発展例題
発展例題29 媒質の振動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 波の式(数式)を用いた解法
- 模範解答が「波源の動き」と「波の進行方向」から定性的にグラフの概形を判断しているのに対し、別解では正弦波の数式 \(y = A \sin 2\pi(t/T – x/\lambda)\) を立てて、\(t=0\) を代入することで数学的にグラフの形状を決定します。
- 設問(2)の別解: 位相の遅れ(時間の遅れ)を用いた解法
- 模範解答が(1)で描いたグラフから \(t=0\) での変位を読み取って判断しているのに対し、別解では「波が伝わるのにかかる時間」に着目し、波源のグラフを時間軸方向に平行移動させることでグラフを導きます。
- 設問(1)の別解: 波の式(数式)を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 論理的確実性: 数式を用いることで、「山から始まるか、谷から始まるか」といった符号の判断ミスを確実に防ぐことができます。
- 本質の理解: 「波の伝播=位相(振動の状態)の遅れ」という波動現象の本質的な理解を深めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られるグラフの形状は模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「波のグラフの変換(\(y-t\) グラフと \(y-x\) グラフの相互関係)」です。ある一点の時間の経過に伴う動き(動画)と、ある瞬間の波全体の形(写真)を行き来する、波動分野の最重要項目の一つです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の間には、\(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) の関係が成り立ちます。
- 2種類のグラフの意味:
- \(y-t\) グラフ: ある1点(今回は \(x=0\))の媒質が、時間とともにどう動くかを表すグラフ。
- \(y-x\) グラフ: ある瞬間(今回は \(t=0\))における、波全体の形(波形)を表すグラフ。
- 波の進行と位相のずれ: 波が \(x\) 軸の正の向きに進むとき、下流(\(x\) が大きい側)の媒質は、上流(\(x\) が小さい側)の媒質よりも遅れて同じ振動を繰り返します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず与えられた \(y-t\) グラフから周期 \(T\) を読み取り、波の速さ \(v\) を使って波長 \(\lambda\) を計算します。次に、\(t=0\) における波源の動きから、波形が \(x\) 軸方向にどのように伸びているかを推測して描画します。
- (2)では、(1)で描いた波形から特定の位置(\(x=5.0\,\text{m}\))での変位を読み取るか、あるいは波源からの時間の遅れを考慮して、その地点での振動の様子(\(y-t\) グラフ)を決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、波の基本量である波長 \(\lambda\) を求めます。次に、\(y-x\) グラフを描くために、\(t=0\) の瞬間に波がどのような形をしているかを考えます。
ポイントは、「波源(\(x=0\))がこれから行おうとする運動(未来)」と、「波源がすでに行った運動(過去)」が、空間(\(x\) 軸)上のどこに存在するかを結びつけることです。波は \(x\) 軸正の向きに進むため、波源が「過去」に行った振動は \(x\) 軸の「正の側(右側)」に伝わっています。
この設問における重要なポイント
- グラフから周期 \(T\) を正確に読み取る。
- 公式 \(\lambda = vT\) を用いて波長を計算する。
- \(y-t\) グラフの \(t=0\) 付近の傾きから、波源の初動の向きを読み取る。
- 「\(y-t\) グラフの過去(\(t<0\))の形」が「\(y-x\) グラフの正の領域(\(x>0\))の形」に対応することを理解する。
具体的な解説と立式
まず、周期 \(T\) と波長 \(\lambda\) を求めます。
問題の図(\(y-t\) グラフ)より、波が1回振動するのにかかる時間(周期)は、
$$ T = 2.0\,\text{s} $$
波の速さは \(v = 10\,\text{m/s}\) と与えられているので、波の基本公式より波長 \(\lambda\) は以下のようになります。
$$ \lambda = vT $$
次に、グラフの概形を決定します。
図の \(y-t\) グラフを見ると、\(t=0\) のとき変位は \(y=0\) です。
そして、\(t\) がわずかに増えると(\(t>0\))、変位 \(y\) は負の値になっています。つまり、波源は \(t=0\) の直後に下向きに動きます。
ここで、\(x\) 軸上の波形(\(y-x\) グラフ)を考えます。
波は \(x\) 軸の正の向きに進むので、\(x>0\) の地点にある波は、波源が「少し前(過去)」に送り出した振動です。
\(y-t\) グラフにおいて、\(t=0\) より少し前(\(t<0\))の様子を見ると、グラフは \(t=0\) で下がりながら原点を通過しているので、その直前は正の値であったことがわかります。
したがって、\(x=0\) より少し右側(\(x>0\))の媒質の変位は正になっているはずです。
つまり、求める \(y-x\) グラフは、原点 \(x=0\) を通り、\(x\) が増えるにつれて山(正の変位)に向かう正弦波となります。
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(\lambda = vT\)
波長 \(\lambda\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 10 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m}
\end{aligned}
$$
振幅は \(y-t\) グラフから読み取れる通り \(0.50\,\text{m}\) です。
これより、波長 \(20\,\text{m}\)、振幅 \(0.50\,\text{m}\) で、原点から正の向きに立ち上がる正弦波(サインカーブ)を描きます。
具体的には、
- \(x=0\) で \(y=0\)
- \(x=5.0\) (\(1/4\)波長) で \(y=0.50\) (山)
- \(x=10\) (\(1/2\)波長) で \(y=0\)
- \(x=15\) (\(3/4\)波長) で \(y=-0.50\) (谷)
- \(x=20\) (\(1\)波長) で \(y=0\)
となるグラフです。
まず、波の「歩幅」である波長を計算します。速さが \(10\,\text{m/s}\) で、1歩(1回の振動)に \(2.0\) 秒かかるので、歩幅は \(20\,\text{m}\) です。
次にグラフの形です。波源(\(x=0\))の動きを見ると、スタート(\(t=0\))の直後に「下」に動いています。波は右へ進むので、右側にある波は「波源がさっきした動き」のコピーです。波源は「下」に行く直前、つまりさっきまでは「上(プラス)」にいました。だから、波源のすぐ右側には「上(プラス)」の波があるはずです。原点から「山」が始まるグラフを描けば正解です。
波長 \(20\,\text{m}\)、振幅 \(0.50\,\text{m}\) の正弦波が得られました。波源のすぐ右側が正の変位となっていることは、波源がこれから負の方向に動く(負の波を送り出す)ことと整合しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
グラフの形状を定性的に考えるのが苦手な場合、数式を立てて考えるのが最も確実です。波源の振動の式を作り、それを波の進行に合わせて空間的な式に変換します。
この設問における重要なポイント
- 波源の振動 \(y(0, t)\) を正弦波の式で表す。
- 波の進行に伴う位相の遅れを考慮し、\(t\) を \(t – x/v\) に置き換える。
- 得られた式に \(t=0\) を代入して、\(y-x\) グラフの式を導出する。
具体的な解説と立式
まず、波源(\(x=0\))の振動 \(y(0, t)\) を式で表します。
グラフより、振幅 \(A=0.50\)、周期 \(T=2.0\) です。
原点を通り、その後負になるので、通常のサインカーブ(\(y=\sin t\))を上下反転させた形、つまりマイナスのサインカーブです。
$$ y(0, t) = -A \sin \left( \frac{2\pi}{T}t \right) $$
波が \(x\) 軸の正の向きに速さ \(v\) で伝わるとき、位置 \(x\) での振動 \(y(x, t)\) は、波源での振動が時間 \(x/v\) だけ遅れて届いたものです。つまり、\(t\) を \(t – x/v\) に置き換えます。
$$ y(x, t) = -A \sin \left\{ \frac{2\pi}{T} \left( t – \frac{x}{v} \right) \right\} $$
この式を変形します。\(v = \lambda/T\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
y(x, t) &= -A \sin \left( \frac{2\pi}{T}t – \frac{2\pi}{T}\frac{x}{v} \right) \\[2.0ex]
&= -A \sin \left( \frac{2\pi}{T}t – \frac{2\pi}{\lambda}x \right) \\[2.0ex]
&= A \sin \left( \frac{2\pi}{\lambda}x – \frac{2\pi}{T}t \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(-\sin(-\theta) = \sin\theta\) の関係を用いました。
これが、この波の一般式です。
(1)では \(t=0\) における波形を求めるので、\(t=0\) を代入します。
$$ y(x, 0) = A \sin \left( \frac{2\pi}{\lambda}x \right) $$
使用した物理公式
- 正弦波の式: \(y = A \sin \frac{2\pi}{T}(t – \frac{x}{v})\)
得られた式 \(y = A \sin (\frac{2\pi}{\lambda}x)\) は、係数がプラスのサインカーブを表しています。
つまり、\(x=0\) で \(y=0\) から始まり、\(x\) が増えると \(y\) も正に増えるグラフです。
これは定性的な考察の結果と完全に一致します。
波の動きを数式で表す方法です。まず、波源の動きを「マイナスのサイン」の式で書きます。次に、「波が伝わる=時間が遅れる」ということを式に反映させます。最後に、時間を \(0\) にセットすると、その瞬間の波の形を表す式が出てきます。計算の結果、「プラスのサイン」の式になったので、山から始まるグラフだとわかります。
数式による導出からも、原点から正の向きに立ち上がる正弦波であることが確認できました。定性的な判断と数学的な結果が一致しており、解答の信頼性が高いと言えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
\(x=5.0\,\text{m}\) という特定の位置での媒質の動き(\(y-t\) グラフ)を求めます。
(1)で描いた \(t=0\) の瞬間の波形(\(y-x\) グラフ)において、\(x=5.0\,\text{m}\) の地点がどのような状態(変位)にあるかを確認し、そこから時間が経過すると波形がどう移動するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- \(x=5.0\,\text{m}\) が波長 \(20\,\text{m}\) の何分の一に当たるかを確認する。
- (1)のグラフから、\(t=0\) における \(x=5.0\,\text{m}\) の変位を読み取る。
- 波形全体が \(x\) 軸正の向き(右)に移動するとき、\(x=5.0\,\text{m}\) の地点の変位がどう変化するかを予測する。
具体的な解説と立式
まず、\(x=5.0\,\text{m}\) の位置関係を確認します。
波長は \(\lambda = 20\,\text{m}\) なので、
$$ \frac{x}{\lambda} = \frac{5.0}{20} $$
$$ \frac{x}{\lambda} = \frac{1}{4} $$
つまり、\(x=5.0\,\text{m}\) は原点から \(1/4\) 波長だけ離れた位置です。
(1)で描いた \(y-x\) グラフ(正弦波 \(y = A \sin kx\) の形)において、\(1/4\) 波長の位置はちょうど「山」の頂点になります。
したがって、時刻 \(t=0\) において、\(x=5.0\,\text{m}\) の媒質の変位は最大値(振幅)となります。
$$ y = 0.50\,\text{m} \quad (\text{時刻 } t=0) $$
次に、\(t>0\) での変化を考えます。
波は右(\(x\) 軸正の向き)に進みます。
現在(\(t=0\))、\(x=5.0\,\text{m}\) には波の「山」があります。
時間が経過して波が右にずれると、\(x=5.0\,\text{m}\) の地点には、今まで「山の左側(後ろ側)」にあった部分が通過することになります。
(1)のグラフで、山の頂点(\(x=5.0\))の左側(\(x < 5.0\))は、変位が正で、右上がりの形状をしています。
波全体が右に動くと、この「右上がりの斜面」が \(x=5.0\) を通過していくため、\(x=5.0\) での変位 \(y\) は \(0.50\) から減少していきます。
よって、求めるグラフは、\(t=0\) で \(y=0.50\)(最大値)から始まり、時間とともに減少して \(0\) に向かうコサインカーブ(余弦波)のような形になります。周期は変わらず \(2.0\,\text{s}\) です。
使用した物理公式
- 特になし(グラフの読み取りと平行移動の概念)
グラフの特徴点は以下の通りです。
- \(t=0\): \(y = 0.50\,\text{m}\) (最大値)
- \(t=0.5\) (\(1/4\)周期): \(y = 0\,\text{m}\) (山から下りて平衡点へ)
- \(t=1.0\) (\(1/2\)周期): \(y = -0.50\,\text{m}\) (谷)
- \(t=1.5\) (\(3/4\)周期): \(y = 0\,\text{m}\)
- \(t=2.0\) (\(1\)周期): \(y = 0.50\,\text{m}\) (再び山)
(1)のグラフを見ると、スタートの瞬間(\(t=0\))、\(5.0\,\text{m}\) の地点はちょうど波の「てっぺん(山)」にいることがわかります。
波は動いているので、てっぺんはすぐに通り過ぎてしまいます。てっぺんの後は必ず下がるしかありません。
ですから、\(0.50\)(てっぺん)から始まって、だんだん下がっていくグラフを描けば正解です。
\(t=0\) で最大値 \(0.50\) をとり、その後減少するグラフが得られました。これは、波の山が通過した直後の媒質の動きとして妥当です。
思考の道筋とポイント
波源(\(x=0\))の振動が、時間差を持って \(x=5.0\) に伝わるという考え方を使います。波源の \(y-t\) グラフを時間軸方向に平行移動させるだけで答えが得られます。
この設問における重要なポイント
- 波が波源から \(x=5.0\,\text{m}\) まで伝わるのにかかる時間 \(\Delta t\) を計算する。
- \(x=5.0\,\text{m}\) での振動は、波源での振動より \(\Delta t\) だけ遅れることを理解する。
- 波源の \(y-t\) グラフを、時間軸の正の向き(右)に \(\Delta t\) だけ平行移動させる。
具体的な解説と立式
波の速さは \(v = 10\,\text{m/s}\) です。
波源 \(x=0\) から \(x=5.0\,\text{m}\) まで波が伝わるのにかかる時間 \(\Delta t\) は、
$$ \Delta t = \frac{x}{v} $$
$$ \Delta t = \frac{5.0}{10} $$
$$ \Delta t = 0.50\,\text{s} $$
これは、\(x=5.0\) での振動は、波源での振動よりも \(0.50\,\text{s}\) 遅れて 起こることを意味します。
つまり、\(x=5.0\) の \(y-t\) グラフは、波源(問題図)の \(y-t\) グラフを、右(時間の正の向き)に \(0.50\,\text{s}\) だけ平行移動させたものになります。
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(t = \frac{x}{v}\)
波源のグラフの特徴点を \(+0.50\,\text{s}\) ずらします。
- 波源: \(t=0\) で \(y=0\) (下向き) \(\rightarrow\) \(x=5.0\): \(t=0.5\) で \(y=0\) (下向き)
- 波源: \(t=0.5\) で \(y=-0.50\) (谷) \(\rightarrow\) \(x=5.0\): \(t=1.0\) で \(y=-0.50\) (谷)
- 波源: \(t=1.5\) で \(y=0.50\) (山) \(\rightarrow\) \(x=5.0\): \(t=2.0\) で \(y=0.50\) (山)
では、\(x=5.0\) の \(t=0\) のときはどうなっているでしょうか?
波源のグラフは周期 \(2.0\,\text{s}\) で繰り返しているので、\(t=0\) の状態は \(t=2.0\) の状態と同じです。
さらに遡ると、\(t=-0.5\) の状態(\(t=1.5\) と同じ状態)が、\(0.5\,\text{s}\) 遅れて \(t=0\) に現れると考えられます。
波源の \(t=1.5\) は「山(\(y=0.50\))」です。
したがって、\(x=5.0\) のグラフは \(t=0\) で \(y=0.50\)(山)から始まります。
波源の動きが、そのまま \(0.5\) 秒遅れて \(5.0\,\text{m}\) の地点に届く、と考えます。
元のグラフを右に \(0.5\) 秒分ずらすだけです。
元のグラフで \(1.5\) 秒のときにあった「山」が、\(0.5\) 秒遅れて \(2.0\) 秒のときに現れます。
逆に言うと、今(\(0\) 秒)ここにある波は、\(0.5\) 秒前に波源を出発した波です。波源のグラフで \(0\) 秒より \(0.5\) 秒前(つまり \(1.5\) 秒と同じ状態)を見ると「山」なので、ここからグラフが始まります。
平行移動によって得られたグラフは、\(t=0\) で最大値 \(0.50\) をとり、その後減少する余弦波の形になります。これはメインの解法の結果と完全に一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本公式と周期・波長の関係
- 核心: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) を結びつける基本公式 \(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) は、波動分野のあらゆる問題の基礎です。
- 理解のポイント:
- 周期 \(T\): 媒質が1回振動するのにかかる時間(秒)。\(y-t\) グラフから読み取れます。
- 波長 \(\lambda\): 波の1つ分の長さ(メートル)。\(y-x\) グラフから読み取れます。
- この2つを繋ぐのが「波の速さ \(v\)」であり、時間的な繰り返し(\(T\))と空間的な繰り返し(\(\lambda\))の変換係数のような役割を果たします。
- \(y-t\) グラフと \(y-x\) グラフの相互変換
- 核心: 「ある点の時間変化(動画)」と「ある瞬間の全体像(写真)」という2つの視点を自由に行き来できることが、この問題の最大のテーマです。
- 理解のポイント:
- 波の進行方向との関係: 波が \(x\) 軸正の向きに進む場合、波源(\(x=0\))が「過去(\(t<0\))」に行った振動は、空間的には「正の領域(\(x>0\))」に存在します。つまり、\(y-t\) グラフの \(t<0\) の形が、\(y-x\) グラフの \(x>0\) の形に対応します。
- 位相の遅れ: 波源から距離 \(x\) だけ離れた地点には、波源の振動が時間 \(t = x/v\) だけ遅れて到達します。これがグラフの平行移動の根拠となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆向きに進む波: 波が \(x\) 軸負の向きに進む場合、波源の「過去」の振動は \(x\) 軸の「負の領域」に存在します。逆に、\(x>0\) にある波は、波源が「未来」に行う振動に対応します。
- 固定端・自由端反射: 反射波を作図する際も、この「過去の波形を描く」という考え方が応用できます。壁の向こう側に仮想的な波を描き、それを折り返す手法です。
- 定常波の節と腹: 2つの進行波が重なって定常波ができる問題でも、それぞれの波を \(y-x\) グラフとして描き、合成することで節や腹の位置を特定できます。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: 縦軸は変位 \(y\) で共通ですが、横軸が時間 \(t\) なのか位置 \(x\) なのかを真っ先に確認します。これを間違えると全てが逆になります。
- \(t=0\) 付近の傾きを見る: \(y-t\) グラフの原点付近で、グラフが上がっているか下がっているかを見ます。これが「波源の初動」であり、\(y-x\) グラフを描く際の決定的な手がかりになります。
- 波の進行方向をチェックする: 「\(x\) 軸の正の向き」か「負の向き」かで、グラフの平行移動の方向や、\(y-t\) と \(y-x\) の対応関係が逆転します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(y-t\) グラフと \(y-x\) グラフの混同:
- 誤解: \(y-t\) グラフの形をそのまま \(y-x\) グラフとして描いてしまう。
- 対策: 波が正の向きに進む場合、\(y-x\) グラフは \(y-t\) グラフを左右反転させた形になることが多いです(原点スタートの場合)。「過去の動きが右側にある」という理屈を常に意識しましょう。
- 平行移動の方向ミス:
- 誤解: (2)で、波が右に進むからといって、\(y-t\) グラフを左(時間の負の向き)にずらしてしまう。
- 対策: 「下流(\(x>0\))の媒質は、上流(\(x=0\))のマネを遅れてする」と考えます。遅れるということは、グラフ全体が時間軸の正の向き(右)にずれるということです。
- 波の式の符号ミス:
- 誤解: \(y = A \sin (\omega t – kx)\) なのか \(y = A \sin (kx – \omega t)\) なのかわからなくなる。
- 対策: \(t=0\) や \(x=0\) を代入してチェックします。例えば \(t=0\) で \(y = -A \sin kx\) なら、原点から下がって始まる波形です。自分の描いたグラフと式が合っているか、必ず具体的な値を代入して検算しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\lambda = vT\) の選択:
- 選定理由: \(y-t\) グラフから直接読み取れるのは周期 \(T\) ですが、求めたい \(y-x\) グラフを描くには波長 \(\lambda\) が必要です。この2つを繋ぐ唯一の架け橋がこの公式です。
- 適用根拠: 波の速さ \(v\) が一定である(等速で伝わる)という前提があるため、距離(波長)=速さ×時間(周期)の関係が成り立ちます。
- 波の一般式 \(y(x, t) = A \sin \frac{2\pi}{T}(t – \frac{x}{v})\) の選択(別解):
- 選定理由: グラフの形状を感覚的に捉えるのが難しい場合や、複雑な初期位相を持つ場合に、数式によるアプローチは絶対的な正解を保証します。
- 適用根拠: 「波形が変わらずに伝わる」という波動の性質そのものを数式化したものであり、あらゆる正弦波の問題に適用可能な万能なツールです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認:
- グラフの軸の単位(\(\text{s}\), \(\text{m}\), \(\text{ms}\), \(\text{cm}\) など)を必ず確認します。特にミリ秒(\(\text{ms}\))やセンチメートル(\(\text{cm}\))が含まれている場合、\(\text{s}\) や \(\text{m}\) への換算が必要です。
- 特徴点でのチェック:
- グラフを描いた後、必ず代表的な点(山、谷、ゼロ点)の座標を確認します。
- (1)なら、\(x=0\) で \(y=0\)、\(x=5.0\) で \(y=0.50\) となっているか。
- (2)なら、\(t=0\) で \(y=0.50\)、\(t=1.0\) で \(y=-0.50\) となっているか。
- この「点検」を行うだけで、作図ミスの9割は防げます。
- 「1/4波長」の感覚:
- 波の問題では、\(1/4\) 波長(\(90^\circ\))、\(1/2\) 波長(\(180^\circ\))ごとの変化が重要です。\(x=5.0\,\text{m}\) が \(\lambda=20\,\text{m}\) のちょうど \(1/4\) であることに気づけば、計算なしで「山の頂点だ」と判断でき、ミスも減ります。
発展例題30 正弦波の式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 波の一般式を用いた解法
- 模範解答は、グラフの平行移動から媒質の初動の向き(位相)を判断し、単振動の式を立てています。
- 対して別解では、時刻 \(t=0\) における波形の式(\(y-x\) の式)をまず立て、それを波の進行に合わせて時間 \(t\) を含む一般式(\(y(x,t)\))に拡張し、最後に \(x=0\) を代入して求めます。
- 波の一般式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 符号ミスの防止: 「右に動くから原点は下がる…」といった視覚的な判断に頼らず、数式操作のみで自動的に正しい符号(プラスかマイナスか)が導かれるため、ケアレスミスを劇的に減らせます。
- 汎用性の高さ: 原点以外の場所(例えば \(x=10\,\text{m}\))の振動を問われた場合でも、同じ手順で確実に解くことができます。
- 結果への影響
- どちらの方法でも、最終的な答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「進行波のグラフから媒質の振動の式を導出すること」です。波のグラフ(空間的な波形)と媒質の振動(時間的な動き)の関係を正しく理解し、数式で表現する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本公式: \(v = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)(速さの定義)、\(v = \frac{\lambda}{T}\)(波の基本式)。
- 単振動の式: 原点の媒質の変位 \(y\) は、時間 \(t\) を用いて \(y = A \sin(\omega t)\) または \(y = A \sin(\omega t + \delta)\) の形で表されます。
- 波の進行と媒質の動き: 波形全体が平行移動することで、各点の媒質がどのように動くかを予測できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- グラフから振幅 \(A\)、波長 \(\lambda\)、波の移動距離 \(\Delta x\) を読み取ります。
- 波の速さ \(v\) と周期 \(T\) を計算します。
- \(t=0\) から時間がわずかに経過したとき、原点 \(x=0\) の媒質が正・負どちらの向きに動くかをグラフの平行移動から判断します。
- 振幅、周期(または角振動数)、初期位相(動き出しの向き)を組み合わせて、変位 \(y\) の式を完成させます。
問
思考の道筋とポイント
まず、グラフから読み取れる情報を整理し、波の周期 \(T\) を求めます。次に、求めたいのは「原点 \(x=0\) の媒質の変位」なので、原点が時刻 \(t=0\) からどのように振動を開始するか(初期位相)を見極めます。
この設問における重要なポイント
- 実線(\(t=0\))と破線(\(t=0.10\,\text{s}\))のズレから、波の速さを求める。
- 波長 \(\lambda\) をグラフから読み取り、周期 \(T\) を計算する。
- 波が右(\(x\) 軸正の向き)に進むとき、原点の媒質が最初にどちら(上か下か)に動くかを正しく判断する。
具体的な解説と立式
まず、波の速さ \(v\) を求めます。
グラフより、時刻 \(t=0\)(実線)から \(t=0.10\,\text{s}\)(破線)の間に、波形(例えば \(x=0\) のゼロ点や \(x=4.0\) の山)は \(x\) 軸正の向きに \(2.0\,\text{m}\) だけ進んでいます。
したがって、速さ \(v\) は以下の式で求められます。
$$ v = \frac{\text{移動距離}}{\text{経過時間}} $$
次に、周期 \(T\) を求めます。
グラフの実線を見ると、波1つ分の長さ(波長)は \(\lambda = 16\,\text{m}\) です。
波の基本公式 \(v = \frac{\lambda}{T}\) より、周期 \(T\) は次のように表せます。
$$ T = \frac{\lambda}{v} $$
続いて、原点 \(x=0\) における振動の式を決定します。
グラフより、振幅は \(A = 2.0\,\text{m}\) です。
角振動数 \(\omega\) は、周期 \(T\) を用いて次のように表されます。
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} $$
最後に、振動の型(サインかマイナスサインか)を決めます。
時刻 \(t=0\)(実線)において、原点の変位は \(y=0\) です。
波は \(x\) 軸の正の向きに進むため、わずかに時間が経過すると、実線の波形は右にずれます。
実線の波形を右に少しずらすと、原点 \(x=0\) の位置には「山」ではなく「谷(負の変位)」側の波形がやってきます。
つまり、原点の媒質は \(t=0\) から 負の向き(下向き) に動き出します。
\(y=0\) から負の向きにスタートする単振動は、\(-\sin\) のグラフになります。
したがって、求める変位 \(y\) の式は以下の形になります。
$$ y = -A \sin(\omega t) $$
使用した物理公式
- 速さの定義: \(v = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)
- 波の基本公式: \(T = \frac{\lambda}{v}\)
- 角振動数: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
- 単振動の式: \(y = -A \sin(\omega t)\)
まず、速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{2.0}{0.10} \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
次に、周期 \(T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{16}{20} \\[2.0ex]
&= 0.80\,\text{s}
\end{aligned}
$$
角振動数 \(\omega\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \frac{2\pi}{0.80} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi}{4/5} \\[2.0ex]
&= \frac{10\pi}{4} \\[2.0ex]
&= 2.5\pi\,\text{rad/s}
\end{aligned}
$$
これらを \(y = -A \sin(\omega t)\) に代入します。振幅 \(A=2.0\) なので、
$$ y = -2.0 \sin(2.5\pi t) $$
まず、波がどれくらいの速さで進んでいるかを計算します。\(0.10\) 秒で \(2.0\,\text{m}\) 進んでいるので、速さは \(20\,\text{m/s}\) です。
次に、波の「歩幅(波長)」が \(16\,\text{m}\) なので、1歩進むのにかかる時間(周期)は \(0.80\) 秒だとわかります。
最後に、原点にあるボール(媒質)の動きを想像します。今(\(t=0\))は真ん中(\(y=0\))にありますが、波が右へ動くと、すぐに波の「谷」の部分がやってくるので、ボールは下に動かされます。
「真ん中から下に動き出す」振動は、マイナスのサイン(\(-\sin\))の式で表せるので、数字を当てはめて答えを作ります。
答えは \(y = -2.0 \sin 2.5\pi t\,[\text{m}]\) です。
\(t=0\) を代入すると \(y=0\)、\(t=0.1\)(\(1/8\) 周期)を代入すると \(y = -2.0 \sin(0.25\pi) \approx -1.4\) となり、負の値になります。これは「最初に負の向きに動く」という考察と一致しており、妥当です。
思考の道筋とポイント
グラフの平行移動で符号を判断する代わりに、数式変形だけで機械的に答えを導く方法です。まず \(t=0\) の瞬間の波の形を式にし、それを「動く波の式」に進化させ、最後に \(x=0\) を代入します。
この設問における重要なポイント
- 時刻 \(t=0\) における波形(\(y-x\) グラフ)を正弦波の式 \(y(x,0)\) で表す。
- 波が \(x\) 軸正の向きに進むとき、変数 \(x\) を \((x – vt)\) に置き換えることで、任意の時刻 \(t\) における波の式 \(y(x,t)\) を作る。
- 得られた式に \(x=0\) を代入して、原点の振動の式を得る。
具体的な解説と立式
まず、時刻 \(t=0\) における波形(実線のグラフ)を式で表します。
原点 \(x=0\) で \(y=0\) となり、\(x\) が増えると \(y\) が正になる正弦波なので、基本形は \(+\sin\) です。
波長は \(\lambda = 16\,\text{m}\) なので、波数 \(k = \frac{2\pi}{\lambda}\) を用いて次のように書けます。
$$ y(x, 0) = A \sin\left( \frac{2\pi}{\lambda}x \right) $$
次に、この波が速さ \(v\) で \(x\) 軸の正の向きに進むことを考えます。
進行波の一般式を得るには、\(x\) を \((x – vt)\) に置き換えます。
$$ y(x, t) = A \sin\left\{ \frac{2\pi}{\lambda}(x – vt) \right\} $$
求めたいのは、原点 \(x=0\) における媒質の変位なので、この式に \(x=0\) を代入します。
$$ y(0, t) = A \sin\left\{ \frac{2\pi}{\lambda}(0 – vt) \right\} $$
使用した物理公式
- 正弦波の式(\(t=0\)): \(y = A \sin(\frac{2\pi}{\lambda}x)\)
- 進行波の変換: \(x \rightarrow x – vt\)
式を整理して計算します。
$$
\begin{aligned}
y(0, t) &= A \sin\left( -\frac{2\pi v}{\lambda}t \right) \\[2.0ex]
&= -A \sin\left( \frac{2\pi v}{\lambda}t \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sin(-\theta) = -\sin\theta\) の関係を用いました。
\(v = 20\)、\(\lambda = 16\)、\(A = 2.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y(0, t) &= -2.0 \sin\left( \frac{2\pi \times 20}{16}t \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \sin\left( \frac{40\pi}{16}t \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \sin(2.5\pi t)
\end{aligned}
$$
まず、写真に撮った波の形(\(t=0\) のグラフ)を数式にします。「\(x\) が増えると \(y\) も増える」ので、普通のサイン(\(\sin\))の式です。
次に、この数式を「動く波」の数式に改造します。右に進む波の場合、\(x\) の代わりに \((x – \text{速さ} \times \text{時間})\) を入れるというルールがあります。
最後に、この改造した式に「場所は原点(\(x=0\))」という条件を入れると、自動的にマイナスが出てきて、正しい答えが得られます。
メインの解法と同じく、\(y = -2.0 \sin 2.5\pi t\) が得られました。この方法は、グラフの見た目で「上か下か」を迷う必要がなく、計算だけで符号が確定するため、非常に強力です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の伝播速度と周期・波長の関係
- 核心: 波の速さ \(v\) は「波形が単位時間に進む距離」であり、\(v = \frac{\Delta x}{\Delta t}\) で定義されます。また、波の周期性から \(v = \frac{\lambda}{T}\) という関係が成り立ちます。
- 理解のポイント:
- 2つの視点: 速さを求めるには、「ある瞬間の移動距離と時間から求める方法(定義)」と、「波長と周期から求める方法(公式)」の2通りがあります。この問題では、まず定義から速さを求め、それを公式に代入して周期を逆算するという手順を踏んでいます。
- 媒質の単振動と初期位相
- 核心: 波を伝える媒質の各点は、それぞれ独立して単振動を行っています。その振動の様子(変位 \(y\) と時間 \(t\) の関係)は、正弦波 \(y = A \sin(\omega t + \phi_0)\) で表されます。
- 理解のポイント:
- 初期位相 \(\phi_0\) の決定: 最も重要なのは、\(t=0\) で媒質が「どこにいて(位置)」「どちらに動くか(速度の向き)」を見極めることです。
- 原点スタートで正の向き \(\rightarrow\) \(+\sin\)
- 原点スタートで負の向き \(\rightarrow\) \(-\sin\)
- 正の端(山)スタート \(\rightarrow\) \(+\cos\)
- 負の端(谷)スタート \(\rightarrow\) \(-\cos\)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(x\) 軸負の向きに進む波: 波が左に進む場合、\(t=0\) の波形を左にずらして媒質の初動を判断します。別解の一般式では、\(x \rightarrow x + vt\) と置き換える点が異なります。
- 原点以外の媒質の振動: 例えば \(x=x_1\) での振動を求めよ、という問題。別解のアプローチなら、\(y(x, t)\) の式に \(x=x_1\) を代入するだけで機械的に解けます。
- 縦波の表示: 横波表示された縦波の問題でも、まずは横波として同様に式を立て、最後に変位 \(y\) を \(x\) 方向の変位として解釈し直すことで対応できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 波の進行方向: 「\(x\) 軸の正の向き」か「負の向き」か。これが全ての符号(\(\pm\))を決定します。
- 2つの時刻の波形: 実線と破線など、異なる時刻の波形が与えられている場合、その「ズレ」から速さ \(v\) を求めるのが第一歩です。
- \(t=0\) での原点の傾き: \(t=0\) のグラフ(実線)の原点付近の傾きが「右上がり」なら、波が右に進むと原点は「下がる」ことになります。逆に「右下がり」なら原点は「上がる」ことになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 媒質の動く向きの判定ミス:
- 誤解: 「波形が右上がりだから、媒質も上に動く」と直感的に思ってしまう。
- 対策: 「波は右に動く」\(\rightarrow\) 「今の波形の左側にある形がやってくる」と考えます。あるいは、実際にグラフ用紙に鉛筆で少し右にずらした波形を描いてみるのが最も確実です。
- 周期 \(T\) と時間 \(t\) の混同:
- 誤解: 問題文にある \(0.10\,\text{s}\) を周期 \(T\) だと思い込んでしまう。
- 対策: \(0.10\,\text{s}\) はあくまで「波形が破線の位置まで動くのにかかった時間」です。周期 \(T\) は「波1つ分(\(\lambda\))進むのにかかる時間」であり、計算して求める必要があります。
- 単位の確認漏れ:
- 誤解: グラフの軸が \(\text{cm}\) なのに \(\text{m}\) として計算してしまう。
- 対策: グラフの縦軸・横軸の単位(\([\text{m}]\), \([\text{s}]\), \([\text{cm}]\) など)を必ず指差し確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(y = -A \sin(\omega t)\) の選択:
- 選定理由: 原点の媒質が \(t=0\) で \(y=0\) にあり、その後負の方向に変位していく挙動を示すため。
- 適用根拠: 単振動の一般解 \(y = A \sin(\omega t + \phi_0)\) において、初期条件(\(t=0, y=0, v<0\))を満たすのは \(\phi_0 = \pi\) のとき、つまり \(y = A \sin(\omega t + \pi) = -A \sin(\omega t)\) です。
- \(y(x, t) = A \sin \frac{2\pi}{\lambda}(x – vt)\) の選択(別解):
- 選定理由: グラフの平行移動を目視で判断するリスクを避け、数式操作のみで確実に符号を決定したい場合に有効です。
- 適用根拠: 波動関数 \(f(x – vt)\) は、波形 \(f(x)\) が速さ \(v\) で正の向きに進むことを表す普遍的な数式表現です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(\pi\) の扱い:
- 角振動数 \(\omega = 2.5\pi\) のように、\(\pi\) を含む形で計算を進め、最後に近似値が必要な場合だけ \(3.14\) を代入します。途中で数値にすると計算が煩雑になり、誤差も増えます。
- 次元解析(単位チェック):
- \(\omega t\) の単位は \([\text{rad/s}] \times [\text{s}] = [\text{rad}]\)(無次元)になっているか確認します。もし \(\omega\) の代わりに \(T\) を掛けていたりすると単位が合いません。
- 特殊点での検算:
- 求めた式 \(y = -2.0 \sin 2.5\pi t\) に、\(t=0.10\,\text{s}\) を代入してみます。
- \(2.5\pi \times 0.10 = 0.25\pi = \pi/4\)
- \(\sin(\pi/4) \approx 0.7\)
- \(y \approx -1.4\,\text{m}\)
- グラフの破線(\(t=0.10\))を見ると、原点 \(x=0\) での変位は確かに \(-1.4\) くらいになっています。これで計算ミスがないと確信できます。
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発展問題
356 波のグラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 経過時間と周期の関係に着目する解法
- 模範解答は「波が進んだ距離」を一般化して、まず速さを求め、その後に振動数を計算しています。
- 対して別解では、「経過時間と周期の関係」を一般化して、まず周期(および振動数)を求め、その後に速さを計算します。
- 設問(2)の別解: 経過時間と周期の関係に着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 視点の転換: 「空間的な移動距離」から攻める方法と、「時間的な繰り返し(周期)」から攻める方法の双方向からアプローチすることで、波動現象の理解が立体的になります。
- 計算の効率化: 求めたい物理量によっては、周期を先に求めた方が計算ステップが減る場合があります。
- 結果への影響
- どちらのアプローチでも、最終的な答え(速さと振動数の式)は完全に一致します。
この問題のテーマは「波の周期性と不確定性」です。波のグラフがある時刻から別の時刻へ変化したとき、その間の動きは一通りには定まりません。波の形は繰り返し(周期性)を持つため、元の波形と重なる可能性が無数にあるからです。この「可能性の広がり」を整数 \(n\) を用いて表現する方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波のグラフの読み取り: 振幅 \(A\) と波長 \(\lambda\) をグラフから正確に読み取る力。
- 波の基本公式: \(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) の関係式。
- 波の周期性: 正弦波は \(1\) 波長ぶん進むと元の波形と重なるため、波形の移動距離は一意に決まらず、\(\lambda\) の整数倍の不確定性を持ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、グラフの縦軸から振幅を、横軸から波長を読み取ります。単位が \(\text{cm}\) であることに注意します。
- (2)では、波が \(x\) 軸の正の向きに進むという条件から、最短の移動距離を特定します。そこに波長 \(\lambda\) の整数倍(\(n\lambda\))を加えることで、移動距離の一般式を作ります。これを用いて速さと振動数を計算します。