問題の確認
thermodynamicsall#09各設問の思考プロセス
この問題は、U字管に閉じ込められた気体の圧力と体積を考える問題で、「流体中の圧力のつり合い」と「気体の法則」という2つの異なる分野の知識を融合させて解く必要があります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 圧力のつり合い: U字管のように繋がった液体が静止している場合、同じ高さの点では圧力が等しくなります。この原理を利用して、未知の圧力(ここでは気体の圧力p)を既知の圧力(大気圧など)と関連付けます。
- 静水圧: 高さ\(h\)、密度\(\rho\)の液体柱が及ぼす圧力は \(\rho g h\) で与えられます。
- ボイルの法則: 問題文に「温度は一定」とあるため、気体の体積を変化させる過程では、圧力\(P\)と体積\(V\)の積が一定に保たれる(\(PV = \text{一定}\))というボイルの法則が適用できます。
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- (1) 気体の初期圧力を求める:
まず、初期状態の図に着目します。左右の液面のうち、低い方(右側)の液面を基準となる高さに設定します。この高さで、左の管と右の管の圧力が等しいという「圧力のつり合い」の式を立てます。右側の圧力は大気圧\(p_0\)です。左側の圧力は、求めたい気体の圧力\(p\)と、高さ\(h\)の液体柱が作る静水圧\(\rho g h\)の和になります。この等式を\(p\)について解きます。 - (2) 気体の最終的な長さを求める:
次に、液体を注いだ後の状態を考えます。「温度が一定」なのでボイルの法則 \(P_1V_1 = P_2V_2\) を使います。- 変化前 (State 1): 圧力\(P_1\)は(1)で求めた\(p\)。体積\(V_1\)は気柱の長さ\(l\)に比例します。
- 変化後 (State 2): 左右の液面が同じ高さになったので、気体の圧力\(P_2\)は外部の大気圧\(p_0\)とつり合っています。体積\(V_2\)は求めたい長さ\(l’\)に比例します。
これらの関係をボイルの法則の式に代入し、\(l’\)について解きます。
各設問の具体的な解説と解答
(1) この状態での理想気体の圧力pを \(p_{0}\), \(\rho\), h, gで表せ。
問われている内容の明確化
U字管に閉じ込められた理想気体の初期状態での圧力 \(p\) を求めます。
具体的な解説と立式
静止した液体内では、同じ高さの点の圧力はどこでも等しくなります。そこで、図の右側の液面(大気に接している面)と同じ高さの水平面を基準として考えます。
- この水平面での右腕の圧力: 上から大気圧 \(p_0\) がかかっているだけなので、圧力は \(p_0\) です。
- この水平面での左腕の圧力: 上から、閉じ込められた気体の圧力 \(p\) と、基準面より上にある高さ \(h\) の液体柱による圧力(静水圧)\(\rho g h\) の両方がかかっています。したがって、圧力は \(p + \rho g h\) です。
これらの圧力がつり合っているので、以下の等式が成り立ちます。
$$p + \rho g h = p_0 \quad \cdots ①$$
この式を、求めたい \(p\) について解きます。
$$P_{\text{左腕}} = P_{\text{右腕}} \quad (\text{同じ高さで})$$
計算過程
式①を \(p\) について解くために、\(\rho g h\) を右辺に移項します。
$$p = p_0 – \rho g h$$
これが求める気体の圧力です。
計算方法の平易な説明
- U字管の右側(開いている方)の液面には、上から大気圧 \(p_0\) がかかっています。
- この液面と同じ高さで、左側の管の中を見ると、上から気体の圧力 \(p\) と、高さ \(h\) の液体による圧力(重さ)がかかっています。
- 左右の同じ高さで液体が静止しているので、かかる圧力は同じはずです。
- したがって、「気体の圧力 \(p\) + 液体の圧力 \(\rho g h\) = 大気圧 \(p_0\)」という式が成り立ちます。これを変形すると答えが得られます。
この設問における重要なポイント
- 静止流体内の同じ高さの点は圧力が等しい、という原理を使うこと。
- 液体柱による圧力(静水圧)が \(\rho g h\) と表せることを理解していること。
\(p = p_0 – \rho g h\)
(2) このときの気柱の長さ \(l’\) をl, \(p_{0}\), \(\rho\), h, gで表せ。
問われている内容の明確化
液体を注ぎ加えて左右の液面を同じ高さにした後の、気柱の新しい長さ \(l’\) を求めます。
具体的な解説と立式
問題文に「温度は一定とする」とあるため、閉じ込めた気体についてボイルの法則が成り立ちます。
$$P_1 V_1 = P_2 V_2$$
ここで、添え字1は変化前(初期状態)、2は変化後(最終状態)を表します。
それぞれの状態の圧力と体積を整理し、代入します。U字管の断面積を \(S\) とします。
- 変化前の圧力 \(P_1\): (1)で求めた \(p\) です。\(P_1 = p_0 – \rho g h\)。
- 変化前の体積 \(V_1\): 気柱の長さが \(l\) なので、\(V_1 = S l\)。
- 変化後の圧力 \(P_2\): 左右の液面が同じ高さなので、気体の圧力は外部の大気圧とつり合っています。よって \(P_2 = p_0\)。
- 変化後の体積 \(V_2\): 気柱の長さが \(l’\) なので、\(V_2 = S l’\)。
これらの値をボイルの法則の式に代入すると、以下の方程式が得られます。
$$(p_0 – \rho g h) \times (S l) = p_0 \times (S l’) \quad \cdots ②$$
この式を、求めたい \(l’\) について解きます。
$$P_1 V_1 = P_2 V_2 \quad (\text{温度一定})$$
計算過程
式②の両辺に共通して含まれる断面積 \(S\) を消去します。
$$(p_0 – \rho g h) l = p_0 l’$$
この式を \(l’\) について解くために、両辺を \(p_0\) で割ります。
$$l’ = \frac{(p_0 – \rho g h) l}{p_0}$$
このままでも正解ですが、式を整理して以下のように書くこともできます。
$$l’ = \left(\frac{p_0}{p_0} – \frac{\rho g h}{p_0}\right) l = \left(1 – \frac{\rho g h}{p_0}\right)l$$
この設問における重要なポイント
- 温度が一定なので、ボイルの法則が使えることに気づくこと。
- 変化後の状態を正しく把握すること(特に、液面が同じ高さ → 気体の圧力=大気圧)。
- (1)で求めた圧力を、変化前の圧力として正しく代入すること。
\(\displaystyle l’ = \frac{(p_0 – \rho g h) l}{p_0}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 圧力のつり合い: 静止した流体(液体や気体)中では、同じ深さ(高さ)の点での圧力は等しい。これはU字管マノメーターの問題を解く上での基本原則です。
- 静水圧: 高さ \(h\)、密度 \(\rho\) の液体柱がその底面に及ぼす圧力は \(p = \rho g h\) で与えられます。
- ボイルの法則: 温度が一定のとき、一定量の気体の圧力と体積は反比例するという法則 (\(PV = \text{一定}\))。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) で \(n\) と \(T\) が一定の特別な場合に相当します。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 基準面の設定: U字管の問題では、まず「左右のどちらか低い方の液面」を基準の高さとして水平線を引くと、圧力のつり合いの式が立てやすくなります。
- 状態の整理: 気体の状態が変化する問題では、「変化前」と「変化後」のそれぞれの状態について、P, V, T の値を整理する表を作ると、どの法則を使えばよいかが見えやすくなり、ケアレスミスを防げます。
- 単位の確認: この問題では文字式で答えるため不要ですが、具体的な数値を計算する際には、圧力の単位(Pa)、長さの単位(m)などを国際単位系(SI)に揃えることが重要です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 圧力のつり合いの式の符号ミス: (1)で、\(p_0 + \rho g h = p\) のように、静水圧をどちらに加えるかを間違えるケースがあります。「高い方にある液体の重さが、低い方の液面にかかる圧力に加わる」とイメージすると間違いにくいです。図では左側の液体が \(h\) だけ高いので、基準面における左腕の圧力は \(p + \rho g h\) となります。
- 変化後の圧力を間違える: (2)で、液体を注ぎ足した後の気体の圧力がどうなるか、正しく判断できないことがあります。「左右の液面が同じ高さ」という記述から、「気体の圧力が外の大気圧とつり合っている」と読み取ることが重要です。
- ボイルの法則の適用条件: ボイルの法則は「温度が一定」という条件下でのみ成り立ちます。問題文にその記述があるか、あるいはそうみなせる状況(ゆっくりと変化させる、など)かを必ず確認しましょう。
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