「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 4】発展例題~発展問題132

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発展例題

発展例題8 重ねた物体の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「摩擦力を介して連動する重ねた物体の運動解析」です。複数の物体が接触し、互いに力を及し合いながら運動する問題の典型例であり、特に作用・反作用の法則と運動方程式の立て方を正確にマスターすることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の法則(運動方程式): 各物体に働く力をすべて見つけ出し、\(ma=F\) の関係式を物体ごとに正しく立てられること。
  2. 動摩擦力の理解: すべりが生じている接触面では、動摩擦力が働くこと。その向きは「相対的なすべりを妨げる向き」であり、大きさは \( \mu’ N \) で与えられることを理解していること。
  3. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに及ぼす力(この場合は摩擦力)と、物体Bが物体Aに及ぼす力は、大きさが等しく向きが逆である関係を正しく見抜けること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体Aと物体Bそれぞれに働く力を、水平方向と鉛直方向に分けてすべて図示します。特に、AとBの間で及し合う動摩擦力に着目します。
  2. Bの運動を駆動する力がAからの動摩擦力であること、そしてAにはその反作用が働くことを理解します。
  3. 床に対する加速度をそれぞれ \(a_A\), \(a_B\) とおき、物体ごとに運動方程式を立てます。
  4. 得られた2本の方程式をそれぞれ解くことで、\(a_A\) と \(a_B\) を求めます。

AとBの加速度

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、2つの物体が接触面で及し合う「動摩擦力」を正しく理解し、それぞれの物体について運動方程式を立てることです。問題文に「AとBとの間にすべりが生じ」とあるため、両者の加速度は異なります。したがって、物体Aと物体Bを別々のものとして扱い、それぞれに働く力を分析する必要があります。

物体Bは、物体Aとの摩擦によってのみ水平方向に力を受け、加速します。一方、物体Aは外力\(f\)で引かれると同時に、物体Bからの摩擦力によって運動を妨げられます。このAとBが及し合う摩擦力は、作用・反作用の関係にあります。
この設問における重要なポイント

  • 物体Bに働く水平方向の力は、Aからの動摩擦力のみである。
  • AからBへの動摩擦力の向きは、Bの運動方向(右向き)である。これは、Aに対してBが左へすべろうとするのを妨げる向きと解釈できる。
  • BからAへの動摩擦力は、作用・反作用の法則により、AからBへの力の逆向き(左向き)で、大きさは等しい。
  • 運動の向き(右向き)を正として、各物体の運動方程式を立てる。

具体的な解説と立式
物体Aと物体Bに働く力をそれぞれ考え、右向きを正として運動方程式を立てます。まず、上に乗っている物体Bから考えると分かりやすいです。

物体B(質量 \(m\)):

  • 鉛直方向の力のつりあい: 物体BはAから垂直抗力 \(N_{AB}\) を受け、これはBの重力 \(mg\) とつりあっています。
    $$ N_{AB} = mg $$
  • 水平方向の運動: 物体Bは、物体Aから右向きに動摩擦力を受けます。この力がBを加速させる唯一の水平力です。その大きさは \(\mu’ N_{AB}\) で与えられます。
    $$ \mu’ N_{AB} = \mu’ mg $$
  • したがって、物体Bの運動方程式は、
    $$ m a_B = \mu’ mg \quad \cdots ① $$

物体A(質量 \(2m\)):

  • 水平方向の運動: 物体Aは、右向きに力 \(f\) で引かれます。同時に、物体Bから動摩擦力を受けます。これは、BがAから受ける動摩擦力の反作用なので、向きは逆(左向き)で、大きさは同じ \(\mu’ mg\) です。
  • したがって、物体Aの運動方程式は、
    $$ 2m a_A = f – \mu’ mg \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 動摩擦力: \(F’ = \mu’ N\)
計算過程

式①と式②をそれぞれ \(a_B\) と \(a_A\) について解きます。

物体Bの加速度 \(a_B\) の計算

式①の両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
a_B &= \mu’ g
\end{aligned}
$$

物体Aの加速度 \(a_A\) の計算

式②の両辺を \(2m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
a_A &= \frac{f – \mu’ mg}{2m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

テーブルクロス引きをイメージしてみましょう。下の物体A(テーブルクロス)を右に引くと、上の物体B(食器)は摩擦の力で少しだけ右につられて動きますが、Aの動きにはついていけずに取り残されます(これが「すべり」です)。
このとき、Bを右に動かそうとしている力は、Aとの間の摩擦力だけです。これがBにとっての「アクセル」になります。
一方、Aにとっては、引かれる力 \(f\) が「アクセル」ですが、上にBが乗っていることで生じる摩擦が「ブレーキ」として働きます。
このように、それぞれの物体について「アクセル」と「ブレーキ」が何かを考えて運動の式を立てれば、それぞれの加速度が計算できます。

結論と吟味

物体Aの加速度の大きさは \(a_A = \displaystyle\frac{f – \mu’ mg}{2m}\)、物体Bの加速度の大きさは \(a_B = \mu’ g\) と求まりました。
問題の状況設定から、AはBを引き離しながら運動していくので、\(a_A > a_B\) となっているはずです。実際に、すべりが生じるのは引く力 \(f\) がある程度大きいときであり、そのとき \(a_A\) は \(a_B\) より大きくなります。

解答 Aの加速度の大きさ: \(\displaystyle\frac{f – \mu’ mg}{2m}\), Bの加速度の大きさ: \(\mu’ g\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式と作用・反作用の法則の組み合わせ
    • 核心: この問題の根幹は、接触している複数の物体が互いに力を及し合いながら運動する状況を、物理法則に基づいて正確にモデル化する能力です。具体的には、物体Aと物体Bそれぞれについて働く力をすべて見つけ出し、運動の法則 \(ma=F\) を適用することです。
    • 理解のポイント:
      • 独立性の原則: 複数の物体があっても、運動方程式は物体「ごと」に立てるのが基本です。物体Aの運動は物体Aに働く力だけで決まり、物体Bの運動は物体Bに働く力だけで決まります。
      • 力の源泉の特定: 物体Bがなぜ右に加速するのか?その力の源泉は、物体Aから受ける「動摩擦力」しかありません。この力を特定することが第一歩です。
      • 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに動摩擦力を及ぼすとき、必ずその反作用として、物体Bは物体Aに「大きさが等しく逆向きの」動摩擦力を及ぼします。この反作用の力を見落とさずに物体Aの運動方程式に組み込むことが、この問題で最も重要なポイントです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 一体となって運動するか、すべるかの境界条件を問う問題: 本問は「すべりが生じた」後を扱っていますが、「AとBが一体となって運動するための力 \(f\) の条件」を問う問題も頻出です。その場合は、まずAとBの加速度が等しい(\(a_A = a_B = a\))と仮定し、一体とみなして全体の運動方程式を立てて加速度 \(a\) を求めます。次に、物体Bに着目し、その加速度 \(a\) を生み出すために必要な静止摩擦力が、最大静止摩擦力 \(\mu N\) を超えない、という条件式を立てます。
    • 斜面上の重ねた物体の運動: 物体が斜面上に置かれていても、考える手順は全く同じです。力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解し、それぞれの方向で力のつりあいや運動方程式を立てます。垂直抗力の大きさが \(mg \cos\theta\) になる点に注意が必要です。
    • 3つ以上の物体が重なっている問題: 物体が3つ以上重なっていても、基本は同じです。一番上の物体から順番に、働く力を図示し、作用・反作用の関係を丁寧に追いながら、各物体の運動方程式を立てていきます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずは力をすべて図示する: 問題文を読んだら、登場するすべての物体について、働く力をベクトル矢印で図に書き込みます。重力、垂直抗力、摩擦力、外力など、漏れがないかを確認するのが第一歩です。特に、接触面ごとに働く垂直抗力や摩擦力は区別して記述します(例: \(N_{AB}\), \(N_{床A}\))。
    2. 「すべる」か「一体か」を確認する: 問題文の条件をよく読み、「すべりが生じている」のか、「一体となって運動している」のかを判断します。
      • 「すべる」場合 → 動摩擦力が働く。加速度は物体ごとに異なる(\(a_A \neq a_B\))。
      • 「一体」の場合 → 静止摩擦力が働く。加速度は共通(\(a_A = a_B\))。
    3. 摩擦力の向きを慎重に判断する: 摩擦力の向きは「(接触面での)相対的な運動を妨げる向き」です。
      • Bに働く摩擦力: Aの上でBは「左に」ずれようとするので、それを妨げる「右向き」に摩擦力が働きます。
      • Aに働く摩擦力: Bから見るとAは「右に」動いていくので、それを妨げる「左向き」に摩擦力が働きます。これは作用・反作用の関係からも確認できます。
    4. 上(あるいは外側)の物体から考える: 多くの場合、力が単純な一番上や一番外側の物体から分析を始めると、作用・反作用の関係を追いやすくなり、全体像が掴みやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • Aに働く摩擦力の向きを間違える:
    • 誤解: Aは右に引かれているのだから、摩擦力も運動を妨げる左向きだろう、と直感だけで判断してしまう。これは正しいですが、なぜそうなるかを論理的に説明できないと応用が利きません。
    • 対策: 摩擦力は必ずペアで考えます。まず、Bに働く摩擦力の向きを「Aに対するBの相対的なすべりを妨げる向き」として決定します(BはAの上で左にずれるので、摩擦力は右向き)。そして、Aに働く摩擦力は、その「反作用」であると機械的に判断します。これにより、向きの間違いを確実に防げます。
  • AとBの加速度を同じだと仮定してしまう:
    • 誤解: 連結された物体のように、AとBの加速度は常に同じだと考えてしまう。
    • 対策: 問題文の「すべりが生じ」という記述に注目します。「すべる」とは、まさに「加速度が異なり、速度に差が生じている状態」を指す物理用語です。この言葉を見たら、加速度は \(a_A\), \(a_B\) のように別々の文字で置く、と条件反射できるようにしましょう。
  • 物体Aの垂直抗力を \(2mg\) と考えてしまう:
    • 誤解: 物体Aの質量が \(2m\) なので、床から受ける垂直抗力は \(2mg\) だと早合点してしまう。
    • 対策: 物体Aの上には物体B(質量 \(m\))が乗っています。したがって、物体Aが床を押す力は、A自身の重力 \(2mg\) と、Bから押される力(Bの重力 \(mg\))の合計になります。よって、床がAを支える垂直抗力は \((2m+m)g = 3mg\) となります。この問題の水平方向の運動方程式には垂直抗力は登場しませんが、床とAの間に摩擦がある設定の問題では、このミスが致命的になります。必ず物体ごとに鉛直方向の力のつりあいを考える癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 公式選択(運動方程式):
    • 選定理由: 求めたいのは「加速度」という、運動の状態変化を表す量です。そして、その原因となる「力」(外力 \(f\) や摩擦力)が与えられています。力と加速度の関係を記述する物理法則は、運動方程式 \(ma=F\) 以外にありません。したがって、この公式を選択するのは必然です。
    • 適用根拠: 物体がAとBの2つあり、それぞれが異なる加速度で運動しているため、方程式が2本必要になります。物理的に独立した物体Aと物体Bそれぞれについて運動方程式を立てることで、未知数である \(a_A\) と \(a_B\) を求めることができます。
  • 公式選択(動摩擦力の式):
    • 選定理由: 問題文に「すべりが生じ」と明記されているため、AとBの間には「動摩擦力」が働いていると判断できます。動摩擦力の大きさを計算するための公式が \(F’ = \mu’ N\) です。
    • 適用根拠: 動摩擦力の大きさを決めるのは、接触面を押し合う力、すなわち「垂直抗力 \(N\)」です。物体Bに働く動摩擦力を計算するためには、BがAから受ける垂直抗力 \(N_{AB}\) が必要になります。これは、物体Bの鉛直方向の力のつりあい(\(N_{AB} = mg\))から求めることができます。この論理的なステップを経て、動摩擦力の大きさが \(\mu’ mg\) であると確定します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • この問題のように、具体的な数値ではなく文字(\(m, g, \mu’, f\))で与えられている場合は、最後まで文字式のまま計算を進めましょう。これにより、式の物理的な意味が保たれ、次元(単位)が合っているかの検算も容易になります。例えば、加速度の答えの単位が \(\text{m/s}^2\) になっているかを確認できます(\(\mu’ g\) はOK、\(\displaystyle\frac{f}{m}\) は \(\text{N/kg} = (\text{kg} \cdot \text{m/s}^2)/\text{kg} = \text{m/s}^2\) でOK)。
  • 力の図示を徹底する:
    • 頭の中だけで考えず、必ずフリーハンドでよいので図を描き、物体ごとに働く力をすべて矢印で書き込みましょう。特に、作用・反作用の関係にある力は、同じ色や記号で示すなどして、ペアであることを明確にするとミスが減ります。
  • 方程式に名前をつける:
    • 「物体Aの水平方向の運動方程式より」「物体Bの鉛直方向の力のつりあいより」のように、自分が今どの物体について、どの方向の式を立てているのかを明確に意識しながら進めることが、混乱を防ぎます。
  • 極端な場合を考えて検算する:
    • もし摩擦がなかったら(\(\mu’ = 0\))どうなるかを考えてみましょう。
      • \(a_B = 0 \times g = 0\)。Bは力を受けないので、その場に静止し続けます。これは物理的に正しいです。
      • \(a_A = \displaystyle\frac{f – 0}{2m} = \frac{f}{2m}\)。Aは力 \(f\) だけで加速されます。これも正しいです。
    • もし引く力 \(f\) が摩擦力と等しかったら(\(f = \mu’ mg\))どうなるか。
      • \(a_A = \displaystyle\frac{\mu’ mg – \mu’ mg}{2m} = 0\)。Aは動きません。
    • このように、得られた答えに極端な値を代入してみて、物理的に直感と合う結果になるかを確認するのも有効な検算方法です。

発展例題9 浮力の反作用

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解1: 木片・水・容器をすべて一体とみなす解法
      • 模範解答が「水と容器」を一つの系とみなすのに対し、別解では「木片、水、容器」のすべてを一つの系とみなし、系全体の力のつりあいから一気に垂直抗力を求めます。
    • 設問(3)の別解2: 水と容器、それぞれの力のつりあいを考える解法
      • 系としてまとめるのではなく、水と容器それぞれに働く力を個別に分析し、作用・反作用の法則を用いて関係づけることで垂直抗力を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 考察する「系」の取り方によって、問題の見え方がどう変わるかを体験できます。「浮力の反作用」を陽に扱う方法(模範解答)、「内力」として無視する方法(別解1)、力の伝達を追う方法(別解2)の違いを理解することで、力学の視野が広がります。
    • 思考の柔軟性向上: 複雑に見える問題でも、適切な「系」を設定することで、計算を大幅に簡略化できることを学べます。特に別解1は、この種の静力学の問題を解く上で非常に強力な考え方です。
    • 解法の選択肢拡大: 一つの問題に対して複数のアプローチを持つことで、検算が可能になるだけでなく、より複雑な問題に応用できる引き出しが増えます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「浮力と作用・反作用、力のつりあい」です。静止した液体中の物体に関する力のつりあいを扱う問題であり、特に「浮力の反作用」という見過ごされがちな概念と、考察する対象(系)をどう設定するかで問題の解きやすさが変わることを学ぶのが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 浮力の理解: 物体が受ける浮力は、その物体の重力とつりあう(浮いている場合)。また、浮力の大きさは、物体が押しのけた流体の重さに等しい(アルキメデスの原理)。
  2. 力のつりあい: 静止している物体(または物体群)に働く力は、鉛直方向、水平方向ともに合計がゼロである。
  3. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力(例:浮力)を及ぼすとき、物体Bは必ず物体Aに、大きさが等しく向きが逆の力(例:浮力の反作用)を及ぼす。
  4. 考察する「系」の選び方: 複数の物体がある場合、どこまでを一つの塊(系)とみなして力のつりあいを考えるかで、計算の複雑さが大きく変わる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず木片のみに着目し、それに働く力(重力と浮力)のつりあいの式を立てて浮力を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた浮力をアルキメデスの原理(浮力=押しのけた水の重さ)を用いて表現し直し、水中に沈んでいる部分の体積を計算します。
  3. (3)では、はかりが測定する垂直抗力を求めるために、適切な「系」を設定します。例えば「水と容器」を一つの系とみて、その系に働く外部の力(重力、浮力の反作用、垂直抗力)のつりあいを考えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
木片は水に「静かに浮かせ」てあるので、静止しています。物体が静止しているということは、その物体に働くすべての力がつりあっているということです。木片に働く鉛直方向の力は「重力」と「浮力」の2つだけなので、これらの大きさが等しいという関係から浮力を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 木片は静止しているので、力のつりあいの式を立てることができる。
  • 木片に働く力は、下向きの重力と、上向きの浮力のみである。
  • 木片の質量は「密度 \(\times\) 体積」、すなわち \(\rho V\) で与えられる。

具体的な解説と立式
木片に働く力は以下の通りです。

  • 重力: 大きさ \((\rho V)g\)、向きは鉛直下向き。
  • 浮力: 大きさを \(f\) とすると、向きは鉛直上向き。

木片にはたらく力のつりあいより、「(上向きの力の和)=(下向きの力の和)」なので、
$$ f = \rho V g $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 質量 = 密度 \(\times\) 体積
計算過程

上記の立式そのものが結論となります。
$$
\begin{aligned}
f &= \rho V g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

お風呂にアヒルのおもちゃが浮いている状況を想像してください。アヒルが沈まないのは、アヒルの重さ(地球が下に引く力)と、水がアヒルを押し上げる力(浮力)が、ちょうど綱引きで引き合っているからです。この問題も同じで、木片が受ける浮力の大きさは、木片自身の重さと等しくなります。

結論と吟味

木片が受ける浮力の大きさは \(f = \rho V g\) と求まりました。これは木片の重力に等しく、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\rho V g\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた浮力の大きさを、別の視点(アルキメデスの原理)から表現します。アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは「物体が押しのけた流体の重さ」に等しくなります。この関係式と(1)の結果を結びつけることで、水中に沈んでいる部分の体積を計算できます。全体の体積から水中の体積を引けば、水面から出ている部分の体積がわかり、比率を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • アルキメデスの原理: 浮力 \(f = (\text{流体の密度}) \times (\text{物体が流体中に沈んでいる部分の体積}) \times g\)。
  • 水の密度は \(\rho_0\)、木片が水中に沈んでいる部分の体積を \(V_W\) とおく。

具体的な解説と立式
アルキメデスの原理より、浮力 \(f\) は次のように表せます。
$$ f = \rho_0 V_W g $$
(1)で求めた結果 \(f = \rho V g\) と等しいので、
$$ \rho_0 V_W g = \rho V g $$
この式から、水中に沈んでいる部分の体積 \(V_W\) が求められます。
求めるのは「水面から出ている部分の体積」の「木片全体の体積 \(V\) に対する比率」なので、その値は \(\displaystyle\frac{V – V_W}{V}\) となります。

使用した物理公式

  • アルキメデスの原理: \(f = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中}} g\)
計算過程

まず、\(V_W\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 V_W g &= \rho V g \\[2.0ex]
V_W &= \frac{\rho}{\rho_0} V
\end{aligned}
$$
次に、求める比率を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{V – V_W}{V} &= \frac{V – \frac{\rho}{\rho_0}V}{V} \\[2.0ex]
&= \frac{V(1 – \frac{\rho}{\rho_0})}{V} \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{\rho}{\rho_0} \\[2.0ex]
&= \frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

氷山がなぜ海に浮くかを考えるのと同じです。氷は水より少しだけ密度が小さいので、体積の大部分(約9割)は水中に沈んでいますが、残りの1割が水面から顔を出します。この水面から出ている部分の割合は、水と氷の密度の違いによって決まります。この問題でも同様に、水と木の密度の違いから、水上に出ている部分の体積の割合を計算しています。

結論と吟味

比率は \(\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}\) と求まりました。この式は、木片の密度 \(\rho\) が水の密度 \(\rho_0\) に近いほど比率が \(0\) に近づき(ほとんど沈む)、\(\rho\) が \(0\) に近いほど比率が \(1\) に近づく(ほとんど浮く)ことを示しており、直感と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
はかりが示す値は、はかりが容器を押し返す「垂直抗力」の大きさに対応します。この垂直抗力を求めるには、「容器」を含んだ何らかのグループ(系)についての力のつりあいを考えるのが有効です。ここでは、模範解答に沿って「水と容器」を一つの系とみなします。この系に働く「外部の力」をすべてリストアップし、それらがつりあっているという式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 「水と容器」を一つの系とみなす。
  • 系に働く「外力」だけを考える。系内部で水と容器が及し合う力は相殺されるので考えなくてよい。
  • 木片が水から浮力を受けることの「反作用」として、木片は水を下向きに押している。この力も系に対する外力となる。

具体的な解説と立式
「水と容器」を一つの系と考え、この系に働く鉛直方向の力を考えます。

  • 上向きの力:
    • はかりが系を支える垂直抗力 \(N\)。
  • 下向きの力:
    • 系の重力: 容器の質量 \(M\) と水の質量 \(\rho_0 V_0\) の和にかかる重力なので、\((M + \rho_0 V_0)g\)。
    • 浮力の反作用: 木片は水から上向きに浮力 \(f\) を受けている。その反作用として、木片は水を下向きに大きさ \(f\) の力で押している。この力は系にとって外力となる。(1)より \(f = \rho V g\)。

これらの力がつりあっているので、「(上向きの力の和)=(下向きの力の和)」より、
$$ N = (M + \rho_0 V_0)g + \rho V g $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 作用・反作用の法則
計算過程

上記の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
N &= (M + \rho_0 V_0)g + \rho V g \\[2.0ex]
&= (M + \rho_0 V_0 + \rho V)g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

はかりの気持ちになってみましょう。はかりが支えなければいけない重さは何でしょうか? それは、(1)容器そのものの重さ、(2)中に入っている水の重さ、そして(3)水に浮いている木片の重さ、の合計です。木片は容器に直接触れていませんが、浮力によって水を押しのけ、その重さ分の力を水を通して間接的に容器とはかりに伝えています。結局、はかりはそこにあるものすべての重さを支えることになるのです。

結論と吟味

垂直抗力の大きさは \(N = (M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\) と求まりました。これは、容器、水、木片の質量の合計 \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)\) に重力加速度 \(g\) を掛けたもの、つまり全重量に等しくなっています。これは物理的に非常に妥当な結果です。

解答 (3) \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\)
別解1: 木片・水・容器をすべて一体とみなす解法

思考の道筋とポイント
この問題で考えられる最も大きなグループ、すなわち「木片、水、容器」の全体を一つの系とみなします。この巨大な系全体が静止しているので、この系に働く「外部の力」が完全につりあっているはずです。この考え方では、木片と水の間で働く浮力やその反作用は、系内部の力(内力)となるため、考慮する必要がなくなり、非常にシンプルに立式できます。
この設問における重要なポイント

  • 「木片、水、容器」の全体を一つの系とみなす。
  • 系に働く外力は、系全体の「重力」と、はかりからの「垂直抗力」のみである。
  • 浮力とその反作用は、系内部の力(内力)なので、系全体のつりあいの式には現れない。

具体的な解説と立式
「木片、水、容器」を一つの系と考え、この系に働く鉛直方向の外力を考えます。

  • 上向きの外力:
    • はかりが系全体を支える垂直抗力 \(N\)。
  • 下向きの外力:
    • 系全体の重力: 構成要素すべての質量の合計にかかる重力。
      • 容器の質量: \(M\)
      • 水の質量: \(\rho_0 V_0\)
      • 木片の質量: \(\rho V\)
    • よって、系全体の重力は \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\)。

これらの外力がつりあっているので、「(上向きの力の和)=(下向きの力の和)」より、
$$ N = (M + \rho_0 V_0 + \rho V)g $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
計算過程

立式そのものが結論であり、これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

はかりの上に乗っているもの全部を、大きな一つの「かたまり」だと考えてみましょう。このかたまりが静止しているのは、かたまり全体の重さ(地球が下に引く力)と、はかりがそれを支える力(垂直抗力)がぴったり同じ大きさだからです。中の水や木片がどうなっているかを一切考えずに、全体の重さだけを考えればよい、という最も直感的な解き方です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この「すべてを一体とみなす」方法は、見通しが良く計算も簡単なため、静止している物体系のつりあいを考える上で非常に強力なテクニックです。

解答 (3) \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\)
別解2: 水と容器、それぞれの力のつりあいを考える解法

思考の道筋とポイント
「系」として大きくまとめるのではなく、基本に立ち返り、各パーツ(この場合は「水」と「容器」)に働く力を一つずつ分析し、それらを作用・反作用の法則でつなぎ合わせていく方法です。少し手間はかかりますが、力がどのように伝わっていくかを理解するのに役立ちます。
この設問における重要なポイント

  • まず「容器」の力のつりあいを考える。次に「水」の力のつりあいを考える。
  • 「水が容器の底を押す力」と「容器の底が水を押す力」が、作用・反作用の関係にあることを見抜く。

具体的な解説と立式
ステップ1: 「容器」に働く力のつりあいを考える

容器に働く鉛直方向の力は以下の通りです。

  • 上向きの力: はかりからの垂直抗力 \(N\)。
  • 下向きの力:
    • 容器自身の重力 \(Mg\)。
    • 容器の中の水が、容器の底を下に押す力 \(F_{\text{水→容器}}\)。

これらの力がつりあっているので、
$$ N = Mg + F_{\text{水→容器}} \quad \cdots ① $$
ステップ2: 「水」に働く力のつりあいを考える

水に働く鉛直方向の力は以下の通りです。

  • 上向きの力:
    • 容器の底が、水を上に押し支える力 \(F_{\text{容器→水}}\)。
  • 下向きの力:
    • 水自身の重力 \(\rho_0 V_0 g\)。
    • 木片が水を下に押す力(浮力の反作用)。その大きさは \(f = \rho V g\)。

これらの力がつりあっているので、
$$ F_{\text{容器→水}} = \rho_0 V_0 g + \rho V g \quad \cdots ② $$
ステップ3: 作用・反作用の法則でつなぐ

「水が容器の底を押す力 \(F_{\text{水→容器}}\)」と「容器の底が水を押す力 \(F_{\text{容器→水}}\)」は、互いに作用・反作用の関係にあるため、大きさが等しいです。
$$ F_{\text{水→容器}} = F_{\text{容器→水}} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 作用・反作用の法則
計算過程

式②と③から、\(F_{\text{水→容器}} = \rho_0 V_0 g + \rho V g\) となります。

これを式①に代入して \(N\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= Mg + (\rho_0 V_0 g + \rho V g) \\[2.0ex]
&= (M + \rho_0 V_0 + \rho V)g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

力の伝言ゲームのように、力の流れを追いかける方法です。
1. はかりが支えているのは「容器」です。
2. 容器を下に押しているのは、「容器自身の重さ」と「水が底を押す力」です。
3. では、「水が底を押す力」はどれくらいか? それは、水が支えなければならないものの重さの合計です。水は「自分自身の重さ」と「浮いている木片から押し返される力(木片の重さ分)」を支えています。
4. これらをすべて足し合わせると、結局はかりは容器、水、木片のすべての重さを支えていることになります。

結論と吟味

他の解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、力の流れを一つ一つ丁寧に追跡するため、なぜ最終的に全重量を支えることになるのか、その物理的な過程をより深く理解することができます。

解答 (3) \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあいと作用・反作用の法則
    • 核心: この問題の根幹は、静止している物体(系)に働く力がすべてつりあっているという「静力学の基本原理」を、様々な対象に適用する能力です。特に、目に見えない「浮力」という力を考え、さらにその「反作用」がどこに働くのかを正確に特定することが鍵となります。
    • 理解のポイント:
      • 個別の物体のつりあい: 問(1)のように、まずは一つの物体(木片)だけに着目し、それに働く力(重力と浮力)のつりあいを考えるのが基本です。
      • 作用・反作用の法則の適用: 木片が水から「浮力」を受けるとき、必ずその反作用として、水は木片から「下向きに同じ大きさの力」を受けます。この「浮力の反作用」の存在を認識することが、問(3)を正しく解くための重要なステップです。
      • 系全体のつりあい: 問(3)の別解1のように、複数の物体を一つの「系」とみなすと、系内部で及し合う力(内力、この場合は浮力とその反作用)を無視して、外力(系全体の重力と垂直抗力)だけのつりあいを考えればよくなります。これにより、問題を劇的に単純化できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 物体が底に沈んでいる場合: もし木片が水より密度が大きく、容器の底に沈んでいる場合、はかりが受ける垂直抗力はどうなるでしょうか。この場合も、別解1の「全体を一つの系とみなす」考え方が有効です。木片は容器の底に直接力を及ぼしますが、それも系内部の力(内力)です。結局、系全体の重力が垂直抗力とつりあうので、答えは本問と同じ \((M + \rho_0 V_0 + \rho V)g\) になります。
    • 糸で物体を吊るして水に沈める問題: 容器に入った水のなかに、外部から糸で物体を吊るして一部を沈める場合。このとき、はかりが示す値は「容器+水の重さ」に「浮力の反作用」を加えたものになります。物体を支える糸の張力と浮力の合計が物体の重力とつりあうため、浮力の分だけ糸の張力は軽くなります。その「軽くなった分」が、浮力の反作用として水に加えられ、はかりの測定値が増加します。
    • 風船や気球の浮力: 空気を流体とみなせば、空気中でも浮力は働きます。ヘリウムガスを詰めた風船が浮くのは、風船が押しのけた空気の重さ(浮力)が、風船とヘリウムガスの合計の重さより大きいからです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まず、静止しているか運動しているかを確認する: 問題が「静止している」「つりあっている」「浮いている」といった言葉を含んでいれば、それは「力のつりあい」の問題です。
    2. 力を受ける物体(または系)を明確に設定する: 誰が、誰から、どんな力を受けているのかを明確にするため、「〜〜に着目すると」と主語をはっきりさせましょう。
    3. 力をすべて図示する: 設定した物体(系)に働く力を、ベクトル矢印で漏れなく書き出します。特に、重力、垂直抗力、張力、浮力など、接触しているもの・していないものからの力をすべてリストアップします。
    4. どの「系」で考えると最も楽になるか判断する:
      • 個別の物体の間の力(張力、接触力、浮力など)を求めたい → 個別の物体に着目する。
      • 系全体を支える力(床からの垂直抗力など)を求めたい → 関係する物体すべてを一つの系とみなし、内力を無視できないか検討する。このアプローチは非常に強力です。
    5. 作用・反作用のペアを意識する: AがBから受ける力を考えたら、必ずBがAから受ける反作用の存在を頭の片隅に置いておくと、力の見落としが減ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 浮力の反作用を忘れる:
    • 誤解: 問(3)で「水と容器」を系と考えたとき、系の重力と垂直抗力しか考えず、木片の存在を無視してしまう。
    • 対策: 「浮力は水が物体を押す力」であると定義を正確に覚えておきましょう。力の法則によれば、必ずその反作用が存在します。つまり、「物体が水を押し返す力」が必ず水に働いているはずだ、と意識することが重要です。物体が浮いている場合、その物体は「自分の重さ分の力」で水を下に押している、とイメージすると分かりやすいです。
  • はかりの目盛りは「容器と水の重さ」だけだと考える:
    • 誤解: 木片は容器に触れていないのだから、はかりの測定値には影響しないだろうと考えてしまう。
    • 対策: 料理用のはかりに水の入ったコップを乗せ、指を水につけてみてください(コップの底には触れないように)。はかりの目盛りは、指を入れた分だけ増加します。これは、指が水から浮力を受け、その反作用で指が水を押し、その力がはかりに伝わるためです。このように、直接触れていなくても、流体を介して力は伝達されることを具体的なイメージで理解しておきましょう。
  • 考察する「系」と「外力」を混同する:
    • 誤解: 「木片・水・容器」全体を系と考えたのに、浮力やその反作用を力のつりあいの式に入れてしまう。
    • 対策: 「系」を設定したら、その境界線をイメージしましょう。力の矢印の始点が系の外にあるものが「外力」、始点も終点も系の内側にあるものが「内力」です。系全体のつりあいの式に登場するのは「外力」だけである、というルールを徹底しましょう。この問題の場合、系全体の重力(地球という系の外の物体が及ぼす力)と、垂直抗力(はかりという系の外の物体が及ぼす力)だけが外力です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(力のつりあい):
    • 選定理由: 求めたいのは「浮力」という力です。そして、木片が「静かに浮いている」という条件から、木片は静止しており、加速度はゼロです。力と運動の関係を考える運動方程式 \(ma=F\) において \(a=0\) の場合が、力のつりあい \(F=0\) に相当します。したがって、力のつりあいの式を立てるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: 木片に働く鉛直方向の力は重力と浮力のみであり、これらがつりあっているという物理的な状況から、\(f = (\text{重力})\) という関係式が導かれます。
  • (2)での公式選択(アルキメデスの原理):
    • 選定理由: 求めたいのは「水面から出ている部分の体積」であり、これは「水中に沈んでいる部分の体積 \(V_W\)」が分かれば計算できます。浮力の大きさを、物体の水中部分の体積と関連付ける唯一の法則がアルキメデスの原理 \(f = \rho_0 V_W g\) です。
    • 適用根拠: (1)で求めた浮力 \(f\) と、アルキメデスの原理から導かれる浮力は、同じ物理量を異なる視点から表現したものです。したがって、これらを等しいとおくことで、未知数 \(V_W\) を既知の量で表す方程式が得られます。
  • (3)でのアプローチ選択(考察する「系」の設定):
    • 選定理由: 求めたいのは「はかりから受ける垂直抗力 \(N\)」です。この力は「容器」が受ける力なので、少なくとも容器を含む系を考える必要があります。
    • 適用根拠(模範解答): 「水と容器」を系と設定すると、求めたい \(N\) が外力として現れます。この系に働く他の外力(系の重力、浮力の反作用)を特定することで、力のつりあいの式を立てることができます。
    • 適用根拠(別解1): 「木片・水・容器」の全体を系と設定すると、求めたい \(N\) が外力として現れるのは同じですが、他の外力が「系全体の重力」だけになり、非常にシンプルになります。これは、静止した物体系全体にかかる外力を問われた場合に最も有効なアプローチです。物理法則は、どの系を選んでも(正しく適用すれば)同じ結論に至るという普遍性を持っており、この問題はその良い例となっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字の種類を正確に区別する:
    • この問題では、木片の密度 \(\rho\) と水の密度 \(\rho_0\)、木片の体積 \(V\) と水の体積 \(V_0\) のように、似た記号が複数登場します。問題を解き始める前に、どの文字が何を表しているかを自分の中で整理し、書き間違いのないように注意しましょう。
  • 式を立ててから代入する:
    • 例えば(2)の計算で、いきなり \(\displaystyle\frac{V – \frac{\rho}{\rho_0}V}{V}\) と書くのではなく、まず「求める比率 \( = \displaystyle\frac{V-V_W}{V}\)」と定義し、次に別で計算した \(V_W\) を代入する、というように段階を踏むと、思考が整理され、計算ミスが減ります。
  • 単位(次元)を意識する:
    • (1)で求めた浮力 \(\rho V g\) は、(密度 \(\times\) 体積 \(\times\) 加速度)なので、(\(\text{kg/m}^3 \times \text{m}^3 \times \text{m/s}^2 = \text{kg} \cdot \text{m/s}^2 = \text{N}\))となり、力の単位と一致します。
    • (2)で求めた比率は無次元量(単位なし)になるはずです。\(\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}\) は(密度/密度)なので、確かに無次元量になっています。
    • このように、計算結果の単位が物理的に正しいかを確認する癖をつけると、間違いに気づきやすくなります。
  • 物理的にありえない値でないか吟味する:
    • (2)の答え \(\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}\) について、木が浮くためには \(\rho < \rho_0\) である必要があります。このとき、分子 \(\rho_0 – \rho\) は正になり、比率は正の値になります。また、\(\rho > 0\) なので、比率は \(1\) より小さくなります。これは「水面から出ている部分の比率」として妥当な範囲(\(0\) から \(1\) の間)です。もし計算結果が負になったり、\(1\) を超えたりした場合は、どこかで計算ミスをしている可能性が高いです。
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発展問題

125 斜めに加えられた力と摩擦力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解1: 不等式を数学的に厳密に解く方法
      • 模範解答が \(f \to \infty\) の極限を考えることで条件を導くのに対し、別解では「任意の力の大きさ \(f\) で成り立つ」という条件を数学的な不等式の性質(係数の符号による場合分け)を用いて厳密に解きます。
    • 設問(2)の別解2: 駆動力と最大摩擦力の関係をグラフで考える方法
      • 別解1が数式処理に重点を置くのに対し、この別解では、物体を滑らせようとする力(駆動力)と、それに抵抗する最大摩擦力を、それぞれ加える力 \(f\) の関数とみなし、両者の関係をグラフ的に(直線の傾きの比較として)捉えることで、物理的な意味を直感的に理解します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 模範解答の極限を用いた解法に加え、数学的に厳密な解法(別解1)と、物理的な力のせめぎ合いを可視化する解法(別解2)を学ぶことで、「なぜその条件になるのか」を多角的に深く理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 「任意の変数で成り立つ」という条件を扱う際に、極限、不等式の性質、関数の振る舞い(グラフ)といった複数のアプローチがあることを知ることは、他の分野の問題にも応用できる思考の訓練になります。
    • 解法の選択肢拡大: 特に別解2の「力の関数の振る舞いを比較する」という考え方は、より複雑な条件を分析する際に強力な武器となります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「静止摩擦力が働く条件下での力のつりあい」です。特に、斜め方向に力が加わることで垂直抗力が変化し、それに伴い最大摩擦力も変化する状況を正しく分析することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の分解: 斜め向きの力は、水平成分と鉛直成分に分解して考えるのが基本です。
  2. 力のつりあい: 物体が静止している(すべり出す直前も含む)間は、水平方向、鉛直方向それぞれの力の和がゼロになっています。
  3. 静止摩擦力の性質: 静止摩擦力は、外力に応じて大きさを変える「調整可能な力」です。ただし、その大きさには上限(最大摩擦力 \(\mu N\))があります。
  4. 垂直抗力の変化: この問題のように、外部から鉛直方向の力が加わると、床からの垂直抗力はもはや \(mg\) ではなくなります。垂直抗力 \(N\) は、鉛直方向の力のつりあいから決定される量です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず物体に働くすべての力を図示し、斜めの力 \(f\) を水平・鉛直成分に分解します。次に、水平方向と鉛直方向の力のつりあいの式を立て、垂直抗力 \(N\) と静止摩擦力 \(F\) を求めます。「すべり出す直前」という条件から、静止摩擦力が最大摩擦力に等しい(\(F = \mu N\))という関係式を適用し、指定された形に整理します。
  2. (2)では、「すべり出さない」ための条件、すなわち静止摩擦力が常に最大摩擦力以下(\(F \le \mu N\))であるという不等式を立てます。この不等式が、力の大きさ \(f\) がどんなに大きくなっても成り立つための角度 \(\theta\) の条件を導き出します。

問(1)

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