{V’}{\lambda’}\) で決まる。
具体的な解説と立式
Step 1: 波長の変化
音源であるパトカーが速さ \(u\) で進行方向に進むため、前方の波は圧縮されます。このときの波長 \(\lambda’\) は、
$$ \lambda’ = \frac{V-u}{f} \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測される振動数
観測者である人Oは、この波長 \(\lambda’\) の音を観測します。しかし、O自身も速さ \(v\) で音から遠ざかる向き(進行方向)に進んでいます。音は速さ \(V\) で追いかけてくるので、Oにとっての音の相対速度 \(V_{\text{相対}}\) は、
$$ V_{\text{相対}} = V – v \quad \cdots ② $$
観測される振動数 \(f’\) は、波の基本式より \(f’ = \displaystyle\frac{(\text{相対速度})}{(\text{波長})}\) で求められます。
$$ f’ = \frac{V_{\text{相対}}}{\lambda’} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 音源が動くときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f}\)
- 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
③式に①式と②式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{V-v}{\left( \displaystyle\frac{V-u}{f} \right)} \\[2.0ex]
&= (V-v) \cdot \frac{f}{V-u} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v}{V-u}f
\end{aligned}
$$
この問題は2つの効果の組み合わせです。まず「パトカーが音を押し縮める効果」で、音の波長が \((V-u)/f\) という長さに短くなります。次に「自転車がその縮んだ音から逃げる効果」で、聞こえる音の速さが \(V-v\) になります。最終的に聞こえる振動数は「聞こえる速さ ÷ 波の長さ」なので、\((V-v) \div ((V-u)/f)\) を計算します。
主たる解法と全く同じ結果 \(\displaystyle\frac{V-v}{V-u}f\) が得られました。この解法は、ドップラー効果の公式の分母が音源の運動、分子が観測者の運動に由来することを物理的に示しており、理解を深める上で非常に有益です。
問(2)
思考の道筋とポイント
パトカーがOを追い越した後の状況を考えます。ここでも一般公式 \(f” = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を使いますが、(1)との最大の違いは「音の伝わる向き」です。追い越し後は、音源(パトカー)が前、観測者(O)が後ろになるため、音は進行方向とは逆向きに伝わります。この新しい音の伝播方向を「正」として、速度の符号を再設定する必要があります。
この設問における重要なポイント
- (2)の「追い越し後」の状況では、音源(パトカー)が前、観測者(自転車)が後ろにいる。
- 速度の符号ルール「音源から観測者へ向かう向きを正」に従うと、今回は進行方向と「逆向き」が正の向きとなる。
- 音源の速度 \(v_s\): パトカーは進行方向(負の向き)に速さ \(u\) で進むので、\(v_s = -u\)。
- 観測者の速度 \(v_o\): 自転車は進行方向(負の向き)に速さ \(v\) で進むので、\(v_o = -v\)。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式は(1)と同じです。
$$ f” = \frac{V-v_o}{V-v_s}f \quad \cdots ① $$
(2)の「追い越し後」の状況を考えます。音源(パトカー)から観測者(人O)へ向かう向きは、両者の進行方向と逆向きです。この逆向きを正とします。
- 音源(パトカー)は、正の向きとは逆向きに速さ \(u\) で運動しているので、その速度は \(v_s = -u\)。
- 観測者(人O)は、正の向きとは逆向きに速さ \(v\) で運動しているので、その速度は \(v_o = -v\)。
これらの速度を①式に代入します。
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\)
立式した関係に、\(v_s = -u\) と \(v_o = -v\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f” &= \frac{V-(-v)}{V-(-u)}f \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V+u}f
\end{aligned}
$$
追い越された後は、音は後ろから聞こえてきます。そこで、今度は「後ろ向きをプラス」とルールを決め直します。パトカーも自転車も前(マイナスの向き)に進んでいるので、それぞれの速さ \(u\) と \(v\) を、マイナスを付けた \(-u\) と \(-v\) として公式に代入します。すると、マイナスのマイナスでプラスになり、答えが求まります。
Oが観測する振動数 \(f”\) は \(\displaystyle\frac{V+v}{V+u}f\) となります。\(u>v\) の場合、分母に足される \(u\) の方が分子に足される \(v\) より大きいので、分数全体は1より小さくなります。したがって \(f” < f\) となり、元の音より低く聞こえることを示しています。これは、音源が遠ざかっていく状況と一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
追い越し後の状況も、(1)の別解と同様に2ステップで考えます。
- Step 1: 音源(パトカー)が動くことで、後方に伝わる音の波長 \(\lambda”\) がどう変化するかを求めます。
- Step 2: その変化した波長の音を、動いている観測者(人O)が聞くと、振動数 \(f”\) はどうなるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- Step 1: 音源は後方に音を伝えながら、自身は前方へ速さ \(u\) で進む。つまり、音を「引き伸ばし」ながら進む。後方の波長は \(\lambda” = \displaystyle\frac{V+u}{f}\) と長くなる。
- Step 2: 観測者は前方へ速さ \(v\) で進む。音は後方から速さ \(V\) でやってくる。観測者は音に向かって進む形になるので、観測者が感じる音の相対的な速さは \(V” = V+v\) となる。
- 観測される振動数 \(f”\) は、\(f” = \displaystyle\frac{V”}{\lambda”}\) で決まる。
具体的な解説と立式
Step 1: 波長の変化
音源であるパトカーは前方に速さ \(u\) で進みながら、後方にいるOへ音を伝えます。このとき、後方の波は引き伸ばされます。このときの波長 \(\lambda”\) は、
$$ \lambda” = \frac{V+u}{f} \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測される振動数
観測者である人Oは、この波長 \(\lambda”\) の音を観測します。Oは前方に速さ \(v\) で進んでおり、音は後方から速さ \(V\) で進んできます。したがって、Oは音に向かって進んでいることになり、Oにとっての音の相対速度 \(V_{\text{相対}}\) は、
$$ V_{\text{相対}} = V + v \quad \cdots ② $$
観測される振動数 \(f”\) は、波の基本式より \(f” = \displaystyle\frac{(\text{相対速度})}{(\text{波長})}\) で求められます。
$$ f” = \frac{V_{\text{相対}}}{\lambda”} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 音源が動くときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_s}{f}\) (遠ざかる場合)
- 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
③式に①式と②式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f” &= \frac{V+v}{\left( \displaystyle\frac{V+u}{f} \right)} \\[2.0ex]
&= (V+v) \cdot \frac{f}{V+u} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V+u}f
\end{aligned}
$$
追い越された後の効果も2つの組み合わせです。まず「パトカーが音を引き伸ばす効果」で、音の波長が \((V+u)/f\) という長さに伸びます。次に「自転車がその伸びた音に向かっていく効果」で、聞こえる音の速さが \(V+v\) になります。最終的に聞こえる振動数は「聞こえる速さ ÷ 波の長さ」なので、\((V+v) \div ((V+u)/f)\) を計算します。
主たる解法と全く同じ結果 \(\displaystyle\frac{V+v}{V+u}f\) が得られました。追い越し前と後で、波長の圧縮・伸長、相対速度の増減がどのように組み合わさるかを物理的に理解することで、より深くドップラー効果をマスターできます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の一般公式と符号ルールの一貫した適用:
- 核心: この問題は、音源と観測者の両方が動く複雑な状況を、ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を用いて体系的に解く能力を試しています。公式を覚えているだけでは不十分で、その真価を発揮させるための「速度の符号ルール」をいかに正確に適用できるかが全てです。
- 理解のポイント:
- 絶対的なルールの設定: 最も強力で間違いが少ないルールは「音源から観測者へ向かう向き(=音の伝わる向き)を正とする」です。このルールを機械的に適用することで、直感的な混乱(近づく、遠ざかるなど)を排除し、一貫した論理で問題を解くことができます。
- 状況変化への対応: (1)の追い越し前から(2)の追い越し後へ状況が変わると、「音の伝わる向き」が逆になります。このとき、ためらわずに「正の向き」を再定義することが核心です。同じ進行方向でも、(1)では \(v_s=u, v_o=v\) だったものが、(2)では \(v_s=-u, v_o=-v\) となる理由を、この符号ルールの観点から完全に理解することが重要です。
- 公式の構造の物理的意味:
- 核心: 一般公式の分母 \(V-v_s\) が「音源の運動による波長の変化」を、分子 \(V-v_o\) が「観測者の運動による、観測される音の相対速度の変化」を表しているという、公式の構造的意味を理解すること。
- 理解のポイント:
- 分母=波長効果: 音源が動くと、波が圧縮されたり引き伸ばされたりして、媒質中を伝わる波長そのものが変化します。この効果が分母に現れます。
- 分子=相対速度効果: 観測者が動くと、波長は変わりませんが、波とすれ違う速さが変わります。音に向かえば速く、音から逃げれば遅く感じます。この効果が分子に現れます。
- 別解との関連: 別解で示した2ステップのアプローチは、まさにこの分母と分子の効果を別々に計算していることに他なりません。この関連性を理解することで、公式は単なる暗記対象ではなく、物理現象そのものを表すツールとして捉えられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 反射板の問題: 壁や山びこなど、音が反射する問題はドップラー効果の典型的な応用です。これは2段階のドップラー効果として考えます。
- (音源→壁): 壁を「観測者」とみなし、壁が聞く振動数 \(f_1\) を計算します。
- (壁→観測者): 次に、壁を「振動数 \(f_1\) で音を出す新しい音源」とみなし、元の観測者が聞く振動数 \(f_2\) を計算します。
- 斜めに運動する場合: 音源や観測者が音の伝播方向に対して斜めに動く問題では、速度ベクトルを「音の伝播方向に平行な成分」と「垂直な成分」に分解します。ドップラー効果に寄与するのは「平行な成分」のみです。
- 風が吹いている場合: 風速を \(w\) とすると、音速が変化します。音の伝わる向きと風の向きに応じて、公式の \(V\) を \(V+w\) や \(V-w\) に置き換えて計算します。
- 反射板の問題: 壁や山びこなど、音が反射する問題はドップラー効果の典型的な応用です。これは2段階のドップラー効果として考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 状況の図解: まず、音源と観測者の位置関係、運動の向きを簡単な図で描きます。
- 役割の確定: 「誰が音源(S)で、誰が観測者(O)か」を明確にします。
- 「正の向き」の宣言: 図の中に「S→O」の矢印を描き、その向きを「正の向き」として明記します。
- 速度の符号決定: 宣言した「正の向き」を基準に、\(v_s\) と \(v_o\) の値を符号付きで書き出します。(例: \(v_s = +u\), \(v_o = -v\) など)
- 公式への代入: 書き出した符号付きの速度を、一般公式に慎重に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 追い越し後も同じ符号で計算してしまう:
- 誤解: (1)で使った \(v_s=u, v_o=v\) という設定を、(2)でもそのまま使ってしまう。
- 対策: 「状況が変われば、音の伝わる向きも変わる可能性がある」と常に意識することです。「追い越し」というキーワードを見たら、必ず追い越し前と後で別々の図を描き、「音源→観測者」の向きを確認して、正の向きを再設定する作業を儀式化しましょう。
- 「近づく/遠ざかる」で直感的に符号を決めようとする:
- 誤解: 「パトカーが自転車に近づくから分母は \(V-u\)、自転車は音から遠ざかるから分子は \(V-v\)…」のように、複数の要素を直感で組み合わせようとして混乱する。
- 対策: 直感は捨て、「音源→観測者 の向きを正とする」という一つの機械的なルールに徹することです。このルールに従えば、複雑な状況でも悩むことなく、一意に符号が決まります。
- 速度の定義の混同:
- 誤解: \(v_s\) や \(v_o\) に、地面に対する速度ではなく、相手に対する相対速度を代入してしまう。
- 対策: 公式における \(V, v_s, v_o\) は、すべて「媒質(静止した空気)に対する速度」であると定義を正確に覚えておくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 一般公式の選定:
- 選定理由: この問題のように、音源と観測者の両方が運動し、さらにその関係性が途中で変化するような状況では、部分的な公式(音源だけが動く場合など)をその都度考えるよりも、全ての状況を統一的に扱える一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を使うのが最も効率的かつ安全です。
- 適用根拠: この公式は、1次元のドップラー効果に関する物理現象を過不足なく表現しています。速度の符号ルールを正しく適用しさえすれば、近づく、遠ざかる、追い越す、すれ違うといったあらゆる状況を、この一つの式で記述できるという高い汎用性を持っています。
- 別解(2ステップアプローチ)の論理:
- 選定理由: このアプローチは、公式の成り立ちを物理現象に立ち返って理解するために選びました。公式を忘れたり、符号に自信がなくなったときの「原理原則」として非常に強力な思考法です。
- 適用根拠: 「音源の運動が波長を変える」ことと、「観測者の運動が観測する相対速度を変える」ことは、それぞれ独立した物理現象として捉えることができます。最終的に観測される振動数は、これら2つの効果の組み合わせ(\(f’ = V_{\text{相対}} / \lambda’\))で決まるため、ステップを分けて考えることは物理的に完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の代入は括弧をつけて: \(v_s = -u\) を代入する際、\(V-v_s \rightarrow V-(-u)\) のように、必ず括弧をつけて代入する癖をつけましょう。これにより、マイナスのマイナスがプラスになる計算を確実に行うことができ、符号ミスを劇的に減らせます。
- 文字式のまま整理: この問題のように具体的な数値がない場合は、最後まで文字式のまま計算を進めます。分数の整理も、慌てずに行いましょう。
- 物理的な結果の吟味(検算): 計算後に必ず物理的な妥当性をチェックします。
- (1) 追い越し前: パトカー(\(u\))が自転車(\(v\))に追いつく状況なので、通常 \(u>v\) です。このとき、音は高く聞こえるはず(\(f’ > f\))。得られた答え \(\displaystyle\frac{V-v}{V-u}f\) の分数が1より大きい(つまり \(V-v > V-u \Leftrightarrow u>v\))ことを確認します。
- (2) 追い越し後: パトカーが遠ざかっていくので、音は低く聞こえるはず(\(f” < f\))。得られた答え \(\displaystyle\frac{V+v}{V+u}f\) の分数が1より小さい(つまり \(V+v < V+u \Leftrightarrow v<u\))ことを確認します。
この「定性的な予測」と「数式の結果」が一致するかを確認する作業は、最強の検算テクニックです。
基本例題61 壁で反射する場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているドップラー効果の公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)および(2)の別解: 「波長の変化」から振動数を導出する解法
- 模範解答がドップラー効果の振動数公式に速度を代入して一気に解くのに対し、別解では「Step1: 音源の運動による波長の変化を計算」し、「Step2: その波を観測者が聞くことで観測される振動数を計算する」という、より物理現象に即した2段階のアプローチで解きます。
- 設問(1)および(2)の別解: 「波長の変化」から振動数を導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 反射の問題が「おんさ→壁」と「壁→観測者」という2段階のドップラー効果の組み合わせであることを明確に理解できます。また、振動数公式が波長の変化と相対速度の変化という2つの物理現象を組み合わせたものであることが直感的にわかります。
- 思考の分解能力の向上: 反射のような一見複雑な問題も、基本的な物理プロセスの組み合わせに分解して考えることで、論理的に解き明かす能力が養われます。
- 応用力の養成: 公式を忘れてしまった場合や、風が吹く、反射体が動くといったより複雑な設定の問題に直面した際に、原理原則から答えを導くための強力な思考ツールとなります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「壁による音の反射とドップラー効果」です。ドップラー効果の応用問題として典型的な「反射」の状況を、正しくモデル化して計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の一般公式: 観測される振動数 \(f’\) を求める公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を正しく使えること。
- 速度の符号ルール: 公式を適用する際に最も重要な「音源から観測者へ向かう向きを正とする」というルールを一貫して適用できること。
- 反射問題のモデル化: 壁による反射を、「(A) 音源 → 壁」と「(B) 壁 → 観測者」という2段階のドップラー効果として捉えること。壁は、音を「観測」し、その観測した振動数で音を「再放射」する役割を担います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おんさ(音源)と観測者の関係に着目します。おんさは観測者から遠ざかっているので、その状況をドップラー効果の公式に当てはめて計算します。
- (2)では、反射音の経路を2段階に分けます。まず「おんさ→壁」のプロセスで、壁が観測する振動数を計算します。次に、壁をその振動数で音を出す新しい音源とみなし、「壁→観測者」のプロセスで、観測者が最終的に聞く振動数を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
観測者が聞くのは、自分から遠ざかっていくおんさから直接届く音です。これは「音源が観測者から遠ざかる」場合の最も基本的なドップラー効果の問題です。ドップラー効果の一般公式を適用し、速度の符号を正しく設定することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 観測者は静止しているので、観測者の速度は \(v_o = 0\)。
- 速度の符号ルール「音源から観測者へ向かう向きを正」と定める。
- 現在、おんさは観測者の前方におり、壁に向かって(観測者から離れる向きに)動いている。したがって、音源から観測者へ向かう向きは、おんさの進行方向と逆向きになる。
- おんさの速度 \(v_s\) は、正の向きとは逆向きに 3 m/s なので、\(v_s = -3\) m/s となる。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式は以下のように与えられます。
$$ f_1 = \frac{V-v_o}{V-v_s}f \quad \cdots ① $$
この問題の状況に合わせて、各速度を設定します。
- 観測者は静止しているので、\(v_o = 0\)。
- 音源(おんさ)から観測者へ向かう向きを正とします。おんさは壁に向かって動いているため、この正の向きとは逆向きに速さ 3 m/s で運動しています。したがって、音源の速度は \(v_s = -3\) m/s。
これらの値を①式に代入します。
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\)
上記で設定した値を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{340 – 0}{340 – (-3)} \times 450 \\[2.0ex]
&= \frac{340}{343} \times 450 \\[2.0ex]
&\approx 0.99125 \times 450 \\[2.0ex]
&\approx 446.06 \dots
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮し、整数で答えると \(446\) Hz となります。
おんさが自分から離れていくので、救急車が遠ざかるときのように、音は元の高さ(450 Hz)より低く聞こえるはずです。ドップラー効果の公式に、この「遠ざかる」状況を速度の符号(今回はマイナス)で正しく表現して、計算します。
計算結果の \(446\) Hz は、元の振動数 \(450\) Hz よりも低くなっており、「音源が遠ざかると音は低くなる」という物理現象と一致しています。したがって、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
公式を直接使わず、物理現象の根本である「波長の変化」から考えます。おんさが観測者から遠ざかることで、後方に伝わる波がどのように引き伸ばされるかを計算し、その波長から振動数を導きます。
この設問における重要なポイント
- 音源が速さ \(v_s\) で遠ざかる場合、後方の波は引き伸ばされ、その波長 \(\lambda_1\) は \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V+v_s}{f}\) となる。
- 観測者は静止しているので、この波長の波を音速 \(V\) で聞く。
- 観測される振動数 \(f_1\) は、波の基本式から \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_1}\) で求められる。
具体的な解説と立式
Step 1: 波長の変化
音源であるおんさが速さ \(v_s = 3\) m/s で観測者から遠ざかるため、後方に伝わる波は引き伸ばされます。このときの波長 \(\lambda_1\) は、
$$ \lambda_1 = \frac{V+v_s}{f} = \frac{340+3}{450} \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測される振動数
観測者は静止しており、この波長 \(\lambda_1\) の波が音速 \(V\) で届くのを観測します。観測される振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V}{\lambda_1} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 音源が遠ざかるときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_s}{f}\)
- 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
②式に①式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{\left( \displaystyle\frac{V+v_s}{f} \right)} \\[2.0ex]
&= \frac{Vf}{V+v_s} \\[2.0ex]
&= \frac{340 \times 450}{340+3} \\[2.0ex]
&= \frac{153000}{343} \approx 446.06 \dots
\end{aligned}
$$
よって、\(f_1 \approx 446\) Hz となります。
おんさが遠ざかることで、波と波の間隔(波長)が少し広がります。その広がった波が、自分の前を秒速 340 m で通り過ぎていきます。1秒間に通り過ぎる波の数(振動数)は、「速さ ÷ 波1個の長さ」で計算できます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V+v_s}f\) が、波長の変化と波の基本式から導かれることがよくわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
壁からの反射音を考える問題は、「(A) おんさ → 壁」と「(B) 壁 → 観測者」の2段階のドップラー効果としてモデル化するのが定石です。
まず、壁を「観測者」とみなして、おんさから壁に届く音の振動数を計算します。次に、壁を「新しい音源」とみなし、その振動数の音を静止した観測者が聞く、というプロセスで考えます。
この設問における重要なポイント
- プロセスA (おんさ → 壁):
- 音源: おんさ(速さ \(v_s = 3\) m/s で壁に近づく)
- 観測者: 壁(静止、\(v_o = 0\))
- 音源→壁の向きを正とすると、おんさの速度は \(v_s = +3\) m/s。
- プロセスB (壁 → 観測者):
- 音源: 壁(静止、\(v_s = 0\))。その振動数はプロセスAで求めた \(f_{\text{壁}}\)。
- 観測者: 人(静止、\(v_o = 0\))
- このプロセスでは、音源も観測者も静止しているため、ドップラー効果は起こらない。
具体的な解説と立式
プロセスA: おんさから壁に届く音の振動数 \(f_{\text{壁}}\) を求める
壁を観測者とみなします。音源(おんさ)から壁へ向かう向きを正とします。
- 音源(おんさ)は、正の向きに速さ 3 m/s で運動しているので、\(v_s = 3\) m/s。
- 観測者(壁)は静止しているので、\(v_o = 0\)。
ドップラー効果の公式より、壁が観測する振動数 \(f_{\text{壁}}\) は、
$$ f_{\text{壁}} = \frac{V-0}{V-3}f = \frac{340}{340-3} \times 450 $$
プロセスB: 壁からの反射音を観測者が聞く振動数 \(f_2\) を求める
壁は、振動数 \(f_{\text{壁}}\) の音を出す新しい音源とみなせます。
- 音源(壁)は静止しているので、\(v_s = 0\)。
- 観測者(人)も静止しているので、\(v_o = 0\)。
観測者が聞く振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V-0}{V-0} f_{\text{壁}} = f_{\text{壁}} $$
したがって、\(f_2\) は \(f_{\text{壁}}\) に等しくなります。
使用した物理公式
- ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\)
プロセスAの計算を実行します。
$$
\begin{aligned}
f_2 = f_{\text{壁}} &= \frac{340}{337} \times 450 \\[2.0ex]
&\approx 1.0089 \times 450 \\[2.0ex]
&\approx 454.005 \dots
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮し、整数で答えると \(454\) Hz となります。
この問題は2段階の伝言ゲームです。
- まず、おんさが壁に「音の伝言」をします。おんさは壁に近づきながら伝言するので、壁には元の音(450 Hz)より少し高い音として伝わります。
- 次に、壁はその伝わってきた高い音を、そのままオウム返しに観測者へ「伝言」します。壁も観測者も止まっているので、音の高さは変わらずにそのまま伝わります。
結局、私たちが計算するのは、ステップ1で「壁にどれだけ高い音が伝わったか」ということになります。
計算結果の \(454\) Hz は、元の振動数 \(450\) Hz よりも高くなっています。音源が壁に近づいているため、壁で反射される音の振動数が高くなるのは物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
主たる解法と同じく2段階のプロセスで考えますが、各段階を「波長の変化」という観点から解き明かします。
この設問における重要なポイント
- プロセスA (おんさ → 壁):
- おんさが壁に近づくので、前方の波は圧縮される。壁に届く音の波長 \(\lambda_{\text{壁}}\) は \(\lambda_{\text{壁}} = \displaystyle\frac{V-v_s}{f}\) となる。
- 壁は静止しているので、この波長の音を音速 \(V\) で聞き、その振動数は \(f_{\text{壁}} = \displaystyle\frac{V}{\lambda_{\text{壁}}}\) となる。
- プロセスB (壁 → 観測者):
- 壁は振動数 \(f_{\text{壁}}\) で音を出す静止した音源。ここから出る音の波長 \(\lambda_2\) は \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V}{f_{\text{壁}}}\)。
- 観測者も静止しているので、この波長の音を音速 \(V\) で聞き、振動数 \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_2}\) となる。
具体的な解説と立式
プロセスA: 壁に届く音の波長と振動数を求める
音源(おんさ)が速さ \(v_s = 3\) m/s で壁に近づくため、前方の波は圧縮されます。壁に届く音の波長 \(\lambda_{\text{壁}}\) は、
$$ \lambda_{\text{壁}} = \frac{V-v_s}{f} = \frac{340-3}{450} \quad \cdots ① $$
壁は静止しているので、この波長の音を音速 \(V\) で観測します。壁が観測する振動数 \(f_{\text{壁}}\) は、
$$ f_{\text{壁}} = \frac{V}{\lambda_{\text{壁}}} \quad \cdots ② $$
プロセスB: 壁から観測者に届く音の振動数を求める
壁は振動数 \(f_{\text{壁}}\) で音を出す、静止した音源とみなせます。観測者も静止しているので、ドップラー効果は生じません。したがって、観測者が聞く振動数 \(f_2\) は、壁が再放射する音の振動数 \(f_{\text{壁}}\) に等しくなります。
$$ f_2 = f_{\text{壁}} $$
使用した物理公式
- 音源が近づくときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f}\)
- 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
\(f_2 = f_{\text{壁}}\) であり、②式に①式を代入して \(f_{\text{壁}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_2 = f_{\text{壁}} &= \frac{V}{\left( \displaystyle\frac{V-v_s}{f} \right)} \\[2.0ex]
&= \frac{Vf}{V-v_s} \\[2.0ex]
&= \frac{340 \times 450}{340-3} \\[2.0ex]
&= \frac{153000}{337} \approx 454.005 \dots
\end{aligned}
$$
よって、\(f_2 \approx 454\) Hz となります。
まず、おんさが壁に向かうことで、波がどれだけ圧縮されて「波の長さ」が短くなるかを計算します。次に、壁はその短くなった波をそのまま跳ね返します。自分は止まっているので、その短くなった波がそのままの長さで届きます。最後に、その短い波の長さから、聞こえる振動数を「速さ ÷ 波の長さ」で計算します。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。このアプローチにより、反射音の振動数が高くなるのは、壁に届く時点で波長が圧縮されているためであることが、より明確に理解できます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 反射現象の2段階ドップラー効果モデル化:
- 核心: 壁による音の反射は、単一の現象ではなく、「(A) 音源から壁へ」と「(B) 壁から観測者へ」という、連続した2段階のドップラー効果としてモデル化することが、この問題の全てです。
- 理解のポイント:
- 壁の役割: 壁は、単に音を跳ね返す鏡ではありません。物理的には、まず「観測者」として、ドップラー効果で変化した音波を受け取ります。次に、その受け取った振動数で、今度は自らが「新しい音源」となって音波を再放射します。この2つの役割を理解することが不可欠です。
- プロセスA (音源→壁): 音源(おんさ)が動き、観測者(壁)が静止しているドップラー効果。
- プロセスB (壁→観測者): 音源(壁)が静止し、観測者(人)が静止している状況。
この2つのプロセスに分解して考えることで、複雑な反射の問題を、基本的なドップラー効果の問題の組み合わせとして解くことができます。
- 符号ルールの厳格な適用:
- 核心: 上記の2つのプロセスそれぞれにおいて、「音源から観測者へ向かう向きを正」とする速度の符号ルールを、独立かつ厳格に適用することが重要です。
- 理解のポイント:
- (1) 直接音: 音源(おんさ)→観測者(人)の向きが正。
- (2) プロセスA: 音源(おんさ)→観測者(壁)の向きが正。
- (2) プロセスB: 音源(壁)→観測者(人)の向きが正。
このように、考える状況ごとに「誰が音源で、誰が観測者か」を確定し、その都度、正の向きを定義し直すことで、混乱なく符号を決定できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- うなりを求める問題: (1)で求めた直接音の振動数 \(f_1\) と、(2)で求めた反射音の振動数 \(f_2\) は異なります。観測者はこの2つの音を同時に聞くため、「うなり」が発生します。うなりの振動数 \(f_{\text{beat}}\) は \(f_{\text{beat}} = |f_1 – f_2|\) で計算でき、発展問題として頻出です。
- 観測者が動く場合: もし観測者が壁に向かって動いていれば、(1)直接音の計算でも \(v_o \neq 0\) となり、(2)反射音のプロセスBでも \(v_o \neq 0\) となります。モデル化の考え方は同じです。
- 壁(反射体)が動く場合: 壁が動く問題は最難関の応用です。プロセスAでは壁は「動く観測者」(\(v_o \neq 0\))となり、プロセスBでは壁は「動く音源」(\(v_s \neq 0\))となります。2段階モデルを適用すれば、このような複雑な問題も解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 音の経路を特定する: 観測者に届く音の経路がいくつあるかを確認します。「直接届く音」と「何かに反射してから届く音」の2つがあるのが基本パターンです。
- 反射経路を分解する: 「反射」というキーワードを見たら、即座に「音源→反射体」「反射体→観測者」の2つのプロセスに思考を分解します。
- 各プロセスの登場人物と向きを確定: 各プロセスについて、「音源は誰か?」「観測者は誰か?」「音の進む向きは?」を一つずつ図に書き込み、速度の符号を決定します。
- 情報の引き継ぎ: プロセスAで計算した「反射体が観測する振動数」が、プロセスBの「新しい音源の振動数」になる、という情報の流れを正確に追います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射を1段階の現象と勘違いする:
- 誤解: おんさと観測者の間の距離の変化だけを考えて、ドップラー効果の公式を1回だけ使って反射音の振動数を計算しようとする。
- 対策: 「反射音=2段階のドップラー効果」と機械的に覚えることが有効です。壁は音を「聞く」役割と「話す」役割の両方を持っている、と擬人化して考えると、2段階のプロセスが必要な理由が理解しやすくなります。
- 反射音の計算で、元の振動数 \(f\) を使ってしまう:
- 誤解: (2)の計算の最終段階で、壁が発する音の振動数を、おんさの元の振動数 \(f=450\) Hz だと勘違いして計算を進めてしまう。
- 対策: 壁は「ドップラー効果で変化した後の音」をオウム返しする、と強く意識することが重要です。「プロセスAで計算した \(f_{\text{壁}}\) を、プロセスBの計算に使う」という情報の流れを、計算用紙に矢印などで明記しておくとミスを防げます。
- 直接音と反射音で、速度の符号の付け方が混乱する:
- 誤解: (1)では遠ざかる、(2)では近づく、という直感的な判断に頼ってしまい、符号の付け方に一貫性がなくなる。
- 対策: 直感に頼らず、常に「音源から観測者へ向かう向きを正とする」というルールに立ち返ることです。直接音(おんさ→人)、反射音の行き(おんさ→壁)、反射音の帰り(壁→人)の3つの状況それぞれで、このルールを独立に適用すれば、機械的に正しい符号が決定できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 2段階ドップラー効果モデルの選定:
- 選定理由: 壁による反射という物理現象は、実際には壁の面で無数の素元波がホイヘンスの原理に従って再放射される複雑なプロセスです。これを高校物理の範囲で扱うために、「壁が音を一度観測し、その振動数で再放射する」というモデルは、現象の本質を捉えつつ計算を可能にする、非常に優れた物理的近似(モデル化)です。
- 適用根拠: このモデル化により、複雑な反射現象を、我々がすでに知っている「ドップラー効果の公式が適用できる形」に変換することができます。第1段階(おんさ→壁)、第2段階(壁→人)は、それぞれがドップラー効果の公式が成り立つ基本的な状況であるため、このモデル全体の論理的正当性が保証されます。
- 別解(波長アプローチ)の論理:
- 選定理由: 公式の暗記に頼らず、より根源的な物理現象から答えを導くためです。特に、なぜ反射音の振動数が変わるのかを「壁に到達する時点で、すでに波長が圧縮されているからだ」と直感的に理解するのに役立ちます。
- 適用根拠: 振動数公式 \(f’ = \frac{V}{V-v_s}f\) は、そもそも波長の変化式 \(\lambda’ = \frac{V-v_s}{f}\) と波の基本式 \(f’ = V/\lambda’\) を組み合わせたものです。したがって、波長から出発するアプローチは、公式の成り立ちそのものをなぞる操作であり、完全に物理的に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- プロセスの図解と明記: 計算を始める前に、(1)直接音、(2)反射音(おんさ→壁)、(壁→人)の3つの状況を簡単な図で描き、それぞれに「音源」「観測者」「正の向き」を書き込みましょう。計算用紙にも「Step1: おんさ→壁の計算」などと見出しをつけると、思考が整理されます。
- 途中結果の変数管理: Step1で計算した「壁が聞く振動数」を、単なる数値ではなく「\(f_{\text{壁}} = 454.0…\) Hz」のように、物理的な意味を持つ変数名でメモしておきましょう。これにより、Step2でどの数値を使えばよいかが一目瞭然になります。
- 概算による検算: 計算結果が出たら、必ず物理的な直感と合っているかを確認します。
- (1) 直接音: おんさは遠ざかる → 音は低くなるはず (\(f_1 < 450\) Hz)。計算結果は446 Hz。OK。
- (2) 反射音: おんさは壁に近づく → 壁に届く音は高くなる → 反射音も高くなるはず (\(f_2 > 450\) Hz)。計算結果は454 Hz。OK。
この簡単なチェックだけで、符号ミスなどの大きな誤りを防ぐことができます。
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基本問題
317 ドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 振動数公式から波長を導出する解法
- 模範解答が波長を先に計算するのに対し、別解では振動数を先に計算し、その結果から波長を導出します。
- 設問(2)の別解: 音の先頭と最後尾の到達時間差から聞く時間を求める解法
- 模範解答が「波の総数の保存」という関係式を用いるのに対し、別解ではより直感的に、音の先頭と最後尾が観測者に届く時刻の差を計算して聞いている時間を求めます。
- 設問(1)の別解: 振動数公式から波長を導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: ドップラー効果において、波長の変化と振動数の変化が表裏一体の関係にあることや、「聞く時間が短くなる」という現象が、音源の移動によって後続の音が「近道」をすることに起因するという物理的イメージが明確になります。
- 解法の多角化: 一つの問題に対して、関係式から解く方法と、現象を時系列で追って解く方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が高まり、より本質的な理解に至ります。
- 応用力の養成: (2)の別解のアプローチは、より複雑な運動をする音源の問題などにも応用が効く、汎用性の高い考え方です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ドップラー効果における音源と観測者の運動の違い」です。音源が動く場合と観測者が動く場合では、同じ速さで近づいても観測される波長や振動数が異なるという、ドップラー効果の核心的な性質を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 音源が動く場合の効果: 音源が動くと、進行方向の波が圧縮(または後方の波が伸長)され、媒質中を伝わる波長そのものが変化することを理解していること。
- 観測者が動く場合の効果: 観測者が動いても、媒質中の波長は変化しないが、観測者が波とすれ違う相対速度が変化するため、結果的に聞く振動数が変わることを理解していること。
- 波の総数の保存: 音源が放った波の総数と、観測者が受け取る波の総数は等しいという法則(\(f_{\text{音源}} t_{\text{音源}} = f_{\text{観測者}} t_{\text{観測者}}\))を理解し、応用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源が近づく場合のドップラー効果の公式を用いて、圧縮された波長と、その結果として高くなった振動数を計算します。
- (2)では、「音源が放った波の総数=観測者が受け取った波の総数」という関係式を立て、観測者が音を聞く時間を求めます。
- (3)では、観測者が近づく場合の波長と振動数を計算し、(1)の結果と比較することで、音源が動く場合との違いを明確にします。