「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 22】Step 2

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Step 2

284 レンズによる像の作図

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「レンズによる像の作図」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 作図の基本となる3本の光線: 物体の先端から出て、レンズを通過した後の進み方が分かっている特別な3本の光線の性質を理解していることが全てです。
  2. 凸レンズと凹レンズの性質の違い: 凸レンズは光を集める(収束させる)性質、凹レンズは光を広げる(発散させる)性質があり、これにより光線の進み方が変わります。
  3. 実像と虚像: レンズを通過した後の光線が「実際に交わる」点にできるのが実像です。光線が広がってしまい交わらない場合に、その光線を逆向きに「延長した線が交わる」点にできるのが虚像です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (a), (b), (c)の各場合について、物体の先端(A’)から出る、作図の基本となる3本の光線のうち、描きやすい2本を選んで描きます。
  2. レンズを通過した後の光線(またはその延長線)が交わる点を見つけ、そこを像の先端(B’)とします。
  3. 像の先端(B’)から光軸に垂線を下ろし、像(BB’)を完成させます。

(a) 凸レンズ(物体が焦点の外側)

思考の道筋とポイント
凸レンズで物体を焦点の外側に置いた場合の作図です。この場合、レンズの後方に倒立した実像ができることを予測しながら作図を進めます。物体の先端A’から出た光が、レンズを通過した後にどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): レンズで屈折した後、後側の焦点F’を通る。
  • 光線②(レンズの中心を通る光): 屈折せず、そのまま直進する。
  • 光線③(手前側の焦点Fを通る光): レンズで屈折した後、光軸に平行に進む。
  • これら3本のうち、いずれか2本を描けば像の位置は決まります。

具体的な解説と立式
この問題は作図が中心であり、数式による立式はありません。作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光はレンズで屈折し、後側の焦点F’を通過します。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. (検算用)物体の先端A’から出て手前側の焦点Fを通りレンズに向かう光線③を描きます。この光はレンズで屈折し、光軸に平行に進みます。
  4. レンズを通過した後の3本の光線は、レンズの後方の一点(B’)で実際に交わります。この点が像の先端です。
  5. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 作図の3原則(上記「重要なポイント」参照)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

物体のてっぺん(A’)から出る、進み方がわかっている特別な光を2本描きます。
1本目は、光軸と平行に進んでレンズに当たり、屈折して焦点F’を通る光です。
2本目は、レンズのど真ん中をまっすぐ通り抜ける光です。
この2本の光がレンズの向こう側で交わった点が、像のてっぺん(B’)になります。そこから光軸に向かって矢印を引けば、像の完成です。

結論と吟味

作図の結果、レンズの後方(焦点F’の外側)に、物体とは上下が逆さまの「倒立実像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも大きい「拡大像」であることもわかります。これは、物体を焦点と焦点距離の2倍の間の位置に置いたときの特徴と一致しており、妥当な結果です。

解答 (a) 解説中の図を参照。

(b) 凸レンズ(物体が焦点の内側)

思考の道筋とポイント
凸レンズで物体を焦点の内側に置いた場合の作図です。虫眼鏡で物体を拡大して見るときの状況であり、物体と同じ側に正立した虚像ができることを予測しながら作図を進めます。レンズを通過した光は広がって進むため、実際の光線は交わりません。そのため、光線の「延長線」がどこで交わるかを見つけることが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 作図のルールは(a)と同じです。
  • レンズ通過後の光線が交わらない場合、光線を物体側に延長(点線で描く)し、その交点に「虚像」ができます。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光はレンズで屈折し、後側の焦点F’を通過します。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. レンズを通過した後の光線①と②は、互いに広がっていくため、レンズの後方では交わりません。
  4. そこで、レンズを通過した後の光線①と②を、レンズの手前側(物体側)にまっすぐ延長します。
  5. 2本の延長線が交わる一点(B’)が、虚像の先端となります。
  6. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。虚像は点線で描くのが一般的です。

使用した物理公式

  • 作図の3原則
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

(a)と同じように、物体のてっぺん(A’)から出る2本の特別な光を描きます。
今度は、レンズを通り抜けた後の2本の光が、どんどん離れていってしまいます。これでは像ができません。
そこで、レンズのこちら側から目を近づけてレンズを覗き込むと、この2本の光が、まるでレンズの向こう側のある一点からやってくるように見えます。その「見かけの出発点」を探すために、レンズを通り抜けた光を逆向きに(点線で)延長します。延長線が交わった点が、像のてっぺん(B’)になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの前方(物体と同じ側)に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも大きい「拡大像」であることがわかります。これは虫眼鏡の原理であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (b) 解説中の図を参照。

(c) 凹レンズ

思考の道筋とポイント
凹レンズによる像の作図です。凹レンズは、物体の位置にかかわらず、常に物体と同じ側に正立した小さな虚像を作ります。凹レンズは光を発散させる性質があることを念頭に、作図ルールを正しく適用することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 光線①(光軸に平行な光): レンズで屈折した後、手前側の焦点Fから出たかのように広がって進む。
  • 光線②(レンズの中心を通る光): 屈折せず、そのまま直進する。
  • 光線③(後側の焦点F’に向かう光): レンズで屈折した後、光軸に平行に進む。
  • 凹レンズの場合も、レンズ通過後の光は発散するため、延長線が交わる点に虚像ができます。

具体的な解説と立式
作図の手順は以下の通りです。

  1. 物体の先端A’から出て光軸に平行に進む光線①を描きます。この光は凹レンズで屈折し、その光を逆向きに延長すると手前側の焦点Fを通るように、広がって進みます。
  2. 物体の先端A’から出てレンズの中心Oを通る光線②を描きます。この光は屈折せずに直進します。
  3. レンズを通過した後の光線①と②は発散するため交わりません。
  4. 発散していく光線①をレンズの手前側に延長した線(焦点Fに向かう線)と、直進する光線②が、レンズの手前側の一点(B’)で交わります。この点が虚像の先端です。
  5. 点B’から光軸に垂線を下ろし、像BB’を完成させます。

使用した物理公式

  • 凹レンズの作図の3原則(上記「重要なポイント」参照)
計算過程

計算はありません。

計算方法の平易な説明

凹レンズは光を広げるレンズです。ここでも、物体のてっぺん(A’)から出る2本の光を追いかけます。
1本目は、光軸と平行に進んでレンズに当たり、手前の焦点Fから飛び出してきたかのように外側に曲げられる光です。
2本目は、レンズのど真ん中をまっすぐ通り抜ける光です。
この2本の光もレンズの向こう側では交わりません。そこで、外側に曲げられた1本目の光を逆向きに(点線で)延長します。すると、まっすぐ進んだ2本目の光と、レンズの手前側で交わります。この点が、像のてっぺん(B’)になります。

結論と吟味

作図の結果、レンズの前方(物体と同じ側、かつ焦点Fの内側)に、物体と同じ向きの「正立虚像」ができます。図から、像の大きさは元の物体よりも小さい「縮小像」であることがわかります。これは凹レンズの性質と一致しており、妥当な結果です。

解答 (c) 解説中の図を参照。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズ作図の3原則:
    • 核心: レンズによる像の位置と種類(実像/虚像、正立/倒立、拡大/縮小)を決定するための、幾何学的なルールです。物体の先端から出る無数の光線のうち、レンズ通過後の進路が予測できる以下の3本の特別な光線を理解し、描けることが全てです。
    • 理解のポイント(凸レンズの場合):
      1. 光軸に平行な光 → 後側焦点を通る: レンズの基本的な光を集める性質を表します。
      2. レンズ中心を通る光 → 直進する: レンズ中心付近は、ほぼ平行なガラス板と見なせるため、光はほとんど屈折しないという近似に基づきます。
      3. 手前側焦点を通る光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性により、ルール1の逆の経路をたどります。
    • 理解のポイント(凹レンズの場合):
      1. 光軸に平行な光 → 手前側焦点から出たように進む: レンズの基本的な光を発散させる性質を表します。
      2. レンズ中心を通る光 → 直進する: 凸レンズと同じ理由です。
      3. 後側焦点に向かう光 → 光軸に平行に進む: 光路の可逆性に基づきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹面鏡・凸面鏡の作図: レンズと同様に、鏡にも作図の3原則が存在します。焦点や中心の位置に注意すれば、同じ考え方で像の作死が可能です。
    • レンズの公式との連携: 作図によって像のおおよその位置や種類を予測し、その結果をレンズの公式(\(\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\))を用いた計算で定量的に確認する問題。作図と計算が一致することを確認する良い練習になります。
    • 複合レンズ系の作図: 1枚目のレンズで作図して像を求め、その像を2枚目のレンズの物体として、再度作図を行う問題。作図が複雑になりますが、段階的に考える基本は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズの種類を確認: まず、凸レンズか凹レンズかを確認します。これにより、光が収束するのか発散するのか、どの作図ルールを使うべきかが決まります。
    2. 物体の位置を確認: 特に凸レンズの場合、物体が焦点の外側にあるか内側にあるかで、できる像の種類(実像か虚像か)が根本的に変わります。最初に「物体は焦点Fより遠い/近い」と確認することが重要です。
    3. 描きやすい2本を選ぶ: 3本の基本光線のうち、最も描きやすいのは「光軸に平行な光」と「レンズ中心を通る光」の2本です。通常はこの2本を描けば十分です。3本目は検算用と考えると良いでしょう。
    4. 実像か虚像かを判断: レンズ通過後の光線が「実際に交わる」なら実像、「延長線が交わる」なら虚像です。光線が広がっていく場合は、すぐに延長線を描く方針に切り替えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 凸レンズと凹レンズの焦点の役割の混同:
    • 誤解: 凸レンズの作図で、光軸に平行な光が「手前側」の焦点を通ると勘違いする。または、凹レンズの作図で、光軸に平行な光が「後側」の焦点から発散するように描いてしまう。
    • 対策: 「凸レンズは光を集めるレンズなので、平行な光はレンズの向こう側(後側)の焦点に集まる」「凹レンズは光を広げるレンズなので、平行な光はレンズの手前側にある焦点から広がっていくように見える」と、レンズの物理的な働きと結びつけて覚えることが有効です。
  • 虚像の作図で、延長する線を間違える:
    • 誤解: (b)の虚像の作図で、レンズに入る前の光線を延長してしまう。
    • 対策: 像ができるのは、あくまで「レンズを通過した後の光」が集まる(または、集まるように見える)場所です。必ず、レンズで屈折した後の光線を逆向きに延長することを徹底します。「目はレンズの右側にある」とイメージし、その目に入ってくる光の延長線を考える、と意識すると間違いが減ります。
  • 線の種類(実線と点線)の使い分けが曖昧:
    • 誤解: 実際の光の進路と、作図のための補助線(延長線)をすべて実線で描いてしまい、図が混乱する。
    • 対策: 「光が実際に進む経路は実線」「虚像や、作図のための延長線は点線」というルールを自分の中で徹底します。これにより、図の物理的な意味が明確になり、見直しもしやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 作図の3原則(物理法則の幾何学的表現):
    • 選定理由: この問題は「作図せよ」という指示なので、計算ではなく幾何学的な方法で解く必要があります。作図の3原則は、レンズの結像法則を視覚的に表現したものであり、この問題を解くための唯一のツールです。
    • 適用根拠:
      • ルール1(平行光→焦点): 焦点の定義そのものです。無限遠から来た平行光線がレンズによって集まる(または、そこから発散するように見える)点が焦点です。
      • ルール2(中心→直進): 薄レンズ近似という、レンズの中心付近では光が屈折しないと見なす、物理的に妥当な近似に基づいています。
      • ルール3(焦点→平行光): 光路の可逆性という、光は来た道を逆にたどれるという普遍的な物理原理に基づいています。ルール1の逆のプロセスが成り立つのはこのためです。
    • これら物理的に裏付けのあるルールを適用することで、論理的に像の位置を決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 定規を正しく使う: 作図問題では、フリーハンドではなく必ず定規を使いましょう。特に、光軸に平行な線や、2点(例:A’とレンズ中心O)を通る直線を正確に引くことが、作図の精度を大きく左右します。
  • 焦点の位置を明確にする: 作図を始める前に、光軸上の焦点FとF’の位置に明確な印をつけます。光線がこの点を通る、あるいはこの点から発するように描く際に、目標がはっきりしていると正確に描きやすくなります。
  • 線の交点を丁寧に見つける: 2本の線が交わる点を、線の太さでごまかさずに、慎重に特定します。交点がずれると、像の位置や大きさが不正確になります。芯の細いシャープペンシルなどを使うと良いでしょう。
  • 描いた図を吟味する: 作図が終わったら、完成した像が物理的に妥当かを確認します。(a)なら「倒立実像」、(b)なら「正立拡大虚像」、(c)なら「正立縮小虚像」という、事前に知っている知識と一致するかをチェックします。もし異なっていれば、作図のどこかでルールを間違えた可能性が高いと判断できます。

285 平面鏡

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平面鏡による像と反射の法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 平面鏡による像: 平面鏡によってできる像は、鏡面に対して物体と線対称な位置にできる「虚像」です。像の大きさは物体と同じ(等倍)になります。
  2. 光の反射の法則: 鏡面上の光が反射する点において、入射角と反射角は等しくなります。
  3. 光の直進性: 人が物を見るとき、光がその物体(あるいはその像)から自分の目にまっすぐ届くと認識します。作図ではこの性質を利用するのが非常に便利です。
  4. 三角形の相似: 光の進路を作図すると、相似な三角形が現れます。この幾何学的な関係を利用して、必要な鏡の長さを計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 人が自分の全身を見る、という状況を物理的に考えます。これは、「頭のてっぺん」と「足先」の両方から出た光が、鏡で反射してその人の目に入ってくる状況を意味します。
  2. この条件を満たすために必要な鏡の「上端の位置」と「下端の位置」を、作図によってそれぞれ決定します。
  3. 鏡の上端と下端の間の長さが、求める鏡の最小の長さとなります。

思考の道筋とポイント
「全身が見える」という条件を、「頭のてっぺんが見える」ことと「足先が見える」ことの2つの条件に分解して考えます。それぞれの条件を満たすために、鏡のどの部分が使われるのかを作図によって明らかにします。
このとき、実際に光が反射する経路(反射の法則)を考えるよりも、「平面鏡に映る像」を考え、その像から目に光がまっすぐ届く、と考える方がはるかに簡単で直感的に理解できます。
この設問における重要なポイント

  • 平面鏡の像は、鏡面に対して物体と線対称な位置にできる虚像です。
  • 物体から出た光は鏡で反射しますが、その反射光を逆にたどると、あたかも像から出たかのように見えます。
  • 作図では、三角形の相似の関係、特に「中点連結定理」に似た形が現れ、辺の長さの比が重要になります。
  • 結論として、必要な鏡の長さは身長の半分となり、これは鏡と人との距離には依存しません。

具体的な解説と立式
人の身長を \(L\)、頭のてっぺんをA、目をE、足先をBとします。地面を基準としたときの各点の高さを、それぞれ \(h_A, h_E, h_B (=0)\) とします。身長は \(L = h_A – h_B = h_A\) です。
平面鏡に映る像を考え、頭の像をA’、目の像をE’、足先の像をB’とします。

1. 足先Bを見るための鏡の下端Pの位置
足先Bから出た光が鏡の下端Pで反射して、目Eに入る状況を考えます。このとき、反射してきた光は、あたかも像の足先B’からまっすぐ目Eに向かって進んできたように見えます。
したがって、鏡の下端Pは、線分EB’と鏡面の交点となります。
ここで、目Eと像B’から鏡面に垂線をおろし、それらの足とPでできる2つの直角三角形を考えると、それらは相似になります。人と鏡の距離と、鏡と像の距離は等しいので、相似比は1:1です。
このことから、点Pの高さ \(y_{\text{下}}\) は、目Eの高さ \(h_E\) と足先Bの高さ \(h_B\) のちょうど中間になります。
$$ y_{\text{下}} = \frac{h_E + h_B}{2} $$

2. 頭のてっぺんAを見るための鏡の上端Qの位置
同様に、頭のてっぺんAから出た光が鏡の上端Qで反射して、目Eに入る状況を考えます。この光は、像の頭A’からまっすぐ目Eに向かって進んできたように見えます。
したがって、鏡の上端Qは、線分EA’と鏡面の交点となります。
点Qの高さ \(y_{\text{上}}\) は、目Eの高さ \(h_E\) と頭Aの高さ \(h_A\) のちょうど中間になります。
$$ y_{\text{上}} = \frac{h_E + h_A}{2} $$

3. 必要な鏡の長さ
全身を映すために必要な鏡の長さ \(l\) は、鏡の上端の高さ \(y_{\text{上}}\) と下端の高さ \(y_{\text{下}}\) の差です。
$$ l = y_{\text{上}} – y_{\text{下}} $$
ここに先ほどの式を代入します。
$$ l = \frac{h_A + h_E}{2} – \frac{h_E + h_B}{2} = \frac{h_A – h_B}{2} $$
ここで、\(h_A – h_B\) はその人の身長 \(L\) に他なりません。
したがって、必要な鏡の長さは身長の半分となります。
$$ l = \frac{L}{2} $$

使用した物理公式

  • 光の反射の法則
  • 平面鏡の結像(物体と像は鏡面に対し線対称)
計算過程

問題で与えられた身長 \(L = 1.6 \text{ m}\) を、導き出した関係式に代入します。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{L}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{1.6}{2} \\[2.0ex]
&= 0.80 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

自分の全身を鏡で見るためには、「頭のてっぺん」から「足のつま先」までがすべて鏡に映る必要があります。
作図をして光の通り道を調べてみると、面白いことがわかります。

  • 「つま先」が映るために必要な鏡の一番下の部分は、ちょうど「自分の目とつま先の真ん中の高さ」になります。
  • 「頭のてっぺん」が映るために必要な鏡の一番上の部分は、ちょうど「自分の目と頭のてっぺんの真ん中の高さ」になります。

この鏡の上端と下端の長さを計算すると、結果的に「(頭の高さ – つま先の高さ)÷ 2」、つまり「身長の半分」という長さになります。

結論と吟味

身長\(1.6 \text{ m}\)の人が自身の全身を映すためには、最低でもその半分の長さである\(0.80 \text{ m}\)の鏡が必要です。
この結果は、人の目の高さや、鏡からの距離には依存しないという重要な結論を示しています。つまり、背の低い子供でも、背の高い大人でも、鏡に近づいても離れても、自分の全身を映すために必要な鏡の「長さ」は、常に自分の身長の半分となります。(ただし、鏡を設置する「高さ」は、見る人の目の高さによって調整する必要があります。)

解答 0.80m

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 平面鏡の結像と光の直進性:
    • 核心: この問題を解く最もエレガントな方法は、物理的な光の反射(入射角=反射角)を直接考えるのではなく、「平面鏡に映る像」を先に作図し、「像から目に光がまっすぐ届く」と考えることです。
    • 理解のポイント:
      1. まず、鏡面に対して、自分自身と線対称な位置に「像」を描きます。この像は、鏡の向こう側にいるもう一人の自分です。
      2. 次に、自分の「目」と、見たい部分の「像」(例えば、像の足先)を直線で結びます。
      3. この直線が鏡を横切る部分が、その部分を見るために光が反射しなければならない場所です。
  • 三角形の相似(中点連結定理の応用):
    • 核心: 上記の作図を行うと、必ず相似な三角形が現れます。特に、人と鏡の距離と、鏡と像の距離が等しいため、相似比が1:1の三角形(合同な三角形)や、中点連結定理が適用できる図形が現れます。
    • 理解のポイント:
      • 「目」と「足先」と「鏡」で作られる三角形と、「像の目」と「像の足先」と「鏡」で作られる三角形は合同です。
      • この幾何学的な関係から、必要な鏡の長さが「(頭の高さ – 足の高さ)/ 2」、つまり「身長の半分」であることが導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁に掛かった絵を鏡で見る問題: 自分の後ろの壁に掛かった絵の全体を見るために必要な鏡の大きさを問う問題。考え方は全く同じで、絵の「像」を描き、その像の上下端と自分の目を結ぶ直線が鏡を横切る範囲を求めます。
    • 鏡を設置する高さの問題: 全身を映すために必要な鏡の「長さ」だけでなく、その鏡を床からどの「高さ」に設置すべきかを問う問題。作図から、鏡の下端は「目と足先の高さの中点」、上端は「目と頭の高さの中点」に合わせる必要があることがわかります。
    • 鏡の前を人が移動する問題: 鏡に映る姿が見える範囲や時間を問う問題。これも、像の位置を固定し、人が移動することで「像と目を結ぶ直線」がどう変化するかを追跡することで解けます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 平面鏡の問題だと認識したら、まず「像」を描く: 問題文を読んで平面鏡が関わるとわかったら、計算や難しい反射角を考える前に、まず鏡に対して対称な位置に像を描くことから始めます。これが思考の第一歩です。
    2. 「見る」という行為を「光が目に届く」と翻訳する: 「AさんがBを見る」という状況は、「B(またはBの像)から出た光がAさんの目に届く」という物理現象に置き換えて考えます。
    3. 図形問題に帰着させる: 作図が終われば、問題は物理から幾何学(特に三角形の相似)の問題に変わります。図の中から相似な三角形を見つけ出し、辺の比の関係を使って長さを求めることに集中します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 鏡と人との距離に依存すると考えてしまう:
    • 誤解: 鏡から離れれば、より小さな鏡で全身が見えるのではないか、あるいは近づけばもっと大きな鏡が必要なのではないか、と直感的に誤解してしまう。
    • 対策: 作図をすれば、必要な鏡の長さが鏡と人との距離に依存しないことが明確にわかります。この「身長の半分」という結論は非常に有名で重要なので、理由(相似関係)と共に覚えてしまうのが効果的です。一度作図して理解すれば、この誤解はなくなります。
  • 目の位置を考慮しない:
    • 誤解: 身長だけを考えて、鏡の長さを単純に身長の半分と結論付けてしまうが、なぜそうなるのかを説明できない。
    • 対策: 全身が見えるかどうかは、あくまで「目」に光が届くかどうかで決まります。作図の際は、必ず「頭」「目」「足」の3点を区別して描くことが重要です。目の位置を基準に考えることで、なぜ身長の半分になるのかを論理的に導き出せます。
  • 反射の法則で直接解こうとして混乱する:
    • 誤解: 鏡の各点で入射角と反射角が等しくなるように光線を描こうとして、作図が非常に複雑になり、混乱してしまう。
    • 対策: 反射の法則を直接使う方法は、数学的に面倒です。「像から目に光が直進してくる」という考え方を使えば、作図が劇的に簡単になることを知っておきましょう。物理現象としては等価ですが、解法としては後者が圧倒的に優れています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平面鏡の結像法則(物体と像は鏡面に対し線対称):
    • 選定理由: この問題は、人が鏡に映る「姿」を見ています。その「姿」とは物理的には「虚像」のことです。したがって、まずその虚像がどこにどのようにできるのかを決定する法則を用いるのが最も合理的です。
    • 適用根拠: この法則は、光の反射の法則を幾何学的に考察した結果として導かれます。この法則を適用することで、複雑な光線追跡を「像を描いて直線を引く」という単純な作図作業に置き換えることができ、問題を効率的に解くことができます。
  • 三角形の相似比:
    • 選定理由: 作図によって物理現象を幾何学的な図形に置き換えた後、具体的な「長さ」を計算するために用います。
    • 適用根拠: 光の直進性により、光の経路は直線で描かれます。これにより、目・像・鏡の位置関係が三角形を構成します。人と鏡、鏡と像の距離が等しいことから、中点連結定理の形や相似比1:1の三角形が必然的に現れ、これを利用して辺の長さを求めるのが論理的な流れとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は計算よりも作図と論理が重要:
    • 計算自体は「1.6 ÷ 2 = 0.80」という非常に単純なものしかありません。したがって、ミスをするとすれば、その結論に至るまでの作図や論理の段階です。
  • 丁寧な作図を心がける:
    • フリーハンドではなく、定規を使って直線を引きましょう。
    • 人と像が鏡面に対して対称になるように、距離を意識して描きます。
    • 頭・目・足の位置関係を、ある程度現実に即して描く(目は頭より下にある、など)と、図が直感的で分かりやすくなります。
  • 結論の一般化を意識する:
    • 「身長1.6m」という具体的な数値で計算する前に、「身長をLとすると、必要な鏡の長さはL/2になる」という一般式を導き出す練習をします。これにより、物理法則の本質的な理解が深まり、具体的な数値が変わっても応用が利くようになります。最後に数値を代入すれば、計算ミスも起こりにくいです。
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286 眼鏡

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