「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅳ 章 16】基本例題~基本問題398

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基本例題

基本例題52 臨界角と見かけの深さ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 三角関数の相互関係を用いる解法
      • 模範解答が図形の幾何学的関係(直角三角形の辺の比)から直接方程式を立てて解くのに対し、別解では屈折の法則から得られた \(\sin\) の値をもとに、三角関数の相互関係を用いて \(\tan\) を先に求め、それを図形の辺の比と結びつけます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算の効率化: ルートを含む複雑な方程式を解く手間が省け、計算ミスを減らすことができます。
    • 視点の転換: 幾何学的なアプローチと解析的なアプローチ(三角関数の公式)を結びつけることで、数学的な道具を物理に応用する力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光の屈折と全反射」です。水中の物体が浮き上がって見える現象や、水中から空が見える範囲が限られる現象を、物理法則を用いて定量的に理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折の法則: 異なる媒質の境界面で光が折れ曲がるとき、入射角と屈折角の間には一定の関係 \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\) が成り立ちます。
  2. 近軸光線近似: 角度 \(\theta\) が十分に小さいとき、\(\sin \theta \approx \tan \theta \approx \theta\) (ラジアン)という近似が成り立ちます。これにより、幾何学的な計算が可能になります。
  3. 全反射と臨界角: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むとき、入射角がある角度(臨界角)を超えると、光は境界面ですべて反射されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、点光源から出た光が水面で屈折し、観測者の目に届く経路を作図します。屈折の法則と近似式を用いて、実深さ \(h\) と見かけの深さ \(h’\) の関係式を導きます。
  2. (2)では、光が空気中に出なくなる限界の条件、つまり屈折角が \(90^\circ\) になる瞬間(全反射が始まる瞬間)を考えます。このときの入射角(臨界角)を屈折の法則から求め、幾何学的な条件と結びつけて円板の半径を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
点光源Pから出た光は、水面で屈折して広がりながら空気中へ出ていきます。観測者は、この屈折した光を逆延長した点P’に光源があるように錯覚します。このP’の深さ \(h’\) を求めるには、光の経路における角度の関係と、幾何学的な深さの関係を結びつける必要があります。角度が小さいという条件を利用して、三角関数の近似を行います。
この設問における重要なポイント

  • 光は水(屈折率 \(n\))から空気(屈折率 \(1\))へ進む。
  • 水中の入射角を \(\theta_2\)、空気中の屈折角を \(\theta_1\) とする(模範解答の図に準拠)。
  • 観測者は真上近くから見ているため、角度 \(\theta_1, \theta_2\) は非常に小さい。
  • 近似式 \(\sin \theta \approx \tan \theta\) を利用して、角度の比を辺の長さの比に変換する。

具体的な解説と立式
まず、屈折の法則を立てます。水側の屈折率を \(n\)、入射角を \(\theta_2\)、空気側の屈折率を \(1\)、屈折角を \(\theta_1\) とします。
$$
\begin{aligned}
n \sin \theta_2 &= 1 \sin \theta_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、問題文で与えられた近似 \(\sin \theta \approx \tan \theta\) を用いて、式①を書き換えます。
$$
\begin{aligned}
n \tan \theta_2 &\approx 1 \tan \theta_1 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
ここで、図の幾何学的関係に着目します。水面上の光の出口をB、点光源Pの真上の水面点をAとします。線分ABの長さを \(x\) と置くと、直角三角形の辺の比(タンジェントの定義)から以下の関係が成り立ちます。

  • 実深さ \(h\) の三角形ABPにおいて:
    $$
    \begin{aligned}
    \tan \theta_2 &= \frac{\text{AB}}{\text{AP}} \\[2.0ex]
    &= \frac{x}{h}
    \end{aligned}
    $$
  • 見かけの深さ \(h’\) の三角形ABP’において:
    $$
    \begin{aligned}
    \tan \theta_1 &= \frac{\text{AB}}{\text{AP}’} \\[2.0ex]
    &= \frac{x}{h’}
    \end{aligned}
    $$

これらを式②に代入して、\(h’\) を求めます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
  • 近似式: \(\sin \theta \approx \tan \theta\)
計算過程

式②に \(\tan \theta\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
n \cdot \frac{x}{h} &= 1 \cdot \frac{x}{h’} \\[2.0ex]
\frac{n}{h} &= \frac{1}{h’}
\end{aligned}
$$
両辺の逆数をとるか、たすき掛けをして \(h’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
h’ &= \frac{h}{n}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

水の中にある物体を見ると、実際よりも浅い位置にあるように見えます。これは、光が水から空気に出るときに「水面に近い方へ」折れ曲がるためです。私たちの目は、光が直進してきたと判断するので、折れ曲がる前の延長線上に物体があると感じてしまうのです。計算の結果、見かけの深さは実際の深さを屈折率 \(n\) で割った値になることがわかりました。水(\(n \approx 1.33\))の場合、実際の深さの約 \(3/4\) の深さに見えることになります。

結論と吟味

見かけの深さは \(h’ = \frac{h}{n}\) となりました。\(n > 1\) なので \(h’ < h\) となり、実際より浅く見えるという日常感覚とも一致します。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{h}{n}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
点光源から出た光が水面ですべて反射され、空気中に出なくなる現象を「全反射」といいます。円板で光を遮るということは、円板の外側では光が全反射するようにすればよいということです。つまり、円板の縁(ふち)ギリギリを通る光が、ちょうど全反射の限界(屈折角が \(90^\circ\))になる条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 円板の半径を \(r\) とする。
  • 円板の端Bに入射する光の入射角を臨界角 \(\theta_c\) とする。
  • 臨界角 \(\theta_c\) では、屈折角が \(90^\circ\) となる。
  • 屈折の法則と、図形の幾何学的関係(三平方の定理など)を連立させて \(r\) を求める。

具体的な解説と立式
まず、円板の端Bにおける屈折の法則を立てます。入射角を \(\theta_c\)、屈折角を \(90^\circ\) とします。
$$
\begin{aligned}
n \sin \theta_c &= 1 \sin 90^\circ \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
次に、図の直角三角形ABPに着目して、\(\sin \theta_c\) を \(r\) と \(h\) で表します。
三平方の定理より、斜辺PBの長さは \(\sqrt{h^2 + r^2}\) です。
サインの定義(対辺/斜辺)より、
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_c &= \frac{\text{AB}}{\text{PB}} \\[2.0ex]
&= \frac{r}{\sqrt{h^2 + r^2}} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式③と式④を連立して \(r\) を求めます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
  • 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
計算過程

まず、式③から \(\sin \theta_c\) の値を求めます。\(\sin 90^\circ = 1\) なので、
$$
\begin{aligned}
n \sin \theta_c &= 1 \\[2.0ex]
\sin \theta_c &= \frac{1}{n}
\end{aligned}
$$
これを式④と等置します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{n} &= \frac{r}{\sqrt{h^2 + r^2}}
\end{aligned}
$$
両辺を2乗してルートを外します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{n^2} &= \frac{r^2}{h^2 + r^2}
\end{aligned}
$$
分母を払って整理します。
$$
\begin{aligned}
h^2 + r^2 &= n^2 r^2 \\[2.0ex]
h^2 &= n^2 r^2 – r^2 \\[2.0ex]
h^2 &= (n^2 – 1)r^2
\end{aligned}
$$
\(r^2\) について解き、\(r > 0\) より平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
r^2 &= \frac{h^2}{n^2 – 1} \\[2.0ex]
r &= \frac{h}{\sqrt{n^2 – 1}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

水中のライトの真上に円板を置いて光を隠したい場合、円板からはみ出した光がすべて水面で反射されて戻ってくるようにする必要があります。光が水面に対して浅い角度で当たると、外に出られずに反射されます(全反射)。円板の端っこに向かう光が、ちょうどこの「出られなくなるギリギリの角度」になるような大きさの円板を選べばよいのです。

結論と吟味

円板の最小半径は \(r = \frac{h}{\sqrt{n^2 – 1}}\) と求まりました。屈折率 \(n\) が大きいほど分母が大きくなり、必要な半径 \(r\) は小さくなります。これは、屈折率が大きいほど光が曲がりやすく、全反射も起こりやすいため、小さな円板でも光を隠せることを意味しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{h}{\sqrt{n^2 – 1}}\)
別解: 三角関数の相互関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
模範解答では、\(\sin \theta_c\) の式にルートを含む辺の長さを代入して方程式を解きましたが、計算が少々煩雑です。ここでは、まず屈折の法則から \(\sin \theta_c\) の値を求め、そこから三角関数の公式を使って \(\tan \theta_c\) を求めます。最後に図形の \(\tan \theta_c\) の関係式を使うことで、計算をスムーズに進めます。
この設問における重要なポイント

  • 屈折の法則から \(\sin \theta_c = 1/n\) がすぐにわかる。
  • 三角関数の相互関係 \(1 + \tan^2 \theta = \frac{1}{\cos^2 \theta}\) や \(\tan \theta = \frac{\sin \theta}{\cos \theta}\) を利用する。
  • 図形から \(\tan \theta_c = r/h\) であることを利用する。

具体的な解説と立式
まず、屈折の法則より臨界角 \(\theta_c\) のサインを求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta_c &= \frac{1}{n}
\end{aligned}
$$
次に、三角関数の相互関係を用いて \(\tan \theta_c\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan \theta_c &= \frac{\sin \theta_c}{\cos \theta_c} \\[2.0ex]
&= \frac{\sin \theta_c}{\sqrt{1 – \sin^2 \theta_c}}
\end{aligned}
$$
一方、図形の幾何学的関係(直角三角形ABP)から、タンジェントは以下のように表せます。
$$
\begin{aligned}
\tan \theta_c &= \frac{\text{対辺}}{\text{底辺}} \\[2.0ex]
&= \frac{r}{h}
\end{aligned}
$$
これらを結びつけて \(r\) を求めます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
  • 三角関数の相互関係: \(\sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1\), \(\tan \theta = \frac{\sin \theta}{\cos \theta}\)
計算過程

まず、\(\tan \theta_c\) の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan \theta_c &= \frac{1/n}{\sqrt{1 – (1/n)^2}} \\[2.0ex]
&= \frac{1/n}{\sqrt{\frac{n^2 – 1}{n^2}}} \\[2.0ex]
&= \frac{1/n}{\frac{\sqrt{n^2 – 1}}{n}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{n^2 – 1}}
\end{aligned}
$$
これを図形の関係式 \(\tan \theta_c = \frac{r}{h}\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{r}{h} &= \frac{1}{\sqrt{n^2 – 1}} \\[2.0ex]
r &= \frac{h}{\sqrt{n^2 – 1}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「サイン(斜辺分の高さ)」の値がわかっているときに、「タンジェント(底辺分の高さ)」を知りたい、という数学の問題に帰着させます。図形の斜辺の長さを計算式に持ち込むと式が複雑になりがちですが、先に三角関数の値だけを変換してしまうことで、すっきりと計算できます。

結論と吟味

模範解答と全く同じ結果が得られました。計算過程で2乗して整理する手間が省け、見通しよく解くことができました。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{h}{\sqrt{n^2 – 1}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 屈折の法則の正確な運用と近軸近似
    • 核心: 異なる媒質の境界で光が折れ曲がる現象を、\(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\) という数式で正確に記述できるかが問われています。特に(1)では、角度が小さい場合に成り立つ近似 \(\sin \theta \approx \tan \theta\) を用いて、物理的な角度の関係を幾何学的な長さの比(深さの比)に変換するプロセスが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 媒質の対応: どの屈折率がどの角度に対応するかを間違えないこと。常に「(媒質1の屈折率) \(\times\) (媒質1の角度のサイン) \(=\) (媒質2の屈折率) \(\times\) (媒質2の角度のサイン)」の形で立式するとミスが減ります。
      • 近軸光線の意味: 「真上近くから見る」という条件が、数学的には \(\theta \approx 0\) を意味し、これが \(\sin \theta \approx \tan \theta\) という近似の根拠になることを理解しましょう。
  • 全反射と臨界角の物理的意味
    • 核心: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進む際、入射角がある値(臨界角)を超えると、光が境界面を透過できずにすべて反射される現象(全反射)を理解することです。
    • 理解のポイント:
      • 臨界角の定義: 屈折角がちょうど \(90^\circ\) になるときの入射角が臨界角 \(\theta_c\) です。このとき、屈折光は境界面に沿って進むことになります。
      • 条件式: 全反射が起こる条件は、\(\sin \theta > \frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) です。この問題では \(n_{\text{小}}=1\), \(n_{\text{大}}=n\) なので、\(\sin \theta > 1/n\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水中から見た空の範囲(スネルの窓): 水中の観測者が水面を見上げると、円形の窓を通して空が見える現象。本問の(2)と逆の視点ですが、物理的な構造は全く同じです。臨界角 \(\theta_c\) で円の半径が決まります。
    • 光ファイバーの原理: 芯(コア)の屈折率を鞘(クラッド)より大きくし、境界面での全反射を利用して光を遠くまで伝える技術。これも「屈折率大 \(\rightarrow\) 小」への入射と全反射条件が鍵です。
    • 平行平板ガラスによる光のずれ: ガラスに入射した光が、反対側から出るときに平行にずれる問題。2回の屈折の法則適用が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずは光路図を大きく正確に描く: 境界面に対して法線(垂直な線)を引き、入射角と屈折角を明確に図示します。光がどちらに曲がるか(法線に近づくか遠ざかるか)は、屈折率の大小関係で決まります。
    2. 幾何学的条件を見抜く: 物理の問題であると同時に、図形の問題でもあります。直角三角形を見つけ出し、三平方の定理や三角比(\(\sin, \cos, \tan\))を使って、角度と辺の長さの関係式を作ります。
    3. 「限界」や「ギリギリ」という言葉に反応する: 「光がもれないように」「ちょうど見えなくなる」といった表現は、屈折角が \(90^\circ\) になる臨界角の状態を示唆しています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 屈折の法則における屈折率の取り違え:
    • 誤解: 公式を \(\frac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2} = n\) と丸暗記していると、\(n\) が \(n_{12}\) なのか \(n_{21}\) なのか、あるいは絶対屈折率の比なのか混乱しやすいです。
    • 対策: 分数形ではなく、常に \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\) の積の形で覚えることを強く推奨します。「自分のいる場所の屈折率とサインの積は一定」と覚えれば、間違いようがありません。
  • 近似式の適用条件の見落とし:
    • 誤解: どんな角度でも \(\sin \theta = \tan \theta\) が成り立つと勘違いしたり、逆にいつ近似を使っていいかわからなくなること。
    • 対策: 問題文に「\(\theta\) が十分に小さいとき」や「真上から見る」という記述がある場合のみ使用可能です。この近似は、角度が小さいほど精度が高くなります。
  • 全反射の条件の不等号ミス:
    • 誤解: 全反射する条件を \(\sin \theta < 1/n\) としてしまう。
    • 対策: 臨界角 \(\theta_c\) は「屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角」です。全反射するには、それよりも「深く」入射する必要があるため、入射角 \(\theta\) は \(\theta_c\) より大きくなければなりません(\(\theta > \theta_c\))。サインは単調増加関数(\(0^\circ < \theta < 90^\circ\))なので、\(\sin \theta > \sin \theta_c\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(屈折の法則と近軸近似):
    • 選定理由: 光が媒質を移動する際の経路の変化を扱うため、屈折の法則は必須です。さらに、求めたいのが「深さ(長さ)」であり、与えられているのが「角度」の情報であるため、これらを結びつけるために三角比の定義と近似式が必要です。
    • 適用根拠: 観測者が「真上近く」にいるという設定が、入射角・屈折角が微小であることを保証しており、\(\sin \theta \approx \tan \theta\) の近似を正当化します。これにより、複雑な逆三角関数を使わずに、単純な比の計算で解くことができます。
  • (2)での公式選択(全反射の条件):
    • 選定理由: 「空気中へ光がもれない」という条件は、物理的には「水面での屈折光が存在しない」ことを意味します。これは全反射の現象そのものです。
    • 適用根拠: 光が屈折率の大きい水(\(n > 1\))から小さい空気(\(n=1\))へ進むため、全反射が起こり得ます。その境界となるのが屈折角 \(90^\circ\) の瞬間であり、このときの入射角(臨界角)を求めるために屈折の法則を用います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角関数の変換を慎重に:
    • 別解で示したように、\(\sin\) から \(\tan\) を求める際は、直角三角形を描いて考えるか、相互関係 \(\tan \theta = \frac{\sin \theta}{\sqrt{1-\sin^2 \theta}}\) を丁寧に計算しましょう。暗算で済ませようとすると、ルートの中身や分母分子を取り違えるミスが起きやすいです。
  • 次元解析(単位チェック)による検算:
    • 最終的な答えの次元を確認します。(1)の答え \(h/n\) は、\(h\)(長さ)を \(n\)(無次元)で割っているので、単位は「長さ」になり正しいです。(2)の答え \(r = \frac{h}{\sqrt{n^2-1}}\) も、分母の \(\sqrt{n^2-1}\) は無次元なので、全体として「長さ」の次元を持ちます。もし \(r = h \sqrt{n^2-1}\) のような式になっていたら、次元は合っていますが、\(n=1\)(水がない)のときに \(r=0\) となり、光が遮蔽されるという意味で直感的に正しいかチェックできます(実際は \(n \to 1\) で \(r \to \infty\) となるべきなので、このチェックでミスに気づけます)。
  • 極限的な状況を想定する:
    • \(n=1\) のときどうなるか? (1)では \(h’ = h\) となり、水がなければ深さは変わらないので正しいです。(2)では分母が \(0\) になり \(r \to \infty\) となります。屈折率差がないと全反射は起きないので、無限に大きな円板が必要という意味で正しいです。
    • \(n\) が非常に大きいときどうなるか? (1)では \(h’ \to 0\) となり、極端に浅く見えます。(2)では \(r \to 0\) となり、少しの傾きで全反射するので小さな円板で済むことになり、これも物理的直感と合致します。

基本例題53 凸レンズ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解1: 三角形の相似(幾何学的関係)を用いる解法
      • 模範解答がレンズの公式という代数的なツールを用いるのに対し、別解1では光線の経路を作図し、そこに現れる直角三角形の相似比を利用して計算します。
    • 別解2: ニュートンの公式を用いる解法
      • 模範解答がレンズの中心を原点とする座標系(ガウスの結像公式)を用いるのに対し、別解2ではレンズの焦点を基準点とする座標系(ニュートンの公式 \(xx’ = f^2\))を用いて計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的直感の強化: 幾何学的解法は、光がどのように進んで像を結ぶかという物理現象そのものを可視化するため、公式のブラックボックス化を防ぎます。
    • 計算の迅速化: ニュートンの公式は、分数の足し算を含まないため、計算ミスを減らし、素早く解を導ける場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凸レンズによる結像」です。レンズの公式を用いて、物体の位置から像の位置や種類、大きさを導き出す手順をマスターすることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの公式(写像公式): レンズの中心からの物体までの距離 \(a\)、像までの距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) の間には、\(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) という関係が成り立ちます。
  2. 倍率の公式: 像の倍率 \(m\)(物体の大きさに対する像の大きさの比)は、距離の比を用いて \(m = \left| \frac{b}{a} \right|\) で表されます。
  3. 実像と虚像の判定: 計算の結果、\(b > 0\) ならばレンズの後方にできる実像、\(b < 0\) ならばレンズの前方にできる虚像となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、物体までの距離 \(a\)、焦点距離 \(f\)、物体の大きさなどの情報を整理します。
  2. レンズの公式に数値を代入し、像までの距離 \(b\) を計算します。
  3. 得られた \(b\) の符号から実像か虚像かを判定し、位置を特定します。
  4. 倍率の公式を用いて像の大きさを計算します。

像の位置・種類・大きさ

思考の道筋とポイント
まず、与えられた条件をレンズの公式の記号に対応させます。凸レンズの前方に物体があるので \(a > 0\)、凸レンズなので焦点距離は \(f > 0\) として扱います。これらを公式に代入して未知数 \(b\) を求めます。\(b\) の値が正ならレンズの反対側(後方)に実像ができ、負なら物体と同じ側(前方)に虚像ができると判断します。最後に倍率を計算して像の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 凸レンズの焦点距離 \(f\) は正の値(\(+12\,\text{cm}\))として扱う。
  • 物体はレンズの前方にあるので \(a\) は正の値(\(+30\,\text{cm}\))。
  • 像の位置 \(b\) は計算結果の符号で判断する(正なら実像、負なら虚像)。
  • 倍率 \(m\) は距離の比の絶対値で計算する。

具体的な解説と立式
レンズの公式を用います。物体までの距離を \(a = 30\,\text{cm}\)、像までの距離を \(b\)(未知数)、焦点距離を \(f = 12\,\text{cm}\) とします。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{30} + \frac{1}{b} &= \frac{1}{12} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、像の倍率 \(m\) を求める式を立てます。
$$
\begin{aligned}
m &= \left| \frac{b}{30} \right| \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
像の大きさ \(H’\) は、物体の大きさ \(H = 3.0\,\text{cm}\) に倍率 \(m\) を掛けることで求められます。
$$
\begin{aligned}
H’ &= 3.0 \times m \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
  • 倍率の公式: \(m = \left| \frac{b}{a} \right|\)
計算過程

まず、式①から \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b} &= \frac{1}{12} – \frac{1}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{60} – \frac{2}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{20}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
b &= 20\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
\(b > 0\) なので、像はレンズの後方 \(20\,\text{cm}\) の位置にできる実像です。

次に、求めた \(b\) を式②に代入して倍率 \(m\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m &= \left| \frac{20}{30} \right| \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
最後に、式③を用いて像の大きさ \(H’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H’ &= 3.0 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

焦点距離 \(12\,\text{cm}\) のレンズに対して、それよりも遠い \(30\,\text{cm}\) の場所に物体を置きました。この場合、光はレンズを通った後に一点に集まり、スクリーンを置けばそこに像が映ります。これを「実像」と呼びます。計算してみると、レンズの反対側 \(20\,\text{cm}\) の場所に光が集まることがわかりました。また、距離の比を見ると \(20/30\) なので、像の大きさは元の物体の \(2/3\) に縮小されます。

結論と吟味

像の位置: レンズの後方 \(20\,\text{cm}\)
像の種類: 実像
像の大きさ: \(2.0\,\text{cm}\)

\(b\) が正の値になったので実像という判断は妥当です。また、物体が焦点距離の2倍(\(2f = 24\,\text{cm}\))より外側(\(30\,\text{cm}\))にあるため、像は焦点距離の2倍より内側(\(f < b < 2f\))にでき、かつ縮小されるという一般的な性質とも一致しています(\(12 < 20 < 24\) なので正しい)。

解答 像の位置: レンズの後方 \(20\,\text{cm}\), 像の種類: 実像, 像の大きさ: \(2.0\,\text{cm}\)
別解1: 三角形の相似(幾何学的関係)を用いる解法

思考の道筋とポイント
公式を忘れてしまった場合でも、光線の進み方を作図することで解くことができます。
1. 物体の先端からレンズの中心を通る光線は直進します。
2. 物体の先端から光軸に平行に進む光線は、レンズを通った後に後方の焦点を通ります。
これら2本の光線が交わる点が像の先端となります。ここにできる直角三角形の相似比を利用します。
この設問における重要なポイント

  • レンズの中心を通る光線がつくる三角形の相似比は、距離の比 \(a : b\) に等しい。
  • 焦点を通る光線がつくる三角形の相似比は、焦点距離と「像から焦点までの距離」の比 \(f : (b – f)\) に等しい。

具体的な解説と立式
物体の大きさを \(H\)、像の大きさを \(H’\) とします。
レンズの中心を通る光線に着目すると、物体側の三角形と像側の三角形は相似であり、その比は距離の比に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
H : H’ &= 30 : b \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
次に、光軸に平行に進み焦点を通る光線に着目します。レンズの位置での高さは \(H\) であり、そこから焦点(距離 \(12\))を通って像(高さ \(H’\))に至ります。このときできる2つの三角形も相似になります。像までの距離は \(b\) なので、焦点から像までの距離は \(b – 12\) です。
$$
\begin{aligned}
H : H’ &= 12 : (b – 12) \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
式④と式⑤から比の式を立てて \(b\) を求めます。

使用した物理公式

  • 三角形の相似比
計算過程

式④と式⑤より、右辺同士が等しいので、
$$
\begin{aligned}
30 : b &= 12 : (b – 12)
\end{aligned}
$$
内項の積と外項の積は等しいので、
$$
\begin{aligned}
12b &= 30(b – 12) \\[2.0ex]
12b &= 30b – 360 \\[2.0ex]
18b &= 360 \\[2.0ex]
b &= 20\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
像の大きさ \(H’\) は、式④より
$$
\begin{aligned}
3.0 : H’ &= 30 : 20 \\[2.0ex]
30H’ &= 60 \\[2.0ex]
H’ &= 2.0\,\text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

図を描いて、相似な三角形を見つける方法です。「レンズの中心を通る線」と「焦点を通る線」の2本を引くと、砂時計のような形や、リボンのような形の相似な三角形が見つかります。それぞれの三角形の「底辺の長さ」と「高さ」の比率が同じになることを利用して、パズルのように解くことができます。

結論と吟味

模範解答と同じく、\(b=20\,\text{cm}\)、大きさ \(2.0\,\text{cm}\) が得られました。

解答 像の位置: レンズの後方 \(20\,\text{cm}\), 像の種類: 実像, 像の大きさ: \(2.0\,\text{cm}\)
別解2: ニュートンの公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
レンズの公式はレンズの中心を原点としますが、焦点を原点(基準)と考える方法もあります。これをニュートンの公式といいます。
物体が「前方の焦点」からどれだけ離れているか(\(x\))、像が「後方の焦点」からどれだけ離れているか(\(x’\))を考えると、その積は常に焦点距離の2乗(\(f^2\))になります。
この設問における重要なポイント

  • 前方焦点の位置はレンズ前方 \(12\,\text{cm}\)。物体は \(30\,\text{cm}\) の位置にあるので、焦点からの距離 \(x\) を求める。
  • 後方焦点の位置はレンズ後方 \(12\,\text{cm}\)。求めた \(x’\) をこれに足して、レンズからの距離 \(b\) を求める。
  • 公式 \(xx’ = f^2\) を用いる。

具体的な解説と立式
まず、物体と前方焦点との距離 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x &= 30 – 12 \\[2.0ex]
&= 18\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
次に、ニュートンの公式を用いて、像と後方焦点との距離 \(x’\) を求める式を立てます。
$$
\begin{aligned}
18 \times x’ &= 12^2 \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
最後に、レンズの中心からの像の距離 \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
b &= 12 + x’ \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ニュートンの公式: \(xx’ = f^2\)
計算過程

式⑥より \(x’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
18x’ &= 144 \\[2.0ex]
x’ &= \frac{144}{18} \\[2.0ex]
&= 8\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
これを式⑦に代入して \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
b &= 12 + 8 \\[2.0ex]
&= 20\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
倍率 \(m\) は、ニュートンの公式を用いる場合、\(m = \frac{f}{x}\) または \(m = \frac{x’}{f}\) で求められます。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{12}{18} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
像の大きさは \(3.0 \times \frac{2}{3} = 2.0\,\text{cm}\) となります。

この設問の平易な説明

レンズの中心から測るのではなく、「焦点からあと何センチ離れているか」に注目する方法です。「物体側のズレ」と「像側のズレ」を掛け算すると、必ず「焦点距離の2乗」になるという面白い性質があります。これを使うと、分数の計算をせずに掛け算と割り算だけで答えが出せます。

結論と吟味

模範解答と同じ結果が得られました。計算量が少なく、検算としても非常に有効です。

解答 像の位置: レンズの後方 \(20\,\text{cm}\), 像の種類: 実像, 像の大きさ: \(2.0\,\text{cm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • レンズの公式(写像公式)の適用
    • 核心: レンズによる結像現象は、物体距離 \(a\)、像距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) の間に成り立つ \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) という単純な代数方程式に集約されます。この式は、光線の幾何学的な経路(相似な三角形の関係)から導かれる普遍的な法則です。
    • 理解のポイント:
      • 符号の規則: この公式を使いこなす鍵は「符号」です。凸レンズなら \(f > 0\)、凹レンズなら \(f < 0\)。実像(レンズの後方)なら \(b > 0\)、虚像(レンズの前方)なら \(b < 0\) となります。このルールを厳守することで、あらゆるケースに対応できます。
      • 物理的意味: \(\frac{1}{a}\) は物体から出る光の広がり具合(曲率)、\(\frac{1}{f}\) はレンズが光を曲げる能力(屈折力)、\(\frac{1}{b}\) は像へ集まる光の収束具合を表しています。「広がる光をレンズが曲げて収束させる」という物理現象が、この足し算の式で表現されています。
  • 倍率の定義と計算
    • 核心: 像の大きさは、物体距離と像距離の比率だけで決まります。倍率 \(m = \left| \frac{b}{a} \right|\) は、幾何学的な相似比そのものです。
    • 理解のポイント:
      • 距離と大きさの比例関係: 像が遠くにできるほど(\(b\) が大きいほど)、像は大きくなります。逆に、像が近くにできるほど小さくなります。これは、プロジェクターをスクリーンから離すと画面が大きくなるのと同じ原理です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 凹レンズの問題: 焦点距離 \(f\) を負の値(例: \(f = -12\))として公式に代入するだけで、全く同じ手順で解けます。凹レンズでは常に \(b < 0\) となり、正立虚像ができることが計算から確認できます。
    • 組み合わせレンズ: 2枚のレンズがある場合、1枚目のレンズで作った像を「2枚目のレンズにとっての物体」とみなして、レンズの公式を2回繰り返して適用します。このとき、1枚目の像が2枚目のレンズの後方にできる場合、物体距離 \(a\) を負として扱う「虚物体」の考え方が必要になることがあります。
    • 球面鏡(凹面鏡・凸面鏡): 鏡の公式も \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) で、レンズと全く同じ形をしています。ただし、光が反射して戻ってくるため、実像と虚像のできる位置(前方・後方)の定義がレンズとは逆になる点に注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズの種類と焦点距離の符号を確認する: 凸レンズなら \(f > 0\)、凹レンズなら \(f < 0\) を最初に確定させます。
    2. 物体の位置と焦点の位置関係を把握する: 物体が焦点より外側(\(a > f\))なら実像、内側(\(a < f\))なら虚像ができると予測を立ててから計算に入ると、符号ミスに気づきやすくなります。
    3. 単位を統一する: 全て \(\text{cm}\) で計算するか、\(\text{m}\) に直すか統一します。通常は \(\text{cm}\) のままで問題ありませんが、ジオプトリー(\(D = 1/f[\text{m}]\)) が絡む場合は \(\text{m}\) への換算が必須です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 符号の取り違え:
    • 誤解: 虚像の場合の \(b\) を正の値として計算してしまったり、凹レンズの \(f\) を正としてしまうミスが頻発します。
    • 対策: 「レンズの前方(光が入ってくる側)にあるものは \(a>0\)、\(b<0\)(虚像)」「レンズの後方(光が出ていく側)にあるものは \(b>0\)(実像)」という基本ルールを、図を描いて確認しながら適用しましょう。また、計算結果の \(b\) が負になったら「あ、虚像だ」と即座に翻訳できるようにしましょう。
  • 逆数の計算ミス:
    • 誤解: \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を通分せずに計算したり、最後に逆数を取るのを忘れて \(1/b\) の値をそのまま答えにしてしまう(例: \(1/b = 1/20\) なのに答えを \(1/20\,\text{cm}\) と書いてしまう)。
    • 対策: 通分は慎重に行い、必ず「\(1/b = \dots\)」の形まで変形してから、最後に「よって \(b = \dots\)」と逆数を取る手順をルーチン化しましょう。
  • 像の種類の判定ミス:
    • 誤解: 「倒立=実像」「正立=虚像」という対応関係を忘れてしまう。
    • 対策: 実像は実際に光が集まるのでスクリーンに映りますが、上下左右が逆(倒立)になります。虚像は光が集まらないのでスクリーンには映らず、レンズ越しに覗いたときだけ見え、向きはそのまま(正立)です。このセット(実像・倒立、虚像・正立)を呪文のように覚えておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • レンズの公式の選択:
    • 選定理由: 物体の位置と焦点距離から、像の位置を定量的に求めるための唯一にして最強のツールだからです。作図(別解1)でも解けますが、数値計算には公式の方が圧倒的に速く正確です。
    • 適用根拠: 問題文で「焦点距離」「物体の位置」という幾何学的なパラメータが与えられているため、これらを結びつけるレンズの公式が直接適用可能です。
  • ニュートンの公式(別解2)の選択:
    • 選定理由: 特に「焦点からの距離」が計算しやすい場合(整数になる場合など)や、倍率計算を素早く行いたい場合に有効です。
    • 適用根拠: 物体距離 \(a\) と焦点距離 \(f\) の差が暗算で求まる場合、\(xx’ = f^2\) は分数の足し算を回避できるため、計算ミスのリスクを減らせる賢い選択肢となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 通分の際の最小公倍数:
    • \(\frac{1}{30}\) と \(\frac{1}{12}\) の通分では、分母を単に掛け合わせた \(360\) ではなく、最小公倍数 \(60\) を使うと計算が楽になります。\(12 = 2^2 \times 3\), \(30 = 2 \times 3 \times 5\) なので、最小公倍数は \(2^2 \times 3 \times 5 = 60\) です。
  • 概算による検算:
    • \(a = 30\), \(f = 12\) のとき、\(a\) は \(2f = 24\) より大きいです。凸レンズの性質として、物体が \(2f\) より遠くにあるとき、像は \(f\) と \(2f\) の間(\(12 < b < 24\))にでき、縮小されるはずです。計算結果 \(b=20\) はこの範囲に収まっており、倍率 \(2/3\) も縮小を表しているので、計算が正しいと確信できます。
  • 単位の確認:
    • 全ての長さの単位が \(\text{cm}\) で統一されているか確認します。もし \(\text{mm}\) や \(\text{m}\) が混在していたら、計算前に必ず統一します。答えの単位も忘れずに付けましょう。

基本例題54 ヤングの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 三平方の定理と近似式を用いる解法
      • 模範解答が図形の幾何学的関係(角度 \(\theta\) を用いた近似)から経路差を導くのに対し、別解では三平方の定理を用いて経路の長さを厳密に立式し、その後で近似式 \((1+x)^n \approx 1+nx\) を適用して経路差を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 数学的厳密性の理解: 図形的な直感に頼らず、数式変形のみで近似を行うため、近似の精度や適用条件(\(x \ll L, d \ll L\))の意味がより深く理解できます。
    • 汎用性の向上: 角度が定義しにくい複雑な配置の問題でも、距離の式さえ立てられれば適用できる強力な手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光の干渉(ヤングの実験)」です。2つのスリットから出た光が重なり合い、強め合ったり弱め合ったりして干渉縞を作る現象を、数式を用いて解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の干渉条件: 2つの波源からの経路差が波長の整数倍なら強め合い(明線)、半波長の奇数倍なら弱め合う(暗線)こと。
  2. 経路差の近似: スリット間隔 \(d\) やスクリーン上の位置 \(x\) が、スクリーンまでの距離 \(L\) に比べて十分に小さいとき、経路差を \(d \sin \theta \approx d \tan \theta \approx \frac{dx}{L}\) と近似できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、光の干渉条件(強め合い・弱め合い)を経路差と波長の関係式として記述します。
  2. (2)では、図形の幾何学的関係から経路差を \(d, L, x\) を用いて表します。ここでは近似計算が鍵となります。
  3. (3)では、(1)と(2)の結果を組み合わせて明線の位置 \(x_m\) を求め、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光の干渉において、明線ができる条件と暗線ができる条件を数式で表します。2つのスリット \(S_1, S_2\) から点Pまでの距離の差(経路差)が、波長のどのような倍数になっているかが決定要因です。\(S_1, S_2\) は同位相の波源であることに注意します。
この設問における重要なポイント

  • \(S_1\) と \(S_2\) から出る光は同位相である。
  • 強め合う条件(明線): 経路差が波長 \(\lambda\) の整数倍。
  • 弱め合う条件(暗線): 経路差が波長 \(\lambda\) の半整数倍(半波長の奇数倍)。
  • \(m\) は \(0\) 以上の整数(\(0, 1, 2, \dots\))として与えられている。

具体的な解説と立式
経路差を \(|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}|\) とします。
明線ができる条件は、経路差が波長 \(\lambda\) の整数倍になることです。
$$
\begin{aligned}
|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| &= m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)
\end{aligned}
$$
暗線ができる条件は、経路差が波長 \(\lambda\) の \(m + 0.5\) 倍になることです。
$$
\begin{aligned}
|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 干渉条件(同位相):
    • 強め合い: 経路差 \(= m\lambda\)
    • 弱め合い: 経路差 \(= (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

立式そのものが答えとなります。特に計算過程はありません。

この設問の平易な説明

2つの波が重なるとき、山と山(あるいは谷と谷)が重なれば波は大きくなります(明線)。これは、片方の波がもう片方よりちょうど「波1個分、2個分…」遅れて到着した場合に起こります。逆に、山と谷が重なれば波は打ち消し合います(暗線)。これは、遅れが「波0.5個分、1.5個分…」といった中途半端な場合に起こります。

結論と吟味

明線の条件: \(m\lambda\)、暗線の条件: \((m + \frac{1}{2})\lambda\)。これは波動一般に成り立つ基本的な干渉条件と一致しています。

解答 (1) 明線: \(|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| = m\lambda\), 暗線: \(|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda\)

問(2)

思考の道筋とポイント
経路差 \(|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}|\) を、実験装置のパラメータ \(d, L, x\) で表します。そのままでは計算が難しいため、\(L \gg d, L \gg x\) という条件を利用して近似を行います。図形的に考えると、\(S_1\text{P}\) と \(S_2\text{P}\) はほぼ平行とみなせるため、\(S_2\) から \(S_1\text{P}\) に下ろした垂線の足までの距離が経路差に相当します。
この設問における重要なポイント

  • \(S_1\text{P}\) と \(S_2\text{P}\) を平行光線とみなす近似を行う。
  • 図中の直角三角形に着目し、角度 \(\theta\) を定義する。
  • \(\sin \theta \approx \tan \theta\) の近似を用いる。

具体的な解説と立式
図のように、\(S_2\) から \(S_1\text{P}\) に垂線を下ろし、その足をHとします。\(L \gg d\) なので、\(S_1\text{P}\) と \(S_2\text{P}\) はほぼ平行とみなせます。このとき、経路差は線分 \(S_1\text{H}\) の長さに等しくなります。
スリットの中心と点Pを結ぶ線が中心軸となす角を \(\theta\) とすると、幾何学的な関係から \(\angle S_1 S_2 \text{H} \approx \theta\) となります。
よって、経路差は以下のように表せます。
$$
\begin{aligned}
|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| &\approx d \sin \theta \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
また、\(\theta\) は非常に小さいので、以下の近似が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta &\approx \tan \theta \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
図の大きな直角三角形(底辺 \(L\)、高さ \(x\))に着目すると、\(\tan \theta\) は次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
\tan \theta &= \frac{x}{L} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
これらを組み合わせて式を立てます。

使用した物理公式

  • 近似式: \(\sin \theta \approx \tan \theta\) (\(\theta \ll 1\) のとき)
計算過程

式①、②、③より、
$$
\begin{aligned}
|\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}}| &\approx d \tan \theta \\[2.0ex]
&= d \cdot \frac{x}{L} \\[2.0ex]
&= \frac{dx}{L}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スクリーンまでの距離 \(L\) がとても遠いので、点Pに向かう2本の光の線は、ほとんど平行な線に見えます。このとき、2本の線の長さの違い(経路差)は、スリットの間隔 \(d\) と角度 \(\theta\) を使って \(d \sin \theta\) と書けます。さらに角度が小さいときは、サインとタンジェントの値がほぼ同じになるので、\(d \tan \theta\) と書き換えられます。タンジェントは「底辺分の高さ」つまり \(x/L\) なので、結局、経路差は \(\frac{dx}{L}\) という簡単な式になります。

結論と吟味

経路差は \(\frac{dx}{L}\) と求まりました。\(x=0\)(中心)で経路差が0になることや、\(x\) が大きくなるほど経路差が大きくなることなど、物理的な直感と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{dx}{L}\)
別解: 三平方の定理と近似式を用いる解法

思考の道筋とポイント
図形的な近似を使わず、三平方の定理で厳密に距離を記述してから、代数的な近似式 \((1+a)^n \approx 1+na\) (\(|a| \ll 1\))を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • \(S_1\) の座標を \((0, -d/2)\)、\(S_2\) の座標を \((0, d/2)\)、Pの座標を \((L, x)\) のように設定して距離を計算する。
  • 近似式 \(\sqrt{1+a} \approx 1 + \frac{1}{2}a\) を利用する。

具体的な解説と立式
三平方の定理より、\(S_1\text{P}\) と \(S_2\text{P}\) の長さはそれぞれ以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\overline{S_1\text{P}} &= \sqrt{L^2 + \left(x + \frac{d}{2}\right)^2} \\[2.0ex]
\overline{S_2\text{P}} &= \sqrt{L^2 + \left(x – \frac{d}{2}\right)^2}
\end{aligned}
$$
これらを \(L\) でくくり出し、近似できる形に変形します。
$$
\begin{aligned}
\overline{S_1\text{P}} &= L \sqrt{1 + \left(\frac{x + d/2}{L}\right)^2} \\[2.0ex]
\overline{S_2\text{P}} &= L \sqrt{1 + \left(\frac{x – d/2}{L}\right)^2}
\end{aligned}
$$
ここで、近似式 \((1+a)^{1/2} \approx 1 + \frac{1}{2}a\) を用いて経路差を計算します。

使用した物理公式

  • 三平方の定理
  • 近似式: \((1+a)^n \approx 1+na\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\overline{S_1\text{P}} &\approx L \left\{ 1 + \frac{1}{2} \left(\frac{x + d/2}{L}\right)^2 \right\} \\[2.0ex]
&= L + \frac{(x + d/2)^2}{2L}
\end{aligned}
$$
同様に、
$$
\begin{aligned}
\overline{S_2\text{P}} &\approx L + \frac{(x – d/2)^2}{2L}
\end{aligned}
$$
よって、経路差は
$$
\begin{aligned}
\overline{S_1\text{P}} – \overline{S_2\text{P}} &\approx \left( L + \frac{(x + d/2)^2}{2L} \right) – \left( L + \frac{(x – d/2)^2}{2L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2L} \left\{ \left(x + \frac{d}{2}\right)^2 – \left(x – \frac{d}{2}\right)^2 \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2L} \left\{ (x^2 + dx + \frac{d^2}{4}) – (x^2 – dx + \frac{d^2}{4}) \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2L} \cdot 2dx \\[2.0ex]
&= \frac{dx}{L}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

直角三角形の斜辺の長さを求める公式(三平方の定理)を使って、それぞれの光の道のりを計算式で書きます。そのままだとルートが入って計算しにくいので、「\(L\) がとても大きい」という条件を使って、ルートを外す近似計算(展開)を行います。すると、きれいさっぱりルートが消えて、簡単な式が出てきます。

結論と吟味

模範解答と同じ結果 \(\frac{dx}{L}\) が得られました。この方法は計算量は増えますが、図形的なセンスに頼らず機械的に解ける利点があります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{dx}{L}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた明線の条件式と、(2)で求めた経路差の式を連立させて、\(m\) 番目の明線の位置 \(x_m\) を求めます。その後、隣り合う明線(\(m\) 番目と \(m+1\) 番目)の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 明線の条件: 経路差 \(= m\lambda\)
  • 経路差の式: \(\frac{dx}{L}\)
  • 明線の間隔 \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)

具体的な解説と立式
\(m\) 番目の明線の位置を \(x_m\) とします。(1)と(2)の結果より、以下の等式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d x_m}{L} &= m\lambda \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
この式から \(x_m\) を求め、さらに \(x_{m+1}\) を求めて、その差 \(\Delta x\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 明線の条件式(合成): \(\frac{dx}{L} = m\lambda\)
計算過程

式④より、\(x_m\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
x_m &= \frac{mL\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
同様に、\(m+1\) 番目の明線の位置 \(x_{m+1}\) は、
$$
\begin{aligned}
x_{m+1} &= \frac{(m+1)L\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
式⑤に代入して間隔 \(\Delta x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{(m+1)L\lambda}{d} – \frac{mL\lambda}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{L\lambda}{d} ( (m+1) – m ) \\[2.0ex]
&= \frac{L\lambda}{d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

先ほど求めた「経路差」の式が、「波長の整数倍」になるときに明線ができます。この方程式を解くと、明線ができる場所 \(x\) がわかります。\(m=0\) のとき、\(m=1\) のとき、\(m=2\) のとき…と順番に場所を計算していくと、明線は等間隔に並んでいることがわかります。その間隔は、スクリーンまでの距離 \(L\) や波長 \(\lambda\) が大きいほど広がり、スリット間隔 \(d\) が広いほど狭くなることが式から読み取れます。

結論と吟味

明線間隔は \(\Delta x = \frac{L\lambda}{d}\) となりました。この式はヤングの実験における最も基本的かつ重要な公式です。\(m\) に依存しない定数であることから、干渉縞が等間隔になることが示されています。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{L\lambda}{d}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 波の干渉条件と位相差
    • 核心: 2つの波源から出た波が空間の一点で重なり合うとき、その強弱は「波の山と山が重なるか、山と谷が重なるか」で決まります。これを決定づけるのが、2つの波がその点に到達するまでの「道のりの差(経路差)」です。
    • 理解のポイント:
      • 同位相の波源: \(S_1\) と \(S_2\) から出る波のタイミングが揃っている(同位相)場合、経路差が波長 \(\lambda\) の整数倍(\(0, \lambda, 2\lambda \dots\))なら強め合い、半波長の奇数倍(\(\lambda/2, 3\lambda/2 \dots\))なら弱め合います。
      • 逆位相の波源: もし波源が逆位相(片方が山のときもう片方が谷)なら、条件が逆転します。問題文で「同位相」か「逆位相」かを確認する癖をつけましょう。
  • 経路差の幾何学的近似
    • 核心: ヤングの実験のような光学配置では、波長 \(\lambda\) やスリット間隔 \(d\) がスクリーンまでの距離 \(L\) に比べて極めて小さいため、厳密な計算ではなく近似計算が必須となります。
    • 理解のポイント:
      • 近似の正当性: \(L \gg d\) という条件が、\(S_1\text{P}\) と \(S_2\text{P}\) を平行とみなす根拠となり、\(L \gg x\) という条件が \(\sin \theta \approx \tan \theta\) という近似を正当化します。この2段階の近似を経て、複雑な平方根の式が \(\frac{dx}{L}\) という単純な一次式に帰着することを理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 回折格子: スリットが多数並んだ場合です。隣り合うスリット間の経路差はヤングの実験と同じ \(d \sin \theta\) ですが、明線が非常に鋭くなる点が異なります。
    • 単スリット回折: スリット幅 \(a\) 自体による干渉を考える場合、経路差の考え方をスリット内の無数の点波源に拡張します。暗線の条件が \(a \sin \theta = m\lambda\) (\(m \neq 0\))となり、ヤングの実験の明線条件と形が似ているため混同しないよう注意が必要です。
    • ロイド鏡・フレネルの複プリズム: 1つの光源から、鏡やプリズムを使って「虚光源」を作り出し、実質的に2つの波源からの干渉を作り出す実験です。幾何学的な配置が変わるだけで、干渉の原理は全く同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 経路差の発生源を見抜く: どこで道のりの差が生まれているかを図から読み取ります。ヤングの実験ならスリット後の直角三角形、薄膜干渉なら膜の往復部分など。
    2. 位相のずれ(反射)を確認する: 光が反射する場合、屈折率が小さい媒質から大きい媒質への反射(固定端反射相当)では位相が \(\pi\) (半波長分)ずれます。これにより、干渉条件(明暗)が逆転する可能性があります。
    3. 幾何学的近似の適用可否: \(L \gg d\) などの条件があれば、迷わず近似を使います。逆に、この条件がない場合(スリット間隔が広い場合など)は、三平方の定理をそのまま使うか、双曲線としての解析が必要になる場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(m\) の数え間違い:
    • 誤解: 明線の次数 \(m\) を \(1\) から始めてしまい、中央の明線(\(m=0\))を忘れる、あるいは暗線の \(m=0\) の位置(最初の暗線)を間違える。
    • 対策: 中央(経路差0)が \(m=0\) の明線であることを基準にします。暗線は、中央明線のすぐ隣が \(m=0\) (経路差 \(\lambda/2\))です。数直線を描いて \(0, \lambda/2, \lambda, 3\lambda/2 \dots\) とプロットすると間違いません。
  • 近似式の混同:
    • 誤解: \(\Delta x = \frac{L\lambda}{d}\) という公式だけを丸暗記し、条件が変わった問題(例えばスリットとスクリーンの間に屈折率 \(n\) の媒質が入った場合など)で対応できなくなる。
    • 対策: 公式の暗記ではなく、「経路差 \(= m\lambda\)」という原理から導出するプロセスをマスターしましょう。媒質中では波長が \(\lambda/n\) に縮むため、条件式は \(\frac{dx}{L} = m \frac{\lambda}{n}\) となり、間隔も \(1/n\) 倍になります。
  • 経路差 \(\Delta L\) と明線間隔 \(\Delta x\) の混同:
    • 誤解: 経路差 \(\frac{dx}{L}\) を求めているのに、それを明線間隔だと思い込んでしまう。
    • 対策: 記号の意味を明確にしましょう。経路差は「ある点Pでの2つの光の道のりの差」、明線間隔は「スクリーン上の縞模様のピッチ」です。次元(単位)はどちらも長さですが、物理的な意味が異なります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 近似式 \(\sin \theta \approx \tan \theta\) の選択:
    • 選定理由: 経路差 \(d \sin \theta\) を、スクリーン上の座標 \(x\) と結びつけるためです。\(\sin \theta\) のままでは \(x\) が出てきませんが、\(\tan \theta = x/L\) と変換することで、観測可能な量 \(x\) で記述できます。
    • 適用根拠: 問題文の \(x \ll L\) という条件が、この近似の数学的な正当性を保証しています。
  • 干渉条件式の選択:
    • 選定理由: 波の重ね合わせの原理に基づき、位相差が \(0\) (同位相)なら振幅が最大(強め合い)、\(\pi\) (逆位相)なら振幅が最小(弱め合い)になるという物理法則を数式化したものです。
    • 適用根拠: 光を波として扱う波動光学の領域では、この干渉条件が全ての現象の出発点となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の次元確認:
    • 答えの \(\Delta x = \frac{L\lambda}{d}\) の次元を確認します。\(L\) [m], \(\lambda\) [m], \(d\) [m] なので、\(\frac{[\text{m}] \cdot [\text{m}]}{[\text{m}]} = [\text{m}]\) となり、長さの次元を持っています。もし \(d\) が分子に来ていたら次元がおかしくなるので、ミスに気づけます。
  • 比例・反比例の直感チェック:
    • 波長 \(\lambda\) が長い(赤い光)ほど、回折現象が顕著になり、縞間隔 \(\Delta x\) は広がるはずです。式 \(\Delta x \propto \lambda\) はこれと一致します。
    • スリット間隔 \(d\) を広げると、2つの波源が離れるため、干渉縞は細かくなる(狭くなる)はずです。式 \(\Delta x \propto 1/d\) はこれと一致します。
  • 近似計算の練習:
    • \((1+x)^n \approx 1+nx\) の近似は物理で頻出です。特に \(n=1/2\) (ルート)や \(n=-1\) (逆数)の場合をスムーズに使えるように練習しておきましょう。別解のような厳密な導出ができると、自信を持って近似を使えるようになります。

基本例題55 薄膜の干渉

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 光学的距離(光路長)を用いる解法
      • 模範解答が「薄膜中の波長 \(\lambda’ = \lambda/n\)」を用いて幾何学的距離 \(2d\) と比較するのに対し、別解では「光学的距離(屈折率 \(\times\) 距離)」を用いて、真空中の波長 \(\lambda\) と直接比較します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 統一的な理解: 屈折率が変化しても、常に「真空中の波長」を基準に考えることができるため、媒質ごとの波長変換を忘れるミスを防げます。
    • 応用力の向上: 複数の媒質が重なる複雑な問題でも、光学的距離の和をとるだけで対応できるため、汎用性が高いです。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「薄膜による光の干渉」です。シャボン玉や油膜が色づいて見える現象の原理であり、光の反射に伴う位相のずれと、経路差による干渉条件を正しく組み合わせることが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光の反射と位相のずれ: 屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ入射して反射する場合(固定端反射相当)、位相が \(\pi\)(半波長分)ずれます。逆の場合(自由端反射相当)は位相はずれません。
  2. 光路長(光学的距離): 屈折率 \(n\) の媒質中を距離 \(L\) 進むことは、真空中を距離 \(nL\) 進むことに相当します。
  3. 干渉条件: 2つの光の光路差が波長の整数倍なら強め合い(同位相の場合)、半波長の奇数倍なら弱め合います。ただし、反射による位相のずれを考慮する必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、薄膜の上面と下面での反射における位相の変化を確認します。次に、往復の経路差(または光路差)を計算し、強め合う条件式を立てて最小の厚さ \(d\) を求めます。
  2. (2)では、ガラスの屈折率が変わったことで、下面での反射の位相変化がどう変わるかを確認します。それにより、(1)で立てた条件式が「強め合い」から「弱め合い」に変化するかどうかを判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
まず、薄膜の上面と下面で反射する光の位相がずれるかどうかを確認します。

  • 上面: 空気(\(n=1\))\(\rightarrow\) 薄膜(\(n=1.5\))。屈折率小 \(\rightarrow\) 大 なので、位相は \(\pi\) ずれます。
  • 下面: 薄膜(\(n=1.5\))\(\rightarrow\) ガラス(\(n=1.4\))。屈折率大 \(\rightarrow\) 小 なので、位相はずれません。

片方だけ位相が \(\pi\) ずれるため、干渉条件が逆転します(経路差が半波長の奇数倍で強め合い)。
経路差は往復分の \(2d\) ですが、これは薄膜中の距離なので、薄膜中の波長 \(\lambda’ = \lambda/n\) を基準に考えるか、光路長 \(2nd\) を用いて真空中の波長 \(\lambda\) を基準に考えます。
この設問における重要なポイント

  • 屈折率の大小関係: 空気(\(1\)) \(<\) 薄膜(\(1.5\)) \(>\) ガラス(\(1.4\))。
  • 反射による位相のずれ: 上面で \(\pi\) ずれ、下面でずれない。合計で \(\pi\) ずれる。
  • 強め合う条件: (光路差)\(=\) (半波長の奇数倍)。
  • 最小の厚さ: \(m=0\) の場合を考える。

具体的な解説と立式
薄膜の屈折率を \(n=1.5\)、厚さを \(d\)、真空中の波長を \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\,\text{m}\) とします。
薄膜中の波長は \(\lambda’ = \frac{\lambda}{n}\) です。
往復の幾何学的距離は \(2d\) です。
反射による位相のずれを考慮すると、強め合う条件は「経路差が半波長の奇数倍」となります。
$$
\begin{aligned}
2d &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda’ \quad (m=0, 1, 2, \dots) \\[2.0ex]
&= \frac{2m+1}{2} \cdot \frac{\lambda}{n} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
最小の厚さを求めるので、\(m=0\) を代入して \(d\) について解きます。

使用した物理公式

  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \frac{\lambda}{n}\)
  • 干渉条件(位相差 \(\pi\) あり): 経路差 \(= (m + \frac{1}{2})\lambda’\)
計算過程

式①に \(m=0\) を代入し、\(d\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
2d &= \frac{1}{2} \cdot \frac{\lambda}{n} \\[2.0ex]
d &= \frac{\lambda}{4n}
\end{aligned}
$$
数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{4 \times 1.5} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{6.0} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-7}\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光が膜の表面で反射するとき、硬い壁に当たったように跳ね返る(位相が反転する)場合と、柔らかい壁に当たったように跳ね返る(位相が変わらない)場合があります。今回は、表面では「硬い壁」反射、裏面では「柔らかい壁」反射が起きます。片方だけひっくり返るので、本来なら山と山が重なって強め合うはずのタイミング(波長1個分の遅れ)で、山と谷が重なって弱め合ってしまいます。逆に、波長半分だけ遅れたとき(本来なら弱め合うとき)に、ひっくり返ったおかげで強め合います。一番薄い膜でこれが起きるのは、往復でちょうど「波長の半分」の距離を進んだときです。

結論と吟味

最小の膜厚は \(1.0 \times 10^{-7}\,\text{m}\) となりました。これは可視光の波長の数分の一程度であり、シャボン玉などの薄膜として妥当な厚さです。

解答 (1) \(1.0 \times 10^{-7}\,\text{m}\)
別解: 光学的距離(光路長)を用いる解法

思考の道筋とポイント
薄膜中の幾何学的距離 \(2d\) を、真空中の距離に換算した「光路長」\(2nd\) に変換します。これにより、媒質中の波長 \(\lambda’\) を考える必要がなくなり、常に真空中の波長 \(\lambda\) で条件式を立てることができます。
この設問における重要なポイント

  • 光路長(往復): \(2nd\)
  • 位相のずれ: 合計 \(\pi\) (条件逆転)
  • 強め合う条件: 光路差 \(= (m + \frac{1}{2})\lambda\)

具体的な解説と立式
往復の光路差は \(2nd\) です。
反射による位相のずれが \(\pi\) あるため、強め合う条件式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
2nd &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
最小の厚さなので \(m=0\) とします。

使用した物理公式

  • 光路長: \(L_{\text{opt}} = nL\)
  • 干渉条件(位相差 \(\pi\) あり): 光路差 \(= (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

式②より、
$$
\begin{aligned}
2nd &= \frac{1}{2}\lambda \\[2.0ex]
d &= \frac{\lambda}{4n}
\end{aligned}
$$
これは模範解答の式と同じ形になり、結果も \(1.0 \times 10^{-7}\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

「水の中を1メートル進むのは、空気中を1.33メートル進むのと同じくらい大変(時間がかかる)」という考え方をします。これを「光路長」といいます。膜の中を往復する距離をこの光路長に直してしまえば、あとは空気中の波長のままで計算できるので、いちいち波長を縮めたりする手間が省けます。

結論と吟味

模範解答と全く同じ結果が得られました。

解答 (1) \(1.0 \times 10^{-7}\,\text{m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ガラスの屈折率が \(1.6\) に変わったことで、下面での反射の条件が変わります。

  • 上面: 空気(\(1\)) \(\rightarrow\) 薄膜(\(1.5\))。位相 \(\pi\) ずれ(変化なし)。
  • 下面: 薄膜(\(1.5\)) \(\rightarrow\) ガラス(\(1.6\))。屈折率小 \(\rightarrow\) 大 に変わったため、位相が \(\pi\) ずれるようになります。

上面と下面の両方で位相が \(\pi\) ずれるため、相対的な位相のずれはなくなります(\(2\pi\) ずれは \(0\) ずれと同じ)。したがって、干渉条件は「経路差が波長の整数倍で強め合い」という通常の条件に戻ります。
(1)で求めた厚さ \(d\) は、(1)の条件(半波長の奇数倍)を満たすものでした。条件式が逆転した今、この厚さではどうなるかを判断します。
この設問における重要なポイント

  • 屈折率の大小関係: 空気(\(1\)) \(<\) 薄膜(\(1.5\)) \(<\) ガラス(\(1.6\))。
  • 反射による位相のずれ: 上面で \(\pi\) ずれ、下面でも \(\pi\) ずれ。
  • 相対的な位相差: なし(同位相)。
  • (1)の条件式 \(2nd = \frac{1}{2}\lambda\) が、今回の「弱め合う条件」に一致することを見抜く。

具体的な解説と立式
今回の条件では、上面、下面ともに位相が \(\pi\) ずれるため、反射光同士の位相のずれはキャンセルされます。
したがって、強め合う条件は
$$
\begin{aligned}
2nd &= m\lambda
\end{aligned}
$$
弱め合う条件は
$$
\begin{aligned}
2nd &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda
\end{aligned}
$$
となります。
(1)で求めた厚さ \(d\) は、\(2nd = \frac{1}{2}\lambda\) を満たすものでした。これは、上記の「弱め合う条件」の \(m=0\) の場合に相当します。

使用した物理公式

  • 干渉条件(位相差なし):
    • 強め合い: 光路差 \(= m\lambda\)
    • 弱め合い: 光路差 \(= (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

(1)の結果 \(2nd = 0.5\lambda\) を、今回の条件に照らし合わせます。
光路差 \(0.5\lambda\) は半波長の奇数倍なので、位相差のない干渉においては「弱め合い」の条件を満たします。

この設問の平易な説明

ガラスを屈折率の高いものに変えると、膜の裏側での反射も「硬い壁」反射に変わります。すると、表側も裏側もひっくり返るので、結局、2つの光のタイミングのズレは元通り(距離の分だけ)になります。(1)では「ひっくり返ったから強め合っていた」のですが、今回は「ひっくり返らなくなった(両方ひっくり返った)」ので、同じ距離だと逆に弱め合うことになります。

結論と吟味

反射光は弱め合います。屈折率の大小関係が単調増加(小\(\rightarrow\)中\(\rightarrow\)大)する場合、反射防止膜(コーティング)として機能することがわかります。

解答 (2) 弱めあう

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 反射による位相のずれ(固定端反射と自由端反射)
    • 核心: 光が異なる媒質の境界面で反射するとき、屈折率が「小さい媒質から大きい媒質」へ向かう反射(\(n_1 < n_2\))では、位相が \(\pi\)(半波長分)ずれます。これを固定端反射とみなせます。逆に「大きい媒質から小さい媒質」へ向かう反射(\(n_1 > n_2\))では、位相はずれません(自由端反射)。
    • 理解のポイント:
      • 判定の基準: 常に「向こう側の屈折率」と比較します。向こうが硬い(屈折率大)なら反転、柔らかい(屈折率小)ならそのまま、とイメージしましょう。
      • 干渉条件への影響: 2つの反射光のうち、片方だけが反転する場合は条件式が逆転(\(m\lambda\) で暗、\((m+0.5)\lambda\) で明)します。両方反転、あるいは両方そのままなら、条件式は通常通りです。
  • 光路長(光学的距離)の概念
    • 核心: 媒質中での光の進み遅れを考慮するために、幾何学的な距離 \(L\) に屈折率 \(n\) を掛けた「光路長 \(nL\)」を用います。これにより、すべての距離を「真空中の距離」に換算して統一的に扱えます。
    • 理解のポイント:
      • 波長の短縮: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の速さが \(1/n\) になり、波長も \(\lambda’ = \lambda/n\) に縮みます。
      • 経路差の計算: 「媒質中の波長 \(\lambda’\) で距離 \(L\) を測る」ことと、「真空中の波長 \(\lambda\) で距離 \(nL\) を測る」ことは等価です。計算ミスを防ぐには、後者の光路長方式が推奨されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いた装置。空気層の厚さが変化することで干渉縞ができます。中心付近では空気層が極めて薄く、上面(ガラス\(\rightarrow\)空気)は位相変化なし、下面(空気\(\rightarrow\)ガラス)は位相 \(\pi\) 変化なので、中心は必ず暗点になります。
    • くさび形空気層: 2枚のガラス板の片側に紙などを挟んで隙間を作ったもの。ニュートンリングと同様に、等厚干渉縞が観察されます。
    • 反射防止膜(コーティング): メガネやカメラのレンズに使われる技術。本問の(2)のように、屈折率を段階的に変化させる(空気 \(<\) 膜 \(<\) レンズ)ことで、両面とも位相を反転させ、特定の波長の反射光を弱め合わせます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 屈折率の大小関係を書き込む: 図に \(n=1, n=1.5, n=1.4\) などの数値を書き込み、境界面ごとに不等号(\(<\) や \(>\))を記入します。
    2. 位相の変化を矢印でメモする: 反射点ごとに「\(\pi\) ずれ」「なし」を明記します。
    3. 往復か片道かを確認する: 薄膜干渉は通常「往復」ですが、透過光の干渉を問われる場合もあります。透過光の場合、反射回数が異なるため位相条件が変わることに注意が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 経路差 \(2d\) と光路差 \(2nd\) の混同:
    • 誤解: 媒質中なのに屈折率 \(n\) を掛け忘れて \(2d = m\lambda\) と立式してしまう。
    • 対策: 「膜の中を通っている!」と強く意識し、必ず \(n\) を掛ける癖をつけましょう。あるいは、別解のように常に光路長で考える習慣をつけるとミスが激減します。
  • \(m=0\) の取り扱い:
    • 誤解: 「最小の厚さ」と聞かれて \(m=1\) を代入してしまう。
    • 対策: \(m\) は \(0\) 以上の整数(\(0, 1, 2 \dots\))です。式を立てた後、\(m=0\) を代入して \(d\) が正の値になるか、物理的に意味があるかを確認しましょう。ただし、暗線の条件などで \(2nd = m\lambda\) となった場合、\(m=0\) だと \(d=0\)(膜がない)になってしまうため、その場合は \(m=1\) が最小解となります。
  • 波長 \(\lambda\) の基準:
    • 誤解: 問題文で与えられた波長が「真空中」のものか「媒質中」のものかを確認せずに計算する。
    • 対策: 通常は真空中の波長が与えられますが、稀に「水中での波長」が与えられることもあります。単位や文脈をよく読みましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 光路長 \(2nd\) の選択:
    • 選定理由: 異なる媒質(空気、膜、ガラス)が混在する系において、干渉条件を統一的に記述するためです。
    • 適用根拠: 光の位相の進み具合は、時間 \(t\) に比例します。距離 \(L\) を進む時間 \(t = L/v = L/(c/n) = nL/c\) は、光路長 \(nL\) に比例するため、光路長を比較することが位相差を比較することに直結します。
  • 位相差 \(\pi\) の加算:
    • 選定理由: 幾何学的な距離の差だけでは説明できない、反射による物理的な位相の反転を数式に反映させるためです。
    • 適用根拠: マクスウェル方程式から導かれる境界条件により、屈折率の低い側から高い側への反射では電場の位相が反転することが証明されています。高校物理ではこれを事実として受け入れ、条件式に \(\lambda/2\) を加える(または \(m\) と \(m+1/2\) を入れ替える)操作として適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(m\) の偶奇性チェック:
    • 条件式を立てた後、「\(m=0\) のときどうなるか?」を定性的に考えます。例えば(1)では、膜が極限まで薄い(\(d \to 0\))とき、経路差は \(0\) ですが、位相反転があるため干渉して弱め合う(暗くなる)はずです。求めた式 \(2nd = (m+0.5)\lambda\) で \(d \to 0\) は満たせないので、\(d=0\) は暗線条件(\(2nd = m\lambda\))に含まれるべきです。このように極限状態で検算できます。
  • 数値計算の指数処理:
    • \(6.0 \times 10^{-7}\) のような指数表記の計算では、仮数部(\(6.0\))と指数部(\(10^{-7}\))を分けて計算し、最後に合体させるとミスが減ります。また、可視光の波長(\(4 \sim 7 \times 10^{-7}\,\text{m}\))や膜の厚さ(\(10^{-7}\,\text{m}\) オーダー)の相場観を持っておくと、桁違いのミスに気づけます。
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基本問題

393 フィゾーの光速測定

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 角度を用いた解法
      • 模範解答が「歯車が1回転する時間」と「歯1個分動く割合」から時間を計算するのに対し、別解では「歯車全体の角度 \(2\pi\)」と「歯1個分の角度」を用いて、角速度 \(\omega\) を介して時間を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的直感の強化: 回転運動を扱う際、角度と角速度を用いるのは物理の標準的なアプローチであり、円運動の知識と結びつけることで理解が深まります。
    • 汎用性の向上: 歯車の形状や配置が変わっても、角度の関係さえ把握できれば同様に解くことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「フィゾーの光速測定実験」です。1849年にフィゾーが行った、地上で初めて光速を測定した歴史的な実験の原理を理解し、光の速さと回転体の運動の関係を数式で表現することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等速直線運動: 光は一定の速さ \(c\) で進むため、距離 \(x\)、速さ \(c\)、時間 \(t\) の間には \(x = ct\) の関係が成り立ちます。
  2. 等速円運動(回転運動): 一定の速さで回転する物体において、回転数 \(f\)(1秒間の回転数)と周期 \(T\)(1回転にかかる時間)は逆数の関係 \(T = 1/f\) にあります。また、ある角度だけ回転するのにかかる時間は、回転角に比例します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、光が鏡まで往復する距離 \(2L\) を、光速 \(c\) で進むのにかかる時間 \(t_1\) を求めます。
  2. (2)では、光が往復している間に、歯車が「歯の隙間」から「次の歯」の位置まで回転する時間 \(t_2\) を求めます。そして、光が遮られる条件として \(t_1 = t_2\) という等式を立て、光速 \(c\) を導出します。

問(1)

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