299 ヤングの実験
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ヤングの干渉実験を題材に、光路長(光学距離)の概念と、それによって生じる干渉縞の移動、さらに光源の位置をずらした際の効果を問う問題です。波動光学の基本的な原理の深い理解が求められます。
この問題の核心は、複数の要因によって生じる光路差を正しく計算し、干渉条件と結びつけることです。
- 光源の光の波長: \(\lambda\)
- 複スリットの間隔: \(S_1S_2 = d\)
- スリットとスクリーンの距離: \(L\)
- 近似条件: \(d \ll L\)
- 物質Aの厚さ: \(l\)
- 物質Aの屈折率: \(n\)
- (1) スリット\(S_2\)の前に物質Aを置いたとき、単スリット\(S_0\)と複スリット\(S_1, S_2\)の間で生じる光路差。
- (2) (1)の状況で、もともと原点Oにあった干渉縞が移動する方向と距離。
- (3) 物質Aを取り除き、光源である単スリット\(S_0\)を下に動かしたとき、干渉縞の明暗が初めて反転する際の、光源から2つのスリットまでの光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光路長と近似式を用いたヤングの干渉実験の解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路長(光学距離): 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)は、真空中の距離\(nl\)に相当します。光路差は、この光路長の差によって生じます。
- ヤングの実験における経路差: スリット\(S_1, S_2\)からスクリーン上の点Pまでの経路差は、近似式 \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\) で与えられます。
- 干渉条件: 2つの光の光路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))なら強め合い(明線)、半整数倍(\((m+1/2)\lambda\))なら弱め合い(暗線)となります。
- 干渉縞の移動: 光路に何らかの変化(物質の挿入など)が加わると、その光路差を補償するように干渉縞全体が移動します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では光路長の定義に基づいて、物質Aを置いたことによる光路差を計算します。
- 次に、(2)では(1)で求めた光路差と、スリットからスクリーンまでの経路差を合わせた「全光路差」を考えます。もともと中心にあった明線(\(m=0\))が移動した先では、この全光路差がゼロになるはずです。この条件から移動距離を求めます。
- 最後に、(3)では光源の位置をずらすことで、2つのスリット\(S_1, S_2\)がもはや同位相の波源ではなくなることを考えます。明暗が反転するのは、2つのスリットに到達する光の位相が\(\pi\)ずれる(光路差が\(\lambda/2\)になる)ときです。
問(1)
思考の道筋とポイント
スリット\(S_2\)の前に厚さ\(l\)、屈折率\(n\)の物質Aを置いたときの光路差を求める問題です。光は真空中(または空気中、屈折率を1とみなす)と物質中で進む速さが異なるため、同じ幾何学的距離を進んでも、光にとっては等価な距離(光路長)が変わります。この光路長の差が光路差となります。
この設問における重要なポイント
- 光路長の定義: 屈折率\(n\)の媒質中を光が距離\(l\)進むときの光路長(光学距離)は \(nl\) となります。
- 光路差の計算: 経路\(S_0 \rightarrow S_2\)では、距離\(l\)の部分を物質Aが占めています。一方、経路\(S_0 \rightarrow S_1\)では、対応する部分は空気(屈折率1)です。この2つの経路における光路長の差を計算します。
具体的な解説と立式
光が単スリット\(S_0\)から出て、複スリット\(S_1, S_2\)に到達するまでの光路を考えます。
経路\(S_0 \rightarrow S_1\)では、光はすべて空気中を進みます。
経路\(S_0 \rightarrow S_2\)では、途中、厚さ\(l\)の物質A(屈折率\(n\))を通過します。
物質Aがある部分について、光路長を比較します。
- 物質Aがない場合(空気中)の光路長: \(1 \times l = l\)
- 物質Aがある場合の光路長: \(n \times l = nl\)
したがって、物質Aによって単スリットと複スリットの間で生じる光路差 \(\Delta L_{\text{物質}}\) は、これらの差となります。
$$ \Delta L_{\text{物質}} = nl – l $$
使用した物理公式
- 光路長(光学距離): \((\text{光路長}) = (\text{屈折率}) \times (\text{距離})\)
上記で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\Delta L_{\text{物質}} &= nl – l \\[2.0ex]&= (n-1)l
\end{aligned}
$$
光は、空気中よりも物質の中を進む方が時間がかかります。この時間の遅れを、余分に進まなければならない距離に換算したものが「光路差」です。屈折率が\(n\)の物質では、空気中と比べて「\(n-1\)倍」だけ余分に距離がかかると考えられ、その距離は\(l\)なので、光路差は \((n-1)l\) となります。
物質による光路差は \((n-1)l\) です。\(n>1\) なので、物質を置いた\(S_2\)側の方が光路長が長くなります。これは、\(S_2\)に到達する光の位相が、\(S_1\)に到達する光よりも遅れることを意味します。
問(2)
思考の道筋とポイント
物質Aを置いたことで干渉縞が移動する現象を解析します。干渉縞の位置は、スクリーン上の点Pに到達する2つの光(\(S_1 \rightarrow P\) と \(S_2 \rightarrow P\))の全光路差によって決まります。この全光路差は、(1)で求めた物質による光路差 \(\Delta L_{\text{物質}}\) と、スリットからスクリーンまでの経路差 \(\Delta L_{\text{経路}}\) の和になります。
もともと原点Oにあった中心の明線(\(m=0\))は、全光路差がゼロになる点です。物質Aを置いた後、この全光路差がゼロになる点がどこに移動するかを追跡します。
この設問における重要なポイント
- 全光路差の計算: 全光路差 = (物質による光路差) + (経路差)。
- 経路差の近似式: スリット\(S_1, S_2\)からスクリーン上の座標\(x\)の点Pまでの経路差 \(\Delta L_{\text{経路}} = S_2P – S_1P\) は、\(d \ll L, x \ll L\) のとき、\(\Delta L_{\text{経路}} \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\) と近似できます。
- 中心の明線の移動: 中心(\(m=0\))の明線は、全光路差がゼロになる位置に現れます。
具体的な解説と立式
スクリーン上の原点Oから上向きを正とする\(x\)軸をとります。座標\(x\)の点Pに到達する2つの光の全光路差 \(\Delta L_{\text{全}}\) を考えます。
光路差は、経路(\(S_0 \rightarrow S_2 \rightarrow P\))と経路(\(S_0 \rightarrow S_1 \rightarrow P\))の差です。
$$ \Delta L_{\text{全}} = (\text{光路長 } S_0S_2 + S_2P) – (\text{光路長 } S_0S_1 + S_1P) $$
これを、スリット間で生じる光路差と、スリット-スクリーン間で生じる経路差に分けます。
$$ \Delta L_{\text{全}} = (\text{光路長 } S_0S_2 – \text{光路長 } S_0S_1) + (S_2P – S_1P) $$
第1項は(1)で求めた物質による光路差 \(\Delta L_{\text{物質}} = (n-1)l\) です。
第2項は経路差 \(\Delta L_{\text{経路}} = S_2P – S_1P\) です。ここで、\(S_1\)の座標を\((0, d/2)\)、\(S_2\)の座標を\((0, -d/2)\)とすると、点Pの座標は\((L, x)\)です。
$$ S_1P = \sqrt{L^2 + (x – d/2)^2}, \quad S_2P = \sqrt{L^2 + (x + d/2)^2} $$
\(d \ll L, x \ll L\) の条件で近似計算を行うと、
$$ S_2P – S_1P \approx \frac{dx}{L} $$
となります。
したがって、全光路差は、
$$ \Delta L_{\text{全}} = (n-1)l + \frac{dx}{L} \quad \cdots ① $$
強め合って明線になる条件は、全光路差が波長の整数倍になることです。
$$ \Delta L_{\text{全}} = m\lambda \quad (m=0, \pm 1, \pm 2, \dots) \quad \cdots ② $$
もともと原点Oにあった中心の明線は、\(m=0\)に対応します。この明線が移動した先の座標を\(x_0\)とすると、\(x_0\)では①、②式より、
$$ (n-1)l + \frac{dx_0}{L} = 0 \cdot \lambda = 0 $$
使用した物理公式
- ヤングの実験の経路差の近似式: \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\)
- 光の干渉条件(強め合い): \((\text{光路差}) = m\lambda\)
上記で立てた中心の明線の位置に関する式を \(x_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dx_0}{L} &= -(n-1)l \\[2.0ex]x_0 &= -\frac{L}{d}(n-1)l
\end{aligned}
$$
\(x_0\)が負の値であることから、縞模様は下向きに移動することがわかります。
その移動量は \(|x_0|\) なので、
$$ \text{移動量} = \frac{L}{d}(n-1)l $$
スリット\(S_2\)の前に物質を置いたことで、\(S_2\)を通る光は少し「遠回り」したことになります。この遠回り分 \((n-1)l\) を打ち消すために、干渉縞全体が移動します。縞が下側(\(x<0\))に移動すると、今度は\(S_1\)からの方が遠い経路になり、経路差 \(\frac{dx}{L}\) が負の値を持ちます。この経路差が、物質による光路差をちょうど打ち消す位置 \((n-1)l + \frac{dx_0}{L} = 0\) に、中心の明るい線が移動するのです。
もともと原点Oにあった縞模様は、下側に \(\displaystyle\frac{L}{d}(n-1)l\) だけ移動します。
この結果は、物質の屈折率\(n\)が大きいほど、また厚さ\(l\)が厚いほど、移動量が大きくなることを示しており、物理的に妥当です。また、スリット間隔\(d\)が小さいほど移動量が大きくなることも、経路差の変化が敏感になることから理解できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
物質Aを取り除いた後、光源である単スリット\(S_0\)を下に動かすと、干渉縞がどうなるかを考える問題です。\(S_0\)が中心にあるときは、\(S_0S_1 = S_0S_2\)なので、\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源とみなせます。しかし、\(S_0\)を下に動かすと、\(S_0S_1\)と\(S_0S_2\)の距離が等しくなくなり、\(S_1\)と\(S_2\)に到達する光に光路差が生じます。これにより、\(S_1\)と\(S_2\)の位相がずれます。
干渉縞の「明暗が反転する」とは、今まで明線だったところが暗線に、暗線だったところが明線になるということです。これは、2つの波源からの光の干渉条件が、強め合いから弱め合いへ(またはその逆へ)切り替わることを意味し、位相が\(\pi\)(180°)ずれることに相当します。
この設問における重要なポイント
- 光源の移動と位相差: 光源\(S_0\)を動かすと、2つのスリット\(S_1, S_2\)に到達する光に光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) が生じ、\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源ではなくなる。
- 明暗の反転: 干渉縞の明暗が反転するのは、2つの波源の位相差が\(\pi\)変化したときである。
- 位相差と光路差の関係: 位相差が\(\pi\)変化することは、光路差が半波長 \(\lambda/2\) 変化することに対応する。
具体的な解説と立式
はじめ、光源\(S_0\)は中心軸上にあり、\(S_0S_1 = S_0S_2\) です。このとき、スリット\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源として機能します。スクリーン中央の点Oでは、\(S_1O = S_2O\) なので光路差はゼロで、必ず明線になります。
次に、\(S_0\)を図の矢印の向き(下向き)にゆっくりと動かします。すると、\(S_0\)と\(S_1\)の距離 \(S_0S_1\) は、\(S_0\)と\(S_2\)の距離 \(S_0S_2\) よりも長くなります。つまり、\(S_0S_1 > S_0S_2\) となります。
この結果、\(S_1\)に到達する光は、\(S_2\)に到達する光よりも位相が遅れるようになります。
スクリーン上の任意の点での干渉を考えます。全光路差は、
$$ \Delta L_{\text{全}} = (S_0S_1 – S_0S_2) + (S_1P – S_2P) $$
となります。
干渉縞の明暗が全体として「反転」するのは、強め合いの条件と弱め合いの条件が入れ替わるときです。これは、2つの波源\(S_1, S_2\)の位相関係が逆転するとき、すなわち、\(S_1\)と\(S_2\)に到達する光の光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) が、波長の半分 \(\lambda/2\) になったときです。
初期状態(\(S_0\)が中心)では \(S_0S_1 – S_0S_2 = 0\) です。
ここから\(S_0\)を動かし、初めて明暗が反転するのは、この光路差が \(\lambda/2\) の奇数倍になったときです。初めて反転するのは、
$$ S_0S_1 – S_0S_2 = \frac{\lambda}{2} $$
となるときです。
使用した物理公式
- 光の干渉条件
- 位相差と光路差の関係: \((\text{位相差}) = \displaystyle\frac{2\pi}{\lambda} \times (\text{光路差})\)
この問題では、具体的な移動距離を計算する必要はなく、明暗が反転する物理的条件を光路差で表現することが求められています。
上記の立式がそのまま結論となります。
$$ S_0S_1 – S_0S_2 = \frac{\lambda}{2} $$
スクリーン上の模様は、2つのスリットから来る光が「山と山」で重なるか(明線)、「山と谷」で重なるか(暗線)で決まります。光源を真ん中から下にずらすと、上のスリット\(S_1\)までの距離が下のスリット\(S_2\)までより長くなり、\(S_1\)に届く光のタイミングが少し遅れます。このタイミングの「遅れ」が、ちょうど波のサイクルの半分(半波長)になったとき、今まで山と山が重なっていた場所で山と谷が重なるようになり、模様全体が反転するのです。
干渉縞の明暗が初めて反転したときの光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) は \(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\) です。
もしさらに\(S_0\)を動かして、光路差が \(\lambda\) になると、位相が \(2\pi\) ずれて元の状態に戻り、干渉縞は初期状態と同じになります。光路差が \(3\lambda/2\) になると、再び明暗が反転します。このように、光路差が \(\lambda/2\) 変化するごとに明暗が反転を繰り返します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光路長と光路差の概念:
- 核心: 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)は、光にとっては真空中の距離\(nl\)に相当します(光路長)。異なる経路を通る光の干渉を考える際は、この光路長の差(光路差)を計算する必要があります。(1)で問われた \((n-1)l\) は、物質の挿入による光路差の典型例です。
- 理解のポイント: 光の位相は、進んだ「幾何学的な距離」ではなく「光路長」に比例して変化します。
- ヤングの実験における光路差の重ね合わせ:
- 核心: スクリーン上での最終的な干渉は、考えられるすべての要因による光路差を足し合わせた「全光路差」で決まります。この問題では、(2)で「物質による光路差」と「経路による光路差」を足し合わせました。
- 理解のポイント: \(\Delta L_{\text{全}} = \Delta L_{\text{物質}} + \Delta L_{\text{経路}} = (n-1)l + \displaystyle\frac{dx}{L}\)。この式を立てられるかが(2)の鍵です。
- 干渉縞の移動原理:
- 核心: 干渉系に何らかの変化(物質の挿入や光源の移動)を加えて光路差を発生させると、干渉縞はその光路差を打ち消す方向に移動します。
- 理解のポイント: (2)では、\(S_2\)側の光路長が増えた分を補うため、\(S_1\)側への経路が長くなる下向きに縞が移動しました。
- 明暗の反転条件:
- 核心: 干渉縞の明暗が反転するのは、2つの干渉光の位相関係が逆転するとき、すなわち位相差が\(\pi\)(奇数倍)変化するときです。
- 理解のポイント: (3)では、光源の移動によって生じる光路差が \(\lambda/2\) になったときに、初めて明暗が反転しました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 薄膜干渉: ガラスのくさび(ニュートンリング)やシャボン玉の膜など。膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。膜の厚さや屈折率、入射角によって光路差が決まる点が共通しています。
- 回折格子: 多数のスリットによる干渉。隣り合うスリットからの光の光路差が重要になる点はヤングの実験と同じです。
- マイケルソン干渉計: 光源からの光を2つに分け、異なる経路を通らせてから再び干渉させます。一方の経路長を変化させることで干渉縞が移動する様子は、この問題の(2)や(3)の状況と物理的に等価です。
- 初見の問題での着眼点:
- 光路差の原因を特定する: まず、2つの光の間に光路差を生じさせている原因は何かをすべてリストアップします(経路の長さの違いか?媒質の屈折率の違いか?光源の位置か?反射による位相変化か?)。
- 各原因による光路差を計算する: 特定した原因ごとに、光路差を数式で表現します。このとき、近似式が使えるかどうかを吟味します。
- 全光路差を求める: すべての光路差を足し合わせ(符号に注意!)、全光路差を求めます。
- 干渉条件を適用する: 求めた全光路差に、明線(\(m\lambda\))または暗線(\((m+1/2)\lambda\))の条件を適用して、問われている量を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 光路長と幾何学的距離の混同:
- 誤解: 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)を、そのまま光路差としてしまう。
- 対策: 光路差は、あくまで基準となる経路(通常は真空中)との「差」です。物質を置いた場合は \(nl – l = (n-1)l\) が光路差になると覚えましょう。
- 光路差の符号ミス:
- 誤解: 経路差 \(\frac{dx}{L}\) や物質による光路差 \((n-1)l\) を足し合わせる際に、符号を間違える。
- 対策: 常に「どちらの経路が長いか」を物理的に考え、光路差の定義(例:経路2 – 経路1)を一貫して使うことが重要です。例えば(2)では、\(S_2\)側が長くなるので \((n-1)l\) は正、\(x>0\) の点では \(S_2\) 側が長いので \(\frac{dx}{L}\) も正、というように考え、\(\Delta L = (n-1)l + \frac{dx}{L}\) と立式します。
- (3)で複雑な計算を試みること:
- 誤解: \(S_0\)の移動距離を求めようとして、三平方の定理や近似計算を始めてしまう。
- 対策: 問題文をよく読み、「問われているのは何か」を正確に把握しましょう。(3)で問われているのは「光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\)」そのものであり、その値が \(\lambda/2\) になるという物理的条件を答えるだけで十分です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光路差の可視化: 干渉縞を「等高線」のようにイメージします。光路差が一定の点が連なって縞模様を作っています。(2)で物質Aを置くのは、地図上の一部の土地を「かさ上げ」するようなものです。その結果、等高線(干渉縞)はかさ上げされた場所を避けるようにずれていきます。
- 位相の波面イメージ: (3)では、光源\(S_0\)から同心円状に広がる波面をイメージします。\(S_0\)が中心にあれば、\(S_1\)と\(S_2\)には同じ波面が同時に到達します。\(S_0\)が下にずれると、\(S_2\)に先に波面が到達し、少し遅れて\(S_1\)に到達します。この「到達時間の差」が位相差(光路差)を生み、明暗を反転させます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 光の経路を実線でしっかり描く。
- 光路差が発生している箇所(物質Aや、経路の長さの違い)をハイライトする。
- 座標軸の向き(どちらが正か)を必ず明記する。これにより、符号の間違いを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 光路長 \(nl\):
- 選定理由: (1)で、真空中とは異なる媒質(物質A)中の光の振る舞いを記述する必要があるため。
- 適用根拠: 光の速さが媒質中で \(1/n\) になるという事実を、距離の次元で扱うための基本的な定義です。
- 経路差の近似式 \(\Delta L \approx \frac{dx}{L}\):
- 選定理由: (2)で、スクリーン上の位置\(x\)と光路差の関係を数式で表現するため。
- 適用根拠: \(d \ll L, x \ll L\) という条件下で、幾何学的な関係(三平方の定理)を二項定理で近似した結果であり、ヤングの実験の解析における標準的なツールです。
- 干渉条件(明暗反転 \(\iff\) 光路差 \(\lambda/2\)):
- 選定理由: (3)で、「明暗が反転する」という定性的な現象を、定量的な物理法則に結びつけるため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理から、位相が\(\pi\)ずれると強め合いと弱め合いが入れ替わるという、干渉現象の根本原理に基づいています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 物質による光路差:
- 戦略: 光路長の定義に立ち返る。
- フロー: ①物質中の光路長(\(nl\))と空気中の光路長(\(l\))を比較 → ②差をとって光路差 \((n-1)l\) を求める。
- (2) 干渉縞の移動:
- 戦略: 中心(\(m=0\))の明線が移動した先では、全光路差がゼロになる。
- フロー: ①全光路差の式を立てる(\(\Delta L_{\text{全}} = \Delta L_{\text{物質}} + \Delta L_{\text{経路}}\)) → ②各項に具体的な式(\((n-1)l\) と \(\frac{dx}{L}\))を代入 → ③全光路差=0として、\(x\)について解く。
- (3) 明暗の反転:
- 戦略: 明暗反転の物理的意味(位相が\(\pi\)ずれる)を光路差の条件に翻訳する。
- フロー: ①光源の移動が\(S_1, S_2\)での位相差を生むことを理解 → ②明暗反転は位相差\(\pi\)の変化に対応することを確認 → ③位相差\(\pi\)は光路差\(\lambda/2\)に相当することから結論を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似計算のプロセスを理解する: \(\Delta L \approx \frac{dx}{L}\) という結果だけを覚えるのではなく、\(\sqrt{L^2+y^2} = L\sqrt{1+(y/L)^2} \approx L(1+\frac{1}{2}(y/L)^2)\) という二項近似の過程を一度は自分で導出しておきましょう。これにより、応用問題にも対応できます。
- 文字式のまま進める: この問題はほとんどが文字式での計算です。各文字が何を意味するのかを常に意識しながら式変形を行うことが重要です。
- 物理的な意味を常に考える: (2)で得られた \(x_0 = -\frac{L}{d}(n-1)l\) という結果を見て、「マイナスだから下向きだな」「\(n\)や\(l\)が大きいほどたくさん動くのは当然だな」というように、式の形と物理現象を結びつけて考える習慣が、ミスを防ぎ、理解を深めます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 移動距離: もし物質の屈折率が空気と同じ \(n=1\) なら、移動量はゼロになるはずです。式 \(|x_0| = \frac{L}{d}(n-1)l\) に \(n=1\) を代入すると、確かに \(x_0=0\) となり、矛盾しません。また、スリット間隔\(d\)を無限に広げると、干渉縞は非常に細かくなり、少しの光路差でも縞は大きく動くはずです。式が \(d\) に反比例していることは、この直感とも一致します。
- (3) 光路差: 明暗が反転するということは、波が「半周期」ずれることに対応します。波の1周期の長さが波長\(\lambda\)なので、半周期のずれは光路差\(\lambda/2\)に対応するのは、非常に基本的な関係であり、妥当です。
300 回折格子
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、反射型の回折格子による光の干渉を扱う問題です。回折格子の基本的な干渉条件を、図形的な関係から導出する能力が問われます。
この問題の核心は、隣り合うスリット(反射面)で反射した光が、特定の方向に進む際に生じる「経路差」を正しく計算し、それが強め合いの条件を満たすことを見抜く点にあります。
- 回折格子の格子定数: \(d\)
- 入射光の波長: \(\lambda\)
- 入射角: \(\alpha\) (法線とのなす角)
- 回折角: \(\beta\) (法線とのなす角)
- 考える状況: \(\alpha < \beta\)
- (1) 図2における経路ADとBCの長さ。
- (2) 隣り合う回折光が強め合う(明線となる)ときの条件式。
- (3) 入射角が \(\alpha = \alpha’\) のとき、0次の明線(反射の法則に従う光、\(\beta = \alpha’\))の次に現れる1次の明線(回折角 \(\beta = \beta’\))についての、\(\alpha’\) と \(\beta’\) の関係式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「反射型回折格子の干渉条件」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ホイヘンスの原理: 波面の各点が新しい波源(素元波)となり、それらの波が重なり合って次の波面が作られるという原理。回折現象の基礎となります。
- 光の経路差: 異なる経路を進む光が、ある点で出会うまでの「進んだ距離の差」。この経路差が干渉の結果を決定します。
- 三角比: 図形的な関係から経路差を計算するために、三角比(sin, cos)を正しく用いる必要があります。
- 干渉条件(強め合い): 経路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))になるとき、光は強め合って明るくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では図2に示された幾何学的な関係から、直角三角形を見つけ出し、三角比を用いて線分ADとBCの長さを求めます。
- 次に、(2)では(1)で求めた長さを使って、隣り合う反射面(AとB)から来る光の経路差を計算し、強め合いの条件式を立てます。
- 最後に、(3)では(2)で導いた条件式に、具体的な状況(0次と1次の明線)を適用して、問われている関係式を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
図2に示された幾何学的な関係から、線分ADとBCの長さを求める問題です。図中の角度\(\alpha\), \(\beta\)と、格子定数\(d\)(線分ABの長さ)を用いて、三角比を適用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 直角三角形の特定: 点Aから回折光の経路に下ろした垂線がD、点Bから入射光の経路に下ろした垂線がCです。これにより、\(\triangle ABD\)と\(\triangle ABC\)という2つの直角三角形ができます。
- 角度の関係の把握: 図形と錯角の関係から、\(\triangle ABC\)内の角\(\angle BAC\)が\(\alpha\)に、\(\triangle ABD\)内の角\(\angle ABD\)が\(\beta\)に等しいことを見抜きます。
具体的な解説と立式
図2において、点Aから回折光の経路に下ろした垂線の足をD、点Bから入射光の経路に下ろした垂線の足をCとします。
- 経路BCの計算:
\(\triangle ABC\)は \(\angle BCA = 90^\circ\) の直角三角形です。入射光の進行方向と法線のなす角が\(\alpha\)であり、図の幾何学的関係(錯角)から \(\angle BAC = \alpha\) となります。したがって、
$$ BC = AB \sin(\angle BAC) = d \sin\alpha $$ - 経路ADの計算:
\(\triangle ABD\)は \(\angle ADB = 90^\circ\) の直角三角形です。回折光の進行方向と法線のなす角が\(\beta\)であり、同様に \(\angle ABD = \beta\) となります。したがって、
$$ AD = AB \sin(\angle ABD) = d \sin\beta $$
使用した物理公式
- 三角比: \(\sin\theta\)
上記の立式がそのまま結論となります。
- 経路AD: \(d \sin\beta\)
- 経路BC: \(d \sin\alpha\)
図2のA点とB点は、隣り合う光の反射点です。
- BCの長さは、入射光がB点に到達してからA点に到達するまでに、余分に進む距離です。これは直角三角形ABCを考えると、斜辺が\(d\)で、角が\(\alpha\)なので、\(d \sin\alpha\)と計算できます。
- ADの長さは、A点から反射した光が、B点から反射した光よりも余分に進む距離です。これは直角三角形ABDを考えると、斜辺が\(d\)、角が\(\beta\)なので、\(d \sin\beta\)と計算できます。
経路ADの長さは \(d \sin\beta\)、経路BCの長さは \(d \sin\alpha\) です。これは図形的な関係から正しく導出された結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
隣り合うスリット(AとB)で反射した回折光が強め合うための条件式を導く問題です。強め合いの条件は、2つの光の「経路差」が波長\(\lambda\)の整数倍になることです。経路差は、(1)で求めたADとBCを用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 経路差の計算: 点Aで反射する光と点Bで反射する光の経路差を考えます。図2から、点CからAに進む光と、点BからDに進む光が、その後同じ経路をたどると考えられます。したがって、経路差は \(AD – BC\) となります。
- 強め合いの条件: 経路差が \(m\lambda\)(\(m\)は整数)となることが、光が強め合う条件です。
- 反射における位相変化: 反射型回折格子では、点Aと点Bで同じように反射が起こるため、もし反射によって位相が変化するとしても(固定端反射)、両方の光で同じだけ変化します。したがって、位相変化の差はゼロとなり、干渉条件には影響しません。
具体的な解説と立式
隣り合う反射面上の点Aと点Bで反射した光を考えます。
入射光の波面ACが点Cに到達したとき、もう一方の光は点Aに到達しています。
その後、点Cの光が点Bに進む間に、点Aの光は反射して点Dに進みます。
波面AC上の光が点Bに到達するまでの経路はBCです。
波面BD上の光が点Aから進んだ経路はADです。
したがって、点Aで反射した光と点Bで反射した光の経路差 \(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = AD – BC $$
となります。
(1)の結果を代入すると、
$$ \Delta L = d \sin\beta – d \sin\alpha = d(\sin\beta – \sin\alpha) $$
光が強め合う条件は、この経路差が波長の整数倍になることなので、
$$ \Delta L = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
よって、求める条件式は、
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda $$
使用した物理公式
- 光の干渉条件(強め合い): \((\text{経路差}) = m\lambda\)
上記で立てた式がそのまま答えとなります。
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
隣の反射点Bから出る光は、Aから出る光に比べて、入射時にBCだけ手前の道のりで済みますが、反射後にはADだけ長い道のりを進まなければなりません。この「得した分」と「損した分」の差し引き(\(AD – BC\))が、2つの光の経路の長さの差(経路差)になります。この経路差が、ちょうど波長の整数倍になるとき、2つの光の波の山と山(谷と谷)がぴったり重なり、強め合って明るい光となります。
強め合いの条件式は \(d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda\) です。これは回折格子の基本公式として知られています。\(m\)は「次数」と呼ばれ、\(m=0\)は経路差がゼロ、すなわち\(\beta=\alpha\)となる場合で、これは単なる反射の法則に対応します。\(m=1, 2, \dots\)が回折によって生じる高次の明線に対応します。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で導いた一般式を、具体的な状況に適用する問題です。
「入射角 \(\alpha = \alpha’\) で入射し、同じ角度で反射した光」とは、(2)の式で \(\beta = \alpha = \alpha’\) とした場合です。このとき \(d(\sin\alpha’ – \sin\alpha’) = 0\) となり、\(m=0\) に対応します。これが「0次の明線」です。
「最も近い明線の回折光(1次)」とは、\(m=1\) の明線のことです。このときの回折角が \(\beta = \beta’\) と与えられています。
これらの情報を(2)の式に代入して、\(\alpha’\) と \(\beta’\) の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 0次の光の解釈: \(\beta = \alpha\) となる光は、経路差がゼロ(\(m=0\))の明線であり、これは鏡の反射と同じです。
- 1次の光の解釈: 0次の光に最も近い明線は、次数が \(m=1\) の明線です。
- 条件の代入: (2)の条件式に、\(\alpha = \alpha’\), \(\beta = \beta’\), \(m=1\) を代入します。
具体的な解説と立式
(2)で導いた回折格子の強め合いの条件式は、
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda \quad \cdots ① $$
です。
問題の条件をこの式に適用します。
- 入射角: \(\alpha = \alpha’\)
- 1次の明線の回折角: \(\beta = \beta’\)
- 次数: \(m=1\)
これらの条件を①式に代入します。
$$ d(\sin\beta’ – \sin\alpha’) = 1 \cdot \lambda $$
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件(問(2)の結果)
上記で立てた式を、\(\sin\beta’\) について解き、整理します。
$$
\begin{aligned}
d(\sin\beta’ – \sin\alpha’) &= \lambda \\[2.0ex]\sin\beta’ – \sin\alpha’ &= \frac{\lambda}{d} \\[2.0ex]\sin\beta’ &= \sin\alpha’ + \frac{\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
(2)で作った「回折格子で明るくなるためのルールブック(条件式)」に、今回の具体的なケースを当てはめます。今回のケースは「入射角が\(\alpha’\)で、次数が1番(\(m=1\))の明るい光の角度が\(\beta’\)」というものです。この情報をルールブックに書き込むだけで、求めたい関係式が得られます。
求める関係式は \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \displaystyle\frac{\lambda}{d}\) です。
この式は、1次の回折光の角度\(\beta’\)が、入射角\(\alpha’\)や波長\(\lambda\)、格子定数\(d\)にどのように依存するかを示しています。例えば、波長\(\lambda\)が長い光(赤い光)ほど、\(\sin\beta’\)が大きくなる、つまりより大きな角度で回折することがわかります。これは、回折格子が光を波長ごとに分ける(分光する)原理そのものを表しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 経路差の幾何学的導出:
- 核心: 回折格子やヤングの実験など、光の干渉を扱う問題の根幹は「経路差」の計算にあります。この問題では、隣り合う反射点からの光の経路差が \(\Delta L = d \sin\beta – d \sin\alpha\) となることを、図形(三角比)から導出できるかが最も重要です。
- 理解のポイント: 入射波面(AC)と回折波面(BD)を正しく作図し、それによって生まれる2つの直角三角形(\(\triangle ABC\) と \(\triangle ABD\))に着目することが、経路差を計算するための出発点です。
- 回折格子の強め合いの条件式:
- 核心: 上記で計算した経路差が、波長\(\lambda\)の整数倍になるときに光は強め合います。これが回折格子の基本公式 \(d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda\) です。
- 理解のポイント: この一つの式が、入射角\(\alpha\)、回折角\(\beta\)、波長\(\lambda\)、格子定数\(d\)、そして明線の次数\(m\)という、現象を特徴づけるすべての物理量を結びつけています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 透過型回折格子: この問題は反射型でしたが、光が透過するタイプの回折格子でも、経路差の考え方と最終的な条件式は全く同じです。
- 斜め入射のヤングの実験: 光源が正面ではなく斜めからスリットに入射する場合、スリットに到達する前の段階で既に光路差が生じます。これは本問の \(d \sin\alpha\) の項と全く同じ考え方で計算できます。全光路差は「入射時の光路差」と「スリット後の経路差」の和(または差)になります。
- X線の結晶回折(ブラッグの条件): 結晶格子面で反射されるX線の干渉を考えます。隣り合う格子面で反射した光の経路差を計算し、強め合いの条件を立てるという点で、本問と全く同じ思考プロセスをたどります。(ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\))
- 初見の問題での着眼点:
- 隣り合う波源を特定する: 干渉を考える基本は、2つの波源(この問題では反射点AとB)を特定することです。
- 波面を作図する: 入射光と回折光(または透過光)に対して、それぞれ垂直な「波面」を作図します。これが経路差を計算するための補助線となります。
- 直角三角形を探す: 波面によって作られた図形の中から、格子定数\(d\)を斜辺とする直角三角形を探し出します。
- 角度を慎重に特定する: 入射角や回折角と、直角三角形の角との関係を、錯角や同位角、垂線の性質を使って慎重に特定します。ここが最も間違いやすいポイントです。
- 経路差を計算し、干渉条件を立てる: 三角比を用いて経路差を計算し、強め合い(\(m\lambda\))または弱め合い(\((m+1/2)\lambda\))の条件式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の符号ミス:
- 誤解: 経路差を \(d(\sin\alpha + \sin\beta)\) のように、足し算にしてしまう。
- 対策: 図をよく見て、どちらの経路が長く、どちらが短いかを物理的に考えましょう。この問題では、Bの方が手前で入射光を受け取る(BCだけ得をする)代わりに、回折光は遠くまで進む(ADだけ損をする)ので、経路差は差 \(AD-BC\) となります。
- 角度の取り違え:
- 誤解: 図に示された\(\alpha\), \(\beta\)を、直角三角形のどの角に対応させるかを間違える。例えば、\(\sin\)と\(\cos\)を取り違えるなど。
- 対策: 必ず大きな図を自分で描き、法線、光の進行方向、格子面(線分AB)の関係を明確にしましょう。「法線と光線のなす角」が\(\alpha\), \(\beta\)であることを常に意識し、焦らずに三角形の角を求めましょう。
- 次数\(m\)の解釈ミス:
- 誤解: 0次、1次といった次数の意味が分からず、(3)でどの\(m\)を代入すればよいか混乱する。
- 対策: \(m=0\)は経路差がゼロの場合で、回折が起きない「直進」または「正反射」の光に対応すると覚えましょう。\(m=1\)がその隣に現れる最も明るい光、\(m=2\)がその次、となります。問題文の「最も近い明線」は\(m=1\)を指します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波面の行進イメージ: 平面波である入射光を、等間隔で平行な多数の線(波面)が格子の方向へ進んでくるイメージで捉えます。格子で反射された後、それぞれの点から球面波(素元波)が発生し、それらが干渉して特定の方向\(\beta\)に再び平面波(波面)を形成して進んでいく、というホイヘンスの原理をイメージすると、現象の全体像が掴みやすくなります。
- 経路差の図解: 図2のように、入射波面と回折波面を明確に描き、経路差となる部分(ADとBC)を色分けするなどしてハイライトすると、視覚的に理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 角度を正確に: 法線は格子面に対して垂直に描きます。入射角\(\alpha\)と回折角\(\beta\)は、必ず法線とのなす角として記入します。
- 波面は進行方向と垂直に: 入射波面ACは入射光と、回折波面BDは回折光と、それぞれ直角になるように描きます。この「垂直」という関係が、直角三角形を見つけるための鍵です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三角比 (\(\sin, \cos\)):
- 選定理由: (1)で、図形の中の辺の長さを、与えられた辺(格子定数\(d\))と角度(\(\alpha, \beta\))から求めるために必須の数学的ツールだから。
- 適用根拠: 直角三角形における辺と角の基本的な関係に基づいています。
- 強め合いの条件式 (\(\Delta L = m\lambda\)):
- 選定理由: (2)で、「明点」や「強め合う」という物理現象を、経路差\(\Delta L\)という量を用いて数式で表現するため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理から導かれる、干渉現象における最も基本的な法則です。位相が\(2\pi\)の整数倍ずれると、波は同相で重なり強め合います。これを経路長に換算したものが\(m\lambda\)です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 経路の長さの計算:
- 戦略: 図形から直角三角形を見つけ、三角比を適用する。
- フロー: ①入射波面と回折波面を作図し、直角三角形ABCとABDを特定 → ②三角形の角を\(\alpha, \beta\)で表現 → ③三角比を用いてBCとADを\(d, \alpha, \beta\)で表す。
- (2) 強め合いの条件式:
- 戦略: (1)の結果から経路差を計算し、強め合いの条件に当てはめる。
- フロー: ①経路差 \(\Delta L = AD – BC\) を計算 → ②(1)の結果を代入し、\(\Delta L = d(\sin\beta – \sin\alpha)\) を導出 → ③強め合いの条件 \(\Delta L = m\lambda\) と結びつける。
- (3) 1次の明線の関係式:
- 戦略: (2)の一般式に、問題で与えられた具体的な条件(次数、角度)を代入する。
- フロー: ①0次の光が\(m=0\)、1次の光が\(m=1\)に対応することを確認 → ②(2)の式に \(\alpha=\alpha’, \beta=\beta’, m=1\) を代入 → ③式を整理して結論を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題はすべて文字式なので、各文字が物理的に何を意味しているかを常に意識することが重要です。
- 三角関数の関係式を使いこなす: \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\) のような基本的な関係式は、角度の取り方によっては必要になる場合があります。正確に使いこなせるようにしておきましょう。
- 単位や次元の確認: 最終的に得られた式の次元が正しいかを確認する癖をつけると良いでしょう。例えば(3)の \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \lambda/d\) という式では、\(\sin\)は無次元、\(\lambda/d\)も(長さ/長さ)で無次元となり、次元的に整合性が取れています。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 条件式: もし\(\alpha=0\)(垂直入射)なら、式は \(d\sin\beta = m\lambda\) となります。これは透過型回折格子でよく見るおなじみの式であり、妥当です。また、もし\(\beta=\alpha\)なら、経路差は0となり、\(m=0\)の明線に対応します。これも反射の法則と一致しており、妥当です。
- (3) 関係式: 式 \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \lambda/d\) から、\(\lambda\)が大きい(赤い)光ほど、\(\sin\beta’\)が大きくなる、つまり回折角\(\beta’\)が大きくなることがわかります。これは、プリズムや回折格子が光をスペクトルに分ける際の基本的な性質(赤い光ほど大きく曲がる)と一致しており、物理的に正しい結果です。
301 回折格子
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、透過型の回折格子を題材に、まず基本的な干渉条件を確認し、次に格子を傾けた場合の経路差の変化と、それに伴う干渉条件の変化を考察する応用問題です。
この問題の核心は、図形的な関係から経路差を正確に計算する能力と、微小角の近似を用いて複雑な式を簡潔な物理的意味を持つ形に変形する能力にあります。
- 回折格子の格子定数: \(d\)
- 状況1(図1):
- 入射光の波長: \(\lambda\)
- 入射方法: 回折格子に垂直に入射
- 1次の回折光が観測される角度: \(\theta = \theta_1\)
- 状況2(図2):
- 入射光の波長: \(\lambda’\) (\(\lambda\)とわずかに異なる)
- 回折格子の傾き: \(\phi\)
- 1次の回折光が観測される角度: \(\theta = \theta_1\) (状況1と同じ)
- 近似: \(\sin\phi \approx \phi\), \(\cos\phi \approx 1\) (\(\phi\)は微小角)
- (1) 波長\(\lambda\)を、\(d\)と\(\theta_1\)を用いて表す。
- (2) 図2の状況における経路差 \(P’A + AQ’\) を、\(d\), \(\phi\), \(\theta_1\)を用いて表す。
- (3) 波長の差 \(\lambda’ – \lambda\) を、\(d\), \(\phi\), \(\theta_1\)を用いて表す。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「傾いた回折格子における干渉条件と近似計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回折格子の干渉条件: 隣り合うスリットを通過した光の経路差が波長の整数倍になるとき、光は強め合います。
- 幾何学と三角比: 図から経路差を計算するために、三角比を駆使する必要があります。特に、格子が傾いた場合の角度設定が重要になります。
- 近似式の利用: 微小角\(\phi\)に関する近似 (\(\sin\phi \approx \phi\), \(\cos\phi \approx 1\)) や、三角関数の加法定理を用いて、複雑な式を整理します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では図1の基本的な状況について、回折格子の強め合いの条件式を立て、1次の回折光の条件を適用して\(\lambda\)を求めます。
- 次に、(2)では図2の傾いた状況について、経路差を計算します。このとき、入射光側で生じる経路差(P’A)と、回折光側で生じる経路差(AQ’)をそれぞれ求め、それらを足し合わせます。
- 最後に、(3)では(2)で求めた経路差が、波長\(\lambda’\)の1次の回折光の条件を満たすことを用いて式を立てます。(1)の結果と連立させ、近似計算を適用して \(\lambda’ – \lambda\) を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
図1は、回折格子に光が垂直に入射する最も基本的な状況です。隣り合うスリットSとAを通過する光の経路差を考え、1次の明線の干渉条件を適用します。
この設問における重要なポイント
- 経路差の計算: 図1において、スリットSとAを通過した光が、角度\(\theta_1\)の方向に進むときの経路差は、Aから線分SQに下ろした垂線の長さAQに等しくなります。
- 強め合いの条件: 経路差が波長の整数倍 \(m\lambda\) で強め合います。
- 1次の回折光: \(m=1\) の場合を考えます。
具体的な解説と立式
図1において、隣り合うスリットSとAを考えます。入射光は格子に垂直なので、スリットSとAには同位相で光が到達します。
スリットを通過後、角度\(\theta_1\)の方向に進む光を考えます。スリットSを通過した光と、スリットAを通過した光の経路差 \(\Delta L\) は、図の直角三角形ASQにおいて、
$$ \Delta L = AQ $$
ここで、\(AS = d\) であり、\(\angle SAQ = \theta_1\) なので、
$$ AQ = AS \sin\theta_1 $$
したがって、経路差は
$$ \Delta L = d \sin\theta_1 $$
となります。
1次の回折光が強め合う条件は、この経路差が \(1 \cdot \lambda\) に等しいことです。
$$ d \sin\theta_1 = \lambda $$
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
上記で立てた式がそのまま求める答えとなります。
$$ \lambda = d \sin\theta_1 $$
回折格子にまっすぐ光を当てたとき、隣のスリットを通る光との間で、進む距離に差(経路差)が生まれます。この差がちょうど1波長分になると、波の山と山が重なり合って、1番目の明るい線(1次の回折光)が見えます。図から、この経路差は \(d \sin\theta_1\) と計算できるので、\(\lambda = d \sin\theta_1\) という関係が成り立ちます。
波長\(\lambda\)は \(d \sin\theta_1\) と表されます。これは垂直入射における回折格子の基本公式そのものであり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
図2のように回折格子を\(\phi\)だけ傾けた場合の経路差を求める問題です。この場合、入射光がスリットに到達する時点と、スリットを通過した後の両方で経路差が生じます。全経路差はこれらの和となります。
この設問における重要なポイント
- 入射側の経路差: 入射光は傾いた格子面に対して斜めに入射する形になります。スリットSとAに光が到達するまでには、\(P’A\)だけの経路差が生じます。
- 回折側の経路差: スリットSとAを通過した光が、角度\(\theta_1\)の方向に進む際には、\(AQ’\)だけの経路差が生じます。
- 全経路差: 求める経路差は、入射側と回折側の経路差の和 \(P’A + AQ’\) となります。
- 角度の決定: 図をよく見て、三角比を適用するための角度を正しく設定することが重要です。
具体的な解説と立式
図2において、全経路差 \(\Delta L’\) は、入射側の経路差と回折側の経路差の和で与えられます。
$$ \Delta L’ = P’A + AQ’ $$
それぞれの項を計算します。
- 入射側の経路差 P’A:
直角三角形AP’Sにおいて、\(\angle ASP’ = \phi\) です。したがって、
$$ P’A = AS \sin\phi $$
\(AS=d\)なので、
$$ P’A = d \sin\phi $$ - 回折側の経路差 AQ’:
直角三角形AQ’Sにおいて、回折光の方向と格子面の法線とのなす角を\(\alpha\)とすると、
$$ AQ’ = AS \sin\alpha $$
\(AS=d\)なので、
$$ AQ’ = d \sin\alpha $$
ここで、角度\(\alpha\)を\(\theta_1\)と\(\phi\)で表す必要があります。図2より、回折光の進行方向(水平)と、格子に垂直な線(法線)とのなす角が\(\alpha\)です。一方、回折格子の傾きが\(\phi\)で、観測方向の角度が\(\theta_1\)なので、図から
$$ \alpha + \phi = \theta_1 $$
という関係が読み取れます。よって、
$$ \alpha = \theta_1 – \phi $$
となります。これを代入すると、
$$ AQ’ = d \sin(\theta_1 – \phi) $$
以上から、全経路差は、
$$
\begin{aligned}
\Delta L’ &= P’A + AQ’ \\[2.0ex]&= d \sin\phi + d \sin(\theta_1 – \phi)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三角比
上記で立てた式がそのまま答えとなります。
$$ P’A + AQ’ = d \sin\phi + d \sin(\theta_1 – \phi) $$
格子を傾けると、光の進む距離の差は2段階で生じます。まず、光が格子にたどり着くまでに、手前のスリットAは奥のスリットSより \(P’A\) だけ余分に進む必要があります。次に、格子を通過した後、今度は奥のスリットSからの光が \(AQ’\) だけ余分に進みます。全体の経路差は、この2つの「おまけの距離」を足し合わせたものになります。
経路の差は \(d \sin\phi + d \sin(\theta_1 – \phi)\) となります。これは、入射角が\(\phi\)、回折角が\(\theta_1 – \phi\)の場合の回折格子の条件式 \(d(\sin(\text{入射角}) + \sin(\text{回折角}))\) と同じ形をしており、妥当な結果です。(注:この問題では角度の定義が通常と少し異なりますが、本質は同じです)
問(3)
思考の道筋とポイント
波長の差 \(\lambda’ – \lambda\) を求める問題です。図2の状況では、波長\(\lambda’\)の光が1次の回折光として角度\(\theta_1\)で観測されたので、(2)で求めた経路差が \(1 \cdot \lambda’\) に等しくなります。この関係式と、(1)で求めた\(\lambda\)の関係式を連立させ、近似式を適用して解きます。
この設問における重要なポイント
- 図2の干渉条件: \((\text{経路差}) = 1 \cdot \lambda’\) より、\(d \sin\phi + d \sin(\theta_1 – \phi) = \lambda’\)。
- 加法定理: \(\sin(\theta_1 – \phi)\) を展開するために、\(\sin(A-B) = \sin A \cos B – \cos A \sin B\) を用います。
- 近似計算: \(\sin\phi \approx \phi\), \(\cos\phi \approx 1\) を適用して式を簡略化します。
具体的な解説と立式
図2の状況における1次の明線の条件は、(2)の結果から、
$$ \lambda’ = d \sin\phi + d \sin(\theta_1 – \phi) \quad \cdots ② $$
です。
ここで、右辺に三角関数の加法定理と近似式を適用します。
まず、\(\sin(\theta_1 – \phi)\) を加法定理で展開します。
$$ \sin(\theta_1 – \phi) = \sin\theta_1 \cos\phi – \cos\theta_1 \sin\phi $$
次に、近似 \(\sin\phi \approx \phi\), \(\cos\phi \approx 1\) を適用します。
$$
\begin{aligned}
\sin(\theta_1 – \phi) &\approx \sin\theta_1 \cdot 1 – \cos\theta_1 \cdot \phi \\[2.0ex]&= \sin\theta_1 – \phi\cos\theta_1
\end{aligned}
$$
この結果と \(\sin\phi \approx \phi\) を、②式の右辺に代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &\approx d\phi + d(\sin\theta_1 – \phi\cos\theta_1) \\[2.0ex]&= d\phi + d\sin\theta_1 – d\phi\cos\theta_1
\end{aligned}
$$
一方、(1)より \(\lambda = d\sin\theta_1 \quad \cdots ①\) です。
求めるのは \(\lambda’ – \lambda\) なので、
$$ \lambda’ – \lambda \approx (d\phi + d\sin\theta_1 – d\phi\cos\theta_1) – d\sin\theta_1 $$
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件
- 三角関数の加法定理
- 微小角の近似
上記で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ – \lambda &\approx (d\phi + d\sin\theta_1 – d\phi\cos\theta_1) – d\sin\theta_1 \\[2.0ex]&= d\phi – d\phi\cos\theta_1 \\[2.0ex]&= d\phi(1 – \cos\theta_1)
\end{aligned}
$$
(2)で求めた傾いた格子の経路差の式は、新しい波長\(\lambda’\)での1次の明るい線の条件式です。この式は複雑なので、三角関数の加法定理と「角度\(\phi\)はとても小さい」という近似を使って、簡単な形にします。そうして得られた\(\lambda’\)の式から、(1)で求めた元の波長\(\lambda\)の式を引き算すると、波長の変化分が計算できます。
波長の差 \(\lambda’ – \lambda\) は \(d\phi(1 – \cos\theta_1)\) と表されます。
この結果は、格子の傾き\(\phi\)に比例して、観測できる波長が変化することを示しています。これは分光器などで、回折格子を回転させることで特定の波長の光を選択する原理に対応しており、物理的に妥当な結果です。また、\(\theta_1=0\) の場合(0次の光)は \(\cos\theta_1=1\) となり、波長の差はゼロになります。これは、0次の光は回折の影響を受けず、格子の傾きによらず直進するため、波長が変わらないと観測できないことを意味し、これもまた妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 傾いた回折格子における経路差の計算:
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、格子が傾いた場合に経路差が「入射側」と「回折側」の両方で生じ、全経路差がそれらの和になることを理解し、計算できることです。
- 理解のポイント: 全経路差 \(\Delta L’ = (\text{入射側の経路差}) + (\text{回折側の経路差}) = d\sin\phi + d\sin(\theta_1-\phi)\) という立式が(2)の鍵です。垂直入射の場合と異なり、入射時点でスリットに到達するタイミングがずれることを考慮する必要があります。
- 近似計算による物理的洞察:
- 核心: 複雑な三角関数の式を、加法定理と微小角近似を用いて単純な形 \(\lambda’ – \lambda \approx d\phi(1-\cos\theta_1)\) に変形することで、物理的な関係性(波長の変化と格子の傾きの関係)を明確にすることができます。
- 理解のポイント: 近似計算は単なる計算テクニックではなく、複雑な現象の中から本質的な関係を抜き出すための強力な物理的思考ツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分光器の分解能: この問題は、分光器がどれだけ近い波長の光を分離できるか(分解能)というテーマに直結します。格子をわずかに回転させることで、観測される波長がどれだけ変化するかを計算する問題は頻出です。
- レーダーのドップラー効果: 航空機や自動車の速度を測定するレーダーでは、対象物が動くことで反射波の経路長が時間変化し、周波数が変化します。格子が「傾く」ことを、対象物が「動く」ことによる経路長の変化と見なせば、思考のプロセスに共通点が見られます。
- 一般の斜め入射・斜め観測: 入射角\(\alpha\)、回折角\(\beta\)が任意の値をとる一般的な回折格子の問題は、本問(2)の考え方を一般化したものに他なりません。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準状態との比較: まず、(1)のような最も単純な状況(垂直入射など)での条件式を確立します。
- 変化した要素を特定する: 次に、状況がどのように変化したか(格子が傾いた、波長が変わったなど)を正確に把握します。
- 経路差の変化を追跡する: 状況の変化が、経路差にどのような影響を与えるかを、図を描いて幾何学的に追跡します。特に、入射側と回折側の両方に注意を払います。
- 近似のタイミングを見極める: 式が複雑になったら、問題文に与えられた近似条件が使えないか検討します。特に、三角関数を含む式は、加法定理で展開した後に近似を適用することが多いです。
- 差分を計算する: \(\lambda’ – \lambda\) のように、変化量を問われた場合は、変化後の式から基準状態の式を引き算することで、変化分だけをきれいに取り出すことができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の計算で片側しか考えない:
- 誤解: 格子が傾いた場合でも、(1)と同様に回折側だけの経路差 \(d\sin\theta_1\) しか考えない。
- 対策: 必ず図を描き、入射光が各スリットに到達するタイミングが同じかどうかを確認しましょう。格子が傾いている場合、入射光は各スリットに異なるタイミングで到達するため、入射側の経路差も必ず考慮に入れる必要があります。
- 角度設定の間違い:
- 誤解: (2)の回折側の経路差を計算する際に、角度を\(\theta_1\)のままにしてしまい、\(AQ’ = d\sin\theta_1\)と誤って計算する。
- 対策: 格子が\(\phi\)傾いたことで、回折光と「格子面に垂直な法線」とのなす角が \(\theta_1 – \phi\) に変化することを図から正確に読み取ることが重要です。常に「どの線とどの線のなす角か」を明確に意識しましょう。
- 近似計算の順序ミス:
- 誤解: \(\sin(\theta_1 – \phi)\) に対して、先に \(\phi \approx 0\) として \(\sin\theta_1\) と近似してしまう。
- 対策: 近似は式の最終段階で行うのが原則です。\(\phi\)は小さいですがゼロではありません。先に加法定理で展開し、\(\sin\phi\)と\(\cos\phi\)の項を作り出してから、それぞれを\(\phi\)と1で近似するのが正しい手順です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 格子の回転と光の経路: 格子を回転させる様子を頭の中でシミュレーションしてみましょう。回転させると、入射光がスリットAに到達するまでの距離と、スリットSに到達するまでの距離に差が生まれることが直感的にわかります。これがP’Aです。同様に、出口側でも角度の関係が変わり、AQ’も変化します。
- 近似のイメージ: \(\lambda’ – \lambda = d\phi(1-\cos\theta_1)\) という結果は、「波長の変化量」が「格子の回転角\(\phi\)」に比例することを示しています。これは、分光器のダイヤル(格子の回転角)を少し回すと、見える色(波長)が連続的に少しだけ変わる、という実際の操作と一致するイメージです。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 基準線(水平・垂直)を引く: 図2のように、元の水平な光の進行方向や、傾く前の格子の向きなどを点線で描いておくと、角度の関係が把握しやすくなります。
- 角度を分解して記入する: \(\theta_1\) が \(\alpha\) と \(\phi\) の和になっているなど、角度の関係を図に明確に書き込むことで、立式ミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 回折格子の条件式 (\(d\sin\theta = m\lambda\)):
- 選定理由: (1)の垂直入射という最も基本的な状況における、回折光の干渉条件を記述するため。
- 適用根拠: ホイヘンスの原理と波の重ね合わせの原理から導かれる、波動光学の基本法則です。
- 三角関数の加法定理:
- 選定理由: (3)で、\(\sin(\theta_1 – \phi)\) という、角度の差を含む項を、\(\theta_1\)と\(\phi\)それぞれの三角関数の項に分解し、近似計算を適用できる形にするため。
- 適用根拠: 三角関数の性質に関する数学的な公式であり、物理法則ではありませんが、物理的な関係式を解析するための強力な数学的ツールです。
- 微小角の近似 (\(\sin\phi \approx \phi, \cos\phi \approx 1\)):
- 選定理由: (3)で、\(\phi\)がわずかであるという条件の下で、複雑な三角関数の式を単純な多項式(1次式)に変換し、見通しの良い結果を得るため。
- 適用根拠: 三角関数のテイラー展開(マクローリン展開)の最初の数項をとったものであり、角度が十分に小さい場合に非常に良い精度で成り立ちます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 基準状態の式の導出:
- 戦略: 垂直入射の基本公式を適用する。
- フロー: ①図1から経路差 \(\Delta L = d\sin\theta_1\) を求める → ②1次の明線の条件 \(\Delta L = \lambda\) を適用し、\(\lambda = d\sin\theta_1\) を得る。
- (2) 傾いた状態での経路差の計算:
- 戦略: 入射側と回折側の経路差をそれぞれ計算し、足し合わせる。
- フロー: ①入射側の経路差 \(P’A = d\sin\phi\) を計算 → ②回折側の角度 \(\alpha = \theta_1 – \phi\) を特定 → ③回折側の経路差 \(AQ’ = d\sin(\theta_1 – \phi)\) を計算 → ④両者を足し合わせる。
- (3) 波長差の計算:
- 戦略: (2)の結果に干渉条件と近似を適用し、(1)の結果との差をとる。
- フロー: ①(2)の経路差に1次の明線条件を適用し \(\lambda’ = d\sin\phi + d\sin(\theta_1 – \phi)\) を立式 → ②加法定理で \(\sin(\theta_1 – \phi)\) を展開 → ③微小角近似を適用して\(\lambda’\)の近似式を導出 → ④(1)で求めた\(\lambda\)を引いて \(\lambda’ – \lambda\) を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似は最後に行う: 計算の途中で安易に近似を行うと、重要な項が消えてしまうことがあります。できるだけ式の整理が進んでから、最終段階で近似を適用するのが安全です。
- 項を注意深く扱う: (3)の計算では、\(d\phi\) や \(d\sin\theta_1\) といった項が出てきます。引き算をする際に、どの項が残ってどの項が消えるのかを、慎重に確認しながら計算を進めましょう。
- 結果の物理的意味を考える: \(d\phi(1-\cos\theta_1)\) という結果を見て、各要素(\(d, \phi, \theta_1\))が大きくなると波長差はどうなるかを考えてみましょう。例えば、\(\theta_1\)が大きいほど \(1-\cos\theta_1\) も大きくなるので、高次の回折光ほど、格子の傾きに対する波長の変化が敏感になることがわかります。こうした吟味は、計算ミス発見の助けになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 極端な場合を考える(極限テスト):
- もし格子の傾き\(\phi\)がゼロなら、\(\lambda’ – \lambda = 0\) となり、波長を変えない限り同じ角度では観測できない、という当然の結果に帰着します。
- もし観測角度\(\theta_1\)がゼロなら(0次の光)、\(\cos\theta_1=1\) なので \(\lambda’ – \lambda = 0\) となります。これは、0次の光は回折の影響を受けないため、格子を傾けても波長を変えなければ観測できないことを意味し、物理的に正しいです。
- 別解との比較: この問題は幾何学的に解くのが主ですが、例えば(2)の経路差をベクトルの内積などを使って表現することも可能です(大学レベル)。異なるアプローチでも同じ結果になることを確認するのは、理解を深める上で有効です。
302 ロイドの鏡
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は「ロイドの鏡」と呼ばれる配置による光の干渉を扱います。スリットSからの直接光と、平面鏡Mで反射した光が干渉する現象です。ヤングの実験と類似していますが、反射による位相の変化を考慮する点が重要です。
この問題の核心は、鏡による反射光を、鏡に対して対称な位置にある仮想的な光源S’から出た光とみなして、ヤングの実験と同様に経路差を計算すること、そして反射時の位相変化を干渉条件に正しく組み込むことです。
- スリットSとスクリーンの距離: \(L\) [m]
- スリットSと平面鏡Mの距離: \(d\) [m]
- スクリーン上の座標: \(OP = x\) [m]
- 光の波長: \(\lambda\) [m]
- 近似条件: \(d \ll x \ll L\)
- 近似式: \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \displaystyle\frac{y}{2}\) (\(|y| \ll 1\))
- 反射による位相変化: \(\pi\) ずれる(固定端反射)
- 明線の次数: \(m = 0, 1, 2, \dots\)
- (1) 直接光と反射光の経路差を、\(d, L, x\) を用いて表す。
- (2) 点Pが明線になる条件を、\(d, L, \lambda, m, x\) を用いて表す。
- (3) 具体的な数値が与えられたときの、明線の間隔。
- (4) 干渉縞が現れる範囲の図示。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ロイドの鏡による干渉と位相変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仮想光源: 平面鏡による反射光は、鏡面に対して対称な位置にある「仮想光源」から出た光とみなすことができます。これにより、問題を2つの波源による干渉(ヤングの実験)として扱うことができます。
- 経路差の近似計算: 2つの波源(実光源Sと仮想光源S’)からスクリーン上の点Pまでの経路差を、問題で与えられた近似式を用いて計算します。
- 反射による位相変化: 固定端反射では位相が\(\pi\)ずれます。これは、経路差が \(\lambda/2\) だけ変化したのと同じ効果をもたらします。この「位相変化分」を干渉条件に加味する必要があります。
- 干渉縞の範囲: 干渉が起こるためには、直接光と反射光の両方がスクリーンに到達する必要があります。反射光が到達する範囲は、幾何学的に決まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では、仮想光源S’を設定し、S’からPまでの距離とSからPまでの距離の差(経路差)を、近似式を用いて計算します。
- 次に、(2)では、(1)で求めた経路差に、反射による位相変化(\(\lambda/2\)の経路差に相当)を考慮して、明線の条件式を立てます。
- (3)では、(2)の条件式から明線の位置\(x\)を\(m\)の関数として表し、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
- 最後に、(4)では、反射光がスクリーンに到達できる範囲を、仮想光源S’と鏡の端点を結ぶ直線から幾何学的に求め、図示します。
問(1)
思考の道筋とポイント
直接光(S→P)と反射光(S→R→P)の経路差を求めます。反射光は、鏡面(軸OO’)に対してSと対称な位置にある仮想光源S’から出た光(S’→P)とみなせます。したがって、求める経路差は \(S’P – SP\) となります。これは、スリット間隔が \(2d\) のヤングの実験と等価です。
この設問における重要なポイント
- 仮想光源S’の設定: 鏡面に対してSと対称な位置にS’を置きます。S’の座標は\((-d, 0)\)となります(Sの座標を\((d, 0)\)とした場合)。
- 経路長の計算: 三平方の定理を用いて、SPとS’Pの長さを\(L, d, x\)で表します。
- 近似式の適用: 問題文で与えられた近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{y}{2}\) を用いて、平方根を含む式を一次式に近似します。
具体的な解説と立式
スクリーン上の点Pの座標を\((L, x)\)、スリットSの座標を\((0, d)\)とします。
軸OO’は\(y=0\)の直線なので、仮想光源S’の座標は\((0, -d)\)となります。
- 直接光の経路長 SP:
三平方の定理より、
$$ SP = \sqrt{L^2 + (x-d)^2} $$ - 反射光の経路長 S’P:
三平方の定理より、
$$ S’P = \sqrt{L^2 + (x-(-d))^2} = \sqrt{L^2 + (x+d)^2} $$
これらの式に近似を適用します。
$$
\begin{aligned}
SP &= \sqrt{L^2 + (x-d)^2} = L \sqrt{1 + \frac{(x-d)^2}{L^2}} \\[2.0ex]&\approx L \left( 1 + \frac{(x-d)^2}{2L^2} \right)
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
S’P &= \sqrt{L^2 + (x+d)^2} = L \sqrt{1 + \frac{(x+d)^2}{L^2}} \\[2.0ex]&\approx L \left( 1 + \frac{(x+d)^2}{2L^2} \right)
\end{aligned}
$$
求める経路差は \(S’P – SP\) なので、
$$ \Delta L = S’P – SP \approx L \left( 1 + \frac{(x+d)^2}{2L^2} \right) – L \left( 1 + \frac{(x-d)^2}{2L^2} \right) $$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{y}{2}\)
上記で立てた経路差の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\Delta L &\approx L \left( 1 + \frac{(x+d)^2}{2L^2} \right) – L \left( 1 + \frac{(x-d)^2}{2L^2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{(x+d)^2}{2L} – \frac{(x-d)^2}{2L} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2L} \{ (x^2 + 2xd + d^2) – (x^2 – 2xd + d^2) \} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2L} (4xd) \\[2.0ex]&= \frac{2xd}{L}
\end{aligned}
$$
鏡に映った光源を、鏡の向こう側の同じ距離にある「もう一つの光源(仮想光源)」と考えます。すると、この問題は「間隔が\(2d\)の2つの光源(SとS’)による干渉問題」と同じになります。ヤングの実験でおなじみの経路差の公式 \(\frac{dx}{L}\) の \(d\) を \(2d\) に置き換えることで、経路差は \(\frac{2xd}{L}\) となります。
経路差は \(\displaystyle\frac{2xd}{L}\) です。これは、スリット間隔が\(2d\)のヤングの実験における経路差の公式と一致しており、仮想光源の考え方が正しいことを裏付けています。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Pが明線になる条件を求めます。通常のヤングの実験では、明線の条件は「経路差 = \(m\lambda\)」ですが、この問題では鏡Mでの反射時に位相が\(\pi\)ずれる(固定端反射)という条件があります。この位相のずれを考慮する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 位相\(\pi\)のずれの効果: 位相が\(\pi\)ずれることは、波の山が谷に、谷が山になることを意味します。これは、経路が半波長\(\lambda/2\)だけ変化するのと同じ効果を持ちます。
- 明線の条件の修正: 位相が\(\pi\)ずれるため、強め合う条件(明線)と弱め合う条件(暗線)が逆転します。したがって、明線の条件は、通常の弱め合いの条件と同じになります。
「経路差 = \((m + 1/2)\lambda\)」
具体的な解説と立式
(1)で求めた経路差は \(\Delta L = \displaystyle\frac{2xd}{L}\) です。
鏡Mでの反射により、反射光の位相は\(\pi\)ずれます。このため、干渉条件が通常と逆転します。
- 通常の強め合い(明線)条件: 経路差 = \(m\lambda\)
- 通常の弱め合い(暗線)条件: 経路差 = \((m + 1/2)\lambda\)
ロイドの鏡では、位相が\(\pi\)ずれるため、
- 明線条件: 経路差 = \((m + 1/2)\lambda\)
- 暗線条件: 経路差 = \(m\lambda\)
となります。
したがって、点Pが明線になる条件は、
$$ \frac{2xd}{L} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
使用した物理公式
- 光の干渉条件(固定端反射あり)
上記で立てた式がそのまま答えとなります。
$$ \frac{2xd}{L} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
鏡での反射は、いわば光が「ひっくり返る(山が谷になる)」現象です。そのため、普通なら山と山が重なって明るくなるはずの場所(経路差が波長の整数倍)で、山と谷が重なって暗くなります。逆に、普通なら山と谷が重なって暗くなるはずの場所(経路差が波長の半整数倍)で、山とひっくり返った谷(=山)が重なって明るくなります。
明線の条件式は \(\displaystyle\frac{2xd}{L} = (m + \frac{1}{2})\lambda\) です。特に、スクリーン中心の \(x=0\) の点では、経路差はゼロですが、反射による位相のずれがあるため、必ず暗線となります。これはロイドの鏡の大きな特徴です。
問(3)
思考の道筋とポイント
明線の間隔\(\Delta x\)を求めます。まず(2)で立てた条件式を\(x\)について解き、\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)を求めます。次に、隣り合う\((m+1)\)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)を求め、その差 \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 明線の位置\(x_m\)の導出: (2)の式を\(x\)について解きます。
- 明線の間隔\(\Delta x\)の計算: \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)。
具体的な解説と立式
(2)で求めた明線の条件式から、\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)を求めます。
$$ \frac{2x_m d}{L} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
これを\(x_m\)について解くと、
$$ x_m = \frac{L\lambda}{2d}\left(m + \frac{1}{2}\right) $$
同様に、\((m+1)\)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)は、
$$ x_{m+1} = \frac{L\lambda}{2d}\left((m+1) + \frac{1}{2}\right) $$
明線の間隔\(\Delta x\)は、これらの差です。
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m $$
使用した物理公式
- 問(2)で導出した明線の条件式
上記で立てた\(\Delta x\)の式を計算し、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2d}\left(m+1 + \frac{1}{2}\right) – \frac{L\lambda}{2d}\left(m + \frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2d} \left\{ \left(m+1 + \frac{1}{2}\right) – \left(m + \frac{1}{2}\right) \right\} \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2d}
\end{aligned}
$$
与えられた数値を代入します。単位に注意してください(\(d\)はmm)。
\(d = 0.20 \text{ mm} = 0.20 \times 10^{-3} \text{ m}\)
\(L = 3.0 \text{ m}\)
\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \text{ m}\)
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{3.0 \times (6.0 \times 10^{-7})}{2 \times (0.20 \times 10^{-3})} \\[2.0ex]&= \frac{18 \times 10^{-7}}{0.40 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= \frac{18}{0.4} \times 10^{-4} \\[2.0ex]&= 45 \times 10^{-4} \\[2.0ex]&= 4.5 \times 10^{-3} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
明線は等間隔に並ぶので、隣り合う明線の位置の差を計算すれば、その間隔がわかります。(2)の式から、\(m\)番目の明線の位置と、その隣の\((m+1)\)番目の明線の位置を計算し、引き算をします。
明線の間隔は \(4.5 \times 10^{-3} \text{ m}\) (4.5 mm) です。ヤングの実験では明暗の間隔は \(\frac{L\lambda}{d}\) ですが、ロイドの鏡では仮想光源との距離が\(2d\)になるため、間隔は \(\frac{L\lambda}{2d}\) となり、ヤングの実験の半分の間隔になります。
問(4)
思考の道筋とポイント
干渉縞が現れる範囲を図示する問題です。干渉が起こるためには、直接光と反射光の両方がスクリーン上の同じ場所に到達する必要があります。直接光はスクリーン全体を照らすと考えられますが、反射光は鏡Mが存在する範囲でしか作られません。したがって、反射光がスクリーンに到達できる範囲が、そのまま干渉縞の現れる範囲となります。
この設問における重要なポイント
- 干渉の条件: 直接光と反射光が重なり合う領域。
- 反射光の到達範囲: 反射光は、仮想光源S’から出て、鏡Mを「窓」として通過する光とみなせます。この光がスクリーンに到達する範囲を考えます。
- 幾何学的な作図: 仮想光源S’と、鏡の両端\(M_1\)、\(M_2\)をそれぞれ結ぶ直線を描き、それらがスクリーンと交わる点\(P_2\)、\(P_1\)を求めることで、干渉縞が現れる範囲が決定されます。
具体的な解説と立式
干渉縞が現れるのは、スリットSからの直接光と、鏡Mで反射した光が重なる領域です。
反射光は、仮想光源S’から鏡Mを通してスクリーンに向かう光と考えることができます。模範解答の図に示されているように、鏡の範囲は\(M_1\)から\(M_2\)までなので、反射光がスクリーンに到達する範囲は、この「窓」を通して見える範囲に限られます。
- 範囲の下限: 仮想光源S’と鏡の下端\(M_1\)を結ぶ直線がスクリーンと交わる点\(P_2\)が、干渉縞が現れる範囲の下限となります。
- 範囲の上限: 仮想光源S’と鏡の上端\(M_2\)を結ぶ直線がスクリーンと交わる点\(P_1\)が、干渉縞が現れる範囲の上限となります。
したがって、干渉縞はスクリーン上の\(P_1\)と\(P_2\)の間に現れます。
模範解答に示されている図は、この幾何学的な関係を正しく図示したものです。仮想光源S’から出た光が、鏡\(M_1\)と\(M_2\)の間を通過してスクリーン上の\(P_1\)と\(P_2\)の間に到達する様子が描かれています。
干渉縞が見えるのは、直接届く光と鏡で反射した光の両方がやってくる場所だけです。反射した光は、鏡を「窓」として通り抜けてくる仮想的な光源S’からの光と考えることができます。そのため、干渉縞が見える範囲は、ちょうどS’からこの「窓(鏡\(M_1M_2\))」を覗いたときに見えるスクリーンの範囲(\(P_1P_2\)の間)と一致します。
干渉縞は、仮想光源S’から鏡M(\(M_1\)から\(M_2\)の範囲)を通して見える領域、すなわちスクリーン上の点\(P_1\)と\(P_2\)の間に現れます。この範囲の外側では、反射光が到達しないため、干渉は起こりません。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仮想光源の利用:
- 核心: 平面鏡による反射の問題は、鏡を挟んで対称な位置に「仮想光源」を置くことで、2つの点光源からの光の干渉問題(ヤングの実験と類似)に置き換えて考えることができます。この問題では、光源Sと鏡の距離が\(d\)なので、仮想光源S’とSの距離は\(2d\)となります。これが経路差の計算の出発点です。
- 理解のポイント: 反射という複雑な現象を、直進する光の干渉という単純なモデルに変換する、非常に強力な思考ツールです。
- 反射による位相変化の考慮:
- 核心: 固定端反射(屈折率の大きい媒質との境界での反射)では、光の位相が\(\pi\)(180°)ずれます。この効果は、干渉条件を考える上で、経路差が\(\lambda/2\)だけ余分に加わったことと等価です。
- 理解のポイント: この位相のずれにより、通常のヤングの実験とは明暗の条件が逆転します。
- ロイドの鏡の明線条件: 経路差 = \((m + 1/2)\lambda\)
- ロイドの鏡の暗線条件: 経路差 = \(m\lambda\)
- この結果、経路差がゼロとなるスクリーン中心(\(x=0\))は必ず暗線になります。これはロイドの鏡の最大の特徴です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ヤングの実験: この問題は、スリット間隔を\(2d\)とし、明暗の条件を逆転させたヤングの実験と数学的に等価です。両者の違い(仮想光源、位相変化)を意識することで、理解が深まります。
- 薄膜干渉(ニュートンリング、くさび形空気層): 薄膜の表面での反射(自由端反射、位相変化なし)と、裏面での反射(固定端反射、位相変化\(\pi\))の干渉を考えます。片方の光だけ位相が\(\pi\)ずれるという点で、ロイドの鏡と共通しています。
- 電波の干渉: 地上のアンテナからの直接波と、地面や海面で反射した反射波の干渉を考える問題も、ロイドの鏡と全く同じモデルで解析できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 反射の有無を確認する: 問題設定に鏡や媒質の境界が含まれているかを確認します。
- 位相変化の有無を判断する: 反射がある場合、それが固定端反射(位相が\(\pi\)ずれる)か、自由端反射(位相変化なし)かを見極めます。問題文に指示がある場合が多いですが、なければ「屈折率 小→大」の境界で固定端反射が起こると判断します。
- 仮想光源を設定する: 平面鏡があれば、迷わず仮想光源を設定し、2点光源の問題に変換します。
- 経路差を計算する: 2つの光源(実光源と仮想光源)からスクリーン上の点までの経路差を、近似式を用いて計算します。
- 全光路差(実効的な経路差)を考える: 計算した経路差に、位相変化による\(\lambda/2\)のずれを加味して、最終的な干渉条件を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射による位相変化の無視:
- 誤解: ヤングの実験と同じように考え、明線の条件を「経路差 = \(m\lambda\)」としてしまう。
- 対策: 問題文の「Mでの反射で光の位相は\(\pi\)ずれる」という記述を見落とさないことが最も重要です。「反射」というキーワードを見たら、位相変化の可能性を常に疑う習慣をつけましょう。
- スリット間隔の誤認:
- 誤解: ヤングの実験の公式 \(\Delta x = \frac{L\lambda}{d}\) をそのまま使い、スリット間隔として\(d\)を代入してしまう。
- 対策: 仮想光源S’と実光源Sの距離は\(2d\)です。したがって、ヤングの実験に例えるなら、スリット間隔は\(2d\)に相当します。公式を丸暗記するのではなく、必ず図を描いて、干渉する2つの波源の間の距離がいくつかを確認しましょう。
- 干渉範囲の誤解:
- 誤解: 干渉縞はスクリーン全体に現れると考えてしまう。
- 対策: 干渉が起こるには、両方の光が到達する必要があります。反射光は鏡がなければ存在し得ないので、「鏡を通して見える範囲」にしか干渉縞は現れません。仮想光源と鏡の端点を結ぶ作図によって、この範囲を決定します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 鏡の向こうの世界: 鏡を「別世界への窓」とイメージします。鏡の向こう側には、我々の世界とそっくりな「仮想世界」があり、そこには仮想光源S’が存在します。反射光は、この仮想世界のS’から窓(鏡)を通って我々の世界にやってきた光だと考えると、経路の作図が容易になります。
- 波の反転イメージ: 固定端反射による位相\(\pi\)のずれは、ロープの端を壁に固定して揺らしたときに、波が上下反転して返ってくる様子と全く同じです。この「反転」のイメージを持っておくと、明暗が逆転する理由が直感的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 仮想光源を明確に描く: 実光源Sと鏡面に対して対称な位置に、S’を点線などで区別して描きます。
- 光の経路を区別する: 直接光(S→P)を実線で、反射光に対応する仮想光(S’→P)を点線で描くと、2つの経路が明確になり、経路差の計算がしやすくなります。
- 干渉範囲の作図: (4)では、仮想光源S’と鏡の端点を結ぶ直線をスクリーンまで延長し、その領域を斜線などで示すと、解答が明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{y}{2}\):
- 選定理由: (1)で、三平方の定理から導かれる平方根を含む経路長の式を、扱いやすい一次式に変換するため。
- 適用根拠: \(y\)が1に比べて非常に小さい(この問題では \(d, x \ll L\))という条件下で成り立つ、二項近似の特殊な場合です。波動光学の経路差計算では頻繁に用いられます。
- 明線の条件 \(\Delta L = (m+1/2)\lambda\)**:
- 選定理由: (2)で、反射による位相\(\pi\)のずれを考慮した上で、光が強め合う条件を記述するため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理に基づきます。一方の波の位相が\(\pi\)ずれる(山と谷が入れ替わる)と、強め合うためには、もう一方の波が経路差によってさらに位相を\(\pi\)ずらす必要があります。位相\(\pi\)のずれは経路差\(\lambda/2\)に相当するため、全体の経路差が\(\lambda/2\)の奇数倍、すなわち\((m+1/2)\lambda\)となることが条件になります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 経路差の計算:
- 戦略: 仮想光源を設定し、ヤングの実験(スリット間隔\(2d\))として経路差を計算する。
- フロー: ①仮想光源S’を設定 → ②SPとS’Pを三平方の定理で立式 → ③近似式を適用して平方根を外す → ④差 \(S’P – SP\) を計算し、\(\frac{2xd}{L}\) を導出。
- (2) 明線条件の立式:
- 戦略: (1)の経路差に、反射による位相\(\pi\)のずれ(\(\lambda/2\)相当)を考慮して強め合いの条件を立てる。
- フロー: ①反射で位相が\(\pi\)ずれるため、明暗が逆転することを確認 → ②明線の条件は「経路差 = \((m+1/2)\lambda\)」となることを理解 → ③(1)の結果を代入する。
- (3) 明線間隔の計算:
- 戦略: (2)の条件式から\(m\)番目と\((m+1)\)番目の明線の位置を求め、差をとる。
- フロー: ①(2)の式を\(x\)について解き、\(x_m\)を求める → ②\(m\)を\(m+1\)に置き換えて\(x_{m+1}\)を求める → ③\(\Delta x = x_{m+1} – x_m\) を計算 → ④数値を代入する。
- (4) 干渉範囲の図示:
- 戦略: 反射光が到達する範囲を幾何学的に作図する。
- フロー: ①仮想光源S’と鏡の端点を結ぶ直線を引く → ②その直線がスクリーンと交わる範囲が、干渉縞の現れる範囲となる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の換算を忘れない: (3)の計算では、\(d\)が[mm]で与えられています。これを[m]に換算 (\(0.20 \times 10^{-3}\) m) することを忘れないようにしましょう。物理計算では、基本単位(MKSA単位系)に統一するのが鉄則です。
- 近似計算の展開を丁寧に: (1)の計算で、\((x+d)^2 – (x-d)^2\) の展開を焦って間違えないようにしましょう。符号ミスが起こりやすい箇所です。
- 結果の比較: (3)で得られた明線間隔 \(\Delta x = \frac{L\lambda}{2d}\) は、ヤングの実験の \(\frac{L\lambda}{d}\) のちょうど半分です。この関係性を知っておくと、計算結果の妥当性を確認するのに役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 中心の縞の確認: \(x=0\) のとき、経路差はゼロです。しかし、反射による位相のずれがあるため、Sからの直接光(山)とS’からの仮想光(谷)が重なり、暗線となります。これは物理的に正しいです。もし計算結果が「\(x=0\)で明線」となったら、どこかで位相変化の考慮を間違えたと気づくことができます。
- パラメータ依存性の確認: 明線間隔 \(\Delta x = \frac{L\lambda}{2d}\) は、\(L\)や\(\lambda\)が大きいほど、また\(d\)が小さいほど広くなることを示しています。これは、スクリーンが遠いほど、波長が長いほど、また光源と鏡が近いほど、干渉縞が大柄になるという直感と一致しており、妥当です。
303 マイケルソン干渉計
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、マイケルソン干渉計の原理を扱っています。光源からの光を半透明鏡で2つに分け、異なる経路を通らせた後、再び合成して干渉させる装置です。一方の経路の長さを変えることで、干渉縞が変化する様子を考察します。
この問題の核心は、鏡の移動距離と、それによって生じる光路差の関係を正しく理解すること、そして光路長の概念を液体中の場合に適用することです。
- 装置は真空中に置かれている。
- 光源の波長: \(\lambda\) [m]
- 半透明鏡H、鏡A、鏡B、検出器Dで構成される。
- 光の経路:
- 経路1: O→A→O→D
- 経路2: O→B→O→D
- 初期状態の距離: \(OA = OB = L\) [m]
- (2) 鏡Aの移動距離: \(1.0 \times 10^{-5}\) [m]
- (2) 明暗の繰り返し回数: 40回
- (3) 液体の屈折率: \(n=1.4\)
- (1) 鏡Aをx軸の負の向きに\(\Delta x\) [m]だけ移動させたときの、2つの光の光路差。
- (2) 鏡Aを移動させて明暗が40回変化したときの、光の波長\(\lambda\)の値。
- (3) 装置全体を屈折率1.4の液体で満たし、同じ操作をした場合、明暗の回数は40回より増加するか、減少するか、またその理由。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「マイケルソン干渉計における光路差と光路長」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差: 2つの異なる経路を進む光の、進んだ距離の差。マイケルソン干渉計では、鏡を動かすことでこの光路差を変化させます。
- 干渉条件: 光路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))で強め合い(明)、半整数倍(\((m+1/2)\lambda\))で弱め合い(暗)となります。
- 明暗の変化: 鏡を動かして光路差を\(\lambda\)だけ変化させるごとに、明暗の状態が1サイクル(明→暗→明)変化します。
- 光路長: 屈折率\(n\)の媒質中では、幾何学的な距離に\(n\)を掛けたものが光路長(光学距離)となり、干渉条件を考える上での実質的な距離となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では、鏡Aを\(\Delta x\)動かしたときに、経路1の光がどれだけ余分に進むかを考えます。光は往復するので、移動距離の2倍が経路差になることに注意します。
- 次に、(2)では、明暗が1回変化するごとに光路差が\(\lambda\)変化することを利用します。40回変化したときの全光路差の変化量と、そのときの鏡の移動距離から、波長\(\lambda\)を計算します。
- 最後に、(3)では、装置を液体で満たした場合の光路差を考えます。真空中の経路差に屈折率\(n\)を掛けることで、液体中の光路差(光路長差)が得られます。この新しい光路差と波長\(\lambda\)の関係から、明暗の変化回数を計算し、元の回数と比較します。
問(1)
思考の道筋とポイント
鏡Aをx軸の負の向き(光源S側)に\(\Delta x\)だけ移動させたときの光路差を求めます。光路差は、経路1(O→A→O→D)と経路2(O→B→O→D)の長さの差です。鏡Bは動かないので、経路2の長さは変化しません。経路1の長さがどれだけ変化するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 光の往復運動: 経路1の光は、半透明鏡Oから鏡Aまで進み、反射して再びOに戻ってきます。つまり、OとAの間を往復します。
- 経路長の変化: 鏡Aを\(\Delta x\)だけOに近づけると、OからAまでの片道の距離が\(\Delta x\)短くなります。光は往復するので、経路1全体の長さは \(2\Delta x\) だけ短くなります。
- 光路差の定義: 光路差は、変化後の経路1の長さと、変化しない経路2の長さの差です。初期状態で両経路の長さは等しかったので、光路差は経路1の長さの変化量に等しくなります。
具体的な解説と立式
初期状態では、\(OA = OB = L\)なので、2つの経路の長さに差はなく、光路差はゼロです。
鏡Aをx軸の負の向きに\(\Delta x\)だけ移動させると、OA間の距離は \(L – \Delta x\) になります。
- 経路1の長さ: 光はO→A→Oと往復するので、この部分の長さは \(2(L – \Delta x)\) となります。
- 経路2の長さ: 鏡Bは動かないので、O→B→Oの往復部分の長さは \(2L\) のままです。
したがって、2つの経路の光路差 \(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = (\text{経路2の長さ}) – (\text{経路1の長さ}) $$
$$ \Delta L = 2L – 2(L – \Delta x) $$
となります。
使用した物理公式
- 光路差の定義
上記で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta L &= 2L – 2(L – \Delta x) \\[2.0ex]&= 2L – 2L + 2\Delta x \\[2.0ex]&= 2\Delta x
\end{aligned}
$$
鏡Aを\(\Delta x\)だけ動かすと、そこに向かう光(行き)と、そこから反射してくる光(帰り)の両方の道のりが\(\Delta x\)ずつ変化します。したがって、Aを通る光の全経路長は、合計で \(2\Delta x\) だけ変化します。これがそのまま、もう一方の経路との光路差になります。
光路差は \(2\Delta x\) です。鏡の移動距離の2倍になる、という点がマイケルソン干渉計の重要な特徴です。
問(2)
思考の道筋とポイント
鏡Aを動かして、明暗が40回繰り返されたときの波長\(\lambda\)を求めます。検出器Dでの明るさが「明→暗→明」と1回変化するのは、光路差がちょうど1波長\(\lambda\)だけ変化したときです。この関係を利用します。
この設問における重要なポイント
- 明暗1サイクルの条件: 光路差が\(\lambda\)変化するごとに、明暗が1回繰り返されます。
- 全光路差の変化: 明暗が40回繰り返されたということは、光路差が \(40\lambda\) だけ変化したことを意味します。
- 光路差と鏡の移動距離の関係: (1)より、鏡Aの移動距離を \(d_A\) とすると、光路差の変化は \(2d_A\) です。
具体的な解説と立式
初期状態(\(\Delta x = 0\))では、光路差はゼロで、検出器は明るい状態です。
鏡Aを移動距離 \(d_A = 1.0 \times 10^{-5}\) [m] だけ動かしたとき、(1)の結果から、生じた光路差は \(2d_A\) となります。
この間に、明暗が40回繰り返されました。明暗が1回繰り返される(例えば、明線が隣の明線に移動する)ごとに、光路差は\(\lambda\)だけ変化します。
したがって、40回繰り返された後の光路差は \(40\lambda\) となります。
最後に再び明るくなったとあるので、このときの状態は強め合いの条件を満たしています。
よって、次の関係式が成り立ちます。
$$ 2d_A = 40\lambda $$
使用した物理公式
- 干渉条件と光路差の関係
上記で立てた式を\(\lambda\)について解き、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{2d_A}{40} \\[2.0ex]&= \frac{d_A}{20}
\end{aligned}
$$
ここに \(d_A = 1.0 \times 10^{-5}\) [m] を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{1.0 \times 10^{-5}}{20} \\[2.0ex]&= \frac{1.0}{2.0 \times 10^1} \times 10^{-5} \\[2.0ex]&= 0.5 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
干渉の縞模様は、光路差が1波長分変わるたびに、1本分ずれて元に戻ります。つまり、明暗が1回変化します。今回は鏡を動かしたことで明暗が40回変化したので、光路差がちょうど40波長分だけ変化したことになります。一方、光路差は鏡の移動距離の2倍なので、「鏡の移動距離の2倍 = 40 × 波長」という式が成り立ちます。この式から波長を計算します。
波長\(\lambda\)は \(5.0 \times 10^{-7}\) m (500 nm) です。これは可視光の緑色に相当する波長であり、物理的に妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
装置全体を屈折率\(n=1.4\)の液体で満たした場合を考えます。媒質中では、光の波長が \(\lambda’ = \lambda/n\) に変化します。あるいは、光路長(光学距離)の考え方を用いることもできます。ここでは、光路長の考え方で解いてみます。
この設問における重要なポイント
- 媒質中の光路長: 屈折率\(n\)の媒質中では、幾何学的な距離 \(L\) は、光にとっては \(nL\) の距離(光路長)を進んだことと等価になります。
- 液体中の光路差: 鏡Aを\(\Delta x\)動かしたときの幾何学的な経路差は、(1)と同じく \(2\Delta x\) です。しかし、これが液体で満たされているため、光路差(光路長の差)は \(n \cdot (2\Delta x)\) となります。
- 干渉条件: 液体中でも、干渉条件そのもの(光路差が波長の整数倍で強め合い)は変わりません。ただし、ここで比較する波長は真空中の波長\(\lambda\)です。
具体的な解説と立式
装置を屈折率\(n=1.4\)の液体で満たします。
鏡Aを(2)と同じ距離 \(d_A = 1.0 \times 10^{-5}\) [m] だけ動かします。
このときの幾何学的な経路の差は \(2d_A\) です。
液体中での光路差 \(\Delta L_{\text{液体}}\) は、この幾何学的な差に屈折率\(n\)を掛けたものになります。
$$ \Delta L_{\text{液体}} = n \cdot (2d_A) $$
この光路差によって、明暗が \(m’\) 回繰り返されたとします。
真空中の波長\(\lambda\)を基準に考えると、強め合いの条件は「光路差 = \(m’\lambda\)」なので、
$$ n \cdot (2d_A) = m’\lambda $$
この式を \(m’\) について解きます。
$$ m’ = \frac{n \cdot (2d_A)}{\lambda} $$
一方、(2)の真空中の場合の関係式は \(2d_A = 40\lambda\) でした。これを変形すると \(\displaystyle\frac{2d_A}{\lambda} = 40\) となります。
この関係を \(m’\) の式に代入します。
$$ m’ = n \cdot \left( \frac{2d_A}{\lambda} \right) = n \cdot 40 $$
使用した物理公式
- 光路長: \((\text{光路長}) = n \times (\text{幾何学的距離})\)
- 干渉条件
上記で立てた式に、\(n=1.4\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m’ &= 1.4 \times 40 \\[2.0ex]&= 56
\end{aligned}
$$
したがって、明暗の回数は56回となります。
これは、元の回数40回よりも増加しています。
装置を液体で満たすと、光は進みにくくなります。これは、光にとっての「道のり」が、実際の距離よりも長くなる(屈折率n倍になる)と考えることができます。同じだけ鏡を動かしても、光にとってはn倍も道のりが変わったことになるので、波の山や谷が通り過ぎる回数(明暗の変化)もn倍に増えるのです。
明暗の回数は56回となり、40回より増加する。
理由:装置を屈折率\(n\)の液体で満たすと、同じ幾何学的な経路差 \(2d_A\) に対する光路差(光学的な距離の差)が \(n\) 倍の \(n \cdot (2d_A)\) になる。光路差が大きくなるということは、その中に含まれる波長の数も多くなるため、明暗が繰り返される回数も \(n\) 倍に増加するから。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- マイケルソン干渉計の光路差:
- 核心: マイケルソン干渉計では、一方の鏡を距離\(\Delta x\)だけ動かすと、その経路を通る光は往復するため、経路長は\(2\Delta x\)だけ変化します。これがそのまま2つの光の光路差となります。この「2倍」という係数が、この装置を理解する上での最初の鍵です。
- 理解のポイント: (1)で問われた \(2\Delta x\) は、この原理を直接的に表現したものです。
- 干渉縞の移動と光路差の関係:
- 核心: 検出器の位置で、明暗が1回変化する(例:明→暗→明)のは、2つの光の光路差がちょうど1波長\(\lambda\)だけ変化したときです。
- 理解のポイント: (2)では、明暗が40回繰り返されたことから、全光路差の変化が\(40\lambda\)であると結論付けています。つまり、\(2\Delta x = 40\lambda\) という関係式が、(2)を解くための核心部分です。
- 媒質中の光路長(光学距離):
- 核心: 屈折率\(n\)の媒質中では、光にとっての「実質的な距離」は、幾何学的な距離の\(n\)倍になります。これを光路長と呼びます。干渉を考える際は、この光路長で比較する必要があります。
- 理解のポイント: (3)では、幾何学的な経路差 \(2\Delta x\) が液体で満たされたことで、光路差は \(n \cdot (2\Delta x)\) になりました。これにより、同じ鏡の移動でも、より多くの明暗の変化が観測されることになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 薄膜干渉: 薄い膜に光を入射させ、表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。膜の厚さを変えると光路差が変化し、干渉縞が移動する点は、マイケルソン干渉計で鏡を動かすのと同じ効果です。
- ニュートンリング: 平面ガラスと凸レンズの間の空気層による干渉。レンズを上下に動かしたり、間に液体を満たしたりする問題は、本問と全く同じ思考プロセスで解くことができます。
- 重力波の検出: 実際の重力波検出器LIGOやKAGRAは、巨大なマイケルソン干渉計です。重力波が通過すると空間がわずかに歪み、2つの経路の長さに微小な差が生じます。この極めて小さな光路差の変化を、干渉縞のズレとして検出します。
- 初見の問題での着眼点:
- 光の経路を正確に追う: 光がどの経路をたどり、どこで往復しているのかを正確に把握します。これが光路差計算の第一歩です。
- 何が変化したかを見極める: 鏡の移動、媒質の変化など、初期状態から何が変化したのかを特定します。光路差は、この「変化」によって生じます。
- 「明暗の変化回数」と「光路差の変化量」を結びつける: 「明暗がN回変化した」という記述があれば、それは「光路差がN\(\lambda\)だけ変化した」と読み替えることができます。これは干渉計の問題を解く上での定石です。
- 媒質の変化に注意する: 装置が空気中(真空中)から液体中などに移された場合、光路長の概念を適用する必要があります。幾何学的な経路差に屈折率\(n\)を掛けることを忘れないようにしましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 光路差を\(\Delta x\)としてしまう:
- 誤解: 鏡の移動距離\(\Delta x\)を、そのまま光路差としてしまう。
- 対策: 光が鏡まで「行き」と「帰り」で往復することを常に意識しましょう。図を描いて光の経路を矢印で追うことで、経路長の変化が\(2\Delta x\)であることを視覚的に確認する習慣が有効です。
- 明暗の変化回数の解釈ミス:
- 誤解: 「明暗が40回繰り返された」のを、明線が40本観測された(\(m=39\)または\(m=40\))と解釈してしまう。
- 対策: これは「状態の変化」を問う問題です。「明→暗→明」の1サイクルで光路差が\(\lambda\)変化します。したがって、40回の繰り返しは、光路差の「変化量」が\(40\lambda\)であることを意味します。最終的な次数\(m\)の値ではなく、変化量に着目することが重要です。
- (3)で波長が変化すると考えてしまう:
- 誤解: 液体中では波長が \(\lambda’ = \lambda/n\) になるので、干渉条件式を \(n \cdot (2\Delta x) = m’\lambda’\) のように立ててしまい、混乱する。
- 対策: このように考えても最終的な答えは同じになりますが、計算が複雑になります。光路長の考え方を使えば、波長は真空中の\(\lambda\)のままで、経路差の方を\(n\)倍すると考えればよく、思考がシンプルになります。「媒質中では、経路差を\(n\)倍して、波長は\(\lambda\)のままで考える」と統一するのがおすすめです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光路の「引き伸ばし」イメージ: (3)で液体を満たすことは、光の経路がゴムのように\(n\)倍に「引き伸ばされる」イメージで捉えると分かりやすいです。同じ幾何学的距離でも、光にとってはより長い距離を進むことになり、その分、波がたくさん入る(=明暗の変化回数が増える)と直感的に理解できます。
- 干渉縞のスクロール: 鏡Aをゆっくり動かすと、検出器の位置の干渉縞が、まるでスクロールするように次々と流れていく様子をイメージしましょう。「明暗が40回繰り返された」とは、この縞模様が40本分通り過ぎていった、ということです。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 光の経路を2色に色分けして描くと、どちらの経路が変化したかが一目瞭然になります。
- 鏡を動かす前と後の位置を点線と実線で描き分けると、移動距離\(\Delta x\)と光路の変化の関係が視覚的に理解しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 光路差 \(2\Delta x\):
- 選定理由: (1)で、マイケルソン干渉計の構造的な特徴(光の往復)を数式で表現するため。
- 適用根拠: 幾何学的な経路の定義そのものです。
- 干渉条件 \(\Delta L = m\lambda\)**:
- 選定理由: (2)で、「明るくなった」という物理現象を、光路差\(\Delta L\)という量を用いて数式で表現するため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理に基づく、干渉の基本法則です。
- 光路長 \(n \times (\text{距離})\):
- 選定理由: (3)で、真空(空気)中とは異なる媒質中での光の振る舞いを記述するため。
- 適用根拠: 媒質中では光速が\(1/n\)になるという事実を、干渉条件で使えるように距離の次元に換算したものです。これにより、異なる媒質を通る光の干渉も、統一的な基準(真空中の波長\(\lambda\))で扱うことができます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 光路差の計算:
- 戦略: 鏡の移動による光の往復経路の変化を計算する。
- フロー: ①鏡Aの移動距離が\(\Delta x\) → ②光は往復するので、経路長の変化は\(2\Delta x\) → ③これが光路差となる。
- (2) 波長の計算:
- 戦略: 「明暗の変化回数」を「光路差の変化量」に変換する。
- フロー: ①明暗が40回変化したので、光路差の変化量は\(40\lambda\) → ②鏡の移動距離を\(d_A\)とすると、光路差の変化量は\(2d_A\) → ③等式 \(2d_A = 40\lambda\) を立て、\(\lambda\)について解く。
- (3) 液体中の回数の計算:
- 戦略: 光路長の考え方を適用し、真空中の場合と比較する。
- フロー: ①液体中での光路差は、真空中の\(n\)倍、すなわち \(n \cdot (2d_A)\) となる → ②この光路差が、明暗の変化回数\(m’\)回分の波長に等しいので、\(n \cdot (2d_A) = m’\lambda\) を立式 → ③(2)の関係式 \(2d_A = 40\lambda\) を利用して、\(m’\)を計算し、40回と比較する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比で考える: (3)は、比を使って考えるとより簡単です。
真空中の条件: \(2d_A = m\lambda\)
液体中の条件: \(n \cdot (2d_A) = m’\lambda\)
下の式を上の式で割ると、\(n = \frac{m’}{m}\)。よって \(m’ = nm\)。
これに \(n=1.4, m=40\) を代入すれば、\(m’ = 1.4 \times 40 = 56\) とすぐに計算できます。このように、文字式のまま関係性を導いてから最後に数値を代入すると、計算が楽になりミスも減ります。 - 有効数字の意識: 問題文で与えられた数値(\(1.0 \times 10^{-5}\)など)は有効数字2桁です。最終的な答えも有効数字2桁(\(5.0 \times 10^{-7}\))で答えるように意識しましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 位相変化の確認: この問題では、半透明鏡Hでの反射・透過が複数回起こりますが、2つの経路でその回数や条件(内側からの反射か外側からの反射か)が同じになるように設計されているため、位相のずれは相殺されます。したがって、鏡A, Bでの反射(どちらも固定端反射)の差も生じず、初期状態では光路差ゼロで強め合います。問題文の「最初は明るかった」という記述と一致しており、矛盾はありません。
- パラメータ依存性の確認: (3)の結果 \(m’ = nm\) は、屈折率\(n\)が大きいほど、明暗の変化が激しくなることを示しています。これは、媒質中で波長が短くなる(\(\lambda’ = \lambda/n\))ため、同じ距離の中にたくさんの波が含まれるようになる、という直感とも一致しており、妥当です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]