Step 2
33 運動量と力積
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「時間変化する力が与える力積」と「力積と運動量の関係」です。力が一定でない場合の力積の求め方と、それによる物体の運動の変化を計算する、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- F-tグラフと力積の関係: 力が時間的に変化する場合、物体が受けた力積の大きさは、F-tグラフと時間軸で囲まれた部分の面積に等しくなります。
- 力積と運動量の変化の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという、力学における重要な関係式です。(\(I = \Delta p = mv’ – mv\))
- 単位の換算: 物理計算では、質量はキログラム(kg)、時間は秒(s)など、基本的な単位(SI単位系)に揃えて計算する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問題で与えられたF-tグラフの面積を計算して、ボールが受けた力積の大きさを求めます。
- 次に、「力積 = 運動量の変化」の関係式を立てます。
- 最後に、求めた力積の値と、与えられた質量(単位換算後)を代入して、ボールの最終的な速さを計算します。
問
思考の道筋とポイント
この問題は、「力積はいくらか」「速さはいくらになったか」という2つの問いから構成されています。これらは順番に解いていくのが自然な流れです。
まず、力積を求めます。力が一定なら力積は「力×時間」で簡単に計算できますが、今回は力が時間と共に変化しています。このような場合に力積を求めるための重要な知識が「F-tグラフの面積が力積を表す」ということです。グラフの形状は三角形なので、面積は容易に計算できます。
次に、速さを求めます。力積が分かれば、「力積と運動量の変化は等しい」という関係式を使って、運動量の変化を計算できます。ボールは初め静止しているので、運動量の変化はそのまま「後の運動量」と等しくなります。運動量は「質量×速さ」なので、質量で割ることで最終的な速さが求まります。この際、質量の単位をグラム(g)からキログラム(kg)へ換算することを忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- F-tグラフの面積は力積の大きさに等しい。
- 力積は運動量の変化に等しい (\(I = mv’ – mv\))。
- 質量の単位をグラム(g)からキログラム(kg)に換算する (\(1 \, \text{g} = 10^{-3} \, \text{kg}\))。
具体的な解説と立式
この問題は2つのパートに分かれています。
1. ボールが受けた力積の大きさの計算
力が時間的に変化する場合、力積の大きさ \(I\) は、F-tグラフと時間軸(t軸)で囲まれた部分の面積に等しくなります。
グラフは、底辺が \(0.20 \, \text{s}\)、高さが \(12 \, \text{N}\) の三角形です。
したがって、力積 \(I\) は三角形の面積公式を用いて次のように立式できます。
$$ I = \frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ} $$
2. ボールの速さの計算
力積と運動量の関係式 \(I = mv’ – mv\) を用います。
- 力積 \(I\): 上で計算した値
- 質量 \(m\): \(60 \, \text{g} = 60 \times 10^{-3} \, \text{kg}\)
- 初速度 \(v\): 静止しているので \(v = 0 \, \text{m/s}\)
- 後の速さ \(v’\): 求める値
これらの値を関係式に代入して立式します。
$$ I = (60 \times 10^{-3}) \times v’ – (60 \times 10^{-3}) \times 0 $$
使用した物理公式
- 力積とF-tグラフの関係: \(I =\) F-tグラフの面積
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = mv’ – mv\)
力積の大きさの計算:
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{1}{2} \times 0.20 \times 12 \\[2.0ex]&= 1.2 \, [\text{N} \cdot \text{s}]\end{aligned}
$$
ボールの速さの計算:
力積と運動量の関係式に、求めた力積 \(I=1.2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
1.2 &= (60 \times 10^{-3}) \times v’ – 0 \\[2.0ex]1.2 &= 0.060 \times v’
\end{aligned}
$$
この式を \(v’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v’ &= \frac{1.2}{0.060} \\[2.0ex]&= \frac{120}{6} \\[2.0ex]&= 20 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
まず、ボールが受けた衝撃の合計(力積)を求めます。これは、グラフの三角形の面積を計算すればOKです。「底辺(0.20) × 高さ(12) ÷ 2」で、力積は \(1.2\) となります。
次に、この力積によってボールがどれだけ速くなったかを計算します。「力積 = 運動量の変化」というルールを使います。運動量は「質量 × 速さ」です。最初は止まっていたので運動量は0でした。力積 \(1.2\) を受けた結果、運動量も \(1.2\) になりました。ボールの質量は \(60 \, \text{g} = 0.06 \, \text{kg}\) なので、「速さ = 運動量 ÷ 質量」から、\(1.2 \div 0.06\) を計算して、速さは \(20 \, \text{m/s}\) と求まります。
ボールが受けた力積の大きさは \(1.2 \, \text{N} \cdot \text{s}\)、その結果、ボールの速さは \(20 \, \text{m/s}\) になりました。
単位の換算(g→kg)を忘れずに行い、力積と運動量の関係を正しく適用することで、妥当な結果が得られました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- F-tグラフの面積と力積の関係:
- 核心: 力が時間的に変化する場合、力積は単純な「力×時間」では計算できません。その代わりに、縦軸を力F、横軸を時間tとする「F-tグラフ」を描いたとき、そのグラフと横軸で囲まれた部分の面積が、物体が受けた力積の総量に等しくなる、という関係を理解することが核心です。これは、微小時間 \(\Delta t\) の力積 \(F \Delta t\) を足し合わせる(積分する)という考え方に基づいています。
- 力積と運動量の関係:
- 核心: 算出した力積が、物体の運動状態にどのような変化をもたらすかを結びつける法則です。すなわち、「力積は運動量の変化に等しい (\(I = \Delta p\))」という、力学における最も重要な関係式の一つを適用することです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- v-tグラフからの情報読み取り: 縦軸が速度v、横軸が時間tの「v-tグラフ」が与えられる問題。この場合、グラフの傾きが「加速度」、グラフと軸で囲まれた面積が「移動距離」を表します。F-tグラフの面積が力積であることと対比して覚えておくことが重要です。
- 力が負になる場合: F-tグラフの一部がt軸の下側(F<0)にある場合。これは、物体の運動方向とは逆向きの力(ブレーキなど)が働いたことを意味します。その部分の面積は「負の力積」として計算し、全体の力積は各部分の面積の代数和(符号を考慮した足し算)で求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認: まず、縦軸が力Fなのか、速度vなのか、位置xなのかを絶対に確認します。これを間違えると、面積や傾きが意味する物理量が全く変わってしまいます。
- グラフの面積を計算: F-tグラフであることを確認したら、グラフとt軸で囲まれた図形(三角形、四角形など)の面積を計算します。これが力積 \(I\) となります。
- 初期の運動状態を確認: 問題文から、物体が「静止している」のか、あるいは「初速度を持っている」のかを読み取ります。これにより、運動量の変化 \(\Delta p = mv’ – mv\) のうち、初めの運動量 \(mv\) の値が決まります。
- 単位の確認: 質量がグラム(g)で与えられていないかなど、単位が基本単位(SI単位系)になっているかを確認します。必要であれば、計算前に必ず換算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位の換算忘れ:
- 誤解: 質量 \(60 \, \text{g}\) を、そのまま \(m=60\) として計算してしまい、速さが非常に小さい値になってしまう。
- 対策: 物理の問題を解き始める前に、与えられた数値の単位をチェックする習慣をつける。「質量はkg」「長さはm」「時間はs」を基本と心得る。特にグラム(g)やセンチメートル(cm)は頻出のひっかけなので注意する。
- F-tグラフとv-tグラフの混同:
- 誤解: F-tグラフの面積が「移動距離」であると勘違いしてしまう(v-tグラフの面積が移動距離)。
- 対策: 「F-tグラフ \(\rightarrow\) 面積は力積」「v-tグラフ \(\rightarrow\) 面積は移動距離、傾きは加速度」という対応関係を、セットで明確に暗記する。なぜそうなるのか(力積の定義 \(I = \int F dt\)、移動距離の定義 \(x = \int v dt\))を理解しておくと、混同しにくくなります。
- 面積計算のミス:
- 誤解: 三角形の面積計算で、1/2を掛け忘れる。あるいは、台形などの複雑な図形の面積計算を間違える。
- 対策: 図形の面積を求める際は、公式を正確に思い出し、どの数値が底辺でどの数値が高さに対応するのかを慎重に確認する。単純な計算でも油断しない。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力積 = F-tグラフの面積:
- 選定理由: 問題では、力が一定ではなく時間的に変化しています。このような状況で、ある時間区間にわたる力の累積的な効果(=力積)を求めるための唯一の方法が、F-tグラフの面積を計算することだからです。
- 適用根拠: 力積は、数学的には力Fを時間tで積分したもの (\(I = \int F(t) dt\)) です。定積分がグラフの面積に対応するという数学的な事実が、この公式の根拠となります。
- 力積と運動量の関係 (\(I = \Delta p\)):
- 選定理由: 問題の後半では、力積を受けた結果として「ボールの速さ」がどうなったかを問われています。力積という「原因」と、速さの変化という「結果」を結びつける関係式が、この「力積と運動量の関係」です。
- 適用根拠: この関係式は、運動方程式 \(F=ma = m \frac{dv}{dt}\) を変形した \(Fdt = m dv\) を時間で積分したものであり、運動の第二法則と等価です。したがって、あらゆる力学現象に適用できる普遍的な法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の徹底: \(60 \, \text{g} = 60 \times 10^{-3} \, \text{kg} = 0.060 \, \text{kg}\) のような単位換算は、計算の一番最初に行う。計算の途中で換算しようとすると、忘れたり間違えたりするリスクが高まります。
- 指数の計算: \(10^{-3}\) のような指数を含む計算は、慎重に行う。\(v’ = 1.2 / (60 \times 10^{-3})\) のような計算では、\(10^{-3}\) を分母から分子に移項すると \(10^3\) になることを利用すると、\(v’ = (1.2 \times 1000) / 60 = 1200 / 60 = 20\) と計算しやすくなります。
- 検算: 最終的に得られた速さ \(v’ = 20 \, \text{m/s}\) を使って、運動量の変化 \(\Delta p = mv’ = 0.060 \times 20 = 1.2 \, \text{N} \cdot \text{s}\) を逆算し、F-tグラフの面積と一致するかを確認する。この一手間で、計算ミスを大幅に減らすことができます。
34 運動量と力積
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力積と運動量の関係」の応用です。一直線上の運動と平面上の運動の両方で、力積と運動量の変化を正しく計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力積と運動量の変化の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しい (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\))。これはベクトルについての関係式です。
- ベクトル量の扱い: 一直線上の運動では、向きを正負の符号で表現します。平面上の運動では、ベクトル図を描いて幾何学的に考えるか、成分に分解して考えます。
- 力積と平均の力の関係: 力積は、物体に働いた平均の力と、力が働いた時間の積に等しい (\(I = F_{\text{平均}} \Delta t\))。
- 単位の換算: 質量をグラム(g)からキログラム(kg)に換算する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、運動が一直線上(東西方向)で起こるため、一方の向きを正として運動量の変化を計算し、力積を求めます。
- (2)では、(1)で求めた力積と、力が作用した時間を用いて、力積と平均の力の関係式から平均の力を計算します。
- (3)では、運動が平面上で起こるため、運動量の変化をベクトルとして扱います。打つ前と打った後の運動量ベクトルを図示し、その差をベクトル作図によって求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
ラケットがボールに加えた力積を求める問題です。力積は「運動量の変化」に等しいという関係を利用します。運動は一直線上(東向きから西向きへ)で起こるため、向きを正負の符号で表現することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 力積は運動量の変化に等しい: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\)。
- 運動量はベクトル量であり、一直線上の運動では向きを正負で区別する。
- 後の運動量と前の運動量を、符号に注意して正しく計算する。
具体的な解説と立式
運動が東西の一直線上で起こっているため、西向きを正の向きとします。(東向きを正としても構いませんが、ここでは解答に合わせます)
- 打つ前の速度 \(v\): 東向きに \(20 \, \text{m/s}\) なので、\(v = -20 \, \text{m/s}\)。
- 打った後の速度 \(v’\): 西向きに \(30 \, \text{m/s}\) なので、\(v’ = +30 \, \text{m/s}\)。
- ボールの質量 \(m\): \(60 \, \text{g} = 60 \times 10^{-3} \, \text{kg}\)。
ラケットがボールに加えた力積 \(I\) は、運動量の変化 \(\Delta p\) に等しくなります。
$$ I = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = mv’ – mv $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の変化の関係: \(I = \Delta p = mv’ – mv\)
立式した式に、それぞれの値を代入して力積 \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= (60 \times 10^{-3}) \times (+30) – (60 \times 10^{-3}) \times (-20) \\[2.0ex]&= 60 \times 10^{-3} \times (30 – (-20)) \\[2.0ex]&= 60 \times 10^{-3} \times 50 \\[2.0ex]&= 3000 \times 10^{-3} \\[2.0ex]&= 3.0 \, [\text{N} \cdot \text{s}]\end{aligned}
$$
計算結果が正の値なので、力積の向きは設定した正の向き、すなわち西向きです。
「力積」は「運動量の変化」のことです。運動量は「質量×速度」で、向きも重要です。西向きをプラスと決めると、打つ前の東向きの運動量はマイナス、打った後の西向きの運動量はプラスになります。運動量の変化は「後の運動量 – 前の運動量」で計算します。マイナスの値を引くことになるので、結果的に足し算となり、運動量の変化は大きくなります。
ラケットがボールに加えた力積の大きさは \(3.0 \, \text{N} \cdot \text{s}\) で、向きは西向きです。ボールの進行方向を逆向きに変え、さらに速くするために大きな力積が西向きに加わったという結果は、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)の状況で、ラケットがボールに加えた「平均の力」を求める問題です。力積、平均の力、作用時間の間には単純な関係式があり、それを利用します。
この設問における重要なポイント
- 力積、平均の力、時間の関係: \(I = F_{\text{平均}} \Delta t\)。
- (1)で求めた力積の値を使用する。
具体的な解説と立式
力積 \(I\) は、ラケットがボールに加えた平均の力 \(F_{\text{平均}}\) と、接触していた時間 \(\Delta t\) の積で表されます。
$$ I = F_{\text{平均}} \Delta t $$
この式を \(F_{\text{平均}}\) について解くと、次のようになります。
$$ F_{\text{平均}} = \frac{I}{\Delta t} $$
(1)より力積 \(I = 3.0 \, \text{N} \cdot \text{s}\)、問題文より時間 \(\Delta t = 0.20 \, \text{s}\) です。
使用した物理公式
- 力積と平均の力の関係: \(I = F_{\text{平均}} \Delta t\)
立式した式に、値を代入して平均の力 \(F_{\text{平均}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{平均}} &= \frac{3.0}{0.20} \\[2.0ex]&= \frac{30}{2} \\[2.0ex]&= 15 \, [\text{N}]\end{aligned}
$$
力の向きは力積の向きと同じなので、西向きです。問題では大きさのみ問われています。
力積は「平均の力 × 時間」で計算できます。今回は力積と時間がわかっているので、逆に割り算をすれば平均の力が求まります。\(3.0\) という力積を \(0.20\) 秒という時間で生み出すには、\(15 \, \text{N}\) の力が必要だとわかります。
ラケットがボールに加えた平均の力の大きさは \(15 \, \text{N}\) です。短時間に速度を大きく変化させるには、相応の力が必要であることを示しており、妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
打ち返されたボールが、元の進行方向と垂直な北向きに進んだ場合の力積を求める問題です。運動が平面上で起こるため、運動量をベクトルとして扱い、その変化(引き算)を正しく計算する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 運動量と力積はベクトル量である: \(\vec{I} = \Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\)。
- ベクトルの引き算 \(\vec{p’} – \vec{p}\) は、\(\vec{p’} + (-\vec{p})\) というベクトルの足し算として考えることができる。
- 打つ前と後の運動量ベクトルが直交する場合、三平方の定理を用いて力積の大きさを計算できる。
具体的な解説と立式
運動量の変化 \(\Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\) をベクトル図で考えます。
- 打つ前の運動量 \(\vec{p}\): 東向き。大きさは \(p = mv = (60 \times 10^{-3}) \times 20 = 1.2 \, [\text{N} \cdot \text{s}]\)。
- 打った後の運動量 \(\vec{p’}\): 北向き。大きさは \(p’ = mv’ = (60 \times 10^{-3}) \times 20 = 1.2 \, [\text{N} \cdot \text{s}]\)。
力積 \(\vec{I}\) は \(\vec{p’} – \vec{p}\) です。これは、\(\vec{p} + \vec{I} = \vec{p’}\) と変形できます。
ベクトル図を描くと、\(\vec{p}\) (東向き)と \(\vec{p’}\) (北向き)は直交しています。
\(\vec{I} = \vec{p’} + (-\vec{p})\) と考えて作図すると、\((-\vec{p})\) は西向きのベクトルです。
したがって、力積 \(\vec{I}\) は、北向きのベクトル \(\vec{p’}\) と西向きのベクトル \((-\vec{p})\) のベクトル和となります。
この2つのベクトルは直交しており、大きさも等しい(\(p = p’ = 1.2\))。
したがって、これらのベクトルを2辺とする直角三角形を考え、その斜辺の長さとして力積の大きさ \(|\vec{I}|\) を三平方の定理で求めます。
$$ |\vec{I}|^2 = |-\vec{p}|^2 + |\vec{p’}|^2 $$
$$ |\vec{I}| = \sqrt{p^2 + (p’)^2} $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の変化の関係(ベクトル): \(\vec{I} = \vec{p’} – \vec{p}\)
- 三平方の定理
まず、運動量の大きさ \(p\) と \(p’\) を計算します。
$$ p = p’ = (60 \times 10^{-3}) \times 20 = 1.2 \, [\text{N} \cdot \text{s}] $$
三平方の定理を用いて力積の大きさ \(|\vec{I}|\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
|\vec{I}| &= \sqrt{1.2^2 + 1.2^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2 \times 1.2^2} \\[2.0ex]&= 1.2 \sqrt{2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.41\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
|\vec{I}| &\approx 1.2 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 1.692
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(1.7 \, \text{N} \cdot \text{s}\) となります。
力積の向きは、西向きのベクトル \((-\vec{p})\) と北向きのベクトル \(\vec{p’}\) の合成方向です。これらのベクトルの大きさが等しいので、合成ベクトルの向きはちょうど中間、すなわち北西向きとなります。
ボールの運動が平面上になったので、運動量を矢印(ベクトル)で考えます。力積は「後の運動量の矢印 – 前の運動量の矢印」です。この引き算は、「後の矢印 + (前の矢印の逆向き)」という足し算と同じです。前の運動量は東向きだったので、その逆は西向きです。後の運動量は北向きです。つまり、力積は「北向きの矢印」と「西向きの矢印」を合わせたものになります。この2つの矢印は直角なので、三平方の定理を使って力積の矢印の長さを計算できます。
ラケットがボールに加えた力積の大きさは \(1.7 \, \text{N} \cdot \text{s}\)、向きは北西向きです。東から来たボールを北へ打ち返すには、東向きの運動を打ち消すための「西向きの力積」と、新たに北向きの運動を与えるための「北向きの力積」が必要になります。その合成結果が北西向きになるというのは、直感的にも妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力積と運動量の関係(ベクトルとしての適用):
- 核心: この問題は、一直線上と平面上の両方の状況で「力積は運動量の変化に等しい (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\))」という、物理学の基本法則を正しく適用できるかを問うています。特に重要なのは、運動量と力積が向きを持つベクトル量であることを理解し、状況に応じて適切に処理する能力です。
- 理解のポイント:
- (1) 一直線上の運動: ベクトルの向きを正負の符号で表現し、代数的な引き算(\(p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\))として計算します。
- (3) 平面上の運動: ベクトルを図に描き、ベクトルの引き算(\(\vec{p’} – \vec{p}\))を幾何学的に解釈します。特に、\(\vec{p’} + (-\vec{p})\) のように「逆ベクトルの和」として捉えると考えやすくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 任意の角度への打ち返し: (3)で、北向きではなく「北東向き」など、任意の角度に打ち返された場合。この場合は、運動量ベクトルをx成分(東西方向)とy成分(南北方向)に分解し、「x方向の力積 = x方向の運動量の変化」「y方向の力積 = y方向の運動量の変化」として、各成分について計算する必要があります。
- 壁との斜め衝突: ボールが壁に斜めに衝突する問題。壁に平行な方向と垂直な方向に運動を分解して考えるのが定石です。本問の(3)は、ラケットの面が北東-南西方向を向いている斜め衝突と等価な問題と見なすこともできます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の次元を把握する: まず、運動が一直線上で完結しているか((1))、平面上に広がっているか((3))を判断します。
- 座標軸(または正の向き)を設定する: (1)では「西向きを正」などと決め、(3)では東西方向をx軸、南北方向をy軸と設定します。
- 「前」と「後」の運動量ベクトルを整理する: 衝突前後の速度と質量から、運動量ベクトルの大きさと向きを明確にします。単位換算(g→kg)をこの段階で済ませておくと良いでしょう。
- 計算方法を選択する:
- 一直線上の場合: 符号に注意して代数計算。
- 平面上で直交する場合((3)): ベクトル図を描き、三平方の定理を利用するのが速い。
- 平面上で一般角の場合: 各ベクトルを成分分解し、成分ごとに運動量の変化を計算する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: 質量 \(60 \, \text{g}\) を \(0.6 \, \text{kg}\) や \(0.006 \, \text{kg}\) と間違える、あるいは換算を忘れて \(m=60\) で計算してしまう。
- 対策: 「\(1 \, \text{kg} = 1000 \, \text{g}\) なので、\(60 \, \text{g} = 60/1000 \, \text{kg} = 0.06 \, \text{kg}\)」という換算を、計算の最初に必ず行う癖をつける。
- ベクトルの引き算のミス((3)):
- 誤解: 力積 \(\vec{I} = \vec{p’} – \vec{p}\) を、ベクトルの足し算 \(\vec{p’} + \vec{p}\) と勘違いし、北東向きの力積を計算してしまう。
- 対策: \(\vec{p} + \vec{I} = \vec{p’}\) の関係式を思い出し、「最初の運動量 \(\vec{p}\) に、力積 \(\vec{I}\) を加えたら、後の運動量 \(\vec{p’}\) になった」という因果関係で理解する。図を描いて、「\(\vec{p}\) の矢印の先から \(\vec{p’}\) の矢印の先へ向かうベクトルが力積 \(\vec{I}\) だ」と視覚的に確認する。
- 平方根の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(1.2\sqrt{2}\) の計算をする際に、\(\sqrt{2}\) の近似値(1.4, 1.41, 1.414など)の選択や、掛け算でミスをする。
- 対策: 問題で特に指定がなければ、\(\sqrt{2}=1.41\) を使うのが一般的。\(1.2 \times 1.41\) のような小数同士の筆算は、桁を間違えないよう慎重に行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力積と運動量の関係 (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)):
- 選定理由: (1)と(3)は、どちらも「力積」を求める問題です。ラケットがボールに与える力は瞬間的に大きく変化するため、力の大きさ \(F\) を直接扱うのは困難です。しかし、運動の前後での速度変化は分かっているため、その結果から原因(力積)を逆算できるこの関係式が最適です。
- 適用根拠: この法則は運動の第二法則と等価であり、衝突や撃力のように力の詳細が不明な場合に、運動状態の変化から力の累積効果(力積)を求めるための最も基本的なツールです。
- 力積と平均の力の関係 (\(I = F_{\text{平均}}\Delta t\)):
- 選定理由: (2)では、接触時間 \(\Delta t\) が与えられ、「平均の力」を求めることが要求されています。力積 \(I\) は(1)で求まっているため、力積の定義式そのものであるこの公式を使えば、直接的に \(F_{\text{平均}}\) を算出できます。
- 適用根拠: 平均の力とは、時間的に変動する力を、同じ力積を与えるような一定の力で仮想的に置き換えたものです。この定義に基づいてこの公式が成り立っています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算を最初に行う: \(60 \, \text{g} = 0.06 \, \text{kg}\) の換算を、問題用紙の余白に大きく書いておく。計算の各段階でこの値を使うように意識する。
- 符号ルールの徹底((1)): 一直線上の運動では、最初に「西向きを正」などと軸の向きを宣言し、それに従って速度に符号(+, -)を付ける。特に、\(mv’ – mv\) の計算で、\(v\) が負の値を持つ場合の符号の扱いに注意する。
- 作図の習慣化((3)): 平面運動では、必ず運動量ベクトルの図を描く。特に、\(\vec{I} = \vec{p’} + (-\vec{p})\) の関係を図示することで、求める力積ベクトルの向き(北西)や、計算に使うべき図形(直角二等辺三角形)が明確になり、ミスを防げる。
- 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値(20m/s, 60g, 30m/s, 0.20s)は、いずれも有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも \(\sqrt{2}\) の近似値計算の後、\(1.7\) のように2桁に丸めることを忘れない。
35 合体
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「完全非弾性衝突(合体)と運動量保存の法則」です。2つの物体が衝突後に一体となる、衝突問題の基本的なパターンです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存の法則: 2物体が衝突する際、外力が働かなければ、衝突の前後で系全体の運動量の和は保存されます。
- 完全非弾性衝突(合体): 衝突後に2物体が一体となって同じ速度で運動する衝突のことです。これは、反発係数が \(e=0\) の場合に相当します。
- 運動量の定義: 運動量は質量と速度の積で定義されます (\(p=mv\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 運動の方向(右向き)を正と定めます。
- 衝突前のAとBの運動量の和を計算します。
- 衝突後はAとBが一体となるため、質量を合計し、合体後の速度を未知数 \(v’\) としておきます。
- 「衝突前の運動量の和 = 衝突後の運動量の和」という運動量保存の法則を立式します。
- 立てた方程式を解いて、合体後の速さを求めます。
問
思考の道筋とポイント
2つの台車が衝突して「一体となって動いた」という記述がこの問題の最大のポイントです。これは「完全非弾性衝突」または「合体」と呼ばれる状況で、衝突後の2物体の速度が等しくなることを意味します。
求める未知数は、合体後の速さ \(v’\) の1つだけです。したがって、物理法則の式が1本あれば解くことができます。衝突現象で基本となる「運動量保存の法則」を適用すれば、未知数 \(v’\) を含む方程式が1本だけ得られるため、問題を解くことができます。反発係数の式は、衝突後の速度が等しい(\(v’_A = v’_B = v’\))ことが分かっているので、使う必要がありません。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存の法則: \(m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B) v’\)
- 「一体となって動いた」 \(\rightarrow\) 完全非弾性衝突であり、衝突後の速度はAもBも同じ \(v’\) になる。
- 運動の方向が同じなので、速度はすべて正の値として扱える。
具体的な解説と立式
右向きを正の向きとします。
衝突前の各物体の情報は以下の通りです。
- 台車A: 質量 \(m_A = 2.0 \, \text{kg}\), 速度 \(v_A = +5.0 \, \text{m/s}\)
- 台車B: 質量 \(m_B = 4.0 \, \text{kg}\), 速度 \(v_B = +2.0 \, \text{m/s}\)
衝突後、AとBは一体となって、質量は \(m_A + m_B\)、速度は \(v’\) となります。
運動量保存の法則「衝突前の運動量の和 = 衝突後の運動量の和」を適用します。
$$ m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B) v’ $$
使用した物理公式
- 運動量保存の法則(合体): \(m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B) v’\)
立式した運動量保存の法則の式に、それぞれの数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 5.0 + 4.0 \times 2.0 &= (2.0 + 4.0) v’ \\[2.0ex]10 + 8.0 &= 6.0 v’ \\[2.0ex]18 &= 6.0 v’
\end{aligned}
$$
この式を \(v’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v’ &= \frac{18}{6.0} \\[2.0ex]&= 3.0 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
2つの台車がぶつかって合体する問題では、「運動量の合計は、ぶつかる前と後で変わらない」というルールを使います。運動量は「質量×速さ」で計算します。
・ぶつかる前の運動量の合計は、「Aの運動量(\(2.0 \times 5.0\)) + Bの運動量(\(4.0 \times 2.0\))」で \(18\) です。
・ぶつかった後は、2台がくっついて1つの大きな台車(質量は \(2.0+4.0=6.0 \, \text{kg}\))になったと考えます。
「前の合計(\(18\)) = 後の合計(\(6.0 \times v’\))」という式を立てて、後の速さ \(v’\) を計算すると、\(18 \div 6.0 = 3.0 \, \text{m/s}\) と求まります。
合体後の速さは \(3.0 \, \text{m/s}\) です。この速さは、衝突前の2つの物体の速さ \(5.0 \, \text{m/s}\) と \(2.0 \, \text{m/s}\) の間の値になっています。速い物体が遅い物体に追突して一体となったので、速さがその中間的な値になるのは物理的に妥当です。また、計算結果が正の値なので、向きは最初に定めた右向きで正しいことが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存の法則の適用(合体という特殊ケース):
- 核心: この問題は、2物体の衝突の中でも「合体(完全非弾性衝突)」という最も単純なケースを扱っています。核心は、この特殊な状況を正しく理解し、運動量保存の法則を適用することです。
- 理解のポイント:
- 「一体となって動いた」というキーワード: この言葉を見たら、衝突後の2物体の速度が等しくなる(\(v’_A = v’_B = v’\))と即座に判断します。これにより、未知数が1つ(合体後の速度 \(v’\))だけになり、問題が単純化されます。
- 運動量保存則の適用: 衝突後の物体を「質量が \(m_A+m_B\) の一つの物体」と見なして、運動量保存の式 (\(m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B) v’\)) を立てます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆向きの合体: 2つの物体が互いに逆向きに進んできて衝突・合体する場合。この場合は、一方の速度を正、もう一方を負として運動量保存則に代入する必要があります。合体後の進行方向は、運動量の大きい方の物体の初期の向きになります。
- 静止物体への合体: 静止している物体に、動いている物体が衝突して合体する場合。静止物体の初速度を0として計算します。
- 分裂: 合体は「分裂」の逆の過程と見なせます。静止した物体が2つに分裂する場合、分裂前の運動量が0であるため、分裂後の2つの物体の運動量の和も0になります (\(m_A v’_A + m_B v’_B = 0\))。
- 初見の問題での着眼点:
- 衝突の種類を特定: 問題文から「一体となって」「合体した」などのキーワードを探し、完全非弾性衝突であることを確認します。
- 運動の方向を確認: 全ての物体が同じ方向に動いているか、逆向きの物体がいるかを確認します。これにより、速度の符号が決まります。(この問題では全て同方向なので、全て正として扱えます)
- 運動量保存則を立式: 合体のケースにおける運動量保存の式 \(m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B) v’\) を書き出します。
- 数値を代入して解く: 各質量と速度を式に代入し、未知数である合体後の速度 \(v’\) を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 衝突後の質量を間違える:
- 誤解: 運動量保存の式の右辺で、質量を \(m_A\) や \(m_B\) のままにしてしまう。(例: \(… = m_A v’ + m_B v’\) と書くべきところを \(… = m_A v’\) のように片方しか書かない)
- 対策: 「合体」とは、2つの物体が1つの物体になることだと強く意識する。衝突後の質量は必ず質量の和 (\(m_A + m_B\)) になると機械的に覚える。
- 運動エネルギー保存則を誤って適用する:
- 誤解: 衝突問題なので、運動エネルギー保存則も成り立つと勘違いしてしまう。
- 対策: 運動エネルギーが保存されるのは、反発係数 \(e=1\) の「完全弾性衝突」の場合のみです。合体(完全非弾性衝突, \(e=0\))では、物体の変形や熱、音の発生により、運動エネルギーは必ず減少します。衝突問題でエネルギー保存を安易に使わないように注意する。運動量保存則は、ほぼ全ての衝突・分裂で使えます。
- 計算ミス:
- 誤解: \(2.0 \times 5.0 + 4.0 \times 2.0\) のような単純な四則演算でのミス。
- 対策: 計算過程を丁寧に書き出す。\(10 + 8 = 18\) のように、各項の計算結果を一度書き出してから足し算を行うと、ミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存の法則:
- 選定理由: 衝突現象を記述する最も基本的な法則だからです。衝突の際に台車同士が及ぼしあう力は、作用・反作用の法則により、2台を一つの系として見れば内部で相殺されます。床との摩擦などの外力が無視できる場合、系の全運動量は保存されます。
- 適用根拠: 問題は2台の台車の衝突であり、外力は無視できる状況です。また、求める未知数が合体後の速度1つであるため、この法則だけで方程式が解けます。
- 反発係数の式(今回は使わない理由):
- 不要な理由: 「一体となって動いた」という条件から、衝突後の速度が \(v’_A = v’_B\) であることが既に分かっています。反発係数の定義式 \(e = -\frac{v’_A – v’_B}{v_A – v_B}\) にこれを代入すると、分子が0になるため \(e=0\) となります。このように、合体は反発係数が0の特殊なケースであり、反発係数の式から新たな情報を得ることはできないため、使用する必要がありません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の構造を理解する: 運動量保存の式は「(Aの前の運動量) + (Bの前の運動量) = (合体後の全体の運動量)」という構造になっています。この構造を意識しながら、各項に「質量×速度」を当てはめていくと、立式ミスが減ります。
- 暗算を避ける: \(2.0 \times 5.0 = 10\), \(4.0 \times 2.0 = 8.0\), \(2.0+4.0=6.0\) のように、計算の各ステップをきちんと書き出す。焦って暗算すると、簡単な計算でも間違えることがあります。
- 物理的な妥当性の確認: 最終的に得られた答え \(v’ = 3.0 \, \text{m/s}\) が、衝突前の速度 \(v_A = 5.0 \, \text{m/s}\) と \(v_B = 2.0 \, \text{m/s}\) の間の値になっていることを確認する。もし、これより大きいか小さい値が出た場合は、計算ミスを疑うべきです。これは良い検算方法になります。
36 分裂
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動している系からの分裂と運動量保存の法則」です。一体となって動いている物体が、内力によって分裂する際の運動を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存の法則: 複数の物体からなる系(物体系)に外力が働かない、あるいは無視できる場合、系の運動量の総和は一定に保たれます。
- 内力と外力: 物体系の内部で物体同士が及ぼしあう力を「内力」、物体系の外から働く力を「外力」といいます。ばねが台車を押す力は内力です。内力は系の全運動量を変化させません。
- 分裂現象: 静止または運動している物体が、内部の力(爆発やばねの力など)によって複数の部分に分かれる現象です。これは「合体」の逆の過程と見なせます。
- 運動量の定義: 運動量は質量と速度の積で定義されるベクトル量です (\(p=mv\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、運動の方向(右向き)を正と定めます。
- 分裂前の状態を「質量が \(m_A+m_B\) の一つの物体」とみなし、その運動量を計算します。
- 分裂後の状態を「AとBが別々の速度で動いている状態」とみなし、それぞれの運動量を未知数(Bの速度)を用いて表します。
- 「分裂前の運動量の和 = 分裂後の運動量の和」という運動量保存の法則を立式し、未知数を求めます。
問
思考の道筋とポイント
ばねを挟んで一体で動いていた2つの台車が、糸が切れることで分裂する問題です。ばねが2つの台車を押し広げる力は、AとBの間で互いに及ぼしあう「内力」です。このような内力のみによって系の運動状態が変化する場合、「運動量保存の法則」が成り立ちます。
求める未知数は、分裂後の台車Bの速さ \(v_B’\) の1つだけです。したがって、運動量保存の法則から方程式を1本立てれば、解を求めることができます。分裂前の状態と分裂後の状態について、それぞれ運動量の総和を正しく計算し、それらが等しいと置くことが解法の鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存の法則: \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)
- 分裂前の運動量: 2つの台車を質量 \((m_A + m_B)\) の1つの物体と見なして計算する。
- 分裂後の運動量: 2つの台車それぞれの運動量の和として計算する。
- ばねが及ぼす力は内力であり、運動量保存則が適用できる。
具体的な解説と立式
右向きを正の向きとします。
分裂前の状態を考えます。台車AとBは一体となって運動しているので、1つの物体と見なせます。
- 分裂前の全体の質量: \(M = m_A + m_B\)
- 分裂前の速度: \(V = +4.0 \, \text{m/s}\)
したがって、分裂前の運動量の総和 \(P_{\text{前}}\) は、
$$ P_{\text{前}} = (m_A + m_B) V $$
次に、分裂後の状態を考えます。
- 台車Aの速度: \(v_A’ = +3.0 \, \text{m/s}\)
- 台車Bの速度: \(v_B’\) (これを求める)
したがって、分裂後の運動量の総和 \(P_{\text{後}}\) は、
$$ P_{\text{後}} = m_A v_A’ + m_B v_B’ $$
運動量保存の法則 \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) より、以下のように立式できます。
$$ (m_A + m_B) V = m_A v_A’ + m_B v_B’ $$
使用した物理公式
- 運動量保存の法則: \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)
立式した運動量保存の法則の式に、問題文で与えられた数値を代入します。
- \(m_A = 4.0 \, \text{kg}\)
- \(m_B = 2.0 \, \text{kg}\)
- \(V = 4.0 \, \text{m/s}\)
- \(v_A’ = 3.0 \, \text{m/s}\)
$$
\begin{aligned}
(4.0 + 2.0) \times 4.0 &= 4.0 \times 3.0 + 2.0 v_B’ \\[2.0ex]6.0 \times 4.0 &= 12.0 + 2.0 v_B’ \\[2.0ex]24.0 &= 12.0 + 2.0 v_B’
\end{aligned}
$$
この方程式を \(v_B’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2.0 v_B’ &= 24.0 – 12.0 \\[2.0ex]2.0 v_B’ &= 12.0 \\[2.0ex]v_B’ &= \frac{12.0}{2.0} \\[2.0ex]v_B’ &= 6.0 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
ばねでつながれた2台の台車を「1つの大きなグループ」として考えます。糸が切れる前、このグループ全体の運動量は「グループの合計質量 × 速さ」で計算できます。糸が切れてばねが伸びる力は、グループ内部で起こる力なので、グループ全体の運動量の合計は変化しません。分裂後の運動量の合計は「Aの運動量 + Bの運動量」です。「分裂前の運動量の合計 = 分裂後の運動量の合計」という式を立て、わからないBの速さを計算します。
台車Bの速さは \(6.0 \, \text{m/s}\) です。計算結果が正の値なので、向きは最初に定めた正の向き(右向き)です。
分裂前、両台車は \(4.0 \, \text{m/s}\) で動いていました。分裂後、台車Aは \(3.0 \, \text{m/s}\) に減速しています。これは、ばねが伸びる際にAを左向きに押した(進行方向と逆向きの力を受けた)ためです。作用・反作用の法則により、ばねはBを右向きに押します。そのため、Bは \(4.0 \, \text{m/s}\) から \(6.0 \, \text{m/s}\) へと加速します。この結果は物理的に見て妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存の法則の適用(分裂現象):
- 核心: この問題は、ばねの力という「内力」によって物体が分裂する現象を扱っています。核心は、このような内力のみが働く系の分裂(や衝突、合体)では、系の運動量の総和が前後で不変であるという「運動量保存の法則」を適用することです。
- 理解のポイント:
- 分裂前の状態: 2つの台車とばねが一体となって運動しているため、「質量が \(m_A+m_B\) の1つの物体」として扱うことができます。
- 分裂後の状態: 2つの台車がそれぞれ異なる速度で運動しているため、運動量の総和は「Aの運動量とBの運動量の和」として計算します。
- 内力の役割: ばねが台車を押す力は、台車Aにとっては左向き、台車Bにとっては右向きに働きます。これらは作用・反作用の関係にあるため、2台を1つの系として見れば、これらの力による力積は互いに打ち消し合い、系の全運動量を変化させません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 静止状態からの分裂: 静止している台車の間でばねが伸びて分裂する場合。分裂前の運動量が0なので、分裂後の運動量の和も0になります (\(m_A v’_A + m_B v’_B = 0\))。この式から、分裂後の2つの物体の速度の比や運動量の大きさの関係が分かります。
- エネルギーとの関係: この問題に加えて「ばねに蓄えられていた弾性エネルギーはいくらか」と問われることがあります。その場合は、分裂前後の「系の運動エネルギーの変化量」を計算します。運動エネルギーは保存されないため、その差がばねの弾性エネルギーに相当します。(\(E_{\text{ばね}} = \Delta E_k = E_{k,\text{後}} – E_{k,\text{前}}\))
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: 「糸を切った」「ばねが伸びた」「分裂した」などのキーワードから、内力による分裂現象であることを把握します。
- 運動量保存則の適用を決定: 内力による現象なので、運動量保存則が使えると判断します。
- 「前」と「後」の状態を整理:
- 前: 一体となっている。全体の質量と速度は何か。
- 後: 分離している。各物体の質量と速度は何か。(未知数を含む)
- 一直線上の運動として立式: 運動の方向を正と定め、各物体の速度に符号を付けて、運動量保存の式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 分裂前の運動量の計算ミス:
- 誤解: 分裂前の運動量を、\(m_A V + m_B V\) と書くべきところを、片方の台車の運動量 \(m_A V\) だけだと勘違いしてしまう。
- 対策: 分裂前は「両台車が」同じ速さで動いていることを問題文から正確に読み取る。「質量 \((m_A+m_B)\) の物体が速度 \(V\) で動いている」と明確にイメージする。
- 運動エネルギー保存則の誤用:
- 誤解: 運動量保存則と同様に、運動エネルギーも保存されると勘違いして式を立ててしまう。
- 対策: 分裂や非弾性衝突では、内部のエネルギー(化学エネルギー、弾性エネルギーなど)が運動エネルギーに変換されたり、逆に運動エネルギーが熱エネルギーなどに変わったりします。したがって、運動エネルギーは一般に保存されません。運動量保存則と混同しないように、明確に区別して覚える。
- 立式・計算ミス:
- 誤解: \((4.0+2.0) \times 4.0 = 4.0 \times 3.0 + 2.0v\) のような、単純な方程式の立式や計算でミスをする。
- 対策: 「(前の運動量) = (後の運動量)」という構造を意識し、各項が「質量×速度」の形になっているかを確認しながら立式する。計算も、\(24 = 12 + 2.0v\) のように、各項を計算してから移項する、という手順を焦らず踏む。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存の法則:
- 選定理由: この問題は、ばねという内力によって系の状態が変化する典型的な「分裂」の問題です。外力(床との摩擦など)は無視できるため、運動量保存則が適用できる最も基本的な状況です。また、求める未知数が分裂後のBの速度1つであるため、この法則だけで解が求まります。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則により、系全体で内力による力積の和は常に0になります。運動方程式を系全体で考えると、外力がなければ系の全運動量の時間変化は0、つまり運動量は保存されます。この普遍的な法則が適用の根拠です。
- エネルギー保存則(今回は使わない理由):
- 不適切な理由: この問題では、ばねに蓄えられていた弾性エネルギーが運動エネルギーに変換されています。つまり、系の力学的エネルギーは保存されていません(増加している)。したがって、力学的エネルギー保存則を適用することはできません。もし適用すると、誤った答えが導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の構造を明確にする:\(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)\((m_A+m_B)V = m_A v’_A + m_B v’_B\)のように、まず記号で一般式を書き、その下に数値を代入する、という2段階のプロセスを踏むと、ケアレスミスを減らせます。
- 移項の符号ミスに注意: \(24.0 = 12.0 + 2.0 v_B’\) から \(2.0 v_B’ = 24.0 – 12.0\) への移項で、\(+12.0\) が \(-12.0\) になることを確認する。
- 物理的な妥当性の確認(検算):
- 分裂前後の運動量をそれぞれ計算して、等しくなっているかを確認する。
- 前: \((4.0+2.0) \times 4.0 = 24.0\)
- 後: \(4.0 \times 3.0 + 2.0 \times 6.0 = 12.0 + 12.0 = 24.0\)
- 両者が一致するので、計算は正しいと判断できます。
- また、Aが減速した分、Bが加速するという関係も直感と合っています。
- 分裂前後の運動量をそれぞれ計算して、等しくなっているかを確認する。
37 分裂
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平面上での分裂と運動量保存の法則」です。特に、分裂後の2つの物体の運動方向が直交するという、幾何学的に解きやすい特殊なケースを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存の法則(ベクトル): 物体が分裂する際、分裂を引き起こす力は内力であるため、分裂の前後で系全体の運動量のベクトル和は保存されます。(\(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\))
- ベクトルの合成: 分裂後の各物体の運動量ベクトルを合成(ベクトル和)すると、分裂前の物体の運動量ベクトルに等しくなります。
- 三平方の定理: 互いに直交する2つのベクトルを合成してできるベクトルの大きさ(長さ)を求める際に用います。
- 三角比(正接): ベクトル図における角度を、辺の長さの比から求める際に用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、運動量保存の法則をベクトルで \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) と立式します。
- 分裂後の物体BとCの運動方向が互いに直交していることに着目し、運動量のベクトル図を描きます。この図は直角三角形になります。
- この直角三角形に三平方の定理を適用して、分裂前の運動量 \(p_A\) の大きさを求め、そこから速さ \(v_A\) を計算します。
- 同じく直角三角形の辺の比から、\(\tan\theta\) の値を求めます。
問
思考の道筋とポイント
物体が分裂する現象なので、運動量保存の法則が適用できます。この問題は平面上の運動であり、運動量をベクトルとして扱う必要があります。最大のポイントは、分裂後の物体BとCの進行方向がy軸方向とx軸方向、すなわち互いに直交している点です。
運動量保存の法則 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) をベクトル図で考えると、\(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) が直角をなす2辺、\(\vec{p}_A\) が斜辺となる直角三角形が描けます。
このように図形的な関係が明確な場合、運動量をx, y成分に分解して連立方程式を解くよりも、ベクトル図と幾何学の知識(三平方の定理、三角比)を使って解く方がはるかに簡潔です。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則をベクトルで考える: \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\)。
- 分裂後の運動量ベクトル \(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) が直交していることを見抜く。
- ベクトル図が直角三角形になるため、三平方の定理が適用できる: \(p_A^2 = p_B^2 + p_C^2\)。
- ベクトル図の辺の比から、角度の関係を読み取る: \(\tan\theta = p_B / p_C\)。
具体的な解説と立式
分裂前の物体Aの運動量を \(\vec{p}_A\)、分裂後の物体B, Cの運動量をそれぞれ \(\vec{p}_B, \vec{p}_C\) とします。
運動量保存の法則より、以下のベクトル関係式が成り立ちます。
$$ \vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C $$
問題の条件より、分裂後の運動量ベクトルは、
- \(\vec{p}_B\): y軸の正の向き
- \(\vec{p}_C\): x軸の正の向き
となり、互いに直交しています。
したがって、これらのベクトル和である \(\vec{p}_A\) を含めたベクトル図は、\(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) を2辺とし、\(\vec{p}_A\) を斜辺とする直角三角形となります。
この直角三角形に三平方の定理を適用すると、運動量の大きさについて以下の関係が成り立ちます。
$$ |\vec{p}_A|^2 = |\vec{p}_B|^2 + |\vec{p}_C|^2 $$
各運動量の大きさは \(p=mv\) なので、
$$ (m_A v_A)^2 = (m_B v_B)^2 + (m_C v_C)^2 $$
また、解答の図に従うと、\(\theta\) は \(\vec{p}_A\) とx軸がなす角なので、正接(タンジェント)の定義から、
$$ \tan\theta = \frac{|\vec{p}_B|}{|\vec{p}_C|} = \frac{m_B v_B}{m_C v_C} $$
使用した物理公式
- 運動量保存の法則(ベクトル): \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)
- 三平方の定理
- 三角比(正接)
まず、分裂後の物体Bと物体Cの運動量の大きさ \(p_B, p_C\) をそれぞれ計算します。
$$ p_B = m_B v_B = 3.0 \times 10 = 30 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}] $$
$$ p_C = m_C v_C = 2.0 \times 20 = 40 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}] $$
三平方の定理を用いて、分裂前の運動量の大きさ \(p_A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
p_A^2 &= p_B^2 + p_C^2 \\[2.0ex]&= 30^2 + 40^2 \\[2.0ex]&= 900 + 1600 \\[2.0ex]&= 2500
\end{aligned}
$$
よって、\(p_A = \sqrt{2500} = 50 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\) となります。
分裂前の速さ \(v_A\) は、\(p_A = m_A v_A\) の関係から、
$$
\begin{aligned}
5.0 \times v_A &= 50 \\[2.0ex]v_A &= 10 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
次に、\(\tan\theta\) の値を計算します。(解答の図の定義に従います)
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{p_B}{p_C} \\[2.0ex]&= \frac{30}{40} \\[2.0ex]&= 0.75
\end{aligned}
$$
この分裂は「合体」の逆再生と考えることができます。分裂後のBの運動量(上向きの矢印)とCの運動量(右向きの矢印)を足し合わせると、分裂前のAの運動量(右斜め上向きの矢印)になります。
BとCの矢印は直角なので、この3つの矢印で直角三角形ができます。Bの運動量は \(3 \times 10 = 30\)、Cの運動量は \(2 \times 20 = 40\) です。これは、縦が30、横が40の直角三角形なので、三平方の定理から斜辺(Aの運動量)の長さは50だと分かります。Aの質量は5.0kgなので、速さは \(50 \div 5.0 = 10 \, \text{m/s}\) です。
また、この直角三角形の角度 \(\theta\) のタンジェントは、「縦の長さ ÷ 横の長さ」で計算できるので、\(\tan\theta = 30 \div 40 = 0.75\) となります。
分裂前の物体Aの速さは \(10 \, \text{m/s}\)、\(\tan\theta = 0.75\) です。
分裂によって運動エネルギーが増加しているかを確認すると、
分裂前: \(E_A = \frac{1}{2} m_A v_A^2 = \frac{1}{2} \times 5.0 \times 10^2 = 250 \, \text{J}\)
分裂後: \(E_B + E_C = \frac{1}{2} m_B v_B^2 + \frac{1}{2} m_C v_C^2 = \frac{1}{2} \times 3.0 \times 10^2 + \frac{1}{2} \times 2.0 \times 20^2 = 150 + 400 = 550 \, \text{J}\)
分裂により運動エネルギーが増加しており、内部の化学エネルギーなどが運動エネルギーに変換されたと解釈でき、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則のベクトル図による解釈:
- 核心: この問題は、分裂現象に運動量保存の法則を適用する問題ですが、特に分裂後の2つの物体の運動方向が直交しているという特殊な状況設定がポイントです。核心は、運動量保存のベクトル式 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) を、ベクトル図(矢印の図)で考え、その図形が持つ幾何学的な性質(この場合は直角三角形)を利用して解くことです。
- 理解のポイント:
- なぜベクトル図が有効か: 分裂後の運動量ベクトル \(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) が直交しているため、ベクトル和 \(\vec{p}_B + \vec{p}_C\) は、これらを2辺とする長方形の対角線として簡単に作図できます。この対角線が分裂前の運動量 \(\vec{p}_A\) に等しくなります。
- 直角三角形への帰着: このベクトル図は、辺の長さが運動量の大きさ \(p_B, p_C, p_A\) に対応する直角三角形と見なせます。これにより、複雑なベクトルの計算を、使い慣れた三平方の定理や三角比の問題に置き換えることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 成分分解による解法: この問題は、x, y成分に分解して解くことも可能です。分裂前の速度を \(v_A\)、そのx, y成分を \(v_{Ax}, v_{Ay}\) とすると、運動量保存則は \(m_A v_{Ax} = m_C v_C\), \(m_A v_{Ay} = m_B v_B\) となります。この2式と \(v_A^2 = v_{Ax}^2 + v_{Ay}^2\) を連立させて解くことになりますが、ベクトル図で解くより計算が煩雑になります。
- 分裂後の角度が90°でない場合: 分裂後の2物体のなす角が90°でない場合は、ベクトル図が直角三角形にならないため、三平方の定理は使えません。その場合は、余弦定理を使ってベクトル和を計算するか、あるいは成分分解による解法に切り替える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: 「分裂」というキーワードから、運動量保存則の適用を考えます。
- 分裂後の運動方向を確認: 分裂後の各物体の進行方向を図で確認します。特に、それらがなす角度に注目します。
- 解法の選択:
- 角度が90°の場合: ベクトル図を描き、三平方の定理と三角比で解くのが最も速く、簡単です。
- 角度が90°でない場合: 成分分解して連立方程式を解くのが確実な方法です。
- 角度 \(\theta\) の定義を確認: 問題で問われている角度 \(\theta\) が、図のどの部分を指しているかを正確に把握します。これを間違えると、\(\tan\theta\) の計算で分母と分子を逆にしてしまうミスにつながります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 三平方の定理の適用対象を間違える:
- 誤解: 運動量(\(p=mv\))ではなく、速度(\(v\))や質量(\(m\))に対して三平方の定理を適用してしまう。(例: \(v_A^2 = v_B^2 + v_C^2\))
- 対策: 運動量保存則は、あくまで「運動量」という物理量に関する法則です。ベクトル図の各辺の長さは「運動量の大きさ(\(p=mv\))」に対応することを強く意識する。必ず質量を掛けた値で計算を進める。
- \(\tan\theta\) の分母・分子を間違える:
- 誤解: \(\tan\theta\) を計算する際、図をよく見ずに \(p_C/p_B\) のように分母と分子を逆にしてしまう。
- 対策: ベクトル図を描き、角度 \(\theta\) の「対辺(向かい側の辺)」と「隣辺(隣の辺)」がそれぞれどの運動量に対応するかを指差し確認する。\(\tan\theta = (\text{対辺}) / (\text{隣辺})\) の定義に忠実に当てはめる。
- 計算ミス:
- 誤解: \(30^2+40^2=2500\) や \(\sqrt{2500}=50\) といった、数値が大きくなる計算でミスをする。
- 対策: \(30^2+40^2 = (3 \times 10)^2 + (4 \times 10)^2 = (3^2+4^2) \times 10^2 = (9+16) \times 100 = 25 \times 100 = 2500\) のように、共通因数を利用すると計算が楽になる。これは、辺の比が3:4:5の直角三角形であることに気づくのと同じです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存の法則:
- 選定理由: 物体が内力(この場合は爆発の力)によって分裂する現象であり、外力が働かないため、運動量保存則が適用できる典型的な状況です。分裂前の運動量と分裂後の運動量の関係を記述する唯一の基本法則です。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則により、分裂の際にBとCが互いに及ぼしあう力積は大きさが等しく逆向きです。したがって、系全体で見れば力積の合計は0となり、運動量は保存されます。
- 三平方の定理:
- 選定理由: 運動量保存のベクトル式 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) において、\(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) が直交しているため、これらのベクトルの大きさを辺の長さとする直角三角形の関係が成り立ちます。直角三角形の3辺の長さの関係を表す最も基本的な定理が三平方の定理です。
- 適用根拠: ベクトル \(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) が直交しているという、問題の特殊な設定が適用根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の活用: 運動量 \(p_B=30, p_C=40\) を見た瞬間に、辺の比が3:4の直角三角形であることに気づくと、斜辺 \(p_A\) は比が5になることから、\(p_A=50\) と暗算できます。3:4:5 や 5:12:13 のような有名なピタゴラス数を覚えておくと計算が速くなります。
- 図を丁寧に描く: フリーハンドでも良いので、ベクトル図を自分で描いてみる。各ベクトルの矢印の横に、\(p_B=30\), \(p_C=40\) のように計算した運動量の大きさを書き込むと、関係性が一目瞭然となり、立式ミスを防げます。
- エネルギー計算による検算: 時間に余裕があれば、分裂前後の運動エネルギーを計算してみる。分裂後は \(E_{\text{後}} = 550 \, \text{J}\)、分裂前は \(E_{\text{前}} = 250 \, \text{J}\) となり、エネルギーが増加していることがわかります。これは、分裂によって内部エネルギーが運動エネルギーに変換されたことを示しており、計算結果が物理的にありえないものではないことを裏付けます。
38 一直線上での衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一直線上での2物体の衝突」です。運動量保存の法則と反発係数の式を連立させて解く、衝突問題の最も基本的な形式です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存の法則: 2物体が衝突する際、外力が働かなければ、衝突の前後で系全体の運動量の和は保存されます。
- 反発係数(はねかえり係数)の式: 衝突によってどれだけ速さが失われるか(あるいは保たれるか)を示す指標で、衝突前後の相対速度の比で定義されます。
- 連立方程式: 運動量保存則と反発係数の式から、衝突後の2つの未知の速度に関する2つの式が得られるため、これらを連立させて解きます。
- ベクトル量の符号による表現: 一直線上の運動なので、一方の向きを正と定め、逆向きの速度は負の符号をつけて扱います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題の指示に従い右向きを正として、運動量保存の法則を立式します。衝突前の各物体の運動量の和と、衝突後の各物体の運動量の和が等しいという式を作ります。
- (2)では、反発係数の定義式に、衝突前後の速度を代入して立式します。
- (3)では、(1)と(2)で立てた2つの式を連立方程式として解き、衝突後の各物体の速度を求め、その符号から向きを判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
運動量保存の法則の式を立てる問題です。衝突の前後で、2物体を合わせた「運動量の合計」が変わらないという法則を数式で表現します。この際、速度がベクトル量であることを意識し、問題で指定された「右向きを正」というルールに従って、左向きの速度に負の符号をつけることが重要です。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存の法則の一般式: \(m_A v_A + m_B v_B = m_A v’_A + m_B v’_B\)。
- 右向きを正とするため、左向きの速度は負の値として扱う。
- 衝突前の速度: \(v_{A,\text{前}} = +6.0\), \(v_{B,\text{前}} = -3.0\)。
- 衝突後の速度: 未知数として \(v_A, v_B\) を用いる。(問題文の指定)
具体的な解説と立式
問題の指示に従い、右向きを正とします。
衝突前の各物体の情報は以下の通りです。
- 物体A: 質量 \(m_A = 0.80 \, \text{kg}\), 速度 \(v_{A,\text{前}} = +6.0 \, \text{m/s}\)
- 物体B: 質量 \(m_B = 1.2 \, \text{kg}\), 速度 \(v_{B,\text{前}} = -3.0 \, \text{m/s}\)
衝突後の速度は、問題文の指定通り \(v_A, v_B\) とします。
運動量保存の法則「衝突前の運動量の和 = 衝突後の運動量の和」を適用します。
$$ m_A v_{A,\text{前}} + m_B v_{B,\text{前}} = m_A v_A + m_B v_B $$
この式に、それぞれの数値を代入します。
$$ 0.80 \times (+6.0) + 1.2 \times (-3.0) = 0.80 v_A + 1.2 v_B $$
使用した物理公式
- 運動量保存の法則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v’_1 + m_2 v’_2\)
「運動量の合計は、ぶつかる前と後で変わらない」というルールを式にします。運動量は「質量×速度」です。右向きをプラスと決めたので、左向きに進むBの速度はマイナスになります。
・前の運動量合計: (Aの質量×Aの速度) + (Bの質量×Bの速度)
・後の運動量合計: (Aの質量×後のAの速度) + (Bの質量×後のBの速度)
これらを「=」で結べば、運動量保存の式が完成します。
運動量保存の法則の式は \(0.80 \times 6.0 + 1.2 \times (-3.0) = 0.80 v_A + 1.2 v_B\) となります。各項が「質量×速度」の形になっており、符号も正しく扱えていることを確認します。
問(2)
思考の道筋とポイント
反発係数の式を立てる問題です。反発係数は、衝突前後の「相対速度」の比で定義されます。定義式を正しく覚え、各速度を符号に注意して代入することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 反発係数の定義式: \(e = -\displaystyle\frac{v’_A – v’_B}{v_A – v_B}\)。
- 分母・分子で物体の順番(A-B)を揃えることと、先頭のマイナス符号を忘れないこと。
- 衝突前の速度、衝突後の速度を、(1)と同じルールで代入する。
具体的な解説と立式
反発係数の定義式は以下の通りです。
$$ e = -\frac{\text{衝突後の相対速度}}{\text{衝突前の相対速度}} = -\frac{v_A – v_B}{v_{A,\text{前}} – v_{B,\text{前}}} $$
この式に、問題で与えられた反発係数 \(e=0.50\) と、(1)で定義した各速度の値を代入します。
$$ 0.50 = -\frac{v_A – v_B}{6.0 – (-3.0)} $$
使用した物理公式
- 反発係数の式: \(e = -\displaystyle\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2}\)
「反発係数」は、「衝突後に2物体が遠ざかる速さ」が「衝突前に2物体が近づく速さ」の何倍か、という割合を表します。その公式に、それぞれの速度を代入します。このときも、右向きをプラス、左向きをマイナスというルールを守ることが大切です。特に「近づく速さ」を計算するとき、「速い方 – 遅い方」で計算するので、\(6.0 – (-3.0)\) のようにマイナスの値を引く形になります。
反発係数の式は \(0.50 = -\displaystyle\frac{v_A – v_B}{6.0 – (-3.0)}\) となります。定義式に正しく値を代入できているかを確認します。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)と(2)で立てた2つの式を連立方程式として解き、衝突後の速度 \(v_A, v_B\) を求める問題です。計算を正確に行い、得られた解の符号から、それぞれの物体の運動の向きを判断します。
この設問における重要なポイント
- 2元1次連立方程式の解法(加減法または代入法)。
- 計算結果の符号が物理的な意味(運動の向き)を持つことを理解する。
- 正の解は右向き、負の解は左向きを意味する。
具体的な解説と立式
(1)と(2)で立てた式を整理し、連立方程式として解きます。
式(1)より:
$$ 4.8 – 3.6 = 0.80 v_A + 1.2 v_B $$
$$ 1.2 = 0.80 v_A + 1.2 v_B $$
両辺を0.4で割って簡単にします。
$$ 3 = 2 v_A + 3 v_B \quad \cdots ①’ $$
式(2)より:
$$ 0.50 = -\frac{v_A – v_B}{9.0} $$
両辺に9.0を掛けます。
$$ 4.5 = -(v_A – v_B) $$
$$ 4.5 = -v_A + v_B \quad \cdots ②’ $$
この連立方程式①’と②’を解きます。
使用した物理公式
- (1), (2)で立てた式
式②’を \(v_B = v_A + 4.5\) と変形し、式①’に代入します(代入法)。
$$
\begin{aligned}
3 &= 2 v_A + 3 (v_A + 4.5) \\[2.0ex]3 &= 2 v_A + 3 v_A + 13.5 \\[2.0ex]3 – 13.5 &= 5 v_A \\[2.0ex]-10.5 &= 5 v_A \\[2.0ex]v_A &= -2.1 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
得られた \(v_A = -2.1\) を \(v_B = v_A + 4.5\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= -2.1 + 4.5 \\[2.0ex]v_B &= 2.4 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
(1)と(2)で作った2つの式を、数学で習った連立方程式として解きます。式が小数で複雑なので、両辺に同じ数を掛けたり割ったりして、なるべく簡単な整数の式に直してから計算するとミスが減ります。計算の結果、Aの速度はマイナス、Bの速度はプラスで出てきます。最初に「右向きがプラス」と決めたので、Aは左向きに、Bは右向きに進むことがわかります。
衝突後の速度は、物体Aが \(v_A = -2.1 \, \text{m/s}\)、物体Bが \(v_B = 2.4 \, \text{m/s}\) です。
- 物体A: 速度が負なので、左向きに速さ \(2.1 \, \text{m/s}\) で進む。
- 物体B: 速度が正なので、右向きに速さ \(2.4 \, \text{m/s}\) で進む。
衝突により、両物体が跳ね返るという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 衝突現象における2大法則の定型的な適用:
- 核心: この問題は、一直線上の衝突問題を解くための、最も基本的で典型的な手順を段階的に確認する構成になっています。核心は、未知数が衝突後の2物体の速度(\(v_A, v_B\))の2つであるため、独立した2つの法則、「運動量保存の法則」と「反発係数の式」を立て、それらを連立させて解くという、一連の定石フローを確実に実行できることです。
- 理解のポイント:
- 設問(1) 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量の総和は不変である。
- 設問(2) 反発係数の式: 衝突前後の相対速度の比が一定値eとなる。
- 設問(3) 連立方程式の求解: 上記2つの法則から得られた2元1次連立方程式を解き、物理的な解(速度の大きさと向き)を導き出す。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 完全弾性衝突 (\(e=1\)): 反発係数の式が \(v_A – v_B = -(v_{A,\text{前}} – v_{B,\text{前}})\) となり、計算が少し楽になる。
- 完全非弾性衝突(合体, \(e=0\)): 反発係数の式から \(v_A – v_B = 0\)、つまり \(v_A = v_B\) となる。この場合、運動量保存則だけで解くことができる。
- 未知の質量や反発係数を求める問題: 衝突後の速度が与えられていて、代わりに質量や反発係数eが未知数となるパターン。この場合も、運動量保存則と反発係数の式を立てる点は同じで、解くべき文字が変わるだけです。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸(正の向き)の設定: まず、一直線上のどちらの向きを正とするかを明確に決めます。通常は、問題の図に合わせて右向きを正とすることが多いです。
- 情報を整理: 衝突前の各物体の質量と速度(符号付き)、衝突後の未知の速度、反発係数をリストアップします。
- 2つの法則を機械的に立式: 「運動量保存則」と「反発係数の式」を、まずは一般式(文字式)で書き下します。
- 数値を慎重に代入: 書き下した2つの式に、整理した数値を符号に注意しながら代入し、連立方程式を完成させます。
- 連立方程式を解く: 計算ミスに注意しながら連立方程式を解き、得られた解の符号から向きを判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反発係数の式の符号ミス:
- 誤解: 反発係数の式 \(e = -\displaystyle\frac{v_A – v_B}{v_{A,\text{前}} – v_{B,\text{前}}}\) の右辺のマイナス符号を忘れる、あるいは分母と分子で物体の順番(A-B)を揃え忘れる。
- 対策: 「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の\(-e\)倍」という形で覚える。また、式を立てる際は、常に同じ物体からもう一方の物体を引く(例: A-B)ように統一する癖をつける。
- 速度の符号の代入ミス:
- 誤解: 最初に右向きを正と決めたにもかかわらず、左向きの速度 \(v_{B,\text{前}} = -3.0\) を、\(+3.0\) として代入してしまう。
- 対策: 立式する前に、問題用紙の余白に \(v_{A,\text{前}}=+6.0\), \(v_{B,\text{前}}=-3.0\) のように、使う値を符号付きでメモしておく。式に代入する際は、そのメモを見ながら行う。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: 小数を含む連立方程式の計算で、加減法や代入法の過程で単純な計算ミスをする。
- 対策: (3)の解説のように、まず両辺に定数を掛けるなどして、係数をできるだけ簡単な整数に直してから計算を始めると、ミスが格段に減る。例えば、\(1.2 = 0.8 v_A + 1.2 v_B\) は10倍して \(12 = 8v_A + 12v_B\)、さらに4で割って \(3 = 2v_A + 3v_B\) と変形する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存の法則:
- 選定理由: 2物体の衝突現象を扱う上で、最も基本的で常に成り立つ(外力が働かなければ)法則だからです。衝突後の2つの未知数 \(v_A, v_B\) を含む関係式を1本得るために必要です。
- 適用根拠: 衝突時に働く力は内力であり、作用・反作用の法則から系全体で運動量は保存されます。
- 反発係数の式:
- 選定理由: 運動量保存則だけでは、未知数2つに対して式が1本しかなく、解が定まりません。衝突の「跳ね返り具合」を規定するもう一つの独立した関係式として、反発係数の式が必要です。
- 適用根拠: 問題文で反発係数 \(e\) の値が具体的に与えられているため、この式を使うことが前提となっています。この式は、衝突によるエネルギー損失の度合いを考慮した、衝突前後の相対速度の関係を定義するものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の単純化: 連立方程式を解く前に、係数が小数や分数であれば、両辺に適切な数を掛けて整数係数に直す。また、全ての項に共通の約数があれば、割って数を小さくする。この一手間が、結果的に計算ミスを防ぎ、時間を節約します。
- 代入法と加減法の使い分け: この問題のように、一方の式が \(v_B = v_A + 4.5\) のように簡単に変形できる場合は、代入法が有効です。係数が複雑な場合は、係数を揃えて足し引きする加減法の方が楽な場合もあります。両方に習熟しておくことが望ましいです。
- 検算: 求まった解 \(v_A = -2.1, v_B = 2.4\) を、元の式①’ (\(3 = 2 v_A + 3 v_B\)) と ②’ (\(4.5 = -v_A + v_B\)) の両方に代入して、等式が成り立つかを確認する。
- ①’: \(2(-2.1) + 3(2.4) = -4.2 + 7.2 = 3.0\)。OK。
- ②’: \(-(-2.1) + 2.4 = 2.1 + 2.4 = 4.5\)。OK。
この検算で、計算が正しいことを確信できます。
39 平面上での衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平面上での衝突と運動量保存則」です。2つの物体が互いに直交する方向から進んできて衝突する、平面衝突の基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存の法則(ベクトル): 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は保存されます。
- ベクトルの成分分解: 運動量というベクトル量を、互いに直交するx成分とy成分に分解して考えます。
- 各成分における運動量保存: x方向の運動量の和と、y方向の運動量の和は、それぞれ独立に保存されます。
- ベクトル量の符号による表現: 座標軸の正の向きと逆の向きに進む速度は、それぞれ正負の符号をつけて区別します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題で与えられているxy座標系をそのまま利用します。
- 衝突前後の各物体の運動量を、x成分とy成分に分解して整理します。
- 「x方向の運動量の和は保存される」「y方向の運動量の和は保存される」という2つの法則をそれぞれ立式します。
- この問題では、x方向の式だけでBの速さが、y方向の式だけでAの速さが求まるため、それぞれの方程式を解きます。
問
思考の道筋とポイント
平面上の衝突問題なので、運動量保存の法則をベクトルで考えます。最大のポイントは、衝突前の運動がx軸方向とy軸方向に完全に分かれており、かつ衝突後の運動もx軸方向とy軸方向に完全に分かれている点です。
このため、運動量保存則をx方向とy方向に分けて考えると、
- x方向の運動量保存の式には、衝突後の未知数としてBの速度\(v_B\)のみが含まれる。
- y方向の運動量保存の式には、衝突後の未知数としてAの速度\(v_A\)のみが含まれる。
というように、2つの未知数が別々の方程式に分離されます。したがって、複雑な連立方程式を解く必要がなく、それぞれ単純な一次方程式を解くだけで答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則はベクトルについての法則であり、平面運動ではx成分とy成分に分けて考える。
- x方向の運動量保存: \(p_{\text{前x}} = p_{\text{後x}}\)
- y方向の運動量保存: \(p_{\text{前y}} = p_{\text{後y}}\)
- 座標軸の負の向きに進む速度は、負の値として扱う。
具体的な解説と立式
x軸の正の向き、y軸の正の向きをそれぞれ正とします。
衝突後の物体A, Bの速度を、問題文の指示に従いそれぞれ \(v_A, v_B\) とおきます。
衝突前後の各物体の速度の成分は以下の通りです。
- 衝突前A: x成分は \(+3.0\), y成分は \(0\)
- 衝突前B: x成分は \(0\), y成分は \(-2.0\)
- 衝突後A: x成分は \(0\), y成分は \(v_A\) (y軸負の向きなので、\(v_A\) は負の値になるはず)
- 衝突後B: x成分は \(v_B\), y成分は \(0\) (x軸正の向きなので、\(v_B\) は正の値になるはず)
x方向とy方向それぞれについて、運動量保存の法則を立てます。
- x方向の運動量保存則:
$$ m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} = m_A v’_{Ax} + m_B v’_{Bx} $$
$$ 4.0 \times 3.0 + 5.0 \times 0 = 4.0 \times 0 + 5.0 v_B \quad \cdots ① $$ - y方向の運動量保存則:
$$ m_A v_{Ay} + m_B v_{By} = m_A v’_{Ay} + m_B v’_{By} $$
$$ 4.0 \times 0 + 5.0 \times (-2.0) = 4.0 v_A + 5.0 \times 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存の法則(成分表示)
まず、式①を解いて \(v_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
12.0 &= 5.0 v_B \\[2.0ex]v_B &= \frac{12.0}{5.0} \\[2.0ex]v_B &= 2.4 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
次に、式②を解いて \(v_A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-10.0 &= 4.0 v_A \\[2.0ex]v_A &= \frac{-10.0}{4.0} \\[2.0ex]v_A &= -2.5 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
問題で問われているのは「速さ」なので、速度の絶対値をとります。
- 衝突後のAの速さ: \(|v_A| = |-2.5| = 2.5 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のBの速さ: \(|v_B| = |2.4| = 2.4 \, \text{m/s}\)
平面上の衝突は、x方向(横方向)とy方向(縦方向)に完全に分けて考えるのがコツです。
・x方向だけを見ると、衝突前はAだけが運動していました。衝突後はBだけがx方向に運動します。運動量の合計は変わらないので、「前のAのx方向の運動量」と「後のBのx方向の運動量」は等しくなります。ここからBの速さが求まります。
・y方向だけを見ると、衝突前はBだけが運動していました。衝突後はAだけがy方向に運動します。同様に、「前のBのy方向の運動量」と「後のAのy方向の運動量」は等しくなります。ここからAの速さが求まります。
このように、2つの独立した簡単な計算で答えが出せます。
衝突後のAの速さは \(2.5 \, \text{m/s}\)、Bの速さは \(2.4 \, \text{m/s}\) です。
衝突前のx方向の運動量の合計は \(4.0 \times 3.0 = 12.0\)。衝突後のx方向の運動量の合計は \(5.0 \times 2.4 = 12.0\)。
衝突前のy方向の運動量の合計は \(5.0 \times (-2.0) = -10.0\)。衝突後のy方向の運動量の合計は \(4.0 \times (-2.5) = -10.0\)。
x, y両方向で運動量が保存されており、計算は妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則の成分ごとの独立性:
- 核心: この問題は、平面上の衝突において、運動量保存の法則がx方向とy方向で独立に成り立つことを明確に示しています。衝突前の運動がx, y軸に沿っており、衝突後の運動もx, y軸に沿っているという特殊な設定により、x方向の運動量保存の式とy方向の運動量保存の式が、互いに未知数を含まない形で分離されます。この「独立性」を理解し、利用することが核心です。
- 理解のポイント:
- x方向の運動量: 衝突前は物体Aのみが持ち、衝突後は物体Bのみが持つ。したがって、Aが持っていたx方向の運動量が、まるごとBに移ったと解釈できる。
- y方向の運動量: 衝突前は物体Bのみが持ち、衝突後は物体Aのみが持つ。したがって、Bが持っていたy方向の運動量が、まるごとAに移ったと解釈できる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 衝突後の速度が斜め方向の場合: もし衝突後に物体AやBが斜め方向に進む場合、その速度をx成分とy成分に分解する必要があります。例えば、Aが斜め方向に進むなら、その速度は \(v’_{Ax}\) と \(v’_{Ay}\) の2つの未知数となり、問題がより複雑になります。その場合は、運動量保存則の2式だけでは解けず、反発係数やエネルギーに関する追加の情報が必要になります。
- ビリヤードの玉突き: 静止している玉に別の玉を衝突させる場合、衝突後の2つの玉の進行方向のなす角が90°になることがあります(完全弾性衝突で質量が等しい場合)。これも、運動量保存則をベクトル図で考えると、直角三角形の関係が見えてくる典型例です。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸と運動方向の確認: まず、衝突前と衝突後の各物体の運動方向が、座標軸とどのような関係にあるかを図で正確に把握します。
- 運動量成分のリストアップ: 衝突前後の全物体の運動量について、x成分とy成分を書き出します。軸に沿っていない成分は0、軸の負の向きの成分はマイナス符号を付けることを徹底します。
- x方向とy方向で別々に立式: 「x方向の運動量保存」と「y方向の運動量保存」の2つの式を立てます。この問題のように、式が分離されていれば、それぞれを個別に解きます。分離されていなければ、連立方程式として解きます。
- 「速さ」と「速度」の区別: 問題が「速さ」を求めているのか、「速度」を求めているのかを確認します。計算で得られるのは符号付きの「速度」であり、「速さ」を答える場合はその絶対値を取ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量のやり取りの誤解:
- 誤解: x方向の運動量保存の式に、y方向の運動量を持つ物体Bの情報(質量や速度)を混ぜてしまう。
- 対策: 「x方向の運動量はx方向の運動量だけで」「y方向の運動量はy方向の運動量だけで」保存される、という独立性を強く意識する。x方向の式を立てるときは、y方向のことは完全に無視する、というくらいの気持ちで臨む。
- 符号のミス:
- 誤解: y軸の負の向きに進む物体Bの初速度を、\(+2.0\) として計算してしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、必ず座標軸の正の向きを確認する。図に矢印が描かれていても、それが軸の正の向きか負の向きかを判断し、速度に符号(+, -)を付けてから計算を始める。
- 質量の取り違え:
- 誤解: x方向の運動量保存の式 \(m_A v_{Ax} = m_B v’_B\) を立てる際に、右辺を \(m_A v’_B\) のように、質量を間違えて適用してしまう。
- 対策: 運動量は「その物体の質量 × その物体の速度」のペアであることを常に意識する。立式した際に、各項の質量と速度の添え字(AかBか)が正しく対応しているかを確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存の法則(成分分解):
- 選定理由: 平面上の衝突現象を扱う際の最も基本的な法則です。ベクトルである運動量を、扱いやすいスカラー量である成分に分解することで、問題を単純な代数計算に落とし込むことができます。
- 適用根拠: 衝突時に働く力は内力であり、外力が働かない系では運動量が保存されます。このベクトル則は、任意の直交座標系において、各成分ごとに独立して成り立ちます。この問題の特殊な設定(衝突前後で運動が軸に沿っている)は、この法則の独立性を利用して解くことを意図しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報を整理してから立式する:
- 衝突前: \(p_{Ax} = 4.0 \times 3.0 = 12.0\), \(p_{Ay} = 0\), \(p_{Bx} = 0\), \(p_{By} = 5.0 \times (-2.0) = -10.0\)
- 衝突後: \(p’_{Ax} = 0\), \(p’_{Ay} = 4.0 v_A\), \(p’_{Bx} = 5.0 v_B\), \(p’_{By} = 0\)
のように、各運動量成分を先に計算・整理してから、\(p_{Ax}+p_{Bx} = p’_{Ax}+p’_{Bx}\) のような保存則の式に代入すると、立式ミスが減ります。
- 単純な方程式でも焦らない: \(12.0 = 5.0 v_B\) のような簡単な式でも、焦って割り算を間違うことがあります。\(v_B = 12.0 / 5.0\) と一度書き下してから、慎重に計算する。
- 検算:
- x方向: 前の合計 \(12.0\), 後の合計 \(5.0 \times 2.4 = 12.0\)。OK。
- y方向: 前の合計 \(-10.0\), 後の合計 \(4.0 \times (-2.5) = -10.0\)。OK。
このように、各成分で運動量が保存されているかを最後に確認することで、計算の正しさを保証できます。
40 なめらかな面との斜め衝突
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「なめらかな壁との斜め衝突」です。斜めに衝突する物体の運動を、壁面に平行な方向と垂直な方向に分解して考える、典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 速度の成分分解: 速度ベクトルを、壁面に平行な成分と垂直な成分という、互いに直交する2つの成分に分解します。
- 壁面に平行な方向の運動: 壁が「なめらか」であるため、壁面に平行な方向には力が働きません。したがって、この方向の速度成分は衝突の前後で変化しません。
- 壁面に垂直な方向の運動: 壁から垂直抗力(撃力)を受けるため、この方向の速度成分は変化します。この変化の様子を記述するのが反発係数です。
- 反発係数の定義: 壁面に垂直な方向において、「衝突後の遠ざかる速さ」と「衝突前の近づく速さ」の比で定義されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、壁面に垂直な方向の速度成分に注目し、反発係数の定義式を立てて、\(e\) を \(v\) で表します。
- (2)では、壁面に平行な方向の速度成分が保存されることを利用して平行成分の大きさを求めます。次に、この関係式を利用して垂直成分の大きさを求めます。
- (3)では、(2)の計算過程で得られる関係式から \(v\) の値を求め、(1)で立てた式に代入して \(e\) の値を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
反発係数 \(e\) を、衝突後の速さ \(v\) を用いて表す問題です。反発係数は、壁面に垂直な方向の速度成分だけで定義される、という点が重要です。衝突前後の速度をそれぞれ壁面に垂直な成分に分解し、反発係数の定義式に当てはめます。
この設問における重要なポイント
- 反発係数は、壁面に垂直な方向の速度成分の大きさの比で定義される。
- \(e = \displaystyle\frac{\text{衝突後の垂直成分の速さ}}{\text{衝突前の垂直成分の速さ}}\)
- 角度は「壁に垂直な方向から」測られているため、垂直成分は \(\cos\) を用いて表される。
具体的な解説と立式
壁から遠ざかる向き(図の上向き)を正とします。
衝突前の速さは \(2.4 \, \text{m/s}\)、壁に垂直な方向となす角は \(30^\circ\) です。壁に近づく向きなので、速度の垂直成分は負となります。
- 衝突前の垂直速度成分: \(-2.4 \cos 30^\circ\)
衝突後の速さは \(v\)、壁に垂直な方向となす角は \(60^\circ\) です。壁から遠ざかる向きなので、速度の垂直成分は正となります。
- 衝突後の垂直速度成分: \(+v \cos 60^\circ\)
反発係数 \(e\) は、衝突後の速さと衝突前の速さの比なので、
$$ e = \frac{|v \cos 60^\circ|}{|-2.4 \cos 30^\circ|} = \frac{v \cos 60^\circ}{2.4 \cos 30^\circ} $$
(反発係数の定義式 \(e = -\frac{v’_{\text{垂直}}}{v_{\text{垂直}}}\) を使っても同じ結果になります。)
使用した物理公式
- 反発係数の定義: \(e = \displaystyle\frac{|v’_{\text{垂直}}|}{|v_{\text{垂直}}|}\)
- 速度の成分分解
立式した式に、三角比の値を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{v \times \frac{1}{2}}{2.4 \times \frac{\sqrt{3}}{2}} \\[2.0ex]&= \frac{v}{2.4\sqrt{3}}
\end{aligned}
$$
反発係数は、壁に垂直な方向の「跳ね返り後の速さ ÷ 跳ね返り前の速さ」で計算します。問題の図では、角度が壁の垂直線から測られているので、「垂直方向の速さ」は三角比のコサインを使って計算できます。それぞれの速さを \(v\) を使って表し、割り算の形にすれば答えの式が作れます。
反発係数は \(e = \displaystyle\frac{v}{2.4\sqrt{3}}\) と表せます。この段階では \(v\) が未知数なので、具体的な値はまだ求まりません。
問(2)
思考の道筋とポイント
衝突後の速度の「壁面に平行な成分」と「壁面に垂直な成分」の大きさを求める問題です。壁がなめらかなので、平行成分は衝突の前後で保存されることを利用します。垂直成分は、(1)で立てた式と平行成分の保存則を組み合わせることで計算できます。
この設問における重要なポイント
- なめらかな壁なので、壁面に平行な速度成分は保存される。
- 衝突前の速度を、平行成分と垂直成分に分解する。
- 三角比を正しく用いて成分の大きさを計算する。
具体的な解説と立式
壁面に平行な方向(図の右向き)を正とします。
- 衝突前の平行速度成分: \(v_{\text{前,平行}} = 2.4 \sin 30^\circ\)
- 衝突後の平行速度成分: \(v’_{\text{平行}} = v \sin 60^\circ\)
壁がなめらかなので、これらの大きさは等しくなります。
$$ v \sin 60^\circ = 2.4 \sin 30^\circ \quad \cdots ① $$
この式の右辺を計算すれば、衝突後の平行成分の大きさが求まります。
次に、衝突後の垂直成分の大きさ \(v’_{\text{垂直}} = v \cos 60^\circ\) を求めます。
式①から \(v = \displaystyle\frac{2.4 \sin 30^\circ}{\sin 60^\circ}\) となるので、これを \(v’_{\text{垂直}}\) の式に代入します。
$$ v’_{\text{垂直}} = \left( \frac{2.4 \sin 30^\circ}{\sin 60^\circ} \right) \cos 60^\circ $$
使用した物理公式
- 速度の成分分解
平行成分の大きさの計算:
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{平行}} &= 2.4 \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= 2.4 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 1.2 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
垂直成分の大きさの計算:
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{垂直}} &= \left( \frac{2.4 \sin 30^\circ}{\sin 60^\circ} \right) \cos 60^\circ \\[2.0ex]&= (2.4 \sin 30^\circ) \times \frac{\cos 60^\circ}{\sin 60^\circ} \\[2.0ex]&= 1.2 \times \frac{1}{\tan 60^\circ} \\[2.0ex]&= \frac{1.2}{\sqrt{3}} = \frac{1.2\sqrt{3}}{3} = 0.4\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで \(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{垂直}} &\approx 0.4 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 0.692 \approx 0.69 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
壁に沿った方向の速さは、壁がツルツルなので衝突の前後で変わりません。衝突前の速さと角度から、この「変わらない速さ」を計算できます。これが平行成分の答えです。次に、この「変わらない」という関係式と三角比を使うと、衝突後の全体の速さ \(v\) が計算できます。その \(v\) を使って、垂直方向の速さを計算します。
衝突後の速度の壁面に平行な成分の大きさは \(1.2 \, \text{m/s}\)、垂直な成分の大きさは \(0.69 \, \text{m/s}\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)と(2)の結果を用いて、衝突後の速さ \(v\) と反発係数 \(e\) の具体的な数値を求める問題です。
この設問における重要なポイント
- (2)で立てた平行成分保存の式から \(v\) を求める。
- 求めた \(v\) を(1)で立てた反発係数の式に代入して \(e\) を求める。
具体的な解説と立式
(2)で立てた平行成分保存の式①から、衝突後の速さ \(v\) を求めます。
$$ v \sin 60^\circ = 1.2 $$
次に、(1)で立てた反発係数の式に、上で求めた \(v\) の値を代入して \(e\) を求めます。
$$ e = \frac{v}{2.4\sqrt{3}} $$
使用した物理公式
- (1), (2)で立てた式
速さ \(v\) の計算:
$$
\begin{aligned}
v \times \frac{\sqrt{3}}{2} &= 1.2 \\[2.0ex]v &= \frac{2.4}{\sqrt{3}} = \frac{2.4\sqrt{3}}{3} \\[2.0ex]v &= 0.8\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで \(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 0.8 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 1.384 \approx 1.4 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
反発係数 \(e\) の計算:
求めた \(v = 0.8\sqrt{3}\) を(1)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{0.8\sqrt{3}}{2.4\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= \frac{0.8}{2.4} = \frac{8}{24} \\[2.0ex]&= \frac{1}{3} \approx 0.333…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(0.33\) となります。
(2)で使った「壁に沿った方向の速さは変わらない」という式を解くと、衝突後の全体の速さ \(v\) が計算できます。次に、この \(v\) の値を(1)で作った反発係数の式に代入すると、反発係数 \(e\) の具体的な数値が求まります。
衝突後の速さ \(v\) は \(1.4 \, \text{m/s}\)、反発係数 \(e\) は \(0.33\) です。
衝突前の速さ \(2.4 \, \text{m/s}\) よりも衝突後の速さ \(1.4 \, \text{m/s}\) が小さくなっており、非弾性衝突(\(e<1\))でエネルギーが失われたことを示しています。結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜め衝突における運動の分解と法則の適用:
- 核心: この問題は、なめらかな壁との斜め衝突を扱うもので、核心は運動を「壁面に平行な方向」と「壁面に垂直な方向」の2つに分解し、それぞれの方向で異なる物理法則を適用することです。
- 理解のポイント:
- 壁面に平行な方向: 壁が「なめらか」であるため、この方向には力が働かない。したがって、速度成分が保存される。(\(v_{\text{平行}} = v’_{\text{平行}}\))
- 壁面に垂直な方向: 壁から力を受けるため、速度成分が変化する。この変化の度合いは反発係数で記述される。(\(e = |v’_{\text{垂直}}| / |v_{\text{垂直}}|\))
この2つの独立した法則を連立させることで、未知数を解き明かしていきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 角度が「面となす角」で与えられる場合: この問題では角度が「壁に垂直な方向から」与えられていますが、もし「壁面となす角」\(\alpha\) で与えられた場合、平行成分が \(\cos\alpha\)、垂直成分が \(\sin\alpha\) となり、三角比の使い方が逆になります。どちらで与えられても対応できるようにしておく必要があります。
- 粗い壁との衝突: 壁が粗い場合、壁面に平行な方向にも動摩擦力が働くため、平行方向の速度成分は保存されず、減少します。この場合、動摩擦力による力積を考慮する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸の設定: 壁面に平行な方向と垂直な方向にx, y軸を設定します。
- 角度の基準を確認: 角度が「壁面から」測られているか、「壁の法線(垂直線)から」測られているかを絶対に確認します。これにより、成分分解に使う三角比(\(\sin, \cos\))が決まります。
- 2つの法則を立式: 「平行方向の速度保存の式」と「垂直方向の反発係数の式」を、まずは文字を使って機械的に立てます。
- 設問の要求に合わせて式を整理: 設問が何を求めているかに応じて、立てた2つの式を整理・連立させて解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 成分分解に使う三角比のミス:
- 誤解: 角度が壁の法線から与えられているのに、平行成分を\(\cos\)、垂直成分を\(\sin\)で計算してしまう(面となす角の場合と混同する)。
- 対策: 必ず図を描き、与えられた角度と求めるべき速度成分の位置関係を確認する。「角度\(\theta\)を挟む辺が\(\cos\theta\)」という原則を徹底すれば、基準がどちらでも間違えません。
- 反発係数の式を全速度で立ててしまう:
- 誤解: 反発係数の式を、成分分解する前の速さ \(v\) と \(v_{\text{前}}\) を使って \(e = v / v_{\text{前}}\) のように間違って立ててしまう。
- 対策: 反発係数は、あくまで「壁面に垂直な方向の速度成分」の比であることを強く意識する。平行方向の運動は反発係数とは無関係であることを理解する。
- 計算過程での式の整理ミス:
- 誤解: (2)で垂直成分を求める際に、\(v’_{\text{垂直}} = v \cos 60^\circ\) の \(v\) に、\(v = \frac{1.2}{\sin 60^\circ}\) を代入する計算で、三角比の変形を間違える。
- 対策: \( \frac{\cos 60^\circ}{\sin 60^\circ} = \frac{1}{\tan 60^\circ} \) のような変形は、焦らずゆっくり行う。あるいは、三角比の値を一つ一つ代入して計算する方が確実な場合もあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平行方向の速度保存:
- 選定理由: 壁が「なめらか」であるという問題設定から、平行方向には力が作用しません。運動の法則(力が働かなければ加速度は0)から、この方向の速度は変化しない、という最も単純な関係式が導かれます。
- 適用根拠: 「なめらか」というキーワードが、この法則を適用する直接的な根拠です。
- 垂直方向の反発係数:
- 選定理由: 壁との衝突では、垂直方向に力が働き、速度が変化します。この「跳ね返り」という現象を定量的に扱うために導入された物理量が反発係数であり、その定義式を用いるのが定石です。
- 適用根拠: 衝突による跳ね返りを扱う問題であり、反発係数eが問われていることから、この式の利用が前提となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報を図に書き込む: 問題の図に、速度の成分(例: \(2.4\cos30^\circ\), \(v\sin60^\circ\)など)を書き込むと、どの成分がどの法則に対応するかが視覚的に明確になり、立式ミスを防げます。
- 文字式のまま計算を進める: (3)で \(v\) と \(e\) を求める際、解答のように \(v=0.8\sqrt{3}\) のように平方根を残したまま計算を進め、最後の最後に近似値を代入すると、計算の途中で誤差が累積するのを防げます。
- 分数の計算: \(e = \frac{0.8\sqrt{3}}{2.4\sqrt{3}}\) のような計算では、まず \(\sqrt{3}\) を約分し、\(0.8/2.4\) を \(8/24\) と整数比に直してから約分すると、ミスなく \(1/3\) を導けます。
- 物理的な妥当性の確認:
- \(e=0.33\) は \(0 \le e \le 1\) の範囲内にあり、妥当です。
- 衝突後の速さ \(v \approx 1.4 \, \text{m/s}\) は、衝突前の速さ \(2.4 \, \text{m/s}\) より小さくなっています。これは非弾性衝突(\(e<1\))でエネルギーが失われたことを示しており、物理的に正しい結果です。
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