基本問題
201 重力の大きさ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている「地球と共に回転する観測者の立場(非慣性系)」での解法を主たる解法として解説しつつ、より基本的な立場である「宇宙空間に静止した観測者の立場(慣性系)」からの別解を補足しています。
- 設問(2)の別解
- 別解1: 慣性系における運動方程式を用いた解法
- この別解の意義
- 主たる解法で用いられる「遠心力」は、回転する座標系(非慣性系)で運動を記述するために導入される「見かけの力」です。
- 一方、別解で用いる「向心力」は、慣性系において円運動を成り立たせるために実際に中心に向かって働いている力です。
- この別解を学ぶことで、同じ物理現象を異なる視点(慣性系と非慣性系)から記述する方法を理解し、遠心力と向心力の関係性についての深い洞察を得ることができます。
いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「地球の自転を考慮した重力の精密な定義」です。私たちが日常的に感じている「重力」が、実は「万有引力」と「自転による遠心力」の合力であることを理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力: 地球が物体を引く力で、常に地球の中心を向きます。大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) です。
- 遠心力: 回転する座標系(地球と一緒に回転する観測者)から見たときに物体に働く、回転の中心から遠ざかる向きの見かけの力です。大きさは \(F = mr\omega^2\) で、\(r\) は回転半径です。
- 力の合成: 重力は、ベクトルとして万有引力と遠心力を合成したものです。北極と赤道では、これらの力が一直線上に働くため、計算が単純になります。
- 場所による重力の違い: 遠心力の大きさは緯度によって異なるため、地表での重力の大きさも場所によってわずかに異なります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、北極での物体の運動を考えます。北極は自転軸上にあるため、回転運動をしておらず、遠心力は働きません。したがって、重力は万有引力そのものと等しくなります。
- (2)では、赤道での物体の運動を考えます。赤道上の物体は、地球の自転に伴って半径 \(R\) の円運動をしています。地球と共に回転する観測者から見ると、物体には地球の中心を向く万有引力と、その反対向き(外向き)の遠心力が働いています。重力は、この2つの力の合力(引き算)として求められます。
問(1)
思考の道筋とポイント
北極に置かれた物体に働く力を考えます。問題の核心は、北極が地球の「自転軸」の上にあるという点です。自転軸上の点は回転しないため、回転に伴う遠心力は働きません。したがって、この場所で物体に働く力は、純粋な万有引力のみとなります。
この設問における重要なポイント
- 北極は自転軸上にあり、回転半径は0である。
- 回転しないため、遠心力は0である。
- したがって、重力は万有引力と等しくなる。
具体的な解説と立式
北極点にいる質量 \(m\) の物体を考えます。
この物体は地球の自転軸上に位置しているため、地球の自転による円運動をしていません。回転半径が0であると考えることができます。
地球と共に回転する観測者から見たときに働く遠心力の大きさは \(mr\omega^2\)(\(r\)は回転半径)と表されますが、北極では \(r=0\) なので、遠心力は働きません。
$$ F_{\text{遠心力}} = m \cdot 0 \cdot \omega^2 = 0 $$
したがって、北極で物体に働く力は、地球の中心に向かう万有引力のみとなります。
この万有引力が、北極での「重力」の大きさに相当します。
$$ F_{\text{重力(北極)}} = F_{\text{万有引力}} $$
万有引力の公式より、その大きさは、
$$ F_{\text{重力(北極)}} = G\frac{Mm}{R^2} $$
となります。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
この設問は、力の関係を考察するものであり、具体的な計算は不要です。
コマの芯の真ん中の点は、コマが回っていてもその場で回転するだけで、円を描いて動きません。北極もこれと同じで、地球の自転軸の真上にあるため、円運動をしません。円運動をしないということは、外側に引っ張られる「遠心力」も働かないということです。したがって、北極では、地球が物体を引っぱる力(万有引力)がそのまま「重力」になります。
北極での重力の大きさは \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) となります。これは、自転の影響を全く受けない場合の重力であり、万有引力そのものと一致します。物理的に妥当な結論です。
問(2)
思考の道筋とポイント
赤道上に置かれた物体に働く力を考えます。赤道上の点は、地球の自転に伴って、地球の中心を軸として半径 \(R\) の円運動をしています。この運動を、地球と一緒に回転する観測者の立場(非慣性系)で考えます。この観測者から見ると、物体には2つの力が働いているように見えます。一つは地球の中心に向かう「万有引力」、もう一つは中心から遠ざかる向きに働く見かけの力「遠心力」です。赤道での重力は、この2つの力の合力として定義されます。
この設問における重要なポイント
- 赤道上の物体は、半径 \(R\) の円運動をしている。
- 地球と共に回転する観測者から見ると、物体には「万有引力」と「遠心力」が働く。
- 万有引力は地球の中心向き、遠心力は中心から外向きで、互いに逆向きである。
- 重力は、この2つの力の差として求められる。
具体的な解説と立式
赤道上にある質量 \(m\) の物体を考えます。
この物体には、地球の中心に向かって万有引力が働いています。その大きさは、
$$ F_{\text{万有引力}} = G\frac{Mm}{R^2} $$
です。
一方、この物体は地球の自転と共に、角速度 \(\omega\)、半径 \(R\) の円運動をしています。地球と一緒に回転する観測者から見ると、この物体には回転の中心から遠ざかる向き(地球の中心から外向き)に遠心力が働いているように見えます。その大きさは、
$$ F_{\text{遠心力}} = mR\omega^2 $$
です。
赤道では、万有引力と遠心力は一直線上で逆向きに働きます。我々が日常的に「重力」として観測している力は、この2つの力の合力です。
$$ F_{\text{重力(赤道)}} = F_{\text{万有引力}} – F_{\text{遠心力}} $$
したがって、赤道での重力の大きさは、
$$ F_{\text{重力(赤道)}} = G\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2 $$
となります。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
この設問も、力の関係を考察するものであり、具体的な計算は不要です。
メリーゴーラウンドの外側に乗っていると、外向きに引っ張られる力(遠心力)を感じます。赤道上にいる物体もこれと同じで、地球の自転によって常に外向きの遠心力を受けています。
一方で、地球は常に中心に向かって物体を引っぱっています(万有引力)。
私たちが感じる「重力」は、この「万有引力」から「遠心力」を差し引いた、いわば「正味の引力」なのです。したがって、「重力 = 万有引力 – 遠心力」という式で計算できます。
赤道での重力の大きさは \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2\) となります。これは、万有引力から遠心力の分だけ小さくなった値です。このことから、重力は北極で最も大きく、赤道で最も小さくなることがわかります。これは物理的な事実と一致しており、妥当な結論です。
思考の道筋とポイント
この別解では、宇宙空間に静止している観測者の立場(慣性系)から運動を記述します。この立場では、遠心力という見かけの力は存在しません。赤道上の物体は、地球の中心に向かう「向心力」を受けて等速円運動をしている、と捉えます。この向心力が、実際に働いている2つの力、すなわち「万有引力」と「物体が地表から受ける垂直抗力(これが重力に相当)」の合力によって供給されている、という運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 慣性系では、遠心力は考えない。
- 赤道上の物体は、向心力を受けて円運動している。
- 向心力は、実際に働く力の合力である。この場合、「万有引力」と「垂直抗力」の合力。
- 物体が地表から受ける垂直抗力の大きさが、その場所での重力の大きさと定義される。
具体的な解説と立式
宇宙空間に静止した観測者から見ると、赤道上の質量 \(m\) の物体は、角速度 \(\omega\)、半径 \(R\) の等速円運動をしています。
この円運動に必要な向心力の大きさ \(F_{\text{向心力}}\) は、
$$ F_{\text{向心力}} = mR\omega^2 $$
です。この向心力は、実際に物体に働いている力の合力によって供給されます。
物体に実際に働いている力は、以下の2つです。
- 地球の中心に向かう万有引力: \(F_{\text{万有引力}} = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
- 地表が物体を押し返す力(垂直抗力): \(N\)。この力の向きは、地球の中心から外向きです。
運動方程式 \(ma=F\) を、地球の中心に向かう向きを正として立てます。加速度 \(a\) は向心加速度 \(R\omega^2\) です。
$$ m(R\omega^2) = G\frac{Mm}{R^2} – N $$
この式が、慣性系における運動方程式です。
ここで、地表に置かれた物体に働く「重力」とは、その物体がばねはかりや体重計に及ぼす力、すなわち地表から受ける垂直抗力 \(N\) の反作用として測定されるものです。したがって、重力の大きさは垂直抗力 \(N\) の大きさに等しいと考えられます。
上の運動方程式を \(N\) について解くと、
$$ N = G\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2 $$
これが赤道での重力の大きさとなります。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma = F\)
- 向心加速度: \(a = r\omega^2\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
この設問は、力の関係を考察するものであり、具体的な計算は不要です。
宇宙から地球の自転を眺めている人の視点で考えます。この人から見ると、赤道上の物体はぐるぐる円運動をしています。円運動をするためには、必ず中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この向心力は、何によって生み出されているのでしょうか? それは、「地球が物体を引く万有引力」から「地面が物体を押し返す力(垂直抗力)」を引いた残りです。つまり、「向心力 = 万有引力 – 垂直抗力」という式が成り立ちます。
私たちが「重力」として測っているのは、この「垂直抗力」の大きさなので、式を変形して「垂直抗力 = …」の形にすると、答えが求まります。
結果は \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2\) となり、主たる解法(非慣性系での考察)の結果と完全に一致します。この別解は、遠心力という「見かけの力」を使わずに、運動の基本法則である運動方程式から出発して同じ結論を導けることを示しています。これにより、遠心力と向心力が表裏一体の関係にあることがより深く理解できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重力の正体(万有引力と遠心力の合力):
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、地表で観測される「重力」が、純粋な「万有引力」だけではなく、地球の自転によって生じる「遠心力」との合力である、という物理モデルを理解することです。
- 理解のポイント:
- 万有引力: 常に地球の中心を向く、質量に起因する基本的な力。
- 遠心力: 地球と共に回転する観測者から見たときに現れる、自転軸から遠ざかる向きの見かけの力。
- 重力: これら2つのベクトル的な和。\( \vec{F}_{\text{重力}} = \vec{F}_{\text{万有引力}} + \vec{F}_{\text{遠心力}} \)。北極や赤道では、これらの力が一直線上に乗るため、単純な大きさの足し算・引き算で計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 任意の緯度での重力: 北極・赤道以外の、任意の緯度 \(\phi\) での重力の大きさと向きを求める問題。この場合、万有引力と遠心力が一直線上にないため、ベクトルの合成(余弦定理など)が必要になり、計算が複雑になります。
- 重力加速度の緯度依存性: この問題で求めた重力を質量 \(m\) で割ることで、重力加速度 \(g\) も緯度によって異なる(赤道で最小、極で最大)ことを導く問題。
- 回転する円盤やバケツの中の運動: 回転する円盤上の物体の運動や、回転するバケツの中の水面が放物面になる現象など、遠心力(やコリオリの力)を考慮する非慣性系での運動解析問題全般。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測者の立場を明確にする: 問題を解く前に、自分は「地球と一緒に回転している観測者(非慣性系)」の立場なのか、それとも「宇宙空間で静止している観測者(慣性系)」の立場なのかを意識的に決定します。
- 非慣性系(回転系): 「遠心力」という見かけの力を導入し、力のつりあいや運動方程式を立てる。直感的で分かりやすいことが多い。
- 慣性系(静止系): 遠心力は使わず、円運動の「向心力」がどの力の合力で供給されているか、という観点から運動方程式を立てる。より基本的で厳密な立場。
- 力の図示を徹底する: 特に赤道での力を考える際には、万有引力(中心向き)と遠心力(外向き)を、向きと作用点を正確に図示します。これにより、力の合力を計算する際の符号ミスを防ぎます。
- 回転半径 \(r\) の特定: 遠心力 \(mr\omega^2\) や向心力 \(mr\omega^2\) を計算する際、その場所での「回転半径 \(r\)」がいくらになるかを正確に把握することが重要です。赤道では \(r=R\) ですが、緯度 \(\phi\) の場所では \(r=R\cos\phi\) となります。
- 観測者の立場を明確にする: 問題を解く前に、自分は「地球と一緒に回転している観測者(非慣性系)」の立場なのか、それとも「宇宙空間で静止している観測者(慣性系)」の立場なのかを意識的に決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力と向心力の混同:
- 誤解: 慣性系で考えているのに遠心力を使ったり、非慣性系で考えているのに向心力という言葉を使ったりする。
- 対策: 「遠心力」は回転系(非慣性系)で導入される見かけの力、「向心力」は静止系(慣性系)で円運動を成り立たせるための合力、という定義を明確に区別します。両者を同じ式の中に同時に登場させてはいけません。
- 力の向きのミス:
- 誤解: (2)で、万有引力と遠心力を同じ向きの力として足し算してしまう。
- 対策: 万有引力は「引力」なので常に中心向き、遠心力は「遠ざかる力」なので常に中心から外向き、と力の向きを正確に把握します。赤道ではこれらがちょうど逆向きになるため、合力は大きさの差になります。
- 北極での遠心力:
- 誤解: 北極でも自転の影響があると考え、遠心力を考慮してしまう。
- 対策: 遠心力は回転運動に伴う力です。北極は自転軸そのものであり、回転の「中心」なので、円運動をしていません(回転半径が0)。したがって、遠心力も0になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 非慣性系での力のつり合い(主たる解法):
- 選定理由: (2)で、地球上の観測者にとっての「重力」を問われています。地球上の観測者は地球と共に回転しているため、その立場(非慣性系)で物体の力学を考えるのが最も自然で直感的です。
- 適用根拠: 非慣性系で運動法則を成り立たせるためには、慣性力(この場合は遠心力)を導入する必要があります。導入することで、物体に働く力の(見かけ上の)つり合いや運動を、あたかも慣性系であるかのように扱うことができます。赤道上の物体は、観測者に対して静止しているので、力のつり合い(合力が0)ではなく、観測される「重力」が「万有引力」と「遠心力」の合力である、という力の合成の問題として定式化します。
- 慣性系での運動方程式(別解):
- 選定理由: 遠心力という「見かけの力」に頼らず、ニュートンの運動方程式という物理学の基本法則に立ち返って問題を解くため。物理の本質的な理解を深める上で非常に教育的なアプローチです。
- 適用根拠: 宇宙空間に静止した観測者(慣性系)から見れば、赤道上の物体は単純な円運動をしています。円運動には必ず向心力が必要であり、その向心力は、物体に実際に働いているすべての力(この場合は万有引力と垂直抗力)の合力として供給されなければなりません。この物理的な事実を運動方程式 \(ma=F\) として表現することで、問題を解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の定義を明確にする: \(M\) は地球の質量、\(m\) は物体の質量、\(R\) は地球の半径、\(\omega\) は地球の自転の角速度、と各記号が何を表すかを常に意識します。
- 力の大きさと向きをセットで考える: 「万有引力は \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) で中心向き」「遠心力は \(mR\omega^2\) で外向き」のように、力の大きさと向きを常にセットで考える癖をつけ、計算時の符号ミスを防ぎます。
- 式の意味を言葉で説明する: (2)の答え \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2\) を見て、「これは万有引力から遠心力を引いたものだ」と、数式を物理的な言葉に翻訳する練習をすることで、理解が深まり、ケアレスミスが減ります。
202 ケプラーの法則と万有引力の法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「万有引力の法則と円運動の運動方程式からのケプラーの第三法則の導出」です。ニュートンが万有引力の法則を発見するに至った思考の逆過程をたどる、物理学史的にも重要な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等速円運動の運動方程式: 物体が円運動をするためには、中心向きの力(向心力)が必要です。運動方程式は \(ma=F\) の形で表されます。
- 向心力: 等速円運動に必要な力のことで、その大きさは \(F=m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) または \(F=mr\omega^2\) で与えられます。
- 万有引力の法則: 2つの物体の間に働く引力で、その大きさは \(F=G\displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\) です。この問題では、万有引力が向心力の役割を果たします。
- 角速度と周期の関係: 角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の間には、\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) という関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、等速円運動の向心力の公式を、問題で与えられている角速度 \(\omega\) を用いて記述します。
- (2)では、万有引力の法則の公式を、問題で与えられている記号を用いて記述します。
- (3)では、(1)で求めた向心力と(2)で求めた万有引力が等しいという運動方程式を立てます。そして、角速度 \(\omega\) を周期 \(T\) で書き直し、式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) について整理します。
問(1)
思考の道筋とポイント
月が等速円運動するために必要な「向心力」の大きさを求める問題です。向心力の公式には速さ \(v\) を用いるものと角速度 \(\omega\) を用いるものがありますが、問題文で角速度 \(\omega\) が与えられているため、それを用いた公式を記述します。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動には、軌道の中心に向かう力(向心力)が必要である。
- 向心力の大きさは、質量 \(m\)、軌道半径 \(r\)、角速度 \(\omega\) を用いて \(F=mr\omega^2\) と表される。
具体的な解説と立式
質量 \(m\) の月が、地球を中心として半径 \(r\)、角速度 \(\omega\) で等速円運動をしています。
この運動に必要な向心力の大きさ \(F_1\) は、公式より、
$$ F_1 = mr\omega^2 $$
と表されます。
使用した物理公式
- 向心力の公式: \(F = mr\omega^2\)
この設問は公式を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
物体をひもにつけてぐるぐる回すとき、ひもが物体を常に中心に向かって引っ張っています。この力がなければ物体はまっすぐ飛んでいってしまいます。このように、円運動を続けるために必要な中心向きの力を「向心力」と呼びます。その大きさは、「物体の質量 × 回転の半径 × (角速度の2乗)」という式で計算できます。
等速円運動に必要な向心力の大きさは \(F_1 = mr\omega^2\) となります。これは向心力の定義式そのものであり、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
月と地球の間に働く「万有引力」の大きさを求める問題です。万有引力の法則の公式を、問題で与えられている記号(\(M, m, r, G\))を用いて正しく記述することが求められます。
この設問における重要なポイント
- 万有引力は、2つの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例する。
- 公式は \(F = G\displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\) である。
具体的な解説と立式
地球の質量が \(M\)、月の質量が \(m\)、地球と月の中心間距離が \(r\)、万有引力定数が \(G\) です。
万有引力の法則より、月にはたらく万有引力の大きさ \(F_2\) は、
$$ F_2 = G\frac{Mm}{r^2} $$
と表されます。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
この設問は公式を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
質量を持つ物体同士は、お互いに引き合う性質があります。この力を「万有引力」と呼びます。その大きさは、「ある決まった定数(G) × 地球の質量 × 月の質量 ÷ (地球と月の距離の2乗)」という式で計算できます。
月にはたらく万有引力の大きさは \(F_2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) となります。これは万有引力の法則の定義式そのものであり、妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
月の公転周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) の関係を導出する問題です。この問題の核心は、「月の円運動を支える向心力の正体は、地球と月の間に働く万有引力である」という物理的な洞察です。したがって、(1)で求めた向心力 \(F_1\) と(2)で求めた万有引力 \(F_2\) が等しいという運動方程式を立て、そこから関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 月の円運動における運動方程式: 向心力 = 万有引力。
- 角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を用いて、\(\omega\) を消去する。
- 最終的に、式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) の形に整理する。
具体的な解説と立式
月が等速円運動を続けるための向心力 \(F_1\) は、地球が月を引く万有引力 \(F_2\) によって供給されています。したがって、これらの大きさは等しくなります。
$$ F_1 = F_2 $$
(1), (2)の結果を代入して、月の円運動に関する運動方程式を立てます。
$$ mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2} \quad \cdots ① $$
次に、角速度 \(\omega\) を周期 \(T\) を用いて表します。角速度は単位時間あたりに回転する角度であり、月は時間 \(T\) で1周(\(2\pi\) ラジアン)するので、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} \quad \cdots ② $$
となります。
式①に式②を代入し、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) を求めます。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 角速度と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
式①に式②を代入します。
$$
\begin{aligned}
mr\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 &= G\frac{Mm}{r^2} \\[2.0ex]
mr\frac{4\pi^2}{T^2} &= G\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{4\pi^2 r}{T^2} &= \frac{GM}{r^2}
\end{aligned}
$$
この式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) の形になるように変形します。両辺に \(\displaystyle\frac{T^2 r^2}{GM}\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
\frac{4\pi^2 r^3}{GM} &= T^2 \\[2.0ex]
\frac{4\pi^2}{GM} &= \frac{T^2}{r^3}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ \frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM} $$
月が地球の周りを安定して回り続けられるのは、「円運動に必要な力(向心力)」と「地球が月を引っぱる力(万有引力)」がぴったり等しくなっているからです。まず、この「向心力 = 万有引力」という式を立てます。
次に、この式には角速度 \(\omega\) が含まれていますが、問題で求めたいのは周期 \(T\) との関係なので、\(\omega\) を \(T\) を使った式に書き換えて代入します。
最後に、この式を問題で指定された「\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \dots\)」の形になるように、パズルを解くように整理していくと、答えが導き出せます。
周期 \(T\) と半径 \(r\) の関係として、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) が得られました。
右辺の \(G, M\) は定数なので、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) は一定の値をとることがわかります。これは、円軌道の場合のケプラーの第三法則に他なりません。このように、運動の法則と万有引力の法則から、ケプラーの法則が理論的に導かれることを確認できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力を向心力とする円運動:
- 核心: この問題の物理的な核心は、「月が地球の周りを円運動し続けられるのは、地球と月の間に働く万有引力が、円運動に必要な向心力の役割をぴったりと果たしているからだ」という一点に尽きます。
- 理解のポイント: この物理的状況を、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を用いて数式で表現することが全てです。
- 加速度 \(a\) \(\rightarrow\) 向心加速度 \(r\omega^2\)
- 力 \(F\) \(\rightarrow\) 万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- これらを結びつけた運動方程式 \(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) が、この問題の出発点であり、最も重要な関係式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 人工衛星の周期や速さ: 月を人工衛星に置き換えても、全く同じ物理法則が成り立ちます。人工衛星の軌道半径から周期を求めたり、逆に周期から軌道半径を求めたりする問題。
- 中心天体の質量推定: 逆に、惑星や衛星の公転周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) を観測データから求めることで、中心天体の質量 \(M\) を \(M = \displaystyle\frac{4\pi^2 r^3}{GT^2}\) の式を使って推定する問題。これは天文学において非常に重要な応用です。
- 静止衛星: 地球の自転と同じ周期(\(T=\)24時間)で公転する人工衛星(静止衛星)の軌道半径 \(r\) を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動形態の把握: 問題文の「円軌道」というキーワードから、等速円運動の運動方程式を立てる方針を固めます。
- 向心力の正体を特定: 天体の周りを公転する運動の場合、向心力の役割を果たすのは「万有引力」であると即座に判断します。
- 運動を表す変数の選択: 問題で角速度 \(\omega\) が与えられているか、速さ \(v\) が与えられているか、あるいは周期 \(T\) が問われているかに応じて、向心力の公式 \(mr\omega^2\) や \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を使い分け、必要に応じて \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) や \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) の関係式で変数を変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力と万有引力を別々の力と誤解する:
- 誤解: 月には「向心力」と「万有引力」という2つの力が働いていると考えてしまい、力のつり合いの式などを立てようとする。
- 対策: 「向心力」は力の種類(名前)ではなく、円運動を引き起こすための「中心向きの合力」という力の役割や性質を表す言葉だと理解することが重要です。この問題では、その役割を「万有引力」というただ一つの力が担っています。運動方程式は \(ma=F\) であり、\(F\) には実際に働いている力(万有引力)のみを代入します。
- 角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の変換ミス:
- 誤解: \(\omega = 2\pi T\) や \(\omega = \displaystyle\frac{T}{2\pi}\) のように、公式を不正確に覚えていて間違える。
- 対策: 言葉の定義に立ち返りましょう。\(\omega\) は「1秒あたりに進む角度[rad]」、\(T\) は「1周( \(2\pi\) [rad] )するのにかかる時間[s]」です。1周 \(2\pi\) を時間 \(T\) で割れば、1秒あたりの角度、すなわち \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) が導かれます。
- 式変形の際の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(mr\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) の式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) の形に整理する際に、分母と分子を移項し間違える。
- 対策: 複雑な式変形では、一度に多くの項を動かそうとせず、段階的に整理する癖をつけましょう。例えば、まず両辺に \(T^2\) と \(r^2\) を掛けて分母を払い、\(mr \cdot 4\pi^2 \cdot r^2 = G M m \cdot T^2\) としてから、\(T^2\) 以外の項を逆サイドに持っていく、などの手順を踏むとミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式 (\(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)):
- 選定理由: (3)で周期 \(T\) と半径 \(r\) の関係、すなわち月の運動を支配する法則そのものを導出することが求められています。この運動は「万有引力を向心力とする円運動」であるため、この物理現象を最も根源的に記述する運動方程式が、議論の出発点として最適です。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma=F\) は、力学における最も基本的な法則です。この問題の状況に当てはめると、加速度 \(a\) は円運動の向心加速度 \(r\omega^2\) であり、力 \(F\) は物体間に働く万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) です。この対応付けは、問題の物理的設定から論理的に一意に定まります。
- 角速度と周期の関係式 (\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)):
- 選定理由: 運動方程式には角速度 \(\omega\) が含まれていますが、(3)で問われているのは周期 \(T\) を用いた関係式です。そのため、\(\omega\) を \(T\) に変換するための関係式が必要となります。
- 適用根拠: この式は物理法則ではなく、等速円運動における角速度と周期の数学的な定義そのものです。したがって、この関係は常に成り立ち、無条件に運動方程式に代入することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の使い分け: 地球の質量 \(M\) と月の質量 \(m\) を問題文の定義通りに使い、混同しないように注意しましょう。
- 括弧の展開: (3)の計算で \(\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2\) を展開する際は、分子の \(2\) と \(\pi\) の両方を忘れずに2乗して \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{T^2}\) とします。
- 最終的な形を意識する: 問題文で \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) を求めよ、と明確に指示されています。この最終形をゴールとして意識することで、式変形の途中で道に迷うことが少なくなります。
- 両辺の整理: \(mr\displaystyle\frac{4\pi^2}{T^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) のような式では、まず両辺に共通して存在する \(m\) を消去すると、式がシンプルになり、その後の変形が楽になります。
203 静止衛星
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている「角速度\(\omega\)を用いた解法」を主たる解法として解説しつつ、模範解答にも記載されている「速さ\(v\)を用いた解法」を、教育的価値の高い別解として、主たる解法と同等の粒度で詳細に解説します。
- 設問(1)の別解
- 別解1: 速さ\(v\)と向心力\(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)を用いた解法
- この別解の意義
- 円運動の問題は、角速度\(\omega\)と速さ\(v\)のどちらを用いても解くことができます。
- 両方のアプローチを学ぶことで、問題の条件に応じて計算がより簡潔になる方を選択する応用力が身につきます。
- また、\(\omega\)と\(v\)の関係(\(v=r\omega\))を通じて、両者が本質的に同じ物理現象を記述していることへの理解が深まります。
いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「万有引力を向心力とする円運動」と、その応用である「静止衛星」です。人工衛星の運動を解析する上での典型的な問題設定です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の運動方程式: 人工衛星が円運動を続けるためには、地球の中心に向かう向心力が必要です。この向心力の役割を、地球と衛星の間に働く万有引力が担っています。
- 軌道半径の正しい理解: 「地表からの高さ\(h\)」で運動する場合、円運動の軌道半径は地球の中心から測った \(r = R+h\) となります。
- 重力加速度と万有引力の関係: 問題文に万有引力定数\(G\)や地球の質量\(M\)が含まれていないため、これらを地上の物理量\(g\)と\(R\)で置き換える関係式 \(GM = gR^2\) を利用します。
- 静止衛星の条件: 地球の自転と同じ周期(\(T_0\))で、同じ向きに、赤道上空を公転する衛星です。地上から見ると静止しているように見えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、人工衛星の円運動について運動方程式を立てます。万有引力が向心力として働くことから、角速度\(\omega\)を求め、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を使って周期\(T\)を導出します。その際、\(GM=gR^2\)を用いて文字を置き換えます。
- (2)では、(1)で求めた周期\(T\)の式に、静止衛星の条件である \(T=T_0\) を代入します。そして、その方程式を高さ\(h\)について解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
人工衛星の周期を求める問題です。周期を求めるには、まず円運動の角速度\(\omega\)(または速さ\(v\))を知る必要があります。角速度は、円運動の運動方程式を立てることで求めることができます。この問題の物理的状況は「万有引力が向心力として働いている」ことなので、この関係を立式します。
この設問における重要なポイント
- 軌道半径は \(r = R+h\) である。
- 運動方程式: \(m(R+h)\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\)。
- 関係式 \(GM = gR^2\) を用いて、\(G, M\) を消去する。
- 周期と角速度の関係 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を用いて、周期\(T\)を求める。
具体的な解説と立式
人工衛星の質量を\(m\)、角速度を\(\omega\)とします。
地表からの高さが\(h\)なので、円運動の軌道半径は \(R+h\) です。
この人工衛星に働く万有引力が向心力となり、円運動を支えています。運動方程式 \(mr\omega^2=F\) より、
$$ m(R+h)\omega^2 = G\frac{Mm}{(R+h)^2} \quad \cdots ① $$
この式を\(\omega\)について解きます。
また、問題の答えには\(G, M\)を含まないため、地表での重力と万有引力の関係式から導かれる \(GM = gR^2\) を用いてこれらを消去します。
地表では、
$$ mg = G\frac{Mm}{R^2} $$
が成り立つので、
$$ GM = gR^2 \quad \cdots ② $$
となります。
最後に、求めた角速度\(\omega\)を周期\(T\)に変換します。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
- 周期と角速度の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
まず、式①を\(\omega^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= G\frac{M}{(R+h)^3}
\end{aligned}
$$
ここに式②の関係 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{gR^2}{(R+h)^3}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{gR^2}{(R+h)^3}}
\end{aligned}
$$
この\(\omega\)を式③に代入して周期\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi \div \sqrt{\frac{gR^2}{(R+h)^3}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{gR^2}}
\end{aligned}
$$
人工衛星が地球の周りを回り続けるための力(向心力)は、地球が引っぱる力(万有引力)によって供給されています。この「向心力=万有引力」という関係を数式で表します。この式を解くと、人工衛星の回転の速さ(角速度\(\omega\))がわかります。周期(1周にかかる時間)は、\(2\pi\)(円1周の角度)を角速度\(\omega\)で割れば計算できます。最後に、問題で使ってはいけない文字(\(G, M\))を、\(GM=gR^2\)という変身呪文を使って消去すれば、答えの形になります。
人工衛星の周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{gR^2}}\) と表されます。この式はケプラーの第三法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \text{一定}\)(ただし \(r=R+h\))の形になっていることが確認できます。また、高さ\(h\)が大きいほど周期が長くなるという直感とも一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
角速度\(\omega\)の代わりに、人工衛星の速さ\(v\)を用いて運動方程式を立てる方法です。向心力の公式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を用い、万有引力と等しいと置くことで速さ\(v\)を求めます。その後、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) を使って周期を計算します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{R+h} = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\)。
- 関係式 \(GM = gR^2\) を用いて、\(G, M\) を消去する。
- 周期と速さの関係 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) を用いて、周期\(T\)を求める。
具体的な解説と立式
人工衛星の質量を\(m\)、速さを\(v\)とします。軌道半径は \(R+h\) です。
万有引力が向心力となるので、運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=F\) より、
$$ m\frac{v^2}{R+h} = G\frac{Mm}{(R+h)^2} \quad \cdots ④ $$
この式から速さ\(v\)を求めます。ここでも \(GM = gR^2\) の関係を用います。
周期\(T\)は、円周の長さ \(2\pi(R+h)\) を速さ\(v\)で割ることで求められます。
$$ T = \frac{2\pi(R+h)}{v} \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
- 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
まず、式④を\(v^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= G\frac{M}{R+h}
\end{aligned}
$$
ここに \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{gR^2}{R+h}
\end{aligned}
$$
\(v > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{gR^2}{R+h}}
\end{aligned}
$$
この\(v\)を式⑤に代入して周期\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi(R+h)}{v} \\[2.0ex]
&= 2\pi(R+h) \div \sqrt{\frac{gR^2}{R+h}} \\[2.0ex]
&= 2\pi(R+h) \sqrt{\frac{R+h}{gR^2}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^2 (R+h)}{gR^2}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{gR^2}}
\end{aligned}
$$
別のアプローチとして、回転の速さを角速度ではなく、普通の速さ\(v\)で考えます。やることは同じで、「向心力=万有引力」の式を立てます。この式を解くと、人工衛星の速さ\(v\)がわかります。周期(1周にかかる時間)は、「円周の長さ ÷ 速さ」で計算できます。円周の長さは \(2\pi \times \text{半径}(R+h)\) なので、これを先ほど求めた速さ\(v\)で割ります。最後に、不要な文字を消去する変身呪文を使えば、同じ答えにたどり着きます。
主たる解法で得られた結果と完全に一致します。円運動の問題では、角速度\(\omega\)を使うか速さ\(v\)を使うかによって計算の途中経過が異なりますが、最終的な物理的結論は同じになります。どちらのアプローチにも慣れておくことが望ましいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
静止衛星の高度\(h\)を求める問題です。静止衛星とは、地球の自転と同じ周期で公転する人工衛星のことです。したがって、(1)で求めた周期\(T\)の公式に、\(T = T_0\)(地球の自転周期)という条件を代入し、その方程式を\(h\)について解けばよい、という方針になります。
この設問における重要なポイント
- 静止衛星の条件: 人工衛星の周期 \(T\) が地球の自転周期 \(T_0\) に等しい。
- (1)で求めた周期の公式に \(T=T_0\) を代入する。
- 方程式を\(h\)について解く。途中で3乗根の計算が必要になる。
具体的な解説と立式
(1)で求めた周期の公式は、
$$ T = 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{gR^2}} $$
です。
静止衛星の条件は \(T = T_0\) なので、これを代入します。
$$ T_0 = 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{gR^2}} \quad \cdots ⑥ $$
この方程式を、未知数である高さ\(h\)について解きます。
使用した物理公式
- (1)で導出した周期の公式
式⑥を\(h\)について解きます。まず、両辺を2乗してルートを外します。
$$
\begin{aligned}
T_0^2 &= (2\pi)^2 \frac{(R+h)^3}{gR^2} \\[2.0ex]
T_0^2 &= 4\pi^2 \frac{(R+h)^3}{gR^2}
\end{aligned}
$$
次に、\((R+h)^3\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
(R+h)^3 &= \frac{gR^2 T_0^2}{4\pi^2}
\end{aligned}
$$
両辺の3乗根をとります。
$$
\begin{aligned}
R+h &= \sqrt[3]{\frac{gR^2 T_0^2}{4\pi^2}}
\end{aligned}
$$
最後に、\(R\)を移項して\(h\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \sqrt[3]{\frac{gR^2 T_0^2}{4\pi^2}} – R
\end{aligned}
$$
「静止衛星」とは、地球の自転と同じ時間(周期\(T_0\))で地球を1周する特別な人工衛星です。
(1)で、周期\(T\)と高さ\(h\)の関係式を求めました。この式の\(T\)に、地球の自転周期である\(T_0\)を代入します。
すると、高さ\(h\)だけが未知数の方程式ができます。この方程式を、数学のルールに従って変形していき、「\(h = \dots\)」の形にすれば答えが求まります。途中で3乗根が出てきますが、落ち着いて計算しましょう。
静止衛星の地表からの高さは \(h = \sqrt[3]{\displaystyle\frac{gR^2 T_0^2}{4\pi^2}} – R\) となります。
この式からわかるように、静止衛星の高さは、地球の物理量(\(g, R, T_0\))だけで一意に決まる特定の高度であることがわかります。実際に値を代入して計算すると、約36000kmとなり、気象衛星「ひまわり」などがこの高度で運用されています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力を向心力とする円運動:
- 核心: 人工衛星が地球の周りを安定して円運動できるのは、地球が衛星を引く「万有引力」が、円運動を続けるために必要な「向心力」の役割を完全に担っているからです。
- 理解のポイント: この物理現象は、運動方程式 \(ma=F\) を用いて \(m(R+h)\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と立式されます。この一本の式が、この問題全体の議論の出発点となります。
- 関係式 \(GM = gR^2\) による文字の置き換え:
- 核心: 問題の答えに含めて良い文字が \(R, h, g\) に指定されているため、運動方程式に出てくる万有引力定数 \(G\) と地球の質量 \(M\) を消去する必要があります。そのための変換ツールが、地表での重力と万有引力の関係から導かれる \(GM = gR^2\) です。
- 理解のポイント: この関係式を用いることで、宇宙規模の現象(衛星の運動)を、地上の測定で得られる身近な物理量(\(g, R\))だけで記述することが可能になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ケプラーの第三法則の導出: (1)で求めた周期の式 \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{gR^2}}\) を2乗し、軌道半径 \(r=R+h\) を使って整理すると、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \displaystyle\frac{4\pi^2}{gR^2} = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM} = \text{一定}\) となり、ケプラーの第三法則そのものを導くことができます。
- 静止衛星の具体的な高度計算: (2)で求めた \(h\) の式に、地球の半径 \(R \approx 6.4 \times 10^6 \text{ m}\)、重力加速度 \(g \approx 9.8 \text{ m/s}^2\)、自転周期 \(T_0 \approx 24 \times 3600 \text{ s}\) を代入して、静止衛星の具体的な高度(約36000km)を計算させる問題。
- 人工衛星の力学的エネルギー: 衛星の力学的エネルギー \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を計算する問題。運動方程式から得られる \(v^2 = \displaystyle\frac{GM}{r}\) を代入すると、\(E = -\displaystyle\frac{GMm}{2r}\) という重要な関係式が導かれます。
- 初見の問題での着眼点:
- 軌道半径 \(r\) の特定: 問題文の「地表からの高さ \(h\)」という表現を見たら、即座に「円運動の中心からの距離、すなわち軌道半径は \(r=R+h\) である」と変換します。これが全ての計算の基礎となります。
- 最終的な答えに使う文字の確認: 問題文の末尾で「〜を含む式で表せ」と指定されている文字を確認します。もし \(G\) や \(M\) が含まれていなければ、どこかの段階で \(GM=gR^2\) を使って消去する必要があると予測できます。
- 周期 \(T\) がらみの問題か?: 周期 \(T\) を求めたり、周期 \(T\) を使ったりする問題では、角速度 \(\omega\) を経由するのが見通しが良いことが多いです。運動方程式で \(\omega\) を求め、\(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) で周期に変換する、という流れを定石として覚えておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 軌道半径の取り違え:
- 誤解: 運動方程式や周期の公式に出てくる半径 \(r\) の部分に、地球の半径 \(R\) や高さ \(h\) をそのまま代入してしまう。
- 対策: 万有引力も円運動も、力の中心・運動の中心からの距離が基準です。常に「軌道半径 \(r = R+h\)」であることを意識し、図を描いて視覚的に確認する癖をつけましょう。
- \(GM=gR^2\) の適用ミス:
- 誤解: この関係式を、地表から離れた高さ \(h\) の地点でも \(GM = g'(R+h)^2\) のように安易に適用しようとする。(この式自体は正しいですが、この問題では \(g’\) が未知なので使えません)
- 対策: \(GM=gR^2\) は、あくまで「地表」での重力加速度 \(g\) と地球半径 \(R\) を用いた特別な関係式であると正確に記憶してください。この式の \(g\) と \(R\) は、地表での値に固定されています。
- (2)の式変形ミス:
- 誤解: \(T_0 = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{gR^2}}\) を \(h\) について解く際に、両辺を2乗するときに \(2\pi\) を \(2\pi^2\) としたり、3乗根をとるのを忘れたりする。
- 対策: 複雑な式変形では、焦らずに一段階ずつ操作を行うことが重要です。
- 両辺を2乗してルートを外す。
- \((R+h)^3\) の項を左辺(あるいは右辺)に分離する。
- 両辺の3乗根をとる。
- 最後に \(R\) を移項する。
この手順を確実に踏むことで、計算ミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式:
- 選定理由: (1)で人工衛星の周期を求めるため。周期は角速度や速さといった運動の状態を表す量に依存し、運動の状態は物体に働く力によって決まります。この「力」と「運動」の関係を記述する最も基本的な法則が運動方程式であるため、これを出発点として選択します。
- 適用根拠: 人工衛星は「万有引力」という力を受けて「円運動」をしています。したがって、運動方程式 \(ma=F\) の加速度 \(a\) の項に円運動の向心加速度(\(r\omega^2\) または \(v^2/r\))を、力 \(F\) の項に万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を代入することは、この物理現象を記述する上で論理的に必然です。
- 関係式 \(GM=gR^2\):
- 選定理由: 運動方程式を立てると、未知の物理定数である \(G\) と \(M\) が式に含まれてしまいます。しかし、問題では地上の測定値である \(g\) と \(R\) を用いて答えるよう指示されています。この文字の変換を行うために、この関係式が必要となります。
- 適用根拠: この関係式は、地表という特殊な場所において、「万有引力の法則」と「重力の定義」という2つの異なる物理法則が同じ現象(物体が地球に引かれること)を記述していることから導かれます。したがって、両者は等しいと置くことができ、この関係式を用いて \(GM\) という組み合わせを \(gR^2\) という組み合わせに置き換えることは論理的に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ルートの中の整理: (1)の別解で \(T = 2\pi(R+h) \sqrt{\displaystyle\frac{R+h}{gR^2}}\) のような形になったとき、括弧の外の \((R+h)\) をルートの中に入れる計算を丁寧に行いましょう。\((R+h) = \sqrt{(R+h)^2}\) なので、ルートの中は \((R+h)^2 \times (R+h) = (R+h)^3\) となります。
- 3乗根の扱い: (2)で \(\sqrt[3]{\dots}\) が出てきますが、これはこれ以上簡単な形にはなりません。問題が文字式で答えることを要求している場合、この形のままが最終的な答えとなることを知っておきましょう。
- 文字式のまま計算を進める: (2)で \(h\) を求める際、最後まで文字式のまま計算を進めることが重要です。途中で具体的な数値を代入すると、式が複雑になり、計算ミスを誘発しやすくなります。
- 次元(単位)の確認: (1)の答えのルートの中 \(\displaystyle\frac{(R+h)^3}{gR^2}\) の単位が時間の2乗になっているかを確認する癖をつけましょう。分子は \([\text{m}^3]\)、分母は \([\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}^2] = [\text{m}^3/\text{s}^2]\) です。したがって、ルートの中の単位は \(\displaystyle\frac{[\text{m}^3]}{[\text{m}^3/\text{s}^2]} = [\text{s}^2]\) となり、その平方根は \([\text{s}]\) となって周期の単位と一致します。このような検算は、大きなミスを防ぐのに非常に有効です。
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204 人工衛星の力学的エネルギー
【設-問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「万有引力を受けて等速円運動する物体のエネルギー」です。運動エネルギー、位置エネルギー、力学的エネルギーのそれぞれの関係性を、運動方程式から導出する重要な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 2つの物体の間に働く引力で、その大きさは \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) です。
- 円運動の運動方程式: 物体が円運動をするためには向心力が必要です。この向心力の役割を万有引力が担っている、という関係を運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=F\) で表します。
- 運動エネルギー: 物体の運動の状態を表すエネルギーで、\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で定義されます。
- 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として、\(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で定義されます。引力であるため、負の値をとるのが特徴です。
- 力学的エネルギー: 運動エネルギーと位置エネルギーの和 \(E=K+U\) であり、万有引力のみが働く状況では保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)と(エ)は、それぞれ万有引力と位置エネルギーの定義式を記述します。
- (イ)は、万有引力が向心力となる円運動の運動方程式を立てて、速さ\(v\)を求めます。
- (ウ)は、(イ)で求めた速さ\(v\)を用いて、運動エネルギーの定義式を計算します。
- (オ)は、(ウ)の運動エネルギーと(エ)の位置エネルギーを足し合わせて、力学的エネルギーを計算します。
- 最後の問では、求めた3つのエネルギーの式の比をとり、簡単な整数比で表します。