299 ヤングの実験
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ヤングの干渉実験を題材に、光路長(光学距離)の概念と、それによって生じる干渉縞の移動、さらに光源の位置をずらした際の効果を問う問題です。波動光学の基本的な原理の深い理解が求められます。
この問題の核心は、複数の要因によって生じる光路差を正しく計算し、干渉条件と結びつけることです。
- 光源の光の波長: \(\lambda\)
- 複スリットの間隔: \(S_1S_2 = d\)
- スリットとスクリーンの距離: \(L\)
- 近似条件: \(d \ll L\)
- 物質Aの厚さ: \(l\)
- 物質Aの屈折率: \(n\)
- (1) スリット\(S_2\)の前に物質Aを置いたとき、単スリット\(S_0\)と複スリット\(S_1, S_2\)の間で生じる光路差。
- (2) (1)の状況で、もともと原点Oにあった干渉縞が移動する方向と距離。
- (3) 物質Aを取り除き、光源である単スリット\(S_0\)を下に動かしたとき、干渉縞の明暗が初めて反転する際の、光源から2つのスリットまでの光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光路長と近似式を用いたヤングの干渉実験の解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路長(光学距離): 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)は、真空中の距離\(nl\)に相当します。光路差は、この光路長の差によって生じます。
- ヤングの実験における経路差: スリット\(S_1, S_2\)からスクリーン上の点Pまでの経路差は、近似式 \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\) で与えられます。
- 干渉条件: 2つの光の光路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))なら強め合い(明線)、半整数倍(\((m+1/2)\lambda\))なら弱め合い(暗線)となります。
- 干渉縞の移動: 光路に何らかの変化(物質の挿入など)が加わると、その光路差を補償するように干渉縞全体が移動します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では光路長の定義に基づいて、物質Aを置いたことによる光路差を計算します。
- 次に、(2)では(1)で求めた光路差と、スリットからスクリーンまでの経路差を合わせた「全光路差」を考えます。もともと中心にあった明線(\(m=0\))が移動した先では、この全光路差がゼロになるはずです。この条件から移動距離を求めます。
- 最後に、(3)では光源の位置をずらすことで、2つのスリット\(S_1, S_2\)がもはや同位相の波源ではなくなることを考えます。明暗が反転するのは、2つのスリットに到達する光の位相が\(\pi\)ずれる(光路差が\(\lambda/2\)になる)ときです。
問(1)
思考の道筋とポイント
スリット\(S_2\)の前に厚さ\(l\)、屈折率\(n\)の物質Aを置いたときの光路差を求める問題です。光は真空中(または空気中、屈折率を1とみなす)と物質中で進む速さが異なるため、同じ幾何学的距離を進んでも、光にとっては等価な距離(光路長)が変わります。この光路長の差が光路差となります。
この設問における重要なポイント
- 光路長の定義: 屈折率\(n\)の媒質中を光が距離\(l\)進むときの光路長(光学距離)は \(nl\) となります。
- 光路差の計算: 経路\(S_0 \rightarrow S_2\)では、距離\(l\)の部分を物質Aが占めています。一方、経路\(S_0 \rightarrow S_1\)では、対応する部分は空気(屈折率1)です。この2つの経路における光路長の差を計算します。
具体的な解説と立式
光が単スリット\(S_0\)から出て、複スリット\(S_1, S_2\)に到達するまでの光路を考えます。
経路\(S_0 \rightarrow S_1\)では、光はすべて空気中を進みます。
経路\(S_0 \rightarrow S_2\)では、途中、厚さ\(l\)の物質A(屈折率\(n\))を通過します。
物質Aがある部分について、光路長を比較します。
- 物質Aがない場合(空気中)の光路長: \(1 \times l = l\)
- 物質Aがある場合の光路長: \(n \times l = nl\)
したがって、物質Aによって単スリットと複スリットの間で生じる光路差 \(\Delta L_{\text{物質}}\) は、これらの差となります。
$$ \Delta L_{\text{物質}} = nl – l $$
使用した物理公式
- 光路長(光学距離): \((\text{光路長}) = (\text{屈折率}) \times (\text{距離})\)
上記で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\Delta L_{\text{物質}} &= nl – l \\[2.0ex]
&= (n-1)l
\end{aligned}
$$
光は、空気中よりも物質の中を進む方が時間がかかります。この時間の遅れを、余分に進まなければならない距離に換算したものが「光路差」です。屈折率が\(n\)の物質では、空気中と比べて「\(n-1\)倍」だけ余分に距離がかかると考えられ、その距離は\(l\)なので、光路差は \((n-1)l\) となります。
物質による光路差は \((n-1)l\) です。\(n>1\) なので、物質を置いた\(S_2\)側の方が光路長が長くなります。これは、\(S_2\)に到達する光の位相が、\(S_1\)に到達する光よりも遅れることを意味します。
問(2)
思考の道筋とポイント
物質Aを置いたことで干渉縞が移動する現象を解析します。干渉縞の位置は、スクリーン上の点Pに到達する2つの光(\(S_1 \rightarrow P\) と \(S_2 \rightarrow P\))の全光路差によって決まります。この全光路差は、(1)で求めた物質による光路差 \(\Delta L_{\text{物質}}\) と、スリットからスクリーンまでの経路差 \(\Delta L_{\text{経路}}\) の和になります。
もともと原点Oにあった中心の明線(\(m=0\))は、全光路差がゼロになる点です。物質Aを置いた後、この全光路差がゼロになる点がどこに移動するかを追跡します。
この設問における重要なポイント
- 全光路差の計算: 全光路差 = (物質による光路差) + (経路差)。
- 経路差の近似式: スリット\(S_1, S_2\)からスクリーン上の座標\(x\)の点Pまでの経路差 \(\Delta L_{\text{経路}} = S_2P – S_1P\) は、\(d \ll L, x \ll L\) のとき、\(\Delta L_{\text{経路}} \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\) と近似できます。
- 中心の明線の移動: 中心(\(m=0\))の明線は、全光路差がゼロになる位置に現れます。
具体的な解説と立式
スクリーン上の原点Oから上向きを正とする\(x\)軸をとります。座標\(x\)の点Pに到達する2つの光の全光路差 \(\Delta L_{\text{全}}\) を考えます。
光路差は、経路(\(S_0 \rightarrow S_2 \rightarrow P\))と経路(\(S_0 \rightarrow S_1 \rightarrow P\))の差です。
$$ \Delta L_{\text{全}} = (\text{光路長 } S_0S_2 + S_2P) – (\text{光路長 } S_0S_1 + S_1P) $$
これを、スリット間で生じる光路差と、スリット-スクリーン間で生じる経路差に分けます。
$$ \Delta L_{\text{全}} = (\text{光路長 } S_0S_2 – \text{光路長 } S_0S_1) + (S_2P – S_1P) $$
第1項は(1)で求めた物質による光路差 \(\Delta L_{\text{物質}} = (n-1)l\) です。
第2項は経路差 \(\Delta L_{\text{経路}} = S_2P – S_1P\) です。ここで、\(S_1\)の座標を\((0, d/2)\)、\(S_2\)の座標を\((0, -d/2)\)とすると、点Pの座標は\((L, x)\)です。
$$ S_1P = \sqrt{L^2 + (x – d/2)^2}, \quad S_2P = \sqrt{L^2 + (x + d/2)^2} $$
\(d \ll L, x \ll L\) の条件で近似計算を行うと、
$$ S_2P – S_1P \approx \frac{dx}{L} $$
となります。
したがって、全光路差は、
$$ \Delta L_{\text{全}} = (n-1)l + \frac{dx}{L} \quad \cdots ① $$
強め合って明線になる条件は、全光路差が波長の整数倍になることです。
$$ \Delta L_{\text{全}} = m\lambda \quad (m=0, \pm 1, \pm 2, \dots) \quad \cdots ② $$
もともと原点Oにあった中心の明線は、\(m=0\)に対応します。この明線が移動した先の座標を\(x_0\)とすると、\(x_0\)では①、②式より、
$$ (n-1)l + \frac{dx_0}{L} = 0 \cdot \lambda = 0 $$
使用した物理公式
- ヤングの実験の経路差の近似式: \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{dx}{L}\)
- 光の干渉条件(強め合い): \((\text{光路差}) = m\lambda\)
上記で立てた中心の明線の位置に関する式を \(x_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dx_0}{L} &= -(n-1)l \\[2.0ex]
x_0 &= -\frac{L}{d}(n-1)l
\end{aligned}
$$
\(x_0\)が負の値であることから、縞模様は下向きに移動することがわかります。
その移動量は \(|x_0|\) なので、
$$ \text{移動量} = \frac{L}{d}(n-1)l $$
スリット\(S_2\)の前に物質を置いたことで、\(S_2\)を通る光は少し「遠回り」したことになります。この遠回り分 \((n-1)l\) を打ち消すために、干渉縞全体が移動します。縞が下側(\(x<0\))に移動すると、今度は\(S_1\)からの方が遠い経路になり、経路差 \(\frac{dx}{L}\) が負の値を持ちます。この経路差が、物質による光路差をちょうど打ち消す位置 \((n-1)l + \frac{dx_0}{L} = 0\) に、中心の明るい線が移動するのです。
もともと原点Oにあった縞模様は、下側に \(\displaystyle\frac{L}{d}(n-1)l\) だけ移動します。
この結果は、物質の屈折率\(n\)が大きいほど、また厚さ\(l\)が厚いほど、移動量が大きくなることを示しており、物理的に妥当です。また、スリット間隔\(d\)が小さいほど移動量が大きくなることも、経路差の変化が敏感になることから理解できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
物質Aを取り除いた後、光源である単スリット\(S_0\)を下に動かすと、干渉縞がどうなるかを考える問題です。\(S_0\)が中心にあるときは、\(S_0S_1 = S_0S_2\)なので、\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源とみなせます。しかし、\(S_0\)を下に動かすと、\(S_0S_1\)と\(S_0S_2\)の距離が等しくなくなり、\(S_1\)と\(S_2\)に到達する光に光路差が生じます。これにより、\(S_1\)と\(S_2\)の位相がずれます。
干渉縞の「明暗が反転する」とは、今まで明線だったところが暗線に、暗線だったところが明線になるということです。これは、2つの波源からの光の干渉条件が、強め合いから弱め合いへ(またはその逆へ)切り替わることを意味し、位相が\(\pi\)(180°)ずれることに相当します。
この設問における重要なポイント
- 光源の移動と位相差: 光源\(S_0\)を動かすと、2つのスリット\(S_1, S_2\)に到達する光に光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) が生じ、\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源ではなくなる。
- 明暗の反転: 干渉縞の明暗が反転するのは、2つの波源の位相差が\(\pi\)変化したときである。
- 位相差と光路差の関係: 位相差が\(\pi\)変化することは、光路差が半波長 \(\lambda/2\) 変化することに対応する。
具体的な解説と立式
はじめ、光源\(S_0\)は中心軸上にあり、\(S_0S_1 = S_0S_2\) です。このとき、スリット\(S_1\)と\(S_2\)は同位相の波源として機能します。スクリーン中央の点Oでは、\(S_1O = S_2O\) なので光路差はゼロで、必ず明線になります。
次に、\(S_0\)を図の矢印の向き(下向き)にゆっくりと動かします。すると、\(S_0\)と\(S_1\)の距離 \(S_0S_1\) は、\(S_0\)と\(S_2\)の距離 \(S_0S_2\) よりも長くなります。つまり、\(S_0S_1 > S_0S_2\) となります。
この結果、\(S_1\)に到達する光は、\(S_2\)に到達する光よりも位相が遅れるようになります。
スクリーン上の任意の点での干渉を考えます。全光路差は、
$$ \Delta L_{\text{全}} = (S_0S_1 – S_0S_2) + (S_1P – S_2P) $$
となります。
干渉縞の明暗が全体として「反転」するのは、強め合いの条件と弱め合いの条件が入れ替わるときです。これは、2つの波源\(S_1, S_2\)の位相関係が逆転するとき、すなわち、\(S_1\)と\(S_2\)に到達する光の光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) が、波長の半分 \(\lambda/2\) になったときです。
初期状態(\(S_0\)が中心)では \(S_0S_1 – S_0S_2 = 0\) です。
ここから\(S_0\)を動かし、初めて明暗が反転するのは、この光路差が \(\lambda/2\) の奇数倍になったときです。初めて反転するのは、
$$ S_0S_1 – S_0S_2 = \frac{\lambda}{2} $$
となるときです。
使用した物理公式
- 光の干渉条件
- 位相差と光路差の関係: \((\text{位相差}) = \displaystyle\frac{2\pi}{\lambda} \times (\text{光路差})\)
この問題では、具体的な移動距離を計算する必要はなく、明暗が反転する物理的条件を光路差で表現することが求められています。
上記の立式がそのまま結論となります。
$$ S_0S_1 – S_0S_2 = \frac{\lambda}{2} $$
スクリーン上の模様は、2つのスリットから来る光が「山と山」で重なるか(明線)、「山と谷」で重なるか(暗線)で決まります。光源を真ん中から下にずらすと、上のスリット\(S_1\)までの距離が下のスリット\(S_2\)までより長くなり、\(S_1\)に届く光のタイミングが少し遅れます。このタイミングの「遅れ」が、ちょうど波のサイクルの半分(半波長)になったとき、今まで山と山が重なっていた場所で山と谷が重なるようになり、模様全体が反転するのです。
干渉縞の明暗が初めて反転したときの光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\) は \(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\) です。
もしさらに\(S_0\)を動かして、光路差が \(\lambda\) になると、位相が \(2\pi\) ずれて元の状態に戻り、干渉縞は初期状態と同じになります。光路差が \(3\lambda/2\) になると、再び明暗が反転します。このように、光路差が \(\lambda/2\) 変化するごとに明暗が反転を繰り返します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光路長と光路差の概念:
- 核心: 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)は、光にとっては真空中の距離\(nl\)に相当します(光路長)。異なる経路を通る光の干渉を考える際は、この光路長の差(光路差)を計算する必要があります。(1)で問われた \((n-1)l\) は、物質の挿入による光路差の典型例です。
- 理解のポイント: 光の位相は、進んだ「幾何学的な距離」ではなく「光路長」に比例して変化します。
- ヤングの実験における光路差の重ね合わせ:
- 核心: スクリーン上での最終的な干渉は、考えられるすべての要因による光路差を足し合わせた「全光路差」で決まります。この問題では、(2)で「物質による光路差」と「経路による光路差」を足し合わせました。
- 理解のポイント: \(\Delta L_{\text{全}} = \Delta L_{\text{物質}} + \Delta L_{\text{経路}} = (n-1)l + \displaystyle\frac{dx}{L}\)。この式を立てられるかが(2)の鍵です。
- 干渉縞の移動原理:
- 核心: 干渉系に何らかの変化(物質の挿入や光源の移動)を加えて光路差を発生させると、干渉縞はその光路差を打ち消す方向に移動します。
- 理解のポイント: (2)では、\(S_2\)側の光路長が増えた分を補うため、\(S_1\)側への経路が長くなる下向きに縞が移動しました。
- 明暗の反転条件:
- 核心: 干渉縞の明暗が反転するのは、2つの干渉光の位相関係が逆転するとき、すなわち位相差が\(\pi\)(奇数倍)変化するときです。
- 理解のポイント: (3)では、光源の移動によって生じる光路差が \(\lambda/2\) になったときに、初めて明暗が反転しました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 薄膜干渉: ガラスのくさび(ニュートンリング)やシャボン玉の膜など。膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。膜の厚さや屈折率、入射角によって光路差が決まる点が共通しています。
- 回折格子: 多数のスリットによる干渉。隣り合うスリットからの光の光路差が重要になる点はヤングの実験と同じです。
- マイケルソン干渉計: 光源からの光を2つに分け、異なる経路を通らせてから再び干渉させます。一方の経路長を変化させることで干渉縞が移動する様子は、この問題の(2)や(3)の状況と物理的に等価です。
- 初見の問題での着眼点:
- 光路差の原因を特定する: まず、2つの光の間に光路差を生じさせている原因は何かをすべてリストアップします(経路の長さの違いか?媒質の屈折率の違いか?光源の位置か?反射による位相変化か?)。
- 各原因による光路差を計算する: 特定した原因ごとに、光路差を数式で表現します。このとき、近似式が使えるかどうかを吟味します。
- 全光路差を求める: すべての光路差を足し合わせ(符号に注意!)、全光路差を求めます。
- 干渉条件を適用する: 求めた全光路差に、明線(\(m\lambda\))または暗線(\((m+1/2)\lambda\))の条件を適用して、問われている量を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 光路長と幾何学的距離の混同:
- 誤解: 屈折率\(n\)の媒質中の距離\(l\)を、そのまま光路差としてしまう。
- 対策: 光路差は、あくまで基準となる経路(通常は真空中)との「差」です。物質を置いた場合は \(nl – l = (n-1)l\) が光路差になると覚えましょう。
- 光路差の符号ミス:
- 誤解: 経路差 \(\frac{dx}{L}\) や物質による光路差 \((n-1)l\) を足し合わせる際に、符号を間違える。
- 対策: 常に「どちらの経路が長いか」を物理的に考え、光路差の定義(例:経路2 – 経路1)を一貫して使うことが重要です。例えば(2)では、\(S_2\)側が長くなるので \((n-1)l\) は正、\(x>0\) の点では \(S_2\) 側が長いので \(\frac{dx}{L}\) も正、というように考え、\(\Delta L = (n-1)l + \frac{dx}{L}\) と立式します。
- (3)で複雑な計算を試みること:
- 誤解: \(S_0\)の移動距離を求めようとして、三平方の定理や近似計算を始めてしまう。
- 対策: 問題文をよく読み、「問われているのは何か」を正確に把握しましょう。(3)で問われているのは「光路差 \(S_0S_1 – S_0S_2\)」そのものであり、その値が \(\lambda/2\) になるという物理的条件を答えるだけで十分です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光路差の可視化: 干渉縞を「等高線」のようにイメージします。光路差が一定の点が連なって縞模様を作っています。(2)で物質Aを置くのは、地図上の一部の土地を「かさ上げ」するようなものです。その結果、等高線(干渉縞)はかさ上げされた場所を避けるようにずれていきます。
- 位相の波面イメージ: (3)では、光源\(S_0\)から同心円状に広がる波面をイメージします。\(S_0\)が中心にあれば、\(S_1\)と\(S_2\)には同じ波面が同時に到達します。\(S_0\)が下にずれると、\(S_2\)に先に波面が到達し、少し遅れて\(S_1\)に到達します。この「到達時間の差」が位相差(光路差)を生み、明暗を反転させます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 光の経路を実線でしっかり描く。
- 光路差が発生している箇所(物質Aや、経路の長さの違い)をハイライトする。
- 座標軸の向き(どちらが正か)を必ず明記する。これにより、符号の間違いを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 光路長 \(nl\):
- 選定理由: (1)で、真空中とは異なる媒質(物質A)中の光の振る舞いを記述する必要があるため。
- 適用根拠: 光の速さが媒質中で \(1/n\) になるという事実を、距離の次元で扱うための基本的な定義です。
- 経路差の近似式 \(\Delta L \approx \frac{dx}{L}\):
- 選定理由: (2)で、スクリーン上の位置\(x\)と光路差の関係を数式で表現するため。
- 適用根拠: \(d \ll L, x \ll L\) という条件下で、幾何学的な関係(三平方の定理)を二項定理で近似した結果であり、ヤングの実験の解析における標準的なツールです。
- 干渉条件(明暗反転 \(\iff\) 光路差 \(\lambda/2\)):
- 選定理由: (3)で、「明暗が反転する」という定性的な現象を、定量的な物理法則に結びつけるため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理から、位相が\(\pi\)ずれると強め合いと弱め合いが入れ替わるという、干渉現象の根本原理に基づいています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 物質による光路差:
- 戦略: 光路長の定義に立ち返る。
- フロー: ①物質中の光路長(\(nl\))と空気中の光路長(\(l\))を比較 → ②差をとって光路差 \((n-1)l\) を求める。
- (2) 干渉縞の移動:
- 戦略: 中心(\(m=0\))の明線が移動した先では、全光路差がゼロになる。
- フロー: ①全光路差の式を立てる(\(\Delta L_{\text{全}} = \Delta L_{\text{物質}} + \Delta L_{\text{経路}}\)) → ②各項に具体的な式(\((n-1)l\) と \(\frac{dx}{L}\))を代入 → ③全光路差=0として、\(x\)について解く。
- (3) 明暗の反転:
- 戦略: 明暗反転の物理的意味(位相が\(\pi\)ずれる)を光路差の条件に翻訳する。
- フロー: ①光源の移動が\(S_1, S_2\)での位相差を生むことを理解 → ②明暗反転は位相差\(\pi\)の変化に対応することを確認 → ③位相差\(\pi\)は光路差\(\lambda/2\)に相当することから結論を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似計算のプロセスを理解する: \(\Delta L \approx \frac{dx}{L}\) という結果だけを覚えるのではなく、\(\sqrt{L^2+y^2} = L\sqrt{1+(y/L)^2} \approx L(1+\frac{1}{2}(y/L)^2)\) という二項近似の過程を一度は自分で導出しておきましょう。これにより、応用問題にも対応できます。
- 文字式のまま進める: この問題はほとんどが文字式での計算です。各文字が何を意味するのかを常に意識しながら式変形を行うことが重要です。
- 物理的な意味を常に考える: (2)で得られた \(x_0 = -\frac{L}{d}(n-1)l\) という結果を見て、「マイナスだから下向きだな」「\(n\)や\(l\)が大きいほどたくさん動くのは当然だな」というように、式の形と物理現象を結びつけて考える習慣が、ミスを防ぎ、理解を深めます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 移動距離: もし物質の屈折率が空気と同じ \(n=1\) なら、移動量はゼロになるはずです。式 \(|x_0| = \frac{L}{d}(n-1)l\) に \(n=1\) を代入すると、確かに \(x_0=0\) となり、矛盾しません。また、スリット間隔\(d\)を無限に広げると、干渉縞は非常に細かくなり、少しの光路差でも縞は大きく動くはずです。式が \(d\) に反比例していることは、この直感とも一致します。
- (3) 光路差: 明暗が反転するということは、波が「半周期」ずれることに対応します。波の1周期の長さが波長\(\lambda\)なので、半周期のずれは光路差\(\lambda/2\)に対応するのは、非常に基本的な関係であり、妥当です。
300 回折格子
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、反射型の回折格子による光の干渉を扱う問題です。回折格子の基本的な干渉条件を、図形的な関係から導出する能力が問われます。
この問題の核心は、隣り合うスリット(反射面)で反射した光が、特定の方向に進む際に生じる「経路差」を正しく計算し、それが強め合いの条件を満たすことを見抜く点にあります。
- 回折格子の格子定数: \(d\)
- 入射光の波長: \(\lambda\)
- 入射角: \(\alpha\) (法線とのなす角)
- 回折角: \(\beta\) (法線とのなす角)
- 考える状況: \(\alpha < \beta\)
- (1) 図2における経路ADとBCの長さ。
- (2) 隣り合う回折光が強め合う(明線となる)ときの条件式。
- (3) 入射角が \(\alpha = \alpha’\) のとき、0次の明線(反射の法則に従う光、\(\beta = \alpha’\))の次に現れる1次の明線(回折角 \(\beta = \beta’\))についての、\(\alpha’\) と \(\beta’\) の関係式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「反射型回折格子の干渉条件」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ホイヘンスの原理: 波面の各点が新しい波源(素元波)となり、それらの波が重なり合って次の波面が作られるという原理。回折現象の基礎となります。
- 光の経路差: 異なる経路を進む光が、ある点で出会うまでの「進んだ距離の差」。この経路差が干渉の結果を決定します。
- 三角比: 図形的な関係から経路差を計算するために、三角比(sin, cos)を正しく用いる必要があります。
- 干渉条件(強め合い): 経路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))になるとき、光は強め合って明るくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では図2に示された幾何学的な関係から、直角三角形を見つけ出し、三角比を用いて線分ADとBCの長さを求めます。
- 次に、(2)では(1)で求めた長さを使って、隣り合う反射面(AとB)から来る光の経路差を計算し、強め合いの条件式を立てます。
- 最後に、(3)では(2)で導いた条件式に、具体的な状況(0次と1次の明線)を適用して、問われている関係式を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
図2に示された幾何学的な関係から、線分ADとBCの長さを求める問題です。図中の角度\(\alpha\), \(\beta\)と、格子定数\(d\)(線分ABの長さ)を用いて、三角比を適用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 直角三角形の特定: 点Aから回折光の経路に下ろした垂線がD、点Bから入射光の経路に下ろした垂線がCです。これにより、\(\triangle ABD\)と\(\triangle ABC\)という2つの直角三角形ができます。
- 角度の関係の把握: 図形と錯角の関係から、\(\triangle ABC\)内の角\(\angle BAC\)が\(\alpha\)に、\(\triangle ABD\)内の角\(\angle ABD\)が\(\beta\)に等しいことを見抜きます。
具体的な解説と立式
図2において、点Aから回折光の経路に下ろした垂線の足をD、点Bから入射光の経路に下ろした垂線の足をCとします。
- 経路BCの計算:
\(\triangle ABC\)は \(\angle BCA = 90^\circ\) の直角三角形です。入射光の進行方向と法線のなす角が\(\alpha\)であり、図の幾何学的関係(錯角)から \(\angle BAC = \alpha\) となります。したがって、
$$ BC = AB \sin(\angle BAC) = d \sin\alpha $$ - 経路ADの計算:
\(\triangle ABD\)は \(\angle ADB = 90^\circ\) の直角三角形です。回折光の進行方向と法線のなす角が\(\beta\)であり、同様に \(\angle ABD = \beta\) となります。したがって、
$$ AD = AB \sin(\angle ABD) = d \sin\beta $$
使用した物理公式
- 三角比: \(\sin\theta\)
上記の立式がそのまま結論となります。
- 経路AD: \(d \sin\beta\)
- 経路BC: \(d \sin\alpha\)
図2のA点とB点は、隣り合う光の反射点です。
- BCの長さは、入射光がB点に到達してからA点に到達するまでに、余分に進む距離です。これは直角三角形ABCを考えると、斜辺が\(d\)で、角が\(\alpha\)なので、\(d \sin\alpha\)と計算できます。
- ADの長さは、A点から反射した光が、B点から反射した光よりも余分に進む距離です。これは直角三角形ABDを考えると、斜辺が\(d\)、角が\(\beta\)なので、\(d \sin\beta\)と計算できます。
経路ADの長さは \(d \sin\beta\)、経路BCの長さは \(d \sin\alpha\) です。これは図形的な関係から正しく導出された結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
隣り合うスリット(AとB)で反射した回折光が強め合うための条件式を導く問題です。強め合いの条件は、2つの光の「経路差」が波長\(\lambda\)の整数倍になることです。経路差は、(1)で求めたADとBCを用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 経路差の計算: 点Aで反射する光と点Bで反射する光の経路差を考えます。図2から、点CからAに進む光と、点BからDに進む光が、その後同じ経路をたどると考えられます。したがって、経路差は \(AD – BC\) となります。
- 強め合いの条件: 経路差が \(m\lambda\)(\(m\)は整数)となることが、光が強め合う条件です。
- 反射における位相変化: 反射型回折格子では、点Aと点Bで同じように反射が起こるため、もし反射によって位相が変化するとしても(固定端反射)、両方の光で同じだけ変化します。したがって、位相変化の差はゼロとなり、干渉条件には影響しません。
具体的な解説と立式
隣り合う反射面上の点Aと点Bで反射した光を考えます。
入射光の波面ACが点Cに到達したとき、もう一方の光は点Aに到達しています。
その後、点Cの光が点Bに進む間に、点Aの光は反射して点Dに進みます。
波面AC上の光が点Bに到達するまでの経路はBCです。
波面BD上の光が点Aから進んだ経路はADです。
したがって、点Aで反射した光と点Bで反射した光の経路差 \(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = AD – BC $$
となります。
(1)の結果を代入すると、
$$ \Delta L = d \sin\beta – d \sin\alpha = d(\sin\beta – \sin\alpha) $$
光が強め合う条件は、この経路差が波長の整数倍になることなので、
$$ \Delta L = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
よって、求める条件式は、
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda $$
使用した物理公式
- 光の干渉条件(強め合い): \((\text{経路差}) = m\lambda\)
上記で立てた式がそのまま答えとなります。
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
隣の反射点Bから出る光は、Aから出る光に比べて、入射時にBCだけ手前の道のりで済みますが、反射後にはADだけ長い道のりを進まなければなりません。この「得した分」と「損した分」の差し引き(\(AD – BC\))が、2つの光の経路の長さの差(経路差)になります。この経路差が、ちょうど波長の整数倍になるとき、2つの光の波の山と山(谷と谷)がぴったり重なり、強め合って明るい光となります。
強め合いの条件式は \(d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda\) です。これは回折格子の基本公式として知られています。\(m\)は「次数」と呼ばれ、\(m=0\)は経路差がゼロ、すなわち\(\beta=\alpha\)となる場合で、これは単なる反射の法則に対応します。\(m=1, 2, \dots\)が回折によって生じる高次の明線に対応します。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で導いた一般式を、具体的な状況に適用する問題です。
「入射角 \(\alpha = \alpha’\) で入射し、同じ角度で反射した光」とは、(2)の式で \(\beta = \alpha = \alpha’\) とした場合です。このとき \(d(\sin\alpha’ – \sin\alpha’) = 0\) となり、\(m=0\) に対応します。これが「0次の明線」です。
「最も近い明線の回折光(1次)」とは、\(m=1\) の明線のことです。このときの回折角が \(\beta = \beta’\) と与えられています。
これらの情報を(2)の式に代入して、\(\alpha’\) と \(\beta’\) の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 0次の光の解釈: \(\beta = \alpha\) となる光は、経路差がゼロ(\(m=0\))の明線であり、これは鏡の反射と同じです。
- 1次の光の解釈: 0次の光に最も近い明線は、次数が \(m=1\) の明線です。
- 条件の代入: (2)の条件式に、\(\alpha = \alpha’\), \(\beta = \beta’\), \(m=1\) を代入します。
具体的な解説と立式
(2)で導いた回折格子の強め合いの条件式は、
$$ d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda \quad \cdots ① $$
です。
問題の条件をこの式に適用します。
- 入射角: \(\alpha = \alpha’\)
- 1次の明線の回折角: \(\beta = \beta’\)
- 次数: \(m=1\)
これらの条件を①式に代入します。
$$ d(\sin\beta’ – \sin\alpha’) = 1 \cdot \lambda $$
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件(問(2)の結果)
上記で立てた式を、\(\sin\beta’\) について解き、整理します。
$$
\begin{aligned}
d(\sin\beta’ – \sin\alpha’) &= \lambda \\[2.0ex]
\sin\beta’ – \sin\alpha’ &= \frac{\lambda}{d} \\[2.0ex]
\sin\beta’ &= \sin\alpha’ + \frac{\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
(2)で作った「回折格子で明るくなるためのルールブック(条件式)」に、今回の具体的なケースを当てはめます。今回のケースは「入射角が\(\alpha’\)で、次数が1番(\(m=1\))の明るい光の角度が\(\beta’\)」というものです。この情報をルールブックに書き込むだけで、求めたい関係式が得られます。
求める関係式は \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \displaystyle\frac{\lambda}{d}\) です。
この式は、1次の回折光の角度\(\beta’\)が、入射角\(\alpha’\)や波長\(\lambda\)、格子定数\(d\)にどのように依存するかを示しています。例えば、波長\(\lambda\)が長い光(赤い光)ほど、\(\sin\beta’\)が大きくなる、つまりより大きな角度で回折することがわかります。これは、回折格子が光を波長ごとに分ける(分光する)原理そのものを表しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 経路差の幾何学的導出:
- 核心: 回折格子やヤングの実験など、光の干渉を扱う問題の根幹は「経路差」の計算にあります。この問題では、隣り合う反射点からの光の経路差が \(\Delta L = d \sin\beta – d \sin\alpha\) となることを、図形(三角比)から導出できるかが最も重要です。
- 理解のポイント: 入射波面(AC)と回折波面(BD)を正しく作図し、それによって生まれる2つの直角三角形(\(\triangle ABC\) と \(\triangle ABD\))に着目することが、経路差を計算するための出発点です。
- 回折格子の強め合いの条件式:
- 核心: 上記で計算した経路差が、波長\(\lambda\)の整数倍になるときに光は強め合います。これが回折格子の基本公式 \(d(\sin\beta – \sin\alpha) = m\lambda\) です。
- 理解のポイント: この一つの式が、入射角\(\alpha\)、回折角\(\beta\)、波長\(\lambda\)、格子定数\(d\)、そして明線の次数\(m\)という、現象を特徴づけるすべての物理量を結びつけています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 透過型回折格子: この問題は反射型でしたが、光が透過するタイプの回折格子でも、経路差の考え方と最終的な条件式は全く同じです。
- 斜め入射のヤングの実験: 光源が正面ではなく斜めからスリットに入射する場合、スリットに到達する前の段階で既に光路差が生じます。これは本問の \(d \sin\alpha\) の項と全く同じ考え方で計算できます。全光路差は「入射時の光路差」と「スリット後の経路差」の和(または差)になります。
- X線の結晶回折(ブラッグの条件): 結晶格子面で反射されるX線の干渉を考えます。隣り合う格子面で反射した光の経路差を計算し、強め合いの条件を立てるという点で、本問と全く同じ思考プロセスをたどります。(ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\))
- 初見の問題での着眼点:
- 隣り合う波源を特定する: 干渉を考える基本は、2つの波源(この問題では反射点AとB)を特定することです。
- 波面を作図する: 入射光と回折光(または透過光)に対して、それぞれ垂直な「波面」を作図します。これが経路差を計算するための補助線となります。
- 直角三角形を探す: 波面によって作られた図形の中から、格子定数\(d\)を斜辺とする直角三角形を探し出します。
- 角度を慎重に特定する: 入射角や回折角と、直角三角形の角との関係を、錯角や同位角、垂線の性質を使って慎重に特定します。ここが最も間違いやすいポイントです。
- 経路差を計算し、干渉条件を立てる: 三角比を用いて経路差を計算し、強め合い(\(m\lambda\))または弱め合い(\((m+1/2)\lambda\))の条件式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の符号ミス:
- 誤解: 経路差を \(d(\sin\alpha + \sin\beta)\) のように、足し算にしてしまう。
- 対策: 図をよく見て、どちらの経路が長く、どちらが短いかを物理的に考えましょう。この問題では、Bの方が手前で入射光を受け取る(BCだけ得をする)代わりに、回折光は遠くまで進む(ADだけ損をする)ので、経路差は差 \(AD-BC\) となります。
- 角度の取り違え:
- 誤解: 図に示された\(\alpha\), \(\beta\)を、直角三角形のどの角に対応させるかを間違える。例えば、\(\sin\)と\(\cos\)を取り違えるなど。
- 対策: 必ず大きな図を自分で描き、法線、光の進行方向、格子面(線分AB)の関係を明確にしましょう。「法線と光線のなす角」が\(\alpha\), \(\beta\)であることを常に意識し、焦らずに三角形の角を求めましょう。
- 次数\(m\)の解釈ミス:
- 誤解: 0次、1次といった次数の意味が分からず、(3)でどの\(m\)を代入すればよいか混乱する。
- 対策: \(m=0\)は経路差がゼロの場合で、回折が起きない「直進」または「正反射」の光に対応すると覚えましょう。\(m=1\)がその隣に現れる最も明るい光、\(m=2\)がその次、となります。問題文の「最も近い明線」は\(m=1\)を指します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波面の行進イメージ: 平面波である入射光を、等間隔で平行な多数の線(波面)が格子の方向へ進んでくるイメージで捉えます。格子で反射された後、それぞれの点から球面波(素元波)が発生し、それらが干渉して特定の方向\(\beta\)に再び平面波(波面)を形成して進んでいく、というホイヘンスの原理をイメージすると、現象の全体像が掴みやすくなります。
- 経路差の図解: 図2のように、入射波面と回折波面を明確に描き、経路差となる部分(ADとBC)を色分けするなどしてハイライトすると、視覚的に理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 角度を正確に: 法線は格子面に対して垂直に描きます。入射角\(\alpha\)と回折角\(\beta\)は、必ず法線とのなす角として記入します。
- 波面は進行方向と垂直に: 入射波面ACは入射光と、回折波面BDは回折光と、それぞれ直角になるように描きます。この「垂直」という関係が、直角三角形を見つけるための鍵です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三角比 (\(\sin, \cos\)):
- 選定理由: (1)で、図形の中の辺の長さを、与えられた辺(格子定数\(d\))と角度(\(\alpha, \beta\))から求めるために必須の数学的ツールだから。
- 適用根拠: 直角三角形における辺と角の基本的な関係に基づいています。
- 強め合いの条件式 (\(\Delta L = m\lambda\)):
- 選定理由: (2)で、「明点」や「強め合う」という物理現象を、経路差\(\Delta L\)という量を用いて数式で表現するため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理から導かれる、干渉現象における最も基本的な法則です。位相が\(2\pi\)の整数倍ずれると、波は同相で重なり強め合います。これを経路長に換算したものが\(m\lambda\)です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 経路の長さの計算:
- 戦略: 図形から直角三角形を見つけ、三角比を適用する。
- フロー: ①入射波面と回折波面を作図し、直角三角形ABCとABDを特定 → ②三角形の角を\(\alpha, \beta\)で表現 → ③三角比を用いてBCとADを\(d, \alpha, \beta\)で表す。
- (2) 強め合いの条件式:
- 戦略: (1)の結果から経路差を計算し、強め合いの条件に当てはめる。
- フロー: ①経路差 \(\Delta L = AD – BC\) を計算 → ②(1)の結果を代入し、\(\Delta L = d(\sin\beta – \sin\alpha)\) を導出 → ③強め合いの条件 \(\Delta L = m\lambda\) と結びつける。
- (3) 1次の明線の関係式:
- 戦略: (2)の一般式に、問題で与えられた具体的な条件(次数、角度)を代入する。
- フロー: ①0次の光が\(m=0\)、1次の光が\(m=1\)に対応することを確認 → ②(2)の式に \(\alpha=\alpha’, \beta=\beta’, m=1\) を代入 → ③式を整理して結論を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題はすべて文字式なので、各文字が物理的に何を意味しているかを常に意識することが重要です。
- 三角関数の関係式を使いこなす: \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\) のような基本的な関係式は、角度の取り方によっては必要になる場合があります。正確に使いこなせるようにしておきましょう。
- 単位や次元の確認: 最終的に得られた式の次元が正しいかを確認する癖をつけると良いでしょう。例えば(3)の \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \lambda/d\) という式では、\(\sin\)は無次元、\(\lambda/d\)も(長さ/長さ)で無次元となり、次元的に整合性が取れています。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 条件式: もし\(\alpha=0\)(垂直入射)なら、式は \(d\sin\beta = m\lambda\) となります。これは透過型回折格子でよく見るおなじみの式であり、妥当です。また、もし\(\beta=\alpha\)なら、経路差は0となり、\(m=0\)の明線に対応します。これも反射の法則と一致しており、妥当です。
- (3) 関係式: 式 \(\sin\beta’ = \sin\alpha’ + \lambda/d\) から、\(\lambda\)が大きい(赤い)光ほど、\(\sin\beta’\)が大きくなる、つまり回折角\(\beta’\)が大きくなることがわかります。これは、プリズムや回折格子が光をスペクトルに分ける際の基本的な性質(赤い光ほど大きく曲がる)と一致しており、物理的に正しい結果です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]