117 木材への弾丸の打ち込み
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、なめらかな水平面上での物体同士の衝突(合体)を扱う問題です。運動量保存則、力積と運動量の関係、そしてエネルギーと仕事の関係といった、力学の根幹をなす複数の法則を総合的に活用する能力が試されます。
この問題の核心は、弾丸と材木という2つの物体からなる「系」全体で考える視点と、それぞれの物体に個別に着目する視点を、設問に応じて使い分けることです。
- 弾丸の質量: \(m\) [kg]
- 弾丸の初速度: \(v\) [m/s]
- 材木の質量: \(M\) [kg]
- 材木の初速度: \(0\) [m/s]
- 弾丸と材木の間にはたらく力(一定): \(F\) [N]
- 床はなめらかで、重力の影響は無視する。
- (1) 弾丸が材木に対して静止したときの、床から見た材木の速さ \(V\)。
- (2) 衝突の間に、材木が受けた力積の大きさ \(I\)。
- (3) 衝突の時間 \(\Delta t\)。
- (4) 弾丸が材木にくい込んだ深さ \(\Delta L\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「非弾性衝突における力学法則の適用」です。特に、運動量保存則が成立する一方で、力学的エネルギーは保存されない点が重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 水平方向には外力が働かないため、弾丸と材木を一つの系として見たとき、その全体の運動量は衝突の前後で保存されます。
- 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという関係(\(I = \Delta p\))を使います。これは系全体ではなく、個々の物体に着目する際に用います。
- エネルギーと仕事の関係: 衝突によって失われた力学的エネルギーは、弾丸と材木の間で働いた抵抗力(内力)がした仕事に等しくなります。
- 相対運動の解析: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動を考えることで、問題を簡潔に扱える場合があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、弾丸と材木を一つの系とみなし、運動量保存則を立てて、一体となった後の速度\(V\)を求めます(問1)。
- 次に、材木単体、あるいは弾丸単体に着目し、「力積と運動量の関係」を用いて、材木が受けた力積を計算します(問2)。
- 力積の定義(力 × 時間)と(2)の結果から、衝突にかかった時間\(\Delta t\)を求めます(問3)。
- 最後に、各物体の運動を運動学的に追跡する方法、または系全体のエネルギー変化に着目する方法で、くい込んだ深さ\(\Delta L\)を計算します(問4)。
問(1)
思考の道筋とポイント
弾丸が材木にめり込み、やがて一体となって運動する状況を考えます。この過程で、弾丸と材木の間には内力(抵抗力\(F\))が働きますが、弾丸と材木を一つの「系」として考えると、この力は系の内部の力になります。水平方向には外部から力が働かないため、この系の全運動量は保存されます。この「運動量保存則」を用いて、一体となった後の速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用: 弾丸と材木を一つの系とみなし、衝突前後の運動量の総和が等しいと考えます。
- 衝突前の運動量: 弾丸の運動量 \(mv\) と材木の運動量 \(M \times 0\) の和です。
- 衝突後の運動量: 弾丸と材木が一体となり、質量 \((m+M)\) の物体として速度 \(V\) で運動すると考えます。
具体的な解説と立式
水平方向右向きを正の向きとします。
衝突前の系の運動量の総和 \(p_{\text{前}}\) は、弾丸の運動量と材木の運動量の和です。
$$ p_{\text{前}} = mv + M \times 0 = mv $$
衝突後、弾丸と材木は一体となって速度 \(V\) で運動します。このときの系の運動量の総和 \(p_{\text{後}}\) は、
$$ p_{\text{後}} = (m+M)V $$
水平方向には外力が働かないため、運動量保存則が成り立ちます。
$$ p_{\text{前}} = p_{\text{後}} $$
したがって、以下の式が立てられます。
$$ mv = (m+M)V $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
上記で立てた運動量保存則の式を \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(m+M)V &= mv \\[2.0ex]
V &= \frac{mv}{m+M} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
衝突の前後で、二つの物体を合わせた「運動の勢い(運動量)」の合計は変わりません。初めに弾丸だけが持っていた勢いが、衝突後には弾丸と材木が合わさったものに分配される、と考えることで、衝突後の速さを計算します。
弾丸が材木に対して静止したときの材木の速さは \(\displaystyle\frac{mv}{m+M}\) [m/s] です。これは弾丸と材木が一体となったときの速度です。分母が \((m+M)\) となっていることから、衝突後の速度 \(V\) は、弾丸の初速度 \(v\) よりも必ず小さくなることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
材木が受けた力積の大きさを求める問題です。物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積に等しいという「力積と運動量の関係」を利用します。材木は最初静止しており、衝突後には(1)で求めた速度 \(V\) で運動します。この運動量の変化を計算することで、材木が受けた力積を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\)
- 着目する物体: この問題では「材木」の運動量変化に着目します。
- 材木の運動量: 初めの運動量は \(0\)、後の運動量は \(MV\) です。
具体的な解説と立式
材木が受けた力積を \(I_M\) とします。力積と運動量の関係より、\(I_M\) は材木の運動量の変化量に等しくなります。
材木の初めの運動量は \(p_{\text{材木・前}} = M \times 0 = 0\) です。
材木の後の運動量は \(p_{\text{材木・後}} = MV\) です。
したがって、材木が受けた力積 \(I_M\) は、
$$ I_M = p_{\text{材木・後}} – p_{\text{材木・前}} = MV – 0 $$
よって、以下の式が立てられます。
$$ I_M = MV $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p\)
上記で立てた式に、(1)で求めた \(V = \displaystyle\frac{mv}{m+M}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_M &= M \times \left( \frac{mv}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mMv}{m+M} \text{ [N}\cdot\text{s]}
\end{aligned}
$$
「力積」とは、物体が受けた力の大きさと時間を掛け合わせたもので、物体の「運動の勢い(運動量)」をどれだけ変化させたかを表す量です。この問題では、止まっていた材木が動き出したので、その運動量の変化分を計算することで、材木が受けた力積を求めています。
材木が受けた力積の大きさは \(\displaystyle\frac{mMv}{m+M}\) [N・s] です。この値は正であり、材木が右向きに力を受けて運動量を増やしたことと一致します。
思考の道筋とポイント
作用・反作用の法則により、弾丸が材木から受ける力と、材木が弾丸から受ける力は、大きさが等しく向きが反対です。したがって、弾丸が受けた力積と材木が受けた力積も、大きさが等しく向きが反対になります。そこで、弾丸の運動量変化を計算し、その大きさから材木が受けた力積を求めます。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用の法則: 弾丸が材木から受ける力積を \(I_m\)、材木が弾丸から受ける力積を \(I_M\) とすると、\(I_M = -I_m\) の関係が成り立ちます。
- 弾丸の運動量変化: 弾丸の初速度は \(v\)、終速度は \(V\) です。
具体的な解説と立式
弾丸が受けた力積を \(I_m\) とします。力積と運動量の関係より、\(I_m\) は弾丸の運動量の変化量に等しくなります。
弾丸の初めの運動量は \(p_{\text{弾丸・前}} = mv\) です。
弾丸の後の運動量は \(p_{\text{弾丸・後}} = mV\) です。
したがって、弾丸が受けた力積 \(I_m\) は、
$$ I_m = p_{\text{弾丸・後}} – p_{\text{弾丸・前}} = mV – mv $$
作用・反作用の法則から、材木が受けた力積 \(I_M\) は \(I_M = -I_m\) となるので、
$$ I_M = -(mV – mv) = mv – mV = m(v-V) $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p\)
- 作用・反作用の法則
上記で立てた式に、(1)で求めた \(V = \displaystyle\frac{mv}{m+M}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_M &= m \left( v – \frac{mv}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= m \left( \frac{v(m+M) – mv}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= m \left( \frac{mv + Mv – mv}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= m \left( \frac{Mv}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mMv}{m+M} \text{ [N}\cdot\text{s]}
\end{aligned}
$$
メインの解法と同じ結果が得られました。
弾丸は材木に力を及ぼし(作用)、材木は弾丸に同じ大きさで逆向きの力を及ぼします(反作用)。このため、弾丸が失った運動量と、材木が得た運動量は大きさが等しくなります。ここでは弾丸の運動量がどれだけ減ったかを計算することで、間接的に材木が得た力積を求めています。
弾丸の運動量変化に着目しても、同じ結果が得られます。これは、系全体の運動量が保存されている(弾丸が失った運動量と材木が得た運動量が等しい)ことの現れでもあります。
問(3)
思考の道筋とポイント
衝突にかかった時間 \(\Delta t\) を求める問題です。力積は「力 × 時間」で定義されます。問題文より、材木が弾丸から受ける力は一定で \(F\) であると与えられています。(2)で求めた力積 \(I_M\) をこの定義式に当てはめることで、時間 \(\Delta t\) を計算できます。
この設問における重要なポイント
- 力積の定義: \(I = F \Delta t\) (力が一定の場合)
- (2)の結果の利用: (2)で求めた力積 \(I_M\) の値を使います。
具体的な解説と立式
材木が受けた力積 \(I_M\) は、一定の力 \(F\) が時間 \(\Delta t\) の間働いた結果なので、次のように表せます。
$$ I_M = F \Delta t $$
(2)の結果から \(I_M = \displaystyle\frac{mMv}{m+M}\) なので、
$$ F \Delta t = \frac{mMv}{m+M} $$
使用した物理公式
- 力積の定義: \(I = F \Delta t\)
上記で立てた式を \(\Delta t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{1}{F} \times \frac{mMv}{m+M} \\[2.0ex]
&= \frac{mMv}{(m+M)F} \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
(2)で求めた力積(運動量の変化)を、物体に働いた力の大きさ \(F\) で割ることで、その力が働いていた時間を計算します。
衝突にかかった時間は \(\displaystyle\frac{mMv}{(m+M)F}\) [s] です。力の大きさ \(F\) が大きいほど、時間は短くなるという直感に合った結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
弾丸が材木にくい込んだ深さ \(\Delta L\) を求める問題です。これは、衝突時間 \(\Delta t\) の間に、弾丸が進んだ距離と材木が進んだ距離の差に相当します。弾丸と材木はそれぞれ一定の力(作用・反作用)を受けて等加速度直線運動をすると考え、それぞれの移動距離を計算し、その差を求めます。
この設問における重要なポイント
- くい込んだ深さの定義: \(\Delta L = (\text{弾丸の移動距離}) – (\text{材木の移動距離})\)
- 各物体の運動: 弾丸と材木はそれぞれ一定の加速度で運動します。
- 運動方程式: 各物体の加速度を運動方程式 \(ma=f\) から求めます。
具体的な解説と立式
衝突時間 \(\Delta t\) の間に、弾丸が進んだ距離を \(L_m\)、材木が進んだ距離を \(L_M\) とします。くい込んだ深さ \(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = L_m – L_M \quad \cdots ① $$
まず、各物体の加速度を求めます。運動の向き(右向き)を正とします。
・弾丸: 材木から左向き(負の向き)に力 \(F\) を受けるので、加速度 \(a_m\) は運動方程式より、
$$ ma_m = -F \quad \rightarrow \quad a_m = -\frac{F}{m} $$
・材木: 弾丸から右向き(正の向き)に力 \(F\) を受けるので、加速度 \(a_M\) は運動方程式より、
$$ Ma_M = F \quad \rightarrow \quad a_M = \frac{F}{M} $$
次に、等加速度直線運動の変位の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を用いて、各物体の移動距離を求めます。
・弾丸の移動距離 \(L_m\):
$$ L_m = v\Delta t + \frac{1}{2}a_m(\Delta t)^2 = v\Delta t + \frac{1}{2}\left(-\frac{F}{m}\right)(\Delta t)^2 \quad \cdots ② $$
・材木の移動距離 \(L_M\):
$$ L_M = 0 \cdot \Delta t + \frac{1}{2}a_M(\Delta t)^2 = \frac{1}{2}\left(\frac{F}{M}\right)(\Delta t)^2 \quad \cdots ③ $$
①に②、③を代入して \(\Delta L\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=f\)
- 等加速度直線運動の変位の式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
①、②、③より、
$$
\begin{aligned}
\Delta L &= L_m – L_M \\[2.0ex]
&= \left( v\Delta t – \frac{F}{2m}(\Delta t)^2 \right) – \left( \frac{F}{2M}(\Delta t)^2 \right) \\[2.0ex]
&= v\Delta t – \left( \frac{F}{2m} + \frac{F}{2M} \right)(\Delta t)^2 \\[2.0ex]
&= v\Delta t – \frac{F}{2}\left( \frac{1}{m} + \frac{1}{M} \right)(\Delta t)^2 \\[2.0ex]
&= v\Delta t – \frac{F}{2}\left( \frac{M+m}{mM} \right)(\Delta t)^2
\end{aligned}
$$
ここに(3)で求めた \(\Delta t = \displaystyle\frac{mMv}{(m+M)F}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta L &= v \left( \frac{mMv}{(m+M)F} \right) – \frac{F}{2}\left( \frac{m+M}{mM} \right) \left( \frac{mMv}{(m+M)F} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{mMv^2}{(m+M)F} – \frac{F}{2} \frac{m+M}{mM} \frac{(mMv)^2}{((m+M)F)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{mMv^2}{(m+M)F} – \frac{F}{2} \frac{m+M}{mM} \frac{m^2 M^2 v^2}{(m+M)^2 F^2} \\[2.0ex]
&= \frac{mMv^2}{(m+M)F} – \frac{1}{2} \frac{mMv^2}{(m+M)F} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{mMv^2}{(m+M)F} \\[2.0ex]
&= \frac{mMv^2}{2(m+M)F} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
弾丸が材木にめり込んでいる間、弾丸はブレーキをかけられながら進み、材木は加速されながら進みます。この間に弾丸が進んだ距離と材木が進んだ距離の「差」が、くい込んだ深さになります。それぞれの移動距離を計算して引き算をすることで求めています。
弾丸が材木にくい込んだ深さは \(\displaystyle\frac{mMv^2}{2(m+M)F}\) [m] です。計算は複雑ですが、物理法則を一つ一つ適用することで導出できます。
思考の道筋とポイント
この衝突は、熱や音が発生する「非弾性衝突」であり、系全体の力学的エネルギーは保存されません。失われた力学的エネルギーは、弾丸と材木の間で働く抵抗力 \(F\) がした仕事に変換されます。この「エネルギーと仕事の関係」を利用すると、より簡潔に問題を解くことができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギーと仕事の関係: \((\text{力学的エネルギーの変化量}) = (\text{非保存力がした仕事})\)
- 系の力学的エネルギー: 衝突前の運動エネルギーと衝突後の運動エネルギーを計算します。
- 非保存力がした仕事: 抵抗力 \(F\) が、材木に対して弾丸が相対的に移動した距離(=くい込んだ深さ \(\Delta L\))だけ仕事をします。この仕事は系のエネルギーを減少させるので、\(W = -F \Delta L\) となります。
具体的な解説と立式
衝突前の系の力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\) は、弾丸の運動エネルギーのみです。
$$ E_{\text{前}} = \frac{1}{2}mv^2 $$
衝突後の系の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、一体となった物体の運動エネルギーです。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2 $$
この衝突過程で、抵抗力 \(F\) という非保存力がした仕事 \(W_{\text{非保存力}}\) によって、系の力学的エネルギーが変化します。エネルギーと仕事の関係は、
$$ E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = W_{\text{非保存力}} $$
ここで、\(W_{\text{非保存力}}\) は、弾丸と材木の間で働く内力 \(F\) がした仕事の総和です。材木から見た弾丸の移動距離は \(\Delta L\) なので、この間に抵抗力 \(F\) がした仕事は \(-F\Delta L\) となります。(弾丸の運動エネルギーを \(\Delta L\) の分だけ減らす仕事)
したがって、
$$ \frac{1}{2}(m+M)V^2 – \frac{1}{2}mv^2 = -F \Delta L $$
この式を \(\Delta L\) について解きます。
$$ F \Delta L = \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}(m+M)V^2 $$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- エネルギーと仕事の関係: \(\Delta E = W\)
上記で立てた式に、(1)で求めた \(V = \displaystyle\frac{mv}{m+M}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F \Delta L &= \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{mv}{m+M}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2v^2}{(m+M)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2v^2}{m+M} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 \left( 1 – \frac{m}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 \left( \frac{(m+M)-m}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 \left( \frac{M}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mMv^2}{2(m+M)}
\end{aligned}
$$
したがって、\(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = \frac{mMv^2}{2(m+M)F} \text{ [m]} $$
衝突によって、運動エネルギーの一部が熱などに変わって失われます。この「失われたエネルギー」の量が、弾丸を止めるために抵抗力がした「仕事」の大きさに等しくなります。この関係を使うと、弾丸がどれだけ深くめり込んだかを、よりシンプルに計算できます。
運動学的アプローチという別の方法で求めた結果と完全に一致しました。エネルギーと仕事の関係を用いると、途中の時間 \(\Delta t\) や加速度を計算する必要がなく、より直接的に深さを求めることができます。どちらの解法も理解しておくことが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: 弾丸と材木を一つの「系」として捉えたとき、水平方向には外力が働いていません。そのため、衝突の前後で系全体の運動量の合計は一定に保たれます。これが(1)で一体となった後の速度を求めるための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: \(mv = (m+M)V\) という関係式は、この物理現象を直接的に表現したものです。衝突、合体、分裂といった問題では、まず運動量保存則が使えないかを考えるのが定石です。
- 力積と運動量の関係:
- 核心: (2)と(3)を解く鍵です。個々の物体(この問題では材木や弾丸)に着目したとき、「その物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しい」という法則です。(2)では材木の運動量の変化から力積を求め、(3)ではその力積を力の定義 (\(I=F\Delta t\)) に結びつけて時間を求めます。
- 理解のポイント: 運動量保存則が「系全体」の法則であるのに対し、力積と運動量の関係は「個々の物体」に適用する法則です。両者の使い分けを意識することが重要です。
- エネルギーと仕事の関係:
- 核心: (4)を解くための強力な別解を与えてくれます。この衝突では、抵抗力という非保存力が働くため、力学的エネルギーは保存されません。この「失われた力学的エネルギー」が「抵抗力がした仕事」に等しい、という関係式を立てることで、くい込んだ深さを直接求めることができます。
- 理解のポイント: \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) という関係は、力学的エネルギー保存則をより一般化したものです。摩擦や空気抵抗が関わる問題で、移動距離を問われた際に非常に有効なアプローチとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分裂問題: 静止している物体が2つ以上に分裂する場合。これも運動量保存則(初めの運動量0 = 分裂後の運動量の和)が中心となります。
- 動く台車上での物体の運動: なめらかな床の上の台車の上を人が歩く、などの問題。人と台車を一つの系とみなせば、水平方向の運動量は保存されます。
- 摩擦のある面での衝突: もし床に摩擦があれば、系に対して外力(摩擦力)が働くため、運動量保存則は厳密には成り立ちません。しかし、衝突時間が極めて短い「撃力」とみなせる場合は、衝突の瞬間だけは運動量保存が近似的に成り立つとして問題を解くことがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「系」を設定する: まず、どの物体を一つの「系」とみなすかを考えます。
- 外力の有無を確認する: 設定した系に対して、考えている方向に外力が働くかを確認します。外力がなければ運動量保存則、あれば力積と運動量の関係を個別に適用することを検討します。
- エネルギー保存の可否を判断する: 摩擦力や非弾性衝突による抵抗力など、非保存力が仕事をしていないかを確認します。仕事をしている場合、力学的エネルギーは保存されません。その場合は、エネルギーと仕事の関係(\(\Delta E = W\))が使えないか考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則と力学的エネルギー保存則の混同:
- 誤解: 運動量が保存されるなら、力学的エネルギーも保存されるだろうと勘違いしてしまう。
- 対策: 運動量保存は「外力がない」ことが条件、力学的エネルギー保存は「非保存力が仕事をしない」ことが条件です。本問のように、内力(抵抗力)によって熱が発生する非弾性衝突では、運動量は保存されますが、力学的エネルギーは保存されません。この2つの法則の成立条件は全く別物であると明確に区別しましょう。
- 力積と運動量の関係の適用対象の間違い:
- 誤解: (2)で材木の力積を求める際に、系全体の運動量変化を考えてしまう。
- 対策: 力積と運動量の関係 \(I = \Delta p\) は、必ず「一つの物体」に着目して適用します。「どの物体の」「どの時間における」運動量変化なのかを常に意識しましょう。
- (4)のエネルギー計算での仕事の符号ミス:
- 誤解: エネルギーと仕事の関係式 \(\Delta E = W\) において、抵抗力がした仕事 \(W\) の符号を正にしてしまう。
- 対策: 抵抗力 \(F\) は、系の力学的エネルギーを「減らす」働きをします。したがって、その仕事は負 (\(W = -F\Delta L\)) となります。仕事の符号は、エネルギーが増加するのか減少するのかを考えれば判断できます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 速度-時間グラフ(v-tグラフ): 弾丸と材木の速度変化をグラフに描くと、現象の理解が深まります。弾丸は初速度 \(v\) から一定の傾き(負の加速度)で減速し、材木は初速度 \(0\) から一定の傾き(正の加速度)で加速します。両者の速度が \(V\) で等しくなったときが衝突の終了時刻 \(\Delta t\) です。そして、このグラフで囲まれた面積がそれぞれの移動距離を表し、その面積の差が「くい込んだ深さ \(\Delta L\)」に相当します。この視覚的理解は、(4)の運動学的解法と直結します。
- エネルギーの棒グラフ: 衝突前と衝突後で、エネルギーの内訳がどう変化したかを棒グラフでイメージします。衝突前は「弾丸の運動エネルギー」のみ。衝突後は「一体化した物体の運動エネルギー」と「発生した熱エネルギー(\(F\Delta L\))」に分配されます。このイメージは、(4)のエネルギーを用いた解法そのものです。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 衝突前と衝突後の図を並べて描く: 運動量保存則を考える際は、必ず「前」と「後」の状態を並べて図示し、それぞれの物体の質量と速度を書き込みます。
- 力の矢印を明確に: 力積や運動方程式を考える際は、各物体に働く力を矢印で正確に図示します。特に、作用・反作用の関係にある力は、大きさが等しく逆向きであることを意識して描きましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則 (\(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\)):
- 選定理由: (1)で、衝突後の速度を問われているから。衝突・合体・分裂現象で、外力がなければまずこの法則を考えます。
- 適用根拠: ニュートンの第三法則(作用・反作用の法則)から導かれる、多体系における普遍的な保存則です。内力は常にペアで存在し、系全体の運動量を変化させないという原理に基づきます。
- 力積と運動量の関係 (\(I = \Delta p\)):
- 選定理由: (2)で力積、(3)で時間を問われているから。運動量の変化と、それを引き起こした力・時間の関係を結びつける唯一の公式です。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を時間で積分したものであり、運動方程式と等価な関係式です。
- エネルギーと仕事の関係 (\(\Delta E = W\)):
- 選定理由: (4)で距離(深さ)を問われているから。特に、非保存力が関わる場合に、始状態と終状態のエネルギー変化から直接距離を求める強力な手段となります。
- 適用根拠: エネルギー保存則を、非保存力の働きまで含めて拡張した、より一般的なエネルギーの原理です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 衝突後の速度 \(V\):
- 戦略: 系全体の運動量保存を考える。
- フロー: ①衝突前後の図を描く → ②運動量保存則を立式 (\(mv = (m+M)V\)) → ③\(V\)について解く。
- (2) 材木の力積 \(I_M\):
- 戦略: 材木単体の運動量変化を考える。
- フロー: ①材木の初めと終わりの運動量を定義 → ②力積と運動量の関係を立式 (\(I_M = MV – 0\)) → ③(1)の\(V\)を代入して計算。
- (3) 衝突時間 \(\Delta t\):
- 戦略: 力積の定義と(2)の結果を結びつける。
- フロー: ①力積の定義式を立てる (\(I_M = F\Delta t\)) → ②(2)の\(I_M\)を代入 → ③\(\Delta t\)について解く。
- (4) くい込み深さ \(\Delta L\):
- 戦略A (運動学): 各物体の移動距離の差を計算する。
- フローA: ①各物体の加速度を運動方程式で求める → ②各物体の移動距離を等加速度運動の公式で表す → ③距離の差 \(\Delta L\) を計算し、(3)の\(\Delta t\)を代入して整理する。
- 戦略B (エネルギー): 失われた力学的エネルギーが抵抗力の仕事に等しいと考える。
- フローB: ①衝突前後の系の運動エネルギーを定義 → ②エネルギーと仕事の関係を立式 (\(E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = -F\Delta L\)) → ③(1)の\(V\)を代入し、\(\Delta L\)について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、多くの物理量が文字で与えられている場合、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。(4)の運動学的解法のように計算が複雑になる場合でも、途中で値を代入するより、文字のままの方が約分などで式が簡単になることが多く、ミスを発見しやすくなります。
- 分数の整理を丁寧に行う: (4)の計算では、分数の足し算や、分数の中に分数が含まれる繁分数の計算が出てきます。通分や約分を焦らず、一行一行丁寧に行うことが重要です。特に、\(\left( \displaystyle\frac{A}{B} \right)^2 = \displaystyle\frac{A^2}{B^2}\) のような変形は慎重に行いましょう。
- 単位の次元を確認する: 例えば(4)で深さ(長さ)を求めているのに、最終的な答えの単位の次元が長さ([m])にならない場合、どこかで計算ミスをしています。例えば、\(mv^2/F\) は (kg・(m/s)²)/N = (kg・m²/s²)/(kg・m/s²) = m となり、次元が合っていることが確認できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 時間 \(\Delta t\): 答えは \(\displaystyle\frac{mMv}{(m+M)F}\) です。もし抵抗力 \(F\) が非常に大きければ、衝突は一瞬で終わるはずです。式を見ると、\(\Delta t\) は \(F\) に反比例しており、この直感と一致します。
- (4) 深さ \(\Delta L\): 答えは \(\displaystyle\frac{mMv^2}{2(m+M)F}\) です。弾丸の初速 \(v\) が大きいほど、深くくい込むはずです。式は \(\Delta L\) が \(v^2\) に比例することを示しており、妥当です。また、抵抗力 \(F\) が大きいほど、すぐに止まるので深さは浅くなるはずです。式は \(\Delta L\) が \(F\) に反比例しており、これも直感と一致します。
- 別解との比較:
- (4)のくい込んだ深さは、運動学的なアプローチ(各物体の移動距離の差)と、エネルギー的なアプローチ(失われたエネルギーと仕事の関係)という、全く異なる2つの視点から求められました。両者で完全に同じ結果が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを強力に裏付けます。複雑な問題ほど、別解での検算は有効な手段となります。
118 ボートから飛び出す人
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、動いている物体からの「分裂」を扱う問題です。運動量保存則と相対速度という、2つの重要な物理法則を組み合わせて解く能力が問われます。
この問題の核心は、まず相対速度の関係から未知の速度を特定し、次に系全体の運動量保存則を適用して未知の質量を求める、という2段階の思考プロセスにあります。
- 人の質量: \(m_{\text{人}} = 50 \text{ kg}\)
- 分裂前の全体の速さ: \(v_0 = 3.0 \text{ m/s}\)
- 分裂後のボートの速さ: \(v_B = 4.0 \text{ m/s}\)
- 分裂後のボートから見た人の相対速度の速さ: \(v_{\text{人,ボート}} = 6.0 \text{ m/s}\)(ボートの後方へ)
- 水の抵抗は無視できる。
- 飛び出した人の水面に対する速さ。
- ボートの質量 \(m_B\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「分裂現象における運動量保存則と相対速度」です。2つの未知数を、2つの物理法則を使って連立方程式のように解いていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 相対速度: 一方の物体から見たもう一方の物体の速度です。絶対速度(地面や水面など静止した基準から見た速度)と結びつける公式を正しく使う必要があります。
- 運動量保存則: 人とボートを一つの「系」とみなすと、人が飛び出す力は内力であるため、系全体の運動量は分裂の前後で保存されます。
- 座標軸の設定と符号の管理: 速度はベクトル量なので、正の向きを定め、各速度の符号を正確に扱うことが極めて重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、座標軸を設定し、与えられた速度情報を符号付きで整理します。次に、相対速度の公式を用いて、飛び出した人の水面に対する速度を求めます。
- 次に、人とボートを一つの系とみなし、運動量保存則の式を立てます。1.で求めた人の速度を使い、ボートの質量を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題は2つの問いで構成されています。まず、飛び出した人の水面に対する速度(絶対速度)を求めます。「ボートから見た人の速度」(相対速度)と「水面から見たボートの速度」(絶対速度)が与えられているため、相対速度の公式 \(v_{\text{相対}} = v_{\text{相手}} – v_{\text{自分}}\) を用いて、人の絶対速度を計算することができます。次に、この結果と運動量保存則を用いてボートの質量を求めます。
座標軸の設定について
この問題では、最初にボートが進んでいた向きを正の向き(+)と設定すると、現象を直感的に理解しやすくなります。人が飛び出した「後方」は負の向き(-)となります。
飛び出した人の水面に対する速さ
この設問における重要なポイント
- 座標軸: 最初にボートが進んでいた向きを正(+)とします。
- 各速度の符号:
- 分裂後のボートの速度 \(v_B\): ボートは進行方向に加速して速さ \(4.0 \text{ m/s}\) になったので、\(v_B = +4.0 \text{ m/s}\) です。
- ボートから見た人の相対速度 \(v_{\text{人,ボート}}\): 人はボートの後方(負の向き)へ速さ \(6.0 \text{ m/s}\) で飛び出したので、\(v_{\text{人,ボート}} = -6.0 \text{ m/s}\) です。
- 求める量: 水面から見た人の速度 \(v_{\text{人}}\)。
具体的な解説と立式
相対速度の公式は、「(自分から見た)相手の相対速度 = 相手の絶対速度 – 自分の絶対速度」です。
これを本問に当てはめると、「(ボートから見た)人の相対速度 = 人の絶対速度 – ボートの絶対速度」となります。
$$ v_{\text{人,ボート}} = v_{\text{人}} – v_B $$
使用した物理公式
- 相対速度
上記の式に、わかっている値を代入します。
$$
\begin{aligned}
-6.0 &= v_{\text{人}} – (+4.0) \\[2.0ex]
v_{\text{人}} &= -6.0 + 4.0 \\[2.0ex]
v_{\text{人}} &= -2.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{人}}\) の符号が負であることから、人はボートの進行方向とは逆向き(後方)に動いていることがわかります。
速さは速度の大きさなので、絶対値をとって \(2.0 \text{ m/s}\) となります。
ボートは前に秒速 \(4.0 \text{ m}\) で進んでいます。そのボートから見て、人は後ろに秒速 \(6.0 \text{ m}\) で遠ざかっています。ということは、地面(水面)から見ると、人は後ろ向きに \(6.0 – 4.0 = 2.0 \text{ m/s}\) の速さで動いていることになります。
飛び出した人の水面に対する速さは \(2.0 \text{ m/s}\) です。向きは、ボートが最初に進んでいた向きとは逆向きです。
ボートの質量
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用: 人とボートを一つの系とみなし、分裂の前後で運動量の総和が等しいと考えます。
- 分裂前の運動量: 人とボートが一体(質量 \(m_B + 50\))となって、速度 \(v_0 = +3.0 \text{ m/s}\) で運動しています。
- 分裂後の運動量: ボート(質量 \(m_B\))は速度 \(v_B = +4.0 \text{ m/s}\)、人(質量 \(50 \text{ kg}\))は速度 \(v_{\text{人}} = -2.0 \text{ m/s}\) で運動しています。
具体的な解説と立式
運動量保存則「分裂前の運動量の総和 = 分裂後の運動量の総和」より、ボートの質量を \(m_B\) として、以下の式を立てます。
$$ (m_B + 50) v_0 = m_B v_B + 50 v_{\text{人}} $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
上記で立てた式に、各値を代入します。
$$ (m_B + 50) \times (+3.0) = m_B \times (+4.0) + 50 \times (-2.0) $$
この方程式を \(m_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
3.0 m_B + 150 &= 4.0 m_B – 100 \\[2.0ex]
150 + 100 &= 4.0 m_B – 3.0 m_B \\[2.0ex]
250 &= m_B
\end{aligned}
$$
問題文の数値が2桁であるため、有効数字2桁で答えると \(2.5 \times 10^2 \text{ kg}\) となります。
人がボートを後ろに蹴って飛び出すとき、人はボートから前に押し出され、ボートは人から前に押し出されます。この「押し合い」は二人(人とボート)の間だけの出来事なので、全体として見れば「運動の勢い(運動量)」の合計は変わりません。この「合計は変わらない」というルールを使って、ボートの重さを計算します。
ボートの質量は \(2.5 \times 10^2 \text{ kg}\) です。
思考の道筋とポイント
模範解答のように、ボートの最初の進行方向を負の向き(-)と設定して解きます。物理法則は座標軸の取り方によらないため、同じ結果が得られるはずです。
この設問における重要なポイント
- 座標軸: 最初にボートが進んでいた向きを負(-)とします。
- 各速度の符号:
- 分裂前の全体の速度: \(v_0 = -3.0 \text{ m/s}\)
- 分裂後のボートの速度: \(v_B = -4.0 \text{ m/s}\)
- ボートから見た人の相対速度: 人は後方(この設定では正の向き)へ飛び出すので、\(v_{\text{人,ボート}} = +6.0 \text{ m/s}\)
具体的な解説と立式
1. 人の速さを求める
相対速度の公式 \(v_{\text{人,ボート}} = v_{\text{人}} – v_B\) より、
$$
\begin{aligned}
+6.0 &= v_{\text{人}} – (-4.0) \\[2.0ex]
v_{\text{人}} &= +6.0 – 4.0 \\[2.0ex]
v_{\text{人}} &= +2.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
速さは \(2.0 \text{ m/s}\) となり、メインの解法と同じ結果です。
2. ボートの質量を求める
運動量保存則 \((m_B + 50) v_0 = m_B v_B + 50 v_{\text{人}}\) より、
$$ (m_B + 50) \times (-3.0) = m_B \times (-4.0) + 50 \times (+2.0) $$
$$
\begin{aligned}
-3.0 m_B – 150 &= -4.0 m_B + 100 \\[2.0ex]
4.0 m_B – 3.0 m_B &= 100 + 150 \\[2.0ex]
m_B &= 250
\end{aligned}
$$
ボートの質量は \(2.5 \times 10^2 \text{ kg}\) となり、これもメインの解法と一致します。
座標軸の取り方を変えても、物理的な関係性を正しく立式すれば、当然ながら同じ答えが導かれます。自分が最も直感的で間違いにくいと感じる向きに座標軸を設定することが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: 人とボートを一つの「系」とみなしたとき、人がボートを蹴る力は系内部の力(内力)です。水平方向には外力が働かない(水の抵抗は無視)ため、分裂の前後で系全体の運動量の合計は一定に保たれます。これがボートの質量を求めるための根幹をなす法則です。
- 理解のポイント: \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\) すなわち \((m_B+m_{\text{人}})v_0 = m_B v_B + m_{\text{人}}v_{\text{人}}\) という関係式は、この物理現象を直接的に表現したものです。衝突、合体、分裂といった問題では、まず運動量保存則が成立するかどうかを確認するのが鉄則です。
- 相対速度:
- 核心: 「ボートから見た人の速さ」という情報が与えられているため、これを水面に対する速度(絶対速度)に変換する必要があります。この変換を行うのが相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) です。この法則を使って人の絶対速度を求めなければ、運動量保存則の式を完成させることができません。
- 理解のポイント: 運動量保存則で使う速度は、すべて同じ基準(この場合は静止した水面)から見た「絶対速度」でなければなりません。相対速度が与えられた場合は、まず絶対速度に直す、という手順を忘れないことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ロケットの推進: 燃料を後方に噴射し、その反作用でロケット本体が前進する現象。噴射したガスとロケット本体を一つの系として運動量保存則を適用します。
- 動く台車上からの物体の射出: なめらかな床の上の台車から、ボールを水平に投げ出す問題。ボールと台車を系として考えれば、運動量保存則が成り立ちます。
- 宇宙空間での船外活動: 宇宙飛行士が宇宙船から離れて作業する際、工具を投げた反動で移動するような状況。これも運動量保存則で解析できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸と正の向きを最初に決める: 速度はベクトル量なので、最初に基準となる座標軸と正の向きを明確に定めます。これにより、各速度の符号を機械的に決めることができ、混乱を防げます。
- 速度の種類を区別する: 問題文に出てくる速度が「絶対速度」なのか「相対速度」なのかを正確に読み取ります。「Aから見たBの速度」とあれば相対速度です。
- 未知数を特定する: この問題では「人の絶対速度」と「ボートの質量」が未知数です。未知数が2つあるので、式も2つ必要だと分かります。そこで「相対速度の式」と「運動量保存則の式」という2つの武器を使う戦略が立てられます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の符号の取り違え:
- 誤解: 座標軸の正の向きを定めたにもかかわらず、逆向きの速度に負号(-)を付け忘れる、または全ての速度を正として計算してしまう。
- 対策: 図を描き、設定した座標軸の向きを矢印で明記しましょう。そして、問題文中のすべての速度ベクトルを図に描き込み、その向きが座標軸の正の向きと同じか逆かを一つ一つ確認し、符号を決定する習慣をつけましょう。
- 相対速度の式の誤用:
- 誤解: \(v_{AB} = v_B – v_A\) の \(A\) と \(B\) を取り違えたり、足し算をしてしまったりする。
- 対策: 「Aから見たBの相対速度は、(Bの速度) – (Aの速度)」という言葉の形で公式を覚えましょう。この問題では「ボートから見た人の相対速度」なので、「(人の速度) – (ボートの速度)」となります。主語と目的語をはっきりさせることが重要です。
- 運動量保存則に相対速度を代入する:
- 誤解: 運動量保存則の式に、相対速度の値をそのまま代入してしまう。
- 対策: 運動量保存則は、静止した一つの座標系における法則です。したがって、式に現れるすべての速度は、その座標系から見た「絶対速度」でなければなりません。相対速度は、あくまで絶対速度を求めるための中間計算に使うものだと認識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 数直線上の速度ベクトル: 水平面を一本の数直線と見立て、分裂前と分裂後の各物体の速度を矢印(ベクトル)で表現します。
- 分裂前: 質量 \((m_B+50)\) の物体が、例えば右向きに \(+3.0\) の矢印で動いている。
- 分裂後: 質量 \(m_B\) のボートは右向きに \(+4.0\) の、より長い矢印に。質量 \(50\) の人は左向きに \(-2.0\) の矢印で動いている。
この図を見ることで、運動量保存則 \((m_B+50)(+3.0) = m_B(+4.0) + 50(-2.0)\) の意味が視覚的に理解できます。
- 視点の切り替えイメージ:
- 水面から見る(絶対系): 「人とボートの集団が右に動いていたが、分裂して、ボートはもっと速く右に、人は左に動き出したな」
- ボートから見る(相対系): 「自分は前に進んでいる。人は後ろ向きにすごい勢いで遠ざかっていくな」
この2つの視点を自由に行き来できることが、相対速度をマスターする鍵です。
- 数直線上の速度ベクトル: 水平面を一本の数直線と見立て、分裂前と分裂後の各物体の速度を矢印(ベクトル)で表現します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 相対速度の式 (\(v_{AB} = v_B – v_A\)):
- 選定理由: 問題文に「ボートから見て」という相対的な速度の情報が含まれており、かつ運動量保存則で必要となる「水面に対する速度(絶対速度)」が未知数だから。相対的な情報と絶対的な情報を結びつけるために、この公式が必須となります。
- 適用根拠: 速度のベクトルとしての定義に基づいています。ガリレイの相対性原理の基本的な表現です。
- 運動量保存則 (\(\sum p_{\text{前}} = \sum p_{\text{後}}\)):
- 選定理由: 「分裂」という現象が起きており、未知数に「質量」が含まれているから。質量と速度の関係を扱う法則は、運動量保存則か運動方程式ですが、分裂の内力は不明なため、系全体で考える運動量保存則が適しています。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)から導かれる、多体系における普遍的な保存則です。内力は系全体の運動量を変化させないという原理に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- ステップ1: 人の絶対速度を求める
- 戦略: 相対速度の情報から、未知の絶対速度を計算する。
- フロー: ①座標軸を設定し、既知の速度を符号付きで整理する → ②相対速度の公式 \(v_{\text{人,ボート}} = v_{\text{人}} – v_B\) を立てる → ③数値を代入し、未知数 \(v_{\text{人}}\) を求める。
- ステップ2: ボートの質量を求める
- 戦略: 系全体の運動量保存則を使い、未知の質量を計算する。
- フロー: ①分裂前と分裂後の運動量をそれぞれ定義する → ②運動量保存則 \((m_B+m_{\text{人}})v_0 = m_B v_B + m_{\text{人}}v_{\text{人}}\) を立てる → ③ステップ1で求めた \(v_{\text{人}}\) を含むすべての既知の値を代入し、未知数 \(m_B\) についての方程式を解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の代入を慎重に行う: この問題の計算ミスは、ほぼ符号の扱いに起因します。特に、運動量保存則の式に \(v_0, v_B, v_{\text{人}}\) の値を代入する際、それぞれの符号が正しいかを再確認しましょう。例えば、\((m_B + 50) \times (+3.0) = m_B \times (+4.0) + 50 \times (-2.0)\) のように、括弧をつけて符号を明示するとミスが減ります。
- 方程式の移項を丁寧に行う: \(3.0 m_B + 150 = 4.0 m_B – 100\) のような一次方程式を解く際、移項で符号を間違えないように注意します。未知数の項を一方に、定数の項をもう一方に集める操作を、焦らず確実に行いましょう。
- 有効数字を最後に意識する: 計算途中では多めの桁数で計算し、最終的な答えを出す段階で、問題文で与えられた数値の有効数字(この場合は2桁)に合わせます。\(250 \text{ kg}\) を \(2.5 \times 10^2 \text{ kg}\) と表記するのは、有効数字が2桁であることを明確にするためです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 人の速度: 人はボートの後方に飛び出したので、ボートの進行方向とは逆向きに動く可能性があります。計算結果 \(v_{\text{人}} = -2.0 \text{ m/s}\) は、その状況を表しており妥当です。もし人の飛び出し方が弱ければ、逆向きに進みきれず、ボートと同じ向きにゆっくり進む(\(v_{\text{人}}\)が正の値になる)こともあり得ます。
- ボートの質量: 人が後方に飛び出すと、その反作用でボートは前方に力を受け加速します。実際にボートの速さは \(3.0 \text{ m/s}\) から \(4.0 \text{ m/s}\) に増えています。この現象は物理的に自然です。計算された質量 \(250 \text{ kg}\) は、一般的なボートの質量として現実的な値であり、特に不自然な点はありません。
- 別解との比較:
- この問題では、最初に設定する座標軸の向きを変えることで別解(模範解答のアプローチ)を考えることができます。正の向きを逆に設定しても、すべての物理量の符号が一貫して変わるだけで、最終的な速さ(大きさ)や質量は全く同じ値になるはずです。実際にそうなったことを確認することで、自分の計算と物理的理解の正しさを検証できます。
119 空中での分裂
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、空中での物体の分裂(爆発)を扱う、運動量保存則の応用問題です。運動が水平面内(2次元)で起こるため、運動量をベクトルとして、成分に分解して考える必要があります。また、分裂後の運動が放物運動(水平投射)となる点も特徴です。
この問題の核心は、「鉛直方向の運動」と「水平方向の運動」を明確に分離して分析し、水平方向の運動については、さらに「東西方向」と「南北方向」に分解して運動量保存則を適用することです。
- 分裂前の物体の質量: \(m_A + m_B = 3.0 + 4.0 = 7.0 \text{ kg}\)
- 分裂前の物体の速度: 速さ \(40 \text{ m/s}\)、向きは北東
- 分裂後の部分Aの質量: \(m_A = 3.0 \text{ kg}\)
- 分裂後の部分Bの質量: \(m_B = 4.0 \text{ kg}\)
- 分裂した点の高度: \(h = 19.6 \text{ m}\)
- 部分Aの落下地点: 分裂点の真下から北へ \(20 \text{ m}\)
- AとBは同時に着地する。
- 火薬の質量は無視、重力加速度 \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\)
- 部分Bの落下点はどこか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「2次元の運動量保存則と放物運動の組み合わせ」です。複数の物理法則を段階的に適用して、未知の量を一つずつ明らかにしていく必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分離(鉛直と水平): 鉛直方向の運動(自由落下)と水平方向の運動(等速直線運動)は、互いに独立しているとして別々に扱います。
- 運動量保存則(ベクトル): 爆発は内力によるものなので、分裂の前後で系全体の運動量は保存されます。水平面内の運動なので、運動量を「東西成分」と「南北成分」に分解し、それぞれの方向で保存則を立てます。
- 放物運動の解析: 鉛直方向の運動から落下時間を求め、その時間を使って水平方向の移動距離を計算します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、鉛直方向の運動に着目します。「AとBが同時に着地する」という条件から、分裂直後のAとBの鉛直方向の速度成分がゼロであることを導き、自由落下の式から地面に落下するまでの時間を計算します。
- 次に、Aの水平方向の運動を分析します。Aの落下地点の情報と落下時間から、分裂直後のAの水平速度を求めます。
- 最後に、水平方向の運動量保存則を「東西方向」と「南北方向」に分けて立式します。これにより、分裂直後のBの水平速度の各成分を求め、落下時間を使ってBの落下地点の座標を計算します。
Bの落下点の特定
思考の道筋とポイント
この問題は複数のステップを踏む必要があります。まず、最も情報が揃っている「鉛直方向の運動」から解析を始め、落下時間を確定させることが突破口となります。
ステップ1: 落下時間の計算
このステップにおける重要なポイント
- 問題文の「AとBは同時に地面に着いた」という条件が極めて重要です。分裂前の物体は水平に運動していたため、鉛直方向の速度成分は0でした。もし分裂によってAとBが鉛直方向の速度成分を持つと、一方が上向き、もう一方が下向きの速度を持つことになります(鉛直方向の運動量保存のため)。その場合、両者が同じ高さから同時に着地することはありえません。したがって、分裂直後のAとBの鉛直方向の速度成分はともに0でなければなりません。
- つまり、AとBは分裂後、水平投射と同じ運動をします。このことから、自由落下の公式を使って落下時間を計算できます。
- 鉛直方向の運動: A, Bともに初速度0の自由落下と同じ。
具体的な解説と立式
分裂した点の高さを \(h = 19.6 \text{ m}\)、重力加速度を \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\) とし、落下にかかる時間を \(t\) とします。
鉛直方向の運動は自由落下なので、以下の式が成り立ちます。
$$ h = \frac{1}{2}gt^2 $$
使用した物理公式
- 自由落下の公式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
上記で立てた式に数値を代入し、\(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 \\[2.0ex]
19.6 &= 4.9 t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{19.6}{4.9} \\[2.0ex]
t^2 &= 4.0 \\[2.0ex]
t &= 2.0 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
時間は正なので、\(t=2.0 \text{ s}\) となります。
ステップ2: 分裂後のAの水平速度の計算
このステップにおける重要なポイント
- Aは分裂後、水平方向には等速直線運動をします。Aの落下地点(水平移動距離)と落下時間(ステップ1で計算済み)がわかっているので、速度を計算できます。
- 水平方向の運動: 等速直線運動。
- Aの落下地点: 分裂点の真下から北へ \(20 \text{ m}\)。これは、Aの水平速度が北向きで、大きさが \(20 \text{ m} / t\) であることを意味します。
具体的な解説と立式
分裂後のAの水平速度を \(v_A\) とします。Aは時間 \(t=2.0 \text{ s}\) の間に、北向きに \(x_A = 20 \text{ m}\) 移動したので、
$$ x_A = v_A t $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
上記で立てた式に数値を代入し、\(v_A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
20 &= v_A \times 2.0 \\[2.0ex]
v_A &= \frac{20}{2.0} \\[2.0ex]
v_A &= 10 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
Aの落下地点は真北なので、この速度の向きは北向きです。
ステップ3: 運動量保存則によるBの水平速度の計算
このステップにおける重要なポイント
- いよいよ運動量保存則を使います。水平方向の運動を、さらに「東向き」をx軸、「北向き」をy軸とする2つの成分に分解して考えます。
- 分裂前の速度成分: 速さ \(40 \text{ m/s}\) で北東向きなので、速度ベクトルはx軸、y軸と \(45^\circ\) の角度をなします。
- x成分(東向き): \(v_{0x} = 40 \cos 45^\circ\)
- y成分(北向き): \(v_{0y} = 40 \sin 45^\circ\)
- 分裂後の速度成分:
- A: 北向きに \(10 \text{ m/s}\) なので、\(v_{Ax} = 0\), \(v_{Ay} = 10 \text{ m/s}\)。
- B: 未知の速度成分を \(v_{Bx}\), \(v_{By}\) とします。
- 運動量保存則: x成分、y成分それぞれで「分裂前の運動量 = 分裂後の運動量の和」を考えます。
具体的な解説と立式
分裂前の全質量は \(M_{\text{全}} = 3.0 + 4.0 = 7.0 \text{ kg}\)。
x方向(東西方向)の運動量保存則:
$$ M_{\text{全}} v_{0x} = m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} $$
$$ (3.0+4.0) \times (40 \cos 45^\circ) = 3.0 \times 0 + 4.0 \times v_{Bx} \quad \cdots ① $$
y方向(南北方向)の運動量保存則:
$$ M_{\text{全}} v_{0y} = m_A v_{Ay} + m_B v_{By} $$
$$ (3.0+4.0) \times (40 \sin 45^\circ) = 3.0 \times 10 + 4.0 \times v_{By} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(成分表示)
- 三角比
\(\cos 45^\circ = \sin 45^\circ = \frac{\sqrt{2}}{2}\) を用いて、①と②をそれぞれ解きます。
まず、①から \(v_{Bx}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
7.0 \times 40 \times \frac{\sqrt{2}}{2} &= 4.0 v_{Bx} \\[2.0ex]
140\sqrt{2} &= 4.0 v_{Bx} \\[2.0ex]
v_{Bx} &= \frac{140\sqrt{2}}{4.0} \\[2.0ex]
v_{Bx} &= 35\sqrt{2} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、②から \(v_{By}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
7.0 \times 40 \times \frac{\sqrt{2}}{2} &= 30 + 4.0 v_{By} \\[2.0ex]
140\sqrt{2} &= 30 + 4.0 v_{By} \\[2.0ex]
4.0 v_{By} &= 140\sqrt{2} – 30 \\[2.0ex]
v_{By} &= \frac{140\sqrt{2} – 30}{4.0} \\[2.0ex]
v_{By} &= 35\sqrt{2} – 7.5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
ステップ4: Bの落下地点の計算
このステップにおける重要なポイント
- Bの水平速度の各成分が求まったので、落下時間 \(t=2.0 \text{ s}\) を使って、Bが水平方向に移動した距離の各成分(東向き、北向き)を計算します。
具体的な解説と立式
Bの落下地点の座標を \((x_B, y_B)\) とします。
・東方向の距離 \(x_B\):
$$ x_B = v_{Bx} \times t = (35\sqrt{2}) \times 2.0 $$
・北方向の距離 \(y_B\):
$$ y_B = v_{By} \times t = (35\sqrt{2} – 7.5) \times 2.0 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) として計算します。
・東方向の距離 \(x_B\):
$$
\begin{aligned}
x_B &= 70\sqrt{2} \\[2.0ex]
&\approx 70 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 98.7 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
・北方向の距離 \(y_B\):
$$
\begin{aligned}
y_B &= 70\sqrt{2} – 15 \\[2.0ex]
&\approx 98.7 – 15 \\[2.0ex]
&= 83.7 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
解答の有効数字に合わせて、\(x_B \approx 99 \text{ m}\), \(y_B \approx 84 \text{ m}\) となります。
この問題は4段階のパズルです。
1. まず、AとBが同時に落ちることから、落下時間を求めます(2秒)。
2. 次に、Aが北に20m飛んだことから、Aの分裂直後の北向きの速さを計算します(秒速10m)。
3. そして、「運動の勢いの合計は変わらない」というルールを「東西方向」と「南北方向」に分けて使って、Bの分裂直後の速さ(東向きと北向きの成分)を計算します。
4. 最後に、Bの速さと落下時間(2秒)を使って、Bがどの地点に落ちたかを計算します。
Bの落下点は、分裂した点の真下の地点から、東へ約 \(99 \text{ m}\)、北へ約 \(84 \text{ m}\) の地点です。計算過程は長いですが、各ステップは基本的な物理法則の適用です。一つ一つ着実に解き進めることが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性(鉛直と水平):
- 核心: 物体の運動を「鉛直方向」と「水平方向」に分けて考えるという、放物運動の解析における大原則です。この問題では、まず鉛直方向の運動(自由落下)を解析して落下時間 \(t\) を求めることが、全体の突破口となります。
- 理解のポイント: 「AとBは同時に地面に着いた」という条件から、分裂直後の両者の鉛直方向の速度成分が0であると見抜くことが最初の鍵です。これにより、複雑な分裂現象を、鉛直方向については単純な自由落下として扱えるようになります。
- 運動量保存則のベクトル的扱い:
- 核心: 爆発・分裂は内力による現象なので、系全体の運動量は保存されます。この問題の運動は水平面(2次元)で起こるため、運動量というベクトルを「東西成分(x)」と「南北成分(y)」に分解し、それぞれの成分について独立に運動量保存則を立てる必要があります。
- 理解のポイント: \( \vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}} \) というベクトル式を、\( p_{\text{前}x} = p_{\text{後}x} \) と \( p_{\text{前}y} = p_{\text{後}y} \) という2つのスカラー式に落とし込んで計算します。2次元の運動量保存は、実質的に1次元の運動量保存を2回適用することと同じです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射された物体の空中分裂: この問題は水平投射後の分裂ですが、斜方投射の最高点などで分裂する問題も頻出です。その場合、分裂直前の鉛直速度が0ではないため、鉛直方向の運動量保存も考慮する必要があります。
- 2次元の衝突問題: ビリヤードの球の衝突のように、水平面上で2つの物体が斜めに衝突する問題。これも運動量をx, y成分に分解して運動量保存則を適用する点で、本質的に同じ解法を用います。
- 重心の運動: 爆発や分裂が起きても、系に外力が働かなければ、その系の「重心」は分裂がなかったかのように、もとの運動を続けます。この問題でも、AとBの重心は、分裂が起きなかった場合と同じ軌道(北東へ40m/sで等速直線運動)を描いて落下します。この「重心の運動は変わらない」という法則を使って検算や別解を考えることも可能です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動を時系列と空間で分解する: まず「分裂前」と「分裂後」という時間軸で状況を分けます。次に、運動を「鉛直方向」と「水平方向」に分けます。さらに水平方向の運動を「x方向」と「y方向」に分けます。このように問題を細かく分解することで、どの部分にどの法則を適用すればよいかが見えてきます。
- 与えられた情報から逆算する: Aの落下地点という「結果」から、分裂直後のAの速度という「原因」を逆算しています。このように、結果から原因をたどる思考も物理では重要です。
- 未知数を整理し、必要な式の数を把握する: この問題の最終的な未知数はBの速度成分 \(v_{Bx}\) と \(v_{By}\) の2つです。したがって、独立した式が2本必要だとわかります。それが「東西方向の運動量保存」と「南北方向の運動量保存」の2式に対応します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の成分分解でのミス:
- 誤解: 分裂前の速度 \(40 \text{ m/s}\) を成分分解する際に、\(\cos 45^\circ\) と \(\sin 45^\circ\) を取り違える、または単純に \(40\) をそのままx, y成分として使ってしまう。
- 対策: 必ず図を描き、速度ベクトルと座標軸のなす角を明確にしましょう。「北東」は東(x軸)および北(y軸)と \(45^\circ\) の角度をなすことを確認し、三角比の定義(隣辺が \(\cos\)、対辺が \(\sin\))に従って正確に分解します。
- 運動量保存則の立式ミス:
- 誤解: 分裂後の運動量を考える際に、\(m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx}\) のように質量を掛け忘れて、速度だけで式を立ててしまう。
- 対策: 運動量は「質量 × 速度」であることを常に意識しましょう。\(p=mv\) という定義に立ち返り、各項が「質量×速度」の形になっているかを確認する癖をつけましょう。
- 鉛直方向と水平方向の混同:
- 誤解: 落下時間 \(t\) を求める際に、水平方向の速度 \(40 \text{ m/s}\) を使ってしまう。あるいは、水平方向の運動量保存を考えるべきところで、重力の影響を入れてしまう。
- 対策: 「鉛直方向の運動は重力のみに支配される」「水平方向の運動は(空気抵抗がなければ)外力がなく、分裂後も等速直線運動を続ける」という運動の分離の原則を徹底しましょう。それぞれの方向で使う公式や法則は全く異なります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 上面図と側面図: この3次元的な運動を理解するために、2つの視点から図を描くと非常に有効です。
- 側面図(横から見た図): 鉛直方向の運動を可視化します。分裂前の物体、分裂後のA、Bがすべて同じ放物線(実際には水平投射なので半分の放物線)を描いて、同じ時間 \(t\) で地面に落下するイメージを描きます。
- 上面図(真上から見た図): 水平方向の運動を可視化します。分裂前の運動量ベクトル \(\vec{p}_0\) を描き、それが分裂後の2つの運動量ベクトル \(\vec{p}_A\) と \(\vec{p}_B\) の和に等しい(\(\vec{p}_0 = \vec{p}_A + \vec{p}_B\))ことを、ベクトルの平行四辺形や三角形で図示します。これにより、運動量保存則がベクトル的に成り立っていることを直感的に把握できます。
- 上面図と側面図: この3次元的な運動を理解するために、2つの視点から図を描くと非常に有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 自由落下の式 (\(y = \frac{1}{2}gt^2\)):
- 選定理由: 鉛直方向の運動を解析し、落下時間を求めるため。分裂直後の鉛直初速度が0であることを見抜いた上で、変位と時間の関係を表すこの公式を選択します。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の公式の一つで、初速度0、加速度gの場合に特化した形です。
- 運動量保存則 (\(M_{\text{全}}\vec{v}_0 = m_A\vec{v}_A + m_B\vec{v}_B\)):
- 選定理由: 「分裂」という、内力によって速度や運動方向が変化する現象を扱うため。特に、分裂後の未知の速度を、分裂前の状態と関連付けて求めるために用います。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則から導かれる、外力が働かない系における普遍的な保存則です。
- 等速直線運動の式 (\(x = vt\)):
- 選定理由: 分裂後の水平方向の運動を解析するため。水平方向には力が働かないため、分裂後の各破片は等速直線運動をします。その速度と時間から移動距離を求めるために、この最も単純な公式を用います。
- 適用根拠: 速度の定義そのものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- ステップ1: 落下時間の決定
- 戦略: 鉛直方向の運動に着目する。
- フロー: ①「同時着地」から分裂後の鉛直初速度が0と判断 → ②自由落下の公式 \(h = \frac{1}{2}gt^2\) を立式 → ③数値を代入して時間 \(t\) を計算。
- ステップ2: Aの水平速度の決定
- 戦略: Aの水平移動距離と落下時間から逆算する。
- フロー: ①Aの水平運動が等速直線運動であることを確認 → ②\(x_A = v_A t\) を立式 → ③数値を代入してAの速度 \(v_A\)(大きさと向き)を決定。
- ステップ3: Bの水平速度の決定
- 戦略: 水平方向の運動量保存則を成分ごとに適用する。
- フロー: ①座標軸(東西・南北)を設定 → ②分裂前、分裂後Aの速度を成分分解 → ③東西方向、南北方向それぞれで運動量保存則を立式 → ④連立方程式を解き、Bの速度成分 \(v_{Bx}, v_{By}\) を計算。
- ステップ4: Bの落下地点の決定
- 戦略: Bの水平速度と落下時間から移動距離を計算する。
- フロー: ①Bの水平運動が等速直線運動であることを確認 → ②\(x_B = v_{Bx}t\), \(y_B = v_{By}t\) を立式 → ③数値を代入してBの落下地点の座標 \((x_B, y_B)\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の値と平方根の近似値: \(\cos 45^\circ = \sin 45^\circ = \frac{\sqrt{2}}{2}\) は必須知識です。また、\(\sqrt{2} \approx 1.41\) のような平方根の近似値を覚えておくと、最終的な数値計算がスムーズになります。問題の指示や有効数字に応じて適切な近似値を使いましょう。
- 単位の確認: 各ステップで計算した物理量の単位が正しいかを確認する習慣をつけましょう。時間なら[s]、速度なら[m/s]、距離なら[m]です。単位が合わなければ、式のどこかが間違っています。
- 大きな数の計算: \(7.0 \times 40 \times \frac{\sqrt{2}}{2}\) のような計算では、先に計算しやすい部分(\(7 \times 20 = 140\))から手をつけるなど、工夫するとミスが減ります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 分裂前の運動量は北東向きでした。Aは分裂後、真北に飛んでいます。運動量保存則から、BはAが担当しなかった「東向き」の運動量をすべて引き受け、さらにAが減らした「北向き」の運動量を補う必要があります。したがって、Bの東向きの速度成分が大きく、北向きの速度成分もそれなりに大きいという計算結果(\(v_{Bx} \approx 49.4 \text{ m/s}\), \(v_{By} \approx 41.9 \text{ m/s}\))は、物理的に非常に妥当です。
- 重心の運動で検算:
- 分裂が起きなければ、物体は \(t=2.0 \text{ s}\) の間に、北東へ \(40 \times 2.0 = 80 \text{ m}\) 進むはずです。この落下地点は、東へ \(80\cos 45^\circ \approx 56.4 \text{ m}\)、北へ \(80\sin 45^\circ \approx 56.4 \text{ m}\) の地点です。これはAとBの重心の落下地点と一致するはずです。
- Aの落下地点 \((0, 20)\)、Bの落下地点 \((98.7, 83.7)\) から、質量 \(m_A=3.0, m_B=4.0\) を使って重心の座標を計算すると、\(x_G = \frac{3.0 \times 0 + 4.0 \times 98.7}{3.0+4.0} \approx 56.4 \text{ m}\)、\(y_G = \frac{3.0 \times 20 + 4.0 \times 83.7}{3.0+4.0} \approx 56.4 \text{ m}\) となり、見事に一致します。これにより、計算結果が正しいことを強力に裏付けられます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]