Step 2
24 自由落下
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「自由落下運動の公式の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自由落下運動の3公式: 鉛直下向きを正とすると、初速度が0の等加速度直線運動である自由落下は、速度 \(v\)、落下距離 \(y\)、時間 \(t\) の間に \(v=gt\)、\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)、\(v^2=2gy\) の関係が成り立ちます。
- 座標軸の設定: 自由落下では、鉛直下向きを正の向きに取ると、速度や変位が全て正の値となり、計算が簡単になります。
- 「落下距離」と「地上からの高さ」の区別: 公式の \(y\) は、落下開始点からの「落下距離」を表します。問題で問われている「地上からの高さ」を求めるには、建物全体の高さから落下距離を引く必要があります。
- 公式の適切な選択: 問題で何が与えられ、何を求めたいのかに応じて、3つの公式を適切に使い分けることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず落下時間を変位の公式に代入して「落下距離」を求め、次にその値を建物の全体の高さから引いて「地上からの高さ」を算出します。
- (2)では、落下距離が与えられて速さを求めるので、時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) を使うのが最も効率的です。
- (3)では、まず落下距離に建物の高さを代入して地面に達するまでの時間を求め、次にその時間を使って速度の公式から地面に達する瞬間の速さを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
落下し始めてから \(2.0\) s 後の「地上からの高さ」を求める問題です。これを直接求める公式はないため、2段階で考えます。まず、\(2.0\) s の間に小球がどれだけの距離を落下したか(落下距離)を計算します。次に、その落下距離を建物の全体の高さから引き算することで、その時点での地上からの高さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 自由落下の変位(落下距離)の公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を利用する。
- 公式で計算される \(y\) は、あくまでスタート地点からの「落下距離」である。
- 地上からの高さ = (建物の全体の高さ) – (落下距離) という関係を理解する。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。落下し始めてから \(t=2.0\) s 後の落下距離を \(y\) [m] とすると、変位の公式より、
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$
この \(y\) を計算した後、地上からの高さ \(h\) [m] を求めます。建物の高さは \(78.4\) m なので、
$$ h = 78.4 – y $$
使用した物理公式
- 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
まず、\(t=2.0\) s 間の落下距離 \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]&= 4.9 \times 4.0 \\[2.0ex]&= 19.6 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、このときの地上からの高さ \(h\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
h &= 78.4 – 19.6 \\[2.0ex]&= 58.8 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字は2桁または3桁ですが、解答の形式に合わせて \(59\) m とします。
$$ h \approx 59 \text{ [m]} $$
まず「2.0秒間でボールが何メートル落ちるか」を計算します。位置の公式を使うと、19.6m落ちることがわかります。問題で聞かれているのは「地面から見てどの高さにいるか」なので、ビルの全体の高さ78.4mから、今落ちた距離19.6mを引き算します。
落下し始めてから \(2.0\) s 後の地上からの高さは約 \(59\) m です。落下しているので、元の高さ \(78.4\) m より低い位置にあるという結果は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
\(40\) m 落下したときの小球の速さを求める問題です。落下距離 \(y\) が与えられていて、速さ \(v\) を求めたい状況です。この2つの量を直接結びつける、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2=2gy\) を使うのが最も簡単で効率的です。
この設問における重要なポイント
- 時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) を利用する。
- 公式中の \(y\) には、与えられた落下距離 \(40\) m をそのまま代入する。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。落下距離 \(y=40\) m のときの速さを \(v\) [m/s] とします。時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) に値を代入します。
$$ v^2 = 2 \times 9.8 \times 40 $$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- 自由落下の時間を含まない式: \(v^2=2gy\)
立式した方程式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 40 \\[2.0ex]v^2 &= 784
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{784} \\[2.0ex]v &= 28 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
「40m落ちたときの速さは?」という問題です。物理には、時間を使わずに「距離」と「速さ」を直接結びつける便利な公式 (\(v^2=2gy\)) があります。この公式に、落下した距離 \(y=40\) m を代入するだけで、速さ \(v\) を計算できます。
\(40\) m 落下したときの速さは \(28\) m/s です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小球が地面に達するまでの「時間」と、そのときの「速さ」を両方求める問題です。まず、地面に達するということは、落下距離が建物の高さ \(78.4\) m に等しくなるということなので、この条件を使って時間を求めます。次に、求めた時間を使って、その瞬間の速さを計算します。
この設問における重要なポイント
- 地面に達する条件は、落下距離 \(y\) が建物の高さ \(78.4\) m となること。
- まず、\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を使って時間 \(t\) を求める。
- 次に、求めた \(t\) を使って \(v=gt\) から速さ \(v\) を求める。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。地面に達するとき、落下距離は \(y=78.4\) m となります。
地面に達するまでの時間を \(t\) [s] とすると、変位の公式より、
$$ 78.4 = \frac{1}{2}gt^2 $$
この式から \(t\) を求めます。
次に、地面に達するときの速さを \(v\) [m/s] とすると、速度の公式より、
$$ v = gt $$
この式に、上で求めた時間 \(t\) を代入して \(v\) を求めます。
使用した物理公式
- 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
- 自由落下の速度の式: \(v = gt\)
まず、時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
78.4 &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 \\[2.0ex]78.4 &= 4.9 t^2 \\[2.0ex]t^2 &= \frac{78.4}{4.9} \\[2.0ex]t^2 &= 16
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$ t = 4.0 \text{ [s]} $$
次に、この時間を使って速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]&= 39.2
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、
$$ v \approx 39 \text{ [m/s]} $$
まず「78.4mを落下するのに何秒かかるか」を位置の公式を使って計算します。計算すると4.0秒とわかります。次に「自由落下を4.0秒間続けたら、速さはいくらになるか」を速さの公式を使って計算します。
地面に達するまでの時間は \(4.0\) s、そのときの速さは約 \(39\) m/s です。
思考の道筋とポイント
地面に達するときの速さを、時間を使わずに公式 \(v^2=2gy\) を使って直接求めることもできます。落下距離 \(y\) に建物の高さ \(78.4\) m を代入します。その後、求めた速さ \(v\) を \(v=gt\) に代入して時間を逆算することも可能です。
具体的な解説と立式
地面に達するときの速さを \(v\) [m/s] とします。落下距離は \(y=78.4\) m なので、時間を含まない公式に代入します。
$$ v^2 = 2 \times 9.8 \times 78.4 $$
この式から \(v\) を求めます。その後、\(v=gt\) の関係から時間 \(t\) を求めます。
使用した物理公式
- 自由落下の時間を含まない式: \(v^2=2gy\)
- 自由落下の速度の式: \(v = gt\)
まず、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 78.4 \\[2.0ex]v^2 &= 19.6 \times 78.4 \\[2.0ex]v^2 &= 1536.64
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{1536.64} \\[2.0ex]&= 39.2 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(v \approx 39\) m/s となります。
次に、この速さになるまでの時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
39.2 &= 9.8 \times t \\[2.0ex]t &= \frac{39.2}{9.8} \\[2.0ex]t &= 4.0 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
「78.4m落ちたときの速さは?」を、時間を使わない公式で先に計算します。速さが \(39.2\) m/s とわかります。次に、「速さが \(39.2\) m/s になるのは何秒後か?」を速さの公式を使って逆算すれば、時間を求めることもできます。
時間 \(4.0\) s、速さ約 \(39\) m/s となり、先の解法と一致します。問題の問い方に応じて、どの順番で解くか、どの公式を使うかを選択する力が試されます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 自由落下運動の3公式:
- 核心: 自由落下は、初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の「等加速度直線運動」の最も基本的な形です。この運動を記述する3つの公式を、問題の条件に応じて正しく選択し、適用することが全てです。
- 理解のポイント:
- \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\): 「時間 \(t\)」と「落下距離 \(y\)」の関係。時間を求めたいとき、または時間が与えられているときに使う。(1)(3)で使用。
- \(v = gt\): 「時間 \(t\)」と「速さ \(v\)」の関係。時間を求めた後で速さを知りたいとき、またはその逆の場合に使う。(3)で使用。
- \(v^2 = 2gy\): 「落下距離 \(y\)」と「速さ \(v\)」の関係。時間を介さずに速さや距離を求めたいときに非常に便利。(2)で使用。
- 基準点と物理量の定義の明確化:
- 核心: 物理の問題を解く上で、どこを基準(原点)とし、どちらの向きを正とするかを最初に決めることが重要です。また、公式中の文字が何を意味するのか(例:\(y\) は「落下距離」か「高さ」か)を正確に理解することがミスを防ぎます。
- 理解のポイント:
- この問題では、落下開始点(屋上)を原点、鉛直下向きを正としています。
- 公式の \(y\) は落下距離を意味するため、(1)のように「地上からの高さ」を問われた場合は、全体の高さからの引き算が必要になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直投げ下ろし: 初速度を持って真下に投げる運動。公式は \(v = v_0 + gt\), \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\), \(v^2 – v_0^2 = 2gy\) となり、初速度 \(v_0\) の項が加わるだけです。
- 音の伝播を含む問題: 井戸に石を落とし、石が水面に達する音を聞くまでの時間を考える問題。石の落下時間 \(t_1\) と、音が井戸の底から聞こえるまでの時間 \(t_2\) の和が観測時間となります。(\(t_1\) は自由落下、\(t_2\) は等速直線運動)
- 相対運動: 例えば、自由落下するエレベーターの中からボールを自由落下させる場合。外部の静止した観測者から見ると、ボールの初速度はエレベーターのその瞬間の速度と同じになります。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の種類を特定: 問題文から「自由落下」「投げ下ろし」「投げ上げ」のどれに該当するかを判断します。
- 既知の量と未知の量を整理: 問題文で与えられている量(\(y, v, t\) など)と、求めたい量をリストアップします。
- 最適な公式を選択: 整理したリストを見て、3つの公式のうち、未知数が1つだけで、最も簡単に計算できるものを選びます。(2)のように時間 \(t\) が不要な場面で \(v^2=2gy\) を選ぶのが典型例です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「落下距離」と「地上からの高さ」の混同:
- 誤解: (1)で落下距離 \(19.6\) m を計算し、それをそのまま答えとしてしまう。
- 対策: 問題文が「落下距離」を問うているのか、「(ある基準点からの)高さ」を問うているのかを注意深く読み取る。図を描いて、全体の高さ、落下距離、残りの高さの関係を視覚的に把握する。
- 公式の代入ミス:
- 誤解: (2)で速さを求めたいのに、落下距離 \(y=40\) m を時間の公式 \(v=gt\) に代入しようとして混乱する。
- 対策: 各公式がどの物理量同士の関係を示しているのかを正確に覚える。「\(v=gt\) は時間と速さ」「\(y=\frac{1}{2}gt^2\) は時間と距離」「\(v^2=2gy\) は距離と速さ」と、セットで記憶する。
- 平方根の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(t^2=16\) から \(t=\pm 4\) とし、どちらが正しいか迷う。または、(2)で \(v=\sqrt{784}\) のような計算で手間取る。
- 対策: 時間 \(t\) は負の値を取り得ないので、常に正の解を選ぶと決めておく。平方根の計算は、\(784 = 400 \times 1.96 = 20^2 \times 1.4^2\) のように気づくのは難しいので、地道に素因数分解するか、\(20^2=400\), \(30^2=900\) から見当をつけて \(2x^2\) を試す(この場合は \(28^2\))など、計算練習を積んでおく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 変位の式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)):
- 選定理由: (1)では「時間 \(t\)」が与えられ「落下距離 \(y\)」を知りたい。(3)では「落下距離 \(y\)」が与えられ「時間 \(t\)」を知りたい。いずれも時間と距離を結びつけるこの公式が最も直接的です。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の一般式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。
- 時間を含まない式 (\(v^2 = 2gy\)):
- 選定理由: (2)では「落下距離 \(y\)」が与えられ「速さ \(v\)」を知りたい。時間を計算する必要がなく、この2つの量だけで完結しているこの公式が圧倒的に効率的です。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の一般式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。他の2式から \(t\) を消去して導かれます。
- 速度の式 (\(v = gt\)):
- 選定理由: (3)で落下時間 \(t\) を求めた後、「そのときの速さ \(v\)」を求めたい。時間と速さを最もシンプルに結びつける公式だからです。
- 適用根拠: 加速度の定義 \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) から導かれる等加速度直線運動の基本式 \(v = v_0 + at\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(g=9.8\) の計算に慣れる: \(9.8 \times 2 = 19.6\), \(9.8 \times 4 = 39.2\), \(9.8 \times 5 = 49\) など、よく使う計算結果を覚えておくと速い。また、\(9.8\) は \(4.9 \times 2\) であることを意識すると、(3)の \(t^2 = 78.4 / 4.9\) の計算で、\(78.4 = 16 \times 4.9\) であることに気づきやすくなり、\(t^2=16\) と暗算できる場合があります。
- 問題の構造を把握する: (3)のように「時間と速さ」を両方問う問題では、「距離→時間→速さ」の順で計算するのが一般的です。別解のように「距離→速さ→時間」と計算することも可能ですが、平方根の計算が先に来るため、少し複雑になることがあります。どちらのルートでも解けるように練習し、簡単な計算ルートを見抜く力を養う。
- 単位と有効数字の最終確認: 計算が終わった後、求めた値の単位が正しいか(時間なら[s]、速さなら[m/s])、問題文の指示や使用した数値の桁数に応じた有効数字になっているかを必ず確認する。
25 自由落下
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「自由落下運動における落下距離と時間の関係性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自由落下の変位の公式: 物体が自由落下するときの落下距離 \(y\) と時間 \(t\) の関係式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) が全ての計算の基本となります。
- 落下時間と落下距離の関係: 上の公式を変形すると \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2y}{g}}\) となり、落下時間 \(t\) は落下距離 \(y\) の平方根に比例する(\(t \propto \sqrt{y}\))ことがわかります。このため、落下距離が2倍になっても、かかる時間は2倍にはなりません。
- 文字式による計算: ビルの高さなどの具体的な数値が与えられていないため、高さを \(h\) などの文字で置いて計算を進め、最終的に比を求めることで文字を消去する手法が有効です。
- 区間ごとの時間の計算: 運動の途中からの時間を直接求めるのは、初速度が0でないため複雑になります。そこで、「(スタートからゴールまでの)全体の時間」から「(スタートから中間地点までの)前半の時間」を引くことで、「(中間地点からゴールまでの)後半の時間」を求めるのが賢明なアプローチです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ビルの高さを \(h\) と設定します。
- 屋上からビルの中間点まで(前半の区間、落下距離 \(h/2\))の落下時間 \(t_{\text{前半}}\) を \(h\) を用いて表します。
- 屋上から地面まで(全体の区間、落下距離 \(h\))の落下時間 \(t_{\text{全体}}\) を \(h\) を用いて表します。
- 中間点から地面まで(後半の区間)の落下時間 \(t_{\text{後半}}\) を、\(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\) として計算します。
- 問題で問われている比、\(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題は「前半の落下時間」が「後半の落下時間」の何倍になるかを問うています。ここで注意すべきは、「後半の区間」の運動は初速度が0ではないため、単純な自由落下の公式を直接適用できない点です。
この問題を解く最もスマートな方法は、まずスタート地点(屋上)を基準として、①「前半の区間(屋上→中間点)にかかる時間」と、②「全体の区間(屋上→地面)にかかる時間」をそれぞれ計算することです。そして、②から①を引くことで、③「後半の区間(中間点→地面)にかかる時間」を求めます。最後に、①と③の比を計算します。
この設問における重要なポイント
- 自由落下の公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を用いる。
- 具体的な数値がないため、ビルの高さを文字 \(h\) でおく。
- 前半の落下距離は \(h/2\)、全体の落下距離は \(h\) である。
- 後半の時間 = (全体の時間) – (前半の時間) の関係を利用して計算する。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとし、ビルの高さを \(h\) とします。
1. 前半の区間(屋上から中間点まで)の時間 \(t_{\text{前半}}\) を求める
落下距離は \(\displaystyle\frac{h}{2}\) なので、自由落下の公式に代入します。
$$ \frac{h}{2} = \frac{1}{2}gt_{\text{前半}}^2 \quad \cdots ① $$
2. 全体の区間(屋上から地面まで)の時間 \(t_{\text{全体}}\) を求める
落下距離は \(h\) なので、同様に公式に代入します。
$$ h = \frac{1}{2}gt_{\text{全体}}^2 \quad \cdots ② $$
3. 後半の区間(中間点から地面まで)の時間 \(t_{\text{後半}}\) を求める
後半の時間は、全体の時間から前半の時間を引いたものになります。
$$ t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}} \quad \cdots ③ $$
4. 求める値(比)を計算する
問題で問われているのは、「前半の時間」が「後半の時間」の何倍か、すなわち \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) です。
使用した物理公式
- 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
まず、①式と②式をそれぞれ \(t_{\text{前半}}\) と \(t_{\text{全体}}\) について解きます。
①より、
$$ t_{\text{前半}}^2 = \frac{h}{g} \quad \rightarrow \quad t_{\text{前半}} = \sqrt{\frac{h}{g}} $$
②より、
$$ t_{\text{全体}}^2 = \frac{2h}{g} \quad \rightarrow \quad t_{\text{全体}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{2}\sqrt{\frac{h}{g}} $$
次に、③式を使って \(t_{\text{後半}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
t_{\text{後半}} &= t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}} \\[2.0ex]&= \sqrt{2}\sqrt{\frac{h}{g}} – \sqrt{\frac{h}{g}} \\[2.0ex]&= (\sqrt{2}-1)\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$
最後に、求める比 \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}} &= \frac{\sqrt{\frac{h}{g}}}{(\sqrt{2}-1)\sqrt{\frac{h}{g}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{\sqrt{2}-1}
\end{aligned}
$$
分母を有理化します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\sqrt{2}-1} &= \frac{1 \times (\sqrt{2}+1)}{(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{2}+1}{2-1} \\[2.0ex]&= \sqrt{2}+1
\end{aligned}
$$
この問題は、時間の比率を聞いているので、具体的なビルの高さは分からなくても解けます。高さを仮に「\(h\)」と置いてみましょう。
1. まず、前半の半分(\(h/2\))を落ちるのにかかる時間(前半タイム)を計算します。
2. 次に、全部(\(h\))を落ちるのにかかる時間(全体タイム)を計算します。
3. すると、後半の半分を落ちるのにかかる時間(後半タイム)は、「全体タイム」から「前半タイム」を引き算すれば求められます。
4. 最後に、問題で聞かれている「前半タイムは後半タイムの何倍か?」を計算するために、「前半タイム ÷ 後半タイム」を計算すれば答えが出ます。
求める倍率は \(\sqrt{2}+1\) 倍です。\(\sqrt{2}+1 \approx 2.414\) なので、前半の落下にかかる時間は、後半の落下にかかる時間の約2.4倍となります。自由落下では物体はどんどん加速していくため、同じ距離(ビルの半分の高さ)を落下するにもかかわらず、運動の後半の方が前半よりも短い時間で済みます。したがって、前半の時間 > 後半の時間 となるこの結果は物理的に妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 落下時間と落下距離の非線形な関係:
- 核心: 自由落下運動において、落下時間 \(t\) は落下距離 \(y\) に単純に比例するのではなく、その平方根に比例する(\(t \propto \sqrt{y}\))という関係がこの問題の核心です。
- 理解のポイント:
- この非線形性のため、落下距離が2倍になってもかかる時間は \(\sqrt{2}\) 倍にしかなりません。
- したがって、同じ距離を落下するのにかかる時間は、運動の前半(遅い)と後半(速い)で異なります。この直感に反するかもしれない事実を、公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を通して理解することが重要です。
- 区間ごとの運動の考え方:
- 核心: 運動の途中から始まる区間(この問題では後半の区間)の時間を求めたい場合、その区間の初速度が0ではないため、単純な自由落下の公式は使えません。
- 理解のポイント:
- このような場合、基準点(スタート地点)を統一し、「(スタートから最終地点までの)全体の時間」と「(スタートから中間地点までの)前半の時間」をそれぞれ計算し、その差を取ることで「後半の時間」を求める、というアプローチが基本かつ強力な解法となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 落下距離の比を問う問題: 逆に、「全落下時間のうち、前半の時間で落下する距離と、後半の時間で落下する距離の比はいくらか」という問題。\(t \propto \sqrt{y}\) より \(y \propto t^2\) なので、全落下時間を \(T\) とすると、前半の時間 \(T/2\) で進む距離は全距離の \( (1/2)^2 = 1/4 \) となります。
- 等加速度直線運動全般への応用: この「全体の量から前半の量を引いて後半の量を求める」という考え方は、自由落下に限らず、初速度のある等加速度直線運動など、様々な運動の解析に応用できます。
- エネルギー保存則との関連: 後半の区間をエネルギー保存則で考えることもできます。中間点での速さ \(v_1\) と地面での速さ \(v_2\) を位置エネルギーから求め、等加速度運動の公式 \(v_2 = v_1 + gt_{\text{後半}}\) を使って \(t_{\text{後半}}\) を計算することも可能ですが、より複雑になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 具体的な数値がないことを確認: 問題文に具体的な高さや時間が与えられていない場合、文字式で立式し、最終的に比を計算することで文字が消去されるパターンだと予測します。
- 「〜の何倍か?」という問いに注目: 比を求める問題では、基準となる量(この問題では「後半の時間」)が分母に、比較したい量(「前半の時間」)が分子に来ることを意識して立式します。
- 区間の分割を明確にする: 図を描いて、「前半の区間」「後半の区間」「全体の区間」を明確に区別し、それぞれの区間の始点と終点、距離、時間を整理します。特に、後半の区間の始点では初速度が0でないことを強く意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 線形関係の誤解:
- 誤解: 同じ距離(ビルの半分の高さ)を落下するのだから、前半にかかる時間と後半にかかる時間は同じだと考えてしまい、答えを「1倍」としてしまう。
- 対策: 自由落下では物体は常に加速していることを思い出す。つまり、運動の後半は前半よりも速いので、同じ距離を進むのにより短い時間しかかからないはずだと直感的に考える。この直感と \(y \propto t^2\) の関係を結びつける。
- 後半の区間の計算ミス:
- 誤解: 後半の区間(距離 \(h/2\))についても、初速度を0として自由落下の公式 \( \frac{h}{2} = \frac{1}{2}gt^2 \) を適用してしまう。
- 対策: 自由落下の公式が使えるのは「初速度が0の場合のみ」であることを徹底する。運動の途中から始まる区間では、その開始点での速度を求めるか、もしくは「全体-前半」という引き算のアプローチを取る必要があると理解する。
- 比の計算ミス:
- 誤解: 求める比が \(\displaystyle\frac{t_{\text{後半}}}{t_{\text{前半}}}\) なのか \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) なのかを問題文から正しく読み取れず、逆数を答えてしまう。
- 対策: 問題文の「AはBの何倍か」という表現は、比 \(\frac{A}{B}\) を計算することを意味すると機械的に変換する。この問題では「前半の時間は、後半の時間の何倍か」なので、\(\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 自由落下の変位の式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)):
- 選定理由: この問題は、落下距離と時間の関係性そのものを問うています。したがって、この2つの量を直接結びつけるこの公式が、思考の出発点として唯一かつ最適な選択肢となります。
- 適用根拠: この公式は、等加速度直線運動の最も基本的な関係式の一つであり、初速度0という条件を適用したものです。文字式で \(t\) を \(y\) の関数として表現(\(t = \sqrt{2y/g}\))することで、時間と距離の平方根比例の関係が明確になります。
- 引き算による区間時間の算出 (\(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\)):
- 選定理由: 後半の区間の運動は初速度が0でないため、単純な公式適用ができません。一方で、前半と全体の時間は、共通のスタート地点(屋上、初速度0)から計算できるため、容易に立式できます。したがって、直接計算が困難な量を、計算が容易な量の差として求めるこのアプローチが論理的かつ効率的です。
- 適用根拠: 時間は加法性が成り立つスカラー量であるため、連続する運動区間において「全体の時間=前半の時間+後半の時間」という関係が自明に成り立ちます。これを変形したものが \(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\) です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字定数の導入: ビルの高さ \(h\) のように、問題に与えられていないが必要な量は、自分で文字を置いて計算を進めることに慣れる。比を求める問題では、これらの文字は最終的に約分されて消えることが多いです。
- 共通因子の活用: 計算過程で \(t_{\text{前半}} = \sqrt{h/g}\) と \(t_{\text{全体}} = \sqrt{2}\sqrt{h/g}\) のように、共通の因子 \(\sqrt{h/g}\) が現れます。この共通因子を一つの塊として扱うことで、その後の引き算や割り算の見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
- 分母の有理化: 計算結果が \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-1}\) のようになった場合、有理化して \(\sqrt{2}+1\) と変形するのが一般的です。分母に無理数が含まれる形でも間違いではありませんが、有理化する習慣をつけておくと、マークシート式の問題などで選択肢と一致させやすくなります。
26 鉛直投げおろし
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直投げおろしの運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等加速度直線運動の3公式の理解と適用
- 鉛直投げおろしの特徴(初速度が0でなく、加速度は重力加速度 \(g\))
- 座標軸の設定(特に、どの向きを正とするか)
- 二次方程式の解法と、得られた解の物理的な意味の吟味
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、鉛直下向きを正として座標軸を設定し、等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、与えられた初速度と時間から橋の高さを計算します。
- (2)では、同じく等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて、水面に達する瞬間の速さを計算します。
- (3)では、(1)で求めた橋の高さを使い、問題で指定された新しい初速度で、再び変位の公式を用いて時間を求めます。これにより得られる時間についての二次方程式を解き、物理的に妥当な解を選択します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小石を投げた点から水面までの高さ \(y\) を求める問題です。問題文で初速度 \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)、水面に達するまでの時間 \(t = 3.0 \, \text{s}\) が与えられています。鉛直投げおろしは、重力加速度 \(g\) で加速される等加速度直線運動の一種です。変位 \(y\)、初速度 \(v_0\)、時間 \(t\)、加速度 \(a\) の4つの量を含む等加速度直線運動の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を選択して立式します。
この設問における重要なポイント
- 鉛直投げおろしは、初速度 \(v_0\) を持ち、鉛直下向きに一定の重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) で運動する等加速度直線運動です。
- 計算を始める前に、座標軸の向きを明確に定めます。ここでは、運動の向きである鉛直下向きを正とすると、初速度 \(v_0\)、変位 \(y\)、加速度 \(g\) がすべて正の値となり、計算が簡潔になります。
- 問題文で与えられている数値の有効数字に注意し、最終的な答えを適切な桁数で丸めます。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
小石の運動に関する既知の値は以下の通りです。
初速度: \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)
時間: \(t = 3.0 \, \text{s}\)
加速度: \(a = g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
求めるのは、この時間内に運動した距離、すなわち橋の高さ \(y\) です。
等加速度直線運動の変位と時間の関係式に、これらの値を適用します。
$$ y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位と時間の関係式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
上記の式に \(v_0 = 4.9\)、\(t = 3.0\)、\(g = 9.8\) を代入して \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= 4.9 \times 3.0 + \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times (3.0)^2 \\[2.0ex]&= 14.7 + 4.9 \times 9.0 \\[2.0ex]&= 14.7 + 44.1 \\[2.0ex]&= 58.8
\end{aligned}
$$
問題文の数値「4.9 m/s」「3.0 s」は有効数字2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁に丸めます。
$$ y \approx 59 \, [\text{m}] $$
橋の高さを知るには、小石が \(3.0\) 秒間でどれだけ落下したかを計算します。この落下距離は、「もし重力がなければ初速度だけで進む距離」と「重力によって加速されて進む距離」の合計になります。これを計算する公式が \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) です。この式に、初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(3.0 \, \text{s}\)、重力加速度 \(9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入して計算します。
小石を投げた点の水面からの高さは \(58.8 \, \text{m}\) です。有効数字を考慮して \(59 \, \text{m}\) となります。計算結果が正の値であることから、設定した正の向き(鉛直下向き)に移動したことが確認でき、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
水面に達する瞬間の速さ \(v\) を求める問題です。初速度 \(v_0\)、時間 \(t\)、加速度 \(g\) が分かっている状況で、時刻 \(t\) における速さ \(v\) を求めます。これらの物理量を結びつける、等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用いるのが最も直接的です。
この設問における重要なポイント
- 等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を正しく適用できるかが問われます。
- (1)と同様に、鉛直下向きを正とすることで、\(v_0\), \(g\), \(v\) がすべて正の値として扱えます。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、鉛直下向きを正の向きとします。
既知の値は、初速度 \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(t = 3.0 \, \text{s}\)、加速度 \(a = g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) です。
求めるのは、時刻 \(t = 3.0 \, \text{s}\) における速さ \(v\) です。
等加速度直線運動の速度と時間の関係式に、これらの値を適用します。
$$ v = v_0 + gt $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度と時間の関係式: \(v = v_0 + at\)
上記の式に \(v_0 = 4.9\)、\(t = 3.0\)、\(g = 9.8\) を代入して \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= 4.9 + 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]&= 4.9 + 29.4 \\[2.0ex]&= 34.3
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ v \approx 34 \, [\text{m/s}] $$
水面に達したときの速さは、「投げた瞬間の速さ」に「重力によって \(3.0\) 秒間加速された分の速さ」を足し合わせることで求められます。これを計算する公式が \(v = v_0 + gt\) です。この式に、初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(3.0 \, \text{s}\)、重力加速度 \(9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入して計算します。
水面に達するときの速さは \(34.3 \, \text{m/s}\) です。有効数字を考慮して \(34 \, \text{m/s}\) となります。この速さは初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\) よりも大きくなっており、重力によって下向きに加速されたという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
投げる速さを4倍にした場合に、水面に達するまでの時間を求める問題です。運動の条件が変わりますが、落下する距離(橋の高さ)は(1)で求めたものと同じです。
新しい初速度 \(v_0’\) を計算し、変位 \(y\)、初速度 \(v_0’\)、加速度 \(g\) の関係から、時間 \(t’\) を求めます。変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を使うと、時間 \(t’\) に関する二次方程式が得られます。
この設問における重要なポイント
- (1)で求めた橋の高さ \(y\) を利用します。このとき、丸める前の値 \(y = 58.8 \, \text{m}\) を用いることで、より正確な計算ができます。
- 立式した二次方程式を解くと、通常2つの解が得られます。そのうち、時間が負になるなど物理的に意味のない解を除外し、適切な解を選ぶ必要があります。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
橋の高さは(1)の計算結果から \(y = 58.8 \, \text{m}\) です。
新しい初速度 \(v_0’\) は、もとの速さの4倍なので、
$$ v_0′ = 4.9 \times 4 = 19.6 \, [\text{m/s}] $$
求める時間を \(t’\) とし、変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) に各値を代入して、\(t’\) に関する二次方程式を立てます。
$$ 58.8 = 19.6 t’ + \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 (t’)^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位と時間の関係式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
立式した二次方程式を解きます。
$$ 58.8 = 19.6 t’ + 4.9 (t’)^2 $$
この式の両辺を \(4.9\) で割ると、計算が簡単になります。
$$ 12 = 4 t’ + (t’)^2 $$
項を移項して整理します。
$$ (t’)^2 + 4.0 t’ – 12 = 0 $$
この二次方程式を因数分解します。
$$
\begin{aligned}
(t’ – 2.0)(t’ + 6.0) = 0
\end{aligned}
$$
この方程式の解は \(t’ = 2.0\) または \(t’ = -6.0\) です。
時間は負の値をとらないため、\(t’ > 0\) でなければなりません。
したがって、求める時間は \(t’ = 2.0 \, [\text{s}]\) です。
まず、(1)で計算した橋の高さ \(58.8 \, \text{m}\) を使います。次に、新しい初速度を計算します。もとの速さ \(4.9 \, \text{m/s}\) の4倍なので、\(19.6 \, \text{m/s}\) です。
この新しい速さで \(58.8 \, \text{m}\) の距離を落下するのにかかる時間を、距離の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) を使って求めます。
数値を代入すると時間の二次方程式ができるので、これを解きます。答えは2つ出てきますが、時間はマイナスにはならないので、プラスの方の答えを選びます。
水面に達するまでの時間は \(2.0 \, \text{s}\) です。
初速度が \(4.9 \, \text{m/s}\) から \(19.6 \, \text{m/s}\) へと大きくなったため、水面に達するまでの時間はもとの \(3.0 \, \text{s}\) よりも短くなるはずです。\(2.0 \, \text{s}\) という結果は、この予測と一致しており、物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等加速度直線運動の公式の完全な理解:
- 核心: この問題は、一定の重力加速度 \(g\) のもとで運動する物体の挙動を扱っており、その解析には等加速度直線運動の3つの基本公式が不可欠です。どの公式がどの物理量(変位 \(y\)、速度 \(v\)、初速度 \(v_0\)、加速度 \(a\)、時間 \(t\))を結びつけているかを正確に理解していることが、適切な公式を選択し、問題を解くための絶対的な前提となります。
- 理解のポイント:
- \(v = v_0 + at\): 時間が分かっているときの速度を求める。
- \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\): 時間が分かっているときの変位(距離)を求める。
- \(v^2 – v_0^2 = 2ay\): 時間が分からない(または問われていない)状況で、変位と速度の関係を求める。
- 座標軸の設定と符号の規律:
- 核心: 鉛直方向の運動を扱う問題では、最初に「どちらの向きを正とするか」を明確に定義することが極めて重要です。この設定によって、各物理量(初速度、変位、加速度)の符号が決定され、計算の正確性が左右されます。
- 理解のポイント:
- 本問では、運動の主方向である鉛直下向きを正とすることで、\(v_0\), \(y\), \(g\) がすべて正の値となり、立式や計算が非常にシンプルになります。
- もし鉛直上向きを正と設定した場合は、初速度 \(v_0\) と重力加速度 \(g\) は負の値(\(v_0 = -4.9\), \(a = -g = -9.8\))として扱う必要があります。どちらで設定しても答えは同じですが、計算ミスを減らすためには、運動の主方向を正と取るのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直投げ上げ: 初速度が上向き(\(v_0 > 0\))で、加速度が下向き(\(a = -g\))となる問題。最高点では速度が \(v=0\) になるという重要な特徴を利用します。
- 自由落下: 初速度がゼロ(\(v_0 = 0\))の特殊なケース。公式が \(v=gt\), \(y=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2\), \(v^2=2gy\) とシンプルになります。
- 時間を含まない問題: 「高さ \(h\) のビルから投げおろした物体が、地面に達するときの速さはいくらか」のように、時間が与えられていない問題では、\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を使うと一発で解けます。
- 2物体が関わる問題: 「物体Aを自由落下させた1秒後に、物体Bを同じ点から投げおろした。BがAに追いつくのはいつ、どこか」といった問題。それぞれの物体の位置を時間の関数として表し、位置が等しくなる時刻を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の種類を把握する: まず、問題が「投げおろし」「投げ上げ」「自由落下」のどれに該当するかを判断します。
- 座標軸を宣言する: 「鉛直下向きを正とする」のように、計算を始める前に座標軸の向きを自分の中で明確に決めます。
- 物理量を整理する: 問題文から与えられている既知の量(\(v_0, y, t\) など)と、求めるべき未知の量をリストアップします。加速度 \(a\) は重力加速度 \(g\) であり、常に既知(\(a = \pm 9.8 \, \text{m/s}^2\))として扱えることを忘れないようにします。
- 最適な公式を選ぶ: 整理した既知の量と未知の量を見比べ、それらを結びつけるのに最も都合の良い公式はどれかを考えます。未知数が1つだけで済む式を選ぶのが基本です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号の取り違え:
- 誤解: 鉛直上向きを正と設定したにもかかわらず、重力加速度 \(g\) を正の値のまま \(a=9.8\) として公式に代入してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、紙の隅にでも「↑正」と矢印を描き、すべてのベクトル量(速度、変位、加速度)の符号を代入前に必ず確認する習慣をつける。上向きを正としたら、下向きのベクトルはすべて負になります。
- 計算途中の値の丸めすぎ:
- 誤解: (3)の計算で、(1)で求めた橋の高さとして、有効数字で丸めた \(59 \, \text{m}\) を使ってしまう。
- 対策: 設問をまたいで計算結果を利用する場合は、必ず丸める前の値(この問題では \(58.8 \, \text{m}\))を用いるように徹底する。有効数字の処理は、すべての計算が終わった後の最終段階で一度だけ行うのが原則です。
- 二次方程式の解の吟味忘れ:
- 誤解: (3)で二次方程式を解いて得られた2つの解(\(t’=2.0\) と \(t’=-6.0\))の両方を答えとしてしまったり、どちらを選べばよいか混乱したりする。
- 対策: 数学的に得られた解が、物理的な文脈で意味を持つかを常に吟味する癖をつける。時間は負になることはありえないので、\(t>0\) という条件から不適切な解(無縁根)を排除します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等加速度直線運動の公式の選択ロジック:
- 選定理由: 物理の問題を解くことは、与えられた情報(既知の物理量)と物理法則(公式)を使って、未知の物理量を明らかにするパズルのようなものです。3つの公式は、それぞれ異なる組み合わせの物理量を結びつけています。
- 適用根拠:
- (1) 高さ \(y\) を求めたい。分かっているのは \(v_0, t, a\)。この4つの変数がすべて含まれているのは \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) だけです。したがって、この公式を選択します。
- (2) 速さ \(v\) を求めたい。分かっているのは \(v_0, t, a\)。この4変数を結びつけるのは \(v = v_0 + at\) です。これが最も直接的で計算も簡単です。
- (3) 時間 \(t’\) を求めたい。分かっているのは \(y, v_0′, a\)。これらの関係式は \(y = v_0′ t’ + \displaystyle\frac{1}{2}a(t’)^2\) です。この式を使うと \(t’\) に関する二次方程式が得られ、解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 係数の簡略化: (3)で立式した \(58.8 = 19.6 t’ + 4.9 (t’)^2\) のような方程式では、すぐに解の公式を使おうとせず、まず「全ての項を共通の数で割れないか?」と考える癖をつけましょう。この場合、全ての項が \(4.9\) の倍数になっていることに気づけば、両辺を \(4.9\) で割ることで \(12 = 4t’ + (t’)^2\) という非常にシンプルな二次方程式に変形でき、計算ミスを大幅に減らせます。
- 代入の可視化: 数値を公式に代入する際は、\(v_0 = 4.9\), \(t = 3.0\), \(g = 9.8\) のように、使う値を書き出してから式に当てはめると、代入ミスを防げます。
- 単位の一貫性: 計算前に、すべての物理量の単位が基本単位系(メートル、秒、キログラムなど)で統一されているかを確認します。もし問題文に km/h などが混じっていたら、m/s に変換してから計算を開始します。
- 検算の習慣: (3)で \(t’=2.0\) という解が得られたら、もとの方程式 \( (t’)^2 + 4.0 t’ – 12 = 0 \) に代入して \( (2.0)^2 + 4.0(2.0) – 12 = 4 + 8 – 12 = 0 \) となり、等式が成立することを確認します。この一手間が、ケアレスミスによる失点を防ぎます。
27 自由落下と投げおろし
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「時間差のある2物体の追跡運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自由落下と鉛直投げおろしの運動公式の使い分け
- 「追いつく」という事象の物理的な解釈(同じ時刻に同じ位置にいる、または同じ時間で同じ距離を落下する)
- 複数の物体が関わる運動での、基準となる時間軸の設定
- 等加速度直線運動の公式を、状況に応じて適切に選択する能力
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずAが落下してからBに追いつかれるまでの合計時間を把握します。次に、Aが自由落下であることに着目し、その合計時間から落下距離を計算します。この距離が、BがAに追いつくまでに落下した距離となります。
- (2)では、(1)で求めたAの総落下時間を用いて、自由落下の速度公式から追いつかれた瞬間のAの速さを求めます。
- (3)では、Bの運動に着目します。Bは(1)で求めた距離を、問題文で与えられた時間で落下します。これらの値と鉛直投げおろしの変位の公式を用いて、Bの初速度を逆算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「BがAに追いつく」とは、2つの小球が同じ高さに達することを意味します。したがって、追いつくまでに落下した距離はAとBで等しくなります。この距離を求めるには、情報がより多く揃っている小球Aの運動を解析するのが合理的です。Aは「自由落下」なので初速度が0であり、計算が単純です。まず、Aが落下を開始してからBに追いつかれるまでの合計時間を正確に求めることが、この問題の最初の鍵となります。
この設問における重要なポイント
- Aの総落下時間 = (Bが投げられるまでの時間差) + (Bが投げてから追いつくまでの時間)
- Aは自由落下なので、変位の公式は \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) となります。
- 計算を簡潔にするため、運動の方向である鉛直下向きを正の向きと設定します。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
問題文から、Aが落下を開始してからBが落下を開始するまでの時間は \(1.0 \, \text{s}\) です。そして、Bが落下を開始してからAに追いつくまでの時間は \(2.0 \, \text{s}\) です。
したがって、Aが落下を開始してからBに追いつかれるまでの合計時間 \(t_{\text{A}}\) は、
$$ t_{\text{A}} = 1.0 \, \text{s} + 2.0 \, \text{s} = 3.0 \, \text{s} $$
小球Aは自由落下なので、初速度は \(v_{\text{0A}} = 0\) です。
求める落下距離を \(y\) とすると、自由落下の変位の公式に \(t_{\text{A}} = 3.0 \, \text{s}\) を適用して立式します。
$$ y = \displaystyle\frac{1}{2} g t_{\text{A}}^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式(自由落下): \(y = \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\)
上記の式に \(t_{\text{A}} = 3.0\) と \(g = 9.8\) を代入して \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times (3.0)^2 \\[2.0ex]&= 4.9 \times 9.0 \\[2.0ex]&= 44.1
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字は2桁なので、計算結果を有効数字2桁に丸めます。
$$ y \approx 44 \, [\text{m}] $$
BがAに追いついたとき、2つのボールは同じ距離だけ落下しています。この距離を計算するために、まずAが合計で何秒間落下していたかを考えます。Aは、Bが投げられる1.0秒前から落下を始め、Bが落下している2.0秒間もずっと落下し続けています。したがって、Aの合計落下時間は \(1.0 + 2.0 = 3.0\) 秒です。Aは初速度ゼロの自由落下なので、距離を求める公式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) に、時間 \(t=3.0\) 秒を代入すれば、落下した距離がわかります。
BがAに追いつくまでに落下した距離は \(44.1 \, \text{m}\) であり、有効数字を考慮すると \(44 \, \text{m}\) となります。この値は、AとBの両方に共通する落下距離であり、(3)でBの初速度を求める際に重要な既知の値として使用されます。
問(2)
思考の道筋とポイント
BがAに追いついた「瞬間」における、Aの速さを求める問題です。(1)で明らかになったように、この瞬間はAが落下を開始してから \(3.0 \, \text{s}\) 後のことです。Aは自由落下運動をしているため、速度と時間の関係式 \(v = gt\) を用いて、時刻 \(t = 3.0 \, \text{s}\) における速さを計算します。
この設問における重要なポイント
- 求めるのは「追いつかれた瞬間」のAの速さであるため、Aの総落下時間 \(t_{\text{A}} = 3.0 \, \text{s}\) を使用します。
- 自由落下の速度公式 \(v = gt\) を正しく適用します。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
Aが追いつかれるまでの総落下時間は \(t_{\text{A}} = 3.0 \, \text{s}\) です。
この瞬間のAの速さを \(v_{\text{A}}\) とすると、自由落下の速度公式より、
$$ v_{\text{A}} = g t_{\text{A}} $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の公式(自由落下): \(v = gt\)
上記の式に \(t_{\text{A}} = 3.0\) と \(g = 9.8\) を代入して \(v_{\text{A}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{A}} &= 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]&= 29.4
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ v_{\text{A}} \approx 29 \, [\text{m/s}] $$
Aは \(3.0\) 秒間、重力によってずっと加速され続けています。その瞬間の速さを知るには、速度の公式 \(v = gt\) を使います。この式に、重力加速度 \(g=9.8\) と時間 \(t=3.0\) を代入するだけで、Aの速さが計算できます。
BがAに追いついたときのAの速さは \(29.4 \, \text{m/s}\) であり、有効数字を考慮すると \(29 \, \text{m/s}\) となります。Aは自由落下しているので、時間が経つにつれて速くなっており、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小球Bの初速度の大きさを求める問題です。ここでは、Bの運動に焦点を当てます。Bについて分かっていることは、(1)で求めた落下距離 \(y\) と、問題文で与えられている運動時間 \(t_{\text{B}} = 2.0 \, \text{s}\) です。Bは初速度 \(v_{\text{0B}}\) を持つ「鉛直投げおろし」運動です。変位、初速度、時間、加速度を結びつける公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、未知数である初速度 \(v_{\text{0B}}\) を逆算します。
この設問における重要なポイント
- Bの運動時間は \(2.0 \, \text{s}\) であり、Aの運動時間と混同しないことが重要です。
- Bの落下距離は、(1)で求めたAの落下距離と同じ \(y = 44.1 \, \text{m}\) です。計算の精度を保つため、丸める前の値を使用します。
- 鉛直投げおろしの変位の公式を正しく適用します。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
小球Bの運動について、分かっている値は以下の通りです。
落下距離: \(y = 44.1 \, \text{m}\) ((1)の計算結果より)
運動時間: \(t_{\text{B}} = 2.0 \, \text{s}\)
加速度: \(a = g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
求めるBの初速度を \(v_{\text{0B}}\) とします。
鉛直投げおろしの変位の公式に、これらの値を代入して \(v_{\text{0B}}\) についての方程式を立てます。
$$ y = v_{\text{0B}} t_{\text{B}} + \displaystyle\frac{1}{2} g t_{\text{B}}^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式(投げおろし): \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
立式した方程式に、\(y = 44.1\)、\(t_{\text{B}} = 2.0\)、\(g = 9.8\) を代入して \(v_{\text{0B}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
44.1 &= v_{\text{0B}} \times 2.0 + \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]44.1 &= 2.0 v_{\text{0B}} + 4.9 \times 4.0 \\[2.0ex]44.1 &= 2.0 v_{\text{0B}} + 19.6 \\[2.0ex]2.0 v_{\text{0B}} &= 44.1 – 19.6 \\[2.0ex]2.0 v_{\text{0B}} &= 24.5 \\[2.0ex]v_{\text{0B}} &= \displaystyle\frac{24.5}{2.0} \\[2.0ex]v_{\text{0B}} &= 12.25
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ v_{\text{0B}} \approx 12 \, [\text{m/s}] $$
Bは、ある初速度で投げられてから \(2.0\) 秒後に、(1)で計算した \(44.1 \, \text{m}\) の距離を落下しました。この情報を使って、Bの初速度を逆算します。距離の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) に、分かっている値(距離 \(y=44.1\)、時間 \(t=2.0\))をすべて代入します。すると、この式の中で分からないのは初速度 \(v_0\) だけになるので、この方程式を解くことで初速度を求めることができます。
Bの初速度の大きさは \(12.25 \, \text{m/s}\) であり、有効数字を考慮すると \(12 \, \text{m/s}\) となります。BはAよりも \(1.0 \, \text{s}\) 遅れて出発したにもかかわらず、わずか \(2.0 \, \text{s}\) で追いついているため、Aよりも速く進む必要があります。したがって、Bが正の初速度を持つという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 「追いつく」という現象の数式化:
- 核心: 2つの物体が「追いつく」とは、ある時刻において2つの物体の「位置(変位)」が等しくなることを意味します。この問題では、AとBが同じ高さから落下を始めているため、「追いつくまでに落下した距離が等しい」と解釈できます。この条件(\(y_{\text{A}} = y_{\text{B}}\))を立式の中心に据えることが全ての出発点です。
- 理解のポイント:
- 物体Aの落下距離: \(y_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2} g t_{\text{A}}^2\)
- 物体Bの落下距離: \(y_{\text{B}} = v_{\text{0B}} t_{\text{B}} + \displaystyle\frac{1}{2} g t_{\text{B}}^2\)
- 追いつく条件: \(y_{\text{A}} = y_{\text{B}}\)
- 時間軸の正確な管理:
- 核心: 2つの物体の運動を扱う問題では、それぞれの物体の運動時間を正確に把握することが不可欠です。問題文の「Aを落下させた1.0s後」「Bを投げおろした2.0s後」といった時間関係を整理し、各物体の総運動時間を間違えずに計算する能力が問われます。
- 理解のポイント:
- Aの総落下時間 \(t_{\text{A}}\) = Aが先行していた時間 + Bが運動していた時間 = \(1.0 \, \text{s} + 2.0 \, \text{s} = 3.0 \, \text{s}\)
- Bの総落下時間 \(t_{\text{B}}\) = \(2.0 \, \text{s}\)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 地上からの投げ上げでのすれ違い: 物体Aを投げ上げた後、物体Bを投げ上げる問題。すれ違う(追いつく)条件は、地面を基準としたときの位置が等しくなること(\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\))です。
- 水平方向の追跡問題: 静止しているパトカーの前を一定速度で通過した車を、パトカーが一定の加速度で追いかける問題。追いつく条件は、移動距離が等しくなることです。
- 相対速度を用いた解法: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動(相対運動)を考えることで、問題をよりシンプルに扱える場合があります。ただし、両物体が等加速度運動をする場合に特に有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- 時系列を図示する: まず、問題文の時間関係をタイムラインのように書き出して、「誰がいつ動き始め、いつ追いつくのか」を視覚的に整理します。
- 「追いつく」の条件を明確にする: 「位置が等しい」または「移動距離が等しい」という条件を、問題設定に合わせて数式で表現する準備をします。
- 各物体の運動をモデル化する: 物体Aは「自由落下」、物体Bは「鉛直投げおろし」というように、それぞれの運動の種類を特定し、使用する公式を決定します。
- 基準の時間軸を設定する: どちらかの物体が動き始めた瞬間を \(t=0\) と定め、もう一方の物体の運動をその時間軸に合わせて表現します。例えば、Aの落下開始を \(t=0\) とすると、Bの運動は \(t=1.0\) から始まることになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動時間の混同:
- 誤解: (2)でAの速さを求める際に、Bの運動時間である \(2.0 \, \text{s}\) を使ってしまう。または、(3)でBの初速度を求める際に、Aの運動時間である \(3.0 \, \text{s}\) を使ってしまう。
- 対策: 計算の前に、「今、どちらの物体の、どの時間区間について考えているのか」を指差し確認する習慣をつける。時系列の図を描いておくことが最も効果的です。
- 計算途中での値の丸め:
- 誤解: (3)でBの初速度を計算する際に、(1)で求めた落下距離の近似値 \(44 \, \text{m}\) を使ってしまい、計算結果に誤差が生じる。
- 対策: 設問をまたいで計算結果を利用する場合は、必ず丸める前の値(この問題では \(44.1 \, \text{m}\))を用いることを徹底する。有効数字の処理は、全ての計算が完了した最後の最後に行うのが鉄則です。
- 公式の選択ミス:
- 誤解: Bは初速度があるにもかかわらず、自由落下の公式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) を使って計算してしまう。
- 対策: 物体ごとに運動の種類(自由落下か、投げおろしか、投げ上げか)を明確に区別し、初速度 \(v_0\) が0か否かを必ず確認してから公式を選択する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 追跡問題における公式選択のロジック:
- 選定理由: この問題は、2つの物体の運動を個別に記述し、それらを「追いつく」という物理的条件で結びつけることで解かれます。各段階で、既知の量と未知の量を最も効率よく結びつける公式を選択します。
- 適用根拠:
- (1) 落下距離 \(y\) を求めたい。AとBで距離は同じだが、Aの方が情報が多い(初速度0、総落下時間3.0s)。したがって、Aの自由落下の公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt_{\text{A}}^2\) を使うのが最も合理的です。
- (2) Aの速さ \(v_{\text{A}}\) を求めたい。Aの総落下時間 \(t_{\text{A}}\) が分かっているので、速度と時間の関係式 \(v_{\text{A}} = gt_{\text{A}}\) を使うのが最も直接的です。
- (3) Bの初速度 \(v_{\text{0B}}\) を求めたい。Bについては落下距離 \(y\) と落下時間 \(t_{\text{B}}\) が分かっています。これら3つの量と未知数 \(v_{\text{0B}}\) を含む公式は \(y = v_{\text{0B}}t_{\text{B}} + \displaystyle\frac{1}{2}gt_{\text{B}}^2\) しかありません。この式を立てれば、\(v_{\text{0B}}\) についての一次方程式として解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 変数の添え字を活用する: \(t_{\text{A}}\), \(t_{\text{B}}\), \(v_{\text{A}}\), \(v_{\text{0B}}\) のように、物理量に物体の名前を示す添え字を付けることで、どの物体の話をしているのかが明確になり、混同を防げます。
- 時系列の整理: 問題文を読みながら、以下のような簡単なタイムラインをメモ用紙に描くと、時間の関係が一目瞭然になります。
- \(t=0\): A、落下開始
- \(t=1.0\): B、落下開始
- \(t=3.0\): AとBが追いつく (Bの運動時間は \(3.0 – 1.0 = 2.0\) 秒)
- 方程式の丁寧な変形: (3)の計算では、まず数値を代入した式 \(44.1 = v_{\text{0B}} \times 2.0 + \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2\) を書き、次に右辺の第2項を計算して \(44.1 = 2.0 v_{\text{0B}} + 19.6\) と段階的に整理します。焦って暗算すると符号ミスや計算ミスのもとになります。
- 最終検算: 求めた \(v_{\text{0B}} = 12.25 \, \text{m/s}\) を使って、Bの落下距離を再計算してみる。「\(y = 12.25 \times 2.0 + \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 = 24.5 + 19.6 = 44.1 \, \text{m}\)」。これが(1)で求めたAの落下距離と一致することを確認できれば、計算は正しいと確信できます。
28 鉛直投げ上げ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「\(v-t\)グラフから読み解く鉛直投げ上げ運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(v-t\)グラフの物理的意味(傾きが加速度、面積が変位)
- 鉛直投げ上げ運動の特徴(最高点で速度が0、加速度は常に鉛直下向きに \(g\))
- 等加速度直線運動の公式の理解と適用
- グラフから物理的な状況を正確に読み取る能力
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず\(v-t\)グラフから最高点に達する時刻(速度が0になる時刻)を読み取ります。この情報と、鉛直投げ上げ運動の加速度が重力加速度であることから、等加速度直線運動の速度の公式を用いて初速度を逆算します。
- (2)では、(1)で求めた初速度と最高点に達する時刻を用いて、等加速度直線運動の変位の公式から最高点の高さを計算します。また、別解として、\(v-t\)グラフの面積が移動距離(変位)を表すことを利用して求める方法も解説します。
問(1)
思考の道筋とポイント
投げ上げた小球の初速度 \(v_0\) を求める問題です。初速度とは、時刻 \(t=0\) における速度のことです。問題の\(v-t\)グラフから、小球の運動に関する情報を読み取ることが解答の第一歩となります。特に、グラフが横軸と交わる点、すなわち速度 \(v\) が \(0\) になる時刻は、小球が最高点に達した瞬間を意味しており、これが重要な手がかりとなります。
この設問における重要なポイント
- 鉛直投げ上げ運動では、鉛直上向きを正とすると、重力による加速度は常に負の値 \(a = -g\) となります。
- 小球が最高点に達したとき、その瞬間の速度は \(v=0\) となります。
- \(v-t\)グラフから、\(t=3.0 \, \text{s}\) のときに \(v=0 \, \text{m/s}\) であることを読み取ります。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。このとき、重力加速度は負の向きに働くため、加速度は \(a = -g = -9.8 \, \text{m/s}^2\) となります。
求める初速度を \(v_0\) とします。
グラフから、時刻 \(t=3.0 \, \text{s}\) のときに速度が \(v=0 \, \text{m/s}\) となることがわかります。これは小球が最高点に達したことを意味します。
等加速度直線運動の速度と時間の関係式に、これらの値を適用します。
$$ v = v_0 + at $$
この式に \(v=0\)、\(t=3.0\)、\(a=-g\) を代入して、\(v_0\) についての方程式を立てます。
$$ 0 = v_0 + (-g) \times 3.0 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度と時間の関係式: \(v = v_0 + at\)
立式した方程式に \(g=9.8\) を代入して \(v_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
0 &= v_0 – 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]v_0 &= 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]v_0 &= 29.4
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁なので、計算結果も有効数字2桁に丸めます。
$$ v_0 \approx 29 \, [\text{m/s}] $$
投げ上げられたボールは、重力によって1秒間に \(9.8 \, \text{m/s}\) ずつスピードが落ちていきます。グラフを見ると、\(3.0\) 秒後にスピードが \(0\) になっています。これは、\(3.0\) 秒間で初めのスピードがすべて失われたことを意味します。したがって、失われたスピードの合計は「\(9.8 \, \text{m/s}^2 \times 3.0 \, \text{s} = 29.4 \, \text{m/s}\)」となり、これがそのまま投げ上げた瞬間の初速度の大きさになります。
投げ上げた小球の初速度の大きさは \(29.4 \, \text{m/s}\) であり、有効数字を考慮すると \(29 \, \text{m/s}\) となります。グラフの \(t=0\) の点が正の値を持っていることと一致し、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球が達する最高点の高さを求める問題です。これは、小球を投げ上げてから最高点に達するまでの移動距離(変位)に等しくなります。最高点に達する時刻は \(t=3.0 \, \text{s}\) であることが分かっているので、いくつかの方法で高さを求めることができます。ここでは、等加速度直線運動の公式を用いる方法と、\(v-t\)グラフの面積を利用する方法の2通りを解説します。
この設問における重要なポイント
- 最高点の高さは、\(t=0\) から最高点到達時刻 \(t=3.0 \, \text{s}\) までの変位 \(y\) に等しい。
- 解法1:等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を利用する。
- 解法2:\(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた部分の面積が、物体の変位を表すことを利用する。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。最高点に達する時刻は \(t=3.0 \, \text{s}\) です。
(1)で求めた初速度 \(v_0 = 29.4 \, \text{m/s}\) を用います。
求める高さを \(y\) とし、等加速度直線運動の変位の公式に、\(v_0=29.4\)、\(t=3.0\)、\(a=-g=-9.8\) を代入します。
$$ y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位と時間の関係式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
上記の式に各値を代入して \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= 29.4 \times 3.0 + \displaystyle\frac{1}{2} \times (-9.8) \times (3.0)^2 \\[2.0ex]&= 88.2 – 4.9 \times 9.0 \\[2.0ex]&= 88.2 – 44.1 \\[2.0ex]&= 44.1
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ y \approx 44 \, [\text{m}] $$
ボールが \(3.0\) 秒かけて最高点に達するまでに進んだ距離を計算します。距離を求める公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) に、(1)で求めた初速度 \(v_0=29.4\)、時間 \(t=3.0\)、そして上向きをプラスとしているので下向きの重力加速度は \(a=-9.8\) として、これらの値を代入して計算します。
小球が達する最高点の高さは \(44.1 \, \text{m}\) であり、有効数字を考慮すると \(44 \, \text{m}\) となります。変位が正の値であることから、小球が投げ上げた位置より上方にいることが確認でき、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
\(v-t\)グラフの最も重要な性質の一つである「グラフと横軸で囲まれた面積が変位を表す」という関係を利用します。最高点までの高さは、\(t=0\) から \(t=3.0 \, \text{s}\) までの変位に等しいため、この区間のグラフが作る三角形の面積を計算することで求められます。この方法は、公式の適用ミスや計算が複雑になるのを避けられる場合があり、非常に有効です。
この設問における重要なポイント
- \(v-t\)グラフの面積は変位を表します。
- \(t\)軸より上側の面積は正の変位(この場合は上向きの移動距離)を意味します。
具体的な解説と立式
最高点の高さ \(y\) は、\(t=0\) から \(t=3.0 \, \text{s}\) までの \(v-t\) グラフと \(t\) 軸で囲まれた部分の面積に等しくなります。
この図形は三角形であり、その面積を求めます。
底辺の長さ: \(3.0 \, \text{s}\)
高さ: \(t=0\) における速度、すなわち初速度 \(v_0 = 29.4 \, \text{m/s}\)
$$ y = \text{三角形の面積} = \displaystyle\frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ} $$
使用した物理公式
- 変位と\(v-t\)グラフの面積の関係
$$
\begin{aligned}
y &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 3.0 \times 29.4 \\[2.0ex]&= 1.5 \times 29.4 \\[2.0ex]&= 44.1
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ y \approx 44 \, [\text{m}] $$
速度と時間のグラフ(\(v-t\)グラフ)では、グラフと横軸で囲まれた部分の面積が、その時間内に移動した距離を表します。今回の問題では、ボールが最高点に達する \(3.0\) 秒までのグラフ部分は、底辺が \(3.0\)、高さが初速度の \(29.4\) である三角形になっています。この三角形の面積を「(底辺 × 高さ) ÷ 2」で計算すると、それがそのまま最高点の高さになります。
最高点の高さは \(44.1 \, \text{m}\)(有効数字2桁で \(44 \, \text{m}\))となり、等加速度直線運動の公式を用いた計算結果と完全に一致します。これにより、計算の正しさがより確かなものとなります。グラフが与えられている問題では、面積を利用する解法は非常に強力なツールです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(v-t\)グラフと運動の対応関係:
- 核心: \(v-t\)グラフは、物体の運動の様子を視覚的に表現したものです。グラフの各要素がどのような物理的意味を持つかを理解することが、問題を解く上での絶対的な基礎となります。
- 理解のポイント:
- グラフの縦軸の値: 各時刻における物体の「速度 \(v\)」。\(t=0\) のときの値は「初速度 \(v_0\)」。
- グラフの傾き: \(\frac{\Delta v}{\Delta t}\) は「加速度 \(a\)」。鉛直投げ上げでは、傾きは常に一定で重力加速度 \(-g\) になります。
- グラフと横軸で囲まれた面積: 物体の「変位 \(y\)」。横軸より上側の面積は正の変位、下側は負の変位を表します。
- 鉛直投げ上げ運動の物理的特徴:
- 核心: 投げ上げられた物体は、重力の影響のみを受けて運動します。その運動には、どの公式を適用するかにかかわらず、常に成り立つ普遍的な特徴があります。
- 理解のポイント:
- 最高点での速度: 物体が最も高い点に達した瞬間、その速度は一瞬だけ \(0\) になります(\(v=0\))。
- 加速度: 運動中、物体には常に鉛直下向きに重力加速度 \(g\) が作用しています。鉛直上向きを正とすれば、加速度は常に \(a=-g\) です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(x-t\)グラフからの情報読み取り: \(x-t\)グラフが与えられ、その接線の傾きから各時刻の速度を求め、\(v-t\)グラフを作成する問題。
- 地面に戻ってくるまでの運動: 投げ上げた小球が再び地面に戻ってくる時刻やそのときの速さを問う問題。\(v-t\)グラフでは、グラフが再び \(t\) 軸の下側を通り、変位(面積)が \(0\) になる点を考えます。
- 投げおろし・自由落下の\(v-t\)グラフ: 投げおろしでは \(t=0\) で負の初速度から始まり、自由落下では原点から始まる、傾きが \(-g\) の直線グラフを扱う問題。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を最優先で確認: 縦軸が速度 \(v\) なのか、位置 \(x\) なのかで、グラフの解釈は全く異なります。まずここを確認します。
- グラフの「特別な点」を探す:
- 縦軸との交点(\(t=0\) の点): 初速度 \(v_0\) を表します。
- 横軸との交点(\(v=0\) の点): 速度が0になる点。投げ上げでは「最高点到達」を意味します。
- グラフの「傾き」と「面積」に注目する: 問題が加速度を問うていれば「傾き」を、移動距離や変位を問うていれば「面積」を計算することを考えます。特にグラフが直線や簡単な図形で構成されている場合、面積計算は非常に強力な解法となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(v-t\)グラフと\(x-t\)グラフの解釈の混同:
- 誤解: \(v-t\)グラフが横軸と交わる点(\(v=0\))を「元の位置に戻ってきた」と勘違いする。(正しくは「最高点」)。また、\(x-t\)グラフの頂点(傾きが0)を「速度が最大」と勘違いする。(正しくは「速度が0」)。
- 対策: 常に「このグラフの縦軸は何?」「傾きは何?」「面積は何?」と自問自答する癖をつける。\(v-t\)グラフの傾きは加速度、面積は変位。\(x-t\)グラフの傾きは速度、という基本を徹底的に叩き込む。
- 符号の取り扱いミス:
- 誤解: 鉛直上向きを正と決めたにもかかわらず、重力加速度を \(g=9.8\) のまま公式に代入してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、必ず「鉛直上向きを正とする。よって加速度 \(a = -g = -9.8 \, \text{m/s}^2\)」と明記する習慣をつける。これにより、符号ミスを意識的に防ぎます。
- 初速度と任意の時刻の速度の混同:
- 誤解: (2)で最高点の高さを計算する際に、初速度 \(v_0\) を使うべきところで、最高点の速度 \(v=0\) を使ってしまい、計算がおかしくなる。
- 対策: 公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) の \(v_0\) は「区間の初めの速度」であることを明確に意識する。\(t=0\) から \(t=3.0\) の区間を考えるので、\(v_0\) は \(t=0\) のときの速度です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 複数のアプローチを持つことの重要性:
- 選定理由: この問題は、公式を使って代数的に解く方法と、グラフの性質(傾きや面積)を使って幾何学的に解く方法の両方が可能です。どちらの方法も物理法則に基づいた正しいアプローチであり、状況に応じて使い分ける、あるいは検算に用いることで、解答の確実性が格段に上がります。
- 適用根拠:
- (1) 初速度 \(v_0\) の求め方:
- アプローチA(公式): 既知量 \(v=0, t=3.0, a=-g\) と未知数 \(v_0\) を結びつける \(v=v_0+at\) を選択。
- アプローチB(傾き): グラフの傾きが加速度 \(-g\) であることを利用。\(\text{傾き} = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{0-v_0}{3.0-0} = -g\)。これを解いて \(v_0\) を求める。
- (2) 最高点の高さ \(y\) の求め方:
- アプローチA(公式): 既知量 \(v_0, t, a\) から変位 \(y\) を求めるので \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を選択。あるいは、時間を使わない \(v^2-v_0^2=2ay\) も有効。
- アプローチB(面積): 変位は\(v-t\)グラフの面積に等しい、という物理法則そのものを適用。\(t=0\) から \(t=3.0\) までの三角形の面積を計算する。
- (1) 初速度 \(v_0\) の求め方:
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフからの正確な読み取り: グラフが与えられている問題では、全ての情報がグラフに集約されています。横軸との交点が \(t=3.0\) であることなど、数値を正確に読み取ることが計算の前提となります。
- 計算途中の値は丸めない: (2)の計算で、(1)で求めた初速度 \(v_0\) を使いますが、このとき有効数字で丸めた \(29 \, \text{m/s}\) ではなく、より正確な \(29.4 \, \text{m/s}\) を用いることで、最終的な答えの精度が保たれます。
- 別解による検算: (2)で公式を使って高さを計算した後、グラフの面積を計算する方法でもう一度解いてみる。もし答えが一致すれば、計算が正しい可能性は非常に高いです。テスト本番でも、時間があればこの検算は絶大な効果を発揮します。
- 単位を書き込む習慣: \(v_0 = 29.4 \, \text{[m/s]}\), \(y = 44.1 \, \text{[m]}\) のように、計算の各段階で単位を意識することで、自分が何を求めているのかが明確になり、ミスが減ります。
29 自由落下と投げ上げ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「自由落下と鉛直投げ上げのすれ違い(出会い)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 「出会う」という事象の物理的な解釈(同じ時刻に同じ位置にいること)
- 座標軸の統一的な設定と、それに応じた各物理量(初期位置、初速度、加速度)の符号の決定
- 自由落下と鉛直投げ上げの運動公式の正しい適用
- 相対速度の考え方を用いた問題の簡略化
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、地面を原点、鉛直上向きを正とする共通の座標軸を設定します。物体AとBそれぞれの位置を時間の関数として表し、両者の位置が等しくなる時刻を求めます。その時刻をどちらかの位置の式に代入して、出会う高さを計算します。
- (2)では、(1)で求めた出会う時刻を、物体Bの速度の式に代入して、その瞬間のBの速度を求めます。速度の符号から、運動の向きも判断します。
- 別解として、より直感的な「移動距離の和」で考える方法や、計算が非常に簡潔になる「相対速度」で考える方法も紹介します。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの物体が「出会う」とは、ある時刻 \(t\) において2つの物体の「位置」が同じになる、ということです。この問題を解く最も系統的な方法は、地面を原点(\(y=0\))、鉛直上向きを正とする共通の座標軸を一つ設定し、物体Aと物体Bそれぞれの位置 \(y_{\text{A}}(t)\) と \(y_{\text{B}}(t)\) を時間の関数として立式することです。そして、\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) という方程式を解くことで、出会う時刻 \(t\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 座標軸を一つに統一して考えることで、位置関係を明確にし、立式ミスを防ぎます。
- 地面を原点、鉛直上向きを正とすると、物体Aの初期位置は \(y_{\text{A0}} = 120 \, \text{m}\)、物体Bの初期位置は \(y_{\text{B0}} = 0 \, \text{m}\) となります。
- 両物体に働く加速度は重力のみなので、共通で \(a = -g\) となります。
具体的な解説と立式
地面を原点とし、鉛直上向きを正の向きとします。
物体Aは、初期位置 \(y_{\text{A0}} = 120 \, \text{m}\) から初速度 \(v_{\text{A0}} = 0\) で自由落下します。加速度は \(a = -g\) です。
したがって、時刻 \(t\) におけるAの位置 \(y_{\text{A}}(t)\) は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{A}}(t) &= y_{\text{A0}} + v_{\text{A0}}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 \\[2.0ex]&= 120 + 0 \cdot t + \displaystyle\frac{1}{2}(-g)t^2 \\[2.0ex]&= 120 – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
物体Bは、初期位置 \(y_{\text{B0}} = 0 \, \text{m}\) から初速度 \(v_{\text{B0}} = 30 \, \text{m/s}\) で鉛直に投げ上げられます。加速度は同じく \(a = -g\) です。
したがって、時刻 \(t\) におけるBの位置 \(y_{\text{B}}(t)\) は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{B}}(t) &= y_{\text{B0}} + v_{\text{B0}}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 \\[2.0ex]&= 0 + 30t + \displaystyle\frac{1}{2}(-g)t^2 \\[2.0ex]&= 30t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
AとBが出会うとき、それらの位置は等しくなるので、\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) が成り立ちます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の位置の公式: \(y = y_0 + v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
出会う時刻 \(t\) を求めます。①、②より \(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) として、
$$
\begin{aligned}
120 – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 &= 30t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]120 &= 30t \\[2.0ex]t &= 4.0 \, [\text{s}]\end{aligned}
$$
次に出会う高さを求めます。この時刻 \(t=4.0 \, \text{s}\) を②の \(y_{\text{B}}(t)\) の式に代入します。(①に代入しても同じ結果が得られます)
$$
\begin{aligned}
y_{\text{B}}(4.0) &= 30 \times 4.0 – \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times (4.0)^2 \\[2.0ex]&= 120 – 4.9 \times 16 \\[2.0ex]&= 120 – 78.4 \\[2.0ex]&= 41.6
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(42 \, \text{m}\) となります。
Aは高さ120mから、Bは地面から同時にスタートします。二人の位置を時間の式で表し、「二人の位置が同じになるのは何秒後?」という方程式を立てます。この方程式を解くと、出会うまでの時間がわかります。その時間をBの式のほうに代入すれば、地面から何mの高さで出会ったかが計算できます。
AとBは、運動開始から \(4.0 \, \text{s}\) 後に、地面から高さ \(42 \, \text{m}\) のところで出会います。
思考の道筋とポイント
Aが落下した距離とBが上昇した距離の合計が、二つの物体の初期距離である \(120 \, \text{m}\) になったとき、二つは出会います。この考え方では、それぞれの物体の移動距離(変位の大きさ)に着目します。Aは下向き、Bは上向きに動くので、それぞれの運動方向を正として立式すると直感的です。
具体的な解説と立式
Aが落下した距離を \(y_{\text{A}}\)、Bが上昇した距離を \(y_{\text{B}}\) とします。
Aの運動(下向きを正とする): \(y_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
Bの運動(上向きを正とする): \(y_{\text{B}} = v_0 t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 = 30t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
出会う条件は、二つの移動距離の和が \(120 \, \text{m}\) となることなので、
$$ y_{\text{A}} + y_{\text{B}} = 120 $$
$$
\begin{aligned}
\left( \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \right) + \left( 30t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \right) &= 120 \\[2.0ex]30t &= 120 \\[2.0ex]t &= 4.0 \, [\text{s}]\end{aligned}
$$
出会う高さはBの上昇距離 \(y_{\text{B}}\) なので、\(t=4.0\) を代入して、\(y_{\text{B}} = 30 \times 4.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (4.0)^2 = 41.6 \approx 42 \, \text{m}\) となり、同じ結果が得られます。
思考の道筋とポイント
物体Aから見た物体Bの運動(相対運動)を考えます。両物体とも同じ重力加速度で運動しているため、相対的な加速度はゼロになります。つまり、Aから見るとBは等速直線運動をしているように見え、計算が劇的に簡単になります。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
Aに対するBの相対初速度 \(v_{\text{相対0}}\) は、
$$ v_{\text{相対0}} = v_{\text{B0}} – v_{\text{A0}} = 30 – 0 = 30 \, [\text{m/s}] $$
Aに対するBの相対加速度 \(a_{\text{相対}}\) は、
$$ a_{\text{相対}} = a_{\text{B}} – a_{\text{A}} = (-g) – (-g) = 0 $$
これは、Aから見るとBが、初速度 \(30 \, \text{m/s}\) の等速直線運動で近づいてくることを意味します。
初期距離は \(120 \, \text{m}\) なので、出会うまでの時間 \(t\) は、
$$ t = \displaystyle\frac{\text{距離}}{\text{速さ}} $$
$$
\begin{aligned}
t = \displaystyle\frac{120}{30} = 4.0 \, [\text{s}]\end{aligned}
$$
時間は非常に簡単に求まります。出会う高さは、メインの解法と同様に、Bの絶対的な位置を計算して \(42 \, \text{m}\) と求めます。
問(2)
思考の道筋とポイント
AとBが出会うときのBの速度を求めます。(1)で出会う時刻が \(t=4.0 \, \text{s}\) であると分かったので、この時刻を物体Bの速度の式に代入するだけです。速度はベクトル量なので、計算結果の符号が向きを表すことに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- (1)で求めた出会う時刻 \(t=4.0 \, \text{s}\) を用います。
- 速度の公式 \(v = v_0 + at\) を適用します。
- 計算結果の符号から、速度の向き(上向きか下向きか)を判断します。
具体的な解説と立式
メインの解法と同様に、鉛直上向きを正とします。
物体Bの速度 \(v_{\text{B}}(t)\) は、初速度 \(v_{\text{B0}} = 30 \, \text{m/s}\)、加速度 \(a = -g\) なので、
$$ v_{\text{B}}(t) = v_{\text{B0}} + at = 30 – gt $$
この式に、出会う時刻 \(t=4.0 \, \text{s}\) を代入します。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の公式: \(v = v_0 + at\)
$$
\begin{aligned}
v_{\text{B}}(4.0) &= 30 – 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]&= 30 – 39.2 \\[2.0ex]&= -9.2
\end{aligned}
$$
有効数字のルール(引き算では末位の高い方に合わせる)に従い、小数第1位を四捨五入して、
$$ v_{\text{B}} \approx -9 \, [\text{m/s}] $$
負の符号は、速度の向きが鉛直下向きであることを意味します。
Bは最初、上向きに \(30 \, \text{m/s}\) の速さで投げられましたが、重力によってだんだん遅くなり、やがて向きを変えて落ちてきます。(1)で出会うのが \(4.0\) 秒後だとわかったので、その瞬間のBの速度を計算します。計算結果がマイナスになったので、Bはすでに最高点を通り過ぎて、下向きに運動していることがわかります。
AとBが出会うときのBの速度は、下向きに \(9 \, \text{m/s}\) です。Bが最高点に達する時刻は \(t = v_0/g = 30/9.8 \approx 3.06 \, \text{s}\) なので、\(t=4.0 \, \text{s}\) の時点では落下中であるという結果と一致し、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 「出会う」という条件の数式化:
- 核心: 2つの物体が「出会う」あるいは「すれ違う」という現象は、物理的には「ある時刻に、2つの物体の位置座標が等しくなる」と翻訳できます。この問題では、物体AとBの位置をそれぞれ時間の関数 \(y_{\text{A}}(t)\), \(y_{\text{B}}(t)\) として表し、\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) という方程式を立てることが、問題を解くための最も本質的なアプローチです。
- 理解のポイント:
- この考え方を適用するためには、まず地面や投げ上げ点などを基準とした共通の座標軸を一つ設定することが大前提となります。
- 相対運動の考え方:
- 核心: 2つの物体が同じ加速度で運動している場合、一方から見たもう一方の運動(相対運動)は「等速直線運動」になります。この性質を利用すると、複雑な等加速度運動の問題を、非常に単純な「距離÷速さ=時間」の問題に置き換えることができ、計算を劇的に簡略化できます。
- 理解のポイント:
- Aに対するBの相対加速度: \(a_{\text{相対}} = a_{\text{B}} – a_{\text{A}} = (-g) – (-g) = 0\)
- Aに対するBの相対初速度: \(v_{\text{相対0}} = v_{\text{B0}} – v_{\text{A0}}\)
- 出会うまでの時間: \(t = \displaystyle\frac{\text{初期の相対距離}}{|v_{\text{相対0}}|}\)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 異なる場所から時間差で出発する追跡問題: 「Aが駅を出発した2分後に、Bが隣の駅からAを追いかける」といった問題。それぞれの位置を時間の関数で表し、位置が等しくなる時刻を求めます。
- 水平方向での出会い: 「x軸上を正の向きに等速で進むAと、負の向きに等加速度で進むBがいつどこで出会うか」といった問題。基本的な考え方は全く同じで、\(x_{\text{A}}(t) = x_{\text{B}}(t)\) を解きます。
- 衝突しない条件を問う問題: 「BがAに追いつかれない(衝突しない)ためのBの初速度の条件は?」といった問題。\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) が実数解を持たない条件(二次方程式の判別式 \(D<0\) など)を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸と原点を宣言する: まず「地面を原点とし、鉛直上向きを正とする」のように、自分の計算の土台となる座標系を明確に定めます。
- 各物体の初期条件を整理する: 物体ごとに、初期位置 \(y_0\)、初速度 \(v_0\)、加速度 \(a\) の値を、設定した座標軸に合わせて符号付きでリストアップします。
- 「出会う」の条件式を立てる: \(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) の方程式を立てます。このとき、等加速度運動の公式 \(y = y_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を使って、各物体の位置を具体的に記述します。
- (可能なら)相対速度での別解を検討する: 両物体の加速度が同じであることに気づいたら、計算が簡単になる相対速度での解法を試みます。検算にも使えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 座標軸の不統一と符号ミス:
- 誤解: 物体Aについては下向きを正、物体Bについては上向きを正、というように別々の座標軸で考えてしまい、位置関係の式を立てる際に混乱する。
- 対策: 2物体が相互作用する問題では、必ず単一の共通座標系を設定する癖をつける。「地面を原点、上向きを正」と決めたら、Aの初期位置は \(+120\)、AとBの加速度は両方とも \(-g\) と、全ての物理量をその座標系で一貫して表現します。
- 移動距離と位置座標の混同:
- 誤解: Aの落下距離 \(y_{\text{A}}\) とBの上昇距離 \(y_{\text{B}}\) の和が120mになるという考え方(別解1)と、Aの位置とBの位置が等しくなるという考え方(メインの解法)を混同し、\(y_{\text{A}}(t) + y_{\text{B}}(t) = 120\) のような意味不明な式を立ててしまう。
- 対策: 「位置座標」で解くのか、「移動距離」で解くのか、自分の解法の方針を最初に明確に意識する。位置座標で解くなら、\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) の形に徹する。
- 速度と速さの混同:
- 誤解: (2)で速度を求めるとき、計算結果がマイナスになっても、その符号を無視して大きさだけを答えてしまう。
- 対策: 問題が「速度」を問うているのか、「速さ」を問うているのかを注意深く読む。「速度」は向きを含むベクトル量なので、符号(または向きを示す言葉)まで含めて答える必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 出会い問題の3つのアプローチ:
- アプローチ1:絶対座標法(\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\))
- 選定理由: 最も基本的で、どんな出会い・追跡問題にも適用できる万能な方法。物理現象を一つの基準で記述するという、物理学の王道的な考え方です。
- 適用根拠: 「出会う」という事象を「位置座標の一致」と定義し、それを数式に落とし込んでいます。
- アプローチ2:移動距離の和(\(y_{\text{A}} + y_{\text{B}} = 120\))
- 選定理由: 互いに向かい合って進む場合に限定されますが、非常に直感的で理解しやすい方法です。
- 適用根拠: 幾何学的に、2つの物体が移動した距離の合計が、初期の全距離に等しくなったときに出会う、という自明な事実に基づいています。
- アプローチ3:相対速度法
- 選定理由: 両物体の加速度が等しいという特殊な条件で絶大な効果を発揮し、計算を劇的に簡略化できるため。
- 適用根拠: 一方の物体を観測者とする座標系(相対座標系)に移ることで、問題の見方を変えています。この座標系では、重力の影響が見かけ上消え、問題が単純化されます。
- アプローチ1:絶対座標法(\(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\))
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 立式段階での工夫: \(y_{\text{A}}(t) = y_{\text{B}}(t)\) の式を立てると、\(120 – \frac{1}{2}gt^2 = 30t – \frac{1}{2}gt^2\) となり、両辺の \(- \frac{1}{2}gt^2\) の項が相殺されます。このことに気づけば、\(g=9.8\) を代入して複雑な計算をする必要がなくなり、\(120 = 30t\) という非常に簡単な式に帰着します。計算は後回しにして、まず式の形をよく見ることが重要です。
- 検算の徹底:
- 求めた時刻 \(t=4.0 \, \text{s}\) を、AとBそれぞれの位置の式に代入し、同じ高さになることを確認する。
- \(y_{\text{A}}(4.0) = 120 – 4.9 \times 16 = 41.6 \, \text{m}\)
- \(y_{\text{B}}(4.0) = 30 \times 4.0 – 4.9 \times 16 = 41.6 \, \text{m}\)
- 両者が一致すれば、計算の正しさはほぼ保証されます。
- 速度の向きの吟味: (2)でBの速度を求めた結果 \(v_{\text{B}} = -9.2 \, \text{m/s}\) となりました。Bが最高点に達する時刻は \(v=v_0-gt=0\) より \(t=30/9.8 \approx 3.06 \, \text{s}\) です。出会う時刻 \(t=4.0 \, \text{s}\) はこの時刻より後なので、Bはすでに最高点を過ぎて落下しているはずです。計算結果の負号はこの物理的状況と一致しており、答えが妥当であることを裏付けています。
30 水平投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「水平投射と運動の分解」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解:水平投射のような2次元の運動は、互いに影響しない水平方向と鉛直方向の1次元の運動に分解して考えます。
- 水平方向の運動:水平方向には力が働かない(空気抵抗は無視)ため、初速度 \(V\) のままの「等速直線運動」となります。
- 鉛直方向の運動:鉛直方向には重力のみが働き、初速度は0なので「自由落下運動」となります。
- 時間の共通性:水平方向の運動と鉛直方向の運動は、同時に起こるため、経過時間は共通です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、水平方向の運動(等速直線運動)だけに着目し、「距離=速さ×時間」の関係から時間を求めます。
- (2)では、鉛直方向の運動(自由落下)だけに着目します。ボールが壁の高さまで落下する、つまり落下距離が \(H-h\) となる時間を自由落下の公式から求めます。
- (3)では、「壁を越える」という条件を時間の関係に置き換えて考えます。壁の位置に到達する時間 \(t_x\) が、壁の高さまで落ちてしまう時間 \(t_y\) よりも短ければ壁を越えることができます。この \(t_x < t_y\) という不等式を立て、初速度 \(V\) の条件式を導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
ボールが水平方向に \(L\) 進むまでの時間 \(t_x\) を求める問題です。水平投射された物体の運動のうち、水平方向の成分は、力が働かないため「等速直線運動」となります。したがって、一定の速さ \(V\) で距離 \(L\) を進む時間を計算すればよい、というシンプルな問題です。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動は、常に初速度 \(V\) の等速直線運動です。
- 等速直線運動の公式「距離 = 速さ × 時間」を適用します。
具体的な解説と立式
水平方向の運動について考えます。
水平方向の速さは、常に一定で \(V\) です。
進む距離は \(L\) なので、かかる時間を \(t_x\) とすると、以下の関係式が成り立ちます。
$$ L = V t_x $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
上記の関係式を \(t_x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t_x = \displaystyle\frac{L}{V}
\end{aligned}
$$
ボールの横方向の動きだけを見ると、ずっと同じ速さ \(V\) でまっすぐ進んでいます。この速さで \(L\) という距離を進むのにかかる時間は、小学校で習った「時間 = 距離 ÷ 速さ」の公式で簡単に計算できます。
ボールが水平方向に \(L\) 進むまでの時間は \(\displaystyle\frac{L}{V}\) です。この結果は、距離 \(L\) が長いほど時間がかかり、初速度 \(V\) が大きいほど時間が短くなるという直感と一致しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ボールが壁の高さまで落下する時間 \(t_y\) を求める問題です。これは、ボールの鉛直方向の運動だけを考えればよい問題です。ボールは高さ \(H\) の位置から投げ出され、壁の高さは \(h\) です。したがって、ボールが壁の高さまで落下するということは、鉛直方向に \(H-h\) の距離だけ落下することを意味します。水平投射の鉛直方向の運動は「自由落下」なので、この落下距離にかかる時間を計算します。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の運動は、初速度0の自由落下運動です。
- 壁の高さまで落下するための落下距離は、\(H-h\) となります。
具体的な解説と立式
鉛直方向の運動について考え、鉛直下向きを正の向きとします。
鉛直方向の初速度は \(0\) です。
落下する距離を \(y\) とすると、\(y = H-h\) です。
自由落下の変位の公式に、かかる時間を \(t_y\) として適用します。
$$ y = \displaystyle\frac{1}{2} g t^2 $$
したがって、
$$ H-h = \displaystyle\frac{1}{2} g t_y^2 $$
使用した物理公式
- 自由落下の変位の公式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\)
上記の関係式を \(t_y\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t_y^2 &= \displaystyle\frac{2(H-h)}{g} \\[2.0ex]t_y &= \sqrt{\displaystyle\frac{2(H-h)}{g}}
\end{aligned}
$$
時間は正の値なので、正の平方根をとります。
ボールの縦方向の動きだけを見ると、ただの自由落下です。ボールが壁と同じ高さまで落ちるということは、スタート地点の高さ \(H\) から壁の高さ \(h\) まで、つまり \(H-h\) の距離を落下するということです。この距離を自由落下するのにかかる時間を、物理の公式を使って計算します。
ボールが壁の高さまで落下する時間は \(\sqrt{\displaystyle\frac{2(H-h)}{g}}\) です。落下距離 \((H-h)\) が大きいほど時間がかかるという結果は、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
ボールが壁を越えて飛んでいくための初速度 \(V\) の条件を求める問題です。「壁を越える」という条件を、物理的な言葉、特に時間の関係に翻訳することが鍵となります。
ボールが壁の位置(水平距離 \(L\))に到達したとき、その高さが壁の高さ \(h\) よりも高ければ、ボールは壁を越えることができます。
ボールの高さは、落下距離が小さいほど高くなります。つまり、壁の位置に到達したときの落下距離が、壁を越えるために許される落下距離 \((H-h)\) よりも小さければよい、ということです。
落下距離は落下時間に依存するので、この条件を時間で表現し直すと、「壁の位置まで水平に進む時間 \(t_x\) が、壁の高さまで落下してしまう時間 \(t_y\) よりも短い」ということになります。
この設問における重要なポイント
- 壁を越える条件 \(\iff\) 水平距離 \(L\) に到達したときのボールの高さ > 壁の高さ \(h\)
- 上記の条件は、時間の言葉で言うと「水平距離 \(L\) に到達する時間 \(t_x\) < 壁の高さまで落下する時間 \(t_y\)」と等価です。
- この不等式 \(t_x < t_y\) に(1)と(2)で求めた結果を代入して解きます。
具体的な解説と立式
ボールが壁を越えるためには、ボールが水平方向に \(L\) 進んで壁の位置に到達する時間 \(t_x\) が、ボールが鉛直方向に \(H-h\) だけ落下して壁の高さと同じ高さになってしまう時間 \(t_y\) よりも短くなければなりません。
したがって、条件は以下の不等式で表されます。
$$ t_x < t_y $$
この不等式に、(1)で求めた \(t_x = \displaystyle\frac{L}{V}\) と、(2)で求めた \(t_y = \sqrt{\displaystyle\frac{2(H-h)}{g}}\) を代入します。
$$ \displaystyle\frac{L}{V} < \sqrt{\displaystyle\frac{2(H-h)}{g}} $$
使用した物理公式
- (1), (2)で導出した時間 \(t_x\), \(t_y\) の関係式
上記の不等式を \(V\) について解きます。\(V\) は速さなので正の数です。
まず、両辺の逆数をとります。不等号の向きが逆になることに注意します。
$$ \displaystyle\frac{V}{L} > \displaystyle\frac{1}{\sqrt{\displaystyle\frac{2(H-h)}{g}}} $$
整理すると、
$$ \displaystyle\frac{V}{L} > \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2(H-h)}} $$
両辺に \(L\) を掛けて、\(V\) の条件を求めます。
$$
\begin{aligned}
V &> L \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2(H-h)}}
\end{aligned}
$$
ボールが壁を越えるには、「壁にぶつかる前に、さっさと壁の上を通り過ぎる」必要があります。これは、「ボールが壁のところまで飛んでいく時間」が、「ボールが壁の高さまで落ちてきてしまう時間」よりも短ければ良い、ということです。この時間の大小関係を不等式で表し、(1)と(2)で求めた時間の式を代入します。最後に、この不等式を初速度 \(V\) についての条件に書き直します。
ボールが壁を越えるための条件は \(V > L \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2(H-h)}}\) です。この結果は、初速度 \(V\) が大きいほど壁を越えやすい、壁までの距離 \(L\) が遠いほど大きな初速度が必要、壁が高い(\(H-h\)が小さい)ほど大きな初速度が必要、という物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性(運動の分解):
- 核心: 水平投射のような2次元平面上の運動は、互いに直交する2つの方向(水平方向と鉛直方向)の運動に分解して考えることができます。それぞれの方向の運動は、もう一方の運動の影響を受けずに独立して進行します。これが放物運動を解析する上での最も基本的な考え方です。
- 理解のポイント:
- 水平方向: 外力が働かないため、初速度 \(V\) のままの「等速直線運動」を続けます。
- 鉛直方向: 重力のみが働くため、初速度 \(0\) の「自由落下運動」をします。
- 時間 \(t\): この2つの独立した運動を結びつける唯一の共通パラメータが「時間」です。ある瞬間の物体の位置は、その時刻 \(t\) における水平位置と鉛直位置をそれぞれ計算することで決定されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射: 初速度が斜め上向きの運動。水平方向が「等速直線運動」である点は同じですが、鉛直方向が「鉛直投げ上げ運動」になります。最高点では鉛直方向の速度のみが0になります。
- 地面への到達時間と水平到達距離: 水平投射された物体が地面に到達するまでの時間を問う問題。これは鉛直方向の落下距離が \(H\) となる時間を計算し、その時間を使って水平方向の移動距離を求めます。
- 壁への衝突角度: 「壁に衝突するときの速度と水平面のなす角を求めよ」という問題。衝突時刻における水平速度 \(v_x = V\) と鉛直速度 \(v_y = gt\) をそれぞれ求め、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\) の関係から角度を計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 思考の分離: 問題を読んだら、まず頭を「水平方向」と「鉛直方向」の2つのモードに切り替えます。
- 各方向の運動を定義する:
- 水平方向:運動の種類は「等速直線運動」。関連する物理量は、距離 \(x\)、速さ \(V\)、時間 \(t\)。公式は \(x=Vt\)。
- 鉛直方向:運動の種類は「自由落下」。関連する物理量は、落下距離 \(y\)、重力加速度 \(g\)、時間 \(t\)。公式は \(y=\frac{1}{2}gt^2\), \(v_y=gt\)。
- 問題文の条件を数式に翻訳する: (3)の「壁を越える」という日本語の条件を、「壁の位置に到達する時間 \(t_x\) が、壁の高さまで落ちる時間 \(t_y\) より短い」、すなわち \(t_x < t_y\) という数式(不等式)に置き換えることが最大のポイントです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 水平運動と鉛直運動の混同:
- 誤解: 水平方向の運動に重力加速度 \(g\) を使ってしまったり、鉛直方向の運動を等速だと勘違いしたりする。
- 対策: 計算を始める前に、紙を左右に分けて「水平:\(x=Vt\)」「鉛直:\(y=\frac{1}{2}gt^2\)」とそれぞれの運動の公式を書き出しておく。これにより、思考が整理され、混同を防げます。
- 落下距離の誤認:
- 誤解: (2)で、壁の高さまで落下する距離を \(H\) や \(h\) そのものだと勘違いしてしまう。
- 対策: 図を丁寧に見て、物理量を正確に把握する。スタート地点の高さが \(H\)、壁の高さが \(h\) なので、壁の高さまで落ちるための「落下距離」は、その差である \(H-h\) となります。
- (3)の不等式の向きのミス:
- 誤解: 「壁を越える」という条件を \(t_x > t_y\) と逆向きに考えてしまう。あるいは、\(V\) について解くときに逆数をとって、不等号の向きを反転させるのを忘れる。
- 対策: 「速く着けば(\(t_x\)が小さければ)壁の上を通過できる」と直感的に考えることで、\(t_x < t_y\) という正しい関係を導く。不等式の変形では、特に逆数をとる操作に細心の注意を払う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動の分解という大原則:
- 選定理由: 2次元の放物運動は、そのままでは複雑な運動です。しかし、ガリレオが見出したように、この運動を互いに直交する2つの単純な1次元運動(等速直線運動と等加速度直線運動)に分解することで、高校物理で習う基本的な公式だけで解析できるようになります。これは、ベクトルを成分に分解して考えるという、物理学における非常に強力な問題解決アプローチの一例です。
- 適用根拠:
- (1) 水平方向の距離 \(L\) と時間 \(t_x\) の関係が問われているため、水平方向の運動モデルである「等速直線運動」の公式 \(x=Vt\) を選択します。
- (2) 鉛直方向の落下距離 \(H-h\) と時間 \(t_y\) の関係が問われているため、鉛直方向の運動モデルである「自由落下」の公式 \(y=\frac{1}{2}gt^2\) を選択します。
- (3) 「壁を越える」という条件は、水平方向の運動と鉛直方向の運動のタイミングによって決まります。したがって、(1)と(2)で独立に求めた時間 \(t_x\) と \(t_y\) を比較することで、この複合的な条件を評価するのが最も論理的な流れとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の扱いに習熟する: この問題のように具体的な数値がない場合、最後まで文字式のまま計算を進める必要があります。ルートや分数が含まれる式の変形、特に(3)の不等式の変形を正確に行う数学的なスキルが求められます。
- 不等式の変形は慎重に: (3)で \(\displaystyle\frac{L}{V} < \sqrt{\dots}\) という式から \(V\) について解く際、焦ってはいけません。まず両辺の逆数をとって \(\displaystyle\frac{V}{L} > \frac{1}{\sqrt{\dots}}\) とし、不等号の向きが変わることを確認します。次に、ルートの中の分数を処理し(\(\frac{1}{\sqrt{A/B}} = \sqrt{B/A}\))、最後に両辺に \(L\) を掛ける、というように、一段階ずつ丁寧に変形を進めることでミスを防げます。
- 次元解析による検算: 計算結果の単位(次元)が、求めている物理量の単位と一致するかを確認する癖をつけましょう。例えば(3)の答えの右辺 \(L \sqrt{\frac{g}{2(H-h)}}\) の単位を調べると、
\[ [\text{m}] \sqrt{\frac{[\text{m/s}^2]}{[\text{m}]}} = [\text{m}] \sqrt{\frac{1}{[\text{s}^2]}} = [\text{m}] \times \frac{1}{[\text{s}]} = [\text{m/s}] \]となり、確かに速度の単位になっています。これにより、大きな間違いはないと確信できます。 - 極端なケースで妥当性を確認する:
- もし壁が非常に低い(\(h \to 0\))なら、越えるのは簡単になるはず。式を見ると分母の \(H-h\) が最大になり、\(V\) の下限値は最小になるので、直感と一致します。
- もし壁が非常に高い(\(h \to H\))なら、越えるのは非常に困難になるはず。式を見ると分母の \(H-h\) が0に近づき、\(V\) の下限値は無限大に発散します。これも直感と一致します。このような思考実験は、式の妥当性を確認するのに有効です。
31 水平投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動する物体からの水平投射と相対速度」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解:水平投射のような2次元の運動は、互いに影響しない水平方向と鉛直方向の1次元の運動に分解して考えます。
- 相対速度の合成:地面に対する速度は、「(観測者である)気球の速度」と「気球に対する物体の速度」のベクトル和で求められます。
- 水平方向の運動:地面に対する初速度が決定されれば、その速度で「等速直線運動」をします。
- 鉛直方向の運動:鉛直方向の初速度は0なので「自由落下運動」となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球の鉛直方向の運動に着目します。これは気球の水平運動とは無関係であり、高さ \(19.6 \, \text{m}\) からの単純な自由落下として時間を計算します。
- (2)では、小球の水平方向の運動を考えます。まず、地面から見た小球の真の初速度を、気球の速度と気球に対する小球の速度を合成して求めます。その初速度と(1)で求めた時間から、等速直線運動の公式を用いて水平移動距離を計算します。
- (3)では、地面に達する瞬間の速度を考えます。速度の水平成分と鉛直成分をそれぞれ計算し、その比から \(\tan\theta\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球を投げ出してから地面に達するまでの時間を求める問題です。この時間は、小球の鉛直方向の運動だけで決まります。小球は気球から水平方向に投げ出されているため、鉛直方向の初速度は0と見なせます。したがって、この問題は「高さ \(19.6 \, \text{m}\) の位置から物体を静かに放したとき、地面に達するまでの時間はいくらか」という自由落下の問題と全く同じです。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の運動は、水平方向の運動(気球の速度や投げ出す速度)とは独立しています。
- 小球の鉛直方向の運動は、初速度0、落下距離 \(19.6 \, \text{m}\) の自由落下運動です。
具体的な解説と立式
鉛直方向の運動について考え、鉛直下向きを正の向きとします。
落下距離は \(y = 19.6 \, \text{m}\) です。
求める時間を \(t\) として、自由落下の変位の公式を適用します。
$$ y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 $$
この式に数値を代入します。
$$ 19.6 = \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 $$
使用した物理公式
- 自由落下の変位の公式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
立式した方程式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= 4.9 t^2 \\[2.0ex]t^2 &= \displaystyle\frac{19.6}{4.9} \\[2.0ex]t^2 &= 4.0
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$ t = 2.0 \, [\text{s}] $$
ボールが地面に落ちるまでの時間は、ボールの縦の動きだけで決まります。横にどれだけ速く動いていようと、あるいは逆向きに投げられようと、縦の動きには影響しません。高さ \(19.6 \, \text{m}\) からただ手を離したのと同じなので、自由落下の公式を使って時間を計算します。
小球が地面に達するまでの時間は \(2.0 \, \text{s}\) です。この時間は、(2)と(3)の計算で共通して使われる重要な値となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球が地面に達した地点の、水平方向の位置を求める問題です。そのためには、まず「地面から見た」小球の水平方向の初速度を正しく求める必要があります。小球は、東向きに進む気球から西向き(進行方向と逆向き)に投げ出されているため、その初速度は両者の速度を合成したものになります。この合成された初速度で、(1)で求めた時間だけ等速直線運動したときの距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 地面に対する速度 = 気球の速度 + 気球に対する速度(ベクトル和で考える)。
- 水平方向の運動は、この合成された初速度による等速直線運動です。
具体的な解説と立式
水平方向の運動について考え、東向きを正の向きとします。
気球の速度は \(v_{\text{気球}} = +9.8 \, \text{m/s}\) です。
気球に対して投げ出す小球の速度は、進行方向と逆向きなので \(v_{\text{相対}} = -4.9 \, \text{m/s}\) です。
したがって、地面から見た小球の水平方向の初速度 \(v_x\) は、これらの和となります。
$$ v_x = v_{\text{気球}} + v_{\text{相対}} $$
この初速度 \(v_x\) で、(1)で求めた時間 \(t=2.0 \, \text{s}\) だけ等速直線運動したときの移動距離 \(x\) を求めます。
$$ x = v_x t $$
使用した物理公式
- 速度の合成: \(v_{\text{地面}} = v_{\text{観測者}} + v_{\text{相対}}\)
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
まず、地面に対する小球の初速度 \(v_x\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_x &= 9.8 + (-4.9) \\[2.0ex]&= 4.9 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
\(v_x\) が正の値なので、地面から見ると小球は東向きに \(4.9 \, \text{m/s}\) の速さで運動を始めます。
次に、水平移動距離 \(x\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
x &= 4.9 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 9.8 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
結果が正なので、移動した向きは東向きです。
ボールの横方向の動きを考えます。ボールは、気球が東に進む勢いと、人が西向きに投げる力の両方を受けます。これは、動く歩道の上を進行方向とは逆向きに歩くようなものです。差し引きすると、ボールは地面から見て東向きに \(4.9 \, \text{m/s}\) の速さで進むことになります。この速さで \(2.0\) 秒間飛ぶので、移動距離は「速さ × 時間」で \(9.8 \, \text{m}\) と計算できます。
小球が地面に達した地点は、投げ出した点の真下から東向きに \(9.8 \, \text{m}\) 離れた場所です。気球の速度が投げ出す速度より大きいため、結果的に東向きに進むという結果は物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
地面に達する直前の小球の速度の向きが、地面となす角 \(\theta\) のタンジェントを求める問題です。速度はベクトル量なので、水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) に分解して考えます。速度の向きは、この2つの成分の比で決まります。具体的には、\(\tan\theta = \frac{|v_y|}{|v_x|}\) の関係を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 地面に達する直前の速度は、水平成分と鉛直成分のベクトル和で表されます。
- 水平方向の速度 \(v_x\) は、(2)で求めた地面に対する初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\) のまま一定です。
- 鉛直方向の速度 \(v_y\) は、(1)で求めた落下時間 \(t=2.0 \, \text{s}\) を使って、自由落下の速度公式から計算します。
具体的な解説と立式
地面に達する直前の速度の水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を求めます。
水平成分は(2)で計算した通り、運動中一定です。
$$ v_x = 4.9 \, [\text{m/s}] $$
鉛直成分は、鉛直下向きを正とすると、時間 \(t=2.0 \, \text{s}\) の自由落下後の速度なので、
$$ v_y = gt $$
速度の向きが地面となす角を \(\theta\) とすると、そのタンジェントは速度の鉛直成分と水平成分の大きさの比で与えられます。
$$ \tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x} $$
使用した物理公式
- 自由落下の速度公式: \(v = gt\)
- 三角関数の定義
まず、鉛直方向の速度成分 \(v_y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_y &= 9.8 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 19.6 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
次に、\(\tan\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \displaystyle\frac{19.6}{4.9} \\[2.0ex]&= 4.0
\end{aligned}
$$
地面にぶつかる瞬間のボールの速度は、斜め下向きになっています。この「斜め具合」を知るために、速度を「横向きの成分」と「縦向きの成分」に分けます。横向き成分はずっと \(4.9 \, \text{m/s}\) のままです。縦向き成分は \(2.0\) 秒間自由落下したときの速さで、計算すると \(19.6 \, \text{m/s}\) になります。この2つの速度成分を使って、速度の矢印が作る直角三角形を考え、その角度のタンジェント(底辺分の高さ)を計算します。
\(\tan\theta\) の値は \(4.0\) です。これは、地面に達する瞬間の速度の鉛直成分が水平成分の4倍であることを意味しており、かなり急な角度で地面に達することがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と独立性:
- 核心: 水平投射の運動は、水平方向と鉛直方向の2つの独立した運動の組み合わせとして捉えることができます。それぞれの運動は互いに干渉しないため、別々に解析することができます。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向: 投げ出し方にかかわらず、鉛直方向の初速度は0です。したがって、運動は常に「自由落下」となり、落下時間は高さだけで決まります。
- 水平方向: 重力の影響を受けないため、「等速直線運動」となります。その速さは、地面から見た真の初速度によって決まります。
- 速度の合成(相対速度の考え方):
- 核心: この問題の最大のポイントは、動いている物体(気球)から別の物体(小球)が投げ出される点です。地面から見た小球の真の速度は、「気球の速度」と「気球に対する小球の速度」のベクトル和で与えられます。
- 理解のポイント:
- 地面に対する速度 = (観測者である)気球の速度 + 気球に対する物体の速度
- これはベクトル和なので、向きを考慮して足し算(または引き算)をする必要があります。東向きを正とすれば、気球の速度は \(+9.8 \, \text{m/s}\)、気球に対する小球の速度は \(-4.9 \, \text{m/s}\) となり、これらを合成します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 追い風状況: 気球の進行方向と同じ向きに小球を投げ出す問題。この場合、地面に対する初速度は \(v_x = 9.8 + 4.9\) のように単純な足し算になります。
- 斜め投げ出し: 気球から斜め上や斜め下に小球を投げ出す問題。この場合、小球の初速度が水平成分と鉛直成分の両方を持つことになります。鉛直方向の運動が自由落下ではなく、「鉛直投げ上げ」や「鉛直投げおろし」になるため、より複雑になります。
- 川を渡る船: 「流速 \(v\) の川を、静水時の速さ \(u\) の船が岸に対して垂直に進む」といった問題。川の流れが気球の速度、船の静水時の速さが気球に対する小球の速度に対応し、速度の合成という点で全く同じ構造をしています。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準系(誰から見るか)を明確にする: 問題が「地面に対して」どうなるかを問うていることを確認します。これが全ての計算の基準となります。
- 鉛直方向から攻める: 多くの放物運動の問題では、落下時間 \(t\) は鉛直方向の運動だけで決まります。まず(1)のように落下時間を求めるのが定石です。この時間は、水平方向の運動を解析する上でも共通して使えます。
- 地面に対する真の初速度を計算する: 水平方向の運動を考える前に、必ず速度の合成を行い、「地面から見た」水平初速度 \(v_x\) を計算します。これが水平方向の等速直線運動の速さになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の合成忘れ:
- 誤解: (2)で、気球の速度を無視し、気球に対する小球の速度 \(4.9 \, \text{m/s}\) をそのまま地面に対する水平速度だと考えてしまう。
- 対策: 「動く歩道の上を歩く人」を想像しましょう。地面から見た人の速さは、歩道の速さと人の歩く速さの合成になります。それと同じで、必ず「観測者(気球)の速度」と「相対速度」を足し合わせることを徹底します。
- 符号の取り扱いミス:
- 誤解: (2)で速度を合成する際、東向きを正と決めたにもかかわらず、逆向き(西向き)の速度を \(-4.9\) ではなく \(+4.9\) として計算してしまう。
- 対策: 計算を始める前に「東向きを正とする」と座標軸の向きを宣言し、各速度ベクトルに「\(+\)」や「\(-\)」の符号を付けてから立式する習慣をつけます。
- \(\tan\theta\) の計算で使う速度の混同:
- 誤解: (3)で \(\tan\theta\) を計算する際、分母の \(v_x\) に、気球の速度 \(9.8\) や相対速度 \(4.9\) をそのまま使ってしまう。
- 対策: \(\tan\theta\) は、あくまで「地面に達する瞬間の」速度ベクトルの成分比です。分母の \(v_x\) は「地面から見た」水平速度(合成後の \(4.9 \, \text{m/s}\))、分子の \(v_y\) は「地面に達する瞬間の」鉛直速度(\(19.6 \, \text{m/s}\))であることを明確に区別して計算します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 基本原理の組み合わせで解く:
- 選定理由: この問題は一見複雑ですが、「運動の分解」と「速度の合成」という2つの基本原理を組み合わせることで、各設問が単純な公式の適用問題に帰着します。物理学では、複雑な現象を基本的な法則の組み合わせとして理解することが重要です。
- 適用根拠:
- (1) 落下時間 \(t\) は、鉛直方向の運動だけで決まるという「運動の独立性」から、自由落下の公式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) を選択します。
- (2) 水平移動距離 \(x\) は、水平方向の運動だけで決まります。しかし、その運動を支配する「速さ」は、地面を基準として考えなければなりません。そこでまず「速度の合成則」 \(v_x = v_{\text{気球}} + v_{\text{相対}}\) を適用して真の水平速度を求め、次にその結果を使って「等速直線運動」の公式 \(x = v_x t\) を適用するという、2段階の論理で解きます。
- (3) 速度の向き \(\theta\) は、その瞬間の速度ベクトルの幾何学的な形で決まります。ベクトルは成分に分解できるので、水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) をそれぞれ求め、三角関数の定義 \(\tan\theta = \frac{v_y}{v_x}\) に当てはめるのが最も直接的な方法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報の整理と記号化: 問題文から「気球の速度 \(v_{\text{気球}}\)」「気球に対する小球の速度 \(v_{\text{相対}}\)」「高さ \(H\)」といった情報を抜き出し、記号を割り当てて整理すると、思考がクリアになります。
- 段階的な計算を心がける: (2)の水平距離を求める際に、いきなり一つの式で書こうとせず、
- まず地面に対する水平初速度 \(v_x\) を計算する: \(v_x = 9.8 + (-4.9) = 4.9 \, \text{m/s}\)
- 次にその \(v_x\) を使って水平距離 \(x\) を計算する: \(x = 4.9 \times 2.0 = 9.8 \, \text{m}\)
というように、思考のステップごとに計算を区切ることで、ミスを大幅に減らすことができます。
- ベクトル図の活用: 速度の合成や、(3)の \(\tan\theta\) の計算では、速度ベクトルを矢印で図示すると関係性が一目でわかります。特に(3)では、\(v_x\) と \(v_y\) を2辺とする直角三角形を描くことで、\(\tan\theta\) がどの辺の比に対応するのかを直感的に理解でき、計算ミスを防げます。
- 単位と向きを必ず書く: (2)の答えは「\(9.8 \, \text{m}\)」だけでなく、「東向きに \(9.8 \, \text{m}\)」と向きまで含めて記述する癖をつけましょう。これにより、自分が何を計算し、その結果が何を意味するのかを常に意識することができます。
32 斜方投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜方投射の運動解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解:斜方投射は、水平方向の「等速直線運動」と、鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」の組み合わせとして考えます。
- 初速度の成分分解:初速度 \(V\) を、水平成分 \(v_x = V\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_y = V\sin\theta\) に分解します。
- 三角関数の倍角の公式:水平到達距離の式を整理するために、\( \sin(2\theta) = 2\sin\theta\cos\theta \) を利用します。
- 三角関数の最大値:水平到達距離が最大になる条件を考えるために、\(\sin\) 関数の最大値が1であることを利用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、鉛直方向の運動(鉛直投げ上げ)だけに着目します。ボールが打ち出されてから再び地面に戻ってくる、つまり鉛直方向の変位が0になるまでの時間を計算します。
- (2)では、水平方向の運動(等速直線運動)に着目します。(1)で求めた滞空時間と、水平方向の初速度から、水平到達距離を計算します。
- (3)では、(2)で導出した水平到達距離の式を吟味し、三角関数の性質を利用して、距離が最大となる角度 \(\theta\) の条件を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
ボールが再び地面に落下するまでの時間(滞空時間)を求める問題です。この時間は、ボールの鉛直方向の運動だけで決まります。鉛直方向の運動は、初速度の鉛直成分 \(V\sin\theta\) で打ち上げられた「鉛直投げ上げ運動」と見なせます。地面から打ち出され、再び地面に戻ってくるので、鉛直方向の変位が \(y=0\) となる時刻を求めます。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の運動は、初速度 \(v_{0y} = V\sin\theta\) の鉛直投げ上げ運動です。
- 座標軸を、地面を原点、鉛直上向きを正と設定します。
- 地面に戻ってくる条件は、変位 \(y=0\) です。
具体的な解説と立式
地面を原点とし、鉛直上向きを正の向きとします。
初速度の鉛直成分は \(v_{0y} = V\sin\theta\) です。
加速度は鉛直下向きに働く重力加速度なので、\(a = -g\) となります。
求める時間を \(t\) として、鉛直方向の変位の公式を適用します。
$$ y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 $$
再び地面に落下するとき、変位は \(y=0\) となるので、
$$ 0 = (V\sin\theta)t + \displaystyle\frac{1}{2}(-g)t^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
- 初速度の成分分解: \(v_y = V\sin\theta\)
上記の方程式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0 &= (V\sin\theta)t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]0 &= t \left( V\sin\theta – \displaystyle\frac{1}{2}gt \right)
\end{aligned}
$$
この方程式の解は \(t=0\) または \(V\sin\theta – \displaystyle\frac{1}{2}gt = 0\) です。
\(t=0\) は打ち出した瞬間なので、求める時間ではありません。したがって、
$$
\begin{aligned}
V\sin\theta – \displaystyle\frac{1}{2}gt &= 0 \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}gt &= V\sin\theta \\[2.0ex]t &= \displaystyle\frac{2V\sin\theta}{g}
\end{aligned}
$$
ボールが空中にいる時間は、ボールの縦の動きだけで決まります。ボールの縦の動きは、初めの速さが \(V\sin\theta\) の鉛直投げ上げ運動と同じです。このボールが上がって、再び元の高さ(地面)に戻ってくるまでの時間を、物理の公式を使って計算します。
ボールが再び地面に落下するまでの時間は \(\displaystyle\frac{2V\sin\theta}{g}\) です。この時間は、最高点に達するまでの時間 \(\frac{V\sin\theta}{g}\) のちょうど2倍になっており、鉛直投げ上げ運動の対称性とも一致していて妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ボールを打ち出した地点と落下地点との間の距離(水平到達距離)を求める問題です。水平方向には力が働かないため、ボールは初速度の水平成分 \(V\cos\theta\) のまま「等速直線運動」をします。この速さで、(1)で求めた滞空時間 \(t\) だけ進んだ距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動は、速さ \(v_x = V\cos\theta\) の等速直線運動です。
- 水平到達距離は「水平方向の速さ × 滞空時間」で求められます。
- 計算結果の整理に、三角関数の倍角の公式 \( \sin(2\theta) = 2\sin\theta\cos\theta \) を用います。
具体的な解説と立式
水平方向の運動について考えます。
水平方向の速さは、常に一定で \(v_x = V\cos\theta\) です。
滞空時間は、(1)で求めた \(t = \displaystyle\frac{2V\sin\theta}{g}\) です。
求める水平到達距離を \(x\) とすると、等速直線運動の公式より、
$$ x = v_x t $$
この式に、\(v_x\) と \(t\) を代入します。
$$ x = (V\cos\theta) \times \left( \displaystyle\frac{2V\sin\theta}{g} \right) $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
- 初速度の成分分解: \(v_x = V\cos\theta\)
- 三角関数の倍角の公式: \( \sin(2\theta) = 2\sin\theta\cos\theta \)
立式した \(x\) の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{2V^2\sin\theta\cos\theta}{g}
\end{aligned}
$$
ここで、三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{V^2\sin(2\theta)}{g}
\end{aligned}
$$
ボールがどれだけ遠くまで飛ぶかは、横方向の速さと、空中にいる時間の掛け算で決まります。横方向の速さは \(V\cos\theta\) で、空中にいる時間は(1)で計算したものです。この2つを掛け合わせ、三角関数の公式を使って式をきれいにまとめます。
水平到達距離は \(x = \displaystyle\frac{V^2\sin(2\theta)}{g}\) となります。これは斜方投射における水平到達距離の公式として非常に有名であり、覚えておくと便利な式です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた水平到達距離 \(x\) が最大になるときの角度 \(\theta\) を求める問題です。(2)で導出した式 \(x = \displaystyle\frac{V^2\sin(2\theta)}{g}\) を見ると、初速度 \(V\) と重力加速度 \(g\) は一定なので、\(x\) の値は \(\sin(2\theta)\) の値によってのみ変化します。したがって、\(x\) が最大になるのは、\(\sin(2\theta)\) が最大値をとるときです。
この設問における重要なポイント
- 三角関数 \(\sin\) の値は、\(-1\) から \(1\) までの範囲しかとりません。
- \(\sin(2\theta)\) の最大値は \(1\) です。
- \(\sin(2\theta) = 1\) となる角度 \(2\theta\) を考え、そこから \(\theta\) を求めます。
具体的な解説と立式
水平到達距離の式は、
$$ x = \displaystyle\frac{V^2\sin(2\theta)}{g} $$
です。\(V\) と \(g\) は定数なので、\(x\) が最大値をとるのは、\(\sin(2\theta)\) が最大値をとるときです。
\(\sin\) 関数の最大値は \(1\) なので、求める条件は、
$$ \sin(2\theta) = 1 $$
となります。
使用した物理公式
- 三角関数の値域(最大値・最小値)
上記の方程式を \(\theta\) について解きます。
ボールを打ち出す角度 \(\theta\) の範囲は \(0^\circ < \theta < 90^\circ\) なので、\(2\theta\) の範囲は \(0^\circ < 2\theta < 180^\circ\) となります。
この範囲で \(\sin(2\theta) = 1\) を満たすのは、
$$
\begin{aligned}
2\theta &= 90^\circ \\[2.0ex]\theta &= 45^\circ
\end{aligned}
$$
(2)で求めた飛距離の公式を見ると、飛距離は \(\sin(2\theta)\) という部分の大きさで決まることがわかります。三角関数の \(\sin\) は、角度が \(90^\circ\) のときに最大値 \(1\) をとります。したがって、\(2\theta\) が \(90^\circ\) になるとき、つまり打ち出す角度 \(\theta\) が \(45^\circ\) のときに、ボールは最も遠くまで飛ぶことになります。
水平到達距離が最大になるときの角度は \(\theta = 45^\circ\) です。これは、空気抵抗を無視した場合、物体を最も遠くに投げるための最適な角度として広く知られており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解という基本戦略:
- 核心: 斜方投射のような2次元の運動は、そのまま扱うと複雑です。しかし、この運動を互いに直交する「水平方向」と「鉛直方向」の2つの単純な1次元運動に分解して考えることで、問題を劇的に単純化できます。これが斜方投射を解く上での絶対的な大原則です。
- 理解のポイント:
- 初速度の分解: まず、初速度 \(V\) を水平成分 \(v_x = V\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_y = V\sin\theta\) に分解することから全てが始まります。
- 水平方向の運動: 水平方向には力が働かないため、速度 \(v_x\) は常に一定の「等速直線運動」となります。
- 鉛直方向の運動: 鉛直方向には重力のみが働くため、初速度 \(v_y\) の「鉛直投げ上げ運動」となります。加速度は常に鉛直下向きに \(g\) です。
- 三角関数の活用:
- 核心: 運動を成分に分解する過程で三角関数が必然的に登場します。特に、水平到達距離を求める際には、\(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) という倍角の公式が決定的な役割を果たします。
- 理解のポイント: この公式を使うことで、複雑に見える式がシンプルな形にまとまり、(3)のような最大値を求める問題の見通しが良くなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 高さのある場所からの斜方投射: ビルの屋上からボールを投げるような問題。鉛直方向の運動で、最終的な変位が \(y=0\) ではなく負の値(例: \(-H\))になります。これにより、滞空時間を求める式が \(t\) に関する二次方程式になります。
- 特定の点(壁など)を通過する条件: 「高さ \(h\)、水平距離 \(L\) の壁を越えるための初速度 \(V\) の条件は?」といった問題。壁の位置まで飛ぶ時間 \(t = L/v_x\) を求め、その時刻におけるボールの高さ \(y(t)\) が壁の高さ \(h\) より大きい(\(y(t) > h\))という不等式を立てて解きます。
- 最高点に関する問い: 「最高点の高さと、そこまでの水平距離を求めよ」という問題。最高点では鉛直方向の速度成分 \(v_y\) が \(0\) になるという条件を使って、最高点までの時間を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 真っ先に初速度を分解する: 問題文で斜方投射と分かったら、考える前にまず \(V\) を \(V\cos\theta\) と \(V\sin\theta\) に分解する図を描きます。
- 鉛直方向の運動から時間を求める: 滞空時間や最高点までの時間は、鉛直方向の運動だけで決まります。まず時間を求めるのが、問題を解く上での定石です。
- 水平方向の運動で距離を求める: (2)のように、(1)で求めた時間を使って、水平方向の等速直線運動の距離を計算します。
- 最大・最小問題は数式を吟味する: (3)のように最大値を問われたら、(2)で導出した数式をよく見て、どの部分が変数で、その変数がどのような範囲の値をとるのかを数学的に考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 初速度の成分分解ミス:
- 誤解: 水平成分と鉛直成分で \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: 角度 \(\theta\) を「挟む」辺が \(\cos\)、角度 \(\theta\) の「向かい」の辺が \(\sin\) と覚える。あるいは、\(\theta=0\) の極端な場合(水平投射)を考えて、水平成分が \(V\)、鉛直成分が \(0\) となることを確認する。
- 水平運動への重力加速度の適用:
- 誤解: 水平方向の運動を考える際に、誤って重力加速度 \(g\) の影響を入れてしまう。
- 対策: 「水平方向には力が働かない \(\rightarrow\) 等速直線運動」「鉛直方向には重力が働く \(\rightarrow\) 等加速度直線運動」という運動モデルの違いを、計算前に明確に意識する。
- 水平到達距離の最大値の考え違い:
- 誤解: \(x = \frac{2V^2\sin\theta\cos\theta}{g}\) の式を見て、\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) がそれぞれ最大になるときを考えてしまい、混乱する。
- 対策: \(\sin\theta\cos\theta\) のような三角関数の積を見たら、まず「倍角の公式などを使って一つの三角関数にまとめられないか」と考える癖をつける。この場合は \(\frac{1}{2}\sin(2\theta)\) にまとめることで、変数が一つになり、最大値の議論が容易になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動の分解という物理学的アプローチ:
- 選定理由: 複雑な現象を、より単純で基本的な要素の組み合わせとして理解することは、物理学の最も強力な手法の一つです。斜方投射を、すでに性質がよく分かっている「等速直線運動」と「鉛直投げ上げ運動」に分解することで、それぞれの運動に対して確立された公式を適用できるようになります。
- 適用根拠:
- (1) 滞空時間 \(t\) は、鉛直方向の運動だけで決まります。ボールが打ち上げられてから元の高さに戻ってくるまでの時間を知りたいので、鉛直方向の変位 \(y\) が \(0\) になるという条件を、変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) に適用するのが最も直接的です。
- (2) 水平到達距離 \(x\) は、水平方向の運動だけで決まります。水平方向は一定速度なので、距離を求めるには最も単純な公式である \(x = v_x t\) を選択します。ここで使う時間 \(t\) は、(1)で求めた「空中にいる時間」そのものです。
- (3) 水平到達距離 \(x\) の最大値を求める問題は、物理法則の適用から、純粋な数学の問題へと移行します。(2)で導出した物理的な結果(\(x\) の数式)を、三角関数の数学的な性質(最大値)を用いて分析します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理整頓: (2)で \(x = (V\cos\theta) \times \left( \frac{2V\sin\theta}{g} \right)\) を計算する際、まず定数部分と変数部分を分けて \(\frac{2V^2}{g} \times (\sin\theta\cos\theta)\) のように整理すると、式の構造が見やすくなり、その後の変形ミスを防げます。
- 倍角の公式を使いこなす: \(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) は、斜方投射の問題では頻出の変形です。この公式をスムーズに適用できるかどうかで、計算時間や見通しの良さが大きく変わります。
- 角度の範囲を意識する: (3)で \(\sin(2\theta)=1\) を解く際には、問題設定から \(\theta\) の範囲が \(0^\circ < \theta < 90^\circ\) であることを念頭に置き、\(2\theta\) の範囲が \(0^\circ < 2\theta < 180^\circ\) であることを確認します。これにより、解が \(2\theta = 90^\circ\) の一つに絞り込まれ、余計な解を出さずに済みます。
- 次元解析で検算する: (2)で求めた水平到達距離の式 \(x = \frac{V^2\sin(2\theta)}{g}\) の単位が、本当に距離の単位 [m] になっているかを確認する癖をつけましょう。
\[ \frac{[\text{m/s}]^2}{[\text{m/s}^2]} = \frac{[\text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m/s}^2]} = [\text{m}] \]となり、単位が合っていることが確認でき、大きな間違いがないという自信につながります。
33 斜方投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「高さのある場所からの斜方投射」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解:斜方投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」に分解して考えます。
- 初速度の成分分解:初速度 \(v_0\) を、水平成分 \(v_x = v_0\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_y = v_0\sin\theta\) に分解します。
- 座標軸の設定:計算を始める前に、原点と正の向きを明確に設定することが重要です。特に、投げ出した点を原点とすると計算が簡潔になることが多いです。
- 等加速度直線運動の3公式の適切な選択:各設問の状況に応じて、\(v=v_0+at\), \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), \(v^2-v_0^2=2ay\) の3つの公式を使い分けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、鉛直方向の運動に着目します。投げ出した点(屋上)を原点とし、地面に達するまでの変位と時間が与えられているので、変位の公式を用いて初速度 \(v_0\) を逆算します。
- (2)では、鉛直方向の運動で最高点に達する条件(鉛直速度が0)を利用して、屋上からの高さを計算し、それに建物の高さを加えて地面からの高さを求めます。
- (3)では、鉛直方向の運動で変位が0になる時刻を計算します。そのときの速さは、運動の対称性を利用するか、速度の各成分を計算して合成します。
- (4)では、水平方向の運動(等速直線運動)に着目し、(1)で求めた初速度と地面に達するまでの総飛行時間から水平到達距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
初速度の大きさ \(v_0\) を求める問題です。小球の運動は水平方向と鉛直方向に分解できますが、\(v_0\) を含む鉛直方向の運動に着目するのが有効です。問題文で、地面に達するまでの時間 \(t=2.0 \, \text{s}\) と、その間の鉛直方向の変位(屋上から地面まで)が分かっているため、鉛直方向の変位の公式を用いることで \(v_0\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定が重要です。ここでは、投げ出した屋上の点を原点とし、鉛直上向きを正とします。
- この設定では、地面の位置は \(y = -9.8 \, \text{m}\) となります。変位の符号に注意が必要です。
- 初速度の鉛直成分は \(v_{0y} = v_0\sin30^\circ\) です。
具体的な解説と立式
屋上を原点(\(y=0\))とし、鉛直上向きを正の向きとします。
初速度の鉛直成分は \(v_{0y} = v_0\sin30^\circ\) です。
加速度は \(a = -g = -9.8 \, \text{m/s}^2\) です。
\(t = 2.0 \, \text{s}\) 後に地面に達するので、そのときの変位は \(y = -9.8 \, \text{m}\) です。
鉛直方向の変位の公式に、これらの値を適用します。
$$ y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 $$
$$ -9.8 = (v_0\sin30^\circ) \times 2.0 + \displaystyle\frac{1}{2}(-9.8) \times (2.0)^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = y_0 + v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
- 初速度の成分分解: \(v_y = v_0\sin\theta\)
立式した方程式に \(\sin30^\circ = 0.5\) を代入して \(v_0\) を解きます。
$$
\begin{aligned}
-9.8 &= (v_0 \times 0.5) \times 2.0 – \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]-9.8 &= v_0 – 19.6 \\[2.0ex]v_0 &= 19.6 – 9.8 \\[2.0ex]v_0 &= 9.8 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
ボールの縦の動きだけを追いかけます。ボールは \(2.0\) 秒後に、スタート地点より \(9.8 \, \text{m}\) 下の地面にいます。この情報と、距離と時間の関係式を使って、投げ上げた瞬間の縦方向の初速度を逆算し、そこから全体の初速度 \(v_0\) を求めます。
初速度の大きさは \(v_0 = 9.8 \, \text{m/s}\) です。この値は以降の設問の計算の基礎となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球が達する最高点の「地面からの」高さを求める問題です。まず、投げ出した屋上を基準としたときの最高点の高さ \(h\) を求め、それに建物の高さ \(9.8 \, \text{m}\) を足し合わせる、という2段階で考えます。屋上からの最高点では、鉛直方向の速度成分が \(0\) になることを利用します。
この設問における重要なポイント
- 最高点では、速度の鉛直成分 \(v_y\) が \(0\) になります。
- 時間を含まない公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2ay\) を使うと、時間を計算せずに直接高さを求められて便利です。
- 最終的に建物の高さを足すことを忘れないようにします。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、屋上を原点、鉛直上向きを正とします。
初速度の鉛直成分は \(v_{0y} = v_0\sin30^\circ = 9.8 \times 0.5 = 4.9 \, \text{m/s}\) です。
屋上からの最高点の高さを \(h\) とすると、最高点では \(v_y = 0\) となります。
時間を含まない公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2ay\) に、\(a=-g\) を適用します。
$$ 0^2 – (v_{0y})^2 = 2(-g)h $$
求める地面からの高さ \(H\) は、この \(h\) に建物の高さ \(9.8 \, \text{m}\) を加えたものです。
$$ H = 9.8 + h $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
まず、屋上からの高さ \(h\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
0^2 – (4.9)^2 &= -2 \times 9.8 \times h \\[2.0ex]-24.01 &= -19.6 h \\[2.0ex]h &= \displaystyle\frac{24.01}{19.6} \\[2.0ex]h &= 1.225 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
次に、地面からの高さ \(H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H &= 9.8 + 1.225 \\[2.0ex]&= 11.025
\end{aligned}
$$
有効数字3桁(問題文の9.8m, 2.0sに合わせる)で答えると、\(11.0 \, \text{m}\) となります。
まず、ボールが屋上からどれだけ高く上がるかを計算します。ボールは上に上がるにつれて遅くなり、一番高いところでは縦方向の速さが一瞬ゼロになります。この性質を使って、屋上からの高さを求めます。最後に、その高さに建物の高さ \(9.8 \, \text{m}\) を足せば、地面からの最高点の高さがわかります。
小球が達する最高点の地面からの高さは \(11.0 \, \text{m}\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小球が屋上と同じ高さに戻ってくるまでの時間と、そのときの速さを求める問題です。
時間については、鉛直方向の変位が \(y=0\) になる時刻を求めます。
速さについては、その時刻における水平速度 \(v_x\) と鉛直速度 \(v_y\) をそれぞれ計算し、三平方の定理を用いて合成します。また、エネルギー保存則や運動の対称性から、速さは初速度と同じになることも分かります。
この設問における重要なポイント
- 屋上と同じ高さを通過する \(\iff\) 鉛直方向の変位 \(y=0\)。
- 鉛直投げ上げ運動の対称性:同じ高さでは、上りの速さと下りの速さの大きさは等しい。
- 速さはスカラー量であり、速度ベクトルの大きさ \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で求められます。
具体的な解説と立式
屋上を原点、鉛直上向きを正とします。
屋上と同じ高さを通過する時間を \(t\) とすると、変位 \(y=0\) です。
$$ y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 $$
$$ 0 = (v_0\sin30^\circ)t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 $$
この時刻 \(t\) における速さを求めます。
水平方向の速度成分 \(v_x\) は常に一定です。
$$ v_x = v_0\cos30^\circ $$
鉛直方向の速度成分 \(v_y\) は、
$$ v_y = v_{0y} – gt = v_0\sin30^\circ – gt $$
求める速さ \(v\) は、
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} $$
鉛直投げ上げ運動では、同じ高さを通過するときの速さは、上昇時も下降時も同じ大きさになります。したがって、屋上と同じ高さに戻ってきたときの速さは、投げ上げた瞬間の速さ(初速度)と同じになります。よって、速さは \(v_0 = 9.8 \, \text{m/s}\) です。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)
- 速度の合成: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)
まず時間を求めます。\(v_0=9.8\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= (9.8 \times \sin30^\circ)t – \displaystyle\frac{1}{2}(9.8)t^2 \\[2.0ex]0 &= 4.9t – 4.9t^2 \\[2.0ex]0 &= 4.9t(1 – t)
\end{aligned}
$$
\(t>0\) より、\(t = 1.0 \, [\text{s}]\)。
次に、このときの速さを求めます。
$$ v_x = 9.8 \times \cos30^\circ = 9.8 \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} = 4.9\sqrt{3} \, [\text{m/s}] $$
$$ v_y = 9.8 \times \sin30^\circ – 9.8 \times 1.0 = 4.9 – 9.8 = -4.9 \, [\text{m/s}] $$
速さ \(v\) は、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(4.9\sqrt{3})^2 + (-4.9)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{(4.9)^2 \times 3 + (4.9)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{(4.9)^2 \times (3+1)} \\[2.0ex]&= \sqrt{(4.9)^2 \times 4} \\[2.0ex]&= 4.9 \times 2 \\[2.0ex]&= 9.8 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
屋上と同じ高さを通過するのは \(1.0 \, \text{s}\) 後で、そのときの速さは \(9.8 \, \text{m/s}\) です。速さが初速度の大きさと一致しており、運動の対称性からも妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
小球が建物から何m離れた地面に達したか、つまり水平到達距離を求める問題です。水平方向の運動は、初速度の水平成分 \(v_x = v_0\cos30^\circ\) の等速直線運動です。この速さで、地面に達するまでの総飛行時間 \(t=2.0 \, \text{s}\) だけ進んだ距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動は、速さ \(v_x = v_0\cos30^\circ\) で一定です。
- 総飛行時間は、問題文で与えられている \(t=2.0 \, \text{s}\) です。
具体的な解説と立式
水平方向の運動について考えます。
水平方向の速さは \(v_x = v_0\cos30^\circ\) で一定です。
地面に達するまでの時間は \(t = 2.0 \, \text{s}\) です。
求める水平到達距離を \(L\) とすると、
$$ L = v_x t $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
各値を代入して \(L\) を計算します。\(v_0=9.8\) を用います。
$$
\begin{aligned}
L &= (9.8 \times \cos30^\circ) \times 2.0 \\[2.0ex]&= (9.8 \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}) \times 2.0 \\[2.0ex]&= 9.8\sqrt{3} \\[2.0ex]&= 9.8 \times 1.732… \\[2.0ex]&= 16.97…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(17 \, \text{m}\) となります。
ボールが横方向にどれだけ進んだかを計算します。ボールの横方向の速さは、初速度の水平成分のことで、ずっと変わりません。この速さに、ボールが空中にいた全時間(\(2.0\) 秒)を掛ければ、建物からどれだけ離れた地点に落ちたかがわかります。
小球は建物から \(17 \, \text{m}\) 離れた地面に達します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と座標軸の設定:
- 核心: 高さのある場所からの斜方投射は、水平方向の「等速直線運動」と、鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」に分解して考えます。このとき、計算の基準となる原点と座標軸の向きを最初に明確に設定することが、問題を正しく解くための絶対的な前提条件となります。
- 理解のポイント:
- 本問では、投げ出した屋上の点を原点(\(y=0\))、鉛直上向きを正と設定するのが最も効果的です。
- この設定により、地面の位置は \(y=-9.8 \, \text{m}\) となり、変位の符号が負になる点に注意が必要です。この符号を正しく扱えるかが、初速度を求める(1)の成否を分けます。
- 運動の独立性と時間の共有:
- 核心: 分解された水平運動と鉛直運動は、互いに影響を及ぼさずに独立して進行します。しかし、それらは「時間」という共通のパラメータによって結びつけられています。ある時刻における物体の状態は、その時刻における水平方向の状態と鉛直方向の状態を組み合わせることで完全に記述されます。
- 理解のポイント:
- (4)で水平到達距離を求める際には、鉛直方向の運動から決まる総飛行時間(\(t=2.0 \, \text{s}\))を利用します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 地面からの斜方投射: 打ち出した点と落下点の高さが同じであるため、運動が対称的になります。滞空時間は最高点までの時間の2倍、同じ高さでの速さは等しい、といった対称性を利用できます。
- 壁に当たる問題: 「水平距離 \(L\) にある壁の高さ \(h\) の点に衝突させるための初速度や角度を求めよ」といった問題。水平方向の式 \(L = (v_0\cos\theta)t\) と鉛直方向の式 \(h = (v_0\sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2\) を連立させて解きます。
- エネルギー保存則の利用: (2)や(3)は力学的エネルギー保存則を使っても解くことができます。例えば(3)では、同じ高さでは位置エネルギーが同じなので、運動エネルギーも同じ、つまり速さも同じであると瞬時に判断できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 原点と座標軸を宣言する: まず「投げ出した点を原点とし、鉛直上向きを正、水平右向きを正とする」のように、座標系を図に書き込みます。
- 初期条件と最終条件を整理する:
- 初期(\(t=0\)): \(x_0=0, y_0=0, v_{0x}=v_0\cos\theta, v_{0y}=v_0\sin\theta\)
- 最終(\(t=2.0\)): \(y=-9.8\)
- 逆算のアプローチを意識する: この問題のように、運動の結果(最終的な位置と時間)が与えられていて、初期条件(初速度)を問うている場合、運動の公式を未知の初期条件について解くという逆算の思考が必要になります。
- 時間を含まない公式の活用: (2)のように、最高点の「高さ」だけが知りたい場合、時間を経由せずに計算できる \(v^2-v_0^2=2ay\) が非常に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 変位の符号ミス:
- 誤解: (1)で、屋上を原点としたにもかかわらず、地面の変位を \(y=+9.8 \, \text{m}\) として計算してしまう。
- 対策: 座標軸を設定したら、必ず始点と終点の位置関係を図で確認する。原点より下にある地面のy座標は負の値になることを徹底します。
- 最高点の高さの計算ミス:
- 誤解: (2)で、屋上からの高さ \(h\) を求めた時点で満足してしまい、それを答えとしてしまう。
- 対策: 問題文を最後まで注意深く読み、「何を問われているか(地面からの高さ)」に下線を引くなどして意識づける。計算の最後に、問いと答えが対応しているかを確認する習慣をつける。
- 運動の対称性の誤用:
- 誤解: 地面からの斜方投射と同じように考え、滞空時間 \(2.0 \, \text{s}\) を最高点までの時間の2倍だと勘違いし、最高点到達時間を \(1.0 \, \text{s}\) だと即断してしまう。(この問題では偶然一致するが、一般的には成り立たない)。
- 対策: 運動の対称性が利用できるのは、打ち上げ点と落下点の高さが同じ場合に限られる、と明確に覚える。高さが異なる場合は、必ず基本公式に立ち返って計算します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 各設問における最適な公式の選択ロジック:
- 選定理由: 3つの等加速度運動の公式は、それぞれ異なる物理量の組み合わせに対応しています。問題で与えられた既知の量と、求めるべき未知の量に応じて、最も効率的な公式を選択することが重要です。
- 適用根拠:
- (1) 初速度 \(v_0\) を求めたい。鉛直方向について、変位 \(y\)、時間 \(t\)、加速度 \(a\) が分かっていて、初速度 \(v_{0y}\) が未知数。この4つの量を含むのは \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) のみ。
- (2) 最高点の高さ \(h\) を求めたい。鉛直方向について、初速度 \(v_{0y}\)、最終速度 \(v_y=0\)、加速度 \(a\) が分かっていて、変位 \(h\) が未知数。時間を含まないこれらの量だけで完結する \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2ah\) が最も効率的。
- (3) 屋上に戻る時間 \(t\) を求めたい。鉛直方向の変位 \(y=0\) となる時刻を求めるので、\(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) を使うのが自然な流れ。
- (4) 水平到達距離 \(L\) を求めたい。水平方向は等速直線運動なので、選択肢は \(L = v_x t\) のみ。ここで \(t\) は総飛行時間 \(2.0 \, \text{s}\) を使う。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の値を正確に: \(\sin30^\circ = 0.5\), \(\cos30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\) のような基本的な値は、素早く正確に使えるようにしておく。
- 平方根の近似値の活用: (4)で \(9.8\sqrt{3}\) のような計算が出てきた場合、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を使って概算することで、答えの桁数や妥当性を確認できます。\(9.8 \times 1.73 \approx 17\) となり、計算結果に自信が持てます。
- 計算しやすいように工夫する: (3)で速さを求める際、\(v = \sqrt{(4.9\sqrt{3})^2 + (-4.9)^2}\) の計算では、\(4.9^2\) をそのまま計算するのではなく、共通因数としてくくり出す(\(v = \sqrt{(4.9)^2(3+1)} = 4.9\sqrt{4}\))ことで、計算が非常に簡単になり、ミスも減ります。
- 単位を省略しない: 計算過程で単位を書き込むことで、自分が何を計算しているのかを常に意識できます。特に、(2)で屋上からの高さ \(h\) と地面からの高さ \(H\) を区別する際に有効です。
34 標的への斜方投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「標的を狙う斜方投射」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解:斜方投射を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」に分解して考えます。
- 初速度の成分分解:初速度 \(v_0\) を、水平成分 \(v_x = v_0\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_y = v_0\sin\theta\) に分解します。
- 連立方程式の利用:「標的に当たる」という条件は、水平方向と鉛直方向の運動が同時に特定の条件を満たすことを意味します。これにより、2つの未知数(この問題では \(v_0\) と \(t\))に対して2つの式が立てられ、連立方程式として解くことができます。
- 未知数の消去:連立方程式を解く際、求めたい未知数(\(v_0\))を残し、媒介変数となっている未知数(時間 \(t\))を消去する計算手法を用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、水平方向と鉛直方向の運動について、それぞれ位置と時間の関係式を立てます。
- 次に、「時刻 \(t\) に座標 \((L, h)\) の標的に当たる」という条件を、それぞれの式に代入します。
- これにより、未知数 \(v_0\) と \(t\) を含む2つの連立方程式が得られます。
- この連立方程式から時間 \(t\) を消去し、初速度 \(v_0\) について解くことで、答えを導き出します。
思考の道筋とポイント
「座標 \((L, h)\) にある標的に当たる」という条件を、物理の言葉に翻訳することが出発点です。これは、「小球を打ち出してからある時間 \(t\) が経過したときに、小球のx座標が \(L\) に、かつ、y座標が \(h\) になっている」ということを意味します。
この2つの条件を、それぞれ水平方向の運動と鉛直方向の運動に分けて立式します。すると、未知数が「初速度 \(v_0\)」と「標的に当たるまでの時間 \(t\)」の2つ、式が2本(水平方向と鉛直方向)得られるので、これらを連立させて解くことで \(v_0\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動の分解(水平:等速直線運動、鉛直:鉛直投げ上げ運動)が基本です。
- 初速度を水平成分 \(v_{0x} = v_0\cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{0y} = v_0\sin\theta\) に分解します。
- 2つの未知数(\(v_0, t\))と2つの式(水平・鉛直の位置の式)から、連立方程式を解くという数学的なアプローチに持ち込みます。
具体的な解説と立式
原点Oを原点とし、水平右向きをx軸の正、鉛直上向きをy軸の正の向きとします。
小球を打ち出してから標的に当たるまでの時間を \(t\) とします。
初速度 \(v_0\) の各成分は、
水平成分: \(v_{0x} = v_0\cos\theta\)
鉛直成分: \(v_{0y} = v_0\sin\theta\)
となります。
水平方向の運動は等速直線運動なので、時刻 \(t\) におけるx座標は \(x = v_{0x}t\) です。標的に当たる条件より、
$$ L = (v_0\cos\theta)t \quad \cdots ① $$
鉛直方向の運動は鉛直投げ上げ運動なので、時刻 \(t\) におけるy座標は \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\) です。標的に当たる条件より、
$$ h = (v_0\sin\theta)t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ② $$
この2つの式から、時間 \(t\) を消去して \(v_0\) を求めます。
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = v_x t\)
- 鉛直投げ上げ運動の公式: \(y = v_y t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
- 初速度の成分分解
まず、式①から \(t\) を \(v_0\) を用いて表します。
$$ t = \displaystyle\frac{L}{v_0\cos\theta} $$
次に、この \(t\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
h &= (v_0\sin\theta) \left( \displaystyle\frac{L}{v_0\cos\theta} \right) – \displaystyle\frac{1}{2}g \left( \displaystyle\frac{L}{v_0\cos\theta} \right)^2 \\[2.0ex]h &= L \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \displaystyle\frac{1}{2}g \displaystyle\frac{L^2}{v_0^2\cos^2\theta} \\[2.0ex]h &= L\tan\theta – \displaystyle\frac{gL^2}{2v_0^2\cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
この式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{gL^2}{2v_0^2\cos^2\theta} &= L\tan\theta – h \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{v_0^2} &= \displaystyle\frac{2\cos^2\theta(L\tan\theta – h)}{gL^2} \\[2.0ex]v_0^2 &= \displaystyle\frac{gL^2}{2\cos^2\theta(L\tan\theta – h)}
\end{aligned}
$$
ここで、分母の \(\tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を元に戻して整理します。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= \displaystyle\frac{gL^2}{2\cos^2\theta(L\frac{\sin\theta}{\cos\theta} – h)} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{gL^2}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}
\end{aligned}
$$
最後に、\(v_0 > 0\) なので正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{\displaystyle\frac{gL^2}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}} \\[2.0ex]&= L \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}}
\end{aligned}
$$
ボールが標的に当たるためには、横方向の動きと縦方向の動きが、ある同じ時間で同時に条件を満たす必要があります。横方向については「速さ×時間=距離L」、縦方向については「投げ上げの公式で計算した高さ=h」という2つの式を立てます。この2つの式には、求めたい「初速度 \(v_0\)」と、まだ分かっていない「時間 \(t\)」の2つの未知数が含まれています。そこで、まず横方向の式を使って時間を文字で表し、それを縦方向の式に代入することで時間を消去します。すると、初速度 \(v_0\) だけが未知数の方程式になるので、これを解くことで答えが求まります。
小球の初速度の大きさは \(v_0 = L \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}}\) です。この式が物理的に意味を持つためには、平方根の中が正である必要があります。つまり、\(L\sin\theta – h\cos\theta > 0\)、すなわち \(L\tan\theta > h\) という条件が必要です。これは、もし重力がなくボールが直進した場合に、標的の上空を通過する軌道でなければならないことを意味しており、物理的に妥当な条件です。
思考の道筋とポイント
斜方投射の軌跡を表す公式 \(y = (\tan\theta)x – \frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}x^2\) を直接利用する方法です。この式は、時間 \(t\) をあらかじめ消去した、x座標とy座標の関係式です。この軌跡が点 \((L, h)\) を通るという条件を代入すれば、直接 \(v_0\) を含む方程式を立てることができます。
具体的な解説と立式
斜方投射の軌跡の式は、
$$ y = (\tan\theta)x – \displaystyle\frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}x^2 $$
です。この軌跡が標的の点 \((x, y) = (L, h)\) を通るので、これらの値を代入します。
$$ h = (\tan\theta)L – \displaystyle\frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}L^2 $$
この式は、メインの解法の計算過程で現れた式と全く同じです。これを \(v_0\) について解くことで、同じ答えが得られます。
メインの解法と同じ計算過程を経て、
$$ v_0 = L \sqrt{\displaystyle\frac{g}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}} $$
という結果が得られます。
軌跡の公式を知っていれば、時間 \(t\) を消去する計算過程を省略して直接立式できるため、よりスピーディーに解くことができます。ただし、導出される方程式は同じであるため、本質的には同じ解法と言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と連立方程式:
- 核心: 斜方投射を水平方向と鉛直方向の独立した運動に分解し、それぞれの運動方程式を立てることが基本です。そして、「標的に当たる」という条件は、水平方向の条件(\(x=L\))と鉛直方向の条件(\(y=h\))が「同時に」満たされることを意味します。これにより、未知数(\(v_0, t\))と方程式の数が一致し、連立方程式として解ける問題に帰着します。
- 理解のポイント: 物理現象を数式に落とし込み、数学的な手法(連立方程式の解法)を用いて解を導くという、物理学の典型的な問題解決プロセスを体験できます。
- 媒介変数(パラメータ)の消去:
- 核心: この問題では、時間 \(t\) は初速度 \(v_0\) と標的の位置 \((L, h)\) によって決まる中間的な変数(媒介変数)です。最終的に求めたいのは \(v_0\) と \((L, h, \theta)\) の直接的な関係式なので、2つの運動方程式から \(t\) を消去するという操作が必要になります。
- 理解のポイント: 物理の問題では、直接問われていないが計算の途中で必要になる量を媒介変数として導入し、最後にそれを消去するというテクニックが頻繁に用いられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 軌跡の式をフル活用する問題: 「ある初速度 \(v_0\) で投げるとき、標的に当てることができる角度 \(\theta\) を求めよ」という問題。軌跡の式を \(\tan\theta\) の二次方程式と見て解く、といった応用が考えられます。
- 条件付きの最大・最小問題: 「最小の初速度 \(v_0\) で標的に当てるための角度 \(\theta\) を求めよ」といった問題。導出した \(v_0\) の式を \(\theta\) の関数とみなし、その最小値を数学的に求める必要があります(高校範囲を超える場合もありますが、考え方は重要です)。
- 障害物を越える問題: 「途中に壁がある場合、それを越えて標的に当てるための条件は?」といった問題。壁を越える条件と、標的に当たる条件の両方を満たす必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 目標を明確にする: 「何を求めたいのか(\(v_0\))」と「与えられている条件は何か(\(\theta, L, h, g\))」を明確にします。
- 未知数をリストアップする: 求めたい \(v_0\) の他に、途中で必要になる未知数(時間 \(t\))が存在することに気づきます。
- 方程式の数を数える: 未知数が2つ(\(v_0, t\))なので、独立した方程式が2本必要だと判断します。
- 方程式を立てる: 物理法則(運動の分解)から、水平方向の式と鉛直方向の式の2本を立てます。
- 計算戦略を立てる: 2つの式から、不要な未知数(\(t\))を消去し、目的の未知数(\(v_0\))について解く、という計算の見通しを立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 複雑な文字式計算でのミス:
- 誤解: 式変形の過程で、分母や分子、\(\cos\theta\) や \(\sin\theta\) の扱いを間違える。
- 対策: 一気に計算しようとせず、一行ずつ丁寧に変形を進める。特に、分数を整理する際は通分や約分を慎重に行う。計算の各段階で、式の意味を考えながら進めるとミスが減ります。
- 時間 \(t\) の消去方針で迷う:
- 誤解: どちらの式から何を代入すればよいか分からなくなる。
- 対策: より単純な式から代入するのが定石です。この問題では、水平方向の式 \(L=(v_0\cos\theta)t\) の方が単純なので、ここから \(t = \dots\) の形にして、もう一方の複雑な式に代入するのが最も効率的です。
- 物理的条件の吟味不足:
- 誤解: 計算して出てきた答えをそのまま鵜呑みにしてしまう。
- 対策: 結論で述べたように、解が存在するためにはルートの中が正でなければならない、といった物理的な制約条件を考える癖をつける。これにより、解の妥当性を評価し、より深い理解につながります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 斜方投射の軌跡の式:
- 選定理由: この問題は、まさに「軌跡の式」そのものを導出するプロセスをなぞる問題です。軌跡の式は、時間 \(t\) という媒介変数を消去し、物体の位置座標 \(x\) と \(y\) の直接的な関係を示したものです。
- 適用根拠:
- 水平方向の式 \(x = (v_0\cos\theta)t\) から \(t = \frac{x}{v_0\cos\theta}\) を導出。
- これを鉛直方向の式 \(y = (v_0\sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2\) に代入する。
- すると、\(y = (v_0\sin\theta)\frac{x}{v_0\cos\theta} – \frac{1}{2}g(\frac{x}{v_0\cos\theta})^2 = (\tan\theta)x – \frac{g}{2v_0^2\cos^2\theta}x^2\) という軌跡の式が得られます。
- この問題は、この軌跡の式に \(x=L, y=h\) を代入して \(v_0\) について解く、という操作に他なりません。物理的な意味を理解していれば、どの公式をどのように組み合わせるべきかが見えてきます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の整理: 計算過程で \(\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) が出てきたら、すぐに \(\tan\theta\) に置き換えるなど、式をできるだけシンプルな形に保つことを心がけると、見通しが良くなります。
- 分母を払うタイミング: \(h = L\tan\theta – \frac{gL^2}{2v_0^2\cos^2\theta}\) のような式では、まず \(v_0\) を含む項を左辺に、それ以外を右辺に移項してから、分母を払ったり逆数をとったりすると、計算が整理しやすくなります。
- 次元解析による検算: 最終的に得られた答えの式の単位が、本当に速度の単位 [m/s] になっているかを確認します。
\[ v_0 = L \sqrt{\frac{g}{2\cos\theta(L\sin\theta – h\cos\theta)}} \]の単位を考えると、
\[ [\text{m}] \sqrt{\frac{[\text{m/s}^2]}{[\text{無次元}] \cdot ([\text{m}][\text{無次元}] – [\text{m}][\text{無次元}])}} = [\text{m}] \sqrt{\frac{[\text{m/s}^2]}{[\text{m}]}} = [\text{m}] \sqrt{\frac{1}{[\text{s}^2]}} = \frac{[\text{m}]}{[\text{s}]} \]となり、正しく速度の単位になっていることが確認できます。これにより、式の形に大きな間違いがないことを保証できます。
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