「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 11】Step2

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Step 2

156 面積速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ケプラーの法則と面積速度」です。惑星の運動を記述する上で中心的な役割を果たす、面積速度一定の法則の導出と、その具体的な応用について理解を深めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどの点においても一定であるという法則。
  2. 面積速度の定義: 微小時間 \(\Delta t\) に動径ベクトルが掃く面積を \(\Delta S\) としたとき、面積速度は \(\displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) で与えられる。
  3. 微小変化における三角形近似: 微小時間 \(\Delta t\) が十分に小さいとき、惑星の軌道の一部は直線とみなせ、動径が掃く領域は三角形として近似計算できる。
  4. 楕円軌道の幾何学的性質: 近日点(太陽に最も近い点)と遠日点(太陽から最も遠い点)では、惑星の速度ベクトルと動径ベクトルは直交する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、微小時間 \(\Delta t\) に惑星が掃く微小面積 \(\Delta S\) を、底辺が動径 \(r\)、高さが惑星の移動距離の垂直成分 \(v\Delta t \sin\theta\) である三角形として考え、その面積を計算します。そして、面積速度の定義 \(\displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) に従って式を導出します。
  2. (2)では、(1)で導いた面積速度の一般式と、ケプラーの第2法則(面積速度一定)を組み合わせます。近日点と遠日点では、動径と速度が直交する(\(\theta=90^\circ\))という特別な条件を利用して、関係式を導きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
惑星の「面積速度」が、与えられた物理量 \(r, v, \theta\) を用いてどのように表されるかを導出する問題です。面積速度とは「単位時間あたりに動径ベクトルが掃く面積」のことです。この定義に立ち返り、微小時間 \(\Delta t\) を考え、その間に惑星が掃く微小面積 \(\Delta S\) を幾何学的に求めることが出発点となります。\(\Delta t\) が非常に小さいという極限を考えることで、惑星が描く軌道は直線とみなせ、掃く領域は三角形で近似できる、という考え方が鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 面積速度の定義:(面積速度) \( = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) (\(\Delta t \to 0\) の極限)
  • 微小面積 \(\Delta S\) の近似:微小時間 \(\Delta t\) に動径が掃く面積は、底辺 \(r\)、高さ \(h\) の三角形で近似できる。
  • 三角形の高さの計算:高さ \(h\) は、惑星が微小時間で移動する距離 \(v\Delta t\) のうち、動径ベクトルに垂直な成分で与えられる。すなわち、\(h = (v\Delta t)\sin\theta\)。

具体的な解説と立式
微小な時間 \(\Delta t\) の間に、惑星は速度 \(\vec{v}\) で運動し、距離 \(v\Delta t\) だけ進みます。このとき、太陽Sと惑星Pを結ぶ動径ベクトルが掃く領域は、図で示されるような非常に細長い三角形とみなすことができます。

この三角形の面積 \(\Delta S\) を求めます。三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。
底辺を太陽Sから惑星Pまでの距離 \(r\) とします。
すると、三角形の高さ \(h\) は、惑星の移動ベクトル(大きさ \(v\Delta t\))の、底辺である動径ベクトルに垂直な成分となります。図から、この高さ \(h\) は次のように表せます。
$$ h = v\Delta t \sin\theta $$
したがって、微小面積 \(\Delta S\) は、三角形の面積公式から次のように立式できます。
$$ \Delta S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) = \displaystyle\frac{1}{2} r (v\Delta t \sin\theta) \quad \cdots ① $$
面積速度は、この微小面積 \(\Delta S\) を微小時間 \(\Delta t\) で割ったものですから、次のように定義されます。
$$ (\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 三角形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\)
  • 面積速度の定義: \((\text{面積速度}) = \displaystyle\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta S}{\Delta t}\)
計算過程

式①を式②に代入して、面積速度を計算します。
$$
\begin{aligned}
(\text{面積速度}) &= \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{\Delta t} \left( \displaystyle\frac{1}{2} r v\Delta t \sin\theta \right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} rv\sin\theta
\end{aligned}
$$
これにより、惑星Pの面積速度が \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) となることが示されました。

計算方法の平易な説明

「面積速度」とは、惑星が動くときに、太陽と惑星を結んだ線が「ほうき」のように掃いていく面積が、1秒あたりどれくらいの広さか、という値です。ほんのわずかな時間 \(\Delta t\) を考えると、惑星が動いた跡は細長い三角形のようになります。この三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。底辺は太陽と惑星の距離 \(r\)、高さは惑星が動いた距離 \(v\Delta t\) のうち、底辺に対して垂直な方向の成分、つまり \(v\Delta t \sin\theta\) です。したがって、面積は \(\displaystyle\frac{1}{2} \times r \times (v\Delta t \sin\theta)\) となります。これをかかった時間 \(\Delta t\) で割ることで、1秒あたりの面積、すなわち面積速度 \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) が求まります。

結論と吟味

惑星の面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と表されることが示されました。この関係式は、惑星の運動が中心力(太陽からの万有引力)のみを受ける場合に成り立つ角運動量保存則と本質的に同じ内容を表しています。面積速度が一定であること(ケプラーの第2法則)は、角運動量が保存することと同義です。

解答 (1) (解説を参照)

問(2)

思考の道筋とポイント
ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を用いて、近日点Qと遠日点Tにおける惑星の物理量(距離と速さ)の間に成り立つ関係式を導く問題です。(1)で導出した面積速度の一般式を、軌道上の特別な2点である近日点Qと遠日点Tにそれぞれ適用し、それらが等しいと置くことで立式します。このとき、近日点・遠日点では、動径ベクトルと速度ベクトルのなす角 \(\theta\) が \(90^\circ\) になるという幾何学的な性質を利用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第2法則:惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどの点においても一定である。
  • 近日点・遠日点の幾何学的特徴:楕円軌道において、太陽からの距離が最小となる近日点(Q)および最大となる遠日点(T)では、動径ベクトルと速度ベクトルは直交する。すなわち、\(\theta = 90^\circ\)。

具体的な解説と立式
ケプラーの第2法則によれば、惑星の面積速度は軌道上のどの点でも一定です。
(1)で求めた面積速度の一般式は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) です。
したがって、近日点Qでの面積速度と遠日点Tでの面積速度は等しくなります。
$$ (\text{Q点での面積速度}) = (\text{T点での面積速度}) $$
近日点Qでは、太陽からの距離は \(r_1\)、速さは \(v_1\) です。
遠日点Tでは、太陽からの距離は \(r_2\)、速さは \(v_2\) です。

ここで、近日点と遠日点の幾何学的な性質を考えます。これらの点では、惑星は太陽に最も近づく、あるいは最も遠ざかる点であり、その瞬間、太陽に対する距離の変化率は0になります。これは、惑星の速度ベクトルが動径ベクトルと垂直になることを意味します。
したがって、近日点Qと遠日点Tの両方で、動径と速度のなす角は \(\theta = 90^\circ\) となります。
このとき、\(\sin\theta = \sin 90^\circ = 1\) です。

これらの値を面積速度一定の式に代入すると、以下の関係式が立てられます。
$$ \displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \sin 90^\circ = \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \sin 90^\circ $$

使用した物理公式

  • 面積速度: \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) (問(1)の結果)
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を整理して、最終的な関係式を導きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \sin 90^\circ &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \sin 90^\circ \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \times 1 &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \times 1 \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \\[2.0ex]r_1 v_1 &= r_2 v_2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ケプラーの法則によれば、「面積速度」は惑星がどこにいても常に同じ値になります。(1)で、面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と計算しました。近日点Q(太陽に一番近い点)と遠日点T(一番遠い点)では、惑星の進行方向が太陽からの距離を示す線とちょうど直角(90°)になります。三角関数の \(\sin 90^\circ\) は1なので、Q点での面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1\)、T点では \(\displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) と、式が簡単になります。これらが等しいので、\(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) となり、両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去すると、求める関係式 \(r_1v_1 = r_2v_2\) が得られます。

結論と吟味

近日点と遠日点における惑星の距離と速さの間には、\(r_1v_1 = r_2v_2\) という関係が成り立ちます。この式は、太陽からの距離 \(r\) と速さ \(v\) の積が、これらの点において一定であることを示しています。楕円軌道では、近日点距離 \(r_1\) は遠日点距離 \(r_2\) より小さい(\(r_1 < r_2\))ので、この関係式から速さは \(v_1 > v_2\) となります。これは「惑星は太陽に近いほど速く、遠いほど遅く運動する」というケプラーの第2法則の直感的な帰結と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(r_1v_1 = r_2v_2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則):
    • 核心: 惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積、すなわち「面積速度」が、軌道上のどこであっても一定であるという法則です。これは惑星の運動を理解する上での根幹をなす法則の一つです。
    • 理解のポイント: この法則は、「惑星は太陽に近いほど速く、遠いほど遅く運動する」という現象を定量的に説明します。なぜそうなるのかというと、惑星に働く力が太陽の中心を向く「中心力」であるため、惑星の角運動量が保存されるからです。面積速度一定の法則は、角運動量保存則の幾何学的な表現に他なりません。
  • 面積速度の幾何学的表現:
    • 核心: (1)で示したように、面積速度が惑星と太陽の距離 \(r\)、惑星の速さ \(v\)、そしてそれらのなす角 \(\theta\) を用いて \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と表されることです。
    • 理解のポイント: この式を自力で導出できることが重要です。微小時間 \(\Delta t\) を考え、その間に動径が掃く領域を「底辺 \(r\)、高さ \(v\Delta t \sin\theta\) の三角形」として近似する考え方は、微積分のエッセンスであり、様々な物理現象をモデル化する際の基本となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 力学的エネルギー保存則との連立問題: 惑星の運動では、面積速度一定の法則(角運動量保存則)と力学的エネルギー保存則が常に成り立ちます。これら2つの保存則を連立させることで、軌道上の任意の点での速さや太陽からの距離を求める問題は頻出です。
    • 近日点・遠日点以外の速さを求める問題: (1)で導いた一般式 \((\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) を利用します。例えば、近日点での情報(\(r_1, v_1\))が与えられているとき、ある点Pでの距離 \(r\) と角度 \(\theta\) が分かれば、その点での速さ \(v\) を \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) から計算できます。
    • 人工衛星や彗星の運動: ケプラーの法則は惑星だけでなく、地球の周りを回る人工衛星や、太陽に接近する彗星など、中心力によって運動する物体全般に適用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 保存則の確認: まず、系に働く力を分析します。惑星に働く力は太陽からの万有引力(中心力)のみなので、「面積速度一定(角運動量保存)」と「力学的エネルギー保存」が成り立つ、と判断します。
    2. 点の特定: 問題で問われている点が「近日点・遠日点」なのか、それとも「一般の点」なのかを区別します。近日点・遠日点であれば、動径と速度が直交する(\(\theta=90^\circ\))という特別な条件が使えるため、計算が大幅に簡略化されます。
    3. 立式の選択: 求める物理量に応じて、どの法則を使うかを選択します。2点間の速さと距離の関係だけなら面積速度一定の法則で十分ですが、エネルギーが関わる場合や、軌道の形状(長半径など)が与えられている場合は、エネルギー保存則やケプラーの第3法則との連立を考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 一般点での \(\sin\theta\) の付け忘れ:
    • 誤解: (2)の近日点・遠日点での関係式 \(r_1v_1 = r_2v_2\) に慣れすぎて、軌道上の任意の点でも \(rv = \text{一定}\) だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 面積速度の基本式はあくまで \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) であることを徹底的に頭に入れる。「\(rv=\text{一定}\)」が成り立つのは、\(\sin\theta=1\) となる近日点・遠日点という「特別な場合」だけであると強く意識します。
  • 微小三角形の高さの誤認:
    • 誤解: (1)の導出の際、微小時間 \(\Delta t\) に惑星が掃く三角形の面積を考えるときに、高さを惑星の移動距離 \(v\Delta t\) そのものだと勘違いし、\(\Delta S = \displaystyle\frac{1}{2}r(v\Delta t)\) と立式してしまう。
    • 対策: 必ず図を描いて確認する習慣をつけます。三角形の面積公式における「高さ」は、「底辺」に対して垂直な成分でなければなりません。惑星の移動ベクトル \(v\Delta t\) と底辺 \(r\) は一般に斜めに交わっているので、高さは垂直成分である \(v\Delta t \sin\theta\) となることを図から正確に読み取ります。
  • ケプラーの法則の混同:
    • 誤解: ケプラーの第2法則(面積速度一定)と第3法則(\(T^2/a^3=\text{一定}\))の適用場面を混同する。
    • 対策: 第2法則は「同一軌道上での速さの変化」を扱う法則、第3法則は「異なる軌道(異なる惑星や衛星)の周期と軌道半径の関係」を扱う法則、と役割を明確に区別して覚えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 面積速度の定義式 (\((\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\)):
    • 選定理由: (1)は「面積速度が〜となることを示せ」という証明問題です。このような場合、証明すべき対象の「定義」に立ち返るのが最も正攻法です。面積速度の定義そのものから出発し、幾何学的な考察を加えて式を変形していくことで、論理的に結論を導けます。
    • 適用根拠: 複雑な曲線運動を、微小な時間区間で直線運動とみなし、単純な図形(三角形)の性質に帰着させるという考え方は、物理学における極めて強力なアプローチです。この問題は、その基本的な思考法を体験する良い例題です。
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定):
    • 選定理由: (2)は、同一軌道上の異なる2点(近日点と遠日点)における物理量(距離と速さ)の関係を問うています。このように、一つの物体の運動状態が変化する前後や、異なる場所での状態を比較する際には、「保存則」が絶大な威力を発揮します。惑星運動における重要な保存則が面積速度一定の法則です。
    • 適用根拠: 惑星に働く力は太陽からの万有引力のみです。この力は常に太陽の中心を向いているため、惑星の回転運動を変化させるような「力のモーメント」は働きません。力のモーメントが0であるとき、角運動量は保存されます。そして、面積速度が一定であることは、この角運動量保存則と物理的に等価です。したがって、この法則の適用は完全に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 幾何学的条件の正確な適用: (2)の計算の鍵は、近日点・遠日点では \(\theta=90^\circ\) となり \(\sin\theta=1\) となる点にあります。なぜ \(90^\circ\) になるのか(動径ベクトルと速度ベクトルが直交する)という物理的・幾何学的な意味を理解しておくことが、応用問題で正しく条件を適用するための基礎となります。
  • 文字式の丁寧な処理: この問題の計算は \(r_1v_1 = r_2v_2\) を導くだけでシンプルですが、力学的エネルギー保存則 \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = \text{一定} \) と連立させる問題では、文字の種類が増え、式も複雑になります。どの文字が定数で、どの文字が変数なのかを常に意識し、求める文字について式を整理するという目的を明確に持って計算を進めることが重要です。
  • 両辺の共通因子の消去: \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) のような式では、両辺に共通する \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消し忘れることは少ないですが、焦っていると見落とす可能性もあります。式全体を俯瞰し、共通する因子がないかを確認する癖をつけましょう。

157 万有引力の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力の法則の導出」です。惑星の等速円運動というモデルと、観測事実であるケプラーの第3法則を組み合わせることで、ニュートンが万有引力の法則、特に力が距離の2乗に反比例する「逆2乗の法則」をいかにして導いたかを、思考のプロセスを追いながら理解します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の運動方程式: 等速円運動している物体には、その運動を維持するための中心向きの力(向心力)が働いており、その大きさは \(F=ma\) で与えられる。
  2. 向心加速度: 半径\(r\)、角速度\(\omega\)の円運動における加速度は、中心向きで大きさ \(a=r\omega^2\) となる。
  3. 角速度と周期の関係: 角速度\(\omega\)と周期\(T\)の間には、1周の角度が\(2\pi\)ラジアンであることから \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係が成り立つ。
  4. ケプラーの第3法則: 惑星の公転周期\(T\)の2乗は、軌道半径\(r\)の3乗に比例する(\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}=k\)(一定))。
  5. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに、大きさが等しく向きが反対の力を及ぼす。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 空欄①, ②, ③では、それぞれ円運動の運動方程式、周期と角速度の関係、ケプラーの第3法則という、基本的な法則や関係式を記述します。
  2. 空欄④では、①, ②, ③で得られた式を連立させ、向心力\(F\)を\(m, k, r\)で表します。これにより、力が距離の2乗に反比例することが導かれます。
  3. 空欄⑤では、作用・反作用の法則と、力が太陽の質量\(M\)にも比例するという考察から、比例定数を書き換え、万有引力の法則の最終的な形を導き出します。

空欄①

思考の道筋とポイント
惑星が太陽から受けている向心力の大きさを、円運動の基本的な物理量(質量\(m\)、半径\(r\)、角速度\(\omega\))を用いて表す問題です。等速円運動の運動方程式を正しく立てられるかが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式は \(ma = F\) の形で表される。
  • 向心加速度\(a\)は、角速度\(\omega\)を用いると \(a = r\omega^2\) と表される。
  • 向心力\(F\)は、この運動を引き起こしている力のことであり、この問題では太陽が惑星を引く引力に相当する。

具体的な解説と立式
質量\(m\)の惑星が、半径\(r\)、角速度\(\omega\)で等速円運動をしているとき、その加速度は円の中心(太陽の方向)を向いており、大きさ\(a\)は次式で与えられます。
$$ a = r\omega^2 $$
この加速度を生じさせているのが、太陽からの向心力\(F\)です。円運動の運動方程式 \(ma=F\) に、この加速度\(a\)を代入します。
$$ m(r\omega^2) = F $$
したがって、向心力\(F\)の大きさは次のように表されます。
$$ F = mr\omega^2 $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(ma = F\)
  • 向心加速度: \(a = r\omega^2\)
計算過程

この設問は公式を適用するものであり、具体的な計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

物体がぐるぐると円運動を続けるためには、常に中心に向かって引っ張る力が必要です。この力を「向心力」と呼びます。向心力の大きさ\(F\)は、物体の「質量\(m\)」、円の「半径\(r\)」、そして回転の速さを表す「角速度\(\omega\)」の2乗をすべて掛け合わせた、\(mr\omega^2\) という式で計算できます。

結論と吟味

惑星が太陽から受けている向心力の大きさは \(F = mr\omega^2\) と表されます。これは円運動を記述する上で最も基本的な関係式の一つです。

解答 ① \(mr\omega^2\)

空欄②

思考の道筋とポイント
円運動の周期\(T\)と角速度\(\omega\)の関係を問う問題です。角速度の定義、すなわち「単位時間あたりに回転する角度」を理解していれば、容易に導くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 周期\(T\)とは、1周するのにかかる時間のこと。
  • 角速度\(\omega\)とは、1秒あたりに回転する角度(ラジアン)のこと。
  • 円の1周は \(360^\circ\) であり、ラジアンで表すと \(2\pi\) [rad] である。

具体的な解説と立式
周期\(T\) [s] は、1周するのにかかる時間です。角速度\(\omega\) [rad/s] は、1秒あたりに進む角度です。
したがって、1周(\(2\pi\)ラジアン)進むのにかかる時間\(T\)と、1秒あたりに進む角度\(\omega\)の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$ \omega \times T = 2\pi $$
この式を周期\(T\)について解くと、次のようになります。
$$ T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega} $$

使用した物理公式

  • 角速度と周期の関係: \(\omega T = 2\pi\)
計算過程

この設問は定義式そのものであり、具体的な計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

「周期\(T\)」は、ぐるっと1周するのにかかる時間です。一方、「角速度\(\omega\)」は、1秒あたりにどれだけの角度を進むかを表します。1周は \(2\pi\) ラジアンなので、「1秒に進む角度(\(\omega\))」に「1周にかかる時間(\(T\))」を掛ければ、ちょうど1周分の角度(\(2\pi\))になるはずです。この関係 \(\omega \times T = 2\pi\) を変形すると、\(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) が得られます。

結論と吟味

周期\(T\)は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) と表されます。これも円運動における基本的な関係式です。

解答 ② \(\displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)

空欄③

思考の道筋とポイント
ケプラーの第3法則を数式で表現する問題です。法則の内容を正確に記憶しているかが問われます。問題文で「\(k\)を一定値として、\(T, r\)の間には、③\(=k\)の関係がある」と形式が指定されているため、それに合わせて式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則:惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。
  • 円軌道の場合、長半径は軌道半径\(r\)とみなせる。
  • 数式表現:「\(T^2\)は\(r^3\)に比例する」\(\rightarrow T^2 \propto r^3\)。比例定数\(k\)を用いて等式にすると \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)(一定)となる。

具体的な解説と立式
ケプラーの第3法則は、「惑星の公転周期\(T\)の2乗は、軌道半径\(r\)(厳密には軌道長半径)の3乗に比例する」という経験則です。
これを数式で表現すると、\(T^2 \propto r^3\) となります。
比例定数を\(k\)とすると、\(T^2 = k r^3\) と書けます。問題文では「③\(=k\)」という形式が与えられているため、この式を変形して、
$$ \displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k $$
とします。この値\(k\)は、中心天体(この場合は太陽)が同じであれば、どの惑星についても同じ値をとります。

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則
計算過程

この設問は法則を記述するものであり、具体的な計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

ケプラーの第3法則とは、太陽系の惑星について調べてみると、「(1周にかかる時間\(T\))の2乗」を「(軌道の大きさ\(r\))の3乗」で割り算した値が、どの惑星(水星、金星、地球、…)でも、不思議と全部同じ値になる、という法則です。これを式で書くと \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)(一定)となります。

結論と吟味

ケプラーの第3法則は \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) と表されます。これは観測から得られた法則であり、後にニュートンが万有引力の法則を導く上で決定的な役割を果たしました。

解答 ③ \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\)

空欄④

思考の道筋とポイント
これまでに得られた3つの関係式を用いて、向心力\(F\)を、問題で指定された文字\(m, k, r\)だけで表す問題です。複数の式を代入・整理する代数的な計算力が求められます。目標の式に含まれない文字(この場合は\(\omega\)と\(T\))を消去していく方針で計算を進めます。
この設問における重要なポイント

  • 出発点となる式は、①で求めた \(F = mr\omega^2\)。
  • 消去すべき文字は \(\omega\) と \(T\)。
  • 利用する関係式は、②の \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) と ③の \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)。

具体的な解説と立式
まず、向心力の式 \(F = mr\omega^2\) から出発します。この式に含まれる\(\omega\)を消去するため、②の関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を\(\omega\)について解いた式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を用います。
$$ F = mr\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2 = \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2} \quad \cdots \text{A} $$
次に、この式に含まれる\(T\)を消去するため、③の関係式 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) を\(T^2\)について解いた式 \(T^2 = kr^3\) を用います。
式Aに \(T^2 = kr^3\) を代入することで、\(F\)を\(m, k, r\)で表すことができます。

使用した物理公式

  • \(F = mr\omega^2\) (①の結果)
  • \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) (②の結果)
  • \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) (③の結果)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= mr\omega^2 \\[2.0ex]&= mr\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2} \\[2.0ex]\text{ここで、} T^2 &= kr^3 \text{ を代入すると、} \\[2.0ex]F &= \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{kr^3} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で求めた力の式 \(F=mr\omega^2\) を、指定された文字 \(m, k, r\) だけの式に変身させます。まず、邪魔な\(\omega\)を消すために、(2)の式を変形した \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入します。すると、式は \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2}\) となり、今度は\(T\)が邪魔になります。そこで、(3)の式を変形した \(T^2 = kr^3\) を代入します。すると、うまく\(T\)が消えて、最終的に \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) という、目的の文字だけの式が得られます。

結論と吟味

向心力は \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) と表されます。この式から、惑星に働く力は、惑星の質量\(m\)に比例し、太陽からの距離\(r\)の2乗に反比例する(\(F \propto \displaystyle\frac{m}{r^2}\))という、極めて重要な関係(逆2乗の法則)が導かれます。

解答 ④ \(\displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\)

空欄⑤

思考の道筋とポイント
④で導かれた力の法則を、物理的な考察(作用・反作用の法則)に基づいて一般化し、万有引力の法則の最終形を導く問題です。問題文の指示に従い、比例定数 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) を、太陽の質量\(M\)と万有引力定数\(G\)を含む形に置き換えることがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • ④の結果 \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) は、力が惑星の質量\(m\)に比例することを示している。
  • 作用・反作用の法則より、太陽も惑星から同じ大きさ\(F\)の力を受けている。
  • 力の対称性から、太陽が受ける力は太陽の質量\(M\)に比例するはずである。したがって、力\(F\)は\(m\)と\(M\)の両方に比例すると考えられる。
  • この考察に基づき、比例定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) が太陽の質量\(M\)に比例すると考え、\(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k} = GM\) と置き換える。(\(G\)は新たな普遍的な比例定数)

具体的な解説と立式
④で導かれた力の式を、比例定数の部分を前に出して書き直します。
$$ F = \left(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\right) \displaystyle\frac{m}{r^2} $$
ここで、物理的な考察を加えます。この力\(F\)は惑星の質量\(m\)に比例しています。作用・反作用の法則から、太陽も惑星から同じ大きさ\(F\)の力を受けており、この力は太陽の質量\(M\)に比例するはずです。つまり、力\(F\)は\(m\)と\(M\)の積に比例すると考えられます。
この考えを反映させるため、式の比例定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) が、力の源である太陽の質量\(M\)に比例すると考え、新たな比例定数\(G\)(万有引力定数)を用いて次のように置き換えます。
$$ \displaystyle\frac{4\pi^2}{k} = GM $$
この関係を、力の式に代入します。
$$ F = (GM) \displaystyle\frac{m}{r^2} $$

使用した物理公式

  • \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) (④の結果)
  • 作用・反作用の法則(思考の根拠として)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2} \\[2.0ex]&= \left(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\right) \displaystyle\frac{m}{r^2} \\[2.0ex]\text{ここで、} \displaystyle\frac{4\pi^2}{k} &= GM \text{ とおくと、} \\[2.0ex]F &= (GM) \displaystyle\frac{m}{r^2} \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(4)で求めた力の式 \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) を見ると、力は惑星の質量\(m\)に比例することがわかります。ここでニュートンは考えました。「作用・反作用の法則から、太陽も同じ力で惑星に引かれているはず。その力は太陽の質量\(M\)に比例するはずだ。ということは、この引力は\(m\)と\(M\)の両方に比例するに違いない」。このアイデアを式に反映させるため、式の定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) を、太陽の質量\(M\)と新しい定数\(G\)を使った \(GM\) という塊で置き換えることにしました。すると、力の式は \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) となり、2つの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例するという、美しい形の法則が完成します。

結論と吟味

力は \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) と表されます。ニュートンはこの法則が太陽と惑星の間に限らず、質量を持つあらゆる2つの物体の間に働く普遍的な引力であると考え、「万有引力の法則」と名付けました。この法則の導出は、物理学の歴史における最も偉大な業績の一つです。

解答 ⑤ \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 万有引力の法則の導出プロセス:
    • 核心: この問題全体が、ニュートンによる万有引力の法則の導出過程をなぞる構成になっています。個々の公式を覚えるだけでなく、「円運動の運動方程式」「ケプラーの第3法則(観測事実)」という2つの異なるピースを組み合わせることで、「逆2乗の法則」という物理法則が論理的に導かれる流れを理解することが最も重要です。
    • 理解のポイント:
      • 力学法則(運動方程式): 運動の原因(力)と結果(加速度)を結びつける。
      • 観測法則(ケプラーの法則): 運動の具体的な様子(周期と軌道半径の関係)を記述する。
      • これらを組み合わせることで、力の具体的な形(\(F \propto \frac{1}{r^2}\))が明らかになります。
  • 作用・反作用の法則と力の対称性:
    • 核心: 導かれた力が惑星の質量\(m\)に比例することから、作用・反作用の法則を根拠に、力の源である太陽の質量\(M\)にも比例するはずだと推論する部分です。
    • 理解のポイント: この推論によって、力は2つの物体の質量の積 \(Mm\) に比例するという、より普遍的で対称的な形に一般化されます。これが「万有」引力たる所以です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 万有引力を向心力とする問題: この問題の思考過程を逆に使い、万有引力 \(F=G\frac{Mm}{r^2}\) を向心力として、人工衛星の速さ\(v\)や周期\(T\)、角速度\(\omega\)を求める問題。これは最も典型的な応用例です。(例: \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) から\(v\)を求める)
    • ケプラーの第3法則の証明: 万有引力の法則と円運動の運動方程式を認め、そこから \(\frac{T^2}{r^3}\) が一定値になることを導く問題。これも思考の逆パターンです。
    • 地上の重力との関係: 地表付近での重力 \(mg\) が、地球(質量\(M\)、半径\(R\))と物体(質量\(m\))の間の万有引力と等しいとおき(\(mg = G\frac{Mm}{R^2}\))、重力加速度\(g\)を\(G, M, R\)で表す問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類の特定: 問題文から「円運動」「惑星運動」などのキーワードを読み取り、適用すべき法則を絞り込みます。
    2. 力の特定: 円運動の「向心力」の正体は何かを考えます。惑星や衛星の問題であれば、それは「万有引力」です。
    3. 運動方程式の立式: 「向心力 = 万有引力」として、運動方程式(例: \(mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\))を立てます。これが多くの問題の出発点となります。
    4. 周期や速さへの変換: 必要に応じて、\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) や \(v=r\omega\) といった関係式を用いて、変数を変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 向心力の公式の混同:
    • 誤解: 向心力を \(mr\omega^2\) で表すか \(m\frac{v^2}{r}\) で表すか混乱する。
    • 対策: 問題で与えられている物理量や、求めたい物理量に応じて使い分ける意識を持つ。角速度\(\omega\)や周期\(T\)が関係する場合は \(mr\omega^2\)、速さ\(v\)が関係する場合は \(m\frac{v^2}{r}\) を使うのが基本です。
  • ケプラーの第3法則の指数の間違い:
    • 誤解: 周期の「2乗」と半径の「3乗」を逆に覚えてしまい、\(\frac{T^3}{r^2}=k\) などと間違える。
    • 対策: 「周期(時間: second)の2乗」「半径(距離: meter)の3乗」のように、単位の次元(\(s^2\)と\(m^3\))と結びつけて覚えると間違えにくくなります。
  • 文字式の計算ミス:
    • 誤解: (4)の計算で、\(\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2\) を \(\frac{4\pi^2}{T^2}\) にする際に指数を忘れたり、分数の約分(\(r\)と\(r^3\))を間違えたりする。
    • 対策: 複雑な文字式の計算では、一行ずつ丁寧に、何をしているのか(どの式を代入したかなど)をメモしながら進める。計算後に、次元(単位)が合っているかを確認するのも有効な検算方法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 円運動の運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: 惑星の運動を「力学」の土台に乗せて解析するための出発点です。運動の様子(円運動)と、その原因である力(向心力)を結びつける、物理学の根幹をなす法則だからです。
    • 適用根拠: 惑星は太陽からの引力という力を受けて、その軌道(加速度運動)が決定されています。この因果関係を定量的に記述するのが運動方程式です。
  • ケプラーの第3法則 (\(\frac{T^2}{r^3}=k\)):
    • 選定理由: これは、ティコ・ブラーエの長年の観測データをケプラーが解析して見出した「経験則」です。運動方程式だけでは力の具体的な形は不明ですが、この観測事実を「ヒント」として使うことで、力の法則を特定することができます。
    • 適用根拠: ニュートンは、この観測事実を完璧に説明できるような力の法則こそが、真の法則に違いないと考えました。つまり、理論(運動方程式)が観測事実(ケプラーの法則)を再現できるように、理論の未知の部分(力の形)を決定するために用います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 計算方針の明確化: (4)のような複数の式を扱う計算では、いきなり手を動かすのではなく、「どの文字を消去して、どの文字を残すのか」というゴールを最初に確認します。今回は「\(\omega, T\)を消去して\(m, k, r\)を残す」という方針が明確でした。
  • 指数の取り扱い: \((A/B)^n = A^n/B^n\) のような指数法則を正確に適用する。特に、\((2\pi)^2 = 4\pi^2\) のように、数字と文字の両方を忘れずに2乗することが重要です。
  • 分数の約分: \(\frac{r}{r^3} = \frac{1}{r^2}\) のような約分は、基本ですが焦るとミスしやすいポイントです。\(r^3 = r \times r^2\) のように分解して考えると確実です。

158 万有引力の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力のつり合い」です。質量を持つ2つの物体が、その間にある別の小物体に及ぼす万有引力がつり合う点を見つける問題です。万有引力の法則を正しく適用し、力のつり合いの条件から方程式を立てて解く、基本的な流れを理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 2つの物体間に働く引力の大きさは、それぞれの質量の積に比例し、物体間の距離の2乗に反比例するという法則。
  2. 力のつり合い: 物体に複数の力が働いているにもかかわらず、物体が静止している(または等速直線運動を続けている)状態。このとき、物体に働く力の合力は0になる。
  3. 方程式の解法: 物理的な条件を立式した後に得られる方程式(この場合は2次方程式)を解く数学的なスキル。
  4. 解の吟味: 方程式を解いて得られた数学的な解が、問題で設定された物理的な状況(小物体がAとBの間にあるなど)に合っているかを確認するプロセス。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、小物体に働く力を図示します。小物体は、物体Aから引かれる力と、物体Bから引かれる力の2つを受けます。
  2. 次に、万有引力の法則 \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を用いて、これら2つの力の大きさをそれぞれ数式で表します。
  3. 問題文の「万有引力の大きさが等しくなった」という条件から、2つの力の大きさが等しいという方程式を立てます。
  4. この方程式を解いて、Aと小物体との距離を求めます。最後に、得られた解が物理的に妥当であるかを確認します。

設問

思考の道筋とポイント
この問題は、小物体に働く2つの万有引力がつり合う点を求める、典型的な力のつり合いの問題です。小物体には、物体Aからの引力と物体Bからの引力が、互いに反対向きに働きます。問題文の「万有引力の大きさが等しくなった」という条件は、まさにこれらの力がつり合っている状態を指しています。

求める「Aと小物体との距離」を未知数\(x\)と置き、他の物理量(距離や質量)を使って力のつり合いの式を立てることが、解答への第一歩となります。
この設問における重要なポイント

  • 万有引力の法則の公式: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 力のつり合いの条件: この問題では、Aからの引力 \(F_{\text{A}}\) とBからの引力 \(F_{\text{B}}\) の大きさが等しいので、\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\)。
  • 距離の設定: Aと小物体の距離を\(x\)とすると、AとBの距離が\(L\)であるため、Bと小物体の距離は \(L-x\) と表せる。

具体的な解説と立式
小物体の質量を\(m\)、求める物体Aと小物体との距離を\(x\)とします。
小物体は、物体Aと物体Bからそれぞれ万有引力を受けます。

物体A(質量\(4M\))が小物体(質量\(m\))を引く力 \(F_{\text{A}}\) の大きさは、万有引力の法則より、
$$ F_{\text{A}} = G\displaystyle\frac{(4M)m}{x^2} \quad \cdots ① $$
物体B(質量\(M\))が小物体(質量\(m\))を引く力 \(F_{\text{B}}\) の大きさは、Bと小物体の距離が \(L-x\) であることから、
$$ F_{\text{B}} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} \quad \cdots ② $$
問題の条件より、これらの力の大きさは等しいので、\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\) が成り立ちます。
$$ G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} $$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 力のつり合いの条件
計算過程

立てた力のつり合いの式を解いて\(x\)を求めます。
$$ G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} $$
両辺を \(GmM\) で割ると、式は簡単になります。
$$ \displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2} $$
分母を払って整理します。
$$ 4(L-x)^2 = x^2 $$
この2次方程式を解きます。まず、式を展開します。
$$ 4(L^2 – 2Lx + x^2) = x^2 $$
$$ 4L^2 – 8Lx + 4x^2 = x^2 $$
すべての項を左辺に集めて整理します。
$$ 3x^2 – 8Lx + 4L^2 = 0 $$
この2次方程式を因数分解します。
$$ (3x – 2L)(x – 2L) = 0 $$
したがって、解は \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) または \(x = 2L\) となります。

計算方法の平易な説明

まず、Aが小物体を引く力と、Bが小物体を引く力の大きさを、それぞれ万有引力の公式を使って式で表します。このとき、Aからの距離を\(x\)とすると、Bからの距離は\(L-x\)になるのがポイントです。次に、問題文の「大きさが等しくなった」という条件を使って、2つの力の式をイコールで結びます。この方程式を整理していくと、\(x\)についての2次方程式が得られます。これを因数分解して解くと、\(x\)の答えの候補が2つ出てきます。

結論と吟味

方程式を解くと、\(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\) という2つの解が得られます。
ここで、問題の条件を振り返ると、小物体は「AとBの間に」置かれているので、Aからの距離\(x\)は \(0 < x < L\) の範囲になければなりません。

  • \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) は、\(0\)より大きく\(L\)より小さいので、この条件を満たします。
  • \(x = 2L\) は、\(L\)より大きいので、小物体がBのさらに向こう側にあることになり、条件を満たしません。

したがって、物理的に妥当な解は \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) となります。
この結果は、質量が4倍大きい物体Aの近く(全体の距離\(L\)を\(2:1\)に内分する点)で力がつり合うことを示しており、直感的にも正しいと考えられます。

解答 \(\displaystyle\frac{2}{3}L\)
別解: 平方根を利用したスマートな解法

思考の道筋とポイント
2次方程式を地道に展開して解く代わりに、式の形 (\(A^2=B^2\)) に着目して平方根をとることで、より計算を簡略化する別解です。この方法は計算ミスを減らし、時間を短縮する上で非常に有効です。
この設問における重要なポイント

  • 方程式 \(\displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2}\) が \(\left(\displaystyle\frac{2}{x}\right)^2 = \left(\displaystyle\frac{1}{L-x}\right)^2\) と変形できることに気づくこと。
  • \(A^2 = B^2\) の解は \(A = B\) または \(A = -B\) であることを利用する。平方根をとる際に、正負(\(\pm\))の両方を考慮することが不可欠。

具体的な解説と立式
力のつり合いの式から共通項を消去した以下の式から出発します。
$$ \displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2} $$
この式の両辺は、それぞれ何かの2乗の形になっています。
$$ \left(\displaystyle\frac{2}{x}\right)^2 = \left(\displaystyle\frac{1}{L-x}\right)^2 $$
両辺の平方根をとると、次の2つの場合が考えられます。
$$ \displaystyle\frac{2}{x} = \displaystyle\frac{1}{L-x} \quad \cdots (i) $$
$$ \displaystyle\frac{2}{x} = -\displaystyle\frac{1}{L-x} \quad \cdots (ii) $$
これらはそれぞれ\(x\)についての1次方程式なので、簡単に解くことができます。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 力のつり合いの条件
計算過程

(i)の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{2}{x} &= \displaystyle\frac{1}{L-x} \\[2.0ex]2(L-x) &= x \\[2.0ex]2L – 2x &= x \\[2.0ex]3x &= 2L \\[2.0ex]x &= \displaystyle\frac{2}{3}L
\end{aligned}
$$
(ii)の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{2}{x} &= -\displaystyle\frac{1}{L-x} \\[2.0ex]2(L-x) &= -x \\[2.0ex]2L – 2x &= -x \\[2.0ex]x &= 2L
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力のつり合いの式を立てて整理すると、「(何かの式)\(^2\) = (別の式の)\(^2\)」という形になります。ここで2次方程式として展開する代わりに、両辺の「2乗」を外す(平方根をとる)ことで、もっと簡単な1次方程式を解く問題にできます。ただし、「2乗」を外すときには、プラスの場合とマイナスの場合の2パターンを考える必要があります。それぞれのパターンを解くことで、答えの候補が2つ得られます。

結論と吟味

メインの解法と同様に、\(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\) が得られます。物理的な条件 \(0 < x < L\) を満たすのは \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) のみです。したがって、求める距離は \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) となります。この解法は、計算がシンプルになるため、検算にも役立ちます。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 万有引力の法則と力のつり合い:
    • 核心: この問題は、2つの異なる物体から受ける「万有引力」が、ある点で「つり合う」条件を見つけ出すことが全てです。したがって、以下の2つの物理法則を正確に組み合わせて立式できるかが問われます。
      1. 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
      2. 力のつり合い: \(F_{\text{合力}} = 0\) (この問題では、2つの力が逆向きで大きさが等しい)
    • 理解のポイント: 万有引力は距離の2乗に反比例するため、質量の大きい物体からの引力と、質量の小さい物体からの引力が等しくなる点が存在します。その点は、質量の小さい物体の方に偏るのではなく、質量の大きい物体の方に近くなるという直感を、計算で確認することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • クーロン力のつり合い: 万有引力とクーロン力は、どちらも「逆2乗の法則」に従うため、全く同じ思考プロセスで解くことができます。点電荷の間に別の点電荷を置いて、クーロン力がつり合う点を求める問題は典型例です。ただし、電荷には正負があるため、引力だけでなく斥力の場合も考慮する必要があります。
    • 電場や重力場が0になる点: 力のつり合いの点は、見方を変えれば、2つの物体が作る「場(電場や重力場)」が打ち消し合って0になる点と同じです。\(F=qE\) や \(F=mg\) の関係から、力がつり合う点では場も0になります。
    • 3体問題の特殊ケース: 3つの物体が一直線上にある場合だけでなく、三角形の頂点に配置されている場合など、ベクトルでの力のつり合いを考える問題に発展します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示: まず、注目する物体(この場合は小物体)に働く力を、すべて矢印で図に描き込みます。力の向きと作用点を明確にすることが第一歩です。
    2. 未知数の設定: 求める物理量(この場合はAからの距離)を\(x\)などの文字で置きます。
    3. 距離関係の整理: 他の物体との距離を、設定した未知数\(x\)と与えられた量(この場合は\(L\))を使って表します(例: \(L-x\))。
    4. つり合いの立式: 図で描いた力のベクトルを見ながら、力のつり合いの式を立てます。一直線上であれば、向きを考慮して大きさの等式(例: \(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\))を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 解の吟味を忘れる:
    • 誤解: 2次方程式を解いて出てきた2つの解(\(x = \frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\))の両方が答えである、またはどちらを選べばよいかわからなくなる。
    • 対策: 方程式を解いた後は、必ず問題の物理的な設定に立ち返る習慣をつけます。「小物体はAとBの間に置かれている」という条件から、解は \(0 < x < L\) の範囲にあるはずです。この条件に合わない解(\(x=2L\))は「数学的には正しいが、物理的には不適」として除外します。
  • 平方根をとる際の符号ミス:
    • 誤解: 別解のように \(A^2 = B^2\) の形から平方根をとる際に、\(A=B\) の場合しか考えず、\(A=-B\) の場合を見落としてしまう。
    • 対策: 「2乗を外すときは、必ず\(\pm\)(プラスマイナス)を考える」という数学の基本ルールを徹底します。この\(\pm\)の両方を考慮することで、2次方程式を解いた場合と同じ2つの解がきちんと得られます。
  • 距離の2乗の間違い:
    • 誤解: 万有引力の公式 \(F = G\frac{Mm}{r^2}\) の分母を、\(r\)の2乗ではなく\(r\)としてしまう。
    • 対策: 法則の名前が「逆2乗の法則」であることを常に意識します。公式を適用するたびに「距離の2乗、距離の2乗…」と頭の中で唱えることで、ケアレスミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 万有引力の法則 (\(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)):
    • 選定理由: 問題で扱われているのが「質量を持つ物体間に働く力」だからです。これは、万有引力の法則が適用される最も基本的な状況です。
    • 適用根拠: ニュートンによって確立された、質量を持つ物体間に普遍的に働く引力を記述する法則であり、この問題の物理現象を説明する根幹となります。
  • 力のつり合いの式 (\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\)):
    • 選定理由: 問題文に「万有引力の大きさが等しくなった」と明確に記述されているためです。これは、小物体に働く2つの力が、大きさが等しく向きが反対である状態、すなわち「つり合い」の状態にあることを示しています。
    • 適用根拠: 物体に働く力の合力が0であるとき、その物体は静止を続けるか、等速直線運動を続けます(慣性の法則)。この問題では、小物体を置いた結果、力がつり合って静止している状況を考えているため、この条件式を立てることが論理的に正しいアプローチとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因子の早期消去: 立式した \(G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2}\) の段階で、両辺に共通する \(G, M, m\) をすぐに割り算して消去することが重要です。これにより、式が \(\frac{4}{x^2} = \frac{1}{(L-x)^2}\) と非常にシンプルになり、後の計算ミスを劇的に減らせます。
  • 2次方程式の解法の選択:
    • メインの解法のように展開して因数分解や解の公式を使うのが基本ですが、計算が少し煩雑になります。
    • 別解で示したように、式の形が \(A^2=B^2\) となっていることに気づけば、平方根をとる方法(\(A=\pm B\))が圧倒的に速く、計算ミスも起こしにくいです。式の形を観察する癖をつけましょう。
  • 因数分解の検算: \((3x – 2L)(x – 2L) = 0\) のように因数分解ができた場合、一瞬でよいので頭の中で展開し、\(3x^2 – 6Lx – 2Lx + 4L^2 = 3x^2 – 8Lx + 4L^2\) と元の式に戻るかを確認する癖をつけると、符号ミスなどを防げます。

159 第1宇宙速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「第1宇宙速度と円運動」です。人工衛星が地球の周りを円軌道で回り続けるために必要な速さ(第1宇宙速度)を、円運動の運動方程式を用いて導出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の運動方程式: 物体が円運動をするためには、中心向きの力(向心力)が必要であり、その関係は \(ma=F\) で表される。
  2. 向心力としての万有引力(重力): 人工衛星の円運動を支える向心力は、地球が人工衛星を引く万有引力(地表すれすれでは重力 \(mg\) とみなせる)である。
  3. 地表における重力と万有引力の関係: 地表での重力加速度 \(g\) は、万有引力定数 \(G\)、地球の質量 \(M\)、地球の半径 \(R\) を用いて \(g = G\displaystyle\frac{M}{R^2}\) と表される。
  4. 平方根を含む数値計算: 物理法則を応用した後の、具体的な数値を求めるための計算スキル。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、人工衛星の円運動の運動方程式を立てます。このとき、向心力が地表での重力 \(mg\) に等しいとして立式し、第1宇宙速度を導出します。
  2. (2)では、(1)で得られた式に与えられた数値を代入し、平方根の計算を工夫して値を求めます。
  3. (1)の別解として、より根本的な万有引力の法則の公式から出発する方法も考えられます。

問(1)

思考の道筋とポイント
第1宇宙速度とは、人工衛星が地球の重力に引かれながらも地表に落ちることなく、地表すれすれの円軌道を保って飛び続けるために必要な速さのことです。この円運動を引き起こしている力(向心力)の正体が、地球が人工衛星を引く「万有引力(重力)」であるという関係性を見抜くことが核心となります。「地表すれすれ」を飛んでいるという条件から、軌道半径は地球の半径 \(R\) とみなせ、人工衛星に働く重力の大きさは地表での重力 \(mg\) とみなせる、という2点が物理モデルを単純化する鍵です。これらの条件を円運動の運動方程式に適用して立式します。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 向心力の正体: この問題では地表での重力、すなわち \(F=mg\)。
  • 軌道半径: 地表すれすれを周回するため、軌道半径は地球の半径に等しい、すなわち \(r=R\)。

具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\)、求める第1宇宙速度を \(v\) とします。
人工衛星は、地球の半径 \(R\) を軌道半径として等速円運動をします。
この円運動に必要な向心力は、地表における重力に等しいと考えられます。その大きさは \(mg\) です。
したがって、円運動の運動方程式は次のように立てられます。
$$ m\displaystyle\frac{v^2}{R} = mg $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 地表での重力: \(F_g = mg\)
計算過程

立式した運動方程式の両辺を \(m\) で割り、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{v^2}{R} &= g \\[2.0ex]v^2 &= gR
\end{aligned}
$$
速さは正なので、\(v>0\) より、
$$
v = \sqrt{gR}
$$

計算方法の平易な説明

人工衛星が落ちてこずに地球の周りを回り続けることができるのは、前に進む勢いと、地球に引っ張られる重力が絶妙なバランスを保っているからです。このとき、人工衛星を地球の中心方向に引っ張る「重力」が、ちょうど円運動をさせるための「向心力」として機能しています。したがって、「向心力の公式 \(m\frac{v^2}{R}\)」と「重力の大きさ \(mg\)」が等しいという式を立てます。この式を速さ \(v\) について解くと、答えが求まります。

結論と吟味

第1宇宙速度は \(v = \sqrt{gR}\) と表されます。この式には人工衛星自身の質量 \(m\) が含まれていません。これは、重力(\(mg\))も円運動に必要な力(慣性)も、どちらも質量 \(m\) に比例するため、運動方程式の両辺で \(m\) が相殺されるからです。つまり、第1宇宙速度は、打ち上げる物体の重さによらず一定の値になるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\sqrt{gR}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で導出した \(v = \sqrt{gR}\) という関係式に、与えられた具体的な数値を代入して第1宇宙速度の値を求める問題です。ルート(平方根)を含む計算を、指数や素因数分解を利用して効率よく行う計算力が試されます。
この設問における重要なポイント

  • 与えられた数値を正確に代入する。
  • ルートの中の数を、平方数(何かの2乗の数)が見つかるように変形する。
  • 指数法則(特に \(10^n\) の平方根)を正しく適用する。
  • 問題で与えられている数値の有効数字に合わせて、最終的な答えをまとめる。

具体的な解説と立式
(1)で求めた式 \(v = \sqrt{gR}\) に、問題で与えられた \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) と \(R=6.4 \times 10^6 \, \text{m}\) を代入します。
$$ v = \sqrt{9.8 \times (6.4 \times 10^6)} $$

使用した物理公式

  • 第1宇宙速度: \(v = \sqrt{gR}\)
計算過程

ルートの中の数値を計算しやすい形に変形します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{9.8 \times 6.4 \times 10^6} \\[2.0ex]&= \sqrt{(98 \times 10^{-1}) \times (64 \times 10^{-1}) \times 10^6} \\[2.0ex]&= \sqrt{98 \times 64 \times 10^4}
\end{aligned}
$$
ここで、\(98 = 2 \times 7^2\), \(64 = 8^2\), \(10^4 = (10^2)^2\) なので、ルートの外に出せる数をまとめます。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{2 \times 7^2 \times 8^2 \times (10^2)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \times \sqrt{7^2} \times \sqrt{8^2} \times \sqrt{(10^2)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \times 7 \times 8 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 56\sqrt{2} \times 10^2
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて近似計算し、有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 56 \times 1.41 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 78.96 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 7.896 \times 10^3 \\[2.0ex]&\approx 7.9 \times 10^3 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で求めた式 \(v = \sqrt{gR}\) に、問題文の \(g=9.8\) と \(R=6.4 \times 10^6\) を代入します。ルートの中の数が大きいので、計算の工夫をします。\(9.8\) を \(98 \div 10\)、\(6.4\) を \(64 \div 10\) と考え、\(10\)のべき乗をまとめます。すると、ルートの中は \(98 \times 64 \times 10^4\) となります。\(98\)は\(2 \times 7^2\)、\(64\)は\(8^2\)、\(10^4\)は\((10^2)^2\) なので、ルートの外に \(7, 8, 10^2\) を出すことができます。最後にルートの中に残った \(\sqrt{2}\) に、およその値である \(1.41\) を代入して掛け算し、答えを求めます。問題で与えられた数値が2桁なので、答えも2桁に四捨五入します。

結論と吟味

第1宇宙速度の値は、約 \(7.9 \times 10^3 \, \text{m/s}\) となります。これは秒速 \(7.9 \, \text{km}\) に相当し、新幹線(時速約300km)の100倍近い、とてつもない速さです。人工衛星が地球の重力に打ち勝って周回するためには、これほど大きな速度が必要であることが定量的にわかります。

解答 (2) \(7.9 \times 10^3 \, \text{m/s}\)
別解: (1) 万有引力の法則から導出する別解

思考の道筋とポイント
(1)を、より根源的な法則である「万有引力の法則」から出発して解く別解です。地表での重力 \(mg\) が、地球と物体の間の万有引力そのものである、という関係性を利用します。このアプローチにより、なぜ向心力として \(mg\) を使ってよいのか、その物理的な背景がより明確になります。
この設問における重要なポイント

  • 向心力の正体は万有引力: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
  • 地表での重力と万有引力の関係: 地表にある質量\(m\)の物体に働く重力\(mg\)は、地球(質量\(M\))との間の万有引力に等しい。すなわち、\(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)。

具体的な解説と立式
地球の質量を \(M\)、万有引力定数を \(G\) とします。
人工衛星(質量 \(m\))が受ける向心力は、地球との間の万有引力です。円運動の運動方程式は、
$$ m\displaystyle\frac{v^2}{R} = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ① $$
一方、地表における重力加速度 \(g\) は、地表での重力と万有引力が等しいという関係から定義されます。
$$ mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ② $$
この②式から、\(G, M\) を \(g, R\) で表す関係式 \(GM = gR^2\) が得られます。この関係を①式に代入することで、\(v\) を \(g\) と \(R\) だけで表すことができます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

まず、①式 \( m\displaystyle\frac{v^2}{R} = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \) の両辺から \(m\) と \(R\) を1つずつ消去して、\(v^2\) について整理します。
$$
v^2 = G\displaystyle\frac{M}{R} \quad \cdots ③
$$
次に、②式 \( mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \) の両辺から \(m\) を消去し、\(GM\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
g &= G\displaystyle\frac{M}{R^2} \\[2.0ex]GM &= gR^2 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
最後に、④式を③式に代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \displaystyle\frac{gR^2}{R} \\[2.0ex]&= gR
\end{aligned}
$$
速さは正なので、\(v>0\) より、
$$
v = \sqrt{gR}
$$

計算方法の平易な説明

より基本的な「万有引力の法則」の公式を使って、「向心力=万有引力」という式を立てます。この式には、まだ問題で使えない文字である万有引力定数\(G\)や地球の質量\(M\)が含まれています。そこで、これらの文字を消すために、「地表での重力\(mg\)も、正体は万有引力である」というもう一つの関係式を使います。この関係式をうまく変形して\(G\)と\(M\)のセットを\(g\)と\(R\)のセットに置き換えることで、メインの解法と同じ \(v = \sqrt{gR}\) という式を導き出すことができます。

結論と吟味

万有引力の法則から出発しても、メインの解法と同じ \(v = \sqrt{gR}\) という結果が得られました。これは、地表すれすれの運動において、向心力を地表での重力 \(mg\) とみなすことの正しさを裏付けています。より普遍的な法則から特殊な場合を導出する、物理学の基本的な思考プロセスを体験できる解法です。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 向心力と万有引力(重力)の関係:
    • 核心: 人工衛星が地表に落下せず円軌道を保ち続けられるのは、地球が及ぼす「万有引力(重力)」が、円運動を維持するための「向心力」として過不足なく作用しているからです。この物理的状況を、円運動の運動方程式を用いて \((\text{向心力}) = (\text{万有引力})\) と立式することが、この問題の全てです。
    • 理解のポイント: 「向心力」は力の種類(重力、弾性力、摩擦力など)ではなく、力の「役割」を示す言葉です。この問題では、「重力」という力が「向心力」の役割を担っています。この関係性を理解することが、円運動の問題を解く上での基本となります。
  • 地表の重力加速度\(g\)の物理的意味:
    • 核心: (1)の別解で示したように、地表での重力 \(mg\) は、地球(質量\(M\))と物体(質量\(m\))の間の万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) と等価です。この関係 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) を用いることで、万有引力定数\(G\)や地球の質量\(M\)といった直接測定が難しい量を知らなくても、測定が容易な\(g\)と\(R\)だけで第1宇宙速度を計算できる、という点が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 第2宇宙速度(脱出速度): 地球の重力を振り切って無限遠に飛び去るために必要な最小の初速度。これは円運動ではないため、運動方程式ではなく「力学的エネルギー保存則」を用いて解きます。\((\text{運動エネルギー}) + (\text{万有引力による位置エネルギー}) = 0\) という式を立てます。
    • 任意の高さでの円運動: 地表すれすれではなく、地表から高さ\(h\)の円軌道を飛ぶ人工衛星の速さや周期を求める問題。この場合、軌道半径は \(R+h\) となり、向心力は万有引力の公式 \(G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) を直接使う必要があります。安易に\(mg\)は使えません。
    • 静止衛星: 地球の自転と同じ周期(約24時間)で地球の周りを回る衛星。周期\(T\)が既知であることから、運動方程式 \(mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\) と周期の関係式 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を連立させて、軌道半径\(r\)を求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の状況を把握: 「円運動」か「脱出」か「楕円運動」かを見極めます。円運動なら運動方程式、脱出や高さの変化が伴う運動ならエネルギー保存則が主役になります。
    2. 力の正体を特定: 円運動の場合、「向心力の正体は何か?」を考えます。天体の周りを回る物体の場合は、ほぼ万有引力です。
    3. \(g\)を使うか\(G,M\)を使うか判断: 「地表すれすれ」という条件や、「重力加速度\(g\)を用いて表せ」という指示があれば、重力\(mg\)や関係式 \(GM=gR^2\) を活用できます。そうでなければ、万有引力の基本公式 \(G\frac{Mm}{r^2}\) から出発するのが原則です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 向心力と重力を別の力と考える:
    • 誤解: 向心力と重力を別々の力と勘違いし、運動方程式を \(m\frac{v^2}{R} = F_{\text{向心力}} + mg\) のように立ててしまう。
    • 対策: 「向心力」は力の役割名であることを徹底します。人工衛星には基本的に重力しか働いておらず、その重力が「向心力」という仕事をしている、と理解しましょう。
  • 軌道半径の誤り:
    • 誤解: 地表から高さ\(h\)を飛ぶ衛星の軌道半径を、地球の中心からの距離 \(R+h\) ではなく、高さ\(h\)そのものだと勘違いする。
    • 対策: 円運動の半径は、必ず「回転の中心」からの距離です。天体の周りを回る運動では、中心は天体の中心です。必ず図を描いて、中心から物体までの距離が半径であることを確認する癖をつけましょう。
  • 地表から離れた場所で\(g\)を使う:
    • 誤解: 地球から遠く離れた場所でも、重力の大きさを\(mg\)で計算してしまう。
    • 対策: 重力加速度\(g\)は、あくまで「地表での」値です。地表から離れると万有引力は弱まるため、重力加速度の値も小さくなります。地表から離れた場所では、原則として万有引力の公式 \(G\frac{Mm}{r^2}\) を使う必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 円運動の運動方程式 (\(m\displaystyle\frac{v^2}{R} = mg\)):
    • 選定理由: 問題が「円軌道を描いて回るときの速さ」を問うているため、円運動の力学(ダイナミクス)を記述する運動方程式が最も直接的な解法となります。
    • 適用根拠: 人工衛星は、地球の重力を受けながら、落ちてくることもなく、飛び去ることもなく、一定の軌道を保っています。これは、重力が向心力として「ちょうど良い大きさ」で作用していることを意味します。この物理的なバランス状態を数式で表現したものが、この運動方程式です。
  • 万有引力の法則と重力の関係式 (\(GM=gR^2\)):
    • 選定理由: (別解で)万有引力の公式から出発した場合、問題文で与えられていない\(G\)(万有引力定数)や\(M\)(地球質量)を消去し、与えられている\(g\)と\(R\)で最終的な答えを表現するために必要となります。
    • 適用根拠: 私たちが日常的に「重力」と呼んでいる現象の正体は、地球と物体の間に働く「万有引力」です。この関係式は、マクロな現象(重力)と、より根源的な法則(万有引力)とを結びつける、物理学の異なる階層をつなぐ重要な架け橋です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 平方根の計算の工夫:
    • (2)の \(\sqrt{9.8 \times 6.4 \times 10^6}\) のような計算では、いきなり筆算を始めるのではなく、まずルートの中を整理します。
    • ① 小数をなくす: \(\sqrt{98 \times 64 \times 10^4}\)
    • ② 平方数を見つけて外に出す: \(98=2 \times 7^2\), \(64=8^2\), \(10^4=(10^2)^2\) なので、\(7 \times 8 \times 10^2 \sqrt{2}\) と変形します。
    • ③ 最後に近似値を代入: この手順を踏むことで、計算が楽になり、ミスが大幅に減ります。
  • 次元解析による検算:
    • 導出した式 \(v = \sqrt{gR}\) の単位(次元)が、速さの単位になっているかを確認します。
    • \(g\) の単位は \([\text{m/s}^2]\)、\(R\) の単位は \([\text{m}]\)。
    • \(\sqrt{gR}\) の単位は \(\sqrt{[\text{m/s}^2] \times [\text{m}]} = \sqrt{[\text{m}^2/\text{s}^2]} = [\text{m/s}]\) となり、確かに速さの単位と一致します。この確認は、立式ミスを発見するのに非常に有効です。
  • 有効数字の処理:
    • 計算の途中では、与えられた有効数字より1桁多く計算を進めます(例: \(\sqrt{2} \approx 1.41\))。
    • 最終的な答えを出す段階で、問題文で与えられた数値(\(g=9.8\), \(R=6.4\) は共に2桁)の有効数字に合わせて四捨五入します。

160 人工衛星の速さと加速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「任意の高さにおける人工衛星の円運動」です。地表すれすれの場合とは異なり、軌道半径や万有引力の大きさを正しく設定する必要がある、より一般的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の運動方程式: 人工衛星の円運動を支える向心力と、その結果生じる加速度の関係を記述する基本法則。
  2. 万有引力の法則: 向心力の正体が、地球と人工衛星の間に働く万有引力であることを理解し、その大きさを正しく計算する。
  3. 軌道半径の正しい設定: 軌道半径は地球の中心からの距離であるため、地表からの高さ\(h\)と地球の半径\(R\)の和、すなわち \(R+h\) となる。
  4. 地表の重力加速度との関係: 問題で与えられていない万有引力定数\(G\)や地球の質量\(M\)を、与えられている地表の重力加速度\(g\)と地球半径\(R\)で置き換えるための関係式 \(GM=gR^2\) を利用する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず人工衛星の円運動の運動方程式を、万有引力を向心力として立てます。次に、地表での重力と万有引力の関係式を用いて、未知の文字\(G, M\)を消去し、速さ\(v\)を求めます。加速度\(a\)は、円運動の加速度の公式に求めた速さ\(v\)を代入して計算します。
  2. (2)では、等速円運動における速度ベクトルと加速度ベクトルの向きに関する基本的な定義を思い出し、そのなす角を答えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
地表から高さ\(h\)の円軌道を運動する人工衛星の速さと加速度を求める問題です。この問題の最大のポイントは、地表すれすれの運動ではないため、軌道半径と万有引力の大きさを一般的に扱う必要がある点です。
まず、円運動の運動方程式を立てますが、向心力は万有引力の公式 \(F=G\frac{Mm}{r^2}\) を使って表します。このとき、軌道半径\(r\)が地球の中心からの距離である \(R+h\) になることに注意が必要です。
次に、このままでは式に未知の文字\(G\)と\(M\)が含まれてしまうため、これらを問題で与えられている\(g\)と\(R\)で置き換える必要があります。そのために「地表での重力\(mg\)は、地表での万有引力と等しい」という関係式を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(ma = F\)。
  • 向心力は万有引力: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\)。
  • 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{R+h}\)。
  • 文字を消去するための関係式: 地表での力のつり合いから \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)、すなわち \(GM = gR^2\)。

具体的な解説と立式
人工衛星の質量を\(m\)、速さを\(v\)、加速度の大きさを\(a\)、地球の質量を\(M\)、万有引力定数を\(G\)とします。
人工衛星は、地球の中心からの距離 \(r=R+h\) を軌道半径とする円運動をします。
この円運動の向心力は、地球と人工衛星の間に働く万有引力です。したがって、運動方程式は次のように立てられます。
$$ m\displaystyle\frac{v^2}{R+h} = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2} \quad \cdots ① $$
この式には、問題文で与えられていない\(G\)と\(M\)が含まれています。これらを消去するため、地表における物体(質量\(m\))に働く重力と万有引力の関係を考えます。
$$ mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ② $$
②式から、\(G\)と\(M\)の積が次のように表せることがわかります。
$$ GM = gR^2 \quad \cdots ③ $$
①式と③式を連立させることで、速さ\(v\)を求めることができます。
また、加速度\(a\)は円運動の向心加速度に等しいので、
$$ a = \displaystyle\frac{v^2}{R+h} \quad \cdots ④ $$
と表せます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 地表での重力と万有引力の関係: \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
計算過程

まず、速さ\(v\)を求めます。
①式の両辺を\(m\)で割り、\(R+h\)を1つ約分すると、
$$ v^2 = G\displaystyle\frac{M}{R+h} $$
この式に③式の関係 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$ v^2 = \displaystyle\frac{gR^2}{R+h} $$
速さ\(v\)は正なので、平方根をとります。
$$ v = \sqrt{\displaystyle\frac{gR^2}{R+h}} = R\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R+h}} $$
次に、加速度\(a\)を求めます。
④式に、上で求めた \(v^2 = \displaystyle\frac{gR^2}{R+h}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \displaystyle\frac{1}{R+h} \left( \displaystyle\frac{gR^2}{R+h} \right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{gR^2}{(R+h)^2} \\[2.0ex]&= g\left(\displaystyle\frac{R}{R+h}\right)^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、人工衛星を引っ張る「万有引力」が、円運動させるための「向心力」になっている、という式を立てます。このとき、地球の中心からの距離が \(R+h\) であることに注意します。この式には地球の質量\(M\)など、問題で使えない文字が入っているので、地表での「重力\(mg\)=万有引力」という関係式を使って、これらの文字を消去します。すると、速さ\(v\)が求まります。加速度は、円運動の加速度の公式 \(a=v^2/(\text{半径})\) に、今求めた\(v\)の2乗を代入すれば計算できます。

結論と吟味

人工衛星の速さは \(v = R\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R+h}}\)、加速度の大きさは \(a = g\left(\displaystyle\frac{R}{R+h}\right)^2\) となります。
ここで、もし\(h=0\)(地表すれすれ)とすると、速さは \(v = R\sqrt{\frac{g}{R}} = \sqrt{gR}\)(第1宇宙速度)、加速度は \(a = g(\frac{R}{R})^2 = g\) となり、地表での運動の式と一致します。このことから、今回得られた式はより一般的な状況を表す正しい式であることがわかります。

解答 (1) 速さ: \(R\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R+h}}\), 加速度: \(g\left(\displaystyle\frac{R}{R+h}\right)^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
等速円運動をしている物体の、速度ベクトルと加速度ベクトルの向きの関係を問う、基本的な知識問題です。それぞれのベクトルがどの方向を向くかを定義から正確に理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • 速度ベクトルは、常に軌道の接線方向を向く。
  • 加速度ベクトル(向心加速度)は、常に円の中心方向を向く。
  • 円とその接線の幾何学的な関係。

具体的な解説と立式
人工衛星は円軌道上を運動しています。
ある瞬間における物体の速度ベクトルは、その点の軌道(この場合は円)の接線方向を向きます。
一方、この運動における加速度は向心加速度であり、常に円の中心、すなわち地球の中心を向いています。
幾何学的に、円の接線と、その接点を通る半径(中心に向かう方向)は、常に直交します。
したがって、速度ベクトルと加速度ベクトルのなす角は\(90^\circ\)となります。

使用した物理公式

  • 円運動における速度と加速度の定義
計算過程

この設問は物理的な定義に関するものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

車のハンドルを一定に切ってカーブを曲がるときを想像すると、車が進む方向(速度)は常に進行方向の正面ですが、車が曲がるために必要な力や加速度は、常にカーブの中心を向いています。円運動もこれと全く同じで、物体の速度は常に円周に沿った接線方向を向き、加速度は常に円の中心を向いています。円の接線と半径は必ず直角に交わるので、なす角は90°になります。

結論と吟味

人工衛星の速度ベクトルと加速度ベクトルのなす角は\(90^\circ\)です。これは、等速円運動の基本的な性質であり、軌道半径や速さによらず常に成り立ちます。

解答 (2) \(90^\circ\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 任意の高さでの円運動モデル:
    • 核心: この問題は、地表すれすれ(第1宇宙速度)の特殊な場合から一歩進んで、任意の高さ\(h\)を飛ぶ人工衛星の運動を扱います。核心は、物理法則をこの一般的な状況に合わせて正しく設定できるか、という点にあります。具体的には以下の3点です。
      1. 軌道半径は地球の中心からの距離、すなわち \(r = R+h\) である。
      2. 向心力として働く万有引力は、この距離 \(r=R+h\) を用いて \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と表される。
      3. 地表から離れているため、重力の大きさを安易に \(mg\) とはできず、万有引力の公式から出発する必要がある。
  • 万有引力と地表の重力の関係性の利用:
    • 核心: 運動方程式を立てただけでは、未知の物理量である万有引力定数\(G\)と地球の質量\(M\)が式に残ってしまいます。これらを、問題で与えられている地表の重力加速度\(g\)と地球半径\(R\)に置き換えるために、関係式 \(GM = gR^2\) を利用することが、計算を進める上での決定的な鍵となります。
    • 理解のポイント: この関係式は、地表での重力\(mg\)が万有引力\(G\frac{Mm}{R^2}\)と等しいという、物理的に極めて重要な事実から導かれます。この式を自在に使えることが、万有引力の問題を解く上で必須のスキルです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 第1宇宙速度: この問題で \(h=0\) とした特殊なケースです。今回の結果 \(v = R\sqrt{\frac{g}{R+h}}\) に \(h=0\) を代入すると \(v=\sqrt{gR}\) となり、第1宇宙速度の公式が導出できることを確認すると理解が深まります。
    • 力学的エネルギーの計算: この人工衛星の運動エネルギー \(K=\frac{1}{2}mv^2\) と、万有引力による位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{R+h}\) を計算し、力学的エネルギー \(E=K+U\) を求める問題。
    • 静止衛星の軌道半径: 地球の自転と同じ周期\(T\)で回る衛星。速さ\(v\)ではなく角速度\(\omega\)を用いた運動方程式 \(m(R+h)\omega^2 = G\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と、周期との関係式 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を連立させて、軌道半径 \(R+h\) を求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 軌道半径の確認: まず、回転の中心(地球の中心)から物体(人工衛星)までの距離はいくらかを正確に把握します。地表からの高さ\(h\)が与えられている場合、半径は \(R+h\) です。
    2. 力の立式: 向心力として働く万有引力を、上で確認した半径を用いて \(F = G\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と正しく立式します。
    3. 文字の置き換え戦略: 式を立てた後、問題で与えられていない文字(\(G, M\)など)と、与えられている文字(\(g, R\)など)を確認します。与えられていない文字を消去するために、関係式 \(GM=gR^2\) が使えないかを検討します。
    4. ベクトルの向き: (2)のようにベクトルの向きが問われたら、定義に立ち返ります。速度は常に軌道の接線方向、円運動の加速度は常に中心方向です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 軌道半径を\(h\)と誤認する:
    • 誤解: 地表からの高さ\(h\)を、そのまま円運動の半径\(r\)としてしまい、運動方程式を \(m\frac{v^2}{h} = \dots\) と立ててしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、回転の中心が地球の中心であることを明確にします。半径は中心から物体までの距離なので、\(R+h\) となることを視覚的に確認する癖をつけましょう。
  • 地表から離れた場所で重力を\(mg\)と誤認する:
    • 誤解: 高さ\(h\)の場所でも、人工衛星に働く万有引力の大きさを地表での重力と同じ\(mg\)だと考えてしまう。
    • 対策: 重力加速度\(g\)は「地表での」値です。高さ\(h\)の場所では、万有引力は \(G\frac{Mm}{(R+h)^2}\) となり、地表より弱くなります。この問題で求めた加速度 \(a = g(\frac{R}{R+h})^2\) が、まさに高さ\(h\)における重力加速度\(g’\)に相当します。\(h>0\) なので \(a<g\) となり、重力が弱まっていることが数式からもわかります。
  • 速度ベクトルと加速度ベクトルの混同:
    • 誤解: 加速度も速度と同じ接線方向を向いている、あるいは速度も加速度と同じ中心方向を向いていると勘違いする。
    • 対策: 「速度=運動の向き」「加速度=力の向き」と役割を明確に区別します。物体は接線方向に進もうとするが、中心向きの力(万有引力)によって常に軌道を曲げられている、というイメージを持つことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
    • 選定理由: 問題が「円軌道」を回る物体の「速さ」と「加速度」を問うているため、円運動の力学を記述するこの公式が最も直接的です。
    • 適用根拠: 人工衛星は、万有引力という力を受け続けることで、まっすぐ進むのではなく軌道を曲げられ、円運動という加速度運動をしています。この「力(原因)」と「加速度運動(結果)」の因果関係を定量的に結びつけるのが運動方程式です。
  • 関係式 \(GM=gR^2\):
    • 選定理由: 運動方程式を立てただけでは、直接測定が困難な\(G\)や\(M\)が式に残り、答えを導けません。これらの未知数を、問題で与えられた測定可能な量(\(g, R\))に変換するために、この関係式が必要不可欠となります。
    • 適用根拠: この式は「地表での重力も万有引力の一つの現れである」という物理的な事実に基づいています。これにより、宇宙スケールの現象(人工衛星の運動)を、地上の現象(重力加速度)と結びつけて解析することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • いきなり数値を代入するのではなく、まずは \(v = R\sqrt{\frac{g}{R+h}}\) のように、文字式の形で最終的な答えを導出する習慣をつけましょう。これにより、式の物理的な意味が明確になり、検算もしやすくなります。
  • 特殊な場合で検算する(極限をとる):
    • 導出した一般式が正しいかを確認する非常に強力な方法です。例えば、今回得られた \(v = R\sqrt{\frac{g}{R+h}}\) や \(a = g(\frac{R}{R+h})^2\) に、\(h=0\)(地表すれすれ)を代入してみます。すると、\(v=\sqrt{gR}\)(第1宇宙速度)、\(a=g\) となり、よく知られた結果と一致します。これにより、式の信頼性が格段に高まります。
  • 次元解析:
    • 得られた式の単位が、求めたい物理量の単位と一致しているかを確認します。
    • 速さ \(v = R\sqrt{\frac{g}{R+h}}\) の単位は \([\text{m}]\sqrt{\frac{[\text{m/s}^2]}{[\text{m}]}} = [\text{m/s}]\) となり、速さの単位と一致します。
    • 加速度 \(a = g(\frac{R}{R+h})^2\) の単位は \([\text{m/s}^2](\frac{[\text{m}]}{[\text{m}]})^2 = [\text{m/s}^2]\) となり、加速度の単位と一致します。立式ミスや計算ミスを発見するのに有効です。

161 静止衛星

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「静止衛星の力学」です。地上から見ると静止して見えるという条件から、その公転周期、角速度、そして軌道半径を求める問題です。円運動の知識と万有引力の法則を組み合わせて解く、典型的な応用問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静止衛星の定義: 地球の自転と同じ周期(1日 = 24時間)で、同じ向き(西から東)に、赤道上空を回る人工衛星。
  2. 角速度と周期の関係: 角速度\(\omega\)と周期\(T\)の間には、\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) という関係が成り立つ。
  3. 円運動の運動方程式: 人工衛星の円運動を支える向心力は、地球との間に働く万有引力である。角速度を用いると \(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) と表せる。
  4. 数値計算と有効数字: 問題で与えられた数値の有効数字を考慮して、最終的な答えを適切に処理するスキル。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、静止衛星の周期が地球の自転周期である「1日」と等しいことから、これを秒単位に換算します。
  2. (2)では、(1)で求めた周期\(T\)を用いて、関係式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) から角速度\(\omega\)を計算します。
  3. (3)では、円運動の運動方程式を軌道半径\(r\)について解き、与えられた物理定数と(2)で求めた角速度を代入して、具体的な値を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
静止衛星の公転周期を求める問題です。問題文の「地球の自転と同じ周期で回る」という静止衛星の定義が全てです。地球の自転周期は「1日」なので、これを秒単位に変換する計算を行います。
この設問における重要なポイント

  • 静止衛星の周期は地球の自転周期に等しい。
  • 地球の自転周期は1日(24時間)である。
  • 時間の単位を「時」→「分」→「秒」と換算する。

具体的な解説と立式
静止衛星は、地上から見ると静止しているように、地球の自転に合わせて公転します。地球の自転周期は1日です。したがって、静止衛星の公転周期\(T\)も1日となります。これを秒[s]に換算します。
1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒なので、
$$ T = 24 \times 60 \times 60 \, \text{[s]} $$

使用した物理公式

  • (なし。単位換算のみ)
計算過程

$$
\begin{aligned}
T &= 24 \times 60 \times 60 \\[2.0ex]&= 86400 \\[2.0ex]&= 8.64 \times 10^4 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$
問題文で有効数字2桁での解答が求められているため、四捨五入します。
$$ T \approx 8.6 \times 10^4 \, \text{[s]} $$

計算方法の平易な説明

静止衛星は、地球が1回転する間に、ちょうど同じように1周します。地球の1回転にかかる時間は1日、つまり24時間です。これを秒に直すには、まず24時間に60を掛けて「分」に直し(1440分)、さらに60を掛けて「秒」に直します(86400秒)。最後に、指定された有効数字2桁に合わせます。

結論と吟味

静止衛星の公転周期は \(8.6 \times 10^4 \, \text{s}\) です。この後の計算では、より正確な値である \(8.64 \times 10^4 \, \text{s}\) を用いることが望ましいです。

解答 (1) \(8.6 \times 10^4 \, \text{s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
静止衛星の角速度を求める問題です。(1)で求めた周期\(T\)と、角速度\(\omega\)の関係式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 角速度と周期の関係式: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
  • 問題で指定された\(\pi\)の値と有効数字を用いる。

具体的な解説と立式
角速度\(\omega\)は、周期\(T\)を用いて次のように表されます。
$$ \omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} $$
この式に、(1)で求めた周期 \(T = 8.64 \times 10^4 \, \text{s}\) と、問題で与えられた \(\pi = 3.14\) を代入します。

使用した物理公式

  • 角速度と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\omega &= \displaystyle\frac{2 \times 3.14}{8.64 \times 10^4} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{6.28}{8.64 \times 10^4} \\[2.0ex]&\approx 0.7267… \times 10^{-4} \\[2.0ex]&= 7.267… \times 10^{-5} \, \text{[rad/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入します。
$$ \omega \approx 7.3 \times 10^{-5} \, \text{[rad/s]} $$

計算方法の平易な説明

角速度とは「1秒あたりに何ラジアン回転するか」という量です。衛星は\(T\)秒かけて1周(\(2\pi\)ラジアン)するので、1秒あたりの回転角は \(2\pi\) を \(T\) で割れば求まります。(1)で計算した周期の値を代入して、割り算を実行します。

結論と吟味

静止衛星の角速度は \(7.3 \times 10^{-5} \, \text{rad/s}\) です。非常に小さい値ですが、これは約24時間という長い時間をかけて1周するため、1秒あたりの回転角が小さいことを意味しており、妥当な結果です。

解答 (2) \(7.3 \times 10^{-5} \, \text{rad/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
静止衛星の軌道半径を求める問題です。静止衛星が円運動を続けるための向心力が、地球との間の万有引力によって供給されている、という物理的な状況を運動方程式で表します。この方程式を、求めたい軌道半径\(r\)について解き、数値を代入して計算します。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
  • 方程式を\(r\)について解くと、\(r^3 = \displaystyle\frac{GM}{\omega^2}\) となる。
  • 代入する数値の精度: (2)で求めた角速度\(\omega\)は、丸める前の値 \(7.267… \times 10^{-5}\) を用いて計算する方が、より正確な結果が得られる。

具体的な解説と立式
静止衛星の質量を\(m\)、軌道半径を\(r\)とします。地球の質量は\(M\)、万有引力定数は\(G\)です。
静止衛星の円運動の向心力(左辺)は、万有引力(右辺)に等しいので、運動方程式は次のように立てられます。
$$ mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2} $$
この式を、求めたい軌道半径\(r\)について整理します。両辺の\(m\)を消去し、\(r^2\)を左辺に、\(\omega^2\)を右辺に移動させます。
$$ r^3 = \displaystyle\frac{GM}{\omega^2} $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

\(r^3 = \displaystyle\frac{GM}{\omega^2}\) の式に、与えられた数値を代入します。

  • \(G = 6.7 \times 10^{-11} \, \text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)
  • \(M = 6.0 \times 10^{24} \, \text{kg}\)
  • \(\omega \approx 7.267 \times 10^{-5} \, \text{rad/s}\) ((2)の計算途中での、丸める前の値)

まず分子と分母をそれぞれ計算します。
$$
\begin{aligned}
GM &= (6.7 \times 10^{-11}) \times (6.0 \times 10^{24}) \\[2.0ex]&= 40.2 \times 10^{13} = 4.02 \times 10^{14}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &\approx (7.267 \times 10^{-5})^2 \\[2.0ex]&\approx 52.8 \times 10^{-10} = 5.28 \times 10^{-9}
\end{aligned}
$$
これらを代入して \(r^3\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
r^3 &= \displaystyle\frac{4.02 \times 10^{14}}{5.28 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&\approx 0.761 \times 10^{23} \\[2.0ex]&= 76.1 \times 10^{21}
\end{aligned}
$$
最後に、\(r\)を求めるために3乗根をとります。問題文の近似式 \(\sqrt[3]{76} \approx 4.2\) を利用します。
$$
\begin{aligned}
r &= \sqrt[3]{76.1 \times 10^{21}} \\[2.0ex]&\approx \sqrt[3]{76} \times \sqrt[3]{10^{21}} \\[2.0ex]&= 4.2 \times 10^7 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

静止衛星が地球の周りを回り続けるための力(向心力)は、地球が引っ張る力(万有引力)です。この「向心力=万有引力」という式を立てます。この式を、求めたい軌道半径\(r\)について変形すると、\(r\)の3乗が計算できる形になります。あとは、問題文で与えられた地球の質量などの値を代入して、まず\(r\)の3乗を計算します。最後に、3乗根をとることで\(r\)の値が求まります。

結論と吟味

静止衛星の軌道半径は約 \(4.2 \times 10^7 \, \text{m}\)(42000 km)となります。地球の半径が約6400kmなので、地表からは約36000km上空を飛んでいることになります。これは実際の静止衛星の高度と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(4.2 \times 10^7 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静止衛星の物理的条件:
    • 核心: 「静止衛星」という言葉に集約された物理的条件を正しく理解することが全てです。具体的には、「公転周期が地球の自転周期(1日=24時間)と等しい」という一点に尽きます。この条件から、(1)で周期\(T\)が、(2)で角速度\(\omega\)が、連鎖的に導かれます。
    • 理解のポイント: なぜ地上から静止して見えるのか、それは地球の自転と完全に同期して空の同じ位置に留まり続けているからです。この物理的なイメージと、周期が1日であるという数的な条件を結びつけることが重要です。
  • 万有引力を向心力とする円運動:
    • 核心: (3)では、静止衛星がその軌道を保つための力学的な仕組みを問うています。その核心は、「地球が衛星を引く万有引力が、衛星を円運動させるための向心力として作用している」という物理モデルを、運動方程式 \(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) として立式することです。
    • 理解のポイント: この方程式は、天体の運動を解析する際の最も基本的な出発点の一つです。左辺が運動の様子(加速度)を、右辺がその原因(力)を表しており、この等式によって軌道の大きさ(半径\(r\))が決定されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なる天体の静止衛星: 例えば「火星の静止衛星」を考える問題。火星の質量\(M\)と自転周期\(T\)の値が変わるだけで、解法のプロセスは全く同じです。
    • 地表からの高さを求める問題: (3)で軌道半径\(r\)を求めた後、さらに「地表からの高さ\(h\)はいくらか」と問われる場合があります。その際は、地球の半径\(R\)を引く計算(\(h = r – R\))が必要になります。
    • 力学的エネルギーの計算: 静止衛星の運動エネルギー \(K=\frac{1}{2}mr^2\omega^2\) と位置エネルギー \(U=-G\frac{Mm}{r}\) を計算し、力学的エネルギーを求める問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「静止衛星」というキーワードの確認: この言葉を見たら、即座に「周期\(T\) = 地球の自転周期(約8.64×10⁴ s)」を連想します。これが全ての計算の出発点です。
    2. 与えられている定数の確認: 問題文で\(G\)と\(M\)が直接与えられているか、それとも地表の重力加速度\(g\)と地球半径\(R\)が与えられているかを確認します。今回は\(G, M\)が与えられているため、\(GM=gR^2\)のような置き換えは不要だと判断できます。
    3. 角速度\(\omega\)か速さ\(v\)か: 問題の流れを確認します。(2)で角速度\(\omega\)を求めているため、(3)の運動方程式は速さ\(v\)を用いた\(m\frac{v^2}{r}\)よりも、角速度\(\omega\)を用いた\(mr\omega^2\)で立式する方が、計算がスムーズに進みます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 計算途中での丸めすぎ:
    • 誤解: (2)で角速度\(\omega\)を有効数字2桁で \(7.3 \times 10^{-5}\) と求めた後、その丸めた値を(3)の軌道半径の計算に使ってしまう。
    • 対策: 計算の途中段階では、有効数字より1〜2桁多く値を保持して計算を進めるのが鉄則です。例えば、\(\omega \approx 7.27 \times 10^{-5}\) や、可能であれば分数の形のまま計算し、最終的な答えを出す段階で初めて指定された有効数字に丸めます。
  • 周期の単位換算ミス:
    • 誤解: 1日を秒に換算する際に、\(24 \times 60\) で計算を終えてしまうなど、単位換算を間違える。
    • 対策: 「1日 = 24時間」「1時間 = 60分」「1分 = 60秒」という関係を一つずつ丁寧に適用し、\(T = 24 \times 60 \times 60\) という計算を確実に行います。\(86400\)という数値は頻出なので覚えておくと便利です。
  • 指数計算のミス:
    • 誤解: (3)の計算で、\(10^{-11} \times 10^{24} = 10^{13}\) や \((10^{-5})^2 = 10^{-10}\)、\(\frac{10^{13}}{10^{-10}} = 10^{23}\) といった指数法則の計算を間違える。
    • 対策: 指数法則(\(a^m \times a^n = a^{m+n}\), \((a^m)^n = a^{mn}\), \(\frac{a^m}{a^n} = a^{m-n}\))を正確に使いこなせるように、繰り返し練習することが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 角速度と周期の関係式 (\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)):
    • 選定理由: (1)で周期\(T\)を求め、(2)で角速度\(\omega\)を問われています。この2つの物理量を直接結びつけるのが、この定義式です。1周(\(2\pi\)ラジアン)を周期\(T\)で割ることで、単位時間あたりの回転角(角速度)が求められる、という論理的な関係に基づいています。
    • 適用根拠: これは円運動における最も基本的な関係式の一つであり、周期的な運動を角速度という量で表現するために必須の公式です。
  • 円運動の運動方程式 (\(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)):
    • 選定理由: (3)で軌道半径\(r\)という、運動の力学的な結果を求めたいからです。そのためには、運動の原因である力(万有引力)と運動の様子(角速度\(\omega\)、半径\(r\))を結びつける運動方程式が必要です。
    • 適用根拠: 衛星が安定した円軌道を保っているという事実は、衛星に働く万有引力が、その軌道と角速度で円運動するのに必要な向心力と、寸分違わず等しいことを意味します。この力のバランス状態を数式で表現したのが、この運動方程式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の整理を優先する:
    • (3)のような複雑な数値計算では、まず\(10\)のべき乗(指数部分)の計算を先に済ませてしまいます。(\(10^{-11} \times 10^{24}\) / \((10^{-5})^2\) \(\rightarrow\) \(10^{13} / 10^{-10} \rightarrow 10^{23}\))。これにより、残りの数値部分(係数)の計算に集中でき、ミスを減らせます。
  • 3乗根の計算テクニック:
    • \(r^3 = 76.1 \times 10^{21}\) のように、\(10\)の指数が3の倍数になるように数値を整理することが重要です。もし \(r^3 = 7.61 \times 10^{22}\) のようになった場合は、\(r^3 = 76.1 \times 10^{21}\) と変形することで、3乗根が \(\sqrt[3]{10^{21}} = 10^7\) と簡単に計算できるようになります。
  • 概算による検算:
    • 計算結果が出たら、大まかな値で検算する癖をつけましょう。例えば、\(r^3 = \frac{GM}{\omega^2} \approx \frac{(7 \times 10^{-11}) \times (6 \times 10^{24})}{(7 \times 10^{-5})^2} = \frac{42 \times 10^{13}}{49 \times 10^{-10}} \approx \frac{40}{50} \times 10^{23} = 0.8 \times 10^{23} = 80 \times 10^{21}\)。この概算値が、詳細な計算結果 \(76.1 \times 10^{21}\) と近いオーダーであることから、大きな計算ミスはないだろうと推測できます。

162 重力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「地表から離れた場所での重力加速度の変化」です。重力の正体が万有引力であり、地球の中心からの距離によってその大きさが変化することを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 2つの物体の間に働く引力は、それぞれの質量の積に比例し、中心間の距離の2乗に反比例する。
  2. 重力加速度の定義: 物体に働く重力(万有引力)の大きさを\(F\)としたとき、その場所での重力加速度を\(g\)とすると \(F=mg\) と表される。
  3. 距離の逆2乗法則: 万有引力は距離の2乗に反比例するため、重力加速度もまた、地球の中心からの距離の2乗に反比例して変化する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、地表での重力加速度\(g\)と、万有引力の法則を結びつける式を立てます。
  2. 次に、地表から高さ\(h\)の場所での重力加速度\(g’\)についても、同様に万有引力の法則を用いて立式します。このとき、地球の中心からの距離が \(R+h\) となることに注意します。
  3. 最後に、2つの式を比較して、\(g’\)が\(g\)の何倍になるかを計算します。

設問

思考の道筋とポイント
重力の正体が万有引力であることを利用して、異なる場所での重力加速度の大きさを比較する問題です。地表での重力加速度\(g\)と、高さ\(h\)での重力加速度\(g’\)を、それぞれ万有引力の法則を用いて表現し、その比を求めるのが基本的な方針です。
特に重要なのは、万有引力の計算で使う「距離」が、常に地球の中心からの距離であるという点です。地表では\(R\)、高さ\(h\)の場所では\(R+h\)として計算する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 重力と重力加速度の関係: \(F=mg\)
  • 地表での中心からの距離: \(r_1 = R\)
  • 高さ\(h\)での中心からの距離: \(r_2 = R+h\)

具体的な解説と立式
地球の質量を\(M\)、物体の質量を\(m\)、万有引力定数を\(G\)とします。
まず、地表より高さ\(h = \displaystyle\frac{R}{4}\)の場所での重力加速度\(g’\)を考えます。
この場所にある物体が受ける重力\(mg’\)は、万有引力に等しくなります。このときの地球中心からの距離は \(r = R+h = R+\displaystyle\frac{R}{4} = \displaystyle\frac{5}{4}R\) です。
したがって、
$$ mg’ = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(\frac{5}{4}R)^2} \quad \cdots ① $$
次に、比較対象である地表での重力加速度\(g\)を考えます。
地表にある物体が受ける重力\(mg\)は、地球中心からの距離が\(R\)のときの万有引力に等しいので、
$$ mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ② $$
①式と②式を連立させることで、\(g’\)と\(g\)の関係を求めます。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
  • 重力の定義: \(F = mg\)
計算過程

まず、①式を整理します。
$$
\begin{aligned}
mg’ &= G\displaystyle\frac{Mm}{(\frac{5}{4}R)^2} \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{Mm}{\frac{25}{16}R^2} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{16}{25} \left( G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、②式の関係 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} = mg\) を用いて、右辺の括弧内を置き換えます。
$$
mg’ = \displaystyle\frac{16}{25} (mg)
$$
両辺の\(m\)を消去すると、\(g’\)と\(g\)の関係が得られます。
$$
g’ = \displaystyle\frac{16}{25}g
$$
分数を小数に変換します。
$$
g’ = 0.64g
$$

計算方法の平易な説明

重力の強さは、地球の中心からの距離の「2乗」に反比例します。
地表では、中心からの距離は\(R\)です。
一方、高さ\(h = \frac{R}{4}\)の場所では、中心からの距離は \(R + \frac{R}{4} = \frac{5}{4}R\) となります。
距離が\(\frac{5}{4}\)倍になったので、重力加速度の大きさは、その2乗に反比例して \(1 / (\frac{5}{4})^2 = 1 / (\frac{25}{16}) = \frac{16}{25}\) 倍になります。\(\frac{16}{25}\)は小数で表すと0.64なので、答えは0.64倍となります。

結論と吟味

地表より高さ \(\displaystyle\frac{R}{4}\) の場所の重力加速度の大きさ\(g’\)は、地表での\(g\)の0.64倍となります。地表から離れると重力は弱まるため、重力加速度が1倍より小さくなるという結果は物理的に妥当です。

解答 0.64倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 重力の正体は万有引力であること:
    • 核心: 私たちが日常的に体験する「重力」は、地球と物体の間に働く「万有引力」の特別な現れです。地表から離れると、この万有引力は弱まります。したがって、重力加速度\(g\)は一定の定数ではなく、地球の中心からの距離によって変化する変数であることを理解することが、この問題の出発点です。
    • 理解のポイント: 地表での重力加速度\(g\)と、高さ\(h\)での重力加速度\(g’\)は、それぞれ万有引力の法則を用いて \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) および \(mg’ = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と表現できます。この2つの式を立てられることが核心です。
  • 距離の逆2乗法則:
    • 核心: 万有引力は、2つの物体の中心間の距離の2乗に反比例します。この「逆2乗の法則」が、重力加速度が距離によってどのように変化するかを決定づけています。
    • 理解のポイント: 重力加速度\(g\)は、地球の中心からの距離\(r\)に対して \(g \propto \displaystyle\frac{1}{r^2}\) の関係にあります。この比例関係を理解していれば、「距離が\(A\)倍になれば、重力加速度は\(\frac{1}{A^2}\)倍になる」と瞬時に判断できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • クーロン力と電場: 電気の世界でも、点電荷が作る電場の強さは距離の2乗に反比例します。したがって、「点電荷から距離\(R\)の点の電場の強さを\(E\)とするとき、距離\(\frac{5}{4}R\)の点の電場の強さ\(E’\)は\(E\)の何倍か」という、全く同じ構造の問題を解くことができます。
    • 人工衛星の運動: 地表から高さ\(h\)を飛ぶ人工衛星の運動方程式を立てる際、その場所に働く重力(向心力)の大きさを計算する必要があります。この問題で求めた\(g’\)を使えば、その力は\(mg’\)と表せます。
    • 万有引力による位置エネルギー: 高さ\(h\)での位置エネルギーを考える際、安易に\(mgh\)とは計算できません。この問題のように、場所によって重力加速度が変化する状況では、万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使う必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 比較対象の明確化: 「\(g’\)は\(g\)の何倍か」という問いなので、最終的に \(\displaystyle\frac{g’}{g}\) という比の形を計算する方針を立てます。
    2. 基準となる式の立式: まず、基準となる地表での重力加速度\(g\)を、万有引力の法則を用いて表現します(\(mg = G\frac{Mm}{R^2}\))。
    3. 比較対象の式の立式: 次に、問われている場所(高さ\(h\))での重力加速度\(g’\)を同様に表現します(\(mg’ = G\frac{Mm}{(R+h)^2}\))。
    4. 距離の扱いに細心の注意: 万有引力の公式における距離\(r\)は、常に「天体の中心」からの距離です。地表からの高さ\(h\)が与えられたら、中心からの距離は\(R+h\)になることを絶対に間違えないようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 距離の2乗を忘れる:
    • 誤解: 距離が\(\frac{5}{4}\)倍になったので、重力は反比例して\(\frac{4}{5}\)倍になると考えてしまう。
    • 対策: 法則の名前が「逆2乗の法則」であることを常に意識します。距離が\(A\)倍なら、力は\(A^2\)に反比例して\(\frac{1}{A^2}\)倍になる、と機械的に思い出せるようにしましょう。
  • 中心からの距離の計算ミス:
    • 誤解: 高さ\(h\)の場所での距離を、\(h\)そのものや、\(R-h\)などと勘違いしてしまう。
    • 対策: 簡単な図を描く習慣をつけます。地球の球体を描き、その中心、地表、そして高さ\(h\)の点を描けば、中心からの距離が\(R+h\)であることは一目瞭然です。
  • 分数の計算ミス:
    • 誤解: \(mg’ = G\frac{Mm}{(\frac{5}{4}R)^2}\) の計算で、分母の2乗を \(\frac{25}{16}R^2\) と正しく計算した後、式全体を \(\frac{25}{16} G\frac{Mm}{R^2}\) のように、分母分子を逆にしてしまう。
    • 対策: 繁分数の計算は、焦らずに「分母の逆数を掛ける」という操作を丁寧に行います。\(1 / (\frac{25}{16}) = \frac{16}{25}\) であることを落ち着いて確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 万有引力の法則 (\(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)):
    • 選定理由: この問題は、地表から離れた場所での重力を扱っており、もはや重力加速度が一定値\(g\)とはみなせない状況です。このような、より普遍的な状況を記述するためには、重力の根源である万有引力の法則に立ち返る必要があります。
    • 適用根拠: 万有引力の法則は、質量を持つ全ての物体の間に働く力を記述する、宇宙の基本的な法則です。地表での重力も、月や人工衛星に働く力も、すべてこの単一の法則で説明できるため、異なる場所での力を比較する際に最も信頼できる出発点となります。
  • 重力の定義式 (\(F=mg\)):
    • 選定理由: この式は、「重力加速度」という物理量を定義するための式です。問題では\(g\)と\(g’\)という重力加速度を比較することが求められているため、物体に働く力\(F\)と重力加速度を結びつけるこの定義式が必要となります。
    • 適用根拠: \(g\)は、その場所での「重力場の強さ」を表す量と考えることもできます。物体が受ける力\(F\)は、物体の質量\(m\)と、その場所の場の強さ\(g\)の積で決まる、という関係を表しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比の形で計算する:
    • 「\(g’\)は\(g\)の何倍か」と問われたら、\(g’\)と\(g\)をそれぞれ計算して最後に割り算するのではなく、最初から \(\displaystyle\frac{g’}{g}\) という比の形で計算を進めるのが最もスマートで計算ミスが少ない方法です。
    • \(\displaystyle\frac{g’}{g} = \frac{G\frac{M}{(R+h)^2}}{G\frac{M}{R^2}}\) と立式すると、\(G\)や\(M\)が最初に消去され、\(\displaystyle\frac{R^2}{(R+h)^2} = \left(\displaystyle\frac{R}{R+h}\right)^2\) という非常にシンプルな形になります。
  • 代入は最後に行う:
    • 上の比の計算のように、まずは文字式のまま計算を進め、\(g’ = g \left(\displaystyle\frac{R}{R+h}\right)^2\) という一般式を導きます。
    • この最終的な関係式に、具体的な値 \(h=\displaystyle\frac{R}{4}\) を代入します。\(g’ = g \left(\displaystyle\frac{R}{R+\frac{R}{4}}\right)^2 = g \left(\displaystyle\frac{R}{\frac{5}{4}R}\right)^2 = g \left(\displaystyle\frac{4}{5}\right)^2 = \displaystyle\frac{16}{25}g\)。この手順なら、途中の計算が非常に楽になります。
  • 答えの物理的吟味:
    • 計算結果が「0.64倍」と出たら、それが1より小さいことを確認します。地表から離れれば重力は弱まるはずなので、1より小さい値になるのは物理的に妥当です。もし1より大きい値が出たら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。

163 万有引力による位置エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力による位置エネルギーと仕事の関係」です。万有引力による位置エネルギーの公式を正しく理解し、それを用いて外力がする仕事を計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力による位置エネルギー: 無限遠点を基準(エネルギー0)としたとき、地球の中心から距離\(r\)の点にある質量\(m\)の物体の位置エネルギーは \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられる。
  2. 仕事とエネルギーの関係: 物体に外力が仕事をすると、その分だけ物体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が変化する。
  3. 「ゆっくりと運ぶ」の物理的意味: この条件は、物体の速さが変化しない、つまり運動エネルギーの変化が0であることを意味する。この場合、外力がする仕事は、位置エネルギーの変化量に等しくなる。
  4. 保存力と外力の仕事: 万有引力は保存力であり、保存力がする仕事は位置エネルギーの変化の負の値に等しい(\(W_{\text{保存力}} = -\Delta U\))。一方、物体をゆっくり動かす場合、外力は保存力とつりあう力を加え続けるため、外力がする仕事は位置エネルギーの変化に等しくなる(\(W_{\text{外力}} = \Delta U\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、万有引力による位置エネルギーの公式をそのまま適用します。
  2. (2)では、「ゆっくり運ぶ」という条件から、外力がする仕事が位置エネルギーの変化量に等しいことを利用します。始点と終点の位置エネルギーをそれぞれ計算し、その差(後のエネルギー – 前のエネルギー)を求めます。
  3. (3)では、(2)と全く同じ考え方で、終点が無限遠点であることに注意して計算します。無限遠点では、位置エネルギーは基準値である0となります。

問(1)

思考の道筋とポイント
万有引力による位置エネルギーの公式を問う、基本的な知識問題です。公式を正しく記憶しているかが問われます。特に、無限遠点を基準とすること、そしてエネルギーが負の値をとることを理解しておく必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 万有引力による位置エネルギーの公式: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
  • 基準点: 無限遠点(\(r \to \infty\))で位置エネルギーは0となる。
  • 負の値の意味: 万有引力は引力であるため、物体は地球に束縛されています。基準である無限遠点(エネルギー0)よりもエネルギー的に低い(安定な)状態にあることを、負の符号で表しています。

具体的な解説と立式
地球の中心から距離\(r\)の点Pにある、質量\(m\)の小物体がもつ万有引力による位置エネルギー\(U\)は、無限遠点を基準とすると、以下の公式で定義されます。
$$ U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r} $$

使用した物理公式

  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
計算過程

この設問は公式そのものを問うものであり、具体的な計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

地球の引力圏に「捕まっている」物体は、無限に遠い自由な状態(基準点、エネルギー0)よりも「低い」エネルギー状態にあると考えます。この「低さ」をマイナスの符号で表現します。公式は \(U = -G\frac{Mm}{r}\) で、これをそのまま使います。\(G\)は万有引力定数、\(M\)と\(m\)は2つの物体の質量、\(r\)は中心からの距離です。

結論と吟味

小物体がもつ万有引力による位置エネルギーは \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) [J] です。距離\(r\)が大きくなる(地球から遠ざかる)ほど、分母が大きくなるため、\(U\)の値は負の方向から0に近づきます。これはエネルギーが増加していることを意味し、引力に逆らって物体を遠ざけるにはエネルギーが必要であるという直感と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) [J]

問(2)

思考の道筋とポイント
小物体をある点から別の点へ「ゆっくりと」運ぶときに、外力がする仕事を求める問題です。「ゆっくりと運ぶ」というキーワードが、この問題を解く上での最大のヒントです。これは、物体の運動エネルギーを変化させずに運ぶことを意味し、外力がした仕事が純粋に位置エネルギーの変化分に等しくなることを示唆しています。
この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの関係: 一般に、外力がする仕事は、運動エネルギーの変化と位置エネルギーの変化の和に等しい(\(W_{\text{外力}} = \Delta K + \Delta U\))。
  • 「ゆっくり運ぶ」 \(\rightarrow\) 運動エネルギーの変化 \(\Delta K = 0\)。
  • したがって、外力がする仕事は位置エネルギーの変化に等しい: \(W_{\text{外力}} = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)。

具体的な解説と立式
外力がする仕事を\(W_1\)とします。「ゆっくりと運ぶ」ため、運動エネルギーの変化は0です。したがって、外力がする仕事は位置エネルギーの変化量に等しくなります。
$$ W_1 = U_{\text{後}} – U_{\text{前}} $$
始点Pは地球の中心から距離\(r\)の点なので、その位置エネルギー\(U_{\text{前}}\)は、
$$ U_{\text{前}} = -G\displaystyle\frac{Mm}{r} $$
終点Qは地球の中心から距離\(2r\)の点なので、その位置エネルギー\(U_{\text{後}}\)は、
$$ U_{\text{後}} = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r} $$
これらの値を仕事の式に代入します。

使用した物理公式

  • 仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{\text{外力}} = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_1 &= U_{\text{後}} – U_{\text{前}} \\[2.0ex]&= \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\right) – \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\right) \\[2.0ex]&= -G\displaystyle\frac{Mm}{2r} + G\displaystyle\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{Mm}{r} \left(-\displaystyle\frac{1}{2} + 1\right) \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{Mm}{2r}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「ゆっくり運ぶ」とき、外力がした仕事は、物体の「位置エネルギーがどれだけ増えたか」に等しくなります。まず、スタート地点(距離\(r\))とゴール地点(距離\(2r\))のそれぞれの位置エネルギーを公式で計算します。そして、「ゴールのエネルギー」から「スタートのエネルギー」を引き算すれば、外力がした仕事が求まります。マイナスの符号の引き算に注意しましょう。

結論と吟味

外力がする仕事は \(G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) [J] です。仕事が正の値になったことは、地球の引力という「坂」を上るように物体を遠ざけるために、外力が正の仕事(エネルギーを供給する仕事)をしたことを意味しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) [J]

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)と考え方は全く同じで、終点が「無限遠点」になった場合です。無限遠点は位置エネルギーの基準点として定義されているため、その位置エネルギーは0であることを利用して計算します。
この設問における重要なポイント

  • (2)と同様に、外力がする仕事は位置エネルギーの変化に等しい: \(W_{\text{外力}} = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)。
  • 無限遠点での位置エネルギーは、基準点なので \(U_{\infty} = 0\)。

具体的な解説と立式
外力がする仕事を\(W_2\)とします。(2)と同様に、「ゆっくりと運ぶ」ため、外力がする仕事は位置エネルギーの変化量に等しくなります。
$$ W_2 = U_{\text{後}} – U_{\text{前}} $$
始点Pは地球の中心から距離\(r\)の点なので、その位置エネルギー\(U_{\text{前}}\)は、
$$ U_{\text{前}} = -G\displaystyle\frac{Mm}{r} $$
終点は無限遠点なので、その位置エネルギー\(U_{\text{後}}\)は、基準点の定義より、
$$ U_{\text{後}} = 0 $$
これらの値を仕事の式に代入します。

使用した物理公式

  • 仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{\text{外力}} = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_2 &= U_{\text{後}} – U_{\text{前}} \\[2.0ex]&= 0 – \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\right) \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{Mm}{r}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)と全く同じ考え方です。ゴールが「無限遠」になっただけです。無限遠は位置エネルギーの基準点なので、エネルギーは0です。したがって、「ゴールのエネルギー(0)」から「スタートのエネルギー」を引き算すれば、外力がした仕事が求まります。

結論と吟味

外力がする仕事は \(G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) [J] です。これは、距離\(r\)の点にある物体を、地球の引力圏から完全に脱出させるために必要な最小の仕事量を表しています。もし、この仕事に相当するエネルギーを運動エネルギーとして物体に与えた場合、物体は無限遠へ飛び去ることができます。このときの速さが「第2宇宙速度(脱出速度)」に関連します。

解答 (3) \(G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) [J]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 万有引力による位置エネルギーの定義:
    • 核心: 無限遠点を基準(エネルギーを0とする)としたとき、地球の中心から距離\(r\)の点にある物体の位置エネルギーが \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と表されることです。特に、引力による束縛状態を表す「負の符号」の意味を理解することが重要です。
    • 理解のポイント: 物体は万有引力によって地球に「引かれている」ため、無限遠で自由になっている状態(エネルギー0)よりもエネルギー的に低い(安定な)状態にあります。この「エネルギーの谷」にいることを負の符号で表現しています。地球から遠ざかるほど、この谷を登ってエネルギーは0に近づいていきます。
  • 仕事とエネルギーの関係:
    • 核心: 「ゆっくりと運ぶ」という条件が、運動エネルギーの変化を0とみなせることを意味し、その結果「外力がする仕事は、位置エネルギーの変化量に等しい(\(W_{\text{外力}} = \Delta U\))」という関係式が使えることです。
    • 理解のポイント: 物体を動かす際、外力は「物体の運動エネルギーを変化させる」仕事と、「位置エネルギーを変化させる(保存力に逆らう)」仕事の両方を行います。今回は「ゆっくり」なので前者が0になり、後者だけが残る、という物理的な状況を正確に把握することが鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • クーロン力による位置エネルギー: 万有引力とクーロン力は同じ逆2乗の法則に従うため、全く同じ考え方が適用できます。点電荷による位置エネルギー \(U = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\) を用いて、電荷を運ぶ際の仕事などを計算する問題は頻出です。
    • 第2宇宙速度(脱出速度)の導出: (3)で求めた「無限遠まで運ぶ仕事 \(G\frac{Mm}{r}\)」は、物体を地球の引力圏から脱出させるのに必要なエネルギーです。このエネルギーを最初に運動エネルギーとして与えると考え、力学的エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\right) = 0\) を立てることで、脱出速度 \(v\) を求めることができます。
    • 人工衛星の力学的エネルギー: 円運動している人工衛星の力学的エネルギー \(E\) は、運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の和です。運動方程式から得られる関係式を使うと、\(E = K+U = -\displaystyle\frac{1}{2}G\frac{Mm}{r}\) となり、束縛されていることを示す負の値になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 問われているのは「エネルギー」か「仕事」かを確認する。
    2. 「エネルギー」なら、位置エネルギーの公式 \(U = -G\frac{Mm}{r}\) を適用する。基準点が無限遠であることを確認する。
    3. 「仕事」なら、「誰がする仕事か(外力か、万有引力か)」を明確にする。
    4. 「ゆっくり」というキーワードを探す。もしあれば、運動エネルギーの変化は0とみなし、\(W_{\text{外力}} = \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\) を使う。
    5. 速さが変化する運動であれば、力学的エネルギー保存則や、より一般的な仕事とエネルギーの関係 \(W_{\text{外力}} = \Delta E\) を考える。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギーを、地上の重力と同じように正の値だと勘違いし、\(U = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と覚えてしまう。
    • 対策: 「引力による位置エネルギーは負の値をとる」と強く意識する。無限遠という最もエネルギーが高い状態を0と定めているため、それより引力に束縛された状態は必ず負になります。
  • 仕事の計算での始点と終点の取り違え:
    • 誤解: 位置エネルギーの変化 \(\Delta U\) を計算する際に、\(U_{\text{前}} – U_{\text{後}}\) のように引き算の順序を間違えてしまう。
    • 対策: 「変化量」は、物理学のどの分野でも常に「後の状態量 – 前の状態量」で定義されます。これを徹底しましょう。
  • 外力の仕事と万有引力の仕事の混同:
    • 誤解: 問題で「外力がする仕事」を問われているのに、万有引力がする仕事 \(W_{\text{引力}} = -\Delta U\) を計算してしまう。
    • 対策: 「誰が」仕事をするのかを問題文で正確に把握します。外力は、万有引力に「逆らって」物体を運ぶため、その仕事は万有引力がする仕事と符号が逆になります。\(W_{\text{外力}} = \Delta U\) となる関係をしっかり理解しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 (\(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)):
    • 選定理由: (1)で直接問われているだけでなく、(2)と(3)で「仕事」をエネルギーの観点から計算するための基礎となるからです。
    • 適用根拠: この公式は、保存力である万有引力がする仕事から定義されます。基準点(無限遠)から距離\(r\)の点まで物体を運ぶときに、万有引力がする仕事の負の値が、その点の位置エネルギーとなります。引力の場合、自然に引かれていく方向が正の仕事なので、それに逆らう方向の位置エネルギーは負の値で蓄積されていく、という論理に基づいています。
  • 仕事とエネルギーの関係 (\(W_{\text{外力}} = \Delta U\)):
    • 選定理由: (2)と(3)で「外力がする仕事」を問われており、かつ「ゆっくり運ぶ」という、運動エネルギーの変化を無視できる理想的な条件が与えられているため、この最もシンプルな関係式を選択します。
    • 適用根拠: これは、エネルギー保存則の一般形 \(W_{\text{外力}} + W_{\text{非保存力}} = \Delta K + \Delta U\) において、非保存力が働かず (\(W_{\text{非保存力}}=0\))、運動エネルギーの変化もない (\(\Delta K=0\)) という特殊な場合に相当します。この論理的な背景を理解することで、なぜこの公式が使えるのかを自信を持って説明できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の扱いに細心の注意を払う:
    • 位置エネルギーの公式自体が負の符号を持つため、\(\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\) の計算では、\((-A) – (-B)\) のような二重のマイナスが頻出します。計算過程で括弧を丁寧につけ、符号の変化を慎重に追うことが重要です。
  • 共通因子でくくる:
    • (2)の計算 \(-G\displaystyle\frac{Mm}{2r} – (-G\displaystyle\frac{Mm}{r})\) では、共通因子である \(G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) でくくりだすと、\(G\displaystyle\frac{Mm}{r} \left(-\frac{1}{2} + 1\right)\) となり、括弧の中の計算に集中できるため、ミスを減らせます。
  • 答えの物理的な意味を吟味する:
    • (2)や(3)では、物体を地球の引力に逆らって遠ざけているので、外力は正の仕事をするはずです。計算結果が正になったことを確認しましょう。
    • また、(3)は(2)よりさらに遠くまで運ぶので、仕事は(2)より大きくなるはずです(\(G\frac{Mm}{r} > G\frac{Mm}{2r}\))。このような大小関係が計算結果と一致しているかを確認するのも、有効な検算方法です。

164 第2宇宙速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力学的エネルギー保存則と第2宇宙速度」です。ロケットを打ち上げ、ある高さまで到達させたり、地球の重力圏から脱出させたりするために必要な初速度を、エネルギー保存の観点から求めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力が保存力(この場合は万有引力)のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和である力学的エネルギーは一定に保たれる。
  2. 万有引力による位置エネルギー: 無限遠点を基準(エネルギー0)としたとき、地球の中心から距離\(r\)の点にある物体の位置エネルギーは \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられる。
  3. 最高点での速度: ある高さまで「到達する」場合、その最高点では一瞬速度が0になると考える。
  4. 地表の重力加速度との関係: 万有引力定数\(G\)と地球の質量\(M\)の積は、地表の重力加速度\(g\)と地球半径\(R\)を用いて \(GM = gR^2\) と表せる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、打ち上げ時(地表)と最高到達点での力学的エネルギーが等しい、という保存則の式を立てます。最高到達点では速度が0になること、またその点の地球中心からの距離を正しく設定することがポイントです。
  2. (2)では、(1)と考え方は同じですが、到達点が「地球の重力圏外」、すなわち無限遠点になります。無限遠点では、速度も位置エネルギーも0になると考えて、力学的エネルギー保存則を適用します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ロケットが地表から打ち上げられ、地球の半径の3.0倍の高さまで到達するときの初速度を求める問題です。ロケットに働く力は万有引力(保存力)のみなので、力学的エネルギー保存則が適用できます。
「打ち上げ直後(地表)」と「最高到達点」の2つの時点で、力学的エネルギー(運動エネルギー + 万有引力による位置エネルギー)が等しいという式を立てることが、解答への道筋となります。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + U_{\text{前}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 打ち上げ時の状態(前):
    • 運動エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) (\(v\)は求める初速度)
    • 位置エネルギー: \(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) (中心からの距離は\(R\))
  • 最高到達点の状態(後):
    • 運動エネルギー: \(0\) (最高点では一瞬静止する)
    • 位置エネルギー: \(-G\displaystyle\frac{Mm}{R+3R}\) (中心からの距離は\(R+3R=4R\))
  • 文字の置き換え: 式に含まれる\(GM\)を、\(GM=gR^2\)の関係を使って消去する。

具体的な解説と立式
ロケットの質量を\(m\)、求める初速度を\(v\)とします。地球の質量を\(M\)、半径を\(R\)、万有引力定数を\(G\)とします。
力学的エネルギー保存則より、「地表でのエネルギー」と「最高到達点でのエネルギー」は等しくなります。

地表での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\) は、
$$ E_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\right) $$
最高到達点は、地表から高さ\(3R\)の場所です。したがって、地球の中心からの距離は \(R+3R=4R\) となります。この点では速度が0になるので、力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、
$$ E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{4R}\right) = -G\displaystyle\frac{Mm}{4R} $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{R} = -G\displaystyle\frac{Mm}{4R} \quad \cdots ① $$
また、地表での重力と万有引力の関係から、
$$ mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \quad \rightarrow \quad GM = gR^2 \quad \cdots ② $$
①式と②式を連立させて\(v\)を求めます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
  • 地表での重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
計算過程

まず、①式の両辺を\(m\)で割り、\(v^2\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}v^2 – G\displaystyle\frac{M}{R} &= -G\displaystyle\frac{M}{4R} \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}v^2 &= G\displaystyle\frac{M}{R} – G\displaystyle\frac{M}{4R} \\[2.0ex]&= G\displaystyle\frac{M}{R} \left(1 – \displaystyle\frac{1}{4}\right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3}{4}G\displaystyle\frac{M}{R}
\end{aligned}
$$
この式に、②式の関係 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}v^2 &= \displaystyle\frac{3}{4} \displaystyle\frac{gR^2}{R} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3}{4}gR \\[2.0ex]v^2 &= \displaystyle\frac{3}{2}gR
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正なので、平方根をとります。
$$ v = \sqrt{\displaystyle\frac{3gR}{2}} $$
与えられた数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\displaystyle\frac{3 \times 9.8 \times (6.4 \times 10^6)}{2}} \\[2.0ex]&= \sqrt{3 \times 4.9 \times 6.4 \times 10^6} \\[2.0ex]&= \sqrt{3 \times (49 \times 10^{-1}) \times (64 \times 10^{-1}) \times 10^6} \\[2.0ex]&= \sqrt{3 \times 49 \times 64 \times 10^4} \\[2.0ex]&= \sqrt{3} \times 7 \times 8 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 56\sqrt{3} \times 10^2
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似計算し、有効数字2桁に丸めます。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 56 \times 1.73 \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 96.88 \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 9.7 \times 10^3 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ロケットが持つエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は、飛んでいる間ずっと一定です。この「エネルギー保存則」を使います。「打ち上げ直後のエネルギー」と「一番高く上がったときのエネルギー」が等しい、という式を立てます。一番高く上がったときは一瞬止まるので、運動エネルギーは0です。この式を、求めたい初速度\(v\)について解き、最後に具体的な数値を代入して計算します。

結論と吟味

地球の半径の3.0倍の高さまで到達するために必要な初速度は、約 \(9.7 \times 10^3 \, \text{m/s}\)(秒速9.7km)です。これは第1宇宙速度(約7.9km/s)よりも大きい値であり、より高く上がるためにはより大きな初速度が必要であるという直感と一致しています。

解答 (1) \(9.7 \times 10^3 \, \text{m/s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
地球の重力圏外、すなわち無限遠点に到達するために必要な初速度(第2宇宙速度)を求める問題です。(1)と全く同じく、力学的エネルギー保存則を用います。到達点が「無限遠点」になる点が異なります。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + U_{\text{前}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 打ち上げ時の状態(前): (1)と同じ。
  • 無限遠点での状態(後):
    • 運動エネルギー: \(0\) (無限遠にギリギリ到達できる最小の初速度を考えるため、無限遠での速さは0と考える)
    • 位置エネルギー: \(0\) (無限遠点は位置エネルギーの基準点)
  • したがって、無限遠点での力学的エネルギーは0となる。

具体的な解説と立式
求める初速度(第2宇宙速度)を\(v’\)とします。
力学的エネルギー保存則より、「地表でのエネルギー」と「無限遠点でのエネルギー」は等しくなります。

地表での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\) は、
$$ E_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(v’)^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\right) $$
無限遠点では、ロケットはちょうど静止し、位置エネルギーも基準である0となります。したがって、無限遠点での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、
$$ E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + 0 = 0 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \displaystyle\frac{1}{2}m(v’)^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{R} = 0 \quad \cdots ③ $$
この式に、(1)でも用いた関係式 \(GM = gR^2\) を代入して\(v’\)を求めます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
  • 地表での重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
計算過程

まず、③式の両辺を\(m\)で割り、\((v’)^2\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}(v’)^2 &= G\displaystyle\frac{M}{R} \\[2.0ex](v’)^2 &= 2G\displaystyle\frac{M}{R}
\end{aligned}
$$
この式に、関係式 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(v’)^2 &= 2\displaystyle\frac{gR^2}{R} \\[2.0ex]&= 2gR
\end{aligned}
$$
速さ\(v’\)は正なので、平方根をとります。
$$ v’ = \sqrt{2gR} $$
与えられた数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
v’ &= \sqrt{2 \times 9.8 \times (6.4 \times 10^6)} \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \times \sqrt{9.8 \times 6.4 \times 10^6}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{gR} = \sqrt{9.8 \times 6.4 \times 10^6}\) は第1宇宙速度の計算で出てきた値であり、その値は約 \(7.9 \times 10^3\) m/s です。
$$
\begin{aligned}
v’ &= \sqrt{2} \times (\text{第1宇宙速度}) \\[2.0ex]&\approx 1.414 \times (7.896 \times 10^3) \\[2.0ex]&\approx 11.16 \times 10^3 \\[2.0ex]&\approx 1.1 \times 10^4 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

地球の引力を振り切って無限の彼方に飛び去るための計算です。(1)と同じくエネルギー保存則を使いますが、ゴール地点が「無限遠」になります。無限遠では、位置エネルギーは基準なので0、ギリギリたどり着くことを考えるので運動エネルギーも0と考えます。つまり、ゴールのエネルギーは0です。「打ち上げ直後のエネルギー = 0」という式を立て、これを初速度\(v’\)について解きます。

結論と吟味

第2宇宙速度は \(v’ = \sqrt{2gR} \approx 1.1 \times 10^4 \, \text{m/s}\)(秒速11km)です。この値は、第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) のちょうど\(\sqrt{2}\)倍(約1.41倍)になっています。地球の周りを回る(第1宇宙速度)よりも、地球の引力を完全に振り切る(第2宇宙速度)方が、より大きなエネルギー(速さ)が必要であることがわかります。

解答 (2) \(1.1 \times 10^4 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則の応用:
    • 核心: ロケットの打ち上げのように、物体が高さや速さを変えながら運動する場面で、働く力が万有引力(保存力)のみの場合、力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は常に一定に保たれます。この「力学的エネルギー保存則」を、始点(地表)と終点(最高点や無限遠)で適用することが、この問題の根幹をなす解法です。
    • 理解のポイント: 運動方程式では刻一刻と変化する力を追うのが困難な場面でも、エネルギーという保存量に着目することで、始点と終点の状態だけで問題を解くことができます。
  • 万有引力による位置エネルギー:
    • 核心: 地表から大きく離れる運動では、位置エネルギーを\(mgh\)と近似することはできません。無限遠点を基準(0)とする、より普遍的な位置エネルギーの公式 \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を正しく使う必要があります。
    • 理解のポイント: この公式の「負の符号」は、物体が地球の引力に束縛されている状態を表します。また、分母の\(r\)は常に「地球の中心」からの距離である点を正確に把握することが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 第1宇宙速度との比較: 第2宇宙速度 \(v_2 = \sqrt{2gR}\) は、第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) のちょうど\(\sqrt{2}\)倍になります。この関係性は非常に重要で、両者を関連付けて問う問題も多いです。
    • 人工衛星の軌道変更: ある円軌道から、より高い円軌道へ移るために必要なエネルギー(仕事)を求める問題。始点と終点のそれぞれの軌道での力学的エネルギーを計算し、その差を求めることで解決できます。
    • 惑星探査機のスイングバイ: 他の惑星の重力を利用して加速・減速する探査機の運動。これもエネルギー保存則を応用して解析します。
  • 初見の問題での着眼点:
      1. 働く力の確認: まず、物体に働く力が万有引力(保存力)のみかを確認します。空気抵抗などがなければ、力学的エネルギー保存則が使えます。
      2. 始点と終点の状態定義: 「どこからどこまで」の運動を考えるのか、始点と終点を明確に設定します。
      3. 各点でのエネルギーの立式: 始点と終点それぞれについて、運動エネルギー(\(\frac{1}{2}mv^2\))と位置エネルギー(\(-G\frac{Mm}{r}\))を正しく書き出します。特に位置エネルギーの分母\(r\)(中心からの距離)に注意します。

    1. 最高点・無限遠点の条件適用: 「最高点に到達」ならその点での速度は0。「無限遠に到達」なら速度も位置エネルギーも0、という条件を式に反映させます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 位置エネルギーに\(mgh\)を使ってしまう:
    • 誤解: 地表から大きく離れているにもかかわらず、慣れ親しんだ位置エネルギーの公式\(mgh\)を使ってしまう。
    • 対策: \(mgh\)は、重力加速度\(g\)が一定とみなせる地表付近でのみ成り立つ「近似式」であることを理解します。宇宙規模の運動では、必ず万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使う、と徹底しましょう。
  • 最高到達点の距離の計算ミス:
    • 誤解: (1)で「地球の半径の3.0倍の高さ」とあるのを、中心からの距離が\(3R\)だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「地表からの高さ」なのか「中心からの距離」なのかを問題文で正確に区別します。図を描けば、中心からの距離は \(R + (\text{高さ}) = R+3R = 4R\) であることが明確になります。
  • 第1宇宙速度と第2宇宙速度の混同:
    • 誤解: どちらも似たような問題に見え、使う法則を混同してしまう。
    • 対策: 「第1宇宙速度」は地球を周回する「円運動」の問題なので、運動方程式が主役です。「第2宇宙速度」は地球を脱出する「放物運動(非周回運動)」の問題なので、力学的エネルギー保存則が主役です。運動のイメージと解法をセットで覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存則 (\(K+U=\text{一定}\)):
    • 選定理由: この問題は、ロケットが打ち上げられてから最高点に達するまでの「2つの状態」を比較する問題です。途中の複雑な運動過程を問うのではなく、始点と終点の関係だけを知りたい場合、保存則は最も強力なツールです。
    • 適用根拠: ロケットに働く力は万有引力のみであり、これは保存力です。保存力のみが仕事をする系では、力学的エネルギーは保存される、という物理学の大原則に基づいています。運動方程式を積分するのと同じ結果を、より簡単に導くことができます。
  • 関係式 \(GM=gR^2\):
    • 選定理由: 力学的エネルギー保存則を立式すると、未知の定数\(G\)と地球の質量\(M\)が現れます。これらは問題文で与えられていないため、計算を進めることができません。そこで、問題文で与えられている地上の物理量\(g\)と\(R\)を使って\(GM\)を置き換えるために、この「翻訳」式が必要になります。
    • 適用根拠: この式は、地表での重力\(mg\)の正体が万有引力\(G\frac{Mm}{R^2}\)である、という物理的な事実に由来します。これにより、宇宙スケールの法則と地上の現象を結びつけることが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • (1)の計算で、いきなり数値を代入するのではなく、まずは \(v = \sqrt{\frac{3gR}{2}}\) のように、文字式の形で最終的な答えを導出しましょう。式変形の途中でミスが減るだけでなく、式の物理的な意味も捉えやすくなります。
  • 平方根の計算の工夫:
    • \(\sqrt{3 \times 9.8 \times 6.4 \times 10^6}\) のような計算では、ルートの中を素因数分解し、平方数を見つけて外に出すことで計算を簡略化します。\(\sqrt{3 \times (2 \times 7^2) \times (2^6) \times 10^4}\) のように考え、計算しやすい形に変形する癖をつけましょう。
  • 既知の結果を利用する:
    • (2)で第2宇宙速度 \(v’ = \sqrt{2gR}\) を計算する際、第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) との関係 \(v’ = \sqrt{2} v_1\) を知っていれば、(1)の計算結果を利用したり、検算したりすることができます。\(v’ \approx 1.41 \times v_1\) となるはずなので、計算結果がこの関係を満たしているか確認するのも有効です。
  • エネルギーの符号を常に意識する:
    • 力学的エネルギー保存則の式を立てる際、位置エネルギーの項は必ず負(\(-G\frac{Mm}{r}\))になります。このマイナス符号を忘れると、全く違う結果になってしまいます。立式のたびに、符号を確認する習慣をつけましょう。

165 惑星の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「惑星の楕円運動における保存則」です。惑星の運動を記述する2つの重要な保存則、すなわち「ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)」と「力学的エネルギー保存則」を連立させて、惑星の速さや軌道に関する関係式を導出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定である。近日点と遠日点では、この法則は \(r_1 v_1 = r_2 v_2\) というシンプルな形で表される。
  2. 力学的エネルギー保存則: 惑星に働く力は万有引力(保存力)のみであるため、運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和は、軌道上のどの点でも一定に保たれる。
  3. 万有引力による位置エネルギー: 無限遠点を基準とすると、\(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられる。
  4. 連立方程式の解法: 2つの保存則から得られる2つの式を連立させ、未知の変数を消去して目的の式を導く代数的な計算能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を近日点と遠日点に適用し、\(v_2\)を他の変数で表します。
  2. (2)では、力学的エネルギー保存則を近日点と遠日点に適用し、\(v_2\)を他の変数で表します。
  3. (3)では、(1)と(2)で得られた2つの異なる\(v_2\)の表現を組み合わせる(連立させる)ことで、\(v_2\)を消去し、\(v_1\)に関する式を導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を用いて、遠日点での速さ\(v_2\)を、近日点での物理量(\(r_1, v_1\))と遠日点距離\(r_2\)で表す問題です。楕円軌道の特別な点である近日点と遠日点では、面積速度の式が非常にシンプルになることを利用します。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第2法則: 面積速度 \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) が一定である。
  • 近日点・遠日点の性質: これらの点では、動径ベクトルと速度ベクトルが直交するため、\(\theta=90^\circ\) となり \(\sin\theta=1\) となる。
  • したがって、近日点と遠日点の間では \(r_1v_1 = r_2v_2\) という関係が成り立つ。

具体的な解説と立式
ケプラーの第2法則によれば、惑星の面積速度は軌道上のどの点でも一定です。
近日点での面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1\sin90^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1\) です。
遠日点での面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\sin90^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) です。
面積速度一定の法則より、これらは等しくなります。
$$ \displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2 $$
この式を、求めたい\(v_2\)について解きます。

使用した物理公式

  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)
計算過程

面積速度一定の式から、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 &= \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2 \\[2.0ex]r_1v_1 &= r_2v_2
\end{aligned}
$$
この式を\(v_2\)について解くと、
$$
v_2 = \displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1
$$

計算方法の平易な説明

ケプラーの第2法則は、惑星の運動において「(太陽からの距離)×(その点での速さ)」が、近日点と遠日点では等しくなる、ということを示しています。これを式にすると \(r_1v_1 = r_2v_2\) となります。この式を、求めたい\(v_2\)について変形するだけです。

結論と吟味

遠日点での速さ\(v_2\)は、\(v_2 = \displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1\) と表されます。楕円軌道では、遠日点距離\(r_2\)は近日点距離\(r_1\)より大きい(\(r_2 > r_1\))ため、\(\frac{r_1}{r_2} < 1\) となります。したがって、\(v_2 < v_1\) となり、「惑星は太陽から遠いほど遅く運動する」という事実と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1\)

問(2)

思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則を用いて、遠日点での速さ\(v_2\)を他の物理量で表す問題です。惑星に働く力は万有引力(保存力)のみであるため、近日点と遠日点での力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は等しくなります。このエネルギー保存則を立式し、\(v_2\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 近日点でのエネルギー: \(K_1 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_1^2\), \(U_1 = -G\displaystyle\frac{Mm}{r_1}\)
  • 遠日点でのエネルギー: \(K_2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_2^2\), \(U_2 = -G\displaystyle\frac{Mm}{r_2}\)

具体的な解説と立式
惑星の質量を\(m\)とします。
惑星に働く力は保存力である万有引力のみなので、力学的エネルギーは保存されます。
近日点での力学的エネルギー \(E_1\) は、
$$ E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_1^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{r_1}\right) $$
遠日点での力学的エネルギー \(E_2\) は、
$$ E_2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_2^2 + \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{r_2}\right) $$
力学的エネルギー保存則 \(E_1 = E_2\) より、
$$ \displaystyle\frac{1}{2}mv_1^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{r_1} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_2^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{r_2} $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
計算過程

立式したエネルギー保存則の式を、\(v_2\)について解きます。
まず、両辺を\(m\)で割り、2を掛けます。
$$ v_1^2 – 2G\displaystyle\frac{M}{r_1} = v_2^2 – 2G\displaystyle\frac{M}{r_2} $$
\(v_2^2\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
v_2^2 &= v_1^2 – 2G\displaystyle\frac{M}{r_1} + 2G\displaystyle\frac{M}{r_2} \\[2.0ex]&= v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right)
\end{aligned}
$$
速さ\(v_2\)は正なので、平方根をとります。
$$ v_2 = \sqrt{v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right)} $$

計算方法の平易な説明

惑星が持つエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は、近日点でも遠日点でも同じです。この「エネルギーが保存される」という法則を使って式を立てます。「近日点でのエネルギー = 遠日点でのエネルギー」という式です。この式を、求めたい遠日点での速さ\(v_2\)について変形していくと、答えの形になります。

結論と吟味

遠日点での速さ\(v_2\)は、\(v_2 = \sqrt{v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right)}\) と表されます。\(r_2 > r_1\) なので、括弧の中の \(\left(\frac{1}{r_2} – \frac{1}{r_1}\right)\) は負の値になります。したがって、ルートの中は \(v_1^2\) から正の値を引いた形になり、\(v_2 < v_1\) となることがわかります。これは(1)の結果とも整合性がとれており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\sqrt{v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right)}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)で得られたケプラーの第2法則の式と、(2)で得られた力学的エネルギー保存則の式を連立させて、近日点での速さ\(v_1\)を、軌道を決めるパラメーター(\(G, M, r_1, r_2\))だけで表す問題です。2つの法則を組み合わせることで、惑星の運動が完全に記述できることを示す、重要な設問です。
この設問における重要なポイント

  • 2つの保存則から得られた式を連立させる。
  • (1)の式: \(v_2 = \displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1\)
  • (2)の式: \(v_2^2 = v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right)\)
  • (1)の式を(2)の式に代入して、\(v_2\)を消去し、\(v_1\)について解く。

具体的な解説と立式
(1)と(2)の結果を再掲します。
$$ v_2 = \displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1 \quad \cdots ① $$
$$ v_2^2 = v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right) \quad \cdots ② $$
①式を②式に代入して、\(v_2\)を消去します。
$$ \left(\displaystyle\frac{r_1}{r_2}v_1\right)^2 = v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{1}{r_2} – \displaystyle\frac{1}{r_1}\right) $$
この式を、\(v_1\)について解いていきます。

使用した物理公式

  • (1), (2)で導出した関係式
計算過程

立式した方程式を\(v_1\)について解きます。
$$ \displaystyle\frac{r_1^2}{r_2^2}v_1^2 = v_1^2 + 2GM\left(\displaystyle\frac{r_1 – r_2}{r_1 r_2}\right) $$
\(v_1^2\)の項を左辺にまとめます。
$$
\begin{aligned}
\left(\displaystyle\frac{r_1^2}{r_2^2} – 1\right)v_1^2 &= 2GM\left(\displaystyle\frac{r_1 – r_2}{r_1 r_2}\right) \\[2.0ex]\left(\displaystyle\frac{r_1^2 – r_2^2}{r_2^2}\right)v_1^2 &= 2GM\left(\displaystyle\frac{r_1 – r_2}{r_1 r_2}\right) \\[2.0ex]\displaystyle\frac{(r_1 – r_2)(r_1 + r_2)}{r_2^2}v_1^2 &= 2GM\displaystyle\frac{r_1 – r_2}{r_1 r_2}
\end{aligned}
$$
両辺の共通項 \((r_1 – r_2)\) と \(r_2\) を1つずつ消去します。(\(r_1 \neq r_2\) なので \(r_1-r_2 \neq 0\))
$$ \displaystyle\frac{r_1 + r_2}{r_2}v_1^2 = 2GM\displaystyle\frac{1}{r_1} $$
\(v_1^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_1^2 &= 2GM \displaystyle\frac{1}{r_1} \cdot \displaystyle\frac{r_2}{r_1 + r_2} \\[2.0ex]&= 2GM \displaystyle\frac{r_2}{r_1(r_1 + r_2)}
\end{aligned}
$$
速さ\(v_1\)は正なので、平方根をとります。
$$ v_1 = \sqrt{2GM \displaystyle\frac{r_2}{r_1(r_1 + r_2)}} $$

計算方法の平易な説明

(1)と(2)で、遠日点での速さ\(v_2\)を2通りの方法で表しました。これらは同じ\(v_2\)を表しているので、イコールで結ぶことができます。具体的には、(1)の式を(2)の式に代入して、式の中から\(v_2\)を消してしまいます。すると、残るのは近日点での速さ\(v_1\)と、軌道の形を決めるパラメーターだけの式になります。この式を、根気よく\(v_1\)について変形していくと、答えが求まります。

結論と吟味

近日点での速さ\(v_1\)は、\(v_1 = \sqrt{2GM \displaystyle\frac{r_2}{r_1(r_1 + r_2)}}\) と表されます。この式は、惑星の速さが、中心天体の質量\(M\)と、軌道の形状(\(r_1, r_2\))だけで決まることを示しています。惑星自身の質量\(m\)には依存しないという、物理的に重要な結論が導かれます。

解答 (3) \(\sqrt{2GM \displaystyle\frac{r_2}{r_1(r_1 + r_2)}}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 惑星運動を支配する2つの保存則:
    • 核心: 惑星のように、中心力(万有引力)のみを受けて運動する物体については、常に2つの物理量が保存されます。それは「角運動量(ケプラーの第2法則として現れる)」と「力学的エネルギー」です。この問題は、これら2つの独立した保存則を連立させることで、惑星の運動が完全に記述できることを示しています。
    • 理解のポイント:
      1. ケプラーの第2法則(面積速度一定): \(r_1v_1 = r_2v_2\) という形で、速さと距離のシンプルな関係を与える。これは角運動量保存則の現れです。
      2. 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = \text{一定}\) という形で、速さの2乗と位置エネルギーの関係を与える。

      この2つの式を「連立方程式」として解くのが、惑星運動の解析の王道です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 円運動との関係: (3)で求めた近日点の速さの式 \(v_1^2 = 2GM \displaystyle\frac{r_2}{r_1(r_1 + r_2)}\) に、円運動の条件である \(r_1=r_2=r\) を代入してみます。すると、\(v_1^2 = 2GM \frac{r}{r(2r)} = \frac{GM}{r}\) となり、これはまさしく円運動の速さの2乗の公式です。このように、楕円運動は円運動を一般化したものと考えることができ、特殊な場合を代入して検算するテクニックは非常に有効です。
    • 軌道長半径とエネルギーの関係: 楕円軌道の力学的エネルギーは、軌道長半径 \(a = \frac{r_1+r_2}{2}\) を用いて \(E = -G\displaystyle\frac{Mm}{2a}\) と表せます。この関係を知っていると、エネルギーから軌道の大きさを求めたり、その逆の計算をしたりする問題に素早く対応できます。
    • 彗星の運動: 太陽系の外からやってくる彗星など、二度と戻ってこない放物線軌道(\(E=0\))や双曲線軌道(\(E>0\))の運動を解析する問題にも、同じエネルギー保存則の考え方が適用されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 保存則の適用を宣言: まず「惑星に働く力は万有引力(保存力)のみなので、力学的エネルギーと角運動量(面積速度)が保存される」と、解法の二本柱を明確に意識します。
    2. 特別な点(近日点・遠日点)に着目: 問題が近日点と遠日点について述べていることを確認します。これにより、ケプラーの第2法則が \(r_1v_1 = r_2v_2\) という最もシンプルな形で使えることがわかります。
    3. 未知数と式の数の確認: 例えば、\(v_1\)と\(v_2\)が未知数であれば、2つの保存則から2本の式が立つので、原理的に解けるはずだ、という見通しを立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 2つの保存則の式の混同:
    • 誤解: ケプラーの第2法則の式と、力学的エネルギー保存則の式をごちゃ混ぜにしてしまう。
    • 対策: それぞれの法則が何を表しているかを明確に区別します。ケプラー第2法則は「\(rv\)の積(に比例する量)」が、エネルギー保存則は「\(\frac{1}{2}v^2\)と\(-\frac{GM}{r}\)の和」が保存される、と式の構造で覚えましょう。
  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{r}\) のマイナス符号を忘れてしまう。
    • 対策: 「引力によって束縛されている系の位置エネルギーは、無限遠を基準にすると必ず負になる」という原則を徹底します。エネルギーの「谷底」にいるイメージを持つと忘れにくくなります。
  • (3)の連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: \(\left(\frac{r_1}{r_2}v_1\right)^2\) を展開する際に指数を間違えたり、分数の通分や約分でミスをしたりする。
    • 対策: 複雑な文字式の計算は、焦らず一行ずつ、何をしているかを確認しながら進めることが重要です。特に、\((r_1^2 – r_2^2)\) を \((r_1-r_2)(r_1+r_2)\) と因数分解して、共通項を約分する流れは頻出パターンなので、確実に身につけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定):
    • 選定理由: 惑星の運動において、角運動量が保存するという物理法則を、速さと距離の関係でシンプルに表現できるためです。
    • 適用根拠: 惑星に働く万有引力は、常に太陽の中心を向く「中心力」です。中心力は、回転運動を変化させるような力のモーメントを及ぼしません。力のモーメントが0であるとき、角運動量は保存されます。面積速度一定の法則は、この角運動量保存則と物理的に等価な法則です。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 惑星の運動において、エネルギーが保存するという、もう一つの重要な物理法則だからです。
    • 適用根拠: 惑星に働く万有引力は「保存力」であり、空気抵抗のようなエネルギーを散逸させる「非保存力」は働いていません。保存力のみが仕事をする系では、運動エネルギーと位置エネルギーの和である力学的エネルギーは、常に一定に保たれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因子の早期消去:
    • 力学的エネルギー保存則の式 \(\frac{1}{2}mv_1^2 – G\frac{Mm}{r_1} = \frac{1}{2}mv_2^2 – G\frac{Mm}{r_2}\) を立てた段階で、全ての項に共通する惑星の質量\(m\)はすぐに消去しましょう。これにより、式がシンプルになり、後の計算が楽になります。
  • 求める変数について整理する意識:
    • (3)の計算では、最終的に\(v_1\)を求めたいので、\(v_1^2\)が含まれる項を左辺に、それ以外の項を右辺に集める、という方針を明確に持って式変形を進めます。
  • 通分と因数分解の活用:
    • \(\left(\frac{1}{r_2} – \frac{1}{r_1}\right)\) は \(\frac{r_1 – r_2}{r_1 r_2}\) へ、\(\left(\frac{r_1^2}{r_2^2} – 1\right)\) は \(\frac{r_1^2 – r_2^2}{r_2^2} = \frac{(r_1-r_2)(r_1+r_2)}{r_2^2}\) へと、機械的に変形できるように練習しておきましょう。これにより、両辺の共通項 \((r_1-r_2)\) を見つけて約分する、という次のステップにスムーズに進めます。
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