「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第1章】応用問題

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17 速度の分解

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、川を横切る船の運動を題材とした、速度の合成・分解に関する典型的な問題です。岸から見た船の運動が、船自身の運動(静水上の運動)と、川の流れの運動という2つの独立した運動の重ね合わせで記述されることを理解することが核心となります。

与えられた条件
  • 川幅: \(30 \text{ m}\)
  • 船首の向き: 川岸に対して直角
  • 実際の進路: 川岸に対して \(30^\circ\) の方向
  • 対岸への到達時間: \(t = 15 \text{ s}\)
問われていること
  • (1) 船の岸に対する速さ \(v\)
  • (2) 船の静水上での速さ \(v_1\)
  • (3) 川の流れの速さ \(v_2\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

この解説は、物理現象のより本質的な理解を促すため、模範解答とは設問を解く順序とアプローチが異なります。

  1. 解説の方針が模範解答と異なる点
    • 模範解答の解法順序: (1) 岸に対する速さ \(v\) → (2) 静水上の速さ \(v_1\) → (3) 川の流れの速さ \(v_2\)
    • この解説の解法順序: (2) 静水上の速さ \(v_1\) → (3) 川の流れの速さ \(v_2\) → (1) 岸に対する速さ \(v\)
  2. この方針を取る理由
    • 「川を横切る運動」と「川に沿って流される運動」を独立して考えるアプローチは、速度の合成・分解の基本原理をより直接的に適用するものであり、教育的価値が高いと判断したためです。
    • 特に、「川を横切るのにかかる時間は、川の流れの速さには依存しない」という重要な物理概念を最初に用いることで、現象の理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • 設問を解く順番は異なりますが、各設問で求められる物理量の値は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「速度の合成・分解」です。岸に対する速度 \(\vec{v}\) が、静水上の船の速度 \(\vec{v}_1\) と川の流れの速度 \(\vec{v}_2\) のベクトル和 \(\vec{v} = \vec{v}_1 + \vec{v}_2\) で表されることを理解するのが基本です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度のベクトル合成: 岸から見た速度は、静水上の速度と川の流れの速度のベクトル的な足し算で表されます。
  2. 運動の分解: 川を横切る方向(川岸に垂直)の運動と、川に沿って流される方向(川岸に平行)の運動は、互いに独立していると考えることができます。
  3. 三角比と三平方の定理: 速度ベクトルがなす直角三角形の幾何学的な関係を解くために利用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、川を横切る運動は静水上の速さ \(v_1\) のみで決まることに着目し、川幅と到達時間から \(v_1\) を計算します(問2)。
  2. 次に、速度ベクトルの関係(\(\vec{v} = \vec{v}_1 + \vec{v}_2\))と、実際の進路の角度から、川の流れの速さ \(v_2\) を計算します(問3)。
  3. 最後に、三平方の定理を用いて、\(v_1\) と \(v_2\) から岸に対する合成速度 \(v\) を計算します(問1)。

問(2)

思考の道筋とポイント
まず、船の静水上での速さ \(v_1\) を求めます。この問題の最大のポイントは、「川を横切る」という運動と「川に流される」という運動を分けて考えることです。船が対岸に到達する、つまり川を横切るという運動は、船首が向いている川岸に垂直な方向の速度成分、すなわち静水上の速さ \(v_1\) のみによって決まります。川の流れ \(v_2\) は川岸に平行な方向の運動であり、川を横切る時間には影響しません。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分解: 川を横切る方向の運動(距離: 川幅 \(30 \text{ m}\)、速度: \(v_1\)、時間: \(15 \text{ s}\))と、川に流される方向の運動を分離して考えます。
  • 時間の共通性: 船が川を横切り終わる時間と、川に流され終わる時間は同じ \(15 \text{ s}\) です。
  • 立式: 「(川を横切る方向の距離) = (その方向の速さ) × (時間)」という関係式を立てます。

具体的な解説と立式
船が川を横切る運動(川岸に垂直な方向の運動)に注目します。
この方向の移動距離は、川幅そのものである \(30 \text{ m}\) です。
この方向の速度成分は、船の静水上での速さ \(v_1\) です。
対岸に到達するまでにかかった時間は \(t = 15 \text{ s}\) です。
したがって、これらの間には次の関係式が成り立ちます。
$$ (\text{川幅}) = v_1 \times t $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

上記で立てた式を \(v_1\) について解き、与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
30 &= v_1 \times 15 \\[2.0ex]
v_1 &= \frac{30}{15} \\[2.0ex]
&= 2.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

船が向こう岸にたどり着く、という現象だけを考えます。この「まっすぐ進む」動きは、船自身のエンジンが出す速さ(静水上の速さ)によるものです。川の流れは船を横に流すだけで、向こう岸に着くまでの時間には関係ありません。川の幅が \(30 \text{ m}\) で、渡るのに \(15 \text{ s}\) かかったので、船自身の速さは「距離 ÷ 時間」で \(30 \div 15 = 2.0 \text{ m/s}\) と計算できます。

結論と吟味

船の静水上での速さは \(2.0 \text{ m/s}\) です。この考え方は、運動を互いに直交する成分に分解して独立に扱うという、物理学における非常に重要なアプローチに基づいています。

解答 (2) \(2.0 \text{ m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
次に、川の流れの速さ \(v_2\) を求めます。岸から見た船の実際の速度 \(\vec{v}\) は、静水上の速度 \(\vec{v}_1\)(川を横切る方向)と川の流れの速度 \(\vec{v}_2\)(川に沿う方向)のベクトル和で表されます。問題文から、\(\vec{v}_1\) と \(\vec{v}_2\) は直角をなします。そして、合成された速度 \(\vec{v}\) の方向が、川岸と \(30^\circ\) の角度をなすことが分かっています。この速度ベクトルのなす直角三角形の幾何学的な関係を利用して \(v_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 速度のベクトル図: \(\vec{v}_1\), \(\vec{v}_2\), \(\vec{v}\) の関係をベクトル図(直角三角形)で正しく描きます。
  • 三角比の利用: 速度ベクトルのなす直角三角形において、角度 \(30^\circ\) と辺の長さ(速度の大きさ)の関係を三角比(特にタンジェント)で表します。
  • 既知の値の利用: (2)で求めた \(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\) を利用します。

具体的な解説と立式
速度の合成の関係 \(\vec{v} = \vec{v}_1 + \vec{v}_2\) をベクトル図で考えます。
\(\vec{v}_1\) は川岸に垂直、\(\vec{v}_2\) は川岸に平行なので、この2つのベクトルは直角をなします。合成ベクトル \(\vec{v}\) は、この直角三角形の斜辺にあたります。
問題の図から、合成速度 \(\vec{v}\) の向き(船が実際に進む向き)と川岸(\(\vec{v}_2\) の向き)とのなす角が \(30^\circ\) です。
この速度ベクトルの直角三角形において、辺の長さの比は三角比で表すことができます。
$$ \tan 30^\circ = \frac{(\text{対辺の長さ})}{(\text{底辺の長さ})} = \frac{v_1}{v_2} $$

使用した物理公式

  • 速度の合成
  • 三角比
計算過程

上記で立てた式を \(v_2\) について解き、(2)で求めた \(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \frac{v_1}{\tan 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{2.0}{1/\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times \sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 2.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(3.5 \text{ m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

船がまっすぐ対岸へ進む速さ(\(v_1\))と、川に横へ流される速さ(\(v_2\))の結果、船は斜め \(30^\circ\) の方向に進みました。この「速さの三角形」の関係を使い、(2)で求めた「まっすぐ進む速さ」と角度 \(30^\circ\) の情報から、「横へ流される速さ」、つまり川の流れの速さを計算します。

結論と吟味

川の流れの速さは \(3.5 \text{ m/s}\) です。静水上の速さ \(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\) よりも速い流れであることがわかります。そのため、船は対岸にまっすぐ進むよりも、かなり下流に流されて進むことになり、進路が \(30^\circ\) という比較的小さな角度になったことも物理的に妥当です。

解答 (3) \(3.5 \text{ m/s}\)

問(1)

思考の道筋とポイント
最後に、船の岸に対する速さ \(v\) を求めます。これは、(2)で求めた静水上の速さ \(v_1\) と(3)で求めた川の流れの速さ \(v_2\) の合成速度の大きさです。\(v_1\) と \(v_2\) は互いに直角なので、速度ベクトルがなす直角三角形において三平方の定理を用いることで、斜辺の長さにあたる \(v\) を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 速度の合成: 岸に対する速さ \(v\) は、\(v_1\) と \(v_2\) の合成速度の大きさです。
  • 三平方の定理: 互いに直交する2つの速度 \(v_1\), \(v_2\) から合成速度 \(v\) を求める際に、\(v^2 = v_1^2 + v_2^2\) の関係を使います。
  • 既知の値の利用: (2)で求めた \(v_1\) と(3)で求めた \(v_2\) の値を用います。

具体的な解説と立式
速度ベクトルのなす直角三角形において、三平方の定理を適用します。
斜辺が \(v\)、他の二辺が \(v_1\) と \(v_2\) なので、以下の関係式が成り立ちます。
$$ v^2 = v_1^2 + v_2^2 $$
したがって、\(v\) は次のように求められます。
$$ v = \sqrt{v_1^2 + v_2^2} $$

使用した物理公式

  • 速度の合成
  • 三平方の定理
計算過程

上記で立てた式に、\(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\) と \(v_2 = 2.0\sqrt{3} \text{ m/s}\) を代入します。(計算の途中であるため、近似値ではなく \(\sqrt{3}\) を用います)
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(2.0)^2 + (2.0\sqrt{3})^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0 + (4.0 \times 3)} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0 + 12.0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{16.0} \\[2.0ex]
&= 4.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

岸から見た船の本当の速さは、船が自分で進む速さ(対岸方向)と川に流される速さ(下流方向)を合わせたものです。この2つの速さは直角の関係にあるので、「三平方の定理」という数学の公式を使って、2つの速さから合成された速さを計算することができます。

結論と吟味

船の岸に対する速さは \(4.0 \text{ m/s}\) です。
また、この速度ベクトルの三角形は、角度が \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の特別な直角三角形であり、辺の比は \(v_1 : v_2 : v = 1 : \sqrt{3} : 2\) となります。
(2)で求めた \(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\) を基準にすると、\(v = 2 \times v_1 = 4.0 \text{ m/s}\)、\(v_2 = \sqrt{3} \times v_1 = 2.0\sqrt{3} \approx 3.5 \text{ m/s}\) となり、すべての計算結果が整合していることが確認できます。

解答 (1) \(4.0 \text{ m/s}\)
別解: 実際の移動距離から全体の速さを先に求める方法(模範解答のアプローチ)

思考の道筋とポイント
まず、(1)の岸に対する速さ \(v\) を求めます。船が実際に進んだ距離(AからBまでの距離)を、川幅と進んだ角度から幾何学的に求め、かかった時間で割ることで計算します。次に、その速さ \(v\) を川岸に垂直な成分 \(v_1\) と平行な成分 \(v_2\) に分解することで、(2)と(3)を解きます。
この設問における重要なポイント

  • 幾何学的な考察: 川幅、実際の進路、川岸が作る直角三角形(移動距離の三角形)に着目します。
  • 三角比の利用: この直角三角形の辺の比から、船が実際に進んだ距離を求めます。
  • 速度の分解: (1)で求めた合成速度 \(v\) を、三角比を用いて \(v_1\) と \(v_2\) に分解します。

具体的な解説と立式
(1) 岸に対する速さ \(v\) の計算
船の移動経路と川岸が作る直角三角形を考えます。川幅が \(30 \text{ m}\) で、これは直角三角形の高さに相当します。船の進路は川岸と \(30^\circ\) の角度をなすので、実際に進んだ距離を \(L\) とすると、
$$ \sin 30^\circ = \frac{(\text{川幅})}{L} $$
この \(L\) を時間 \(t=15 \text{ s}\) で進んだので、岸に対する速さ \(v\) は、
$$ v = \frac{L}{t} $$

(2), (3) 成分速度 \(v_1\), \(v_2\) の計算
(1)で求めた岸に対する速さ \(v\) を、川岸に垂直な成分(静水上の速さ \(v_1\))と平行な成分(川の流れの速さ \(v_2\))に分解します。速度ベクトルのなす直角三角形を考えると、
$$ v_1 = v \sin 30^\circ $$
$$ v_2 = v \cos 30^\circ $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 速度の分解
  • 三角比
計算過程

(1)の計算:
まず、進んだ距離 \(L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{(\text{川幅})}{\sin 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{30}{1/2} \\[2.0ex]
&= 60 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{L}{t} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{15} \\[2.0ex]
&= 4.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

(2)の計算:
$$
\begin{aligned}
v_1 &= v \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 4.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 2.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

(3)の計算:
$$
\begin{aligned}
v_2 &= v \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= 4.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 2.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(3.5 \text{ m/s}\) となります。
このアプローチでも、すべての答えが一致することが確認できます。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解と合成(ベクトルの考え方):
    • 核心: この問題の全ての現象は、「岸から見た船の運動(合成運動)」が、「船が自力で進む運動(静水上の運動)」と「川が流れる運動」という2つの独立した運動のベクトル的な重ね合わせ(合成)で表される、という一点に集約されます。
    • 理解のポイント: \(\vec{v}_{\text{岸から見た船}} = \vec{v}_{\text{静水上の船}} + \vec{v}_{\text{川の流れ}}\) というベクトル関係式が物理的背景です。この問題では、\(\vec{v}_{\text{静水上の船}}\)と\(\vec{v}_{\text{川の流れ}}\)が直角なので、速度ベクトルは直角三角形を形成します。
  • 各方向の運動の独立性:
    • 核心: 川を横切る方向(川岸に垂直)の運動と、川に沿って流される方向(川岸に平行)の運動は、互いに影響を与えません。
    • 理解のポイント: 「川を横切るのにかかる時間」は、川を横切る方向の速度成分(この問題では\(v_1\))と川幅だけで決まり、川の流れの速さ(\(v_2\))には一切依存しません。この原理を理解することが、この種の問題を効率的に解く鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 風の中を飛ぶ飛行機: 「川の流れ」が「風」に、「船」が「飛行機」に置き換わっただけで、考え方は全く同じです。対地速度 = 対気速度 + 風速 のベクトル和で考えます。
    • 斜方投射: 物体を斜めに投げ上げた運動も、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「等加速度運動(自由落下)」という2つの独立した運動の合成として扱います。運動を直交する2方向に分解して考える点で、本質は同じです。
    • 最短時間で川を渡る問題: 川を最短時間で渡るには、船首を常に対岸にまっすぐ向ける必要があります。これは、川を横切る速度成分を最大にするためであり、まさにこの問題の状況設定そのものです。
    • 最短距離で川を渡る問題: 川を最短距離で渡る(まっすぐ対岸に到達する)には、あらかじめ上流側に船首を向けて、川に流される分を相殺する必要があります。この場合、速度ベクトルの三角形は直角三角形になりますが、斜辺が静水上の速さ \(v_1\) になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 基準となる座標系を明確にする: 「岸に対する速度」「静水に対する速度」など、誰から見た速度なのかを常に意識します。
    2. 運動を分解する軸を設定する: 通常は「川の流れに平行な方向」と「垂直な方向」に分解するのが最も有効です。
    3. 時間は共通のパラメータ: 分解した2つの方向の運動で、経過時間 \(t\) は共通です。この時間 \(t\) を媒介にして、2つの方向の運動を結びつけることができます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 速度のベクトル関係の誤解:
    • 誤解: 岸に対する速さ \(v\)、静水上の速さ \(v_1\)、川の流れの速さ \(v_2\) の関係を、単純な足し算や引き算(\(v = v_1 + v_2\))で計算してしまう。
    • 対策: 速度は向きを持つベクトル量であることを常に意識し、必ずベクトル図を描いて考える習慣をつけましょう。この問題のように直角に交わる場合は、三平方の定理や三角比を使います。
  • 「川を横切る時間」の計算ミス:
    • 誤解: 川を横切る時間を計算する際に、岸に対する速さ \(v\) を使ってしまう。(例: \(t = (\text{川幅}) / v\))
    • 対策: 「川を横切る」という運動に寄与するのは、川岸に垂直な速度成分(この問題では \(v_1\))のみである、という「運動の独立性」の原理を徹底しましょう。正しくは \(t = (\text{川幅}) / v_1\) です。
  • 角度の取り違え:
    • 誤解: 問題文の「川岸に対して \(30^\circ\) の方向に進み」という記述を、速度ベクトルのどの部分の角度かを取り違える。
    • 対策: 必ず速度のベクトル図を描き、\(\vec{v}\)(合成速度)と川岸(\(\vec{v}_2\) の方向)のなす角が \(30^\circ\) であることを図中に明記しましょう。これにより、三角比の適用ミスを防げます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 2つの世界の重ね合わせ: 「もし川が流れていなかったら、船は \(15 \text{ s}\) でまっすぐ \(30 \text{ m}\) 進む世界」と、「船が止まったままで、川の水だけが流れている世界」を想像します。実際の現象は、この2つの世界での出来事が同時に起こった結果として現れます。
    • 速度のベクトル図: すべての速度ベクトルを、同じ始点から矢印で描くことが極めて重要です。静水上の速度 \(\vec{v}_1\)(川岸に垂直)と川の流れの速度 \(\vec{v}_2\)(川岸に平行)を描き、この2つのベクトルで作られる長方形の対角線として、岸に対する速度 \(\vec{v}\) を描きます。この図を描くことで、すべての速度の関係性が一目瞭然となります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 速度と距離の図を区別する: この問題では、速度ベクトルが作る三角形(\(\vec{v}_1, \vec{v}_2, \vec{v}\))と、移動距離が作る三角形(川幅 \(30 \text{ m}\)、流された距離、実際の移動距離 \(L\))は相似形になります。どちらの図で考えているのかを意識することが重要です。
    • 角度を正確に記入する: どの角が \(30^\circ\) なのか、どの角が直角なのかを明確に図に書き込みましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 等速直線運動の式 (\(x = vt\)):
    • 選定理由: (2)を先に解くアプローチでは、「川を横切る」という運動が、川岸に垂直な方向の等速直線運動とみなせるため。
    • 適用根拠: 川を横切る方向には力が働いていない(と仮定される)ため、速度 \(v_1\) は一定です。したがって、距離、速さ、時間の関係式が適用できます。
  • 三角比 (\(\tan\theta, \sin\theta, \cos\theta\)):
    • 選定理由: 速度ベクトルがなす直角三角形において、既知の辺(速度の大きさ)と角度から、未知の辺を求めるため。
    • 適用根拠: 速度ベクトル図が幾何学的な直角三角形を形成しているため、その辺の比の関係を数式化する数学的なツールとして三角比が最適です。
  • 三平方の定理 (\(c^2 = a^2 + b^2\)):
    • 選定理由: (1)を最後に解くアプローチでは、互いに直交する2つの速度成分 \(v_1\) と \(v_2\) から、合成速度 \(v\) の大きさを求めるため。
    • 適用根拠: 速度ベクトル図が直角三角形であるため、その3辺の長さ(速度の大きさ)の関係を表す最も基本的な定理として適用します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  • アプローチ1(物理的に素直な解法):
    1. (2) \(v_1\) の計算: 川を横切る運動に着目。\((\text{川幅}) = v_1 \times t\) より \(v_1 = 30 / 15 = 2.0 \text{ m/s}\)。
    2. (3) \(v_2\) の計算: 速度ベクトルの三角形に着目。\(\tan 30^\circ = v_1 / v_2\) より \(v_2 = v_1 / \tan 30^\circ = 2.0 / (1/\sqrt{3}) \approx 3.5 \text{ m/s}\)。
    3. (1) \(v\) の計算: 三平方の定理より \(v = \sqrt{v_1^2 + v_2^2} = \sqrt{2.0^2 + (2.0\sqrt{3})^2} = 4.0 \text{ m/s}\)。
  • アプローチ2(模範解答の解法):
    1. (1) \(v\) の計算: 移動距離の三角形に着目。実際の移動距離 \(L = (\text{川幅}) / \sin 30^\circ = 60 \text{ m}\)。よって \(v = L / t = 60 / 15 = 4.0 \text{ m/s}\)。
    2. (2) \(v_1\) の計算: 速度の分解。\(\vec{v}\) の川岸垂直成分が \(\vec{v}_1\) なので、\(v_1 = v \sin 30^\circ = 4.0 \times (1/2) = 2.0 \text{ m/s}\)。
    3. (3) \(v_2\) の計算: 速度の分解。\(\vec{v}\) の川岸平行成分が \(\vec{v}_2\) なので、\(v_2 = v \cos 30^\circ = 4.0 \times (\sqrt{3}/2) \approx 3.5 \text{ m/s}\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 特殊な直角三角形の辺の比を活用する: この問題の速度三角形は、角度が \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) なので、辺の比は \(v_1 : v_2 : v = 1 : \sqrt{3} : 2\) となります。どれか一つでも速度が分かれば(例えば \(v_1=2.0\))、他の速度は \(v=2 \times 2.0 = 4.0\), \(v_2=\sqrt{3} \times 2.0 \approx 3.5\) のように、比の関係から暗算レベルで求めることができ、計算ミスを減らせます。
  • \(\sqrt{3}\) の近似値: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) は物理の問題で頻出します。覚えておくと計算がスムーズになります。
  • 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値(30 m, 15 s など)は2桁なので、最終的な答えも有効数字2桁(例: 3.5 m/s)に揃えるのが基本です。計算途中では、\(\sqrt{3}\) のような無理数はそのまま使い、最後の最後に近似値を代入して丸めるようにすると、誤差が蓄積しにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(v_1 = 2.0 \text{ m/s}\), \(v_2 \approx 3.5 \text{ m/s}\), \(v = 4.0 \text{ m/s}\) という結果を見てみましょう。
    • 川の流れの速さ \(v_2\) が静水上の速さ \(v_1\) より大きいので、船は横切る距離よりも下流に流される距離の方が長くなるはずです。これは、進路の角度が \(30^\circ\) と、\(45^\circ\) よりも岸に近い角度になっていることと整合します。
    • 合成速度 \(v\) は、成分である \(v_1\) や \(v_2\) よりも大きくなければなりません。\(4.0 > 2.0\) かつ \(4.0 > 3.5\) なので、この点も妥当です。
  • 別解との比較:
    • 「川を横切る運動から \(v_1\) を先に求める」アプローチと、「実際の移動距離から \(v\) を先に求める」アプローチの2通りで計算しました。全く異なる道筋をたどったにもかかわらず、すべての答え(\(v_1, v_2, v\))が完全に一致しました。これは、計算の正しさと物理法則の理解が正しいことを強力に裏付けています。

18 等加速度直線運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一定の加速度で運動する列車の通過を題材とした、等加速度直線運動の公式を応用する問題です。「列車の前端がA地点を通過」してから「後端がA地点を通過する」までの間に、列車は自身の長さ \(l\) だけ進む、という状況設定を正しく理解することが出発点となります。

与えられた条件
  • 加速度: \(a\) (一定)
  • A地点を前端が通過するときの速さ(初速度): \(u\)
  • A地点を後端が通過するときの速さ(終速度): \(v\)
問われていること
  • (1) 列車がA地点を通過するのに要した時間 \(t\)
  • (2) 列車の長さ \(l\)
  • (3) 列車の中点がA地点を通過するときの速さ \(v’\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

この解説は、模範解答に記載されている別解をより詳細に解説し、さらに物理的な意味合いを深く掘り下げることで、学習者の多角的な理解を促進することを目的としています。

  1. 解説の方針が模範解答と異なる点
    • (2) 列車の長さ \(l\) の計算: 模範解答では \(v^2 – u^2 = 2al\) の公式を直接用いていますが、この解説では、その公式を用いる解法に加え、模範解答で「別解」として示されている2つの方法(\(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を使う方法、平均の速さを使う方法)を、それぞれ独立した解法として、思考プロセスから丁寧に解説します。
    • (3) 中点の速さ \(v’\) の計算: 模範解答と同様のアプローチに加え、時間についての考察を深める別解を追加します。
  2. この方針を取る理由
    • 等加速度直線運動の問題は、複数の公式を適切に使い分ける能力が問われます。様々なアプローチを学ぶことで、問題の条件に応じて最適な解法を選択する応用力が養われるためです。
    • 特に「平均の速さ」を用いた解法は、計算が簡潔になるだけでなく、等加速度運動の性質を直感的に理解する上で非常に教育的価値が高いと判断したためです。
  3. 結果への影響
    • どの解法を用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「等加速度直線運動」です。どの物理量(初速度、終速度、加速度、時間、移動距離)が与えられていて、どの物理量を求めたいのかを正確に把握し、3つの等加速度直線運動の公式から最適なものを選択する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等加速度直線運動の公式: 以下の3つの公式を状況に応じて使い分けます。
    • \(v = v_0 + at\)
    • \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
    • \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
  2. 運動の区間の設定: 「前端通過」から「後端通過」までを一つの運動区間と捉え、初速度 \(u\)、終速度 \(v\)、移動距離 \(l\) を対応させます。
  3. 物理量の読み替え: (3)では、「中点が通過する」という状況を「移動距離が \(l/2\) のとき」と読み替えることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、初速度 \(u\)、終速度 \(v\)、加速度 \(a\) が分かっているので、\(v=v_0+at\) を用いて時間 \(t\) を求めます(問1)。
  2. 次に、(1)で求めた \(t\) を使って移動距離 \(l\) を計算するか、あるいは時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を使って \(l\) を直接求めます(問2)。
  3. 最後に、「前端通過」から「中点通過」までを新たな運動区間として設定し、移動距離が \(l/2\) であることを利用して、中点通過時の速さ \(v’\) を求めます(問3)。

問(1)

思考の道筋とポイント
列車がA地点を通過するのに要した時間 \(t\) を求める問題です。この運動は、初速度が \(u\)、終速度が \(v\)、加速度が \(a\) の等加速度直線運動です。これらの4つの物理量(\(t, u, v, a\))の関係を表す公式を選択します。
この設問における重要なポイント

  • 物理量の整理: 初速度 \(v_0 = u\)、終速度 \(v\)、加速度 \(a\)、時間 \(t\) の関係を考えます。
  • 公式の選択: 移動距離 \(l\) を含まない公式 \(v = v_0 + at\) が最適であると判断します。

具体的な解説と立式
列車の前端がA地点を通過してから、後端がA地点を通過するまでの運動を考えます。
この運動の初速度は \(u\)、終速度は \(v\)、加速度は \(a\)、かかった時間は \(t\) です。
等加速度直線運動の公式のうち、速度と時間の関係を表す式は以下です。
$$ v = u + at $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立てた式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
at &= v – u \\[2.0ex]
t &= \frac{v-u}{a}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「後の速さ」は「初めの速さ」に「加速度と時間の積」を足したものです。この関係式を使って、時間について解くことで、列車がA地点を通り過ぎるのにかかった時間を計算します。

結論と吟味

列車がA地点を通過するのに要した時間は \(t = \displaystyle\frac{v-u}{a}\) です。加速度 \(a\) が大きいほど、また速度差 \(v-u\) が小さいほど、通過時間は短くなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{v-u}{a} \text{ [s]}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
列車の長さ \(l\) を求める問題です。列車がA地点を通過する間に進む距離が、列車の長さ \(l\) に相当します。この運動区間(移動距離 \(l\))における初速度は \(u\)、終速度は \(v\)、加速度は \(a\) です。これらの物理量と \(l\) を結びつける公式を選択します。
この設問における重要なポイント

  • 物理量の整理: 移動距離 \(x = l\)、初速度 \(v_0 = u\)、終速度 \(v\)、加速度 \(a\) の関係を考えます。
  • 公式の選択: 時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うと、(1)の結果を使わずに直接計算できます。

具体的な解説と立式
列車の前端がA地点を通過してから後端が通過するまでの移動距離は \(l\) です。
この間の初速度は \(u\)、終速度は \(v\)、加速度は \(a\) です。
等加速度直線運動の公式のうち、時間を含まずに距離と速度の関係を表す式は以下です。
$$ v^2 – u^2 = 2al $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

上記で立てた式を \(l\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{v^2 – u^2}{2a}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

等加速度運動では、「(後の速さの2乗)引く(初めの速さの2乗)は、2倍の加速度と移動距離の積に等しい」という便利な関係式があります。これを使って、列車の長さ(移動距離)を計算します。

結論と吟味

列車の長さは \(l = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) です。この式は、(1)で求めた \(t\) を使わずに導出できるため、(1)の計算にミスがあったとしても影響を受けないという利点があります。

別解1: 時間 \(t\) を用いる方法

思考の道筋とポイント
(1)で求めた時間 \(t\) を利用して、移動距離 \(l\) を計算します。移動距離、初速度、加速度、時間の関係を表す公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を用います。
具体的な解説と立式
移動距離 \(l\) は、初速度 \(u\)、加速度 \(a\)、時間 \(t\) を用いて次のように表せます。
$$ l = ut + \frac{1}{2}at^2 $$
この式に、(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{v-u}{a}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
l &= u \left( \frac{v-u}{a} \right) + \frac{1}{2}a \left( \frac{v-u}{a} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{u(v-u)}{a} + \frac{1}{2}a \frac{(v-u)^2}{a^2} \\[2.0ex]
&= \frac{uv – u^2}{a} + \frac{v^2 – 2uv + u^2}{2a} \\[2.0ex]
&= \frac{2(uv – u^2) + (v^2 – 2uv + u^2)}{2a} \\[2.0ex]
&= \frac{2uv – 2u^2 + v^2 – 2uv + u^2}{2a} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2 – u^2}{2a}
\end{aligned}
$$
メインの解法と同じ結果が得られました。

別解2: 平均の速さを用いる方法

思考の道筋とポイント
等加速度直線運動では、「移動距離 = 平均の速さ × 時間」という関係が成り立ちます。平均の速さ \(\bar{v}\) は、初速度と終速度の算術平均で \(\bar{v} = \displaystyle\frac{u+v}{2}\) と表せます。これと(1)で求めた時間 \(t\) を使って \(l\) を計算します。この方法は計算が非常に簡潔になるため、強力な武器になります。
具体的な解説と立式
等加速度直線運動の移動距離 \(l\) は、平均の速さ \(\bar{v}\) と時間 \(t\) の積で表せます。
$$ l = \bar{v} t $$
ここで、平均の速さ \(\bar{v}\) は、
$$ \bar{v} = \frac{u+v}{2} $$
です。また、(1)より時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{v-u}{a} $$
です。

使用した物理公式

  • 移動距離 = 平均の速さ × 時間
  • 平均の速さ(等加速度運動): \(\bar{v} = \displaystyle\frac{v_0+v}{2}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
l &= \left( \frac{u+v}{2} \right) \left( \frac{v-u}{a} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{(v+u)(v-u)}{2a} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2 – u^2}{2a}
\end{aligned}
$$
和と差の積の公式を使うことで、非常にすっきりとメインの解法と同じ結果が得られました。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{v^2-u^2}{2a} \text{ [m]}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
列車の中点がA地点を通過するときの速さ \(v’\) を求める問題です。これは、「列車の前端がA地点を通過してから、列車が \(l/2\) だけ進んだときの速さ」を求めることと同じです。
運動の区間を「前端通過」から「中点通過」までに設定し、初速度 \(u\)、移動距離 \(l/2\)、加速度 \(a\) から、終速度である \(v’\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動区間の再設定: 「前端通過 \(\rightarrow\) 中点通過」という新しい運動区間を考えます。
  • 物理量の設定: この区間では、初速度は \(u\)、移動距離は \(x = l/2\)、終速度は \(v’\) となります。加速度 \(a\) は常に一定です。
  • 公式の選択: 時間が不明なので、\(v^2 – v_0^2 = 2ax\) の公式が適しています。

具体的な解説と立式
「前端通過」から「中点通過」までの運動を考えます。
この運動の初速度は \(u\)、終速度は \(v’\)、加速度は \(a\)、移動距離は \(l/2\) です。
時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を適用すると、
$$ (v’)^2 – u^2 = 2a \left( \frac{l}{2} \right) $$
$$ (v’)^2 – u^2 = al $$
この式に、(2)で求めた \(l = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
(v’)^2 – u^2 &= a \left( \frac{v^2 – u^2}{2a} \right) \\[2.0ex]
(v’)^2 – u^2 &= \frac{v^2 – u^2}{2} \\[2.0ex]
(v’)^2 &= u^2 + \frac{v^2 – u^2}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{2u^2 + (v^2 – u^2)}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{u^2 + v^2}{2}
\end{aligned}
$$
速さ \(v’\) は正なので、
$$ v’ = \sqrt{\frac{u^2 + v^2}{2}} $$

計算方法の平易な説明

列車が半分の長さだけ進んだときの速さを求めます。ここでも「(後の速さの2乗)引く(初めの速さの2乗)は、2倍の加速度と移動距離の積に等しい」という関係を使います。移動距離を「列車の長さの半分」として式を立て、(2)で求めた列車の長さを代入して計算します。

結論と吟味

中点通過時の速さは \(v’ = \sqrt{\displaystyle\frac{u^2 + v^2}{2}}\) です。この形は、\(u^2\) と \(v^2\) の「相加平均」の平方根になっています。
ここで注意すべきは、中点通過時の速さ \(v’\) は、初速度 \(u\) と終速度 \(v\) の平均 \(\displaystyle\frac{u+v}{2}\) ではない、ということです。等加速度運動では、速さは時間に対して線形に増加しますが、距離に対しては線形に増加しないためです。つまり、半分の距離を進んだ時点では、まだ半分の時間は経過していません(速度が遅い前半の方が時間がかかるため)。

解答 (3) \(\sqrt{\displaystyle\frac{u^2+v^2}{2}} \text{ [m/s]}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 等加速度直線運動の3公式:
    • 核心: この問題は、等加速度直線運動を記述する3つの基本公式を、問題の状況に応じて適切に選択し、適用することに尽きます。
      1. \(v = v_0 + at\) (速度と時間の関係)
      2. \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) (距離と時間の関係)
      3. \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) (速度と距離の関係)
    • 理解のポイント: どの公式にどの物理量が含まれているか(あるいは含まれていないか)を把握することが、解法の選択を迅速かつ正確に行うための鍵です。例えば、(2)で \(l\) を求める際に、時間 \(t\) を使いたくなければ3番目の式を、(1)で求めた \(t\) を活用したければ1番目や2番目の式から導出された関係を使う、といった戦略が立てられます。
  • 運動区間の設定:
    • 核心: 「列車がA地点を通過する」という現象を、「列車の前端がA地点に達してから、後端がA地点を通過するまでの運動」と捉え、この区間における初速度、終速度、移動距離を正しく設定することが、立式の前提となります。
    • 理解のポイント: この問題では、移動距離 \(x\) が列車の長さ \(l\) に等しいと読み替えることが重要です。同様に、(3)では「中点が通過する」を「移動距離が \(l/2\) の運動」と読み替えることで、同じ公式を適用できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • トンネルを通過する電車: 「A地点」が「トンネルの入り口」に、「列車の長さ」が「トンネルの長さ+列車の長さ」に変わるだけで、全く同じ考え方が適用できます。
    • ブレーキをかけて停止するまでの運動: 終速度 \(v=0\) となる等加速度直線運動(加速度は負)です。停止するまでの時間や距離を求める問題は、この問題の変形と見なせます。
    • 自由落下・投げ上げ: 加速度が重力加速度 \(g\) で一定の等加速度直線運動です。初速度や高さを求める問題で、同じ3公式が活躍します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 既知の物理量と未知の物理量をリストアップする: 問題文から \(v_0, v, a, t, x\) のうち、何が与えられていて、何を求めたいのかを整理します。
    2. 最適な公式を選択する: リストアップした物理量を見て、最も少ない手間で解ける公式を選びます。「求めたい未知数」と「既知の量」だけが含まれている公式(あるいは、他の設問で既に求めた量を使える公式)が理想的です。特に、時間 \(t\) が不要な場面で \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使えると、計算が大幅に楽になることが多いです。
    3. 「平均の速さ」の活用を検討する: 等加速度直線運動では、移動距離は「平均の速さ \(\times\) 時間」で求められます。平均の速さは \(\bar{v} = (v_0+v)/2\) と簡単に計算できるため、時間 \(t\) が分かっている場合、移動距離 \(x\) を求めるのに非常に有効です。(問(2)の別解2参照)

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 移動距離の誤認:
    • 誤解: 「列車がA地点を通過する」という状況で、移動距離をゼロや他の値と勘違いしてしまう。
    • 対策: 図を描いて、運動の始点と終点を明確にしましょう。列車の前端がA地点にある状態(始点)と、後端がA地点にある状態(終点)を描けば、前端が列車の長さ \(l\) だけ進んだことが視覚的に理解できます。
  • (3)での安易な平均計算:
    • 誤解: 列車の中点が通過するときの速さ \(v’\) を、初速度 \(u\) と終速度 \(v\) の単純な平均(相加平均)である \(\frac{u+v}{2}\) だと考えてしまう。
    • 対策: 等加速度運動では、速さは「時間」に対しては線形に(比例して)変化しますが、「距離」に対しては線形に変化しません(\(v^2\) が \(x\) に比例)。したがって、半分の距離を進んだからといって、速さがちょうど中間になるとは限りません。この問題の答えが \(\sqrt{\frac{u^2+v^2}{2}}\)(2乗の平均の平方根)という特殊な形になることを理解し、安易な類推をしないようにしましょう。
  • 符号のミス:
    • 誤解: 減速する場合(ブレーキをかけるなど)に、加速度 \(a\) を正の値として計算してしまう。
    • 対策: 最初に決めた正の向き(この問題では右向き)に対して、速度が増加しているなら \(a>0\)、速度が減少しているなら \(a<0\) と、符号を正しく設定する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • v-tグラフの活用: この運動をv-tグラフで描くと、傾きが加速度 \(a\)、切片が初速度 \(u\) の直線になります。時間 \(t\) のときの速度が \(v\) です。
      • (1) 時間 \(t\): グラフの傾きが \(a = \frac{v-u}{t}\) であることから、\(t = \frac{v-u}{a}\) が導かれます。
      • (2) 列車の長さ \(l\): グラフとt軸で囲まれた台形の面積が移動距離 \(l\) に相当します。面積は \(l = \frac{1}{2}(u+v)t\) であり、これに(1)の \(t\) を代入すると \(l = \frac{v^2-u^2}{2a}\) が得られます。これは「平均の速さ \(\times\) 時間」の考え方そのものです。
      • (3) 中点の速さ \(v’\): 移動距離が半分 (\(l/2\)) になる時間 \(t’\) を考え、そのときの速度が \(v’\) です。v-tグラフの面積が \(l/2\) となる \(t’\) を見つけることで \(v’\) を求めることも可能ですが、計算が複雑になるため、\(v^2-v_0^2=2ax\) を使う方が賢明です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 運動の各段階を図示する: ①前端がA地点、②中点がA地点、③後端がA地点、という3つのスナップショットを描くと、それぞれの区間での移動距離(①→②は \(l/2\)、①→③は \(l\))が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(v = v_0 + at\):
    • 選定理由: (1)で、移動距離 \(x\) を情報として使わずに、\(v, u, a, t\) の4者関係から \(t\) を求めるため。
    • 適用根拠: 加速度の定義 \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) を変形したものであり、等加速度運動の最も基本的な関係式です。
  • \(v^2 – v_0^2 = 2ax\):
    • 選定理由: (2)と(3)で、時間 \(t\) という媒介変数を介さずに、速度と距離の関係から直接答えを求めるため。計算が簡潔になり、(1)の答えに依存しない独立した解法となります。
    • 適用根拠: この公式は、\(v=v_0+at\) と \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) から \(t\) を消去して導かれる関係式です。時間情報が不要な場合に極めて有効です。
  • \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\):
    • 選定理由: (2)の別解1で、(1)で求めた \(t\) を使って \(l\) を求めるために使用。終速度 \(v\) の情報を使わずに計算できます。
    • 適用根拠: 等加速度運動における移動距離を、時間 \(t\) の関数として直接的に表現する基本公式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 時間 \(t\) の計算:
    • 戦略: 距離を含まない公式 \(v=u+at\) を選択。
    • フロー: ①公式を \(t\) について解く (\(t = (v-u)/a\))。
  2. (2) 列車の長さ \(l\) の計算:
    • 戦略: 時間を含まない公式 \(v^2-u^2=2al\) を選択。
    • フロー: ①公式を \(l\) について解く (\(l = (v^2-u^2)/2a\))。
  3. (3) 中点の速さ \(v’\) の計算:
    • 戦略: 運動区間を「前端→中点」に再設定し、移動距離を \(l/2\) として、時間を含まない公式を適用。
    • フロー: ①「前端→中点」の運動で公式を立てる (\((v’)^2-u^2 = 2a(l/2)\)) → ②式を整理 (\((v’)^2 = u^2+al\)) → ③(2)で求めた \(l\) を代入 → ④\(v’\) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的な答えを文字式で表す場合は、途中で数値を代入する必要がないため、計算ミスは主に式変形の過程で起こります。特に、分数の計算や符号の扱いに注意が必要です。
  • 別解による検算: (2)では3通りの解法を示しました。もし時間に余裕があれば、メインの解法で得た答えを、別の解法(例えば平均の速さを使う方法)で再計算してみることで、検算ができます。異なるアプローチで同じ答えが得られれば、結果の信頼性は非常に高まります。
  • 単位の次元を確認する: 例えば(2)で求めた \(l = \frac{v^2-u^2}{2a}\) の単位を考えます。分子は(速度)\(^2\) ([m²/s²])、分母は加速度 ([m/s²]) なので、全体の単位は \(\frac{[\text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m}/\text{s}^2]} = [\text{m}]\) となり、確かに長さの単位と一致します。このような次元解析は、式変形のミスを発見するのに役立ちます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 中点の速さ: \(v’ = \sqrt{\frac{u^2+v^2}{2}}\) という答えについて考えます。もし \(u=3, v=5\) なら、\(v’ = \sqrt{\frac{9+25}{2}} = \sqrt{17} \approx 4.12\) となります。これは、相加平均 \(\frac{3+5}{2}=4\) よりも少し大きい値です。これは、列車が加速しているため、運動の前半(速さが遅い)により多くの時間がかかり、後半(速さが速い)は短い時間で進むため、ちょうど半分の距離を進んだ時点では、速さは時間的な中間点よりも速くなっている、という物理的直感と一致します。
  • 極端な場合を考える(思考実験):
    • もし初速度 \(u=0\) だったらどうなるでしょう?
      (1) \(t = v/a\)
      (2) \(l = v^2/(2a)\)
      (3) \(v’ = \sqrt{v^2/2} = v/\sqrt{2} \approx 0.707v\)
      静止状態から発車した列車が、ある地点を通過し終わるときの速さが \(v\) なら、その中点が通過するときの速さは \(v\) の約7割になる、という具体的なイメージが湧きます。
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19 等加速度直線運動

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