Step 2
156 面積速度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ケプラーの法則と面積速度」です。惑星の運動を記述する上で中心的な役割を果たす、面積速度一定の法則の導出と、その具体的な応用について理解を深めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどの点においても一定であるという法則。
- 面積速度の定義: 微小時間 \(\Delta t\) に動径ベクトルが掃く面積を \(\Delta S\) としたとき、面積速度は \(\displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) で与えられる。
- 微小変化における三角形近似: 微小時間 \(\Delta t\) が十分に小さいとき、惑星の軌道の一部は直線とみなせ、動径が掃く領域は三角形として近似計算できる。
- 楕円軌道の幾何学的性質: 近日点(太陽に最も近い点)と遠日点(太陽から最も遠い点)では、惑星の速度ベクトルと動径ベクトルは直交する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、微小時間 \(\Delta t\) に惑星が掃く微小面積 \(\Delta S\) を、底辺が動径 \(r\)、高さが惑星の移動距離の垂直成分 \(v\Delta t \sin\theta\) である三角形として考え、その面積を計算します。そして、面積速度の定義 \(\displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) に従って式を導出します。
- (2)では、(1)で導いた面積速度の一般式と、ケプラーの第2法則(面積速度一定)を組み合わせます。近日点と遠日点では、動径と速度が直交する(\(\theta=90^\circ\))という特別な条件を利用して、関係式を導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
惑星の「面積速度」が、与えられた物理量 \(r, v, \theta\) を用いてどのように表されるかを導出する問題です。面積速度とは「単位時間あたりに動径ベクトルが掃く面積」のことです。この定義に立ち返り、微小時間 \(\Delta t\) を考え、その間に惑星が掃く微小面積 \(\Delta S\) を幾何学的に求めることが出発点となります。\(\Delta t\) が非常に小さいという極限を考えることで、惑星が描く軌道は直線とみなせ、掃く領域は三角形で近似できる、という考え方が鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 面積速度の定義:(面積速度) \( = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\) (\(\Delta t \to 0\) の極限)
- 微小面積 \(\Delta S\) の近似:微小時間 \(\Delta t\) に動径が掃く面積は、底辺 \(r\)、高さ \(h\) の三角形で近似できる。
- 三角形の高さの計算:高さ \(h\) は、惑星が微小時間で移動する距離 \(v\Delta t\) のうち、動径ベクトルに垂直な成分で与えられる。すなわち、\(h = (v\Delta t)\sin\theta\)。
具体的な解説と立式
微小な時間 \(\Delta t\) の間に、惑星は速度 \(\vec{v}\) で運動し、距離 \(v\Delta t\) だけ進みます。このとき、太陽Sと惑星Pを結ぶ動径ベクトルが掃く領域は、図で示されるような非常に細長い三角形とみなすことができます。
この三角形の面積 \(\Delta S\) を求めます。三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。
底辺を太陽Sから惑星Pまでの距離 \(r\) とします。
すると、三角形の高さ \(h\) は、惑星の移動ベクトル(大きさ \(v\Delta t\))の、底辺である動径ベクトルに垂直な成分となります。図から、この高さ \(h\) は次のように表せます。
$$ h = v\Delta t \sin\theta $$
したがって、微小面積 \(\Delta S\) は、三角形の面積公式から次のように立式できます。
$$ \Delta S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) = \displaystyle\frac{1}{2} r (v\Delta t \sin\theta) \quad \cdots ① $$
面積速度は、この微小面積 \(\Delta S\) を微小時間 \(\Delta t\) で割ったものですから、次のように定義されます。
$$ (\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 三角形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\)
- 面積速度の定義: \((\text{面積速度}) = \displaystyle\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta S}{\Delta t}\)
式①を式②に代入して、面積速度を計算します。
$$
\begin{aligned}
(\text{面積速度}) &= \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{\Delta t} \left( \displaystyle\frac{1}{2} r v\Delta t \sin\theta \right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{2} rv\sin\theta
\end{aligned}
$$
これにより、惑星Pの面積速度が \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) となることが示されました。
「面積速度」とは、惑星が動くときに、太陽と惑星を結んだ線が「ほうき」のように掃いていく面積が、1秒あたりどれくらいの広さか、という値です。ほんのわずかな時間 \(\Delta t\) を考えると、惑星が動いた跡は細長い三角形のようになります。この三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できます。底辺は太陽と惑星の距離 \(r\)、高さは惑星が動いた距離 \(v\Delta t\) のうち、底辺に対して垂直な方向の成分、つまり \(v\Delta t \sin\theta\) です。したがって、面積は \(\displaystyle\frac{1}{2} \times r \times (v\Delta t \sin\theta)\) となります。これをかかった時間 \(\Delta t\) で割ることで、1秒あたりの面積、すなわち面積速度 \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) が求まります。
惑星の面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と表されることが示されました。この関係式は、惑星の運動が中心力(太陽からの万有引力)のみを受ける場合に成り立つ角運動量保存則と本質的に同じ内容を表しています。面積速度が一定であること(ケプラーの第2法則)は、角運動量が保存することと同義です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を用いて、近日点Qと遠日点Tにおける惑星の物理量(距離と速さ)の間に成り立つ関係式を導く問題です。(1)で導出した面積速度の一般式を、軌道上の特別な2点である近日点Qと遠日点Tにそれぞれ適用し、それらが等しいと置くことで立式します。このとき、近日点・遠日点では、動径ベクトルと速度ベクトルのなす角 \(\theta\) が \(90^\circ\) になるという幾何学的な性質を利用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- ケプラーの第2法則:惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどの点においても一定である。
- 近日点・遠日点の幾何学的特徴:楕円軌道において、太陽からの距離が最小となる近日点(Q)および最大となる遠日点(T)では、動径ベクトルと速度ベクトルは直交する。すなわち、\(\theta = 90^\circ\)。
具体的な解説と立式
ケプラーの第2法則によれば、惑星の面積速度は軌道上のどの点でも一定です。
(1)で求めた面積速度の一般式は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) です。
したがって、近日点Qでの面積速度と遠日点Tでの面積速度は等しくなります。
$$ (\text{Q点での面積速度}) = (\text{T点での面積速度}) $$
近日点Qでは、太陽からの距離は \(r_1\)、速さは \(v_1\) です。
遠日点Tでは、太陽からの距離は \(r_2\)、速さは \(v_2\) です。
ここで、近日点と遠日点の幾何学的な性質を考えます。これらの点では、惑星は太陽に最も近づく、あるいは最も遠ざかる点であり、その瞬間、太陽に対する距離の変化率は0になります。これは、惑星の速度ベクトルが動径ベクトルと垂直になることを意味します。
したがって、近日点Qと遠日点Tの両方で、動径と速度のなす角は \(\theta = 90^\circ\) となります。
このとき、\(\sin\theta = \sin 90^\circ = 1\) です。
これらの値を面積速度一定の式に代入すると、以下の関係式が立てられます。
$$ \displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \sin 90^\circ = \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \sin 90^\circ $$
使用した物理公式
- 面積速度: \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) (問(1)の結果)
- ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)
「具体的な解説と立式」で立てた式を整理して、最終的な関係式を導きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \sin 90^\circ &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \sin 90^\circ \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 \times 1 &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \times 1 \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{1}{2} r_1 v_1 &= \displaystyle\frac{1}{2} r_2 v_2 \\[2.0ex]
r_1 v_1 &= r_2 v_2
\end{aligned}
$$
ケプラーの法則によれば、「面積速度」は惑星がどこにいても常に同じ値になります。(1)で、面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と計算しました。近日点Q(太陽に一番近い点)と遠日点T(一番遠い点)では、惑星の進行方向が太陽からの距離を示す線とちょうど直角(90°)になります。三角関数の \(\sin 90^\circ\) は1なので、Q点での面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1\)、T点では \(\displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) と、式が簡単になります。これらが等しいので、\(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) となり、両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去すると、求める関係式 \(r_1v_1 = r_2v_2\) が得られます。
近日点と遠日点における惑星の距離と速さの間には、\(r_1v_1 = r_2v_2\) という関係が成り立ちます。この式は、太陽からの距離 \(r\) と速さ \(v\) の積が、これらの点において一定であることを示しています。楕円軌道では、近日点距離 \(r_1\) は遠日点距離 \(r_2\) より小さい(\(r_1 < r_2\))ので、この関係式から速さは \(v_1 > v_2\) となります。これは「惑星は太陽に近いほど速く、遠いほど遅く運動する」というケプラーの第2法則の直感的な帰結と一致しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則):
- 核心: 惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に掃く面積、すなわち「面積速度」が、軌道上のどこであっても一定であるという法則です。これは惑星の運動を理解する上での根幹をなす法則の一つです。
- 理解のポイント: この法則は、「惑星は太陽に近いほど速く、遠いほど遅く運動する」という現象を定量的に説明します。なぜそうなるのかというと、惑星に働く力が太陽の中心を向く「中心力」であるため、惑星の角運動量が保存されるからです。面積速度一定の法則は、角運動量保存則の幾何学的な表現に他なりません。
- 面積速度の幾何学的表現:
- 核心: (1)で示したように、面積速度が惑星と太陽の距離 \(r\)、惑星の速さ \(v\)、そしてそれらのなす角 \(\theta\) を用いて \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) と表されることです。
- 理解のポイント: この式を自力で導出できることが重要です。微小時間 \(\Delta t\) を考え、その間に動径が掃く領域を「底辺 \(r\)、高さ \(v\Delta t \sin\theta\) の三角形」として近似する考え方は、微積分のエッセンスであり、様々な物理現象をモデル化する際の基本となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 力学的エネルギー保存則との連立問題: 惑星の運動では、面積速度一定の法則(角運動量保存則)と力学的エネルギー保存則が常に成り立ちます。これら2つの保存則を連立させることで、軌道上の任意の点での速さや太陽からの距離を求める問題は頻出です。
- 近日点・遠日点以外の速さを求める問題: (1)で導いた一般式 \((\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) を利用します。例えば、近日点での情報(\(r_1, v_1\))が与えられているとき、ある点Pでの距離 \(r\) と角度 \(\theta\) が分かれば、その点での速さ \(v\) を \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) から計算できます。
- 人工衛星や彗星の運動: ケプラーの法則は惑星だけでなく、地球の周りを回る人工衛星や、太陽に接近する彗星など、中心力によって運動する物体全般に適用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 保存則の確認: まず、系に働く力を分析します。惑星に働く力は太陽からの万有引力(中心力)のみなので、「面積速度一定(角運動量保存)」と「力学的エネルギー保存」が成り立つ、と判断します。
- 点の特定: 問題で問われている点が「近日点・遠日点」なのか、それとも「一般の点」なのかを区別します。近日点・遠日点であれば、動径と速度が直交する(\(\theta=90^\circ\))という特別な条件が使えるため、計算が大幅に簡略化されます。
- 立式の選択: 求める物理量に応じて、どの法則を使うかを選択します。2点間の速さと距離の関係だけなら面積速度一定の法則で十分ですが、エネルギーが関わる場合や、軌道の形状(長半径など)が与えられている場合は、エネルギー保存則やケプラーの第3法則との連立を考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 一般点での \(\sin\theta\) の付け忘れ:
- 誤解: (2)の近日点・遠日点での関係式 \(r_1v_1 = r_2v_2\) に慣れすぎて、軌道上の任意の点でも \(rv = \text{一定}\) だと勘違いしてしまう。
- 対策: 面積速度の基本式はあくまで \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\) であることを徹底的に頭に入れる。「\(rv=\text{一定}\)」が成り立つのは、\(\sin\theta=1\) となる近日点・遠日点という「特別な場合」だけであると強く意識します。
- 微小三角形の高さの誤認:
- 誤解: (1)の導出の際、微小時間 \(\Delta t\) に惑星が掃く三角形の面積を考えるときに、高さを惑星の移動距離 \(v\Delta t\) そのものだと勘違いし、\(\Delta S = \displaystyle\frac{1}{2}r(v\Delta t)\) と立式してしまう。
- 対策: 必ず図を描いて確認する習慣をつけます。三角形の面積公式における「高さ」は、「底辺」に対して垂直な成分でなければなりません。惑星の移動ベクトル \(v\Delta t\) と底辺 \(r\) は一般に斜めに交わっているので、高さは垂直成分である \(v\Delta t \sin\theta\) となることを図から正確に読み取ります。
- ケプラーの法則の混同:
- 誤解: ケプラーの第2法則(面積速度一定)と第3法則(\(T^2/a^3=\text{一定}\))の適用場面を混同する。
- 対策: 第2法則は「同一軌道上での速さの変化」を扱う法則、第3法則は「異なる軌道(異なる惑星や衛星)の周期と軌道半径の関係」を扱う法則、と役割を明確に区別して覚えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 面積速度の定義式 (\((\text{面積速度}) = \displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t}\)):
- 選定理由: (1)は「面積速度が〜となることを示せ」という証明問題です。このような場合、証明すべき対象の「定義」に立ち返るのが最も正攻法です。面積速度の定義そのものから出発し、幾何学的な考察を加えて式を変形していくことで、論理的に結論を導けます。
- 適用根拠: 複雑な曲線運動を、微小な時間区間で直線運動とみなし、単純な図形(三角形)の性質に帰着させるという考え方は、物理学における極めて強力なアプローチです。この問題は、その基本的な思考法を体験する良い例題です。
- ケプラーの第2法則(面積速度一定):
- 選定理由: (2)は、同一軌道上の異なる2点(近日点と遠日点)における物理量(距離と速さ)の関係を問うています。このように、一つの物体の運動状態が変化する前後や、異なる場所での状態を比較する際には、「保存則」が絶大な威力を発揮します。惑星運動における重要な保存則が面積速度一定の法則です。
- 適用根拠: 惑星に働く力は太陽からの万有引力のみです。この力は常に太陽の中心を向いているため、惑星の回転運動を変化させるような「力のモーメント」は働きません。力のモーメントが0であるとき、角運動量は保存されます。そして、面積速度が一定であることは、この角運動量保存則と物理的に等価です。したがって、この法則の適用は完全に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 幾何学的条件の正確な適用: (2)の計算の鍵は、近日点・遠日点では \(\theta=90^\circ\) となり \(\sin\theta=1\) となる点にあります。なぜ \(90^\circ\) になるのか(動径ベクトルと速度ベクトルが直交する)という物理的・幾何学的な意味を理解しておくことが、応用問題で正しく条件を適用するための基礎となります。
- 文字式の丁寧な処理: この問題の計算は \(r_1v_1 = r_2v_2\) を導くだけでシンプルですが、力学的エネルギー保存則 \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = \text{一定} \) と連立させる問題では、文字の種類が増え、式も複雑になります。どの文字が定数で、どの文字が変数なのかを常に意識し、求める文字について式を整理するという目的を明確に持って計算を進めることが重要です。
- 両辺の共通因子の消去: \(\displaystyle\frac{1}{2}r_1v_1 = \displaystyle\frac{1}{2}r_2v_2\) のような式では、両辺に共通する \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消し忘れることは少ないですが、焦っていると見落とす可能性もあります。式全体を俯瞰し、共通する因子がないかを確認する癖をつけましょう。
157 万有引力の法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「万有引力の法則の導出」です。惑星の等速円運動というモデルと、観測事実であるケプラーの第3法則を組み合わせることで、ニュートンが万有引力の法則、特に力が距離の2乗に反比例する「逆2乗の法則」をいかにして導いたかを、思考のプロセスを追いながら理解します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の運動方程式: 等速円運動している物体には、その運動を維持するための中心向きの力(向心力)が働いており、その大きさは \(F=ma\) で与えられる。
- 向心加速度: 半径\(r\)、角速度\(\omega\)の円運動における加速度は、中心向きで大きさ \(a=r\omega^2\) となる。
- 角速度と周期の関係: 角速度\(\omega\)と周期\(T\)の間には、1周の角度が\(2\pi\)ラジアンであることから \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係が成り立つ。
- ケプラーの第3法則: 惑星の公転周期\(T\)の2乗は、軌道半径\(r\)の3乗に比例する(\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}=k\)(一定))。
- 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに、大きさが等しく向きが反対の力を及ぼす。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄①, ②, ③では、それぞれ円運動の運動方程式、周期と角速度の関係、ケプラーの第3法則という、基本的な法則や関係式を記述します。
- 空欄④では、①, ②, ③で得られた式を連立させ、向心力\(F\)を\(m, k, r\)で表します。これにより、力が距離の2乗に反比例することが導かれます。
- 空欄⑤では、作用・反作用の法則と、力が太陽の質量\(M\)にも比例するという考察から、比例定数を書き換え、万有引力の法則の最終的な形を導き出します。
空欄①
思考の道筋とポイント
惑星が太陽から受けている向心力の大きさを、円運動の基本的な物理量(質量\(m\)、半径\(r\)、角速度\(\omega\))を用いて表す問題です。等速円運動の運動方程式を正しく立てられるかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 円運動の運動方程式は \(ma = F\) の形で表される。
- 向心加速度\(a\)は、角速度\(\omega\)を用いると \(a = r\omega^2\) と表される。
- 向心力\(F\)は、この運動を引き起こしている力のことであり、この問題では太陽が惑星を引く引力に相当する。
具体的な解説と立式
質量\(m\)の惑星が、半径\(r\)、角速度\(\omega\)で等速円運動をしているとき、その加速度は円の中心(太陽の方向)を向いており、大きさ\(a\)は次式で与えられます。
$$ a = r\omega^2 $$
この加速度を生じさせているのが、太陽からの向心力\(F\)です。円運動の運動方程式 \(ma=F\) に、この加速度\(a\)を代入します。
$$ m(r\omega^2) = F $$
したがって、向心力\(F\)の大きさは次のように表されます。
$$ F = mr\omega^2 $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma = F\)
- 向心加速度: \(a = r\omega^2\)
この設問は公式を適用するものであり、具体的な計算過程はありません。
物体がぐるぐると円運動を続けるためには、常に中心に向かって引っ張る力が必要です。この力を「向心力」と呼びます。向心力の大きさ\(F\)は、物体の「質量\(m\)」、円の「半径\(r\)」、そして回転の速さを表す「角速度\(\omega\)」の2乗をすべて掛け合わせた、\(mr\omega^2\) という式で計算できます。
惑星が太陽から受けている向心力の大きさは \(F = mr\omega^2\) と表されます。これは円運動を記述する上で最も基本的な関係式の一つです。
空欄②
思考の道筋とポイント
円運動の周期\(T\)と角速度\(\omega\)の関係を問う問題です。角速度の定義、すなわち「単位時間あたりに回転する角度」を理解していれば、容易に導くことができます。
この設問における重要なポイント
- 周期\(T\)とは、1周するのにかかる時間のこと。
- 角速度\(\omega\)とは、1秒あたりに回転する角度(ラジアン)のこと。
- 円の1周は \(360^\circ\) であり、ラジアンで表すと \(2\pi\) [rad] である。
具体的な解説と立式
周期\(T\) [s] は、1周するのにかかる時間です。角速度\(\omega\) [rad/s] は、1秒あたりに進む角度です。
したがって、1周(\(2\pi\)ラジアン)進むのにかかる時間\(T\)と、1秒あたりに進む角度\(\omega\)の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$ \omega \times T = 2\pi $$
この式を周期\(T\)について解くと、次のようになります。
$$ T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega} $$
使用した物理公式
- 角速度と周期の関係: \(\omega T = 2\pi\)
この設問は定義式そのものであり、具体的な計算過程はありません。
「周期\(T\)」は、ぐるっと1周するのにかかる時間です。一方、「角速度\(\omega\)」は、1秒あたりにどれだけの角度を進むかを表します。1周は \(2\pi\) ラジアンなので、「1秒に進む角度(\(\omega\))」に「1周にかかる時間(\(T\))」を掛ければ、ちょうど1周分の角度(\(2\pi\))になるはずです。この関係 \(\omega \times T = 2\pi\) を変形すると、\(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) が得られます。
周期\(T\)は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) と表されます。これも円運動における基本的な関係式です。
空欄③
思考の道筋とポイント
ケプラーの第3法則を数式で表現する問題です。法則の内容を正確に記憶しているかが問われます。問題文で「\(k\)を一定値として、\(T, r\)の間には、③\(=k\)の関係がある」と形式が指定されているため、それに合わせて式を立てます。
この設問における重要なポイント
- ケプラーの第3法則:惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。
- 円軌道の場合、長半径は軌道半径\(r\)とみなせる。
- 数式表現:「\(T^2\)は\(r^3\)に比例する」\(\rightarrow T^2 \propto r^3\)。比例定数\(k\)を用いて等式にすると \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)(一定)となる。
具体的な解説と立式
ケプラーの第3法則は、「惑星の公転周期\(T\)の2乗は、軌道半径\(r\)(厳密には軌道長半径)の3乗に比例する」という経験則です。
これを数式で表現すると、\(T^2 \propto r^3\) となります。
比例定数を\(k\)とすると、\(T^2 = k r^3\) と書けます。問題文では「③\(=k\)」という形式が与えられているため、この式を変形して、
$$ \displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k $$
とします。この値\(k\)は、中心天体(この場合は太陽)が同じであれば、どの惑星についても同じ値をとります。
使用した物理公式
- ケプラーの第3法則
この設問は法則を記述するものであり、具体的な計算過程はありません。
ケプラーの第3法則とは、太陽系の惑星について調べてみると、「(1周にかかる時間\(T\))の2乗」を「(軌道の大きさ\(r\))の3乗」で割り算した値が、どの惑星(水星、金星、地球、…)でも、不思議と全部同じ値になる、という法則です。これを式で書くと \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)(一定)となります。
ケプラーの第3法則は \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) と表されます。これは観測から得られた法則であり、後にニュートンが万有引力の法則を導く上で決定的な役割を果たしました。
空欄④
思考の道筋とポイント
これまでに得られた3つの関係式を用いて、向心力\(F\)を、問題で指定された文字\(m, k, r\)だけで表す問題です。複数の式を代入・整理する代数的な計算力が求められます。目標の式に含まれない文字(この場合は\(\omega\)と\(T\))を消去していく方針で計算を進めます。
この設問における重要なポイント
- 出発点となる式は、①で求めた \(F = mr\omega^2\)。
- 消去すべき文字は \(\omega\) と \(T\)。
- 利用する関係式は、②の \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) と ③の \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\)。
具体的な解説と立式
まず、向心力の式 \(F = mr\omega^2\) から出発します。この式に含まれる\(\omega\)を消去するため、②の関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を\(\omega\)について解いた式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を用います。
$$ F = mr\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2 = \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2} \quad \cdots \text{A} $$
次に、この式に含まれる\(T\)を消去するため、③の関係式 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) を\(T^2\)について解いた式 \(T^2 = kr^3\) を用います。
式Aに \(T^2 = kr^3\) を代入することで、\(F\)を\(m, k, r\)で表すことができます。
使用した物理公式
- \(F = mr\omega^2\) (①の結果)
- \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) (②の結果)
- \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) (③の結果)
$$
\begin{aligned}
F &= mr\omega^2 \\[2.0ex]
&= mr\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2} \\[2.0ex]
\text{ここで、} T^2 &= kr^3 \text{ を代入すると、} \\[2.0ex]
F &= \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{kr^3} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた力の式 \(F=mr\omega^2\) を、指定された文字 \(m, k, r\) だけの式に変身させます。まず、邪魔な\(\omega\)を消すために、(2)の式を変形した \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入します。すると、式は \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2mr}{T^2}\) となり、今度は\(T\)が邪魔になります。そこで、(3)の式を変形した \(T^2 = kr^3\) を代入します。すると、うまく\(T\)が消えて、最終的に \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) という、目的の文字だけの式が得られます。
向心力は \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) と表されます。この式から、惑星に働く力は、惑星の質量\(m\)に比例し、太陽からの距離\(r\)の2乗に反比例する(\(F \propto \displaystyle\frac{m}{r^2}\))という、極めて重要な関係(逆2乗の法則)が導かれます。
空欄⑤
思考の道筋とポイント
④で導かれた力の法則を、物理的な考察(作用・反作用の法則)に基づいて一般化し、万有引力の法則の最終形を導く問題です。問題文の指示に従い、比例定数 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) を、太陽の質量\(M\)と万有引力定数\(G\)を含む形に置き換えることがポイントです。
この設問における重要なポイント
- ④の結果 \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) は、力が惑星の質量\(m\)に比例することを示している。
- 作用・反作用の法則より、太陽も惑星から同じ大きさ\(F\)の力を受けている。
- 力の対称性から、太陽が受ける力は太陽の質量\(M\)に比例するはずである。したがって、力\(F\)は\(m\)と\(M\)の両方に比例すると考えられる。
- この考察に基づき、比例定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) が太陽の質量\(M\)に比例すると考え、\(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k} = GM\) と置き換える。(\(G\)は新たな普遍的な比例定数)
具体的な解説と立式
④で導かれた力の式を、比例定数の部分を前に出して書き直します。
$$ F = \left(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\right) \displaystyle\frac{m}{r^2} $$
ここで、物理的な考察を加えます。この力\(F\)は惑星の質量\(m\)に比例しています。作用・反作用の法則から、太陽も惑星から同じ大きさ\(F\)の力を受けており、この力は太陽の質量\(M\)に比例するはずです。つまり、力\(F\)は\(m\)と\(M\)の積に比例すると考えられます。
この考えを反映させるため、式の比例定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) が、力の源である太陽の質量\(M\)に比例すると考え、新たな比例定数\(G\)(万有引力定数)を用いて次のように置き換えます。
$$ \displaystyle\frac{4\pi^2}{k} = GM $$
この関係を、力の式に代入します。
$$ F = (GM) \displaystyle\frac{m}{r^2} $$
使用した物理公式
- \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) (④の結果)
- 作用・反作用の法則(思考の根拠として)
$$
\begin{aligned}
F &= \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2} \\[2.0ex]
&= \left(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\right) \displaystyle\frac{m}{r^2} \\[2.0ex]
\text{ここで、} \displaystyle\frac{4\pi^2}{k} &= GM \text{ とおくと、} \\[2.0ex]
F &= (GM) \displaystyle\frac{m}{r^2} \\[2.0ex]
&= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
(4)で求めた力の式 \(F = \displaystyle\frac{4\pi^2m}{kr^2}\) を見ると、力は惑星の質量\(m\)に比例することがわかります。ここでニュートンは考えました。「作用・反作用の法則から、太陽も同じ力で惑星に引かれているはず。その力は太陽の質量\(M\)に比例するはずだ。ということは、この引力は\(m\)と\(M\)の両方に比例するに違いない」。このアイデアを式に反映させるため、式の定数部分 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{k}\) を、太陽の質量\(M\)と新しい定数\(G\)を使った \(GM\) という塊で置き換えることにしました。すると、力の式は \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) となり、2つの物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例するという、美しい形の法則が完成します。
力は \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) と表されます。ニュートンはこの法則が太陽と惑星の間に限らず、質量を持つあらゆる2つの物体の間に働く普遍的な引力であると考え、「万有引力の法則」と名付けました。この法則の導出は、物理学の歴史における最も偉大な業績の一つです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力の法則の導出プロセス:
- 核心: この問題全体が、ニュートンによる万有引力の法則の導出過程をなぞる構成になっています。個々の公式を覚えるだけでなく、「円運動の運動方程式」と「ケプラーの第3法則(観測事実)」という2つの異なるピースを組み合わせることで、「逆2乗の法則」という物理法則が論理的に導かれる流れを理解することが最も重要です。
- 理解のポイント:
- 力学法則(運動方程式): 運動の原因(力)と結果(加速度)を結びつける。
- 観測法則(ケプラーの法則): 運動の具体的な様子(周期と軌道半径の関係)を記述する。
- これらを組み合わせることで、力の具体的な形(\(F \propto \frac{1}{r^2}\))が明らかになります。
- 作用・反作用の法則と力の対称性:
- 核心: 導かれた力が惑星の質量\(m\)に比例することから、作用・反作用の法則を根拠に、力の源である太陽の質量\(M\)にも比例するはずだと推論する部分です。
- 理解のポイント: この推論によって、力は2つの物体の質量の積 \(Mm\) に比例するという、より普遍的で対称的な形に一般化されます。これが「万有」引力たる所以です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 万有引力を向心力とする問題: この問題の思考過程を逆に使い、万有引力 \(F=G\frac{Mm}{r^2}\) を向心力として、人工衛星の速さ\(v\)や周期\(T\)、角速度\(\omega\)を求める問題。これは最も典型的な応用例です。(例: \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) から\(v\)を求める)
- ケプラーの第3法則の証明: 万有引力の法則と円運動の運動方程式を認め、そこから \(\frac{T^2}{r^3}\) が一定値になることを導く問題。これも思考の逆パターンです。
- 地上の重力との関係: 地表付近での重力 \(mg\) が、地球(質量\(M\)、半径\(R\))と物体(質量\(m\))の間の万有引力と等しいとおき(\(mg = G\frac{Mm}{R^2}\))、重力加速度\(g\)を\(G, M, R\)で表す問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の種類の特定: 問題文から「円運動」「惑星運動」などのキーワードを読み取り、適用すべき法則を絞り込みます。
- 力の特定: 円運動の「向心力」の正体は何かを考えます。惑星や衛星の問題であれば、それは「万有引力」です。
- 運動方程式の立式: 「向心力 = 万有引力」として、運動方程式(例: \(mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\))を立てます。これが多くの問題の出発点となります。
- 周期や速さへの変換: 必要に応じて、\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) や \(v=r\omega\) といった関係式を用いて、変数を変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力の公式の混同:
- 誤解: 向心力を \(mr\omega^2\) で表すか \(m\frac{v^2}{r}\) で表すか混乱する。
- 対策: 問題で与えられている物理量や、求めたい物理量に応じて使い分ける意識を持つ。角速度\(\omega\)や周期\(T\)が関係する場合は \(mr\omega^2\)、速さ\(v\)が関係する場合は \(m\frac{v^2}{r}\) を使うのが基本です。
- ケプラーの第3法則の指数の間違い:
- 誤解: 周期の「2乗」と半径の「3乗」を逆に覚えてしまい、\(\frac{T^3}{r^2}=k\) などと間違える。
- 対策: 「周期(時間: second)の2乗」「半径(距離: meter)の3乗」のように、単位の次元(\(s^2\)と\(m^3\))と結びつけて覚えると間違えにくくなります。
- 文字式の計算ミス:
- 誤解: (4)の計算で、\(\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2\) を \(\frac{4\pi^2}{T^2}\) にする際に指数を忘れたり、分数の約分(\(r\)と\(r^3\))を間違えたりする。
- 対策: 複雑な文字式の計算では、一行ずつ丁寧に、何をしているのか(どの式を代入したかなど)をメモしながら進める。計算後に、次元(単位)が合っているかを確認するのも有効な検算方法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 惑星の運動を「力学」の土台に乗せて解析するための出発点です。運動の様子(円運動)と、その原因である力(向心力)を結びつける、物理学の根幹をなす法則だからです。
- 適用根拠: 惑星は太陽からの引力という力を受けて、その軌道(加速度運動)が決定されています。この因果関係を定量的に記述するのが運動方程式です。
- ケプラーの第3法則 (\(\frac{T^2}{r^3}=k\)):
- 選定理由: これは、ティコ・ブラーエの長年の観測データをケプラーが解析して見出した「経験則」です。運動方程式だけでは力の具体的な形は不明ですが、この観測事実を「ヒント」として使うことで、力の法則を特定することができます。
- 適用根拠: ニュートンは、この観測事実を完璧に説明できるような力の法則こそが、真の法則に違いないと考えました。つまり、理論(運動方程式)が観測事実(ケプラーの法則)を再現できるように、理論の未知の部分(力の形)を決定するために用います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算方針の明確化: (4)のような複数の式を扱う計算では、いきなり手を動かすのではなく、「どの文字を消去して、どの文字を残すのか」というゴールを最初に確認します。今回は「\(\omega, T\)を消去して\(m, k, r\)を残す」という方針が明確でした。
- 指数の取り扱い: \((A/B)^n = A^n/B^n\) のような指数法則を正確に適用する。特に、\((2\pi)^2 = 4\pi^2\) のように、数字と文字の両方を忘れずに2乗することが重要です。
- 分数の約分: \(\frac{r}{r^3} = \frac{1}{r^2}\) のような約分は、基本ですが焦るとミスしやすいポイントです。\(r^3 = r \times r^2\) のように分解して考えると確実です。
158 万有引力の法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「万有引力のつり合い」です。質量を持つ2つの物体が、その間にある別の小物体に及ぼす万有引力がつり合う点を見つける問題です。万有引力の法則を正しく適用し、力のつり合いの条件から方程式を立てて解く、基本的な流れを理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 2つの物体間に働く引力の大きさは、それぞれの質量の積に比例し、物体間の距離の2乗に反比例するという法則。
- 力のつり合い: 物体に複数の力が働いているにもかかわらず、物体が静止している(または等速直線運動を続けている)状態。このとき、物体に働く力の合力は0になる。
- 方程式の解法: 物理的な条件を立式した後に得られる方程式(この場合は2次方程式)を解く数学的なスキル。
- 解の吟味: 方程式を解いて得られた数学的な解が、問題で設定された物理的な状況(小物体がAとBの間にあるなど)に合っているかを確認するプロセス。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小物体に働く力を図示します。小物体は、物体Aから引かれる力と、物体Bから引かれる力の2つを受けます。
- 次に、万有引力の法則 \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を用いて、これら2つの力の大きさをそれぞれ数式で表します。
- 問題文の「万有引力の大きさが等しくなった」という条件から、2つの力の大きさが等しいという方程式を立てます。
- この方程式を解いて、Aと小物体との距離を求めます。最後に、得られた解が物理的に妥当であるかを確認します。
設問
思考の道筋とポイント
この問題は、小物体に働く2つの万有引力がつり合う点を求める、典型的な力のつり合いの問題です。小物体には、物体Aからの引力と物体Bからの引力が、互いに反対向きに働きます。問題文の「万有引力の大きさが等しくなった」という条件は、まさにこれらの力がつり合っている状態を指しています。
求める「Aと小物体との距離」を未知数\(x\)と置き、他の物理量(距離や質量)を使って力のつり合いの式を立てることが、解答への第一歩となります。
この設問における重要なポイント
- 万有引力の法則の公式: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
- 力のつり合いの条件: この問題では、Aからの引力 \(F_{\text{A}}\) とBからの引力 \(F_{\text{B}}\) の大きさが等しいので、\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\)。
- 距離の設定: Aと小物体の距離を\(x\)とすると、AとBの距離が\(L\)であるため、Bと小物体の距離は \(L-x\) と表せる。
具体的な解説と立式
小物体の質量を\(m\)、求める物体Aと小物体との距離を\(x\)とします。
小物体は、物体Aと物体Bからそれぞれ万有引力を受けます。
物体A(質量\(4M\))が小物体(質量\(m\))を引く力 \(F_{\text{A}}\) の大きさは、万有引力の法則より、
$$ F_{\text{A}} = G\displaystyle\frac{(4M)m}{x^2} \quad \cdots ① $$
物体B(質量\(M\))が小物体(質量\(m\))を引く力 \(F_{\text{B}}\) の大きさは、Bと小物体の距離が \(L-x\) であることから、
$$ F_{\text{B}} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} \quad \cdots ② $$
問題の条件より、これらの力の大きさは等しいので、\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\) が成り立ちます。
$$ G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} $$
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
- 力のつり合いの条件
立てた力のつり合いの式を解いて\(x\)を求めます。
$$ G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2} $$
両辺を \(GmM\) で割ると、式は簡単になります。
$$ \displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2} $$
分母を払って整理します。
$$ 4(L-x)^2 = x^2 $$
この2次方程式を解きます。まず、式を展開します。
$$ 4(L^2 – 2Lx + x^2) = x^2 $$
$$ 4L^2 – 8Lx + 4x^2 = x^2 $$
すべての項を左辺に集めて整理します。
$$ 3x^2 – 8Lx + 4L^2 = 0 $$
この2次方程式を因数分解します。
$$ (3x – 2L)(x – 2L) = 0 $$
したがって、解は \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) または \(x = 2L\) となります。
まず、Aが小物体を引く力と、Bが小物体を引く力の大きさを、それぞれ万有引力の公式を使って式で表します。このとき、Aからの距離を\(x\)とすると、Bからの距離は\(L-x\)になるのがポイントです。次に、問題文の「大きさが等しくなった」という条件を使って、2つの力の式をイコールで結びます。この方程式を整理していくと、\(x\)についての2次方程式が得られます。これを因数分解して解くと、\(x\)の答えの候補が2つ出てきます。
方程式を解くと、\(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\) という2つの解が得られます。
ここで、問題の条件を振り返ると、小物体は「AとBの間に」置かれているので、Aからの距離\(x\)は \(0 < x < L\) の範囲になければなりません。
- \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) は、\(0\)より大きく\(L\)より小さいので、この条件を満たします。
- \(x = 2L\) は、\(L\)より大きいので、小物体がBのさらに向こう側にあることになり、条件を満たしません。
したがって、物理的に妥当な解は \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) となります。
この結果は、質量が4倍大きい物体Aの近く(全体の距離\(L\)を\(2:1\)に内分する点)で力がつり合うことを示しており、直感的にも正しいと考えられます。
思考の道筋とポイント
2次方程式を地道に展開して解く代わりに、式の形 (\(A^2=B^2\)) に着目して平方根をとることで、より計算を簡略化する別解です。この方法は計算ミスを減らし、時間を短縮する上で非常に有効です。
この設問における重要なポイント
- 方程式 \(\displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2}\) が \(\left(\displaystyle\frac{2}{x}\right)^2 = \left(\displaystyle\frac{1}{L-x}\right)^2\) と変形できることに気づくこと。
- \(A^2 = B^2\) の解は \(A = B\) または \(A = -B\) であることを利用する。平方根をとる際に、正負(\(\pm\))の両方を考慮することが不可欠。
具体的な解説と立式
力のつり合いの式から共通項を消去した以下の式から出発します。
$$ \displaystyle\frac{4}{x^2} = \displaystyle\frac{1}{(L-x)^2} $$
この式の両辺は、それぞれ何かの2乗の形になっています。
$$ \left(\displaystyle\frac{2}{x}\right)^2 = \left(\displaystyle\frac{1}{L-x}\right)^2 $$
両辺の平方根をとると、次の2つの場合が考えられます。
$$ \displaystyle\frac{2}{x} = \displaystyle\frac{1}{L-x} \quad \cdots (i) $$
$$ \displaystyle\frac{2}{x} = -\displaystyle\frac{1}{L-x} \quad \cdots (ii) $$
これらはそれぞれ\(x\)についての1次方程式なので、簡単に解くことができます。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
- 力のつり合いの条件
(i)の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{2}{x} &= \displaystyle\frac{1}{L-x} \\[2.0ex]
2(L-x) &= x \\[2.0ex]
2L – 2x &= x \\[2.0ex]
3x &= 2L \\[2.0ex]
x &= \displaystyle\frac{2}{3}L
\end{aligned}
$$
(ii)の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{2}{x} &= -\displaystyle\frac{1}{L-x} \\[2.0ex]
2(L-x) &= -x \\[2.0ex]
2L – 2x &= -x \\[2.0ex]
x &= 2L
\end{aligned}
$$
力のつり合いの式を立てて整理すると、「(何かの式)\(^2\) = (別の式の)\(^2\)」という形になります。ここで2次方程式として展開する代わりに、両辺の「2乗」を外す(平方根をとる)ことで、もっと簡単な1次方程式を解く問題にできます。ただし、「2乗」を外すときには、プラスの場合とマイナスの場合の2パターンを考える必要があります。それぞれのパターンを解くことで、答えの候補が2つ得られます。
メインの解法と同様に、\(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\) が得られます。物理的な条件 \(0 < x < L\) を満たすのは \(x = \displaystyle\frac{2}{3}L\) のみです。したがって、求める距離は \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) となります。この解法は、計算がシンプルになるため、検算にも役立ちます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力の法則と力のつり合い:
- 核心: この問題は、2つの異なる物体から受ける「万有引力」が、ある点で「つり合う」条件を見つけ出すことが全てです。したがって、以下の2つの物理法則を正確に組み合わせて立式できるかが問われます。
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)
- 力のつり合い: \(F_{\text{合力}} = 0\) (この問題では、2つの力が逆向きで大きさが等しい)
- 理解のポイント: 万有引力は距離の2乗に反比例するため、質量の大きい物体からの引力と、質量の小さい物体からの引力が等しくなる点が存在します。その点は、質量の小さい物体の方に偏るのではなく、質量の大きい物体の方に近くなるという直感を、計算で確認することが重要です。
- 核心: この問題は、2つの異なる物体から受ける「万有引力」が、ある点で「つり合う」条件を見つけ出すことが全てです。したがって、以下の2つの物理法則を正確に組み合わせて立式できるかが問われます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- クーロン力のつり合い: 万有引力とクーロン力は、どちらも「逆2乗の法則」に従うため、全く同じ思考プロセスで解くことができます。点電荷の間に別の点電荷を置いて、クーロン力がつり合う点を求める問題は典型例です。ただし、電荷には正負があるため、引力だけでなく斥力の場合も考慮する必要があります。
- 電場や重力場が0になる点: 力のつり合いの点は、見方を変えれば、2つの物体が作る「場(電場や重力場)」が打ち消し合って0になる点と同じです。\(F=qE\) や \(F=mg\) の関係から、力がつり合う点では場も0になります。
- 3体問題の特殊ケース: 3つの物体が一直線上にある場合だけでなく、三角形の頂点に配置されている場合など、ベクトルでの力のつり合いを考える問題に発展します。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示: まず、注目する物体(この場合は小物体)に働く力を、すべて矢印で図に描き込みます。力の向きと作用点を明確にすることが第一歩です。
- 未知数の設定: 求める物理量(この場合はAからの距離)を\(x\)などの文字で置きます。
- 距離関係の整理: 他の物体との距離を、設定した未知数\(x\)と与えられた量(この場合は\(L\))を使って表します(例: \(L-x\))。
- つり合いの立式: 図で描いた力のベクトルを見ながら、力のつり合いの式を立てます。一直線上であれば、向きを考慮して大きさの等式(例: \(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\))を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 解の吟味を忘れる:
- 誤解: 2次方程式を解いて出てきた2つの解(\(x = \frac{2}{3}L\) と \(x = 2L\))の両方が答えである、またはどちらを選べばよいかわからなくなる。
- 対策: 方程式を解いた後は、必ず問題の物理的な設定に立ち返る習慣をつけます。「小物体はAとBの間に置かれている」という条件から、解は \(0 < x < L\) の範囲にあるはずです。この条件に合わない解(\(x=2L\))は「数学的には正しいが、物理的には不適」として除外します。
- 平方根をとる際の符号ミス:
- 誤解: 別解のように \(A^2 = B^2\) の形から平方根をとる際に、\(A=B\) の場合しか考えず、\(A=-B\) の場合を見落としてしまう。
- 対策: 「2乗を外すときは、必ず\(\pm\)(プラスマイナス)を考える」という数学の基本ルールを徹底します。この\(\pm\)の両方を考慮することで、2次方程式を解いた場合と同じ2つの解がきちんと得られます。
- 距離の2乗の間違い:
- 誤解: 万有引力の公式 \(F = G\frac{Mm}{r^2}\) の分母を、\(r\)の2乗ではなく\(r\)としてしまう。
- 対策: 法則の名前が「逆2乗の法則」であることを常に意識します。公式を適用するたびに「距離の2乗、距離の2乗…」と頭の中で唱えることで、ケアレスミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 万有引力の法則 (\(F = G\displaystyle\frac{M_1 M_2}{r^2}\)):
- 選定理由: 問題で扱われているのが「質量を持つ物体間に働く力」だからです。これは、万有引力の法則が適用される最も基本的な状況です。
- 適用根拠: ニュートンによって確立された、質量を持つ物体間に普遍的に働く引力を記述する法則であり、この問題の物理現象を説明する根幹となります。
- 力のつり合いの式 (\(F_{\text{A}} = F_{\text{B}}\)):
- 選定理由: 問題文に「万有引力の大きさが等しくなった」と明確に記述されているためです。これは、小物体に働く2つの力が、大きさが等しく向きが反対である状態、すなわち「つり合い」の状態にあることを示しています。
- 適用根拠: 物体に働く力の合力が0であるとき、その物体は静止を続けるか、等速直線運動を続けます(慣性の法則)。この問題では、小物体を置いた結果、力がつり合って静止している状況を考えているため、この条件式を立てることが論理的に正しいアプローチとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通因子の早期消去: 立式した \(G\displaystyle\frac{4Mm}{x^2} = G\displaystyle\frac{Mm}{(L-x)^2}\) の段階で、両辺に共通する \(G, M, m\) をすぐに割り算して消去することが重要です。これにより、式が \(\frac{4}{x^2} = \frac{1}{(L-x)^2}\) と非常にシンプルになり、後の計算ミスを劇的に減らせます。
- 2次方程式の解法の選択:
- メインの解法のように展開して因数分解や解の公式を使うのが基本ですが、計算が少し煩雑になります。
- 別解で示したように、式の形が \(A^2=B^2\) となっていることに気づけば、平方根をとる方法(\(A=\pm B\))が圧倒的に速く、計算ミスも起こしにくいです。式の形を観察する癖をつけましょう。
- 因数分解の検算: \((3x – 2L)(x – 2L) = 0\) のように因数分解ができた場合、一瞬でよいので頭の中で展開し、\(3x^2 – 6Lx – 2Lx + 4L^2 = 3x^2 – 8Lx + 4L^2\) と元の式に戻るかを確認する癖をつけると、符号ミスなどを防げます。
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