発展例題
発展例題3 自由落下と鉛直投げ上げ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「2物体の移動距離の和が初期距離に等しい」という条件で解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 相対速度を用いる解法
- 主たる解法が地面に固定された座標系で2つの物体の運動をそれぞれ追跡するのに対し、別解では一方の小球(B)から見たもう一方の小球(A)の運動(相対運動)を考えます。
- 設問(3)の別解: 相対速度を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 2つの物体がともに同じ重力加速度で運動している場合、互いの相対運動は重力の影響を受けない「等速直線運動」になるという、極めて重要で応用範囲の広い物理的洞察を得ることができます。
- 思考の柔軟性向上: 複雑に見える2体問題も、視点(座標系)を切り替えることで、劇的に単純な問題に変換できることを学びます。
- 解法の効率化: (3)の衝突時刻を求める計算が、二次方程式の項が相殺されるプロセスを経ずに、単純な「時間 = 距離 ÷ 速さ」の計算で一瞬で求まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「2物体の衝突(出会い)問題」です。自由落下する物体と鉛直に投げ上げられる物体が、いつ、どこで出会うかを解析します。それぞれの運動を正しく立式し、衝突の条件を数式で表現することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自由落下と鉛直投げ上げの運動モデル: 小球Aが自由落下運動、小球Bが鉛直投げ上げ運動であることを理解し、それぞれの運動を正しく数式で表現できること。
- 座標系の設定: 各物体の運動を記述するために、基準となる原点と正の向きを明確に設定すること。
- 衝突(出会い)の条件の数式化: 2つの物体が衝突するとは、「同じ時刻に同じ高さにいる」ということ。これを、設定した座標系に基づいて正しく立式できること。
- 相対速度の概念(別解): 一方の物体から見たもう一方の物体の運動(相対運動)を考えることで、問題を単純化する視点。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球Aの自由落下運動について、変位の公式を適用します。
- (2)では、小球Bの鉛直投げ上げ運動について、変位の公式を適用します。
- (3)では、(1)と(2)で求めた各物体の位置を用いて、「衝突条件」を立式します。これにより衝突時刻が求まり、その時刻を(2)の式に代入することで衝突点の高さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
時間 \(t\) 経過後の、小球Aの屋上からの落下距離 \(y_A\) を求めます。小球Aの運動は初速度 \(0\) の自由落下です。したがって、自由落下の変位の公式をそのまま適用します。
この設問における重要なポイント
- 小球Aの運動は自由落下である。
- 初速度 \(v_0=0\)、加速度は重力加速度 \(g\)。
- 変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を用いる。
具体的な解説と立式
小球Aの運動について、屋上を原点とし、鉛直下向きを正の向きとします。
このとき、初速度は \(0\)、加速度は \(g\) です。時間 \(t\) 後の落下距離 \(y_A\) は、変位の公式より、
$$
\begin{aligned}
y_A &= 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
y_A &= \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
(これ以上の計算は不要)
小球Aは単純な自由落下なので、物理の教科書に出てくる落下距離の公式そのものが答えになります。
小球Aの落下距離は \(y_A = \frac{1}{2}gt^2\) と表せます。
問(2)
思考の道筋とポイント
時間 \(t\) 経過後の、小球Bの地面からの高さ \(y_B\) を求めます。小球Bの運動は、初速度 \(v_0\) での鉛直投げ上げです。地面を原点、鉛直上向きを正として、鉛直投げ上げの変位の公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 小球Bの運動は鉛直投げ上げである。
- 地面を原点、鉛直上向きを正とすると、初速度は \(+v_0\)、加速度は \(-g\)。
- 変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を用いる。
具体的な解説と立式
小球Bの運動について、地面を原点とし、鉛直上向きを正の向きとします。
このとき、初速度は \(v_0\)、加速度は \(-g\) です。時間 \(t\) 後の高さ \(y_B\) は、変位の公式より、
$$
\begin{aligned}
y_B &= v_0t + \frac{1}{2}(-g)t^2
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
y_B &= v_0t – \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
(これ以上の計算は不要)
小球Bは、重力がなければ \(v_0t\) の高さまで上がりますが、実際には重力に邪魔されて、その分だけ高さが低くなります。その関係を式にしたものが答えです。
小球Bの高さは \(y_B = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) と表せます。
問(3)
思考の道筋とポイント
AとBが衝突した地点の、地面からの高さを求めます。衝突するということは、AとBが「同じ時刻に同じ高さにいる」ということです。しかし、(1)と(2)ではAとBで座標の取り方が異なるため、単純に \(y_A = y_B\) とはできません。
ここで、「Aが落下した距離 \(y_A\)」と「Bが上昇した高さ \(y_B\)」の和が、ビルの初期の高さ \(h\) に等しくなる、という幾何学的な条件を考えます。この条件から衝突時刻 \(t\) を求め、その時刻を \(y_B\) の式に代入することで、衝突点の高さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 衝突条件は、\(y_A + y_B = h\) である。
- この条件式から、まず衝突時刻 \(t\) を求める。
- 求めた時刻 \(t\) を、\(y_B\) の式に代入して高さを計算する。
具体的な解説と立式
衝突する時刻を \(t\) とします。その時刻において、Aの落下距離 \(y_A\) とBの上昇高さ \(y_B\) の間には、
$$ y_A + y_B = h $$
という関係が成り立ちます。
(1), (2)で求めた式を代入すると、
$$ \left( \frac{1}{2}gt^2 \right) + \left( v_0t – \frac{1}{2}gt^2 \right) = h $$
この方程式を解いて衝突時刻 \(t\) を求め、その結果を \(y_B\) の式に代入します。
使用した物理公式
- (1), (2)で導出した式
まず、衝突時刻 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}gt^2 + v_0t – \frac{1}{2}gt^2 &= h \\[2.0ex]
v_0t &= h \\[2.0ex]
t &= \frac{h}{v_0}
\end{aligned}
$$
次に、この時刻 \(t\) を \(y_B\) の式に代入して、衝突点の高さ \(y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
y &= v_0 \left( \frac{h}{v_0} \right) – \frac{1}{2}g \left( \frac{h}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]
&= h – \frac{gh^2}{2v_0^2}
\end{aligned}
$$
Aが落ちた距離と、Bが上がった距離。この\(2\)つを足し合わせると、ちょうどビルの高さ \(h\) になる瞬間に、\(2\)つのボールは出会います。この関係を使うと、出会うまでの時間が \(t = h/v_0\) であることがわかります。
あとは、この時間でBがどれだけ上がったかを計算すれば、それが衝突した地点の高さになります。
衝突した地点の高さは \(h – \frac{gh^2}{2v_0^2}\) と求まりました。この式は、もし重力がなければ(\(g=0\))、衝突点は高さ \(h\) となることを示しており、物理的に妥当です。また、\(v_0\) が大きいほど、分母が大きくなるため衝突点は高くなることも示しており、直感と一致します。
思考の道筋とポイント
地面に固定された視点ではなく、一方の小球(B)から見たもう一方の小球(A)の運動(相対運動)を考えます。AとBはどちらも同じ重力加速度で運動しているため、互いの相対的な運動は重力の影響を受けず、単純な等速直線運動になります。この性質を利用して、衝突時刻を簡単に求めます。
この設問における重要なポイント
- 相対速度の定義: \((\text{AのBに対する相対速度}) = (\text{Aの速度}) – (\text{Bの速度})\)。
- A, Bともに加速度が同じなので、相対加速度は \(0\)。つまり、相対運動は等速直線運動になる。
- 最初の距離 \(h\) を、この一定の相対速度で近づく時間として衝突時刻を計算する。
具体的な解説と立式
地面を原点とし、鉛直上向きを正の向きとします。
– 小球Aの速度 \(v_A\): 初速度 \(0\)、初期位置 \(h\) からの自由落下なので、
$$ v_A = -gt $$
– 小球Bの速度 \(v_B\): 初速度 \(v_0\)、初期位置 \(0\) からの鉛直投げ上げなので、
$$ v_B = v_0 – gt $$
– Bから見たAの相対速度 \(v_{AB}\)
$$ v_{AB} = v_A – v_B $$
この相対速度で、初期距離 \(h\) を進む時間が衝突時刻 \(t\) となります。
使用した物理公式
- 相対速度の定義
- 等速直線運動の公式: \((\text{時間}) = (\text{距離}) \div (\text{速さ})\)
まず、相対速度 \(v_{AB}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= (-gt) – (v_0 – gt) \\[2.0ex]
&= -gt – v_0 + gt \\[2.0ex]
&= -v_0
\end{aligned}
$$
相対速度が \(-v_0\) で一定であることがわかります。これは、Bから見ると、Aは常に一定の速さ \(v_0\) で下向きに(負の向きに)近づいてくるように見えることを意味します。
最初のAとBの距離は \(h\) です。この距離を速さ \(v_0\) で近づくので、衝突までの時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{h}{v_0} $$
この結果は、主たる解法で求めた衝突時刻と完全に一致します。
この時刻をBの運動の式 \(y_B = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) に代入すると、主たる解法と同様に、衝突点の高さ \(y = h – \frac{gh^2}{2v_0^2}\) が得られます。
B君の視点に立ってみましょう。B君から見ると、自分は止まっていて、A君が上からまっすぐ自分に向かって落ちてくるように見えます。面白いことに、この「近づいてくる速さ」は、重力の影響を受けずに常に一定で、B君の初速度 \(v_0\) と同じ大きさになります。
最初の距離は \(h\) なので、「時間 = 距離 ÷ 速さ」という小学校で習った計算で、出会うまでの時間が \(t = h/v_0\) と簡単にわかってしまいます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。相対速度の概念を用いることで、\(gt^2\) の項を計算することなく、衝突時刻が非常にシンプルに求まることがわかります。これは、\(2\)物体が同じ加速度で運動する場合に常に使える、非常に強力な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(2\)物体の衝突(出会い)条件の立式
- 核心: この問題の根幹は、\(2\)つの物体が「衝突する」という物理的な事象を、数式でどのように表現するかにあります。これには主に\(2\)つのアプローチがあり、どちらも同じ結論に至ることを理解するのが重要です。
- 理解のポイント:
- アプローチ1(絶対座標系): 地面などの静止した基準点から見て、\(2\)つの物体の位置をそれぞれ時間の関数 \(y_A(t)\), \(y_B(t)\) として表し、「同じ時刻に同じ位置にいる」という条件を立式します。この問題では、座標の取り方が異なるため、「Aの落下距離 \(y_A\) とBの上昇距離 \(y_B\) の和が、初期の距離 \(h\) に等しい」(\(y_A + y_B = h\)) という形で表現されます。
- アプローチ2(相対座標系): 一方の物体から見たもう一方の物体の運動(相対運動)を考えます。「衝突」とは、\(2\)つの物体の「相対的な位置」が \(0\) になること、つまり「相対的な速さ」で「初期の距離」を移動しきることを意味します。
- 相対加速度がゼロになる運動
- 核心: \(2\)つの物体が、ともに同じ一定の加速度(この問題では重力加速度 \(g\))で運動している場合、互いの相対加速度は \(a_{AB} = a_A – a_B = (-g) – (-g) = 0\) となり、ゼロになります。
- 理解のポイント:
- 相対運動は等速直線運動: 相対加速度が \(0\) であるため、一方から見たもう一方の運動は、重力の影響を受けない「等速直線運動」に見えます。
- 計算の劇的な単純化: この性質を利用することで、(3)の衝突時刻の計算が、二次方程式の項が複雑に絡み合うことなく、単純な「時間 = 距離 ÷ 速さ」の一次式で解けてしまいます。これは、\(2\)物体が同じ加速度で運動する問題全般(例:放物運動する\(2\)物体の衝突など)に応用できる非常に強力な考え方です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 追い越し問題: 同じ方向に進む\(2\)つの物体(例:自動車)が追い越す、あるいは並走する時刻や位置を求める問題。それぞれの位置を時間の関数として表し、位置が等しくなる条件を解きます。
- 斜方投射された\(2\)物体の衝突: 異なる角度や初速で投げ上げられた\(2\)つの物体が空中で衝突する問題。水平方向(\(x\))と鉛直方向(\(y\))の両方で、衝突条件(同じ時刻に同じ\(x\)座標、同じ\(y\)座標)を立式する必要があります。この場合も、相対運動を考えると、重力の影響が消え、単純な等速直線運動として扱えます。
- ばねに繋がれた\(2\)物体の運動: \(2\)つの物体がばねで結ばれている場合、重心の運動と、重心から見た相対運動に分解して考えると、問題が単純化されることがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体の数を数える: まず、問題に登場する動く物体が\(1\)つか、\(2\)つ以上かを確認します。\(2\)つ以上であれば、「衝突」「出会い」「追い越し」といったキーワードを探し、\(2\)体問題であると認識します。
- 各物体の運動モデルを特定する: それぞれの物体がどのような運動(等速、等加速度など)をするのかを個別に分析します。
- 衝突条件を考える:
- 基本アプローチ: まずは地面に固定した座標系で、各物体の位置 \(y_A(t)\), \(y_B(t)\) を立式し、\(y_A(t) = y_B(t)\)(同じ座標系の場合)や \(y_A(t) + y_B(t) = h\)(異なる座標系の場合)といった条件を立てられないか考えます。
- 発展アプローチ(相対速度): \(2\)つの物体の加速度が同じであることに気づいたら、相対速度の利用を検討します。相対初速度と初期距離から、衝突時間を \(t = (\text{初期距離}) / (\text{相対速度の大きさ})\) で求められないか試みます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 座標系の混同:
- 誤解: (1)でAの落下距離 \(y_A\) を下向き正で、(2)でBの上昇距離 \(y_B\) を上向き正で計算した後、(3)で衝突条件を立てる際に、単純に \(y_A = y_B\) としてしまう。
- 対策: 異なる座標系で計算した物理量を直接比較することはできません。必ず、一つの共通の座標系に変換するか、あるいは \(y_A + y_B = h\) のように、座標系に依存しない幾何学的な関係式を立てる必要があります。立式する前に、各変数がどの座標系で定義されているかを再確認する癖をつけましょう。
- 相対速度の符号ミス:
- 誤解: 相対速度を計算する際に、\(v_{AB} = v_A + v_B\) のように、単純に足してしまったり、引く順番を間違えたりする。
- 対策: 相対速度の定義「(AのBに対する相対速度)\(v_{AB}\) = (Aの速度)\(v_A\) – (Bの速度)\(v_B\)」を正確に覚えることが重要です。また、計算結果の符号が持つ物理的な意味(Bから見てAがどちら向きに動いているか)を常に考えることで、ミスに気づきやすくなります。
- 衝突時刻と衝突位置の混同:
- 誤解: (3)で衝突時刻 \(t = h/v_0\) を求めた時点で、それを答えとしてしまう。
- 対策: 問題が「いつ(時刻)」衝突するかを問うているのか、「どこで(位置)」衝突するかを問うているのかを正確に読み取りましょう。時刻を求めた後は、その時刻を位置の式に代入して、位置を計算するという最後のステップを忘れないようにします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (3)での \(y_A + y_B = h\) の選択:
- 選定理由: これは、\(2\)物体の衝突問題を解くための最も基本的で普遍的なアプローチです。たとえ\(2\)物体の加速度が異なっていても、この「位置に関する条件」は常に成り立ちます。(1), (2)で各物体の位置が時間の関数としてすでに求まっているため、それらを代入するだけで衝突時刻に関する方程式を立てられる、という自然な流れに基づいています。
- 適用根拠: 衝突の定義そのもの(同じ時刻に同じ場所にいる)を、図形的な関係に翻訳したものです。Aが \(y_A\) だけ下がり、Bが \(y_B\) だけ上がった結果、両者の間の距離が \(0\) になった、という状況を数式で表現しています。
- 別解での相対速度の選択:
- 選定理由: この問題が「\(2\)つの物体がともに同じ加速度(重力加速度)で運動している」という特殊な条件を満たしていることを見抜いたためです。この条件が成り立つ場合、相対運動は劇的に単純化されるため、このアプローチを選択することで計算を大幅に効率化できます。これは、より複雑な問題(例:斜方投射の衝突)にも応用できる、知っておくと非常に有利な解法です。
- 適用根拠: ガリレイの相対性原理に基づいています。すなわち、等速直線運動している観測者から見た物理法則は、静止している観測者から見た物理法則と同じ形をしている、という原理の延長線上にあります。加速度運動している系でも、同じ加速度で運動する物体同士の相対運動は、その加速度の影響が見かけ上消える、という現象に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進めることの徹底: この問題は元々文字式ですが、数値が与えられている問題でも、できるだけ最後まで文字式で計算し、最後に代入する癖をつけることが重要です。特に(3)の主たる解法では、\(\frac{1}{2}gt^2\) の項が自然に消去される様子が、文字式のままだと明確に見て取れます。
- 単位(次元)による検算: 導出した答えの単位が、求めるべき物理量の単位と一致しているかを確認しましょう。
- 衝突時刻 \(t = h/v_0\): 単位は \([\text{m}] / [\text{m/s}] = [\text{s}]\)。OK。
- 衝突高さ \(y = h – \frac{gh^2}{2v_0^2}\):
- 第\(1\)項 \(h\) の単位は \([\text{m}]\)。
- 第\(2\)項 \(\frac{gh^2}{v_0^2}\) の単位は \([\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]^2 / [\text{m/s}]^2 = [\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}^2] / [\text{m}^2/\text{s}^2] = [\text{m}]\)。
両項の単位が一致しているので、この式は少なくとも単位の観点からは正しいと言えます。
- 極端な場合を代入して確認する:
- もし重力がなければ (\(g=0\)): 衝突高さは \(y=h\)。つまり、Aが落ちてこないので、Bが屋上に到達した瞬間に衝突する。このときの時間は \(t=h/v_0\)。これは物理的に妥当です。
- もし初速度が非常に大きければ (\(v_0 \rightarrow \infty\)): 衝突高さは \(y \rightarrow h\)。Bが一瞬で屋上に到達するため、屋上で衝突する。これも物理的に妥当です。
発展例題4 水平投射と自由落下
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「衝突点での落下距離が初期高度より小さい」という条件で解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 衝突時間と落下時間の大小関係から条件を導く解法
- 主たる解法が「衝突点での落下距離 < 初期高度」という空間的な条件で立式するのに対し、別解では「衝突までの時間 < 地面に達するまでの時間」という時間的な条件で立式します。
- 設問(2)の別解: 衝突時間と落下時間の大小関係から条件を導く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 同じ物理条件を、空間的な制約と時間的な制約という\(2\)つの異なる視点から数式化する経験ができます。
- 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、距離で考えるか時間で考えるか、より直感的に理解しやすいアプローチを選択する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「水平投射と自由落下の組み合わせによる2物体の衝突問題」です。それぞれの運動を正しく立式し、衝突の条件を数式で表現することが鍵となります。特に、\(2\)つの物体の鉛直方向の運動が全く同じであることに気づくと、見通しが良くなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 小球Aの運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」に分解して考えること。
- 相対運動の考え方: 小球AとBは、どちらも鉛直方向には同じ自由落下運動をするため、互いの相対的な高さは常に変わらない。したがって、衝突は必ず起こり、そのタイミングは小球Aが水平方向に距離 \(l\) だけ進んだときである、と理解すること。
- 衝突条件の数式化: 「地面に達するまでに衝突する」という条件を、空間的(落下距離 < 高さ)または時間的(衝突時間 < 落下時間)な不等式で表現できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球Aが水平方向に距離 \(l\) を進むのにかかる時間を、等速直線運動の公式から求めます。これが衝突までの時間となります。
- (2)では、(1)で求めた衝突時間において、小球Bが落下した距離を計算し、その距離ががけの高さ \(h\) よりも小さいという条件から、初速度 \(v_0\) が満たすべき不等式を導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球Aが点Rに達するまでの時間を求めます。点Rは点Pの真下にあるため、小球Aはこの間に水平方向に距離 \(l\) だけ移動しています。小球Aの水平方向の運動は、初速度 \(v_0\) のままの等速直線運動です。したがって、「時間 = 距離 ÷ 速さ」の関係から時間を計算できます。
この設問における重要なポイント
- 小球Aの水平方向の運動は、速さ \(v_0\) の等速直線運動である。
- 衝突点Rまでの水平移動距離は \(l\) である。
- 鉛直方向の運動は、この時間の計算には関係しない。
具体的な解説と立式
小球Aの運動について、投げ出された点Qを原点とし、水平右向きを正の向きとします。
水平方向の運動は、速さ \(v_0\) の等速直線運動です。時間 \(t\) 後の水平移動距離を \(x\) とすると、
$$ x = v_0 t $$
衝突点Rの水平座標は \(l\) なので、\(x=l\) となる時刻 \(t\) を求めます。
$$ l = v_0 t $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の距離の式: \(x = vt\)
上記で立式した \(l = v_0 t\) を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{l}{v_0}
\end{aligned}
$$
小球Aは、横方向に秒速 \(v_0\) でまっすぐ飛んでいきます。距離 \(l\) だけ離れた小球Bの真下まで飛んでくるのにかかる時間は、単純な「時間=距離÷速さ」の計算で求めることができます。
衝突までの時間は \(t = \frac{l}{v_0}\) と表せます。初速度 \(v_0\) が大きいほど、衝突までの時間は短くなるという、直感と一致する妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
地面に達するまでに\(2\)つの小球が衝突するための、速さ \(v_0\) の条件を求めます。
(1)で求めた衝突時刻 \(t = \frac{l}{v_0}\) の時点で、衝突がまだ空中で起こっている必要があります。これは、その時刻における小球Bの落下距離 \(y\) が、がけの高さ \(h\) よりも小さい、ということを意味します。この条件 \(y < h\) から不等式を立て、\(v_0\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 衝突時刻は \(t = \frac{l}{v_0}\) である。
- 小球Bの運動は自由落下なので、落下距離は \(y = \frac{1}{2}gt^2\)。
- 空中で衝突するための条件は、衝突時の落下距離ががけの高さより小さいこと、すなわち \(y < h\)。
具体的な解説と立式
(1)より、衝突が起こる時刻は \(t = \frac{l}{v_0}\) です。
この時刻 \(t\) における小球Bの落下距離 \(y\) は、自由落下の公式より、
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$
この式に衝突時刻 \(t\) を代入すると、
$$ y = \frac{1}{2}g\left(\frac{l}{v_0}\right)^2 $$
地面に達するまでに衝突するためには、この落下距離 \(y\) が、がけの高さ \(h\) よりも小さくなければなりません。
$$ y < h $$
したがって、以下の不等式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}g\left(\frac{l}{v_0}\right)^2 < h $$
使用した物理公式
- (1)で導出した式
- 自由落下の変位の式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
上記で立式した不等式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{gl^2}{2v_0^2} &< h \\[2.0ex]
gl^2 &< 2hv_0^2 \end{aligned} $$ 両辺を \(2h\) で割り(\(h>0\) なので不等号の向きは変わらない)、
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &> \frac{gl^2}{2h}
\end{aligned}
$$
\(v_0\) は速さなので \(v_0 > 0\) です。両辺の正の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
v_0 &> \sqrt{\frac{gl^2}{2h}} \\[2.0ex]
v_0 &> l\sqrt{\frac{g}{2h}}
\end{aligned}
$$
小球AがBの真下まで飛んでくるのに時間がかかりすぎると、その間にBは地面に落ちてしまいます。そうならないためには、Aがある程度速く飛ぶ必要があります。具体的には、Aが真下に来る時間までにBが落ちる距離が、がけの高さ \(h\) より短ければ、空中で衝突できます。この条件を数式にして、Aの速さ \(v_0\) が満たすべき条件を求めます。
\(v_0\) が \(l\sqrt{\frac{g}{2h}}\) よりも大きい必要がある、という結果が得られました。\(v_0\) が大きいほど衝突までの時間が短くなり、Bの落下距離も短くなるので、空中で衝突しやすくなります。逆に \(v_0\) が小さいと時間がかかり、Bが地面に落ちてしまう可能性が高まります。したがって、\(v_0\) がある値より大きい必要がある、という結論は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
「地面に達するまでに衝突する」という条件を、時間に着目して考えます。これは、「衝突が起こるまでの時間」が、「小球Bが地面に達するまでの時間」よりも短ければよい、ということを意味します。この時間的な大小関係から不等式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 衝突時間は \(t_{\text{衝突}} = \frac{l}{v_0}\)。
- Bが高さ \(h\) を自由落下する時間は \(t_{\text{落下}} = \sqrt{\frac{2h}{g}}\)。
- 空中で衝突する条件は \(t_{\text{衝突}} < t_{\text{落下}}\)。
具体的な解説と立式
– 衝突時間 \(t_{\text{衝突}}\)
(1)より、小球Aが水平距離 \(l\) を進むのに要する時間です。
$$ t_{\text{衝突}} = \frac{l}{v_0} $$
– Bの落下時間 \(t_{\text{落下}}\)
小球Bが高さ \(h\) を自由落下するのに要する時間です。\(h = \frac{1}{2}gt_{\text{落下}}^2\) より、
$$ t_{\text{落下}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$
– 衝突の条件
地面に達するまでに衝突するためには、衝突時間が落下時間より短くなければなりません。
$$ t_{\text{衝突}} < t_{\text{落下}} $$
したがって、以下の不等式が成り立ちます。
$$ \frac{l}{v_0} < \sqrt{\frac{2h}{g}} $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の距離の式: \(x = vt\)
- 自由落下の変位の式: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
上記で立式した不等式を \(v_0\) について解きます。両辺は正なので、逆数をとると不等号の向きが変わります。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_0}{l} &> \frac{1}{\sqrt{\frac{2h}{g}}} \\[2.0ex]
\frac{v_0}{l} &> \sqrt{\frac{g}{2h}}
\end{aligned}
$$
両辺に \(l\) を掛けて、
$$
\begin{aligned}
v_0 &> l\sqrt{\frac{g}{2h}}
\end{aligned}
$$
Bが地面に落ちてしまう前に、AがBの真下までたどり着けば、衝突は空中で起こります。Bが地面に落ちるまでの時間(ゴールタイム)を計算し、Aが真下まで飛ぶ時間がそれより短くなるように、Aのスピード \(v_0\) の条件を求めます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。空間的な条件(距離の比較)と時間的な条件(時間の比較)が、同じ物理現象を記述する等価なアプローチであることが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と相対運動の考え方
- 核心: この問題の根幹は、\(2\)つの物体の運動を水平・鉛直に分解して考えることに加え、特に鉛直方向の運動に着目すると、両者とも「初速度\(0\)、加速度\(g\)の自由落下運動」であることを見抜く点にあります。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向の相対運動: 小球Aと小球Bは、どちらも同じように重力に引かれて落下していきます。したがって、一方からもう一方を見ると、鉛直方向には全く動いていないように見えます(鉛直方向の相対速度、相対加速度が常に\(0\))。
- 衝突条件の単純化: このことから、「\(2\)つの小球は、衝突するまでの間、常に同じ高さを保っている」という極めて重要な結論が導かれます。したがって、複雑に見える衝突問題は、「小球Aが水平方向に距離\(l\)だけ飛ぶ」という単純な条件だけで決まる問題に帰着します。
- モンキーハンティング: この問題は、物理で有名な思考実験「モンキーハンティング」と同じ構造をしています。猟師が木の上にいる猿を狙って弾丸を発射した瞬間、驚いた猿が木から手を放して自由落下を始めても、弾丸は必ず猿に命中します。これは、弾丸も猿も同じように重力の影響で落下するため、弾丸から見れば猿はずっと同じ高さに見えるからです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射による衝突: 点Qから斜め上方に小球Aを投げ上げ、同時に点Pから小球Bを自由落下させる問題。この場合も、鉛直方向の相対加速度は\(0\)なので、相対運動は等速直線運動になります。衝突するかどうかは、Aの初速度ベクトルが、最初のBの位置(点P)を正確に向いているかどうかだけで決まります。
- 異なる加速度を持つ\(2\)物体の運動: 例えば、一方が電荷を持っていて電場からも力を受ける場合など、\(2\)物体の加速度が異なるとき。この場合は相対加速度が\(0\)にならないため、相対運動は「等加速度直線運動」になります。相対初速度、相対加速度、初期距離を用いて、相対運動の公式を立てて解くことになります。
- 初見の問題での着眼点:
- 各物体の運動モデルを特定する: Aは水平投射、Bは自由落下であることを確認します。
- 各物体の加速度を比較する: Aの加速度(鉛直下向きに\(g\))、Bの加速度(鉛直下向きに\(g\))が全く同じであることに気づきます。
- 相対運動の単純化を試みる: 加速度が同じなので、「相対運動は等速直線運動になるはずだ」と考えます。
- Aから見たBの相対運動: 水平方向には速さ\(v_0\)で近づいてくるように見え、鉛直方向には静止して見える。
- 衝突条件: したがって、Aから見て、初期位置(距離\(l\)だけ前方)に静止しているBに、速さ\(v_0\)でまっすぐ進んでぶつかるまでの時間を求めればよい、と問題を単純化できます。
- 制約条件を数式化する: 「地面に達するまでに」という制約を、「衝突点での落下距離 < 初期高度」または「衝突時間 < 自由落下時間」という不等式に変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 衝突点を複雑に考えすぎる:
- 誤解: AとBがそれぞれ放物線と直線の軌道を描いて、複雑な計算をしないと衝突点が求まらないのではないか、と考えてしまう。
- 対策: この問題の肝である「鉛直方向の運動は両者とも全く同じ自由落下である」という点に立ち返りましょう。この事実から、「Aが水平方向に\(l\)進んだとき、Aの高さはBの高さと必ず一致する」という結論を導き出すことが重要です。つまり、衝突のタイミングは水平方向の運動だけで決まります。
- 不等式の向きの間違い:
- 誤解: (2)で不等式を解く過程で、分母を払ったり、逆数をとったりする際に、不等号の向きを逆にし忘れる。
- 対策: 不等式の変形では、両辺に負の数を掛けたり割ったりした場合にのみ、不等号の向きが逆になるという基本ルールを再確認しましょう。また、\(v_0^2 > \frac{gl^2}{2h}\) から平方根をとる際に、\(v_0\)が速さ(正の量)であることを確認してから、\(v_0 > \sqrt{\frac{gl^2}{2h}}\) と変形する手順を丁寧に行うことが重要です。
- 条件の読み替えミス:
- 誤解: 「地面に達するまでに衝突する」という条件を、「衝突点の高さが正」(\(h-y > 0\))と単純に考えてしまう。
- 対策: 「衝突点の高さが正」は正しいですが、それを\(v_0\)の条件に結びつけるには、「衝突点での落下距離\(y\)が初期高度\(h\)より小さい」(\(y<h\))と読み替える方が、直接的で計算しやすいです。問題の条件を、自分が立式しやすい形に翻訳する能力が問われます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での \(t = l/v_0\) の選択:
- 選定理由: この問題の核心である「鉛直方向の相対位置が変わらない」ことを見抜けば、衝突のタイミングは純粋に「Aが水平距離\(l\)を進む時間」だけで決まることがわかります。水平方向は等速直線運動なので、最も単純な「時間 = 距離 ÷ 速さ」の公式を選択するのが論理的帰結です。
- 適用根拠: 運動の分解と、水平方向には力が働かない(等速直線運動である)という物理法則に基づいています。
- (2)での \(y < h\) という条件設定:
- 選定理由: 「地面に達するまでに衝突する」という物理的な事象を、数式(不等式)で表現するための最も直接的な方法の一つです。衝突が起こる時刻\(t\)において、物体はまだ空中になければなりません。物体の落下距離を\(y\)、初期の高さを\(h\)とすると、空中にある条件は\(y<h\)と表現できます。
- 適用根拠: 座標系の設定(投げ出した点を高さの基準\(0\))と、物理的な制約条件(地面より上で衝突)を論理的に結びつけたものです。別解のように時間で比較する(\(t_{\text{衝突}} < t_{\text{落下}}\))アプローチも完全に等価であり、どちらを選択しても構いません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題は元々文字式ですが、文字式の計算に慣れることは非常に重要です。物理法則の普遍的な関係性を理解する上で役立ちます。
- 単位(次元)による検算: 導出した答えの単位が、求めるべき物理量の単位と一致しているかを確認しましょう。
- (1) 時間 \(t = l/v_0\): 単位は \([\text{m}] / [\text{m/s}] = [\text{s}]\)。OK。
- (2) 速度 \(v_0 > l\sqrt{\frac{g}{2h}}\):
- 右辺の単位: \([\text{m}] \sqrt{[\text{m/s}^2] / [\text{m}]} = [\text{m}] \sqrt{[1/\text{s}^2]} = [\text{m}] \cdot [1/\text{s}] = [\text{m/s}]\)。
左辺の速度の単位と一致しているので、この式は少なくとも単位の観点からは正しいと言えます。
- 極端な場合を代入して確認する:
- (2)の答え \(v_0 > l\sqrt{\frac{g}{2h}}\) について考えます。
- もし \(l\) が非常に大きい(遠くの目標を狙う)なら、\(v_0\) は非常に大きくなければならない。直感と一致します。
- もし \(h\) が非常に大きい(非常に高いがけ)なら、落下に時間がかかるので、\(v_0\) はそれほど大きくなくても間に合います。式を見ると、\(h\) が分母にあるので、\(h\) が大きいと右辺は小さくなり、\(v_0\) の下限値が小さくなることと一致します。
このように、導出した式が物理的な直感と合っているかを確認する習慣は、深い理解とミス防止につながります。
- (2)の答え \(v_0 > l\sqrt{\frac{g}{2h}}\) について考えます。
発展例題5 斜面への斜方投射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「斜面に沿った座標系」で運動を分解する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 水平・鉛直座標系を用いる解法
- 主たる解法が斜面に沿って座標軸を設定するのに対し、別解では通常の水平・鉛直方向に座標軸を設定して問題を解きます。
- 水平・鉛直座標系を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 座標系の取り方によって、同じ物理現象がどのように異なる数式で表現されるかを学ぶことができます。
- 思考の柔軟性向上: 問題設定に応じて、どの座標系を選択すれば計算が最も簡潔になるかを判断する戦略的な思考力が養われます。
- 数学的スキルの応用: 小球の軌跡(放物線)と斜面(直線)の交点を求めるという、数学的なアプローチで物理問題を解く経験ができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程は大きく異なりますが、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面への斜方投射」です。通常の斜方投射と異なり、重力加速度を運動に合わせて分解するという、座標系の設定が鍵となる応用問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 座標軸の適切な設定: この問題では、斜面に平行な方向と垂直な方向に座標軸をとるのが最も効果的です。
- 重力加速度の分解: 設定した座標軸に合わせて、鉛直下向きの重力加速度 \(g\) を、斜面に平行な成分と垂直な成分に正しく分解できること。
- 運動の分解: 分解した各軸方向の運動が、それぞれ初速度と加速度が異なる等加速度直線運動として扱えることを理解していること。
- 物理的条件の数式化: 「斜面から最もはなれる」を「斜面に垂直な方向の速度が\(0\)」に、「斜面に落下する」を「斜面に垂直な方向の変位が\(0\)」に、それぞれ翻訳できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、斜面に平行な方向を\(x\)軸、垂直な方向を\(y\)軸とする座標系を設定し、重力加速度 \(g\) をこの座標系の成分に分解します。
- (1)では、\(y\)方向の運動に着目し、「斜面から最もはなれる」という条件(\(v_y=0\))を速度の式に適用して時間を求めます。
- (2)では、\(y\)方向の運動に着目し、「斜面に落下する」という条件(\(y=0\))を変位の式に適用して全飛行時間を求め、その時間を使って\(x\)方向の移動距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球を投げ出してから、斜面から最もはなれるまでの時間を求めます。この問題では、斜面に沿った座標系を設定するのが最も有効です。「斜面から最もはなれる」という現象は、この座標系で考えると「\(y\)方向の速度 \(v_y\) が一瞬だけ \(0\) になる」と解釈できます。この条件を、\(y\)方向の運動の速度の式に適用して時間を求めます。
この設問における重要なポイント
- 斜面に平行な方向を\(x\)軸(斜面下向きが正)、斜面に垂直な方向を\(y\)軸(斜面上向きが正)と設定する。
- 重力加速度 \(g\) を、\(x\)成分 \(g\sin\theta\) と\(y\)成分 \(-g\cos\theta\) に分解する。
- \(y\)方向の運動は、初速度 \(v_0\)、加速度 \(-g\cos\theta\) の等加速度直線運動とみなせる。
- 「最もはなれる」の条件は \(v_y=0\) である。
具体的な解説と立式
斜面に沿った座標系を設定すると、各物理量は以下のように表せます。
- 初速度: \(v_{0x}=0\), \(v_{0y}=v_0\)
- 加速度: \(a_x = g\sin\theta\), \(a_y = -g\cos\theta\)
\(y\)方向の運動は、初速度 \(v_0\)、加速度 \(-g\cos\theta\) の等加速度直線運動です。時刻 \(t\) における\(y\)方向の速度 \(v_y\) は、
$$ v_y = v_0 + (-g\cos\theta)t $$
斜面から最もはなれる時刻を \(t_1\) とすると、このとき \(v_y=0\) となるので、
$$ 0 = v_0 – (g\cos\theta)t_1 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
上記で立式した式を \(t_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(g\cos\theta)t_1 &= v_0 \\[2.0ex]
t_1 &= \frac{v_0}{g\cos\theta}
\end{aligned}
$$
この問題専用の「斜めものさし」(座標軸)を考えます。ものさしは、斜面に沿った向きと、斜面に垂直な向きの\(2\)本です。重力もこのものさしに合わせて、斜めに滑らせる力と、斜面に押し付ける力の\(2\)つに分解します。
ボールが斜面から一番遠ざかるのは、斜面から垂直に飛び出す向きのスピードがゼロになる瞬間です。その時間を、分解した重力(押し付ける力)を使って計算します。
斜面から最もはなれるまでの時間は \(t_1 = \frac{v_0}{g\cos\theta}\) と求まりました。角度 \(\theta\) が大きくなる(斜面が急になる)と \(\cos\theta\) は小さくなり、時間は長くなります。これは、斜面が急なほど、斜面に垂直な方向の重力加速度の成分が小さくなり、減速しにくくなるためで、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
OP間の距離を求めます。これは、\(x\)方向の移動距離です。\(x\)方向の移動距離を求めるには、まず小球が点Pに落下するまでの全飛行時間 \(t_2\) を知る必要があります。
「斜面上の点Pに落下する」とは、\(y\)座標が再び \(0\) になることを意味します。この条件を\(y\)方向の変位の式に適用して \(t_2\) を求め、その時間を使って\(x\)方向の移動距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 点Pに落下する条件は \(y=0\) である。
- \(y\)方向の運動の対称性から、全飛行時間は(1)で求めた時間の\(2\)倍になる (\(t_2=2t_1\))。
- \(x\)方向の運動は、初速度 \(0\)、加速度 \(g\sin\theta\) の等加速度直線運動である。
具体的な解説と立式
– 全飛行時間 \(t_2\) の計算
\(y\)方向の運動は、初速度 \(v_0\)、加速度 \(-g\cos\theta\) の等加速度直線運動です。変位の式は、
$$ y = v_0t – \frac{1}{2}(g\cos\theta)t^2 $$
点Pでは \(y=0\) となるので、
$$ 0 = v_0t_2 – \frac{1}{2}(g\cos\theta)t_2^2 $$
– OP間の距離 \(x\) の計算
\(x\)方向の運動は、初速度 \(0\)、加速度 \(g\sin\theta\) の等加速度直線運動です。変位の式は、
$$ x = \frac{1}{2}(g\sin\theta)t^2 $$
この式に、上で求めた時間 \(t_2\) を代入します。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
まず、全飛行時間 \(t_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= t_2 \left( v_0 – \frac{1}{2}(g\cos\theta)t_2 \right)
\end{aligned}
$$
\(t_2=0\) は投げ上げた瞬間の時刻なので、求める解は後者から得られます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(g\cos\theta)t_2 &= v_0 \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{2v_0}{g\cos\theta}
\end{aligned}
$$
(これは(1)で求めた \(t_1\) のちょうど\(2\)倍であり、運動の対称性が成り立っていることがわかります。)
次に、この \(t_2\) を\(x\)方向の変位の式に代入して、OP間の距離 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2}(g\sin\theta) \left( \frac{2v_0}{g\cos\theta} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}g\sin\theta \cdot \frac{4v_0^2}{g^2\cos^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2\sin\theta}{g\cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
ここで \(\tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を使うと、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{2v_0^2}{g\cos\theta} \cdot \frac{\sin\theta}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2\tan\theta}{g\cos\theta}
\end{aligned}
$$
ボールが斜面に戻ってくるのは、斜め座標で高さ(\(y\))が再びゼロになるときです。その時間をまず計算します。
その時間で、ボールが重力の「斜めに滑らせる力」によって、斜面に沿ってどれだけ流されたか(\(x\)方向の距離)を計算します。これがOP間の距離になります。
OP間の距離は \(\frac{2v_0^2\tan\theta}{g\cos\theta}\) と求まりました。複雑な式ですが、各変数が物理的に妥当な形で含まれています(例:\(v_0\) が大きいほど飛距離は伸びる)。
思考の道筋とポイント
通常の水平・鉛直座標系で問題を解くアプローチです。計算は複雑になりますが、物理の基本法則に忠実に従うことで、同じ答えにたどり着くことができます。
- 初速度 \(v_0\) を水平・鉛直成分に分解します。
- 小球の軌跡を表す \(x'(t), y'(t)\) の式を立てます。
- 斜面を表す直線の式を立てます。
- 小球の軌跡と斜面の式を連立させて、落下点Pの座標と時刻を求めます。
この設問における重要なポイント
- 座標系の設定: 点Oを原点、水平右向きを\(x’\)軸、鉛直上向きを\(y’\)軸とする。
- 初速度の分解: \(v_{0x’} = v_0\sin\theta\), \(v_{0y’} = v_0\cos\theta\)。
- 斜面の式: \(y’ = -(\tan\theta)x’\)。
具体的な解説と立式
– 小球の運動の式
$$ x'(t) = (v_0\sin\theta)t $$
$$ y'(t) = (v_0\cos\theta)t – \frac{1}{2}gt^2 $$
– 斜面の式
$$ y’ = -(\tan\theta)x’ $$
– 衝突条件
小球が斜面に落下する時刻を \(t_2\) とすると、その時刻の座標 \((x'(t_2), y'(t_2))\) は斜面の式を満たします。
$$ (v_0\cos\theta)t_2 – \frac{1}{2}gt_2^2 = -(\tan\theta)(v_0\sin\theta)t_2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式
まず、衝突時刻 \(t_2\) を求めます。\(t_2 \neq 0\) なので、両辺を \(t_2\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
v_0\cos\theta – \frac{1}{2}gt_2 &= -(\tan\theta)(v_0\sin\theta) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gt_2 &= v_0\cos\theta + \frac{\sin\theta}{\cos\theta}v_0\sin\theta \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gt_2 &= \frac{v_0\cos^2\theta + v_0\sin^2\theta}{\cos\theta} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gt_2 &= \frac{v_0(\cos^2\theta + \sin^2\theta)}{\cos\theta} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gt_2 &= \frac{v_0}{\cos\theta} \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{2v_0}{g\cos\theta}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で求めた全飛行時間と一致します。
次に、OP間の距離を求めます。これは、落下点Pの原点からの距離です。Pの\(x’\)座標は、
$$
\begin{aligned}
x’_P &= (v_0\sin\theta)t_2 \\[2.0ex]
&= (v_0\sin\theta)\frac{2v_0}{g\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2\sin\theta}{g\cos\theta}
\end{aligned}
$$
OP間の距離は、直角三角形O-P-(Pから\(x’\)軸への垂線)を考えると、\(\cos\theta = \frac{x’_P}{\text{OP}}\) の関係があるので、
$$
\begin{aligned}
\text{OP} &= \frac{x’_P}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2\sin\theta}{g\cos\theta} \cdot \frac{1}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2\sin\theta}{g\cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の結果と一致します。
いつもの水平・垂直の座標で考える別解です。計算は複雑になりますが、ボールの軌跡(放物線)の式と、斜面(直線)の式を立てて、その\(2\)つが交わる点を求める、という数学的なアプローチで解くことができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、座標系の取り方によって計算の複雑さが大きく変わること、しかしどの座標系でも物理法則は同じ結論を導くことを示す良い例です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 座標系の任意性と運動の分解
- 核心: この問題の根幹は、物理法則が座標系の取り方によらず成り立つという原理を理解し、問題の状況に応じて最も計算が単純になるような座標系を自分で設定する能力にあります。斜方投射では、通常は水平・鉛直に座標軸をとりますが、この問題のように運動が斜面という制約を受ける場合、「斜面に平行・垂直」な座標系を設定することが極めて有効です。
- 理解のポイント:
- なぜ斜面に沿った座標系が有効か: 「斜面から最もはなれる」「斜面に落下する」といった問題の条件が、この座標系では「\(v_y=0\)」「\(y=0\)」という非常に単純な数式で表現できるからです。
- 重力加速度の分解: 座標系を傾けた代償として、これまで単純だった重力加速度ベクトル \(\vec{g}\) を、座標軸に合わせて分解する必要が生じます。鉛直下向きの \(\vec{g}\) を、斜面に平行な成分(\(g\sin\theta\))と垂直な成分(\(g\cos\theta\))に正しく分解できるかが、この解法の鍵となります。
- 各成分が等加速度直線運動であることの認識
- 核心: 座標系を設定し、力を分解した後は、各軸方向の運動がそれぞれ独立した「等加速度直線運動」として扱えることを見抜くことが重要です。
- 理解のポイント:
- \(y\)方向(斜面に垂直): 初速度 \(v_0\)、加速度 \(-g\cos\theta\) の等加速度直線運動(鉛直投げ上げに似た運動)。
- \(x\)方向(斜面に平行): 初速度 \(0\)、加速度 \(g\sin\theta\) の等加速度直線運動(自由落下に似た運動)。
- 公式の適用: これら\(2\)つの運動モデルに対して、それぞれ\(3\)つの等加速度直線運動の公式を適用することで、問題を解くことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上の水平投射: 傾斜角\(\theta\)の斜面上の点から、水平方向に初速度\(v_0\)でボールを投げ出す問題。この場合も、斜面に平行・垂直な座標系を設定し、初速度\(v_0\)と重力加速度\(g\)の両方を成分分解する必要があります。
- 摩擦のある斜面上の運動: 摩擦力が加わる場合、斜面に平行な方向の合力(加速度)が変化します。例えば、滑り上がる場合は \(a_x = -(g\sin\theta + \mu’ g\cos\theta)\) のようになりますが、運動を成分に分解して考えるアプローチは同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 最適な座標系を選択する: 問題の幾何学的な特徴(斜面、壁など)や、問われている条件(「斜面からの高さ」など)を考慮し、計算が最も簡単になる座標系は何かを最初に考えます。斜面上の運動では、多くの場合、斜面に沿った座標系が有効です。
- 全てのベクトルを成分分解する: 選択した座標系に合わせて、初速度ベクトルと、物体に働く力(重力など)から決まる加速度ベクトルの両方を、各軸の成分に分解します。
- 各軸の運動モデルを特定する: 分解した成分を見て、各軸方向の運動が「等速」「等加速度」のどれに当たるかを判断し、初期条件(初速度、加速度)を整理します。
- 物理条件を数式化する: 「最もはなれる」「落下する」といったキーワードを、選択した座標系における数式条件(\(v_y=0\), \(y=0\) など)に翻訳し、立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 重力加速度の分解ミス:
- 誤解: 重力加速度の斜面に平行な成分を \(g\cos\theta\)、垂直な成分を \(g\sin\theta\) のように、\(\sin\) と \(\cos\) を逆にしてしまう。
- 対策: 力を分解する際の基本的な作図を丁寧に行うことが重要です。鉛直下向きのベクトルを描き、そこから斜面に平行・垂直な方向に垂線を下ろして長方形を作図します。角度の関係を注意深く見れば、斜面との角度が \(\theta\) のとき、垂直成分が \(\cos\theta\) に対応することがわかります。「斜面の角度が小さいとき、滑らせる力は小さく、押し付ける力は大きい」という物理的な直感と、\(\theta\)が小さいときに \(\sin\theta\) は小さく \(\cos\theta\) は大きいという数学的な性質を結びつけて覚えるのも有効です。
- 加速度の符号ミス:
- 誤解: \(y\)方向の加速度を \(+g\cos\theta\) のように、符号を間違えてしまう。
- 対策: 自分で設定した座標軸の正の向きを常に意識しましょう。\(y\)軸を斜面から垂直上向きに正と定めた場合、重力加速度の\(y\)成分は常に\(y\)軸の負の向きを向いているため、\(-g\cos\theta\) となります。
- 運動モデルの混同:
- 誤解: 水平・鉛直座標系での斜方投射の知識と混同し、\(x\)方向(斜面に平行)の運動を等速直線運動だと勘違いしてしまう。
- 対策: 座標系を傾けた場合、重力は\(x\)方向にも\(y\)方向にも成分を持つことになります。したがって、\(x\)方向にも力が働いている(加速度 \(g\sin\theta\) がある)ため、等速運動にはなりません。必ず、分解した力の成分に基づいて運動モデルを判断しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での \(v_y=v_0-(g\cos\theta)t\) の選択:
- 選定理由: 「斜面から最もはなれる」という物理現象を、設定した座標系で解釈すると「\(y\)方向の速度が\(0\)になる」(\(v_y=0\)) となります。この条件を使って「時間 \(t_1\)」を求めたいので、\(y\)方向の速度と時間の関係を表すこの公式が最も直接的で適切です。
- 適用根拠: \(y\)方向の運動は、初速度\(v_0\)、加速度\(-g\cos\theta\)の等加速度直線運動としてモデル化できるため、その速度式を適用するのは論理的に正しい手順です。
- (2)での \(y=0\) の適用と対称性の利用:
- 選定理由: 「斜面に落下する」という現象は、\(y\)座標が再び\(0\)になることと等価です。この条件を変位の式に適用することで、全飛行時間 \(t_2\) を求めることができます。さらに、\(y\)方向の運動は初速度があって元の位置に戻る「投げ上げ」型の運動なので、対称性から「全飛行時間 \(= 2 \times\) 最高点までの時間」が成り立つことを見抜けば、(1)の結果を\(2\)倍するだけで済み、計算が大幅に簡略化されます。
- 適用根拠: \(y\)方向の加速度が一定であるため、\(y\)方向の運動は時間的に対称になります。この数学的な性質が、物理的な時間の対称性を保証します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題は元々文字式ですが、文字式の計算に慣れることは、物理法則の普遍的な関係性を理解する上で非常に重要です。
- 単位(次元)による検算: 導出した答えの単位が、求めるべき物理量の単位と一致しているかを確認しましょう。
- (1) 時間 \(t_1 = \frac{v_0}{g\cos\theta}\): 単位は \([\text{m/s}] / ([\text{m/s}^2] \cdot [\text{無次元}]) = [\text{s}]\)。OK。
- (2) 距離 \(x = \frac{2v_0^2\tan\theta}{g\cos\theta}\): 単位は \([\text{m/s}]^2 / ([\text{m/s}^2] \cdot [\text{無次元}]) = [\text{m}^2/\text{s}^2] / [\text{m/s}^2] = [\text{m}]\)。OK。
- 極端な場合を代入して確認する:
- \(\theta = 0^\circ\)(水平面)を代入:
- \(t_1 = v_0/g\), \(x = 0\)。これは、水平面上で真上に投げ上げたボールが、時間\(v_0/g\)で最高点に達し、元の場所(\(x=0\))に戻ってくるまでの時間が \(2v_0/g\) となる状況に対応しており、妥当です(ただし、\(x\)の式は\(\theta \rightarrow 0\)の極限で発散するため、厳密な扱いは注意が必要)。
- \(\theta = 90^\circ\)(垂直な壁)を代入:
- \(\cos 90^\circ = 0\) なので、分母が\(0\)になり、物理的に意味をなしません。これは、斜面が垂直な壁になった場合、そもそも斜面に沿った運動というモデルが破綻することに対応しており、妥当です。
- \(\theta = 0^\circ\)(水平面)を代入:
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
発展問題
43. 投げ上げと自由落下
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている運動の公式を順に適用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解1: 運動を2段階に分割する解法
- 主たる解法が運動全体を1つの式で扱うのに対し、別解では運動を「最高点に達するまで」と「最高点から地面まで」の2つの単純な運動に分割して解析します。
- 設問(1)の別解2: 速さを先に求め、時間との関係式から時刻を導出する解法
- 主たる解法が変位の公式から二次方程式を解くのに対し、別解ではまず力学的エネルギー保存則で地面到達時の速さを求め、次に速度の公式から時間を逆算します。
- 設問(1)の別解1: 運動を2段階に分割する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的イメージの具体化: 別解1は、小球が一度少し上昇してから落下するという物理的な運動の過程を、段階を追って計算するため、現象のイメージが掴みやすくなります。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則(運動法則と保存則)や解法ルートを経験することで、問題解決能力の幅が広がります。
- 解法の選択肢拡大: 二次方程式の計算を避けたい場合に、別解2のようなアプローチが有効であることを学べます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直投げ上げと自由落下の組み合わせ」です。特に、打ち上げ地点と着地点の高さが異なる非対称な鉛直投げ上げ運動の扱いや、2つの物体の運動の時間的な関係を正しく整理できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 初速度 \(v_0\) を持ち、重力加速度 \(g\) によって減速・加速する等加速度直線運動であることを理解していること。
- 座標系の設定と変位の符号: 投げ上げた位置を原点とした場合、それより下方にある地面の座標が負になることを理解し、変位の符号を正しく扱えること。
- 自由落下の運動モデル: 初速度\(0\)、加速度\(g\)の等加速度直線運動として扱えること。
- 等加速度直線運動の公式: 速度、変位、時間の関係を表す公式を、状況に応じて正しく選択し、適用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球Aの運動について、変位の公式に与えられた条件(特に変位が負になること)を代入し、時間に関する二次方程式を解いて地面に達するまでの時間を求めます。
- (2)では、まず小球Bが自由落下で地面に達するまでの時間を計算します。そして、(1)で求めた小球Aの全飛行時間との差を計算することで、Bを落下させ始めるタイミングを求めます。