「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 28】Step 2(388~395)

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Step 2

388 動くコイルに発生する誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「不一様な磁場中を運動するコイルに生じる誘導起電力」です。直線電流が作る、距離によって強さが変わる磁場の中をコイルが運動する状況を扱います。コイルの各辺に生じる誘導起電力を個別に考え、それらを合成して回路全体の電流を求めるアプローチが有効です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直線電流が作る磁場: 長い直線電流\(I\)から距離\(x\)の位置に作られる磁場の強さ(磁束密度)は \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\) で与えられます。
  2. ローレンツ力による誘導起電力: 導体棒が磁場を横切ることで生じる誘導起電力は \(V=vBl\) で計算できます。この問題では、磁場の強さ\(B\)が場所によって異なる点がポイントです。
  3. キルヒホッフの第2法則: 閉回路において、起電力の和と電圧降下の和は等しくなります。この問題では、コイルの2つの辺に生じる起電力を、向きの異なる2つの電池とみなし、回路全体の電流を考えます。
  4. 右ねじの法則とフレミングの左手の法則: 磁場の向き、および誘導起電力の向き(電位の高低)を決定するために用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、直線電流がコイルの位置に作る磁場の向きと、その強さが距離に依存することを確認します。
  2. コイルの辺PSと辺QRは磁場を横切るため、それぞれに誘導起電力が生じます。辺PQと辺SRは磁場を横切りません(速度ベクトルと平行)。
  3. 辺PSと辺QRの位置における磁場の強さ(磁束密度)を、それぞれ公式を用いて求めます。
  4. 各辺に生じる誘導起電力の大きさを \(V=vBl\) で計算し、その向き(どちらの電位が高いか)をフレミングの左手の法則で決定します。
  5. コイル全体を、2つの電池(起電力)と1つの抵抗が直列に接続された閉回路とみなし、キルヒホッフの法則を適用して回路に流れる電流の大きさと向きを求めます。

思考の道筋とポイント
この問題の最大のポイントは、直線電流が作る磁場が一様ではないことです。そのため、導線に近い辺PSと、遠い辺QRでは、磁場の強さが異なり、結果として両辺に生じる誘導起電力の大きさも異なります。この起電力の「差」が、回路に正味の電流を流す原因となります。
この設問における重要なポイント

  • 直線電流がつくる磁場の公式 \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\) を正しく適用すること。
  • コイルの辺PSと辺QRに生じる2つの誘導起電力を、逆向きに接続された2つの電池とみなして回路を考えること。
  • 各辺に生じる起電力の向き(電位の高低)を、フレミングの左手の法則で正確に判断すること。

具体的な解説と立式

  1. 磁場の向きと強さ:
    • 直線電流\(I\)が流れる導線Aが作る磁場は、右ねじの法則より、コイルの位置では紙面に垂直に表から裏へ向かう向きです。
    • 導線Aから距離\(x\)の位置での磁束密度\(B(x)\)は、
      $$ B(x) = \frac{\mu_0 I}{2\pi x} $$
  2. 各辺に生じる誘導起電力:
    • 辺PS: 導線Aからの距離は\(r\)。この位置での磁束密度を\(B_1\)とすると、
      $$ B_1 = \frac{\mu_0 I}{2\pi r} $$
      辺PSは速さ\(v\)で磁場を横切るので、誘導起電力\(V_1\)が生じます。大きさは、
      $$ V_1 = v B_1 l = v \left(\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\right) l $$
      向きをフレミングの左手の法則で考えます。正電荷が右向きに運動すると考えると、力はP→Sの向きに働きます。よって、Sが高電位、Pが低電位となります。
    • 辺QR: 導線Aからの距離は\(r+l\)。この位置での磁束密度を\(B_2\)とすると、
      $$ B_2 = \frac{\mu_0 I}{2\pi (r+l)} $$
      辺QRに生じる誘導起電力\(V_2\)の大きさは、
      $$ V_2 = v B_2 l = v \left(\frac{\mu_0 I}{2\pi (r+l)}\right) l $$
      向きは同様に、Rが高電位、Qが低電位となります。
    • 辺PQと辺SR: 速度ベクトルと平行なため、磁場を横切らず、誘導起電力は生じません。
  3. 回路全体の電流:
    • コイルを閉回路として見ると、辺PSにはSを正極とする起電力\(V_1\)の電池が、辺QRにはRを正極とする起電力\(V_2\)の電池が、互いに逆向きに接続されているとみなせます。
    • 磁場は導線に近いほど強いので、\(B_1 > B_2\)であり、したがって\(V_1 > V_2\)です。
    • 回路全体としては、起電力\(V_1\)が優勢となり、S→P→Q→R→Sの向きに電流が流れます。
    • 回路全体の合成起電力は \(V = V_1 – V_2\)。コイルの抵抗は\(R\)なので、オームの法則より、流れる電流\(i\)は、
      $$ i = \frac{V_1 – V_2}{R} $$

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場: \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\)
  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • オームの法則: \(V = iR\)
計算過程

電流\(i\)の式に、上で求めた\(V_1\)と\(V_2\)を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
i &= \frac{V_1 – V_2}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{R} \left( v \frac{\mu_0 I l}{2\pi r} – v \frac{\mu_0 I l}{2\pi (r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{v \mu_0 I l}{2\pi R} \left( \frac{1}{r} – \frac{1}{r+l} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{v \mu_0 I l}{2\pi R} \left( \frac{(r+l) – r}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{v \mu_0 I l}{2\pi R} \left( \frac{l}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I l^2 v}{2\pi r(r+l)R}
\end{aligned}
$$
電流の向きは、起電力の大きい\(V_1\)の向き、すなわちS→P→Q→R→Sの向きとなります。

計算方法の平易な説明

この問題は、コイルの左辺PSと右辺QRが、それぞれ別の電池になる、と考えるのがコツです。

  1. 直線電流がつくる磁場は、近いほど強く、遠いほど弱くなります。
  2. したがって、左辺PS(近い)にできる電池は電圧が大きく(\(V_1\))、右辺QR(遠い)にできる電池は電圧が小さく(\(V_2\))なります。
  3. フレミングの法則で調べると、PSではS側がプラス極、QRではR側がプラス極の電池になります。
  4. この2つの電池は、回路内で逆向きに押し合っています。電圧の大きいPS側の電池が勝つので、電流はSから出てP→Q→Rと流れていきます。
  5. 電流の大きさは、電圧の差 (\(V_1 – V_2\)) を抵抗\(R\)で割ることで求められます。
結論と吟味

電流の大きさは \(\frac{\mu_0 I l^2 v}{2\pi r(r+l)R}\)、向きはS→P→Q→R→Sの向きとなります。磁場が不一様な場合でも、各部分に生じる起電力を考え、それらを合成することで回路全体の現象を解明できることがわかります。この結果は、コイル全体を貫く磁束の変化率を計算するファラデーの法則のアプローチ(別解2)でも同じ結果が得られ、物理的に妥当です。

解答 \(\displaystyle\frac{\mu_0 I l^2 v}{2\pi r(r+l)R}\) [A], 向きはS→P→Q→R→S
別解1: ローレンツ力による電位差

思考の道筋とポイント
模範解答の別解1は、回路を構成する導体棒内の電子1個に注目し、それが受けるローレンツ力から直接、電位の高低を判断するアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 電子(負電荷)が受けるローレンツ力は、フレミングの左手の法則で求めた力の向きと逆になる。
  • 電子が集まった側が負(低電位)、電子が不足した側が正(高電位)になる。

具体的な解説と立式

  1. 辺PS: 導体棒PS内の電子は、コイルとともに速さ\(v\)で右に動いています。
  2. フレミングの左手の法則を適用します。正電荷の運動(電流)を右向き、磁場を表から裏向きに設定すると、力の向きはP→Sとなります。
  3. 電子は負電荷なので、実際に受けるローレンツ力は逆のS→Pの向きです。
  4. 電子がP側に集まるため、Pが負、Sが正になります。よって、辺PSはSを正極(高電位)とする電池とみなせます。
  5. 辺QR: 同様に考えると、電子はQ側に集まり、Qが負、Rが正になります。よって、辺QRはRを正極(高電位)とする電池とみなせます。

この結果は、メインの解法で得られた電位の高低と一致しており、その後の計算は同じになります。

別解2: ファラデーの法則による解法

思考の道筋とポイント
模範解答の別解2は、コイル全体を貫く磁束\(\phi\)の時間変化率から誘導起電力を求める、ファラデーの法則の王道的なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 不一様な磁場なので、磁束\(\phi\)を求めるには積分計算が必要になる。
  • \(\phi\)を\(t\)で微分することで、誘導起電力\(V\)が求まる。

具体的な解説と立式

  1. 磁束の計算: コイルの辺PSが導線から距離\(x\)の位置にあるとき、コイルを貫く磁束\(\phi(x)\)を計算します。導線から距離\(y\)の位置にある微小な幅\(dy\)の部分を考えると、その面積は\(ldy\)、磁束密度は\(B(y) = \frac{\mu_0 I}{2\pi y}\)です。これを\(y=x\)から\(y=x+l\)まで積分します。
    $$ \phi(x) = \int_{x}^{x+l} B(y) \cdot l dy = \int_{x}^{x+l} \frac{\mu_0 I}{2\pi y} l dy = \frac{\mu_0 I l}{2\pi} [\ln y]_{x}^{x+l} = \frac{\mu_0 I l}{2\pi} \ln\left(\frac{x+l}{x}\right) $$
  2. 誘導起電力の計算: 誘導起電力\(V\)は \(V = – \frac{d\phi}{dt}\) で求められます。ここで、\(x\)はコイルの位置を表す変数とし、\(v = \frac{dx}{dt}\)です。連鎖律(合成関数の微分)を使います。
    $$ V = – \frac{d\phi}{dt} = – \frac{d\phi}{dx} \frac{dx}{dt} = -v \frac{d\phi}{dx} $$
    \(\frac{d\phi}{dx}\)を計算すると、
    $$ \frac{d\phi}{dx} = \frac{\mu_0 I l}{2\pi} \left( \frac{1}{x+l} – \frac{1}{x} \right) = \frac{\mu_0 I l}{2\pi} \frac{-l}{x(x+l)} $$
    よって、起電力\(V\)の大きさは、
    $$ |V| = v \left| \frac{d\phi}{dx} \right| = v \frac{\mu_0 I l^2}{2\pi x(x+l)} $$
  3. 電流の計算: 問題の瞬間は\(x=r\)なので、このときの電流\(i\)は、
    $$ i = \frac{|V|}{R} = \frac{\mu_0 I l^2 v}{2\pi r(r+l)R} $$

この結果はメインの解法と一致します。このアプローチは大学レベルの数学(積分・微分)を要しますが、より根本的な理解につながります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 不一様な磁場における誘導起電力:
    • 核心: この問題は、磁場の強さが場所によって異なる「不一様な磁場」を扱う点が最も重要です。これにより、コイルの各部分で生じる起電力に差が生まれ、その差が正味の電流を生み出します。
    • 理解のポイント:
      • 直線電流が作る磁場: \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\) という公式を使い、導線からの距離\(x\)によって磁場が反比例して弱くなることを理解する。
      • 起電力の差: コイルの導線に近い辺(PS)と遠い辺(QR)では、磁場の強さが異なるため、\(V=vBl\)で計算される起電力の大きさが異なります。この\(V_1\)と\(V_2\)の差が、回路全体の起電力となります。
  • 2つの起電力源を持つ回路モデル:
    • 核心: コイルの辺PSと辺QRを、それぞれ独立した起電力(電池)とみなす「回路モデル」で考える能力が問われます。
    • 理解のポイント:
      • 各辺に生じる起電力の向き(電位の高低)をフレミングの左手の法則で正しく判断する。
      • 2つの電池が互いに逆向きに接続された直列回路とみなし、キルヒホッフの法則(起電力の差を抵抗で割る)を適用して電流を求める。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルが導線に近づく場合: 今回は遠ざかる運動でしたが、近づく場合は磁束が増加するため、レンツの法則により誘導電流の向きが逆になります。
    • 円形コイルや円形磁場: 磁場やコイルの形状が異なる場合でも、「各部分に生じる起電力を考え、それらを合成する」というアプローチや、「コイル全体を貫く磁束の時間変化を考える」というファラデーの法則のアプローチが基本となります。特に後者の場合、磁束を求めるための積分計算が鍵となります。
    • コイルに働く力: この問題で流れる誘導電流は、直線電流の磁場から力を受けます。辺PSは引力(電流の向きが逆)、辺QRは斥力(電流の向きが同じ)を受けますが、磁場が強いPS側の引力の方が大きくなるため、コイル全体としては導線に引き寄せられる向きの力を受けます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場の分布を確認: まず、磁場が一様か、不一様かを確認します。不一様な場合は、どのように変化するのか(例:\(1/x\)に比例)を式で表現します。
    2. 起電力が発生する辺を特定: コイルの各辺のうち、磁場を横切って運動しているのはどの辺かを見極めます。(今回はPSとQR)
    3. 各辺を電池とみなす: 起電力が発生する各辺について、「起電力の大きさ(\(V=vBl\))」と「向き(電位の高低)」を個別に求め、図に電池の記号として書き込みます。
    4. 回路として解く: コイル全体を、書き込んだ電池と抵抗からなる閉回路とみなし、キルヒホッフの法則を適用して電流を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 磁場を一様だと勘違いする:
    • 誤解: 磁場が場所によらず一定だと考え、辺PSと辺QRに生じる起電力が同じ大きさだと勘違いする。その結果、起電力の差が0になり、電流も0という誤った結論に至る。
    • 対策: 「直線電流が作る磁場」と聞いたら、即座に「距離に反比例する不一様な磁場」であることを思い出す。公式 \(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\) を確実に覚えておくことが重要です。
  • 起電力の向き(電位の高低)の判断ミス:
    • 誤解: フレミングの左手の法則の適用を誤り、2つの起電力の向きを同じ向き(協力しあう向き)だと考えてしまう。
    • 対策: 導体棒が同じ向きに運動している場合、各辺に生じる起電力の向き(高電位側)は同じ方向(今回はどちらも導線から遠い側)になります。これを回路として見ると、互いに逆向きに押し合う形になることを図で確認する習慣をつけましょう。
  • 計算ミス:
    • 誤解: \(\frac{1}{r} – \frac{1}{r+l}\) のような分数の通分計算でミスをする。
    • 対策: 焦らずに \(\frac{(r+l) – r}{r(r+l)} = \frac{l}{r(r+l)}\) と丁寧に計算する。文字式が多く複雑に見えますが、一つ一つの計算は基本的なものです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 直線電流が作る磁場の公式 (\(B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\)):
    • 選定理由: この問題の前提となる「不一様な磁場」の具体的な形を数式で与えるために必須の公式です。アンペールの法則から導かれる、電磁気学の基本公式の一つです。
    • 適用根拠: 問題設定が「長い直線状の導線」であり、この公式が理想的に適用できる状況です。
  • 誘導起電力の公式 (\(V=vBl\)):
    • 選定理由: 磁場を横切る導体棒に生じる起電力を計算するための最も基本的な公式です。この問題では、磁場の値\(B\)が場所によって異なるため、各辺に対して個別に適用します。
    • 適用根拠: コイルの辺PSとQRは、それぞれが長さ\(l\)の導体棒とみなせ、磁場に対して垂直に運動しているため、この公式が適用できます。
  • キルヒホッフの第2法則(オームの法則の拡張):
    • 選定理由: 複数の起電力(電池)が混在する回路に流れる電流を求めるための、最も普遍的な法則だからです。
    • 適用根拠: コイルを、辺PSに生じる起電力\(V_1\)、辺QRに生じる起電力\(V_2\)、コイル全体の抵抗\(R\)からなる閉回路とモデル化することで、この法則を適用して回路方程式 (\(iR = V_1 – V_2\)) を立てることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 物理量の添え字活用: 辺PSと辺QRで物理量が異なることを明確にするため、磁束密度を\(B_1, B_2\)、起電力を\(V_1, V_2\)のように添え字をつけて区別すると、思考が整理され、代入ミスを防げます。
  • 共通因数を括り出す: 計算の早い段階で、共通因数(この問題では \(\frac{v \mu_0 I l}{2\pi R}\))を括り出すと、その後の計算が \(\left( \frac{1}{r} – \frac{1}{r+l} \right)\) のような簡単な分数の計算に集中でき、ミスを減らせます。
  • 極端な場合を考える(検算): もし導線から非常に遠い場所(\(r \gg l\))で同じ運動をさせたらどうなるかを考えます。このとき、\(r \approx r+l\) となり、\(B_1 \approx B_2\)、\(V_1 \approx V_2\) となるため、電流はほぼ0に近づくはずです。計算結果の式で \(r \to \infty\) とすると、分母が大きくなり \(i \to 0\) となることから、式の妥当性を確認できます。

389 誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「回転する導体棒に生じる誘導起電力」です。磁場中を回転する導体棒に生じる起電力を、2つの異なるアプローチ(ファラデーの法則とローレンツ力)から求めます。導体棒の各部分で速度が異なる点が、直線運動との大きな違いです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ファラデーの電磁誘導の法則: 導体棒が回転して掃く面積の変化率から、マクロな視点で起電力を求める方法です。
  2. ローレンツ力: 導体棒内の自由電子が回転運動することで受ける力から、ミクロな視点で起電力の発生源を考える方法です。
  3. 円運動の速度: 回転の中心からの距離\(r\)と角速度\(\omega\)を用いて、速さ\(v\)が \(v=r\omega\) と表される関係。
  4. 平均の速さ: 速度が一定でない運動において、代表的な値として平均の速さを用いる考え方。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. アプローチ1(ファラデーの法則): 導体棒が単位時間あたりに掃く面積(扇形の面積)を求め、それに磁束密度を掛けることで誘導起電力を計算します。
  2. アプローチ2(ローレンツ力): 導体棒の各点の速度が異なるため、棒全体の平均の速さを求め、それを公式 \(V=\bar{v}Bl\) に適用して誘導起電力を計算します。
  3. 電位の高低: 導体棒内の自由電子が受けるローレンツ力の向きをフレミングの左手の法則で判断し、電荷の偏りから決定します。

思考の道筋とポイント
回転する導体棒に生じる誘導起電力を求める問題です。この問題は、ファラデーの法則を用いる方法と、ローレンツ力(平均の速さ)を用いる方法の2通りで解くことができ、どちらのアプローチでも同じ結果に至ることを理解するのが重要です。電位の高低は、ローレンツ力の向きを正しく判断できるかが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 回転運動では、導体棒の各点の速さが中心からの距離に比例して異なること。
  • ファラデーの法則を適用する場合、起電力は「単位時間あたりに掃く面積」に比例すると考える。
  • ローレンツ力から起電力を計算する場合、棒全体の「平均の速さ」を用いると、公式 \(V=\bar{v}Bl\) が使える。
  • フレミングの左手の法則を電子(負電荷)に適用する際は、力の向きが逆になることに注意する。

具体的な解説と立式
【解法1:ファラデーの法則を用いる方法】

  1. 誘導起電力の基本式: ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力\(V\)の大きさは、単位時間あたりの磁束の変化量に等しくなります。磁束密度\(B\)は一定なので、単位時間あたりに導体棒が掃く面積(面積速度)を \(\frac{\Delta S}{\Delta t}\) とすると、
    $$ V = B \frac{\Delta S}{\Delta t} $$
  2. 面積速度の計算: 導体棒OPは、角速度\(\omega\)で回転しています。これは、1秒あたり\(\omega\) [rad] の角度を掃くことを意味します。したがって、単位時間あたりに掃く面積は、半径\(l\)、中心角\(\omega\)の扇形の面積に等しくなります。
    $$ \frac{\Delta S}{\Delta t} = \frac{1}{2} l^2 \omega $$
  3. 誘導起電力の大きさ: 上記の2式から、誘導起電力\(V\)の大きさが求まります。
    $$ V = B \left( \frac{1}{2} l^2 \omega \right) $$

【電位の高低の判断】

  1. ローレンツ力の向き: 導体棒OP上のある点の速度は、回転の接線方向です。この点にある自由電子(負電荷)が受けるローレンツ力の向きを考えます。
  2. フレミングの左手の法則を「正電荷」に適用します。中指を速度の向き(接線方向)、人差し指を磁場の向き(鉛直上向き)に合わせると、親指はO→Pの向き(棒に沿って外向き)を指します。
  3. これは正電荷が受ける力の向きです。電子は負電荷なので、実際に受ける力はこれと逆向き、すなわちP→Oの向き(中心向き)になります。
  4. 電荷の偏り: したがって、電子は棒の中心O側に集まります。その結果、点Oは負に、電子が不足した先端点Pは正に帯電します。
  5. 結論: よって、電位は点Pの方が点Oよりも高くなります。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = B \frac{\Delta S}{\Delta t}\)
  • 扇形の面積: \(S = \frac{1}{2} r^2 \theta\)
  • ローレンツ力(フレミングの左手の法則)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= B \times (\text{単位時間あたりの面積}) \\[2.0ex]
&= B \times \left( \frac{1}{2} l^2 \omega \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} B \omega l^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

導体棒が回転すると、磁場を切りながら進むため電圧が発生します。電圧の大きさは、棒が1秒間に「ほうきで掃く」面積に比例します。棒が1秒間に作る「扇形」の面積は \(\frac{1}{2}l^2\omega\) と計算できるので、これに磁束密度\(B\)を掛ければ起電力が求まります。また、電子は回転によって中心(O側)に引き寄せられるので、Oがマイナス、Pがプラスになります。よってPの方が電位は高くなります。

結論と吟味

誘導起電力の大きさは \(\frac{1}{2}B\omega l^2\) [V]、電位が高いのは点Pです。この結果は、次に示す別解(平均の速さを用いる方法)とも一致し、物理的に妥当です。

解答 誘導起電力: \(\displaystyle\frac{1}{2}B\omega l^2\) [V], 高電位: 点P
別解:平均の速さを用いる方法

思考の道筋とポイント
導体棒の各点の速さは異なりますが、その「平均の速さ」を考えれば、直線運動の公式 \(V=vBl\) を応用して起電力を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 回転運動では、速さは中心からの距離に比例する (\(v=r\omega\))。
  • 速度が線形に変化する場合、平均の速さは「(初速+終速)/2」で計算できる。

具体的な解説と立式

  1. 各点の速さ:
    • 中心点Oの速さは \(v_O = 0\)。
    • 先端点Pの速さは、円運動の公式より \(v_P = l\omega\)。
  2. 平均の速さ: 導体棒の速さは、中心からの距離に比例して線形に増加します。したがって、棒全体の平均の速さ\(\bar{v}\)は、
    $$ \bar{v} = \frac{v_O + v_P}{2} = \frac{0 + l\omega}{2} = \frac{l\omega}{2} $$
  3. 誘導起電力の大きさ: この平均の速さ\(\bar{v}\)を、直線運動の誘導起電力の公式 \(V = vBl\) に適用します。
    $$ V = \bar{v} B l = \left( \frac{l\omega}{2} \right) B l $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • 円運動の速さ: \(v = r\omega\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \bar{v} B l \\[2.0ex]
&= \left( \frac{l\omega}{2} \right) B l \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} B \omega l^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒の根元(O)は止まっていて速さ0、先端(P)は速さ \(l\omega\) で動いています。棒全体の速さは、ちょうどその真ん中、つまり平均の速さ \(\frac{l\omega}{2}\) と考えることができます。この平均の速さを、まっすぐ動く棒の公式 \(V=vBl\) に当てはめることで、回転する場合の起電力を簡単に計算できます。

結論と吟味

この方法でも、起電力の大きさは \(\frac{1}{2}B\omega l^2\) [V] となり、ファラデーの法則を用いた方法と一致します。

解答 誘導起電力: \(\displaystyle\frac{1}{2}B\omega l^2\) [V]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 回転する導体棒の起電力(2つのアプローチ):
    • 核心: 直線運動と異なり、棒の各部分で速度が違う「回転運動」の起電力をどう求めるかが核心です。この問題は、2つの異なる物理的視点から同じ結論に至ることを示しています。
    • 理解のポイント:
      • アプローチA:ファラデーの法則(マクロな視点): 導体棒が回転して「磁束を掃く」と考え、単位時間あたりに掃く面積(面積速度 \(\frac{\Delta S}{\Delta t}\))を求め、\(V = B \frac{\Delta S}{\Delta t}\) で起電力を計算します。回転運動では、面積速度は扇形の面積を用いて \(\frac{1}{2}l^2\omega\) となります。
      • アプローチB:ローレンツ力(ミクロな視点): 棒の各点の速度は異なりますが、その「平均の速さ \(\bar{v}\)」を代表値として用いることで、直線運動の公式 \(V=\bar{v}Bl\) を応用できます。回転軸が端にある場合、平均の速さは \(\bar{v} = \frac{0+l\omega}{2}\) となります。
  • 電位の高低の決定:
    • 核心: 導体棒内の自由電子がローレンツ力を受けてどちらの端に偏るかを、フレミングの左手の法則を用いて正確に判断することが重要です。
    • 理解のポイント: フレミングの左手の法則は「正電荷」が受ける力の向きを示します。負電荷である電子が受ける力は、その逆向きになります。電子が集まった端が負(低電位)、電子が不足した端が正(高電位)となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 回転軸が棒の中点にある場合: 棒の半分(例えばMP)と残り半分(MO)では、速度の向きが逆になるため、生じる起電力の向き(電位の高低)も逆になります。結果として、棒の両端OとPの間の電位差は、それぞれの起電力の差や和として計算されます。
    • 回路が接続されている場合: 導体棒に抵抗Rをつなぐと、\(I = V/R\) の電流が流れます。この電流は磁場から力を受け(フレミングの左手)、その力は回転を妨げる向き(電磁ブレーキ)に働きます。回転を維持するには、外からトルク(回転させる力)を加え続ける必要があります。
    • 地球の磁場中を回転する飛行機のプロペラ: 地磁気という一様な磁場の中を、導体であるプロペラが回転する状況は、この問題と全く同じモデルで考えることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動形態の確認: 導体棒は直線運動か、回転運動か。回転運動ならば、回転の中心軸はどこかを確認します。
    2. 起電力の計算方針を決定: ファラデーの法則(面積速度)で解くか、ローレンツ力(平均速度)で解くか、考えやすい方を選びます。両方で検算できると万全です。
    3. 電位の高低を判断: フレミングの左手の法則を、3次元的な向きを意識しながら慎重に適用します。特に、電子の電荷が負である点に細心の注意を払います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電位の高低の判断ミス(最重要):
    • 誤解: フレミングの法則で求めた力の向きに、そのまま電子が動くと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「フレミングの法則は正電荷が受ける力の向き。電子は逆!」と何度も自分に言い聞かせ、機械的に処理できるまで練習します。実際に左手を動かして、指の向きを一つ一つ確認する作業を怠らないことが重要です。
  • 平均の速さの誤用:
    • 誤解: 速度が線形に変化しない運動(例えば単振動の一部など)でも、安易に「(初速+終速)/2」の公式を使ってしまう。
    • 対策: この平均速度の公式が使えるのは、速度が時間や距離に対して「線形に(まっすぐ)」変化する場合に限られる、と理解します。回転運動は、中心からの距離に対して速度が線形に変化するため、この公式が適用できます。
  • ファラデーの法則の面積計算ミス:
    • 誤解: 単位時間あたりに掃く面積を、円の面積 \(\pi l^2\) と角速度 \(\omega\) を単純に掛けるなど、誤った式で計算してしまう。
    • 対策: 扇形の面積の公式 \(S = \frac{1}{2}r^2\theta\) を思い出し、単位時間あたり(\(\Delta t = 1\)s)では、角度の変化が \(\theta = \omega \Delta t = \omega\) [rad] となることから、面積速度が \(\frac{\Delta S}{\Delta t} = \frac{1}{2}l^2\omega\) となるプロセスをきちんと理解します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ファラデーの法則 (\(V = B \frac{\Delta S}{\Delta t}\)):
    • 選定理由: マクロな視点から現象を捉えるための公式です。導体棒が「磁束を掃く」というイメージと直結しており、直観的に理解しやすいのが利点です。
    • 適用根拠: 導体棒の回転によって、仮想的な閉回路(抵抗と接続されていると考える)を貫く磁束が時間的に変化しています。この磁束の時間変化率が起電力に等しいという電磁誘導の基本法則に基づいています。
  • 平均の速さを用いた起電力 (\(V = \bar{v}Bl\)):
    • 選定理由: ミクロな視点(ローレンツ力)を、計算しやすいマクロな公式に落とし込んだものです。直線運動の公式を応用できるため、計算が簡便になります。
    • 適用根拠: 導体棒内の各点で生じる微小な起電力 \(dV = (r\omega)B dr\) を、棒全体で積分した結果が \(\frac{1}{2}B\omega l^2\) となります。高校物理では、この積分計算を「平均の速さ」という考え方で代用しており、数学的に等価な結果が得られます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 3次元のイメージング: この問題は3次元空間でのベクトルの向きが重要です。磁場が上、棒が右、速度が手前(あるいは上)など、具体的な状況を頭の中や紙の上で立体的に描く練習をしましょう。
  • 法則適用の言語化: フレミングの法則を使う際、「人差し指は磁場(上向き)。中指は速度(接線方向)。親指は力(外向き)。これはプラスの力。電子は逆だから中心向き」のように、一つ一つのステップを言葉に出して確認することで、混乱や勘違いを防ぎます。
  • 2つの解法での検算: この問題のように、ファラデーの法則とローレン-ツ力(平均速度)の2つのアプローチで解ける問題は、両方で計算してみて結果が一致するかを確認しましょう。これは最高の検算方法であり、物理現象への理解も深まります。
  • 単位の確認: 角速度\(\omega\)の単位が [rad/s] であることを確認します。もし [deg/s](度)や [rpm](回転/分)で与えられていたら、[rad/s] に変換する必要があります。
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