「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 32】Step3

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465 年代測定

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、放射性同位体である炭素14(\({}^{14}\text{C}\))を利用した年代測定に関する知識を問う問題です。原子核の基本的な構成、放射性崩壊の種類、そして半減期の計算という、原子物理学の根幹をなす3つの要素が組み合わされています。

与えられた条件
  • 炭素14(\({}^{14}\text{C}\))は、陽子を6個、核子を14個含む。
  • \({}^{14}\text{C}\)は、放射線を放出して窒素14(\({}^{14}\text{N}\))に変わる。
  • \({}^{14}\text{C}\)の半減期: \(T = 5730\) 年
  • ある木材の\({}^{14}\text{C}\)の量は、生きている場合の60%に減少していた。
  • 対数の値: \(\log_{10}2 = 0.30\), \(\log_{10}3 = 0.48\)
問われていること
  • 空欄①, ②: 原子核の構成要素の名称。
  • 空欄③: \({}^{14}\text{C}\)が放出する放射線の種類。
  • 空欄④: 木材が枯れてから経過した時間(年代)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射性同位体を用いた年代測定」です。原子核の構造、放射性崩壊、半減期の概念を統合して理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 原子核の構成: 原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味(\(A\): 質量数、\(Z\): 原子番号)を正しく理解していること。
  2. 放射性崩壊: 特に、原子番号が1増加し質量数が変化しないβ崩壊の性質を理解していること。
  3. 半減期の公式: 放射性同位体の量が時間とともに指数関数的に減少する関係式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を使えること。
  4. 対数計算: 指数方程式を解くために、常用対数の性質を正しく利用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、空欄①, ②では原子核の記号 \({}^{14}_{6}\text{C}\) から陽子と核子の数を読み取ります。空欄③では、崩壊前後の原子核 \({}^{14}_{6}\text{C}\) と \({}^{14}_{7}\text{N}\) を比較し、崩壊の種類を特定します。
  2. 次に、空欄④では半減期の公式に与えられた数値を代入して方程式を立て、両辺の常用対数をとることで経過時間 \(t\) を計算します。

空欄①, ②, ③

思考の道筋とポイント
原子核の構成と放射性崩壊の種類に関する基本的な知識を問う問題です。原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味と、β崩壊で原子番号と質量数がどのように変化するかを正確に覚えておくことが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 原子核の記号: \({}^{A}_{Z}\text{X}\) において、左下の \(Z\) は「原子番号」であり「陽子の数」を表します。左上の \(A\) は「質量数」であり、「陽子の数」と「中性子の数」の和、すなわち「核子の数」を表します。
  • β崩壊: 原子核内の中性子1個が、陽子1個と電子1個に変化し、電子(β線)を放出する現象です。この結果、原子番号 \(Z\) が1増加し、質量数 \(A\) は変化しません。

具体的な解説と立式
空欄①, ② 原子核の構成
与えられた放射性炭素は \({}^{14}_{6}\text{C}\) と表記されています。
この表記から、原子番号 \(Z\) は6、質量数 \(A\) は14であることがわかります。
原子番号は陽子の数に等しく、問題文に「①が6個」とあることから、空欄①に入る言葉は「陽子」です。
質量数は核子(陽子と中性子)の総数に等しく、問題文に「②が14個」とあることから、空欄②に入る言葉は「核子」です。

空欄③ 放射性崩壊の種類
\({}^{14}_{6}\text{C}\) が放射線を放出して \({}^{14}_{7}\text{N}\) に変わる核反応を考えます。
$$ {}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N} + (\text{放射線}) $$
この反応の前後で、原子番号は \(Z=6\) から \(Z=7\) へと1増加しています。一方、質量数 \(A\) は14のままで変化していません。
原子番号が1増加し、質量数が変わらない崩壊はβ崩壊です。このとき放出される放射線は電子であり、これをβ線と呼びます。
したがって、空欄③に入る放射線は「β線」です。

使用した物理公式

  • 原子核の構成 (\({}^{A}_{Z}\text{X}\))
  • β崩壊の法則
計算過程

これらの空欄は物理法則の知識を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

①, ② 原子核を表す記号 \({}^{14}_{6}\text{C}\) の左下の数字「6」が陽子の個数、左上の数字「14」が陽子と中性子を合わせた合計の個数(核子の個数)をそのまま表しています。問題文が「①が6個」となっているので、①は「陽子」を指します。同様に「②が14個」なので、②は「核子」を指します。
③ 炭素 \({}^{14}_{6}\text{C}\) が窒素 \({}^{14}_{7}\text{N}\) に変わるとき、陽子の数が6個から7個に1個増えています。これは、原子核の中の中性子が陽子に変身したことを意味します。この変身の際に、マイナスの電気を持つ電子が飛び出します。この飛び出す電子の流れが「β線」です。

結論と吟味

① 陽子, ② 核子, ③ β線。これらは原子核物理の基本的な定義と法則に合致しており、妥当な結論です。

解答 ① 陽子  核子  β線

空欄④

思考の道筋とポイント
半減期の公式を用いて、特定の割合まで原子が減少するのにかかる時間を求める計算問題です。公式を立てた後、未知数 \(t\) が指数の部分にあるため、両辺の対数をとって解くのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • 半減期の公式の適用: 経過時間を \(t\)、半減期を \(T\)、初期の原子数を \(N_0\)、\(t\) 時間後の原子数を \(N\) とすると、\(N = N_0 \left( \displaystyle\frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\) という関係が成り立ちます。
  • 条件の整理: 問題文から \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = 0.60\)、\(T = 5730\) [年] という値を正確に読み取ります。
  • 対数計算: 与えられた \(\log_{10}2\) と \(\log_{10}3\) を用いて、\(\log_{10}0.60\) の値を計算する必要があります。\(\log_{10}0.60 = \log_{10}(6/10) = \log_{10}6 – \log_{10}10 = \log_{10}(2 \times 3) – 1\) と変形します。

具体的な解説と立式
木材が枯れてからの経過時間を \(t\) [年]、枯れた瞬間(\(t=0\))の \({}^{14}\text{C}\) の原子数を \(N_0\)、現在の原子数を \(N\) とします。
\({}^{14}\text{C}\) の半減期は \(T = 5730\) [年] です。
半減期の公式より、これらの間には次の関係が成り立ちます。
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} \quad \cdots ① $$
問題の条件から、現在の \({}^{14}\text{C}\) の量は生きている場合の60%なので、
$$ \frac{N}{N_0} = 0.60 \quad \cdots ② $$
①式と②式から \(N\) と \(N_0\) を消去すると、\(t\) を求めるための方程式が得られます。
$$ 0.60 = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5730}} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

上記で立てた方程式③の両辺で、常用対数(底を10とする対数)をとります。
$$ \log_{10} 0.60 = \log_{10} \left\{ \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{5730}} \right\} $$
対数の性質 \(\log a^p = p \log a\) を用いて、右辺の指数を係数として前に出します。
$$ \log_{10} 0.60 = \frac{t}{5730} \log_{10} \frac{1}{2} $$
ここで、左辺と右辺の対数の値をそれぞれ計算します。
左辺は、
$$
\begin{aligned}
\log_{10} 0.60 &= \log_{10} \left( \frac{6}{10} \right) \\[2.0ex]
&= \log_{10} 6 – \log_{10} 10 \\[2.0ex]
&= \log_{10} (2 \times 3) – 1 \\[2.0ex]
&= \log_{10} 2 + \log_{10} 3 – 1 \\[2.0ex]
&= 0.30 + 0.48 – 1 \\[2.0ex]
&= -0.22
\end{aligned}
$$
右辺の対数部分は、
$$
\begin{aligned}
\log_{10} \frac{1}{2} &= \log_{10} 2^{-1} \\[2.0ex]
&= -\log_{10} 2 \\[2.0ex]
&= -0.30
\end{aligned}
$$
これらの結果を元の式に代入します。
$$ -0.22 = \frac{t}{5730} \times (-0.30) $$
この式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{0.22 \times 5730}{0.30} \\[2.0ex]
&= \frac{22 \times 5730}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{11 \times 5730}{15} \\[2.0ex]
&= 11 \times 382 \\[2.0ex]
&= 4202
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁なので、結果を有効数字2桁に丸めます。
$$ t \approx 4.2 \times 10^3 \text{ [年]} $$
この値が空欄④に入ります。

計算方法の平易な説明

\({}^{14}\text{C}\) の量が、元の量から見て「\((\frac{1}{2})\) の \((\frac{t}{5730})\) 乗」倍になる、という関係式を立てます。今回はこれが0.6倍になるので、\(0.6 = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{5730}}\) という式ができます。このままだと計算が難しいので、「対数」という道具を使って、肩に乗っている \(t\) を地面に下ろしてきます。あとは、問題文で与えられた対数の値を使って、パズルのように計算を進めると、時間 \(t\) が求まります。

結論と吟味

空欄④に入る年代は約 \(4.2 \times 10^3\) 年です。
\({}^{14}\text{C}\) の量が半分(50%)になるのにかかる時間(半減期)が5730年です。今回は60%までしか減少していないので、経過時間は半減期よりも短くなるはずです。計算結果の \(4.2 \times 10^3\) 年(4200年)は5730年より短く、物理的に妥当な値であると判断できます。

解答 ④ \(4.2 \times 10^3\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 原子核の構造と記号の理解:
    • 核心: 原子核を表す記号 \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の意味を正しく理解することが、(1)と(2)を解くための絶対的な基礎です。\(Z\)が陽子の数(原子番号)、\(A\)が陽子と中性子の数の和(質量数=核子の数)であることを覚える必要があります。
    • 理解のポイント: この記法は、原子核の構成要素を簡潔に表現するための世界共通のルールです。左下の数字が「陽子の数」、左上の数字が「陽子と中性子の合計数」と機械的に覚えるだけでも得点に繋がります。
  • 放射性崩壊(特にβ崩壊)の法則:
    • 核心: (3)を解く鍵は、β崩壊が「中性子が陽子と電子に変わり、電子を放出する現象」であると理解していることです。これにより、原子番号\(Z\)が1増え、質量数\(A\)は変わらないという変化が起こります。
    • 理解のポイント: \({}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N}\) という変化を見て、\(Z\)が6→7に、\(A\)が14→14のままであることを確認し、このパターンがβ崩壊に相当すると判断します。
  • 半減期の公式と対数計算:
    • 核心: (4)の年代測定計算は、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を立式し、指数部分にある時間\(t\)を求めるために常用対数をとる、という一連の流れが核心です。
    • 理解のポイント: 放射性物質の減少は単純な比例関係ではなく、指数関数的な減少です。このような指数関数で表される物理量を扱う際には、対数が極めて有効な数学的ツールとなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • α崩壊の問題: ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) を放出する崩壊です。この場合、原子番号\(Z\)が2、質量数\(A\)が4減少します。崩壊前後の原子核を比較して、変化のパターンからα崩壊であると見抜く問題が出題されます。
    • γ崩壊の問題: α崩壊やβ崩壊の後に、エネルギー的に不安定な状態の原子核が、安定な状態に移る際にγ線(電磁波)を放出する現象です。この場合、\(Z\)も\(A\)も変化しません。
    • 半減期に関する別の問い方: 「元の量の12.5%になるのは何年後か?」といった問題。\(12.5\% = \frac{1}{8} = (\frac{1}{2})^3\) なので、半減期の3倍の時間、つまり \(3T\) 年後であると、対数計算なしで解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 原子核の記号をチェック: まず \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の\(A\)と\(Z\)の値を正確に読み取ります。これが全ての分析の出発点です。
    2. 崩壊の種類を特定: 核反応式の前後で、\(A\)と\(Z\)がどのように変化したかに着目します。「\(Z\)が1増、\(A\)不変→β崩壊」「\(Z\)が2減、\(A\)が4減→α崩壊」というパターンを即座に思い出せるようにしておきましょう。
    3. 半減期計算の条件整理: 年代測定の問題では、「現在の量は元の何%か (\(\frac{N}{N_0}\))」「半減期\(T\)はいくつか」という2つの情報を問題文から正確に抜き出すことが重要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 陽子の数と中性子の数、核子の数の混同:
    • 誤解: 質量数\(A\)を中性子の数と勘違いしたり、核子の数を陽子の数と取り違えたりするミス。
    • 対策: 「原子番号\(Z\) = 陽子の数」「質量数\(A\) = 陽子の数 + 中性子の数」「核子の数 = 質量数\(A\)」という定義を正確に覚え直しましょう。「中性子の数 = \(A – Z\)」であることも合わせて確認しておくと万全です。
  • 対数計算のミス:
    • 誤解: \(\log_{10}0.6\) の計算で、\(\log_{10}(6/10)\) を \(\log_{10}6 – \log_{10}1\) と間違える(正しくは \(\log_{10}10\))。また、\(\log_{10}(1/2)\) を \(\log_{10}1 – \log_{10}2 = -\log_{10}2\) と正しく変形できずに計算を進めてしまう。
    • 対策: \(\log(A/B) = \log A – \log B\)、\(\log(AB) = \log A + \log B\)、\(\log A^p = p \log A\) といった対数の基本公式を徹底的に復習しましょう。特に小数や分数の対数計算は頻出なので、練習を積んでおくことが不可欠です。
  • 半減期の公式の誤用:
    • 誤解: \(N = N_0 \times \frac{t}{T}\) のような線形的な減少と勘違いする。あるいは、公式の \((\frac{1}{2})\) の指数部分を \(\frac{T}{t}\) と逆にしてしまう。
    • 対策: 「半減期」という言葉の意味を考え、「\(t=T\) のときに元の半分になる」という関係が成り立つのは \((\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) の形だけである、と公式の構造を論理的に理解しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 原子核のモデル図: \({}^{14}_{6}\text{C}\) を「陽子6個(●)と中性子8個(○)が塊になったもの」として簡単な図でイメージします。β崩壊は、この塊の中の「中性子○1個が、陽子●1個に変わり、電子e⁻が外に飛び出す」という変化として図示すると、\(Z\)が1増えて\(A\)が変わらない理由が視覚的に理解できます。
    • 半減期のグラフ: 横軸に時間\(t\)、縦軸に原子数\(N\)をとったグラフをイメージします。\(t=0\)で\(N=N_0\)、\(t=T\)で\(N=\frac{1}{2}N_0\)、\(t=2T\)で\(N=\frac{1}{4}N_0\) となる点を滑らかな曲線で結ぶことで、指数関数的な減少の様子を視覚化できます。今回の問題は、このグラフ上で \(N=0.60N_0\) となる横軸の値 \(t\) を求めているのだと理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 核反応式を丁寧に書く: \({}^{14}_{6}\text{C} \rightarrow {}^{14}_{7}\text{N} + e^{-}\) のように、反応の前後で各粒子の質量数と原子番号(電荷)の和が保存されていることを確認しながら書く習慣をつけると、崩壊の種類を間違えにくくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 原子核の記号 (\({}^{A}_{Z}\text{X}\)):
    • 選定理由: (1), (2)で問われている原子核の構成要素を、与えられた情報から直接読み取るための唯一の手段だからです。
    • 適用根拠: これは物理学における国際的な定義・規約であり、議論の前提となるものです。
  • 半減期の公式 (\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)):
    • 選定理由: (4)で、放射性物質が時間とともに確率的に崩壊し、その量が指数関数的に減少するという物理現象を数式で表現するため。
    • 適用根拠: この公式は、個々の原子の崩壊はランダムだが、多数の原子が集まった集団としては統計的に予測可能な振る舞いをする、という量子力学的な性質に基づいています。
  • 常用対数 (\(\log_{10}\)):
    • 選定理由: 半減期の公式を\(t\)について解く際、指数部分に未知数が含まれる方程式を解く必要があるため。対数をとることで、指数を係数に変換し、一次方程式として扱えるようにするためです。
    • 適用根拠: 指数関数と対数関数が互いに逆関数の関係にあるという数学的な性質を利用しています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 空欄①, ②, ③ (知識問題):
    • 戦略: 原子核の記号とβ崩壊の定義に基づいて解答する。
    • フロー: ①\({}^{14}_{6}\text{C}\) の左下の「6」が陽子の数であることを確認 → ②左上の「14」が核子の数であることを確認 → ③\({}^{14}_{6}\text{C}\) → \({}^{14}_{7}\text{N}\) の変化で、原子番号が1増え、質量数が不変であることを確認し、β崩壊と判断。
  2. 空欄④ (計算問題):
    • 戦略: 半減期の公式を立て、対数を用いて解く。
    • フロー: ①半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を書く → ②問題文の条件 (\(\frac{N}{N_0}=0.60\), \(T=5730\)) を代入し、\(0.60 = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{5730}}\) を立式 → ③両辺の常用対数をとる → ④対数の性質を使って式を変形し、\(t\) について解く → ⑤与えられた対数の値を代入し、数値を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 対数計算の工夫: \(\log_{10}0.60\) の計算は焦らず、\(\log_{10}(6/10) = \log_{10}6 – \log_{10}10 = (\log_{10}2 + \log_{10}3) – 1\) のように、与えられた値を使える形まで段階的に分解する癖をつけましょう。
  • 指数の扱い: \(\log_{10}(1/2) = \log_{10}2^{-1} = – \log_{10}2\) のように、負の指数を係数として前に出す計算は頻出です。確実にできるようにしておきましょう。
  • 最終的な割り算: \(t = \frac{0.22 \times 5730}{0.30}\) のような計算では、先に \(0.22/0.30\) を計算すると小数になって面倒です。 \(\frac{22 \times 5730}{30}\) のように整数にしてから約分を進める方が、計算ミスを減らせます。
  • 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値(0.30, 0.48, 60%)が2桁であることから、最終的な答えも有効数字2桁で答える意識を最初から持っておきましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4)の年代: 計算結果は約4200年でした。半減期(5730年)は、量がちょうど半分(50%)になるまでの時間です。今回は60%までしか減っていないので、経過時間は半減期より短いはずです。4200年 < 5730年 であり、この関係を満たしているので、計算結果は妥当性が高いと言えます。もし計算結果が5730年を超えていたら、どこかで計算ミスをしている可能性を疑うべきです。
  • 極端な場合を考える:
    • もし現在の量が50%だったなら、\(t=T=5730\)年になるはずです。式に代入すると \(\log_{10}0.5 = \frac{t}{T}\log_{10}0.5\) となり、確かに \(t=T\) が成り立ちます。
    • もし現在の量が100%に近ければ(ほとんど崩壊していなければ)、経過時間\(t\)は0に近いはずです。\(N/N_0 \rightarrow 1\) のとき、\(\log_{10}(N/N_0) \rightarrow 0\) となるので、計算結果の\(t\)も0に近づき、直感と一致します。

466 放射線の測定

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、α崩壊する放射性物質の性質を多角的に問う問題です。半減期の計算、指定時間後の残存率の計算、そして崩壊によって放出されるα線が作る電流の計算という、基礎から応用までのステップで構成されています。原子物理と電磁気学の知識を融合させる能力が求められます。

与えられた条件
  • 物質の原子量: 218
  • 崩壊の種類: α崩壊
  • 12分で初めの量の\(\displaystyle\frac{7}{8}\)が他の物質に変化する。
  • アボガドロ定数: \(N_A = 6.0 \times 10^{23} \text{ /mol}\)
  • 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
  • (3)での物質の質量: \(1.0 \text{ g}\)
問われていること
  • (1) この物質の半減期 \(T\)。
  • (2) 20分後に崩壊しないで残っている量の割合(%)。
  • (3) 最初の4分間に検出器に流れ込む平均電流 \(I\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射性崩壊と半減期、および放射線の測定」です。半減期の基本的な計算に加え、崩壊した原子の個数から放出される電荷量を求め、電流の定義へとつなげる応用力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 半減期の公式: 放射性同位体の量が時間とともに指数関数的に減少する関係式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) を理解し、使いこなせること。
  2. 物質量と原子の個数: 質量、原子量、アボガドロ定数を用いて、物質に含まれる原子の総数を計算できること。
  3. α崩壊の理解: α崩壊によって放出されるα線が、ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、電荷 \(+2e\) を持つことを理解していること。
  4. 電流の定義: 電流が単位時間あたりに通過する電気量であるという定義式 \(I = \frac{Q}{t}\) を正しく適用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた時間と残存率から半減期 \(T\) を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた半減期 \(T\) を用いて、指定された時間後の残存率を計算します。
  3. (3)では、まず与えられた質量から原子の初期総数を計算します。次に、半減期の公式を使って指定時間内に崩壊した原子の数を求めます。最後に、崩壊した原子1個あたりに放出されるα線の電荷を考慮して総電荷量を計算し、電流の定義式で平均電流を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
半減期を求める基本的な問題です。問題文の「初めの量の\(\frac{7}{8}\)が他の物質に変化する」という表現を、「崩壊しないで残っている量は \(\frac{1}{8}\) である」と正しく読み替えることが最初のステップです。
この設問における重要なポイント

  • 残存率の計算: 「\(x\)が変化した」は「\(1-x\)が残った」を意味します。この問題では、\(\frac{7}{8}\)が変化したので、残った割合は \(1 – \frac{7}{8} = \frac{1}{8}\) となります。
  • 半減期の公式: 残存率と経過時間がわかっているので、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) に値を代入して、未知数 \(T\) を求めます。

具体的な解説と立式
初めの物質の原子数を \(N_0\)、12分後の原子数を \(N\) とします。
12分間で初めの量の \(\frac{7}{8}\) が崩壊したので、残っている原子数の割合は、
$$ \frac{N}{N_0} = 1 – \frac{7}{8} = \frac{1}{8} $$
半減期を \(T\) [分] とすると、半減期の公式は次のように表せます。
$$ \frac{N}{N_0} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} \quad \cdots ① $$
この式に、\(t=12\) [分] と求めた残存率を代入します。
$$ \frac{1}{8} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{12}{T}} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

上記で立てた方程式②を \(T\) について解きます。
左辺の \(\frac{1}{8}\) は \((\frac{1}{2})^3\) と変形できます。
$$ \left( \frac{1}{2} \right)^3 = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{12}{T}} $$
両辺の底が等しいので、指数部分を比較します。
$$ 3 = \frac{12}{T} $$
したがって、半減期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{12}{3} \\[2.0ex]
&= 4 \text{ [分]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

12分で元の量の \(\frac{1}{8}\) になった、という事実を使います。\(\frac{1}{8}\) というのは、\(\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}\) のように、半分になる変化が3回起きたことを意味します。12分間で3回半減したわけですから、1回あたりの半減にかかる時間(半減期)は、12分を3で割って4分、と計算できます。

結論と吟味

この物質の半減期は4分です。
半減期が4分なので、12分は半減期の3倍の時間です。したがって、12分後には原子の数は \((\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}\) になるはずで、問題文の条件と一致します。よって、この結果は妥当です。

解答 (1) 4分

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた半減期を使って、指定された時間後に残っている物質の割合を計算する問題です。半減期の公式に数値を代入するだけで解ける、基本的な設問です。
この設問における重要なポイント

  • 半減期の公式の直接利用: (1)で求めた半減期 \(T=4\) [分] と、問題で指定された時間 \(t=20\) [分] を公式に代入して、残存率 \(\frac{N}{N_0}\) を計算します。
  • パーセントへの変換: 計算結果は小数または分数で得られるので、最後に100を掛けてパーセント(%)に変換します。

具体的な解説と立式
初めの原子数を \(N_0\)、20分後に残っている原子数を \(N\) とします。
半減期は(1)より \(T=4\) [分]、経過時間は \(t=20\) [分] です。
半減期の公式 \(\frac{N}{N_0} = (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) にこれらの値を代入します。
$$ \frac{N}{N_0} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{20}{4}} $$

使用した物理公式

  • 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

上記で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{N}{N_0} &= \left( \frac{1}{2} \right)^5 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{32} \\[2.0ex]
&= 0.03125
\end{aligned}
$$
この割合をパーセントで表すために100を掛け、有効数字2桁に丸めます。
$$ 0.03125 \times 100 = 3.125 \approx 3.1 \text{ [%]} $$

計算方法の平易な説明

半減期は4分なので、20分間というのは「4分が5回」経過したことになります。つまり、量が半分になる変化が5回起こるわけです。したがって、残っている量は元の量の \((\frac{1}{2})^5 = \frac{1}{32}\) 倍になります。これをパーセントに直すと約3.1%です。

結論と吟味

20分後に崩壊しないで残っている量は、初めの量の約3.1%です。
20分は半減期4分の5倍の時間であり、残存量がかなり少なくなることは直感と一致します。計算結果は妥当です。

解答 (2) 3.1%

問(3)

思考の道筋とポイント
崩壊した原子核が放出したα線の総電荷量を計算し、電流を求める応用問題です。複数の物理法則を段階的に適用する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 原子の初期総数の計算: まず、物質量(モル)の概念を用いて、質量1.0gの物質に含まれる原子の総数 \(N_0\) を計算します。\(N_0 = (\text{物質量}) \times (\text{アボガドロ定数}) = (\frac{\text{質量}}{\text{原子量}}) \times N_A\)。
  • 崩壊した原子数の計算: 次に、最初の4分間で崩壊した原子の数 \(\Delta N\) を求めます。\(\Delta N = (\text{初期数}) – (\text{残存数}) = N_0 – N_0(\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}} = N_0(1 – (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}})\)。
  • 総電荷量の計算: α崩壊では、1つの原子が崩壊するごとに1個のα粒子(電荷 \(+2e\))が放出されます。したがって、総電荷量 \(Q\) は \(Q = (\text{崩壊した原子数}) \times (2e)\) となります。
  • 平均電流の計算: 最後に、電流の定義式 \(I = \frac{Q}{\Delta t}\) を用いて、総電荷量 \(Q\) をかかった時間 \(\Delta t\) で割り、平均電流を求めます。時間の単位を秒に直すことを忘れないように注意が必要です。

具体的な解説と立式
1. 初めの原子核の数 \(N_0\) の計算
質量 \(m=1.0\) [g]、原子量 \(M=218\)、アボガドロ定数 \(N_A = 6.0 \times 10^{23}\) [/mol] より、初めにあった原子核の総数 \(N_0\) は、
$$ N_0 = \frac{m}{M} \times N_A \quad \cdots ① $$

2. 最初の4分間で崩壊した原子核の数 \(\Delta N\) の計算
経過時間 \(t=4\) [分]、半減期 \(T=4\) [分] なので、4分後に残っている原子核の数 \(N\) は、
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{4}{4}} = \frac{1}{2} N_0 $$
よって、この4分間で崩壊した原子核の数 \(\Delta N\) は、
$$ \Delta N = N_0 – N = N_0 – \frac{1}{2} N_0 = \frac{1}{2} N_0 \quad \cdots ② $$

3. 総電荷量 \(Q\) の計算
α崩壊で放出されるα粒子はヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、その電荷は陽子2個分の \(+2e\) です。ここで \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) [C] は電気素量です。
4分間で放出された総電荷量 \(Q\) は、
$$ Q = \Delta N \times (2e) \quad \cdots ③ $$

4. 平均電流 \(I\) の計算
電流は単位時間あたりに流れる電気量なので、時間 \(\Delta t = 4\) [分] \( = 240\) [s] の間の平均電流 \(I\) は、
$$ I = \frac{Q}{\Delta t} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 物質量と原子数: \(N = \frac{m}{M} N_A\)
  • 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
  • 電流の定義: \(I = \frac{Q}{\Delta t}\)
計算過程

①, ②, ③, ④の式を組み合わせて \(I\) を計算します。
まず、崩壊した原子の数 \(\Delta N\) を具体的に計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta N &= \frac{1}{2} N_0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times \frac{m}{M} \times N_A \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times \frac{1.0}{218} \times (6.0 \times 10^{23}) \\[2.0ex]
&= \frac{3.0}{218} \times 10^{23} \\[2.0ex]
&\approx 0.01376 \times 10^{23} \\[2.0ex]
&= 1.376 \times 10^{21} \text{ [個]}
\end{aligned}
$$
次に、総電荷量 \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta N \times (2e) \\[2.0ex]
&= (1.376 \times 10^{21}) \times (2 \times 1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 1.376 \times 3.2 \times 10^{2} \\[2.0ex]
&= 4.4032 \times 10^2 \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
最後に、平均電流 \(I\) を計算します。時間 \(\Delta t = 4 \text{ [分]} = 240 \text{ [s]}\) です。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{Q}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{4.4032 \times 10^2}{240} \\[2.0ex]
&\approx 1.834 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.8 \text{ A}\) となります。

計算方法の平易な説明

まず、1.0gの物質に原子が何個あるかを計算します。次に、最初の4分間(ちょうど半減期)で、そのうちの半分が崩壊することを確認します。崩壊した原子1個につき、プラスの電気を2粒分持ったα線が1本飛び出します。この「崩壊した原子の数」×「α線1本の電気量」で、4分間に飛び出した電気の総量を計算します。最後に、この電気の総量をかかった時間(4分=240秒)で割ることで、1秒あたりの電気の流れ、すなわち電流の大きさが求まります。

結論と吟味

最初の4分間に流れ込む平均電流は約1.8Aです。
放射性物質から発生する電流としては非常に大きな値ですが、これは問題設定(1.0gという巨視的な量の物質が、4分という短い半減期で崩壊する)によるものです。計算プロセスは物理法則に忠実に従っており、論理的に妥当な結果です。

解答 (3) 1.8 A

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 半減期の公式の応用:
    • 核心: この問題全体を貫く最も基本的な法則は、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) です。(1)では未知数\(T\)を、(2)では残存率\(\frac{N}{N_0}\)を、(3)では崩壊数\(\Delta N\)を求めるために、この一つの公式を様々な角度から利用します。
    • 理解のポイント: 「\(\frac{7}{8}\)が変化」→「\(\frac{1}{8}\)が残存」のように、問題文の表現を公式で使える形(残存率)に変換する読解力が重要です。
  • 原子の個数と物質量の関係:
    • 核心: (3)で、巨視的な量(質量1.0g)と微視的な現象(原子の崩壊)を結びつけるのが、アボガドロ定数を用いた物質量の計算です。\(N_0 = \frac{m}{M}N_A\) という関係式は、化学でも物理でも必須の知識です。
    • 理解のポイント: 原子量を「1モルあたりの質量[g/mol]」と捉えることで、与えられた質量からモル数を計算し、アボガドロ定数を掛けて原子の総数を求める、という流れを理解しましょう。
  • 電流の定義 (\(I = Q/t\)):
    • 核心: (3)の最終段階では、原子物理の問題が電磁気学の基本定義に接続されます。崩壊によって生じた荷電粒子(α線)の流れが電流を形成するという物理像を理解し、\(I = \frac{\text{総電荷量}}{\text{時間}}\) という定義に当てはめることが核心です。
    • 理解のポイント: 1個の原子の崩壊がもたらす電荷は \(2e\) と微小ですが、アボガドロ数スケールの原子が一斉に崩壊することで、宏観的な電流が生じるというスケール感の繋がりを意識することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • β崩壊による電流: 崩壊で放出されるのがβ線(電子、電荷 \(-e\))の場合。計算方法は同じですが、α線の電荷 \(2e\) の代わりに電子の電荷 \(e\) を用います。
    • 放射能(ベクレル)との関係: 放射能は「単位時間あたりの崩壊数」(\(\frac{\Delta N}{\Delta t}\))を表します。もし問題で放射能が問われたら、(3)で計算した崩壊数\(\Delta N\)を時間\(\Delta t\)で割るだけで求まります。
    • 任意の時間における崩壊率を問う問題: 例えば「最初の1分間で崩壊する原子の割合は?」といった問題。\(t=1, T=4\) として、崩壊率 \(1 – (\frac{1}{2})^{\frac{1}{4}}\) を計算します(この場合は関数電卓が必要)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 時間と割合の関係を整理: 「\(t\)時間で割合が\(x\)になる」という情報を問題文から正確に抜き出し、半減期\(T\)を求める、あるいは\(T\)を使って未知の割合を求める、という流れをまず考えます。
    2. 問われている物理量を確認: (3)のように電流を問われた場合、ゴールから逆算して考えます。「電流\(I\)を求めるには、総電荷\(Q\)と時間\(t\)が必要」→「\(Q\)を求めるには、崩壊数\(\Delta N\)と1個あたりの電荷が必要」→「\(\Delta N\)を求めるには、初期総数\(N_0\)と半減期\(T\)が必要」というように、必要な要素を連鎖的に洗い出していくと解法の道筋が見えます。
    3. 単位に注意: 特に(3)では、質量[g]、原子量[g/mol]、時間[分]と[秒]、電荷[C]、電流[A]など、多くの単位が登場します。計算の各段階で単位が正しいか、特に時間の単位を秒に変換したかを確認する癖をつけましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 「崩壊した量」と「残存した量」の混同:
    • 誤解: (1)で「\(\frac{7}{8}\)が変化」をそのまま残存率としてしまい、\(\frac{7}{8} = (\frac{1}{2})^{\frac{12}{T}}\) と立式してしまう。また、(3)で崩壊数を求める際に、残存数 \(N_0(\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\) をそのまま使ってしまう。
    • 対策: 問題文を注意深く読み、「崩壊した」のか「残っている」のかを明確に区別しましょう。常に「残っている量 \(N\)= \(N_0 \times (\text{半減期項})\)」という基本に立ち返り、必要なら「崩壊した量 \(\Delta N\) = \(N_0 – N\)」を計算する、という手順を徹底しましょう。
  • α線の電荷の誤認:
    • 誤解: α線の電荷を \(+e\) と勘違いする。α線はヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) であり、陽子2個と中性子2個からなるため、電荷は \(+2e\) です。
    • 対策: α崩壊、β崩壊、γ崩壊で放出される粒子の正体(α線=\({}^{4}_{2}\text{He}\)、β線=\(e^-\)、γ線=電磁波)と、それぞれの電荷をセットで正確に覚えておきましょう。
  • 時間の単位の不統一:
    • 誤解: (3)で電流を計算する際に、時間を「4分」のまま使い、\(I = Q/4\) としてしまう。電流の単位アンペア[A]はクーロン毎秒[C/s]なので、時間は必ず秒に変換する必要があります。
    • 対策: 物理量の単位を常に意識し、計算の最終段階でSI基本単位系(メートル、キログラム、秒、アンペアなど)に揃っているかを確認する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • パイチャートによる崩壊イメージ: (1)では、円グラフ全体を初期量\(N_0\)とし、そこから\(\frac{7}{8}\)を占める扇形を「崩壊した部分」、残りの\(\frac{1}{8}\)の扇形を「残存部分」として図示すると、関係が直感的に理解できます。
    • 原子の流れの図解: (3)では、箱の中に大量の原子(\(N_0\))が入っている状態をイメージします。時間が経つと、箱の壁からα線が飛び出し、箱の中の原子が別の種類の原子に変わっていく様子を想像します。飛び出したα線をすべて集めて電流計につなぐ、というイメージを持つと、計算の流れが物理現象と結びつきます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 半減期の公式 (\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)):
    • 選定理由: (1), (2), (3)の全てで、放射性物質の量が時間とともに指数関数的に減少する、という核となる現象を記述するために必要不可欠だからです。
    • 適用根拠: 個々の原子の崩壊は確率的ですが、その集合は統計的に非常に正確な指数法則に従うという、量子統計力学の基本原理に基づいています。
  • アボガドロ定数を用いた原子数の計算 (\(N_0 = \frac{m}{M}N_A\)):
    • 選定理由: (3)で、実験室で測定可能な「質量」というマクロな量と、物理法則が記述する「原子数」というミクロな量を結びつけるために必要だからです。
    • 適用根拠: 物質量(mol)という概念を介して、質量と粒子数を関係づける化学・物理学の基本法則です。
  • 電流の定義式 (\(I = Q/t\)):
    • 選定理由: (3)の最終的な問いである「電流」を、その定義に基づいて計算するため。
    • 適用根拠: 電流とは「電荷の時間的な流量」である、という電磁気学における最も基本的な定義の一つです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 半減期の計算:
    • 戦略: 残存率から半減期を逆算する。
    • フロー: ①崩壊率から残存率を計算 (\(1 – 7/8 = 1/8\)) → ②半減期の公式に \(t=12\) と残存率を代入 → ③指数方程式を解いて \(T\) を求める。
  2. (2) 残存率の計算:
    • 戦略: (1)で求めた半減期を使い、指定時間後の残存率を計算する。
    • フロー: ①半減期の公式に \(T=4, t=20\) を代入 → ②残存率を小数で計算 → ③100を掛けてパーセントに変換。
  3. (3) 平均電流の計算:
    • 戦略: 崩壊した原子が放出した総電荷を時間で割り、電流を求める。
    • フロー: ①質量から初期原子数\(N_0\)を計算 → ②半減期の公式で4分間に崩壊した原子数\(\Delta N\)を計算 → ③崩壊数\(\Delta N\)にα線の電荷\(2e\)を掛けて総電荷\(Q\)を計算 → ④総電荷\(Q\)を時間\(\Delta t\)(秒)で割って平均電流\(I\)を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数計算の活用: (1)や(2)のように、残存率が\(\frac{1}{2}, \frac{1}{4}, \frac{1}{8}, \dots\) といった綺麗な\((\frac{1}{2})^n\)の形になる場合は、対数を使わずに指数を比較することで、迅速かつ正確に計算できます。
  • 大きな数の計算: (3)のように、\(10^{23}\)や\(10^{-19}\)といった大きな桁数・小さな桁数が混在する計算では、指数部分と係数部分を分けて計算するのが鉄則です。まず \(1.38 \times 2 \times 1.6\) のような係数部分の計算を行い、次に \(10^{21} \times 10^{-19} = 10^2\) のように指数部分の計算を別途行い、最後に合体させるとミスが減ります。
  • 概算による検算: (3)の最終計算 \(I = \frac{4.4 \times 10^2}{240}\) は、およそ \(\frac{440}{240} \approx \frac{44}{24} \approx 2\) [A]に近い値になるはずだ、という大まかな見積もりを立てることで、桁の大きな間違いを防げます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 半減期: 12分で\(\frac{1}{8}\)まで減少するのは、かなり速い崩壊です。半減期が4分という短い値になったのは妥当です。
    • (2) 残存率: 半減期4分に対して20分は5半減期に相当します。\((\frac{1}{2})^5 = \frac{1}{32}\) なので、残存率はかなり小さくなるはずです。3.1%という値は妥当なオーダーです。
    • (3) 電流値: 1.8Aという電流は、一般的な乾電池よりも大きく、非常に強力です。これは、①1.0gという非常に多くの原子が、②4分という極めて短い半減期で、③一斉に崩壊するという、問題設定が極端であるためです。物理現象としてあり得ない値ではなく、計算が正しければ問題ありません。

467 核エネルギー

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、核反応におけるエネルギー保存と運動量保存という、原子物理学の根幹をなす法則を扱う問題です。静止した原子核への粒子衝突という典型的な設定の中で、核反応式の立て方、運動量のベクトル的な扱い、そして質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))に基づいたエネルギー計算など、複数の重要概念を正確に適用する能力が問われます。

与えられた条件
  • 衝突前の粒子: 中性子(\(M_0, V_0\))
  • 標的: 静止したホウ素原子(\({}^{10}_{5}\text{B}\))
  • 生成物: ヘリウム(\(M_1, V_1\))と未知の原子X(\(M_2, V_2\))
  • 散乱角: ヘリウムは\(\theta_1\)、原子Xは\(\theta_2\)
  • 反応前後の全質量: \(11.0216 \text{ u}\), \(11.0186 \text{ u}\)
  • 物理定数: \(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\), \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
  • (4)での具体的な値: \(\theta_1=60^\circ\), \(\theta_2=90^\circ\), \(M_0=1.0 \text{ u}\), \(M_1=4.0 \text{ u}\), \(M_2=7.0 \text{ u}\)
問われていること
  • (1) 原子Xの原子番号と質量数。
  • (2) 運動量保存則のx成分、y成分の立式。
  • (3) エネルギー保存則の立式と、反応エネルギー\(Q\)の値。
  • (4) 衝突した中性子の運動エネルギー。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

この解説は、模範解答とは(4)の計算方針が異なります。

  1. 解説の方針が模範解答と異なる点
    • (4) 中性子の運動エネルギーの計算:
      • 模範解答: エネルギー保存則の式に、運動量保存則から導いた \(V_1\) と \(V_2\) を代入し、\(V_0\) を \(Q\) で表してから、最終的にジュールに換算しています。この方法は、単位の換算が複雑で、物理的な見通しが悪くなりがちです。
      • 本解説: 運動量保存則から \(V_1\) と \(V_2\) を \(V_0\) で表すところまでは同じですが、それらをエネルギー保存則の式に代入し、まず \(V_0^2\) を \(Q\) で表す関係式を導きます。その後、求めたい中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) と、質量欠損エネルギー \(Q\) の比を計算します。このアプローチにより、計算がより簡潔になり、入射エネルギーと反応エネルギーの関係性が明確になります。
  2. 上記方針を採用する理由
    • 計算の簡略化: 本解説の方法では、複雑な単位換算を最後の1回にまとめることができ、計算過程がすっきりとします。
    • 物理的意味の明確化: 入射粒子(中性子)の運動エネルギーが、生成物(ヘリウム、X)の運動エネルギーと、反応で発生するエネルギー(質量欠損エネルギー)にどのように分配されるか、という物理的な関係がより明確に理解できます。
  3. 結果への影響
    • 計算途中の式は模範解答と異なりますが、最終的に得られる答えは同じ値になります。

この問題のテーマは「核反応におけるエネルギー保存と運動量保存」です。核反応式の立て方、運動量保存則のベクトル的な扱い、そして質量とエネルギーの等価性という、原子物理学の重要概念を総合的に活用する能力が問われます。

  1. 核反応における保存則: 核反応の前後で、「電荷(陽子の数)」と「質量数(核子の数)」がそれぞれ保存されること。
  2. 運動量保存則: 核反応の前後で、系の全運動量が保存されること。運動量はベクトル量であるため、成分に分解して考える必要がある。
  3. エネルギー保存則(質量とエネルギーの等価性): 「(反応前の運動エネルギーの和)+(反応で発生するエネルギーQ)」が「(反応後の運動エネルギーの和)」に等しい、というエネルギー保存則を理解していること。発生エネルギーQは質量欠損 \(\Delta m\) から \(Q = \Delta m c^2\) で計算される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、核反応式の電荷と質量数の保存則を用いて、未知の原子Xの原子番号と質量数を決定します。
  2. (2)では、中性子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸として、各方向で運動量保存則を立式します。
  3. (3)では、まず質量とエネルギーの等価性を用いて、与えられた質量変化から発生エネルギーQを計算します。次に、反応の前後でのエネルギー保存則を立式します。
  4. (4)では、(2)で立てた運動量保存の式を連立させて、生成物の速さ \(V_1, V_2\) を入射中性子の速さ \(V_0\) で表します。これを(3)のエネルギー保存則の式に代入し、\(V_0\) を \(Q\) で表すことで、中性子の初期運動エネルギーを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
核反応式の基本的なルールである「電荷の保存」と「質量数の保存」を適用する問題です。
この設問における重要なポイント

  • 核反応式の記述: 反応物と生成物を正しく式に書き表します。中性子は \({}^{1}_{0}\text{n}\)、ホウ素は \({}^{10}_{5}\text{B}\)、ヘリウムは \({}^{4}_{2}\text{He}\) と表記します。未知の原子Xは \({}^{A}_{Z}\text{X}\) とおきます。
  • 保存則の適用: 反応式の矢印の前後で、左上の数字(質量数)の和と、左下の数字(原子番号=電荷)の和がそれぞれ等しくなるように方程式を立てます。

具体的な解説と立式
未知の原子Xの質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とすると、この核反応は次のように書けます。
$$ {}^{1}_{0}\text{n} + {}^{10}_{5}\text{B} \rightarrow {}^{4}_{2}\text{He} + {}^{A}_{Z}\text{X} $$
核反応の前後で質量数(左上の数字の和)と原子番号(左下の数字の和)は保存されます。
質量数の保存則より、
$$ 1 + 10 = 4 + A \quad \cdots ① $$
原子番号の保存則より、
$$ 0 + 5 = 2 + Z \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 核反応における質量数と原子番号の保存
計算過程

①式より、原子Xの質量数 \(A\) は、
$$ A = 11 – 4 = 7 $$
②式より、原子Xの原子番号 \(Z\) は、
$$ Z = 5 – 2 = 3 $$
したがって、①原子番号は3、②質量数は7となります。これはリチウム(\({}^{7}_{3}\text{Li}\))の原子核です。

計算方法の平易な説明

核反応は、原子核のレゴブロックの組み替えのようなものです。「陽子と中性子の合計数(左上の数字)」と「陽子の数(左下の数字)」は、組み替えの前後で変わりません。この足し算と引き算のルールを使って、未知の原子Xの正体を突き止めます。

結論と吟味

原子Xの①原子番号は3、②質量数は7です。これはリチウム \({}^{7}_{3}\text{Li}\) に相当し、安定に存在しうる原子核であるため、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) ①3 ②7

問(2)

思考の道筋とポイント
運動量保存則をベクトルとして扱い、成分に分解して立式する問題です。中性子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸の設定: 中性子の進行方向をx軸の正の向き、それに垂直な方向をy軸とします。
  • 運動量の分解: ヘリウムと原子Xの運動量を、x成分とy成分に分解します。ヘリウムの運動量のx成分は \(M_1V_1 \cos\theta_1\)、y成分は \(M_1V_1 \sin\theta_1\) となります。原子Xは \(\theta_2\) の方向に進みますが、図からy軸の負の向きに進むことがわかるため、運動量のy成分は \(-M_2V_2 \sin\theta_2\) となります。
  • 運動量保存則の立式: x方向、y方向それぞれで「反応前の運動量の和 = 反応後の運動量の和」という式を立てます。

具体的な解説と立式
中性子の入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸とします。
反応前の運動量は、中性子のみが持ち、その大きさは \(M_0V_0\) でx軸の正の向きです。
反応後の運動量は、ヘリウムと原子Xが持ちます。
① 中性子の運動方向(x軸方向)の運動量保存則
反応前のx方向の運動量は \(M_0V_0\)。
反応後のx方向の運動量は、ヘリウムのx成分 \(M_1V_1 \cos\theta_1\) と、原子Xのx成分 \(M_2V_2 \cos\theta_2\) の和です。
したがって、x方向の運動量保存則は、
$$ M_0V_0 = M_1V_1 \cos\theta_1 + M_2V_2 \cos\theta_2 \quad \cdots ① $$
② x軸に垂直な方向(y軸方向)の運動量保存則
反応前のy方向の運動量は0です。
反応後のy方向の運動量は、ヘリウムのy成分 \(M_1V_1 \sin\theta_1\) と、原子Xのy成分 \(-M_2V_2 \sin\theta_2\) の和です。(原子Xはy軸負の向きに進むため、y成分は負となります)
したがって、y方向の運動量保存則は、
$$ 0 = M_1V_1 \sin\theta_1 – M_2V_2 \sin\theta_2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則(成分表示)
計算過程

この設問は立式のみを問うているため、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

衝突前後の「運動の勢い」は、合計すると変わらない、というルールを使います。ただし、運動の勢い(運動量)には向きがあるので、「横方向(中性子の進行方向)」と「縦方向」に分けて考えます。
①横方向:最初の中性子の勢いが、衝突後に飛び出すヘリウムと原子Xの「横方向の勢いの合計」と等しくなります。
②縦方向:最初は縦方向の勢いはない(ゼロ)ので、衝突後に飛び出すヘリウムの「上向きの勢い」と、原子Xの「下向きの勢い」がちょうど打ち消し合って、合計がゼロになる必要があります。

結論と吟味

立式した①、②は、ベクトル量である運動量保存則を正しく成分分解して表現したものであり、妥当です。

解答 (2) ①\(M_0V_0 = M_1V_1 \cos\theta_1 + M_2V_2 \cos\theta_2\) ②\(0 = M_1V_1 \sin\theta_1 – M_2V_2 \sin\theta_2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
核反応におけるエネルギー保存則と、質量とエネルギーの等価性に関する問題です。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: 核反応では、運動エネルギーだけでなく、質量そのものが持つエネルギーも考慮に入れる必要があります。「反応前の全エネルギー = 反応後の全エネルギー」と考えます。これを運動エネルギーと反応エネルギー\(Q\)で表すと、「反応前の運動エネルギーの和 + \(Q\) = 反応後の運動エネルギーの和」となります。
  • 質量欠損と発生エネルギー\(Q\): 反応エネルギー\(Q\)は、反応前後の質量差(質量欠損 \(\Delta m\))から生じます。アインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) を用いて、\(Q = \Delta m c^2\) と計算します。質量の単位が[u]、エネルギーの単位が[J]なので、単位換算に注意が必要です。

具体的な解説と立式
① エネルギー保存の法則
反応前の系のエネルギーは、入射中性子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) と、反応で発生するエネルギー \(Q\) の和です。(静止しているホウ素の運動エネルギーは0)
反応後の系のエネルギーは、ヘリウムの運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_1V_1^2\) と、原子Xの運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_2V_2^2\) の和です。
したがって、エネルギー保存則は次のように表せます。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 \quad \cdots ① $$

② 発生エネルギー \(Q\) の値
発生エネルギー \(Q\) は、反応前後の質量欠損 \(\Delta m\) に光速 \(c\) の2乗を掛けたものです。
反応前の全質量は \(m_{\text{前}} = 11.0216\) [u]、反応後の全質量は \(m_{\text{後}} = 11.0186\) [u] です。
質量欠損 \(\Delta m\) は、
$$ \Delta m = m_{\text{前}} – m_{\text{後}} \quad \cdots ② $$
発生エネルギー \(Q\) は、
$$ Q = \Delta m c^2 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 核反応におけるエネルギー保存則
  • 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
計算過程

まず、質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= 11.0216 – 11.0186 \\[2.0ex]
&= 0.0030 \text{ [u]} \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}
\end{aligned}
$$
次に、この質量欠損をジュール[J]単位のエネルギー \(Q\) に変換します。
\(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\)、\(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]
&= (3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}) \times c^2 \\[2.0ex]
&= (3.0 \times 10^{-3} \times 1.7 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= (5.1 \times 10^{-30}) \times (9.0 \times 10^{16}) \\[2.0ex]
&= 45.9 \times 10^{-14} \\[2.0ex]
&= 4.59 \times 10^{-13} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(Q \approx 4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) となります。

計算方法の平易な説明

① 核反応では、運動エネルギーに加えて、反応で質量がエネルギーに変わった分(\(Q\))も考慮して、エネルギーの収支を計算します。「衝突前の運動エネルギー + 反応で生まれたエネルギー = 衝突後の運動エネルギーの合計」という式を立てます。
② 反応で生まれたエネルギー \(Q\) は、反応の前後で「失われた質量(質量欠損)」に、光の速さの2乗という非常に大きな数を掛けて計算します。

結論と吟味

① エネルギー保存則の式は \(\frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2\) であり、② 発生エネルギー \(Q\) は約 \(4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) です。反応前後で質量が減少しているため、エネルギーが放出される発熱反応であり、\(Q\)が正の値になるのは妥当です。

解答 (3) ①\(\displaystyle\frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2\) ②\(4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(2)の運動量保存則と(3)のエネルギー保存則を連立させて、未知の運動エネルギーを求める問題です。計算が複雑になりがちなので、見通しよく進める工夫が求められます。
この設問における重要なポイント

  • 連立方程式の処理: (2)で立てた2本の運動量保存の式に、与えられた角度と質量の値を代入し、\(V_1\) と \(V_2\) を \(V_0\) を用いて表します。
  • エネルギー保存則への代入: 求めた \(V_1\) と \(V_2\) の関係式を、(3)のエネルギー保存則の式に代入します。これにより、未知数が \(V_0\) と \(Q\) だけの式が得られます。
  • 求める量の計算: 最終的に求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。エネルギー保存則の式を \(K_0\) について整理し、(3)で計算した \(Q\) の値を代入して最終的な答えを求めます。

具体的な解説と立式
(2)で立てた運動量保存則の式に、与えられた値を代入します。
\(M_0=1.0, M_1=4.0, M_2=7.0, \theta_1=60^\circ, \theta_2=90^\circ\)
x方向の式:
$$ 1.0 \times V_0 = 4.0 \times V_1 \cos 60^\circ + 7.0 \times V_2 \cos 90^\circ \quad \cdots ①’ $$
y方向の式:
$$ 0 = 4.0 \times V_1 \sin 60^\circ – 7.0 \times V_2 \sin 90^\circ \quad \cdots ②’ $$
これらの式を解いて \(V_1, V_2\) を \(V_0\) で表し、エネルギー保存則の式に代入します。
エネルギー保存則の式は、各項に \(\frac{1}{2}\) がついているので、運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}MV^2\) を用いて書き直すと見通しが良くなります。
$$ K_0 + Q = K_1 + K_2 $$
ここで、\(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\), \(K_1 = \frac{1}{2}M_1V_1^2\), \(K_2 = \frac{1}{2}M_2V_2^2\) です。

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • エネルギー保存則
計算過程

まず、①’式と②’式を解きます。
\(\cos 60^\circ = \frac{1}{2}\), \(\cos 90^\circ = 0\), \(\sin 60^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\), \(\sin 90^\circ = 1\) なので、
①’式より:
$$
\begin{aligned}
V_0 &= 4.0 V_1 \times \frac{1}{2} + 0 \\[2.0ex]
V_0 &= 2.0 V_1 \\[2.0ex]
V_1 &= \frac{V_0}{2.0}
\end{aligned}
$$
②’式より:
$$
\begin{aligned}
0 &= 4.0 V_1 \times \frac{\sqrt{3}}{2} – 7.0 V_2 \times 1 \\[2.0ex]
7.0 V_2 &= 2.0\sqrt{3} V_1
\end{aligned}
$$
この式に \(V_1 = \frac{V_0}{2.0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
7.0 V_2 &= 2.0\sqrt{3} \left( \frac{V_0}{2.0} \right) \\[2.0ex]
V_2 &= \frac{\sqrt{3}}{7.0} V_0
\end{aligned}
$$
次に、これらの関係をエネルギー保存則に代入します。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 $$
両辺を2倍し、質量と速度の関係式を代入します。
$$
\begin{aligned}
M_0V_0^2 + 2Q &= M_1V_1^2 + M_2V_2^2 \\[2.0ex]
1.0 V_0^2 + 2Q &= 4.0 \left( \frac{V_0}{2.0} \right)^2 + 7.0 \left( \frac{\sqrt{3}}{7.0} V_0 \right)^2 \\[2.0ex]
1.0 V_0^2 + 2Q &= 4.0 \left( \frac{V_0^2}{4.0} \right) + 7.0 \left( \frac{3 V_0^2}{49} \right) \\[2.0ex]
1.0 V_0^2 + 2Q &= 1.0 V_0^2 + \frac{21}{49} V_0^2 \\[2.0ex]
1.0 V_0^2 + 2Q &= 1.0 V_0^2 + \frac{3}{7} V_0^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(1.0 V_0^2\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
2Q &= \frac{3}{7} V_0^2 \\[2.0ex]
V_0^2 &= \frac{14}{3} Q
\end{aligned}
$$
求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 1.0 \times \left( \frac{14}{3} Q \right) \\[2.0ex]
&= \frac{7}{3} Q
\end{aligned}
$$
(3)で求めた \(Q = 4.59 \times 10^{-13}\) [J] を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{7}{3} \times (4.59 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]
&= 7 \times (1.53 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]
&= 10.71 \times 10^{-13} \\[2.0ex]
&= 1.071 \times 10^{-12} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) となります。

計算方法の平易な説明

(2)で立てた運動の勢い(運動量)の保存ルールから、衝突後のヘリウムと原子Xの速さを、衝突した中性子の速さを使って表します。次に、(3)で立てたエネルギーの保存ルールに、この速さの関係を代入します。すると、たくさんの文字が消えていき、最終的に「中性子の運動エネルギーは、反応で生まれたエネルギーQの \(\frac{7}{3}\) 倍である」というシンプルな関係式が出てきます。あとは、(3)で計算したQの値をこの式に入れれば答えが求まります。

別解: 模範解答のアプローチ

思考の道筋とポイント
この解法では、エネルギー保存則の式を、質量の単位[u]と速度の単位[m/s]が混在したまま扱います。まず、反応エネルギー\(Q\)を[u]の次元を持つ量 \(Q’\) に換算し、エネルギー保存則の式から \(V_0^2\) を \(Q’\) で表します。最後に、求めたい運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) を計算する際に、すべての単位をSI単位系(J)に変換します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー単位の換算: 反応エネルギー\(Q\) [J]と、[u]を質量の単位とした運動エネルギー \(\frac{1}{2}MV^2\) [u\(\cdot\)(m/s)\(^2\)]を同じ式で扱うため、単位を揃える必要があります。ここでは、\(Q\)を[u\(\cdot\)(m/s)\(^2\)]の次元を持つ量 \(Q’\) に変換します。\(Q = Q’ \times (1\text{uあたりの質量[kg]})\) の関係を使います。
  • 計算の実行: 運動量保存則から導いた \(V_1, V_2\) と \(V_0\) の関係を、単位を揃えたエネルギー保存則に代入し、\(V_0^2\) を \(Q’\) で表します。
  • 最終的な単位換算: 求めたい運動エネルギー \(\frac{1}{2}M_0V_0^2\) を計算する最後の段階で、質量 \(M_0\) を[u]から[kg]に換算し、ジュール[J]単位で結果を求めます。

具体的な解説と立式
運動量保存則から \(V_1 = \frac{V_0}{2.0}\), \(V_2 = \frac{\sqrt{3}}{7.0}V_0\) が得られるところまでは同じです。
エネルギー保存則の式を考えます。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 + Q = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 $$
この式では、\(Q\)の単位は[J]ですが、運動エネルギーの項で使う質量\(M\)の単位は[u]です。このままでは計算できないため、単位を形式的に揃えます。
(3)で求めた質量欠損 \(\Delta m = 3.0 \times 10^{-3}\) [u] を使って、エネルギー保存則を質量の単位[u]で表現し直します。
反応前の全エネルギーは \(\frac{1}{2}M_0V_0^2 + (\text{反応前の静止エネルギー})\)。
反応後の全エネルギーは \(\frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 + (\text{反応後の静止エネルギー})\)。
ここで、\((\text{反応前の静止エネルギー}) – (\text{反応後の静止エネルギー}) = \Delta m c^2 = Q\) です。
この関係をエネルギー保存則に代入すると、
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 – Q $$
ここで、\(Q\)を[u]単位の質量欠損\(\Delta m\)で表現し直します。
$$ \frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 – \Delta m c^2 $$
この式に、\(M_0=1.0, M_1=4.0, M_2=7.0\) と \(V_1, V_2\) の関係を代入します。
$$ \frac{1}{2}(1.0)V_0^2 = \frac{1}{2}(4.0)\left(\frac{V_0}{2.0}\right)^2 + \frac{1}{2}(7.0)\left(\frac{\sqrt{3}}{7.0}V_0\right)^2 – \Delta m c^2 $$

計算過程

上記で立てた式を \(V_0^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}V_0^2 &= \frac{1}{2}(4.0)\frac{V_0^2}{4.0} + \frac{1}{2}(7.0)\frac{3V_0^2}{49} – \Delta m c^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}V_0^2 &= \frac{1}{2}V_0^2 + \frac{3}{14}V_0^2 – \Delta m c^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(\frac{1}{2}V_0^2\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{3}{14}V_0^2 – \Delta m c^2 \\[2.0ex]
\frac{3}{14}V_0^2 &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]
V_0^2 &= \frac{14}{3} \Delta m c^2
\end{aligned}
$$
求めたいのは中性子の運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) です。
ここで、質量 \(M_0\) は[u]単位の数値 \(M_{0\text{[u]}} = 1.0\) と、単位[u]から[kg]への換算係数 \(k = 1.7 \times 10^{-27}\) [kg/u] を用いて \(M_0 = M_{0\text{[u]}} \times k\) と表せます。同様に \(\Delta m = \Delta m_{\text{[u]}} \times k\) です。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} (M_{0\text{[u]}} \times k) \times \left( \frac{14}{3} (\Delta m_{\text{[u]}} \times k) c^2 \right)
\end{aligned}
$$
この式は単位の扱いが複雑です。模範解答のように、\(V_0^2 = \frac{14}{3}\Delta m c^2\) の \(\Delta m\) を[u]単位のまま計算を進めます。
$$ V_0^2 = \frac{14}{3} (3.0 \times 10^{-3}) c^2 = 14 \times 10^{-3} c^2 $$
求める運動エネルギー \(K_0\) は、
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} M_0 V_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times (1.0 \text{ [u]}) \times (14 \times 10^{-3} c^2)
\end{aligned}
$$
ここで単位を[J]に変換します。\(1\text{u} \times c^2 = (1.7 \times 10^{-27}) \times (3.0 \times 10^8)^2 = 1.53 \times 10^{-10}\) [J] ですが、(3)で計算した \(Q = \Delta m c^2\) の値を利用する方が賢明です。
\(Q = (3.0 \times 10^{-3} \text{ [u]}) \times c^2 = 4.59 \times 10^{-13}\) [J] でした。
この関係から、\(1 \text{u} \cdot c^2 = \frac{4.59 \times 10^{-13}}{3.0 \times 10^{-3}} = 1.53 \times 10^{-10}\) [J] となります。
これを用いて \(K_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{1}{2} \times 1.0 \times 14 \times 10^{-3} \times c^2 \\[2.0ex]
&= 7.0 \times 10^{-3} \times (1\text{u} \cdot c^2) \\[2.0ex]
&= 7.0 \times 10^{-3} \times (1.53 \times 10^{-10}) \\[2.0ex]
&= 10.71 \times 10^{-13} \\[2.0ex]
&= 1.071 \times 10^{-12} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) となります。

結論と吟味

衝突した中性子の運動エネルギーは \(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\) です。
この値は、反応で発生したエネルギー \(Q \approx 4.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) よりも大きいです。\(K_0 = \frac{7}{3}Q \approx 2.3 Q\) であり、入射エネルギーの一部が生成物の運動エネルギーに分配され、さらに反応エネルギーも運動エネルギーに加わっているという物理描像と矛盾しません。計算結果は妥当です。

解答 (4) \(1.1 \times 10^{-12} \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 核反応における二大保存則:
    • 核心: この問題は、核反応を支配する二つの巨大な柱、「①電荷と質量数の保存」と「②エネルギーと運動量の保存」を使いこなせるかを試しています。
    • 理解のポイント:
      • ①は、原子核の構成要素(陽子・中性子)が反応の前後で消えたり現れたりしない、という粒子的な保存則です。(1)で使います。
      • ②は、力学的な量の保存則です。特に、運動量はベクトル量なので方向を含めて保存し、エネルギーは質量がエネルギーに変わりうる(\(E=mc^2\))という相対論的な効果を含めて保存します。これが(2)〜(4)の根幹をなす法則です。
  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
    • 核心: 核反応で莫大なエネルギーが放出(または吸収)される源泉は、反応前後の質量のわずかな差(質量欠損)です。この質量とエネルギーの関係を結びつけるのが \(Q = \Delta m c^2\) であり、(3)の計算の鍵となります。
    • 理解のポイント: 「質量はエネルギーの一形態である」という考え方を身につけることが重要です。質量が減れば、その分だけエネルギーが生まれ(発熱反応)、逆に質量が増えれば、その分だけ外部からエネルギーが吸収された(吸熱反応)ことを意味します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 原子核の分裂・融合反応: ウランの核分裂や、水素の核融合など、より有名な核反応でも、適用する物理法則(電荷・質量数の保存、運動量保存、エネルギー保存)は全く同じです。
    • 未知の角度や質量を求める問題: この問題ではエネルギーを求めましたが、逆にエネルギーが与えられていて、放出される粒子の角度 \(\theta_1\) や質量 \(M_2\) を未知数として解く問題も考えられます。その場合でも、運動量保存とエネルギー保存の連立方程式を解くというアプローチは変わりません。
    • 相対論的効果が無視できない高エネルギー領域の問題: 大学レベルになると、粒子の速さが光速に近くなり、運動エネルギーの式が \(\frac{1}{2}mv^2\) ではなくなったり、運動量の式も変わったりしますが、根本的な保存則の考え方は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 反応の種類を問わず、まず核反応式を立てる: 何が何に変わったのかを \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の記法で書き出し、電荷と質量数の保存を確認します。これが全ての土台です。
    2. 運動量保存とエネルギー保存のどちらが有効かを見極める: 粒子の速さや角度が関わる問題では、運動量保存則が必須です。質量の変化や反応熱が関わる問題では、エネルギー保存則(質量欠損を含む)が必須です。この問題のように両方が絡む場合は、両方を立式して連立させる必要があります。
    3. 座標軸を賢く設定する: 運動量保存を考える際は、入射粒子の進行方向をx軸に取ると、反応前のy成分が0になり、式が単純化されて計算が楽になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量をスカラーとして扱ってしまう:
    • 誤解: 運動量保存則を \(M_0V_0 = M_1V_1 + M_2V_2\) のように、向きを考えずに速さの足し算で立式してしまう。
    • 対策: 運動量は常にベクトル(矢印)でイメージする癖をつけましょう。衝突後の粒子が斜めに飛ぶ問題では、必ずx成分とy成分に分解して考えることを徹底してください。
  • エネルギー保存則におけるQの扱い:
      • 誤解: \(Q\) を反応後のエネルギーとして、\(\frac{1}{2}M_0V_0^2 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 + \frac{1}{2}M_2V_2^2 + Q\) のように、符号を間違えて式を立ててしまう。

    – 対策: \(Q\) は「反応によって生まれたエネルギー」であり、反応前のエネルギーに加算されて、反応後のエネルギーになると考えましょう。「(反応前の全エネルギー)=(反応後の全エネルギー)」という大原則に立ち返り、\(E_{\text{前運動}} + E_{\text{質量}} = E_{\text{後運動}}\) の \(E_{\text{質量}}\) の部分が \(Q\) に対応すると理解すると間違いが減ります。

  • 単位換算のミス:
    • 誤解: (3)で \(Q\) を計算する際に、質量欠損[u]からエネルギー[J]への換算を忘れたり、\(1\text{u}\)の換算値を間違えたりする。また、(4)の計算途中で、質量の単位が[u]のままであることを忘れ、エネルギーの単位を[J]と勘違いして計算を進めてしまう。
    • 対策: 計算の各段階で、物理量の単位が何であるかを常に意識しましょう。特に、異なる単位系([u]と[kg]、[J]と[MeV]など)が混在する問題では、どこかの段階で単位を統一する必要があります。最終的にジュールで答えるなら、全ての量をSI単位系(kg, m, s)に変換してから計算するのが最も安全です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 運動量ベクトル図: 反応前の運動量ベクトル \(\vec{p_0}\)(x軸方向の矢印)と、反応後の運動量ベクトル \(\vec{p_1}\) と \(\vec{p_2}\) を描きます。運動量保存則 \(\vec{p_0} = \vec{p_1} + \vec{p_2}\) は、この3本の矢印で三角形が作れること(\(\vec{p_1}\)の終点に\(\vec{p_2}\)の始点をつなぐと、\(\vec{p_0}\)の終点に一致する)を意味します。このベクトル三角形を描くことで、x, y成分の式が図形的に理解できます。
    • エネルギーの棒グラフ: 反応前と反応後で、エネルギーの内訳がどう変わったかを棒グラフでイメージします。反応前は「中性子の運動エネルギー」と「質量エネルギー」の棒グラフ。反応後は「ヘリウムの運動エネルギー」「Xの運動エネルギー」「質量エネルギー」の棒グラフ。反応で質量エネルギーの棒が少し短くなり、その分だけ運動エネルギーの棒の合計が長くなった、というイメージを持つと、\(Q\)の役割が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 電荷・質量数保存則:
    • 選定理由: (1)で未知の生成物を特定するため。これは核反応を記述する上での最も基本的なルールです。
    • 適用根拠: 陽子や中性子といった核子が、核反応で勝手に生成・消滅しないという経験則に基づいています(対生成・対消滅などの特殊な例を除く)。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (2),(4)で、衝突・分裂現象における粒子の速度や角度の関係を導くため。系に外力が働かない限り、運動量は常に保存されるという力学の大原則です。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の第三法則(作用・反作用の法則)から導かれる、物理学の普遍的な法則です。
  • エネルギー保存則(\(E=mc^2\) を含む):
    • 選定理由: (3),(4)で、質量の変化を含めたエネルギーの収支を計算するため。
    • 適用根拠: 「エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は不変である」という物理学の根幹をなす法則。核反応では、質量もエネルギーの一形態として扱わなければならない、という相対性理論の帰結を適用します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 原子Xの特定:
    • 戦略: 核反応式の保存則を用いる。
    • フロー: ①核反応式を記述 → ②質量数の和が保存する式を立式 → ③原子番号の和が保存する式を立式 → ④連立方程式を解いてAとZを決定。
  2. (2) 運動量保存則の立式:
    • 戦略: 運動量をベクトルとして扱い、成分分解する。
    • フロー: ①入射方向をx軸に設定 → ②反応前後の運動量をx, y成分に分解 → ③x方向で運動量保存則を立式 → ④y方向で運動量保存則を立式。
  3. (3) エネルギーの計算:
    • 戦略: 質量欠損から反応エネルギーQを求め、エネルギー保存則を立てる。
    • フロー: ①反応前後の質量差(\(\Delta m\))を計算 → ②\(Q=\Delta m c^2\)でエネルギー[J]に換算 → ③「反応前の運動エネルギー + Q = 反応後の運動エネルギー」の形で保存則を立式。
  4. (4) 入射エネルギーの計算:
    • 戦略: 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解く。
    • フロー: ①(2)の運動量保存の式から\(V_1, V_2\)を\(V_0\)で表す → ②(3)のエネルギー保存の式に代入し、\(V_0^2\)を\(Q\)で表す → ③求める運動エネルギー \(K_0 = \frac{1}{2}M_0V_0^2\) を\(Q\)を用いて計算 → ④数値を代入して最終的な値を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (4)の計算では、すぐに質量の数値(1.0, 4.0, 7.0)を代入するのではなく、\(M_0, M_1, M_2\)のまま計算を進め、最後に代入する方が、物理的な意味を見失いにくく、検算もしやすい場合があります。
  • 単位の次元を意識する: (4)の \(K_0 = \frac{7}{3}Q\) のように、最終的にエネルギー[J]を求める式が、エネルギー[J]の定数倍という形になっているかを確認しましょう。もし単位の次元が合わなければ、途中の計算が間違っている証拠です。
  • 三角関数の値を正確に: \(\cos 60^\circ, \sin 60^\circ, \cos 90^\circ, \sin 90^\circ\) などの基本的な三角関数の値を間違えると、その後の計算がすべて無駄になります。正確に覚えておきましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • エネルギーの分配を考える: (4)の計算結果から、\(K_0 = \frac{7}{3}Q\), \(K_1 = \frac{1}{2}M_1V_1^2 = \frac{1}{2}(4.0)(\frac{V_0}{2})^2 = \frac{1}{2}V_0^2 = \frac{1}{M_0}K_0 = K_0\), \(K_2 = \frac{1}{2}M_2V_2^2 = \frac{1}{2}(7.0)(\frac{\sqrt{3}}{7}V_0)^2 = \frac{3}{14}V_0^2 = \frac{3}{7M_0}K_0 = \frac{3}{7}K_0\) となります。エネルギー保存則 \(K_0+Q = K_1+K_2\) に代入すると \(K_0+Q = K_0 + \frac{3}{7}K_0\) となり、\(Q = \frac{3}{7}K_0\)、すなわち \(K_0 = \frac{7}{3}Q\) が得られます。このように、各粒子のエネルギーが保存則を満たしているかを確認することで、計算の正しさを強力に裏付けることができます。
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468 核分裂反応

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