問題の確認
thermodynamicsall#07各設問の思考プロセス
この問題は、熱力学の基本法則である「熱力学第一法則」と、熱機関の性能を示す「熱効率」の定義を直接的に問う問題です。複雑な思考は不要で、それぞれの法則の式の意味を正しく理解し、与えられた数値を代入することができれば解くことができます。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: エネルギー保存則であり、気体の内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))は、吸収した熱量(\(Q\))と外部にした仕事(\(W\))の関係、\(\Delta U = Q – W\)で表されます。
- 熱効率の定義: 投入した熱エネルギー(\(Q\))のうち、どれだけが有効な仕事(\(W\))に変換されたかを示す割合で、\(e = W/Q\)で定義されます。
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- (1) 内部エネルギーの増加量を求める:
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) に、問題文で与えられた熱量 \(Q = 2.0 \times 10^3\) J と仕事 \(W = 4.0 \times 10^2\) J を代入します。「与えた熱の一部が仕事として使われ、残りが内部エネルギーの増加分になる」というエネルギーの流れをイメージします。 - (2) 熱効率を求める:
熱効率の定義式 \(e = W/Q\) に、同じく与えられた \(W\) と \(Q\) の値を代入します。「投入した熱量に対して、どれだけの仕事を取り出せたか」という割合を計算し、最後にパーセント表示に直します。
どちらの設問も、基本公式に数値を当てはめるだけのストレートな計算問題です。
各設問の具体的な解説と解答
(1) この気体の内部エネルギーは何J増加したか。
問われている内容の明確化
気体の内部エネルギーがどれだけ変化したか、その増加量 \(\Delta U\) をジュール[J]単位で求めます。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則は、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体に加えられた熱量 \(Q\)、気体が外部にした仕事 \(W\) の間に成り立つ以下の関係式です。
$$\Delta U = Q – W \quad \cdots ①$$
この式は、「気体に入ってきたエネルギー(\(Q\))は、気体から出ていったエネルギー(\(W\))と、気体の中に蓄えられたエネルギー(\(\Delta U\))の和に等しい」というエネルギー保存則を表しています。
問題文から、
- 気体に与えた熱量: \(Q = 2.0 \times 10^3 \, \text{J}\)
- 気体がした仕事: \(W = 4.0 \times 10^2 \, \text{J}\)
これらの値を式①に代入することで、\(\Delta U\) を求めます。
$$\Delta U = Q – W$$
(\(\Delta U\): 内部エネルギーの変化, \(Q\): 加えられた熱量, \(W\): した仕事)
計算過程
式①に、与えられた値を代入します。
$$\Delta U = (2.0 \times 10^3 \, \text{J}) – (4.0 \times 10^2 \, \text{J})$$
指数の計算を揃えるために、\(2.0 \times 10^3 = 20 \times 10^2\) と変形します。
$$\Delta U = (20 \times 10^2 \, \text{J}) – (4.0 \times 10^2 \, \text{J})$$
$$\Delta U = (20 – 4.0) \times 10^2 = 16 \times 10^2 \, \text{J}$$
これを有効数字2桁の科学記数法で表すと、
$$\Delta U = 1.6 \times 10^3 \, \text{J}$$
となります。\(\Delta U\)が正の値なので、内部エネルギーは増加したことがわかります。
計算方法の平易な説明
- 気体に2000 Jの熱エネルギーを与えたと考えてください。
- そのうち、400 Jは外部への仕事として使われました。
- 残りのエネルギーはどこへ行ったかというと、気体自身の内部エネルギー(気体分子の運動エネルギーの合計)を増やすために使われました。
- したがって、内部エネルギーの増加量は「もらった熱 – した仕事」なので、\(2000 – 400 = 1600\) J となります。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を正しく理解し、適用できること。
- \(Q\) と \(W\) の符号(気体に入ってくるエネルギーか、出ていくエネルギーか)を正しく判断すること。
\(1.6 \times 10^3 \, \text{J}\)
(2) このときの熱効率は何%か。
問われている内容の明確化
この過程における熱効率 \(e\) を求め、パーセント[%]で表します。
具体的な解説と立式
熱効率 \(e\) は、供給された熱量 \(Q\) のうち、どれだけの割合が有効な仕事 \(W\) に変換されたかを示す指標です。定義式は以下の通りです。
$$e = \frac{W}{Q} \quad \cdots ②$$
この式に、与えられた \(W\) と \(Q\) の値を代入して計算します。得られた値を100倍することで、パーセント表示に変換します。
$$e = \frac{\text{した仕事}}{\text{加えられた熱量}} = \frac{W}{Q}$$
計算過程
式②に、与えられた値を代入します。
- した仕事: \(W = 4.0 \times 10^2 \, \text{J}\)
- 与えた熱量: \(Q = 2.0 \times 10^3 \, \text{J}\)
$$e = \frac{4.0 \times 10^2}{2.0 \times 10^3}$$
数値部分と指数部分を分けて計算します。
$$e = \frac{4.0}{2.0} \times \frac{10^2}{10^3} = 2.0 \times 10^{2-3} = 2.0 \times 10^{-1} = 0.20$$
これをパーセント表示にするために100倍します。
$$e (\%) = 0.20 \times 100 = 20 \, \%$$
計算方法の平易な説明
- 効率とは、「投入したもののうち、どれだけ有効活用できたか」の割合です。
- この場合、「与えた熱エネルギー」が投入、「気体がした仕事」が有効活用にあたります。
- したがって、効率は「した仕事 ÷ 与えた熱」で計算できます。
- \(400 \div 2000 = 0.2\) となります。
- これをパーセントで表すために100を掛けると、20%となります。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義式 \(e=W/Q\) を正しく理解していること。
- 分子と分母を間違えないこと(効率は通常1以下、100%以下になる)。
- 最後にパーセントに変換することを忘れないこと。
20 %
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 熱力学第一法則: 「\(\Delta U = Q – W\)」として表されるエネルギー保存則。気体の内部エネルギー、熱、仕事の関係を示す熱力学の基本中の基本です。\(Q\)は「もらった熱」、\(W\)は「した仕事」であり、その差額が内部エネルギーの変化(貯金)になる、というイメージが重要です。
- 熱効率: 熱機関の性能を示す重要な指標。投入した熱エネルギーに対して、どれだけの仕事を取り出せるかを表します。現実の熱機関では、熱効率が100%になることはありません(熱力学第二法則)。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- QとWの符号に注意: 熱力学第一法則を扱う際は、熱量\(Q\)と仕事\(W\)の符号の定義が非常に重要です。
- \(Q\): 気体が熱を吸収すれば正、放出すれば負。
- \(W\): 気体が外部に仕事をする(膨張する)と正、外部から仕事をされる(圧縮される)と負。
この問題では両方とも正の場合でしたが、問題によっては負になるケースもあるので注意が必要です。
- 熱効率の計算: 熱効率は必ず「(正味の)仕事 / 吸収した熱量」で計算します。複数の過程があるサイクルでは、1サイクル全体で吸収した熱量と、1サイクル全体でした正味の仕事を計算する必要があります。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 熱力学第一法則の式の混同: 教科書によっては、\(W\)を「気体が外部からされた仕事」と定義し、\(\Delta U = Q + W\) と表記する場合があります。どちらの定義を使っているかを常に意識し、一貫した式を用いることが大切です。
- 熱効率の分子と分母の逆転: 効率は「得られた成果 / 費やしたコスト」という考え方が基本です。熱機関では「仕事」が成果、「吸収した熱」がコストにあたります。これを逆にしないように注意しましょう。
- 内部エネルギーと熱量の混同: 内部エネルギーは気体の状態(温度や体積)で決まる量であり、熱量は状態変化の過程で出入りするエネルギーです。両者は異なる概念であることを理解しておく必要があります。
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