133 棒に通した小球の等速円運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、なめらかな棒に通された小球の等速円運動(円錐振り子に類似)を扱う問題です。力のつり合いと円運動の動力学という、力学の基本法則を組み合わせて解く能力が問われます。
この問題の核心は、小球に働く力を正しく図示・分解し、「鉛直方向の力のつり合い」と「水平方向の円運動の運動方程式」という2つの側面から現象を分析することです。
- 小球の質量: \(m = 0.50 \text{ kg}\)
- 棒の傾斜角: \(\theta = 30^\circ\) (鉛直線とのなす角)
- 円運動の高さ: \(h = 0.20 \text{ m}\) (支点からの鉛直距離)
- 重力加速度: \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\)
- (1) 小球が棒から受ける垂直抗力の大きさ \(N\)。
- (2) 棒が回転する角速度 \(\omega\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「円錐振り子に類似した等速円運動」です。糸の張力の代わりに、なめらかな棒からの垂直抗力が小球の運動を支える点が特徴です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の図示と分解: 小球に働く重力と垂直抗力を正しく図示し、運動を解析しやすい水平・鉛直方向に分解します。
- 力のつり合い: 小球は水平面内を運動するため、鉛直方向の力はつり合っています。
- 円運動の動力学: 水平方向には、力の合成分が向心力として働き、等速円運動を実現させます。この関係は、慣性系での運動方程式、または回転系での遠心力を含めた力のつり合いで記述できます。
- 幾何学的な関係: 円運動の回転半径\(r\)は、与えられた高さ\(h\)と角度\(\theta\)から三角比を用いて求める必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小球に働く力をすべて図示します。次に、鉛直方向には運動がないことから、力のつり合いの式を立てて垂直抗力\(N\)を求めます(問1)。
- 次に、図形情報から円運動の半径\(r\)を計算します。そして、水平方向の運動に着目し、運動方程式(または遠心力とのつり合いの式)を立て、(1)で求めた\(N\)の値を使って角速度\(\omega\)を計算します(問2)。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球が受ける垂直抗力の大きさを求める問題です。まず、小球に働く力をすべて特定し、図示することが第一歩です。小球は水平面内で等速円運動をしているため、上下方向(鉛直方向)には動きません。このことから、鉛直方向の力はつり合っていると考え、立式します。
この設問における重要なポイント
- 力の図示: 小球に働く力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」と、棒から棒の軸に垂直な向きに受ける「垂直抗力 \(N\)」の2つです。
- 力の分解: 垂直抗力 \(N\) は斜めを向いているため、これを「鉛直成分」と「水平成分」に分解します。棒が鉛直線と \(30^\circ\) の角度をなしているため、垂直抗力 \(N\) は水平線と \(30^\circ\) の角度をなします。
- 鉛直方向の力のつり合い: 垂直抗力の鉛直上向き成分 \(N \sin 30^\circ\) が、下向きの重力 \(mg\) とつり合います。
具体的な解説と立式
小球に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、棒から受ける垂直抗力 \(N\) です。棒はなめらかなので、抗力は棒の軸に垂直な向きに働きます。
問題の図より、棒は鉛直線に対して \(30^\circ\) 傾いています。したがって、棒に垂直な力である垂直抗力 \(N\) は、水平線に対して \(30^\circ\) の角度をなします。
この運動では、小球は鉛直方向には移動しないため、鉛直方向の力はつり合っています。
垂直抗力 \(N\) の鉛直成分は \(N \sin 30^\circ\) で上向き、重力 \(mg\) は下向きです。
したがって、力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ N \sin 30^\circ – mg = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
上記で立てた力のつり合いの式を \(N\) について解き、与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
N \sin 30^\circ &= mg \\[2.0ex]
N &= \frac{mg}{\sin 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{0.50 \times 9.8}{1/2} \\[2.0ex]
&= 2 \times 0.50 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 9.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
小球が一定の高さを保って回り続けられるのは、地球が下に引く力(重力)と、棒が斜め上に押し返す力(垂直抗力)の「上向きの分力」が、ちょうど同じ大きさで打ち消し合っているからです。この「力のつり合い」の関係を数式にして、棒が押す力(垂直抗力)の大きさを計算します。
小球が棒から受ける垂直抗力の大きさは \(9.8 \text{ N}\) です。
小球の重力は \(mg = 0.50 \times 9.8 = 4.9 \text{ N}\) です。垂直抗力 \(N\) はこの2倍の大きさになりました。これは、\(N\) が傾いて作用しているため、その力の一部(鉛直成分)だけで重力全体を支えなければならないからです。したがって、\(N\) が重力そのものより大きくなるのは物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
棒が回転する角速度 \(\omega\) を求める問題です。小球が等速円運動を続けるためには、円の中心に向かう「向心力」が必要です。この向心力が、(1)で考えた垂直抗力 \(N\) の水平成分によって供給されています。この関係を、回転系で「遠心力」とのつり合いを考えるか、慣性系で「運動方程式」を立てることで解くことができます。ここでは、模範解答に沿って遠心力を用いた解法で解説します。
この設問における重要なポイント
- 回転半径の計算: 小球が描く円の半径 \(r\) を、支点からの高さ \(h\) と傾斜角 \(\theta\) を用いて幾何学的に求める必要があります。\(r = h \tan 30^\circ\) となります。
- 遠心力の導入(回転系の視点): 小球とともに回転する観測者から見ると、小球には円の外側に向かって大きさ \(F = mr\omega^2\) の遠心力が働いているように見えます。
- 水平方向の力のつり合い: 回転系では、内側に向かう垂直抗力の水平成分 \(N \cos 30^\circ\) と、外側に向かう遠心力 \(F\) がつり合っていると考えます。
具体的な解説と立式
小球とともに回転する観測者の視点(回転系)で考えます。この観測者から見ると、小球は静止しており、水平方向の力がつり合っています。
水平方向に働く力は次の2つです。
- 垂直抗力 \(N\) の水平成分: 円の中心向きに \(N \cos 30^\circ\)。
- 遠心力 \(F\): 円の外向きに働く見かけの力。
水平方向の力のつり合いの式は、
$$ N \cos 30^\circ – F = 0 \quad \cdots ① $$
遠心力 \(F\) の大きさは、質量 \(m\)、回転半径 \(r\)、角速度 \(\omega\) を用いて次のように表されます。
$$ F = m r \omega^2 \quad \cdots ② $$
回転半径 \(r\) は、支点からの高さ \(h = 0.20 \text{ m}\) と棒の傾き \(30^\circ\) から、
$$ r = h \tan 30^\circ \quad \cdots ③ $$
と求められます。
使用した物理公式
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
- 力のつり合い
まず、回転半径 \(r\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
r &= h \tan 30^\circ \\[2.0ex]
&= 0.20 \times \frac{1}{\sqrt{3}} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、①、②、③の式から \(F\) と \(r\) を消去し、\(\omega\) について解きます。
$$ N \cos 30^\circ = m (h \tan 30^\circ) \omega^2 $$
この式に、(1)で求めた \(N = 9.8 \text{ N}\) と与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{N \cos 30^\circ}{m h \tan 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8 \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}}{0.50 \times 0.20 \times \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8 \times \sqrt{3}}{2} \times \frac{\sqrt{3}}{0.50 \times 0.20} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8 \times 3}{2 \times 0.10} \\[2.0ex]
&= \frac{29.4}{0.20} \\[2.0ex]
&= 147
\end{aligned}
$$
したがって、角速度 \(\omega\) は、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{147} \\[2.0ex]
&= \sqrt{49 \times 3} \\[2.0ex]
&= 7\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 7 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 12.11 \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(12 \text{ rad/s}\) となります。
小球が円を描いて飛び去らずに回り続けられるのは、棒が円の内側へ押す力(垂直抗力の水平成分)と、小球が外側へ飛び出そうとする力(遠心力)がちょうど釣り合っているからです。この水平方向の力のつり合いの関係を数式にし、(1)で求めた垂直抗力の値を使って、棒の回転の速さ(角速度)を計算します。
思考の道筋とポイント
地上で静止している観測者(慣性系)の視点で運動を解析する方法です。この観測者から見ると、小球は円運動という加速度運動をしています。運動の法則(\(ma=F\))に従い、何が向心力となってこの運動を引き起こしているのかを考え、立式します。
この設問における重要なポイント
- 向心力: 円運動を維持するために必要な、常に円の中心を向く力です。この問題では、垂直抗力 \(N\) の水平成分 \(N \cos 30^\circ\) がその役割を担います。
- 向心加速度: 等速円運動の加速度は \(a = r\omega^2\) で与えられ、向きは円の中心を向きます。
- 運動方程式: 水平方向について、ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を適用します。
具体的な解説と立式
静止している観測者から見ると、小球は水平面内で等速円運動をしています。この運動には、円の中心向きの加速度(向心加速度)が必要です。
向心加速度の大きさは \(a = r\omega^2\) です。
この加速度を生み出す力(向心力)は、小球に働く水平方向の合力です。この問題では、垂直抗力 \(N\) の水平成分 \(N \cos 30^\circ\) のみが水平方向に働く力なので、これが向心力となります。
したがって、水平方向の運動方程式は次のように立てられます。
$$ m a = F_{\text{向心}} $$
$$ m (r \omega^2) = N \cos 30^\circ $$
回転半径 \(r\) は、遠心力で考えた場合と同様に \(r = h \tan 30^\circ\) です。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
運動方程式 \(m (h \tan 30^\circ) \omega^2 = N \cos 30^\circ\) を \(\omega\) について解きます。
$$ \omega^2 = \frac{N \cos 30^\circ}{m h \tan 30^\circ} $$
この式は、遠心力を用いて導いた式と全く同じです。したがって、これ以降の計算も同様になり、
$$ \omega \approx 12 \text{ [rad/s]} $$
という結果が得られます。
ニュートンの運動の法則「力は質量と加速度を掛け合わせたものに等しい(\(F=ma\))」を、円運動バージョンで使う方法です。小球が円運動(これは加速度運動の一種)をするための「力」(向心力)は、棒が内側に押す力(垂直抗力の水平成分)です。この力と、小球の質量、回転半径の関係から、回転の速さ(角速度)を計算します。
角速度は \(\omega \approx 12 \text{ rad/s}\) です。
遠心力を用いた「力のつり合い」という考え方(回転系の視点)と、向心力を考えた「運動方程式」(慣性系の視点)のどちらを用いても、同じ結果が得られました。これは、遠心力が見かけの力であり、本質的には運動方程式と同じ物理現象を異なる視点から記述していることを示しています。どちらの解法も理解しておくことが重要です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力の分解とつり合い(鉛直方向):
- 核心: 小球は水平面内で運動し、鉛直方向には動かないため、鉛直方向の力はつり合っています。この問題では、斜め上向きに働く垂直抗力\(N\)を鉛直成分と水平成分に分解し、その鉛直成分が重力\(mg\)とつり合うと考えます。これが(1)を解くための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: \(N \sin 30^\circ = mg\) という関係式は、この物理現象を直接的に表現したものです。斜めの力を扱う問題では、運動方向とそれに垂直な方向に力を分解するのが定石です。
- 円運動の動力学(水平方向):
- 核心: 小球が等速円運動を続けるためには、常に円の中心方向を向く力、すなわち「向心力」が必要です。この向心力は、垂直抗力\(N\)の水平成分によって供給されています。この関係を運動方程式 \(ma=F\) で記述するのが(2)の核心です。
- 理解のポイント: この問題は2つの視点から解くことができます。
- 慣性系(静止した観測者): 垂直抗力の水平成分が向心力として働き、向心加速度 \(a=r\omega^2\) を生み出すと考え、運動方程式 \(m(r\omega^2) = N \cos 30^\circ\) を立てます。
- 回転系(小球と一緒に回る観測者): 小球に働く力(垂直抗力の水平成分)と、見かけの力である「遠心力」がつり合っていると考え、力のつり合いの式 \(N \cos 30^\circ = mr\omega^2\) を立てます。
どちらの視点も本質的には同じ物理現象を記述しており、同じ結果を導きます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子: 糸の張力\(T\)が、この問題の垂直抗力\(N\)の役割を果たす、最も基本的な類似問題です。張力を分解して鉛直方向のつり合いと水平方向の運動方程式を立てる解法は全く同じです。
- 内面が滑らかな円錐容器内での円運動: 容器の壁から受ける垂直抗力\(N\)が、この問題の棒からの垂直抗力と同じ役割を担います。
- バンク(傾斜)のあるカーブを曲がる自動車: 地面からの垂直抗力\(N\)の水平成分が、自動車がカーブを曲がるための向心力となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示を徹底する: まず、物体に働く力をすべて(この問題では重力と垂直抗力)漏れなく図示します。これが解析の出発点です。
- 座標軸を適切に設定する: 運動を分析しやすいように、水平方向と鉛直方向に座標軸を設定します。斜めを向いている力は、この座標軸に沿って分解します。
- 運動の性質を見抜く: 「鉛直方向には静止(つり合い)」「水平方向には等速円運動(加速度運動)」というように、各方向の運動の性質を明確に区別します。これにより、どの物理法則(つり合いの式か、運動方程式か)を適用すべきかが決まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の分解における角度の間違い:
- 誤解: 垂直抗力\(N\)を分解する際に、角度を取り違える。棒が「鉛直線」と\(30^\circ\)をなすため、棒に垂直な\(N\)は「水平線」と\(30^\circ\)をなします。これを\(60^\circ\)と勘違いしたり、分解後の成分が \(\sin\) と \(\cos\) が逆になったりするミスが頻発します。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、錯角や同位角の関係を明確に確認しましょう。「基準線(鉛直線)と棒の角度」と「棒と垂直抗力の角度(90°)」の関係から、「水平線と垂直抗力の角度」を落ち着いて導き出す習慣をつけましょう。
- 向心力と遠心力の混同:
- 誤解: 慣性系(静止系)で運動方程式を考えているにもかかわらず、遠心力を書き込んでしまう。あるいは、向心力と遠心力の両方を同時に考えてしまう。
- 対策: 「向心力」は加速度運動の原因となる実在の力(の合力)であり、「遠心力」は回転系で導入される見かけの力です。これらは排他的な概念であり、一つの式に両方が登場することはありません。「慣性系なら運動方程式(\(ma=\)向心力)」「回転系なら力のつり合い(実在の力=遠心力)」と、視点を明確に区別しましょう。
- 回転半径\(r\)の誤認:
- 誤解: 問題文で与えられた長さ(この問題では高さ\(h=0.20\text{ m}\))を、そのまま円運動の半径\(r\)として使ってしまう。
- 対策: 円運動の半径は、回転軸からの距離です。必ず図を描き、幾何学的な関係(三角比)を使って正しく求めましょう。この問題では \(r = h \tan 30^\circ\) です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のベクトル図: 小球に働く「重力 \(m\vec{g}\)」(鉛直下向き)と「垂直抗力 \(\vec{N}\)」(斜め上向き)の2つのベクトルを描きます。この2つのベクトルを合成(ベクトルの足し算)すると、合力ベクトルはぴったり水平で円の中心を向きます。この合力こそが「向心力 \(\vec{F}_{\text{向心}}\)」です。\( \vec{N} + m\vec{g} = \vec{F}_{\text{向心}} \) というベクトル関係を図で理解すると、力の分解やつり合いの式の意味が直感的に把握できます。
- 視点の切り替えイメージ:
- 慣性系(地上から見る): 「小球はまっすぐ進みたいはずなのに、棒が内側に引き込み続けているから、結果的に円を描いて運動している」というイメージ。
- 回転系(小球に乗って見る): 「自分はカーブの外側に放り出されそうな力(遠心力)を感じる。でも、棒が内側から同じ力で支えてくれているから、この場所に留まっていられる」というイメージ。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力の作用点を明確に: すべての力は小球の中心(重心)から生えているように描きます。
- 角度を正確に記入: どの角度が\(30^\circ\)なのかを明確に図に書き込みます。これにより、力の分解でのミスを防ぎます。
- 分解した力は点線で描く: 垂直抗力\(N\)を水平・鉛直成分に分解した場合、分解後の2つの力は点線で描くと、元の力(実線)と区別しやすくなり、力の数え間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum F_y = 0\)):
- 選定理由: (1)で、小球が鉛直方向には運動していない(加速度がゼロ)という事実を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(または第二法則で\(a=0\)とした場合)に基づき、加速度のない方向では力の合力がゼロになるという普遍的な原理を適用します。
- 運動方程式 (\(ma=F\)) または 遠心力とのつり合い:
- 選定理由: (2)で、小球が水平方向に行っている等速円運動(加速度運動)のダイナミクスを記述するため。
- 適用根拠: 運動方程式は、力(原因)と加速度(結果)を結びつけるニュートンの第二法則そのものです。遠心力とのつり合いは、この法則を回転座標系という特殊な視点から見直したもので、問題を静力学的に扱えるようにするための便利な手法です。
- 三角比 (\(r = h \tan\theta\)):
- 選定理由: 運動方程式や遠心力の式に必要な物理量「回転半径\(r\)」が直接与えられていないため、図の幾何学的情報から導出する必要があるから。
- 適用根拠: 図形における辺と角度の関係を数式で表現する、数学的なツールです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 垂直抗力の計算:
- 戦略: 鉛直方向の運動がないことに着目し、力のつり合いを立てる。
- フロー: ①小球に働く力(重力、垂直抗力)を図示 → ②垂直抗力\(N\)を鉛直・水平成分に分解 → ③鉛直方向の力のつり合いを立式 (\(N\sin 30^\circ – mg = 0\)) → ④式を\(N\)について解き、数値を代入して計算。
- (2) 角速度の計算:
- 戦略: 水平方向の円運動に着目し、運動方程式(または遠心力とのつり合い)を立てる。
- フロー: ①円運動の半径\(r\)を図から求める (\(r=h\tan 30^\circ\)) → ②水平方向の運動方程式を立式 (\(m(r\omega^2) = N\cos 30^\circ\)) → ③(1)で求めた\(N\)と①で求めた\(r\)の関係を代入 → ④式を\(\omega\)について解き、数値を代入して計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算では、すぐに数値を代入するのではなく、まず文字式のまま\(\omega^2\)を求めると良いでしょう。
\(\omega^2 = \displaystyle\frac{N \cos 30^\circ}{mr}\)。ここに \(N = \displaystyle\frac{mg}{\sin 30^\circ}\) と \(r = h \tan 30^\circ\) を代入すると、
\(\omega^2 = \displaystyle\frac{(mg/\sin 30^\circ) \cos 30^\circ}{m(h \tan 30^\circ)} = \frac{g \cot 30^\circ}{h \tan 30^\circ} = \frac{g}{h \tan^2 30^\circ}\)
というように、物理量間の関係が明確になります。計算ミスも発見しやすくなり、最後の最後に一度だけ数値を代入すれば済みます。 - 三角関数の値の正確性: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\tan 30^\circ = 1/\sqrt{3}\) といった基本的な値を正確に使いこなすことが必須です。
- 単位の確認: 計算の最終結果の単位が、求められている物理量の単位([N]や[rad/s])と一致しているかを確認する習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 垂直抗力: \(N=9.8\text{ N}\) は、重力 \(mg=4.9\text{ N}\) よりも大きい。これは、傾いた力である垂直抗力\(N\)が、その一部の力(鉛直成分)だけで重力全体を支えなければならないため、\(N\)自体は重力より大きくなるはずだ、という直感と一致しており、妥当です。
- (2) 角速度: もし重力\(g\)がもっと大きかったら、小球を同じ高さで支えるためにはより大きな垂直抗力が必要になり、向心力も増大するため、より速い回転\(\omega\)が必要になるはずです。導出した式 \(\omega^2 = \frac{g}{h \tan^2 30^\circ}\) は、\(\omega\)が\(g\)の平方根に比例することを示しており、この物理的直感と一致します。
- 別解との比較:
- (2)の角速度は、慣性系での「運動方程式」と、回転系での「遠心力とのつり合い」という2つの異なるアプローチで求められました。両者で全く同じ結果 (\(\omega \approx 12 \text{ rad/s}\)) が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。
134 鉛直面内での円運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、なめらかな半球上を滑り落ちる物体の運動を扱う、鉛直面内での非等速円運動の典型問題です。力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式を組み合わせて解く、力学の総合力が試されます。
この問題の核心は、物体の「速さ」をエネルギーの観点から求め、その速さを使って「力」(垂直抗力)を運動方程式から求めるという、2段階の思考プロセスを正確に実行することです。
- 半球の半径: \(r\) [m]
- 小物体の質量: \(m\) [kg]
- 初速度: 頂点Aで静かにはなすので、\(v_A = 0\)
- 面はなめらか(摩擦は働かない)
- 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
- (1) 鉛直線となす角が\(\theta\)の点Bを通過するときの小物体の速さ\(v\)。
- (2) (1)のときの、小物体が面から受ける垂直抗力の大きさ\(N\)。
- (3) 小物体が面から離れるときの\(\cos\theta\)の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直面内での非等速円運動」です。速さが変化しながら円弧に沿って運動する物体の力学を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 面がなめらかで、垂直抗力は常に運動方向と垂直で仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。これを用いて、物体の位置(高さ)と速さを関連付けます。
- 円運動の運動方程式: 物体は円弧上を運動するため、各点において円運動の運動方程式が成り立ちます。これを用いて、速さと物体に働く力(特に垂直抗力)を関連付けます。
- 力の分解: 運動方程式を立てる際に、重力を円の半径方向(動径方向)と接線方向に分解することが有効です。
- 面から離れる条件: 小物体が半球面から離れる瞬間は、面が物体を押す力、すなわち垂直抗力\(N\)が0になるときです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 始点Aと点Bの間で力学的エネルギー保存則を立て、高さの減少分を運動エネルギーの増加分に変換して速さ\(v\)を求めます。
- (2) 点Bにおいて、円運動の運動方程式を立てます。向心力は、重力の半径方向成分と垂直抗力の合力によって供給されます。この式に(1)で求めた速さ\(v\)を代入し、垂直抗力\(N\)を求めます。
- (3) (2)で導出した垂直抗力\(N\)の式に、面から離れる条件である\(N=0\)を代入し、そのときの\(\cos\theta\)の値を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小物体の速さを求める問題です。運動中の物体の速さを問われた場合、エネルギーに着目するのが定石です。この問題では、動摩擦力や空気抵抗などがなく、垂直抗力は常に運動方向と垂直で仕事をしないため、力学的エネルギー保存則が成り立ちます。始点Aと点Bの2点間でエネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則の適用: (始点Aでの力学的エネルギー)=(点Bでの力学的エネルギー)
- 位置エネルギーの基準点: 計算を簡単にするため、位置エネルギーの基準面を適切に設定します。ここでは、点Bの高さを基準面とすると、計算が簡潔になります。
- 高さの計算: 始点Aは、点Bの基準面からどれだけ高い位置にあるかを考えます。図より、点Bの高さは半球の中心Oから測って\(r\cos\theta\)なので、頂点Aから点Bまでの高低差は \(r – r\cos\theta\) となります。
具体的な解説と立式
始点Aと点Bの間で力学的エネルギー保存則を考えます。点Bの高さを重力による位置エネルギーの基準面(高さ0)とします。
- 始点Aでの力学的エネルギー \(E_A\):
小物体は静かにはなされるので、運動エネルギーは0です。
位置エネルギーは、基準面からの高さが \(h = r – r\cos\theta\) なので、\(U_A = mg(r-r\cos\theta)\) です。
よって、\(E_A = 0 + mg(r-r\cos\theta)\)。 - 点Bでの力学的エネルギー \(E_B\):
速さを\(v\)とすると、運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) です。
点Bは位置エネルギーの基準面なので、位置エネルギーは0です。
よって、\(E_B = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 0\)。
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_B\) より、以下の式が成り立ちます。
$$ mg(r – r\cos\theta) = \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_A + U_A = K_B + U_B\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
上記で立てたエネルギー保存則の式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= mg(r – r\cos\theta) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= gr(1 – \cos\theta) \\[2.0ex]
v^2 &= 2gr(1 – \cos\theta) \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gr(1 – \cos\theta)}
\end{aligned}
$$
速さは正の値なので、平方根の正の方をとります。
小物体が頂点Aから点Bまで滑り落ちる間に失った「高さのエネルギー(位置エネルギー)」が、すべて「速さのエネルギー(運動エネルギー)」に変換されたと考えます。このエネルギーの変換関係を数式にして、点Bでの速さを計算します。
点Bを通過するときの小物体の速さは \(v = \sqrt{2gr(1 – \cos\theta)}\) です。この式は、\(\theta\)が大きくなる(小物体が下に落ちる)ほど\(\cos\theta\)が小さくなり、速さ\(v\)が増加することを示しており、物理的な直感と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
小物体が面から受ける垂直抗力の大きさを求める問題です。垂直抗力のような「力」を求めるには、運動方程式を立てるのが基本です。小物体は円弧上を運動しているため、円運動の運動方程式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の適用: 円運動の運動方程式 \(ma = F\) を、円の中心方向(動径方向)について立てます。ここで \(a\) は向心加速度 \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)、\(F\) は向心力(中心方向の力の合力)です。
- 力の分解: 点Bで小物体に働く力は、鉛直下向きの重力\(mg\)と、面から中心と逆向きに受ける垂直抗力\(N\)です。運動方程式を立てるために、重力\(mg\)を円の半径方向と接線方向に分解します。半径方向の成分は \(mg\cos\theta\) となります。
- 向心力の特定: 円の中心方向を正とすると、中心方向に向かう力は重力の成分 \(mg\cos\theta\)、中心と逆方向に向かう力は垂直抗力\(N\)です。したがって、向心力は \(F = mg\cos\theta – N\) となります。
具体的な解説と立式
点Bにおいて、小物体の円運動の運動方程式を立てます。円の中心方向を正とします。
向心加速度は \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\) です。
向心力は、重力の半径方向成分 \(mg\cos\theta\) と垂直抗力 \(N\) の合力で、\(F = mg\cos\theta – N\) です。
よって、運動方程式 \(ma=F\) は以下のようになります。
$$ m\frac{v^2}{r} = mg\cos\theta – N $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)
上記で立てた運動方程式を \(N\) について解きます。
$$ N = mg\cos\theta – m\frac{v^2}{r} $$
(1)で求めた \(v^2 = 2gr(1 – \cos\theta)\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta – m\frac{2gr(1 – \cos\theta)}{r} \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg(1 – \cos\theta) \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg + 2mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= 3mg\cos\theta – 2mg \\[2.0ex]
&= mg(3\cos\theta – 2)
\end{aligned}
$$
小物体が円形のレールに沿ってカーブを曲がり続けるためには、常にレールの中心に向かう力(向心力)が必要です。この向心力は、「重力のうち中心に向かう成分」から「面が物体を押し返す力(垂直抗力)」を差し引いたものに等しくなります。この関係を運動の法則の式に当てはめ、(1)で求めた速さを使って垂直抗力の大きさを計算します。
思考の道筋とポイント
小物体と一緒に円運動する観測者(非慣性系)の視点で問題を考えます。この観測者から見ると、小物体は半径方向には動いていないため、半径方向の力はつり合っているように見えます。この考え方を用いるには、見かけの力である「遠心力」を導入する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 遠心力の導入: 小物体には、円の中心から遠ざかる向き(外向き)に、大きさ \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) の遠心力が働いていると考える。
- 力のつり合い(半径方向): この観測者から見ると、半径方向内向きの力(重力の成分)と、半径方向外向きの力(垂直抗力と遠心力)が完全につり合っている。
具体的な解説と立式
小物体とともに運動する観測者の視点では、半径方向の力はつり合っています。
半径方向に働く力は以下の通りです。
- 内向きの力: 重力の半径方向成分 \(mg\cos\theta\)。
- 外向きの力: 垂直抗力 \(N\) と、見かけの力である遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)。
これらの力のつり合いの式は、
$$ mg\cos\theta = N + F_{\text{遠心}} $$
$$ mg\cos\theta = N + m\frac{v^2}{r} $$
使用した物理公式
- 遠心力: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
- 力のつり合い
上記で立てた力のつり合いの式を \(N\) について解きます。
$$ N = mg\cos\theta – m\frac{v^2}{r} $$
この式は、慣性系で立てた運動方程式から導かれる式と全く同じです。したがって、これ以降の計算はメインの解法と同一になります。
(1)で求めた \(v^2 = 2gr(1 – \cos\theta)\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta – m\frac{2gr(1 – \cos\theta)}{r} \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg(1 – \cos\theta) \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg + 2mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= mg(3\cos\theta – 2)
\end{aligned}
$$
小物体に乗っている人になったと想像します。この人には、カーブの外側に放り出されるような力(遠心力)が働いているように感じられます。この視点では、物体は動いていないので、力がつり合っていると考えます。「内側へ引っ張る重力の分力」が、「外側へ向かう垂直抗力」と「外側へ放り出される遠心力」の合計と等しい、というつり合いの式を立てて計算します。
垂直抗力の大きさは \(N = mg(3\cos\theta – 2)\) です。
試しに始点A (\(\theta=0\)) での値を考えると、\(\cos 0 = 1\) なので \(N = mg(3 \times 1 – 2) = mg\) となります。これは、頂点で一瞬静止している物体に対し、重力と垂直抗力がつり合っている状態を表しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小物体が面から離れるときの\(\cos\theta\)の値を求める問題です。物理的に「面から離れる」とは、物体と面との間で力が及ばなくなる瞬間を意味します。つまり、垂直抗力\(N\)が0になる瞬間です。
この設問における重要なポイント
- 面から離れる条件: 垂直抗力 \(N=0\)。
- (2)の結果の利用: (2)で導出した垂直抗力\(N\)と\(\cos\theta\)の関係式に、\(N=0\)という条件を代入します。
具体的な解説と立式
小物体が面から離れるとき、垂直抗力\(N\)は0になります。
(2)で求めた式 \(N = mg(3\cos\theta – 2)\) に、\(N=0\) を代入します。
$$ mg(3\cos\theta – 2) = 0 $$
使用した物理公式
- (2)で導出した垂直抗力の式
上記で立てた式を \(\cos\theta\) について解きます。
$$ mg(3\cos\theta – 2) = 0 $$
\(m > 0\) かつ \(g > 0\) なので、両辺を \(mg\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
3\cos\theta – 2 &= 0 \\[2.0ex]
3\cos\theta &= 2 \\[2.0ex]
\cos\theta &= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
小物体が滑り落ちてスピードが上がるにつれて、遠心力のような効果で体は浮き上がろうとし、面を押し付ける力(垂直抗力)はだんだん弱くなっていきます。そして、ついにその力がゼロになった瞬間に、小物体は面から離れて空中へ飛び出します。(2)で求めた垂直抗力の式を使い、「垂直抗力 = 0」となるのは角度がいくつのときかを計算します。
小物体が面から離れるときの\(\cos\theta\)の値は \(\displaystyle\frac{2}{3}\) です。
この値は \(0 < \cos\theta < 1\) の範囲にあるため、物理的に可能な角度 (\(0^\circ < \theta < 90^\circ\)) で面から離れることを示しています。このとき、速さは \(v^2 = 2gr(1 – 2/3) = \frac{2}{3}gr > 0\) であり、速さを持ったまま面から離れて放物運動に移行するという、物理的に妥当な結果が得られました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: 面がなめらかで垂直抗力が仕事をしないため、物体の「位置エネルギー」と「運動エネルギー」の和は常に一定に保たれます。これが、物体の位置(角度\(\theta\))と速さ\(v\)を関係づける鍵となります。
- 理解のポイント: (1)は、この法則を始点Aと任意の点Bに適用することで解かれます。失われた位置エネルギー \(mg(r-r\cos\theta)\) が、そのまま運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に変換されるという関係式が基本です。
- 円運動の運動方程式:
- 核心: 物体は円弧に沿って運動しているため、各瞬間において円運動の法則に従います。特に、円の中心方向(動径方向)の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) が、物体の速さ\(v\)と物体に働く力(垂直抗力\(N\)と重力の分力)を関係づけます。
- 理解のポイント: (2)は、この運動方程式を立て、(1)で求めた速さ\(v\)を代入することで垂直抗力\(N\)を求める問題です。向心力 \(F_{\text{向心}}\) が、重力の動径方向成分 \(mg\cos\theta\) と垂直抗力 \(N\) の合力(\(mg\cos\theta – N\))で与えられることを見抜くのが重要です。
- 面から離れる条件 (\(N=0\)):
- 核心: 物体が面から「離れる」という物理現象は、面から受ける垂直抗力がゼロになることと等価です。
- 理解のポイント: (3)は、(2)で導出した垂直抗力\(N\)の式に、この \(N=0\) という条件を適用するだけで解ける問題です。物理現象と数式上の条件を正しく結びつける能力が試されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ジェットコースターのループ: 鉛直な円形ループを回る台車の問題。最頂点でループから落ちないための条件(垂直抗力\(N \ge 0\))などが問われます。
- 糸で吊るしたおもりの鉛直面内円運動: 糸の張力\(T\)が垂直抗力\(N\)の役割をします。糸がたるまない条件(\(T \ge 0\))が、面から離れない条件に対応します。
- 内面が滑らかな円筒内での運動: 円筒の側面を滑り落ちる物体の運動も、同じく力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式で解析できます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギー保存則が使えるか?: まず、摩擦や空気抵抗など、力学的エネルギーを失わせる要因がないかを確認します。なければ、エネルギー保存則が強力なツールになります。
- 運動の幾何学的拘束は?: 物体が円弧や斜面など、特定の経路上を動く場合、その運動を記述するために運動方程式が必要になります。特に円運動では、中心方向の運動方程式を立てるのが定石です。
- 「条件」を数式に変換する: 「面から離れる」「最高点に達する」「糸がたるむ」といった問題文の物理的な条件を、\(N=0\), \(v=0\), \(T=0\) のような数式上の条件に正確に翻訳することが解法の鍵となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力の扱い方:
- 誤解: 向心力を、重力や垂直抗力とは別の「第3の力」として力の図に書き込んでしまう。
- 対策: 向心力は、実際に働いている力(この問題では重力と垂直抗力)の「合力」です。力の図には実在の力のみを描き、それらの合力が向心力の役割を果たす、という関係で運動方程式を立てましょう。
- 力の分解方向の間違い:
- 誤解: 重力を水平・鉛直方向に分解してしまう。
- 対策: 円運動では、力の分解は「円の半径方向(動径方向)」と「接線方向」に行うのが基本です。これにより、運動方程式(半径方向)と運動の変化(接線方向)を分けて考えることができます。
- エネルギー保存則の基準点の混同:
- 誤解: 位置エネルギーの基準点を途中で変えたり、高さの計算を間違えたりする。
- 対策: 最初に位置エネルギーの基準点を一つ決め(例:最下点、中心Oなど)、すべての点の高さはその基準点から測るように一貫させましょう。図を描いて、各点の高さを半径\(r\)と角度\(\theta\)で正確に表現することが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーの棒グラフ: 頂点Aでは「位置エネルギー」の棒グラフが最大で「運動エネルギー」は0。滑り落ちるにつれて、位置エネルギーのグラフが減り、その分だけ運動エネルギーのグラフが増えていく様子をイメージします。力学的エネルギーの合計(棒グラフの全長)は常に一定です。
- 力のベクトル図(動径方向): 点Bにおいて、中心向きの「重力の分力 \(mg\cos\theta\)」(実線ベクトル)と、外向きの「垂直抗力 \(N\)」(実線ベクトル)を描きます。この2つの合力が、中心向きの「向心力 \(F_{\text{向心}}\)」(点線ベクトル)となります。滑り落ちて\(v\)が大きくなると、向心力も大きくなる必要があります。しかし\(mg\cos\theta\)は減少していくため、\(N\)がどんどん小さくなり、やがて0になる、という力関係の変化をイメージします。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 角度\(\theta\)の位置を明確に: 鉛直線と動径のなす角が\(\theta\)であることを図に明記します。これにより、重力を分解する際の角度の取り違えを防ぎます。
- 力の作用点を重心に: 重力も垂直抗力も、小物体の重心に作用しているように描きます。
- 基準線を引く: 位置エネルギーを考える際は、基準となる高さの水平線を点線で描くと、各点の高低差が視覚的に分かりやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (1)で、物体の「位置」と「速さ」という2つの状態量を結びつけるため。力が保存力(重力)と仕事をしない力(垂直抗力)のみであるため、この法則が適用できます。
- 適用根拠: 仕事とエネルギーの関係において、非保存力が仕事をしない場合に成り立つ物理法則です。
- 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
- 選定理由: (2)で、物体の運動状態(速さ\(v\))と、その運動を引き起こしている「力」(垂直抗力\(N\))を結びつけるため。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を、円運動という特殊な加速度運動に適用したものです。
- 遠心力を用いた力のつり合い:
- 選定理由: (2)の別解として。運動方程式の代わりに、静力学的な力のつり合いとして問題を扱うための手法。
- 適用根拠: 非慣性系(回転座標系)において、慣性力を導入することでニュートンの法則が形式的に成り立つことを利用したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 速さの計算:
- 戦略: エネルギー保存則を用いる。
- フロー: ①始点Aと点Bで力学的エネルギーを定義 → ②\(E_A = E_B\) として立式 → ③式を\(v\)について解く。
- (2) 垂直抗力の計算:
- 戦略: 円運動の運動方程式を用いる。
- フロー: ①点Bで物体に働く力を図示し、動径方向に分解 → ②動径方向の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = mg\cos\theta – N\) を立式 → ③(1)で求めた\(v^2\)を代入 → ④式を\(N\)について解く。
- (3) 面から離れる条件:
- 戦略: (2)で求めた\(N\)の式に、\(N=0\)を代入する。
- フロー: ①\(N=0\)という条件を立てる → ②\(mg(3\cos\theta – 2) = 0\) を\(\cos\theta\)について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算で、\(v^2\)を代入した後にすぐに展開せず、\(mg\cos\theta\)と\(m\frac{v^2}{r}\)の項を分けて整理すると見通しが良くなります。
- 単位と次元の確認: 例えば、\(v^2 = 2gr(1-\cos\theta)\) の右辺の次元は、(m/s²)(m) = (m/s)² となり、左辺の\(v^2\)の次元と一致します。このような次元チェックは、立式ミスを発見するのに有効です。
- 極端な場合で検算: (2)で求めた\(N = mg(3\cos\theta – 2)\)の式を、\(\theta=0\)(始点)で検算すると \(N=mg\) となり、物理的に正しい結果が得られます。このような簡単な検算で、式の妥当性を確認する習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) \(\cos\theta = 2/3\) は、\(0 < 2/3 < 1\) なので、\(\theta\)は鋭角です。つまり、物体は半球の頂点を越えてから、水平になる前に面から離れることを意味しており、直感と合致します。もし\(\cos\theta > 1\)や\(\cos\theta < 0\)のような値が出たら、計算ミスを疑うべきです。
- 別解との比較:
- (2)の垂直抗力は、慣性系での「運動方程式」と、非慣性系での「遠心力とのつり合い」という2つのアプローチで求められました。両者で全く同じ結果 \(N = mg(3\cos\theta – 2)\) が得られたことは、それぞれの物理モデルの理解と計算の正しさを強く裏付けます。
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