「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 10】Step2

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Step 2

139 単振動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動の基本事項の総まとめ」です。単振動が等速円運動の正射影として理解できること、そして単振動の変位、速度、加速度の式や、それらの関係性、用語の定義など、単振動を学ぶ上での根幹となる知識が網羅的に問われています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動と等速円運動の関係: 単振動は、等速円運動する物体を真横から光で照らしたときの「影」の運動と見なせます。
  2. 三角関数による運動の記述: 等速円運動の位置を三角関数で表し、その射影成分を計算することで、単振動の変位、速度、加速度の式が導出されます。
  3. 単振動の運動方程式: 単振動は、復元力 \(F=-Kx\) によって引き起こされる運動であり、その運動方程式は \(ma=-Kx\) となります。
  4. 単振動の用語の定義: 振幅、角振動数、周期、復元力といった基本的な用語の意味を正確に理解していることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各空欄について、単振動の定義や公式を思い出し、当てはまる語句や数式を答えていきます。
  2. 等速円運動の正射影というモデルから、変位、速度、加速度の式を導出します。
  3. 単振動の運動方程式と、等速円運動の加速度の関係式を結びつけ、周期の公式を導出します。

思考の道筋とポイント
この問題は、単振動に関する知識を一つずつ確認していく形式です。各空欄が何を問うているのかを正確に把握し、対応する公式や定義を当てはめていきます。

  • ①〜④:等速円運動の正射影モデル
    • ①:単振動の元となる運動は何か。
    • ②:図の等速円運動において、時刻\(t\)での角度は\(\omega t\)です。このときの物体のx座標を三角関数で表します。
    • ③, ④:②で求めた変位\(x\)の式を時刻\(t\)で微分すると速度\(v\)が、さらに微分すると加速度\(a\)が求まります。
  • ⑤:加速度と変位の関係
    • ②と④の式から、\(\sin\omega t\)を消去して、\(a\)を\(x\)で表します。
  • ⑥, ⑦:振動の端点での物理量
    • \(x\)が正に最大になるのは、振動の端点です。このとき、速度と加速度はどうなるかを考えます。
  • ⑧, ⑨:用語の定義
    • 単振動の式における\(A\)と\(\omega\)が、それぞれ何という物理量を表すか。
  • ⑩, ⑪:単振動の動力学
    • 単振動を引き起こす力の名称と、その力と質量から周期を求める公式を答えます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動は等速円運動の正射影である。
  • 変位、速度、加速度の関係は微分の関係にある。
  • 単振動の運動方程式 \(ma=-Kx\) と、等速円運動の加速度 \(a=-\omega^2 x\) の関係を理解する。

具体的な解説と立式
① 単振動の定義

単振動は、等速円運動をする物体の、ある直線(スクリーン)上への正射影の運動として定義されます。

② 変位\(x\)の式

図のモデルでは、時刻\(t=0\)にx軸の正方向へ原点を通過する単振動を表しています。これは、等速円運動において時刻\(t=0\)にy軸の正方向(位相\(\pi/2\))から運動を開始し、そのx軸への正射影を考えたものに対応します。円運動する物体のx座標は \(A\cos(\omega t – \pi/2) = A\sin(\omega t)\) となります。よって、変位は \(A\sin(\omega t)\) です。

③ 速度\(v\)の式

速度\(v\)は変位\(x\)を時刻\(t\)で微分して求めます。
$$ v = \frac{dx}{dt} = \frac{d}{dt}(A\sin(\omega t)) = A\omega\cos(\omega t) $$

④ 加速度\(a\)の式

加速度\(a\)は速度\(v\)を時刻\(t\)で微分して求めます。
$$ a = \frac{dv}{dt} = \frac{d}{dt}(A\omega\cos(\omega t)) = -A\omega^2\sin(\omega t) $$

⑤ 加速度\(a\)と変位\(x\)の関係

④の式 \(a = -A\omega^2\sin(\omega t)\) に、②の式 \(x = A\sin(\omega t)\) を代入すると、
$$ a = -\omega^2 (A\sin(\omega t)) = -\omega^2 x $$

⑥, ⑦ 振動の端での速度と加速度

\(x\)が正に最大になるのは、\(x=A\)のときです。これは振動の端点です。

  • 速度\(v\): 端点では一瞬静止するので、\(v=0\)
  • 加速度\(a\): \(a=-\omega^2 x\) に \(x=A\) を代入すると、\(a = -A\omega^2\)。加速度の大きさは最大になります。

⑧, ⑨ 用語の定義

  • \(A\)は振動の中心からの最大変位なので、振幅と呼びます。
  • \(\omega\)は振動の速さ(位相の変化の速さ)を表す量で、角振動数と呼びます。

⑩ 単振動を引き起こす力

\(F=-Kx\) のように、変位に比例し、常に中心を向く力を復元力と呼びます。

⑪ 周期\(T\)の公式

単振動の運動方程式は \(ma=F\) なので、\(ma = -Kx\)。
一方、⑤で求めた関係式 \(a=-\omega^2 x\) を代入すると、
$$ m(-\omega^2 x) = -Kx $$
$$ m\omega^2 = K $$
よって、角振動数\(\omega\)は \(\omega = \sqrt{K/m}\) となります。
周期\(T\)と角振動数\(\omega\)の関係は \(T=2\pi/\omega\) なので、
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi \sqrt{\frac{m}{K}} $$

使用した物理公式

  • 単振動の変位、速度、加速度の式
  • 単振動の運動方程式: \(ma=-Kx\)
  • 周期と角振動数の関係: \(T=2\pi/\omega\)
計算過程

この問題は、公式や定義を当てはめるものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

この問題は、単振動の「公式集」を穴埋め形式で確認するものです。

  • 単振動は、円運動の影の動きです。
  • 位置、速度、加速度は、三角関数(\(\sin, \cos\))を使って表せます。
  • 加速度は、常に位置と反対向きで、中心から遠いほど大きくなります。
  • 振動の端っこでは、速さはゼロになり、加速度は最大になります。
  • 振動の中心では、速さは最大になり、加速度はゼロになります。
  • 単振動を引き起こす、中心に戻そうとする力を「復元力」と呼びます。
  • 1往復にかかる時間(周期)は、おもりが重いほど長く、ばねが硬い(復元力が強い)ほど短くなります。
結論と吟味

各空欄に当てはまる語句と式は以下の通りです。

  1. 等速円
  2. \(A\sin\omega t\)
  3. \(A\omega\cos\omega t\)
  4. \(-A\omega^2\sin\omega t\)
  5. \(-\omega^2 x\)
  6. 0
  7. \(-A\omega^2\)
  8. 振幅
  9. 角振動数
  10. 復元
  11. \(2\pi\sqrt{m/K}\)

単振動の運動学的側面(等速円運動との関係)と、動力学的側面(復元力と運動方程式)の両方を体系的に理解しているかを確認する良い問題です。

解答 上記の通り

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の運動学的定義(等速円運動の正射影)
    • 核心: 単振動という一見複雑な往復運動が、実は単純な「等速円運動」の「正射影(影の動き)」として完全に記述できるという、運動学的なモデルを理解することが第一の核心です。
    • 理解のポイント:
      • 等速円運動のパラメータ(半径\(A\)、角速度\(\omega\))が、そのまま単振動のパラメータ(振幅\(A\)、角振動数\(\omega\))に対応します。
      • 変位\(x\)、速度\(v\)、加速度\(a\)の式は、すべて等速円運動の三角関数表示と、それを時間微分することで導出されます。
  • 単振動の動力学的定義(復元力)
    • 核心: ある運動が単振動であるための力学的な条件は、物体にはたらく合力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例し、常に中心を向く力、すなわち「復元力 \(F=-Kx\)」で与えられること。この法則を理解することが第二の核心です。
    • 理解のポイント:
      • 運動方程式 \(ma=F\) に、\(F=-Kx\) を代入した \(ma=-Kx\) が、単振動の運動を支配する最も基本的な方程式となります。
      • この運動方程式と、運動学的に導かれた関係式 \(a=-\omega^2 x\) を結びつけることで、\(m\omega^2=K\) という、力学(\(m, K\))と運動学(\(\omega\))をつなぐ重要な関係が導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子(水平・鉛直・斜面): ばねの弾性力(と重力の合力)が復元力 \(F=-kx\) となるため、単振動します。
    • 単振り子: 振れ角が小さいとき、重力の接線成分が近似的に \(F \approx – (mg/L)x\) となり、単振動と見なせます。
    • U字管の液面振動、水に浮かぶ物体の振動: これらも、つり合いの位置からの変位に比例する復元力がはたらくため、単振動のモデルを適用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単振動であることの確認: まず、その運動が単振動と見なせるかを確認します。物体にはたらく合力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例する復元力 \(F=-Kx\) の形で書けるかを確認するのが王道です。
    2. パラメータの特定: 振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)(または周期\(T\))、初期位相\(\phi\)を特定します。
      • \(A\)と\(\phi\)は、振動の開始条件(どこから、どの向きに動き始めたか)で決まります。
      • \(\omega\)と\(T\)は、復元力の比例定数\(K\)と質量\(m\)で決まります(\(\omega=\sqrt{K/m}\))。
    3. 公式の適用: 求めたい物理量(特定時刻の変位、速度、加速度、最大値など)に応じて、適切な公式を選択し、特定したパラメータを代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 変位・速度・加速度の式の混同:
    • 誤解: \(x, v, a\) の式がそれぞれ \(\sin\) なのか \(\cos\) なのか、符号が `+` なのか `-` なのかを混同してしまう。
    • 対策: 等速円運動の図を思い浮かべ、各瞬間の物理的な状況と式の対応を確認します。例えば、中心(\(x=0\))では速度が最大、端(\(x=A\))では加速度の大きさが最大、といった関係から、式の形を推測・確認する癖をつけます。丸暗記ではなく、等速円運動のモデルから毎回導出できるようにしておくのが理想です。
  • 角振動数\(\omega\)と振動数\(f\)の混同:
    • 誤解: \(\omega\) と \(f\) は同じようなものだと考え、\(T=1/\omega\) のような間違いをする。
    • 対策: 言葉の定義を明確に区別します。「振動数\(f\)」は1秒あたりの振動回数[Hz]、「角振動数\(\omega\)」は2\(\pi\)秒(周期Tの円運動で1周する時間)あたりの振動回数、あるいは円運動の角速度[rad/s]です。関係式は \(\omega = 2\pi f = 2\pi/T\) です。
  • 復元力の比例定数\(K\)とばね定数\(k\)の混同:
    • 誤解: どんな単振動でも、周期の公式の\(K\)にばね定数\(k\)を代入してしまう。
    • 対策: \(K\)はあくまで「復元力の比例定数」です。ばね振り子の場合はたまたま\(K=k\)となりますが、単振り子では \(K=mg/L\) となるなど、状況によって異なります。必ず、合力を計算して \(F=-Kx\) の形にしてから\(K\)を特定する、という手順を踏むことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 変位・速度・加速度の公式 (\(x=A\sin\omega t\) など):
    • 選定理由: これらは、単振動という運動そのものを時間\(t\)の関数として記述するための、最も基本的な運動学的表現です。
    • 適用根拠: 等速円運動という単純なモデルの座標成分(射影)を数学的に(三角関数を用いて)表現したものです。物理現象を数学の言葉に翻訳した結果と言えます。
  • 加速度と変位の関係式 (\(a=-\omega^2 x\)):
    • 選定理由: この式は、単振動に共通する、時刻\(t\)に依存しない普遍的な性質を表しています。
    • 適用根拠: 変位と加速度の時刻\(t\)の関数から、三角関数の部分を消去することで導かれます。この式があるからこそ、運動方程式 \(ma=-Kx\) と結びつき、\(\omega\) と \(m, K\) の関係が明らかになります。
  • 周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: 単振動の最も重要な特徴の一つである「周期性」を、その運動を引き起こす力学的な要因(質量\(m\)と復元力の強さ\(K\))から計算するための公式です。
    • 適用根拠: 上述の通り、運動方程式と運動学的な関係式を組み合わせることで導出されます。物理法則(運動方程式)と運動の幾何学的な性質(等速円運動の射影)の融合によって得られる、単振動理論の集大成とも言える公式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は知識の確認が主であり、計算ミスは生じにくいですが、単振動の計算問題全般に共通する注意点は以下の通りです。
  • 単位の確認: 角振動数\(\omega\)の単位は[rad/s]、周期\(T\)は[s]、振幅\(A\)は[m]など、各物理量の単位を常に意識する。
  • 三角関数の値: \(\sin, \cos\) の値が必要な計算では、角度の単位が度(degree)なのかラジアン(radian)なのかを確認する。物理ではラジアンが基本です。
  • パラメータの整理: 問題を解き始める前に、与えられた情報から \(m, K, A, \omega, T\) などの値をリストアップしておくと、計算の際に参照しやすく、ミスが減ります。

140 単振動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動の運動の解析」です。与えられた情報(特定の位置での速度や加速度)から、その単振動の特性(角振動数、振幅)を決定し、運動全体を数式で表現する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動の基本公式: 変位、速度、加速度の間の関係式を理解し、使いこなすことが必須です。
    • 加速度と変位の関係: \(a = -\omega^2 x\)
    • 最大速度と振幅・角振動数の関係: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
  2. 単振動の運動の記述: 時刻\(t=0\)の初期条件(位置と速度)から、変位\(x\)と速度\(v\)を時刻\(t\)の関数として正しく表現できることが重要です。
  3. 単振動の各点での特徴:
    • 振動の中心(\(x=0\)): 速度が最大、加速度はゼロ。
    • 振動の端(\(x=\pm A\)): 速度はゼロ、加速度の大きさが最大。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、特定の位置\(x\)とそのときの加速度\(a\)が与えられているので、関係式 \(a = -\omega^2 x\) を用いて角振動数\(\omega\)を求めます。
  2. (2)では、振動の中心での速さ(=最大速度)が与えられているので、関係式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) と(1)で求めた\(\omega\)を用いて振幅\(A\)を求めます。
  3. (3)では、(1),(2)で求めた\(\omega, A\)と、初期条件(\(t=0\)で原点を正の向きに通過)から、変位と速度の式を完成させます。

問(1)

思考の道筋とポイント
角振動数\(\omega\)を求める問題です。問題文には「\(x=0.10\,\text{m}\)の位置における加速度の大きさは\(0.40\,\text{m/s}^2\)」という情報があります。単振動において、加速度\(a\)と変位\(x\)は \(a = -\omega^2 x\) という関係で結びついています。この公式に与えられた値を代入することで、\(\omega\)を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 加速度と変位の関係式 \(a = -\omega^2 x\) を利用する。
  • 加速度の向きに注意する。変位が正(\(x>0\))のとき、加速度は負(\(a<0\))となる。

具体的な解説と立式
求める角振動数を\(\omega\)とします。
単振動の加速度\(a\)と変位\(x\)の関係式は、
$$ a = -\omega^2 x $$
問題文より、\(x=0.10\,\text{m}\) のとき、加速度の「大きさ」が\(0.40\,\text{m/s}^2\)です。
変位\(x\)が正なので、加速度\(a\)は負の向きになります。したがって、\(a = -0.40\,\text{m/s}^2\)です。
これらの値を関係式に代入します。
$$ -0.40 = -\omega^2 \times 0.10 $$

使用した物理公式

  • 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
計算過程

上記で立てた式を\(\omega\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{-0.40}{-0.10} = 4.0 \\[2.0ex]\omega &= \sqrt{4.0} = 2.0
\end{aligned}
$$
角振動数\(\omega\)は正の値をとるので、\(\omega = 2.0 \, [\text{rad/s}]\) となります。

計算方法の平易な説明

単振動では、「加速度の大きさは、中心からの距離に比例する」というルールがあります。その比例定数が\(\omega^2\)です。つまり、\((\text{加速度の大きさ}) = \omega^2 \times (\text{中心からの距離})\)という関係が成り立ちます。この式に、問題で与えられた加速度\(0.40\)と距離\(0.10\)を代入して\(\omega\)を求めます。

結論と吟味

この単振動の角振動数は \(2.0\,\text{rad/s}\) です。公式に数値を正しく代入して計算できました。

解答 (1) 2.0 rad/s

問(2)

思考の道筋とポイント
振幅\(A\)を求める問題です。問題文には「原点(\(x=0\))を最大の速さ\(0.30\,\text{m/s}\)で通過した」とあります。原点(振動の中心)での速さは、単振動における最大速度\(v_{\text{max}}\)に相当します。最大速度は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて \(v_{\text{max}} = A\omega\) と表されます。この公式と(1)で求めた\(\omega\)の値を使えば、\(A\)を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 振動の中心(\(x=0\))で速さは最大になる。
  • 最大速度の公式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) を利用する。

具体的な解説と立式
求める振幅を\(A\)とします。
最大速度\(v_{\text{max}}\)と振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)の関係式は、
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$
問題文より \(v_{\text{max}} = 0.30\,\text{m/s}\)、(1)より \(\omega = 2.0\,\text{rad/s}\) なので、
$$ 0.30 = A \times 2.0 $$

使用した物理公式

  • 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
計算過程

上記で立てた式を\(A\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
A &= \frac{0.30}{2.0} \\[2.0ex]A &= 0.15 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

単振動の「最高速度」は、「振幅 × 角振動数」で計算できます。問題文から最高速度は\(0.30\)、(1)で角振動数は\(2.0\)とわかっているので、この式から振幅を逆算します。

結論と吟味

この単振動の振幅は \(0.15\,\text{m}\) です。公式に正しく値を代入して計算できました。

解答 (2) 0.15 m

問(3)

思考の道筋とポイント
変位\(x\)と速度\(v\)を、時刻\(t\)の関数として表す問題です。そのためには、単振動の一般式 \(x = A\sin(\omega t + \phi)\) におけるパラメータ \(A, \omega, \phi\) をすべて決定する必要があります。

\(A\)と\(\omega\)は(1),(2)で求めました。残るは初期位相\(\phi\)ですが、これは\(t=0\)のときの物体の状態から決まります。問題文に「\(t=0\)のとき、原点をx軸の正の向きに通過した」とあるので、この条件に合うように式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 初期条件(\(t=0\)での位置と速度の向き)から、運動の式を決定する。
  • \(t=0\)で \(x=0\), \(v>0\) となるのは、\(x=A\sin(\omega t)\) の形。

具体的な解説と立式
(1), (2)の結果より、\(A=0.15\,\text{m}\), \(\omega=2.0\,\text{rad/s}\) です。
初期条件は「\(t=0\)で\(x=0\)、かつ正の向きに運動(\(v>0\))」です。

変位\(x\)の式:

この初期条件を満たす変位の式は、\(x = A\sin(\omega t)\) の形です。
(もし \(x=A\cos(\omega t)\) だと \(t=0\)で\(x=A\) となり、条件に合いません。)
したがって、
$$ x = 0.15 \sin(2.0t) $$

速度\(v\)の式:

速度の式は、変位の式を時刻\(t\)で微分して得られます。
$$ v = \frac{dx}{dt} = A\omega\cos(\omega t) $$
値を代入すると、
$$ v = 0.15 \times 2.0 \cos(2.0t) = 0.30\cos(2.0t) $$

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(x = A\sin(\omega t)\)
  • 単振動の速度の式: \(v = A\omega\cos(\omega t)\)
計算過程

上記立式の通り、各パラメータを公式に代入するのみです。

計算方法の平易な説明

単振動の動きを数式で表現します。
(1), (2)で、この振動の大きさ(振幅\(A=0.15\))と速さのペース(角振動数\(\omega=2.0\))がわかりました。
あとはスタート地点の情報(\(t=0\)で原点を正の向きに出発)を考慮します。この「原点からスタート」という動きは、三角関数の\(\sin\)カーブに相当します。
したがって、位置の式は \(x = 0.15\sin(2.0t)\) となります。速度の式は、これを微分(数学の知識)して求めます。

結論と吟味

変位の式は \(x = 0.15\sin(2.0t)\)、速度の式は \(v = 0.30\cos(2.0t)\) です。
\(t=0\)を代入してみると、\(x=0.15\sin(0)=0\)、\(v=0.30\cos(0)=0.30\) となり、問題文の初期条件と一致することが確認できます。

解答 (3) 変位: \(x = 0.15\sin(2.0t)\), 速度: \(v = 0.30\cos(2.0t)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の運動学的関係式
    • 核心: 単振動における、変位(\(x\))、速度(\(v\))、加速度(\(a\))、振幅(\(A\))、角振動数(\(\omega\))といった物理量の間に成り立つ、時刻\(t\)に依存しない普遍的な関係式を理解し、使いこなすことが全てです。
    • 理解のポイント:
      • \(a = -\omega^2 x\) (加速度と変位の関係): 加速度は変位に比例し、向きは常に逆である。これは単振動を特徴づける最も重要な関係式です。
      • \(v_{\text{max}} = A\omega\) (最大速度): 速度は振動の中心(\(x=0\))で最大値をとる。
      • \(v = \pm \omega \sqrt{A^2 – x^2}\) (任意の位置での速さ): これは力学的エネルギー保存則から導かれる関係式で、どの位置でも速さを計算できます。
  • 単振動の初期条件と運動の記述
    • 核心: 単振動の運動の様子を時刻\(t\)の関数(\(x(t), v(t)\))として完全に記述するためには、振動のパラメータ(\(A, \omega\))に加えて、\(t=0\)での物体の状態(初期条件)が必要であるという概念を理解すること。
    • 理解のポイント:
      • \(t=0\)で \(x=0, v>0\) (中心から正方向へ) の場合は \(x=A\sin(\omega t)\)
      • \(t=0\)で \(x=A\) (正の端) の場合は \(x=A\cos(\omega t)\)
      • これらの代表的なパターンを覚えておくと、式の決定がスムーズになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子や単振り子の具体的な数値計算問題: ばね定数や質量、糸の長さなどから角振動数\(\omega\)を求め、与えられた初期条件から振幅\(A\)を決定し、特定の時刻や位置での物理量を計算する問題。
    • グラフの読み取り問題: \(x-t\), \(v-t\), \(a-t\)グラフが与えられ、そこから振幅、周期、角振動数などを読み取り、他の物理量を計算する問題。
    • エネルギー保存則との融合問題: ある位置での速さを求める際に、単振動の公式だけでなく、力学的エネルギー保存則を用いて解く問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 与えられた情報を整理する: 問題文から、「どの位置で、どの物理量が、いくらか」という情報を正確に抜き出し、リストアップします。(例: \(x=0\)で\(v=v_{\text{max}}=0.30\)、\(x=0.10\)で\(|a|=0.40\))
    2. 求める物理量と、手持ちの情報を結びつける公式を選ぶ:
      • \(x\)と\(a\)の情報がある → \(a=-\omega^2 x\) を使えば\(\omega\)が求まるな、と判断する。
      • \(v_{\text{max}}\)と\(\omega\)の情報がある → \(v_{\text{max}}=A\omega\) を使えば\(A\)が求まるな、と判断する。
    3. 運動の式を立てる際は、初期条件を確認する: \(x(t)\)の式を立てる際には、必ず\(t=0\)の状況を確認し、\(\sin\)型か\(\cos\)型か、あるいは位相\(\phi\)が必要かを判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 加速度の符号のミス:
    • 誤解: (1)で、\(a=0.40\)をそのまま \(a=-\omega^2 x\) の式に代入してしまう。
    • 対策: 「加速度は常につり合いの中心を向く」という基本に立ち返ります。変位\(x\)が正のとき、加速度\(a\)は必ず負になります。したがって、大きさの情報しかなくても、符号を自分で判断して \(a=-0.40\) とする必要があります。
  • 最大速度と任意の位置の速度の混同:
    • 誤解: どの位置でも \(v=A\omega\) が使えると思ってしまう。
    • 対策: \(v=A\omega\) は、速さが最大になる振動の中心(\(x=0\))でのみ成り立つ特別な式であると認識します。それ以外の位置での速さを求めるには、\(v=\pm\omega\sqrt{A^2-x^2}\) やエネルギー保存則を使う必要があります。
  • 変位の式の形の選択ミス:
    • 誤解: 初期条件を考慮せず、常に \(x=A\sin(\omega t)\) や \(x=A\cos(\omega t)\) を機械的に使ってしまう。
    • 対策: \(t=0\)を代入して、問題文の初期条件(位置と速度の向き)を再現できるか必ず検算します。例えば、\(x=A\cos(\omega t)\) に \(t=0\) を代入すると \(x=A, v=0\) となり、この問題の条件とは異なります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 加速度と変位の関係式 (\(a=-\omega^2 x\)):
    • 選定理由: (1)では、角振動数\(\omega\)を求める必要があり、与えられている情報は特定の位置\(x\)とそこでの加速度\(a\)です。この3つの物理量を直接結びつける唯一の公式がこれだからです。
    • 適用根拠: この式は、単振動の運動学的定義(等速円運動の正射影)から導かれる、時刻\(t\)を含まない普遍的な関係式です。単振動である限り、どの瞬間、どの位置でもこの関係は成り立っています。
  • 最大速度の公式 (\(v_{\text{max}}=A\omega\)):
    • 選定理由: (2)では、振幅\(A\)を求める必要があり、与えられている情報は最大速度\(v_{\text{max}}\)です。すでに\(\omega\)は求まっているので、これら3つの物理量を結びつけるこの公式が最適です。
    • 適用根拠: この式も、等速円運動のモデルから導かれます。単振動の速度は \(v=A\omega\cos(\omega t)\) であり、その最大値は\(\cos(\omega t)=1\)のとき、すなわち振動の中心を通過するときに \(A\omega\) となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の確認: 計算の各段階で、物理量の符号が物理的な状況と合っているかを確認します。特に加速度の向きは間違えやすいので注意が必要です。
  • 単位の確認: 角振動数\(\omega\)の単位は[rad/s]、振幅\(A\)は[m]、速度\(v\)は[m/s]など、計算結果の単位が正しいかを確認する癖をつけます。
  • 小数の計算: \(0.30/2.0\) のような簡単な割り算でも、焦るとミスをします。筆算するか、電卓が許されていれば必ず検算します。
  • 式の検算: (3)で求めた式 \(x=0.15\sin(2.0t)\) と \(v=0.30\cos(2.0t)\) が、問題文の条件をすべて満たしているか、最後に確認します。
    • \(t=0\)で \(x=0, v=0.30\) (OK)
    • \(x=0.10\)のときの\(a\)を計算してみる: \(x=0.15\sin(2.0t)=0.10\) より \(\sin(2.0t)=2/3\)。このとき \(a=-A\omega^2\sin(2.0t) = -0.15 \times (2.0)^2 \times (2/3) = -0.6 \times (2/3) = -0.4\)。加速度の大きさは0.4となり、条件を満たしています。

141 単振動の周期

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動の動力学」です。単振動を引き起こす力である「復元力」の性質を理解し、それを用いて単振動の周期や振動数を計算する基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 復元力: 単振動において、物体にはたらく力は、振動の中心からの変位に比例し、常に中心を向く力(復元力)\(F=-Kx\)で与えられます。
  2. 復元力の比例定数\(K\): この値は、単振動の「復元する力の強さ」を表し、ばね振り子ではばね定数\(k\)に相当します。
  3. 単振動の周期: 周期\(T\)は、質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)によって決まり、公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で計算できます。
  4. 周期と振動数の関係: 振動数\(f\)は周期\(T\)の逆数であり、\(f=1/T\) の関係があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず問題文の情報から復元力の比例定数\(K\)を求めます。次に、質量\(m\)と求めた\(K\)を周期の公式に代入して周期\(T\)を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた周期\(T\)を使い、\(f=1/T\) の関係式から振動数\(f\)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
単振動の周期\(T\)を求める問題です。周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を使うためには、質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)が必要です。質量\(m\)は問題文で与えられています。比例定数\(K\)は、復元力の定義式 \(F=-Kx\) から求めることができます。

問題文には「中心から0.10mの位置で、中心に向かう向きに80Nの力」がはたらくとあります。これが復元力に他なりません。この情報を使って\(K\)を計算し、周期の公式に代入します。
この設問における重要なポイント

  • 復元力の式 \(F=-Kx\) を理解している。
  • 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を知っている。
  • 問題文から、変位\(x\)と復元力\(F\)の値を正しく読み取る。

具体的な解説と立式
単振動する物体にはたらく復元力は \(F=-Kx\) と表せます。ここで、\(x\)は振動の中心からの変位、\(K\)は復元力の比例定数です。
問題文より、\(x=0.10\,\text{m}\) の位置で、中心に向かう向きの力、すなわち復元力の大きさが \(80\,\text{N}\) であったことがわかります。
復元力の式にこれらの値を代入します。力の向きが中心向き(変位と逆向き)なので、\(F=-80\,\text{N}\) となります。
$$ -80 = -K \times 0.10 $$
この式から、復元力の比例定数\(K\)を求めます。

次に、単振動の周期\(T\)の公式に、質量 \(m=0.50\,\text{kg}\) と上で求めた\(K\)の値を代入します。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} $$

使用した物理公式

  • 復元力: \(F=-Kx\)
  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
計算過程

まず、復元力の比例定数\(K\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
-80 &= -K \times 0.10 \\[2.0ex]K &= \frac{-80}{-0.10} = 800 \, [\text{N/m}]\end{aligned}
$$
次に、この\(K\)を用いて周期\(T\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2 \times 3.14 \times \sqrt{\frac{0.50}{800}} \\[2.0ex]&= 6.28 \times \sqrt{\frac{1}{1600}} \\[2.0ex]&= 6.28 \times \frac{1}{40} \\[2.0ex]&= 0.157
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(T \approx 0.16 \, [\text{s}]\) となります。

計算方法の平易な説明
  1. まず、この単振動の「復元する力の強さ(比例定数\(K\))」を求めます。\(F=-Kx\) という関係から、\(80 = K \times 0.10\) なので、\(K=800\)とわかります。
  2. 次に、周期を計算します。周期は、おもりが重い(\(m\))ほど長くなり、復元する力が強い(\(K\))ほど短くなるという性質があり、\(T=2\pi\sqrt{m/K}\) という公式で表せます。
  3. この公式に、質量\(m=0.50\)と、先ほど求めた\(K=800\)を代入して計算します。
結論と吟味

この単振動の周期は \(0.16\,\text{s}\) です。復元力の定義から比例定数を求め、周期の公式に適用するという、単振動の動力学の基本的な流れに沿って正しく計算できました。

解答 (1) 0.16 s

問(2)

思考の道筋とポイント
単振動の振動数\(f\)を求める問題です。振動数は、1秒間に振動する回数を表し、周期(1回の振動にかかる時間)の逆数として定義されます。(1)で求めた周期\(T\)を使えば、簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 振動数と周期の関係式 \(f=1/T\) を知っている。

具体的な解説と立式
振動数\(f\)と周期\(T\)の間には、以下の関係があります。
$$ f = \frac{1}{T} $$
(1)で求めた周期 \(T \approx 0.157\,\text{s}\) を代入して計算します。

使用した物理公式

  • 振動数と周期の関係: \(f=1/T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{T} \\[2.0ex]&\approx \frac{1}{0.157} \\[2.0ex]&\approx 6.369…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(f \approx 6.4 \, [\text{Hz}]\) となります。

(解答のように \(T=6.28/40 = 3.14/20\) を使って \(f=20/3.14\) と計算するとより正確です。)
$$ f = \frac{20}{3.14} \approx 6.369… \approx 6.4 \, [\text{Hz}] $$

計算方法の平易な説明

振動数は「1秒間に何回振動するか」を表す量です。周期は「1回の振動に何秒かかるか」なので、両者はちょうど逆数の関係にあります。(1)で求めた周期を逆数にすることで、振動数が求まります。

結論と吟味

この単振動の振動数は \(6.4\,\text{Hz}\) です。周期と振動数の関係を正しく理解し、計算できています。

解答 (2) 6.4 Hz

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の動力学的定義(復元力)
    • 核心: ある運動が単振動であるための力学的な条件は、物体にはたらく合力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例し、常に中心を向く力、すなわち「復元力 \(F=-Kx\)」で与えられること。この法則を理解し、問題文の情報から復元力の比例定数\(K\)を特定できることが、この問題を解くための第一歩です。
    • 理解のポイント:
      • 問題文の「振動の中心に向かう向きに80Nの力」という記述が、まさに復元力そのものを指していることを見抜く必要があります。
      • \(K\)は、ばね振り子における「ばね定数」に相当する、振動の「硬さ」や「復元する力の強さ」を表す重要なパラメータです。
  • 単振動の周期の公式
    • 核心: 単振動の周期\(T\)は、運動の力学的な要因である質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)のみによって決まり、\(T=2\pi\sqrt{m/K}\) という公式で与えられること。
    • 理解のポイント:
      • この公式は、単振動の運動方程式 \(ma=-Kx\) を解くことで導かれる、単振動理論の根幹をなす結果です。
      • 質量\(m\)が大きい(慣性が大きい)ほど周期は長く(ゆっくり振動)、比例定数\(K\)が大きい(復元力が強い)ほど周期は短く(素早く振動)なる、という物理的な意味を理解しておくことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子: ばね定数\(k\)が与えられていれば、それがそのまま復元力の比例定数\(K\)になります (\(K=k\))。
    • 単振り子: 振れ角が小さいとき、復元力の比例定数は \(K=mg/L\) となります(\(L\)は振り子の長さ)。
    • U字管の液面振動: 液体の密度\(\rho\)、断面積\(S\)とすると、復元力の比例定数は \(K=2\rho gS\) となります。
    • これらの問題はすべて、見かけは違っても「復元力の比例定数\(K\)を特定し、周期の公式に代入する」という同じ思考プロセスで解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単振動であることの確認: 問題文に「単振動」と明記されているか、あるいは復元力がはたらく状況であるかを確認します。
    2. 復元力の比例定数\(K\)を求める:
      • この問題のように、特定の変位\(x\)とそのときの力\(F\)が与えられている場合は、\(K = |F/x|\) から直接計算します。
      • ばね振り子のように、力の原因が明らかな場合は、その物理法則(フックの法則など)から\(K\)を導出します。
    3. 周期の公式に代入する: 質量\(m\)と求めた\(K\)を、\(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入して計算します。
    4. 振動数や角振動数を求める: 必要であれば、\(f=1/T\) や \(\omega=2\pi/T\) の関係式を使って変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 復元力の比例定数\(K\)とばね定数\(k\)の混同:
    • 誤解: 単振動の問題で、復元力の比例定数\(K\)を常に「ばね定数」だと思い込んでしまう。
    • 対策: \(K\)はあくまで「復元力の比例定数」であり、単振動の種類によってその正体は異なります。ばね振り子では\(K=k\)ですが、単振り子など他の単振動では異なるため、必ず \(F=-Kx\) の定義に立ち返って考える癖をつけます。
  • 周期の公式の分子・分母の混同:
    • 誤解: 周期の公式を \(T=2\pi\sqrt{K/m}\) と間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 物理的な意味を考えて覚えます。「質量\(m\)が重いほどゆっくり(周期が長く)なる」ので、\(m\)は分子。「復元力\(K\)が強いほど素早く(周期が短く)なる」ので、\(K\)は分母、と覚えると間違いにくくなります。
  • 周期\(T\)と振動数\(f\)の混同:
    • 誤解: 周期を求められているのに振動数を答えたり、その逆をしてしまう。
    • 対策: 言葉の定義を正確に覚えます。「周期\(T\)」は1回あたりの時間[s]、「振動数\(f\)」は1秒あたりの回数[Hz]です。両者は逆数の関係 (\(f=1/T\)) にあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 復元力の式 (\(F=-Kx\)):
    • 選定理由: (1)で周期を計算するためには、復元力の比例定数\(K\)が必要です。問題文には、特定の変位\(x\)とそのときの力\(F\)が与えられているため、\(K\)を特定するためにこの定義式を用いるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: 「単振動」という運動は、力学的には「物体にはたらく力が\(F=-Kx\)で表せる運動」として定義されます。したがって、問題文で与えられた力と変位の関係は、この定義式に当てはまるはずです。
  • 周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: (1)で求められているのが「周期」であり、単振動の周期を力学的な量(\(m, K\))から計算するための公式がこれだからです。
    • 適用根拠: この公式は、単振動の運動方程式 \(ma=-Kx\) を解くことで得られる、単振動の本質を表す関係式です。質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)が分かれば、振幅の大きさや初期条件によらず、周期が一意に決まることを示しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の確認: 計算に使うすべての物理量が、SI基本単位(kg, m, N)で与えられているかを確認します。
  • 有効数字の意識: 問題文の数値(0.50kg, 0.10m, 80N)は有効数字2桁です。計算途中の\(\pi=3.14\)は3桁ですが、最終的な答えは問題文の桁数に合わせて2桁に丸めるのが適切です。
  • 平方根の計算: \(\sqrt{1600}\)のような計算は、\(\sqrt{16 \times 100} = \sqrt{16} \times \sqrt{100} = 4 \times 10 = 40\) のように、平方根を分解すると計算しやすくなります。
  • 逆数の計算: (2)で振動数を求める際、\(f=1/T\) の計算で、(1)の最終的な答えである \(0.16\) を使うと丸め誤差が大きくなる可能性があります。可能であれば、\(T=3.14/20\) のような計算途中の分数を用いると、\(f=20/3.14\) となり、より正確な計算ができます。

142 水平ばね振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「水平ばね振り子の単振動」です。与えられた初期条件から単振動の基本量(振幅、周期、振動数、最大速度、最大加速度)をすべて計算する、網羅的な基本問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動の基本量: 振幅、周期、振動数、角振動数、最大速度、最大加速度の定義と、それらの間の関係式を理解していることが重要です。
  2. 水平ばね振り子の特徴: 振動の中心は、ばねが自然長のときの「力のつり合いの位置」です。復元力の比例定数\(K\)は、ばね定数\(k\)に等しくなります。
  3. 初期条件の解釈: 「つり合いの位置から引いて、静かにはなす」という操作が、物理的に何を意味するのか(振動の端、振幅の決定)を正しく解釈する必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、振動の開始条件から振幅を決定します。
  2. (2)では、まず角振動数\(\omega\)を質量\(m\)とばね定数\(k\)から計算し、それを用いて周期\(T\)を求めます。
  3. (3)では、周期と振動数の関係式から振動数\(f\)を求めます。
  4. (4),(5)では、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて、最大速度と最大加速度を公式から計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
単振動の振幅\(A\)を求める問題です。振幅は「振動の中心から端までの距離」と定義されます。

  • 振動の中心: 水平ばね振り子では、ばねが自然長のときにおもりにはたらく水平方向の力はゼロなので、「つり合いの位置」は「自然長の位置」です。
  • 振動の端: 「静かにはなす」という記述は、その位置で初速度が0であることを意味します。単振動において速度が0になるのは、振動の両端です。

したがって、手をはなした「つり合いの位置から0.30m引いた位置」が振動の端点となります。振幅は、この中心と端の間の距離になります。
この設問における重要なポイント

  • 振幅は、振動の中心から端までの距離である。
  • 「静かにはなす」点は、振動の端点である。
  • 水平ばね振り子の振動の中心は、つり合いの位置(=自然長の位置)である。

具体的な解説と立式
振動の中心は、つり合いの位置です。
振動の端は、静かにはなした位置、すなわち「つり合いの位置から0.30m引いた位置」です。
振幅\(A\)は、中心と端の間の距離なので、
$$ A = 0.30 \, [\text{m}] $$

使用した物理公式

  • 振幅の定義
計算過程

定義から直接求まるため、計算は不要です。

結論と吟味

この単振動の振幅は \(0.30\,\text{m}\) です。初期条件を正しく解釈できました。

解答 (1) 0.30 m

問(2)

思考の道筋とポイント
単振動の周期\(T\)を求める問題です。周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) を使うのが基本ですが、そのためには角振動数\(\omega\)を経由するのが一般的です。まず、質量\(m\)とばね定数\(k\)から角振動数\(\omega\)を求め、次に\(\omega\)と周期\(T\)の関係式 \(T=2\pi/\omega\) を使って周期を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 角振動数の公式: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
  • 周期と角振動数の関係: \(T = 2\pi/\omega\)

具体的な解説と立式
まず、角振動数\(\omega\)を求めます。水平ばね振り子では、復元力の比例定数はばね定数\(k\)に等しいので、
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} $$
次に、周期\(T\)を求めます。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} $$

使用した物理公式

  • 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
  • 周期: \(T = 2\pi/\omega\)
計算過程

与えられた値 \(k=50\,\text{N/m}\), \(m=2.0\,\text{kg}\), \(\pi=3.14\) を代入します。

まず、角振動数\(\omega\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{50}{2.0}} = \sqrt{25} = 5.0 \, [\text{rad/s}]\end{aligned}
$$
次に、周期\(T\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} = \frac{2 \times 3.14}{5.0} \\[2.0ex]&= \frac{6.28}{5.0} = 1.256
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(T \approx 1.3 \, [\text{s}]\) となります。

結論と吟味

この単振動の周期は \(1.3\,\text{s}\) です。公式を用いて正しく計算できました。

解答 (2) 1.3 s

問(3)

思考の道筋とポイント
単振動の振動数\(f\)を求める問題です。振動数は周期\(T\)の逆数です。(2)で求めた周期\(T\)の値を使えば計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 振動数と周期の関係: \(f=1/T\)

具体的な解説と立式
振動数\(f\)と周期\(T\)の関係式は、
$$ f = \frac{1}{T} $$

使用した物理公式

  • 振動数と周期の関係: \(f=1/T\)
計算過程

(2)で求めた \(T \approx 1.256\,\text{s}\) を使います。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{1.256} \approx 0.796…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(f \approx 0.80 \, [\text{Hz}]\) となります。

(角振動数\(\omega\)との関係 \(f=\omega/2\pi\) を使っても計算できます。)

結論と吟味

この単振動の振動数は \(0.80\,\text{Hz}\) です。周期との関係を正しく理解しています。

解答 (3) 0.80 Hz

問(4)

思考の道筋とポイント
おもりの速さの最大値\(v_{\text{max}}\)を求める問題です。単振動において、速さが最大になるのは振動の中心(つり合いの位置)を通過するときです。その値は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて \(v_{\text{max}} = A\omega\) と表されます。
この設問における重要なポイント

  • 速さは振動の中心で最大になる。
  • 最大速度の公式: \(v_{\text{max}} = A\omega\)

具体的な解説と立式
速さの最大値\(v_{\text{max}}\)は、
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$
(1)で求めた振幅 \(A=0.30\,\text{m}\) と、(2)の途中で計算した角振動数 \(\omega=5.0\,\text{rad/s}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_{\text{max}} &= 0.30 \times 5.0 \\[2.0ex]&= 1.5 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$

結論と吟味

おもりの速さの最大値は \(1.5\,\text{m/s}\) です。公式を用いて正しく計算できました。

解答 (4) 1.5 m/s

問(5)

思考の道筋とポイント
おもりの加速度の最大値\(a_{\text{max}}\)を求める問題です。単振動において、加速度の大きさが最大になるのは、力が最大になる振動の両端です。その値は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を用いて \(a_{\text{max}} = A\omega^2\) と表されます。
この設問における重要なポイント

  • 加速度の大きさは振動の端で最大になる。
  • 最大加速度の公式: \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)

具体的な解説と立式
加速度の最大値\(a_{\text{max}}\)は、
$$ a_{\text{max}} = A\omega^2 $$
(1)で求めた振幅 \(A=0.30\,\text{m}\) と、(2)の途中で計算した角振動数 \(\omega=5.0\,\text{rad/s}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の最大加速度: \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
a_{\text{max}} &= 0.30 \times (5.0)^2 \\[2.0ex]&= 0.30 \times 25 \\[2.0ex]&= 7.5 \, [\text{m/s}^2]\end{aligned}
$$

結論と吟味

おもりの加速度の最大値は \(7.5\,\text{m/s}^2\) です。公式を用いて正しく計算できました。

解答 (5) 7.5 m/s²

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の基本パラメータの関係性
    • 核心: 単振動を特徴づける様々な物理量(振幅\(A\)、周期\(T\)、振動数\(f\)、角振動数\(\omega\)、最大速度\(v_{\text{max}}\)、最大加速度\(a_{\text{max}}\))が、互いに独立ではなく、いくつかの基本的な関係式で結びついていることを理解することが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 運動の規模を決める量(初期条件): 振幅\(A\)は、振動をどのくらいの大きさで始めるかによって決まります。
      • 運動のペースを決める量(固有振動): 角振動数\(\omega\)、周期\(T\)、振動数\(f\)は、物体の質量\(m\)と復元力の強さ\(k\)(ばね定数)だけで決まり、振幅の大きさにはよりません。これらは \(\omega = \sqrt{k/m}\), \(T=2\pi/\omega\), \(f=1/T\) という関係で相互に変換可能です。
      • 最大値: 最大速度\(v_{\text{max}}\)と最大加速度\(a_{\text{max}}\)は、上記の\(A\)と\(\omega\)の両方を使って \(v_{\text{max}}=A\omega\), \(a_{\text{max}}=A\omega^2\) と計算されます。
  • 初期条件の物理的解釈
    • 核心: 「つり合いの位置から引いて、静かにはなす」という操作が、物理的に何を意味するのかを正確に読み取ること。
    • 理解のポイント:
      • 「つり合いの位置」は振動の中心。
      • 「静かにはなす」は初速度が0であり、その点が振動の「端」となる。
      • 「中心」と「端」が特定できれば、その間の距離が「振幅\(A\)」として一意に決まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直ばね振り子、単振り子: 運動の種類が変わっても、基本的なパラメータ(\(A, \omega, T, f, v_{\text{max}}, a_{\text{max}}\))を求める手順は全く同じです。違いは、振動の中心の位置と、角振動数\(\omega\)の計算方法(復元力の比例定数\(K\)の求め方)だけです。
    • エネルギー保存則との組み合わせ: 振動の端から端までの力学的エネルギーが保存されることを利用して、任意の位置での速さを求める問題。
    • グラフ問題: \(x-t\), \(v-t\), \(a-t\)グラフから、振幅や周期を読み取り、他の物理量を計算する問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. パラメータを特定する: まず、問題文から単振動のパラメータを特定・計算します。
      • \(m, k\) が与えられている場合は \(\omega = \sqrt{k/m}\) が計算できる。
      • 初期条件(どこから、どうやって始めたか)が与えられている場合は振幅\(A\)が決定できる。
    2. 求める物理量に対応する公式を選ぶ: \(A\)と\(\omega\)が分かれば、あとは求めたい物理量(周期、振動数、最大速度、最大加速度など)に対応する公式に代入するだけです。
    3. 計算の順序を考える: この問題のように、(1)振幅 → (2)角振動数・周期 → (3)振動数 → (4)最大速度 → (5)最大加速度、という流れが、最もスムーズに計算を進められる順序です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 振幅の決定ミス:
    • 誤解: ばねの伸びや縮みの値を、そのまま振幅だと考えてしまう。
    • 対策: 振幅は必ず「振動の中心からの最大変位」であると定義に立ち返ります。この問題では、中心(つり合いの位置)から引いた距離がそのまま振幅になりますが、例えば「自然長から伸ばして手を離す」鉛直ばね振り子の場合は、中心がずれているため注意が必要です。
  • 角振動数\(\omega\)の計算ミス:
    • 誤解: \(\omega = \sqrt{m/k}\) のように、公式の分子・分母を逆にしてしまう。
    • 対策: 物理的な意味を考えます。「ばねが硬い(\(k\)大)ほど速く振動する(\(\omega\)大)」「おもりが重い(\(m\)大)ほどゆっくり振動する(\(\omega\)小)」ので、\(k\)が分子、\(m\)が分母に来ると覚えます。
  • 周期と振動数の混同:
    • 誤解: 周期を求められているのに振動数を答えたり、その逆をしてしまう。
    • 対策: 単位を確認します。周期の単位は[s]、振動数の単位は[Hz]です。言葉の意味(周期は1回あたりの時間、振動数は1秒あたりの回数)をしっかり区別します。
  • 最大値の公式の混同:
    • 誤解: \(v_{\text{max}}\)と\(a_{\text{max}}\)の公式で、\(\omega\)を1乗するか2乗するかを混同する。
    • 対策: 次元(単位)でチェックします。速度[m/s] = 振幅[m] × 角振動数[rad/s]、加速度[m/s²] = 振幅[m] × 角振動数²[rad²/s²]、と単位の次元が合っていることを確認すると、間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 角振動数の公式 (\(\omega = \sqrt{k/m}\)):
    • 選定理由: (2)で周期を求めるために、まず運動のペースを決める\(\omega\)を計算する必要があります。水平ばね振り子において、\(\omega\)を力学的な量(\(m, k\))から決定する基本公式がこれだからです。
    • 適用根拠: 水平ばね振り子の運動方程式は \(ma = -kx\) です。一方、単振動の加速度は運動学的に \(a = -\omega^2 x\) と表せます。この2式を比較することで、\(m\omega^2 = k\) という関係が導かれ、これを\(\omega\)について解いたものがこの公式です。
  • 周期と角振動数の関係 (\(T=2\pi/\omega\)):
    • 選定理由: (2)で周期\(T\)を求めるため、(1)で計算した\(\omega\)を\(T\)に変換する必要があるからです。
    • 適用根拠: これは角振動数の定義そのものです。角振動数\(\omega\)[rad/s]は、円運動のモデルで1秒間に回転する角度を表します。1周(\(2\pi\)ラジアン)するのにかかる時間が周期\(T\)なので、\(T = 2\pi / \omega\) という関係が成り立ちます。
  • 最大値の公式 (\(v_{\text{max}}=A\omega\), \(a_{\text{max}}=A\omega^2\)):
    • 選定理由: (4),(5)でそれぞれ速さと加速度の最大値を問われているため、これらの公式を直接適用するのが最も効率的です。
    • 適用根拠: これらは、単振動の速度の式 \(v=A\omega\cos(\omega t)\) と加速度の式 \(a=-A\omega^2\sin(\omega t)\) の最大値(三角関数部分が1になるとき)をとったものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 平方根の計算: \(\sqrt{25}\)のような基本的な平方根は瞬時に計算できるようにしておきます。
  • 円周率\(\pi\)の扱い: 問題文で\(\pi=3.14\)と指定されている場合は、その値を使って計算します。指定がない場合は、文字\(\pi\)のまま答えるのが基本です。
  • 有効数字: 問題文の数値(50N/m, 2.0kg, 0.30m)がすべて有効数字2桁なので、最終的な答えも2桁に丸めるのが適切です。計算途中では、3桁以上の精度で計算を進め、最後に丸めるようにします。
  • 一貫性の確認: (2)で求めた周期\(T\)と(3)で求めた振動数\(f\)が、\(T \times f \approx 1\) の関係を満たしているか検算することで、計算ミスがないかを確認できます。(例: \(1.256 \times 0.796 \approx 0.999…\))

143 ばね振り子の周期

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばね振り子の周期に影響を与える要因」です。単振動の周期の公式を元に、おもりの質量やばねの硬さ(つなぎ方)、振幅といった条件が変化したときに、周期がどのように変わるかを定性的に考察する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動の周期の公式: 周期\(T\)は、質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)を用いて \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) と表されます。
  2. ばねの合成: 複数のばねをつないだとき、1本のばねと見なした場合のばね定数(合成ばね定数)を計算する方法を理解している必要があります。
  3. 単振動の周期の等時性: 単振動の周期は、振幅の大きさによらないという重要な性質があります。
  4. 復元力の比例定数\(K\): 周期の公式に現れる\(K\)は、単振動を引き起こす復元力\(F=-Kx\)における比例定数です。ばね振り子の場合、この\(K\)がばね定数(または合成ばね定数)に相当します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 基準となるばね振り子の周期を \(T_0 = 2\pi\sqrt{m/k}\) とします。
  2. ①〜④の各条件について、質量\(m\)や復元力の比例定数\(K\)が基準の状態からどう変化するかを考えます。
  3. それぞれの周期 \(T_1, T_2, T_3, T_4\) を計算し、基準の周期\(T_0\)と比較します。
  4. 計算した各周期の大きさを比較し、大小関係を決定します。

思考の道筋とポイント
この問題は、単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) が、物理的に何を意味しているかを深く理解しているかを試す問題です。周期は、慣性の大きさを表す「質量\(m\)」と、復元する力の強さを表す「比例定数\(K\)」の2つの要因だけで決まります。

各ケースについて、この\(m\)と\(K\)がどう変化するのかを一つずつ丁寧に分析していきます。
この設問における重要なポイント

  • 周期は、質量\(m\)が大きくなるほど長く、復元力の比例定数\(K\)が大きくなるほど短くなる。
  • ばねを並列につなぐと硬く(\(K\)が大きく)なり、直列につなぐと柔らかく(\(K\)が小さく)なる。
  • 周期は振幅\(A\)には依存しない。

具体的な解説と立式
基準となるばね振り子の周期を\(T_0\)とすると、\(T_0 = 2\pi\sqrt{m/k}\) です。

① 質量が\(2m\)のおもりに取りかえた場合

質量が\(m \rightarrow 2m\)に変化します。ばね定数は\(k\)のままです。
周期\(T_1\)は、
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 2\pi\sqrt{\frac{2m}{k}} \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \left(2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right) \\[2.0ex]&= \sqrt{2}T_0
\end{aligned}
$$

② 同じばねをもう1本並列につないだ場合

質量は\(m\)のままですが、ばねが硬くなります。おもりを\(x\)だけ変位させると、2本のばねからそれぞれ\(kx\)の力がはたらくため、復元力の合力は \(F = -kx – kx = -2kx\) となります。
\(F=-Kx\)の形と比較すると、合成ばね定数(復元力の比例定数)は \(K=2k\) となります。
周期\(T_2\)は、
$$
\begin{aligned}
T_2 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{\sqrt{2}}\left(2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{\sqrt{2}}T_0
\end{aligned}
$$

③ 同じばねをもう1本直列につないだ場合

質量は\(m\)のままですが、ばねが柔らかくなります。おもりに力\(F\)を加えると、2本のばねは同じ力\(F\)で引かれ、それぞれの伸びはフックの法則より\(x_0 = F/k\)となります。ばね全体の伸びは \(x = x_0 + x_0 = 2x_0 = 2F/k\) です。
これを\(F\)について解くと、復元力は \(F = -\frac{k}{2}x\) となります。
\(F=-Kx\)の形と比較すると、合成ばね定数は \(K=k/2\) となります。
周期\(T_3\)は、
$$
\begin{aligned}
T_3 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k/2}} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{\frac{2m}{k}} \\[2.0ex]&= \sqrt{2}T_0
\end{aligned}
$$

④ 振幅を\(2A\)にした場合

単振動の周期は、振幅の大きさにはよりません(周期の等時性)。したがって、周期は変化しません。
周期\(T_4\)は、
$$
\begin{aligned}
T_4 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \\[2.0ex]&= T_0
\end{aligned}
$$

大小関係の比較

以上をまとめると、

  • \(T_1 = \sqrt{2}T_0 \approx 1.41 T_0\)
  • \(T_2 = \frac{1}{\sqrt{2}}T_0 \approx 0.71 T_0\)
  • \(T_3 = \sqrt{2}T_0 \approx 1.41 T_0\)
  • \(T_4 = T_0\)

したがって、周期の大きい順に並べると、\(T_1 = T_3 > T_4 > T_2\) となります。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
  • ばねの合成(並列・直列)
計算過程

この問題は、各条件における周期を基準周期との比較で求めるものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明
  • ①おもりを重くすると、動きが鈍くなるので周期は長くなります。
  • ②ばねを並列に束ねると、硬くなって元に戻る力が強まるので、周期は短くなります。
  • ③ばねを直列につなぐと、全体として伸びやすくなり柔らかくなるので、周期は長くなります。
  • ④振幅を大きくしても、速く動く範囲が広がるだけで、1往復にかかる時間(周期)は変わりません。

これらの大小関係を比較します。

結論と吟味

周期の大小関係は、①=③>④>② となります。
単振動の周期が、慣性(質量)と復元力の強さ(\(K\))のみで決まり、振幅によらないという基本原理を正しく理解できているかを確認する問題です。各ケースでの物理的な変化を正しく数式に反映できました。

解答 ①=③>④>②

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動の周期の公式とその物理的意味
    • 核心: 単振動の周期が \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) という式で与えられることを理解し、この式が物理的に何を意味しているかを解釈できることが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 慣性(質量\(m\))の効果: 周期は質量の平方根に比例します(\(T \propto \sqrt{m}\))。質量が大きいほど物体は動きにくく(慣性が大きい)、振動はゆっくりになるため、周期は長くなります。
      • 復元力の強さ(比例定数\(K\))の効果: 周期は復元力の比例定数\(K\)の平方根に反比例します(\(T \propto 1/\sqrt{K}\))。\(K\)が大きい(=ばねが硬いなど、元に戻ろうとする力が強い)ほど、振動は素早くなるため、周期は短くなります。
  • 単振動の等時性
    • 核心: 単振動の周期は、振幅の大きさによらないという、ガリレオが発見した重要な性質です。
    • 理解のポイント:
      • 振幅が大きくなると、移動する距離は長くなりますが、同時に復元力も大きくなるため、平均の速さも速くなります。この2つの効果がちょうど打ち消し合い、結果として1往復にかかる時間(周期)は変わらない、と直感的に理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 単振り子の周期: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) を元に、「おもりの質量を2倍にしたら?」「振り子の長さを半分にしたら?」「月面(重力加速度が1/6)で実験したら?」といった条件変化に対する周期の変化を問う問題。
    • ばねの切断: 1本のばねを半分に切ると、ばね定数は2倍になる(硬くなる)という性質を利用した周期計算問題。
    • 複合的な条件変化: 「質量を2倍にし、ばねを並列にしたら周期はどうなるか?」など、複数の条件を同時に変化させる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 基準となる周期の式を書き出す: まず、元の状態の周期の公式(この問題なら \(T_0 = 2\pi\sqrt{m/k}\))を明確にします。
    2. 変化するパラメータを特定する: 各設問で、基準の状態から「質量\(m\)」と「復元力の比例定数\(K\)」がそれぞれ何倍になるかを考えます。
    3. ばねの合成: ばねのつなぎ方が変わる場合は、合成ばね定数を求めます。
      • 並列: 硬くなる、このとき \(K_{\text{並列}} = k_1 + k_2\)
      • 直列: 柔らかくなる、このとき \(1/K_{\text{直列}} = 1/k_1 + 1/k_2\)
    4. 振幅の変化は無視する: 周期を問われている場合、振幅の変化は周期に影響しないため、ダミーの情報として無視します。
    5. 変化後の周期を計算し、比較する: 各条件での周期を、基準の周期の何倍になるか、という形で計算し、最後に大小を比較します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ばねの合成の公式の混同:
    • 誤解: 並列と直列の合成ばね定数の公式を逆にしてしまう。
    • 対策: 物理的なイメージで覚えます。「並列」はばねを束ねるので「硬くなる(Kは大きくなる)」→足し算 \(K=k_1+k_2\)。「直列」はばねを長くつなぐので「柔らかくなる(Kは小さくなる)」→逆数の和 \(1/K = 1/k_1 + 1/k_2\)。これは電気抵抗の合成則とは逆の関係であることも覚えておくとよいでしょう。
  • 振幅が周期に影響すると考えてしまう:
    • 誤解: 振幅が2倍になったら、移動距離が長くなるので周期も長くなるだろう、と直感で間違えてしまう。
    • 対策: 「単振動の周期の等時性」という言葉と、その意味(周期は振幅によらない)をセットで正確に記憶します。これは単振動の最も重要な性質の一つです。
  • 周期の公式の依存関係の勘違い:
    • 誤解: 周期が質量の2乗に比例する、などのように、平方根の関係を忘れてしまう。
    • 対策: 公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を正確に覚えることが基本です。平方根(ルート)がついていることを常に意識します。質量が2倍になれば、周期は\(\sqrt{2}\)倍になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: この問題は、様々な条件下での「周期」の大小関係を比較することが目的です。したがって、周期を決定する物理的要因(\(m, K\))を含むこの公式を用いるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: この公式は、単振動という運動モデルの力学的な側面(質量と復元力)と運動学的な側面(周期性)を結びつける、理論の根幹をなすものです。この公式に、各条件における\(m\)と\(K\)の値を代入することで、それぞれの状況における周期を論理的に導き出すことができます。
  • ばねの合成の公式:
    • 選定理由: ②や③のように、ばねの接続方法が変わる場合、それは実質的に復元力の強さ(復元力の比例定数\(K\))が変化することを意味します。その変化の度合いを定量的に計算するために、ばねの合成則が必要となります。
    • 適用根拠: ばねの合成則は、複数のばねを1本の仮想的なばねと見なしたときに、力と伸びの関係(フックの法則)がどうなるかを導いたものです。これにより、複雑なばね系を、周期の公式が適用できる単純な \(F=-Kx\) の形に帰着させることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は定性的な比較が主であり、計算ミスは生じにくいですが、関連する計算問題での注意点は以下の通りです。
  • 平方根の値: \(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{3} \approx 1.73\) などの主要な平方根の近似値は覚えておくと、大小比較がスムーズになります。
  • 基準を明確にする: \(T_1 = \sqrt{2}T_0\) のように、常に元の周期\(T_0\)の何倍になるか、という形で計算を進めると、比較が容易になり、混乱を防げます。
  • 結論の書き方: 大小関係を不等号で示す際は、問題の番号(①, ②など)を使い、大きい順(または小さい順)に並べます。等号が含まれる場合(①=③)も見落とさないように注意します。

144 鉛直ばね振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「鉛直ばね振り子の単振動」です。水平ばね振り子との違い(振動の中心がずれる点)を理解し、単振動の基本量を網羅的に計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いとフックの法則: 鉛直ばね振り子では、重力と弾性力がつり合う位置が振動の中心となります。
  2. 復元力: つり合いの位置からの変位を\(x\)とすると、重力と弾性力の合力は復元力\(F=-kx\)の形になります。
  3. 単振動の基本公式: 周期、振幅、最大速度、最大加速度などを計算する公式を正しく適用することが求められます。
  4. 単振動の各点での特徴: 振動の中心(つり合いの位置)と端(折り返し点)で、速度や加速度がどうなるかを理解していることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、おもりにはたらく力がつり合う位置でのばねの伸びを、力のつり合いの式から求めます。
  2. (2)では、つり合いの位置からずれたときにはたらく力の合力を計算し、それが復元力の形になることを示します。
  3. (3)では、周期の公式を適用し、振動の開始点と中心点の距離から振幅を求めます。
  4. (4),(5)では、単振動の最大値の公式を用いて、速さと加速度の最大値を計算し、そのときのばねの伸びを答えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
力がつり合うときの、ばねの自然長からの伸びを求める問題です。この位置は、後の設問で「単振動の中心」となる重要な点です。おもりにはたらく「重力」と「弾性力」が等しくなるという、力のつり合いの式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い:重力 = 弾性力
  • フックの法則:弾性力 = \(k \times (\text{伸び})\)

具体的な解説と立式
ばねの自然長からの伸びを\(d\)とします。このとき、おもりにはたらく力は、

  • 重力: \(mg\)(下向き)
  • 弾性力: \(kd\)(上向き)

これらがつり合っているので、
$$ mg – kd = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • フックの法則
計算過程

つり合いの式を\(d\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
kd &= mg \\[2.0ex]d &= \frac{mg}{k}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

力がつり合うときのばねの伸びは \(\displaystyle\frac{mg}{k}\) です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{mg}{k}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
つり合いの位置を基準として、そこからさらに\(x\)だけ下方に伸びたときのおもりにはたらく力の合力\(F\)を求めます。鉛直下向きを正として、重力と弾性力の合力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 振動の中心は「力のつり合いの位置」である。
  • 合力を計算する際、ばねの「自然長からの伸び」を正しく考える。
  • 力のつり合いの条件式を利用して、式を簡潔にする。

具体的な解説と立式
つり合いの位置から\(x\)だけ下方に変位したとき、ばねの自然長からの伸びは \((d + x)\) となります。
おもりにはたらく力は、

  • 重力: \(mg\)(下向き、正)
  • 弾性力: \(k(d+x)\)(上向き、負)

したがって、合力\(F\)は、
$$ F = mg – k(d+x) $$
ここで、(1)で求めた力のつり合いの条件 \(mg = kd\) を利用して式を整理します。
この形の力がはたらく運動を「単振動」と呼びます。

使用した物理公式

  • フックの法則
  • 復元力: \(F=-Kx\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= mg – k(d+x) \\[2.0ex]&= mg – kd – kx
\end{aligned}
$$
ここで \(mg – kd = 0\) なので、
$$ F = -kx $$

結論と吟味

合力は \(F = -kx\)。この力は変位\(x\)に比例し、向きが常に逆(中心向き)であるため「復元力」と呼ばれ、この力がはたらく物体の運動は「単振動」です。

解答 (2) \(-kx\), 単振動

問(3)

思考の道筋とポイント
単振動の周期\(T\)と振幅\(A\)を求めます。周期は、質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\)から公式で計算できます。振幅は、振動の中心と端点の距離です。
この設問における重要なポイント

  • 周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
  • 復元力の比例定数\(K\)は、(2)の結果から\(k\)に等しい。
  • 振動の中心:力のつり合いの位置(自然長から\(mg/k\)伸びた点)。
  • 振動の端(スタート地点):「自然の長さ」の位置。
  • 振幅:振動の中心と端の間の距離。

具体的な解説と立式
周期\(T\):

(2)より、復元力の比例定数は\(K=k\)です。周期の公式は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$

振幅\(A\):

振動の中心は「つり合いの位置」(自然長から\(d=mg/k\)下)です。
振動の端は、手をはなした「自然長の位置」です。
したがって、振幅\(A\)は、この2点間の距離になります。
$$ A = d = \frac{mg}{k} $$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
計算過程

公式をそのまま記述します。

結論と吟味

周期は \(2\pi\sqrt{m/k}\)、振幅は \(mg/k\) です。鉛直ばね振り子でも、周期の式は水平ばね振り子と同じ形になることが重要です。

解答 (3) 周期: \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\), 振幅: \(\displaystyle\frac{mg}{k}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
速さの最大値\(v_{\text{max}}\)とそのときのばねの伸びを求めます。単振動において、速さが最大になるのは振動の中心、すなわち「力のつり合いの位置」です。
この設問における重要なポイント

  • 速さは振動の中心で最大になる。
  • 最大速度の公式: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
  • 角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\)。

具体的な解説と立式
速さが最大になるのは振動の中心、すなわち「力のつり合いの位置」です。
(1)より、このときのばねの自然長からの伸びは \(\displaystyle\frac{mg}{k}\) です。

速さの最大値\(v_{\text{max}}\)は、
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$
(3)で求めた振幅 \(A=mg/k\) と、角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_{\text{max}} &= A\omega \\[2.0ex]&= \left(\frac{mg}{k}\right) \times \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]&= g \sqrt{\frac{m^2}{k^2}} \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]&= g \sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

速さの最大値は \(g\sqrt{m/k}\)、そのときの伸びは \(mg/k\) です。

解答 (4) 速さ: \(g\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\), 伸び: \(\displaystyle\frac{mg}{k}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
加速度の大きさの最大値\(a_{\text{max}}\)とそのときのばねの伸びを求めます。単振動において、加速度の大きさが最大になるのは、力が最大になる振動の両端です。
この設問における重要なポイント

  • 加速度の大きさは振動の端で最大になる。
  • 最大加速度の公式: \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)
  • 振動の端は、上端(自然長の位置)と下端(つり合いの位置から振幅だけ下の位置)の2点。

具体的な解説と立式
加速度の大きさが最大になるのは振動の両端です。

  • 上端: 手をはなした「自然長の位置」。このときの伸びは 0。
  • 下端: 振動の中心(伸び\(mg/k\))から、さらに振幅\(A=mg/k\)だけ下の位置。このときの伸びは \(mg/k + mg/k = 2mg/k\)。

よって、求める伸びは 0 と \(2mg/k\) です。

加速度の最大値\(a_{\text{max}}\)は、
$$ a_{\text{max}} = A\omega^2 $$
(3)で求めた振幅 \(A=mg/k\) と、角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) (\(\omega^2 = k/m\)) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の最大加速度: \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
a_{\text{max}} &= A\omega^2 \\[2.0ex]&= \left(\frac{mg}{k}\right) \times \left(\frac{k}{m}\right) \\[2.0ex]&= g
\end{aligned}
$$

結論と吟味

加速度の大きさの最大値は \(g\)、そのときの伸びは 0 と \(2mg/k\) です。
特に、上端(自然長の位置)では、おもりにはたらく力は重力\(mg\)のみです。このときの運動方程式は \(ma = mg\) となり、\(a=g\) となります。これは計算結果と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (5) 加速度の大きさ: \(g\), 伸び: 0 と \(\displaystyle\frac{2mg}{k}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 鉛直ばね振り子における「振動中心のずれ」と「復元力」
    • 核心: 鉛直ばね振り子では、重力が常にはたらくため、振動の中心がばねの「自然長の位置」から「力のつり合いの位置」までずれること。そして、そのつり合いの位置を基準にすれば、重力と弾性力の合力は、水平ばね振り子と全く同じ形の復元力 \(F=-kx\) になること。この2点を理解することが、この問題を解く上での絶対的な核心です。
    • 理解のポイント:
      • 力のつり合いの位置: \(kd = mg\) となる点。
      • 振動の中心: 上記のつり合いの位置。
      • 復元力: \(F_{\text{合力}} = mg – k(d+x) = (mg-kd) – kx = -kx\)。重力の影響は、つり合いの位置をずらすだけで、復元力の比例定数には影響しない。
  • 単振動の基本量と公式の適用
    • 核心: 振動の中心と復元力の形が分かれば、あとは振幅、周期、最大速度、最大加速度といった単振動の基本量を、定義と公式に従って正確に計算できること。
    • 理解のポイント:
      • 振幅\(A\): 振動の中心と端の間の距離。この問題では、中心(つり合いの位置)と端(自然長)の距離なので、\(A=d=mg/k\)。
      • 周期\(T\): 復元力の比例定数が\(k\)なので、\(T=2\pi\sqrt{m/k}\)。
      • 最大値: \(v_{\text{max}}=A\omega\), \(a_{\text{max}}=A\omega^2\)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上でのばね振り子: 重力の斜面方向の成分と弾性力がつり合う位置が振動の中心となる。考え方は鉛直ばね振り子と全く同じ。
    • 単振り子: 鉛直最下点が振動の中心。振れ角が小さいという近似の下で、重力の接線成分が復元力となり単振動と見なせる。
    • 力学的エネルギー保存則との組み合わせ: 振動の端と中心など、2点間でのエネルギー保存則の式を立てて、速さなどを求める問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 振動の中心を特定する: まず、物体にはたらく力がすべてつり合う「力のつり合いの位置」を求めます。これが単振動の中心(座標の原点)になります。
    2. 振幅を決定する: 次に、振動の開始点(「静かにはなした」点など)を特定します。振動の中心と、この開始点(端)との距離が振幅\(A\)です。
    3. 角振動数を計算する: 復元力の比例定数\(K\)(この問題では\(k\))と質量\(m\)から、角振動数\(\omega = \sqrt{K/m}\)を計算します。
    4. 各種公式を適用する: \(A\)と\(\omega\)が分かれば、周期(\(T=2\pi/\omega\))、振動数(\(f=1/T\))、最大速度(\(v_{\text{max}}=A\omega\))、最大加速度(\(a_{\text{max}}=A\omega^2\))など、すべての量を計算できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 振動の中心を自然長の位置と勘違いする:
    • 誤解: 水平ばね振り子と同じように、自然長の位置が振動の中心だと思ってしまう。
    • 対策: 「単振動の中心は、力がつり合う点」と徹底して覚えます。鉛直方向では重力がはたらくため、必ずつり合いの位置は自然長からずれます。
  • 振幅の計算ミス:
    • 誤解: ばねの最大の伸び(この問題では\(2mg/k\))を振幅だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 振幅は「中心から端までの距離」です。この問題では、中心(伸び\(mg/k\))から上端(伸び0)までの距離なので、\(A=mg/k\)となります。
  • 復元力に重力を含めてしまう:
    • 誤解: (2)で、つり合いの位置を基準にしているにもかかわらず、合力の式に重力\(mg\)を残してしまい、式が複雑になる。
    • 対策: つり合いの位置を基準にすると、重力は見かけ上消去され、復元力はばねの弾性力の変化分だけになる(\(F=-kx\))という、鉛直ばね振り子の最も重要な性質を理解し、利用します。
  • 最大加速度のときの伸び:
    • 誤解: 加速度が最大になるのは下端だけだと思い、伸びが\(2mg/k\)だけだと答えてしまう。
    • 対策: 加速度の「大きさ」が最大になるのは、力が最大になる振動の両端です。したがって、上端(伸び0)と下端(伸び\(2mg/k\))の両方が答えになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(kd=mg\)):
    • 選定理由: (1)で振動の中心の位置を特定するため、また(2)で復元力の式を導出するために不可欠な、系の静的な性質を表す基本式だからです。
    • 適用根拠: 物体が静止している状態では、ニュートンの運動法則から、合力がゼロになるという条件が適用されます。
  • 復元力の導出 (\(F=-kx\)):
    • 選定理由: この運動が単振動であることを証明し、その復元力の比例定数\(K\)を特定するために必要な計算です。
    • 適用根拠: つり合いの位置からの変位\(x\)に対して、物体にはたらく合力を計算することで、運動の性質を力学的に明らかにします。
  • 周期、最大速度、最大加速度の公式:
    • 選定理由: それぞれの問題で問われている物理量を、単振動の基本パラメータ(\(A, \omega\))から計算するための、最も直接的な公式だからです。
    • 適用根拠: これらの公式はすべて、単振動の運動方程式を解くことで得られる数学的な帰結です。高校物理では、これらの結果を公式として活用し、様々な状況に適用する能力が問われます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の計算に慣れる: この問題のように、具体的な数値ではなく文字式で答える問題では、文字のまま計算を進める能力が重要です。
  • 約分と整理: (4)の\(v_{\text{max}}\)の計算のように、\(\left(\frac{mg}{k}\right) \times \sqrt{\frac{k}{m}}\) となったら、\(g\)を外に出し、\(\frac{m}{k} = \sqrt{\frac{m^2}{k^2}}\) と変形してルートの中に入れるなど、指数法則や平方根の計算をスムーズに行えるように練習します。
  • 物理的な検算: (5)で求めた最大加速度が\(g\)になるという結果は、上端(自然長の位置)でのおもりの運動方程式 \(ma=mg\) からも \(a=g\) と導出でき、計算の正しさを裏付けられます。このように、別の角度から結果を検証する癖をつけると、理解が深まり、ミスも減ります。

145 単振り子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振り子の単振動」です。単振り子の運動が、なぜ特定の条件下で単振動と見なせるのか、その導出過程と周期の公式を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の分解: おもりにはたらく重力を、糸の張力とつり合う成分と、運動方向(円弧の接線方向)の成分に分解します。
  2. 復元力: 運動方向の力の成分が、おもりを最下点(つり合いの位置)に戻そうとする復元力としてはたらきます。
  3. 近似式: 振れ角\(\theta\)が非常に小さいとき、\(\sin\theta \approx \theta\) という近似が成り立ちます。これが、単振り子の運動を単振動と見なすための鍵となります。
  4. 弧度法: 角度\(\theta\)と円弧の長さ\(x\)、半径\(L\)の関係(\(x = L\theta\))を弧度法で理解している必要があります。
  5. 単振動の周期の公式: 復元力の比例定数\(K\)が分かれば、周期は \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (①) おもりにはたらく重力を分解し、運動方向の成分を求めます。
  2. (②) \(\sin\theta \approx \theta\) と \(x=L\theta\) の関係を使い、(①)で求めた力を変位\(x\)の式で表します。
  3. (③) (②)で求めた力が、変位に比例し中心を向く力であることを確認し、その名称を答えます。
  4. (④) (②)の結果から復元力の比例定数\(K\)を特定し、周期の公式に代入して周期を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、単振り子の周期の公式を導出するプロセスを穴埋め形式で追っていくものです。各ステップが物理的に何を意味しているのかを理解しながら進めることが重要です。

  • ① 運動方向の力おもりにはたらく力は「重力\(mg\)」と「糸の張力\(T\)」です。運動方向は円弧の接線方向なので、この方向に射影した力の成分を考えます。張力は運動方向と常に垂直なので、寄与しません。重力\(mg\)を分解すると、運動方向には、最下点Oを向く成分が現れます。
  • ② 近似を用いた力の表現①で求めた力は\(\sin\theta\)を含んでおり、このままでは変位に比例する復元力の形になっていません。ここで「\(\theta\)が小さい」という条件を使い、\(\sin\theta \approx \theta\) と近似します。さらに、弧度法の定義から \(\theta = x/L\) と変形できるので、力を変位\(x\)の関数として表すことができます。
  • ③ 力の名称②で求めた力の形が \(F = -(\text{定数}) \times x\) となっていることを確認します。これは単振動を引き起こす力です。
  • ④ 周期の計算\(F=-Kx\) の形から復元力の比例定数\(K\)を特定し、質量\(m\)とともに周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入します。

この設問における重要なポイント

  • 力を運動方向(接線方向)と半径方向に分解する。
  • 近似式 \(\sin\theta \approx \theta\) が単振動の鍵である。
  • 弧度法の関係式 \(\theta = x/L\) を用いる。

具体的な解説と立式
① 運動方向の力の成分

おもりにはたらく重力\(mg\)を、糸の方向に平行な成分と、円弧の接線方向(運動方向)に垂直な成分に分解します。
運動方向の成分は、図より、変位\(x\)と逆向き(中心O向き)で、その大きさは \(mg\sin\theta\) です。
座標の正の向き(右向き)を考えると、この力の成分は、
$$ F_{\theta} = -mg\sin\theta $$

② 近似を用いた力の表現

ここで、\(\theta\)が非常に小さいという条件を使います。
まず、三角関数の近似式 \(\sin\theta \approx \theta\) を用いると、①の力は次のように近似できます。
$$ F_{\theta} \approx -mg\theta $$
次に、弧度法の定義より、円弧の長さ\(x\)、半径\(L\)、中心角\(\theta\)の間には \(x = L\theta\) の関係があります。これを変形すると \(\theta = x/L\) となります。
これを上の式に代入すると、
$$ F_x \approx -mg\left(\frac{x}{L}\right) = -\frac{mg}{L}x $$

③ 力の名称

②で求めた力 \(F_x = -\left(\frac{mg}{L}\right)x\) は、変位\(x\)に比例し、向きが常に逆(中心向き)です。このような力を復元力と呼びます。

④ 周期の公式

復元力の式 \(F_x = -Kx\) と②の結果を比較すると、単振り子の復元力の比例定数\(K\)は、
$$ K = \frac{mg}{L} $$
となります。これを単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入します。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{mg/L}} = 2\pi\sqrt{\frac{L}{g}} $$

使用した物理公式

  • 力の分解
  • 復元力: \(F=-Kx\)
  • 近似式: \(\sin\theta \approx \theta\) (for small \(\theta\))
  • 弧度法: \(x=L\theta\)
  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
計算過程

この問題は、公式を導出する過程を問うものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明
  1. 振り子を元の位置に戻そうとする力は、重力の一部で、その大きさは \(mg\sin\theta\) です。
  2. 振れ角\(\theta\)がとても小さいとき、\(\sin\theta\)はほぼ\(\theta\)と同じと見なせます。また、\(\theta\)は「中心からのズレ\(x\) ÷ 糸の長さ\(L\)」で表せます。これらを使うと、戻そうとする力は \(F = -(mg/L)x\) という、変位\(x\)に比例する形になります。
  3. 変位に比例する中心向きの力を「復元力」といい、この力がはたらくと物体は単振動します。
  4. 単振動の周期は、復元力の比例定数(今回は\(mg/L\))を使って計算でき、結果として \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) となります。
結論と吟味

各空欄に当てはまる語句と式は以下の通りです。

  1. \(-mg\sin\theta\)
  2. \(-\displaystyle\frac{mg}{L}x\)
  3. 復元
  4. \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{L}{g}}\)

単振り子の運動が、なぜ振幅が小さいときに単振動と見なせるのか、その物理的な理由と数学的な導出過程を理解することが重要です。特に、周期の公式に質量\(m\)が含まれない(おもりの重さによらない)という点は、単振り子の重要な性質(周期の等時性)です。

解答 上記の通り

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振り子の復元力と単振動への近似
    • 核心: 単振り子にはたらく力を分解すると、運動方向の成分(復元力)は \(F = -mg\sin\theta\) となり、厳密には単振動ではありません。しかし、「振れ角\(\theta\)が非常に小さい」という条件下で \(\sin\theta \approx \theta\) という近似を用いることで、復元力が変位\(x\)に比例する形 \(F \approx -(mg/L)x\) に帰着させられること。この「近似による単振動モデル化」が、単振り子を理解する上での最大の核心です。
    • 理解のポイント:
      • 力の分解: 重力を円弧の接線方向と半径方向に分解し、運動を引き起こす成分を特定することが第一歩です。
      • 近似の妥当性: なぜ近似が必要なのか(\(\sin\theta\)のままでは\(F=-Kx\)の形にならないから)、そしてその近似が成り立つ条件(\(\theta\)が小さい)を理解することが重要です。
  • 復元力の比例定数\(K\)の同定と周期の公式への適用
    • 核心: 近似によって得られた復元力の式 \(F = -(mg/L)x\) を、単振動の基本形式 \(F=-Kx\) と比較し、単振り子における復元力の比例定数が \(K=mg/L\) であると特定すること。そして、これを周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入することで、単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) を導出できること。
    • 理解のポイント:
      • \(K\)の特定: \(F=-Kx\) の \(K\) は、単振動の種類によって形が変わる「汎用的な比例定数」です。ばね振り子では\(k\)、単振り子では\(mg/L\)となります。
      • 周期の公式の導出: 周期の公式に \(K=mg/L\) を代入すると、質量\(m\)が約分されて消え、周期が糸の長さ\(L\)と重力加速度\(g\)のみで決まる、という重要な結論が導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上での単振動: 斜面上に置かれた凹面を滑る小球の運動など。重力の斜面方向成分をさらに分解し、復元力を求めることで単振動として扱える場合があります。
    • 物理振り子: 棒や板のような、大きさのある物体を一点で吊るして振動させる問題。重心の位置と慣性モーメントを使って、より一般化された周期の計算を行います。
    • 条件変化問題: 「糸の長さを4倍にしたら周期は何倍になるか?」「月面で実験したら周期はどうなるか?」といった、周期の公式の依存性を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動を支配する力を特定し、分解する: まず、物体にはたらく力をすべて図示し、運動方向(円弧の接線方向)とそれに垂直な方向に分解します。
    2. 復元力を求める: 運動方向の力の合力を計算し、それがつり合いの位置(最下点)を向く復元力となっていることを確認します。
    3. 単振動の近似が可能か確認する: 復元力が変位\(x\)の単純な比例関係になっていない場合(例: \(\sin\theta\)を含む)、単振動と見なすための近似条件(例: \(\theta\)が小さい)が使えないか検討します。
    4. 復元力の比例定数\(K\)を特定する: \(F=-Kx\)の形に変形し、\(K\)を求めます。
    5. 周期の公式を適用する: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入して周期を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 復元力と重力の混同:
    • 誤解: 復元力の大きさを、重力そのものである\(mg\)と勘違いしてしまう。
    • 対策: 復元力は、あくまで重力を分解した「接線方向の成分」であることを徹底します。図を描いて力を分解する癖をつけることが重要です。
  • 近似の条件を忘れる:
    • 誤解: どんな振幅でも、単振り子の周期は \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) で与えられると思ってしまう。
    • 対策: この公式は、あくまで「振れ角が小さい」という近似の下で成り立つものであることを常に意識します。振幅が大きくなると、周期は厳密にはこの公式からずれていきます。
  • 弧度法と度数法の混同:
    • 誤解: \(\sin\theta \approx \theta\) や \(x=L\theta\) といった関係式を、\(\theta\)が度数法で表されている場合にも使ってしまう。
    • 対策: これらの近似式や関係式は、角度\(\theta\)が「ラジアン」単位で測られている場合にのみ成り立ちます。物理、特に回転運動や振動・波動の分野では、角度はラジアンで扱うのが基本です。
  • 周期の公式の依存関係の勘違い:
    • 誤解: 単振り子の周期がおもりの質量\(m\)に依存すると思ってしまう。
    • 対策: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) を正確に覚え、この式には\(m\)が含まれていないことを確認します。これは、復元力の比例定数\(K=mg/L\)に\(m\)が含まれているため、最終的に約分されて消えるからです。この「質量によらない」という性質(周期の等時性)は、単振り子の最も重要な特徴の一つです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力の分解:
    • 選定理由: おもりの運動は円弧に沿ったものなので、運動を分析するには、力を運動方向(接線方向)とそれに垂直な方向(半径方向)に分解するのが最も合理的だからです。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則はベクトル方程式であり、各成分ごとに独立して成り立ちます。運動方向の力の成分を考えることで、運動の加速度を直接的に記述できます。
  • 近似式 (\(\sin\theta \approx \theta\)):
    • 選定理由: 復元力 \(F=-mg\sin\theta\) を、単振動の基本形式である \(F=-Kx\) に結びつけるために、この数学的な近似が必要不可欠だからです。
    • 適用根拠: テイラー展開(大学数学)の初項をとったものであり、\(\theta\)が0に近いほど精度が高くなります。高校物理では、この近似によって多くの複雑な現象を、単振動という扱いやすいモデルで分析できるようになります。
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: 運動が単振動であることが分かれば、その周期を力学的な性質(質量\(m\)と復元力の比例定数\(K\))から計算するための普遍的な公式がこれだからです。
    • 適用根拠: この公式は、あらゆる単振動に共通して成り立つ関係式です。単振り子に特有の\(K=mg/L\)を代入することで、単振り子専用の周期の公式が導出されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は公式導出が主であり、計算ミスは生じにくいですが、関連する計算問題での注意点は以下の通りです。
  • 文字式の扱いに慣れる: \(m, g, L\) などの文字式のまま計算を進め、最終的にどの文字が残るのか(あるいは消えるのか)を正確に追跡する能力が重要です。
  • 単位の確認: \(L\)は[m]、\(g\)は[m/s²]なので、\(\sqrt{L/g}\) の単位は \(\sqrt{\text{m} / (\text{m/s}^2)} = \sqrt{\text{s}^2} = \text{s}\) となり、周期の単位と一致することを確認する(次元解析)と、公式の形を間違えていないかチェックできます。
  • 物理的意味の再確認: 導出された周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) が、物理的な直感と合っているか考えます。「糸が長いほどゆっくり振れる(周期が長い)」「重力が強い(例:木星)ほど速く振れる(周期が短い)」という直感と、式の依存関係が一致していることを確認します。

146 単振り子の周期

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振り子の周期に影響を与える要因」です。単振り子の周期の公式を元に、おもりの質量、糸の長さ、振幅、重力加速度といった条件が変化したときに、周期がどのように変わるかを定性的に考察する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振り子の周期の公式: 振幅が小さいとき、単振り子の周期\(T\)は、糸の長さ\(L\)と重力加速度\(g\)を用いて \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) と表されます。
  2. 周期の依存性: この公式から、周期がどの物理量に依存し、どの物理量に依存しないかを正確に理解することが重要です。
  3. 単振り子の周期の等時性: 単振り子の周期は、おもりの質量や振幅の大きさによらないという重要な性質があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 基準となる単振り子の周期を \(T_0 = 2\pi\sqrt{L/g}\) とします。
  2. ①〜④の各条件について、糸の長さ\(L\)や重力加速度\(g\)が基準の状態からどう変化するかを考えます。
  3. それぞれの周期 \(T_1, T_2, T_3, T_4\) を計算し、基準の周期\(T_0\)と比較します。
  4. 計算した各周期の大きさを比較し、大小関係を決定します。

思考の道筋とポイント
この問題は、単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) が、物理的に何を意味しているかを深く理解しているかを試す問題です。周期は、「糸の長さ\(L\)」と「重力加速度\(g\)」の2つの要因だけで決まります。

各ケースについて、この\(L\)と\(g\)がどう変化するのか、あるいは変化しないのかを一つずつ丁寧に分析していきます。
この設問における重要なポイント

  • 周期は、糸の長さ\(L\)が長くなるほど長く、重力加速度\(g\)が大きくなるほど短くなる。
  • 周期は、おもりの質量\(m\)や振幅\(A\)には依存しない。

具体的な解説と立式
基準となる単振り子の周期を\(T_0\)とすると、\(T_0 = 2\pi\sqrt{L/g}\) です。

① 質量が\(2m\)のおもりに取りかえる場合

単振り子の周期は、おもりの質量\(m\)によりません。したがって、周期は変化しません。
周期\(T_1\)は、
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g}} \\[2.0ex]&= T_0
\end{aligned}
$$

② 糸の長さを\(2L\)にする場合

糸の長さが\(L \rightarrow 2L\)に変化します。重力加速度は\(g\)のままです。
周期\(T_2\)は、
$$
\begin{aligned}
T_2 &= 2\pi\sqrt{\frac{2L}{g}} \\[2.0ex]&= \sqrt{2}\left(2\pi\sqrt{\frac{L}{g}}\right) \\[2.0ex]&= \sqrt{2}T_0
\end{aligned}
$$

③ 振幅を\(2A\)にする場合

単振り子の周期は、振幅\(A\)の大きさによりません(周期の等時性)。したがって、周期は変化しません。
周期\(T_3\)は、
$$
\begin{aligned}
T_3 &= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g}} \\[2.0ex]&= T_0
\end{aligned}
$$

④ 重力加速度が\(1/6\)の月面で振らせる場合

重力加速度が\(g \rightarrow g/6\)に変化します。糸の長さは\(L\)のままです。
周期\(T_4\)は、
$$
\begin{aligned}
T_4 &= 2\pi\sqrt{\frac{L}{g/6}} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{\frac{6L}{g}} \\[2.0ex]&= \sqrt{6}\left(2\pi\sqrt{\frac{L}{g}}\right) \\[2.0ex]&= \sqrt{6}T_0
\end{aligned}
$$

大小関係の比較

以上をまとめると、

  • \(T_1 = T_0\)
  • \(T_2 = \sqrt{2}T_0 \approx 1.41 T_0\)
  • \(T_3 = T_0\)
  • \(T_4 = \sqrt{6}T_0 \approx 2.45 T_0\)

したがって、周期の大きい順に並べると、\(T_4 > T_2 > T_1 = T_3\) となります。

使用した物理公式

  • 単振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{L/g}\)
計算過程

この問題は、各条件における周期を基準周期との比較で求めるものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明
  • ①おもりの重さを変えても、振り子の周期は変わりません。
  • ②糸を長くすると、振り子がゆっくり動くので周期は長くなります。
  • ③振る幅を大きくしても、1往復にかかる時間(周期)は変わりません。
  • ④月面のように重力が弱い場所では、元に戻ろうとする力が弱くなるので、周期は長くなります。

これらの大小関係を比較します。

結論と吟味

周期の大小関係は、④>②>①=③ となります。
単振り子の周期が、糸の長さと重力加速度のみで決まり、質量や振幅によらないという基本原理を正しく理解できているかを確認する問題です。各ケースでの物理的な変化を正しく数式に反映できました。

解答 ④>②>①=③

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振り子の周期の公式とその物理的意味
    • 核心: 振幅が小さいとき、単振り子の周期が \(T=2\pi\sqrt{L/g}\) という式で与えられることを理解し、この式が物理的に何を意味しているかを解釈できることが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 糸の長さ\(L\)の効果: 周期は糸の長さ\(L\)の平方根に比例します(\(T \propto \sqrt{L}\))。糸が長いほど、振り子はゆったりと振れるため、周期は長くなります。
      • 重力加速度\(g\)の効果: 周期は重力加速度\(g\)の平方根に反比例します(\(T \propto 1/\sqrt{g}\))。重力が強い(\(g\)が大きい)ほど、おもりを最下点に戻そうとする復元力が強くなるため、振動は素早くなり、周期は短くなります。
  • 単振り子の周期の等時性
    • 核心: 単振り子の周期は、おもりの質量\(m\)や振幅\(A\)の大きさによらないという、ガリレオが発見した重要な性質です。
    • 理解のポイント:
      • 質量\(m\)によらない理由: 復元力(重力の接線成分)は\(mg\sin\theta\)であり、質量\(m\)に比例します。一方、慣性の大きさも質量\(m\)に比例します。運動方程式 \(ma = -mg\sin\theta\) の両辺から\(m\)が消去されるため、運動の様子(加速度)が質量によらなくなり、結果として周期も質量に依存しません。
      • 振幅\(A\)によらない理由: 振幅が小さいという近似の下では、振幅が大きくなると移動距離は長くなりますが、同時に復元力も大きくなるため平均の速さも速くなります。この効果が打ち消し合い、周期は一定に保たれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子の周期: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) を元に、「質量を2倍にしたら?」「ばね定数を半分にしたら?」といった条件変化に対する周期の変化を問う問題。
    • エレベーター内の振り子: 加速または減速するエレベーター内で振り子を振らせる問題。見かけの重力が変化するため、周期の公式の\(g\)が \(g+a\) や \(g-a\) に置き換わります。
    • 振り子時計の進み・遅れ: 夏と冬で振り子の長さが金属の熱膨張によって変化し、時計の進みや遅れが生じる原因を周期の公式から考察する問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 基準となる周期の式を書き出す: まず、元の状態の周期の公式(この問題なら \(T_0 = 2\pi\sqrt{L/g}\))を明確にします。
    2. 変化するパラメータを特定する: 各設問で、基準の状態から「糸の長さ\(L\)」と「重力加速度\(g\)」がそれぞれ何倍になるかを考えます。
    3. 変化しないパラメータ(ダミー情報)を無視する: 周期を問われている場合、質量\(m\)や振幅\(A\)の変化は周期に影響しないため、ダミーの情報として無視します。
    4. 変化後の周期を計算し、比較する: 各条件での周期を、基準の周期の何倍になるか、という形で計算し、最後に大小を比較します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 周期が質量に依存すると考えてしまう:
    • 誤解: 重いおもりの方が速く振れそう、あるいは遅く振れそう、と直感で間違えてしまう。
    • 対策: 「単振り子の周期は質量によらない」という法則を明確に記憶します。これは、重いものも軽いものも同じ加速度で落下する「落体の法則」と根は同じです。
  • 周期が振幅に依存すると考えてしまう:
    • 誤解: 振幅が大きくなると移動距離が長くなるので、周期も長くなるだろうと考えてしまう。
    • 対策: 「単振り子の周期の等時性」という言葉と、その意味(振幅が小さい範囲では、周期は振幅によらない)をセットで正確に記憶します。
  • 周期の公式の分子・分母の混同:
    • 誤解: 周期の公式を \(T=2\pi\sqrt{g/L}\) と間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 物理的なイメージで覚えます。「糸が長い(\(L\)大)ほどゆっくり(周期大)なる」ので、\(L\)は分子。「重力が強い(\(g\)大)ほど素早く(周期小)なる」ので、\(g\)は分母、と覚えると間違いにくくなります。また、次元解析(単位のチェック)も有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 単振り子の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{L/g}\)):
    • 選定理由: この問題は、様々な条件下での「周期」の大小関係を比較することが目的です。したがって、単振り子の周期を決定する物理的要因(\(L, g\))を含むこの公式を用いるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: この公式は、単振り子の運動方程式を、振幅が小さいという近似の下で解くことによって導出される、単振り子の運動の本質を表す関係式です。この公式に、各条件における\(L\)と\(g\)の値を代入することで、それぞれの状況における周期を論理的に導き出すことができます。公式の成り立ちを理解していれば、どのパラメータが周期に影響し、どれが影響しないかを自信を持って判断できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は定性的な比較が主であり、計算ミスは生じにくいですが、関連する計算問題での注意点は以下の通りです。
  • 平方根の値: \(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{6} \approx 2.45\) などの主要な平方根の近似値は覚えておくと、大小比較がスムーズになります。
  • 基準を明確にする: \(T_2 = \sqrt{2}T_0\) のように、常に元の周期\(T_0\)の何倍になるか、という形で計算を進めると、比較が容易になり、混乱を防げます。
  • 結論の書き方: 大小関係を不等号で示す際は、問題の番号(①, ②など)を使い、大きい順(または小さい順)に並べます。等号が含まれる場合(①=③)も見落とさないように注意します。

147 摩擦のある運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「摩擦のある面上でのばね振り子の運動」です。動摩擦力がはたらくことで、単振動の中心がずれ、エネルギーが失われていく(減衰振動)という、より現実的な振動モデルを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 動摩擦力: 物体が運動しているときにはたらく一定の大きさの摩擦力で、向きは常に運動方向と逆になります。大きさは \(f’ = \mu’N\) で与えられます。
  2. 力のつり合い: 鉛直方向では、重力と垂直抗力がつり合っています。
  3. 単振動の中心のずれ: 水平方向の合力を計算すると、ばねの弾性力と動摩擦力の和になります。この合力がゼロになる点が、その運動区間における「見かけの振動中心」となります。
  4. 単振動の周期: 摩擦力は一定なので、復元力の比例定数\(K\)はばね定数\(k\)と等しくなります。したがって、周期は摩擦がない場合と同じ \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、物体がx軸の負の向きに運動している状況を考えます。このとき、動摩擦力は運動を妨げる向き、すなわちx軸の正の向きにはたらきます。ばねの弾性力と動摩擦力の合力を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた合力の式を \(F=-k(x-x_0)\) の形に変形し、振動の中心がずれた単振動であることを理解します。手をはなした点から、この新しい振動中心を挟んで反対側まで運動するのにかかる時間は、単振動の半周期分に相当することを利用して時間を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体がx軸の正の向きから負の向きへ運動しているとき、位置\(x\)にある物体にはたらく水平方向の合力\(F\)を求める問題です。水平方向にはたらく力は「ばねの弾性力」と「動摩擦力」の2つです。それぞれの力の向きと大きさを正しく評価し、足し合わせます。
この設問における重要なポイント

  • ばねの弾性力: \(F_k = -kx\) (原点Oが自然長なので、変位\(x\)に対して常に負の向き)。
  • 動摩擦力: 運動方向と逆向きにはたらく。物体は負の向きに運動しているので、動摩擦力は正の向きにはたらく。
  • 動摩擦力の大きさ: \(f’ = \mu’N\)。鉛直方向の力のつり合いから \(N=mg\) となる。

具体的な解説と立式
物体の位置が\(x\)のとき、水平方向にはたらく力は以下の通りです。

  • ばねの弾性力: ばねは\(x\)だけ伸びているので、物体を負の向きに引きます。その大きさは\(kx\)なので、力としては \(-kx\)。
  • 動摩擦力: 物体はx軸の負の向きに運動しているので、動摩擦力は運動を妨げるx軸の正の向きにはたらきます。その大きさは \(\mu’N\) です。鉛直方向の力のつり合い \(N-mg=0\) より \(N=mg\) なので、動摩擦力の大きさは \(\mu’mg\) となります。力としては \(+\mu’mg\)。

したがって、水平方向の合力\(F\)は、
$$ F = -kx + \mu’mg $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F_k = -kx\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
  • 力のつり合い
計算過程

上記立式の通りです。

結論と吟味

物体にはたらく水平成分は \(F = -kx + \mu’mg\) です。力の向きを正しく判断し、合力を計算できました。

解答 (1) \(-kx + \mu’mg\)

問(2)

思考の道筋とポイント
物体をはなしてから、速度が初めて0になるまでの時間\(t_1\)を求める問題です。これは、単振動の端から端まで移動する時間に相当します。

(1)で求めた合力の式を、単振動の復元力の形 \(F=-K(x-x_c)\) に変形することで、この運動がどの点を中心とした単振動なのかを特定します。
手をはなした点(最初の端)から、速度が0になる点(次の端)までの運動は、このずれた中心を持つ単振動の半周期分の運動と見なせます。
この設問における重要なポイント

  • 摩擦がある場合の運動は、振動中心がずれた単振動と見なせる。
  • 合力の式を \(F=-K(x-x_c)\) の形に変形し、振動中心\(x_c\)と復元力の比例定数\(K\)を求める。
  • 端から端までの移動時間は、周期の半分 (\(T/2\)) である。

具体的な解説と立式
(1)で求めた合力の式は、
$$ F = -kx + \mu’mg $$
この式を、係数\(-k\)でくくり、復元力の形に変形すると、
$$ F = -k\left(x – \frac{\mu’mg}{k}\right) $$
これは、\(x_c = \displaystyle\frac{\mu’mg}{k}\) を振動の中心とする、復元力の比例定数が\(k\)の単振動の復元力を表しています。
この単振動の周期\(T\)は、摩擦がない場合と同じで、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
物体は、ある位置(端)で静かにはなされ、速度が初めて0になる位置(もう一方の端)まで運動します。この運動にかかる時間\(t_1\)は、単振動の半周期に等しくなります。
$$ t_1 = \frac{T}{2} $$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/k}\)
計算過程

周期の式を代入して\(t_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{1}{2} T \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \left(2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right) \\[2.0ex]&= \pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が左向きに動いている間、動摩擦力は常に右向きに一定の力ではたらきます。これは、まるで「ばねの自然長の位置が、少し右にずれた」かのように作用します。そのずれた新しい中心点をめぐって、物体は単振動をします。

手を離した最初の点から、反対側で速度がゼロになる点までは、ちょうどこの単振動の半分の動きになります。したがって、かかる時間は周期の半分です。周期は摩擦がないときと同じなので、その半分を計算すれば答えが求まります。

結論と吟味

時間\(t_1\)は \(\pi\sqrt{m/k}\) です。
動摩擦力は一定なので、復元力の比例定数(ばね定数)は変化せず、周期も変化しないという点が重要です。動摩擦力は、振動の中心を運動方向にずらす効果を持つと理解できます。(負の向きに動くときは中心が正の向きに、正の向きに動くときは中心が負の向きにずれます。)

解答 (2) \(\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 動摩擦力がはたらく場合の「見かけの単振動」
    • 核心: 動摩擦力がはたらくばね振り子の運動は、厳密には単振動ではありません(エネルギーが保存されないため減衰する)。しかし、運動方向が一定である「片道」の運動に限れば、「振動の中心がずれた単振動」として扱うことができる、という点がこの問題を解く上での核心です。
    • 理解のポイント:
      • 動摩擦力の性質: 動摩擦力は、大きさが一定(\(\mu’N\))で、向きが常に運動方向と逆。この「向きが変わる」性質が、往復運動全体を複雑にします。
      • 振動中心のずれ: 合力 \(F = -kx + \mu’mg\) を \(F=-k(x-x_c)\) の形に変形すると、見かけの振動中心が \(x_c = \mu’mg/k\) にずれていることがわかります。これは、物体が負の向きに運動している間の話です。もし物体が正の向きに運動していれば、動摩擦力の向きが逆になり、振動中心は \(x_c = -\mu’mg/k\) にずれます。
  • 単振動の周期の不変性
    • 核心: 動摩擦力のような「定数力」が加わっても、復元力の比例定数(ばね定数\(k\))自体は変化しないため、振動の周期(の計算に用いる式)は摩擦がない場合と変わらないこと。
    • 理解のポイント:
      • 復元力の式 \(F = -k(x-x_c)\) を、単振動の一般形 \(F=-KX\)(ここで \(X=x-x_c\))と比較すると、復元力の比例定数は \(K=k\) のままです。
      • したがって、周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) には、\(K=k\) をそのまま使うことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 減衰振動の振幅変化: 摩擦のあるばね振り子で、1往復後の振幅がどれだけ減少するかを計算する問題。往路と復路で振動中心が異なることを利用して、それぞれの端点の位置を計算します。
    • 斜面上の摩擦のある単振動: 斜面上でのばね振り子に動摩擦力がはたらく問題。重力の斜面成分と動摩擦力の両方が、振動中心をずらす要因となります。
    • 空気抵抗を受ける振動: 空気抵抗が速度に比例する場合など、より複雑な減衰振動。これは大学レベルの範囲になりますが、基本的な考え方は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の区間を明確にする: まず、物体がどちらの向きに運動しているかを特定します。動摩擦力の向きはこれで決まります。
    2. その区間での合力を計算する: ばねの弾性力と、(1)で決めた向きの動摩擦力の合力を計算します。
    3. 振動中心を特定する: (2)で求めた合力の式を \(F=-k(x-x_c)\) の形に変形し、その区間での振動中心 \(x_c\) を見つけます。
    4. 単振動の性質を適用する:
      • 端から端までの移動時間を問われたら、周期の半分 (\(T/2\)) を計算します。
      • 周期は、摩擦がない場合と同じ \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) を使います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 動摩擦力の向きの間違い:
    • 誤解: 動摩擦力の向きを常に負の向き(あるいは正の向き)に固定して考えてしまう。
    • 対策: 動摩擦力は「常に運動と逆向き」という定義を徹底します。物体がx軸負の向きに動いていれば動摩擦力は正の向き、正の向きに動いていれば負の向きにはたらきます。
  • 振動中心が常に原点だと思ってしまう:
    • 誤解: 摩擦があっても、ばねの自然長の位置が振動の中心だと考えてしまう。
    • 対策: 「振動の中心は、合力がゼロになる点」と定義に立ち返ります。合力 \(F = -kx + \mu’mg\) がゼロになるのは \(x=\mu’mg/k\) の点であり、原点Oではありません。
  • 周期が変化すると考えてしまう:
    • 誤解: 摩擦があるので、振動が遅くなって周期が長くなるだろうと直感で考えてしまう。
    • 対策: 周期を決めるのは、復元力の「比例定数\(K\)」です。合力の式を \(F=-k(x-x_c)\) と変形したときに、\(x\)の係数である\(k\)が変わっていないことを確認します。したがって、周期は変化しないと結論づけます。
  • \(t_1\)を周期そのものだと勘違いする:
    • 誤解: (2)で求める時間\(t_1\)を、周期\(T\)そのものだと考えてしまう。
    • 対策: 問題文をよく読み、「静かにはなして」「速度が初めて0になった」という記述を確認します。これは、単振動の「端から端まで」の運動であり、往復運動の半分です。したがって、かかる時間は周期の半分 (\(T/2\)) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力の合力の計算:
    • 選定理由: (1)で問われているのは、物体にはたらく力の水平成分、すなわち合力です。運動の様子を分析する第一歩として、まず物体にはたらく力をすべてリストアップし、そのベクトル和を求めるのは力学の基本だからです。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則 \(ma=F\) の右辺\(F\)を求める操作です。この\(F\)の具体的な形が、運動の性質を決定します。
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/k}\)):
    • 選定理由: (2)で時間を求めるために、まずこの運動が単振動であり、その周期が計算できることを示す必要があります。
    • 適用根拠: (1)で求めた合力の式 \(F=-kx+\mu’mg\) は、変位を \(X=x-\mu’mg/k\) と置き換えることで、\(F=-kX\) と書けます。これは、\(X\)という新しい座標で見たとき、復元力の比例定数が\(k\)の単振動であることを意味します。したがって、その周期は、比例定数が\(k\)である単振動の周期の公式で与えられます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の徹底: 弾性力は\(-kx\)、動摩擦力は運動方向に応じて \(+\mu’mg\) または \(-\mu’mg\) と、符号を常に意識して立式します。
  • 式変形: \(F=-kx+\mu’mg\) を \(F=-k(x-x_c)\) の形に変形する際、係数\(-k\)で正しくくくり出すことが重要です。\(F=-k(x+\mu’mg/k)\) のようなミスをしないように注意します。
  • 文字式のまま計算する: この問題のように、答えが文字式で与えられる場合、最後まで文字のまま計算を進める必要があります。途中で混乱しないよう、各文字が何を表しているかを常に意識します。
  • 物理的な意味の確認: 計算結果 \(t_1 = \pi\sqrt{m/k}\) が、摩擦のない単振動の半周期と等しいことを確認します。これは、動摩擦力が周期に影響を与えないという我々の理解と一致しており、結果の妥当性を裏付けます。

148 重なった2物体の単振動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「重なった2物体の単振動」です。台と小物体が一体となって振動する状況を、それぞれの物体と「一体となった系全体」という複数の視点から分析する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 各物体、および系全体について運動方程式を立てることが基本となります。
  2. 作用・反作用の法則: 台と小物体がお互いに及ぼし合う静止摩擦力は、作用・反作用の関係にあります。
  3. 単振動の復元力と周期: 系全体の運動方程式を立てることで、この単振動の復元力の比例定数と周期が求まります。
  4. 静止摩擦力: 小物体が台の上をすべらないのは、静止摩擦力のおかげです。この静止摩擦力が、小物体を台と同じように加速・減速させる役割を担います。
  5. すべらない条件: 小物体がすべらないためには、運動中に物体にはたらく静止摩擦力の大きさが、常に最大摩擦力(\(\mu N\))以下でなければなりません。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、台と小物体を一体と見なした「系全体」の運動方程式を立て、単振動の復元力の形にすることで、周期を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた周期(または角振動数)と、初期条件から決まる振幅を用いて、速さの最大値を計算します。
  3. (3)では、小物体のみに着目した運動方程式を立て、(1)で求めた加速度の式を代入することで、摩擦力の大きさを計算します。
  4. (4)では、(3)で求めた摩擦力が最大になるのは振動の端点であることを利用し、その最大値が最大摩擦力を超えない、という条件からdの最大値を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
振動の周期を求める問題です。台と小物体が一体となって運動しているので、この2つを質量\((m+M)\)の1つの物体と見なして考えるのが最も効率的です。この「系全体」にはたらく外力は、ばねの弾性力のみです。この系全体の運動方程式を立てることで、復元力の比例定数を特定し、周期を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 一体となって運動する物体は、1つの系として扱える。
  • 系全体にはたらく復元力は、ばねの弾性力である。
  • 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{\frac{\text{全体の質量}}{K}}\) を適用する。

具体的な解説と立式
台と小物体を質量\((m+M)\)の1つの物体と見なします。
ばねが自然長から\(x\)だけ伸びたとき、この系にはたらく水平方向の力は、ばねの弾性力\(-kx\)のみです。(台と小物体間の摩擦力は内力なので、系全体で考えると相殺されます。)
系全体の運動方程式は、加速度を\(a\)として、
$$ (m+M)a = -kx $$
この式を、単振動の運動方程式の一般形 \((\text{質量})a = -Kx\) と比較すると、この系の復元力の比例定数は\(K=k\)であることがわかります。
したがって、周期\(T\)は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{\text{全体の質量}}{K}} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(F=ma\)
  • 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
計算過程

上記立式の通りです。

結論と吟味

この振動の周期は \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m+M}{k}}\) です。ばねにつながれた物体の質量が\(m+M\)になったと考えることで、直感的に理解できます。

解答 (1) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m+M}{k}}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
速さの最大値を求める問題です。単振動において、速さが最大になるのは振動の中心(\(x=0\))です。最大速度は \(v_{\text{max}}=A\omega\) で計算できます。振幅\(A\)は初期条件から、角振動数\(\omega\)は(1)の結果から求めます。
この設問における重要なポイント

  • 振幅の決定: 「dだけ引いて静かにはなす」ので、振幅は\(A=d\)。
  • 角振動数\(\omega\)は周期\(T\)から \(\omega=2\pi/T\) で計算できる。
  • 最大速度の公式: \(v_{\text{max}}=A\omega\)

具体的な解説と立式

  • 振幅\(A\): つり合いの位置(\(x=0\))から\(d\)だけ引いて静かにはなしたので、振幅は\(A=d\)です。
  • 角振動数\(\omega\): (1)で求めた周期\(T\)との関係 \(T=2\pi/\omega\) より、
    $$
    \begin{aligned}
    \omega &= \frac{2\pi}{T} \\[2.0ex]&= \frac{2\pi}{2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{k}{m+M}}
    \end{aligned}
    $$

速さの最大値\(v_{\text{max}}\)は、
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$

使用した物理公式

  • 角振動数と周期の関係
  • 単振動の最大速度
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_{\text{max}} &= d \times \sqrt{\frac{k}{m+M}}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

速さの最大値は \(d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m+M}}\) です。

解答 (2) \(d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m+M}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
ばねの伸びが\(d\)となった瞬間、すなわち振動の端点での摩擦力の大きさを求める問題です。小物体が台と一体となって単振動できるのは、静止摩擦力が小物体に復元力を与えているからです。
小物体のみに着目し、その運動方程式を立てることで、摩擦力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 小物体を単振動させる力は、静止摩擦力である。
  • 小物体の運動方程式: \(ma = f\) (ここで\(f\)は摩擦力)
  • 系全体の加速度を利用する。

具体的な解説と立式
まず、系全体の加速度\(a\)を求めます。(1)で立てた運動方程式から、
$$ a = -\frac{k}{m+M}x $$
次に、小物体(質量\(m\))に着目します。小物体にはたらく水平方向の力は、台からの静止摩擦力\(f\)のみです。小物体の加速度も系全体と同じ\(a\)なので、その運動方程式は、
$$ ma = f $$
(注:ここでは摩擦力\(f\)を力の大きさと向きを含んだベクトル量として扱っています。x>0のとき、a<0なので、f<0となり、摩擦力は負の向きにはたらくことがわかります。)
上の2式から、
$$
\begin{aligned}
f &= ma \\[2.0ex]&= m\left(-\frac{k}{m+M}x\right) \\[2.0ex]&= -\frac{mk}{m+M}x
\end{aligned}
$$
問題では、ばねの伸びが\(d\)の瞬間、つまり\(x=d\)のときの摩擦力の「大きさ」を問われているので、
$$
\begin{aligned}
|f| &= \left|-\frac{mkd}{m+M}\right| \\[2.0ex]&= \frac{mkd}{m+M}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式
計算過程

上記立式の通りです。

結論と吟味

摩擦力の大きさは \(\displaystyle\frac{mkd}{m+M}\) です。この力は、振動の端点(\(x=d\))で最大となります。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{mkd}{m+M}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小物体がすべらないための条件を求めます。すべらないためには、運動中に小物体にはたらく静止摩擦力の大きさが、常に最大摩擦力\(\mu N\)以下でなければなりません。
静止摩擦力は(3)で見たように、振動の端点(\(x=\pm d\))で最大値をとります。したがって、この摩擦力の最大値が、最大摩擦力を超えなければよい、という条件式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • すべらない条件: \((\text{静止摩擦力の大きさ}) \le (\text{最大摩擦力})\)
  • 静止摩擦力は、振動の端点で最大となる。
  • 最大摩擦力は \(\mu N = \mu mg\)。

具体的な解説と立式
小物体にはたらく静止摩擦力の大きさは、(3)より \(|f| = \displaystyle\frac{mk}{m+M}|x|\) です。
この力の最大値は、変位が最大のとき、つまり \(|x|=d\) のときに生じます。
$$ f_{\text{max}} = \frac{mkd}{m+M} $$
一方、最大摩擦力の大きさは、鉛直方向の力のつり合い \(N-mg=0\) より \(N=mg\) なので、
$$
\begin{aligned}
f_{\text{静止限界}} &= \mu N \\[2.0ex]&= \mu mg
\end{aligned}
$$
小物体がすべらないためには、\(f_{\text{max}} \le f_{\text{静止限界}}\) であればよいので、
$$ \frac{mkd}{m+M} \le \mu mg $$
この不等式を\(d\)について解くことで、\(d\)の最大値が求まります。

使用した物理公式

  • 最大摩擦力
  • (3)の結果
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{kd}{m+M} &\le \mu g \\[2.0ex]d &\le \frac{(m+M)\mu g}{k}
\end{aligned}
$$
したがって、\(d\)の最大値は \(\displaystyle\frac{(m+M)\mu g}{k}\) です。

結論と吟味

\(d\)の最大値は \(\displaystyle\frac{(m+M)\mu g}{k}\) です。振幅\(d\)が大きくなるほど、端点での加速度が大きくなり、それを実現するための摩擦力も大きくなります。その摩擦力が限界(最大摩擦力)に達するときの振幅が、すべらないための最大の振幅となります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{(m+M)\mu g}{k}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 一体となった物体の単振動(2つの視点)
    • 核心: この問題の核心は、「系全体」として見る視点と、「個々の物体」として見る視点を、目的に応じて自在に使い分けることです。
    • 理解のポイント:
      • 「系全体」で見る視点: 台と小物体を質量\((m+M)\)の一つの塊と見なします。この視点では、物体間の静止摩擦力は「内力」として相殺されるため、系全体を動かす外力(復元力)はばねの弾性力\(-kx\)のみとなります。これにより、系全体の加速度や周期といった、運動の全体像が明らかになります。
      • 「個々の物体」で見る視点: 小物体\(m\)だけに注目します。小物体を台と同じ加速度で運動させているのは、台から受ける「静止摩擦力」です。この視点により、\(ma=f\)という関係から、物体間にはたらく内力である摩擦力の大きさを求めることができます。
  • すべらない条件
    • 核心: 小物体が台の上を「すべらない」ための条件は、運動中に小物体にはたらく静止摩擦力の大きさが、いかなる瞬間も最大摩擦力\(\mu N\)を超えないこと。
    • 理解のポイント:
      • 静止摩擦力は、小物体を加速させるための力であり、その大きさは加速度に比例して変化します。
      • 単振動では、加速度の大きさが最大になる振動の端(\(x=\pm A\))で、静止摩擦力も最大になります。
      • したがって、「摩擦力の最大値 \(\le\) 最大摩擦力」という条件式を立てることで、すべらないための限界(この問題では振幅\(d\)の最大値)を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電車内のつり革や振り子: 加速する電車(=台)の中で、つり革や振り子(=小物体)がどう振る舞うか。観測者の立場(慣性力)で考えることもできますが、本質は同じです。
    • 2段重ねの物体: 下の物体を引いたとき、上の物体が滑り出さない条件を求める問題。単振動ではありませんが、「系全体」と「個々」の視点で運動方程式を立てるアプローチは共通しています。
    • エレベーター内の物体: 加速するエレベーターの床に置かれた物体にはたらく垂直抗力の変化など。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 視点の切り替えを意識する: まず「系全体」として見て、全体の加速度や周期を把握します。次に、物体間の力(摩擦力など)が問われていたら、「個々の物体」に注目して運動方程式を立てます。この流れが定石です。
    2. 「すべらない」「一体となって」のキーワードに反応する: この言葉を見たら、「加速度が等しい」「静止摩擦力がはたらいている」「すべらない条件は \(f \le \mu N\)」という3点セットを連想します。
    3. 摩擦力の最大値を考える: すべらない条件を考えるには、静止摩擦力\(f\)が最大になる瞬間を探す必要があります。単振動では、加速度が最大になる「振動の端」で摩擦力も最大になる、という点を思い出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 周期の計算で質量を間違える:
    • 誤解: 周期の計算で、小物体\(m\)や台\(M\)だけの質量を使ってしまう。
    • 対策: 周期は「系全体」の運動の性質です。ばねにつながれて振動しているのは質量\((m+M)\)の塊であると認識し、\(T=2\pi\sqrt{(m+M)/k}\) と正しく立式します。
  • 摩擦力の役割の誤解:
    • 誤解: 摩擦力は常に運動を妨げる力だと思い込み、(3)で摩擦力の向きを間違えたり、(1)の系全体の運動方程式に摩擦力を入れてしまったりする。
    • 対策: この問題の静止摩擦力は、小物体を台と一緒に動かすための「駆動力」であり、復元力の一部です。その大きさは加速度に比例して変化します(\(f=ma\))。また、系全体で考えれば内力なので、外力であるばねの力とは区別します。
  • すべらない条件の立て方ミス:
    • 誤解: 静止摩擦力\(f\)と最大摩擦力\(\mu N\)を混同し、常に\(f=\mu N\)としてしまう。
    • 対策: 静止摩擦力\(f\)は必要に応じて大きさが変わる力であり、\(\mu N\)はその上限値(限界)です。すべらない条件は、あくまで不等式 \(f \le \mu N\) であることを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 系全体の運動方程式 (\((m+M)a = -kx\)):
    • 選定理由: (1)で周期を求めるため。周期は系全体の運動の性質であり、それを決定する加速度\(a\)を求めるには、系全体にはたらく外力(ばねの力)と系全体の質量を関連付けるこの式が最も本質的です。
    • 適用根拠: 複数の物体が一体となって運動する場合、それらを一つの剛体と見なし、全体の質量と、外部から系にはたらく力の総和(合外力)で運動方程式を立てることができます。
  • 小物体の運動方程式 (\(ma = f\)):
    • 選定理由: (3)で摩擦力\(f\)を求めるため。摩擦力は小物体と台の間にはたらく内力なので、個別の物体に注目しないと求めることができません。
    • 適用根拠: 小物体も台と同じ加速度\(a\)で運動しています。小物体をその加速度で運動させている唯一の水平方向の力が静止摩擦力\(f\)であるため、ニュートンの第二法則からこの関係が成り立ちます。
  • すべらない条件 (\(f_{\text{最大}} \le \mu N\)):
    • 選定理由: (4)で「すべらないため」の条件を問われているからです。これは静止摩擦力が限界を超えない、という物理条件そのものです。
    • 適用根拠: 静止摩擦力は、外力に応じて大きさを変えることができますが、その大きさには上限(最大摩擦力)があります。この上限を超えると、物体は滑り出してしまいます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理: (3)や(4)のように、複数の式を代入して複雑な文字式になる場合、一つずつ丁寧に代入し、約分や整理を行います。例えば、\(f = m \times a\) であり、\(a = -\frac{k}{m+M}x\) なので、\(f = m \left(-\frac{k}{m+M}x\right)\) のように、代入の過程を明確に書きます。
  • 最大値の特定: (4)で「すべらない条件」を考える際、静止摩擦力\(f\)が最大になるのは、変位\(x\)が最大(つまり振幅\(d\))のときである、という物理的な考察を忘れないようにします。
  • 不等式の変形: \(\frac{mkd}{m+M} \le \mu mg\) のような不等式を解く際、両辺を\(m, g\)で割るなど、丁寧に式変形を行います。割る数が正であることを確認します。
  • 物理的な意味の確認: 最終的な答え \(d_{\text{max}} = \frac{(m+M)\mu g}{k}\) が何を意味するかを考えます。「摩擦が大きい(\(\mu\)大)ほど、ばねが柔らかい(\(k\)小)ほど、大きな振幅(\(d\))で振れても滑らない」という結果は、物理的な直感と一致していることを確認します。

149 初期位相がある単振動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動の初期条件と運動の記述」です。単振動の運動は、いつ(時刻\(t=0\))、どこから、どの向きに運動を始めたかという「初期条件」によって、運動を表す式(変位や速度の式)の形が変わります。この対応関係を正しく理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: なめらかな水平面上のばね振り子では、運動エネルギーと弾性エネルギーの和は常に一定に保たれます。これを利用して、振幅を求めることができます。
  2. 単振動の運動の式: 単振動の変位\(x\)や速度\(v\)は、振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)、時刻\(t\)を用いて、三角関数(\(\sin\)や\(\cos\))で表されます。
  3. 初期条件: \(t=0\)での物体の位置と速度によって、運動の式の具体的な形(\(\sin\)型か\(\cos\)型かなど)が決まります。
  4. 変位と速度の関係: 速度は変位を時間で微分したものです。この関係から、変位の式が分かれば速度の式を導くことができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、力学的エネルギー保存則を用いて、原点での運動エネルギーが端点での弾性エネルギーに等しいという式を立て、振幅\(A\)を求めます。
  2. (2)では、初期条件「\(t=0\)で原点を正の向きに通過」に合致する三角関数として\(\sin\)型を選択し、変位の式を立てます。
  3. (3)では、初期条件「\(t=0\)で端点から静かにはなす」に合致する三角関数として\(\cos\)型を選択し、変位の式を立てます。
  4. (4)では、(3)で求めた変位の式を時間で微分するか、または速度の時間変化のグラフを考えることで、速度の式を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
単振動の振幅\(A\)を求める問題です。振幅とは、振動の中心から最も離れた位置(端点)までの距離です。単振動では、力学的エネルギーが保存されます。振動の中心である原点Oで与えられた運動エネルギーが、すべて弾性エネルギーに変換された点が振動の端点となります。このエネルギー保存則から振幅\(A\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • なめらかな水平面上のばね振り子では、力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性エネルギー)が保存される。
  • 振動の中心(原点O)では、弾性エネルギーが0で、運動エネルギーが最大。
  • 振動の端(\(x=A\))では、運動エネルギーが0で、弾性エネルギーが最大。

具体的な解説と立式
原点Oでの力学的エネルギーを\(E_O\)、振幅\(A\)の位置(端点)での力学的エネルギーを\(E_A\)とします。

  • 原点Oでは、ばねの伸びは0、速さは\(v_0\)なので、
    $$ E_O = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
  • 端点\(x=A\)では、速さは0、ばねの伸びは\(A\)なので、
    $$ E_A = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}kA^2 $$

力学的エネルギー保存則 \(E_O = E_A\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}kA^2 $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 弾性エネルギー: \(U = \frac{1}{2}kx^2\)
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

上記で立てた式を\(A\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mv_0^2 &= kA^2 \\[2.0ex]A^2 &= \frac{m}{k}v_0^2 \\[2.0ex]A &= \sqrt{\frac{m}{k}v_0^2}
\end{aligned}
$$
\(A>0, v_0>0\)なので、
$$ A = v_0\sqrt{\frac{m}{k}} $$

結論と吟味

単振動の振幅は \(v_0\sqrt{m/k}\) です。初速\(v_0\)が大きいほど、また、質量\(m\)が大きくばね定数\(k\)が小さい(\(\sqrt{m/k}\)が大きい)ほど、振幅が大きくなるという結果は物理的に妥当です。

解答 (1) \(v_0\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
時刻\(t\)における小球の座標\(x\)を、与えられた文字で表す問題です。単振動の運動は、初期条件によって式の形が決まります。この問題の初期条件は「\(t=0\)で原点(\(x=0\))を正の向き(\(v>0\))に通過」です。この動きは、原点から始まり正の方向に増加していく\(\sin\)カーブに対応します。
この設問における重要なポイント

  • \(t=0\)で\(x=0\)(原点)にいる。
  • \(t=0\)で\(v>0\)(正の向きに運動)。
  • この条件を満たすのは\(\sin\)型の単振動である。

具体的な解説と立式
\(t=0\)で原点(\(x=0\))を正の向きに通過する単振動の変位は、
$$ x = A\sin(\omega t) $$
と表されます。

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(x=A\sin(\omega t)\)
計算過程

公式をそのまま記述します。

結論と吟味

座標\(x\)は \(A\sin(\omega t)\) と表されます。\(t=0\)を代入すると\(x=A\sin(0)=0\)となり、初期位置の条件を満たします。また、\(t\)が0から少し増加すると\(x\)は正の値をとるため、正の向きに運動するという条件も満たしています。

解答 (2) \(A\sin\omega t\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)とは異なる初期条件での運動を式で表す問題です。今回の初期条件は「\(t=0\)で\(x=A\)の位置から静かにはなす」です。この動きは、最大値から始まり減少していく\(\cos\)カーブに対応します。
この設問における重要なポイント

  • \(t=0\)で\(x=A\)(正の端)にいる。
  • \(t=0\)で「静かにはなす」ので\(v=0\)。
  • この条件を満たすのは\(\cos\)型の単振動である。

具体的な解説と立式
\(t=0\)で端点(\(x=A\))から運動を始める単振動の変位は、
$$ x = A\cos(\omega t) $$
と表されます。

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(x=A\cos(\omega t)\)
計算過程

公式をそのまま記述します。

結論と吟味

座標\(x\)は \(A\cos(\omega t)\) と表されます。\(t=0\)を代入すると\(x=A\cos(0)=A\)となり、初期位置の条件を満たします。

解答 (3) \(A\cos\omega t\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)の状況における、時刻\(t\)での速度\(v\)の式を求める問題です。速度は変位を時間で微分することで求められます。また、速度の時間変化のグラフを考えることでも解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 速度は変位を時間で微分したものである (\(v=dx/dt\))。
  • \(t=0\)で\(x=A\)なので\(v=0\)。
  • その後、小球は負の向きに動き出すので、速度は負になる。
  • 原点(\(x=0\))で速さは最大値\(V\)になる。
  • これらの条件を満たすのは\(-\sin\)型のグラフである。

具体的な解説と立式
(3)で求めた変位の式 \(x=A\cos(\omega t)\) を時刻\(t\)で微分します。
$$ v = \frac{d}{dt}(A\cos(\omega t)) = -A\omega\sin(\omega t) $$
ここで、速さの最大値は原点を通過するときで、その大きさは \(V=A\omega\) です。
したがって、上の式は次のように書き換えられます。
$$ v = -(A\omega)\sin(\omega t) = -V\sin(\omega t) $$

使用した物理公式

  • 速度と変位の関係: \(v = dx/dt\)
  • 単振動の最大速度: \(V = A\omega\)
計算過程

上記立式の通りです。

結論と吟味

速度\(v\)は \(-V\sin(\omega t)\) と表されます。\(t=0\)を代入すると\(v=-V\sin(0)=0\)となり、初速度がゼロであるという条件を満たします。また、\(t\)が0から少し増加すると\(v\)は負の値をとるため、負の向きに動き出すという状況とも一致します。

解答 (4) \(-V\sin\omega t\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 単振動における力学的エネルギー保存則
    • 核心: なめらかな水平面上のばね振り子のように、保存力(弾性力)のみが仕事をする系では、力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)が常に一定に保たれること。
    • 理解のポイント:
      • この法則は、運動の途中経過を問わず、「ある状態」と「別の状態」を直接結びつける強力なツールです。
      • 特に、振動の中心(運動エネルギー最大、弾性エネルギー最小)と振動の端(運動エネルギーゼロ、弾性エネルギー最大)の2つの状態を比較することで、振幅\(A\)、最大速度\(v_{\text{max}}\)、ばね定数\(k\)、質量\(m\)の間の関係式を導くことができます。この問題の(1)は、まさにその典型例です。
  • 単振動の運動の記述と初期条件
    • 核心: 単振動の運動(変位\(x\)、速度\(v\))は、三角関数(\(\sin\)または\(\cos\))を用いて時刻\(t\)の関数として記述できるが、その具体的な式の形は「初期条件(\(t=0\)での位置と速度)」によって決まること。
    • 理解のポイント:
      • \(\sin\)型 (\(x=A\sin\omega t\)): \(t=0\)で原点(\(x=0\))におり、正の向きに動き出す運動。グラフは原点から立ち上がる。
      • \(\cos\)型 (\(x=A\cos\omega t\)): \(t=0\)で正の端(\(x=A\))におり、静止状態から動き出す運動。グラフは最大値から下がり始める。
      • この2つの基本形と、それに対応する初期条件を理解することが、運動を正しく数式で表現するための鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 様々な初期条件の問題: 「\(t=0\)で負の端にいた」「\(t=0\)で原点を負の向きに通過した」など、異なる初期条件に対応する変位・速度の式を立てる問題。
    • グラフの選択問題: 与えられた初期条件に合致する\(x-t\)グラフや\(v-t\)グラフを選択肢から選ぶ問題。
    • エネルギーと運動の式の連携: エネルギー保存則から振幅\(A\)や最大速度\(V\)を求め、それらの値を使って具体的な運動の式を完成させる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 初期条件を正確に読み取る: まず、問題文から「\(t=0\)のときに、物体はどこにいて(位置)、どちら向きに動いているか(速度の符号)」を正確に把握します。
    2. グラフをイメージする: 読み取った初期条件から、\(x-t\)グラフや\(v-t\)グラフがどのような形になるかを頭の中で(あるいは実際に)描いてみます。
      • 原点スタートで正方向へ、という条件は\(\sin\)カーブに対応します。
      • 正の端からスタート、という条件は\(\cos\)カーブに対応します。
      • 原点スタートで負方向へ、という条件は\(-\sin\)カーブに対応します。
      • 負の端からスタート、という条件は\(-\cos\)カーブに対応します。
    3. 適切な式の形を選択する: イメージしたグラフに対応する三角関数の形(\(\sin\omega t, \cos\omega t, -\sin\omega t, -\cos\omega t\))を選び、振幅と角振動数を掛けて式を完成させます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: (1)で、原点での弾性エネルギーや、端点での運動エネルギーをゼロにし忘れてしまう。
    • 対策: 各状態(原点、端点)における物理量(位置\(x\)、速さ\(v\))の値を明確にしてから、エネルギーの各項(\((1/2)mv^2, (1/2)kx^2\))に代入します。
  • \(\sin\)型と\(\cos\)型の選択ミス:
    • 誤解: 初期条件をよく確認せずに、常に\(x=A\sin\omega t\)としてしまうなど、式の形を機械的に決めてしまう。
    • 対策: 上記「応用テクニック」のグラフイメージ法が有効です。\(t=0\)を代入して初期条件が再現できるか、必ず検算する癖をつけます。
  • 速度の式の符号ミス:
    • 誤解: (4)で、\(x=A\cos\omega t\)を微分した結果を \(v=V\sin\omega t\) のように、マイナス符号を付け忘れてしまう。
    • 対策: \(\cos\)の微分は\(-\sin\)になるという数学の公式を正確に覚えることが基本です。また、物理的な状況からも確認できます。(3)では\(t=0\)から物体は負の向きに動き出すので、\(t\)が0から少し増加したときに\(v\)が負になる必要があります。\(v=-V\sin\omega t\) はこの条件を満たしますが、\(v=V\sin\omega t\) は満たしません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: (1)では、運動の2つの異なる瞬間(原点と端点)の状態を結びつけて、未知の量(振幅\(A\))を求める必要があります。力学的エネルギー保存則は、このような「始点と終点」の関係性を記述するのに非常に強力な法則だからです。
    • 適用根拠: 問題の系では、仕事をする力はばねの弾性力のみです。弾性力は保存力なので、運動エネルギーと弾性エネルギーの和である力学的エネルギーは、運動のどの瞬間でも一定に保たれます。
  • 単振動の変位・速度の公式:
    • 選定理由: (2),(3),(4)では、運動の様子を時刻\(t\)の関数として表現することが求められています。単振動の運動を記述する数学的な表現が、これらの三角関数を用いた公式だからです。
    • 適用根拠: これらの公式は、単振動の運動方程式(\(ma=-kx\))という微分方程式の一般解です。高校物理では、この解の形を所与のものとして扱い、初期条件に合わせて適切な解を選択する、という形で適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は文字式の計算が主であり、数値計算ミスは生じにくいですが、以下の点に注意が必要です。
  • 平方根の扱い: (1)で \(A^2 = (m/k)v_0^2\) から\(A\)を求める際、ルートを外す操作を丁寧に行います。\(A = \sqrt{m/k} \cdot v_0\) となります。
  • 微分計算: (4)で速度を求める際、\(\cos(\omega t)\) の微分が \(-\omega\sin(\omega t)\) となる連鎖律(合成関数の微分)を正しく適用します。
  • パラメータの代入: (4)で \(v=-A\omega\sin(\omega t)\) を \(v=-V\sin\omega t\) に書き換える際、最大速度の定義 \(V=A\omega\) を正しく適用します。
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