465 年代測定
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、放射性同位体である炭素14(\({}^{14}\text{C}\))を利用した年代測定に関する知識を問う問題です。原子核の基本的な構成、放射性崩壊の種類、そして半減期の計算という、原子物理学の根幹をなす3つの要素が組み合わされています。
- 炭素14(\({}^{14}\text{C}\))は、陽子を6個、核子を14個含む。
- \({}^{14}\text{C}\)は、放射線を放出して窒素14(\({}^{14}\text{N}\))に変わる。
- \({}^{14}\text{C}\)の半減期: \(T = 5730\) 年
- ある木材の\({}^{14}\text{C}\)の量は、生きている場合の60%に減少していた。
- 対数の値: \(\log_{10}2 = 0.30\), \(\log_{10}3 = 0.48\)
- 空欄①, ②: 原子核の構成要素の名称。
- 空欄③: \({}^{14}\text{C}\)が放出する放射線の種類。
- 空欄④: 木材が枯れてから経過した時間(年代)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性同位体を用いた年代測定」です。原子核の構造、放射性崩壊、半減期の概念を統合して理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 原子核の構成: 原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味(\(A\): 質量数、\(Z\): 原子番号)を正しく理解していること。
- 放射性崩壊: 特に、原子番号が1増加し質量数が変化しないβ崩壊の性質を理解していること。
- 半減期の公式: 放射性同位体の量が時間とともに指数関数的に減少する関係式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を使えること。
- 対数計算: 指数方程式を解くために、常用対数の性質を正しく利用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、空欄①, ②では原子核の記号 \({}^{14}_{6}\text{C}\) から陽子と核子の数を読み取ります。空欄③では、崩壊前後の原子核 \({}^{14}_{6}\text{C}\) と \({}^{14}_{7}\text{N}\) を比較し、崩壊の種類を特定します。
- 次に、空欄④では半減期の公式に与えられた数値を代入して方程式を立て、両辺の常用対数をとることで経過時間 \(t\) を計算します。
空欄①, ②, ③
思考の道筋とポイント
原子核の構成と放射性崩壊の種類に関する基本的な知識を問う問題です。原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味と、β崩壊で原子番号と質量数がどのように変化するかを正確に覚えておくことが重要です。
この設問における重要なポイント
- 原子核の記号: \({}^{A}_{Z}\text{X}\) において、左下の \(Z\) は「原子番号」であり「陽子の数」を表します。左上の \(A\) は「質量数」であり、「陽子の数」と「中性子の数」の和、すなわち「核子の数」を表します。
- β崩壊: 原子核内の中性子1個が、陽子1個と電子1個に変化し、電子(β線)を放出する現象です。この結果、原子番号 \(Z\) が1増加し、質量数 \(A\) は変化しません。
具体的な解説と立式
空欄①, ② 原子核の構成
与えられた放射性炭素は \({}^{14}_{6}\text{C}\) と表記されています。
この表記から、原子番号 \(Z\) は6、質量数 \(A\) は14であることがわかります。
原子番号は陽子の数に等しく、問題文に「①が6個」とあることから、空欄①に入る言葉は「陽子」です。
質量数は核子(陽子と中性子)の総数に等しく、問題文に「②が14個」とあることから、空欄②に入る言葉は「核子」です。
空欄③ 放射性崩壊の種類
\({}^{14}_{6}\text{C}\) が放射線を放出して \({}^{14}_{7}\text{N}\) に変わる核反応を考えます。
$$ {}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N} + (\text{放射線}) $$
この反応の前後で、原子番号は \(Z=6\) から \(Z=7\) へと1増加しています。一方、質量数 \(A\) は14のままで変化していません。
原子番号が1増加し、質量数が変わらない崩壊はβ崩壊です。このとき放出される放射線は電子であり、これをβ線と呼びます。
したがって、空欄③に入る放射線は「β線」です。
使用した物理公式
- 原子核の構成 (\({}^{A}_{Z}\text{X}\))
- β崩壊の法則
これらの空欄は物理法則の知識を問うものであり、計算は不要です。
①, ② 原子核を表す記号 \({}^{14}_{6}\text{C}\) の左下の数字「6」が陽子の個数、左上の数字「14」が陽子と中性子を合わせた合計の個数(核子の個数)をそのまま表しています。問題文が「①が6個」となっているので、①は「陽子」を指します。同様に「②が14個」なので、②は「核子」を指します。
③ 炭素 \({}^{14}_{6}\text{C}\) が窒素 \({}^{14}_{7}\text{N}\) に変わるとき、陽子の数が6個から7個に1個増えています。これは、原子核の中の中性子が陽子に変身したことを意味します。この変身の際に、マイナスの電気を持つ電子が飛び出します。この飛び出す電子の流れが「β線」です。
① 陽子, ② 核子, ③ β線。これらは原子核物理の基本的な定義と法則に合致しており、妥当な結論です。
空欄④
思考の道筋とポイント
半減期の公式を用いて、特定の割合まで原子が減少するのにかかる時間を求める計算問題です。公式を立てた後、未知数 \(t\) が指数の部分にあるため、両辺の対数をとって解くのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 半減期の公式の適用: 経過時間を \(t\)、半減期を \(T\)、初期の原子数を \(N_0\)、\(t\) 時間後の原子数を \(N\) とすると、\(N = N_0 \left( \displaystyle\frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\) という関係が成り立ちます。
- 条件の整理: 問題文から \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = 0.60\)、\(T = 5730\) [年] という値を正確に読み取ります。
- 対数計算: 与えられた \(\log_{10}2\) と \(\log_{10}3\) を用いて、\(\log_{10}0.60\) の値を計算する必要があります。\(\log_{10}0.60 = \log_{10}(6/10) = \log_{10}6 – \log_{10}10 = \log_{10}(2 \times 3) – 1\) と変形します。
具体的な解説と立式
木材が枯れてからの経過時間を \(t\) [年]、枯れた瞬間(\(t=0\))の \({}^{14}\text{C}\) の原子数を \(N_0\)、現在の原子数を \(N\) とします。
\({}^{14}\text{C}\) の半減期は \(T = 5730\) [年] です。
半減期の公式より、これらの間には次の関係が成り立ちます。
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} \quad \cdots ① $$
問題の条件から、現在の \({}^{14}\text{C}\) の量は生きている場合の60%なので、
$$ \frac{N}{N_0} = 0.60 \quad \cdots ② $$
①式と②式から \(N\) と \(N_0\) を消去すると、\(t\) を求めるための方程式が得られます。
$$ 0.60 = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5730}} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
上記で立てた方程式③の両辺で、常用対数(底を10とする対数)をとります。
$$ \log_{10} 0.60 = \log_{10} \left\{ \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5730}} \right\} $$
対数の性質 \(\log a^p = p \log a\) を用いて、右辺の指数を係数として前に出します。
$$ \log_{10} 0.60 = \frac{t}{5730} \log_{10} \frac{1}{2} $$
ここで、左辺と右辺の対数の値をそれぞれ計算します。
左辺は、
$$
\begin{aligned}
\log_{10} 0.60 &= \log_{10} \left( \frac{6}{10} \right) \\[2.0ex]&= \log_{10} 6 – \log_{10} 10 \\[2.0ex]&= \log_{10} (2 \times 3) – 1 \\[2.0ex]&= \log_{10} 2 + \log_{10} 3 – 1 \\[2.0ex]&= 0.30 + 0.48 – 1 \\[2.0ex]&= -0.22
\end{aligned}
$$
右辺の対数部分は、
$$
\begin{aligned}
\log_{10} \frac{1}{2} &= \log_{10} 2^{-1} \\[2.0ex]&= -\log_{10} 2 \\[2.0ex]&= -0.30
\end{aligned}
$$
これらの結果を元の式に代入します。
$$ -0.22 = \frac{t}{5730} \times (-0.30) $$
この式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{0.22 \times 5730}{0.30} \\[2.0ex]&= \frac{22 \times 5730}{30} \\[2.0ex]&= \frac{11 \times 5730}{15} \\[2.0ex]&= 11 \times 382 \\[2.0ex]&= 4202
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁なので、結果を有効数字2桁に丸めます。
$$ t \approx 4.2 \times 10^3 \text{ [年]} $$
この値が空欄④に入ります。
\({}^{14}\text{C}\) の量が、元の量から見て「\((\frac{1}{2})\) の \((\frac{t}{5730})\) 乗」倍になる、という関係式を立てます。今回はこれが0.6倍になるので、\(0.6 = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{5730}}\) という式ができます。このままだと計算が難しいので、「対数」という道具を使って、肩に乗っている \(t\) を地面に下ろしてきます。あとは、問題文で与えられた対数の値を使って、パズルのように計算を進めると、時間 \(t\) が求まります。
空欄④に入る年代は約 \(4.2 \times 10^3\) 年です。
\({}^{14}\text{C}\) の量が半分(50%)になるのにかかる時間(半減期)が5730年です。今回は60%までしか減少していないので、経過時間は半減期よりも短くなるはずです。計算結果の \(4.2 \times 10^3\) 年(4200年)は5730年より短く、物理的に妥当な値であると判断できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 原子核の構造と記号の理解:
- 核心: 原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味を正しく理解することが、(1)と(2)を解くための絶対的な基礎です。\(Z\)が陽子の数(原子番号)、\(A\)が陽子と中性子の数の和(質量数=核子の数)であることを覚える必要があります。
- 理解のポイント: この記法は、原子核の構成要素を簡潔に表現するための世界共通のルールです。左下の数字が「陽子の数」、左上の数字が「陽子と中性子の合計数」と機械的に覚えるだけでも得点に繋がります。
- 放射性崩壊(特にβ崩壊)の法則:
- 核心: (3)を解く鍵は、β崩壊が「中性子が陽子と電子に変わり、電子を放出する現象」であると理解していることです。これにより、原子番号\(Z\)が1増え、質量数\(A\)は変わらないという変化が起こります。
- 理解のポイント: \({}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N}\) という変化を見て、\(Z\)が6→7に、\(A\)が14→14のままであることを確認し、このパターンがβ崩壊に相当すると判断します。
- 半減期の公式と対数計算:
- 核心: (4)の年代測定計算は、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を立式し、指数部分にある時間\(t\)を求めるために常用対数をとる、という一連の流れが核心です。
- 理解のポイント: 放射性物質の減少は単純な比例関係ではなく、指数関数的な減少です。このような指数関数で表される物理量を扱う際には、対数が極めて有効な数学的ツールとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- α崩壊の問題: ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) を放出する崩壊です。この場合、原子番号\(Z\)が2、質量数\(A\)が4減少します。崩壊前後の原子核を比較して、変化のパターンからα崩壊であると見抜く問題が出題されます。
- γ崩壊の問題: α崩壊やβ崩壊の後に、エネルギー的に不安定な状態の原子核が、安定な状態に移る際にγ線(電磁波)を放出する現象です。この場合、\(Z\)も\(A\)も変化しません。
- 半減期に関する別の問い方: 「元の量の12.5%になるのは何年後か?」といった問題。\(12.5\% = \frac{1}{8} = (\frac{1}{2})^3\) なので、半減期の3倍の時間、つまり \(3T\) 年後であると、対数計算なしで解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 原子核の記号をチェック: まず \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の\(A\)と\(Z\)の値を正確に読み取ります。これが全ての分析の出発点です。
- 崩壊の種類を特定: 核反応式の前後で、\(A\)と\(Z\)がどのように変化したかに着目します。「\(Z\)が1増、\(A\)不変→β崩壊」「\(Z\)が2減、\(A\)が4減→α崩壊」というパターンを即座に思い出せるようにしておきましょう。
- 半減期計算の条件整理: 年代測定の問題では、「現在の量は元の何%か (\(\frac{N}{N_0}\))」「半減期\(T\)はいくつか」という2つの情報を問題文から正確に抜き出すことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 陽子の数と中性子の数、核子の数の混同:
- 誤解: 質量数\(A\)を中性子の数と勘違いしたり、核子の数を陽子の数と取り違えたりするミス。
- 対策: 「原子番号\(Z\) = 陽子の数」「質量数\(A\) = 陽子の数 + 中性子の数」「核子の数 = 質量数\(A\)」という定義を正確に覚え直しましょう。「中性子の数 = \(A – Z\)」であることも合わせて確認しておくと万全です。
- 対数計算のミス:
- 誤解: \(\log_{10}0.6\) の計算で、\(\log_{10}(6/10)\) を \(\log_{10}6 – \log_{10}1\) と間違える(正しくは \(\log_{10}10\))。また、\(\log_{10}(1/2)\) を \(\log_{10}1 – \log_{10}2 = -\log_{10}2\) と正しく変形できずに計算を進めてしまう。
- 対策: \(\log(A/B) = \log A – \log B\)、\(\log(AB) = \log A + \log B\)、\(\log A^p = p \log A\) といった対数の基本公式を徹底的に復習しましょう。特に小数や分数の対数計算は頻出なので、練習を積んでおくことが不可欠です。
- 半減期の公式の誤用:
- 誤解: \(N = N_0 \times \frac{t}{T}\) のような線形的な減少と勘違いする。あるいは、公式の \((\frac{1}{2})\) の指数部分を \(\frac{T}{t}\) と逆にしてしまう。
- 対策: 「半減期」という言葉の意味を考え、「\(t=T\) のときに元の半分になる」という関係が成り立つのは \((\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) の形だけである、と公式の構造を論理的に理解しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 原子核のモデル図: \({}^{14}_{6}\text{C}\) を「陽子6個(●)と中性子8個(○)が塊になったもの」として簡単な図でイメージします。β崩壊は、この塊の中の「中性子○1個が、陽子●1個に変わり、電子e⁻が外に飛び出す」という変化として図示すると、\(Z\)が1増えて\(A\)が変わらない理由が視覚的に理解できます。
- 半減期のグラフ: 横軸に時間\(t\)、縦軸に原子数\(N\)をとったグラフをイメージします。\(t=0\)で\(N=N_0\)、\(t=T\)で\(N=\frac{1}{2}N_0\)、\(t=2T\)で\(N=\frac{1}{4}N_0\) となる点を滑らかな曲線で結ぶことで、指数関数的な減少の様子を視覚化できます。今回の問題は、このグラフ上で \(N=0.60N_0\) となる横軸の値 \(t\) を求めているのだと理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 核反応式を丁寧に書く: \({}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N} + e^{-}\) のように、反応の前後で各粒子の質量数と原子番号(電荷)の和が保存されていることを確認しながら書く習慣をつけると、崩壊の種類を間違えにくくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 原子核の記号 (\({}^{A}_{Z}\text{X}\)):
- 選定理由: (1), (2)で問われている原子核の構成要素を、与えられた情報から直接読み取るための唯一の手段だからです。
- 適用根拠: これは物理学における国際的な定義・規約であり、議論の前提となるものです。
- 半減期の公式 (\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)):
- 選定理由: (4)で、放射性物質が時間とともに確率的に崩壊し、その量が指数関数的に減少するという物理現象を数式で表現するため。
- 適用根拠: この公式は、個々の原子の崩壊はランダムだが、多数の原子が集まった集団としては統計的に予測可能な振る舞いをする、という量子力学的な性質に基づいています。
- 常用対数 (\(\log_{10}\)):
- 選定理由: 半減期の公式を\(t\)について解く際、指数部分に未知数が含まれる方程式を解く必要があるため。対数をとることで、指数を係数に変換し、一次方程式として扱えるようにするためです。
- 適用根拠: 指数関数と対数関数が互いに逆関数の関係にあるという数学的な性質を利用しています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 空欄①, ②, ③ (知識問題):
- 戦略: 原子核の記号とβ崩壊の定義に基づいて解答する。
- フロー: ①\({}^{14}_{6}\text{C}\) の左下の「6」が陽子の数であることを確認 → ②左上の「14」が核子の数であることを確認 → ③\({}^{14}_{6}\text{C}\) → \({}^{14}_{7}\text{N}\) の変化で、原子番号が1増え、質量数が不変であることを確認し、β崩壊と判断。
- 空欄④ (計算問題):
- 戦略: 半減期の公式を立て、対数を用いて解く。
- フロー: ①半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を書く → ②問題文の条件 (\(\frac{N}{N_0}=0.60\), \(T=5730\)) を代入し、\(0.60 = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{5730}}\) を立式 → ③両辺の常用対数をとる → ④対数の性質を使って式を変形し、\(t\) について解く → ⑤与えられた対数の値を代入し、数値を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 対数計算の工夫: \(\log_{10}0.60\) の計算は焦らず、\(\log_{10}(6/10) = \log_{10}6 – \log_{10}10 = (\log_{10}2 + \log_{10}3) – 1\) のように、与えられた値を使える形まで段階的に分解する癖をつけましょう。
- 指数の扱い: \(\log_{10}(1/2) = \log_{10}2^{-1} = – \log_{10}2\) のように、負の指数を係数として前に出す計算は頻出です。確実にできるようにしておきましょう。
- 最終的な割り算: \(t = \frac{0.22 \times 5730}{0.30}\) のような計算では、先に \(0.22/0.30\) を計算すると小数になって面倒です。 \(\frac{22 \times 5730}{30}\) のように整数にしてから約分を進める方が、計算ミスを減らせます。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値(0.30, 0.48, 60%)が2桁であることから、最終的な答えも有効数字2桁で答える意識を最初から持っておきましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4)の年代: 計算結果は約4200年でした。半減期(5730年)は、量がちょうど半分(50%)になるまでの時間です。今回は60%までしか減っていないので、経過時間は半減期より短いはずです。4200年 < 5730年 であり、この関係を満たしているので、計算結果は妥当性が高いと言えます。もし計算結果が5730年を超えていたら、どこかで計算ミスをしている可能性を疑うべきです。
- 極端な場合を考える:
- もし現在の量が50%だったなら、\(t=T=5730\)年になるはずです。式に代入すると \(\log_{10}0.5 = \frac{t}{T}\log_{10}0.5\) となり、確かに \(t=T\) が成り立ちます。
- もし現在の量が100%に近ければ(ほとんど崩壊していなければ)、経過時間\(t\)は0に近いはずです。\(N/N_0 \rightarrow 1\) のとき、\(\log_{10}(N/N_0) \rightarrow 0\) となるので、計算結果の\(t\)も0に近づき、直感と一致します。
466 放射線の測定
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、α崩壊する放射性物質の性質を多角的に問う問題です。半減期の計算、指定時間後の残存率の計算、そして崩壊によって放出されるα線が作る電流の計算という、基礎から応用までのステップで構成されています。原子物理と電磁気学の知識を融合させる能力が求められます。
- 物質の原子量: 218
- 崩壊の種類: α崩壊
- 12分で初めの量の\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が他の物質に変化する。
- アボガドロ定数: \(N_A = 6.0 \times 10^{23} \text{ /mol}\)
- 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- (3)での物質の質量: \(1.0 \text{ g}\)
- (1) この物質の半減期 \(T\)。
- (2) 20分後に崩壊しないで残っている量の割合(%)。
- (3) 最初の4分間に検出器に流れ込む平均電流 \(I\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射性崩壊と半減期、および放射線の測定」です。半減期の基本的な計算に加え、崩壊した原子の個数から放出される電荷量を求め、電流の定義へとつなげる応用力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 半減期の公式: 放射性同位体の量が時間とともに指数関数的に減少する関係式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を理解し、使いこなせること。
- 物質量と原子の個数: 質量、原子量、アボガドロ定数を用いて、物質に含まれる原子の総数を計算できること。
- α崩壊の理解: α崩壊によって放出されるα線が、ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、電荷 \(+2e\) を持つことを理解していること。
- 電流の定義: 電流が単位時間あたりに通過する電気量であるという定義式 \(I = \frac{Q}{t}\) を正しく適用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた時間と残存率から半減期 \(T\) を計算します。
- (2)では、(1)で求めた半減期 \(T\) を用いて、指定された時間後の残存率を計算します。
- (3)では、まず与えられた質量から原子の初期総数を計算します。次に、半減期の公式を使って指定時間内に崩壊した原子の数を求めます。最後に、崩壊した原子1個あたりに放出されるα線の電荷を考慮して総電荷量を計算し、電流の定義式で平均電流を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
半減期を求める基本的な問題です。問題文の「初めの量の\(\frac{7}{8}\)が他の物質に変化する」という表現を、「崩壊しないで残っている量は \(\frac{1}{8}\) である」と正しく読み替えることが最初のステップです。
この設問における重要なポイント
- 残存率の計算: 「\(x\)が変化した」は「\(1-x\)が残った」を意味します。この問題では、\(\frac{7}{8}\)が変化したので、残った割合は \(1 – \frac{7}{8} = \frac{1}{8}\) となります。
- 半減期の公式: 残存率と経過時間がわかっているので、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) に値を代入して、未知数 \(T\) を求めます。
具体的な解説と立式
初めの物質の原子数を \(N_0\)、12分後の原子数を \(N\) とします。
12分間で初めの量の \(\frac{7}{8}\) が崩壊したので、残っている原子数の割合は、
$$ \frac{N}{N_0} = 1 – \frac{7}{8} = \frac{1}{8} $$
半減期を \(T\) [分] とすると、半減期の公式は次のように表せます。
$$ \frac{N}{N_0} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} \quad \cdots ① $$
この式に、\(t=12\) [分] と求めた残存率を代入します。
$$ \frac{1}{8} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{12}{T}} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
上記で立てた方程式②を \(T\) について解きます。
左辺の \(\frac{1}{8}\) は \((\frac{1}{2})^3\) と変形できます。
$$ \left( \frac{1}{2} \right)^3 = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{12}{T}} $$
両辺の底が等しいので、指数部分を比較します。
$$ 3 = \frac{12}{T} $$
したがって、半減期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{12}{3} \\[2.0ex]&= 4 \text{ [分]}
\end{aligned}
$$
12分で元の量の \(\frac{1}{8}\) になった、という事実を使います。\(\frac{1}{8}\) というのは、\(\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}\) のように、半分になる変化が3回起きたことを意味します。12分間で3回半減したわけですから、1回あたりの半減にかかる時間(半減期)は、12分を3で割って4分、と計算できます。
この物質の半減期は4分です。
半減期が4分なので、12分は半減期の3倍の時間です。したがって、12分後には原子の数は \((\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}\) になるはずで、問題文の条件と一致します。よって、この結果は妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた半減期を使って、指定された時間後に残っている物質の割合を計算する問題です。半減期の公式に数値を代入するだけで解ける、基本的な設問です。
この設問における重要なポイント
- 半減期の公式の直接利用: (1)で求めた半減期 \(T=4\) [分] と、問題で指定された時間 \(t=20\) [分] を公式に代入して、残存率 \(\frac{N}{N_0}\) を計算します。
- パーセントへの変換: 計算結果は小数または分数で得られるので、最後に100を掛けてパーセント(%)に変換します。
具体的な解説と立式
初めの原子数を \(N_0\)、20分後に残っている原子数を \(N\) とします。
半減期は(1)より \(T=4\) [分]、経過時間は \(t=20\) [分] です。
半減期の公式 \(\frac{N}{N_0} = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) にこれらの値を代入します。
$$ \frac{N}{N_0} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{20}{4}} $$
使用した物理公式
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
上記で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{N}{N_0} &= \left( \frac{1}{2} \right)^5 \\[2.0ex]&= \frac{1}{32} \\[2.0ex]&= 0.03125
\end{aligned}
$$
この割合をパーセントで表すために100を掛け、有効数字2桁に丸めます。
$$ 0.03125 \times 100 = 3.125 \approx 3.1 \text{ [%]} $$
半減期は4分なので、20分間というのは「4分が5回」経過したことになります。つまり、量が半分になる変化が5回起こるわけです。したがって、残っている量は元の量の \((\frac{1}{2})^5 = \frac{1}{32}\) 倍になります。これをパーセントに直すと約3.1%です。
20分後に崩壊しないで残っている量は、初めの量の約3.1%です。
20分は半減期4分の5倍の時間であり、残存量がかなり少なくなることは直感と一致します。計算結果は妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
崩壊した原子核が放出したα線の総電荷量を計算し、電流を求める応用問題です。複数の物理法則を段階的に適用する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 原子の初期総数の計算: まず、物質量(モル)の概念を用いて、質量1.0gの物質に含まれる原子の総数 \(N_0\) を計算します。\(N_0 = (\text{物質量}) \times (\text{アボガドロ定数}) = (\frac{\text{質量}}{\text{原子量}}) \times N_A\)。
- 崩壊した原子数の計算: 次に、最初の4分間で崩壊した原子の数 \(\Delta N\) を求めます。\(\Delta N = (\text{初期数}) – (\text{残存数}) = N_0 – N_0(\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}} = N_0(1 – (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}})\)。
- 総電荷量の計算: α崩壊では、1つの原子が崩壊するごとに1個のα粒子(電荷 \(+2e\))が放出されます。したがって、総電荷量 \(Q\) は \(Q = (\text{崩壊した原子数}) \times (2e)\) となります。
- 平均電流の計算: 最後に、電流の定義式 \(I = \frac{Q}{\Delta t}\) を用いて、総電荷量 \(Q\) をかかった時間 \(\Delta t\) で割り、平均電流を求めます。時間の単位を秒に直すことを忘れないように注意が必要です。
具体的な解説と立式
1. 初めの原子核の数 \(N_0\) の計算
質量 \(m=1.0\) [g]、原子量 \(M=218\)、アボガドロ定数 \(N_A = 6.0 \times 10^{23}\) [/mol] より、初めにあった原子核の総数 \(N_0\) は、
$$ N_0 = \frac{m}{M} \times N_A \quad \cdots ① $$
2. 最初の4分間で崩壊した原子核の数 \(\Delta N\) の計算
経過時間 \(t=4\) [分]、半減期 \(T=4\) [分] なので、4分後に残っている原子核の数 \(N\) は、
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{4}{4}} = \frac{1}{2} N_0 $$
よって、この4分間で崩壊した原子核の数 \(\Delta N\) は、
$$ \Delta N = N_0 – N = N_0 – \frac{1}{2} N_0 = \frac{1}{2} N_0 \quad \cdots ② $$
3. 総電荷量 \(Q\) の計算
α崩壊で放出されるα粒子はヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、その電荷は陽子2個分の \(+2e\) です。ここで \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) [C] は電気素量です。
4分間で放出された総電荷量 \(Q\) は、
$$ Q = \Delta N \times (2e) \quad \cdots ③ $$
4. 平均電流 \(I\) の計算
電流は単位時間あたりに流れる電気量なので、時間 \(\Delta t = 4\) [分] \( = 240\) [s] の間の平均電流 \(I\) は、
$$ I = \frac{Q}{\Delta t} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 物質量と原子数: \(N = \frac{m}{M} N_A\)
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
- 電流の定義: \(I = \frac{Q}{\Delta t}\)
①, ②, ③, ④の式を組み合わせて \(I\) を計算します。
まず、崩壊した原子の数 \(\Delta N\) を具体的に計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta N &= \frac{1}{2} N_0 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times \frac{m}{M} \times N_A \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times \frac{1.0}{218} \times (6.0 \times 10^{23}) \\[2.0ex]&= \frac{3.0}{218} \times 10^{23} \\[2.0ex]&\approx 0.01376 \times 10^{23} \\[2.0ex]&= 1.376 \times 10^{21} \text{ [個]}
\end{aligned}
$$
次に、総電荷量 \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta N \times (2e) \\[2.0ex]&= (1.376 \times 10^{21}) \times (2 \times 1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= 1.376 \times 3.2 \times 10^{2} \\[2.0ex]&= 4.4032 \times 10^2 \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
最後に、平均電流 \(I\) を計算します。時間 \(\Delta t = 4 \text{ [分]} = 240 \text{ [s]}\) です。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{Q}{\Delta t} \\[2.0ex]&= \frac{4.4032 \times 10^2}{240} \\[2.0ex]&\approx 1.834 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.8 \text{ A}\) となります。
まず、1.0gの物質に原子が何個あるかを計算します。次に、最初の4分間(ちょうど半減期)で、そのうちの半分が崩壊することを確認します。崩壊した原子1個につき、プラスの電気を2粒分持ったα線が1本飛び出します。この「崩壊した原子の数」×「α線1本の電気量」で、4分間に飛び出した電気の総量を計算します。最後に、この電気の総量をかかった時間(4分=240秒)で割ることで、1秒あたりの電気の流れ、すなわち電流の大きさが求まります。
最初の4分間に流れ込む平均電流は約1.8Aです。
放射性物質から発生する電流としては非常に大きな値ですが、これは問題設定(1.0gという巨視的な量の物質が、4分という短い半減期で崩壊する)によるものです。計算プロセスは物理法則に忠実に従っており、論理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 半減期の公式の応用:
- 核心: この問題全体を貫く最も基本的な法則は、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) です。(1)では未知数\(T\)を、(2)では残存率\(\frac{N}{N_0}\)を、(3)では崩壊数\(\Delta N\)を求めるために、この一つの公式を様々な角度から利用します。
- 理解のポイント: 「\(\frac{7}{8}\)が変化」→「\(\frac{1}{8}\)が残存」のように、問題文の表現を公式で使える形(残存率)に変換する読解力が重要です。
- 原子の個数と物質量の関係:
- 核心: (3)で、巨視的な量(質量1.0g)と微視的な現象(原子の崩壊)を結びつけるのが、アボガドロ定数を用いた物質量の計算です。\(N_0 = \frac{m}{M}N_A\) という関係式は、化学でも物理でも必須の知識です。
- 理解のポイント: 原子量を「1モルあたりの質量[g/mol]」と捉えることで、与えられた質量からモル数を計算し、アボガドロ定数を掛けて原子の総数を求める、という流れを理解しましょう。
- 電流の定義 (\(I = Q/t\)):
- 核心: (3)の最終段階では、原子物理の問題が電磁気学の基本定義に接続されます。崩壊によって生じた荷電粒子(α線)の流れが電流を形成するという物理像を理解し、\(I = \frac{\text{総電荷量}}{\text{時間}}\) という定義に当てはめることが核心です。
- 理解のポイント: 1個の原子の崩壊がもたらす電荷は \(2e\) と微小ですが、アボガドロ数スケールの原子が一斉に崩壊することで、宏観的な電流が生じるというスケール感の繋がりを意識することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- β崩壊による電流: 崩壊で放出されるのがβ線(電子、電荷 \(-e\))の場合。計算方法は同じですが、α線の電荷 \(2e\) の代わりに電子の電荷 \(e\) を用います。
- 放射能(ベクレル)との関係: 放射能は「単位時間あたりの崩壊数」(\(\frac{\Delta N}{\Delta t}\))を表します。もし問題で放射能が問われたら、(3)で計算した崩壊数\(\Delta N\)を時間\(\Delta t\)で割るだけで求まります。
- 任意の時間における崩壊率を問う問題: 例えば「最初の1分間で崩壊する原子の割合は?」といった問題。\(t=1, T=4\) として、崩壊率 \(1 – (\frac{1}{2})^{\frac{1}{4}}\) を計算します(この場合は関数電卓が必要)。
- 初見の問題での着眼点:
- 時間と割合の関係を整理: 「\(t\)時間で割合が\(x\)になる」という情報を問題文から正確に抜き出し、半減期\(T\)を求める、あるいは\(T\)を使って未知の割合を求める、という流れをまず考えます。
- 問われている物理量を確認: (3)のように電流を問われた場合、ゴールから逆算して考えます。「電流\(I\)を求めるには、総電荷\(Q\)と時間\(t\)が必要」→「\(Q\)を求めるには、崩壊数\(\Delta N\)と1個あたりの電荷が必要」→「\(\Delta N\)を求めるには、初期総数\(N_0\)と半減期\(T\)が必要」というように、必要な要素を連鎖的に洗い出していくと解法の道筋が見えます。
- 単位に注意: 特に(3)では、質量[g]、原子量[g/mol]、時間[分]と[秒]、電荷[C]、電流[A]など、多くの単位が登場します。計算の各段階で単位が正しいか、特に時間の単位を秒に変換したかを確認する癖をつけましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「崩壊した量」と「残存した量」の混同:
- 誤解: (1)で「\(\frac{7}{8}\)が変化」をそのまま残存率としてしまい、\(\frac{7}{8} = (\frac{1}{2})^{\frac{12}{T}}\) と立式してしまう。また、(3)で崩壊数を求める際に、残存数 \(N_0(\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) をそのまま使ってしまう。
- 対策: 問題文を注意深く読み、「崩壊した」のか「残っている」のかを明確に区別しましょう。常に「残っている量 \(N\)= \(N_0 \times (\text{半減期項})\)」という基本に立ち返り、必要なら「崩壊した量 \(\Delta N\) = \(N_0 – N\)」を計算する、という手順を徹底しましょう。
- α線の電荷の誤認:
- 誤解: α線の電荷を \(+e\) と勘違いする。α線はヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、陽子2個と中性子2個からなるため、電荷は \(+2e\) です。
- 対策: α崩壊、β崩壊、γ崩壊で放出される粒子の正体(α線=\({}^{4}_{2}\text{He}\)、β線=\(e^-\)、γ線=電磁波)と、それぞれの電荷をセットで正確に覚えておきましょう。
- 時間の単位の不統一:
- 誤解: (3)で電流を計算する際に、時間を「4分」のまま使い、\(I = Q/4\) としてしまう。電流の単位アンペア[A]はクーロン毎秒[C/s]なので、時間は必ず秒に変換する必要があります。
- 対策: 物理量の単位を常に意識し、計算の最終段階でSI基本単位系(メートル、キログラム、秒、アンペアなど)に揃っているかを確認する習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- パイチャートによる崩壊イメージ: (1)では、円グラフ全体を初期量\(N_0\)とし、そこから\(\frac{7}{8}\)を占める扇形を「崩壊した部分」、残りの\(\frac{1}{8}\)の扇形を「残存部分」として図示すると、関係が直感的に理解できます。
- 原子の流れの図解: (3)では、箱の中に大量の原子(\(N_0\))が入っている状態をイメージします。時間が経つと、箱の壁からα線が飛び出し、箱の中の原子が別の種類の原子に変わっていく様子を想像します。飛び出したα線をすべて集めて電流計につなぐ、というイメージを持つと、計算の流れが物理現象と結びつきます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 半減期の公式 (\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)):
- 選定理由: (1), (2), (3)の全てで、放射性物質の量が時間とともに指数関数的に減少する、という核となる現象を記述するために必要不可欠だからです。
- 適用根拠: 個々の原子の崩壊は確率的ですが、その集合は統計的に非常に正確な指数法則に従うという、量子統計力学の基本原理に基づいています。
- アボガドロ定数を用いた原子数の計算 (\(N_0 = \frac{m}{M}N_A\)):
- 選定理由: (3)で、実験室で測定可能な「質量」というマクロな量と、物理法則が記述する「原子数」というミクロな量を結びつけるために必要だからです。
- 適用根拠: 物質量(mol)という概念を介して、質量と粒子数を関係づける化学・物理学の基本法則です。
- 電流の定義式 (\(I = Q/t\)):
- 選定理由: (3)の最終的な問いである「電流」を、その定義に基づいて計算するため。
- 適用根拠: 電流とは「電荷の時間的な流量」である、という電磁気学における最も基本的な定義の一つです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 半減期の計算:
- 戦略: 残存率から半減期を逆算する。
- フロー: ①崩壊率から残存率を計算 (\(1 – 7/8 = 1/8\)) → ②半減期の公式に \(t=12\) と残存率を代入 → ③指数方程式を解いて \(T\) を求める。
- (2) 残存率の計算:
- 戦略: (1)で求めた半減期を使い、指定時間後の残存率を計算する。
- フロー: ①半減期の公式に \(T=4, t=20\) を代入 → ②残存率を小数で計算 → ③100を掛けてパーセントに変換。
- (3) 平均電流の計算:
- 戦略: 崩壊した原子が放出した総電荷を時間で割り、電流を求める。
- フロー: ①質量から初期原子数\(N_0\)を計算 → ②半減期の公式で4分間に崩壊した原子数\(\Delta N\)を計算 → ③崩壊数\(\Delta N\)にα線の電荷\(2e\)を掛けて総電荷\(Q\)を計算 → ④総電荷\(Q\)を時間\(\Delta t\)(秒)で割って平均電流\(I\)を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算の活用: (1)や(2)のように、残存率が\(\frac{1}{2}, \frac{1}{4}, \frac{1}{8}, \dots\) といった綺麗な\((\frac{1}{2})^n\)の形になる場合は、対数を使わずに指数を比較することで、迅速かつ正確に計算できます。
- 大きな数の計算: (3)のように、\(10^{23}\)や\(10^{-19}\)といった大きな桁数・小さな桁数が混在する計算では、指数部分と係数部分を分けて計算するのが鉄則です。まず \(1.38 \times 2 \times 1.6\) のような係数部分の計算を行い、次に \(10^{21} \times 10^{-19} = 10^2\) のように指数部分の計算を別途行い、最後に合体させるとミスが減ります。
- 概算による検算: (3)の最終計算 \(I = \frac{4.4 \times 10^2}{240}\) は、およそ \(\frac{440}{240} \approx \frac{44}{24} \approx 2\) [A]に近い値になるはずだ、という大まかな見積もりを立てることで、桁の大きな間違いを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 半減期: 12分で\(\frac{1}{8}\)まで減少するのは、かなり速い崩壊です。半減期が4分という短い値になったのは妥当です。
- (2) 残存率: 半減期4分に対して20分は5半減期に相当します。\((\frac{1}{2})^5 = \frac{1}{32}\) なので、残存率はかなり小さくなるはずです。3.1%という値は妥当なオーダーです。
- (3) 電流値: 1.8Aという電流は、一般的な乾電池よりも大きく、非常に強力です。これは、①1.0gという非常に多くの原子が、②4分という極めて短い半減期で、③一斉に崩壊するという、問題設定が極端であるためです。物理現象としてあり得ない値ではなく、計算が正しければ問題ありません。
467 核エネルギー
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、核反応におけるエネルギー保存と運動量保存という、原子物理学の根幹をなす法則を扱う問題です。静止した原子核への粒子衝突という典型的な設定の中で、核反応式の立て方、運動量のベクトル的な扱い、そして質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))に基づいたエネルギー計算など、複数の重要概念を正確に適用する能力が問われます。
- 衝突前の粒子: 中性子(\(M_0, V_0\))
- 標的: 静止したホウ素原子(\({}^{10}_{5}\text{B}\))
- 生成物: ヘリウム(\(M_1, V_1\))と未知の原子X(\(M_2, V_2\))
- 散乱角: ヘリウムは\(\theta_1\)、原子Xは\(\theta_2\)
- 反応前後の全質量: \(11.0216 \text{ u}\), \(11.0186 \text{ u}\)
- 物理定数: \(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\), \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
- (4)での具体的な値: \(\theta_1=60^\circ\), \(\theta_2=90^\circ\), \(M_0=1.0 \text{ u}\), \(M_1=4.0 \text{ u}\), \(M_2=7.0 \text{ u}\)
- (1) 原子Xの原子番号と質量数。
- (2) 運動量保存則のx成分、y成分の立式。
- (3) エネルギー保存則の立式と、反応エネルギー\(Q\)の値。
- (4) 衝突した中性子の運動エネルギー。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この解説は、模範解答とは(4)の計算方針が異なります。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (4) 中性子の運動エネルギーの計算:
- 模範解答: エネルギー保存則の式に、運動量保存則から導いた \(V_1\) と \(V_2\) を代入し、\(V_0\) を \(Q\) で表してから、最終的にジュールに換算しています。この方法は、単位の換算が複雑で、物理的な見通しが悪くなりがちです。
- 本解説: 運動量保存則から \(V_1\) と \(V_2\) を \(V_0\) で表すところまでは同じですが、それらをエネルギー保存則の式に代入し、まず \(V_0^2\) を \(Q\) で表す関係式を導きます。その後、求めたい中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) と、質量欠損エネルギー \(Q\) の比を計算します。このアプローチにより、計算がより簡潔になり、入射エネルギーと反応エネルギーの関係性が明確になります。
- (4) 中性子の運動エネルギーの計算:
- 上記方針を採用する理由
- 計算の簡略化: 本解説の方法では、複雑な単位換算を最後の1回にまとめることができ、計算過程がすっきりとします。
- 物理的意味の明確化: 入射粒子(中性子)の運動エネルギーが、生成物(ヘリウム、X)の運動エネルギーと、反応で発生するエネルギー(質量欠損エネルギー)にどのように分配されるか、という物理的な関係がより明確に理解できます。
- 結果への影響
- 計算途中の式は模範解答と異なりますが、最終的に得られる答えは同じ値になります。
この問題のテーマは「核反応におけるエネルギー保存と運動量保存」です。核反応式の立て方、運動量保存則のベクトル的な扱い、そして質量とエネルギーの等価性という、原子物理学の重要概念を総合的に活用する能力が問われます。
- 核反応における保存則: 核反応の前後で、「電荷(陽子の数)」と「質量数(核子の数)」がそれぞれ保存されること。
- 運動量保存則: 核反応の前後で、系の全運動量が保存されること。運動量はベクトル量であるため、成分に分解して考える必要がある。
- エネルギー保存則(質量とエネルギーの等価性): 「(反応前の運動エネルギーの和)+(反応で発生するエネルギーQ)」が「(反応後の運動エネルギーの和)」に等しい、というエネルギー保存則を理解していること。発生エネルギーQは質量欠損 \(\Delta m\) から \(Q = \Delta m c^2\) で計算される。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、核反応式の電荷と質量数の保存則を用いて、未知の原子Xの原子番号と質量数を決定します。
- (2)では、中性子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸として、各方向で運動量保存則を立式します。
- (3)では、まず質量とエネルギーの等価性を用いて、与えられた質量変化から発生エネルギーQを計算します。次に、反応の前後でのエネルギー保存則を立式します。
- (4)では、(2)で立てた運動量保存の式を連立させて、生成物の速さ \(V_1, V_2\) を入射中性子の速さ \(V_0\) で表します。これを(3)のエネルギー保存則の式に代入し、\(V_0\) を \(Q\) で表すことで、中性子の初期運動エネルギーを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
核反応式の基本的なルールである「電荷の保存」と「質量数の保存」を適用する問題です。
この設問における重要なポイント
- 核反応式の記述: 反応物と生成物を正しく式に書き表します。中性子は \({}^{1}_{0}\text{n}\)、ホウ素は \({}^{10}_{5}\text{B}\)、ヘリウムは \({}^{4}_{2}\text{He}\) と表記します。未知の原子Xは \({}^{A}_{Z}\text{X}\) とおきます。
- 保存則の適用: 反応式の矢印の前後で、左上の数字(質量数)の和と、左下の数字(原子番号=電荷)の和がそれぞれ等しくなるように方程式を立てます。
具体的な解説と立式
未知の原子Xの質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とすると、この核反応は次のように書けます。
$$ {}^{1}_{0}\text{n} + {}^{10}_{5}\text{B} \rightarrow {}^{4}_{2}\text{He} + {}^{A}_{Z}\text{X} $$
核反応の前後で質量数(左上の数字の和)と原子番号(左下の数字の和)は保存されます。
質量数の保存則より、
$$ 1 + 10 = 4 + A \quad \cdots ① $$
原子番号の保存則より、
$$ 0 + 5 = 2 + Z \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 核反応における質量数と原子番号の保存
①式より、原子Xの質量数 \(A\) は、
$$ A = 11 – 4 = 7 $$
②式より、原子Xの原子番号 \(Z\) は、
$$ Z = 5 – 2 = 3 $$
したがって、①原子番号は3、②質量数は7となります。これはリチウム(\({}^{7}_{3}\text{Li}\))の原子核です。
核反応は、原子核のレゴブロックの組み替えのようなものです。「陽子と中性子の合計数(左上の数字)」と「陽子の数(左下の数字)」は、組み替えの前後で変わりません。この足し算と引き算のルールを使って、未知の原子Xの正体を突き止めます。
原子Xの①原子番号は3、②質量数は7です。これはリチウム \({}^{7}_{3}\text{Li}\) に相当し、安定に存在しうる原子核であるため、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
運動量保存則をベクトルとして扱い、成分に分解して立式する問題です。中性子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 中性子の進行方向をx軸の正の向き、それに垂直な方向をy軸とします。
- 運動量の分解: ヘリウムと原子Xの運動量を、x成分とy成分に分解します。ヘリウムの運動量のx成分は \(M_1V_1 \cos\theta_1\)、y成分は \(M_1V_1 \sin\theta_1\) となります。原子Xは \(\theta_2\) の方向に進みますが、図からy軸の負の向きに進むことがわかるため、運動量のy成分は \(-M_2V_2 \sin\theta_2\) となります。
- 運動量保存則の立式: x方向、y方向それぞれで「反応前の運動量の和 = 反応後の運動量の和」という式を立てます。
具体的な解説と立式
中性子の入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸とします。
反応前の運動量は、中性子のみが持ち、その大きさは \(M_0V_0\) でx軸の正の向きです。
反応後の運動量は、ヘリウムと原子Xが持ちます。
① 中性子の運動方向(x軸方向)の運動量保存則
反応前のx方向の運動量は \(M_0V_0\)。
反応後のx方向の運動量は、ヘリウムのx成分 \(M_1V_1 \cos\theta_1\) と、原子Xのx成分 \(M_2V_2 \cos\theta_2\) の和です。
したがって、x方向の運動量保存則は、
$$ M_0V_0 = M_1V_1 \cos\theta_1 + M_2V_2 \cos\theta_2 \quad \cdots ① $$
② x軸に垂直な方向(y軸方向)の運動量保存則
反応前のy方向の運動量は0です。
反応後のy方向の運動量は、ヘリウムのy成分 \(M_1V_1 \sin\theta_1\) と、原子Xのy成分 \(-M_2V_2 \sin\theta_2\) の和です。(原子Xはy軸負の向きに進むため、y成分は負となります)
したがって、y方向の運動量保存則は、
$$ 0 = M_1V_1 \sin\theta_1 – M_2V_2 \sin\theta_2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(成分表示)
この設問は立式のみを問うているため、計算は不要です。
衝突前後の「運動の勢い」は、合計すると変わらない、というルールを使います。ただし、運動の勢い(運動量)には向きがあるので、「横方向(中性子の進行方向)」と「縦方向」に分けて考えます。
①横方向:最初の中性子の勢いが、衝突後に飛び出すヘリウムと原子Xの「横方向の勢いの合計」と等しくなります。
②縦方向:最初は縦方向の勢いはない(ゼロ)ので、衝突後に飛び出すヘリウムの「上向きの勢い」と、原子Xの「下向きの勢い」がちょうど打ち消し合って、合計がゼロになる必要があります。
立式した①、②は、ベクトル量である運動量保存則を正しく成分分解して表現したものであり、妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
核反応におけるエネルギー保存則と、質量とエネルギーの等価性に関する問題です。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: 核反応では、運動エネルギーだけでなく、質量そのものが持つエネルギーも考慮に入れる必要があります。「反応前の全エネルギー = 反応後の全エネルギー」と考えます。これを運動エネルギーと反応エネルギー\(Q\)で表すと、「反応前の運動エネルギーの和 + \(Q\) = 反応後の運動エネルギーの和」となります。
- 質量欠損と発生エネルギー\(Q\): 反応エネルギー\(Q\)は、反応前後の質量差(質量欠損 \(\Delta m\))から生じます。アインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) を用いて、\(Q = \Delta m c^2\) と計算します。質量の単位が[u]、エネルギーの単位が[J]なので、単位換算に注意が必要です。
具体的な解説と立式
① エネルギー保存の法則
反応前の系のエネルギーは、入射中性子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) と、反応で発生するエネルギー \(Q\) の和です。(静止しているホウ素の運動エネルギーは0)
反応後の系のエネルギーは、ヘリウムの運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_1V_1^2\) と、原子Xの運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_2V_2^2\) の和です。
したがって、エネルギー保存則は次のように表せます。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 \quad \cdots ① $$
② 発生エネルギー \(Q\) の値
発生エネルギー \(Q\) は、反応前後の質量欠損 \(\Delta m\) に光速 \(c\) の2乗を掛けたものです。
反応前の全質量は \(m_{\text{前}} = 11.0216\) [u]、反応後の全質量は \(m_{\text{後}} = 11.0186\) [u] です。
質量欠損 \(\Delta m\) は、
$$ \Delta m = m_{\text{前}} – m_{\text{後}} \quad \cdots ② $$
発生エネルギー \(Q\) は、
$$ Q = \Delta m c^2 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 核反応におけるエネルギー保存則
- 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
まず、質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= 11.0216 – 11.0186 \\[2.0ex]&= 0.0030 \text{ [u]} \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}
\end{aligned}
$$
次に、この質量欠損をジュール[J]単位のエネルギー \(Q\) に変換します。
\(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\)、\(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]&= (3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}) \times c^2 \\[2.0ex]&= (3.0 \times 10^{-3} \times 1.7 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]&= (5.1 \times 10^{-30}) \times (9.0 \times 10^{16}) \\[2.0ex]&= 45.9 \times 10^{-14} \\[2.0ex]&= 4.59 \times 10^{-13} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(Q \approx 4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) となります。
① 核反応では、運動エネルギーに加えて、反応で質量がエネルギーに変わった分(\(Q\))も考慮して、エネルギーの収支を計算します。「衝突前の運動エネルギー + 反応で生まれたエネルギー = 衝突後の運動エネルギーの合計」という式を立てます。
② 反応で生まれたエネルギー \(Q\) は、反応の前後で「失われた質量(質量欠損)」に、光の速さの2乗という非常に大きな数を掛けて計算します。
① エネルギー保存則の式は \(\frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2\) であり、② 発生エネルギー \(Q\) は約 \(4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) です。反応前後で質量が減少しているため、エネルギーが放出される発熱反応であり、\(Q\)が正の値になるのは妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(2)の運動量保存則と(3)のエネルギー保存則を連立させて、未知の運動エネルギーを求める問題です。計算が複雑になりがちなので、見通しよく進める工夫が求められます。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式の処理: (2)で立てた2本の運動量保存の式に、与えられた角度と質量の値を代入し、\(V_1\) と \(V_2\) を \(V_0\) を用いて表します。
- エネルギー保存則への代入: 求めた \(V_1\) と \(V_2\) の関係式を、(3)のエネルギー保存則の式に代入します。これにより、未知数が \(V_0\) と \(Q\) だけの式が得られます。
- 求める量の計算: 最終的に求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。エネルギー保存則の式を \(K_0\) について整理し、(3)で計算した \(Q\) の値を代入して最終的な答えを求めます。
具体的な解説と立式
(2)で立てた運動量保存則の式に、与えられた値を代入します。
\(M_0=1.0, M_1=4.0, M_2=7.0, \theta_1=60^\circ, \theta_2=90^\circ\)
x方向の式:
$$ 1.0 \times V_0 = 4.0 \times V_1 \cos 60^\circ + 7.0 \times V_2 \cos 90^\circ \quad \cdots ①’ $$
y方向の式:
$$ 0 = 4.0 \times V_1 \sin 60^\circ – 7.0 \times V_2 \sin 90^\circ \quad \cdots ②’ $$
これらの式を解いて \(V_1, V_2\) を \(V_0\) で表し、エネルギー保存則の式に代入します。
エネルギー保存則の式は、各項に \(\frac{1}{2}\) がついているので、運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}MV^2\) を用いて書き直すと見通しが良くなります。
$$ K_0 + Q = K_1 + K_2 $$
ここで、\(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\), \(K_1 = \frac{1}{2}M_1V_1^2\), \(K_2 = \frac{1}{2}M_2V_2^2\) です。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- エネルギー保存則
まず、①’式と②’式を解きます。
\(\cos 60^\circ = \frac{1}{2}\), \(\cos 90^\circ = 0\), \(\sin 60^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\), \(\sin 90^\circ = 1\) なので、
①’式より:
$$
\begin{aligned}
V_0 &= 4.0 V_1 \times \frac{1}{2} + 0 \\[2.0ex]V_0 &= 2.0 V_1 \\[2.0ex]V_1 &= \frac{V_0}{2.0}
\end{aligned}
$$
②’式より:
$$
\begin{aligned}
0 &= 4.0 V_1 \times \frac{\sqrt{3}}{2} – 7.0 V_2 \times 1 \\[2.0ex]7.0 V_2 &= 2.0\sqrt{3} V_1
\end{aligned}
$$
この式に \(V_1 = \frac{V_0}{2.0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
7.0 V_2 &= 2.0\sqrt{3} \left( \frac{V_0}{2.0} \right) \\[2.0ex]V_2 &= \frac{\sqrt{3}}{7.0} V_0
\end{aligned}
$$
次に、これらの関係をエネルギー保存則に代入します。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 $$
両辺を2倍し、質量と速度の関係式を代入します。
$$
\begin{aligned}
M_0V_0^2 + 2Q &= M_1V_1^2 + M_2V_2^2 \\[2.0ex]1.0 V_0^2 + 2Q &= 4.0 \left( \frac{V_0}{2.0} \right)^2 + 7.0 \left( \frac{\sqrt{3}}{7.0} V_0 \right)^2 \\[2.0ex]1.0 V_0^2 + 2Q &= 4.0 \left( \frac{V_0^2}{4.0} \right) + 7.0 \left( \frac{3 V_0^2}{49} \right) \\[2.0ex]1.0 V_0^2 + 2Q &= 1.0 V_0^2 + \frac{21}{49} V_0^2 \\[2.0ex]1.0 V_0^2 + 2Q &= 1.0 V_0^2 + \frac{3}{7} V_0^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(1.0 V_0^2\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
2Q &= \frac{3}{7} V_0^2 \\[2.0ex]V_0^2 &= \frac{14}{3} Q
\end{aligned}
$$
求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 1.0 \times \left( \frac{14}{3} Q \right) \\[2.0ex]&= \frac{7}{3} Q
\end{aligned}
$$
(3)で求めた \(Q = 4.59 \times 10^{-13}\) [J] を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{7}{3} \times (4.59 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]&= 7 \times (1.53 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]&= 10.71 \times 10^{-13} \\[2.0ex]&= 1.071 \times 10^{-12} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) となります。
(2)で立てた運動の勢い(運動量)の保存ルールから、衝突後のヘリウムと原子Xの速さを、衝突した中性子の速さを使って表します。次に、(3)で立てたエネルギーの保存ルールに、この速さの関係を代入します。すると、たくさんの文字が消えていき、最終的に「中性子の運動エネルギーは、反応で生まれたエネルギーQの \(\frac{7}{3}\) 倍である」というシンプルな関係式が出てきます。あとは、(3)で計算したQの値をこの式に入れれば答えが求まります。
思考の道筋とポイント
この解法では、エネルギー保存則の式を、質量の単位[u]と速度の単位[m/s]が混在したまま扱います。まず、反応エネルギー\(Q\)を[u]の次元を持つ量 \(Q’\) に換算し、エネルギー保存則の式から \(V_0^2\) を \(Q’\) で表します。最後に、求めたい運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) を計算する際に、すべての単位をSI単位系(J)に変換します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー単位の換算: 反応エネルギー\(Q\) [J]と、[u]を質量の単位とした運動エネルギー \(\frac{1}{2}MV^2\) [u\(\cdot\)(m/s)\(^2\)]を同じ式で扱うため、単位を揃える必要があります。ここでは、\(Q\)を[u\(\cdot\)(m/s)\(^2\)]の次元を持つ量 \(Q’\) に変換します。\(Q = Q’ \times (1\text{uあたりの質量[kg]})\) の関係を使います。
- 計算の実行: 運動量保存則から導いた \(V_1, V_2\) と \(V_0\) の関係を、単位を揃えたエネルギー保存則に代入し、\(V_0^2\) を \(Q’\) で表します。
- 最終的な単位換算: 求めたい運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) を計算する最後の段階で、質量 \(M_0\) を[u]から[kg]に換算し、ジュール[J]単位で結果を求めます。
具体的な解説と立式
運動量保存則から \(V_1 = \frac{V_0}{2.0}\), \(V_2 = \frac{\sqrt{3}}{7.0}V_0\) が得られるところまでは同じです。
エネルギー保存則の式を考えます。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 $$
この式では、\(Q\)の単位は[J]ですが、運動エネルギーの項で使う質量\(M\)の単位は[u]です。このままでは計算できないため、単位を形式的に揃えます。
(3)で求めた質量欠損 \(\Delta m = 3.0 \times 10^{-3}\) [u] を使って、エネルギー保存則を質量の単位[u]で表現し直します。
反応前の全エネルギーは \(\frac{1}{2}M_0V_0^2 + (\text{反応前の静止エネルギー})\)。
反応後の全エネルギーは \(\frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 + (\text{反応後の静止エネルギー})\)。
ここで、\((\text{反応前の静止エネルギー}) – (\text{反応後の静止エネルギー}) = \Delta m c^2 = Q\) です。
この関係をエネルギー保存則に代入すると、
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 – Q $$
ここで、\(Q\)を[u]単位の質量欠損\(\Delta m\)で表現し直します。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 – \Delta m c^2 $$
この式に、\(M_0=1.0, M_1=4.0, M_2=7.0\) と \(V_1, V_2\) の関係を代入します。
$$ \frac{1}{2}(1.0)V_0^2 = \frac{1}{2}(4.0)\left(\frac{V_0}{2.0}\right)^2 + \frac{1}{2}(7.0)\left(\frac{\sqrt{3}}{7.0}V_0\right)^2 – \Delta m c^2 $$
上記で立てた式を \(V_0^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}V_0^2 &= \frac{1}{2}(4.0)\frac{V_0^2}{4.0} + \frac{1}{2}(7.0)\frac{3V_0^2}{49} – \Delta m c^2 \\[2.0ex]\frac{1}{2}V_0^2 &= \frac{1}{2}V_0^2 + \frac{3}{14}V_0^2 – \Delta m c^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(\frac{1}{2}V_0^2\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{3}{14}V_0^2 – \Delta m c^2 \\[2.0ex]\frac{3}{14}V_0^2 &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]V_0^2 &= \frac{14}{3} \Delta m c^2
\end{aligned}
$$
求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。
ここで、質量 \(M_0\) は[u]単位の数値 \(M_{0\text{[u]}} = 1.0\) と、単位[u]から[kg]への換算係数 \(k = 1.7 \times 10^{-27}\) [kg/u] を用いて \(M_0 = M_{0\text{[u]}} \times k\) と表せます。同様に \(\Delta m = \Delta m_{\text{[u]}} \times k\) です。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} (M_{0\text{[u]}} \times k) \times \left( \frac{14}{3} (\Delta m_{\text{[u]}} \times k) c^2 \right)
\end{aligned}
$$
この式は単位の扱いが複雑です。模範解答のように、\(V_0^2 = \frac{14}{3}\Delta m c^2\) の \(\Delta m\) を[u]単位のまま計算を進めます。
$$ V_0^2 = \frac{14}{3} (3.0 \times 10^{-3}) c^2 = 14 \times 10^{-3} c^2 $$
求める運動エネルギー \(K_0\) は、
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times (1.0 \text{ [u]}) \times (14 \times 10^{-3} c^2)
\end{aligned}
$$
ここで単位を[J]に変換します。\(1\text{u} \times c^2 = (1.7 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)^2 = 1.53 \times 10^{-10}\) [J] ですが、(3)で計算した \(Q = \Delta m c^2\) の値を利用する方が賢明です。
\(Q = (3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}) \times c^2 = 4.59 \times 10^{-13}\) [J] でした。
この関係から、\(1 \text{u} \cdot c^2 = \frac{4.59 \times 10^{-13}}{3.0 \times 10^{-3}} = 1.53 \times 10^{-10}\) [J] となります。
これを用いて \(K_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} \times 1.0 \times 14 \times 10^{-3} \times c^2 \\[2.0ex]&= 7.0 \times 10^{-3} \times (1\text{u} \cdot c^2) \\[2.0ex]&= 7.0 \times 10^{-3} \times (1.53 \times 10^{-10}) \\[2.0ex]&= 10.71 \times 10^{-13} \\[2.0ex]&= 1.071 \times 10^{-12} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) となります。
衝突した中性子の運動エネルギーは \(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) です。
この値は、反応で発生したエネルギー \(Q \approx 4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) よりも大きいです。\(K_0 = \frac{7}{3}Q \approx 2.3 Q\) であり、入射エネルギーの一部が生成物の運動エネルギーに分配され、さらに反応エネルギーも運動エネルギーに加わっているという物理描像と矛盾しません。計算結果は妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 核反応における二大保存則:
- 核心: この問題は、核反応を支配する二つの巨大な柱、「①電荷と質量数の保存」と「②エネルギーと運動量の保存」を使いこなせるかを試しています。
- 理解のポイント:
- ①は、原子核の構成要素(陽子・中性子)が反応の前後で消えたり現れたりしない、という粒子的な保存則です。(1)で使います。
- ②は、力学的な量の保存則です。特に、運動量はベクトル量なので方向を含めて保存し、エネルギーは質量がエネルギーに変わりうる(\(E=mc^2\))という相対論的な効果を含めて保存します。これが(2)〜(4)の根幹をなす法則です。
- 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
- 核心: 核反応で莫大なエネルギーが放出(または吸収)される源泉は、反応前後の質量のわずかな差(質量欠損)です。この質量とエネルギーの関係を結びつけるのが \(Q = \Delta m c^2\) であり、(3)の計算の鍵となります。
- 理解のポイント: 「質量はエネルギーの一形態である」という考え方を身につけることが重要です。質量が減れば、その分だけエネルギーが生まれ(発熱反応)、逆に質量が増えれば、その分だけ外部からエネルギーが吸収された(吸熱反応)ことを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 原子核の分裂・融合反応: ウランの核分裂や、水素の核融合など、より有名な核反応でも、適用する物理法則(電荷・質量数の保存、運動量保存、エネルギー保存)は全く同じです。
- 未知の角度や質量を求める問題: この問題ではエネルギーを求めましたが、逆にエネルギーが与えられていて、放出される粒子の角度 \(\theta_1\) や質量 \(M_2\) を未知数として解く問題も考えられます。その場合でも、運動量保存とエネルギー保存の連立方程式を解くというアプローチは変わりません。
- 相対論的効果が無視できない高エネルギー領域の問題: 大学レベルになると、粒子の速さが光速に近くなり、運動エネルギーの式が \(\frac{1}{2}mv^2\) ではなくなったり、運動量の式も変わったりしますが、根本的な保存則の考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 反応の種類を問わず、まず核反応式を立てる: 何が何に変わったのかを \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の記法で書き出し、電荷と質量数の保存を確認します。これが全ての土台です。
- 運動量保存とエネルギー保存のどちらが有効かを見極める: 粒子の速さや角度が関わる問題では、運動量保存則が必須です。質量の変化や反応熱が関わる問題では、エネルギー保存則(質量欠損を含む)が必須です。この問題のように両方が絡む場合は、両方を立式して連立させる必要があります。
- 座標軸を賢く設定する: 運動量保存を考える際は、入射粒子の進行方向をx軸に取ると、反応前のy成分が0になり、式が単純化されて計算が楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量をスカラーとして扱ってしまう:
- 誤解: 運動量保存則を \(M_0V_0 = M_1V_1 + M_2V_2\) のように、向きを考えずに速さの足し算で立式してしまう。
- 対策: 運動量は常にベクトル(矢印)でイメージする癖をつけましょう。衝突後の粒子が斜めに飛ぶ問題では、必ずx成分とy成分に分解して考えることを徹底してください。
- エネルギー保存則におけるQの扱い:
- 誤解: \(Q\) を反応後のエネルギーとして、\(\frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 + Q\) のように、符号を間違えて式を立ててしまう。
– 対策: \(Q\) は「反応によって生まれたエネルギー」であり、反応前のエネルギーに加算されて、反応後のエネルギーになると考えましょう。「(反応前の全エネルギー)=(反応後の全エネルギー)」という大原則に立ち返り、\(E_{\text{前運動}} + E_{\text{質量}} = E_{\text{後運動}}\) の \(E_{\text{質量}}\) の部分が \(Q\) に対応すると理解すると間違いが減ります。
- 単位換算のミス:
- 誤解: (3)で \(Q\) を計算する際に、質量欠損[u]からエネルギー[J]への換算を忘れたり、\(1\text{u}\)の換算値を間違えたりする。また、(4)の計算途中で、質量の単位が[u]のままであることを忘れ、エネルギーの単位を[J]と勘違いして計算を進めてしまう。
- 対策: 計算の各段階で、物理量の単位が何であるかを常に意識しましょう。特に、異なる単位系([u]と[kg]、[J]と[MeV]など)が混在する問題では、どこかの段階で単位を統一する必要があります。最終的にジュールで答えるなら、全ての量をSI単位系(kg, m, s)に変換してから計算するのが最も安全です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 運動量ベクトル図: 反応前の運動量ベクトル \(\vec{p_0}\)(x軸方向の矢印)と、反応後の運動量ベクトル \(\vec{p_1}\) と \(\vec{p_2}\) を描きます。運動量保存則 \(\vec{p_0} = \vec{p_1} + \vec{p_2}\) は、この3本の矢印で三角形が作れること(\(\vec{p_1}\)の終点に\(\vec{p_2}\)の始点をつなぐと、\(\vec{p_0}\)の終点に一致する)を意味します。このベクトル三角形を描くことで、x, y成分の式が図形的に理解できます。
- エネルギーの棒グラフ: 反応前と反応後で、エネルギーの内訳がどう変わったかを棒グラフでイメージします。反応前は「中性子の運動エネルギー」と「質量エネルギー」の棒グラフ。反応後は「ヘリウムの運動エネルギー」「Xの運動エネルギー」「質量エネルギー」の棒グラフ。反応で質量エネルギーの棒が少し短くなり、その分だけ運動エネルギーの棒の合計が長くなった、というイメージを持つと、\(Q\)の役割が明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電荷・質量数保存則:
- 選定理由: (1)で未知の生成物を特定するため。これは核反応を記述する上での最も基本的なルールです。
- 適用根拠: 陽子や中性子といった核子が、核反応で勝手に生成・消滅しないという経験則に基づいています(対生成・対消滅などの特殊な例を除く)。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (2),(4)で、衝突・分裂現象における粒子の速度や角度の関係を導くため。系に外力が働かない限り、運動量は常に保存されるという力学の大原則です。
- 適用根拠: ニュートンの運動の第三法則(作用・反作用の法則)から導かれる、物理学の普遍的な法則です。
- エネルギー保存則(\(E=mc^2\) を含む):
- 選定理由: (3),(4)で、質量の変化を含めたエネルギーの収支を計算するため。
- 適用根拠: 「エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は不変である」という物理学の根幹をなす法則。核反応では、質量もエネルギーの一形態として扱わなければならない、という相対性理論の帰結を適用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 原子Xの特定:
- 戦略: 核反応式の保存則を用いる。
- フロー: ①核反応式を記述 → ②質量数の和が保存する式を立式 → ③原子番号の和が保存する式を立式 → ④連立方程式を解いてAとZを決定。
- (2) 運動量保存則の立式:
- 戦略: 運動量をベクトルとして扱い、成分分解する。
- フロー: ①入射方向をx軸に設定 → ②反応前後の運動量をx, y成分に分解 → ③x方向で運動量保存則を立式 → ④y方向で運動量保存則を立式。
- (3) エネルギーの計算:
- 戦略: 質量欠損から反応エネルギーQを求め、エネルギー保存則を立てる。
- フロー: ①反応前後の質量差(\(\Delta m\))を計算 → ②\(Q=\Delta m c^2\)でエネルギー[J]に換算 → ③「反応前の運動エネルギー + Q = 反応後の運動エネルギー」の形で保存則を立式。
- (4) 入射エネルギーの計算:
- 戦略: 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解く。
- フロー: ①(2)の運動量保存の式から\(V_1, V_2\)を\(V_0\)で表す → ②(3)のエネルギー保存の式に代入し、\(V_0^2\)を\(Q\)で表す → ③求める運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) を\(Q\)を用いて計算 → ④数値を代入して最終的な値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (4)の計算では、すぐに質量の数値(1.0, 4.0, 7.0)を代入するのではなく、\(M_0, M_1, M_2\)のまま計算を進め、最後に代入する方が、物理的な意味を見失いにくく、検算もしやすい場合があります。
- 単位の次元を意識する: (4)の \(K_0 = \frac{7}{3}Q\) のように、最終的にエネルギー[J]を求める式が、エネルギー[J]の定数倍という形になっているかを確認しましょう。もし単位の次元が合わなければ、途中の計算が間違っている証拠です。
- 三角関数の値を正確に: \(\cos 60^\circ, \sin 60^\circ, \cos 90^\circ, \sin 90^\circ\) などの基本的な三角関数の値を間違えると、その後の計算がすべて無駄になります。正確に覚えておきましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- エネルギーの分配を考える: (4)の計算結果から、\(K_0 = \frac{7}{3}Q\), \(K_1 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 = \frac{1}{2}(4.0)(\frac{V_0}{2})^2 = \frac{1}{2}V_0^2 = \frac{1}{M_0}K_0 = K_0\), \(K_2 = \frac{1}{2}M_2V_2^2 = \frac{1}{2}(7.0)(\frac{\sqrt{3}}{7}V_0)^2 = \frac{3}{14}V_0^2 = \frac{3}{7M_0}K_0 = \frac{3}{7}K_0\) となります。エネルギー保存則 \(K_0+Q = K_1+K_2\) に代入すると \(K_0+Q = K_0 + \frac{3}{7}K_0\) となり、\(Q = \frac{3}{7}K_0\)、すなわち \(K_0 = \frac{7}{3}Q\) が得られます。このように、各粒子のエネルギーが保存則を満たしているかを確認することで、計算の正しさを強力に裏付けることができます。
468 核分裂反応
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ウランの核分裂反応を題材に、核物理学の根幹をなす法則を多角的に問う問題です。核反応式の係数決定から始まり、質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))を用いた質量やエネルギーの計算、運動量保存則の応用、そして核エネルギーの莫大さを身近な化学エネルギーと比較するスケールの大きな問いまで、段階的に理解を深めていく構成になっています。
- 核分裂反応: \({}^{235}_{92}\text{U} + {}^{1}_{0}\text{n} \rightarrow {}^{94}_{(\text{ア})}\text{Sr} + {}^{(\text{イ})}_{54}\text{Xe} + 2 \cdot {}^{1}_{0}\text{n}\)
- 発生エネルギー: \(185 \text{ MeV}\)
- 各粒子の質量: \(m_{^{235}\text{U}} = 235.044 \text{ u}\), \(m_{\text{n}} = 1.009 \text{ u}\), \(m_{^{94}\text{Sr}} = 93.915 \text{ u}\)
- 換算レート: \(1 \text{ u}\) は \(931 \text{ MeV}\) に相当
- 反応前の運動量は無視できる。
- (3)の条件: 2個の中性子は同じ運動エネルギーで互いに逆向きに運動する。
- (4)の比較対象: 石油1kgの燃焼エネルギーは \(4.0 \times 10^7 \text{ J}\)
- (1) 核反応式の空欄(ア), (イ)に入る数値。
- (2) キセノン(\({}^{(\text{イ})}_{54}\text{Xe}\))の質量[u]。
- (3) ストロンチウム(\({}^{94}_{38}\text{Sr}\))の運動エネルギーは、キセノン(\({}^{140}_{54}\text{Xe}\))の運動エネルギーの何倍か。
- (4) 1gのウラン235の核分裂エネルギーに相当する石油の質量[kg]。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ウランの核分裂反応」です。核反応の基本的な保存則から始まり、質量欠損とエネルギーの関係、さらには分裂後の生成物の運動量保存と運動エネルギーの関係、そして核エネルギーの莫大さを日常的な化学エネルギー(石油の燃焼)と比較する、という多角的な視点から核物理を掘り下げます。
- 核反応における保存則: 核反応の前後で、「電荷(陽子の数)」と「質量数(核子の数)」がそれぞれ保存されること。
- 質量とエネルギーの等価性: 反応で発生するエネルギーが、反応前後の質量差(質量欠損)に由来するという関係 \(E = \Delta m c^2\) を理解していること。また、単位[u]と[MeV]の関係を正しく使えること。
- 運動量保存則: 反応の前後で、系の全運動量が保存されること。特に、反応前の運動量がゼロの場合、反応後の全運動量もゼロになることを利用する。
- 物質量と原子の個数: 質量、原子量(質量数で近似)、アボガドロ定数を用いて、物質に含まれる原子の総数を計算できること((4)で暗黙的に使用)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、核反応式の電荷と質量数の保存則を用いて、未知の原子番号(ア)と質量数(イ)を決定します。
- (2)では、(1)の結果と、与えられた発生エネルギーおよび質量の値を用いて、質量欠損の式から未知の原子核の質量を逆算します。
- (3)では、反応前の運動量がゼロであることから、反応後の生成物全体の運動量の和もゼロになるという運動量保存則を適用し、2つの生成物の運動エネルギーの比を計算します。
- (4)では、まず1gのウランが全て核分裂した際に放出される総エネルギーを計算し、それが石油何kg分の燃焼エネルギーに相当するかを比較計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
核反応式の基本的なルールである「電荷の保存」と「質量数の保存」を適用する問題です。
この設問における重要なポイント
- 核反応式の確認: 反応物(ウラン235、中性子1個)と生成物(ストロンチウム、キセノン、中性子2個)を正確に把握します。
- 保存則の適用: 反応式の矢印の前後で、左上の数字(質量数)の和と、左下の数字(原子番号=電荷)の和がそれぞれ等しくなるように方程式を立てます。
具体的な解説と立式
与えられた核反応式は次の通りです。
$$ {}^{235}_{92}\text{U} + {}^{1}_{0}\text{n} \rightarrow {}^{94}_{(\text{ア})}\text{Sr} + {}^{(\text{イ})}_{54}\text{Xe} + 2 \cdot {}^{1}_{0}\text{n} $$
核反応の前後で質量数(左上の数字の和)と原子番号(左下の数字の和)は保存されます。
原子番号の保存則(電荷の保存)より、
$$ 92 + 0 = (\text{ア}) + 54 + 2 \times 0 \quad \cdots ① $$
質量数の保存則(核子の数の保存)より、
$$ 235 + 1 = 94 + (\text{イ}) + 2 \times 1 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 核反応における質量数と原子番号の保存
①式より、(ア)の値は、
$$ (\text{ア}) = 92 – 54 = 38 $$
②式より、(イ)の値は、
$$ (\text{イ}) = 236 – 94 – 2 = 140 $$
核反応は、原子核のレゴブロックの組み替えのようなものです。「陽子と中性子の合計数(左上の数字)」と「陽子の数(左下の数字)」は、組み替えの前後で変わりません。この足し算と引き算のルールを使って、空欄(ア)と(イ)に入る数字を決定します。
(ア)は38、(イ)は140です。これらはそれぞれストロンチウム(\({}^{94}_{38}\text{Sr}\))とキセノン(\({}^{140}_{54}\text{Xe}\))の同位体として妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
質量欠損と発生エネルギーの関係から、未知の質量を逆算する問題です。単位の扱いに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 質量欠損の計算: まず、発生エネルギー \(E=185\) [MeV] を、与えられた換算レート \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) を用いて、質量[u]の単位に変換します。これが質量欠損 \(\Delta m\) となります。
- 質量欠損の定義式: 質量欠損 \(\Delta m\) は、「反応前の質量の和」から「反応後の質量の和」を引いたものです。この式に、既知の質量と(1)で求めた質量欠損を代入し、未知のキセノンの質量を求めます。
具体的な解説と立式
まず、発生したエネルギー \(E=185\) [MeV] に相当する質量欠損 \(\Delta m\) [u] を計算します。
$$ \Delta m = \frac{E}{931} = \frac{185}{931} \text{ [u]} \quad \cdots ① $$
次に、質量欠損の定義式を立てます。キセノン(\({}^{140}_{54}\text{Xe}\))の質量を \(m_{\text{Xe}}\) [u] とします。
$$ \Delta m = (m_{^{235}\text{U}} + m_{\text{n}}) – (m_{^{94}\text{Sr}} + m_{\text{Xe}} + 2 \cdot m_{\text{n}}) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = \Delta m c^2\) (この問題では \(1\text{u} \leftrightarrow 931\text{MeV}\) の形で使用)
①式より、質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$ \Delta m = \frac{185}{931} \approx 0.1987 \text{ [u]} $$
(模範解答では0.199として計算しているので、それに倣います)
$$ \Delta m \approx 0.199 \text{ [u]} $$
②式に、与えられた質量と \(\Delta m\) の値を代入して \(m_{\text{Xe}}\) について解きます。
$$ 0.199 = (235.044 + 1.009) – (93.915 + m_{\text{Xe}} + 2 \times 1.009) $$
$$ 0.199 = 236.053 – (93.915 + m_{\text{Xe}} + 2.018) $$
$$ 0.199 = 236.053 – (95.933 + m_{\text{Xe}}) $$
$$ 0.199 = 236.053 – 95.933 – m_{\text{Xe}} $$
$$ 0.199 = 140.120 – m_{\text{Xe}} $$
$$
\begin{aligned}
m_{\text{Xe}} &= 140.120 – 0.199 \\[2.0ex]&= 139.921 \text{ [u]}
\end{aligned}
$$
反応で生まれたエネルギー(185 MeV)は、反応の前後で「失われた質量」が姿を変えたものです。まず、185 MeVが質量何uに相当するかを計算します。次に、「失われた質量 = (反応前の全質量) – (反応後の全質量)」という引き算の式を立て、未知のキセノンの質量を逆算します。
キセノン(\({}^{140}_{54}\text{Xe}\))の質量は 139.921 u です。質量数140に対して、質量が139.921 u というのは物理的に妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
運動量保存則を用いて、2つの生成物の運動エネルギーの比を求める問題です。反応前の運動量がゼロであるという点が鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用: 反応前のウランと中性子は静止している(運動量を無視する)ので、反応前の全運動量はゼロです。したがって、反応後の全運動量もゼロでなければなりません。
- 運動量の関係: 反応後に生成されるストロンチウム(\(\text{Sr}\))、キセノン(\(\text{Xe}\))、2個の中性子(\(\text{n}\))の運動量のベクトル和はゼロになります。問題の条件より、2個の中性子は互いに逆向きで同じ大きさの運動量を持つため、2つの中性子の運動量の和はゼロです。この結果、Srの運動量とXeの運動量も、大きさが等しく向きが逆でなければならないことがわかります。
- 運動エネルギーの比: 2つの物体の運動量の大きさが等しいとき(\(p_1=p_2\))、その運動エネルギーの比は質量の逆比に等しくなります。\(K = \frac{p^2}{2m}\) より、\(K_1:K_2 = \frac{1}{m_1}:\frac{1}{m_2}\)。
具体的な解説と立式
反応前の系の運動量はゼロとみなせるので、運動量保存則より、反応後の全運動量もゼロです。
$$ \vec{p}_{\text{Sr}} + \vec{p}_{\text{Xe}} + \vec{p}_{\text{n1}} + \vec{p}_{\text{n2}} = \vec{0} $$
問題の条件より、2個の中性子の運動量は大きさが等しく逆向きなので、\(\vec{p}_{\text{n1}} + \vec{p}_{\text{n2}} = \vec{0}\) です。
したがって、
$$ \vec{p}_{\text{Sr}} + \vec{p}_{\text{Xe}} = \vec{0} $$
これは、ストロンチウムの運動量とキセノンの運動量が、大きさが等しく向きが逆であることを意味します。それぞれの運動量の大きさを \(p_{\text{Sr}}\), \(p_{\text{Xe}}\) とすると、
$$ p_{\text{Sr}} = p_{\text{Xe}} \quad \cdots ① $$
ストロンチウムの運動エネルギーを \(K_{\text{Sr}}\)、キセノンの運動エネルギーを \(K_{\text{Xe}}\) とします。運動エネルギーは \(K = \frac{p^2}{2M}\) と表せるので、
$$ K_{\text{Sr}} = \frac{p_{\text{Sr}}^2}{2M_{\text{Sr}}} \quad \cdots ② $$
$$ K_{\text{Xe}} = \frac{p_{\text{Xe}}^2}{2M_{\text{Xe}}} \quad \cdots ③ $$
求めたいのは、これらの比 \(\frac{K_{\text{Sr}}}{K_{\text{Xe}}}\) です。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \frac{p^2}{2M}\)
②式と③式から比を計算します。
$$ \frac{K_{\text{Sr}}}{K_{\text{Xe}}} = \frac{p_{\text{Sr}}^2 / (2M_{\text{Sr}})}{p_{\text{Xe}}^2 / (2M_{\text{Xe}})} $$
①式の関係 \(p_{\text{Sr}} = p_{\text{Xe}}\) を用いると、
$$ \frac{K_{\text{Sr}}}{K_{\text{Xe}}} = \frac{M_{\text{Xe}}}{M_{\text{Sr}}} $$
ここに、それぞれの質量(質量数で近似)を代入します。\(M_{\text{Sr}} \approx 94\), \(M_{\text{Xe}} \approx 140\)。より正確には、与えられた質量と(2)で求めた質量を用います。
\(M_{\text{Sr}} = 93.915 \text{ u}\), \(M_{\text{Xe}} = 139.921 \text{ u}\)。
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{\text{Sr}}}{K_{\text{Xe}}} &= \frac{139.921}{93.915} \\[2.0ex]&\approx 1.4898
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、1.5倍となります。
分裂前は全体が止まっているので、分裂後も全体の運動の勢いはゼロでなければなりません。問題の条件から、2つの中性子はお互いの勢いを打ち消し合っているので、残りのストロンチウムとキセノンも、互いに逆向きに同じ勢いで飛び出す必要があります。運動の勢いが同じでも、軽いストロンチウムの方が速く飛び、重いキセノンの方がゆっくり飛びます。運動エネルギーは速さの2乗に比例するため、軽いストロンチウムの方が大きな運動エネルギーを持つことになります。その比は、質量の逆比に等しくなります。
ストロンチウムの運動エネルギーは、キセノンの運動エネルギーの約1.5倍です。軽い粒子の方が大きな運動エネルギーを得るという結果は、物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
1gのウランが持つ核エネルギーを計算し、それが石油の燃焼エネルギーの何kg分に相当するかを比較する問題です。原子1個あたりのエネルギーから、マクロな量(1g)のエネルギーを計算するスケールの変換がポイントです。
この設問における重要なポイント
- 1g中のウラン原子数の計算: 1gのウラン235が何モルかを計算し、アボガドロ定数を掛けて原子の総数を求めます。
- 総エネルギーの計算: ウラン原子1個の核分裂で185 MeVのエネルギーが放出されるので、1g中の全原子が分裂したときの総エネルギーを計算します。単位をMeVからジュール(J)に変換する必要があります。
- 石油の質量への換算: 計算した総エネルギーを、石油1kgあたりの燃焼エネルギーで割ることで、等価な石油の質量を求めます。
具体的な解説と立式
1. 1gの\({}^{235}\text{U}\)に含まれる原子数 \(N\) の計算
ウラン235の原子量を \(M \approx 235\) [g/mol]、アボガドロ定数を \(N_A = 6.0 \times 10^{23}\) [/mol] とすると、1g中の原子数 \(N\) は、
$$ N = \frac{1.0 \text{ [g]}}{235 \text{ [g/mol]}} \times N_A \quad \cdots ① $$
2. 1gの\({}^{235}\text{U}\)から放出される総エネルギー \(E_{\text{total}}\) の計算
原子1個あたりの放出エネルギーは \(E_1 = 185\) [MeV] です。これをジュールに変換します。
\(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) なので、
$$ E_1 = 185 \times 10^6 \times (1.6 \times 10^{-19}) \text{ [J]} \quad \cdots ② $$
総エネルギー \(E_{\text{total}}\) は、
$$ E_{\text{total}} = N \times E_1 \quad \cdots ③ $$
3. 等価な石油の質量 \(m_{\text{oil}}\) の計算
石油1kgあたりの燃焼エネルギーを \(E_{\text{oil}} = 4.0 \times 10^7\) [J/kg] とすると、
$$ E_{\text{total}} = m_{\text{oil}} \times E_{\text{oil}} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 物質量と原子数
- エネルギーの単位換算
まず、総エネルギー \(E_{\text{total}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{total}} &= \left( \frac{1.0}{235} \times 6.0 \times 10^{23} \right) \times (185 \times 10^6 \times 1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= \left( \frac{6.0}{235} \times 10^{23} \right) \times (296 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]&= \frac{6.0 \times 296}{235} \times 10^{10} \\[2.0ex]&\approx 7.56 \times 10^{10} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
(模範解答は質量欠損の割合から計算しており、若干値が異なりますが、本質は同じです。ここでは模範解答の値 \(7.62 \times 10^{10}\) J を使って先に進めます)
④式より、石油の質量 \(m_{\text{oil}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_{\text{oil}} &= \frac{E_{\text{total}}}{E_{\text{oil}}} \\[2.0ex]&= \frac{7.62 \times 10^{10}}{4.0 \times 10^7} \\[2.0ex]&= 1.905 \times 10^3 \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(1.9 \times 10^3\) kg となります。
まず、1gのウランの中に原子が何個詰まっているかを計算します。次に、原子1個が分裂すると185MeVのエネルギーが出るので、1gのウラン全部が分裂したらどれだけの莫大なエネルギーになるかを計算します。最後に、そのエネルギーを石油の燃焼で得るには、石油が何キログラム必要になるかを割り算で求めます。
1gのウランが放出するエネルギーは、約1900kg(約1.9トン)の石油を燃焼させたエネルギーに匹敵します。わずか1gの物質からトン単位の石油に相当するエネルギーが得られるという結果は、核エネルギーがいかに強力であるかを如実に示しており、物理的に妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 核反応における二大保存則の徹底活用:
- 核心: この問題は、核反応を分析する上での二つの柱、「①粒子数に関する保存則(質量数・原子番号)」と「②力学量に関する保存則(エネルギー・運動量)」を総合的に使いこなす能力を試しています。
- 理解のポイント:
- (1)では、質量数と原子番号という「粒子の個数」に関する保存則を適用します。これは核反応式の係数を決定する上での絶対的なルールです。
- (2)と(4)では、質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))という「エネルギー」に関する保存則を適用します。
- (3)では、分裂後の生成物の運動を規定する「運動量」に関する保存則を適用します。これら3つの保存則が、核反応を理解するための根幹をなします。
- 質量欠損と発生エネルギーの関係:
- 核心: 核分裂で巨大なエネルギーが生まれる源泉は、反応の前後で生じるごく僅かな質量の減少(質量欠損)です。(2)ではこの関係を利用して未知の質量を逆算し、(4)ではこの関係から1gのウランが放出する総エネルギーを計算します。
- 理解のポイント: \(E = \Delta m c^2\) という関係だけでなく、問題で与えられる \(1\text{u} = 931\text{MeV}\) のような換算レートを自在に使いこなすことが重要です。これは \(E=mc^2\) をあらかじめ計算した便利なショートカットキーのようなものです。
- 運動量保存則と運動エネルギーの関係:
- 核心: (3)では、運動量保存則から導かれる「運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーの比は質量の逆比になる」という重要な関係を利用します。
- 理解のポイント: \(K = \frac{p^2}{2m}\) という公式は、運動エネルギーと運動量を結びつける強力なツールです。運動量\(p\)が等しいという条件があれば、運動エネルギー\(K\)と質量\(m\)の関係が非常にシンプルになることを理解しておくと、多くの問題で見通しが良くなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 核融合反応: 太陽の中心で起きているような、軽い原子核が融合して重い原子核になる反応です。この場合も、質量欠損が生じてエネルギーが放出されます。適用する物理法則は核分裂と全く同じです。
- 様々な粒子が関わる反応: α崩壊、β崩壊、陽電子放出など、他の種類の放射線や粒子が関わる核反応でも、電荷と質量数の保存則は常に成り立ちます。
- エネルギーの単位変換問題: エネルギーの単位として、ジュール[J]、電子ボルト[eV](またはMeV, GeV)、統一原子質量単位[u]が頻繁に使われます。これらの単位を相互に変換する計算は、原子物理の基本スキルとして必須です。
- 初見の問題での着眼点:
- まず核反応式を完成させる: 問題文に未知の粒子や数値があっても、まずは電荷と質量数の保存則を適用して、反応式を完全に書き下すことが第一歩です。
- エネルギーと質量のどちらが与えられているか確認する: 反応エネルギーが与えられていれば質量欠損を計算でき、逆に全ての質量が与えられていれば反応エネルギーを計算できます。この関係性に着目します。
- 運動量保存が使える条件か判断する: 反応前の運動量がわかっていて(特にゼロの場合)、反応後の粒子の運動状態(エネルギー比など)が問われている場合、運動量保存則が有効な突破口になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量数と質量の混同:
- 誤解: 質量数(整数)を、そのまま質量[u]として計算してしまう。例えば、(2)でキセノンの質量を140uとして計算を進めてしまうなど。
- 対策: 質量数はあくまで陽子と中性子の「個数」であり、実際の質量[u]とは僅かに異なります。この僅かな差が質量欠損としてエネルギーに変わるため、問題で質量が与えられている場合は、必ずその精密な値を使いましょう。質量数で代用して良いのは、(3)のように比を計算する場合など、近似が許される場合に限られます。
- 単位換算の混乱:
- 誤解: 185[MeV]をジュールに変換する際に、\(10^6\)を掛け忘れたり、電気素量 \(1.6 \times 10^{-19}\) の値を間違えたりする。また、[u]と[MeV]の換算レート931を、ジュールへの換算と混同してしまう。
- 対策: 「\(1 \text{ MeV} = 10^6 \text{ eV} = 10^6 \times 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\)」「\(1 \text{ u} \leftrightarrow 931 \text{ MeV}\)」という2つの関係を明確に区別して覚え、計算の際にはどちらを使っているのかを意識しましょう。
- 運動量保存の適用ミス:
- 誤解: (3)で、2個の中性子の運動量を考慮せずに、\(\vec{p}_{\text{Sr}} + \vec{p}_{\text{Xe}} = \vec{0}\) という結論だけを覚えていて、なぜそうなるのかを説明できない。
- 対策: 必ず「反応前後の全運動量が保存される」という大原則から出発しましょう。反応前がゼロなら、反応後のベクトル和もゼロ。その上で、問題の条件(中性子の運動が相殺される)を適用して、SrとXeの運動量の関係を導き出す、という論理的なステップを踏むことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 天秤のイメージ(質量欠損): 反応前の粒子たちを左の皿に、反応後の粒子たちを右の皿に乗せた天秤をイメージします。核分裂では、左の皿がわずかに重く、傾きます。この「重さの差」が質量欠損であり、エネルギーに変わる源泉であると視覚的に理解できます。
- 爆発のイメージ(運動量保存): 静止していた爆弾が爆発する様子をイメージします。破片は四方八方に飛び散りますが、全ての破片の運動量(ベクトル)を足し合わせると、必ずゼロになります。今回の核分裂も、静止した原子核の「爆発」と見なせば、(3)の運動量保存則が直感的に理解できます。重い破片(キセノン)は遅く、軽い破片(ストロンチウム)は速く飛ぶ様子もイメージしやすいでしょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電荷・質量数保存則:
- 選定理由: (1)で未知の原子核の構成を決定するため。これは核反応の「原材料と製品の員数チェック」に相当する、最も基本的な手続きです。
- 適用根拠: 素粒子反応レベルの現象を除き、陽子や中性子は核反応で消滅・生成しないという経験則に基づいています。
- 質量エネルギー換算 (\(1\text{u} \leftrightarrow 931\text{MeV}\)):
- 選定理由: (2)で、エネルギー[MeV]と質量[u]という異なる単位の物理量を結びつけるため。
- 適用根拠: アインシュタインの \(E=mc^2\) を、原子物理学で便利な単位系に変換した実用的な公式です。
- 運動量保存則 (\(\sum \vec{p}_{\text{前}} = \sum \vec{p}_{\text{後}}\)):
- 選定理由: (3)で、分裂後の生成物の力学的な振る舞い(速度や運動エネルギーの比)を決定するため。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則から導かれる、孤立した系(外力が働かない系)における普遍的な保存則です。
- 運動エネルギーと運動量の関係式 (\(K=p^2/2m\)):
- 選定理由: (3)で、運動量保存則から得られた「運動量の大きさ」に関する情報を、「運動エネルギーの比」に変換するため。
- 適用根拠: 運動エネルギー \(K=\frac{1}{2}mv^2\) と運動量 \(p=mv\) の定義から導かれる、純粋に数学的な関係式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 核反応式の完成:
- 戦略: 電荷と質量数の保存則を適用する。
- フロー: ①原子番号の和について立式 → ②質量数の和について立式 → ③連立方程式を解いて(ア), (イ)を求める。
- (2) 未知質量の計算:
- 戦略: エネルギーから質量欠損を求め、質量の収支計算から逆算する。
- フロー: ①発生エネルギー[MeV]を質量欠損[u]に換算 → ②「質量欠損 = (反応前の全質量) – (反応後の全質量)」の式を立てる → ③未知の質量について解く。
- (3) 運動エネルギー比の計算:
- 戦略: 運動量保存則から運動量の関係を導き、エネルギーの比に変換する。
- フロー: ①反応前の運動量がゼロであることを確認 → ②反応後の全運動量もゼロであることから、SrとXeの運動量の大きさが等しいことを導く → ③\(K=p^2/2m\) の関係から、エネルギー比が質量の逆比になることを示す → ④質量を代入して比を計算。
- (4) エネルギー比較:
- 戦略: 1gのウランの核分裂エネルギーを計算し、石油の燃焼エネルギーと比較する。
- フロー: ①1gのウランの原子数を計算 → ②原子数に1個あたりの放出エネルギーを掛けて、総エネルギー[J]を計算 → ③総エネルギーを石油1kgあたりのエネルギーで割り、等価な石油の質量[kg]を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の意識: (3)では「有効数字2桁で答えよ」という指示があります。計算途中では少し多めの桁数(3〜4桁)で計算を進め、最後に四捨五入することで、丸め誤差を防ぎましょう。
- 質量の引き算: (2)のような、小数点以下の桁数が多い引き算は、筆算などで慎重に行いましょう。電卓が使えない場合は特に注意が必要です。
- 概算の活用: (4)で、1gのウランの原子数は \(\frac{6 \times 10^{23}}{235} \approx \frac{6}{2.4} \times 10^{21} \approx 2.5 \times 10^{21}\) 個。1個あたりのエネルギーは \(185 \text{ MeV} \approx 200 \times 1.6 \times 10^{-13} \text{ J} = 3.2 \times 10^{-11}\) J。総エネルギーは \(2.5 \times 10^{21} \times 3.2 \times 10^{-11} \approx 8 \times 10^{10}\) J。これは石油 \( \frac{8 \times 10^{10}}{4 \times 10^7} = 2 \times 10^3\) kg分。このように大まかな計算をしておくと、桁間違いなどの大きなミスに気づきやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 質量: 求めたキセノンの質量139.921uは、質量数140より少し小さい値です。原子核は陽子と中性子が結合エネルギーによって強く結びついているため、その質量は構成粒子の質量の和よりも小さくなります(これも質量欠損の一種)。この傾向と一致しており、妥当です。
- (3) エネルギー比: 軽い粒子(Sr)が重い粒子(Xe)より大きな運動エネルギーを持つ、という結果は直感的にも正しく、妥当です。
- (4) エネルギーのスケール: 1gのウランが数トンの石油に匹敵するという結果は、ニュースなどで見聞きする核エネルギーのイメージと合致します。化学反応(原子の外側の電子の反応)と核反応(原子核内部の反応)では、放出されるエネルギーの桁が6〜7桁(100万倍〜1000万倍)違うという事実を知っていれば、この巨大な値も妥当であると判断できます。
469 核反応
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、重陽子同士の核融合反応を題材に、原子物理学の基本法則を体系的に問う空欄補充問題です。核反応式の決定、統一原子質量単位[u]の定義と単位換算、質量欠損によるエネルギー放出、そして運動量保存則とエネルギー保存則を組み合わせた応用計算まで、幅広い知識と計算能力が試されます。
- 核反応: \({}^{2}_{1}\text{H} + {}^{2}_{1}\text{H} \rightarrow \text{ⓐ} + {}^{1}_{0}\text{n}\)
- 各粒子の静止質量: \(M_n = 1.0087 \text{ u}\), \(M_d = 2.0136 \text{ u}\), \(M = 3.0150 \text{ u}\) (Mはⓐの質量)
- 物理定数: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\), \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\), \(N_A = 6.0 \times 10^{23} \text{ /mol}\)
- 衝突条件: 運動エネルギー\(E\)の重陽子が静止した重陽子に衝突し、ⓐは静止、中性子は速さ\(v_n\)で飛び出す。
- ⓐ: 生成される原子核の記号。
- ①: 1uに相当する質量[kg]。
- ②: 1uに相当するエネルギー[J]。
- ③: 1uに相当するエネルギー[MeV]。
- ④: この核反応で放出されるエネルギー\(Q\)[MeV]。
- ⓑ: \(M_n v_n\) を表す式。
- ⓒ: \(\frac{1}{2}M_n v_n^2\) を表す式。
- ⑤: 反応が起こるための入射エネルギー\(E\)[MeV]。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「核融合反応における保存則」です。重陽子同士の核融合反応を例に、核反応式の決定、質量とエネルギーの単位換算、そして運動量保存則とエネルギー保存則を連立させた応用計算まで、原子物理学の重要事項を網羅的に扱います。
- 核反応における保存則: 核反応の前後で、「電荷(陽子の数)」と「質量数(核子の数)」がそれぞれ保存されること。
- 統一原子質量単位(u)の定義: 1uが炭素12原子の質量の1/12であること、およびその具体的な質量[kg]を計算できること。
- 質量とエネルギーの等価性: 質量とエネルギーが \(E=mc^2\) の関係で結びついていること、およびエネルギーの単位[J]と[MeV]の換算ができること。
- 運動量保存則とエネルギー保存則: 反応の前後で、系の全運動量と全エネルギー(質量エネルギーを含む)が保存されること。これらを連立させて未知の物理量を求める能力。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄ⓐでは、核反応式の電荷と質量数の保存則から、生成される原子核を特定します。
- 空欄①, ②, ③では、統一原子質量単位(u)の定義からその質量[kg]を計算し、\(E=mc^2\) を用いてジュール[J]に、さらに単位換算で[MeV]に変換します。
- 空欄④では、与えられた質量値から質量欠損を計算し、MeV単位の放出エネルギー\(Q\)を求めます。
- 空欄ⓑ, ⓒ, ⑤では、与えられた衝突条件の下で、運動量保存則とエネルギー保存則を立式し、それらを連立させて解くことで、指定された関係式と入射エネルギー\(E\)の値を導出します。
空欄ⓐ
思考の道筋とポイント
核反応式の基本的なルールである「電荷の保存」と「質量数の保存」を適用して、未知の生成物を特定する問題です。
この設問における重要なポイント
- 核反応式の記述: 反応物は重陽子(\({}^{2}_{1}\text{H}\))2個、生成物は未知の原子核(\({}^{A}_{Z}\text{X}\))と中性子(\({}^{1}_{0}\text{n}\))1個です。
- 保存則の適用: 反応式の矢印の前後で、左上の数字(質量数)の和と、左下の数字(原子番号)の和がそれぞれ等しくなるように方程式を立てます。
具体的な解説と立式
未知の原子核を \({}^{A}_{Z}\text{X}\) とすると、この核反応は次のように書けます。
$$ {}^{2}_{1}\text{H} + {}^{2}_{1}\text{H} \rightarrow {}^{A}_{Z}\text{X} + {}^{1}_{0}\text{n} $$
核反応の前後で質量数と原子番号は保存されます。
質量数の保存則より、
$$ 2 + 2 = A + 1 \quad \cdots ① $$
原子番号の保存則より、
$$ 1 + 1 = Z + 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 核反応における質量数と原子番号の保存
①式より、質量数 \(A\) は、
$$ A = 4 – 1 = 3 $$
②式より、原子番号 \(Z\) は、
$$ Z = 2 $$
したがって、生成された原子核は \({}^{3}_{2}\text{He}\)(ヘリウム3)です。
核反応は、レゴブロックの組み替えのようなものです。反応の前後で、陽子と中性子の合計数(左上の数字)と、陽子の数(左下の数字)は変わりません。このルールを使って、未知の原子核の正体を突き止めます。
空欄ⓐに入る原子核は \({}^{3}_{2}\text{He}\) です。これはヘリウムの安定同位体であり、物理的に妥当な生成物です。
空欄①, ②, ③
思考の道筋とポイント
統一原子質量単位(u)の定義を理解し、それを基に質量[kg]、エネルギー[J]、エネルギー[MeV]を順に計算していく問題です。
この設問における重要なポイント
- 1uの定義: 1uは、質量数12の炭素原子(\({}^{12}\text{C}\))1個の質量の \(\frac{1}{12}\) です。
- アボガドロ定数の利用: 炭素の原子量(モル質量)が12g/molであることと、アボガドロ定数(1molあたりの原子数)を用いて、\({}^{12}\text{C}\)原子1個の質量を計算します。
- 質量とエネルギーの換算: \(E=mc^2\) を用いて質量をエネルギー[J]に変換し、さらに \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) の関係を用いて[MeV]に変換します。
具体的な解説と立式
空欄①: 1uの質量[kg]
炭素のモル質量は \(12 \times 10^{-3}\) [kg/mol]、アボガドロ定数は \(N_A = 6.0 \times 10^{23}\) [/mol] です。
\({}^{12}\text{C}\)原子1個の質量 \(m_{^{12}\text{C}}\) は、
$$ m_{^{12}\text{C}} = \frac{12 \times 10^{-3}}{N_A} \text{ [kg]} $$
1uの定義より、
$$ 1\text{u} = \frac{1}{12} m_{^{12}\text{C}} = \frac{1}{12} \times \frac{12 \times 10^{-3}}{N_A} = \frac{1.0 \times 10^{-3}}{N_A} \text{ [kg]} \quad \cdots ① $$
空欄②: 1uに相当するエネルギー[J]
アインシュタインの公式 \(E=mc^2\) を用います。
$$ E_{\text{J}} = (1\text{u}) \times c^2 \quad \cdots ② $$
空欄③: 1uに相当するエネルギー[MeV]
ジュールから電子ボルトへの換算 \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) を用います。
$$ E_{\text{MeV}} = \frac{E_{\text{J}}}{1.6 \times 10^{-19}} \times 10^{-6} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 統一原子質量単位の定義
- 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
- エネルギーの単位換算
空欄①:
$$
\begin{aligned}
1\text{u} &= \frac{1.0 \times 10^{-3}}{6.0 \times 10^{23}} \\[2.0ex]&\approx 0.1666 \times 10^{-26} \\[2.0ex]&\approx 1.7 \times 10^{-27} \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
空欄②:
$$
\begin{aligned}
E_{\text{J}} &= (1.666 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]&= (1.666 \times 10^{-27}) \times (9.0 \times 10^{16}) \\[2.0ex]&\approx 15 \times 10^{-11} \\[2.0ex]&= 1.5 \times 10^{-10} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
空欄③:
$$
\begin{aligned}
E_{\text{MeV}} &= \frac{1.5 \times 10^{-10}}{1.6 \times 10^{-19}} \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 0.9375 \times 10^9 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 0.9375 \times 10^3 \text{ [MeV]} \\[2.0ex]&\approx 9.4 \times 10^2 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
① 1uは、炭素原子12gをアボガドロ数で割って1個あたりの質量を出し、さらに12で割ることで求められます。
② ①で求めた質量[kg]に、光の速さの2乗という巨大な数を掛けて、エネルギー[J]に変換します。
③ ②で求めたエネルギー[J]を、1eVあたりのジュール数で割り、さらに\(10^6\)で割ることでMeV単位に変換します。
① \(1.7 \times 10^{-27}\) kg, ② \(1.5 \times 10^{-10}\) J, ③ \(9.4 \times 10^2\) MeV。これらは物理定数としてよく知られた値(1uは約931.5MeV)に近く、妥当な結果です。
空欄④
思考の道筋とポイント
反応前後の質量差(質量欠損)を計算し、それをエネルギー[MeV]に変換する問題です。
この設問における重要なポイント
- 質量欠損の計算: \(\Delta m = (\text{反応前の全質量}) – (\text{反応後の全質量})\) を計算します。
- エネルギーへの換算: 計算した質量欠損[u]に、1uあたりのエネルギー(問題文より、空欄③の値、または931MeVなど)を掛けて、放出エネルギー\(Q\)を求めます。
具体的な解説と立式
反応前の全質量 \(m_{\text{前}}\) は、重陽子2個の質量です。
$$ m_{\text{前}} = 2 M_d = 2 \times 2.0136 = 4.0272 \text{ [u]} $$
反応後の全質量 \(m_{\text{後}}\) は、ヘリウム3と中性子1個の質量の和です。
$$ m_{\text{後}} = M + M_n = 3.0150 + 1.0087 = 4.0237 \text{ [u]} $$
質量欠損 \(\Delta m\) は、
$$ \Delta m = m_{\text{前}} – m_{\text{後}} \quad \cdots ① $$
放出エネルギー \(Q\) は、
$$ Q = \Delta m \times (\text{1uあたりのエネルギー[MeV]}) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量欠損の定義
- 質量とエネルギーの等価性
①式より、
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= 4.0272 – 4.0237 \\[2.0ex]&= 0.0035 \text{ [u]}
\end{aligned}
$$
②式より、1uあたり931MeVとして計算します(模範解答に倣う)。
$$
\begin{aligned}
Q &= 0.0035 \times 931 \\[2.0ex]&= 3.2585 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(3.3 \text{ MeV}\) となります。
反応前の材料(重陽子2個)の合計質量と、反応後の製品(ヘリウム3と中性子)の合計質量を比べ、どれだけ質量が減ったか(質量欠損)を計算します。その減った分の質量がエネルギーに変わったので、1uあたりのエネルギーを掛けて、放出エネルギーを求めます。
放出されるエネルギーは \(3.3 \text{ MeV}\) です。核融合反応で正のエネルギーが放出されることは物理的に妥当です。
空欄ⓑ, ⓒ, ⑤
思考の道筋とポイント
運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて、未知の物理量を求める応用問題です。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則: 入射する重陽子の運動量 \(M_d v_d\) が、反応後に生じる中性子の運動量 \(M_n v_n\) と等しくなります(ヘリウム3は静止しているため)。
- エネルギー保存則: 「入射重陽子の運動エネルギー \(E\)」と「反応エネルギー \(Q\)」の和が、「生成された中性子の運動エネルギー」と等しくなります。
- 連立方程式の処理: 上記の2つの保存則から、速さ \(v_d, v_n\) を消去し、エネルギー \(E\) と \(Q\) の関係式を導きます。
具体的な解説と立式
入射する重陽子の速さを \(v_d\) とします。その運動エネルギーが \(E\) なので、
$$ E = \frac{1}{2} M_d v_d^2 \quad \cdots ① $$
反応前の運動量は \(M_d v_d\)。反応後の運動量は \(M_n v_n\)(ヘリウム3は静止)。
運動量保存則より、
$$ M_d v_d = M_n v_n \quad \cdots ② $$
エネルギー保存則より、
$$ E + Q = \frac{1}{2} M_n v_n^2 \quad \cdots ③ $$
空欄ⓑ: ②式から \(M_n v_n\) を \(E\) を用いて表します。①式より \(v_d = \sqrt{\frac{2E}{M_d}}\)。これを②式に代入します。
$$ M_n v_n = M_d \sqrt{\frac{2E}{M_d}} = \sqrt{M_d^2 \frac{2E}{M_d}} = \sqrt{2M_d E} $$
空欄ⓒ: ③式から \(\frac{1}{2}M_n v_n^2\) を \(E\) と \(Q\) で表します。これは③式そのものです。
$$ \frac{1}{2}M_n v_n^2 = E + Q $$
空欄⑤: 最終的に \(E\) の値を求めます。②式を \(v_d\) について解き、③式を \(v_n\) について解き、それらを \(M_d v_d = M_n v_n\) の関係に代入して \(E\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- エネルギー保存則
空欄ⓑ:
$$ M_n v_n = \sqrt{2M_d E} $$
空欄ⓒ:
$$ \frac{1}{2}M_n v_n^2 = E+Q $$
空欄⑤:
②式より \(v_d = \frac{M_n}{M_d} v_n\)。これを①式に代入すると、
$$ E = \frac{1}{2} M_d \left( \frac{M_n}{M_d} v_n \right)^2 = \frac{1}{2} \frac{M_n^2}{M_d} v_n^2 $$
一方、③式は \(\frac{1}{2}M_n v_n^2 = E+Q\) なので、\(v_n^2 = \frac{2(E+Q)}{M_n}\)。これを上の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2} \frac{M_n^2}{M_d} \left( \frac{2(E+Q)}{M_n} \right) \\[2.0ex]E &= \frac{M_n}{M_d} (E+Q)
\end{aligned}
$$
この式を \(E\) について解きます。
$$ E M_d = E M_n + Q M_n $$
$$ E(M_d – M_n) = Q M_n $$
$$ E = \frac{M_n}{M_d – M_n} Q $$
数値を代入します。\(M_n = 1.0087\), \(M_d = 2.0136\), \(Q = 3.2585\) MeV。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1.0087}{2.0136 – 1.0087} \times 3.2585 \\[2.0ex]&= \frac{1.0087}{1.0049} \times 3.2585 \\[2.0ex]&\approx 1.0038 \times 3.2585 \approx 3.2709 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(3.3 \text{ MeV}\) となります。
ⓑとⓒは、運動量保存とエネルギー保存のルールを式で表現するだけです。⑤は、これらのルールを組み合わせた連立方程式を解く問題です。運動の勢いの保存ルールと、エネルギーの保存ルールを両方満たすような、特別な入射エネルギー\(E\)が存在します。その値を計算で求めます。
ⓑは \(\sqrt{2M_d E}\)、ⓒは \(E+Q\)、⑤は \(3.3 \text{ MeV}\) です。入射エネルギー\(E\)と放出エネルギー\(Q\)が同程度の値になるという結果は、この種の核反応では典型的であり、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 核反応における二大保存則の連立:
- 核心: この問題の後半(ⓑ, ⓒ, ⑤)は、核反応を記述する二つの強力な法則、「運動量保存則」と「エネルギー保存則」を連立させて解く典型例です。特に、反応後の粒子の運動状態が指定されている場合に、反応が起こるための条件(特定の入射エネルギーなど)を導き出すことができます。
- 理解のポイント: 運動量保存は粒子の「動きやすさ(速さや向き)」を支配し、エネルギー保存は「エネルギーの収支」を支配します。この二つは独立した法則であり、両方を同時に満たすことで、核反応のダイナミクスが完全に記述されます。
- 質量とエネルギーの多段階換算:
- 核心: 前半(①, ②, ③)は、物理学における単位の重要性を示す良い例です。ミクロな世界の質量単位[u]から、我々の世界のマクロな質量単位[kg]へ、そしてエネルギーの単位[J]、さらには原子物理で便利な単位[MeV]へと、段階的に換算していくプロセスを正確に実行できるかが問われます。
- 理解のポイント: \(1\text{u} \xrightarrow{\text{定義}} \text{kg} \xrightarrow{E=mc^2} \text{J} \xrightarrow{\text{単位換算}} \text{MeV}\) という一連の流れを、それぞれのステップでどの物理法則・定義が使われているかを意識しながら理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆反応の問題: 例えば、ヘリウム3に中性子をぶつけて、重陽子2個を生成する反応。この場合、エネルギー\(Q\)を吸収する吸熱反応になります。保存則の考え方は全く同じです。
- 閾値エネルギーを求める問題: 吸熱反応を起こすために最低限必要な入射エネルギー(閾値エネルギー)を求める問題。これも運動量保存とエネルギー保存を連立させて解くことで求められます。
- 生成物が複数飛び出す反応: この問題では生成物の一つが静止しましたが、二つとも運動する場合でも、運動量保存則(ベクトル和が保存)とエネルギー保存則を連立させるという基本方針は変わりません。
- 初見の問題での着眼点:
- 反応条件を正確に把握する: 「何が何に衝突し、何が生成されるか」「衝突前後の粒子の運動状態(静止、速さ、向き)はどうなっているか」を問題文から正確に読み取ることが、正しい立式の第一歩です。
- エネルギーと運動量のどちらの保存則から手をつけるか: 粒子の速さ(\(v\))や運動エネルギー(\(K\))が複数出てくる連立方程式では、まず運動量保存則から速度の比や関係を導き、それをエネルギー保存則に代入すると、変数が減って見通しが良くなることが多いです。
- 単位系を意識する: 問題全体でどの単位系([u]と[MeV]か、[kg]と[J]か)で計算を進めるのが最も効率的か、最初に方針を立てると良いでしょう。この問題のように混在している場合は、各物理量の単位を常に明記しながら計算を進めると混乱を防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静止エネルギーと運動エネルギーの混同:
- 誤解: エネルギー保存則を立てる際に、質量エネルギー(\(mc^2\))と運動エネルギー(\(\frac{1}{2}mv^2\))をごちゃ混ぜにしてしまう。
- 対策: エネルギー保存則は「(反応前の運動エネルギーの和)+(反応前の静止エネルギーの和)=(反応後の運動エネルギーの和)+(反応後の静止エネルギーの和)」と書くのが最も厳密です。ここから、\(Q = (\text{反応前の静止エネルギーの和}) – (\text{反応後の静止エネルギーの和})\) と定義することで、「(反応前の運動エネルギーの和)+ \(Q\) =(反応後の運動エネルギーの和)」という使いやすい形に変形できる、という流れを理解しましょう。
- 質量の単位[u]と[kg]の扱い:
- 誤解: 運動エネルギーの計算 \(\frac{1}{2}Mv^2\) で、質量\(M\)に[u]単位の数値をそのまま代入して、エネルギーが[J]で出てくると勘違いする。
- 対策: ジュール[J]は \( \text{kg} \cdot (\text{m/s})^2 \) の次元を持つ組立単位です。エネルギーをジュールで計算する場合は、質量は必ず[kg]、速度は[m/s]に変換しなければなりません。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: ⑤の計算で、\(E = \frac{M_n}{M_d}(E+Q)\) のような中間式を導いた後、移項や展開で計算ミスをする。
- 対策: 複雑な連立方程式では、焦らずに一つの文字を確実に消去していくことが重要です。例えば、\(v_d\)と\(v_n\)を消去して\(E\)と\(Q\)の関係式を導く、という目標を明確に持って式変形を行いましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギー準位図: 反応前の状態(重陽子2個)を一つのエネルギー準位、反応後の状態(ヘリウム3と中性子)を別のエネルギー準位として図示します。この反応は発熱反応なので、反応後の準位は反応前の準位よりも \(\Delta m c^2 = Q\) だけ低い位置に描かれます。このエネルギー差が、生成物の運動エネルギーとして放出される、というイメージを持つと、\(Q\)の役割が視覚的に理解できます。
- 衝突のコマ送り図: ①入射する重陽子が静止した重陽子に近づく → ②衝突の瞬間、複合核(ヘリウム4のような中間状態)を形成するイメージ → ③複合核がヘリウム3と中性子に分裂し、ヘリウム3はその場に留まり、中性子が飛び去る。この一連の流れをコマ送りでイメージすると、運動量とエネルギーがどのように受け渡されていくかが捉えやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 統一原子質量単位(u)の定義:
- 選定理由: ①で、[u]という単位の物理的な意味を問い、その質量[kg]を計算するため。これは単位系の基礎となる定義です。
- 適用根拠: 国際的な取り決め(SI単位系)に基づいています。
- \(E=mc^2\):
- 選定理由: ②, ③, ④で、質量とエネルギーという異なる物理量を結びつけるため。核反応のエネルギー計算において根幹をなす公式です。
- 適用根拠: 特殊相対性理論から導かれる、質量とエネルギーの等価性を示す普遍的な法則です。
- 運動量保存則とエネルギー保存則:
- 選定理由: ⓑ, ⓒ, ⑤で、衝突とそれに続く核反応という複合的な現象の力学的な側面を記述するため。
- 適用根拠: これらは力学における最も基本的な保存則であり、核反応のようなミクロな世界の現象にも厳密に適用されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ⓐ〜④) 基礎知識の確認と計算:
- 戦略: 核反応式、単位、質量欠損の定義に従って、順に計算を進める。
- フロー: ①核反応式を完成(ⓐ) → ②1uの定義から質量[kg]を計算(①) → ③\(E=mc^2\)でエネルギー[J]に変換(②) → ④単位換算でエネルギー[MeV]に変換(③) → ⑤質量欠損を計算し、エネルギー[MeV]に変換(④)。
- (ⓑ, ⓒ, ⑤) 保存則の応用計算:
- 戦略: 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させ、未知数を消去して目的の物理量を求める。
- フロー: ①入射重陽子の運動エネルギーの式を立てる → ②運動量保存則を立式 → ③エネルギー保存則を立式 → ④①と②からⓑを導出 → ⑤③からⓒを導出 → ⑥①, ②, ③の連立方程式を解き、最終的に\(E\)の値を求める(⑤)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の活用: ⑤の計算では、\(E = \frac{M_n}{M_d – M_n} Q\) という関係式をまず文字のまま導出してから、最後に数値を代入する方が、計算の見通しが良く、ミスを発見しやすくなります。
- 単位のトレーサビリティ: 計算の各ステップで、その物理量がどの単位([u], [kg], [J], [MeV])を持っているのかを常に意識し、必要に応じてメモしておくと、単位換算のミスを防げます。
- 近似計算による検算: ⑤で、\(M_d \approx 2, M_n \approx 1\) とすると、\(E \approx \frac{1}{2-1}Q = Q\) となります。つまり、入射エネルギー\(E\)と放出エネルギー\(Q\)は同程度のオーダーになるはずだと予測できます。計算結果の \(E \approx 3.3\) MeV と \(Q \approx 3.3\) MeV はこの予測と一致しており、大きな間違いはないと判断できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (①〜③) 1uの質量やエネルギー換算値は、物理定数としてよく知られた値(\(1.66 \times 10^{-27}\) kg, 931.5 MeV)とほぼ一致しており、妥当です。
- (④) 核融合反応でMeVオーダーのエネルギーが放出されるのは典型的であり、妥当です。
- (⑤) この反応が起こるためには、放出エネルギー\(Q\)とほぼ同じだけの運動エネルギー\(E\)を入射粒子に与える必要がある、という結果が得られました。これは、生成物の一つ(ヘリウム3)を静止させるという特殊な条件を満たすために、運動量とエネルギーの保存則が課した制約と解釈でき、物理的に意味のある結果です。
470 核反応の起こらない衝突
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、静止した窒素原子核に、中性子またはγ線を衝突させる二つのケースについて、運動量保存則とエネルギー保存則を適用する問題です。核反応は起こらない(=弾性衝突)という条件下で、衝突前の粒子の運動量を求めます。質量を持つ粒子(中性子)と質量を持たない粒子(γ線)とで、エネルギーの扱い方がどう異なるかを理解することが核心となります。
- 標的: 静止した窒素原子核 \({}^{14}_{7}\text{N}\)
- 衝突後の窒素の運動量: \(p_N = 1.0 \times 10^{-19} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\)
- 衝突させる粒子: ①中性子(\({}^{1}_{0}\text{n}\)) または ②γ線
- 衝突の様子: 正面衝突し、入射粒子ははね返される。
- 質量の近似: 原子核の質量[u]は、その質量数に等しい。
- 物理定数: \(1\text{u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\), \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
- 中性子を衝突させた場合の、衝突前の中性子の運動量の大きさ \(p\)。
- γ線を衝突させた場合の、衝突前のγ線の運動量の大きさ \(p_\gamma\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「粒子と原子核の衝突における保存則」です。核反応が起こらない弾性衝突を想定し、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解く問題です。特に、衝突させる粒子が質量を持つ中性子の場合と、質量を持たない光子(γ線)の場合とで、エネルギーの表現方法が異なる点が重要な比較ポイントとなります。
- 運動量保存則: 衝突の前後で、系の全運動量が保存されること。一次元の衝突なので、ベクトルの向きを正負の符号で表現する。
- エネルギー保存則: 衝突が弾性衝突である(核反応が起きない)ため、運動エネルギーの和が保存されること。
- 運動エネルギーと運動量の関係: 質量を持つ粒子の場合、運動エネルギー\(K\)と運動量\(p\)の関係は \(K = \frac{p^2}{2m}\) で与えられる。
- 光子(γ線)のエネルギーと運動量: 質量を持たない光子の場合、そのエネルギー\(E\)と運動量\(p\)の関係は \(E = pc\) で与えられる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 中性子の衝突について、運動量保存則とエネルギー保存則を立式します。未知数は衝突前の中性子の運動量\(p\)と衝突後の中性子の運動量\(p’\)の2つなので、この連立方程式を解いて\(p\)を求めます。
- γ線の衝突について、同様に運動量保存則とエネルギー保存則を立式します。γ線のエネルギーの表現が中性子の場合と異なることに注意します。この連立方程式を解いて、衝突前のγ線の運動量\(p_\gamma\)を求めます。
中性子の衝突
思考の道筋とポイント
質量を持つ粒子同士の1次元弾性衝突の問題です。運動量保存則と運動エネルギー保存則を連立させて解く、力学の典型的な問題パターンです。
この設問における重要なポイント
- 質量の設定: 中性子(\({}^{1}_{0}\text{n}\))の質量は質量数1に相当し、窒素原子核(\({}^{14}_{7}\text{N}\))の質量は質量数14に相当すると考えます。与えられた \(1\text{u} = 1.7 \times 10^{-27}\) kg を用いて、それぞれの質量を \(m_n = 1 \times 1.7 \times 10^{-27}\) kg, \(m_N = 14 \times 1.7 \times 10^{-27}\) kg とします。
- 運動量保存則の立式: 衝突前の運動量を正の向きとします。衝突後、中性子ははね返るので、その運動量は負の向きになります。
- エネルギー保存則の立式: 運動エネルギーを運動量で表現する公式 \(K = \frac{p^2}{2m}\) を用いて立式すると、計算がスムーズに進みます。
具体的な解説と立式
衝突前の中性子の運動量を \(p\)、衝突後の運動量を \(p’\) とします。衝突前の窒素原子核は静止しています。衝突後の窒素原子核の運動量を \(p_N = 1.0 \times 10^{-19}\) [kg・m/s] とします。
衝突前の向きを正とすると、衝突後の中性子ははね返るので、その運動量の大きさは \(|p’|\) ですが、向きを考慮すると \(-|p’|\) となります。簡単のため、\(p’\) を衝突後の運動量の「大きさ」と定義し、式では符号を明示します。
運動量保存則より、
$$ p = -p’ + p_N \quad \cdots ① $$
エネルギー保存則より、衝突前後の運動エネルギーの和は等しくなります。
$$ \frac{p^2}{2m_n} = \frac{p’^2}{2m_n} + \frac{p_N^2}{2m_N} \quad \cdots ② $$
ここで、\(m_n = 1 \times (1.7 \times 10^{-27})\) kg, \(m_N = 14 \times (1.7 \times 10^{-27})\) kg です。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- エネルギー保存則
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \frac{p^2}{2m}\)
①式より、\(p’ = p_N – p = 1.0 \times 10^{-19} – p\)。これを②式に代入します。
②式の両辺に2を掛けて整理します。
$$ \frac{p^2}{m_n} = \frac{p’^2}{m_n} + \frac{p_N^2}{m_N} $$
$$ p^2 – p’^2 = \frac{m_n}{m_N} p_N^2 $$
左辺を因数分解します。
$$ (p-p’)(p+p’) = \frac{m_n}{m_N} p_N^2 $$
ここで、\(p’ = p_N – p\) より \(p-p’ = p – (p_N – p) = 2p – p_N\)、\(p+p’ = p + (p_N – p) = p_N\) です。
これを代入すると、
$$ (2p – p_N) p_N = \frac{m_n}{m_N} p_N^2 $$
両辺を \(p_N\) で割ります(\(p_N \neq 0\))。
$$ 2p – p_N = \frac{m_n}{m_N} p_N $$
$$ 2p = p_N + \frac{m_n}{m_N} p_N = \left(1 + \frac{m_n}{m_N}\right) p_N $$
$$ p = \frac{1}{2} \left(1 + \frac{m_n}{m_N}\right) p_N $$
数値を代入します。\(\frac{m_n}{m_N} = \frac{1}{14}\)。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{1}{2} \left(1 + \frac{1}{14}\right) \times (1.0 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times \frac{15}{14} \times 1.0 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= \frac{15}{28} \times 10^{-19} \\[2.0ex]&\approx 0.5357 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= 5.357 \times 10^{-20} \text{ [kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(5.4 \times 10^{-20}\) kg・m/s となります。
中性子が窒素にぶつかる前後で、「運動の勢いの合計」と「運動エネルギーの合計」は変わりません。この2つのルールを数式にします。すると、衝突前の中性子の運動の勢い(\(p\))と、衝突後の中性子の運動の勢い(\(p’\))に関する連立方程式ができます。これを解くことで、求めたい衝突前の運動の勢い(\(p\))を計算します。
衝突前の中性子の運動量の大きさは \(5.4 \times 10^{-20}\) kg・m/s です。衝突後の窒素の運動量 \(1.0 \times 10^{-19}\) kg・m/s よりも小さい値です。これは、軽い中性子が重い窒素に衝突してはね返る際に、自身の運動量の大部分を窒素に与えるという物理的直感と一致しており、妥当な結果です。
γ線の衝突
思考の道筋とポイント
質量のない粒子(光子)と質量のある粒子の弾性衝突(コンプトン散乱に類似)の問題です。運動量保存則の形は中性子の場合と同じですが、エネルギー保存則の形が異なります。
この設問における重要なポイント
- 光子のエネルギーと運動量: γ線は光子であり、そのエネルギー\(E\)と運動量\(p\)の間には \(E=pc\) という関係があります。ここで \(c\) は光速です。
- エネルギー保存則の立式: γ線のエネルギーは \(E=pc\) で、窒素原子核の運動エネルギーは \(K = \frac{p^2}{2m}\) で表されます。これらの表現を用いてエネルギー保存則を立てます。
具体的な解説と立式
衝突前のγ線の運動量を \(p_\gamma\)、衝突後の運動量を \(p’_\gamma\) とします。衝突後の窒素原子核の運動量は \(p_N = 1.0 \times 10^{-19}\) [kg・m/s] です。
運動量保存則は中性子の場合と全く同じ形になります。
$$ p_\gamma = -p’_\gamma + p_N \quad \cdots ① $$
エネルギー保存則を立てます。
衝突前のエネルギーは、入射γ線のエネルギー \(E_\gamma = p_\gamma c\) です。
衝突後のエネルギーは、散乱されたγ線のエネルギー \(E’_\gamma = p’_\gamma c\) と、窒素原子核の運動エネルギー \(K_N = \frac{p_N^2}{2m_N}\) の和です。
したがって、エネルギー保存則は、
$$ p_\gamma c = p’_\gamma c + \frac{p_N^2}{2m_N} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- エネルギー保存則
- 光子のエネルギーと運動量の関係: \(E=pc\)
①式より、\(p’_\gamma = p_N – p_\gamma\)。これを②式に代入します。
$$ p_\gamma c = (p_N – p_\gamma) c + \frac{p_N^2}{2m_N} $$
$$ p_\gamma c = p_N c – p_\gamma c + \frac{p_N^2}{2m_N} $$
$$ 2 p_\gamma c = p_N c + \frac{p_N^2}{2m_N} $$
両辺を \(2c\) で割って \(p_\gamma\) を求めます。
$$ p_\gamma = \frac{1}{2} \left( p_N + \frac{p_N^2}{2m_N c} \right) $$
数値を代入します。
\(p_N = 1.0 \times 10^{-19}\), \(m_N = 14 \times 1.7 \times 10^{-27}\), \(c = 3.0 \times 10^8\)。
$$
\begin{aligned}
p_\gamma &= \frac{1}{2} \left( 1.0 \times 10^{-19} + \frac{(1.0 \times 10^{-19})^2}{2 \times (14 \times 1.7 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \left( 1.0 \times 10^{-19} + \frac{1.0 \times 10^{-38}}{142.8 \times 10^{-19}} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \left( 1.0 \times 10^{-19} + \frac{1.0}{142.8} \times 10^{-19} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} (1.0 \times 10^{-19} + 0.007 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 1.007 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= 0.5035 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= 5.035 \times 10^{-20} \text{ [kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(5.0 \times 10^{-20}\) kg・m/s となります。
γ線(光)が窒素にぶつかる場合も、「運動の勢いの合計」は保存されます。しかし、「エネルギー」の計算方法が中性子と異なります。γ線のエネルギーは運動の勢いに比例します(\(E=pc\))。この違いを考慮してエネルギー保存のルールを数式にし、運動量保存のルールと連立させて解くことで、衝突前のγ線の運動の勢い(\(p_\gamma\))を計算します。
衝突前のγ線の運動量の大きさは \(5.0 \times 10^{-20}\) kg・m/s です。
中性子の場合(\(5.4 \times 10^{-20}\))と非常に近い値になりました。これは、窒素原子核に与える運動エネルギー(\(\frac{p_N^2}{2m_N}\))が、入射粒子のエネルギーに比べて十分に小さいため、入射粒子が失うエネルギー・運動量の割合が小さくなることを反映しています。そのため、入射粒子が中性子でもγ線でも、結果に大きな差は生じなかったと考えられます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則とエネルギー保存則の連立:
- 核心: この問題は、衝突現象を分析するための二大原理、「運動量保存則」と「エネルギー保存則」を連立させて解く、という物理学の王道的なアプローチを実践する問題です。核反応を伴わない弾性衝突であるため、運動エネルギーが保存される点がポイントです。
- 理解のポイント: 運動量保存は衝突の「力学的な相互作用」の側面を、エネルギー保存は「エネルギーの収支」の側面を記述します。これら2つの独立した法則を組み合わせることで、衝突前後の未知の物理量(この問題では衝突前の運動量)を完全に決定することができます。
- 粒子によるエネルギー表現の違い:
- 核心: この問題のもう一つの核心は、衝突させる粒子が「質量を持つ粒子(中性子)」か「質量を持たない粒子(光子/γ線)」かによって、エネルギーの数式表現が異なることを理解し、使い分ける点にあります。
- 理解のポイント:
- 中性子(質量m): 運動エネルギーは \(K = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{p^2}{2m}\) と、質量に依存する形で表されます。
- γ線(質量0): エネルギーは \(E = h\nu = pc\) と、運動量に単純に比例する形で表されます。
この違いが、エネルギー保存則の立式と最終的な計算結果の微妙な差に繋がります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンプトン散乱: X線やγ線などの光子が電子に衝突して散乱される現象。この問題のγ線衝突の部分は、コンプトン散乱を原子核に適用したものです。散乱角が関わる2次元の衝突問題に発展することもありますが、運動量保存(ベクトル和)とエネルギー保存を連立させる基本方針は同じです。
- 反発係数(はねかえり係数)を用いた解法: 1次元の弾性衝突では、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させる代わりに、「運動量保存則」と「反発係数e=1の式」を連立させると、より計算が簡単になる場合があります。
- 非弾性衝突: 衝突によって熱が発生したり、物体が変形・合体したりして、運動エネルギーが保存されない場合。この場合はエネルギー保存則の代わりに、失われたエネルギーに関する情報が問題文で与えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 衝突の種類を特定する: まず、衝突が弾性か非弾性か、1次元か2次元か、関わる粒子は質量を持つか持たないか、といった基本的な性質を問題文から読み取ります。
- 保存則をリストアップする: どのような条件下でも運動量保存則は成り立ちます。エネルギー保存則は、弾性衝突の場合にのみ(運動エネルギーの和が)成り立ちます。どの法則が使えるかを最初に確認します。
- 運動量とエネルギーの関係式を準備する: 粒子に応じて \(K=p^2/2m\) や \(E=pc\) など、適切な関係式をすぐに使えるようにしておきます。これにより、立式の際に変数の種類を運動量\(p\)に統一でき、計算の見通しが良くなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量の向き(符号)の扱い:
- 誤解: 1次元衝突で粒子がはね返る際に、衝突後の運動量を正の値のまま式に入れてしまう。例えば、運動量保存則を \(p = p’ + p_N\) と立式してしまう。
- 対策: 最初に座標軸の正の向きを明確に定め(通常は入射方向)、それと逆向きの運動量は必ず負の符号を付けて扱うことを徹底しましょう。\(p = (-p’) + p_N\) のように、向きを意識して立式する癖をつけることが重要です。
- 光子の運動エネルギー:
- 誤解: γ線(光子)のエネルギーを、質量を持つ粒子と同じように \(\frac{p^2}{2m}\) の形で考えようとしてしまう。光子の質量はゼロなので、この式は適用できません。
- 対策: 「質量のある粒子は \(K=p^2/2m\)」「光子は \(E=pc\)」という対応関係を明確に区別して覚えましょう。これは現代物理学の基本です。
- 質量の計算ミス:
- 誤解: 中性子の質量を \(m_n = 1.7 \times 10^{-27}\) kg、窒素の質量を \(m_N = 14\) kg のように、単位[u]の数値をそのまま使ったり、換算を忘れたりする。
- 対策: 問題文の「原子核の質量を統一原子質量単位で表したものは、ほぼ質量数に等しい」という記述を正しく解釈し、\(m_n = 1 \times (1\text{u})\), \(m_N = 14 \times (1\text{u})\) と考え、与えられた1uの質量[kg]を正しく掛ける必要があります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 衝突前後の図解: 問題文に示されているような、衝突前と衝突後の状態を簡単な図で描くことは、思考を整理する上で非常に有効です。各粒子に運動量の矢印を書き込み、その向きと大きさを意識することで、立式のミスを防げます。
- エネルギーのやり取りのイメージ:
- 中性子の衝突: 「中性子が持っていた運動エネルギーの一部が、窒素の運動エネルギーに変換された」というイメージ。エネルギーの総量は変わらないので、中性子が失ったエネルギーと窒素が得たエネルギーは等しくなります。
- γ線の衝突: 「γ線が持っていたエネルギーの一部が、窒素の運動エネルギーに変換された」というイメージ。エネルギーを失ったγ線は、波長が長い(振動数が小さい)γ線として散乱されます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: 衝突現象を記述する最も基本的な法則だから。粒子間に内力(衝突力)が働くが、系全体としては外力が働かないため、運動量は保存されます。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則(特に第三法則)から導かれる、力学における普遍的な原理です。
- エネルギー保存則:
- 選定理由: 問題文に「核反応は起こらない」と明記されていないものの、他にエネルギーの損失に関する記述がないため、弾性衝突と解釈し、運動エネルギーが保存されると考えるのが自然です。
- 適用根拠: 弾性衝突では、運動エネルギーが他の形態のエネルギー(熱、音、変形など)に変換されない、という条件に基づきます。
- \(K=p^2/2m\) と \(E=pc\):
- 選定理由: 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させる際、変数を運動量\(p\)に統一するために使用します。これにより、速度\(v\)を介さずに2つの保存則を結びつけることができます。
- 適用根拠: 前者はニュートン力学における運動エネルギーと運動量の定義から、後者は特殊相対性理論におけるエネルギーと運動量の関係式 \(E^2 = (pc)^2 + (m_0c^2)^2\) で質量\(m_0=0\)とした場合から導かれます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 中性子の衝突ケース:
- 戦略: 運動量保存則と(運動)エネルギー保存則を連立させる。
- フロー: ①運動量保存則を立式 (\(p = -p’ + p_N\)) → ②エネルギー保存則を \(K=p^2/2m\) を用いて立式 → ③2つの式から未知数\(p’\)を消去 → ④\(p\)について解き、数値を代入して計算。
- γ線の衝突ケース:
- 戦略: 運動量保存則と、光子のエネルギー表現を用いたエネルギー保存則を連立させる。
- フロー: ①運動量保存則を立式 (\(p_\gamma = -p’_\gamma + p_N\)) → ②エネルギー保存則を \(E=pc\) と \(K=p^2/2m\) を用いて立式 → ③2つの式から未知数\(p’_\gamma\)を消去 → ④\(p_\gamma\)について解き、数値を代入して計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の解法: この問題のように、\(p^2 – p’^2 = \text{定数}\) という形が出てきた場合、左辺を \((p-p’)(p+p’)\) と因数分解すると、運動量保存則の式を代入しやすくなり、計算が簡略化できることが多いです。このテクニックは覚えておくと便利です。
- 分数の計算: γ線の計算で出てくる \(p_\gamma = \frac{1}{2} ( p_N + \frac{p_N^2}{2m_N c} )\) のような式では、まず括弧の中の第2項(分数部分)を計算し、その後に第1項と足し合わせる、というように段階的に計算を進めるとミスが減ります。
- オーダーの確認: 最終的な答えのオーダー(\(10\)の何乗か)が、問題で与えられた数値のオーダーと比べて、物理的に妥当な範囲にあるかを確認する癖をつけましょう。例えば、入射粒子の運動量が、はね飛ばされた原子核の運動量と大きくかけ離れた桁になることは考えにくいです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 中性子とγ線の運動量の比較: 計算結果は、中性子の場合が \(5.4 \times 10^{-20}\)、γ線の場合が \(5.0 \times 10^{-20}\) [kg・m/s] となりました。同じ運動量を窒素に与えるために、中性子の方がγ線よりもわずかに大きな初期運動量が必要である、という結果です。これは、中性子がはね返る際に自身も運動エネルギーを持つ(エネルギーの一部を持ち去る)のに対し、γ線はエネルギーを失うと単純に振動数が小さくなる(赤方偏移する)という性質の違いを反映していると解釈できます。両者が非常に近い値になったのは、窒素に与えられた運動エネルギーが、入射粒子の全エネルギーに比べて非常に小さいためです。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし、窒素の質量 \(m_N\) が無限大だったら(壁に衝突するようなもの)、\(m_n/m_N \rightarrow 0\) となり、\(p = \frac{1}{2}p_N\) となります。このとき、\(p’ = p_N – p = \frac{1}{2}p_N\) となり、\(p=p’\) となってしまいます。これは弾性衝突の \(p’=-p\) と矛盾します。これは、\(p_N\) が \(m_N\) に依存するため、単純に \(m_N \rightarrow \infty\) とはできないことを示唆しています。より正しい極限は、\(m_N \gg m_n\) の場合、\(p \approx \frac{1}{2}p_N\) となり、入射運動量のおよそ半分が相手に伝わる、というような描像が得られます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]