「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 6】Step2

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Step 2

77 力のモーメント

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力のモーメントの合成」です。剛体に複数の力が働くとき、各力が作る力のモーメントを正しく計算し、それらを足し合わせる能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のモーメントの定義: 物体を回転させようとする能力のことで、力の大きさと腕の長さの積で決まります。
  2. 力のモーメントの符号: 問題の指示に従い、回転の向き(反時計回りか時計回りか)によって正負を判断します。通常、反時計回りを正とします。
  3. 力のモーメントの計算方法: 計算方法は主に2つあり、(1)力の作用線までの垂直距離(腕の長さ)を求める方法と、(2)力を腕に垂直な成分と平行な成分に分解する方法があります。
  4. 力のモーメントの合成: 複数の力のモーメントが働く場合、その総和(代数和)を計算することで、物体全体に働く回転の効果を知ることができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 図に示された3つの力(\(8.0\,\text{N}\), \(6.0\,\text{N}\), \(5.0\,\text{N}\))が、点Oのまわりに作る力のモーメントをそれぞれ計算します。
  2. 問題文の「左回り(反時計回り)を正」という定義に従い、各モーメントの符号を決定します。
  3. 計算した3つのモーメントを足し合わせて、モーメントの和を求めます。

思考の道筋とポイント
点Oのまわりに働く3つの力について、それぞれの力のモーメントを計算し、その代数和を求める問題です。力のモーメントを計算する公式 \(M = FL\sin\theta\) を正しく適用できるかが鍵となります。ここで \(L\) は回転の中心から力の作用点までの距離、\(\theta\) は腕の方向と力の方向がなす角です。また、問題で指定された通り、反時計回りのモーメントを正、時計回りのモーメントを負として計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントの公式: \(M = FL\sin\theta\)。
  • モーメントの符号: 反時計回り(左回り)を正、時計回り(右回り)を負とする。
  • モーメントの合成: 各力のモーメントを、符号に注意して足し合わせる(代数和)。
  • 力の作用線が回転中心を通る場合、モーメントはゼロになる。

具体的な解説と立式
3つの力をそれぞれ \(F_1 = 8.0\,\text{N}\), \(F_2 = 6.0\,\text{N}\), \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) とし、対応する力のモーメントを \(M_1, M_2, M_3\) とします。求めるモーメントの和 \(M\) は、これらの代数和です。
$$ M = M_1 + M_2 + M_3 $$

1. 力 \(F_1 = 8.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_1\)
この力は物体を反時計回り(正の向き)に回転させようとします。回転中心Oから作用点までの距離は \(L_1 = 4.0\,\text{m}\)、腕と力のなす角は \(\theta_1 = 60^\circ\) です。
$$ M_1 = + F_1 L_1 \sin\theta_1 $$

2. 力 \(F_2 = 6.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_2\)
この力の作用線は回転の中心Oを通っています。これは、腕と力のなす角が \(\theta_2 = 0^\circ\) であることを意味します。
$$ M_2 = F_2 L_2 \sin\theta_2 $$
ここで \(L_2 = 5.0\,\text{m}\), \(\sin 0^\circ = 0\) です。

3. 力 \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_3\)
この力は物体を時計回り(負の向き)に回転させようとします。回転中心Oから作用点までの距離は \(L_3 = 6.0\,\text{m}\)、腕の延長線と力のなす角は \(\theta_3 = 30^\circ\) です。
$$ M_3 = – F_3 L_3 \sin\theta_3 $$

したがって、モーメントの和 \(M\) は次のように立式できます。
$$ M = (+ F_1 L_1 \sin\theta_1) + (F_2 L_2 \sin\theta_2) + (- F_3 L_3 \sin\theta_3) $$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = FL\sin\theta\)
  • 力のモーメントの合成: \(M_{\text{合計}} = M_1 + M_2 + \dots\)
計算過程

具体的な数値を代入して \(M\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
M &= (+ 8.0 \times 4.0 \sin 60^\circ) + (6.0 \times 5.0 \sin 0^\circ) + (- 5.0 \times 6.0 \sin 30^\circ) \\[2.0ex]
&= 32.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} + 30.0 \times 0 – 30.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 16\sqrt{3} + 0 – 15 \\[2.0ex]
&= 16\sqrt{3} – 15
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似計算します。
$$
\begin{aligned}
M &\approx 16 \times 1.73 – 15 \\[2.0ex]
&= 27.68 – 15 \\[2.0ex]
&= 12.68
\end{aligned}
$$
問題で与えられている数値の有効数字は2桁なので、答えも2桁に丸めます。
$$ M \approx 13 \, [\text{N·m}] $$

計算方法の平易な説明

物体を回す力「モーメント」を3つの力についてそれぞれ計算し、最後に全部足し合わせます。「反時計回り」をプラス、「時計回り」をマイナスとするルールです。

  1. \(8.0\,\text{N}\)の力:反時計回りに回すのでプラス。計算式は \(8.0 \times 4.0 \times \sin 60^\circ\)。
  2. \(6.0\,\text{N}\)の力:回転の中心Oに向かっているので、物体を回しません。モーメントはゼロです。
  3. \(5.0\,\text{N}\)の力:時計回りに回すのでマイナス。計算式は \(- 5.0 \times 6.0 \times \sin 30^\circ\)。

これら3つを足し算すると、全体のモーメントが求まります。

結論と吟味

点Oのまわりの力のモーメントの和は \(13\,\text{N·m}\) です。
計算結果が正の値であるため、この物体は全体として反時計回りの向きに回転を始めることがわかります。各力の回転方向と大きさの評価が正しく行えているか、符号の付け間違いがないかを確認することが重要です。

解答 \(13\,\text{N·m}\)
別解: 「腕の長さ」を直接求める方法

思考の道筋とポイント
力のモーメントの定義である「\(M\) = (力の大きさ) × (腕の長さ)」に立ち返って計算する方法です。ここで「腕の長さ」とは、回転の中心Oから、力の作用線(力の向きに沿って引いた直線)に下ろした垂線の長さのことです。各力についてこの腕の長さを図形的に求め、モーメントを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントの定義: \(M = F \times l\)
  • 腕の長さ \(l\): 回転の中心から力の作用線までの垂直距離。
  • 三角比を用いて、図から腕の長さを正確に計算する。

具体的な解説と立式
各力の腕の長さを \(l_1, l_2, l_3\) として、モーメントの和 \(M\) を計算します。
$$ M = M_1 + M_2 + M_3 $$

1. 力 \(F_1 = 8.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_1\)
回転方向は反時計回り(正)。腕の長さ \(l_1\) は、図の直角三角形を考えると \(L_1 \sin 60^\circ\) となります。
$$ l_1 = 4.0 \sin 60^\circ $$
したがって、モーメント \(M_1\) は、
$$ M_1 = + F_1 \times l_1 = + 8.0 \times (4.0 \sin 60^\circ) $$

2. 力 \(F_2 = 6.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_2\)
この力の作用線は回転の中心Oを通過するため、中心Oと作用線の距離はゼロです。
$$ l_2 = 0 $$
したがって、モーメント \(M_2\) は、
$$ M_2 = 0 $$

3. 力 \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_3\)
回転方向は時計回り(負)。腕の長さ \(l_3\) は、図の直角三角形を考えると \(L_3 \sin 30^\circ\) となります。
$$ l_3 = 6.0 \sin 30^\circ $$
したがって、モーメント \(M_3\) は、
$$ M_3 = – F_3 \times l_3 = – 5.0 \times (6.0 \sin 30^\circ) $$

これらの和を求めます。
$$ M = 8.0 \times 4.0 \sin 60^\circ + 0 – 5.0 \times 6.0 \sin 30^\circ $$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
  • 力のモーメントの合成: \(M_{\text{合計}} = M_1 + M_2 + \dots\)
計算過程

立式された式は、メインの解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
M &= 32.0 \sin 60^\circ – 30.0 \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 32.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} – 30.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 16\sqrt{3} – 15 \\[2.0ex]
&\approx 16 \times 1.73 – 15 \\[2.0ex]
&= 27.68 – 15 = 12.68
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、
$$ M \approx 13 \, [\text{N·m}] $$

計算方法の平易な説明

モーメントは「力 × 腕の長さ」で計算できます。「腕の長さ」とは、回転の中心から力の直線までの最短距離です。

  1. \(8.0\,\text{N}\)の力:腕の長さは三角関数を使って \(4.0 \times \sin 60^\circ\)。反時計回りなのでプラスのモーメント。
  2. \(6.0\,\text{N}\)の力:力の直線が中心を通るので、腕の長さはゼロ。モーメントもゼロ。
  3. \(5.0\,\text{N}\)の力:腕の長さは \(6.0 \times \sin 30^\circ\)。時計回りなのでマイナスのモーメント。

これらをすべて足し合わせれば、答えが求まります。

結論と吟味

点Oのまわりの力のモーメントの和は \(13\,\text{N·m}\) です。
「腕の長さ」を考えるこの方法は、力のモーメントの定義に忠実であり、物理的なイメージが掴みやすいです。計算結果も一致し、妥当であることが確認できます。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のモーメントの定義と計算
    • 核心: 力のモーメントとは「物体を回転させようとする能力」のことであり、その大きさは「力の大きさ」と「腕の長さ」の積で決まります。この基本概念を理解し、正しく計算できることが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 計算方法1 (\(M=FL\sin\theta\)): 回転中心から力の作用点までの距離 \(L\) と、腕の方向と力の方向がなす角 \(\theta\) を使う方法。図から角度が読み取りやすい場合に便利です。
      • 計算方法2 (\(M=F \times l\)): 回転中心から力の作用線へ下ろした垂線の長さ(腕の長さ \(l\))を使う方法。力のモーメントの定義そのものであり、物理的なイメージが掴みやすいです。(\(l = L\sin\theta\) の関係があるので、両者は本質的に同じです。)
  • 力のモーメントの合成(代数和)
    • 核心: 複数の力が働くとき、剛体に働く全体の回転効果は、各力が作る力のモーメントの「代数和(符号を考慮した足し算)」で決まります。
    • 理解のポイント:
      • 符号のルール: 問題で指定された回転方向(この問題では反時計回りが正)に従って、各モーメントに + または - の符号を付けます。この符号付けを間違えると、全く違う答えになってしまいます。
      • 総和の計算: 全てのモーメントを符号付きで足し合わせることで、全体のモーメントが求まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 剛体のつり合い: 「力のつり合い(\(\sum F = 0\))」と「力のモーメントのつり合い(\(\sum M = 0\))」の2つの条件式を連立させて、未知の力や距離を求める問題。シーソーやはしごの問題が典型的です。
    • 回転運動方程式: 力のモーメントの和が0でない場合、物体は回転運動を始めます。その際の角加速度 \(\alpha\) は、力のモーメントの和 \(M\) と慣性モーメント \(I\) を用いて \(I\alpha = M\) と表されます。
    • 重心の計算: 物体を構成する各部分にはたらく重力のモーメントの和は、全体の重心に全質量(全重量)が集中してはたらくと考えたときのモーメントと等しくなります。これを利用して複雑な形状の物体の重心を求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回転の中心(基準点)の確認: まず、どの点のまわりのモーメントを考えるのかを明確にします。つり合いの問題では、未知の力が作用する点を中心に選ぶと、その力のモーメントが0になり計算が楽になることが多いです。
    2. すべての力の図示: 物体にはたらく力(重力、垂直抗力、張力、外力など)をすべて、作用点と向きがわかるように図に書き込みます。
    3. 符号の決定: 計算を始める前に、どちらの回転方向を正とするか(例:反時計回り(+))を決め、図の隅にメモしておきます。
    4. 計算方法の選択: 各力について、「腕の長さ \(l\) を求める」方法と「\(FL\sin\theta\) を使う」方法のどちらが楽に計算できるかを見極めます。角度が90°など、腕の長さが明らかな場合は前者、斜めに力がかかっている場合は後者が便利なことが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 腕の長さの勘違い:
    • 誤解: 回転の中心から力の作用点までの「直線距離」を、そのまま腕の長さとして計算してしまう。
    • 対策: 「腕の長さ」とは、回転の中心から「力の作用線」に下ろした「垂線の長さ」であると定義を徹底します。図に作用線と垂線を実際に描いてみる癖をつけることが有効です。
  • 符号の付け間違い:
    • 誤解: 計算の途中で、時計回りと反時計回りのどちらが正だったかを忘れてしまい、符号を逆にしてしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、図の余白に「反時計回り(+)」などとルールを明記します。各力のモーメントを計算するたびに、その力が物体をどちら向きに回すか指でなぞって確認し、符号を決定します。
  • 角度 \(\theta\) の選択ミス:
    • 誤解: 公式 \(M=FL\sin\theta\) の \(\theta\) に、図に示されている角度を何も考えずに代入してしまう。
    • 対策: \(\theta\) は「中心から作用点への腕の方向」と「力の方向」との間の角度であることを常に意識します。図でどの角度に対応するのかを正確に特定してから計算に入ります。
  • 力の作用線が中心を通る力の扱い:
    • 誤解: 力の作用線が回転中心を通る場合でも、モーメントを計算しようとしてしまう。
    • 対策: 力の作用線が回転中心を通るとき、腕の長さは0なので、モーメントも0になる、と覚えておきましょう。これにより計算を一つ省略できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のモーメントの基本式 (\(M = FL\sin\theta\) または \(M = F \times l\)):
    • 選定理由: この問題は、力のモーメントの大きさを計算し、それらを足し合わせるという、モーメントの概念の根幹を問うています。したがって、その定義式そのものを用いるのが最も直接的です。
    • 適用根拠:
      • \(M = FL\sin\theta\) の視点: この式は、力を「腕に垂直な成分 \(F_{\perp} = F\sin\theta\)」と「腕に平行な成分 \(F_{\parallel} = F\cos\theta\)」に分解した考え方に基づいています。回転に寄与するのは垂直成分のみであり、そのモーメントは \(M = F_{\perp} \times L = (F\sin\theta)L\) となります。図から角度 \(\theta\) と距離 \(L\) が読み取れる場合に非常に有効です。
      • \(M = F \times l\) の視点: こちらは、腕の長さを「回転中心から作用線までの垂直距離 \(l = L\sin\theta\)」と定義し、力 \(F\) との積を取る考え方です。物理的な「てこ」のイメージに近く、直感的です。
      • 結論として、どちらの公式も同じ物理現象を異なる視点から数式化したものであり、問題の図や条件に応じて使いやすい方を選択すればよい、ということになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の一元管理: 計算用紙の最初に「反時計回り(+)」とルールを書き、計算した各モーメント(例: \(M_1 = +27.68\), \(M_3 = -15\))を符号付きでリストアップしてから最後に合算する。これにより、足し算の段階での符号ミスを防ぎます。
  • 三角関数の正確な計算: \(\sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\), \(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) のような基本的な三角関数の値は、瞬時に正確に出てくるように習熟しておく。不安な場合は単位円を描いて確認する。
  • 近似値の扱い: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) のような近似計算は、計算の最終段階で行う。途中で丸めると誤差が大きくなる可能性があります。筆算を行う際は、桁をそろえて丁寧に計算する。
  • 有効数字の意識: 問題文で使われている数値(\(8.0\), \(4.0\) など)は有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁(この場合は \(13\))に丸めるのが適切です。計算途中では、有効数字より1桁多く(例: \(12.68\))保持しておくと、丸めによる誤差を減らせます。
  • 単位の記入: 最終的な答えには、必ず単位「N·m」を忘れずに記入する。単位は物理量の意味を明確にする上で非常に重要です。

78 釘抜き

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力のモーメントのつり合い」と「てこの原理」です。身近な道具である釘抜きを題材に、小さい力で大きな力を生み出す仕組みを物理的に解明します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のモーメントのつり合い: 物体が回転せずに静止しているとき、任意の点のまわりの力のモーメントの和(代数和)はゼロになります。
  2. てこの原理: 力のモーメントのつり合いの応用で、「力 × 腕の長さ」が作用点と力点で等しくなる関係を指します。
  3. 作用・反作用の法則: 釘抜きが釘を抜く力と、その反作用として釘が釘抜きを引く力は、大きさが等しく向きが逆になります。
  4. 回転の中心(支点)の選定: 計算を簡単にするために、未知の力がはたらく点を回転の中心に選ぶのがセオリーです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 釘が「抜ける直前」の状態を、力のモーメントがつり合っている状態として考えます。
  2. 釘抜きが壁に接している点を「支点(回転の中心)」とします。
  3. 釘が釘抜きを引く力と、手で加える力\(F\)が、支点のまわりに作るモーメントのつり合いの式を立てます。
  4. 方程式を解いて、つり合いが成立するときの力\(F\)の大きさを求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、てこの原理を用いて、釘を抜くために必要な力\(F\)を求める典型的な力のモーメントのつり合いの問題です。「釘が抜ける」という現象を、物理的には「手で加える力のモーメントが、釘が抵抗する力のモーメントを上回る瞬間」と捉えます。まずは、両者のモーメントがつり合う限界の状況を考え、そのときの力\(F\)の値を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力のモーメントのつり合いの式(モーメントの和が0)を立てる。
  • 回転の中心(支点)を正しく設定する。壁との接点を支点に取ると、壁からの抗力のモーメントが0になり計算が簡略化できる。
  • 作用・反作用の法則を理解する。「釘を抜くのに必要な力(\(100\,\text{N}\))」は釘抜きが釘に及ぼす力であり、計算で使うのはその反作用として「釘が釘抜きを引く力(\(100\,\text{N}\))」である。
  • 単位をSI単位系に統一する(cm → m)。

具体的な解説と立式
釘が抜ける直前の、力のモーメントがつり合っている状態を考えます。
釘抜きが壁に接している点を支点Pとし、この点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りのモーメントを正、時計回りのモーメントを負とします。

1. 釘が釘抜きを引く力によるモーメント \(M_{\text{釘}}\)
問題文より、釘を抜くのに必要な力は \(100\,\text{N}\) です。これは釘抜きが釘に及ぼす力です。作用・反作用の法則により、釘もまた、釘抜きを大きさ \(100\,\text{N}\) の力で引きます。この力は図の左向きにはたらき、釘抜きを支点Pのまわりに反時計回り(正の向き)に回転させようとします。
腕の長さは \(l_{\text{釘}} = 4.0\,\text{cm} = 0.040\,\text{m}\) です。
$$ M_{\text{釘}} = + 100 \times 0.040 $$

2. 手で加える力 \(F\) によるモーメント \(M_F\)
手で加える力 \(F\) は、釘抜きを時計回り(負の向き)に回転させようとします。
腕の長さは \(l_F = 50\,\text{cm} = 0.50\,\text{m}\) です。
$$ M_F = – F \times 0.50 $$

力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)より、\(M_{\text{釘}} + M_F = 0\) となるので、
$$ 100 \times 0.040 – F \times 0.50 = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
  • 力のモーメントのつり合い: モーメントの和は0になる
  • 作用・反作用の法則
計算過程

力のモーメントのつり合いの式を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
100 \times 0.040 – F \times 0.50 &= 0 \\[2.0ex]
F \times 0.50 &= 100 \times 0.040 \\[2.0ex]
0.50 F &= 4.0 \\[2.0ex]
F &= \frac{4.0}{0.50} \\[2.0ex]
F &= 8.0 \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

これは「てこ」の問題です。支点(壁との接点)を中心に、釘が釘抜きを引っ張る回転力と、手が釘抜きを押す回転力が等しくなる瞬間を考えます。回転力は「力 × 支点からの距離」で計算できます。

  • 釘側の回転力: \(100\,\text{N} \times 4.0\,\text{cm} = 400\)
  • 手側の回転力: \(F\,\text{N} \times 50\,\text{cm}\)

これらがつり合うので、\(F \times 50 = 400\) という式が成り立ちます。これを解くと、\(F = 400 \div 50 = 8.0\,\text{N}\) となります。
(注意:実際の計算では、cmをmに直してから計算するのが正式な方法です。)

結論と吟味

計算の結果、\(F = 8.0\,\text{N}\) のときに力のモーメントがつり合うことがわかりました。これは、釘が抜けるか抜けないかの境界の力です。
問題では「Fをいくらより大きくすると釘が抜けるか」と問われているため、厳密には「\(8.0\,\text{N}\)より大きい力を加えると、手で加える力のモーメントが勝ち、釘が抜ける」と答えるべきです。解答ではつり合いの値を求めているため、\(8.0\,\text{N}\)とします。
てこの原理により、腕の長さが \(50 : 4.0 = 12.5\) 倍になっているため、必要な力は \(1/12.5\) になり、\(100 \div 12.5 = 8.0\,\text{N}\) となって計算結果は妥当です。

解答 \(8.0\,\text{N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のモーメントのつり合い
    • 核心: 物体が回転せずに静止している、あるいは回転し始める直前の状態では、任意の点のまわりの「力のモーメントの和がゼロ」になるという法則。これがこの問題を解くための絶対的なルールです。
    • 理解のポイント:
      • モーメントの和: 「反時計回りのモーメント」と「時計回りのモーメント」が等しい、と考えると分かりやすいです。これを式で書くと、力のモーメントの和が0となります。
      • てこの原理: この問題は、力のモーメントのつり合いを「てこ」という具体的な道具に応用したものです。「力点にかかる力 × 支点からの距離 = 作用点にかかる力 × 支点からの距離」という関係は、まさにモーメントのつり合いそのものです。
  • 作用・反作用の法則
    • 核心: 釘を抜くために「釘抜きが釘に及ぼす力」と、その反作用として「釘が釘抜きに及ぼす力」は、大きさが等しく向きが逆であるという関係。
    • 理解のポイント: 計算で使うのは、あくまで「釘抜きにはたらく力」です。したがって、問題文の「釘を抜くのに必要な力(\(100\,\text{N}\))」を、作用・反作用の法則を使って「釘が釘抜きを引く力(\(100\,\text{N}\))」に読み替える必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • シーソーのつり合い: 左右の人が乗ったシーソーが水平につり合う条件を求める問題。
    • はしごの安定: 壁に立てかけたはしごが滑り出さない条件を、「力のつり合い(力の和が0)」と「力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)」から求める問題。
    • レンチやスパナ: ボルトを締める(緩める)ために必要な力を、腕の長さを変えながら考える問題。
    • ドアの開閉: ドアノブが蝶番から遠い位置にある理由を、モーメントの観点から説明する問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「つり合い」「静止」「〜する直前」のキーワードを確認: これらの言葉があれば、力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)を使うサインです。
    2. 支点(回転の中心)を探す: 物体がどの点を中心に回転しようとするかを見極めます。釘抜きの場合、壁との接点が動かないので、ここが支点です。
    3. 力をすべて図示する: 注目する物体(今回は釘抜き)にはたらく力を、作用点と向きがわかるようにすべて書き出します。特に、作用・反作用の関係や、支点にはたらく抗力(今回は計算不要だが)を意識することが重要です。
    4. 腕の長さを正確に測る: 各力の作用線から支点までの「垂直距離」を正確に図から読み取ります。単位(cmとm)の換算を忘れないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 作用・反作用の力の取り違え:
    • 誤解: 問題文の「釘を抜くのに必要な力 \(100\,\text{N}\)」を、そのまま釘抜きにはたらく外力として扱ってしまう。
    • 対策: 常に「どの物体に、どの物体から、力がはたらいているか」を意識する癖をつける。「釘抜きが釘を引く力」の反作用が「釘が釘抜きを引く力」であると、力の関係性を正確に整理してから立式します。
  • 支点の選び間違い:
    • 誤解: 釘と釘抜きが接している点を支点だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「支点」とは、回転運動において「動かない点(回転の中心)」のことです。釘抜きが動く様子をイメージし、壁との接点が回転の中心になることを理解します。戦略的に「未知の力がはたらく点(壁からの抗力)」を支点に選ぶと計算が楽になる、というセオリーも有効です。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(4.0\,\text{cm}\) や \(50\,\text{cm}\) を、mに直さずにそのまま計算式に入れてしまう。この問題では比の関係で偶然答えが合いますが、他の問題では致命的なミスになります。
    • 対策: 物理計算の鉄則として、「計算を始める前に、すべての単位をSI単位系(長さ:m, 質量:kg, 力:N)に統一する」ことを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のモーメントのつり合いの式(モーメントの和が0):
    • 選定理由: この問題は「釘が抜ける直前」という、静止状態が破れる限界を扱っています。これは物理学的には「つり合い」の状態と見なせます。剛体が回転せずにつり合っている場合、その条件を記述する法則が「力のモーメントのつり合い」だからです。
    • 適用根拠: 釘抜きという剛体には、①釘が引く力、②手が加える力、③支点が及ぼす抗力、の3つが主にはたらいています。これらの力による回転効果が打ち消し合っている状態を数式で表現するために、モーメントの和が0になるという関係式を適用します。特に、未知の力である「支点の抗力」のモーメントを計算から消去するために、抗力の作用点そのものを回転の中心(支点)として選ぶのが最も論理的かつ効率的なアプローチとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位換算の先行実施: 計算を始める前に、問題図の \(4.0\,\text{cm}\) を \(0.040\,\text{m}\)、\(50\,\text{cm}\) を \(0.50\,\text{m}\) と書き直してしまう。
  • 立式の整理: \((\text{反時計回りモーメント}) – (\text{時計回りモーメント}) = 0\) の形に整理して立式すると、符号ミスが減ります。\(100 \times 0.040 – F \times 0.50 = 0\)。
  • 小数の割り算: \(F = \displaystyle\frac{4.0}{0.50}\) のような計算は、分母と分子を10倍または100倍して整数にしてから計算すると確実です。\(F = \displaystyle\frac{40}{5} = 8\)。
  • オーダーチェック(概算): 腕の長さの比は \(50\,\text{cm} : 4.0\,\text{cm} \approx 12\) 倍です。てこの原理から、必要な力は釘を引く力の約 \(1/12\) になるはずだと予測できます。\(100\,\text{N} \div 12 \approx 8.3\,\text{N}\) となり、計算結果の \(8.0\,\text{N}\) が妥当な値であることが確認できます。

79 モーメントのつり合い

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の複合問題です。複数の物体(おもりa, おもりb, 棒)が互いに関係しながら静止している系を、一つずつ丁寧に分析していく能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。特に鉛直方向の力のつり合いを考えます。
  2. 力のモーメントのつり合い: 静止している剛体にはたらく、任意の点のまわりの力のモーメントの和(代数和)はゼロになります。
  3. 張力の理解: 糸が物体を引く力(張力)は、糸の両端で同じ大きさではたらきます。
  4. 段階的な問題解決: 求める量(垂直抗力\(N\))を直接計算するのではなく、他の物体のつり合いから必要な情報(張力)を段階的に求めていく思考プロセスが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、最も単純な「おもりb」の力のつり合いを考え、糸bが引く張力\(T_b\)を求めます。
  2. 次に、得られた\(T_b\)を使って「棒」の力のモーメントのつり合いを考え、糸aが引く張力\(T_a\)を求めます。
  3. 最後に、得られた\(T_a\)を使って「おもりa」の力のつり合いを考え、目的の垂直抗力\(N\)を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題の最終目標は、おもりaにはたらく垂直抗力\(N\)を求めることです。そのためには、おもりaにはたらく力のつり合いの式を立てる必要があります。おもりaには、(1)重力\(mg\)、(2)糸の張力\(T_a\)、(3)垂直抗力\(N\)の3つの力がはたらいています。重力は既知ですが、張力\(T_a\)が未知数です。

そこで、次に\(T_a\)を求める方法を考えます。張力\(T_a\)は、棒を介して他の物体と関係しています。棒は水平に静止しているので、力のモーメントがつり合っているはずです。棒のモーメントのつり合いを考えれば、\(T_a\)を計算できそうです。

棒のモーメントのつり合いの式には、糸bの張力\(T_b\)も含まれます。\(T_b\)は、おもりbの力のつり合いを考えれば簡単に求まります。

このように、「おもりaのつり合い → \(T_a\)が必要 → 棒のモーメントのつり合い → \(T_b\)が必要 → おもりbのつり合い」と逆算的に思考を組み立て、実際の計算は「おもりb → 棒 → おもりa」の順で実行します。
この設問における重要なポイント

  • 注目する物体を「おもりb」「棒」「おもりa」と明確に切り替え、それぞれについて適切な物理法則(力のつり合い or モーメントのつり合い)を適用する。
  • 棒のモーメント計算では、回転の中心(支点)を、棒がつるされている中心Oに設定すると計算が最も簡単になる。
  • 長さの比(\(OA = 5 \times OB\))を、文字式のまま計算に利用する。

具体的な解説と立式
この問題は3つのステップで解くことができます。

Step 1: おもりbの力のつり合い

おもりbは静止しているので、おもりbにはたらく力はつり合っています。糸bがおもりbを引く張力の大きさを\(T_b\)とすると、おもりbには上向きに張力\(T_b\)、下向きに重力\(3mg\)がはたらきます。
力のつり合いの式は、
$$ T_b – 3mg = 0 $$

Step 2: 棒の力のモーメントのつり合い

棒は水平に静止しているので、任意の点のまわりの力のモーメントがつり合っています。ここでは、棒の支点である中心Oのまわりのモーメントを考えます。
糸aが棒を引く張力の大きさを\(T_a\)、糸bが棒を引く張力の大きさを\(T_b\)とします。棒には、点Aに下向きの力\(T_a\)、点Bに下向きの力\(T_b\)がはたらきます。
反時計回りを正とすると、\(T_a\)は反時計回りのモーメント、\(T_b\)は時計回りのモーメントを生じさせます。
モーメントのつり合いの式は、
$$ T_a \times OA – T_b \times OB = 0 $$

Step 3: おもりaの力のつり合い

おもりaも静止しているので、おもりaにはたらく力はつり合っています。求める垂直抗力の大きさを\(N\)とすると、おもりaには上向きに垂直抗力\(N\)と張力\(T_a\)、下向きに重力\(mg\)がはたらきます。
力のつり合いの式は、
$$ N + T_a – mg = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: 物体にはたらく力の和は0
  • 力のモーメントのつり合い: モーメントの和は0
計算過程

上記で立てた3つの式を順に解いていきます。

Step 1: \(T_b\)の計算

おもりbの力のつり合いの式から、
$$
\begin{aligned}
T_b – 3mg &= 0 \\[2.0ex]
T_b &= 3mg
\end{aligned}
$$

Step 2: \(T_a\)の計算

棒のモーメントのつり合いの式を変形します。
$$
\begin{aligned}
T_a \times OA – T_b \times OB &= 0 \\[2.0ex]
T_a &= T_b \times \frac{OB}{OA}
\end{aligned}
$$
この式に、Step 1で求めた \(T_b = 3mg\) と、問題の条件 \(OA = 5 \times OB\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_a &= (3mg) \times \frac{OB}{5 \times OB} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{5}mg
\end{aligned}
$$

Step 3: \(N\)の計算

おもりaの力のつり合いの式を変形します。
$$
\begin{aligned}
N + T_a – mg &= 0 \\[2.0ex]
N &= mg – T_a
\end{aligned}
$$
この式に、Step 2で求めた \(T_a = \displaystyle\frac{3}{5}mg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg – \frac{3}{5}mg \\[2.0ex]
&= \left(1 – \frac{3}{5}\right)mg \\[2.0ex]
&= \frac{2}{5}mg
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は、パズルを解くように3段階で考えます。

  1. まず、おもりbに注目します。おもりbは重さ\(3mg\)でぶら下がっているので、それを支える糸の力\(T_b\)も\(3mg\)です。
  2. 次に、棒を「てこ」として見ます。支点Oを中心に、左右の「力×距離」がつり合っています。つまり「\(T_a \times OA = T_b \times OB\)」です。OAはOBの5倍なので、力\(T_a\)は\(T_b\)の5分の1になります。\(T_a = 3mg \div 5 = \frac{3}{5}mg\)と計算できます。
  3. 最後に、おもりaに注目します。おもりaは重さ\(mg\)で下に引っ張られていますが、上向きに糸の力\(T_a\)と板が押す力\(N\)で支えられています。力のつり合いから「\(N + T_a = mg\)」となります。ここに先ほど計算した\(T_a\)の値を代入すると、\(N + \frac{3}{5}mg = mg\)となり、これを解くと\(N = \frac{2}{5}mg\)が求まります。
結論と吟味

おもりaが板から受ける垂直抗力の大きさは \(\displaystyle\frac{2}{5}mg\) です。
この問題のように、複数の物体が関係するつり合いの問題では、どの物体に注目し、どの法則を適用するかを一つ一つ明確にすることが重要です。計算結果が正の値で得られたことから、板がおもりaを上向きに押しているという状況と矛盾せず、物理的に妥当な解であると言えます。

解答 \(\displaystyle\frac{2}{5}mg\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静力学の二大原理:「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」
    • 核心: この問題は、静止している物体群を扱っており、その状態を記述する2つの基本法則を的確に使い分けることが核心です。
    • 理解のポイント:
      • 力のつり合い(力の和が0): 物体が並進運動しない(上下左右に動かない)ための条件。おもりa, bのような、回転を考えない(または考える必要がない)物体に適用します。
      • 力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0): 物体が回転運動しないための条件。棒のような、大きさがあり回転する可能性のある剛体に適用します。
  • 複数物体系の分析アプローチ
    • 核心: 複数の物体が相互作用している系では、系全体を一度に考えるのではなく、個々の物体に「注目」し、それぞれに物理法則を適用していくという考え方が不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 物体間の力の伝達: 糸の張力や接触面の垂直抗力などが、物体間をつなぐ「橋渡し」の役割を果たします。ある物体のつり合いから求めた力を、別の物体のつり合いの式に代入していくことで、問題が解けていきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の剛体を組み合わせた問題: 2枚の板を重ねて壁に立てかける問題や、複数の棒を蝶番でつないだ構造物の問題など。
    • 滑車と棒を組み合わせた問題: 滑車を介して棒におもりがつるされているような、張力とモーメントが複雑に絡む問題。
    • 浮力とモーメントのつり合い: 水に浮かべた棒の一部におもりを乗せたとき、棒が傾かずに水平を保つ条件を求める問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系を分解する: まず、問題を構成する物体(おもりa, おもりb, 棒)をリストアップし、それぞれを独立した分析対象として捉えます。
    2. 逆算で計画を立てる: 最終目標(垂直抗力\(N\))を確認し、「\(N\)を求めるには、おもりaのつり合いを考えればよい」→「そのためには張力\(T_a\)が必要だ」→「\(T_a\)を求めるには、棒のモーメントのつり合いを考えればよい」→「そのためには張力\(T_b\)が必要だ」→「\(T_b\)は、おもりbのつり合いから求まる」というように、ゴールから逆算して解法の道筋を設計します。
    3. 力の伝達役を探す: 物体と物体をつないでいる「糸」や「接触面」に着目します。これらの点にはたらく張力や抗力が、連立方程式を解く上での鍵となります。
    4. 支点の戦略的選択: モーメントのつり合いを考える際、どの点を支点(回転の中心)に選ぶかが重要です。未知の力がはたらく点(今回は棒を支える中心の糸の張力)や、力が集中する点を支点に選ぶと、その力のモーメントが0になり、式がシンプルになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 注目する物体のごちゃ混ぜ:
    • 誤解: 棒のモーメントのつり合いを考える際に、おもりの重力\(mg\)や\(3mg\)を直接、棒にはたらく力として式に入れてしまう。
    • 対策: 必ず「注目している物体にはたらく力」だけを図示する(フリーボディダイアグラムを描く)習慣をつけます。棒にはたらく力は、あくまで糸の張力\(T_a\)と\(T_b\)です。重力は糸を介して間接的に影響を与えている、と理解することが重要です。
  • 張力と重力の混同:
    • 誤解: おもりaにはたらく張力\(T_a\)が、その重力\(mg\)と等しいと早合点してしまう。
    • 対策: おもりaにはたらく力をすべてリストアップします。「重力\(mg\)」「張力\(T_a\)」「垂直抗力\(N\)」の3つがあることを確認すれば、単純に\(T_a = mg\)とはならないことに気づけます。
  • 力の比と腕の長さの比の混同:
    • 誤解: てこの原理で、腕の長さが5倍だから力も5倍(または1/5)と安易に考えてしまい、比を逆にしてしまう(\(T_a = 5T_b\)など)。
    • 対策: 必ず \(T_a \times OA = T_b \times OB\) という基本のつり合い式を立ててから、代入・式変形を行います。\(T_a = T_b \times \displaystyle\frac{OB}{OA}\) となり、力と腕の長さは「逆比」の関係にあることを毎回確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合い(力の和が0):
    • 選定理由: おもりa, bは、その運動を考える上で回転を考慮する必要がない「質点」として扱えます。質点が静止している(並進運動の加速度が0)ための条件は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) において \(a=0\) となること、すなわち合力\(F\)が0になることです。
    • 適用根拠: おもりa, bは静止しているので、それぞれにはたらく力のベクトル和は0になります。
  • 力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0):
      • 選定理由: 棒は大きさを持つ「剛体」であり、回転する可能性があります。剛体が静止している(回転運動の角加速度が0)ための条件は、回転の運動方程式 \(I\alpha = M\) において \(\alpha=0\) となること、すなわち合モーメント\(M\)が0になることです。

    – 適用根拠: 棒は水平を保って静止しているので、どの点のまわりの力のモーメントの和も0になります。特に、未知の力(天井からつるす糸の張力)がはたらく中心Oを支点に選ぶことで、その未知数を計算から排除でき、効率的に解を導けます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の活用: \(T_b=3mg\) のように、計算の最後まで具体的な数値を代入せず、文字式のまま計算を進める習慣をつけましょう。式が簡潔になり、関係性が見やすくなるため、ミスが減ります。
  • 比の分数化: \(OA = 5 \times OB\) という条件は、式変形の際に \(\displaystyle\frac{OB}{OA} = \frac{1}{5}\) のように分数で扱うと、代入がスムーズに行え、計算ミスを防ぎます。
  • 分数の計算: \(mg – \displaystyle\frac{3}{5}mg\) のような計算は、\(mg \left(1 – \frac{3}{5}\right)\) のように共通因数でくくってから計算すると、通分などの計算が楽になり、ミスを減らせます。
  • 段階的な検算: \(T_b\), \(T_a\), \(N\) と計算を進める各ステップで、求めた値が物理的に妥当か(例えば、張力や垂直抗力が負の値になっていないか)を簡単に確認する癖をつけると、早い段階で間違いに気づくことができます。
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