今回の問題
dynamics32【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「速度に依存する抵抗力と終端速度」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ニュートンの運動方程式: 物体の運動(加速度)と、その原因となる力(合力)の関係を結びつける基本法則です。(\(ma = F_{\text{合力}}\))
- 速度に比例する抵抗力: 空気抵抗のように、物体の速さに比例して大きくなり、常に運動と逆向きにはたらく力です。
- 終端速度: 抵抗力と重力がつり合い、加速度がゼロになったときの、物体の最終的な一定の速度です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、落下中の小球にはたらく力(重力と空気抵抗)を特定し、運動方程式を立てて、任意の速さ \(v\) のときの加速度 \(a\) を求めます。
- (2)では、「速さが一定になる」という条件を「加速度 \(a=0\)」と読み替え、(1)で立てた運動方程式に適用して終端速度 \(v_f\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球の速さが \(v\) という任意の瞬間における、加速度 \(a\) を求めます。これは、その瞬間にはたらいている力をすべて特定し、運動方程式を立てることで解くことができます。空気抵抗が速度 \(v\) に依存するため、加速度 \(a\) も \(v\) の関数として表されます。
この設問における重要なポイント
- 小球にはたらく力は「重力」と「空気抵抗」の2つである。
- 運動方向(落下方向)を正として、各力の符号を正しく設定する。
- 空気抵抗は運動と逆向きにはたらくため、負の力として扱う。
具体的な解説と立式
まず、小球にはたらく力を整理します。鉛直下向きを正の向きとします。
- 重力:
- 大きさ: \(mg\)
- 向き: 鉛直下向き。座標軸の正の向きと同じなので、力の成分は \(+mg\) となります。
- 空気抵抗:
- 大きさ: \(kv\)
- 向き: 落下運動(下向き)と逆向き、つまり上向き。座標軸の正の向きと反対なので、力の成分は \(-kv\) となります。
したがって、小球にはたらく合力 \(F_{\text{合力}}\) は、これら2つの力の和で表されます。
$$F_{\text{合力}} = mg – kv$$
これをニュートンの運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) に代入すると、
$$ma = mg – kv \quad \cdots ①$$
これが、この小球の運動方程式です。この式を加速度 \(a\) について解きます。
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
式①の両辺を質量 \(m\) で割って、加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{mg – kv}{m} \\[2.0ex]&= g – \frac{k}{m}v
\end{aligned}
$$
小球には、下向きに重力 \(mg\)、上向きに空気抵抗 \(kv\) がはたらいています。下向きをプラスとすると、力の合計(合力)は「\(mg – kv\)」となります。運動方程式「質量 × 加速度 = 合力」に当てはめると、「\(m \times a = mg – kv\)」という式ができます。この式を \(a\) について解くと、答えが求まります。
加速度は \(a = g – \displaystyle\frac{k}{m}v\) となります。この式から、落下し始め(\(v=0\))の加速度は \(a=g\) であり、速度 \(v\) が増加するにつれて加速度 \(a\) が減少していくことがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
落下する小球の速さが最終的に一定になったときの速度、すなわち終端速度 \(v_f\) を求めます。「速さが一定になる」という物理的な状況を、「加速度が0になる」という数式的な条件に変換することが解法の鍵です。
この設問における重要なポイント
- 「速さが一定」 \(\rightarrow\) 「加速度 \(a=0\)」 \(\rightarrow\) 「合力 \(F_{\text{合力}}=0\)」と読み替える。
- 合力が0とは、この場合「重力 = 空気抵抗」という力のつり合いの状態を意味する。
具体的な解説と立式
「速さが一定になる」ということは、速度が変化しない、つまり加速度がゼロ (\(a=0\)) になることを意味します。
(1)で立てた運動方程式 ① において、\(a=0\) となったときの速さが終端速度 \(v_f\) です。
$$m \times 0 = mg – kv_f$$
この式は、
$$0 = mg – kv_f$$
となり、変形すると、
$$kv_f = mg \quad \cdots ②$$
となります。これは、下向きの重力と上向きの空気抵抗が完全につり合っている状態を表しています。このつり合いの式を \(v_f\) について解きます。
使用した物理公式
- 力のつり合い (運動方程式で \(a=0\) とした状態)
式② \(kv_f = mg\) の両辺を \(k\) で割って、\(v_f\) を求めます。
$$ v_f = \frac{mg}{k} $$
落下し始めはスピードが遅いので、重力が空気抵抗に勝って加速します。スピードが上がるにつれて空気抵抗も大きくなり、やがて上向きの空気抵抗の大きさが、下向きの重力の大きさとぴったり同じになります。この瞬間、力がつり合うのでそれ以上加速しなくなり、速度が一定になります。このときの速さが終端速度です。したがって、「空気抵抗 = 重力」すなわち「\(kv_f = mg\)」という式を解けば、終端速度が求まります。
終端速度は \(v_f = \displaystyle\frac{mg}{k}\) となります。この結果は、物体の質量 \(m\) が大きいほど、また空気抵抗の係数 \(k\) が小さいほど、終端速度が大きくなることを示しており、直感とも一致する妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と力のつり合いの関係性:
- 核心: この問題は、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) という一つの法則が、運動の全段階を支配していることを理解させるものです。特に、「終端速度」という状態が、運動方程式において加速度 \(a=0\) となった特別な場合(すなわち力のつり合い)として導かれる点が核心です。
- 理解のポイント: 落下運動は「加速段階(合力あり)」から「等速段階(合力ゼロ)」へと連続的に変化します。この変化の駆動力は、速度に応じて大きくなる空気抵抗です。この一連のプロセスを、運動方程式という統一的な視点で捉えることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 上向きに投射した場合: 初速を与えて上向きに投げ上げた場合、上昇中は重力と空気抵抗がどちらも下向きにはたらくため、運動方程式は \(ma = -mg – kv\) となります。
- 抵抗力が速度の2乗に比例する場合: 高速で動く物体では、抵抗力が \(kv^2\) のように速度の2乗に比例することがあります。この場合も考え方は同じで、運動方程式は \(ma = mg – kv^2\)、終端速度は \(mg = kv_f^2\) から求められます。
- 電場中の荷電粒子の運動: 電場から受ける力(一定)と、抵抗力(速度に比例)を受けながら運動する荷電粒子の問題は、本質的にこの問題と全く同じ構造をしています。
- 初見の問題での着眼点:
- 力のリストアップ: まず、物体にはたらく力をすべて(この場合は重力と抵抗力)特定し、図示します。
- 座標軸の設定: 運動の主な方向(この場合は鉛直下向き)を正と決めます。
- 運動方程式の立式: 座標軸に従って、各力に符号をつけ、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。これがすべての基本です。
- 問題の条件を代入: 「終端速度を求めよ」と言われたら、立てた運動方程式に \(a=0\) を代入する、という手順を思い出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 抵抗力の向きの間違い:
- 誤解: 抵抗力を運動と同じ向き(下向き)に設定してしまう。
- 対策: 「抵抗」という言葉の通り、抵抗力は常に物体の運動を「妨げる」向きにはたらきます。運動方向と必ず逆向きになる、と覚えましょう。
- 終端速度=力がはたらかない、という誤解:
- 誤解: 速度が一定なので、力が消えたと考えてしまう。
- 対策: 終端速度は、力が消えた状態ではなく、「重力」と「空気抵抗」という2つの力がちょうどつり合って、合力がゼロになった状態です。力が存在し続けるからこそ、その速度が維持されます。
- 加速度が一定だと思い込む:
- 誤解: 自由落下と同じように、加速度が常に \(g\) であると考えてしまう。
- 対策: (1)で求めたように、加速度 \(a = g – \frac{k}{m}v\) は速度 \(v\) に依存して変化します。抵抗力がはたらく場合、加速度は一定ではない、と肝に銘じておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- なぜ(2)は「力のつり合い」で解けるのか?:
- 選定理由: 「速さが一定」という言葉は、物理学の言葉で「加速度が0」を意味します。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) は、あらゆる運動を記述する普遍的な法則です。この式に \(a=0\) を代入すると、自動的に \(F_{\text{合力}} = 0\) という式が得られます。これが「力のつり合い」の定義そのものです。つまり、「力のつり合い」は独立した別の法則ではなく、運動方程式の特別な一形態なのです。したがって、加速度が0の状況では、運動方程式から導かれる力のつり合いの式を使うのが最も論理的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 変数の区別を明確に: (1)の \(v\) は時間と共に変化する「変数」ですが、(2)の \(v_f\) は特定の条件を満たす「定数」です。式を立てる際に、どの文字が変数でどれが定数かを意識すると、混乱が少なくなります。
- 式の変形は一段階ずつ: \(ma = mg – kv\) から \(a\) を求める際に、いきなり暗算せず、まず両辺を \(m\) で割る操作を \(a = \frac{mg – kv}{m}\) と書き、次に項を分けて \(a = g – \frac{k}{m}v\) とするなど、手順を分けて計算するとミスが減ります。
- 極端な状況で検算:
- もし空気抵抗がなければ (\(k=0\))、(1)の式は \(a=g\) となり、自由落下と一致します。また、(2)の終端速度は \(v_f \rightarrow \infty\) となり、無限に加速し続けることを示唆します。
- もし落下直後なら (\(v=0\))、(1)の式は \(a=g\) となります。
このように、求めた式が既知の簡単な状況を正しく再現できるか確認することで、式の妥当性を検証できます。
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