「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 22】Step 2

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Step 2

284 レンズによる像の作図

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「レンズによる像の作図」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 作図の基本となる3本の光線: 物体の先端から出て、レンズを通過した後の進み方が分かっている特別な3本の光線の性質を理解していることが全てです。
  2. 凸レンズと凹レンズの性質の違い: 凸レンズは光を集める(収束させる)性質、凹レンズは光を広げる(発散させる)性質があり、これにより光線の進み方が変わります。
  3. 実像と虚像: レンズを通過した後の光線が「実際に交わる」点にできるのが実像です。光線が広がってしまい交わらない場合に、その光線を逆向きに「延長した線が交わる」点にできるのが虚像です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (a), (b), (c)の各場合について、物体の先端(A’)から出る、作図の基本となる3本の光線のうち、描きやすい2本を選んで描きます。
  2. レンズを通過した後の光線(またはその延長線)が交わる点を見つけ、そこを像の先端(B’)とします。
  3. 像の先端(B’)から光軸に垂線を下ろし、像(BB’)を完成させます。

(a) 凸レンズ(物体が焦点の外側)

思考の道筋とポイント
凸レンズで物体を焦点の外側に置いた場合の作図です。この場合、レンズの後方に倒立した実像ができることを予測しながら作図を進めます。物体の先端A’から出た光が、レンズを通過した後にどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): レンズで屈折した後、後側の焦点F’を通る。
  • 光線②(レンズの中心を通る光): 屈折せず、そのまま直進する。
  • 光線③(手前側の焦点Fを通る光): レンズで屈折した後、光軸に平行に進む。
  • これら3本のうち、いずれか2本を描けば像の位置は決まります。

具体的な解説と立式
この問題は作図が中心であり、数式による立式はありません。作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光はレンズで屈折し、後側の焦点F’を通過します。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. (検算用)物体の先端A’から出て手前側の焦点Fを通りレンズに向かう光線③を描きます。この光はレンズで屈折し、光軸に平行に進みます。
  4. レンズを通過した後の3本の光線は、レンズの後方の一点(B’)で実際に交わります。この点が像の先端です。
  5. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 作図の3原則(上記「重要なポイント」参照)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

物体のてっぺん(A’)から出る、進み方がわかっている特別な光を2本描きます。
1本目は、光軸と平行に進んでレンズに当たり、屈折して焦点F’を通る光です。
2本目は、レンズのど真ん中をまっすぐ通り抜ける光です。
この2本の光がレンズの向こう側で交わった点が、像のてっぺん(B’)になります。そこから光軸に向かって矢印を引けば、像の完成です。

結論と吟味

作図の結果、レンズの後方(焦点F’の外側)に、物体とは上下が逆さまの「倒立実像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも大きい「拡大像」であることもわかります。これは、物体を焦点と焦点距離の2倍の間の位置に置いたときの特徴と一致しており、妥当な結果です。

解答 (a) 解説中の図を参照。

(b) 凸レンズ(物体が焦点の内側)

思考の道筋とポイント
凸レンズで物体を焦点の内側に置いた場合の作図です。虫眼鏡で物体を拡大して見るときの状況であり、物体と同じ側に正立した虚像ができることを予測しながら作図を進めます。レンズを通過した光は広がって進むため、実際の光線は交わりません。そのため、光線の「延長線」がどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 作図のルールは(a)と同じです。
  • レンズ通過後の光線が交わらない場合、光線を物体側に延長(点線で描く)し、その交点に「虚像」ができます。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光はレンズで屈折し、後側の焦点F’を通過します。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. レンズを通過した後の光線①と②は、互いに広がっていくため、レンズの後方では交わりません。
  4. そこで、レンズを通過した後の光線①と②を、レンズの手前側(物体側)にまっすぐ延長します。
  5. 2本の延長線が交わる一点(B’)が、虚像の先端となります。
  6. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。虚像は点線で描くのが一般的です。

使用した物理公式

  • 作図の3原則
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

(a)と同じように、物体のてっぺん(A’)から出る2本の特別な光を描きます。
今度は、レンズを通り抜けた後の2本の光が、どんどん離れていってしまいます。これでは像ができません。
そこで、レンズのこちら側から目を近づけてレンズを覗き込むと、この2本の光が、まるでレンズの向こう側のある一点からやってくるように見えます。その「見かけの出発点」を探すために、レンズを通り抜けた光を逆向きに(点線で)延長します。延長線が交わった点が、像のてっぺん(B’)になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの前方(物体と同じ側)に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも大きい「拡大像」であることがわかります。これは虫眼鏡の原理であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (b) 解説中の図を参照。

(c) 凹レンズ

思考の道筋とポイント
凹レンズによる像の作図です。凹レンズは、物体の位置にかかわらず、常に物体と同じ側に正立した小さな虚像を作ります。凹レンズは光を発散させる性質があることを念頭に、作図ルールを正しく適用することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): レンズで屈折した後、手前側の焦点Fから出たかのように広がって進む。
  • 光線②(レンズの中心を通る光): 屈折せず、そのまま直進する。
  • 光線③(後側の焦点F’に向かう光): レンズで屈折した後、光軸に平行に進む。
  • 凹レンズの場合も、レンズ通過後の光は発散するため、延長線が交わる点に虚像ができます。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光は凹レンズで屈折し、その光を逆向きに延長すると手前側の焦点Fを通るように、広がって進みます。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. レンズを通過した後の光線①と②は発散するため交わりません。
  4. 発散していく光線①をレンズの手前側に延長した線(焦点Fに向かう線)と、直進する光線②が、レンズの手前側の一点(B’)で交わります。この点が虚像の先端です。
  5. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 凹レンズの作図の3原則(上記「重要なポイント」参照)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

凹レンズは光を広げるレンズです。ここでも、物体のてっぺん(A’)から出る2本の光を追いかけます。
1本目は、光軸と平行に進んでレンズに当たり、手前の焦点Fから飛び出してきたかのように外側に曲げられる光です。
2本目は、レンズのど真ん中をまっすぐ通り抜ける光です。
この2本の光もレンズの向こう側では交わりません。そこで、外側に曲げられた1本目の光を逆向きに(点線で)延長します。すると、まっすぐ進んだ2本目の光と、レンズの手前側で交わります。この点が、像のてっぺん(B’)になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの前方(物体と同じ側、かつ焦点Fの内側)に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも小さい「縮小像」であることがわかります。これは凹レンズの性質と一致しており、妥当な結果です。

解答 (c) 解説中の図を参照。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズ作図の3原則:
    • 核心: レンズによる像の位置と種類(実像/虚像、正立/倒立、拡大/縮小)を決定するための、幾何学的なルールです。物体の先端から出る無数の光線のうち、レンズ通過後の進路が予測できる以下の3本の特別な光線を理解し、描けることが全てです。
    • 理解のポイント(凸レンズの場合):
      1. 光軸に平行な光 → 後側焦点を通る: レンズの基本的な光を集める性質を表します。
      2. レンズ中心を通る光 → 直進する: レンズ中心付近は、ほぼ平行なガラス板と見なせるため、光はほとんど屈折しないという近似に基づきます。
      3. 手前側焦点を通る光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性により、ルール1の逆の経路をたどります。
    • 理解のポイント(凹レンズの場合):
      1. 光軸に平行な光 → 手前側焦点から出たように進む: レンズの基本的な光を発散させる性質を表します。
      2. レンズ中心を通る光 → 直進する: 凸レンズと同じ理由です。
      3. 後側焦点に向かう光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性に基づきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹面鏡・凸面鏡の作図: レンズと同様に、鏡にも作図の3原則が存在します。焦点や中心の位置に注意すれば、同じ考え方で像の作死が可能です。
    • レンズの公式との連携: 作図によって像のおおよその位置や種類を予測し、その結果をレンズの公式(\(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\))を用いた計算で定量的に確認する問題。作図と計算が一致することを確認する良い練習になります。
    • 複合レンズ系の作図: 1枚目のレンズで作図して像を求め、その像を2枚目のレンズの物体として、再度作図を行う問題。作図が複雑になりますが、段階的に考える基本は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズの種類を確認: まず、凸レンズか凹レンズかを確認します。これにより、光が収束するのか発散するのか、どの作図ルールを使うべきかが決まります。
    2. 物体の位置を確認: 特に凸レンズの場合、物体が焦点の外側にあるか内側にあるかで、できる像の種類(実像か虚像か)が根本的に変わります。最初に「物体は焦点Fより遠い/近い」と確認することが重要です。
    3. 描きやすい2本を選ぶ: 3本の基本光線のうち、最も描きやすいのは「光軸に平行な光」と「レンズ中心を通る光」の2本です。通常はこの2本を描けば十分です。3本目は検算用と考えると良いでしょう。
    4. 実像か虚像かを判断: レンズ通過後の光線が「実際に交わる」なら実像、「延長線が交わる」なら虚像です。光線が広がっていく場合は、すぐに延長線を描く方針に切り替えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 凸レンズと凹レンズの焦点の役割の混同:
    • 誤解: 凸レンズの作図で、光軸に平行な光が「手前側」の焦点を通ると勘違いする。または、凹レンズの作図で、光軸に平行な光が「後側」の焦点から発散するように描いてしまう。
    • 対策: 「凸レンズは光を集めるレンズなので、平行な光はレンズの向こう側(後側)の焦点に集まる」「凹レンズは光を広げるレンズなので、平行な光はレンズの手前側にある焦点から広がっていくように見える」と、レンズの物理的な働きと結びつけて覚えることが有効です。
  • 虚像の作図で、延長する線を間違える:
    • 誤解: (b)の虚像の作図で、レンズに入る前の光線を延長してしまう。
    • 対策: 像ができるのは、あくまで「レンズを通過した後の光」が集まる(または、集まるように見える)場所です。必ず、レンズで屈折した後の光線を逆向きに延長することを徹底します。「目はレンズの右側にある」とイメージし、その目に入ってくる光の延長線を考える、と意識すると間違いが減ります。
  • 線の種類(実線と点線)の使い分けが曖昧:
    • 誤解: 実際の光の進路と、作図のための補助線(延長線)をすべて実線で描いてしまい、図が混乱する。
    • 対策: 「光が実際に進む経路は実線」「虚像や、作図のための延長線は点線」というルールを自分の中で徹底します。これにより、図の物理的な意味が明確になり、見直しもしやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 作図の3原則(物理法則の幾何学的表現):
    • 選定理由: この問題は「作図せよ」という指示なので、計算ではなく幾何学的な方法で解く必要があります。作図の3原則は、レンズの結像法則を視覚的に表現したものであり、この問題を解くための唯一のツールです。
    • 適用根拠:
      • ルール1(平行光→焦点): 焦点の定義そのものです。無限遠から来た平行光線がレンズによって集まる(または、そこから発散するように見える)点が焦点です。
      • ルール2(中心→直進): 薄レンズ近似という、レンズの中心付近では光が屈折しないと見なす、物理的に妥当な近似に基づいています。
      • ルール3(焦点→平行光): 光路の可逆性という、光は来た道を逆にたどれるという普遍的な物理原理に基づいています。ルール1の逆のプロセスが成り立つのはこのためです。
    • これら物理的に裏付けのあるルールを適用することで、論理的に像の位置を決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 定規を正しく使う: 作図問題では、フリーハンドではなく必ず定規を使いましょう。特に、光軸に平行な線や、2点(例:A’とレンズ中心O)を通る直線を正確に引くことが、作図の精度を大きく左右します。
  • 焦点の位置を明確にする: 作図を始める前に、光軸上の焦点FとF’の位置に明確な印をつけます。光線がこの点を通る、あるいはこの点から発するように描く際に、目標がはっきりしていると正確に描きやすくなります。
  • 線の交点を丁寧に見つける: 2本の線が交わる点を、線の太さでごまかさずに、慎重に特定します。交点がずれると、像の位置や大きさが不正確になります。芯の細いシャープペンシルなどを使うと良いでしょう。
  • 描いた図を吟味する: 作図が終わったら、完成した像が物理的に妥当かを確認します。(a)なら「倒立実像」、(b)なら「正立拡大虚像」、(c)なら「正立縮小虚像」という、事前に知っている知識と一致するかをチェックします。もし異なっていれば、作図のどこかでルールを間違えた可能性が高いと判断できます。

285 平面鏡

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平面鏡による像と反射の法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 平面鏡による像: 平面鏡によってできる像は、鏡面に対して物体と線対称な位置にできる「虚像」です。像の大きさは物体と同じ(等倍)になります。
  2. 光の反射の法則: 鏡面上の光が反射する点において、入射角と反射角は等しくなります。
  3. 光の直進性: 人が物を見るとき、光がその物体(あるいはその像)から自分の目にまっすぐ届くと認識します。作図ではこの性質を利用するのが非常に便利です。
  4. 三角形の相似: 光の進路を作図すると、相似な三角形が現れます。この幾何学的な関係を利用して、必要な鏡の長さを計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 人が自分の全身を見る、という状況を物理的に考えます。これは、「頭のてっぺん」と「足先」の両方から出た光が、鏡で反射してその人の目に入ってくる状況を意味します。
  2. この条件を満たすために必要な鏡の「上端の位置」と「下端の位置」を、作図によってそれぞれ決定します。
  3. 鏡の上端と下端の間の長さが、求める鏡の最小の長さとなります。

思考の道筋とポイント
「全身が見える」という条件を、「頭のてっぺんが見える」ことと「足先が見える」ことの2つの条件に分解して考えます。それぞれの条件を満たすために、鏡のどの部分が使われるのかを作図によって明らかにします。
このとき、実際に光が反射する経路(反射の法則)を考えるよりも、「平面鏡に映る像」を考え、その像から目に光がまっすぐ届く、と考える方がはるかに簡単で直感的に理解できます。
この設問における重要なポイント

  • 平面鏡の像は、鏡面に対して物体と線対称な位置にできる虚像です。
  • 物体から出た光は鏡で反射しますが、その反射光を逆にたどると、あたかも像から出たかのように見えます。
  • 作図では、三角形の相似の関係、特に「中点連結定理」に似た形が現れ、辺の長さの比が重要になります。
  • 結論として、必要な鏡の長さは身長の半分となり、これは鏡と人との距離には依存しません。

具体的な解説と立式
人の身長を \(L\)、頭のてっぺんをA、目をE、足先をBとします。地面を基準としたときの各点の高さを、それぞれ \(h_A, h_E, h_B (=0)\) とします。身長は \(L = h_A – h_B = h_A\) です。
平面鏡に映る像を考え、頭の像をA’、目の像をE’、足先の像をB’とします。

1. 足先Bを見るための鏡の下端Pの位置
足先Bから出た光が鏡の下端Pで反射して、目Eに入る状況を考えます。このとき、反射してきた光は、あたかも像の足先B’からまっすぐ目Eに向かって進んできたように見えます。
したがって、鏡の下端Pは、線分EB’と鏡面の交点となります。
ここで、目Eと像B’から鏡面に垂線をおろし、それらの足とPでできる2つの直角三角形を考えると、それらは相似になります。人と鏡の距離と、鏡と像の距離は等しいので、相似比は1:1です。
このことから、点Pの高さ \(y_{\text{下}}\) は、目Eの高さ \(h_E\) と足先Bの高さ \(h_B\) のちょうど中間になります。
$$ y_{\text{下}} = \frac{h_E + h_B}{2} $$

2. 頭のてっぺんAを見るための鏡の上端Qの位置
同様に、頭のてっぺんAから出た光が鏡の上端Qで反射して、目Eに入る状況を考えます。この光は、像の頭A’からまっすぐ目Eに向かって進んできたように見えます。
したがって、鏡の上端Qは、線分EA’と鏡面の交点となります。
点Qの高さ \(y_{\text{上}}\) は、目Eの高さ \(h_E\) と頭Aの高さ \(h_A\) のちょうど中間になります。
$$ y_{\text{上}} = \frac{h_E + h_A}{2} $$

3. 必要な鏡の長さ
全身を映すために必要な鏡の長さ \(l\) は、鏡の上端の高さ \(y_{\text{上}}\) と下端の高さ \(y_{\text{下}}\) の差です。
$$ l = y_{\text{上}} – y_{\text{下}} $$
ここに先ほどの式を代入します。
$$ l = \frac{h_A + h_E}{2} – \frac{h_E + h_B}{2} = \frac{h_A – h_B}{2} $$
ここで、\(h_A – h_B\) はその人の身長 \(L\) に他なりません。
したがって、必要な鏡の長さは身長の半分となります。
$$ l = \frac{L}{2} $$

使用した物理公式

  • 光の反射の法則
  • 平面鏡の結像(物体と像は鏡面に対し線対称)
計算過程

問題で与えられた身長 \(L = 1.6 \text{ m}\) を、導き出した関係式に代入します。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{L}{2} \\[2.0ex]&= \frac{1.6}{2} \\[2.0ex]&= 0.80 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

自分の全身を鏡で見るためには、「頭のてっぺん」から「足のつま先」までがすべて鏡に映る必要があります。
作図をして光の通り道を調べてみると、面白いことがわかります。

  • 「つま先」が映るために必要な鏡の一番下の部分は、ちょうど「自分の目とつま先の真ん中の高さ」になります。
  • 「頭のてっぺん」が映るために必要な鏡の一番上の部分は、ちょうど「自分の目と頭のてっぺんの真ん中の高さ」になります。

この鏡の上端と下端の長さを計算すると、結果的に「(頭の高さ – つま先の高さ)÷ 2」、つまり「身長の半分」という長さになります。

結論と吟味

身長\(1.6 \text{ m}\)の人が自身の全身を映すためには、最低でもその半分の長さである\(0.80 \text{ m}\)の鏡が必要です。
この結果は、人の目の高さや、鏡からの距離には依存しないという重要な結論を示しています。つまり、背の低い子供でも、背の高い大人でも、鏡に近づいても離れても、自分の全身を映すために必要な鏡の「長さ」は、常に自分の身長の半分となります。(ただし、鏡を設置する「高さ」は、見る人の目の高さによって調整する必要があります。)

解答 0.80m

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 平面鏡の結像と光の直進性:
    • 核心: この問題を解く最もエレガントな方法は、物理的な光の反射(入射角=反射角)を直接考えるのではなく、「平面鏡に映る像」を先に作図し、「像から目に光がまっすぐ届く」と考えることです。
    • 理解のポイント:
      1. まず、鏡面に対して、自分自身と線対称な位置に「像」を描きます。この像は、鏡の向こう側にいるもう一人の自分です。
      2. 次に、自分の「目」と、見たい部分の「像」(例えば、像の足先)を直線で結びます。
      3. この直線が鏡を横切る部分が、その部分を見るために光が反射しなければならない場所です。
  • 三角形の相似(中点連結定理の応用):
    • 核心: 上記の作図を行うと、必ず相似な三角形が現れます。特に、人と鏡の距離と、鏡と像の距離が等しいため、相似比が1:1の三角形(合同な三角形)や、中点連結定理が適用できる図形が現れます。
    • 理解のポイント:
      • 「目」と「足先」と「鏡」で作られる三角形と、「像の目」と「像の足先」と「鏡」で作られる三角形は合同です。
      • この幾何学的な関係から、必要な鏡の長さが「(頭の高さ – 足の高さ)/ 2」、つまり「身長の半分」であることが導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁に掛かった絵を鏡で見る問題: 自分の後ろの壁に掛かった絵の全体を見るために必要な鏡の大きさを問う問題。考え方は全く同じで、絵の「像」を描き、その像の上下端と自分の目を結ぶ直線が鏡を横切る範囲を求めます。
    • 鏡を設置する高さの問題: 全身を映すために必要な鏡の「長さ」だけでなく、その鏡を床からどの「高さ」に設置すべきかを問う問題。作図から、鏡の下端は「目と足先の高さの中点」、上端は「目と頭の高さの中点」に合わせる必要があることがわかります。
    • 鏡の前を人が移動する問題: 鏡に映る姿が見える範囲や時間を問う問題。これも、像の位置を固定し、人が移動することで「像と目を結ぶ直線」がどう変化するかを追跡することで解けます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 平面鏡の問題だと認識したら、まず「像」を描く: 問題文を読んで平面鏡が関わるとわかったら、計算や難しい反射角を考える前に、まず鏡に対して対称な位置に像を描くことから始めます。これが思考の第一歩です。
    2. 「見る」という行為を「光が目に届く」と翻訳する: 「AさんがBを見る」という状況は、「B(またはBの像)から出た光がAさんの目に届く」という物理現象に置き換えて考えます。
    3. 図形問題に帰着させる: 作図が終われば、問題は物理から幾何学(特に三角形の相似)の問題に変わります。図の中から相似な三角形を見つけ出し、辺の比の関係を使って長さを求めることに集中します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 鏡と人との距離に依存すると考えてしまう:
    • 誤解: 鏡から離れれば、より小さな鏡で全身が見えるのではないか、あるいは近づけばもっと大きな鏡が必要なのではないか、と直感的に誤解してしまう。
    • 対策: 作図をすれば、必要な鏡の長さが鏡と人との距離に依存しないことが明確にわかります。この「身長の半分」という結論は非常に有名で重要なので、理由(相似関係)と共に覚えてしまうのが効果的です。一度作図して理解すれば、この誤解はなくなります。
  • 目の位置を考慮しない:
    • 誤解: 身長だけを考えて、鏡の長さを単純に身長の半分と結論付けてしまうが、なぜそうなるのかを説明できない。
    • 対策: 全身が見えるかどうかは、あくまで「目」に光が届くかどうかで決まります。作図の際は、必ず「頭」「目」「足」の3点を区別して描くことが重要です。目の位置を基準に考えることで、なぜ身長の半分になるのかを論理的に導き出せます。
  • 反射の法則で直接解こうとして混乱する:
    • 誤解: 鏡の各点で入射角と反射角が等しくなるように光線を描こうとして、作図が非常に複雑になり、混乱してしまう。
    • 対策: 反射の法則を直接使う方法は、数学的に面倒です。「像から目に光が直進してくる」という考え方を使えば、作図が劇的に簡単になることを知っておきましょう。物理現象としては等価ですが、解法としては後者が圧倒的に優れています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平面鏡の結像法則(物体と像は鏡面に対し線対称):
    • 選定理由: この問題は、人が鏡に映る「姿」を見ています。その「姿」とは物理的には「虚像」のことです。したがって、まずその虚像がどこにどのようにできるのかを決定する法則を用いるのが最も合理的です。
    • 適用根拠: この法則は、光の反射の法則を幾何学的に考察した結果として導かれます。この法則を適用することで、複雑な光線追跡を「像を描いて直線を引く」という単純な作図作業に置き換えることができ、問題を効率的に解くことができます。
  • 三角形の相似比:
    • 選定理由: 作図によって物理現象を幾何学的な図形に置き換えた後、具体的な「長さ」を計算するために用います。
    • 適用根拠: 光の直進性により、光の経路は直線で描かれます。これにより、目・像・鏡の位置関係が三角形を構成します。人と鏡、鏡と像の距離が等しいことから、中点連結定理の形や相似比1:1の三角形が必然的に現れ、これを利用して辺の長さを求めるのが論理的な流れとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は計算よりも作図と論理が重要:
    • 計算自体は「1.6 ÷ 2 = 0.80」という非常に単純なものしかありません。したがって、ミスをするとすれば、その結論に至るまでの作図や論理の段階です。
  • 丁寧な作図を心がける:
    • フリーハンドではなく、定規を使って直線を引きましょう。
    • 人と像が鏡面に対して対称になるように、距離を意識して描きます。
    • 頭・目・足の位置関係を、ある程度現実に即して描く(目は頭より下にある、など)と、図が直感的で分かりやすくなります。
  • 結論の一般化を意識する:
    • 「身長1.6m」という具体的な数値で計算する前に、「身長をLとすると、必要な鏡の長さはL/2になる」という一般式を導き出す練習をします。これにより、物理法則の本質的な理解が深まり、具体的な数値が変わっても応用が利くようになります。最後に数値を代入すれば、計算ミスも起こりにくいです。

286 眼鏡

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「近視・遠視の矯正とレンズの公式の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 眼鏡の役割: 眼鏡レンズは、見たい物体を、その人が裸眼ではっきりと見ることができる範囲(明視域)の中に「虚像」として移動させるための道具です。
  2. 近視の矯正: 近視の人は遠くが見えません。はっきりと見える最も遠い点(遠点)が有限の距離にあります。眼鏡は、無限遠にある物体の虚像を、その人の遠点に作ることで、遠くを見えるようにします。
  3. 遠視の矯正: 遠視の人は近くが見えません。はっきりと見える最も近い点(近点)が、通常よりも遠くにあります。眼鏡は、近くにある物体の虚像を、その人の近点に作ることで、近くを見えるようにします。
  4. レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を用いて、物体距離、像距離、焦点距離の関係を計算します。このとき、虚像の像距離は負の値として扱います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)近視の場合、矯正の目的は「無限遠の物体を、遠点である2.0mの位置に虚像として見せる」ことだと理解します。これをレンズの公式に当てはめて、必要なレンズの焦点距離を計算します。
  2. (2)遠視の場合、矯正の目的は「30cmの位置にある物体を、近点である3.3mの位置に虚像として見せる」ことだと理解します。これをレンズの公式に当てはめて、必要なレンズの焦点距離を計算します。

問(1) 近視の矯正

思考の道筋とポイント
近視の人は、遠くの物体からの平行な光を網膜上で結像できず、手前でピントが合ってしまいます。この人が裸眼ではっきり見える最も遠い距離が「遠点」で、この問題では\(2.0 \text{ m}\)です。
眼鏡の役割は、この人が見たい「無限遠にある物体」を、レンズの力で「遠点である\(2.0 \text{ m}\)の位置」に虚像として作り出すことです。そうすれば、その人は眼鏡を通して、あたかも物体が\(2.0 \text{ m}\)先にあるかのように感じ、裸眼でピントを合わせることができます。
この条件をレンズの公式に当てはめます。
この設問における重要なポイント

  • 物体距離 \(a\): 無限遠にある物体を考えるので、\(a = \infty\)。
  • 像距離 \(b\): 遠点である\(2.0 \text{ m}\)の位置に虚像を作る。虚像はレンズの手前側(物体側)にできるので、像距離は負の値、\(b = -2.0 \text{ m}\) となります。
  • 焦点距離 \(f\) が負になれば凹レンズ、正になれば凸レンズです。

具体的な解説と立式
眼鏡レンズの焦点距離を \(f\) とします。
見たい物体は無限遠にあるので、物体距離は \(a = \infty\) です。
この物体の像を、遠点であるレンズの前方\(2.0 \text{ m}\)の位置に作りたいので、像距離は \(b = -2.0 \text{ m}\) となります。(虚像なので負号がつく)
これらの値をレンズの公式に代入します。
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$
$$ \frac{1}{\infty} + \frac{1}{-2.0} = \frac{1}{f} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

立式した方程式を解きます。\( \displaystyle\frac{1}{\infty} \) は \(0\) と見なせるので、
$$
\begin{aligned}
0 + \frac{1}{-2.0} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]-\frac{1}{2.0} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]f &= -2.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

近視の人は、遠くのものがぼやけて見えます。この人は「\(2.0 \text{ m}\)より遠くは見えない」ので、一番遠くても\(2.0 \text{ m}\)までしかピントが合いません。
そこで眼鏡の出番です。眼鏡は、はるか遠く(無限遠)にある景色を、まるで「\(2.0 \text{ m}\)手前にあるかのように」見せかける(虚像を作る)役割をします。
この「無限遠のものを、\(2.0 \text{ m}\)手前に虚像として作る」という条件でレンズの公式を使って計算すると、必要なレンズの仕様がわかります。

結論と吟味

焦点距離は \(f = -2.0 \text{ m}\) と計算できました。焦点距離が負なので、これは凹レンズです。
したがって、焦点距離が\(2.0 \text{ m}\)の凹レンズの眼鏡をかければよいことになります。これは近視の矯正に凹レンズを用いるという一般的な知識と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) 焦点距離が\(2.0 \text{ m}\)の凹レンズの眼鏡をかける。

問(2) 遠視の矯正

思考の道筋とポイント
遠視の人は、近くの物体にピントを合わせるのが苦手です。この人が裸眼ではっきり見える最も近い距離が「近点」で、この問題では\(3.3 \text{ m}\)です。通常の人よりも近点が遠い状態です。
この人が「\(30 \text{ cm} (=0.30 \text{ m})\)の近く」を見たい場合、眼鏡の役割は、\(30 \text{ cm}\)の位置にある物体を、レンズの力で「近点である\(3.3 \text{ m}\)の位置」に虚像として作り出すことです。そうすれば、その人は眼鏡を通して、あたかも物体が\(3.3 \text{ m}\)先にあるかのように感じ、裸眼でピントを合わせることができます。
この条件をレンズの公式に当てはめます。
この設問における重要なポイント

  • 物体距離 \(a\): 見たい物体の位置なので、\(a = 30 \text{ cm} = 0.30 \text{ m}\)。
  • 像距離 \(b\): 近点である\(3.3 \text{ m}\)の位置に虚像を作る。虚像なので、\(b = -3.3 \text{ m}\)。
  • 単位をメートル(m)に統一して計算することが重要です。

具体的な解説と立式
眼鏡レンズの焦点距離を \(f\) とします。
見たい物体はレンズの前方\(30 \text{ cm}\)にあるので、物体距離は \(a = 0.30 \text{ m}\) です。
この物体の像を、近点であるレンズの前方\(3.3 \text{ m}\)の位置に作りたいので、像距離は \(b = -3.3 \text{ m}\) となります。(虚像なので負号がつく)
これらの値をレンズの公式に代入します。
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$
$$ \frac{1}{0.30} + \frac{1}{-3.3} = \frac{1}{f} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

立式した方程式を解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{f} &= \frac{1}{0.30} – \frac{1}{3.3} \\[2.0ex]&= \frac{11}{3.3} – \frac{1}{3.3} \\[2.0ex]&= \frac{10}{3.3} \\[2.0ex]f &= \frac{3.3}{10} = 0.33 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
\(0.33 \text{ m}\) は \(33 \text{ cm}\) です。

計算方法の平易な説明

遠視の人は、近くのものがぼやけて見えます。この人は「\(3.3 \text{ m}\)より近くは見えない」ので、本などを読むには腕をずっと伸ばさないとピントが合いません。
そこで眼鏡の出番です。眼鏡は、手元\(30 \text{ cm}\)の位置にある本を、まるで「\(3.3 \text{ m}\)先に離れているかのように」見せかける(虚像を作る)役割をします。
この「\(30 \text{ cm}\)のものを、\(3.3 \text{ m}\)手前に虚像として作る」という条件でレンズの公式を使って計算すると、必要なレンズの仕様がわかります。

結論と吟味

焦点距離は \(f = 0.33 \text{ m} = 33 \text{ cm}\) と計算できました。焦点距離が正なので、これは凸レンズです。
したがって、焦点距離が\(33 \text{ cm}\)の凸レンズの眼鏡(老眼鏡)をかければよいことになります。これは遠視の矯正に凸レンズを用いるという一般的な知識と一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) 焦点距離が\(33 \text{ cm}\)の凸レンズの眼鏡をかける。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 眼鏡による視力矯正の原理:
    • 核心: 眼鏡の役割は、「見たいけれど見えない距離にある物体」を、レンズの力を使って「その人が裸眼で見える範囲(明視域)に虚像として移動させる」ことです。この原理を理解することが、問題を解く上での大前提となります。
    • 理解のポイント:
      • 近視矯正 (問1): 見たい物体は「無限遠」。これを、裸眼で見える最も遠い点である「遠点」に虚像として移動させます。
      • 遠視矯正 (問2): 見たい物体は「手元(明視距離)」。これを、裸眼で見える最も近い点である「近点」に虚像として移動させます。
  • レンズの公式と虚像の扱い:
    • 核心: 上記の原理を定量的に計算するためのツールがレンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) です。特に、眼鏡が作る像は人が直接見るための「虚像」であるため、像距離\(b\)を負の値として扱うことが極めて重要です。
    • 理解のポイント:
      • 物体距離 \(a\): 実際に物体がある位置までの距離(正の値)。
      • 像距離 \(b\): 眼鏡によって作られる虚像の位置までの距離(負の値)。
      • 焦点距離 \(f\): 計算結果が負なら凹レンズ(近視用)、正なら凸レンズ(遠視用)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • レンズの度数(ジオプトリー)を求める問題: レンズの度数\(D\)は、焦点距離\(f\)(メートル単位)の逆数で定義されます (\(D = 1/f\))。本問で焦点距離を求めた後、さらに度数を計算させる問題は頻出です。
    • 乱視の矯正: 乱視は、目の方向によって屈折力が異なる状態です。これを矯正するには、円柱レンズという特殊なレンズを使い、方向によって異なる屈折力を補正します。
    • 老眼(老視): 加齢により目の調節力が衰え、近点が遠くなる現象です。矯正方法は遠視と全く同じで、凸レンズ(老眼鏡)を用いて手元の物体の虚像を遠くに作ります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 近視か遠視かを見極める: 問題文の「〜より遠いところが見えない」は近視、「〜より近いところが見えない」は遠視、と判断します。これにより、矯正の目的(無限遠を見る or 手元を見る)が決まります。
    2. 「見たい物体」と「虚像の位置」を特定する:
      • 近視の場合: 見たい物体は「無限遠 (\(a=\infty\))」、虚像の位置は「その人の遠点 (\(b=-f\))」。
      • 遠視の場合: 見たい物体は「明視距離(例: 30cm)(\(a=0.3\text{m}\))」、虚像の位置は「その人の近点 (\(b=-3.3\text{m}\))」。
    3. 符号を意識してレンズの公式に代入する: 特に像距離\(b\)にマイナス符号を付け忘れないように細心の注意を払います。単位をメートルに統一することも忘れないようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 像距離\(b\)の符号ミス:
    • 誤解: 虚像であることを忘れ、像距離\(b\)を正の値として計算してしまう。これは最も多い致命的なミスです。
    • 対策: 「眼鏡が作る像は、人が見るための虚像であり、レンズの手前側(物体側)にできる」と強く意識します。そして、「レンズの公式において、虚像の像距離は負」というルールを機械的に適用する習慣をつけます。
  • 近視と遠視の矯正方法の混同:
    • 誤解: 近視の矯正に凸レンズ、遠視の矯正に凹レンズを使ってしまう。
    • 対策: 「近視は光が手前で集まりすぎる病気なので、光を発散させる凹レンズで補正する」「遠視は光が奥でしか集まらない病気なので、光をより強く集める凸レンズで補正する」と、原因と対策をセットでイメージとして記憶します。計算結果(\(f\)の符号)がこのイメージと一致するかを常に確認します。
  • 単位の混在による計算ミス:
    • 誤解: (2)で、物体距離を\(30\)[cm]、像距離を\(3.3\)[m]のまま、\(\displaystyle\frac{1}{30} + \frac{1}{-3.3} = \frac{1}{f}\) のように計算してしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、すべての長さをメートル[m]かセンチメートル[cm]のどちらかに統一することを徹底します。特にレンズの度数(ジオプトリー)を扱う場合は、メートル[m]への統一が必須です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • レンズの公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)):
    • 選定理由: この問題は、眼鏡という「レンズ」が、ある位置にある「物体」を、別の位置に「像」として移動させる、という典型的なレンズの結像問題だからです。物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の関係を記述する唯一の基本式であるため、これを選択します。
    • 適用根拠:
      • 問(1) 近視: 「無限遠(\(a=\infty\))にある物体」を「遠点(\(b=-2.0\text{m}\))に虚像として結ぶ」という物理的な要求を、レンズの公式に代入することで、それを実現するために必要なレンズの特性(焦点距離\(f\))を論理的に導き出すことができます。
      • 問(2) 遠視: 「手元(\(a=0.30\text{m}\))にある物体」を「近点(\(b=-3.3\text{m}\))に虚像として結ぶ」という要求を同様にレンズの公式に代入し、必要な焦点距離\(f\)を求めます。
    • このように、物理的な状況設定(何をどこに見せたいか)を、レンズの公式という数学的なモデルに落とし込むことで、問題を解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(1/\infty = 0\) の適用: (1)の計算では、\(\displaystyle\frac{1}{\infty}\) という項が出てきます。これは数学的に厳密ではありませんが、物理では「物体が非常に遠くにあるため、光線はほぼ平行と見なせ、物体距離の逆数は0に近似できる」と考え、\(0\)として扱います。
  • 分数の計算と単位統一: (2)の \(\displaystyle\frac{1}{0.30} – \frac{1}{3.3}\) のような計算では、まず分母を揃えることを考えます。\(0.30 \times 11 = 3.3\) という関係に気づけば、\(\displaystyle\frac{11}{3.3} – \frac{1}{3.3} = \frac{10}{3.3}\) とスムーズに計算できます。小数や分数が混在する場合は、分数に統一する(例: \(0.3 = 3/10\))など、自分が計算しやすい形に直してから計算を始めるとミスが減ります。
  • 最終的な答えの確認:
    • 近視の矯正(1)では、計算結果が \(f<0\)(凹レンズ)になるはずです。
    • 遠視の矯正(2)では、計算結果が \(f>0\)(凸レンズ)になるはずです。
  • 計算後に、この物理的な常識と結果が一致しているかを確認する癖をつけることで、符号ミスなどの致命的な誤りに気づくことができます。

287 鏡による像の作図

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「球面鏡(凹面鏡・凸面鏡)による像の作図」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 作図の基本となる3本の光線: 物体の先端から出て、鏡で反射した後の進み方が分かっている特別な3本の光線の性質を理解していることが重要です。
  2. 凹面鏡と凸面鏡の性質の違い: 凹面鏡は光を集める(収束させる)性質、凸面鏡は光を広げる(発散させる)性質があり、これにより光線の進み方が変わります。
  3. 実像と虚像: 反射した光線が「実際に交わる」点にできるのが実像です。光線が広がってしまい交わらない場合に、その光線を逆向きに「延長した線が交わる」点にできるのが虚像です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (a), (b), (c)の各場合について、鏡の種類(凸面鏡か凹面鏡か)と物体の位置(焦点\(F\)や中心\(C\)との相対位置)を確認します。
  2. 物体の先端(A’)から出る、作図の基本となる3本の光線のうち、描きやすい2本を選んで描きます。
  3. 反射した光線(またはその延長線)が交わる点を見つけ、そこを像の先端(B’)とします。
  4. 像の先端(B’)から光軸に垂線を下ろし、像(BB’)を完成させます。

(a) 凸面鏡

思考の道筋とポイント
凸面鏡は、自動車のサイドミラーのように広い範囲を映しますが、像は小さく見えます。物体の位置にかかわらず、常に鏡の後方に正立した小さな虚像ができることを予測しながら作図を進めます。凸面鏡は光を発散させるため、反射した光の延長線がどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): 反射した後、鏡の後方にある焦点\(F\)から出たかのように、広がって進む。
  • 光線②(鏡の中心\(C\)に向かう光): 鏡面に垂直に入射するため、反射した後、そのまま来た道を戻る。
  • 光線③(鏡の頂点\(O\)に入射する光): 光軸に対して、入射角と反射角が等しくなるように反射する。

具体的な解説と立式
この問題は作図が中心であり、数式による立式はありません。作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光は凸面鏡で反射し、その反射光を鏡の後方に延長すると焦点\(F\)を通るように進みます。
  2. 物体の先端A’から出て鏡の中心\(C\)に向かう光線②を描きます。この光は鏡面に垂直に入射するため、反射して来た道をそのまま戻ります。
  3. 反射した後の2つの光線は広がっていくため、鏡の前方では交わりません。
  4. そこで、反射光①の延長線(焦点\(F\)を通る線)と、反射光②の延長線(中心\(C\)を通る線)が、鏡の後方で交わる点を探します。この交点が像の先端B’です。
  5. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。虚像は点線で描くのが一般的です。

使用した物理公式

  • 凸面鏡の作図の3原則(上記「重要なポイント」参照)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

車のサイドミラーなどで使われる凸面鏡の作図です。光を広げる性質があるので、鏡の向こう側に像があるように見えます。
1. 物体のてっぺんから水平に進む光を描き、鏡に当たった後は、焦点\(F\)から飛び出すように反射させます。
2. 物体のてっぺんから鏡の中心\(C\)に向かう光を描き、鏡に当たった後は、そのままUターンさせます。
この2本の反射した光を、鏡の向こう側に点線で延長し、交わったところが像のてっぺんになります。

結論と吟味

作図の結果、鏡の後方(焦点\(F\)の内側)に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも小さい「縮小像」であることがわかります。これは凸面鏡の性質と一致しており、妥当な結果です。

解答 (a) 解説中の図を参照。

(b) 凹面鏡(物体が中心の外側)

思考の道筋とポイント
凹面鏡は光を集める性質があります。物体を鏡の中心\(C\)よりも遠くに置いた場合、像は中心\(C\)と焦点\(F\)の間に、逆さまになった小さな実像としてできることを予測しながら作図を進めます。反射した光が実際に交わる点を見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): 反射した後、焦点\(F\)を通る。
  • 光線②(鏡の中心\(C\)を通る光): 鏡面に垂直に入射するため、反射した後、そのまま来た道を戻る。
  • 光線③(焦点\(F\)を通る光): 反射した後、光軸に平行に進む。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光は凹面鏡で反射し、焦点\(F\)を通過します。
  2. 物体の先端A’から出て中心\(C\)を通り、鏡に向かう光線②を描きます。この光は反射して来た道をそのまま戻ります。
  3. 反射した後の光線①と②は、鏡の前方の一点(B’)で実際に交わります。この点が像の先端です。
  4. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 凹面鏡の作図の3原則
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

スプーンの内側のような凹面鏡の作図です。光を集める性質があるので、反射した光が実際に交わる点を探します。
1. 物体のてっぺんから水平に進む光を描き、鏡に当たった後は、焦点\(F\)を通るように反射させます。
2. 物体のてっぺんから鏡の中心\(C\)を通る光を描き、鏡に当たった後は、そのままUターンさせます。
この2本の反射した光が交わったところが、逆さまになった像のてっぺんになります。

結論と吟味

作図の結果、鏡の前方、中心\(C\)と焦点\(F\)の間に、物体とは上下が逆さまの「倒立実像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも小さい「縮小像」であることがわかります。これは凹面鏡の性質と一致しており、妥当な結果です。

解答 (b) 解説中の図を参照。

(c) 凹面鏡(物体が焦点の内側)

思考の道筋とポイント
凹面鏡でも、物体を焦点\(F\)の内側に置くと、拡大された虚像が見えます。これは歯医者さんが使うデンタルミラーや、拡大化粧鏡の原理です。反射した光は広がって進むため、実際の光線は交わりません。そのため、光線の「延長線」がどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 作図のルールは(b)と同じです。
  • 反射した光線が交わらない場合、光線を鏡の後方に延長(点線で描く)し、その交点に「虚像」ができます。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光は凹面鏡で反射し、焦点\(F\)を通過します。
  2. 物体の先端A’から出て、あたかも中心\(C\)から来たかのように鏡に向かう光線②を描きます。この光は鏡面に垂直に入射するため、反射して来た道をそのまま戻ります。
  3. 反射した後の光線①と②は広がっていくため、鏡の前方では交わりません。
  4. そこで、反射光①(焦点\(F\)を通る線)と反射光②(中心\(C\)を通る線)を、鏡の後方にまっすぐ延長します。
  5. 2本の延長線が交わる一点(B’)が、虚像の先端となります。
  6. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 凹面鏡の作図の3原則
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

拡大鏡として使われる凹面鏡の作図です。反射した光が広がってしまうので、鏡の向こう側に像があるように見えます。
1. 物体のてっぺんから水平に進む光を描き、鏡に当たった後は、焦点\(F\)を通るように反射させます。
2. 鏡の中心\(C\)から物体のてっぺんを通って鏡に当たる光を描き、鏡に当たった後は、そのままUターンさせます。
この2本の反射した光を、鏡の向こう側に点線で延長し、交わったところが像のてっぺんになります。

結論と吟味

作図の結果、鏡の後方に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも大きい「拡大像」であることがわかります。これは凹面鏡を拡大鏡として使う場合の性質と一致しており、妥当な結果です。

解答 (c) 解説中の図を参照。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 球面鏡作図の3原則:
    • 核心: 球面鏡による像の位置と種類を決定するための、幾何学的なルールです。レンズと同様に、物体の先端から出る光線のうち、反射後の進路が予測できる3本の特別な光線を理解し、描けることが全てです。
    • 理解のポイント(凹面鏡):
      1. 光軸に平行な光 → 焦点\(F\)を通る: 光を集める性質を表します。
      2. 中心\(C\)を通る光 → そのまま戻る: 鏡面に垂直に入射するため、反射の法則により来た道を戻ります。
      3. 焦点\(F\)を通る光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性により、ルール1の逆の経路をたどります。
    • 理解のポイント(凸面鏡):
      1. 光軸に平行な光 → 焦点\(F\)から出たように進む: 光を発散させる性質を表します。
      2. 中心\(C\)に向かう光 → そのまま戻る: 凹面鏡と同じ理由です。
      3. 焦点\(F\)に向かう光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性に基づきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 球面鏡の公式との連携: 作図によって像のおおよその位置や種類を予測し、その結果を球面鏡の公式(\(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\)、\(f=R/2\))を用いた計算で定量的に確認する問題。
    • パラボラアンテナ・太陽炉: 凹面鏡の「平行な光を焦点に集める」性質を応用した例です。太陽光(平行光)を焦点に集めて高温を得ます。
    • 自動車のバックミラー・カーブミラー: 凸面鏡の「広い範囲を縮小して見せる」性質を応用した例です。死角を減らすために利用されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 鏡の種類を確認: まず、凹面鏡か凸面鏡かを確認します。これにより、光が収束するのか発散するのか、どの作図ルールを使うべきかが決まります。
    2. 物体の位置を確認: 特に凹面鏡の場合、物体が中心\(C\)や焦点\(F\)に対してどの位置にあるかで、できる像の種類(実像/虚像、正立/倒立、拡大/縮小)が大きく変わります。
    3. 描きやすい2本を選ぶ: 3本の基本光線のうち、「光軸に平行な光」と「中心\(C\)を通る(または向かう)光」の2本が最も直感的で描きやすいです。通常はこの2本で十分です。
    4. 実像か虚像かを判断: 反射後の光線が「実際に交わる」なら実像、「延長線が交わる」なら虚像です。光線が広がっていく場合は、すぐに延長線を描く方針に切り替えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 焦点\(F\)と中心\(C\)の役割の混同:
    • 誤解: 焦点\(F\)を通る光を、中心\(C\)を通る光のように「そのまま戻る」と描いてしまう。あるいはその逆。
    • 対策: 「中心\(C\)は、その名の通り鏡が属する球の中心なので、そこから出る光は鏡面に必ず垂直に当たる。だからそのまま戻る」「焦点\(F\)は、平行光線が集まる特別な点」と、それぞれの点の物理的な意味を明確に区別して覚えることが重要です。
  • 凸面鏡の作図での混乱:
    • 誤解: 凸面鏡の作図で、焦点\(F\)や中心\(C\)が鏡の後方(光が進まない側)にあるため、光線の描き方に混乱する。特に、反射光の延長線が\(F\)や\(C\)を通る、という点を間違えやすい。
    • 対策: 「反射するのはあくまで鏡の表面であり、反射した後の光が、あたかも鏡の裏側にある\(F\)や\(C\)から来たかのように見える」とイメージします。作図の際は、まず物体の先端から\(F\)や\(C\)に向かう点線を描き、鏡面との交点まで実線で光を描き、そこから反射光を描く、という手順を踏むと間違いが減ります。
  • 凹面鏡で物体が焦点内にある場合のミス:
    • 誤解: (c)の状況で、反射光が広がっていくにもかかわらず、無理やり鏡の前方で交点を作ろうとしてしまう。
    • 対策: 反射光を描いた時点で、それらが明らかに広がっていく(交わらない)と判断したら、すぐに「これは虚像ができるパターンだ」と方針を切り替え、反射光を鏡の後方に延長する作業に移ることが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 作図の3原則(物理法則の幾何学的表現):
    • 選定理由: この問題は「作図せよ」という指示なので、計算ではなく幾何学的な方法で解く必要があります。作図の3原則は、球面鏡の結像法則を視覚的に表現したものであり、この問題を解くための唯一のツールです。
    • 適用根拠:
      • ルール1(平行光⇔焦点): 焦点の定義そのものです。
      • ルール2(中心→直進反射): 球の半径が常に球面に垂直であるという幾何学的な性質と、反射の法則(入射角0なら反射角0)に基づいています。
      • ルール3(頂点での反射): 光軸が鏡面の法線の一部と見なせる頂点において、反射の法則(入射角=反射角)を直接適用したものです。
    • これらの物理的・幾何学的に裏付けのあるルールを適用することで、論理的に像の位置を決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は計算不要: 計算ミスは発生しませんが、作図の正確さが問われます。
  • 定規とコンパスを有効活用する:
    • 光軸に平行な線や、点と点を結ぶ直線は必ず定規を使って正確に引きます。
    • 可能であれば、中心\(C\)からコンパスを使って鏡の曲面を描くと、より正確な図になります。
  • 線の種類を使い分ける:
    • 光が実際に進む経路は「実線」。
    • 虚像や、作図のための延長線は「点線」。
    • この使い分けを徹底することで、図が整理され、物理的な意味が明確になります。
  • 描いた図を吟味する: 作図が終わったら、完成した像が物理的に妥当かを確認します。(a)なら「正立縮小虚像」、(b)なら「倒立縮小実像」、(c)なら「正立拡大虚像」という、事前に知っている知識と一致するかをチェックします。もし異なっていれば、作図のルールをどこかで間違えた可能性が高いと判断できます。

288 凸面鏡による像

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「凸面鏡による結像と球面鏡の公式」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 凸面鏡の性質: 凸面鏡は光を発散させる性質を持ち、物体の位置にかかわらず、常に鏡の後方に「正立」「縮小」した「虚像」を作ります。
  2. 球面鏡の公式: 物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の関係を表す \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) という式です。
  3. 球面鏡の倍率: 像の大きさが物体の何倍になるかを表す \(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\) という式です。倍率が正なら正立像、負なら倒立像を意味します。
  4. 符号のルール: 球面鏡の公式を扱う上で、符号のルールを正しく適用することが非常に重要です。
    • 虚像の場合、像距離\(b\)は負の値 (\(b<0\))。
    • 凸面鏡の場合、焦点距離\(f\)は負の値 (\(f<0\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、凸面鏡ができる像の性質に関する基本的な知識から、像の種類を判断します。
  2. (2)では、問題文で与えられた像の位置と倍率の大きさから、まず倍率の公式を用いて物体距離を求めます。次に、球面鏡の公式に物体距離と像距離を代入して、焦点距離を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
凸面鏡が作る像の基本的な性質について問う知識問題です。自動車のサイドミラーやカーブミラーが凸面鏡の代表例です。それらがどのように物を見せているかを思い浮かべると、答えは自ずと導かれます。物理的には、凸面鏡は光を発散させるため、反射光が実際に一点に集まる「実像」を作ることはできず、常に「虚像」を作ります。また、作図からもわかるように、その虚像は常に物体と同じ向きの「正立像」となります。
この設問における重要なポイント

  • 凸面鏡は、物体の位置によらず、常に「正立・縮小・虚像」を作る。
  • 実像:反射光が実際に交わってできる像。スクリーンに映すことができる。
  • 虚像:反射光の延長線が交わってできる像。スクリーンには映らず、鏡を覗き込むことで見える。

具体的な解説と立式
この設問は凸面鏡の性質に関する知識を問うものであり、計算や立式は不要です。
凸面鏡は、鏡の面で反射した光を発散させる働きをします。そのため、反射光が鏡の前方で実際に交わることはなく、実像は形成されません。反射光を鏡の後方に延長すると、それらの線が一点で交わり、そこにあたかも物体があるかのように見えます。これが虚像です。
また、凸面鏡によってできる像は、常に物体と同じ向きの正立像となります。
したがって、凸面鏡によって生じる像は「正立虚像」です。

使用した物理公式

  • 物理知識(凸面鏡の性質)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

車のサイドミラーやお店の角にある防犯ミラーを思い出してみましょう。映っている車や人は、上下逆さまにはなっていません(=正立)。また、実際の物よりも小さく見えます(=縮小)。そして、像は鏡の向こう側にあるように見えます。このように、鏡を覗き込んで見える像は「虚像」です。したがって、答えは「正立虚像」となります。

結論と吟味

凸面鏡の基本的な性質から、できる像は(c)の正立虚像であると判断できます。

解答 (1) (c)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で明らかになった像の性質と、問題文で与えられた数値情報(像の位置、倍率)を用いて、物体距離\(a\)と焦点距離\(f\)を計算します。未知数が2つなので、式も2つ必要です。「倍率の公式」と「球面鏡の公式」を連立させて解きます。このとき、符号のルールを正しく適用することが最も重要です。
この設問における重要なポイント

  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
  • 球面鏡の倍率: \(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\)
  • 像は凸面鏡から\(60 \text{ cm}\)の距離にできた「虚像」なので、像距離は \(b = -60 \text{ cm}\) となります。
  • 倍率の大きさは \(|m| = \displaystyle\frac{1}{3}\) です。

具体的な解説と立式
凸面鏡から物体までの距離を \(a\)、焦点距離を \(f\) とします。
問題文より、像は凸面鏡から\(60 \text{ cm}\)の距離に生じ、(1)よりこれは虚像なので、像距離は \(b = -60 \text{ cm}\) とします。
倍率の大きさは \(\displaystyle\frac{1}{3}\) なので、倍率の公式から、
$$ |m| = \left|-\frac{b}{a}\right| = \frac{1}{3} $$
この式に \(b = -60 \text{ cm}\) を代入して、物体距離 \(a\) を求めます。
$$ \left|-\frac{-60}{a}\right| = \frac{1}{3} $$
次に、求めた \(a\) と \(b=-60 \text{ cm}\) を球面鏡の公式に代入して、焦点距離 \(f\) を求めます。
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$

使用した物理公式

  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
  • 球面鏡の倍率: \(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\)
計算過程

まず、倍率の式から物体距離 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{60}{a} &= \frac{1}{3} \\[2.0ex]a &= 60 \times 3 \\[2.0ex]&= 180 \text{ [cm]}
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮すると、\(a = 1.8 \times 10^2 \text{ cm}\) となります。

次に、\(a=180 \text{ cm}\), \(b=-60 \text{ cm}\) を球面鏡の公式に代入して、焦点距離 \(f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{180} + \frac{1}{-60} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]\frac{1}{180} – \frac{3}{180} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]\frac{-2}{180} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]\frac{-1}{90} &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]f &= -90 \text{ [cm]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、物体が鏡からどれくらい離れているかを計算します。像の大きさが物体の「3分の1」ということは、倍率の公式から、物体までの距離は像までの距離の「3倍」であることがわかります。像までの距離が\(60 \text{ cm}\)なので、物体までの距離は \(60 \text{ cm} \times 3 = 180 \text{ cm}\) です。
次に、この「物体までの距離 \(180 \text{ cm}\)」と「像までの距離 \(60 \text{ cm}\)」を使って、球面鏡の公式で焦点距離を計算します。このとき、凸面鏡ができる像は「虚像」なので、像までの距離をマイナスの値(\(-60 \text{ cm}\))として計算するのがポイントです。

結論と吟味

凸面鏡から物体までの距離は \(180 \text{ cm}\)(または \(1.8 \times 10^2 \text{ cm}\))です。
凸面鏡の焦点距離は \(f = -90 \text{ cm}\) と計算できました。焦点距離が負の値になるのは、凸面鏡の性質と一致しており、物理的に妥当です。問題では「焦点距離は」と聞かれているので、その大きさである \(90 \text{ cm}\) を答えます。

解答 (2) 凸面鏡から物体までの距離: \(1.8 \times 10^2 \text{ cm}\), 焦点距離: \(90 \text{ cm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 凸面鏡の性質と球面鏡の公式の適用:
    • 核心: この問題は、凸面鏡の基本的な性質(常に正立・縮小・虚像を作る)を理解していることと、その理解に基づいて「球面鏡の公式」と「倍率の公式」に正しい符号を代入して計算できるかを問うています。
    • 理解のポイント:
      1. 性質の理解 (問1): 凸面鏡が作る像は常に「正立虚像」であるという知識が直接的な答えになります。
      2. 公式の適用 (問2): 上記の知識を具体的な数値計算に反映させます。特に、虚像であることから像距離\(b\)を負の値凸面鏡であることから焦点距離\(f\)が負の値になるという符号のルールが最重要です。
  • 球面鏡の倍率の公式:
    • 核心: 球面鏡の倍率の公式は \(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\) であり、レンズの公式 (\(m = \frac{b}{a}\)) とはマイナス符号の有無が異なります。この違いを正確に認識していることが、計算の鍵となります。
    • 理解のポイント:
      • 倍率\(m\)が正 (\(m>0\)) ならば正立像。
      • 倍率\(m\)が負 (\(m<0\)) ならば倒立像。
      • 本問では正立像なので \(m = +\frac{1}{3}\) となり、\(+\frac{1}{3} = -\frac{b}{a}\) という関係式が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹面鏡の問題: 同じ公式を使いますが、物体の位置によってできる像の種類(実像/虚像、正立/倒立、拡大/縮小)が変化するため、より注意深い考察が必要になります。
    • 作図問題との連携: 計算で求めた物体距離や焦点距離を使って、実際に作図してみる問題。計算結果と作図結果が一致することを確認することで、理解が深まります。
    • レンズと鏡の組み合わせ(複合光学系): レンズが作った像を鏡の物体と見なす、あるいはその逆を考える問題。各要素について、それぞれの公式と符号ルールを段階的に適用していく必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 鏡の種類を特定: 問題文の「凸面鏡」というキーワードから、できる像は「正立・縮小・虚像」であり、焦点距離\(f\)は負の値になる、という予測を立てます。
    2. 与えられた情報を整理し、符号を割り当てる:
      • 像の位置: 「凸面鏡から\(60 \text{ cm}\)」→ 虚像なので \(b = -60 \text{ cm}\)。
      • 像の大きさ: 「物体の3分の1」→ 倍率の大きさは \(|m| = 1/3\)。正立像なので \(m = +1/3\)。
    3. 未知数と必要な式の数を確認する: 未知数は物体距離\(a\)と焦点距離\(f\)の2つ。したがって、「倍率の公式」と「球面鏡の公式」の2つを連立させる方針を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 像距離\(b\)と焦点距離\(f\)の符号ミス:
    • 誤解: 虚像や凸面鏡の性質を忘れ、\(b=60\) や \(f=90\) のように正の値として公式に代入してしまう。
    • 対策: 「凸面鏡 → 虚像 → \(b\)は負」「凸面鏡 → \(f\)は負」という連想を徹底します。問題を解き始める前に、与えられた情報に符号(\(+\) or \(-\))を書き込む癖をつけると良いでしょう。
  • 倍率の公式の混同:
    • 誤解: レンズの倍率公式 \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) を、鏡の場合にもそのまま使ってしまう。
    • 対策: 「鏡の倍率は \(m = -b/a\)。マイナスがつく!」と強く意識して覚える。なぜ符号が違うのか(座標系の取り方や作図から導かれる)まで理解すると忘れにくくなりますが、まずは公式の違いを明確に暗記することが重要です。
  • 焦点距離の答え方:
    • 誤解: 計算結果の \(f=-90 \text{ cm}\) をそのまま答えてしまう。
    • 対策: 問題文が「焦点距離は何か」と聞いている場合、通常はその大きさ(絶対値)を答えるのが慣例です。\(f=-90 \text{ cm}\) は「焦点距離が\(90 \text{ cm}\)の凸面鏡」であることを意味します。解答の形式に注意しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 球面鏡の倍率の公式 (\(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\)):
    • 選定理由: 問題に「物体の3分の1の大きさの像」という「大きさ・倍率」に関する情報が与えられているため、この条件を数式化するために選択します。
    • 適用根拠: この公式は、物体距離\(a\)と像距離\(b\)から倍率\(m\)を求める関係式です。与えられた \(m\) と \(b\) の値を使って、未知の物体距離\(a\)を求めるための方程式を与えてくれます。
  • 球面鏡の公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)):
    • 選定理由: 物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)という、球面鏡による結像の3つの基本量を関係づける唯一の公式だからです。
    • 適用根拠: 倍率の公式だけでは、焦点距離\(f\)を求めることはできません。倍率の公式で求めた物体距離\(a\)と、与えられている像距離\(b\)をこの公式に代入することで、最後の未知数である焦点距離\(f\)を求めることができます。このように、2つの公式を連携させることで、すべての未知数を決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 有効数字の扱い: 問題文の数値が「60cm」「3分の1」など、有効数字が曖昧な場合もありますが、模範解答では「\(1.8 \times 10^2\)cm」のように2桁で表現しています。物理の問題では、与えられた数値の桁数に合わせて答えをまとめる意識を持つと良いでしょう。(この場合、60cmを2桁と解釈)
  • 分数の計算: \(\displaystyle\frac{1}{180} + \frac{1}{-60}\) のような計算では、通分が鍵となります。分母を最小公倍数の180に揃え、\(\displaystyle\frac{1}{180} – \frac{3}{180}\) と途中式を丁寧に書くことで、符号ミスや計算ミスを防ぎます。
  • 逆数を取るのを忘れない: \(\displaystyle\frac{1}{f} = -\frac{1}{90}\) と計算した後、答えを \(f = -\frac{1}{90}\) としてしまわないように注意します。最後に必ず逆数を取って \(f=-90\) とすることを忘れないようにしましょう。
  • 物理的な妥当性の確認: 計算結果 \(f=-90 \text{ cm}\) が出た時点で、「マイナスになったから、これは凸面鏡だ。問題の設定と合っているな」と確認する癖をつけましょう。この一手間が、符号ミスの発見につながります。

289 凹面鏡による像の移動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「凹面鏡による結像と、物体移動に伴う像の移動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 球面鏡の公式: 物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の関係を表す \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) という式です。
  2. 実像と虚像の概念と符号: 問題では「実像」ができており、物体も実物なので、物体距離\(a\)と像距離\(b\)はともに正の値として扱います。また、凹面鏡の焦点距離\(f\)も正の値です。
  3. 凹面鏡の性質: 凹面鏡では、物体が焦点より外側にある場合、物体が鏡に近づくにつれて、その実像は鏡から遠ざかっていくという性質があります。この知識は(2)の結果を予測するのに役立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題文で与えられた物体距離と実像の距離を球面鏡の公式に代入し、焦点距離を求めます。
  2. (2)では、まず物体を移動させた後の新しい物体距離を計算します。(1)で求めた焦点距離とこの新しい物体距離を再び球面鏡の公式に代入して、移動後の像の位置を求め、最初の像の位置と比較します。

問(1)

思考の道筋とポイント
凹面鏡の前に置かれた点光源A(物体)の位置と、その実像Bの位置が具体的に与えられています。この2つの情報を使えば、球面鏡の公式から未知数である焦点距離\(f\)を直接計算することができます。
この設問における重要なポイント

  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
  • 物体距離 \(a\) は、鏡から物体Aまでの距離です。
  • 像距離 \(b\) は、鏡から実像Bまでの距離です。
  • 凹面鏡で実像ができる場合、\(a, b, f\) はすべて正の値として扱います。

具体的な解説と立式
凹面鏡の焦点距離を \(f\) とします。
問題文より、物体距離は \(a = 20 \text{ cm}\) です。
また、その実像ができた位置は、像距離 \(b = 60 \text{ cm}\) です。
これらの値を球面鏡の公式に代入します。
$$ \frac{1}{20} + \frac{1}{60} = \frac{1}{f} $$

使用した物理公式

  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

立式した方程式を \(f\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{f} &= \frac{1}{20} + \frac{1}{60} \\[2.0ex]&= \frac{3}{60} + \frac{1}{60} \\[2.0ex]&= \frac{4}{60} \\[2.0ex]&= \frac{1}{15}
\end{aligned}
$$
したがって、焦点距離は、
$$ f = 15 \text{ [cm]} $$

計算方法の平易な説明

鏡の基本的な公式(球面鏡の式)に、問題文で与えられている「物体までの距離 \(20 \text{ cm}\)」と「像までの距離 \(60 \text{ cm}\)」をそのまま当てはめて計算します。簡単な分数の足し算で、焦点距離が求まります。

結論と吟味

凹面鏡の焦点距離は \(15 \text{ cm}\) です。
焦点距離が正の値であり、凹面鏡であることを示しています。また、物体が焦点の外側 (\(a=20 \text{ cm} > f=15 \text{ cm}\)) にあるときに実像ができるという凹面鏡の性質とも一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) 15cm

問(2)

思考の道筋とポイント
光源A(物体)を鏡に近づけたときに、像Bがどのように動くかを問う問題です。
まず、移動後の物体Aの新しい位置(物体距離 \(a’\))を求めます。次に、(1)で計算した焦点距離 \(f\) と、この新しい物体距離 \(a’\) を使って、球面鏡の公式から移動後の像Bの新しい位置(像距離 \(b’\))を計算します。最後に、移動前の像の位置 (\(60 \text{ cm}\)) と移動後の像の位置 (\(b’\)) を比較して、移動方向と移動距離を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 凹面鏡の性質として、焦点の外側にある物体を鏡に近づけると、その実像は鏡から遠ざかる方向に移動します。このことを知っていると、計算結果の方向性を予測できます。
  • 物体が焦点に近づくにつれて、実像は急速に遠ざかっていきます。

具体的な解説と立式
光源Aを凹面鏡に \(2.0 \text{ cm}\) 近づけたので、新しい物体距離 \(a’\) は、
$$ a’ = 20 – 2.0 = 18 \text{ [cm]} $$
このときの像の位置を \(b’\) とします。(1)で求めた焦点距離 \(f=15 \text{ cm}\) を用いて、球面鏡の公式を立てます。
$$ \frac{1}{a’} + \frac{1}{b’} = \frac{1}{f} $$
$$ \frac{1}{18} + \frac{1}{b’} = \frac{1}{15} $$
この方程式を解いて \(b’\) を求め、最初の像の位置 \(b=60 \text{ cm}\) と比較します。

使用した物理公式

  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

新しい像距離 \(b’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b’} &= \frac{1}{15} – \frac{1}{18} \\[2.0ex]&= \frac{6}{90} – \frac{5}{90} \\[2.0ex]&= \frac{1}{90}
\end{aligned}
$$
したがって、移動後の像距離は、
$$ b’ = 90 \text{ [cm]} $$
最初の像の位置は \(b=60 \text{ cm}\)、移動後の像の位置は \(b’=90 \text{ cm}\) です。
像の移動距離は、
$$ \Delta b = b’ – b = 90 – 60 = 30 \text{ [cm]} $$
\(b’\) の値が \(b\) より大きいので、像は凹面鏡から離れる向きに移動したことがわかります。

計算方法の平易な説明

まず、物体を \(2.0 \text{ cm}\) 近づけたので、鏡からの新しい距離は \(20 – 2.0 = 18 \text{ cm}\) になります。
この新しい物体の位置と、(1)でわかった焦点距離 \(15 \text{ cm}\) を使って、再び鏡の公式で像がどこにできるかを計算します。
計算すると、像は鏡から \(90 \text{ cm}\) の場所にできることがわかります。
もともと像は \(60 \text{ cm}\) の場所にあったので、\(90 \text{ cm}\) の場所に移動したということは、鏡から「離れる向き」に「\(30 \text{ cm}\)」移動したことになります。

結論と吟味

像Bは、最初の位置(凹面鏡から\(60 \text{ cm}\))から、凹面鏡から離れる向きに\(30 \text{ cm}\)移動し、最終的に凹面鏡から\(90 \text{ cm}\)の位置に来ます。
物体を焦点(\(15 \text{ cm}\))に近づけるように移動させた (\(20 \text{ cm} \rightarrow 18 \text{ cm}\)) 結果、実像が鏡から遠ざかった (\(60 \text{ cm} \rightarrow 90 \text{ cm}\)) というのは、凹面鏡の性質と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 凹面鏡から離れる向きに30cm移動した。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 球面鏡の公式の応用:
    • 核心: この問題は、球面鏡の公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を、異なる状況に2回適用する能力を問うています。1回目は焦点距離を求めるため、2回目は物体が移動した後の像の位置を求めるために使います。
    • 理解のポイント:
      • (1) 焦点距離の決定: まず、与えられた初期状態の物体距離\(a\)と像距離\(b\)から、その鏡の固有の性質である焦点距離\(f\)を確定させます。
      • (2) 像の移動の追跡: 次に、物体が移動した後の新しい物体距離\(a’\)と、(1)で求めた不変の焦点距離\(f\)を使って、新しい像距離\(b’\)を計算します。
  • 凹面鏡における物体と実像の動きの関係:
    • 核心: 凹面鏡の焦点より外側では、物体が鏡に近づくと、その実像は鏡から遠ざかるという重要な性質があります。
    • 理解のポイント:
      • 物体が無限遠 → 像は焦点\(f\)
      • 物体が中心\(C\) (\(a=2f\)) → 像も中心\(C\) (\(b=2f\))
      • 物体が焦点\(f\)に近づく → 像は無限遠に遠ざかる
    • この関係性を頭に入れておくと、(2)で計算した結果(像が離れる)が物理的に妥当であるかを即座に判断できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 像の速度を求める問題: 物体が一定の速さで鏡に近づくとき、像が移動する速さを問う問題。像の速さは一定ではなく、位置によって変化します。微小時間での移動距離を考えるなど、微分の考え方が必要になる場合があります。
    • 虚像領域への移動: 物体が焦点を越えて、さらに鏡に近づいた場合(\(a<f\))、実像は無限遠に去った後、鏡の後方から虚像として現れます。物体が焦点をまたぐときの像の劇的な変化を問う問題は頻出です。
    • 凸レンズでの同様の問題: 凸レンズでも、物体が焦点の外側にある場合、物体がレンズに近づくと実像はレンズから遠ざかるという、凹面鏡と全く同じ関係が成り立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 鏡の種類と像の種類を確認: 「凹面鏡」「実像」というキーワードから、\(a, b, f\) は全て正の値として扱えると判断します。これが符号ルールを決定する第一歩です。
    2. 問題の構造を把握する: (1)で鏡の基本特性(焦点距離)を求めさせ、(2)でその特性を使って別の状況を分析させる、という二段構えの構造であることを見抜きます。(1)の答えが(2)の計算に必要になることを意識します。
    3. 変化する量と不変の量を区別する: 物体を動かす問題では、物体距離\(a\)と像距離\(b\)は変化しますが、鏡の形そのものである焦点距離\(f\)は変化しない不変量です。この区別が重要です。
    4. 移動方向と距離の問い方: (2)の「どちらに何cm移動したか」という問いに対しては、「移動後の位置」だけを答えるのではなく、「最初の位置からの変化」を計算する必要があります。最終的な答えの形式を意識して計算を進めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 分数の計算ミス:
    • 誤解: \(\displaystyle\frac{1}{15} – \frac{1}{18}\) のような計算で、通分を焦って間違える。
    • 対策: 最小公倍数(この場合は90)を落ち着いて見つけ、\(\displaystyle\frac{6}{90} – \frac{5}{90}\) のように、途中式を省略せずに書くことが最も効果的です。
  • 逆数を取るのを忘れる:
    • 誤解: \(\displaystyle\frac{1}{f} = \frac{1}{15}\) や \(\displaystyle\frac{1}{b’} = \frac{1}{90}\) と計算した後、答えを \(f = \frac{1}{15}\) や \(b’ = \frac{1}{90}\) としてしまう。
    • 対策: 計算の最終段階で、必ず逆数を取ることを意識し、指差し確認する癖をつけましょう。「求めているのは \(1/f\) ではなく \(f\) そのものだ」と常に自問します。
  • 移動後の物体距離の計算ミス:
    • 誤解: 「\(2.0 \text{ cm}\) 近づけた」を、足し算と勘違いして \(a’ = 20+2.0 = 22 \text{ cm}\) と計算してしまう。
    • 対策: 「近づける」は距離が「減る」、「遠ざける」は距離が「増える」と、言葉の意味を物理的な操作に正しく変換します。簡単な図を描いて、位置関係を確認するのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 球面鏡の公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)):
    • 選定理由: この問題は、凹面鏡による結像における物体距離、像距離、焦点距離という3つの量の関係性を扱っているため、これらを結びつける唯一の基本式である球面鏡の公式を選択します。
    • 適用根拠:
      • (1)での適用: 未知数は焦点距離\(f\)のみで、物体距離\(a\)と像距離\(b\)は既知です。この状況で\(f\)を求めるには、3つの量を関係づけるこの公式が不可欠です。
      • (2)での適用: 鏡の特性である焦点距離\(f\)は不変です。物体を動かした後の新しい物体距離\(a’\)がわかっているので、未知数である新しい像距離\(b’\)を求めるために、再びこの公式を適用するのが最も論理的です。
    • このように、状況が変わっても、同じ物理法則(球面鏡の公式)が適用できることを理解し、適切に変数(\(a, b\))を更新して利用する能力が問われています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 通分の工夫: (2)の \(\displaystyle\frac{1}{15} – \frac{1}{18}\) の計算では、\(15=3 \times 5\), \(18=2 \times 3^2\) なので、最小公倍数は \(2 \times 3^2 \times 5 = 90\) となります。素因数分解を利用すると、大きな数の最小公倍数を素早く正確に見つけることができます。
  • 計算プロセスの標準化:
    1. 与えられた数値を文字式に代入する。
    2. 求める変数(例: \(\frac{1}{f}\))について式を整理する。
    3. 通分して分数の加減算を行う。
    4. 最後に逆数を取って答えを出す。

    この一連の流れを常に同じ手順で行うことで、ケアレスミスを減らすことができます。

  • 答えの吟味: (2)で、物体を鏡に近づけたら (\(20 \rightarrow 18\))、像は鏡から遠ざかる (\(60 \rightarrow 90\)) という結果が出ました。これは前述の「凹面鏡の性質」と一致します。このように、計算後に物理的な直感や知識と照らし合わせて結果を吟味する習慣は、間違いを発見する上で非常に有効です。

290 凹面鏡

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「凹面鏡による天体の結像と倍率の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 遠方物体からの光: 月のように非常に遠くにある物体から届く光は、実質的に「平行光線」と見なすことができます。
  2. 凹面鏡と平行光線: 凹面鏡に平行光線が入射すると、光は反射して「焦点」に集まります。したがって、無限遠にある物体の像は、焦点の位置にできます。
  3. 焦点距離と曲率半径の関係: 球面鏡において、焦点距離\(f\)は球面の半径(曲率半径)\(R\)の半分になります (\(f = R/2\))。
  4. 倍率の公式: 像の大きさと物体の大きさの比は、像距離と物体距離の比に等しいという関係 (\(|m| = \displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}} = \left|-\frac{b}{a}\right|\)) を利用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、像の位置を求めます。月が非常に遠いことから、月からの光は平行光線とみなし、凹面鏡の性質から像が焦点にできることを利用します。与えられた鏡の半径から焦点距離を計算し、それが像の位置となります。
  2. 次に、月の直径を求めます。倍率の公式を使い、「像の大きさ」「物体の大きさ(求める月の直径)」「像距離」「物体距離(地球から月までの距離)」の4つの量の関係式を立て、未知数である月の直径を計算します。

像の位置の計算

思考の道筋とポイント
「凹面鏡を月に向けた」という設定から、物体である月が非常に遠方にあることを読み取ります。物理では、このような天体からの光は「平行光線」として扱います。凹面鏡に平行光線が入射すると、その光は焦点に集まります。したがって、月の像ができる位置は、この凹面鏡の焦点となります。問題文の条件「凹面鏡の焦点距離の2倍は球面の半径と等しい」を使って、与えられた半径から焦点距離を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 無限遠の物体からの光は、平行光線とみなせる。
  • 凹面鏡は、光軸に平行な光を焦点に集める。
  • 焦点距離 \(f\) と曲率半径 \(R\) の関係: \(f = \displaystyle\frac{R}{2}\)

具体的な解説と立式
凹面鏡の球面の半径を \(R\)、焦点距離を \(f\) とします。問題文より \(R = 0.50 \text{ m}\) です。
焦点距離と半径の関係式は、
$$ f = \frac{R}{2} $$
月は非常に遠くにあるため、物体距離は \(a \approx \infty\) と考えられます。
球面鏡の公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) に \(a=\infty\) を代入すると、
$$ \frac{1}{\infty} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} \quad \text{より} \quad b = f $$
となり、像は焦点の位置にできることがわかります。したがって、焦点距離を計算すれば、それが像の位置になります。

使用した物理公式

  • 焦点距離と曲率半径の関係: \(f = \displaystyle\frac{R}{2}\)
  • 球面鏡の公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

与えられた半径 \(R=0.50 \text{ m}\) から焦点距離 \(f\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{0.50}{2} \\[2.0ex]&= 0.25 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
像は焦点にできるので、像距離は \(b = f = 0.25 \text{ m}\) となります。

計算方法の平易な説明

月はとても遠くにあるので、月から来る光はまっすぐな平行線のように鏡に届きます。凹面鏡には、このような平行な光を一点に集める性質があり、その点が「焦点」です。つまり、月の像は焦点にできます。問題には「焦点距離は半径の半分」と書かれているので、半径 \(0.50 \text{ m}\) を半分にして、焦点距離、すなわち像の位置が \(0.25 \text{ m}\) であることがわかります。

結論と吟味

像の位置は、凹面鏡の前方\(0.25 \text{ m}\)の地点です。これは凹面鏡の焦点に相当し、遠方物体の結像位置として物理的に妥当です。


月の直径の計算

思考の道筋とポイント
月の実際の直径を求めるために、倍率の考え方を利用します。倍率には2つの表現方法があります。一つは「像と物体の大きさの比」、もう一つは「像距離と物体距離の比」です。この2つが等しいという関係式を立てます。
この問題では、像の大きさ、像距離、物体距離が分かっているので、未知数である物体の大きさ(月の直径)を計算することができます。単位の換算に注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 倍率の大きさの公式: \(|m| = \displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}} = \left|-\frac{b}{a}\right| = \frac{b}{a}\) (実像、実物なので \(a,b\) は正)
  • 単位をメートル[m]に統一して計算することが重要です。

具体的な解説と立式
月の直径(物体の大きさ)を \(L_{\text{月}}\) とします。
像の大きさは、問題文より \(L_{\text{像}} = 2.3 \times 10^{-3} \text{ m}\) です。
物体距離(地球から月までの距離)は \(a = 3.8 \times 10^5 \text{ km} = 3.8 \times 10^8 \text{ m}\) です。
像距離は、先ほど求めたように \(b = 0.25 \text{ m}\) です。
倍率の公式にこれらの値を代入します。
$$ \frac{L_{\text{像}}}{L_{\text{月}}} = \frac{b}{a} $$
$$ \frac{2.3 \times 10^{-3}}{L_{\text{月}}} = \frac{0.25}{3.8 \times 10^8} $$
この式を \(L_{\text{月}}\) について解きます。

使用した物理公式

  • 倍率の大きさの公式: \(\displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}} = \frac{\text{像距離}}{\text{物体距離}}\)
計算過程

立式した方程式を \(L_{\text{月}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
L_{\text{月}} &= \frac{2.3 \times 10^{-3} \times 3.8 \times 10^8}{0.25} \\[2.0ex]&= \frac{2.3 \times 3.8}{0.25} \times 10^5 \\[2.0ex]&= \frac{8.74}{0.25} \times 10^5 \\[2.0ex]&= 34.96 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 3.496 \times 10^6 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(3.5 \times 10^6 \text{ m}\) となります。
これをキロメートル[km]に換算すると、
$$ 3.5 \times 10^6 \text{ m} = 3.5 \times 10^3 \text{ km} $$

計算方法の平易な説明

鏡でできる像の「縮尺」は、「鏡から像までの距離」と「鏡から物体までの距離」の比で決まります。
この問題では、月の像の大きさがわかっているので、この縮尺を使って、元の月の大きさを逆算します。
「(像の大きさ) ÷ (月の大きさ) = (像までの距離) ÷ (月までの距離)」という関係式に、わかっている数値をすべて代入して計算すると、月の大きさが求められます。

結論と吟味

月の直径は約 \(3.5 \times 10^3 \text{ km}\) と計算できました。実際の月の直径は約3474kmであり、計算結果は非常に現実に近い値となっています。これは、用いた物理モデルと計算が妥当であったことを示唆しています。

解答 像の位置:凹面鏡の前方\(0.25 \text{ m}\), 月の直径:\(3.5 \times 10^3 \text{ km}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 遠方物体の結像位置:
    • 核心: 月や太陽のような天体は、観測者から見て非常に遠くにあるため、そこから届く光は「平行光線」とみなせます。凹面鏡(や凸レンズ)は、光軸に平行な光線を「焦点」に集める性質があります。したがって、遠方物体の像は焦点にできるという原理を理解していることが、像の位置を決定する上での鍵となります。
    • 理解のポイント: これは球面鏡の公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) において、物体距離\(a\)が無限大 (\(a \to \infty\)) となる極限を考えることに相当します。このとき \(\frac{1}{a} \to 0\) となるため、\(b=f\) が導かれます。
  • 倍率の公式の応用:
    • 核心: 像の大きさと物体の大きさの比(倍率)は、像距離と物体距離の比に等しい、という関係を応用して、直接測定できない天体の大きさを推定する問題です。
    • 理解のポイント:
      • 倍率の大きさの公式: \(\displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}} = \frac{\text{像距離}}{\text{物体距離}}\)
      • この公式は、物体、像、そして鏡の頂点を結んでできる2つの相似な三角形から導かれます。この問題のように、スケールが大きく異なる場合でも、同じ幾何学的な関係が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
    • 応用できる類似問題のパターン:
      • ピンホールカメラによる天体の大きさの測定: ピンホールカメラで太陽の像を作り、その大きさとカメラの奥行き、太陽までの距離から、太陽の直径を求める問題。凹面鏡がピンホールに変わるだけで、相似な三角形を利用する考え方は全く同じです。
      • 望遠鏡の対物レンズによる結像: 天体望遠鏡の対物レンズ(凸レンズ)も、遠方にある天体の像を焦点位置に作ります。この問題の凹面鏡を凸レンズに置き換えても、像の位置や大きさの計算方法は同様です。
      • 物体の見かけの大きさ(視直径): 月や太陽が空でどのくらいの角度を占めるか(視直径)を問う問題。これは、物体の大きさと物体までの距離の比(\(\approx \tan\theta \approx \theta\))で決まり、本問の倍率の考え方と密接に関連しています。
    • 初見の問題での着眼点:
      • 「月」「太陽」など天体の名前に反応する: 問題文に天体が出てきたら、即座に「物体は無限遠にある」「そこからの光は平行光線」と解釈します。
      • 像の位置を即決する: 物体が無限遠なら、像は「焦点」にできると判断します。問題で与えられた情報(この場合は曲率半径)から、まず焦点距離を計算し、それを像距離とします。
      • 単位の統一を徹底する: 問題には[m]と[km]が混在しています。計算を始める前に、すべての長さを基本単位であるメートル[m]に統一するのが最も安全です。計算の最終段階で、必要に応じて[km]に戻します。
      • 比例式として捉える: 倍率の公式は、\(\text{像の大きさ} : \text{物体の大きさ} = \text{像距離} : \text{物体距離}\) という単純な比例式です。この形に整理して、内項の積と外項の積が等しいという関係を使うと、計算ミスが減る場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(3.8 \times 10^5 \text{ km}\) を \(3.8 \times 10^8 \text{ m}\) に変換する際に、\(1 \text{ km} = 10^3 \text{ m}\) の関係を間違え、指数を誤る。
    • 対策: 「キロ(k)」が \(10^3\) を意味することを常に意識します。\(10^5 \times 10^3 = 10^{5+3} = 10^8\) のように、指数の計算ルールを落ち着いて適用します。計算前に単位をすべて書き出し、統一するステップを設けるのが有効です。
  • 巨大な数値の計算での混乱:
    • 誤解: \(10^{-3}\) や \(10^8\) のような大きな桁数の指数計算で、足し算や引き算を間違える。
    • 対策: 計算の際は、まず「数値部分(仮数部)」と「10のべき乗部分(指数部)」を分けて計算します。\(\displaystyle L_{\text{月}} = \left(\frac{2.3 \times 3.8}{0.25}\right) \times \left(\frac{10^{-3} \times 10^8}{1}\right)\) のように分離して考えると、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
  • 焦点距離と半径の関係の勘違い:
    • 誤解: 焦点距離\(f\)と曲率半径\(R\)の関係を \(f=2R\) や \(f=R\) と間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 作図をイメージします。中心Cは球の中心、焦点FはCと鏡の頂点Oの「ちょうど真ん中」にあります。このイメージから、\(f=R/2\) という関係を導き出せるようにしておくと、公式を忘れても安心です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 焦点距離と曲率半径の関係式 (\(f=R/2\)):
    • 選定理由: 問題で与えられているのは鏡の「半径」ですが、結像を考える上で基本となるのは「焦点距離」です。したがって、半径から焦点距離を導き出すための変換式としてこれを選択します。
    • 適用根拠: この関係は、光軸に近軸光線(光軸に十分近く、平行な光線)が入射した際の反射の法則を幾何学的に解析することで導かれます。高校物理では、この関係は証明なしに用いることが多いですが、物理的に妥当な近似に基づいています。
  • 倍率の公式 (\(\frac{L_{\text{像}}}{L_{\text{月}}} = \frac{b}{a}\)):
    • 選定理由: この問題の最終目標は、直接測れない「月の直径」を、実験室スケールで測定できる「像の大きさ」から推定することです。この2つのスケールを結びつける関係式が倍率の公式だからです。
    • 適用根拠: 物体の端、像の端、そして鏡の頂点を結ぶと、2つの相似な三角形ができます(あるいは、物体の端、像の端、中心Cを結んでも相似な三角形ができます)。この幾何学的な相似関係から、大きさの比が距離の比に等しいという関係が導かれます。この法則は、対象が天文学的なスケールであっても、実験室のスケールであっても普遍的に成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の計算: \(10^{-3} \times 10^8 = 10^{-3+8} = 10^5\)。指数の掛け算は、指数の足し算になることを再確認します。
  • 小数の割り算: \(\displaystyle\frac{8.74}{0.25}\) のような計算は、分母・分子に同じ数を掛けて整数に直すと楽になります。この場合は4を掛けて、\(\displaystyle\frac{8.74 \times 4}{0.25 \times 4} = \frac{34.96}{1} = 34.96\) と計算できます。
  • 有効数字の処理: 計算の途中では、有効数字より1桁多く残しておき(例: 3.496)、最後の答えを出す段階で指定された有効数字(この場合は2桁)に四捨五入する(→3.5)のが基本です。これにより、途中の丸め誤差が最終結果に影響するのを防げます。
  • 概算による検算: 計算を始める前に、おおよその値を予測します。\(a\) は \(b\) の約 \(10^9\) 倍なので、\(L_{\text{月}}\) も \(L_{\text{像}}\) の約 \(10^9\) 倍になるはずです。\(L_{\text{像}} \approx 2 \times 10^{-3}\) なので、\(L_{\text{月}} \approx 2 \times 10^6 \text{ m}\) 程度になると予測できます。計算結果の \(3.5 \times 10^6 \text{ m}\) は、この予測と桁数が一致しており、大きな間違いはないだろうと判断できます。
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