「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 2】発展問題47~53

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発展問題

47 台車からの打ち上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1), (3)の別解: 台車と一緒に動く観測者から見た運動(鉛直投げ上げ)として解く方法
      • 模範解答が地面に静止した視点から考えるのに対し、別解では運動する台車からの視点で考えます。これにより、複雑な斜方投射が単純な鉛直投げ上げ運動に帰着します。
    • 設問(2)の別解1: 時間\(t\)を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = -2gy\) を用いる解法
      • 模範解答が(1)で求めた時間を利用するのに対し、別解では時間を使わずに初速度と終速度から直接高さを計算します。
    • 設問(2)の別解2: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が運動学の公式を用いるのに対し、別解ではエネルギーという全く異なる物理的観点からアプローチします。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「誰から見るか(座標系の設定)」によって運動の記述がどう変わるか、また運動方程式とエネルギー保存則という異なる法則が同じ結果を導くことへの理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、複数の視点(静止系、運動系、運動学、エネルギー)からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の効率化: 問題によっては、視点を変えたり、適切な法則を選んだりすることで、計算を大幅に簡略化できることを学べます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「運動する物体からの射出(相対速度と合成速度)」です。地面から見た小球の運動は、台車の速度と打ち上げ速度を合成した「斜方投射」として扱われます。運動を水平・鉛直に分解して考えるのが基本戦略ですが、「誰の視点から見るか」を切り替えることも重要なポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の合成: 地面から見た速度は、「台車の速度」と「台車から見た速度」のベクトル和で表されます。この問題では、両者が直交しているため、水平成分と鉛直成分にそのまま対応します。
  2. 運動の分解と独立性: 地面から見ると、小球の運動は水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」の組み合わせとして捉えられ、両者は互いに影響しません。
  3. 最高点の条件: 最高点では、鉛直方向の速度成分のみが一時的に \(0\) になります (\(v_y=0\))。
  4. 相対運動の考え方: 台車に乗っている観測者から見ると、小球は水平方向には動かず、単純な「鉛直投げ上げ運動」をするように見えます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、地面から見た運動の鉛直成分(鉛直投げ上げ運動)に着目し、鉛直方向の速度が \(0\) になる時刻を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた最高点までの時間を使って、鉛直方向の変位の式から高さを計算します。
  3. (3)では、運動の対称性を利用して小球が台車に戻るまでの全飛行時間を求め、その時間と台車の一定の速度から、台車が進んだ距離を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球が最高点に達する時間を求めます。この問題を解くには、まず「誰から見た運動か」を明確にする必要があります。ここでは、地面に静止している観測者から見た運動を考えます。
地面から見ると、小球は台車の水平速度 \(5.0\,\text{m/s}\) と、台車に対する鉛直上向きの速度 \(9.8\,\text{m/s}\) を同時に持つことになります。これは、初速度が水平成分 \(v_{0x} = 5.0\,\text{m/s}\) と鉛直成分 \(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\) で与えられる「斜方投射」と同じです。
最高点では、鉛直方向の速度成分 \(v_y\) が一瞬だけ \(0\) になります。この物理的な条件を、鉛直方向の運動(鉛直投げ上げ)の速度の式に適用して時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 地面から見た小球の運動を、水平方向と鉛直方向に分解して考える。
  • 水平方向の初速度 \(v_{0x}\) は台車の速度に等しく \(5.0\,\text{m/s}\)。
  • 鉛直方向の初速度 \(v_{0y}\) は打ち上げ速度に等しく \(9.8\,\text{m/s}\)。
  • 最高点での物理的条件は、鉛直方向の速度が \(0\) (\(v_y = 0\)) である。

具体的な解説と立式
鉛直方向の運動に注目します。これは初速度 \(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\) の鉛直投げ上げ運動です。重力加速度を \(g = 9.8\,\text{m/s}^2\) とします。
時刻 \(t\) における鉛直方向の速度 \(v_y\) は、公式より次のように表せます。
$$ v_y = v_{0y} – gt $$
最高点に達したとき \(v_y = 0\) となるので、この条件を代入して最高点までの時間 \(t\) を求めます。
$$ 0 = v_{0y} – gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式に、\(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入して \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0 &= 9.8 – 9.8t \\[2.0ex]
9.8t &= 9.8 \\[2.0ex]
t &= 1.0
\end{aligned}
$$
したがって、最高点に達するのは \(1.0\,\text{s}\) 後です。

この設問の平易な説明

動いている台車から真上にボールを投げても、ボールの「上がる・下がる」という縦の動きだけを見れば、地面で真上に投げたときと全く同じです。ボールは重力によってだんだん遅くなり、一番高い点では縦方向のスピードが一瞬だけゼロになります。初めの縦方向のスピードが \(9.8\,\text{m/s}\) で、重力が毎秒 \(9.8\,\text{m/s}\) ずつスピードを奪っていくので、スピードがゼロになるのはちょうど \(1.0\) 秒後、ということになります。

結論と吟味

最高点までの時間は \(1.0\,\text{s}\) と求まりました。鉛直方向の初速度が \(9.8\,\text{m/s}\)、重力加速度が \(9.8\,\text{m/s}^2\) なので、\(1\)秒後に速度が \(0\) になるというのは計算上も直感的にも妥当な結果です。

解答 (1) \(1.0\,\text{s}\) 後
別解: 台車から見た運動(相対運動)で考える解法

思考の道筋とポイント
視点を変えて、台車に乗っている観測者から小球の運動を見てみましょう。台車と一緒に水平方向に運動しているこの観測者から見ると、小球は水平方向には動いていないように見えます(相対速度が \(0\))。つまり、ただ単に鉛直上向きに \(9.8\,\text{m/s}\) で打ち上げられ、重力によって減速し、やがて真下に落ちてくる「鉛直投げ上げ運動」そのものに見えます。
この単純な運動モデルにおいて、最高点に達する条件は「速度が \(0\) になる」ことなので、そこから時間を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 台車に対する小球の相対的な初速度は、鉛直上向きに \(9.8\,\text{m/s}\) のみである。
  • 台車から見ると、小球は単純な鉛直投げ上げ運動を行う。
  • 最高点では、この観測者から見て小球は一瞬静止する。

具体的な解説と立式
台車から見た小球の初速度を \(v’_{\text{初}} = 9.8\,\text{m/s}\) とします。最高点での速度は \(v’_{\text{最高点}} = 0\) です。
鉛直投げ上げの速度の式 \(v = v_0 – gt\) を用いて、
$$ v’_{\text{最高点}} = v’_{\text{初}} – gt $$
この式に値を代入します。
$$ 0 = 9.8 – 9.8t $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

主たる解法と全く同じ計算になります。
$$
\begin{aligned}
9.8t &= 9.8 \\[2.0ex]
t &= 1.0
\end{aligned}
$$
よって、時間は \(1.0\,\text{s}\) となります。

この設問の平易な説明

もしあなたが動いている台車に乗ってボールを真上に投げたら、あなたにはボールがまっすぐ上がって、まっすぐ自分のところに落ちてくるように見えますよね。この見方で考えると、問題は「初速 \(9.8\,\text{m/s}\) で投げたボールが一番高い点に着くのは何秒後?」というとても簡単な問題になります。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。この問題のように、運動する物体からの射出を考える場合、その運動物体からの視点(運動系)で考えると、問題が大幅に簡単になることがあります。物理現象は観測者の選び方によらず同じ時間を刻む、ということも確認できます。

解答 (1) \(1.0\,\text{s}\) 後

問(2)

思考の道筋とポイント
打ち上げられた位置からの最高点の高さを求めます。主たる解法と同様に、地面から見た運動として考えます。
(1)で、小球が最高点に達するまでの時間が \(t=1.0\,\text{s}\) であることがわかりました。この時間を使って、鉛直方向の運動(初速度 \(9.8\,\text{m/s}\) の鉛直投げ上げ)でどれだけの距離を上昇するかを、変位の公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直方向の運動は、初速度 \(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\) の鉛直投げ上げ運動である。
  • (1)で求めた最高点までの時間 \(t=1.0\,\text{s}\) を、変位の公式に代入する。

具体的な解説と立式
鉛直方向の変位を \(y\) とすると、変位の公式は以下のように表せます。
$$ y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2 $$
この式に、\(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\), \(t=1.0\,\text{s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入して \(y\) を求めます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

各値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= 9.8 \times 1.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (1.0)^2 \\[2.0ex]
&= 9.8 – 4.9 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 4.9
\end{aligned}
$$
したがって、最高点の高さは \(4.9\,\text{m}\) です。

この設問の平易な説明

(1)で、ボールが一番高い点に着くまでに \(1.0\) 秒かかることがわかりました。では、その \(1.0\) 秒の間にボールはどれくらいの高さまで上がるのでしょうか。これを、時間と高さの関係を表す公式を使って計算します。

結論と吟味

最高点の高さは \(4.9\,\text{m}\) と求まりました。約 \(5\,\text{m}\) というのは、ビルの2階に届くかどうかくらいの高さであり、物理的に妥当な値です。

解答 (2) \(4.9\,\text{m}\)
別解1: 時間tを含まない公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
最高点の高さを求める別の方法として、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を利用することができます。この方法の利点は、設問(1)の計算結果に依存しないため、もし(1)で計算ミスをしていても(2)は独立して正解を導ける可能性がある点です。
鉛直方向の運動について、初速度 \(v_{0y}\) と最高点での速度 \(v_y=0\) がわかっているので、これらの値を使って高さを直接計算します。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直方向の初速度は \(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\)。
  • 最高点での鉛直方向の速度は \(v_y = 0\)。
  • 加速度は鉛直下向きに \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\)。

具体的な解説と立式
鉛直方向の運動に関する公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2ay\) を用います。最高点の高さを \(y\) とすると、
$$ 0^2 – v_{0y}^2 = 2(-g)y $$
この式に、\(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
計算過程

上記で立式した式を \(y\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0^2 – (9.8)^2 &= -2 \times 9.8 \times y \\[2.0ex]
-(9.8)^2 &= -19.6y \\[2.0ex]
y &= \frac{(9.8)^2}{19.6} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8 \times 9.8}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8}{2} \\[2.0ex]
&= 4.9
\end{aligned}
$$
したがって、最高点の高さは \(4.9\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

物理には便利な公式がいくつかあって、時間を知らなくても「最初のスピード」と「終わりのスピード」がわかっていれば高さを計算できる公式もあります。今回は、最初の縦スピードが \(9.8\,\text{m/s}\) で、一番高い点での縦スピードはゼロなので、この公式を使って一気に高さを求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。時間を使わずに計算できるため、検算にも有効な方法です。

解答 (2) \(4.9\,\text{m}\)
別解2: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
小球が打ち上げられてから最高点に達するまで、小球に働く力は保存力である重力のみです(空気抵抗は無視)。したがって、小球の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存されます。この「力学的エネルギー保存則」を用いて最高点の高さを求めます。
計算を簡単にするため、(1)の別解と同様に「台車から見た運動」で考えます。
この設問における重要なポイント

  • 打ち上げ直後と最高点とで、力学的エネルギーが等しい。
  • 打ち上げられた位置を、位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とする。
  • 台車から見ると、初速度は \(9.8\,\text{m/s}\)、最高点での速度は \(0\) となり、計算が単純になる。

具体的な解説と立式
台車に乗っている観測者から見た運動で考えます。小球の質量を \(m\)、最高点の高さを \(y\) とします。
打ち上げ直後の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) は、運動エネルギーのみです(位置エネルギーは \(0\))。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}m(9.8)^2 + mg \cdot 0 $$
最高点での力学的エネルギー \(E_{\text{最高点}}\) は、位置エネルギーのみです(速度が \(0\) なので運動エネルギーは \(0\))。
$$ E_{\text{最高点}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgy $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{初}} = E_{\text{最高点}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}m(9.8)^2 = mgy $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \text{一定}\)
計算過程

上記で立式した式を \(y\) について解きます。両辺の \(m\) は消去できます。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{(9.8)^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{(9.8)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8}{2} \\[2.0ex]
&= 4.9
\end{aligned}
$$
したがって、最高点の高さは \(4.9\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが持っている「運動の勢い(運動エネルギー)」が、上に上がっていくにつれて「高さのエネルギー(位置エネルギー)」にだんだん変わっていく、と考える方法です。一番高い点では、最初の運動の勢いがすべて高さのエネルギーに変換されたはずです。この「エネルギーの交換」という考え方を使って高さを計算します。

結論と吟味

他の解法と完全に一致した結果が得られました。運動方程式(力と加速度)とは異なる、エネルギーという視点からも同じ結論が導かれることは、物理法則の整合性を示す良い例です。

解答 (2) \(4.9\,\text{m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小球が台車にもどってくるまでに、台車が進んだ距離を求めます。
まず、小球が打ち上げられてから再び台車の上に戻ってくるまでの全飛行時間を求めます。鉛直方向の運動は対称的なので、上昇にかかる時間と下降にかかる時間は等しくなります。したがって、全飛行時間は(1)で求めた最高点までの時間の \(2\) 倍になります。
次に、その全飛行時間の間、台車は水平方向に速さ \(5.0\,\text{m/s}\) の等速直線運動を続けているので、「速さ × 時間」で台車が進んだ距離を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直投げ上げ運動の対称性から、全飛行時間は最高点までの時間の \(2\) 倍である。
  • 台車は、小球が空中にある間も、速さ \(5.0\,\text{m/s}\) で等速直線運動を続けている。
  • 小球が台車に戻ってこれるのは、小球の水平速度も台車と全く同じ \(5.0\,\text{m/s}\) で一定だからである。

具体的な解説と立式
(1)より、最高点に達するまでの時間は \(t = 1.0\,\text{s}\) でした。
運動の対称性から、全飛行時間 \(T\) は、
$$ T = 2t $$
この時間 \(T\) の間に台車が進む距離を \(x\) とすると、台車の速さは \(v_{\text{台車}} = 5.0\,\text{m/s}\) で一定なので、
$$ x = v_{\text{台車}} \times T $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の距離の式: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
計算過程

まず、全飛行時間 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= 2 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
次に、この時間で台車が進む距離 \(x\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
x &= 5.0 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 10
\end{aligned}
$$
したがって、台車は \(10\,\text{m}\) 進みます。

この設問の平易な説明

ボールが上がって一番高いところまで行く時間と、そこから台車まで下りてくる時間は同じです。なので、(1)で求めた時間を \(2\) 倍すれば、ボールが空中にいた合計時間がわかります。台車はその間ずっと一定のスピードで横に進んでいるので、「台車の速さ × 合計時間」で、台車がどれだけ進んだかを計算できます。

結論と吟味

台車が進んだ距離は \(10\,\text{m}\) と求まりました。この \(2.0\) 秒の間に、小球も水平方向には \(5.0\,\text{m/s} \times 2.0\,\text{s} = 10\,\text{m}\) 進んでいます。台車と小球が水平方向に全く同じ距離を進むからこそ、小球は投げ上げられた場所(台車の上)に正確に戻ってくるのです。この結果は物理的に整合性が取れています。

解答 (3) \(10\,\text{m}\)
別解: 台車から見た運動(相対運動)で考える解法

思考の道筋とポイント
(1)の別解と同様に、台車に乗っている観測者の視点で考えます。この観測者にとって、小球は真上に上がって、再び自分のところ(台車の上)に落ちてきます。この往復にかかる時間を求めます。
この時間は、鉛直投げ上げ運動において、上昇にかかる時間と下降にかかる時間が等しいことから、最高点までの時間の \(2\) 倍として計算できます。
この全飛行時間がわかれば、その間に台車が(地面から見て)どれだけ進んだかを計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 台車から見ると、小球は単純な鉛直投げ上げ運動とその落下運動を行う。
  • 全飛行時間は、最高点までの時間の \(2\) 倍である。
  • 台車が進んだ距離は、この全飛行時間と台車の(地面に対する)速度から計算する。

具体的な解説と立式
台車から見た運動において、最高点までの時間は \(t=1.0\,\text{s}\) でした。
したがって、小球が台車に戻ってくるまでの全飛行時間 \(T\) は、
$$ T = 2t = 2 \times 1.0 = 2.0\,\text{s} $$
この時間 \(T\) の間に、台車は地面に対して速さ \(v_{\text{台車}} = 5.0\,\text{m/s}\) で進みます。その距離を \(x\) とすると、
$$ x = v_{\text{台車}} \times T $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の距離の式: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
計算過程

主たる解法と全く同じ計算になります。
$$
\begin{aligned}
x &= 5.0 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 10
\end{aligned}
$$
したがって、台車は \(10\,\text{m}\) 進みます。

この設問の平易な説明

台車に乗っている人から見れば、ボールはただ上がって下りてくるだけです。その往復にかかる時間を計算します((1)の答えの \(2\) 倍です)。台車はその合計時間の間、地面に対してずっと進み続けています。だから、「台車の速さ × ボールが空中を飛んでいた合計時間」で、台車が進んだ距離がわかります。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。相対運動の考え方を用いることで、小球が台車に戻ってくるまでの時間をより直感的に求めることができます。

解答 (3) \(10\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 速度の合成と運動の分解
    • 核心: 動いている台車から打ち上げられた小球の運動は、静止している地面から見ると、台車の運動と打ち上げ運動が「合成」されたものに見えます。この一見複雑な運動も、根幹にあるのは、互いに影響しない\(2\)つの単純な運動として扱う「運動の分解」の思考法です。
    • 理解のポイント:
      • 速度の合成: 地面から見た小球の初速度は、台車の水平速度 \(\vec{v}_{\text{台車}}\) と、台車に対する小球の鉛直な打ち上げ速度 \(\vec{v}_{\text{相対}}\) のベクトル和 \(\vec{v}_{\text{地面}} = \vec{v}_{\text{台車}} + \vec{v}_{\text{相対}}\) で与えられます。
      • 運動の分解: この合成された速度を持つ小球の運動(斜方投射)は、以下のように分解できます。
        • 水平方向: 外から力が働かないため、台車の速度と同じ、速さ \(5.0\,\text{m/s}\) の「等速直線運動」。
        • 鉛直方向: 重力のみが働くため、初速度 \(9.8\,\text{m/s}\) での「鉛直投げ上げ運動」。
  • 相対運動(座標系の変換)
    • 核心: 物理現象は、誰が(どの座標系で)見るかによって、その見え方(運動の記述)が変わります。この問題は、台車と一緒に動く観測者の視点(運動座標系)で見ることで、複雑な斜方投射を単純な鉛直投げ上げ運動として捉え直すことができます。
    • 理解のポイント:
      • 地面から見る(静止座標系): 小球は放物線を描きます(斜方投射)。
      • 台車から見る(運動座標系): 小球は真上に上がって真下に落ちてきます(鉛直投げ上げ)。
      • どちらの視点で見ても、最高点までの時間や高さ、全飛行時間といった物理的な結果は同じになります。適切な視点を選ぶことで、問題を劇的に簡単にできる場合があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 川を渡る船: 船の静水に対する速度(エンジンによる速度)と、川の流れの速度を合成して、岸から見た船の実際の運動(速度と軌跡)を考える問題。本問の「台車 \(\rightarrow\) 川の流れ」「打ち上げ \(\rightarrow\) 船のエンジン」という対応関係にあります。
    • 風の中を飛ぶ飛行機: 飛行機の対気速度と風の速度を合成して、地面に対する実際の速度(対地速度)を求める問題。
    • 動くベルトコンベア上の物体: ベルトコンベア上を歩く人や、コンベアから別の物体を射出する問題も、全く同じ考え方で解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「〜から見て」「〜に対する」という言葉に注目: これらの言葉は、どの速度が相対速度で、どの速度が地面に対する絶対速度なのかを区別する鍵です。まず、問題文中の速度が「誰から見た速度」なのかを図に書き込むなどして整理します。
    2. 運動の基準となる座標系を決める: まずは基本に忠実に「地面に静止した観測者」から見た運動を考えます。速度を合成し、運動を水平・鉛直(あるいは川の流れに平行・垂直)に分解するのが定石です。
    3. 視点を変えられないか検討する: 地面から見た運動が複雑な場合(特に斜方投射など)、別解として「動いている物体と一緒に動く観測者」の視点を試してみます。運動が単純化され、見通しが良くなることが多いです。
    4. 水平方向と鉛直方向の独立性を利用する:
      • 「最高点までの時間」「最高点の高さ」\(\rightarrow\) 鉛直方向の運動のみに着目。
      • 「水平到達距離」「元の場所に戻るか」\(\rightarrow\) 水平方向の運動に着目。
      • これら独立した運動を結びつける唯一のものが、共通の「時間 \(t\)」です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 台車の速度を無視してしまう:
    • 誤解: 台車から「真上に」打ち上げたのだから、鉛直投げ上げ運動としてだけ考えてしまい、小球が持つ水平方向の運動を完全に忘れてしまう。
    • 対策: 「地面から見るとどうなるか?」を常に意識することが重要です。電車の中でジャンプしても同じ場所に着地できるように、打ち上げられた小球も、慣性の法則によって台車と同じ水平速度を「持ち続け」ます。この「持ち続けている速度」を忘れないようにしましょう。
  • 速度の合成をスカラー和(ただの足し算)で行う:
    • 誤解: 例えば、船が川を横切る問題で、船の速さと川の速さを単純に足し算して、合成速度の大きさを求めてしまう。
    • 対策: 速度はベクトル量(向きを持つ量)であることを徹底的に意識します。この問題では水平速度と鉛直速度が直交しているので三平方の定理で合成速度の大きさを求められますが、斜めに横切る場合などは、ベクトル図を描いたり、成分に分解したりして、ベクトルの和を正しく計算する必要があります。
  • 相対速度の混乱:
    • 誤解: 「Aから見たBの速度」を求める際に、\(\vec{v}_A – \vec{v}_B\) のように引き算の順序を間違える。
    • 対策: 「Aから見たBの速度」は \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)(相手の速度 – 自分の速度)という定義を正確に覚えることが基本です。また、「台車から見たら、台車自身は止まって見えるはず」という直感を働かせ、台車の速度ベクトルを引くことで、台車から見た世界の速度に変換できる、と理解するのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(鉛直方向の速度式):
    • 選定理由: 求めたいのは「時間 \(t\)」です。そして、問題文には「最高点に達する」という物理的な条件が与えられています。このキーワードを「鉛直方向の速度 \(v_y=0\)」という数式条件に変換します。初速度 \(v_{0y}\) と加速度 \(-g\) が分かっているので、\(v_y\), \(v_{0y}\), \(g\), \(t\) を結びつける最も直接的な公式 \(v_y = v_{0y} – gt\) を選択するのが論理的です。
    • 適用根拠: 地面から見た運動の鉛直成分は、重力のみを受ける等加速度直線運動(鉛直投げ上げ)であるため、この公式を適用することが正当化されます。
  • (2)での公式選択(鉛直方向の変位式 or \(v^2-v_0^2=2ay\)式):
    • 選定理由(変位式): (1)で「時間 \(t\)」が求まったので、これを利用して「高さ(変位)\(y\)」を求めるのが自然な流れです。\(y\), \(v_{0y}\), \(t\), \(g\) を含む変位の式 \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\) を使うのが最も素直な選択です。
    • 選定理由(別解): もし時間を求めずに高さを知りたい場合、あるいは(1)の答えに自信がない場合は、時間 \(t\) を含まない公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = -2gy\) が最適です。この公式は、速度と変位の関係を直接結びつけます。
    • 適用根拠: いずれの公式も、鉛直方向の等加速度直線運動を記述するものであり、適用は妥当です。
  • (3)でのアプローチ選択(対称性の利用と等速直線運動):
    • 選定理由: 求めたいのは「台車が進んだ距離」です。これは「台車の速さ × 時間」で求まります。したがって、まず「時間」、つまり小球が台車に戻ってくるまでの全飛行時間を求める必要があります。ここで、鉛直投げ上げ運動が「対称的」であるという物理的性質を利用します。これにより、(1)で求めた時間を\(2\)倍するだけで全飛行時間が得られ、計算が最も簡単になります。
    • 適用根拠: 鉛直方向の運動の対称性は、重力加速度が一定であることから保証されます。また、台車は水平方向に力を受けないため、等速直線運動の公式 \(x=vt\) を適用するのが正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に運動を分解して数値を整理する: 問題を読んだら、計算用紙の目立つ場所に「地面から見た運動」として、\(v_x = 5.0\,\text{m/s}\)(一定)、\(v_{0y} = 9.8\,\text{m/s}\)(鉛直投げ上げ)と書き出しましょう。これにより、各方向の運動モデルが明確になり、公式の適用ミスを防げます。
  • 単位を意識する: (1)の計算 \(t = 9.8 / 9.8\) では、分子が \(\text{m/s}\)、分母が \(\text{m/s}^2\) なので、単位は \((\text{m/s}) / (\text{m/s}^2) = \text{s}\) となり、確かに時間を求めていることが確認できます。このように単位を追うことで、立式の間違いに気づくことがあります。
  • 概算による検算:
    • (1) 時間: 初速が \(9.8\,\text{m/s}\) で重力加速度が \(9.8\,\text{m/s}^2\) なので、ちょうど\(1\)秒で速度が\(0\)になる、というのは非常にキリの良い、ありえそうな数値です。
    • (2) 高さ: \(1\)秒間上昇するので、平均の速さは \((9.8+0)/2 = 4.9\,\text{m/s}\) くらい。だから高さは \(4.9 \times 1.0 = 4.9\,\text{m}\) くらいだろう、と概算できます。計算結果と一致します。
    • (3) 距離: 全飛行時間は \(2\)秒。台車は秒速 \(5\,\text{m}\) なので、\(5 \times 2 = 10\,\text{m}\) 進むはず。計算結果と一致します。
  • 別解による検算: この問題のように、複数のアプローチ(静止系/運動系、運動学/エネルギー保存則)が可能な場合、時間があれば別の方法で解いてみるのが最も強力な検算になります。同じ答えになれば、確信を持って解答できます。

48 斜面への投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 座標を設定し、斜面と軌跡の交点として解く方法
      • 模範解答が図形的な関係から水平・鉛直距離を\(l\)で表すのに対し、別解では点Oを原点とする座標系を設定し、斜面を「直線の方程式」、小球の運動を「放物線の軌跡」として捉え、その交点を求める数学的なアプローチを取ります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 同じ物理現象を、図形的に捉える視点と、解析幾何学(グラフと方程式)的に捉える視点の両方からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の一般化: 座標を用いて解く方法は、斜面が曲線であるなど、より複雑な境界条件の問題にも応用できる、より一般的で強力な考え方です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜面への水平投射」です。水平投射の基本である「運動の分解」に加え、「斜面に落下する」という幾何学的な条件をいかに数式に落とし込むかがポイントとなります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解と独立性: 水平投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」の組み合わせとして捉え、両者が互いに影響しないことを理解していること。
  2. 三角比の応用: 斜面の傾斜角を用いて、斜面上の点の水平位置と鉛直位置の関係を正しく表現できること。具体的には、OP間の距離を\(l\)としたとき、水平距離が \(l\cos30^\circ\)、鉛直距離が \(l\sin30^\circ\) となる関係を理解していること。
  3. 連立方程式の処理: 物理的な条件から立てた2つの未知数(距離\(l\)と時間\(t\))を含む2つの式を、代入法などを用いて正しく解く計算能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 求めたい物理量であるOP間の距離を\(l\)、落下するまでの時間を\(t\)と、2つの未知数を設定します。
  2. 小球が落下した点Pの水平移動距離と鉛直落下距離を、まず三角比を用いて\(l\)で表します。
  3. 次に、同じ水平移動距離と鉛直落下距離を、運動の公式を用いて\(t\)で表します。
  4. これら2通りの表現が等しいことから、\(l\)と\(t\)に関する2本の連立方程式を立て、これを解いて答えを求めます。

OPの距離と、Pに達するまでの時間

思考の道筋とポイント
求めたい未知数が「OPの距離」と「時間」の2つあるため、これらを連立方程式で解くことを考えます。OP間の距離を\(l\)、投げ出されてからPに達するまでの時間を\(t\)と設定しましょう。
点Pの位置(水平移動距離と鉛直落下距離)を、2通りの方法で表現することが鍵となります。
方法1:図形的に考える。点O、点P、そしてPからOの水平線に下ろした垂線の足でできる直角三角形に着目し、三角比を用いて水平距離と鉛直距離を\(l\)で表します。
方法2:物理法則で考える。水平方向は等速直線運動、鉛直方向は自由落下運動であることから、運動の公式を用いて水平距離と鉛直距離を\(v\)と\(t\)で表します。
これら2つの方法で表した距離は当然等しいので、イコールで結ぶことで\(l\)と\(t\)に関する2本の式が得られます。あとはこの連立方程式を解けばよい、という流れです。
この設問における重要なポイント

  • 水平方向の運動:初速度\(v\)、加速度\(0\)の等速直線運動。
  • 鉛直方向の運動:初速度\(0\)、加速度\(g\)の自由落下運動。
  • 点Pの水平移動距離\(x\)と鉛直落下距離\(y\)の関係は、\(x = l\cos30^\circ\), \(y = l\sin30^\circ\) となる。
  • 同じく、\(x=vt\), \(y=\frac{1}{2}gt^2\) という関係も成り立つ。

具体的な解説と立式
OP間の距離を\(l\)、点Pに達するまでの時間を\(t\)とします。
点Pの水平移動距離を\(x\)、鉛直落下距離を\(y\)とすると、図の直角三角形より、
$$
\begin{aligned}
x &= l \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}l
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
y &= l \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}l
\end{aligned}
$$
一方、運動の公式から、各距離は時間\(t\)を用いて次のように表せます。

水平方向(等速直線運動):
$$ x = vt $$
鉛直方向(自由落下運動):
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$
これら2組の表現が等しいことから、以下の連立方程式が成り立ちます。
$$ vt = \frac{\sqrt{3}}{2}l \quad \cdots ① $$
$$ \frac{1}{2}gt^2 = \frac{1}{2}l \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
  • 自由落下運動の公式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

まず、式②から\(l\)を\(t\)で表すと、
$$ l = gt^2 $$
これを式①に代入して、\(t\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
vt &= \frac{\sqrt{3}}{2}(gt^2)
\end{aligned}
$$
\(t \neq 0\) なので、両辺を\(t\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{\sqrt{3}}{2}gt \\[2.0ex]
t &= \frac{2v}{\sqrt{3}g} \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}v}{3g}
\end{aligned}
$$
次に、求まった\(t\)を \(l=gt^2\) の式に代入して、\(l\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
l &= g \left( \frac{2\sqrt{3}v}{3g} \right)^2 \\[2.0ex]
&= g \left( \frac{4 \times 3 \times v^2}{9g^2} \right) \\[2.0ex]
&= g \left( \frac{12v^2}{9g^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{12v^2}{9g} \\[2.0ex]
&= \frac{4v^2}{3g}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボールが斜面にぶつかる点Pの位置を考えます。この点の「横に進んだ距離」と「下に落ちた距離」は、2つの方法で表せます。
方法1は、斜面の長さ(求めたい距離)と角度\(30^\circ\)を使って、三角関数で表す方法です。
方法2は、物理の公式を使って、「速さ×時間」と「自由落下の公式」で表す方法です。
この2つの方法で表した「横の距離」どうし、「縦の距離」どうしは、当然同じはずなので、イコールで結んで2つの式を作ります。あとは、この連立方程式を解けば、距離と時間が両方求まります。

結論と吟味

計算の結果、OP間の距離は \(\displaystyle\frac{4v^2}{3g}\)、時間は \(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}v}{3g}\) と求まりました。
単位を確認してみましょう。\(v^2/g\) の単位は \((\text{m/s})^2 / (\text{m/s}^2) = \text{m}\) となり、距離の単位として正しいです。また、\(v/g\) の単位は \((\text{m/s}) / (\text{m/s}^2) = \text{s}\) となり、時間の単位として正しいです。物理的に矛盾のない結果と言えます。

解答 距離: \(\displaystyle\frac{4v^2}{3g}\), 時間: \(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}v}{3g}\)
別解: 座標を設定し、斜面と軌跡の交点として解く方法

思考の道筋とポイント
この問題を、物理と数学の融合問題、すなわち「放物線と直線の交点問題」として解くアプローチです。
点Oを原点とし、水平右向きをx軸、鉛直下向きをy軸とする座標系を設定します。すると、斜面OPは原点を通る直線として、小球の運動は放物線の軌跡として、それぞれ数式で表現できます。
小球が斜面に落下する点Pは、この「直線」と「放物線」の交点(原点O以外)に他なりません。この交点の時刻\(t\)をまず求め、その時刻と座標からOP間の距離を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 座標系を明確に設定する(O=(0,0), x軸:水平右向き, y軸:鉛直下向き)。
  • 斜面を表す直線の式は \(y = (\tan 30^\circ) x\) となる。
  • 小球の軌跡は、時刻\(t\)を媒介変数として \(x=vt\), \(y=\frac{1}{2}gt^2\) と表せる。
  • これらを連立させて、まず時間\(t\)を求める。

具体的な解説と立式
点Oを原点とし、水平右向きにx軸、鉛直下向きにy軸をとります。
時刻\(t\)における小球の座標\((x, y)\)は、
$$ x = vt $$
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$
一方、斜面OPは原点を通り、x軸の正の向きとのなす角が\(30^\circ\)の直線なので、その方程式は
$$
\begin{aligned}
y &= x \tan 30^\circ \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{3}}x
\end{aligned}
$$
小球が斜面に達する時刻を\(t\)とすると、そのときの座標 \((vt, \frac{1}{2}gt^2)\) は、上記直線の式を満たします。したがって、
$$ \frac{1}{2}gt^2 = (vt) \cdot \frac{1}{\sqrt{3}} $$
この方程式を解くことで、まず時間\(t\)が求まります。

使用した物理公式

  • 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
  • 自由落下運動の公式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

上記で立式した方程式を\(t\)について解きます。\(t \neq 0\) なので、両辺を\(t\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}gt &= \frac{v}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
t &= \frac{2v}{\sqrt{3}g} \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}v}{3g}
\end{aligned}
$$
これで時間が求まりました。次に、この時刻\(t\)における点Pのx座標とy座標を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_P &= vt \\[2.0ex]
&= v \left( \frac{2\sqrt{3}v}{3g} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}v^2}{3g}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
y_P &= \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}g \left( \frac{2\sqrt{3}v}{3g} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}g \left( \frac{12v^2}{9g^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2v^2}{3g}
\end{aligned}
$$
最後に、OP間の距離\(l\)を三平方の定理 \(\left(l = \sqrt{x_P^2 + y_P^2}\right)\) を用いて求めます。
点Pは直線 \(y = \frac{1}{\sqrt{3}}x\) 上の点なので、\(l\)と\(x_P\)の関係は \(l = \sqrt{x_P^2 + y_P^2} = \sqrt{x_P^2 + (\frac{1}{\sqrt{3}}x_P)^2} = \sqrt{\frac{4}{3}x_P^2} = \frac{2}{\sqrt{3}}x_P\) となります。これを利用すると計算が簡単です。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{2}{\sqrt{3}} x_P \\[2.0ex]
&= \frac{2}{\sqrt{3}} \left( \frac{2\sqrt{3}v^2}{3g} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{4v^2}{3g}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

グラフの問題として考えてみましょう。ボールの軌跡は放物線のグラフ、斜面は直線のグラフです。ボールが斜面にぶつかる点は、この2つのグラフの交点です。
まず、それぞれのグラフを数式で表します。そして、連立方程式を解いて交点の時刻(何秒後にぶつかるか)を求めます。
ぶつかる時刻がわかれば、そのときのボールの位置(x座標とy座標)が計算できます。最後に、原点からの距離を三平方の定理で計算すれば、斜面の長さが求まります。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。この方法は、最初に時間を確定させてから距離を求めるという流れで、思考が直線的で分かりやすいという利点があります。

解答 距離: \(\displaystyle\frac{4v^2}{3g}\), 時間: \(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}v}{3g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解と幾何学的条件の数式化
    • 核心: この問題は、単なる水平投射の公式適用だけでは解けません。核心となるのは、物理法則(運動の分解)と、問題設定による幾何学的な条件(斜面に落下する)を結びつけて立式することです。
    • 理解のポイント:
      • 物理法則(運動の記述): 水平投射の運動は、水平方向の「等速直線運動」(\(x=vt\))と、鉛直方向の「自由落下運動」(\(y=\frac{1}{2}gt^2\))という、2つの独立した運動に分解して考えます。
      • 幾何学的条件(束縛条件): 小球は自由に飛べるわけではなく、「斜面上の点Pに落下する」という制約があります。この制約を数式で表現する方法が解法の鍵となります。
        • 主たる解法のアプローチ: 距離\(l\)と角度\(30^\circ\)を用いて、点Pの座標を \(x = l\cos30^\circ\), \(y = l\sin30^\circ\) と図形的に表現します。
        • 別解のアプローチ: 点Oを原点とする座標系で、斜面を直線の方程式 \(y = (\tan30^\circ)x\) として表現します。
      • 統合: これら2つのアプローチで得られた「物理法則による座標」と「幾何学条件による座標」が一致する、という等式を立てることで、未知数を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面への斜方投射: 初速度が斜め上向きや斜め下向きの場合。水平方向は等速直線運動のままですが、鉛直方向が「鉛直投げ上げ/投げ下ろし」(\(y = v_{0y}t \pm \frac{1}{2}gt^2\))に変わるだけで、考え方の枠組みは全く同じです。
    • 鉛直な壁への衝突: 「高さ\(H\)のビルの屋上から水平投射し、距離\(L\)だけ離れた壁に衝突する」といった問題。この場合の幾何学的条件は「水平距離が\(L\)になる」(\(x=L\))という非常に単純なものです。まず \(L=vt\) から衝突時刻\(t\)を求め、その時刻を \(y=\frac{1}{2}gt^2\) に代入して衝突点の高さを計算する、という手順で解けます。
    • 放物線状の地面への落下: 地面の形状が \(y=ax^2\) のような関数で与えられている場合。別解で用いた「軌跡と図形の交点」という考え方を応用し、小球の軌跡の式と地面の式を連立させることで落下点を求めることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何はともあれ運動の分解: 投射運動の問題を見たら、まず儀式として運動を水平と鉛直の成分に分解し、それぞれの運動(等速、等加速度)の式を書き出す準備をします。
    2. 「束縛条件」は何かを探す: 問題文を読み、「どこに」「いつ」着地・衝突するのか、という運動を制限する条件を探します。それが「地面」「壁」「斜面」なのかを特定します。
    3. 束縛条件を数式に翻訳する:
      • 「水平距離\(L\)の壁」 \(\rightarrow\) \(x=L\)
      • 「高さ\(H\)の地面」 \(\rightarrow\) \(y=H\)
      • 「角度\(\theta\)の斜面」 \(\rightarrow\) \(y/x = \tan\theta\)
    4. 未知数と式の数を確認する: 求めたい未知数が2つ(例えば距離と時間)なら、独立した式が2本必要です。通常、水平方向の運動と鉛直方向の運動から1本ずつ、合計2本の式を立てることができます。これらを連立させて解くのが王道です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 三角比の \( \cos \) と \( \sin \) の混同:
    • 誤解: 水平距離を\(l\sin30^\circ\)、鉛直距離を\(l\cos30^\circ\)のように、三角比を逆にしてしまう。
    • 対策: 角度\(\theta\)を「挟む」辺が\(\cos\theta\)、角度\(\theta\)の「向かい」の辺が\(\sin\theta\)と、図形的な位置関係で覚えましょう。問題の図に直角三角形を描き込み、\(x\)成分は\(30^\circ\)を挟む辺、\(y\)成分は\(30^\circ\)の向かいの辺であることを毎回確認する癖をつけるとミスが減ります。
  • 座標軸の取り方による符号のミス:
    • 誤解: 例えば鉛直上向きを正とした場合に、重力加速度を\(g\)のまま代入してしまったり、落下距離を正の値で扱ってしまったりする。
    • 対策: 計算を始める前に、必ず「どちらの向きを正とするか」を計算用紙に明記しましょう。この問題のように、初速度が水平で運動が下向きに展開される場合は、いっそ鉛直下向きを正に取ると、変位も加速度も正の値となり、\(y=\frac{1}{2}gt^2\) のように式がシンプルになって符号ミスを防ぎやすくなります。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: 文字式だらけで式が複雑になり、代入や整理の過程で計算を間違えてしまう。
    • 対策: 模範解答のように、まず一方の式を一つの文字について解き(例:式②から \(l=gt^2\))、それをもう一方の式に代入する、という手順を丁寧に行いましょう。計算の途中結果が物理的に意味のある量になっているか(単位は合っているかなど)を時々確認するのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 主たる解法でのアプローチ選択(\(l\)と\(t\)の連立方程式):
    • 選定理由: 求めたい物理量が「距離\(l\)」と「時間\(t\)」の2つです。未知数が2つある場合、数学の基本原則に従い、独立した方程式を2本立てて連立させるのが最も直接的で論理的な解法です。
    • 適用根拠: 物理現象を「水平方向」と「鉛直方向」という2つの側面に分解することで、自然と2本の独立した運動法則(等速直線運動と自由落下)が得られます。これらの法則を落下点Pに適用することで、未知数\(l, t\)を含む2本の方程式が導出されるため、このアプローチは物理的にも数学的にも理にかなっています。
  • 別解でのアプローチ選択(軌跡と直線の交点):
    • 選定理由: この問題の状況を、「放物運動する点」と「直線状の斜面」という2つの幾何学的オブジェクトの関係として捉え直す視点です。この視点に立てば、落下点Pは「放物線の軌跡」と「斜面を表す直線」の「交点」に他なりません。これは、解析幾何学における標準的な問題設定であり、物理現象を数学的な問題に翻訳する強力な手法です。
    • 適用根拠: 小球が落下する点Pは、(A)小球の運動軌跡上の点であり、かつ(B)斜面という直線上の点でもあります。この(A)と(B)の条件を両方満たす点を求める、という論理に基づいているため、この解法は完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の扱いに慣れる: この問題のように数値が与えられていない場合、最後まで文字式のまま計算を進める必要があります。分数の分数(繁分数)の処理、ルートや指数の計算など、基本的な計算ルールを日頃から練習しておきましょう。
  • 単位による検算(ディメンションチェック): 計算の最終段階で、得られた答えの単位が求めている物理量の単位と一致するかを必ず確認します。
    • 距離\(l\)の答え \(\displaystyle\frac{4v^2}{3g}\) の単位は \(\displaystyle\frac{(\text{m/s})^2}{\text{m/s}^2} = \text{m}\) となり、距離の単位として正しいです。
    • 時間\(t\)の答え \(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}v}{3g}\) の単位は \(\displaystyle\frac{\text{m/s}}{\text{m/s}^2} = \text{s}\) となり、時間の単位として正しいです。
    • もし単位が合わなければ、途中の計算のどこかで次元の違う量を足してしまったり、式の立て方そのものが間違っていたりする可能性が高いです。
  • 極端な条件で妥当性を確認する:
    • もし重力がなければ(\(g \rightarrow 0\))、小球は水平に直進し、斜面には永遠に到達しません。答えの式で \(g \rightarrow 0\) とすると、\(l \rightarrow \infty\), \(t \rightarrow \infty\) となり、物理的な直感と一致します。
    • もし初速度がなければ(\(v \rightarrow 0\))、小球はその場で真下に落下するので、斜面上の点Oから動かず、\(l=0, t=0\) となるはずです。答えの式で \(v \rightarrow 0\) とすると、\(l=0, t=0\) となり、これも直感と一致します。
    • このような思考実験は、複雑な文字式の結果がもっともらしいかどうかを判断するのに役立ちます。

49 斜方投射と自由落下

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 相対運動の考え方を用いる解法
      • 模範解答が地面からの視点で弾丸の運動を分解して時間を計算するのに対し、別解では「弾丸から見た小球Pの運動」を考えます。これにより、重力の影響が相殺され、問題が単純な等速直線運動に帰着します。
    • 設問(2)の別解: 「重力がない場合」との比較による思考実験的な解法
      • 模範解答が数式を立てて高さを比較するのに対し、別解では「もし重力がなかったらどうなるか」を考え、そこに重力の影響を付け加えることで、数式計算なしで結論を直感的に導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「モンキーハンティング」として知られるこの問題の本質が、相対加速度がゼロになる点や、重力が両物体に等しく作用する点にあることへの理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題を、絶対的な視点、相対的な視点、そして思考実験という複数の角度から考察する経験は、物理的な洞察力を養います。
    • 解法の効率化: 相対運動の考え方を知っていれば、(1)の計算を大幅に簡略化できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えや示されるべき結論は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜方投射と自由落下の同時運動(モンキーハンティング)」です。重力下で運動する2つの物体を扱う問題であり、一見複雑に見えますが、物理法則の普遍性(どんな物体も同じ重力加速度で落ちる)を理解するための非常に良い題材です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 弾丸の斜方投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」の組み合わせとして捉えること。
  2. 重力下での運動の共通性: 運動の状態にかかわらず、空中にあるすべての物体は鉛直下向きに同じ大きさ\(g\)の加速度を受けていること。
  3. 三角比の利用: 狙うべき方向(仰角\(\theta\))と、水平距離\(l\)、高さ\(h\)の関係から、\(\cos\theta\)や\(\sin\theta\)の値を正しく導出できること。
  4. 相対運動の考え方: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動を考えることで、問題の見通しが良くなる場合があること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、弾丸が命中するためには、水平方向に距離\(l\)だけ進む必要がある、という条件に着目します。弾丸の水平方向の運動は等速直線運動なので、「距離÷速さ」で時間を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた命中時刻\(t\)における、小球Pの高さと弾丸の高さを、それぞれの運動(自由落下と鉛直投げ上げ)の公式を用いて計算し、両者が等しくなることを示します。

問(1)

思考の道筋とポイント
弾丸を発射してから小球Pに命中するまでの時間を求めます。弾丸がPに命中するということは、その瞬間に弾丸とPが同じ位置にいるということです。特に、弾丸の水平位置が、点Aの真下(水平距離\(l\)の地点)に達したときが命中したときと考えられます。
弾丸の運動を水平方向と鉛直方向に分解し、水平方向の運動に着目します。水平方向には力が働かないため、弾丸は初速度の水平成分で等速直線運動をします。このことから、距離\(l\)を進むのにかかる時間を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 弾丸の初速度\(v_0\)を、水平成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) に分解する。
  • 水平方向の運動は、速さ \(v_{0x}\) の等速直線運動である。
  • 命中するまでの時間に、弾丸は水平方向に距離\(l\)を進む。
  • 三角比の関係から、\(\cos\theta\)の値を\(l\)と\(h\)を用いて表す必要がある。

具体的な解説と立式
弾丸が命中するまでの時間を\(t\)とします。
弾丸の水平方向の運動は、速さ \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\) の等速直線運動です。時間\(t\)の間に水平距離\(l\)を進むので、
$$ l = (v_0 \cos\theta) t $$
この式を\(t\)について解くと、
$$ t = \frac{l}{v_0 \cos\theta} $$
ここで、問題の図にある直角三角形OABに着目します。三平方の定理より、斜辺OBの長さは \(\sqrt{l^2+h^2}\) です。
したがって、\(\cos\theta\)は次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{OA}{OB} \\[2.0ex]
&= \frac{l}{\sqrt{l^2+h^2}}
\end{aligned}
$$
この\(\cos\theta\)を、時間\(t\)の式に代入します。

使用した物理公式

  • 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
t &= \frac{l}{v_0 \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{l}{v_0 \left( \displaystyle\frac{l}{\sqrt{l^2+h^2}} \right)} \\[2.0ex]
&= l \times \frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0 l} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

弾丸がサル(小球P)に当たるためには、まず横方向に、サルのいた木の真下までたどり着く必要があります。弾丸の横方向のスピードは \(v_0 \cos\theta\) でずっと変わりません。なので、「距離 \(l\) ÷ 横方向のスピード」という単純な計算で、そこまでたどり着くのにかかる時間がわかります。

結論と吟味

命中までの時間は \(\displaystyle\frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}\) と求まりました。ここで、分子の \(\sqrt{l^2+h^2}\) はOからBまでの最初の直線距離です。つまり、この時間は、もし重力がなく弾丸がまっすぐB点まで飛んだ場合にかかる時間と全く同じです。これは、重力があってもなくても、水平方向に距離\(l\)を進む時間は変わらないことを示唆しており、非常に興味深く、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}\)
別解: 相対運動の考え方を用いる解法

思考の道筋とポイント
視点を変えて、「弾丸に乗っている観測者」から「小球P」の運動を見てみましょう。
地面から見ると、弾丸もPも、どちらも鉛直下向きに加速度\(g\)で運動しています。ということは、弾丸から見れば、Pの重力による落下は、自分自身の落下と全く同じなので、互いにキャンセルされて見えます。つまり、弾丸から見たPの「相対加速度」はゼロになります。
相対加速度がゼロということは、弾丸から見ると、Pは「等速直線運動」をするように見えます。どのくらいの速さで、どちらの向きに動いて見えるのでしょうか。それは、発射された瞬間の「相対初速度」で決まります。
この設問における重要なポイント

  • 弾丸の加速度も、小球Pの加速度も、ともに鉛直下向きに\(g\)である。
  • したがって、弾丸から見たPの相対加速度は \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_P – \vec{a}_{\text{弾丸}} = \vec{0}\) となる。
  • 弾丸から見たPは、相対初速度のまま等速直線運動をする。
  • 相対初速度は \(\vec{v}_{\text{相対,初}} = \vec{v}_{P,\text{初}} – \vec{v}_{\text{弾丸,初}}\)。Pの初速度は\(0\)なので、弾丸の初速度と逆向きで大きさは同じ\(v_0\)となる。

具体的な解説と立式
弾丸から見た小球Pの運動を考えます。
Pの初速度は \(\vec{v}_{P,\text{初}} = \vec{0}\)。弾丸の初速度は、B点を向く大きさ\(v_0\)のベクトル \(\vec{v}_{\text{弾丸,初}}\) です。
よって、相対初速度 \(\vec{v}_{\text{相対,初}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\vec{v}_{\text{相対,初}} &= \vec{v}_{P,\text{初}} – \vec{v}_{\text{弾丸,初}} \\[2.0ex]
&= \vec{0} – \vec{v}_{\text{弾丸,初}} \\[2.0ex]
&= -\vec{v}_{\text{弾丸,初}}
\end{aligned}
$$
これは、点Bから点Oの向きを向く、大きさ\(v_0\)のベクトルです。
弾丸から見たPは、この相対初速度で等速直線運動をします。つまり、Pは点Bからまっすぐ弾丸に向かって速さ\(v_0\)で飛んでくるように見えます。
最初の両者間の距離はOBの長さ、すなわち \(\sqrt{l^2+h^2}\) です。
したがって、命中までの時間\(t\)は、
$$ t = \frac{\text{距離}}{\text{速さ}} $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の公式: \((\text{時間}) = (\text{距離}) \div (\text{速さ})\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
t &= \frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}
\end{aligned}
$$
この一行だけで計算が完了します。

この設問の平易な説明

もしあなたが弾丸に乗って飛んでいると想像してください。あなたもサル(小球P)も、同じように重力で下に引っ張られています。お互い様なので、あなたから見ると、サルは重力で落ちているようには見えません。すると、どう見えるか?サルは、あなたが発射された瞬間から、まっすぐあなたに向かって飛んでくるように見えるのです。最初の距離はOとBを結ぶ直線の長さです。その距離を弾丸の速さ\(v_0\)で割るだけで、ぶつかるまでの時間が計算できてしまいます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。この解法は、運動の分解や三角比の計算を一切行うことなく、問題の物理的本質(相対加速度がゼロ)を突くことで、極めてシンプルに答えを導き出しています。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
命中するとき、Pと弾丸の高さが一致していることを示します。これは、(1)で求めた命中時刻\(t\)における、それぞれの物体の地面からの高さを具体的に計算し、両者が等しくなることを数式で証明する問題です。
小球Pは、高さ\(h\)の位置から自由落下します。一方、弾丸は、地面から初速度の鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) で鉛直投げ上げ運動をします。それぞれの運動の公式に、(1)で求めた時間\(t\)を代入して高さを求め、比較します。
この設問における重要なポイント

  • 小球Pの運動は、初期位置\(h\)からの自由落下。
  • 弾丸の鉛直方向の運動は、初速度\(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)の鉛直投げ上げ。
  • (1)で求めた命中時刻 \(t = \displaystyle\frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}\) を用いる。
  • 三角比の関係から、\(\sin\theta\)の値を\(l\)と\(h\)を用いて表す必要がある。

具体的な解説と立式
時刻\(t\)における地面からの高さを、小球Pと弾丸それぞれについて求めます。地面を高さの基準(\(y=0\))とします。

小球Pの高さ \(y_P\):
初期位置が\(h\)で、自由落下するので、落下距離は \(\frac{1}{2}gt^2\) です。したがって、
$$ y_P = h – \frac{1}{2}gt^2 $$

弾丸の高さ \(y_{\text{弾丸}}\):
初速度の鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) での鉛直投げ上げ運動なので、
$$ y_{\text{弾丸}} = (v_0 \sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2 $$

ここで、(1)と同様に直角三角形OABから \(\sin\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin\theta &= \frac{AB}{OB} \\[2.0ex]
&= \frac{h}{\sqrt{l^2+h^2}}
\end{aligned}
$$
また、(1)で求めた時間 \(t = \displaystyle\frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0}\) を用います。

使用した物理公式

  • 自由落下運動の公式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
  • 鉛直投げ上げ運動の公式: \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

まず、弾丸の高さの式の第1項 \((v_0 \sin\theta)t\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
(v_0 \sin\theta)t &= v_0 \left( \frac{h}{\sqrt{l^2+h^2}} \right) \left( \frac{\sqrt{l^2+h^2}}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= h
\end{aligned}
$$
この結果を弾丸の高さの式に戻すと、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{弾丸}} &= h – \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
これは、小球Pの高さの式 \(y_P = h – \frac{1}{2}gt^2\) と完全に一致します。
したがって、命中したとき、Pと弾丸の高さは一致していることが示されました。

この設問の平易な説明

サル(小球P)と弾丸がぶつかる瞬間の、それぞれの地面からの高さを計算して、同じになるか確かめます。
サルの高さは、もともとの高さ\(h\)から、重力で落ちた分だけ低くなります。
弾丸の高さは、まっすぐ狙った方向に飛んだ場合の位置から、同じく重力で落ちた分だけ低くなります。
計算してみると、この「重力で落ちた分」が両者で全く同じになることがわかります。そして、弾丸が「まっすぐ狙った方向に飛んだ場合の位置」の高さは、ちょうどサルのもともとの高さ\(h\)と同じになります。
結果として、両者の高さは「\(h\) – (同じ落下距離)」となり、ぴったり一致します。

結論と吟味

数式によって、両者の高さが時刻\(t\)において \(h – \frac{1}{2}gt^2\) となり、完全に一致することが証明できました。この結果は、「もし重力がなければ弾丸はまっすぐB点に到達するが、重力があるために、弾丸もPも同じ距離 \(\frac{1}{2}gt^2\) だけ落下した点で出会う」という物理的なイメージを裏付けるものです。

解答 (2) 解説を参照
別解: 「重力がない場合」との比較による思考実験的な解法

思考の道筋とポイント
数式を一切使わずに、この問題の本質を突く思考実験で証明します。物理現象を「重力がない世界」と「重力がある世界」に分けて考え、その差分がどう影響するかを考察します。
この設問における重要なポイント

  • 重力は、空中にあるすべての物体に、運動状態に関わらず、同じ加速度(同じ落下運動)を与える。
  • 弾丸の運動は、「重力がない場合の等速直線運動」と「重力による自由落下運動」の重ね合わせとして考えることができる。

具体的な解説と立式
この証明では、数式による立式は行いません。論理的な説明で結論を導きます。

ステップ1:もし重力がなかったら?

もし重力がなければ、小球Pは点Bで静止したままです。一方、弾丸は初速度\(v_0\)でまっすぐ点Bに向かって等速直線運動をします。したがって、弾丸は必ず点BにいるPに命中します。

ステップ2:現実の世界(重力がある場合)

現実には重力が働いています。この重力は、小球Pと弾丸の両方に、全く同じ影響を与えます。すなわち、どちらの物体も「もし重力がなかったとしたらの位置から、鉛直下向きに同じ距離 \(\frac{1}{2}gt^2\) だけ落下させる」という効果を及ぼします。

ステップ3:結論

重力がない世界では、時刻\(t\)に弾丸は点Bに到達します。
現実の世界では、時刻\(t\)において、

  • 小球Pの位置は、点Bから \(\frac{1}{2}gt^2\) だけ落下した点。
  • 弾丸の位置は、「もし重力がなかったとしたらの位置(点B)」から、同じく \(\frac{1}{2}gt^2\) だけ落下した点。

両者は、基準となる点Bから同じ距離だけ落下した位置にいることになります。したがって、命中する点の高さは必然的に一致します。

使用した物理公式

この解法では、具体的な公式の代入は行いませんが、背景には以下の法則があります。

  • 運動の重ね合わせの原理
  • ガリレイの相対性原理
計算過程

計算過程はありません。

この設問の平易な説明

この問題は、よく「モンキーハンティング」という名前で知られています。
猟師が木にぶら下がっているサルを狙っているとします。賢いサルは、銃声が聞こえた瞬間に手を放して下に落ちれば、弾を避けられると考えました。しかし、これは間違いです。
なぜなら、弾丸も発射された瞬間から、サルと全く同じように重力の影響を受けて下に落ち始めるからです。
もし重力がなければ、弾丸はまっすぐサルに当たります。現実には重力があるので、弾丸はまっすぐ飛んだ軌道から落ち、サルも木から落ちます。しかし、この「落ちる距離」が全く同じなので、結果的に弾丸は落ちた先のサルに命中してしまうのです。

結論と吟味

この思考実験による証明は、数式計算よりもむしろ、この問題の物理的な本質を深く理解させてくれます。重力がすべての物体に平等に作用するという、物理学の基本的な原理が、この現象の根底にあることがわかります。

解答 (2) 解説を参照

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 重力加速度の普遍性
    • 核心: この問題は「モンキーハンティング」として知られる有名な思考実験が題材です。その核心は、空中にある物体は、静止していようが、落下していようが、斜め上に打ち上げられていようが、すべて等しく鉛直下向きに加速度\(g\)で運動するという、重力の普遍的な性質にあります。
    • 理解のポイント:
      • 小球P: 初速度\(0\)で、加速度\(g\)の自由落下運動をする。
      • 弾丸: 初速度\(v_0\)を持つが、発射された瞬間からPと全く同じように、加速度\(g\)で「落下」し始める。その結果、軌道は直線から放物線に変わる。
      • この「弾丸もPと同じだけ落下する」という点が、まっすぐ狙えば命中する理由です。
  • 運動の分解と重ね合わせ
    • 核心: 弾丸の複雑な放物運動は、単純な2つの運動の「重ね合わせ」として理解できます。
    • 理解のポイント:
      • 弾丸の運動 \(=\) (もし重力がなかった場合の、点Bに向かう等速直線運動) \(+\) (重力による自由落下運動)
      • この考え方を使えば、(2)の証明は非常に直感的になります。重力がなければ弾丸はBにいるPに当たり、重力がある世界では、その「当たるはずだった場所」から弾丸もPも同じ距離だけ落下するので、やはり命中する、と理解できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動く物体から別の物体を投射する問題: 運動する台車からボールを投げ上げる問題など。台車から見た運動(相対運動)を考えると単純化できる点で共通しています。
    • 空中での2物体の衝突問題: 2つの物体が同じ重力場で運動している場合、相対加速度がゼロになるため、相対運動で考えると見通しが良くなることが多いです。
    • 特定の点を通過する条件: 「原点から投射した物体が、座標\((L, H)\)を通過するための初速度や角度の条件を求めよ」という問題。本問は「点Bを狙う」という形で、通過すべき点が暗に示されていると解釈できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 2つの物体が登場したら、相対運動を疑う: 2つの物体が同じ重力場で運動している場合、相対加速度がゼロになる可能性が高いです。相対運動で考えれば、問題が劇的に簡単になることがあります(本問(1)の別解)。
    2. 「〜を狙う」という言葉の意味を数式に翻訳する: 「点Bを狙う」とは、初速度ベクトルの向きがOからBへ向かうことを意味します。これにより、初速度の水平成分と鉛直成分の比が \(v_{0x} : v_{0y} = l : h\) と決まり、\(\cos\theta\)や\(\sin\theta\)が\(l, h\)で表現できることに繋がります。
    3. 命中条件を分解する: 「命中する」とは、「ある時刻\(t\)に、x座標とy座標が同時に一致する」ということです。
      • x座標の一致条件から、命中時刻\(t\)を求めることが多いです(本問の主たる解法)。
      • y座標の一致条件を検証することで、本当に命中するかを確認します(本問(2))。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 小球Pが落ちることを考慮して、B点より下を狙ってしまうという誤解:
    • 誤解: 弾丸が飛んでいる間にPは落ちるのだから、その落下分を見越して、B点より下を狙うべきだと考えてしまう。
    • 対策: この問題の結論そのものが対策になります。弾丸自身もPと全く同じだけ落下するため、見かけ上の目標(静止しているP)をまっすぐ狙うのが正解である、と理解することが重要です。(2)の別解で示した思考実験が、この誤解を解くのに非常に有効です。
  • 三角比の定義の混同:
    • 誤解: \(\cos\theta = h/\sqrt{l^2+h^2}\) や \(\sin\theta = l/\sqrt{l^2+h^2}\) のように、分母と分子(底辺と対辺)を逆にしてしまう。
    • 対策: 直角三角形OABを描き、角度\(\theta\)の位置をしっかり確認しましょう。\(\cos\theta\)は「斜辺分の底辺(\(l\))」、\(\sin\theta\)は「斜辺分の対辺(\(h\))」という基本定義に忠実にあてはめる練習が必要です。
  • 時間の計算で使う距離の混同:
    • 誤解: (1)の別解(相対運動)で、相対速度\(v_0\)で割るべき距離を、水平距離\(l\)や高さ\(h\)にしてしまう。
    • 対策: 相対運動で考える場合、弾丸から見たPは「まっすぐ自分に向かってくる」ように見えます。したがって、考えるべき距離は、最初の「直線距離」であるOBの長さ \(\sqrt{l^2+h^2}\) であることを明確に意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(水平方向の等速直線運動):
    • 選定理由: 求めたいのは「時間\(t\)」です。命中条件は「x, y座標の一致」ですが、弾丸のx方向の運動は外力がなく非常にシンプル(等速直線運動)です。したがって、x座標が\(l\)になるという条件 \(l = v_{0x}t\) を使うのが、最も簡単かつ直接的に時間\(t\)を求める方法となります。
    • 適用根拠: 水平方向には重力が作用しないため、運動量保存則から速度が一定となります。よって等速直線運動の公式の適用は正当です。
  • (2)での公式選択(自由落下と鉛直投げ上げの変位式):
    • 選定理由: 証明したいのは「高さの一致」です。つまり、時刻\(t\)における \(y_P\) と \(y_{\text{弾丸}}\) が等しいことを示す必要があります。それぞれの物体の鉛直方向の運動モデル(自由落下、鉛直投げ上げ)に従って、時刻\(t\)の関数として高さを記述する変位の式を選択するのは、証明のための最も自然で論理的な手順です。
    • 適用根拠: 両物体とも、鉛直方向には重力のみを受ける等加速度直線運動をしています。それぞれの初期条件(初速度、初期位置)に合わせて適切な公式を適用するのは物理的に正しいです。
  • 別解でのアプローチ選択(相対運動):
    • 選定理由: 2物体が同じ加速度(重力加速度)で運動している、という問題の構造的特徴に着目します。このような場合、一方から見た他方の運動(相対運動)を考えると、共通の加速度がキャンセルされ、運動が単純化される(この問題では等速直線運動になる)ことが多いです。この物理的洞察を利用すれば、複雑な計算を回避し、問題の本質をより深く理解できます。
    • 適用根拠: ガリレイの相対性原理に基づき、加速度運動する座標系からの運動記述は可能です。特に、2つの物体の加速度が等しい場合、相対加速度がゼロになるという関係は常に成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に三角比を整理する: 問題を読んだら、まず図の直角三角形OABに着目し、計算用紙の隅に \(OB = \sqrt{l^2+h^2}\), \(\cos\theta = \frac{l}{OB}\), \(\sin\theta = \frac{h}{OB}\) と書き出しておきましょう。計算の途中で毎回図に戻る必要がなくなり、ミスが減り、思考がスムーズになります。
  • 文字式のまま部分ごとに計算を進める: この問題はすべて文字式なので、計算過程が長くなりがちです。(2)の計算のように、いきなり全ての文字を代入するのではなく、まずは \(y_{\text{弾丸}} = (v_0 \sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2\) のように記号のまま式を立て、\((v_0 \sin\theta)t\) の部分だけを先に計算して \(h\) になることを確かめるなど、部分ごとに計算を進めると見通しが良くなります。
  • 物理的な意味を考えながら計算する: (1)の答えが \(t = \frac{OB\text{間の距離}}{v_0}\) となった時点で、「これは重力がない場合の時間と同じだ」と気づくことができれば、自分の計算が正しい方向に向かっているという確信が持てます。
  • 証明問題でのテクニック: \(y_P = y_{\text{弾丸}}\) を示すのではなく、\(y_P – y_{\text{弾丸}} = 0\) を示すという方針で計算を進めるのも有効です。
    • \(y_P – y_{\text{弾丸}} = (h – \frac{1}{2}gt^2) – ((v_0 \sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2) = h – (v_0 \sin\theta)t\)
    • この後、 \((v_0 \sin\theta)t = h\) であることを示せばよい、というように目標が明確になります。
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50 斜方投射と鉛直投げ上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1), (2), (3)の別解: 相対運動の考え方を用いる解法
      • 模範解答が各物体の運動を個別に方程式で記述するのに対し、別解では「小球Aから見た小球Bの運動」を考えます。これにより、両者に共通に働く重力の影響が相殺され、問題が単純な「等速直線運動」に帰着し、全設問を統一的かつ簡潔に解くことができます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 2物体が同じ重力場で運動する場合、その相対加速度がゼロになるという、相対運動における非常に重要な概念への理解が深まります。
    • 思考の統一性: 設問(1)から(3)までを「相対運動」という一つの統一された視点で解き明かすことができ、問題の全体像をより明確に捉えられます。
    • 解法の効率化: 複雑な連立方程式を解く代わりに、単純な等速直線運動の考察で答えを導けるため、計算の見通しが良くなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「2物体の衝突と相対運動」です。鉛直投げ上げと斜方投射という2つの運動を同時に扱い、衝突条件から未知数を決定していきます。それぞれの運動を個別に分析するだけでなく、「一方から見てもう一方がどう動くか」という相対的な視点を持つことが、問題を深く理解する鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 小球Bの斜方投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」に分解して考えること。
  2. 衝突の条件: 2物体が衝突するとは、ある時刻に両者の位置座標(この問題では特にy座標とx座標)が一致すること。
  3. 最高点の条件: 鉛直投げ上げ運動において、最高点では鉛直方向の速度成分が一時的に\(0\)になること。
  4. 相対速度・相対加速度: 一方の物体から見たもう一方の物体の速度や加速度を考えることで、問題が単純化される場合があること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、衝突する瞬間、両者の高さ(y座標)が等しくなる、という条件を数式にします。これにより、衝突時刻に依存しない形で角度\(\theta\)を求めます。
  2. (2)では、「Aの最高点で衝突した」という条件から、まず衝突時刻を求めます。次に、その時刻と小球Bの水平方向の運動(等速直線運動)から、Bが水平に進んだ距離を計算します。これが打ち上げ点間の距離となります。
  3. (3)では、Aから見たBの相対速度を計算します。相対速度が時間によって変化しない(一定である)ことから、Bがどのような運動に見えるかを結論づけます。

問(1)

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