「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 3】Step2

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Step 2

24 自由落下

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「自由落下運動の公式の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自由落下運動の3公式: 鉛直下向きを正とすると、初速度が0の等加速度直線運動である自由落下は、速度 \(v\)、落下距離 \(y\)、時間 \(t\) の間に \(v=gt\)、\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)、\(v^2=2gy\) の関係が成り立ちます。
  2. 座標軸の設定: 自由落下では、鉛直下向きを正の向きに取ると、速度や変位が全て正の値となり、計算が簡単になります。
  3. 「落下距離」と「地上からの高さ」の区別: 公式の \(y\) は、落下開始点からの「落下距離」を表します。問題で問われている「地上からの高さ」を求めるには、建物全体の高さから落下距離を引く必要があります。
  4. 公式の適切な選択: 問題で何が与えられ、何を求めたいのかに応じて、3つの公式を適切に使い分けることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず落下時間を変位の公式に代入して「落下距離」を求め、次にその値を建物の全体の高さから引いて「地上からの高さ」を算出します。
  2. (2)では、落下距離が与えられて速さを求めるので、時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) を使うのが最も効率的です。
  3. (3)では、まず落下距離に建物の高さを代入して地面に達するまでの時間を求め、次にその時間を使って速度の公式から地面に達する瞬間の速さを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
落下し始めてから \(2.0\) s 後の「地上からの高さ」を求める問題です。これを直接求める公式はないため、2段階で考えます。まず、\(2.0\) s の間に小球がどれだけの距離を落下したか(落下距離)を計算します。次に、その落下距離を建物の全体の高さから引き算することで、その時点での地上からの高さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 自由落下の変位(落下距離)の公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を利用する。
  • 公式で計算される \(y\) は、あくまでスタート地点からの「落下距離」である。
  • 地上からの高さ = (建物の全体の高さ) – (落下距離) という関係を理解する。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。落下し始めてから \(t=2.0\) s 後の落下距離を \(y\) [m] とすると、変位の公式より、
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$
この \(y\) を計算した後、地上からの高さ \(h\) [m] を求めます。建物の高さは \(78.4\) m なので、
$$ h = 78.4 – y $$

使用した物理公式

  • 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

まず、\(t=2.0\) s 間の落下距離 \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]
&= 4.9 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 19.6 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、このときの地上からの高さ \(h\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
h &= 78.4 – 19.6 \\[2.0ex]
&= 58.8 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字は2桁または3桁ですが、解答の形式に合わせて \(59\) m とします。
$$ h \approx 59 \text{ [m]} $$

計算方法の平易な説明

まず「2.0秒間でボールが何メートル落ちるか」を計算します。位置の公式を使うと、19.6m落ちることがわかります。問題で聞かれているのは「地面から見てどの高さにいるか」なので、ビルの全体の高さ78.4mから、今落ちた距離19.6mを引き算します。

結論と吟味

落下し始めてから \(2.0\) s 後の地上からの高さは約 \(59\) m です。落下しているので、元の高さ \(78.4\) m より低い位置にあるという結果は物理的に妥当です。

解答 (1) \(59 \text{ m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
\(40\) m 落下したときの小球の速さを求める問題です。落下距離 \(y\) が与えられていて、速さ \(v\) を求めたい状況です。この2つの量を直接結びつける、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2=2gy\) を使うのが最も簡単で効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) を利用する。
  • 公式中の \(y\) には、与えられた落下距離 \(40\) m をそのまま代入する。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。落下距離 \(y=40\) m のときの速さを \(v\) [m/s] とします。時間を含まない公式 \(v^2=2gy\) に値を代入します。
$$ v^2 = 2 \times 9.8 \times 40 $$
この式を \(v\) について解きます。

使用した物理公式

  • 自由落下の時間を含まない式: \(v^2=2gy\)
計算過程

立式した方程式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 40 \\[2.0ex]
v^2 &= 784
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{784} \\[2.0ex]
v &= 28 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「40m落ちたときの速さは?」という問題です。物理には、時間を使わずに「距離」と「速さ」を直接結びつける便利な公式 (\(v^2=2gy\)) があります。この公式に、落下した距離 \(y=40\) m を代入するだけで、速さ \(v\) を計算できます。

結論と吟味

\(40\) m 落下したときの速さは \(28\) m/s です。

解答 (2) \(28 \text{ m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小球が地面に達するまでの「時間」と、そのときの「速さ」を両方求める問題です。まず、地面に達するということは、落下距離が建物の高さ \(78.4\) m に等しくなるということなので、この条件を使って時間を求めます。次に、求めた時間を使って、その瞬間の速さを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 地面に達する条件は、落下距離 \(y\) が建物の高さ \(78.4\) m となること。
  • まず、\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を使って時間 \(t\) を求める。
  • 次に、求めた \(t\) を使って \(v=gt\) から速さ \(v\) を求める。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。地面に達するとき、落下距離は \(y=78.4\) m となります。
地面に達するまでの時間を \(t\) [s] とすると、変位の公式より、
$$ 78.4 = \frac{1}{2}gt^2 $$
この式から \(t\) を求めます。
次に、地面に達するときの速さを \(v\) [m/s] とすると、速度の公式より、
$$ v = gt $$
この式に、上で求めた時間 \(t\) を代入して \(v\) を求めます。

使用した物理公式

  • 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
  • 自由落下の速度の式: \(v = gt\)
計算過程

まず、時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
78.4 &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 \\[2.0ex]
78.4 &= 4.9 t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{78.4}{4.9} \\[2.0ex]
t^2 &= 16
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$ t = 4.0 \text{ [s]} $$
次に、この時間を使って速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 39.2
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、
$$ v \approx 39 \text{ [m/s]} $$

計算方法の平易な説明

まず「78.4mを落下するのに何秒かかるか」を位置の公式を使って計算します。計算すると4.0秒とわかります。次に「自由落下を4.0秒間続けたら、速さはいくらになるか」を速さの公式を使って計算します。

結論と吟味

地面に達するまでの時間は \(4.0\) s、そのときの速さは約 \(39\) m/s です。

別解: 速さを時間を使わずに求める

思考の道筋とポイント
地面に達するときの速さを、時間を使わずに公式 \(v^2=2gy\) を使って直接求めることもできます。落下距離 \(y\) に建物の高さ \(78.4\) m を代入します。その後、求めた速さ \(v\) を \(v=gt\) に代入して時間を逆算することも可能です。
具体的な解説と立式
地面に達するときの速さを \(v\) [m/s] とします。落下距離は \(y=78.4\) m なので、時間を含まない公式に代入します。
$$ v^2 = 2 \times 9.8 \times 78.4 $$
この式から \(v\) を求めます。その後、\(v=gt\) の関係から時間 \(t\) を求めます。

使用した物理公式

  • 自由落下の時間を含まない式: \(v^2=2gy\)
  • 自由落下の速度の式: \(v = gt\)
計算過程

まず、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 78.4 \\[2.0ex]
v^2 &= 19.6 \times 78.4 \\[2.0ex]
v^2 &= 1536.64
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{1536.64} \\[2.0ex]
&= 39.2 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(v \approx 39\) m/s となります。
次に、この速さになるまでの時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
39.2 &= 9.8 \times t \\[2.0ex]
t &= \frac{39.2}{9.8} \\[2.0ex]
t &= 4.0 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「78.4m落ちたときの速さは?」を、時間を使わない公式で先に計算します。速さが \(39.2\) m/s とわかります。次に、「速さが \(39.2\) m/s になるのは何秒後か?」を速さの公式を使って逆算すれば、時間を求めることもできます。

結論と吟味

時間 \(4.0\) s、速さ約 \(39\) m/s となり、先の解法と一致します。問題の問い方に応じて、どの順番で解くか、どの公式を使うかを選択する力が試されます。

解答 (3) 時間: \(4.0 \text{ s}\), 速さ: \(39 \text{ m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 自由落下運動の3公式:
    • 核心: 自由落下は、初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の「等加速度直線運動」の最も基本的な形です。この運動を記述する3つの公式を、問題の条件に応じて正しく選択し、適用することが全てです。
    • 理解のポイント:
      • \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\): 「時間 \(t\)」と「落下距離 \(y\)」の関係。時間を求めたいとき、または時間が与えられているときに使う。(1)(3)で使用。
      • \(v = gt\): 「時間 \(t\)」と「速さ \(v\)」の関係。時間を求めた後で速さを知りたいとき、またはその逆の場合に使う。(3)で使用。
      • \(v^2 = 2gy\): 「落下距離 \(y\)」と「速さ \(v\)」の関係。時間を介さずに速さや距離を求めたいときに非常に便利。(2)で使用。
  • 基準点と物理量の定義の明確化:
    • 核心: 物理の問題を解く上で、どこを基準(原点)とし、どちらの向きを正とするかを最初に決めることが重要です。また、公式中の文字が何を意味するのか(例:\(y\) は「落下距離」か「高さ」か)を正確に理解することがミスを防ぎます。
    • 理解のポイント:
      • この問題では、落下開始点(屋上)を原点、鉛直下向きを正としています。
      • 公式の \(y\) は落下距離を意味するため、(1)のように「地上からの高さ」を問われた場合は、全体の高さからの引き算が必要になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直投げ下ろし: 初速度を持って真下に投げる運動。公式は \(v = v_0 + gt\), \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\), \(v^2 – v_0^2 = 2gy\) となり、初速度 \(v_0\) の項が加わるだけです。
    • 音の伝播を含む問題: 井戸に石を落とし、石が水面に達する音を聞くまでの時間を考える問題。石の落下時間 \(t_1\) と、音が井戸の底から聞こえるまでの時間 \(t_2\) の和が観測時間となります。(\(t_1\) は自由落下、\(t_2\) は等速直線運動)
    • 相対運動: 例えば、自由落下するエレベーターの中からボールを自由落下させる場合。外部の静止した観測者から見ると、ボールの初速度はエレベーターのその瞬間の速度と同じになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類を特定: 問題文から「自由落下」「投げ下ろし」「投げ上げ」のどれに該当するかを判断します。
    2. 既知の量と未知の量を整理: 問題文で与えられている量(\(y, v, t\) など)と、求めたい量をリストアップします。
    3. 最適な公式を選択: 整理したリストを見て、3つの公式のうち、未知数が1つだけで、最も簡単に計算できるものを選びます。(2)のように時間 \(t\) が不要な場面で \(v^2=2gy\) を選ぶのが典型例です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「落下距離」と「地上からの高さ」の混同:
    • 誤解: (1)で落下距離 \(19.6\) m を計算し、それをそのまま答えとしてしまう。
    • 対策: 問題文が「落下距離」を問うているのか、「(ある基準点からの)高さ」を問うているのかを注意深く読み取る。図を描いて、全体の高さ、落下距離、残りの高さの関係を視覚的に把握する。
  • 公式の代入ミス:
    • 誤解: (2)で速さを求めたいのに、落下距離 \(y=40\) m を時間の公式 \(v=gt\) に代入しようとして混乱する。
    • 対策: 各公式がどの物理量同士の関係を示しているのかを正確に覚える。「\(v=gt\) は時間と速さ」「\(y=\frac{1}{2}gt^2\) は時間と距離」「\(v^2=2gy\) は距離と速さ」と、セットで記憶する。
  • 平方根の計算ミス:
    • 誤解: (3)で \(t^2=16\) から \(t=\pm 4\) とし、どちらが正しいか迷う。または、(2)で \(v=\sqrt{784}\) のような計算で手間取る。
    • 対策: 時間 \(t\) は負の値を取り得ないので、常に正の解を選ぶと決めておく。平方根の計算は、\(784 = 400 \times 1.96 = 20^2 \times 1.4^2\) のように気づくのは難しいので、地道に素因数分解するか、\(20^2=400\), \(30^2=900\) から見当をつけて \(2x^2\) を試す(この場合は \(28^2\))など、計算練習を積んでおく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 変位の式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)):
    • 選定理由: (1)では「時間 \(t\)」が与えられ「落下距離 \(y\)」を知りたい。(3)では「落下距離 \(y\)」が与えられ「時間 \(t\)」を知りたい。いずれも時間と距離を結びつけるこの公式が最も直接的です。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動の一般式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。
  • 時間を含まない式 (\(v^2 = 2gy\)):
    • 選定理由: (2)では「落下距離 \(y\)」が与えられ「速さ \(v\)」を知りたい。時間を計算する必要がなく、この2つの量だけで完結しているこの公式が圧倒的に効率的です。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動の一般式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。他の2式から \(t\) を消去して導かれます。
  • 速度の式 (\(v = gt\)):
    • 選定理由: (3)で落下時間 \(t\) を求めた後、「そのときの速さ \(v\)」を求めたい。時間と速さを最もシンプルに結びつける公式だからです。
    • 適用根拠: 加速度の定義 \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) から導かれる等加速度直線運動の基本式 \(v = v_0 + at\) で、自由落下の条件(\(v_0=0, a=g\))を適用したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(g=9.8\) の計算に慣れる: \(9.8 \times 2 = 19.6\), \(9.8 \times 4 = 39.2\), \(9.8 \times 5 = 49\) など、よく使う計算結果を覚えておくと速い。また、\(9.8\) は \(4.9 \times 2\) であることを意識すると、(3)の \(t^2 = 78.4 / 4.9\) の計算で、\(78.4 = 16 \times 4.9\) であることに気づきやすくなり、\(t^2=16\) と暗算できる場合があります。
  • 問題の構造を把握する: (3)のように「時間と速さ」を両方問う問題では、「距離→時間→速さ」の順で計算するのが一般的です。別解のように「距離→速さ→時間」と計算することも可能ですが、平方根の計算が先に来るため、少し複雑になることがあります。どちらのルートでも解けるように練習し、簡単な計算ルートを見抜く力を養う。
  • 単位と有効数字の最終確認: 計算が終わった後、求めた値の単位が正しいか(時間なら[s]、速さなら[m/s])、問題文の指示や使用した数値の桁数に応じた有効数字になっているかを必ず確認する。

25 自由落下

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「自由落下運動における落下距離と時間の関係性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自由落下の変位の公式: 物体が自由落下するときの落下距離 \(y\) と時間 \(t\) の関係式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) が全ての計算の基本となります。
  2. 落下時間と落下距離の関係: 上の公式を変形すると \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2y}{g}}\) となり、落下時間 \(t\) は落下距離 \(y\) の平方根に比例する(\(t \propto \sqrt{y}\))ことがわかります。このため、落下距離が2倍になっても、かかる時間は2倍にはなりません。
  3. 文字式による計算: ビルの高さなどの具体的な数値が与えられていないため、高さを \(h\) などの文字で置いて計算を進め、最終的に比を求めることで文字を消去する手法が有効です。
  4. 区間ごとの時間の計算: 運動の途中からの時間を直接求めるのは、初速度が0でないため複雑になります。そこで、「(スタートからゴールまでの)全体の時間」から「(スタートから中間地点までの)前半の時間」を引くことで、「(中間地点からゴールまでの)後半の時間」を求めるのが賢明なアプローチです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ビルの高さを \(h\) と設定します。
  2. 屋上からビルの中間点まで(前半の区間、落下距離 \(h/2\))の落下時間 \(t_{\text{前半}}\) を \(h\) を用いて表します。
  3. 屋上から地面まで(全体の区間、落下距離 \(h\))の落下時間 \(t_{\text{全体}}\) を \(h\) を用いて表します。
  4. 中間点から地面まで(後半の区間)の落下時間 \(t_{\text{後半}}\) を、\(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\) として計算します。
  5. 問題で問われている比、\(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。

思考の道筋とポイント
この問題は「前半の落下時間」が「後半の落下時間」の何倍になるかを問うています。ここで注意すべきは、「後半の区間」の運動は初速度が0ではないため、単純な自由落下の公式を直接適用できない点です。
この問題を解く最もスマートな方法は、まずスタート地点(屋上)を基準として、①「前半の区間(屋上→中間点)にかかる時間」と、②「全体の区間(屋上→地面)にかかる時間」をそれぞれ計算することです。そして、②から①を引くことで、③「後半の区間(中間点→地面)にかかる時間」を求めます。最後に、①と③の比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 自由落下の公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を用いる。
  • 具体的な数値がないため、ビルの高さを文字 \(h\) でおく。
  • 前半の落下距離は \(h/2\)、全体の落下距離は \(h\) である。
  • 後半の時間 = (全体の時間) – (前半の時間) の関係を利用して計算する。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとし、ビルの高さを \(h\) とします。

1. 前半の区間(屋上から中間点まで)の時間 \(t_{\text{前半}}\) を求める
落下距離は \(\displaystyle\frac{h}{2}\) なので、自由落下の公式に代入します。
$$ \frac{h}{2} = \frac{1}{2}gt_{\text{前半}}^2 \quad \cdots ① $$

2. 全体の区間(屋上から地面まで)の時間 \(t_{\text{全体}}\) を求める
落下距離は \(h\) なので、同様に公式に代入します。
$$ h = \frac{1}{2}gt_{\text{全体}}^2 \quad \cdots ② $$

3. 後半の区間(中間点から地面まで)の時間 \(t_{\text{後半}}\) を求める
後半の時間は、全体の時間から前半の時間を引いたものになります。
$$ t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}} \quad \cdots ③ $$

4. 求める値(比)を計算する
問題で問われているのは、「前半の時間」が「後半の時間」の何倍か、すなわち \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) です。

使用した物理公式

  • 自由落下の変位の式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

まず、①式と②式をそれぞれ \(t_{\text{前半}}\) と \(t_{\text{全体}}\) について解きます。
①より、
$$ t_{\text{前半}}^2 = \frac{h}{g} \quad \rightarrow \quad t_{\text{前半}} = \sqrt{\frac{h}{g}} $$
②より、
$$ t_{\text{全体}}^2 = \frac{2h}{g} \quad \rightarrow \quad t_{\text{全体}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{2}\sqrt{\frac{h}{g}} $$
次に、③式を使って \(t_{\text{後半}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
t_{\text{後半}} &= t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}\sqrt{\frac{h}{g}} – \sqrt{\frac{h}{g}} \\[2.0ex]
&= (\sqrt{2}-1)\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$
最後に、求める比 \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}} &= \frac{\sqrt{\frac{h}{g}}}{(\sqrt{2}-1)\sqrt{\frac{h}{g}}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{2}-1}
\end{aligned}
$$
分母を有理化します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\sqrt{2}-1} &= \frac{1 \times (\sqrt{2}+1)}{(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}+1}{2-1} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}+1
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は、時間の比率を聞いているので、具体的なビルの高さは分からなくても解けます。高さを仮に「\(h\)」と置いてみましょう。
1. まず、前半の半分(\(h/2\))を落ちるのにかかる時間(前半タイム)を計算します。
2. 次に、全部(\(h\))を落ちるのにかかる時間(全体タイム)を計算します。
3. すると、後半の半分を落ちるのにかかる時間(後半タイム)は、「全体タイム」から「前半タイム」を引き算すれば求められます。
4. 最後に、問題で聞かれている「前半タイムは後半タイムの何倍か?」を計算するために、「前半タイム ÷ 後半タイム」を計算すれば答えが出ます。

結論と吟味

求める倍率は \(\sqrt{2}+1\) 倍です。\(\sqrt{2}+1 \approx 2.414\) なので、前半の落下にかかる時間は、後半の落下にかかる時間の約2.4倍となります。自由落下では物体はどんどん加速していくため、同じ距離(ビルの半分の高さ)を落下するにもかかわらず、運動の後半の方が前半よりも短い時間で済みます。したがって、前半の時間 > 後半の時間 となるこの結果は物理的に妥当であると言えます。

解答 \(\sqrt{2}+1\) 倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 落下時間と落下距離の非線形な関係:
    • 核心: 自由落下運動において、落下時間 \(t\) は落下距離 \(y\) に単純に比例するのではなく、その平方根に比例する(\(t \propto \sqrt{y}\))という関係がこの問題の核心です。
    • 理解のポイント:
      • この非線形性のため、落下距離が2倍になってもかかる時間は \(\sqrt{2}\) 倍にしかなりません。
      • したがって、同じ距離を落下するのにかかる時間は、運動の前半(遅い)と後半(速い)で異なります。この直感に反するかもしれない事実を、公式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) を通して理解することが重要です。
  • 区間ごとの運動の考え方:
    • 核心: 運動の途中から始まる区間(この問題では後半の区間)の時間を求めたい場合、その区間の初速度が0ではないため、単純な自由落下の公式は使えません。
    • 理解のポイント:
      • このような場合、基準点(スタート地点)を統一し、「(スタートから最終地点までの)全体の時間」と「(スタートから中間地点までの)前半の時間」をそれぞれ計算し、その差を取ることで「後半の時間」を求める、というアプローチが基本かつ強力な解法となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 落下距離の比を問う問題: 逆に、「全落下時間のうち、前半の時間で落下する距離と、後半の時間で落下する距離の比はいくらか」という問題。\(t \propto \sqrt{y}\) より \(y \propto t^2\) なので、全落下時間を \(T\) とすると、前半の時間 \(T/2\) で進む距離は全距離の \( (1/2)^2 = 1/4 \) となります。
    • 等加速度直線運動全般への応用: この「全体の量から前半の量を引いて後半の量を求める」という考え方は、自由落下に限らず、初速度のある等加速度直線運動など、様々な運動の解析に応用できます。
    • エネルギー保存則との関連: 後半の区間をエネルギー保存則で考えることもできます。中間点での速さ \(v_1\) と地面での速さ \(v_2\) を位置エネルギーから求め、等加速度運動の公式 \(v_2 = v_1 + gt_{\text{後半}}\) を使って \(t_{\text{後半}}\) を計算することも可能ですが、より複雑になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 具体的な数値がないことを確認: 問題文に具体的な高さや時間が与えられていない場合、文字式で立式し、最終的に比を計算することで文字が消去されるパターンだと予測します。
    2. 「〜の何倍か?」という問いに注目: 比を求める問題では、基準となる量(この問題では「後半の時間」)が分母に、比較したい量(「前半の時間」)が分子に来ることを意識して立式します。
    3. 区間の分割を明確にする: 図を描いて、「前半の区間」「後半の区間」「全体の区間」を明確に区別し、それぞれの区間の始点と終点、距離、時間を整理します。特に、後半の区間の始点では初速度が0でないことを強く意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 線形関係の誤解:
    • 誤解: 同じ距離(ビルの半分の高さ)を落下するのだから、前半にかかる時間と後半にかかる時間は同じだと考えてしまい、答えを「1倍」としてしまう。
    • 対策: 自由落下では物体は常に加速していることを思い出す。つまり、運動の後半は前半よりも速いので、同じ距離を進むのにより短い時間しかかからないはずだと直感的に考える。この直感と \(y \propto t^2\) の関係を結びつける。
  • 後半の区間の計算ミス:
    • 誤解: 後半の区間(距離 \(h/2\))についても、初速度を0として自由落下の公式 \( \frac{h}{2} = \frac{1}{2}gt^2 \) を適用してしまう。
    • 対策: 自由落下の公式が使えるのは「初速度が0の場合のみ」であることを徹底する。運動の途中から始まる区間では、その開始点での速度を求めるか、もしくは「全体-前半」という引き算のアプローチを取る必要があると理解する。
  • 比の計算ミス:
    • 誤解: 求める比が \(\displaystyle\frac{t_{\text{後半}}}{t_{\text{前半}}}\) なのか \(\displaystyle\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) なのかを問題文から正しく読み取れず、逆数を答えてしまう。
    • 対策: 問題文の「AはBの何倍か」という表現は、比 \(\frac{A}{B}\) を計算することを意味すると機械的に変換する。この問題では「前半の時間は、後半の時間の何倍か」なので、\(\frac{t_{\text{前半}}}{t_{\text{後半}}}\) を計算します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 自由落下の変位の式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)):
    • 選定理由: この問題は、落下距離と時間の関係性そのものを問うています。したがって、この2つの量を直接結びつけるこの公式が、思考の出発点として唯一かつ最適な選択肢となります。
    • 適用根拠: この公式は、等加速度直線運動の最も基本的な関係式の一つであり、初速度0という条件を適用したものです。文字式で \(t\) を \(y\) の関数として表現(\(t = \sqrt{2y/g}\))することで、時間と距離の平方根比例の関係が明確になります。
  • 引き算による区間時間の算出 (\(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\)):
    • 選定理由: 後半の区間の運動は初速度が0でないため、単純な公式適用ができません。一方で、前半と全体の時間は、共通のスタート地点(屋上、初速度0)から計算できるため、容易に立式できます。したがって、直接計算が困難な量を、計算が容易な量の差として求めるこのアプローチが論理的かつ効率的です。
    • 適用根拠: 時間は加法性が成り立つスカラー量であるため、連続する運動区間において「全体の時間=前半の時間+後半の時間」という関係が自明に成り立ちます。これを変形したものが \(t_{\text{後半}} = t_{\text{全体}} – t_{\text{前半}}\) です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字定数の導入: ビルの高さ \(h\) のように、問題に与えられていないが必要な量は、自分で文字を置いて計算を進めることに慣れる。比を求める問題では、これらの文字は最終的に約分されて消えることが多いです。
  • 共通因子の活用: 計算過程で \(t_{\text{前半}} = \sqrt{h/g}\) と \(t_{\text{全体}} = \sqrt{2}\sqrt{h/g}\) のように、共通の因子 \(\sqrt{h/g}\) が現れます。この共通因子を一つの塊として扱うことで、その後の引き算や割り算の見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
  • 分母の有理化: 計算結果が \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}-1}\) のようになった場合、有理化して \(\sqrt{2}+1\) と変形するのが一般的です。分母に無理数が含まれる形でも間違いではありませんが、有理化する習慣をつけておくと、マークシート式の問題などで選択肢と一致させやすくなります。

26 鉛直投げおろし

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「鉛直投げおろしの運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等加速度直線運動の3公式の理解と適用
  2. 鉛直投げおろしの特徴(初速度が0でなく、加速度は重力加速度 \(g\))
  3. 座標軸の設定(特に、どの向きを正とするか)
  4. 二次方程式の解法と、得られた解の物理的な意味の吟味

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、鉛直下向きを正として座標軸を設定し、等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、与えられた初速度と時間から橋の高さを計算します。
  2. (2)では、同じく等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて、水面に達する瞬間の速さを計算します。
  3. (3)では、(1)で求めた橋の高さを使い、問題で指定された新しい初速度で、再び変位の公式を用いて時間を求めます。これにより得られる時間についての二次方程式を解き、物理的に妥当な解を選択します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小石を投げた点から水面までの高さ \(y\) を求める問題です。問題文で初速度 \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)、水面に達するまでの時間 \(t = 3.0 \, \text{s}\) が与えられています。鉛直投げおろしは、重力加速度 \(g\) で加速される等加速度直線運動の一種です。変位 \(y\)、初速度 \(v_0\)、時間 \(t\)、加速度 \(a\) の4つの量を含む等加速度直線運動の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を選択して立式します。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直投げおろしは、初速度 \(v_0\) を持ち、鉛直下向きに一定の重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) で運動する等加速度直線運動です。
  • 計算を始める前に、座標軸の向きを明確に定めます。ここでは、運動の向きである鉛直下向きを正とすると、初速度 \(v_0\)、変位 \(y\)、加速度 \(g\) がすべて正の値となり、計算が簡潔になります。
  • 問題文で与えられている数値の有効数字に注意し、最終的な答えを適切な桁数で丸めます。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
小石の運動に関する既知の値は以下の通りです。
初速度: \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)
時間: \(t = 3.0 \, \text{s}\)
加速度: \(a = g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)

求めるのは、この時間内に運動した距離、すなわち橋の高さ \(y\) です。
等加速度直線運動の変位と時間の関係式に、これらの値を適用します。
$$ y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位と時間の関係式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
計算過程

上記の式に \(v_0 = 4.9\)、\(t = 3.0\)、\(g = 9.8\) を代入して \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= 4.9 \times 3.0 + \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times (3.0)^2 \\[2.0ex]
&= 14.7 + 4.9 \times 9.0 \\[2.0ex]
&= 14.7 + 44.1 \\[2.0ex]
&= 58.8
\end{aligned}
$$
問題文の数値「4.9 m/s」「3.0 s」は有効数字2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁に丸めます。
$$ y \approx 59 \, [\text{m}] $$

計算方法の平易な説明

橋の高さを知るには、小石が \(3.0\) 秒間でどれだけ落下したかを計算します。この落下距離は、「もし重力がなければ初速度だけで進む距離」と「重力によって加速されて進む距離」の合計になります。これを計算する公式が \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) です。この式に、初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(3.0 \, \text{s}\)、重力加速度 \(9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入して計算します。

結論と吟味

小石を投げた点の水面からの高さは \(58.8 \, \text{m}\) です。有効数字を考慮して \(59 \, \text{m}\) となります。計算結果が正の値であることから、設定した正の向き(鉛直下向き)に移動したことが確認でき、物理的に妥当です。

解答 (1) 59 m

問(2)

思考の道筋とポイント
水面に達する瞬間の速さ \(v\) を求める問題です。初速度 \(v_0\)、時間 \(t\)、加速度 \(g\) が分かっている状況で、時刻 \(t\) における速さ \(v\) を求めます。これらの物理量を結びつける、等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用いるのが最も直接的です。
この設問における重要なポイント

  • 等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を正しく適用できるかが問われます。
  • (1)と同様に、鉛直下向きを正とすることで、\(v_0\), \(g\), \(v\) がすべて正の値として扱えます。

具体的な解説と立式
(1)と同様に、鉛直下向きを正の向きとします。
既知の値は、初速度 \(v_0 = 4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(t = 3.0 \, \text{s}\)、加速度 \(a = g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) です。
求めるのは、時刻 \(t = 3.0 \, \text{s}\) における速さ \(v\) です。
等加速度直線運動の速度と時間の関係式に、これらの値を適用します。
$$ v = v_0 + gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度と時間の関係式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記の式に \(v_0 = 4.9\)、\(t = 3.0\)、\(g = 9.8\) を代入して \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= 4.9 + 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]
&= 4.9 + 29.4 \\[2.0ex]
&= 34.3
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、
$$ v \approx 34 \, [\text{m/s}] $$

計算方法の平易な説明

水面に達したときの速さは、「投げた瞬間の速さ」に「重力によって \(3.0\) 秒間加速された分の速さ」を足し合わせることで求められます。これを計算する公式が \(v = v_0 + gt\) です。この式に、初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\)、時間 \(3.0 \, \text{s}\)、重力加速度 \(9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入して計算します。

結論と吟味

水面に達するときの速さは \(34.3 \, \text{m/s}\) です。有効数字を考慮して \(34 \, \text{m/s}\) となります。この速さは初速度 \(4.9 \, \text{m/s}\) よりも大きくなっており、重力によって下向きに加速されたという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) 34 m/s

問(3)

思考の道筋とポイント
投げる速さを4倍にした場合に、水面に達するまでの時間を求める問題です。運動の条件が変わりますが、落下する距離(橋の高さ)は(1)で求めたものと同じです。
新しい初速度 \(v_0’\) を計算し、変位 \(y\)、初速度 \(v_0’\)、加速度 \(g\) の関係から、時間 \(t’\) を求めます。変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を使うと、時間 \(t’\) に関する二次方程式が得られます。
この設問における重要なポイント

  • (1)で求めた橋の高さ \(y\) を利用します。このとき、丸める前の値 \(y = 58.8 \, \text{m}\) を用いることで、より正確な計算ができます。
  • 立式した二次方程式を解くと、通常2つの解が得られます。そのうち、時間が負になるなど物理的に意味のない解を除外し、適切な解を選ぶ必要があります。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
橋の高さは(1)の計算結果から \(y = 58.8 \, \text{m}\) です。
新しい初速度 \(v_0’\) は、もとの速さの4倍なので、
$$ v_0′ = 4.9 \times 4 = 19.6 \, [\text{m/s}] $$
求める時間を \(t’\) とし、変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) に各値を代入して、\(t’\) に関する二次方程式を立てます。
$$ 58.8 = 19.6 t’ + \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 (t’)^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位と時間の関係式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
計算過程

立式した二次方程式を解きます。
$$ 58.8 = 19.6 t’ + 4.9 (t’)^2 $$
この式の両辺を \(4.9\) で割ると、計算が簡単になります。
$$ 12 = 4 t’ + (t’)^2 $$
項を移項して整理します。
$$ (t’)^2 + 4.0 t’ – 12 = 0 $$
この二次方程式を因数分解します。
$$
\begin{aligned}
(t’ – 2.0)(t’ + 6.0) = 0
\end{aligned}
$$
この方程式の解は \(t’ = 2.0\) または \(t’ = -6.0\) です。
時間は負の値をとらないため、\(t’ > 0\) でなければなりません。
したがって、求める時間は \(t’ = 2.0 \, [\text{s}]\) です。

計算方法の平易な説明

まず、(1)で計算した橋の高さ \(58.8 \, \text{m}\) を使います。次に、新しい初速度を計算します。もとの速さ \(4.9 \, \text{m/s}\) の4倍なので、\(19.6 \, \text{m/s}\) です。
この新しい速さで \(58.8 \, \text{m}\) の距離を落下するのにかかる時間を、距離の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} g t^2\) を使って求めます。
数値を代入すると時間の二次方程式ができるので、これを解きます。答えは2つ出てきますが、時間はマイナスにはならないので、プラスの方の答えを選びます。

結論と吟味

水面に達するまでの時間は \(2.0 \, \text{s}\) です。
初速度が \(4.9 \, \text{m/s}\) から \(19.6 \, \text{m/s}\) へと大きくなったため、水面に達するまでの時間はもとの \(3.0 \, \text{s}\) よりも短くなるはずです。\(2.0 \, \text{s}\) という結果は、この予測と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (3) 2.0 s

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 等加速度直線運動の公式の完全な理解:
    • 核心: この問題は、一定の重力加速度 \(g\) のもとで運動する物体の挙動を扱っており、その解析には等加速度直線運動の3つの基本公式が不可欠です。どの公式がどの物理量(変位 \(y\)、速度 \(v\)、初速度 \(v_0\)、加速度 \(a\)、時間 \(t\))を結びつけているかを正確に理解していることが、適切な公式を選択し、問題を解くための絶対的な前提となります。
    • 理解のポイント:
      • \(v = v_0 + at\): 時間が分かっているときの速度を求める。
      • \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\): 時間が分かっているときの変位(距離)を求める。
      • \(v^2 – v_0^2 = 2ay\): 時間が分からない(または問われていない)状況で、変位と速度の関係を求める。
  • 座標軸の設定と符号の規律:
    • 核心: 鉛直方向の運動を扱う問題では、最初に「どちらの向きを正とするか」を明確に定義することが極めて重要です。この設定によって、各物理量(初速度、変位、加速度)の符号が決定され、計算の正確性が左右されます。
    • 理解のポイント:
      • 本問では、運動の主方向である鉛直下向きを正とすることで、\(v_0\), \(y\), \(g\) がすべて正の値となり、立式や計算が非常にシンプルになります。
      • もし鉛直上向きを正と設定した場合は、初速度 \(v_0\) と重力加速度 \(g\) は負の値(\(v_0 = -4.9\), \(a = -g = -9.8\))として扱う必要があります。どちらで設定しても答えは同じですが、計算ミスを減らすためには、運動の主方向を正と取るのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直投げ上げ: 初速度が上向き(\(v_0 > 0\))で、加速度が下向き(\(a = -g\))となる問題。最高点では速度が \(v=0\) になるという重要な特徴を利用します。
    • 自由落下: 初速度がゼロ(\(v_0 = 0\))の特殊なケース。公式が \(v=gt\), \(y=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2\), \(v^2=2gy\) とシンプルになります。
    • 時間を含まない問題: 「高さ \(h\) のビルから投げおろした物体が、地面に達するときの速さはいくらか」のように、時間が与えられていない問題では、\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を使うと一発で解けます。
    • 2物体が関わる問題: 「物体Aを自由落下させた1秒後に、物体Bを同じ点から投げおろした。BがAに追いつくのはいつ、どこか」といった問題。それぞれの物体の位置を時間の関数として表し、位置が等しくなる時刻を求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類を把握する: まず、問題が「投げおろし」「投げ上げ」「自由落下」のどれに該当するかを判断します。
    2. 座標軸を宣言する: 「鉛直下向きを正とする」のように、計算を始める前に座標軸の向きを自分の中で明確に決めます。
    3. 物理量を整理する: 問題文から与えられている既知の量(\(v_0, y, t\) など)と、求めるべき未知の量をリストアップします。加速度 \(a\) は重力加速度 \(g\) であり、常に既知(\(a = \pm 9.8 \, \text{m/s}^2\))として扱えることを忘れないようにします。
    4. 最適な公式を選ぶ: 整理した既知の量と未知の量を見比べ、それらを結びつけるのに最も都合の良い公式はどれかを考えます。未知数が1つだけで済む式を選ぶのが基本です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 符号の取り違え:
    • 誤解: 鉛直上向きを正と設定したにもかかわらず、重力加速度 \(g\) を正の値のまま \(a=9.8\) として公式に代入してしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、紙の隅にでも「↑正」と矢印を描き、すべてのベクトル量(速度、変位、加速度)の符号を代入前に必ず確認する習慣をつける。上向きを正としたら、下向きのベクトルはすべて負になります。
  • 計算途中の値の丸めすぎ:
    • 誤解: (3)の計算で、(1)で求めた橋の高さとして、有効数字で丸めた \(59 \, \text{m}\) を使ってしまう。
    • 対策: 設問をまたいで計算結果を利用する場合は、必ず丸める前の値(この問題では \(58.8 \, \text{m}\))を用いるように徹底する。有効数字の処理は、すべての計算が終わった後の最終段階で一度だけ行うのが原則です。
  • 二次方程式の解の吟味忘れ:
    • 誤解: (3)で二次方程式を解いて得られた2つの解(\(t’=2.0\) と \(t’=-6.0\))の両方を答えとしてしまったり、どちらを選べばよいか混乱したりする。
    • 対策: 数学的に得られた解が、物理的な文脈で意味を持つかを常に吟味する癖をつける。時間は負になることはありえないので、\(t>0\) という条件から不適切な解(無縁根)を排除します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 等加速度直線運動の公式の選択ロジック:
    • 選定理由: 物理の問題を解くことは、与えられた情報(既知の物理量)と物理法則(公式)を使って、未知の物理量を明らかにするパズルのようなものです。3つの公式は、それぞれ異なる組み合わせの物理量を結びつけています。
    • 適用根拠:
      • (1) 高さ \(y\) を求めたい。分かっているのは \(v_0, t, a\)。この4つの変数がすべて含まれているのは \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) だけです。したがって、この公式を選択します。
      • (2) 速さ \(v\) を求めたい。分かっているのは \(v_0, t, a\)。この4変数を結びつけるのは \(v = v_0 + at\) です。これが最も直接的で計算も簡単です。
      • (3) 時間 \(t’\) を求めたい。分かっているのは \(y, v_0′, a\)。これらの関係式は \(y = v_0′ t’ + \displaystyle\frac{1}{2}a(t’)^2\) です。この式を使うと \(t’\) に関する二次方程式が得られ、解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 係数の簡略化: (3)で立式した \(58.8 = 19.6 t’ + 4.9 (t’)^2\) のような方程式では、すぐに解の公式を使おうとせず、まず「全ての項を共通の数で割れないか?」と考える癖をつけましょう。この場合、全ての項が \(4.9\) の倍数になっていることに気づけば、両辺を \(4.9\) で割ることで \(12 = 4t’ + (t’)^2\) という非常にシンプルな二次方程式に変形でき、計算ミスを大幅に減らせます。
  • 代入の可視化: 数値を公式に代入する際は、\(v_0 = 4.9\), \(t = 3.0\), \(g = 9.8\) のように、使う値を書き出してから式に当てはめると、代入ミスを防げます。
  • 単位の一貫性: 計算前に、すべての物理量の単位が基本単位系(メートル、秒、キログラムなど)で統一されているかを確認します。もし問題文に km/h などが混じっていたら、m/s に変換してから計算を開始します。
  • 検算の習慣: (3)で \(t’=2.0\) という解が得られたら、もとの方程式 \( (t’)^2 + 4.0 t’ – 12 = 0 \) に代入して \( (2.0)^2 + 4.0(2.0) – 12 = 4 + 8 – 12 = 0 \) となり、等式が成立することを確認します。この一手間が、ケアレスミスによる失点を防ぎます。
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